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点眼変更および追加のタイミングと注意点

2025年10月31日 金曜日

点眼変更および追加のタイミングと注意点 Timing and Considerations when Switching orAdding Glaucoma Eye-Drop Medications内藤知子*はじめに緑内障治療の基本は点眼薬による眼圧下降であるが,その効果には個人差があり,治療経過に応じて薬剤の変更や追加が必要となることも少なくない.また,点眼薬による治療効果が不十分である,あるいは視神経障害の進行が認められる場合には,観血的治療への移行も視野に入れた対応が求められる.こうした判断には,眼圧コントロールの状況に加え,進行速度,患者の年齢,病型,アドヒアランス,副作用など,多様な要因を総合的に評価することが必要となる.本稿では,点眼薬の変更や追加を検討するタイミング,薬剤選択時の注意点,さらに多剤併用に至った際に観血的治療を選択肢に含めるべき状況について解説し,個別化された緑内障治療戦略の構築に寄与することを目的とする.C

I 点眼の変更および追加を検討するタイミング緑内障は視神経の不可逆的な障害を伴う慢性疾患であり,その進行を抑制する唯一のエビデンスに基づいた方法は眼圧下降である.緑内障診療ガイドライン第C5版
(以下,ガイドラインと表記)によると1),緑内障治療の最終目的は視覚の質(qualityCofvision:QOV)と生活の質(qualityCoflife:QOL)の維持であるが,視神経障害は非可逆的である一方,緩徐に進行するため治療効果の判定には長期間を要することから,患者ごとに目標とすべき眼圧レベル(目標眼圧)を設定して緑内障治療を進めていくことが提案されている.そして,眼圧下降手段には薬物治療,レーザー治療,手術治療があるが,患者の病型や病期・アドヒアランス,さらには副作用の忍容性など多岐にわたる因子を加味して個別に調整していく.基本的には点眼薬による薬物治療が第一選択となることが多く,目標眼圧を設定し,単剤からスタートしていく(「緑内障の病診連携,紹介のタイミング」p1224,図 1参照).個々の患者における視神経障害の進行速度とそれを抑制しうる眼圧を予測することは困難であるので,治療を開始するにあたっては,病期や無治療時眼圧などを勘案し,症例ごとに目標眼圧を設定する.後期例では,進行した場合にCQOLに及ぼす影響が大きいので,目標眼圧はより低く設定する必要がある.また,余命が長いと想定される場合も治療が長期にわたることから,目標眼圧をより低く設定し,積極的に進行抑制に取り組むことが推奨されている1).目標眼圧の設定法としては,初期例C19CmmHg以下,中期例C16CmmHg以下,後期例C14CmmHg以下というように病期に応じて設定する方法や,無治療時眼圧から20%,あるいはC30%の眼圧下降というように眼圧下降率を設定する方法がある1).目標眼圧を達成していても,視神経障害による構造的変化や機能的変化に進行がみられ,それが長期予後としてCQOVやCQOL悪化につながるリスクがあると推測される場合には,さらに低い目標眼圧に修正していくが,その過程で,薬剤の変更や異な
*TomokoNaito:グレース眼科クリニック〔別刷請求先〕 内藤知子〒700-0821岡山県岡山市北区中山下C1丁目C1-1グレースタワーⅢC2F グレース眼科クリニック(1)(33)C12510910-1810/25/\100/頁/JCOPY る作用機序の薬物の追加が必要となる.目標眼圧による治療の注意点は,その目標眼圧の妥当性が経過を経ないと判断できない点である(図 1).その値が適切であったかどうかは,視神経障害の進行を十分に抑制できたことが確認された時点で初めて判断できる.すなわち,目標眼圧を達成していても進行する例もあれば,目標眼圧を達成していなくともあまり進行しない例もあるので,目標眼圧はあくまでも治療の手段であって目的ではなく,一つの目安と捉える視点も必要である.C

II 視神経障害の機能的・構造的変化の評価進行速度の評価はおもに視野や光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)などの眼底所見から行う.視野の評価においては,MDslopeは予後予測が立てやすく患者への説明もしやすいが,進行に関する有意検定は検査回数や期間,検査の信頼性に応じて変わってくるので2),検査回数が少なくて信頼性も不良であると,進行判定までに長い期間を要してしまい,その間に視野がさらに悪化してしまうリスクがある.筆者らは,視野の連続悪化(2,3連続)がみられる場合はその後のCMDslopeが有意に悪化する可能性が高いことを報告している3).MDの連続悪化以外にも,QOVに大きくかかわる中心C10°以内の視野や下方視野の悪化がみられる場合は要注意であり,治療強化を検討していく.一方で,OCTでの評価が有用なのはおもに初期.中期例である.たとえば,網膜神経線維層(retinalCnerve.berClayer:RNFL)と網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)層の菲薄化が上下どちらかのみに限局していたのに,反対側にも菲薄化が出てきた場合は明らかな進行である.後期になってくるとC.oore.ectのためOCTでの判定はむずかしくなってくる.乳頭出血(dischemorrhage:DH)の出現も見過ごせない(図 2).DHは緑内障性視神経症の病態と深くかかわる所見の一つであるが,陥凹拡大に先行してみられる場合と,神経線維の脱落の結果として生じる場合があるという考え方があり,この所見が陥凹拡大の原因か結果であるかは未だに結論が出ていないが,緑内障性変化の特徴的な所見の一つとして認識されている.DHを生じている時点で,すでに神経線維層欠損(nerveC.verlayerdefect:NFLD)の存在を示唆しており,DHが観察された症例は視野の進行が高い割合でみられることが報告されている4).このため,DHは臨床上非常に重要な所見となる.DHが認められた場合には,進行のリスクが高いと判断し,治療方針の再評価や治療の強化を積極的に検討する.C

III 点眼変更および追加時の薬剤選択ガイドラインでは,最初に単剤として選択される薬剤はプロスタノイドCFP受容体作動薬(以下,FP作動薬と表記)が第一選択として推奨されている1).原発開放隅角緑内障においては,FP作動薬がもっとも優れた眼圧下降効果をもち,1日C1回の点眼回数ですむこと,副作用の面でも良好な許容性を有するためである.Cb遮断薬およびプロスタノイドCEPC2受容体選択性作動薬(以下,EPC2作動薬と表記)も第一選択になりうるが,Cb遮断薬は全身の副作用に留意して処方する必要がある.CEP2作動薬であるオミデネパグイソプロピル点眼液は2018年に承認され,眼圧下降効果はラタノプロストに非劣性であり,FP作動薬に特徴的な局所副作用であるプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandin-associatedperiorbitopathy:PAP)といった副作用もないと考えられているが,眼内レンズ挿入眼には禁忌である点には注意する.単剤治療にて目標眼圧が達成できない場合,つぎのステップとして薬剤の変更(スイッチ)または他剤の追加
(アドオン)を行う.どちらを選択するかについては,ガイドライン第C5版でフューチャーリサーチクエスチョン(FQ1)にまとめられている1).薬剤の変更を考える際,第一選択薬としてCFP作動薬を点眼していた場合には,ノンレスポンダーであった場合を除き,FP作動薬からほかの眼圧下降薬へ変更しても,さらなる眼圧下降効果は期待できないといわれている.第一選択薬としてFP作動薬以外を使用していた場合には,Cb遮断薬よりもCFP作動薬のほうが眼圧下降効果に優れていることはすでに多くの文献で報告されているので5.9),FP作動薬へ変更することで一層の眼圧下降効果が期待できる.副作用のために第一選択薬の使用が不適当な場合も変更を考慮する.一方,追加を検討する場合であるが,第二1252  あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025(34)

目標眼圧とは,患者ごとに目標とすべき眼圧レベル設定した目標眼圧が適切か否かは視神経障害の進行抑制が確認されて初めてわかる図 1 目標眼圧達成と十分な眼圧下降効果の関係図 2 DH乳頭上耳側にCDHがみられる().

図 3 OCTによる進行判定
GCC菲薄化部分が拡大しており,進行と判定できる.glaucomasurgery:MIGS)による流出路再建術などを併用した治療を早めに行うことなどを検討する.薬剤に対するアレルギー性結膜炎や眼瞼炎などの副作用で点眼継続が困難な患者や,アドヒアランスの改善が期待できない患者も手術療法の導入を早めに考慮する.また,白内障の有無は観血的治療を考慮するうえでのポイントになる.高齢者では白内障を併発している場合が多いが,MIGSを併用することで,眼圧下降のみならず緑内障点眼数を減らすことが期待できる.MIGSは濾過手術に比べると合併症リスクが少ないことが特徴でもあるので,緑内障患者の白内障手術施行時には積極的な併用も選択肢の一つと考える.なお,緑内障手術は視機能を改善する治療ではなく,眼圧を下げて進行を緩徐にするための治療である.術式によっては,むしろ見えにくくなる場合もあるため,手術を受けるか否かの判断には,患者の十分な理解と同意が不可欠である.そもそも,緑内障治療の本来の目的はQOVの維持であるが,進行例においては手術そのものがCQOVに影響を及ぼすリスクも見逃せない.実際,線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)では,術後に約1.0CdBの視野感度の低下が起こるという報告もあるので10),専門医への紹介も視機能が大きく損なわれる直前ではなく,まだ余裕のある段階で勧めることが望ましい.眼圧推移,視野・OCTの経過,薬剤の副作用歴,全身状態などの情報が揃っていれば,手術適否の判断にも役立つ.加えて,術前の局所的因子としてCPAPには注意が必要である.PAPは美容面のみならず,眼圧測定や濾過手術の成績にも影響することが知られている11.13).筆者の施設と島根大で行った研究では13),PAPの重症度が高いとトラベクレクトミーの成功率は有意に低下することが示された.そのため,手術前にはPAPの有無と重症度を評価することも重要である.なお,術直前の点眼薬変更によってCPAPを改善することはむずかしいため,日常診療の段階から適切な点眼指導を行い,薬剤選択にも配慮する必要がある.FP作動薬の種類によってCPAPの発現率は異なるので12),PAPのリスクを軽減するためには薬剤ごとの特性を理解したうえでの慎重な選択が求められる.

おわりに点眼薬の変更および追加は,緑内障治療において患者の予後を左右する重要な判断の一つである.ガイドラインに基づく理論的根拠と,個々の患者背景に応じた柔軟な判断力の両立が求められる.常に治療目標である視機能と生活の質の維持を念頭におきながら,過不足のない治療強化と患者に寄り添った継続的なケアを行う必要があり,患者が安心して快適な余生を送れるように,緑内障診療を進めていきたいと考える.文   献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)ChauhanCBC,CGarway-HeathCDF,CGoniCFJCetal:PracticalCrecommendationsCforCmeasuringCratesCofCvisualC.eldCchangeCinCglaucoma.CBr J OphthalmolC92:569-573,C2008
3)NaitoCT,CYoshikawaCK,CMizoueCSCetal:RelationshipCbetweenCconsecutiveCdeteriorationCofCmeanCdeviationCvalueCandCprogressionCofCvisualC.eldCdefectCinCopen-angleCglau-coma.CClin Ophthalmol 26:2217-2222,C2015
4)IshidaCK,CYamamotoCK,CSugiyamaCKCetal:DiskChemor-rhageCisCaCsigni.cantlyCnegativeCprognosticCfactorCinCnor-mal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC129:707-714,C2000
5)AlmCA,CStjernschantzJ:E.ectsConCintraocularCpressureCandCsideCe.ectsCofC0.005%ClatanoprostCappliedConceCdaily,CeveningCorCmorning.CACcomparisonCwithCtimolol.CScandina-vianCLatanoprostCStudyCGroup.COphthalmologyC102:1743-1752,C1995
6)CamrasCB:ComparisonCofClatanoprostCandCtimololCinCpatientsCwithCocularChypertensionCandglaucoma:aCsix-monthCmasked,CmulticenterCtrialCinCtheCUnitedCStates.CTheCUnitedCStatesCLatanoprostCStudyCGroup.COphthalmologyC103:138-147,C1996
7)MishimaCHK,CMasudaCK,CKitazawaY:ACcomparisonCofClatanoprostCandCtimololCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CAC12-weekCstudy.CArch Ophthal-molC114:929-932,C1996
8)WatsonCP,CStjernschantzJ:ACsix-month,Crandomized,Cdouble-maskedCstudyCcomparingClatanoprostCwithCtimololCinCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CTheCLatanoprostCStudyCGroup.COphthalmologyC103:126-137,C1996
9)LiF,CHuangCW,CZhangX:E.cacyCandCsafetyCofCdi.erentCregimensCforCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularhypertension:aCsystematicCreviewCandCnetworkCmeta-analysis.CActa OphthalmolC96:e277-e284,C2018

10)JunoyCMontolioCFJ,CMuskensCRPHM,CJansoniusNM:
(37)あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025  C1255 

原発閉塞隅角病の治療戦略

2025年10月31日 金曜日

原発閉塞隅角病の治療戦略 Treatment Strategies for Primary Angle Closure Disease吉水 聡*
はじめに
原発閉塞隅角緑内障(近年は前駆病変を含めて prima-ry angle closure disease:PACDと表記される)は,わが国を含む東アジアで失明の大きな原因となる疾患である.緑内障診療ガイドライン第 5版1)では,「治療できる原因があれば原因治療」が原則と述べられている.PACDは原発開放隅角緑内障(primary open angleglaucoma:POAG)と異なり,適切な時期に適切な治療ができれば,多くの症例で事実上の根治に持ち込みうる病型であることから,「早期発見・早期治療」が非常に重要となる.たとえば,開放隅角緑内障として点眼治療されていたものの眼圧上昇や視野進行を認めて紹介された症例が,隅角所見を確認すると閉塞隅角であることは散見される.プラトー虹彩形状の閉塞隅角眼では中心前房深度(anterior chamberdepth:ACD)がある程度保たれていることも多いため,閉塞隅角所見が未指摘となりがちである.また,当初は隅角所見が開放であった症例も,経過中に徐々に水晶体厚が増加していくため,いつのまにか隅角の閉塞・眼圧上昇を認めることもある.緑内障診療において,経過中に眼圧コントロールが不安定となった際には,一度立ち止まって病型の再評価を行うことが重要である.PACDの診断は隅角鏡検査所見をもとに行われる.静的隅角鏡検査(暗所,最小限の光量で,第一眼位で圧迫なく観察)において,後部線維柱帯が 2~3象限で視認できない,いわゆる occuludable angleのみの状態を原発閉塞隅角症疑い(primary angle closuresuspect:PACS)と称する.PACSに加えて周辺虹彩前癒着(peripheral anteriorsynechia:PAS)もしくは眼圧上昇をきたしたものを原発閉塞隅角症(primary angleclosure:PAC),さらに緑内障性視神経症(glaucoma-tous optic neuropathy:GON)をきたしたものを原発閉塞隅角緑内障(primary angle closureglaucoma:PACG)と称する.慢性経過の PACDにおいてはPACS → PAC → PACGと病状が進行するが,PACDのなかで急速に発症する(いわゆる急性緑内障発作)acute PAC(APAC/APACG)についてはどの段階であっても発症する可能性があることが注意点としてあげられる.PACDに対する治療は,POAGのように薬物治療を第一選択とせず,原則として外科的な隅角閉塞の解消(手術またはレーザー治療)を必要とする.薬物療法は補助的な治療となり,急性発作の解除や手術までの待機療法として行われる(図 1).本稿では PACDに関する治療戦略として,PACS/PAC/PACGの病期別の治療適応,隅角閉塞メカニズムごとの治療選択,急性発作への対応,閉塞隅角緑内障禁忌薬について述べる. I PACS,PAC,PACGの病期別の治療適応PACGはすでに高眼圧および GONを認め,PACGの失明率は POAGと比して高いことから,隅角閉塞に対
*Satoru Yoshimizu:神戸市立神戸アイセンター病院〔別刷請求先〕 吉水 聡:〒650-0047 神戸市中央区港島南町 2-1-8 神戸市立神戸アイセンター病院(1)(25) 12430910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

POAG PACD,,,

図 1 POAG・PACDの治療フローチャートPACDはCPOAGと異なり薬物治療を第一選択とせず,原則として外科的な隅角閉塞の解消を必要とする.(文献C1より引用)

図 2 PACDのメカニズム a:瞳孔ブロック.瞳孔縁における房水の流出抵抗上昇,虹彩の前方への弯曲がみられる.b:プラトー虹彩.毛様体前方回旋,虹彩根部厚の増加がみられる.虹彩後面は平坦で,中心前房深度は比較的保たれる.Cc:水晶体因子.水晶体厚の増加と水晶体前方移動がみられる.Cd:水晶体後方因子.毛様体脈絡膜.離・毛様体突起の前方回旋などによる房水の硝子体腔側への回り込みがみられる.通常の位置に比べて眼内レンズは前方へ突出し,虹彩は圧排されている.
LPI PI   LGP 水晶体摘出術 前部硝子体切除術後.切開術水晶体摘出術 図 3 隅角閉塞メカニズムごとの治療選択肢各メカニズムに応じて治療手段を検討するが,水晶体摘出術の汎用性が高い. 

*急性期の水晶体摘出術は合併症が生じやすいので熟練した術者が行うことが推奨される .図 4 APACの治療発作状態の解除をめざして,初期治療としてまず薬物療法が行われる.そのあとに隅角閉塞への治療として,レーザー虹彩切開,外科的周辺虹彩切除,水晶体摘出を行う.(文献C1より改変引用)
図 5 日本眼科医会発行の緑内障連絡カード緑内障病型,治療介入の有無をチェックボックスで入力するため,他科の医師や薬剤師にもわかりやすい.Chttps://www.gankaikai.or.jp/info/detail/glaucomainfocard.html(日本眼科医会ホームページより引用)

ぶどう膜炎による続発緑内障の治療選択

2025年10月31日 金曜日

ぶどう膜炎による続発緑内障の治療選択 Treatment Options for Secondary Glaucoma Caused by Uveitis徳田直人*はじめに緑内障診療において「緊急度」を決める指標としてもっとも優れたパラメータは「眼圧」であろう.眼圧が30~40 mmHgもしくはそれ以上になるような場合は緊急度が高く,早急な対応(治療開始)が必要となる.原発開放隅角緑内障でも眼圧が緊急を要するほどに高くなることもあるが,臨床で眼圧が緊急を要するほどに高くなる緑内障病型は,何かしらほかに原因がある「続発緑内障」であることが多い.続発緑内障の治療の基本は,緑内障診療ガイドライン第 5版の「緑内障治療の原則」にもあるように「治療できる原因があれば原因治療」である.しかし現場においては,原因治療だけで果たして本当によいのか不安になるケースもあり,対症療法と組み合わせることもしばしばである.また,薬物治療だけでは眼圧コントロールができず,緑内障手術を行わなくてはならない「治療変更」のタイミングも判断がむずかしい.本稿においては,「ぶどう膜炎による続発緑内障の治療」について「私ならこうする」方法を紹介する. 
I ぶどう膜炎続発緑内障の診断ぶどう膜炎続発緑内障はぶどう膜炎に伴い眼圧上昇が生じた緑内障病型である.そのため,ぶどう膜炎の原因を特定することがぶどう膜炎続発緑内障の治療においても重要である.ぶどう膜炎の診断の難易度は,診察時の所見の有無で大きく異なる.細隙灯顕微鏡所見で角膜後面沈着物(keratic precipitate:KP)や前房微塵(または細胞微塵:cell)など活動性の指標となる所見が認められる場合はぶどう膜炎の診断は比較的容易であるが,前医でぶどう膜炎の診断がついていても,実際目の前にいる患者の眼には所見がほぼないこともある.また,ぶどう膜炎の活動性があっても,眼圧上昇を伴う場合と伴わない場合もあり,1回の診察で正しい診断をつけることはむずかしい.ぶどう膜炎を疑う初診時前眼部所見についてフローチャートにまとめた(図 1).前眼部所見が認められる場合,KP(図 2)や cellの有無とその性状,虹彩や瞳孔の所見(図 3),隅角所見(図 4)などで原因疾患の見当がつく.そこから原因の確定診断のために血液検査などの全身精査を行う.ウイルス性ぶどう膜炎を疑った際には前房水を採取し,ポリメラーゼ連鎖反応(poly-merase chain reaction:PCR)法による分析を検討する.眼圧については,角膜の浮腫が認められるほどに眼圧上昇している場合もあれば,10 mmHg以下の場合もあり,眼圧変動が大きい症例が多い印象である. 

II ぶどう膜炎続発緑内障に対する薬物治療ぶどう膜炎続発緑内障の治療には,原因治療と対症療法がある.原因治療は「ぶどう膜炎の炎症を抑える,いわゆる消炎」であり,対症療法は「上がった眼圧を緑内障点眼薬や緑内障手術で下げる」治療になる.厳密にいえば,炎症の原因を治療することが真の原因治療なのかもしれないが,本稿では炎症を抑える治療をぶどう膜炎続発緑内障の原因治療とする.その症例の状況に応じて
*Naoto Tokuda:聖マリアンナ医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕 徳田直人:〒216-8511 川崎市宮前区菅生 2-16-1 聖マリアンナ医科大学眼科学教室(1)(19) 12370910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

図 1 ぶどう膜炎疑い患者の診察時のポイントと疑うべき疾患PAS:peripheral anterior synechia(周辺虹彩前癒着),ICE:iridocorneal endothelial syndrome(虹彩角膜内皮症候群),Posner:Posner-Schlossman症候群.

図 3 ぶどう膜炎の瞳孔縁に生じた虹彩結節虹彩結節(Koeppe結節,)は肉芽腫様ぶどう膜炎でみられる.本症例はサルコイドーシスであり,KP()も認められる.図 2 ぶどう膜炎の肉芽腫様 KPサルコイドーシスやVogt-小柳-原田病などでみられる(本症例は後者).KP cell 虹彩隅角
図 4 ぶどう膜炎の隅角所見①巨大な色素沈着.②テント状または台形状周辺虹彩前癒着.③隅角結節.マブやアダリムマブ(adalimumab:ADA)〕の使用も検討すべきである.Behcet病以外の非感染性の中間部,後部,または汎ぶどう膜炎に対するCADAの使用についても同様である.以上のことから,ぶどう膜炎続発緑内障に対してまず行う治療は,私ならまずは強いステロイド点眼薬を使用し,前房内炎症による虹彩後癒着などの二次障害が生じそうな場合は散瞳薬を併用し,ステロイド点眼薬についてはその後の経過をみて点眼回数を漸減していく.そして,難治性のぶどう膜炎の場合は生物学的製剤の使用も考慮すべきと考える.C

2. 対症療法眼圧が高い場合には緑内障点眼薬を使用するが,その場合にほとんどすべての緑内障病型に対して第一選択薬となるのがプロスタノイド受容体関連薬である.しかし,ぶどう膜炎続発緑内障においては注意が必要である.各種プロスタノイド受容体関連薬の添付文書内には,「重要な基本的注意」として「眼内炎(虹彩炎,ぶどう膜炎)のある患者」については「眼圧上昇がみられたことがある」とされている.これは,プロスタノイド受容体関連薬の主成分が炎症起因物質であるプロスタグランジンであることが原因として考えられるが,それを理由にプロスタノイド受容体関連薬を第一選択とはせず,交感神経Cb遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬,またはその両者を含んだ緑内障配合点眼薬(コソプト配合点眼液,アゾルガ配合懸濁性点眼液など)が第一選択薬として選択されることが一般的には多い印象である.しかし,ぶどう膜炎続発緑内障の眼圧上昇の場合,それだけでは眼圧下降が十分に得られないことも多々あり,そのような場合はプロスタノイド受容体関連薬を含めたその他の緑内障点眼薬の併用を検討する.数多くある緑内障点眼薬のなかでも,リパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック点眼液)は,ぶどう膜炎続発緑内障に対する有効性が示された報告2)があり,追加薬として選択しやすい.また,炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド錠.ダイアモックス錠C250Cmg)の内服を併用させることもある.アセタゾラミド錠は眼圧の状態や患者の体重を考慮し,1錠/日~4錠/日まで調整可能である.ただし,アセタゾラミド錠内服にあたり,電解質異常やそれに伴うしびれが生じることがあることを事前に説明しておく必要がある.以上のことから,ぶどう膜炎続発緑内障の対症療法としては,私なら炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤を第一選択肢として,第二選択薬としては,リパスジル塩酸塩水和物点眼液,またはリパスジル塩酸塩水和物ブリモニジン酒石酸塩配合点眼液(グラアルファ)を選択し,それでも眼圧コントロールが得られず,緑内障手術が予定された場合には,その日までアセタゾラミド錠を内服させることを検討する.C
3. 原因治療と対症療法の併用個人的には,ぶどう膜炎続発緑内障に対して原因治療のみで眼圧コントロールが得られることが理想的だと考えるが,実際には眼圧はC30~40CmmHgを超えるような場合も多々あり,そのような緊急事態を前に原因治療のみで挑むということは少々無理がある.そのため,多くの場合で原因治療と対症療法の併用を行う.実際の処方例を示す(表 1).点眼がC3薬以上になることもあるが,その際点眼薬と点眼薬の間隔を「5分間開ける」のではなく「5分以上(可能な限り長く)開ける」ことが一つ一つの点眼薬のポテンシャルを生かすために重要と考えている.以上のことから,ぶどう膜炎続発緑内障に対する薬物療法としては,私なら強いステロイド点眼薬による原因治療と,炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤による対症療法の併用で臨むことが多い.また,これは賛否の分かれるところではあると思うが,私なら,ステロイド点眼薬を併用するのであれば,眼圧は下げたいものの,点眼回数が多くなることが治療にマイナスに働くと判断されるような場合については,点眼回数がC1回ですむプロスタノイド受容体関連薬,またはプロスタノイド受容体関連薬と交感神経Cb遮断薬の配合点眼薬も選択肢として検討する.C

III ぶどう膜炎続発緑内障に対する手術治療 1, 手術のタイミングぶどう膜炎続発緑内障の治療において,薬物治療から
1240  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025(22)表 1 ぶどう膜炎続発緑内障の処方例ぶどう膜炎活動性 眼圧上昇 原因治療 対症療法C ─ ++(3C0CmmHg以上) リンデロンCA中止 なし,またはCb-CAIをC2回 +  ±(2C0CmmHg未満) リンデロンCA3回 なし +~++ +(20~3C0mmHg) リンデロンCA4回 なし,またはCb-CAIをC2回 ++ ++(30~4C0mmHg) リンデロンCA6回C b-CAIをC2回 ++ +++(4C0CmmHg以上) リンデロンCA6回C b-CAIをC2回グラアルファをC2回 
リンデロンCA:ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩液,b-CAI:Cb-遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤,グラアルファ:リパスジル塩酸塩水和物/ブリモニジン酒石酸塩配合点眼液.-

高眼圧症および前視野緑内障の進展予測と管理戦略

2025年10月31日 金曜日

高眼圧症および前視野緑内障の進展予測と管理戦略─構造変化を捉えた早期診断とリスク層別化に基づく治療判断─Management Strategies for Ocular Hypertension and Preperimetric Glaucoma:From Early Structural-Based Diagnosis toRisk-Strati.ed Treatment野川千晶* 三木篤也*はじめに緑内障は,視神経乳頭の陥凹拡大や網膜神経線維層(retinal nerve.berlayer:RNFL)の菲薄化などの構造的変化を伴い,最終的に視野障害をきたす進行性で不可逆的な視神経疾患である1).一度失われた視機能を回復させる有効な方法はなく,早期に病態を把握し,適切な介入を行うことが視機能の長期維持につながる.日本緑内障学会の緑内障診療ガイドライン第 5版では,高眼圧症(ocularhypertension:OHT)を「眼圧上昇を認めるが視神経乳頭または視野に緑内障性変化を認めない状態」,前視野緑内障(preperimetric glaucoma:PPG)を「視神経乳頭または光干渉断層計(optical coherencetomograph:OCT)で緑内障性変化を認めるが,標準的な視野検査において異常を認めない状態」と定義している2).米国眼科学会(American Academy ofOphthalmology:AAO)や欧州緑内障学会(European GlaucomaSociety:EGS)のガイドラインでもおおむね同様の定義が採用されており,視野異常の有無よりも構造的変化の存在が診断上の重要な指標とされる.OHTと PPGはいずれも自覚症状に乏しく,経過観察中に初めて機能障害が明らかになることも多い.ガイドラインでは,OHTはハイリスク例に限定して治療介入を推奨し,PPGは原則経過観察としながらも進行のリスクが高ければ早期治療を検討すべきとされる2).しかし,具体的な治療開始の基準は明確ではなく,臨床医が個々の症例に応じて判断する必要がある.本稿では,OHTおよび PPGの定義,疫学,リスクファクター,治療介入の判断基準,画像診断の活用について,近年のエビデンスと症例を交えて述べる. 
I OHTの定義と疫学
OHTは,視神経乳頭や視野検査で緑内障性変化を認めず,統計的正常上限(おおむね 21 mmHg)を超える眼圧を示す状態と定義される2).正常眼圧の上限値は集団平均+2×標準偏差として求められた数値であり,日本人の眼圧分布からは 21mmHg前後が目安となる.AAOガイドラインでは,OHTは「眼圧が統計的上限を超え,緑内障性視神経障害や視野異常を伴わない状態」と定義され3),EGSもほぼ同様の基準を示している4).疫学的には,日本人では正常眼圧緑内障(normal ten-sionglaucoma:NTG)が緑内障全体の大多数を占めているが,OHTの有病率は 3~5%と報告されている5,6).一方,欧米では OHTの割合が高く,とくに白人集団では全緑内障の約半数が高眼圧例から発症するとされる7).この人種差は,角膜厚や眼球形態の差異,遺伝的背景,眼圧測定値の分布に起因すると考えられている.OHTが必ずしも緑内障へ進展するわけではないが,放置すれば一定割合が原発開放隅角緑内障(primaryopen-angle glaucoma:POAG)に移行する.Ocular Hypertension TreatmentStudy(OHTS)では,無治療群の 5年間累積発症率は 9.5%と報告しており7),これ*Chiaki Nogawa & AtsuyaMiki:愛知医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕 野川千晶:〒480-0015愛知県長久手市岩作雁又 1-1 愛知医科大学眼科学講座(1)(13) 12310910-1810/25/\100/頁/JCOPY 表 1 高眼圧症における緑内障発症のリスクファクター・高齢・高眼圧・垂直CC/D比が大きい
・垂直CC/Dの左右差・CCTが薄い・PSDが大きい・乳頭出血

ab 

cd 

図 1 初診時の緑内障 OCTおよび Goldmann視野検査の所見 a, b:初診時のCGoldmann視野検査.右眼(Ca)は明らかな視野障害なし.左眼(Cb)は中心視野障害および耳側にかけて視野欠損を認める.c, d:初診時の緑内障COCT.右眼(Cc)は明らかな視神経線維層の菲薄化なし.左眼(d)は著明な視神経繊維層の菲薄化あり.
60 50 40 30 20 10 

右眼眼圧(mmHg)左眼眼圧(mmHg)図 2 初診時からの両眼圧の経時的変化右眼CSLT後も眼圧は不十分であり,線維柱帯切開術後に良好な眼圧コントロールを得た.表 2 前視野緑内障から緑内障に進行するリスクファクター・RNFLやCGCCの進行が速い・平均眼圧が高値・眼圧の変動・家族歴・強度近視・乳頭出血===a  b  図 3 HFA24-2および緑内障 OCTにおける経時的変化 a:CHFA24-2のグレースケール画像における約半年ごとの経時的変化.C2024年C1月C16日の検査より,鼻下側から鼻側へ広がる階段状の視野障害(nCasalstep)が出現している.Cb:緑内障COCTにおける黄斑部CGCCマップの経時的変化.2C022年C7月C15日の時点で,黄斑部耳上側に限局したCGCCの軽度な菲薄化を認め,temporalCrapheCsignを示していた.C 
依然として異常を認めなかったことから,右眼CPPGと診断し,引き続き無治療での経過観察を継続した.2024年C1月の視野検査において,右鼻上部に鼻側階段様の視野欠損を初めて認め,その後の検査でも同部位に一致した再現性のある視野障害(nasalstep)を確認した.これをもって,2025年C4月に右眼CNTGと診断し,プロスタグランジン関連薬による点眼治療を開始した.本症例は,OCTで捉えられた軽度の構造的異常が約1年後に機能的異常として視野に出現した,いわゆる構造変化が機能変化に先行した症例であった.とくにGCC厚の変化は,網膜神経節細胞の変化を早期に捉える感度の高い指標であり,黄斑部COCTによる経時的評価は,PPGの診断および進行評価において非常に有用であると考えられる.本症例のように,視野異常が出現する以前の段階で構造的変化が確認される場合には,進行リスクの評価に基づき,治療介入のタイミングを見きわめる必要性がある.おわりにOHTおよびCPPGは,視野障害を認めないものの,進行性の視神経障害を有する可能性のある病態である.とくにCPPGにおいては,構造的評価による早期発見が重要であり,OCTを用いた定期的な観察が診療の要となる.治療介入の判断にあたっては,進行性変化の有無に加え,個々のリスクファクターを総合的に評価することが求められる.今後は,構造的・機能的評価を統合した診断法の確立が求められており,AI技術を用いたCOCT画像解析や視野パターンの自動検出など,次世代の診断支援ツールの実用化が進みつつある.PPGの概念は,構造評価技術の進歩とともに進化しており,今後はより洗練された診断基準と患者ごとの治療戦略が臨床に浸透していくと考えられる.文   献
1)WeinrebCRN,CAungCT,CMedeirosCFA.CTheCpathophysiologyCandCtreatmentCofglaucoma:aCreview.CJAMAC311:1901-1911,C20142)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌C126:85-177,C20223)AmericanCAcademyCofCOphthalmology.CPrimaryCopen-angleCglaucomaCsuspect:PreferredCPracticeCPatternR.COphthalmologyC127:151-210,C2020
4)EuropeanCGlaucomaSociety:TerminologyCandCGuidelinesCforCGlaucoma,C5thCedition.CPubliComm,CSavona,C2020
5)IwaseCA,CSuzukiCY,CAraieCM,CYamamotoCTetal;TajimiStudyCGroup:TheCprevalenceCofCprimaryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C2004
6)NakanoCT,COkamotoCN,CIkedaCYCetal:GlaucomaCpreva-lenceCandCriskCfactorsCinCaJapaneseCpopulation:theCHisayamaCStudy.COphthalmology112:1633-1637,C2005
7)KassCMA,CHeuerCDK,CHigginbothamCEJCetal:TheCOcularCHypertensionCTreatmentCStudy.CArchCOphthalmolC120:C701-713,C2002
8)MigliorCS,CPfei.erCN,CTorriCVCetal;EuropeanCGlaucomaCPreventionStudy(EGPS)Group:PredictiveCfactorsCforCopen-angleCglaucomaCamongCpatientsCwithCocularChyper-tensionCinCtheCEuropeanCGlaucomaCPreventionCStudy.COph-thalmologyC114:3-9,C2007
9)MigliorCS,CZeyenCT,CPfei.erCNCetal;EuropeanCGlaucomaPreventionCStudy(EGPS)Group:ResultsCofCtheCEuropeanCGlaucomaCPreventionCStudy.COphthalmologyC112:366-375,C2005

10)GordonCMO,CBeiserCJA,CBrandtCJDCetal:TheCOcularHypertensionCTreatmentStudy:baselineCfactorsCthatCpre-dictCtheConsetCofCprimaryCopen-angleCglaucoma.CArch Oph-thalmolC120:714-720,C200211)Kerrigan-BaumrindCLA,CQuigleyCHA,CPeaseCMECetal:CNumberCofCganglionCcellsCinCglaucomaCeyesCcomparedCwithCthresholdCvisualC.eldCtestsCinCtheCsameCpersons.CInvestCOphthalmol Vis SciC41:741-748,C200012)BudenzCDL,CAndersonCDR,CFeuerCWJCetal;OcularCHypertensionCTreatmentCStudyGroup:DetectionCandCprognosticCsigni.canceCofCopticCdiscChemorrhagesCduringCtheCOcularCHypertensionCTreatmentCStudy.COphthalmologyC113:2137-2143,C200613)SawadaCA,CManabeCY,CYamamotoCTCetal:Long-termCclinicalCcourseCofCnormotensiveCpreperimetricCglaucoma.CBr J OphthalmolC101:1649-1653,C201714)MikiCA,CMedeirosCFA,CWeinrebCRNCetal:RatesCofCretinalCnerveC.berClayerCthinningCinCglaucomaCsuspectCeyes.COph-thalmologyC121:1350-1358,C201415)JeongCSH,CParkCKH,CKimCDMCetal:PreperimetricCnor-mal-tensionglaucoma:long-termCclinicalCcourseCandCe.ectCofCtherapeuticCloweringCofCintraocularCpressure.CActa OphthalmolC92:e185-e193,C201416)HeijlCA,CLeskeCMC,CBengtssonCBCetal;EarlyCManifestCGlaucomaCTrialGroup:ReductionCofCintraocularCpressureCandglaucomaCprogression:resultsCfromCtheCEarlyCMani-festCGlaucomaCTrial.CArchCOphthalmolC120:1268-1279,C2002C1236  あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025(18)

緑内障の病診連携,紹介のタイミング

2025年10月31日 金曜日

緑内障の病診連携,紹介のタイミング Hospital-Clinic Collaboration and Timing of Referrals in Glaucoma Treatment本庄 恵*
はじめに緑内障は 40歳以上の 5%が罹患しているとされており,今後の高齢化に伴いさらなる有病率の増加が予想され,また,わが国における中途失明原因 1位の眼疾患でもある.基本的には慢性疾患であるため,緑内障患者の多くは地域のクリニックで診断と治療を受けており,必要時に行う観血的治療として緑内障手術を施行している大学病院や基幹病院,眼科専門施設で管理されている緑内障患者ははごく一部である.近年,機能選択的視野検査,そして網膜神経線維層の菲薄化や網膜神経節細胞層の減少を鋭敏に検出する光干渉断層計(optical coherence tomograph:OCT)が開発され,緑内障の早期診断・早期治療が可能となってきた.眼底検査に OCTを組み合わせることで緑内障の診断精度は向上している.緑内障患者の治療・管理は,若年層からの診断と高齢化を背景に必然的に長期化しており,クリニックですべての患者に対する十分な緑内障管理は困難であることから,病診連携が非常に重要となっている.クリニックのもっとも重要な役割は,緑内障の早期発見と適切な治療導入,そして治療脱落の防止,適切な治療強化時期の見きわめであり,病院のそれは適切な観血的治療介入およびクリニックとの連携保持であると考える.いずれにしても,個々の患者にとって適切な治療選択を提案できる関係性が必要である.
I 紹介を考えるタイミング
地域の眼科クリニックにおいては,患者の「かかりつけ医」として,日常的な経過観察や薬物治療の管理,生活指導を担い,継続的な信頼関係を築くことが長期的な緑内障治療の成功の鍵である.緑内障患者を診断し,治療開始・継続していくなかで,治療変更・強化を検討すべきか悩むポイントがあるが,これは病院への紹介を考えるタイミングともいえる(図 1). 1. 緑内障の発見・診断・治療開始時
一般に,緑内障の診断がつけば治療を開始するが,緑内障では眼圧下降治療が唯一エビデンスのある治療である.眼圧下降治療には薬物,レーザー,手術といった選択肢があるが,レーザーを含む観血的治療には合併症の危険性があることから,一般的に緑内障治療の第一選択は薬物療法である.閉塞隅角や続発緑内障など,治療可能な眼圧上昇の原因がある場合には,原因治療をまず行う.観血的治療が必要,あるいは続発緑内障や著明な高眼圧で薬物のみでの対応がむずかしいと考えられる場合は,早めの紹介も検討すべきである.また,クリニックでの緑内障診断・治療開始に悩むケースでも紹介がありうる.一般的な開放隅角緑内障(open angle glaucoma:OAG)の場合は,眼底検査・OCTで緑内障性視神経障害を認め対応する視野障害があれば,典型的症例で緑内障診断を迷うことは比較的少*Megumi Honjo:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕 本庄 恵:〒113-8655 東京都文京区本郷 7-3-1 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学(1)(5) 12230910-1810/25/\100/頁/JCOPY ①緑内障の発見診断・治療開始時②点眼薬による初期治療開始後・管理期(点眼ボトルの増加)③進行スピード・重症度の評価(手術検討)④患者教育とアドヒアランス(治療継続性)の維持と向上
良好
無点眼1ボトル→2ボトル→3ボトル→4ボトル手術後の点眼は経過や術式に応じて検討 SLT流出路再建術濾過手術不良
図 1 緑内障診療でクリニックから専門施設への紹介を考えるポイント・時期
(+)(-)
(-)(+)

(+)(-)

視神経所見・視野所見の悪化
目標眼圧変更

* 副作用やアドヒアランスも配慮する図 2 原発開放隅角緑内障(広義)の薬物治療方針(文献 1より引用)
図 3 症例 156歳,男性.初診時.右眼視力C0.1(1.0C×.2.5D),左眼視力C0.2(0.9C×.2.75D).右眼/左眼眼圧C12.18CmmHg.FP受容体作動薬(FP)/Cb遮断薬(Cb)+炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)/Ca2受容体作動薬(Ca2)(4成分).点眼中.で年間.0.3CdBは進行するという報告もある2).点眼をCfull medicationにしても進行が抑制できない患者は一定数存在するが,.0.3.C.0.5dB/年までの進行であれば,紹介しても手術まで至るかどうかは,リスクとデメリットをよく理解したうえで,患者の希望によると考えられる.ただし,全体としての視野進行は緩やかでも,視力に直結する中心窩閾値の進行,傍中心固視点C4点やC10-2での感度低下にも注意が必要である.濾過手術による眼圧下降は中心視野進行には有効であったとする報告が多く,中心視野に関しては,30-2で進行が緩やかでも10-2で有意な進行がみられる症例もあるため,症例によっては手術適応を検討する必要がある3).また,角膜厚は現在緑内障での測定は保険適用ではないが,薄い角膜の場合進行しやすく,正確な眼圧評価がむずかしいため,進行症例では確認しておくことが望ましい.症例1(図 3)は白内障術後だが,元々は強度近視であり,角膜厚がC480Cμm程度と薄いなかで,眼圧がC12.18CmmHg程度と変動する症例で,進行が速いことから紹介受診したC50代男性である.Humphrey視野C30-2で進行が速いのは左眼だが,右眼も中心視野は進行しており,これまでC10-2の評価が行われていないために正確な進行は把握できないが,自覚的に両眼とも視野進行しているとのことで,両眼とも手術適応と考えられた.この症例の紹介時には,詳細な眼圧経過が不明なことと,中心視野障害の経過がわからないことが手術適応の検討のなかでは判断がしにくく,不足している情報と考えられた.C
4. 患者教育とアドヒアランス(治療継続性)の維持と向上点眼のアドヒアランス不良は緑内障の進行に著しく関与する.緑内障は末期になるまで自覚症状がないため,アドヒアランス不良の患者は多数存在し,一部の症例はそのために進行してしまう.手術を依頼する施設との連携診療を行うことで,紹介をきっかけに患者の病識をたかめ,アドヒアランスの維持と向上につなげるのはよいオプションの一つといえる(図 1).緑内障患者では視野障害,とくに下方の視野障害が進行していると点眼成功率が有意に低いこと,高齢の患者では後彎症などの影響から座位での点眼がむずかしく,そういった場合には仰臥位のほうが成功率を良好にできることが報告されており,患者ごとに適切な点眼指導が望ましい4).点眼指導はなかなか病院レベルでは行えないため,クリニックでのきめ細やかな指導は緑内障治療の成功のために重要である.使用薬剤数がアドヒアランス不良に大きく影響すると報告されていることから,「患者が実行可能な」点眼本数,点眼回数での眼圧下降を模索することが大切である.また,点眼による充血やアレルギーもアドヒアランス低下につながりやすい.眼圧下降の必要性との兼ね合いで,ある程度患者ごとに忍容性は異なるため,副作用が過剰に出てしまっている場合も,病診連携での紹介により新しい視点で点眼整理などをするのはよい選択肢といえる.症例2(図 4)は視野変化はそこまで顕著ではないが,眼圧が高めとのことで,クリニックで多剤併用点眼が施行されているなかで,手術適応検討で紹介されたC60代女性である.強い結膜充血を認め,自覚的にも違和感が強い状態であった.角膜厚が厚めであり,まだ緑内障性変化が初期であることから,点眼C4成分をC2成分としたところ結膜充血は軽快し,眼圧上昇も認めていない.現時点では積極的な眼圧下降はそこまで必要ではないため,手術検討は経過をみて再度検討することとした.C

II 病診連携のために必要な情報
緑内障患者を紹介する際に必須な情報として,①視力,②眼圧経過(できればグラフ),そして③視野の経過がある.視力については,長期の経過でレフ(屈折)値の変化があればそれも記載,また白内障手術後であれば,術前のレフ値もわかれば望ましい.②眼圧経過は,ベースライン眼圧(わかれば),点眼変更のなかでの傾向,変動の有無・範囲,測定方法〔ノンコン(非接触型眼圧計)かCGoldmann眼圧計(GoldmannCapplanationCtonome-try:GAT)か〕の記載があると参考になる.③視野の経過については,直近C3年分の視野検査結果に加え,視(9)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1227 a 

b

図 4 症例 2 a~c:60代,女性.右眼眼圧C30mmHg,左眼眼圧C24CmmHgとのことで紹介受診.Cb:初診時右眼眼圧C20mmHg,左眼眼圧C18CmmHg.点眼はCFP/Cb+CAI/a2.角膜厚C570/590.点眼をCFPのみに変更(防腐剤フリー).c:1カ月後.右眼眼圧C18mmHg,左眼眼圧C18mmHg.
図 5 私の緑内障日記と眼圧記録カード
(緑内障フレンドネットワーク・参天製薬より許可を得て転載)

序説:緑内障の治療開始・治療変更のメルクマール─私ならこうする─

2025年10月31日 金曜日

緑内障の治療開始・治療変更のメルクマール─私ならこうする─Milestones for Starting and Changing Glaucoma Treatment:Here’s What I Would Do中野 匡* 大久保真司**
緑内障の有病率は 40歳以上で 5%1,2)とされ,今後の高齢化に伴い,さらなる有病率の増加が予想される疾患である.光干渉断層計(optical coherence tomograph:OCT)の普及に伴い,より早期に緑内障が診断されるようになってきており,さらに平均寿命が延び,人生 100年時代を迎えた現在,緑内障の管理すべき期間が長期化してきており,今後もこの傾向は続くと思われる.そうした緑内障の治療開始や治療変更のタイミングは,多くの先生が悩まれる点であろう.また,緑内障の大部分を占める(広義の)原発開放隅角緑内障(primary open angle glaucoma:POAG)のみならず,緑内障には,閉塞隅角緑内障やぶどう膜炎による続発緑内障など多くの原因と病型が存在し,それぞれで治療方針が大きく異なる.緑内障ガイドライン3)に基本的な流れや考え方は示されているものの,治療選択肢が増加した現在では,専門家間においても考え方が微妙に異なる場合や,患者の年齢や状態,生活環境も治療選択に影響を与えていると思われる.また,自施設だけではすべての病型,病期に対応することは現実的ではなく,大学病院や緑内障を専門とする基幹病院のみですべての緑内障患者の管理をすることも不可能である.そのため,緑内障の長期管理においては病診連携がきわめて重要である.本特集では,まず東京大学の本庄恵先生に,緑内障の病診連携と緑内障専門病院や大学病院への紹介のタイミングについて,治療変更のタイミングとあわせてご解説いただいた.ここでは,紹介のタイミングのみならず,病診連携や手術適応決定の際に必要な情報や,手術前後の病診連携についても詳しくまとめていただいた.この特集の総論的にまず読んでいただきたい内容である.また,眼圧は高値であるにもかかわらず,視神経乳頭や視野検査では緑内障性変化がみられない高眼圧症は,以前から治療の開始時期が悩ましい問題であった.また,OCTの普及により,通常の視野検査では異常を検出できない前視野緑内障が多く発見されるようになってきたために,前視野緑内障の治療開始時期に迷う機会も増えてきたことと思われる.愛知医科大学の野川千晶先生と三木篤也先生に,前視野緑内障および高眼圧の治療のタイミングについて,緑内障ガイドライン3)にも触れながら,リスクファクターに基づいた管理戦略をわかりやすく解説いただいた.続いて,聖マリアンナ医科大学の徳田直人先生に,ぶどう膜炎による続発緑内障に対する治療方針について,炎症を抑える治療と眼圧を下げる治療の基本的な考え方,ステロイドの使い方,緑内障点眼
*Tadashi Nakano:東京慈恵会医科大学眼科学講座

**Shinji Okubo:おおくぼ眼科クリニック,金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学

0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1) 1219 の開始および薬剤選択・変更追加,手術の選択につき詳しく解説いただいた.神戸市立神戸アイセンター病院の吉水聡先生には,原発閉塞隅角病の治療戦略について,原発閉塞隅角症疑い(primary angle closuresuspect:PACS),原発閉塞隅角症(primary angle closure:PAC)ならびに原発閉塞隅角緑内障(primary angle closureglaucoma:PACG)のそれぞれの病期別の治療適応,隅角閉塞のメカニズムごとにおける治療選択,急性発作への対応について,緑内障ガイドライン3)とその根拠となる論文に基づいてわかりやすく解説いただいた.また,緑内障診療を行うに際して,必ず考えなくてはならない,点眼変更および追加のタイミングと注意点および観血的治療を考慮すべきタイミングについて,グレース眼科クリニックの内藤知子先生にわかりやすくまとめていただいた.さらに,2019年に POAGまたは高眼圧症の第一選択治療として,点眼薬と選択的レーザー線維柱帯形成術(selective lasertrabeculoplasty:SLT)を比較した laser in glaucoma and ocular hyperten-sion(LiGHT)trial4)が Lancetに報告されて以来,英国で第一選択の治療になってきている SLTについて,その有効性および安全性についてまとめていただき,どのように SLTを活用するかを,NTT東日本札幌病院の片井麻貴先生に解説いただいた.緑内障手術が必要であるものの,全身状態や認知機能の低下などの理由で内眼手術が行えない症例は一定数存在する.以前は,そのような症例にのみ毛様体光凝固術が行われてきたと思われるが,以前より侵襲の少なくなったマイクロパルス経強膜毛様体光凝固は観血手術前の比較的初期の段階で行われるようになったり,房水産生能が旺盛と考えられる若年の POAGや小児緑内障などにも侵襲の少ない内視鏡的毛様体光凝固が行われるようになってきている.島根大学の谷戸正樹先生に選択肢の多くなってきた毛様体光凝固術に関して,現在日本で行われているマイクロパルス経強膜毛様体光凝固,内視鏡的毛様体光凝固,連続波経強膜毛様体光凝固について,それぞれの特徴と使いどころ,注意すべき点について詳しく解説いただいた.近年では,緑内障手術においてさまざまなデバイスや術式が登場してきており,そのなかでも従来の濾過手術に比べて侵襲が少ない低侵襲緑内障手術(minimally invasive glaucoma surgery:MIGS)がわが国でも急速に普及し,適応が広がってきている.一方で,プレートのあるチューブシャント手術も増加傾向にある.しかし,さまざまな手術が登場し,普及した現在においても従来からの線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)が必要な症例も一定数存在する.そこで,神戸大学の奥住奈南美先生と盛崇太朗先生に,プリザーフロマイクロシャントを含めた MIGSの種類とその特徴ならびに適応と課題を,熊本大学の井上俊洋先生に,流出路再建術の限界とトラベクレクトミーなどの濾過手術の適応,トラベクレクトミーとプレートのあるチューブシャント手術の有効性と安全性の比較を通して,トラベクレクトミーが必要である理由およびその問題点を,広島大学の廣岡一行先生に,チューブシャント手術の適応および Ahmed緑内障バルブと Baerveldt緑内障インプラントの使い分けについて詳しく解説いただいた.本特集により,最新の緑内障治療について整理し,明日からの緑内障診療に少しでも役立てていただければ幸いである.文   献1)Iwase A, Suzuki Y, Araie M et al:The prevalence of pri-mary open-angle glaucoma inJapanese:The Tajimi Study. Ophthalmology 111:1641-1648, 2004
2)Yamamoto T, Iwase A, Araie M et al:The Tajimi Study report 2:prevalence of primary angle closure and sec-

1220  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025(2)

Paul Glaucoma Implant の短期臨床経験(予報)

2025年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科42(9):1206.1210,2025cPaulGlaucomaImplantの短期臨床経験(予報)千原悦夫千原智之千照会千原眼科CShort-termClinicalOutcomesafterPaulGlaucomaImplantSurgery-APreliminaryReportEtsuoChiharaandTomoyukiChiharaCSensho-kaiEyeInstituteC2023年C11月.2024年C12月の間に新しい緑内障ロングチューブインプラントであるCPaulCGlaucomaCImplant(PGI)を難治性緑内障の17例17眼に挿入し,その眼圧下降に関する手術成績を187眼のBaerveldtCGlaucomaImplant(BGI)の成績と比較した.術前C4.4剤の抗緑内障内服・点眼薬の使用下にC35.5±9.2CmmHgであった眼圧がC3カ月後にはC13.4±5.2CmmHg,6カ月後にはC16.8±6.0CmmHgに下がり,BGIの手術成績と遜色なかった.術後低眼圧による浅前房や脈絡膜.離はC11.8%にとどまった.PGIは術後深刻な低眼圧を起こす可能性が低く,眼圧の下降効果はBGIと有意差がないので今後有望な緑内障インプラント手術になると思われる.CPurpose:Toassessandcomparetheshort-termsurgicaloutcomesbetweenthePaulGlaucomaImplant(PGI,AdvancedCOphthalmicInnovations),CaCnewClong-tubeCglaucomaCdrainageCdevice,CandCtheCBaerveldtCGlaucomaImplant(BGI)forthereductionofintraocularpressure(IOP).SubjectsandMethods:Inthisstudy,wereviewedthepreliminaryoutcomesin17eyesof17refractoryglaucomapatientsinwhichPGIsurgerywasperformedfromNovember2023toDecember2024.Surgicaloutcomeswerecomparedwiththosein187eyesthatunderwentBGIsurgery.CResults:Preoperatively,CtheCmeanCIOPCunderCtheCuseCofC4.4CantiglaucomaCmedicationsCwasC35.5±9.2CmmHg.At3and6monthspostoperatively,meanIOPhaddecreasedto13.4±5.2CmmHgand16.8±6.0CmmHg,respectively,comparativetotheIOPreductionsobservedintheeyesthatunderwentBGIsurgery.TheincidenceofCpostoperativeCcomplications,CsuchCasCaCshallowCanteriorCchamberCandCchoroidalCdetachmentCdueCtoChypotony,Cremainedat11.8%.Conclusion:Our.ndingsshowthatPGIsurgerye.ectivelyreducesIOPtoalevelcomparablewiththatofBGIsurgery,andwithalowriskofpostoperativecomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(9):1206.1210,C2025〕Keywords:ポール緑内障インプラント,難治性緑内障,濾過手術,術後成績,合併症.PaulCGlaucomaCImplant,Crefractoryglaucoma,.lteringsurgery,surgicaloutcome,complications.Cはじめに緑内障の観血手術は濾過手術と流出路手術に大別されるが,近年はいずれの手術も変革の時期を迎えている.濾過手術に関して,過去にはゴールドスタンダードといわれてきたトラベクレクトミーの手術件数が世界的に激減した.米国を例にとるとC9年ごとに手術件数が半減しており,1994年にはC63,278件であったものがC2003年にはC36,758件になり,2012年にはC18,007件へとC7割以上減った.この傾向は米国だけでなく,中国,カナダ,オーストラリア,韓国などでも同じである1,2).2021年には米国CMedicareのチューブ手術がC13,360件に対し,トラベクレクトミーはC8,320件まで減り,数の上でもチューブ手術に凌駕された3).このように激減する理由はいくつかあるが,術後処置が煩雑であることに加え,また,術後合併症が非常に多いということも理由の一つにあげられる,わが国で行われたCCBIITSstudyの結果に示されるように,術後C5年内の濾過胞感染の頻度はC2.2%であり4),手術後視力が低下する可能性はC43.9%にも達する5,6).濾過手術後の低眼圧は術後視力低下の一要因であるが7),その術後低眼圧の頻度はC30.9%に達し8),眼内炎による失明の頻度はC5年でC0.24.0.36%と報告されている9).濾過胞によ〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043京都府宇治市伊勢田町南山C50-1千照会千原眼科Reprintrequests:EtsuoChihara,M.D.,Sensho-kaiEyeInstitute,Minamiyama50-1,Iseda,Uji,Kyoto611-0043,JAPANC1206(126)る合併症はC5年で終わるものではなく,濾過胞がある限り10年,20年と続くものであり,患者の負担ははかり知れない.1968年のCCairnsによる報告以来C60年にわたって合併症を防ぐために種々の工夫がなされ結膜縫合法,強膜弁の形や縫合方法,5-フルオロウラシル(.uorouracil:FU)やマイトマイシンCC(MitomycinC:MMC)をはじめとする瘢痕抑制薬が導入され,術式は改善されてきたはずであるが,未だに日本における失明原因のなかで緑内障が占める割合が圧倒的な一位であるという事実10)は,従来の方法による緑内障治療の限界を示すものである.このようにトラベクレクトミーには種々の問題があるので,その欠点を補うためのデバイスとして緑内障インプラントが発達した,古くは馬の毛から始まる種々のCSetonが試みられたのであるが成功せず,その後チューブが開発されてきた.現代型のチューブとプレートからなるデバイスを開発したのはCMoltenoであり,その他にもCACTSEB,White,Krupin-Denver,Jacob,Drake,などが開発されては消えていった.現在日本で使われているのはプレートがない第C2世代としてCPreserFloとCEx-PRESSがあり,プレートとチューブがある第3世代としてはAhmedCGlaucomaCValve(AGV),BaerveldtCGlaucomaImplant(BGI),AhmedClearPath(ACP)が使用されている.これらのインプラント類の改良は現在も続いており,従来型で細かな修正がされる一方,新しいデザインのものが開発されており,PaulCGlaucomaImplant(PGI)もそのうちの一つである.今回はPGIの治療成績について検討した.CI国内未承認の医療器材の扱いPGIは国内未承認のデバイスであるので,筆者らは使用にあたって厚労省の未承認薬・医療器機の個人輸入に関する通達:薬生監麻発0331第1号(令和2年9月11日改正)と指導に従い,京都府庁薬務課を介して近畿厚生局に薬監証明を提出してデバイスを入手した.CIIPGIについてPGIはシンガポールのCPaulChew教授が開発し,2018年に販売開始されたチューブとプレートからなる第C3世代の緑内障治療用のロングチューブであり11),現在日本における医療材料としての認可をめざして申請中である.すでにヨーロッパのCCEマークを取得し,米国食品医薬品局(foodCandCdrugadministration:FDA)の認可を得ており,日本眼科学会雑誌を含めて多くの報告がなされている12,13).いわゆるCnon-valvedimplantに属し,材質はシリコーンであるのでCBGIと同類であるが,いくつかの改良がなされている.第一の特徴はチューブの内径が細いということでCAGVではチューブの外径はC0.635Cmmと内径はC0.305Cmmで断面積が0.0706CmmC2になっているのに対しPGIは外径が0.467Cmm,内径がC0.127Cmmで断面積がC0.0127CmmC2となっている.ちなみにCPreserFloの外径はC0.350Cmm,内径がC0.07Cmmで断面積がC0.0038CmmC2である.PGIは通常C6-0プロリン糸を挿入して使用するが,その場合の残存空間である有効断面積はC0.0071Cmm2となる.このことがロングチューブの問題点の一つであった術後低眼圧の軽減につながった.第二の特徴は改良されたプレートの形状である.エンドプレートの大きさは横幅がC21.9Cmm,縦幅がC16.1Cmm,厚さがC0.95mmとなっており,BGIにおけるC32mm,15mm,0.9mm,あるいはCAGVにおけるC13mm,26mm1.0mmとは異なった形状をしている(図1).表面積はCBGI350がC350Cmm2,AGVFP7がC184CmmC2なのに対してCPGIはC342CmmのC1タイプである.エンドプレートはCABCStudyで示されたように大きいほど眼圧下降効果が強いと考えられており14),PGIはCBGIとほぼ同じのプレート面積をもつのでこれに近い眼圧下降効果があると考えられている.プレートの形状にも工夫がされており,筋肉などで覆われる部分は濾過腔が形成されにくいと考えられているので,直筋の下に入り込む部分が少なくなるようにデザインしてある,実際の眼圧下降に寄与する部分を有効面積(e.ectiveCsurfacearea:ESA)というが,この面積はCBGI350がC246.85CmmC2,AGVがC184CmmC2であるのに対してCPGIはC305.42CmmC2でもっとも大きい.第三の特徴はプレート内に作られた房水貯留空間である.これに似たコンセプトはCMolteno3でみられるようなCridgeで囲まれた房水貯留部分であるが,PGIではプレート表面から膨隆することなく陥凹するようになっている.プレート周囲に形成される被.はエラスチンを含み,収縮能があるので,縮むことによってプレート上に空間を作るように作用すると思われる.CIII対象と方法対象は,少なくともC1回の緑内障手術を受け,眼圧コントロールができないいわゆる難治性緑内障で,緑内障のタイプは落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)4眼,EXGを除く続発緑内障C5眼,血管新生緑内障(neovascularCglauco-ma:NVG)3眼,先天緑内障C1眼,原発開放隅角緑内障C4眼である.本研究はヘルシンキ宣言に則り,さらに院内倫理審査委員会(institutionalCreviewboard:IRB)(座長天野)の承認(C2023-R3)を受けるともに,被検者に対してはインプラント手術によって起こりうる事態を説明し,インフォームド・コンセントを取得して治療にあたった.基礎データは表1に示すとおりである.男女比は男性C9名・女性C8名,経過観察期間はC187C±118日である.挿入部図1PaulGlaucomaImplantの概観図表1PGIとBGI手術を受けた症例の基礎データ年齢手術既往数術前点眼内服数術前小数視力屈折(Diopter)視野(MD)CPGICnC17C17C17C17C6C9平均±SDC63.2±17.9C2.5±1.4C4.4±1.5C0.44±0.47C.4.0±2.5C.16.3±11.2CBGICnC187C187C187C140C28C75平均±SDC62.8±14.5C2.6±1.9C4.2±1.2C0.54±0.46C.3.4±4.0C.17.5±10.8CANOVACpC0.912C0.770C0.449C0.381C0.703C0.757MD:meanCdeviation,PGI:PaulCGlaucomaCimplant,SD:standardCdeviation,BGI:BaerveldtCGlaucomaImplant,ANOVA:analysisofvariance.位は外耳側C11眼,鼻下側C4眼,鼻上側C1眼,耳下側C1眼,毛様溝挿入C14眼,前房挿入C1眼,経扁平部硝子体腔内挿入2眼である.全例保存強膜を使用し,結膜瘢痕の強さは高度3眼,中等度C5眼,軽度C7眼,なしC2眼である.右眼C6,左眼11,屈折はC11眼が偽水晶体あるいは無水晶体眼でデータがなく,残りのC6眼はC.4.0±2.5Dの近視であった,視野はC8眼がC0.05以下の視力で測定困難であり,残りのC9眼はHumphrey視野検査のCmeandeviation(MD)がC.16.3±11.2CdBで,最終観察時における眼圧はC15.1C±9.5CmmHgであった.術前角膜内皮細胞密度はC1,870C±542/mm2である.PGIの術式:①麻酔は局所麻酔であり,2%キシロカインを結膜下とCTenon.下に注射した.筋肉を触る際には痛みが強いので直筋の周囲には念入りに麻酔を行った.②原則,耳上側(耳上側が瘢痕化して使えない場合は鼻下側を第二選択にした)100°の輪部切開を行い,2直筋を露出してC4-0絹糸による牽引糸を通糸する.③強膜を露出して十分に周囲組織を廓清し,PGIのプレート部分をここに挿入し,チューブ内にC6-0プロリン糸を挿入してからプレートを強膜に縫着固定する.筆者らはプレートの前縁が輪部からC7.8Cmm後ろに来るようにしており,固定糸としてC5-0ダクロン糸を用いているがオリジナルは8-0ナイロン糸を使用している.④チュ.ブを前房に入れる場合は輪部からC2Cmm毛様溝に入れる場合はC2.5Cmm後方でマークし,25CG針で虹彩にあたらないように針の方向に注意しながら眼内に刺入する.前房挿入の場合は粘弾性物質を使うことはないが,毛様溝挿入の場合は粘弾性物質で虹彩を前方移動させる.⑤チューブを刺入口から目的の部位に挿入する.PGIはBGIやCACPとは異なり,チューブの結紮やCSherwoodCslitの作成を必要としない.⑥つぎにチュ.ブを強膜に固定し,保存強膜でパッチする(保存強膜以外のパッチ材料で被覆したり,強膜内トンネルを使用したりする報告もあるが筆者らは経験がないので記載を割愛した).⑦その後ステントを輪部に固定し,結膜を修復して手術を終わる.ステントは術後の眼圧を見ながら抜去する.今回一例を除きすべて抜去し,その平均はC34C±25日であった.CIV手術成績2023年11月から2024年12月までの1年間に17例17表2PGIとBGI手術を受けた症例の術前術後眼圧経過術前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後CPGICnC17C16C14C11C3眼圧値C35.5±9.2C18.2±8.4C13.4±5.2C16.8±6.0C12.0±2.8CBGICnC187C184C176C170C152眼圧値C33.9±10.9C19.3±10.8C16.2±6.3C14.4±5.3C14.0±4.7CANOVACpC0.561C0.692C0.115C0.155C0.455図2血管新生緑内障でPGIとなった症例Optos(Nikon東京)による眼底写真.汎網膜光凝固の凝固斑と高度の血管白鞘化を認める.眼のCPGI手術を行い,類似手術であるCBGI187眼の手術成績と比較した.術後眼圧経過を表2に示す.術後C1年までの眼圧はCANOVAで有意差を認めない.経過中に緑内障再手術に至ったものはなく,点眼数は術前C4.4C±1.5剤からC1年後にはC0.67C±1.2剤に減った.術後短期合併症としては浅前房がC2/17(11.8%),脈絡膜.離がC2/17(11.8%)認められ,前房への大量出血(前房洗浄を要したもの)がC1/17(5.9%),6カ月以内にC30CmmHg以上の高眼圧を起こしたものがC3/17(17.6%),.胞状黄斑浮腫がC1/17(5.9%)認められ,後期合併症としては水疱性角膜症をC1/17(5.9%)認めた.実際の症例を供覧する(図2,3).患者はC64歳,女性.2004年より両眼の糖尿病網膜症にて某眼科病院に通院し両眼の白内障手術,汎網膜光凝固,トリアムシノロン結膜下注射による治療を受けてきた,2022年11月,左眼に網膜中心静脈閉塞(centralCretinalCveinCocclu-sion:CRVO)を発症し,5回にわたる抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注図3PGIの術中写真チューブにC6-0プロリン糸を挿入している.射で治療されていたが,2023年C11月C14日に左眼の視力低下を訴え,左眼視力(0.04),虹彩に血管新生を認め,左眼眼圧C32CmmHgとなって血管新生緑内障の診断のもとに当院を紹介された.初診時にはアセタゾラミド内服,ラタノプロスト点眼でC35CmmHg,HbA1c8.2%であり,2023年C12月にCPGIを左眼毛様溝に挿入した.第C20病日にC24CmmHgとなりステント抜去.第C80病日には無点眼下に眼圧C15mmHg,左眼視力=0.03.7カ月後に左眼アフリベルセプト硝子体腔内注射,眼圧6mmHg.11カ月後には,左眼視力=0.01(0.03),眼圧は無点眼下にC8CmmHgで,瞳孔は正円であり,インプラントに関する合併症を認めない.CV考按PGIのチューブは細い.このことが術後眼圧を高くしないかが危惧されたが,表2に示すように術後眼圧データをみる限りその心配はあたらないように思われる.角膜内皮障害についてCPaulChew教授は「チューブが細いので前房に挿入しても内皮損傷の程度は軽い」としているが,今回はほとんどの症例で毛様溝挿入を行ったので,内皮の脱落がどのようになるかは今後の課題である.チューブが細いことによって眼内に差し込む場合の操作性も気になるところであるが,PGIの場合はチューブ内にC6-0プロリン糸が入っているので剛性が上がり,操作において違和感を覚えることは少なかった.逆に,細いので周囲組織への損傷は少ない印象であり,毛様溝挿入に伴う出血の頻度はC1/17と少なかった.安全性については症例を増やさなければ断定的なことはいえないが,17例という少数の経験に関する限り大きな問題はなかった.利益相反:トーメー(株)およびCAOI(シンガポール):FII文献1)Arora,CKS,CRobinCAL,CCorcoranCKJCetal:UseCofCVariousCGlaucomaCSurgeriesCandCProceduresCinCMedicareCBene.ciariesCfromC1994CtoC2012.COphthalmologyC122,1615-1624,C20152)BolandCMV,CCorcoranCKJ,CLeeAY:ChangesCinCperfor-manceofglaucomasurgeries1994through2017basedonclaimsCandCpaymentCdataCforCUnitedCStatesCMedicareCBene.ciaries.OphthalmolGlaucomaC4,C463-471.C20213)WilliamsPJHussainZ,PaauwMetal:Glaucomasurgeryshiftsamongmedicarebene.ciariesafter2022reimburse-mentchangesintheunitedstates.JGlaucoma33:59-64,C20244)YamamotoCTCSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20145)KashiwagiK,KogureS,MabuchiFetal:Changeinvisu-alacuityandassociatedriskfactorsaftertrabeculectomywithCadjunctiveCmitomycinCC.CActaCOphthalmolC94:Ce561-e570,C20166)BindlishCR,CCondonCGP,CSchlosserCJDCetal:E.cacyCandCsafetyCofCmitomycin-CCinprimaryCtrabeculectomy:.ve-yearfollow-up.OphthalmologyC109,C1336-1341,C20027)ChiharaCE,CChiharaT:OcularChypotensionCandCepiretinalCmembraneCasCriskCfactorsCforCvisualCdeteriorationCfollow-ingCglaucomaC.lteringCsurgery.CJCGlaucomaC30:515-525,C20218)HigashideCT,COhkuboCS,CSugimotoCYCetal:PersistentChypotonyCaftertrabeculectomy:incidenceCandCassociatedCfactorsCinCtheCCollaborativeCBleb-RelatedCInfectionCInci-denceCandCTreatmentCStudy.CJpnCJCOphthalmolC60:309-318.C20169)YamadaH,SawadaA,KuwayamaYetal:Blindnessfol-lowingbleb-relatedinfectioninopenangleglaucoma.JpnJOphthalmolC58:490-495.C201410)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyearC2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C202311)KohCV,CChewCP,CTrioloCGCetal:TreatmentCoutcomesCusingCtheCPAULCGlaucomaCImplantCtoCcontrolCintraocularCpressureCinCeyesCwithCrefractoryCglaucoma.COphthalmolCGlaucomaC3:350-359,C202012)KarapapakCM,COlgunA:E.cacyCandCsafetyCofCtheCpaulCglaucomaCimplantCinCtheCtreatmentCofCrefractoryCprimaryCcongenitalglaucoma.JpnJOphthalmolC68:571-577,C202413)ElhusseinyCAM,CKhaledCOM,CChauhanCMZCetal:initialCresultsCofCtheCPaulCAhmedComparison(PAC)StudyCinCrefractoryCchildhoodCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC271:C71-78,C202414)ChristakisCPG,CZhangCD,CBudenzCDLCetal:Five-yearCpooleddataanalysisoftheAhmedBaerveldtComparisonStudyCandCtheCAhmedCVersusCBaerveldtCStudy.CAmCJOphthalmolC176:118-126,C2017***

輪部型春季カタルの臨床所見に関する解析

2025年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科42(9):1202.1205,2025c輪部型春季カタルの臨床所見に関する解析田野貴実子池田文原田一宏内尾英一福岡大学医学部眼科学教室CAnalysisofClinicalFindingsofLimbalVernalKeratoconjunctivitisKimikoTano,Ayaikeda,KazuhiroharadaandEiichiUchioCDepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicineC目的:輪部型春季カタル(VKC)の臨床所見の解析.対象および方法:2010年C6月.2023年C4月に,福岡大学病院眼科にてCVKCと診断され,角膜輪部所見を認めたC11例(男性C7例,女性C4例)21眼を対象とし,診療録をもとに解析した.臨床所見は,アレルギー性結膜疾患ガイドラインの臨床評価基準の重症度でC0-3点にスコア化した.結果:輪部型CVKCの女性患者はC36%を占めていた.21眼中C3眼は混合型であった(11例中C2例).11例中C8例は全身性アレルギー疾患を合併していた.初診時平均年齢C12.3±22.7歳.初診時視力(logMAR)は.0.08±0.27.初診時臨床所見のスコアは,輪部腫脹C2.00±0.76点,Trantas斑C0.81±0.91点,治療後は,輪部腫脹C0.21±0.41点,Trantas斑C0.05C±0.22点で改善を認めていた.初回治療はタクロリムス点眼薬単剤がC5例,タクロリムス点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用がC4例,シクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用がC2例であった.結論:眼瞼型に比べ女性の割合が高かった.全身性アレルギー疾患を有する割合が高かった.全例免疫抑制点眼薬の使用により改善が得られ,輪部型VKCの治療反応性は眼瞼型のCVKCと同様に良好だった.CPurpose:Toanalyzetheclinical.ndingsoflimbalvernalkeratoconjunctivitis(VKC).Patientsandmethods:CWeretrospectiveanalyzedthemedicalrecordsof21eyesof11patients(7males,4females)withVKCandcorne-allimbal.ndingsseenatFukuokaUniversityHospitalbetweenJune2010andApril2023.Clinical.ndingswerescoredfrom0to3accordingtheAllergicConjunctivalDiseaseGuidelines.Results:OfthelimbalVKCcases,36%werefemale.Ofthe21treatedeyes,3(n=2cases)wereofmixed-typeVKC.Ofthe11cases,8(82%)hadsys-temicallergicdiseases.Atbaseline,meanpatientagewas12.3±22.7yearsandmeanvisualacuity(logMAR)was.0.08±0.27.CTheCmeanCpre-andCpost-treatmentCclinicalCscoresCforClimbalCswellingCandCHorner-TrantasCdots,Crespectively,were2.00±0.76CandC0.21±0.41,CandC0.81±0.91CandC0.05±0.22.Initialtreatmentconsistedoftacrolim-useyedropsalonein5cases,acombinationoftacrolimuseyedropsandanti-allergyeyedropsin4cases,andacombinationCofCcyclosporineCeyeCdropsCandCanti-allergyCeyeCdropsCinC2Ccases.CConclusion:TheCproportionCofCfemaleswashigherinlimbal-typeVKCthanintarsal-typeVKC.Thepercentageofpatientswithsystemicallergicdiseaseswashigh.Immunosuppressanteyedropse.ectivelyalleviatedsymptomsinallcases,includingthelimbalVKCcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(9):1202.1205,C2025〕Keywords:春季カタル,輪部型春季カタル,アレルギー性結膜炎,タクロリムス点眼液.vernalCkeratoconjuncti-vitis,limbalvernalkeratoconjunctivitis,allergicconjunctivitis,tacrolimus.Cはじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)は学童期の男児に多く発症し,しばしば寛解・増悪を繰り返す重症アレルギー性結膜疾患の一つである.病型は眼瞼の巨大乳頭増殖を特徴とする眼瞼型,角膜輪部結膜に増殖がみられる輪部型,眼瞼型と輪部型の所見の両方の所見を認める混合型に大別される.治療は抗アレルギー薬点眼が主であるが,中等症以上では免疫抑制点眼薬を,重症例に対してはステロイド点眼薬の投与や内服・瞼結膜下注射,外科的治療などが考慮される1).〔別刷請求先〕田野貴実子:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KimikoTano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversitySchoolofMedicine,7-45-1Nanakuma,jonan,Fukuoka814-0180,JAPANC1202(122)0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(122)C12020910-1810/25/\100/頁/JCOPY輪部型CVKCは熱帯地域では多いが,わが国では少なく,輪部型CVKCに関する報告も少ない.今回,福岡大学病院眼科(以下,当院)で経験した輪部型CVKCの臨床所見,治療内容,反応性について解析したので報告する.CI対象と方法2010年C6月.2023年C4月に,当院を受診してCVKCと診断され,特徴的な角膜輪部所見を認めたC11例C21眼(男性C7例,女性C4例)を対象とし,診療録をもとに後方視的に解析した.初診時臨床所見は,アレルギー性結膜疾患ガイドライン(第3版)1)の臨床評価基準の重症度をもとに,所見なし,軽度,中等度,高度のC4段階に分類しC0.3点にスコア化した(表1).治療後臨床所見はC2023年C7月時点でもっとも直近の診療録をもとに解析した.治療前後のCTrantas斑,輪部腫脹のスコアをCWilcoxson符号順位和検定で解析した.また,VKCの治療内容についても解析を行った.眼圧の平均と臨床スコアの解析は,年少かつ診察困難で初診時眼圧と再診時臨床所見が不明な症例を除外し,10例C19眼で行った.本研究は福岡大学臨床研究審査委員会において承認されて行われた(2017M140).CII結果男女比は男性C7例(64%),女性C4例(36%)であった.病型は輪部型がC18眼(86%)で混合型がC3眼(14%)であり,輪部型単独例が大部分を占めた(図1).初診時平均年齢C12.3±22.7歳と学童期に多かったが,18歳以上の成人もC2例含まれていた.全身アレルギー疾患の合併はアトピー性皮膚炎と喘息両方の合併がC2例,アトピー性皮膚炎単独の合併例がC6例,喘息単独の合併例がC1例であり,全体のC82%が全身性アレルギー疾患を合併する結果となった(図2).初診の月は春(3.5月)がC2例,夏(6.8月)がC4例,秋(9.11月)がC0例,冬(12.2月)がC5例と,冬がもっとも多かった.観察期間はC1週間からC105カ月であり,中央値はC6カ月であった.21眼の初診時平均視力(logMAR)はC.0.08±0.27と視力良好であり,19眼の初診時平均眼圧はC13C±3CmmHgと正常範囲内であった.初診時臨床所見の平均スコアは,輪部腫脹C2.00C±0.76点,Trantas斑C0.81C±0.91点,治療後臨床所見の平均スコアは,輪部腫脹C0.21C±0.41点,Trantas斑C0.05C±0.22点と大幅な改善がみられた(図3).治療前後のCTrantas斑,輪部腫脹のスコアをCWilcoxson符号順位和検定で解析したところ,ともにp<0.05と統計学的に有意差を認めた.当院受診後の初回治療は全例で免疫抑制点眼薬を使用し,前医でステロイド点眼薬を使用していた症例は中止とした.タクロリムス点眼薬単剤での治療例がC5例(46%),タクロリムス点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用例がC4例(36%),シクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用例がC2例(18%)であった(図4).再発または増悪をきたした症例はC11例中C4例あり,そのうちC2例は初回治療をシクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬を併用した症例であった.このC2例に関してはシクロスポリン点眼薬をタクロリムス点眼薬に変更し,再発症例C4例中C3例はステロイド点眼薬または軟膏を追加し軽快が得られた.CIII考按本研究の全症例は難治例として当院へ紹介されたが,免疫抑制点眼薬の使用により全例で臨床所見スコアの改善が得られ,軽快した.Stefanらの報告2)では,ルワンダにおけるVKC患者C366例中C91.5%が輪部型のCVKCであり,輪部型VKCに対する免疫抑制点眼薬はステロイド点眼による治療と比較して有意差はなく,ともに臨床所見,視力の改善を認めたと報告した.当院でも輪部型CVKCに対する免疫抑制点眼薬の効果は良好であり,輪部型CVKCの治療反応性は眼瞼型のCVKCと同様にC3.6)良好といえる.VKCの輪部型は男女同数程度であるといった報告7)もある.本報告でも男女比はC7:4であり,当院での眼瞼型CVKCクラスター解析8)の男女比C35:6に比べて女性の割合が高い結果となった.わが国では近年,地球温暖化に伴い亜熱帯化が進んできている.わが国においても今後は輪部型CVKCの症例数,女性のCVKC症例数が増加をきたす可能性が示唆される.また,輪部型病変単独の患者はC21眼中C18眼と多くを占め,混合型は少数だった.混合型も含め,全例で中.高度の角膜障害は認めなかった.患者は初診時から良好な視力を保っていたが,落屑様点状表層角膜炎やシールド潰瘍,角膜瘢痕等の角膜障害を認めなかったことによると考える9).角膜輪部は解剖学的に房水の産生や循環経路の近傍に存在するが,初診時より眼圧は全例で正常範囲内であった.本報告では全身性アレルギー疾患の合併がC82%と高い割合だった.輪部型CVKCの多い熱帯地方ではやはり全身アレルギー疾患の合併例が多数を占めるという報告もあれば,5%程度と関連性は低いといった報告も散見され7,9.11),コンセンサスは得られていない.日本と同じく温帯地方に位置するイタリアの報告では,VKCのうちC53.8%が輪部型であり,全体のC48.7%が全身アレルギー疾患を合併していた12).温帯地方では熱帯地方と異なり,同じ輪部型でも全身性アレルギー疾患とのかかわりが強い可能性があると考えられる.少なくともわが国においては,どの型のCVKCであったとしても全身性アレルギー性疾患の合併は多数であると著者らは考えている.(123)あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025C1203表1臨床所見重症度スコア点数輪部腫脹Trantas斑C0所見なし所見なしC1範囲がC1/3周未満1.C4個C2範囲がC1/3周以上,2C/3周未満5.C8個C3範囲がC2/3周以上9個以上混合型なし18%14%アトピー性皮膚炎+喘息18%喘息9%アトピー性皮膚炎輪部型55%86%アトピー性皮膚炎+喘息アトピー性皮膚炎喘息なし輪部型混合型図1VKCの病型内訳図2輪部型VKC患者の全身アレルギー疾患内訳輪部型がC18眼(86%),混合型がC3眼(14%)であった.全身アレルギー疾患の合併はアトピー性皮膚炎と喘息両方の合併がC2例,アトピー性皮膚炎単独の合併がC6例,喘息単独の合併がC1例であった.C20181614121086420輪部腫脹治療前輪部腫脹治療後Trantas斑治療前Trantas斑治療後3点2点1点0点図3治療前後の輪部所見スコアグラフの縦軸は症例数(眼)であり,治療前後で輪部腫脹・Trantas斑ともにスコアの改善がみられた.また,ルワンダの報告13)では輪部型CVKCの全例に角膜輪示唆されている.インドの熱帯地方の報告11)では患者の発部濾胞に加えて輪部色素沈着を認めたが,当院では輪部色素生率がもっとも高かったのは乾季のC5月であった.本報告で沈着を認めた症例はなかった.人種的な背景の違いが推測さは,日本の高温多湿な時期にあたるC6.9月を雨季,それ以れる.外のC10.5月を乾季とすると,乾季での当院の初診患者はTuftらの報告7)では熱帯地方のCVKCと乾季との関連性が11人中C7人であることを考えると,わが国においても輪部(124)シクロスポリン点眼薬+抗アレルギー点眼薬18%タクロリムス点眼薬+抗アレルギー点眼薬36%タクロリムス点眼薬単剤タクロリムス点眼薬+抗アレルギー点眼薬図4初回治療内訳タクロリムス点眼薬単剤46%シクロスポリン点眼薬+抗アレルギー点眼薬当院受診後の初回治療は,タクロリムス点眼薬単剤での治療がC5例(46%),タクロリムス点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用がC4例(36%),シクロスポリン点眼薬と抗アレルギー点眼薬の併用がC2例(18%)であった.型のCVKCは乾季に発生しやすい可能性が示唆される.春季カタルはその名のとおり春に増悪することが多い疾患であることが知られる.春での増悪がもっとも多かったため,上記の結果になったと推論もできるが,本報告では初診がC3.5月であった患者は2人にとどまり,12.2月の冬がC5人と最多であった.クリニックでの治療が奏効せず当院へと紹介となったため,初診の時期がずれ込んだ可能性がある.以上より,輪部型CVKCの免疫抑制点眼薬の治療反応性は良好であったが,男女比率や季節性は眼瞼型と輪部型で異なる病態を示す可能性がある.また,同じ輪部型でも熱帯地方と温帯地方では臨床像が異なることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)宮崎大,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌C125:741-778,C20212)DeSmedtS,NkurikiyeJ,FonteyneYetal:Topicalciclo-sporinCinCtheCtreatmentCofCvernalCkeratoconjunctivitisCinCRwanda,CCentralAfrica:aCprospective,Crandomized,Cdou-ble-masked,controlledclinicaltrial.BrJOphthalmolC96:C323-328,C20123)三島彩加,佐伯有祐,内尾英一:春季カタルにおける長期予後の解析.あたらしい眼科36:111-114,C20194)OhashiCY,CEbiharaCN,CFujishimaCHCetal:ACrandomized,Cplacebo-controlledCclinicalCtrialCofCtacrolimusCophthalmic(125)suspension0.1%CinCsevereCallergicCconjunctivitis.CJCOculCPharmacolTherC26:165-174,C20105)鳥山浩二,原祐子,岡本茂樹ほか:春季カタルに対するC0.1%タクロリムス点眼液の使用成績.眼臨紀C6:707-711,C20136)品川真有子,南場研一,北市伸義ほか:春季カタルにおけるタクロリムス点眼薬の長期使用成績.臨眼71:343-348,C20177)TuftCSJ,CCreeCIA,CWoodsCMCetal:LimbalCvernalCkerato-conjunctivitisCinCtheCtropics.COphthalmologyC105:1489-1493,C19988)FujitaCH,CUenoCT,CUchioCECetal:Classi.cationCofCSub-typesCofCVernalCKeratoconjunctivitisCbyCClusterCAnalysisCBasedConCClinicalCFeatures.CClinCOphthalmolC17:3271-3279,C20239)ArifAS,AaqilB,SiddiquiAetal:CornealcomplicationsandCvisualCimpairmentCinCvernalCkeratoconjunctivitisCpatients.JAyubMedCollAbbottabadC29:58-60,C201710)UkponmwanCU:VernalconjunctivitisinNigerians:109consecutivecases.TropDoctC33:242-245,C200311)SabooUS,JainM,ReddyJCetal:Demographicandclini-calCpro.leCofCvernalCkeratoconjunctivitisCatCaCtertiaryCeyeCcareCcenterCinCIndia.CIndianCJCOphthalmolC61:486-489,C201312)LambiaseCA,CMinchiottiCS,CLeonardiCACetal:Prospective,CmulticenterCdemographicCandCepidemiologicalCstudyConCvernalkeratoconjunctivitis:ACglimpseCofCocularCsurfaceCinCItalianCpopulation.COphthalmicCEpidemiolC16:38-41,C200913)DeCSmedtCSK,CNkurikiyeCJ,CFonteyneCYSCetal:VernalkeratoconjunctivitisinschoolchildreninRwanda:clinicalpresentation,CimpactConCschoolCattendance,CandCaccessCtoCmedicalcare.OphthalmologyC119:1766-1772,C2012あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025C1205

結膜アミロイドーシスの免疫組織学的分類と臨床的特徴

2025年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科42(9):1196.1201,2025c結膜アミロイドーシスの免疫組織学的分類と臨床的特徴弓削皓斗*1福岡秀記*1渡辺彰英*1長峯理子*1宮川文*1小西英一*1外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学病理診断科/人体病理学教室CImmunohistochemicalClassi.cationandClinicalFeaturesofConjunctivalAmyloidosisHirotoYuge1),HidekiFukuoka1)AkihideWatanabe1),MichikoNagamine2),AyaMiyagawa2),EiichiKonishi2)andCChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofSurgicalPathology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:結膜アミロイドーシスを免疫組織染色を用いて病型分類し,その臨床的傾向と特徴を検討する.方法:2008.2020年の京都府立医科大学での電子カルテの記載をもとに,病理生検で結膜アミロイドーシスと診断された症例C12例を対象とし,各項目についての検討と免疫染色による病型分類を行った.結果:症例は12例12眼(男5例/女7例),年齢は平均C69.1歳(中央値C66.5歳)であった.主訴は眼瞼腫脹がもっとも多く,つぎに充血であった.免疫染色による病型分類の結果は判断困難であったC1例を除いて,すべてCALアミロイドーシス(11例/12例)であり,その中で原因となる前駆体蛋白質はCm鎖が9例,l鎖がC2例であった.沈着の部位は下方結膜(67%)にもっとも多く,耳側結膜にはみられなかった.結膜上の部位別分類では眼瞼結膜C5例/眼球結膜C4例/円蓋部C3例であった.全体のC25%で眼瞼下垂を合併し,原因として上眼瞼へのアミロイドの沈着が疑われた.またC25%で切除術後に眼瞼内反症を生じ,手術後の結膜.短縮が影響していると考えられた.当科より内科に照会されたC4例はすべて限局性であり,1例は当科受診前に全身性と診断されていた.結論:結膜アミロイドーシスでは他臓器と同様にCALアミロイドーシスが多く,また結膜アミロイドーシスが眼瞼下垂や術後眼瞼内反症と関連する可能性を示す結果となった.まれな疾患であるが,臨床で遭遇する可能性があり,適切な診断と治療のためにさらなる研究が求められる.CPurpose:ToCdetermineCtheCcharacteristicsCandCclinicalCtrendsCofCcornealCconjunctivalCamyloidosisCbyCtypingCtheCdiseaseCusingCimmunohistochemistry.CMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCinvestigatedCtheCmedicalCrecordsofpatientswithconjunctivalamyloidosisdiagnosedbyapathologicalbiopsyseenatourdepartmentfrom2008to2020,andexaminedandclassi.edeachcaseintoapathologicaltypeviaimmunohistochemistry.Results:Thisstudyinvolved12eyesof12patients(5males,7females;meanage:69.1years[median:66.5years])withconjunctivalamyloidosis.Atinitialpresentation,themostcommonprimarycomplaintwaseyelidswelling,followedbyChyperemia.CImmunostainingCclassi.cationC.ndingsCrevealedamyloidClight-chain(AL)amyloidosisCinCallCcasesCexcept1thatwasdi.culttodetermine,andmchainsaccountedforapproximately80%(i.e.,9of12)ofthecases.Inallcases,thesiteofdepositionwasmostlyintheinferiorconjunctiva(67%),andnotintheauricularconjuncti-va.Conjunctivalclassi.cationwaspalpebralconjunctivain5cases,bulbarconjunctivain4cases,andfornicealcon-junctivain3cases.Ptosiswaspresentin25%ofthepatients,possiblyduetoamyloiddepositionintheuppereye-lid.CIn25%CofCtheCpatients,CpostoperativeCentropionCwasCobserved,CpossiblyCdueCtoCintraoperativeCconjunctivalCsacCshortening.AllcasesreferredtoourDepartmentofInternalMedicinewerelocalized,and1caseofsystemicamy-loidosisCwasCnoted.CConclusions:ConjunctivalCamyloidosis,CasCwellCasCamyloidosisCinCotherCorganCsystems,CisCfre-quentlyCassociatedCwithCALCamyloidosis,CandCourC.ndingsCsuggestCanCassociationCwithCptosisCandCpostoperativeCentropion.Althoughfewcasesareencounteredintheclinicalsetting,furtherstudiesareneededtobetterunder-standandmorecorrectlydiagnoseconjunctivalamyloidosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(9):1196.1201,C2025〕〔別刷請求先〕福岡秀記:〒606-8566京都市上京区広小路通上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajiicho,Kawaramachi-Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto-shi,Kyoto602-8566,JAPANC1196(116)Keywords:結膜アミロイドーシス,免疫染色,m鎖,コンゴレッド染色.conjunctivalamyloidosis,Immunohisto-chemistry,mchain,Congoredstaining.CI緒言アミロイドーシスは,折りたたみ異常を起こした不溶性の線維性蛋白質が細胞外に蓄積し,アミロイドとしてさまざまな臓器や組織に異常蓄積する疾患である.進行すると臓器や組織の機能不全をきたす進行性の疾患であり,アミロイドが複数の臓器に沈着する全身性アミロイドーシスと特定の臓器に限局して沈着する限局性アミロイドーシスのC2種類に大別される.アミロイドの証明は,コンゴレッド染色,チオフラビン染色,偏光顕微鏡によるアップルグリーン色の複屈折や電子顕微鏡による線維の確認などで可能である.コンゴレッド染色で判断がむずかしい症例ではCDFS染色も有用である.アミロイド線維形成の原因となる蛋白質はアミロイド前駆体蛋白質とよばれており,アミロイドーシスはアミロイド前駆体蛋白質による病型分類を行うことが一般的である.現時点でC30種類以上の病型が同定されている1)が,実臨床では頻度の高い前駆体蛋白質に対する免疫染色を行って病型分類を行うことが一般的である.眼科領域におけるアミロイドについては,家族性アミロイドニューロパチーの症例における網膜血管へのアミロイド沈着や膠様滴状角膜ジストロフィの症例や眼瞼睫毛乱生における角膜へのアミロイド沈着などが報告されているが,結膜のアミロイドーシス(図1)はまれであり,わが国においては症例報告のみ1,2)で詳細な研究はされていない.また,筆者らが調べる限り,結膜アミロイドーシスについて前駆体蛋白質による病型分類を複数の症例で行った報告を認めなかった.今回,結膜アミロイドーシスと診断された症例に対して,病理学的に前駆体蛋白質による病型分類を行い,臨床的特徴を検討したので報告する.CII対象と方法京都府立医科大学眼科での電子カルテの記載をもとに2008.2020年のC12年間に病理生検でコンゴレッド染色(図2a)もしくは偏光顕微鏡によるアップルグリーン色の複屈折(図2b)により結膜アミロイドーシスと確定診断された症例12例をレトロスペクティブに検討を行った.対象症例について性別,発症時・診断時年齢,初診時の主訴,病型分類,沈着部位,眼瞼下垂の合併の有無,全身性アミロイドーシスや透析の有無について検討した.沈着部位については,左眼,右眼,両眼に加え,結膜における部位を上方,下方,鼻側,耳側のC4方向に分類した(重複する病変の際は主となる部位とした).病型分類については前駆体蛋白質となるトランスサイレチン(transthyretin:TTR),免疫グロブリン軽鎖(Cl,m),血清アミロイドCA(amyloidA:Amy-A),b2ミクログロブリン(Cb2Cmicro-globulin:Cb2MG)を免疫染色で特定し,各前駆体蛋白質に基づいた病型分類を行った.免疫グロブリン軽鎖についてはCl鎖とCm鎖に分けて染色を行っている(図3).免疫染色の陽性結果に応じてCTTR陽性例はCamyloidTTR(ATTR)アミロイドーシス,免疫グロブリン軽鎖(Cl鎖,m鎖)陽性例はAL(原発性)アミロイドーシス,Amy-A陽性例はCAA(続発性)アミロイドーシス,Cb2MG陽性例はCACb2M(透析性)アミロイドーシスと病型分類を行った(表1).なお,当院病理科は厚生労働省アミロイドーシスに関する調査研究班に属しており,TTR,Cm,l抗体は調査研究班より供与頂いたものを使用した.本研究はヘルシンキ宣言に基づき,本学の倫理委員会の承認を得てレトロスペクティブに行った.CIII結果結膜アミロイドーシスC12例の臨床的特徴を表2に示す.性別は,男C5例/女C7例(全C12例C12眼)であり,指摘時の年齢は平均C67.6歳(中央値C66.0歳),診断時年齢は平均C69.1歳(中央値C66.5歳)であった.主訴は眼瞼腫脹がもっとも多く(12眼中C5眼C42%),つぎに充血(12眼中C3眼C25%)であった.眼瞼下垂症状はC1例のみであり(12眼中C1眼C8%),無症状はC2例であった(12例C12眼中C2眼C17%).免疫染色による病型分類では,評価可能であったC11例はすべてCALアミロイドーシス(Cm鎖がC9例,l鎖がC2例)であり,ALアミロイドーシス以外の陽性例はみられなかった.1例は染色結果から評価困難であった.沈着部位は右眼がC3例(25%),左眼がC6例(50%),両眼がC3例(25%)であった.結膜における沈着部位は下方がC8例と多く(12例C12眼中C8眼C67%),上方と鼻側は各C2例で(12例C12眼中各C2眼C17%),耳側にはみられなかった.結膜上の部位別分類では眼瞼結膜C5例/眼球結膜C4例/円蓋部C3例であった.12例中C3例で眼瞼下垂の合併を認め,そのうちC1例で眼瞼にアミロイドの沈着を認めた.12例中C3例(25%)で切除術後に眼瞼内反症を認め,他の合併症は認められなかった.全身性アミロイドーシスの除外については,当科より内科紹介された症例はすべて限局性であったが,すでに全身性ALアミロイドーシスと診断されている症例をC1例認めた(多発性骨髄腫合併CALアミロイドーシス).透析の既往のあ図1結膜アミロイドーシスの前眼部画像a:下方眼球結膜に表面平滑な広範な黄橙色の隆起性病変を認める.Cb:鼻側球結膜優位に黄橙色の隆起性隆起性病変を認める.Cc:下方結膜.に表面が粗雑な黄橙色の隆起性病変を認める.Cd:鼻側球結膜に表面が平滑な黄橙色の病変を認める.図2結膜アミロイド組織を用いた染色a:コンゴレッド染色で結膜上皮下の赤橙色のアミロイド染色を認める.Cb:偏光顕微鏡により,アミロイドはアップルグリーン(緑色)の複屈折を認める.る症例は認められなかった.れる疾患との関連性も指摘されている.CIV考按アミロイドーシスの治療について,全身性アミロイドーシスの場合は病型に応じて多様な治療法が選択される7)が,限アミロイドは全身の臓器に沈着して機能不全を引き起こす局性アミロイドーシスの場合は外科的切除および減量が基本ことから,他分野においてその重要性が指摘されており,的な治療方針となっている8).一方で,同様にアミロイドのCAlzheimer病4)や脳アミロイドアンギオパチー5),プリオン沈着が原因とされるCAlzheimer病に対して近年レカネマブ病6)など,同様に蛋白質のミスフォールディングが原因とさによるアミロイドCb除去など新たな治療法9)が認可されたこ図3前駆物質による代表的な免疫染色写真a:m陽性.b:m陰性.c:l陽性.d:l陰性.アミロイドに一致してCmもしくはCl陽性の所見が得られた.表1前駆体蛋白に対応する病型前駆体蛋白病型トランスサイレチン(TTR)ATTRアミロイドーシス免疫グロブリン軽鎖(Cl,m)AL(原発性)アミロイドーシス血性アミロイドCA(Amy-A)AA(続発性)アミロイドーシスCb2ミクログロブリン(B-MG)CAb2M(透析性)アミロイドーシス表2結膜アミロイドーシス12例の臨床的特徴症例指摘年齢(歳)生検時年齢(歳)性別主訴患眼部位免疫染色沈着様式眼瞼下垂の合併術後内反症の有無C1C52C67女眼瞼腫脹左下方眼瞼結膜Cm不明C2C53C59女眼瞼腫脹両下方結膜.Cl不明+3C58C58男眼瞼下垂左上方眼瞼結膜Cm限局性+4C61C61男眼瞼腫脹右下方眼瞼結膜判別困難限局性C5C65C65女なし右鼻側眼球結膜Cm不明C6C66C66男眼瞼腫脹左下方眼瞼結膜Cm全身性C7C73C76女充血両下方眼球結膜Cm不明+8C76C76女充血右鼻側眼球結膜Cm不明+9C76C76女流涙左下方結膜.Cl限局性+10C81C81男充血左下方眼球結膜Cm不明C11C82C83男なし左下方結膜.Cm限局性C12不明C61女眼瞼腫脹両上方眼瞼結膜Cm不明+とから,今後アミロイドーシスについても新たな治療が出現する可能性がある.結膜アミロイドーシスは黄橙色の隆起性病変を示すことが多いが,検眼鏡的に鑑別は困難で,また,実臨床における頻度もまれであることから,多数の症例を検討した報告は少ない.Leibovitchらによる結膜アミロイドーシスC13例の特徴についての検討で,前駆体蛋白による病型分類は行われていないが,男性C5例/女性C8例で平均年齢はC60歳であった8).今回の研究の男女比は既報と同様であったが,診断時年齢は既報と比較して高齢であった.主訴について,Leibovitchらは腫瘍の増大と眼瞼下垂が多いことを指摘しているが,今回の研究では眼瞼腫脹と充血が最多であった.病型分類については,Biewandらによる全身臓器の限局性アミロイドーシスについての報告において,9例すべてがCALアミロイドーシスであり,内訳はCm鎖が6例,Cl鎖がC3例であった10).また,別の既報における限局性アミロイドーシス(結膜アミロイドーシス以外を含む)132例の検討でもC91%がCALアミロイドーシスであった11).結膜アミロイドーシスについては,6例で免疫染色を行ったところ,染色可能で病型分類を行うことができたのはC1例のみで,軽鎖陽性を認める結果であったとの報告がある12).今回,結膜アミロイドーシスC11例の病型はすべてCALアミロイドーシスであり,限局性アミロイドーシスの既報と一致した.Cm鎖,l鎖の割合についてもCm鎖が約C8割であり,既報と同様の傾向であった.沈着部位については,3例で両眼に結膜アミロイドーシスを認めたが,全身性アミロイドーシスを指摘された症例は左眼に認めたC1例のみであり,両眼性であることから,必ず全身性アミロイドーシスであるとはいえないものと考えられる.結膜における沈着部位は下方に多く,耳側には認められなかった.今回,3例(25%)で眼瞼下垂を合併しており,アミロイドが上方結膜から眼瞼挙筋まで沈着している症例は過去の報告13,14)にあるように,眼瞼挙筋周囲にもアミロイドが沈着することで眼瞼下垂を生じていると考えられた.アミロイドが眼瞼挙筋自体の機能低下を起こすのではなく,眼瞼挙筋周囲に沈着することで二次障害として眼瞼挙筋機能が制限されることが眼瞼下垂の主因ではないかと推察される.病変は完全切除がむずかしく,可能な範囲で部分切除ないし上皮を温存してアミロイド減量を行っているが,切除術後の眼瞼内反症が全体のC25%で認められた.病理学的には,結膜上皮直下までアミロイド沈着が認められ,アミロイド除去の際の広範な結膜切除や炎症などに伴う結膜.短縮が原因で内反症を生じた可能性が考えられた.既報での傾向と同様に,限局性アミロイドーシスがほとんどであったが,片眼例において全身性アミロイドーシスをC1例認めたことにより,診断後は全身疾患の検索の必要性を示す結果となった.まとめると,結膜アミロイドーシスC12例は他臓器と同様にCALアミロイドーシスが多く,また,結膜アミロイドーシスが眼瞼下垂や術後眼瞼内反症と関連する可能性が示された.結膜アミロイドーシスの鑑別疾患としては結膜浮腫,結膜粘膜関連リンパ組織(mucosa-associatedClymphoidCtis-sue:MALT)リンパ腫,結膜反応性リンパ過形成などがあげられるが,検眼鏡的な鑑別は困難であることが多く,また,限局性に関しては原因も不明である.腫瘍性病変を疑い切除を行う際は,病理生検を必ず行うことが全身性アミロイドーシスの発見につながり,とくに重要である.まれな疾患であるが,臨床で遭遇する可能性があり,適切な診断と治療のためにさらなる研究が求められる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)新井玲,海老原伸行,冨田茂樹:眼瞼下垂により発見された結膜アミロイドーシスのC2症例.日眼会誌C120:797-801,C20162)KonoCS,CLeeCPAL,CKakizakiCHCetal:AmyloidosisCinCtheCpalpebralCconjunctivaCmimickingClymphoproliferativeClesion.CaseRepOphthalmolC12:73-76,C20213)BensonCMD,CBuxbaumCJN,CEisenbergCDSCetal:AmyloidCnomenclature2018:recommendationsbytheInternation-alCSocietyCofAmyloidosis(ISA)nomenclatureCcommittee.CAmyloidC25:215-219,C20184)HaassCC,CSchlossmacherCMG,CHungCAYCetal:AmyloidCbeta-peptideisproducedbyculturedcellsduringnormalmetabolism.NatureC1359:322-325,C19925)VonsattelCJP,CMyersCRH,CHedley-WhyteCETCetal:Cere-bralCamyloidCangiopathyCwithoutCandCwithCcerebralChem-orrhages:aCcomparativeChistologicalCstudy.CAnnCNeurolC30:637-649,C19916)PrusinerSB:NovelCproteinaceousCinfectiousCparticlesCcausescrapie.ScienceC216:136-44,C19827)IhneCS,CMorbachCC,CSommerCCCetal:Amyloidosis-theCdiagnosisCandCtreatmentCofCanCunderdiagnosedCdisease.CDtschArzteblIntC117:159-166,C20208)LeibovitchI,SelvaD,GoldbergRAetal:PeriocularandorbitalCamyloidosisCclinicalCcharacteristics,Cmanagement,Candoutcome.OphthalmologyC13:1657-1664,C20069)SwansonCCJ,CZhangCY,CDhaddaCSCetal:ACrandomized,Cdouble-blind,CphaseC2bCproof-of-conceptCclinicalCtrialCinCearlyCAlzheimer’sCdiseaseCwithClecanemab,CanCanti-Abproto.brilantibody.AlzheimersResTherC13:80,C202110)BiewendML,MenkeDM,CalamiaKT:Thespectrumoflocalizedamyloidosis:aCcaseCseriesCofC20CpatientsCandCreviewoftheliterature.AmyloidC13:135-142,C200611)AryasitCO,CPreechawaiCP,CKayasutK:ClinicalCpresenta-tion,Ctreatment,CandCprognosisCofCperiocularCandCorbitalCamyloidosisCinCaCuniversity-basedCreferralCcenter.CClinCOphthalmolC7:801-805,C201312)SuesskindCD,CZiemussenCF,CRohrbachJM:ConjunctivalamyloidosisC─CclinicalCandChistopathologicCfeatures.CGrae-14)ScuderiG,AbdolrahimzadehS,TroccolaAetal:SurgicalfesArchClinExpOphthalmolC253:1377-1383,C2015Ctreatmentofararecaseofbilateralptosisduetolocalized13)HillCVE,CBrownsteinCS,CJordanDR:PtosisCsecondaryCtoCocularamyloidosis.:SaudiCJCOphthalmolC30:201-203,CamyloidosisCofCtheCtarsalCconjunctivaCandCtarsus.CAmJ2016COphthalmolC123:852-854,C1997***

携帯形微生物観察器を用いて迅速検査を行った アカントアメーバ角膜炎の2 例

2025年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科42(9):1191.1195,2025c携帯形微生物観察器を用いて迅速検査を行ったアカントアメーバ角膜炎の2例坂田理恵*1,2外間梨沙*1加藤直子*1,3平山オサマ*1,4平山雅敏*5根岸一乃*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2永寿総合病院眼科*3南青山アイクリニック*4東京歯科大学市川総合病院眼科*5福岡大学医学部眼科学教室CTwoCasesofRapidDetectionofAcanthamoebaKeratitisUsingaMobileLaboratoryMicroscopeRieSakata1,2)C,RisaHokama1),CNaokoKato1,3)C,OsamaIbrahimHirayama1,4)C,MasatoshiHirayama5)andKazunoNegishi1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversityschoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,EijuGeneralHospital,3)MinamiaoyamaEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollege,IchikawaGeneralHospital,5)DepartmentofOphthalmology,FukuokaUniversityschoolofMedicineC携帯形微生物観察器を使用し,感染性角膜炎の起因微生物の同定を試みたC2例を報告する.症例C1はC66歳,男性.コンタクトレンズ(CL)使用中の眼痛と視力低下で近医を受診し,ヘルペス性角膜炎の診断で加療された.改善がないため慶應義塾大学病院眼科紹介となり,角膜擦過検体のCGram染色検鏡と分離培養検査に加えて,携帯形微生物観察器による観察を行った.携帯形微生物観察器でアメーバシストが観察され,アカントアメーバ角膜炎(AK)治療へ切り替えた.症例C2はC49歳,男性.CL使用中の角膜潰瘍に対して,同様に携帯形微生物観察器でアメーバシストが観察された.携帯形微生物観察器Cmil-kinはスマートフォンのカメラを利用したもち運び可能な簡易顕微鏡で,染色や固定をせずに微生物をC1,000倍の倍率で観察する.しばしば鑑別困難であるCAKにおいてアメーバシストが観察された症例を経験し,感染性角膜炎の診断補助として携帯形微生物観察器が有用であることが示唆された.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCinCwhichCidenti.cationCofCtheCcausativeCmicroorganismsCofCinfectiousCkeratitisCwasobservedusingaportablemicrobialobservationdevice.Cases:Case1involveda66-year-oldmalewhovisit-edanoutsideclinicwithcomplaintsofeyepainwhilewearingcontactlenses.Hewasdiagnosedasherpetickerati-tis,andtreated.However,hisconditiondidnotimprove,sohewasreferredtoourhospital.Atpresentation,asam-plewascollectedviascrapingthecornealulcer.Inadditiontogram-stainingsmearmicroscopyandculturetestinginthehospitallaboratory,wealsousedaPortableMicrobialObservationDevice(mil-ken)thatrevealedAmoebiccysts,CsoCtreatmentCforCAcanthamoebakeratitis(AK)wasCstartedCthatCsameCday.CCaseC2CinvolvedCaC49-year-oldCmalewhowasreferredtoourhospitalforacornealulcerthatdevelopedwhileusingcontactlenses.AsinCase1,thePortableMicrobialObservationDevicerevealedAcanthamoebaCcysts.Conclusion:Themil-kindeviceisapor-tableCsimpleCmicroscopeCthatCusesCaCsmartphoneCcameraCwhichCallowsCmicroorganismsCtoCbeCobservedCwithoutCstainingor.xingsamplesatamagni.cationof1,000times,thusmakingitusefulforassistinginthediagnosisofinfectiouskeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(9):1191.1195,C2025〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,コンタクトレンズ,塗抹鏡検.AcanthamoebaCkeratitis,contactlens,smearexamination.Cはじめには難治性の角膜疾患であり,早期の診断と治療介入が重要でアカントアメーバ角膜炎(Acanthamoebakeratitis:AK)ある.AK患者のうちC85.90%がコンタクトレンズ(contact〔別刷請求先〕外間梨沙:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RisaHokama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC検体ステージ図1携帯形微生物観察器mil-kinlens:CL)装用者であり,近年ではCCL使用者の拡大に伴い,増加傾向にある1,2).健康な若年者にも発症し,片眼性であることが多い3,4).アカントアメーバは土壌や淡水に生息する単細胞の微生物であり,アカントアメーバが角膜に感染するとCAKを引き起こす5).AKが重症化しやすい理由として,特徴的臨床的所見に乏しいことが多く,他疾患に類似の所見を呈することから,鑑別診断が困難である点があげられる.初期のCAKはヘルペス性角膜炎に類似した偽樹枝状病変を呈し,上皮型ヘルペス角膜炎として治療されることがある.また,完成期の円板状角膜混濁は,角膜真菌症や実質型ヘルペス性角膜炎と鑑別が容易でない場合がある.確定診断前の安易な副腎皮質ステロイド点眼の使用はCAKの治療予後の増悪と関連するほか6),AKの発症C1カ月以内の診断と治療開始が重要なことから,早期診断が課題である7,8).現在CAKの検査として,分離培養,ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査,レーザー生体共焦点顕微鏡観察,塗抹鏡検(ディフクイック染色,ファンギフローラCY染色)などが行われる7).これらの検査は結果が出るまで時間を要するうえ,検査用設備や機器をもたないクリニックではCAKの早期診断が困難であることが多い.今回,AKの検体観察のために使用した携帯形微生物観察器Cmil-kin(図1)はC1,000倍の光学倍率をもち,観察と撮影にはスマートフォンのカメラを使用する微生物の簡便な観察器械で,染色や固定といった前処理を必要とせずに検体を直接観察することが可能である.検査方法としては,カバーガラスの上に病巣擦過で得た角膜検体を載せてCmil-kinの試料ステージに置き,拡大された像をスマートフォンのカメラ機能を利用して観察する.今回,筆者らは携帯形微生物観察器Cmil-kinを用いて原因微生物の同定を試みたC2症例を報告する.本研究は慶應義塾大学医学部倫理委員会に承認された(慶應義塾大学医学部倫理委員会承認番号C20221067).CI症例[症例1]患者:66歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:近視に対してハードCCL(hardCL:HCL)を使用していた.2022年C5月CX日,左眼充血を自覚し,かかりつけ眼科を受診.円板状の角膜実質混濁を認めヘルペス性角膜炎を疑われ,バラシクロビル内服とフルオロメトロンC0.1%点眼液を処方された.症状の改善なく,2024年C5月CX+5日当院を紹介され受診した.CAxC1.50.cyl(5DC.3×.初診時所見:右眼視力0.3(1.2150°),左眼視力=0.01(n.c).眼圧は右眼C14.0CmmHg,左眼C14.0CmmHg(NCT)であった.細隙灯顕微鏡検査では左眼の円板状角膜実質浸潤と一致した部位の角膜上皮浮腫を認めた(図2).mil-kinによる観察と,ディフクイック染色を行った双眼顕微鏡の観察では,ともに二重壁構造を伴うアメーバシストを認め(図3),AKと診断した.経過:初診日より角膜病巣掻把を週C2回行い,クロルヘキシジングルコン酸塩液C0.05%点眼をC1時間ごと,ボリコナゾールC1日C6回,ガチフロキサシン水和物C1日C6回,オフロキサシン眼軟膏C1日C2回の点眼,眼軟膏治療を開始した.前医処方のバラシクロビル内服とフルオロメトロンC0.1%点眼液は中止した.2024年C5月CX+10日の再診時には,前房蓄膿と角膜上皮欠損が新たに出現した.1カ月ほど加療を行い,実質浸潤は瘢痕化し前房炎症は消失したが視力改善は見込まれず,角膜移植手術を行う方針としてドナー待機患者登録を行った.[症例2]患者:49歳,男性.主訴:左眼痛.現病歴:円錐角膜に対してCHCLを使用していた.2022年9月CX日左眼充血を自覚し,かかりつけ眼科を受診.レボフロキサシン水和物点眼を処方され,HCL装用を継続していた.2022年9月X+19日再診時に左眼角膜混濁を指摘され,レボフロキサシン水和物,オフロキサシン,タクロリムス水和物,イブジラスト点眼液を処方され,当院当科を紹介され受診した.初診時所見:右眼視力C1.2CpC×HCL(1.2C×HCL×sph+1.5D(cyl.0.50Ax90°),左眼視力は指数弁10cm/n.d(n.c),眼圧は右眼C5.3mmHg左眼C18.0CmmHg(NCT).細隙灯顕微鏡検査では左眼の著明な毛様充血と,瞳孔領に図2症例1の当院受診時左眼前眼部写真a,b:2022年5月X+10日.Cc:加療後1カ月(2022年6月X+13日).円板状角膜実質浸潤は,加療後に瘢痕化した.図3症例1の観察画像a:mil-kin無染色C1,000倍観察.Cb:ディフクイック染色双眼顕微鏡C400倍観察..はアメーバシスト.図4症例2の当院初診時の左眼前眼部写真当院初診時(2022年C9月CX+19日).毛様充血と辺縁不整の円板状角膜浸潤がみられる.辺縁不整の円板状角膜浸潤を認めた(図4).Cmil-kin無染色日C2回の点眼,眼軟膏治療を開始した.C1週間後に左瞳孔領1,000倍観察とディフクイック染色による双眼顕微鏡C400倍の角膜浸潤は改善し,C1カ月後(図6)に右眼視力=1.2Cp×観察とで二重壁構造を伴うアメーバシストを認め(図5),HCL,左眼視力=(C0.5CpC×sph..C50D(cyl.3.00Ax90°)AKと診断した.へ改善した.経過:角膜病巣掻把を週C2回行い,クロルヘキシジングル今回筆者らが臨床所見からCAKを疑い,検査を行った症コン酸塩液C0.05%をC1時間おき,ボリコナゾールC1日C6回,例を表1に示す.ガチフロキサシン水和物C1日C6回,オフロキサシン眼軟膏C1図5症例2の観察画像a:mil-kin無染色C1,000倍観察.Cb:ディフクイック染色双眼顕微鏡C400倍観察..はアメーバシスト図6症例2の加療後1カ月の左眼前眼部写真加療後1カ月(2022年10月X+19日).瞳孔領の角膜浸潤が改善した.表1患者背景と検査結果年齢性別使用レンズコンタクト保存液アカントアメーバ培養検査病巣擦過検体アカントアメーバ分離培養検査ディフクイック観察mil-kin染色症例C1C66男性CHCL陽性陰性陽性陽性症例C2C49男性CHCL陰性陰性陽性陽性II考察今回筆者らは,携帯形微生物観察器を用いてCAKの病巣擦過物よりアカントアメーバのシストを検出し,診断,治療開始につながったC2症例を報告した.AKは,クロルヘキシジングルコン酸塩液C0.05%やボリコナゾール点眼などの適応外使用の製剤を自家調剤して治療に使用する必要がある.一般の診療所などでは治療がむずかしく,倫理委員会をもつ基幹病院以上の医療施設に紹介する必要がある.初期にステロイドの局所投与が行われると,病態に悪影響を及ぼすこともあり,できるだけ早い確定診断が望ましい.CL装用とCAKの関連C10.13)に関しては周知が進んだものの,その診断に関しては,より簡便で汎用性のあるものが求められる.携帯形微生物観察器は眼科以外では歯科の分野で,口腔細菌を患者とともにリアルタイムに供覧することで歯周病予防に活用されている.携帯形微生物観察器を用いることにより,検体採取から観察まで短時間で簡便な検査が可能となり,スマートフォンカメラで写真や動画を記録することが可能となる.また検査室をもたない医療施設や一般外来診療などで診断補助として使用できる点も利点と考えられる.過去にも加藤らが携帯形微生物観察器を使用し,AKや真菌性角膜炎からの原因微生物の同定を行った報告があり14),診断補助用具としての有用性が示唆される.一方で,表1に示したように今回の携帯形微生物観察器による観察結果は,必ずしも病院検査室の分離培養結果と一致するものではなかった.携帯形微生物観察器の感度や特異度は症例数が増えたところで検討する必要がある.また,携帯形微生物観察器の観察像は基本的に無染色であるため,得られる情報は形態評価のみになることが限界点である.ディフクイック染色など組織染色を行ってから携帯形微生物観察器で観察することも可能であるが,アカントアメーバのシストのサイズはC10.25Cμmと幅があり,観察像からの形態評価はさまざまな検査結果と総合的に判断する必要があると考えられる.本報告では,AKが疑われる症例において携帯形微生物観察器を使用し,無染色でアカントアメーバのシストを確認することにより,早期の診断補助における有用性が示唆された.今後は経験症例を増やし,有用性に関するエビデンスを蓄積していくことが望まれる.文献1)重安千花,山田昌和:コンタクトレンズによる重篤な眼障害の全国調査より得たこと.臨床眼科C76:1193-1199,C20222)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス.日眼会誌C110:961-972,C2006C3)島崎潤:角結膜疾患の治療戦略,吉村長久,後藤浩,谷原秀信(編),p220-241,医学書院,20164)井上幸次(編):専門医のための眼科診療クオリファイ角膜混濁のすべて,中山書店,p170-183,20145)小林顕,石橋康久:アカントアメーバ角膜炎.あたらしい眼科19:1005.1010,C20026)平野耕治:急性期アカントアメーバ角膜炎の重症化に関する自験例の検討.日眼会誌115:899-904,C20117)塩田恒三,稲富勉,外園千恵ほか:アカントアメーバ角膜炎C43例の発症後検査までの日数と認めたアカントアメーバの発育ステージとの関係.ClinicalCParasitologyC19:C26-29,C20088)BaconAS,DartJK,FickerLAetal:Acanthamoebakera-titis.CTheCvalueCofCearlyCdiagnosis.COphthalmologyC100:C1238-1243,C19939)薄井紀夫,後藤浩(編):眼感染症診療マニュアル,p220-236,医学書院,201410)YoderJS,VeraniJ,HeidmanNetal:Acanthamoebaker-atitis:thepersistenceofcasesfollowingamultistateout-break.OphthalmicEpidemiolC19:221-225,C201211)CarntN,SamarawickramaC,WhiteAetal:Thediagno-sisandmanagementofcontactlens-relatedmicrobialker-atitis.ClinExpOptomC100:482-493,C201712)RandagCAC,CvanCRooijCJ,CvanCGoorCATCetal:TheCrisingCincidenceCofCAcanthamoebakeratitis:AC7-yearCnation-wideCsurveyCandCclinicalCassessmentCofCriskCfactorsCandCfunctionaloutcomes.PLoSOneC14:e0222092,C201913)HollhumerCR,CKeayCL,CWatsonSL:AcanthamoebaCkerati-tisinAustralia:demographics,associatedfactors,presen-tationCandoutcomes:aC15-yearCcaseCreview.Eye(Lond)C34:725-732,C202014)KatoCN,CShimizuCT,CShimizuCECetal:RapidCdetectionCofCfungiCandCAcanthamoebaCfromCcornealCulcersCusingCaCnovelCmobileClaboratoryCmicroscopeCandCaCsmartphone.Eye(Lond)C37:785-786,C2023***