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眼科外来における羞明の診療の進め方

2026年10月31日 土曜日

眼科外来における羞明の診療の進め方ClinicalApproachtoPhotophobiaintheOphthalmologyOutpatientClinic髙井康行*山上明子*はじめに「まぶしい」は診断名ではない.同じ言葉のなかに,光が散って見えにくくなるグレア,光が不快感や眼痛を誘発する羞明,明るい場所で視機能が低下する明所視障害,光で頭痛や閉瞼が起こる状態,実際にはない光が見える陽性視覚症状が混在している.本稿では,診療の便宜上,患者の「まぶしい」を,①光がにじむ,②光が眼に刺さる,③明るいほど見えない,④光で頭痛・悪心・閉瞼が起こる,⑤光や砂嵐が見える,の5型にいい換える.この5型は検証された病型分類ではなく,各型は相互に重なりうるため,特定の病変部位と一対一に対応できるわけではない.この整理はつぎの検査と紹介先を選ぶ手がかりとするために用いる(図1).Iまずみるべきこと最初に緊急疾患を除外する.急激な視力低下,強い眼痛,毛様充血,角膜混濁,瞳孔不同,眼圧上昇があれば,感染性角膜炎,前部ぶどう膜炎,急性閉塞隅角緑内障発作などを考える.コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用,外傷,眼手術・眼内注射後では,角膜感染や眼内炎に注意する.発熱・項部硬直,突然の激しい頭痛,強い起立性頭痛,急な神経症状を伴えば,髄膜炎や脳血管障害なども除外する.新しい飛蚊症や視野欠損を伴う光視症では網膜裂孔・網膜.離を,片眼性の急な陰性視覚症状では網膜循環障害を念頭におく.続いて表1のように,症状の質,単眼性・両眼性,発症様式,持続時間を聞く.患者のいう「片眼」は左右視野の一側をさすことがあるため,必要に応じて左右眼を遮閉して確認する.困る光や場面は,太陽光,白い壁,店内照明,車の前照灯,画面など,生活に即して聞く.光源だけで病名を決めず,発症時期,急性か慢性か,左右差,持続時間,再現性,随伴症状を先に整理する.瞳孔不同では,眼球運動制限や眼瞼下垂を伴う動眼神経麻痺を緊急に除外し,明所・暗所での左右差,対光・近見反応(光-近見解離の有無),虹彩の欠損・萎縮・透過光を確認する.散瞳・調節障害を生じうる点眼薬,吸入薬,貼付薬などへの接触もたずねる.多汗症治療に用いる外用抗コリン薬を扱った手で眼に触れると,片眼性散瞳,霧視,羞明がみられる.1).図2に示す.II前眼部・中間透光体・眼内炎症を確認する「光が広がる」「対向車のライトがにじむ」「逆光では顔が見えない」という訴えでは,光散乱を考える.白内障では矯正視力が比較的保たれていても,逆光や夜間運転で支障が生じることがある.涙液層,角膜,水晶体,硝子体などを確認し,視力表の値だけで患者の困りごとを否定しない.「光が刺さる」「眼を開けられない」なら,角膜上皮障害,感染性角膜炎,再発性角膜びらん,前部ぶどう膜炎などを探す.充血,流涙,異物感,CL歴を聞き,フルオレセイン染色,角膜浸潤,前房細胞,角膜後面沈着.*YasuyukiTakai&AkikoYamagami:井上眼科病院〔別刷請求先〕髙井康行:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院(1)(17)11910910-1810/26/\100/頁/JCOPY患者の表現五つの表現診療上の現象「まぶしい」①にじむかすみ・グレア②刺さる眼痛・刺激感診断名ではない症状の質を分解してつぎの検査を選ぶ③明るいほど見えない明所視障害④頭痛・悪心・閉瞼光への過敏反応⑤光・砂嵐が見える陽性視覚症状問診で確認する項目診断を固定しない光がつらい・光が見えるかすみ・眼痛・明所視障害の別頭痛・悪心・音・においへの過敏閉瞼の随意性単眼性・両眼性発症様式・持続時間警告所見急性発症視力低下強い眼痛瞳孔不同眼手術・神経症状眼内注射後各型は相互に重なりうる.特定の疾患・病変部位と一対一に対応させない.図1患者の「まぶしい」を5型に分ける「まぶしい」を,①にじむ,②刺さる,③明るいほど見えない,④頭痛・悪心・閉瞼,⑤光や砂嵐が見える,の5型として並列に示す.下段の「問診で確認する項目」には,光がつらい・光が見える,かすみ・眼痛・明所視障害の別,頭痛・悪心・音やにおいへの過敏,閉瞼の随意性,単眼性・両眼性,発症様式・持続時間をおく.急性発症,視力低下,強い眼痛,瞳孔不同,眼手術・眼内注射後,神経症状は警告所見として別枠にする.表1「まぶしい」という表現からつぎの検査を考える患者の言葉まず考える現象おもな手がかりつぎの検査・対応光が広がる,白くかすむ光散乱・グレア逆光,夜間運転,光輪.眼痛は乏しい屈折,涙液層,角膜,水晶体,術後眼を確認光が刺さる,眼を開けにくい眼表面障害・眼内炎症充血,流涙,異物感,コンタクトレンズ歴染色,角膜浸潤,前房,瞳孔,眼圧.緊急度を判断明るいほど見えない明所視障害後.下混濁,両眼性,色覚異常,中心視力低下,眼振水晶体,色覚,視野,OCT,眼底自発蛍光.後天性外網膜疾患と全視野網膜電図を検討光で頭痛・悪心が起こる片頭痛性光過敏音・におい過敏,発作性,暗所で休みたい頭痛歴を確認し,頭痛外来・脳神経内科へ光でまぶたが閉じる眼瞼けいれん瞬目増加,開瞼維持困難,知覚トリック自然瞬目と開瞼を観察.専門治療へ紹介光,ギザギザ,砂嵐が見える陽性視覚症状単眼・両眼,陽性・陰性,発症様式,持続時間散瞳眼底検査または神経学的評価片眼の瞳孔が大きく,光がつらい散瞳・調節障害急な霧視,近見困難,薬剤・外用薬への接触,虹彩透過明所・暗所の瞳孔,対光・近見反応,眼瞼下垂,眼球運動制限,虹彩,薬歴を確認患者の言葉に対応する「まず考える現象」「おもな手がかり」「つぎの検査・対応」をあげた.a右眼(散瞳)b左眼(対側眼)図2薬剤性散瞳による瞳孔不同明所で右眼瞳孔は散大し,左眼瞳孔は正常である.多汗症治療に用いる外用抗コリン薬の眼への接触により生じた薬剤性散瞳を示す.急な片眼性散瞳では,薬剤・外用薬への接触歴を確認するとともに,眼瞼下垂や眼球運動制限を伴う動眼神経麻痺を除外する.先天性/遺伝性を示唆図3羞明・明所視障害から考える錐体系・網膜外層疾患の鑑別発症時期,経過,左右差,随伴症状から,先天性・遺伝性疾患と成人発症・後天性疾患を整理する.明所視障害・色覚異常・中心視力低下と,夜盲・周辺視野障害の先行順を確認し,成人の急性・亜急性例では急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)などの後天性疾患を鑑別する.末梢入力中継・統合知覚・反応反応を修飾する要因図4羞明に関与する光入力と疼痛関連経路(概念図)錐体・杆体からの入力とCipRGCを含む網膜光入力は,視床などの中枢経路へ投射する.角膜・眼表面などからの侵害受容入力は,三叉神経節と三叉神経脊髄路核を介する.これらの入力は相互に影響し,光の不快感,眼痛,頭痛,流涙,瞬目,閉瞼などに関与すると考えられている6.8).本図は概念図であり,単一の線形経路を示すものではない.ipRGC:内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallyCphotosensitiveCretinalCganglioncells).図5眼瞼けいれんの発作時顔貌発作時に両眼が閉瞼し,眼瞼周囲筋が収縮した状態を示す.診察では反復性,左右対称性,開瞼維持困難などの時間的変化も確認する.陽性光・模様が加わる陰性欠け・見えにくさ単一瞬網膜硝子体性光視~数秒・視野周辺の単両後頭葉数秒~数分症閃光てんかんなど・常同的両片頭痛前兆典型的には50~60分閃光・ジグザグ(陽性+見えにくい領域(陰)性)両visua視野全広がる砂嵐様3カ月を持lsnow体に微細なの点.超えて続単一過性単眼視力網膜循環障害など低下を鑑別単両TIAなど急に完成する陰性症状一瞬数秒数分60分3カ月超症状の持続時間(概念配置)図6陽性・陰性,単眼・両眼視野,持続時間で視覚症状を分ける横軸に症状の持続時間,縦軸に陽性・陰性をおき,単眼性と両眼視野性を記号で区別する.一瞬.数秒の網膜硝子体性光視症,数秒.数分の発作性症状,50.60分の片頭痛前兆,3カ月を超えて持続するCvisualsnowに加え,急に完成する陰性症状として一過性単眼視力低下とCTIAなどを配置する.TIA:一過性脳虚血発作(transientCischemicattack).表2眼所見に乏しい羞明の病態別治療病態治療の中心内服薬の位置づけ補助療法・連携片頭痛性羞明片頭痛の急性期治療・予防療法選択肢はあるが,羞明単独を標的とする薬ではない遮光・光環境調整.頭痛外来,脳神経内科眼瞼けいれんA型ボツリヌス毒素局所注射補助的.薬剤性の可能性を確認する遮光,知覚トリック,薬歴確認.神経眼科眼表面所見と釣り合わない眼痛眼表面疾患の再評価と併存病態の治療標準的な薬物療法は確立していない所見に応じて角膜,神経眼科,頭痛の専門医と連携Cvisualsnow症候群続発性原因の除外と病態説明有効性が確立した薬物療法は存在しない併存片頭痛の治療,光環境調整,神経眼科錐体系疾患正確な診断と疾患別フォロー羞明に有効性が確立した内服薬は存在しない遮光,ロービジョンケア,網膜専門外来・遺伝相談注:多汗症治療に用いる外用抗コリン薬などを扱った後は手を洗い,眼への接触を避けるよう指導する.抗コリン薬には閉塞隅角緑内障で禁忌となる製剤があるため,個別の添付文書を確認する.C-

視力は悪くないが見えにくい─涙液や角膜の 加齢性変化と病的変化 Age-Related and Pathological Changes in Tear Fluid

2026年10月31日 土曜日

視力は悪くないが見えにくい─涙液や角膜の加齢性変化と病的変化Age-RelatedandPathologicalChangesinTearFluidandtheCornea山田昌和*はじめに眼科の外来診療で,視力は悪くないのに見えにくい,という訴えは比較的多いものの一つである.眼科医は矯正視力が出ていると「大丈夫ですよ」と判断しがちだが,実際の日常生活での見え方は異なっている可能性がある.いわば眼科医は瞬間最大風速で評価しており,患者側は普段の風の吹き方を訴えているようなものである.見えにくいという訴えで前眼部,中間透光体が原因となる場合には,水晶体の問題(老視や白内障)の頻度が高いが,涙液や角膜の問題が愁訴につながっていることもある.角膜混濁は細隙灯顕微鏡でみた混濁の程度と視力が一致しないこともあるし,見えにくさは視力検査だけでなく,コントラスト感度やグレア,単眼複視などの問題が生じていることもある.ここでは見えにくさの原因となる前眼部の変化について加齢性変化と病的変化をあわせて概説する.CI症例:愁訴は羞明と単眼性複視最初に少々珍しい症例を呈示する.71歳の男性で主訴は両眼の羞明,単眼性複視である.1年ほど前から羞明と複視を自覚するようになり,「月を見ると右目だと三つ,左目だと四つ見える」と症状を説明する.眼鏡店を訪れたところ,プリズム入り眼鏡を勧められて作ったが改善せず,近医では白内障と診断されて手術を受けたが,やはりよくならなかったとのことである.右眼視力C0.9(1.2C×0.75DCcyl.0.50DCAx30°)左眼視力C0.8(1.0C×C.0.75DCcyl.0.50DCAx110°)前眼部には両眼とも角膜浅層に多発性の乳白色の不定型な混濁がみられる.図1に右眼の前眼部写真を呈示するが,左眼もほぼ同様である.両眼とも眼内レンズ(intraocularlens:IOL),眼底に異常所見はない.症例の診断は上皮基底膜ジストロフィ(epithelialCbasementCmembranedystrophy:EBMD)である.CoganCmicrocysticCepithelialCdystrophyやCmap-dot-.ngerprintCdystrophyと呼称される疾患群の総称でジストロフィに分類されているが,成人発症で家族歴がないことのほうが多いので変性疾患という見方もある.臨床症状として再発性角膜上皮びらん様の異物感,痛みが代表的であるが,羞明や単眼性複視の原因にもなりうる.この症例のように多発性の淡い角膜混濁が見えにくさの原因となっているかどうかの判断は意外にむずかしい.この場合には角膜混濁に不正乱視を伴っているかを評価することが重要となる.この症例ではフルオレセイン染色で角膜表面の不整な凹凸が観察できること(図2),角膜形状解析でも高次収差の増加が確認できたことから,愁訴に角膜病変が関与していると判断できた.一方で,角膜混濁があっても自覚症状をあまり伴わない場合もある.図3に示すのはアデノウイルス角結膜炎後に生じた多発性上皮下浸潤の例であるが,瞳孔領を中心に上皮下混濁がみられるのに見えにくさはないとい*MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山田昌和:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室(1)(11)C11850910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1症例の右眼の前眼部写真図2図1の症例のフルオレセイン染色角膜浅層に乳白色の不定型な混濁が観察される.上皮の凹凸のためにフルオレセインをはじく領域がみられる.図3流行性角膜炎罹患後の多発性上皮下浸潤図4顆粒状角膜ジストロフィ角膜形状の異常を伴わず,自覚症状はない.混濁自体はC10歳代から生じて徐々に進行するが,自覚症状を生じてくるのは中年以降のことが多い.で,上皮掻爬で比較的簡単に治療可能である.眼鏡店でのプリズム眼鏡の処方や近医での白内障手術などそれぞれ「自分でできること」をしたのかも知れないが,少しは頭を使ってほしいと感じたことを覚えている.多発性上皮下浸潤ではステロイドの点眼など抗炎症療法が選択されるし,顆粒状角膜ジストロフィでは治療的角膜表層切除術が考慮されるが,後者では施行できる施設が限られるため,その適応は慎重になってくる.CII加齢による屈折,角膜形状の変化加齢による見え方の変化を考える際に,まず考慮すべきなのは屈折と調節の問題である.眼球でレンズの役割を有するのは角膜と水晶体であり,加齢による変化として老視(調節機能の減衰)や白内障など水晶体の変化が問題になりやすい.しかし,角膜も加齢によって変化し,屈折や自覚的な見え方にも影響する.年齢と屈折に関しては加齢とともに遠視は増加し,乱視や不同視も増加するとされている.多治見スタディではC40歳以上で約C30%が+0.5D以上の遠視であり,70歳代になると男女とも半数以上が遠視であるという1).コホート研究であるオーストラリアのブルーマウンテンアイスタディでもC49歳以上の成人ではC10年のフォローアップでC3人にC1人が+0.5D以上遠視化し,全体でも平均C0.22Dの遠視化がみられたとされている2).乱視も増加し,多治見ではC40歳以上の成人のC54.9%がC0.5D以上の乱視を有し,70歳代では男性のC75.9%,女性の80.4%がC0.5D以上の乱視を呈している1).ある程度の屈折変化は調節機能が保たれていれば代償できるし,ある程度の調節機能の低下(老視)は屈折異常の矯正を適度に調整することで代償できるが,一定の限度を超えると見えにくさとして顕性化することになる.適正な老眼鏡をもっていない,すなわち老視の矯正が適切になされていない成人の割合はオーストラリアで16.0%,シンガポールでC33.9%という報告があり,わが国ではC26.4%とされている3).老眼鏡をかけると老視が進むという俗説や心理的な抵抗を取り除く努力が必要なようである.加齢に伴う屈折の変化に角膜はどのように関係しているのだろうか.角膜の離心率は年齢とともに小さくなることが報告されている4).角膜は通常では中央より周辺部が扁平な形を取り,どのくらい球面に近いかを示す指標である離心率はゼロに近いほど球面に近くなる.角膜の離心率が減少すると屈折は遠視化するので,加齢による遠視化には角膜形状の変化が関与していることが示唆される.また,年齢とともに屈折は倒乱視化する傾向があり,その主因は角膜にあることが知られている.このほかに加齢によって角膜の高次収差が増加することも報告されており,このような角膜の微細な歪みはコントラスト感度など視機能に影響し,見にくいという愁訴につながることもあると考えられる5).CIII加齢による角膜の透明性の変化角膜の大部分を占める組織は角膜実質であり,実質はコラーゲン線維が規則的に配列することで透明性を維持している.Scheimp.ugカメラや前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で微細な混濁の評価を行った報告によると,角膜実質の透明性は加齢とともに減少することが定量的に示されている6).これには二つの要素が考えられ,一つはコラーゲン線維を中心とする角膜実質の構造変化であり,加齢によってコラーゲン線維の架橋が進行して実質が硬化すること,プロテオグリカンの増加が生じ,コラーゲン線維間距離が増加することが知られている.もう一つはコレステロールを主体とした脂質沈着である.デンシトメトリーで評価した微細な混濁は中央より周辺に強いことから輪部血管からの脂質の漏出の影響が考えられる.臨床的には老人環に相当するが,老人環の強い例の白内障手術を行ったときに中央部の視認性も悪いことがあり,脂質の沈着は角膜全体に及んでいることが理解される.図5,6に老人環の前眼部写真を示すが,図6の症例では角膜中央部まで混濁が及んで透明性が低下していることが前眼部写真でもみてとれる.加齢によって角膜に沈着する物質としては脂質以外にはカルシウム塩があげられる.CVogt’sClimbalgirdleはC3時C9時の角膜周辺部に生じるカルシウム塩沈着であり,帯状角膜変性の発生母地になる.このような加齢による角膜混濁が視力低下に至ることはほとんどないが,「なんとなく見にくい」という愁訴とは関係している可能性がある.(13)あたらしい眼科Vol.43,No.10,2026C1187図5老人環図6著明な老人環輪部血管から角膜周辺部へのコレステロール沈着であり,高脂血周辺角膜の菲薄化を伴っており,Terrien角膜変性に伴うものと症に伴いやすい.自覚症状はない.思われる.角膜中央部まで脂質沈着があり,透明性が低下している.–

「眼が疲れる」を病態から分解する眼精疲労 診療の進め方

2026年10月31日 土曜日

「眼が疲れる」を病態から分解する眼精疲労診療の進め方ClinicalManagementofEyestrain:AnalyzingSymptomsandPathophysiologyforPracticalDiagnosis内野美樹*はじめに「眼が疲れる」という訴えは,眼科外来で日常的に遭遇する不定愁訴の一つである.患者が表現する症状は,眼の重さ,だるさ,痛み,乾燥感,異物感,かすみ,焦点があいにくい,まぶしい,眼を開けていられない,頭痛,肩こりなど多岐にわたる.近年はパソコン,スマートフォン,タブレット端末の使用時間が増加し,デジタル機器使用に伴う眼症状(digitaleyestrain:DES)を訴える患者も増えている1~4).しかし,眼精疲労は特定の検査所見によって確定される単一の疾患ではない.むしろ,眼表面,屈折,調節,輻湊・両眼視,眼位,眼球運動,照明や作業環境,さらに全身状態や心理社会的背景が複雑に重なって生じる「症候」と理解すべきである.眼精疲労という診断名を付けるだけでは,患者がなぜ疲れているのかを説明したことにはならない.眼精疲労を診る際に重要なのは,第一に視機能障害や失明につながりうる器質的疾患を見逃さないこと,第二に患者の症状を誘発している負荷と病態を分解すること,第三に治療可能な要因を抽出することである.本稿では,「眼が疲れる」と訴える患者に対する実践的な診療の進め方について述べる.I眼精疲労をどのように捉えるか一般に,一時的な眼の疲れが休息や睡眠によって改善する状態を「眼疲労」,休息しても十分に回復せず,頭痛や肩こり,悪心などを伴って日常生活に影響する状態を「眼精疲労」とよぶことが多い.ただし,両者の境界は必ずしも明確ではなく,国際的にはasthenopiaあるいはeyestrainという用語で包括的に扱われる.眼精疲労の症状は,大きく眼表面由来の症状と,視機能負荷に由来する症状に分けて考えると理解しやすい1).前者には乾燥感,異物感,灼熱感,流涙,充血,眼を開けていられないといった症状が含まれる.後者にはかすみ,焦点の遅れ,複視,眼の奥の痛み,眼周囲痛,前頭部痛などが含まれ,屈折異常,調節機能異常,輻湊・両眼視機能異常との関連が考えられる.もっとも,実際には両者が明確に分かれるわけではない.ドライアイによる涙液層の不安定化は,眼不快感だけでなく,瞬目間の視力変動やかすみを生じさせる.一方,近業時の過剰な集中は瞬目回数や完全瞬目率を低下させ,眼表面の乾燥を増悪させる.すなわち,眼表面と視機能は互いに影響しあっており,どちらか一方だけを評価しても症状の全体像を説明できない場合が多い.眼精疲労の診療では,「眼精疲労があるか」を判断するのではなく,「どのような視作業によって,どの機能に負荷がかかり,どの症状が生じているか」を明らかにすることが本質となる(図1).II問診―症状を時間軸に沿って整理する眼精疲労の診断において,もっとも情報量が多い検査は問診である.単に「眼が疲れますか」とたずねるだけ*MikiUchino:ケイシン五反田アイクリニック,慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕内野美樹:〒141-0022東京都品川区東五反田2-1-2五反田東急スクエア8Fケイシン五反田アイクリニック(1)(3)11770910-1810/26/\100/頁/JCOPY単一疾患ではなく,複数の負荷と機能異常が重なる「症候」と捉える図1眼精疲労の病態を分解する基本モデル診療の本質は,どの視作業がどの機能に負荷をかけ,どの症状を生むかである.起床時作業開始症状出現休憩休日・休暇図2問診で確認する症状と視作業の時間軸図3「疲れ眼」の訴えで見逃してはいけないレッドフラッグ患者の表現「疲れ眼」に診断を引きずられないこと.概算:必要調節量(D)≒1÷距離(m)瞬目直後数秒後光学面が不整再び瞬目涙液層が均一涙液層が破壊かすみ・不快感一時的に改善図5涙液層不安定化による瞬目間視覚変動通常検査で説明できなければ,調節・輻湊・両眼視機能へ図6眼精疲労患者における基本診察の流れCL:コンタクトレンズ,MGD:マイボーム腺機能不全,BUT:涙液層破壊時間,OCT:光干渉断層計.図7調節機能と輻湊・両眼視機能の評価単一の検査値ではなく,症状の再現性と複数所見を組み合わせるC.眼表面負荷視機能負荷図8デジタル眼精疲労を形成する悪循環図9症状と所見が一致しない場合の再評価「異常なし」で終了せず,説明・再評価・必要な診療連携を行うC.C図10治療反応を用いた診断仮説の更新単独治療への反応だけで,すべての症状を一つの病態に帰属させないC.C定性やマイボーム腺機能不全に対する治療を行い,作業環境も調整する.その後,症状の出現までの時間,連続作業可能時間,かすみや痛みの程度,点眼回数などを再評価する.客観的所見だけでなく,生活機能や仕事の能率が改善したかを確認することが重要である.一つの治療で改善しないからといって,ただちに診断を否定することはできない.ドライアイ,老視,輻湊不全,睡眠不足が同時に存在すれば,単独の治療効果は限定的になる.反対に,人工涙液で一時的に改善したことだけを根拠に,すべての症状をドライアイと診断することも適切ではない.患者には「眼精疲労」という病名だけを伝えるのではなく,「涙液が不安定で,画面を見続けると瞬目が減ること」「現在の眼鏡がパソコン距離に合っておらず,調節負荷が増えていること」など,症状を生じる仕組みを具体的に説明する.病態を患者と共有することは,点眼や眼鏡,休憩,作業環境調整への理解を高める(図10).おわりに眼精疲労は,眼表面,屈折,調節,輻湊・両眼視,視作業環境,神経感覚,全身状態,心理社会的背景が複合して生じる症候である.診療では,まず緊急性のある器質的疾患を除外し,つぎに症状を時間軸と作業条件に沿って整理する.そのうえで,視力・屈折,眼表面,眼圧・眼底,調節・両眼視機能を段階的に評価する.「所見がない」ことと「病態がない」ことは同義ではない.一方で,すべてをドライアイやデジタル機器の影響として説明することも避けなければならない.患者が何を「疲れ」と表現しているのかを丁寧に解きほぐし,治療可能な要因を一つずつ抽出することが,眼精疲労診療の要点である.文献1)SheedyCJE,CHayesCJN,CEngleJ:IsCallCasthenopiaCtheCsame?OptomVisSciC80:732-739,C20032)Rosen.eldM:ComputerCvisionsyndrome:aCreviewCofCocularcausesandpotentialtreatments.OphthalmicPhysi-olCOptC31:502-515,C20113)SheppardCAL,CWol.sohnJS:DigitalCeyestrain:preva-lence,measurementandamelioration.BMJOpenOphthal-molC3:e000146,C20184)Wol.sohnCJS,CLinghamCG,CDownieCLECetal:TFOSCLife-style:impactCofCtheCdigitalCenvironmentConCtheCocularCsurface.OculCSurfC28:213-252,C20235)JaiswalCS,CAsperCL,CLongCJCetal:OcularCandCvisualCdis-comfortassociatedwithsmartphones,tabletsandcomput-ers:whatwedoanddonotknow.ClinExpOptomC102:C463-477,C20196)ShimazakiJ:De.nitionanddiagnosticcriteriaofdryeyedisease:historicalCoverviewCandCfutureCdirections.CInvestCOphthalmolVisSciC59:DES7-DES12,C20187)UchinoM,SchaumbergDA,DogruMetal:PrevalenceofdryCeyeCdiseaseCamongCJapaneseCvisualCdisplayCterminalCusers.OphthalmologyC115:1982-1988,C20088)UchinoCM,CYokoiCN,CUchinoCYCetal:PrevalenceCofCdryCeyeCdiseaseCandCitsCriskCfactorsCinCvisualCdisplayCterminalusers:theOsakaStudy.AmJOphthalmolC156:759-766,C20139)YokoiCN,CUchinoCM,CUchinoCYCetal:ImportanceCofCtearC.lmCinstabilityCinCdryCeyeCdiseaseCinCo.ceCworkersCusingCvisualdisplayterminals:theOsakaStudy.AmJOphthal-molC159:748-754,C201510)Wol.sohnCJS,CBenitez-Del-CastilloCJ,CLoya-GarciaCDCetal:TFOSDEWSIII:DiagnosticMethodology.AmJOph-thalmolC279:387-450,C202511)Garcia-MunozA,Carbonell-BoneteS,Cacho-MartinezP:CSymptomatologyCassociatedCwithCaccommodativeCandCbin-ocularvisionanomalies.JOptomC7:178-192,C201412)SeguiCMdelCM,CCabrero-GarciaCJ,CCrespoCACetal:ACreli-ableCandCvalidCquestionnaireCwasCdevelopedCtoCmeasureCcomputervisionsyndromeattheworkplace.JClinEpide-miolC68:662-673,C201513)GalorCA,CLevittCRC,CFelixCERCetal:NeuropathicCocularpain:animportantyetunderevaluatedfeatureofdryeye.Eye(Lond)C29:301-312,C20151184あたらしい眼科Vol.43,No.10,2026(10)

序説:眼科外来で出会う不定愁訴をどう診るか

2026年10月31日 土曜日

眼科外来で出会う不定愁訴をどう診るかClinicalApproachtoNonspeci.cVisualComplaintsinOphthalmicPractice辻川明孝*「視力はよいと言われたのに見えにくい」「眼が疲れる」「まぶしい」「涙が出る」「ゴロゴロする」.眼科外来には,このような訴えが絶えない.検査値や画像所見ときれいに対応しないため,しばしば「不定愁訴」とひとくくりにされる.しかし,その言葉を診療の終着点としてしまえば,患者が日々感じている見え方の不自由は置き去りになる.不定愁訴とは,所見がないことの別名ではない.通常の診察だけでは捉えきれていない病態へ至る診療の入口である.そもそも視力検査が示すのは,良好な条件下で視標を識別できた一時点の能力にすぎない.実生活の視覚は,時間とともに変動する涙液層,低コントラスト,近業の持続,視距離の切り替え,両眼から届く像の統合など,多くの要素の上に成り立つ.矯正視力が保たれていても,涙液や角膜の光学的質が不安定なら,日常生活ではかすみが生じる.左右の視力差が小さくても,コントラスト感度,変視,不等像視,優位眼との関係によって,両眼での見え方は大きく損なわれうる.診察室で得られる「よく見えた」という一点と,患者が語る「見えにくい」という経験は,同じ視覚の異なる断面かもしれない.診療の第一歩は,曖昧な言葉を,診断可能な情報へと翻訳することである.「疲れる」は,乾くのか,痛むのか,かすむのか,焦点が合わないのか,二重に見えるのか.「まぶしい」は,光がにじむのか,刺さるように痛むのか,明るいほど見えないのか,頭痛や閉瞼を誘発するのか.「涙が出る」は,分泌が増えているのか,排出が妨げられているのか.「ゴロゴロする」は,睫毛や眼瞼縁,涙液,角結膜上皮のどこで摩擦が増しているのか.症状の質,発症様式,持続時間,片眼性・両眼性,随伴症状を聞き,読書,画面作業,運転,屋外,起床時,夕方といった生活場面に結びつける.患者の言葉を病名へ直結させず,まず病態の要素に分解することが重要である.このとき問診は,検査に先立つ単なる予備作業ではなく,もっとも情報量の多い診断手段となる.同じ訴えでも,瞬目で改善するか,片眼を閉じると楽になるか,暗所と明所のどちらで悪化するか,数秒なのか一日続くのかによって,つぎに行うべき検査は変わってくる.また,症状は一つの原因から生じるとも限らない.角膜表面の不安定さが調節負荷を増し,見え方の揺らぎが眼精疲労を強めるように,複数の病態が相互に増幅していることもある.診療には,訴えを細分化する視点と,再び全体像として組み立てなおす視点の双方が欠かせない.本特集では,こうした診療の道筋を,日常外来で頻繁に出会う訴えごとに具体化した.眼精疲労を眼表面,屈折,調節,輻湊,両眼視,作業環境,全身および心理社会的背景へ分解する考え方に始まり,視力では捉えにくい涙液・角膜の変化,羞明の多彩な病態,分泌性と導涙性の双方からみる流涙,摩擦という視点で探る異物感をとりあげる.「ピントが合わない」という訴えについても,調節異常と見え方の不安定さを考える契機となる.さらに,年齢,眼鏡,必要な視距離,装用感までを踏まえた眼鏡処方,網膜硝子体疾患の徴候としての飛蚊症,*AkitakaTsujikawa:京都大学大学院医学研究科眼科学(1)(1)11750910-1810/26/\100/頁/JCOPY

Goldmann 視野計による両眼開放視野検査が診断の一助 となった鈍的外傷後の片眼性機能性四半盲の1 例

2026年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科43(9):1164.1169,2026cGoldmann視野計による両眼開放視野検査が診断の一助となった鈍的外傷後の片眼性機能性四半盲の1例三宅美鈴*1後藤克聡*1三木淳司*1,2荒木俊介*1,2瀬戸口義尚*1鎌尾浩行*1木村修平*1*1川崎医科大学眼科学1教室*2川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科CACaseofUnilateralFunctionalQuadrantanopiafollowingBluntOcularTraumaDiagnosedviaBinocularVisualFieldTestusingGoldmannPerimetryMisuzuMiyake1),KatsutoshiGoto1),AtsushiMiki1,2),SyunsukeAraki1,2),YoshinaoSetoguchi1),HiroyukiKamao1)CandShuheiKimura1)1)DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchool,2)DepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfareC目的:Goldmann視野計(GP)による両眼開放視野検査が診断の一助となった鈍的外傷後の片眼性機能性四半盲の1例を報告する.症例:12歳,男児.右眼の鈍的外傷後から視野欠損を自覚して近医を受診.Humphrey自動視野計で右眼上耳側四半盲がみられたため,精査・加療目的で川崎医科大学附属病院に紹介受診となった.矯正視力は両眼とも(1.5),限界フリッカ値は右眼C42Hz,左眼C43Hz,対光反射は正常で相対的瞳孔求心路障害(RAPD)は陰性であった.眼球周囲の皮膚に明らかな皮下出血や挫滅創はなかった.GPでは,右眼は上耳側四半盲,左眼は正常であった.前眼部,中間透光体および眼底に異常所見はなく,眼窩・頭部画像検査でも異常所見はみられなかった.しかし,GPによる両眼開放視野検査では,右眼と同様の上耳側四半盲を呈した.改めての問診でも鈍的外傷以外の明らかな心的要因はなかった.1週間の経過観察後,GPの再検で右眼の上耳側四半盲は消失した.以上の結果から,外傷後に発症した片眼性機能性四半盲と診断された.結論:本症例は鈍的外傷後に片眼性機能性四半盲を呈し,GPによる両眼開放視野検査が診断に有用であった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCunilateralCfunctionalCquadrantanopiaCfollowingCbluntCocularCtraumaCinCwhichCaCbinocularCvisual.eld(VF)testCusingCGoldmanperimetry(GP)contributedCtoCtheCdiagnosis.CCase:AC12-year-oldCboypresentedwithVFlossinhisrighteyeaftersustainingbluntoculartrauma.Humphrey.eldanalyzertestingrevealedCrightCsuperotemporalCquadrantanopia,CandCheCwasCreferredCtoCourChospitalCforCfurtherCevaluationCandCtreatment.CBest-correctedCvisualCacuityCwasC1.5CinCbothCeyes.CCriticalC.ickerCfusionCfrequencyCwasC42HzCinCtheCrighteyeand43Hzinthelefteye.Pupillarylightre.exwasnormal,andnorelativea.erentpupillarydefectwasobserved.Therewerenosignsofperiorbitalbruisingorlaceration.GPshowedsuperotemporalquadrantanopiaintheCrightCeye,CwhileCtheCleft-eyeCVFCwasCnormal.CNoCabnormalitiesCwereCobservedCinCtheCanteriorCsegment,CopticCmedia,orfundus,andorbitalandcranialimaging.However,binocularVFtestingusingGPrevealedasimilarsupe-rotemporalCquadrantanopiaCsimilarCtoCthatCofCtheCrightCeye.CAdditionalChistoryCtakingCrevealedCnoCsigni.cantCpsy-chologicalstressorsotherthanthetrauma.Oneweeklater,GPshowedresolutionoftherighteyequadrantanopia.Basedonthese.ndings,adiagnosisofunilateralfunctionalquadrantanopiafollowingtraumawascon.rmed.Con-clusion:Thiscasepresentedwithunilateralfunctionalquadrantanopiafollowingbluntoculartrauma,inwhichbin-ocularVFtestingusingGPwasusefulfordiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(9):1164.1169,C2026〕Keywords:機能性視覚障害,耳側半盲,視野検査,外傷.functionalvisualloss,temporalhemianopia,visual.eldtest,trauma.〔別刷請求先〕三宅美鈴:〒C701-0192岡山県倉敷市松島C577川崎医科大学眼科学C1教室Reprintrequests:MisuzuMiyake,DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki,Okayama701-0192,JAPANCはじめに機能性視覚障害(心因性視覚障害C,身体表現性障害と呼称されることもある)1)はC,眼科的に器質性疾患を認めず,心理的または精神的要因により視力や視野,色覚,調節などの視機能に障害を呈する疾患である2).機能性視覚障害における視野障害としては,求心性視野狭窄やらせん状視野が典型的であるが,器質性疾患との鑑別を要する半盲性視野障害の報告もみられる3).機能性視覚障害は心理・社会的要因が関与し,両眼性に生じることが多く,眼球打撲後や交通事故後に片眼性で発症する症例の報告は限られる4).今回筆者らは,外傷後に片眼性の四半盲を呈し,両眼開放視野検査が診断の一助となった機能性視覚障害のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:12歳,男児.既往歴:ローランドてんかん.家族歴:特記事項なし.患者背景:野球部に所属.現病歴:昨日,軟式野球中に右眼に自打球が直撃し,受傷後から上半分が見えないことを自覚して近医眼科を受診した.両眼ともに視力は良好で,眼底検査では異常所見はみられなかったが,Humphrey自動視野計(HumphreyC.eldanalyzer:HFA)で右眼の上耳側四半盲がみられた(図1).視野障害の精査・加療目的で同日に川崎医科大学附属病院に紹介受診となった.初診時所見:自覚症状は,近医受診時と変わらず「右眼の上半分が見えにくい」であった.視力は右眼C1.5(1.5×+1.50D),左眼C1.5(1.5×+1.00D),眼圧は右眼C10mmHg,左眼C12CmmHg,限界フリッカ値(criticalC.ickerCfusionCfre-quency:CFF)は右眼C42Hz,左眼C43Hz,対光反射は両眼ともに迅速かつ完全,相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)は陰性であった.他覚的にCRAPDの定量的評価が可能である瞳孔記録計CRAPDx(コーナン・メディカル)による検査では,RAPD振幅スコア(0.50ClogunitsでCRAPD陽性)5)は右眼C0.41logunitsで陰性であった.眼球周囲の皮膚に明らかな皮下出血や挫滅創,眼瞼腫脹はなく,眼痛および眼球運動痛もなかった.細隙灯顕微鏡による検査では,前眼部および中間透光体に異常所見はみられなかった.Goldmann視野計(Goldmannperimetry:GP)による動的視野検査では,右眼は垂直ステップを伴う上耳側四半盲,左眼は正常であった(図2).超広角走査型レーザー検眼鏡(Optos社)では,眼底に異常所見はなかった(図3).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)・RS-3000Advance2(ニデック)による乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)解析および黄斑部の網膜神経節細胞複合体(ganglionCcellcomplex:GCC)解析では,両眼ともに視野異常に一致する明らかな異常所見はなかった(図4a,b).SweptCsourceOCT・DRICOCT-1Atlantis(トプコン)では,両眼ともに黄斑部の網膜形態および網膜外層ラインに異常はみられなかった(図4c).また,頭部・眼窩磁気共鳴画像(magneticCresonanceimaging)および頭部コンピュータ断層撮影では視神経管骨折はなく,視神経,眼窩内および頭蓋内に明らかな異常所見はみられなかった.視野障害に一致する器質性疾患がなかったため,機能性視覚障害の可能性も考慮し,GPによる両眼開放視野検査を追加で施行した.両眼開放視野検査では,右眼の視野所見と同様に垂直ステップを伴う上耳側四半盲がみられた(図5).機能性視覚障害が疑われたため詳細な問診で心的要因を検索したが,部活を含めた学校生活や家庭環境,人間関係においても問題はなく,鈍的外傷以外の明らかな心的要因はなかった.経過観察を行ったところ,1週間後のCGPでは,右眼の上耳側四半盲は消失し,自覚症状も改善していた(図6).以上の結果から,外傷後に発症した片眼性機能性四半盲と診断された.CII考按今回,野球ボールによる鈍的外傷後に片眼性四半盲を呈し,明らかな器質性疾患がみられず,GPによる両眼開放視野検査が診断の一助となった機能性視覚障害のC1例を経験した.片眼性の耳側半盲を呈する症例では,機能性視覚障害が疑われる場合であっても,前部視路疾患や網脈絡膜疾患の可能性,あるいはその合併をまずは確実に除外する検査を考慮すべきである.耳側半盲は下垂体腺腫などの視交叉病変や視神経疾患による前部視路疾患6.10)がおもな原因であり,視力低下やCCFF低下,RAPD,視神経乳頭の腫脹や異形成,慢性期の視神経萎縮などの所見を伴うことが多い.また,急性帯状潜在性網膜外層症や乳頭傾斜症候群,中心性漿液性脈絡網膜症などの網脈絡膜疾患でも耳側半盲が報告されており,OCTや眼底自発蛍光,多局所網膜電図などで網膜外層障害を呈する11.14).しかし,本症例ではこれらの所見はいずれも認めず,前部視路疾患や網脈絡膜疾患は否定的であり,機能性視覚障害が疑われた.外傷を契機として片眼性に発症し,半盲性視野障害を呈する機能性視覚障害はまれであり,本症例はそのなかでも上耳側四半盲を呈した初めての報告である.小児の機能性視覚障害の多くは心理・社会的要因を背景として両眼性に発症し,家庭問題,学校問題,親子関係などが誘因となる15).外傷を契機とした発症はC3.3%と少なく1),外傷例では視機能障害のC85.7%が片眼性であり,ボールや棒状物による鈍的外傷が主要因とされている16).さらに,半盲性視野障害を呈した図1前医でのHumphrey自動視野計中心30-2a:左眼は正常であった.b:右眼は上耳側四半盲がみられた.図2初診時のGoldmann視野計による所見a:左眼は正常であった.b:右眼は垂直ステップを伴う上耳側四半盲を呈した.機能性視覚障害の症例報告はまれであり,筆者らが調べた限りでは本症例を含めてC18例にとどまっている(表1)17.30).視野障害の内訳は耳側半盲がC10例,水平半盲がC4例,鼻側半盲がC2例,同名半盲がC1例であり,機能性視覚障害による半盲性視野障害は耳側半盲がもっとも多い.これまで四半盲を呈した症例の報告はなく,本症例は野球ボールによる右眼の鈍的外傷を契機に上耳側四半盲を呈したきわめてまれなC1例と考えられた.半盲性視野障害を呈する機能性視覚障害の鑑別には,GPを用いた両眼開放視野検査が有用とされる(表1).機能性視覚障害では両眼開放視野においても片眼視野と同様の耳側半盲がみられることがあり,この所見をCmissingChalfChemi-anopiaとよぶ17).Keaneら3)の機能性視覚障害C454例の検討では,片眼の耳側半盲をきたしたC34例中C32例(94%)に図3初診時の広角眼底機器による右眼の所見硝子体,黄斑部,視神経乳頭に異常所見はなかった.右眼左眼ab右眼左眼図4初診時のOCT所見a:乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)解析.Cb:網膜神経節細胞複合体(GCC)解析.Cc:Bスキャン画像.全体のCcpRNFL厚は,右眼C82Cμm(上半側C81Cμm,下半側C82Cμm),左眼C91Cμm(上半側C87Cμm,下半側C94Cμm)で,右眼は左眼に比してやや薄いものの上下差はなかった.GCC厚は,右眼では上半側C89Cμm,下半側C99Cμm,左眼では上半側C87Cμm,下半側C98Cμmで,明らかな菲薄化や左右差はなく,視野異常に一致する所見はみられなかった.両眼ともにCellipsoidzone(EZ)やCinterdigitationzone(IZ)は正常で異常所見はなかった.GCCおよびCcpRNFLは年齢を年齢別正常データにあわせてC20歳として解析した.図5初診時のGoldmann視野計による両眼開放視野検査図61週間後の右眼Goldmann視野所見両眼開放視野検査では,右眼の視野所見と同様に垂直ステップを初診時にみられた上耳側四半盲が消失した.伴う右上耳側四半盲がみられた.表1機能性視覚障害によって半盲性視野障害をきたした症例報告の既報著者報告年患眼年齢性別発症誘因視野障害診断の一助となった視機能検査C/方法CKeane17)C1979右眼C49女不明耳側半盲GP/両眼開放視野検査CGittinger18)C1986左眼C43男不明耳側半盲GP/両眼開放視野検査CGittinger18)C1986右眼C40女不明耳側半盲GP/両眼開放視野検査後藤19)C2017右眼C16男不明耳側半盲GP/両眼開放視野検査CGoseki20)C2016左眼C11女不明耳側半盲imo/両眼ランダム化視野検査石倉21)C2005右眼C11女お手玉による打撲耳側半盲RAPD陰性,視野C/入院後視野改善CSmith22)C1987左眼C5男不明耳側半盲RAPD陰性CYoneda23)C2013右眼C14男頭痛,吐き気,悪寒耳側半盲VEP/半視野CVEP髙木24)C2015左眼C13男転倒による眉毛部外側の打撲耳側半盲VEP/多局所CVEP朝生25)C2010左眼C17男不明耳側半盲対座法C/両眼開放視野検査CSmith22)C1987両眼C28男不明鼻側半盲管状視野CPalmowski26)C2002右眼C17女頭部外傷鼻側半盲VEP/半視野CVEP水野27)C1983両眼C8男両親の離婚水平下半盲自覚的屈折検査C/レンズ打消し法CSmith22)C1987左眼C25男不明水平下半盲RAPD陰性,管状視野高橋28)C2005右眼C9男サッカーボールによる打撲水平下半盲C―片山29)C2015両眼C16男不明水平下半盲C―CTakagi30)C2023両眼C27男4Cmの高さから転落同名半盲imo/両眼ランダム化視野検査本症例C2025右眼C12男野球ボールによる打撲四半盲(上耳側半盲)GP/両眼開放視野検査,RAPD陰性GP:Goldmann視野計,RAPD:相対的瞳孔求心路障害,VEP:視覚誘発電位.おいてCmissingChalfhemianopiaがみられ,器質性疾患との視覚誘発電位(visualCevokedpotential:VEP)や多局所鑑別に有用であったと報告している.本症例でも両眼開放視VEP,imovifaによる両眼ランダム化視野検査も機能性視覚野検査において右眼視野検査と同様の上耳側四半盲がみられ障害と器質性疾患の鑑別に有用であることが報告されていたことから,器質性疾患の除外と合わせて機能性視覚障害をる20,23,24,26,30)が,本症例ではCGPによる両眼開放視野検査が支持する重要な所見であり,鑑別の一助となった.パターン診断に有用であったためこれらの検査は行わなかった.今回の症例から,外傷後に片眼性の上耳側四半盲を呈する症例では,前部視路疾患や網脈絡膜疾患による可能性を十分に考慮したうえで総合的に評価する必要がある.器質性疾患が除外され,機能性視覚障害が疑われる場合には,両眼開放視野検査が診断の一助になる可能性がある.文献1)設楽恭子,若倉雅登:心因性視覚障害の診断.眼科C53:C295-299,C20112)小口芳久:心因性視力障害.日眼会誌C104:62-67,C20003)KeaneJR:PatternsCofChystericalChemianopia.CNeurologyC51:1230-1231,C19984)大出尚郎:心因性視覚障害-こどもと大人の違いは?-.神経眼科C26:261-275,C20095)SatouCT,CGosekiCT,CAsakawaCKCetal:E.ectsCofCageCandCsexConCvaluesCobtainedCbyCRAPDxRCpupillometer,CandCdeterminedCtheCstandardCvaluesCforCdetectingCrelativeCa.erentCpupillaryCdefect.CTranslCVisCSciCTechnolC5:18,20166)HershenfeldCSA,CSharpeJA:MonocularCtemporalChemi-anopia.BrJOphthalmolC77:424-427,C19937)IshikawaH,KezukaT,ShikishimaKetal:EpidemiologicandclinicalcharacteristicsofopticneuritisinJapan.Oph-thalmologyC126:1385-1398,C20198)WakakuraCM,CFujieCW,CEmotoY:InitialCtemporalC.eldCdefectCinCLeberChereditaryCopticCneuropathy.CJpnCJCOph-thalmolC53:603-607,C20099)KhoCRC,CAl-ObailanCM,CArnoldAC:BitemporalCvisualC.eldCdefectsCinCethambutol-inducedCopticCneuropathy.CJNeuroophthalmolC31:121-126,C201110)BrooksCDB,CSubramanianPS:MonocularCtemporalChemi-anopiawithsepto-opticdysplasia.JNeuroophthalmolC26:C195-196,C200611)AhmedY,SayalA,KaplanAJetal:MonoculartemporalhemianopiaCdueCtoCacuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CCaseRepOphthalmolC13:44-49,C202212)SowkaCJW,CLuongVV:BitemporalCvisualC.eldCdefectsCmimickingCchiasmalCcompressionCinCeyesCwithCtiltedCdiscCsyndrome.OptometryC80:232-242,C200913)XieCJS,CMcDonaldCHM,CKaplanCAJCetal:Chorioretinopa-thyCpresentingCasCbitemporalChemianopia.CJCNeurolCSciC463:123151,C202414)BahirCD,CAwawdy-JuharCS,CJabaly-HabibH:MonocularCtemporalChemianopsiaCandCretinopathy.COphthalmologyC132:e51,C202515)一色佳彦,木村徹,木村亘ほか:心因性視覚障害C─世代別にみた傾向と特異性.臨眼C62:503-508,C200816)後藤克聡,三木淳司,眞鍋優ほか:外傷性視神経症としてステロイド治療が行われた機能性視覚障害のC1例.神経眼科C42:444-451,C202517)KeaneJR:HystericalChemianopia.CTheCmissingChalfC.eldCdefect.ArchOphthalmolC97:865-866,C197918)GittingerCJWJr:FunctionalCmonocularCtemporalChemi-anopsia.AmJOphthalmolC101:226-231,C198619)後藤克聡,竹上亜也加,荒木俊介ほか:両眼開放視野検査が診断の一助となった片眼性機能性耳側半盲のC1例.神経眼科C34:443-448,C201720)GosekiT,IshikawaH,ShojiNetal:Bilateralconcurrenteyeexaminationwithahead-mountedperimeterfordiag-nosingCfunctionalCvisualCloss.CNeuroophthalmologyC40:C281-285,C201621)石倉涼子,山﨑香織,柿丸晶子ほか:外傷を契機として片眼耳側半盲を呈した心因性視覚障害のC1例.眼臨医C99:C590-592,C200522)SmithTJ,BakerRS:Perimetric.ndingsinfunctionaldis-ordersCusingCautomatedCtechniques.COphthalmologyC94:C1562-1566,C198723)YonedaT,FukudaK,NishimuraMetal:Acaseoffunc-tional(psychogenic)monocularChemianopiaCanalyzedCbyCmeasurementCofChemi.eldCvisualCevokedCpotentials.CCaseCRepOphthalmolC4:283-286,C201324)髙木大介,石田恭子,濵崎利恵ほか:機能性片眼耳側半盲が疑われたC1例.眼臨紀C8:801-806,C201525)朝生浩,福田匠,石川弘ほか:機能性片眼耳側半盲のC1例.眼科C52:1847-1851,C201026)PalmowskiCAM,CAndreasCF,CRuprechtKW:MultifocalCexaminationCtechniquesCinmalingering:caseCreportCofCaCpatientwithmonocularverticalhemianopia.GraefesArchClinExpOphthalmolC241:70-71,C200227)水野和美,加部精一,川上春美:両眼の下半盲を示した心因性視覚障害のC1例.眼科C25:1473-1477,C198328)高橋寛子,落合万理,唐津裕子ほか:外傷後に片眼性水平半盲様視野障害をきたした心因性視覚障害のC1例.日視会誌C34:151-156,C200529)片山紗妃美,後藤克聡,三木淳司ほか:両眼の水平下半盲を呈した心因性視覚障害のC1例.あたらしい眼科C32:599-604,C201530)TakagiCY,CYokoyamaCS,CYokoyamaCYCetal:ACcaseCofCfunctionalvisuallossdiagnosedthroughbilateralrandom-izedCvisualC.eldCtestingCwithCaCtrickCmethod.CAmCJCOph-thalmolCaseRepC32:101877,C2023***

特発性と判断した囊胞様黄斑浮腫を伴う網膜上膜の術前蛍光造影の検討

2026年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科43(9):1157.1163,2026c特発性と判断した.胞様黄斑浮腫を伴う網膜上膜の術前蛍光造影の検討林淳子岡野内俊雄野田雄己滝澤剛杉原佳恵戸島慎二中山弘基細川満人倉敷成人病センター眼科CFluoresceinAngiographicEvaluationBeforeSurgeryinIdiopathicEpiretinalMembraneAssociatedwithCystoidMacularEdemaJunkoHayashi,ToshioOkanouchi,YukiNoda,GouTakizawa,KaeSugihara,ShinjiToshima,HirokiNakayamaandMitsutoHosokawaCKurashikiMedicalCenterEyeCenterC目的:特発性と判断した.胞様黄斑浮腫(CME)を伴う網膜上膜(ERM)の術前フルオレセイン蛍光造影(FA)の所見および術後の浮腫再発や遷延との関連を検討する.対象と方法:2017年C1月.2023年C12月に倉敷成人病センターでCCMEを伴うCERMに対して術前にCFAを施行し,術後C6カ月以上経過観察が可能であったC33例C34眼を対象とした.初診時にぶどう膜炎所見を認める患者や黄斑浮腫を伴う疾患の既往がある患者は除外した.検討項目は,術前CFA所見(漏出所見の有無,性状,範囲),術前・術後C1カ月・術後C6カ月の矯正視力(logMAR換算),術後のCCMEの有無とした.研究デザインは後ろ向き研究とした.結果:CMEを伴うCERMのC34眼中C25眼(74%)に術前CFAで周辺部に漏出所見を認めた.漏出所見の内訳は,retinalvasculitis様所見がC22眼(88%),uveitis様所見がC3眼(12%)であった.Cretinalvasculitis様所見の多くはC1象限に限局していた(22眼中C12眼,55%).術後C1カ月のCCME再発はC25眼中C15眼(60%)あり,術前に漏出所見を認めた群で有意に多かった(p<0.05).結論:特発性と判断したCCMEを伴うCERMの多くは,検眼鏡的には認識できないサブクリニカルな炎症所見を伴っている.これらの患者では術後にCCMEが再燃・遷延化する可能性があり,このことを考慮した術後管理が必要である.CPurpose:ToCinvestigateCtheCrelationshipCbetweenCpreoperativeC.uoresceinangiography(FA).ndingsCandCpostoperativeCrecurrenceCorCpersistenceCofCcystoidCmacularedema(CME)inCeyesCwithCidiopathicCepiretinalCmem-brane(ERM)C.CSubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCstudyCincludedC34CeyesCofC33CpatientsCwithCERMCandCCMECwhoCunderwentCpreoperativeCFACandChadCatCleastC6CmonthsCofCfollow-upCatCKurashikiCCentralCHospitalCbetweenC2017CandC2023.CCasesCwithCuveitisCorCotherCCME-causingCdiseasesCwereCexcluded.CResults:PeripheralCleakageCwasCobservedCinC74%CofCtheCeyesConCpreoperativeCFA,CmainlyCwithCretinalCvasculitis-like.ndings(88%)C,Cand55%werelocalizedtoonequadrant.TherecurrencerateofCMEat1-monthpostoperativewassigni.cantlyhigherCinCtheCleakagegroup(60%,Cp<0.05)C.CConclusion:SubclinicalCin.ammationCmayCbeCpresentCinCERMCwithCCME,contributingtopostoperativerecurrenceorpersistenceofCME.Postoperativemanagementshouldconsiderthein.ammationcomponent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(9):1157.1163,C2026〕Keywords:網膜上膜,.胞様黄斑浮腫,網膜血管炎,蛍光造影検査.epiretinalmembrane,cystoidmacularede-ma,retinalvasculitis,.uoresceinangiography.Cはじめに斑偏位を引き起こす.ERMは大きく二つに分類され,網膜網膜上膜(epiretinalmembrane:ERM)は,黄斑部の網裂孔や網膜.離術後,ぶどう膜炎,糖尿病網膜症,網膜静脈膜上に形成された膜様組織であり,網膜皺襞や網膜肥厚,黄閉塞症,内眼手術などにより生じる続発性CERMと,ERM〔別刷請求先〕林淳子:〒C710-8522岡山県倉敷市白楽町C250倉敷成人病センター眼科Reprintrequests:JunkoHayashi,M.D.,KurashikiMedicalCenterEyeCenter,250Shiraku-cho,Kurashiki-shi,Okayama710-8522,JAPANC図1フルオレセイン蛍光造影(FA)での漏出所見およびOCTでの.胞様黄斑浮腫(CME)の定義a:retinalvasculitis様所見.Cb:uveitis様所見.Cc:OCT所見.周辺部網膜血管周囲に漏出(.)を認めたものをCretinalvasculitis様(Ca).脈絡膜からの漏出と考えられたものをCuveitis様(Cb)に分類した.CMEはCOCTで.胞状低反射領域を認め中心窩網膜厚の増加を伴うものと定義した(Cc).形成の原因となる疾患を伴わない特発性CERMとがある.検眼鏡および細隙灯検査で炎症所見はなく,特発性と考えられたCERMに.胞様黄斑浮腫(cystoidCmacularedema:CME)を伴うことがある1,2).一般的にCERMに伴うCCMEは手術により改善することが多いが,術後に再燃・遷延化する患者も存在することが知られている1,2).しかし,CMEを伴った特発性CERMに対して術前のフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)を施行した結果の報告はこれまでにない.そこで,本研究ではCCMEを伴い特発性と考えられたERMの術前CFA所見の特徴を分類して,術後のCCMEの経過との関連の有無を検討した.CI対象と方法1.対象2017年C1月.2023年C12月に倉敷成人病センター眼科で,特発性と診断したCCMEを伴うCERMに対して術前CFAを施行し,術後C6カ月以上経過観察が可能であったC33例C34眼(男性12例13眼,女性21例21眼,平均年齢70.1歳)を対象とした.なお,初診時に角膜後面沈着物,前房内炎症細胞,硝子体混濁など臨床的に明らかなぶどう膜炎を疑う所見を認めた患者や糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性など黄斑浮腫を伴う疾患の既往がある患者は除外した.後ろ向き研究をする際に当科倫理委員会での承認を得た(倫理委員会での承認番号:1925).C2.手術方法全例で同一術者(O.T.)によりつぎのとおりの手順で手術を施行した.アルコン社のCConstellationVisionSystemを使用し,25GもしくはC27Gを用いたCthreeportsystemを作製した.型どおりCZeiss社のCResight下で硝子体切除を行った.後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)が生じていない患者に対してはトリアムシノロンアセトニド(TA)にて硝子体を可視化しCPVDを起こした.BrilliantCBlueCG(BBG)による内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)染色後に,HOYAのCHHVQuartzlens下でおもに眼内鉗子を用いて黄斑部のCERMとCILMを.離した.当科では基本的にC50歳以上に対しては白内障手術を併施しており,本症例では有水晶体患者に対して白内障手術を全例併用した.全例とも術終了時のトリアムシノロン結膜下注射やトリアムシノロン硝子体内注射は施行しなかった.CII評価項目検討項目は,術前CFAの所見,術前・術後1カ月・術後C6カ月の矯正視力(best-correctedvisualacuity:BCVA),術後C1週,術後C1カ月・術後C6カ月の光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)でCCMEの有無について後ろ向きに検討を行った.CMEは,水平断および垂直断で.胞状低反射領域を認め中心窩網膜厚の増加を伴うものと定義とした(図1c).さらに,CMEの再発は,硝子体術後完全に消失したにもかかわらず,再度出現した場合とした.また,CMEの遷延は,術後のCCMEの大きさにかかわらず,一度も消失しなかった場合と定義した.BCVAは少数視力をClogMAR(logarithmoftheminimumangleofresolution)に変換して評価した.術前CFAに関しては,漏出所見の有無と漏出様式を分類した.漏出の特徴として,網膜血管からの漏出をCretinalvasculitis様と定義(図1a)し,斑状漏出が多発する脈絡膜からの漏出をCuveitis様と定義(図1b)したうえで,漏出範囲をC1.4象限で分類した.統計解析には表1対象眼の内訳漏出所見(+)2C5眼漏出所見(C.)9眼p値男性:女性8:1C75:4C0.198a年齢68.6C±C6.53歳74.1C±C7.67歳C0.075b眼軸C24.25C±C1.67CmmC24.78C±C1.85CmmC0.215b水晶体:IOL17:86:3C0.538a緑内障(+)3:(.)2C2(+)1:(.)8C0.719aCPVD(+)23:(.)2(+)8:(.)1C0.616aERMstage(1:2:3:4)3:11:10:11:6:1:1C0.398c漏出+群C25眼と漏出C.群C9眼との患者背景を検討した.男女比,年齢,眼軸,水晶体および眼内レンズ比,緑内障の有無,後部硝子体.離(PVD)の有無,網膜上膜(ERM)stage分類(Govettoらの分類3))でそれぞれ検討したが,いずれも有意差は認めなかった.a:Fisher’stest,b:t-test,c:Pearsonchisquare.表2.胞様黄斑浮腫(CME)の有無と漏出所見の有無の表3術前FAの漏出所見の性状と範囲割合ERM/CME(+)ERM/CME(C.)漏出所見(+)C25C1漏出所見(C.)C9C9Retinal1象限2象限3象限4象限vasculitis様12眼3眼2眼5眼Uveitis様1象限2象限3象限4象限0眼0眼0眼3眼33例の僚眼のうち10眼はCMEを伴わない網膜上膜retinalvasculitis様とuveitis様に分類した結果,retinalvasculitis(ERM)があったが,1眼(10%)に周辺部網膜血管からのはC25眼中C22眼(88%),uveitis様はC25眼中C3眼(12%)であった.漏出を認めた.僚眼限定で症例数は少ないものの,CMEさらにそれらの範囲をC1.4象限に分類したところ,retinalCvas-を伴うかどうかで漏出所見の有無に有意差を認めた(p<culitis様所見は,1象限がC12眼,2象限がC3眼,3象限がC2眼,40.01;Fisher’sexacttest).象限がC5眼であった.uveitis様所見のC3眼はすべてC4象限で漏出t-test,Fisherの正確確率検定およびCMann-WhitneyU検していた.定を用い,p<0.05を統計学的有意とした.めなかった(Pearsonchisquare)(表1).CIII結果33例C32眼の僚眼のうちC10眼はCMEを伴わないCERMがあったが,うちC1眼(10%)に周辺部網膜血管からの漏出術前CFAでC34眼中C25眼に漏出所見を認め,9眼は漏出所を認めた.僚眼限定となり症例数は少ないものの,ERMで見を認めなかった.漏出所見を認めた群(以下,漏出+群)CMEを伴うかどうかでCFAの漏出所見の出現率に有意差を25眼と漏出所見を認めなかった群(以下,漏出C.群)9眼と認めた(p<0.01,Fisher’sexacttest)(表2).の背景を検討した.男女比は漏出+群,漏出.群で有意差は漏出の特徴として,retinalvasculitis様(図1a)およびなかった(FisherC’stest).年齢は漏出+群がC68.6C±6.53歳,uveitis様(図1b)で,漏出+群を分類したところ,retinal漏出.群がC74.1C±7.67歳で有意差はなかった(t-test).眼軸vasculitis様はC25眼中C22眼(88%),Uveitis様はC25眼中C3長は漏出+群でC24.25C±1.67mm,漏出C.群でC24.78C±眼(12%)であった.さらにそれらの範囲をC1.4象限に分類1.85Cmmで有意差はなかった(t-test).有水晶体眼は漏出+したところ,retinalvasculitis様所見は,1象限がC12眼,2群中C17眼のC68%,漏出C.群中C6眼のC67%で有意差はなか象限がC3眼,3象限がC2眼,4象限がC5眼であった.uveitisった(Fisher’stest).漏出+群は3眼で,漏出.群はC1眼で様所見のC3眼はすべてC4象限で漏出していた(表3).緑内障と診断されていたが有意差は認めなかった(FisherC’s術後視力は,漏出所見の有無にかかわらず改善傾向を示test).PVDは漏出+群中C23眼のC92%,漏出C.群中C8眼のし,両群間で有意差は認められなかった(Mann-WhitneyU89%に生じており,有意差は認めなかった(FisherC’stest).test,p>0.05)(図2).CERMstage分類(Govettoらの分類3))では漏出+群で,漏出+群C25眼と漏出C.群C9眼を術後C1週,術後C1カ月,Cstage1がC3眼,stage2がC11眼,stage3がC10眼,stage4術後C6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.がC1眼であり,漏出C.群ではstage1が1眼,stage2が6術後1週では,漏出+群25眼中9眼(36%)にCMEがあ眼,stage3が1眼,stage4が1眼であったが,有意差は認り,漏出C.群C9眼中C1眼(11%)にのみCCMEを認めたが,漏出所見(+)(logMAR)漏出所見(-)1.00.80.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.8-1.0術前術後術後1カ月6カ月Mann-WhitenyUtest.p>0.05.図2術後視力の経過漏出所見の有無にかかわらず視力は術後改善傾向であった.漏出所見の有無で視力の改善率に差はなかった.302520151050図3網膜上膜(ERM)/術前.胞様黄斑浮腫(CME)(+)34眼での漏出(+)群と(-)群それぞれのCMEの有無(術後1週間,1カ月後,6カ月後)漏出+群C25眼と漏出.群C9眼を術後C1週間,1カ月,6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.術後C1週間は,漏出+群C25眼中C9眼(36%)にCCMEがあり,漏出.群C9眼中C1眼(11%)にのみCCMEを認めたが,有意差は認めなかった.術後C1カ月では,漏出+群C25眼中C15眼に,漏出.群C9眼中C1眼にCCMEを認めて有意差がみられた(Fisher’stest).術前に漏出所見があると有意にCCMEの再発・遷延を認める結果となった.術後C6カ月では漏出+群C25眼中CCMEはC6眼に減少しており,CMEは改善傾向にあった.術後C6カ月時点で漏出+群と漏出.群に有意差はなかった.有意差は認めなかった.術後1カ月では,漏出+群25眼中めて有意差がみられた(Fisher’stest).術前に漏出所見があ15眼(60%)に,漏出C.群9眼中1眼(11%)にCMEを認ることで有意にCCMEの再発・遷延を認める結果となった.181614121086420有水晶体群IOL群有水晶体群IOL群有水晶体群IOL群術後1週間術後1カ月術後6カ月n.s.:notsigni.cant.*:p<0.05.CME(+)CME(-)図4網膜上膜(ERM)/術前.胞様黄斑浮腫(CME)(+)/漏出+群25眼での有水晶体眼とIOL眼それぞれのCMEの有無(術後1週間,1カ月,6カ月)漏出+群C25眼を有水晶体眼とCIOL挿入眼それぞれで術後C1週間,術後C1カ月,術後C6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.術後C1週間は,有水晶体群C17眼中C6眼(35%)にCCMEがあり,IOL群C8眼中C3眼(38%)にのみCCMEを認めたが,有意差は認めなかった.術後C1カ月では,有水晶体群C17眼中C13眼に,IOL群C8眼中C2眼にCCMEを認めて有意差がみられた(Fisher’stest).有水晶体眼で白内障手術を併用すると有意にCCMEの再発・遷延を認める結果となった.術後C6カ月では有水晶体群C17眼中CCMEはC6眼に減少しており,CMEは改善傾向にあった.術後C6カ月時点で有水晶体群とCIOL群に有意差はなかった.術後C6カ月では漏出+群C25眼中CCMEはC6眼(24%)に減少しており,漏出+群と漏出.群に有意差はなかった(図3).34眼中C23眼が有水晶体眼であり,漏出+群25眼中17眼(68%),漏出.群9眼中C6眼(67%)に白内障手術を併用した.白内障手術後に.胞様黄斑浮腫がときに生じることが知られている4,5).漏出+群C25眼と漏出C.群C9眼に対してそれぞれ有水晶体眼と眼内レンズ(intraocularlens:IOL)眼に分けてさらに検討した.漏出+群C25眼を有水晶体眼とCIOL挿入眼それぞれで術後1週,術後C1カ月,術後C6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.術後C1週は,有水晶体群C17眼中C6眼(35%)にCMEがあり,IOL群8眼中3眼(38%)にのみCMEを認めたが,有意差は認めなかった.術後1カ月では,有水晶体群C17眼中C13眼(76%)に,IOL群C8眼中C2眼(25%)にCMEを認めて有意差がみられた(FisherC’stest).漏出+群では,IOL眼よりも白内障手術併用のほうがCCMEの再発・遷延を認めやすい結果となった.術後C6カ月では,有水晶体群C17眼中CCMEはC6眼(35%)に減少しており,CMEは改善傾向にあった.術後C6カ月時点で有水晶体群とCIOL群に有意差はなかった(図4).漏出.群C9眼を有水晶体眼とCIOL挿入眼それぞれで術後C1週,術後C1カ月,術後C6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.術後C1週,術後C1カ月,術後C6カ月いずれの場合でも,有水晶体群C6眼中C1眼(17%)にCCMEがあり,IOL群C3眼すべてでCCMEの再燃はみられず,有意差はなかった(図5).漏出.群では,IOL眼と白内障手術併用とでCMEの再発・遷延に差はなかった.術後C6カ月で漏出+群でCCMEが残存したC6眼の漏出様式を検討した.いずれもCretinalvasculitis様であり,uveitis様のCCMEは認めなかった.retinalvasculitis様所見の6眼のうちC1象限のみがC2眼,2象限がC2眼,4象限がC2眼であった(表4).CIV考按既報では,ぶどう膜炎のC40.60%にCERMを合併し6),また,活動性のあるぶどう膜炎のC30%以上にCCMEを合併すると報告されている7).さらに,特発性CERMの術後CCME発症率は,12.8.26.5%と報告があり1),特発性CERMにCMEを併発していると,術後にCCMEが持続することと関連していることが報告されている2).術前にCCMEを伴ったCERMに対しての本研究では,術後1カ月時点でC34眼中C16眼(47%)にCCMEを認め,既報よりも高い割合となった.一見特発性と考えられるCERMにCCMEを発症するメカニ76543210有水晶体群IOL群有水晶体群IOL群有水晶体群IOL群n.s.n.s.n.s.111505050333術後1週間術後1カ月術後6カ月CME(+)CME(-)n.s.:notsigni.cant.図5網膜上膜(ERM)/術前.胞様黄斑浮腫(CME)(+)/漏出-群9眼での有水晶体眼とIOL眼それぞれのCMEの有無(術後1週間,1カ月,6カ月)漏出.群C9眼を有水晶体眼とCIOL挿入眼それぞれで術後C1週間,術後C1カ月,術後C6カ月に分けてCCMEの再燃・遷延について検討した.術後C1週間,術後C1カ月,術後C6カ月いずれの場合でも,有水晶体群C6眼中C1眼(17%)にCCMEがあり,IOL群C3眼すべてでCMEの再燃はみられず,有意差はなかった.表4術後6カ月時点でCMEが残存した6眼の漏出所見の内訳Retinal1象限2象限3象限4象限vasculitis様2眼2眼0眼2眼術後C6カ月で漏出+群のCCMEが残存したC6眼の漏出様式を検討した.いずれもCRetinalVasculitis様の漏出所見を認め,Uveitis様所見は術後C6カ月にはCCMEは認めなかったC.RetinalVasculitis様所見のC6眼のうちC1象限のみがC2眼,2象限がC2眼,4象限がC2眼であった.ズムとしていくつかの報告がなされており,Romanoらは,ERMにおけるCCME発症のメカニズムとして,機械的牽引に加えて炎症性サイトカインの関与を指摘している8).また,特発性CERMにおいてもさまざまな程度の炎症性変化が存在することをCJoshiらは免疫組織学的検討により報告している9).これらは,Zandiらの報告した特発性CERMにおけるインターロイキン(interleukin:IL)-6,IL-8などの炎症性サイトカインの発現増加と一致する10).Buらは,ERMの形成過程において,グリア細胞や炎症性サイトカインが重要な役割を果たしていることを示している11).さらに,Ferreiraらは血液網膜関門の破綻と炎症性サイトカインの関与を指摘している12).Kwonらは,FAを用いた研究で,特発性CERMの半数において微小血管漏出を認めたと報告している13).これらの報告から,特発性CERMの存在によって生産された炎症性サイトカインが血液網膜関門を破綻し微細な血管炎,つまり術前CFAでの漏出所見を呈した可能性も否定できないが,本研究の結果とは矛盾した.本研究では,漏出所見のあったC25眼(A群)と漏出所見のなかったC9眼(B群)の間にCGovetto3)の提案したCERMstage分類の有意差はなく,CERMstage分類の重症度に関連なく術前CFAに漏出所見を認めた.つまり,特発性CERMが高度に網膜を障害したために炎症サイトカインが増し,網膜血液関門が破綻してCCMEが生じたわけではない可能性が考えられる.加えて,術前FAで観察されたCretinalvasculitis様所見はおもにC1象限に限局しており,黄斑部で生産された炎症性サイトカインが周辺部の網膜血管の網膜血液関門の破綻に限局性に作用するとは考えにくい.われわれは術前CFAで観察された漏出所見は,検眼鏡的には検出されない微細な血管炎あるいはぶどう膜炎の潜在を示している可能性を考える.つまり,潜在性の軽微な網膜血管炎あるいはぶどう膜炎があると,ERMが生じた場合,炎症性サイトカインの影響も含めてCCMEを生じやすくなるのではないかと考えた.これは,僚眼でCCMEを伴ってないCERMとの比較で,CMEを伴うCERMのほうが術前CFAで漏出所見を有意に認めていたことに矛盾しない.しかし,これらの所見がCERMに続発した炎症性変化であったのか,あるいは特発性CERMにたまたま併存したサブクリニカルな炎症であったのか,あるいは特発性と判断したERMは続発性CERMであり,ベースに存在していた炎症であったのかについては,後ろ向きの本研究で厳密に判別することは困難である.つぎに,術後のCCMEの遷延・再燃についてである.本研究では,術前に漏出所見を認めた群で術後C1カ月のCCMEの発症率が有意に高かった.すなわち潜在的な炎症の存在がCMEの再燃・遷延化に関与している可能性がある.術後C6カ月時点で漏出+群のCCMEはC15例からC6例に減少したが,術後C1.6カ月では,点眼強化やCTATenon.下注射(4眼)などの治療介入を行っているため,この影響を考慮しなければならない.白内障あるいは硝子体術後の炎症によってCCMEが発症することについては多数の既報がある4,5,14).Mitsuiらは,ERMの術後早期における炎症マーカーの変動を報告している15).また,Hattenbachらは,炎症を伴うCERMに対する術後ステロイド投与の有効性を報告している16).本研究では,漏出+群でのみ術後C1カ月でCIOL眼に比べて白内障手術併用がCCMEを生じやすかった.このことは,白内障手術による影響が,漏出+群でより顕性化しやすい可能性を示しているのかもしれない.今回,特発性と判断したCERMではあるが,FAで炎症性所見を呈した患者においては,炎症性変化がCERMの病態やCCMEの発症・遷延に関与している可能性があり,続発性CERMとの境界が明確ではないと考えられる.実臨床ではCCMEを伴うからといって全例に侵襲的検査であるCFAを施行することは現実的ではない.したがって,本研究結果から,CMEを伴うCERMの手術を行うときには,潜在的に網膜の炎症を有する可能性を考慮した,術後の積極的な抗炎症治療,たとえば比較的長期のステロイド点眼の継続や非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidalCanti-in.ammatoryCdrug:NSAID)点眼の長期継続での注意深い経過観察が必要であると考える.本研究は後ろ向き研究であるため,ERMとして診断・治療が行われており,FA所見を契機とした採血検査などの系統的なぶどう膜炎の精査ができていない点も限界である.また,34例の検討であり,n数が少ないなどの限界がある.これらの限界を克服するためには,多施設前向き研究による検証が必要であり,術前CFA所見と術後経過の関連についてのさらなる検討も重要である.CV結論CMEを伴う特発性と判断したCERMの一部には,FAでのみ検出可能なサブクリニカルな炎症所見を呈する患者が存在する.これらの炎症所見は術後のCCME再燃・遷延化に関連する可能性があるため,手術施行後は,積極的な抗炎症治療を考慮した長期の注意深い経過観察が重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)VerplaetseCV,CvanCDijkCEHC,CFaridpooyaCKCetal:Post-(115)vitrectomyCmacularedema:sheddingClightConCincidenceCandriskfactors.OphthalmolTher15:1021-1031,C20262)FrisinaR,PinackattSJ,SartoreMetal:CystoidmacularedemaafterparsplanavitrectomyforidiopathicepiretinalCmembrane.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC253:C47-56,C20153)GovettoCA,CLalaneCRA,CSarrafCDCetal:InsightsCintoCepiretinalmembranes:presenceCofCectopicCinnerCfovealClayersCandCaCnewCopticalCcoherenceCtomographyCstagingCscheme.AmJOphthalmol175:99-113,C20174)GassCJD,CNortonEW:CystoidCmacularCedemaCandCpapill-edemaCfollowingCcataractCextraction.CArchCOphthalmolC76:646-661,C19665)三宅謙作,坂村静子,三浦花:水晶体摘出後の嚢胞状黄斑浮腫発生に対するCprostaglandinsの関与性(III).臨床眼科32:217-222,C19786)NicholsonBP,ZhouM,RostamizadehMetal:Epidemiol-ogyCofCepiretinalCmembraneCinCaClargeCcohortCofCpatientsCwithuveitis.OphthalmologyC121:2393-2398,C20147)AgarwalCA,CPichiCF,CInvernizziCACetal:DiseaseCofCtheyear:differentialCdiagnosisCofCuveiticCmacularCedema.COculImmunolInflammC27:72-88,C20198)RomanoMR,ComuneC,FerraraMetal:RetinalchangesinducedCbyCepiretinalCtangentialCforces.CJCOphthalmolC2015:372564,C20159)JoshiCM,CAgrawalCS,CChristoforidisJB:InflammatoryCmechanismsCofCidiopathicCepiretinalCmembraneCformation.CMediatorsInflamm2013:192582,C201310)ZandiCS,CTappeinerCC,CPfisterCIBCetal:VitrealCcytokineCprofileCdifferencesCbetweenCeyesCwithCepiretinalCmem-branesCorCmacularCholes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC57:C6320-6326,C201611)BuCSC,CKuijerCR,CvanCderCWorpCRJCetal:Immunohisto-chemicalCevaluationCofCidiopathicCepiretinalCmembranesCandCinCvitroCstudiesConCtheCeffectCofCTGF-βConCMullerCcells.InvestOphthalmolVisSci56:6506-6514,C201512)FerreiraCLB,CWilliamsCKA,CBestCGCetal:InflammatoryCcytokinesCasCmediatorsCofCretinalCendothelialCbarrierCdys-functionCinCnon-infectiousCuveitis.CClinCTranslCImmunolo-gyC12:e1479,C202313)KwonCHJ,CParkCSW,CLeeCJECetal:MicrovascularCleakageCisCaCpoorCprognosticCfactorCforCidiopathicCepiretinalCmem-brane:a.uoresceinangiographystudy.RetinaC41:2515-2522,C202114)SikorskiCBL,CMalukiewiczCG,CSta.ejCJCetal:TheCdiagnos-ticCfunctionCofCopticalCcoherenceCtomographyCinCdiabeticCmaculopathy.MediatorsInflammC2013:434560,C201315)MitsuiCK,CKogoCJ,CTakedaCHCetCal.CComparativeCstudyCofC27-gaugeCvsC25-gaugeCvitrectomyCforCepiretinalCmem-brane.Eye(Lond)C30:538-544,C201616)HattenbachCLO,CSpringer-WannerCC,CHoeraufCHCetal:CIntravitrealCsustained-releaseCsteroidCimplantsCforCtheCtreatmentofmacularedemafollowingsurgicalremovalofepiretinalCmembranes.COphthalmologicaC237:232-237,C2017あたらしい眼科Vol.43,No.9,2026C1163

左右平行視によるVDT作業後の眼精疲労軽減効果:主観的・他覚的指標を用いた非盲検交差比較研究

2026年9月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科43(9):1151.1156,2026c左右平行視によるVDT作業後の眼精疲労軽減効果:主観的・他覚的指標を用いた非盲検交差比較研究當重明子*1,2園部大輔*3龍家圭*4山崎太義*5滝伊織*5井上永介*4諸星北人*1,6肥田典子*1,5三邉武彦*4恩田秀寿*2*1昭和医科大学臨床薬理研究所*2昭和医科大学医学部眼科学講座*3昭和医科大学江東豊洲病院*4昭和医科大学統括研究推進センター*5昭和医科大学大学院薬学研究科臨床研究開発学分野*6昭和医科大学大学院医学研究科衛生学公衆衛生学分野VisualFatigueReductionbyBinocularParallelViewingafterVDTWork:AnOpen-LabelCrossoverStudyUsingSubjectiveandObjectiveMeasuresAkikoToju1,2)C,DaisukeSonobe3),KakeiRyu4),TaigiYamazaki5),IoriTaki5),EisukeInoue4),HokutoMorohoshi1,6)C,NorikoHida1,5)C,TakehikoSambe4)andHidetoshiOnda2)1)SHOWAMedicalUniversityClinicalResearchInstituteforClinicalPharmacologyandTherapeutics,2)DepartmentofOphthalmology,SHOWAMedicalUniversitySchoolofMedicine,3)SHOWAMedicalUniversityKotoToyosuHospital,4)SHOWAMedicalUniversityResearchAdministrationCenter,5)DepartmentofClinicalResearchandDevelopment,GraduateSchoolofPharmacy,SHOWAMedicalUniversity,6)DepartmentofHygiene,PublicHealthandPreventiveMedicine,GraduateSchoolofMedicine,SHOWAMedicalUniversityC目的:VDT作業の増加に伴う眼精疲労が社会課題となっている.本研究では,左右平行視生成装置(マイオフリー)のCVDT作業後眼精疲労への影響を探索的に検討した.対象および方法:健康若年成人C12名(装置不良でC2名を除外したため,解析対象者はC10名)を対象に,非盲検C2群C2期クロスオーバー試験を実施した.マイオフリー使用条件と非使用条件で各C60分間のCVDT作業を課した.主要評価項目は,調節揺らぎの高周波成分(HFC)のC5距離平均(HFCA)とCVAS,副次評価項目は距離別CHFCと中心フリッカ値とした.結果:HFCA,VASのいずれも有意差を認めなかったが,半数の研究対象者で装置使用条件において改善を示した.副次評価項目の中心フリッカ値は使用条件で有意に改善した.結論:左右平行視が調節疲労や眼精疲労の抑制に効果的である可能性が示唆された.CPurpose:WithCtheCincreaseCinCvisualCdisplayterminal(VDT)work,CeyeCstrainChasCbecomeCaCsocietalCissue.CThepurposeofthisstudywastoexplorethee.ectsofabinocularparallelviewinggenerator(MyoFreeCR)oneyestrainCafterCVDTCwork.CMethods:ACnon-blinded,Ctwo-group,Ctwo-periodCcrossoverCtrialCwasCconductedCwithC12ChealthyCyoungadults(10CanalyzedCafterCexcludingC2CdueCtoCdevicefailure)C.CParticipantsCperformedC60CminutesCofCVDTworkunderbothMyoFreeuseandnon-useconditions.PrimaryoutcomesweremeanHFCA(meanHFCat5distances)andVAS.Secondaryoutcomesweredistance-speci.cHFCandcritical.ickerfrequency(CFF)value.Results:Nosigni.cantdi.erenceswereobservedforHFCAorVAS,yethalfofthesubjectsshowedimprovementwithuse.CFFvaluesigni.cantlyimprovedwithuse(p=0.018)C.CConclusion:Our.ndingssuggestbinocularparal-lelviewinghaspotentialforsuppressingaccommodationfatigueandeyestrain.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(9):1151.1156,C2026〕Keywords:左右平行視,眼精疲労,調節微動,VDT作業,中心フリッカ値.binocularparallelviewing,astheno-pia,accommodativemicro.uctuation,VDTwork,critical.ickerfrequency.はじめにけるCvisualCdisplayterminals(VDT)作業の増加に伴い,眼近年では,テレワークやタブレット学習など日常生活にお精疲労は労働生産性や生活の質を左右する重要な健康課題と〔別刷請求先〕當重明子:〒C157-8577東京都世田谷区北烏山C6-11-11昭和医科大学臨床薬理研究所Reprintrequests:AkikoToju,ClinicalResearchInstituteforClinicalPharmacologyandTherapeutics,SHOWAMedicalSchool,6-11-11,Kitakarasuyama,Setagaya,Tokyo157-8577,JAPANC1期1週間2期同意取得説明スクリーニング適格性判定A群:マイオフリー評価評価評価評価+近見作業B群:近見作業図1研究方法の概要説明・同意取得後にスクリーニングを実施し,適格性判定を行った.被検者をC2群に分け,A群ではC1期にマイオフリー使用条件,2期にマイオフリー非使用条件で,近見作業としてCNintendoSwitchを用いたレースゲームを画面までの距離はC50Ccmに固定して,-3.0Dの凹レンズを装用のうえC60分間実施した.B群はこの順序を逆とした.1期とC2期の間には,1週間の休息期間(ウォッシュアウト)を設けた.近見作業の前後で測定を行い,各評価項目の変化量と変化率を評価した.なっている.新型コロナウイルス感染症(coronavirusCdis-ease-2019:COVID-19)下では,デジタル眼精疲労の有病率がC74%に達するとの報告1)もあり,個人レベルのみならず社会経済的な影響も懸念され,世界的にも対策が急務とされている.眼の疲労には「眼疲労」と「眼精疲労」があり,眼疲労とは,休息によって回復する生理的疲労である2).眼精疲労とは,視器要因,照度,姿勢,心的ストレスなども関与し,休息のみで回復しにくい病的疲労をさす3).これらは,とくに近見作業による眼の調節機能への負荷が大きな要因の一つとされている.VDT関連の視機能評価として,中心フリッカ値4),調節力5),屈折5),調節のゆらぎの高周波成分(highCfrequencycomponent:HFC)6),瞳孔径7)などが報告されている.なかでもCHFCは,調節負荷や眼の疲労と関連する指標の一つとして検討されており,オートレフケラトメータに調節機能解析ソフトウェアを接続し調節応答波形から得られる高周波成分で,調節系への負荷や眼疲労の程度に関連する13).健康成人では調節機能への負荷に応じてCHFC値が増加すること8)や,眼の疲労とCHFC値との関連性について多くの先行研究が指摘している6,7,9.12)が,現時点で標準化には至っていない.通常,両眼での近見時には輻湊と調節が連動する.両眼に対応する画像を分離提示することで,近見反応を弱め,結果として調節負荷を軽減できる可能性がある.両眼の視線を平行に保ったまま,近方の画像を認識させる「左右平行視」では,近見反応が抑制され,結果として調節反射も抑制しうると考えられる.そこで本研究では,左右平行視生成装置のマイオフリー(協同)を用い,健康な若年成人を対象として,VDT作業後の眼疲労に及ぼす影響を探索的に検討した.本研究は,左右平行視提示が調節負荷を軽減しうるか,主観的疲労の緩和につながるかを明らかにすることを目的とした.なお,本稿では,装置により誘導される視線が平行に近い状態を,以後「左右平行視」(本研究における定義)と記載する.本稿で用いる「左右平行視」は輻湊角がC0°に近い状態をさす.CI対象および方法本研究は,2023年C7.8月に,昭和大学臨床薬理研究所で実施した.本研究は,学校法人昭和大学臨床研究審査委員会の承認を得て,世界医師会ヘルシンキ宣言に則り行い,研究の趣旨を十分に説明し文書同意を得たC18.29歳の健常成人12名を対象とした(jRCTs032240121).おもな適格基準は①裸眼視力両眼C1.0以上,②等価球面度数C±0.5D未満,③斜位以外の眼疾患・手術歴・調節障害なし,④直近C2週間の点眼薬(OTC含む)・直近C1カ月間の瞳孔径に影響する薬剤/サプリメント摂取なし,⑤光過敏性発作歴なし,⑥非喫煙,⑦アルコール依存または薬物依存の既往歴/現病歴なし,⑧コンタクトレンズ未使用,⑨散瞳禁忌なし,⑩研究医師が適格と判断した者とした.本研究は,2群C2期非盲検クロスオーバー試験として実施した(図1).対象者に対して研究説明・同意取得後にスクリーニングを実施し,年齢,性別,現病歴,既往歴,薬剤の使用・健康補助食品・サプリメントの使用歴,飲酒歴・量,喫煙歴・量,アレルギー,職業,平日・休日のC1日あたりの近見作業時間,ならびに臨床研究への参加歴の情報を収集した.また,眼科的評価として,前眼部所見,涙液層破壊時間(break-uptime:BUT),中間透光体所見,眼底所見,裸眼視力,矯正視力(雲霧法による),他覚的屈折検査,眼圧検査,調節微動,調節幅測定,眼位検査(裸眼による),輻湊検査,優位眼検査を実施し,適格性を判定した.適格と判断した研究対象者をC2群に割り付け,A群はC1期マイオフリー使用条件,B群は非使用条件でCNintendoSwitchレースゲーム(50cm,-3.0D凹レンズ装用,60分)を施行し,2期で順序を逆とした.各期の間にC1週間のウォッシュアウトを設け,学習効果や順序効果を最小限に抑えた.マイオフリーは視差提示により視線平行を誘導し,画像を同期シャッター眼a左右平行視生成装置出力左右へのシフト画像を出力b入力映像出力映像シャッター眼鏡の動作左眼右眼AAABBo.onBCCC時間120Hz図2装置の原理(a)と左右平行視状態で映像を同期させる仕組み(b)中心的な装置は左右平行視生成装置である.これは,パソコン,家庭用ゲーム機などの外部機器から入力された映像信号を左右方向に交互に移動して表示するものである.左方向に移動した画像と右方向に移動した画像を,通常C1秒間にC120回の速度で切り替えて,モニターに出力(表示)する.シャッター眼鏡は,この画像の切り替えに同期して,左眼のシャッター素子の透過度と右眼の素子の透過度を制御するものである.シャッター眼鏡を介してモニター画面を見ることにより,右眼には右方向に移動した画像が,左眼には左方向に移動した画像が届くことになる.交互に表示することで輻湊が起きず,視線が平行に近い状態になる.鏡を介して提示した.その原理と映像を同期させる仕組みを図2に示す.非使用条件では視差調整なしで,他は同一条件とした.評価対象眼は,マイオフリー非使用条件の作業後にCHFC1(0.-0.75Dの平均CHFC,調節安静位付近)が高値の眼とした.個人内の相対選択であり,固定のカットオフ値は設定しなかった.これは,眼疲労の客観的指標としてのCHFCがより高く出た眼を評価対象とすることで,介入による変化をより感度高く捉えるためである.主要評価項目は,HFCaverage(HFCA:33cm,50cm,67cm,1.0m,2.0mの5距離平均HFC)とvisualCanalogueCscale(VAS)とした.HFCは,オートレフケラトメータ(ARK-1a,ニデック)に,調節機能解析ソフトウェア(AA-2)を接続し,調節応答波形から得られる高周波成分とした.VASは,100Cmm水平線の左端が「まったく疲れていない」,右端が「非常に疲れている」として,研究対象者に縦線を直感的に記入させた.副次評価項目は距離別CHFC(33Ccm,.40Ccm,.50Ccm,.67Ccm,.1m,2m),HFC最大値(HFCmax),最小値(HFCmin),HFC1,他覚的屈折値(等価球面度数),調節幅(rangeCofaccommodation)および中心フリッカ値(criticalC.ickerCfre-quency:CFF)とした.CFFは,ハンディフリッカCHF-Ⅱ(ナイツ)で評価した.測定は,各条件の作業前後とし,測定環境・測定者・手順を統一した.有害事象の有無は,研究期間中を通じ随時医師が確認した.CII統計解析各指標の変化量あるいは変化率を算出し,対応のあるCt検定で使用/非使用条件を比較した.統計解析には,JMPCProver.17(SASInstitute)を使用し,有意水準はC0.05とした.CIII結果本研究にはC12名が参加したが,装置不良でC2名を除外し,最終C10名を解析対象とした(表1).眼科的異常所見はなかった.主要評価項目のCHFCA変化量は,装置使用条件でC0.34C±2.37,非使用条件でC1.06C±2.02であり,両条件間に有意差はなかった(p=0.25)(図3a).研究対象者別のプロットでは,表1被検者背景項目値被検者数10例(男性C1例,女性C9例)年齢C25.20±3.68(中央値C27,範囲C18.C29)矯正視力-0.17±0.02logMAR他覚的屈折値-0.18±0.32D乱視度数-0.35±0.16D前眼部・中間透光体・眼底所見異常なしab4p=0.2535433221.0561100-1MFなし-2-1-3-2-4-3-5図3HFCA変化量の比較(a)およびHFCA変化量の個人別比較(b)a:MF使用条件および非使用条件のCHFCA変化量を比較した結果,MF使用条件と非使用条件に有意差を認めなかった.Cb:MF使用条件および非使用条件のCHFCA変化量を個人別比較したところ,10例中C5例で,MF非使用条件に比べて使用条件でCHFCAが低下した.MF:マイオフリー.10例中C5例において装置使用条件で改善傾向を示した(図3b).VASスコアでは,非使用条件で高値を示し,とくに「ものがちらついて見える」で差が大きかったが,有意差には至らなかった.副次評価項目のCCFF変化量は使用条件で有意に改善した(p=0.018)(図4).他のCHFC指標,他覚的屈折値,調節幅では,有意差を認めなかった(表2)が,HFC40cm,50cm,67cmでは,使用条件で疲労抑制傾向が示された.有害事象は報告されなかった.C1154あたらしい眼科Vol.43,No.9,2026MFありMFなし(Hz)1.5p=0.018*10.310.50MFなし-0.5-0.51-1-1.5図4CFFの変化量の比較MF使用条件でCCFFの変化量に有意な改善を認めた..MF:マイオフリー.*:p<0.05CIV考察本研究は左右平行視生成装置(マイオフリー)がCVDT作業後の眼精疲労に及ぼす影響を探索的に研究した.主要評価項目(HFCA,VAS)では有意差を認めなかったが,一部研究対象者において装置使用条件でCHFCA改善傾向,全体としてCVASスコアの上昇抑制傾向,とくにCVDTの眼精疲労の代表的症状である「ものがちらついて見える」で大きな効果を認めたことから,左右平行視による調節負荷軽減と主観的な疲労抑制に寄与した可能性が考えられる.CFFは唯一有意差を示した.CFFは中枢性眼精疲労の指標であり,調節機能よりも眼精疲労全般に関与する.この結果は,左右平行視が輻湊・調節負荷軽減による負担を軽減す(106)表2評価項目別の結果評価項目マイオフリー使用時(平均±SD)マイオフリー非使用時(平均±SD)CPairedtCtestCHFCAC0.34±2.37C1.06±2.01Cp=0.253VAS「眼が疲れる」C1,719.70±1,874.90C2,290.71±2,192.53Cp=0.549VAS「眼がかすむ」C588.00±980.60C938.67±1,518.77Cp=0.547VAS「ものがちらついて見える」C26.67±64.41C235.00±488.79Cp=0.198VAS「肩がこる」C65.80±158.76C487.76±1,035.63Cp=0.219VAS「頭が痛い」C660.00±1,631.77C861.00±987.30Cp=0.743VAS「焦点がぼやける」C1,310.00±2,420.03C403.33±636.63Cp=0.267CHFC33cmC0.49±5.18-0.28±5.53Cp=0.753CHFC40cm-1.54±3.01-0.60±5.97Cp=0.662CHFC50cm-1.21±3.91-0.26±3.73Cp=0.584CHFC67cm-0.79±5.07C2.83±5.38Cp=0.139CHFC1CmC1.46±4.17-1.16±5.08Cp=0.224CHFC2CmC2.34±8.21C2.87±4.39Cp=0.858CHFCmax-0.06±5.09-2.29±5.99Cp=0.383CHFCminC0.52±7.77C3.62±3.81Cp=0.271CHFC1C0.96±2.28C1.63±2.80Cp=0.563他覚的屈折値C0.10±0.34D-0.20±0.40DCp=0.087調節幅-0.06±0.40DC0.10±0.26DCp=0.282CCFFC0.31±0.72Hz-0.51±0.68HzCp=0.018**:p<0.05.HFCA:highfrequencycomponentaverage,VAS:visualanaloguescale,HFC:highfrequencycomponent,CFF:critical.ickerfrequency.ることで,全般的な疲労感軽減に波及した結果と推測される.さらに,HFC40cm,50cm,67cmでの抑制傾向は,VDT作業距離に近い条件下での効果を示唆する.本研究の限界としては,①症例数が少なく統計学的検出力が不足したこと,②CVASの主観性・個人差があること,③ゲーム課題による集中度・習熟度の影響,④作業負荷が一般的なCVDT作業環境と異なることがあげられる.左右平行視技術は現在のところ特殊な装置を要するが,両眼視差調節原理はヘッドマウントディスプレイやウェアラブル端末への応用が見込まれる.今後は対象者を増やし,標準化された作業条件で多様な年齢層や屈折異常群での検証が必要である.利益相反:本研究は株式会社協同からの研究資金提供を受けて実施した.他に開示すべき利益相反はない.文献1)Leon-FigueroaCDA,CBarbozaCJJ,CSiddiqCAACetal:Preva-lenceofcomputervisionsyndromeduringtheCOVID-19pandemic.CaCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CBMCPublicHealthC24:640,C20242)不二門尚:眼精疲労に対する新しい対処法.あたらしい眼科C27:763-769,C20103)鈴村昭弘:主訴からする眼精疲労の診断.眼科CMOOKC23:1-9,C19854)SaitoCS,CSotoyamaCM,CSaitoCSCetal:PhysiologicalCindicesCofvisualfatigueduetoVDToperation:pupillaryre.exesandCaccommodativeCresponses.CIndCHealthC32:57-66,C19945)不二門尚:視覚情報処理機構からみた眼精疲労C─3D映像視聴の影響を中心に─.あたらしい眼科C14:1295-1299,C19976)KajitaCM,COnoCM,CSuzukiCSCetal:AccommodativeCmicro.uctuationCinCasthenopiaCcausedCbyCaccommodativeCspasm.FukushimaJMedSciC47:13-20,C20017)梶田雅義,末信敏秀,高橋仁也ほか:調節安静位における調節微動の変化を指標としたCVDT作業による眼の疲労度の評価.あたらしい眼科C37:363-369,C20208)梶田雅義:調節応答と微動.眼科C40:169-177,C19989)梶田雅義,伊藤由美子,佐藤浩之ほか:調節微動による調節安静位の検出.日眼会誌C101:413-416,C199710)MaedaCF,CTabuchiCA,CKaniCKCetal:In.uenceCofCthree-dimensionalCimageCviewingConCvisualCfunction.CJpnCJCOph-12)YuCH,CZengCJ,CLiCZCetal:VariabilityCofCaccommodativeCthalmolC55:175-182,C2011Cmicro.uctuationsCinCmyopicCandCemmetropicCjuveniles11)JengCWD,COuyangCY,CHuangCTWCetal:ResearchCofCduringCsustainedCnearCwork.CIntCJCEnvironCResCPublicCaccommodativemicro.uctuationscausedbyvisualfatigueHealthC19:7066,C2022CbasedConCliquidCcrystalCandClaserCdisplays.CApplCOptC53:13)梶田雅義:調節機能測定ソフトウェアCAA-2の臨床応用.CH76-H84,C2014あたらしい眼科C33:467-476,C2016***

基礎研究コラム:DARC開発の現場から学ぶ学術研究と社会実装

2026年9月30日 水曜日

監修北澤耕司・村上祐介・中川卓DARC開発の現場から学ぶ学術研究と社会実装盛崇太朗アネキシンによるアポトーシス可視化アポトーシスは,多細胞生物において遺伝的にプログラムされた細胞死であり,個体のホメオスタシス維持のために不要・有害な細胞を安全に除去する機構です.おもにカスパーゼの働きにより細胞は収縮・断片化し,マクロファージに貪食されることで炎症を伴わずに排除されます.アポトーシス初期には通常,細胞膜内側に存在するホスファチジルセリン(phosphatidylserine:PS)が細胞外層へ移行します1).この性質を利用して,PSに結合するアネキシンCVを蛍光標識として用い,フローサイトメトリーや蛍光イメージングによりアポトーシス細胞を検出することができます(図1).アネキシンはカルシウム依存的にリン脂質に結合する蛋白質群で,なかでもアネキシンCVはCPSに特異的に結合する性質があります.アネキシンCVはおもに細胞実験用マーカーとして広く利用されています.CDARCアネキシンCVの標識性を網膜に応用した技術がCdetectionofCapoptosingCretinalcells(DARC)です.蛍光標識アネキシンCVを投与し,専用の撮影システムで生体内の網膜アポトーシス細胞を可視化します.緑内障患者での臨床研究では,初期段階における網膜神経節細胞のアポトーシスが可視化されたと報告されています2).さらに加齢黄斑変性や視神経炎,Alzheimer病,Parkinson病など神経変性疾患への応用も検討されています.ただし,現在の方法ではアネキシンVの経静脈投与が必要であり,侵襲性が問題となります.光干渉断層計による網膜内層厚測定が前視野緑内障(preperi-metricglaucoma:PPG)を含む初期緑内障の検出に有用である現状をふまえると,DARCの臨床的優位性は限定的です.図1アネキシンVによるアポトーシス検出機構健常細胞ではホスファチジルセリン(PS)は内側に保持され,アネキシンCVは結合しない.アポトーシス細胞ではCPSが外層に露出し,Ca2+依存的に蛍光標識アネキシンCVが結合することで可視化が可能となる.(文献C1より改変引用)神戸大学医学部附属病院眼科しかし,動物実験においては大きな意義があります.従来必要であった組織採取を行わずに,生体内で経時的にアポトーシス陽性細胞数を定量化しながら観察できるからです.欧州では動物実験規制が厳格化しており,DARCは神経保護薬の効果を縦断的に定量評価できるCinvivoimaging技術として注目されています3).今後の展望筆者がロンドン大学留学中に所属したCCordeiroLabはDARCの開発元であり,Cordeiro教授は本技術を基盤とした会社を設立し,独自技術を強みとして研究基盤を強化しています.大学院修了者をこの企業で継続雇用することで,技術継承と持続的イノベーションも実現しています.Cordeiro教授は緑内障専門医ですが,現在はCAlzheimer病など神経内科領域へもCDARCの応用範囲を拡大しています.このように分野横断的に技術を活用する姿勢は示唆に富んでいます.近年,日本でも大学知財の活用が重要視されています.研究成果を権利化し,社会実装へつなげることで社会貢献と研究資金確保の好循環を生むCDARCの歩みは,日本の眼科研究者にとっても大いに参考となるでしょう.文献1)CordeiroCMF,CHillCD,CPatelCRCetal:DetectingCretinalCcellCstressandapoptosiswithDARC:Progressionfromlabtoclinic.ProgRetinEyeRes86:100976,C20222)CordeiroCMF,CNormandoCEM,CCardosoCMJCetal:Real-timeCimagingCofCsingleCneuronalCcellCapoptosisCinCpatientsCwithglaucoma.BrainC140:1757-1767,C20173)HillCD,CChoiCS,CCordeiroMF:InCvivoCdetectionCofCretinalCganglionCcellCstressCinCrodentsCwithCDARC.CMethodsCMolCBiolC2708:123-129,C2023健常細胞アポトーシス細胞(97)あたらしい眼科Vol.43,No.9,2026C11450910-1810/26/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:280.遅発性脈絡膜上腔出血(中級編)

2026年9月30日 水曜日

280遅発性脈絡膜上腔出血(中級編)池田恒彦京都中部総合医療センター眼科近畿大学奈良病院眼科●はじめに脈絡膜上腔出血(suprachoroidalhemorrhage)は緑内障濾過手術などに関連して生じる重篤な合併症で,術中だけでなく,術後一定期間を経てから生じることがあり,遅発性脈絡膜上腔出血(delayedsuprachoroidalhemorrhage)とよばれている1,2).●症例提示患者は71歳,男性.左眼眼内レンズ脱臼に対して,硝子体手術,眼内レンズ摘出,眼内レンズ毛様溝縫着術を施行した.術翌日,低眼圧で軽度の脈絡膜.離が生じていたが,術4日後から急激な視力低下をきたした.再診時,硝子体出血で眼底透見不能.超音波Bモード検査で出血性脈絡膜.離を認め(図1).1週間後に再手術を施行した.下耳側と上方に脈絡膜.離を認めた(図2)ため,同部位で強膜切開を行い赤褐色の脈絡膜上腔出血を排出した(図3).術後,脈絡膜の隆起は平坦となり,矯正視力は0.8に改善した(図4).●遅発性脈絡膜上腔出血の臨床像遅発性脈絡膜上腔出血は内眼手術の1~15日後に発症することが多いとされ,なかには3カ月後の発症例も報告されている3).急激に生じる眼痛と視力低下で発症することが多く,前房出血や硝子体出血に加え,超音波Bモード検査で脈絡膜上腔出血を認める.Vaziriらの報告によると,トラベクレクトミー後では約0.6%,チューブシャント術後で1.2%であったとしている2).発症のリスク因子としては,緑内障眼,無水晶体眼,無硝子体眼,術後低眼圧などに加えて,高齢,動脈硬化,糖尿病などの全身因子も指摘されている.本提示例は出血量が比較的少なく,術後の視機能回復は良好であったが,胞状の脈絡膜上腔出血例では予後不良例も多い.治療法としては,通常の脈絡膜上腔出血と同様,溶血を待って強膜切開部位からの脈絡膜上腔出血排出と硝子体手術を(95)0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1超音波Bモード検査所見出血性脈絡膜.離を認める.図2術中所見下耳側と上方に脈絡膜.離と,それに伴う脈絡膜皺襞を認める.図3術中所見強膜切開を行い赤褐色の脈絡膜上腔出血を排出した.図4術後眼底写真脈絡膜の隆起は平坦となり,矯正視力は0.8に改善した.行う.文献1)LiuT,ElnahryAG,TauqeerZetal:Incidenceandriskfactorsofperioperativesuprachoroidalhemorrhage:asystematicreviewandmeta-analysis.SurvOphthalmol70:54-62,20252)VaziriK,SchwartzSG,KishorKSetal:Incidenceofpostoperativesuprachoroidalhemorrhageafterglaucoma.ltrationsurgeriesintheUnitedStates.ClinOphthalmol9:579-584,20153)青木朗子,福地健郎,葉山文恵ほか:緑内障-白内障同時手術後3カ月を経て発症した遅発性脈絡膜出血の1例.眼紀51:1049-1052,2000あたらしい眼科Vol.43,No.9,20261143

考える手術:術後視機能を意識した網膜剝離に対する硝子体手術

2026年9月30日 水曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅術後視機能を意識した網膜.離に対する硝子体手術今井尚徳関西医科大学眼科学講座近年,裂孔原性網膜.離に対する治療は,強膜バックリング術から硝子体手術へと大きく移行した.広角観察システム,小切開硝子体手術,手術機器の進歩により,初回網膜復位率は90~95%に達し,良好な治療成績が得られるようになった.しかし,今もって約5%の患者では初回復位が得られていない.その背景には程度の差こそあれ,増殖硝子体網膜症の発症が関与していると考えられており,今後も術後炎症の制御や手術侵襲の軽減を通じて,さらなる成績の向上が望まれる.一方,95%の患者で網膜復位が得られる現在,われわれ術者には「網膜を復位させること」だけでなく,「術後視機能をいかに良好に保つか」という視点が求められる.これまで術後視機能については中心窩.離の有無や期間が術後視力,変視症,コントラスト感度,不等像視などの中心視機能へ及ぼす影響が数多く検討され,可能な限り早期に手術介入することが良好な術後中心視機能につながることが広く知られている.しかし,「術後視機能」は中心視機能だけではない.患者の日常生活では周辺視機能,すなわち視野もきわめて重要である.緑内障では視野障害が転倒や歩行時の衝突の危険性を高めることが報告されているが,網膜.離手術において術後視野を定量的に評価し,その予防法まで検討した報告は少ない.筆者は,術中に作製する意図的排液孔が術後周辺視野に及ぼす影響について検討し,意図的排液孔が必要であれば,できるだけ周辺部に作製することが術後周辺視野を保つために有益であることを示した.今後は周辺視野も含めた「術後視機能」を意識して網膜.離手術を行うことが求められる.聞き手:網膜.離に対する硝子体手術で重要なことはなんでしょうか.今井:術後炎症をいかに抑えるかがもっとも重要だと考えています.現在の硝子体手術は小切開化や広角観察システムの進歩により低侵襲となりましたが,初回復位が得られない場合には増殖硝子体網膜症(proliferativevitreoretinopathy:PVR)の発症が関与しています.PVRは,術前から存在する炎症と術中侵襲の双方が影響して発症します.すなわち,術前の広範囲網膜.離や長い罹病期間に加え,過剰なレーザー凝固や強膜圧迫など,さまざまな因子が積み重なって術後炎症が生じます.そのため私は,必要十分な処置を確実に行い,不必要な操作はできるだけ避けることを手術の基本としています.この考え方はPVRや再.離の予防だけでなく,術後視機能の温存にもつながり,これから述べる網膜下液排出の考え方の基盤にもなっています.聞き手:網膜下液の排出についてはどのように考えていますか.今井:私は「必要十分な処置を確実に行い,不必要な操作は避ける」という考え方から,多くの患者では意図的排液孔は必要ないと考えています.もちろん,追加侵襲なく完全排液が可能であれば理想です.しかし現実には,完全排液をめざすには追加操作が必要となります.意図的排液孔は新たな網膜裂孔を作製することになり,PVR発症との関連も指摘されていますし,術後周辺視野狭窄の発生の懸念もあります(図1).また,パーフルオロカーボンにも残留などの問題があります.多くの場合,「網膜下液を完全に排出すること」そのものが目的ではなく,重要なのは,原因裂孔周囲を十分に復位させ,安全に網膜光凝固を施行できる状態を作ることで(93)あたらしい眼科Vol.43,No.9,202611410910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術す.そこまで到達すれば,その後はガスタンポナーデ,術後体位,そして網膜色素上皮のポンプ機能による自然吸収によって,多くの患者で良好な網膜復位が得られます.したがって,私は原則として原因裂孔からの排液を基本とし,意図的排液孔は,その利益が追加侵襲を明らかに上回る場合に限って作製するという方針をとっています.聞き手:意図的排液孔を作製しない場合,十分な網膜下液排出を行うコツはありますか.今井:もっとも意識しているのは,液空気置換では,まず原因裂孔から網膜下液を十分に排出することです.液空気置換を開始すると,硝子体腔の灌流液を先に吸引してしまいがちですが,そのようにすると,残存した網膜下液が網膜下に閉じ込められます.その結果,網膜下液が中心窩方向へ移動したり,術後網膜皺襞の原因となったりする可能性があります.そのため私は,患者の頭位や眼球回旋を調整し,原因裂孔をできるだけ最下点に置いて,重力も利用しながら原因裂孔から丁寧に排液します.この一手間で,意図的排液孔を追加せず十分な排液が得られる患者は少なくありません.聞き手:それでも意図的排液孔が必要となるのはどのような場合でしょうか.今井:もちろん,私は意図的排液孔を否定しているわけではありません.追加侵襲を上回る利益が期待できる患者では,積極的に選択すべき手技だと考えています.代表的なのは下方裂孔を有する場合です.下方裂孔では粘稠な網膜下液のため,原因裂孔から十分な排液が得られないことがあります.その結果,術後に患者が正面視へ戻ると,残存網膜下液が裂孔部へ再流入し,裂孔の閉鎖が得られず,十分な網膜復位が得られない可能性があります.このような場合には,意図的排液孔が有効な選択肢となります.一方,このような場合でも強膜バックリングを併用することで,裂孔部への網膜下液の流入を防ぎ,排液孔を追加せず復位できる場合もあります.そのため私は,裂孔の位置や網膜下液の性状だけでなく,バックリング併用も含めて総合的に判断しています.聞き手:意図的排液孔を作製する場合は,どこに作製するのが望ましいのでしょうか.今井:私がもっともお伝えしたいのは,「意図的排液孔が必要であれば,できるだけ周辺部に作製する」ということです.私たちはGoldmann視野検査を用いて術後視野を解析した結果,意図的排液孔を作製した症例では術後周辺視野が有意に狭窄する一方,中心窩から視神経乳頭までの距離を半径とした基準円より2.5乳頭径以上周辺側に排液孔を作製した症例では,排液孔を作製しなかった症例と比較しても術後視野面積に有意差を認めませんでした(論文投稿中).絶対的な基準ではありませんが,排液孔の位置が術後視野に影響する可能性を示した点に意義があると考えています.これからの網膜.離手術では,視力だけでなく,変視症やコントラスト感度,さらには周辺視野まで含めた術後視機能を意識することが重要です.手術の目的は,単に網膜を復位させることではありません.患者の視機能を守り,術後の日常生活の質を維持することです.その視点から一つひとつの手技を見直すことこそが,「考える手術」の本質ではないかと考えています.図1意図的排液孔に対応した術後周辺視野欠損左:術後4カ月の眼底写真.原因裂孔(*)および意図的排液孔(白*)は網膜光凝固により瘢痕化し,網膜は良好に復位している.矯正視力は(1.2)と良好である.右:術後4カ月のGoldmann視野検査の結果.意図的排液孔より周辺側に限局した視野欠損を認め,排液孔作製部位に対応した周辺視野障害(.)が確認できる.1142あたらしい眼科Vol.43,No.9,2026(94)