●連載◯160監修=安川 力 五味 文 140 加齢黄斑変性とサプリメント沢 美喜堺市立総合医療センターアイセンター
米国の大規模スタディCAREDS・AREDS2においてビタミンCC・E,亜鉛,ルテイン・ゼアキサンチンを含有するサプリメント摂取による中期・後期加齢黄斑変性(AMD)に対する予防効果が示された.わが国の新ガイドラインでもサプリメント摂取推奨が明記され,発症予防に対するサプリメントの重要性が再認識されている.
はじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は先進国における失明原因の主因となる疾患であり,高齢化の進行とともに患者数は増加している.その病態背景には喫煙や光線曝露による酸化ストレスの関与が推察され,AMD予防においては「抗酸化」が重要視されている.米国CNationalCEyeInstitute(NEI)主導の大規模臨床試験,Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudy(AREDS)ならびにその後のCAREDS2では,ビタミンC・Eや亜鉛などの抗酸化作用を期待したサプリメントがCAMD発症予防につながるかどうかを長期的に調査した1,2).C
AREDS・AREDS2AREDSでは,抗酸化サプリメント配合の最適な組み合わせ,摂取量について調査を行った1).2001年の調査では,ドルーゼンのサイズ,対側眼CAMD発症の有無に基づいて四つカテゴリーに分類しCAMD発症の有無を検証した.少数の小型・中型ドルーゼンを有するカテゴリーC1・2ではサプリメントの有効性はみられず,カテゴリーC3(多数の中型・大型軟性ドルーゼン)とC4(中心窩外の地図状萎縮もしくはCAMDの僚眼)を合わせた群でのC5年CAMD発症率は,プラセボでC28%,抗酸化物質+亜鉛の併用摂取でC20%であった.この結果から,サプリメントのCAMD発症予防効果を示すことができた.その一方で,サプリメントの有害事象として,高容量亜鉛摂取による地図状萎縮発生,男性の泌尿器系異常,AMD患者には喫煙者が多いことからCb-カロテン摂取に伴う肺癌リスクとの関連が問題視されていた.そこで,亜鉛減量やカロテノイド変更などの検証が求められ,次なるCAREDS2が実施された.AREDS2では,ハイリスク群のカテゴリー3・4の症例に限定して調査が行われた2).先行のCAREDSサプリメントの組み合わせを基本として,bカロテン削除・ル(87)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY テイン・ゼアキサンチンへの変更,亜鉛減量などを検討した.さらに,魚などに多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)/エイコサペンタエン酸(EPA)などのC~-3多価不飽和脂肪酸の追加摂取の効果についても検討したものの,その有効性を見出すことはできなかった.亜鉛25Cmgへの減量はCAMD発症率への影響がなく,bカロテンからルテイン・ゼアキサンチンへの置き換えは予防効果が増強することが示された.また,食事アンケートに基づいて,緑黄色野菜摂取頻度をC4群に分けたサブ解析において,緑黄色野菜摂取のもっとも少ない群においてはCAMD発症予防効果もみられた.
サプリメント摂取に関する国内の報告小規模ではあるが,国内でのCAMDに対するルテインサプリメント研究の論文が散見される.JFAM studyは,片眼が後期CAMDで,僚眼に眼底自発蛍光異常を認める患者を長期に観察した国内の多施設研究である.眼底自発蛍光異常を有するCAMD僚眼のC5年間の後期CAMD発症率はC30.4%であり,サプリメント非摂取者では新生血管型CAMD(neovascular-AMD:nAMD)進行リスクが高かったと発表している3).また,筆者らが行った単施設研究では,片眼性nAMD患者C39人を対象とし,20Cmgルテインを半年間摂取してもらい,AMD対側眼の黄斑色素密度と血漿ルテイン濃度をC3カ月ごとに測定した.血漿ルテイン濃度はC3カ月でベースラインの約C2倍,6カ月で約C3倍と有意に増加し(図 1),黄斑色素密度も上昇傾向がみられた(図 2)4).さらに,疫学調査に基づくCAMDリスク因子と摂取開始前の血漿ルテイン濃度との関連についてサブ解析を行った.高齢化(図 3),男性,現喫煙者,週C1回以下の緑黄色野菜摂取患者では血漿ルテイン濃度が低い傾向がみられた.興味深いことに,食事アンケートに基づく野菜摂取頻度と血漿ルテイン濃度には有意な相関がみられ(図 4),毎日C1回以上の摂取群に比べて,週C1回以下の摂取群の平均血漿ルテイン濃度は約C1/3であっあたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025 1305 (ng/ml)(DU)(ng/ml) 0.52 180 160 0.50
140 120 100
血漿ルテイン濃度0.48 0.46 0.44 80 60 40 0.42 20 0 70 80900.40
ベースライン3カ月6カ月年齢(歳)
ベースライン3カ月6カ月図 1 ルテイン 6カ月摂取による平均血漿ルテイン濃度の推移片眼性CnAMD患者C39例を対象としたルテインC20Cmg含有サプリメントのC6カ月摂取による平均血漿ルテイン濃度の推移を示す.血漿ルテイン濃度は有意に増加した.(文献C4から改変引用)(ng/ml) 180*p<0.05図 2 ルテイン 6カ月間摂取による平均黄斑色素密度の推移片眼性CnAMD39例を対象としたルテイン20Cmg含有サプリメントのC6カ月摂取による平均黄斑色素密度の推移を示す.黄斑色素密度は増加傾向がみられた.DU:density unit.(文献C4からの改変引用)
おわりに図 3 ルテイン摂取前における年齢と血漿ルテイン濃度の関係年齢とサプリメント摂取前の血漿ルテイン濃度には負の相関がみられた.血漿ルテイン濃度=333.41734~C3.8749641×年齢,RC2=0.225841,p<0.01(文献C4からの改変引用)
ベースライン血漿ルテイン濃度160 140 120 100 80 60 40 20 0
毎日1回以上週2~6回週1回以下緑黄色野菜摂取頻度
2024年に発表された「新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン」で示されているように,超高齢社会におけるCAMD発症予防はきわめて重要である.AMDを発症していても,もう一方の眼の視力が良好であれば日常生活への大きな支障はない.多忙なCAMD診療の中でも,禁煙指導やルテインサプリメントによる予防啓発に取り組む必要があると考える.文 献
1)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup:ACran-図 4 ルテイン摂取前における緑黄色野菜摂取頻度domized, placebo-controlled, clinical trial of high-dose sup-と血漿ルテイン濃度の関係
緑黄色野菜摂取頻度をC3段階(毎日C1回以上,週C2~6回,週C1回以下)に分け,サプリメント摂取前の血漿ルテイン濃度の比較をしたところ,摂取頻度と血漿ルテイン濃度には有意な相関がみられた.(文献C4からの改変引用)た.摂取頻度が極端に少ない理由は,野菜嫌いという食習慣の偏り,ワーファリン内服による野菜摂取制限などであった.
地図状萎縮に対するルテインサプリメント最近発表されたCAREDS事後解析の論文において,ルテインサプリメント摂取群では中心窩方向への萎縮拡大面積が緩やかであったという結果が報告された5).萎縮型CAMDに対するルテインサプリメントの効果も期待できるかもしれない.C1306 あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025plementationCwithCvitaminsCCCandCE,CbetaCcarotene,CandCzincCforCage-relatedCmacularCdegenerationCandCvisionloss:AREDSCreportCno.C8.CArchCOphthalmolC119:1417-1436,C20012)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:CLutein+zeaxanthin and omega-3 fatty acids for age-relat-edCmaculardegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C2013
3)OshimaCY,CShinojimaCA,CSawaCMCetal:ProgressionCofCage-relatedCmacularCdegenerationCinCeyesCwithCabnormalCfundusCauto.uorescenceCinCaJapaneseCpopulation:JFAMCstudy report 3. PLoS OneC17:e0264703,C2022
4)SawaCM,CShuntoCT,CNishiyamaCICetal:E.ectsCofCluteinCsupplementation in Japanese patients with unilateral age-relatedCmaculardegeneration:TheCSakaiCLuteinCStudy.CSci RepC10:5958,C2020
5)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup;Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:OralCanti-oxidantCandCLutein/ZeaxanthinCsupplementsCslowCgeo-graphicCatrophyCprogressionCtoCtheCfoveaCinCage-relatedCmacular degeneration. OphthalmologyC132:14-29,C2025
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