考える手術.監修松井良諭・奥村直毅角膜内皮移植の術式選択―DSAEKかDMEKか谷口紫東京歯科大学市川総合病院眼科角膜移植が誕生して100年以上が経過した.長い間,全層角膜移植が標準治療であったが,続発性緑内障や拒絶反応,創部離開,縫合糸に起因する感染症や乱視などの合併症と隣り合わせであった.現在は,低侵襲かつ拒絶反応リスクが低く,視力回復が早いパーツ移植が普及し,角膜移植の主流となっている.なかでも水疱性角膜症に対する角膜内皮移植の割合は近年増加しており,筆者の病院でも角膜移植全体の4割強を占めるようになった.ここでは,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)とDes-ムで厚み150μm程度に切離した角膜内皮移植片を,約8.0mm径でくりぬいて用いる.レシピエントの角膜内皮とDescemet膜を.離したのち,角膜内皮移植片を引き込み法やインサーターを用いて眼内に引き込む.前房内を全空気置換し,10~15分静置後に眼圧調整を行って終了となる(動画1).DMEKはDSAEKと同時期の2006年にMellesが報告し誕生した.グラフトはDescemet膜と角膜内皮層のみであるため,厚さは約20μmである.グラフトはドナーのDescemet膜・角膜内皮層を注意深く実質から.離して作成する.アジア人種は虹彩色素が強いため,トリパンブルーでグラフトをしっかりと染色しておくと術中操作が容易となる.ドナーパンチで約8.0mm径に打ち抜き,.離し葉巻状に巻いているグラフトをDMEK専用のインジェクターに装.し,水流でレシピエントの前房内に挿入する.10-0ナイロン糸で創部を縫合し,前房内でnontouchtechniqueでグラフトを広げ,前房内を20%SF6で置換し終了する(動画2).聞き手:白内障も併発している場合は,どのような手術期的手術が安全と考えています.しかし,患者の対眼の戦略を立てますか?状況,日常生活動作(ADL),自宅の遠さなども含めて谷口:角膜内皮移植を行う際には,前房スペースをしっ総合的に判断して,水晶体再建術と角膜内皮移植を同時かり確保し操作性を向上させるため,ある程度の年齢でに行うこともあります.二期的に施行する場合は,初回白内障がある場合には水晶体再建術も行います.水疱性の水晶体再建術のみでは視力回復を望めないばかりか,角膜症の角膜は浮腫性混濁をきたしており,手術中の視角膜浮腫がより一層顕著になり視力が低下するため,事認性が劣ります.確実に眼内レンズ(intraocularlens:前によく病状説明を行う必要があります.施設によってIOL)を水晶体.内に収めることを優先するために,二角膜移植までの待期期間は異なりますが,角膜内皮移植(71)あたらしい眼科Vol.40,No.12,202315750910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術を予定する1~2カ月前に水晶体再建術を施行するのが適切と考えます.当院では国内ドナー角膜での移植希望例では,待機順番の進む状況をみながら,水晶体再建術の時期を考えます.聞き手:DMEKの特徴やメリットはなんですか?谷口:DMEKの特徴は術後の視力の回復が早いことです.Maierら1)が報告したDMEKの長期予後データでは,DMEKはDSAEKと比較して術後の視力回復効果が高い一方,DSAEKよりもre-babblingの回数が多いという結果でした.日本ではレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症に代表されるように,眼軸が短く前房が浅い患者が多く,さらに硝子体圧も高い傾向にあることからグラフトを前房内で広げる動作がむずかしいため,DMEKが発表された当初は,日本では普及しないのではないかといわれたこともありました.これまでDMEKは,難易度の高いDescemet膜.離の必要がないプレピールドナーの普及や,眼内でグラフトの裏表を認知しやすいように非対称性の目印をおくSスタンプ(図1)の導入など,グラフト側の改善がなされてきました.また,小林氏DMEK鑷子(イナミ)など手術器具の登場や,角膜径に応じて適切なDMEKグラフト径を選択すること,硝子体圧を下げる目的でホナンバルーンを使用した眼球圧迫など手術面の工夫もあり,現在では日本人の眼においても安全に施行できることがわかり,手術数が増加しています.聞き手:DMEKのグラフトを前房内で広げるコツはなんでしょうか?また,表裏が逆のときはどうしますか?谷口:ガラス製の移植片挿入器具にグラフトを格納する時点で,ダブルロールの形にできると,前房内挿入後もスムーズにグラフトを展開できます.前房を浅くして,グラフトを展開します.小さめの眼に大きめのグラフト図1Sスタンプ移植片の表裏が正しいと「S」が判読できる.では展開しにくいため,無理をせずに少し小さなグラフト(7.75mm径や7.5mm径)を選択するのもコツです.術中は思いがけない水流でグラフトが創方向に押し出されたり折りたたまれたりするので,注意深く操作します.移植片の折りたたまれ方にはさまざまなパターンがあるので,このパターンのときはこう操作するということは,教科書で事前に学んでおくといいでしょう.また,グラフトの表裏は前述のようにSスタンプの導入で判断がすぐにつくようになりました.自施設でグラフトを作製しスタンプがない場合は,ピオクタニンで非対称的なマーキングをすることで代替になります.術中の前眼部光干渉断層計の使用やライトガイドができる施設であれば,これも判断の一助となります.表裏反対の時は,前房をBSSで深くして,ヒーロン針でBSSの水流をつくって,グラフトをひっくり返します.聞き手:DMEKとDSAEKはどちらも適応疾患は水疱性角膜症ですが,使い分けはどのようにしたらよいのでしょうか?あえてDSAEKを選択したほうがいい患者はどのような患者ですか?谷口:本来,水疱性角膜症であればDSAEKもDMEKも適応であるはずですが,術者要因として,DMEKはラーニングカーブもあることから,ある程度DSAEKを経験した術者がやるべきだといわれています.また,患者要因として,眼内レンズ縫着眼や十分な縮瞳が得られない場合はDMEKはむずかしいとされています.虹彩や水晶体.による隔壁がない眼では,DMEKではグラフトが薄いため硝子体腔に落下するリスクがありますし,前房水を抜いて前房を潰してグラフトの展開を試みても,硝子体腔からの水が回ってうまくいかないことがあります.また,緑内障術後眼では,周辺虹彩切除術のPIウィンドウやチューブシャントの存在により,眼内の水流が通常と異なることがグラフト展開に影響するようで,より一層の注意が必要です.緑内障術後の10mmHgを下回る低眼圧眼では,術後内皮グラフトが.がれやすく,その場合は,眼内ガスは滞留性のよいSF6を選択したり,10-0ナイロン糸で移植片縫合を検討したりします.どこまでDMEKが適応となりうるかは,今後も検証と議論が重ねられていくと思われます.文献1)MaierAB,MilekJ,JoussenAMetal:Systemicreviewandmeta-analysis:OutcomesafterDescemetmembraneendothelialkeratoplastyversusultrathinDescemetstrip-pingautomatedendothelialkeratoplasty.AmJOphthal-mol245:222-232,20231576あたらしい眼科Vol.40,No.12,2023(72)