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梅毒診療の最前線

2023年9月30日 土曜日

梅毒診療の最前線AReviewandUpdateonAdultSyphilisTreatmentStrategies柳澤如樹*はじめに新型コロナウイルス感染症の流行は,感染症疫学に大きな変化をもたらした.わが国では,空気感染する代表的な感染症である麻疹はC2019年にC744例報告されたが,2020年,2021年はC10例,6例と激減した.同様に飛沫感染する代表的な感染症である風疹は2019年に2,309例報告されたが,2020年,2021年はC101例,12例と同様に激減した.一方,性感染症である梅毒は,2010年頃までは年間数百例の報告数であったが,以降は増加傾向を示し,コロナ禍にもかかわらず,2022年は12,964例と感染症法の施行以来,初めて年間C1万例を超えた(図1).この傾向は日本のみならず,米国でも同様であった.2019年にはクラミジア,淋菌,梅毒の合計報告数がC250万人以上と,6年連続で最多を更新したが,その後も報告数は増加した.梅毒に関しては,2017年にC101,590例が報告されたが,2021年には176,713例まで増加した.CI病原体梅毒はスピロヘータ属の一つであるCTreponemapalli-dumによる感染症である.菌体はらせん状で,長さは6~20.μm,直径はC0.1~0.2.μmである.通常の光学顕微鏡では視認することができないため,暗視野顕微鏡を用いる必要がある.病巣の浸潤液を暗視野顕微鏡で観察すると,運動するコークスクリュー型の菌体を観察することができる.T.pallidumはCinvitroでの培養は不可能15,00010,0005,000012,964図1梅毒の年別報告数の推移(2001~2022)であり,現在でもウサギの睾丸を用いた生体培地が必要である.CII感染経路梅毒の大部分は,性行為によりヒトからヒトに感染する.感染力は硬性下疳や扁平コンジローマのような活動性病変が認められる時期で高く,時間とともに低下する.性行為以外では,経胎盤的に感染し,胎児に先天梅毒を起こす.まれではあるが,輸血や針刺し事故などでも感染することが報告されている.CIII疫学わが国ではC1948年に性病予防法に基づいて,梅毒の全数報告が開始された.1999年からは感染症法に基づ20012003200520072009201120132015201720192021*NaokiYanagisawa:柳沢クリニック/国立国際医療研究センター〔別刷請求先〕柳澤如樹:〒160-0001東京都新宿区片町C2-3菱和ビルC3F柳沢クリニックC0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(45)C1167感染力あり(性行為感染または母胎感染)感染力あり(母胎感染)感染力なし図3第1期梅毒(陰部の硬性下疳)図4第2期梅毒(皮膚症状)図6梅毒性直腸炎26歳,男性.HIV感染症,CD4陽性リンパ球数C227/μl,梅毒血清反応陽性.歯状線直上よりCRa領域まで大きな打ち抜き様潰瘍が多発.形質細胞やリンパ球を中心とした高度の炎症細胞浸潤を伴った非特異的な腸炎の所見.T.pallidum陰性.(文献C3より引用)図7眼梅毒26歳,男性.HIV感染症,CD4陽性リンパ球数C215/μl,梅毒血清反応陽性.眼底所見では著明な視神経乳頭浮腫を認めた.網膜は浮腫のために色調が蒼白で,網膜血管周囲には血管炎による細胞浸潤を認めた.(文献C4より引用)く,診断が困難である場合もある(図7)4).内耳梅毒では感音性難聴や,めまい,耳鳴り,平衡障害などが契機で診断されることが多い.泌尿器系では糸球体腎炎やネフローゼ症候群を,筋骨格系では関節炎,骨膜炎などの症状を呈することがある.皮膚や臓器症状に加え,第C2期梅毒では発熱,全身倦怠感,全身性リンパ節腫大,関節痛,体重減少のような全身症状が出現することもある.その一方で,第C2期梅毒の症状が軽微,もしくは無症状のこともある.また,第C1期梅毒同様,無治療で自然消退するため,診断がつかぬまま潜伏梅毒に移行することもある.このように梅毒は多彩な臨床症状を呈することから,“greatCimitator(模倣の名人)”とよばれている.C3.潜伏梅毒潜伏梅毒とは,血清梅毒反応が陽性にもかかわらず,症状がない状態をさす.この時期では献血や検診を契機に,偶然梅毒が発見されることが多い.潜伏梅毒は感染成立後C1年以内の早期潜伏梅毒(earlyClatentsyphilis)と,1年以上を後期潜伏梅毒(lateClatentsyphilis)に分けられる.潜伏梅毒の約C25%は,第C2期梅毒に再度移行しうるが,その多くが早期潜伏梅毒の時期に起こる.梅毒の感染力は時間経過とともに衰えるが,この時期でも母胎から胎児に感染し,先天梅毒を発症する可能性がある.無治療のまま経過すると,潜伏梅毒患者の約C30%は晩期梅毒に移行する.C4.晩期梅毒晩期梅毒は梅毒に対する適切な治療が行われなかった場合に,感染からC5~30年程度かけて緩徐に進行し,臓器障害を呈したものをさす.具体的にはゴム腫,心血管梅毒,神経梅毒があげられる.しかし,抗菌薬がさまざまな感染症に使用できるようになった現在,新規の晩期梅毒患者を診察することはまれである.ゴム腫とは組織の破壊を伴う壊死性肉芽腫性病変である.病変は皮膚,粘膜,骨に多く形成されるが,あらゆる臓器に生じる可能性がある.上気道では軟口蓋や鼻中隔の破壊を,骨では骨折や関節破壊を起こすことがある.皮膚では表在性の小結節から,深い潰瘍形成を伴うものまでさまざまな形態が存在し,結核,サルコイドーシス,深在性真菌感染症のそれと類似している.病変部の生検でCT.pallidumの菌体を認めることはまれであるため,診断に難渋することが多い.心血管梅毒では,おもに大動脈を栄養する血管の炎症により,血管中膜の壊死および弾性線維の破壊が起こる.これによって大動脈が進行性に拡張し,.状あるいは紡錘状の動脈瘤が形成される.また,上行大動脈が侵された場合は,大動脈弁閉鎖不全症や冠動脈入口部の狭窄を引き起こすことがある.神経梅毒は早期と後期神経梅毒に分類できるが,晩期梅毒は後者に相当し,進行麻痺や脊髄癆の原因となる.CVI診断と検査病原体検出は感染症の確定診断の基本であるが,T.pallidumは培地上で培養ができないため,診断には直接菌体を検出する方法と,梅毒血清反応を用いる方法が一般的である.病変部の検体からポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査を用いた方法もあるが,一般的な検査としては行われていない.神経梅毒の診断には脳脊髄液検査が必須である.C1.病原体の検出菌体を検出するためには,硬性下疳や扁平コンジローマなど,菌体が多く存在する活動性病変部位の浸潤液をスライドガラスに採取し,暗視野顕微鏡を用いる方法か,パーカーインク染色後に光学顕微鏡を用いる方法がある.しかしいずれの方法も,その正確性は検査技師の技術や病変部位の菌体数に依存している.また,病変部にはCT.pallidum以外のトレポネーマが存在している可能性があるために,評価は必ずしも容易ではない.そのため,この方法は臨床現場ではあまり用いられない.C2.梅毒血清反応検査梅毒の多くは血清反応検査を用いて診断される.梅毒血清反応検査は,非トレポネーマ検査と特異的トレポネーマ検査に分類される.それぞれの検査法には長所と短所があり,この二つの方法を組み合わせて梅毒の診断をする(表1).(49)あたらしい眼科Vol.C40,No.9,2023C1171表1梅毒血清反応検査の解釈RPRCTPHA結果の解釈--未感染感染の極初期(まれ)+-生物学的偽陽性感染の初期(TPHAがまだ上昇していない)-+感染の初期(RPRがまだ上昇していない)感染の後期(RPRが自然に低下した)治療後(現在の活動性はない)TPHA偽陽性プロゾーン現象(RPRが偽陰性)++活動性感染治療中もしくは治療直後CSerofastreaction(治療にもかかわらずCRPRが低下しない)RPR,TPHAともに偽陽性(まれ)

眼梅毒

2023年9月30日 土曜日

眼梅毒OcularSyphilis橋田徳康*はじめに梅毒はスピロヘータ属である梅毒トレポネーマ(TreponemaCpallidum:TP)によって起こる性感染症である.かつては頻度の高かった感染症であったが,ペニシリンの発見以降,駆梅療法の進歩により激減した.しかし近年増加傾向にあり,2022年には感染者数がC1万人を超えた.性感染症として最重要な疾患であり,ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode.ciencyvirus:HIV)感染を併発した発症例も近年増えてきており,免疫力の低下による重症例に対しても注意が必要である.CGreatimitatorといわれるように,全身のみならず眼所見においてもさまざまな臨床所見を呈する1).日本におけるぶどう膜炎のC0.5%を占めるとされている2).内科的治療を含めた梅毒診療に関しては別稿を参照いただき,本稿では,TPの感染病原体としての特徴と,眼梅毒として梅毒感染に関連する眼所見を中心に概説する.CI病原体スピロヘータ科,トレポネーマ属に属するCTPは,直径C0.1~0.2Cμm,長さ6~20Cμmのらせん菌で唯一の宿主はヒトである.トレポネーマ属に属するものとして,歯周病関連細菌であるCTreponemadenticolaがほかによく知られている.その他,回帰熱の原因菌であるCBor-reliarecurrentisやライム病の原因菌であるCBorreliaburgdorferiも有名である.スピロヘータの運動に関して,鞭毛をスクリュープロペラのように使って泳ぐ鞭毛細菌とは異なり,細胞内に鞭毛を内在していて螺旋状の菌体をくねらせながら泳ぐのが特徴である3).低酸素状態でしか長く存在できず,試験管内での培養は不可で,ウサギの睾丸内で培養する以外に方法が存在しない.Toll様受容体(tollClikereceptor:TLR)2およびC4は,グラム陰性菌の外膜の主要な炎症誘発性成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)のパータン認識受容体であるが,TPはCLPSがないためCTLRに認識されにくく,宿主の免疫を回避しやすい特徴をもっている4).CII検出方法病原体の明視野顕微鏡での直接検鏡による検出はむずかしく,暗視野顕微鏡・電子顕微鏡を用いて観察する.血清学的検査に関して,非トレポネーマ抗原による検査方法としてCserologicCtestCforsyphilis(STS)法がある.カルジオリピンを用いてCTPに破壊された組織の産生する自己抗体との反応をみる検査で,venerealCdiseaseCresearchlaboratory(VDRL)テストやCrapidCplasmareagin(RPR)カード法などがある.時間があまりかからないことが利点であり,また梅毒の早い段階(感染してから数週間程度)から検査が陽性になること,梅毒による炎症がおさまると数値が下がるため,早期の診断や治療効果の判定にも用られる.一方,トレポネーマ抗原による検査であるCTP抗原法とよばれる検査は,梅毒トレポネーマに対する抗体の量を測定するものである.CTreponemaCpallidumChemagglutinationassay(TPHA)*NoriyasuHashida:大阪大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕橋田徳康:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学医学部眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(37)C1159表1梅毒の全身症状病期潜伏期間臨床症状潜伏期第一期第二期第三期第四期3週間3週間~C3カ月3カ月~C3年3~4年10~1C5年初期硬結,陰部,口唇,乳房に無痛性の小丘疹(硬性下疳),小丘疹から硬結潰瘍,鼠径部リンパ節腫脹全身リンパ節腫脹,脱毛,バラ疹,扁平コンジローマ,髄膜炎,脳炎,眼梅毒,髄膜血管梅毒ゴム腫,心血管梅毒変性梅毒,進行性麻痺,脊髄癆-図1梅毒性ぶどう膜炎患者の前眼部所見41歳,男性.RPR(256),PHA(81920).a:結膜充血・毛様充血を認める.Cb:多数の炎症細胞とフレアの増強を認める.図2梅毒性ぶどう膜炎患者の広角眼底所見a:図C1と同一患者.網膜血管が判別不能なほどの強い硝子体混濁と,鼻側網膜に黄白色滲出性病変を認める.Cb:49歳,男性.RPR(C.),TPHA(80).強い硝子体混濁を認める.図3梅毒性ぶどう膜炎患者の網膜光干渉断層計所見a:58歳,男性.RPR(64),TPHA(5120).片眼性に隔壁構造のある一見,Vogt-小柳-原田(VKH)病によく似た漿液性網膜.離を認める.片眼性でありびまん性脈絡膜肥厚がみられず,VKHとは容易に鑑別され,血清所見より梅毒性ぶどう膜と診断されている.Cb:47歳,男性.RPR(64),TPHA(20480).AcuteCsyphiliticCposteriorCplacoidchorioretinitis(ASPPC)のC1例.後極における病変部に一致して外境界膜とCelipsoidzoneの消失と,outerretina/PREcomplexにおける結節状の不正隆起がみられる.図4Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis(ASPPC)患者の眼底所見・フルオレセイン蛍光造影(FA)所見a,b:図C3aと同一患者.眼底写真では,漿液性.離のある後局部は広範囲に淡い白色病変を呈している.FAでは,網膜血管壁の濃染と血管拡張および広範囲の蛍光漏出がみられる.Cc,d:40歳,男性.RPR(64),TPHA(10240).眼底写真では,黄斑部に淡い白色病変がみられ,FAでは網膜色素上皮の障害を反映したCwindowdefectが広範囲に認められる.図5ASPPC患者の蛍光造影所見と眼底自発蛍光所見図C3bと同一患者.Ca:フルオレセイン蛍光造影で後極部病変を取り囲むように網膜静脈血管炎と蛍光漏出がみられる.Cb:インドシアニングリーン蛍光造影検査では,病変部の低蛍光と周囲組織の輪状の過蛍光がみられる.Cc:眼底自発蛍光では病変部の粒状・斑点状の低蛍光部と周囲の輪状の過蛍光がみられ,そのコントラストがはっきりと認められる.–

HTLV-1による眼疾患

2023年9月30日 土曜日

HTLV-1による眼疾患OcularManifestationsCausedbyHTLV-1Infection鴨居功樹*はじめにヒトCT細胞白血病ウイルスC1型(humanCTCcellCleu-kemiaCvirusCtype1:HTLV-1)は世界でC3,000万人以上,日本には先進国の中でもっとも多いC100万人前後の感染者が存在すると推定されており,近年,世界的な注目を集める感染症である.世界保健機関(WorldCHealthOrganization:WHO)は,HTLV-1感染症を全世界で取り組むべき感染症として,technicalreportを発刊した.続けてCWHOCStrategicCTechnicalCAdvisoryGroupは,HTLV-1感染症を性感染症(sexuallyCtrans-mittedinfections:STI)として分類し,重点的に取り組むことを決定した.現在,HTLV-1感染症はクローズアップされるとともに,眼疾患に関する多くの新しい知見が報告されている.本稿では,筆者らの発見によってもたらされたHTLV-1感染症における二つのパラダイムシフトを含め,最近のCHTLV-1による眼疾患における重要な知見を概説する.CI注目されるHTLV-1感染症HTLV-1はCWHOをはじめ世界的に注目されているが,それはアボリジニにおけるCHTLV-1の高感染率が判明したことを契機とする.アボリジニはオーストラリアの先住民族で,おもにアリススプリングスを中心とした広大な地域に点在して居住する.アリススプリングス病院の感染症専門医であるCEinsiedel博士らによる疫学調査の結果,アボリジニの成人の約半数がCHTLV-1に感染していることが明らかになった1).これを受けて,オーストラリア政府はCHTLV-1感染症の重要性を認識し,大規模な研究資金を本感染症分野に投入することを決定した2).さらに,レトロウイルスの発見者であるCGallo博士らによるCHTLV-1感染症の重要性を記したCopenletterが「Lancet」誌に掲載されたことにより,WHOは世界規模でCHTLV-1感染症対策を推進する必要性を認識し,Ctechnicalreportを発刊するなど,意欲的な取り組みを開始した3).CIIHTLV-1による眼疾患HTLV-1は,遺伝情報をCRNAとして保持し,逆転写により宿主のCDNAにその情報を組み込む特性をもつレトロウイルスで,おもにCCD4+T細胞に感染し,一度感染が成立すると生涯にわたる持続感染となる4).HTLV-1はヒトに疾患を引き起こすことが初めて明らかになったレトロウイルスで,成人CT細胞白血病(adultT-cellleukemia/lymphoma:ATL),HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1Cassociatedmyelopathy:HAM),および眼疾患を生じる5).HTLV-1による眼疾患としては,ぶどう膜炎,ドライアイ,角膜混濁,視神経症,そしてATL関連眼疾患などが存在するが,とくにCHTLV-1関連ぶどう膜炎とCATL関連眼病変は頻度が高く,重要な眼疾患である6).*KojuKamoi:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕鴨居功樹:〒113-8510東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(29)C1151HTLV-1感染細胞浸潤細胞網膜血管炎硝子体混濁図1HTLV-1関連ぶどう膜炎のシェーマ図2Basedow病に伴う眼球突出図3HTLV-1関連ぶどう膜炎a:硝子体混濁.b:網膜血管炎.従来の発症メカニズム高いプロウイルスロード時間疾患発症長期の潜伏で感染発症新しいメカニズムの発見低いプロウイルスロード時間感染疾患発症短期の潜伏で発症HTLV-1感染細胞Basedow病T細胞図4プロウイルスロードに関する新発見従来,HTLV-1感染による疾患発症は,高いプロウイルスロードと長期の潜伏感染が必要と考えらえていたが(a),Basedow病が背景にある場合,低いウイルスロード・短い潜伏期間で疾患(HTLV-1関連ぶどう膜炎)が発症することを発見した(Cb).体内でゆっくりと長い年月をかけて感染細胞数が増加し,感染細胞数が多くなった患者において,疾患が生じる」という考えである.それゆえCHTLV-1関連疾患の発症は中高年以降に起こると認識されていた.筆者らは,東京において若年者にCHAUの発症が多くみられることに着目し研究を進め,眼科検査・内科検査・全身検査・ウイルス学的検査・感染経路調査を行い解析したところ,Basedow病が背景にある感染者においては,短い潜伏期間・PVL値であっても,程度の強い硝子体混濁・網膜血管炎を伴うCHAUを発症することをつきとめ,「Lancet」誌に報告した15)(図4b).HTLV-1関連疾患の発症にもっとも強く関与すると考えられていた「PVL高値」に依存しない発症機序を示した本報告は,疾患発症機序に関する常識を覆すパラダイムシフトとなり,HTLV-1感染症に新たな知見をもたらした.CVIHAUにおける合併症メカニズムHAUの発症機序については,多くのことが明らかになっているが6,7),HAUの眼合併症の発症機序に関する研究報告はこれまでにない.実際,HAUの眼合併症としての頻度が高い(30%程度)にもかかわらず6),そのメカニズムは明らかではない.そこで筆者らは,HAUにおける続発緑内障のメカニズム解析に取り組んだ.HAUに伴い前房に浸潤するHTLV-1感染細胞と線維柱帯細胞との相互関係をCinvitroで検討し,その結果,HTLV-1感染細胞と線維柱帯細胞の接触によって,線維柱帯細胞はCHTLV-1に感染し,増殖を起こすことが明らかになった.さらに,HTLV-1に感染した線維柱帯細胞ではCnuclearCfactor-lBが上昇し,サイトカイン,ケモカインが産生されることが明らかになった16).この結果を踏まえたCHAUにおける眼圧上昇のメカニズムとしては,HAUによって前房に浸潤したCHTLV-1感染細胞が,線維柱帯細胞に接触することで感染し,線維柱帯細胞の増殖,サイトカインによる局所炎症,ケモカインによる浸潤細胞の誘導が生じることで,房水流出障害が起きることが想定された.VIIHTLV-1感染者に対するTNF阻害薬の安全性評価腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)阻害薬は,炎症性疾患の治療の流れを変えた画期的な分子標的治療薬で,インフリキシマブ・アダリムマブなどは,眼科領域でも使用されている.これらは炎症性疾患の治療に長年使用され,良好な成績を上げている17,18).一方で,TNF阻害薬には逆説的反応(paradoxicalreaction)があり19),主要な逆説的反応の一つとして眼炎症(ぶどう膜炎)が起こることが知られている20).TNF阻害薬の使用の際に,B型肝炎,結核など感染症を除外する必要性がガイドライン・指針・マニュアルなどで言及されている一方で,HTLV-1感染症に関しては言及されていない.しかし,これまでにCHTLV-1感染者にアダリムマブを投与したことでCATLが発症した報告があり21),また筆者らも関節リウマチに罹患したHTLV-1感染者にトシリズマブを投与後にCHAMとHAUが生じた症例を経験している22).そこで筆者らは,この未解決な課題であるCHTLV-1感染者に対するCTNF阻害薬の安全性の評価に眼科学の立場から取り組んだ.HTLV-1感染者においてCTNF阻害薬のおもな逆説的反応である眼炎症ぶどう膜炎(HAU)が誘発される可能性をCinvitroで検討した.HTLV-1感染者における眼内環境に模した実験系をCinvitroで構築し,インフリキシマブとアダリムマブの影響について検討した結果,これらのCTNF阻害薬の投与によってCHTLV-1感染者の眼内にサイトカイン・ケモカインを介した炎症惹起は起こらず,またCHTLV-1感染細胞とCHTLV-1に感染した眼組織のCPVL量に影響を与えないことが示された23,24).つまりCHTLV-1感染者におけるCTNF阻害薬投与は,invitroの見地から安全である可能性が示唆された.CVIIIHTLV-1感染者に対するVEGF阻害薬の安全性評価血管内皮成長因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)は,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症,近視に伴う脈絡膜新生血管などに関与する.治療としては,1154あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023(32)多数のクラスター形成眼瞼結膜への浸潤(とくに涙点周囲)ATL細胞眼球結膜への浸潤(とくに角膜輪部)網膜色素上皮下への浸潤図5ATL患者における眼浸潤のシェーマsIL-2R,LDHの上昇であることが報告されている32).CXATL患者における移植治療とフォローアップATLの生命予後は,同種造血幹細胞移植によって改善したが,移植前処置(抗癌剤,放射線照射)を含む同種造血幹細胞移植における一連の治療は,ATL患者の免疫恒常性の破綻,免疫寛容の減弱を起こし,全身に炎症が生じることがある33).筆者らは,ATL患者において,同種造血幹細胞移植を行う前後に眼科検査,全身検査を実地し,かつ長期にわたる追跡調査を行った.その結果,同種造血幹細胞移植を行った後に生じる炎症は,他の臓器・部位に先行して眼内に炎症が生じることを明らかにし,「LancetHae-matology」誌に報告した34).この発見によって,移植後の患者のフォローアップの際には,積極的な眼科検査を行い,早期に炎症を発見することが重要であることが示唆された.おわりにHTLV-1は日本における重要な感染症である.近年,眼科学的アプローチにより,感染経路・PVLといったHTLV-1関連疾患発症における主要な常識が覆され,パラダイムシフトが起きた.ほかにも多くの重要な研究成果が眼科から報告されている.現在,HTLV-1は世界的に取り組むべき感染症であり,HTLV-1感染者が先進国の中でもっとも多い日本からの情報発信が期待されている.文献1)EinsiedelL,WoodmanRJ,FlynnMetal:T-lymphotropicvirustype1infectioninanIndigenousAustralianpopula-tion:epidemiologicalCinsightsCfromCaChospital-basedCcohortstudy.BMCPublicHealth16:787,C20162)GruberK:AustraliaCtacklesCHTLV-1.CLancetCInfectCDisC18:1073-1074,C20183)MartinCF,CTagayaCY,CGalloR:TimeCtoCeradicateCHTLV-1:anopenlettertoWHO.Lancet391:1893-1894,C20184)YoshidaM,SeikiM,YamaguchiKetal:Monoclonalinte-grationCofChumanCT-cellCleukemiaCprovirusCinCallCprimaryCtumorsofadultT-cellleukemiasuggestscausativeroleofhumanCT-cellCleukemiaCvirusCinCtheCdisease.CProcCNatlCAcadSciUSA81:2534-2537,C19845)WatanabeT:HTLV-1-associateddiseases.IntJHematol66:257-278,C19976)KamoiK:HTLV-1CinCophthalmology.CFrontCMicrobiolC11:388,C20207)KamoiK,MochizukiM:HTLV-1uveitis.FrontMicrobiol3:270,C20128)KamoiCK,CMochizukiM:HTLVCinfectionCandCtheCeye.CCurrOpinOphthalmol23:557-561,C20129)TeradaY,KamoiK,KomizoTetal:HumanTcellleuke-miavirustype1andeyediseases.JOculPharmacolTher33:216-223,C201710)KamoiCK,CWatanabeCT,CUchimaruCKCetal:UpdatesConCHTLV-1uveitis.Viruses14:794,C202211)NishijimaT,ShimadaS,NodaHetal:TowardstheelimiC-nationCofCHTLV-1CinfectionCinCJapan.CLancetCInfectCDisC19:15-16,C201912)SatakeCM,CIwanagaCM,CSagaraCYCetal:IncidenceCofChumanT-lymphotropicvirus1infectioninadolescentandadultCbloodCdonorsCinJapan:aCnationwideCretrospectiveCcohortanalysis.LancetInfectDis16:1246-1254,C201613)KamoiCK,CHoriguchiCN,CKurozumi-KarubeCHCetal:Hori-zontalCtransmissionCofCHTLV-1CcausingCuveitis.CLancetCInfectDis21:578,C202114)BanghamCR,CookLB,MelamedA:HTLV-1clonalityinadultT-cellleukaemiaandnon-malignantHTLV-1infec-tion.SeminCancerBiol26:89-98,C201415)KamoiK,UchimaruK,TojoAetal:HTLV-1uveitisandGraves’CdiseaseCpresentingCwithCsuddenConsetCofCblurredCvision.Lancet399:60,C202216)ZongY,KamoiK,AndoNetal:MechanismofsecondaryglaucomadevelopmentinHTLV-1uveitis.FrontMicrobiolC13:738742,C202217)HoriguchiCN,CKamoiCK,CHorieCSCetal:AC10-yearCfollow-upCofCin.iximabCmonotherapyCforCrefractoryCuveitisCinCBehcet’ssyndrome.SciRep10:22227,C202018)TakeuchiM,UsuiY,NambaKetal:Ten-yearfollow-upofCin.iximabCtreatmentCforCuveitisCinCBehcetCdiseasepatients:ACmulticenterCretrospectiveCstudy.CFrontCMed(Lausanne)C10:1095423,C202319)ToussirotE,AubinF:ParadoxicalreactionsunderTNF-alphaCblockingCagentsCandCotherCbiologicalCagentsCgivenCforCchronicCimmune-mediateddiseases:anCanalyticalCandCcomprehensiveoverview.RMDOpen2:e000239,C201620)WendlingCD,CPratiC:ParadoxicalCe.ectsCofCanti-TNF-alphaCagentsCinCin.ammatoryCdiseases.CExpertCRevCClinCImmunol10:159-169,C201421)BittencourtCAL,COliveiraCPD,CBittencourtCVGCetal:AdultCT-cellCleukemia/lymphomaCtriggeredCbyCadalimumab.CJClinVirol58:494-496,C201322)TeradaCY,CKamoiCK,COhno-MatsuiCKCetal:TreatmentCofCrheumatoidCarthritisCwithCbiologicsCmayCexacerbateCHTLV-1-associatedconditions:ACcaseCreport.CMedicine(Baltimore)C96:e6021,C20171156あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023(34)

性感染症における眼感染症多項目PCR 検査 (ぶどう膜炎前房水スクリーニング検査)

2023年9月30日 土曜日

性感染症における眼感染症多項目PCR検査(ぶどう膜炎前房水スクリーニング検査)Muliti-plexPCRTestandScreeningofAqueousHumor中野聡子*はじめに感染症診断の基本的な流れには,①病歴や臨床所見から臨床診断をつける.②ターゲットとした病原体を検出可能な検査を組み合わせ,感染部位から得た検体を分配する.③検査結果や治療への反応を総合して,最終的に医師が起炎病原体を診断する.④病原体量がわかる検査で病勢や治療効果を判定する.という段階がある.性感染症では,病歴について患者から正確な情報が得られない場合が多い.梅毒性ぶどう膜炎やヒトT細胞白血病ウイルス1型(humanT-cellleukemiavirustype1:HTLV-1)関連ぶどう膜炎など,特徴的な臨床所見を示さず,腫瘍性を含めた他疾患の除外が必須となる疾患がある.また,眼症状で初診した場合は眼外病変が見逃されやすい一方で,経過中に重篤な全身病変を生じる疾患もある.早期に明確な診断を示さなければ,治療に協力的でない患者が存在する.以上の特徴から,他の眼感染症よりも客観的な病因検査の重要性が高い.I性感染症と眼科検体検査性感染症の病原体のうち,淋菌は塗抹鏡検が有用であるが,温度変化や乾燥に弱く輸送に注意が必要である.ほかにも塗抹鏡検,培養が困難な病原体が多く,他科では血清学的検査や,腟分泌物,子宮頸管擦過物,咽頭拭い液を用いた遺伝子検査が一般化している.日本性感染症学会が編集した「性感染症診断・治療ガイドライン2020」1)が参考になる.ただし,全身検査結果が必ずしも眼病変を反映しているとは限らないため,眼局所の診断には眼科検体を用いることが望ましい.しかし,既存の遺伝子検査は眼科微量検体に対応せず,陰性結果が検体量不足によるものか,真陰性か,明確ではなかった.眼科微量検体に適する病因検査の一つに,マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainreac-tion:PCR)法(複数の蛍光色素で測定するリアルタイムPCR)を用いた多項目PCR検査「DirectStripPCR法」2)があり,核酸抽出不要で,20μlの前房水から9項目の病原体を診断,または除外可能である.II感染性,腫瘍性鑑別のための「前房水スクリーニング検査」ぶどう膜炎診断では,治療が異なる感染性,非感染性(免疫),腫瘍性(仮面症候群)の三つを,まず明確に鑑別する必要がある.非感染性に対するステロイド治療や免疫抑制薬,生物学的製剤は感染を悪化させ,腫瘍性を見逃すと生命予後に影響する.従来から行われている採血(HLA含む),胸部X線写真などの「全身スクリーニング検査」は,サルコイドーシスなどの非感染性の診断には有用であったが,眼局所の感染や腫瘍性病変を発見する力が弱かった.「前房水スクリーニング検査」では,初診時の病原体や炎症に富む前房水(20~150μl)を,臨床所見に基づいて,塗抹鏡検,培養,多項目PCR検査,サイトカイン検査(IL-10,IL-6)3),細胞診などの必要な検査に上*SatokoNakano:大分大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕中野聡子:大分県由布市迫間町医大ケ丘1-1大分大学医学部眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(21)1143手に振り分けて,見逃してはならない眼感染症や腫瘍をまず除外する.サイトカイン検査は60~80μl,他は20μlずつ分配すればよい.いずれも先進医療や保険で実施可能で,従来の全身スクリーニング検査と組み合わせることで,ぶどう膜炎専門医でなくても,感染性,非感染性,腫瘍性が客観的に診断,または除外可能である.特徴的な所見に乏しく,腫瘍性も含めた他疾患の除外を要する性感染症には最適である.ただし,性感染症を生じる患者背景を考えると,費用面や施設面でのハードルがある.2023年現在,梅毒,HTLV-1を含む感染性ぶどう膜炎キットは先進医療から保険適用をめざした医師主導臨床性能試験中で,淋菌,クラミジア,アデノウイルスを含む角結膜炎キットも保険適用を念頭に,先進医療が準備されている.また,これらの先進医療は,従来は基幹病院規模の施設に限定されていたが,先進医療届出要件の緩和が検討されており,近い将来,気軽に実施できるようになることが期待されている.III梅毒,HTLV-1を含む感染性ぶどう膜炎キット1.適応症単純ヘルペスウイルス1型(herpessimplexvirus-1:HSV1)・2型(HSV2),水痘帯状疱疹ウイルス(vari-cellazostervirus:VZV),Epstein-Barrウイルス(Epstein-Barrvirus:EBV),サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV),ヒトヘルペスウイルス6(humanherpesvirus6:HHV6),HTLV-1,梅毒トレポネーマ,トキソプラズマを対象とした多項目PCR検査キット2)の適応症は感染性ぶどう膜炎疑いであリ,眼科微量検体に対応する.性感染症に関連する病原体として,梅毒,HTLV-1が含まれており,海外版ではヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode.ciencyvirus:HIV)も含む.結核,トキソカラは,とくに先進国では免疫反応性で,眼内に病原体遺伝子がほぼ存在しないことからキットに含まれず,診断には採血や胸部X線写真といった全身検査が必要である.現行の先進医療は適応症に制約があり,豚脂様角膜後面沈着物,眼圧上昇,網膜壊死病巣を有するヘルペス性ぶどう膜炎とその鑑別疾患が対象である.2.検体眼内液(前房水・硝子体)を用いる.炎症の主座に近い部位の検体が望ましいが,後眼部が主座の病変でも硝子体手術に至らない患者では前房水で代用する.その場合は,陰性結果の解釈は真陰性なのか,採取した検体中に病原体がいないのかという考察を要する.3.前房水採取方法房水ピペット(ニプロ,型番NIP-021)を推奨する.30ゲージ(G)針がついたディスポーザブルシリンジで,シリンジ部分はストロー状の閉鎖腔となっているため,片手操作が可能で,指でつまむ幅で採取量を調整可能である.過剰採取による低眼圧や出血,感染を生じることはきわめてまれで,受診が途切れがちな性感染症患者でも安心して採取できる.1ccシリンジと30G針で代用する場合は,シリンジの押し子をはずして自然吸引にする.浅前房ではない場合は,前房水は20~150μlが採取可能で,臨床診断に基づいて必要な検査に配分する.多項目PCR検査は20μlで十分で,保管は冷凍(-20~-80℃,家庭用で可)である.検査ごとの必要検体量,保管方法を事前に確定させてから採取に臨む.4.硝子体採取方法水晶体などの不純物を含まない,無灌流下で採取した無希釈硝子体が望ましい.眼底が透見できる程度の軽微な出血であれば核酸抽出を省いた直接PCRが可能である.5.検査の実際簡便で,眼科外来でも試薬調製が可能で,小型PCR機器を用いた臨床現場即時検査としとて行われている施設もあり,病因診断に基づいて初診日から治療開始が可能である.①眼内液を採取後,手袋のままピペットで眼内液20μlを取り,PCR反応液に混合し,キットに20μlずつ分注する(用手操作1分)4).②攪拌後,PCR機器にセッティングし,32分程度で結果が判明する.検査部検査では,新型コロナウイルス感染症の検査状況1144あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023(22)図1梅毒性ぶどう膜炎図2CMV感染症を契機にATLと診断されたHTLV-1キャリア細胞診,および血中C7-HRPは陰性であった.HTLV-1キャリアとして,他院血液内科で半年前も全身合併症なく経過観察をされていたが,眼科の診療情報提供後,再検査となり,成人CT細胞白血病(adultCT-cellleukemia:ATL)くすぶり型と診断された.バルガンシクロビル内服は副作用で継続できず,眼病変はガンシクロビル硝子体内注射および点眼(倫理委員会承認済)にて軽快した.C9.HIV感染に伴う日和見感染症(トキソプラズマ,CMV)の検査法としての眼内液多項目PCR検査日和見感染症(トキソプラズマ,CMV)の診断,除外診断は,多項目CPCR検査がもっとも得意とするところである.海外版キットにはCHIVも含むが実検体での検証例はない.トキソプラズマはわが国の成人のC20~30%が不顕性感染で,後天性感染を示唆するCIgM抗体も感染後長期陽性になることもあり,再燃時にも上昇しない.CMVも多くは幼児期に不顕性感染するため,抗体保持率はC70~90%で参考にならない.欧米では感度が高いリアルタイムCPCR法(血漿または血清)が主流であるが,わが国では保険適用がなく,CMV抗原血症検査(C7-HRP法,C10/11法)10)が主流である.両者ともに全身的な病勢や治療経過とは相関する.抗原血症検査のCCMV網膜炎に対する感度はとくに低く,陰転化して内科での抗ウイルス薬治療が終了されても,CMV網膜炎が悪化したり,眼内の病原体コピー数が陰転化しないことがよくある(抗ウイルス薬治療で眼所見が改善した場合は,しばらくは低コピー数でCPCR陽性が続くが,のちに陰転化する).ガンシクロビル硝子体内注射の際に抜いた前房水C5Cμlで,安価に頻回測定できるCCMV単項目CPCRキットがあり,治療効果判定・経過観察に有用である.オーダリング画面上に時系列表示された病原体コピー数と臨床所見をモニタリングし,ガンシクロビル硝子体内注射の回数や濃度を調整することが試みられている.IV淋菌,クラミジア,アデノウイルスを含む角結膜炎キット1.適応症HSV1,VZV,アカントアメーバ,淋菌,クラミジア,アデノウイルスを対象としており,適応症は感染性角結膜炎疑いで,先進医療化が準備されている.RNAウイルスであるエンテロウイルスは検査時間の都合上,キットに含んでいない.性感染症に関連する病原体として,淋菌,クラミジアが含まれている.C2.検査の時期・検体病原体に富む治療前検体が望ましい.アデノウイルス抗原検査陰性の場合や,臨床診断からクラミジアやHSV1が疑われる場合は,初診時にCPCR検査を実施する.または,保管の同意を得て,初診時の結膜拭い液を冷凍保存しておき,後日,診断に苦慮した場合に検査に用いることもある.採取,保管中に環境汚染がないよう,容器外への検体の付着,廃棄時の取り扱いに注意する.なお,さまざまな治療を試してこじれた後は,検査に十分な量の病原体の確保がむずかしくなっているため,検体検査の適応はない.C3.結膜拭い液(結膜擦過物)の採取方法細胞内増殖の病原体では結膜上皮細胞を綿棒でしっかり擦過して検体とする.アデノウイルスの抗原検査(イムノクロマト法)では,ウイルス表面を構成するヘキソン蛋白を涙液から検出できるクイックチェイサーAdeno眼(ロートニッテン)もある.乾燥して固形となった眼脂は検査に適さず,濾胞間のウエットな眼脂や涙液をスワブで十分に吸い取る.スワブは綿棒でもよいが,病原体離れがよいフロックスワブを用いるとよい.塗沫でクラミジア封入体をみつけるのは初心者には困難だが,クラミジア結膜炎は好中球,ウイルス性結膜炎はリンパ球優位である点も鑑別になる.角膜病変を伴う場合は角膜潰瘍部分と正常の「キワ」に病原体が多く存在するため,遺伝子の付着していないディスポーザブルの円刃刀などを用いて角膜細胞を擦過する.(25)あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C11474.検査の実際ぶどう膜炎キットと検査プロトコルが共通で同時検査可能であるが,別に,PCR反応液の事前加熱(20分)を要する.C5.結果の解釈角結膜炎の臨床では,病原体量の単位はコピー数/検体がよく用いられる.拭い液が倍量とれたとしても,病原体コピー数の幅がC10C2~10C9コピー/検体と幅広いため,病勢判断に大きな影響は与えないためである.角結膜炎キットに含まれるCHSV1やアカントアメーバでは角膜擦過が治療の一環で,病原体コピー数の確認が擦過継続・終了の目安になるる.また,HSV1ではCshed-ding(正常者の微量分泌)もあるため,抗原検査よりも定量性があるリアルタイムCPCRが好ましい.C6.淋菌・クラミジアの鑑別法としての多項目PCR検査新生児膿漏眼の代表としてクラミジア結膜炎,淋菌性結膜炎があり,重複もある11).淋菌は多剤耐性で,セフェム系で治療するため,病因診断をつけることが望ましい.塗抹鏡検が迅速であるが,輸送中に死滅しやすいため,提出方法について検体採取前に検査部と打ち合わせておく.他科には死菌でも検出できるCPCR検査を含む核酸増幅法(例:APTIMACCombo2クラミジア/ゴノレア,ホロジックジャパン)が多数存在し,子宮頸管擦過物,男性尿道擦過物,咽頭擦過物などが対象である.結膜炎では得られる検体量は多いため,眼科微量検体に特化しない従来型検査でも比較的陽性が出やすい.C7.アデノウイルス・クラミジア・HSV1の鑑別法としての多項目PCR検査急性濾胞性結膜炎を呈する病原体として,アデノウイルス・クラミジア・HSV1がある.アデノウイルスと比較して,クラミジアは粘液膿性眼脂で,濾胞が大型・充実性,癒合するが11),初期は鑑別がむずかしい.HSV1も眼瞼ヘルペスや角結膜上皮病巣を伴わない場合は鑑別がむずかしい.アデノウイルスは眼科検体を対象とした抗原検査キットが豊富にある.出席停止措置を考えると,少しでも感度・特異度が高いCPCR検査で確定診断したいところであるが,価格は同等でも,検査時間が長いこと(抗原検査約C10分,PCR32分),高コピー数で検査環境が汚染されやすいことから,PCR検査は推奨せず,抗原検査を推奨する.検査のタイミングにもよるが,抗原検査でも高率に検出できる.臨床所見に応じて他の抗原検査を実施することもある.HSVはチェックメイト・ヘルペスアイ(わかもと製薬)が保険適用で,HSV・VZVはデマルクイック(マルホ)が医師主導臨床性能試験として使用可能である.臨床所見から複数病原体の鑑別が必要であれば,抗原検査よりも初診時に多項目CPCR検査を実施することが,検体量の面からは効率的である.クラミジアは不妊症などの重篤かつサイレントな全身合併症を伴うことを考えると,結膜炎としては軽微でも,病因診断をつけて全身治療に誘導することは眼科医の責務である.ただし,患者背景として再来が期待できない場合もあり,当日結果が得られない施設では,重要な結果が出た場合は電話連絡することなどをあらかじめ伝えておく.CV先進医療2023年現在,眼感染症多項目CPCR検査のうち,感染性ぶどう膜炎(おもにヘルペスウイルス性ぶどう膜炎),感染性眼内炎(おもに急性細菌性眼内炎)は,先進医療として実施可能である.感染性角結膜炎に対するキットも,先進医療症例集積が開始されている.先進医療は届出施設限定で,届出後約C1カ月で承認される.新型コロナウイルス感染症のために普及したCPCR機器の活用法が全国で模索されており,眼感染症CPCR検査導入の好機である.倫理審査も一括審査になって簡便になった.①院内にリアルタイムCPCR機器,またはマルチプレックスCPCR機器があること,②検査部が月数件,用手操作C1分の眼感染症を受けてくれること,このC2点だけ確認できれば,大分大学にて導入支援を実施している.ホームページ上に検査部への説明資料や動画も公開されており,検査部や医事課などへの説明もCweb上で実施されている.先進医療では,検査費用のみが患者自己負担(感染性ぶどう膜炎では平均価格がC2万円台半ば)で,先進医療特約先保険でほぼ全額が給付される.なお,現1148あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023(26)–’C

アデノウイルス結膜炎

2023年9月30日 土曜日

アデノウイルス結膜炎AdenoviralConjunctivitis内尾英一*はじめにアデノウイルス(Adenovirus:AdV)はウイルス性結膜炎の主たる病因微生物であり,臨床的にCAdV結膜炎には流行性角結膜炎(epidemicCkeratoconjunctivitis:EKC)と咽頭結膜熱とがある.近年CAdV結膜炎の原因として新型のCAdVが注目を集めている.眼科医にとってCAdVはウイルス性結膜炎との関連しか考えにくいが,実はCAdVは咽頭炎,気管支炎,肺炎などの呼吸器系感染症の原因など,全身感染症としての一面もある.さらに尿道炎,それも性感染症(sexuallyCtransmittedCdis-ease:STD)として発症する尿路感染症の中でも,上位の頻度で病因となるウイルスでもある.本稿ではCAdV感染症について,STDと結膜炎との関連なども含めて最近の知見を中心に解説する.CIアデノウイルスと性感染症1.性感染症の原因としてのアデノウイルスの認識アデノウイルスは結膜炎,咽頭炎そして気管支炎などの原因として長く認識されていたが,AdVによる子宮頸管炎あるいは尿道炎など生殖器系への感染がC1977年にオーストラリアで初めて報告された1).また,同様にオーストラリアのホモセクシュアリティーコミュニティーの患者を診察したCSTD診療所の症例の男女両性の尿道炎から分離されたものからも,STDとしての尿路感染症との関連が広く知られるようになった2).AdV19型はC1955年に結膜炎から始めて分離され3),その後欧米で結膜炎から報告されていたが,これ以降標準株であるCAd19pは,結膜からは分離検出されなくなり,結膜炎からはCAd19aという臨床株のみが分離され,その変化の理由は長く不明であった.遺伝子型というのはゲノムの制限酵素切断解析法によって行われた分類であり,血清型の中で生じた変異を示すものである.標準株はprototypeなのでCpと,その後に報告されるものは順次a,b,cというふうに名づけられる(図1).C2.尿道炎の原因としての19型と37型一方,これらCAdV19型の関与と考えられていた尿道炎の原因が後に,その多くではCAdV37型が病因であったことがわかった4.7).分離培養および中和法によって血清型が診断されていた時代には,AdV19型とCAdV37型は区別が困難であった.つまりC19型の中和抗体でも不完全にC37型で中和することができた.AdV19型と37型はゲノム,とくにヘキソンの配列が類似していたからである.1980年代以降,ゲノムの制限酵素切断解析法によって,AdV19型と同定されていたものがAdV37型であったことを,結膜炎の院内感染例からだが,実際に筆者らが報告した(図2)8).C3.新型になった19型結膜炎そして,次世代シークエンサーの導入によって,全ゲノム解析が行われ,2005年以降全ゲノム変異率によって新型とされることにになった.目安は既存のどの血清*EiichiUchio:福岡大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕内尾英一:〒814-0180福岡市城南区七隈C7-45-1福岡大学医学部眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(15)C1137図1アデノウイルスの遺伝子型が生じる模式図仮にC1,2およびC3の型があるとして,それぞれの型において中和抗体への反応性からCaからCbへと遺伝子型が変化すると,流行性が増し,患者が増える.そのサイクルがそれぞれの型で行われているために,年によってその頻度が変わるわけである.表1尿路感染症を生じるアデノウイルス型とおもな新型アデノウイルスのウイルス学的形質型ペントンベースヘキソンファイバー2C2C2C2C8C8C8C8C11C11C11C11C19C19C19C19C37C37C37C37C5337C22C8C5454C54C8C569C15C9C6422C19C37C8537C19C8太字が新型を示す.図2アデノウイルス37型によるウイルス性結膜炎院内感染例から分離され,点状出血を伴う急性濾胞性結膜炎を呈した.表2ヒトアデノウイルスの分類種型AC12,C18,C31,C61CBC3,7,11,C14,C16,C21,C34,C35,C50,C55,C66,C76,C77-79CCC1,2,C5,C6,C57,C89,C104C8,C9,C10,C13,C15,C17,C19,C20,C22-30,C32,C33,C36,C37,C38,C39,CDC42-49,C51,C53-54,56,C58-60,C62,C63,C64,C65,C67-75,C80-84,C85,C86-103,C105,C106-113CEC4FC40,C41CGC52主要な結膜炎起炎型を太字で示す.尿路感染症起炎型を下線で示す.図3アデノウイルス56型によるウイルス性結膜炎結膜充血,濾胞がみられ,中等度の症例である.図4結膜の組織像図5結膜上皮の杯細胞多数の上皮層からなる重層円柱組織であるが,杯細胞が少ない粘液分泌能をもつ杯細胞が上皮細胞の中に混じってみられるこのような部位では重層扁平上皮に近い組織を呈する.しか(ヘマトキシリンエオジン染色,400倍).し,角膜と異なり,上皮下には多数の血管や炎症細胞が正常でもみられる(ヘマトキシリン・エオジン染色,100倍).C-図6アデノウイルス7型の遺伝子型制限酵素で切断したパターンによって,複数の遺伝子型が区別される.■用語解説■新型アデノウイルス:アデノウイルスは結膜擦過物などの検体を培養細胞で増殖させる過程で,あらかじめ血清型特異的な中和抗体(抗血清)を作用させると,細胞変性効果が生じない中和抗体の血清型によって,型別が決定されていた.これを分離中和法といった.しかし,血清型がC50を超えて,すべての抗血清を準備することがむずかしくなり,21世紀に入ってから次世代シークエンサーで容易に全ゲノムの配列を読む(シークエンシング)が可能になったので,既存の型との変異率によって,新型を決定することになった.そのため,52型以降は血清型ではなく遺伝子型で,現在C110型を超えている状況である.—

クラミジア結膜炎

2023年9月30日 土曜日

クラミジア結膜炎Chlamydial“AdultInclusion”Conjunctivitis戸所大輔*はじめにクラミジア結膜炎(封入体結膜炎)には,青壮年の性感染症として起こる成人クラミジア結膜炎と性器クラミジアに感染した母親から出生した児に生じる新生児クラミジア結膜炎がある.いずれも原因となるのはクラミジア・トラコマチス(Chlamydiatrachomatis)である.クラミジアは細胞内寄生菌であり,クラミジア感染症の病態,診断法,治療薬を理解するためには,その特殊な生態を理解する必要がある.CIクラミジア発見の歴史トラコーマの研究をしていたCHalberstadterとCvonProwazekはC1909年にトラコーマ患者の結膜上皮細胞の細胞質にギムザ染色で赤紫~青色に濃染する小体を発見し,トラコーマの病原体として報告した.その後,同様の小体はオウム病や鼠径リンパ肉芽腫の患者からも見つかったが,培養することはできなかった.1957年にCT’angらが孵化鶏卵内での分離培養に成功するが,やはり人工培養はできず大型のウイルスと考えられていた.1965年に細胞壁の性質などからこの病原体は細菌であると認知されるようになったが,リケッチアの一種と考えられていた.翌C1966年に細菌リボソームリボ核酸(ribonucleicacid:RNA)の遺伝子配列解析から,この病原体がリケッチアとは異なる新種の細菌であることが明らかにされ,Chlamydiaと属名が与えられた1).IIクラミジアとはクラミジアは細菌に分類されるが一般細菌とは異なり,上皮細胞内でしか増殖できない偏性細胞内寄生性細菌である.エネルギー産生系をもたず,感染した宿主細胞にエネルギー源であるアデノシン三リン酸(adenos-inetriphosphate:ATP)を依存しているため,人工培地では発育しない.クラミジアには,トラコーマや性器クラミジアを起こすCChlamydiatrachomatis以外にも,オウム病を起こすCC.psittaciやクラミジア肺炎の原因となるCC.pneumoniaeなど数種がある(表1).クラミジアはC48~72時間からなる特殊な増殖サイクルをもち,基本小体,網様体,中間体などさまざまな形態をとる.基本小体は感染能力をもつが,分裂能をもたない.基本小体の状態で上皮細胞に感染し,感染細胞内で封入体を形成する.基本小体は封入体内で網様体へ変化し,増殖する.封入体内で増殖した網様体は再び基本小体へ変化し,宿主細胞死により基本小体が放出され,周囲の細胞へ感染を広げる.抗菌薬は網様体にのみ有効で,基本小体に対しては効果がない(図1).CIII性感染症としてのクラミジア症C.trachomatisは細胞壁外膜蛋白質COmpAの多様性に由来する血清型の違いによって組織親和性が異なる.血清型A~Cはトラコーマ,血清型D~Kは封入体結膜炎や性器クラミジア,血清型CLは鼠径リンパ肉芽腫を*DaisukeTodokoro:群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野〔別刷請求先〕戸所大輔:〒371-8511群馬県前橋市昭和町C3-39-15群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(9)C1131表1各種クラミジアと感染症クラミジアの種血清型A~CCChlamydiatrachomatis血清型D~K血清型CLCChlamydiapneumoniaeCChlamydiapsittaci基本小体核網様体上皮細胞封入体図1クラミジアの増殖サイクル基本小体が宿主細胞に取り込まれ,細胞質内で封入体を形成する.基本小体は封入体内で網様体へ変換される.網様体は封入体内で活発に分裂・増殖したのち,再び基本小体へ変換される.基本小体は細胞外へ放出され,隣接する細胞へ感染する.抗菌薬は網様体にのみ有効で,基本小体に対しては効果がない.起こす2)(表1).ただし,血清型分類と臨床症状は完全に一致するものではなく,尿または陰部検体からトラコーマ型が分離されることもある3).性器クラミジアは,男性では尿道炎や精巣上体炎を起こし,女性では子宮頸管炎などを起こす.子宮頸管炎のC10~20%は咽頭からもCC.trachomatisが検出される.性器クラミジアの治療はアジスロマイシン,クラリスロマイシン,ミノサイクリン,ドキシサイクリン,レボフロキサシンなどの内服が推奨されている.また,パートナーのスクリーニングを行うことが推奨されている4).疾患トラコーマ封入体結膜炎,性器クラミジア,新生児肺炎,新生児膿漏眼鼠径リンパ肉芽腫肺炎,上気道炎オウム病図2結膜上皮細胞内の封入体(ディフクイック染色1,000倍)結膜上皮細胞の細胞質内に核に隣接する封入体が認められる().封入体内には微細な顆粒が充満している.結膜上皮細胞の周囲には多核球がみられる.(眼科検査ガイド第C3版,文光堂,2022年より許可を得て転載)CIVクラミジア結膜炎の臨床所見クラミジア結膜炎は結膜上皮細胞の塗抹鏡検で封入体(図2)を認めることから,封入体結膜炎ともよばれる.クラミジア結膜炎には新生児クラミジア結膜炎と成人クラミジア結膜炎があり,眼所見が大きく異なる.新生児クラミジア結膜炎はクラミジアに感染した母体からの産道感染である.多量の眼脂を伴い,いわゆる膿漏眼の所見を呈する.成人のようなリンパ濾胞はみられない.成人では,急性濾胞性結膜炎を起こす.約C1週間の潜伏期を経て,結膜充血,粘液膿性眼脂を生じ,結膜濾胞および耳前リンパ節腫脹がみられる.発症初期の病像はアデ1132あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023(10)図3成人クラミジア結膜炎いずれも結膜充血と下眼瞼円蓋部に敷石状の大型濾胞を認めるCa:20歳代,女性.Cb:50歳代,男性.Cc:20歳代,男性.(文献C6より許可を得て転載)図4アジスロマイシン点眼が著効した成人クラミジア結膜炎(20歳,女性)4日前から両眼の充血,眼脂,眼痛,視力低下があり受診した.両眼とも堤防状の結膜リンパ濾胞および耳前リンパ節腫脹を認めた.結膜擦過物のCPCRでCChlamydiatrachomatisのCDNA増幅を認め,擦過物塗抹標本で封入体を認めた(図C2と同一症例).アジスロマイシン点眼を眼瞼炎に準じてC2週間使用したところ症状は消失し,再発を認めなかった.a:右眼(診断時).b:左眼(診断時).c:右眼(治療開始C4週間後)Cd:左眼(治療開始C4週間後).

淋菌性結膜炎

2023年9月30日 土曜日

淋菌性結膜炎GonococcalConjunctivitis堀田芙美香*はじめに淋菌性結膜炎はクラミジア結膜炎とともに眼科領域の性感染症の代表的疾患である.結膜炎といえども激烈な炎症を引き起こし,角膜融解・穿孔を併発することがあるため,早期に的確な診断と治療を行う必要がある.治療を行ううえで留意しなければいけないのは,淋菌の薬剤耐性である.多剤への耐性化が進行しているため,推奨される初期治療を確実に開始するとともに,培養検査を実施し起炎株の薬剤感受性を把握することが重要である.本稿では,淋菌感染症の発生動向,淋菌性結膜炎の臨床所見,診断,薬剤耐性,治療について概説する.CI淋菌感染症の発生動向淋菌感染症は感染症法でC5類感染症に分類されており,発生動向調査として定点把握が行われている.図1は国立感染症研究所が公表している感染症発生動向調査年別一覧(定点把握)のデータ1)から作成した「定点当たりの淋菌感染症報告数」である.報告数はC2002年をピークに減少傾向にあったが,近年はやや増加傾向にある.CII淋菌性結膜炎淋菌(Neisseriagonorrhoeae)はヒトを自然宿主とし,感染者の体内で生存・増殖しているが,外界での抵抗力が弱いため環境中では生存できず,粘膜から離れると数時間で感染性を失う.よって,おもな感染経路は性行為である.成人で泌尿生殖器系の感染症(男性では尿道炎,女性では子宮頸管炎が代表的)を引き起こし,手指などを介して結膜に淋菌が感染することで淋菌性結膜炎を併発することが多い.性行為を介さない感染経路として,感染者の膿への濃厚接触や産道感染(新生児膿漏眼)があるが,頻度は低い.C1.臨床所見数日の潜伏期を経て発症する.成人や小児では片眼性,新生児では両眼性であることが多い.膿性眼脂,結膜充血,浮腫,眼瞼腫脹がみられ(図2,3),強い炎症所見を呈する.とくに眼脂は「拭き取ってもまたすぐに出てくる」「溢れるように流れ出てくる」と表現されるほど多量である.成人では耳前リンパ節腫脹,新生児では偽膜形成がみられることもある.また,治療が遅れると角膜潰瘍を併発し,角膜穿孔を起こすことがある(図4).C2.診断眼所見から淋菌性結膜炎が疑われたら,生活歴や泌尿生殖器系の症状の有無について十分な問診を行う.一部の淋菌感染症患者(とくに女性)は泌尿生殖器系に症状を有さないが,感染の原因となる生活歴があり,眼に前述のような特徴的な所見が認められれば,淋菌性結膜炎の臨床診断は比較的容易である.しかし,初診時にアデノウイルス結膜炎と誤診されているケースが少なくな*FumikaHotta:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕堀田芙美香:〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(3)C1125302520151050199920012003200520072009201120132015201920172021図1定点当たりの淋菌感染症報告数(年別)2002年をピークに減少傾向にあったが,近年はやや増加傾向にある.図2淋菌性結膜炎(成人)多量の膿性眼脂,結膜充血,眼瞼腫脹を認める.両眼に多量の膿性眼脂,眼瞼腫脹を認める.(小木曽ら:あたらしい眼科C18:86.88,2001より引用)図4角膜穿孔例(成人)角膜全面が混濁・菲薄化し,大きな角膜穿孔を生じている.図5眼脂の塗抹検鏡像(グラム染色,1,000倍)グラム陰性双球菌と好中球がみられる.貪食像も認められる.=表1淋菌感染症に対する初期治療薬図6眼脂の塗抹検鏡像(グラム染色,400倍)多量の好中球を認めるが,貪食しているものは少ない.

序説:性感染症の最近の動向

2023年9月30日 土曜日

性感染症の最近の動向RecentTrendsinSexuallyTransmittedDiseaseOcularManifestations江口洋*性感染症は人類の存亡にかかわる性行動に起因した感染症ゆえ有史以来存在し,かつては人類がもっとも感染している感染症といわれていた.一方で新型コロナウイルス感染症の世界的流行で人と人の接触の機会が減った近年では,性感染症が減る可能性を指摘する意見も聞かれた.しかし,わが国において感染症発生動向調査の全数把握疾患5類感染症であり,性感染症の代表的な疾患でもある梅毒は,2012年までほぼ横ばいだったのが昨今急増している.いわゆるコロナ禍中であった2022年に過去最高の感染者数を記録しており,国立感染症研究所の報告によれば,1999年に感染症法が施行されてから初めて年間10,000人を超えたとのことである1).その要因は,男性の性風俗産業利用数がコロナ禍となっても減らなかったこと,および女性の性風俗産業従事者が漸増傾向であることと推察されている2).すなわち,経済が麻痺するほど社会的に行動が制限されても,性感染症は減らないのである.梅毒は元々西インド諸島の風土病だったものが,1493年にコロンブス一行が欧州に持ち帰り世界中に広がったとの説もあれば,元々欧州にあったものが,15世紀末の欧州の戦禍で広がったとの説もある3).いずれにせよ500年以上前から性感染症としてその存在が知られ,どのような症状を呈するのか詳細に研究されていた.その結果,梅毒がさまざまな眼所見を呈することは周知の事実となっている.わが国で最初に梅毒のことを記載した医学書が出版されたのも1512年のことであり4),やはり500年以上前から性感染症として認識されていた.それにもかかわらず,現在過去最高の感染者数となっている国内の動向には,眼科医として十分に留意が必要である.淋菌感染が重篤な角結膜炎を起こすことは,古くから知られている.日本性感染症学会策定の性感染症診断・治療ガイドラインや米国疾病対策予防管理センターのsexuallytransmittedinfectionstreat-mentguidelinesなどには,淋菌では臨床分離株の多くがすでにキノロン耐性であること,近年はセフェム耐性株も出現し始めているため留意が必要ではあるが,未だセフェム系の全身投与や点眼治療が有効な患者が少なくないことが記載されている.そのため,現状はセフェム系抗菌薬での厳重な治療が初期に開始されている患者が多いと推察される.しかし,それでも強い免疫反応から角膜穿孔をきたし失明に至る患者が後を絶たない.感受性のある抗菌薬を十分量投与しても救えない感染症には,新たな治療戦略を考案する必要があると考えられる.淋菌性結膜炎で特筆すべきもう一つのことは,その初期*HiroshiEguchi:近畿大学医学部眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(1)1123

異なる前眼部OCT のICL サイズ決定に関与する パラメータの比較

2023年8月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科40(8):1112.1117,2023c異なる前眼部OCTのICLサイズ決定に関与するパラメータの比較田村賢生*1小島隆司*2加藤幸仁*1玉置明野*3洞井里絵*1市川慶*4市川一夫*1*1中京眼科*2名古屋アイクリニック*3中京病院眼科*4総合青山病院眼科CComparisonofParametersInvolvedinICLSizingforDi.erentAnteriorSegmentOCTDevicesKenseiTamura1),TakashiKojima2),YukihitoKato1),AkenoTamaoki3),RieHorai1),KeiIchikawa4)andKazuoIchikawa1)1)ChukyoEyeClinic,2)NagoyaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospital,4)DepartmentofOphthalmology,AoyamaGeneralHospitalC目的:前眼部光干渉断層計CCASIA2(トーメーコーポレーション.以下,装置CC)によるCICLサイズ決定式に関与する強膜岬間距離(ACW),隅角底間距離(ATA),水晶体膨隆度(CLR)について,オート解析機能をもつ装置CCとマニュアル解析のみのCANTERION(Heidelberg社.以下,装置A)を比較し,同式に使用可能か検討した.対象および方法:対象は健常ボランティアC20例(平均年齢C28±4.2歳)の右眼C20眼とした.2機種を連続撮影し,装置CCのオート測定(A値)と装置CAのマニュアル測定(M値)とを比較した.結果:ACWは装置CのA値(11.89±0.36Cmm)より,装置CAのCM値(11.75±0.38Cmm)が有意に短かった(p<0.0001).ATAは装置CのA値(11.83±0.32Cmm)より,装置CAのCM値(11.90±0.37mm)は有意に長かった(p<0.0001).CLRは,装置CCのCA値(0.11±0.18mm)と装置AのM値(0.12±0.20Cmm)に有意差はなかった.結論:CLRは各装置で互換性があるが,ACWとCATAには有意差があり,装置CAによるパラメータを用いる場合は,ICLサイズ決定式を新たに構築する必要がある.CPurpose:ToevaluateandcomparethecompatibilityofthemeasurementparametersintheANTERION(Hei-delbergEngineering)(DeviceA)andCASIA2(TOMEY)(DeviceC)anteriorsegmentopticalcoherencetomogra-phy(AS-OCT)systemsinvolvedintheimplantablecollamerlens(ICL)sizedeterminationformula,includingante-riorCchamberwidth(ACW),CangleCtoCangledistance(ATA),CandCcrystallineClensrise(CLR).CSubjectsandMethods:InCthisCstudy,C20CrightCeyesCofC20Chealthyvolunteers(meanage:28±4.2years)wereCenrolled.CEyesCwereexaminedbythetwoAS-OCTsystems,andmanualmeasurementsbyDeviceA(Mvalues)werecomparedwithautomaticmeasurementsbyDeviceC(Avalues).Results:ACWintheMvalue(11.75±0.38mm)ofDeviceAwassigni.cantlyshorterthanthatintheAvalue(11.89±0.36mm)ofDeviceC(p<0.0001).TheATAintheMvalue(11.90±0.37Cmm)ofCDeviceCACwasCsigni.cantlyClongerCthanCthatCinCtheCAvalue(11.83±0.32Cmm)ofDeviceC(p<0.0001).Nosigni.cantdi.erenceinCLRwasfoundbetweentheAvalue(0.11±0.18mm)ofDeviceCandtheMvalue(0.12±0.20mm)ofDeviceA.Conclusions:AlthoughtheCLRiscompatiblebetweenthetwodevices,therewasasigni.cantdi.erencebetweenACWandATA,thussuggestingthattheICLsizingdetermina-tionformulaneedstobenewlyconstructedaccordingtotheparametersobtainedinDeviceA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(8):1112.1117,C2023〕Keywords:ANTERION,CASIA2,強膜岬間距離,隅角底間距離,水晶体膨隆度.ANTERION,CASIA2,ante-riorchamberwidth(ACW),angletoangle(ATA),crystallinelensrise(CLR).C〔別刷請求先〕田村賢生:〒456-0032愛知県名古屋市熱田区三本松町C12-22中京眼科Reprintrequests:KenseiTamura,ChukyoEyeClinic,12-22Sanbonmatsu-cho,Atsuta-ku,Nagoyacity,Aichi456-0032,JAPANC1112(126)はじめに後房型有水晶体眼内レンズであるCimplantableCcollamerClens(ICL,STAARSurgical社)は,2010年に厚生労働省より認可を受け,長期的に安定した屈折,良好な術後視機能が得られる屈折矯正手術である1).2012年には,光学部中心にC0.36Cmmの貫通孔をもつCHoleICL(ICLKS-AquaPORT)が認可され,術後の合併症発生率は改善した2,3).術後良好な視機能を得るためには,ICLの度数のみならず,正確なサイズ決定が重要である.ICLサイズの評価には,ICLと水晶体のスペースであるCvaultが用いられる.Holeがないタイプでは,lowvault(ICLサイズが小さい)の場合に起こる水晶体混濁や,highvault(ICLサイズが大きい)の場合に起こる急性閉塞隅角症が問題となっていた.これらは清水らが開発したCHoleICLにより,房水循環不全が解消され,大幅に改善された4.6).しかし,極端なClowvaultやChighvaultは白内障発症や眼圧上昇のリスクがある.さらにCICLにはトーリックタイプがあり,固定軸を安定させる必要がある.仮にCICLサイズが小さいと眼内での固定が悪くなり,乱視矯正効果が減弱する7).このため正確なCICLサイズ決定が要求される.メーカー推奨のCICLサイズ決定方法は,メーカー提供のオンラインカリキュレータ(https://evo-ocos.staarag.ch/live/)に前房深度(角膜後面から水晶体前面までの距離)と水平角膜径を入力して算出する.しかし,水平角膜径はCICLが固定される毛様溝間距離(sulcustosul-cus:STS)と相関が弱いことがわかっており8),これを改善するために超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)での直接測定が主流とされてきた9).ICLの固定位置であるCSTSを可視化し計測できる機器は,現在CUBMのみである.しかし,UBMは手技が煩雑で熟練を要するため,検者によってばらつきが生じやすいという欠点が存在する.そこで,非接触で侵襲のない前眼部光干渉断層計(anteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography:AS-OCT)CASIA2(トーメーコーポレーション.以下,装置CC)を用いる方法が考案された10).AS-OCTにて測定可能である隅角底間距離(angletoangle:ATA)や強膜岬間距離(anteri-orCchamberwidth:ACW)は,UBMで測定したCSTSと相関が高いことが確認され,現在国内のCICLサイズ決定にはAS-OCTが用いられることが多い.ICLサイズ決定の際にはCAS-OCTの水平断画像が用いられ,パラメータである強膜岬(scleralspur:SS)の両端を結んだCACW,隅角底(anglerecess:AR)の両端を結んだATA,ATAラインの垂直二等分線と水晶体前面を結んだ距離である水晶体膨隆度(crystallineClensrise:CLR)は,装置CCではオート解析することが可能であり,計算式も搭載されている(図1)11,12).新たに登場したCAS-OCTANTERION(HeidelbergCEngineering社.以下,装置CA)では,装置CCと同様に前眼部パラメータが取得できる.両装置とも測定原理はCSweptSource方式である.使用波長は,装置CAがC1,300Cnm,装置CCがC1,310Cnmで,水平断層画像の解像度(深さ方向C10μmC×横方向C30μm)や加算枚数(8枚)に差はない.さらに装置CAは,光学式眼軸長測定や角膜形状による収差解析も可能であり,1台で複数の機能をあわせもつ汎用性が高い機器である.しかし,先行機である装置CCに比べ前眼部解析に関するソフトウエアが充実しておらず,前眼部パラメータの取得に関しては,現状ではマニュアル解析のみであり,オート解析機能は搭載されていない.今回,ICLのサイズ決定に関与するパラメータのオート解析機能をもつCAS-OCT(装置CC)とマニュアル解析のみのAS-OCT(装置A)を用いてCICLサイズ決定に必要なC3種類のパラメータを比較し,装置CAを用いた測定値を,装置CCの測定値を基にして考案されたCICLサイズ決定式に用いることができるかを確認するため,その互換性を検討した.CI対象および方法1.対象2021年C6月.7月に屈折異常以外の眼疾患がない健常ボランティアC20名C20眼(男性5例,女性C15例)の右眼とした.平均年齢はC27.5C±4.2歳である.対象眼の平均球面度数はC.3.69D,平均円柱度数はC.0.98Dであった.C2.方法装置CCと装置CAのC2機種を連続撮影し,装置CAで得られた画像から経験年数C13年の検者Caと,経験年数C3年の検者bの視能訓練士C2名が各C3回ずつマニュアル解析を行った.装置CCは,オート機能で得られた数値を検討パラメータとした.測定はC2機種とも暗室にて施行した.装置CCはCICLサイズ決定の測定をする際は,可視光モードでの測定が推奨されているため,可視光モードにて撮影した.一方,装置Aでは可視光測定の機能がないため,赤外光による自然瞳孔にて撮影した.測定パラメータの位置については図1に示した.C3.検討項目装置CAでC3回ずつマニュアル解析したデータの再現性について,①同一検者内,②C2検者間で比較した.さらに③C3種類のパラメータについてマニュアル解析にて得られた値を平均し,装置CCのオート解析値と比較した.統計解析は,再現性の比較に級内相関係数(intraclasscorrelationcoe.cients:ICC)をCSPSS(IBMバージョンC27)にて求めた.さらにCGraphPadPrism(バージョン5)を用いて,各平均値の比較には対応のあるCt検定,相関についてはPearsonの相関係数を計算した.各平均の誤差についてはCBland-Altmanplotにて分析を行った.いずれも有意水準は5%未満とした.図1前眼部三次元画像解析装置で測定されるICLサイズ決定に要する各パラメータ上段:装置CCでの強膜岬(SS)を結んだ距離(ACW),隅角底(AR)を結んだ距離(ATA).下段:装置Cでの水晶体膨隆度(CLR)の拡大図.ARを結ぶ直線の垂直二等分線上での水晶体前面と垂直二等分線の中心点との距離.本研究は,ヘルシンキ宣言に則り中京眼科の倫理審査にて承認(承認番号:20210726-01)を得て,研究目的や内容について十分に説明し,自由意思に基づく同意を得て施行した.CII結果1.各項目のICC①同一検者間のCICC装置CAのマニュアル解析における検者CaのCICCはCACW,ATA,CLRの順にC0.973,0.986,0.996,検者CbはC0.991,0.993,0.998であった.C②2検者間のCICC2検者間のCICCはCACW,ATA,CLRの順に装置CAでは0.966,0.989,0.993であった.C2.装置Cのオート解析と,装置Aのマニュアル解析の各パラメータの比較(表1)①CACW装置CCのオート解析の平均値はC11.89C±0.36Cmm,装置CAのマニュアル解析はC11.75C±0.38Cmmで有意に装置CAの値が小さかった(p<0.0001:t検定).Pearsonの相関係数は0.948(p<0.0001),決定係数CRC2はC0.9009であった.Bland-Altmanplotによる装置CCのオート解析(A)と装置CAのマニュアル解析(M)には加算誤差を認め,〔装置CC(A)-装置A(M)〕の差の平均はC0.14Cmmであった.(95%一致限界:0.38Cmm.C.0.10Cmm,95%信頼区間:0.19Cmm.0.09Cmm)(図2a).C②CATA装置CCのオート解析の平均値はC11.83C±0.32Cmm,装置CAのマニュアル解析はC11.90C±0.37Cmmで有意に装置CCのオート解析の値が小さかった(p=0.0269:t検定).Pearsonの相関係数はC0.934(p<0.0001),決定係数CRC2はC0.8758であった.Bland-Altmanplotによる装置CCのオート解析(A)と装置CAのマニュアル解析(M)には加算誤差を認め,〔装置CC(A)-装置CA(M)〕の差の平均はC0.07mmであった.(95%一致限界:0.19mm.C.0.340.19mm,95%信頼区間:C.0.01Cmm.C.0.13mm)(図2b).C③CCLR装置CCのオート解析の平均値はC0.11C±0.18Cmm,装置CAのマニュアル解析はC0.12C±0.20Cmmであった(p=0.4987:t検定).Pearsonの相関係数はC0.950(p<0.0001),決定係数CR2はC0.9002であった.Bland-Altmanplotによる装置CCのオート解析(A)と装置CAのマニュアル解析(M)には加算誤差を認め,〔装置CC(A)-装置CA(M)〕の差の平均はC0.01mmであった.(95%一致限界:0.11mm.C.0.13Cmm,95%信頼区間:.0.04mm.0.02mm)(図2c).表1強膜岬間距離(ACW)と,隅角底間距離(ATA),水晶体膨隆度(CLR)それぞれの平均値±標準偏差と95%信頼区間とp値ACWCATACCLR平均±標準偏差(mm)C装置(C)CA値95%信頼区間(mm)11.89±0.36C12.05.C11.7311.83±0.32C11.97.C11.690.11±0.180.19.C0.03平均±標準偏差(mm)C装置(A)CM値95%信頼区間(mm)11.75±0.38C11.92.C11.5811.90±0.37C12.07.C11.740.12±0.200.21.C0.04p値(Ct検定)<C0.0001C0.0269C0.4987Ca:ACWb:ATAmm0.5mm0.8装置C(A)-装置A(M)0.40.30.20.10-0.1-0.2-0.3-0.40.14装置C(A)-装置A(M)0.60.40.20-0.2-0.4-0.6-0.81111.211.411.611.81212.212.412.61111.211.411.611.81212.212.412.6-0.5装置C(A)と装置A(M)の平均mm装置C(A)と装置A(M)の平均mmc:CLRmm0.15装置C(A)-装置A(M)0.10.050-0.05-0.01図2強膜岬間距離(ACW),隅角底間距離(ATA),水晶体膨隆度(CLR)それぞれのBland-Altmanplot-0.1装置CCのオート解析と装置CAのマニュアル解析の関-0.15-0.3-0.2-0.100.10.20.30.40.50.60.7係.太い実線は差の平均値,破線はC95%許容限界,点線はC95%信頼区間を示す.Ca:ACW,Cb:ATA,装置C(A)と装置A(M)の平均mmc:CLR.(A):オート解析,(M):マニュアル解析.えられる.まずCACWについて,装置CCはCSSの位置を画像CIII考按のコントラストから検出し,コントラストの変化の凸になる今回用いたC2機種のCAS-OCTは,どちらも操作自体は簡便であり,短時間に多くの前眼部情報を得ることが可能である.しかし,装置CAは前眼部パラメータを得るためにマニュアル解析が必要となり,再現性が求められる.今回得られたICC値から,装置CAのマニュアル解析においても,同一検者間とC2検者間で高い結果を得られており,再現性はかなり高いといえる.今回検討したC3種類のパラメータは,装置CCに搭載されているCICLサイズの計算式であるCNK式またはCKS式に使用されており11,12),装置CCのオート解析で得られたパラメータを基本として構築されている.そのため,装置CAによるパラメータと装置CCのオート解析との互換性があれば,装置CAのパラメータを使用してサイズ計算が可能であると考(129)位置で認識している.しかし今回,装置CAと装置CCでは解像度は同等であることを確認しているがCACWの測定値には有意差があり,2機種の撮影画像でCSSの見え方が異なり,マニュアル解析にて同定した位置にズレがあったと考えられる(図3).画像を拡大して確認するなど,同定する位置の統一を図る必要がある.つぎに,装置CCのオート解析によるCATAは,ARを凹凸のある虹彩前面のトレース端点で解析しており,機器の性質上オート解析ではトレースがCARのやや手前で途切れがちであるため,ARを解剖学的な位置より内側で認識しやすくなっている場合がある.さらにCICLサイズの撮影時は,可視光モードを使用することで縮瞳させ,隅角をやや開大させることにより,ATAの計測精度を向上させている13).これらあたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1115図3同一症例での装置Cと装置Aでのscleralspur(SS)の見え方下段は左側隅角の拡大図.SS:強膜岬,AR:隅角底.のことから装置CCのオート解析によるCATAは,装置CAのマニュアル解析より有意に短かったと考えられる.つぎにCCLRは,装置CCのオート解析とマニュアル解析,装置CAのマニュアル解析で有意差はなかった.装置CCは可視光モードにて撮影しており,撮影時の瞳孔の状態は装置CCと装置CAでは異なる.CLRに関与すると推測される散瞳前後の前房深度の変化に関して,AS-OCTを用いた報告では,明室,暗室,散瞳下の順に深くなる傾向があるが,統計学的な有意差はないとされている14).本研究においても装置CCと装置CAの撮影時の瞳孔状態の違いは,CLRに有意な影響をしていないことが考えられる.本研究の限界として,対象がC20眼と少数であること,実際のCICL挿入症例を対象としていないことがあげられる.今後,実際にCICL手術予定の患者を対象とした前向き研究による評価が必要である.本研究により,装置CAと装置CCではCCLRには互換性があった.ACWとCATAでは相関は高いが,測定値に有意な差を認めた.NK式とCKS式は,装置CCのパラメータから重回帰分析によって得られた式であり,異なる装置で得られた値では信頼度が低下する恐れがある.そのため,装置CAによる測定値をCNK式やCKS式に用いることは避け,装置CAにて得られたパラメータによって,新たな計算式を構築する必要性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NakamuraT,IsogaiN,KojimaTetal:PosteriorchamberphakicCintraocularClensCimplantationCforCtheCcorrectionCofCmyopiaCandCmyopicastigmatism:ACretrospectiveC10-yearCfollow-upCstudy.CAmCJCOphthalmolC206:1-10,C20192)PackerM:Meta-analysisandreview:e.ectiveness,safe-ty,CandCcentralCportCdesignCofCtheCintraocularCcollamerClens.CinOphthalmolC10:1059-1077,C20163)PackerM:TheCimplantableCcollamerClensCwithCaCcentralport:reviewoftheliterature.CinOphthalmolC12:2427-2438,C20184)五十嵐章史:有水晶体眼内レンズの歴史.有水晶体眼内レンズ手術(神谷和孝,清水公也編),p15-18,医学書院,C20225)GonversCM,CBornetCC,COthenin-GirardP:ImplantableCcontactlensformoderatetohighmyopia:RelationshipofvaultingCtoCcataractCformation.CJCCataractCRefractCSurgC29:918-924,C20036)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Earlyclinicalout-comesCofCimplantationCofCposteriorCchamberCphakicCintra-ocularlenswithacentralhole(HoleICL)formoderatetohighmyopia.BrJOphthalmolC96:409-412,C20127)後藤田哲史,神谷和孝:術後合併症と対処.有水晶体眼内レンズ手術(神谷和孝,清水公也編),p116-117,医学書院,C20228)MoriCT,CYokoyamaCS,CKojimaCTCetal:FactorsCa.ectingCrotationCofCaCposteriorCchamberCcollagenCcopolymerCtoricCphakicCintraocularClens.CJCCataractCRefractCSurgC38:568-573,C20129)KojimaCT,CYokoyamaCS,CItoCMCetal:OptimizationCofCanCimplantableCcollamerClensCsizingCmethodCusingChigh-fre-quencyCultrasoundCbiomicroscopy.CAmCJCOphthalmolC153:632-637,C201210)荻瑳彩,西田知也,片岡嵩博ほか:前眼部COCTによる前眼部計測値と超音波生体顕微鏡(UBM)における毛様溝間距離との関係.日視会誌C47:181-189,C201811)NakamuraT,IsogaiN,KojimaTetal:Implantablecolla-merClensCsizingCmethodCbasedConCswept-sourceCanteriorCsegmentopticalcoherencetomography.AmJOphthalmolC187:99-107,C201812)IgarashiA,ShimizuK,KatoSetal:PredictabilityofthevaultCafterCposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.JCataractRefractSurgC45:1099-1104,C201913)IgarashiCA,CShimizuCK,CKatoS:AssessmentCofCtheCvaultCimplantableCcollamerClensCimplantationCusingCtheCKSCfor-mula.JRefractSurgC37:636-641,C202114)鍬塚友子,松澤亜紀子,春日弘子ほか:正常眼における高速前眼部CSS-OCTと光学式眼軸長測定装置による前房深度計測値の比較.日視会誌C43:123-129,C2014***

簡易視力測定アプリAImirun(アイミルン)による 視力検査の妥当性の検討

2023年8月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科40(8):1108.1111,2023c簡易視力測定アプリAImirun(アイミルン)による視力検査の妥当性の検討福岡秀記上田真由美松本晃典吉岡誇外園千恵京都府立医科大学眼科学教室CE.ectivenessofUsingtheAImirunApplicationfortheTestingofVisualAcuityatHomeHidekiFukuoka,MayumiUeta,AkihumiMatumoto,HokoruYoshiokaandChieSotozonoCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:簡易視力測定アプリCAImirun(以下,アイミルン)による視力検査の妥当性の検討すること.対象および方法:京都府立医科大学に通院中の患者C57例C77眼(男性C28例,女性C29例:平均年齢±標準偏差C71.4±11.6歳)と眼疾患のない健常者C38例C38眼(男性C32例,女性C6例:平均年齢±標準偏差C28.7±2.9歳)である.アイミルンとC5Cm視力表で測定視力を用い,Bland-Altman分析,CronbachのCa係数,比例誤差についての解析を行った.結果:95%一致限界は,患者群.0.02±1.96×0.17,健常群.0.07±1.96×0.17であった.健常群で比例誤差が有意(p<0.05),患者群で有意差はみられなかった(p=0.18).健常群,患者群のCCronbachのCa係数は,両群C0.89であった.結論:アイミルンでの簡易視力測定は,高い内的一貫性を有し,視力測定の機会の提供として有用と考えられた.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.ectivenessCofCusingCtheAImirun(RohtoCPharmaceutical,CAINet)mobile-phoneCapplicationforthetestingofvisualacuity(VA).SubjectsandMethods:In57eyesof57ocular-diseasepatients(28Cmales,C29females;meanage:71.4±11.6years)andC38healthyCsubjects(32Cmales,C6females;meanage:C28.7±2.9years)seenCatCtheCDepartmentCofCOphthalmology,CKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicineCHospital,CAImirunand5-meterVAmeasurementswerecomparedviaBland-AltmananalysisandCronbach’salphareliabili-tycoe.cient,andcoe.cientproportionalerrorwasthencalculatedinbothgroups.Results:Blandt-Altmananaly-sisshowedthatthemeandi.erence±1.96×standarddeviationinthepatientgroupandhealthygroupwas.0.02C±1.96×0.17CandC.0.07±1.96×0.17,Crespectively.CProportionalCerrorCwasCinsigni.cantCinCtheCpatientgroup(p=0.18),CyetCwasCsigni.cantCinCtheChealthygroup(p<0.05).CInCbothCgroups,CCronbach’sCalphaCcoe.cientCwasC0.89.CConclusions:AImirunRCwasfoundpotentiallye.ectiveformeasuringVA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(8):1108.1111,C2023〕Keywords:簡易視力測定,携帯アプリケーション,AImirun,妥当性.simplevisualacuitymeasurement,mo-bile-phoneapplication,AImirun,validity.Cはじめに視覚機能には,形態覚をはじめとして色覚,光覚,視野や立体覚などさまざまあり多彩である.視力は,そのなかの形態覚であり,物体の存在や形状を認める能力である.視力は2点を識別するという最小分離閾で表され,視力測定には通常CLandolt環を視標として用いる.視力表の視標は,1909年の国際眼科学会とC1981年の国際標準化機構によってLandolt環が標準視標として定められた1)が,Landolt環の概念自体は,1888年にフランスのCEdmundLandoltによって初めて報告された2).視力検査には遠見と近見の測定方法などがあり,遠見測定は通常C5m,近見測定はわが国ではC30cm,欧米では約40Ccmと定められている.近年では遠見視力測定にC5Cmの測定距離の必要のないスペースセービングチャートなど工夫を凝らした視力測定機器も存在する.筆者らはロート製薬と共同してモバイル向けオペレーティングシステムを備えた携帯端末(iPhone,iPadを含む)で使用可能な簡易視力測定アプリCAImirun(以下,アイミルン)〔別刷請求先〕福岡秀記:〒606-8566京都市上京区広小路通上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kyoto-city,Kyoto-prefecture606-8566,JAPANC1108(122)(図1)を開発し,現在使用可能である.今回筆者らは,アイミルンと従来のC5Cm視力表による視力測定結果を実施し,アイミルンによる簡易視力検査の妥当性について検討した.CI対象および方法対象は,眼疾患の既往のない健常者C38例C38眼(男性C32例,女性C6例:平均年齢C±標準偏差C28.7C±2.9歳)と京都府立医科大学に通院中の患者C57例C77眼(男性C28例,女性C29例:平均年齢±標準偏差C71.4C±11.6歳)である.遠見裸眼視力がC0.1以上の裸眼視力が得られる場合は裸眼での測定を行い,遠見最良矯正視力により視力がC0.1以上を得られる場合は矯正での測定を行った.健常者においては両眼視力測定された際は右眼データを採用した.患者群では左右異なる疾患で視力も大きく異なる場合には左右眼のデータを採用した.視力は,医師もしくは視能訓練士により測定された.アイミルンはCApple社製CiPhone8端末にインストールし視力測定を行った.現仕様では画面の輝度が変更可能なことから輝度C50%で一定とした.アイミルンの一般的な使用方法について簡単に述べる.アイミルン視力表は字ひとつ視力表に相当する(図1).測定は,左右眼,遠見(5Cm),近見(40Ccm)の計C4回である.通常は検者と測定者のC2名C1組で測定するが,音声認識機能によりC1人での測定も可能である(図2).遠見近見視力の結果から簡易に屈折異常を推定し眼科受診を促す機能を有する.視力測定のアルゴリズムは,まずC0.1の視力視標から順に提示され正解すると順に小さな視力指標に切り替わる.2回連続で間違えた時点で測定終了となり終了時点の一つ前の指標の視力を提示する仕様となっている.小数視力C0.1からC1.0まで測定可能であるが,0.1未満およびC1.2,1.5,2.0は測定不能である.視力測定結果はユーザーごとに時系列でグラフが作製され,以前測定した結果と比較可能である.従来の視力測定には,5m視力表(TAKAGICVISIONCHARTVC-22)を用いた.遠見視力測定結果の小数視力をClogMAR視力に変換し,Bland-Altman分析3)を行い,CronbachのCa係数4)を求めることでC2種類の測定結果の一致性,また比例誤差についても検討を行った.統計解析には統計解析ソフトウェア(RCstu-dio:versionRStudio2022.07.1.)5)を用いた.本研究は,世界医師会のヘルシンキ宣言に則り行われ,当図1簡易視力測定アプリケーションAImirun(アイミルン)のホーム画面(上図),および測定画面(下図)アプリケーションの設定のほか,測定方法,眼の屈折異常疾患のガイドのほか,測定場所の位置情報から近くの眼科も検索可能である.提示されているのは視力0.2の指標である.切れ目の方向は,音声で回答可能なほか,水色の矢印をタッチすることでも回答可能である.図2一人のみ(左図)と二人一組(右図)でのアイミルンでの視力測定風景表1患者群に含まれていた主要眼疾患一覧0.50Bland-Altmanplot(重複を含む)白内障41眼0.25緑内障,高眼圧,狭隅角24眼硝子体(混濁・出血)13眼黄斑上膜7眼強度近視眼底5眼翼状片4眼測定値の差0.000.000.250.500.751.00糖尿病網膜症4眼甲状腺眼症2眼眼瞼下垂2眼黄斑変性,黄斑円孔,網膜.離,眼内炎サイトメガロウイルス角膜内皮炎,眼窩腫瘍,各1眼Fuchs角膜内皮ジストロフィBland-Altmanplot測定値の差-0.25-0.500.000.250.500.751.00-0.25測定間の平均図3患者群のBland-Altman分析の結果測定値(logMAR視力)の差の平均C±1.96×標準偏差はC.0.02C±1.96×0.17であった.おおむねばらつきは一定でありC95%一致限界に全C95%以上の測定点が含まれていた.患者群の視力の分布は測定値(logMAR視力)間の平均である横軸より推測可能である.健常群,患者群におけるCCronbachのCa係数は,両群C0.89であった.III考按今回の研究では,モバイル向けオペレーティングシステム測定間の平均図4健常群のBland-Altman分析の結果測定値(logMAR視力)の差の平均C±1.96×標準偏差はC.0.07C±1.96×0.17であった.丸印で囲んだ部分に複数症例が集まるクラスターが数カ所認められた.院の倫理委員会による承認を得て実施した.CII結果患者群の眼疾患を表1に示す.健常群においては,眼鏡やコンタクトレンズによる矯正が32眼(84.2%)であり,患者群においては,矯正視力を測定したものがC72眼(93.5%)であった.患者群と健常群それぞれのCBland-Altman分析の結果を示す(図3,4).Bland-Altman分析で重要な領域(95%一致限界)である測定値の差の平均±1.96×標準偏差は患者群においては.0.02±1.96×0.17,健常群においてC.0.07±1.96×0.17であった.健常群においては,丸印で囲んだ部分に複数症例が集まるクラスターが数カ所認められた.健常群においては比例誤差が有意(p<0.05)であり,患者群においては有意ではなかった(p=0.18).を備えた携帯端末で使用可能な簡易視力測定アプリケーションであるアイミルンの妥当性を検討した.iPhoneやCiPadなどのモバイル向けオペレーティングシステムを備えた携帯端末は,わが国のみならず世界中で高い率で所有されるため,その使用推進のハードルは低い.筆者らのコンセプトとしては,病院やクリニックのように矯正した視力測定はできないものの,手持ちの眼鏡,コンタクトレンズ装用下などでの視力測定や裸眼視力測定の機会を提供することで現状の視力に興味をもってもらうこと,ならびに,必要に応じた眼科受診勧奨を主眼としており,診断には用いないということが重要な点である.厳密な遠見視力検査法には,室内照度がC50ルクス以上であること,かつ室内視標を超えないことなど一定の条件がある.とくに室内で自然光が入る状態では,室内照度が時刻によって変動することや視標輝度を超えてしまう恐れがあるため,このような簡易視力測定アプリケーションにおいても戸外でないことや室内に自然光が入らない状態であることが望ましく,注意書きとして記述してある.その他,端末を使用したことによるCLandolt環の大きさや環の切れ目の誤差に関して考察を行う.もっとも小さなC5Cm視力表の視力C1.0に該当するCLandolt環は高さC7.5Cmm,文字の太さC1.5Cmm,文字の切れ目部分の幅C1.5Cmmになるが,アイミルン視力表の測定距離C3Cmでは文字の切れ目は幅C0.9Cmmとなる.iPhone8は,326Cppi相当の高精細な画像であり,文字の切れ目の表現には約C11.55のピクセルが必要である.この切れ目をC12ピクセルで表現した場合C0.45ピクセル分の誤差を生じるが,0.035Cmmに相当し非常に小さな値である.よってどの指標サイズ誤差もC0.5ピクセル以下C0.04Cmm以下でありほぼ無視できる.遠見視力表には,字づまり視力表,字ひとつ視力表,ETDRSチャートなどさまざまあり,このアイミルン視力表は字ひとつ視力表に相当し,今回は対象にはなっていないものの,小児においては字づまり視力表よりも字ひとつ視力測定の成功率が高い6)ため有用かもしれない.患者には数多くの加齢性眼疾患の手術前手術後が含まれ,特定の疾患に偏るなどの影響は認められなかった.測定値の差の平均±1.96×標準偏差の間に全測定値のC95%以上が入ればおおむね一致率が高いとされるが,健常群,患者群においても達成されていた.また,測定値の差の平均は,偏り(bias)そして標準偏差は,精密度(precision)と置き換えることができるが,その両者とも偏りは低く精密度もよい結果であった.健常群のプロットで,複数症例が集まるクラスターが数カ所認められた.この点は,調べると視力表にてC1.2,1.5,2.0であったもののアイミルン視力表においては(仕様によりC1.0までしか測定しないため)1.0と表示されたが,大きな偏りにはつながらず,Bland-Altman分析の有効性が確認された.健常群,患者群におけるCCronbachのCa係数は,0.893であった.CronbachのCa係数と内的一貫性はC0.9.1.0:非常に高い,0.8.0.9:高い,0.7.0.8:許容レベル,0.6.0.7:疑わしい,0.5.0.6:低い,0.0.0.5:著しく低いとされ,内的一貫性は高いという結果となった.比例誤差は,健常群においては有意差を認め,患者群においては有意差を認めず,前述のC1.0以上の視力測定測定の限界や,視力良好例が多数入っているのが原因と推察された.今回の検討では,モバイル向けオペレーティングシステムを備えた携帯端末(iPhone,iPadを含む)で使用可能な簡易視力測定アプリケーションであるアイミルンでの視力測定と通常の視力表での測定の結果を比較することでアイミルンの遠見視力測定の妥当性を検証した.全体として内的一貫性は高いが,対象者によっては比例誤差を生じるなど限界はあるが,当初の簡易な視力測定の機会を提供することでまずは現状の視力に興味をもってもらう,適切に眼科受診勧奨するという筆者らのコンセプトを大きなズレなく達成することは可能と考えられた.利益相反福岡秀記【P】あり上田真由美【E】松本晃典なし吉岡誇【P】あり外園千恵【P】あり【F】参天製薬,サンコンタクトレンズ,CCorneaGenC文献1)InternationalCorganizationCforstandardization:Ophthal-micopticsC─CVisualacuitytestingC─CStandardandclinicaloptotypesandtheirpresentation.ISO8596,1-10,20172)「THEANNUSMEDICUS1899.:Medicine」LancetC154:C1819-1849,C18993)BlandCJM,CAltmanDG:StatisticalCmethodsCforCassessingCagreementbetweentwomethodsofclinicalmeasurement.LancetC327:307-310,C19864)CronbachLJ:Coe.cientalphaandtestinternalstructureoftest.PsychometrikaC16:297-334,C19515)IhakaR,GentlemanR:Alanguagefordataanalysisandgraphics.JCompGraphStatC5:299-314,C19966)橋本禎子:近見視力検査.眼科検査ガイド(眼科診療プラクティス編集委員編),文光堂,p104-108,2005C***