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もっとケアしようよ!マイボーム腺 温罨法,眼瞼清拭,Demodex,meibum圧出

2024年1月31日 水曜日

もっとケアしようよ!マイボーム腺温罨法,眼瞼清拭,Demodex,meibum圧出Let’sTakeBetterCareoftheMeibomianGlands!井上佐智子*川島素子**はじめにマイボーム腺機能不全(meibomianCglandCdysfunc-tion:MGD)の治療の基本として,眼瞼や眼周辺の状態や環境を整えることが重要であり,大きく分けて,患者自身で行う方法と医療機関で行う方法がある1).医療機関で比較的簡易的にできるものとしてはマイボーム腺分泌脂(meibum)の圧出が,自身でできるものとしては,眼瞼清拭(リッドハイジーン),温罨法があげられる.2023年,『マイボーム腺機能不全診療ガイドライン』により,これらの治療おのおのについて推奨度やエビデンスレベルが示された2).本稿では温罨法,眼瞼清拭,meibum圧出について述べる.CI温罨法温罨法とは,体の一部を温めて炎症や疼痛を緩和し,病状の好転や自覚症状の軽減を図る昔からある技術である.眼科的にはおもに眼瞼を温めることであり,MGDに対しては,MGDの自覚症状,meibumのグレード(meibumgrade)が改善するとされ,国際標準治療として以前からその有効性が認められている.『マイボーム腺機能不全診療ガイドライン』においても「MGDへの治療として行うことを強く推奨する」,エビデンスレベルも「A(強):効果の推定値に強く確信がある」と評価された.MGD治療の基本として,まず選択されるベき治療であるといえる2).温罨法の目的は,眼瞼の温度をCmeibumの融点まで上昇させて,固形化してしまった分泌物を融解することにより,その分泌を促進させることにある.通常meibumの融解温度は通常C28~32℃程度といわれているが,MGD患者では,脂質の変化により融点が上昇し,融解しにくくなっている3).MGD患者の眼瞼自体の血流量も低下しており,さらには眼瞼結膜の温度が正常眼に比べてC2℃ほど低いことが報告されている3).また,睫毛根部にフケ状物やかさぶたなどの落屑物が付着していることがあり(図1),これらを放置することはCMGD症状の悪化を招く.温罨法にはこれら落屑物を柔らかくする効果があるため,眼瞼清拭の前に温罨法を行うことで眼瞼清拭の効果も得られやすい3~5).C1.実際の方法温罨法の適正温度はC40~45℃程度で眼瞼および眼瞼結膜が十分に温められること,さらに角膜に影響を及ぼさない温度であることが重要である.自身で作製して行うホットタオルでの温罨法は安価が魅力ではあるが,適正温度に温めるにはそれなりの工夫が必要であり,すぐに冷めてしまうというデメリットもある.また,眼瞼を濡らすことで気化熱が生じ,眼瞼の温度が下がることもいわれており,逆に脂質を固化させる可能性がある.『マイボーム腺機能不全診療ガイドライン』においても「より高い治療効果を求めるには,タオルよりも温罨法デバイスをすすめるべきと思われる」としている2).温罨法のデバイスとして,使い捨てタイプや電子レン*SachikoInoue:羽根木の森アイクリニック**MotokoKawashima:久喜かわしま眼科〔別刷請求先〕川島素子:〒340-0212埼玉県久喜市久本寺C303-1久喜かわしま眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(21)C21図1睫毛の汚れ眼瞼縁・睫毛根部の汚れを落とすことが重要である.表1温罨法研究報告BUTマイバム眼瞼皮膚温度角膜温度眼瞼結膜温度CSPKscoreCSchirmerマイボ率前平均C2.3C2.2C33.5C33.7C33.0C1.3C11.1C54.5+/.SDC0.7C0.4C0.5C0.6C0.8C0.5C7.4C9.6後平均C4.8C1.0C33.5C33.7C33.6C0.5C9.9C64.1+/.SDC2.4C0.7C0.5C0.5C0.8C0.7C6.3C9.3CpvalueCt-testC0.014<C0.001C0.833C0.874C0.004C0.003C0.024<C0.001市販デバイスを用いた温罨法により眼表面パラメータが有意に改善した.(Arita,LIMEworkinggroup.OcularSurface2015)表2リッドハイジーン洗浄剤商品名アイシャンプープロティーツリー洗顔フォームオキュソフトマイボシャンプーC50メシルマイボシャンプーCTeaTree1.0販売元メディプロダクトホワイトメディカルホワイトメディカルビジョン・リーディング・パートナーズロート製薬イナミ容量C200CmlC50Cml30包C50CmlC150CmlC50Cml標準価格3,520円2,578円2,313円1,500円990円2,200円特徴ジェル状泡状滅菌個包装洗い流し不要泡状CBACfree泡状泡状CTeaTreeOil最近ではさまざまな種類のリッドハイジーン洗浄剤を国内入手できる.a図3光学顕微鏡下でのDemodexDemodexが増殖した症例では,睫毛C1本にCDemodexが集簇している像も観察することができる.Cbc図2LIME研究会の患者教育コンテンツa:LIME研究会のサイトで配布されているPDF『マイボーム腺についてご存知ですか?』(https://www.lime.jp/main/product/pdf/booklet-2.pdf).b:「温罨法」の解説動画CQRコード.Cc:「眼瞼清拭」の解説動画CQRコード.図4健常眼とMGD眼のマイボグラフィ画像健常者(Ca1)ではマイボーム腺がクリアに描出されるが(Ca2),MGD眼(Cb1)では脱落・短縮・濃淡の不均一な像(Cb2)が描出される.C2C表3Meibum圧出用鑷子複数のCmeibum圧出鑷子が入手可能である.発売年名称販売元サイズ(mm)形状C2002吉富式マイボーム腺圧迫鉗子テイエムアイC85C2009独協医大式滑車型マイボーム腺鑷子イナミC97C2015有田式マイボーム腺圧迫鑷子JFCセールスプランC100C2018吉富式マイボーム腺圧迫鉗子ワイドハンドルイナミC97C2021有田式マイボーム腺圧出鑷子イナミC100C

もっと知ろうよ!マイボーム腺機能不全

2024年1月31日 水曜日

もっと知ろうよ!マイボーム腺機能不全Let’sLearnMoreaboutMeibomianGlandDysfunction!天野史郎*はじめにマイボーム腺機能不全(meibomianCglandCdysfunc-tion:MGD)はさまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたし,慢性の眼不快感を起こす眼瞼の疾患である.マイボーム腺分泌物(meibum)が涙液の油層を形成することから,MGDは涙液油層菲薄化ならびに涙液安定性低下を招き,ドライアイを引き起こす.したがって,MGDではドライアイに伴う眼乾燥感,眼疲労感などの症状も起きる.国内の疫学調査ではC50歳以上の日本人のC30~50%程度がCMGDであることが示されており,MGDは多くの人々の生活の質を低下させる臨床的に重要な疾患である.しかしこれまで,普段の診療においてマイボーム腺開口部のある眼瞼縁の観察はなおざりにされている感が否めない.2023年C2月に日本眼科学会雑誌に『マイボーム腺機能不全診療ガイドライン』が掲載され1),6月にはCJapa-neseCJournalCofOphthalmologyに英語版が掲載された2).これらはCMGDの診療に関係する医療者,患者を対象として,MGDの診療をサポートすることを目的として作成されたものである.MGDの診療をサポートする報告としては,2010年に国内でCMGDワーキンググループがCMGDの定義,分類,診断基準を発表し3),広く使われてきたが,包括的な内容ではなかった.海外ではC2011年にCTheCInternationalCWorkshopConCMeibo-mianCGlandDysfunctionがCMGDに関する知見を包括的に報告したが4),authority-basedなものであった.今回,evidence-basedで包括的な内容をもつCMGD診療ガイドラインが初めて作成された.本稿では,MGD診療ガイドラインの内容に基づいて,MGDの定義,分類,病態,疫学,リスク因子,診断などについて述べる.CI定義定義については,2010年にCMGDワーキンググループにおいても,今回の診療ガイドラインにおいても,「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う」とされている.ポイントは,原因はさまざま,機能がびまん性に異常,自覚症状がある,の三つである.CII分類MGDは表1のように分類されている.大きくは分泌減少型と分泌増加型に分けられる.日本人においては分泌減少型が多数を占める.分泌減少型の主たる病態としては,導管上皮の過角化に続発する導管の閉塞と,mei-bocyteの異常による腺房の変化の二つがあると考えられている.さらにこの両者の関係においては,導管閉塞→腺房萎縮への移行が生じることも経験される.こうした病態理解から,分泌減少型は「先天性」「閉塞性」「萎縮性」の三つに分けられ,閉塞性と萎縮性に関してはさらに「原発性」と「続発性」に分けられる.さらに,続発性の分泌減少型のリスクファクターがあげられる.こ*ShiroAmano:お茶の水・井上眼科クリニック〔別刷請求先〕天野史郎:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3お茶の水・井上眼科クリニックC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(15)C15表1マイボーム腺機能不全の分類1.分泌減少型①先天性②閉塞性(原発性,続発性*)③萎縮性(原発性,続発性*)2.分泌増加型*続発性の分泌減少型CMGDのリスク因子としては,以下のものが考えられる.加齢,アレルギー眼疾患,眼瞼炎,Stevens-Johnson症候群(SJS),眼類天疱瘡,移植片対宿主病(GVHD),Sjogren症候群(SS),トラコーマ,薬剤性障害,化学傷,熱傷.(文献C1より引用)図1マイボーム腺開口部閉塞所見角化物によるマイボーム腺開口部の閉塞が見られる.(臨眼74:1409,2020より許可を得て転載)図3粘膜皮膚移行部の前方移動(メディカルビュー社:FrontiersinDryEye.2023年春号より許可を得て転載)図2マイボーム腺開口部周囲の血管拡張(臨眼74:1409,2020より許可を得て転載)図4瞼縁の不整瞼縁にくさび状のくぼみ()が見られる.(臨眼74:1409,2020より許可を得て転載)図5マイボーム腺分泌物の量や質の変化粘稠度が高く白色に変性したCmeibumが鑷子による圧迫で圧出されたC.C表2分泌減少型マイボーム腺機能不全の診断基準1.自覚症状眼不快感,異物感,乾燥感,圧迫感,流涙などの自覚症状がある.2.眼瞼縁の異常および分泌物(meibum)の質的・量的異常①または②を満たす場合,2.を満たすと考える.①マイボーム腺開口部閉塞所見をびまん性に認める.②拇指による眼瞼の中等度圧迫,もしくは鑷子や鉗子による眼瞼の圧迫でマイボーム腺開口部からのCmeibumの圧出が低下している,もしくは粘稠なCmeibumの圧出を認める.上記の1,2をいずれも満たすものを分泌減少型CMGDとする.自覚症状に関しては,MGDによる症状と他の眼表面疾患に起因する症状との鑑別が必要である.明らかに他の眼表面疾患に起因する症状は除外して判断する必要がある.以下の所見は,分泌減少型CMGDのサブタイプ診断,重症度判定,鑑別診断のために有用であり,参考所見としてその有無を評価することを推奨する(ただし診断基準には含めない).①マイボーム腺開口部周囲の血管拡張もしくは瞼縁の発赤②粘膜皮膚移行部の前方または後方移動③眼瞼縁不整④マイボグラフィによって観察される腺脱落⑤角膜異常所見(フルオレセイン染色異常,血管侵入,結節)⑥涙液層破壊時間,涙液層破壊パターンの異常(文献C1より引用)図6マイボグラフィの所見a:正常所見.腺房構造が瞼板の長さいっぱいに伸びている.Cb:MGD患者での所見.腺房構造の短縮,脱落を著明に認めるC.C

もっと知ろうよ!マイボーム腺の生理学─Meibumの生理と機能に関する10のクエスチョン

2024年1月31日 水曜日

もっと知ろうよ!マイボーム腺の生理学─Meibumの生理と機能に関する10のクエスチョンLet’sImproveOurUnderstandingofMeibomianGlandPhysiology!山田昌和*はじめに瞼板内に存在する分泌腺であるマイボーム腺がおもに脂質を分泌して涙液の油層の供給源となっていること,マイボーム腺機能不全では分泌物であるCmeibumの異常によって眼瞼縁や涙液層に変化が生じることはよく知られている.しかし,マイボーム腺の分泌がどのように制御され,どのような成分を含むのか,分泌されたmeibumはどこに分布し,どのようにターンオーバーしていくのか,涙液層の中でどのような機能を果たしているのか,その詳細についてはまだまだ多くの疑問,謎が残っている.ここでは,meibumの正常と異常を意識しながら,その生理と機能についてわかっていること,わかっていないことをCQ&A形式で概説する.Q1.Meibumって何?マイボーム腺は皮脂腺の一種であり,ホロクリン(holocrine)分泌という分泌形式をとる.マイボーム腺内の脂腺細胞(meibocyte)は成熟分化していく過程で脂質の蓄積のために膨大し,導管の手前で自壊して細胞の構成成分すべてが放出される.細胞の全成分が放出されるので,meibumの内容物には脂質だけでなく,細胞骨格を司るケラチンなどの角化物,細胞残渣も含まれている.マイボーム腺の導管が閉塞した状態で内腔を満たしているのは一部は脂質であり,一部はケラチンである.温罨法などで眼瞼を温めた場合に脂質は溶解して液化する可能性があるが,ケラチンは不溶のままである.梗塞を解除するには温めるだけでなく,圧出,排出などの手段が必要なのはケラチンのため,と覚えておくとよい.Q2.Meibumの分泌制御は?マイボーム腺には交感神経,副交感神経,三叉神経の支配があり,神経伝達物質の受容体が存在することが知られている.ただし,神経系がどのようにマイボーム腺の分泌制御にかかわっているのかはよくわかっていない.マイボーム腺にはアンドロゲン受容体が存在し,男性ホルモンによってマイボーム腺の代謝が亢進し,meibumの分泌が促進されることが知られている.Meibumの分泌に確実に関与していると考えられているのは機械的刺激である.涙液油層の観察結果では強い瞬目によって涙液油層の厚みが増加するので,瞬目時の眼輪筋の収縮によってCmeibumの分泌が促されると考えられている.ただし,meibometryを用いた研究によると,瞬目運動などの機械的刺激がなくても一定量のmeibum分泌が生じているらしい.このあたりは涙腺の基礎分泌と刺激性分泌を思い浮かべるとイメージしやすくなる.Q3.そもそも脂質って何?脂質とは生体成分に由来する水に溶解しない化合物と定義される.定義からわかるように脂質分子は多様な低*MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山田昌和:181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(9)C9-~–~図1マイボーム腺の開口部開口部のほとんどは眼瞼縁の結膜皮膚移行部より皮膚側にある.図2Marx’slineの前方移動結膜皮膚移行部の移動と乱れ(Ca)は瞼縁の疎水性バリアの破綻を招く(Cb).図3眼瞼縁の泡状物(foaming)涙液中の遊離脂肪酸が鹸化反応で塩を形成したもの.油層水層粘液層図4涙液油層の構造モデル涙液油層は表面側の非極性脂質の層と水層に接する極性脂質の二つに分けられる.

もっと知ろうよ!マイボーム腺の解剖と病理

2024年1月31日 水曜日

もっと知ろうよ!マイボーム腺の解剖と病理Let’sLearnMoreabouttheAnatomyandHistopathologyoftheMeibomianGland!小幡博人*はじめにマイボーム腺は脂質を分泌する外分泌腺で,涙液の油層の供給源である.涙液油層は涙液の安定性維持のために重要である.本稿ではマイボーム腺の解剖,組織,病理解剖例から得られた病理組織所見について概説する.CIマイボーム腺の解剖と組織1.マクロ解剖マイボーム腺は,瞼板という密な結合組織の中に存在し,脂質を分泌する腺である(図1a).マイボーム腺は,瞼板の中を垂直に走る長い導管とそれを取り囲むように存在する多数の腺房からなる.導管の数は,上眼瞼で約25~30個,下眼瞼で約C20~25個である.瞼板は瞼結膜を介して眼球表面に接しており,眼球の形状に沿うように弯曲している(図1b).C2.組織マイボーム腺は,腺房,小導管,中心導管,排出導管の四つからなる1~3).中心導管は瞼板内をほぼ垂直に走るが,その位置は瞼板中央よりやや眼瞼前葉寄りである(図2).腺房は脂質を含む多数の腺細胞からなり,球状で腺房の直径はC150~200Cμmである.腺房の基底には一層に並んだ基底細胞があり,脂質を合成しながら分化・成熟する.基底細胞には基底膜があり,腺房を取り囲むように存在する.腺房から中心導管への移行部(介在部)を小導管という(図3).小導管は数層の重層扁平上皮からなり,中央導管に斜めの方向で開口している.中心導管の上皮は角化型重層扁平上皮で,皮膚の表皮とほぼ同様の分化を示す(図3).中心導管の内径はC100~150Cμmである.排出導管は瞼縁のマイボーム腺開口部に近い部分である.排出導管の近傍にはCRiolan筋とよばれる横紋筋が存在する(図4).導管開口部の上皮は皮膚の表皮であり,開口部より後方に表皮と結膜上皮との境界である粘膜皮膚移行部(mucocutaneousjunction:MCJ)が存在する.C3.血管瞼板の中に太い血管は存在しないが,毛細血管が腺房を取り囲むように多数存在する.C4.神経支配マイボーム腺は,副交感神経,交感神経,神経ペプチドの支配を受けている.CIIマイボーム腺の分泌メカニズム1.分泌形式脂質を蓄え膨満した腺細胞は,細胞膜が破裂し,分泌物と化して小導管から中央導管に排出される(図3).このような分泌形式を全分泌(holocrinesecretion)という.実際のマイボーム腺分泌物(meibum)は,脂質のみではなく,脱落した導管上皮細胞などの細胞残渣も含まれている.*HirotoObata:埼玉医科大学総合医療センター眼科〔別刷請求先〕小幡博人:〒350-8550埼玉県川越市鴨田C1981埼玉医科大学総合医療センター眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(3)C3図1マイボーム腺のマクロ所見a:眼瞼下垂の術中に瞼板前面から透見されるマイボーム腺,Cb:瞼板は眼球の形状に沿うように弯曲している.黄色のぶどうの房状の腺房が観察される.図2マイボーム腺の組織像(HE染色)マイボーム腺の中心導管は瞼板内をほぼ垂直に走行する.中心導管の周囲を腺房が取り囲むように存在する.中心導管の位置は瞼板中央よりやや眼瞼前葉に寄っている.図3マイボーム腺の腺細胞,小導管,中心導管(HE染色)腺細胞は破裂し細胞質中の脂質が小導管を介して中心導管に排出される(全分泌形式).導管上皮は表皮に類似して角化型の重層扁平上皮である.マイボーム腺の分泌物(meibum)の中には,脂質以外に細胞の残渣や角化物が含まれる.Cab図5Meibumの性状a:正常なCmeibumは透明であるが,病的状態では黄色~白色に混濁する.75歳,男性のmeibum.Cb:混濁したCmeibumを細胞診で調べると,角化物であることがわかる.71歳,男性図6中心導管の拡張と腺房の萎縮(HE染色)過角化によりCmeibumの排出低下,停滞により中心導管が拡張し,周囲の腺房が萎縮している.図7腺房の萎縮と基底膜の肥厚(PAS染色)腺房が萎縮して金平糖のようないびつな形になっている.PAS染色陽性の基底膜の肥厚がみられる.図8マイボーム腺の肉芽腫性炎症(HE染色)マイボーム腺組織が崩壊し,多核巨細胞の出現を伴う肉芽腫性炎症がみられる.Subclinicalな霰粒腫の所見と考えられる.霰粒腫が皮膚側に隆起する理由がこの病理組織像から想像できる.マイボーム腺開口部の閉塞腺房の萎縮分化の変化Meibumの量の低下Meibumの質の低下先天異常加齢細菌Demodex乾燥神経因子性ホル不全活性酸素薬剤血管因子モン瞬目炎症・アレルギーコンタクトレンズ図9分泌減少型マイボーム腺機能不全(MGD)の病態生理MGDの病態生理には,マイボーム腺の導管上皮の過角化と腺細胞の変化という二つのコアメカニズムがあると考えられる.導管上皮の過角化により,マイボーム腺開口部が閉塞し,meibumの分泌が低下する.また,腺房は二次的に萎縮する.一方,腺細胞自身の変化により,腺房が萎縮したり,細胞の分化に異常が生じる.腺細胞の変化はCmeibumの質の低下を招く.Meibumの質の低下により粘性が亢進し,meibumの分泌は低下する.このような機序でmeibumの量や質が低下し,涙液層の異常や眼表面の炎症を引き起こすと考えられる.上流の因子として,加齢,性ホルモン(アンドロゲン),細菌,Demodex,炎症・アレルギー,神経因子,血管因子,薬剤,瞬目など種々のものが考えられているが不明な点が多い.(文献C5より転載)

序説:もっとみようよ!マイボーム腺

2024年1月31日 水曜日

もっとみようよ!マイボーム腺MeibomianGlands─Let’sLearnMore!!!有田玲子*山上聡**2023年2月,待ちに待った『マイボーム腺機能不全診療ガイドライン』が発表1)され,マイボーム腺に注目が集まっている.マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)を代表とするマイボーム腺関連疾患は,一般臨床で眼科医がもっとも多く遭遇するドライアイや眼瞼炎と深いかかわりがあるが,これまで過小評価されてきた.そのおもな理由として,MGDの診断・治療のコンセンサスがなく,「マイボーム腺機能不全」という病名で保険適用となる検査・治療法がなかったことがあげられる.MGDのガイドラインを策定するのが先か,検査・治療法の承認が先か,卵と鶏のような関係が長らく続いてきた.今回,日本発となるMGDの診療ガイドラインが策定されたことで,マイボーム腺関連疾患の診断・治療法が大きく発展していくことが期待されている.今回の特集では,MGDやマイボーム腺関連疾患をより身近なものに感じていただけるように,わかっているようで意外とわかっておらず見逃していた可能性の高いトピックスを,さまざまな角度からとりあげることにした.MGDとマイボーム腺関連疾患のエキスパートの先生方に,マイボーム腺の基礎から診療まで,そのポイントやコツ,注意点についてわかりやすくご教示いただいているので,この特集を読めば,実際の診療で患者を目の前にしたときに,新たな視点が得られていることに気づくはずである.小幡博人先生には,貴重な剖検例の病理をもとに,MGDの病態とそれに基づくMGD発症機序についてわかりやすくまとめていただいた.山田昌和先生には,meibumと涙液油層の生理と機能についてQ&A形式で概説していただいた.脂質の生化学はとっつきにくく敬遠されがちだが,知っておけば治療に役立つ内容を丁寧に解説してくださっている.病理学による病態の理解,生化学による機能の理解は,「そういうことだったのか!」とMGDの臨床診断や治療の理解の助けにもなることであろう.『マイボーム腺機能不全診療ガイドライン』の作成委員長である天野史郎先生には,MGDの定義・分類・病態・疫学・リスク因子・診断についてご紹介いただいた.眼瞼縁・マイボーム腺開口部観察所見について代表写真を用いながら解説いただいたので,この項を読むことで,MGDの診断を明日からすぐに始められるであろう.井上佐智子先生,川島素子先生にはMGDの治療として基本となる眼瞼清拭,温罨法,meibum圧出についてまとめていただいた.温罨法や眼瞼清拭といったセルフケアや*ReikoArita:伊藤医院,LIME研究会(LidandMeibomianGlandWorkingGroup)**SatoruYamagami:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(1)1

角膜内皮移植後のmRNAワクチン投与後に拒絶反応が出現した1例

2024年1月29日 月曜日

《原著》あたらしい眼科41(1):79.81,2024c角膜内皮移植後のmRNAワクチン投与後に拒絶反応が出現した1例佐藤美妃清水俊輝五十嵐あみ栗田淳貴原雄将林孝彦山上聡日本大学医学部視覚科学系眼科学分野CACaseofAllograftRejectionfollowingmRNAVaccinationafterCornealEndothelialKeratoplastyMikiSato,ToshikiShimizu,AmiIgarashi,JunkiKurita,YusukeHara,TakahikoHayashiandSatoruYamagamiCDepartmentofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicineCわが国における角膜移植の原因疾患の大半が水疱性角膜症など角膜内皮機能不全によるものである.近年では全層角膜移植(PKP)よりも惹起乱視,外傷性創離開,拒絶反応の少ないデスメ膜.離角膜内皮移植術(DSAEK)やCDMEKが標準的治療法となっている.PKPの拒絶反応に比較してCDSAEKでC7%,DMEKではC1%程度と低いことが報告されている.しかし,2020年以降,全世界で流行した新型コロナウイルス感染症に対するメッセンジャーCRNA(mRNA)ワクチンの影響と推測される拒絶反応の例が複数報告されており,状況が変化している.今回筆者らは,DSAEK施行後経過良好であったが,mRNAワクチン接種直後に拒絶反応を発症し,再移植に至った症例を経験したので報告する.CCornealCendothelialCdysfunctionCisConeCofCtheCleadingCcausesCofCcornealCtransplantationCinCJapan.CInCrecentCyears,cornealtransplantationproceduressuchasDescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)CandDescemetmembraneendothelialkeratoplastyhavebecomeastandardtreatmentoverpenetratingkeratoplas-tyduetotheadvantagesoflowerratesofinducedastigmatism,traumaticwounddehiscence,andgraftrejection.However,since2020,somestudieshavereportedcasesofocularin.ammationpossiblyduetothecoronavirusdis-ease2019(COVID-19)mRNAvaccinesthatarebeingadministeredworldwide.Inthisstudy,wereportacaseofallograftrejectionimmediatelyaftermRNAvaccination,despitepreviousstableoutcomesfollowingDSAEK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(1):79.81,2024〕Keywords:拒絶反応,新型コロナウイルス感染症,デスメ膜.離角膜内皮移植術,メッセンジャーCRNAワクチン.rejection,coronavirusdisease2019(COVID-19)C,Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK),mRNAvaccine.Cはじめに1905年にCEdwardZirmによりヒトからヒトへの角膜移植が施行されて以来,全層角膜移植術(penetratingkerato-plasty:PKP)が標準治療であった1).しかし,1990年以降は,病変部位のみを交換する角膜パーツ移植が主流となり,デスメ膜.離角膜内皮移植術(endothelialkeratoplasty:EK)が角膜内皮機能不全に対する治療法として確立された.EKはレシピエントのCDescemet膜と内皮を含む内層を除去し,前房内に挿入した移植片をガスタンポナーデによって実質後面に接着する方法であり,現在ではCDescemetCstrip-pingCautomatedCendothelialkeratoplasty(DSAEK)とCDes-cemetmembraneendothelialkeratoplasty(DMEK)がおもに選択される.EKの利点は閉鎖空間で手術が施行でき駆逐性出血のリスクが少ないこと,角膜実質が温存され術後の不正乱視が惹起されにくいこと,縫合糸による感染リスクが抑えられることなどがあげられる.加えて,PKPに比べて拒絶反応を起こしにくく,PKPでは約C18%の報告に対し,DSAEKでは5.12%,DMEKは1%と非常に少ない2,3).2020年以降,新型コロナウイルス感染症が全世界で流行し,その予防としてメッセンジャーCRNA(mRNA)ワクチ〔別刷請求先〕佐藤美妃:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:MikiSato,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1Oyaguchi-kamicho,Itabashi,Tokyo173-8610,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(79)C79図1DSAEK施行9カ月後の前眼部写真角膜実質の肥厚とCDescemet膜皺襞が出現し,拒絶反応を認める.虹彩の上方偏位はC1回目のCDSAEK後の最終診察時から不変であった.ンの接種が開始された.mRNAワクチンはウイルスのスパイク蛋白のCmRNAを利用し,中和抗体を誘導することで感染の予防と感染後の重症化を防ぐ4),新型コロナウイルスの流行によって新しく臨床導入されたワクチンである.その予防効果の一方で,新型コロナウイルス感染症に対するCmRNAワクチン接種後にぶどう膜炎や視神経炎,角膜移植後の拒絶反応が生じたという報告がある5,6).今回筆者らは,DSAEK後経過良好であったが,ワクチン接種後に拒絶反応が生じ再移植に至った症例を経験したので報告する.CI症例患者:47歳,男性.主訴:右眼の羞明・霧視.現病歴:200X-1年C11月,右眼偽水晶体性水疱性角膜症に対しCDSAEKを施行.200X年C7月の当院最終受診時,視力は右眼C0.7C×IOL(矯正不能),左眼(0.8CpC×IOL×sph+1.25D(cyl-3.50DCAx85°),眼圧は右眼9mmHg,左眼9mmHg,角膜中心厚はC757μm,角膜内皮細胞密度はC759Ccells/mm2であった.眼内レンズは強膜内固定されており,虹彩損傷と瞳孔不整を認めた.移植片の接着は良好で角膜は透明性を保持していた.そのC3週間後,2回目のmRNAワクチンを接種した同日より羞明が出現し,症状の改善がみられないことからC200X年C8月に当院を受診した.受診時所見:受診時視力は右眼C0.2C×IOL(矯正不能),左眼(0.7CpC×IOL×sph+1.25D(cyl-3.50DAx85°),眼圧は右眼C17CmmHg,左眼C12CmmHgであった.右眼の中心角膜厚はC946Cμm,角膜内皮細胞密度は測定不能であった.前眼部にてCDescemet膜皺襞と角膜浮腫を呈し(図1),画像上は図23回目のmRNAワクチン接種4週間後の前眼部三次元画像解析装置の画像パキメトリー所見では中心角膜厚はC935Cμmと肥厚を認める.明らかでないが,角膜後面沈着物を認めた.中心角膜厚は946Cμmと角膜浮腫を認めた.左眼には異常所見は認めなかった.経過:患者はステロイド点眼で眼圧上昇の既往があったため,ステロイド点眼は使用せず,シクロスポリンC100Cmg/日とベタメタゾンC0.5Cmg/日の内服,タクロリムス水和物点眼液C0.1%点眼を開始.内服の併用はC10週間行い,その後点眼のみでC10週間経過観察を行い,角膜浮腫の改善はなかった.2回目のワクチン接種からC28週間後にC3回目の接種を行いC4週間経過時,右眼視力はC0.05pC×IOL(0.06C×sph+2.00D),角膜中心厚935μmであり,角膜浮腫の改善はなく(図2),移植片機能不全と診断し,再移植(DSAEK)を行う方針となった.手術は引き込み法で有害事象なく施行され,移植片の接着は良好で術後C4日目に退院となった.術後点眼として,レボフロキサシン水和物点眼とベタメタゾンリン酸エステルナトリウム水和物点眼をC4回/日,ブロムフェナクナトリウム点眼C2回/日を使用した.術後C9日目,眼圧C31CmmHgを認めたことからリパスジル塩酸塩水和物点眼液C2回/日とアセタゾラミドC500Cmg/日の内服を開始した.ステロイドによる眼圧上昇を懸念し,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液を中止し,フルオロメトロンC0.1%点眼液C3回/日とタクロリムス水和物点眼液C0.1%2回/日に変更した.術後C6週で眼圧C14CmmHgまで下降しアセタゾラミドの内服は中止した.移植片の透明性は維持されており,術後C6カ月時点の右眼視力はC0.6CpC×IOL(0.7CpC×IOL×sph.0.5D),中心角膜厚C667Cμm,角膜内皮細胞密度C1,340Ccells/mmC2と改善した.80あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024(80)II考按本症例はCDSAEK後経過良好であったにもかかわらず,2回目のCmRNAワクチン接種後に拒絶反応が出現し再移植が必要となった.2回目のCmRNAワクチン接種直後に霧視が出現したことや,角膜後面の沈着物,移植片に限局した浮腫などの所見から,mRNAワクチンにより惹起された拒絶反応と診断した.Shahらは,EK後に新型コロナウイルスに対するCmRNAワクチン接種後に,急性発症した拒絶反応症例を報告した5).そのなかで,ワクチン接種後C2週間以内に拒絶反応が出現したが,全例ステロイド点眼により透明性を回復した.急性の拒絶反応は局所ステロイド療法の早期開始が有用であると考えられていたが,本症例では良好な移植後経過とワクチン接種直後の拒絶反応の所見など既報と臨床経過は類似している一方,ステロイド点眼のみでは拒絶反応を抑えることはできず再移植に至った.本症例ではワクチン接種前の角膜移植後の角膜内皮細胞数が少ない傾向にあった.虹彩損傷が強いと角膜内皮細胞数が通常よりも減少する6)と報告されており,複数回の外科手術に伴う虹彩損傷による前房内慢性炎症や血管透過性亢進でさらに角膜内皮密度減少が進んでいたところに,拒絶反応による内皮細胞障害が加わって,移植片機能不全に至ったと考えられる.mRNAワクチンは新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対して新型コロナウイルスのスパイク蛋白をコードするmRNAを使用した新しい機序のワクチンである4).わが国においてもC2023年C3月現在C5回目の接種が開始され,1回以上の接種率はC77.85%である8).眼科領域において新型コロナウイルス感染症に対するCmRNAワクチン接種後に角膜移植後の拒絶反応9,10)や視神経炎11),ぶどう膜炎12)が発症したとの報告が多くある.新型コロナウイルス感染症は今後も変異をしながらしばらく続くことと考えられるため,定期的なワクチン接種が見込まれている.mRNAワクチンによる拒絶反応出現の機序は不明であるが,本症例のように再移植が必要になる可能性もあり,角膜移植既往患者においては術後経過が良好であってもワクチン接種後の拒絶反応に留意する必要がある.本論文は単一症例の報告であることから,EK後にmRNAワクチン接種を行った患者における拒絶反応の発症頻度を示すことはできない.今後,より多くの症例数を集め検討する必要がある.臨床医は角膜移植後あるいは角膜移植予定患者に,ワクチン関連有害事象とその対処を説明する必要がある.文献1)ZirmEK:EineCerfolgreicheCtotalKeratopastik(ACsuc-cessfultotalkeratoplasty)C.1906.RefractCornealSurgC5:C258-261,C19892)HjortdalJ,PedersenIB,Bak-NielsenSetal:Graftrejec-tionCandCgraftCfailureCafterCpenetratingCkeratoplastyCorCposteriorClamellarCkeratoplastyCforCfuchsCendothelialCdystCrophy.CorneaC32:e60-e63,C20133)AnshuCA,CPriceCMO,CPriceCFWJr:RiskCofCcornealCtrans-plantCrejectionCsigni.cantlyCreducedCwithCDescemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplasty.COphthalmologyC119:C536-540,C20124)MascellinoMT,DiTimoteoF,DeAngelisMetal:Over-viewCofCtheCmainCanti-SARS-CoV-2vaccines:Mecha-nismofaction,e.cacyandsafety.InfectDrugResistC14:C3459-3476,C20215)ShahCAP,CDzhaberCD,CKenyonCKRCetal:AcuteCcornealCtransplantCrejectionCafterCCOVID-19Cvaccination.CCorneaC41:121-124,C20226)IshiiCN,CYamaguchiCT,CYazuCHCetal:FactorsCassociatedCwithgraftsurvivalandendothelialcelldensityafterDes-cemet’sCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty.CSciCRepC6:25276,C20167)PriceCMO,CPriceCFWJr:EndothelialCcellClossCafterCdesceCmetCstrippingCwithCendothelialCkeratoplastyCin.uencingCfactorsCandC2C-yearCtrend.COphthalmologyC115:857-865,C20088)デジタル庁ワクチン接種記録システム(VRS)新型コロナワクチンに接種状況.https://info.vrs.digital.go.jp/dash-board/9)PhylactouM,LiJO,LarkinDFP:Characteristicsofendo-thelialcornealtransplantrejectionfollowingimmunisationwithSARS-CoV-2messengerRNAvaccine.BrJOphthal-molC105:893-896,C202110)RavichandranCS,CNatarajanR:CornealCgraftCrejectionCafterCCOVID-19Cvaccination.CIndianCJCOphthalmolC69:C1953-1954,C202111)ElnahryCAG,CAsalCZB,CShaikhCNCetal:OpticCneuropathyCafterCOVID-19vaccination:areportoftwocases.IntJNeurosciC14:1-7,C202112)BollettaCE,CIannettaCD,CMastro.lippoCVCetal:UveitisCandCotherCocularCcomplicationsCfollowingCCOVID-19Cvaccina-tion.JClinMedC10:5960,C2021***(81)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024C81

液垂れを低減する点眼ノズルの形状の開発

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1611.1616,2023c液垂れを低減する点眼ノズルの形状の開発藤本高志山口正純大久保宏哉高見勇人千寿製薬株式会社DevelopmentofanEyeDropNozzleShapethatReducestheAdhesionofLiquidTakashiFujimoto,MasazumiYamaguchi,HiroyaOkuboandHayatoTakamiSenjuPharmaceuticalCo,.Ltd点眼容器のノズル形状および薬液の物性によっては,点眼するときの角度によりノズル側面に薬液が垂れる現象である「液垂れ」が生じることがある.この液垂れを低減することを目的とした点眼ノズルを開発した.自社の従来のノズル形状では滴下する角度が45°以下から徐々に液垂れが認められた.一方,液垂れの低減を目的としたノズル形状は,表面張力40.9mN/m以上および粘度45.0mPa・s以下の物性の薬液であれば,20°で滴下させても液垂れは認められなかった.液垂れはノズル先端の半径(R)が影響しており,Rが小さいほうが液垂れは起こりにくかった.したがって,開発したノズル形状はノズル先端のRが小さく,自社の従来のノズル形状より液垂れを低減する効果があった.Dependingontheshapeofthenozzleofaneye-dropcontainerandthephysicalpropertiesofthedrugsolu-tion,“adhesionofliquid”(aphenomenoninwhichthedrugsolutionadheresanddripsfromthesideofthenozzle)canoccurduetotheangleatwhichtheeye-dropsareinstilled.Hereinwereportthedevelopmentofanophthal-micnozzlethatreducestheadhesionofliquid.Usinganeyedropcontainerwithaconventionalnozzleshape,adhe-sionofliquidwasobservedwhenthedropswereinstilledatanangleofbelow45°.However,usingacontainerwithournewnozzleshapedesignedtoreducetheadhesionofliquid,noadhesionwasobservedatthedroppedangleof20°foradrugsolutionwithasurfacetensionofover40.9mN/mandaviscosityofunder45.0mPa・s.Our.ndingsrevealedthattheradius(R)ofthenozzletipa.ectedtheadhesionofliquid(i.e.,adhesionwaslesslikelytooccurwhentheRwassmall),andthatcomparedtotheconventionalnozzleshape,ournewlydevelopednozzleshapewithasmallerRnozzletipwasmoree.ectiveinreducingtheadhesionofliquidanddrips.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(12):1611.1616,2023〕Keywords:点眼容器,ノズル,液垂れ,表面張力,滴下角度.eyedropcontainer,nozzle,adhesionofliquid,sur-facetension,dropangle.はじめに点眼容器で点眼する際に,斜めに薬液を滴下するとノズル形状によっては,薬液がノズル側面に垂れる現象,つまり「液垂れ」が生じることがある.点眼剤は,繰り返し使用する無菌製剤である.とくにノズル先端に液が垂れた状態でキャップの開閉を繰り返すと,内溶液が微生物に汚染される原因になる.これ以外の問題点として,①ノズル先端(側面)が濡れることで,液が漏れているように見える.②点眼するときに不衛生である.③点眼時に必要な総液滴数が減り,点眼期間が短くなることがあげられる.これらのことから「液垂れしない」もしくは「液垂れしにくい」ノズルの開発が求められている.点眼時に液垂れが生じる要因として,ノズルの先端形状に起因することが大きいと考えられる.さらに,ノズル先端部の表面状態(濡れやすさ,あるいは濡れにくさ)および薬液の物性(表面張力および粘性)も影響する1,2).近年,液垂れを防止する,あるいは低減することを目的としたノズル形状として,ノズル先端をきのこ状に半円に突出させたような形状3)が用いられている.また,ノズル先端に微細な溝を入れた形状4)も研究されている.しかし,ノズル先端をきのこ状に半円に突出させた形状や溝がある形状にした場合,その形状がきれいに成型されないと液垂れを防止,もしくは低減す〔別刷請求先〕山口正純:〒679-2215兵庫県神崎郡福崎町西治767-7千寿製薬株式会社生産本部生産企画部Reprintrequests:MasazumiYamaguchi,Ph.D.,ProductionDivision,ProductionPlanningDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,767-7Saiji,Fukusaki-machi,Kanzaki-gun,Hyogo672-2215,JAPAN形状特徴対照ノズル一般的な円錐形のノズル形状で,ノズル先端から側面にかけて大きな曲線(以下,R)になっている形状評価ノズルノズル先端を細く円筒形にし,ノズル先端のRが小さい形状図1ノズル形状とその特徴対照ノズル:通常のノズル形状(材質:PE),評価ノズル:液垂れの低減を目的としたノズル形状(材質:PE).る効果を発揮することはむずかしい.その形状をきれいに成型するには,シンプルなノズル形状が求められる.通常のノズル形状と同様にシンプルなノズル形状で,かつ液垂れを防止,あるいは低減できるノズル形状にすることが望ましい.眼科薬メーカーなどのホームページで正しい点眼方法が紹介5,6)されている.しかし,点眼するときの点眼ノズルの角度を何度まで傾けてよいかなどの情報は紹介されていない.患者ごとに点眼しやすい角度で点眼が行われ,点眼時のノズルの角度(滴下角度)は患者によってさまざまである.そこで,想定される点眼時の滴下角度の範囲内で液垂れを低減させること,また従来のノズルと同様にシンプルなノズル形状であることをコンセプトとしたノズル形状を開発した.通常のノズル形状と開発したノズル形状を比較し,液垂れに対する開発したノズルの効果を評価した.また,薬液の物性(表面張力および粘性)は液垂れに影響を及ぼすことから,液垂れが生じやすい薬液物性の点眼剤を用いて評価を行った.I試験材料1.容器ノズル(材質:ポリエチレン(PE)は,通常の千寿製薬で使用しているノズル形状(以下,対照ノズル)と,液垂れの低減を目的として開発したノズル形状(以下,評価ノズル)の2形状を用いて評価した.それぞれのノズル形状および特徴を図1に示す.キャップ(材質:ポリプロピレン(PP))は千寿製薬製を用いた.2.薬液千寿製薬の点眼液のなかで液垂れがしやすいと考えられる薬液物性の点眼液(表面張力40.9mN/m,粘度45.0mPa・s,以下,評価薬液),比較対照の点眼液(表面張力36.7mN/m,粘度1.0mPa・s,以下,比較薬液),コントロールとして精製水(表面張力72.0mN/m,粘度0.9mPa・s,以下,水)を用いた.図2滴下角度滴下角度を60°,45°,30°および20°で評価.図3液垂れなしと液垂れあり液垂れなし:ノズル先端に液が留まっている状態.液垂れあり:ノズル先端から側面に液が付着している状態.II方法1.滴下角度の違いによる液垂れの有無図2に示した各滴下角度(60°,45°,30°および20°)で1滴ずつ2滴を滴下(1眼1滴として両眼で2滴を滴下することを想定)したときの液垂れの有無を目視で確認した.液垂れの有無を確認した後,使用時を想定して滴下後にキャップをトルクメータ(日本電産シンポ社,TNX-5)にて19±1N・cmで巻き締めた.評価薬液では1試料につき10回繰り返し,16試料(160回)での液垂れ回数を確認した(2滴滴下後の液垂れ回数).比較薬液および水では1試料につき10回繰り返し,5試料(50回)での液垂れの有無を確認した(2滴滴下後の液垂れの回数).液垂れが生じた場合は,そのつど,キムワイプでノズル先端を清拭してからキャップを巻き締めた.測定は23℃±2℃の環境下で行った.液垂れの有無の定義は,ノズル先端のR部(ノズル先端吐出穴から側面にかけて付加された曲線)に液が付着もしくは,液が留まっ図4先端のRを変えたときのノズル形状3Dプリンターでノズル先端のRを変えたものを3種類造形した(材質:アクリルライク,3Dプリンター:DWS社,XFAB2500).50対照ノズルおよび評価ノズル(n=16)107471500000対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)403000000100液垂れ回数(回)液垂れ回数(回)40302010060°45°30°20°滴下角度対照ノズル評価ノズル図5評価薬液における滴下角度違いによる液垂れ回数の推移表面張力:40.9mN/m,粘度:45.0mPa・s.対照ノズルおよび評価ノズル:16試料×10回(計160回)で液垂れした回数をカウントした.ている状態を「液垂れなし」とし,ノズル側面までに液が垂れて付着している状態を「液垂れあり」とした(図3).2.滴下角度の違いによる液垂れ量の測定図2に示した各滴下角度(60°,45°,30°および20°)で1滴を滴下し,電子天秤(ザルトリウス社,MSA225P-000-DI)で容器質量を測定した.ノズル先端をキムワイプで清拭した後,再び電子天秤で容器質量(ノズル清拭前の質量とノズル清拭後の質量の差)を測定した.評価薬液では1試料につき10回繰り返し,16試料の平均値(160回測定した平均値),比較薬液および水では1試料につき10回繰り返し,5試料(50回測定した平均値)をノズル先端への液残り量とした.測定は室温23℃±2℃の環境下で実施し,電子天秤は感量0.0001g表示とした.3.ノズル先端のRを変えたときの滴下角度の違いによる液残り量の測定ノズル先端のR(R=半径)の大きさを2mm,1.5mmおよび1mm(以下,R2mm,R1.5mmおよびR1mm)にした形状3種類を3Dプリンター(DWS社,XFAB2500)で造60°45°30°20°滴下角度対照ノズル評価ノズル図6比較薬液における滴下角度違いによる液垂れ回数の推移表面張力:36.7mN/m,粘度:1mPa・s.対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)で液垂れした回数をカウントした.形(図4)し,図2に示した各滴下角度(60°,45°,30°および20°)で1滴を滴下し,電子天秤で容器質量を測定した.ノズル先端をキムワイプで清拭した後,再び電子天秤で容器質量を測定した.1試料につき10回繰り返し,3試料の平均値(30回測定した平均値)をノズル先端への液残り量とした.測定は室温23℃±2℃の環境下で実施し,電子天秤は感量0.0001g表示とした.III結果1.滴下角度の違いによる液垂れの有無滴下角度の違いによる液垂れの有無の確認として,評価薬液,比較薬液および水で,液が垂れた回数を評価した(図5~7).その結果,評価薬液の場合,対照ノズルは滴下角度60°の滴下では,液垂れは認められなかった.しかし,滴下角度45°から徐々に角度が小さくなるに従い,液垂れする回数が増加した.一方,評価ノズルは,滴下角度60°.20°で液垂れは認められなかった.また,比較薬液では対照ノズルは,滴下角度60°.45°までは液垂れは認められなかった.1.200.80対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)00000000対照ノズルおよび評価ノズル(n=16)液垂れ回数(回)液残り量(mg)0.600.400.200.0060°45°30°20°60°45°30°20°滴下角度滴下角度対照ノズル評価ノズル対照ノズル評価ノズル図7水における滴下角度違いによる液垂れ回数の推移図8評価薬液における滴下角度違いによる液残り量対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)で液垂対照ノズルおよび評価ノズル:16試料×10回(計160回)の液れした回数をカウントした.残り量の平均値をmg換算した.表1評価薬液における対照ノズルの各滴下角度における液垂れ回数の内訳単位=回実施回数1回目2回目3回目4回目5回目6回目7回目8回目9回目10回目合計60°0000000000045°00000133261530°0616411211244720°0151410121012101410107n数=各16×10,160回確認したときの液垂れ回数.対照ノズルの各滴下角度で液垂れした回数を確認した結果,滴下角度が小さくなるに従い液垂れする回数が増加した.表2比較薬液における対照ノズルの各滴下角度における液垂れ回数の内訳単位=回実施回数1回目2回目3回目4回目5回目6回目7回目8回目9回目10回目合計60°0000000000045°0000000000030°0000001110320°044455445540n数=各5×10,50回確認したときの液垂れ回数.対照ノズルの各滴下角度での液垂れした回数を確認した結果,滴下角度20°で液垂れ回数が増加した.しかし,滴下角度30°でわずかに液垂れが認められ,滴下角おける滴下角度の違いによる液垂れ回数の内訳(表2)を確度20°ではほぼ全数に液垂れが認められた.評価ノズルは,認すると,滴下角度30°は7回目以降から液垂れが認められ滴下角度20°でも液垂れは認められなかった.た.また,滴下角度20°では,1回目では液垂れは認められ評価薬液での対照ノズルの滴下角度の違いによる液垂れ回なかったが,2回目以降はほぼすべてに液垂れが認められた.数の内訳(表1)を確認すると,どの滴下角度でも1回目でこれらのことから,キャップの巻き締めを繰り返すことで,は液垂れは認められなかった.しかし,45°では6回目,30°ノズル先端に残った薬液が徐々にキャップ天面に蓄積され,からは2回目以降に液垂れが認められた.また,比較薬液にキャップ天面に付着した薬液によりノズル側面に濡れが生1.00対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)液残り量(mg)液残り量(mg)0.600.400.800.600.400.200.200.000.0060°45°30°20°60°45°30°20°滴下角度滴下角度対照ノズル評価ノズル評価ノズル対照ノズル図9比較薬液における滴下角度違いによる液残り量図10水における滴下角度違いによる液残り量対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)の液残対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)の液残り量の平均値をmg換算した.り量の平均値をmg換算した.4.00ていると考えられる.対照ノズルは,円錐形でノズル先端に(n=3)3.002.001.000.0060°45°30°20°滴下角度先端R2先端R1.5先端R1大きなR(R2mm)が付加された形状である.評価ノズルは,円筒形でノズル先端の吐出口から側面までがフラットであり,ノズル先端に小さなR(R0.3mm)が付加された形状である.つまり,ノズル先端のRが大きいと液切れが悪く,ノズル先端に残る液量が多くなる.ノズル先端のRが小さいと液切れがよくなり,ノズル先端に残る液量が少なくなると考えられる.このことは,薬液の物性からもわかるように,評価薬液の物性は表面張力40.9mN/m,粘度45.0mPa・sであり,比較薬液(表面張力36.7mN/m,粘度1.0mPa・s)よりも粘度が高い.また,コントロールとした水(表面張力72.0mN/m,粘度0.9mPa・s)は,評価薬液より表面張力は高く,粘度が低いが液垂れはしなかった.つまり,表面張力以外に粘度が液垂れに大きく影響していることがわかる.以上のことから,表面張力が低く,粘度が高い薬液のほうが,液垂れがしやすい薬液であると考えられる.したがって,評価薬液は液垂れしやすい薬液であると考えられた.3.ノズル先端のRを変えたときの滴下角度の違いによる液残り量の測定ノズル先端のRが小さいほうが液残り量は少なると考え,ノズル先端のRの大きさ(R2mm,R1.5mmおよびR1mm)を変えて,滴下角度の違いによる液残り量を評価した(図11).ノズル先端のRが小さいほど,滴下角度が小さくなっても,液残り量はノズル先端のRが大きいもの(R2mm)よりも減少した.このことから,対照ノズルと評価ノズルでの滴下角度の違いによる液残り量は,ノズル先端のRが影響していることが裏づけられた.IV考察健常人を用いた点眼容器の操作角度を調査した結果7)で液残り量(mg)図11ノズルの先端Rを変えたときの滴下角度違いによる液残り量造形3試料×10回(計30回)の液残り量の平均値をmg換算した.じ,液垂れがしやすくなったと考えられた.2.滴下角度の違いによる液残り量の測定評価薬液,比較薬液および水での滴下角度の違いによるノズル先端への液残り量を測定した(図8~10).その結果,評価薬液では,対照ノズルの滴下角度が小さくなる(60°→20°)に従い,液残り量が増加した.一方,評価ノズルは,滴下角度が小さく(60°→20°)なっても,角度差による液残り量に大きな差は認められなかった.また,比較薬液では,対照ノズルの滴下角度30°.20°で液残り量が増加した.評価ノズルでは,滴下角度が小さく(60°→20°)なっても液残り量はなかった.なお,水では対照ノズルおよび評価ノズルのどちらも,どの滴下角度においても液残り量はなかった.このことから,評価ノズルはノズル先端への液残り量を低減する効果があることがわかった.以上の結果から,液垂れにはノズル先端形状,とくにノズル先端のRが大きく影響しは,点眼時の角度が60°.69°が33.3%,50°.59°が23.3%と被験者全体の約60%を占めている.ついで40°.49°が20%であり,一般的な点眼時の滴下角度は90°.45°であるとされている.このことから,液垂れの要因として,45°以下で点眼されている可能性が考えられた.今回,45°以下の角度として,30°および20°の滴下角度を追加し,60°.20°の範囲で液垂れを評価した結果,対照ノズルは滴下角度が小さく(60°→20°)なるに従い,ノズル先端に残る量が多くなった.一方,評価ノズルでは,滴下角度が小さくなってもノズル先端に残る液量はほぼなかった.このことは,使用時を想定してキャップを繰り返し嵌合したときの滴下角度の違いによる液残り回数にも表れている.対照ノズルは,滴下角度が小さくなるに従い,液垂れがしやすくなり回数も増加する傾向にある.これは,キャップを巻き締めることにより,ノズル先端に残った薬液がキャップ天面に付着し,付着する薬液が徐々に蓄積されたと考えられる.キャップの開閉を繰り返すといずれは,ノズル側面にも濡れが生じる.ノズル側面が濡れると滴下する際に,濡れ面を伝いノズル側面まで薬液が流れ,液垂れが生じると考えられる.評価ノズルは液切れがよいため,ノズル先端の液残り量がなく,キャップの開閉を繰り返してもキャップ天面への薬液の付着が少ない.したがって,ノズル側面が濡れるまで至らず,結果的に液垂れが生じなかったと考えられる.以上のことより,ノズル先端に残る液残り量が多いほど,液垂れがしやすくなる.したがって,液垂れを低減もしくは防止する場合,滴下角度が小さくてもノズル先端に残る液残り量をできるだけ少なくできるノズル形状にする必要がある.つまり,ノズル先端のRを極力小さくすることが望ましい.このことはすでに述べたように,3Dプリンターで造形したノズル先端のRの大きさの違いで角度を変えて滴下した結果(図11)からも示唆されている.液切れをよくする方法として,ノズル先端を直角(エッジ形状)にするほうがよいが,点眼時にエッジが角膜に接触したときの危険性を考慮すると,少なくともRを付加する必要がある.また,ノズル形状以外では,ノズル先端の濡れ性(接触角度)を大きくすることも重要である.今回の評価には評価薬液に表面張力が40.9mN/mおよび粘度が45.0mPa・sのもの,比較薬液として表面張力が36.7mN/mおよび粘度が1.0mPa・sのもの,コントロールに精製水(表面張力72.0mN/m,粘度0.9mPa・s)を用いた.表面張力が低いと濡れやすく液体が付着したときの接触角度は鋭角になり,高いと濡れにくく接触角度は鈍角になる.また,粘度が高いと流れにくく,低いと流れやすい.このことから,評価薬液は表面張力が低く,粘度が高いため,液垂れがしやすい物性の薬液であるといえる.このような薬液でも,評価ノズルは滴下角度20°でも液垂れが起こりにくかった.V結論今回,液垂れを低減することを目的とし,ノズル形状が円筒形でノズル先端のRを小さくした形状(評価ノズル)を評価した.円錐形でノズル先端のRが大きい自社の従来のノズル形状(対照ノズル)と比較した結果,評価ノズルは自社の従来のノズル形状より液垂れを低減する効果が認められた.評価ノズルは,滴下角度90°.20°の範囲内であれば,患者がその範囲内で点眼しても,十分に液垂れを抑えることができると考えられる.評価ノズルでは,表面張力40.9mN/m以上および粘度45.0mPa・s以下の物性の薬液であれば,液垂れを低減することは可能であると考えられる.このような液垂れを低減するノズルを開発できたことにより,液垂れによる諸問題が改善され,患者にとっても使いやすく点眼療法に貢献できるノズルとして普及することが期待される.今後も患者に寄り添った優しい点眼容器をめざして,さらなる技術開発を続けていきたい.文献1)大矢勝:横浜国立大学教育人間科学部界面活性剤の作用【2】:表面張力とぬれの関係Ver.1.00,11.20,20042)高田保之:九州大学ぬれ性と表面張力伝熱学・熱流体力学における「のどの小骨」を流し込む.jour.HTSJ:43,43-48,20043)ロート製薬株式会社ジー|ロート製薬:商品情報サイト(https://jp.rohto.com/zi/)4)横山真男,瀬田洋平,矢川元基:容器口に刻んだ溝による液だれ防止の効果.日本機械学会論文集83:856,1-10,20175)千寿製薬株式会社目薬の正しい使い方|Eyeノート|一般生活者・患者のみなさま|千寿製薬株式会社(https://www.senju.co.jp/consumer/note/usage.html)6)日本眼科医会監修:医療関係者向け資料「点眼剤の適正使用のハンドブック-Q&A-」,20117)高橋佳子,樋上智子,倉本美佳ほか:兵庫医科大学病院薬剤部点眼剤容器の操作性に関する評価1滴滴下に及ぼす点在容器角度の影響.医療薬学30:475-482,2004***

Intrachoroidal Cavitation のEn Face 画像を用いた 定量評価とOCT および視野所見の特徴

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1605.1610,2023cIntrachoroidalCavitationのEnFace画像を用いた定量評価とOCTおよび視野所見の特徴大内達央*1山下力*1,2荒木俊介*1,2後藤克聡*1三宅美鈴*1水上菜美*1春石和子*1,2家木良彰*1三木淳司*1,2桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学1*2川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科CQuantitativeEvaluationofIntrachoroidalCavitationUsingEn-FaceImagingandCharacteristicsofOCTandVisualFieldFindingsTatsuhiroOuchi1),TsutomuYamashita1,2)C,ShunsukeAraki1,2),KatsutoshiGoto1),MisuzuMiyake1),NamiMizukami1),KazukoHaruishi1,2)C,YoshiakiIeki1),AtsushiMiki1,2)CandJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)DepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfareC目的:OCTのCenface画像を用いてCintrachoroidalcavitation(ICC)の面積や深度の定量評価を行い,OCTパラメータおよび視野所見の臨床的特徴について検討した.対象および方法:対象はCenface画像で脈絡膜内空隙状病変を認めたC3例C3眼である.Enface画像からCICCの最大面積,最大深度を算出し,OCTパラメータ[乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)厚,網膜神経節細胞複合体(GCC)厚],視野所見との関連性を評価し,ICCの臨床的特徴について検討した.結果:ICCの最大面積,最大深度とCOCTパラメータ,視野障害に関連性はみられなかった.全症例でCICCは視神経乳頭下方に存在し,下方のCcpRNFL厚およびCGCC厚の菲薄化がみられ,上半視野障害を示した.眼底写真では病変が不明瞭な症例が存在した.結論:ICCの検出および定量評価にCenface画像を用いた解析は有用であった.CPurpose:Toevaluatetheareaanddepthofintrachoroidalcavitation(ICC)usingopticalcoherencetomogra-phy(OCT)en-faceimagingandclinicalcharacteristicsoftheOCTparametersandvisual.eld.ndings.SubjectsandMethods:InCthisCstudy,C3CeyesCofC3CpatientsCwithCICCCdetectedCusingCen-faceCimagesCwereCexamined.CTheCmaximumareaanddepthofICCwascalculated,andtherelationshipwithOCTparameters〈circumpapillaryreti-nalCnerveC.berlayer(cpRNFL)andCretinalCganglionCcellcomplex(GCC)thickness〉andCvisualC.eldC.ndingsCwasCevaluated.CInCaddition,CtheCclinicalCfeaturesCofCICCCwereCanalyzed.CResults:TheCmaximumCareaCorCdepthCofCICCCandOCTparametersorvisual.elddefectswereunrelated.TheICCwaslocatedinferiortotheopticdisc,theinfe-riorCcpRNFLCandCGCCCthicknessesCwereCthinned,CandCupperChemi.eldCdefectsCwereCobserved.CSomeClesionsCwereCunclearConCfundusCphotographs.CConclusion:En-faceCimagingCanalysisCwasCusefulCforCtheCdetectionCandCquantita-tiveevaluationofICC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(12):1605.1610,C2023〕Keywords:intrachoroidalcavitation,enface画像,光干渉断層計,視野障害.intrachoroidalcavitation,en-faceimages,opticalcoherencetomography,visual.elddefects.CはじめにIntrachoroidalcavitation(ICC)は視神経乳頭近傍にみられる黄白色.橙色の三日月状の脈絡膜内空隙状病変であり,Freundら1)が当初,網膜色素上皮.離としてCperipapillarydetachmentCinpathologicCmyopiaという表記で報告した病態である.その後,Taranzoら2)は本病態が網膜色素上皮.離ではなく,脈絡膜内の洞様構造であると報告し,ICCとよんだ.ICCは強度近視のC4.9.16.9%にみられ3,4),視神経乳頭の下方に多く存在する5)と報告されている.Shimadaら3)はCICCによって視神経乳頭近傍で網膜内層の菲薄化や断裂〔別刷請求先〕大内達央:〒701-0192岡山県倉敷市松島C577川崎医科大学眼科学C1Reprintrequests:TatsuhiroOuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki,Okayama701-0192,JAPANCc図1症例1(63歳,男性,左眼,屈折度数:C.11.75D(cyl.1.00DCAx80°,眼軸長:27.64mm)の検査結果a:Enface画像から算出したCICCの最大面積はC4.34CmmC2であった.ICC/Disc面積比はC1.69であった.Cb:Enface画像から算出したCICCの最大深度はC0.42Cmmであった(Caの×の位置でのCBスキャン画像).c:眼底写真では黄白色.橙色の病変がみられた(.).d:左:cpRNFL解析,右:GCC解析の結果.下方CcpRNFL厚および下方CGCC厚の菲薄化がみられた.e:HFA中心C30-2プログラム,SITA-Fastの結果.上鼻側領域の感度低下がみられた.が生じ,71%が緑内障様視野障害を伴うと報告している.基準となる深さで平坦化処理する技術で,任意の層の網脈絡また,Fujimotoら6)はCICCの体積,深さ,長さと視野障害膜病変の広がりを捉えることが可能である.そこで本研究での関連性について報告しているが,光干渉断層計(opticalはCenface画像を用いてCICCの面積や深度の定量評価を行Ccoherencetomography:OCT)のパラメータを含めた検討い,OCT,視野検査所見との関連性およびCICCの臨床的特はなされておらず,いまだ詳細な病態は明らかとなっていな徴,enface画像を用いたCICCの検出,解析の有用性についい.て検討した.近年,OCTの撮影・解析技術は急速に発展している.Enface画像はCOCTの三次元断層画像から眼底画像を再構築し,c図2症例2(78歳,男性,左眼,眼内レンズ挿入眼,屈折度数:C.0.75D(cyl.2.00DCAx90°,眼軸長:24.46Cmm)の検査結果a:Enface画像から算出したCICCの最大面積はC1.48CmmC2であった.ICC/Disc面積比はC0.68であった.Cb:Enface画像から算出したCICCの最大深度はC0.20Cmmであった(Caの×の位置でのCBスキャン画像).c:眼底写真ではCICCの病変が不明瞭であった.d:左:cpRNFL解析,右:GCC解析の結果.上下象限CcpRNFL厚および下方CGCC厚の菲薄化がみられた.e:HFA中心C30-2プログラム,SITA-Fastの結果.上方および鼻側の感度低下がみられた.検査が施行されたC3例とした.緑内障以外の眼疾患を有するCI対象および方法症例は対象から除外した.本研究は,川崎医科大学・同附属対象はC2015年C4月.2018年C3月に川崎医科大学附属病病院倫理委員会の承認のもと(承認番号C5798-00),ヘルシ院眼科において眼底写真およびCOCT画像で脈絡膜内空隙状ンキ宣言に準拠して行われた.病変がみられ,swept-sourceOCTによるCenface画像解析,ICCの最大面積,最大深度の算出で用いるCOCT画像はCspectralCdomainOCTによる網膜内層解析,HumphreyCDRIOCT-1Atlantis(トプコン)を用いて取得した.本装置C.eldanalyzer(HFA,CarlCZeissMeditec)による静的視野は,光源波長C1,050Cnm,スキャンレートC100,000CA-scans/c図3症例3(52歳,女性,右眼,屈折度数:C.9.00D(cyl.0.50DCAx20°,眼軸長:27.10mm)の検査結果a:Enface画像から算出したCICCの最大面積はC0.53CmmC2であった.ICC/Disc面積比はC0.17であった.Cb:Enface画像から算出したCICCの最大深度はC0.15Cmmであった(Caの×の位置でのCBスキャン画像).c:眼底写真ではCICCの病変が不明瞭であった.d:左:GCC解析,右:cpRNFL解析の結果.下耳側象限のCcpRNFL厚および下方CGCC厚の菲薄化がみられた.e:HFA中心C30-2プログラム,SITA-Fastの結果.上半視野障害がみられた.秒,深さ方向8μmである.スキャンプロトコルはC12C×9測した.また,ICCの最大面積と視神経乳頭面積(mmC2)をCmmの黄斑部三次元スキャン(512C×256枚)とした.En比較するため,同様の方法で視神経乳頭面積を手動計測し,face画像はCDRIOCT-1Atlantisで取得したC3次元スキャンICC/視神経乳頭(ICC/Disc)面積比を算出した.なお,算出画像を専用のソフトウェア(EnViewversion1.0.1,トプコした面積は光学式眼軸長測定装置(OA-1000,トーメーコン)を用い,Bruch膜で平坦化して構築した.ICCの最大面ーポレーション)で測定した各眼の眼軸長とCDRICOCT-1積は脈絡膜内空隙状病変(低反射領域)の最大面積(mmC2),Atlantisのモデル眼軸長(24.39Cmm)から既報7,8)を参考に倍ICCの最大深度(mm)はCBruch膜から脈絡膜高反射領域ま率補正を行った.での垂直距離と定義し,上記のソフトウェアを用いて手動計乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)厚,網膜神経節細胞複合体(ganglionCcellcomplex:GCC)厚の測定はCRTVue-100(Optovue)を用いた.本装置は,光源波長C840nm,スキャンレート26,000CA-scans/秒,深さ方向C5Cμmである.スキャンプロトコルはCGCC,ONHとし,signalCstrengthindexがC45以上のデータを採用した.視野測定はCHFA(中心C30-2プログラム,SITA-Fast)を用い,固視不良,偽陽性,偽陰性のすべてがC20%未満の結果のみ採用した.緑内障性視野障害との類似性を評価するために,Anderson-Patella基準9)の1)パターン偏差確率プロットで,p<5%の点がC3個以上隣接して存在し,かつそのうちC1点がp<1%,2)パターン標準偏差がCp<5%,3)緑内障半視野テストが正常範囲外の項目別の陽性率を算出した.また,視野障害部位は既報5,10)を参考に各測定点を神経線維の走行に沿ってC6個のクラスターに分割し,各クラスターの異常率を算出して評価した.異常率は,patternCdevia-tionplotsで同一クラスター内にCp<0.05が隣接したC3点以上存在し,そのうちC1個がCp<0.01であるものを異常と判定して算出した.検討項目はCICCの最大面積や最大深度とCcpRNFL厚,GCC厚,視野検査所見の関連性とした.CII結果本研究の対象はC3名C3眼,平均年齢C±標準偏差はC64.3C±13.1歳であった.各症例の結果を図1~3に示す.全症例でICCはCenface画像において視神経乳頭下方に存在していたが,視神経乳頭より面積が小さい症例(ICC/Disc面積比がC1未満)は眼底写真では病変が不明瞭であった.全症例で下方CcpRNFL厚およびCGCC厚は,上方CcpRNFL厚およびCGCC厚よりも菲薄化していた.ICCの最大面積,最大深度とCcpRNFL厚,GCC厚に関連性はみられなかった.全症例で上方トータル偏差,パターン偏差が,下方トータル偏差,パターン偏差よりも低値であった.Anderson-Patella基準の陽性率は全症例,すべての項目が陽性であった.各クラスターの異常率は全症例,上半視野のCBjerrum領域のクラスターで異常がみられた(図4).ICCの最大面積,最大深度と視野障害の程度に関連性はみられなかった.CIII考察本研究では,ICCを伴うC3例を対象にCenface画像を利用してCICCの面積や深度を定量評価した.また,全症例でICCの病変部位に対応する領域にCcpRNFL厚,GCC厚の菲薄化がみられ,Bjerrum領域の視野障害を伴っていた.ICCは視神経周囲の機械的伸展に伴い,視神経乳頭周囲のCbordertissueofJacobyの断裂が生じ,網膜周囲組織が徐々に強膜脈絡膜側に入り込むことで形成される11.13)と考えら図4各クラスターの異常症例数全症例,上半視野のCBjerrum領域のクラスターで異常がみられた.れている.ICC眼では視野障害を伴うことが知られており3,5,14),その原因としてCSpaideら12)はCICCの病変部位では強膜カーブの後方偏位が生じ,ICCと視神経乳頭の境界領域に沿って網膜内層の菲薄化がみられることを報告している.Okumaら5)のCICC眼における静的視野計での視野障害,GCC厚についての検討では,ICCは視神経乳頭下方に生じ,下方CGCC厚の菲薄化,上半視野のCBjerrum領域の視野障害が生じると報告しており,本研究と類似した結果であった.したがって,ICCは網膜内層の連続性の途絶により,病変部位に対応した網膜内層の菲薄化,Bjerrum領域の視野障害が生じ,初期緑内障眼と類似した所見を呈する可能性が示唆された.本研究では,ICCの最大面積が大きくなるほど,ICCの最大深度が深くなる傾向がみられたが,ICCの最大面積,ICCの最大深度とCcpRNFL厚,GCC厚および視野障害の程度に関連性はみられなかった.Fujimotoら6)は,OCT画像からICCのC3D画像を生成し,ICCの深さ,体積と視野障害の程度を検討した結果,ICCの体積とCMeanDeviation(MD)値,上半視野障害は負の相関がみられるが,ICCの深さとCMD値には相関関係はみられなかったと報告している.本研究は既報とはCICCの解析方法,症例数が異なるため,結果に相違が生じたと考えられるが,enface画像によるICCの深さ,面積,体積の解析は,ICCの網膜内層の菲薄化,視野障害の病態解明に有用である可能性があるため,今後症例数を増やした検討が必要であると考えられる.本研究では,視神経乳頭より面積が小さいCICCは眼底写真では病変が不明瞭であった.既報4,15)においても,OCT画像で検出されたCICCのうち,眼底写真で病変を認めたのは47.53.3%であったと報告されており,面積が小さく,病変の色調が明らかではないCICCは見逃される可能性がある.その一方で,enface画像はCICCの病変を境界明瞭な低反射領域として描出することが可能であり,本研究においてもC1.0Cmm2未満の病変を検出することができた.したがって,ICCの検出にはCenface画像が有用と考えられる.本研究の限界として,症例数が少なく,緑内障性視神経障害を含む可能性がある.ICCによって生じる視野障害は,緑内障性視野障害とは異なる機序であると考えられているが,詳細な発生機序は明らかとなっておらず,今後,経時的変化を含めた病態解明が必要となる.本研究では,enface画像を利用することでCICCの面積や深度の定量評価が可能であることが明らかとなった.ICCに対するCenface画像の活用は,ICCの検出,病態解明に有用である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FreundCKB,CCiardellaCAP,CYannuzziCLACetal:Peripapil-laryCdetachmentCinCpathologicCmyopia.CArchCOphthalmolC121:197-204,C20032)ToranzoCJ,CCohenCSY,CErginayCACetal:PeripapillaryCintrachoroidalCcavitationCinCmyopia.CAmCJCOphthalmolC140:731-732,C20053))ShimadaCN,COhno-MatsuiCK,CYoshidaCTCetal:Charac-teristicsofperipapillarydetachmentinpathologicmyopia.ArchOphthalmolC124:46-52,C20064)YouQS,PengXY,ChenCXetal:Peripapillaryintracho-roidalCcavitations.CTheCBeijingCeyeCstudy.CPLoSCOneC8:Ce78743,C20135)OkumaCS,CMizoueCS,COhashiY:VisualC.eldCdefectsCandCchangesCinCmacularCretinalCganglionCcellCcomplexCthick-nessCinCeyesCwithCintrachoroidalCcavitationCareCsimilarCtoCthoseinearlyglaucoma.ClinCOphthalmolC10:1217-1222,C20166)FujimotoCS,CMikiCA,CMaruyamaCKCetal:Three-dimen-sionalvolumecalculationofintrachoroidalcavitationusingdeep-learning-basedCnoiseCreductionCofCopticalCcoherenceCtomography.TranslVisSciTechnolC11:1,C20227)LittmannH:DeterminationCofCtheCrealCsizeCofCanCobjectConCtheCfundusCofCtheClivingCeye.CKlinCMblCAugenheilkC180:286-289,C19828)SampsonDM,GongP,AnDetal:AxiallengthvariationimpactsConCsuper.cialCretinalCvesselCdensityCandCfovealCavascularCzoneCareaCmeasurementsCusingCopticalCcoher-encetomographyangiography.InvestOphthalmolVisSciC58:3065-3072,C20179)AndersonDR,PatellaVM:Interpretationofasingle.eldprintout.CautomatedCstaticCperimetry,C2ndCed,CMosby,CStCLouis,Cp121-190,C199910)Garway-HeathCDF,CPoinoosawmyCD,CFitzkeCFWCetal:CMappingCtheCvisualC.eldCtoCtheCopticCdiscCinCnormalCten-sionglaucomaeyes.OphthalmologyC107:1809-1815,C200011)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,NishimutaAetal:Peripapil-laryCchangesCdetectedCbyCopticalCcoherenceCtomographyCinCeyesCwithChighCmyopia.COphthalmologyC114:2070-2076,C200712)SpaideRF,AkibaM,Ohno-MatsuiK:Evaluationofperi-papillaryCintrachoroidalCcavitationCwithCsweptCsourceCandCenhancedCdepthCimagingCopticalCcoherenceCtomography.CRetinaC32:1037-1044,C201213)ChenCY,CMaCX,CHuaR:Multi-modalityCimagingC.ndingsCofhugeintrachoroidalcavitationandmyopicperipapillarysinkhole.BMCOphthalmolC18:24,C201814)XieS,KamoiK,Igarashi-YokoiTetal:StructuralabnorC-malitiesinthepapillaryandperipapillaryareasandcorre-spondingvisual.elddefectsineyeswithpathologicmyo-pia.InvestOphthalmolVisSciC63:13,C202215)YehSI,ChangWC,WuCHetal:Characteristicsofperi-papillaryCchoroidalCcavitationCdetectedCbyCopticalCcoher-encetomography.OphthalmologyC120:544-552,C2013***

溶血性連鎖球菌Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis によるまれな内因性眼内炎の1 例

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1598.1604,2023c溶血性連鎖球菌CStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilisによるまれな内因性眼内炎のC1例秋山由貴*1,2牧山由希子*1村岡勇貴*2星野真子*2森田英典*2辻川明孝*2*1康生会武田病院眼科*2京都大学大学院医学研究科眼科学CARareCaseofEndogenousEndophthalmitisCausedbyStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilisCYukiAkiyama1,2),YukikoMakiyama1),YukiMuraoka2),MakoHoshino2),HidenoriMorita2)andTsujikawaAkitaka2)1)KouseikaiTakedaHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicineC要約:溶血性連鎖球菌CStreptococcusCdysgalactiaeCsubsp.Cequisimilis(SDSE)による片眼性のまれかつ重篤な内因性眼内炎を経験したので報告する.症例:81歳,男性.弓部大動脈置換術,54歳時に右眼網膜.離に対するバックリング手術の既往がある.3日前からの発熱と呼吸苦にて救急外来を受診され,全身性細菌感染症の疑いにて入院,広域抗菌薬の全身投与が開始された.右眼の視力低下と眼痛のため,同日眼科紹介となった.右眼は眼前手動弁で,高度な前眼部炎症のため眼底は透見不能であった.細菌性眼内炎を疑い,抗菌薬の頻回点眼を開始したが改善はなく,翌日硝子体手術を施行した.術中,黄斑部を含む網膜に白色病変を認め,乳頭は蒼白浮腫を呈していた.血液,眼内液よりSDSEが検出され,右眼内因性眼内炎と確定診断した.全身検索にて原発感染巣は特定できなかったが,抗菌薬の全身投与にて炎症マーカーは沈静化した.その後右眼は光覚を消失したが眼痛遷延があり,眼球摘出術を追施した.僚眼は,経過中感染徴候は認めず視力C1.5を保持した.結語:SDSEによる眼内炎は,急速進行性で視機能予後もきわめて不良となる可能性があり注意を要する.CInthisreport,wepresentararecaseofendogenousendophthalmitiscausedbyStreptococcusdysgalactiaeCsub-sp.equisimilis(SDSE).An81-year-oldmalepatientwithahistoryoftotalarchreplacementsurgeryandbucklingsurgeryforretinaldetachmentinhisrighteyeat54yearsoldpresentedtotheemergencydepartmentwithhighfeverandsuspectedsystemicbacterialinfection,andcomplainedofdecreasedvisionandpaininthateye.Uponini-tialexamination,therighteyeexhibitedseverein.ammationintheanteriorchamberincludinghypopyon,andthefundusCwasCinvisible.CSDSECwasCdetectedCinCtheCintraocularC.uidCandCblood,CandCtheCrightCeyeCwasCdiagnosedCasCSDSE-inducedCendogenousCendophthalmitis.CAlthoughCsystemicCantibacterialCagentsCdecreasedCsystemicCin.ammatorymarkers,enucleationoftherighteyewasultimatelyrequiredduetothepersistentocularpain.The.ndingsinthisstudyhighlighttherapidprogressionandpoorvisualprognosisincasesofendogenousendophthal-mitiscausedbySDSEandemphasizetheimportanceofearlydiagnosisandtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(12):1598.1604,C2023〕Keywords:内因性眼内炎,StreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilis,G群溶血性レンサ球菌,眼球摘出術.Cendogenousendophthalmitis,StreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilis,groupGStreptococcus,enucleation.Cはじめに占める内因性眼内炎の割合はC2.8%とまれではあるが2),視眼内炎は外因性眼内炎と内因性眼内炎に分類される1,2).力予後がきわめて不良となるばかりでなく,死亡する例もあ内因性眼内炎は病原体が眼外の感染巣から血行性に眼内に運り2),生命予後の観点からも注意を要する病態である.今回ばれてきて眼の感染症を引き起こすものである.全眼内炎に筆者らは,細菌性眼内炎の原因菌として溶血性レンサ球菌〔別刷請求先〕牧山由希子:〒600-8558京都市下京区東塩小路町C841-5康生会武田病院眼科Reprintrequests:YukikoMakiyama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KouseikaiTakedaHospital,841-5Higashishiokoji-cho,Shimogyo-ku,Kyoto600-8558,JAPANC1598(94)(溶連菌)の一種であるCStreptococcusCdysgalactiaeCsubsp.equisimilis(SDSE)によるまれかつ重篤な転帰に至った片眼性の内因性眼内炎を経験したので報告する.CI症例患者:81歳,男性.主訴:右眼視力低下,眼痛.既往歴:高血圧症,脂質異常症,痛風,慢性腎臓病,慢性閉塞性肺疾患,弓部大動脈.状瘤に対する弓部大動脈置換術,心房細動,陳旧性心筋梗塞,慢性心不全.眼科既往歴:54歳:右眼網膜.離に対するバックリング手術,60代:左眼水晶体再建術,70代:右眼水晶体再建術.現病歴:初診C3日前より,発熱,右眼の眼痛と視力低下を認めていた.初診同日,呼吸苦が新たに出現したため,深夜に救急搬送された.初診時全身所見:身長C175Ccm,体重C71.5Ckg,意識清明,体温C40.1℃,血圧C132/78CmmHg,心拍数C92回/分,呼吸数24回/分,血中酸素飽和度は酸素投与下(6Cl/分)にC96.99%であった.血液検査では白血球数C12,200/μl,C反応性蛋白(CRP)19.52Cmg/dl,胸部CX線上,肺野には異常所見を認めなかったが心拡大を認めた.SARS-COV-2の核酸増幅検査は陰性であった.内科にて入院管理となり(第C0病日),血液細菌培養検査後にスルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウム1.5Cg/日の全身投与を開始した.感染巣の同定のため胸腹部CTを施行したところ,両腎周囲の脂肪織混濁や左尿管の軽度拡張所見を認めた.経胸壁心エコーで弁膜症や感染性心内膜炎を示唆する疣贅は認めなかった.腎盂腎炎に伴う敗血症が疑われたが,入院後に施行した尿検査では尿中白血球や細菌は陰性であり尿路感染は否定的であった.同日夕方,右眼眼痛と視力低下に関し眼科を受診された.眼科初診時,視力は右眼C30Ccm手動弁,左眼(0.5),眼圧は右眼C27CmmHg,左眼C16CmmHg,右眼には結膜毛様充血,前房フィブリン析出・蓄膿を伴う高度な前眼部炎症を認めた(図1a).右眼の硝子体,網膜は透見不能であった.超音波Bモードにて右眼に網膜.離は明らかでなかった(図1b).左眼には炎症所見を認めなかった(図1d).右眼眼内炎を疑い,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩(点眼・点鼻用リンデロンCA液R)の点眼C4回/日とともに,レボフロキサシン水和物液(クラビット点眼液C1.5%)およびセフメノキシム塩酸塩液(ベストロン点眼液C0.5%)を夜間も含めC2時間ごとの点眼を開始した.全身投与の抗菌薬は眼組織への移行性を考慮し,セフトリアキソンナトリウム(CTRX)2g/日に変更した.翌日(第C1病日)朝の診察時,右眼は眼痛が増強し,視力は光覚弁に低下,前房フィブリン析出および蓄膿の増加,結膜充血・浮腫の悪化を認めた(図1c).眼窩部CCTにて,右眼の強膜スポンジ周囲の脂肪織に軽度の陰影増強があり(図1e),バックル感染の可能性も否定できなかった.診断と治療のために,同日夜,右眼硝子体手術を施行した.前房水・硝子体液の採取後に,セフタジジム,バンコマイシンを溶解した眼灌流液(各C40Cμg/ml,20Cμg/ml)を用いて,前房洗浄,混濁硝子体の切除を進めた.視神経乳頭内の網膜中心動脈には白色の塞栓様物質が認められ,視神経乳頭は蒼白浮腫を呈していた.網膜病変は,周辺部より黄斑部を含む後極部に優位であった.また,強膜スポンジの周囲組織の炎症所見は,バックルのない象限の炎症所見と同等であり,バックル感染よりは内因性眼内炎の可能性を考慮した.入院時に採取した血液,術中に採取した前房水や硝子体液から,SDSEが検出され,SDSEによる右眼の内因性眼内炎と確定診断した.右眼視力は,第C1.6病日は光覚弁であったが,第C7病日に光覚を消失した.内因性眼内炎の診断後も,感染巣の検索を継続した.経胸壁および経食道心臓エコーでは,弁膜症や感染性心内膜炎を疑う疣贅は認めなかった.PET-CTにて大動脈弓部の人工血管部に18F-FDGの集積像を認めたが(図2a),集積は軽微で非特異的所見と判断され,人工血管部および心臓は感染巣と積極的には考慮しなかった.治療は,感受性および眼内移行性を考慮しCCTRX1Cg/日の点滴加療を継続し,炎症反応は順調に改善傾向であったが,第C20病日から発熱,白血球減少,CRPの上昇をきたし,CTRXによるアレルギーが原因である可能性を考慮した.感染制御部に相談のうえ,第C22病日に感受性および眼内移行性のあるバンコマイシンに変更し,顆粒球コロニー形成刺激因子製剤を投与後は発熱,白血球数,CRPは改善した.発熱時採取した血液培養の結果は陰性であった.しかし,第27病日にバンコマイシンによる薬剤性肝障害を認め,再度抗菌薬変更が必要となった.テイコプラニンは眼内移行性が低いが,すでに光覚を消失していたため,第C28病日より同薬に変更した.入院時より右手背部から右前腕に疼痛および腫脹を認めていたが,増悪傾向となり,四肢CCT,MRI検査にて,右化膿性手関節炎,腱膜炎と診断された.第C9病日に筋膜切開・洗浄術が施行され,その後疼痛は消失した.第C10病日に施行された頭部CMRIでは,右脳梁膨大部付近に新鮮梗塞と両側後頭葉,右前頭葉,右視床に陳旧性の多発脳梗塞が認められた.保存的経過観察にて,所見の増悪は認めなかった(図2b).感染巣の特定には至らなかったが,抗菌薬の全身投与を継続することで血液検査上の炎症マーカーは減少傾向であった(図3).しかし,右眼球および眼瞼部には,鎮痛剤の内服に図1第0病日および第1病日の前眼部所見・超音波Bモード・眼窩部CT画像a:第C0病日の右眼前眼部写写真.前房内フィブリン析出,蓄膿.Cb:第C0病日の右眼CBモードエコー.硝子体混濁.Cc:第C1病日の右眼前眼部写真.前日と比較し前房フィブリン析出や蓄膿の悪化.Cd:第C1病日左眼前眼部写真.異常所見なし.e:第C1病日眼窩部CCT画像(矢印部:強膜スポンジ).ても制御できない高度の疼痛が遷延していたため,第C36病変更のうえ,第C67病日退院となった.日に右眼眼球摘出術を施行した.病理学的検索では,角膜,僚眼は経過観察期間において感染徴候は認めず,初診C6カ網膜,脈絡膜,視神経に好中球を含む炎症細胞の浸潤を認月後の時点で視力C1.5を保持した.め,急性および慢性の炎症が示唆された(図4).CII考按右眼眼球摘出後,眼痛は消失し,全身に新たな感染徴候は認めなかったため,抗菌薬はアモキシシリン水和物の内服に内因性細菌性眼内炎のおもな原因菌は,日本を含むアジア抗菌剤手術CRP濃度,白血球数,体温の推移図2PET-CT(第16病日)と頭部造影MRI(第13病日)の所見a:PET-CTにて上行大動脈遠位部にC18F-FDGの軽度集積を認めた(矢印).b:頭部造影CMRIにて右側優位に梗塞巣の散在を認めた(矢印).CRPWBC体温(mg/dl)(/μl)(℃)2514,00039.512,00039.02010,00038.5158,00038.06,00037.5104,00037.052,00036.50036.0051015202530354045505560病日図3入院後の経過表SBT/ABPC:sulbactam/ampicillin,CTRX:ceftriaxone,VCM:vancomycin,TEIC:teicoplanin,PCG:penicillinG,CRP:C-reactiveprotein,WBC:whitebloodcells.では,肺炎桿菌を主としたグラム陰性菌による感染が多く2),グラム陽性菌では黄色ブドウ球菌,B群溶連菌,肺炎球菌が多いとされている1,2).本症例は,眼科初診時では血液細菌培養検査の結果は出ておらず,また,バックリング手術歴をもつ眼の片眼性眼内炎であったこともあり,バックル感染も鑑別すべき病態の一つとした.しかし,硝子体手術時,強膜や眼内の所見は,バックル周囲にとくに高度であったわけではなく,バックル感染は否定的であった.また,第0,1病日に得た血液,前房水,硝子体液すべてからCSDSEが検出されたことより,SDSEによる内因性眼内炎と確定診断することができた.SDSEはおもにCG群溶連菌に分類され3),鼻咽頭,皮膚,腸,腟などに常在する.従来,病原性をほとんど発揮しない連鎖球菌として扱われてきたが,1980年代より感染症の報告が増加し,1996年にヒトに感染症を引き起こすレンサ球菌として,1998年にヒトCG群溶連菌CSDSEとして報告された3.5).内因性細菌性眼内炎の日本での多施設調査では,溶連菌群図4摘出眼と病理組織学的所見(ヘマトキシリン・エオジン染色)a,b:眼球摘出術前日の右眼スリット写真.前房内に瞳孔領を覆うフィブリン塊を認め,眼底は透見不能.右眼視力は光覚なし,眼圧C8.2CmmHgであった.Cc:摘出した右眼.矢印:視神経断端.Cd:摘出した右眼,耳側方向.矢印:強膜バックリング部.e:角膜輪部,虹彩毛様体(弱拡大).好中球・リンパ球・形質細胞の著しい浸潤を認める.Cf:視神経を含む後眼部(弱拡大).漿液性網膜.離および,好中球・リンパ球・形質細胞の著しい浸潤を認める.Cg:バックリング部(強拡大).圧迫による出血が目立つが,炎症細胞の浸潤は認めない.Ch:黄斑部網膜(強拡大).外顆粒層・内顆粒層などの強い変性,網膜前・網膜内出血および,好中球・リンパ球・形質細胞の浸潤を広範囲に認めるが,血管閉塞や血管内細菌コロニーは明らかでない.Ci:視神経(fの強拡大).一部に炎症による空胞変性を認める.の検出が25例中2例であり6),またCJacksonらによれば,2001.2012年に調査されたC75例の内因性細菌性眼内炎のうち,溶連菌群が原因であった症例はC15例,なかでもSDSEが原因であった眼内炎はC1例のみであった2).このように溶連菌による内因性眼内炎の割合は少なく,さらにSDSEが原因菌となる症例はさらにまれといえる.国内からのCG群溶連菌もしくはCSDSEによる内因性眼内炎の症例報告は,PubMedと医中誌での検索範囲ではC2023年C3月時点でC8報C9症例であり,年齢はC31.86歳,両眼性がC3例,片眼性がC6例,原因疾患は蜂窩織炎C2例,感染性心内膜炎C2例,僧帽弁置換術後C1例,透析シャント感染C1例,尿路感染症C1例,原発性菌血症C2例とさまざまであった.本症例を含めたC10例C13眼では,69%は最終的に手動弁以下に,31%は眼球摘出に至った5,7.12).本例において,高齢,片眼性,失明に至った点はいずれも既報の結果に矛盾しなかった.G群溶連菌は,劇症型連鎖球菌感染症のおもな原因菌であるCA群溶連菌の病態と類似した侵襲性の病態を示すことがあり4),死亡率もC3.17%と報告されている2,13).視機能だけでなく生命予後にもかかわるため,感染巣の特定とともに適切な全身治療をすることが重要である.本症例は,右手関節と右眼手術を要したものの,原因菌を特定できたため,感受性の高い抗菌薬を継続的に全身投与することで,生命には問題が生じなかった.SDSE,G群溶連菌による内因性眼内炎の感染巣として,感染性心内膜炎,蜂窩織炎などがあげられるが,原因の特定ができない症例も認められる12).本例は,弓部大動脈置換術の既往があり,PET-CTでは人工血管部に集積像を認めた.眼内炎,化膿性手関節・腱膜炎は右側であり,多発脳梗塞も右側優位であったことより,人工血管部に生じた菌塊が腕頭動脈を経由・分岐して右鎖骨下動脈や右総頸動脈に血行性に転移し,今回の感染症や塞栓症を引き起こした機序を推測したが,原発感染巣との特定には至らなかった.内因性眼内炎のうち感染巣が特定できたのはC52%との報告もあり2),内因性眼内炎の約半数は感染巣が特定できないことが示唆される.内因性細菌性眼内炎に対する治療は,抗菌薬の全身および眼内投与,硝子体手術がおもに用いられるが2,3,15),重症度,病態は症例によりさまざまで,治療法が確立していないのが現状である.本症例では,眼科初診時に内因性眼内炎も疑い,全身投与抗菌薬の速やかな変更と,抗菌薬C2剤の頻回点眼治療を開始したが,効果は判然とせず,初診翌日に硝子体手術を施行した.術中所見ではすでに眼底の不可逆的変化が強く,その後も制御できない眼痛のため最終的に眼球摘出に至った.SDSEによる眼内炎は,急速進行性の重篤な転帰に至る可能性が示唆された.筆者らは,溶連菌の一つであるCSDSEによるまれな内因性眼内炎のC1例を経験した.臨床的知見の蓄積は十分ではないが,SDSEによる眼内炎の報告は,急速進行性で視機能予後が著しく不良となる可能性がある.内因性眼内炎の臨床において,SDSEも原因菌の一つとして考慮すべきであり,眼科医のみならず他科の医師へも広く認識されることが大切であると考える.利益相反:辻川明孝(カテゴリーCF:キヤノン,ファインデックス,参天製薬)文献1)CunninghamET,FlynnHW,RelhanNetal:Endogenousendophthalmitis.COculCImmunolCIn.ammC26:491-495,C20182)JacksonCTL,CParaskevopoulosCT,CGeorgalasI:SystematicCreviewCofC342CcasesCofCendogenousCbacterialCendophthal-mitis.SurvOphthalmolC59:627-635,C20143)BrandtCCM,CSpellerbergB:HumanCinfectionsCdueCtoCStreptococcusCdysgalactiaeCsubspeciesCequisimilis.ClinCInfectDisC49:766-772,C20094)生方公子,砂押克彦,小林玲子ほか:C群およびCG群溶血性レンサ球菌による侵襲性感染症についてのアンケート.感染症誌C80:480-487,C20065)笹本洋子,松村正,小林由佳ほか:G群溶血性レンサ球菌による内因性細菌性眼内炎の血液透析患者.透析会誌C49:599-604,C20166)TodokoroCD,CMochizukiCK,CNishidaCTCetal:IsolatesCandCantibioticCsusceptibilitiesCofCedogenousCbacterialCendo-phthalmitis:ACretrospectiveCmulticenterCstudyCinCJapan.CJInfectChemotherC24:458-462,C20187)森田信子,中島富美子,冲永貴美子ほか:G群Cb溶血性レンサ球菌による内因性細菌性眼内炎のC2例.眼科C56:C1365-1370,C20148)HagiyaCH,CSembaCT,CMorimotoCTCetal:PanophthalmitiscausedbyStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilis:Acasereportandliteraturereview.JInfectChemotherC24:C936-940,C20189)中川頌子,澁谷真彦,河合健志ほか:内因性眼内炎を契機に発覚した三尖弁感染性心内膜炎の一例.心臓C48:1377-1382,C201610)SuemoriCS,CSawadaCA,CKomoriCSCetal:CaseCofCendoge-nousCendophthalmitisCcausedCbyCStreptococcusCequisimilis.ClinOphthalmolC4:917-918,C201011)河野伸二郎,小堀朗,額田和之ほか:角膜混濁と虹彩萎縮をきたしたCG群Cb溶血性連鎖球菌による内因性眼内炎の一例.眼臨紀C8:166-170,C201512)大和田裕介,石原徹,真鍋早季ほか:StreptococcusCdys-galactiaeCsubspeciesCequisimilis原発性菌血症から細菌性眼内炎を合併した結腸癌患者のC1例.日本病院総合診療医学会雑誌C7:315-320,C202113)三好和康,馳亮太,清水彰彦ほか:G群溶血性連鎖球菌菌血症C104症例の臨床的特徴および市中発症群と院内発症群の臨床的特徴.感染症誌C91:553-557,C201715)TanCJH,CNewmanCDK,CBurtonCRLCetal:Endogenous14)大曲貴夫,藤田崇宏:G群溶血性レンサ球菌による多発性CendophthalmitisCdueCtoCgroupCGCstreptococcus.CEye化膿性関節炎・椎体椎間板炎・腸腰筋膿瘍・菌血症の一例.(London)C13:116-117,C1999感染症誌C84:1-5,C2010***

白内障術後の屈折誤差に対しSecondary Piggyback 法で スリーピース眼内レンズを追加挿入した症例

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1594.1597,2023c白内障術後の屈折誤差に対しSecondaryPiggyback法でスリーピース眼内レンズを追加挿入した症例黄野雅惠*1渡邉佳子*1岡田浩幸*1立石守*1大西純司*1水木信久*2*1国際親善総合病院眼科*2横浜市立大学眼科CACaseofThree-PieceIntraocularLensImplantationwithSecondaryPiggybackforCorrectingRefractiveErrorafterCataractSurgeryMasaeKouno1),YoshikoWatanabe1),HiroyukiOkada1),MamoruTateishi1),JunjiOnishi1)andNobuhisaMizuki2)CDepartmentofOpthalmology,FujisawashounanndaiHospital.DepartmentofOpthalmology,KokusaishizenHospital.DepartmentofOpthalmology,YokohamaCityUniversityHoslpitalC緒言:2枚の眼内レンズを重ねて挿入する術式を総称してCpiggyback法とよんでいる.白内障術後の屈折誤差を補正するために新たな眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を追加挿入するのがCsecondarypiggyback法である.症例:81歳,女性.左眼視力CVS=0.7(1.0×+1.00),眼軸長C21.28Cmmの白内障を認めた.白内障手術目的に当院紹介受診した.超音波乳化吸引術およびワンピース眼内レンズ(IOL+18.5D).内固定を施行した.術C2日後CVS=0.3×IOL(0.6+5.50(cyl.1.75DAx20°)と残余屈折異常を認め,レンズの誤挿入が発覚した.術C9日後,piggybackIOL度数=(必要度数)×1.5を用いて眼内レンズ(IOL+7.0D)を.外に追加挿入した.術C11日後,VS=0.2×IOL(0.3×.0.50)と軽度の近視化を認めたが,術C8カ月後にはCVS=1.2×IOL(id+0.75(cyl.0.75DAx85°)と良好な結果を得た.結論:レンズ誤挿入による白内障術後の屈折誤差に対してスリーピースCIOLを用いたCsecondarypiggyback法が有効であった.CPurpose:Thesurgicaltechniqueofinsertingtwointraocularlenses(IOLs)intotheeyeistermed“piggyback”CIOLimplantation.HereinwereportacaseofsecondarypiggybackIOLimplantationforcorrectingrefractiveerror(RE)followingCcataractCsurgery.CCasereport:AnC81-year-oldCfemaleCwithCaCvisualacuity(VA)ofCVS=0.7(1.0xsph+1.00)andCaxialClengthCofC21.28CmmCinCherCleftCeyeCwasCreferredCtoCourChospitalCtoCundergoingCcataractCsurgery.CForCtreatment,Cphacoemulsi.cationCaspirationCandCimplantationCofCaCone-pieceIOL(+18.5D)wasCper-formed.CAtC2-daysCpostoperative,CherCVACwasCVS=0.3xIOL(0.6Cxsph+5.50=cyl.1.75Ax20°)andCRECwasCobserved,CthusCindicatingCtheCIOLCwasCmalpositioned.CAtC9-daysCpostoperative,CweCperformedCimplantationCofCaCthree-pieceIOL(+7.0D)outofbagwithpiggybackIOLpower=(neededpower)x1.5.At11-dayspostoperative,mildCmyopiaCandCaCVACofCVS=0.2xIOL(0.3xsphC.0.50)wasCobserved.CHowever,CatC8-monthsCpostoperative,CaCgoodCVACofCVS=1.2xIOL(id+0.75=cyl.0.75Ax85°)wasCobtained.CConclusions:SecondaryCpiggybackCIOLCimplantationwithathree-pieceIOLise.ectiveforcorrectingREaftercataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(12):1594.1597,C2023〕Keywords:ピギーバック,短眼軸長眼,術後残余屈折異常.piggyback,extremelyshorteyes,refractiveaftercataractsurgery.Cはじめにる.このような症例に対してC2枚のCIOLを重ねて挿入する超短眼軸長眼および強度遠視に対する白内障手術の際に,ことが必要な場合がある.このようにCIOLをC2枚以上挿入1枚だけの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)では屈折矯する手技をCpiggyback法とよぶ.piggybackとは肩車を表正が不十分となり術後に残余屈折異常が残存する場合があす英単語である.眼科領域ではレンズ上にレンズをのせると〔別刷請求先〕黄野雅惠:〒224-0802神奈川県藤沢市高倉C2345藤沢湘南台病院眼科Reprintrequests:MasaeKouno,M.D.,DepartmentofOpthalmology,FujisawashounanndaiHospital,2345Takakura,Fujisawa,Kanagawa224-0082,JAPANC1594(90)図1Secondarypiggyback前の前眼部写真虹彩萎縮と角膜はCDescemet膜皺襞を伴っている.いう意味で用いられている.初回の手術でC2枚のCIOLを挿入するのがCprimaryCpiggyback法である.1993年にGaytonらによって初めて報告された1).また,白内障手術後の残余屈折異常がある症例に対し,屈折誤差を補正する目的で追加のCIOLを追加して挿入するCpiggyback法をCsecond-arypiggyback法とよぶ2).今回筆者らは誤ったレンズを挿入したことによる白内障術後の屈折誤差に対しCsecondarypiggyback法でスリーピース眼内レンズを追加挿入し修正し良好な視力を得た症例を経験したので報告する.CI症例患者:81歳,女性.主訴:両眼の霧視.現病歴および経過:2018年C10月初旬,両眼の霧視と視力低下を自覚し前医受診した.両白内障による視力低下を認め白内障手術目的に当院紹介受診した.当院初診時,視力は右眼C0.7(1.0×sph+1.50),左眼C0.7(1.0×+1.00),眼軸長は右眼C21.39Cmm,左眼C21.28Cmmであった.白内障は両眼ともにCgrade2であり,眼底はドルーゼンを認めるのみであった.2019年C1月初旬,左眼の超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(上方強角膜切開,ワンピースCIOL)を施行した.IOL度数は当院で取り扱っているCSRK/T式を用いて算出し,A定数C119.1ALCONCUltrasert+26.5D(目標屈折値.0.33)を挿入予定も,A定数C119.2HOYAisertXY1+18.5Dを誤挿入してしまった.術中はCZinn小帯と虹彩が脆弱であり創口から虹彩が脱出した.IOLは.内に固定した.術翌日,左眼視力C0.3×IOL(0.6×sph+5.50(cyl.1.75DAx20°)と高度の遠視化を認めた.IOLは正位で.内固定良好,角膜はCDescemet膜皺襞を伴っていた(図1).眼底は正図2Secondarypiggyback後の超音波画像2枚の眼内レンズ(..で示す高エコー領域)が挿入されていることが確認された.ビューフォーム(第C7版)常であった.この時点で初回手術のレンズ誤挿入が発覚した.誤挿入の理由として,順番の変更が直前に行われたこと,それに気づかず変更前の順番でCIOLが準備されていたこと,IOL挿入前にCIOLマスター表で氏名の確認が不十分であったことが考えられた.患者本人,家族に上記を説明したうえで,後日修正手術を行う方針となった.術C6日後,角膜CDes-cemet膜皺襞は改善されたが,左眼視力はC0.09×IOL(1.0+4.75(cyl.0.75DAx30°)と高度の遠視化が残存していた.術C9日後,角膜の状態が正常化したため,.外(毛様溝)に追加挿入する再手術を施行した.挿入レンズはCpiggybackIOL度数=(必要度数)×1.53)=4.75×1.5=7.125より,「スリーピースCIOL:PN6AS+7.00D(AvanseeKOWA)」を選択した.再手術翌日の左眼視力はC0.2×IOL(0.3×sph.0.50)と軽度の近視化を認めた.前眼部はCcell+,.brin+,.are.であった.超音波検査(Bモード)ではCIOLがC2枚挿入されているのが確認された(図2).再手術C2日後の左眼視力はC0.4C×IOL(0.5×cyl.1.50DAx30°)であった.再手術14日後の左眼視力はC0.4×IOL(0.9×cyl.1.75DAx35°)とレフラクトメータでは円柱度数は完全に矯正された.自覚症状も改善された.再手術C2カ月後,左眼視力C0.9×IOL(1.2×sph+0.75(cyl.1.00DAx50°)であり,日常生活を不自由なく過ごせる程度まで回復した.再手術C8カ月後の左眼視力はC1.2C×IOL(id+0.75(cyl.0.75DAx85°)まで矯正視力良好であり,現在まで大きな術後合併症なく経過している.既往歴:高血圧症,狭心症.家族歴:特記事項なし.手術歴:なし.アレルギー:なし.II考按今回,筆者らは誤挿入による白内障手術後の残余屈折異常に対してCsecondaryCpiggyback法を用いてスリーピースIOLを追加挿入する手段を用いた.白内障手術後に生じた屈折誤差が眼鏡やコンタクトレンズでも十分に矯正できないほど残存する場合,患者の生活に不自由をきたしてしまう恐れがある.そのため術後の度数矯正を補正するため早めに対処を考える必要がある.誤挿入の原因を考案したところ,当院では手術する患者の順番どおりにレンズ表を並べて手術室に持ち込むシステムであるが,直前に患者の順番が変更になったにもかかわらず,レンズ表は順番を変更しないままになってしまった.結果的に,異なる患者のレンズ表であることに気づかず間違った度数のCIOLが挿入されてしまったことが発覚した.本来ならば順番変更の口頭指示があった際に失念しないようにメモを残すべきであった.また,変更があったことに気づくために手術直前に再度CIOLの確認を行い,変更があった場合は全員で情報を共有し,最終確認作業はC2人以上の複数人で行う必要があった.また,手術室に持ち込むレンズ表を入室する患者の順番どおりにまとめる習慣がついていたため,表と患者氏名が合致していると思い込みCIOL挿入前の氏名確認を行う作業が不十分であったことも考えられた.このようなことが起こらないようにするためにできる限りC2人以上で行うべきであるが,やむをえず一人で作業を行う場合は複数回確認を徹底すること,情報の伝達漏れが生じないように日ごろからこまめに連絡や相談,他者と円滑なコミュニケーションを取ることが必要であった.今後医療を安全に提供するためにチーム医療者内で情報の共有や報告,明確な連絡,複数人でのダブルチェック体制を強化することが再発防止に重要であると考えられた.屈折矯正を目的とした外科的な手術の方法として角膜屈折矯正術とCIOLを使用する手術があげられる.IOLを使用する手術の場合,すでに固定されているCIOLを取り出して新たなCIOLを.内に挿入するCIOL交換法と追加のCIOLを.外に挿入するCsecondaryCpiggyback法がある.角膜屈折矯正術はClaserinsitukeratomileusis(LASIK),photorefractivekeratectomy(PRK)などの方法がある.適応条件として角膜疾患がないこと,角膜内皮障害がないことおよび角膜内皮細胞数が極端に減少していないことなど角膜清明であることが前提としてあげられる.また,専門的な分野であり手術可能な施設が限られる.そのため地域格差を考慮するといずれの施設でもできる手術ではないため利便性に乏しい.今回の症例では当院で対応できる範囲内で追加修正手術をする必要があったため選択しなかった.一方でCIOLを使用する手術は白内障手術を施行した同施設で対応できる場合が多い.IOL交換法はすでに固定されているCIOLを取り出して新しいCIOLを.内に挿入するため,結果としてC1枚だけのCIOLが.内に固定されることになる.そのため長期予後として術後の合併症は通常どおりのことが多く安心感が得られる.術後約C1カ月までの早期であればCIOL交換は行いやすい手技とされており,度数ずれの際はまず考えるべき方法の一つとされている.今回の症例では術翌日C9日目の比較的早期の再手術であった.誤挿入が発覚したのが術翌日のためCIOLを交換する方法が多いとされているが,筆者らはCsecondarypiggyback法を選択した.その理由として,secondaryCpig-gyback法はCIOL交換法と比較するとCIOLを追加するだけで侵襲性が少ない手技であることと今回の症例ではCZinn小帯が脆弱であったためである.IOL交換を選択した場合,前房内での操作が多くCZinn小帯が脆弱であるため過度な負担がかかり,IOL摘出時に後.破損やCZinn小帯断裂を生じて.内に新しいCIOLを固定することが困難になると考えられた.後.破損した場合の硝子体脱やCIOLを.内固定できなかった場合のCIOL強膜内固定など追加処置が必要になるとさらに患者の負担がかかると考えた.また,IOL交換する場合,切開創を広げるため角膜内皮減少や角膜乱視の増悪,虹彩脱出や挫滅の危険性もある.医師と患者と医療安全管理課で話し合った結果,侵襲性が低い方法であるCsecondarypig-gyback法を選択するに至った.この方法はすでに.内固定されているCIOLの上に新たなCIOLを.外(毛様溝)に追加挿入するため比較的安全で簡便な手術法である.手術時間も前述の方法よりも短時間であり患者の負担も必要最小限にとどめられ,また,初回手術から時間が経過した時期でも可能である.追加挿入する際の角膜内皮損傷や後.破損,硝子体脱出の合併症を発症する頻度も低いと考えられる.Karjouらは,secondarypiggyback法の適応として,強い屈折異常の場合,レーザー屈折処置を除外する角膜疾患または全身疾患がある場合,またはエキシマレーザープラットフォームが利用できない場合に推奨されると論じている4).どの施設でも取り入れやすい術式のため最近では徐々に普及してきている.追加で挿入するCIOL度数はCHolladayの計算式5)がよく引用されている.本症例はCpiggybackIOL計算式「Piggy-backCIOL=(必要度数)C×1.5」5)を用いて代用した.また,北大路の計算式「目的とする屈折値に必要な眼鏡度数/0.7」6)を用いる場合も多い.筆者らは目標屈折値を正視(+0.00D)とした.術C7日後の左眼視力LV=0.1×IOL(0.9×+4.75(cyl.1.00DAx45°)であったため,「PiggybackIOL=(必要度数)C×1.5」の式の(必要度数)にC4.75を当てはめて追加挿入する眼内レンズを+7Dとして算出した.今回の症例では術後早期は軽度の近視化を認めたものの術後C8カ月時点で+0.75Dで留まった.このことより,secondaryCpiggyback法は度数補正の正確さに長けていると考えられる..外に固定する追加のCIOLはCPN6AS(Avansee)のスリーピースを使用した.AddOnIOLは海外から輸入するため,手術までに時間がかかり,かつ自由診療となる.しかし,PN6ASは多くの施設が汎用されているCIOLであり入手も容易で早期に手術することができる..内にワンピースIOL,.外にスリーピースCIOLを固定することで虹彩刺激症状による色素性緑内障が生じにくいと報告されている7).今回の症例でも虹彩炎,眼圧上昇,色素散乱症候群,瞳孔捕獲などの合併症は確認されていない.ただし,piggybackIOLは.外固定のためCZinn小帯脆弱があると偏位を起こすリスクはあるため慎重に経過観察としている.しかし,secondaryCpiggy-back法のC5週後に色素散乱症候群(pigmentaryCdispersionCsyndrome8),2年後に緑内障が発生した症例9)が報告されており,長期的な経過観察とさらなる検討の必要がある.CIII結論今回筆者らの経験で,スリーピースCIOLを用いたCsecond-arypiggyback法は臨床的に簡便で精査性が高く有用な方法であった.Secondarypiggyback法の報告数が少ないため,今後,IOL変形や偏位,収差,屈折変化,虹彩刺激兆候などの合併症に対して長期にわたるさらなる検討が必要である.最後に追加手術が必要になった際には十分な説明をして患者の満足度を得られるよう努める必要がある.文献1)GaytonCJL,CSandersVN:ImplantingCtwoCposteriorCcham-berintraocularlensesinacaseofmicrophthalmos.JCata-ractRefractSurgC19:776-777,C19932)Habot-WilnerCZ,CSachsCD,CCahaneCMCetal:RefractiveCresultsCwithCsecondaryCpiggybackCimplantationCtoCcorrectCpseudophakicCrefractiveCerrors.CJCCataractCRefractCSurgC31:2101-2103,C20053)GaytonJL:SecondaryCpiggybackCIOLCimplant.COSNCOPHTHALMICHYPERGUIDEDecember27,20054)KarjouZ,JafarinasabMR,Sei.MHetal:Secondarypig-gybackCintraocularClensCforCmanagementCofCresidualCame-tropiaCafterCcataractCsurgery.CJCOphthalmicCVisCResC16:C12-20,C20215)HolladayJT:RefractivepowercalculationsforintraocularlensesCinCtheCphakicCeye.CAmCJCOphthalmolC11:63-66,C19936)宮本康平,谷藤泰寛,武田和夫ほか:二枚重ね後房レンズ法による複数医療機関での白内障術後度数誤差の補正,日本の眼科69:357-359,C19987)飯田嘉彦:1.超短眼軸長眼に対するCIOLCpiggyback.CMBCOCULI33:46-50,C20158)ChangCWH,CWernerCL,CFryCLLCetal:PigmentaryCdisper-sionCsyndromeCwithCaCsecondaryCpiggybackC3-pieceChydrophobicacryliclens.Casereportwithclinicopatholog-icalCcorrelation.CJCCataractCRefractCSurgC33:1106-1109,C20079)KimCSK,CLancianoCRCCJr,CSulewskiME:PupillaryCblockCglaucomaassociatedwithasecondarypiggybackintraocu-larlens.JCataractRefractSurgC33:1813-1814,C2007***