●連載◯284監修=稗田牧神谷和孝284.職業選択における屈折矯正手術の役割脇舛耕一バプテスト眼科クリニック視力基準の設定された職業を選択するうえで,眼鏡やコンタクトレンズ装用では物品の準備や破損などにより業務の対応に支障をきたす場合がある.そのような職業では屈折矯正手術により裸眼で安定した視機能が得られれば,業務遂行が術前より改善することが期待できる.C●はじめにわが国では憲法により職業選択の自由が認められている.一方で,安全性,専門性の担保のため,一部の職業では就労・資格取得条件が存在する.眼科領域に関係するものでは,視力や視野,色覚,両眼視機能,眼球運動などの基準設定がある.本稿では,そのうち裸眼視力,矯正視力の基準が設定されている職業と,その選択における屈折矯正手術の役割について解説する.C●視力既定のある職業視力基準が設定されている職業の代表例とその基準値を表1に示す.警察官や消防士,自衛官等の公的職業のほか,パイロットや運転士などの専門性が高い交通機関,騎手や競艇選手などの接触リスクのある職業が含まれる.またこれ以外にも,刑務官やオートレーサー,ボクサーなど,複数の職業で視力基準が設定されている.これら職業の共通点としては,有事での対応が求められることや多数の人命にかかわること,常時外傷の危険性があり随時判断が必要とされることがあげられる.●視力既定のある職業における屈折矯正手術の役割これらの職業では,原則的には眼鏡やコンタクトレンズ装用で既定の視力基準を満たせば資格取得や就労は可能である.しかし,職種によっては眼鏡やコンタクトレンズの破損の危険性が通常より高い状況に遭遇しやすい.また,客室乗務員や騎手,競艇選手などは眼鏡装用での矯正視力は認められていないため,コンタクトレンズ不耐症者では保存的な方法では職業選択が不可能となる.たとえ装用可能者であっても,当直業務や緊急出動要請の対応が必要とされる職業で,就寝状態からすぐに勤務が求められる状況では,コンタクトレンズの装用や準備,携行が業務上の負担や支障となる場合がある.また,パイロットではC6D以上,自衛官ではC8Dを超える近視では就業が不可能となる.屈折矯正手術のメリットは,術後のコンタクトレンズや眼鏡が不要となり,とくに準備や管理を必要とせず勤務に携われることや,規定度数以上の屈折異常にも対応できることである.警察官消防士自衛官パイロット客室乗務員電車運転士海技士海上保安官宇宙飛行士騎手競艇選手表1視力既定のある職業(一部)と基準値裸眼視力が両眼ともC0.6以上,または矯正視力が両眼ともC1.0以上矯正視力が両眼でC0.7以上,片眼で各C0.3以上裸眼視力が両眼ともC0.6以上,または矯正視力が両眼ともC0.8以上(8D以内)裸眼または矯正視力が両眼でC1.0以上,片眼で各C0.7以上(.6.+2D)裸眼またはコンタクトレンズでの矯正視力が両眼ともC1.0以上裸眼または矯正視力が両眼でC1.0以上,片眼で各C0.7以上矯正視力が,両眼ともC0.5以上(航海),両眼でC0.4以上(機関),両眼ともC0.4以上(通信,電子通信)裸眼または矯正視力が片眼で各C0.6以上裸眼または矯正視力が両眼でC1.0以上裸眼またはコンタクトレンズでの矯正視力が両眼でC0.8以上,片眼で各C0.5以上裸眼またはコンタクトレンズでの矯正視力が両眼でC0.8以上(57)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024570910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1Photorefractivekeratectomy(PRK)のシェーマ●当該職業に対する屈折矯正手術の術後成績これらの職業における屈折矯正手術の術後成績が報告されている.米国海軍での屈折矯正手術の報告は以前からなされており,1996年の最初の報告では術C1年後もC30例全例で裸眼視力がC1.0以上であり,グレアやコントラスト感度低下も術後一過性に悪化するも経時的に多くの症例で術前レベルまで回復した1).米国陸軍での屈折矯正手術の効果についても,85%以上で術後裸眼視力C1.0以上が得られ,93%以上で業務の準備が術前より改善したとの報告がある2).欧米だけでなく,アジアでの空軍パイロットへの屈折矯正手術の成績についても,98%以上で術後裸眼視力C1.0以上が得られたとされている3).とくに空軍パイロットは,高度が高く低大気圧,低酸素,低湿度状態で紫外線暴露量が多いなど,前眼部に負荷のかかる環境下での実務となるが,その長期成績についても,術後C4年経過後もC89%以上で術後裸眼視力C1.0以上を維持していたとされる4).C●屈折矯正手術の術式これまでの報告でもっとも選択されている術式はレーザ―屈折矯正角膜切除術(photorefractiveCkeratecto-my:PRK,図1)である.しかし,フェムトセカンドレーザーによるフラップ作製技術の普及に伴い,米国海軍では施行された術式におけるClaser-assistedCinCsituC図2Laser-assistedinsitukeratomileusis(LASIK)のシェーマkeratomileusis(LASIK,図2)の割合が増加傾向にある5).有水晶体眼内レンズについての報告はこれまでにないが,LASIKと同様に有用であると考えられる.しかし,外傷や接触事故の危険性,頻度が高い職種については,合併症の面から従来通りCPRKが望ましい.C●おわりに屈折矯正手術は長期にわたる有効性,安全性が示されており,より精緻な視機能が必要となる職業においても担保可能と考えられる.一方,合併症を避け,良好な術後成績を得るためにも,厳密な手術適応や術式選択の判断が求められる.文献1)SchallhornCSC,CBlantonCCL,CKauppCSECetal:PreliminaryCresultsCofCphotorefractiveCkeratectomyCinCactive-dutyCUnitedStatesNavypersonnel.COphthalmologyC103:5-22,C19962)HammondCMD,CMadiganCWPCJr,CBowerKS:RefractiveCsurgeryCinCtheCUnitedCStatesCArmy,C2000-2003.COphthal-mologyC112:184-190,C20053)SeeB,TanT,ChiaSEetal:PhotorefractivekeratectomyinyoungAsianaviatorswithlow-moderatemyopia.CAviatSpaceEnvironMedC85:25-29,C20144)MoonCH:Four-yearCvisualCoutcomesCafterCphotorefrac-tivekeratectomyinpilotswithlow-moderatemyopia.CBrJOphthalmolC100:253-257,C20165)StanleyCPF,CTanzerCDJ,CSchallhornSC:LaserCrefractiveCsurgeryintheUnitedStatesNavy.CCurrOpinOphthalmolC19:321-324,C200858あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024(58)