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EDOF眼内レンズの特徴と選び方・私の流儀

2026年6月30日 火曜日

EDOF眼内レンズの特徴と選び方・私の流儀FeaturesofEDOFIntraocularLensesandHowtoChooseThem:MyApproach眞野富也*はじめに近年,老視矯正眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は多様化をきわめており,3焦点CIOLや連続焦点CIOLを含め,さまざまな選択肢が臨床に存在する.その一方で,グレア・ハロー,コントラスト感度低下といった多焦点CIOL特有の副症状が,患者満足度を左右する重要な因子であることも広く認識されるようになった.こうした背景のなかで,焦点深度拡張型(extendedCdepthCoffocus:EDOF)IOLは,多焦点CIOLの利点を部分的に享受しつつ,副症状を可能な限り抑える選択肢として注目されている.本稿では,EDOFIOLの歴史的背景と代表的な製品の特徴を概説したうえで,筆者自身の患者選択における考え方,「私の流儀」について述べる.CIEDOFIOLの歴史と位置づけEDOFIOLは,多焦点CIOLに伴う光視現象を軽減しつつ,単焦点CIOLに近い自然な見え方を維持することを目的として開発されてきた.現在では,単焦点CIOL,CenhancedCmonofocalIOL,EDOFIOL,多焦点CIOLという連続したスペクトラムとして理解することが重要である.老視矯正CIOLの開発は,長らく多焦点CIOLを中心に進められてきた.回折型多焦点CIOLは,遠方視に加えて中間視・近方視を同時に獲得できるという大きな利点を有する一方で,グレア・ハローなどの光視現象やコントラスト感度低下といった副症状が臨床上の課題として指摘されてきた.これらの問題は,とくに夜間運転や暗所作業を行う患者において満足度を低下させる要因となり,老視矯正CIOLの適応を限定する一因ともなっていた.こうした背景のもと,多焦点CIOLと単焦点CIOLの中間的な概念として登場したのがCEDOFIOLである.CEDOFIOLは,明確な複数焦点を形成するのではなく,焦点域を連続的に拡張することにより,遠方視の質を維持しながら中間距離を中心とした視機能の向上をはかる設計思想に基づいている1,2).初期のCEDOFIOLは回折型光学設計を採用した製品が中心であり,従来の多焦点CIOLと比較して光視現象の軽減が期待された.しかし,回折構造を有する以上,光エネルギーの分配やコントラスト感度低下といった課題を完全に回避することは困難であった.その後,光学設計の進歩により,回折構造を用いない非回折型CEDOFIOLが登場し,より単焦点CIOLに近い見え方を志向する流れが加速した.近年では,EDOFIOLは一つの固定したカテゴリーというよりも,単焦点CIOLから多焦点CIOLへと連なる連続的なスペクトラムのなかで理解されるようになっている.すなわち,従来の単焦点IOL,球面収差制御などにより焦点深度をわずかに拡張したCenhancedmonofo-calIOL,回折型・非回折型CEDOFIOL,そして多焦点IOLという位置づけである.このような概念整理は,術*TomiyaMano:吹田徳洲会病院眼科〔別刷請求先〕眞野富也:〒565-0814大阪府吹田市千里丘西C21-1吹田徳洲会病院眼科(1)(19)C6130910-1810/26/\100/頁/JCOPY前説明や患者選択を行ううえできわめて有用である.CEDOFIOLは「老視を完全に解決するレンズ」ではなく,「見え方の質と利便性のバランスを重視した現実的な選択肢」として位置づけることが重要である.多焦点CIOLの副症状を懸念する患者や,単焦点CIOLではもの足りなさを感じる患者に対し,EDOFIOLは両者の間を埋める役割を果たす存在であり,今後もその適応はさらに広がっていくと考えられる.CII使用可能なEDOFIOLの特徴EDOFIOLは光学設計の違いにより複数のタイプに分類される.代表的なCEDOFとしてCSymfony,Mini-Well,IC-8があげられる.近年では非回折型CEDOFであるVivity,PureSeeが登場している.C1.PureSeePureSeeは,非回折型のCEDOFIOLであり,回折構造を用いない屈折型光学設計を特徴とする.連続的な屈折曲率プロファイルにより焦点深度を拡張することで,単焦点CIOLに近い自然な見え方を維持しつつ,遠方から中間距離,日常生活レベルの近方視までをカバーすることを目的としている.回折リングを有さない構造から,グレア・ハローといった光視現象が比較的少なく,コントラスト感度の低下も最小限に抑えられる点が特徴である.また,瞳孔径変化の影響を受けにくい設計とされており,暗所においても安定した視機能が得られやすい.近方視については細かな近業では眼鏡が必要となる場合があり,術前に十分な説明が求められる.C2.VivityVivityは,アルコン社が提供する非回折型CEDOFIOLであり,独自の波面シェーピング技術(X-WAVE)を用いた光学設計を採用している.入射光を分割するのではなく,波面を伸長・再配置することで焦点深度を拡張する点が特徴で,光エネルギーのロスがきわめて少ないとされている.臨床的には,単焦点CIOLに近いコントラスト感度と遠方視の質を保ちつつ,中間距離の視機能改善が期待できる.グレア・ハローの発現は少なく,夜間運転や暗所作業を行う患者においても選択しやすいレンズである.一方で,近方視の改善は限定的であり,近方作業に対しては眼鏡併用を前提とした説明が重要である3).CIII私の流儀1.レンズ選択さて,本題となる「私の流儀」であるが,これまでたくさんの回折型多焦点CIOLを使用してきたなかで,初期にはCwaxyvision,それから夜間のグレア・ハローとの闘いであった.術前に遠方・中間・近方の見え方と夜間のグレア・ハローの見え方について十分に説明し,経過中にほとんど気にならなくなり満足する患者も多いなか,どうしてもグレア・ハローの症状になじめない患者が結構いたのも事実である4).このような状況のなか,単焦点の範疇に入るCenhancedCmonofocalCIOL(Eyhance,Impressなど)が上市され,遠方から中間まで見え,なかには近方まで驚くほど見えて満足する患者も結構いることは驚きであり,保険診療でカバーされることもあって治療する側にも勧めやすいレンズである.このCenhancedCmonofocalIOLが普及してきたところに,さらに焦点深度を拡張させた多焦点CIOL(選定療養)の範疇に入るレンズとしてつぎに登場したのがEDOFのCPureSeeである.単焦点やCenhancedCmonofo-calのCEyhanceとほぼ同じで,夜間のグレア・ハローがほとんどないのが特徴で,今までの回折型多焦点レンズと違い患者にはとても勧めやすく,術者として術前の説明も楽で,以前からの回折型構造の多焦点CIOLには戻れないのが現状である.ただ,近方が少し見にくいと訴える患者もいるため,その点は丁寧に説明する必要がある.しかし,近方が見にくいといっても近見視力を測ると悪くてもほとんどの患者でC0.4は見えているので,日常生活では眼鏡も必要なく快適に生活できるレベルだと思われる.近方の細かい字を見るときは近用眼鏡を使用する必要があることは術前に強調しておくべきである.C2.IOLの狙い度数a.PureSee筆者の狙い度数は,もともと遠視や正視の患者には基614あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(20)視力(平均値±標準偏差)logMAR0.60.40.20.0遠見中間近見EyhanceCPureSee遠見中間近見遠見中間近見Cn28眼28眼28眼36眼36眼36眼平均(logMAR)C.0.059C0.120C0.476C.0.031C0.068C0.300平均(少数視力)C1.15C0.76C0.33C1.07C0.86C0.500標準偏差C0.0873822C0.14061958C0.205122212C0.094784487C0.110115238C0.183055004WelchのCt検定(p値)C0.22C0.10C0.0006*遠見,中間(70cm),近見(30cm)の裸眼視力.図1EyhanceとPureSeeの術後1カ月後の視力遠見,中間(70cm),近見(30cm)の裸眼視力.

Pairingを行う回折型3焦点眼内レンズ

2026年6月30日 火曜日

Pairingを行う回折型3焦点眼内レンズBilateralPairingImplantationofaTrifocalIOL藤本可芳子*はじめに白内障手術治療は大変にポピュラーであり,最近では年間約C160万件行われている.2002年から多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の出現により多くの種類が開発され,老眼治療としても注目される治療となっている.当初は屈折型のみであったが,回折型C2焦点,3焦点,そして焦点深度拡張型(extendedCdepthCoffocus:EDOF)など,さまざまな種類の国内外の多焦点CIOLが承認された.自分に適しているのはどれか,説明資料を見ても患者は選択に迷い,医師もどのCIOLを選択すべきか悩ましい.現在は多数の選択肢があるにもかかわらず,国内の多焦点CIOLの使用率はC5%前後と海外のC18%に比べると少ない1,2)のが現状である.これは,先進医療での使用が終了して費用が自己負担になったことや,保険適用の低加入度数CIOLやプレミアム単焦点IOLなどが使用可能となったことも理由であろう.また,多焦点CIOL術後の見え方に不満があるケース(7.2%)や不満足によるCIOLの摘出(1.2%)があるため3),術者が患者選択に慎重になっていることも考えられる.不満の原因になるのは,コントラストの低下,グレア・ハローの不快光視症,屈折ずれ(不十分な裸眼視力)などで,少数ではあるが患者の期待どおりの結果が得られないこともある3).一方で,単焦点CIOLでは手に入らない遠方,中間,近方の裸眼視力が術前より改善して良好で,術後結果に満足している患者も多い.I多焦点IOLの選択近年では多焦点CIOLの認知度が高まっており,手術を受けた患者の経験や術後結果をCSNSやCYouTubeで調べたうえで,知識をもって受診するケースも増えつつある.選定療養になってから使用できるCIOLの種類は増加しており,各患者にどのCIOLが適しているか,担当医師が選ぶ必要がある.患者の生活内容,仕事内容,車の運転,夜間の運転,希望する視力,もっとも重要視する距離,明暗,遠近の瞳孔径などを調べて,患者に最適なIOLの選択が必要である.本稿では,HOYAのCVivinexGemetric回折型多焦点IOLと,近方への光配分を増やしたCVivinexGemetricPlusの両方を用いたペアリングという治療について解説する.C1.GemetricとGemetricPlusHOYAのCGemetricはC2024年C8月に承認され,続いてC2025年C4月,近方エリアの光配分を増やしたデザインのCGemetricPlusも使用可能となった.全長C13mmの疎水性アクリルCIOLで光学部は直径C6mm,多焦点の加入度数面積は直径C3.3Cmmと他社の加入度数面積より狭い.その周辺部は単焦点のため,夜間視や遠方視時は散瞳するが,グレア・ハローが少ないと期待されている(図1).GemetricPlusは遠方の光配分を減らし,近*KahokoFujimoto:フジモト眼科〔別刷請求先〕藤本可芳子:〒530-0041大阪市北区天神橋C6-6-4平蔵ビルC2Fフジモト眼科(1)(13)C6070910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1Gemetric,Gemetricトーリックのデザインとサイズ瞳孔径:3.0mm0.50.40.30.20.10.0光源:546nm-1.00.01.02.03.04.0(D)Defocus図2GemetricとGemetricPlusの光量配分の位置(HOYAの資料より転載)MTFat50lp/mmスクリューロッドプランジャーノズルスライダーインサートシールド図3プッシュ・スクリューが選択できるプリロードインジェクターa(%)8060エネルギーの割合402002.02.53.0瞳孔径3.54.0近方中間4.5(mm)遠方b(%)8060エネルギーの割合402002.02.53.03.54.04.5(mm)瞳孔径近方中間遠方図4Gemetric(a)とGemetricPlus(b)の瞳孔径サイズにおけるエネルギー比率(HOYAの資料より転載).3.0D近方(35cm前後)までの視力が得られている4).同じプラットフォームのレンズを組み合わせるため,異種レンズを組み合わせたCmixCandmatchよりも違和感が少ない.一方で,左右差に敏感な患者や神経質な患者には不向きな場合があり,注意を要する.CII筆者の施設における多焦点IOL手術のこだわり多焦点CIOLは通常の白内障手術や単焦点CIOLと比べて,術後屈折誤差が生じると良好な裸眼視力が出ないために不満やクレームにつながる.レンズ度数の選択をより慎重に選択する必要がある.フジモト眼科(以下,当院)では視力不良眼や非優位眼を先に手術し,1日.1週間後に遠近の裸眼視力,術後屈折誤差の有無を確認し,僚眼の手術は必要があれば度数変更をして行っている.優位眼が遠方・近方どちらにあるかを確認しておくことも大切である.pairingの場合,近方の効き目にはGemetricPlusを用いる.C1.多焦点レンズの長期安定性多焦点CIOL挿入後長期に良好な視力を得るためには,IOLのセンタリングが大変重要である.筆者の場合は,自身でデザイン作成したCCCCマーカーで角膜表面に直径C5.6mmのマーキングを行い,鑷子でCCCCを作成している.マーキングがあるとガイドになり,眼球の大きさや瞳孔径に左右されず正確なサイズのCCCCが作成しやすい.IOLの中心固定,IOLエッジが前.でコンプリートカバーできるように注意して作成する.強度近視や偽落屑症候群(pseudoexfoliationCsyndrome:PE),硝子体術後眼,アトピー性白内障,外傷眼などでは,Zinn小帯が弱い症例が多く,この場合にはカプセルの収縮やずれが生じやすい.カプセルテンションリング(capsulartensionring:CTR)の予防的な挿入は適用外であるが,当院では上記の症例で予防的にCCTR130A0(HOYA)を挿入しており,費用は施設負担で行っている.白内障術後平均C11年くらいでC0.1%にCIOL脱臼が起こると報告されており8),万一術後に偏位が発生した場合,CTR挿入眼では,水晶体.とCIOLをともにC10-0プロリン糸で強膜にC3点固定縫着が可能である9).Zinn小帯が緩んでレンズが脱臼・偏位した場合でもCCTRが入っている患者は多焦点CIOLの再利用や長期使用ができる.C2.pairingの選択と患者への説明Gemetricpairingを選択する患者は眼鏡なしの生活を希望し,時々車を運転し,デスクワークや近見作業も行い,パソコンや携帯も裸眼で見たい人たちである.pairingについて患者へ説明する際,「唯一の国産多焦点レンズで,両方とも遠方・中間・近方が見える多焦点レンズですが,片方にはより近くが見やすいレンズデザインを入れるのでデスクワークもしやすいです」と説明すると理解されやすく,現役で仕事をしている患者に希望者も多い.トーリックもT2.T5(0.7.2.6D)まで揃っており,乱視眼にも対応できる.ときにC3D以上の乱視例では,多焦点CIOL術後に残存する乱視や屈折異常があれば,LASIKや角膜輪部減張切開(limbalCrelaxingincision:LRI)で追加修正を行い,より良好な裸眼視力を追及している.C3.当院の使用例実際の症例を示す.両眼CGemetricを使用した症例(57歳,女性)の術後裸眼視力は,遠方視では右眼C1.5(n,c),左眼C1.5(n.c),両眼C1.5(n.c),近方裸眼視力は,右眼がC30Ccm,50Ccm,70CcmでそれぞれC0.8,0.5,0.6,左眼がC30cm,50cm,70cmでそれぞれC0.7,0.4,0.5で,両眼近方視力はC30Ccm,50Ccm,70Ccmでそれぞれ0.9,0.6,0.6であった.一方で,pairingを行った例(同じくC57歳,女性)の術後視力は,右眼C1.5(n.c),左眼C1.5(n.c),両眼C1.5(n.c),近方裸眼視力は右眼がC30Ccm,50Ccm,70CcmでそれぞれC1.0,0.8,0.9,左眼がC30cm,50cm,70cmでそれぞれ0.8,0.8,0.8,両眼が30cm,50cm,70CcmでそれぞれC1.0,0.8,1.0と,両眼CGemetricと同様遠方視力が良好なのに加えて,pairing症例では近方視力がさらに良好となった.おわりに多数の多焦点CIOLが入手できる昨今では,選択肢が610あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(16)-

回折型3焦点・連続焦点眼内レンズ

2026年6月30日 火曜日

回折型3焦点・連続焦点眼内レンズDiffractiveTrifocalandContinuousRangeofVisionIntraocularLenses佐々木洋*はじめに近年,コントラスト感度が良好で不快光視現象の少ない焦点深度拡張型(extendeddepthoffocus:EDOF)が,世界的にも国内でも多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)として選択されることが多くなってきたが,EDOFでは約半数程度で近用眼鏡が必要になるため,眼鏡依存度を低減したい患者では回折型3焦点あるいは連続焦点IOLが第一選択となる.本稿では,代表的な3焦点IOLのPanOptix(アルコン社)とFINEVISIONHP(BVI社),連続焦点IOLのTECNISOdyssey(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)について,基本的事項および本カテゴリーIOLの選択理由,他のカテゴリーIOLとの使い分け,3種IOLでの使い分けについて,個人的なこだわりも含め解説する.I基本的事項表1に回折型3焦点および連続焦点眼内レンズの特性比較を示す.1.PanOptixClareonPanOptixは,アルコン社の疎水性アクリル素材Clareonを用いた回折型3焦点IOLであり,AcrySofIQPanOptixの後継レンズとして国内で承認され2022年4月より使用が開始されている.独自のENLIGHT-EN光学テクノロジーにより,4焦点設計を起点に焦点距離120cmからの光エネルギーを遠方に再配分することで,40cmの近方焦点を維持したまま,作業距離として頻用される60.cmに中間焦点を設定している.瞳孔径3.0mmでの光エネルギー利用率は88%と高く,回折領域を4.5mmとすることで瞳孔径への依存性を低減し,低照度・大瞳孔時でも遠・中・近の視機能のバランスを保ち,日常環境での見え方を安定させるよう配慮されている.光配分は遠方に50%,残りを中間と近方に25%ずつ配する設計で,遠方視の質の高さを担保しながら,中間・近方の視機能も維持している.素材・プラットフォームとしてのClareonは,AcrySofで課題であった表面ヘイズとグリスニングを抑制し,長期的に透明性が維持されることも特長である.STA-BLEFORCEハプティクスにより前房深度の変化を最小限に抑えるとともに,トーリックモデルでは軸回旋を最小限にとどめることで安定した乱視矯正を可能にしている.2.PanOptixProClareonPanOptixProは,アルコン社のClareonPanOptixを基盤に開発された改良型3焦点IOLとして国内で承認され,2026年4月より使用が開始されている.ClareonPanOptixProは従来のClareonPanOptixの光学性能を継承しつつ,新たにENLIGHTENNXT光学テクノロジーを採用し,回折構造を最適化させることで,従来ロスしていた光エネルギーの約半分を使用可能*HiroshiSasaki:金沢医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕佐々木洋:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学講座(1)(3)5970910-1810/26/\100/頁/JCOPY表1回折型3焦点および連続焦点眼内レンズの特性比較レンズタイプ多焦点(3焦点)多焦点(3焦点)多焦点(3焦点)多焦点(連続焦点)商品名ClareonPanOptixClareonPanOptixProFINEVISIONHP/ファインビジョンHPTECNISOdyssey製品番号CNWTT0(TORIC)CNWTT2/3/4/5/6PXYAT0(TORIC)PXYAT2/3/4/5/6PODFGF(TORIC)PODFT49P1.0/1.5/2.25/3.0/3.75DRN00V(TORIC)DRT150/225/300/37度数+6.0.+30.0D(0.5D刻み)+6.0.+25.0D(0.5D刻み)+10.0D.+30.0D(0.5D刻み)+5.0.+28.0D(0.5D刻み)光学部径6.0.mm(回折領域径4.5.mm)6.0.mm(回折領域径4.5.mm)6.0.mm6.0.mm形状3焦点回折型(ENLIGHTENテクノロジー)非球面バイコンベックス3焦点回折型(ENLIGHTENNXTテクノロジー)非球面バイコンベックス3焦点回折型(FINEテクノロジー)非球面バイコンベックス前面:非球面構造後面:回折構造紫外線・青色光吸収剤含有紫外線・青色光吸収剤含有紫外線・青色光吸収剤含有紫外線・紫色光吸収剤含有材質アクリル樹脂アクリル樹脂アクリル樹脂アクリルーメタクリル架橋共光学部特性(含水率1.5%)(含水率1.5%)(含水率4.9%)重合体屈折率1.55(35℃)1.55(35℃)1.531.47(35℃)エッジ設計シャープエッジデザインシャープエッジデザイン360°シャープエッジデザインProTEC360エッジデザイン円柱度数IOL面―(TORIC)1.00D/1.50D/2.25D/3.00D/3.75D―(TORIC)1.00D/1.50D/2.25D/3.00D/3.75D―(TORIC)1.00D/1.50D/2.25D/3.00D/3.75D―(TORIC)1.50D/2.25D/3.00D/3.75D角膜面―(TORIC)0.65D/0.98D/1.47D/1.96D/2.45D―(TORIC)0.65D/0.98D/1.47D/1.96D/2.45D―(TORIC)0.68D/1.03D/1.55D/2.06D/2.57D―(TORIC)1.03D/1.54D/2.06D/2.57D加入度数IOL面+2.17D(中間)/+3.25D(近方)+2.17D(中間)/+3.25D(近方)+1.75D(中間)/+3.5D(近方)非公表眼鏡面+1.65D(中間)/+2.35D(近方)+1.65D(中間)/+2.35D(近方)+1.34D(中間)/*+2.67D(近方)公式なデータなし非公表支持部特性全長13.0mm13.0mm11.4mm13.0mm形式シングルピースSTABLEFORCEシングルピースSTABLEFORCEダブルCループCループ素材紫外線・青色光吸収剤含有アクリル樹脂(含水率1.5%)紫外線・青色光吸収剤含有アクリル樹脂(含水率1.5%)紫外線・青色光吸収剤含有アクリル樹脂(含水率4.9%)紫外線・紫色光吸収剤含有アクリルーメタクリル架橋共重合体設計光学部―支持部の角度0度光学部―支持部の角度0度RiDgeTecデザインHapticsoffsetfromoptics,Tri-FIXデザイン(TORIC)Hapticsoffsetfromoptics,Tri-FIXデザイン,フロストループ販売会社名日本アルコン日本アルコンBVIジャパンエイエムオージャパンとしている.光エネルギーロスを半分に軽減したことで,光エネルギー利用率を94%まで向上させている(従来型88%→Pro94%).これは,3焦点IOLで報告されているなかでも最高水準の光利用率である.利用可能な94%の光エネルギーを遠・中・近の焦点と,100cm付近へ再配分したことで,全距離における途切れのない光配分が可能となっている.この改善により,遠方および遠方.中間距離での視力の質を向上させ,患者の高コントラスト視力に寄与することが期待されている.臨床的には,前向きランダム化試験による左右眼比較において,ClareonPanOptixProは従来のClareonPanOptixと比較し,遠方,遠方.中間120cm,中間,近方のいずれの距離においても,ClareonPanOptixProの見え方を好む患者の割合が多いことが示されており,改良された光学設計の有効性が裏づけられている(Alcondataon.le,2025:REF-27698).3.FINEVISIONHPFINEVISIONHP(以下,FINEVISION)は,BVI社の疎水性アクリル素材の回折型3焦点IOLであり,前面に回折構造を有する非球面バイコンベックス光学部を採用し,+3.5Dおよび+1.75Dの二つの加入度数を組み合わせた設計となっている.回折による光エネルギー損失を最小限に抑えつつ,遠・中・近のバランスの取れた視覚機能を実現している.とくに近方に対する光エネルギー配分が高く,35.40cmの作業距離において良好な近方視力が得られる.光学設計としては,瞳孔径の拡大に伴い遠方への光配分を増加させるアポダイゼーションと,回折溝頂点を滑らかにすることでスターバーストを抑制するコンボリューションを組み合わせた独自のCoPODizeテクノロジーを採用している.これにより,低照度下では遠方視の光配分が高まり,グレア・ハローの軽減とともに良好な夜間視機能が期待される.支持部には全長11.4mmのダブルCループハプティクスを採用しており,4点支持に近い接触様式を形成することで安定した.内固定性と適切な圧着力が得られ,術後の偏心や傾斜の抑制に寄与するとともに,軸回旋の抑制および.収縮の予防効果が期待される.4.TECNISOdysseyTECNISOdyssey(以下,Odyssey)は,ジョンソン・エンド・ジョンソン社の連続焦点型多焦点IOLであるTECNISSynergy(以下,Synergy)の後継レンズとして2024年11月に国内での使用が承認された連続焦点多焦点IOLである.Synergyは回折型2焦点IOLであるTECNISMultifocalにTECNISSymfonyのエシェレット回折構造を組み合わせることで,遠方から近方まで落ち込みのない連続的な焦点深度を実現したIOLであり,他の多焦点IOLと比べ30cm視力が良好であったが,不快光視現象が強く,コントラスト感度が低下する傾向があった.Odysseyは複雑で滑らかな表面構造を形成することで高精度な光配分を実現し,Synergyで課題であった不快光視現象の軽減を目的とした光学設計となっている.また,OptiBlueおよびTECNIS@プラットフォームの採用により球面収差をほぼゼロに補正するとともに,低屈折率・高Abbe数の素材特性により色収差を抑制し,良好なコントラスト感度が期待される.Tri-Fix3点固定による前房深度安定性および良好な中心固定に加え,光学部周辺のリム部構造により前.下への房水灌流が促進されることで,前.切開縁の線維性混濁および前.収縮抑制効果が期待される.さらに,支持部側面のすりガラス状研磨(TECNIStoricⅡ)による術後の軸ずれ軽減効果も継承されている.II本カテゴリーIOLの選択理由および他カテゴリーIOLとの使い分け回折型3焦点IOLおよび連続焦点IOLを選択する最大の理由は,「眼鏡依存度の軽減」である.もともと多焦点IOLは「眼鏡依存度の軽減」を目的に開発されており,その原点となるコンセプトを最重要視しているのがこのカテゴリーのIOLである.したがって,3焦点・連続焦点は裸眼で遠方から近方35.40cmまで見たい患者には最適なIOLになる.遠近両用眼鏡や多焦点コンタクトレンズを使用していない老視眼については,遠視眼.正視眼では近用眼鏡装用が不要なるので,中間.近方視で高い満足度が得られる.とくに,老視のある強(5)あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026599度近視眼は,裸眼全距離視力がきわめて不良であり,3焦点・連続焦点IOLの使用により矯正用アイテム使用から解放され,全距離での裸眼視力が改善するため,非常に高い満足度が得られやすい.近年ではEDOFの選択肢も増えており,3焦点・連続焦点との使い分けが必要になっている.EDOFはコントラスト感度が良好で不快光視現象がほとんどないが,実用的な近方裸眼視力が得られるのは50cm程度まであり,30.40cmの近方視では近用眼鏡が必要になることが多い.両カテゴリーのIOLの選択におけるポイントとしては,①近用眼鏡使用への許容度,②最頻視距離,③鮮明な遠方視力の必要性,④夜間運転の頻度,⑤神経症傾向の有無,などがあげられる.3焦点・連続焦点は,近用眼鏡への拒絶感が強い,最頻視距離が40cm前後,ゴルフや仕事などでの鮮明な遠方視力が必須ではない,夜間運転の頻度が少ない,神経症傾向がない患者は適用としてよく,上記にあてはまらない場合はEDOFを選択すると高い満足度が得られやすいと考えている.図1はPanOptix挿入眼とVivity挿入眼における神経症傾向とVF14による術後満足度の相関をみたもので1),PanOptix挿入眼では神経症傾向が強いと術後満足度が低下するが,Vivityではその傾向が少ないことがわかる.新たな選択肢として,EDOFと3焦点・連続焦点の組み合わせであるMix&Matchの有用性が報告されている2).とくに優位眼にコントラストが良好で不快光視現象の少ないEDOF,非優位眼に近方視の良好な3焦点・連続焦点IOLを使用すると高い満足度が得られやすい.両眼にPanOptixあるいはVivityを使用した患者(Pan-Optix群,Vivity群)と両IOLを組み合わせたMix&Match群の比較では,近方視力はPanOptix群とMix&Match群が同等で,Vivity群より有意に良好であった(図2).近用眼鏡装用率はMix&Match群がPanOptix群よりは高くなったが,Vivity群よりはやや低く,眼鏡依存度を軽減できる可能性がある(図3).さらにPhoticPhenomenatest(PPT)3)で測定した不快光視現象もMix&Match群はハローを自覚するが,その明度がPanOptix群より軽度であり,夜間運転も多くの患者で問題なく可能であった(図4).優位眼にコントラスト感度が良好で不快光視現象の少ないEDOFを使用することで,3焦点IOLで自覚される症状が軽減された可能性が高く,有用な方法である.ただし,Mix&Matchでは近方視力の左右差があるため,近方立体視がわずかに低下する可能性があり,細かい近方作業が必要な患者における適用には注意が必要である.3焦点・連続焦点IOLは,単焦点IOLやEDOFと比較しコントラスト感度,とくに薄暮環境での視機能がやや低下すること,患者によってはハロー・スターバーストなどの不快光視現象が強く自覚される場合があることについては十分な術前説明が必要であり,職業ドライバー,暗所での作業が求められる患者への適用は控えたほうが無難である.そのような患者が強く本カテゴリーのIOLを希望した場合は,IOLにより異なる角膜高次収差および瞳孔径の不快光視現象への影響を検討し,患者によってはMix&Matchを選択する.3焦点・連続焦点IOLは,軽度の屈折ずれや残余乱視の視機能への影響も他のカテゴリーのIOLに比べ大きく,高い精度のIOL度数・トーリックタイプおよび軸の決定,手術が必要となる.また,角膜高次収差が強い患者では,術後眼球高次収差も大きくなり,視機能低下につながる.3焦点・連続焦点はレンズの光学特性の指標となる変調伝達関数(modulationtransferfunction:MTF)が低いため,高次収差の視機能への影響は他のカテゴリーのIOLより顕著に表れるので,角膜高次収差が強い患者には選択すべきではない.とくに注意が必要なのは,角膜鉄片異物などの角膜瘢痕のある患者,翼状片術後患者,ドライアイ患者では肉眼所見での変化は軽度であっても角膜高次収差の強いことが多く,適応とすべきではないことである.III3種のIOLの使い分けPanOptix,FINEVISION,Odysseyはいずれも異なる特性を有するが,実臨床において明確に使い分けるのは容易ではない.理想的には,全距離視力,コントラスト感度,不快光視現象に加え,屈折誤差や残余乱視に対する許容性,高次収差や瞳孔径の影響,さらには眼内での偏心・傾斜特性など,多角的な観点から総合的に判断する必要がある.しかし,これらを網羅的に比較した十600あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(6)aPanOptix挿入眼24例(69.8±5.0歳)質問1電話帳,食品ラベル,薬瓶ラベルなどの小さな活字を読む質問3大きな活字の本や雑誌を読む質問2新聞や本を読む質問9ビンゴ,ドミノ,カードゲーム,麻雀などのゲームをプレイする質問1質問2質問3質問9y=-0.2123x+4.9199y=-0.1688x+4.9644y=-0.1705x+5.2503y=-0.3145x+5.7742VF14質問スコアVF14質問スコアVF14質問スコアVF14質問スコア11357113571135701357神経症スコア神経症スコア神経症スコア神経症スコアbVivity挿入眼34例(64.9±12.0歳)質問1電話帳,食品ラベル,薬瓶ラベルなどの小さな活字を読む質問3大きな活字の本や雑誌を読む質問2新聞や本を読む質問8用紙への名前や住所の記入質問1質問2質問3質問8y=0.0691x+2.8668y=0.0698x+3.1974y=0.0308x+4.1149y=-0.0203x+4.03366R2=0.01626R2=0.01255432VF14質問スコアVF14質問スコア11111357135713571357神経症スコア神経症スコア神経症スコア神経症スコア図1神経症傾向スコアと近見作業満足度スコアの関係a:PanOptix挿入眼C24例(69.8C±5.0歳).十分な視機能が獲得できている症例でも神経症傾向スコアが高いと不満例になる.b:Vivity挿入眼C34例(64.9C±12.0歳).神経症傾向スコアが高い症例でも不満例になりにくい.(logMAR)PanOptix群:n=102(65.96±8.57歳)ANOVAwithtukey:*p<0.05**p<0.01図2PanOptix群,Mix&Match群,Vivity群の全距離視力PanOptix群:両眼にCPanOptixを使用,Mix&Match群:両眼にCPanOptixとCVivityを組み合わせて使用.Vivity群:両眼にCVivityを使用.***(%)1009080706050403020100PanOptixMix&MatchVivity頻繁に使用する半分くらい使用する細かい文字を読むときのみ使用するほとんど使用しないχ2検定:*p<0.05**p<0.01図3近用眼鏡装用率PanOptix群:n=62(65.7C±9.3歳),Mix&Match群:n=21(66.6C±8.9歳),Vivity群:n=30(64.2C±7.4歳)図4不快光視現象の比較PanOptix群:n=40(65.7C±8.3歳),Mix&Match群:n=20(66.3C±8.56歳),両眼CVivity群:n=22(64.1C±9.4歳)(logMAR)-0.20-0.100.000.100.200.300.400.50*:p<0.05,**:p<0.01(tukey)図53種IOL挿入眼の片眼全距離視力PanOptix:n=247(65.6C±9.1歳),FINEVISIONHP:n=71(64.1C±9.6歳),Odyssey:n=16(64.9C±9.3歳)(AULCSF)*2.001.801.601.401.201.000.800.600.400.200.00*:p<0.05,**:p<0.01(tukey)図63種IOL挿入眼のコントラスト感度(AULCSF)PanOptix:n=313(65.6C±9.1歳),FINEVISIONHP:n=66(64.3C±9.6歳),Odyssey:n=16(63.5C±9.3歳)CPanOptixFINEVISIONHPOdysseyn=75(65.3±9.6歳)n=29(64.5±9.3歳)n=33(68.1±11.5歳)瞳孔径4.5mm以上(全体の28%)瞳孔径3.5mm以上4.5mm未満(全体の47%)瞳孔径3.5mm未満(全体の25%)図73種IOL挿入眼の不快光視現象と瞳孔径(logMAR)PanOptixPro-0.20PanOptix-0.100.100.200.300.403040506070100(cm)5m小数視力に換算した平均視力PanOptixPro0.650.941.020.980.971.001.34PanOptix0.560.860.960.990.940.881.30Mann-WhitneyU検定図8PanOptixとPanOptixPro挿入眼の片眼全距離視力PanOptix:n=122(63.5C±5.1歳),PanOptixPro:n=16(60.6C±7.7歳)CPanOptix図9PanOptixとPanOptixPro挿入眼の不快光視現象(PPT平均画像)PanOptix:n=32(63.7C±6.6歳),PanOptixPro:n=9(57.3C±6.6歳)

序説:最新眼内レンズの特徴と選び方・私の流儀

2026年6月30日 火曜日

最新眼内レンズの特徴と選び方・私の流儀FeaturesandSelectionoftheLatestIntraocularLenses:MyApproach大鹿哲郎*白内障手術が「濁りを取り除いて終わり」であった時代は,もはや遠い過去のことである.いまわれわれ眼科医が向き合っているのは,混濁した水晶体の代わりに,どのような光学系を眼内に「実装」するかという選択である.しかも,その選択肢は少なくない.回折,屈折,分節,焦点深度拡張型(extendeddepthoffocus:EDOF),トーリック,さらには「少しだけ便利な単焦点」まで,同じ眼内レンズ(intraocularlens:IOL)という語のもとに,設計思想の異なる道具がずらりと並ぶ.患者からすれば「よく見えるレンズを入れてほしい」という切実な一言に集約されるが,術者の脳内では,生活様式,性格,職業,夜間視機能,併存疾患の有無,将来の追加矯正の可能性,そして「どこまでの不全を許容できるか」という,きわめて人間味あふれる天秤が揺れ動いているのである.現代の術者は,ある種の「贅沢な悩み」に直面しているといえる.選択肢が増えれば増えるほど,「どのレンズを,どの患者に,なぜ選ぶのか」という問いはより深く,より複雑になる.これほどまでに選択肢が成熟した時代において,眼科医はいかなる判断軸をもって患者と向き合うべきか.本特集は,この問いに向き合うために企画された.老視矯正IOLの歩みをたどれば,回折型2焦点IOLの登場は大きなステップであった.回折現象を応用し,遠近の双峰性にピントを合わせるという独創的な設計は,患者に福音をもたらした.しかし,その光学的恩恵の裏側で,グレア・ハローといった異常光視症やコントラスト感度の低下,あるいは中間視力の落ち込みといった課題を内包していたことも事実である.その後,絶え間ない技術革新を経て,3焦点,連続焦点,EDOFといった概念が確立され,市場には各社の英知を結集した新製品が次々と投入されてきた.多種多様なレンズが鎬を削る現在,もはや「老視矯正IOLを挿入する」という一言のみでは,その臨床的意図をなんら語り得ない時代を迎えているのである.本特集では,現在臨床で用いられる老視矯正IOLを網羅的にカバーすべく,各分野を牽引するエキスパートの方々にご寄稿いただいた.まず,佐々木洋先生(金沢医科大学)には,現在の老視矯正IOL市場で主役を担う回折型3焦点・連続焦点IOLについて解説いただいた.基本的な光学特性から,先生ご自身の緻密な使い分けの哲学まで,豊富な臨床経験に裏打ちされた論考をお願いした.続いて,藤本可芳子先生(フジモト眼科)には,回折ゾーンが狭く近方加入度数が高いというユニークな特性をもつ老視矯正IOLを用いた「pairing」戦略についてご紹介いただいた.両眼に異なる特性*TetsuroOshika:筑波大学医学医療系0910-1810/26/100/頁/JCOPY(1)595

VEXAS 症候群に伴う続発緑内障に対して毛様体冷凍凝固術 を施行した1 例

2026年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科43(5):584.588,2026cVEXAS症候群に伴う続発緑内障に対して毛様体冷凍凝固術を施行した1例林咲良子*1野村英一*1桐野洋平*2前田彩花*2山中正二*3江中牧子*3澁谷悦子*1水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2横浜市立大学大学院医学研究科幹細胞免疫制御内科学*3横浜市立大学附属病院病理診断科病理部CACaseofSecondaryGlaucomaAssociatedwithVEXASSyndromeTreatedwithCyclocryotherapySakurakoHayashi1),EiichiNomura1),YoheiKirino2),AyakaMaeda2),ShojiYamanaka3),MakikoEnaka3),EtsukoShibuya1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversity,2)DepartmentofStemCellandImmuneRegulation,GraduateSchoolofMedicine,YokohamaCityUniversity,3)DepartmentofDiagnosticPathology,YokohamaCityUniversityHospitalC目的:Vacuoles,E1enzyme,X-linked,Autoinflammatory,Somatic(VEXAS)症候群に伴う続発緑内障に対し毛様体冷凍凝固術が有効であったC1例を報告する.症例:57歳,男性.UBA1スプライス変異(c.118.1G>C)によりVEXAS症候群と診断され,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)30Cmg/日の内服が開始された.両眼の充血で横浜市立大学附属病院(当院)眼科を受診,両眼の強膜炎に対しステロイド点眼が開始された.PSL内服開始C17カ月後に左眼視力が(0.05)に低下し,左眼眼圧C32/55CmmHgであり,ぶどう膜炎続発緑内障およびステロイド緑内障と診断され緑内障点眼が開始された.治療開始後は眼圧良好であったがCPSL増量に伴い再度眼圧が上昇し,左眼選択的レーザー隅角形成術(SLT)を施行されたが,眼圧は下降せず,線維柱帯切開術(トラベクロトミー)が計画された.全身状態悪化に伴い当院内科に入院となり眼圧C50CmmHg以上となったが,貧血や抗凝固薬の内服のため出血リスクが高く両眼に毛様体冷凍凝固術が施行された.術後C24日目には左眼眼圧C15/13CmmHgまで改善した.結論:全身状態から内眼手術が困難なCVEXAS症候群の高眼圧に対し,毛様体冷凍凝固術は有効な選択肢となりうる.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsecondaryCglaucomaCassociatedCwithVEXAS(vacuoles,CE1Cenzyme,CX-linked,Cautoinflammatory,somatic)syndromeCsuccessfullyCtreatedCwithCcyclocryotherapy.CCase:AC57-year-oldCmanCwasCdiagnosedwithVEXASsyndromeduetoaUBA1Csplice-sitevariant(c.118.1G>C)andwasstartedona30Cmg/CdayCtreatmentCwithprednisolone(PSL).CBilateralCscleritisCdeveloped,CandCheCwasCtreatedCwithCsteroidCeyeCdrops,Cwhichledtoelevatedintraocularpressure(IOP),suggestiveofsteroid-inducedglaucoma.At17monthsaftertheinitiationofPSL,visioninhislefteyedeclinedto0.05withanIOPof32/55CmmHg,andsecondaryuveiticandste-roidglaucomawerediagnosed.AlthoughIOPwasinitiallycontrolledwithglaucomaeyedrops,PSLdoseescalationledCtoCIOPCelevation.CSelectiveCLaserCTrabeculoplastyCwasCine.ective,CandCtrabeculotomyCwasCplanned.CHowever,Cduetosystemicdeterioration,includinganemia,andanticoagulantuse,intraocularsurgeryposedtheriskofexten-siveCbleeding.CThus,CbilateralCcyclocryotherapyCwasCperformed,CandCIOPCwasCreducedCtoC15/13mmHgCatC24-daysCpostoperative.CConclusion:CyclocryotherapyCmayCbeCaCviableCoptionCforCsevereCglaucomaCinCVEXASCsyndromeCwhensystemicconditionsprecludeintraocularsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(5):584.588,C2026〕Keywords:VEXAS症候群,毛様体冷凍凝固術,続発緑内障,ぶどう膜炎,ステロイド,VEXASsyndrome,cy-clocryotherapy,secondaryglaucoma,uveitis,steroid.C〔別刷請求先〕林咲良子:〒C236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SakurakoHayashi,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversity,3-9,Fukuura,Kanazawa,Yokohama236-0004,JAPANC584(112)はじめにVEXAS症候群は,軟骨・皮膚・肺・関節・骨髄などの全身に重篤な炎症を起こす難治性疾患で,CUBA1というユビキチン化にかかわる蛋白質の後天的な遺伝子変異によって生じる疾患である.その特徴からVacuoles,CE1Cenzyme,CX-linked,CAutoinflammatory,Somatic(VEXAS)症候群とよばれている1,2).本症例に関しては,前田ら3),桐野ら4)により国内からの症例報告がなされているが,本報告では新たに,VEXAS症候群に続発した難治性緑内障に対する治療経験について報告する.今回筆者らは,全身状態が不良なVEXAS症候群患者において続発緑内障を認め,毛様体冷凍凝固術(cyclocryotherapy)を施行し,眼圧の有意な下降を得たC1例を提示する.CI症例患者:57歳,男性.主訴:両眼の充血.既往歴:高血圧症.家族歴:父:高血圧症,糖尿病,母:高血圧症,妹:高血圧症,糖尿病.現病歴:20XX年C11月,高血圧症の精査目的で横浜市立大学附属病院(以下,当院)腎臓内科を紹介され受診した.初診時血圧C178/111mmHg,血液検査ではヘモグロビンCA1c(HbA1c)9.1%,血糖C168Cmg/dCl,ヘモグロビン量(Hb)C12.9Cg/dl,平均赤血球容積(meanCcorpuscularvolume:MCV)107.7CfLであり,糖尿病に加え大球性貧血も認められた.大球性貧血の原因となる葉酸,ビタミンCB12,亜鉛はそれぞれ葉酸C3.8ng/mCl,ビタミンB12C107pg/ml,亜鉛C63μg/dlと基準値以下であり,葉酸(フォリアミン錠C5Cmg)2錠分C2,メコバラミン(メチコバール錠C500Cμg)2錠分2,酢酸亜鉛水和物(ノベルジンC50Cmg)2錠分C2の内服を開始したものの貧血は改善されなかった.消化管出血の可能性も考慮されたが,前医で施行された上部消化管内視鏡検査では異常所見を認めず,当院消化器内科にて施行された下部消化管内視鏡検査でも異常所見は認められなかった.精査のため当院血液内科に併診され,骨髄異形成症候群(myelodysplas-ticsyndrome:MDS)の鑑別のため骨髄生検を施行された.骨髄は過形成を呈し,3系統の芽球に異形成を認め多系統異形成を伴う骨髄異形成症候群(MDSCwithCmultilineageCdys-plasia:MDS-MLD)に矛盾しない所見であった.また,骨髄球系(図1a)および赤芽球系前駆細胞の細胞質に空胞を有する細胞を認め(図1a,b),VEXAS症候群が疑われ遺伝子検査が施行された.その後,健診で施行された胸部CX線写真において異常陰影を指摘され,胸部造影CCTを施行したところ多発肺結節および多発リンパ節腫脹を認め,さらに皮疹がC1年前より出現していたことも確認された.遺伝子検査の結果,UBA1遺伝子変異(c.118C.1CG>C)が明らかとなり,C20XX+2年C2月にCVEXAS症候群と診断された.C20XX+2年C2月に両眼の充血を主訴に当院眼科を受診した.視力は右眼C0.2p(1.2C×sph.2.00DCcyl.0.25CDAx80°),左眼C0.15(1.2C×sph.2.00D),眼圧は右眼C19mmHg,左眼15CmmHgであり,両眼の眼球結膜の充血および強膜充血を認め,眼瞼結膜に結膜濾胞および乳頭を認めた.両眼とも開放隅角であり,左眼C5時方向に一部周辺虹彩前癒着を認めた.両眼の網膜全体に点状出血,毛細血管瘤,軟性白斑を認め,糖尿病網膜症,貧血網膜症と考えられた.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では右眼上方の網膜神経線維層の菲薄化を認めた.充血に対してはCVEXAS症候群に伴う結膜および強膜の炎症が示唆され,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%(サンベタゾン眼耳鼻科用点眼溶液C0.1%)の点眼が開始された.点眼開始後に炎症所見は改善したものの,点眼開始C3カ月後の受診時に眼圧が右眼C20.5CmmHg,左眼C25.5CmmHgと上昇しておりステロイド緑内障が疑われた.その後にステロイド点眼を中止したところ眼圧が下降し,炎症の再燃はみられなかったため近医へ紹介となった.C20XX+2年C3月より発熱,炎症反応の上昇が持続し,原疾患に対してCPSL30mg/日の内服が開始された.C20XX+3年C8月,左眼の霧視を主訴に当院眼科を再受診した.視力は右眼(1.2),左眼(0.05)であり,眼圧は右眼32CmmHg,左眼C55CmmHgであった.左眼にはステロイドによる併発白内障があり,それに伴う視力低下がみられた.眼圧上昇のC2カ月前よりCPSL内服C60Cmg/日への増量が行われており,前眼部には明らかな炎症所見を認めないものの,原疾患が炎症性疾患でもあり,ぶどう膜炎続発緑内障およびステロイド緑内障として緑内障点眼治療〔ビマトプロスト(ルミガン点眼液C0.03%)両C1回,リスパジル塩酸塩水和物・ブリモニジン酒石酸塩(グラアルファ配合点眼液)両C2回,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩(アゾルガ配合懸濁性点眼液)両C2回〕が開始された.点眼治療開始後より眼圧が下降し,13.23CmmHgの範囲でコントロールされたため,20XX+3年C11月に左眼併発白内障に対して水晶体再建術が施行された.術後C1カ月での左眼視力は(1.2)であった.C20XX+4年C4月にCPSL内服増量に伴い再度左眼の霧視が出現し,左眼の眼圧はC40CmmHgまで上昇した.点眼および内服治療による十分な眼圧下降は得られず,アセタゾラミドの内服により腎機能の低下がみられた.左眼に選択的レーザー線維柱帯形成術(selectiveClasertrabeculoplasty:SLT)を施行されたが眼圧下降は得られず,線維柱帯切開術(トラベクロトミー)が計画された.20XX+4年C8月,転倒による頭部外傷を契機に当院内科に緊急入院となった.入院時の検査においてCHb5.7Cg/dCl,血小板数C5,000/μCl,CRPC12.85Cmg/dl図1骨髄塗抹標本a:骨髄球系()の細胞質に空胞を有する細胞を認めた.b:骨髄球系()および赤芽球系前駆細胞(.)の細胞質に空胞を有する細胞を認めた.図2術後4カ月での動的視野検査a:左眼.b:右眼.左眼鼻下側に視野欠損がみられたが,両眼の視野は比較的保たれていた.と高度の貧血,血小板減少および炎症反応の上昇を認めたが,明らかな感染徴候は認められなかった.入院中は外来での診察が困難であったため,iCareIC200手持眼圧計(エムイーテクニカ)による眼圧測定が行われた.両眼の眼圧が50CmmHgを超える状態が持続していたが,脱水に伴うさらなる腎機能の悪化(クレアチニンC2Cmg/dl)を認め,アセタゾラミドの内服は中止された.もともとトラベクロトミーが予定されていたが,原疾患に伴う深部静脈血栓症に対する抗凝固薬(エドキサバントシル酸塩水和物)の内服や全身状態不良であることを考慮し,また,すでにC3カ月以上高眼圧の状態が持続していたことや退院のめどが立っていなかったことから,高眼圧による失明を回避するため両眼の毛様体冷凍凝固術が計画された.毛様体冷凍凝固術はC2%エピネフリン入りキシロカインのCTenon.下麻酔下にて,.65℃(炭酸ガス),90秒間,角膜輪部C2.3Cmmの位置で右眼C12.8時方向のC2/3周の範囲にC10カ所,左眼C4.12時方向のC2/3周の範囲にC9カ所施行された.術後C24日目に眼圧はC15/13CmmHgまで下降した.右眼の併発白内障が進行していたため,内科的な全身状態改善後,両眼とも眼圧C21CmmHg以下に保たれていたことから,術後C161日目に右眼の水晶体再建術が施行された.当初はトラベクロトミーとの同時手術も検討されたが,右眼視力(0.02)と低下しており,患者本人が早期の視力改善を希望され,また,当院においては手術までの待機期間がより短い白内障単独手術を希望されたため,白内障単独手術が選択された.術後C372日目の当院最終受診時の矯正視力は右眼(1.2×IOL×sph.2.50D),左眼(1.2×IOL×sph.2.50D),であり眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C19.5CmmHgであった.術後C4カ月で施行した動的視野検査では,左眼鼻側に視野欠損がみられるものの,両眼の視野は比較的維持されていた(図2).CII考按VEXAS症候群はCUBA1遺伝子の後天的な機能低下型体細胞変異により生じる症候群であり,遺伝子はCX染色体に存在しているため,通常男性にのみ発症する1,5).標準的治療は確立されていないが,中等量から高用量のステロイドが有効とされている6).しかし,本症例のように漸(mmHg)(mg/日)70706060眼圧5050403020100403020100PSL内服量1511202323274054425405856106396817237797968218418568778999089209279349419691,0041,0601,1921,269眼科初診日からの経過日数プレドニゾロン内服量(mg/日)右眼圧(mmHg)左眼圧(mmHg)図3プレドニゾロン内服量と眼圧の推移プレドニゾロン内服量と眼圧には一定の相関がみられた.入院期間以外はすべて非接触型眼圧計で眼圧測定を行い,初診日よりC899.955日目の入院期間は手持ち眼圧計(アイケアCIC200,エムイーテクニカ)での測定を行った.796日目に左眼選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)が施行され,918日目に毛様体冷凍凝固術が施行された.1,079日目に右眼の水晶体再建術が施行された.減中に再燃するのが一般的である.また,患者ごとに必要なステロイド量が異なり,経過中にステロイド必要量が変化するため,ステロイドの至適投与量や漸減方法も確立されていない7).Beckらの報告によると,VEXAS症候群患者のC28%に眼科合併症が報告されており,おもに,結膜炎,ぶどう膜炎,強膜炎,虹彩炎の形で発症する1).またC2020年の報告以降,眼窩炎症8),眼瞼浮腫9),眼窩筋炎10),涙腺炎,蜂巣炎11),多発性神経炎による眼筋麻痺12)なども報告されている.本症例は経過中に結膜炎および強膜炎を認め,眼圧上昇の原因としては,原疾患に伴う炎症自体による続発緑内障,またはステロイド緑内障の可能性が考えられた.また,一部周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)を認めたが,開放隅角緑内障と判断された.通常,ぶどう膜炎に伴う続発緑内障に対しては,線維柱帯切除術(トラベクレクトミー,代謝拮抗薬併用)やチューブシャント手術を行うとされるが,ステロイド緑内障との鑑別がむずかしい場合には流出路再建術が選択される場合もある13).本症例ではステロイドの全身投与と眼圧に一定の相関がみられたためにステロイド緑内障の要素が大きいと判断され(図3),トラベクロトミーが計画された.しかし原疾患に伴う貧血,血小板数の低下,深部静脈血栓症に対する抗凝固薬の内服もあり,周術期の前房出血,硝子体出血,脈絡膜出血などのリスクが高いと考えられ,眼内操作を伴わない毛様体冷凍凝固術が選択された.冷凍凝固を用いた毛様体破壊術の成績は14,15)は約C30.55%であり,眼球癆となった症例はC6.3.34%と頻度も高い.経毛様体光凝固術16)での治療成績はC73%,マイクロパルスレーザー17)での成績はC67%と高く,眼球癆となった症例も経毛様体光凝固術ではC1.9%,マイクロパルスレーザーでC2%と低いが,設備のない施設も少なくない.今回のように出血リスクの高い症例では,限られた設備下において毛様体冷凍凝固術が有用な選択肢となりうることが示唆された.また血小板減少,抗凝固薬の内服,炎症性疾患という出血リスク下においても,眼内操作を避けつつ早期に眼圧の改善を得た点は,VEXAS特有の全身状態に即した治療選択であると考えられた.おわりに今回,VEXAS症候群に続発緑内障を合併し,毛様体冷凍凝固術を施行し眼圧下降を得たC1例を経験した.VEXAS症候群はぶどう膜炎を併発し,それに伴う続発緑内障,またステロイド緑内障による高眼圧をきたすことがある.VEXAS症候群のように全身状態不良の高眼圧に対して内眼手術が困難な場合は,毛様体冷凍凝固術であれば比較的安全に施行できる可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BeckCDB,CFerradaCMA,CSikoraCKACetal:SomaticCmuta-tionsCinCUBA1CandCsevereCadult-onsetCautoinflammatoryCdisease.NEnglJMedC383:2628-2638,C20202)TsuchidaCN,CKunishitaCY,CUchiyamaCYCetal:PathogenicCUBA1CvariantsassociatedwithVEXASsyndromeinJap-aneseCpatientsCwithCrelapsingCpolychondritis.CAnnCRheumCDis80:1057-1061,C20213)MaedaCA,CTsuchidaCN,CUchyamaCYCetal:E.cientCdetec-tionofsomaticUBA1CvariantsandclinicalscoringsystempredictingCpatientsCwithCvariantsCinCVEXASCsyndrome.Rheumatology(Oxford)C63:2056-2064,C20244)KirinoCY,CMaedaCA,CAsanoCTCetal:LowCremissionCratesCandChighCincidenceCofCadverseCeventsCinCaCprospectiveCVEXASsyndromeCregistry.CRheumatology(Oxford)C64:C3872-3878,C20255)Georgin-LavialleS,TerrierB,GuedonAFetal:FurthercharacterizationCofCclinicalCandClaboratoryCfeaturesCinCVEXASsyndrome:Clarge-scaleCanalysisCofCaCmulticentreCcaseCseriesCofC116CFrenchCpatients.CBrCJCDermatolC186:C564-574,C20226)KosterMJ,WarringtonKJ:VEXASwithinthespectrumofCrheumatologicCdisease.CSeminCHematolC58:218-225,C20217)HeibligM,PatelBA,GroarkeEMetal:Towardapatho-physiologyCinspiredCtreatmentCofCVEXASCsyndrome.CSeminHematol58:239-246,C20218)CiprianG:AdverseCreactionCtoCCOVID-19CmRNACvacci-nationCinCaCpatientCwithCVEXASCsyndrome.CCureusC14:Ce23456,C20229)FanloCP,CRomanCMLS,CFonollosaCACetal:EpiscleritisCandCperiorbitalCedemaCsecondaryCtoCVEXASCsyndrome.CArchSocEspOftalmol(EnglEd)C98:607-610,C202310)GoyalA,NarayananD,WongW,CLagaAetal:Tocili-zumabCforCtreatmentCofCcutaneousCandCsystemicCmanifes-tationsofvacuoles,E1enzyme,X-linked,autoinflammatory,somatic(VEXAS)syndromewithoutmyelodysplasticsyn-drome.JAADCaseRepC23:15-19,C202211)AbumanhalCM,CLeibovitchCI,CZisapelCMCetal:OcularCandCorbitalCmanifestationsCinCVEXASsyndrome.CEye(Lond)C38:1748-1754,C202412)DiproseWK,JordanA,AndersonNE:AutoinflammatorysyndromesCinneurology:CwhenCourC.rstClineCofCdefenceCmisbehaves.PractNeurolC22:145-153,C202113)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第5版).日眼会誌C126:85-177,C202214)山本哲也:毛様体冷凍凝固術の術後成績:生命表法による解析.眼臨医報C78:10-14,C198415)KrupinCT,CMitchellKB:CyclocryotherapyCinCneovascularCglaucoma.AmJOphthalmol86:24-26,C197816)MistlbergerCA,CLiebmannCJM,CTschidererCHCetal:DiodeClaserCtransscleralCcyclophotocoagulationCforCrefractoryCglaucoma.JGlaucomaC10:288-293,C200117)WilliamsCAL,CMosterCMR,CRahmatnejadCKCetal:ClinicalCe.cacyandsafetypro.leofmicropulsetransscleralcyclo-photocoagulationinrefractoryglaucoma.JGlaucoma27:C445-449,C2018C***

オルソケラトロジーレンズのレンズケースから回収された細菌 の共存がAcanthamoeba castellanii の増殖に与える影響

2026年5月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科43(5):578.583,2026cオルソケラトロジーレンズのレンズケースから回収された細菌の共存がAcanthamoebacastellaniiの増殖に与える影響栗田佳那木村優那鈴木智恵西口翔悟角出泰造株式会社メニコン総合研究所CEffectsofCoexistenceofBacteriaIsolatedfromOrthokeratologyLensCasesonProliferationPotentialofAcanthamoebacastellaniiCKanaKurita,YunaKimura,ChieSuzuki,ShogoNishiguchiandTaizoSumideCCentralResearchLaboratory,MeniconCo.,Ltd.オルソケラトロジー(オルソCK)レンズのレンズケース内でのアカントアメーバの増殖リスクを評価するため,オルソCKレンズ装用者が実使用したレンズケースから回収された分離菌との共存下でのアカントアメーバの増殖性をCinvitroで評価した.グラム陰性細菌PseudomonasrhodesiaeおよびPseudomonasCsp.は接種菌数が約102CFU/well程度と少ない場合でもCAcanthamoebacastellaniiの増殖を促進し,グラム陽性細菌CStreptococcussalivariusおよびCMicro-bacteriumCsp.は接種菌数が約107.108CFU/wellと多い場合にのみA.castellaniiの増殖を促進した.実使用レンズケースの中にはアカントアメーバ増殖リスクが高い状態のものも存在すると考えられ,レンズケースの洗浄,乾燥,適切な消毒,定期交換を行うなど,使用者のコンプライアンスを向上させることがアカントアメーバ角膜炎のリスク低減の一助になると考えられる.CToCevaluateCtheCriskCofCAcanthamoebaCproliferationCinCorthokeratologyClensCcases,CweCexaminedCtheCprolifera-tiveCpotentialCofCAcanthamoebacastellanii(A.castellanii)inCvitroCunderCtheCcoexistenceCwithCclinicalCisolatesCfromClenscasesusedbyorthokeratologylenswearers.Gram-negativebacteriasuchasPseudomonasrhodesiaeCandPseu-domonasCsp.,CinducedCtheCproliferationCofCA.CcastellaniiCevenCatClowCinoculumlevels〔approximatelyC102CcolonyCformingunit(CFU)/well〕,CwhileCgram-positiveCbacteriaCsuchCasCStreptococcusCsalivariusCandCMicrobacteriumCsp.,CinducedA.castellaniiCproliferationonlyathighinoculumlevels(approximately107-108CFU/well).Itwasconsid-eredthatsomeoftheusedcontactlenscaseswereinastatewithahighriskofAcanthamoebaCproliferation.Tak-enCtogether,CimprovingCuserCcompliance,CsuchCasCcleaning,Cdrying,CproperCdisinfection,CandCregularCreplacementCofClenscasescancontributetoreducingtheriskofAcanthamoebaCkeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(5):578.583,C2026〕Keywords:オルソケラトロジー,レンズケース,アカントアメーバ,細菌,共存.orthokeratology,lenscase,Acanthamoeba,bacteria,coexistence.Cはじめにオルソケラトロジー(orthokeratology,以下,オルソK)レンズは就寝時に装用することで角膜形状を平坦化させ,視力矯正を行う特殊ハードコンタクトレンズ(hardCcontactlens:HCL)である.オルソCKレンズ装用による重篤な合併症の一つにアカントアメーバ角膜炎がある1).アカントアメーバ角膜炎は重症化すると視力低下や失明に至る恐れがあり,難治性であるため,感染予防が重要とされる2).米国で実施された調査では,オルソCKレンズ装用によるアカントアメーバ角膜炎発症のオッズ比は通常のCHCL装用のC6.8倍と推定されており,オルソCKレンズを装用すること自体がアカントアメーバ角膜炎のリスク上昇につながる3).アカントアメーバは土壌や水環境に生息する自由生活型の原生生物であり,活動状態である栄養体と休止状態であるシストの二形態に可逆的に変化しており,角膜への感染はこの栄養体によって引き起こされる4).先行研究において,大腸〔別刷請求先〕栗田佳那:〒C487-0032愛知県春日井市高森台C5-1-10株式会社メニコン総合研究所Reprintrequests:KanaKurita,CentralResearchLaboratory,MeniconCo.,Ltd.,5-1-10Takamoridai,Kasugai,Aichi487-0032,CJAPANC578(106)表1使用した菌株名No.CGramCStrainCⅠ-PseudomonasrhodesiaeCⅡ-PseudomonasCsp.CⅢ+CStreptococcussalivariusCⅣ+CMicrobacteriumCsp.C菌などのグラム陰性細菌,黄色ブドウ球菌などのグラム陽性細菌に加え,HCL装用者のレンズケースから単離された枯草菌などにより,Acanthamoebacastellaniiの栄養体の増殖が促進された5).アカントアメーバ角膜炎患者が使用したコンタクトレンズケースからアカントアメーバとともに細菌が検出される場合も多く,細菌との共存がアカントアメーバの感染リスクを高める可能性が考えられる6.8).他の先行研究において,オルソCKレンズ装用者がC2カ月間実使用したレンズケースに存在する菌を同定した結果,通常のCHCLのレンズケースとは菌叢が異なり,10C3CcolonyCformingunit(CFU)を超える多量の細菌が回収されたものも存在したことから,汚染ケースに起因する細菌性の角膜感染症を誘発する懸念が示唆された9).本研究ではオルソCKレンズのレンズケース内でのアカントアメーバの増殖リスクを評価するため,オルソCKレンズ装用者が実使用したレンズケースから回収された分離菌との共存下でのアカントアメーバの増殖性をCinvitroで評価し,アカントアメーバ角膜炎に対するリスクについて検証を行った.CI方法1.アカントアメーバ株および培養方法アカントアメーバ角膜炎を引き起こす株として,Acan-thamoebaCcastellaniiCATCC50370を用いた.この栄養体をAc#6培地10)に接種し,組織培養用フラスコを用いてC22℃でC2.4日間前培養した.なお,本研究で使用した試薬の調製方法は既報に従った5,10).C2.細菌および培養方法オルソCKレンズのCMeniconBloomNight(メニコン)装用者C10名がC2カ月間実使用したCHCL用のケアパレットレンズケース(メニコン)からC10C3CFU以上回収された細菌C4種を使用した9).使用した菌株名を表1に示した.細菌はソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地を用いてC32℃で1日間前培養した.C3.細菌とA.castellaniiの共培養試験共培養試験の流れを図1に示した.前培養した供試菌をTween含有C1/4Ringerに懸濁し,生菌数を約C10C9CCFU/mlに調整した.この細菌懸濁液を適宜希釈したあと,0.1Cmlずつ寒天プレートに接種し,安全キャビネット内に一晩静置した.前培養したCA.castellaniiを組織培養用フラスコから回収後,1/4Ringerで懸濁し,血球計算盤にてC5C×103Ccells/mlのCA.castellanii懸濁液を調製した.この懸濁液を,細菌を播種した寒天プレートにC1Cmlずつ加えた.陰性対照として,供試菌を接種していない寒天プレートにも同様に加えた.これらをC28℃でC7日間培養した.培養C5日めに位相差顕微鏡を用いて各Cwellの画像を撮影した.培養後,各Cwellから上清と寒天プレートをプラスチックチューブに回収し,熱水中で加温して溶解させた.その溶解した溶液を採取し,血球計算盤にてCA.castellanii数を計測した(N=3).C4.統計処理有意差検定には統計解析ソフトエクセル統計(社会情報サービス)のCDunnett検定(>陰性対照)を用いた.CII結果1.グラム陰性細菌グラム陰性細菌との共存下でのCA.castellanii数を図2に示した.Ca.Pseudomonasrhodesiae1.1×102,1.1C×104,1.1C×106,1.1C×108CFU/well接種した場合のCA.castellanii数は,それぞれ陰性対照と比較して約C30.8倍,19.8倍,14.5倍,32.8倍となった.陰性対照のA.castellanii数はC4.0C×103cells/wellであった.Cb.Pseudomonassp.1.5×102,1.5C×104,1.5C×106,1.5C×108CFU/well接種した場合のCA.castellanii数は,それぞれ陰性対照と比較して約C4.7倍,4.3倍,3.0倍,8.4倍となった.陰性対照のCA.castellanii数はC7.0C×103cells/wellであった(図2a).これらのグラム陰性細菌は接種菌数がC10C2CFU/well程度と少ない場合でもCA.castellaniiの増殖を促進した.また,アカントアメーバがより多く増殖したCwellではシスト化が認められ(図2b),その一部は,浮遊している様子が確認された.C2.グラム陽性細菌グラム陽性細菌との共存下でのCA.castellanii数を図3に示した.Ca.Streptococcussalivarius1.4×102,1.4C×104,1.4C×106,1.4C×108CFU/well接種した場合のCA.castellanii数は,それぞれ陰性対照と比較して約C0.3倍,0.3倍,0.8倍,13.0倍となった.陰性対照のCA.細菌CA.castellaniiC28℃一晩静置7日間培養寒天・上清を回収A.castellaniiを加温溶解血球計算盤にて計数CControl(細菌なし)図1細菌とA.castellaniiの共培養試験方法a(cells/well)CPseudomonasCrhodesiaeC(cells/well)CPseudomonassp.C2.0×105C1.0×105C****C1.6×105C8.0×104C6.0×104C4.0×104C2.0×104ThenumberofAmoeba1.2×105C8.0×104C4.0×104C0C0CControlC1.1×102C1.1×104C1.1×106C1.1×108(CFU/well)CControlC1.5×102C1.5×104C1.5×106C1.5×108(CFU/well)TheinoculatednumberofPseudomonasCrhodesiaeTheinoculatednumberofPseudomonassp.bPseudomonasCrhodesiaeC1.1×102CCFU/wellCPseudomonasCrhodesiaeC1.1×108CCFU/wellCControlCPseudomonassp.1.5×102CCFU/wellCPseudomonassp.1.5×108CCFU/wellC図2グラム陰性細菌との共存下におけるA.castellaniiの増殖a:各細菌との共培養7日後のA.castellaniiの数を示した.Dunnett法にて統計処理を実施(>Control,*p<0.05,**p<0.01).b:位相差顕微鏡を用いて培養C5日目に撮影した画像.スケールバーはC100μm,はCA.castellanii栄養体,はシストを示す.a(cells/well)CStreptococcusCsalivarius(cells/well)CMicrobacteriumsp.C7.0×104C7.0×104C6.0×104**C6.0×104**1.0×104C1.0×104C0C0CControlC1.4×102C1.4×104C1.4×106(CFU/well)CControlC3.3×102C3.3×104C3.3×106(CFU/well)1.4×108C3.3×107CTheinoculatednumberofStreptococcusCsalivariusCTheinoculatednumberofMicrobacteriumsp.CbStreptococcusCsalivariusC1.1×102CCFU/wellCStreptococcusCsalivariusC1.1×108CCFU/wellCControlCThenumberofAmoebaThenumberofAmoeba5.0×104C5.0×104C4.0×104C4.0×104C3.0×104C3.0×104C2.0×104C2.0×104CMicrobacteriumsp.3.3×102CCFU/wellCMicrobacteriumsp.3.3×107CCFU/wellC図3グラム陽性細菌との共存下におけるA.castellaniiの増殖a:各細菌との共培養7日後のA.castellaniiの数を示した.Dunnett法にて統計処理を実施した(>Control,*p<0.05,**p<0.01).b:位相差顕微鏡を用いて培養C5日目に撮影した画像.スケールバーはC100μm,図中のはCA.castellanii栄養体,図中のはシストを示す.castellanii数はC4.0×103cells/wellであった.Cb.Microbacteriumsp.3.3×102,3.3×104,3.3×106,3.3×107CFU/well接種した場合のCA.castellanii数は,それぞれ陰性対照と比較して約C1.1倍,1.3倍,0.4倍,7.6倍となった.陰性対照のCA.castellanii数はC7.0×103cells/wellであった(図3a).これらのグラム陽性細菌は接種菌数が約C106CFU/well以下の場合ではCA.castellaniiの増殖を促進させず,約C107.C108CFU/wellと多い場合にのみCA.castellaniiの増殖を促進した.グラム陰性細菌と同様に,アカントアメーバがより多く増殖したCwellではシスト化が認められ(図3b),その一部は,浮遊している様子が確認された.CIII考察本研究では,オルソCKレンズ装用者がC2カ月間実使用したレンズケースからC103CFU以上回収されたC4種の分離菌との共存下における,アカントアメーバの増殖性をCinCvitroで評価した.その結果,本研究の供試菌はいずれもアカントアメーバの増殖を促進した.とくに,グラム陰性細菌CP.rhodesiaeおよびCPseudomonasCsp.はわずか約C102CCFU/wellの接種でアカントアメーバの増殖を促進した.先行研究により,これらの細菌がC103CFU以上存在していたレンズケースが実際に確認されており9),これらのレンズケースにアカントアメーバが混入した場合,アカントアメーバの増殖リスクが高い状態にあったと考えられる.グラム陽性細菌は接種菌数が約C10C7.10C8CFU/wellの場合でのみアカントアメーバの増殖を促進したことから,グラム陰性細菌と比較してアカントアメーバの増殖リスクは低いと考えられる.しかし,ケース内にバイオフィルムが形成された場合,生菌数はアカントアメーバの増殖を促進しうる程度まで多くなることが予想される.実際に,レンズケース内でCS.salivariusを培養してバイオフィルムを形成させた結果,10C7CFU以上の生菌数が検出された(データ未掲載).このことから,バイオフィルム形成はアカントアメーバの増殖を促進し,アカントアメーバ角膜炎のリスクを増大させる可能性があると考えられる.本研究の結果,オルソCKレンズのレンズケースが微生物汚染されることにより,アカントアメーバ角膜炎の発症リスクが増大することが示唆された.洗面所などで保管したレンズケース内には水道水や手指,歯磨きの飛沫などから,環境菌や常在菌が混入しうる.レンズケースの洗浄や消毒,乾燥などの適切なケアが行われないと,細菌がレンズケース内で増殖する.そこに水道水や手指などを介してアカントアメーバが混入すると,細菌を栄養素としてレンズケース内でアカントアメーバが増殖する.このレンズケースでレンズを保管することにより,レンズの装用を介してアカントアメーバが角膜にもち込まれ,アカントアメーバ角膜炎のリスクが増大する.アカントアメーバ角膜炎のリスクを低減させるために,レンズケースへの細菌の混入や増殖を防止することは重要であると考えられる.わが国の洗面所における微生物汚染調査報告によると,アカントアメーバは夏季ではC3.3%,冬季ではC6.7%の家庭で検出されており,洗面所で保管したレンズケースにアカントアメーバが混入することは十分に起こりうると考えられる11).また今回,アカントアメーバがより多く増殖したCwellにおいて,アカントアメーバがシスト化および浮遊する様子が観察された.シストは薬剤や乾燥などへの耐性が高いため,レンズケース内のアカントアメーバがシスト化した場合,これらを死滅させることはむずかしい2).また,レンズケース内においても,アカントアメーバが増殖した場合に,保存液中にアカントアメーバが浮遊することが予想される.汚染された保存液が付着した状態でレンズを装用すると,浮遊したアカントアメーバが角膜にもち込まれるリスクが高まると考えられる.アカントアメーバの角膜へのもち込みを抑えるためには,装用前にこすり洗いおよびすすぎを行うことが重要である.日本眼科医会によってC2018年に実施された学校現場のコンタクトレンズ使用状況の全国調査では,小学生のコンタクトレンズ装用者のうちC24.7%がオルソCKレンズを使用しており,若年者によるオルソCKレンズの使用数は増加傾向にあった.中学生に対する保存用ケースの洗浄頻度についての調査では,1週間にC1回程度との回答がC8.2%,1カ月にC1回程度との回答がC3.7%であり,若年者の間でレンズケースの洗浄の重要性が正しく認識されていないのが現状である12).2カ月間実使用したオルソCKレンズケースの一部において,アカントアメーバの増殖リスクが高い状態にあったことが判明したため,オルソCKレンズ装用者のレンズケースの使用方法に対するコンプライアンスを向上させることは解決すべき課題であると考えられる.アカントアメーバ角膜炎のリスクを低減させるためには,レンズケースの正しい洗浄,乾燥についての重要性を周知徹底するべきである.加えて,レンズケースの消毒や,定期交換をする必要があると考えられる.利益相反:栗田佳那,木村優那,鈴木智恵,西口翔悟,角出泰造カテゴリーE株式会社メニコン文献1)BullimoreCMA,CJohnsonLA:OvernightCorthokeratology.CContLensAnteriorEyeC43:322-332,C20202)Lorenzo-MoralesCJ,CKhanCNA,CWalochnikJ:AnCupdateConAcanthamoebakeratitis:Cdiagnosis,CpathogenesisCandCtreatment.Parasite22:10,C20153)CopeJR,CollierSA,ScheinODetal:AcanthamoebaKer-atitisCamongCrigidCgasCpermeableCcontactClensCwearers,CUnitedCStates,C2005CthroughC2011.COphthalmologyC123:C1435-1441,C20164)NeelamCS,CNiederkornJY:PathobiologyCandCimmunobiol-ogyCofCAcanthamoebakeratitis:CinsightsCfromCanimalCmodels.YaleJBiolMedC90:261-268,C20175)鈴木智恵,佐々木理衣,渡邊愛ほか:細菌の共存がCAcanthamoebacastellaniiの増殖に与える影響.日防菌防黴会誌C49:541-547,C20216)DonzisCPB,CMondinoCBJ,CWeissmanCBACetal:MicrobialCanalysisCofCcontactClensCcareCsystemsCcontaminatedCwithCAcanthamoeba.AmJOphthalmol108:53-56,C19897)三田村浩人,市橋慶之,内野裕一ほか:オルソケラトロジーレンズを使用中にアカントアメーバ角膜炎を両眼に生じた1例.あたらしい眼科C34:555-559,C20178)中村さや花,外園千恵,稲富勉ほか:多数のアメーバと細菌がコンタクトレンズに付着していたアカントアメーバ角膜炎のC2例.あたらしい眼科C27:85-89,C20109)渡邊愛,鈴木智恵,栗田佳那ほか:使用済みオルソケラトロジーレンズケース内における微生物汚染の実態調査.日コレ誌67:115-121,C202510)ISO19045:2015:OphthalmicCoptics-contactClensCcareCproducts-MethodCforCevaluatingCAcanthamoebaCencyst-12)渡辺英臣,柏井真理子,大薮由布子ほか:平成C30年度学校Cmentbycontactlenscareproducts.現場でのコンタクトレンズ使用状況調査.日の眼科C90:11)鈴木崇,白石敦,宇野敏彦ほか:洗面所における微生C1194-1216,C2019物汚染調査.あたらしい眼科C26:1387-1391,C2009***

糖尿病網膜症の管理と内科・眼科連携に関するアンケート調査 ─眼科医と内科医の比較

2026年5月31日 日曜日

《第31回.日本糖尿病眼学会.原著》あたらしい眼科43(5):570.577,2026c糖尿病網膜症の管理と内科・眼科連携に関するアンケート調査─眼科医と内科医の比較大野敦*1,2,7小谷英太郎*3,7大島淳*4,7寺師聖吾*5,7宮川高一*6,7*1東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科*2八王子糖尿病内科クリニック*3日本医科大学多摩永山病院循環器内科*4市立青梅総合医療センター内分泌糖尿病内科*5立川相互病院糖尿病・代謝内科*6多摩センタークリニックみらい*7糖尿病治療多摩懇話会CQuestionnaireSurveyontheControlofDiabeticRetinopathyandtheCooperationbetweenInternistsandOphthalmologists-ComparisonofResultsforOphthalmologistsandInternistsAtsushiOhno1,2,7),EitaroKodani3,7),AtsushiOshima4,7),SeigoTerashi5,7)andTakaichiMiyakawa6,7)1)DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,2)HachiojiDiabetesClinic,3)DepartmentofCardiovascularMedicine,NipponMedicalSchoolTamaNagayamaHospital,4)CEndocrinologyandDiabetology,OmeMedicalCenter,5)CDepartmentofDepartmentofDiabetologyandMetabolism,TachikawaSougoHospital,6)Tama-centerMiraiClinic,7)TamaRound-TableConferenceonTreatmentofDiabetesMellitusC目的:多摩地域の眼科医と内科医を対象に,糖尿病網膜症の管理に関するアンケート調査を施行した.方法:眼科医C49名,内科医C53名に対し各々C14項目のアンケート調査を施行し,九つの共通項目の結果を比較し,両群間で有意差を認めるか検討した.結果:9項目中下記のC5項目で両群間に有意差を認めた.1)失明・重度の視力障害糖尿病患者を診ている眼科医は内科医より多い.2)HbA1cがC8%未満の糖尿病患者における眼底検査の間隔は眼科医が内科医より短い.3)早期からの眼科介入による失明防止の可否は,眼科医はほぼ完全に防止でき,内科医は半分くらい防止できるがもっとも多い.4)単純網膜症による眼底出血がみられる患者への説明は「改善することもある」が両群もっとも多いが,眼科医では「それほど心配なし」もC25%認めた.5)内科と眼科の連携状況は「ある程度とれている」が両群もっとも多いが,内科医で回答のばらつきが大きい.結論:今回の調査において,眼科医と内科医の間で比較的多くの項目で有意差を認めており,診療連携の際には配慮が必要である.CPurpose:ToCconductCaCquestionnaireCsurveyConCtheCcontrolCofCdiabeticCretinopathyCbyCophthalmologistsCandCinternistsintheTamaregionofTokyo,Japan.Methods:Aquestionnairesurveyof14itemswasadministeredto49CophthalmologistsCandC53Cinternists,CandCtheCresultsCofCnineCcommonCitemsCwereCthenCcomparedCtoCexamineCwhethersignificantdifferenceswereobservedbetweenthetwogroups.Results:Ofthenineitems,significantdif-ferenceswerefoundbetweenthetwogroupsinthefollowingfive.1)Moreophthalmologiststhaninterniststreat-eddiabeticpatientswithblindnessorseverevisualimpairment.2)TheintervalsbetweenophthalmicfundoscopyexaminationsCforCdiabeticCpatientsCwithCHbA1cClevelsCbelowC8%CwereCshorterCforCophthalmologistsCthanCforCinter-nists.3)Whenaskedwhetherearlyophthalmologictreatmentcanpreventvisionloss,ophthalmologistsmostcom-monlyansweredthatitcanbepreventedalmostcompletely,whileinternistsmostcommonlyansweredthatitcanbepreventedabouthalfway.4)Althoughexplanationstopatientswithfundushemorrhagecausedbysimpledia-beticretinopathycansometimesbeimproved(whichwasthemostcommonresponseinbothgroups),25%ofoph-thalmologistsCindicatedCthatCtheyCwereCnotCparticularlyCconcerned.5)ACcertainCdegreeCofCcooperationCexistsCbetweeninternistsandophthalmologists(whichwasthemostcommonresponseinbothgroups),yettherewasalargevariationinresponsesamonginternists.Conclusions:Oursurveyresultsshoweddifferencesinarelativelylargenumberofitemsbetweenophthalmologistsandinternists,whichmustbetakenintoconsiderationwhencoor-dinatingmedicalcooperation.C〔別刷請求先〕大野敦:〒C193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(98)〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(5):570.577,C2026〕Keywords:糖尿病網膜症,内科・眼科連携,アンケート調査,眼底検査の間隔.diabeticretinopathy,cooperationbetweenCinternistCandCophthalmologist,CquestionnaireCsurvey,CintervalCbetweenCophthalmicCfunduscopyCexamina-tions.はじめに糖尿病網膜症の発症や進行を予防し失明を防止するためには,眼科と内科が連携し糖尿病を管理することが重要である.しかし,眼科医と内科医の間で糖尿病網膜症の管理に対する認識の差を認めることは少なくない.そこで多摩地域において,糖尿病患者の診療連携をテーマに糖尿病診療の向上をめざし活動を展開している糖尿病治療多摩懇話会1)では,2024年C4月に第C48回例会を「糖尿病網膜症の管理と内科・眼科連携」のテーマで開催した際,事前にこの地域の糖尿病診療に関心をもつ眼科医ならびに内科医を対象にテーマに関するアンケート調査を施行した.本稿では,眼科医と内科医の間で糖尿病網膜症の管理に対する認識にどの程度の差があるのかを明らかにすることを目的として,眼科医と内科医のアンケートの共通項目について,その結果を比較検討した.CI対象および方法アンケートの対象は多摩地域の病院・診療所に勤務している眼科医と内科医で,アンケート調査は眼科医C2024年C1月,内科医C2024年C3月に実施した.眼科医にはアンケートを郵送で送付後にCGoogleformsまたはCFAXで回収し,内科医にはアンケートを郵送配布,世話人の勤務先での直接配布,または一般社団法人臨床糖尿病支援ネットワークの医師会員へメールで送付後にCGoogleformsまたはCFAXで回収した.また,アンケート用紙の冒頭に「アンケート結果は,学会発表・論文などで公表を予定しておりますのでご了承頂ければ幸いです.アンケートの回答をもってご同意頂いたものと致します」という文章を記載し,集計結果の学会発表ならびに論文化に対する了承を得た.アンケートの回答者は眼科医C49名,内科医C53名で,回答者の年齢は両群ともC50歳代がもっとも多かったが,内科医で年代のばらつきが大きく,両群間に有意差を認めた(Fisher検定,p=0.030).性別は両群とも男性の比率が高かった(図1).勤務施設は,眼科医が診療所C87.8%,200床以上の病院C12.2%,内科医が診療所C41.5%,200床未満の病院C9.4%,200床以上の病院C49.0%で,眼科医の診療所勤務者が内科医のC2倍以上を占め,両群間に有意差を認めた(Fisher検定,p<0.001).また,内科医C53名のうち日本糖尿病学会員のC36名を含めてC37名が糖尿病を専門にしてお(%)60眼科医57.150眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p=0.0304034.03022.620.818.42014.39.410.2105.75.71.9000020歳代30歳代40歳代50歳代60歳代70歳代80歳代図1アンケート回答者のプロフィール:年齢・性別り,非専門のC16名においてもC15名が糖尿病に関心があると回答されていた.眼科医と内科医に対するC14項目のアンケート調査のなかで,本稿で検討するC9の共通項目を下記に示す.なお,同じ内容でのアンケート調査をC2001年から施行しており,経年変化を検討する目的で項目の説明文はC2001年から変えずに継続している.1.糖尿病のために失明あるいは重度の視力障害をきたした患者さんを診察されていますか,貴施設では糖尿病のために失明あるいは重度の視力障害をきたした患者さんの数の動向はいかがでしょうか2.眼底検査は仮にCHbA1cが8%未満の患者さんの場合どの位の間隔で行えばよいと思いますか①網膜症なし,②単純網膜症,③増殖前網膜症,④増殖網膜症3.糖尿病による失明は血糖がほどほどにコントロールされていれば,早期からの眼底検査や眼科的治療により防止できると思いますか4.失明後のリハビリセンターをご存じですか5.単純網膜症による眼底出血がみられる患者さんへの病状説明において先生のご説明内容にもっとも近いものはどれですか6.増殖傾向がある網膜症患者さんの場合,低血糖あるいは急激な血糖コントロールの改善が網膜症を悪化させる(%)精密眼底検査の目安:1年に1回(%)精密眼底検査の目安:6カ月に1回100眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p<0.011008080眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p<0.016062.36057.154.749.046.9404037.736.728.3202017.06.12.02.0000000毎月1回2~3カ月に1回6カ月に1回1年に1回毎月1回2~3カ月に1回6カ月に1回1年に1回(%)③増殖前網膜症精密眼底検査の目安:2カ月に1回(%)精密眼底検査の目安:1カ月に1回100眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p<0.01100808079.66060.460眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p<0.02558.54040.857.14028.320.418.9202015.17.55.75.72.000000毎月1回2~3カ月に1回6カ月に1回1年に1回毎月1回2~3カ月に1回6カ月に1回1年に1回図2HbA1cが8%未満の患者における眼底検査の間隔場合があると思われますか7.「糖尿病治療多摩懇話会」が作成した「糖尿病診療情報提供書」を利用されていますか8.日本糖尿病眼学会が作成した「糖尿病眼手帳」を(眼科医)発行されていますか,(内科医)御覧になることがありますか9.内科と眼科の間での診療連携はうまくとれていると思われますか上記の項目C1.C9に関するアンケート調査結果を比較検討した.両群の回答結果の比較において度数がC5未満のセルが多いため,統計ソフトCEZRver1.61を用いてCFisherの正確確率検定を行い,統計学的有意水準は5%とした.CII結果1.失明・重度の視力障害糖尿病患者の有無と患者数の動向失明・重度の視力障害糖尿病患者を診ている眼科医は91.8%,内科医はC64.2%で,両群間に有意差を認めた(Fish-er検定,p<0.001).一方で,その患者数の動向は,眼科医で「減っている」55.1%,「変化なし」36.7%,「増えている」0%,「わからない」8.2%,内科医で「減っている」37.7%,「変化なし」39.6%,「増えている」0%,「わからない」22.6%の回答結果で,眼科医は「減っている」,内科医は「変化なし」の回答がもっとも多く,両群間に有意ではないが傾向を認めた(p=0.079).C2.HbA1cが8%未満の患者における眼底検査の間隔①網膜症なしの場合は,眼科医はC6カ月にC1回,内科医は1年にC1回の回答がもっとも多く,②単純網膜症の場合は,眼科医はC2.C3カ月にC1回,内科医はC6カ月にC1回の回答がもっとも多く,③増殖前網膜症の場合は,両群ともC2.3カ月にC1回の回答がもっとも多かったが,眼科医では毎月C1回の回答もC41%認め,④増殖網膜症の場合は,両群とも毎月1回の回答がもっとも多かったが回答率の差をC21%認め,いずれも内科医より眼科医で間隔が短く両群間に有意差を認めた(図2,①.③はCp<0.01,④はCp=0.025).(%)100806056.640.8眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p=0.0304024.522.418.92012.213.25.75.700失明しますもっとそれほど改善するその他ひどく心配こともなりますいりませんあります図3単純網膜症による眼底出血がみられる患者への説明表現3.早期からの眼科介入による失明防止の可否眼科医は「ほぼ完全に防止できる」49.0%,「半分くらいは防止できる」51.0%,「困難である」0%,内科医は「ほぼ完全に防止できる」66.0%,「半分くらいは防止できる」30.2%,「困難である」3.8%の回答結果で,眼科医は「半分くらいは防止できる」,内科医は「ほぼ完全に防止できる」の回答がそれぞれもっとも多く両群間に有意差を認めた(p=0.046).C4.失明後のリハビリセンターの認知度失明後のリハビリセンターを眼科医は「利用している」10.2%,「聞いたことはあるが利用したことはない」67.3%,「知らない」22.4%,内科医は「利用している」3.8%,「聞いたことはあるが利用したことはない」54.7%,「知らない」41.5%の回答結果で,「知らない」との回答が内科医は眼科医のC2倍近く,両群間に有意ではないが傾向を認めた(p=0.071).C5.単純網膜症による眼底出血がみられる患者への説明表現両群とも「改善することもあります」の回答がもっとも多かったが,眼科医では「それほど心配いりません」の回答も24.5%認め,両群間に有意差を認めた(図3,p=0.030).C6.低血糖・急激な血糖値の改善による網膜症悪化の可能性「増殖傾向がある網膜症の場合,低血糖あるいは急激な血糖値の改善が網膜症を悪化させることがあると思いますか?」という設問に対して,眼科医は,「はい」91.8%,「いいえ」2.0%,「何とも言えない」6.1%,内科医は,「はい」90.6%,「いいえ」0%,「何とも言えない」9.4%の回答結果で,両群とも「網膜症を悪化させることがある」との回答が図4糖尿病治療多摩懇話会作成の糖尿病診療情報提供書両科の情報をC1枚に併記(上半分が内科医,下半分が眼科医の記入する部分)し,いずれの科でも発信元になれ,両科で診療情報提供料を保険請求することができる.使いやすさを考え,情報項目は必要最小限にとどめ,社交辞令も省略した.3枚複写になっており,記載後はC3枚目(青色の紙)を発信元の控えに,上のC2枚を紹介状として患者に渡す.着信側は記載後C1枚を控えとし,他のC1枚を返書として患者に渡す.《3枚複写の理由》3枚複写にして自科のデータ記入後C1枚を手元に残しておけば,仮に返事が戻ってこない場合でも提供書を発行した事実を残すことができる.9割以上を占め,両群に有意差は認めなかった.7.糖尿病治療多摩懇話会作成の「糖尿病診療情報提供書」の利用状況図4に示す糖尿病診療情報提供書を,眼科医は「ほぼ全面的に利用している」10.2%,「ときどき利用している・利用したことがある」14.3%,「利用したことはない」75.5%,内科医は「ほぼ全面的に利用している」3.8%,「ときどき利用している・利用したことがある」32.1%,「利用したことはない」64.2%の回答結果で,利用率は内科医のほうがやや高く,両群間に有意ではないが傾向を認めた(p=0.057).(%)10080眼科医(49名)内科医(53名)Fisher検定p=0.766049.045.34036.735.82014.315.13.80眼科医よく発行しているときどき発行している発行したことはない《内科のみの設問》内科医よくみるときどきみるみたことがない自分で発行することもある図5日本糖尿病眼学会作成の「糖尿病眼手帳」の利用状況眼科医-発行状況,内科医-みる頻度.C8.日本糖尿病眼学会作成の「糖尿病眼手帳」の利用状況糖尿病眼手帳の利用状況を,眼科医は発行状況,内科医はみる頻度で評価した.「よく」ならびに「ときどき」をあわせてC85.7%の眼科医は発行し,81.1%の内科医はみたことがあると回答し,その頻度に両群間で有意差は認めなかった(図5).C9.内科と眼科の連携状況両科の連携について,眼科医は「十分とれている」6.1%,「ある程度とれている」87.8%,「あまりとれていない」6.1%,内科医は「十分とれている」20.8%,「ある程度とれている」64.2%,「あまりとれていない」15.1%の回答結果で,「ある程度とれている」の回答が両群とももっとも多かったが,内科医で回答のばらつきが大きく,両群間に有意差を認めた(p=0.022).C10.アンケート結果のまとめa.眼科医と内科医の結果に有意差(p<0.05)を認める項目1)糖尿病のために失明・重度の視力障害をきたした患者の有無(アンケート項目C1の前段)2)HbA1cがC8%未満の患者における眼底検査の間隔(アンケート項目C2の①.④)3)早期からの眼科介入による失明防止の可否(アンケート項目3)4)単純網膜症による眼底出血がみられる患者への説明表現(アンケート項目5)5)内科と眼科の連携状況の評価(アンケート項目9)b.眼科医と内科医の結果に有意ではないが傾向(0.05≦p<0.1)を認める項目1)糖尿病のために失明・重度の視力障害をきたした患者数の動向(アンケート項目C1の後段)2)失明後のリハビリセンターの認知度(アンケート項目4)3)糖尿病治療多摩懇話会作成の「糖尿病診療情報提供書」の利用状況(アンケート項目7)Cc.眼科医と内科医の結果に有意差を認めない(p≧0.1)項目1)低血糖や急激な血糖値の改善による網膜症悪化の可能性(アンケート項目6)2)「糖尿病眼手帳」眼科医:発行状況,内科医:みる頻度(アンケート項目8)CIII考按1.失明・重度の視力障害糖尿病患者の有無と患者数の動向今回のアンケートでは失明・重度の視力障害の定義には言及していないが,2001年から同じ項目で継続的に施行しており,あまりに細かい条件をつけた設問はアンケート用紙の紙面上の制約もあり作成しにくいため,この表現で各回答者が日常診療で感じている状況で回答してもらう形式を今回も継続した.重度の視力障害患者を内科でもC64%の医師が診ていたが,内科医C53名のうちC37名が糖尿病を専門とし,非専門でも15名が糖尿病に関心がありと回答されていることより,糖尿病診療に比較的熱心な内科医における回答結果といえる.患者数の動向では,「減っている」との回答が眼科医でC55%と,内科医よりC17%多かった.視覚身体障害者認定の実態疫学調査2)において,従来の調査結果(2007.2009年)と比べ,緑内障(28.6%)と網膜色素変性(14.0%)の割合が増加し,糖尿病網膜症(12.8%)の割合が低下したと報告されており,今回の眼科医の回答結果を支持する.C2.HbA1cが8%未満の患者における眼底検査の間隔精密眼底検査の間隔については,「糖尿病眼手帳」の第C4版で「推奨される眼科受診間隔」としてC1ページの下段に記載されている.日常臨床においては,個々の患者の血糖コントロール状態や罹病期間により検査の間隔は調整が必要になるため,今回はCHbA1c8%未満の条件をつけて回答してもらった.いずれの病期においても内科医が推奨される眼科受診間隔に準じた回答が多かったのに対し,眼科医では間隔が有意に短かった.眼科医は,糖尿病網膜症以外の眼科併発疾患も同時に診ているため,日常診療では診療間隔が短くなるケースも多いことを反映した結果と思われる.また,眼科医と内科医の回答結果の差が勤務施設の差の可能性も考慮する必要があるが,内科医で診療所勤務のC41.5%と病院勤務のC58.5%で回答結果を比較したところ,いずれの病期においても有意差を認めていないことから,勤務施設の影響は考慮しなくてもよいと思われる.糖尿病網膜症の最適なスクリーニング間隔については,香港で糖尿病罹病期間,グリコヘモグロビン,収縮期血圧,慢性腎臓病の有無,糖尿病治療薬,年齢を用いたリスクアルゴリズムの開発と検証が行われ,リスクに基づくスクリーニング間隔を用いることで,高リスク者に受診を多く割り当て低リスク者の頻度を減らすことができることから3),眼底検査間隔の個別化も期待できる.3.早期からの眼科介入による失明防止の可否今回の結果では,早期から眼科が介入することにより失明はほぼ完全もしくは半分くらい防止できるとの回答が両群ともC95%以上を占めたことより,早期から眼科に定期受診することの必要性を患者へ啓発することがもっとも重要である.つくば市でのレセプト・質問票リンクデータを用いた横断研究において,眼科受診推奨を認識した参加者(47.6%)はスクリーニングの頻度に関する知識がより高く(93.4%Cvs49.6%),眼底検査を受ける可能性も高かった(72.9%Cvs30.1%)との結果4)も啓発活動の重要性を支持している.「糖尿病による失明は,血糖がほどほどにコントロールされていれば,早期からの眼底検査や眼科的治療により防止できると思いますか」という設問は科学的表現ではないとの指摘もあり,今後は「糖尿病による失明は,HbA1cがC8%未満にコントロールされていれば,糖尿病発症の早期からの眼底検査や網膜症発症の早期からの眼科的治療により防止できると思いますか」と,より具体的な表現に変えていきたい.4.失明後のリハビリセンターの認知度眼科医において失明後のリハビリセンターの利用率はC10%にとどまり,「聞いたことはあるが利用したことはない」がC67%であったこと,また,糖尿病診療に比較的熱心な内科医においても「知らない」がC42%を占めたことは,この分野への関心度の低さを示している.一方で,視覚障害者のアンケート調査において,視覚障害リハビリ外来や音声パソコン教室が視覚障害者の自立に大いに役立っているとの報告5)があることから,今後は日本糖尿病眼学会が中心になって医療者におけるリハビリセンターの認知度アップのための啓発活動が必要と思われる.2001年から経年変化を検討する目的で項目の説明文は変えずに継続しているが,現在はより多くのロービジョンケアを行っている施設があるので,今後は設問にロービジョン外来の併記を考慮していきたい.5.単純網膜症による眼底出血がみられる患者への説明表現2006年に同様のアンケート調査6)を施行した際には,「改善することもあります」との回答が眼科医C50.9%,内科医25.7%であり,内科医は今回C2倍以上に増えている.一方,「もっとひどくなります」との回答がC2006年は眼科医C23.6%,内科医C28.7%であり,今回はほぼ半減している.単純網膜症の段階では内科的治療が中心であり,HbA1cがC7%未満の合併症予防のための目標値をキープできれば,単純網膜症の改善が期待できる.最近のC2型糖尿病の薬物療法においてはアルゴリズムが提唱されて,安全な血糖管理達成のための糖尿病薬の血糖降下作用・低血糖リスク・体重への影響・禁忌・服薬継続率・コストなどがまとめられている7).これらを参考にしながら薬物療法を選択していけば,低血糖を回避しながらCHbA1cのC7%未満もめざせることから,とくに内科医で「改善することもあります」の回答が激増したと思われる.C6.低血糖・急激な血糖値の改善による網膜症悪化の可能性増殖傾向がある網膜症の場合,低血糖や急激な血糖値の改善により網膜症を悪化させることがあるとの回答が眼科医91.8%,内科医C90.6%を占めていたが,2006年の調査4)では眼科医C98.1%,内科医C88.8%であったことより,眼科医ではC6%ほどの差を認めた.増殖傾向がある網膜症を認める糖尿病患者を担当した内科主治医が,低血糖リスクのある経口薬を用いずにゆっくり血糖値の改善に心がければ,網膜症の悪化を経験する眼科主治医は減少するため,日常診療における実感として今回の眼科医の結果につながった可能性が考えられる.一方で,食事療法のみで緩やかな血糖管理に努めても予想以上に早い改善を示す症例もみられ,その結果低血糖がなくても,急激な血糖コントロールにより網膜症の悪化を認める症例がある8)ことから,眼科医と内科医の密なる連携は引き続き重要である.7.糖尿病治療多摩懇話会作成の「糖尿病診療情報提供書」の利用状況多摩地域では,1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇話会を設立させ,内科と眼科の連携を強化するために両科の連携専用の「糖尿病診療情報提供書(以下,提供書)」を作成し,地域での普及を図った1).眼科医における提供書の利用率は,2001年の調査1)でC22.2%,2006年の調査6)ではC56.6%とC2.5倍に増えていたが,今回はC24.5%まで減少していた.この背景にはC2010年に登場した糖尿病連携手帳の存在が考えられ,糖尿病通院患者が糖尿病連携手帳とお薬手帳を持参すれば,提供書から得られる情報の多くは取得できるため,利用率が低下したと思われる.内科医における提供書の利用率は,2006年の調査6)におけるC22.4%からC35.8%まで増加しているが,ほぼ全面的に利用している内科医はC13.3%6)からC3.8%まで減少し,過去に利用したことがある内科医が増えている.筆者もその一人であるが,その背景には糖尿病眼手帳の普及が考えられる.提供書の情報量の豊富さを考慮すれば,初診時や病状の変動時には十分に情報交換の可能な提供書を利用すべき9)と考えて利用してきたが,2008年に内科と眼科の顔の見える連携のために「糖尿病患者の眼科と内科の診療連携を考える会」を設立10,11)し,八王子市内の眼科医と糖尿病網膜症の診療連携や糖尿病眼手帳の普及をテーマに年C2回の例会を実施するとともに,初診時から糖尿病連携手帳と糖尿病眼手帳の併用での連携システムを始めたため,提供書の利用が激減した.また,電子カルテの普及により診療情報提供書の手書きの習慣がなくなったことも,提供書の利用の低下につながった可能性が考えられる.一方で,まだ一部提供書を利用している医師も残っており,糖尿病連携手帳と糖尿病眼手帳の併用では保険請求できない診療情報提供料を請求できるので,選択肢としては残しておいてもよいと考えている.現在提供書の新規作製・有料販売は終了し,利用希望者には無償で提供している.内科医C100名対象のオンラインアンケート調査における網膜症スクリーニングの紹介基準として,罹患期間C5年未満(n=0),5.10年(n=60),10年以上(n=10),罹患期間にかかわらず(n=30)の報告がある12)が,網膜症以外の眼疾患のスクリーニングも考慮するならば罹患期間にかかわらず初診時に眼科に紹介することが望ましく,その際には上記の連携ツールの利用も考慮し,時間的負担の少ない方式を選んでもらいたい.C8.日本糖尿病眼学会作成の「糖尿病眼手帳」の利用状況眼科医におけるC2002年発行の糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)の発行率は,2006年の調査6)ではC68.5%で,2003年C6月の全国調査13)における活用率のC60.5%よりC8%高かった.その後の多摩地域の眼科医における眼手帳の利用状況の調査14)において,「積極的配布」と「時々配布」をあわせて,発行7,10,18年目はC60%,13年目はC70%を超え,20年目は前者がC40%を超えていた.今回の調査は発行C22年目にあたるが,85.7%まで発行率は上昇していた.一方で,内科医におけるC2006年の調査6)では,眼手帳を「よくみる」13.4%,「時々みる」40.2%であわせてC53.6%で,今回のC81.1%はそれよりもC27.5%上昇していた.両者を比較すると内科医の上昇率のほうが高く,少なくとも糖尿病診療に比較的熱心な内科医においては,眼手帳がかなり広まっていると思われる.9.内科と眼科の連携状況2006年の調査6)では,両科の連携について眼科医は「十分とれている」5.6%,「ある程度とれている」79.6%,内科医は「十分とれている」20.4%,「ある程度とれている」57.1%の回答結果で,単純に比較はできないが今回の結果のほうが高い可能性がある.先の提供書ならびに糖尿病連携手帳と眼手帳を,個々の医療機関の状況にあわせて併用することにより,外来での時間的負担は軽減したうえで,より細やかな連携が可能となることを提唱してきたが15),そのようなシステムの利用によって徐々に両科の連携状況は改善していると思われる.謝辞:今回のアンケート調査にご協力いただきました多摩地域の眼科医師ならびに内科医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌C7:139-143,C20022)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentinCJapan:theCfirstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcertifiedCvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmolC63:26-33,C20193)LianCJ,CSoCC,CMcGheeCSMCetal:ToCdetermineCtheCrisk-basedscreeningintervalfordiabeticretinopathy:develop-mentandvalidationofriskalgorithmfromaretrospectivecohortstudy.DiabetesMetabJC49:286-297,C20254)YamamotoK,Ihana-SugiyamaN,SugiyamaTetal:Rec-ognitionofophthalmologyconsultationandfundusexami-nationamongindividualswithdiabetesinJapan:across-sectionalCstudyCusingCclaims-questionnaireClinkedCdata.CDiabetesObesMetabC27:1762-1772,C20255)山田幸男,平沢由行,大石正夫ほか:視覚障害者の自立を目指して─とくに「視覚障害リハビリ外来」と「音声パソコン教室」について─.眼紀55:265-269,C20046)大野敦,植木彬夫,住友秀孝ほか:糖尿病網膜症の管理に関するアンケート調査─眼科医と内科医の調査結果の比較─.眼紀58:616-621,C20077)日本糖尿病学会コンセンサスステートメント策定に関する委員会:2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第C2版)C.糖尿病66:715-733,C20238)斉藤喜博,石本一郎,田野保雄ほか:血糖コントロール改善速度の違いにより異なった網膜変化を示した若年発症NIDDM症例.眼紀46:1238-1241,C19959)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C200210)大野敦:特集:糖尿病網膜症の診断と治療C7.眼科と内科の診療連携.月刊糖尿病7:53-60,C201511)大野敦:糖尿病網膜症の治療中断を防ぐ内科・眼科連携の取り組み.内分泌・糖尿病・代謝内科C48:351-357,C201912)MoudgilT,BainsBK,BandhuSetal:PreferredpracticepatternCofCphysiciansCregardingCdiabeticCretinopathyCinCdiabetesmellituspatients.IndianJOphthalmolC69:3139-43,C202113)船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀C56:242-246,C200514)大野敦,粟根尚子,佐分利益生ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査─発行半年.20年目の推移─.あたらしい眼科41:458-464,C202415)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C2003***

ブロルシズマブに切り替えた糖尿病黄斑浮腫症例の検討

2026年5月31日 日曜日

《第31回.日本糖尿病眼学会.原著》あたらしい眼科43(5):565.569,2026cブロルシズマブに切り替えた糖尿病黄斑浮腫症例の検討安藤諒太冨田修平野崎実穂名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科CSwitchingtoBrolucizumabinRefractoryDiabeticMacularEdemaRyotaAndo,ShuheiTomitaandMihoNozakiCDepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenterC目的:他の抗CVEGF薬に対する反応が不十分であった糖尿病黄斑浮腫(DME)症例に対し,ブロルシズマブへ切り替えた臨床経過を後ろ向きに検討した.対象と方法:2022年C11月.2024年C5月にブロルシズマブへ切り替えたDME症例C4例C6眼を対象とし,切り替え前後の治療内容,平均投与間隔,視力(logMAR),中心網膜厚(CRT),副作用の有無を検討した.結果:切り替え前の抗CVEGF薬平均投与間隔は平均C11.7C±1.6週,切り替え後の抗CVEGF薬平均投与間隔は平均C12.3C±3.6週で有意な変化は認めなかった(p=0.80).視力は有意な改善を認めなかった(0.24C±0.18.0.34C±0.16,p=0.13)が,CRTは有意に減少した(539.0C±73.0μm.380.0C±52.7μm,p=0.004).ブロルシズマブ関連の炎症等の有害事象は認めなかった.結論:難治性CDME症例に対しブロルシズマブへの切り替えにより解剖学的改善が得られたが,視力改善には限界がある可能性が示唆された.CPurpose:Toevaluatetheclinicaloutcomesofswitchingtobrolucizumabincasesofdiabeticmacularedema(DME)refractoryCtoCpriorCanti-vascularCendothelialCgrowthfactor(VEGF)therapy.CPatientsandMethods:AtotalCofC6CeyesCofC4CpatientsCwithCDMECwhoCwereCswitchedCtoCbrolucizumabCbetweenCNovemberC2022CandCMayC2024wereretrospectivelyreviewed.Treatmenthistory,meandosinginterval,best-correctedvisualacuity(BCVA,logMAR)C,CcentralCretinalthickness(CRT)C,CandCadverseCeventsCbeforeCandCafterCtheCswitchCwereCanalyzed.CResults:TheCaverageCadministrationCintervalCforCanti-VEGFCinjectionCbeforeCswitchingCwasC11.7±1.6Cweeks,CandCtheCaverageCadministrationCintervalCforCanti-VEGFCinjectionCafterCswitchingCwasC12.3±3.6Cweeks,CwithCnoCsigni.cantchangeobserved(p=0.80)C.Whilenosigni.cantimprovementinvisualacuitywasobserved(from0.24C±0.18CtoC0.34±0.16,Cp=0.13)C,CRTsigni.cantlydecreased(from539.0C±73.0μmCtoC380.0±52.7μm,p=0.004)C.Nobrolucizumab-relatedCintraocularCin.ammationCorCotherCadverseCeventsCwereCreported.CConclusion:SwitchingCtoCbrolucizumabCinCtreatment-resistantCDMECcasesCresultedCinCanatomicalimprovement;however,CfunctionalCvisualCimprovementmaybelimited.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(5):565.569,C2026〕Keywords:ブロルシズマブ,糖尿病黄斑浮腫,視力,中心窩網膜厚.brolucizumab,diabeticmacularedema,vi-sualacuity,centralretinalthickness.Cはじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)は,糖尿病網膜症における主要な視力障害の原因の一つであり,患者の生活の質(qualityoflife:QOL)に大きく影響する.糖尿病患者のC35.4%に糖尿病網膜症が認められ,そのうちC7.4%にCDMEが合併するとされている1).現在,DMEの第一選択治療は抗血管内皮増殖因子(vascu-larCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射であり,ラニビズマブおよびアフリベルセプトC2Cmgが広く使用されているが,一定の割合で治療抵抗性を示す症例もある2,3).近年では,第二世代抗CVEGF薬としてブロルシズマブ,ファリシマブ,アフリベルセプトC8CmgがCDMEに対して承認されている.なかでもブロルシズマブは分子量が最小で組織浸透性に優れ,高濃度の薬剤投与が可能であることから,難治例への効果や投与間隔の延長が期待されている4.6).本研究では,既存治療に反応不良であったCDME症例に対〔別刷請求先〕安藤諒太:〒C464-8547愛知県名古屋市千種区若水C1-2-23名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科Reprintrequests:RyotaAndo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenter,1-2-23,Wakamizu1-chome,Chikusa-ku,Nagoya,Aichi464-8547,JAPANC表1患者背景患者4例6眼年齢C65.7±6.3(6C0.C77)歳性別男性C3例女性C1例有水晶体眼:眼内レンズ挿入眼3:3治療既往(重複あり)アフリベルセプトC2Cmg6眼ラニビズマブ4眼ファリシマブ2眼IVTA3眼STTA2眼局所網膜光凝固3眼切り替え理由他の治療に対して反応不良であったため:6眼切り替え前のClogMAR視力C切り替え前のCCRTC0.24±0.18(C0.10.C0.52)539.0±73.0Cμm(C438.661μm)初回抗CVEGF薬投与から切り替えまでの期間C240.1±121.4週(C97.C417週)切り替え前抗CVEGF薬平均投与間隔C11.7±1.6週(C9.6.C13.9週)切り替え後ブロルシヅマブ平均投与間隔C12.3±3.6週(C8.3.C18週)平均±標準偏差(範囲).IVTA:intravitrealtriamcinoloneacetonideinjection,STTA:sub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection,CRT:centralretinalthickness,VEGF:vascularendothelialgrowthfactor.するブロルシズマブへの切り替え効果を後ろ向きに検討した.CI対象と方法筆者の施設で抗CVEGF薬硝子体内注射を行っているCDME症例のうち,2022年C11月.C2024年C5月にブロルシズマブに切り替えた症例C4例C6眼を対象とした.既往治療の内容,切り替えの理由,抗CVEGF薬平均投与間隔,切り替え前および最終受診時のClogMAR視力・中心網膜厚(centralreti-nalthickness:CRT)について検討した.統計学的解析として,切り替え前後の平均投与間隔,logMAR視力,CRTの比較にはCpairedt-testを用いた.p<0.05で有意差ありと判定した.本研究は名古屋市立大学医学系研究倫理審査委員会の承認を受け行った(管理番号C60-23-0162).CII結果表1に患者背景を示す.対象はC4例C6眼(男性C3名,女性1名),年齢はC65.7C±6.3歳であり,ブロルシズマブへの切り替え理由は,いずれも他の治療を行ったが効果不十分であったためである.切り替えまでの治療既往はアフリベルセプトC2Cmg6眼,ラニビズマブC4眼,ファリシマブC2眼,トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射(intravitrealCtriamcino-loneacetonideinjection:IVTA)3眼,トリアムシノロンアセトニド後部CTenon.下注射(sub-TenonCtriamcinoloneCacetonideinjection:STTA)2眼,局所網膜光凝固C3眼であった(重複あり).6例中C1例のみ切り替え前の抗CVEGF薬投与時に導入期としてC2カ月連続で投与を行っていたが,他のC5例は導入期を設定していなかった.また,切り替え後はすべての症例で導入期を設けていなかった.初回CVEGF薬投与からブロルシズマブへの切り替えまでの期間はC240.1C±121.4週(97.417週),切り替え前の抗CVEGF薬投与回数の合計はC14.3C±8.2回(4.C24回)であった.切り替え後の経過観察期間はC44.7C±25.7週(15.87週),その間のブロルシズマブ投与回数はC4.3C±2.1回(1.8回)であった.切り替え前の抗CVEGF薬の平均投与間隔はC11.7C±1.6週(9.6.13.9週),切り替え後のブロルシズマブの平均投与間隔はC12.3C±3.6週(8.3.18週)で切り替え前後平均投与間隔に有意差は認めなかった(p=0.80).3眼は眼内レンズ挿入眼で,残りのC3眼は軽度白内障を有していた.図1,2に切り替え前および最終受診時のClogMAR視力,CRTをそれぞれ示す.logMAR視力は切り替え前がC0.24±0.18,最終受診時がC0.34±0.16と有意な改善は認められなかった(p=0.13).CRTは切り替え前がC539.0±73.0μm,最終受診時がC380.0C±52.7μmと有意に改善していた(p=0.004).ブロルシズマブに関連する副作用のうち大きく視力に影響を与えるものとして眼内炎症が報告されている5)が,今回の検討では眼内炎症やその他の副作用は認められなかった.CIII代表症例患者:60歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:40歳代から糖尿病を指摘されていたが放置していた.2018年から糖尿病の治療を開始された.現病歴:2019年C12月右眼視力低下を自覚し,近医眼科を受診し,両眼糖尿病網膜症・黄斑浮腫を指摘され,筆者の施設へ紹介された.初診時所見:視力は右眼C0.2(0.3C×sph+1.50DCcyl-1.50DAx50°),左眼C1.2(n.c.).両眼眼底に網膜出血および硬性・軟性白斑を認め,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で黄斑浮腫を認めた(図3).蛍光眼底造影検査で,4象限にわたる広範な無灌流域を認めたが新生血管は検出されず,両眼増殖前糖尿病網膜症と診断した.経過:両眼汎網膜光凝固術を開始し,両眼黄斑浮腫に対しアフリベルセプトC2Cmg硝子体内注射を開始された.右眼はp=0.13p=0.004(μm)0.67006000.55000.40.22000.11000.00切り替え前最終受診時切り替え前最終受診時図1切り替え前後の視力図2切り替え前後の中心網膜厚(CRT)LogMAR視力400CRT0.3300logMAR視力は切り替え前C0.24C±C0.18,最終受診時CRTは切り替え前がC539.0C±C73.0μm,最終受診時0.36C±C0.16と有意な改善は認められなかった.がC380.0C±C52.7μmと有意に改善していた.図3代表症例のOCT像a:初診時.矯正視力(1.2),CRT459μm.網膜内液および硬性白斑による高輝度反射を認める.Cb:切り替え前.矯正視力(0.8),CRT438μm.アフリベルセプトC2Cmg硝子体内注射を施行しても網膜内液は残存している.Cc:最終受診時.矯正視力(0.8),CRT295μm.中心窩陥凹が認められ,網膜内液は改善していた.アフリベルセプトC2Cmg硝子体内注射に反応良好で,視力乏しく,途中ラニビズマブ(計C4回)やCSTTAを試みたが浮(1.0)に改善したが,左眼は反応不良でありC2年間にアフリ腫の改善は得られなかった(図3,4).そこで,2022年C11ベルセプトC2Cmg計C12回注射を行ったが黄斑浮腫の改善に月からブロルシズマブに切り替えたところ,徐々に黄斑浮腫(μm)いる9,10).本検討では,抗CVEGF薬投与開始からブロルシズC500450マブへの切り替えまでに約C4年以上を要しており,すべてのブロルシズマブめ,切り替え前後で投与間隔も検討したが,有意な変化は認400症例で他治療への抵抗性がみられたことから,長期にわたるC350黄斑浮腫の持続が視力予後不良の一因と考えられる.今後C300250は,治療抵抗性が疑われた段階でより早期にブロルシズマブCRT(LogMAR)への切り替えを行うことで,解剖学的改善に加えて視機能のC0.120.1改善も期待できる可能性がある.視力0.080.06ブロルシズマブに変更後,投与間隔延長も期待されるた0.020図4代表症例のCRTおよび視力推移アフリベルセプトからブロルシズマブに切り替えたあと,CRTは大幅に改善し,視力維持可能であった.は改善し中心窩陥凹もみられるようになった(図3).そのあとにCtreatandextendで約C13週間隔の治療となった(図4).CIV考按本検討では,ブロルシズマブ以外の抗CVEGF薬や局所光凝固,IVTA,STTAなどに反応不良を示したCDME症例に対し,ブロルシズマブへ切り替えた際の臨床経過を後ろ向きに検討した.ブロルシズマブへの切り替えによりCCRTは有意に減少し,解剖学的には改善が認められた一方で,視力の有意な改善は得られなかった.難治性CDME症例におけるブロルシズマブとアフリベルセプトの有効性を比較した報告でも,いずれの薬剤でも有意な視力改善はみられず,CRTはアフリベルセプト群では有意差がなかったが,ブロルシズマブ群では有意な減少が示されていた7).また,未治療および治療抵抗性CDMEに対する両薬剤の効果を比較した報告では,いずれの群でも視力とCRTの改善がみられたが,治療抵抗性群では未治療群に比して視力改善の程度は小さいとされている8).本研究結果は,こうした既報と一致しており,難治性CDMEにおいてブロルシズマブは解剖学的改善が期待できる一方で,視力改善は限定的であることを示唆する.DME治療の第一選択は抗CVEGF薬の硝子体内注射であり,現在国内ではC4種類の薬剤が承認されている.これらはそれぞれ構造や作用機序が異なり,ブロルシズマブはVEGF-Aを標的とする単鎖抗体フラグメントで,他薬剤に比べて分子量が小さく,同等の投与量でより高いモル濃度が達成できることから,難治例においても黄斑浮腫の改善が期待されている4.8).しかし,DMEが長期間にわたり遷延した場合には網膜外層の不可逆的障害が生じることがあり,浮腫が改善しても視力の回復が得られない可能性が指摘されてめられなかった.本研究で有意差がみられなかった原因としては,切り替え前はCprorenata(PRN)で投与を行っていたこと,浮腫があっても患者の同意が得られず抗CVEGF薬投与できなかったなど,厳密な再投与プロトコルに基づくものではなかったためと考えられる.本研究はC6眼と症例数が少なく,一部症例の影響が全体に及んでいる可能性が否定できないため,今後さらに症例数を増やして検討を行う必要がある.また,本研究は後ろ向きであり,視力およびCCRTは切り替え前と最終受診時との比較にとどまる.最終受診時の抗CVEGF薬投与からの経過期間も症例間で統一されておらず,今後は前向き研究による評価が望まれる.なお,本研究においてはC4症例C6眼という限られた症例数ながら,ブロルシズマブに関連する眼内炎症は認めなかった.Parkらによる韓国での大規模研究では,糖尿病はブロルシズマブ後の眼内炎症リスクを下げる因子として報告されており11),DMEに対しては比較的安全に使用できる可能性が示唆されている.ただし,ブロルシズマブ投与に際しては眼内炎症のリスクを常に念頭においた患者教育と経過観察が重要である.以上より,他の抗CVEGF薬に対して反応不良を示すCDME症例において,ブロルシズマブへの切り替えはCCRTの有意な改善をもたらしたものの,視力の改善は得られなかった.抗CVEGF薬による治療導入の遅れが視力回復の限界につながることはすでに報告されており9,10),今後は治療抵抗性が示唆された時点で早期にブロルシズマブへの切り替えを検討することが視機能の改善にもつながる可能性があると考える.本論文の要旨は第C31回日本糖尿病眼学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)YauJW,RogersSL,KawasakiRetal;Meta-AnalysisforEyeDisease(META-EYE)StudyCGroup:GlobalCpreva-lenceCandCmajorCriskCfactorsCofCdiabeticCretinopathy.CDia-betesCareC35:556-564,C20122)BresslerCSB,CAyalaCAR,CBresslerCNMCetal:PersistentCmacularCthickeningCafterCranibizumabCtreatmentCforCdia-beticmacularedemawithvisionimpairment.JAMAOph-thalmolC134:278-285,C20163)DugelCPU,CCampbellCJH,CKissCSCetal:AssociationCbetweenCearlyCanatomicCresponseCtoCanti-vascularCendothelialCgrowthfactortherapyandlong-termoutcomeindiabeticmacularedema:anCindependentCanalysisCofCprotocolCiCstudydata.RetinaC39:88-97,C20194)ChakrabortyD,ShethJU,BoralSetal:Off-labelintravit-realCbrolucizumabCforCrecalcitrantCdiabeticCmacularedema:aCreal-worldCcaseCseries.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC24:101197,C20215)MonesJ,SrivastavaSK,JaffeGJetal:Riskofin.amma-tion,retinalvasculitis,andretinalocclusion-relatedeventswithbrolucizumab:posthocreviewofHAWKandHAR-RIER.Ophthalmology128:1050-1059,C20216)AbuCSerhanCH,CTahaCMJJ,CAbuawwadCMTCetal:SafetyCandCefficacyCofCbrolucizumabCinCtheCtreatmentCofCdiabeticCmacularCedemaCandCdiabeticretinopathy:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CSeminCOphthalmolC39:251-260,C20247)ChakrabortyD,SharmaA,MondalSetal:Brolucizumabversusa.iberceptforrecalcitrantdiabeticmacularedemainIndianreal-worldscenario-TheBRADIRstudy.AmJOphthalmolCaseRepC36:102152,C20248)RubsamCA,CHosslCL,CRauCSCetal:Real-worldCexperienceCwithCbrolucizumabCcomparedCtoCa.iberceptCinCtreatment-naiveandtherapy-refractorypatientswithdiabeticmacu-laredema.JClinMedC13:1819,C20249)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetal;RIDECandCRISECResearchGroup:Long-termCoutcomesCofCranibi-zumabCtherapyCforCdiabeticCmacularedema:theC36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIItrials:RISECandCRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C201310)ChitturiCSP,CVenkateshCR,CManglaCRCetal:Real-worldCtreatmentCoutcomesCafterCdelayedCintravitrealCtherapyCinCcenter-involvingCdiabeticCmacularCedemaC-RETORTCstudy.IntJRetinaVitreousC9:22,C202311)ParkCHS,CLeeCSW,CParkCHCetal:IncidenceCofCintraocularCin.ammationCandCitsCriskCfactorsCinCpatientsCtreatedCwithbrolucizumab:aCnationwideCcohortCstudy.CSciCRepC14:C22913,C2024C***

糖尿病患者に対するロービジョンケアの最適化への試み

2026年5月31日 日曜日

《第31回.日本糖尿病眼学会.原著》あたらしい眼科43(5):559.564,2026c糖尿病患者に対するロービジョンケアの最適化への試み松井千洋杉原友佳髙村佳弘山田雄貴目黒灯香八田拓也冨田梨生南谷由美子稲谷大福井大学医学部眼科学教室COptimizingLowVisionCareforPatientswithDiabetesChihiroMatsui,YukaSugihara,YoshihiroTakamura,YutakaYamada,ToukaMeguro,TakuyaHatta,RikiTomita,YumikoMinamidaniandMasaruInataniCDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalSciences,UniversityofFukuiC目的:ロービジョンケアにおいては,詳細な問診表に沿って一つずつ視覚支援機器を試すが,限られた時間内ではむずかしい場合もある.そこで本研究では,比較的若年で急激に視覚障害に陥る可能性がある糖尿病患者のロービジョンケアに着目し,スムーズに適切な視覚支援機器の選定ができるよう最適化されたフローチャートの作成を試みた.対象と方法:福井大学医学部付属病院において糖尿病が原因で身体障害者手帳制度における視覚障害と認定された患者に対し,日常生活で困っていることを聴取した.相談内容に対応できる支援機器,アイテムを選択し,フローチャートを作成した.結果:糖尿病網膜症(DR)によって視覚障害となった患者に対しては,完全矯正眼鏡および遮光眼鏡の処方を行ったうえで,視覚補助機器も並行して導入する.患者のニーズを「読字・書字」「移動」「日常生活」のC3カテゴリーに分類し,それぞれに対応した支援機器を整理することで,ニーズに即した支援を的確に選定することが可能となった.結論:ロービジョンケアの効率化をはかるうえでフローチャートの作成,導入は有効であると考えられる.CPurpose:InClowCvisionCcare,CvisualCassistiveCdevicesCareCtypicallyCselectedCthroughCaCstep-by-stepCtrialCpro-cessCbasedConCdetailedCinterviews.CHowever,CthisCapproachCcanCbeCchallengingCwithinClimitedCtimeCconstraints.CInCthisstudy,wefocusedonlowvisioncareforpatientswithdiabetes,apopulationatriskofrapidandseverevisualimpairmentCatCaCrelativelyCyoungCage,CandCaimedCtoCdevelopCanCoptimizedC.owchartCtoCfacilitateCtheCsmoothCandCappropriateCselectionCofCassistiveCdevices.CSubjectsandMethods:AtCtheCUniversityCofCFukuiCHospital,CweCinter-vieweddiabetespatientswhowerecerti.edasvisuallyimpairedduetodiabetes,askingaboutthedi.cultiestheyfaceindailylife.Basedontheirconcerns,weselectedsuitablevisualassistivedevicesanditemsanddevelopedacorrespondingC.owchart.CResults:ForCpatientsCwithCvisualCimpairmentCcausedCbyCdiabeticCretinopathy,CweCpre-scribedCfullyCcorrectedCglassesCandCmedicalCtintedClenses,CandCsimultaneouslyCintroducedCvisualCassistiveCdevices.CPatientCneedsCwereCclassi.edCintoCthreecategories:readingCandCwriting,Cmobility,CandCdailyCliving.CByCorganizingCdevicesCtoCcorrespondCwithCeachCcategory,CitCbecameCpossibleCtoCmoreCaccuratelyCselectCsupportCtoolsCtailoredCtoCeachpatient’sspeci.cneeds.Conclusion:Thedevelopmentandimplementationofa.owchartmaybeane.ectivestrategytoimprovethee.ciencyoflowvisioncare.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(5):559.564,C2026〕Keywords:ロービジョンケア,糖尿病網膜症,フローチャート.lowvisioncare,diabeticretinopathy,.owchart.Cはじめに糖尿病患者数は世界中で増加をみせており,国際糖尿病連合(InternationalCDiabetesFederation:IDF)による報告では,2000年にC1億C5,100万人であった糖尿病患者数がC2019年にはC4億C6,300万人に達しており,今後もさらに増加することが予想されている1).日本では,糖尿病が強く疑われる者,糖尿病の可能性を否定できない者の合計が,2019年時点でC2,000万人を超えるとされており,今後さらなる増加が予想される2).糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は,網膜の血〔別刷請求先〕松井千洋:〒C910-1193福井県吉田郡松岡町下合月C23-3福井大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ChihiroMatsui,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalSciences,UniversityofFukui,23-3Matsuoka-shimoaizuki,Eiheiji-cho,Yoshida-gun,Fukui910-1193,JAPANC表1日常生活で困っていることを聴取した糖尿病を有するロービジョン患者25名の背景年齢(平均±標準偏差)C51.2C±C13.6男性:女性19:61級4名視覚障害者手帳の等級2級15名4級2名5級2名手動弁1名0.1以下12名よいほうの眼の矯正視力0.15以上C0.3未満5名0.3以上C0.5未満5名0.5以上2名管透過性亢進,虚血変化,増殖膜形成など多様な病態を示し,進行すれば失明に至るリスクがある.糖尿病の増加に伴い,三大合併症であるCDRの増加も見込まれ,現在では日本の中途失明原因の第C3位とされている3).また,糖尿病が原因で身体障害者手帳制度における視覚障害と認定された患者を対象とした全国多施設調査では,そのC7割がC70歳未満のまだ若く働き盛りの年代に多かったことが明らかとなった4).さらに,高度医療機関に紹介されてからC1.2年の短期間のうちに急激な視覚障害に陥り,1,2級の取得となったケースが多いことも示された.糖尿病患者においては,こうした生活の変化,治療による経済負担の心労や働けないことによる将来への不安などでうつ病の発症リスクが増加すると報告されている5).不可逆的な視覚障害に至った糖尿病患者に対しては,ロービジョンケアを並行して行うことで生活の質(qualityoflife:QOL)の維持に努めることが重要である.視覚障害の状況が同程度であっても,それぞれの患者が抱える悩みやニーズは生活環境や趣味などによって異なるため,個々に合わせた視覚支援機器の選定が求められる.日常臨床においては,問診票により新聞の読みやすさ,歩行時の状況,羞明の有無など患者の抱えるニーズを聴取することができる6).しかし,限られた時間内に機器の選定を終えられないことも経験する.より効率よく視覚支援機器の選定を行うため,患者のニーズに応じて最適化されたフローチャートの作成を試みた.CI対象と方法福井大学医学部付属病院(以下,当院)において糖尿病が原因で身体障害者手帳制度における視覚障害と認定され,当院ロービジョン外来を受診した患者C25名に対し,日常生活で困っていることを聴取した.相談内容に対応できる支援機器・アイテムを選択し,フローチャートを作成した.ロービジョンケアにおける患者ニーズの聴取は,当院のロービジョン外来において必須項目であるが,聴取した内容をフローチャートの作成に用いることに関してはオプトアウトにて研究参加への拒否の機会を与えた.本研究は,福井大学倫理審査委員会により承認された(承認番号:20220216,登録日:2023年3月15日).CII結果日常生活で困っていることを聴取したロービジョン患者25名の背景を表1に示す.ロービジョンケアの基本として,矯正眼鏡もしくは遮光眼鏡の必要性の検討をまず行った(図1a).そのあとにロービジョン患者から聴取したニーズをまとめ,読み書き,移動,日常生活のC3点に分類した(図1b).日常生活においては,さらに食事,健康管理,時間の確認,趣味のC4点にニーズを絞った.ただし,多様なニーズに対応する以前に,見たい距離にあわせた屈折矯正や,羞明に対応した遮光眼鏡の選定を行うことを基本とした.まず,読み書きについてであるが,文字を見やすくしたいという要望に対し,室内と屋外の場合に分け,さらに多様なニーズに合わせて支援機器の選定を行い,フローチャートを作成した(図2).拡大読書器は室内では据え置き型,屋外ではポータブルな携帯型が有効とした.読書の際にはタイポスコープ,ルーペなどを推奨し,両手をあけたいときにはメガネ型ルーペを勧めた.読むのに時間がかかる,という要望には読み上げ機能付きの機器を紹介した.歩行による移動が困難である,という悩みに対しては,単独での歩行が可能と判断したときには外来に歩行訓練士を招いて白杖訓練を行った.また,介助が必要と考えられた場合には同行援護の利用,将来的な盲導犬の貸与を提案した.また,電子機器の使用が可能な場合には音声サポートアプリの利用の説明も行った.移動に関するフローチャートを図3に示す.日常生活のニーズへの対応におけるフローチャートを図4に示す.食事に関しては,料理の位置がわからない,という悩みに対しては,クロックポジションを用いることで,自分を中心として何時の方向に何の食器や料理が置かれているかを把握する方法を紹介した.ご飯を食べ残してしまうという悩みには,黒いお椀を使用してもらうことで,茶碗に残った白米を見つけやすくできることを説明した.お茶を注ぐことが困難,という声には,液体の注量と色がわかるスマートクリップの「みずいろクリップ」(RaisetheFlag.社)を紹介した.さまざまな容器に取り付けることができ,実際に使用してみるとその便利さを実感することができる.健康管理においては,血圧,体重,体温の測定には音声によるサポートを可能とした測定器を実際に使用してもらっab多様なニーズ屈折異常屈折矯正(遠見・近見)読み書き羞明遮光眼鏡(屋内・屋外)移動日常生活図1問診による患者ニーズの分類a:ロービジョンケアの基本として,矯正眼鏡もしくは遮光眼鏡の必要性の検討を行った.Cb:ロービジョン患者の多様なニーズを読み書き,移動,日常生活のC3カテゴリーに分類した.据え置き型拡大読書器屋内本・新聞・手紙タブレット両手を空けたい文字を読みやすく読み上げしたい読むのに時間が機能付きかかる拡大読書器携帯型拡大読書器屋外標識・看板・電光掲示板・黒板図2読み書きに関するフローチャート自立して白杖訓練歩きたい(歩行訓練士による指導)介助してほしい同行援護の利用移動できることを音声サポートアプリの増やしたい利用生活全般のサポート盲導犬の貸与図3移動に関するフローチャート日常生活のニーズ食事●料理の位置がわからないクロックポジション●ご飯を食べ残す黒いお椀の使用●お茶が注げないみずいろクリップ健康管理●インスリンの単位確認かけ眼鏡式ルーペ●血圧管理音声血圧計●体重管理音声体重計●体温測定音声体温計時間の確認音声時計趣味・買い物コインホーム・糸通し器図4日常生活におけるケアのフローチャートた.インスリンの目盛りが見えない,という悩みもあったが,両手で作業できるように,近用眼鏡や拡大鏡の装着を紹介した(図5).実際に,フローチャートを用いて対応した症例を提示する.d図5ロービジョングッズを用いたインスリン注射器の目盛りの見え方a:ルーペ.b:近用眼鏡.c:携帯型拡大読書器.d:インスリン注射器専用ルーぺ.e:掛け眼鏡式ルーぺ.f:据え置き型拡大読書器C.C[症例1]43歳,男性.両眼において増殖糖尿病網膜症(proliferativeDR:PDR)に血管新生緑内障を併発し,中心10°以内の求心性視野狭窄,視力は右眼がC30cm手動弁,左眼は矯正視力C0.1であった.ロービジョン外来受診時の問診からニーズをまとめると,足元がわからず移動が怖い,日の光がまぶしく感じる,の二点があげられた.このニーズをフローチャートにあてはめ,視覚支援機器の選定を行った.足元が見えにくく移動が困難である,というニーズに対して,視力,視野ともに障害があるため,同行援護の利用や白杖歩行訓練から開始することを勧めた.白杖による歩行訓練は家族の協力のもと,歩行訓練士と連携して行われた.室内,室外ともに羞明を感じていたため,それぞれにあわせて遮光眼鏡を選定した.室外に関してはとくに強い羞明を感じていたため,透過率の低い緑系レンズを選定した.室内はパソコン作業にて眩しさを感じることからモニターを見てもらいながら選定を行い,透過率C76%の黒系レンズで決定した.室内ではパソコン作業以外で遮光を必要としないため前掛け式(跳ね上げ式)で意見書に記載された.[症例2]75歳,女性.両眼ともにCPDRおよび血管新生緑内障と診断された.矯正視力は右眼が-3.0Dの近視でC0.4,左眼は光覚なしであった.裸眼や矯正眼鏡では手元が見えにくく,より見やすい状態にできないか,と相談された.持参された眼鏡,近方における度数を調整して見え方を確認したが,さらに細かい字を読みたい,とのことであった.フローチャートにあてはめ,読み書きのフローチャートに沿って室内で本などを見るためのルーペを選定した.2.5倍でさまざまな倍率を試したところ,LED付きのC2倍のルーペを使用したことで見え方に満足し,購入に至った.また,このルーペを用いることで,インスリン注射器の単位を確認することが簡便になったと喜ばれた.CIII考按今回筆者らは,矯正眼鏡や遮光眼鏡を処方したうえで,患者のニーズをもとに読字書字,移動,日常生活のC3カテゴリーに分類し(図1),それぞれに応じて有効な支援機器をまとめた.読字や書字を補助する機器の種類として,拡大鏡(ルーペ),ハイパワープラス眼鏡(近用眼鏡),拡大読書器,単眼鏡があげられる.単純に文字を拡大することでより読みやすくする点では共通であるが,それぞれにメリット・デメリットがあり,患者の見たい対象物や年齢,使用頻度に応じて選定を行う必要がある.ルーペには手持ち式やかけ眼鏡式のもの,デスクに置くタイプとバリエーションが豊かであり,用途に合わせて選定をしていく.手持ち式は焦点距離の関係で拡大率が変化するため,距離感について理解してもらう必要がある.度数によっては安価であり,100円ショップでも販売している.ルーペの度数が大きくなるにつれて構造上レンズの直径が小さくなるため,高倍率の場合には接眼距離を近づけるなどの工夫が必要になる.また,片手が塞がるため,併用して字を書くためには練習が必要であり,持ちながら使うことによる疲労感がある.ハイパワーレンズは眼鏡として装用できるため,両手の自由が利くが,度数が大きくなるにしたがって焦点距離が近くなる.また,両眼を使用する場合には輻湊角をプリズムで補正する必要が生じ,レンズの厚みが増す分だけ重さも増加する.拡大読書器には据え置き型と携帯型がある.文字を拡大させることはもちろん,白黒反転やマスキングの機能もあり,読字・書字の助けとなる.これについては据え置き型と携帯型で大きく差はない.据え置き型は大きくスペースをとり重量もあるため,使用する場所が固定される.その一方で手元のスペースが広く,読字・書字だけでなく,手元の作業で使用することもできる.携帯型は読みたい文字に対して機械を添わせるため,手元のスペースが少なくなる.手元を開けるためのアタッチメントがアクセサリーとして販売されている機種もある.また,機種によっては遠方にピントを合わせる機能もあり,単眼鏡のように遠方を拡大することができる.室内と屋外で使用する状況に応じた機器の説明を行うことが望ましい.単眼鏡は,使用するために練習が必要になるが,遠方の拡大において利用可能である.最近では遠方の拡大にスマートフォンのカメラ機能を使うこともある.タイポスコープは,読む範囲を限定することを目的とした黒い定規のようなアイテムである.コントラストがはっきりし,読みたい部分の明確化,同じ箇所を読むことの防止,どこに書けばいいかの目印となる.タイポスコープ自体は黒い画用紙などで自分の使いたい大きさにあわせて自作することも可能である.移動に関しては視野の影響が大きく,視力の値だけでは困難に気づきにくいこともあるため,生活環境などの問診が重要である.周辺の視野は歩行に重要であり,糖尿病患者に合併した血管新生緑内障や高度な網膜虚血により重度の視野欠損に至ると,歩行の困難をはじめとするCQOLの低下がみられるようになる7,8).糖尿病患者では,血管新生緑内障の合併や網膜萎縮により,視力低下に加え,高度の視野狭窄に至る場合が少なくない.移動に困難を抱えている場合は,同行援護サービスの利用や白杖訓練の開始など,社会福祉サービスや歩行訓練士との連携を提案することも選択肢となる.インスリン自己注射をする必要がある糖尿病患者は,自分で必要単位分の目盛りを合わせる際に困るケースが多い.単位数を間違えれば低血糖状態に陥り命にかかわるため9),目盛りを正確に読み取れるように工夫しなければならない.近用眼鏡を処方すると,ルーペと異なり両手があくため,数字を拡大して単位数を確認しつつインスリン注射器のダイヤルを回すことができる.他の工夫としては,注射器を回した際のクリック音の回数で必要単位数合わせる方法や,視覚障害者用に大きめのダイヤルがついている機器もあるため,近用眼鏡の処方と並行して個々にあった注射器の選択をすることも重要である10).内科に通院する糖尿病患者においては,眼科に通院しておらず,目盛りが見えずに困っているケースは潜在的に多いと考えられる.ロービジョンケアを早期から導入できるよう,内科と眼科との連携の強化が求められている.日常生活において,食事や健康管理におけるケアアイテムの使用は重要である.今回,フローチャートに組み込んだクロックポジションやみずいろクリップなどは意外と知られていない.また,爪切りやお金の支払いなど,ロービジョンケア用品が役立つ場面は多い.ロービジョンケアアイテムも多様となり,充実してきているが,それぞれの特性を理解していないと選定に迷うことになる.フローチャートをあらかじめ設定することで,機種選択の効率が向上し,よりよいサポートの提供につながると考えられる.それは,患者と眼科医,視能訓練士などのメディカルスタッフとの信頼関係の構築にも寄与するだろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)InternationalCDiabetesFederation:IDFCDiabetesCAtlasC11thEdition-2025.https://diabetesatlas.org/media/Cuploads/sites/3/2025/04/IDF_Atlas_11th_Edition_2025-1.pdf(2025年C05月C23日閲覧)2)厚生労働省:平成28年「国民健康・栄養調査」の結果C.https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189.html.(2025年3月23日閲覧)3)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C20234)SugiharaCY,CTakamuraCY,YamadaCYCetal:Characteriza-tionCofCtheCvisuallyCimpairedCpatientsCwithCdiabetesCmelli-tusinJapan.JDiabetesInvestigC15:882-891,2024.5)GoldenCSH,CLazoCM,CCarnethonCMCetal:ExaminingCaCbidirectionalCassociationCbetweenCdepressiveCsymptomsCanddiabetes.JAMAC299:2751-2759,C20086)井手浩一,亀井久典,山中雅恵:熊本大学眼科におけるロービジョンケア―現況とCLow-Vision初期評価表の有用性―.日視能訓練士協誌C33:127-134,C20047)MihailovicA,SwenorBK,FriedmanDSetal:Gaitimpli-cationsCofCvisualC.eldCdamageCfromCglaucoma.CTranslCVisCSciTechnolC6:23,C20178)QiuCM,CWangCSY,CSinghCKCetal:AssociationCbetweenCvisual.elddefectsandqualityoflifeintheUnitedStates.OphthalmologyC121:733-740,C20139)TsaiCLH,CHsiehCHP,CChenPS:RelationshipCbetweenCrefractiveCcorrection,CvisualCsymptoms,CandCopticalCdeviceCselectionforlow-visionpatientsinTaiwan.JOptomC13:C249-256,C201910)藤井夕香,磯和勅子,平松万由子:外来通院をしている高齢糖尿病患者のインスリン自己注射主義に影響を及ぼす要因.日看科会誌C36:179-188,C2016***

基礎研究コラム:ナノ素材と眼表面

2026年5月31日 日曜日

ナノ素材と眼表面ナノテクノロジーと眼への曝露ナノテクノロジーの発展により,1~100Cnmサイズのナノ素材が広く応用されています.医薬品,医療機器など,われわれの身の回りには多くのナノ素材が存在しています.とくに酸化亜鉛や酸化チタンのナノ素材は,紫外線を散乱する性質を利用して日焼け止めや化粧品に広く使用されています.また,ナノ素材は塗料や半導体などの工業製品にも用いられており,そういった製品を扱う職場での眼への曝露,いわゆるCworkplacehealthの観点からも安全性の検討が必要です.ナノ素材には,その形態によりナノ粒子,ナノシート,ナノワイヤー,ナノチューブなどがあり,それぞれ特有の物理化学的特性をもっています.これらのナノ素材は,そのサイズが小さいことから従来の素材とは異なる特性を示し,より高い生体親和性や薬物送達効率をもつことが期待されています.ナノ素材は呼吸器や皮膚への影響が注目されてきましたが,眼表面は外界に直接さらされる組織であり,ナノ素材への曝露機会が多い部位です(図1).また,涙液層や角膜上皮などの微細な構造をもつため,ナノサイズの物質がどのような影響を与えるかについては,まだ十分に解明されていません.ナノ素材の眼表面への影響金属酸化物ナノ粒子を用いた実験では,invitroおよびCinvivoにおいて角膜上皮創傷治癒が抑制されることが明らかになっています.さらに重要な知見として,酸化亜鉛ナノ粒子は角膜上皮を通過し,角膜実質を越えて虹彩実質にまで取り込まれることが示されました1).これは,ナノ素材が眼内組織にまで到達する可能性を示唆しています.また,角膜実質においては金属酸化物ナノ素材が角膜線維芽細胞から筋線維芽細胞への変化を調節し,一部には角膜実質細胞に対して強い毒性を示すものがあることが明らかになりました2).グラフェンは炭素原子が六角形の蜂の巣構造で結合した二次元のシート状物質であり,金属酸化物とは異なる特性をもっています.近年,グラフェンの優れた電気伝導性や柔軟性を利用して,スマートコンタクトレンズへの応用が研究されており,眼表面への影響を評価することが重要となっています.グラフェン系ナノ素材を用いたCinvitroでの検討では,還元型酸化グラフェンが角膜上皮や角膜実質細胞に対して強い毒性を示し,線維化を促進する可能性が示唆されました3).これは,ナノ素材の化学組成や表面特性,形状の違いが,細胞との相互作用や生体応答に影響を与えるためと考えられます.(83)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY監修北澤耕司・村上祐介・中川卓福戸敦彦広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学ナノチューブ眼表面図1ナノ素材の眼表面への影響ナノ粒子,ナノシート,ナノワイヤー,ナノチューブなどのナノ素材は,呼吸器や皮膚への影響が研究されてきたが,外界に直接さらされる眼表面への影響についても注目されている.ナノ素材の種類,サイズ,表面特性により,眼表面への影響が異なることが明らかになっている.今後の展望今後,ナノテクノロジーの応用はますます広がっていくことが予想されます.眼科領域においても,ドラッグデリバリーシステムや眼内レンズなど,ナノ素材を応用した新しい治療法や医療機器の開発が進められています.しかし,その安全性評価は十分とはいえません.従来の評価系ではナノ素材特有の挙動を捉えきれないため,新たな評価手法の確立が必要です.とくにCinvivoでの長期的な影響や,異なる種類のナノ素材の複合的な影響については未解明の部分が多く残されています.ナノ素材の有用性を活かしつつ,安全性を適切に評価していくことが今後の課題です.文献1)KimCS,CGatesCB,CLeonardCBCCetal:EngineeredCmetalCoxideCnanomaterialsCinhibitCcornealCepithelialCwoundCheal-inginvitroandinvivo.NanoImpactC17:100198,C20202)FukutoCA,CKimCS,CKangCJCetal:MetalCoxideCengineeredCnanomaterialsCmodulateCrabbitCcornealC.broblastCtoCmyo.broblastCtransformation.CTranslCVisCSciCTechnolC10:23,C20213)FukutoCA,CKangCJ,CGatesCBLCetal:E.ectCofCgraphene-basedCnanomaterialsConCcornealCwoundChealingCinCvitro.CExpEyeResC229:109419,C2023あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026C555呼吸器皮膚