244経毛様体扁平部超音波水晶体乳化吸引術後の強膜創菲薄化(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに経毛様体扁平部超音波水晶体乳化吸引術(parsplanephacoemulsi.cationandaspiration:PPPEA)を施行する際に生じる強膜熱傷については,本シリーズNo.194「経毛様体扁平部超音波水晶体乳化吸引術による強膜熱傷(初級編)」で記載したことがある.PPPEA施行後晩期には著明な強膜の菲薄化を認めることがあるが,筆者らは再手術時に強膜創が緩開し,自己強膜パッチによる閉鎖が必要であった1例を経験し報告したことがある1).●症例提示73歳,女性.8年前に右眼の網膜.離に対して硝子体手術+PPPEAを施行され,その後眼内レンズ(intra-ocularlens:IOL)毛様溝縫着術が施行されたが,鼻側の縫合糸が断裂してIOLが偏位した.鼻側のループを毛様溝に再縫着するために上耳側に25ゲージ(G)トロカールを設置したが,トロカール刺入部位の強膜が非常に菲薄化しており,トロカール抜去後にその部位の強膜が約3mmにわたって楕円形に欠損した(図1).同部位は以前にPPPEAを施行した部位と一致していた.縫合しても眼内液の漏出が止まらなかったため,下方の強膜を半層切除し(図2),強膜創にパッチした(図3).その後漏出は止まり,術後の眼圧は安定した.●PPPEA後の硝子体再手術時の注意点PEAの術中合併症に強膜創熱傷がある2)が,通常のPEAではスリーブ内の灌流液による冷却効果により,強角膜創に生じる熱傷害は軽度である.一方,チップがむき出しになるPPPEAでは,冷却効果がないため熱傷の程度が大きくなる.とくにPPPEA施行中にチップ内に水晶体組織が詰まり閉塞状態になると,急激な温度上昇が生じる3).コラーゲンの分子量は約30万で,1本約10万の線維状の蛋白質が3本集まって螺旋構造になっている.コラーゲンに熱が加わるとこの構造が崩壊し,同時に強膜血管も途絶するため,長期経過で創口周囲の強膜はさらに脆弱化,菲薄化するものと考えられる.本(85)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1再手術の術中所見(1)トロカール刺入部位は前回手術時にPPPEAを施行した部位で,強膜が非常に菲薄化しており,トロカール抜去後に強膜が約3mmにわたって楕円形に欠損した.図2再手術の術中所見(2)下方より強膜を半層切除した.図3再手術の術中所見(3)半層強膜を強膜欠損部位にパッチした.症例では,結膜上から25Gトロカールを刺入したためPPPEA施行部位の強膜の菲薄化を確認しづらく,同じ部位に刺入することになった.その結果,強膜が約3mmにわたって楕円形に欠損してしまったため,強膜パッチを余儀なくされた.過去にPPPEAを施行した患者に対して硝子体再手術を施行する際には,結膜を切開して過去にPPPEAが施行された部位を確認したうえで,新たな強膜創はその部位を避けて作製すべきであると考える.文献1)TerubayashiY,MorishitaS,FukumotoMetal:Scleralpatchgraftingforscleralwoundthinningafterparsplanaphacoemulsi.cationandaspiration:Acasereport.Medi-cine(Baltimore)98:e15598,20192)ErnestP,RhemM,McDermottMetal:Phacoemulsi.cationconditionsresultinginthermalwoundinjury.JCataractRefractSurg27:1829-1839,20013)SatoT,YasuharaT,FukumotoMetal:Investigationofscleralthermalinjuriescausedbyultrasonicparsplanaphacoemulsi.cationandaspirationusingpigeyes.IntOphthalmol39:2015-2021,2019あたらしい眼科Vol.40,No.9,20231207