‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼科診療における点眼アドヒアランスの現状と課題

2025年11月30日 日曜日

眼科診療における点眼アドヒアランスの現状と課題:教育・行動支援・デジタル技術を統合した多面的戦略AdherencetoOphthalmicEyeDropsinClinicalPractice:CurrentStatus,Challenges,andtheMultimodalStrategyofIntegratingEducation,BehavioralSupport,andDigitalTechnology猪俣武範*はじめに点眼薬は眼科診療においてもっとも頻用される治療手段の一つであり,緑内障,ドライアイ,白内障をはじめとした術後管理,アレルギー性結膜炎など,多岐にわたる疾患に適応されている1.4).その有効性は多くの臨床試験や長期観察研究により裏づけられており,眼科薬物治療の基盤をなしてきた.しかし,点眼薬がもつ本来の効果を最大限に引き出すためには,患者が処方どおりに継続的かつ正確に使用することが必須である5).点眼薬には経口薬と比較して特有の困難が存在する.第一に「使用忘れに気づきにくい」こと6),第二に「滴下操作の難易度が高い」こと7),第三に「生活リズムや環境との結びつきが強い」こと8)である.このため,点眼アドヒアランス(遵守度)が治療効果に及ぼす影響はきわめて大きい9).さらに,点眼は可視的な行為でありながら家庭や職場での支援を得にくく,患者個人の努力に依存しやすい9).こうした特徴は,点眼薬による治療が他の薬物療法と比較してアドヒアランスの確保を困難にする要因となっている.従来用いられてきたコンプライアンスは医師の指示を患者が受動的に守るという意味合いが強かった10)(図1).一方,アドヒアランスは患者が主体的に治療に参加し,医師と協働して継続する姿勢を強調する概念であり,より双方向的で能動的な意味を含む.世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)はアドヒアランスを「患者の行動が医師の推奨と一致している程度」と図1コンプライアンスとアドヒアランスの概念的差異コンプライアンスは医師の指示を患者が受動的に遵守することを強調するのに対し,アドヒアランスは患者主体の治療参加と医師との協働を前提とする.定義し,薬剤使用のみならず食事・運動療法や生活習慣改善など広範な行動を含むものとしている11).眼科領域においても点眼アドヒアランスは臨床アウトカムに直結する12).緑内障では点眼アドヒアランスが視野障害進行の抑制に,ドライアイでは角膜上皮障害や自覚症状の改善に直結する1,2).白内障術後では感染や炎症予防に不可欠であり,アレルギー性結膜炎では症状の再燃防止に重要である3,4).しかし現実には,緑内障点眼薬のアドヒアランスは処方1年以内に40.60%が中断し12),ドライアイ患者においても人工涙液を定期的に使用できているのは半数に満たない13).したがって,眼科疾患における点眼アドヒアランスは臨床的有効性を左右する鍵であり,その改善は失明予防や生活の質(quali-tyoflife:QOL)向上に直結する重要課題である.本稿では,まず眼疾患ごとに点眼アドヒアランスの現状と課題を概観する.そのうえで,教育的介入,行動変容支援,薬剤処方の工夫,デジタル技術やデバイスの活*TakenoriInomata:順天堂大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕猪俣武範:〒113-8421東京都文京区本郷2-1-1順天堂大学医学部眼科学講座(1)(11)1375用について検討する.さらに規制・制度上の課題や将来展望を提示し,点眼アドヒアランス改善のための多面的戦略を論じる.I点眼アドヒアランスの現状と課題緑内障は世界の失明原因の第2位を占める慢性進行性疾患14)であり,点眼薬による眼圧下降が治療の第一選択である15).しかし,その点眼アドヒアランスは一貫して不十分であり,処方1年以内に40.60%が治療を中断している12).自己申告調査では点眼アドヒアランスが70.80%と高めに報告される一方,電子モニタリングによる客観的評価では50%前後にとどまることが明らかになっており,両者の間には大きな乖離が存在する1,16).さらに,薬剤特性による差も大きく,プロスタグランジン関連薬は1日1回投与ですむため,比較的点眼アドヒアランスは高いが,b遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬のように複数回投与を要する薬剤では点眼アドヒアランスの低下が顕著である17,18).加えて,緑内障は無症候性であることから「薬を中止しても変化がない」と患者が誤認しやすく,米国の大規模コホート研究では3年後の継続率が30.40%にすぎず12),日本や欧州でも同様の傾向が確認されている19).近年のメタアナリシスでは点眼アドヒアランスが80%以上の群において進行リスクが有意に低下することが示されており20),点眼アドヒアランスが視野障害進行の抑制に直結することが明確となった.日本の長期観察研究でも点眼アドヒアランスの高い患者群は低い群に比べて失明率が有意に低く,社会生活維持におけるQOLも良好であることが報告されている12,21,22).ドライアイは,世界的な有病率が約5.50%と非常にばらつきがあるものの,視覚障害やQOL低下をもたらすもっとも頻度の高い眼疾患の一つである23).治療の中心は人工涙液や抗炎症点眼であるが,「症状のあるときだけ使用する」という傾向が強く,点眼の継続使用率は低い8).Eguchiらのドライアイ研究用スマホアプリ「ドライアイリズム」を用いたデジタルコホート研究では症状性ドライアイ患者の半数以上が点眼を使用しておらず,スクリーン時間,睡眠不足,肥満などの生活習慣が点眼アドヒアランスの低下に寄与していることが明らかとなった24).さらに,TearFilmandOcularSurfaceSocietyDryEyeWorkshopII(TFOSDEWSII)では,点眼アドヒアランス低下が治療効果減弱や症状改善遅延に直結することを指摘している2).日本のコホート研究においても点眼アドヒアランスの高い群では角膜上皮障害スコアや自覚症状スコアの改善が有意に大きいことが報告されており25),デジタルリマインダーを用いた介入によって眼表面疾患指数(ocularsurfacediseaseindex:OSDI)スコアが改善する事例も示されている26).これらは,行動支援やテクノロジー活用がドライアイ治療の持続性を高め得ることを示唆している27).白内障手術は世界でもっとも施行される外科手術の一つであり28),術後の抗菌薬・抗炎症薬点眼は感染予防と炎症抑制に不可欠でとされている29).しかし,高齢者を中心に複数点眼の管理は容易ではなく,日本の多施設研究では抗菌薬点眼の完遂率が70%以下であることが示され,術後説明不足や教育の不十分さがその一因とされる30).米国の臨床研究では,退院時の構造化教育や電話/ショートメール(shortmessageservice:SMS)によるフォローなどの介入が,白内障術後の点眼レジメンに対する理解・実施を改善しうることが示唆されており,患者のリテラシー不足が点眼アドヒアランス低下の主要因となることも報告されている31).欧州でも,遠隔モニタリングやSMSを組み合わせた術後フォローの前向き試験が進み,患者体験や安全性・費用対効果の観点から術後管理の強化が検討されている32).このように,白内障術後においては高齢者特有の操作困難や認知機能低下に加え,教育不足が大きな課題となっている.アレルギー性結膜炎では抗ヒスタミン薬や肥満細胞安定化薬点眼が広く用いられているが33),その症状が軽快すると中断する患者が多いことが知られている4).さらに,タクロリムス点眼は刺激感が強いために長期継続が困難で点眼アドヒアランスが低い34).また,小児では保護者の協力が不可欠であり,家庭の支援体制が乏しい場合には点眼アドヒアランスが著しく低下することが報告されている35).そのため医療機関に加えて教育現場や地域社会との連携が点眼アドヒアランス向上に寄与する可能性がある.以上のように,緑内障,ドライアイ,白内障術後管表1疾患別にみた点眼アドヒアランスとおもな課題点眼アドヒアランスおもな課題改善介入方法緑内障1年後のC40.C60%中断無症候性,複数回投与教育,配合材,デジタルリマインダードライアイ半数未満が不定期使用症状依存,生活習慣デジタルリマインダー,生活指導白内障術後抗菌薬完遂率<7C0%高齢者操作困難,教育不足家族介入,反復教育アレルギー性結膜疾患改善後中断例多数症状軽快時の中断,小児における保護者依存保護者指導,学校支援緑内障では「無症候性による中断」,ドライアイでは「症状依存的な使用」,白内障術後では「高齢者による操作困難」,アレルギー性結膜炎では「症状軽快後の中断」が主要因となっている.疾患ごとに特異的要因がある一方,共通課題として操作の煩雑さと支援不足が浮き彫りになる.表2点眼アドヒアランス評価法の比較評価法強み弱み自己申告簡便・低コスト過大評価・想起バイアス残薬調査(点眼本数カウント)客観的・容易過大評価・改ざん可,点眼タイミング不明電子モニタリング正確・点眼タイミング取得可高コスト・負担スマートデバイス患者・市民の生活圏における自動取得デバイスの普及前提AI(人工知能)予測モデル個別予測・フィードバック可開発段階,妥当性や信頼性の検証が必要が得られにくいことが知られている.近年では,スマートデバイスやウェアラブル機器を活用した客観的な測定手法が導入され,従来の主観的評価を補完しうる有用なデータが蓄積されつつある39.42).さらに人工知能(arti.cialintelligence:AI)を用いた解析により,患者属性や生活習慣から点眼アドヒアランス低下リスクを予測するモデルの開発が進展しており43),将来的には個別化された介入戦略の設計に寄与することが期待される.表2は代表的なアドヒアランス評価法の強みと弱みの比較である.CIIIアドヒアランス改善の工夫1.教育と説明教育的介入は点眼アドヒアランス向上にもっとも基本的かつ効果的な戦略の一つであり,多くの研究で遵守率をC10.20%改善することが示されている44,45).とくに,正しい点眼手技の指導は不可欠であり,複数滴の同時投与回避,容器先端の眼瞼や睫毛との接触防止,滴下後の過剰瞬目の抑制といった基本操作の徹底が重要である46.48).図解資料や動画教材を用いた説明は患者の理解を促進し,自己効力感を高めることにつながる49).さらに,薬剤師や看護師による繰り返しの指導も有効であり,薬剤師が点眼教育を体系的に行うことで点眼アドヒアランスが改善した事例が報告されている45).教育は単発的な指導にとどまらず,継続的な再教育の枠組みとして組み込むことが望ましい.C2.行動変容支援行動変容を促す介入も重要である.リマインダー通知やCSMS配信は短期的な点眼アドヒアランス改善効果を示すものの,長期的な改善には患者個々の生活習慣に合わせた個別化が求められる50,51).近年は行動経済学のナッジ理論を応用52)し,点眼実施に応じてポイントを付与する仕組みや,診療時に遵守度を可視化する方法が試みられており,達成感やモチベーション向上につながるとされる53,54).また,AIを活用し,患者の生活リズムに応じた最適なタイミングでリマインダーを提示することで,従来より遵守率をC20%以上改善したとの報告もある55).さらに,国際比較研究では,文化的背景や医療制度の違いによって点眼アドヒアランス介入効果に差が生じることが示されており,地域特性を考慮した行動支援が必要である6,56).C3.薬剤処方の工夫薬剤設計や処方の工夫も点眼アドヒアランス改善に直結する.投与回数が少ない薬剤ほど遵守率は高く,1日1回の点眼薬や配合剤は継続率を有意に改善する57).さらに,防腐剤フリー製剤は副作用リスクを軽減し,長期使用の持続性を高める58).とくに,抗炎症点眼の徐放インプラントは「毎日の点眼」から「数カ月に一度の処置」へのパラダイムシフトを可能にし,点眼アドヒアランスが改善したと報告されている59).加えて,費用対効果分析においても,徐放製剤の導入は長期的な医療費削減につながることが示されており60),臨床効果だけではなく,医療経済的観点からも有効な戦略と考えられる.以上のように,教育・説明による知識と手技の習得,行動変容支援による日常生活への組み込み,そして薬剤処方の工夫による使用負担の軽減は,いずれも点眼アドヒアランス改善に寄与する重要な要素である.これらは互いに補完的であり,単独の介入では不十分であることが多いため,包括的かつ多層的に組み合わせた戦略として実施する(図2)ことが,臨床現場における持続的な改善につながると考えられる.CIVデジタルヘルスと点眼デバイスの進化1.デジタルヘルス近年では,点眼アドヒアランス向上を目的としたアプリケーションの開発が進んでいる61).代表例として筆者らの開発したドライアイ研究用アプリ「ドライアイリズム」や花粉症研究用アプリ「アレルサーチ」といったスマートフォンアプリケーション(スマホアプリ)は症状と点眼行動を同時に記録でき,患者自身のセルフマネジメント支援と研究データ収集の双方に有用であることが報告されている24,39.42,62).こうした取り組みに加えて,CSoftwareasaMedicalDevice(SaMD)は医療機器としての承認を受けることで,医療提供体制や保険診療体系の中に正式に組み込まれ,診療上の標準的なプロセスとして利用可能となる点で重要である.米国食品医薬品局図2アドヒアランス改善介入の多層構造モデル患者を中心に据えた多層的介入モデル.第C1層は「教育と説明」による基盤形成,第C2層は「行動変容支援」による習慣化促進,第C3層は「薬剤・デバイスの工夫」による負担軽減を表す.外周には「制度整備・社会的支援」が位置づけられ,全体を補完する.calsCandCMedicalCDevicesAgency:PMDA)が審査体制の整備を進めているものの,実用化にはさらなる環境整備が求められている.加えて,点眼アドヒアランスデータは医療情報としてCEUの一般データ保護規則(gen-eralCdataprotectionCregulation:GDPR)や日本の個人情報保護法の規制対象となり,暗号化・匿名化・利用者同意の確実な取得が必須である.とくに高齢者の利用を想定した場合,セキュリティに加え,ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス設計において音声ガイド,大きな文字表示,ワンタッチ操作といった配慮が強く求められる.さらに,制度的観点では保険償還制度が普及の大きな障壁となっている.米国では一部のCSaMDが公的保険や民間保険の対象として認められており,保険償還の仕組みが段階的に整備されつつある.わが国においてもSaMDは保険診療に導入されつつあるが,適用範囲はより限定的であり,この償還制度の進展度の差が両国における普及速度の違いに直結している.とくに緑内障患者において,失明を防ぐことによる医療費削減につながる効果はC20年間で累積C1,100億円規模に及ぶとの試算もあり76),費用対効果を考慮した制度設計は喫緊の課題といえる.デジタルヘルスと点眼デバイスの臨床的有用性を裏づけるエビデンスを積み上げるとともに,政策的支援や保険償還の整備を進めることが,実臨床での普及と持続可能な導入に不可欠である.CVI将来展望AIを用いた解析によるリスク予測と個別化介入は,今後の点眼アドヒアランス管理において中核的役割を果たすと考えられる.米国で行われた臨床試験では,AIアルゴリズムを活用したリマインダー介入により遵守率がC20%以上改善したと報告されており55),従来の一律的アプローチに比べて高い効果が期待される.さらに,スマートウォッチや眼鏡型デバイスとの連携により,点眼行動や視機能関連パラメータをリアルタイムで記録・解析することが可能となり,眼圧や涙液分泌を評価するセンサーとの統合によって閉ループ型治療管理(図3)の実現が視野に入っている77).このようなシステムは,点眼行動を単なる遵守指標から疾患制御の一部として動的に位置づけし直す契機となる.また,アプリやデバイスを通じて得られるリアルワールドデータ(realworlddata:RWD)は,疾患傾向や治療効果の評価を精緻化するのみならず,医療政策立案や費用対効果分析に資する基盤情報としての価値を有している24,41).とりわけ高齢化社会における医療資源の効率的配分において,RWDの活用はきわめて重要である78.80).一方で,低・中所得国においては薬剤アクセス自体が主要な制約因子であり,先進国型の高度デジタル介入をそのまま導入することは困難である81).WHOはモバイルヘルス技術の活用による低コストかつ広範囲な支援の有効性を指摘しており82),シンプルかつ持続可能な介入の設計が求められる.今後は国際的なデータ共有や標準化が進むことで,先進国と途上国の双方に適応可能な包括的戦略の構築が期待され,世界規模での点眼アドヒアランス改善につながると考えられる.将来展望として,AIやスマートデバイスの進化は点眼アドヒアランス管理の質を飛躍的に高め,閉ループ型の治療体系を現実のものとしうる(図3)77).また,RWDの活用は医療政策や費用対効果分析に資する新たな基盤を提供する.一方で,グローバルな視点では低コスト・高効率の介入が求められ,国際的な協調と標準化が不可欠である.したがって,今後は技術革新と制度整備を両輪とし,先進国・途上国を問わず持続可能な点眼アドヒアランス改善戦略を構築することが重要である.おわりに点眼アドヒアランスは,眼科治療の成否を左右するもっとも重要な要素の一つである.その概念は単なる「指示の遵守」にとどまらず,患者が主体的に治療へ参加し,医師や医療スタッフと協働して継続的に治療を遂行するという広義の意味を含んでいる.近年の研究により,教育的介入や行動変容支援,薬剤設計の工夫が点眼アドヒアランス向上に寄与することが実証されており,さらにアプリやCSaMD,スマートデバイスといった技術革新が新たな解決策として現れつつある.これらは従来の課題を補完し,患者個々の背景に即した点眼アドヒアランス改善を可能にする.図3将来展望:AIとデジタル技術による閉ループ型管理モデル閉ループ型治療管理(closed-looptherapymanagement)とは,患者の状態を継続的にモニタリングし,そのデータをリアルタイムで解析して,治療の調整を自動的または半自動的に行う仕組み.「測定C→判断C→投与」をひとつのループとして閉じることで人の介入を最小化し,より精密で個別化された管理・治療を実現する.whenCdiscussingCtheCneedCforCadditionalCoralCmedicationCwithCtypeC2Cdiabetespatients:InsightsCfromCtheCcross-nationalCIntroDiaRCstudy.CDiabetesCResCClinCPractC148:C179-188,C201911)WorldCHealthOrganization:WorldCHealthCReportC2003,CGeneva,200312)QuarantaCL,CNovellaCA,CTettamantiM:AdherenceCandCpersistencetomedicaltherapyinglaucoma:anoverview.OphthalmolTherC12:2227-2240,C202313)WuCWL,CChangSW:CharacterizationCofCindividualsCwithChigh-frequencyCarti.cialCtearCsupplementCuse.CJCClinCMedC14:202514)KingmanS:GlaucomaCisCsecondCleadingCcauseCofCblind-nessCglobally.CBullCWorldCHealthCOrganC82:887-888,C200415)WangCT,CCaoL,CJiangCQ:TopicalCmedicationCtherapyCforCglaucomaCandCocularChypertension.CFrontCPharmacolC12:C749858,C202116)CateCH,CBhattacharyaCD,CClarkA:PatternsCofCadherenceCbehaviourCforCpatientsCwithglaucoma.CEye(Lond)C27:C545-553,C201317)BaudouinCC,CMyersCJS,CVanCTasselSH:AdherenceCandCpersistenceConCprostaglandinCanaloguesCforglaucoma:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CAmCJCOphthalmolC275:99-113,C202518)BolandMV,ChangDS,Frazier,T:Electronicmonitoringtoassessadherencewithonce-dailyglaucomamedicationsandCriskCfactorsCfornonadherence:theCautomatedCdosingCreminderstudy.JAMAOphthalmolC132:838-844,C201419)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C201420)ShuCYH,CWuCJ,CLuongT:TopicalCmedicationCadherenceCandCvisualC.eldCprogressionCinopen-angleCglaucoma:CanalysisCofCaClargeCUSChealthCcareCsystem.CJCGlaucomaC30:1047-1055,C202121)SleathCB,CBlalockCS,CCovertD:TheCrelationshipCbetweenCglaucomaCmedicationCadherence,CeyeCdropCtechnique,CandCvisualC.eldCdefectCseverity.COphthalmologyC118:2398-2402,C201122)ThompsonCAC,CWoolsonCS,COlsenMK:RelationshipCbetweenCelectronicallyCmeasuredCmedicationCadherenceCandCvision-relatedCqualityCofClifeCinCaCcohortCofCpatientsCwithCopen-angleCglaucoma.CBMJCOpenCOphthalmolC3:Ce000114,C201823)StapletonF,AlvesM,BunyaVY:TFOSDEWSIIepide-miologyreport.OculSurfC15:334-365,C201724)EguchiA,InomataT,NakamuraM:HeterogeneityofeyedropCuseCamongCsymptomaticCdryCeyeCindividualsCinJapan:large-scaleCcrowdsourcedCresearchCusingCDryEye-Rhythmapplication.JpnJOphthalmolC65:271-281,C202125)UchinoCM,CUchinoCY,CDogruM:DryCeyeCdiseaseCandCworkproductivitylossinvisualdisplayusers:theOsakastudy.AmJOphthalmolC157:294-300,C201426)AshwiniCDL,CVeCRS,CNoschD:E.cacyCofCblinkCsoftwareCinCimprovingCtheCblinkCrateCandCdryCeyeCsymptomsCinCvisualCdisplayCterminalCusersC-ACsingle-blindedCrandom-izedCcontrolCtrial.CIndianCJCOphthalmolC69:2643-2648,C202127)SaldanhaCIJ,CPetrisCR,CIfantidesC:PatientCbarriersCandCfacilitatorsCforCmakingCenvironmentalCandCbehavioralCmodi.cationsfordryeyeintheUnitedStates.OptomVisSciC101:84-89,C202428)HashemiCH,CFayazCF,CHashemiA:GlobalCprevalenceCofCcataractsurgery.CurrOpinOphthalmolC36:10-17,C202529)AragonaCP,CPostorinoCEI,CAragonaE:Post-surgicalCman-agementCofcataract:LightCandCdarkCinCtheC2020s.CEurJOphthalmolC31:287-290,C202130)LeeK,LeeG,LeeS:Advancesinophthalmicdrugdeliv-eryCtechnologyCforCpostoperativeCmanagementCafterCcata-ractsurgery.ExpertOpinDrugDelivC19:945-964,C202231)DevireddyCN,CFarooqiCI,CHidingerI:EyedropCcomplianceCandliteracy-relatedadherencebarriersaftercataractsur-geryCinCKoforidua,CGhana.CClinCOphthalmolC19:1223-1228,C202532)ClaessensJLJ,WantenJC,BauerNJC:Remotefollow-upafterCcataractsurgery(CORE-RCT):studyCprotocolCofCaCrandomizedCcontrolledCtrial.CBMCCOphthalmolC23:41,C202333)LeonardiCA,CQuintieriCL,CPresaIJ:AllergicCconjunctivitismanagement:updateonophthalmicsolutions.CurrAller-gyAsthmaRepC24:347-360,C202434)OhashiCY,CEbiharaCN,CFujishimaH:ACrandomized,Cplace-bo-controlledCclinicalCtrialCofCtacrolimusCophthalmicCsus-pension0.1%insevereallergicconjunctivitis.JOculPhar-macolTherC26:165-174,C201035)MiyazakiCD,CTakamuraCE,CUchioE:JapaneseCguidelinesCforCallergicCconjunctivalCdiseasesC2020.CAllergolCIntC69:C346-355,C202036)FriedmanDS,HahnSR,GelbL:Doctor-patientcommuni-cation,Chealth-relatedCbeliefs,CandCadherenceCinCglaucomaCresultsCfromCtheCGlaucomaCAdherenceCandCPersistencyCStudy.OphthalmologyC115:1320-1327,C200837)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHD:Adherencewithtop-icalglaucomamedicationmonitoredelectronicallytheTra-vatanCDosingCAidCstudy.COphthalmologyC116:191-199,C200938)TsaiJC:ACcomprehensiveCperspectiveConCpatientCadher-enceCtoCtopicalCglaucomaCtherapy.COphthalmologyC116:CS30-S36,C200939)InomataCT,CNakamuraCM,CIwagamiM:RiskCFactorsCforCSevereCDryCEyeDisease:CrowdsourcedCResearchCUsingCDryEyeRhythm.OphthalmologyC126:766-768,C201940)InomataCT,CNakamuraCM,CIwagamiM:Symptom-basedCstrati.cationCforChayfever:aCcrowdsourcedCstudyCusingCthesmartphoneapplicationAllerSearch.AllergyC76:3820-3824,C202141)InomataT,NakamuraM,SungJ:Smartphone-baseddig-italCphenotypingCforCdryCeyeCtowardCP4medicine:aCcrowdsourcedCcross-sectionalCstudy.CNPJCDigitCMedC4:C171,C202142)InomataT,NakamuraM,Iwagami,M:Individualcharac-teristicsandassociatedfactorsofhayfever:alarge-scalemHealthCstudyCusingCAllerSearch.CAllergolCIntC71:325-334,C202243)MarineciCD,ValeanuA,ChiriC..C:DevelopmentandvalC-idationCofCpredictiveCmodelsCforCnon-adherenceCtoCantihy-pertensivemedication.Medicina(Kaunas)C61:1313,C202544)BarakatCNA,CAlGhanemCR,CAbdulrazeqB:Improvingmedicationadherenceinglaucomapatients:arandomizedcontrolledCinterventionalCstudy.CJCPharmCHealthCServCResC15:202445)AleemCA,CAminCF,CAsimMH:ImpactCofCpharmacist-ledCinterventionsinimprovingadherencetoglaucomamedica-tionsCinCtheCgeriatricCpopulation.CEurCJCHospCPharmC28:Ce191-e196,C202146)Al-TaieA:ACsystematicCreviewCofCimproperCeyeCdropCapplicationCandCroleCofCpharmacistsCforCpatientCeducation.CClinExpOptomC108:760-770,C202547)DavisCSA,CSleathCB,CCarpenterDM:DropCinstillationCandCglaucoma.CurrOpinOphthalmolC29:171-177,C201848)NorsiahCA,CSalizarCMohamedL:ACself-instillationCeyedrop(SIED)techniqueamongglaucomapatient:arecentcomprehensivestructuredreview.IJEPCC9,C202449)DavisSA,CarpenterDM,BlalockSJ:Arandomizedcon-trolledCtrialCofCanConlineCeducationalCvideoCinterventionCtoCimproveCglaucomaCeyeCdropCtechnique.CPatientCEducCCounsC102:937-943,C201950)LaiY,WuY,ChaiC:Thee.ectofpatienteducationandtelemedicineCremindersConCadherenceCtoCeyeCdropsCforCglaucoma.OphthalmolGlaucomaC3:369-376,C202051)BiranA,GoldbergM,ShemeshN:Improvingcompliancewithmedicaltreatmentusingeyedropaids.EncyclopediaC3:919-927,C202352)BhattacharjeeCS,CBhattacharyaS:LeveragingCAI-drivenCnudgeCtheoryCtoCenhanceChandhygieneCcompliance:pav-ingCtheCpathCforCfutureCinfectionCcontrol.CFrontCPublicCHealthC12:1522045,C202453)Huang,CS,CAndrewN:ImprovingCeyeCdropadherence:aCsimpleCtechniqueCusingCaCcableCtie.CActaCOphthalmolC98:Ce396,C202054)McVeighCKA,CVakrosG:TheCeyeCdropchart:aCpilotCstudyCforCimprovingCadministrationCofCandCcomplianceCwithCtopicalCtreatmentsCinCglaucomaCpatients.CClinCOph-thalmolC9:813-819,C201555)TabuchiCH,CNishimuraCK,CAkadaM:Real-worldCevalua-tionCofCnovelCeyeCdropCbottlesensors:Cloud-basedCAICsupportCforCeyeCdropCadherence.CHeliyonC10:e34167,C2024C56)McQuaidCEL,CLandierW:CulturalCissuesCinCmedicationadherence:disparitiesCandCdirections.CJCGenCInternCMedC33:200-206,C201857)KimCY,ParkKH,AhnJ:Treatmentpatternsandmedi-cationCadherenceCofCpatientsCwithCglaucomaCinCSouthCKorea.BrJOphthalmolC101:801-807,C201758)EconomouMA,LaukelandHK,Grabska-LiberekI:BettertoleranceCofCpreservative-freeClatanoprostCcomparedCtoCpreservedCglaucomaCeyedrops:theC12-monthCreal-lifeCFREEstudy.ClinOphthalmolC12:2399-2407,C201859)CaoCY,CSamyCKE,CBernardsDA:RecentCadvancesCinCintraocularCsustained-releaseCdrugCdeliveryCdevices.CDrugCDiscovTodayC24:1694-1700,C201960)DaiCX,CChangCDF,CChenA:UseCandCcostCofCsustained-releaseCcorticosteroidsCforCcataractCsurgeryCunderCtheCmedicarepass-throughprogram.JAMAOphthalmolC141:C844-851,C202361)NaginoK,SungJ,Midorikawa-InomataA:Clinicalutilityofsmartphoneapplicationsinophthalmology:asystemat-icreview.OphthalmolSciC4:100342,C202462)OkumuraCY,CInomataCT,CMidorikawa-InomataA:DryEy-eRhythm:areliableandvalidsmartphoneapplicationfortheCdiagnosisCassistanceCofCdryCeye.COculCSurfC25:19-25,C202263)LeshnoCA,CGatonCD,CSingerR:ACnovelCEyePhonecCappCforCimprovingCadherenceCtoCglaucomaCtherapy.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC259:1253-1262,C202164)HirotaCM,COkumuraCY,CNaginoK:SafetyCevaluationCinChealthyCadultsCofCmotion-basedCvirtualCrealityCdichopticCtrainingCforCpediatricCpatientsCwithamblyopia:Prospec-tiveInterventionStudy.JMIRFormResC9:e69801,C202565)NaginoK,OkumuraY,YamaguchiM:DiagnosticAbilityofCaCsmartphoneCappCforCdryCeyedisease:protocolCforCaCmulticenter,Copen-label,Cprospective,CandCcross-sectionalCstudy.JMIRResProtocC12:e45218,C202366)KyriazakosCS,CPnevmatikakisCA,CKostopoulouK:Bench-markingCtheCclinicalCoutcomesCofCHealthentiaCSaMDCinCchronicCdiseasemanagement:aCsystematicCliteratureCreviewCcomparison.CFrontCPublicCHealthC12:1488687,C202467)HwangCD,CChangCJW,CBenja.eldAV:E.ectCofCtelemedi-cineCeducationCandCtelemonitoringConCcontinuousCpositiveCairwayCpressureCadherence.CTheCTele-OSACRandomizedCTrial.AmJRespirCritCareMedC197:117-126,C201868)BittonE,BouskilaJ:SqueezabilityofeyedropcontainersusedCinCdryCeyeCdiseaseCmanagement.CClinCExpCOptomC108:444-449,C202569)ChowA,ChoiJ,BacharachJ:Thee.ectofeyedropsizeonpupillarydilationusingthenanodropperbottleadapter.ClinOphthalmolC19:1217-1221,C202570)GatwoodCJD,CJohnsonCJ,CJerkinsB:ComparisonsCofCself-reportedCglaucomaCmedicationCadherenceCwithCaCnewCwirelessdevice:aCpilotCstudy.CJCGlaucomaC26:1056—-

点眼薬のDDS開発

2025年11月30日 日曜日

点眼薬のDDS開発TheDevelopmentofOcularDDS(DrugDeliverySystem)Technology鈴木寛貴*鹿村悠子*森泰裕*礒脇明治*はじめに点眼薬は,有効成分を眼表面に直接投与可能な製剤である.その非侵襲的かつ簡便な投与方法から,点眼薬は眼科疾患の症状の緩和や治療の第一選択となっている.しかし,眼は異物の侵入に対するバリア機能を数多く有しており,点眼後の有効成分もまた異物として速やかに排泄される.そのため,疾患部位,または疾患部位近傍に直接投与可能な点眼薬でさえ,その眼内移行率(bio-availability:BA,用語解説参照)は驚くほど低く,点眼後の薬物が房水へ到達する量は点眼液中の薬物濃度の約0.01.0.1%といわれている1).このBAの低さが,1日に複数回の点眼投与を必要とする要因の一つである.点眼回数は点眼アドヒアランスと密接に関係しており2),点眼回数を減らすことが点眼アドヒアランスの向上に貢献し,ひいては期待される治療効果を得ることにつながる.そのため点眼薬の開発において,より少ない点眼回数で目的の治療濃度を維持することがきわめて重要であり,眼表面での滞留性やBAの向上が解決すべき課題の一つとなる.これらの課題解決のための技術として,ドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysystem:DDS)が注目されている.DDSとは,薬物を体内の必要な場所に必要な量,必要な時間で送達するための技術の総称である.DDS製剤の開発は点眼薬のみならず,さまざまな剤形で進んでいる3).図1に示すように,DDS技術は,その特徴に応じて「標的指向型DDS」「放出制御型DDS」「吸収制御型DDS」の三つに分類され,有効性の向上,副作用の軽減,投与回数の減少などが期待できる.このような利点により,DDS技術は患者の治療結果を改善し,治療の質を向上させるポテンシャルを有する製剤技術である.眼科製剤の剤形は点眼薬をはじめ,硝子体内注射剤,眼瞼投与製剤や,デバイス製剤など多岐にわたる.本稿では,点眼薬のDDS技術(とくに吸収制御型DDS)に焦点をあてて解説し,眼科医療におけるDDS製剤の可能性に言及する.IDDS技術によるBA改善アプローチ前項で述べたように,眼は異物に対する高い防御機能を有しており,点眼後の有効成分は異物と同様に速やかに排出される.その防御機構としては,涙液による希釈と排出,角膜によるバリア機能および房水の流れによる排出があげられる1).これらの生理学的要因により,点眼薬のBAは低いものとなる.一方で,点眼薬の粘度や懸濁剤の粒子径などの製剤学的要因もまたBAに影響することが明らかとなっている.そのため,さまざまな性質を有する添加剤と有効成分をうまく組み合わせることで,画期的なDDS製剤の開発を行っている.実用化されているDDS技術や,今後実用化が期待されるDDS技術について実例をあげて解説する.*HirokiSuzuki,YukoShikamura,YasuhiroMori&AkiharuIsowaki:千寿製薬株式会社研究開発本部総合研究所〔別刷請求先〕鈴木寛貴:〒650-0047神戸市中央区港島南町6-4-3神戸イノベティブセンター千寿製薬株式会社研究開発本部総合研究所(1)(3)13670910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1ドラッグデリバリーシステム(DDS)の概要および眼科製剤での適用例点眼液中涙液中COO-COO-アルギン酸架橋反応COO-COO-比較的滑らかな水溶液Ca2+とイオン架橋を形成してゲル化し,眼表面での滞留性向上および薬物の徐放化図2アルギン酸を用いたイオン応答性ゲルのゲル化メカニズム表1PCP含有1%アジスロマイシン点眼液またはPCP非含有1%アジスロマイシン点眼液を単回点眼投与したときのウサギ眼組織中のアジスロマイシン濃度Cmax(Cμg/g)(平均値±標準誤差)CAUC0-144h(Cμg・h/g)(平均値±標準誤差)CTmax(h)CT1/2(h)PCP非含有PCP含有PCP非含有PCP含有PCP非含有PCP含有PCP非含有PCP含有結膜C9.55±5.12C108±35.1C79.2±16.2C737±93.2C0.083C0.083C48C63角膜C8.78±1.61C40.4±8.73C196±20.8C837±81C0.083C0.083C91C67涙液*C893±215C10539±1494C155±28.4C3016±397C0.083C0.083C37C15房水*C0.003±0.0004C0.076±0.029C0.250±0.017C0.689±0.077C24C0.083C61C80CCmax:最高薬物濃度,AUC:薬物濃度-時間曲線下面積,Tmax:最高濃度到達時間,T1/2:消失半減期.*涙液と房水のCCmaxおよびCAUCC0-144hの単位はそれぞれCμg/mlおよびCμg・h/ml.薬物曝露量の指標である各眼組織中アジスロマイシンのCCCmaxおよびCAUCC0-144hにおいて,PCP含有製剤はCPCP非含有製剤よりも顕著に高い値を示した.すなわち,PCPによるアジスロマイシンの眼組織移行性の向上が認められた.aチモロールチモロール+ソルビン酸良好な分配b1412108642001234Time(hr)図3イオンペア法による眼内移行性の向上a:イオンペア法による眼内移行性改善メカニズム.Cb:イオンペア処方またはチモプトールC0.5%をウサギに単回点眼投与したときの房水内薬物濃度プロファイル.ab3,0002,0001,0000Time(h)50403020ConcentrationofDFBConcentrationofDFB10(ng/ml)(ng/g)0Time(h)Mean±S.D.(n=3-4).*p<0.05(Student’st-test)DFB:ジフルプレドナードの活性代謝物.図4エマルション製剤による眼内移行性の向上a:Oil-in-Water型エマルション製剤の基本的構成(分散相と連続相の概略図).b:ジフルプレドナードのエマルション製剤または懸濁剤をウサギに単回点眼投与したときの角膜および房水内CDFB濃度プロファイル.012345012345寿製薬)がある.これは,ブリモニジン酒石酸塩を有効成分とするアイファガン点眼液C0.1%とブリンゾラミドを有効成分とするブリンゾラミド懸濁性点眼液C1%の両単剤を配合した点眼薬である.一般的に,配合点眼剤は各単剤に近い有効性・安全性プロファイルを示すことが期待されるため,薬物間相互作用がもたらす眼内薬物動態への影響を評価しなければならない.ブリンゾラミド懸濁性点眼液は粘性を有する点眼薬であり,製剤粘度は薬物のCBAを高める働きがある.したがって,ブリンゾラミドのCBAを維持するために,アイラミド配合懸濁性点眼液にも同様の粘性をもたせる必要がある.その際の懸念として,高粘度化によるブリモニジンのCBA向上があげられる.そこで,ブリモニジンのCpKCaがC7.8であることに着目し,製剤中のCpHを適切に制御することで本薬物のイオン型比率が高まり,眼内移行性が抑制できると考えた.アイファガン点眼液はCpHの規格がC6.7.7.5であるのに対し,アイラミドのCpHはC6.3.6.8と,より低いCpHにて製剤設計を行ったところ,粘性により増加する眼内移行性を相殺し,アイファガンと同程度の眼内移行性を達成した.このように,配合点眼剤の開発においても,さまざまな製剤学的工夫によって製品化されている.C6.OPTIREACHOPTIREACHはシクロデキストリン(cyclodextrin:CD)を用いたCDDS技術である.CDは環状構造を有し,その孔内に薬物を包接することで,難水溶性薬物を可溶化することができる.そのため,難水溶性薬物のCBA向上を目的に使用されることが多い.本技術は従来のCCDを用いた技術とは少し異なっており,薬物を内包したCD同士が凝集した形態であることを特徴とする10).本技術を適用した点眼薬として,OCS-01(Oculis社)が開発中である.OCS-01は,デキサメタゾンとCc-CDからなる複合微粒子を含んだ懸濁性点眼薬として製剤設計されている.点眼投与された複合微粒子は涙液中薬物濃度を持続的に高めることで,デキサメタゾンの生体膜透過性が促進され,網膜移行量が増大する.よって,本点眼薬はステロイドの眼内注射に代わる点眼剤として期待されており,現在,米国で第CIII相試験を実施している.おわりに本稿では,BAの改善や点眼回数の減少を目的としたDDS技術を中心に紹介した.今回取り上げたCDDS技術はほんの一部にすぎず,眼科CDDS技術はめざましい発展を遂げている.しかし,DDS技術を用いることで製剤処方の複雑化や薬物動態予測の煩雑化なども生じており,医薬品開発にかかる労力やコストが膨らんでいるのも実情である.これらの課題を解決するために,近年では人工知能(arti.cialintelligence:AI)を活用することで,製剤処方の最適化やCADMET(用語解説参照)予測の精度向上などの試みが活発に行われている11).DDS技術はすでに数多くの眼科製剤に応用されているものの,その技術はいまだに発展途上にあり,さらなる革新的なCDDS技術の創出が望まれている.点眼薬開発に携わる研究者の使命は,医薬品の三大要件である有効性,安全性,品質を満たすことはもちろんのこと,点眼薬特有のさし心地(使用感)を意識し,さらには,点眼回数や患者さんの負担を減らしたユーザーフレンドリーな点眼薬を開発することにあると考えている.これらを実現するためにはCDDS技術が不可欠であり,今後もCDDS技術の開発に注力することで点眼アドヒアランスの向上に大いに貢献し,眼科医療の質向上,そして患者の生活の質(qualityoflife:QOL)向上につながることを期待している.C■用語解説■眼内移行率(BA):点眼投与された薬物のうち眼内に到達した割合.ゾル(sol):液体中にポリマーが分散した流動性のある状態,対義語はゲル(gel).CpKa:酸の強さを定量的に表した指標であり,pKCaが小さい程酸性が強く水素イオンを解離しやすい.薬物濃度-時間曲線下面積(AUC):眼組織中薬物濃度曲線と横軸(時間)に囲まれた面積のことであり,薬物曝露量の指標となる.CADMET:absorption(吸収),distribution(分布),metabolism(代謝),excretion(排泄),toxicity(毒性)の頭文字をとった略語.1372あたらしい眼科Vol.42,No.11,2025(8)

点眼薬ABC

2025年11月30日 日曜日

点眼薬ABCThe‘A,B,Cs’ofEyeDropTherapy榛村重人*山上聡**眼科領域において,点眼薬は依然としてもっとも一般的で第一選択となる薬物投与手段である.その利便性と局所投与による全身副作用の回避といった利点から,診療のあらゆる場面で日常的に使用される.その一方で,点眼という投与形式はドラッグデリバリーシステム(drugdeliverysystem:DDS)の制限,患者のアドヒアランスへの依存,疾患や患者背景に応じた最適な薬剤選択のむずかしさなど,さまざまな課題も内包している.本特集「点眼薬ABC」では,眼科診療に携わるすべての医師に向けて,点眼治療の最新知見と実臨床に即した活用法を総合的に解説することを目的とした.点眼薬のDDSの進歩や,アドヒアランスを高めるためのデバイスや工夫の進化は,従来の「患者任せ」から脱却する可能性を秘めている.また,CL装用者における点眼の注意点や,小児患者への処方といった,これまで十分に語られてこなかったトピックにも光を当てた.さらに,炎症性疾患に対するステロイド・非ステロイド系点眼薬の使い分け,緑内障治療における多剤併用の戦略,慢性疾患としてのドライアイに対する新たな薬剤の台頭など,疾患ごとに求められる点眼治療の「精緻化」にも焦点を当てている.そして,近年注目されている生物製剤の点眼開発については,今後の眼科薬物治療のパラダイムシフトを見据えた展望を提示している.医療技術や薬剤開発が日進月歩で進むなか,点眼薬の「基礎」と「応用」の両面を見直すことは,患者の生活の質(qualitioflife:QOL)を高め,治療成果を最大化するうえできわめて重要である.本特集が,日常診療に役立つ知識の整理と,明日からの臨床に直結する実践的なヒントの提供につながることを願ってやまない.*ShigetoShinmura:藤田医科大学東京先端医療研究センター臨床再生医学講座**SatoruYamagami:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1)1365

活動性甲状腺眼症に対する新しい治療─完全ヒト型阻害型抗IGF-1 受容体モノクローナル抗体テプロツムマブの有効性・安全性─

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1345.1356,2025c活動性甲状腺眼症に対する新しい治療─完全ヒト型阻害型抗 IGF-1受容体モノクローナル抗体テプロツムマブの有効性・安全性─長谷部美紀*1 林田朋子*2*1アムジェン株式会社メディカルアフェアーズ本部希少疾患領域 *2CRare Disease Therapeutic Area, Global Clinical Development, Amgen Inc.A New Treatment for Active Thyroid Eye Disease:E.cacy and Safety of Teprotumumab, a Fully Human Monoclonal Antibody Inhibitor of IGF-1 Receptor Miki Hasebe1)and Tomoko Hayashida2)1)Rare Disease Therapeutic Area, Medical A.airs, Amgen K.K, 2)Rare Disease Therapeutic Area, Global Clinical Development, Amgen Inc.C甲状腺眼症(TED)は,Basedow病やまれに橋本病に伴う自己免疫疾患の一つであり,眼球突出や複視,眼瞼浮腫などを呈する.本症は,甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体が,眼窩線維芽細胞に発現するインスリン様成長因子C1受容体(IGF-1R)を介したシグナル複合体を活性化することで起きると考えられている.完全ヒト型阻害型抗IGF-1Rモノクローナル抗体であるテプロツムマブは,欧米で行われた二つの海外試験〔第CII相試験,第CIII相試験(OPTIC試験)〕,ならびにわが国で行われた第CIII相試験(OPTIC-J試験)において,活動性CTED患者の臨床症状を有意に改善した.本稿では,TEDの概要,テプロツムマブの作用機序と日本人活動性CTED患者に対する有効性・安全性を中心に概説し,TED治療の新しい展望について考察する.CThyroid eye disease(TED)is an autoimmune disorder associated with Graves’ disease and rarely, with Hashi-moto’s disease, and it causes symptoms such as proptosis, diplopia, and eyelid edema. TED is thought to be caused by autoantibodies to thyroid-stimulating hormone receptor that activate a signaling complex mediated by the insu-lin-like growth factor 1 receptor(IGF-1R)C, which is overexpressed on orbital .broblasts in TED. Teprotumumab, aCfullyChumanCinhibitoryCmonoclonalCantibodyCagainstCIGF-1R,Csigni.cantlyCimprovedCtheCclinicalCsymptomsCinCpatients with active TED in two overseas studies(Phase II and Phase III[OPTIC study])in the United States and Europe,CandCinCaCPhaseCIIIstudy(OPTIC-Jstudy)inCJapan.CInCthisCarticle,CweCreviewCtheCoverviewCofCTED,CtheCmechanismCofCactionCofCteprotumumabCandCitsCe.cacyCandCsafetyCinCJapaneseCpatientsCwithCactiveCTED,CandCdis-cusses new prospects for TED treatment.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)C42(10):1345.1356,C2025〕 Key words:テプロツムマブ,甲状腺眼症,インスリン様成長因子C1受容体,眼窩線維芽細胞,眼球突出.teprotu-mumab, thyroid eye disease, insulin-like growth factor-1 receptor(IGF-1R)C, orbit .broblast, proptosis.Cはじめに甲状腺眼症(thyroid eye disease:TED)は,眼や眼周囲の痛み,流涙,眼瞼後退,結膜の充血や浮腫,涙丘の発赤や腫脹,眼球突出,複視などの多彩な眼症状を呈する眼窩組織の自己免疫性炎症性疾患であり,顔貌の変化や視機能の低下などにより,患者の生活の質(quality of life:QOL)および社会心理面にも影響を及ぼす1,2).また,重症例では失明の危険性がある甲状腺視神経症(dysthyroidCopticCneuropa-thy:DON)を引き起こすことがある2).多くはCBasedow病やまれに橋本病に伴ってみられるが,自己免疫性甲状腺疾患が明らかでない眼症の症例もみられる3).日本甲状腺学会および日本内分泌学会による「Basedow病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針C2023(第C3次案)」では,中等症から重症の活動性CTEDに対する〔別刷請求先〕 湯本真代:〒107-6239 東京都港区赤坂C9-7-1ミッドタウンタワー アムジェン株式会社Reprint requests:Masayo Yumoto, Ph.D., Amgen K.K., 9-7-1 Akasaka Minato-ku, Tokyo 107-6239, JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(127)C1345 長谷部治療として,免疫抑制療法(ステロイドパルス療法)や放射線照射療法があげられている2).これら従来の治療は,軟部組織の炎症にはある程度の効果が報告されているが,眼球突出や複視に対するステロイドの効果は限定的である4).テプロツムマブは,インスリン様成長因子C1受容体(insu-lin-likeCgrowthCfactor-1receptor:IGF-1R)を標的とした完全ヒト型阻害型モノクローナル抗体であり,欧米で実施された無作為化プラセボ対照試験において,活動性CTED患者における眼球突出や臨床的活動性スコア(clinicalCactivityscore:CAS),複視,Basedow病眼症のCQOLに関する質問票(GravesC’CorbitopathyCQOLquestionnaire:GO-QOL)な.これらの試験に基づき,テプロツ])a6[,5どを有意に改善したムマブはC2020年C1月C21日にCTEDに対する初めての特異的な治療薬として米国で製造販売承認を取得し,2024年C12月時点で約C23,000名に投与され,良好な経過が得られている.わが国においては,日本人の活動性CTED患者を対象として行われた無作為化プラセボ対照試験(OPTIC-J試験)においても同等の効果と安全性が確認されたことを受け,2024年9月C24日に「活動性甲状腺眼症」を適応症として製造販売承認を取得した.欧州甲状腺協会(EuropeanCThyroidAssociation:ETA)および米国甲状腺協会(AmericanCThyroidAssociation:ATA)は,2022年のコンセンサス・ステートメントで,中等症から重症の活動性CTEDに対し,グルココルチコイド静注(intravenous glucocorticoid:IVGC)と並ぶ第一選択薬として,著明な眼球突出や複視を伴う場合にテプロツムマブを推奨した7).わが国でのテプロツムマブの製造販売承認を受け,本稿では,TEDの疫学と病態生理を概論し,国内外の臨床試験の結果を解説したうえで,新しいCTEDの治療方針の展望について考察する.C
I 甲状腺眼症( TED)とは 
1. 疫   学TED患者の大部分(90%)はCBasedow病/甲状腺機能亢進症であるが,まれに橋本病や甲状腺機能正常例もみられる3,8).TEDの有病率は世界各地でほぼ同じである9).発症率は男性に比べて女性でC2.5.6倍高いが,男性のほうが重症化しやすい10).平均的な発症年齢はC30.50歳とされている10).わが国におけるCTEDの発症率は,人口C10万人あたりC7.3人(男性C3.6人,女性13.0人)であり,患者数は約35,000人と推定されている11[b]).C
2. 病態生理TEDの病態には,CD4+T細胞やCB細胞,CD34+眼窩線維芽細胞,CD34C.眼窩線維芽細胞などを介した免疫反応が関与している12.14).TED患者の眼窩線維芽細胞では,IGF-1Rが過剰発現し,Cb-アレスチンC1を介して甲状腺刺激ホルモン受容体(thyroidCstimulatingChormonereceptor:TSHR)と機能的複合体を形成しているC15.17).TED患者で産生されるCTSHRに対する自己抗体がCIGF-1R/TSHR複合体に結合すると,これら受容体のクロストークによる下流シグナル伝達が活性化され,炎症性細胞の遊走や眼窩線維芽細胞の脂肪細胞および筋線維芽細胞への分化,サイトカインの発現,グリコサミノグリカンの合成,眼窩脂肪の膨張などを引き起こすと考えられている12.14).C
3. 臨床症状
TEDは,活動期(炎症期)に続いて慢性期(線維期)に入ることが知られている.活動期は一般的にC1.3年続くとされ,眼窩痛や発赤,腫脹などの症状が発現するが1,18),これらの炎症と症状がその後もより長く持続する症例もみられる7,19).眼瞼後退はCTED患者のC80%に認められるもっとも一般的な症状である12).眼球突出は,2番目に多い所見であり12),眼窩内の軟部組織の容積が増加(脂肪組織の増生および外眼筋の肥大化)することで発症する1).眼瞼後退と眼球突出の両方がある場合には,ドライアイによる刺激感や異物感,流涙に悩まされる患者が多い12).外眼筋病変は,TED患者の約C3分のC1に認められる12).初期症状として眼球運動時の疼痛やしびれが現れたのち,間欠的な複視や運動制限,斜視などが出現することがある12,18).TEDの重症例では,外眼筋および眼窩軟部組織膨張により視神経が圧迫されることで圧迫性視神経症(compressiveCoptic neuropathy:CON)を呈することがあり,その頻度はTED患者のC5.7%とされる12,18).C
4. 従来の治療,治療効果の判定基準2)
喫煙はCTEDの重大なリスク因子であるため20,21),全例に禁煙が勧められる.そのうえで,重症度や活動性,QOLを評価し,病態に応じた治療法が選択される.MRIは眼窩内炎症や眼球突出度,外眼筋腫大度などを評価でき,わが国においては日常診療に組み込まれ,病態の把握や治療の選択,効果予測に活用することがガイドラインで推奨されている.中等症.重症例は活動性があれば免疫抑制療法(ステロイドパルス療法)や放射線照射療法,慢性期であれば眼科的な機能回復手術の適応となる.最重症例は視機能の温存を目的とした眼症の治療が優先され,軽症例では経過観察,ステロイドの局所注射などが行われる.治療効果の判定には,主観的評価としてCGO-QOL,客観的評価としてCCASや眼球突出,複視,MRI所見などが用いられる.
図 1 テプロツムマブの作用機序(文献C12 より改変引用)
II テプロツムマブの作用機序
テプロツムマブはCIGF-1Rに対する完全ヒト型阻害型モノクローナル抗体であり,IGF-1に対して競合的にCIGF-1Rに結合することで,IGF-1RとCTSHRのクロストークにより引き起こされる下流のシグナル伝達を抑制し,眼窩線維芽細胞の活性化や増殖,炎症性サイトカイン〔インターロイキン(interleukin:IL)-6,IL-8〕の産生誘導を抑制したり22),CCD34+線維芽細胞における主要組織適合遺伝子複合体(majorChistocompatibilityCcomplex:MHC)IIやCB7蛋白質(CD80,CD86,PD-L1),CD4+T細胞におけるCIL-17Aやインターフェロン(interferon:IFN)-cの発現を低下させたりすることで23[b]),TEDにおける炎症反応を抑制すると考えられている(図 1).C
III テプロツムマブの臨床試験 
1. 海外第 II相試験,海外第 III相試験(OPTIC試験)欧米においては,中等症から重症の活動性CTED患者を対象とした臨床試験として,海外第CII相試験(無作為化二重遮蔽プラセボ対照並行群間比較試験)5)および海外第CIII相試験であるCOPTIC試験(無作為化二重遮蔽プラセボ対照並行群間比較試験)6)が相次いで行われた.対象患者は,プラセボまたはテプロツムマブをC3週間にC1回,計C8回の静脈内投与(初回はC10Cmg/kg,その後C7回はC20Cmg/kg)され,眼球突出やCAS,複視,QOLなどに対する臨床効果が検討された.2試験の対象患者の概要を表 1に示す.表 2に示すように,
テプロツムマブは,眼球突出やCCAS,複視,ならびにCQOLをプラセボに比べて有意に改善した.海外第CII相試験および海外第CIII相試験(OPTIC試験)の
統合解析25[a])におけるおもな有害事象を表 3に示した.重篤な有害事象は,テプロツムマブ群でC7例〔下痢,infusionreaction,橋本脳症疑い(錯乱を併発),大腸菌敗血症,尿閉,気胸,炎症性腸疾患〕,プラセボ群でC1例(眼窩減圧術を要する視野欠損)に認められた.テプロツムマブに「関連あり」または「関連する可能性あり」と判定された重篤な有害事象を発現した患者C3例〔下痢,infusion reaction,橋本脳症疑い(錯乱を併発)〕は投与を中止した.これらのC2試験で死亡の報告はなかった.C2. 国内第 III相試験(OPTIC-J試験) a. 試験概要
OPTIC-J試験26[a])は,海外第CIII相試験(OPTIC試験)6)の試験方法に基づいて行われた国内第CIII相試験である(図 2).選択基準(表 4)を満たした中等症から重症の活動性TED患者C54例をテプロツムマブ群(n=27)またはプラセボ群(n=27)にC1:1の割合で無作為に割り付け,プラセボ表 1 海外第 II相試験および海外第 III相試験( OPTIC試験)の対象患者の概要海外第CII相試験5) 6)海外第CIII相試験(OPTIC試験) テプロツムマブ群(N=43) プラセボ群(N=44) テプロツムマブ群(N=41) プラセボ群(N=42) 
性別
女性 28(65%) 36(82%) 29(71%) 31(74%) 年齢(歳) 51.6(C10.6) 54.2(C13.0) 51.6(C12.6) 48.9(C13.0) 人種   白人  黒人  アジア人  その他C 38(C86.4%)4(9C.1%)2(4C.5%).  37(C86.0%)4(9C.3%)1(2C.3%).  35(85%)4(10%)2(5%)0 37(88%)2(5%)1(2%)2(5%) 
喫煙状況
喫煙者  非喫煙者 11(26%)32(74%) 18(41%)26(59%) 9(22%)32(78%) 8(19%)34(81%) 試験眼の眼球突出(mm) 23.4(C3.2) 23.1(C2.9) 22.62(C3.32) 23.20(C3.21) 試験眼のCCAS 5.1(C0.97) 5.2(C0.74) 5.1(C0.9) 5.3(C1.0) 遊離トリヨードサイロニン(pmol/Cl) 4.8(C1.4) 4.9(C1.7) 5.1(C1.8) 5.3(C1.7) 遊離サイロキシン(pmol/Cl) 16.3(C4.8) 16.3(C3.6) 16.5(C5.3) 16.2(C4.8) 
連続データは平均値(C±標準偏差),カテゴリカルデータは患者数(%)で示した.CAS:臨床的活動性スコアに対するテプロツムマブの有効性,忍容性,安全性が検討された.各群とも,試験薬をC3週間にC1回,計C8回投与(初回はC10mg/kg,その後C7回はC20mg/kg)した.主要評価項目(検証的解析項目)および副次評価項目は,表 5に示したとおりであり,第C1種過誤を制御するため,副次評価項目について,①.⑦の階層的検定法を用いた.有効性評価はCITT集団(無作為に割り付けられたすべての患者),安全性評価は安全性解析集団(治験薬をC1回以上投与されたすべての患者)を対象に解析した.主要評価項目およびカテゴリカルデータの副次評価項目の群間比較は,喫煙状況(喫煙者,非喫煙者)で調整したCCochran-Mantel-Haenszel(CMH)検定を用いて行った.連続データの副次評価項目の群間比較は,ベースライン値,喫煙状況(喫煙者,非喫煙者),投与群,評価時点,評価時点と投与群の交互作用,評価時点とベースライン値の相互作用を含む,構造化されていない分散共分散行列による反復測定混合モデル(mixedCmodelCforCrepeatedmeasures:MMRM)を用いて解析した.Cb. ベースライン時の人口統計学的および臨床的特徴ベースライン時の患者特性は両群間でおおむね類似していた(表 6).無作為化されたすべての患者は投与C24週時の評価を完了した.c. 有 効 性
テプロツムマブ群における眼球突出奏効率は図 3aに示したとおりに推移し,投与C24週時の眼球突出奏効率(主要評価項目:検証的解析結果)は,テプロツムマブ群でC89%(24/27例),プラセボ群でC11%(3/27例)であり,テプロツムマブ群の眼球突出奏効率はプラセボ群に比べて有意に高かった〔群間差:78%(95%信頼区間:61.95),p<0.0001,無作為化層別因子(喫煙状況)で調整したCCMH検定〕.投与C24週時の眼球突出のベースラインからの平均変化量(最小二乗平均値)(副次評価項目)は,テプロツムマブ群でC.2.36Cmm(95%信頼区間:C.2.96.C.1.75),プラセボ群で.0.37Cmm(95%信頼区間:C.0.97.0.24)であった〔群間差:C.1.99Cmm(95%信頼区間:C.2.75.C.1.22),p<0.0001,ベースライン値,喫煙状況,投与群,評価時点,評価時点と投与群の交互作用,評価時点とベースライン値の交互作用を含め,構造化されていない分散共分散行列を用いたCMMRM解析〕(図 3d).日本甲状腺学会および日本内分泌学会による「Base-dow病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針2023(第C3次案)」,およびCEuropeanCGroupConCGraves’Orbitopathy(EUGOGO)は,眼球突出のC2Cmm以上の変化を臨床的に意味のあるものとしている2,27).投与C24週時の全般的奏効率(副次評価項目)は,テプロツムマブ群でC78%(21/27例),プラセボ群でC4%(1/27例)表 2 海外第 II相試験および海外第 III相試験( OPTIC試験)におけるおもな有効性の結果海外第CII相試験5,24) 6,24)海外第CIII相試験(OPTIC試験) テプロツムマブ群(n=42) プラセボ群(n=45) テプロツムマブ群(n=41) プラセボ群(n=42) 
主要評価項目,ITT集団
投与C24週時の眼球突出a奏効率(%)C 奏効率C .  .  83C 10 両群の比較C . 群間差 73(95%CI:59.88)p<C0.001Cl 奏効率C 69C 20C .  . 投与C24週時の奏効率b(%)C 両群の比較 オッズ比8.86(C95%CCI:C3.29.C23.8)p<C0.001CiC . 
副次評価項目,ITT集団
投与C24週時の全般的c奏効率(%)C 奏効率C .  .  78C 7 両群の比較C . 群間差71(95%CI:56.86)p<C0.001Cl 投与C24週時の眼球突出のベースラインからの変化量(mm) 平均値C g.2.95(C0.26)C g.0.29(C0.25)C g.3.32(C0.23)C g.0.53(C0.23)C 両群の比較 群間差C.2.66 (95%CI:C.3.37.C.1.95)p<C0.0001Cj 群間差C.2.79(95%CI:C.3.40.C.2.17)p<C0.0001Cm 奏効率C 69C 21C 59C 21 投与C24週時のCCASd奏効率(%)C 両群の比較 オッズ比C8.97p<C0.001Ck 群間差36(95%CI:17.55)p<C0.001Cl 奏効率C 68C 26C 68C 29 投与C24週時の複視e奏効率(%)C 両群の比較 p<C0.001Ck 群間差39(95%CI:16.63)Cp=0.001l 投与C24週時のfGO-QOL(総合スコア)Cのベースラインからの変化量 平均値 h20.40(C3.2)C h9.71(C3.1)C g17.28(C2.3)C g1.80(C2.70)C 両群の比較 群間差10.69(C95%CCI:C2.07.C19.31) 群間差15.48(C95%CCI:C8.43.C22.53) 
CI:con.dence interval(信頼区間).a:試験眼の眼球突出がベースラインからC2Cmm以上減少し,かつ僚眼の眼球突出の悪化(2Cmm以上の増加)が認められなかった患者の割合.b:試験眼の眼球突出がベースラインからC2Cmm以上減少し,かつCCASがC2点以上減少した患者の割合Cc:試験眼の眼球突出がベースラインからC2Cmm以上減少し,かつCCASがC2点以上減少し,僚眼で眼球突出またはCCASの悪化(眼球突出のC2Cmm以上の増加またはCCASのC2点以上の増加)が認められなかった患者の割合.d:試験眼のCCASがC0点またはC1点であった患者の割合.眼症の活動性をC7項目(各C1点)で評価し,3点以上で活動性眼症とされる.e:試験眼の複視がベースラインからC1グレード以上減少した患者の割合.複視グレードはC4段階(グレード0:なし.グレードC3:絶えず続く)で評価された.f:二つのサブスケール(視機能,社会心理面)から構成される.0.100点で点数が高いほどCQOLは高い.g:最小二乗平均値(C±標準誤差).h:最小二乗平均値(C±標準偏差).i:喫煙を共変量として用いたロジスティック回帰モデルによる解析.j:喫煙を共変量として用いたCMMRMによる解析.k:C|2検定.l:喫煙状況(喫煙者,非喫煙者)で層別化したCCMH検定.m:ベースライン値,喫煙状況(喫煙者,非喫煙者),投与群,評価時点,評価時点と投与群の交互作用および評価時点とベースライン値の交互作用を含め,構造化されていない分散共分散行列を用いたCMMRMによる解析.眼球突出変化値:オリジナル論文であるCSmithらの報告5)およびCDouglasらの報告6)では,治験統計計画書に基づきベースラインから投与C24週時までの変化量を継続的に評価した値を副次評価項目データとして表に記載し,24週を含む各データポイントにおけるベースラインとの定点比較データを折れ線グラフとして記載している.OPTIC-J試験では,24週におけるベースラインと定点比較した眼球突出値の変化を副次評価項目として採用したため,この表においても,24週におけるベースラインと定点比較した眼球突出値の変化を記した.表 3 海外第 II相試験および海外第 III相試験( OPTIC試験)の統合解析25):二重遮蔽期間中に認められたおもな有害事象患者数(%) テプロツムマブ群(n=84) プラセボ群(n=86) 筋痙縮 21(25%) 6(7%) 悪心 14(17%) 8(9%) 脱毛症 11(13%) 7(8%) 下痢 10(12%) 7(8%) 疲労 10(12%) 6(7%) 高血糖 8(10%) 1(1%) 聴力低下 8(10%)C 0 味覚異常 7(8%)C 0 頭痛 7(8%) 6(7%) 皮膚乾燥 7(8%)C 0 発疹 5(6%) 5(6%) 
おもな選択基準・20~80歳の日本人 Basedow病患者無作為・TED期間<9カ月,前治療なし割付・CAS≧31:1・眼球突出:TED発症後の増加≧3mmおよび/またはベースライン時≧18mm
層別因子:喫煙状況(喫煙者,非喫煙者)CAS:臨床的活動性スコア二重遮蔽期間オープンラベル継続投与期間24週間24週間投与 24週時 ※2投与 48週時 ※2

投与 24週時の眼球突出に改善が認められなかった患者(ノンレスポンダー)は,希望すればテプロツムマブ投与(8回)を受けることができた※1初回は 10mg/kg,その後 7回は 20mg/kgを投与 ※2投与 24週時(レスポンダー,テプロツムマブのオープンラベル継続投与を選択しなかったノンレスポンダー)または投与 48週時(テプロツムマブのオープンラベル継続投与を選択したノンレスポンダー)以降は,それぞれ 30日間フォローアップ図 2 OPTIC-J試験デザインであった〔群間差:74%(95%信頼区間:57.91),p<0.0001,無作為化層別因子(喫煙状況)で調整したCCMH検定〕(図 3b).投与C24週時のCCAS奏効率(副次評価項目)は,テプロツムマブ群でC59%(16/27例),プラセボ群でC22%(6/27例)であった〔群間差:37%(95%信頼区間:13.62),p=0.0031,無作為化層別因子(喫煙状況)で調整したCMH検定〕(図 3c).両眼複視奏効率(副次評価項目)は,テプロツムマブ群でC64%(14/22例),プラセボ群でC45%(9/20例)であった〔群間差C17%(95%信頼区間:C.11.45),p=0.24,無作為化層別因子(喫煙状況)で調整したCMH検定〕(図 3e).両眼複視奏効率が統計学的有意ではなかったため,以降の評価項目の解析では統計学的有意性を主張できないことから名目上のCp値を示す.両眼複視完全奏効率(副次評価項目)は,テプロツムマブ群でC50%(11/22例),プラセボ群でC20%(4/20例)であった〔群間差:29.1%(95%信頼区間:1.57),名目上のCp=0.043,無作為化層別因子(喫煙状況)で調整したCCMH検定〕(図 3f).テプロツムマブ群およびプラセボ群における投与C24週時のGO-QOLのベースラインからの平均変化量(最小二乗平均値)(副次評価項目)は,総合スコアでそれぞれC17.39(95%信頼区間:10.67.24.11),6.39(95%信頼区間:C.0.33.C13.10)〔群間差:11.01(95%信頼区間:2.65.19.36),名目上のCp=0.011〕,視機能に関するスコアでそれぞれC16.22(95%信頼区間:8.29.24.14),4.39(95%信頼区間:C.3.55.C12.33)〔群間差:11.83(95%信頼区間:1.82.21.83),名目上のCp=0.022],社会心理面に関するスコアでそれぞれ表 4 OPTIC-J試験のおもな選択基準.中等症または重症の活動甲状腺眼症を伴うCBasedow病と診断されたC20.80歳の日本人患者で,重症度が高い側の眼のCAS(7点尺度)がC3点以上であり,医師の推定に基づきC3mm以上の眼球突出の増加(甲状腺眼症診断前との比較)またはC18Cmm以上の眼球突出を呈する,活動性甲状腺眼症の発症後C9カ月未満の患者..甲状腺機能が正常な患者,または軽度の甲状腺機能低下症もしくは甲状腺機能亢進症を有する患者.甲状腺機能低下症または甲状腺機能亢進症を速やかに改善するためにあらゆる処置を施した..過去に甲状腺眼症の治療を目的とした眼窩への放射線療法または外科的療法を受けた患者は除外した.副腎皮質ステロイド(最大累積用量がメチルプレドニゾロンまたはその同等薬でC1Cg未満)による治療歴を有する患者は,スクリーニングの4週間以上前に副腎皮質ステロイド投与を中止していれば組入れ可能とした.表 5 OPTIC-J試験における主要評価項目,副次評価項目主要評価項目(検証的解析項目)投与C24週時の眼球突出奏効率[試験眼の眼球突出がベースラインからC2Cmm以上減少し,かつ僚眼の眼球突出の悪化(2Cmm以上の増加)が認められない患者の割合]副次評価項目
① 投与C24週時の全般的奏効率[試験眼の眼球突出がベースラインからC2Cmm以上減少かつCCASがC2点以上減少し,僚眼で眼球突出またはCCASの悪化(眼球突出のC2Cmm以上の増加またはCCASのC2点以上の増加)が認められない患者の割合]② 投与C24週時のCCAS奏効率[試験眼のCCASがC0点またはC1点(炎症所見なしまたは軽微な炎症所見)の患者の割合]③ 投与C24週時の試験眼での眼球突出のベースラインからの平均変化量④ 投与C24週時の両眼複視奏効率
(ベースライン時に両眼複視がグレードC1以上であった患者のうち,1グレード以上減少した患者の割合)⑤ 投与C24週時の両眼複視完全奏効率(ベースライン時に両眼複視がグレードC1以上であった患者のうち,グレードC0に減少した患者の割合)
⑥ 投与C24週時のCGO-QOL(総合スコア)のベースラインからの平均変化量⑦ 投与C24週時のCGO-QOLサブスケールスコア(視機能に関するスコアおよび社会心理面に関するスコア)のベースラインからの平均変化量19.35(95%信頼区間:11.48.27.23),8.69(95%信頼区間:0.83.16.56)〔群間差:10.66(95%信頼区間:1.04.20.28),名目上のCp=0.031〕であった.GO-QOLスコアのC6点の変化は臨床的に意味があると考えられている28).Cd. 安 全 性二重遮蔽期間中の有害事象は,テプロツムマブ群ではC25件,プラセボ群ではC21件認められた.テプロツムマブ群で発現した有害事象C25件中C23件がグレードC1またはC2であった.試験薬との関連が認められた有害事象は,テプロツムマブ群でC14件,プラセボ群でC2件であった.2例以上の患者で報告され,プラセボ群よりもテプロツムマブ群で頻度が高かった有害事象を表 7に示す.テプロツムマブ群では,脱毛症がもっとも多く発現した有害事象であり〔5件(19%)〕,ついで季節性アレルギー,COVID-19が各C4件(15%),筋痙縮,耳鳴,下痢,高血糖が各C3件(11%)であった.なお,筋痙縮はおもに大筋肉(四肢など)で,しびれ感や小さな攣縮が認められた.注目すべき有害事象として,テプロツムマブ群において,CinfusionreactionがC1例(軽度で投与中止の必要はなかった),高血糖に関連する事象がC6例(血糖値上昇C3例,糖尿表 6 OPTIC-J試験におけるベースライン時の人口統計学的および臨床的特徴( ITT集団)
性別
女性 18(67%) 20(74%)   男性 9(33%) 7(26%) 年齢(歳) 46.6(C14.2) 50.0(C13.4) 人種   日本人 27(1C00%) 27(1C00%) 
喫煙状況
過去に喫煙歴あり 13(48%) 12(44%)   現在喫煙している 4(15%) 4(15%)   喫煙歴なし 10(37%) 11(41%) TED診断からスクリーニングまでの期間(月)遊離トリヨードサイロニン(pmol/Cl) 4.24(C1.94.C6.83)4.60(C4.00.C5.20) 5.22(C3.02.C6.80)4.90(C3.80.C5.50) 遊離サイロキシン(pmol/Cl) 15.40(C12.90.C16.70) 14.20(C12.90.C16.70) サイロトロピン(mIU/Cl) 0.43(C0.01.C2.81) 0.77(C0.04.C2.82) 試験眼の眼球突出(mm) 21.07(C2.46) 20.39(C2.42) 試験眼のCCAS 4.5(C1.3) 4.0(C0.8) 
複視-Gormanスコア
0-なし 5(19%) 7(26%)   1-間欠性 5(19%) 1(4%)   2-不定 11(41%) 9(33%)   3-絶えず続く 6(22%) 10(37%) 
GO-QOLスコア
総合スコア 68.3(C23.6) 74.9(C20.0)   視機能に関するサブスケールスコア 70.5(C27.9) 80.1(C20.9)   社会心理面に関するサブスケールスコア 66.4(C24.8) 69.9(C25.9) 
連続データは平均値(標準偏差),TED診断からの期間,遊離トリヨードサイロニン,遊離サイロキシン,サイロトロピンは中央値(四分位範囲),カテゴリカルデータは患者数(%)で示した.トリヨードサイロニン,サイロキシン,サイロトロピンの値は,安全性解析対象集団で評価した.病C2例,耐糖能障害C1例,いずれも軽度または中等度で投与中止の必要はなかった.3例は糖尿病の既往があり服薬治療中であり,他C3例も治験登録時のCHbA1cは基準範囲内であったが,高値であった),聴力障害がC4例(1例は既存の聴力低下,1例で突発性難聴の既往があり,3例が同一施設で中等度の既存の聴力低下がある症例を除き聴力低下の自覚症状はなし)に発現した.テプロツムマブは,インスリン受容体には結合しないが,IGF-1とインスリンは細胞内シグナルを一部共有しているため,インスリン抵抗性を生じる可能性が示唆されている29).また,IGF-1R阻害と聴力低下の因果関係を示す明確なデータはない30)が,IGF-1が内耳の発生に加え,聴覚の維持や保護にも重要であることが示されてい(文献C26より改変引用)
る31,32[b])ことから,IGF-1シグナルの阻害が聴覚機能に影響を与える可能性が考えられる.テプロツムマブ群では,抗甲状腺薬の影響により減少していた白血球数がCCOVID-19罹患時にさらに減少して予防的入院したC1例が重篤な有害事象として報告されたが,治験責任医師により試験薬との因果関係は否定された.全例が二重遮蔽期間の観察を完了したが,テプロツムマブ群のC1例(4%),プラセボ群のC2例(7%)は試験薬をC2回以上投与できなかった(テプロツムマブ群とプラセボ群の各C1例は感音性聴力低下によるものであったが,両者とも加齢に伴う難聴が治験参加以前より存在した).本試験において,死亡は認められなかった.ab 

眼球突出奏効率(%)両眼複視完全奏効率(%)ベースラインからの平均変化量(mm)全般的奏効率(%)
投与期間(週)投与期間(週)
cd 100 投与期間(週) 1 36 1218 24 0 -0.1-1-0.22-0.26-0.47-0.3780p=0.0031
CAS奏効率(%)試験眼での眼球突出のp=0.043 59 60 p=0.13 52 p=0.34 41 -0.7240 20 -1.2930 -2p=0.02826 -1.7422 22 -2.1419 p=0.0050-2.36p<0.0001-3p=0.0005p=0.00020 -46 12 18 24 n2727 27 27 27 2727 27 27 27投与期間(週)

ef 100 100 両眼複視奏効率(%)80p=0.2480p=0.24p=0.21 64 p=0.0077p=0.04364 60 60p=0.73 55 p=0.020 5045 4645 41 40p=0.29 41 4035 35 p=0.3023 p=0.65 23 20 20 9 10 10 10 510 0 0 
3 6 121824 3 6 121824投与期間(週)投与期間(週)a:眼球突出が改善した患者の割合.b:全般的奏効が得られた患者の割合.c:CASが改善した患者の割合.d:眼球突出のベースラインからの平均変化量.ベースライン時に両眼複視が認められた患者(テプロツムマブ群:n=22,プラセボ群:n=20).e:両眼複視が奏効した患者の割合,f:両眼複視が完全に奏効した患者の割合.エラーバー:95%信頼区間<奏効率に関する有効性評価項目の定義>有効性評価項目 定義 眼球突出奏効率 試験眼の眼球突出がベースラインから 2.mm以上減少し,かつ僚眼の眼球突出の悪化(2.mm以上の増加)が認められない患者の割合 全般的奏効率 試験眼の眼球突出がベースラインから 2.mm以上減少かつ CASが 2点以上減少し,僚眼で眼球突出または CASの悪化(眼球突出の 2.mm以上の増加または CASの 2点以上の増加)が認められない患者の割合 CAS奏効率 試験眼の CASが 0点または 1点(炎症所見なしまたは軽微な炎症所見)の患者の割合 両眼複視奏効率 ベースライン時に両眼複視がグレード 1以上であった患者のうち,1グレード以上減少した患者の割合 両眼複視完全奏効率 ベースライン時に両眼複視がグレード 1以上であった患者のうち,グレード 0に減少した患者の割合 複視奏効率 ベースライン時に試験眼で複視がグレード 1以上であった患者のうち,試験眼で 1グレード以上減少し,かつ僚眼で悪化( 1グレード以上の増加)が認められなかった患者の割合 
図 3 OPTIC-J試験におけるテプロツムマブの有効性( ITT集団)CAS:臨床的活動性スコア(文献C26より改変引用)表 7 OPTIC-J試験における二重遮蔽期間中の有害事象の概要(安全性解析対象集団)患者数(%) テプロツムマブ群(n=27) プラセボ群(n=27) 有害事象 25(93%) 21(78%) 季節性アレルギー 4(15%)C 0C COVID-19 a4(15%)C 3(11%) 筋痙縮 3(11%)C 0 耳鳴 3(11%)C 0 耳不快感 2(7%)C 0 聴力低下 2(7%)C 0 感音性聴力低下 2(7%) 1(4%) ドライアイ 2(7%)C 0 下痢 3(11%) 1(4%) 上腹部痛 2(7%)C 0 口内炎 2(7%)C 0C c-GTP増加 a2(7%)C 0 糖尿病 2(7%)C 0 高血糖 b3(11%)C 0 脱毛症 5(19%)C 0 接触性皮膚炎 2(7%)C 0 皮膚乾燥 2(7%)C 0 湿疹 2(7%)C 0 
複数の有害事象を発現した患者も含む.Ca1件の事象はグレードC3の有害事象と判定された.グレードC4の有害事象または死亡の報告はなかった.Cb報告者が使用した用語「血糖値の上昇」の患者C1例を含む.(文献C26より改変引用)CIV 考   察
IGF-1Rに対する完全ヒト型阻害型モノクローナル抗体であるテプロツムマブは,TED患者の眼窩線維芽細胞で過剰に発現するCIGF-1Rへの結合を介して,IGF-1RとCTSHRのクロストークにより引き起こされる下流のシグナル伝達を阻害し,眼窩内の炎症性サイトカインや細胞外基質の産生を抑制することにより,TEDの症状である眼球突出や炎症症状を改善すると考えられる.国内外の臨床試験5,6,26)において,テプロツムマブは,活動期のCTEDに伴う眼球突出や複視,QOL低下などを有意に改善した.とくに,日本人患者では欧米人患者に比べて治験参加時の眼球突出が低めであったにもかかわらず,欧米人と同程度の奏効率が確認された点は興味深い.アジア人のCTED患者では,眼窩の解剖学的構造の人種的な違いにより,眼球突出が欧米人に比べて顕著でない傾向がある33,34)一方で,顔貌の変化など臨床症状で確認できない眼窩の圧上昇が進み,初診時に重篤なCTEDであるDONとして発見される症例もみられる.OPTIC-J試験で示された結果は,日本人の生物学的特性や治療反応性に関する新たな知見を提供するものであり,治療戦略を考えるうえで重要な示唆となる.また,これまで中等症から重症のCTEDに対してはステロイドがおもな治療選択肢であったが,その効果,とくに眼球突出に対する効果は限定的である4)ことから,より有用な治療法に対するアンメット・ニーズ(未だ有効な治療法がない疾患に対する医療ニーズ)が存在する.臨床試験5,6,26)においてテプロツムマブが眼球突出に対して効果を示したことは,治療選択を増やし,今後の治療指針に大きな影響を与えると考えられる.実際,テプロツムマブがすでに承認・販売されている米国では,TED患者に対するテプロツムマブが第一選択薬として定着し,これに伴い眼球突出に対する減圧手術の件数が減少している35[b]).国内外の臨床試験5,6,26)で認められたテプロツムマブ群における有害事象の多くは軽度(グレードC1または2)であった.患者の疾病負担軽減やCQOL向上の観点からもテプロツムマブは大きなメリットを提供できると考えられる.ただし,海外第CII相試験および海外第CIII相試験(OPTIC試験)の統合解析25)では,テプロツムマブ投与による眼球突出奏効率は,最終投与後C7週でC87%(62/71例)であったのに対して,最終投与後C51週ではC67%(38/57例)であり,投与終了後の長期評価で一部再燃する例がみられた.さらに,米国で行われたテプロツムマブの臨床試験C36[a])では,慢性/低疾患活動性CTED患者(CAS≦1点,病歴C2.10年)であっても,テプロツムマブ投与によりプラセボ投与に比べて眼球突出が有意に改善したことが示されている.日本国内においても慢性期CTED患者を対象としたテプロツムマブの第CIII相試験が進行中であり,臨床的エビデンスがさらに蓄積される予定である.CV ま と め
中等症.重症の日本人活動性CTED患者を対象とした国内第CIII相試験(OPTIC-J試験)においても,欧米で行われた海外試験と同様に,テプロツムマブの有効性,忍容性および安全性が検証された.身体的・精神的な疾病負担の大きいTEDに対して,テプロツムマブはCTED患者の治療アウトカム向上に寄与する有用な治療選択肢になると期待される.謝辞:国内第CIII相試験(OPTIC-J試験)にご協力いただいた被験者の皆様,治験参加医師ならびにご施設の皆様に,心より感謝申し上げます.また,本論文の執筆にあたりサポートいただいた株式会社CCMCエクスメディカおよび株式会社リテラメッドに謝意を表します.利益相反:[a]該当論文に対しCAMGEN(旧CHorizonTherapeutics)の治験に参加して謝金を受けた者が含まれる.[b]該当論文に対しCAMGEN(旧CHorizonTherapeutics)とのコンサルタント契約で謝金を受けた者が含まれる.文   献
1)SmithCTJ,CJanssenCJAMJL.CInsulin-likeCgrowthCfactor-ICreceptorCandCthyroid-associatedCophthalmopathy.CEndocrCRevC40:236-267,C2019
2)日本甲状腺学会,日本内分泌学会:Basedow病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針C2023(第C3次案),Chttps://www.japanthyroid.jp/doctor/img/basedou03_2023.pdf(2025年C6月C23日閲覧)
3)Cyranska-ChyrekCE,COlejarzCM,CSzczepanek-ParulskaCECetal:SevereCunilateralCorbitopathyCinCaCpatientCwithCHashimoto’sCthyroiditisC-aCcaseCreport.CBMCCOphthalmolC19:9,C2019
4)Bartalena L, Krassas GE, Wiersinga W et al:E.cacy and safetyCofCthreeCdi.erentCcumulativeCdosesCofCintravenousCmethylprednisoloneCforCmoderateCtoCsevereCandCactiveCGraves’Corbitopathy.CJCClinCEndocrinolCMetabC97:4454-4463,C2012
5)SmithCTJ,CKahalyCGJ,CEzraCDGCetal:TeprotumumabCforCthyroid-associatedCophthalmopathy.CNCEnglCJCMedC376:C1748-1761,C2017
6)Douglas RS, Kahaly GJ, Patel A et al:Teprotumumab for the treatment of active thyroid eye disease. N Engl J MedC382:341-352,C2020
7)Burch HB, Perros P, Bednarczuk T et al:Management of thyroid eye disease:a consensus statement by the Amer-icanCThyroidCAssociationCandCtheCEuropeanCThyroidCAssociation. ThyroidC32:1439-1470,C2022
8)BothunCED,CScheurerCRA,CHarrisonCARCetal:UpdateConCthyroidCeyeCdiseaseCandCmanagement.CClinCOphthalmolC3:543-551,C2009
9)LazarusJH:EpidemiologyCofCGraves’orbitopathy(GO)Cand relationship with thyroid disease. Best Pract Res Clin Endocrinol MetabC26:273-279,C2012C

10).ahl.CE,CGunduzK:Thyroid-associatedCophthalmopathy.CTurk J OphthalmolC47:94-105,C201711)WatanabeCN,CKozakiCA,CInoueCKCetal:Prevalence,Cinci-dence,CandCclinicalCcharacteristicsCofCthyroidCeyeCdiseaseCin Japan. J Endocr SocC8:bvad148,C202412)JainCAP,CJaru-AmpornpanCP,CDouglasRS:ThyroidCeyedisease:rede.ningCitsCmanagement-aCreview.CClinCExpCOphthalmolC49:203-211,C202113)SmithTJ:TheCinsulin-likeCgrowthCfactor-ICreceptorCandCits role in thyroid-associated ophthalmopathy. Eye(Lond)C33:200-205,C201914)Shu X, Shao Y, Chen Y et al:Immune checkpoints:new insightsCintoCtheCpathogenesisCofCthyroidCeyeCdisease.CFront ImmunolC15:1392956,C202415)CuiCX,CWangCF,CLiuC:ACreviewCofCTSHR-andCIGF-1R-related pathogenesis and treatment of graves’ orbitop-athy. Front ImmunolC14:1062045,C202316)Krieger CC, Boutin A, Jang D et al:Arrestin-b-1 physi-callyCsca.oldsCTSHCandCIGF1CreceptorsCtoCenableCcross-talk. EndocrinologyC160:1468-1479,C201917)Tsui S, Naik V, Hoa N et al:Evidence for an association betweenCthyroid-stimulatingChormoneCandCinsulin-likeCgrowthCfactorC1receptors:aCtaleCofCtwoCantigensCimpli-catedCinCGraves’Cdisease.CJCImmunolC181:4397-4405,C200818)Scarabosio A, Surico PL, Singh RB et al:Thyroid eye dis-ease:advancements in orbital and ocular pathology man-agement. J Pers MedC14:776,C202419)HiromatsuCY,CEguchiCH,CTaniCJCetal:GravesC’Cophthal-mopathy:epidemiologyCandCnaturalChistoryCInternCMedC53:353-360,C201420)Vestergaard P:Smoking and thyroid disorders.a meta-analysis. Eur J EndocrinolC146:153-161,C200221)Thornton J, Kelly SP, Harrison RA et al:Cigarette smok-ingCandCthyroidCeyedisease:aCsystematicCreview.CEye(Lond)21:1135-1145,C200722)ChenCH,CMesterCT,CRaychaudhuriCNCetal:TeprotumumC-ab, an IGF-1R blocking monoclonal antibody inhibits TSH andCIGF-1CactionCinC.brocytes.CJCClinCEndocrinolCMetabC99:E1635-E1640,C201423)FernandoCR,CCalderaCO,CSmithTJ:TherapeuticCIGF-ICreceptorCinhibitionCaltersC.brocyteCimmuneCphenotypeCinCthyroid-associatedCophthalmopathy.CProcCNatlCAcadCSciCUSAC118:e2114244118,C202124)AMGEN株式会社:治験評価資料,202425)Kahaly GJ, Douglas RS, Holt RJ et al:Teprotumumab for patientsCwithCactiveCthyroidCeyedisease:aCpooledCdataCanalysis,CsubgroupCanalyses,CandCo.-treatmentCfollow-upCresultsCfromCtwoCrandomised,Cdouble-masked,Cplacebo-controlled,CmulticentreCtrials.CLancetCDiabetesCEndocrinolC9:360-372,C202126)Hiromatsu Y, Ishikawa E, Kozaki A et al:A randomised, double-masked,Cplacebo-controlledCtrialCevaluatingCtheCe.cacyCandCsafetyCofCteprotumumabCforCactiveCthyroidCeye disease in Japanese patients. Lancet Reg Health West PacC55:101464,C202527)EuropeanCGroupConCGraves’Orbitopathy(EUGOGO);CWiersinga WM, Perros P, Kahaly GJ et al:Clinical assess-ment of patients with Graves’ orbitopathy:the European Group on Graves’ Orbitopathy recommendations to gener-alists,CspecialistsCandCclinicalCresearchers.CEurCJCEndocri-nolC155:387-389,C200628)TerweeCCB,CDekkerCFW,CMouritsCMPCetal:Interpreta-tion and validity of changes in scores on the Graves’ oph-thalmopathyCqualityCofClifequestionnaire(GO-QOL)afterCdi.erentCtreatments.CClinEndocrinol(Oxf)C54:391-398,C200129)Cottom S, Barrientez B, Melson A:Severe hyperglycemia withCteprotumumabCforCtreatmentCofCthyroidCeyeCdisease.CCase Rep OphthalmolC15:246-249,C202430)DouglasCRS,CParunakianCE,CTolentinoCJCetal:ACprospec-tiveCstudyCexaminingCaudiometryCoutcomesCfollowingCteprotumumab treatment for thyroid eye disease. ThyroidC34:134-137,C2024
31)Chern A, Dagi Glass LR, Gudis DA:Thyroid eye disease, teprotumumab, and hearing loss:an evolving role for oto-laryngologists. Otolaryngol Head Neck SurgC165:757-758,C202132)KeenCJA,CCorreaCT,CPhamCCCetal:FrequencyCandCpat-ternsCofChearingCdysfunctionCinCpatientsCtreatedCwithCteprotumumab. OphthalmologyC131:30-36,C202433)Kozaki A, Inoue R, Komoto N et al:Proptosis in dysthy-roidophthalmopathy:aCcaseCseriesCofC10,931CJapaneseCcases. Optom Vis SciC87:200-204,C201034)ChngCCL,CSeahCLL,CKhooDH:EthnicCdi.erencesCinCtheCclinicalCpresentationCofCGraves’Cophthalmopathy.CBestCPract Res Clin Endocrinol MetabC26:249-258,C201235)TopilowCNJ,CPenteadoCRC,CTingCMCetal:OrbitalCdecom-pression following treatment with teprotumumab for thy-roid eye disease. Can J OphthalmolC60:e59-e64,C202536)Douglas RS, Couch S, Wester ST et al:E.cacy and safe-tyCofCteprotumumabCinCpatientsCwithCthyroidCeyeCdiseaseCof long duration and low disease activity. J Clin Endocri-nol MetabC109:25-35,C2024
*     *     *

網膜動脈閉塞症の全身併存疾患の検討:単一施設後向き研究

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1341.1344,2025c網膜動脈閉塞症の全身併存疾患の検討:単一施設後向き研究竹田純鈴*1,2 佐藤健一*1 長岡泰司*2*1日鋼記念病院眼科 *2旭川医科大学眼科学講座
Systemic Comorbidities of Retinal Artery Occlusion:A Single-Center Retrospective Study Sumire Takeda1,2)C, Ken-ichi Sato1)and Taiji Nagaoka2)
1)Department of Ophthalmology, Nikko Memorial Hospital, 2)Department of Ophthalmology, Asahikawa Medical UniversityC網膜動脈閉塞症(RAO)と全身併存疾患との関係について,網膜中心動脈閉塞症もしくは網膜動脈分枝閉塞症の49例C49眼を対象に単一施設後向き観察研究を行った.RAO罹患時の全身併存疾患は,高血圧症C65%が最多で,そのほか脂質異常症C31%,糖尿病C29%,脳血管障害(CVD)18%,虚血性心疾患(IHD)10%であった.RAO罹患時に頸動脈精査を施行したC32例のうち,59%で新規の頸動脈病変が発見された.CVDやCIHDといった心血管イベントは,全追跡期間を通してC47%の症例で発症し,そのうちC3割の症例がCRAO罹患後の発症であった.RAO罹患後早期の心血管イベントはC1例のみで,半数以上がCRAO罹患後C5年以降に発症しており,RAO罹患後は心血管イベントの発症リスクが長期的に高いことが示唆された.CHerein we report a single-center retrospective observational study conducted on 49 eyes of 49 patients with central retinal artery occlusion(RAO)or branch RAO to investigate the relationship between RAO and systemic comorbidities.CTheCmostCcommonCsystemicCcomorbidityCwashypertension(65%)C,CfollowedbyCdyslipidemia(31%)C,diabetes(29%)C,Ccerebrovasculardisease(CVD)(18%)C,CandCischemicCheartdisease(IHD)(10%)C.CIn59%CofCtheCcases, new carotid artery lesions were detected on carotid artery examination performed at the time of RAO. Car-diovascular diseases, such as CVD and IHD, were identi.ed in 47% of the cases throughout the follow-up period and in 33% of the cases after RAO. A cardiovascular event occurred in only 1 case in the early period post-RAO, whereas it occurred in more than 50% of the cases at 5 years or later after RAO, thus suggesting that the risk of a cardiovascular disease developing over the long-term period after RAO is high.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)C42(10):1341.1344,C2025〕 Key words:網膜動脈閉塞症,心血管イベント,脳血管障害,虚血性心疾患.retinal artery occlusion, cardiovascu-lar disease, cerebrovascular disease, ischemic heart disease.Cはじめに
網膜動脈閉塞症(retinalCarteryocclusion:RAO)は,網膜動脈の急性閉塞に伴う視力低下や視野障害をきたす疾患であり,その治療法は未だ確立していない1).発症機序として塞栓症が多く,頸動脈のアテローム性動脈硬化に伴って形成された塞栓子や,弁膜症や心房細動による左房内血栓が原因となる2).RAO患者の全身併存疾患として高血圧,糖尿病,脂質異常症,脳血管障害(cerebrovasculardisease:CVD),虚血性心疾患(ischemicCheartdisease:IHD)などの有病率が高い3,4).CVDやCIHDはCRAOと強い関連があることが多くの報告で示されており5,6),これらの心血管イベントに対する治療法は近年発展していることからも1,7),疾患を発見する意義はより大きいといえる.しかし,RAO罹患後の心血管イベントの発症頻度について,わが国における報告は少ない.今回,日鋼記念病院眼科を受診したCRAO患者の全身併存疾患とCRAO罹患後における心血管イベント発症の現状について検討した.C
I 対象および方法
対象はC2008年C4月.2023年C12月に日鋼記念病院眼科を受診した網膜中心動脈閉塞症(centralCretinalCarteryCocclu-sion:CRAO)もしくは網膜動脈分枝閉塞症(branch retinal arteryocclusion:BRAO)のC49例C49眼である.診断は,嶺崎らの報告を参考にして,眼底所見で灌流領域の網膜浮腫〔別刷請求先〕 竹田純鈴:〒078-8510 北海道旭川市緑が丘東C2条C1-1-1 旭川医科大学救急医学講座Reprint requests:Sumire Takeda, M.D., Department of Emergency Medicine, Asahikawa Medical Univercity Midorigaoka Higashi 2-1-1-1, Asahikawa, 078-8510, JAPANCなどを認める場合や,蛍光眼底造影で網膜動脈循環の遅延や途絶がある場合,前医でCRAOの診断がついている場合のいずれかに該当したものとした8).性別,発症年齢,病型,患側,全身併存疾患の有無,
RAO発症時の頸動脈精査の結果について診療録を基に後向きに検討した.全身併存疾患のCIHDには急性心筋梗塞,不安定狭心症,労作性狭心症,冠攣縮性狭心症を含めた.CVDには脳梗塞,脳出血,くも膜下出血を含めた.頸動脈精査は,RAO罹患時に初めて施行した症例について検討し,超音波検査もしくは磁気共鳴画像(magneticCresonanceimaging:MRI)でプラーク病変と狭窄病変の有無を同定した.プラークは内膜中膜複合体厚(intimaCmediaCthick-ness:IMT)がC1.5Cmmを超える限局性隆起性病変とし,狭窄病変は狭窄度がC60%を超えるものと定義した.この研究は,日鋼記念病院倫理委員会により,2025年C2
月C17日に承認された(受理番号C141号).C
II 結   果RAO全C49例の患者背景を表 1に示す.50歳以下の若年
発症例はC5例で,妊娠,不整脈,僧帽弁逸脱症をC1例ずつ認めた.RAO発症後,49例中C32例(65%)で,発症当日.108日(中央値C2日)の間に頸動脈精査が行われ,うちC29例は発症14日以内であった.19例(59%)でCRAO罹患以前に指摘されていない新規の頸動脈病変を発見した(表 2).CVDやCIHDといった心血管イベントは,RAO罹患前後
の全追跡期間を通してC49例中C23例(47%)で発症が確認された.発症時期は,RAO罹患以前がC7例,RAO罹患前後のいずれの時期においても発症したのがC4例,RAO罹患後の新規発症がC12例であった.RAO罹患後に心血管イベントを生じたC16例中,約半数はCRAO罹患後C5年以上経過してからの発症であった.1年未満での心血管イベント発症はC1例のみであった(1カ月後).また,1例ではCRAO罹患後の追跡期間中にC2度の心血管イベントを生じた(図 1).C
III 考   按本研究では,RAO罹患時に頸動脈精査を施行した症例の
59%で新規の頸動脈病変が発見された.心血管イベントは全追跡期間を通して全体のC47%の症例で発症し,33%がRAO罹患後の発症であった.RAO罹患後早期の心血管イベントはC19例のみで,半数以上はCRAO罹患後C5年以降の発症であった.RAO罹患時における全身疾患の併存頻度に関して,小暮
らはC36例C37眼を対象としたC1990年の研究で,高血圧症58%,脂質異常症8%,糖尿病C17%,CVD 25%,心疾患C50%(うちCIHD33%,心房細動C8%)と報告しており3),筆者らの結果は類似していた.日本人のCRAO患者における脂質異常症の割合は,既報ではC8.20%C3.5),本研究ではC31%と低くない.脂質異常症に関しては,スタチン投与によるLDLコレステロール低下がCCVDやCIHDといった心血管イベントを抑制することが近年証明されており,積極的な治療介入の意義がある10,11).RAOの発症を契機に脂質異常症の精査を行い,治療の必要性を検討すべきである.頸動脈病変の併存頻度についてCHayrehらは,狭窄病変(狭窄度C50%以上)およびプラーク病変がそれぞれ,CRAOでC34%とC71%,BRAOでC30%とC66%と報告しており2),今回の結果も同等だった.頸動脈病変はアテローム性動脈硬化に起因する.アテローム性動脈硬化では,慢性炎症や血流変動によって血管内皮細胞が障害されることで,血管内膜にプラークが形成される.プラークが破綻する際に内部の脂質成分や石灰化断片が流出して塞栓子となったり,プラークの修復過程で血栓が形成される12,13).これら塞栓子や血栓が,RAOの原因となる2).また,頸動脈病変の存在や新規出現はCCVDやCIHDの発症リスクでもあり14),治療適応となりうる.このように,RAO罹患後の頸動脈病変の検索は重要である.本研究では,全追跡期間を通してC47%の症例で心血管イ
ベントを発症し,そのうちの約C3割がCRAO罹患後の発症であった.さらにCRAO罹患後の期間に着目すると,RAO罹患C1年以内の早期発症はC1例のみで,半数以上がCRAO罹患後C5年以降と長期間経過後に発症していた.一般人口と比較してCRAO罹患後早期には心血管イベントの発生が多いことが知られており15),米国眼科学会の診療ガイドラインはRAO発症直後の脳卒中センターへの緊急搬送と全身評価の施行を推奨している1).今回の研究では,RAO罹患後早期の心血管イベントが少なかったことが既報と相違していたが,症例数が少なく,一般人口との比較も行えなかったためと思われる.また,WaiらはCRAO群を一般人口と比較し,CVDとCIHD発症の相対危険度はそれぞれ,RAO罹患後C5年時点ではC2.24とC1.21,10年時点ではC1.59とC1.12であったと近年報告している15).このようにCCVDとCIHDの発症リスクは長期的にも高く,今回の結果はそれを裏付けた.以上より,RAO罹患後早期のみならず,長期間にわたって全身的な介入を継続することで患者の生命予後の改善が期待されると思われた.本研究の限界としては,症例数が少ないことや,症例対照
研究ではないため非CRAO患者との比較ができなかったことがある.また,後向き観察研究のため,頸動脈の精査が実施されていない症例が含まれることや,検査の方法や施行時期が統一されていないこと,さらには他院に精査を依頼した症例については詳細な検査結果が得られなかったこともあげられる.表 1 患者背景
年齢(歳)C 67±13(平均C±標準偏差),範囲C24.C91 性別(男:女) 32:1C7 患側(右:左) 25:2C4 
病型(CRAO:BRAO)16:33追跡期間(カ月)中央値C79,範囲C1.196おもな併存疾患(例)* 高血圧症32(65%) 脂質異常症15(31%) 糖尿病14(29%) 脳血管障害9(18%) 虚血性心疾患5(10%) 心房細動4(8%)表 2 RAO罹患時の頸動脈精査症例数方法 超音波検査C15 磁気共鳴画像C10 両方C7C結果 プラーク病変13(41%) 狭窄病変4(12%) 両方2(6%) 病変なし13(41%)

心血管イベントの発症(例)
RAOを発症してからの経過期間(年)図 1 RAO発症後の心血管イベントの発症時期*同一症例
まとめると,本研究ではCRAO罹患時にC59%の症例で新規の頸動脈病変が発見された.心血管イベントのC33%はRAO罹患後の発症であった.そのうちCRAO罹患後C1年以内の心血管イベントはC1例のみで,半数以上はCRAOに罹患してからC5年以降での発症だった.RAO罹患後早期のみならず,長期的にも心血管イベント発症のリスクが高いことを眼科医も認識し,他科と連携して全身的な介入を継続していくことが重要である.本論文の内容は,第C171回北海道眼科集談会(旭川,2024年)にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文   献1)Mac Grory B, Schrag M, Biousse V et al:Management of centralCretinalCarteryocclusion:aCscienti.cCstatementCfromCtheCAmericanCHeartCAssociation.CStrokeC52:Ce282-e294,C2021
2)HayrehCSS,CPodhajskyCPA,CZimmermanMB:RetinalCarteryocclusion:associatedCsystemicCandCophthalmicCabnormalities. OphthalmologyC116:1928-1936,C2009

3)小暮 諭,飯島裕幸:網膜動脈閉塞と全身性疾患.日眼会誌C95:67-72,C19914)忍足直子,平形明人,堀江大介ほか:網膜中心動脈閉塞症における全身合併症の検討.眼科C50:847-853,C20085)HwangCDD,CLeeCKE,CKimCYCetal:IncidenceCofCretinalCarteryCocclusionCandCrelatedCmortalityCinCKorea,C2005CtoC2018.CJAMA Netw OpenC6:e233068,C2023
6)Park SJ, Choi NK, Yang BR et al:Risk and Risk periods forCstrokesCandCacuteCmyocardialCinfarctionCinCpatientsCwith central retinal artery occlusion. OphthalmologyC122:C2336-2343,C2015
7)横井宏佳:虚血性心疾患診療のいま II. 虚血を治す・予防する(薬物・非薬物治療の進歩)5)今後の虚血性心疾患診療の展望.日内会誌C110:247-255,C2021

8)嶺崎輝海,村松大弐,川上摂子ほか:網膜中心動脈閉塞症35例の臨床的検討.臨眼C67:1283-1288,C20139)中谷雄介:網膜動脈閉塞症の予後因子の検討.臨眼 69:C1809-1814,C201510)BaigentCC,CBlackwellCL,CEmbersonCJCetal;CholesterolTreatmentTrialists:E.cacyCandCsafetyCofCmoreCinten-sive lowering of LDL cholesterol:a meta-analysis of data fromC170,000CparticipantsCinC26CrandomisedCtrials.CLancetC376:1670-1681,C201011)Miyamoto S, Ogasawara K, Kuroda S et al:Japan stroke societyCguidelineC2021CforCtheCtreatmentCofCstroke.CInt J StrokeC17:1039-1049,C202212)山下 篤:血栓形成のメカニズム.日本臨牀C82:126-132,C202413)浅田祐士郎:心血管イベントの発生における血栓形成機序の病理形態.顕微鏡C47:115-126,C201214)Kokubo Y, Watanabe M, Higashiyama A et al:Impact of intima-media thickness progression in the common carot-idCarteriesConCtheCriskCofCincidentCcardiovascularCdiseaseCin the Suita Study. J Am Heart AssocC7:e007720,C201815)WaiCKM,CKnappCA,CLudwigCCACetal:RiskCofCstroke,Cmyocardial infarction, and death after retinal artery occlu-sion. JAMA OphthalmolC141:1110-1116,C2023
*     *     *

ライトアジャスタブルレンズを使用した白内障手術を強度 近視眼に行い光調整を施行して術後屈折矯正を行った2 症例

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1337.1340,2025cライトアジャスタブルレンズを使用した白内障手術を強度近視眼に行い光調整を施行して術後屈折矯正を行った 2症例市川 慶*1 市川 翔*1 市川一夫*1 綾木雅彦*2*1中京眼科 *2グランドセントラルタワーTokyoアイクリニックCTwo Cases of High Myopia in which Ultraviolet Light Adjustment of the Implanted Light Adjustable Lenses(LAL)Allowed for Correction of Refractive Errors After Cataract Surgery Kei Ichikawa1), Sho Ichikawa1), Kazuo Ichikawa1)and Masahiko Ayaki2)1)Chukyo Eye Clinic, 2)Grand Central Tower Tokyo Eye ClinicC目的:ライトアジャスタブルレンズ(LAL)は眼内挿入後に度数を変えられる.今回,患者の希望により,強度近視眼の白内障術後光調整を施行して屈折異常を矯正したC2症例を報告する.症例:症例C1はC50代男性で,術前遠方視力は右眼C0.06(1.0C×.6.00D),左眼C0.15(1.0C×.3.25D(cyl.0.50DAx70°).2回の光調整後術後乱視は軽減し,固定後の視力は右眼C1.2(n.c.),左眼C0.6(1.5C×.1.00D(cyl.0.50DAx100°),裸眼両眼全距離視力100cm1.0,70cm1.0,50Ccm 1.0,40Ccm 1.0,30Ccm 0.9となった.遠方近方とも裸眼で不自由ない.症例C2はC50代男性で術前遠方視力右眼C0.04(1.5C×.7.00D(cyl.0.50Ax165°),左眼C0.06(0.4C×.5.50D(cyl.0.75D Ax40°).術後C1カ月の左眼視力
1.2(1.5C×cyl.0.75DAx25°),sphC.0.5D狙いでのC1回目の光調整後,0.8(1.5C×.0.75D(cyl.0.50DAx160°)近方C40Ccm0.8となったが,そののち患者の希望が近方,遠方と変化し,sphC.1.25D狙いでC2回目の光調整後C0.5(1.2C× .1.25D),sphC.1.00D狙いでC3回目の光調整後C0.9(1.2C×.0.75D)近方40cm0.8となり,患者は満足し,術後11週で度数を固定した.遠方近方とも裸眼で不自由ない.結論:LALにより患者が希望する術後視力を得た.C

Purpose:To report 2 cases of high myopia in which ultraviolet(UV)light adjustment of the implanted light adjustablelens(LAL)allowedCforCcorrectionCofCrefractionCerrorsCpostCcataractCsurgeryCperCpatientCrequest.CCase Reports:Case 1 involved a 50-year-old male with a preoperative distant visual acuity(VA)of 0.06(1.0C×.6.00D)CODCand0.15(1.0C×.3.25D:cylC.0.50DAx70°)OS.CAfterCtwoCUVClightCadjustmentsCofCtheCLALCpostCimplanta-tion, VA improved to 1.2(n.c.)OD and 0.6(1.5C×.1.00D:cylC.0.50D Ax100°)OS, and VA at various distances wasCexcellent.CCaseC2CinvolvedCaC50-year-oldCmaleCwithCaCpreoperativeCdistantCVACof0.06(1.0C×.7.00D:cylC.0.50Ax165°)ODandC0.05(0.5C×.5.75D:cylC.0.75D Ax40°)OS. At 1-month post LAL implantation, VA in his leftCeyeCwas1.2(1.5C×cyl.0.75DAx25°)C,CyetCafterCtheC.rstCUVClightCadjustmentCofCtheCimplantedCLALCwasC0.8(1.5C×.0.75D:cylC.0.50DAx160°)C,CafterCtheCsecondCadjustmentCwas0.5(1.2C×.1.00D)C,CandCafterCtheCthirdCadjustment was 0.9(1.2C×.0.75D)C, resulting in excellent VA at various distances. Conclusion:Per each patient’s request, UV light adjustment of the implanted LAL successfully provided the desired VA post surgery.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)C42(10):1337.1340,C2025〕 Key words:ライトアジャスタブルレンズ,白内障,老視,眼内レンズ,眼内レンズ度数,多焦点眼内レンズ.Clight adjustable lens cataract, presbyopia, intra-ocular lens, intra-ocular power, multifocal intra-ocular lens.Cた.とくに多焦点CIOLの開発により,老視の手術治療の適CI 緒   言応も広がった1).しかし,術後の屈折誤差の問題は依然とし近年の眼内レンズ(intraocular lens:IOL)の発達により,て残っている.計算式や測定機器の進歩にもかかわらず,術白内障手術は患者の多様な要望に応えられるようになってき前検査による術後屈折予測値と術後自覚屈折値の誤差は,最〔別刷請求先〕 市川 慶:〒108-0075 東京都港区港南C2-16-3 品川グランドセントラルタワーC16階 グランドセントラルタワーTokyoアイクリニックReprint requests:Kei Ichikawa, Grand Central Tower Tokyo Eye Clinic, 2-16-3 Konan, Minatoku, Tokyo 108-0075, JAPANC近の報告でも±1.00D以内がC91.93%,C±0.50D以内がC68.74%,C±0.25D以内がC35.50%とされている2).これは,一部の患者は希望した見え方と多少異なる状態に妥協していることになり,大きな臨床的課題である.たとえば,眼鏡度数が0.5D異なると自覚的見え方は明らかに異なり,眼鏡ならレンズを交換するだけだが,IOLの交換には再手術が必要となり,リスクを伴い度数計算誤差も生じやすくなる.また,角膜屈折矯正手術後眼や無水晶体眼にCIOLを縫着もしくは強膜内固定した場合,屈折誤差はさらに大きくなる3).ライトアジャスタブルレンズ(lightCadjustablelens:LAL)(RxSight社)は,手術後にCIOLの屈折力を非侵襲的に変化させて患者の術後屈折を希望どおりに調整することができる4).手術手技は通常のCIOL挿入と同様であるが,手術後に特殊な紫外線を照射して光調整を行い,LALの球面および円柱面の屈折力を変化させる.眼内レンズ手術後C2週間で屈折値はほぼ固定するとされ,術後C1カ月での視力と屈折値を基に光調整を検討するのが妥当と考えている5).最新のLALには,光調整の紫外線にのみ反応して後眼部を紫外線曝露から保護する処理が施されているが,固定照射までは生活環境の紫外線による度数変化を防ぐために念のため遮光眼鏡を使用する.LALの光学部素材は光反応性紫外線吸収シリコン,バイコンベックス,光学径C6.0Cmm,屈折率C1.43,支持部素材CPMMA,支持部長C13.0Cmm,モデファイドCC,支持部角度C10°で,材質と屈折度数の長期安定性が証明されている6).2017年に米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)によって初めて承認され,世界数カ国で使用され,2025年現在C7万例以上の使用実績があり,IOLによる副作用は報告されていない.日本国内では未承認である.LALの不適応は紫外線過敏症で,慎重適応は散瞳不良例である.散瞳瞳孔径がC6Cmm以下では正確な光調整が困難である.屈折矯正手術後症例,不正乱視症例,眼内レンズ逢着や強膜内固定,眼内レンズ交換症例で良好な成績が報告されている7.10).本稿では,既報に含まれていない強度近視症例で,白内障手術後に光調整を施行して術後乱視を矯正したC2症例の詳細を報告し,LAL挿入眼の光調整の効果について述べる.C
II 方法と症例
本研究は中京眼科の倫理審査委員会の承認を受け(承認番号C20241219088,2024年C12月C19日承認),UMIN臨床試験登録システム(試験CID000056617,2025年C1月C3日登録)登録済で,ヘルシンキ宣言に則り行われた.LALと光調整装置は,医師法に基づき米国から個人輸入された.眼科一般検査以外に,光学式眼軸長測定検査(IOLMaster 700,カールツァイスメディテックCAG)を行い,Barrett Universal II式(LensCFactor1.87)にてCLAL度数を計算した.白内障手術はオキシジブプロカイン点眼麻酔ならびにキシロカイン前房内麻酔を使用して,3.2Cmm弧状ナイフによる耳側角膜切開と直径C5.5Cmmの前.切開のあと,通常の超音波乳化吸引術を施行し,両眼にCLAL(モデルC60005)を.内固定した.手術後,患者は保護眼鏡を装用して帰宅した.術後点眼は1.5%レボフロキサシン,0.1%ブロムフェナク,0.1%ベタメサゾンを使用した.初回手術C1カ月後,患者の希望する焦点位置や視力に応じて目標屈折値を決め,最大C3回の光調整後,固定照射を行いCIOLの屈折度数と自分の視力を最終決定する.[症例 1]50代,男性.20XX年C6月に視力低下で筆者の施設を受診.両眼白内障
を認め,眼底は異常なかった.術前遠方視力は右眼C0.06(1.0C×sph.6.00D),左眼C0.15(1.0C×sph.3.25D(cyl.0.50DAx70°),眼軸長は右眼C26.33mm,左眼25.88mm.平均角膜屈折力は右眼C41.2D,左眼C40.69D.眼圧は右眼15mmHg,左眼C13CmmHg.20XX年C10月両眼CLAL挿入術施行(正視狙い).術後経過を表 1に示す.術後C1カ月に視力は右眼C1.2(1.5C
×sph.0.25D(cyl.0.25DCAx90°),左眼1.0(1.2C×sph+0.25CD(cyl.0.75DAx55°),両眼裸眼全距離視力100cm1.0,C70Ccm 1.0,50Ccm 0.8,40Ccm 0.8,30Ccm 0.7であった.モノビジョンを希望され,右眼が優位眼であり,左眼は近
方をもっと見えるようにしたいとの患者の希望があり,手術4週間後に右眼正視狙い,左眼CsphC.1.00D狙いでC1回目の光調整を行った結果,右眼C1.5(n.c.),左眼C0.6(1.0C×sphC.1.25D(cyl.0.25DAx100°),近方40cm裸眼視力は右眼C0.7,左眼C0.9,両眼でC1.0となり,遠方近方の見え方に患者は満足し,度数を固定した.固定後は,右眼C1.2(n.c.),左眼C0.6(1.5C×sph.1.00D(cyl.0.50DAx100°),両眼裸眼全距離視力C100Ccm 1.0,70Ccm 1.0, 50Ccm 1.0,40Ccm 1.0,C30Ccm0.9となった.遠方近方とも裸眼で不自由なく,ハローもグレアもない.[症例 2]50代,男性.20XX年C6月に左眼視力低下で当院を受診.両眼白内障を認め,眼底は異常なかった.C0.50D.cyl(00DC.7.sph×術前遠方視力は右眼0.04(1.0Ax165°),左眼C0.06(0.4C×sph.5.75D(cyl.0.75DCAx40°),眼軸長は右眼C26.37Cmm,左眼C26.15Cmm.平均角膜屈折力は右眼C44.11D,左眼C44.02D.眼圧は右眼C15mmHg,左眼15mmHg.20XX年C8月左眼CLAL手術施行(正視狙い).右眼はコンタクトレンズ(contact lens:CL)使用継続.術後経過を表 2に示す.術後C1カ月の遠方視力は左眼C1.2(1.5C×cyl.0.75DAx25°).SphC.0.5D狙いで1回目の光調整を行った結果,0.8(1.5C×sph.0.75D(cyl.0.50DCAx160°)となり,近方C40Ccmでは裸眼視力C0.8となった.近方をもっ表 1 症例 1の経過右眼遠方視力 目標屈折 左眼遠方視力 目標屈折 全距離視力(両眼または片眼裸眼視力) 術前視力 0.06(C1.0C×sph.6.00D) 0.15(C1.0C×sph.3.25D(cylC.0.50DCAx70°) 術後C1カ月 1.2(C1.5C×sph.0.25D(cylC.0.25DCAx90°) 正視 1.0(C1.2C×sph+0.25D(cylC.0.75DCAx55°) 正視 両眼裸眼視力C100Ccm 1.0,7C0Ccm 1.0,C50Ccm 0.8,4C0Ccm 0.8,3C0Ccm 0.7 1回目の光調整後(術後C1カ月半) 1.5(n.c.) 正視 0.6(C1.0C×sph.1.25D(cylC.0.25DCAx100°)C sph.1.00D 40Ccm裸眼視力右眼C0.7,左眼 0C.9,両眼C1.0 最終視力(術後C2カ月) 1.5(n.c.) 0.6(C1.5C×sph.1.00D(cylC.0.50DCAx100°) 両眼裸眼視力C100Ccm 1.0,7C0Ccm 1.0,C50Ccm 1.0,4C0Ccm 1.0,3C0Ccm 0.9 
表 2 症例 2の経過右眼遠方 左眼遠方 目標屈折 距離と近方視力 術前視力 0.04(C1.0C×sph.7.00D(cylC.0.50DCAx165°) 0.06(C0.4C×sph.5.75D(cylC.0.75DCAx40°) 術後C1カ月 1.2(C1.5C×cyl.0.75DCAx25°) 正視 1回目の光調整後(術後C1カ月) 0.8(1.5C×sph.0.75CD( cylC.0.50DCAx160°)C sph.0.50D 40cm 0C.8 2回目の光調整後(術後C2カ月) 0.6(C1.5C×sph.1.25D)C sph.1.25D 40cm 1C.0 3回目の光調整後(術後C2カ月C3週間) 0.9(C1.2C×sph.0.75D)C sph.1.00D 40cm 0C.8 
と見えるようにしたいとの患者の希望があり,手術C8週間後Csph.1.25D狙いでC2回目の光調整を行った.その後,結果,0.6(1.5C×sph.1.25D)となり,近方C40cmでは裸眼視力C1.0となった.やはりもう少し遠方が見えるほうがよいとの患者の希望があり,手術C11週間後にCsphC.1.00D狙いでC3回目の光調整を行った結果,左眼C0.9(1.2C×sph.0.75D),近方40Ccmでの裸眼視力C0.8となり,患者は満足し度数を固定した.遠方近方とも裸眼で不自由なく,ハローもグレアもない.C
III 考   按今回,アジア人のCLAL手術後経過の詳細を報告した.既報での日本人のC34眼の検討では,光調整後の平均予測誤差は.0.04±0.48D,31眼(91%)がC±0.25D以内,33眼(97%)がC±0.50D以内であった.32眼(94%)は残余乱視が0.50D以下であった.光治療による有害事象はなく,矯正視力が低下した例はなかった.今回の症例では白内障術後,1回目の光調整によって乱視を減らして術前の予定屈折度数に近づけて,良好な遠方裸眼視力を得た.しかし,患者から近方もしくは遠方視力をもっ
と上げたいとの要望があり,光調整後,患者の希望どおりの遠方ならびに近方視力を得た.本例では乱視を減らし球面度数も目標どおりに変えられるCLALの特長が発揮され,患者の満足を確実に得ることができた.視力は中高齢者の生活の質にとって重要であり,白内障手術後は生活の質,睡眠の質,認知機能,うつ傾向が改善することが知られている11.13).とくに近年はデジタル機器が仕事や生活に欠かせなくなり,眼鏡なしで遠方と近方の両方を見たいとの要望が増えている.しかし,IOL度数計算の進歩にもかかわらず,とくに強度近視眼や以前に角膜屈折矯正手術を受けた眼では,白内障手術後に屈折誤差が発生することが多い3).残余乱視も白内障手術後の大きな問題であり,大規模な研究では,単焦点CIOL手術後C0.50D以上の乱視がC90%,1.00D以上の乱視がC58%にみられた13).術後の残余乱視はトーリックCIOLによって減らすことができるが,Miyakeらは,1年後の平均残存乱視がC0.68Dで,約C30%の症例では乱視軸がC5°以上,最大20°以上ずれていたと報告している15).トーリックCIOLの軸ずれの修正には手術が必要で,患者には負担となる.LALにより,術後屈折誤差の問題をほとんど解消できることが期待される.筆者らの既報での術後予測屈折誤差C0.04C±0.48Dという成績は,LAL手術による屈折の調整がいかに正確かを示している.当院ではC48%の患者がC1回目の光調整後,さらなる度数変更を希望したが,米国ではそれが68%に上った(※).原因として,患者の要望が変わったか光調整の目標度数の検討が不十分だった可能性がある.当院では白内障手術後C1カ月経過してからCCLや眼鏡を試用して,患者が自宅や職場で理想の見え方を体験して決めるアプローチを採用しており,これが奏効していると考えられる.以上,ライトアジャスタブルレンズを使用した強度近視の白内障手術後に,光調整により眼内レンズの度数を変え,患者の希望どおりの視力を得た症例を報告した.C
※CNewsomH:AssessingCbinocularCvisionCpost-implanta-tionCwithCaCnewlyCapprovedClightCadjustableClensCwithCaCmodi.edCasphericCanteriorCsurface.CAmericanCSocietyCofCCataractCandCRefractiveCSurgeryCAnnualCMeeting,CBoston,CUSA, 2024謝辞論文原稿のレビューをしてくださった酒井幸弘CCOと加藤幸仁COに深謝致します.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文   献1)Schnider C, Yuen L, Rampat R et al:BCLA CLEAR pres-byopia:ManagementCwithCintraocularClenses.CContCLensCAnterior EyeC47:102253,C2024
2)JinCL,CMaoCY,CYuCXCetal:PredictingCaccuracyCofCspheri-calCequivalentCafterCcataractCsurgeryCusingCtheConlineCZcalc calculator for toric IOLs. Sci RepC14:27547,C2024
3)Gettinger K, Masui S, Omoto M et al:Accuracy of recent intraocular lens power calculation methods in post-myopicCLASIK eyes. Sci RepC14:26560,C2024
4)Schwartz DM:Light-adjustable lens. Trans Am Ophthal-

mol SocC101:417-436,C20035)McNamaraCP,CHutchinsonCI,CThornellCECetal:RefractiveCstabilityCfollowingCuncomplicatedCcataractCsurgery.CClinCExp OptomC102:154-159,C2019
6)Schojai M, Schultz T, Schulze K et al:Long-term follow-up and clinical evaluation of the light-adjustable intraocu-lar lens implanted after cataract removal:7-year results. J Cataract Refract SurgC46:8-13,C2020
7)HengererCFH,CHutzCWW,CDickCHBCetal:CombinedCcor-rection of axial hyperopia and astigmatism using the light adjustableCintraocularClens.COphthalmologyC118:1236-1241,C2011
8)KozhayaCK,CWangCL,CWeikertCMPCetal:EarlyCoutcomesCofCsecond-generationClight-adjustableClensesCinCeyesCwithCand without corneal refractive surgery. J Cataract Refract SurgC49:1180-1182,C2023
9)WongCJR,CFoldenCDV,CWandlingCGRCetal:VisualCout-comesCofCaCsecond-generation,CenhancedCUVCprotectedClightCadjustableClensCinCcataractCpatientsCwithCpreviousCLASIKCand/orCPRK.CClinCOphthalmolC17:3379-3387,C2023

10)Ichikawa K, Sakai Y, Toda H et al:Visual outcomes after cataract surgery with the Light Adjustable Lens in Japa-neseCpatientsCwithCandCwithoutCpriorCcornealCrefractiveCsurgery. J Refract SurgC40:e854-e862,C202411)AyakiCM,CMuramatsuCM,CNegishiCKCetal:ImprovementsCinCsleepCqualityCandCgaitCspeedCafterCcataractCsurgery.CRejuvenation ResC16:35-42,C201312)Yotsukura E, Ayaki M, Nezu N et al:Changes in patient subjectiveChappinessCandCsatisfactionCwithCcataractCsur-gery. Sci RepC10:17273,C202013)綾木雅彦:水晶体混濁と精神神経障害.IOL&RSC36:C27-31,C202214)Day AC, Dhariwal M, Keith MS et al:Distribution of pre-operativeCandCpostoperativeCastigmatismCinCaClargeCpopu-lation of patients undergoing cataract surgery in the UK. Br J OphthalmolC103:993-1000,C201915)Miyake T, Kamiya K, Amano R et al:Long-term clinical outcomes of toric intraocular lens implantation in cataract casesCwithCpreexistingCastigmatism.CJCCataractCRefractCSurgC40:1654-1660,C2014
*     *     *

僚眼にも内皮異常を認めた初期の虹彩角膜内皮症候群の1 例

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1332.1336,2025c僚眼にも内皮異常を認めた初期の虹彩角膜内皮症候群の 1例高橋秀児クリニック高橋眼科CA Case of Early-Stage Iridocorneal Endothelial Syndrome with Abnormal Endothelia in the Fellow Eye Shuji TakahashiCTakahashi Eye ClinicC目的:僚眼にも内皮異常を認めた初期の虹彩角膜内皮症候群(ICE症候群)のC1例をスペキュラーマイクロスコピー(SM)と生体共焦点顕微鏡(IVCM)の所見を中心に報告する.症例:65歳,男性.両眼の視力低下で受診.矯正視力は両眼ともC1.5.眼圧は両眼ともC17CmmHg.両眼の軽度の白内障と左眼では角膜後面に少数の虹彩色素の沈着を認めた.隅角は両眼に幅の狭い低い周辺虹彩前癒着(PAS)があった.SMでは右眼は各内皮細胞の中央にCdarkspotがあり,左眼ではCdark/light reversalがみられた.内皮細胞の平均面積(密度)は右眼C398±183Cμm2(2,515Ccells/mm2)左眼C480±379μm2(2,085cells/mm2).IVCMで右眼角膜内皮には細胞核と思われるC2.9.11.4μmzの輝度の異なる円形.類円形の構造物がみられた.両眼の実質深層では細胞突起を延ばした実質細胞同士が一部でつながっていた.本症例は両眼性のCChandler症候群になる可能性が考えられた.結論:片眼にCICE症候群を認めた場合には,僚眼もCSMやIVCMで精査しておくことが重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCearly-stageCiridocornealCendothelialsyndrome(ICEsyndrome)withCabnormalendothelia in the fellow eye, chie.y using specular microscopy(SM)and in vivoCconfocal microscopy(IVCM). Case report:AC65-year-oldCmanCpresentedCwithCbilateralCvisualCdisturbance.CBestCcorrectedCvisualCacuityCwasC20/13Cand intraocular pressure was 17CmmHg in both eyes(OU). Slit-lamp biomicroscopy showed bilateral mild cataract and some keratic precipitates(iris pigments)in the left eye(OS). Gonioscopy disclosed narrow and low peripheral anteriorCsynechiaeCOU.CSMCrevealedCcentralCdarkCspotCinCeachCendotheliumCinCtheCrighteye(OD)andCdark/lightCreversalCappearanceCOS.CMeanCendothelialCcellarea(density)wasC398±183Cμm2(2,515Ccells/mm2)ODCandC480± 379Cμm2(2,085Ccells/mm2)OS.CIVCMCrevealedCovalCheterochromicCstructuresCrangingC2.9-11.4Cμmz inCeachCendo-thelium OD, probably representing endothelial nucleus. The keratocyte processes were partially interconnected in the deep stroma creating a cell network OU. This case could potentially develop into bilateral Chandler syndrome. Conclusion:In cases of unilateral ICE syndrome, it is important to meticulously examine the fellow eyes using SM and/or IVCM.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)42(10):1332.1336,C2025〕 Key words:虹彩角膜内皮症候群,Chandler症候群,生体共焦点顕微鏡,スペキュラーマイクロスコピー,ICEcells.CIridocornealCendothelialCsyndrome,CChandlerCsyndrome,CinCvivoCconfocalCmicroscopy,CspecularCmicroscopy,CICECcells.Cはじめに虹彩角膜内皮症候群(iridocornealCendothelialsyndrome:ICE症候群)は片眼の角膜内皮が上皮様に変化して,その病変が隅角や虹彩に伸展すれば続発性緑内障をきたすことのある疾患である1,2).虹彩の形態異常や眼圧上昇による角膜浮腫に起因する霧視で眼科を受診することが多い.そのC1型であるCChandlersyndrome(CS)は他のC2型CessentialCirisatrophy(EIA),Cogan-Reesesyndrome(CRS)に比べて虹彩には異常をみつけにくく,初期に診断はつきにくい.細隙灯顕微鏡で角膜内皮側にCbeatenCmetalappearanceやスペキュラーマイクロスコピー(specularCmicroscopy:SM)で内皮のCdark/lightCreversal3)やCICECcells4,5)といわれる特徴〔別刷請求先〕 高橋秀児:〒743-0021 山口県光市浅江C3-17-1-101 クリニック高橋眼科Reprint requests:Shuji Takahashi, Takahashi Eye Clinic, 3-17-1-101 Asae, Hikari, Yamaguchi 743-0021, JAPANC1332(114)的な所見が診断の手がかりとなる.今回,初発白内障で角膜内皮を観察したところ,片眼にCSの所見,僚眼の角膜内皮にも異常所見を認めた症例を経験したので生体共焦点顕微鏡(inCvivoCconfocalCmicrosco-py:IVCM)の所見も含めて報告する.C
I 症   例患者:65歳,男性.主訴:両眼の視力低下.眼科的所見:視力は右眼C0.8(1.5C×.1.0D),左眼C1.0(1.5C× .1.0D),眼圧は両眼ともC17mmHg.両眼水晶体に軽度の皮質混濁(Emery-Little分類CGrade2).視神経乳頭CC/D比は両眼ともC0.7.網膜に異常なし.角膜厚は右眼C534μm,左眼C507Cμm.細隙灯顕微鏡で角膜に浮腫や混濁はなく(図 1),左眼角膜後面には軽度の虹彩色素の沈着を認めた.鏡面反射法でCbeaten metal appearanceはみられなかった.前房内炎症(C.).隅角は開放(Sha.er分類CGradeC3.4).両眼とも鼻側に虹彩突起の高位付着と,幅が狭く低い周辺虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechiae:PAS)がみられた(図 2).SMでは右眼は細胞境界部が明瞭,個々の細胞の中央部に黒い類円形構造Cdark spotがみられるものが多かった.左眼は内皮細胞と境界部の輝度が逆転する典型的なCdark/light reversalがみられた.平均細胞面積,平均細胞密度は右眼C398±183Cμm2,2,515Ccells/mmC2,左眼C480C±379Cμm2,2,085Ccells/mm2(図 3).Heidelberg retina tomograph II/Rostock corneamoduleによるCIVCMでは,右眼は個々の内皮細胞中央部にC2.9.11.4CμmCzの円形.類円形の輝度の異なる構造物がみられた.細胞境界部は不明瞭だった.左眼ではCdark/Clightreversalの細胞群がみられた(図 4).細胞の大きさ,輪郭は異なるものの,上皮細胞と類似の輝度を呈していた(図 5a).両眼の実質深層には細胞突起を延ばし,隣接細胞とつながっている箇所がみられた(図 5b, c).両眼とも上皮,上皮下神経叢,実質内神経,Descemet膜には異常を認めなかった.Humphrey視野(30-2)ではCmeandeviation値が右眼+0.08dB,左眼C.0.24CdBと正常範囲であった.既往歴:過去に眼疾患(C.).コンタクトレンズ装用歴(C.).60歳時に経尿道的膀胱腫瘍切除術,現時点では経過観察のみ.家族歴:3歳上の姉は正常眼圧緑内障で加療中.角膜内皮に異常なし.C
II 考   察本症例はCSMを実施しなければ角膜内皮の異常は判明しなかった.細隙灯顕微鏡の鏡面反射法で左眼にCbeatenCmetalCappearance がみられなかったのは,上皮様変化をきたした内皮前房面がほぼ一様の変化をきたし,とくに突出したような箇所がなかったためと考えられる.SMでのCdark/light reversalは内皮前房面の鏡面反射が不整になることが原因とされ,内皮前房面の上皮様の多数の微繊毛5)が乱反射を起こすためとされている.SMで内皮の正常な六角形細胞の形態が失われ,多形性(六角形細胞の出現頻度低下pleomorphism)や大小不同(polymegathism)となり,dark/lightreversalを呈した内皮の細胞群がCICECcellsといわれるが,他疾患でも類似の所見がみられる.重症の虹彩毛様体炎で多数の角膜後面沈着物がみられる際,SMでCpseudoguttata6)が全面を覆った場合にもCdark/lightCrever-salがみられるが,本症例のような均一の内皮像ではなく,細胞も境界部も不均一である.CFuchsCcornealCendothelialdystrophy(FCED)でも内皮機能不全になるまで進行すると同様の所見を呈する.ICE症候群では,初期は比較的均一で,進行して眼圧上昇や内皮機能不全を起こすにしたがって内皮像は不均一となる.後部多形性角膜ジストロフィやposterior corneal vesiclesでも一部にCdark/light reversalがみられるが,細隙灯顕微鏡で角膜後面に特徴的なCbandやvesiclesの病変がみられる.CNationalCglaucomaresearchのCexpertinformationには,ICE症候群の特徴として①CswellingCofCtheCcornea,CorCtheclear front part of the eye,②Cabnormalities of the iris, the coloredCpartCofCtheCeyeCthatCcontainsCthepupil,③CaChighCriskCofdevelopingCglaucomaと記載されており,緑内障の発症には慎重である.ICE症候群の眼圧上昇の機序は上皮化した内皮細胞が進展して隅角部を閉塞したり,PASを形成することによる7,8).初期では病変は隅角に及んでおらず,眼圧上昇はきたさない.虹彩変化の少ないCCSの初期診断はSMやCIVCMに依存することになる.SMやCIVCMでみられたCICEcellsがCpathognomoniCc9),あるいは確定診断の根拠となる10,11)としている報告もある.本症例の左眼はCdark/lightreversalの範囲が広範でCPASもみられ,虹彩には明確な病変がみられないことよりCICE症候群のC1型であるCCSの眼圧上昇を伴わない初期と考えられる.可能な限り周辺部までCIVCMで観察したものの,正常角膜内皮は確認できなかったので,subtotal(+).totalICE症候群4,12)に該当する.同症候群では実質浅層の角膜神経が太くなる13),実質細胞の合胞体化(syncytia)13),高輝度の実質細胞の集簇14),Descemet膜内の曲線あるいは直線の線条構造13,14)などの報告がある.本症例でみられた実質深層の変化は実質細胞の活性化を意味しており,ICE症候群に炎症や創傷治癒などの関与を示唆する所見かもしれない.本例の角膜厚は両眼とも正常範囲内(517.5C±29.8Cμm)だが,左眼が薄くなっている.Alvaradoら15)は角膜移植で得られたC8例のCICE症候群ではCDescemet膜は肥厚していたものの,実質は正常眼より薄くなっていたと報告した.
図 1 前眼部写真 a:右眼.b:左眼.明らかな瞳孔偏位や虹彩異常は認めない.

図 2 隅角写真 a:右眼.Cb:左眼.虹彩突起の高位付着と幅の狭い低いCPASがみられた.
図 3 スペキュラーマイクロスコピーによる角膜内皮像( 1 scale: 100 μm) a:右眼.多くの内皮細胞の中央に類円形のCdarkspotがみられた.b:左眼.内皮細胞は暗く,細胞境界が明るいCdark/lightreversalがみられた.
図 4 生体共焦点角膜顕微鏡による角膜内皮像(画角 400×400 μm) a:右眼.細胞境界はやや不鮮明だが,各細胞の中央に大きさ・輝度の異なる円形.類円形の構造物がみられた.Cb:左眼.細胞境界は明るく鮮明,細胞は暗いCdark/light reversalを呈していた.
図 5 生体共焦点顕微鏡による角膜上皮,実質,内皮像(画角 400×400 μm) a:左眼.上C1/2が内皮,左下C1/4が上皮表層,右下C1/4が上皮基底細胞層(5,627C±43Ccells/mm2).b, c:右眼(b),左眼(Cc)とも実質深層で細胞突起を延ばした実質細胞がつながっていた.Harveyら16)はCICE症候群で角膜厚が僚眼に比して菲薄化していたと報告した.角膜内皮の溶質の透過性の低下17)に起因しており,菲薄化が眼圧上昇前のCICE症候群の特徴ではないかと仮説している.今後,多症例での検討が待たれる.一方で,右眼のCIVCMでは明るい個々の内皮細胞の中央に不均一な大きさと輝度の円形から類円形の構造物がみられた.細胞境界はまたがず,内皮細胞とはおおむねC1対C1対応であった.ICE症候群を走査型電子顕微鏡で検討したCAlvaradoraら18)はCCS5例,EIA3例で内皮細胞にC1対C1対応で中央部に前房側に突出したCblebを証明した.またCLeeら19)は内皮細胞核の前房への突出部Cbulgeを電子顕微鏡で示した.この所見は本症例の右眼のCIVCM像に酷似していた.Shimazakiら20)はCSMで可逆性のCdark/lightCreversalCのC2症例がCIVCMでは本症例と同様な内皮細胞にC1対C1対応するChypore.ectiveCstructureがみられたと報告した.前房内に細胞成分のない浮遊物質が発現するものの,明確な炎症所見はなかった.虹彩・隅角に異常は認めなかったものの,ICE症候群の初期の可能性を示唆した.ICE症候群で細胞核は中央部で輝度が高くなるという異なった報告もある13,14,21).本症例の右眼内皮のCSMとCIVCMの所見の違いは,前者が光学的に一平面,後者はC4Cμmと厚さのある断面を捉えていることによると考えられる.ICE症候群の僚眼に関して,Chandranら22)のインドにおけるCICE症候群C203例のコホート研究では,20例(10%)が両眼性だった.内訳は両眼がCCS(6例),両眼がCEIA(5例),CSの僚眼がCEIA(7例),EIAの僚眼がCCRS(1例),EIAの僚眼にCICEcells(1例).Hemadyら23)は両眼のCICE症候群をC1例,自施設の過去C6例の僚眼にはCSMでも異常は認めなかったと報告した.また,両眼性の症例をC12文献で調べ,経時的観察の必要性も示唆した.以上により,片眼にCICE症候群を認めた場合は僚眼もくまなく検査するだけでなく,経時的に観察を続ける必要があると考える.今後,本症例では眼圧上昇・内皮機能不全など視機能を低下させる事象に留意しながら右眼内皮細胞のCICE cellsへの変化も含めてCSM,IVCMで経過観察していく予定である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文   献1)Yano.M:IridocornealCendothelialsyndrome:uni.cationCof a disease spectrum. Surv OphthalmolC24:1-2,C1979
2)SilvaCL,CNaja.CA,CSuwanCYCetal:TheCiridocornealCsyn-drome. Surv OphthalmolC63:665-676,C2018
3)HirstCLW,CQuigleyCHA,CStarkCWJCetal:SpecularCmicros-copy of irido-corneal endothelial syndrome. Am J Ophthal-molC89:11-21,C1980
4)SherrardCES,CFrangoulisCMA,CKerrCMuirCMGCetal:TheCposteriorCsurfaceCofCtheCcorneaCinCtheCiridocornealCendo-thelialsyndrome:aCspecularCmicroscopicCstudy.CTransCOphthalmol Soc UKC104:766-781,C1985
5)HirstCLW,CGreenCWR,CKuesHA:ClinicalCspecularCmicro-scopic/pathologic correlation. CorneaC2:159-184,C1983
6)Krachmer JH, Schnitzer JI, Fratkin J:Cornea pseudogut-tata. Arch OphthalmolC99:1377-1381,C1981
7)Laganowski HC, Kerr Muir MG, Hitchings RA:Glaucoma andCtheCiridocornealCendothelialCsyndrome.CArchCOphthal-molC110:346-350,C1992
8)SilvaCL,CNaja.CA,CSuwanCYCetal:TheCiridocornealCendo-thelial syndrome. Surv OphthalmolC63:665-676,C2018
9)MatthewCDL,CAngeloPT:IridocornealCendothelialCsyn-drome:KeysCtoCdiagnosisCandCmanagement.CGlaucomaTodaySeptember/October:53-56, 2012

10)Sacchetti M, Mantelli F, Marenco M et al:Diagnosis and management of iridocorneal endothelial syndrome. BioMed Res IntC2015:763093,C201511)Sheppard Jr, JD, Lattanzio FA, Williams PB et al:Confo-calCmicroscopyCusedCasCtheCde.nitive,CearlyCdiagnosticCmethod in Chandler syndrome. CorneaC24:227-229,C200512)LaganowskiCHC,CSherrardCES,CKernCMuirCMGCetal:Dis-tinguishingCfeaturesCofCtheCiridocornealCendothelialCsyn-dromeCandCposteriorCpolymorphousdystrophy:valueCofCendothelialCspecularCmicroscopy.CBrCJCOphthalmolC75:C212-216,C199113)Grupcheva CN, McGhee C NJ, Dean S et al:In vivoCcon-focal microscopic characteristics of iridocorneal endothelial syndrome. Clin Exp OphthalmolC32:275-283,C200414)PezziCPP,CMarencoCM,CCosimiCPCetal:ProgressionCofCessentialCirisCatrophyCstudiedCwithCconfocalCmicroscopyCandCultrasoundbiomicroscopy:AC5-yearCcaseCreport.CCorneaC28:99-102,C200915)AlvaradoCJA,CMurphyCCG,CJusterCRPCetal:PathogenesisCofCChandler’sCsyndrome,CessentialCirisCatrophyCandCtheCCogan-ReeseCsyndrome.CII.CEstimatedCageCatCdiseaseConset. Invest Ophthalmol Vis SciC27:873-882,C198616)HarveyCMM,CSchmitzJW:CorneaCthinningCinCtwoCcasesCof ICE syndrome. BMJ Case RepC13:e236354,C202017)Bourne WM, Brubaker RF:Decreased endothelial perme-abilityCinCtheCiridocornealCendothelialCsyndrome.COphthal-mologyC89:591-595,C198218)AlvaradoCJA,CMurphyCCG,CMaglioCMCetal:PathogenesisCofCChandler’sCsyndrome,CessentialCirisCatrophyCandCtheCCogan-Reese syndrome. I. Alterations of the corneal endo-thelium. Invest Ophthalmol Vis SciC27:853-872,C198619)LeeCWR,CMarshallCGE,CKirknessCM:CornealCendothelialCcellCabnormalitiesCinCanCearlyCstageCofCiridocornealCendo-thelial syndrome. Br J OphthalmolC78:624-631,C199420)ShimazakiCJ,CDenCS,CSatakeCYCetal:ContinuousCacellularCmaterialCaccumulationCinCtheCanteriorCchamberCassociatedCwithCcornealCendothelialCchanges.CBMJCCaseCRepC13:Ce237417,C202021)Garibaldi DC, Schein OD, Jun A:Features of the iridocor-neal endothelial syndrome on confocal microscopy. CorneaC24:349-351,C200522)Chandran P, Rao HL, Mandal AK et al:Glaucoma associ-ated with iridocorneal endothelial syndrome in 203 indian subjects. PLoS OneC12:e0171884,C201723)Hemady RK, Patel A, Blum S et al:Bilateral iridocorneal endothelialsyndrome:caseCreportCandCreviewCofCtheClit-erature. CorneaC13:368-372,C1994*     *     *

全層角膜移植を要したエルロチニブ塩酸塩(タルセバ)による角膜穿孔の1例

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1327.1331,2025c全層角膜移植を要したエルロチニブ塩酸塩(タルセバ)による角膜穿孔の 1例村上航平*1 山田芳博*1 上嶋仁美*1 小林 顕*2 横川英明*2*1富山市立富山市民病院 眼科 *2金沢大学附属病院 眼科学教室CA Case of Corneal Perforation Caused by Erlotinib Requiring Penetrating Keratoplasty Kohei Murakami1), Yoshihiro Yamada1), Hitomi Ueshima1), Akira Kobayashi2)and Hideki Yokogawa2)1)Department of Ophthalmology, Toyama City Hospital, 2)Department of Ophthalmology & Visual Science, Kanazawa UniversityC目的:分子標的薬のC1種であるエルロチニブ(タルセバ)による角膜穿孔に対して全層角膜移植を施行したC1例を経験したため報告する.症例:77歳,男性.肺腺癌に対してC2年前からエルロチニブを内服している.1カ月前から両眼の眼脂増多があり,呼吸器内科より紹介となった.初診時,左眼に角膜穿孔,右眼に点状表層角膜症,両眼に睫毛乱生を認めた.眼科的既往歴や外傷歴はなかったが,全身性皮疹のため皮膚科で加療を受けていた.眼脂培養で有意な菌体の検出は認めなかった.エルロチニブによる左眼角膜穿孔と診断し,左眼に全層角膜移植術を施行した.術後に角膜上皮化が不良であったため,エルロチニブの内服を中止したところ,術後C2カ月には角膜上皮が安定化した.術後C3年でヘルペス性角膜炎を発症したが瘢痕治癒した.考按:エルロチニブはまれに角膜潰瘍や角膜穿孔といった重篤な副作用を引き起こすことがあるため,注意が必要である.CPurpose:ToCpresentCaCcaseCofCcornealCperforationCcausedCbyerlotinib(TarcevaCR;AstellasCPharmCGlobalDevelopment)thatCrequiredCpenetratingCkeratoplasty.CCase:ThisCstudyCinvolvedCaC77-year-oldCmaleCwhoChadCbeenCtakingCerlotinibCforClungCadenocarcinomaCforC2CyearsCandCexperiencedCincreasedCeyeCdischargeCforC1CmonthCprior to presentation. Slit-lamp examination revealed corneal perforation in his left eye, super.cial punctate kera-topathy in his right eye, and bilateral trichiasis. He had no ophthalmologic history, trauma, and no sign of infection, butCheChadCbeenCtreatedCforCaCrash,CthusCimplicatingCthatCtheCophthalmologicCabnormalitiesCwereCcausedCbyCerlo-tinib.CTheseCresolvedCgraduallyCbyCaCtreatmentCcomprisedCofCleft-eyeCpenetratingCkeratoplasty,CdiscontinuationCofCerlotinib,CandCeyeCdrops.CAtC2-monthsCpostoperative,CtheCcorneaCstabilized,CandCatC3-yearsCpostoperative,CherpeticCkeratitisCappeared,CyetCtheCscarChealed.CConclusion:WeCshouldCbeCawareCthatCerlotinibCcanCcauseCseriousCsideCe.ects such as a corneal ulcer or perforation in rare cases.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)C42(10):1327.1331,C2025〕 Key words:エルロチニブ,角膜穿孔,睫毛乱生,全層角膜移植,抗癌剤.erlotinib, corneal perforation, trichiasis, penetrating keratoplasty, anticancer drugs.Cはじめにエルロチニブ塩酸塩(タルセバ)(以下,エルロチニブと表記)は,上皮成長因子受容体(epidermalCgrowthCfactorreceptor:EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬という分子標的薬である.わが国では非小細胞肺癌および膵癌に対して2007年から承認され,切除不能な再発・進行性の症例に対して使用されている1).癌細胞の増殖は癌細胞表面の上皮成長因子(epidermalCgrowthfactor:EGF)受容体の遺伝子異常によって引き起こされると考えられており,エルロチニブはCEGF受容体にあるチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害することで癌の増殖を抑える.EGF受容体は癌細胞表面のみならず,正常な角膜上皮や毛根にも存在しているため,エルロチニブによって角膜上皮異常や睫毛異常を引き起こされることがある2).今回,筆者〔別刷請求先〕 村上航平:〒939-8511 富山市今泉北部町C2-1 富山市立富山市民病院眼科Reprint requests:Kohei Murakami, Department of Ophthalmology, Toyama City Hospital 2-1 Imaizumi-Hokubumachi, Toyama 939-8511, JAPANC
図 1 初診時の前眼部所見 a:右眼.睫毛乱生を認めた.Cb:左眼.中央部に角膜穿孔を認めた.前房は浅いものの保たれていた.右眼と同様に睫毛乱生も認めた.Cc:右眼のフルオレセイン染色.びまん性の点状表層角膜症を認めた.Cd:左眼のフルオレセイン染色.中央部でCSeidel試験陽性であった.
らはエルロチニブによる角膜穿孔に対して全層角膜移植を施行した症例を経験したため報告する.C
I 症   例
症例:77歳,男性.主訴:両眼の眼脂増多.現病歴:末期肺腺癌にて筆者の施設の呼吸器内科に通院し,2年前からエルロチニブ(150Cmg/日)を内服している.1カ月前から両眼の眼脂が増加しているとの主訴で,呼吸器内科より当科へ紹介された.同院皮膚科にてエルロチニブの副作用による全身性の皮疹に対して治療されている.その他,眼科的既往歴や外傷歴などは認めなかった.初診時所見:視力は右眼C0.09(矯正不能),左眼C0.01(矯正不能),眼圧は右眼C10CmmHg,左眼C4CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,右眼に点状表層角膜症,左眼の角膜中央部に角膜穿孔,両眼の睫毛乱生を認めた(図 1).初診時に採取した眼脂培養では,両眼ともメチリシン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptibleCStaphylococcusaureus:MSSA)およびCcorynebacteriumが検出された.経過:皮疹や睫毛乱生などの経過から,エルロチニブによる両眼角膜上皮障害および左眼角膜穿孔と診断した.治療用ソフトコンタクトレンズ(soft contact lens:SCL)を装用し,レボフロキサシン点眼(両眼C4回)とC0.1%フルオロメトロン点眼(両眼C4回)を開始した.初診からC3日後に金沢大学附属病院で左全層角膜移植術を施行した.術後はレボフロキサシン,ベタメタゾン,ジクアホソルナトリウム,オフロキサシン眼軟膏で加療した.しかし,角膜上皮化不良が遷延したため,呼吸器内科主治医と相談のうえ,エルロチニブをオシメルチニブに変更したところ,角膜上皮の状態は次第に軽快した(図 2).その後は経過良好で点眼を減量していたが,術後C3年で左眼角膜潰瘍を発症した(図 3).このときヘルペス抗原検査は陰性であった.抗菌薬点眼(レボフロキサシン,セフメノキシム,オフロキサシン眼軟膏)による改善が乏しく,ヘルペス性角膜炎とみなしてアシクロビル眼軟膏とバラシクロビル内服を追加したところ,瘢痕治癒に至った(図 4).以降は問題なく経過していたが,術後C4年となる頃に原疾患の腫瘍のために永眠された.C
II 考   按今回,肺腺癌に対するエルロチニブ内服中に左眼角膜穿孔

図 2 全層角膜移植術後 2カ月(左眼) a:透明な移植片を認めた.b:フルオレセイン染色にて上皮は安定していた.

図 3 全層角膜移植術後 3年でヘルペス性角膜炎を発症(左眼) a:耳下側の角膜潰瘍およびで縫合糸の露出を認めた.b:フルオレセイン染色にて角膜上皮欠損を認めた.

図 4 抗ヘルペス薬治療半年後(左眼) a:耳下側の角膜潰瘍は瘢痕治癒した.b:フルオレセイン染色にて角膜上皮欠損を認めなかった.をきたした症例を経験した.角膜潰瘍や角膜穿孔の原因とし群,薬剤,放射線などがある3).原因によって治療方針が異て外傷性,感染性,非感染性があげられる.感染性疾患としなったり,全身性疾患やそれらの治療が角膜障害の原因となてはヘルペス性角膜炎,細菌性角膜炎,角膜真菌症などがあったりする可能性があるため,既往歴や内服薬を初診時に把り,非感染性としてはリウマチなどの膠原病,特発性周辺部握して鑑別をしっかり行ったうえで診療する必要がある.本角膜潰瘍(Mooren潰瘍),重症ドライアイ,皮膚粘膜眼症候症例では,眼科的既往歴や外傷歴はなく,眼脂培養でも有意な菌体は検出されず,外傷や感染による角膜穿孔は否定的と考えられた.両眼瞼に睫毛乱生を認めることに加え,エルロチニブの内服開始から約C3週間後より顔面,後頸部,体幹に多発する紅色丘疹と膿疱が出現しており,エルロチニブの副作用として矛盾しない所見であった.なお,エルロチニブによる濾胞状や丘疹膿胞状の皮疹は,約C60.70%の患者にみられるとされている4).今回,全層角膜移植後に遷延していた角膜上皮化の接着不良や睫毛乱生がエルロチニブ内服中止後から改善傾向であり,治療的診断からもエルロチニブによる副作用と推察された.エルロチニブの眼合併症として,睫毛異常に関しては当初より多く報告されており5.7),角膜上皮障害に関してはC2009年にCJohnsonKSらによって世界で初めて報告された8).わが国でもC2012年に堀裕一らによって初めて角膜障害の報告があり,その後しばしば角膜潰瘍や角膜穿孔に関しても報告されている2,6,9).頻度としては,1%未満で角膜炎,角膜びらん,睫毛異常などをきたし,0.1%未満で角膜潰瘍や角膜穿孔をきたすとされている10).角膜障害に関しては片眼性,両眼性,どちらのパターンも認められ,また,潰瘍をきたした場合でも辺縁部潰瘍様や再発性角膜びらん様など,一定の傾向はないとされている1,2,11).本症例でも左眼は中央部に角膜穿孔をきたしていたが,右眼の所見は全体的に均一な点状表層角膜症であった.内服期間に関して,既報ではエルロチニブの内服を開始して数カ月後に角膜障害をきたす報告が多いが,本症例では内服開始から発症まで約C2年C8カ月と長期間経過しており,内服長期例においても詳細な経過観察が必要であると考えられた.エルロチニブによる角膜障害に対する治療としてはエルロチニブの内服中止がもっとも有効で,内服中止により角膜障害が改善した例が過去にも多く報告されている.内服に関しては主治医との連携が必須であり,症状にあわせて調節が必要となることも少なくない1,2,11).内服中止だけでなく,角膜の状態に応じて点眼加療や治療用CSCLの装用もあわせて行う必要があり,重症例では本症例と同様に角膜移植術が必要となる.角膜障害をきたす代表的な抗癌剤としては,本症例で被疑薬となったエルロチニブだけでなく,テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1)(以下,TS-1と表記)が広く知られている.TS-1とは,5-フルオロウラシル(.uorouracil:FU)のプロドラッグであるテガフール,5-FUの分解酵素阻害薬であるギメラシル,消化管毒性を軽減するリン酸オテラシルカリウムを配合した経口抗癌剤である.5-FUによって細胞のCDNAやCRNA合成が阻害されるが,角膜上皮細胞や涙小管上皮細胞の細胞分裂も阻害されるため,角膜上皮障害や涙道障害が引き起こされる12.14).現在では,エルロチニブやCTS-1以外にも多数の抗癌剤が臨床現場で使用されている.ゲフィチニブ,セツキシマブによる睫毛の長毛化や乱生化,ドセタキセル,パクリタキセル,タモキシフェンによる網膜障害,パクリタキセル,タモキシフェン,フルオロウラシルによる視神経障害,ニボルマブ,イピリムマブによるぶどう膜炎など合併症は多岐にわたる15).抗癌剤の中止により眼障害が軽快する場合もあるが,不可逆的変化をきたすこともあり,早期診断・早期治療が必要となる.また近年では,従来の抗癌剤に加え分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などさまざまな化学療法を受けている患者が多く存在しており,それらによる眼合併症についても注意が必要である.
おわりに
今回,エルロチニブが原因と考えられる左角膜穿孔の一例を経験した.エルロチニブはごくまれに角膜潰瘍や角膜穿孔といった重篤な副作用を引き起こすことがある.担癌患者の診療においては,抗癌剤による眼合併症を念頭においたうえで眼科診療をすることが重要であると考えられた.文   献1)浜野茂樹,清水聡子,溝田 淳:エルロチニブ塩酸塩(タルセバR)内服中にみられた角膜潰瘍.臨眼C69:1343-1345,C20152)後藤田哲史,鈴木 崇,糸川貴之ほか:非外傷性角膜穿孔症例の原因と治療についての検討.眼科C62:1353-1360,C20203)堀 裕一,橋本りゅう也,参賀 真ほか:肺腺癌に対するエルロチニブ塩酸塩内服中にみられた角膜障害のC1例.日眼会誌C116:510-515,C20124)ZhangCG,CBastiCS,CJampolLM:AcquiredCtrichomegalyCandCsymptomaticCexternalCocularCchangesCinCpatientsCreceivingCepidermalCgrowthCfactorCreceptorinhibitors:CcaseCreportsCandCaCreviewCofCliterature.CCorneaC26:858-860,C2007
5)Braiteh F, Kurzrock R, Johnson FM:Trichomegaly of the eyelashes after lung cancer treatment with the epidermal growthCfactorCreceptorCinhibitorCerlotinib.CJCClinCOncolC26:3460-3462,C2008
6)Desai RU, Rachakonda LP, Sa.ra NA:Trichomegaly sec-ondary to erlotinib. Can J OphthalmolC44:65,C2009
7)Johnson KS, Levin F, Chu DS:Persistent corneal epitheli-al defect associated with erlotinib treatment. CorneaC28:C706.707,C2009

8)吉村彩野,細谷友雅,岡本真奈ほか:抗悪性腫瘍剤であるエルロチニブ塩酸塩(タルセバCR)が原因と考えられた角膜穿孔のC1例.眼科C60:1523-1528,C20189)タルセバCR錠C25Cmg添付文書(2014年C11月改訂)10)Cataldo VD, Gibbons DL, Perez-Soler R et al:Treatment of non-small-cell lung cancer with erlotinib or ge.tinib. N Engl J MedC364:947-955,C201111)Morishige N, Hatabe N, Morita Y et al:Spontaneous heal-ing of corneal perforation after temporary discontinuation 
ofCerlotinibCtreatment.CCaseCRepCOphthalmolC7:6-10,(S-1).癌と化学療法 28:855-864,C2001C201414)立花敦子,稲田紀子,庄司 純ほか:抗悪性腫瘍薬CTS-112)細谷友雅,外園千恵,稲富 勉ほか:抗癌薬CTS-1の全身による角膜上皮障害の検討.眼科 51:791-797,C2009投与が原因と考えられた角膜上皮障害.臨眼 61:969-973,15)柏木広哉:抗がん剤による眼障害-眼部副作用-.癌と化学C2007療法 37:1639-1644,C201013)白坂哲彦,佃 守,犬山征夫ほか:新規経口抗癌剤CTS-1*     *     *

パッチテストが有用であった緑内障治療点眼薬によるまれな眼瞼接触皮膚炎の1例

2025年10月31日 金曜日

《原 著》あたらしい眼科 42(10):1321.1326,2025cパッチテストが有用であった緑内障治療点眼薬によるまれな眼瞼接触皮膚炎の 1例栁 翔涼*1 小幡博人*1 山﨑厚志*1 高村さおり*2 福田知雄*2*1埼玉医科大学総合医療センター眼科 *2埼玉医科大学総合医療センター皮膚科CA Rare Case of Eyelid Contact Dermatitis Caused by Ophthalmic Eye Drops for Glaucoma Treatment in which Patch Testing was Useful Shosuke Yanagi1), Hiroto Obata1), Atsushi Yamasaki1), Saori Takamura2)and Tomoo Fukuda2)CDepartment of Ophthalmology1)and Dermatology2), Saitama Medical Center, Saitama Medical UniversityC目的:上眼瞼縁の腫脹と黄色滲出物がめだつ緑内障治療点眼薬による眼瞼接触皮膚炎を経験したので報告する.症例:72歳,女性.8年前から近医で緑内障治療点眼薬が処方されていた.9カ月前に眼瞼炎が発症し,フラジオマイシン硫酸塩・メチルプレドニゾロン軟膏,ベタメタゾン・フラジオマイシン硫酸塩軟膏,抗菌薬の点眼や内服などによる治療が行われたが,軽快しないため当科へ紹介となった.初診時に両眼の上眼瞼縁が発赤腫脹し,黄色の滲出物を伴っていた.眼瞼皮膚の紅斑や結膜の充血はみられなかった.フラジオマイシンを含まないプレドニゾロンやベタメタゾンの軟膏を処方したが改善せず,皮膚科へコンサルトした.タクロリムス軟膏が処方されたが所見は軽快せず,パッチテストが施行された.7種類の薬剤を背部に貼付した結果,ドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬のみが陽性となり,この点眼薬を中止したところ,眼瞼炎は速やかに改善した.結論:上眼瞼縁の滲出物がめだつ眼瞼接触皮膚炎を経験した.抗菌薬や副腎皮質ステロイドの治療に反応しない眼瞼炎は接触皮膚炎の可能性を疑い,すべての点眼薬を一時中止すること,そしてパッチテストを施行することが大切である.CPurpose:ToCreportCaCrareCcaseCofCeyelidCcontactCdermatitisCcausedCbyCglaucomaCophthalmicCeyeCdropsCwithCswellingCandCyellowCexudateCatCtheCeyelidCmargin.CCase:AC72-year-oldCwomanCwithCglaucomaChadCbeenCusingCeye-drop medication prescribed by her primary care physician over the past 8 years. Nine months prior to being referred to our department, she developed blepharitis, and various eye drops and oral medications failed to relieve theCsymptoms.CAtCtheCinitialCexamination,CtheCupperCeyelidCmarginsCofCbothCeyesCwereCerythematousCandCswollenCwith yellow exudates. Prednisolone and betamethasone ointments without fradiomycin were prescribed, yet there was no improvement and the patient was referred to a dermatologist. Tacrolimus ointment was prescribed, but the .ndings did not improve, so a patch test was performed. Seven di.erent drugs were applied to the back, but only dorzolamide hydrochloride/timolol maleate ophthalmic solution tested positive, and the blepharitis resolved quickly after it was discontinued. Conclusion:Blepharitis that does not respond to antibacterial or corticosteroid therapy should be suspected as contact dermatitis, and all eye drops should be temporarily discontinued and a patch test performed.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)C42(10):1321.1326,C2025〕 Key words:眼瞼炎,接触皮膚炎,パッチテスト,緑内障治療点眼薬.Blepharitis, contact dermatitis, patch test, glaucoma treatment eye drops.Cはじめに皮膚に接触することによって発症する湿疹性の炎症反応をい接触皮膚炎とは,外来性の刺激物質や抗原(ハプテン)がう1,2).病態として大きく分けると,刺激性接触皮膚炎とア〔別刷請求先〕 栁 翔涼:〒350-8550 埼玉県川越市鴨田C1981 埼玉医科大学総合医療センター眼科Reprint requests:Shosuke Yanagi, M.D., Department of Ophthalmology, Saitama Medical Center, Saitama Medical University 1981 Kamoda, Kawagoe-shi, Saitama-ken 350-8550, JAPANCレルギー性接触皮膚炎がある1,2).前者は皮膚に接触する物質の化学的特徴によって角層バリアを傷つけて起こるものである.後者は個体が抗原であると認識に至る過程である感作層とその後の惹起層を経て炎症反応が起こるもので,眼瞼の接触皮膚炎は後者であることが多い1.3).眼瞼の接触皮膚炎の原因として,点眼薬,眼軟膏,外用薬,化粧品,香水,洗顔剤,眼鏡,ゴーグル,ビューラー,植物,食物などが知られているC2.4).点眼薬のなかでは,散瞳薬として用いられるフェニレフリン塩酸塩やアミノグリコシド系抗菌薬であるフラジオマイシン硫酸塩などの頻度が高い4.12).また,長期間点眼されることが多い緑内障治療点眼薬による接触皮膚炎も報告されている13,14).これらの臨床所見は眼瞼皮膚の浮腫性紅斑がおもなものである.今回,上眼瞼縁の腫脹と滲出物がめだつ特異な眼瞼炎で,診断と治療に難渋し,パッチテストの結果,緑内障治療点眼薬による接触皮膚炎と判明した症例を経験したので報告する.CI 症   例
患者:72歳,女性.主訴:両上眼瞼腫脹.現病歴:近医からの紹介状および本人の記録によると次のような病歴である.8年前から近医で緑内障として加療を受けていた.当初は,チモロールマレイン酸塩持続性点眼液0.5%(リズモンCTG点眼液C0.5%)が処方され,3年前から同点眼薬がドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(コソプト配合点眼液)に変更,1年前から同点眼薬がブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合懸濁性点眼液(アゾルガ配合懸濁性点眼液)に変更となった.9カ月前から両眼瞼炎を発症した.当初,メチルプレドニゾロン・フラジオマイシン硫酸塩軟膏(ネオメドロールCEE軟膏)を処方されたが改善しなかった.細菌感染が疑われアジスロマイシン水和物点眼液(アジマイシン点眼液),モキシフロキサシン塩酸塩点眼液(ベガモックス点眼液),ミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシン)の内服が開始されたが,若干の改善がみられたが再燃した.点眼薬アレルギーを考え,アゾルガ点眼液から防腐剤フリーのドルゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(コソプトミニ配合点眼液)に変更したが改善しなかった.ガチフロキサシン水和物点眼液(ガチフロ点眼液),オフロキサシン眼軟膏(タリビット眼軟膏)が追加されたが再燃した.そこで,ガチフロ点眼液とタリビット眼軟膏を中止し,ベタメタゾンリン酸エステルCNa・PF眼耳科用点眼液C0.1%,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩軟膏(眼・耳科用リンデロンCA軟膏),オロパタジン塩酸塩内服(アレロック),プランルカスト水和物内服(オノンカプセル)に変更したが,眼瞼炎は改善しなかったため筆者の施設(埼玉医科大学総合医療センター眼科)を紹介され受診となった.前医での点眼薬・眼軟膏の投与歴を表 1にまとめた.既往歴:高血圧,脂質異常症,両眼白内障手術.初診時眼所見:視力は右C1.2(n.c.),左C0.9(1.2C×sph.0.50CD(cyl.0.50DAx80°),眼圧は右眼18mmHg,左眼19mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で,両上眼瞼縁の発赤,腫脹,黄色の滲出物を認めた(図 1).中間透光体は両眼に眼内レンズ挿入されており,眼底は両眼とも特記すべき所見はみられなかった.経過:前医での病歴が長く写真の記録もないことから,まずフラジオマイシン硫酸塩のアレルギーを疑い,眼・耳科用リンデロンCA軟膏,ベタメタゾンリン酸エステルCNa・PF眼耳科用点眼液C0.1%を中止し,プレドニゾロン酢酸エステル眼軟膏(プレドニン眼軟膏)を開始した.1週間後にプレドニン眼軟膏をつけたところ眼瞼皮膚が赤くなったとのことで,使用開始C2日目に自己中断した.ベタメタゾン吉草酸エステル・ゲンタマイシン硫酸塩軟膏(リンデロンCVG軟膏0.12%)とベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液(サンベタゾン点眼液)を開始した.コソプトミニ配合点眼液の代わりにコソプト配合点眼液を処方した.2日後に上眼瞼の発赤は軽度減少した.サンベタゾン点眼液を中止し,フルオロメトロン点眼液C0.1%を開始した.しかし,初診から1カ月後に上眼瞼の腫脹,滲出物は改善しなかったため,皮膚科にコンサルトした(図 2).皮膚科ではタクロリムス軟膏0.1%(プロトピック軟膏C0.1%)が処方された.1週間後にプロトピック軟膏C0.1%で悪化したと訴えがあり,ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏(ロコイド軟膏)に変更された.1週間後にロコイド軟膏で滲出が悪化したため中止した.1週間後にプレドニン眼軟膏が再開され,ビラスチン(ビラノア)OD錠の内服が開始された.改善がみられないため点眼薬によるアレルギーを考え,2週間後に皮膚科でパッチテストを施行した.パッチテストは次のC7種類の薬剤を用いて上背部に施行した.①フルオロメトロン点眼液C0.1%,②コソプト配合点眼液,③タリビット眼軟膏C0.3%,④プロトピック軟膏C0.1%,⑤眼・耳科用リンデロンCA軟膏,⑥白色ワセリン(コントロール),⑦プレドニン眼軟膏である.これ以外の薬剤に関してはパッチテスト施行時に患者が持参せず,施行できなかった.48時間後,72時間後,1週間後でぞれぞれ陽性度判定を行った.72時間後に,コソプト配合点眼液のみ陽性となった(図 3).そこで,コソプト配合点眼液を中止したところ,1週間後,両眼瞼炎は速やかに改善した.副腎皮質ステロイドや抗菌薬の外用薬の併用はなかった.1カ月後,左眼圧がC24CmmHgに上昇したため,チモロールマレイン酸塩点眼液C0.5%(リズモンCTG点眼液C0.5%)を開始した.2週間後,リズモンCTG点眼液C0.5%で掻痒感が出現したと訴えが表 1 前医での点眼薬・眼軟膏処方歴リズモンTG点眼液C0.5% コソプト配合点眼液 アゾルガ配合懸濁性点眼液 ネオメドロールEE軟膏 アジマイシン点眼液 ベガモックス点眼液C0.5% コソプトミニ配合点眼液C0.4Cml ガチフロ点眼液0.3% タリビッド眼軟膏 ベタメタゾンリン酸エステルNa・PF点眼液C0.1% 眼・耳科用リンデロンCA軟膏 8年前C ○ 3年前C ○ 9カ月前C ○C ○ 4カ月前C ○C ○C ○C ○ 2カ月前C ○C ○C ○C ○ 1カ月前C ○C ○C ○ 当科受診直前C ○C ○C ○ 

図 1 初診時外眼部所見 a, c:右眼.b, d:左眼.両上眼瞼の瞼縁の発赤,腫脹,黄色の滲出物がみられた.あったが,特記すべき所見はなかった.リズモンCTG点眼液常値C173.0CIU/ml以下)と高値であったが,好酸球はC3.3%0.5%をカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼液(正常値C0.4.8.6%)と正常であった.また,MAST36とい(ミケルナ配合点眼液)に変更した.以降,眼瞼炎の再燃はC1うC36種類のアレルゲンの特異的CIgEを調べる血液検査はす年間みられず,近医で経過観察することとなった.なお,皮べて陰性であった.膚科で施行された血液検査の結果,IgEがC1,580.0CIU/ml(正
図 2 初診から 1カ月後の外眼部所見 a:右眼.b:左眼.上眼瞼の腫脹や滲出物は改善しなかった.
図 3 パッチテスト 72時間後
7種類の薬剤の背部へのパッチテストを行った結果を示す.①フルオロメトロン点眼液C0.1%,②コソプト配合点眼液,③タリビット眼軟膏C0.3%,④プロトピック軟膏C0.1%,⑤眼・耳科用リンデロンCA軟膏,⑥白色ワセリン(コントロール),⑦プレドニン眼軟膏.このうち②のコソプト配合点眼液のみ陽性となった.C
II 考   按
眼瞼皮膚は人体のなかでもっとも薄く,バリア機能が弱いため,点眼薬の主成分または防腐剤や緩衝剤などにより感作されやすいとされる2,4,7).接触皮膚炎はすべての点眼薬で発症する可能性はあるが,とくに発症しやすい点眼薬の成分として,フェニレフリン塩酸塩とフラジオマイシン硫酸塩が知られている3.14).そのほかに,ゲンタマイシン硫酸塩,クロラムフェニコール,チモロールマレイン酸塩,ラタノプロストなどがある3.14).近年では,緑内障治療点眼薬であるブリC1324  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025モニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩水和物による眼瞼炎の発症も知られている.また,主成分だけではなく防腐剤の塩化ベンザルコニウムや添加物のCf-アミノカプロン酸によっても発症することがある3.7).注意すべきは抗アレルギー剤であるケトチフェンフマル酸塩,アンレキサノクス,クロモグリク酸ナトリウムなどや副腎皮質ステロイドでも接触皮膚炎が起こることである2,6,7).接触皮膚炎の臨床所見は,紅斑,丘疹,小水疱であるが,眼瞼皮膚はきわめて薄いため,小水疱ではなく紅斑や浮腫が険になることが多い1,2).慢性化した場合には苔癬化を伴う痂皮が亀裂などを呈することがあるという.本症例は,上眼瞼縁に限局して発赤,腫脹,黄色滲出物がみられ,眼科医がときに遭遇するフェニレフリンやフラジオマイシンによる接触皮膚炎でみられる上下眼瞼全体の浮腫性紅斑と所見が異なっていた.そのため,当初は眼瞼炎の原因として細菌感染やなんらかのアレルギーを考えて治療を行ったが改善しなかった.治療に難渋したため,皮膚科へコンサルトした.皮膚科でも当初は点眼薬による接触皮膚炎としては非典型的な所見と考えられ,タクロリムス軟膏が処方された.しかし,改善しないため点眼薬による接触皮膚炎の可能性を考え,パッチテストが施行された.パッチテスト陽性となったコソプト配合点眼薬を中止すると眼瞼炎は速やかに改善したが,眼瞼皮膚の浮腫性紅斑ではなく眼瞼縁を中心に発赤,腫脹,黄色滲出物を呈した理由は不明である.毛.炎の所見に類似しており,二次的な細菌感染やCDemodex関連の炎症も可能性として考えられるが,本症例では原因薬剤の中止のみで速やかに皮疹が消失しており,追加の抗菌治療や抗寄生虫治療を行わずに改善がみられたことから,接触性皮膚炎が主たる病態であった可能性が高い.なお,初診時に病巣部の培養検査を行うべきであったが,今回は未施行であった.点眼薬による接触皮膚炎の発症時期については,一般に感作までの期間は長く,数年間使用後に発症することも多いと(106)

図 4 コソプト配合点眼液中止後 1週間の外眼部所見 a:右眼.b:左眼.上眼瞼炎は速やかに改善した.されている2,7).点眼薬の使用開始から発症までの期間が長いことが,点眼薬による接触皮膚炎の診断をむずかしくしていると考えられている2).その理由として,点眼薬はごく少量が短時間目のまわりに付着するのにとどまるため,簡単には感作が成立せず,眼瞼皮膚が乾燥する,こすって皮膚に傷がつくなどの特定の条件がそろったタイミングで抗原として認識されるからと考えられている2).本症例はC8年前から緑内障の点眼治療が開始され,9カ月前から両眼瞼炎が出現していたということから,感作までの期間はかなり長いものであった.一般に,眼瞼炎の原因として,黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌などの細菌,真菌,Demodexなどの感染以外に,アトピー性皮膚炎,脂漏性皮膚炎,接触皮膚炎などがある15).しかし,死菌を抗原とするアレルギー反応もあり,眼瞼炎の真の病態を理解するのはむずかしい15).現実には抗菌薬の眼軟膏,副腎皮質ステロイドの眼軟膏,両者の配合剤の眼軟膏のいずれかでCempiric therapyを行っていることが多い.本症例で明らかなように,接触皮膚炎の場合はアレルゲンが除去されない限り,副腎皮質ステロイドを投与しても改善がない.接触皮膚炎の原因を特定するためにはパッチテストを行う2.8).現在,ジャパニーズスタンダードアレルゲンという日本人の接触皮膚炎の原因となることが多いC25種類のアレルゲンが知られており,パッチテストパネル(佐藤製薬)という検査薬も市販されている.25種類のアレルゲンのなかに,眼瞼接触皮膚炎の原因となることが多いフラジオマイシン硫酸塩が含まれている.パッチテストには偽陽性,偽陰性があることも知っておくべきである.本症例では陽性結果が得られており,原因薬剤の中止のみで速やかに皮膚症状が消失したことから,偽陰性の影響はなかったと考えられる.原因アレルゲンを調べる検査としてスクラッチテストもあるが,スクラッチテストは即時型アレルギー反応の評価に適しており,パッチテストは遅延型アレルギー反応の評価に適している.本症例では,点眼薬に対する接触皮膚炎が疑われ,遅延型アレルギー反応の評価を目的としてパッチテストを施行した.接触皮膚炎の治療は原因物質の除去と副腎皮質ステロイドの外用薬が基本である2,5,6).本症例はパッチテストが陽性となった点眼薬を中止するのみで改善がみられた.薬剤アレルギーを疑った場合は,薬剤をすべて中止して改善がみられるかどうかを診ることである.本症例の反省点は,緑内障点眼薬を原因として疑い中止しなかったことである.皮膚科にコンサルトする前にすべての点眼薬を中止することで眼瞼炎の改善がみられたはずである.緑内障の治療薬は疾患の性質上,中止することがためらわれるが,進行した緑内障や落屑緑内障でなければ一次的な中止は可能であると考える.今回の原因となったコソプト配合点眼液は,前医では防腐剤フリーのユニットドース製剤が処方されていた.よって,原因は防腐剤ではないものの,配合剤であるため原因がドルゾラミドなのか,チモロールマレイン酸塩なのかは特定できなかった.緑内障治療点眼薬のなかでチモロールマレイン酸塩点眼薬は眼瞼の接触皮膚炎の原因物質として報告されている13,14).本症例も長年チモロールマレイン酸塩を含む点眼液(リズモンCTG点眼液C0.5%,コソプト配合点眼液,コソプトミニ配合点眼液,アゾルガ点眼液)が処方されていたことを考えるとチモロールマレイン酸塩が原因の可能性が高い.近年では,緑内障治療点眼薬で多くの配合剤が流通しており,接触皮膚炎の原因物質の同定をむずかしくしている7).本症例ではフラジオマイシン硫酸塩も接触皮膚炎の被疑薬として考えられるが,パッチテストの当日,フラジオマイシン硫酸塩を含む眼軟膏は持参されなかったため施行できなかった.C
III 結   論
上眼瞼縁の滲出物がめだつ眼瞼接触皮膚炎を経験した.抗菌薬や副腎皮質ステロイドの治療に反応しない眼瞼炎は接触皮膚炎の可能性を疑い,すべての点眼薬を一時中止すること,そして原因検索のためパッチテストを施行することが大切であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文   献
1)高山かおる,横関博雄,松永佳世子ほか:接触皮膚炎ガイドラインC2020.日皮会誌 130:523-567,C20202)高山かおる:眼瞼・結膜に起こる接触皮膚炎.OCULISTAC79:33-40,C20193)西 純平,杉田和成:痒みの強い目の周りの皮疹を上手に治療する.MB DermaC339:9-16,C20234)椛島健治:接触皮膚炎.VisualCDermatolC18:1219-1220,C20195)稲田紀子:点眼薬関連アレルギーと接触眼瞼皮膚炎.日本の眼科 87:855-858,C20166)佐々木香る:点眼薬アレルギーによる眼瞼炎.あたらしい眼科 34:1423-1424,C20177)海老原伸行:点眼薬による接触皮膚炎.アレルギーC71:C258,C20228)伊佐見真実子,矢上晶子,亀山梨奈,ほか:3年間の当科での眼瞼の接触皮膚炎を疑いパッチテストを行った症例のまとめ.皮膚病診療 33:753-757,C20119)峠岡理沙,和田 誠,加藤則人:硫酸フラジオマイシンによる接触皮膚炎.Visual DermatolC12:162-163,C2013
10)西岡和恵,小泉明子,瀧田祐子:最近C5年間の外用薬によるアレルギー性接触皮膚炎C46例のまとめ.JCEnvironCDer-matol Cutan AllergolC9:25-33,C201511)鈴木加余子:アレルギー性接触皮膚炎.現代医学C70:120-123,C202312)松立吉弘,村尾和俊,久保宜明:ヒアレインミニ点眼液とミドリンCP点眼液による接触皮膚炎.皮膚病診療 37:475-478,C201513)廣門未知子,川口とし子,金井 光:緑内障治療点眼剤による接触皮膚炎のC5例.皮膚科の臨床 48:773-776,C200614)尾崎弘明,ファン・ジェーン,内尾英一,ほか:緑内障点眼薬による接触性皮膚炎のC1例.臨眼C64:1395-1399,C201015)EliasonJA:Blepharitis:OverviewCandCClassi.cation.In:KrachmerCJH,CMannisCMJ,CHollandEJ(Eds):CorneaC3rd edition, p403-406, Mosby, 2011C*     *     *

基礎研究コラム:疾患ゲノム研究

2025年10月31日 金曜日

疾患ゲノム研究遺伝性疾患に対する遺伝子解析アプローチ次世代シークエンサーの登場以降,大規模な遺伝子解析が行われるようになり,集団中にC1%未満の頻度で存在するレアバリアントから一塩基多型(singleCnucleotideCpolymor-phism:SNP)に代表されるコモンバリアントまで,ヒトゲノム情報の全容が徐々に明らかになりつつあります.同時に,遺伝性疾患に対する遺伝子解析手法が発展し,今日のゲノム医療の実現につながっています.たとえば,遺伝的要因と環境的要因が複合的に病気に関与する多因子疾患(加齢黄斑変性や緑内障など)に対して,SNPアレイを用いたゲノムワイド関連解析(genome-wideCassociationstudy:GWAS)が有力な解析手法として用いられ,多数の疾患感受性領域が同定されてきました.さらに,GWASで同定されたCSNPを用いて疾患発症リスクを予測する試みが行われています.また,単一遺伝子病(遺伝性網膜ジストロフィなど)においては,全ゲノムシークエンスによるレアバリアント解析が行われるようになり,同定した原因遺伝子をターゲットとした創薬開発が行われています.
レアバリアントとコモンバリアントの相補的関係上述のように,多因子疾患に対してコモンバリアント,単一遺伝子病に対してレアバリアントに着目した遺伝子解析が行われてきました.このアプローチは一定の成果をあげてきたものの,依然として未解明な遺伝要因が多く残っています.多因子疾患においては,GWASで同定されるCSNPは遺伝要因の一部しか説明できないことが明らかになり,未解明な遺伝要因は「失われた遺伝性(missing heritability)」とよばれています.Missing heritabilityを説明する原因として,たとえば,多因子疾患におけるレアバリアントの関与が考えられています.詳細は割愛しますが,burdentestやCsequenceCkernelCassociationtest(SKAT)などのレアバリアンの検出力を上げる解析手法により,GWASでは検出できないレアバリアントの関与が検証されています1).一方で,単一遺伝子病においてもコモンバリアントの関与が注目されています.たとえば,神経疾患の分野では,希少なCneurodevelopmentaldisorderは単一遺伝子病と考えられてきましたが,近年ではコモンバリアントの関与も報告されています2).無数のコモンバリアントがポリジェニックに疾患に関与し,レアバリアントとコモンバリアントのリスク効果が一定の閾値を超えることで疾患が発症する「易罹病性・閾値モデル(liability-thresholdmodel)」が実証されていま後藤健介大阪大学ヒューマン・メタバース疾患研究拠点名古屋大学大学院医学系研究科眼科学
図 1 バリアントのアレル頻度と疾患寄与度の関係一般的に,疾患発症に強く寄与するバリアントはアレル頻度が低い傾向があり,逆に頻度が高いバリアントほど,疾患発症への寄与度は弱いとされている.単一遺伝子病では,レアで寄与度の高いバリアントが関与しているのに対し,多因子疾患では,コモンで寄与度の低いバリアントが関与していると考えられている.しかし近年,レアバリアントとコモンバリアントの双方が疾患に関与する可能性が報告されている.す.また,日本のように地理的に隔離された島国では,創始者効果によって広まった高頻度なバリアントが単一遺伝子疾患に関与することも報告されています3).

今後の展望このように,従来の「レアバリアント」や「コモンバリアント」という二元的なとらえ方に代わり,これらの相補的な効果が疾患に寄与するという考え方が広まりつつあります.疾患ゲノム研究はめざましい進展をとげており,病気の遺伝的理解がさらに深まることで,ゲノム医療のさらなる発展が期待されています.文   献1)WuCMC,CLeeCS,CCaiCTXCetal:Rare-variantCassociationCtesting for sequencing data with the sequence kernel aso-ciation Test. Am J Hum Genet 89:82-93,C2011
2)HuangCQQ,CWigdorCEM,CMalawskyCDSCetal:ExaminingCtheCroleCofCcommonCvariantsCinCrareCneurodevelopmentalCconditions. NatureC636:404-411,C2024
3)GotoCK,CKoyanagiCY,CAkiyamaCMCetal:Disease-speci.cCvariantCinterpretationChighlightedCtheCgeneticC.ndingsCinC2325CJapaneseCpatientsCwithCretinitisCpigmentosaCandCallied diseases. J Med GenetC61:613-620,C2024

(93)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1311 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY