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考える手術:36.眼窩壁骨折整復術

2024年12月31日 火曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅眼窩壁骨折整復術奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学眼窩壁骨折は眼部を打撲することにより眼窩を形成する骨が骨折した状態である.症状は,複視,眼球運動時痛,眼瞼腫脹,三叉神経第2枝領域の知覚異常,悪心・嘔吐,鼻出血などさまざまである.診断はCT画像で行う.骨折の種類には筋絞扼型,脂肪絞扼型,開放型の3種類が存在し,鑑別する必要がある.筋絞扼型,脂肪絞扼型骨折は外傷時,骨折部位から眼窩内組織が副鼻腔内に脱出し,その後骨片が元の位置に戻ることが瞬時に生じることにより外眼筋や眼窩脂肪の絞扼が起こる.開放型骨折は組織の絞扼を認めないが,外眼筋や眼窩脂は経皮膚と経結膜があるが,経皮膚アプローチのほうが視野は広く,手術はやりやすい.骨折部位が内壁ならLynch切開,下壁では睫毛下皮膚切開を行う.皮膚切開後,骨膜まで組織を分けながら進める.骨膜を切開後,眼窩縁から骨膜を.離していき,前方の骨折線を探す.骨折線では組織が副鼻腔内に脱出しているため,糸付き小綿(ベンシーツ)などで愛護的に眼窩内に戻しながら後方の骨折線を追っていく.骨折線を全周追えるようになれば副鼻腔内への眼窩内組織の脱出はなくなったことになる(動画①).その状態で人工骨が骨折線全周を覆うようにトリミングし,挿入する.眼窩壁骨折は患者ごとに骨折部の場所や大きさ,組織脱出量が異なるので,挿入する人工骨を過不足なくトリミングする必要がある.また,眼窩内には視神経や外眼筋など,損傷すると合併症が生じる組織が多数存在する.眼窩内の正常構造を常に念頭に置き,患者ごとに術前のCTを見て,どの組織がどの場所にあり,自分の操作している場所がどこであるかを常に考えながら手術を行う必要がある.聞き手:手術が必要になるのはどのような場合ですか?が壊死すると著しい眼球運動障害が残るため,診断がつ奥:基本的に眼窩壁骨折の手術は,骨折による複視や眼いたら,すぐに専門機関に紹介することをお勧めしま球陥凹などの自覚症状があれば適応となります.す.脂肪絞扼型骨折では緊急性はないですが,経過観察をしても眼球運動障害が改善しないため早期の手術を検聞き手:眼窩骨折の手術のタイミングを教えてください.討します.一方,開放型骨折では,眼窩組織が脱出した奥:筋絞扼型骨折では徐々に絞扼した組織が壊死するたままで瘢痕治癒してしまうと,術後眼球運動の改善に影め,緊急手術(24時間以内)が必要となります.外眼筋響を及ぼします.手術のタイミングは報告によりさまざ(69)あたらしい眼科Vol.41,No.12,202414530910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術まですが,受傷後2週間以内が大きな目安になります.実際,受傷後2週目以降での手術では脱出した眼窩内組織が副鼻腔内と癒着していることが多い印象です.しかし,京都府立医科大学附属病院の検討では受傷後1カ月以内までは手術成績は大きく変わらなかったため,遅くとも1カ月以内には手術を行いたいです.聞き手:挿入する整復材料はどのような種類がありますか?奥:自家骨か人工物か,メッシュ構造をもつかどうか,吸収性かどうかなど,さまざまな選択肢があります.自家骨は腸骨や肋骨などから骨を採取しますが,骨の採取手技および骨欠損部に合わせた形状作製がむずかしいというデメリットがあります.チタンメッシュなどの有孔性の材料は,眼窩組織が孔にはまりこみ,癒着してしまうデメリットがあります.そのため,私たちの病院では吸収性のポリマーで構成された素材(superFIXSORBなど)やシリコーンプレートを使用しています.superFIXSORBは骨折部に合わせた形状作製が容易であり,長期間かけて吸収されるため合併症が少ないです.シリコーンプレートは骨折線を人工骨で完全に覆えない内下壁骨折など,広範囲の骨折の場合に隙間を埋めるために挿入しますが,長期留置で血腫が生じる可能性があるため,術後3カ月くらいで抜去します.聞き手:手術の合併症などはありますか?奥:手術の合併症としてもっとも重篤なものは視力低下です.原因としては,術中操作による直接損傷と血腫による眼窩コンパートメント症候群があげられます.とく術前術後図1右眼窩下壁骨折整復術前後のCT所見人工骨が骨折ラインを前端から後端まで覆っている.に内壁操作時は操作箇所が奥になれば視神経が近くなりますので,慎重に操作をする必要があります.骨折線より副鼻腔側の組織を触っているかぎりは視神経の損傷は生じません.しかし,骨折線の後端を露出する場合は骨折線より眼窩側の操作になるため,肉眼で手術はせず,顕微鏡を用いて視野を拡大しながら慎重に手術を行います.その他の合併症としては,下壁骨折の場合は眼窩下神経損傷による頬部の知覚異常があります.眼窩下神経は眼窩外組織であり,眼窩下溝に沿って眼窩組織と連続する結合組織は焼灼,切開し,眼窩内組織と分ける必要があります.眼窩下神経の走行パターンは患者により異なるため,術前CTでイメージしておく必要があります.聞き手:術後の眼球運動がよくない場合は,何が原因として考えられますか?奥:眼球運動の改善のためには手術時に人工骨を後端に挿入し,さらに骨折線を全周覆うことが重要です(動画②).術後眼球運動が不良な場合は,まずは整復不良がないかを確認します.私たちの病院では術翌日にCTを撮像し,眼窩内組織が副鼻腔内に残存していないか,人工骨が予定外の位置に挿入されていないかを確認します.まれに人工骨が眼窩内組織を分断するように挿入されていて,眼球運動が悪化した状態で紹介されるケースがあります.術後CT検査で,挿入した人工骨が後端から前端までの骨折ラインを過不足なく覆っていることを確認することが重要です(図1).手術終了時のCT画像をイメージし,そのイメージが術後のCT画像と同じになることが理想です.聞き手:術後管理で気をつけることはありますか?奥:術後の眼球運動は,数カ月から半年かけて徐々に改善していきます.眼窩内はconnectivetissueseptaといわれる膜様の構造により眼窩脂肪,外眼筋,神経,血管などの組織がつながっています.手術により外眼筋,眼窩脂肪を眼窩内に整復し,術後眼球運動のリハビリを行うことでconnectivetissueseptaによって外眼筋や眼窩脂肪は徐々に本来の位置に戻り,眼球運動が改善します.そのため術後早期から眼球運動リハビリをしてもらうことが大事です.また,術後1カ月は,力むと眼窩内出血のリスクが上がります.また,鼻をかむと副鼻腔からの空気が眼窩内に入り込むため,なるべく避けるように指導します.1454あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024(70)

抗VEGF治療セミナー:抗VEGF薬併用光線力学的療法の活用方法

2024年12月31日 火曜日

●連載◯150監修=安川力五味文130抗VEGF薬併用光線力学的療法の吉田紀子信州大学医学部眼科学教室活用方法最近は滲出型加齢黄斑変性に対する治療の第一選択はどの病型でもほぼ抗CVEGF薬となっているが,治療回数の増加や治療抵抗例などの問題があり,光線力学的療法(PDT)の活用が再考されている.PDTでは脈絡膜厚の減少による治療効果が期待されており,ポリープ状脈絡膜血管症やパキコロイド関連疾患に対し抗CVEGF薬を併用する方法が試みられている.はじめに2012年に示された日本における加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療指針1)では,滲出型CAMDのうちポリープ状脈絡膜血管症(pol-ypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)と網膜血管腫状増殖に対する光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)について言及している.ただし,この治療指針は抗CVEGF薬であるアフリベルセプトの使用開始前に制定されたものである.その後,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)下への効果が高い抗CVEGF薬が複数使用可能となったことにより,最近では滲出型AMDに対する治療の第一選択は,どの病型でもほぼ抗VEGF薬となっている.しかし抗CVEGF薬は視力の改善や維持のために繰り返しの投与が必要であり,通院に対する疲弊や治療費負担が問題となってきている.また,抗CVEGF薬が無効なケースも一定数は存在し,ここにきてCPDTの活用が図1PCVに対するアフリベルセプト併用PDT施行例(82歳,男性)近医にて右眼CPCVに対しアフリベルセプト硝子体内注射(intravitrealCa.iber-cept:IVA)をC3回施行したが,最終注射後C1カ月で所見のさらなる悪化を認めたため紹介となった.右眼視力(0.4).漿液性網膜色素上皮.離,網膜下液(subretinal.uid:SRF),蛍光眼底造影検査にて集簇したポリープ状病巣(.)を認め,IVA併用CPDTを施行した.3カ月後の右眼視力(0.6).滲出は消失し,造影検査ではポリープ状病巣が消退していた.その後経過を追えたC12カ月間,追加治療なしで再発は認められなかった.再考されている.抗VEGF薬併用PDTPDTの合併症として脈絡膜毛細血管板やCRPEの萎縮,網膜下出血,RPE裂孔があり,著しい視力低下につながることもある.これらの合併症はCPDT施行後早期に起こる著明な炎症反応やCVEGFの増加が原因と考えられるため,PDTに抗CVEGF薬を併用する方法が試みられている.PCVに対するCPDTの併用療法に関する大規模試験にCEVERESTII試験2)とCPLANET試験3)がある.EVER-ESTII試験では,PCVに対するラニビズマブ単独療法と,ラニビズマブとCPDT併用療法において,併用療法のほうが治療効果が高いことが示された.一方,PLANET試験では,PCVに対するアフリベルセプト単独療法は,アフリベルセプトとCPDT併用のレスキュー療法に対し非劣性であるとの結果が出た.PDT併用療法の優位性は示されなかったが,実臨床においては,ア(67)あたらしい眼科Vol.41,No.12,202414510910-1810/24/\100/頁/JCOPY図2PNVに対するアフリベルセプト併用PDT施行例(53歳,女性)近医より右眼の中心性漿液性脈絡網膜症疑いにて紹介となった.左眼視力(1.0).OCTangiography(OCTA)にてMNVを認めPNVと診断した.IVAにてC3回の導入期治療ののち,CtreatCandextendの方針としたが,2カ月後の診察でCSRFが再発していた.まだC50代でもあり,今後の治療費のことも考慮してCIVA併用CPDTを施行した.治療後合併症はなく,SRFは速やかに消失した.治療C24カ月後の左眼視力(1.2).再発は認めず,追加治療なしで経過している.フリベルセプト単独療法での無効例や再発例へのCPDT併用療法の効果を筆者も経験している(図1).パキコロイドに対するPDT最近,脈絡膜厚が厚くなるパキコロイド関連疾患という疾患概念が提唱されている.これは脈絡膜の透過性亢進によるパキコロイド,中心性漿液性脈絡網膜症,RPEの異常(pachychoroidCpigmentCepitheliopathy),黄斑部新生血管(macularneovascularization:MNV)を伴うCpachychoridCneovasculopathy(PNV),そしてCPCVが同一疾患スペクトラム上にあるとの考え方である4).PDTでは施行後の脈絡膜厚減少効果が知られており,もともと滲出型CAMDの中でも脈絡膜厚が厚い傾向にあるCPCVに対して治療効果が高いとされていた.MikiらはCPNVに対し抗CVEGF薬併用CPDTを施行し,追加治療を減らすことができたと報告しており5),今後はパキコロイド関連疾患に対してもCPDTが選択肢となりうる可能性が考えられる(図2).おわりに最近では,ブロルシズマブ,ファリシマブ,高容量アフリベルセプトなど,長期に効果が持続する抗CVEGF薬も登場しており,今後CPDTとの比較検討が必要であC1452あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024る.しかし,PDTは抗CVEGF薬とはまったく違うアプローチの治療であり,その特性を理解したうえで,対象患者を十分に検討,選択すれば,治療の選択肢の一つとなりうると考えられる.(本稿は新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドラインが発表される前のC2024年C7月に執筆した内容である)文献1)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,C20122)KohCA,CLaiCTYY,CTakasakiCKCetal;EVERESTCIICstudygroup:E.cacyCandCsafetyCofCranibizumabCwithCorCwith-outCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCforCpolypoidalCcho-roidalvasculopathy:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMACOohthalmolC135:1206-1213,C20173)LeeWK,IidaT,OguraYetal:PLANETinvestigators:Ce.cacyandsafetyofintravitreala.iberceptforpolypoidalchoroidalvasculopathyinthePLANETstudy:arandom-izedclinicaltrial.JAMAOphthalmol136:786-793,C20184)FungCAT,CYannuzziCLA,CFreundKB:Type-1(subretinalCpigmentepithelial)neovascularizationCinCcentralCserousCchorioretinopahyCmasqueradingCasCneovascularCage-relat-edmaculardegeneration.RetinaC32:1829-1837,C20125)MikiA,KusuharaS,OtsujiTetal:Photodynamicthera-pycombinedwithanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyforpachychoroidneovasculopathy.PLosOne16:Ce0248760,C2021(68)

緑内障セミナー:緑内障と生体リズムの乱れ─緑内障の新たな側面

2024年12月31日 火曜日

●連載◯294監修=福地健郎中野匡294.緑内障と生体リズムの乱れ吉川匡宣よしかわ眼科クリニック奈良県立医科大学眼科学教室―緑内障の新たな側面内因性光感受性網膜神経節細胞は他の網膜神経節細胞とは異なり,非視覚的な光情報を生体リズム中枢である視交叉上核に伝達する.そのため内因性光感受性網膜神経節細胞が障害される緑内障は,視機能低下を生じるだけではなく,生体リズムの乱れにも影響している可能性がある.●はじめに緑内障は網膜神経節細胞死を本態とする神経変性疾患で,内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallypho-tosensitiveCretinalCganglioncells:ipRGC)も障害されることが知られている.ipRGCは光情報を視床下部にある生体リズム中枢の視交叉上核へ伝達することで,生体リズムの光同調に重要な役割を果たしている.したがって緑内障はCipRGCの障害により生体リズムの乱れに影響している可能性がある.本稿では筆者らがC2017年から実施している緑内障患者を対象としたコホート研究(LIGHTstudy)や先行研究の結果を踏まえて,緑内障と生体リズム障害の関連について概説する.C●内因性光感受性網膜神経節細胞の特徴2002年に発見されたCipRGCは,他の網膜神経節細胞とは大きく異なり,視物質であるメラノプシンを発現する1).メラノプシンの存在により,ipRGCは眼外からの光を視細胞を介することなく直接受容することが可能である.ipRGCで受容された光は,視交叉上核やその他脳内のさまざまな部位に伝達される.視交叉上核はipRGCからの光刺激を受容することで体外の時刻と体内時計のずれを調整し,全身のさまざまな生理的反応のタイミングをコントロールしている.つまりCipRGCは対光反射図1ipRGCのおもな役割ipRGCはおもに生体リズム同調と対光反射に関与している.生体リズム同調のトリガーとしての役割を果たしている(図1).実際に両眼眼球摘出を受けた患者では生体リズムの乱れを生じることが知られている.またCipRGCは視蓋前域オリーブ核に投射することで対光反射にも関与している(図1).ipRGCの対光反射には特徴があり,青色光にもっとも高い感度を示すこと,そして光刺激終了後の縮瞳状態からの回復が遷延することがあげられる.対光反射時のこれらの特性を利用して,ipRGCの光感受性を間接的に評価することが可光刺激初期緑内障後期緑内障図2緑内障眼における光刺激前後の瞳孔径の経時的変化(自験例データ)縦軸は瞳孔径(mm),横軸は時間(秒),赤・青色線はそれぞれ赤・青色光刺激時の瞳孔径の変化を示す.初期緑内障眼と比較して後期緑内障眼では青色光刺激終了後の瞳孔径(灰色の楕円部分)が速やかに光刺激前の瞳孔径に戻っており,ipRGCの光感受性が低下していることを示している.(65)あたらしい眼科Vol.41,No.12,202414490910-1810/24/\100/頁/JCOPY図3血圧日内変動測定携帯型自動血圧計を用いてC24時間自由行動下血圧測定で評価する.利き腕とは逆の腕にカフを巻き,腰に血圧計本体を携帯し,24~48時間,連続して定期的に自動で血圧測定が行われる.能である.具体的には暗順応後に赤色と青色の光刺激を行い,光刺激前後の瞳孔径の経時的変化を瞳孔記録計で測定する.そして光刺激終了後の瞳孔径で定義されるCpost-illuminationCpupilresponseをCipRGCの光感受性として評価する(図2).C●緑内障と生体リズムの乱れipRGCはヒトにおいて全網膜神経節細胞のC0.2~0.8%程度を占めるとされ,緑内障眼で減少していることが知られている.ドナー眼を用いた実験研究において,緑内障が重症であるほどCipRGCの細胞密度が低下していたことが報告されている.また,筆者らのコホート研究でも,緑内障が機能的および構造的に重症であるほどipRGCの光感受性が低下していたことを確認している2).緑内障眼でCipRGCが障害されるのであれば,緑内障は生体リズムの乱れを引き起こすのであろうか?筆者らは松果体産生ホルモンであるメラトニンに着目した.メラトニンは生体リズム調整や睡眠を促す作用をもち,おもに夜間に分泌される日内変動をとることから,生体リズム指標として広く用いられている.筆者らは研究参加者の早朝第一尿のメラトニン代謝産物濃度を測定したところ,健常群と比較して緑内障群で,さらに緑内障が重症であるほど,尿中メラトニン代謝産物濃度が低下していた3).この結果は緑内障患者において生体リズムの乱れが生じている可能性を示している.次に筆者らは,生体リズムの光同調障害が影響する血圧日内変動(図3)や睡眠について検討した.血圧は夜間就寝時にC10~20%程度下降するのが生理的な日内変動リズムとされているが,緑内障患者C109名の多変量解析の結果,緑内障群の夜間血圧は健常群よりも高かった4).さらに白内障と血圧日内変動障害との関連を示した疫学研究の横断解析結果5)もあり,白内障では水晶体混濁による眼内への光刺激減少がCipRGCの光感受性低下を引き起こす可能性が考えられる.また,睡眠の質の解析では,緑内障眼におけるCipRGCの光感受性低下が睡眠障害と関連していたこと6)や,白内障手術が睡眠の質と関連していたことが報告されている.これらの結果は,ipRGCの光感受性低下が生体リズムの乱れを引き起こし,血圧や睡眠に影響を与える可能性を示唆している.C●おわりに緑内障は視機能障害をきたすだけでなく,ipRGCの障害を介して生体リズムの乱れに影響する可能性がある.そのため日常の緑内障診療では生体リズムの光同調障害にも注意を払い,血圧や睡眠などの全身の状態も確認しておく必要があるかもしれない.しかし,本研究分野は症例数の少ない横断研究が多く,緑内障患者におけるCipRGC障害がどの程度生体リズムの乱れに影響するのか不明な点も多い.今後の大規模な縦断研究の結果が期待される.文献1)BersonCDM,CDunnCFA,CTakaoM:PhototransductionCbyCretinalCganglionCcellsCthatCsetCtheCcircadianCclock.CScienceC295:1070-1073,C20022)YoshikawaCT,CObayashiCK,CMiyataCKCetal:AssociationCbetweenCpostilluminationCpupilCresponseCandCglaucomaseverity:ACcross-sectionalCanalysisCofCtheCLIGHTCStudy.CInvestOphthalmolVisSciC63:24,C20223)YoshikawaCT,CObayashiCK,CMiyataCKCetal:DecreasedCmelatoninCsecretionCinCpatientsCwithglaucoma:Quantita-tiveCassociationCwithCglaucomaCseverityCinCtheCLIGHTCstudy.JPinealResC69:e12662,C20204)YoshikawaCT,CObayashiCK,CMiyataCKCetal:IncreasedCnighttimeCbloodCpressureCinCpatientsCwithglaucoma:CCross-sectionalanalysisoftheLIGHTStudy.Ophthalmol-ogyC126:1366-1371,C20195)YoshikawaCT,CObayashiCK,CMiyataCKCetal:DiminishedCcircadianCbloodCpressureCvariabilityCinCelderlyCindividualsCwithCnuclearcataracts:cross-sectionalCanalysisCinCtheCHEIJO-KYOcohort.HypertensResC42:204-210,C20196)JimuraH,YoshikawaT,ObayashiKetal:Post-illumina-tionCpupilCresponseCandCsleepCqualityCinCpatientsCwithglaucoma:TheCLIGHTCStudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC64:34,C20231450あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024(66)

屈折矯正手術セミナー:SMILE pro

2024年12月31日 火曜日

●連載◯295監修=稗田牧神谷和孝295.SMILEpro岡義隆先進会眼科SMILE(スマイル)はフェムトセカンドレーザーを用いた角膜屈折治療である.2024年C2月,屈折矯正手術のガイドラインに記載された.SMILEproとは,新型のフェムトセカンドレーザーCVISUMAX(日本未発売)を使用したCSMILE手術をさす.本稿ではCSMILE手術,新型機の特徴,SMILECproとなり改良された点などを紹介する.●はじめにSMILE(スマイル)とは,SmallCIncisionCLenticuleExtractionの略で,フェムトセカンドレーザーCVISUMAX(CarlCZeissMeditec社)を使用して行う角膜屈折治療方法である.2023年C3月に厚生労働省の薬事承認を取得した.また,2024年C2月に更新された日本眼科学会の屈折矯正手術のガイドライン(第C8版)1)にCSMILEとして掲載された.SMILECproは,VISUMAXの新機種であるモデルC600またはC800に搭載されているCSMILEソフトウェアプログラムを使って行うCSMILE手術をさす.わが国では2024年C5月時点において承認審査中であり,未発売である.欧州,米国,アジア各国においては,すでにSMILEproが導入されている.C●SMILEとはSMILEはフェムトセカンドレーザーC1台で完結する角膜屈折手術である.LASIK(laserinCsituCkeratomile-usis)手術のようにエキシマレーザーは使用しない.角膜実質層の内部にフェムトセカンドレーザーを照射し,矯正量に応じた厚みにデザインされたシート状の角膜切片(レンチクル)を作製する.そして,2~4Cmmの創口を同レーザーでつくり,その切片を抜き取ることで角膜の曲率を変化させ屈折を矯正する(図1).LASIKのようにフラップを作製しないため,フラップに関する合併症がなく,創口もC2~4Cmmと小さく,ドライアイも発生しにくい.国内では,等価球面度数.10D(近視.10.00D以下,乱視.3.00D以下)までの近視眼および近視性乱視眼の矯正に供されるとされている.全世界では,2011年の発売開始以来CSMILEの実施数はC2023年C5月にC800万眼を超えたと発表されている2).とくにアジア圏では屈折矯正手術の主流となっている.(63)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1SMILEの手術工程レーザー照射によりシート状に角膜切片(レンチクル)を切りとり,約C3Cmmの創口から抜き取る.●フェムトセカンドレーザVISUMAXの新機種(モデル600/800)CarlZeissMeditec社はC2021年にCSMILEproプログラムを搭載したCVISUMAX(モデルC600/800)のCCEマークを取得し,2024年C1月には米国食品医薬品局(FDA)の承認を得た3).わが国ではCSMILEproのプログラムは未承認のため未発売であるが,レーザー装置本体はC2023年C11月にCVISUMAXpro(承認番号:30500BZX00273000)として承認を得ている.VISUMAX(モデルC800)(図2)は,レーザー本体に2本のアームを備えている.一つがレーザーアームで,もう一方がCOPMI(手術顕微鏡)アームである.手術工程に合わせて,使用するアームをボタン操作で作業ポジションに移動させる.レーザーアームにはモニターが備わっており,患者の角膜の様子が映し出される.モデル600にはCOPMIアームが備わっておらず,手術顕微鏡を別途用意する必要がある.この新型のCVISUMAXは,従来品と比べて小型化を実現した.以前は患者用ベッドを上下左右に動かすことで患者の位置を調整していたが,レーザー本体が上下左あたらしい眼科Vol.41,No.12,20241447図2フェムトセカンドレーザー図3CentraLignの画面図4回旋補正機能OcuLignの画面VISUMAX800瞳孔中心を認識し,モニター上に示す.2本のアームを備える.右に動き位置調整ができるようになった.そのためベッドを支えるプラットホームといわれる設置ベースが不要になった.C●SMILEproとはVISUMAX(モデルC600/800)は,レーザーの周波数が従来の同社製品のC500CkHzからC2CMHzとなった.これにより,従来装置で約C30秒弱かかっていたレンチクルの作製が,およそC8秒程度とC10秒未満で完了する.照射時間が大幅に短縮されることで,サクションロスの発生リスクが低減し,患者への負担も少なくなると期待される.CSMILEpro(VISUMAXモデルC800使用)と,従来のSMILE(VisuMaxモデルC500使用)における手術工程にかかった時間を比較したCBrarらによる報告4)によると,ドッキングにおいては,SMILEproがC133.63C±38.88秒に対して,従来のCSMILEはC194.11C±47.59秒,手術全体の時間は,SMILEproがC6.96C±1.67分に対して従来のCSMILEはC9.52C±1.72分と,SMILEproでは有意に手術時間が短縮された.またCSaadらは,52症例C82眼に対するCSMILECproの臨床使用において,合併症はなかったと報告した5).術後の臨床成績に関しては,今後の報告が待たれる.このほか,VISUMAX(モデルC600/800)になって搭載された機能として,CentraLignというセンタリング機能と,OcuLignという回旋補正機能がある.CentraLignは瞳孔中心を自動でトラッキングし,患者の眼にトリートメントパックとよばれる患者インターフェースをドッキングする際の位置合わせをアシストする機能である.その様子はレーザーアームに備えられているモニターに表示され,術者が位置合わせをする際にC1448あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024瞳孔中心を示し,視覚的にアシストする(図3).OcuLignは眼球の回旋運動に対する機能である.事前のマーキングまたは事前に撮影した画像を使用して,虹彩紋理パターンをもとに回旋補正を行う(図4).C●おわりにSMILEproは国内では未承認プログラムであるが,欧州,米国,アジア各国において実施されている.レンチクルの作製時間,つまりレーザーの照射時間が従来の30秒弱からおよそC8秒程度へと大幅に短縮されたことは,サクションロスの発生リスクの低減に大きく寄与すると期待される.また,今後もソフトウェアのバージョンアップによって,一層改良されていくであろう.従来SMILEの弱みとされていたセントレーションに対する機能強化や,遠視治療の対応など,今後のさらなる発展が期待される.文献1)日本眼科学会屈折矯正委員会:屈折矯正手術のガイドライン(第C8版).日眼会誌128:135-138,C20242)https://www.zeiss.com/content/dam/z/med/reference-master/campaigns/en-smile-bene.ts.pd0f3)CarlCZeissCMeditecCAG.CPRESSCRELEASE.CU.S.CFDACApprovesCtheCVISUMAXC800CwithCSMILECproCsoftwareCfromZEISS;https://www.zeiss.com/meditec-ag/en/Cmedia-news/press-releases/2024/fda-approves-visumax-800-with-smile-pro.html4)BrarCS,CGaneshCS,CBhargavS:ComparisonCofCintraopera-tivetimetakenfordocking,lenticuledissection,andover-allwork.owforSMILEperformedwiththeVisuMax800versustheVisuMax500femtosecondlaser.CJRefractSurgC39:648,C20235)SaadCA,CKlabeCK,CKircaCMCetal:RefractiveCoutcomesCofCsmallClenticuleextraction(SMILE)ProCRCwithCaC2CMHzCfemtosecondlaser.IntOphthalmolC44:52,C2024(64)

眼内レンズセミナー:多焦点眼内レンズの整復

2024年12月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋片岡卓也451.多焦点眼内レンズの整復眼科杉田病院多焦点眼内レンズの普及に伴い,その脱臼に遭遇する機会も増加した.しかし,整復が困難であるため,これまでは摘出しC3ピース単焦点眼内レンズなどに置換するのが一般的であった.本稿では,現在の主流であるシングルピースアクリル多焦点眼内レンズの脱臼を,非摘出で整復する手法を紹介する.●はじめに多焦点(multifocal:MF)眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は偏心と傾斜に弱いため,整復するには固定位置を厳密に再現する必要がある1).シングルピースアクリル(single-pieceacrylic:SA)IOLは,hapticsが太いため眼内組織に接触すると炎症を惹起し,また軟性ゲル素材であるため結紮すると剪断される,という弱点がある2).ゆえにCSA-MF-IOLの整復には,毛様溝縫着や強膜内固定などの従来の二次固定法は適用できない.上記を解決すべく,体操競技の平行棒を模したC2本の支持糸を介してChapticsを固定する「平行棒縫着法」が考案された3).いくつかの変法を経て,現在では眼内組織への干渉による併発症を回避しつつ,本来の.内固定と同等の位置に安定して再固定することが可能となった3).C●方法概要は図1のとおりである.平行棒に相当するC2本の支持糸は,それぞれ角膜輪部C2mmから虹彩後方に6Cmm間隔で平行となるよう通糸する.長期の張力保持を目的にC9-0ポリプロピレン糸を選択している.Hap-ticsは支持糸の後方に位置するように,輪状縫合を介して根部と先端の計C4カ所で固定する.断端の虹彩への干渉を防ぐため,これらはC1本糸で連続して形成する.手順を示す.鼻側と耳側の結膜を切開.強膜に穿刺用スリットC4カ所(図1)と縫合用スリットC2カ所(図)を作製し,hapticsexternalization用の角膜ポートをC1.5Cmm幅でC2カ所作製する.作業域に干渉しないよう硝子体ポートなどを設置する(図2a).脱臼CIOLの周囲組織および硝子体を除去する.一方のChapticの先端を軽く把持し,破損しないよう慎重に角膜ポートから眼外へ導出する(図2b).両端針のC9-0ポリプロピレン糸で,hapticの根部(図2c)と端部(図2d)を輪状に縫合.結紮になってしまうとゲルが断裂するため間隙に余裕をもたせる.支持糸の牽引で結び目が締まらないよう,縫(61)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1固定イメージ上段:正面,下段:断面.:穿刺用スリット,:縫合用スリット,↑:支持糸,Ca:6Cmm,Cb:3Cmm,Cc:2Cmm(刺入部~輪部).合はC2-1-1などとする.結び目がChapticの前方にあることと,支持糸を牽引しても結び目が絞まって行かないことを確認し(図2e),縫合が回転しないよう注意しつつChapticを眼内へ戻す(図2f).穿刺用スリットから角膜輪部C2Cmmで迎え針を刺入し,両端針それぞれを角膜ポート経由で対面通糸する(図2g,h).両端針はそれぞれ穿刺用スリットから強膜内を穿刺して縫合用スリットへ通糸する(図2i).もう一方のChapticも同様に作業する.支持糸を軽く牽引し,絡まっていないこと,結び目がChapticsの前方にあることを確認し,問題があれば眼内鑷子などを用いて修正する.支持糸の引き具合を制御してCIOLを厳密にセンタリングする.Hapticsについても,毛様体に接触しないよう,適度な折れ曲がりとなるよう調整する(図2j).位置が確定したら縫合用スリット内で支持糸同士を縫合し,断端は強膜内に埋没する.あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024C1445図2手術写真a:準備,b:Hapticsexternalization,Cc:根部縫合,d:端部縫合,e:縫合確認,f:眼内戻し,g:対面通糸,h:支持糸導出,i:縫合用スリット通糸,j:センタリング.図3Hapticsの反発力による支持糸の緩みの吸収●結果と考按本法の最大の利点は,支持糸の制御で精密にセンタリングできること,また平行線上のC4点という擬似的な平面で支持するため,傾斜しにくいことである.そのため,術後は偏心C0.3C±0.24mm,傾斜C3.9C±1.27°,等価球面度数.0.08±0.67D,前房深度C4.52C±0.49Cmm(7例7眼,当院および愛知医科大学病院)と,.内固定に匹敵する固定状態を再現できている.支持糸の緩みに対しても,hapticsの反発力が緩みを吸収する構造であるため,長期にわたり安定性が維持される(図3).また,原法では指示糸の前方にも部材やChapticsの一部が張り出していたため,虹彩裏面と干渉し炎症を惹起することがあったが,変法ではChapticsは支持糸の後方に吊り下げられるように固定されるため,虹彩への接触がなくなり安全性も向上した.整復困難とされていたCSA-MF-IOLも,工夫次第で整復可能であることが示唆された.今後も増加するであろうCIOL脱臼に対し,本法も含めよりよい整復手法が開発され発展することを期待する.文献1)SodaCM,CYaguchiS:E.ectCofCdecentrationConCtheCopticalCperformanceCinCmultifocalCintraocularClenses.COphthalmo-logicaC227:197-204,C20122)MostafaviD,NagelD,DaniasJ:Haptic-inducedpostoper-ativeCcomplications.CEvaluationCusingCultrasoundCbiomi-croscopy.CanJOphthalmolC48:478-481,C20133)馬嶋一如,片岡卓也,瓶井資弘:「平行棒縫着法」により非摘出整復を試みたシングルピース多焦点眼内レンズ脱臼のC3例.第C74回臨眼CO5:5,20204)片岡卓也:多焦点眼内レンズの整復.第C77回臨眼COphthal-micSurgeryFilmAward:NC-5,2023C

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 強膜レンズ(2)

2024年12月31日 火曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く12.強膜レンズ(2)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C7章は強膜レンズについてである1).強膜レンズに関する第C7章1)の後半で,フィッティングの評価方法や強膜レンズの課題,今後の展望について取りあげている.強膜レンズのフィッティング評価強膜レンズは,結膜上に安定し,角膜や角膜周辺部に接触しないように,レンズの動きを最小限にすることが原則である.レンズ装用直後の中央部涙液クリアランス(lensvault)がC500Cμmよりも多い場合や,100Cμmよりも少ない場合は,レンズ頂点からレンズエッジまでの高さ(lensCsagittaldepth,以下,レンズCsag)の異なるトライアルレンズに変更する必要がある.また,レンズ下の気泡の有無も重要である.約C200~400Cμm程度の適切な中央部涙液クリアランスが得られたら,レンズが安定するまで約C30分間待ったのち,以下の評価項目を確認する.①レンズ下涙液層の厚み:レンズ下涙液層の厚みを細隙灯顕微鏡で観察する際には,細くしたスリット光を斜めC45°から照射し,角膜やレンズ自体の厚みを参考にして評価する.レンズ自体の厚みが中央部と周辺部で異なる場合があるため,角膜中央,上方,下方でのレンズ下涙液層の厚みを観察する.また,レンズ下涙液層の厚みを正確に評価するには,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)やCScheimp.ug画像を参考にするとよい.C②Landingzoneの評価:landingzoneの観察は,細隙灯顕微鏡のディフューザー光で低倍率から始め,各象限で必要に応じて倍率を上げ,血管の途絶や圧迫の有無,エッジリフトの評価を行う.また,レンズをはずしたあとの充血や結膜への圧迫,結膜ステイニングの有無を観察する必要がある.定期検査の際には,フルオレセインを結膜.に滴下し,フルオレセインがClandingzoneに入り込むことを確認することで,レンズエッジの微妙な浮き上がりやレンズ装用時の涙液交換の評価が可能である.③レンズの動きとセンタリング:レンズの水平方向や垂直方向の偏心は,細隙灯顕微鏡の目盛りやCOCTで定量が可能である.強膜レンズは,吸着力があるので瞬目や眼球運動によるレンズの動きは少ないが,fenestraC-(59)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYtion(開窓)のあるレンズでは吸着力が落ちるため,わずかにレンズの動きが大きくなる.そのほか,レンズが過度に動く原因としては,中央部涙液クリアランスが多い場合や,landingzoneのアライメントが悪い場合があげられる.レンズの平均偏心は耳側よりも下方で大きく,水平方向に約C0.1~1.0mm,垂直方向に約C0.2~1.7Cmmであることが報告されているが,これらの値は,Clandingzoneの設計,強膜の形状,中央部涙液クリアランス,および装着時間によって大きく異なる.④定期検査の頻度と検査項目:定期検査の頻度は,患者の基礎疾患や重症度,病状によって異なるが,初めてのレンズ処方後の検診はC1~3週間後に行うことを推奨している.すでに装用している場合にも,3~6カ月を目安に定期検査を行う.定期検査の際には,通常の診察に加えて,数時間レンズを装用したあとのレンズフィッティングや日中の曇り,角膜浮腫,眼圧などの潜在的な合併症をスクリーニングできるように予定する.強膜レンズの課題①光学性能:強膜レンズは,重力や眼瞼,強膜形状の影響により,下耳側に偏心することが多い.下方偏心は,非対称なレンズ下涙液により,小さな基底下方のプリズム効果を引き起こすことがあり,片眼のみのレンズ装用者にとって問題となることがある.また,残余乱視は,レンズのたわみによっても発生することがある.これらの光学的影響は,トーリックまたはClandingCzoneのカスタマイズによりレンズの偏心を抑えること,中央部涙液クリアランスを狭めることによって最小限に抑えることができる.②細菌性角膜炎:ソフトコンタクトレンズ装用における細菌性角膜炎のリスク要因は,不衛生,夜間のレンズ装用,水道水への曝露であり,強膜レンズ関連の細菌性角膜炎を調査した正式な分析はないが,これらと同じリスク要因が当てはまる可能性が高い.③角膜浮腫:現代の強膜レンズは,円錐角膜や健康なあたらしい眼科Vol.41,No.12,2024C1443眼では約C2%,角膜移植後では平均で約C4%の角膜浮腫が生じる.これまで強膜レンズ装用により生じる角膜浮腫を軽減させるために,強膜レンズの酸素透過性を高くすることや定期的なレンズつけはずし,装用時間の短縮,涙液交換と酸素供給を改善させるデザインなど,さまざまな方法で対処されてきたが,レンズ下涙液層の厚さを最小限に抑えることが有効であるとされている.④分泌物の貯留:レンズ下涙液中の分泌物貯留は装用直後から数時間後に発生し,約C26~46%に認められるが,この分泌物は細隙灯顕微鏡やCOCTで観察できるものの正確な病因や組成は不明である.おもな症状はレンズ装用中の霧視であるが,1日C1~2回のレンズの取りはずしで改善される.また,レンズ下涙液の影響により,角膜上皮が「bogging」という状態になる.これは,レンズ除去後にフルオレセイン染色が不均一となる角膜表面の凹凸である.角膜上皮細胞の脱落を促す瞬きがない状態で,角膜上皮細胞が生理食塩水に長時間さらされることにより生じると考えられている.⑤圧迫と吸着(1)結膜弛緩:圧迫と吸着の双方が結膜弛緩の原因とされているが,レンズ下涙液の厚い部位で観察されることが多い.美容上の問題を除いて,結膜弛緩の長期的な生理学的影響は不明であるが,結膜の癒着による輪部血管新生およびパンヌスの発生に関する懸念が示されている.⑥圧迫と吸着(2)眼圧:強膜レンズ装用に伴う眼圧の変化は,短時間のレンズ装用ではほとんどないものの,装用C8時間後には平均C5.8mmHgの眼圧上昇が認められた.強膜レンズの取りはずし後の眼圧測定においては,レンズ装用による角膜厚や角膜形状の変化により,眼圧が過大評価される可能性があることを考慮する必要がある.⑦レンズの装脱着:レンズの取り扱いのむずかしさは,ハードコンタクトレンズ装用者(40%)と比較して強膜レンズ装用者(63%)のほうが高く,これが強膜レンズ脱落のおもな理由となっている.そのため,最初はゴム製のプランジャーを使ったほうがスムーズなレンズの装脱着が可能である.レンズの装脱着の際には,石鹸による手洗いが必須であり,装着の際にレンズを満たす溶液には,防腐剤を含まないものを使用する必要がある.強膜レンズの可能性①高次収差の矯正:円錐角膜に多い,コマ収差などの回転対称ではない高次収差を矯正するには,レンズの動きや回転を最小限に抑えられるトーリック,またはカスタマイズされたClandingzoneをもつ強膜レンズが適している.カスタマイズされた前面矯正デザインの強膜レンズでは,高次収差が大幅に減少し,視力が改善されたと報告があり,今後も発展する可能性がある.②ロービジョン対策:強膜レンズに埋め込まれた反射望遠鏡システムが開発されており,瞬きに反応して拡大なしとC3倍の拡大を迅速に切り替えることができるため,ロービジョン対策としての潜在的な用途がある.③スマートレンズ:スマートデバイスの分野では,多機能の仮想現実や拡張現実,涙液バイオセンシングに使用される小型化された電子部品を組み込んだレンズの設計が可能となっている.近年,強膜レンズに埋め込まれた人工虹彩が,さまざまな照明条件下での視覚シミュレーションに基づいて,レンズの透過率と有効瞳孔サイズを能動的に変更することにより,焦点深度を拡大し,球面収差などの光学収差を低減する可能性が示唆された.また,埋め込み型ディスプレイを組み込んだスマート強膜レンズが開発中であり,このデバイスはロービジョンのリハビリテーションや視覚拡張への応用が期待されている.結論強膜レンズは,角膜不正乱視や眼表面疾患の治療だけでなく,ロービジョン対策やスマートレンズなど,さまざまな用途への応用が期待されている.だからこそ,エビデンスに基づくガイドラインの作成が必要であろう.文献1)BarnettM,GoureyG,FadelDetal:CLEAR.Sclerallens-es.ContLensAnteriorEyeC44:270-288,C2021

写真セミナー:眼窩内静脈奇形(海綿状血管腫)

2024年12月31日 火曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史487.眼窩内静脈奇形(海綿状血管腫)奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図1左眼窩内腫瘍(MRI画像)造影MRI,ダイナミックでは徐々に造影増強効果の範囲が広がり,斑状で不均一な状態から遅延相で全体に濃染される像を認めた.図4術中写真図3初診時左眼窩筋円錐内に濃赤色の腫瘍を認める.左眼球突出を認める.(57)あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024C14410910-1810/24/\100/頁/JCOPY人間ドックの頭部MRI検査で左眼窩内に腫瘍性病変を認めたため,京都府立医科大学病院(以下,当院)に紹介となった75歳,女性の症例を提示する.複視などの自覚症状はなかったが,当院受診時,左眼球突出を認めた.造影CMRIにて精査を行ったところ,耳下側の筋円錐内にC23C×16×22Cmm大の腫瘍性病変を認めた.T2強調画像では高信号を示し,ダイナミック造影では徐々に造影増強効果の範囲が広がり,斑状で不均一な状態から遅延相で全体に濃染される像を認めた(図1~3).腫瘍サイズが大きかったため,腫瘍摘出術を行った.手術は下眼瞼睫毛下皮膚よりアプローチした.筋円錐内に濃赤色の腫瘍を認め(図4),冷凍手術システム(クライオ)にて腫瘍の被膜を損傷することなく摘出した.病理学的検査では静脈奇形(海綿状血管腫)の診断であった.術後,眼球突出は改善を認め,その後は腫瘍の再発なく経過している.静脈奇形は,従来は海綿状血管腫として知られていた.しかし,近年では腫瘍ではなく,血管奇形の一種であり,静脈奇形とよばれることが多い.眼窩内静脈奇形(海綿状血管腫)は眼窩内腫瘍としてはリンパ腫,炎症性疾患についでC3番目に多いとされている.女性にやや多く,中年に多い傾向である.眼窩のどの部位からでも発症するが,症状は眼窩内の生じた部位により異なる.眼球突出がとくに多く,視力低下,眼球運動障害,疼痛を認めることがある1).一方,自覚症状を認めない患者も多く,約C30%は健診などで偶発的に発見される2).比較的柔らかい腫瘍であるため,他の腫瘍と異なりサイズが大きいものであっても視神経圧迫による視力障害は生じにくい.画像的特徴として,CT検査では境界明瞭な卵円形の形状を示す.MRIではCT1強調画像で筋肉や脳と等信号,脂肪より低信号を呈する.T2強調画像では脂肪や脳より高信号となる.ダイナミック造影では徐々に造影増強効果の範囲が広がり,斑状で不均一な状態から遅延相で全体に濃染されることが特徴である.治療は外科的に腫瘍摘出を行う.完全摘出後に再発した報告は少なく,被膜を保ったまま摘出することが望ましい.自覚症状がない場合は必ずしも手術加療は必要なく,腫瘍径の経過観察を行い,増大傾向や症状出現時に考慮する.また,放射線療法による腫瘍サイズの縮小の報告があり,治療後C12カ月で平均腫瘍体積のC63%の減少を認めたとされている3).本症例は偶発的に発見された眼窩内静脈奇形である.眼窩内静脈奇形は特徴的な画像所見より診断は容易である.比較的柔らかい腫瘍であるため,腫瘍径が大きくならないと自覚症状が生じにくい.手術加療による摘出が望ましいが,本症例のようにとくに筋円錐内にある腫瘍の場合は,手術による合併症(出血や視神経障害など)も考慮する.一方,閉経後に腫瘍径が小さくなるとの報告もあり4),自覚症状の有無や腫瘍径の推移などにより手術加療の可否を判断する必要がある.文献1)CalandrielloCL,CGrimaldiCG,CPetroneCGCetal:CavernousCvenousmalformation(cavernoushemangioma)ofCtheorbit:CurrentCconceptsCandCaCreviewCofCtheCliterature.CSurvOphthalmolC62:393-403,C20172)McNabCAA,CSelvaCD,CHardyCTGCetal:TheCanatomicalClocationandlateralityoforbitalcavernoushaemangiomas.COrbitC33:359-362,C20143)RatnayakeCGS,CMcNabCAA,CDallyCMJCetal:FractionatedCstereotacticCradiotherapyCforCcavernousCvenousCmalforma-tionsCofCtheCorbitalCapex.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC35:322-325,C20194)JayaramCA,CLissnerCGS,CCohenCLMCetal:PotentialCcorre-lationCbetweenCmenopausalCstatusCandCtheCclinicalCcourseCofCorbitalCcavernousChemangiomas.COphthalmicCPlastCReconstrSurgC31:187-190,C2015

甲状腺眼症

2024年12月31日 火曜日

甲状腺眼症ThyroidEyeDisease佐藤信之*神前あい*はじめに甲状腺眼症(thyroideyedisease)は,Basedow病やまれに橋本病に伴ってみられる眼窩組織(眼瞼や涙腺,球後軟部組織の外眼筋や脂肪組織)の自己免疫疾患と定義される.甲状腺機能の異常に追従して起こる場合も先行して起こる場合もあり,甲状腺機能が正常の場合はeuthyroidGraves’diseaseとよばれる.罹患率は人口10万人当たり女性16人,男性3人とされ,多彩な眼症候を呈し,重症例では複視や視力障害をきたし,生活の質(qualityoflife:QOL)が著しく損なわれる.I甲状腺眼症の病因と病態TSH受容体,insulinlikegrowthfactor(IGF-1)受容体(IGF1R)に対する自己免疫機序が推定されており,機序を促進する遺伝因子として免疫調節因子の遺伝子多型,環境因子として喫煙が報告されている.自己免疫機序から眼窩線維芽細胞が活性化することで上眼瞼挙筋・外眼筋・脂肪組織・涙腺へのリンパ球やマクロファージの浸潤,グリコサミノグリカンの産生・脂肪組織の増生,外眼筋腫大・線維化といった病態を引き起こす.とくに甲状腺刺激ホルモンレセプター(thyroidstimulat-inghormonereceptor:TSHR)に対する刺激抗体(thy-roidstimulatingantibody:TSAb)が高値であると眼症が誘発されやすい.II甲状腺眼症を疑う眼瞼・眼所見の特徴(図1)1.上眼瞼後退Muller筋の交感神経刺激の増加による緊張や,上眼瞼挙筋の炎症性肥大や周辺組織との間の瘢痕化によって上眼瞼後退が起こる.瞼裂が開大し,本来上眼瞼で被覆されるはずの上方角膜輪部周囲の強膜が露出する.上眼瞼後退に加え後述する眼球突出が進行すると,下方角膜輪部周囲の強膜も露出し,睫毛内反や眼瞼内反を生じる.2.眼瞼発赤・腫脹涙腺やMuller筋と上眼瞼挙筋が炎症を起こすと眼瞼が発赤・腫脹する.3.外眼筋運動障害外眼筋は組成上の特徴からきわめて高い親水性をもつため,重量の何倍もの水を含むことができる.そのため活動期には筋肉は非常に強く腫大し浮腫状となり,非活動期になると筋束の萎縮・線維化や,隣接する脂肪組織への線維性ストランドの伸展を生じる.その結果,活動期・非活動期ともに筋肉の伸展障害を生じ,障害筋の反対側への眼球運動が障害される.一般に眼球運動障害は麻痺性ではなく拘束性で,下直筋がもっともよく侵される筋である.拘束性であるかの判断はMRI所見以外では,外眼筋を経結膜的に把持して強制的に動かす牽引試*NobuyukiSato&AiKozaki:オリンピア眼科病院〔別刷請求先〕佐藤信之:〒150-0001東京都渋谷区神宮前2-18-12オリンピア眼科病院0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(51)1435図1甲状腺眼症の顔貌異なる症例の左右眼の画像である.Ca:左上眼瞼が後退している.b:両上眼瞼は浮腫・発赤を呈し,睫毛は内反している.角膜頂点が鼻根部より前方に突出しており,眼球突出が疑われる.c:結膜の充血と浮腫が著明であり,眼窩内圧の上昇に伴ううっ滞性変化を示唆する所見である.表1ClinicalActivityScore(CAS)眼球や球後の痛み・圧迫感や違和感眼球運動時痛(上方視,下方視,側方視)の痛み眼瞼の発赤眼瞼の腫脹結膜の充血結膜の浮腫涙丘の腫脹図2眼球突出のMRI評価T1強調画像の水平断である.両眼窩外縁を結ぶ線(破線)から,角膜頂点を通る垂線()を引き,その長さを眼球突出度とする.Cab1.3カ月間にC2Cmm以上の眼球突出の進行1.3カ月間にC8度以上の眼球運動障害1.3カ月間に視力低下図3外眼筋の活動性炎症と線維化脂肪抑制CT2強調画像の冠状断である.Ca:4直筋の炎症性肥大を認める.とくに左内直筋は均一な高信号を呈しており,活動性の炎症が疑われる.Cb:4直筋は肥大しているが信号強度が低く,両下直筋は信号強度の高い部分と低い部分が混在しており,線維化が起きていると推測される.図4上眼瞼挙筋の炎症性肥大脂肪抑制CT2強調画像の冠状断である.両眼とも薄い上直筋と,その上方に上眼瞼挙筋が撮像されている.左上眼瞼挙筋は高信号を呈しており(C.),右よりも厚く,炎症性肥大が示唆される.このようなCMRI画像が得られ,かつ診察所見上で左上眼瞼後退を併発していた場合,トリアムシノロンの眼瞼皮下注射のよい適応と考えられる.①Daily法←7日間→←7日間→←7日間→4週間4週間4週間4週間②Weekly法ステロイドパルス療法※日帰り入院もしくは外来処置室にて※メチルプレドニゾロン0.5g/日週1回投与×6週間0.25g/日週1回投与×6週間←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→※重症例には0.75g/日週1回投与×6週間,0.5g/日週1回投与×6週間で投与を行う.※6回投与後のMRIで効果が弱い場合は投与量を減量せず,0.5g/日で維持する.図5ステロイドパルス療法の治療例

眼窩骨折

2024年12月31日 火曜日

眼窩骨折OrbitalFracture奥拓明*I眼窩骨折とは眼窩部は前頭骨,上顎骨,頬骨,口蓋骨,蝶形骨,涙骨,篩骨のC7種類の骨により構成されており,いずれかの骨が骨折を認めると眼窩骨折の診断となる.下壁と内壁の骨は薄く,眼窩下溝鼻側が骨折部位としてはとくに多い.眼窩壁骨折は吹き抜け骨折(blowoutfracture)とCblow-infractureに大別される.Blowoutfractureは外的要因により眼窩内圧が上がって骨折する.Blow-infractureは頬骨骨折などの顔面骨折に伴い骨折する.筋絞扼型骨折では緊急での手術が必要であり,顔面外傷において症状に応じて眼窩壁骨折を鑑別に入れ,見逃さないようにする.問診はまずは受傷した日時,受傷機転,自覚症状などの聴取を行う.受傷機転は,スポーツ,喧嘩,転倒,転落,交通事故などさまざまあるが,眼球打撲時の衝撃の程度は骨折の範囲と関連する.高齢者では転倒による受傷が多く,骨が脆いため骨折範囲が大きくなる傾向がある.一方,若者の場合は,スポーツや喧嘩による受傷が多く,とくに野球のボールによる外傷が多い.CII眼窩骨折の症状眼窩壁骨折の症状には,複視,眼球運動時痛,眼瞼腫脹,悪心・嘔吐,鼻出血などさまざまである.とくに若年者の場合は閉鎖型骨折が生じやすく,強い眼球運動痛や悪心・嘔吐を認めることが多い.また,骨折部位は内壁,下壁,内下壁に分かれ,内壁骨折ではおもに水平方向,下壁骨折ではおもに垂直方向の眼球運動障害を認める.内壁は篩骨蜂巣に支えられており,下壁よりも薄いが折れにくく,骨折部位としては下壁骨折がもっとも多くを占める.下壁骨折では眼窩下神経溝の鼻側で骨折していることが多く,眼窩下神経支配の頬部のしびれを同時に認めることがある.そのため,受傷後,頬部のしびれを認めている場合は積極的に眼窩骨折を疑う.内下壁骨折では,骨折の範囲が広くなることが多く,複視症状はより強くなる.晩期に認める症状としては,眼窩内容積が大きくなることによる眼球陥凹の可能性がある.一方,眼窩壁骨折と同時に頬骨骨折,鼻骨骨折を合併している場合があり,手術時期を逃さないために,これらの骨折を認めた場合は早急に各科へ紹介し,必要に応じて眼窩骨折と同時に整復を行う.また,絶対に見逃してはいけない所見の一つに頭蓋底骨折がある.頭蓋内にCfreeairを認める場合は頭蓋底骨折の可能性があり,脳神経外科にすぐに紹介する.一方,上記以外の眼科的な合併症は,麻痺性散瞳,外傷性黄斑円孔,網膜.離,網膜振盪などさまざまである.術後トラブルを避けるために,眼窩骨折の精査とともに,手術前に視力検査,前眼部検査,眼底検査を行い,見逃さないようにする.*HiroakiOku:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕奥拓明:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(45)C1429左眼右眼耳鼻鼻耳側側側側図1左眼窩下壁骨折症例のHess所見患側(左眼)の基線が上方時,30°枠線より小さく,健側(右眼)が枠線より大きくなる.上方視時に複視を認める.図2左眼窩下壁骨折のCT画像a:冠状断画像.b:矢状断画像.図3眼窩内壁骨折のCT画像a:冠状断画像.b:軸位断画像.図4左眼窩下壁骨折(筋絞扼型骨折)図5左眼窩下壁骨折(脂肪絞扼型骨折)左眼窩内に下直筋の陰影が消失し,左上顎洞内に眼窩内脂肪,左上顎洞内に眼窩脂肪を認める.下直筋の絞扼は認めない.下直筋を認める(missingrectus).図6術後CTa:図C2の症例の術後CT.Cb:図C3の症例の術後CT.脱出組織は眼窩内に返還されており,骨折部位に人工骨が挿入されている.-図7術中所見(骨折の後端の確認と人工骨の挿入)後端の上に人工骨が乗るように整復を行う.人工骨より副鼻腔側に眼窩内組織がないことを確認する.

眼窩炎症性疾患

2024年12月31日 火曜日

眼窩炎症性疾患OrbitalIn.ammatoryDisease朝蔭正樹*臼井嘉彦*はじめに眼窩には眼球以外にも外眼筋,涙腺,脂肪組織などが存在し,それらの組織が炎症の原因となり,さまざまな眼窩炎症性疾患を発症する(表1).眼窩炎症性疾患の原因として眼窩蜂窩織炎などの感染性のものと,特発性眼窩炎症などを代表とする非感染性に大別する必要がある.本稿では日常診療で遭遇する機会の高い眼窩炎症性疾患に関する各疾患の診断と治療について解説する.CI眼窩蜂窩織炎眼窩蜂窩織炎は急性涙.炎や副鼻腔炎などの細菌感染による炎症が直接的に眼窩の軟部組織に波及する場合と,他の臓器から血行性に感染が波及する場合がある.CT検査による眼窩内での炎症の広がりを確認することで,副鼻腔など他の隣接臓器の状態を確認する(図1).眼窩蜂窩織炎の重症度評価として,Chandlerの分類があり1),治療方針の参考となる.膿瘍形成をしていればCMRIのCT1強調像で等信号,T2強調像で高信号を示すため,膿瘍が疑われる場合はCMRIの撮像を追加することが望ましい.眼周囲に原因が見あたらない場合は他臓器から血行性に感染が波及している可能性があるため,全身のCCT検査や血液培養を行い,感染源の同定を行わなければならない.起炎菌はブドウ球菌が多いとされるが,小児ではインフルエンザ菌,肺炎球菌が多く,糖尿病などの免疫不全者,高齢者,ステロイドや免疫抑制薬の投与歴のある患表1眼窩炎症性疾患特発性眼窩炎症眼窩蜂窩織炎IgG4関連眼疾患サルコイドーシス反応性リンパ組織過形成Sjogren症候群涙腺炎多発血管炎性肉芽腫症甲状腺眼症外眼筋炎者では緑膿菌による感染の報告もあり,真菌(眼窩真菌症)を含めたさまざまな菌種を念頭に置く必要がある.起炎菌は多岐にわたるため,治療はまず広域の抗菌薬の全身投与を行う.抗菌薬への反応が悪い場合やCChan-dler分類のグループCIII以降に該当する膿瘍の場合は早急に切開排膿を行い,炎症のコントロールを図るとともに起炎菌の同定を試みるほうがよい(図2).CII特発性眼窩炎症特発性眼窩炎症(図3)は眼窩内に原因不明の炎症が生じる病態の総称である.発生部位によって外眼筋炎型・涙腺型・びまん型・眼瞼型・眼窩先端部型に分類され,多くは片側性である.両側性の場合には後述するIgG4関連眼疾患などの全身性疾患を疑い,全身検索を行う必要がある.わが国における眼窩腫瘍の原因としてもっとも多く2),遭遇する機会は多い.腫瘤などが表面から増えるようであれば,可能なかぎり病変を生検し他疾患の除外を行う必要がある.生検が困難であっても血液検査や胸部CX線検査を施行し,可*MasakiAsakage&YoshihikoUsui:東京医科大学臨床医学系眼科学分野〔別刷請求先〕朝蔭正樹:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(41)C1425図1左眼窩蜂窩織炎a:55歳,男性.結膜浮腫を伴う左眼瞼の発赤・腫脹・疼痛で受診.Cb:同患者の眼窩CCT検査では右眼に比べ左眼の眼窩脂肪織濃度は上昇し,眼瞼腫脹を認める.a:6歳,女児.右眼窩蜂窩織炎に対して抗菌薬治療が行われたが改善しないため転院.右眼を中心に前額部から左眼の上眼瞼にかけて腫脹と疼痛あり.Cb:MRIのCT2強調像では前額部から上直筋直上にかけて高信号の腫瘤を認めたため,膿瘍の診断で切開排膿を施行した.a:30歳,女性.左眼の眼球突出の精査目的に紹介受診.甲状腺ホルモンや血清CIgG4は正常であった.Cb:MRIのCT1強調像では左眼の涙腺腫脹を認めた.図4甲状腺眼症a:69歳,女性.甲状腺眼症を契機に甲状腺機能亢進症が判明した.両眼にCdalrymplesignを認める.Cb:眼窩CMRIの脂肪抑制のCT2強調像で両眼の下直筋と内直筋が腫大し高信号を示す.図5IgG4関連眼疾患a:82歳,女性.両眼の眼瞼腫瘤の精査で受診.Cb:眼窩CMRIでは両眼の涙腺腫大を認める.血清CIgG4値は1,170Cmg/dlであり,生検の結果,IgG4関連眼疾患の診断となった.’C