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抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対するファリシマブの使用経験

2023年10月30日 月曜日

●連載◯136監修=安川力五味文116加齢黄斑変性に対するファリシマブの武内潤杏林大学医学部眼科学講座使用経験滲出型加齢黄斑変性の治療においては抗CVEGF薬が中心的役割を担っており,2022年C5月からは新たにバイスペシフィック抗体医薬品であるファリシマブが使用可能となった.本稿では筆者の施設(名古屋大学)における滲出型加齢黄斑変性に対するファリシマブの現時点の使用方針と使用経験について述べる.はじめに現在,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療において,抗CVEGF薬をCtreatandextend(TAE)法で投与することが,長期的な視力維持が期待できること,および通院回数を抑制することができることから主流となっている1).一方で高額である抗CVEGF薬の頻回投与が必要となる場合も多く,患者や医療経済に与える負担が大きいことが課題である.そんな状況のなか,VEGFとアンジオポエチン(angiopoietin:Ang)-2の両方に作用するバイスペシフィック抗体であるファリシマブが登場し,硝子体内注射間隔の延長や長期的な視力維持につながることが期待されている.ファリシマブの投与方法AMDに対するファリシマブの投与方法は添付文書に以下のように記載されている.「ファリシマブ(遺伝子組換え)としてC6.0Cmg(0.05Cml)をC4週ごとにC1回,通常,連続C4回(導入期)硝子体内投与するが,症状により投与回数を適宜減じる.その後の維持期においては,通常,16週ごとにC1回,硝子体内投与する.なお,症状により投与間隔を適宜調節するが,8週以上あけること」.今までに長期の使用経験のあるアフリベルセプトやラニビズマブと比較すると,導入期の投与回数がC3回から「4回(適宜減じる)」になっている点と,導入期以降の最短投与期間がC4週間ではなく「8週間」となっている点に注意が必要である.未治療眼に対する使用今まで筆者の施設では未治療のCAMD眼に対しては,原則的にアフリベルセプトを第一選択とし,導入療法C3回後にC2週間間隔で投与間隔を調整するCTAEで使用していた.現在はファリシマブも未治療眼に対して使用しており,投与方法はアフリベルセプトと統一して導入療(65)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY法C3回,その後はC2週間間隔調整でCTAEとしている.添付文書では維持期においては「通常,16週ごと」と記載があるが,ファリシマブの国際共同第III相試験であるCTENAYA試験では治験終了時のC112週時点においてC16週まで投与間隔が延長できた症例はC59%であったため2),導入療法後すぐに投与間隔をC16週まで延長してしまうと,治療が不十分となってしまう患者が一定数出てしまうと考えられる.そのため,ファリシマブも従来通りのCTAEで使用している.ただし,ファリシマブの最短投与間隔であるC8週間ごとで投与しても疾患活動性を抑えきれない場合には,アフリベルセプトまたはブロルシズマブへの切り替えを検討している.アフリベルセプトからの切り替えによる使用筆者の施設では現時点ではアフリベルセプトで一定期間治療を継続してもC12週以下の投与間隔となっている患者で,本人の希望があった場合に,投与間隔の延長を期待してファリシマブへの切り替えを行っている.切り替え前に毎月投与が必要であった患者は,疾患活動性をしっかり抑え込むことを目的にC4週ごとC3回の導入期を設けている.一方,切り替え前に注射間隔がC6週間以上だった患者は導入期は設けず,アフリベルセプトでの治療間隔を考慮して切り替え当初からC4~12週間隔のTAEを開始し,滲出性変化が抑えられていれば最大C16週間隔まで延長している(図1).切り替え後,ファリシマブ投与を繰り返し行ってもアフリベルセプトより明らかな改善がみられない場合や,維持期に最短のC8週投与間隔でも滲出の増悪がみられる場合は,未治療眼と同様にアフリベルセプトへのスイッチバック,またはブロルシズマブへの変更を行っている(図2).筆者の施設でアフリベルセプトの投与間隔がC4~12週であったC54例C54眼を対象とし,切り替え前後の間隔は一定としてファリシマブをC1回投与した結果を評価したところ,切り替え後の滲出性変化は,改善C28眼(52%),不変C8眼(15%),悪化C18眼(33%)であった3).あたらしい眼科Vol.40,No.10,20231323図1効果良好例77歳,男性.ポリープ状脈絡膜血管腫症.アフリベルセプトによる治療では毎月投与を行っても網膜下液が残存していたが,ファリシマブへ切り替え後は速やかに網膜下液が消退した.3回の導入療法後Ctreatandextend法へ移行し,投与間隔をC12週まで延長しても滲出性変化の再発は認めない.おわりにファリシマブはCVEGFとCAng-2を同時に阻害できる新規薬剤であり,上市からC1年以上が経過し,実臨床における短期治療成績が報告されはじめている.今後のさらなる検討により,長期の治療成績や,どのような患者に対してファリシマブが有効であるのかが明らかとなることを期待したい.C1324あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023アフリペルセプト×564週ファリシマブ4週ファリシマブ4週ファリシマブ4週ファリシマブ5週アフリベルセプト図2効果不良例81歳,男性.典型加齢黄斑変性(typeC1CmacularCneovascular-ization).アフリベルセプトによる治療では毎月投与を行っても網膜下液・網膜色素上皮下の滲出が残存していた.ファリシマブへ切り替え後も毎月投与を行ったが滲出性変化の改善はなく,ファリシマブの最短投与間隔であるC8週間までの延長が困難であったためアフリベルセプトへスイッチバックした.文献1)OkadaCM,CKandasamyCR,CChongCEWCetal:TheCtreat-and-extendCinjectionCregimenCversusCalternateCdosingCstrategiesCinCage-relatedCmaculardegeneration:ACsys-tematicCreviewCandCmeta-analysis.CAmCJCOphthalmolC192:184-197,C20182)HeierCJS,CKhananiCAM,CQuezadaCRuizCCCetal;TENAYACandCLUCERNEInvestigators:E.cacy,Cdurability,CandCsafetyCofCintravitrealCfaricimabCupCtoCeveryC16CweeksCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration(TENAYACandLUCERNE):twoCrandomised,Cdouble-masked,CphaseC3,non-inferioritytrials.LancetC399:729-740,C20223)等々力崇仁,武内潤,太田光ほか:a.iberceptからCfar-icimabへ切り替え前後の加齢黄斑変性眼の前房水中サイトカイン濃度.第C127回日本眼科学会総会(2023年C4月)(66)

緑内障:緑内障とグリア機能

2023年10月30日 月曜日

●連載◯280監修=福地健郎中野匡280.緑内障とグリア機能篠崎陽一東京都医学総合研究所視覚病態プロジェクトグリア細胞は,脳や網膜など神経組織に存在する非神経細胞である.緑内障患者の網膜や視神経乳頭部で大きく変化することが知られていたが,その役割については不明であった.本稿では,グリア細胞の機能異常が正常眼圧緑内障様症状を惹起する知見およびそのメカニズムを紹介する.●はじめに緑内障は,日本における中途失明原因第C1位の疾患である.もっとも広く知られたリスク因子は高眼圧であるが,アジア人,とくに日本人緑内障患者の大部分は正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)であるため,眼圧以外の要因について考える必要がある.緑内障は多因子疾患であるため,さまざまな要因が緑内障のリスクを上昇させる.それらのなかで,筆者らはとくに「グリア細胞」とよばれる細胞群が緑内障発症に関与する可能性について研究を進めている.グリア細胞は脳や網膜など神経系を構成する非神経細胞である.従来,これらの細胞は重要な機能をもたない,単に神経細胞の間を埋めるだけの「膠(にかわ)=glue」のような細胞と考えられており,膠を意味するギリシャ語から「グリア」とよばれるようになった.その後の研究から,グリア細胞は正常な神経組織の形成や脳機能発現に必須であることが明らかとなった.また,さまざまな神経傷害や神経変性疾患において「反応性化(reactivegliosis)」とよばれる応答を示す.緑内障患者網膜や視神経乳頭部においても反応性グリアの存在が報告されていることから,緑内障病態におけるグリア細胞の関与が予想されていた.本稿では,グリア細胞の一種「アストロサイト」の機能異常が,NTG様の症状を引き起こす可能性に関する知見1)を紹介する.C●グリア細胞網膜を構成するグリア細胞には,神経組織内の免疫担当細胞であるミクログリア,網膜特異的グリアであるMuller細胞,そしてアストロサイトが含まれる(図1).また,視神経周囲には髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトが存在する.ミクログリアは神経線維層~内網状層(63)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY神経線維層神経節アストロサイト細胞層内網状層ミクログリアMuller内顆粒層細胞外網状層外顆粒層図1網膜グリアの分布グリアは網膜において特徴的な分布を示す.まで広く分布する.Muller細胞は網膜全層を貫通する.アストロサイトは網膜最内層に位置してメッシュ状の構造を形成し,とくに視神経乳頭部~視神経においては非常に高い密度で存在する.緑内障でもっとも脆弱な部位の一つである篩状板では,アストロサイトが視神経周囲を直接取り囲むため,その異常が緑内障発症の原因となる可能性が推察される.C●グリアと緑内障ゲノムワイド関連解析研究から,コレステロールや脂肪酸を細胞外へと輸送するCATP-bindinCcassetteCtrans-porterA1(ABCA1)遺伝子のC1塩基多型が緑内障発症あたらしい眼科Vol.40,No.10,20231321図2グリア異常と緑内障アストロサイトの異常はCNTG様症状を誘導する.リスクに相関することが示された2~4).しかし,その後の研究からCABCA1がどのように緑内障発症に関与するかはまったく不明であった.そこで筆者らはCABCA1と緑内障との関連を明らかにするため,①CABCA1の機能的欠損と異常な機能の獲得のどちらが関与するか,②CABCA1は眼圧を変化させることによって緑内障発症に関与するか,③どの細胞に発現するCABCA1が緑内障発症にかかわるか,のC3点を中心に解析を行った.まず,ABCA1欠損マウスを用い,緑内障でとくに傷害されやすい神経細胞である網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)への影響を調べた.若齢(3カ月齢)では野生型マウスとCABCA1欠損マウス間におけるRGC数の差は認められなかったが,中年齢(12カ月齢)ではCABCA1欠損マウスのCRGC数が減少していた.このとき,ABCA1欠損マウス網膜ではCRGCのアポトーシスが亢進していた.つまり,ABCA1の欠損が緑内障と関連すると推察された.次に,この結果が眼圧変化によるものかを検討した.ABCA1欠損マウスは,月齢にかかわらず野生型マウスと比べて眼圧に変化はなかった.したがって,眼圧以外の要因によって緑内障様症状が誘導されると推察された.続いて,マウス網膜のCABCA1遺伝子発現細胞を磁気分離法により検討すると,アストロサイトおよびMuller細胞画分での発現が高かった.網膜切片を用いた免疫組織化学染色では,ABCA1は網膜最内層に線維状のシグナルとして認められ,アストロサイトマーカーであるCGFAPとよく一致した.これらの結果からABCA1はアストロサイトに高発現することが明らかとなった.アストロサイト特異的にCABCA1を欠損するマウスを用いて検討したところ,眼圧は顕著な変化を示さず,RGCが加齢依存的に脱落したほか,網膜菲薄化,RGC樹状突起退縮,シナプス脱落,視神経膨潤,視覚応答の減弱などの表現型を示し,アストロサイトの機能異常がNTG様の症状を引き起こすことが明らかとなった(図2).1細胞CRNAシークエンスによる詳細な解析から,アストロサイトがケモカインを産生して神経炎症を惹起することや,RGCにおける過剰興奮などが緑内障発症の引き金となる可能性を見出した.本研究により,世界で初めてアストロサイトの遺伝子異常がCNTG発症の原因となる可能性が示された.今後はさらに研究を進め,グリアを標的としたCNTG治療法の開発に努めていきたい.文献1)ShinozakiY,LeungA,NamekataKetal:Astrocyticdys-functionCinducedCbyCABCA1Cde.ciencyCcausesCopticCneu-ropathy.SciAdv8:eabq1081,C20222)GharahkhaniCP,CBurdonCBP,CFogartyCRCetal:CommonCvariantsCnearCABCA1,CAFAP1CandCGMDSCconferCriskCofCprimaryCopen-angleCglaucoma.CNatCGenetC46:1120.1125,C20143)HysiCPG,CChengCC-Y,CSpringelkampCHCetal:Genome-wideanalysisofmulti-ancestrycohortsidenti.esnewlociin.uencingintraocularpressureandsusceptibilitytoglau-coma.NatGenetC46:1126-1130,C20144)ChenY,LinY,VithanaENetal:CommonvariantsnearABCA1andinPMM2areassociatedwithprimaryopen-angleglaucoma.NatGenetC46:1115-1119.C20141322あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023(64)

屈折矯正手術:上方角膜切開によるICL手術

2023年10月30日 月曜日

●連載◯281監修=稗田牧神谷和孝281.上方角膜切開によるICL手術神谷和孝北里大学医療衛生学部視覚生理学通常,手術適応となる若年者は直乱視を有することがほとんどであり,上方切開アプローチによるCICL手術は一定の乱視矯正効果を有する.また,それに続くCICLの垂直固定は手術手技がシンプルであり,ややCvault量は低くなるが,平均裸眼視力C1.58,矯正視力C1.78であり,重篤な合併症もなく,とくにノントーリックモデルを選択する際に有用と考えられる.C●はじめに後房型有水晶体眼内レンズ(implantableCcollamerlens:ICL)手術では,通常,耳側角膜切開から水平方向にレンズが固定される.実際にメーカーが推奨するオーダリングシステムでは,水平固定が前提となっている.しかし,ICL手術を希望する若年者ではそのほとんどが直乱視であり1,2),耳側切開によって乱視を惹起する可能性が高い.とくにノントーリックCICLを選択する際は,自覚乱視度数がわずかであっても一定の角膜乱視が存在することが多く2),上方切開によるアプローチはさらなる術後アウトカムの向上が期待できる.さらに,ホールCICLの導入によって虹彩切開術が不要となり,レンズが任意の方向に固定可能となった背景から,上方切開からそのまま垂直方向に固定できれば,レンズをC90°回転させる操作が不要となり,手術操作がよりシンプルとなることから,術者の負担も軽減しうる.これまで上方角膜切開によるアプローチやそれに続くICLの垂直固定については,一部の術者が経験的な観点から限定的に施行している現状があるが,実際の手術成績についての詳細な検討はなされていない.本稿では,自験例における上方切開による角膜乱視変化,惹起乱視2)や上方切開・垂直固定によるCICL手術成績3,4)について概説し,実際の上方切開によるCICL手術やレンズ選択における注意点5)についても紹介する.C●上方切開による角膜乱視変化・惹起乱視3.0Cmm耳側切開および上方切開によるCICL挿入術を施行したC121例C121眼を対象として,術前,術後C3カ月の時点で,オートケラトメータによる角膜乱視量と乱視軸を検討した2).その結果,耳側切開群では角膜乱視が有意に増加し,上方切開群では角膜乱視が有意に減少した(図1).耳側切開では,算術平均値ではC0.48Dの直乱視化を生じたのに対し,セントロイド値ではC0.23D(61)の直乱視化であった.上方切開でも算術平均値では0.57Dの倒乱視化を生じたのに対し,セントロイド値ではC0.47Dの倒乱視化であった(図2).以上より,ICL手術は算術平均としては約C0.5Dの惹起乱視を生じるが1,2),セントロイド値としては,耳側切開で約C50%,上方切開で約C80%と減少する.とくに通常行う耳側切開では,白内障手術の惹起乱視ほどではないものの,算術平均とセントロイド値の乖離は少なくない.個々の術者によって手術手技がそれぞれ異なることから,術者特有の惹起乱視については個々で把握しておくことが望ましい.本来乱視はベクトル量であり,セントロイド値は手術全体のトレンドを理解するうえで重要であり,メーカーのオンラインカリキュレーターには,各術者の惹起乱視の算術平均値よりセントロイド値を組み込むべきであろう.現状ではCICLカリキュレーターには惹起乱視は一切考慮されておらず,実際にそのような対応が困難であり,レンズを発注する際に微調整することも考慮したい.C●上方切開・垂直固定による手術アウトカムICL挿入術を施行したC43例C71眼(年齢C30.3±6.3歳,術前屈折度数.6.20±2.60D)を対象として術後成績について検討した.その結果,術後C1年の時点における裸眼視力(logMAR)は.0.20±0.10(平均小数視力C1.58)矯正視力(logMAR)は.0.25±0.07(平均小数視力C1.78),と良好であった3,4).裸眼視力C1.2以上がC100%(図3),矯正視力不変がC29眼(58%),1段階向上C18眼(36%),1段階悪化C3眼(6%)であり,2段階以上低下した症例を認めなかった.目標矯正度数に対して±0.5,1.0D以内の割合が,それぞれC98,100%,術後C1週からの屈折変化は.0.04±0.18Dであった(図6).術後C1週,1,3,12カ月の時点におけるCvault量は,それぞれC456±197,C465±192,435±193,382±171Cμmと通常の水平固定と比較してやや低めであった.術後早期の軽度グレア・あたらしい眼科Vol.40,No.10,202313190910-1810/23/\100/頁/JCOPY耳側切開上方切開45°45°角膜乱視(D)2.01.51.00.50,0,90°90°180°180°135°135°重心値0.23D@82°±0.52D重心値0.47D@1°±0.45D算術平均値0.48D±0.30D算術平均値0.57D±0.30D重心値重心値の95%信頼区間図1上方切開・耳側切開による角膜乱視量変化全データの95%信頼区間同心円=0.5D刻み上方切開では有意に減少する一方,耳側切開では有意に角図2上方切開・耳側切開による惹起乱視の倍角座標表示膜乱視が増加した.(文献C2より改変引用)耳側切開の算術平均値ではC0.48D,重心値ではC0.23Dの直乱視化,上方切開の算術平均値ではC0.57D,重心値では術前術後術前術後耳側切開情報切開100%98%100%100%80%0.47Dの倒乱視化を生じた.(文献C2より改変引用)累積眼数(%)ではC1サイズ大きくするなど,適宜対処する必要がある.60%もちろんトーリックCICLでも垂直固定することは可能で40%あるが,自覚屈折乱視軸・角膜乱視軸をC90°逆転させたレンズをオーダーする必要があり,レンズ回転指示シートもC90°異なるため,乱視軸の間違いに細心の注意を払20%0%20/12.520/1620/2020/25累積Snellen視力(20/×以上)図3上方切開・垂直固定によるICL手術前後の裸眼視力平均裸眼視力はC1.58,全例裸眼視力C1.2以上と良好であった.(文献C3より改変引用)ハローをC4眼(6%)認めたが,重篤な合併症は生じなかった.C●手術やレンズ選択における注意点手術全体の流れは,耳側切開によるCICL手術とほぼ同様であり,特殊な手術器具を必要としない.しかし,上方切開によるCICL手術はワーキングスペースが狭く,やや手術操作が行いにくい印象を受ける.とくに上眼瞼の影響から角膜表面に粘弾性物質が貯留し,上方のハプティクスを虹彩下に入れる手術操作の視認性が低下しやすい.創口閉鎖の際もスペースが狭ければ,少しだけ下方視してもらうなどの工夫も必要であろう.したがって,すぐに初心者が飛びつくのではなく,ある程度習熟してから検討すべきである.その後,そのままCICLを垂直固定する場合は,毛様溝は水平径より垂直径が長いことから,通常のCICLサイズを選択すると,vault量がやや低くなる傾向がある.前眼部光干渉断層計の垂直方向の撮影像を用いることで,従来とほぼ同様の予測性が得られるが,一部の患者C1320あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023わなければならない.ただし,前述の通り,解剖学的に垂直径が長いことからトーリックレンズの軸回旋が生じにくい可能性もあり,さらなる検証が必要であろう.その一方で,水平固定を行う場合はサイズ選択に困ることはないが,垂直方向に入ったレンズをC90°回転させる必要がある.回転操作自体はそれほどむずかしくないが,一部の患者では回転させにくい場合があり,その際は逆方向に回転させるか,ノントーリックレンズでサイズ選択に大きな問題がなければ,そのまま固定してもかまわない.文献1)KamiyaCK,CShimizuCK,CIgarashiCACetal:SurgicallyCinducedastigmatismafterposteriorchamberphakicintra-ocularlensimplantation.BrJOphthalmol93:1648-1651,C20092)KamiyaCK,CAndoCW,CTakahashiCMCetal:ComparisonCofCmagnitudeCandCsummatedCvectorCmeanCofCsurgicallyCinducedastigmatismvectoraccordingtoincisionsiteafterphakicCintraocularClensCimplantation.CEyeVis(Lond)C8:C32,C20213)KamiyaK,AndoW,HayakawaHetal:Vertically.xatedposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCthroughasuperiorcornealincision.OphthalmolTher11:C701-710,C20224)神谷和孝:ICLの上方切開・垂直固定.有水晶体眼内レンズ手術(神谷和孝,清水公也編),p91-96,医学書院,20225)神谷和孝:ICL上方切開のコツと問題点.IOL&CRSC36:C559-566,C2022(62)

眼内レンズ:エタニティー挿入眼におけるYAGレーザー後囊切開術後の再閉塞

2023年10月30日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋443.エタニティー挿入眼におけるYAG太田晶子近藤峰生三重大学医学系研究科臨床医学系講座眼科学レーザー後.切開術後の再閉塞後発白内障は眼内レンズ挿入術後の約C50%の患者に発症する合併症である.視力障害が進行するとCYAGレーザー後.切開術が行われるが,まれに水晶体後.開口部の再閉塞により視力障害を起こすことが知られている.本稿では,眼内レンズのエタニティー挿入眼に生じたCYAG治療後の水晶体後.開口部の再閉塞の特徴と過程を紹介する.●はじめに後発白内障は,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼において,術後数カ月から数年で水晶体後.が混濁してくることにより視機能が障害され発症する.治療はCNd:YAGレーザー後.切開術(以下,YAG)を行うことが一般的であるが,YAG後,水晶体上皮細胞の再増殖により後.切開窓(posteriorCcapsuleCaperture:PCA)が再閉塞する症例も報告されている1,2).今回,筆者らはCYAG後のCPCA再閉塞を複数のエタニティー挿入眼にて観察したので,その特徴と閉鎖過程をまとめた.C●対象と結果眼科三宅病院と付属施設にてC2009~2022年に白内障手術もしくは白内障・硝子体トリプル手術を行った患者で,YAG後CPCAの再閉塞を認め,再度CYAGが必要となったC22眼C17例の検討を行った.症例の内訳としては白内障手術単独がC12眼,トリプル手術がC10眼であった.そのうちC16眼(73%)がエタニティー挿入眼であった.すべての症例で再度CYAGにより,再閉塞と視力低下は改善したが(図1),そのうちC7眼ではC2回目の再閉塞を認め,3回目のCYAGを要した症例もあった.IOL挿入術から後発白内障に対するCYAGまでの期間は4.3~37.3カ月(平均C19.5C±8.7カ月)であった.そこからCPCA再閉塞に対するC2回目のCYAGレーザーが必要となるまでの期間はC4.3~26.6カ月(平均C10.4C±5.8カ月)であり,PCA再閉塞の再発に対するC3回目のCYAGまでの期間はC2.8~8.1カ月(平均C6.0C±1.7カ月)であった.症例数は少ないが,間隔は統計的に有意に短縮しており(p=0.017,p=0.004),どれも混濁の形状としては扁平Cpearl状の混濁であった.図12回目のYAG前後の前眼部写真a,b:後発白内障に対するC1回目のCYAG後からC6カ月後の前眼部写真(Ca:徹照法,Cb:直接照明法).c,d:PCA再閉塞に対するC2回目のCYAG直後の前眼部写真(Cc:徹照法,d:直接照明法).C●孝按今回,筆者らが認めた後発白内障CYAG後のCPCA再閉塞の特徴は,すべてがCElshnigpearl形成を伴う扁平な混濁であったことである.IOLの表面に沿って単層の増殖組織が伸展しており,IOLの材質がCPCA再閉塞に関与していることが推測される.YAG後のCPCA再閉塞に関する報告は多くはないが,注意して観察すればまれな合併症ではないと考える.数例においてCPCA再閉塞の過程を詳細に観察することができたため,筆者らはCPCA再閉塞過程を0~4期の5期に分類した.0期:PCA断端に水晶体上皮細胞の増殖を認めない(図2a),1期:PCAのCedgeにCElschnigpearlが形成されるが,PCAを越えた光学部には水晶体上皮細胞の増殖は認めない(図2b).2期:PCAを越えて棘状水晶体上皮細胞の侵入がみられるが,光学部中心(59)あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023C13170910-1810/23/\100/頁/JCOPYabcde図2PCA再閉塞のstage分類上段が徹照法,下段が直接照明法の前眼部写真.a:0期,Cb:1期,Cc:2期,Cd:3期,Ce:4期.(文献C5より引用)に混濁はみられない(図2c).3期:IOL光学部全体に網目状に混濁の伸展・癒合がみられる(図2d).4期:3期の網目状混濁の間隙を埋めるように薄い膜状の混濁が観察される(図2e).3期以降では混濁が光学部中心部へかかってくるため,視力障害が出現する.実際,YAGが必要となったのはすべてC3期以降の症例であった.筆者らはエタニティー以外のCIOLにおいてもCPCA再閉塞を観察してはいるが,割合としてはエタニティーが多かった(73%).YAG後の再閉塞は親水性アクリルIOL挿入眼で発症しやすいという報告がある3).エタニティーはグリスニングを防ぐ目的で親水性アクリルモノマーが多く配合されており,吸水率がC4%と高く4),エタニティーの材質の特徴がCPCAの再閉塞に関連している可能性が高いと考えている.また,YAGによってCPCA再閉塞のどの症例でも視力障害は改善したが,なかにはCPCA再閉塞を繰り返す症例もあり,それらでは再発までの間隔は徐々に短縮していた.これにはCYAGを行うことによる変化も何かしら影響しているのかもしれない.PCA再閉塞の原因と考えられる水晶体上皮細胞の分化方向の決定因子はまだ解明されておらず,PCA再閉塞がCIOLの材質の特性か,患者の背景疾患やトリプル手術などに起因するのかは明らかではない.しかし,筆者らが経験したCPCA再閉塞症例の約C7割においてエタニティーが使用されていることから5),IOLの材質が発症に関与しているものと考えている.ただし,すべてのエタニティー挿入患者でCPCA再閉塞を発症するわけではなく,IOLの含水率以外の要素の関与は否定できないだろう.白内障術後の視力予後改善のため,PCA再閉塞に関与する因子については,さらなる研究が必要と考える.文献1)OshikaCT,CSantouCS,CKatoCSCetal:SecondaryCclosureCofneodymium:YAGlaserposteriorcapsulotomy.JCataractRefractSurgC27:1695-1697,C20012)JonesCNP,CMcLeodCD,CBoultonME:MassiveCproliferationCoflensepithelialremnantsafterNd-YAGlasercapsuloto-my.BrJOphthalmolC79:261-263,C19953)GeorgopoulosM,FindlO,MenapaceRetal:In.uenceofintraocularClensCmaterialConCregeneratoryCposteriorCcap-suleopaci.cationafterneodymium:YAGlasercapsuloto-my.JCataractRefractSurgC29:1560-1565,C20034)TetzCM,CJorgensenMR:NewChydrophobicCIOLCmaterialsCandCunderstandingCtheCscienceCofCglistenings.CCurrCEyeCResC40:969-981,C20155)OtaA,OtaI,KachiSetal:Factorsassociatedwithreclo-sureCofCposteriorCcapsuleCapertureCbyC.atCopaci.cationsCwithCpearlsCafterNd:YAGClaserCposteriorCcapsulotomy.CDiseasesC11:82,C2023

写真:Stevens-Johnson症候群のトポグラフィの変化

2023年10月30日 月曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史473.Stevens-Johnson症候群の松前洋東京歯科大学市川総合病院眼科トポグラフィの変化図2図1のシェーマ①角膜新生血管②角膜実質菲薄化図1Stevens-Johnson症候群の左眼前眼部写真耳下側から新生血管が侵入し,角膜中央部が菲薄化している.矯正視力C0.6であったが,ハードコンタクトレンズ着用でC1.0に改善した.図3図1の症例の角膜形状解析画像(AxialPower)図4図1の症例の角膜形状解析画像(Pachymetry)CASIA画像.菲薄化している耳下側がCsteepになり,対側の鼻CASIA画像.中央部の角膜が菲薄化している.上側がC.atになっている.(57)あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023C13150910-1810/23/\100/頁/JCOPY図5Stevens-Johnson症候群による角膜形状の変化a:Ectasiaパターン.Cb:Asymmetricパターン.Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyn-drome:SJS)は,おもに皮膚と粘膜に影響を及ぼす重篤な急性炎症性疾患である.急性期には偽膜性結膜炎や角膜上皮欠損などの眼表面異常を伴う1).慢性期には眼瞼縁の角化,ドライアイ,角膜新生血管の形成,角膜上皮幹細胞の減少や消失が生じる2)(図1,2).SJSの慢性期では,角膜混濁や眼表面の角化が原因で視力が低下するが,角膜形状の変化による高次収差の増加も視力低下に関与する(図3,4).前眼部光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT)による角膜形状解析では,ectasia(角膜突出),asymmetry(非対称性),.attening(平坦化),minimalchange(微小変化)のカテゴリに分けられることが報告されている3).Ectasiaパターン(図5a)は角膜実質の局所的な菲薄化により角膜が突出する.Asymmetricパターン(図5b)は角膜上皮や結膜上皮の異常な侵入と増殖による局所的な角膜の肥厚化で生じる.Flatteningパターンはectasiaと同様に角膜実質が局所的に菲薄化や瘢痕化することで生じる.これらの角膜形状の変化は,他の前眼部疾患でも同様に報告されている4).Ibrahimらの報告によれば,SJSではCasymmtericパターン,または形状変化がみられないパターンがもっとも多い3).SJSの角膜移植などの外科的処置の予後は不良である5).高次収差に対してCKyotoCSなどの強膜レンズなどで補正し,保存的にアプローチすることは患者満足度向上に重要である.文献1)Lopez-GarciaCJS,CRivasCJaraCL,CGarcia-LozanoCCICetal:COcularCfeaturesCandChistopathologicCchangesCduringCfol-low-upCofCtoxicCepidermalCnecrolysis.COphthalmologyC118:265-271,C20112)SchwartzRA,McDonoughPH,LeeBW:Toxicepidermalnecrolysis:PartCII.CPrognosis,Csequelae,Cdiagnosis,Cdi.erentialCdiagnosis,Cprevention,CandCtreatment.CJAmAcadDermatolC69:187,Ce1-16;quizC203-204,C20133)IbrahimCOMA,CYagi-YaguchiCY,CNomaCHCetal:CornealChigher-orderCaberrationsCinCStevens-JohnsonCsyndromeCandCtoxicCepidermalCnecrolysis.COculCSurfC17:722-728,C20194)ShimizuCE,CYamaguchiCT,CYagi-YaguchiCYCetal:CornealChigher-orderaberrationsininfectiouskeratitis.AmJOph-thalmolC175:148-158,C20175)IlariCL,CDayaSM:Long-termCoutcomesCofCkeratolimbalCallograftCforCtheCtreatmentCofCsevereCocularCsurfaceCdisor-ders.OphthalmologyC109:1278-1284,C2002

高齢者に対するインプラント手術の適正使用と留意点

2023年10月30日 月曜日

高齢者に対するインプラント手術の適正使用と留意点GlaucomaDrainageImplantSurgeriesforElderlyPatients松田彰*はじめに高齢者に対する緑内障インプラント手術は,1)線維柱帯切除術などの濾過手術が奏効しなかった症例,2)濾過手術が種々の理由で奏効しにくいと予想される患者,3)濾過手術の施行が困難である患者に用いられる1).緑内障インプラント手術の特徴として,房水産生能が障害されているぶどう膜炎続発緑内障や血管新生緑内障を除くと,眼圧が1桁に低下することはまれであり,目標眼圧が低い正常眼圧緑内障においては線維柱帯切除術を選択することが一般的であり,緑内障インプラント手術(本稿ではプレートのあるロングチューブ手術をさす)の役割は小さいと考えられる.わが国で施行可能な緑内障インプラント手術としてはBaerveldt緑内障インプラント挿入術とAhmed緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve:AGV)挿入術の2種があるが,高齢者の場合は手術侵襲を小さくしたいこと,手術時間をできるだけ短くしたいことから,筆者は緑内障インプラントのなかでも筋間に挿入可能なAGVを選択することが多い.本稿では高齢者に対するAGV挿入手術の適応と留意点について述べる.I濾過手術が奏効しなかった患者に対するインプラント手術の留意点線維柱帯切除術あるいはExpress手術の濾過胞が瘢痕化して眼圧が再上昇した場合はインプラント手術のよい適応であり,とくに耳上側に濾過胞があって周辺虹彩切除が施行されている場合には毛様溝へのチューブ挿入が容易になるというメリットがある.筆者は,AGV挿入術を開始した当初は濾過胞の瘢痕化部位を避けて,耳下側の結膜を開けてインプラントを挿入する方法がよいのではと考えていた.しかし,耳下側は耳上側と比較して結膜.の奥行きが短く,インプラントの露出例を経験したため,原則として瘢痕化濾過胞を.離して,フラップ部位の後端からチューブを挿入する方針に転換した.過去の報告でも,AGVの上方挿入と下方挿入では眼圧下降効果には有意差はみられないが,下方挿入でインプラント露出などの術後合併症の発症が有意に多かったとされている2).実際の手術における留意点として,1)濾過胞部位の.離は結膜に穴を開けないように丁寧に施行し,濾過胞から房水が漏出する場合は前房内に粘弾性物質を注入しフラップを追加縫合するなど,術中低眼圧防止に留意する(図1).2)多くの症例で,濾過胞の周囲を越えると結膜+Tenon組織の可動性が保たれているので(図2a),プレートを挿入するスペースを斜視剪刀などで.離・確保したあとにプレートを挿入し,輪部から9.10mmの位置でプレートを8-0ナイロン糸でしっかりと固定している.3)線維柱帯切除術,水晶体再建術をすでに施行している症例では角膜内皮細胞数が減少している患者もあることから,可能な限りチューブは前房ではなく毛様溝から挿入することを心がけている.毛様溝からのチューブ挿入はブラインド操作になるため,前房出*AkiraMatsuda:順天堂大学大学院医学研究科眼科学講座〔別刷請求先〕松田彰:〒113-8431東京都文京区本郷2-1-1順天堂大学大学院医学研究科眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(49)1307図1線維柱帯切除術後の無血管濾過胞部位の結膜切開線維柱帯切除術後の無血管濾過胞(a),濾過胞からやや離れた部位から丁寧に結膜を切開してゆく(b).結膜切開後,フラップ中央の縫合を追加する(c),フラップの後端からチューブを毛様溝経由で挿入した(d).図2線維柱帯切除術の周辺虹彩切除施行部位を利用してチューブを毛様溝から挿入した症例線維柱帯切除術後の瘢痕化濾過胞部位の結膜を.離(a),周辺虹彩切除部位を利用してチューブ挿入のためのトンネルを23G針で作製(b),同部位からチューブを毛様溝経由で挿入し(c),強膜パッチを設置後に結膜を縫合した(d).図3Ahmed緑内障バルブ(AGV)手術に付随する追加処置a:瘢痕化したExpressミニチューブ手術部位の結膜を切開し,やや離れた部位から前房内にAGVのチューブを挿入後,強膜表面から露出していたExpressミニチューブを抜去した.b:AGV挿入術後,時間が経過してから眼圧が急上昇した症例.チューブ先端にIOL前面に移動してきた硝子体が嵌頓しており,硝子体鑷子(.)を用いてチューブ先端から嵌頓硝子体を除去した.このあと,前部硝子体切除を施行した.図4チューブ内にステントを挿入した状態でのチューブ留置前房側に脱出している硝子体を切除したのち(Ca),耳下側に設置したCAhmed緑内障バルブのチューブ内腔にC4-0プローリン糸を挿入した状態で角膜輪部からC1.5Cmmの位置から前房内にチューブを挿入し(Cb),チューブをC10-0ナイロン糸で強膜上に固定(Cc),強膜パッチ+結膜でチューブを被覆した.術後眼圧はローティーンに維持されている(Cd).図5結膜とTenon組織が薄い症例におけるAhmed緑内障バルブ挿入術a:結膜とCTenon組織の厚みを評価しながら,丁寧に.離を進めてゆく.Cb:7-0バイクリル糸をTenon組織に通糸し牽引することで,広い術野を確保した.Cc,d:結膜縫合時に発見したボタンホールをC8-0バイクリル糸で縫合した.図6手術に協力が得られない患者に対するAhmed緑内障バルブ挿入術a:全身麻酔下に眼底検査を施行し,視神経乳頭がフルカッピングであることを確認した.Cb:術後低眼圧防止のためにC8-0バイクリル糸でチューブを結紮し,前房内にチューブを挿入して手術を終了した.図7Ahmed緑内障バルブ(AGV)術後低眼圧眼のチューブ内腔に3-0プローリン糸を挿入した症例AGV術後に低眼圧による浅前房と脈絡膜.離を生じた眼に対し,まずサイドポートから粘弾性物質を注入(Ca),チューブ先端から角膜輪部を超える長さに切断したプローリン糸をチューブ挿入部位の対角から前房内に挿入(Cb),スーチャーロトミー鑷子を用いて(Cc),チューブ内腔にプローリン糸を挿入した(Cd).低眼圧に対する治療としてはC4-0プローリン糸ではなく,3-0プローリン糸を用いたほうが濾過量をコントロールしやすい.図8超高齢者の落屑緑内障,唯一眼に対するAhmed緑内障バルブ(AGV)挿入術眼圧コントロールが不良の落屑緑内障患者にCAGV挿入を施行した.術後低眼圧防止のためC8-0バイクリル糸でチューブを結紮し(a,.),前房中に前房内にチューブを挿入して手術を終了した(b).

高齢者に対する濾過手術の適応と注意点

2023年10月30日 月曜日

高齢者に対する濾過手術の適応と注意点IndicationsandPrecautionsforFiltrationSurgeryinElderlyPatients坂田礼*はじめに緑内障治療の最終目的は,生涯にわたって視覚の質を維持させることである.視覚が維持されることで,少なくとも「見る」ということに関しては生活の質の維持が約束される.そのためには,現状維持(もしくは発症予防)を目標に眼圧下降治療を行うしかない.開放隅角緑内障における治療の第一選択は点眼薬であるが,点眼薬による管理もさまざまな問題を抱え,アドヒアランスや副作用の発現によっては,点眼治療そのものの継続が困難になる.このような場合は次の一手(レーザーや手術)を考えていかないといけない.緑内障手術は,流出路再建術に代表されるローリスクローリターン型,濾過手術に代表されるハイリスクハイリターン型に大別され,どちらの術式を選択するかは,「緑内障診療ガイドライン」にも記されている通り,病型,緑内障病期,患者の病識,年齢,全身状態,患者の社会的背景などから総合的に判断していくことになる.濾過手術,なかでも線維柱帯切除術は,観血的治療のなかでは中核をなす術式であり,手術の切り札としてこれまで多くの眼を救ってきた.一方の流出路再建術は低侵襲緑内障手術(minimmalyinvasiveglaucomasur-gery:MIGS)が全盛となっており,手術件数は増加の一途をたどっている.濾過手術も低侵襲化が進んできており,エクスプレス挿入術(日本アルコン,2011年認可),そしてプリザーフロマイクロシャント(参天製薬,2022年認可)という術式が選択できるようになっている.本稿では,超高齢社会の真っただ中,そして今後さらに高齢化が進む現状において,高齢患者に対する濾過手術の立ち位置について再考する.そのためには,点眼治療と手術治療の選択,そして手術治療では流出路再建術と濾過手術の選択について考えていかなければならない.まずは日本における超高齢社会の現状について振り返える.I緑内障の現状1.高齢化と緑内障進行内閣府の発表によると,65歳以降の人口が総人口に占める割合は年々増加しており,2021(令和3)年度で28.9%と推定されている.このうち75歳以上の割合は総人口の14.9%とされ,65.74歳の人口を上回っている1).日本は総人口が減少傾向であり,平均寿命が男性81.6歳,女性87.7歳と徐々に伸びていることを考えると,高齢者の割合は今後も右肩上がりになる.緑内障は慢性進行性疾患であることを考えると,平均余命が伸びるほど視覚障害者もその分増加する方向に向かうのは当然のことである.平均寿命と並んで,健康寿命という考え方も普及してきているが,男性では8.9年(健康寿命72.7歳),女性では12.3年(75.4歳)が通院を含めてなんらかのサポートが必要になる期間と推定される.緑内障発症や進行のリスクファクターの一つとして「加齢」が報告されており,高齢の緑内障患者はそれだけで進行のリスクを抱えていることになる.また,加齢*ReiSakata:東京大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕坂田礼:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部附属病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(41)1299新規の視覚障害認定患者数7,000緑内障網膜色素変性症6,000糖尿病網膜症黄斑変性症5,0004,0003,0002,0001,00020152019会計年度図1日本における視覚障害の原疾患(文献2より引用)図2中心前房深度3.33mmのプラトー虹彩の眼若干浅前房にもみえるが,一見しただけでは閉塞隅角メカニズムがあるとはわかりにくい.図3図2と同一症例のCASIA2解析かなりの部分の隅角閉塞が疑われた.図4線維柱帯切開術(眼内法)マイクロフックを使用して線維柱帯を切開しているところ.図5輪部からの房水漏出図6低眼圧に伴う網膜(黄斑)皺襞フルオレセイン染色がはじかれている.図7線維柱帯切除術後の前房出血図8抗凝固薬継続下での濾過手術における著明な結膜下出血図10無血管で結膜壁が薄い濾過胞図9濾過手術後の眼内炎前房蓄膿が認められる.図12エクスプレスの挿入部図11有血管で結膜壁が厚い濾過胞図13プリザーフロマイクロシャントの前眼部図14図13と同一症例の濾過胞円蓋部側に丈高く広がっている.図15隅角のプリザーフロマイクロシャントのチューブ挿入部~眼圧(mmHg)302520151050年齢80歳超=80歳以下群術前1日目1カ月目6カ月目12カ月目時間図17濾過手術後の眼圧経過80歳以下の患者に線維柱帯切除術を行った場合とC80歳超の高齢者に同じ手術を行った場合のC1年後の眼圧は,両群でほぼ同じであった.(文献C16より改変引用)図16上眼瞼の脂肪萎縮があり開瞼しづらい眼-

高齢者に対する流出路再建術の適正な選択

2023年10月30日 月曜日

高齢者に対する流出路再建術の適正な選択AppropriateSelectionofOut.owPathwayReconstructionSurgeriesinElderlyPatients谷戸正樹*はじめにマイクロフックトラベクロトミーなどのトラベクロトミー眼内法やiStentなどのいわゆる低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS)の登場により,施行される緑内障手術の内訳,件数が大きく変化している.厚生労働省NationalDataBase(NDB)オープンデータの解析によれば,2014年度には濾過手術がもっとも多く施行されていたのに対し,2020年度には隅角手術(MIGSを含む流出路再建術)が濾過手術を遥かにしのぐ件数となっている(図1)1).松江赤十字病院では,2014.2018年の統計でも,すでに流出路再建術がもっとも施行件数が多い術式となっていた(図2)2).濾過手術との比較において,流出路再建術は,白内障手術により効果が減弱しない,術後の頻回の通院が必要ない,緊急の対応が必要な濾過胞感染などの晩期合併症が少ないなど,高齢者にとって有利な点が多い(表1).緑内障病型は年齢とともに変化し,とくに高齢者では落屑緑内障と原発閉塞隅角病の割合が高くなる(図3)2).落屑緑内障をはじめとする高齢者の緑内障は,術後炎症の要因となりやすく,また年齢による房水産生能低下と相まって,しばしば脈絡膜.離を伴い3),濾過胞の維持が困難となる.また,原発閉塞隅角病は白内障手術が治療の第一選択となるが,白内障手術後の濾過手術は眼圧下降効果が減弱する4).臨床的な諸条件を勘案すると,患者の年齢は術式決定の大きな要因となり,とくに高齢者では相対的に流出路再建術を選択する機会が増える(図4)2).流出路再建術は適応を間違えず,正しい術中手技と術後管理を行えば予測性の高い眼圧下降効果を得ることができる術式である.一方で高齢者では,緑内障以外の眼疾患や全身疾患を有する,しばしば点眼の使用など術後指示を守ることが困難,などの問題を有する.本稿では,実際の高齢者緑内障患者を取り上げ,臨床上の注意点を共有する.特殊な患者ではなく,日常的に遭遇する患者を取りあげた.流出路再建術の術式や術後成績については,他書に解説が多いため本稿では割愛する.I症例提示1.症例186歳,女性.両眼落屑緑内障,右眼トラベクロトミー眼外法後.a.経過14年前(74歳時)に,島根大学医学部附属病院(以下,当院)で右眼トラベクロトミー眼外法+白内障手術を施行.術前視力は右眼(0.6),左眼(1.0),眼圧は右眼21.mmHg,左眼15.mmHg(点眼3成分)であった.術後5年間経過観察を行い,最終受診時,視力は右眼(1.2),左眼(1.0),眼圧は右眼11mmHg,左眼13mmHg(点眼1成分)であった.その後,近医に逆紹介し,治療継続.近医通院9年間で徐々に眼圧上昇したため,当院に再紹介となった.*MasakiTanito:島根大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町89-1島根大学医学部眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(31)128940,00035,75935,00030,00025,00019,90920,00015,00010,0005,0003,1290図1国内で行われる緑内障手術件数の変化(NDBオープンデータ)(文献1より引用)図2緑内障術式の内訳(松江赤十字病院,n=2,036)(文献2より引用)~-%100908070605040302010%1009080706050403020100(n=565)(n=568)(n=857)(n=46)表1高齢者に対する濾過手術と流出路再建術の利点と欠点濾過手術流出路再建術利点・一桁の眼圧下降が期待できる・薬剤を中止できる可能性がある・白内障手術との相性がよい・術後通院・処置が少ない・晩期合併症が少ない欠点・白内障手術で効果減弱・濾過胞維持に不利な条件(結膜・Tenon.菲薄化,房水産生能低下,偽落屑などの易炎症性要因)・頻回の通院と術後処置(レーザー切糸,ニードリングなど)が必要・視力にかかわる晩期合併症(低眼圧黄斑症,濾過胞感染など)の可能性・一桁の眼圧下降は困難・しばしば薬剤の継続が必要その他続発落屑緑内障原発閉塞隅角病原発開放隅角緑内障発達緑内障.64歳65~74歳75~89歳.90歳(n=565)(n=568)(n=857)(n=46)図3緑内障手術症例の年代別病型(松江赤十字病院,n=2,036)(文献2より引用)7%7%2%その他白内障+GSLロングチューブシャント流出路再建術(GSL除く)濾過手術.64歳65~74歳75~89歳.90歳図4年代別の緑内障術式の内訳(松江赤十字病院,n=2,036)(文献2より引用)右眼左眼図5症例1の再紹介時の前眼部所見図6症例1の右眼黄斑内層厚の変化図7症例1の左眼黄斑内層厚の変化当院最終初診再紹介図8症例1の視野の経過図9症例1の眼周囲所見上眼瞼溝深化など深層整容的CPAP(SU-PAPグレード2)を認める.右眼左眼図10症例2の初診時の前眼部所見右眼左眼図11症例2の初診時の前眼部OCT所見(STAR360による隅角解析)虹彩線維柱帯接触(iridotrabecularcontact)を両眼に認める(青く塗られた部位).右眼左眼図12症例2の初診時の眼底写真右眼左眼図13症例2の初診時の視神経乳頭形状解析と乳頭周囲網膜神経線維層(RNFL)厚解析図15症例2の左眼術後3カ月の黄斑断層像限局した網膜色素上皮.離()を認める.図14症例2の左眼術後2週間の前眼部所見瞳孔領にフィブリン膜の残存()と虹彩後癒着を認める.当院初診図16症例2の視野の経過

高齢者に対する白内障手術との併用手術

2023年10月30日 月曜日

高齢者に対する白内障手術との併用手術CombinedCataractandGlaucomaSurgeryinElderlyGlaucomaPatients徳田直人*はじめに現代医学において,加齢による身体の変化に抗う方法は,エビデンスの強弱はあるものの,さまざまなジャンルから多数の報告が存在する.その中でも眼科における白内障手術は,適応を誤らなければ加齢により低下した視力をほぼ確実に改善させることができる治療法として確固たる地位を築いている.一方,緑内障は「超」がつくほどの慢性疾患であり,眼圧下降治療を行っても症状の改善は得られず,進行速度を遅らせるに留まる.長寿社会において加齢により誰しもが発症するものの,改善方法がある白内障と,誰しもが発症するわけではないが,改善方法がない緑内障を同時に診る機会は,今後しばらくは増えていくことが予想される.本稿では白内障と緑内障が生じている高齢患者に対して,どのような治療戦略により緑内障白内障同時手術に結びつけていくのかについて述べる.CI緑内障白内障同時手術の適応「ついでに…」という表現はシリアスな医療現場においてやや軽薄な印象があり,患者に対して使うことに一瞬ためらいを感じることもある.しかし,国語辞典によると「ついで」とは,「あることを併せてするよい機会」となっており(広辞苑,岩波書店),時と場合をわきまえれば十分使用可能なフレーズである.緑内障白内障同時手術の適応を考えるにあたり,緑内障については眼圧コントロールが悪く,白内障も進行しているので緑内障白内障同時手術を選択するケースもあれば,「白内障手術のついでに緑内障手術」や「緑内障手術のついでに白内障手術」というケースも存在する.前者の場合は,加齢に伴い白内障が進行してきた患者に対して白内障手術を検討した際に,その患者が緑内障点眼薬で緑内障治療もしている場合は,緑内障手術も「ついで」に行えば,術後にあわよくば緑内障点眼なしの状態にできるかもしれないという考えのもと,患者に緑内障白内障同時手術を勧める.それに対して後者の場合は,緑内障に対して眼圧コントロールが悪いため緑内障手術を検討する際に,水晶体の存在が緑内障術後の眼圧下降に対してマイナスになることが予想される場合や,高齢につき今後手術室に入ること自体がむずかしいと判断されるような場合に,緑内障手術の「ついで」に白内障手術も行うことがある.CII緑内障白内障同時手術における緑内障術式選択筆者の緑内障白内障同時手術における緑内障術式の選択基準を表1にまとめた.緑内障白内障同時手術における緑内障術式選択としては,眼圧をどこまで下げなければならないかということが決め手となる.「眼圧下降と進行した白内障に対する緑内障白内障同時手術」や「緑内障手術のついでに白内障手術」の場合は,術後確かな眼圧下降が求められるため,緑内障術式は線維柱帯切除術をはじめとした濾過手術,または流出路再建術のなか*NaotoTokuda:聖マリアンナ医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕徳田直人:〒216-8511神奈川県川崎市高津区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(25)C1283表1緑内障白内障同時手術における緑内障術式選択(私見)緑内障病期緑内障術式緑内障初期.中期中期後期濾過手術(線維柱帯切除術)C×△〇流出路再建術線維柱帯切開術(眼内法,眼外法)〇〇〇水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術〇〇C×濾過手術と白内障手術を同時に行うことで濾過胞の生存率が下がることが知られているため,緑内障白内障同時手術においては,流出路再建術と白内障手術の組み合わせが選択しやすいが,そこに年齢や病期などの背景因子の存在を同時に考え術式を選択すべきである.図1水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術後の隅角写真a:初代のCiStent(ステントをC1本挿入).b:iStentinject(ステントをC2本挿入).表2水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術の選択基準(白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準,第C2版より作成)表3水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術の除外基準(白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準,第C2版より作成)表4iStent,iStentinjectWのMRIに関する情報静磁場強度3テスラ以下7テスラのみ最大空間傾斜磁場4,000ガウス/cm(4C0テスラ/m)10,000ガウス/cm(1C00テスラ/m)最大全身平均比吸収率(SAR)第一次水準管理操作モードの場合:4CW/kg非臨床試験にてiStent,iStentinjectWは条件付きCMRI対応である.iStent,iStentinjectWが挿入されている患者は上記の条件を満たすCMRIシステムで安全に走査することができる.(添付文書より作成)

高齢者に対する毛様体光凝固術

2023年10月30日 月曜日

高齢者に対する毛様体光凝固術TransscleralCyclophotocoagulationinGeriatricGlaucomaPatients小川俊平*はじめに厚生労働省のデータによれば,2016年の身体障害者手帳(視覚障害)所持者数は31万2,000人で,そのうち65歳以上の高齢者が69%を占めている(平成28年生活のしづらさなどに関する調査,https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/seikatsu_chousa_c_h28.html).一方で日本の総人口はすでにピークアウトし,2020年の1億2,615万人から2065年には9,000万人を割り込むが,平均寿命は2019年の男性82歳・女性87歳から,2065年には男性85歳・女性91歳に延長し,65歳以上の人口の割合を示す高齢化率は28.6%から38.4%へと増加すると予測されている.緑内障は加齢とともに罹患率が上昇する疾患で1~5),同じ眼圧レベルであった場合に加齢は進行のリスクファクターでもある6).これまで眼圧下降治療には,点眼と手術治療が用いられてきたが,高齢者にはどちらの治療法を選択しても高齢者特有の影響を免れない.本稿では,高齢緑内障患者の眼科治療における課題を確認し,治療選択としての毛様体光凝固術の位置づけを考える.I高齢緑内障患者の点眼治療の注意点点眼治療のメリットは,手術療法と比べて非侵襲的で,調整が容易で,手術のリスクや回復期間が不要であることがあげられる(表1).このため緑内障治療では初期には点眼治療を中心に行い,目標眼圧が未達成の場合や,複数の点眼治療でも視野障害が進行する場合にレーザーや観血的手術を検討することが推奨されている7).高齢者の点眼治療には,高齢者特有の問題がある.点眼治療は適正に薬剤が眼の表面に到達しなければ,効果は期待できない.一般に高齢者のアドヒアランスは良好であることが多いが8),加齢や病状の進行により視力低下や視野進行があると,点眼失敗の可能性が高まる9).病状の進行と相まって薬剤の種類と消費量は加齢とともに増加する10).しかし,投与回数の増加は,アドヒアランスの低下と関連11)してしまう.患者側からみると,加齢や病状の進行とともに自身での点眼操作や管理がむずかしくなれば,座位から仰臥位での点眼や,家族の協力を求めるなどの対策を指導される.しかし,そもそも独居で協力が得られない場合や,入居施設が点眼に対応しないなど,社会的な支援が期待できない場合には,本人の意志にかかわらずアドヒアランスは大幅に低下してしまう.また,ほかの全身疾患の合併が多いことも高齢者の特徴であり,他疾患のための入院,手術などの加療中に点眼治療が途切れ,短期間に急激に病状が進行してしまう患者を経験することはまれではない.高齢で複数の点眼薬でなんとか管理されている患者の安全域はきわめて狭いと考えられる.II高齢緑内障患者の手術療法の注意点現在の緑内障手術には多くの選択肢が存在する.2019~2021年6月の社会医療行為別統計では緑内障手術は75~79歳が最多であった.また,それよりも高齢*ShumpeiOgawa:東京慈恵会医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕小川俊平:〒105-8471東京都港区西新橋3-19-18東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(19)1277表1点眼治療と手術治療の長所と短所点眼治療手術治療長所C-非侵襲性であり,手術的なリスクが低いC-費用が比較的低いC-治療の調整が容易C-大きな回復期間が不要C-短期的な効果が期待できるC-精神的ストレスが手術より少ないC-進行した緑内障での眼圧の大幅な低下が期待できるC-長期的な眼圧管理が可能C-薬物治療が不要,または減少することが多いC-一度の手術で長期的な効果が期待できる短所C-毎日の点眼が必要C-薬物の副作用があるC-時間とともに効果が減少することがあるC-一部の患者に効果が不十分な場合があるC-アドヒアランスや点眼の仕方に影響を受けるC-手術自体のリスク(視力低下,感染,出血など)C-手術後の合併症のリスクC-回復期間が必要C-費用が高い場合があるC-すべての患者に効果的ではない場合があるC-再手術図1半導体レーザー装置CYCLOG6(トプコン提供)MPCW図2マイクロパルス(MP)と連続波(CW)の発振方式マイクロパルスは,0.5Cmsの「ON」とC1.1Cmsの「o.」がC1サイクルで,dutycycle=31.3%で固定されている.MPでは,「o.」の期間に放熱されるため,組織の温度上昇が抑えられる.一方でCCWではレーザー照射時間に比例して組織温度が上昇する.(トプコンより提供の図を改変引用)=表2連続波とマイクロパルスの比較CW-CPC(contiuouswavecyclophotocoagulation)CMP-TLT(transscleralLasertherapy)プローブGプローブPC3プローブ対象難治性緑内障原発開放隅角緑内障など機序毛様体皺襞部の細胞破壊毛様体扁平部(細胞破壊なし)麻酔場所処置室・手術室処置室・手術室再照射不可可能パワー・照射範囲2,000mW・2Csec(ポップ音が出る程度)3時C9時の動脈,blebを避けるC2,000CmW80Csec×2C2,500CmW80Csec×23時C9時の動脈,blebを避けるプローブの位置C角膜輪部側図3P3プローブRev1,Rev2の先端構造の比較Rev2はCRev1と比べて一回り小さなヘッドとなり,レーザーの照射部が陥凹した.このためCRev2では,粘弾性物質をしっかりと使用し,強膜に圧迫した状態で使用する必要がある.操作性はCRev2で向上した.(トプコン提供の図を改変引用)半球アプローチ:150°象限アプローチ:75°スイープ速度:20秒×4スイープ速度:10秒×8図4MP-TLTのレーザー照射方法図のプローブはCRev2.(トプコン提供の図を改変引用)-