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硝子体手術のワンポイントアドバイス:276.硝子体手術中に生じる一過性後囊下白内障(初級編)

2026年5月31日 日曜日

276硝子体手術中に生じる一過性後.下白内障(初級編)池田恒彦京都中部総合医療センター眼科近畿大学奈良病院眼科●はじめに水晶体を温存した硝子体手術時に液空気置換を施行した際,あるいは再度灌流液に戻した際に,しばしば一過性の後.下白内障をきたし,眼底の視認性が低下することがある.これは,硝子体手術後早期にみられるガス白内障と同様の病態と考えられる1).●症例提示患者は36歳,女性.右眼の上耳側に弁状裂孔を有する網膜.離に対して,水晶体を温存した硝子体手術を施行した.手術は硝子体を切除し裂孔周囲の硝子体牽引を解除したのち(図1),気圧伸展網膜復位術を施行した.裂孔の後極に網膜下液がシフトしたため,一度灌流液に戻したところ,著明な後.下白内障が生じて眼底の視認性が低下した(図2).もう一度液空気置換を行ったが,裂孔周囲の視認性の確保がむずかしかったため,眼内光凝固の代わりに経強膜冷凍凝固を施行した(図3).術終了時には後.下白内障はほぼ消退し,眼底の視認性は向上していた.●硝子体手術時に生じる一過性後.下白内障裂孔原性網膜.離などで硝子体切除後に気圧伸展網膜復位術を施行した際,少し時間が経過すると一過性の後.下白内障が生じ眼底の視認性が低下することはしばしば経験する.通常は眼内光凝固などの操作を妨げるほどではないので,そのまま手術を続行できることが多いが,眼内操作を追加するために再度灌流液に戻したときに,かなり高度な後.下白内障をきたし,その後の眼内操作に支障を伴うことがある.この水晶体の混濁は,ガスタンポナーデを施行した硝子体手術後に生じるガス白内障1)と同様の病態と考えられ,水晶体.における代謝や浸透圧の変化,あるいは乾燥に起因すると推測されている2)が詳細は不明である.水晶体混濁の形状は羽毛状あるいは魚燐状を呈することが多い.30~40分待てば混濁は徐々に軽減することもあるが,水晶体切除術を余儀なくされることもある.灌流空気を加湿したり,柔ら(81)0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1硝子体手術中の術中所見(1)硝子体を切除し裂孔周囲の硝子体牽引を解除した.図2硝子体手術中の術中所見(2)気圧伸展網膜復位術後,再度灌流液に戻したところ,著明な後.下白内障が生じて眼底の視認性が低下した.図3硝子体手術中の術中所見(3)視認性の確保がむずかしかったため,眼内光凝固の代わりに経強膜冷凍凝固を施行した.かいブラシで水晶体後.をマッサーすることで混濁を軽減させうるといった報告2,3)もあるが,筆者には経験がない.有水晶体眼の硝子体手術時に液空気置換を施行する際には,硝子体腔内に注入した空気を灌流液と再度置換することは極力避けるとともに,必要に応じて白内障手術を併施できるような体制を整えておくことが重要と考えられる.文献1)池田恒彦,田野保雄,細谷比左志ほか:ガス白内障.臨眼43:956-959,19892)HarlanJrJB,LeeET,JensenPSetal:E.ectofhumidityonposteriorlensopaci.cationduring.uid-airexchange.ArchOphthalmol117:802-804,19993)MandviwalaMM,AdamsMK,BarkmeierAJ:Theforbid-dentouch:mechanicalclearingofgas-inducedcrystallinelensfeatheringduringvitrectomysurgery.IntJRetinaVitreous10:49,2024あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026553

考える手術:眼内レンズによるモノビジョン法―適応判断と度数設定の考え方

2026年5月31日 日曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅眼内レンズによるモノビジョン法―適応判断と度数設定の考え方飯田嘉彦北里大学医学部眼科現在の白内障手術は小切開かつ低侵襲な術式へと進歩したことにより,惹起乱視を含む手術侵襲に起因する術後屈折および視機能への影響は大幅に軽減されている.白内障手術は単なる開眼手術から屈折矯正手術へ,さらには老視治療としての側面をもつようになってきている.一般に,白内障術後の調節力消失は避けられない問題であり,従来は見る距離に応じて眼鏡を使い分ける必要があった.しかし,ライフスタイルの多様化に伴い,日常生活において眼鏡を使用せずに遠近ともに見たいという視的要求が高まっている.これに対して,多焦点IOL,焦点深度拡張型(EDOF)IOL,enhancedmono-focalIOLなど,明視域を拡張させるIOLが登場してきている.一方で,IOLの種類によっては費用負担が大きいことや,レンズの光学的特性に起因する瞳孔径依存性,コントラスト感度低下,グレア・ハローといった不快光視現象などの課題があり,全症例に適応できるわけではない.IOLによるモノビジョン法は,左右眼でIOLの種類や目標屈折値を変えることにより明視域の拡大を図る老視矯正法であり,適切な症例選択と手術計画を行うことで高い満足度が得られる方法である.従来の単焦点IOLによるモノビジョンに加え,近年では多焦点IOL,EDOFIOL,enhancedmonofocalIOLを組み合わせたモノビジョン法など,そのバリエーションも増えており,今後さらなる適応拡大が期待される.本稿では,IOLによるモノビジョンを成功させるための考え方と実際のポイントについて整理する.聞き手:眼内レンズ(intraocularlens:IOL)によるモン法ではやや大きな屈折差が必要となります.そのたノビジョン法とは,どのような考え方に基づく手術で,め,術後に不同視を受容できるか,両眼視機能を良好にどのような患者が適応となるのでしょうか.維持できるかを考慮した症例選択が重要です.IOLによ飯田:モノビジョン法とは,優位眼を遠見用,非優位眼るモノビジョンは,多焦点IOLと比べてコントラストを近見用に矯正し,意図的に不同視を作ることで,遠方感度低下やグレア・ハローなどの不快光視現象が少なから近方までの明視域を拡大する老視矯正法です.コンく,保険診療で施行可能である点が利点です.一方で,タクトレンズや屈折矯正手術では調節力が残存している適応の見きわめが成否を左右します.実臨床では,両眼ため左右眼の屈折差を小さく設定できますが,IOL挿入視機能が良好で,強い眼優位性を示さない患者を適応と眼では調節力がないため,単焦点IOLによるモノビジョしています.これらの要素を反映すると考えられる術前(79)あたらしい眼科Vol.43,No.5,20265510910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術の眼位評価を重視しており,とくに近見外斜位角度が10プリズム以内の患者を適応1)とし,斜視の患者は原則として適応外としています.聞き手:IOLによるモノビジョン法では,度数設定をどのように考えるべきでしょうか.飯田:モノビジョン法の患者満足度は,優位眼の遠方裸眼視力と強く相関することが知られており2),術後屈折誤差を極力少なくし,残余乱視を最小限に抑えることが重要となります.角膜乱視が1.0D以上ある患者では,トーリックIOLや角膜輪部減張切開(limbalrelaxingincision:LRI)の併用を積極的に検討すべきと考えます.左右眼の屈折差については,1.5~2.0D程度が多くの患者で無理なく受容される範囲と考えられます(conven-tionalmonovision).一方で,2.5D以上になると受容性に個人差が大きくなり,不満足例が増加する傾向があります.屈折差を小さくすれば近方視力は低下するため,屈折差と近方視力はトレードオフの関係にありますが,高齢者では加齢に伴う縮瞳により偽調節効果が得られるため,より少ない屈折差でも近方視が得られやすい傾向があります.とくに近見瞳孔径が2.5mm以下の患者では,非優位眼を.1.5D前後とする比較的小さな屈折差であっても,良好な近方両眼視力が得られる可能性があります(mildmonovision).この点から,単焦点IOLによるモノビジョン法は,白内障手術を受ける患者の中でも高齢者により適した老視矯正法と位置づけることができるかもしれません.なお,瞳孔径は条件によって動的に変化するため,術前評価においては明所・両眼開放下での測定を行うことが望ましいと考えています.聞き手:モノビジョン法のバリエーションについて教えConventionalHybridMild非優位眼優位眼非優位眼優位眼単焦点単焦点多焦点単焦点てください.飯田:これまで紹介してきた,単焦点IOLによるcon-ventionalmonovisionや,左右眼の屈折差を1.0~1.5D程度に抑え,加齢に伴う縮瞳による偽調節効果を利用するmildmonovisionに加えて,hybridmonovision3)という選択肢があります.Hybridmonovisionは,優位眼に単焦点IOLを挿入して良好な遠方裸眼視力を確保し,非優位眼に多焦点IOLを挿入する方法です.多焦点IOL特有のグレアやハローといった不快光視現象を軽減しつつ近方視を補うことができ,遠方視の質を保ちながら明視域の拡大を図ることが可能です.比較的若年で近方視への要求が高い患者に適した選択肢と考えられます.また,両眼に多焦点IOLが挿入されたあとの不満足例に対して,優位眼のみを単焦点IOLに交換し,hybridmonovisionの状態とするレスキュー手段も考えられます.さらに近年では,分節型多焦点IOLや,単焦点IOLよりも明視域が広い焦点深度拡張型(extendeddepthoffocus:EDOF)IOL,enhancedmonofocalIOLが登場しています.これらのIOLはいずれも単体で遠方から近方までを完全にカバーすることは困難ですが,モノビジョン法で用いることで,それぞれの特性を生かした老視矯正が可能となります(図1).これらのIOLを用いたモノビジョン法では,左右眼の屈折差を従来よりもさらに小さく,0.75~1.00D程度に設定することが可能となります.その結果,不同視に伴う違和感を軽減しながら老視矯正を行うことができ,近見斜位角度がやや大きい患者にも適応できる可能性が広がります.このように,IOLの進歩により,モノビジョン法は従来よりも柔軟な選択肢となり,その適応の幅は今後さらに広がっていくと考えられます.HybridMini非優位眼優位眼非優位眼優位眼分節型単焦点分節型EDOFEDOFEnhancedEnhancedmonofocalmonofocal図1モノビジョン法のバリエーション552あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026(80)

抗VEGF治療セミナー:糖尿病黄斑浮腫の長期マネージメント

2026年5月31日 日曜日

●連載◯167監修=安川力五味文147.糖尿病黄斑浮腫の長期マネージメント大内亜由美順天堂大学医学部附属浦安病院眼科糖尿病黄斑浮腫による視力低下を防ぐためには,抗CVEGF薬を用いた長期的な疾患コントロールが重要である.本稿では,大規模臨床試験やリアルワールド研究の長期成績,第C2世代抗CVEGF薬の活用や切替え戦略など,長期マネージメントの要点を概説する.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)治療のおもな目的は,疾患活動性を適切に抑制し,長期的に良好な視力を維持することである.現在,治療の第一選択は抗CVEGF薬硝子体内注射であり,ラニビズマブやアフリベルセプトといった第C1世代薬に加え,ブロルシズマブ,ファリシマブ,アフリベルセプトC8Cmgといった第C2世代薬が登場し,治療選択肢が広がっている.一方で,大規模なランダム化比較試験(randomizedCcontrolledtrials:RCT)と比較すると,実臨床では治療回数の不足やドロップアウトが生じやすく,これらが長期転帰の悪化と強く関連することが明らかとなっている.治療は長期的な継続を要すること,治療目標や期待される経過を初期段階で患者と共有することが重要である.大規模臨床試験における長期成績DMEに対する抗CVEGF薬のCRCTでは,薬剤ごとにプロトコールは異なるが,2年間で約C10.12文字の視力改善が報告されている.その後,一部の試験では延長研究により長期効果が評価されている.アフリベルセプト定期投与の第CIII相試験であるCVISTA試験では,3年のコア試験終了後,2年間の必要時投与(prorenata:PRN)を行ったCENDURANCE延長研究において,追加投与中央値C4回で視力改善が維持された1).一方,Pro-tocolT試験では,初期C2年間は厳格なCPRNで中央値15.17回の投与を行い,その後C3.5年目は医師裁量と保険負担に基づくCPRNに移行した.その結果,2年時点での視力改善C12.1文字は,5年時点でC7.4文字へ低下した2).延長期間で追加投与がC0回であった症例は,ENDURANCEでC25%,ProtocolTでC32%であった.治療継続により必要投与回数は減少し,一部では離脱可能な患者も存在するが,長期的な視力維持には再投与基準や来院間隔の最適化が不可欠である.(77)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYリアルワールド研究から考える長期マネージメントの実態実臨床では,RCTと比べ治療回数が少なく,視力改善が限定的であることが国内外で報告されている.日本のCSTREAT-DME2試験(2015.2019年)では,未治療CDMEに対するC2年間の平均投与回数はC5.8回,視力改善は+5文字であり,RCTと比べ治療強度が明らかに低かった3).米国CIRISRegistryによる約C2万眼の解析では,初年度平均投与回数はC3.9回,視力改善は+3.2文字であり,6年目には年平均C2.9回,ベースライン比+0.5文字と,実臨床での長期的な視力維持の困難さが示された4).さらに,治療中断がC51.7%の症例で認められ,アンダートリートメントとドロップアウトの回避が実臨床の大きな課題である.投与レジメン十分な初期治療は視力改善の鍵であり,初期に導入期投与を設けた群では同じ総投与回数でも視力改善が良好であることなどが報告されている.維持期には,おもにPRNとCtreat&extend(T&E)レジメンが用いられる.長期視力予後について明確なコンセンサスはないものの,T&E群は投与回数が多い一方,再発が少なく網膜厚が安定しやすい傾向があり,PRN群では投与回数は少ないが診療回数が多く,実臨床での通院間隔のばらつきや受診遅延によって再発を繰り返し,視力が低下するパターンがしばしばみられる.施設の診療体制や患者の通院状況などを踏まえ,適切なレジメンを選択することが望ましい.治療抵抗例への対応抗CVEGF薬をC3.6回投与しても浮腫が残存する場合は,炎症などCVEGF非依存性の病態が関与している可能性を考慮し,薬剤の切替や一時的なステロイド併用治療(トリアムシノロンCTenon嚢下注射など)を検討すあたらしい眼科Vol.43,No.5,20265496週間後に再発アフリベルセプト×2Treat&Extendに切替図1治療反応不良例に対するファリシマブ8~12週おきファリシマブへの切替治療の反応性と患者とのコミュニケーションのもと,適宜治療の強化を行うことで,長期にわたる視力改善維持が可能であっファリシマブへ切替え×3た.3年後PRNの方針る.硝子体黄斑牽引や網膜前膜などの牽引性要因を認める場合は硝子体手術も選択肢となる.また,HbA1cの上昇,腎機能悪化,血圧不良などの全身リスク因子が治療反応性に影響する場合もあるため,全身状態の再評価も重要である.とくにCDME患者では腎機能の経時的悪化が少なくなく,腎機能変化に伴ってCDMEの活動性も変化することがあるため,注意を要する5).第2世代抗VEGF薬の活用と薬剤切替第C2世代抗CVEGF薬には,高濃度製剤のブロルシズマブ,アフリベルセプトC8Cmg,VEGFとCAng-2を同時に阻害するバイスペシフィック抗体ファリシマブがある.これらは作用持続期間の延長や強力な浮腫抑制効果により,投与回数の減少や長期的な疾患コントロールの改善が期待される.第C1世代薬で反応不良または難治性を示す患者は,第C2世代薬への切替によって解剖学的改善と治療間隔延長が得られる可能性が報告されている.ファリシマブへの切替えに関するシステマティックレビューでは,中心窩網膜厚の有意な改善と治療間隔延長が示され,ブロルシズマブについても遷延CDMEに対する有効性が報告されている6,7).第C1世代薬に対する反応が不十分な患者では,早期に第C2世代薬への切替を検討することが,長期的な視力維持に有用と考えられる(図1).おわりにDMEの長期マネージメントでは,患者教育とコミュニケーションを通じて患者と治療目標を共有し,全身リスク因子の評価や病態を踏まえて薬剤選択と投与レジメンを設定・再評価することが重要である.さらに,視機C550あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026能予後には浮腫だけでなく,黄斑虚血,炎症,神経障害など多様な要因が関与するため,網膜厚のみならず複数のバイオマーカーを活用した個別化治療戦略が今後求められる.文献1)Wyko.CCC,COuCWC,CKhuranaCRNCetal:Long-termCout-comesCwithCas-neededCa.iberceptCinCdiabeticCmacularoedema:2-yearoutcomesoftheENDURANCEextensionstudy.BrJOphthalmolC102:631-636,C20182)GlassmanAR,WellsJA3rd,JosicKetal:Five-yearout-comesafterinitiala.ibercept,bevacizumab,orranibizum-abCtreatmentCforCdiabeticCmacularedema(ProtocolCTextensionstudy)C.OphthalmologyC127:1201-1210,C20203)ShimuraM,HiranoT,TsuikiEetal:Alterationoftreat-mentCchoicesCandCtheCvisualCprognosisCforCdiabeticCmacularCedemaCinCtheCeraCofCanti-vascularCendothelialCgrowthCfac-tordrugs:AnalysisCofCtheCStreat-DMEC2Cstudy.CRetinaC45:335-344,C20254)KuoBL,TabanoD,GarmoVetal:Long-termtreatmentpatternsCforCdiabeticCmacularedema:UpCtoC6-yearCfol-low-upintheIRIS.Cregistry.OphthalmolRetinaC8:1074-1082,C20245)Usui-OuchiCA,CKishishitaCS,CSakanishiCYCetal:Longitudi-nalrenalfunctionchangesduringreal-worldanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCdiabeticCmacularCedemainJapan.JpnJOphthalmolC69:245-252,C20256)TahmasebiA,EbrahimiadibN,NiyoushaMetal:Switch-ingCtoCfaricimabCafterCpriorCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCpersistentCdiabeticCmacularedema:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC263:2693-2707,C20257)HansrajS,NarulaR,RavalVRetal:RealworldoutcomesofCintravitrealCbrolucizumabCforCpersistentCdiabeticCmacu-laredema.IntJRetinaVitreousC11:101,C2025(78)

緑内障セミナー:緑内障患者に対する仕事と治療の両立支援

2026年5月31日 日曜日

●連載◯307監修=福地健郎中野匡307.緑内障患者に対する仕事と治療の三宅琢公益社団法人NEXTVISION両立支援緑内障は難治性であるため,適切な治療に加えて,ICTを活用したデジタルビジョンケアの実践や医療・福祉・職場の連携により,患者の就労継続と自立の支援が求められる.●はじめに緑内障は40歳以上の約20人に1人が罹患するとされる慢性疾患であり,加齢とともに有病率は上昇する.総務省「通信利用動向調査(2024年)」によれば,60歳代でも約8割がスマートフォンを利用しており,情報通信技術(informationandcommunicationtechnology:ICT)はすでに日常生活に密着したツールとなっている1).また,総務省統計局「労働力調査(2024年)」によれば,65歳以上の労働力人口は増加傾向にある2).高齢者雇用の拡大により,視覚障害をもつ就労者も増加している可能性があり,そうした人々への支援の必要性も増加する可能性がある.●緑内障患者が抱える就労上の課題緑内障患者は視力低下に加え視野欠損により日常や業務に支障をきたし,「書類やパソコン画面の文字が読みにくい」「カーソルを見失う」「段差や信号が怖い」「人の顔がわからない」といった多様な困難さを自覚する.とくにデスクワークやパソコン操作を主とする業務では作業時間の増大や疲労蓄積が生じやすく,症状進行への不安から離職を選択するケースも少なくない.周囲の理解不足や,相談できる専門家の不在といった環境要因も大きな障壁となっている.また,患者自身や雇用者が,合理的配慮を求める・行うにあたり,「何をどうすればよいのか」を知らないことも課題であるといえる.●ICTを活用した「デジタルビジョンケア」ICTを用いた新しいロービジョン支援であるデジタルビジョンケアは,単に拡大鏡や読書器を提供する従来の支援にとどまらず,本人の「困っていること」を出発点とし,スマートフォンやタブレットの音声認識AIなどを活用して視覚情報を最適化するロービジョンケアの(75)0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1タブレットの利用代表的なアプリである『明るく大きく』(無料)を使用して,タブレット画面を拡大読書器として利用している様子.手法である3,4).たとえばアップル社のiPhoneには,全盲者用の操作方法である「VoiceOver」やロービジョン者向けの「画面拡大」「白黒反転」機能が,障害者の支援機能であるアクセシビリティ機能として実装されている(図1).また,マイクロソフト社の「SeeingAI」アプリなどは,文字・人物・色・紙幣を音声で読みあげて日常生活の困難さを軽減し,遠隔ボランティア支援アプリ(例:BeMyEyes)は,在宅勤務や出張時にも即座に支援を受けられる仕組みとして有用である.これらのICT支援は,緑内障患者の就労継続と心理的自立を大きく後押しする.●医療者と職場の連携―「スマートサイト」と地域ネットワーク視覚障害者に対する治療と就労の両立支援や合理的配慮を効果的に進めるためには,医療・福祉・職場が連携する体制づくりが不可欠である.近年,各都道府県に整備が進む「スマートサイト」は,眼科医療機関と地域のあたらしい眼科Vol.43,No.5,2026547図2東京都のスマートサイト(PDF)これらを印刷して患者に手渡すことも,情報障害を予防する最初の一手となる.福祉・教育・就労支援機関をつなぐ情報プラットフォームであり,産業保健総合支援センターや地域障害者職業センターとも連携している(図2).また,眼科医は診断書や意見書を通じて職場に情報提供を行い,産業医がその橋渡しをして適切に労務環境の環境を行うことで,合理的配慮を実現する情報連携が求められる(図3)5).●今後の展望緑内障患者の仕事と治療の両立には,「見る力」そのものを補うだけでなく,「働く環境」や「支援ネットワーク」を整える視点が必要である.ICTは単なるツールではなく,情報アクセスのバリアを取り除き,本人の能力を最大限に発揮させるための「社会的インフラ」である.厚生労働省が掲げる「誰もが安心して働ける職場づくり」や,デジタル庁の「誰一人取り残さないデジタル社会」の理念と合致する取り組みとして,今後は眼科・産業保健・福祉分野の垣根を越えた協働が期待される.●おわりに緑内障は「見えにくい」病気であると同時に,「見え548あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026図3高齢・障害・求職者雇用支援機構の『障害者雇用マニュアル』の表紙雇用者側に漫画などで視覚障害者の就労イメージを掴んでもらうことも重要である.にくさを伝えにくい」病気でもあるといえる.医療者は視機能評価だけでなく,生活・就労の場面での困難を丁寧に聞きとり,テクノロジーと社会資源を活用した支援を提案することが求められる.ICTの力で,緑内障患者が安心して働き続けられる社会を実現することが,私たち眼科医や産業医に課せられた社会的な使命であると筆者は考える.本稿が患者や医療者が情報障害に陥ることを軽減する一助となることを切に祈る.文献1)総務省:令和6年通信利用動向調査の結果.https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/250530_1.pdf2)総務省統計局:令和6年労働力調査(基本集計).https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/gaiyou.pdf3)三宅琢,和田浩一:デジタルデバイスを用いるロービジョンケア.あたらしい眼科40:623-628,20234)三宅琢:ICT機器を用いたデジタルビジョンケア.眼科64:447-452,20225)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構:コミック版1障害者雇用マニュアル視覚障害者と働く(2023年3月)https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic01.html(76)

屈折矯正手術セミナー:放射状角膜切開術後の角膜力学的特性

2026年5月31日 日曜日

●連載◯312監修=稗田牧神谷和孝312.放射状角膜切開術後の角膜力学的特性岩本悠里高静花大阪大学医学部眼科学教室放射状角膜切開術(RK)後に角膜生体力学的強度の低下が生じることは知られている.動的CScheimplug像解析装置を用いた検討で,RK後眼の角膜生体力学的強度低下の機序が円錐角膜眼と異なることがわかった.●はじめに放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)はC1980年代からC1990年代にかけて行われていた屈折矯正手術であり,前方角膜に放射状切開を加えることで角膜中央部を平坦にし,近視を矯正する.RKには術中の角膜穿孔,屈折の日内変動,遠視化や不正乱視の進行,切開が深い場合にみられる角膜内皮機能障害,角膜生体力学的強度低下など,さまざまな合併症があることが知られている1).これらを軽減する目的で,切開範囲を縮小したCminimallyCinvasiveRK(mini-RK)が導入されたが,今日ではより安全性の高い屈折矯正手術が普及し,RKが施行される機会はほとんどなくなった.一方で,RK施行からC20~30年を経て白内障手術の適応年齢に達する患者が増加していることから,RK後の角膜特性を改めて理解する必要性が高まっている.C●RK後の角膜生体力学的強度RK後に角膜生体力学的強度が低下することはこれまでにも知られていたものの,その具体的なメカニズムを定量的に評価した報告は限られていた2).一方,円錐角膜(keratoconus:KC)における角膜生体力学的特性については,角膜屈折矯正手術や角膜クロスリンキングの普及に伴い,多数報告されている.角膜の力学的特性を客観的に定量評価することの重要性が高まり,その評価手段として一定の空気圧を角膜に加え,その変形を動的に記録する超高速CScheimplugカメラ搭載の非接触式眼圧計(角膜厚計)CorvisST(Oculus社)がしばしば用いられている.圧縮空気が角膜に当たると[第一圧平時(Applanationtime1:A1)]角膜が変形し平坦になり,その後,最大陥凹時(HighestCConcavitytime:HC)を経て,再度角膜が平坦化し(A2),元の形状に戻る.そ(73)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYれぞれのタイミングにおける眼球や角膜の移動量を数値で表すことで,角膜生体力学特性の定量評価が可能である(表1).本稿では,このCCorvisSTを用いて評価したCRK後の角膜生体力学的特性について,KC眼や正常眼と比較しながら得られた知見を紹介する3).C●観察されたRK後眼の角膜の特徴CorvisSTによる解析では,RK後眼(RK群)は正常眼(N群)やCKC眼(KC群)とは異なる変形パターンを示した.その主な所見は以下のとおりである(図1).・偏位量が大きく,周辺部まで変形が及ぶ(RK群はCN群より偏位が大きい)・剛性の指標であるCSP-A1が低値(RK群,KC群ともN群より小さく,剛性低下を示唆)・中心部変形指標(DAR・IR)がCKC群と逆の傾向(KC眼のように中央部が大きく変形するわけではない)・水平方向の変形範囲はCRK群が最大(KC群とCN群の差は小さいが,RK群は明らかに広い)これらの所見は,RK後眼における角膜の生体力学的強度低下の機序がCKC眼とは本質的に異なることを示している.KC眼では角膜中央部の菲薄化が局所的な弱さとして表れるのに対し,RK後眼では切開の加わった角膜周辺部がより脆弱になり,空気圧に対して前方に偏移しやすい.そのため,中央部より周辺部の変形が目立つという特徴的なパターンを示すと考えられる.近年,近視が強いほど角膜変形量が大きくなることが報告されているが,今回の検討ではCRK後眼の術前情報がないため,この点は評価がむずかしい.加齢に伴い角膜は平坦化し変形しにくくなるとの報告4)もあり,術後変化・疾患特異的要因・加齢の寄与については,さらなる検討が求められる.あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026545表1CorvisSTの代表的な項目SP-A1(剛性パラメータ)加えられた力÷角膜頂点の偏移量.値が大きい=角膜剛性が強いDeformationAmplitude(DA)(変形振幅)角膜頂点の垂直方向の移動量DARatio(DAR)C2Cmm(変形振幅比)角膜頂点と頂点からC2Cmm地点におけるCDAの比角膜が柔らかい場合は中心部のみで変形.値が大きくなるCIntegratedRadius(IR)角膜陥凹カーブの曲率半径(Radius)の逆数(1/r)の積分柔らかい角膜では曲率半径が小さい.値が大きくなるN眼KC眼RK後眼第一圧平時(A1)最大陥凹時(HC)第二圧平時(A2)図1各群における角膜変形空気圧による角膜の偏位は,正常眼(N眼)よりもCRK後眼で大きく,より周辺部で発生した.角膜中央の垂直方向の変形はCKC眼でより大きく,急な下向きの凸形状を示した.一方,水平方向の変形はCRK後眼でより大きくなっていた.●mini-RKとの比較術式の違いによる影響を見るため,RK群を従来法とmini-RKに分類し比較したところ,mini-RK群は正常眼との差が小さく,各指標のばらつきも少なかった.切開範囲を縮小した術式の特性が,生体力学的影響の軽減として現れている可能性がある.近年,Marquesらは角膜・眼球の生体力学的強度が低い眼ほど近視方向への予測誤差を生じやすいと報告している5).今回得られたCRK後眼の特異的な力学低下が同様の誤差を引き起こすかは未解明であるが,RK後眼に特有の角膜生体力学を理解することは,IOL度数計算における予測誤差の方向性や大きさを評価し,より適切な計算式や補正の選択につながり,今後の白内障手術における精度向上のために重要である.C●おわりに動的CScheimplug像解析装置による定量評価により,RK術後眼の角膜生体力学的強度低下は,KC眼にみあられる中央部菲薄化によるものではなく,切開を受けた周辺部の脆弱化に起因する特有のメカニズムであることC546あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026が明らかとなった.RKは現在ほとんど行われていないものの,術後長期経過した患者が白内障手術などの治療対象となるケースは今後さらに増加すると予想される.RK後眼の角膜力学的特性の理解は,今後の臨床においても重要性を増すと考えられる.文献1)WaringCGOCIII,CLynnCMJ,CMcDonnellPJ:ResultsCofCtheCprospectiveevaluationofradialkeratotomy(PERK)study10yearsaftersurgery.ArchOphthalmolC112:1298-1308,C19942)HardinCJS,CLeeCCI,CLaneCLFCetal:CornealChysteresisCinCpost-radialCkeratotomyCprimaryCopen-angleCglaucoma.CGraefesArchClinExpOphthalmolC256:1971-1976,C20183)IwamotoCY,CKohCS,CInoueCRCetal:CornealCbiomechanicalCalterationsineyesafterradialkeratotomycomparedwithkeratoconus.CJCRefractCSurgC41:e822-e830,C2025.CErra-tum:41:e1160,C20254)GuoCY,CGuoCLL,CYangCWCetal:Age-relatedCanalysisCofCcornealbiomechanicalparametersinhealthyChineseindi-viduals.SciRepC14:21713,C20245)MarquesCJH,CBaptistaCPM,CRibeiroCBCetal:IntraocularClenspowercalculation:angleκandocularbiomechanics.JCataractRefractSurgC50:345-351,C2024(74)

眼内レンズセミナー:術翌日に判明した眼内レンズ支持部の完全破断

2026年5月31日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋468.術翌日に判明した眼内レンズ支持部の加藤徹朗新横浜かとう眼科完全破断眼内レンズ固定が不良となるほどの重篤な損傷は,多くが術中に認知され,即座に処置される.しかし今回,術終了時にはレンズは良好に中心固定されていたにもかかわらず,術翌日に支持部の完全破断とそれに伴う大きな偏位を認めた症例を経験した.術中動画を確認したところ,術中すでに支持部根部に亀裂が生じており,これが術後に進行して完全断裂に至ったものと推測された.●はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入時の破損は,白内障手術におけるまれだが重要な合併症である1).破損が起こると再挿入や追加処置が必要となり,手術時間延長や術後合併症のリスクが上昇する.現在主流のアクリル系CIOLは温度により柔軟性が変化し,とくに低温では硬化して挿入時応力が増加することで破損しやすくなる2).一方,体温近くまで加温すると柔軟性は向上し挿入しやすくなる.今回,加温されたCIOLで支持部に生じた亀裂が翌日に完全破断し,IOL摘出交換を要した症例を経験した.C●症例提示通常の白内障手術においてC2.4mm角膜切開でCClareonVivity(アルコン社)をCAutonoMeインジェクターで挿入した.手術終了時のレンズ位置は良好だったが(図1)翌日にはCIOLが下方に偏位していた(図2).再手術で,支持部と光学部の境界が完全に破断していることが確認され(図3),摘出後に再挿入を行い,術後経過は問題なかった.初回手術動画を見直すと,支持部根元に亀裂が確認され(図1)これが術後C1日で破断に進行したと考えられた.メーカーによると製品異常は確認できず,同ロットでの類似報告もないとのことであった.C●考按IOL破損には素材特性,温度条件,インジェクター操作など複数の因子が関与する.現在主流の疎水性アクリルCIOLは折りたたんで挿入するフォルダブルレンズであり,温度による柔軟性変化が大きい.これを示す指標であるガラス転移温度(Tg)は製品により異なるがC9~15℃程度で,これを下回るとレンズが硬くなり破損リスクが高まる.室温保管の(71)IOLでも,冷蔵保存された粘弾性物質を用いると温度低下により破損が生じうることが報告されている2).一方,加温による破損報告は少なく,多くの施設で加温して使用していると思われる.本症例でもCIOLを加温していた.使用したCAutonoMeは圧縮ガスを用いるプリロード型挿入システムであり4),温度上昇に伴いガス圧が上昇するとプランジャー速度も上昇する.簡易実験ではC24℃に比べC40℃で約C2倍,60℃で約C3倍の速度になった.加温によりプランジャー速度が増し,支持部根元に想定以上の負荷がかかり,亀裂が生じた可能性がある.添付文書ではC18~23℃の手術室で使用するよう記載されている.本症例は,加温によりCIOLの挙動が変化し破損につながった可能性を示唆するものである.疎水性アクリルCIOLは温度管理がとくに重要であり,添付文書に沿った温度での保管・操作が重要である.文献1)眞鍋洋一:プレート型眼内レンズの破損.あたらしい眼科41:1333-1334,C20242)LeeJY,KimJY:Opticfractureofthepreloadedintraocu-larlensduringinsertion.KoreanJOphthalmolC30:79-80,C20163)JungCGB,CJinCK-H,CParkH-K:PhysicochemicalCandCsur-facepropertiesofacrylicintraocularlensesandtheirclini-calsigni.cance.JPharmInvestigC47:453-460,C20174)OshikaT,SasakiN:One-yearmulticenterevaluationofanewChydrophobicCacrylicCintraocularClensCwithChydroxy-ethylCmethacrylateCinCautomatedCpreloadedCdeliveryCsys-tem.JCataractRefractSurgC48:275-279,C20225)YanW,BorkensteinAF,KhoramniaRetal:Videoanaly-sisCofCoptic-haptic-interactionCduringChydrophobicCacrylicCintraocularClensCimplantationCusingCpreloadedCinjectors.CBMCOphthalmolC23:515,C2023あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026C5430910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1初回手術時のIOL挿入直後の写真よく見ると後方支持部の根元に微細な亀裂がみられる.手術中は認識できず,IOL裏面の粘弾性吸引操作やIOLの回転操作も問題なく,中央固定も良好であり,手術を終了した.図2手術翌日の細隙灯顕微鏡写真IOLは大きく下方に偏位していた.図3再手術時の術中写真IOL支持部と光学部の移行部分で破断していた.破損したCIOLは前房内で切断して摘出した.支持部は下方隅角付近にあり,そのまま摘出した.

コンタクトレンズセミナー:トーリックソフトコンタクトレンズ(1)

2026年5月31日 日曜日

■■コンタクトレンズセミナーあたらしいコンタクトレンズ診療監修前田直之3.トーリックソフトコンタクトレンズ(1)山岸景子はじめに近年,メーカー各社からトーリックソフトコンタクトレンズ(SCL)があいついで発売され,今までは規格の不足や異物感で断念していたトーリックCSCLの処方に選択肢が広がっている.トーリックSCLのデザイントーリックCSCLにおいては,軸の方向によって度数が異なるため,適切な屈折矯正効果を得るためには,レンズの回転を抑えて位置を安定させる必要がある.そのためのレンズデザインとして,プリズムバラストデザインとダブルスラブオフデザイン,両者のデザインを組み合わせたハイブリッドデザインのC3種類がある.プリズムバラストデザイン:レンズの下方の厚みが「バラスト(重り)」となり,左右のバランスをとる役割をこなすと同時に,閉瞼時上転した角膜に載っているレンズが開瞼と同時に分厚い部分から外に押し出されるという性質(スイカの種理論といわれる)を利用してレンズの回転を抑える.ダブルスラブオフデザイン:レンズの上下の厚みを薄く,3時C9時方向の厚みを厚くして,上眼瞼と下眼瞼がレンズの薄い部分をくわえこむことによって回転を抑える.下眼瞼にレンズの分厚い箇所が来ないので異物感が少ないのが特徴である.ハイブリッドデザイン:プリズムバラストデザインの厚みをC4時C8時方向に配置し,下眼瞼に触れるC6時方向の厚みはわざと薄くして異物感を抑えてあるものや,ダブルスラブオフデザインをもとにC4時C8時方向をやや分厚くしてバラスト機能を設けたものなどである.最近はいろいろなデザインのトーリックCSCLが発売されているが,患者の眼瞼の形や瞼圧によって軸の安定性や装用感に変化が出るため,筆者は院内に常に数種類のトーリックCSCLを用意し,異物感やぶれ感が出るようであれば他の商品をトライアルするようにしている.トーリックSCLの選択素材の選択:プリズムバラストは下方が,ダブルスラブオフはC3時C9時方向がどうしても分厚くなる.Dk/t値は-3.00Dのレンズの中心部分で計算されているが,トーリックレンズの周辺部では厚みが中心部の倍以上の(69)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYかしはら山岸眼科クリニック厚みとなることもあり,当然ながらCDk/t値は低くなる.それゆえ基本的にはCDk/t値が高いシリコーンハイドロゲルレンズを第一選択としている.ただし,異物感が強い場合や視力が出にくい場合には,眼に合う形状を優先してCHEMAレンズを処方することもある.デザインの選択:プリズムバラストデザインとダブルスラブオフデザインは,それぞれ乱視の種類(直乱視か倒乱視か)や眼瞼の形状によって向き不向きがある.実際のところは患者ごとに装用テストをして判断することになるため,できればC1日使い捨て,2週間頻回交換タイプのそれぞれについてプリズムバラストデザインとダブルスラブオフデザインを準備しておくことが望ましい.ただし斜乱視についてはどちらのデザインでも軸が不安定になりやすいので,軸補正をすることをふまえて軸度がたくさん揃っているトーリックCSCLを選択するのも一法である(表1,2).トーリックSCLのフィッティングガイドマーク:トーリックCSCLにはレンズの回転の有無や回転安定性を確認するためにガイドマークが付いているが,製品によってガイドマークの位置が異なるので,確かめてから使用する.軸が何度であってもガイドマークの位置は変わらず,6時方向にガイドマークがあるものが多い.安定位置の確認:トーリックCSCLのフィッティングは装用後数分程度してから確認する.瞬目時にガイドマークの回転変動がC5°以内であれば理想的,10°以内は可としているが,瞬目でC15°以上回転変動すると瞬目によるぶれを感じて不快感が大きくなるので不可とし,他の製品に変更する.軸補正の理論:次に軸の安定位置を確認する.軸ずれがC15°を超えると視力が出にくくなり,30°を超えると円柱度数の補正効果はまったくなくなってしまう.この場合には正加反減の法則を用いて軸を補正する必要がある.もしもC6時方向にくるはずのガイドマークがC8時方向(時計回り)にずれている場合には,屈折検査の円柱軸に回転分の角度を追加したトライアルレンズに変更し,逆にガイドマークがC4時方向(反時計回り)にずれた場合には,回転分の角度を屈折検査の円柱軸から減じた軸度数に変更する(正加反減の法則).ただし,斜乱あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026C541表11日使い捨てトーリックレンズ製品概要素材商品名メーカーデザイン球面度数最大円柱度数軸度シードC1dayPureうるおいプラス乱視用CSEEDプリズムバラスト+2.0~-10.0-1.75*C1C*1*C220°.90°.160°.180°ワンデーアキュビュモイスト乱視用CJ&Jダブルスラブオフ+4.0~-9.0-2.25*C1C*1*C210°.20°.60°.80°.90°.100°.120°.160°.170°.180°ハイドロゲルデイリーズアクアコンフォートプラストーリックCAlconダブルスラブオフ+4.0~-8.0-1.75C*C320°.90°.160°.180°メダリストワンデープラス乱視用CB&LプリズムバラストC±0.0~-9.0-1.75C90°.180°バイオトゥルーワンデートーリックCB&LプリズムバラストC±0.0~-9.0-2.75C*1*C220°.90°.160°.180°ワンデーバイオメディックストーリックCCooperVisionプリズムバラストC±0.0~-10.0-1.75*C1C*C220°.90°.160°.180°1DAYメニコントーリックCMeniconプリズムバラストC±0.0~-10.0-1.75C90°.180°1DAYMagicトーリックCMeniconダブルスラブオフC±0.0~-10.0-1.75C15°.90°.165°.180°シリコーンハイドロゲルマイデイトーリックCCooperVisionプリズムバラスト+6.0~-10.0-2.25*C1C*1*C210°.20°.70°.80°.90°.110°.160°.170°.180°1DAYメニコンプレミオトーリックCMeniconハイブリッドC±0.0~-10.0-1.75C90°.180°プレシジョンワン乱視用CAlconハイブリッド+4.0~-8.0-2.25*C1C*1*C220°.90°.160°.180°ワンデーアキュビュオアシス乱視用CJ&Jダブルスラブオフ+4.0~-9.0-2.25*C1C*1*C220°.90°.160°.180°アクアロックスワンデーCUVシン乱視用CB&LプリズムバラストC±0.0~-8.0-2.75*C1C20°.90°.160°.180°デイリーズトータルワン乱視用CAlconハイブリッド+4.0~-8.0-2.25*C1C90°.180°*C1球面度数による*C2円柱度数による*C3+度数で唯一斜乱視がある商品表22週間頻回交換トーリックレンズ製品概要素材商品名メーカーデザイン球面度数最大円柱度数軸度ハイドロゲル2weekPureうるおいプラス乱視用CSEEDプリズムバラストC±0.0~-8.0-1.75C*C190°.180°2weekFineUVplusTORICCSEEDダブルスラブオフC±0.0~-9.0-1.75C*1*C290°.180°メダリストC66トーリックCB&Lプリズムバラスト-0.25~-9.0-2.75C10°.20°.80°.90°.100°.160°.170°.180°シリコーンハイドロゲルアキュビュオアシス乱視用CJ&JダブルスラブオフC±0.0~-9.0-2.25C*1*C210°.20°.60°.90°.120°.160°.170°.180°エアオプティクスプラスハイドラグライド乱視用CAlconハイブリッド+6.0~-10.0-2.25C*C120°.90°.160°.180°バイオフィニティトーリックCCooperVisionプリズムバラスト+5.0~-10.0-2.25*C1C*1*C210°.20°.90°.160°.170°.180°アクアロックス乱視用CB&LプリズムバラストC±0.0~-8.0-2.7520°.90°.160°.180°トータルC14乱視用CAlconハイブリッドC±0.0~-8.0-2.25C*C220°.90°.160°.180°フレッシュビューCS乱視用CRohtoプリズムバラストC±0.0~-10.0-2.25*C1C20°.90°.160°.180°2WEEKメニコンプレミオトーリックCMeniconハイブリッドC±0.0~-10.0-1.75C*C290°.180°*C1球面度数による*C2円柱度数による視に関しては軸度の規格が存在しない場合もあり,規格がある範囲でもっとも近い軸度を選択する.その他:トーリックCSCLを勧めるときには,球面レンズより価格が上がるため,高いレンズを売りつけられたと感じないようにトーリックCSCLを使うメリットを十分に理解してもらう必要がある.明室で検査していては,残余乱視があっても瞳孔径が小さいせいで違いを感じられない.暗めの部屋で近方視力を測定する,テストレンズを渡して実生活で違いを体験してもらうなど,患者が納得してトーリックCSCLを選ぶための工夫が必要である.文献1)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:InternationalContactCLensCPrescribingC2023.CContactCLensCSpectrumC39:20-22,C24,C26-28,C20242)ChaoCC,CSkidmoreCK,CTomiyamaCESCetal:SoftCtoricCcon-tactlenswearimprovedigitalperformanceandvision―ArandomizedCclinicalCtrial.COphthalmicCPhysiolCOptC43:C25-34,C20223)ChaudhryM,SahSP,SharmaIPetal:DoesofferingonlytheCsphericalCcontactClensCtrialCtoCtheClowCastigmatsCmis-leadCtheCpractitioners?CIntCJCOphthalmolC14:1281-1284,C2021C

写真セミナー:DSAEK後の移植片機能不全に対するネルテペンドセル治療

2026年5月31日 日曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史504.DSAEK後の移植片機能不全に対する荻野麟太郎国際医療福祉大学市川総合病院眼科ネルテペンドセル治療図2図1のシェーマ①DSAEKグラフト②虹彩縫合図1ネルテペンドセル治療前角膜上皮,実質ともに浮腫を認め,DSAEK後移植片機能不全の状態である.虹彩は11時方向で2カ所縫合され,瞳孔形成されている.図3ネルテペンドセル治療1カ月後角膜浮腫は改善している.(67)あたらしい眼科Vol.43,No.5,20265390910-1810/26/\100/頁/JCOPYDescemet膜.離角膜内皮移植(Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)は,角膜内皮障害に対する標準治療として広く普及している.しかし術後,角膜内皮細胞の早期消耗,移植片不全,拒絶反応後の細胞減少などにより二次的水疱性角膜症(bullouskeratopathy:BK)をきたすことがあり,その治療選択は従来は再移植が主であった.そこへ2023年,ドナー角膜組織由来の培養ヒト角膜内皮細胞を前房内に注射することでBKの治療を行うネルテペンドセル(ビズノバ)が登場した.ネルテペンドセルは,角膜内皮細胞を補充するために開発された細胞注射製剤であり,従来の角膜移植に代わる低侵襲治療として注目されている.培養したヒト角膜内皮細胞を前房内に注入し,細胞が角膜内皮面に定着・単層形成することで,障害された角膜内皮のポンプ機能を再建する.手術は前房内への細胞注射と短時間の仰臥位保持を中心とするため,DSAEKやDescemetmem-braneendothelialkeratoplasty(DMEK)に比べ侵襲が小さく,角膜組織の提供を必要としない利点がある.治療後は角膜厚の減少,浮腫の改善,視力向上が期待され,とくに角膜内皮細胞減少が主因の水疱性角膜症では有望な選択肢となる.ネルテペンドセルは再生医療を用いた新しい治療法として,角膜内皮疾患の治療体系を大きく変える可能性をもつ.症例は60代の女性.30年以上前に左眼の虹彩炎から続発緑内障を発症し,左眼にレーザー虹彩切開術,周辺虹彩切除術,水晶体再建術を施行された.その後,BKを発症し,左眼矯正視力(best-correctedvisualacu-ity:BCVA)0.02となり,東京歯科大学市川総合病院(以下,当院)に紹介となった.当院にて9年前に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)解除+虹彩整復後にDSAEK施行し,術後BCVAは0.6まで回復した.しかし8年後に移植片機能不全を起こし,BCVAは再び0.02まで低下した(図1,2).再移植も検討したが,ネルテペンドセルによる治療を施行することとなった.Tenon.下麻酔後,角膜輪部に1.2mmの切開を作製し,木下型Descemet膜ポリッシャーを用いてDes-cemet膜を温存しながら約8mm径の範囲で角膜内皮および異常基質(guttaeなど)を研磨除去した.その後,ROCK阻害薬を含む灌流液で前房を灌流し,創を10-0ナイロン糸で縫合した.続いて前房を虚脱させたのち,培養角膜内皮細胞(300μl)を26ゲージ鋭針を用いて前房内へ注入した.注入直後から3時間の腹臥位とした.手術中にDSAEK後のDescemet膜の.離は認めず,黄斑浮腫の合併もなかった.術後1カ月からBCVA0.5と著明な視力回復を認めた(図3).角膜内皮細胞も術前のエラーから術後3カ月で2,500/mm2と著明な回復を認めた.ネルテペンドセルはDSAEK後の移植片機能不全に対して有効であった.文献1)KobayashiA,MoriN,YokogawaHetal:Earlyclinicaloutcomesofculturedhumancornealendothelialcellinjec-tion(Vyznova)forbullouskeratopathy:Initialclinicalexperience.Cornea2025Sep3,aheadofprint.

反復低出力赤色光療法

2026年5月31日 日曜日

反復低出力赤色光療法RepeatedLow-LevelRed-Light(RLRL)Therapy五十嵐多恵*はじめに反復低出力赤色光(repeatedClow-levelred-light:RLRL)療法(以下,レッドライト治療)は,従来の「best治療」〔低濃度アトロピン,近視管理用眼鏡,MiSightなどの多焦点ソフトコンタクトレンズやオルソケラトロジー(orthokeratology,以下,オルソK)〕を超える可能性を秘めた「beyondthebest」の治療として位置づけられる.とくに,強度近視における眼軸短縮効果は革新的である.しかし,長期的安全性に関する議論が続いており,今後は視細胞レベルでの検証や大規模多施設試験が求められている.本療法はC650CnmC±10Cnm前後の単一波長赤色光を眼底に照射するもので,基本的にC1回C3分,1日C2回,週5日間のプロトコールで行われる.レッドライト治療装置は,中国国内ではC20種類を超える機器が流通してきたが,EyerisingInternational社のEyerising(アイライジング)近視治療用機器(図1)のみが,中国以外の各国で医療機器として認可され,ISO13485認証を取得している.CI臨床試験の成果Jiangらによる軽度.中等度近視児を対象としたC1年間のランダム化比較試験(randomizedCcontrolledtrial:RCT)では,8.13歳の近視(C.1.00.C.5.00D)の中国人小児C264人を,レッドライト治療群(1,600ルクス/650nm/2.0mW/C1日C2回C3分/週C5日)と,単焦点眼鏡(single-visionCspectacles:SVS)群に割当て比較した1).この結果,眼軸長の延長がC69.4%抑制され,等価球面屈折度の進行はC76.6%抑制された.75%以上のコンプライアンス良好群(平日C5日のうちC4日間実施した群)のみを抽出した場合,近視進行抑制効果は眼軸長でC76.8%,近視度数でC87.7%であった.さらに追跡研究では,2年間でC75%の近視度数および眼軸長の抑制効果が確認され,中等度のリバウンドがあるものの臨床的有効性が支持された(図2)2).CII3年間の長期成績レッドライト治療のC3年間の長期効果に関するデータもリアルワールドスタディから報告されている.Chenらによる中国C3施設のリアルワールド多施設コホート研究では,7.18歳の近視児C362例を対象に最大C3年以上のレッドライト治療の有効性と安全性が検討された.その結果,3年以上の治療において年間眼軸長伸長が0.10Cmm以下である「良好な近視抑制」を達成した割合はC72.5%であり,平均眼軸長伸長はC0.06Cmm/年であった.治療効果はC1.2年の成績と比較するとやや低下する傾向がみられたものの,3年間にわたり臨床的に有意な抑制効果が維持された.安全性に関しては,視力低下や網膜電図(electroretinogram:ERG)異常などの視機能障害は認められず,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)でごく少数の症例に楕円体帯の微小な不連続が認められたものの,視機能への影響はなく*TaeIgarashi:東京都立広尾病院眼科〔別刷請求先〕五十嵐多恵:〒150-0013東京都渋谷区恵比寿C2-34-10東京都立広尾病院眼科(1)(61)C5330910-1810/26/\100/頁/JCOPY(mm)0.80.6眼軸長の変化メーカーHPhttps://www.eyerisinginternational.com/0.40.20.001361224(カ月)時間使用説明動画https://vimeo.com/803740195図2レッドライト治療の眼軸伸展抑制効果とリバウンド図1Eyerising(アイライジング)近視治療用機器と使用説明動画の二次元バーコード動画サイトに説明動画が公開されている.(画像提供:EyerisingInternational)RLRL2年継続群()の眼軸伸展抑制効果は,SVS2年継続群()と比較して,約C75%であった.1年目でCRLRLを中断した群()では,中断後に赤線の継続群よりも速い眼軸伸展が観察された3).リバウンドの程度はCSVS2年継続群()のC2年目の進行速度より速いものの,1年目の進行速度と同程度であることから,中程度と判断された.なお,2年目にCSVSからRLRLに切り替えた群()では,最終的にC2番目に高いC22.6%の眼軸伸展抑制効果を得ることができた.(文献C2より引用)眼軸長の変化(mm)0.300.250.200.150.100.050.00-0.05-0.10baseline126期間(カ月)図3異なるレッドライト出力における眼軸長伸展抑制効果Low-LevelCRed-LightTherapy(LRL)群では,EyerisingCInter-national社製より低い,いずれの出力条件においても対照群(単焦点眼鏡装用)と比較して有意な眼軸長伸展抑制が認められている.(文献C10より引用)期安全性の確保が重要であり,副作用を最小限に抑える観点から,より低出力条件の有効性を検討する必要性も示唆されている.CX光安全性に関する議論市場にはCGroup1(低出力)とCGroup2(高出力)の機器が流通しており,EyerisingInternational社製デバイスは後者に分類される.Group2では光強度が強く,抑制効果が高いとされる一方,安全域を超えるとの指摘がある.米国の研究者らは「Group2機器は安全域を逸脱する可能性がある」と報告し,Group1機器を販売するメーカーを推奨した11).とくにCGroup2機器は瞳孔径が大きい場合,数秒で最大許容露光量に達するとのシミュレーションが発表されている.これに対してCGroup2機器のCEyerisingメーカー側は反論を発表し,臨床試験での高い有効性と安全性を強調している12).議論は続いており,動物実験や補償光学走査型レーザ検眼鏡(adaptiveCopticsCscanningClaserCophthalmo-scope:AO-SLO)などを用いて視細胞レベルで安全性を検証する必要が指摘されるようになった.注目されるなかでCAO-SLOを用いた調査結果の第一報がCLiaoらによってC2025年CJAMACophthalmology誌に掲載された13).「錐体密度減少」の懸念が提起されたが,この報告は,後方視的研究で両群の錐体密度のベースラインデータが提示されていないこと,統計学的問題(両眼を独立対象とした解析,有意水準未調整の多重比較など),画像解釈の不備などが散見されるため,結論には慎重さが必要である.また,レッドライトで網膜に.胞様の変化が生じると指摘されているが網膜の層レベルの解釈に対する誤りも指摘されている14).北京同仁病院の多数例を対象としたよりエビデンスレベルの高いC2年間のRCTでは,治療群と対照群の錐体密度に差はなく,安全性を裏づける結果が公表されるとの予定もある15).いずれにしても安全性に関しては,今後の研究の蓄積による科学的根拠に基づいた判断が必要である.CXIレーザー安全性規格の専門家の見解と国際規制規制面では,中国がC2023年にレッドライト治療機器をCClassIII(高リスク)に再分類し,2024年以降新規販売を制限した.20社以上が臨床試験や医師監督なしに販売していたことが背景にある16).ただし,既存ユーザーの継続使用は認められ,EyerisingInternational社製デバイスはC11万人以上が使用を継続している.一方でオーストリアのCSchulmeister博士はCEyerisingInternational社製デバイスの安全性を再評価し,「網膜損傷リスクはごくわずかであり,瞳孔収縮を考慮すれば安全マージンはさらに広がる」と結論づけた.実験ではEyerisingのC5倍の強度・時間でも網膜障害は検出されなかったと述べた17).このため中国では近年,レッドライト機器対する規制分類がCClassIIIへ再分類されたが,この規制変更は各国の規制判断に直接影響するものではないと解釈されている.現在,EyerisingInterna-tional社製デバイスは,欧州では医療機器規則(medicaldeviceregulation:MDR)に基づくCCEマークを取得したCClassIIa医療機器として承認されており,オーストラリアCTGA,英国CMHRA,ニュージーランドCMed-Safe,トルコCTMMDAなどにおいても同様にCClassIIa医療機器として登録されている.また,マレーシア,ベトナム,コロンビア,サウジアラビアなどではCClassCB医療機器として承認され,UAEではCClass2医療機器として登録されているほか,オマーンでは輸入承認が与えられている(表1).なお,シンガポール,インド,韓国,エクアドルでは現在,承認申請が進行中である.このように,EyerisingInternational社製レッドライト治療機器は,複数の国・地域の規制当局により医療機器として承認されている.CXII各国における臨床研究の状況近年,レッドライト治療は世界各国で臨床研究が進められている.アジア太平洋地域では日本,マレーシア,ベトナムなどで臨床導入または臨床研究が行われており,韓国,インド,タイ,台湾などでも近視進行抑制を目的とした臨床試験が開始されている.また,欧州・中東地域においても,英国やトルコでは臨床使用が開始されている一方,フランス,スペイン,ポルトガル,ノルウェー,ポーランド,イタリア,オランダ,イスラエル,サウジアラビアなど多くの国で臨床試験が進行中で536あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026(64)表1Eyerisingレッドライトデバイスの各国規制状況(2026年3月時点)国・地域規制当局分類C/承認状況中国国家薬品監督管理局(NMPA)ClassIII(再分類)欧州連合CEマーク(医療機器規則MDR)ClassIIa医療機器オーストラリアCTGAClassIIa医療機器英国CMHRAClassIIa医療機器ニュージーランドCMedSafeClassIIa医療機器トルコCTMMDAClassIIa医療機器マレーシアCMedicalDeviceAuthorityClassB医療機器ベトナム保健省ClassB医療機器コロンビアCINVIMAClassB医療機器サウジアラビアSaudiFoodandDrugAuthority(SFDA)ClassB医療機器アラブ首長国連邦(UAE)CEmiratesDrugEstablishmentClass2医療機器オマーン保健省輸入承認シンガポール,インド,韓国,エクアドルでは現在,承認申請が進行中である.このように,EyerisingInternational社製レッドライト治療機器は複数の国・地域の規制当局により医療機器として承認されている.C-’C

多焦点ソフトコンタクトレンズによる近視抑制

2026年5月31日 日曜日

多焦点ソフトコンタクトレンズによる近視抑制MyopiaControlUsingMultifocalSoftContactLenses二宮さゆり*はじめに近視進行抑制目的のソフトコンタクトレンズ(myopiaCcontrolCsoftCcontactlenes:MCSCL)は,2015年頃より本格的に普及しはじめ,現在では小児に対するCCL処方の約C3割を占めているという国際調査も報告されている1).とくにCMiSightC1day(CooperVision,以下,MiSight)は世界C30カ国以上の国でCMCSCLとして承認を受け販売されており,もっとも広く普及しているCMCSCLと推測される.他にCACUVUECAbilitiC1-Day(JohnsonC&CJohnsonVision)やCNaturalVueCEnhancedCMultifocalC1Day(VTI),MYLO(mark’ennovy)のような多焦点CSCLも多く登場し,実臨床における選択肢となってきている.ここではわが国における光学的治療手段として初めて認可を得て販売されはじめたCMiSightを中心に,近視抑制効果が期待され,現時点で入手可能な多焦点CSCLについて述べたい.CIMiSight1dayわが国初のCMCSCLとしてC2025年C8月に厚生労働省より認可を受けたCMiSightは,2026年C2月より販売開始となった.MiSightの処方に際しては,製品特性および近視進行管理手順の適切な理解のため,取り扱う医療機関はメーカーによる講習受講が必須となっている.C1.レンズ設計と原理MiSightは中心に遠用度数があり,周辺に向かって+2.00D加入部と遠用部が交互に配置されたC2重焦点デザインである(図1).制作範囲はC.10.00.Dまでである.網膜中心窩に明瞭な像を維持しつつ,周辺網膜に近視性デフォーカスを誘導することを目的としており,周辺網膜像の焦点位置が眼軸成長を制御するという軸外収差理論に基づいた光学設計となっている.C2.海外の臨床試験結果MiSightはC7年という長い期間をかけた研究結果が報告されている.最初のC3年間で抑制効果を調べ,つぎの3年間で持続効果を確認し,最後のC1年間はリバウンドの有無を調べている.治験開始時の年齢はC8~12歳,等価球面値.0.75~C.4.00D,乱視度数C0.75D以下の子どもを対象としており,コントロール群にはCMiSightと同素材の単焦点CSCLであるCProclear1day(以下,Proclear)が用いられた.抑制効果を調べた最初のC3年間の比較では,眼軸長でC52%,屈折でC59%の近視抑制効果が示された(図2).また,3年間の近視進行度数の分布を調べた結果は非常に興味深く,図3に示すように,MiSight装用群のC41%はC.0.25D以下しか変化しなかった2).これはCMiSightを装用したC4割の子どもにおいて,3年間ほとんど屈折度数が変化しなかったことを示しており,臨床的に注目すべき結果である.持続効果を確認したつぎのC3年間で示されたことは,MiSight群では引き続き抑制効果が持続したことに加え,単焦点SCLからCMiSightに切り替えられた群でも切り替え後*SayuriNinomiya:伊丹中央眼科〔別刷請求先〕二宮さゆり:〒664-0851兵庫県伊丹市中央C1-5-1伊丹中央眼科(1)(53)C5250910-1810/26/\100/頁/JCOPY遠用度数図1Dualfocusdesign中心に遠用度数があり,周辺に向かって+2.00D加入部と遠用部が交互に配置された二重焦点デザインになっている.Ca(D)b(mm)0.000.7眼軸伸長0.2-1.25-0.250.60.5屈折変化-0.500.4-0.750.3-1.000.1-1.5000122436(月)0122436(月)時間時間図2MiSightと単焦点SCLの近視進行比較(3年間)屈折変化(Ca)でC59%,眼軸伸長(Cb)でC52%の近視抑制効果が示された.(文献C2より改変引用)161412108642眼数3年間の屈折の変化図3近視進行度数分布の比較(3年間)MiSight装用群のC41%はC3年間ほとんど近視が進行しなかった(-0.25.D以内).(文献C2より改変引用)図4治験開始時10歳の男児(MiSight群)治験レンズ装用開始後の眼軸長伸長は明らかに鈍化している.屈折変化(D)(mm)0.000.25単焦点眼鏡SEED1dayPureEDOF-0.22±0.03(Middle)0.2-0.2±0.08眼軸伸長0.15SEED1dayPureEDOF(Middle)-0.25-0.11±0.030.10.050-0.500612(月)0612(月)時間時間図5SEEDEDOF(Mid)と単焦点眼鏡の比較(1年間)屈折変化でC59%,眼軸伸長でC49%程度の近視抑制効果がみられた.(文献C5より改変引用)Log(RetinalImageQuality)-1-2-3-4-50+1.00+2.00defocus(D)図6SEEDEDOF(Mid)の光学性EDOFの網膜像ピーク位置.網膜像のピークはやや近方寄りで,とくに瞳孔径が小さいほど近方寄りになる.~~~表1多焦点ソフトコンタクトレンズ(SCL)3種の特長比較製品名CMiSightC1CdayCSEEDC1dayPureCEDOF(Middle)CBio.nityCMultifocalCHiCadd+2.50D販売会社クーパービジョンシードクーパービジョン中心遠用のC2重焦同心円状に交互に配置された+2.00D加入ゾーンが近視性軸上軸外収差を生む遠・中・近方の度数が年輪状に連続的に配置し,CEDOF効果とともに近視性の軸上・軸外収差を生む設計中心遠用度数,外側に+2.50D加入部分があり,C2焦点性が強いデザイン光学性制作度数C.0.25~C.10.00D+5.00~C.12.00D+6.00~C.10.00D素材ハイドロゲルCOma.lconCA含水率:6C0%Dk/L:2C2.8C※ハイドロゲルSBI(両性イオン素材)含水率:5C8%Dk/L:4C2.9C※シリコーンハイドロゲルCcom.lconCA含水率:4C8%Dk/L:1C28C※直径/ベースカーブCφC14.2Cmm/8.7CmmCφC14.2Cmm/8.4CmmCφC14.0Cmm/8.6Cmm算出最大加入度数(Cinvitro測定)約+2.8.D~+3.0D約+2.3.D~+2.4D約+2.0.D~+2.1D近視進行抑制効果(対照群,期間)屈折:59%,眼軸長:52%(単焦点SCL,3年間)屈折:58%,眼軸長:50%(単焦点眼鏡,1年間)屈折:43%,眼軸長:36%,(単焦点SCL,3年間)適応条件など.自分でレンズ装脱が可能な小学生以上の子ども.アレルギー性結膜炎などでオルソケラトロジーによる治療が困難な症例.乱視が強い場合は,見え方が許容できること.オルソケラトロジー治療の卒業後(1C5歳前後~).確実なレンズケアが守れること※単位:×10-9(cm・mlOC2/sec・ml・mmHg)(.3.00.Dの場合)EDOF:焦点深度拡張型(extendedCdepthCoffocus)C.それぞれの特徴を理解し,症例にあったレンズ選択をすることが求められる.~-