眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋野口三太朗465.新しい術野洗浄デバイス「FornixWasher」ツカザキ病院眼科従来の術野洗浄では到達困難な眼瞼円蓋部の除菌不良が術後眼内炎の一因となっている.筆者らが開発したCFornixWasherは,独特な傘状構造により円蓋部深部まで効率的に洗浄・除菌を行う革新的デバイスである.白内障手術における検討では,従来法と比較して細菌培養陽性率をC5.4%からC0.3%に大幅減少させ,術直後の角膜上皮障害スコアも有意に軽減した(8.26C→C6.00).本デバイスは眼科手術の安全性向上に大きく貢献する可能性がある.●はじめにポビドンヨード消毒は,眼科手術における標準的な術野洗浄法としてC30年以上使用されてきた1,2).その有効性は確立されているものの,注射器を用いた従来の洗浄法は完璧とは言いがたい3).術中に油膜の拡散や異物の出現により術野が再汚染される現象は,従来法の限界を示している.結膜は円蓋部で深く折り込まれており,下眼瞼で平均C10.0±2.1Cmm,上眼瞼ではC14.1C±2.5Cmmの深さを有する.従来の洗浄法では,これらの深部領域への到達が不十分であり,細菌の温床となっている可能性が高い.C●FornixWasherの開発コンセプトと設計この問題を解決するため,筆者らは新しい術野洗浄デバイス「FornixWasher」(フォルニックスウォッシャー)を開発した(図1).本デバイスはステンレス鋼製で,高さC13.2Cmm,直径C22Cmmの半円形傘状構造を特徴とする.傘の縁部からポビドンヨードが旋回流として噴出され,消毒液が円蓋部深部まで確実に到達する.傘の曲率は角膜曲率より急峻に設計されており,角膜との直接接触を防止する1).●泡状洗浄液による洗浄力向上のメカニズムFornixWasherの特徴の一つは,希釈イソジンを事前にミキシングすることで泡状の洗浄液を射出できることである4)(図2).この泡状洗浄液は以下のメカニズムにより洗浄力向上を実現する5).①表面張力効果の最大化:泡の気泡は液体と気体の界面を大幅に増加させ,細菌バイオフィルムや粘液層への浸透力が向上し,付着物が効率的に.離される.②掻き上げ効果(catch-upe.ect):気泡の破裂時に発生する微細な流動により,円蓋部の複雑な襞構造内の汚れや細菌が物理的に掻き上げられる.③滞留時間の延長:泡状洗浄液は粘性が高く,円蓋部での滞留時間が延長され,ポビドンヨードの殺菌作用時間が確保される.④接触面積の拡大:泡の三次元構造により,微細な隙間や襞の奥まで洗浄液が浸透する.使用時は,FornixWasherを眼瞼裏に挿入して軽い圧力を加えながら泡状溶液を噴出させ,円蓋部を直接洗浄する.C●従来法との効果比較1.術後眼内炎の予防眼瞼円蓋部の内視鏡検査では,複数の睫毛が円蓋部に迷入しているケースが観察される.FornixWasherに図1FornixWasherの形状と射出の様子図2フォーム洗浄の様子(65)あたらしい眼科Vol.43,No.2,2026C1830910-1810/26/\100/頁/JCOPY図3フォルニックスウォッシャーにて取り除かれた円蓋部異物の拡大図よる洗浄中にC30本以上の睫毛や異物が塊となって除去された症例も存在する.これらは薄いプラスチックテープ様の合成物質と眼脂が絡み合った塊であり(図3),自覚症状はなく術前検査でも見落とされていた.白内障手術におけるヨード洗浄直後の細菌培養検査では,従来法でC5.4%の陽性率を示した.FornixCWasher使用によりC0.3%まで有意に減少し,眼内炎リスクの軽減効果が実証された.C2.眼脂の除去従来洗浄群では糸状眼脂の摘出率がわずかC2%(50眼中C1眼)であったが,FornixWasher群ではC36%(50眼中C18眼)と有意に高い除去効率を示した(p<0.05).C3.角膜への薬剤毒性従来の洗浄法では角膜表面が直接的に強いヨード流に曝露される.FornixWasherの傘状デザインは角膜を保護し,上皮障害を軽減する.術直後の角膜上皮障害スコア(0~10点)は従来群C8.26C±1.68に対し,FornixWasher群C6.00C±1.84と有意に改善した(p<0.05).疼痛スコア(0~100点)も従来群C36.3C±32.8からCFornixWasher群C14.3C±21.7へと有意に軽減した(p<0.05).白内障手術直後の距離矯正視力は従来群C0.16に対し,FornixWasher群C0.09と有意に良好であった.C●臨床応用における検証結果上眼瞼をフルオレセインで染色し従来法で洗浄した場合,洗浄直後に残存染色液の漏出と円蓋部に捕捉された粘液が観察された.一方,FornixWasher使用時は染色液の漏出や可視的汚れは認められなかった.C●安全性と実用性FornixWasherは既存の手術手技に容易に組み込むことができ,特別な技術習得を必要としない.ステンレス鋼製で再利用可能であり,コスト効率も良好である.泡状洗浄液の調製も簡便で,術中の追加時間も最小限に抑えられる.C●今後の展望FornixWasherは従来の術野洗浄法の限界を克服する画期的なデバイスである.円蓋部と眼瞼内側の効果的な洗浄・除菌により,術中の細菌汚染を大幅に減少させ,術後眼内炎の発症率低下が期待される.また,角膜上皮障害の軽減により術直後の視機能改善も期待できる.今後は多施設での大規模臨床試験により,長期的な安全性と有効性の検証が必要である.本デバイスは眼科手術消毒の新たな標準となることが期待される.文献1)NoguchiS:WholeCnewCwayCtoCcleanCsurgicalCsight.CASCRS20252)SpeakerMG,Meniko.JA:ProphylaxisofendophthalmitiswithCtopicalCpovidone-iodine.COphthalmologyC98:1769-1775,C19913)CiullaTA,StarrMB,MasketS:BacterialendophthalmitisprophylaxisCforCcataractsurgery:anCevidence-basedCupdate.COphthalmology109:13-24,C20024)FergusonCAW,CScottCJA,CMcGaviganCJCetal:ComparisonCofC5%Cpovidone-iodineCsolutionCagainstC1%Cpovidone-iodineCsolutionCinCpreoperativeCcataractCsurgeryCantisep-sis:aCprospectiveCrandomisedCdoubleCblindCstudy.CBrJOphthalmolC87:163-167,C20035)RosenCRC,CDaunM:Antisepticfoams:PhysicalCproper-tiesandantimicrobiale.cacy.JHospInfectC14:201-210,C1989C