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抗VEGF治療セミナー:抗VEGF薬の半減期と緑内障点眼薬

2026年4月30日 木曜日

●連載◯166監修=安川力五味文146抗VEGF薬の半減期と緑内障点眼薬伊野田悟自治医科大学眼科学講座抗CVEGF薬はC2000年代に登場以降,種々の網膜疾患治療に不可欠な存在となった.現在までに抗CVEGF薬作用の延長を目的に,抗体製剤の分子量・電荷の調整,Ang-2阻害併用,PEG修飾などの薬剤開発研究が行われている.本稿では身近な緑内障薬の点眼で抗CVEGF薬眼内半減期が延長する可能性を紹介する.はじめに抗CVEGF薬は,新生血管型加齢黄斑変性(neovascu-larCage-relaterCmaculardegenetation:nAMD),糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫をはじめとした網膜疾患において,その有効性の高さから既存治療と置き換わった.2009年にラニビズマブ(ルセンティス),2012年にアフリベルセプト(アイリーア),2020年にブロルシズマブ(ベオビュ),2022年にファリシマブ(バビースモ)と,改良が重ねられた薬剤が発売されてきた.改良のおもなポイントは,より良い有効性と安全性であり,近年は有効性の中でもその作用時間と長期予後に注目が集まっている.筆者の私見であるが,アフリベルトC2Cmgにおいて抗CVEGF薬としての浮腫の抑制作用はすでに十分であり,今後の新規薬剤には,低分子量・高い溶解性によるCVEGFの抑制作用や,Ang-2を抑制するなどのさらなる「付加価値」が求められる.現在も新規作用機序や薬剤の改良が行われているが,未だどの薬剤においても患者によってはC1,2カ月ごとの眼内注射が必要であり,薬剤の効果持続期間にみられる顕著な個人差の要因については,現時点では解明されていない.眼内に注入された抗CVEGF薬は代謝・分解されない.抗CVEGF薬の硝子体内注射後の正確な薬物動態は解明されていないが,少なくとも一部は房水と同様に,受動的に眼内循環によって硝子体腔から全身循環へ排出されると考えられている1).房水の循環はCSchlemm管を介して全身循環へと排泄・再吸収される.緑内障点眼薬は房水循環に作用することで眼圧を下げる.炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseinhibitors:CAI),β遮断薬,α2作動薬は,房水産生を抑制して眼圧を下げ,プロスタグランジン関連薬(prostaglandinCanalogues:PGA),Rhoキナーゼ阻害薬,α2作動薬は房水流出抵抗を低下させる.筆者らは,この緑内障点眼薬による房水循環への作用(95)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYによって,投与後の抗CVEGF薬の眼外への排出が遅延し半減期が延長する仮説を立て,後ろ向きに検討を行った(図1)2).生理的な状態では房水が産生され,その流れに従い受動的に抗VEGF薬は眼外へ排出される房水の流れ抗VEGF薬房水産生抑制点眼薬併用により,房水の流れが滞り,抗VEGF薬の眼外へ排出は抑制される図1緑内障点眼薬による注射後の抗VEGF薬への影響仮説試験の概要nAMDに対する初回アフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.ibercept:IVA)1カ月後の房水中アフリベルセプト濃度について,緑内障点眼薬併用の影響を検討することを目的とした.2013年C7月~2020年C11月に自治医科大学および東京新宿メディカルセンターにおいて,nAMD治療のために初回CIVAを受け,かつ緑内障治療のため点眼薬を使用している患者C17眼C17人を対象とした.コントロール群として,同時期に初回IVAを受け,かつ房水循環に影響を及ぼす薬剤を使用していないCnAMD患者C40眼C40人を年齢・性別・眼軸長でマッチングさせた.IVAのC1カ月後に房水を採取し,Kruskal-Wallis検定およびCDunn検定で群間比較をあたらしい眼科Vol.43,No.4,2026437アフリベルセプト(μg/ml)302520151050コントロール緑内障点眼使用群図2前房水中アフリベルセプト濃度比較行った.対象群の点眼薬は,作用機序に応じて房水流出促進薬(PGA,Rhoキナーゼ阻害薬など)と房水産生抑制薬(CAI,β遮断薬,α2作動薬など)に分類し,解析を行った.その結果,各群の房水中アフリベルセプト濃度の中央値(四分位範囲)は,コントロール群C6.83Cμg/ml(1.94~10.34),房水流出促進薬使用群C9.93μg/ml(2.58~17.44),房水産生抑制薬使用群C15.95Cμg/ml(7.20~22.57)であった(図2).Kruskal-Wallis検定により,三群間で統計的に有意差を認め(p=0.0075),房水産生抑制薬使用群はコントロール群および房水流出促進薬使用群と比較して有意に高いアフリベルセプト濃度が示された(それぞれCp=0.0085およびCp=0.044,Dunn検定).半減期の延長効果アフリベルセプトは眼内に投与後,徐々に眼外へ排出される.眼内での生理活性はC79~87日程度維持される3).筆者らはC84日後に生理活性が失われると仮定し,房水産生抑制点眼薬併用による半減期延長効果を右の式にて予測した.28日後の前房水中アフリベルセプト濃度の違いから,房水産生抑制点眼薬を併用することでアフリベルセプトの眼内での生理活性濃度を維持できる期間はC84日からC142日~167日程度に延長する結果となり,C2~3カ月程度の延長効果が期待できる可能性が示唆された.結果の解釈と今後の展望房水循環によって硝子体内に投与した薬剤の延長が期C438あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026待できるのであれば,世界的にも安全性が確立した緑内障点眼薬のさらなる活用が期待できる.本研究ではnAMDを対象としたが,硝子体内注射を必要とする複数の疾患への応用も考えられるだろう.糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,近視性脈絡膜新生血管などへの抗CVEGF薬との併用が期待できる.また,本検討2)では示していないが,筆者らはCXCL-1やTNF-αといったサイトカインについても解析を行っており,本検討と同様の有意差を認めた.これは,房水循環の違いが,眼内生理活性物質動態へ影響を与えうる可能性を示している.すなわち,房水循環の排出抵抗が高いなどすると,サイトカインが貯留しやすくなる可能性である.今後の研究によって,房水循環に影響のある排出経路の個人差が,緑内障以外の眼疾患の発症リスクと関連している可能性も示されるかもしれない.今回はCnAMD患者のうち緑内障併発患者に限定しての後ろ向き検討であり,症例数も少ない.房水循環は緑内障の有無で異なる可能性もあり,さらなる検討が望まれる.重要なことだが,抗CVEGF薬延長を目的として緑内障点眼薬を処方してはならない(適用外使用となる).緑内障点眼薬が必要な抗CVEGF加療中の患者における点眼薬選択の参考程度に役立てていただければと思う.文献1)Garcia-QuintanillaCL,CLuaces-RodriguezCA,CGil-MartinezCMCetal:PharmacokineticsCofCintravitrealCanti-VEGFCdrugsinage-relatedmaculardegeneration.Pharmaceutics11:365,C2019C2)InodaS,TakahashiH,TakahashiRetal:Effectofcombi-nationuseofaqueoushumorsecretioninhibitoreyedropsonCa.iberceptlevel:ACpreliminaryCanalysis.CTranslCVisCSciTechnolC14:21,C2025C3)StewartCMW,CRosenfeldPJ:PredictedCbiologicalCactivityCofCintravitrealCVEGFCtrap.CBrCJCOphthalmolC92:667-668,C2008(96)

緑内障セミナー:緑内障と眼瞼下垂

2026年4月30日 木曜日

●連載◯306監修=福地健郎中野匡306.緑内障と眼瞼下垂柚木達也富山大学医学部眼科学教室緑内障と眼瞼下垂の合併は比較的多く,とくに長期の点眼治療や緑内障手術が発症の契機となることがある.眼瞼下垂は上方の視野異常や眼圧測定値の変動を招き,緑内障の正確な評価や管理をむずかしくする要因となる.本稿では両者の関連性を整理し,臨床で留意すべきポイントについて述べる.●はじめに緑内障と眼瞼下垂はいずれも中高年に多くみられ,両者の合併も少なくない.緑内障患者では長期にわたる点眼治療や手術が眼瞼下垂の一因となることがあり,とくにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬によるプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandin-associatedperiorbitopathy:PAP)は,眼瞼形態の変化や下垂を誘発することが知られている.眼瞼下垂は視野検査や眼圧測定の精度に影響し,緑内障の正確な評価を妨げる可能性があるほか,角膜形状にも変化を及ぼすことが報告されている.本稿では,緑内障と眼瞼下垂の関連性,診療への影響,そして臨床対応の要点について概説する.C●緑内障手術と眼瞼下垂の発生緑内障手術後には比較的高頻度に眼瞼下垂が発生することが知られている.濾過手術後の眼瞼下垂の原因としては,手術侵襲や開瞼器による眼瞼挙筋腱膜の離開,上眼瞼および結膜の慢性的な炎症の持続などがあげられる1).術後眼瞼下垂の発生率はC15%前後と報告されており,白内障手術や硝子体手術後よりも高い傾向にある2,3).さらに,BaerveldtやCAhmedなどのCglaucomaCdrainagedevice(GDD)留置後には,さらに高率に眼瞼下垂が生じるとされ,濾過手術以上のリスクを伴う可能性がある4).このように,緑内障手術は眼瞼下垂発症のリスクが比較的高い手術であることを十分に理解し,術後には眼瞼の形態変化や開瞼機能の評価を継続的に行うことが重要である.C●緑内障患者における眼瞼下垂の影響瞳孔から上眼瞼までの距離であるCmarginre.exdis-(93)tance(MRD)-1がC2.5mm以下になるとCQOLの低下や上方視野異常が生じるといわれており,緑内障視野異常の評価がむずかしくなる.実際,眼瞼下垂術後には上方視野の改善が報告されており,上方視野悪化時には眼瞼下垂の進行を考慮することが重要である5).また,濾過手術眼における眼瞼下垂手術は,術操作による濾過胞への影響が懸念されるが,近年の報告では濾過胞の形態や眼圧に大きな影響を与えず,安全に施行可能とされている6)(図1).緑内障の正確な視野評価と視機能維持のためには,眼瞼下垂の適切な診断と手術が重要である.C●PG関連薬の副作用と眼瞼下垂の関連PG関連薬の長期点眼により生じるCPAPは,眼瞼・眼窩周囲の形態変化を特徴とする.おもな所見は,眼瞼の色素沈着,睫毛の伸長・乱生,上眼瞼溝陥凹(deepen-ingoftheuppereyelidsulcus:DUES),眼瞼下垂,皮膚硬化などである(図2).これらは整容的問題にとどまらず,皮膚の硬化により内眼手術が困難となる,アプラネーションによる眼圧測定が不正確になる,さらに濾過手術の成績不良を招くなど,臨床的影響も大きい7).PAPの発症機序は眼窩脂肪の萎縮や挙筋腱膜の菲薄化などが関与するとされ,ビマトプロストやトラボプロストでリスクが高い8).したがって,PG関連薬使用患者では眼瞼下垂を生じるリスクが高いことを念頭に置くべきである.C●PAPの視機能への影響PAPを伴う眼瞼下垂では,眼瞼圧の上昇により角膜形状が変化し,高次収差や正乱視・不正乱視の悪化を通じて視機能低下を招くことが報告されている9,10).PAPは薬剤選択により回避可能な副作用であり,視機能を保つためには重症化例でのCPG関連薬の中止・切替えが重要あたらしい眼科Vol.43,No.4,20264350910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1緑内障術後濾過胞を伴った症例(78歳,女性)a:眼瞼下垂手術前.Cb:術前の左眼にみられる.濾過胞がみられる.c:術後C6カ月,MRD-1の改善を認める.Cd:術後C6カ月,左眼.濾過胞の縮小や濾過関連合併症は認められない.bd図3上眼瞼溝陥凹を伴う症例(72歳,女性)a:術前.Cb:前眼部COCTによる術前の角膜形状.Cc:術後C3カ月.MRD-1は改善し,上眼瞼溝の陥凹は軽減している.Cd:前眼部OCTによる術後C3カ月の角膜形状.角膜乱視はC.2.3DからC.1.4Dへ減少している.(文献C9より改変引用)である.また,眼瞼下垂手術により眼瞼圧が改善すると角膜が平坦化し,これらの収差や乱視が改善して視機能向上が期待される(図3)9).一方で,PAP眼では薬剤の影響や涙液環境などオキュラーサーフェス異常の関与が疑われ,病態は複合的である.今後,PAP眼における視機能への影響についてさらなる研究が望まれる.C●おわりに緑内障患者は眼瞼下垂の合併が多く,視野異常や乱視成分が悪化することがある.また,PAPの重症化は濾過手術成績の不良や不正乱視の原因となるが,濾過胞眼であったとしても眼瞼下垂手術は比較的安全に施行可能図2PAPを伴った症例(79歳,女性)眼瞼の色素沈着,上眼瞼溝陥凹,眼瞼下垂などがみられる.であり,視機能改善のため積極的な対応が望まれる.文献1)TanCP,CMalhotraR:OculoplasticCconsiderationsCinCpatientsCwithCglaucoma.CSurvCOphthalmolC61:718-725,C20162)Naruo-TsuchisakaA,MaruyamaK,ArimotoGetal:Inci-denceCofCpostoperativeCptosisCfollowingCtrabeculectomyCwithmitomycinC.JGlaucomaC24:417-420,C20153)FukushimaCM,CYunokiCT,COtsukaCMCetal:AssociationCofCdeepeningoftheuppereyelidsulcuswiththeincidenceofblepharoptosisCafterCglaucomaC.ltrationCsurgery.CSeminCOphthalmolC35:348-351,C20204)AkaiCR,CYunokiCT,COtsukaCMCetal:IncidenceCofCblepha-roptosisafterparsplanaBaerveldt350glaucomaimplantsurgeryCbyCaCsingleCsurgeon.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC39:357-360,C20235)TaniguchiCA,CYunokiCT,COtsukaCMCetal:VisualC.eldCchangesCinCglaucomaCpatientsCafterCblepharoptosisCsur-gery.EurJOphthalmolC32:3353-3357,C20226)YunokiCT,CTojoCN,COiwakeCTCetal:GlaucomaC.lteringCblebCanalysisCbeforeCandCafterCaponeuroticCblepharoptosisCsurgery.OphthalmicPlastReconstrSurgC36:45-48,C20207)MikiT,NaitoT,FujiwaraMetal:Effectsofpre-surgicaladministrationofprostaglandinanalogsontheoutcomeoftrabeculectomy.PLoSOneC12:e0181550,C20178)InoueCK,CShiokawaCM,CWakakuraCMCetal:DeepeningCofCtheCupperCeyelidCsulcusCcausedCbyC5CtypesCofCprostaglan-dinanalogs.JCGlaucomaC22:626-631,C20139)NumataA,YunokiT,OtsukaMetal:Cornealtopograph-icCchangesCafterCblepharoptosisCsurgeryCinCpatientsCwithCdeepeningCofCtheCupperCeyelidCsulcus.CJpnCJCOphthalmolC65:282-287,C202110)YunokiCT,CUozumiCY,CTojoCNCetal:CornealCFourierChar-monicanalysisinprostaglandin-associatedperiorbitopathypatientsCwithCblepharoptosis.CJpnCJCOphthalmolC69:360-364,C2025C436あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(94)

屈折矯正手術セミナー:レーザー屈折矯正術後眼の鑑別方法

2026年4月30日 木曜日

●連載◯311監修=稗田牧神谷和孝311.レーザー屈折矯正術後眼の鑑別方法小島隆司名古屋アイクリニックレーシックを中心とするレーザー屈折矯正手術はC2000年代後半に日本で急速に普及したことから,今後,白内障手術の適応年齢に達する患者が増えることが予測される.術後眼では角膜形状の変化により,通常の眼内レンズ度数計算式を用いると術後遠視ずれを生じやすいため,適切な鑑別は患者満足度の維持に不可欠である.鑑別には細隙灯顕微鏡によるフラップエッジの観察,角膜トポグラフィーを用いた角膜前面形状の評価,前眼部光干渉断層計による角膜厚や角膜前後面比の解析が重要である.また最近,眼軸長測定装置に搭載された自動判定アルゴリズムも有用である.これらの所見を組み合わせることで,レーザー屈折矯正術後眼の鑑別精度は向上し,眼内レンズ度数計算の最適化に寄与すると考えられる.●なぜ鑑別が必要か現在,レーシック後の白内障手術で問題となるのは術後予測屈折誤差である.レーシックを受けた患者は裸眼で過ごしたいという欲求が強く,予測屈折誤差が大きくなることは,それだけ患者満足度が低下することにつながる.レーシック後眼に対して,正常眼に対するのと同じ眼内レンズ度数計算式を用いると,術後は遠視ずれを起こす.これは中心角膜屈折力の推計誤差,角膜前後面比の異常によると考えらている.しかし,レーシック後眼向けに作成された計算式を用いれば,予測の±0.5D以内にC70~80%が,±1D以内にC90%以上が入るとされる1).したがって,術前にレーザー屈折矯正術後眼であるかどうかを確実に鑑別することはきわめて重要である.C●鑑別の方法まず,平均角膜屈折力がC42D以下などの角膜がフラットでレーシック後眼が疑われる患者では,細隙灯顕微鏡にてフラップのエッジを確認することが重要である.疑わしい患者では倍率をできるだけ上げて角膜周辺部を観察することが重要である.角膜トポグラフィーがあると,多くは鑑別可能である.図1に正常眼との比較を示す.正常眼では角膜中心部ほどスティープであり,周辺部ほどフラットである.矯正量が少ないレーシック後眼ではこれがわかりづらい場合もある.その場合はマップの表示をCinstantaneousmapにすると,周辺部の矯正されていない部分と矯正された部分の境目が明瞭になってわかりやすい.前眼部光干渉断層計があると,角膜後面および角膜厚の情報が加わるため,鑑別はさらに容易である.以下の点をチェックするとよい.典型的な症例を図2に示す.①角膜トポグラフィー同様,角膜前面形状がCoblate形状(角膜中心部ほどフラットで周辺ほどスティープ).正常眼はこの逆でCprolate形状(中心部がよりスティープで,周辺部はフラット).②角膜の菲薄化.眼の術前の角膜厚にもよるが,多くはC500μm以下であることが多い.③低い角膜前面の屈折力④角膜前後面比が高くなる.角膜前後面比の正常眼の平均値はC1.19と報告されており2),レーザー角膜屈折矯正手術後は角膜前面の曲率半径が後面に比して大きくなる.C●トピックス:眼軸長測定装置に付随したレーシック後眼の鑑別システム最近アップデートした眼軸長測定器機COA-2000Comfort(トーメーコーポレーション)は,付随する角膜トポグラフィー機能を用いて,特殊な眼内レンズ度数計算式が必要なCLVC後眼と円錐角膜のリスク評価が可能になっている(図3).LVC後眼の判定アルゴリズムには角膜離心率とCFourier解析による非対称成分が用いられている.感度はC93.3%,特異度はC87.5%であり,臨床では十分有用であることが示されている3).(91)あたらしい眼科Vol.43,No.4,20264330910-1810/26/\100/頁/JCOPYAxialmapInstantaneousmap図1正常眼とレーシック眼の角膜トポグラフィー所見TMS-4N(トーメーコーポレーション)の画面.Axialmapでは,スケールをノーマライズドにすると角膜中心部フラット,周辺部スティープのCoblate形状がわかりやすい.さらにCinstantaneousmapで表示すると,屈折矯正を行った領域としていない領域の違いがはっきりして,レーザー屈折矯正手術後かどうかが一目瞭然である.文献1)GettingerK,MasuiS,OmotoMetal:Accuracyofrecentintraocularlenspowercalculationmethodsinpost-myopicLASIKeyes.SciRepC14:26560,C20242)HasegawaCA,CKojimaCT,CYamamotoCMCetal:ImpactCofCtheCanterior-posteriorCcornealCradiusCratioConCintraocularC434あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026図2前眼部光干渉断層計におけるレーシック術後眼の特徴CASIA2(トーメーコーポレーション)使用.図3光学式眼軸長測定装置搭載のLVCリスク評価システムOA-2000comfort(トーメーコーポレーション)の画面.この症例はCLVC後眼である確率が高いことが示されている.lenspowercalculationerrors.ClinOphthalmolC12:1549-1558,C20183)NishidaT,KojimaT,IsogaiNetal:Discriminantpredic-tionCequationCusingCanCopticalCbiometerCforCidentifyingCpostmyopiclaservisioncorrectioneyes.JCataractRefractSurgC50:1151-1156,C2024(92)

眼内レンズセミナー:COVID-19ワクチン接種後に両眼同時発症した急性原発閉塞隅角症の 1 例

2026年4月30日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋467.COVID-19ワクチン接種後に両眼同時発桑野和沙東京慈恵会医科大学眼科学講座症した急性原発閉塞隅角症の1例近年,COVID-19関連眼炎症性疾患発症の報告が散見される.筆者らはCCOVID-19ワクチン接種翌日に両眼同時発症した急性原発閉塞隅角症に対して,水晶体再建術が奏効した症例を経験したので報告する.●はじめに急性原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureCglauco-ma:PACG)および急性原発閉塞隅角症(acuteCprimaryCangleclosure:APAC)は急激な眼圧上昇により視機能障害をきたす疾患であり,視力低下・眼痛・悪心・嘔吐などの症状を呈し,対応が遅れると不可逆的視神経障害に至る.典型的には片眼性で発症し,両眼同時発症はまれで,Vogt・小柳・原田病,薬剤性,炎症性,解剖学的異常など続発性であることが多い.近年,COVID-19ワクチン接種後の多彩な眼合併症が報告されている.今回筆者らは,明らかな誘因なくワクチン接種翌日に両眼同時発症したCAPACを経験した.C●症例提示患者はC69歳,女性.COVID-19ワクチンC4回目を接種した当日の深夜に右眼羞明・眼痛を自覚し,翌日に前医を受診した.視力は右眼C0.07(0.5C×sph-4.50Dcyl-0.50DC×Ax125°),左眼C0.01(1.0C×sph-3.25Dcyl-0.75DC×AxC50°).両眼とも眼圧C62CmmHgで,浅前房・中等度散瞳を認め,グリセオール点滴後に当院紹介受診となった.来院時の眼圧は右眼C56CmmHg,左眼C19CmmHgで,前眼部光干渉断層計(CASIA2)で両眼とも浅前房(前房深度は右眼1.59Cmm,左眼C1.65Cmm),iridotrabecularcontact(ITC)indexは右眼C92.8%,左眼C80.0%であった(図1).眼軸長は右眼C24.09Cmm,左眼C23.84Cmmで短眼軸ではなかった.眼底に漿液性網膜.離や脈絡膜肥厚はなく,Vogt・小柳・原田病は否定的であった.右眼耳側に白色病変を認めたが,蛍光眼底造影では軽度蛍光漏出以外に炎症所見はなかった.採血・胸部CX線に異常所見はなかった.続発性のCAPACと診断し,D-マンニトール点滴,ピロカルピン塩酸塩点眼,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼で眼圧下降を試みた.しかし,発作が解除されないためピロカルピン塩酸塩点眼からアトロピン硫酸塩水和物点眼に変更したところ発作は解除され,眼圧は右眼C11CmmHg,左眼C13CmmHgまで下降し,前房深度は右眼C1.76mm,左眼C1.69mm,ITCIndexは(89)右眼C39.2%,左眼C44.7%に改善した(図2).ワクチン接種11日後に,再発を認めなかったためアトロピン硫酸塩水和物点眼を中止したところ,同C13日後に右眼にCAPACが再発し,眼圧はC40CmmHg,前房深度C1.62Cmm,ITCCIndex33.6%であった.同日,右眼水晶体再建術を施行し,発作の解除と眼圧下降を得た(図3).また左眼に対してはワクチン接種C1カ月後に水晶体再建術を施行し経過観察を行ったが,APACの再発は認められなかった.C●考按一般的に両眼同時発症のCAPACはまれだが,これまでに複数の症例が報告されており,その多くが続発性であるため,本症例においてもぶどう膜炎,薬剤性,ウイルス感染などの誘因を検索したが,原因の特定には至らなかった.このため,COVID-19ワクチンの影響と考えられた.COVID-19ワクチン接種後の眼の炎症反応のメカニズムとして,ワクチンとぶどう膜ペプチドの分子相同性,Ⅲ型過敏反応,ワクチン接種によって誘発される自然免疫反応により二次的に生成される抗原の活性化などが示唆されている1,2).また既報では,COVID-19ワクチンC2回接種後にぶどう膜炎を発症する症例が多く,その理由として用量依存性反応の関与が考えられている3).APACの成因としては,①相対的瞳孔ブロック,②プラトー虹彩,③水晶体因子,④水晶体後方因子(毛様体因子など)が複合的に関与している可能性が高い.またCAPACの解剖学的リスク因子には,浅前房,浅い虹彩角膜角,水晶体膨隆に伴う水晶体肥厚,短眼軸があげられる4,5).本症例は①~③を満たすCAPACのハイリスク群であり,そこにCOVID-19ワクチンが発症機転となって①~④が複合的に関与し,両眼同時にCAPACが発症した可能性がある.APAC治療に関しては,従来はレーザー虹彩切開術が選択されることが多かったが,近年では水晶体再建術が眼圧コントロールや再発予防に優れ,予後がよいとの報告がある6).COVID-19感染後の両眼同時CAPACに対しても水晶体再建術が奏効した報告があり7),本症例でも再発した右眼と予防あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026C4310910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1来院時(ワクチン接種翌日)の前眼部光干渉計所見CASIA2(トーメーコーポレーション)にて,浅前房(上段),iri-dotrabecularcontact(ITC)indexにて広範囲な隅角閉塞(下段)を認める.図3水晶体再建術後の右眼前眼部光干渉計所見前房深度の拡大を認める.的に施行した左眼ともに術後は隅角開放と眼圧安定が得られ,以後再発を認めていない.COVID-19関連CAPACにおいて,水晶体再建術は有用であると考えられる.C●まとめ両眼同時発症CAPACはまれであり,本症例は解剖学的リスクを有していたが他に明確な誘因を認めず,COVID-19ワクチンの関与を否定できなかった.また,COVID-19関連CAPACに対して水晶体再建術は有用な治療法の可能性が図2ワクチン接種2日後の前眼部光干渉計所見前房深度の拡大(上段),ITCindexにて閉塞範囲の改善(下段)を認める.示唆された.文献1)WatadA,DeMarcoG,MahajnaHetal:Immune-mediat-edCdiseaseCflaresCorCnew-onsetCdiseaseCinC27CsubjectsCfol-lowingCmRNA/DNACSARS-CoV-2Cvaccination.CVaccines(Basel)9:435,C20212)TeijaroCJR,CFarberCDL,CGriffinCDECetal:COVID-19Cvac-cines:modesofimmuneactivationandfuturechallenges.NatRevImmunolC21:195-197,C20213)LiS,HoM,MakAetal:Intraocularinflammationfollow-ingCOVID-19vaccination:Ctheclinicalpresentations.IntOphthalmolC43:2971-2981,C20234)日本緑内障学会:第C2章緑内障の分類,Ⅱ続発緑内障(secondaryglaucoma).緑内障ガイドライン(第C5版).日眼会誌126:98,C20225)LeeHS,ParkJW,ParkSWetal:FactorsaffectingrefracC-tiveoutcomeaftercataractsurgeryinpatientswithahis-toryCofCacuteCprimaryCangleCclosure.CJpnCJCOphthalmolC58:33-39,C20136)OngCAY,CMcCannCP,CPereraCSACetal:LensCextractionCversuslaserperipheraliridotomyforacuteprimaryangleclosure.CCochraneCDatabaseCSystCRevC2021:CD015116,C20217)NivashCA,CKumarCS,CReddyCPCetal:BilateralCangle-clo-sureattackinaCOVID-19-positivepatient.OmanJOph-thalmolC17:264-267,C2024

写真セミナー:先天性遺伝性角膜実質ジストロフィ

2026年4月30日 木曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史本宮奈月503.先天性遺伝性角膜実質ジストロフィ東京歯科大学市川総合病院眼科図2図1のシェーマ①角膜実質浮腫図1右眼の当院初診時所見(4歳,女児)角膜はびまん性に実質浮腫をきたしている.矯正視力はC0.04.図3右眼DALK後1カ月の前眼部所見(左図)と光干渉断層計所見(右図)術後角膜浮腫はなく,角膜グラフトの接着は良好であった.矯正視力はC0.4.(87)あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026C4290910-1810/26/\100/頁/JCOPY先天性遺伝性角膜実質ジストロフィ(congenitalhereditarystromaldystrophy:CHSD)は,先天性に発症する常染色体優性遺伝性角膜実質混濁である.Decorin遺伝子異常により,コラーゲン線維間距離を一定に保つことで透明性を維持するタンパク質の構造に異常をきたすことで角膜混濁が生じる1).電子顕微鏡による観察でコラーゲン線維の不規則な配列や広い裂隙を認める.CHSDは両眼角膜実質全層のびまん性混濁を特徴とし,角膜厚や角膜径,角膜内皮機能は正常である2).治療法は角膜移植であり,全層角膜移植術(pene-tratingCkeratoplasty:PKP)3)や深部層状角膜移植術(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)2)が選択される.症例はC4歳,女児.両眼のCCHSDで精査・加療目的に当院を紹介受診した.初診時視力は右眼C0.02(0.04C×sph+2.00Dcyl-3.00DCAx180°),左眼C0.04(0.04C×sph0.00Dcly-3.50DCAx180°),眼圧は右眼21.6CmmHg,左眼C22.2CmmHgであった.角膜径は右眼10Cmm,左眼C10Cmm,中心角膜厚は右眼C668Cμm,左眼668Cμmであった.両眼にびまん性の角膜実質混濁を認め(図1,2),角膜内皮細胞密度は両眼とも測定不能であった.右眼は初診の約C2カ月後に,左眼は約C5カ月後に全身麻酔下にてCDALKを施行した.術後はモキシフロキサシン塩酸塩C1日C4回,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC1日C4回点眼とした.術後角膜浮腫はなく,術後眼圧は正常範囲内で角膜グラフトの接着は良好であった(図3).初診後約C8カ月(右眼はCDALK後約C6カ月,左眼はCDALK後約C3カ月)時点の視力は右眼(0.6C×sph+4.50Dcyl-4.50DAx20°),左眼(0.7C×sph+3.00Dcyl-2.50DCAx5°)であった.初診の約C9カ月後,右眼に角膜縫合糸の緩みによる結膜充血と角膜浮腫が出現したため,そのC1カ月後に全身麻酔下にて右眼角膜縫合糸の抜糸を施行した.右眼は縫合糸の緩みによる炎症により角膜不正乱視が残存し,術後視力は(0.2C×sph-1.00Dcyl-5.00DCAx10°)となった.左眼視力は(1.0C×sph+2.50Dcyl-2.50DAx40°)であったC.文献1)MorikawaH,NishinaS,ToriiKetal:Apediatriccaseofcongenitalstromalcornealdystrophycausedbythenovelvariantc.953deloftheDCNgene.HumanGenomeVaria-tionC10:1-4,C20232)KimCJH,CKoCJM,CLeeCICetal:ACnovelCmutationCofCtheCdecoringeneidentifiedinaKoreanfamilywithcongenitalhereditaryCstromalCdystrophy.CCorneaC30:1473-1477,C20113)BergerCT,CHasenfusCA,CBredrupCCCetal:Long-termCfol-low-upCofCpediatricCexcimerClaser-assistedCpenetratingCkeratoplastyCforCcongenitalCstromalCcornealCdystrophy.CCorneaC43:784-789,C2024

Sagging Eye Syndrome vs Heavy Eye Syndrome vs 強度近視性内斜視

2026年4月30日 木曜日

SaggingEyeSyndromevsHeavyEyeSyndromevs強度近視性内斜視SaggingEyeSyndromevsHeavyEyeSyndromevsHighMyopicEsotropia國見敬子*はじめにSaggingeyesyndrome(SES)とheavyeyesyndrome(HES)は,いずれも眼球運動を安定させるorbitalpul-leysystem(眼窩プリー)の障害を背景とする後天斜視である.SESは主として加齢性の結合組織変化により外直筋プリーの下垂外直筋─上直筋(LR-SR)バンドの伸展および断裂をきたし,開散麻痺様内斜視や外方回旋を伴う微小上下斜視を呈する.HESは軸性強度近視に伴う眼球後部の筋円錐外脱臼が主因で,外転および上転障害を伴う進行性の内下斜視へ移行しうる.両者はスペクトラムとして重複しており,その中間に値する疾患として,強度近視性内斜視も存在する.日常診療では「臨床像でSESを疑う」「必要時にMRIで脱臼角を評価する」という二段階のアプローチが実用的である.本稿では原因,自然経過,検査の要点,非観血的治療と観血的治療(術式選択と定量)を整理する.I原因1.眼窩プリーとその役割眼窩プリーは,外眼筋が赤道部で屈曲する「滑車」(pulley)として働き,眼球位置と回旋軸を安定化させる結合組織系である.Pulleysleeve,pulleyarray(ring/band),pulleyslingから構成され,部位ごとにコラーゲン・エラスチン・平滑筋の比率が異なる.Pulleysleeveは各直筋をとりまく筒状結合組織で,筋がTenon.を貫く部位から後方で連続し,境界不明瞭にTenon筋膜へ移行する「鞘」として直筋経路を包み込む.中央には強固な結合組織の環であるpulleyringが存在し,直筋の機能的起始部として筋の力学的ベクトルを安定化する.Pulleyarrayは赤道部後方で眼球をとりまく一連の構造で,外直筋-下直筋間を除く,内直筋,上直筋,外直筋間のring同士を結ぶpulleybandに加え,下斜筋および上斜筋の一部が連結し,隣接筋間でプリー位置を安定させる.Pulleyslingは前方では眼窩壁(外側はWhitnall結節,内側は後涙.稜眼窩壁)に付着し,後方は後部Tenon筋膜と連続して眼球後方を包む「ハンモック」としてプリー全体を懸垂する1~3)(図1).眼窩プリーは「筋円錐(musclecone)が眼球を包む」という古典的概念とは異なり,「外眼筋の走行とベクトルの方向を眼窩壁側から制御する支持組織」という概念となる.外眼筋は,筋力や神経支配が保たれていても,筋が走行する経路がずれるだけで,眼位が共同性にずれ,複視を生じる.つまり,眼窩プリーによる斜視疾患の原因の主座は,筋そのものや麻痺ではなく,筋の経路を安定させている眼窩結合組織による支持機構にある,という見解が重要である4~6).この眼窩支持組織の加齢性変化が,SESやHESとして臨床像に現れる.2.SES:加齢性変化による「たわみ」SESは,眼窩プリーの一部であるLR-SRバンドの加齢性変化により生じる後天斜視である.LR-SRバンドは加齢により薄化・延長し,断裂に至るにつれ,外直筋*KeikoKunimi:神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科〔別刷請求先〕國見敬子:〒221-0835神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町3-31-6神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科(1)(79)4210910-1810/26/\100/頁/JCOPY論文サイト動画サイトorbitalpulleysystemについての論文および動画サイトのQRコード図1眼窩プリーの構造Orbitalpulleysystem(眼窩プリー)は,眼球の位置および運動を安定させる結合組織である.Ca:pulleysleeve.各直筋を包む鞘で眼窩プリーの土台となる.b:pulleyarray.赤道部後方で眼球運動を安定させる主体となる組織の総称.Cc:pulleyring.pulleyarrayの一部でpulleysleeveの中央に位置する強度の高い組織で構成され,機能的な支点となり力の向きを固定する.Cd:pulleyband/pulleyring.pulleyarrayの一部で隣接するCpulleyring同士をつなぐ帯.Ce:pulleysling.眼窩壁からハンモック状に眼球後方に存在し,Tenon嚢と一塊となり全体を支える.図2眼窩プリーのsaggingeyesyndrome(SES)病態による変化a:SESは,眼窩プリーの加齢変化により,とくに外直筋-上直筋(LR-SR)バンド(図左)が延長(図中央),そして断裂(図右)し,徐々に外直筋プリーが下方へ偏位する.Cb:左右対称性の障害であると,遠見優位の内斜視である開散麻痺様内斜視を生じる.c:左右非対称の障害であると,外方回旋を伴う微小上下斜視を生じる.ab0,017Sunkenuppereyelid上眼瞼のくぼみBaggylowereyelidBlepharoptosis腱膜性眼瞼下垂percentageofpatientsineachBMIgroup0,017(%)100806040200<18.518.5-21.922-24.9.25下眼瞼の眼窩脂肪織によるふくらみRangeofBMISES(n=42)non-SES(n=98)図3SESに特徴的な身体的特徴a:顔貌所見(sagginglikeface).上眼瞼陥凹(sunkenuppereyelid),腱膜性眼瞼下垂,下眼瞼の眼窩脂肪織によるふくらみ(baggylowereyelid)はCSESを疑う手掛かりとなる.Cb:BMIとの関連.BMI低値ほどCSESが多く,BMI<18.5でCSESが有意に多い.複視を自覚するようになる13).HESについては,前段階病変である強度近視性内斜視を発症し,年単位で緩徐に内斜視が悪化し,外転・上転制限が目立ってくることが多い.初期は「遠見で複視」「疲れると悪化」程度でも,眼球後部脱臼が進むと複視が恒常化し,最終的には内下転位に固定されるHESとなる12).CIII必要な検査SESおよびCHESの診断は,①麻痺・炎症・変動性疾患を除外しつつ,②臨床像を把握し,③必要時にCMRIで病態の確認である.検査所見については,微小角・回旋を「拾う」ことが関門であり,ここを逃すと過剰検査や診断遅延につながる.C1.臨床像からSESおよびHESを疑うための初期評価問診では発症様式(急性か緩徐か),遠見・近見の斜視角の差,視線方向の差,眼鏡歴(単焦点,累進,プリズム),近視歴(眼軸長,屈折,白内障手術歴)を確認する.視力・屈折を確認し,完全矯正下で眼位測定し,遠見と近見の両方での最大偏位を測定する.遠見優位の訴えは開散麻痺様内斜視を示唆し,年齢によっては調節輻湊不全による内斜視である急性共同性内斜視などの別の病態もあわせて考える.眼内レンズ眼の場合も考慮し,必ず眼軸長を確認し,強度近視例ではCHES寄りの病態を想定してCMRI画像評価へつなげる6,11).SESは微小角であることが多く,交代プリズム遮閉試験(alternateCprismCcovertest:APCT)だけでなくCMaddoxCdoubleCrodtest,parallaxtest,Bagolini線条鏡などの自覚的検査を併用確認することも重要である.C2.眼球運動・回旋評価のポイント眼球運動ではC9方向眼位を記録し,上転・外転制限の有無と程度を評価する.回旋はCMaddoxCdoubleCrodCtestに加えて眼底写真で視神経の垂直の中心から水平に引いた線と中心窩に引いた線の角度Cdisc.foveaangle(DFA)を測定し,外方回旋を定量する(正常眼:約7.25°,外方回旋で高値)方法や14),中心窩が乳頭下方1/3~1/4を正常とし,中心窩が乳頭の下端よりも下方であると外方回旋と判断する方法もある15).下斜視眼の外方回旋が強い場合,プリズムのみでは複視が残りやすく,術式選択や患者説明に回旋所見を反映させる.C3.鑑別診断(除外すべき病態)SESおよびCHESを疑う状況でも,①脳神経麻痺(外転・動眼・滑車神経),②甲状腺眼症,③重症筋無力症,④外傷・眼窩骨折・眼窩手術後は必ず除外する.とくに甲状腺眼症と重症筋無力症は「高齢者の複視」としてまぎれやすく,炎症徴候(痛み,充血,眼瞼後退),変動性,日内変動,眼球突出,眼瞼左右差を系統的に拾い,必要に応じて血液検査・神経学的評価・画像を追加する.C4.MRIは必要時に実施SESの診断に眼窩CMRI画像は必須ではないが,強度近視合併,外転・上転制限が目立つ,斜視角が大きい,あるいは経過から除外診断が必要な場合に有用である.撮像は冠状断CT1強調画像またはCT2強調画像(脂肪抑制なし)を基本とし,視神経-眼球接合部の前方C6~9Cmmで外眼筋位置関係を評価する.SESではCLR-SRバンドの伸展・断裂,外直筋下方偏位,外直筋上部の耳側傾斜などが手がかりとなる.HESおよび強度近視内斜視との鑑別は,脱臼角が一般にC120°以上ならCHES様病態を強く疑う(図4).MRIの所見は①外直筋中心の下方偏位,②上直筋中心の鼻側偏位,③CLR-SRバンドの断裂,④脱臼角を系統的に評価する.脱臼角が大きい場合は斜視角が小さくても脱臼優位と判断し,横山法の適応や将来的な進行を患者へ説明する(図5)10,11).CIV治療方法(非観血・観血)治療選択は患者の主訴とCLR-SRバンドの状態を相対的に評価することが重要である.画像所見が典型的でも症状が乏しければ非観血的治療を選択でき,回旋自覚が強い,日常生活支障が大きい,あるいは脱臼角が大きく進行が見込まれる場合は早期に斜視専門医へ紹介し,術式選択を含めて検討する.424あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(82)a図4Heavyeyesyndrome(HES)の顔貌と眼窩MRI画像所見a:顔貌所見.HESのC9方向眼位写真.各方向で視線移動がほとんど得られず,眼位が内下転位でほぼ固定している.b:眼窩CMRI画像所見.右眼C190°,左眼C188°と著明な脱臼を示す.術式選択では水平筋手術単独より上外直筋縫着術(横山法)を優先して検討する.〔出典:後関利明『複視診療のストラテジー』(三輪書店,2024),p75~76〕小大内直筋後転術横山法(2倍量)脱臼角図5眼窩プリー疾患の病態のスペクトラムおよび治療眼窩プリー異常に関連する病態を連続体として示す模式図である.左(青)は加齢性変化に伴うプリー支持組織変性が主体のCSES,右(赤)は強度近視に伴う眼球脱臼によりプリー破綻が主体のCHESを表す.中央(黄)は強度近視性内斜視を示す.背景の二つの三角形は,左が「加齢性変性」,右が「脱臼による破壊」の寄与が左右で入れ替わることを示す.下段の脱臼角を指標に,両眼内直筋倍量後転術または横山法を選択する.外直筋右眼図6上外直筋結合術(横山法)SRとCLRを付着部から約C15Cmm後方の筋腹で縫着し,脱臼孔を閉鎖して眼球後部脱臼を整復する.

眼窩疾患と斜視

2026年4月30日 木曜日

眼窩疾患と斜視ClinicalFeaturesofStrabismusCausedbyOrbitalDiseases飯田貴絵*神前あい**はじめに眼窩疾患は非共同性斜視を診た際に鑑別する必要がある.非共同性斜視患者の診察では,むき運動およびひき運動での眼球運動検査やHess赤緑試験を行い,眼球運動制限のある筋の同定をはかる.非共同性斜視の鑑別疾患としては,脳神経麻痺(外転神経,滑車神経,動眼神経),重症筋無力症,眼窩疾患による斜視があげられ,眼窩疾患としては甲状腺眼症,免疫グロブリンG(immunoglobulinG:IgG)4関連眼疾患,特発性眼窩炎症,眼窩腫瘍,眼窩底骨折などがある.成人の非共同性斜視の多くは後天性複視を主訴とする.複視が急性発症であれば脳神経麻痺を疑うが,緩徐進行性であれば眼窩疾患や重症筋無力症を疑う.特発性眼窩炎症や眼窩蜂巣炎は,眼痛を伴った比較的急性発症の複視をきたす.眼窩疾患では血液検査および眼窩MRI検査が必須となる.いずれの眼窩疾患も鑑別になることが多いため,C反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP),血沈,甲状腺機能,甲状腺関連自己抗体,抗アセチルコリン受容体(acetylcholinereceptor:AChR)抗体,IgG,IgG4,可溶性インターロイキン(interleukin:IL)-2受容体,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicanti-body:ANCA),血清アンジオテンシン変換酵素(angio-tensinconvertingenzyme:ACE),抗SS-A抗体,抗SS-B抗体などを含めた採血セットを作製しておくと測定漏れを防げる.また,眼窩MRIでは,外眼筋の評価には水平断だけでなく,冠状断撮影が必須となる.また,垂直直筋や上眼瞼挙筋などの評価が必要となる甲状腺眼症では矢状断も含めた3方向撮影をするのが望ましい.本稿では,斜視を生じる眼窩疾患の特徴を述べる.I甲状腺眼症症例:70歳代,女性.2年前からの複視を主訴に来院.交代プリズム遮閉試験(alternateprismcovertest:APCT)では遠見40Δの右下斜視を認めた.眼球突出,眼瞼腫脹,眼瞼後退などは認めなかった.右眼上転制限による上下斜視を認めており(図1a,b),右眼下直筋腫大(図1c)を認めた.甲状腺機能低下のBasedow病(hypothyroidGraves’disease)に伴う甲状腺眼症と診断された.1.原因甲状腺眼症は,眼窩周囲軟部組織(眼瞼,結膜,涙腺,外眼筋,眼窩脂肪)の自己免疫炎症性疾患である.甲状腺機能亢進症に伴うことが多いが,甲状腺機能低下症や機能正常例に発症することもある1).平均年齢は44.6歳,男女比は1対3と中高年の女性に好発し2),重症筋無力症と異なり朝に症状が強いという日内変動をきたす.症状としては,複視のほか,眼球突出,眼瞼腫脹,眼瞼後退(Dalrymple徴候),眼瞼遅滞(Graefe徴候)など顔貌変化を伴うことも多い.最重症例では圧迫性視神経*KieIida:東京慈恵会医科大学眼科学講座**AiKozaki:オリンピア眼科病院〔別刷請求先〕飯田貴絵:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座(1)(71)4130910-1810/26/\100/頁/JCOPYa図1甲状腺眼症による斜視甲状腺機能低下がみられ,TSH受容体抗体(TRAb)15.6IU/L,TSH受容体刺激抗体(TSAb)871%でhypoGravesdiseaseの症例であった.a:9方向眼位写真にて上下斜視がみられる.b:Hess赤緑試験にて右眼の上転障害がみられる.c:眼窩MRI冠状断T1強調画像で下直筋腫大()(右>左)を認める..図2コカ・コーラボトルサイン眼窩MRIT1水平断画像.右内直筋は筋付着部は腫大がなく,筋腹のみ腫大しており,コカ・コーラボトルサインを呈している.a図3免疫グロブリンG4(IgG4)関連眼疾患による斜視採血では橋本病を認めたものの,TSAbの上昇はなく,IgG4は252Cmg/dlと上昇を認めた.Ca:9方向眼位写真では両側の上眼瞼腫脹を認める.Cb:Hess赤緑試験でも眼球運動制限はほとんど認めない.Cc:眼窩CMRIT1画像では両側涙腺腫脹と右眼内外直筋,左眼外直筋腫大を認めた.2.自然経過患者のC86%で涙腺腫大を認めるため,上眼瞼腫脹は必発である.必ずしも両側性とは限らず,片側性のこともある.症状としてはドライアイ,複視や斜視などを生じ,緩徐進行性の経過をとり,重症化すると視神経周囲腫瘤病変による圧迫性視神経症により視力低下や視野障害をきたすこともある.外眼筋肥大や腫瘤病変は,4直筋のいずれにも生じ,筋腫大が著明でも眼球運動制限は軽度であることがその他の眼窩疾患との違いである.C3.必要な検査涙腺腫大や眼窩内占拠病変をきたす疾患である,サルコイドーシス,Sjogren症候群,粘膜関連リンパ組織(mucosa-associatedClymphoidtissue:MALT)リンパ腫を含む悪性リンパ腫,甲状腺眼症,特発性眼窩炎症,肥厚性硬膜炎などが鑑別疾患となる.Ca.血液検査IgG,IgG4,甲状腺機能検査,甲状腺関連自己抗体,ACE,抗CSS-A抗体,抗CSS-B抗体,可溶性CIL-2受容体,ANCAなどを確認する.Cb.眼窩部MRI涙腺,外眼筋,三叉神経など眼窩内組織の腫大を確認する.眼窩の三叉神経(眼窩上神経,眼窩下神経)腫大はCIgG4関連眼疾患に特異的な所見とされている7).視神経周囲の病変は視力低下の原因となるので注意を要する.IgG4関連眼疾患の診断基準としては,①画像所見でさまざまな眼組織に腫瘤,腫大,肥厚性病変がみられる.②病理組織学的検査で高度なCIgG4陽性形質細胞浸潤がみられる.③血中CIgG4濃度上昇(>135Cmg/dl)のすべてを満たして確定診断群となり,①+②は準確診群,①+③は疑診群となる8).もっとも問題となるのは悪性リンパ腫との鑑別であり,悪性リンパ腫では腫瘍随伴免疫反応により血清IgG4値が上昇する症例が存在する.確定診断のためには生検を行う.また,多臓器病変の検索目的に,全身の造影CCTを行う.とくに血清CIgG4値がC900Cmg/dl以上では,眼外の病変を併発する可能性が高いとされている9).4.治療方法症状が軽微な場合には,無治療で経過観察が可能である.一方で,複視,視力低下,眼球突出や眼瞼腫脹などによる顔貌の変化など,臨床的な支障を認める場合には適切な治療介入を行う.経口プレドニゾロンが第一選択となり,初期投与量はプレドニゾロンC30.40Cmg(0.5.0.6Cmg/kg/日)から開始し,2.4週間の継続投与後に漸減する.10Cmgまでは,1.2週ごとに,臨床症状を参考にC5Cmgずつ減量する10).その後はC1Cmg/月で徐々に漸減し,維持量(5.10Cmg/日)を決定する.IgG4関連眼疾患は,初期のステロイドに対する反応性は良好であるが,ステロイド漸減中に約C1/3の症例で再発することも知られており,ゆっくりと漸減することが重要である11).ステロイド以外の治療法としては,抗CCD20抗体であるリツキシマブの有用性が知られているが,わが国ではCIgG4関連疾患に対しては保険適用外である.2025年C11月に抗CCD19モノクローナル抗体製剤であるイネビリズマブ(ユプリズナ)がCIgG4関連疾患の治療薬として国内初となる保険適用を取得した.再燃抑制を目的とした治療として適応となる.また,観血的治療法としては,涙腺や眼瞼皮下の腫瘤性病変に対する外科的切除による減量手術により,再発率やステロイド使用率などを減らすことができると報告されている12,C13).CIII特発性眼窩炎症症例:50歳代,男性.10日前より左眼瞼腫脹と眼痛を自覚.強膜炎の診断でステロイド点眼を処方されたものの,眼痛が持続し,複視が出現したため受診.左眼の外転制限を認め(図4a,b),眼窩CMRIで左眼外直筋に筋腱付着部を含む筋肥大がみられた(図4c).甲状腺機能,TSAb,IgG4は正常範囲内であり,CRPはC1.0mg/dlと軽度上昇を認めた.外眼筋炎と診断し,プレドニゾロンC20Cmgより投与開始したところ,眼球運動障害および斜視の速やかな改善を認めた(図4d,e).C1.原因特発性眼窩炎症は,眼窩および眼付属器の原因不明の(75)あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026C417ad図4特発性眼窩炎症による斜視甲状腺機能,TSAb,IgG4は正常範囲内であり,C反応性蛋白はC1.0Cmg/dlと軽度上昇を認めた.外眼筋炎と診断.Ca~c:ステロイド治療前.9方向眼位写真(Ca),Hess赤緑試験(Cb)で左眼の外転制限を認める.眼窩CMRIT1画像(Cc)では左眼外直筋に筋腱付着部を含む筋肥大を認める.d,e:ステロイド内服後のC9方向眼位写真(Cd)およびCHess赤緑試験(Ce).ステロイド治療後速やかに眼球運動および斜視の改善を認めた.ab図5眼窩腫瘍による斜視a,b:右眼の上下転制限を認める.c:眼窩CCT画像にて右眼窩筋円錐内に腫瘍性病変を認め,腫瘍による眼球圧迫を認めた.管腫,神経鞘腫の頻度が高く,悪性腫瘍としては,腺様.胞癌,孤立性線維腫などが多い18).良性腫瘍,悪性腫瘍のいずれにおいても斜視は生じうるが,症状の増悪が早い場合は悪性腫瘍を疑う.炎症性腫瘤,腺様.胞癌,神経鞘腫の一部では痛みを伴う.眼窩腫瘍のC10%は転移性腫瘍であり,原発巣は乳癌,肺癌,前立腺癌,肝癌などがあげられるので,癌の既往歴などの問診も重要である.C2.必要な検査および治療他の眼窩疾患を鑑別するため,血液検査と画像検査を行う.画像検査では,MRIは腫瘍の性状や境界,眼窩内構造との位置関係を把握するのに有用である.腫瘍の血流や浸潤を評価するために,可能な限り造影剤を使用する.CTは腫瘍による骨変化の確認に有用であり,骨破壊は悪性腫瘍に多く,骨菲薄化は良性腫瘍による慢性的な圧迫にみられることが多い.Ca.生検か全摘出か悪性リンパ腫やCIgG4関連眼疾患などのリンパ増殖性疾患や,腺様.胞癌などの悪性腫瘍は,生検による確定診断が必要である.これらは手術で一期的に全摘出することがむずかしく,診断結果により,ステロイド治療,化学療法,放射線治療など治療方針も異なる.生検を行わずに全摘出する疾患のほとんどは良性腫瘍である.とくに涙腺多型腺腫は長期の経過で悪性転換しやすく,生検や腫瘍摘出時の被膜損傷により多発性の再発性腫瘍となることがあり,生検は禁忌とされている.そのほか,海綿状血管腫や神経鞘腫など上皮性腫瘍も全摘出を計画する.いずれにしても,確定診断は病理組織学的検査であり,評価や摘出が自施設で困難な場合は専門施設に紹介するのが望ましい.文献1)HiromatsuY,EguchiH,TaniJetal:Graves’ophthalmop-athy:epidemiologyCandCnaturalChistory.CInternCMedC53:C353-360,C20142)WatanabeCN,CKozakiCA,CInoueCKCetal:Prevalence,Cinci-dence,andclinicalcharacteristicsofthyroideyediseaseinJapan.JEndocrSocC8:bvad148,C20233)PerrosP,CrombieAL,MatthewsJNetal:Ageandgen-derCinfluenceCtheCseverityCofCthyroid-associatedCophthal-mopathy:aCstudyCofC101CpatientsCattendingCaCcombinedCthyroid-eyeCclinic.CClinEndocrinol(Oxf)C38:367-372,C19934)KozakiCA,CInoueCR,CKomotoCNCetal:ProptosisCinCdysthy-roidophthalmopathy:aCcaseCseriesCofC10,931CJapaneseCcases.OptomVisSciC87:200-204,C20105)PontoKA,KanitzM,OlivoPDetal:Clinicalrelevanceofthyroid-stimulatingCimmunoglobulinsCinCGraves’Cophthal-mopathy.OphthalmologyC118:2279-2285,C20116)GotoCH,CUedaCSI,CNemotoCRCetal:ClinicalCfeaturesCandCsymptomsCofCIgG4-relatedCophthalmicdisease:aCmulti-centerstudy.JpnJOphthalmolC65:651-656,C20217)GotoH,SoneK,AsakageMetal:Evaluationofthespeci-ficityCofCtrigeminalCnerveCenlargementCinCtheCdiagnosisCofCIgG4-relatedCophthalmicCdisease.CJpnCJCOphthalmolC68:C676-680,C20248)TakahiraCM,CGotoCH,CAzumiA:TheC2023CrevisedCdiag-nosticCcriteriaCforCIgG4-relatedCophthalmicCdisease.CJpnJOphthalmolC68:293-301,C20249)KubotaCT,CKatayamaCM,CMoritaniCSCetal:SerologicCfac-torsCinCearlyCrelapseCofCIgG4-relatedCorbitalCinflammationCafterCsteroidCtreatment.CAmCJCOphthalmolC155:373-379,C201310)瀬戸口京吾:IgG4関連疾患の治療における最新の動向.胆と膵46:667-671,C202511)YukaS,SatoruK,KanIetal:AclinicopathologicalstudyonCIgG4-relatedCophthalmicCdisease.CIntCJCOphthalmolC11:1539-1544,C201812)OminatoJ,OyamaT,ChoHetal:ThenaturalcourseofIgG4-relatedophthalmicdiseaseafterdebulkingsurgery:Casingle-centreretrospectivestudy.BMJOpenOphthalmolC4:e000295,C201913)IwasakiCR,CKitaguchiCY,CMorimotoCTCetal:PostoperativeCoutcomesofbiopsyversusdebulkingsurgeryforimmuno-globulinCG4-relatedCophthalmicdisease:aCretrospectiveCcomparativestudy.JpnJOphthalmolC69:203-213,C202514)MombaertsI,BilykJR,RoseGEetal:Consensusondiag-nosticCcriteriaCofCidiopathicCorbitalCinflammationCusingCaCmodifiedCDelphiCapproach.CJAMACOphthalmolC135:769-776,C201715)平竹純一朗,木村亜紀子,増田明子ほか:特発性眼窩炎症の臨床像.神経眼科40:32-37,C202316)NishikawaCY,COkuCH,CTonariCMCetal:C-reactiveCproteinCmayCbeCusefulCtoCdifferentiateCidiopathicCorbitalCinflamma-tionandorbitalcellulitisincaseswithacuteeyeliderythe-maandedema.ClinOphthalmolC12:1149-1153,C201817)MooreCGH,CRootmanDB:OrbitalCinflammatoryCdiseaseCmanagement.ExpertRevOphthalmolC11:415-428,C201618)GotoH,YamakawaN,KomatsuHetal:Clinico-epidemio-logicalanalysisof1000casesoforbitaltumors.JpnJOph-thalmolC65:704-723,C2021420あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(78)

眼筋型重症筋無力症における複視治療

2026年4月30日 木曜日

眼筋型重症筋無力症における複視治療TreatmentofDiplopiainOcularMyastheniaGravis龍井苑子*はじめに重症筋無力症(myastheniagravis:MG)は神経・筋接合部が自己抗体により障害され,神経筋伝達効率が低下した結果,筋力低下をきたす自己免疫疾患である.本疾患では全身の随意筋が障害されうるが,とくに外眼筋は構造的・生理学的特性から筋力が低下しやすく,眼瞼下垂や複視などの眼症状が初発症状,あるいは主症状として出現することが多い.また,MGは日内変動を特徴とし,症状の程度や表現形式が時間帯や状況により変化しやすい.そのため,患者は予測のつかない症状に日常的に悩まされることが少なくない.MGは臨床的に全身型と眼筋型に大別されるが,本稿ではとくに眼筋型重症筋無力症(ocularmyastheniagravis:OMG)に焦点をあて,臨床症状のなかでも複視を中心に,その対応について概説する.I重症筋無力症の原因MGの原因となる自己抗体としては,アセチルコリン受容体(acetylcholinereceptor:AchR)抗体がもっとも代表的であり,このほかに筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(muscle-specifickinase:MuSK)抗体や抗横紋筋抗体なども報告されている.このうち,OMGにおいて病態の中心となるのはAchR抗体である.MuSK抗体は全身型MGでは一定の割合で認められるものの,OMGにおいてMuSK抗体が陽性となることはまれであるとされている.従来OMGではAchR抗体陰性例が多いと考えられてきたが,近年では検査法の改良や症例集積の進展により,OMGにおいてもAchR抗体は70~80%以上の症例で検出されることが報告されている1).つまり,OMGは「抗体が存在しないこともある軽症型MG」ではなく,抗体介在性病態が明確に存在するMGの一病型として再認識されつつある.AchR抗体は,AchのAchRへの結合を阻害する(図1)ほか,AchRの内在化(図2),ならびに補体活性化によるpostsynapticmembraneの構造破壊(図3)を介して神経筋接合部を障害する2).もともと,外眼筋の神経筋接合部では,他の骨格筋に比べてAchR密度が低く,postsynapticmembraneの構造的余裕も乏しいため,抗体によるAchR減少の影響を受けやすい.そのため,比較的軽度の神経筋接合部障害であっても,外眼筋では筋収縮が不安定となり,筋力低下が容易に顕在化する.その結果,MGでは眼瞼下垂や複視といった眼症状が初発症状,あるいは主症状として出現しやすい.このような病態的背景を理解することは,OMGの自然経過や治療反応性,さらに複視・斜視への対応を考えるうえで重要である.II眼筋型重症筋無力症の自然経過OMGは,症状が外眼筋に限局する点で全身型MGとは異なる臨床像を示すが,その自然経過は必ずしも良好*SonokoTatsui:北里大学医療衛生学部リハビリテーション科視覚機能療法学専攻視能矯正学〔別刷請求先〕龍井苑子:〒252-0374相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション科視覚機能療法学専攻視能矯正学(1)(63)4050910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1アセチルコリン受容体(AchR)抗体による神経筋伝達障害AchR抗体はシナプス後膜のCAchRに結合し,Achの受容体への結合を阻害することにより神経筋伝達効率を低下させる.図3AchR抗体による補体活性化とシナプス後膜障害AchR抗体の結合により補体が活性化され,シナプス後膜に直接的な膜障害が生じることで神経筋伝達が低下する.図2AchR抗体によるAchRの内在化AchR抗体はCAchRに結合し,受容体の架橋を介してCAchRの内在化を誘導する.その結果,シナプス後膜表面のCAchR数が減少し,神経筋伝達効率が低下する.A.症状表1重症筋無力症(MG)の診断基準(1)眼瞼下垂(2)眼球運動障害(3)顔面筋力低下(4)構音障害(5)嚥下障害(6)咀嚼障害(7)頸部筋力低下(8)四肢筋力低下(9)呼吸障害<補足>上記障害は易疲労性や日内変動を呈する(1)抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性B.病原性自己抗体(2)抗筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性(1)眼瞼の易疲労試験陽性(2)アイスパック試験陽性C.神経筋接合部障害(3)塩酸エドロホニウム(テンシロン)試験陽性(4)反復刺激試験陽性(5)単線維筋電図でジッターの増大D.支持的診断所見血漿浄化療法によって改善を示した病歴がある以下のいずれかの場合C,重症筋無力症と診断する(1)Aの一つ以上C,Bのいずれかが認められるE.判定(2)Aの一つ以上C,Cのいずれかが認められC,他の疾患が鑑別できるProbable:Aの一つ以上C,Dを認めC,血漿浄化療法が有効な他の疾患を除外できる(文献C5より改変引用)図4上方注視負荷試験図5アイスパックテスト上方注視を持続することで筋疲労を誘発し,眼瞼下垂や眼位上眼瞼にアイスパックを約C2分間当てることで,神経筋接異常の増悪を確認する検査.合部におけるCAch分解が抑制され,一過性に眼瞼下垂が改善するかを評価する検査.多い負荷試験である.抗コリンエステラーゼ薬は,神経終末から放出されるアセチルコリンの分解を阻害することで,神経筋伝達を一過性に改善させる作用を有する.テンシロンは効果発現時間がきわめて短く(約C5分),治療薬としては適さない一方で,診断薬としては有用性が高い.わが国ではアンチレクスとして使用されている.CIV眼筋型重症筋無力症の治療OMGの治療は,まず内科的治療により自己免疫学的病態を制御することを基本とする.しかし,内科的治療によって疾患活動性が十分に抑制されたあとであっても,複視や眼位異常といった眼症状が完全に消失しない患者は少なくない.そのため,OMGにおける複視・斜視への対応は,内科的治療を前提としつつ,治りきらない眼症状に対して保存的治療を行い,日常生活への影響を最小限に抑えることを第一の目標とする.さらに,保存的治療によっても十分な生活の質(qualityoflife:QOL)改善が得られない場合に病状が安定した段階で観血的治療を検討する,という段階的な治療戦略が妥当である.C1.内科的治療OMGに対する薬物療法は,抗コリンエステラーゼ阻害薬を基本とし,症状や経過に応じて低用量の経口ステロイドを併用することから開始される.2022年改訂の重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン5)においても,OMGに対する経口ステロイドはプレドニゾロンC5Cmg/日以下の少量維持を基本とし,長期にわたる中等量以上の投与は推奨されていない.一方で,症状が急激に増悪した場合や,経口治療のみでは十分なコントロールが得られない場合には,ステロイドパルス療法としての静注メチルプレドニゾロン(intravenousmethylprednisoloneCpulseCtherapy:IVMP)が選択される.IVMPは炎症および免疫活性を短期間で強力に抑制することが可能であり,急性増悪時の「レスキュー治療」として位置づけられる.ガイドラインではCIVMPの反復投与が推奨されているとおり,その効果は一過性であることが多く,IVMP単独で長期的な症状安定化を得ることは困難である.また,投与量や投与間隔については明確な規定がないため,現時点では個々の患者に応じた判断が求められる.抗コリンエステラーゼ阻害薬,低用量経口ステロイド,IVMPを含む内科的治療を行っても症状の再燃を繰り返す場合や,眼症状のコントロールが不十分な患者が存在する場合には,ステロイド依存や副作用の回避を目的として免疫抑制薬の併用が検討される.免疫抑制薬は,効果発現までに時間を要するものの,IVMP後の再燃を抑制し,症状の不安定化を防ぐ目的で用いられる.OMGでの治療で保険適用が認められているものはタクロリムスであり,低用量ステロイドと併用することで,より安定した疾患コントロールをめざす治療選択肢として位置づけられる.近年,高容量経口ステロイドの長期使用が種々の副作用を通じてCQOL低下を招く弊害が問題となっている.そのため,内科的治療にもかかわらず症状の安定化が得られない患者においては,免疫抑制薬の導入を積極的に検討する意義がある.C2.保存的治療内科的治療によって疾患活動性が一定程度制御されたあとであっても,OMGでは複視や眼位異常が完全に消失しない患者が少なくない.前述のとおり,免疫学的病態が安定しても,外眼筋の筋力不均衡や眼位の不安定性が残存することがあり,これらは患者の日常生活に大きな支障をきたす要因となる.そのため,OMGにおける複視・斜視への対応では,内科的治療を前提としたうえで,保存的治療を適切に組み合わせ,QOLの改善をはかることが重要である.保存的治療の代表的な方法としては,プリズム眼鏡および遮閉療法があげられる.プリズム眼鏡は,眼位ずれを光学的に補正することで複視を軽減する方法であり,偏位角が比較的小さい患者や,眼位変動が比較的軽度な患者において有用である.一方で,OMGでは日内変動や注視方向による眼位変化が大きい患者も多く,固定度数のプリズムでは十分な効果が得られない場合も少なくない.そのような患者で(67)あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026C409は,完全な複視消失をめざすのではなく,「複視を軽減する」「困る場面を減らす」という現実的な目標設定を提示し,十分な説明のもとで治療方針を決定することが望ましい.遮閉療法は,複視を確実に抑制できる方法であり,偏位角が大きい患者や,プリズム眼鏡での対応が困難な患者において有用である.完全遮閉に加え,Bangerterフィルターなどを用いた部分遮閉により,視機能を可能な限り温存しつつ複視を軽減する工夫も行われる.とくに一時的な症状増悪期や,治療方針決定までの移行期において,遮閉療法は現実的かつ即効性のある対応法である.以上のような保存的治療は,OMGにおける複視・斜視に対して一定の有用性を有するものの,偏位角が大きい患者や,日内変動が減弱して眼位が固定化してきた患者では,十分なCQOL改善が得られない場合もある.そのような場合には,病状が安定した段階で,観血的治療を含めた治療戦略を再検討することが望ましい.CV観血的治療OMGに対する斜視手術を行ううえで,もっとも判断に迷う点の一つが,手術を行うタイミングである.この点について,これまでの報告をみても明確な統一基準は示されておらず,術前に求められる眼位の安定期間についても一定の見解は得られていない.既報では,OMGにおける術前眼位の安定期間として,約C5カ月~2年程度と幅のある期間が報告されている4).一方で,眼位が長期間安定した後に手術が行われた患者と,比較的短期間の安定後に手術が行われた患者とを比較した検討では,最終的な手術成績に明らかな差は認められていない11).すなわち,術前眼位安定期間の長短と最終的な手術成績との間に有意な関連は示されておらず,複視消失および正位(C±10Δ)を良好な手術成績と定義した場合でも,両群間で成績に差はみられなかったと報告されている.これらの知見から,一定期間にわたり眼位の安定を確認することは重要であるものの,過度に長い安定期間を待つことが必ずしも手術成績の向上につながるとは限らない可能性が示唆される.さらに,術前眼位の定量的評価方法や手術適応の閾値についても,現時点では統一された基準は確立されておらず,既報では各研究者の臨床的判断に基づいて評価が行われているのが現状である.したがって,斜視手術の適応および時期の判断にあたっては,厳密な数値基準に依存するのではなく,一定期間にわたり眼位の大きな変動がみられないこと,診察中や反復注視後にも偏位角が大きく変化しないこと,保存的治療による改善が頭打ちとなっていることなどを総合的に評価することが現実的である.とくに,日内変動が著明な時期に手術を行うことは避けるべきである.おわりにOMGにおける複視および斜視は,経時的な変動を伴い,単一時点での評価や画一的な治療アルゴリズムでは対応が困難な症状である.完全寛解を得ることが必ずしも容易ではない疾患の特性を踏まえると,治療の目的は症状を「完全に消失させる」ことに限定されるものではなく,日常生活に支障の少ない状態を維持することにおかれるべきである.そのため,内科的治療,保存的治療,観血的治療はいずれも単独で完結するものではなく,病態の推移と患者の生活への影響を踏まえながら,段階的かつ柔軟に組み合わせて用いられるべき治療手段である.内科的治療と同様に,保存的治療や斜視手術においても,症状を最小限に抑えた「許容可能な状態」を目標とし,過度な治療介入を避ける視点が重要である.OMGの複視・斜視への対応においては,「どこまで改善させるか」だけでなく,「どこで止めるか」を含めた治療目標を共有し,時間軸を意識した総合的判断を行うことが,長期的なCQOL維持につながると考えられる.文献1)PeelerCCE,CDeCLottCLB,CNagiaCLCetal:ClinicalCutilityCofCacetylcholinereceptorantibodytestinginocularmyasthe-niagravis.JAMANeurolC72:1170-1174,C20152)Conti-FineCBM,CMilaniCM,CKaminskiHJ:MyastheniaCgra-vis:past,Cpresent,CandCfuture.CJCClinCInvestC116:2843-2854,C20063)KupersmithMJ:OcularmyastheniaCgravis:treatmentCsuccessesCandCfailuresCinCpatientsCwithClong-termCfollow-410あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(68)-

頭蓋内疾患

2026年4月30日 木曜日

頭蓋内疾患StrabismusAssociatedwithIntracranialDisorders望月嘉人*はじめに頭蓋内疾患と一言でいっても,疾患によってさまざまな症状を呈すうえ,発症部位によっても斜視や眼球運動制限の発症の仕方は異なる.代表的なものとして,脳出血や脳梗塞,くも膜下出血などの脳血管障害,頭蓋内腫瘍,脳外科術後などがあがり,麻痺性斜視や眼球運動制限を呈するため,水平だけでなく上下回旋偏位を伴うことが多く,場合によっては筋移動術など煩雑な斜視手術を行う必要がある.そのため,頭蓋内疾患が原因の麻痺性斜視に対しては手術を行わない方針とする施設も少なくない.斜視手術は麻痺した神経機能を回復させるものではないが,第一眼位での眼位を改善することで複視を軽減し,視覚の質(qualityCofvision:QOV)の向上が期待できる.本稿では当院で経験した症例を提示し,頭蓋内疾患による麻痺性斜視や眼球運動制限があっても,斜視手術をすることにより患者満足度は高くなるということを解説する.CI自然経過斜視の原因が頭蓋内疾患の場合,まずは原疾患の治療が優先となる.微小循環障害による眼運動神経麻痺は70~80%程度自然回復することは知られている.同様に,脳梗塞や脳出血後の眼球運動制限も自然軽快する既報がある.脳梗塞などの脳血管障害後の第一眼位複視の自然軽快率はC78.8%であったという報告1)や脳卒中後の動眼神経麻痺,滑車神経麻痺,外転神経麻痺の自然軽快はC65.5%であった報告などがある2).また,注視麻痺・内側縦束(medialClongitudinalfasciculus:MLF)症候群などの自然経過をみた報告では,完全に眼球運動制限が改善した症例はC4%,部分的に改善した症例はC66%であったとされている3).自然軽快を期待できる期間も2週間~6カ月と症例によって差がある.このように,微小循環障害に伴う眼運動神経麻痺と比較すると改善率はやや低い傾向にあるが,いずれにしても脳血管障害発症後C6カ月までは自然軽快する可能性があり,斜視角が安定するまでは斜視手術は施行するべきではない.CII必要な検査まず,原因が判然としない麻痺性斜視をみた場合は,MRIで頭部や外眼筋の精査はしておくべきであろう.眼位・眼球運動の検査として,麻痺性斜視の場合は眼位をみるために交代プリズム遮閉試験(alternateCprismCcovertest:APCT),眼球運動の精査のためにCHess赤緑試験,回旋偏位を評価するために大型弱視鏡Csynop-tophoreを施行する.また,術前にプリズム順応検査(prismCadaptationtest:PAT)を施行し,斜視手術をすることによって見え方の自覚が改善するか評価しておく必要がある.なかには頭蓋内疾患によってCcentralCfusionaldisruptionが生じ,眼位が改善しても複視の自覚が消失しない症例もある.PATを術前に施行することによって,そのような症例かどうかを見定めることができ,患者に事前に説明しておくことができる.*YoshihitoMochizuki:兵庫医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕望月嘉人:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学講座(1)(57)C3990910-1810/26/\100/頁/JCOPYacb図1脳梗塞後の斜視の症例(76歳,男性)a:中脳の障害による両眼の上方注視麻痺を認め,左眼は正中を越えて上転できなかった.遠見でC4CΔXT,30CΔR/LTで,7°の外方回旋を認めている.b:Knapp法の術式の模式図.内直筋と外直筋を切腱し,上直筋付着部に縫着する.Cc:上転制限は残存するも正面での眼位がC2CΔET,6ΔR/LTとなり,2°の外方回旋となり,頭位異常も改善した.abc図2視神経脊髄炎後の斜視の症例(20歳,女性)a:頭部CMRI,T2FLAIR画像.中脳に広範な高信号域を認める.延髄にも淡い高信号域を認める.Cb:遠見眼位は,66CΔXT,C39ΔL/RT,5°の外方回旋であり,左眼の下転制限を認める.Cc:2ΔXT,8CΔL/RTとなり,眼位の改善を認めたが,上下複視の残存があり,プリズム眼鏡を装用した.ab図3多発性脳梗塞による斜視手術後の複視残存症例(52歳,男性)a:両眼の下方注視麻痺が高度で,頭位をただした際に両眼とも上転している.Cb:下方注視麻痺のため,顎下げ頭位(chin-down)になっている.Cc:術後眼位はC4CΔR/LTと改善した.Fresnel膜を貼付しても,複視残存したため,オクルージョン膜を貼付した.図4脳梗塞後のMLF症候群の自然軽快例(52歳,男性)a:左眼の内転制限,両眼の外転制限を認めている.Cb:輻湊刺激を加えると,内転は可能であった.Cc:両外転制限,左眼内転制限は自然軽快した.

外転神経麻痺

2026年4月30日 木曜日

外転神経麻痺AbducensNervePalsy髙井佳子*はじめに外転神経麻痺は,外直筋の機能低下による外転障害と内斜視による複視を主訴とする疾患である.外転神経は脳神経のなかでもっとも走行が長く,屈曲点が多いという特徴をもつ.頭蓋内圧の変化や牽引,炎症,腫瘍,血管障害など多様な病態の影響を受けやすい.Miyataら1)によれば,2019年の日本での動眼神経麻痺,滑車神経麻痺,外転神経麻痺の割合はそれぞれ38.1%,15.0%,46.9%であり,外転神経麻痺がもっとも頻度が高い.男性と高齢者で罹患率が高い傾向がみられる.本稿では,一般眼科医が外来で外転神経麻痺の遭遇した際に,原因の見極め,必要な検査,治療方針の立て方を理解しやすいよう,臨床的観点から外転神経麻痺を整理する.I原因1.外転神経の走行と脆弱性外転神経の走行を図1に示す.外転神経核は橋の背側,第四脳室の手前に左右対称に位置しており,運動ニューロン,介在ニューロン,paramediantract(PMT)ニューロンから構成される.このうち,運動ニューロンは外転神経として外直筋を支配する.介在ニューロンは対側の内側縦束(mediallongitudinalfasciculus:MLF)を経由して反対側の動眼神経の内直筋核に分布する.PMTニューロンは小脳と連絡し,視線の保持に関与している.橋延髄移行部の前外側縁から脳幹を出た外転神経は,橋前脳槽を前上方に進み,斜台硬膜の間隙を急角度で前上方に走行し,後床突起と内側蝶形骨縁を結ぶGruber靭帯の下を通り,Dorello管へ入る.Dorello管は長さ4~13mm,直径0.5~3mmの硬膜性のトンネルで,周囲を静脈叢に囲まれている.この部位は狭く,頭蓋内圧や蝶形骨洞付近の炎症や腫瘍の影響を受けやすいため,この部位の障害が外転神経麻痺の原因となりやすい.さらに,海綿静脈洞では,外転神経が内頸動脈および交感神経叢と近接して走行するため,外転神経麻痺にHorner症候群を合併している場合は病変部の推定に有用な情報となる.海綿静脈洞からは上眼窩裂を通って眼窩内,外直筋へと至る.外転神経の走行に関係して,斜台の骨を挟んだ反対側は蝶形骨洞,上咽頭である.蝶形骨内側縁は髄膜腫の好発部位の一つである.2.外転神経麻痺の原因外転神経麻痺の原因は,年齢層や単独麻痺か複合麻痺かによって大きく異なる.小児では,単独麻痺よりも複合麻痺の頻度が高い.単独麻痺はウイルス感染症や特発性であることが多いが,複合麻痺では頭蓋内圧亢進,脳腫瘍,中枢神経感染症など重篤な疾患が背景に存在することが多い.特発性頭蓋内圧亢進症(idiopathicintra-cranialhypertension:IIH),シャント不良,静脈洞血栓症なども小児の外転神経麻痺の原因として重要である.*YoshikoTakai:岡田眼科医院,名古屋大学〔別刷請求先〕髙井佳子:〒444-0847愛知県岡崎市六名東町2-3岡田眼科医院(1)(47)3890910-1810/26/\100/頁/JCOPY上小脳動脈後大脳動脈海綿静脈洞上眼窩裂視交叉内頸動脈蝶形骨洞上咽頭Dorello管斜台脳底動脈外転神経前下小脳動脈椎骨動脈図1外転神経の走行外転神経核は橋の背側,第四脳室の手前に左右対称に位置している.外転神経核からの運動ニューロンが外転神経(.)として外直筋を支配する.外転神経は橋延髄移行部前外側縁から脳幹を出て,橋前脳槽を経由し,斜台硬膜の間隙を急角度で前上方に走行し,後床突起と内側蝶形骨縁を結ぶGruber靱帯の下を通り,長さ4~13.mm,直径0.5~3.mmの管状の組織であるDorello管を通って海綿静脈洞(●),上眼窩裂を通って眼窩へと至る.斜台では椎骨・脳底動脈(.),海綿静脈洞付近では内頸動脈(―),交感神経叢の近傍を走行する.a図2外転神経を巻き込んだ錐体斜台部髄膜腫の切除後の左外転神経麻痺(75歳,女性)術前の正面眼位は約60プリズムジオプター(Δ)の内斜視(ET),左眼は内転位で固定し外転はまったく不能であった.麻痺の発症から1年8カ月後に左眼に対して西田法,内直筋後転3mm,後転した内直筋にA型ボツリヌス毒素2.5Uを投与した.術後7カ月での眼位は12~14ΔET,5Δ左上斜視(L/R),正面での複視はないが側方視での複視が気になり,遮閉膜の処方を希望した.a:斜視手術前の9方向眼位.b:眼球は内転位で固定して外転不能.c:斜視術後の9方向眼位.d:術後も正中を越えての外転は不能.ab左方視右方視図3左外転神経麻痺での赤ガラステスト(a)とHess赤緑試験(b)の結果a:赤ガラステスト結果(模式図).右眼の前に赤ガラスを置いてペンライトを固視させたとき,正面で同側性複視,患側を向かせると複視が増悪し,健側を向かせると軽減する.b:Hess赤緑試験の結果(想定図).左方視で左眼の動きが少なく,右眼はHerringの法則により動きすぎている.純粋な外転神経麻痺のみでの結果を想定している.-表1外転神経の走行と疾患核性外転神経核介在ニューロンPMTニューロン対側の内転制限小脳症状髄内顔面神経核・根PPRF内側縦束錐体路患側の顔面神経麻痺★☆水平注視麻痺☆核間麻痺(患眼の内転制限,健眼外転時の眼振)対側の上下肢の片麻痺★☆核下性斜台椎骨動脈,脳底動脈,AICA第Ⅲ-XII脳神経蝶形骨後床突起蝶形骨洞錐体上咽頭neuro-vascularcompression4)それぞれの脳神経症状髄膜腫など副鼻腔炎中耳炎上咽頭腫瘍の上方進展海綿静脈洞内頸動脈交感神経線維第III,IV,V1+2脳神経内頸動脈海綿静脈洞瘻Hornel症候群他の眼球運動異常,疼痛上眼窩裂第III,IV,V1脳神経他の眼球運動異常,疼痛眼窩先端部第II,III,IV,V1視神経障害,他の眼球運動異常,疼痛★Millard-Gubler症候群☆Foville症候群PPRF:paramedianpontinereticularformation(傍正中橋網様体),AICA:anteriorinferiorcere-bellarartery(前下小脳動脈).表2鑑別診断疑われる疾患・病態鑑別のために想定される検査交差固視の乳児内斜視人形の眼現象重症筋無力症採血(抗AChR抗体など)外眼筋疾患(甲状腺関連眼症,眼窩筋炎,外眼筋ミオパチーなど)採血(抗TRAb抗体,抗TPO抗体,抗核抗体,ミトコンドリア点突然変異など)MRI,CT輻輳痙攣負荷屈折検査先天性Duane症候群眼球運動,内転時の瞼裂狭小の有無,MRIで外転神経の欠損Mobius症候群顔面神経麻痺の合併,全身状態(哺乳障害など)眼球運動失行視線移動時の頭部の代償運動(thrust)の確認Fisher症候群前駆症状の確認採血(抗ガングリオシドGQ1b抗体)眼窩壁骨折外傷の既往,CT発達障害児の衝動性眼球運動制限問診,観察AChR:acetylcholinereceptor(アセチルコリン受容体),TRAb:thyroidstimulatinghor-mone(TSH)receptorantibody(TSH受容体抗体),TPO:thyroidperoxidase(甲状腺ホルモン合成酵素).Mobius症候群,眼球運動失行,Fisher症候群,眼窩壁骨折,固定内斜視,などがあげられ,それぞれに応じた検査が必要となる.鑑別に参考になるポイントを表2にまとめた.CIV治療方法(観血・非観血)治療は原因疾患の治療と複視への対処の二本柱で進める.IIH,腫瘍,炎症など原因疾患が特定できれば,まず原疾患の治療が優先する.微小血管障害性麻痺では患者は複視に対して不安を感じていることが多いため,3カ月程度で改善することが多い旨を伝える.治療には非観血的治療と観血的治療があり,非観血的治療はプリズム使用,遮閉,斜視視能訓練,観血的治療はCA型ボツリヌス毒素(以下,ボトックス)使用と手術である.複視に対する非観血的治療としてはプリズム療法がもっとも一般的である.プリズムは内斜視に対しては基底外方で使用する.プリズムにはクリアな組み込み用プリズムと眼鏡につけはずしが可能なCFresnel膜プリズム(図4a)がある.組み込みプリズムは透明で見やすく目立たないため長期の使用に適している.屈折矯正用のレンズと一体型に作製するため,眼鏡の屈折度数,フレームの形状により組み込めるプリズム度数が変動するがおおむね片眼につき5~7Δ程度までの作製が可能である.どの程度組み込めるかは眼鏡店で相談することを勧める.Fresnel膜プリズムは貼付式で度数調整が容易であり,短期間の使用に適している.購入前に試用期間があれば結局利用できなかったという失敗が減るため,貸し出し用のCFresnelがあると便利である(図4b).組み込みプリズム眼鏡作製前のお試し用としても有用である.費用,使用方法,手入れの仕方を説明した用紙を渡している(図4c).プリズムの調整の仕方は,麻痺性斜視では頭位により斜視角が変動するため,顔を正面に向けた状態でプリズムバーを斜視眼にあてて,複視が改善する斜視角を測定する.複視の有無がはっきり答えられない場合は赤ガラスを片眼にあてるのもよい.使用時はCFresnel膜の縞が気になることが多いため,非優位眼に添付したほうが受け入れやすい.麻痺眼を外転させる訓練を目的として使用するときは健眼に基底外方で使用する.プリズムを使用しても麻痺眼方向を向くと複視が残ることを説明する.正面で複視があれば全面に貼り(図4d),患側を向いたときだけ複視がある場合は部分貼りにするなど,患者の状態に応じて調整する.Fresnel膜を添付すると見やすくなるわけではなく,像が一致することが目的と繰り返し説明することが重要である.3カ月を経過しても複視が改善せず,その角度がおおむねC10CΔ以下であれば,Fresnel膜ではなく組み込みプリズム眼鏡の作製を考える.累進焦点眼鏡へのプリズム組み込みは理論的には可能であるが,累進焦点レンズにさらにプリズムを付加すると視線の向きによりプリズム度数が変動し,使いづらくなることについて理解を得る必要がある.プリズムが使用できない場合は,遮閉を行う.簡便な方法は,マスキングテープを所持眼鏡の必要な部分のみに貼ることである.市販の遮閉レンズ(商品名オクルア)や貼り付け式の遮閉膜(商品名ルミエパッチ,バンガーターフォイル)もあり,商品によっては遮閉の程度を選択することができる.側方視のみの複視であればレンズ面の小さい太めの眼鏡フレームを使用することでフレームが遮閉膜代わりになる場合がある.視能訓練は融像保持,複視軽減,麻痺筋の廃用性萎縮,拮抗筋拘縮の予防,改善に有用である.早期に導入したほうが治癒率が高いようだが,行える施設が限られていることが問題である.観血的治療としては,成人では重症筋無力症が否定できればボトックス注射の使用が考慮される.ボトックスは筋の働きを弱める作用がある薬物で,麻痺筋の拮抗筋である内直筋内に投与することで内直筋の収縮を抑制し,麻痺した外直筋とのバランスをとる.発症後C1カ月を経過すれば使用できる.注射の効果の持続は通常約C3カ月といわれているが,持続期間にはばらつきがある.副作用には眼瞼下垂と上下斜視の発生がある.効果も副作用も時間とともに自然に消失する.発症早期の複視の改善,拮抗筋の拘縮予防に有用であり,とくに自然回復が見込まれる微小血管障害性麻痺では追加投与が不要であることが多く,有効である.眼鏡装用が困難でプリズムが使用できない症例にも適応がある.外傷や腫瘍関連の麻痺で複視が永続的に残る可能性が高ければ,いずれ394あたらしい眼科Vol.C43,No.4,2026(52)図4Fresnel膜プリズムa:販売されているCFresnel膜プリズム,販売店によってC1枚C6,000円前後(税込,商品のみ)からC10,000円以上(技術料込み).b:切り分けて保管してあれば気楽に貸し出しができる.Cc:貸し出しと使用方法の説明書.術後に正面の複視が改善すれば,耳側のみに添付すると遮閉膜代わりにもなって患側での複視が軽減される.d:実際に使用している様子.見かけの斜視が治るわけではない.図5斜視手術(前転法,後転法)内直筋(緑)を付着部で切断し,後方に移動して強膜に固定する.2度目の結紮を片蝶結びにしておくことで,早期であれば後転量を増やせる.外直筋(青)は付着部から短縮量を測定し,縫合糸を縫着し,付着部の手前の強膜に通る(plica-tion).これも片蝶結びにすれば早期であれば短縮量を減らすことが可能である.赤:上直筋,青:外直筋,黄:下直筋,×:縫着.図6筋移動術のさまざまな術式a:Hummelsheim法(Wright変法).上下直筋を分割,外側の半分のみを切腱して外直筋の上下縁に縫着する.Wright変法では,術式を強化するために上下直筋と外直筋の筋腹を縫着する.Cb:Jensen法.上下直筋を分割して,二分割した外直筋とそれぞれ結びつける.c:Foster法.上下直筋を全幅で切腱して外直筋の横に縫着する(Knapp法).変法では外側に引く力を強くするために上下筋の筋腹を強膜に縫着する.Cd:西田法変法.上下直筋を分割せずに外直筋寄りの強膜に縫着する.Ce:double-underCmuscletransposition(DUMT).上下直筋を分割して鼻側の半分を同じ筋の耳側の半分の下を通し,外直筋の下で上下の筋が接するように強膜に縫着する.Cf:muscleCunionCprocedure(MUP).上下直筋と外直筋を付着部からC8.mmで緩く結合し,その後C6.mmでしっかり縫着する.abcc図7約25年前のインフルエンザ罹患後から複視を自覚し次第に内斜視が悪化した症例(67歳,男性)内斜視のために視力検査が困難となり,治療を勧められた.術前の正面眼位はC95~110CΔET,左眼は正中近くまで外転可能だった.MRIで左外直筋の萎縮が確認された.左眼に対して西田法(上下直筋を外直筋の上下端まで移動),内直筋後転C6Cmm,後転した内直筋にCA型ボツリヌス毒素C5Uを投与した.術後C11カ月での眼位は遠見C2~4CΔET,近見C8CΔ外斜位,複視の訴えはない.術後,左眼の外転は改善したが内外下転制限がある.立体視はCTSTC(3/9)であった.Ca:術前のC9方向眼位.Cb:MRI,左外直筋が萎縮している.c:術後のC9方向眼位.C-