眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋住岡孝吉463.Deadbagsyndrome和歌山県立医科大学医学部眼科学講座Deadbagsyndromeは,白内障手術後長期経過例において水晶体.が異常に透明化し柔軟化することで,.内眼内レンズ支持機構が破綻するまれな病態である.本症は水晶体上皮細胞の消失および線維性成分の欠如,.の分裂・層間.離を特徴とし,眼内レンズ偏位・脱臼ならびに視機能障害を惹起する.●はじめに白内障手術で眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を水晶体.内に固定したのち,長期経過により.構造が変化し,IOLの安定性が損なわれることがある.代表的な合併症である後発白内障(posteriorCcapsuleCopaci.ca-tion:PCO)は,水晶体上皮細胞(lensCepithelialcells:LEC)の増殖や上皮-間葉転換(epithelial-mesenchymaltransformation:EMT)によって線維性組織が形成され,Soemmerring輪やCElschnig真珠が生じ,視力低下やIOL偏位をきたす.一方,近年報告されているCdeadbagCsyndrome(DBS)はCPCOと異なり,術後平均C10年以上経過した患者で水晶体.が異常に透明かつ柔軟(フロッピー)となり,IOL支持が破綻するまれな病態である1)(図1).術中にCZinn小帯脆弱を認めないことが多く,病理組織学的にはCLECの著明な消失,線維成分の欠如,.の分裂や層間.離が特徴とされる2)(図2).C●病態生理と原因の考察DBSにおけるCLECの消失は免疫染色で明らかとなり,術後になんらかの要因で細胞死が生じていると考えられる.通常,残存CLECは創傷治癒反応として増殖し,Ⅰ型コラーゲンやフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスを分泌するが,DBSではこれらがごく限られた領域にしか認められない2).房水成分の影響も重要であり,残存CLECが房水に持続的に曝露されることで細胞死が促進される.とくに,.の分裂や層間.離がCZinn小帯付着部で生じた場合,房水が層間へ流入し続け,LEC障害を助長する可能性がある.水晶体.研磨の影響については,PCO予防目的の研磨によりCLECが減少すれば,長期的に.構造の維持が損なわれる可能性はある.しかし,広範囲研磨を行っていない患者でもCDBSは発生しており,決定的な原因とはいいがたい.アトピー性皮膚炎との関連も報告されており,前房内の好酸球から放出される主要塩基性蛋白質がCLECに損傷を与え,分化過(61)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1Deadbagsyndromeの水晶体.とIOL(住岡孝吉,WernerL,安田慎吾ほか:白内障手術後の水晶体.の線維性混濁とCdeadbagCsyndrome.眼科65:63-67,2023より許可を得て改変転載)図2IV型コラーゲンによる免疫染色前.の分裂・層間.離がみられる.程を抑制し,.の既存の脆弱性を悪化させる可能性がある3).実際にアトピー性皮膚炎を伴うCIOL脱臼の患者ではCLECの変性・水晶体.の脆弱化がより高度に進行しており,.の脆弱性がCIOL脱臼の一因となっており,その一形態としてCDBSもみられると報告されている4).疫学的特徴としては,男性に多いこと,軸性近視との関連が示されている5).また,遺伝的背景として,FBN2,LAMB1,LAMB2遺伝子変異が半数以上の症例で同定されており,結合組織や基底膜構造の異常が関与している可能性がある6).さらに直近の学会では,DBS症例では前.への終末糖化産物(advancedCglycationCendproducts:AGE)の蓄積が顕著で,水晶体.構造が糖化により脆弱化することで,.の分裂が誘発される可能性も報告されている7).C●臨床像,治療,管理DBSは.の透明化と柔軟化が術後早期には見逃されあたらしい眼科Vol.42,No.12,2025C1539abc図3IOL脱臼を繰り返したアトピー性皮膚炎を伴うdeadbagsyndromeの1例透明でフロッピーな.と下方に脱臼したCIOLがみられる.やすく,軽度のCIOL偏位や視機能低下が緩徐に進行するため,長期経過観察で初めて発見されることが多い.発症初期の診断は困難であり,IOL亜脱臼が急速に進行する例もある.臨床像はCPCOや.収縮症候群など他の晩期合併症と類似するため,鑑別には前眼部光干渉断層計や超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)による形態評価が有用で,術中所見と併せて病態を把握することが重要である.症状は初期には乏しいが,.の変化に伴いCIOL偏位と視力低下が顕在化する.手術時にCZinn小帯脆弱を認めないことが多く,IOL整復後も再脱臼を繰り返す例がある8)(図3).予防は困難で,治療はCIOL抜去後の強膜内固定または毛様溝縫着が行われる.アトピー性皮膚炎合併例では,術後も長期にわたりCIOLの位置と視機能の定期評価が推奨される.C●おわりにDeadbagsyndromeは,白内障手術後の長期経過において,LECの消失と線維成分の欠如を背景に,水晶体.が構造的に脆弱化し,IOLの支持が破綻するまれな病態である.本症は臨床的に発症初期の診断が困難で,しばしば他の晩期術後合併症との鑑別を要する.早期発見には定期的な画像評価と術中所見の記録が重要であり,とくにアトピー性皮膚炎など既知の危険因子をもつ患者では,長期的な経過観察が不可欠である.その明確な発症機序は未解明であり,予防法の確立には今後のさらなる研究が不可欠である.将来的には,危険因子の有無に応じた患者ごとの発症リスク評価や,.構造の保持を目的とした新たな術中・術後管理法の開発が望まれる.文献1)CulpC,QuP,JonesJetal:Clinicalandhistopathological.ndingsCinCtheCdeadCbagCsyndrome.CJCCataractCRefractCSurgC48:177-184,C20222)SumiokaT,WernerL,YasudaSetal:Immunohistochem-icalC.ndingsCofClensCcapsulesCobtainedCfromCpatientsCwithCdeadbagsyndrome.JCataractRefractSurgC50:862-867,C20243)YamamotoN,HiramatsuN,IsogaiSetal:MechanismofatopicCcataractCcausedCbyCeosinophilCgranuleCmajorCbasicCprotein.MedMolMorpholC53:94-103,C20204)KomatsuCK,CMasudaCY,CIwauchiCACetal:LensCcapsuleCpathologicalcharacteristicsincasesofintraocularlensdis-locationCwithCatopicCdermatitis.CJCCataractCRefractCSurgC50:611-617,C20245)NathCV,CVasavadaCAR,CDholuCSCetal:ClinicalCfeatures,Criskfactorsandoutcomesfollowingsurgeryforlateintra-ocularlensdecentrationinthedeadbagsyndrome.AmJOphthalmol272:38-47,C20256)VasavadaCAR,CRajkumarCS,CVasavadaCSACetal:GeneticCvariantsCinCgenesCregulatingClensCcapsuleCstructureCandCstabilityCinCdeadCbagCsyndrome-PartC1.CJCCataractCRefractCSurg,2025Jun30.Onlineaheadofprint7)小松功生士,増田洋一郎,飯田将展ほか:眼内レンズ脱臼症例における前.CAGE免疫染色の病理学的特性.第C64回日本白内障学会総会.20258)安田慎吾,宮本武,石川伸之ほか:水晶体.混濁のない水晶体.内に挿入された眼内レンズが脱臼を繰り返した一例.臨眼70:1443-1447,C2016