‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

ラタノプロスト,カルテオロール併用からラタノプロスト/ カルテオロール配合点眼薬への変更3 年間の調査

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):946.949,2023cラタノプロスト,カルテオロール併用からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更3年間の調査坂田苑子*1井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CThree-YearSafetyandE.cacyofSwitchingtoLatanoprost/CarteololFixedCombinationfromConcomitantuseSonokoSakata1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(LCFC)のC3年間の効果と安全性を後向きに検討した.対象および方法:ラタノプロストとカルテオロール中止後CLCFCに変更した原発開放隅角緑内障,高眼圧症C43例を対象とした.変更前と変更後C6カ月ごとの眼圧とC12カ月ごとの視野をC3年間評価した.中止例を調査した.結果:眼圧は変更12カ月後C14.7±1.9CmmHg,24カ月後C14.5±2.3CmmHg,36カ月後C13.8±2.7CmmHgで,変更前C15.0±2.6CmmHgと同等だった.Humphrey30-2視野CMD値は変更C36カ月後(.7.22±4.37CdB)のみ変更前(.6.95±4.58CdB)に比べて進行した.中止例はC14例(32.6%)で,副作用C5例(結膜炎C2例,結膜充血,異物感,眼瞼炎各C1例)などだった.結論:併用からCLCFCへの変更後C3年間で眼圧に有意な差は認めず,安全性はおおむね良好だった.CPurpose:ToCretrospectivelyCinvestigateCtheCsafetyCandCe.cacyCofClatanoprost/carteololC.xedCcombination(LCFC)administeredovera3-yearperiod.PatientsandMethods:Thisretrospectivestudyinvolved43patientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoswitchedtoLCFCfromtheconcomitanttherapyoflatanoprostCandCcarteolol.CIntraocularpressure(IOP)andCvisual.eld(VF)wereCevaluatedCatCbaselineCandCforC3CyearsCpostswitch(i.e.,CIOPCatCbaselineCandCeveryC6months;VFCatCbaselineCandCeveryC12months).CDropoutCpatientsCwereCinvestigated.CResults:AtCbaselineCandCatC12,C24,CandC36CmonthsCpostCswitch,CIOPCwasC15.0±2.6CmmHg,C14.7±1.9CmmHg,C14.5±2.3CmmHg,CandC13.8±2.7CmmHg,Crespectively,CthusCillustratingCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCIOPCpostCswitchCfromCthatCatCbaseline.CTheCVFCmeanCdeviationvalue(Humphrey30-2)progressedConlyCafter36-months(.7.22±4.37CdB)comparedCwithCthatCatbaseline(.6.95±4.58CdB).COfCtheC43Cpatients,C14(32.6%)droppedout,andadversereactionsoccurredin5ofthedropoutpatients(conjunctivitisin2patients,andconjunctivalChyperemia,CforeignCbodyCsensation,CandCblepharitisCinC1Cpatienteach).CConclusions:ThereCwasCnoCsigni.cantCchangeCinCIOPCatC3CyearsCafterCswitchingCfromCconcomitantCtherapyCtoCLCFC,CandCtheCsafetyCofCusingCLCFCwasfoundtobesatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):946.949,C2023〕Keywords:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,眼圧,副作用,視野障害,長期.latanoprost/carteolol.xedcombination,intraocularpressure,adversereaction,visual.elddefects,long-term.Cはじめに緑内障診療ガイドライン第C5版では,緑内障点眼薬治療において目標眼圧に達していない場合は点眼薬の変更あるいは追加することが推奨されている1).点眼薬の追加を繰り返すと,多剤を併用することになる.多剤併用患者では,点眼薬数が増加するに従ってアドヒアランスが低下することが報告されている2)ので,アドヒアランスを考慮する必要がある.アドヒアランス向上をめざして配合点眼薬が開発された.ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を含有するラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が,2017年C1〔別刷請求先〕坂田苑子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SonokoSakata,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-SurugadaiChiyoda-kuTokyo101-0062,JAPANC946(98)月より使用可能となった.そこで筆者らは,ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を併用使用している患者で,両点眼薬を中止してラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更した際のC3カ月間3),1年間4)の眼圧下降効果と安全性について報告した.これらの報告でラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の良好な眼圧下降効果,高い安全性,患者のアドヒアランスの向上が示された.しかし,緑内障点眼薬治療は長期にわたるため,長期的な効果と安全性の検討が必要である.そこで,今回これらの報告3,4)と同じ患者を対象としてラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬のC3年間の眼圧下降効果,視野への影響,安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2017年C1.9月に井上眼科病院に通院中の外来患者で,ラタノプロスト点眼薬(キサラタン,ファイザー)(夜C1回点眼)と持続性カルテオロール点眼薬(ミケランCLA,大塚製薬)(朝C1回点眼)をC1カ月間以上併用治療している原発開放隅角緑内障と高眼圧症患者を対象とした.炭酸脱水酵素阻害薬,a1遮断薬,Ca2作動薬,ROCK阻害薬の併用も可能とするが,点眼薬変更前からC1カ月間以上同一薬剤で治療中の場合に限定した.ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を中止し,washout期間なしでラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(ミケルナ,大塚製薬)(朝C1回点眼)に変更した.使用中のほかの点眼薬は継続とした.眼圧の変化,視野への影響,有害事象を評価した.眼圧に関しては,変更前と変更C6,12,18,24,30,36カ月後のGoldmann平眼圧計で測定した眼圧を調査し比較した.変更36カ月後の眼圧変化量を調査した.具体的には変更C36カ月後の眼圧が変更前と比べてC2CmmHg以上下降,2CmmHg未満の変化,2CmmHg以上上昇のC3群に分けた.視野への影響は,変更前と変更C12,24,36カ月後に施行したCHumphrey視野検査プログラム中心C30-2CSITAStandardのCmeandeviation(MD)値を調査し比較した.自動視野計データファイリングシステムCBeeFilesを使用し,変更前から変更C36カ月後までの視野のCMDスロープを算出し,進行の有無を内蔵ソフトで判定した.変更C36カ月後までの副作用,投与中止例を調査した.統計学的解析はC1例C1眼で行った.両眼該当症例は投与前眼圧の高い眼,眼圧が同値の場合は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.変更前と変更C6,12,18,24,30,36カ月後の眼圧,変更前と変更C12,24,36カ月後のCMD値の比較にはCANOVA,BonferroniCandDunn検定を用いた.統計学的検討における有意水準は,BonferroniandDunn検定において補正を行ったため眼圧の比較はCp<0.0024,MD値の比較はp<0.0083とした.本研究は井上眼科病院倫理審査委員会で承認された.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.CII結果対象はC43例C43眼で,性別は男性C21例,女性C22例,年齢はC67.9C±11.1歳(平均値C±標準偏差),38.90歳だった.病型は原発開放隅角緑内障(狭義)25例,正常眼圧緑内障17例,高眼圧症C1例だった.使用点眼薬数はC2.5C±0.7剤,2.4剤だった(表1).MD値はC.6.95±4.58CdB,C.16.53.+0.75CdBだった.眼圧は変更C6カ月後C14.7C±2.2mmHg,12カ月後C14.7C±1.9mmHg,18カ月後C14.4C±2.5CmmHg,24カ月後C14.5C±2.3mmHg,30カ月後C13.8C±2.3CmmHg,36カ月後C13.8C±2.7mmHgで,変更前C15.0C±2.6CmmHgと統計学的に有意な差を認めなかった(図1).変更C36カ月後の眼圧変化量は,変更前と比べてC2CmmHg以上下降C11例(38.0%),2CmmHg未満C15例(51.7%),2mmHg以上上昇C3例(10.3%)だった(図2).MD値は変更C12カ月後C.7.12±4.05CdB,24カ月後C.7.20C±4.37CdB,36カ月後C.7.22±4.37dBで,変更前C.6.95±4.58CdBと比べてC36カ月後のみが有意に進行していた(p=0.0004)(表2).変更C36カ月後までのCMDスロープが得られた症例はC21例で,MDスロープが有意に悪化していたのはC4例(19.0%)だった.副作用はC5例(11.6%)で出現し,内訳は変更C5日後に異物感,変更C3カ月後に眼瞼炎,変更C6カ月後に結膜充血,変更C14カ月後に結膜炎,変更C32カ月後に結膜炎の各C1例だった.投与中止例はC14例(32.6%)で,内訳は副作用C5例,転医C3例(変更C12カ月後,変更C27カ月後,変更C32カ月後),眼圧上昇C2例(変更前C16CmmHgが変更C3カ月後C22CmmHg,変更前C18CmmHgが変更C19カ月後C21CmmHg),白内障手術施行C2例(変更C19カ月後,変更C22カ月後),来院中断C1例(変更C29カ月後),被験者都合C1例(変更C9日後)だった.副作用が出現した症例では,異物感と結膜充血の症例はラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬を中止し,ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬に戻したところ症状は消失した.眼瞼炎の症例は,ラタノプロスト点眼薬のみに変更したところ症状は消失した.結膜炎の症例は,2例ともラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬を中止したところ症状は消失した.そのうちのC1例は眼圧が上昇したため,その後ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を併用使用した.変更C3カ月後に眼圧が上昇した症例では,ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬に戻したところ眼圧はC14CmmHgに下降した.変更C19カ月後に眼圧が上昇した症例では,リパスジル点眼薬を追加したと表1対象の使用薬剤薬剤数使用薬剤症例数C2ラタノプロスト+カルテオロールC25Cラタノプロスト+カルテオロール+ブリンゾラミドC73ラタノプロスト+カルテオロール+ブリモニジンCラタノプロスト+カルテオロール+ドルゾラミドC32ラタノプロスト+カルテオロール+ブナゾシンC1Cラタノプロスト+カルテオロール+ブリンゾラミド+ブリモニジンC24ラタノプロスト+カルテオロール+ブリンゾラミド+ブナゾシンC3CmmHg20181614121086420n=39変更前変更6カ月後表2変更前後のMD値MD値(dB)変更前(n=31)C.6.95±4.58変更C12カ月後(n=22)C.7.12±4.05変更C24カ月後(n=23)C.7.20±4.37変更C36カ月後(n=21)C.7.22±4.37BonferroniandDunn検定,*p<0.0083ころ眼圧はC15CmmHgに下降した.CIII考按(文献C3より作成)CNSn=3814.4±2.5n=3313.8±2.3n=3613.8±2.7n=31n=29変更変更変更変更変更12カ月後18カ月後24カ月後30カ月後36カ月後図1変更前後の眼圧BonferroniandDunn検定.2mmHg以上上昇(3例,10.3%)*図2変更36カ月後の眼圧変化量今回ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を中止して,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更したところ,36カ月間にわたり眼圧は変更前と比べて統計学的有意差はなく,安定した値であった.良田らはプロスタグランジン関連点眼薬とCb遮断点眼薬を中止して,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更したところ,眼圧は変更前(13.8C±1.3mmHg)と変更C3カ月後(13.7C±2.4CmmHg)で同等だったと報告した5).今回の調査では,変更前後の薬剤成分が同一であることが眼圧の維持に寄与したと考えられる.しかし,変更により眼圧が上昇し,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が中止となった症例もC2例存在したので,変更後の注意深い経過観察が必要である.今回の変更と同様の組み合わせによる長期的な効果と安全性の報告はない.筆者らはラタノプロスト点眼薬とチモロール点眼薬を中止して,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬に変更した症例のC3年間の効果と安全性を報告した6).変更前後の眼圧は変更前と変更C6,12,18,24,30カ月後は同等で,変更C36カ月後は変更前に比べて有意に下降していた.変更C36カ月後の眼圧を変更前と比べるとC2CmmHg以上下降C13%,2CmmHg未満C77%,2CmmHg以上上昇C10%だった.今回も変更C36カ月後の眼圧を同様に比較するとC2mmHg以上下降C38.0%,2CmmHg未満C51.7%,2CmmHg以上上昇C10.3%だった.眼圧が上昇したり下降したりする症例もあり,変更後も眼圧の推移には注意を要する.今回の症例での変更前後のCMD値の比較では,変更前と変更C12,24カ月後は同等だったが,36カ月後には有意に進行していた.CollaborativeCNormalCTensionCGlaucomaStudy(CNTGS)においても,治療により眼圧下降C30%を達成していてもC3年間で約C20%の症例で視野障害が進行している7).そのため変更C36カ月後のCMD値の進行は今回の点眼薬の変更が原因ではないと考えられる.今回のC36カ月間の検討でもC19.0%の症例でCMDスロープが有意に悪化していた.長期的な経過観察におけるCMD値の進行はある程度は仕方がないと考える.しかし,今回の症例では,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更後に視野障害進行により中止となった症例はなく,臨床的には視野への影響はおおむね良好である.投与中止例は今回はC32.6%だった.ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬への変更の報告6)での投与中止例はC38.3%で,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬とラタノプロスト/チモロール配合点眼薬はほぼ同等の安全性を有すると考えられる.今回の症例での副作用は異物感,眼瞼炎,結膜充血,結膜炎で,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の特定使用成績調査の中間解析結果8)に報告されている副作用と類似していた.また,今回の副作用はいずれも重篤ではなく,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の中止により症状が速やかに消失したので,安全性は良好であると考えられる.しかし,変更C12カ月後以降にも結膜炎がC2例出現しており,長期に使用してから副作用が出現する可能性もある.長期的に慎重に経過観察を行う必要がある.ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬をラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更後のC36カ月間の経過を後ろ向きに調査した.眼圧はC36カ月間にわたり安定し,安全性はおおむね良好だった.このような点眼薬の変更は副作用が出現しないかぎりアドヒアランスの面からも有効で,推奨できる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20093)InoueK,ShiokawaM,IwasaMetal:Short-terme.cacyandCsafetyCofCaClatanoprost/carteololC.xedCcombinationCswitchedCfromCconcomitantCtherapyCtoCinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertention.CJGlaucomaC27:1175-1180,C20184)正井智子,井上賢治,塩川美菜子ほか:ラタノプロスト+カルテオロールからラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与.あたらしい眼科C36:804-809,C20195)良田浩氣,安樂礼子,石田恭子ほか:カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼液の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科C36:1083-1086,C20196)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:E.cacyandsafetyofswitchingCtoClatanoprost0.005%-timololCmaleate0.5%C.xed-combinationCeyedropsCfromCanCun.xedCcombinationCfor36months.ClinOphthalmolC8:1275-1279,C20147)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmolC126:498-505,C19988)山本哲也,真鍋寛,冨島さやかほか:カルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼液(ミケルナ配合点眼液)の使用実態下における安全性と有効性特定使用成績調査の中間解析結果.臨眼C75:449-461,C2021***

緑内障実臨床におけるアイベータとアイラミドの有用性・ 安全性・認容性について

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):939.945,2023c緑内障実臨床におけるアイベータとアイラミドの有用性・安全性・認容性について新田耕治*1堂本美雪*1佐々木允*1杉山和久*2*1福井県済生会病院眼科*2金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室CTheSafety,E.cacy,andAcceptabilityofAIBETAandAILAMIDECombinationOphthalmicSuspensionforGlaucomainReal-WorldClinicalPracticeKojiNitta1),MiyukiDomoto1),MakotoSasaki1)andKazuhisaSugiyama2)1)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScienceC目的:アイベータ(ブリモニジン酒石酸塩・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬)およびアイラミド(ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬)の実臨床における有用性・安全性・認容性を比較検討すること.対象および方法:2020年C1月.2022年C5月に福井県済生会病院でアイベータあるいはアイラミドを開始した患者を対象とし,6カ月後までの眼圧,眼圧下降率と有害事象の頻度,アンケート調査による点眼のさし心地などについて検討した.結果:アイベータ群(96例C96眼)は,プロスタノイドCFP受容体作動薬(以下,FP)に追加した症例がもっとも多く,一方,アイラミド群(91例C91眼)はCFPあるいはプロスタノイドCEP2受容体選択性作動薬にアイラミドを追加した症例がもっとも多かった.使用後眼圧値は,両群とも開始前よりすべての時点で有意に下降した.眼圧値の両群比較では,6カ月後でアイベータ群では有意に低値であった.眼圧下降率は,アイベータ群ではC6カ月後C19.4%,アイラミド群は6カ月後C14.5%であった.追加成分別の眼圧下降率は,2成分追加ではアイベータ群C20.1%,アイラミド群C17.5%であった.点眼のさし心地,点眼後の刺激感,結膜充血,点眼後の見え方への影響などに関しては,アイベータ群のほうが認容性は良好であった.結論:実臨床における有用性は両者で同等であり,安全性・認容性の点ではアイベータ群のほうが良好であった.CPurpose:ToCevaluateCtheCsafety,Ce.cacy,CandCacceptabilityCofCAIBETACandCAILAMIDECCombinationCOph-thalmicSuspension(Senju)eyedropsforthetreatmentofglaucoma.Subjectsandmethods:ThisstudyinvolvedglaucomapatientsinwhomtreatmentwithAIBETAorAILAMIDEwasinitiatedbetweenJanuary2020andMay2022.CInCallCpatients,CweCexaminedCintraocularpressure(IOP)C,CfrequencyCofCadverseCevents,CandCcomfortCofCusingCtheeyedropsbyquestionnaire.Results:IntheAIBETAgroup(96eyeof96cases)C,themajorityofpatientswereadditionallyprescribedprostanoidFPreceptoragonists(FP)C.IntheAILAMIDEgroup(91eyesof91cases),themajorityCofCpatientsCwereCadditionallyCprescribedCFPCorCaCselectiveCprostanoidCEP2CreceptorCagonist.CAtCallCtimeCpointsCafterCtheCstartCofCtherapy,CIOPCsigni.cantlyCdecreasedCinCtheCbothCgroups.CAtC6CmonthsCafterCtheCstartCofCtherapy,IOPwassigni.cantlylowerintheAIBETAgroupthanAILAMIDEgroup.At6monthsafterthestartoftherapy,theIOPreductionratewas19.4%intheAIBETAgroupand14.5%intheAILAMIDEgroup.TheIOPreductionrateinpatientswhoreceivedtwoadditionalcomponentwas20.1%intheAIBETAgroupand17.5%intheCAILAMIDECgroup.CPatientCacceptabilityCwasCbetterCinCtheCAIBETACgroupCthanCinCtheCAILAMIDECgroupCinCtermsofcomfortandirritationoftheeyedrops.Conclusions:Thee.cacyinclinicalpracticewassimilarforbothgroups,yetthesafetyandacceptabilitywerebetterintheAIBETAgroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(7):939.945,C2023〕Keywords:アイベータ,アイラミド,処方パターン,眼圧下降効果,認容性.Aibeta,Ailamide,prescriptionpat-terns,intraocularpressureloweringe.ect,acceptability.C〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋C7-1福井県済生会病院眼科Reprintrequests:KojiNitta,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospital,7-1WadanakamachiFunabashi,Fukui-city,Fukui918-8503,JAPANCアイベータ配合点眼液(以下,アイベータ)がC2019年C12月に,0.1%ブリモニジン酒石酸塩とC0.1%ブリンゾラミドを配合したアイラミド配合点眼(以下,アイラミド)がC2020年C6月に上市された.緑内障患者を長期間管理する場合,眼圧下降効果の面で治療を強化する場合もあれば,点眼による有害事象のために治療方針を見直すこともある.また,濾過手術などの観血的手術を施行し一時的に眼圧下降効果を認めても,患者によってはその後眼圧が上昇し治療強化のために点眼再開を考慮しなければならないこともある.今回筆者らは,アイベータおよびアイラミドが実臨床においてどのような処方パターンで使用され,どの程度の眼圧下降効果が得られるかなど薬剤の有用性について評価した.また,アイベータおよびアイラミドの有害事象の頻度など,安全性と点眼の使用感などの認容性についてもあわせて比較検討した.CI対象および方法本研究は,診療録から調査した後ろ向き研究である.ヘルシンキ宣言に従い,福井県済生会病院倫理委員会での承認を得て実施された.対象は,2020年C1月.2022年C5月に福井県済生会病院を受診した緑内障患者のうち,主治医が治療強化を必要と判断しアイベータあるいはアイラミドが開始された患者を対象とした.本検討に際して対象とした選択基準は,つぎのとおりである.1)治療強化時の眼圧がC21CmmHg以下の患者.2)直近1年以内にレーザー治療を含む緑内障手術の既往のない患者.3)緑内障治療薬による有害事象(prostaglandin-associ-atedperiorbitopathy:PAPなどによる)が原因で点眼を継続できなくなった切り替え患者.除外基準は,つぎのとおりである.1)治療強化時の眼圧がC22CmmHg以上の患者.2)角膜や網膜疾患を有する患者(表1).評価項目は,アイベータあるいはアイラミドを開始してC1カ月後,3カ月後,6カ月後の眼圧値,眼圧下降率とした.また,アイベータあるいはアイラミドを開始後にさらに治療を強化した場合や有害事象によりアイベータあるいはアイラミドを継続できなかった場合を死亡と定義し,両群の生存率や中止した原因についても検討した.なお,中止症例に関しては,点眼を継続できた期間の眼圧データに関しては解析対象とした.また,両群の有害事象の頻度も比較検討した.認容性に関しては,患者にアンケート調査を施行した(調査症例の患者に対して別途行った)(表2).質問内容は,CQ1.点眼の点し心地はどうですか?CQ2.点眼後にしみるなどの刺激感がありますか?CQ3.点眼後に充血しますか?CQ4.点眼後にかゆみや腫れがありますか?CQ5.点眼後に霞むなど見にくくなることがありますか?のC5問とし,アイベータあるいはアイラミドを使用している患者に尋ねた.SD法(5段階での評価尺度:1点が一番悪い結果)により各質問に該当する点数を患者自身が〇で囲み,両群の点数を評価した.経時変化の統計解析には,点眼開始前の値を基準としたDunnett検定を行った.両群の比較にはunpaired-t検定を行った.生存解析にはCKaplan-Meier法による生命表解析を行った.統計解析には,SPSSを使用し,統計的有意水準は5%とした.データの表示は平均値±標準偏差とした.CII結果解析対象は,アイベータ群C96例C96眼(男C50例,女C46例),アイラミド群C91例C91眼(男C43例,女C48例)である.臨床的背景は表3のとおりである.アイラミド群はアイベータ群と比較して,緑内障は進行している症例群で緑内障点眼成分数も有意に多かった.開始前の眼圧に両群で有意差は認めなかった.今回,アイベータあるいはアイラミドを使用された処方パターンは表4,5のとおりである.アイベータ群では,プロスタノイドCFP受容体作動薬(以下,FP)に追加(45眼)がもっとも多く,ついで,以前の緑内障レーザー治療あるいは手術を機に点眼をすべて中止し術後の経過に応じて点眼治療を再開する際にCPAPによる顔貌の変化を気にするためにアイベータを開始したパターンが18眼あった.一方,アイラミド群はCFPあるいはプロスタノイドCFP2受容体選択的作動薬(以下,EP2)に追加(25眼)がもっとも多く,ついでCFPもしくはCEP2とCb遮断薬を併用あるいはCFP/Cb配合薬を使用した状態にアイラミド追加(23眼)が多かった.使用後眼圧値は,アイベータ群ではC1カ月後C12.0CmmHg,3カ月後C11.6CmmHg,6カ月後C11.6CmmHgで開始前よりすべての時点で有意に下降した(p<0.0001).アイラミド群でもC1カ月後C12.7mmHg,3カ月後C12.4mmHg,6カ月後12.5CmmHgで開始前よりすべての時点で有意に下降した(p<0.0001).また,眼圧値の両群比較では,6カ月後でアイベータ群では有意に低値であった(p=0.0450)(図1).眼圧下降率は,アイベータ群ではC1カ月後C19.8%,3カ月後C20.8%,6カ月後C19.4%で,アイラミド群はC1カ月後C14.8%,3カ月後C15.6%,6カ月後C14.5%で,3カ月後の眼圧下降率に有意差を認めた(p=0.0400).追加成分別の眼圧下降率は,1成分追加ではアイベータ群C14.7%,アイラミド群C9.7%であった.2成分追加ではアイベータ群C20.1%,アイラミド群17.5%であった.両群には有意差を認めなかったが,1成分表1選択基準と除外基準【選択基準】1)治療強化時の眼圧がC21CmmHg以下の患者2)直近C1年以内にレーザー治療を含む緑内障手術の既往のない患者3)緑内障治療薬による有害事象が原因で点眼を継続できなくなった患者(PAP:Prostaglandin-associatedperiorbitopathyなどによる)【除外基準】1)治療強化時の眼圧がC22CmmHg以上の患者2)角膜や網膜疾患を有する患者表2認容性に関するアンケート項目Q1.点眼の点し心地はどうですか?CQ2.点眼後にしみるなどの刺激感がありますか?CQ3.点眼後に充血しますか?CQ4.点眼後にかゆみや腫れがありますか?CQ5.点眼後に霞むなど見にくくなることがありますか?表3臨床的背景アイベータ群(n=96)アイラミド群(n=91)p値開始後経過観察期間C11.9±9.7カ月(3.C31カ月)C13.6±4.3カ月(3.C25カ月)C0.1861開始前眼圧C14.8±3.2CmmHg(8.C21mmHg)C15.1±3.2CmmHg(9.C21mmHg)C0.5909年齢C70.5±10.4歳(C27.C90歳)C66.6±13.2歳(C39.C91歳)C0.0098HFA30-2MD値C.7.9±8.7CdB(C2.09.C.35.0dB)C.12.07±9.2CdB(C1.63.C.32.49CdB)C0.0015開始直前の薬剤成分数C0.90±1.1C1.93±1.0<C0.0001病型CNTG65眼52眼C0.0158CPOAG18眼22眼CPE4眼12眼CSOAG3眼5眼CPACG6眼0眼NTG:正常眼圧緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,PE:偽落屑,SOAG:続発開放隅角緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障.追加でもC2成分追加でもアイベータ群のほうが平均眼圧下降率は良好であった.アイベータあるいはアイラミドを開始してから,さらに治療を強化した場合や有害事象によりアイベータあるいはアイラミドを継続できなかった場合を死亡と定義し,両群の生存率も検討した結果,12カ月生存率は,アイベータ群C78.9%,アイラミド群C70.3%であった(図2).治療強化したのは,アイベータ群C10眼(10.4%),アイラミド群C5眼(5.5%),有害事象により休薬したのは,アイベータ群C9眼(9.4%),アイラミド群C26眼(28.6%)であった.休薬した理由は,霧視や羞明などの視力障害が理由だったのは,アイベータ群C2眼(2.1%),アイラミド群C4眼(4.4%),アレルギー性結膜炎が理由だったのは,アイベータ群C4眼(4.2%),アイラミド群C17眼(18.7%),眼瞼炎が理由だったのは,アイベータ群C2眼(2.1%),アイラミド群C5眼(5.5%)であった(表6).点眼による有害事象の頻度は表7のとおりである.霧視や羞明などの視力障害を認めたのは,アイベータ群C2眼(2.1%),アイラミド群C9眼(9.9%)であり,アイラミド群で有意に高率であった(p=0.0233).アレルギー性結膜炎は,アイベータ群C5眼(5.2%),アイラミド群C22眼(24.2%)であり,アイラミド群で有意に高率であった(p=0.0002).眼瞼炎を認めたのは,アイベータ群C4眼(4.2%),アイラミド群6眼(6.6%)で両群に差はなかった.それぞれの点眼の認容性を評価するために点眼後の使用感に関するアンケートを施行した.協力を得られたのはアイベータ群C57例(平均年齢C73.8歳),アイラミド群C66例(平均年齢C67.9歳)であった.点眼のさし心地は,アイベータ群C4.05±0.79点,アイラミド群C3.53C±1.26点で,アイベータ群は有意にさし心地良好であった(p=0.011).しみるなど点眼後の刺激感に関しては,アイベータ群C4.32C±0.86点,アイラミド群C3.86C±1.30点とアイベータ群が有意に刺激感を感じなかった(p=0.033).結膜充血に関しては,アイベ表4アイベータの処方パターン変更前変更後眼数変更理由成分数に変化なし7眼CEP2+bアイベータC2アドヒアランスを重視(2C→C1本)CCAI/bアイベータC2アドヒアランスを重視(使用感)CFP/bアイベータC1PAPの改善目的CFP+CAI/bFP+アイベータC1アドヒアランスを重視(使用感)CEP2+CAI/bEP2+アイベータC1アドヒアランスを重視(使用感)bアイベータC7治療強化CFP+bFP+アイベータC4治療強化C1成分追加FP+a2CEP2+アイベータC3治療強化C18眼Ca2アイベータC2治療強化CFPアイベータC1PAPの改善目的イオンチャネルアイベータC1治療強化FPCFP+アイベータC45治療強化2成分追加71眼CTLE後C※アイベータC12治療強化処方なし※アイベータC8PAPなどの副作用を危惧iStent後C※アイベータC4治療強化SLT後C※アイベータC2治療強化※以前の緑内障レーザー治療あるいは手術を機に点眼をすべて中止し,術後の経過に応じて点眼治療を再開する際に,プロスタグランジンによる副作用を危惧した症例,または緑内障進行の状況によりアイベータを開始した症例.FP:プロスタノイドCFP受容体作動薬,EP2:プロスタノイドCEP2受容体選択性作動薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,a2:a2受容体作動薬,PAP:プロスタグランジン関連眼窩周囲症.表5アイラミドの処方パターン変更前変更後眼数変更理由成分数に変化なし4眼CFP+bアイラミドC2角膜上皮障害・BAC濃度を考慮4ボトルを整理CFP/b+アイラミドC1アドヒアランスを重視(4C→C2本)3ボトルを整理CFP/b+アイラミドC1アドヒアランスを重視(3C→C2本)a2アイラミドC13治療強化CCAIアイラミドC9治療強化C1成分追加EP2アイラミドC4治療強化C32眼CROCKアイラミドC3治療強化イオンチャネルアイラミドC2治療強化CFP+アイベータCFP/b+アイラミドC1治療強化FP/bFP/b+アイラミドC19治療強化CFPCFP+アイラミドC17治療強化C2成分追加55眼CEP2CEP2+アイラミドC8治療強化CFP+bFP+b+アイラミドC4治療強化CFP+ROCKCFP+ROCK+アイラミドC3治療強化CFP/b+a1+ROCKCFP/b+a1+ROCK+アイラミドC2治療強化CFP+b+ROCKCFP+b+ROCK+アイラミドC2治療強化FP:プロスタノイドCFP受容体作動薬,EP2:プロスタノイドCEP2受容体選択的作動薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,a1:a1受容体遮断薬,Ca2:a2受容体作動薬,ROCK:Rhoキナーゼ阻害薬,BAC:塩化ベンザルコニウム.C942あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023(94)15.1アイベータアイラミド10012.712.412.515*80**眼圧(mmHg)1014.8****12.011.611.6累積生存率(%)6040開始前13620観察期間(月)*:p<0.050図1両群の眼圧推移アイベータ群もアイラミド群も開始前よりすべての地点で有意に036912151821242730眼圧が下降した.眼圧値の両群比較では,C6カ月後でアイベータ観察期間(月)群では有意に低値であった.C図2両群の生命表解析点眼を開始してからさらに治療を強化した場合や有害事象により点眼を継続できなかった場合を死亡と定義し両群の生存率も検討した結果,12カ月生存率は,アイベータ群C78.9%,アイラミド群C70.3%であった.表6生命表解析における死亡理由の内訳アイベータ(n=96眼)アイラミド(n=91眼)p値治療強化(内服・点眼・レーザー・手術)10眼(C11.5%)5眼(5C.5%)C0.2155副作用により点眼が継続できず休薬9眼(9C.4%)26眼(C28.6%)C0.0008休薬理由視力障害(霧視や羞明)2眼(2C.1%)4眼(4C.4%)C0.3698アレルギー性結膜炎4眼(4C.2%)17眼(C18.7%)C0.0017眼瞼炎2眼(2C.1%)5眼(5C.5%)C0.2193味覚障害1眼(1C.0%)C0.3290表7点眼による有害事象の頻度アイベータ(n=96眼)アイラミド(n=91眼)p値視力障害(霧視や羞明)2眼(2C.1%)9眼(9C.9%)C0.0233アレルギー性結膜炎5眼(5C.2%)22眼(C24.2%)C0.0002眼瞼炎4眼(4C.2%)6眼(6C.6%)C0.4610刺激感(しみるやチクチク)5眼(5C.2%)4眼(4C.4%)C0.7952流涙1眼(1C.0%)1眼(1C.1%)C0.9697味覚障害1眼(1C.0%)C0.3290後頭部痛1眼(1C.1%)C0.3031Cータ群C4.61C±1.17点,アイラミド群C4.02C±1.38点とアイベータ群が有意に結膜充血を感じなかった(p=0.005).掻痒感や眼瞼腫脹感に関しては,アイベータ群C4.43C±1.39点,アイラミド群C4.03C±1.12点と両群に差を認めなかった.点眼後の見え方への影響については,アイベータ群C4.30C±1.05点,アイラミド群C3.20C±1.34点とアイラミド群が有意に不良であった(p<0.001).5問のアンケートを通じて,総じてアイベータ群のほうがアイラミド群より認容性は良好であった(図3).CIII考察当院におけるアイベータおよびアイラミドの実臨床における使用実態を後ろ向きに検討した.眼圧値および眼圧下降率については,アイベータ群のほうがC6カ月後の眼圧値が有意に低値で,3カ月後の眼圧下降率が有意に高率であった.原発開放隅角緑内障または高眼圧症に対する第一選択薬の眼圧下降効果の報告では,チモロールは平均C3.7CmmHgの眼圧下降が期待できるとし,一方,ブリンゾラミドは平均2.42CmmHgの眼圧下降が期待できると報告されている1).このことより,チモロールとブリンゾラミドの眼圧下降作用の違いが,アイラミドと比較してアイベータのほうの眼圧下降効果が強かった原因であった可能性がある.また,アイラミド群ではC2成分追加症例がC60.4%(55/91)に対し,アイベータ群ではC2成分追加症例がC74.0%(71/96)と有意差はなさし心地刺激感結膜充血掻痒感や眼瞼腫脹視力障害(霧視など)■アイベータ■アイラミド図3両点眼の認容性に関する患者でのアンケート調査結果5問のアンケートを通じて,総じてアイベータ群のほうがアイラミド群より認容性は良好であった.いものの高率(p=0.0611)であった影響も考えられる.アイベータおよびアイラミドの処方変更前と変更後の状況をみてみると,アイベータ群では,FPから追加されるパターンと緑内障レーザー治療あるいは手術を施行してC1年以上経過して治療強化が要する際に開始されるパターンが多かった.一方,アイラミド群は,FPもしくはCEP2に追加されるパターンと,FPもしくはCEP2とCb遮断薬の併用あるいはCFP/b遮断薬配合剤を使用中に追加されるパターンが多かった.両群に共通するCFPもしくはCEP2に追加されるパターンが多かった理由は,緑内障点眼治療の第一選択としては,FPもしくはCEP2による点眼治療が推奨されており,FPもしくはCEP2点眼による治療を施行しているにもかかわらず眼圧が目標眼圧に達成されていない,あるいは,緑内障の進行を認め,2成分を追加することがその時点での最良の治療を判断した症例が多かったことに起因すると考えられた.安全性においては,各群の有害事象の頻度は,アイベータ群18眼/96眼(18.8%),アイラミド群C43眼/91眼(47.3%)であった.いずれも軽微で重篤な有害事象はなかった.なかでも,ブリモニジン特有のアレルギー性結膜炎の発現率については,アイベータ群C5眼(5.2%),アイラミド群C22眼(24.2%)であり,アイベータ群のほうがアレルギー結膜炎の発現頻度が低率であった.海外の報告では,ブリモニジンC0.2%とブリモニジンC0.2%/チモロールC0.5%配合剤のCrandom-izedtrial(12カ月)において,アレルギー性結膜炎の発現頻度が配合剤のほうが低率であったとの結果が報告されている2).また,ブリモニジンC0.2%とブリモニジンC0.2%/チモロールC0.5%配合剤における眼アレルギーについて研究した報告では,ブリモニジンC0.2%でC17.6%,ブリモニジンC0.2%/チモロールC0.5%配合剤でC8.8%であり,配合剤のほうが発現頻度は低率であったことが示されている3).これについては,Cb遮断薬の作用によると推察されている.1)チモロールがブリモニジンによるアレルギー反応を抑制する可能性がある4).2)チモロールのわずかな血管収縮作用が炎症の兆候や症状を軽減する可能性がある5.8).3)アドレナリン作動薬は細胞間隙を広げ,アレルゲンになりうる薬物の上皮下組織への到達を増加させるが,チモロールはこれを抑制しアレルギーを減少させる可能性がある9,10).以上のことから,ブリモニジンによるアレルギー反応が,チモロールとの配合効果により頻度が減少し,アイベータ群とアイラミド群でアレルギー性結膜炎の頻度に差が生じた可能性がある.両群の開始後経過観察期間に差はなかったが,それぞれの点眼を開始する前にすでにブリモニジンを点眼していた症例が,アイベータ群でC5眼に対し,アイラミド群でC14眼とアイラミド群で有意に高率(p=0.0283)であったことも影響した可能性がある.認容性に関して検討したところ,アイベータ群のほうが良好であった.アイベータのCpHはC6.9.7.3,アイラミドのpHはC6.3.6.8であり,涙液のCpH7.4に近いほど不快感や刺激感が生じにくいと考え,pHの違いがさし心地の結果に影響したと思われた.また,アイラミドでは一過性の霧視などの視力障害が出現する頻度が高率であった.これは,アイベータは澄明な水性点眼11),アイラミドは白色の懸濁性点眼12)と性状の違いが影響した可能性がある.本研究の問題点は短期間の後ろ向き観察研究であることである.長期的には両点眼の有用性・安全性・認容性に関する評価が変わる可能性がある.また,アイラミド群は緑内障が進行した症例が多いため,両群の臨床的背景が異なることも本研究の限界である.なるべく臨床背景を揃えるために両点眼開始直前の眼圧をC21CmmHg以下の症例に限定して解析した.直近C1年以内にレーザー治療を含む緑内障手術の既往がある症例は除外したが,1年以上前に緑内障手術を施行されている症例は含まれているため,今回の結果に手術の影響が含まれている可能性がある.実臨床において濾過手術を施行したにもかかわらず手術の効果が減衰する場合もある.その場合は点眼を再開することになるため,今回はなるべくreal-worldの治療成績を評価するために手術症例をすべて除外するのではなく,直近C1年以内に緑内障手術の既往がある症例を除外して解析した.CIV結論本研究において,アイベータ群とアイラミド群の有効性・安全性・認容性を比較した結果,有用性は両群で同等で,安全性・認容性はいずれもアイベータ群のほうが良好であった.緑内障患者は長期にわたり点眼を継続する必要があるため,眼圧下降効果のみならず安全性や認容性も考慮に入れて薬剤を選択する必要がある.緑内障治療にはさまざまな選択肢があり,FP/Cb遮断薬配合剤に追加加療する場合やCb遮断薬が使用できない患者には,アイラミドが処方パターンとしては有用であると思われた.いずれにしても両ブリモニジン配合剤は,患者個々の状況に応じた緑内障治療の選択肢となりうる薬剤と考えられた.文献1)LiCT,CLindsleyCK,CRouseCBCetal:ComparativeCe.e-ctivenessof.rst-linemedicationsforprimaryopen-angleglaucoma:Asystematicreviewandnetworkmeta-analy-sis.OphthalmologyC123:129-140,C20162)SherwoodMB,CravenER,ChouCetal:Twice-daily0.2%brimonidine0.5%CtimololC.xed-combinationCtherapyCvsCmonotherapywithtimololorbrimonidineinpatientswithglaucomaCorCocularhypertension:aC12-monthCrandom-izedtrial.ArchOphthalmolC124:1230-1238,C20063)MotolkoMA:ComparisonCofCallergyCratesCinCglaucomaCpatientsCreceivingCbrimonidine0.2%CmonotherapyCversusC.xed-combinationCbrimonidine0.2%-timolol0.5%Cthera-py.CurrMedResOpinC24:2663-2667,C20084)OsborneSA,MontgomeryDM,MorrisDetal:Alphaganallergymayincreasethepropensityformultipleeye-dropallergy.Eye(Lond)C19:129-137,C20055)VanCBuskirkCEM,CBaconCDR,CFahrenbachWH:CiliaryCvasoconstrictionaftertopicaladrenergicdrugs.AmJOph-thalmolC109:511-517,C19906)RosenfeldCE,CBarequetCD,CRabinaCGCetal:E.ectCofCbrimo-nidineCtartrateConCbasophilCactivationCinCglaucomaCpatients.CIntJOphthalmolC13:509-512,C20207)LeeCAJ,CMcCluskeyP:FixedCcombinationCofCtopicalCbri-monidine0.2%andtimolol0.5%forglaucomaanduncon-trolledintraocularpressure.ClinOphthalmolC2:545-555,C20088)YehCPH,CChengCYC,CShieCSSCetal:BrimonidineCrelatedCacutefollicularconjunctivitis:Onsettimeandclinicalpre-sentations,CaClong-termCfollowup.Medicine(Baltimore)C100:e26724,C20219)ButlerP,MannschreckM,LinSetal:ClinicalexperiencewithCtheClongtermCuseCof1%Capraclonidine.CIncidenceCofCallergicreactions.ArchOphthalmolC113:293-296,C199510)AlvaradoJA:ReducedCocularCallergyCwithC.xed-combination0.2%CbrimonidineC.0.5%Ctimolol.CArchCOph-thalmolC125:717,C200711)アイベータ配合点眼液添付文書,千寿製薬株式会社,2020年C12月改訂(第C2版)12)アイラミド配合懸濁性点眼液添付文書,千寿製薬株式会社,2021年9月改訂(第2版)***

基礎研究コラム:74.細胞老化とその治療ターゲットとしての可能性

2023年7月31日 月曜日

細胞老化とその治療ターゲットとしての可能性佐藤真理慶應義塾大学医学部眼科学教室細胞老化とは正常細胞を培養し,継代を繰り返すとやがてその細胞は不可逆的な増殖停止状態に陥ります.この現象は「細胞老化」とよばれ,古くから癌抑制機構として重要であることが知られていました.また,周囲の環境からのストレス(酸化ストレス,DNA損傷,炎症など)が細胞老化を促進することも知られています.近年,この増殖能を失った老化細胞は単に増殖能を失った細胞ではなく,細胞老化関連分泌形質(senescence-associatedsecretoryCphenotype:SASP)とよばれる慢性炎症を惹起する生理活性物質を分泌し,周囲の組織に影響を与え,老化現象やさまざまな加齢性疾患に関与することが明らかになってきました.細胞老化選択的除去の生体に対する効果細胞老化のバイオマーカーであるCCDKN2A遺伝子発現機構を制御し,生体から老化細胞を選択的に除去することが可能な遺伝子改変マウスが存在します.このマウスを使用し老化細胞を選択的に除去すると,平均寿命の延長,呼吸機能の回復,動脈硬化・白内障進行・肺線維症・骨関節炎といった老化現象や加齢性疾患が抑制されることがわかりました.これらの結果から老化細胞を選択的に除去することが生体で有用であることが示唆され,老化細胞選択的除去薬(senolytic薬)についても近年盛んに研究されています.老化細胞ではBcl-2やCPI3Kといった特定の経路の活性が亢進していることから,チロシンキナーゼ阻害薬とキナーゼ活性阻害薬の併用療法,またCBcl-2ファミリー蛋白質阻害薬CABT-263などの老化細胞除去効果が着目され,早期老化症モデルマウスに対し心機能の回復効果,動脈硬化モデルマウスにおいて心血管機能障害緩和効果,また老化個体において造血幹細胞の活性の回復効果などが報告されています1).細胞老化と慢性移植片対宿主病筆者らは,涙腺や結膜に慢性炎症が起こる眼慢性移植片対宿主病(chronicCgraftCversusChostdisease:cGVHD)に睫毛,眉毛およひ゛毛髪の白髪化が生し゛ることから,眼CcGVHD関連の病態メカニズムになんらかの老化現象が関与するのではないかという着想に至り,実験を開始しました.cGVHDモデルマウスにおいて,涙腺に浸潤するマクロファージに細胞老化マーカーのCp16の発現上昇,IL-1Cb・IL-6・CXCL9といった主要なCSASP因子の発現が亢進していることを発見しました.また,老化細胞除去薬CABT-263,あるいは(81)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1cGVHDマウスモデルに対する老化細胞選択的除去薬ABT-263の投与実験a:cGVHDマウスモデルの作製.BALB/cマウスにCB10.D2.マウスの骨髄・脾臓細胞の移植を行った.Cb:ABT-263投与プロトコル.移植後C10日からC7日間投与.Cc,d:cGVHDでみられる涙腺の線維化(→)がCABT-263投与で抑制された(涙腺CMallory染色).SASP因子であるCIL-6に対する抗体(MR-16)を同モデルマウスに投与すると,ドライアイ所見の改善,涙腺や皮膚といったCGVHD標的臓器の線維化,炎症マーカー・SASP因子の発現抑制を認めたことから,細胞老化とCSASPはcGVHDの効果的な治療ターゲットであることが示唆されました(図1)2).今後の展望老化細胞を標的とした薬剤は老化現象の抑制,また広く加齢性疾患に効果をもつことが期待されます.しかし,上記のsenolytic薬は老化細胞のみに作用するわけではなく,ABT-263に関しては抗癌剤や真性多血症患者に対する投与の知見から,血小板減少などの骨髄抑制の副作用がわかっています.今後,より老化細胞選択的に作用する薬剤の開発,安全性の高い投与方法の確立が期待されます.文献1)ZhangCL,CPitcherCLE,CPrahaladCVCetal:RecentCadvancesCinCtheCdiscoveryCofCsenolytics.CMechCAgeingCDevC200:C111587,C20212)YamaneM,SatoS,ShimizuEetal:Senescence-associat-edCsecretoryCphenotypeCpromotesCchronicCocularCgraft-vs-hostdiseaseinmiceandhumans.FASEBJC34:10778-10800,C2020あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023C929

硝子体手術のワンポイントアドバイス:242.多焦点眼内レンズ挿入眼に対する硝子体手術(中級編)

2023年7月31日 月曜日

242多焦点眼内レンズ挿入眼に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の適応条件の一つに網膜疾患を有さないことがあげられているが,白内障術後に黄斑上膜,黄斑円孔,網膜.離などの網膜疾患が発症することはありえるので,今後,多焦点IOL挿入眼に対して硝子体手術を施行する頻度は増加するものと考えられる.多焦点CIOL挿入眼に硝子体手術を施行する際には,その特異な構造に起因する眼底視認性の特徴を熟知しておく必要がある.C●症例提示77歳,女性.右眼の特発性黄斑上膜のため硝子体手術目的で紹介受診した.数年前に右眼に白内障手術の既往があり,回折型CIOL(AMO社製CTECNISMultifocal)が挿入されていた(図1).手術はまず広角眼底観察システムにてコアの硝子体を切除したが,視認性は通常の単焦点CIOLとほぼ同様であった(図2).ついで,後極部拡大用のフローティングコンタクトレンズを使用して黄斑上膜を.離した.その際に眼底像のコントラストが低下し,像が全体的にぼやけて手術手技がやや困難であった.しかし,黄斑上膜の一部が浮かび上がると,それを把持しながら黄斑上膜.離自体はそのまま施行可能であった(図3).C●多焦点IOL挿入眼に対する硝子体手術時の注意点回折型CIOL挿入眼に硝子体手術を施行する場合は,広角眼底観察システムでは通常問題ないが,フローティングコンタクトレンズではコントラストが低下することは以前から指摘されている1.3).広角眼底観察システムではCIOLの中心C3Cmmだけを通して倒像を観察しているため,多焦点CIOLの影響を受けにくいのに対して,フローティングコンタクトレンズでは瞳孔領域内すべてに光路があるために,回折溝の影響を受けて像がぼやけやすいとされている.Kawamuraらは,硝子体の可視化のために使用したトリアムシノロンアセトニドの粒子(79)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1術中所見回折型多焦点CIOLが挿入されている.図2広角眼底観察システムによる眼底の視認性通常の単焦点CIOLとほぼ同様である.図3後極部拡大用フローティングコンタクトレンズによる眼底の視認性コントラストが低下し,黄斑上膜.離などの繊細な手術手技にはやや困難が伴う.が,フローティングコンタクトレンズでは遠心方向に延長して見えることを報告している4).問題となるのは黄斑部の繊細な手技を施行する場合であるが,対処法としては,広角眼底観察システムを用いてできるだけ像を拡大して行う方法が適切と考えられる1.3).ただし広角眼底観察システムではどうしても立体感が弱いため,どちらを使用するかは術者の普段の慣れで選択すればいいのではないかと思う.文献1)井上真:多焦点眼内レンズ挿入眼の眼底検査,硝子体手術.IOL&RS25:17-20,C20112)半田壮,上原浩嗣,竹下弘伸ほか:回折型多焦点眼内レンズ挿入眼の黄斑上膜に対する硝子体手術.臨眼C67:901-903,C20133)森井香織:多焦点眼内レンズ挿入眼の硝子体手術.眼科手術32:238-242,C20194)KawamuraCR,CInoueCM,CShinodaCKCetal:IntraoperativeC.ndingsCduringCvitreousCsurgeryCafterCimplantationCofCdi.ractiveCmultifocalCintraocularClens.CJCCataractCRefractCSurgC34:1048-1049,C2008あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023927

考える手術:19.涙小管炎の手術

2023年7月31日 月曜日

考える手術⑲監修松井良諭・奥村直毅涙小管炎の手術岩崎明美大多喜眼科涙小管炎では,涙小管内に菌石や涙点プラグなどが存在する.典型的な症状は片眼の結膜充血,眼脂,小型の乳頭増殖を伴う慢性結膜炎,涙点周囲の皮膚発赤や腫脹である.涙点内に膿や菌石の白い塊が見え,涙小管部分を圧迫すると眼脂や菌石が出る.ときに涙点から炎症性肉下種(ポリープ)が出現する.通水テストでは通水可能な場合が多く,菌石,眼脂,血液の逆流がみられることもある.治療は菌石の除去である.涙道内視鏡がない施設や涙道が専門でない医師でも簡単にできる.通水が不可能(涙道閉塞がある)で流涙の治療希望がある場合去である.①麻酔は,内眼角の少し上のくぼみ(眼球と上顎骨前涙.稜の間で,内眼角腱の上約5mmの部分)に30ゲージ1/2インチ(12mm)強膜固定用針を垂直に根元まで挿入するか,27ゲージなどの針を約1cm挿入し,必ず逆血を確認してから1%または2%キシロカインを1.2.ml入れる.針を抜いたあとに刺入部を数十秒間圧迫する(眼球圧迫をしない).ベノキシールで点眼麻酔後,点眼用キシロカイン4%0.5ml程度を病変側の涙点から1段針を使って注入し,通水の要領で涙道内麻酔を行う.②涙点にスプリング剪刃の片刃を挿入して約3.5mm鼻側に切開する(明らかに耳側が膨らんでいたら耳側を切ってもよい).③綿棒や鑷子などで菌石を圧出する.石が出なくなったら,キシロカインゼリー0.3ml位を涙小管の少し奥側から涙道内に入れるとゼリーと一緒に菌石が出てくる.圧出とゼリー注入を繰り返し,菌石が出なくなるまで繰り返す.涙点近傍と総涙小管手前に菌石が残りやすいので注意する.最後は涙管洗浄を上下ともに行う.聞き手:放線菌や菌石とはなんですか?いので,皮下注射でもよいですか?岩崎:放線菌は口腔内に常在する嫌気性菌です.放線菌岩崎:滑車下神経麻酔は注射時に少し疼痛があり,ときは菌石を作り,涙小管内腔を広げ,炎症性肉芽腫(ポに球後出血が起きますが,眼球に当てなければ大きなトリープ)を作ります.菌石は周囲に炎症細胞と放線菌のラブルもなく,第一選択です.涙小管周囲への皮下麻酔菌糸があり,中央にはムコ多糖類やムチン,カルシウムでも処置可能ですが,疼痛が残ることがあります.涙道が沈着しています.内麻酔は喉や鼻粘膜に麻酔がかかるので使用を最小限にし,喉の違和感は30分で改善することを伝えます.聞き手:滑車下神経麻酔も涙道内麻酔もやったことがな(77)あたらしい眼科Vol.40,No.7,20239250910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:涙小管はハサミで切って大丈夫ですか?岩崎:片側涙点と涙小管の一部を切除しても,術後流涙はほとんど増えません.多くの場合,涙点拡張しなくてもスプリング剪刃を挿入できます.涙道処置全般にいえることですが,患者に耳側を見てもらい,瞼を耳側に引っ張り固定した状態で行うとやりやすいです.また,涙点から肉芽腫が出ている場合は,鑷子で引っ張り単純切除しても問題ありません.聞き手:菌石除去のポイントはありますか.岩崎:しつこく取ること(笑).マイボーム腺圧出鑷子が便利ですが,圧出できればなんでもかまいません.涙小管径は5mm以上に広がり,涙点から耳側にも石がたまることもあります.指で触って硬い取り残し部分がないか確認します.涙小管の中に鋭匙を入れる涙小管掻把は,石が残りやすいのと粘膜やポリープを傷つけて涙小管閉塞を起こすことがあり,私は圧出のほうが好きです.聞き手:キシロカインゼリーは必要ですか?岩崎:必須ではありませんが,便利です.動画のように,圧出では出なくても,ゼリーを入れるとゼリーの逆流に合わせて涙点が自然に広がって石が出てきます.白内障手術でのビスコエクストラクションと同じです.ゼリーの屈折が違うため,涙点内に残存している菌石の様子がよく見えることも利点の一つです.アレルギーなどでゼリーを使えない場合は生理食塩水で洗浄しますが,涙点を鑷子で把持して広げます.鼻涙管側より涙点側のほうが広くて圧が少ない状態にするのがポイントです.聞き手:キシロカインゼリーはどう準備すればよいですか?岩崎:涙管洗浄針の1段針または20.24ゲージの血管留置針外筒がお勧めです.ペットボトルの蓋のような容器にゼリーをいれ,2.5ml位のシリンジで2ml吸い,シリンジ先端についたゼリーをガーゼで拭き,しっかりab接続して使います.聞き手:涙管チューブは入れなくてもよいのですか?岩崎:涙小管閉塞などを伴っているときは涙管チューブも挿入していますが,通水可能な場合や,通水不可能な場合でも高齢などの理由でとりあえず涙小管炎を治したい場合には,涙管チューブを入れる必要はありません.聞き手:培養や病理に出しますか?岩崎:涙小管炎では放線菌や他の菌,ときにカビが混在しています.放線菌は嫌気性菌なので,培養には嫌気性菌専用の容器が必要で手間がかかります.放線菌の確定診断をしたい場合は,菌石をつぶして綿棒などで周りに広げて塗抹標本を作ると放線菌らしい菌糸が確認できます.菌石をホルマリンにつけて病理でわかることがあります.涙小管炎自体は悪性ではないので培養や病理などは必須ではありません.聞き手:手術の診療報酬点数を教えてください.岩崎:K199涙点,涙小管形成術660点とL006球後麻酔および顔面・頭頸部の伝達麻酔(瞬目麻酔および眼輪筋内浸潤麻酔を含む)150点に薬剤を請求できます.病理などに出した場合は別途追加で請求できます.聞き手:術後管理はどうしたらよいですか?岩崎:滑車下神経麻酔で複視や眼瞼下垂が生じるので,抗菌薬軟膏を点入して眼帯を5時間します.抗菌薬の内服3日間,点眼は抗菌薬を1カ月くらい,また涙道内には結構ポリープがあるので0.1%フルオロメトロン点眼3回を2カ月使用しています.私は術後1週,その後は2週間ごとくらいに2カ月は涙管洗浄をしています.1段針を使用して生理食塩水5mlくらいでよく洗います.1週間位で結膜炎は治りますが,治らないときは菌石が残っている可能性があります.改善しないときは再度治療を考慮します.c図1涙小管炎の手術・必要物品まとめ2.5mLシリンジ3本a:涙小管炎の前眼部写真.(涙道内麻酔,麻酔の注射,ゼリー用)b:右下涙小管炎と滑車下涙管洗浄針1本細めの鋭針神経麻酔の部位の模式図.ハサミ(スプリング剪刀)マイボーム腺圧出鑷子(押すもの)青実線は眼球,青点線は眼ドレープ,不織布やガーゼ窩,オレンジの線は内眼角眼帯,テープ腱上縁.眼球と眼窩の間でベノキシール4%点眼用キシロカイン内眼角腱の上5mm位のく1または2%キシロカインキシロカインゼリー2%ぼみ部分に麻酔をする.c:手術に必要な道具.926あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023(78)

抗VEGF治療:網膜中心静脈閉塞症の視機能とバイオマーカー

2023年7月31日 月曜日

●連載◯133監修=安川力髙橋寛二113網膜中心静脈閉塞症の視機能と野間英孝東京医科大学八王子医療センター眼科バイオマーカー網膜中心静脈閉塞症(CRVO)は,非虚血型CCRVOと虚血型CCRVOに分類されるが,視機能予後は大きく異なっている.蛍光眼底造影検査を行えば,CRVOが虚血型か非虚血型の判別は比較的容易であるが,判別に迷うようなら前房内フレア値やC30CHzフリッカ網膜電図がバイオマーカーとして有用となりうる.網膜中心静脈閉塞症の視機能網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)は,非虚血型CCRVOと虚血型CCRVOに分類されるが(図1a~d),両者の臨床像は大きく異なっている.非虚血型CCRVOは新生血管形成のリスクがない比較的良性の疾患であるが,黄斑浮腫を伴うと視機能障害を生じる1).一方,虚血型CCRVOは新生血管形成から血管新生緑内障に至るリスクが高く,視力予後はきわめて不良である.黄斑浮腫を伴うと初期から黄斑虚血が高度なため不可逆的な視機能障害となり1),視力はC20/200以下のことが多い.光干渉断層計では,中心窩を中心に網膜膨化,.胞様変化,漿液性網膜.離を高頻度に左右対称に認めるが,虚血型CCRVOのほうが程度は強い(図1e,f).現在,黄斑浮腫に対して抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬治療が第一選択となっているが,虚血型CCRVOでは,たとえ抗CVEGF薬治療や硝子体手術を行い黄斑浮腫が改善したとしても視機能の改善は期待できない.このように非虚血型と虚血型の視機能予後は異なることから,非虚血型と虚血型の判定は,臨床的に重要となる.蛍光造影検査を行えば虚血型か非虚血型の判別は比較的容易であるが,低蛍光が出血のブロックによるものなのか無血管域によるものなのか迷うこともある(図1b,d).このようなときは,以下に示すバイオマーカーが虚血の判定に有用となると考える.サイトカインサイトカインとは,微量で細胞表面の特異的受容体を介して生理活性を示す蛋白因子の総称である.その中でバイオマーカーとなりえるサイトカインはCVEGFである.なぜなら,虚血型CCRVO患者では非虚血型患者に比べてCVEGF濃度が圧倒的に高いからである1).VEGFは虚血によってさまざまな網膜細胞から発現し,新生血管だけでなく血管透過性亢進も生じる.これはCVEGF(75)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY濃度と黄斑浮腫の重症度が相関していることからも明らかである1).よって,CRVOでは,網膜中心静脈が閉塞すると虚血に伴いCVEGF発現が亢進し,その結果,新生血管形成や黄斑浮腫を生じる1).一方,新生血管抑制因子である色素上皮由来因子(pigmentCepithelium-derivedfactor:PEDF)は虚血が強いほど発現は低下し,血管透過性や新生血管を抑制する.実際,虚血型CRVO患者では非虚血型患者に比べてCPEDF濃度は有意に低く,PEDF濃度と黄斑浮腫の重症度は有意に逆相関している2).とくに非虚血型CCRVOに伴う黄斑浮腫に対して抗VEGF薬治療は効果的であるが,抗CVEGF薬治療後の前房水CVEGF濃度変化率は,視力改善度と有意に相関する.すなわち抗CVEGF薬治療後にCVEGF濃度が低下するほど視力が改善する3).さらに硝子体手術後の硝子体液CVEGF濃度が高く,PEDF濃度が低い患者では視力改善度は不良である2).おそらくCVEGF濃度が高くPEDF濃度が低いと,網膜虚血によって視細胞が不可逆的な損傷を受けているものと考えられる.このようにVEGFだけでなくCPEDFもバイオマーカーとなりえるが,これらのサイトカイン濃度の測定は時間的・コスト的に困難である.そこで,有用となるのが以下に示す前房内フレア値の測定である.なぜなら,サイトカイン濃度は前房内フレア値と有意に相関しているからである1).前房内フレア値前房内フレア値は,レーザーフレアメーターで測定できる前房水中の蛋白濃度(フレア)のことで,眼内に炎症があることを意味する.前房内フレア値は,非虚血型CRVO患者より虚血型CCRVO患者において有意に高い1).虚血によりCVEGFが誘導され,その結果,血液房水関門が破壊され,虹彩血管からの蛋白漏出により前房内フレア値が増加すると考えられる.通常の細隙灯顕微鏡で観察可能な前房内フレア値はC30photoncounts/msあたらしい眼科Vol.40,No.7,2023923b図1網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の画像上段:非虚血型CRVO,下段:虚血型CRVO.Ca,b:カラー眼底写真,c,d:フルオレセイン蛍光眼底造影,e,f:光干渉断層計.(pc/ms)程度(正常範囲3.5Cpc/ms)であるので,細隙灯顕微鏡検査でCCRVO患者の前房水中の蛋白を観察するのは実はむずかしい.前房内フレア値は虚血の程度と有意に相関するため,虚血の程度が強いほど前房内フレア値は高くなるが,虚血型であってもせいぜいC30.40pc/ms程度である.よって,レーザーフレアメーターで前房内フレア値がC30Cpc/ms以上ある場合は,虚血型CRVOの可能性が高い.C30Hzフリッカ網膜電位図(electroretinography:ERG)検査は,全視野刺激で得られる網膜全体からの電気応答であり,眼底に広範囲に広がる病変の検出に優れている.明順応下で記録できるのが錐体応答であるが,30CHzの高頻度刺激で得られるC30CHzフリッカCERGも錐体系の機能を反映している.錐体応答やC30CHzフリッカCERGを用いても黄斑部に分布する錐体数は全体のC10%に過ぎないため,通常のCERGでは眼底後極部や黄斑部に限局した網膜機能障害をとらえられないが,30CHzフリッカCERGの潜時時間がC38Cms以上となると虚血型CCRVOの可能C924あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023性が高い4).これは,30CHzフリッカCERGの潜時時間とVEGF濃度は有意に相関していることからも支持される5).文献1)NomaH,YasudaK,ShimuraM:Cytokinesandpathogen-esisCofCcentralCretinalCveinCocclusion.CJCClinCMedC9:11,20202)NomaCH,CFunatsuCH,CMimuraCTCetal:In.uenceCofCvitre-ousfactorsaftervitrectomyformacularedemainpatientswithCcentralCretinalCveinCocclusion.CIntCOphthalmolC31:C393-402,C20113)MatsushimaCR,CNomaCH,CYasudaCKCetal:RoleCofCcyto-kinesCinCranibizumabCtherapyCforCmacularCedemaCinCpatientsCwithCcentralCretinalCveinCocclusion.CJCOculCPhar-macolTherC35:407-412,C20194)LarssonJ,AndreassonS:Photopic30CHz.ickerERGasapredictorforrubeosisincentralretinalveinocclusion.BrJOphthalmol85:683-685,C20015)NomaH,FunatsuH,MimuraT:Associationofelectroret-inographicparametersandin.ammatoryfactorsinbranchretinalveinocclusionwithmacularoedema.BrJOphthal-mol96:1489-1493,C2012(76)

緑内障:MRIでみる緑内障

2023年7月31日 月曜日

●連載◯277監修=福地健郎中野匡277.MRIでみる緑内障小川俊平東京慈恵会医科大学眼科学講座緑内障による視覚障害は,脳内の視覚経路や中枢にも萎縮,微小組織変化,脳活動変化をもたらしていることがCMRIによる生体脳研究で明らかになってきた.視覚再建医療の実現には,より詳細な視覚系への影響の理解が不可欠である.●はじめにMRIを用いた緑内障患者の生体脳計測により,緑内障は脳視覚経路にも影響することが明らかとなった.従来のCT1強調画像やCT2強調画像に加え,拡散強調画像を用いた視覚白質線維の研究が進められている.本稿ではCMRIでみる緑内障について紹介する.C●解剖学的MRIでみる緑内障解剖学的CMRI(T1強調画像やCT2強調画像)を用いて緑内障患者の視交叉,外側膝状体,第一次視覚野など視覚にかかわる部位のサイズを計測すると,疾患進行とともに萎縮していることがわかる.視神経の横断面積(crossCsectionalarea:CSA)は緑内障の重症度と第一次視覚野の灰白質密度にも相関していた1).C●拡散強調MRI+トラクトグラフィーでみる緑内障拡散強調CMRI(di.usionCmagneticCresonanceCimag-ing:dMRI)は,組織内の水分子拡散を計測・画像化する手法で,ボクセルごとに水拡散の角度と速度をつなぐことで脳内線維を三次元的に再構築できる(トラクトグラフィー).拡散テンソル画像(di.usionCtensorimage:DTI)はCdMRIの解析方法で,fractionalCanisot-ropy(FA),mean(MD),axonal(AD),radial(RD)などのパラメータが得られる.FAは拡散異方性を示し,疾患による組織変化で水拡散が変化する(図1).緑内障患者の視索・視放線をCDTIで調べると,FA値が正常視覚者に比べ低下し,視覚経路のCDTIパラメータで原発開放隅角緑内障と高眼圧症が判別可能である.ただし,DTIのパラメータと網膜光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)のパラメータとの相関は限られた条件でのみ報告されている.緑内障診断力において,DTIはCOCTには及ばないが,脳視覚系への影響を非侵襲的に評価するツールとして有用である.C●早期緑内障への影響は?静的自動視野計測(staticCautomatedperimetry:SAP)で検出可能な緑内障の診断力は,現状ではCMRIはCOCTに及ばない.しかし,早期例では結果が異なる.機能的CMRIを用いると,視覚刺激によるCV1のCBOLD反応*がCOCTによる網膜神経線維層厚や網膜神経節細胞層厚+内網状層厚と相関しており,SAPのCMD値の低下よりも先にCV1のCBOLD反応低下が検出された.また,正常眼圧緑内障患者のCDTI研究においても,脳白質構造異常とCSAPのCMD値に相関があり,これらの変化はCSAPによる異常検出よりも早期であった.これらの結果から緑内障による脳内変化は,SAP検出より早期から発生することが示唆された.C●dMRIのモデルの進化テンソルモデルは単純な楕円球モデルであるため,組織変化に対する感度が高く計算量が少ないというメリットがあるが,解析モデルとしては単純すぎるという欠点もある.そのため結果を特定の組織変化と一義に解釈することができない.モデルの進化が進めば,より詳細な神経接続や疾患影響の評価が可能となる.例として,脳内神経軸索の直径分布や軸索と神経突起の分散・密度を利用するCneuriteCorientationCdispersionCandCdensityC*BOLD(blood-oxygenation-level-dependent)反応:脳の局所的な活動によって酸素消費が増加すると,酸素と結合したオキシヘモグロビンが減少し,酸素を放出したデオキシヘモグロビンが増加する.この反応は約C6秒でピークに達し,20~25秒後に基準値に戻る.機能的CMRIはこのCBOLD反応の変化率を計測することで,脳の活動を可視化する.(73)あたらしい眼科Vol.40,No.7,20239210910-1810/23/\100/頁/JCOPYabdMRIimageCTensorCCSDCcdefg0.7Ch0.65C0.15CLGNCV1C0.3図1トラクトグラフィーとトラクトメトリーa:拡散強調画像の脳水平断(b=0).b:緑と青のボクセル内の水拡散データ(dMRIimage,短いほど速い)とテンソル(Tensor)モデル,CSD(constrainedshericaldeconvolution)モデルをフィットしたもの.Cc:CSDモデルの長軸を数学的につないでいくと線維が特定できる.Cd:全脳トラクトグラフィーから,主要な線維を左半球のみ描出.Ce:トラクトグラフィーで特定した筆者の視索(紫)と視放線(.).f:各ボクセル内のCFA値をホットマップで表現している.Cg:線維束の重心であるコアファイバーに沿って測定値を平均する.h:視放線のCFA値.LGNからCV1までの位置情報を有する(文献2,3より作図).Fractionalanisotropy(FA)imaging(NODDI)法が提案されている.モデルの進化は,視覚障害の神経学的基盤を正確に把握し,個々の患者に適切な治療戦略を立てることにつながる可能性がある.C●dMRIと定量的MRIの組み合わせdMRIの限界に対して,定量的CMRIは,組織の物理的・生物学的特性を定量的かつ再現性高く測定する技術であり,神経組織の密度や分子組成などが測定できる.dMRIと組み合わせることで,特定部位における組織特性の具体的な情報を測定することが可能となる.筆者らは緑内障患者の視覚経路において,NODDIと定量的MRIを組み合わせて評価した.その結果,視放線の変化は髄鞘障害ではなく,軸索障害を引き起こしている可能性が示唆された4).C●おわりに疾患による視覚障害は,脳内になんらかの構造変化をC922あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023引き起こしていることは明らかである.疾患の種類,障害の程度,網膜障害部位により変化するパラメータはそれぞれ異なっている.緑内障に代表される網膜疾患による視覚障害の影響の神経学的基盤を正確に把握することは,視覚をより深く理解し,疾患の克服にも重要であると考える.文献1)FukudaCM,COmodakaCK,CTatewakiCYCetal:QuantitativeCMRICevaluationCofCglaucomatousCchangesCinCtheCvisualCpathway.PLoSOneC13:e0197027,C20182)OgawaCS,CTakemuraCH,CHoriguchiCHCetal:WhiteCmatterCconsequencesCofCretinalCreceptorCandCganglionCcellCdam-age.InvestOphthalmolVisSciC55:6976-6986,C20143)RokemA,TakemuraH,BockASetal:Thevisualwhitematter:TheCapplicationCofCdi.usionCMRICandC.berCtrac-tographytovisionscience.JVisC17:4,C20174)OgawaS,TakemuraH,HoriguchiHetal:Multi-contrastmagneticCresonanceCimagingCofCvisualCwhiteCmatterCpath-waysinpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSciC63:29,C2022(74)

屈折矯正手術:自由診療と屈折矯正手術

2023年7月31日 月曜日

●連載◯278監修=稗田牧神谷和孝278.自由診療と屈折矯正手術岡義隆先進会眼科屈折矯正手術は一般的な眼科手術と異なる特殊性がある.その一つが,多くが自由診療で行われていることである.自由診療の場合は,価格も含め自由度をもって設定が可能である.今回は屈折矯正手の実際の価格について,課題なども含めて解説する.C●はじめにおもに保険診療を行う大多数の眼科専門医にとって,自由診療は研修や実臨床で経験する機会もほぼない,いわば未知の眼科領域であり,その価値についてよくわからないのが現状であろう.しかし,有水晶体眼内レンズ系手術の後房型有水晶体眼内レンズ(implantableCcollamerlans:ICL)と,角膜レーザー系手術のClaserCinsituCkeratomileusis(LASIK)・Csmallincisionlenticuleextraction(SMILE)をはじめとする屈折矯正手術は,すでに世界累計C6,000万例以上行われており,短期的な成績だけでなく,長期予後でもその安全性と有用性が非常に高く確立された手術の一つである.そのような屈折矯正手術の自由診療としての経済的側面について,わが国での特徴や問題点,課題なども含めて解説する.C●背景わが国の屈折矯正手術には他の眼科手術と異なるいくつかの特殊性がある.まず,自由診療であることである.われわれが慣れ親しんでいる国民皆保険制度とは異なり,自由診療では医療費や使用する器具などを自由度をもって設定することができる.つまり自ら設定すべき項目が多岐に渡ることを意味する.二つ目は自由診療であるがゆえに,美容系眼科といわれる自由診療眼科が大きなシェアをもっていることである.これらの美容系眼科が過去に「銀座眼科事件」「レーシック患者集団訴訟」などを引き起こし,2013年に消費者庁からCLASIKの安全性について注意喚起を受けたことが眼科業界全体に与えた衝撃は大きく,未だにその不信感がわれわれ眼科専門医に強く残っていることは事実である.三つ目は治療対象となりうる屈折異常を有する患者数が膨大であることである.現在人口の約C40%が近視だ(71)と推計されており,潜在的な意味での屈折矯正手術の市場規模は非常に大きい.四つ目は使用する手術機器やその維持費が高額であることである.とくにCLASIKは,使用するエキシマレーザー装置とフェムトセカンドレーザー装置のそれぞれの実売価格がC3,000~5,000万円超といわれている.さらにこれらのレーザーの精度管理には精密な空調管理と頻繁なメンテナンスが必要とされており,その費用が年間1台につきC300~800万円程度必要である.有水晶体眼内レンズについても,1枚につきC15~30万円程度とされており,これらの費用を考えると,医療機関経営に大きな負担となることは事実であり,新規参入や手術継続の経済的障壁となっている.五つ目は屈折矯正手術に携わる眼科専門医が少ないことがあげられる.現在屈折矯正手術医はC600~700名と推計されている.大学などの教育機関で屈折矯正手術を扱っているところが非常に少なく,今後も少数の執刀医で患者ニーズに答えなければならない.以上のような特殊性が存在する.C●競争の手段としての「価格」屈折矯正手術,とくに角膜レーザー手術は高度に標準化・機械化された手術であるため,他院との技術的な差を出しにくいという側面がある.また,自由診療であるため,需要を喚起する方法が医療の質の向上ではなく,価格操作になりがちであるという問題点がある.患者側からすると,ニーズの深刻度が他の眼科手術に比べて低いという側面がある.経済学的に,ニーズの深刻度が低いほど,質より価格が重視される傾向がある.たとえば,生死にかかわるような疾患の治療(医療ニーズの深刻度が高いもの)では価格より質が重視されるが,利便性を高めるための治療や美容目的の治療など(医療ニーズの深刻度が低いもの)では価格が決定要因になりやすい.医療側からすると,初期投資が大きく機材の償却負担あたらしい眼科Vol.40,No.7,20239190910-1810/23/\100/頁/JCOPY円2,000,0001,500,0001,000,000500,0000図1エキシマレーザー用ガス販売価格と改訂時期価格が急騰(図1)しており,今後の手術費用の設定に大きな影響を与えるものと考えられる.C●相場から検討した「価格」おおよその価格帯はホームページなどを見れば調査することができる.それを基準に自院の価格を検討することも多いのではないだろうか.注意したいのは,ベンチマークは大切だが,それだけではなく,自院のコンセプトを明確にし,そのコンセプトに合ったターゲットを設定して,ターゲットに一致したサービスと価格を設定す巴商会,京葉メディカルサービス,昭和溶材の情報から筆者が集計した.が大きいが,角膜レーザー手術のように高度に標準化された手技であれば多数例の手術を行いやすく,環境が整えばC1件あたりの償却負担が少なくなり,利益を上げやすい.これらの結果,医療の質よりも価格や利便性がクローズアップされる状態となりやすいことが保険診療と温度差のある点であり,われわれ眼科専門医が違和感を感じるポイントの一つでもある.C●原価から考える「価格」投資を回収するためには多数の手術を行うことが必要になるが,実際のコストはどの程度かかるのであろうか.LASIKを例に損益分岐点となる最低価格を考えてみよう.LASIKのコストには,おもにレーザー機器にかかる初期投資,メンテナンス費用,手術ごとの消耗品の費用,エキシマレーザー用ガス費用,レーザー機器のバージョンアップ費用,広告宣伝費用などがある.これ以外に家賃,人件費もかかる.忘れがちなのは,自費診療に携わる投下時間である.広告宣伝費用,家賃,人件費などは差が大きいので今回は触れずに,ざっくりと概算すると,1眼あたりの手術原価は年間C100例とすると数十万円,1,000例とすると数万円ほどとなる.このほかに検査費用,薬代,フォローアップの費用がかかることを考えると,経済的に安定させるにはいかに多数の手術をしなければならないかが想像できよう.また近年は消耗品,とくにエキシマレーザー用ガスのべきだという点である.C●患者からみた価値としての「価格」患者からみたコストベネフィットとして,コンタクトレンズとの比較があげられる.1日使い捨てコンタクトレンズの価格が片眼C30枚でC3,000円と仮定した場合,10年間,毎日両眼使うとC72万円となる.乱視矯正レンズなどにするとさらに多くの金額が必要となる.加えて,日々のコンタクトレンズのケアから解放され,翌日から数日で日常生活に復帰できることは眼科医が考えている以上に大きなベネフィットであり,この価値を屈折矯正手術の価格にしめすことができる.C●おわりに正しい手順で患者の満足する治療を行い,責任をもって患者の不安や不満を解消する.このあたり前のことに対して,原価を計算したうえで適正な対価を求めることが屈折矯正手術の継続的な発展に不可欠である.今後もテクノロジーの発展に伴い,眼科のみならず,すべての医療分野で自由診療のウエイトが増えていくだろう.そのような中で,われわれがもっとも重視すべきは医療の安全性であることを常に忘れずに,根拠ある適正な価格を患者に明示し,ニーズに応えることが,末永く安定した屈折矯正手術を実施するうえで重要であり,安全性を無視した安易な価格競争に陥らないような仕組み作りも必要である.屈折矯正手術分野から先行している自由診療への取り組みは,今後の眼科医療全体へ影響を及ぼしかねず,すべての眼科医にとって大きな課題となるとの認識を改めて表明しておきたい.920あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023(72)

眼内レンズ:親水性アクリル製IOLとBBG前囊染色

2023年7月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋伊藤格440.親水性アクリル製IOLとBBG前.染色市立室蘭総合病院眼科レンティスコンフォートは保険診療で挿入可能な多焦点眼内レンズ(IOL)で,明視域の拡大により高い視機能を期待できる付加価値CIOLである.一方で素材が親水性アクリルであることから,カルシウム沈着など特有のリスクも抱えている.本稿では水晶体前.染色剤によるCIOL青染例の報告も含め解説する.●はじめに現代の白内障手術時に挿入される眼内レンズ(intraoc-ularlens:IOL)はアクリル製が主流であり,素材の含水率により親水性(含水率C18~34%以上)や疎水性とよばれている.親水性CIOLは多くの水分を含有することから生体に近い素材とされ,疎水性CIOLに比較し炎症が起きづらいことやグリスニングが形成されづらいなどのメリットがある一方で,液空気置換を伴う硝子体手術症例などにおいてカルシウム沈着を起こす可能性も報告1)されている.現在広く用いられている親水性CIOLの一つにレンティスコンフォート(参天製薬)がある.C●レンティスコンフォート(LS-313MF15)レンティスコンフォート(以下,レンティス)はC2019年にわが国で承認され,保険診療で挿入可能となった分節型多焦点CIOLで,特徴として二つの単焦点レンズを組み合わせることで遠方から中間距離(眼前C70Ccm前後)までの良好な視力を期待できる.一般的な回折型多焦点CIOLと比べてハロー・グレアが少なく,焦点深度の拡張により単焦点CIOLよりも明視域が広いとされる.素材の含水率は約C26%の親水性アクリルであり,カルシウム沈着例の報告も散見することから,硝子体手術症例などでの使用は慎重に考えるべき側面もある.C●水晶体前.染色とBBG水晶体前.染色は,白内障手術時の連続円形切開の際に,水晶体混濁や皮質混濁が強く徹照光が不十分で視認性の確保が困難な場合に行われるほか,教育的側面から初級術者が執刀する際に手術安全性を高める目的にも有用な場合もある.生体染色剤として従来トリパンブルー(trypanblue:TB)やインドシアニングリーン(indocyC-(69)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPYaninegreen:ICG)が用いられていたが,invitro系での研究から網膜や角膜への組織毒性の懸念が報告2,3)されている.ブリリアントブルーCG(BrilliantCblueG:BBG)は蛋白質に非特異的に結合し負に荷電させる性質があることから,元来ポリアミドゲル電気泳動などに用いられていた素材で,2006年に網膜内境界膜および水晶体前.染色への有用性が報告4,5)された.眼内使用推奨濃度はC0.25Cmg/mlとされているが,より高濃度での研究においても組織毒性が少なく,より安全な生体染色剤と考えられている4).C●レンティスのBBGによる青染例筆者の施設において,BBG前.染色を併用した白内障手術後に,.内挿入したレンティスが術後に青染されたC1例を経験した(第C46回日本眼科手術学会で報告).粘弾性物質下で前.染色を施行後,定型通りに手術が進行し,IOL挿入後の前房内洗浄も十分に行った(つもり)ではあったが,翌日診察時に前房内がやや青く,BBG成分の残留が示唆された(図1).虹彩裏に残った粘弾性物質に絡む形でCBBG成分が残留し,術後に溶け出して前房内に広がったものと推測される.経過観察にて前房内はクリアになったものの,IOLが青染され,術後C6カ月経過しても見た目は改善されることはなかった(図2).患者はやや青紫に見えるなどの自覚症状があったが,術前に比較し視力が大きく向上したことからCIOL交換は希望しなかった.C●親水性IOLと生体染色剤既報においてCTBやCICGによるハイドロジェルCIOLの染色例の報告6,7)があり,TBの添付文書には親水性IOLを用いる際の使用は控えるよう記載がある.当院での経験症例から,親水性CIOLがCBBGに染色される可能あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023C917図1術中所見a:粘弾性物質下でCBBGによる水晶体前.染色を施行.染色後に一度粘弾性物質を洗浄し,再度前房形成を行った.Cb:レンティスコンフォートを水晶体.内へ挿入.Cc:IOL裏および前房内の粘弾性物質を洗浄.Cd:手術終了時.前房内にCBBG残留は確認されない.性があり,自然経過における改善はあまり期待できないことも示唆された.水晶体前.染色を施行する際には,IOL挿入後にブラインドになりやすい虹彩裏まで含め十分な洗浄を心がける必要性があり,より確実な洗浄方法の確立も期待される.文献1)GartaganisCSP,CPrahsCP,CLazariCEDCetal:Calci.cationCofChydrophilicCacrylicCintraocularClensesCwithCaChydrophobicsurface:Laboratoryanalysisof6cases.AmJOphthalmolC168:68-77,C20162)JacksonTL,HillenkampJ,KnightBCetal:SafetytestingofCindocyanineCgreenCandCtrypanCblueCusingCretinalCpig-mentCepitheliumCandCglialCcellCcultures.CInvestCOpthalmolCVisSci45:2778-2785,C20043)vanCDoorenCBT,CdeCWaardCPW,CPoort-vanCNouhuysCHCetal:Cornealendothelialcelldensityaftertrypanbluecap-右眼左眼図2術後6カ月の臨床所見右眼がレンティスコンフォートのCBBG青染例.左眼(他のIOL眼)に比較し,右眼のCIOLは明らかに青く,また眼底写真(下段)も右眼で青みがかっている.CsuleCstainingCinCcataractCsurgery.CJCCataractCRefractCSurgC28:574-575,C20024)EnaidaH,HisatomiT,HataYetal:BrilliantblueGselec-tivelystainstheinternallimitingmembrane/brilliantblueG-assistedmembranepeeling.RetinaC26:631-636,C20065)HisatomiT,EnaidaH,MatsumotoHetal:StainingabilityandCbiocompatibilityCofCbrilliantCblueG:preclinicalCstudyCofCbrilliantCblueCGCasCanCadjunctCforCcapsularCstaining.CArchOphthalmolC124:514-519,C20066)後藤憲仁,松島博之,向井公一郎ほか:親水性ハイドロジェル眼内レンズの薬物吸着・徐放作用.あたらしい眼科C20:C1451-1456,C20037)WernerCL,CAppleCDJ,CCremaCASCetal:PermanentCblueCdiscolorationofahydrogelintraocularlensbyintraopera-tiveCtrypanCblue.CJCCataractCRefractCSurgC28:1279-1286,C2002C

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 近視とコンタクトレンズ

2023年7月31日 月曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療11.近視とコンタクトレンズ■はじめに近年,世界中で近視人口が急増しており,社会的に重要な課題となっている.とくに小児における近視の進行抑制方法に対する関心が高まっている.学童の近視進行抑制にはさまざまな手法があるが,屋外時間や日光照射時間などの環境因子のコントロールやアトロピン点眼薬,特殊眼鏡に加えて,コンタクトレンズ(CL)も重要な役割を果たすと考えられている.本稿では,CLが学童近視の進行抑制に果たす役割について簡単に紹介する.C■コンタクトレンズによる近視進行抑制現在,近視進行抑制を目的とした治療は多数報告されているが,有効性・安全性が十分なデータによって示されている治療法は限られている.その中で,一定のエビデンスがある近視進行抑制法として注目されているのが,オルソケラトロジーレンズと多焦点レンズである.以下にそれぞれの近視進行抑制法の概要を示す.C■オルソケラトロジーレンズオルソケラトロジー(orthokeratology:OK)とは,リバースジオメトリーという特殊な形状をしたハードCLを装用することで角膜形状を変形させ,屈折矯正効果を得る方法である.近年はレンズ素材の酸素透過性の向上により,夜間就寝時のみ装用するオーバーナイト法が主流となっている.OKレンズによる近視進行抑制効果の検討は古くから行われてきたが,2002年に非接触型の光学式眼軸長測定装置が出現し,小児における眼軸長の測定が容易になったことで,研究が急速に進展した.2004年のCCheungの発表以降1),さまざまな報告によってその効果が示され,現在は,複数のメタ解析によってCOKレンズによる眼軸伸長抑制効果が確認されている.さらにC2018年にはCHiraokaらがC10年の長期観察結果2)を報告し,長期にわたる近視抑制効果と一定の安全性が示された.また,メカニズムは不明だが,0.01%アトロピン点眼との相加作用3)も確認されており,今後の研究に注目が集まっているOKレンズが近視進行抑制に働くメカニズムについて(67)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY糸井素啓京都府立医科大学道玄坂糸井眼科図1軸外収差理論に基づく眼軸伸長抑制メカニズム通常の凹レンズで近視矯正を行った場合(Ca)は,周辺からの光は軸外(網膜周辺部)において網膜より後方に結像し,焦点ボケを生じる.これを,遠視性デフォーカスとよび,眼軸を伸長させる誘引となる.一方,オルソケラトロジーによる矯正後(b)は,角膜周辺部が急峻化しているため,周辺部の屈折力が増し,遠視性のデフォーカスが改善する.その結果,眼軸を伸長させる刺激が減少する.は,未だにその詳細はわかっていないが,もっとも有力な仮説として軸外収差理論が支持されており,角膜が全体として台形形状になり,周辺部の角膜形状が急峻化することで遠視性デフォーカスが改善すると考えられている(図1).また,近年は高次収差の増加が眼軸長の伸長を抑制している可能性も指摘されている.2009年にオルソCK(現在の製品名はメニコンオルソK.アルファコーポレション製)が日本で初めて承認されて以降,複数のCOKレンズが国内で承認されている.しかし,いずれも「角膜矯正用」としての薬事承認であり,近視進行抑制効果に対する薬事承認は得ていないことには留意すべきである.C■多焦点ソフトコンタクトレンズ多焦点レンズとは,一つのレンズに二つ以上の屈折力をもつレンズであり,おもに老視矯正や調節緊張の緩和を目的に使用される.近年,多焦点ソフトCCL(SCL)の近視進行抑制効果が注目され,海外を中心に臨床研究が急増している.多焦点CSCLはその光学部のデザインによって複数のタイプがあり,二重焦点型,累進屈折型,拡張焦点深度型などさまざまな光学デザインの多焦点レンズが臨床研究に用いられている(表1).多焦点CSCLレンズが近視進行抑制に働くメカニズムについては未だに明らかになっていない.しかし,デザあたらしい眼科Vol.40,No.7,2023C915表1おもな多焦点SCLを用いた近視進行抑制効果に関する研究著者年雑誌デザイン期間Fujikadoetal4)C2014CClinOphthalmol累進屈折型CAdd+0.51年CLametal5)C2014CBrJOphthaloml2重焦点CAdd+2.52年CSankaridurgetal6)C2019COphthalmolPhyiolOpt拡張焦点深度(EDOF)型2年CChamberlainetal7)C2019COptomVisSci.2重焦点CAdd+2.02年CWallineetal8)C2020CJAMA累進屈折型CAdd+1.5or+2.03年CChengetal9)C2023COphthalmolSci3重焦点CAdd+7.0and+10.0半年インや加入度数が異なるレンズであっても,一定の近視進行抑制効果が得られていることから,軸外収差理論に基づく遠視性デフォーカスの軽減のほかに,近視性デフォーカスや,調節の関与など,複数の光学的機序が関与していると考えられている.日本では現在,「近視進行治療用」として認可された製品は存在しないが,2017年にCMiSight(CooperVision社)が世界で初めて近視進行抑制用の多焦点CSCLとしてCCEマークを取得以降,欧米では複数の製品が近視進行抑制用CSCLとして認可されている.わが国でも,MiSightの臨床試験が開始されており,その結果が期待されている.C■おわりにいずれの治療も未成年を対象とするため,誰にでも自由に勧めてよいものではない.OKレンズにはガイドラインがあり,保護者への説明やケア手法に加えて,その屈折力や年齢といった適応が記載されている.一方,近視進行抑制を目的とした多焦点レンズについては明確なガイドラインが存在しない.OKレンズとは異なり日中の装用となるため,学校などでのトラブルに対応できるように,子ども自身が装脱をマスターしていることが望ましい.近視進行抑制を目的とした場合であっても,未成年に対するCCL処方では,安全性に配慮して慎重な処方を行いたい.文献1)CheungCSW,CChoCP,CFanD:AsymmetricalCincreaseCinCaxiallengthinthetwoeyesofamonocularorthokeratolo-gypatient.OptomVisSciC81:653-656,C20042)HiraokaCT,CSekineCY,COkamotoCFCetal:SafetyCandCe.cacyCfollowingC10-yearsCofCovernightCorthokeratologyCforCmyopiaCcontrol.COphthalmicCPhysiolCOptC38:281-289,C20183)KinoshitaCN,CKonnoCY,CHamadaCNCetal:E.cacyCofCcom-binedCorthokeratologyCandC0.01%CatropineCsolutionCforCslowingCaxialCelongationCinCchildrenCwithmyopia:aC2-yearrandomisedtrial.SciRepC10:12750,C20204)FujikadoT,NinomiyaS,KobayashiTetal:E.ectoflow-additionsoftcontactlenseswithdecenteredopticaldesignonCmyopiaCprogressionCinchildren:aCpilotCstudy.CClinCOphthalmolC8:1947-1956,C20145)LamCCS,CTangCWC,CTseCDYCetal:DefocusCincorporatedCsoftcontact(DISC)lensCslowsCmyopiaCprogressionCinCHongCKongCChineseschoolchildren:aC2-yearCrandomisedCclinicaltrial.BrJOphthalmolC98:40-45,C20146)SankaridurgCP,CBakarajuCRC,CNaduvilathCTetal:MyopiaCcontrolCwithCnovelCcentralCandCperipheralCplusCcontactClensesandextendeddepthoffocuscontactlenses:2yearresultsfromarandomisedclinicaltrial.OphthalmicPhysi-olOpt39:294-307,C20197)ChamberlainP,Peixoto-de-MatosSC,LoganNSetal:A3-yearrandomizedclinicaltrialofMiSightlensesformyo-piacontrol.OptomVisSciC96:556-567,C20198)WallineCJJ,CWalkerCMK,CMuttiCDOCetal;BLINKCStudyGroup:E.ectCofChighCaddCpower,CmediumCaddCpower,CorCsingle-visioncontactlensesonmyopiaprogressioninchil-dren:TheCBLINKCRandomizedCClinicalCTrial.CJAMAC324:571-580,C20209)ChengCX,CXuCJ,CBrennanNA:RandomizedCtrialCofCsoftCcontactlenseswithnovelringfocusforcontrollingmyopiaCprogression.COphthalmolSciC3:100232,C2023