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加齢黄斑変性・パキコロイド関連疾患

2024年3月31日 日曜日

加齢黄斑変性・パキコロイド関連疾患Age-RelatedMacularDegenerationandPachychoroidSpectrumDisease森隆三郎*はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)・パキコロイド関連疾患(pachychoroidspec-trumdisease:PSD)の診療において,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)を用いることにより,黄斑部新生血管(macularneovascularization:MNV)の有無や疾患活動性の判断が可能となり,網膜疾患専門医でなくてもフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)やインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)を施行せず,多くの患者で診断や治療後の評価が可能となっている.ベストの治療をめざすためには初診時の確定診断と治療開始後の効果判定が重要であり,そのためにOCTとOCTAの読影は正確に即時にしなければならない.本稿では,AMDとPSDの日常診療におけるOCTとOCTAの読影について画像を提示し解説する.なお,AMDはわが国の診断基準では,滲出型AMDと萎縮型AMDに分類されるが1),前者についてのみ触れる.また,PSDにはpachychoroidpigmentepitheliopa-thy(PPE),pachychoroidneovasculopathy(PNV),中心性漿液性脈絡網膜(centralserouschorioretinopa-thy:CSC),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalcho-roidalvasculopathy:PCV),局所脈絡膜陥凹(focalchoroidalexcavation:FCE)やperipapillarypachycho-roidsyndrome(PPS)が含まれるが2),PCVはAMDに含め,CSCとPNVについて触れる.網膜疾患専門医ではない臨床医が診察時にOCT,OCTAをどのように読影するのかの内容に絞ったため,それぞれの疾患の病態や実際の治療方法など専門的な内容については割愛した.また,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)は,海外でのAMDに関する用語変更に伴いMNVと表記した3).IOCT1.眼底疾患鑑別のファーストタッチはOCTで網膜色素上皮を確認するカラー眼底写真のみでは診断ができない黄斑疾患は多いが,AMDとそれ以外の黄斑疾患の鑑別のファーストタッチはOCTである.わが国のAMDの分類と診断基準では,主要所見以外の滲出性変化〔網膜下灰白色斑(網膜下フィブリン)〕,硬性白斑,網膜浮腫,漿液性網膜.離)と網膜または網膜下出血は,MNVに伴う二次的な所見としてのみみられる所見ではなく,特異度は高くないものとして,随伴所見と記載されている1).黄斑部の網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)を見て,大きさにかかわらずRPEの隆起がなければAMDおよびパキコロイド関連疾患の多くは否定できる.たとえば黄斑浮腫を伴う陳旧性網膜静脈分枝閉塞症では,急性期と異なり網膜出血がめだたず硬性白斑と網膜内浮腫がおもな所見のため,MNVに伴う滲出と診断してしまうかもしれない(図1a~c).また,網膜出血*RyusaburoMori:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕森隆三郎:〒101-8309東京都千代田区神田駿河台1-6日本大学病院眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(55)291図1AMDにみられる随伴所見を網膜色素上皮(RPE)の隆起の有無で鑑別a~c:陳旧性網膜静脈分枝閉塞症.a:カラー眼底写真.黄斑部に硬性白斑と網膜浮腫()と網膜出血を認める.b,c:OCT.黄斑浮腫を認めるが,RPEの隆起所見はみられない().d~f:網膜細動脈瘤.d:カラー眼底写真.黄斑部に網膜出血と上耳側に白色病変を認める().e,f:OCT.網膜下出血を認めるが,RPEの隆起所見はみられない().細動脈瘤を網膜内に認める().~~図2軟性ドルーゼンと小型の網膜色素上皮.離(PED)の鑑別RPEの隆起部内部の高輝度の有無をみる.a,b:軟性ドルーゼン.a:カラー眼底写真.黄斑部に多発する軟性ドルーゼンを認める.b:OCT.RPEの隆起部内部は高輝度を示す().c~e:小型のPED(中心性漿液性脈絡網膜症).c:カラー眼底写真.黄斑部に漿液性網膜.離と小型のPED()を認める.d:OCT.RPEの隆起部内部は高輝度を示さない().はeの漏出部位.e:フルオレセイン蛍光眼底(FA).PED上部辺縁に蛍光色素の漏出部位を認める().~~ef図3大型のPEDは辺縁のノッチで黄斑新生血管(MNV)の有無を判定a:カラー眼底写真.大型のPEDを認める.MNVなし.b~d:OCT.PED辺縁の全周囲にノッチを認めない(◯)ことからMNVの存在はおおよそ否定できる.e:FA後期.f:インドシアニングリーン蛍光造影(IA)後期.FAとIAともにMNVを示唆する過蛍光を認めない.図4CSCとVogt・小柳・原田病の鑑別脈絡膜所見で鑑別する.a:カラー眼底写真.後極部に漿液性網膜.離〔網膜下液(subretinal.uid:SRF)〕を認める.b:OCT.隔壁のあるSRF(),脈絡膜の間質の肥厚とRPEの不整な起伏所見を認める().図5CSCと脈絡膜腫瘍の鑑別脈絡膜所見で鑑別する.a,b:脈絡膜骨腫.a:カラー眼底写真.黄斑部鼻側に白色病巣を認める().b:OCT.SRF()と脈絡膜骨腫に伴うRPEの隆起所見を認める().c,d:脈絡膜血管腫.c:カラー眼底写真.黄斑部鼻側に橙赤色隆起病巣を認める().d:OCT.SRF()と脈絡膜血管腫に伴うRPEの隆起所見を認める().e,f:転移性脈絡膜腫瘍.e:カラー眼底写真.黄斑部上耳側に灰白色病変を認める().f:OCT.SRF()と転移性脈絡膜腫瘍に伴うRPEの隆起所見を認める().図6CSCの中心窩網膜厚の菲薄化視力の回復が期待できないことを把握する所見である.a:中心性漿液性脈絡網膜症.右眼中心窩網膜厚は40μmで,bの左眼の190μmと比較すると菲薄化が著明である.矯正視力右眼0.3,左眼1.2.c:右眼.光線力学的療法5カ月後,中心窩網膜厚は50μmで,矯正視力右眼0.3のままである.図7網膜色素上皮裂孔(RPEtear)の範囲a~c:Type1MNV治療前.a:カラー眼底写真.多発するドルーゼンと黄斑部下耳側にPEDを認める.b:眼底自発蛍光(FAF).黄斑部下耳側に過蛍光を認める().c:OCT.MNVに伴うRPEの不正な隆起を認める().d~f:抗VEGF薬注射20日後のRPEtear.d:カラー眼底写真.RPE欠損部位は灰黒色として認める().e:FAF.RPE欠損部位は低蛍光として認める().f:OCT.RPE欠損部位(の範囲)の脈絡膜反射は高輝度として認め(□),重積したRPEをその辺縁に認める().図8PEDのRPE菲薄化の範囲a:カラー眼底写真.黄斑部にPEDを認める.b:IA中期.低蛍光を示すPED内に過蛍光認める().c:FAF.RPE菲薄化部位は低蛍光として認める().d:OCTRPE菲薄化部位(の範囲)の脈絡膜反射は高輝度として認める(□).図9抗VEGF薬注射長期継続中のType1MNVRPE菲薄と萎縮の有無は脈絡膜反射の輝度で確認する.a:カラー眼底写真.複数回の抗CVEGF薬注射を長期継続中のCType1MNV.Cb:FAF.RPE萎縮部位は低蛍光として認める()c:OCT.RPE菲薄と萎縮部位(の範囲)の脈絡膜反射は高輝度として認める(□).診療録に毎回記載するIRF+-↑↓→SRF+-↑↓→PED+-↑↓→図10AMDの滲出液(.uid)分類a:網膜内液(IRF),b:網膜下液(SRF),c:網膜色素上皮下(sub-RPE).uid(PED).診察時にそれぞれの所見について,ある(+),なし(.),増加(↑),減少(↓),不変(→)のいずれかを診療録に記載する.図11ポリープ状脈絡膜血管症に対する抗VEGF薬注射導入期の経過同部位のスキャンラインで所見の変化を確認.a:中心窩を横切るラジアルC12本のスキャンライン(b~eのOCTは6番のスキャンライン).b:抗CVEGF薬注射前.SRF(※)とフィブリンを伴うポリープ状病巣()と異常血管網のダブルレイヤーライン()を認める.c:1カ月後.SRFは吸収し,ポリープ状病巣()の縮小化とダブルレイヤーライン()の平坦化を認める.d:2カ月後(2回目注射後C1カ月).ポリープ状病巣()の縮小化とダブルレイヤーライン()の平坦化を認める.e:4カ月後(3回目注射後C2カ月).SRFは認めないが,ポリープ状病巣()の再拡大とダブルレイヤーライン()の再隆起を認める.図12ポリープ状脈絡膜血管症PRN経過観察中(ポリープ状病巣の拡大:たけのこポリープからの出血)同部位のスキャンラインで所見の変化を確認.a:導入期後抗CVEGF薬注射追加なくC9カ月,カラー眼底写真.橙赤色隆起病巣は認めない.Cb:OCT.ポリープ状病巣は認めない.Cc:3カ月後,カラー眼底写真.橙赤色隆起病巣を認める().d:OCT.ポリープ状病巣(たけのこポリープ)の出現()を認める.Ce:3カ月後,カラー眼底写真.橙赤色隆起病巣を認める().f:OCT.たけのこポリープの拡大()を認めるも漿液性網膜.離など滲出性変化は認めない.g:17日後,カラー眼底写真.網膜下出血を認める().h:OCT.ポリープ状病巣に伴う出血性色素上皮.離を認める().C③C④図13自動層別解析画像のouterretina層とchoriocapillaris層でMNVの血管網を確認する(pachychoroidalneovasculopathy)a:カラー眼底写真.黄斑部に漿液性網膜.離を認める.b:OCT.漿液性網膜.離(※)とCRPEの不整な隆起を認める().脈絡膜は肥厚している().c:OCTA自動層別解析画像.①Csuper.cial,②Cdeep,③Couterretina,④Cchoriocapillarisの四つのセグメンテーションの画像.③Couterretinaと④Cchoriocapillarisの層でCMNVの血管網を認める.図14Subretinalhyperre.ectivematerial(SHRM)内のMNVをOCTAのB-スキャンで確認a:カラー眼底写真.黄斑部に出血を伴う灰白色病巣を認める.b:OCT.網膜下にCMNVとフィブリンを示唆する高反射病巣(SHRM)を認める(□).c:OCTA.dのC2本のライン()のセグメンテーションの範囲にCMNVの血管網を認める.d:Bスキャン.SHRM内のCMNVの血流を確認ができる().OCTで認めるCSHRMの深部のみがCMNVである.図15治療前後のMNVの血流と治療後の網膜感度〔治療前〕a:OCTA.choriocapillaris層.MNVの血管網を認める().b:OCT.SRF(※)とCRPEの不整な隆起を認める.脈絡膜は肥厚している().〔抗CVEGF注射併用光線力学療法C3年後(追加治療なし)〕c:OCTA.Choriocapillaris層.MNVの血管網は拡大している.FA(10分)面状の過蛍光を認める().d:OCT(※).RPEの不整な隆起は残存しているが(),SRFを含め滲出性所見は認めない.e:マイクロペリメトリー.OCTAで認めるCMNVの血管網の範囲の網膜感度は良好に保たれている.□はCOCTAと同範囲.

裂孔原性網膜剝離

2024年3月31日 日曜日

裂孔原性網膜.離RhegmatogenousRetinalDetachment岩瀬剛*I疾患の概念裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousCretinalCdetach-ment:RRD)は網膜裂孔あるいは円孔から網膜下,つまり感覚網膜と網膜色素上皮層との間に硝子体液が流入することにより生じる.黄斑まで網膜.離が及ぶと視力が低下し,術後に網膜が復位したとしても視機能に影響が出るので,黄斑が.離する前に手術することが望ましい.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いることで中心窩から網膜.離がどの範囲まで及んでいるのかを正確に把握することが可能である.さらに,黄斑が.離している場合においても,急激に大量の硝子体液が流入している場合には,術前のみならず術後視力が不良であると考えられるので,速やかに手術を行うべきである.RRDの発生は二峰性でC20代とC50代にピークがある1)と考えられているが,OCT所見にはそれぞれ特徴がある.年齢などの患者背景と併せて,手術時期を考慮すべきである.CII若年者の術前のOCT所見若年のCRRDの多くは格子状変性内の萎縮円孔から発生し,後部硝子体.離(posteriorCvitreousCdetach-ment:PVD)は通常伴わない.PVDがなく硝子体の液化が軽度であることから,若年のCRRDでは萎縮円孔からの硝子体液の網膜下への流入はゆっくりである.したがって,網膜.離の進行が遅く,網膜下液の性状が粘稠で,網膜.離面が平坦であることが多い.OCT所見としては,非.離の部位に比べると.離している部位の視細胞層は伸長しており,網膜外層には波打つ所見がみられないことが多い(図1).このような患者では,アーケード血管内にまで網膜.離が進行していても,手術までの時間には余裕がある.とくに下方から網膜.離が進展している患者では進行が遅いので,緊急手術を行わなくてもすぐに中心窩が.離することはない.手術術式としては通常強膜バックリング手術を選択する.このような比較的若年者のゆっくりと進行した網膜.離で黄斑が.離している場合においても,急速に視力が悪化することは基本的にない.したがって,緊急手術を行わなくてもよく,強膜バックリング手術の予定を組んで速やかに手術を行う.OCT所見としては,多くの場合には,.離している黄斑部の視細胞層は伸長し整然と密に並んでおり(図2),黄斑が.離していても比較的術前視力が良好なことが多い.そのような患者では術後に網膜が復位した際の外層構造として,網膜外境界膜(externalClimitingmembrane:ELM),ellipsoidCzone(EZ),interdigitationzone(IZ)などの連続性が良好であることが多く,視力も良好である2).しかし,黄斑が.離している期間が長いと,若年者の網膜.離においても視細胞層が短縮し,術前視力が不良であるばかりではなく,術後網膜が復位しても網膜の外層構造は不明瞭で視力も不良である3)(図3).*TakeshiIwase:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座〔別刷請求先〕岩瀬剛:〒010-8543秋田市本道C1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(49)C285図120歳代の左眼裂孔原性網膜.離の眼底写真およびOCT画像下耳側に比較的平坦な網膜.離がみられる.OCT画像で,.離している部位の視細胞層は伸長しており(),網膜外層には波打つ所見はみられない.図320歳代の右眼裂孔原性網膜.離の術前(a)および術後(b)OCT画像a:術前.OCT画像で視細胞層が短縮しており,ほとんど観察されない.術前視力はC0.1であった.Cb:術後.網膜は復位したが網膜の外層構造は不明瞭でCELM,EZ,IZは観察されず,術後C1年での視力はC0.15であった.図210歳代の左眼裂孔原性網膜.離の術前(a)および術後(b)OCT画像a:術前.中心窩の視細胞層は伸長しており,整然と密に並んでおり,術前視力はC1.0であった.Cb:術後.網膜が復位し,術後半年での視力はC1.2であった.網膜外層のCELM,EZ,IZの連続性は良好であった.図460歳代の左眼裂孔原性網膜.離の術前眼底写真(a)およびOCT画像(b)a:上耳側の網膜裂孔による耳側網膜.離.Cb:OCT画像では中心窩近傍まで.離してきている.図550歳代の裂孔原性網膜.離の術前OCT画像数日前から,左眼視力低下を自覚した.黄斑部網膜は.離しており,中心窩外の黄斑部の網膜外層に波打っている所見がみられる().図660歳代の裂孔原性網膜.離の術前のOCT画像中心窩周囲の網膜内顆粒層や外網状層に網膜内.胞腔がみられ(*),中心窩網膜が前方に突出している.図750歳代の裂孔原性網膜.離の術前のOCT画像黄斑部の視細胞配列の欠損,網膜外層のラインの連続性の消失が観察される().図850歳代の強度近視に伴う裂孔原性網膜.離の術前画像a:眼底写真では,後部ぶどう腫に相当する領域に網膜.離がみられるが,検眼鏡的には原因裂孔は検出できない.Cb:水平断のCOCT画像では,アーケード上方の.離網膜にCmicroholeが観察される.Cc:垂直断のOCT画像では,アーケード上方と下方の.離網膜にC2個のCmicroholeが観察される.図950歳代の強度近視に伴う後部ぶどう腫内の網膜分離に網膜.離を伴う症例の術前(a),術後(b)OCT画像a:術前COCT画像では黄斑前膜,網膜分離,および網膜.離が観察された.網膜裂孔は検出されなかった.Cb:術後C3カ月後のCOCT画像では,網膜分離および網膜.離は消失した.図1020歳代の裂孔原性網膜.離に対するバックリング術前と術後1カ月後のOCT画像術前COCT画像では黄斑部網膜は.離を生じており,術前視力はC0.2であった.術後C1カ月では原因裂孔は閉鎖し,OCT画像では黄斑下液は残存していたが視細胞層は伸長しており,視力はC0.5と向上していた.

網膜外層障害を伴う急性炎症性疾患

2024年3月31日 日曜日

網膜外層障害を伴う急性炎症性疾患AcuteIn.ammatoryDiseaseAssociatedwithOuterRetinalDisturbance上野真治*はじめに網脈絡膜の炎症により網膜外層に障害を伴う疾患には,いくつかの病態が知られている.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の精度の向上により,これらの疾患で網膜の異常を捉えることができるようになった.さらに光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)を含む他の画像検査とともに解析されることにより多くの疾患の病態が明らかになりつつある.本稿では,多発消失性白点症候群(multipleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS),急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopa-thy:AZOOR),点状脈絡膜内層症(punctateinnerchoroidopathy:PIC),急性後部多発性斑状色素上皮症(acuteposteriormultifocalplacoidpigmentepitheliop-athy:APMPPE)のOCTを中心とした画像所見について概説する.I多発消失性白点症候群1.疾患の概要MEWDSは1983年にJampolらによって初めて報告された網膜外層の障害をきたす炎症性疾患である.おもに20~50歳の女性が罹患し,感冒様前駆症状が先行することがある.MEWDSの典型的な症状は,片眼性の突然の視力低下や霧視,傍中心暗点(図1a),光視症である.眼底には後極部を中心とした網膜深層から網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)層レベルに円形の境界不明瞭な多発性白点が多発する(図1b)1).中心窩にはJampoldotsとよばれる黄色の顆粒状所見を認めることがある2).これらの眼底所見は一過性で1~2カ月以内に消失する.MEWDSの病態は脈絡膜灌流障害を伴わない視細胞およびRPEの炎症による急性の機能障害とされているが,その炎症の起源が視細胞なのかRPEなのかははっきりしない.前部硝子体中にもcellがみられることが多い.診断はOCT,眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)などの画像所見に加え,多局所網膜電図(electroretinogram:ERG)などを用いて行う.MEWDSは3カ月以内に自然軽快することが多いため,基本的には経過観察を行う.2.OCTを含めた画像所見MEWDSの活動期にはellipsoidzone(EZ)とinter-digitationzone(IZ)の消失や短縮がみられる.また,この障害部位にはRPEから視細胞内節外節消失部位を超えて,外顆粒層にまで伸びる高輝度反射物がいくつか観察される.この構造物は変性した外節に相当すると考えられ,とくに中心窩で観察される(図1c)1).回復期にはEZの異常が徐々に改善しEZが連続し正常化すると視力は改善する(図1c).OCTAによる網膜,脈絡膜の血流評価では,MEWDSでは異常はないとされ,診断や病態の評価においてOCTAは明らかな有用性はないと考えられる1).MEWDSでは,緑色青光を励起光するFAFにおいて,*ShinjiUeno:弘前大学大学院医学系研究科眼科学講座〔別刷請求先〕上野真治:〒036-8562青森県弘前市在府町5弘前大学大学院医学系研究科眼科学講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(41)277e図1MEWDS(右眼)の典型例20代,女性.右眼の視野の一部が見にくくなったことを主訴に受診.視力は矯正0.3.a:右眼のHumphrey静的視野(30-2)のグレースケール.Mariotte盲点の拡大を示す視野異常がみられた.b:眼底写真.アーケード血管周辺に淡くて比較的大きめの境界不明瞭な白点がみられる.左の眼底写真の四角で囲まれた部位の拡大を右に示す.c:初診時と17週後のOCT.初診時のOCT(上段)ではEZの異常がみられ,外顆粒層に向けて伸びる高輝度の反射物がみられる().17週後のOCTではEZも回復しIZも確認できる.d:眼底自発蛍光.眼底自発蛍光では白点の生じる部位に境界不明瞭な過蛍光病変が現れる.e:フルオレセイン蛍光造影(FA)とインドシアニングリーン造影(IA).早期(上段)ではFA,IAとも異常はみられないが,後期(下段)にFAで血管からの漏出とIAでMEWDSに特徴的な無数に点在する低蛍光斑がみられる.FAIA早期後期b6M図2視機能が回復したAZOORの一例30代,男性.4週前からの左眼の突然の光視症と視野異常を自覚して受診.視力は両眼矯正1.0.a:左眼の眼底写真.明らかな異常はない.b:左眼のHumphrey静的視野(30-2)のグレースケール.初診2週後の半盲様の視野障害(2W)が3カ月(3M),6カ月(6M)と経過中に自然に軽快した.c:OCTの経過.初診時のOCT(上)ではEZとIZの消失がみられた().その後3カ月(3M,中),12カ月(12M,下)と徐々にEZは回復した.d:超広角眼底カメラによる眼底自発蛍光.視野障害部位,OCTで網膜外層の障害部位に一致して過蛍光がみられる().この過蛍光所見は自覚症状が改善しても長期に残存した.e:多局所網膜電図(ERG)の3Dプロット.左眼の視野異常や眼底自発蛍光の過蛍光領域に一致した多局所ERGの振幅の低下がみられる.図3OCTで外顆粒層の菲薄化がみられ視機能が回復しなかったAZOORの一例20代,女性.2週前からの左眼の突然の光視症と視野異常を自覚して受診.視力は両眼矯正C1.0.Ca:左眼の眼底写真.明らかな異常はない.b:左眼のCHumphrey静的視野(30-2)のグレースケール.Mariotte盲点の拡大のような視野障害がみられ,経過観察中に視野の改善はみられなかった.Cc:OCTではCEZの消失と不鮮明化がみられた().また,一部に外顆粒層の菲薄化()がみられた.OCTではその後形態の変化は,ほとんどみられなかった.d:超広角眼底カメラによる眼底自発蛍光.視野障害部位に一致する異常はなかった.図4PICの典型例の初期像(両眼性の症例で右眼の所見を提示)20代,女性.両眼の見たい部分が影のようになったことを主訴に受診.視力は矯正右眼C0.6,左眼C1.0.Ca:右眼の眼底写真.境界明瞭な黄白色病変が黄斑を中心にみられる.Cb1:OCT,初診時.EZの消失と不鮮明化がみられた().また,RPEから限局的に隆起する構造物がみられた.右下に拡大を示す.Cb2:1カ月後.EZはほぼ回復した.Cc1:フルオレセイン蛍光造影(FA).Cc2:インドシアニングリーン蛍光造影(IA).白点に相当するところはCFAで過蛍光になり,IAで低蛍光斑になる.はお互いに一致する白点部位.図5PICに発生した脈絡膜新生血管20代,女性.中心部が歪んで見えるという主訴で受診.Ca:眼底写真.脈絡膜新生血管が中心窩上方に脈絡膜新生血管がみられた.Cb:OCT.脈絡膜新生血管に対して抗CVEGF薬投与治療前(Cb1)と治療C1カ月後(Cb2).c:OCTA.脈絡膜新生血管に対して抗CVEGF薬投与治療前(Cc1)と治療C1カ月後(Cc2).治療後,脈絡膜新生血管の退縮が確認できる.黄色線が下のCBスキャンの位置に対応(Cc3).OCTAのCBスキャン画像.黄色の破線で挟まれた部位がセグメンテーション部位(Cc4).図6PICに特有な瘢痕病巣a:眼底写真.瘢痕萎縮が後極にみられる.b:OCT.瘢痕病巣に一致する部分では網膜が色素上皮に引き込まれるPICに特徴的な所見がみられる.また,RPEの萎縮により脈絡膜の高輝度化がみられる.図7APMPPEの症例30代,男性.右眼の霧視を訴え受診,円板状白斑は右眼優位にみられた.視力は右眼矯正C0.5,左眼C1.0.Ca:眼底写真.初診時(Ca1),円板状白斑が後極中心に多発していたがC1週間後(Ca2),1カ月後(a3)では白斑の数が減少し,サイズも小さくなっている.経過とともに視力も矯正0.5からC0.8へと改善した.Cb:OCT.初診時のCOCTではCEZの一部途絶とCRPE上に高輝度の病変がみられる().c:フルオレセイン蛍光造影(FA)とインドシアニングリーン蛍光造影(IA).FA早期では低蛍光,後期には過蛍光を示す病変がみられる(=蛍光の逆転現象).一方,IAでは,早期から後期にかけて低蛍光となる.Cd:OCTA(a~cとは別の症例).OCTAの網膜全層の血流で異常はないが(Cd1),脈絡毛細管板のセグメンテーションを観察すると血流の障害があることがわかる(Cd2).この部分はCIAで低蛍光の部位に一致する(Cd3).FAIA初診時1W1Mb2

OCTA を活用した網膜静脈閉塞症診療

2024年3月31日 日曜日

OCTAを活用した網膜静脈閉塞症診療HowDoesOCTATransformtheDailyManagementofRetinalVeinOcclusion?坪井孝太郎*はじめに網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)は糖尿病網膜症に次ぐ網膜循環疾患である.RVOの病態は,網膜静脈が閉塞し,網膜の虚血,出血,浮腫が生じることで視力低下を引き起こす.また,網膜虚血が強い患者では,網膜新生血管や虹彩新生血管のリスクが高い.そのため,RVO診療の基本は,①黄斑浮腫の加療と②新生血管の早期発見・治療であるといえる.本稿では,光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiogra-phy:OCTA)を活用したRVO診療について解説する.I網膜静脈閉塞症の分類と治療の基本RVOは閉塞部位で,網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO),半側網膜静脈閉塞症(hemi-CRVO),網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)に分けることができる.RVOに伴う視力低下は黄斑浮腫と網膜新生血管による硝子体出血がおもな原因である.そのため,新生血管発生リスクが高い虚血型RVOを判断することが重要である.CRVOにおける虚血型の定義は無灌流領域が10乳頭面積以上,BRVOにおける虚血型の定義は無灌流領域が5乳頭径以上とされており,定義の違いに注意が必要である(図1).また,BRVOでは,閉塞静脈が黄班への枝である場合はmacularBRVO,アーケード血管である場合はmajorBRVOに分類される1).虚血型,非虚血型のRVOにおける新生血管発生頻度は表12)に示すとおりである.虚血型CRVOでは虹彩,隅角新生血管のリスクが高く,新生血管緑内障に注意する必要があることがわかる.一方で,虚血型BRVO(majorBRVO)では網膜新生血管のリスクが高く,硝子体出血を合併する場合がある.黄斑部に限局するmacularBRVOでは新生血管発生リスクが低いことが報告されている.虚血型RVOに対しては網膜光凝固術が重要であるが,新生血管を伴わないRVOに対する汎網膜光凝固術の効果は限定的であることが知られており,RVOに対する汎網膜光凝固術は新生血管を検出してから行うことが望ましいとされている.近年では抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が新生血管発生を抑制することは知られているが,効果は永続しないため,最終的な新生血管発生率は変わらないという報告もある.そのため,RVO診療においては,黄斑浮腫が落ち着いたあとも長期の新生血管発生には注意が必要である3).IIOCTAの活用RVO診療において,画像診断は欠かすことができない.古典的な眼底写真,蛍光造影検査に加え,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)とOCTAは日常臨床において有用な画像診断ツールである.OCTは網膜断層像を観察することが可能であり,網膜を三次元で観察できる強みをもつ.さらに非侵襲的であるため,経時的な変化を捉えることが容易であることも*KotaroTsuboi:愛知医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕坪井孝太郎:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又1-1愛知医科大学眼科学教室0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(33)269図1虚血型BRVO(a)と虚血型CRVO(b)の定義虚血型BRVOは無灌流領域が5乳頭径(discdiameter:DD)以上,虚血型CRVOは無灌流領域が10乳頭面積(discarea:DA)以上.表1RVOに伴う新生血管発生率TypeofOcularNeovascularizationin%TypeofRVO眼(N)虹彩NV隅角NVNVG乳頭NV網膜NVAnytypeofNV非虚血型CRVO2822.82.11.4002.8虚血型CRVO7857.747.433.35.17.766.7非虚血型HemiCRVO66000000虚血型HemiCRVO3112.96.53.229.041.958.1MajorBRVO1911.60.5011.524.128.8MacularBRVO73000000(文献2より改変引用)OCTAFANPADilatedcapillariesRetinalNVIrisNV図2蛍光造影検査(FA)とOCTAによる血管異常の所見早期浮腫改善症例浮腫遷延症例図3BRVOに伴う黄斑浮腫の遷延予測方法aの早期浮腫改善症例では患側の毛細血管脱落が強いのに対して,bの浮腫遷延症例では毛細血管脱落が限定的である.DCPICPOCTAimageMaskeddilatedcapillaryDilatedcapillaryarea図4毛細血管拡張による黄斑浮腫遷延予測方法拡張毛細血管(青部分)が大きな症例ほど,浮腫が長引く可能性が高い.OCTAFA初診時6カ月後初診時1カ月後3カ月後6カ月後図5非虚血型から虚血型へ移行したCRVO症例上段:蛍光造影検査(FA)にて初診時には明らかではなかった無灌流領域がC6カ月目に確認される.下段:OCTAでは段階的に血流が低下することが確認される.Non-conversioncaseConversioncase初診時12カ月後24カ月後VDchangeAge図6経時的な血管密度評価上段:虚血型への移行症例.血管密度(vesseldensity:VD)は段階的に低下している.下段:非虚血型で維持した症例.VDは変化は見られない.網膜全層スラブ硝子体網膜界面スラブ図7広角OCTAによる新生血管検出硝子体網膜界面スラブにて硝子体腔の異常血管()が検出された.図8虹彩新生血管の造影検査とOCTAa:虹彩新生血管による造影剤の漏出がみられる.b:OCTAでは血管の形態がはっきりと描出されている.下段:治療後新生血管は徐々に退縮していった.る新生血管緑内障もCOCTAで描出することが可能である(図8).OCTAでは造影剤の漏出がないことから,形態学的な評価が容易であるため,治療開始後の虹彩新生血管の消退を観察することが可能である12).一方で,現状のCOCTAは前眼部の撮影に最適化されておらず,実臨床で用いるにはさらなるCOCTA機器の進化が必要である.おわりにRVO診療では,黄斑浮腫の治療,新生血管の早期発見が重要になる.OCTは黄斑浮腫の発見,治療効果の判定に有効であり,また早期の虚血型移行発見を可能にする.また,OCTAは虚血の程度の判断や新生血管の検出に有効であり,非侵襲であることから,頻回な検査を可能にする.これらの検査を有効活用することで,RVO診療の質が向上すると思われる.文献1)HayrehCSS,CZimmermanMB:FundusCchangesCinCbranchCretinalveinocclusion.Retina35:1016-1027,C20152)HayrehSS,RojasP,PodhajskyPetal:Ocularneovascu-larizationCwithCretinalCvascularCocclusion-iiiCincidenceCofCocularneovascularizationwithretinalveinocclusion.Oph-thalmologyC90:488-506,C19833)TakatsuCH,CTsuboiCK,CWakabayashiCTCetal:VascularCabnormalitiesCmayCprogressCinCbranchCveinCocclusionCdespiteCresolutionCofCmacularCedema.COphthalmolCRetinaC6:252-254,C20224)IftikharM,MirTA,Ha.zGetal:Lossofpeakvisioninretinalveinocclusionpatientstreatedformacularedema.AmJOphthalmolC205:17-26,C20195)FinkelsteinD:IschemicCmacularCedema.CRecognitionCandCfavorableCnaturalChistoryCinCbranchCveinCocclusion.CArchCophthalmolC110:1427-1434,19926)HasegawaCT,CYamashitaCM,CMarukoCICetal:OpticalCcoherenceCtomographicCpredictorCofCretinalCnon-perfusedCareasineyeswithmacularoedemaassociatedwithretinalveinocclusion.BrJOphthalmol101:569-573,C2017(39)あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024C275

糖尿病網膜症

2024年3月31日 日曜日

糖尿病網膜症FeasibilityofOCT/OCTAfortheCureofDiabeticRetinopathy村上智昭*はじめに糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は,従来はおもに眼底検査と蛍光造影(.uoresceinangiogra-phy:FA)で血管病変の臨床的に評価していた.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が臨床導入され,神経網膜の形態的変化を客観的に評価できるようになってからは,とくに,神経組織の浮腫を特徴とする糖尿病黄斑浮腫診療の質が飛躍的に向上した.光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)は三次元的に血管を描出し,新生血管や毛細血管瘤など臨床的に重要な血管病変を非侵襲的に評価できる.画像診断の進歩は,診断の客観性と定量性を高めることで,治療適応を明確化している.また,治療効果判定も容易となり,とくに,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)診療における中心網膜厚は副次評価項目となっている.また,病態把握や予後因子解析により,オーダーメイド医療の可能性も出てきている.I糖尿病網膜症の臨床像と病態糖尿病網膜症は,糖尿病に伴う細小血管合併症の一つといわれており,網膜血管の形態的な病変と機能的障害(血管透過性亢進)が特徴である.その最初期病変は毛細血管瘤(microaneurysm)であり,糖尿病の罹病歴と併せてDRの臨床診断材料としている.進行とともに,網膜出血や硬性白斑(hardexudates),網膜浮腫など,血管透過性亢進に伴う病変が合併する.黄斑部に生じるとDMEとなり,視力低下を惹起する.さらに進行すると,毛細血管床が閉塞し,臨床的には無灌流領域(non-perfusionarea:NPA)を形成する.黄斑部では糖尿病黄斑虚血(diabeticmacularischemia:DMI)とよばれ,視機能障害の原因となる.血流障害に伴う低酸素に反応して血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の発現が亢進すると,新生血管を生じる増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopa-thy:PDR)となる.新生血管の周囲には線維血管膜を伴うことがあり,牽引性網膜.離や硝子体出血を生じ,重度の視力低下を起こす.また,前眼部に新生血管が生じると血管新生緑内障となり,失明の原因となる.II診療ガイドラインに基づく診断2020年に糖尿病網膜症診療ガイドラインが発表され,DRは「糖尿病に起因した特徴的眼底所見を呈する病態で,基本的には網膜における細小血管障害に起因する種々の変化が生じる」とされている1).非常に複雑な病態と多様な所見が特徴であるが,毛細血管瘤の存在と糖尿病の罹病歴をもって臨床診断を行う.DRの治療は重症度によって異なるため,重症度分類に従って適切な診断(分類)を進めることが重要である.分類法としては国際標準である国際重症度分類に加えて,国内ではよく用いられてきた新福田分類,Davis分類があり,おのおの特徴がある.PDR発症の予測に関するエビデンスに基づいて眼底所見のみで診断する国際重症度分類は今後*TomoakiMurakami:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕村上智昭:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(23)259も主軸となる分類である.また,新福田分類は,多くの所見が網羅的に記載されており,汎網膜光凝固(panreti-nalphotocoagulation:PRP)を必要とするステージを悪性と分類し,それよりも軽症か,レーザー後の安定期を良性としている.Davis分類は,血管透過性亢進,NPA,新生血管という三病態を基準に分類しており,PDRの治療と予防の重要性を説明する際に便利である.以前のDME診療では,眼底所見とFAが重要であり,とくに,エビデンスを有する「視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫」(clinicallysigni.cantmacularedema:CSME)は,硬性白斑と網膜浮腫という二つの眼底所見の特徴で診断する.OCTの臨床導入により,中心網膜厚(中心1mmの平均網膜厚)が基準値以上で「中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫」(center-involvingdiabeticmacularedema:CIDME)と診断される.ガイドラインでは,これらを組み合わせて治療方針を決定することが推奨されている.III眼底イメージングの進歩とDR診療の変化DRは細小血管障害であり,眼底検査(写真)が以前から重視されてきた.また,FAにより,毛細血管レベルの病変が詳細に描出可能となり,NPAと血管透過性亢進の評価が可能となった.これらの撮像範囲は40.60°程度とごく狭い範囲であったが,近年では,超広角撮像装置でごく短時間に180°以上の広範囲の網膜を撮像でき,DR診療においては非常に有用である.OCT,とくに近年主流のspectraldomain(SD)-OCTでは,網膜の構造的変化を層別に評価できる.また,網膜厚の自動定量が可能となり,DME診療において,診断と治療経過の評価法が確立した.disorganizationoftheretinalinnerlayers(DRIL)や視細胞障害などの神経変性を示唆する所見もわかりつつある.また,hyperre.ectivefociは集簇すると硬性白斑となるが,現在も研究レベルで評価法と臨床的位置づけが検討されている.OCTAでは,血球移動によるOCTシグナルの変化を利用して,三次元的な網膜血管構造を毛細血管レベルまで撮像できる.バックグランドが低く高コントラストの画像が得られ,自動定量をしやすいのが特徴である.一方,多くのアーチファクトが存在するため,撮像と読影の際に注意が必要である.OCTとOCTAを組み合わせてneurovascularunitの障害としてのDRの評価が今後進むであろう.OCTやOCTAの広角化も進んでおり,網膜の周辺部まで評価が必要なDR診療に有用であるが,その評価法の標準化が今後の課題である.一方,補償光学(adap-tiveoptics:AO)OCTでは,従来のOCTよりも横解像度が高く,細胞レベルの描出が可能になっている.しかし,撮像できる対象が限られ,撮像時間も長いため,現時点では実臨床で用いるのは困難である.IV非増殖糖尿病網膜症のOCT・OCTA所見DRの最初期病変である毛細血管瘤は,OCTでは円形もしくは類円形の高反射病変として描出されることが多い.また,リング状の壁構造が描出されることもある.OCTAでは,内腔の状態にしたがって描出されるため,fusiform(紡錘形),saccular(.状)など多様な形態を示す.また,血流の不均一さから,描出の状況も一定しないのが特徴であり,過少評価されがちである(図1)2).OCTAを用いて,国際分類で重要な所見である数珠状静脈拡張(venousbeading)と網膜内細小血管異常(intraretinalmicrovascularabnormalities;:IRMA)も描出できる(図2).とくに,IRMAはNPAの境界部に形成され,網膜内の拡張した毛細血管として描出され,シャント血管のようにみえることが多い.IRMAと新生血管は形態的には類似しているが,網膜内,網膜前と場所の違いから,鑑別は容易である.OCT上のhyperre.ectivefociは高反射の粒子状病変として視認され,漏出したリポ蛋白か硬性白斑の前駆物質と考えられている(図3)3).集簇したhyperre.ectivefociは眼底所見の硬性白斑に一致する.いずれの層にもみられるが,外網状層付近に存在することが多い.綿花様白斑(cotton-woolspots)は局所的な虚血に一致するといわれてきたが,OCTでは網膜内層の高反射の斑状病変として描出され,OCTAでも当該部位の内層の局所的なNPAとなっている.DRの重要な所見の一つがNPAである(図2).また,260あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024(24)図1毛細血管瘤のOCTA画像a:眼底写真.b:蛍光造影初期.c~f:3×3mmのOCTA浅層(c)と深層(d)画像と対応するstructureOCT画像(e,f).OCTでは円形もしくは類円形の形態を呈することが多いが,OCTA画像上では,多様な形態を示す().図2網膜内細小血管異常(IRMA)のOCTA画像a:12×12mmのenface画像では,無灌流領域に接して拡張した異常血管が描出される.b:断層像では.owsignalが網膜内に存在することから,新生血管でなくIRMAである.図3硬性白斑とhyperre.ectivefocia:眼底写真では,中心窩と黄斑耳側,上方に硬性白斑の沈着を認める.OCT断層像(b)とその拡大図(c).hyperre.ectivefoci()が網膜全体に散在し,集簇すると(.)眼底所見の硬性白斑として視認できる.図4黄斑部の血流障害の進行中心C3C×3CmmのCOCTA浅層(Ca)と深層(Cb)画像.局所的な無灌流領域が形成されはじめている.3年後のOCTA浅層(Cc)と深層(Cd)画像.無灌流領域が拡大し,血管密度も低下している.-図5乳頭新生血管と網膜新生血管のOCTA画像Enface画像(Ca)では乳頭新生血管を認め,断層像(Cb)では,乳頭上の後部硝子体膜にC.owsignaを伴う.(c)網膜新生血管のCenCfaceOCTA画像.(d)断層像では,網膜上に肥厚した後部硝子体膜中に点状の.owsignalを伴っている.図6牽引性網膜.離a:眼底写真ではほぼ重篤な線維血管膜による牽引で,ほぼ全.離となっている.b:SS-OCT断層像では,線維血管膜()が収縮し,網膜(*)が.離しているのがわかる.bd図7中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫(a,b)と中心窩を含まない糖尿病黄斑浮腫(c,d)中心網膜厚(OCT二次元マップにおける中心C1Cmmの平均網膜厚)が,基準値以上である場合に,中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫と診断する.このCOCTはCSpectralisで撮像されており,基準値は男性C320Cμm,女性C305Cμm以上となっている.患者は男性であり,右眼は基準値以上,左眼は基準値未満であった.図8糖尿病黄斑浮腫症例における形態的多様性中心窩に.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema,a)や黄斑下に漿液性網膜.離(serousretinaldetachment,b)を認めることが多い.ELMELMEZRPERPE図9OCTによる黄斑部視細胞障害の評価中心窩を通るCOCT断層像(Ca,b)とその拡大図(Cc,d).a,cの症例では,視細胞の指標である外境界膜(ELM)と視細胞エリプソイドゾーン(EZ)が網膜色素上皮(RPE)上に明瞭に描出される.Cb,dの症例の黄斑部では,EZはほぼ消失し,ELMもところどころで断裂しており,視細胞障害が進行していることがわかる.

網膜硝子体界面疾患

2024年3月31日 日曜日

網膜硝子体界面疾患VitreoretinalInterfaceDiseases森實祐基*はじめに網膜硝子体界面疾患は,網膜と硝子体の境界面に発症する疾患の総称である.とくに黄斑と硝子体の境界面に発症する頻度が高く,黄斑円孔(macularhole:MH),網膜上膜(epiretinalmembrane:ERM),分層黄斑円孔(lamellarmacularhole:LMH)とその類縁疾患,硝子体黄斑牽引症候群(vitreomaculartractionsyndrome:VMTS)などが臨床上重要である.網膜硝子体界面疾患と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)とのかかわりは深く,近年の網膜硝子体界面疾患の病態解明と治療法の開発はOCTなしには達成しえなかったといっても過言ではない.本稿では,網膜硝子体界面疾患の診療におけるOCTの活用法について最新の知見を交えて解説する.I網膜硝子体界面の解剖と加齢による変化網膜硝子体界面疾患の病態を理解するためには,網膜硝子体界面の解剖と加齢による変化を理解する必要がある.OCTの登場により,これまでに数々の重要な知見が明らかにされた.そのなかでもとくに重要な知見を以下に示す.1.硝子体による黄斑牽引は周中心窩後部硝子体.離によって生じる学童期に黄斑の前方にポケット上の液化腔(後部硝子体皮質前ポケット)が形成される1)(図1).液化腔の後壁は硝子体皮質であり,加齢とともに後壁が接線方向に収縮すると,弧が弦になろうとする力が発生し,硝子体皮質は網膜から.離しようとする.しかし,硝子体は中心窩と強く接着しているため,中心窩以外の網膜で後部網膜硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)が生じる.すなわち周中心窩後部硝子体.離(perifovealposteriorvitreousdetachment:perifovealPVD)である.中心窩には前方に向かう牽引力が生じる(図1).この牽引力が網膜硝子体界面疾患の原因である.2.Mullercellconeは中心窩の構造を求心性につなぎとめる硝子体による中心窩の牽引によって網膜外層の構造の変化や網膜.離が生じる理由はよくわかっていなかった.Gassは中心窩にはMullercellconeというMuller細胞の集合体が存在し,中心窩の構造を求心性につなぎとめていると考えた2).たとえばMHの形成過程において,perifovealPVDによる中心窩の牽引によってMul-lercellconeが網膜からはずれると,遠心性に網膜外層の円孔が拡大する.Mullercellconeの存在は組織学的に十分解明されていないため,あくまでも概念的な構造と考えられている.II黄斑円孔診療におけるOCTの使い方MHは中心窩にみられる網膜全層の円孔である.特発性MHは前述のperifovealPVDによって中心窩に裂隙*YukiMorizane:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕森實祐基:〒700-8558岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(15)251ab図1周中心窩後部硝子体.離(PerifovealPVD)後部硝子体皮質前ポケットおよびperifovealPVDの模式図(a)とOCT画像(b).aの*は後部硝子体皮質前ポケットを示す.PerifovealPVDにより,中心窩に(b)の方向の牽引がかかる.表1難治性黄斑円孔大型黄斑円孔(最小円孔径がC400Cμm以上)陳旧性黄斑円孔近視性黄斑円孔増殖性網膜病変に合併する黄斑円孔ぶどう膜炎,網膜色素変性に合併する黄斑円孔外傷性黄斑円孔be図2OCTBスキャン画像に基づいた黄斑円孔の病期分類a:Stage1A:中心窩内層の.胞.Cb:Stage1B:中心窩外層の網膜間隙(中心窩.離).c:Stage2:中心窩内層の裂隙.Cd:Stage3:全層の円孔.視神経乳頭につながる硝子体()と偽円孔蓋()を認める.翻転したILM増殖/遊走するグリア細胞図4進行した網膜上膜のOCTBスキャン画像網膜上膜(),異所性の網膜内層(*,ectopicCinnerCfoveallayer:EIFL)を認める.網膜の内層()と外層()に.胞様腔を認める.図3黄斑円孔に対する内境界膜(ILM)翻転a~c:ILM翻転後の黄斑円孔の閉鎖過程の模式図.翻転したILMを足場として活性化したグリア細胞が増殖・遊走し円孔閉鎖を促す.Cd~e:ILM翻転前(Cd)と術翌日(Ce)のOCTCBスキャン画像.眼内にガスが存在している状況でCsweptCsourceOCTを用いて撮影したCBスキャン画像(Ce)において,翻転したCILMが黄斑を被覆していることがわかる().図5網膜上膜にみられる網膜しわを用いた網膜牽引力の評価a:OCTenface画像で可視化された網膜上膜().b:深層にみられる網膜しわ().c~e:膜(Cc)に圧縮応力Cfを加えるとしわが生じる(Cd).fよりもさらに強い圧縮応力CFを加えると生じるしわの振幅(L)は圧縮応力Cfによるしわの振幅(l)よりも大きくなる(Ce).このことから,ERMによって生じるしわの深さを定量化することで網膜への牽引力を評価できる.表2分層黄斑円孔と類縁疾患のOCTBスキャン画像による分類分層黄斑円孔網膜上膜による中心窩分離黄斑偽円孔必須項目不整な中心窩形状黄斑前膜中心窩を避ける黄斑前膜中心窩の空洞(網膜面と円孔縁がなす角<9C0°)Henle線維層での網膜分離(網膜面と網膜分層縁がなす角≧9C0°)急峻な中心窩形状(網膜面と円孔縁がなす角≒90°)網膜厚の増加中心窩組織の欠損Epiretinalproliferation内顆粒層の微小.胞内顆粒層の微小.胞正常中心網膜厚C参考項目C中心窩外層の隆起網膜厚の増加Ellipsoidzoneの途絶網膜皺襞図6分層黄斑円孔のOCT画像所見分層黄斑円孔のCBスキャン画像(Ca:水平スキャン,Cb:垂直スキャン)とCEnface画像(Cc,d).aおよびCbの*は不整な中心窩形状を示し,はCepiretinalCproliferation(EP)を示す.Ccのは網膜上膜とCEPから構成される膜組織を示す.Ccよりも深い層で撮影したCenface画像において,網膜しわの形成はみられなかった(Cd).そのため,この症例の病態への網膜牽引の関与は少ないと考えられた.e図7分層黄斑円孔(LMH)に対するepiretinalproliferation(EP)埋没法a,b:LMHにみられたCEPの術中写真.EPは黄斑色素に富み,柔軟で伸展性があり(Cb),LMH縁と一体化している.そのため.離除去することが困難であることが多い.Cc~e:LMHに対してCEP埋没法(EPembedding)を行った一例の術前(Cc,矯正視力C0.8),術後C1週(Cd),術後C1カ月(Ce)のCBスキャン画像.術後早期には埋没したCEPが観察されたが(Cd,),1カ月後には観察されなくなり中心窩の形態と視力が改善した(Ce,矯正視力C1.5).(文献C13より引用)b図8硝子体黄斑牽引症候群のBスキャン画像硝子体黄斑牽引症候群(focaltype)の術前(Ca)および術後(Cb)のCBスキャン画像.Ca:術前に中心窩.離()をきたしており,黄斑円孔のCStage1Bといえる.Cb:視力が低下していたため硝子体手術を行い牽引を解除した.

OCTA の原理

2024年3月31日 日曜日

OCTAの原理ThebasisofOpticalCoherenceTomographyAngiography(OCTA)宇治彰人*はじめに光干渉断層血管撮影(OpticalCoherenceTomogra-phyCAngiography:OCTA)は近年注目を集めるCOCTの新機能であり,非侵襲的に網膜の血管叢を面状に抽出できるものである.従来の蛍光造影(.uoresceinCangi-ography:FA)と比較すると,造影剤を用いないで非侵襲的に描出できる点,緻密に毛細血管を描出できる点,また網膜血管叢を三次元で捉えることが可能である点などが,その特徴としてあげられる.一方で,造影剤を用いないからこそ,蛍光漏出や貯留,経時変化などは可視化できず,今なおCFAとの棲み分けが議論となっているが,診療ではその「使いどころ」を理解することが重要である.CIOCTAの原理OCTAで造影剤を用いずに血管を描出する方法としておもに利用されているのが,画像処理によって連続画像から差分を検知する方法である.動画撮影した画像に移動する物体が捉えられているとき,この移動体は,同一背景を有する連続する複数枚の画像上に経時的に位置が変わる物体として表示されているが,これら複数枚の画像間で移動体を画像間の「差分」として検出することで背景から区別して抽出することが可能である.この処理はCOCTA以外の画像を用いてよく説明されることがあるが,正しくはこれら例をあげた説明は誤りであることも多い.多くの例で使用されるのが,平面上を動く物体であり,血管内を移動する血球を連想させるものだが,実際には平面(enface)上ではなくCBスキャン上で処理する.なぜならばそもそもCenface画像はCBスキャンで得た三次元画像から再構成されるものであり,現状の技術では血流を捉えられるほどの十分なスキャン速度が得られないからである.また,最終的な目標が三次元画像の取得であることを考えれば,エラーの発生しやすいセグメンテーション処理を要するCenCface画像ベースで処理する理由はまったくないからである.Bスキャン上では血管は幅の短い断面で表示されるため,連続するCBスキャンの動画では血球は移動体としては捉えられず明滅する点として表示される(図1).これは血管内腔において,血漿成分は輝度が低く,赤血球などの血球は輝度が高く映るからであり,高速で流れる血流の断面はスキャンごとに輝度が激しく変わる.Bスキャン上で処理する場合,眼底の同じ位置で短い時間で複数回スキャンを繰り返し,これらCBスキャン群ごとに「差分」を検出し“OCTAの”Bスキャン画像を得る.この処理では,理想的には明滅する血管断面のみがOCTAの信号として検出されるはずである.この処理を少しずつ平面上で移動させ三次元画像としてのCOCTAを得るわけだが,よくCOCTA画像として紹介されるのは,ここからCenface画像を切り出した二次元画像である.実際には血管のみ抽出というのは困難で,血管以外の背景にもCOCTA信号が雑音として混じってしまうが,適切な閾値設定により余分な信号を落としていく.*AkihitoUji:宇治眼科〔別刷請求先〕宇治彰人:〒512-0923三重県四日市市高角町C1556-1四日市メディカルビレッジ内宇治眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(9)C245図1OCTを用いた血流信号の抽出a:OCTのCBスキャン画像.Cb:連続撮影したCBスキャンから差分を計算した画像.血管断面が(白く輝度が高く)表示されている.Cc:bの強調画像.血管断面の血流信号以外にも細かな点状の高輝度粒子が雑音として表示されている.Cd:aの画像の上に抽出したCOCTA信号をマージさせたもの.=図2面分解能が低いOCTA画像a:DCPのCOCTA画像.渦静脈様の血管構造が複数観察される.Cb:aの黄色の枠線で囲んだ部位の拡大図.Cc:OCTAよりも面分解能の高い補償光学走査型レーザー検眼鏡で撮影した同じ範囲のCDCP.血管はCbと比較して明らかに細く描出されている.図3SCPに認められる葉状の血管構造毛細血管網(Cc)は細動脈(Ca)に囲まれている.細静脈(Cv)は毛細血管網(Cc)の中央から延びている.図5OCTAスキャンのずれによって生じる白線図4OCTAにみられる背景ノイズa:OCTAの血管は破線で描かれている.また,血管がない部位にも細かい点状のノイズが存在する.Cb:加算平均処理でノイズを低減させた画像.

OCT の基礎知識

2024年3月31日 日曜日

OCTの基礎知識TheBasicsofOpticalCoherenceTomography(OCT)橋谷臨*丸子一朗*はじめに光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)は,赤外線での光干渉現象を利用し,網膜の断層構造をまるで顕微鏡観察の組織標本のように描出可能な機器である.OCTは測定原理によりC2種類に分類され,最初に実用化されたものが光干渉を実空間で行うタイムドメインCOCT(timeCdomainOCT:TD-OCT)であり,のちに出てきたのが光干渉をCFourier空間で行うフーリエドメインCOCT(FourierCdomainOCT:FD-OCT)である.FD-OCTはさらにスペクトラルドメインCOCT(spectralCdomainOCT:SD-OCT)とスウェプトソースCOCT(sweptCsourceOCT:SS-OCT)に分類され,現在広く一般に使用されている(図1).OCTは時代とともにCTD-OCT→CSD-OCT→CSS-OCTというように高分解能かつ高速化へと進歩し続けてきた.非侵襲的に前眼部から後眼部まで眼球の構造を観察できるようになり,さまざまな眼科疾患の病態理解と診断技術が向上した.これまでCOCTに関連した数多の論文が発表され,2021年のピーク時にはCPubMedデータベースで年間4,161本の論文が投稿された.OCTの登場により眼科分野での研究が飛躍的に進歩したのはいうまでもない.学会では,OCTやさまざまな最新機器による画像研究を行ったイメージングという部門が登場して久しい.本稿ではとくに後眼部を中心としたCOCTの基本と正常網脈絡膜イメージングの話に絞って解説する.図1OCTの分類IOCTの基本1.測定原理と光学的特性OCTは光の干渉性を利用し,測定対象の構造を高分解能・高速で撮影する技術である.近赤外光を生体内に照射すると,測定対象から散乱して戻ってくる光(散乱光)が生じる.OCTでは通常,入射光と同軸に反射する散乱光を検出する.これには深さ情報と反射強度の情報が含まれるが,シグナルが微弱なため参照光と干渉させ,増幅することで画像化している.図2に正常な網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)に対して垂直に測定光を入射した場合と,斜めに入射させた場合のCOCT画像を示す.OCTでは入射光と同軸に戻る反射光のみが画像化されるため,斜めに走行するCHenle線維層は,図2aではほとんど可視化されていないが,RPEを斜めにしてCOCTを撮影した図2bでより顕著に映し出されるようになる.*NozomuHashiya&IchiroMaruko:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕橋谷臨:〒162-8666東京都新宿区河田町C8-1東京女子医科大学眼科学教室C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(3)C239図2OCTの特性a:入射光と同軸に戻る反射光のみが画像化される.b:斜めに走行するCHenle線維層は,RPEを斜めにしてOCTを撮影することで映し出される.傾斜乳頭症候群などでCRPEが自然と傾いている症例でもCHenle線維層はみられる.図3加算平均処理(DRIOCTTriton,トプコン)Volumescan時の加算平均処理前後の画像.Ca:加算なし.全体に画質が荒く,スペックルノイズがみられる.Cb:加算処理後.スペックルノイズが除去され全体の画質が向上している.最大C128枚加算が可能である.図4光減衰特性a:中心窩の硬性白斑のブロックにより後方は光減衰が生じて脈絡膜の描出が不鮮明である.Cb:正常眼垂直断.網膜血管()の後方で光減衰が生じている.図5加齢黄斑変性に対するEDI-OCT(SpectralisOCT,Heidelberg社)の使用例a:脈絡膜の画質が下方で減衰しており,脈絡膜強膜境界部が不鮮明である.b:EDI-OCTでは鏡面像となり上方に焦点が合うことで脈絡膜強膜境界部が鮮明となり,脈絡膜厚の測定が可能となった.図6SS-OCT(PlexElite9000,Zeiss社)による正常眼底像硝子体から脈絡膜,強膜まで強調された高解像度の画像が得られる.図7SS-OCT(XephilioOCT-S1,キヤノン)による広角OCT画像より広角な画角へ.23Cmmの広角・高深達型CSS-OCTである.広角に撮影することで多くの網膜疾患の診断や経過観察や治療戦略に有用である.図8網膜層構造の名称①硝子体,②内境界膜(ILM),③神経線維層,④神経節細胞層,⑤内網状層,⑥内顆粒層,⑦外網状層,⑧外顆粒層,⑨外境界膜(ELM),⑩Cellipsoidzone(EZ),⑪Cinterdigitationzone(IZ),⑫Cfovealbulge,⑬網膜色素上皮(RPE),⑭脈絡膜,⑮脈絡膜強膜接合部.

序説:ベストの治療をめざす! 網膜 OCT・OCTA の使い方

2024年3月31日 日曜日

ベストの治療をめざす!網膜OCT・OCTAの使い方OpticalCoherenceTomographyandOpticalCoherenceTomographyAngiographyfortheBestTreatmentofRetinalDisorders古泉英貴*はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)は近年の高速化,高解像度化,広角化により,従来とは比較にならない高画質の画像を得られるようになり,それなしでの網膜診療は考えられない時代となった.多くの疾患において日々新たな知見の報告があいついでおり,研究面でも花盛りの状況である.ただし,OCT・OCTAに関する総説を改めて見返してみると,研究に関する知見が総花的に盛り込まれている一方,患者の「治療」に特化し,明日からの診療に直接役立つ実践的な総説は意外と少ないことに気がついた.このような背景から,今回は「治療」をキーワードに,難解な研究の話題をできるだけ避け,実臨床で目の前の患者のOCT・OCTA所見をどう読み,どのように解釈し,現存するベストの治療につなげていくかを主眼に本特集を企画した.そのような主旨から,対象疾患は日常診療で遭遇する頻度が比較的高いものに限定し,現時点で一般眼科医の治療対象にならないと考えられる,網膜変性疾患や腫瘍性病変は割愛している.各疾患における異常所見を読み解くには,機器の原理を含めた基本知識をきちんと押さえておく必要がある.OCTに関しては橋谷臨先生・丸子一朗先生(東京女子医科大学),OCTAに関しては宇治彰人先生(宇治眼科)に,網膜疾患の治療を理解するために最低限必要な背景知識,正常所見,知っておくべきアーチファクトなどにつき,わかりやすくご教示いただいた.OCTの進化により透明組織である硝子体が容易に描出可能になったこと,従来はBスキャンのみで評価されてきた網膜硝子体界面をenfaceスキャンを用いて観察することで,実臨床にも有用な新知見が報告されてきている.黄斑前膜,黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群などのOCT所見とそれに基づいた治療の考え方を中心に,森實祐基先生(岡山大学)に詳細に解説いただいた.糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症は日常臨床でもよく遭遇する疾患であり,治療に関連するOCTの読み方は確実に押さえておきたいところである.また,OCTAの進歩が患者の福音にそのまま直結している疾患でもある.糖尿病網膜症は村上智昭先生(京都大学),網膜静脈閉塞症は坪井孝太郎先生(愛知医科大学)に,実践的な観点から解説いただいた.AZOOR,MEWDSなどの網膜外層疾患は遭遇する頻度はあまり高くはないが,病名も所見も混乱しやすく,苦手意識をもつ読者も多いのではないだろ*HidekiKoizumi:琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(1)237

眼瞼基底細胞癌の治療方針の検討

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):223.228,2024c眼瞼基底細胞癌の治療方針の検討大沼貴哉高村浩公立置賜総合病院眼科CTreatmentStrategiesforBasalCellCarcinomaoftheEyelidTakayaOnumaandHiroshiTakamuraCDepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospitalC目的:公立置賜総合病院における眼瞼基底細胞癌(BCC)に対して施行した治療法について検討すること.対象および方法:対象はC13年間に当眼科で治療した眼瞼のCBCCのC9例.5例は,腫瘍を安全域C2Cmmで真皮の深さで切除し,迅速病理検査で切除断端での腫瘍細胞陰性を確認後,皮膚欠損部をCV-Y前進皮弁(V-Yadvancement.ap)を用いて眼瞼前葉のみの眼瞼形成を行った.1例は同様の手順で腫瘍切除し,余剰皮膚を伸展させて再建した.もうC1例は,病変が瞼結膜まで浸潤していたため,眼瞼全層切除を行って瞼板結膜弁とCV-Y前進皮弁を用いて前葉・後葉を再建した.2例は生検の結果,BCCと判明したものの,さらなる治療を希望しなかったため経過観察とした.結果:腫瘍切除後に前葉のみの眼瞼形成を施行したC6例と,眼瞼の前葉・後葉の眼瞼形成を施行したC1例では,術後,整容的および機能的に問題なく経過した.生検のみを施行した症例は皮膚欠損部が肉芽形成で閉鎖し,もうC1例は腫瘍が自然退縮した.全例で再発はなく,腫瘍関連死もみられなかった.結論:BCCは瞼板まで浸潤していることは少ないので治療は眼瞼の前葉のみの切除および眼瞼形成で十分であると考えられた.ただし,術中迅速病理検査を行って切除断端に腫瘍細胞がないことを確認することが重要である.CPurpose:Toreviewthetreatmentmethodsimplementedatourhospitalforbasalcellcarcinoma(BCC)oftheeyelid.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved9casesofeyelidBCCtreatedattheDepartmentofOphthal-mologyofOkitamaGeneralPublicHospitalovera13-yearperiod.In5cases,thetumorwasexcisedatadepthoftheepidermiswithasafetymarginof2Cmm.Aftercon.rmingtheabsenceoftumorcellsthrougharapidpathologi-calCexamination,CeyelidCreconstructionCofCtheCanteriorClamellaConlyCwasCperformedCusingCaCV-YCadvancementC.apCfortheskindefect.In1case,thetumorwasremovedusingasimilarmethodandthesurplusskinwasstretchedandreconstructed.In1caseinwhichthelesionhadin.ltrateduptothepalpebralconjunctiva,full-thicknesseye-lidCexcisionCwasCperformedCandCtheCanteriorCandCposteriorClamellaeCwasCreconstructedCusingCaCtarsalCconjunctivalC.apandadvancement.ap.In2casesinwhichthebiopsycon.rmedBCC,wedecidedtosimplyobservetheprog-ress,asthepatientsrefusedtoundergofurthertreatment.Results:Inthe6casesthatunderwentanteriorlamellareconstructiononlyposttumorexcisionandthe1casethatunderwentbothanteriorandposteriorlamellarecon-struction,nofunctionaloraestheticcomplicationswereobservedpostsurgery.Inthe2casesinwhichonlyabiop-sywasperformed,theskindefectclosedduetogranulationinonecase,andthetumornaturallyregressedintheotherCcase.CInCallCcases,CthereCwereCnoCrecurrencesCorCtumor-relatedCdeaths.CConclusion:SinceCBCCCrarelyCin.ltratesuptothetarsus,weconcludedthattreatmentwithexcisionandanterior-lamella-onlyeyelidreconstruc-tionCisCgenerallyCsu.cient.CHowever,CitCisCcrucialCtoCcon.rmCtheCabsenceCofCtumorCcellsCatCtheCresectionCmarginsCduringsurgeryviaarapidpathologicalexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):223.228,C2024〕Keywords:眼瞼基底細胞癌,腫瘍切除,眼瞼形成,眼瞼前葉.basalcellcarcinoma,tumorresection,eyelidre-construction,anteriorlamellaoftheeyelid.C〔別刷請求先〕大沼貴哉:〒992-0601山形県東置賜郡川西町西大塚C2000公立置賜総合病院眼科Reprintrequests:TakayaOnuma,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospital,2000Nishiotsuka,Nishikawa-machi,Higashiokitama-gun,Yamagata992-0601,JAPANCはじめに基底細胞癌(basalCcellcarcinoma:BCC)は,全身の皮膚悪性腫瘍のなかでもっとも頻度が高く,そのC80%が頭頸部に発生し,さらにそのC20%は眼瞼に発生する1.3).眼瞼悪性腫瘍のなかでもわが国を含むアジア地域では,脂腺癌と並んでそれぞれC30.40%の発症頻度とされC1位,2位を占める4.7).眼瞼悪性腫瘍の治療においては,外科的切除が第一選択とされ,その際には切除範囲を慎重に検討することが必要である.水平方向の切除範囲は安全域(safetymargin)を設定して決定するが,深度については腫瘍の深達度に応じて,眼瞼の前葉と後葉を含む全層切除を行うか,前葉のみ表層切除を行うかを決定する.全層切除と表層切除では腫瘍切除後の眼瞼再建方法の難易度が大きく変わってくる.BCCは,表皮から真皮内に限局して瞼板まで浸潤していることは少ないため前葉のみの切除で十分なことが多いとされる1,8).この点を勘案しての公立置賜総合病院眼科(以下,当科)で治療した眼瞼CBCCの症例について検討したので報告した.CI対象および方法2010年C4月.2023年C3月に当科で眼瞼CBCCと診断されたのはC12例だった.そのうち,2例は患者の希望で他院へ紹介した.1例は手術を希望しなかった.これらのC3例を除いた残りのC9例を対象とした.これらの症例について,年齢,性別,部位,腫瘍のサイズ,腫瘍の臨床像,再発の有無,生存率について検討した.CII結果(表1)C1.年齢年齢はC62.88歳で平均C76.8C±7.9歳であった.C2.性別性別は,男性C6例,女性C3例であった.C3.患側と部位患側は右側C3例,左側C6例であった.部位は上眼瞼C2例,下眼瞼C7例であった.C4.腫瘍のサイズ腫瘍のサイズは,最小でC7C×4Cmm,最大でC10C×9mmであった.C5.腫瘍の臨床像全症例が結節・潰瘍型で,表在型や斑状・強皮症型,破壊型はなかった.C6.治療法症例C1.5は,腫瘍を水平方向は安全域C2Cmmで切除した.深度は真皮の厚さとした.水平方向と深部の切除断端に対して術中の迅速病理検査を施行した.深部断端については眼輪筋の半層を切除して迅速病理検査に提出した.すべての断端に腫瘍細胞が陰性であることを確認した後,皮膚欠損部は皮下茎皮弁を付けたCV-Y前進皮弁(V-YCadvancement.ap)を作製して表層のみの眼瞼形成を行った11)(図1b,c).症例C6は腫瘍切除および術中病理検査を症例C1.5と同様に施行したが,再建には前進皮弁を作製しないで,切除範囲の上方の余剰皮膚の皮下組織を.離して表皮を伸展させて皮膚欠損部を被覆した(図2).症例C7は病変が瞼縁を越えて瞼結膜までの浸潤がみられたので安全域C2Cmmで眼瞼全層切除を行った.眼瞼欠損部は健側の右下眼瞼から瞼板結膜弁を採取して後葉を形成し,前葉はCV-Y前進皮弁で形成した(図3).症例C8とC9は生検を施行した(図4).いずれも病理検査結果がCBCCだったのでさらなる切除および眼瞼形成を勧めたが,とくに症例C9は認知症が進行していたこともあり,2例ともさらなる治療を希望しなかったためそのまま経過観察となった.C7.平均観察期間9症例の平均経過観察期間はC46.7C±35.6カ月,最短経過観察期間はC19カ月,最長経過観察期間はC144カ月であった.C8.術後経過表層のみの切除・眼瞼形成を施行したC6例,眼瞼全層切除・眼瞼形成を施行したC1例はすべて整容的・機能的にも問題はなく経過している(図1~3).結果的に生検のみで経過観察することになった症例C8は肉芽が形成されて皮膚欠損部は閉鎖した.生検のみを施行した症例C9は腫瘍が残存していたが,その後,病変は自然退縮した(図4).C9.再発の有無,生存率全例において再発は認められず,腫瘍関連死はなかった.CIII考按眼瞼悪性腫瘍のなかでCBCCは欧米ではC90%程度と圧倒的に多いが,日本を含めたアジアではCBCCと脂腺癌がそれぞれC40%程度とほぼ同じ頻度である.残りのC10.20%に扁平上皮癌やCMerkel細胞癌などが含まれる4.6).脂腺癌のほとんどは眼瞼の皮脂腺であるマイボーム腺が発生母地であり1,10),増殖速度が速く悪性度も高いため,いったん発症すると表皮側から瞼結膜側まで眼瞼の全層に浸潤することが多い.よって脂腺癌を切除するにあたっては広い安全域を設けて眼瞼を全層切除しなければならない5).それに対してCBCCは皮膚の表皮の最下層にある基底細胞や,毛包を構成する細胞が発生母地で,その増殖は緩徐であり,病変は長期間表皮から真皮内に限局していることが多い.瞼板まで浸潤していることは少ないのでCBCCを切除するにあたっては真皮までの切除で十分であることが多い1,8).腫瘍の切除にあたっては安全域が必要であるが,皮膚科的表1対象症例症例年齢性別局在サイズ長径×短径(mm)治療法経過観察期間(月)再発の有無C1C75男性左下眼瞼C13×5表層切除+皮弁形成C52無C2C84女性右下眼瞼C7×6表層切除+皮弁形成C24無(術後C6年後に肺炎で死亡)C3C77男性右下眼瞼C11×4表層切除+皮弁形成C31無C4C80男性左下眼瞼C6×5表層切除+皮弁形成C43無C5C83男性左下眼瞼C10×7表層切除+皮弁形成C19無C6C76女性左上眼瞼C10×7表層切除+皮膚伸展C22無C7C66女性左下眼瞼C9×6全層切除+眼瞼形成C144無C8C62男性右上眉毛部C10×9生検のみC62無C9C88男性左下眼瞼C7×4生検のみC23無図1表層のみの腫瘍切除と眼瞼形成を施行した症例a:症例C1の術前所見.左下眼瞼の鼻側に不整形で黒色調の病変がみられる.Cb,c:症例C1の術中所見(図の上方が頭側).腫瘍切除跡の耳側に皮弁をデザイン.皮下茎をつけたCV-Y前進皮弁を作製して切除痕へ移動.Cd:症例C1の術後C1週間の所見.Ce:症例C2の術前の所見.右下眼瞼の鼻側に色素に乏しい半球状の病変がみられる.Cf:症例C2の術後C11カ月後の所見.Cg:症例C3の術前の所見.右下眼瞼の中央に不整形で潰瘍形成を伴う病変がみられる.Ch:症例C3の術後C17カ月後の所見.Ci:症例C4の術前の所見.左下眼瞼耳側に黒色調の不整形の病変がみられる.Cj:症例C4の術後C1週間後の所見.創に血餅が付着しているが,外眼角部は形成されている.Ck:症例C5の術前の所見.左下眼瞼中央に比較的大型で不整形,潰瘍形成を伴う病変がみられる.Cl:症例C5の術後C1カ月後の所見.瞼縁にやや変形がみられるが,再発の徴候はない.図2症例6の術前・術後の所見a:術前の所見.左上眼瞼鼻側に潰瘍形成を伴う病変がみられる.Cb:腫瘍切除跡の上方の皮膚を伸展させて欠損部を被覆した.術後C3カ月後の所見.にはBCCで4Cmm以上2),悪性黒色腫ではC10.20Cmmとされているが,眼科的にはCBCCや扁平上皮癌ではC2.3Cmm,脂腺癌や悪性黒色腫ではC5Cmm程度というのが一般的である5,6,8,11).実際,10Cmm程度までの腫瘤に対してはC2.3Cmmで切除しても追加切除が必要になることはほとんどないとされる11).今回,当科では安全域はC2Cmmに設定した.眼瞼は,前葉と後葉の二つの部位から構成され,前葉は皮膚と眼輪筋,後葉は瞼板と眼瞼結膜からなる10,12).腫瘍切除後の眼瞼形成は切除後の組織の欠損の範囲,皮膚のみか眼瞼全層かという深達度によって難易度が異なる.図3症例7の術前・術後の所見a,b:術前の所見.左下眼瞼に潰瘍形成を伴う病変がみられ,瞼結膜側まで病変が浸潤している.Cc:眼瞼を全層で切除し,後葉は健側の右下眼瞼から瞼板結膜弁を採取し,前葉はCV-Y前進皮弁で形成した.術後C12年後の所見.整容的に良好である.今回,当科でのCBCCの治療戦略として意図したのは,BCCが表皮から真皮に限局していることを前提にして腫瘍切除を皮膚のみの深さで行うことである.その際には術中迅速病理検査で切除断端(とくに眼輪筋側の深部断端)に腫瘍細胞がないことを確認することは必須である.腫瘍切除後の眼瞼形成は後葉の形成が不要であるので,欠損部の周囲の眼瞼や.部から皮弁を作製して前葉を形成するのでそれほど煩雑ではなく,術後の眼瞼変形なども少ない.局所麻酔での対応も可能である.今回の症例C1.6はこの方法で治療して全症例とも整容的にも機能的にも問題はなく,再発もなく,有図4生検のみを施行した症例a:症例C8の初診時所見.右眉毛部の鼻側にドーム状の病変がみられる.切除生検を施行した.Cb:症例C8の生検C1週間後の所見.皮下組織までに及ぶ欠損がみられる.Cc:症例C8の生検C18カ月後の所見.欠損部に肉芽が形成され,欠損は修復されている.Cd:症例C9の初診時の所見.左下眼瞼中央に潰瘍形成を伴う病変がみられる.切除生検を施行した.Ce:症例C9の生検C1週間後の所見.病変の残存がみられる.Cf:症例C9の生検C2カ月後の所見.病変は縮小している.用な方法と考えられた.症例C8は病変を核出したのみで,眼瞼形成も行わないとい症例C7は病変が瞼縁を越えて瞼結膜側まで進展していたたう経過になった.結果的には腫瘍を切除するのみで欠損部のめ,眼瞼全層切除を余儀なくされた.眼瞼全層切除後の眼瞼自然な肉芽形成と上皮化を待機するというCopenCtreatment形成は,欠損範囲が瞼裂の幅のC1/3未満であれば単純縫縮,となった.Opentreatmentは母斑や脂漏性角化症などの眼それ以上なら前葉は皮弁作製,後葉は硬い瞼板および粘膜で瞼良性腫瘍で多用されるが,血流が豊富で創傷治癒が良好なある結膜の代用品を他部位から移植して作製しなければなら内眼角付近のCBCCや脂腺癌にも応用したという報告もあない9).後葉形成に硬口蓋粘膜8,13),鼻中隔軟骨,耳介軟骨なる1,11).皮膚欠損に対して自然に肉芽の形成を待つ方法(lais-どを作製したり,Hughes法10,12.14)などのさまざまな術式がCsezfaire)もある12,15).症例C8は経過観察中には再発など増あるが,いずれも手技は煩雑であり一定の経験,熟練を要す悪はみられていないが,腫瘍細胞が残存しているリスクはある.るので注意が必要である.症例C9は生検のみで終了したが,その後自然退縮した.神経芽腫,腎細胞癌,悪性黒色腫,リンパ腫,BCC,大腸癌,肺癌などの悪性腫瘍が自然縮小したという報告もあるが,それはC60,000.100,000例にC1例程度とされ,非常にまれな状況であるので最初から自然退縮を期待するという方針は適切ではないと思われる16.18).今回,検討した症例は経過観察中の再発はなかった.基本的にCBCCは術中迅速病理検査で切除断端に腫瘍細胞がないことを確認することを条件にすれば眼瞼の前葉のみの操作で腫瘍のコントロールは可能であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中山知倫,渡辺彰英:眼瞼の腫瘤:脂腺癌・基底細胞癌.あたらしい眼科34:1113-1118,C20172)帆足俊彦,石川雅士,上原治朗ほか:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第C3版基底細胞癌診療ガイドラインC2021.日皮会誌131:1467-1496,C20213)ShiY,JiaR,FanX:Ocularbasalcellcarcinoma:abriefliteraturereviewofclinicaldiagnosisandtreatment.OncoTargetsTherC10:2483-2489,C20174)TakamuraCH,CYamashitaH:ClinicopathologicalCanalysisCofCmalignantCeyelidCtumorCcasesCatCYamagataCUniversityHospital:StatisticalCcomparisonCofCtumorCincidenceCinCJapanCandCinCotherCcountries.CJpnCJCOphthalmolC49:349-354,C20055)渡辺彰英:脂腺癌の臨床.あたらしい眼科C32:1717-1718,20156)林暢紹:基底細胞癌の臨床.あたらしい眼科C34:1743-1744,C20177)YuCSS,CZhaoCY,CZhaoCHCetal:ACretrospectiveCstudyCofC2228CcasesCwithCeyelidCtumors.CIntCJCOphthalmolC11:C1835-1841,C20188)大湊絢,尾山徳秀,張大行ほか:原発性上皮型眼瞼部悪性腫瘍の切除後の再建術についての検討.臨眼C67:C1295-1298,C20139)高村浩:眼瞼腫瘍切除と眼瞼形成.新CESCNOWCNo.2外来小手術外眼部手術達人への道.山本哲也,江口秀一郎,ビッセン宮島弘子ほか編,メジカルビュー社,p136-143,C201010)中山知倫:眼表面に配慮した眼瞼腫瘍切除再建術.あたらしい眼科38:33-41,C202111)古田実:眼瞼腫瘍切除術.あたらしい眼科C29:891-898,C201212)柿崎裕彦:眼にやさしい眼瞼腫瘍の切除後再建.臨眼C66:C1701-1708,C201213)福井歩美,渡辺彰英,中山知倫ほか:眼瞼脂腺癌の臨床像と再建術後合併症の検討.日眼会誌124:410-416,C202014)真島麻子,後藤浩,木村圭介ほか:眼瞼脂腺癌に対するHughes変法の治療成績.日眼会誌121:125-129,C201715)HarringtonJN:ReconstructionCofCtheCmedialCcanthusCbyCspontaneousgranulation(Laissez-Faire):aCreview.CAnnOphthalmolC14:956-960,C963-966,C969-970,C198216)河北一誠,武田圭佐,田中友香ほか:自然消退した上行結腸癌のC1例.日消外会誌52:106-111,C201917)村西佑介,上島康生,長谷川浩一ほか:自然退縮がみられた肺多形癌のC1例.日呼吸誌1:498-501,C201218)眞鍋公,柏木孝之:Bowen病を思わせた表在型基底細胞上皮種のC1例および名寄市立総合病院皮膚科における基底細胞上皮種の統計的観察.名寄市病誌6:40-45,C1998***