●連載◯151監修=安川力五味文131ガス注入による血腫移動術小野江元日本大学病院眼科ガス注入による血腫移動術は,黄斑部にC2乳頭径大以上の厚い網膜下出血を認め,術後に伏臥位をとれる患者であれば治療適応となりうる.黄斑下出血が器質化していたり,黄斑部が線維瘢痕化してしまった患者などでは有効性が乏しいと考えられるが,術後に硝子体を温存できるので,とくに加齢黄斑変性による黄斑下出血には積極的適応となる.はじめに硝子体内へのガス注入による血腫移動術は,おもに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)や網膜細動脈瘤破裂によって生じる黄斑下出血に対する治療法である.AMDによる黄斑下出血に対する治療としては,ガス注入のほかに硝子体手術,抗VEGF療法などがあるが,AMDは黄斑下出血治療後にも再度出血などの滲出性変化を生じることもあり,抗VEGF療法を継続していかなければならないケースも多く経験する.硝子体手術後には抗CVEGF薬のクリアランスが早くなるため,術後に硝子体を維持できることはメリットとなる.AMDによる黄斑下血腫に対して抗VEGF薬単独治療と抗CVEGF薬とガス注入術の併用治療を比較をした既報では,中心窩網膜厚と視力は術後C6カ月では有意差はなかったが,術後C1カ月までの早期には併用治療群でより改善を認めており,中心窩網膜厚が450Cμm以上の症例では,術後C6カ月の視力は併用治療群のほうが良好であった1).この抗CVEGF薬とガス注入の併用療法に加え,血栓を溶解する組織プラスミノーゲン活性因子(tissueplas-minogenactivator:tPA)を併用する治療法もある.日本大学病院(以下,当院)からは抗CVEGF薬,tPA,ガスを硝子体内注射する治療を報告しており,同治療では術後C6カ月における視力,中心窩網膜厚,中心窩網膜色素上皮.離厚は有意に改善し,85%で黄斑下出血の完全な移動を認めた2).しかし,tPAの眼局所での使用は適用外使用であり,ガス注入術単独とCtPAとガス注入併用群の術後C1カ月での視力改善,黄斑下出血の移動は同等であったとの既報もあり3),tPAの使用は施設によって判断が必要となる.網膜細動脈瘤破裂による黄斑下(87)出血に対しては,六フッ化硫黄(SF6)とCtPAを併用したガス血腫移動術の場合はC100%出血が再燃したという報告もあり4),網膜細動脈瘤破裂による黄斑下出血に対しては,tPAを併用せずガス単独での治療のほうがよい可能性がある.ガス注入術の有効性が乏しいと考えられるのは,出血から時間が経過しているために黄斑下出血が器質化している場合,黄斑部が線維瘢痕化している場合,伏臥位を維持することができない患者などが考えられる.また,視力と中心窩網膜色素上皮.離厚が関連したという報告もある2,5)が,ガス血腫移動術で網膜下出血は移動することが多く,それが理由で適応外とはならないと考える.適応としては,術後の伏臥位が可能であること,黄斑部にかかるC2乳頭径大以上の厚い網膜下出血があることであると考えられるが,AMDによる黄斑下出血では継続した抗CVEGF療法が必要となる可能性があり,硝子体を温存できるガス注入術がより積極的な適応となりやすいと考える.症例提示具体的な症例を提示する.患者はC71歳,男性.右眼黄斑下出血で当院を紹介受診した.右眼CETDRS文字数視力はC79字で,ポリープ状脈絡膜血管症による黄斑下血種の診断となった(図1).同日にアフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.ibercept:IVA)を行い,翌日にtPA,100%八フッ化プロパン(C3F8)の硝子体内注射によるガス血腫移動術を施行した.術後体位を伏臥位とし,術翌日には網膜下血腫はアーケード下方に移動を認めていた(図2).このように中心窩から下方にかけての網膜色素上皮.離があっても,網膜下出血の移動は可能である.この症例はガス血腫移動術後も出血など滲出あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025870910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1黄斑下血種症例の術前カラー眼底写真(a)とOCT画像(b)中心窩にかかる網膜色素上皮.離を認め,橙赤色隆起病巣,黄斑部から下方にかけて厚い網膜下出血を認めている.図2図1の症例のガス注入による血種栓移動術翌日のカラー眼底写真(a)とOCT画像(b)中心窩にかかる網膜色素上皮.離より上方の網膜下出血も含めて,黄斑から網膜下出血は移動している.の再燃を繰り返し,IVAによるフォローを継続している.文献1)ShinCJY,CLeeCJM,CByeonSH:Anti-vascularCendothelialCgrowthfactorwithorwithoutpneumaticdisplacementforsubmacularhemorrhage.AmJOphthalmolC159:904-914,C20152)KitagawaCY,CShimadaCH,CMoriCRCetal:IntravitrealCtissueCplasminogenCactivator,Cranibizumab,CandCgasCinjectionCforCsubmacularhemorrhageinpolypoidalchoroidalvasculopa-thy.Ophthalmology123:1278-1286,C20163)FujikawaCM,CSawadaCO,CMiyakeCTCetal:ComparisonCofCpneumaticdisplacementforsubmacularhemorrhageswithCgasaloneandgasplustissueplasminogenactivator.Reti-naC33:1908-1914,C20134)MizutaniT,YasukawaT,ItoYetal:Pneumaticdisplace-mentCofCsubmacularChemorrhageCwithCorCwithoutCtissueCplasminogenactivator.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1153-1157,C20115)OgataM,OhH,NakataAetal:Displacementofsubmac-ularhemorrhagesecondarytoage-relatedmaculardegen-erationwithsubretinalinjectionofairandtissueplasmin-ogenactivator.CSciRepC12:22139,C2022☆☆☆88あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025(88)