‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

高齢者緑内障に対する選択的レーザー 線維柱帯形成術の使い方

2023年10月30日 月曜日

高齢者緑内障に対する選択的レーザー線維柱帯形成術の使い方HowtoUseSelectiveLaserTrabeculoplastyforElderlyGlaucomaPatients新田耕治*はじめに緑内障患者を長期間にわたり診察する場合には,根治療法がないので点眼治療のみではなく,レーザー治療や観血的治療もおりまぜながら管理しなければならない.本稿で取り上げる緑内障レーザー治療の一つである選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabculo-plasty:SLT)は1990年代に登場したが,説明に時間がかかる,レーザー治療に対する抵抗感が強く患者を説得しきれない,期待したほど眼圧が下降しない,などが原因で日本ではなかなか普及しなかった.しかし,2019年にLancet誌にLiGHTtrialの結果が発表され1.3),原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)や高眼圧症(ocularhypertension:OH)にSLTが第一選択治療として有用であることが発表され,日本でも緑内障の第一選択治療としてのSLT(つまり点眼治療で開始せずいきなりSLTを施行)や1剤の緑内障点眼で治療しても目標眼圧に到達しない,あるいは緑内障が進行する患者に対する第二選択治療としてのSLT(つまり現在使用している1剤の点眼は継続したままSLTを施行)が注目されている.本稿では,高齢者緑内障にSLTをどのように活用すべきかについて概説する.I現在の日本社会が抱える課題と視機能日本社会は超高齢社会であり,2070年には総人口の38.7%が65歳以上の高齢者となるとの試算がある.内閣府の『令和5年版高齢者社会白書(全体版)』には次ように書かれている4).高齢者の定義と区分に関しては,日本老年学会・日本老年医学会「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」(平成29年3月)において,近年の高齢者の心身の老化現象に関する種々のデータの経年的変化を検討した結果,特に65.74歳では心身の健康が保たれており,活発な社会活動が可能な人が大多数を占めていることや,各種の意識調査で従来の65歳以上を高齢者とすることに否定的な意見が強くなっていることから,75歳以上を高齢者の新たな定義とすることが提案されている.また,「高齢社会対策大綱」においても,「65歳以上を一律に『高齢者』と見る一般的な傾向は,現状に照らせばもはや現実的なものではなくなりつつある.」とされている.一方,高齢者はとくに全身疾患を合併していることが多く,これまで施行可能だった緑内障検査を行うことができないとか,寝たきり状態になり通院が不可能となることもある.福井県済生会病院で緑内障と初めて診断された患者のうち3年間継続的に眼科を受診できた比率に関する年代別の検討では,80歳代の継続受診率は56.2%とほかの年代と比較して低率であった(図1).緑内障は慢性進行性疾患であり,すでに後期の病期の高齢者患者のなかには慣れ親しんでいる自宅での生活を送るのが精いっぱいで,外出などはまったく不可能なほどに視機能が低下し*KojiNitta:福井県済生会病院眼科〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋7-1福井県済生会病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(11)126910.8率生存0.6積50歳未満診累50歳台継続受0.460歳台70歳台0.280歳以上0010203040506070経過観察期間(月)80図1緑内障患者の継続受診率(初診時の緑内障年代別)福井県済生会病院を2007.2009年に初診した緑内障患者330例の継続受診率を初診時の年代別に示す.3年間の継続受診率は50歳未満(73例)で75.9%,50歳代(82例)90.1%,60歳代(73例)90.0%,70歳代(64例)75.8%,80歳以上(38例)56.2%であり,80歳以上の高齢者緑内障患者の継続受診率が有意に低率であった.表1高齢者緑内障にかかわる諸事情難聴患者が多い(70歳以上では約3割)脳卒中にて片麻痺認知症(80歳以上の2.3割)定期的に受診できない(自動車を運転できない,寝たきり,施設に入所,老老介護)Goldman圧平眼圧計による眼圧測定が困難なことがある(車いすがスリットの顎台の高さが合わない,開瞼不能など)自己点眼が不可能なことがある呼吸器や循環器に影響を及ぼすb遮断薬を使用しにくい落屑緑内障高頻度急性閉塞隅角症のリスク大Tenon.が後方へ移動しており濾過手術術後に濾過胞関連合併症が生じやすいさんだけなので,仕事に行く直前と帰宅してからしか点してあげられません」「母は,施設に入所しているので,きちんと点眼してもらっているのか心配です」など,家庭の種々の事情により点眼アドヒアランスが高齢者緑内障では不良なことが多いと思われる.III手術を回避したい場合高齢緑内障患者は,非高齢緑内障患者と異なる方針で管理しなければならないことがある.非高齢緑内障患者では,点眼などの治療が奏効せず緑内障が進行する場合に手術を選択することが多いが,高齢者緑内障患者の場合には,点眼アドヒアランスの面で手術を選択することもある.しかし,局所麻酔での手術には体勢の保持は欠かせず,認知症の患者などではわれわれの指示を理解できずに術中に手術継続が困難になってしまう恐れがある場合には,手術を躊躇せざるを得ない.全身麻酔であれば手術が可能であるが,術後せん妄の危険性があるので主治医として手術をすべきか判断に迷うことがある.また,濾過手術の術後に濾過量不足の場合にはレーザー切糸を施行する必要があるが,患者の協力が得られなければ施行不可能である.また,過剰濾過の場合にも強膜弁の追加縫合や前房形成を局所麻酔下で施行するが,同様に患者の協力が必要となる.術後の通院に自分で運転して来院できる高齢の症例も多いが,家族や施設の協力を得ながらやっと受診する高齢者も多い.その場合には,長期的には通院ができなくなってしまうことも危惧される.IV高齢緑内障患者にSLTをどのように呈示するか一般的にSLTを患者に呈示する場合は,緑内障の病状や特徴などを一通り説明したあとに,治療方針として点眼治療あるいはSLT治療を呈示する.点眼治療とSLT治療のメリットとデメリットについても説明するようにしている.点眼治療のメリットは,1)気軽に始めることが可能,2)1回の診察代金が低額の2点があげられる.点眼のデメリットは,1)毎日点眼をしなければならない.2)点眼による有害事象が懸念されること,などである.SLT治療のメリットは,1)毎日のわずらわしさがない.2)1回のSLTで2.3年間治療効果が持続する.SLT治療のデメリットは,1)1回の処置代金が高額(1割負担で9,660円,3割負担で28,980円),2)奏効するか施行してみないと予測困難である.3)レーザー治療には医師も患者も怖いイメージがある,などがあげられる.これらを十分に説明したうえで,SLT治療に関するパンフレットを渡し,じっくりと治療方針について患者と相談して決めている.白内障術後に初めて緑内障と診断された高齢者緑内障の場合には,緑内障の病状としては初期の病期のことが多く,年齢を加味して治療方針を判断すべきである.高齢者の場合には治療アドヒアランスが不良なことが多いので,結果的に無治療で経過観察することも多いが,主治医として無治療の選択肢を強調すべきではないと考えている.施設に入所中であったり,施設へ入所予定となった場合には,定期的な眼科受診は困難になると想定される.それぞれの高齢者の生活状況も加味して治療方針を決めるべきである.SLTの効果を高齢者と若年者で比較した論文で,年齢が若い群のほうがSLT後の生存率が良好と報告されている5).逆にいえば,高齢者ではSLT効果があまり期待できないということになる.加齢とともに集合管が減少するのでSLTが効かなくなることが予想されるのである.それでもSLTを施行することになった場合には,筆者は患者にSLTの有効性は70%であり,3割の患者は効果がないこと,まれにSLT施行後に眼圧が上昇すること.効果の持続時間は2.3年であるが数カ月で効果が減衰する場合があること,有害事象としては,眼圧上昇以外にSLTを施行してから数日間にわたり霧視,結膜充血,違和感が出現する場合があるが,おおむね1週間以内に改善すること,などを説明している.また,SLT施行当日は帰宅可能で,帰宅後は通常の生活を送ることができ,当日から入浴も可能であることなど,日常生活に制限はないと伝えてからSLTを施行するようにしている.VSLTの施行方法照射1時間前にアプラクロニジンとピロカルピンを点眼する.施設によってはアプラクロニジンのみ点眼している施設もある.全周360°照射を基本とする.線維柱(13)あたらしい眼科Vol.40,No.10,20231271図2SLT照射の方法レーザー照射径は400μm,レーザー照射時間は3nsで固定されている.照射瘢痕は生じないが,重ならないように線維柱帯色素帯に照射する.図3SLT照射の際の注意点スポットサイズは直径400μmなので照射範囲に毛様体帯が含まれてしまう場合がある(左×).毛様体帯を照射した場合は炎症が強く惹起され,レーザー後に重篤な眼圧上昇や前房出血をきたす可能性がある.また,角膜寄りに照射すると,角膜内皮を損傷するおそれがある(右×).気泡(シャンパンバブル)図4SLT照射エネルギーレーザー出力を0.6mJから照射を開始し,実際に照射してみて気泡が生じる最小のパワーで順次進めていくのが一般的である.しかし,隅角に色素沈着が生じている部位はより小さいエネルギーでも気泡が生じ,色素沈着のない部位ではより大きいエネルギーでも気泡が生じないことが多く,その場合は2.3発に1度程度で気泡が生じるエネルギーを照射するとよい.図5筆者がSLTの際に使用している隅角鏡(OcularHwang-Latina5.0IndexingSLTw/Flange)レンズが回るindexingレンズで,白色のツバを目印に45°分を半時計回りに10.12発を照射する.その部分の照射が終わればレンズをカチッと半時計回りに次の引っかかりまで回し,また10.12発照射する.これを8回繰り返す.SLTでは凝固斑が出現しないのでどこまで照射してどこから再開したらよいかがわかりにくいが,このレンズを使用するようになって施行しやすくなった.また,隅角血管(左×)や虹彩突起(右×)の照射は避けるようにする.Hwang-Latina5.0IndexingSLTw/Flangeを愛用している.このレンズは45°分が白色のツバで表示されるので,この45°分の白いツバを目印に半時計回りに10.12発を照射する.その部分の照射が終われば外套をカチッと次の引っかかりまで半時計方向に回し10.12発照射する.このことを8回繰り返すと360°全周照射が完了する(図5).SLTは凝固斑が出現しないので,どこまで照射してどこから再開したらよいかがわかりにくかったが,このレンズを使用するようになってスムーズになった.VI高齢の最大耐用緑内障点眼使用患者へのSLT「緑内障診療ガイドライン」第5版6)にも,「眼圧コントロールに多剤の薬剤を要するときは,レーザー治療や観血的手術などの他の治療法も選択肢として考慮する必要がある」とあり,緑内障治療におけるSLTの位置づけは最大耐用点眼でも眼圧がコントロールできないときや,手術に同意が得られないときに試す治療としている.齋藤らは,最大耐用薬剤使用中のPOAGにSLTを施行した結果,施行前眼圧20.9±3.4mmHgが施行後18.7±4.6mmHgと下降したが,下降率は10.0%でKaplan-Meier法による12カ月後の眼圧累積生存率は23.2%と不良であったと報告した7).Mikiら8)は,最大耐用薬剤使用中(平均3.4剤)の緑内障患者〔POAG39眼,落屑緑内障23眼,続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:SOAG)13眼〕にSLTを施行し1年以上経過を観察し,眼圧がSLT施行前と同じか,それ以上に上昇した場合を脱落基準1,SLT施行前より眼圧下降率が20%未満になった場合を脱落基準2とした場合に,脱落基準1での成功率は45.3%,脱落基準2での成功率は14.2%であったと報告した.多変量解析の結果,SLT施行前の眼圧が高いほど,病型ではSOAGのSLT成功率が有意に悪かった.実際に観血的緑内障手術が必要な患者で,手術に同意が得られない場合に手術を回避あるいは先延ばしする目的でSLTを施行することがあるが,そのようなSLTの効果は限定的であるが,上述したように手術を施行できないと思われる高齢緑内障患者の場合には,SLTに期待して施行することもある.短期間であるが現状よりも眼圧が下降できることもあるからである.VII正常眼圧緑内障へのSLTの成績白内障術後に発見された高齢緑内障患者の大多数は正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)である.NTGへのSLT治療の報告について概説する.NTGへの追加治療としてのSLTの報告では,ElMallahら9)がSLT前の眼圧14.3±2.6mmHgがSLT後に眼圧12.2±1.7mmHgへと平均14.7%の眼圧下降が得られたと報告している.1.7±1.0成分の緑内障点眼薬を使用していたNTG32例60眼に全周SLTを施行した別報10)では,SLT前の眼圧は16.0±2.1mmHg,1カ月後の眼圧は12.5±2.1mmHgで21.5±11.4%の眼圧減少率であった.SLTでの20%以上の眼圧下降達成率は61.7%(37/60)であった.多変量解析では,SLT前の眼圧が高い(coe.cient=1.1,オッズ比=3.1,p=0.05)こととSLT施行1週間後の眼圧が低い(coe.cient=.0.8,オッズ比=0.5,p=0.04)ことが予後と有意に関連した因子であった.筆者らは日本人NTG42例42眼に第一選択治療としてのSLTを施行し,前向きに3年間観察した結果,眼圧はSLT前15.8±1.8mmHg,1年後13.2±1.9mmHg(15.8±8.6%),2年後13.5±1.9mmHg(13.2±9.4%),3年後13.5±1.9mmHg(12.7±10.2%)と常に有意に下降していた.SLT施行1カ月後のout.owpressure改善率が20%以上の著効群は37/40例(92.5%)であった.SLT施行2年後の眼圧下降効果の累積生存率は64.3%であった11).SLTに対するnon-responderが1.2割存在するとしたら,NTGにSLTを施行して効果があれば2年程度は効果が持続すると患者が多いということがわかった.この結果に基づき,筆者はとくにNTGの第一選択治療としてSLTも積極的に施行してきた.患者によっては長期管理中にSLTによる眼圧下降効果が減衰し,点眼薬を開始し,2成分,3成分と増やし,緑内障手術を考慮している患者もいるが,10年以上前にSLTを施行し,現在も眼圧下降効果が持続している患者もいる.1274あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023(16)-

序説:緑内障手術の変遷

2023年10月30日 月曜日

緑内障手術の変遷GreatChangesinGlaucomaSurgery木内良明*I緑内障手術の夜明け1)CvonGraefeによる虹彩切除術が緑内障手術の嚆矢とされる2).急性緑内障発作の患者に全幅虹彩切除を行い,その良好な成績をC1857年に報告したものである.vonGraefe自身は房水産性抑制がその作用機序と考えていたらしい.1920年にCCurranが相対的瞳孔ブロックの概念を発表し3),1938年にCBarkan4)が隅角鏡を用いて閉塞隅角緑内障と開放隅角緑内障の区別を行った.外科的周辺虹彩切除が相対的瞳孔ブロック解除に有効であることが知られて,1950年代には周辺虹彩切除術が閉塞隅角緑内障に対する第一選択の治療法として普及した.1876年にはCWeber5)がピロカルピンの瞳孔や眼圧に対する作用を報告している.術前にピロカルピンの作用で縮瞳させると周辺虹彩切除が容易になることがわかり,周辺虹彩切除術の術前に使用されるようになった.CII濾過手術の進歩周辺虹彩切除後に濾過胞が形成されて濾過手術の効果が得られる患者がC2割程度出てきた.現在と比べると縫合材料や技術が未熟であることを考慮に入れると納得できる.DeWeckerが濾過胞の重要性に気づき,強膜創からの房水漏出を重要視するようになった6).その後,強膜創から結膜下に房水を導く手技がいくつか考案された.強膜パンチやトレパンで創を作る方法,強膜創に虹彩を挟み込む方法(iridencleisis),強膜創に熱凝固を加えるCScheie法7)などがある.いずれも全層強膜創からの濾過通路を維持する工夫である.1958年に登場したScheie法は,1968年に線維柱帯切除術が登場するまで緑内障手術の主力として行われた.全層強膜切除術は濾過効果が高いものの,濾過過剰に伴う浅前房や脈絡膜.離が高率に発生した.ベッド上で安静を保つことが治療のひとつであったために,患者に大きな負担をかけたであろうことは想像にかたくない.半層強膜弁をもつ濾過手術がCSugarらによって1961年に始まった6).1968年にCCairnsが同様の報告を行い線維柱帯切除術が普及した8).二人とも線維柱帯を切除することで房水が生理的な房水流出路であるCSchlemm管に流れる術式として発表した.しかし,後に濾過手術であることが判明した.全層濾過手術と比べて眼圧下降効果が劣るものの,安全性が高いことも明らかにされた9).線維柱帯切除術の術後,しばらくして濾過効果が乏しくなる患者が多く経験されるようになった.線維柱帯切除術の以*YoshiakiKiuchi:広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)C0910-1810/23/100/頁/JCOPY(1)C1259後の発展は創傷治癒機転の制御に移ることになる.そしてC5フルオロウラシルやマイトマイシンCCを併用した線維柱帯切除術が行われるようになったのである10).CIII流出路再建術の進歩房水を結膜下という非生理的な場所に流すのではなく,本来の房水流出路であるCSchlemm管に導こうという試みもなされた.房水流出抵抗の主座は線維柱帯にある.線維柱帯切開術はこの線維柱帯を切開し,流出抵抗を少なくして眼圧を下げるという試みである.1962年にCHarmsら11)が提唱した.線維柱帯切開術は線維柱帯切除術よりも眼圧下降効果が劣る.そのために欧米では次第に線維柱帯切開術は行われなくなった.日本においてはC1972年から天理よろず相談所病院の永田誠が積極的に線維柱帯切開術に取り組んだ.濾過手術に伴う合併症を避けることがその主たる目的であった.閉塞隅角緑内障には隅角癒着解離術や白内障手術を併用した.欧米では線維柱帯切開術の出番が小児緑内障以外ほとんどなくなった一方,日本では線維柱帯切開術が永田を中心に行われて,その効果と限界が明らかにされた.単独手術の場合,術後の眼圧はChighteenに収まることが多いこと12).白内障手術を併用すると眼圧下降成績がよいこと13).小児緑内障14)やステロイド緑内障15)にはよい適応であること.閉塞隅角緑内障に隅角癒着解離術,線維柱帯切開術,白内障を併用するとよい眼圧コントロールが得られること16).とくに隅角癒着解離術を必要とするような虹彩前癒着の範囲が広い患者では,術後早期にレーザーで隅角膜形成術(虹彩根部にレーザーを照射して隅角を広げる)を行うと,眼圧の再上昇が少ないことなどが明らかにされた17).流出路再建術も濾過手術もよりよい眼圧下降効果,合併症の減少を求めてさまざまな工夫が行われた18,19).根本的な眼圧下降原理を変えるものではなかった.さまざまな工夫は考案されたものの,消えていった術式も多い.その後チューブインプラント手術やCminimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS)が現れた.近年,MIGSが広まり,欧米の緑内障専門医が隅角手術に興味をもちはじめたことはおもしろい.おわりにわが国は超高齢社会を迎えた.本特集では人生100年時代に緑内障治療はいかにあるべきかを解説する.現在,われわれがもっているレーザーを含めた緑内障手術の使い方,緑内障治療が抱える問題点も解説している.消える術式,消える考え方もあるかもしれない.たとえ消えても,そこを踏み台にして新たなアイデア,術式が生まれてくるであろう.「過去が咲いている今,未来の蕾でいっぱいの今」(河井寛次郎)文献1)上野聰樹:緑内障手術治療(総説).日眼会誌C108:241-263,C20042)vonCGraefeA:UeberCdieCiridectomieCbeiCGiaucomCundCICberCdenCglaucomatSsenCProcess.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC3:456-555,C18573)CurranEJ:ACnewCoperationCforCglaucomaCinvolvingCaCnewCprincipleCinCtheCaetiologyCandCtreatmentCofCchronicCprimaryglaucoma.ArchOphthalmolC49:131-155,C19204)BarkanO:Glaucoma:classi.cation,Ccauses,CandCsurgicalCcontrol.AmJOphthalmol21:1099-1117,C19385)PackerCM,CBrandtJD:OphthalmologyC’sCbotanicalCheri-tage.SurvOphthalmolC36:357-365,C19926)SugarHS:Courseofsuccessfully.lteringblebs.afollowupstudy.CAnnOphthalmolC3:485-487,C19717)ScheieHG:RetractionCofCscleralCwoundedges;asCaC.stulizingCprocedureCforCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC45(4CPt2):220-229,C19588)CairnsJE:Trabeculectomy.preliminaryreportofanewmethod.AmJOphthalmolC66:673-679,C19689)WatkinsCPHCJr,CBrubakerRF:ComparisonCofCpartial-thicknessandfull-thickness.ltrationproceduresinopen-angleglaucoma.AmJOphthalmolC86:756-761,C197810)KitazawaCY,CKawaseCK,CMatsushitaCHCetal:TrabeculecC-tomyCwithCmitomycin.CACcomparativeCstudyCwithC1260あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023(2)’C

アフリベルセプトからファリシマブへの切り替えを契機に 網膜色素上皮裂孔を生じた滲出型加齢黄斑変性の1 例

2023年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科40(9):1249.1253,2023cアフリベルセプトからファリシマブへの切り替えを契機に網膜色素上皮裂孔を生じた滲出型加齢黄斑変性の1例岸真椰三木明子上村亜弥奥田実奈中村誠神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CACaseofExudativeAge-RelatedMacularDegenerationwithRetinalPigmentEpithelialTearafterSwitchingfromIntravitrealA.iberceptInjectiontoFaricimabMayaKishi,AkikoMiki,AyaKamimura,MinaOkudaandMakotoNakamuraCDivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:アフリベルセプトからファリシマブへの切り替えを契機に網膜色素上皮裂孔(RPEtear)を生じたC1例を経験したので報告する.症例:89歳,男性.2013年に近医で左眼滲出型加齢黄斑変性(nAMD)と診断され,抗血管内皮増殖因子薬硝子体内注射で加療されていた.ラニビズマブC3回,アフリベルセプトC21回の加療後,2016年に神戸大学医学部附属病院眼科に紹介された.初診時,中心窩の網膜色素上皮.離と傍中心窩の漿液性網膜.離を認め,検眼鏡,光干渉断層計,蛍光眼底造影検査でCnAMDと診断し,アフリベルセプトで加療した.治療経過中にアフリベルセプトに抵抗性を示したため,ファリシマブへ切り替えた.切り替えC1カ月後に矯正視力低下,RPEtear,黄斑下出血を認めた.結論:滲出型加齢黄斑変性において,ファリシマブへの切替えの際にはCRPEtearの発生に留意する必要がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCretinalpigmentCepithelial(RPE)tearCafterCintravitrealCinjectionCofCfaricimab.CCasereport:AnC89-year-oldCmaleCwasCdiagnosedCwithCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration(nAMD)Cbyhisprimarycarephysician,andwastreatedwithintravitrealinjectionsofanti-vascularendothelialgrowthfac-tor(VEGF)C.CAfterCtreatmentCwithranibizumab(3times)anda.ibercept(21times)C,CheCwasCreferredCtoCtheCDepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospital.HewasdiagnosedasnAMD,andtreatedwithintravitre-ala.ibercept(IVA)injections.CDuringCtheCtreatmentCcourse,CtheCpatientCexhibitedCresistanceCtoCIVACandCwasCswitchedCtoCfaricimab.CAtC1CmonthCafterCswitchingCtoCfaricimab,ChisCbest-correctedCvisualCacuityCdecreased,CandCaCRPEtearandsubretinalhemorrhagedeveloped.Conclusions:WeexperiencedacaseofRPEtearafterintravitre-alinjectionoffaricimab,thusillustratingtheriskofaRPEtearwhenfaricimabisadministered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(9):1249.1253,C2023〕Keywords:加齢黄斑変性,硝子体注射,ファリシマブ,網膜色素上皮裂孔.age-relatedmaculardegeneration,intravitrealinjection,faricimab,retinalpigmentepithelialtear.Cはじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は現在,アフリベルセプト(アイリーア)やラニビズマブ(ルセンティス)といった抗血管内皮増殖因子(vascularCendo-thelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注射を用いた治療が主流となっている.AMDは慢性疾患であり,継続的な治療を要するため,投与が頻回となると,経済的,身体的負担が大きくなる.そのため,より少ない投与回数で,効果が得られることが望まれる.ファリシマブ(バビースモ)はC2022年C5月に承認された抗CVEGF薬であり,VEGF-A阻害作用による血管新生抑制とともに,アンジオポエチン-2(angiopoietin-2:Ang-2)阻害作用による血管不安定化の抑制効果を有すると考えられている.未治療加齢黄斑変性症を対象とした第CIII相試験〔別刷請求先〕岸真椰:〒650-0017兵庫県神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科医局Reprintrequests:MayaKishi,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityHospital,7-5-2Kusunoki-cho,Chuo-ku,KobeCity,HyogoPrefecture650-0017,JAPANCabcd図1初診時画像所見a:フルオレセイン蛍光造影.Cb:インドシアニングリーン蛍光造影.Cc:カラー眼底写真.Cd:スペクトラルドメイン光干渉断層計画像(SD-OCT).脈絡膜新生血管,漿液性網膜.離,網膜色素上皮.離を認め,滲出型加齢黄斑変性と診断した.(TENAYA試験およびCLUCERNE試験)では,ファリシマブCQ8W-Q16W投与群が,アフリベルセプトCQ8W投与群と同等の視覚的,解剖学的結果を示し1),ファリシマブの効果持続性が期待されている.一方で,ファリシマブ硝子体内注射(intravitrealCfarici-mab:IVF)による有害事象について,網膜色素上皮裂孔(RPEtear)やぶどう膜炎が報告されている1).今回,筆者らはファリシマブへの切替えを契機にCRPEtearを生じたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:89歳,男性.既往歴:糖尿病,高血圧,心肥大,高脂血症.主訴:左眼視力低下.現病歴:2009年に眼精疲労のため近医を受診し,2011年2月に両眼白内障手術を施行された.その後経過観察中に,左眼漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SD)が出現し,AMDの診断でC2013年C1月からラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)をC3回,アフリベルセプト硝子体注射(intravitrealaflibercept:IVA)をC21回施行された後,2016年C5月,神戸大学医学部附属病院眼科(以下,当科)に紹介となった.経過:初診時視力はCVD=0.7(1.2C×sph+0.50D(cylC.1.25DAx90°),VS=0.4(0.7C×sph+1.00D(cyl.0.75DAx90°)であった.左眼眼底に中心窩下網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)および傍中心窩にSDを認めた(図1).右眼は中心窩下方に小さなCPEDを認めた.フルオレセイン,インドシアニングリーン蛍光造影検査にて左眼に脈絡膜新生血管(choroidalCneovascula-rization:CNV)を認め,左滲出型加齢黄斑変性と診断した(図1).2016年C6月当院にてCIVA単独治療を必要時投与で開始した.その後C2カ月ごとにCSDが再発したため,2カ月ごとの固定投与に変更した.IVAのC6週間後,近医受診時にCSDの再発を指摘されたため,2019年C2月以降C6週間ごとの投与で加療した.6週間ごとの投与においてもCSDの消失は得られなかったが,経済的な理由で,患者が積極的な治療を希望されず,2019年C10月以降は再度C2カ月ごとの固定投与を行った.2020年C5月に光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)で中心窩に網膜下高輝度物質(subretinalChyperre.ectivematerial:SHRM)が出現したが,経済的な理由でC2カ月ごとの固定投与を継続していた.経過中,SHRMは増悪と改善を繰り返し,SDの消失も得られなかった.2022年C2月には左眼矯正視力がC0.4に低下したため,注射間隔をC6週間に再度短縮した.その後注射間隔をC5週間,4週間とさらに短縮したが,SDの消失は得られなかったため(図2a),2022年C6月CIVFに切り替えた.切り替え直前,黄斑部網膜下出血(submacularhemorrhage:SMH)が出現し,PED丈はC318Cμm,PED最大直径はC2,508μmであった(図2b).切り替えC1カ月後,左眼矯正視力は0.3とさらに低下し,RPEtearおよびCSMHの増悪を認めた図2RPEtear発生前後の画像所見a:ファリシマブ硝子体注射(IVF)施行C4週前のCSD-OCT像.網膜色素上皮.離(PED),網膜下高輝度病変(SHRM:)と漿液性網膜.離(SD)を認める.Cb:IVF施行直前のCSD-OCT像.PED丈はC318Cμm,PED最大直径はC2,508Cμmであった.黄斑下出血(SMH)によるCSHRMの増悪()を認める.SDの残存も認めた.Cc,d:IVF投与C4週後のCSD-OCT(Cc)とカラー眼底写真(Cd).SMHの悪化,網膜色素上皮の断裂を認めた.(図2c,d).ブロルシズマブ硝子体注射(intravitrealbrolucizumab:IVBr)のC1カ月ごと連続投与を行い,SMHは改善し,CNVの活動性も低下した(図3a,b).その後はIVBr2カ月ごとの固定投与にて,滲出性変化の再燃なく経過した.しかし,RPEtearによるCRPE欠損は中心窩に及び(図3c),左眼矯正視力はC0.15に低下した.CII考察抗CVEGF薬硝子体内注射後の合併症にCRPEtearがあり,発生率はC1.36%と報告されている2).ファリシマブの第CIII相試験(TENAYA試験およびCLUCERNE試験)において,投与後C48週までに,ファリシマブ投与群でCTENAYA試験では333例中2例(1%),LUCERNE試験では331例中2例(1%)でCRPEtearが生じ,アフリベルセプト投与群ではTENAYA試験,LUCERNE試験ともにCRPEtearは生じなかった1).抗CVEGF薬の作用機序として,アフリベルセプトはCVEGF-A,BおよびCVEGFと類似した分子構造を有する胎盤成長因子(placentalCgrowthfactor:PlGF)を阻害し3),ファリシマブはCVEGF-AおよびCAng-2を同時に阻害する1).ファリシマブが有する二重経路阻害作用は,血管の安定性を図3RPEtear発生後の経過a:発生C1カ月後.Cb:発生C3カ月後.Cc:発生C5カ月後.徐々に黄網膜下高輝度病変()は消失し,解剖学的な改善も得られたが,中心窩を含む網膜色素上皮が欠損している(.).相乗的に促進し,新生血管の伸長,血管透過性亢進,および線維化や細胞死による萎縮をもたらす炎症を抑制することによって,VEGF経路のみを標的とする薬剤よりも治療効果が期待できる4).各抗CVEGF薬におけるCRPEtearの発生率について,ベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトで加療された未治療滲出型CAMDにおいて差を認めなかった2).ファリシマブの二重経路阻害が,RPEtearの発生リスクを高めるかどうかは不明であるが,本症例ではファリシマブ切り替え直後にCRPEtearを生じたことから,ファリシマブの作用がCRPEtearの発生に関与した可能性がある.抗CVEGF加療後のCRPEtearのリスク因子として,丈が400Cμmを超えるCPED5),PEDの大きさに対する比率の小さなCCNV6)が報告されている.既報では,RPEtearを生じた群ではCPEDの最大直径がC3.2Cmmであり,生じなかった群(1.8Cmm)より有意に大きかった7).また,RPEtear発生の前兆として,RPEのCmicrorip8)が報告されている.RPEのmicroripはCOCTで網膜色素上皮(retinalCpigmentCepi-thelium:RPE)の小さな欠損として確認できるほか,フルオレセイン蛍光造影検査(FA)では網膜下への蛍光漏出として過蛍光を示し,自発蛍光眼底では低蛍光を示す.本症例では切り替え前のPED丈はC318Cμm,PED最大直径はC2,508Cμmであり,OCT上はCPEDのサイズについて明らかなリスク因子は認めなかった.今回CFAは施行していないため,PEDに対するCCNVの比率については十分に検討できていない.RPEのCmicroripはCOCTでは認めなかったが,切り替え時に黄斑下出血を生じていたことからCmicroripが存在していた可能性がある.滲出型CAMDに対する抗CVEGF薬硝子体内注射後のCRPEtearのメカニズムとして,NigelらはCPED部分のCRPEの下面に付着したCCNVが,抗CVEGF薬の作用によって急速に退縮および収縮し,CNVの付着していない部分のCRPEに負荷がかかり断裂すると結論づけている9).既報では,滲出型AMDにおける抗CVEGF薬硝子体内注射後のCRPEtearのうちC76%(16眼/21眼)が,治療開始後C3カ月以内に生じた10).複数回の抗CVEGF薬硝子体内注射を受けた滲出型AMDでは,PED下のCCNVの線維性瘢痕化が進み,PEDの安定化効果が得られているため,RPEの断裂リスクは低いと考えられている9).一方で,Invernizziらは治療開始後6カ月以降にCRPEtearを生じた症例では,抗CVEGF薬の治療効果が不良であることを報告し,CNVの伸長およびそれに伴うCRPEの萎縮,また,長期の疾患活動によって引き起こされる線維化が,RPEtearを引き起こすと推測している11).本症例は,前医も合わせてC9年の治療経過があり,IVR3回,IVA60回,IVF1回を施行後にCRPEtearを発症した.ファリシマブ切り替え時,疾患活動性は高い状態であり,PEDの安定化は十分には得られておらず,CNVの伸長が起こっていたと推測される.IVF投与によりCPED部分のRPE下面に新規に伸長したCCNVが収縮し,RPEtearが生じた可能性がある.CRPEtear後の治療に関して,RPEtear発生後も抗CVEGF薬硝子体内注射を継続することで視覚的,解剖学的な改善が得られることが報告されている2).また,Bilgicらの報告ではCIVAで効果不十分であった滲出型CAMDおよび未治療AMDに発生したCRPEtearに対して,IVBrが解剖学的,視覚的改善に有効であった12).本症例においても,RPECtear発生前CIVAは効果不十分であったが,RPEtear発生後,IVBrに切替え,滲出性変化は消失した.視力改善は得られなかったが,その理由としてCRPEtearによるCRPE欠損が中心窩に及んだためと考えられる.ファリシマブとCRPEtearの関連について,今後さらに多数例での検討が必要である.ファリシマブ新規投与や切替え前には,他の抗CVEGF薬と同様に,RPEtearのリスク因子をCOCTなどの画像検査で確認する必要がある.CIII結論ファリシマブ切り替え後にCRPEtearを生じたC1例を経験した.PEDを有する症例へのファリシマブ投与の際には,CRPEtearのリスクに留意すべきである.文献1)HeierCJS,CKhananiCAM,CQuezadaCRuizCCCetal:E.cacy,Cdurability,andsafetyofintravitrealfaricimabuptoevery16CweeksCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion(TENAYACandLUCERNE):twoCrandomised,Cdou-ble-masked,CphaseC3,Cnon-inferiorityCtrials.CLancetC399:C729-740,C20222)AhnJ,HwangDD,SohnJetal:Retinalpigmentepitheli-umCtearsCafterCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion.OphthalmologicaC245:1-9,C20223)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetal:BindingCandCneutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andrelatedligandsbyVEGFTrap,ranibizumabandbevacizumab.AngiogenesisC15:171-185,C20124)HeierCJS,CSinghCRP,CWyko.CCCCetal:TheCangiopoietin/tiepathwayinretinalvasculardiseases:areview.RetinaC41:1-19,C20215)ChanCK,AbrahamP,MeyerCHetal:Opticalcoherencetomography-measuredCpigmentCepithelialCdetachmentCheightCasCaCpredictorCforCretinalCpigmentCepithelialCtearsCassociatedCwithCintravitrealbevacizumabinjections.RetinaC30:203-211,C20106)ChanCK,MeyerCH,GrossJGetal:Retinalpigmentepi-thelialCtearsCafterCintravitrealCbevacizumabCinjectionCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CRetinaC27:541-551,C20077)ChiangCA,CChangCLK,CYuCFCetal:PredictorsCofCanti-VEGF-associatedretinalpigmentepithelialtearusingFAandOCTanalysis.RetinaC28:1265-1269,C20088)ClemensCCR,CAltenCF,CEterN:ReadingCthesigns:CMicroripsCasCaCprognosticCsignCforCimpendingCRPECtearCdevelopment.ActaOphthalmolC93:e600-e602,C20159)NagielA,FreundKB,SpaideRFetal:Mechanismofret-inalCpigmentCepitheliumCtearCformationCfollowingCintravit-realCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCrevealedCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJOphthalmolC156:981-988,C201310)CunninghamETJr.,FeinerL,ChungCetal:Incidenceofretinalpigmentepithelialtearsafterintravitrealranibi-zumabCinjectionCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC118:2447-2452,C201111)InvernizziCA,CNguyenCV,CArnoldCJCetal:EarlyCandClateCretinalpigmentepitheliumtearsafteranti-vascularendo-thelialCgrowthCfactorCtherapyCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration.OphthalmologyC125:237-244,C201812)BilgicA,KodjikianL,VasavadaSetal:BrolucizumabforchoroidalCneovascularCmembraneCwithCpigmentCepithelialCtearandsubretinal.uid.JClinMedC10:2425,C2021***

琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰

2023年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科40(9):1244.1248,2023c琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰愛知高明今永直也北村優佳山内遵秀古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CClinicalOutcomesofPediatricTraumaticMacularHoleCasesSeenattheUniversityoftheRyukyusHospitalTakaakiAichi,NaoyaImanaga,YukaKitamura,YukihideYamauchiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰を報告する.対象および方法:対象はC2000.2020年に当科を受診したC18歳以下の外傷性黄斑円孔C17例C17眼(男性C16例,女性C1例,平均年齢C12.5±3.1歳).初診時視力,最終視力,光干渉断層計(OCT)による黄斑円孔の形態を後ろ向きに検討した.結果:自然閉鎖例がC7眼,硝子体手術症例がC10眼で,最終的に全例で円孔閉鎖した.平均ClogMAR視力は初診時C1.06±0.30から最終受診時C0.33±0.33と有意に改善した(p<0.01).初診時からC1カ月時点で最小円孔径や円孔底径が有意に縮小している症例では経過観察が選択されていた(291.6Cμmvs.83.6Cμm,p<0.05,449.1CμmCvs.189.3Cμm,p<0.05).一方,手術症例は初診時から1カ月時点で最小円孔径が有意に拡大していた(363.6CμmCvs.552.9Cμm,p<0.05).結論:円孔径が縮小している症例には経過観察が選択され,縮小を認めない症例には手術が選択されていた.最終的に全例で円孔閉鎖し,視力の改善が得られていた.CPurpose:Toreporttheclinicaloutcomesofpediatrictraumaticmacularhole(MH)casesseenattheUniver-sityCofCtheCRyukyusCHospital.CSubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCobservationalCcaseCseriesCstudyCinvolvedC17eyesof17traumaticMHcases(16malesand1female,18yearsoldoryounger[meanage:12.5±3.1years])CseenCbetweenC2000CandC2020.CInCallCcases,Cbest-correctedCvisualacuity(BCVA)atCbothCinitialCandC.nalCvisitCandCopticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCwereCevaluated.CResults:InCallC17Ceyes,CtheCMHclosed(spontaneousCclo-sure:n=7eyes;closureCpostCvitrectomysurgery:n=10eyes).CMeanBCVA(logMAR)signi.cantlyCimprovedCfrom1.06±0.30atbaselineto0.33±0.33at.nalfollow-up(p<0.01).Inthe7spontaneousMHclosurecases,themeanCMHCminimumCdiameterCandCtheCmeanCMHCbasalCdiameter,Crespectively,CatC1CmonthCwasCsigni.cantlyCdecreasedcomparedwiththoseattheinitialvisit(p<0.05).Inthe10eyesthatunderwentsurgery,themeanMHminimumdiameterat1monthwassigni.cantlyincreasedcomparedwiththatattheinitialvisit(p<0.05).Conclu-sions:InpediatrictraumaticMHcases,theeyeswithdecreasingMHdiametersat1monthaftertheinitialvisittendedCtoChaveCspontaneousCMHCclosure,CwhileCthoseCwithCincreasingCMHCdiametersCtendedCtoCrequireCsurgicalCtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(9):1244.1248,C2023〕Keywords:外傷性黄斑円孔,小児,硝子体手術,光干渉断層計,黄斑円孔径.traumaticmacularhole,pediatric,parsplanavitrectomy,opticalcoherencetomography,macularholediameter.Cはじめに外傷性黄斑円孔は,眼外傷によって黄斑に網膜全層または分層円孔を生じたものである1).特発性黄斑円孔はC60歳以上の女性に多くみられるが,外傷性黄斑円孔は若年者に多く発症し,小児での発症報告も少なくない2,3).小児の外傷性黄斑円孔は成人と同様に,自然閉鎖が認められる場合があり,かつ小児は成人よりも自然閉鎖率が高く1),硝子体手術のリスクが高いため,受傷後しばらくは経過観察されることが多い.一方で,過去の報告では受傷から硝子体手術までの期間が長かった症例は,早期に手術を受けた症例よりも円孔〔別刷請求先〕愛知高明:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:TakaakiAichi,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC1244(122)が閉鎖しにくい可能性が指摘されており4),過度の経過観察は恒久的な視機能低下につながる可能性がある.このように,現状では小児の外傷性黄斑円孔の手術時期については適切な手術時期は定まっていない3).また,視力予後についても網膜.離の合併,網膜震盪,脈絡膜破裂,網膜色素上皮の損傷,経過中の網膜下脈絡膜新生血管や線維化など,外傷による網膜の損傷を合併するため,機能的な予後は不明なことが多いことが示唆されている1).今回筆者らは,琉球大学病院(以下,当院)を受診した小児の外傷性黄斑円孔患者における,視力予後と円孔閉鎖にかかわる因子に関して,文献的考察を加え検討したので報告する.CI対象および方法2000.2020年の間に当院において外傷性黄斑円孔と診断され,6カ月以上経過観察可能であったC18歳以下の患者(17例C17眼)を対象とした.対象症例の受傷機転,自然閉鎖あるいは手術までの日数,初診時視力,最終視力,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)による黄斑円孔の形態(最小円孔径と円孔底径)について,診療録をもとに後ろ向きに検討した.自然閉鎖例および手術を要した代表症例のCOCT経過を,それぞれ図1,2に示す.本検討はヘルシンキ宣言に則り行い,琉球大学の人を対象とする医学系倫理審査委員会によって承認された.後ろ向き研究のため,研究内容を琉球大学のホームページに掲載し,オプトアウトの機会を提供した.図116歳,男性:ペットボトルで受傷a:初診時のCOCT.最小円孔径はC512Cμm,円孔底径はC522Cμmであった.Cb:初診時からC1カ月後のCOCT.最小円孔径はC192μm,円孔底径はC288Cμmで縮小傾向を認めた.Cc:最終受診時のOCT.受傷C58日後に黄斑円孔は閉鎖したが,網膜萎縮,脈絡膜損傷のため,最終視力は(0.6)であった.図213歳,男性:野球ボールで受傷a:初診時のCOCT.最小円孔径はC362Cμm,円孔底径はC1,580Cμmであった.Cb:初診時からC1カ月後のCOCT.最小円孔径はC551Cμm,円孔底径はC1,080Cμmと拡大傾向を認め,受傷C43日後に硝子体手術を施行し,黄斑部耳側の内境界膜を半周.離し円孔上に被覆した.Cc:術後C1カ月時点でのCOCT.円孔は閉鎖せず,受傷後C78日に再手術を施行し,鼻側の内境界膜を被覆した.Cd:最終受診時のCOCT.術後,黄斑円孔は閉鎖し,最終視力は(0.6)であった.表1全症例の臨床的特徴と転機初診時最終受傷から自受傷から初診時初診時症例年齢性別受傷原因経過然閉鎖まで手術まで最小円孔径円孔底径合併症視力視力の日数の日数(μm)(μm)1C7男野球バットC0.1C1.2経過観察C8C128C408C2C16男ペットボトルC0.04C0.6経過観察C58C512C522網膜振盪/網膜下出血/脈絡膜破裂3C18男交通外傷C0.06C0.2経過観察C38C232C417網膜振盪4C12男サッカーボールC0.2C0.6経過観察C42C247C480網膜振盪5C11男サッカーボールC0.2C0.9経過観察C29C316C480C6C12男野球バットC0.15C0.9経過観察C59C190C246網膜振盪7C11男野球ボールC0.05C0.4経過観察C32C416C991C8C14男野球ボールC0.15C0.3硝子体手術C99C316C917網膜下出血/脈絡膜破裂9C16男野球ボールC0.15C0.8硝子体手術C50C0C1,044脈絡膜破裂10C13男野球ボールC0.1C0.5硝子体手術C94C328C1,153C11C14男サッカーボールC0.03C0.2硝子体手術C106C530C980網膜振盪12C13男野球ボールC0.03C0.6硝子体手術C43C221C4,262網膜振盪/網膜下出血/脈絡膜破裂13C14男野球ボールC0.1C0.7硝子体手術C116C480C993網膜振盪14C14男野球ボールC0.15C0.5硝子体手術C120C664C1,762網膜振盪15C14男野球ボールC0.2C0.6硝子体手術C132C362C1,580網膜振盪/網膜下出血/再手術16C9女野球ボールC0.03C0.6硝子体手術C98C410C1,125C17C5男テニスボールC0.08C0.05硝子体手術C120C325C1,540網膜振盪/脈絡膜破裂II結果全症例の特徴と転機を表1に示す.性別は男性C16例,女性C1例,平均年齢はC12.5C±3.1歳(5.18歳)であった.受傷原因の内訳は野球ボールがC9例,サッカーボールがC3例,野球バットがC2例,テニスボールがC1例とスポーツに関する外傷がC83.3%であった.全症例のうち,円孔が自然閉鎖した症例がC7例で,受傷から円孔閉鎖までの平均期間はC43.0C±27.1日,硝子体手術を施行した症例はC10例で,受傷から手術までの平均期間はC97.8C±31.3日であった.手術後C1例は円孔閉鎖が得られず,再手術により円孔閉鎖し,最終的には全例が円孔閉鎖した.全例における初診時の平均ClogMAR視力はC1.07C±0.06で,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.33C±0.33と有意に改善した(p<0.01).自然閉鎖群の初診時平均ClogMAR視力はC1.02±0.29,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.22C±0.26,手術群の初診時平均ClogMAR視力はC1.08C±0.32,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.40C±0.36であり,両群間で初診時および円孔閉鎖後の視力において有意差はなかった.OCTで測定した最小黄斑円孔径および黄斑円孔底径は,自然閉鎖群では初診時の最小黄斑円孔径はC291.6C±133.7μm,黄斑円孔底径はC449.1C±109.0Cμm.手術群では初診時の最小黄斑円孔径はC363.6C±179.9Cμm,黄斑円孔底径は1,535.6±1,001.6Cμmであり,最小黄斑円孔径では有意差はなかったが,黄斑円孔底径は手術群で有意に大きかった(p<0.01).受傷後C2週間では,自然閉鎖群および手術群ともに,最小黄斑円孔径や黄斑円孔底径の有意な変化は認めなかった.受傷後C1カ月時点で,自然閉鎖群は最小黄斑円孔径C83.6±81.8Cμm,黄斑円孔底径C189.3C±131.8Cμmであり,有意に円孔径は縮小傾向であった(p<0.05)が,手術群では最小黄斑円孔径C552.9C±153.8μm,黄斑円孔底径C1,188.4C±675.0Cμmであり,最小黄斑円孔径が有意に拡大していた(p<0.05).自然閉鎖群と手術群それぞれの最小黄斑円孔径と黄斑円孔底径の経過を図3に示す.CIII考按外傷性黄斑円孔は眼球前方からの瞬間的な外力で眼球が圧排され,黄斑を含む網膜全体が遠心方向に牽引されることで生じると考えられている5).外力による黄斑部の進展によって生じるため,後部硝子体.離が生じていない若年者では,黄斑部網膜に接着した硝子体皮質が黄斑部と一緒に遠心方向に牽引され,外傷性黄斑円孔が生じやすい2,5).また,自然閉鎖の報告も多数あり,どの程度経過観察を行い硝子体手術に踏み切るかは,術者や施設に委ねられているのが現状である.成人を含めた外傷性黄斑円孔の自然閉鎖率は,既報ではabμmp<0.05μmp<0.056001,2005001,00040080030060020040010020000初診時2週4週8週初診時2週4週8週症例1症例2症例3症例4症例1症例2症例3症例4症例5症例6症例7症例5症例6症例7cμmp<0.05dμm9008007006005004003002001004,5004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,0005000初診時2週4週8週0初診時2週4週8週症例8症例9症例10症例11症例12症例8症例9症例10症例11症例12症例13症例14症例15症例16症例17症例13症例14症例15症例16症例17図3自然閉鎖群と硝子体手術群の最小黄斑円孔径と黄斑円孔底径の経過a:自然閉鎖群の最小黄斑円孔径.初診時からC4週で有意に円孔が縮小した.Cb:自然閉鎖群の黄斑円孔底径.初診時からC4週で有意に円孔が縮小した.Cc:硝子体手術群の最小黄斑円孔径.初診時からC4週で有意に円孔が拡大した.Cd:硝子体手術群の黄斑円孔底径.円孔径に有意な変化はなかった.25.0.66.7%2,3,6,7)とかなりばらつきがあるが,小児の外傷性黄斑円孔ではC34.5.50%2,4,6,8)であり,成人とほぼ同等の自然閉鎖率である.筆者らの検討でも,41.2%の症例で自然閉鎖しており,既報と同等の結果であった.受傷から閉鎖までの期間は,既報ではC39.63日程度2,4)であり,本検討でも自然閉鎖群は平均C43日で円孔閉鎖を得られており,自然閉鎖はC2カ月前後に得られることが多い.一方,小児例においては,手術時に全身麻酔を必要とし,人工的な後部硝子体.離作製や水晶体温存での手術など,成人と比較し手術難度が高いことが問題となる.小児の外傷性黄斑円孔では自然閉鎖例が存在する以上,経過観察による円孔閉鎖を期待したくなるが,Millerら4)は受傷後C3カ月を超えた症例は硝子体手術の閉鎖率が低下することを報告している.また,過度の経過観察が弱視を惹起し,恒久的な視機能低下リスクになることが指摘されており2,8),受傷後C2.3カ月時点で円孔閉鎖が得られない場合は,小児であっても硝子体手術に踏み切る必要がある.小児外傷性黄斑円孔における硝子体手術は,成人に対する特発性黄斑円孔と同様に,円孔周囲の内境界膜.離を併用した硝子体手術が標準的な術式である.成人の外傷性黄斑円孔の閉鎖率は初回手術でC90%以上を達成した報告が多いが9,10),以前は小児外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術は,後部硝子体と内境界膜の癒着が成人と比べて強く11),完全な後部硝子体.離を人工的に作製することは困難であり,網膜損傷,視野障害,硝子体出血が生じやすく,年齢が若い患者ほど手術成績が悪いことが指摘されていた5).しかし,近年では,Liuら2)は受傷後平均C13日の手術で,初回手術による閉鎖率はC14/18眼(77.8%),最終的に全例の円孔閉鎖を達成しており,Brennanら8)は受傷後平均C147日で内境界膜.離を併用した硝子体手術を施行し,初回閉鎖率C12/13眼(92.3%)を達成した.本検討でも内境界膜.離を併用した硝子体手術により,初回円孔閉鎖率はC9/10眼(90%),最終円孔閉鎖率はC100%であった.近年は黄斑円孔手術において,巨大円孔や陳旧性黄斑円孔のような難治性の黄斑円孔に,内境界膜翻転を併用した硝子体手術が考案され,円孔閉鎖率の大幅な改善がみられている12).本検討でも難治性症例では内境界膜翻転を併用していた.他にプラスミン併用硝子体手術13)やCbloodCcoating2)などの報告もあり,小児における外傷性黄斑円孔の治療成績も向上している.このことからも自然閉鎖の見込みが低いと考えられる場合は,積極的な硝子体手術を行い円孔の閉鎖を試みる価値があると思われる.一方で,どのような患者が黄斑円孔の自然閉鎖となるかは議論の余地がある.Chenら3)は初診時の円孔径が小さいこと,網膜内.胞がない症例は自然閉鎖する可能性が高いことを報告しているが,Liuら2)は円孔径がC400Cμm以上の症例でも,縮小傾向なら自然閉鎖の可能性があると指摘している.Millerら5)は同様に円孔径が縮小傾向なら自然閉鎖率が高いことを報告しており,初診時の円孔径は自然閉鎖とは関連しないと結論している.筆者らの検討では,初診時の時点では,最小円孔径は自然閉鎖群と手術群で有意差はなかったが,自然閉鎖群は初診時と比べて受診からC1カ月時点での最小黄斑円孔径や黄斑円孔底径が有意に縮小しており,逆に手術群では初診時と比べて受診からC1カ月時点での最小黄斑円孔径が有意に拡大していた.このことは,LiuやCMillerらの指摘と合致する.しかし,初診時と受診からC2週間時点での円孔径では,自然閉鎖群も手術群も円孔径は有意差がなかった点からは,少なくともC1カ月以上の経過観察が妥当と考えられる.しかし,受傷からC1カ月時点で黄斑円孔径が拡大傾向にあるのであれば,手術のリスクとベネフィットや患者の希望を考慮したうえで,手術時期を検討すべきであろう.今回の検討では,視力予後については自然閉鎖群と手術群で有意差はなく,どちらの群も初診時と比べて視力は改善しており,手術群でもC7/10眼(70.0%)で最終小数視力(0.6)以上を達成していた.過去の報告においても手術を要した症例でも術後は初診時より視力が改善し2,4,6,8),自然閉鎖群と視力予後は差がなかった2,6)ことが報告されている.Azevedoら14)は小児外傷性黄斑円孔の視力予後において,早期硝子体手術は安全で効果的な選択であり,手術のリスク/ベネフィット比は経過観察よりも優れていることを指摘した.一方で,外傷性黄斑円孔においては,外傷によるCellipsoidzoneや脈絡膜の損傷,網膜震盪や網膜.離の合併が,視力不良と関連することが知られており2,5),筆者らの検討でも最終小数視力が(0.3)以下の症例は,全例で網膜震盪や脈絡膜損傷を合併していた.解剖学的な黄斑円孔閉鎖が得られたとしても視力不良の患者が存在することは念頭に置くべきである.今回,当院における若年者外傷性黄斑円孔の臨床転帰を呈示した.成人の外傷性黄斑円孔と同じく,小児でも硝子体手術による黄斑円孔閉鎖によりある程度良好な視力が得られる可能性がある.自然閉鎖例もあり手術時期の判断はむずかしいが,硝子体手術による円孔閉鎖で視機能維持が期待できる場合も多数あるため,OCTによる黄斑円孔の形状変化を見逃さず,円孔の拡大があれば硝子体手術に踏み切る必要がある.文献1)Budo.CG,CBhagatCN,CZarbinMA:TraumaticCmacularhole:diagnosis,CnaturalChistory,CandCmanagement.CJCOph-thalmol2019;2019:58378322)LiuCJ,CPengCJ,CZhangCQCetal:Etiologies,Ccharacteristics,Candmanagementofpediatricmacularhole.AmJOphthal-molC210:174-183,C20203)ChenH,ChenW,ZhengKetal:Predictionofspontane-ousCclosureCofCtraumaticCmacularCholeCwithCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.CSciCRepC5:12343,C20154)MillerJB,YonekawaY,EliottDetal:Long-termfollow-upCandCoutcomesCinCtraumaticCmacularCholes.CAmCJCOph-thalmolC160:1255-1258Ce1,C20155)MillerJB,YonekawaY,EliottDetal:Areviewoftrau-maticmacularhole:diagnosisandtreatment.IntOphthal-molClinC53:59-67,C20136)YamashitaCT,CUemaraCA,CUchinoCECetal:SpontaneousCclosureCofCtraumaticCmacularChole.CAmCJCOphthalmolC133:230-235,C20027)ChenCHJ,CJinCY,CShenCLJCetal:TraumaticCmacularCholestudy:amulticentercomparativestudybetweenimmedi-ateCvitrectomyCandCsix-monthCobservationCforCspontane-ousclosure.AnnTranslMedC7:726,C20198)BrennanCN,CReekieCI,CKhawajaCAPCetal:Vitrectomy,CinnerClimitingCmembraneCpeel,CandCgasCtamponadeCinCtheCmanagementCofCtraumaticCpaediatricCmacularholes:aCcaseseriesof13patients.OphthalmologicaC238:119-123,C20179)KuhnF,MorrisR,MesterVetal:Internallimitingmem-braneCremovalCforCtraumaticCmacularCholes.COphthalmicCSurgLasersC32:308-315,C200110)BorC’iCA,CAl-AswadCMA,CSaadCAACetal:ParsCplanaCvit-rectomywithinternallimitingmembranepeelingintrau-maticmacularhole:14%per.uoropropane(CC3F8)versussiliconeCoilCtamponade.CJCOphthalmol2017;2017:C391769611)SebagJ:Age-relateddi.erencesinthehumanvitreoreti-nalinterface.ArchOphthalmolC109:966-971,C199112)MichalewskaCZ,CMichalewskiCJ,CAdelmanCRACetal:CInvertedCinternalClimitingCmembraneC.apCtechniqueCforClargeCmacularCholes.COphthalmologyC117:2018-2025,C201013)WuWC,DrenserKA,TreseMTetal:Pediatrictraumat-icCmacularhole:resultsCofCautologousCplasminCenzyme-assistedCvitrectomy.CAmCJCOphthalmolC144:668-672,C200714)AzevedoS,FerreiraN,MeirelesA:anagementofpediat-rictraumaticmacularholesC─Ccasereport.CaseRepOph-thalmolC4:20-27,C2013***

原発閉塞隅角病における網膜血管密度に対する 水晶体再建術の影響

2023年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科40(9):1238.1243,2023c原発閉塞隅角病における網膜血管密度に対する水晶体再建術の影響北村優佳力石洋平澤口翔太新垣淑邦古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CEvaluationofRetinalVascularDensityafterCataractSurgeryinPrimaryAngleClosureGlaucomaYukaKitamura,YoheiChikaraishi,ShotaSawaguchi,YoshikuniArakakiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:原発閉塞隅角病(PACD)における水晶体再建術後の視神経乳頭周囲血管密度(p-VD)および黄斑部血管密度(m-VD)の変化を評価すること.対象および方法:2020年C6.12月に琉球大学病院にて水晶体再建術を行ったPACD症例C13例C21眼を対象とした.疾患の内訳は原発閉塞隅角症(PAC)がC10眼,原発閉塞隅角症疑い(PACS)が11眼,原発閉塞隅角緑内障(PACG)がC0眼であった.術前,術後C1週,1カ月,3カ月,6カ月の眼圧,前眼部形状変化,網膜血管密度を評価した.光干渉血管断層撮影を用いて視神経乳頭を中心としたC4.5×4.5Cmmの上方,耳側,下方,鼻側部位の網膜血管密度をCp-VDとして測定し,中心窩を中心としたC6×6Cmmの上方,耳側,下方,鼻側,中央部位の網膜血管密度をCm-VDとして測定した.結果:水晶体再建術後,眼圧は術後C1カ月で有意に下降した.p-VDは術後C1週で下方において有意に増加した.その後,上方・下方では術後C1週から術後C1カ月で有意に減少したが,術後C6カ月ではその変化は消失した.m-VDは術前後で一貫して変化しなかった.結論:PACおよびCPACSにおける水晶体再建術後の網膜血管密度変化は一過性かつ限局的であり網膜への影響が小さいことが示唆された.CPurpose:ToCevaluateCchangesCinCperipapillaryCvasculardensity(pVD)andCmacularCvasculardensity(mVD)CafterCcataractCsurgeryCinCprimaryCangle-closuredisease(PACD).CSubjectsandMethods:Twenty-oneCeyesCofC13CPACDpatientswereincluded.Teneyeshadprimaryangleclosure(PAC),11eyeshadprimaryangleclosuresus-pect(PACS),and0eyeshadprimaryangle-closureglaucoma(PACG).Usingopticalcoherencetomographyangi-ography,pVDandmVDweremeasuredina4.5×4.5Cmmareacenteredontheopticdiscanda6×6Cmmareacen-teredConCtheCcentralCfovea.CEvaluationCwasCperformedCpreoperativelyCandCatC1Cweek,C1Cmonth,C3Cmonths,CandC6CmonthsCpostoperatively.CResults:AtC1-weekCpostoperative,CpVDCincreasedCsigni.cantlyCinCtheCinferiorCarea,CandCthenCdecreasedCsigni.cantlyCinCtheCinferiorCandCsuperiorCareasCfromC1-weekCtoC1-monthCpostoperative.CHowever,CthoseCchangesCdisappearedCatC6-monthsCpostoperative.CNoCchangeCinCmVDCwasCobservedCbetweenCtheCpre-andCpostoperativeCperiods.CConclusions:TheCchangesCinCretinalCvascularCdensityCafterCcataractCsurgeryCinCPACCandCPACSweretemporaryandlimited.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(9):1238.1243,C2023〕Keywords:原発閉塞隅角症,水晶体再建術,血管密度,光干渉断層血管撮影,眼圧.primaryangleclosure,cata-ractsurgery,vesseldensity,opticalcoherencetomographyangiography,intraocularpressure.Cはじめにい(primaryCangleCclosuresuspect:PACS)などのCPACG緑内障診療ガイドライン(第C5版)では原発閉塞隅角緑内の前駆病変のすべてを包括する呼称として,新たに原発閉塞障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)と,原発閉塞隅角病(primaryangleclosuredisease:PACD)という用語隅角症(primaryCangleclosure:PAC)や原発閉塞隅角症疑が定義された1).PACDの治療は根本的には閉塞隅角の解除〔別刷請求先〕北村優佳:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:YukaKitamura,M.D.,DepartmentofOpthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC1238(116)表1患者背景(平均値±標準偏差)症例13例21眼年齢(歳)C63.85±7.56C性別男性3例C5眼(2C3.8%)女性10例C16眼(C76.2%)病型PAC11眼(52.4%)PACS10眼(47.6%)PACG0眼(0%)術前眼圧(mmHg)C15.57±3.22緑内障・高眼圧症治療薬の使用14眼(66.7%)術前屈折値(D)C0.41±3.26C前眼部COCT所見ACD(mm)C2.08±0.26TISAC500(mmC2)C0.08±0.03PAC:原発閉塞隅角症,PACS:原発閉塞隅角症疑い,PACG:原発閉塞隅角緑内障,ACD:前房深度,TISA:trabecularCirusCspacearea.が必要であり,Azuara-Blancoら2)が瞳孔ブロック機序の存在するCPACDに対し水晶体再建術の有効性を報告し,わが国でも水晶体再建術が第一選択になりつつある.しかし,水晶体再建術は,術後合併症として.胞様黄斑浮腫や糖尿病網膜症の進行,加齢黄斑変性の発症など,手術侵襲による網膜への影響が示唆されている3).光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)を用いた検討では,水晶体再建術後に黄斑部の網膜厚や脈絡膜厚,体積が増加し,加齢黄斑変性が発症する可能性が報告されており4,5),網脈絡膜変化の原因として,手術侵襲による血液網膜関門の破綻,網膜血管密度の増加,硝子体牽引,術中術後の低眼圧,炎症による機序などが提唱されているが3),水晶体再建術後における眼底変化の正確な病態や機序はいまだ不明である.網膜血流を測定する方法として非侵襲的に網脈絡膜循環を描出する光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)があり,近年,網脈絡膜疾患だけでなく,緑内障においても網膜血流との関連が報告されている6).2018年にCInら7)はOCTAを用いて開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglau-coma:POAG)患者の線維柱帯切除術後に,視神経乳頭周囲の網膜血管密度を測定し,眼圧下降により網膜血管密度が増加したことを報告した.一方で,PACD眼では水晶体再建術後に眼圧が下降することが示されている8.10)が,これまでPACD眼における水晶体再建術後の網膜血管密度の評価はされていない.本研究ではCOCTAを用いてCPACD眼における水晶体再建術後の網膜血管密度の変化を後ろ向きに評価した.図1TISA500AOD500,角膜後面,AOD500と平行に強膜岬(SS)から引いた線および虹彩表面で囲まれた面積I対象および方法2020年C6.12月に,琉球大学病院にて水晶体再建術を行った患者のうち,術後C6カ月まで経過観察が可能であり,かつCOCTAで評価が可能であったCPACD患者C13例C21眼(男性C3例C5眼,女性C10例C16眼,年齢C63.85C±7.56歳)を対象とした.PACDは,前眼部所見および隅角所見から,Inter-nationalSocietyofGeographicandEpidemiologicalOpthal-mology(ISGEO)分類11)に従い定義した.PACGに関しては,MD(meandeviation)値C.6CdB未満を対象とした.疾患の内訳はPACが10眼,PACSが11眼,PACGが0眼であった.水晶体再建術は緑内障専門医C3人が全症例でC2.4Cmm耳側角膜切開にて行った.屈折値は等価球面度数を用いて求めた.症例の詳細を表1に示す.検討項目は眼圧,前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD),隅角形状および網膜血管密度とした.眼圧はノンコンタクトトノメーターを用いて,3回測定した平均値を採用した.ACDと隅角形状は前眼部COCT(CASIA2,トーメーコーポレーション)を用いて測定し,角膜後面から水晶体前面または眼内レンズ前面までの距離をCACDと定義した.また,角膜後面の強膜岬(scleralspur:SS)からC500Cμmの点から垂直に下した虹彩までの距離であるCAOD(angleopen-ingdistance)500,角膜後面,AOD500と平行にCSSから引いた線および虹彩表面で囲まれた面積のCtrabecularCirisCspacearea(TISA)500を隅角形状として評価した(図1).網膜血管密度はスウェプトソースCOCTA(SS-OCTA)(DRI-OCTTriton,トプコン)を用いて,網膜表層の視神経乳頭周囲血管密度(peripapillaryCvesseldensity:p-VD)および黄斑部血管密度(macularCvesseldensity:m-VD)を評価した.p-VDは視神経乳頭周囲を中心とした4.5C×4.5CmmC図2OCTAを用いた網膜血管密度の測定a:視神経乳頭周囲血管密度(p-VD).b:黄斑部血管密度(m-VD).平方をスキャンしCETDRS(EarlyCTreatmentCDiabeticCReti-nopathyStudy)サークル内の直径C3Cmmの範囲を上方,耳側,下方,鼻側の部位で測定(図2a),m-VDは黄斑部中心窩を中心としたC6C×6Cmm平方をスキャンしCETDRSサークル内の直径C3Cmmの範囲を,上方,耳側,下方,鼻側,中央の部位で測定した(図2b).網膜血管密度の解析はCSS-OCTAに内蔵されている自動解析ソフトで行った.各項目は,水晶体再建術の術前,水晶体再建術後C1週,1カ月,3カ月,6カ月で測定した.網膜硝子体疾患を有する症例,取得した画像が不鮮明で解析困難な症例は除外した.統計解析は対応のある一元配置分散分析を使用し,すべての時点での比較を行い,最終的にCBonferroni法で補正した.p<0.05の場合に,統計学的に有意と判断した.本検討はヘルシンキ宣言に則り行い,琉球大学の人を対象とする生命科学・医学系研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:1267).CII結果屈折値は術前でC0.41C±3.26D,術後C1週でC.0.49±0.66Dであり,術前と比較して有意差はみられなかった.眼圧の経過を図3aに示す.眼圧は術前でC15.57C±3.22mmHg,術後C1週でC14.94C±2.80mmHg,術後C1カ月でC14.31±2.65mmHg,術後C3カ月でC14.69C±2.56CmmHg,術後C6カ月でC14.55C±2.51CmmHgであり,術前と比較して術後1カ月のみ有意に眼圧が下降した(p<0.05).全症例のうち,14眼は術前に緑内障・高眼圧症治療薬が投与されていた.また,術後の観察期間中はすべての症例で緑内障・高眼圧症治療薬は使用されなかった.前眼部COCTにおけるCACDとCTISA500の結果を図3bに示す.ACDは術前でC2.08C±0.26mm,術後C1週でC3.56C±0.30Cmm,術後C1カ月でC3.72C±0.21Cmm,術後C3カ月でC3.76C±0.22Cmm,術後C6カ月でC3.79C±0.19Cmmであり,すべての時点で術前と比較して深くなった(p<0.01)(図3b-1).TISA500は術前でC0.08C±0.03Cmm2,術後C1週でC0.14C±0.06Cmm2,術後C1カ月でC0.16C±0.06Cmm2,術後C3カ月でC0.15C±0.05Cmm2,術後C6カ月でC0.15C±0.06Cmm2であり,すべての時点で術前より有意に開大した(p<0.01)(図3b-2).p-VDとCm-VDの経過を図4に示す.p-VDは視神経乳頭上方において,術前でC46.48%,術後C1週でC48.70%,術後C1カ月でC45.35%,術後C3カ月でC45.99%,術後C6カ月で45.33%であった.術後C1週と比較して術後C1カ月,術後C3カ月,術後C6カ月で有意に低下がみられた(p<0.05)が,術前と比較して術後各測定時点での変化はなかった.視神経乳頭下方では,術前でC46.68%,術後C1週でC49.82%,術後C1カ月でC46.07%,術後C3カ月でC46.32%,術後C6カ月でC47.07%であった.術後C1週と比較し術後C1カ月,術後C3カ月で有意に低下した(p<0.05)が,術前との比較では術後C1週で有意に増加した(p<0.05)のみであった.視神経乳頭耳側では,術前でC49.06%,術後C1週でC48.67%,術後C1カ月で48.34%,術後C3カ月でC48.04%,術後C6カ月でC47.94%,視神経乳頭鼻側では,術前でC45.01%,術後1週でC44.61%,術後C1カ月でC44.64%,術後C3カ月でC44.26%,術後C6カ月でC44.43%であり,術前後,および術後の経過中に変化はみられなかった(図4a).m-VDはすべての測定時点,測定部位において有意な変化はなかった(図4b).CIII考按本研究ではCPACD眼における水晶体再建術後の眼圧,前房深度,隅角形状,p-VDおよびCm-VDの変化を術後C6カ月まで評価した.水晶体再建術により前房深度は深くなり,TISAは拡大した.術後C1カ月時点で眼圧は有意に下降したが,その後は有意な変化はみられなかった.また,視神経乳頭周囲において,術後C1週で一部の領域で網膜血管密度の上昇がみられたが,その後,網膜血管密度は低下した.術後C6カ月の時点では,視神経乳頭周囲,黄斑部のいずれの領域においても,網膜血管密度は術前と差がなかった.水晶体再建術後の網膜血管密度の変化は,既報では眼圧のa*眼圧(mmHg)20181614121086420術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月平均値±標準偏差*:p<0.05,Bonferroni法b-1***b-2***4.5*0.25*0.500術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月1週1カ月3カ月6カ月平均値±標準偏差平均値±標準偏差ACD:前房深度TISA500:TrabecularIrusSpaceArea500*:p<0.01,Bonferroni法*:p<0.01,Bonferroni法4TISA500(mm2)0.23.532.52ACD(mm)0.150.11.510.05図3水晶体再建術前後における眼圧,ACD,TISAの経過a:水晶体再建術前後における眼圧の変化.Cb-1:水晶体再建術前後におけるCACDの経過.Cb-2:水晶体再建術前後におけるCTISAの経過.C*b5550454035a55p-VD(%)50453025201510403530術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月1週1カ月3カ月6カ月上方耳側下方鼻側上方耳側下方鼻側中央平均値±標準偏差平均値±標準偏差p-VD:視神経乳頭周囲血管密度m-VD:黄斑部血管密度*:p<0.05,Bonferroni法図4水晶体再建術前後における網膜血管密度の経過a:水晶体再建術前後におけるCp-VDの経過.Cb:水晶体再建術前後におけるCm-VDの経過.変動,あるいは術後の炎症による影響が指摘されていHiltonら14)は水晶体再建術後の眼圧レベル低下により拍動る3,12,13).PACD眼に対する水晶体再建術は,前房容積の拡性眼血流が改善することを報告した.また,POAG患者に大による眼圧の低下を引き起こすと考えられており10),対する線維柱帯切除術後C3カ月における報告7)では,眼圧は下降し,視神経乳頭周囲血管密度が増加したと報告されている.また,観察期間中,視神経乳頭周囲血管密度は術後C1週でわずかに減少したが,その後は徐々に増加し術後C3カ月で術前と比較して有意な増加がみられた.眼圧下降と視神経乳頭血管密度の増加は有意に関連していたと述べられている.本研究においてもCPACD眼は水晶体再建術後,ACDは深くなり眼圧は術後C1週で不変,1カ月で下降した.本研究ではp-VD,m-VDは術後C1週で一部増加したのみで,眼圧下降がみられた術後C1カ月での増加はなく,眼圧と関連した変化はみられなかった.Zhaoら12)は水晶体再建術後の黄斑部の網膜血管密度増加を報告しており,彼らのコホートでは水晶体再建術後にC2.80C±1.12CmmHgの眼圧下降がみられているが,本研究では術後C1カ月時点でC0.87C±2.09CmmHgと下降幅が小さかった.既報では術前の眼圧が低い症例は水晶体再建術後の眼圧下降が低いことが示唆されており10),本検討の対象眼は,術前に緑内障・高眼圧症治療薬を使用されている症例がC21眼中C14眼あり,眼圧上昇をきたしている症例は少なかったため,眼圧の下降幅が小さく,網膜血管密度に影響をおよぼさなかった可能性がある.水晶体再建術については,Pilottoら15)が術後の局所的な炎症反応により血管系の変化が起こることを示唆している.Zhouら3)は術後の網膜血管密度増加を報告しているが,その原因として,炎症反応によりプロスタグランジンの放出が誘発され,血液-房水関門の崩壊を引き起こし,房水に他の炎症メディエーターが蓄積され,硝子体に拡散することで網膜血管系の一時的な拡張と,網膜毛細血管の開通を引き起こすことを提唱している.また,合併症のない水晶体再建術後の炎症反応は術後C1週からC1カ月の間に最大となり,2.6カ月後にはベースラインに戻ると報告されている5).本研究の結果も術後C1週時点でのCp-VD増加,その後のCp-VD低下という網膜血管密度変化と術後炎症の転機は,既報と合致するものであった.これまで水晶体再建術後にCOCTAにて視神経乳頭周囲血管密度および黄斑部血管密度を測定した既報3)と,黄斑部血管密度のみを測定した既報12,13)では,術後にすべての追跡期間で血管密度の増加がみられている.本研究では,既報3,12,13)と異なり,p-VDの増加は限定的で,m-VDは有意な変化はなかった.原因として本研究の対象がCPACD眼であることや,既報3,12,13)と比較し若年であり,水晶体核硬度が低かった可能性や,手術時の切開幅が本研究ではC2.4Cmmと既報3)のC2.8Cmm切開より小さいことなどから,炎症惹起が少なかったことが考えられる.超音波乳化吸引装置による累積使用エネルギー値と網膜血管密度変化は相関することが報告されており3),柔らかい水晶体核や極小切開水晶体再建術は,網膜血管密度への影響が小さい可能性が示唆される.また,m-VDはCp-VDに比べて血管密度が低く,眼圧変化や炎症の影響を受けにくい可能性があるが,水晶体再建術後に網膜の部位別に血管密度変化の比較を行った報告はなく,まだ十分には検討されていない.最後に,本研究の限界としてつぎの二点があげられる.1点目は対象についてである.今回は,条件を満たす症例がいなかったためCPACGは含まれず,PACSおよびCPACが対象となった.緑内障性視神経症は網膜血管密度へ影響を及ぼすことが推察され,PACGを含む検討では異なる結果となった可能性がある.2点目は術前後の拡大率の違いである.今回はCOCTA測定時に屈折値補正は行っていないが,術前後の屈折値の変化により,OCTA撮像範囲が変化した可能性が考えられる.本研究では術前と比較し術後の屈折値に有意差はなかったものの,対象症例では遠視眼が多く,術前後の拡大率の違いが結果に影響を与えた可能性も推察される.これら二点は本研究の限界であり,今後はさらなる多数例での観察と屈折値を考慮した測定が必要であると考える.今回,PACDにおける水晶体再建術後の網膜血管密度の変化を検討した.既報3,12,13)と同じく術後C1週時点ではp-VDの増加がみられたが,m-VDの増加はみられず,網膜血管密度の変化は限定的であった.本研究におけるCPACD眼に対する侵襲がきわめて少ない極小切開水晶体再建術は,前房深度増大とCTISA増加の有用性と,網膜血流や網膜血管密度への影響が軽微であることを示す結果となった.水晶体再建術における網脈絡膜血管に対する影響は,OCTAにおける網膜血管の層別解析や脈絡膜血流の解析によるさらなる検討が必要である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C20163)ZhouCY,CZhouCM,CWangCYCetal:Short-termCchangesCinCretinalCvasculatureCandClayerCthicknessCafterCphacoemul-si.cationsurgery.CurrEyeResC45:31-37,C20204)NodaY,OgawaA,ToyamaTetal:Long-termincreaseinCsubfovealCchoroidalCthicknessCafterCsurgeryCforCsenileCcataracts.AmJOphthalmolC158:455-9Ce1,C20145)FalcaoMS,GoncalvesNM,Freitas-CostaPetal:Choroi-dalCandCmacularCthicknessCchangesCinducedCbyCcataractCsurgery.ClinOphthalmolC8:55-60,C20146)AkilH,HuangAS,FrancisBAetal:Retinalvesseldensi-tyCfromCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCtoCdi.erentiateearlyglaucoma,pre-perimetricglaucomaandnormaleyes.PLoSOneC12:e0170476,C20177)PaulCJF,CRaufCB,CHarryCAQCetal:TheCde.nitionCandCclassi.cationCofCglaucomaCinCprevalenceCsurveys.CBrJOpthalmolC86:238-242,C20028)InJH,LeeSY,ChoSHetal:PeripapillaryvesseldensityreversalCafterCtrabeculectomyCinCglaucoma.CJCOphthalmolC2018;8909714,C20189)VuCAT,CBuiCVA,CVuCHLCetal:EvaluationCofCanteriorCchamberCdepthCandCanteriorCchamberCangleCchangingCafterCphacoemulsi.cationCinCtheCprimaryCangleCcloseCsus-pectCeyes.COpenCAccessCMacedCJCMedCSciC7:4297-4300,C201910)MelanciaD,AbegaoPintoL,Marques-NevesC:CataractsurgeryCandCintraocularCpressure.COphthalmicCResC53:C141-148,C201511)CarolanJA,LiuL,Alexee.SEetal:IntraocularpressurereductionCafterphacoemulsi.cation:ACmatchedCcohortCstudy.OphthalmolGlaucomaC4:277-285,C202112)ZhaoCZ,CWenCW,CJiangCCCetal:ChangesCinCmacularCvas-culatureCafterCuncomplicatedCphacoemulsi.cationCsur-gery:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCstudy.CJCataractRefractSurgC44:453-458,C201813)KrizanovicA,BjelosM,BusicMetal:MacularperfusionanalysedCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCafteruncomplicatedCphacoemulsi.cation:bene.tsCbeyondCrestoringvision.BMCOphthalmolC21:71,C202114)HiltonEJ,HoskingSL,GherghelDetal:Bene.ciale.ectsofCsmall-incisionCcataractCsurgeryCinCpatientsCdemonstrat-ingreducedocularblood.owcharacteristics.Eye(Lond)C19:670-675,C200515)PilottoE,LeonardiF,StefanonGetal:EarlyretinalandchoroidalCOCTCandCOCTCangiographyCsignsCofCin.ammationCafterCuncomplicatedCcataractCsurgery.CBrJOphthalmolC103:1001-1007,C2019***

視路疾患の視野異常とMRI との対比

2023年9月30日 土曜日

《第11回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科40(9):1234.1237,2023c視路疾患の視野異常とMRIとの対比橋本雅人中村記念病院眼科CTheContrastbetweentheVisualFieldDefectsandtheMRIFindingsofVisualPathwayDisordersMasatoHashimotoCDepartmentofOphthalmology,NakamuraMemorialHospitalはじめに視路疾患の診断において画像検査とくにCMRIは欠かすことのできない画像検査である.視路は眼球後部から後頭葉の第一次視覚中枢に至る長い経路であるため,どこに焦点を当てて撮影するかが重要である.そのためには,その部位で生じる視野障害のパターンを十分理解したうえで,責任病巣の画像検査を進めていく必要がある.本稿では「視路疾患の視野異常とCMRIとの対比」と題し,具体的な症例を提示しながら,視路病変とそのおもな疾患,さらにCMRI所見について解説する.CI球後から眼窩先端部病変球後から眼窩先端部に至る視路病変ではさまざまな視野欠損が生じるが,黄斑に近い網膜神経線維は球後視神経内でも中心に位置し,周辺網膜からの神経線維は視神経内でも周辺に位置するため,視神経周囲病変では中心視野は比較的保たれ周辺視野が障害されやすい(図1).この部位におけるMRIのオーダー法としては冠状断が最良の撮影角度で,手法は視神経炎などの炎症性病変が明瞭に描出されるCSTIR(shortTIinversionrecovery)が望ましく,必要があれば造影CMRI(脂肪抑制併用)も有用である.CII視神経管から視交叉病変視神経管から視交叉に至る部位では,副鼻腔病変,脳動脈瘤,トルコ鞍近傍腫瘍など多彩な病変が視路障害の原因となる(表1).視野障害のパターンとしては,両耳側半盲,junc-図1視神経鞘髄膜腫初期の視野とMRIHumphrey30-2では左眼の求心性視野狭窄を示し,眼窩部造影CMRI水平断では左視神経鞘(髄膜)に造影効果(.)を示す腫瘤陰影を認める.〔別刷請求先〕橋本雅人:〒060-8570北海道札幌市中央区南C1条西C14丁目中村記念病院眼科Reprintrequests:MasatoHashimoto,DepartmentofOphthalmology,NakamuraMemorialHospital,S-1,W-14,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8570,JAPANC1234(112)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(112)C12340910-1810/23/\100/頁/JCOPYab図2視交叉前部病変の視野とMRIa:9歳,女児,視力は右眼手動弁,左眼C1.0.Goldmann動的視野検査では右Cjunctionalscotoma(右眼の中心暗点と左眼の上耳側欠損)を示した.造影CMRI(CISS)冠状断では視交叉左前部(.)は明瞭に描出されているが,視交叉右前部に造影効果のある腫瘤(病理診断:視神経膠腫)が認められる.Cb:68歳,女性,30-2Humphrey静的視野検査において垂直子午線で境界された右上耳側欠損(単眼性耳側半盲)が認められ,HeavyT2強調反転画像冠状断では,視交叉右側()を内下方から圧排する内頸動脈─眼動脈分岐部脳動脈瘤(.)を認めた.クリッピング術後視野欠損は改善した(下段視野).(113)あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C1235表1視交叉近傍のおもな疾患視神経管.視交叉前部病変内頸動脈─眼動脈分岐部脳動脈瘤蝶形骨縁髄膜腫視神経膠腫蝶形骨洞CmucoceleOnodi症候群外傷性視神経症視交叉病変下垂体腺腫下垂体卒中頭蓋咽頭腫ラトケ.胞鞍結節髄膜腫視交叉部視神経膠腫リンパ球性下垂体炎エタンブトール視神経症Emptysella症候群Septo-opticdysplasia視交叉部視神経炎ationalscotoma,単眼性耳側欠損,単眼性鼻側欠損があげられる.Junctionalscotomaは接合部暗点あるいは連合暗点ともいわれ,視交叉前部の障害で起こる視野異常で,同側の中心暗点と対側の上耳側欠損が特徴である(図2a).これは網膜下鼻側の線維が,対側の視交叉前部に湾入(Wilbrand’sknee)するという解剖学的な特徴から生じるといわれている.CWilbrand’skneeは視交叉部の視神経萎縮によるCartifactであるという意見もあったが1),特殊染色でその存在が立証されている2).単眼性耳側欠損は視交叉前部の内側からの圧迫で(図2b),単眼性鼻側欠損は外側からの圧迫で生じやすい.画像は冠状断および矢状断で撮影すると病変が捉えやすい.CIII視索病変視交叉で半交叉したあとの交叉線維と非交叉線維の配列は,視索においてC90°内回旋するため,左右の視神経線維が不均一に障害されることが多く,非調和性(不一致性)同名半盲になりやすいという特徴がある(図3).視路疾患としてC背後から見た視交叉右後部(交叉後)b視交叉90°内回旋右視索背後から見た内下方より圧迫右外側膝状体入口部図3右視索障害の視野所見とMRIa:造影CMRI冠状断.下垂体腺腫が右視索を内下方から圧排している(.).b:右視索のシェーマ.右視索が内下方から圧迫を受けているので,左眼の神経線維が右眼の線維よりも障害されやすいことがわかる.c:動的視野検査では,左眼に視野欠損の大きい非調和性左同名半盲を認めた.(114)は,視交叉部視神経炎の波及,下垂体腫瘍の後方伸展,頭蓋咽頭腫,視床出血などがあげられる.MRIの撮影方向としては水平断,冠状断が有用である.CIV外側膝状体病変外側膝状体は解剖学的にC6層構造をなし,1,4,6層が交叉線維,2,3,5層が非交叉線維である.また,黄斑の神経線維は外側膝状体背側にある岬(crest)へ,一方,周辺網膜の神経線維は上方線維が腹側にある内角(medialhorn)に,下方線維は外角(lateralhorn)に投射される(図4a).したがって,部分的な外側膝状体病変では左右の一致性に欠けた非調和性同名半盲を形成する.1975年にCHoytはこれをCret-inotopicClaminaranatomyCtheoryと提唱した3).筆者らも近年,このような非調和性同名半盲を示した先天性大脳皮質形成異常の患者を経験している4).また,外側膝状体の栄養血管は,内角および外角では前脈絡叢動脈が,その他は外側後脈絡叢動脈が支配しているので,前者が閉塞すると上下の視野が区画的に欠損する四重分画盲(quadrupleCsectoranopia)を,後者が閉塞すると楔形同名半盲(wedge-shapedhomonymoushemianopia)を示す(図4b).MRIのオーダーは,外側膝状体以降視覚中枢までは急性期脳梗塞による後頭葉病変が多いため,水平断の拡散強調画像およびCFLAIR(.uidCattenuatedCinversionCrecov-ery)が有用である.CVMeyerループから視放線の病変外側膝状体の外側角からの神経線維(網膜下方線維)は前方に進み,Meyerループを回って側頭葉(視放線)から第一次視覚中枢の鳥距溝下唇に投射される.また,内側角からの神経線維(網膜上方線維)は,頭頂葉(視放線)を回って視覚中枢の鳥距溝上唇に投射される.したがって,Meyerループの障害では上同名半盲(pieinthesky)が特徴的な視野欠損であり,側頭葉てんかんの外科的治療である側頭葉切除術後に起こることが多い.CVI第一次視覚中枢病変鳥距溝上唇,下唇に広がる領域で,視野の中心ほど後方へ,視野の周辺ほど前方に投射される.視野の中心C30°は視覚中枢の約C8割を占めるといわれており5),視覚中枢では中心視野の投射領域が大きい.視野障害のパターンは調和性同名半盲に黄斑回避,耳側半月(temporalcrescent)など特徴的な視野所見を伴うこともある.おわりにこれまで解明できなかった脳の形態,機能が高解像度画像検査のめざましい急速な進歩によってつぎつぎと明らかにさ(115)aCrest視野外側内側前脈絡叢動脈外側後脈絡叢動脈後方前額断で見た左外側膝状体外側後脈絡叢動脈前脈絡叢動脈図4後方前額断で見た左外側膝状体のシェーマa:外側膝状体のC6層構造.1,4,6層は交叉線維,2,3,5層は非交叉線維で構成される.黄斑領域の神経線維は背側の岬(crest)へ,周辺の網膜神経線維は,上方線維が腹側にある内角へ(下方周辺視野領域),下方線維が外角に投射される(上方周辺視野領域).Cb:外側膝状体の血管支配と視野の関係.外側後脈絡叢動脈閉塞が起こると,外側膝状体の中心部(黄と緑)が障害されるため視野は楔形同名半盲を示す.一方,前脈絡叢動脈閉塞が起こると内側(青)と外側(赤)領域が障害されるため,四重分画盲が生じる.れてきている.今後,これらの最先端画像診断技術を積極的に臨床応用することで,多くの視路病変の病態解明が進むことを期待している.文献1)HortonJC:WilbrandC’sCkneeCofCtheCprimateCopticCchiasmCisCanCartifactCofCmonocularCenucleation.CTransCAmCOph-thalmolSocC95:579-609,C19972)ShinCRK,CQureshiCRA,CHarrisCNRCetal:WilbrandCknee.CNeurologyC82:459-460,C20143)HoytWF:Geniculatehemianopias:incongruousCvisualCdefectsCfromCpartialCinvolvementCofCtheClateralCgeniculateCnucleus.ProcAustAssocNeurolC12:7-16,C19754)HanaiCK,CHashimotoCM,CIshikawaCFCetal:CongenitalCgeniculatequadruplesectoranopiawithoccipitalheteroto-pia.AmJOphthalmolCaseRepC20:100929,C20205)HortonCJC,CHoytWF:TheCrepresentationCofCtheCvisualC.eldCinChumanCstriateCcortex.CaCrevisionCofCtheCclassicCHolmesmap.ArchOphthalmolC109:816-824,C1991あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C1237

緑内障診療ガイドライン変更点のFlow

2023年9月30日 土曜日

《第11回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科40(9):1228.1233,2023c緑内障診療ガイドライン変更点のFlow中村誠神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科分野CFlowofRevisionin“TheJapanGlaucomaSocietyGuidelinesforGlaucoma”MakotoNakamuraCDepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicineCはじめに2022年に緑内障診療ガイドラインの第C5版が刊行された1.5).初版発刊がC2003年であるから,おおよそC20年近い時が流れたことになる.このC20年の間に,緑内障診療を取り巻く環境,またガイドラインのあるべき姿も大きく変わった.しかし,日常診療に忙殺されていると,こうした変化を自明のことのように受け流してしまい,蓄積された変革の程度を実感しにくいものである.緑内障診療ガイドラインの変遷を改めて振り返ることで,現在の緑内障診療のスタンダード,そしてガイドラインの役割がC20年前と比べて,どのような流れで変わってきたのかを可視化することができる.以下,おもに表1に沿って,ガイドラインの変更点について概観したあとに,「診療ガイドライン」の成り立ちに触れ,最後に第C6版作成に向けた課題について私見を述べる.CI第1版から第2版への変更点2006年に改定された第C2版2)において,「緑内障性視神経症(glaucomatousCopticneuropathy:GON)」の概念が明確に導入された.すなわち,視神経障害が起こって初めて「緑内障」とよぶことになったのである.現在では当然のように感じられるかもしれないが,当時は画期的なパラダイムシフトと受け止められた.なぜなら,緑内障は「眼圧病」であり,視神経障害はその「結果」にすぎないというのが従来の考えだったからである.このパラダイムシフトをもっとも強く意識させられたのは,「原発閉塞隅角緑内障」の概念の転換である.それまでは「隅角が閉塞して眼圧が上昇すること」=「緑内障」とみなされていたが,たとえ閉塞隅角から高眼圧状態になっていたとしても,視神経障害が検出されなければ緑内障とは呼称せず,「原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)」とよぶことになった.緑内障発作とか急性閉塞隅角緑内障という,眼科学の学生講義でもっとも馴染みのある用語が,急性原発閉塞隅角症(acutePAC)に書き換えられたのであるから,かなり衝撃的であった.「緑内障=眼圧病」という従来の等式を捨ててもCGONの概念を導入せざるをえなくなった背景には,内外の優れた疫学調査により,非典型例と思われていた,眼圧が統計的正常範囲内にとどまる「正常眼圧緑内障(normaltensionglauco-ma:NTG)」こそが,日本のみならず,多くの国で,もっとも患者数の多い緑内障病型であるというエビデンスがつぎつぎに示されたことがあろう6,7).こうした事情を踏まえ,第C2版では,視神経乳頭の量的判定基準や乳頭・神経線維層変化判定ガイドラインが附記された.一方で,診断的意義は下がったものの,治療の観点からは,NTGであっても眼圧下降が重要であることがCCollabor-ativeCNormalCTensionCGlaucomaCStudy8)で明らかになったことも踏まえ,ベースラインデータの収集と目標眼圧の設定の重要性が強調される改定となった.これに対して,PACの治療としては,この改定時点では,レーザー周辺虹彩切開術が本流であり,水晶体再建術の記載はない.当時はまだCPACの成因を相対的瞳孔ブロックに強く求め,小切開超音波乳化吸引術の有効性と安全性に現在ほど確信をもてていなかったからであろう.CII第2版から第3版への変更点第3版3)は第C2版からC6年後のC2012年に刊行された.第C3版では初めて「preperimetricCglaucoma(PPG)」という概念が導入された.この時点ではまだ邦訳はない.PPGが提唱されるようになった背景には,補助診断技術として三〔別刷請求先〕中村誠:〒650-0017兵庫県神戸市楠町C7-5-1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科分野Reprintrequests:MakotoNakamura,DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,7-5-1Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0017,JAPANC1228(106)表1おもな改変点のサマリ版数変化1版→2版2版→3版3版→4版4版→5版発行年C2003C→C2006C2006C→C2012C2012C→C2018C2018C→C2022形式少数のエキスパートからの提言Minds形式の試行Minds形式の拡充BQ,CQ,FQ設定・記載概念緑内障性視神経症(GON)PPGの記載PPG→前視野緑内障の邦訳原発隅角閉塞症(PAC)CPACSPACDの記載検査反跳眼圧計の記載OCTの記載OCTの比重↑OCTAの記載診断乳頭量的判定診断基準WGACM→小児緑内障乳頭・神経線維層変化判定ガイドライン治療コンプライアンス→アドベースラインデータ収集の強調ヒアレンス危険因子と目標眼圧設定PG関連薬種類拡大・配合PG関連薬の視野維持効果と薬登場推奨ブリモニジン,CRhoキナー抗CVEGF薬の記載ゼ阻害薬PAC→レーザー中心PAC→水晶体再建術にもCPACGの水晶体再建術の比重↑市民権補遺:チューブシャント白内障手術併用眼内ドレーン手術ガイドラインプロスタノイド受容体関連薬EP2受容体選択性作動薬配合薬の記述↑線維柱帯切開術(眼内法)マイクロパルスレーザーの記載Minds:MedicalInformationDistributionService,BQ:backgroundquestion,CQ:clinicalquestion,FQ:futureresearchquestion,GON:glaucomatousCopticneuropathy,PPG:preperimetricglaucoma(前視野緑内障),PAC:primaryCangleclosure(原発閉塞隅角症),PACS:primaryangleclosuresuspect(原発閉塞隅角症疑い),PACD:primaryangleclosuredisease(原発閉塞隅角病),OCT:CopticalCcoherencetomography(光干渉断層計),WGACM:WorldCGlaucomaCAssociationCConsensusMeeting(世界緑内障連合コンセンサス会議),PG:prostaglandin.次元画像解析装置が一定の市民権を得,これによりCHum-phreyprogram30-2やC24-2(ないし等価の視野検査プログラム)では視野異常が検出されない段階でも,網膜神経線維の菲薄化や視神経乳頭構造変化が検出されるというエビデンスが蓄積されたことと,2008年に眼底三次元画像解析が保険収載されたことがある.ただし,この時点では,三次元画像解析装置の記載は,HeidelbergCretinatomograph,GDx,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を横並びとした注釈的扱いにとどまっていた.まだCOCTが現在ほど洗練されておらず,乳頭形状解析に関して弱かった時代である.第C2版で導入されたCPACを補完する形で,「原発閉塞隅角症疑い(PACsuspect:PACS)」が記載された.器質的な周辺虹彩前癒着がなく,眼圧上昇もない,機能的隅角閉塞をさす.また,これに連動する形で,隅角閉塞の成因として,相対的瞳孔ブロックのみならず,プラトー虹彩や水晶体因子,毛様体因子の関与についてもしっかりとした記載が加えられた.これを踏まえて,PACの治療の選択肢として,水晶体再建術が市民権を得たのも重要な改正点であった.検査に関しては,この版で初めて反跳眼圧計に触れている.治療に関しては,まず,薬物治療における患者態度に関して,従来の「コンプライアンス」という用語から,「アドヒアレンス」という用語への転換があった.当時は耳慣れなかった「アドヒアレンス」という言葉も,今ではまったく違和感がなくなったのには時代の流れを感じる.また,第C3版発刊までの間に,いわゆるプロスタグランジン関連薬(現,プロスタノイドCFP受容体作動薬)の種類が増え,配合薬も日本で導入されたことを受け,これらの点が記載されている.抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が普及し始めたことを受け,その血管新生緑内障への適応に関する記述がみられるようになった.外科的治療においては,チューブシャント手術が保険診療として認められたことを受け,補足資料に解説が設けられた.しかし,当時は日本に導入されたばかりで,エビデンスは乏しく,もっぱら海外の成績の紹介にとどまっていた.III第3版から第4版への変更点2018年に刊行された第C4版4)と旧版との最大の違いは,Minds(MedicalInformationDistributionService)形式に準拠し,よりエビデンスに基づいた標準治療の推奨を試みようとした点にある.あとでもう少し詳しく触れるが,このMinds形式は,evidence-basedmedicine(EBM)普及推進事業として,2002年度から厚生労働省科研補助事業として始まり,2011年からは厚生労働省委託事業として公益財団法人日本医療機能評価機構が普及を進めている「ガイドライン」のあり方のことをさす9).ここで簡単にいえば,ガイドラインとは,エビデンスに基づき,最適と思われる「推奨」を各医療課題について明示する文書のことである.この形式に基づき,第C4版では随所に推奨レベルとエビデンスの強さが記載されるようになった.しかし,第C4版の段階では,あくまで比較的少数のガイドライン作成委員が独自に文献検索を行い,会議の場で,各委員の意見を集約する形で推奨とエビデンスの強さを決めているので,本来のCMINDS形式のレベルには至っていない.むしろ,この改定では,世界緑内障連合(WorldCGlauco-maAssociation)のCconsensusCmeeting10)を受けて,世界標準に合わせるため,小児緑内障の項を大幅に改定した点が特筆に値する.これまでの改定でいったん消滅した「原発先天緑内障」の用語も復活した.その他,小児緑内障の病型分類,治療について大幅な加筆が加えられた.概念としてはCPPGの邦訳として「前視野緑内障」があてられた.治療適応を考えた場合,実践的にはこの概念は有益である一方,学術的観点から,はたして構造変化が機能変化に先行するのかという点において懐疑的な意見があることは,公平性の立場からここで言及しておく11).実際,Euro-peanCGlaucomaSocietyのCTerminologyCandCGuidelinesCforCGlaucoma12)には,PPGという略語もCpreperimetricCglauco-maという概念そのものも記載はない.この版までには,OCTが眼底三次元画像解析のなかで主流の検査となった.治療の側面では,UnitedCKingdomCGlaucomaCTreatmentCStudy13)により,点眼薬が視野維持効果を有することが初めて実証されたことを高く評価し,いわゆるプロスタグランジン関連薬(FP受容体作動薬)の使用を強く推奨している.その他,ブリモニジン酒石酸塩の眼圧下降によらない視野維持効果への言及,日本初の古典的房水流出路促進薬リパスジル塩酸塩水和物の記載,原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG)における水晶体再建術の重要性の周知,チューブシャント手術の補足資料から本文中への格上げ,白内障手術併用眼内ドレーンの紹介など,第C4版までの改定の間に,めざましい治療の進歩があったことを反映した改定となっている.CIV第4版から第5版への変更点今回の改定5)は,第C4版で試行されたCMinds形式により近づけるべく,統括委員会,ガイドライン改訂委員会,システマティックレビューチーム,文献検索や統計の専門家,非専門分野の有識者からなるC45名の関係者という,旧版のC4倍以上の構成員が役割を分担しつつ,推奨とエビデンスの強さに関して,より深い討議を行ったこと,そしてとりわけ重要な臨床的課題を,clinicalquestion(CQ),backgroundquestion(BQ),futureCresearchquestion(FQ)としてまとめたことが一番のポイントであろう.CQ,BQ,FQの位置づけと意義に関しては後述するが,日常診療において,患者と医療者が特定の治療を行うべきか否かを判断するうえで,明確な指針を出している点で旧版までとは一線を画す版となっている.個別の改定点で特記すべきことは以下のとおりである.まず,概念として「原発閉塞隅角病(PACdisease:PACD)」の用語の導入があげられる.PACS,PAC,PACGという病態の総称がこれまでなかったので,それに対応する用語として,国際的に提言されていることを受けての記載である.検査としては,近年開発導入された光干渉断層血管撮影(OCTangiography)に関する記載がある.ただ,従来のOCTほどには評価が定まっていないため,あくまでCintro-ductionの扱いである.一方,治療に関しては,日本初のオミデネパグ・イソプロピルが開発されたことを踏まえ,薬効分類において,プロスタグランジン関連薬という用語を廃し,プロスタノイド受容体関連薬という分類を新設し,これをさらに,FP受容体作動薬(従来のプロスタグランジン関連薬がこの範疇に入る)とCEP2受容体選択的作動薬(オミデネパグ・イソプロピルが該当する)に細分化した.その他,新しい配合薬の記載も増加した.手術に関しては,低侵襲緑内障手術(micro-invasiveないしCminimallyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)の代表である,線維柱帯切開術眼内法が記載された.また,毛様体レーザーの一つとして経強膜的マイクロパルス波毛様体凝固の記述が追記された.CVMinds形式の診療ガイドライン第C4版で試行され,第C5版でかなりその形式に近づいたMinds診療ガイドラインについて触れておかねばならない.Mindsによれば,診療ガイドラインとは,「健康に関する重要な課題について,医4療4利4用4者4と4提4供4者4の4意4思4決4定4を4支4援4す4る4た4め4に,システマティックレビューによりエ4ビ4デ4ン4ス4総4体444444444444444を評価し,益と害のバランスを勘案して,最適と考えられる推4奨4を4提4示4す4る4文書」と定義される(傍点筆者)9).漠然と読み流すと理解しにくいが,筆者が重要と考える箇所に傍点を施した.すなわち,ここでいうガイドラインは,①患者や医師が何らかの医療行為を行うか行わないかの「意思決定」をする際に,それを支援するためのものであること.②単に「眼圧下降に優れる」などという有効性のエビデンスがメタ解析で得られたからというだけでなく,「副作用」などの害も考慮したエビデンスの「総体」に基づくこと.③そのうえで,その医療行為を推奨するのか,しないのか,するとしたら,どの程度強く推奨するのかを提示すること.の三要素をすべて満たしたものである.したがって,医療行為の前提となる,診断や検査法に関しての記述は狭義のガイドラインには当てはまらない(ただし,検査でも侵襲性の高いものは,当然,医師と患者間で行うか否かの合意形成をしなければいけないので,ガイドラインの推奨対象となる).それは教科書の果たす役割である.その意味で,第C4版で散見される診断や検査に対する「推奨」は,筆者を含め作成委員がCMinds形式を十分に咀嚼してできていなかったために生じた齟齬である.Mindsでの「ガイドライン」が上記の定義である以上,厳格な意味でのガイドライン部分(治療パート)とそれ以外の部分が混在する現行の「緑内障診療ガイドライン」は,正しくは,「緑内障診療マニュアル」とすべきかもしれないが,名称変更はさまざまな意味で混乱を招くので,今後の重要な課題であろう.また,上記の定義に,システマティックレビューという言葉があるが,これもいわゆるメタ解析などで用いられるものと診療ガイドラインで用いられるものでは,その意味するところは同じではない.先に述べたようにメタ解析では「眼圧」などのような定量化しやすい数値を用いて,薬物や手術などの有効性を複数のランダム化比較試験(randomizedCclinicaltrial:RCT)結果から抽出して検討する.よく,メタ解析によるエビデンスが最上位で,権威者の意見は最下位においたエビデンスのピラミッドを目にするが,それはあくまでこうした意味でのシステマティックレビューである.これに対して,診療ガイドラインでは,定量化されるエビデンスだけでは判断しない.それでは定量化されない事象は評価から省かれてしまうかもしれないからである.RCTでは総じて主要評価項目以外の統計解析は行われず,副次評価項目である安全性評価(すなわち副作用や合併症)は,いわば「おまけ」扱いとなるため,定量化されない.また,よく知られるように,RCTでは対象の選択基準と除外基準が厳しく定められている結果,かえって選択のバイアスがかかりやすい.人種による成績の違いなどが生じる原因である.こうしたバイアスのため,医療提供者は,しばしばCRCTの結果と実臨床のそれとの乖離を経験する.それ以外にもさまざまなバイアスがかかっているが,RCTの結果にそうしたバイアスが多く含まれていることは,その分野の研究者(つまりは「権威者」)でなければ簡単には知りえない.そうした意味では,権威者の意見は決して最下位に打ち捨てるようなエビデンスではない.また,後ろ向き観察研究はエビデンスレベルが低いといわれるが,たとえばCMIGSが普及し,線維柱帯切開術眼内法が主流となった現在,眼外法の線維柱帯切開術を対照としたRCTを今から行うことなどは倫理的に許容されない.その結果,RCTだけを頼りにすると,本当に眼内法の線維柱帯切開術を推奨すべきか否かの判断ができなくなる.よって,診療ガイドラインにおけるシステマテイックレビューにおいては,観察研究も重要なエビデンスとみなされるのである.CVICQ,BQ,FQ第C5版で特記すべき事項にCCQ,BQ,FQが設けられたことはすでに述べた.このうちCBQは臨床課題ではあるものの,新たにCRCTを組むことのできないような基本的課題である.代表例は,妊婦への緑内障点眼の可否などである(第C5版のBQ-1).医療提供者も医療利用者も知りたい課題であるが,胎児をリスクに晒してCRCTを組むことは倫理的に許容されないため,今後も永遠に解決はできない課題であろう.これに対し,FQでは現時点ではエビデンスはないが,将来的には解決可能性のある臨床課題である.代表例は,「緑内障患者に対して,〇〇薬は,眼圧下降薬と比較して,神経保護効果を有するか」といった課題である(第C5版のCFQ-3).これに対して,CQは「どういう対象に(patient/popula-tionの頭文字を取ってCP)」「どのような治療ないし侵襲のある検査を(interventionの頭文字を取ってI)」「誰を対照として比較し(comparatorの頭文字を取ってC)」「どのような予後(outcomeの頭文字を取ってCO)」を期待して推奨するのかを,一文の疑問文として記載した臨床課題である.表2に第C5版で記載されたCCQの一覧を示す.そのなかで,CQ-3「点眼薬で眼圧がC10CmmHg台後半になっていても視野障害が進行する症例(P)に,緑内障手術(I)を推奨するか」は,眼圧がC10CmmHg後半までは下降していない患者と比較して,というCCの設定と,手術によって視野進行が停止ないし減速されるかといったCOの設定は省略されているものの,それは自明のことなので,診療ガイドラインに準拠したCCQの一つといえる.一方で,「どのような症例にC×××を投与するべきか」「△△△が有効な患者の特徴は?」「◎◎◎の適応は?」といった,特定の治療・介入を実施することを前提としたCCQは適さないとされる.推奨を問うていないCCQ-1,CQ-6や表2CQ一覧5)番号CQuestionサマリーおよび推奨提示推奨の強さCCQ-1高眼圧症の治療を始める基準は?危険因子を有する高眼圧症症例では治療を開始することが推奨される.高眼圧症からCPOAGを発症する危険因子として,年齢が高い,垂直陥凹乳頭径比(CCD比)が大きい,眼圧が高い,CpatternCstandarddeviationが大きい,中心角膜厚が薄い,視神経乳頭出血の出現があげられる.「危険因子を有する症例では治療すること」を強く推奨する.CCQ-2正常眼圧の前視野緑内障(CPPG)の治療を推奨するか?正常眼圧のCPPGに対して慎重な経過観察を行ったうえで,危険因子を勘案しながら治療開始を随時検討することを提案する.「治療すること」を弱く推奨する.CCQ-3点眼薬で眼圧がC10CmmHg台前半になっていても視野障害が進行する症例に緑内障手術を推奨するか?点眼治療下で眼圧がC10CmmHg台前半にもかかわらず視野障害が進行する症例に対して,線維柱帯切除術を行うことを弱く推奨する.「実施すること」を弱く推奨する.CCQ-4チューブシャント手術を線維柱帯切除術の代わりに推奨するか?両術式の選択にあたっては,治療眼・患者の背景,術者の術式に対する習熟度などを勘案して選択することが重要である.チューブシャント手術を線維柱帯切除術の代わりに実施することは推奨しない.「実施しないこと」を弱く推奨する.CCQ-5POAGに対する線維柱帯切除術後の副腎皮質ステロイド点眼は推奨されるか?POAGに対する線維柱帯切除術後に,副腎皮質ステロイド点眼などの局所消炎治療を行うことが眼圧コントロールに有用であり,推奨される.前房出血,一過性眼圧上昇,浅前房などの手術合併症の抑制効果があるかどうかについては,十分な研究結果がなく結論が出ていない.「投与すること」を強く推奨する.CCQ-6線維柱帯切除術後の抗菌薬の点眼・軟膏治療はいつまで必要なのか?術後しばらくは抗菌薬の点眼・軟膏を継続して使用することを推奨する.長期に関しては濾過胞感染リスクに応じて抗菌薬の点眼・軟膏を適宜使用する.「実施すること」を強く推奨する.CCQ-7POAGに対して線維柱帯切除術を施行する際に白内障手術の併施を推奨するか?POAGに対して線維柱帯切除術を施行する際の白内障手術の併施は,眼圧コントロール成績を悪化させる可能性があるものの,水晶体再建が視機能改善に有益と考えられる場合には行ってもよい.「実施すること」を弱く推奨する.CCQ-8原発閉塞隅角緑内障(PCACG)およびその前駆病変としての原発閉塞隅角症(CPAC)に対する治療の第一選択は水晶体再建術か,レーザー治療か?PACGとCPACに対する第一選択治療として水晶体再建術を強く推奨する.症候性白内障の有無にかかわらず水晶体再建術を第一選択として選択可能であるが,絶対的な第一選択ではなく個々の症例の状況に応じてレーザー治療を選択する.また,眼圧が正常なCPACについては治療適応を慎重に検討すべきことに留意する.「水晶体再建術を施行すること」を強く推奨する.CCQ-9原発閉塞隅角症疑い(CPACS)に治療介入は必要か?PACSに対する治療介入にあたっては個々の症例によるリスク評価が必要であり,すべて一律には治療介入を行わないことを推奨する.急性原発閉塞隅角症(CAPAC)やPACGに進行するリスクが高いCPACS症例に対しては治療介入を行うことを推奨する.PACS全体:「一律には治療介入を行わないこと」を弱く推奨する.「ACPAC僚眼に対しては実施すること」を強く推奨する.PICOのCPがないCCQ-4なども,正しいCCQの記載ではないが,今回のガイドライン作成は,諸々の事情で時間的制約が強く,CQの練度を高める時間が足りなかった.次回改定に向けた大きな宿題であろう.CVII第6版への課題第C5版が発刊されたばかりではあるが,ガイドラインの寿命はせいぜいC5年程度とされるため,第C6版の刊行までにそ(文献C5より引用)れほど猶予があるわけではない.つぎつぎと到来するであろう新薬やCMIGSデバイスに加え,昨今のビッグデータや人工知能を用いた診断・患者行動支援機器開発や治療効果判定の研究の成果などをシステマティックレビューして,推奨の可否,程度を決めていかねばならないのは当然である.が,それ以上に,第C5版の作成に携わったものの一人として感じたことは,緑内障治療におけるエビデンスの少なさ,である.緑内障点眼薬にしろ,手術治療にしろ,大半が「眼圧」をCsurrogatemarker(代理マーカー)として検討した研究である.しかし,緑内障治療のゴールは患者の「生活と視覚の質(qualityoflifeorvision)」を守ることである.いわゆる視野維持効果を主要評価項目とした研究は,ラタノプロストの視野維持効果を検討したCTheCUnitedCKingdomCGlaucomaCTreatmentStudy(UKGTS)13)を含めわずかしかない.とりわけ,日本独自のエビデンスは皆無に近い.上述したように,人種や国家間で治療の予後は大きく異なる.人口減少社会に入ったとはいえ,一つの国家としてのわが国の人口はまだまだ大きい.しかし,これまでは(とりわけ製薬メーカーの関与しない手術成績は眼圧という代理マーカーに関してさえ)ビッグデータの構築がなされてこなかったため,施設ごとのデータしかなく,論文もサンプル数を事前に検討して多機関が共同して研究したものは数えるほどである14).したがって,わが国の緑内障治療に関するデータベースの構築とそれに基づくエビデンスの創出が一つ目の喫緊の課題といえるだろう.個別の課題は,上述のようにCCQの洗練に加えて,文献検索の精度の向上,フローチャートとCCQとの整合などがある.前者として,たとえば,第C5版では,わが国初の製薬となったCRhoキナーゼ阻害薬に関する報告15),EP2作動薬に関する報告16)などが漏れている.後者としては,CQ-8でPACやCPACGの治療の第一選択は水晶体再建術が「強く推奨」されているが,フローチャートは抑制的で,レーザー周辺虹彩切開術や周辺虹彩切除術と並列扱いであり,とくに急性CPACやCPACGでの水晶体再建術は,技術的困難さを思料して,熟練した術者が行うよう注記されている.ガイドラインの推奨は,「益と害のバランスを勘案」して決定するのであるから,その意味でどちらの立ち位置をとるべきか,検討が必要であろう.文献検索の遺漏やCCQとフローチャートの不整合をなくすには,改定に時間的余裕を持つことに加えて,ガイドライン執筆校正者に,図書館司書や緑内障非専門家や行政・患者団体などにも参画してもらう必要があるかもしれない.しかし,そのためには十分な外部資金を獲得する必要があり,これが第二の大きな喫緊の課題であろう.おわりに緑内障診療ガイドラインの改定の変遷を振り返ってきた.改めてこのC20年間に生じた,緑内障の概念のパラダイムシフト,検査・診断法の革新,新規治療法の発展に目を見開かされる.一方で,「ガイドライン」というものが,単なる「教科書」ではないという事実を突きつけられていることを認識する.「ガイドライン」への理解を深め,これからの緑内障診療の進歩にわが国ならではのエビデンスを創出すべき時代であることに思いを馳せ,論を置くこととする.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,C20032)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C2版.日眼会誌110:777-814,C20063)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C3版.日眼会誌116:3-46,C20124)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20185)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C20226)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20047)ChoCHK,CKeeC:Population-basedCglaucomaCprevalenceCstudiesinAsians.SurvOphthalmolC59:434-447,C20148)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C19989)Minds診療ガイドライン作成マニュアル編集委員会:Minds診療ガイドライン作成マニュアルC2020ver.3.0.日本医療機能評価機構CEBM医療情報部,202110)WeinrebCRN,CGrajewskiCA,CPapadopoulosCMCetal(eds):C9thconsensusmeeting:Childhoodglaucoma.KuglerPub-lications,Amsterdam,201311)HoodDC:DoesCretinalCganglionCcellClossCprecedeCvisualC.eldlossinglaucoma?JGlaucomaC28:945-951,C201912)EuropeanGlaucomaSociety:TerminologyandguidelinesforCglaucoma,C9thCedition.CBrCJCOphthalmolC105(Suppl1):1-169,C202113)Garway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:Latanoprostforopen-angleCglaucoma(UKGTS):aCrandomised,Cmulti-centre,Cplacebo-controlledCtrial.CLancetC385:1295-1304,C201514)MoriCS,CTanitoCM,CShojiCNCetal:NoninferiorityCofCmicro-hookCtotrabectome:TrabectomeCversusCabCinternoCmicrohooktrabeculotomyCcomparativeCstudy(TramCTracStudy).OphthalmolGlaucomaC5:452-461,C202215)TaniharaCH,CInoueCT,CYamamotoCTCetal:PhaseC2Cran-domizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CAmJOphthalmolC156:731-736,C201316)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:OmidenepagCisopropylCversusClatanoprostCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularhypertension:TheCPhaseC3CAYAMECStudy.CAmJOphthalmolC220:53-63,C2020***

新しくなった認定基準下での視覚障害者認定に関する 後ろ向き実態調査

2023年9月30日 土曜日

《第11回日本視野画像学会原著》あたらしい眼科40(9):1222.1227,2023c新しくなった認定基準下での視覚障害者認定に関する後ろ向き実態調査鈴村弘隆*1,6平澤一法*2,6坂本麻里*3,6萱澤朋泰*4,6山下高明*5,6新視覚障害認定実態調査研究グループ*6*1すずむら眼科*2北里大学医学部眼科学教室*3神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野*4近畿大学医学部・大学院医学研究科眼科学教室*5鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻感覚器病学講座眼科学分野*6松本長太(近畿大学医学部・大学院医学研究科眼科学教室)萱澤朋泰(近畿大学医学部・大学院医学研究科眼科学教室)杉山和久(金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室)宇田川さち子(金,沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室)池田康博(宮崎大,学医学部眼科学教室)山下高明(鹿児島大学大学院医,歯学総合研究科先進治療科学専攻感覚器病学講座眼科学分野),,生杉謙吾(三重大学大学院医学系研究,科臨床医学系講座眼科学),近藤峰生(三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学),坂本麻里(神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野)中村誠(神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野)結城賢弥(慶應義塾大学医学部眼科学教室)庄司拓平(埼玉医科大学,眼科学教室)篠田啓(埼玉医科大学眼科学教室)大久保真司(,おおくぼ眼科クリニック),山崎芳夫(山崎眼,科),庄司信行(北里大学医学部眼科学,教室),平澤一法(北里大学医学部眼科,学教室),鈴村弘隆(すずむら眼科)CRetrospectiveSurveyontheRevisedCerti.cationforVisualFieldImpairmentHirotakaSuzumura1),KazunoriHirasawa2),MariSakamoto3),TomoyasuKayazawa4),TakehiroYamashita5)andResearchgrouponactualconditionsfortherevisedcerti.cationforthevisualimpairment6)1)SuzumuraEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity,3)DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,6)ChotaMatsumoto(DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine),TomoyasuKayazawa(DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine),KazuhisaSugiyama(DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences),SachikoUdagawa(DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences),YasuhiroIkeda(DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofMiyazaki),TakahiroYamashita(DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences),KengoIkesugi(DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine),MineoKondo(DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine),MariSakamoto(DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine),MakotoNakamura(DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine),KenyaYuki(DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine),TakuheiShoji(DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalUniversityFacultyofMedicine),KeiShinoda(DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalUniversityFacultyofMedicine),ShinjiOhkubo(OhkuboEyeClinic),YoshioYamazaki(YamazakiEyeClinic),NobuyukiShoji(DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity),KazunoriHirasawa(DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity),HirotakaSuzumura(SuzumuraEyeClinic)目的:2018年に改正された新視覚障害認定基準下での身体障害者手帳(手帳)の申請状況と視野障害の原因,等級分布を知ること.対象:2018年C7月.2020年C6月に視野障害を障害名として含む身体障害者診断書・意見書を発行された患者.方法:診断書・意見書から年齢,性別,判定用視野計,視野障害の原因・等級,手帳更新者では視野障害の前等級を調べた.結果:対象はC488例,年齢はC65.8±18.3歳(8.99歳).判定用視野計は自動視野計(AP)107例,Goldmann視野計(GP)381例だった.視野障害の原因は疾病が全体のC99.2%で,緑内障がC50.4%,網膜疾患C28.9%,視路疾患C10.9%などだった.視野障害等級は,2級C332例,3級C13例,4級C3例,5級C140例で,手帳更新者では,更新後の等級変動なしがC27例,等級上昇がC28例,等級下降がC1例みられ,3等級の上昇がC17例みられた.結論:原因の半数が緑内障だった.認定にはCGPがおもに使われていたが,APもC20%みられた.視野障害等級はC2級とC5級が多〔別刷請求先〕鈴村弘隆:〒164-0062東京都中野区本町C4-48-l7新中野駅上プラザC904すずむら眼科Reprintrequests:HirotakaSuzumura,M.D.SuzumuraEyeClinic,4-48-17-904Honcho,Nakano-ku,Tokyo164-0062,JAPANC1222(100)(100)C1222く,改正前と同様の傾向だった.CPurpose:Toinvestigatetheamendedvisualimpairmentcerti.cationinsubjectswithvisual.eldimpairment(VFI)C.SubjectsandMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCinvestigatedCsubjectsCcerti.edCwithCVFICbetweenCJuly2018andJune2020,andevaluatedthedatasubmittedforthevisualimpairmentcerti.cation.Results:Thisstudyinvolved488cases(meanage:65.8C±18.3years,range:8-99years)C.Ofthose488cases,thestaticautomat-edperimetry(AP)wasCusedCforC107CandCtheCGoldmannCperimetryCwasCusedCforC381,CandCtheCcausativeCdiseasesCwereglaucoma(50.4%)C,CretinalCandCneurologicalCdiseases,CandCother.CTheCVFICgradeCwasCmainlyCGradeC2CinC332CcasesandGrade5in140cases.In28of56casesthatreceivedrecerti.cation,thegradeincreased.Conclusion:COur.ndingsrevealedthathalfofthecausativediseaseswereglaucoma,thatAPwasusedforcerti.cationin20%ofthecases,andthatthemajorityofthecaseswereVFIGrade2andGrade5,atrendthatissimilartothatinthepreviouscerti.cationcriteria.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(9):1222.1227,C2023〕Keywords:身体障害者,視覚障害,視野障害,視覚障害者認定基準,自動視野計,Goldmann視野計.personsCwithphysicaldisabilities,visualimpairment,visual.elddisturbance,visualimpairmentcerti.cationcriteria,auto-matedperimeter,Goldmannperimeter.Cはじめに平成C30(2018)年C7月より,身体障害者福祉法の視覚障害認定施行規則(以下,認定基準)が改正になり,視力・視野障害ともに認定基準が大きく変わった1).その概要は,視力障害は左右眼のうち矯正視力の良いほうの眼の視力で等級を判定すること,視野障害の判定に自動視野計(automatedperimeter:AP)による静的測定結果での認定基準が新たに明記されたことである.これに伴い,従来のCGoldmann視野計(Goldmannperimeter:GP)での動的測定結果による認定基準も見直された.この改正により,従来は視力障害でしか機能障害を評価できなかった黄斑領域の障害や,中心暗点や傍中心暗点といった視野障害についても,機能障害を評価できるようになった.そこで,本研究では新しい認定基準下での視野障害による身体障害者手帳申請状況および視野障害の原因と等級分布などを調査した.CI対象および方法研究デザイン:多施設共同,後ろ向き観察研究である.調査施設:日本視野画像学会の評議員所属施設のうち,本調査研究に参加を表明した近畿大学(松本長太,萱澤朋泰),金沢大学(杉山和久,宇田川さち子),宮崎大学(池田康博),鹿児島大学(山下高明),三重大学(生杉謙吾,近藤峰生),神戸大学(坂本麻里,中村誠),慶応大学(結城賢弥),埼玉医科大学(庄司拓平,篠田啓),おおくぼ眼科(大久保真司),山崎眼科(山崎芳夫),北里大学(庄司信行,平澤一法),すずむら眼科(鈴村弘隆)のC12施設C18名を新視覚障害認定実態調査研究グループとし,新視覚障害認定の実態調査を行った.対象者:選択基準は,調査施設にてC2018年C7月C1日.2020年C6月C30日のC2年間に,新規・更新申請者を問わず視野障害を障害名として含む身体障害者診断書・意見書(視覚障害用)を発行した症例とした.除外基準は,医師の判断により対象として不適当と判断された患者および研究へのデータ提供を拒否した患者とした.方法:参加施設で身体障害者手帳申請の診断書・意見書が発行された患者の診療録から診断書・意見書発行時の1)年齢,2)性別,3)視野障害の判定に用いられた視野計の種別(判定用視野計),4)視野障害をきたした原因,5)視野障害の等級,6)手帳更新者にあっては視野障害の前等級のC6項目について調べた.原因については,診断書・意見書の原因欄に複数の疾病などが記載されている場合は,その第一順位のものとした.疾病の分類では,原発先天緑内障は緑内障に,先天性疾患による続発先天緑内障は先天性に分類した.判定用視野計においてCGP,AP両者による判定結果の記載のあるものは,等級が上位の視野計を申請用とした.GP,APの等級が同じ場合の判定用視野計はCAPとして算定した.また,副次的項目として,両眼の矯正視力と視力障害基準該当者数および視覚障害の総合等級も調べた.倫理的事項:本研究は世界医師会「ヘルシンキ宣言」および厚生労働省・文部科学省「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,各施設の研究倫理委員会と研究機関の長の承認を得たうえで行った.インフォームド・コンセントについては,本研究が後ろ向きの観察研究であり,匿名化された情報のみを取り扱ったため,個人情報保護法に定める定義の個人情報には該当しない.このため,研究対象者から文書または口頭による同意取得は行わなかった.ただし,オプトアウトについてのポスターを各施設の外来または各倫理委員会ホームページに掲示した.例数806040200図1年齢分布対象の平均年齢はC65.8C±18.3歳(8.99歳,中央値C70歳)で,50歳以上のものがC402例(82.4%)を占め,ことにC70.85歳が195例で全体のC40.0%を占めた.表1視野障害の原因疾病例数(%)AP例数GP例数交通事故2(C0.4)C1C1その他の事故2(C0.4)C1C1緑内障246(C50.4)C73C173強度近視10(C2.0)C3C7網膜疾患141(C28.9)C22C119視路疾患53(C10.9)C4C49ぶどう膜炎16(C3.3)C1C15角膜疾患8(C1.6)C0C8先天疾患5(C1.0)C0C5その他の疾患5(C1.0)C2C3計C488C表3視野障害等級分布等級例数(%)自動視野計Goldmann視野計2332(C68.0)C40C292C313(2.7)C7C6C43(0.6)C3C0C5140(C28.7)C57C83II結果解析対象はC488例であった.内訳は,新規申請者がC432例,再申請者はC56例で,研究対象者となることへの拒否の申し出はなかった.手帳申請時の平均年齢はC65.8C±18.3歳で,最年少はC8歳,最高齢はC99歳だった.年代はC70.80歳代前半がもっとも多く,50歳以上の症例がC82.4%を占めた(図1).男女比は,295:193で,男性の平均年齢はC65.2C±17.7歳,女性の平均年齢はC66.7C±19.1歳で,男女の年齢分布に差はなかった(C|2=1.7665,p=0.1838).使用された視野計はCAPがC111件,GPがC395件であった.8例4例6例■AP■GP■AP<GP■AP=GP■AP>GP図2判定用視野計の種別APとCGPの両者による判定結果の記載のあったものがC18例あり,等級が上位の視野計を申請用とした.また,両者の等級が同じ場合は判定用視野計をCAPとし,判定用視野計はCAPがC107件,GPがC381件だった.G:Goldmann型視野計,G>A:自動視野計での等級よりCGoldmann型視野計での等級が上位のもの,CG=A:Goldmann型視野計での等級と自動視野計での等級が同位のもの,G<A:Goldmann型視野計での等級より自動視野計での等級が上位のもの,A:自動視野計.表2視野障害の原因疾病─網膜疾患・視路疾患の内訳網膜疾患視路疾患疾病例数(%)疾病例数(%)糖尿病網膜症C38(C7.8)黄斑変性C23(C4.7)網膜.離C7(C1.4)未熟児網膜症C3(C0.6)網膜色素変性症C61(C12.5)網膜血管障害などC9(C1.8)虚血性視神経症CLeber病C視神経萎縮C視神経腫瘍C脳卒中C脳腫瘍などC4(C0.8)12(C2.5)19(C3.9)3(C0.6)7(C1.4)8(C1.6)計C141計C53CこのうちCAP,GP両方による判定結果の記載のあったものがC18例あり,APでの等級が上位のものがC6例,GP,APでの等級が同一のものがC8例,GPでの等級が上位のものが4例あり,前2者14例はAPに,後者4例はGPに含め,判定用視野計はCAP107件(21.9%),GP381件(78.1%)だった(図2).申請原因は,484例(99.2%)が疾病で,その他は交通事故C2例(0.4%)とその他の事故C2例(0.4%)だった.疾病の内訳は,緑内障C246例(50.4%),網膜疾患C141例(28.9%),視路疾患C53例(10.9%)の順だった(表1).このうち,網膜疾患には,糖尿病網膜症C38例(7.8%),網膜色素変性症C61例(12.5%),黄斑変性C23例(4.7%)などがみられ,視路疾患には,視神経萎縮C19例(3.9%),Leber病C12例(2.5%),脳卒中C7例(1.4%)などがみられた(表2).判定用視野計別に疾病頻度をみると,APでは緑内障(69.5表45級視野障害の程度比較自動視野計(1C07例)Goldmann視野計(3C81例)両眼中心視野視認点数両眼中心視野角度1C/2≦20点≦40点41点≦記載なしC≦28°C≦56°C57°≦記載なし両眼開放CEstermanテスト視認≦100点C22(C20.6%)C10(9C.4%)C3(2C.8%)C4(3C.7%)周辺視野C重ね合わせ≦1/2かつ少なくとも1眼が>8C0°C38(1C0.0%)C12(3C.2%)C4(1C.1%)C20(5C.3%)点数101点C≦C9(8C.4%)C5(8C.4%)C0(0C.0%)C0(0C.0%)1/4重ね合わせ>C1/2C6(1C.6%)C3(0C.8%)C0(0C.0%)C0(0C.0%)表5手帳更新例(56例)の更新前後の視野障害等級更新前等級更新後等級C2C3C4C5非該当C2C21(3C7.5%)C4(7C.1%)C5(8C.9%)C14(2C5.0%)C3(5C.4%)C3C0C0C0C1(1C.8%)C0C4C0C0C0C0C0C5C0C0C1(1C.8%)C6(1C0.7%)C1(1C.8%)%)など各種疾患が広くみられ,両視野計の原因疾病の傾向には違いがみられた(Cochran-ArmitageCtrendtest:Z=.4.1301,p<0.0001).視野障害の等級分布は,2級(68.0%)とC5級(28.7%)で大半を占め,3級(2.7%),4級(0.6%)はわずかしかみられなかった(表3).視野計別の等級分布は,APでC2級C40例(37.4%),3級7例(6.5%),4級3例(2.8%),5級57例(53.3%)だったが,GPではC2級C292例(76.6%),3級C6例(1.6%),4級該当なし,5級C83例(21.8%)だった.両視野計ともC3,4級はほとんどみられなかったが,等級分布の傾向には差がみられた(Cochran-ArmitageCtrendtest:Z=7.1083,p<0.0001).このなかで,5級該当例をみると,中心視野障害のみでC5級に該当した例はCAPでC18例(30.5%),GPではC9例(10.8%)だった.一方,周辺視野障害のみでC5級に該当した例はAPでC7例(11.9%),GPでC24例(28.9%)と比率が逆転していたが,APとCGPの間でC5級該当数をみると,中心視野障害のみでの該当数と周辺視野障害のみでの該当数の傾向に有意な差はなかった(Cochran-ArmitageCtrendtest:Z=1.8274,p=0.0676)(表4).手帳更新者C56例での等級をみると,更新後の等級変動なしがC27例,等級上昇がC28例,等級下降が1例みられた.等級上昇では,1等級上昇がC5例,2等級上昇がC6例,3等級上昇がC17例みられた(表5).3等級上昇したものの原因は,緑内障(10件;35.7%)だった.視野障害を有する症例の視力障害等級への該当の有無をみると,285例(58.4%)が視力障害等級に該当し,複合障害を有することがわかった.各視力障害の等級の頻度はC1級:34例,2級:42例,3級:54例,4級C82例,5級:28例,6級:45例だった.また,少なくとも片眼の視力がC0.7以上のものはC125例で,このうち他眼の視力がC0.3以上のものが82例(16.8%)みられた(図3).総合等級は,視力・視野障害の合算で等級が上がったものはC84例(17.2%)で,すべてC1等級のみの上昇だった(図4).CIII考按平成C30年の認定基準改正後に,全国C12施設で発行された視野障害を原因とした視覚障害用の身体障害者診断書・意見書の記載内容についてアンケート調査を行った.本調査の対象者C488例の年齢構成は,平均年齢がC65.8歳で,50歳以降の症例が全体のC82.4%(402例)を占めていた.旧認定基準下での厚労省統計2)でも,視覚障害者数はC50歳以降に急増し,全視覚障害者のC86%で,男女比はほぼC1:1と報告されていたが,本調査の男女比はC3:2と男性がやや多かったものの,男女の年齢構成に統計的に差がなかったことから,本調査の対象者の年齢構成は旧基準下での視覚障害者の年齢構成とほぼ同じであると考えられた.判定用視野計は,新認定基準での最大の改正点の一つであるCAPでの申請が手帳申請例の約C20%にみられた.この数字が高いか低いかは,初めての調査であり,明確な判断はできないが,今回の調査対象が法改正直後の患者であったにもかかわらず,約C20%の症例がCAPでの申請であったことは,視野障害重症例ではCGPのほうが,被検者への負担が少ないとの報告3)はあるものの,緑内障を中心とする日常診療でのAPによる中心C10°内の検査の増加を考えれば,視野障害等視力の悪いほうの眼の視力1.521.2100161010.932210.8215000.73410110.605202000.5124021300.46220101200.311121210000.2143301011000.17751122100000.0911010100000100.08123201100011000.070015101100000000.0603012000001001000.05100015030310000000.043202118112330010000.0312331205401111000000.02342311017121110100000.01543212011274130101010FZ2131010000231200001010HB32312210140742012222002SL210112010101140021122110SL(-)40415762242511197365121140SL(-)SLMMND0.010.020.030.040.050.060.070.080.090.10.20.30.40.50.60.70.80.91.01.21.5視力の良いほうの眼の視力SL(-):光覚なし,SL:光覚弁,MM:手動弁,ND:指数弁図3視力分布級該当者の発見や申請例は徐々に増加するものと推測され視力障害る.視野障害の原因の第C1位は緑内障で全体のC50.4%を占め,視野障害1位を占め,2015年度の調査ではC28.6%となり,1988年の調査4)の約C2倍に増加していた.今回は視野障害に絞った調査ではあるものの,緑内障がC50%以上を占めたことは,APでの認定が可能になったこと,中心視野障害だけでも障害認定ができるようになったことが一因と考えられる.今後,APの使用が増えれば,さらに緑内障などでの視野障害等級該当者の頻度は増加するものと推測される.一方,網膜疾患のうち糖尿病網膜症や黄斑変性の頻度は減少しており,疾患の早期発見や治療法の進歩により視機能の温存が可能になってきているためと思われた.また,網膜色素変性症や視神経萎縮には現在有効な治療法がなく,障害者数も従来と変わらなかったものと思われた.平成C18年度身体障害者・児実態調査(2018年の厚生労働省資料)によれば,全国で視覚障害者の手帳保有者は約C31万人あり,1年間の新規手帳取得者は約C15,000人とされている5).一方,視覚障害認定基準に該当する障害を有する眼科受診者においても手帳申請者や取得者は約C30.50%といわれており6.8),本調査に参加した施設でもおよそC1,000名の視野障害該当者がいたものと推測される.これらのことから,視野障害に該当すると思われる患者には視野検査と視覚障害に対する種々の情報提供を積極的に行う必要があるとと総合等級:1級:2級:3級:4級:5級太枠内は等級上昇例図4視野障害等級と視力障害等級および総合等級もに,視野障害の進行がみられたら等級変動の可能性についても考慮して視野を評価する必要がある.視野障害等級の分布は,2級,5級が大多数で,3,4級が少なく,この傾向はCAP.GPともに同じだった.この理由として考えられることは,旧認定基準では,中心・周辺分離視野も周辺が残存しているためC5級にしか該当しなかったが,新認定基準では中心視野の状態のみで障害の評価が可能となったこと,APでの判定採用により中心視野障害が検出,明確化されやすくなったこと,GPでの周辺視野評価でCI/4の合計視野角度がC80°以下になれば,10°内狭窄と同等に扱えるようになったこと,緑内障のように主として中心C30°内のCAPでの視野検査で経過観察を行う疾病では,周辺視野障害の程度が十分把握されていなかったものが,APでも周辺視野の感度低下の状況を把握するようになったこと,が考えられる.さらに,緑内障が今回の調査対象のC50%を占めていたことは,認定基準改正前後の報告9,10)をみてもC2級とC5級が多数を占めたことに影響していると思われた.一方,3級,4級が少なかった理由は,GPでの中心視野障害の評価時に,I/2が視認できなければ視野角度をC0として取り扱うことになったこと,APでは,周辺視野がC71点以上あれば,中心視野障害の程度にかかわらずC5級とされること,緑内障では,周辺視野は後期まで比較的保たれていることも多く11,12),両眼開放CEstermantestでC70点以下になることが比較的少ないと考えられること,手帳更新例をみても,新認定基準になり等級が上がったもののうちC2段階以上上がったものがC80%にのぼることからも,5級からC4,3級と等級が上がる例より,5級からC2級に上がる例が多かったためとも考えられる.このような視野障害等級の偏りは,等級の境界値を将来改正する余地があることを示していると考えられる.視力障害についてみると,症例の約半数が視力障害にも該当するが,その程度はさまざまで,等級も比較的均等になっていた.これは,視力障害の基準1)が視力の良いほうの眼の視力とされたためと思われた.総合等級では,視野障害等級との合算でC1級となるものがC77例みられたが,3級,4級が少なく,視野障害等級分布が影響しているものと思われた.また,視力のみでの運転免許取得可能者がC82例(16.8%)もみられたことは,今後の運転免許取得基準を考えるうえでの問題点となるかもしれない.本調査にはいくつかの限界があった.まず,本調査が認定基準改正後の視野障害に対する多施設での初めての調査であったため,日本視野画像学会の評議員施設の一部からの症例収集であり,データ収集に限界があった可能性があった.また,障害該当者全員が手帳を申請していないとの報告もあり,本調査は視野障害者の全容を十分に知るには限界があった.認定基準改正直後のためCAPでの判定・申請がおよそ20%で,APとCGPの視野計間の判定や等級比較にも限界があった可能性があった.さらに,手帳申請時の視覚障害の原因としての疾病名や区分に統一された基準がなく,疾病名が多岐にわたったため原因疾病を正確に分類するには限界があった.今後,調査の地域,施設を増やしてより正確な視野障害の実態を知ることが必要と考えた.以上,平成C30年C7月に改正された視覚障害認定基準下での視野障害者の申請状況についてアンケート調査を行った.その結果,視野障害の原因の半数は緑内障であり,等級は68%がC2級だった.一方,視野障害等級該当者でも運転免許を取得できる視力を有するケースが約C17%みられたことから,視覚障害の自覚のない患者も多く存在することが示唆され,日常診療でも潜在視覚障害者の存在を意識し視野障害の把握に努める必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)厚生労働省:「身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害認定基準)について」の一部改正について.障発C00427第C2号平成C30年C4月C27日厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知2)厚生労働省:厚労省統計情報・白書厚生統計要覧(令和C3年度)第3編社会福祉第3章障害者福祉第3-28表身体障害児・者(在宅)の全国推計数,障害の種類C×年齢階級別3)山口亜矢,蕪城俊克,平戸岬ほか:視覚障害認定における自動視野計とCGoldmann型視野計の比較.眼臨紀C14:C483-489,C20214)的場亮,森實祐基:視覚障害の原因疾患の推移.日本の眼科C91:1386-1390,C20205)厚生労働省:平成C18年身体障害児・者実態調査結果.厚生労働省報道発表資料統計調査結果,平成C20年C3月C24日6)守本典子,大月洋:岡山大学眼科におけるロービジョンサービス.あたらしい眼科C16:587-593,C19997)谷戸正樹,三宅智恵,大平明弘:視覚障害者における身体障害者手帳の取得状況.あたらしい眼科C17:1315-1318,C20008)藤田明子,斉藤久美子,安藤伸朗ほか:新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳(視覚)取得状況.臨眼C53:725-728,C19999)瀬戸川章,井上賢治,添田尚一ほか:身体障害者手帳申請を行った緑内障患者の検討(2012年版).あたらしい眼科C31:1029-1032,C201410)大久保沙彩,生杉謙吾,一尾多佳子ほか:2018年に行われた視覚障害認定基準改正後の視野障害認定状況─三重県における調査報告─.日眼会誌C126:703-709,C202211)布田龍佑:緑内障の長期予後と管理.日本視能訓練士協会誌C19:19-24,C199112)植木麻里,中島正之,杉山哲也ほか:開放隅角緑内障C20年の視野変化.あたらしい眼科C19:1513-1516,C2002***

運転外来における視野障害ドライバーの運転時の自覚症状と それに関連する因子

2023年9月30日 土曜日

《第11回日本視野画像学会原著》あたらしい眼科40(9):1217.1221,2023c運転外来における視野障害ドライバーの運転時の自覚症状とそれに関連する因子深野佑佳*1國松志保*1平賀拓也*1小原絵美*1岩坂笑満菜*1黒田有里*1桑名潤平*2伊藤誠*2田中宏樹*1井上賢治*3*1西葛西・井上眼科病院*2筑波大学システム情報系*3井上眼科病院CFactorsRelatedtoSubjectiveSymptomsduringDrivinginPatientswithVisualFieldImpairmentataDrivingAssessmentClinicYukaFukano1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),TakuyaHiraga1),EmiObara1),EminaIwasaka1),YuriKuroda1),JunpeiKuwana2),MakotoItoh2),HirokiTanaka1)andKenjiInoue3)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InstituteofSystemsandInformationEngineering,UniversityofTsukuba,3)InouyeEyeHospitalC目的:視野障害患者の運転時の自覚症状の有無を検討する.対象および方法:2019年C7月.2022年C3月に運転外来を受診したC107名(平均年齢C62.8C±13.8歳)を対象に,運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無を調査した.視力検査,Humphrey視野計中心C24-2SITA-Standard(HFA24-2),両眼開放CEstermanテスト,認知機能検査CMini-Men-talStateExamination(MMSE),運転調査,ドライビングシミュレータ(DS)を施行した.HFA24-2より両眼重ね合わせ視野(integratedvisual.eld:IVF)を作成し,上下C13-24°内,上下C12°内の平均網膜感度を求めた.運転能力はDSのC15場面の事故件数を用いて検討した.それぞれの検討項目とCDSの事故件数について,自覚症状あり群と自覚症状なし群のC2群に分けて,比較検討を行った.結果:107例中,運転時の見えにくさがあったのはC40例(37%)であった.自覚症状あり群は,視力良好眼の視力,視力不良眼の視力,IVF上方C13-24°,IVF上方C12°の平均網膜感度が有意に低下していた(p<0.05Wilcoxon検定).また,初期から中期,後期と病期が進行するに従い,自覚症状のある頻度は高くなっていた(p=0.0463,Cochran-Armitage検定).過去の事故歴の有無やCDS事故数,左右眼の視力,視野障害度,IVF下半視野の平均網膜感度に有意差はなかった.結論:視野障害患者は,視野障害の自覚症状が乏しい.自覚症状のある視野障害患者は,上方視野が障害されており,運転時の見えにくさにつながったと思われる.CPurpose:Toinvestigatesubjectivesymptomsduringdrivinginpatientswithvisual.eld(VF)impairmentataCdrivingCassessmentCclinic.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC107CpatientsCwithCVFCimpairmentCatCaCdrivingCassess-mentCclinicCwhoCunderwentCtestingCwithCtheCHumphreyCFieldCAnalyzerC24-2CSITA-Standardprogram(HFA24-2)C,CtheCbinocularCEstermanCVFtest(EVFT)C,CandCaCdrivingsimulator(DS,CHondaCMotorCo.)C.CPatientsCwereCaskedwhethertheyhadanysubjectivesymptomsduringdriving,suchasfearofdrivingordi.cultyseeingtra.csignals,CseeingCatCnight,CorCseeingCinCtheCrain.CCognitiveCimpairmentCwasCassessedCusingCtheCMiniCMentalCStateExamination(MMSE)C.CWeCcalculatedCtheCintegratedVF(IVF)basedConCtheCHFAC24-2Cdata.CTheCpatients’CbestCpoint-by-pointmonocularsensitivitywasused.WeevaluatedmeanIVFsensitivityinthecentralareaoftheinferi-orCandCsuperiorChemi.eldsCwithinC0CtoC12degrees(IVFC0-12)andCwithinC13CtoC24degrees(IVFC13-24)ofCtheC.xationCpoint.Better-eyeVFmeandeviation(MD)wasusedtocategorizeglaucomaseverity:greaterthan.6CdB(mild);ClessCthanC.6CdBCandCgreaterCthanC.12CdB(moderate)C,CandClessCthanC.12CdB(severe)C.CTheCrelationshipCbetweenCglaucomaseverityandtherateofsubjectivesymptomsduringdrivingwasassessed.Results:Ofthe107patients,40(37%)hadCsubjectiveCsymptomsCduringCdriving.CVisualCacuityCofCtheCbetter-eyeCandCworse-eye,CsuperiorChemi.eldIVF1-12Csensitivity,andinferiorhemi.eldIVF13-24Csensitivitywerelowinthegroupwithsubjectivesymp-tomsduringdriving(p<0.05,Wilcoxonranksumtest).Reportsofsubjectivesymptomsduringdrivingwerehigh-erinthesevereglaucomagroup(p=0.046,Cochran-Armitagetrendtest).Therewasnosigni.cantdi.erencein〔別刷請求先〕深野佑佳:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YukaFukano,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANC0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(95)C1217thenumberofcollisionsintheDSbetweenthegroups.Conclusions:VisualsymptomsarenotcommoninpatientswithVFimpairment.However,subjectivesymptomsduringdrivingcanoccurinpatientswithsuperior-hemi.elddefects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(9):1217.1221,C2023〕Keywords:視野障害,運転時の自覚症状,運転外来.visual.elddefects,subjectivesymptomswhiledriving,outpatientdriving.Cはじめに視野障害をきたす疾患は,自覚症状に乏しいことが知られている.視野障害をきたす代表的な疾患である緑内障の過去に行われた疫学調査では,緑内障患者のC50.90%と,多くが眼科未受診であった1.5)ことも,緑内障が自覚症状に乏しく,発見されにくいことが原因とされている.Crabbらは緑内障患者C50名を対象に,視野障害を自覚しているかどうか,自覚している場合,どのように見えているのか調査を行った.その結果,正常に見える(自覚症状なし)と答えたのは,50名中C13名(26%)で,視界がにじんで見える・ぼやけて見えると答えたのはC27名(54%),視界が欠けて見えると答えたのはC8名(16%)であったと報告している6).このことからも,やはり緑内障は自覚症状に乏しいことがうかがい知れる.日本の運転免許の取得・更新にあたっては,中心視力が良好であれば視野検査は実施されない.しかし,安全運転のためには,信号や標識を認識し,左右からの飛び出しに反応するなど,十分な視野が保たれている必要がある.自動車運転は,生活の質の維持のために必要不可欠であるが,視野障害患者が安全に運転を継続するには,自身の視野障害を理解して,注意して運転することが重要であると考える.西葛西・井上眼科病院(以下,当院)では,日本の眼科医療機関として初となる運転外来を開設し,運転を継続している視野障害患者に対して,アイトラッカー搭載ドライビングシミュレータ(以下,DS)を施行し,視野障害患者に対して,起こりうる事故の危険性を患者本人に説明し,安全運転のための助言をしている7,8).そこで,今回筆者らは,当院運転外来を受診した視野障害患者に対して,運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無と視機能(視力,視野障害)や運転技能(DSの事故数)に関連があるか検討したので報告する.CI対象および方法2019年C7月.2022年C3月に,当院の運転外来を受診し,DSを施行した視野障害患者C107例を対象に,運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無を調査した.平均年齢はC62.3C±13.8(27.85歳),疾患別内訳は緑内障C97例,網膜色素変性6例,その他(脳梗塞,脳出血,下垂体腺腫など)4例,男女比は男性C87例,女性C20例であった.調査にあたっては,医師による問診のあとに,視能訓練士が,これまで運転中に見えにくさを感じた場面や,危機感を感じた場面があるか,アンケート形式で質問をし,聞き取りを行い,①「信号が見えにくい」,②「夜間や雨天時の見えにくさがある」,③「左右からの飛び出しに気づきにくい」,④「白線が見えにくい」,⑤「運転が怖い」に該当し,運転時に見えにくさを訴えたものを「運転時の自覚症状あり」とした.全例に対して,視力検査,Humphrey自動視野計中心C24-2SITA-Standard(HFA24-2),両眼開放CEstermanテスト,運転調査(1週間の運転時間,過去C5年間の事故歴の有無),認知機能検査CMini-MentalCStateCExamination(MMSE),DSを施行した.また,HFA24-2をもとに,既報に基づき9,10),両眼重ね合わせ視野(integratedCvisual.eld:IVF)を作成し,上下C13-24°,12°内の平均網膜感度を算出した.視力検査,運転調査,MMSE,DSは同一日に実施し,HFA24-2,両眼開放CEstermanテストはCDS実施日の前後C3カ月以内に実施した結果を使用した.運転能力の評価のために,DSを施行した.これは,エコ&安全運転教育用ドライビングシミュレータである「Hondaセーフティナビ」(本田技研工業)を改変したものであり11),全C15場面での事故の件数を記録し,運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無と,DS事故数との関連を検討した.運転時の見えにくさ(自覚症状)のある群(自覚症状あり群)と,ない群(自覚症状なし群)に分けて,年齢,性別,CMMSEtotalscore,完全矯正視力(logMAR),視野障害度(meandeviation:MD),Estermanスコア,1週間の運転時間,過去C5年間の事故歴の有無,病期別,両眼視野CIVFの平均網膜感度(dB)を比較した.比較にあたっては,C|2検定,Fisher正確確率検定,Wilcoxon検定を行った.緑内障患者C97名については,病期別(初期:MD>C.6CdB,中期:MD-12.C.6CdB,後期:MD<C.12CdB)12,13)に分類し,病期別の運転時の自覚症状の有無を検討した(Cochran-Armit-age検定).本研究は,当院倫理委員会で承認の得られた研究説明文書を用いて〔「視野障害患者に対する高度運転支援システムに関する研究」(課題番号:201906-1)〕各対象者にインフォームド・コンセントを行い,研究への参加について自由意志表1患者背景自覚あり(n=40)自覚なし(n=67)p値年齢(歳)C64.4±13.0C61.8±14.3C0.447†性別(男:女)32:855:1C2C0.802*CMMSEtotalscoreC27.9±2.4C28.6±2.0C0.159†1週間の運転時間(時間)C4.1±4.8C6.4±9.5C0.913†過去C5年間の事故歴あり13例(C32.5%)18例(C26.9%)C0.660**betterVA(logMAR)C0.00±0.10C.0.04±0.07C0.009†worseVA(logMAR)C0.26±0.46C0.14±0.30C0.048†betterMD(dB)C.13.34±5.78C.10.83±6.79C0.071†worseMD(dB)C.19.31±6.71C.18.58±7.65C0.925†EstermanスコアC82.8±17.4C83.6±18.4C0.562†平均±標準偏差.†:Wilcoxon検定,*:Fisher正確確率検定,**:|2検定.表2自覚症状の有無とDS15場面の事故件数自覚あり自覚なし(n=40)(n=67)p値15場面の事故件数(件)C2.0±2.0C1.7±1.9C0.343C平均±標準偏差.Wilcoxon検定.表3IVF平均網膜感度と自覚症状の有無自覚あり自覚なし(n=40)(n=67)p値上方CIVFC13-24C16.7±8.5C21.4±8.1C0.005上方CIVFC0-12C18.2±9.8C23.9±8.1C0.003下方CIVFC13-24C21.1±6.7C20.8±8.5C0.842下方CIVFC0-12C24.1±8.6C25.2±7.7C0.567CIVF:両眼重ね合わせ視野(dB).平均C±標準偏差.Wilcoxon検定.による同意を文書により得た.CII結果今回,運転外来を受診したC107例中,運転時に見えにくさ(自覚症状)があったのはC40例(37%),なかったのはC67例(63%)であった.運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無別の患者背景を表1に示す.自覚症状のある群では,視力良好眼・不良眼の視力が低下していた(p=0.0089,p=0.048,Wilcoxon検定).一方,年齢,性別,MMSE,1週間の運転時間,過去のC5年間の事故歴,視野良好眼,不良眼のCMD値,Estermanスコアでは,自覚症状の有無による有意差はみられなかった.DSのC15場面の事故件数は,自覚症状の有無による有意差はみられず(p=0.34,Wilcoxon検定),自覚症状の有無により運転能力に差はなかった(表2).緑内障患者C97名を対象に,病期別で自覚症状の有無を比較した結果,自覚症状のある群の割合は,初期ではC18例中100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%p値=0.046***初期MD>-6dB中期MD-12~-6dB後期MD<-12dB(n=18)(n=34)(n=34)■自覚あり(n=39)■自覚なし(n=58)***:Cochran-Armitage検定図1緑内障患者の病期別の自覚症状の有無4例(20.0%),中期ではC34例中C14例(41.2%),後期では45例中C21例(46.7%)と初期から中期,後期と進むにつれて高くなっていた(p=0.0463,Cochran-Armitage検定)(図1).運転の自覚症状の有無によるCIVF平均網膜感度を比較検討した結果を表3に示す.自覚症状のある群では,上方13-24°,上方C12°の平均網膜感度が低くなっていた(p=0.0050,p=0.0030,Wilcoxon検定).一方で,下方視野障害度に有意差はみられなかった.CIII考按今回筆者らは,運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無と視機能,運転技能の関連について検討した.その結果,運転時に自覚症状があったのは,107例中C40例(37%)であった.緑内障患者C97名では,初期から中期,後期と,病期の進行に伴い,運転時に見えにくさがある割合は,20.0%,41.2%,46.7%と高くなっていた.緑内障の自覚症状の有無と病期別の比較について,過去に生野らが,緑内障患者C250例を対象に,緑内障の自覚症状の有無について調査を行った結果,無自覚・未治療だったのは,250例中C233例(93.2%)であった.さらに,病期別に自覚症状があったのは,初期C149例中C140例(94.0%),中期C56例中C51例(91.1%),後期C45例中C41例(91.1%)と,どの病期でもC90%以上が無自覚・未治療だったと報告している14).これを,病期別の自覚症状ありの割合にすると,初期C6.0%,中期C8.9%,後期C8.9%と,筆者らの結果よりも割合が低くなっていた.これは,生野らの報告は「自覚症状」であるのに対して,筆者らは「運転時の自覚症状」と,運転場面に限った見えにくさの有無を調べたため,自覚しやすかったことによるものと考える.運転時は,信号を確認したり,標識を見たり,左右からの車や人の飛び出しに気をつけるなど,危険を感じる場面や注意をしなければならない場面が多々存在し,「見えにくさ」に気がつく場面が,日常生活のなかよりも多かったものと考えられる.Sabapathypillaiらは,55.90歳の緑内障患者C111例と,年齢をマッチングした対照群C47例に対して,運転のしづらさ,運転回避行動,運転に対する否定的感情を調べ,緑内障重症度と路上運転成績との関係を検討した.その結果,緑内障患者は,対照群と比較して,初期緑内障の段階から,「運転のしづらさ」を感じて(p=0.0391),中期緑内障から「運転に対する否定的な感情」をもっていた(p=0.0042).路上運転評価で「危険がある(at-risk)」と判定されたのは,「運転のしづらさ」のある緑内障患者ではC3.3倍であり,「運転に対する否定的な感情」のある緑内障患者ではC4.2倍と高くなっていた.今回の筆者らの検討でも,緑内障患者C97名では,初期から中期,後期と,病期の進行に伴い,運転時に見えにくさがある割合が増えており,同様の結果であった.一方,DS事故数による運転評価では,運転時に見えにくさの自覚症状の有無による有意差は認められなかった.これは,Sabapathypillaiらは路上運転での評価であったのに対して,筆者らはCDS事故数を比較した結果で,運転評価方法の違いによるものだと考える.今回は,DS事故数のみで比較したが,実際には,DSでの視線の動きなどの運転行動に違いがみられるかもしれず,今後検討していきたい.今回,筆者らは運転時の見えにくさの有無と,視野障害部位の関連を検討した.その結果,自覚症状あり群ではなし群と比較して,IVF上方網膜感度が低下しており,上方視野障害が運転時の見えにくさと関係している可能性が示唆された.過去の報告では,Yamasakiらが緑内障ドライバーの運転回避行動を調べた結果,上方視野障害があると,夜間と雨の日の運転・霧の中の運転を避ける傾向があると報告しており,上方視野障害が運転回避行動と関係していることを指摘している16).今回,筆者らの検討では,運転時の見えにくさの自覚症状あり群では,IVF上方網膜感度の低下がみられた.Yamasakiらの研究は運転回避行動を調べたものであり,運転時の見えにくさの有無を調べた筆者らの研究とは異なるものの,両者とも,運転には上方視野障害が関与する,という結果であったことは,運転時は上方部分に信号や標識など,注意をしなければならない対象物が多いため,上方視野障害があると運転回避行動が起き,運転時の見えにくさを自覚しやすい傾向になったと考える.2019年に網膜色素変性症患者(両眼ともCGoldmannV4指標で中心C10°)が,自覚症状なく運転していて起こした死亡事故についての民事訴訟にて,事故と視野狭窄の因果関係が認められ,裁判官は,眼科医が注意を促すことの必要性を示唆した17).では,どのような患者に注意をするべきなのか.今回,運転時の見えにくさ(自覚症状)があったのは約C4割であり,自覚症状がないまま運転を継続しているケースが多いことがわかった.自覚症状あり群では,上方視野の平均網膜感度が低下していた.過去には,Kunimatsu-Sanukiらが,右折してくる対向車との事故には,下方視野障害が関与していると報告しているが18),今回の結果から,下方視野障害例では,見えにくさに気がつく機会が,より少ない可能性があることがわかった.視野障害患者が,安全に運転するためには,自身の見えにくい部分や運転時に苦手な場面を把握し,注意喚起につなげる必要がある.そのため,眼科医療機関では,「運転時の自覚症状がある人は少ない」ことを念頭に,視野検査結果を知らせながら,視野障害様式別に,起こりうる事故のリスクを伝え,運転指導を行うことが重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HennisCA,CWuCS,CNemesureCBCetal:AwarenessCofCinci-dentCopen-angleCglaucomaCinCapopulationCstudy:TheCBarbadosCEyeCStudies.COphthalmologyC114:1816-1821,C20072)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:TheCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1643-1648,C20043)ShenSY,WongTY,FosterPJetal:TheprevalenceandtypesofglaucomainMalaypeople:TheSingaporeMalayEyeCStudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:3846-3851,C20084)DielemansCI,CVingerlingCJR,CWolfsCRCCetal:TheCpreva-lenceCofCprimaryCopen-angleCglaucomaCinCaCpopulation-basedCstudyCinCtheNetherlands:TheCRotterdamCStudy.COphthalmologyC101:1851-1855,C19945)VarmaR,TorresM,PenaFetal:PrevalanceofdiabeticretinopathyCinCadultLatinos:TheCLosCAngelesCLatinoCEyeStudy.OphthalmologyC111:1298-1306,C20046)CrabbDP,SmithND,GlenFCetal:Howdoesglaucomalook?Patientperceptionofvisual.eldloss.COphthalmolo-gyC120:1120-1126,C20137)平賀拓也,國松志保,野村志穂ほか:運転外来にて認知機能障害が明らかになったC2例.あたらしい眼科C38:1325-1329,C20218)高橋佑佳,國松志保,平賀拓也ほか:西葛西・井上眼科病院における職業運転手の運転機能評価.臨眼C76:1259-1263,C20229)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:Predictingbinoc-ularCvisualC.eldCsensitivityCfromCmonocularCvisualC.eldCresults.InvestOphthalmolVisSciC41:2212-2221,C200010)CrabbCDP,CFitzkeCFW,CHitchingsCRACetal:ACpracticalCapproachCtoCmeasuringCtheCvisualC.eldCcomponentCofC.tnesstodrive.BrJOphthalmolC88:1191-1196,C200411)Kunimatsu-SanukiS,IwaseA,AraieMetal:Anassess-mentofdriving.tnessinpatientswithvisualimpairmenttoCunderstandCtheCelevatedCriskCofCmotorCvehicleCacci-dents.BMJOpenC5:e006379,C201512)HodappCE,CParrishCR,CAndersonCDRCetal:ClinicalCdeci-sioninglaucoma.p52-61,CVMosby,StLouis,199313)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.Cp363,CVMosby,StLouis,199914)生野裕子,岩瀬愛子,青山陽ほか:多治見市民眼科検診で発見された緑内障患者の自覚症状.眼臨C100:18-20,C200615)SabapathypillaiCSL,CPerlmutterCMS,CBarcoCPCetal:Self-reportedCdrivingCdi.culty,Cavoidance,CandCnegativeCemo-tionCwithCon-roadCdrivingCperformanceCinColderCadultsCwithglaucoma.AmJOphthalmol241:108-119,C202216)YamasakiCT,CYukiCK,CAwano-TanabeCSCetal:BinocularCsuperiorCvisualC.eldCareas.CassociatedCwithCdrivingCself-regulationinpatientswithprimaryopenangleglaucoma.BrJOphthalmol105:135-140,C202117)國松志保:視野障害と自動車事故.日本の眼科C91:1304-1309,C202018)Kunimatsu-SanukiS,IwaseA,AraieMetal:Theroleofspeci.cCvisualCsub.eldsCinCcollisionsCwithConcomingCcarsCduringCsimulatedCdrivingCinCpatientsCwithCadvancedCglau-coma.BrJOphthalmol101:896-901,C2017***

基礎研究コラム:76.網膜発生におけるヒストン修飾の役割

2023年9月30日 土曜日

網膜発生におけるヒストン修飾の役割ヒストン修飾による遺伝子発現制御遺伝情報をもつCDNAは細胞核内でヒストンC8量体に巻きつき,クロマチンの基本単位であるヌクレオソームを形成しています.ヒストンの特定のアミノ酸がメチル化などのさまざまな修飾を受けると,修飾を介した複合体の形成や電荷の変化により,遺伝子の転写状態に影響を及ぼします.このようなCDNA配列の変化を伴わないエピジェネティックな遺伝子発現制御は,発生や再生など数多くの生命現象にかかわっています.網膜発生におけるヒストン修飾の役割ヒトを含むさまざまな種の網膜発生において,種々の網膜細胞は網膜前駆細胞から逐次的に産生されます(図1).正常な網膜発生には厳密な遺伝子発現制御が不可欠であり,重要な転写因子群が明らかにされています.網膜発生におけるヒストン修飾の役割は,この十数年で知見が深まってきました.筆者らは,転写の不活性化に寄与するヒストンCH3の27番目のリジンのトリメチル(H3K27me3)に対するメチル化酵素や脱メチル化酵素の網膜特異的ノックアウトマウスの解析により,H3K27me3が網膜前駆細胞の増殖能や運命決定に関与していることを明らかにしました1,2)(図2).今後の展望ヒストン修飾や修飾酵素は多数同定されており,ヒストン修飾間の相互作用もあるため,網膜発生におけるヒストン修飾の役割の解明にはまだ多くの労力が必要だと考えられま胎生期哺乳期網膜前駆細胞神経節細胞水平細胞アマクリン細胞錐体視細胞桿体視細胞双極細胞Muller細胞図1マウス網膜発生における各網膜細胞の産生胎生期から哺乳期にかけて,網膜前駆細胞は増殖能を変化させながら各網膜細胞を逐次的に産み出す.(文献C1より改変引用)(87)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY岩川外史郎東京大学大学院医学系研究科網膜発生・疾患病態学す.シークエンス解析技術の飛躍的な進歩により,1細胞レベルで網羅的な遺伝子発現解析が可能となっていますが,ヒストン修飾をC1細胞レベルで網羅的に解析することはまだ困難が多い状況といえます.より少ない細胞数で解析可能なCUT&Tagなど,次世代の技術が開発されており3),網膜発生におけるヒストン修飾の役割の全貌解明とともに,網膜再生への応用も期待されます.文献1)IwagawaCT,CWatanabeS:MolecularCmechanismsCofCH3K27me3andH3K4me3inretinaldevelopment.Neuro-sciResC138:43-48,C20192)IwagawaCT,CHondaCH,CWatanabeS:Jmjd3CplaysCpivotalCrolesintheproperdevelopmentofearly-bornretinallin-eages:amacrine,Chorizontal,CandCretinalCganglionCcells.CInvestOphthalmolVisSciC61:43,C20203)Kaya-OkurHS,WuSJ,CodomoCAetal:CUT&Tagfore.cientCepigenomicCpro.lingCofCsmallCsamplesCandCsingleCcells.NatCommunC10:1930,C2019胎生期哺乳期早期分化桿体視細胞Muller細胞Jmjd3(脱メチル化酵素)ノックアウト産生異常神経節細胞水平細胞アマクリン細胞双極細胞図2網膜特異的Ezh2あるいはJmjd3ノックアウトマウスの表現型H3K27me3のメチル化酵素であるCEzh2や脱メチル化酵素であるCJmjd3を網膜でノックアウトすると,増殖能の低下,早期分化,産生異常といった表現型が現れ,H3K27me3の制御が網膜発生において重要であることが示された.(文献C1より改変引用)あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C1209