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処方施設より提示されたCL 取り扱い法を遵守している 健常な若年CL 装用者に生じた真菌性角膜炎の2 例

2025年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科42(9):1185.1190,2025c処方施設より提示されたCL取り扱い法を遵守している健常な若年CL装用者に生じた真菌性角膜炎の2例吉田真由佐々木香る石本敦子髙橋寛二今井尚徳関西医科大学附属病院眼科CTwoCasesofFungalKeratitisinYoungHealthyContactLensWearersMayuYoshida,KaoruAraki-Sasaki,AtsukoIshimoto,KanjiTakahashiandHisanoriImaiCDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityC.C目的:装用時間厳守の若年ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者による真菌性角膜炎を報告する.症例:症例C1はC36歳,女性,1日ディスポーザブルCSCL(DSCL)装用者.症例C2はC51歳,女性,頻回交換型CSCL(FRSCL)装用者.CL処方施設提示の装用時間とマルチパーパスソリューション(MPS)洗浄を遵守していた.初診時,充血と表層性の角膜潰瘍を呈したが,前房蓄膿や後面プラークは認めなかった.角膜擦過物の塗抹検鏡から糸状菌が検出され,それぞれCFusariumCsp,Purpureocilliumlilacinumが同定された.考案:装用時間と洗浄方法を厳守していても,若年者のCSCL装用者に真菌性角膜炎は生じる.手指衛生やケースの管理含め,さらに詳細な指導が必要と思われた.また,真菌でも表層性の病巣を呈する場合があり,抗菌薬に無効の場合は積極的な塗抹検鏡が必要と考えられた.CPurpose:Toreporttwocasesoffungalkeratitisinyoungandhealthysoft-contact-lens(SCL)wearerswhostrictlyfollowedtheinstructionsofuse.Cases:Case1involveda36-year-oldfemalewhowore1-daydisposableSCLs.CCaseC2CinvolvedCaC51-year-oldCfemaleCwhoCworeCfrequent-replacementCSCLs.CAtCpresentation,Cslit-lampCexaminationrevealedsuper.cialcornealabscesswithnohypopyonorretrocornealplaqueinbothcases.AlthoughbothCcasesCadheredCtoCtheCmanufacturer’sCwearingCtimeCandCmultipurposesolution(MPS)cleaningCrecommenda-tions,CsmearCexaminationsCofCcornealCspecimensCrevealedC.lamentousfungi(i.e.,CFusariumCsp.CandCPurpureocilliumClilacinum,respectively)C.CConclusions:FungalCkeratitisCcanCoccurCinCyoungCandChealthyCSCLCwearersCevenCwhenCwearingtimeandcleaningmethodsarestrictlyfollowed,thusillustratingthatdetailedinstructiononhandhygieneandcasemanagementisnecessary.Moreover,fungalkeratitiscansometimesappearwithnon-speci.csuper.cial.ndings,soasmearofcornealspecimensisrecommendedwhenantimicrobialagentsareine.ective.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(9):1185.1190,C2025〕Keywords:真菌性角膜炎,ソフトコンタクトレンズ,レンズケア,マルチパーパスソリューション,糸状真菌.Cfungalkeratitis,softcontactlens,lenscare,multipurposesolution(MPS)C,.lamentousfungi.CI緒言コンタクトレンズ(contactlens:CL)による感染性角膜炎の代表的な原因微生物は,緑膿菌とアカントアメーバであるとされ,真菌によるものはまれとされる1).これらの微生物がCCLを介して角膜炎を生じる原因には,CLの装用方法や取り扱い方法が適切でないことが報告されている2).たとえば,ディスポーザブルソフトCCL(disposableCsoftCL:DSCL)はC1日で破棄すること,装用前には手指洗浄を行うこと,頻回交換型CSCL(frequentCreplacementSCL:FRSCL)においては,洗浄保存液で洗浄保管すること,こすり洗いを行うことなどが大切といわれている.さらに,レンズケースそのものの汚れにも注意し,ケース保存液を破棄すること,乾燥させること,定期的に交換することなどが肝要とされている1).多くのCCL装用による角膜感染症では,明らかにこれらの事項を守らず,連続装用や期限を超えての使用など3),ずさんな取り扱いをしている若者が多く,しっかり取り扱っている健常者では,まず真菌性角膜炎は考えにく〔別刷請求先〕吉田真由:〒573-1191大阪府枚方市新町C2丁目C3-1関西医科大学附属病院眼科Reprintrequests:MayuYoshida,M.D.,DepartmentofOpthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-3-1Shimmachi,Hirakatacity,Osaka573-1191,JAPANCいとされる.しかし,角膜はCCL装用により低酸素環境におかれる4)ことになり,CL装用そのものが一種の免疫抑制状態とも考えられる.そのため,健常若年者であっても,そして装用時間や洗浄方法を守っていても,まれにCDSCL装用者に真菌性角膜炎が生じることが報告されている5).一般的にCCLによる真菌性角膜炎の代表的な起因菌は酵母菌であるカンジダとされており,糸状菌のうちFusariumについては,海外でC2006年にCMPSによるアウトブレイクがあったが6),通常,糸状菌は植物の表面や土壌に生息し,第一次産業従事者などで外傷を契機に発症することが多い.今回,SCLをCL処方施設の指示通りに使用していた健常な若年女性に生じた糸状菌による真菌性角膜炎をC2例経験したので,その所見とともに報告する.CII症例[症例1]患者:36歳,女性.主訴:左眼の疼痛,充血,羞明.現病歴:数年前からCDSCLを使用していた.202X年CY月CZ日に上記主訴を自覚し,3日後に近医を受診した.受診時に角膜上皮欠損があり,オフロキサシン眼軟膏,ヒアルロン酸CNa点眼を処方され,経過をみられていたが,上皮欠損の拡大を認めたためセフメノキシム点眼を追加され,発症10日後に当院に紹介となった.既往歴:なし.家族歴:祖母が胃癌・糖尿病,父親が高血圧,母親が高血圧.職歴:学校教師.CL使用状況:処方施設の指示どおりに,装用前の手指消毒や装用時間,破棄の規則を厳守していた.眼科の定期受診については不明であった.初診時所見:視力・眼圧は測定せず.前眼部所見では傍中心部に角膜浅層に限局した浸潤,毛様充血,微細な角膜後面沈着物を認めた(図1a).やや羽毛状ではあったが,Des-cemet膜雛襞や角膜後面プラークはなく,周囲の角膜は軽度の浮腫のみで,比較的透明で前房蓄膿はなかった.前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)では,潰瘍は角膜実質C3分のC1層までに限局しており,深層への進展はなかった(図1b).初診時に角膜掻爬を行い,擦過物を塗抹に提出したところ,塗抹検鏡から糸状菌が観察された(図2).真菌による感染性角膜炎と判断し,ボリコナゾール(自家調整1%)点眼C1時間ごと,同内服C400mg/日,同結膜下注射(2mg/ml,0.3Cml),ピマリシン眼軟膏C1日C3回から治療を開始した.その後の漸減含め,詳細については図3に示す.治療経過中に薬剤透過性亢進と壊死産物を除去する目的にて,4回の角膜掻爬を行った.当院初診時よりC9日目には,培養にてFusarium属が同定された.治療を継続し,約C1カ月半で充血や角膜潰瘍については軽快し,その後,抗真菌薬の点眼は,約C4カ月かけて漸減中止したが,中止後も再燃を認めなかった.初診時より約C6カ月後,左眼の矯正視力はC1.2となった(図1c).[症例2]患者:51歳,女性.主訴:左眼の充血.現病歴:数年前からCFRSCLを使用していた.202X年CY月CZ日に上記主訴を自覚し,近医を受診した.角膜浸潤に対し,ガチフロキサシン点眼,フルオロメトロン点眼を処方されたが,浸潤の拡大を認めたため,アカントアメーバ角膜炎を疑われて当院に紹介となった.既往歴:なし.家族歴:なし.職歴:事務職.CL使用状況:CL処方施設で提示されたとおりの装用前の手指消毒や装用時間は厳守していた.また,CLは毎日洗浄していたが,定期受診の有無やCCLケースの乾燥や交換時期については不明であった.初診時所見:左眼視力(1.2C×sph.7.25D(cyl.0.50DAx170°),眼圧は20mmHgであった.細隙灯顕微鏡所見では,2時方向に角膜浅層に限局した浸潤を認めた(図4a).やや羽毛状であったが,角膜後面プラークや前房蓄膿はなく,周辺角膜は透明であった.また,該当する部位の上眼瞼にマイボーム腺機能不全を認めた.臨床経過:初診時の角膜の所見から,CLあるいは黄色ブドウ球菌によるアレルギー性角膜浸潤も疑われ,ガチフロキサシン点眼C1日C2時間毎,トブラマイシン点眼C1日C2回と0.1%フルオロメトロン点眼C1日C2回,さらにクラリスロマイシンC400Cmg/日内服を開始した.初診時からC2日後にCCLの保存液を培養に,潰瘍底の角膜擦過物を塗抹検鏡にそれぞれ提出した.事務処理のトラブルにより,塗抹検鏡の確認が遅れ,初診時からC14日後に真菌が確認され(図5),「カンジダ疑いであるが,糸状菌の可能性もあり」と報告された.そのため,ボリコナゾール(自家調整C1%)点眼C1時間ごと,同結膜下注射(2Cmg/ml,0.3Cml),同全身投与C400Cmg/日およびピマリシン眼軟膏C1日C2回を開始した.27日目にはCCL保存液からCPurpureocilliumlilacinumが同定された.治療を継続し,約C1カ月で充血や角膜潰瘍は軽快した.治療内容の詳細については図6に示す.抗真菌薬の点眼は約C5カ月かけて漸減中止し,初診時より約C5カ月後には淡い混濁を残すものの,矯正視力はC1.2となった(図4b).図1症例1の初診時前眼部所見a:傍中心部に角膜浅層に限局した浸潤を認めた.やや羽毛状であるが,前房蓄膿や角膜後面プラークは認めない.b:症例C1の前眼部COCT.潰瘍は角膜実質C3分のC1層までに限局している.Cc:症例C1の初診時より約C6カ月後,淡い混濁は残すものの左眼の矯正視力は(1.2)を得た.III考按一般的に糸状真菌による角膜炎は第一次産業従事者などのツキ目や免疫抑制状態が背景にあることが多く,高齢者での発生が多い.しかし,筆者らが経験したC2症例とも健常な若年女性であった.いずれも,植物を触る機会はない事務職や教職の女性で,基礎疾患・ステロイド点眼の使用歴はなかった.定期受診やCCLケースの洗浄方法についての実際の確認はできなかったが,CL処方施設から指示されたとおりの装用時間を厳守し,少なくとも期限を超えての使用や夜間装用はなく,手指衛生やCCL洗浄を注意して行っていた患者における発症であった.真菌は日常環境に存在する微生物であり,今回の経験から,定期受診を積極的に促して来院の都度取り扱い方法について指導する必要が再認識された.CL取り扱いの説明については,手指衛生・装用時間の厳守だけではなく,FRSCLの場合,CLケースの洗浄・乾燥やC1.3カ月での交換を含めて,詳細に患者に指導すべきであると思われた.加えて,近年は医師の処方を受けない例や,インターネットでの購入が増えており,適切な指導を受けずに装用している例も多く7),さらに広く行き渡る注意喚起が必要であると考えられた.日本コンタクトレンズ学会では,一般の使用者に向けて,各販売会社のCSCLの正しいケア方法を掲載して啓発に取り組んでいる(http://www.clgakkai.jp/gener-al/scl_care.html).このような資材を積極的に装用者に案内することも処方施設の使命と考える.一方で,筆者ら眼科医も,「健常で取り扱い遵守のCCL装用者だから真菌感染の可能性は少ない」との思い込みで,真図2症例1の角膜擦過物の塗抹検鏡写真(グラム染色)分節をもつ細長い菌糸が確認できる.Bar:20Cμm.菌性角膜炎を除外診断してはいけないことが示唆された.今回経験したC2症例の臨床所見の共通点としては,やや羽毛状ではあるものの,角膜浅層に限局した浸潤で,周辺の角膜は透明あるいは軽度浮腫のみであり,糸状菌による角膜炎の典型所見とされる辺縁不整の羽毛状の角膜病変や角膜後面プラーク,前房蓄膿は認めなかった.角膜真菌症における感染病巣の深さは,原因糸状菌の温度による発育性によって,「全層型」と「表層型」の二つの病型に分けられるとされ,FusariumやCPupureocilliumは全層型に分類される8,9).これまでにも,今回と同様にCFRSCL装用の若年者におい塗抹検鏡にて真菌Fusarium同定02691416212837(日)角膜掻爬VRCZ結注1時間ごと/日VRCZ点眼3回/日PMR点眼PMR眼軟膏3回/日1回/日VRCZ内服(400mg/日)GFLX点眼3回/日AT点眼1回/日2時間ごと/日2回/日VRCZ:ボリコナゾール,PMR:ピマリシン,GFLX:ガチフロキサシン,AT:アトロピン.図3症例1の治療経過図4症例2の初診時前眼部所見a:2時方向の眼瞼と接する部位に,角膜浅層に限局した浸潤を認めた.やや羽毛状であるが,前房蓄膿や後面プラークは認めない.b:症例C2の初診時より約C5カ月後の前眼部写真.淡い混濁を残すものの,矯正視力はC1.2となった.てまれな真菌性角膜炎が報告されている10).NGSを用いた真菌性角膜炎の研究では,colletorichumの検出率が既報と比較して高かったとされており,実際の発生率は過去の報告より高いのかもしれない11).一方,今回深層型のはずのCFusariumまで表層型であったことに関してはとくに注意が必要と考える.詳細な機序は不明であるが,緑膿菌感染においてCCL装用例でのみ鋸歯状の病巣が確認された報告12)などから,CL装用により臨床所見が修飾された可能性がある.したがって,抗菌薬点眼に不応な場合,迅速に塗抹検鏡を施行することが重要と思われた.症例C2で観察された塗抹像では,図5のように楕円形の菌体が多く観察され,酵母菌との鑑別が困難であった.しかし,ところどころ脱色されて白抜き状態の菌糸が見えるため,糸状菌として矛盾はないと判図5症例2の塗抹検鏡写真(グラム染色)楕円形の菌体が多く観察されるが,一部白抜き状態の菌糸(→)が確認できる.Bar:20Cμm.塗抹検鏡にて真菌Paecilomyceslilacinum同定C0C2C5C121416C23C30C37(日)角膜掻爬VRCZ結注VRCZ点眼5回/日1時間ごと/日PMR眼軟膏2回/日VRCZ内服(400mg/日)VRCZ点滴(400mg/日)TOB点眼2回C/日5回C/日3回C/日GFLX点眼3回C/日C2時間ごとC/日3回C/日OFLX眼軟膏3回C/日CAM内服(C400mg/日)FLM点眼2回/日TOB:トブラシン,CAM:クラリスロマイシン,FLM:フルマリン図6症例2の治療経過断された.糸状菌による角膜真菌症C7症例に関しての過去の文献では,Purpureocilliumlilacinum(本文では旧名:Pae-cilomyceslilacinusで記載)のC3症例とも,塗抹検査で酵母菌を疑われたと報告されている13).Purpureocillium属の塗抹画像は一般的に,分生子枝が不規則に枝分かれし,先が細くボーリングのピンのような形をしたフィアライドをつけるのが特徴的である.酵母菌と糸状菌では抗真菌薬の薬剤感受性が異なることも多く,Purpureocillium属の塗抹画像の判定には注意が必要であると思われた.一般的に真菌の培養は時間を要することが多く,今回も,培養の結果判明までの期間は,それぞれC9日・27日であった.早期発見のためには,培養のみでなく,塗抹検査が不可欠であると思われた.今回検出されたCFusarium属およびCPurpureocillium属の起源については不明であるが,地球温暖化の影響から,熱帯地域だけではなく温帯地域でも,日常的に糸状菌感染の発生が増加している14).とくに今回,DSCLにおいてCFusariumが検出されたことから,感染経路としては,緑膿菌やアカントアメーバ同様に着脱する水回り環境による汚染1)が推測されると思われた.今後,従来型CSCLやCFRSCLのみならずDSCL装用者においても,真菌性角膜炎の増加に注意しておく必要があると考えられた.CIV結語CL取り扱いに注意を払っている健常若年者であっても,抗菌薬に不応の場合は,真菌も疑い,早期に角膜擦過物の塗抹検鏡を行うことが重要であると再認識された.(109)謝辞:本論文の作成にあたりご指導ご助言を賜りました大阪大学臨床検査部・砂田淳子先生,関西医科大学臨床検査医学センター・釼祐一郎先生,杠祐樹先生に感謝申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)宇野敏彦,福田正彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,C20112)StapletonF,NaduvilathT,KeayLetal:RiskfactorsandcausiveCorganismsCinCmicrobialCkeratitisCinCdailyCdispos-ablecontactlenswear.PLOSOneC12:0181343,C20173)AlfonsoCEC,CCantu-DibilboxCJ,CMunirCWMCetal:Insur-genceCofCFusariumCkeratitisCassociatedCwithCcontactClensCwear.ArchOphthalmolC124:941-947,C20064)糸井素純:コンタクトレンズと酸素不足.日コンタクトレンズ会誌C50:39-45,C20085)ChoiCDM,CGoldsteinCMH,CSaliernoCACetal:FungalCkerati-tisCinCDailyCDisposableCSoftCContaceCLensCWearer.CCLAOCJC27:111-112,C20016)BernalMD,AcharyaNR,LietmanTMetal:OutbreakofFusariumCkeratitisCinCsoftCcontactClensCwearersCinCSanCFrancisco.ArchOpthalmolC124:1051-1053,C20067)川村洋行,西村知久,駒井潔ほか:コンタクトレンズによる眼障害(重症)アンケート調査の集計結果報告(令和C4年).日本の眼科95:210-215,C20248)宮本仁志:眼科領域の検査と微生物の特徴.日本臨床微生物学会34:91-101,C20249)ShiraishiCT,CAraki-SasakiCK,CMitaniCACetal:Clinicalあたらしい眼科Vol.42,No.9,2025C1189CharacteristicsCofCKeratitisCDueCtoCColletotrichumCgloeo-sporioides.JOculPharmacolandTherC27:487-491,C201110)YildizCEH,CAilaniCH,CHammersmithCKMCetal:AlternariaCandCPaecilomycesCkeratitisCassociatedCwithCsoftCcontactClenswear.CorneaC29:564-568,C201011)WangCW,CGongCH,CYangCXCetal:ColletotrichumCkerati-tis:anCimportantCfungalCinfectionCofCnineChumanCeyes.CDiagnMicrobiolInfectDisC110:116540,C202412)IshikawaE,SuzukiT,YamaguchiSetal:Serratedmar-ginsCinCpseudomonasCaeruginosaCkeratitis.CCaseCRepCinCOpthalmolC4:12-15,C201313)棚町千代子,橋本好司,矢野知美ほか:糸状菌を起炎菌とした角膜真菌症のC7症例の解析.日環境感染会誌C24:271-278,C200914)LingJYM,YeungSN,ChanCCetal:TrendsandclinicaloutcomeCofCfungalCkeratitisCinCanada:aC20-yearCRetro-spectiveCMulticentreCStudy.CAmCJCOptalmolC265:147-155,C2024C***

糖尿病患者が内科から眼科へ紹介される時期についての検討

2025年9月30日 火曜日

《第30回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科42(9):1179.1184,2025c糖尿病患者が内科から眼科へ紹介される時期についての検討城光映*1,2澁谷文枝*1金子唯*1下村さやか*1野崎実穂*1*1名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科・レーザー治療センター*2名古屋市立大学医学部附属東部医療センター看護部CTimingofReferralfromInternalMedicinetoOphthalmologyinDiabeticPatients:ARetrospectiveStudyMitsueJo1,2)C,FumieShibuya1),YuiKaneko1),SayakaShimomura1)andMihoNozaki1)1)DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenter,2)NursingDepartment,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenterC目的:患者が眼科へ紹介された時期と糖尿病網膜症(DR)の状態を検討した.対象と方法:2022年C1月.2023年7月に当科を受診した糖尿病患者のうち,当院内分泌・糖尿病内科からの紹介で,DRの評価を初めて眼科で受けた患者C92例(男性C82例,女性C10例)について,当院内科初診日から眼科受診までの期間,DRの状態,糖尿病罹病期間,内科受診歴,HbA1c値について検討した.結果:平均年齢はC57.1C±11.5歳,HbA1c値は平均C10.6C±2.5(5.3-16.5)%であった.DRを有していた患者はC58例(63.0%)で,その内訳は,単純CDR(SDR)28例(30.4%),前増殖糖尿病網膜症(PPDR)19例(20.6%),増殖糖尿病網膜症(PDR)11例(12.0%)であった.当院内科初診から眼科受診までの期間は,平均C1.8C±6.2カ月であった.糖尿病罹病期間は平均C6.1C±7.8年で,DRあり群はCDRなし群と比べ,有意に罹病期間が長かった(p=0.02).結論:当院内科から眼科へは速やかに紹介されていたが,糖尿病罹病から眼科受診までにはC6年かかっており,さらなる病診連携と糖尿病患者への教育が重要と考えられた.CPurpose:Toevaluatethetimingandstatusofdiabeticretinopathy(DR)patientsreferredfrominternalmedi-cineCtoCophthalmologyCforCtreatment.CMethods:ThisCstudyCincludedC92CDRpatients(82Cmales,C10females)whoCwerereferredfromtheendocrinologyanddiabetesdepartmenttotheophthalmologydepartmentforinitialevalua-tionbetweenJanuary2022andJuly2023.Theperiodfromtheinitialinternalmedicinevisitsatourhospitaltothe.rstCophthalmologyCvisit,CtheCstatusCofCDR,CtheCdurationCofCdiabetes,CmedicalChistoryCinCinternalCmedicine,CandCHbA1cClevelsCwereCanalyzed.CResults:MeanCpatientCageCwasC57.1±11.5Cyears,CandCtheCmeanCHbA1cClevelCwasC10.6±2.5%(range:5.3-16.5%)C.Ofthe92cases,DRwasobservedin58(63.0%)C,including28(30.4%)simpleDRcases,19(20.6%)pre-proliferativeDRcases,and11(12.0%)proliferativeDRcases.Meantimefrominitialinter-nalmedicinepresentationto.rstophthalmologyvisitwas1.8±6.2months,andmeandurationofdiabeteswas6.1C±7.8Cyears.CPatientsCwithCDRChadCaCsigni.cantlyClongerCdurationCofCdiabetesCcomparedCtoCthoseCwithoutDR(p=0.02)C.CConclusions:AlthoughCreferralsCfromCtheCinternalCmedicineCtoCophthalmologyCdepartmentsCwereCmadeCpromptly,themeandurationfromtheonsetofdiabetestothe.rstophthalmologyvisitwas6years.Strengtheningcollaborationbetweenhospitalsandclinicsandenhancingdiabeteseducationforpatientsareessential.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(9):1179.1184,C2025〕Keywords:糖尿病網膜症,眼底検査,内分泌・糖尿病内科,眼科.diabeticretinopathy,fundusexamination,in-ternalmedicine,ophthalmology.Cはじめに併症として糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)があ糖尿病患者においては,糖尿病と診断された際に速やかにげられるという報告もある1).しかし,日本における糖尿病眼科を受診し,定期的な眼科検査を受けることの重要性が広患者の眼底検査受診率は,2015年度およびC2017年度の調く啓発されている.また,糖尿病患者がもっとも懸念する合査においていずれもC50%未満にとどまり2,3),適切な眼科受〔別刷請求先〕野崎実穂:〒464-8547愛知県名古屋市千種区若水一丁目C2-23名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEasternMedicalCenter.1-2-23Wakamizu,Chikusa-ku,Nagoya464-8547,JAPANC表1患者背景症例92例眼科受診時の年齢C57.1±11.5歳(C27.C81歳)性別男性C82/女性C10内科初診日から眼科受診までの期間糖尿病罹病期間(n=79)CHbA1c値C1.8±6.2月(0.C60月)C6.1±7.8年(0.C34年)10.6±2.5%(C5.3.C16.5%)内科受診歴近医通院中9(C9.8%)内科治療を自己中断24(C26.1%)糖尿病を放置25(C27.2%)未診断(今回初めて糖尿病の指摘を受けた)34(C36.9%)診が行われていない患者が依然として多い現状が明らかとなっている.実際に,眼科を受診する糖尿病患者のなかには,糖尿病と診断されてから長期間が経過しているにもかかわらず,一度も眼科を受診していない例が少なくなく,受診時にはすでにDRが進行している場合がしばしば見受けられる.そこで本研究では,糖尿病患者が初めて眼科へ紹介された時期と,その時点におけるCDRの重症度を検討したので報告する.CI対象と方法対象は,2022年C1月.2023年C7月に名古屋市立大学医学部付属東部医療センター眼科(以下,当院)を受診した糖尿病患者のうち,当院内科からの紹介でCDRの評価を初めて受けた患者C92例(男性C82例,女性C10例)について検討を行った.検討項目は,当院内科初診から眼科受診までにかかった期間,糖尿病罹病期間,HbA1c値,DRの重症度,内科受診歴とした.DRは,超広角走査型レーザー検眼鏡(OptosCalifornia)によるカラー眼底写真をもとに,Davis分類を用いて判定した.DRあり・なしでC2群に分け,患者背景を比較した.年齢,性別,罹病期間,HbA1c値はCMann-WhitneyU検定,内科継続の有無についてはC|2検定で統計解析を行った.DR重症度と糖尿病罹病期間の比較はCKruskal-Wallis検定を行った.p<0.05で有意差ありと判定した.なお,本研究は名古屋市立大学医学系研究倫理審査委員会の承認を受けた(承認番号C60-24-015).CII結果眼科受診時の平均年齢は,57.1C±11.5歳(27.81歳),当院内科初診から眼科受診までの期間は,平均C1.8C±6.2カ月(最大C60カ月).糖尿病罹病期間は,糖尿病発症時期が判明図1DR重症度の内訳したC79例で検討を行い,平均C6.1C±7.8年(最大C34年)であった.HbA1c値は,平均C10.6C±2.5%(5.3.16.5)であった(表1).内科受診歴は,近医通院中で糖尿病治療を継続できていた患者はC9例(9.8%),内科治療を自己中断した患者は24例(26.1%),糖尿病を放置していた患者はC25例(27.2%),未診断(今回初めて糖尿病の指摘を受けた)患者はC34例(36.9%)であった(表1).今回の検討で,DRがなかった患者はC34例(37%),網膜症を有した患者はC58例(63%)であった.そのうち,単純DR(simplediabeticretinopathy:SDR)28例(30.4%),前増殖CDR(preproliferativeCdiabeticretinopathy:PPDR)19例(20.6%),増殖CDR(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)11例(12.0%)であった(図1).DRの有無と糖尿病罹病期間について,罹病期間が判明したC79例で検討を行った.未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)症例は罹病期間C0とした.DR重症度別の罹病期間は,DRのない患者(32例)ではC3.6C±5.3年,SDR(24例)ではC7.0C±7.8年,PPDR(15例)はC8.3C±9.8年,PDR(8例)ではC9.5C±10.0年で,網膜症の重症度が増すにつれ,糖尿病罹病期間も長くなる傾向にあったが,統計学的に有意な相関は認めなかった(表2).さらに,罹病期間が判明したC79例についてCDRの有無と患者背景を比較した.年齢,性別,HbA1c値,内科継続の有無では,DRなし群とCDRあり群間で有意な差は認めなかったが,DRなし群(32例)の罹病期間C3.1C±5.3年,DRあり群(47例)の罹病期間C7.9C±8.7年(p=0.02)と,DRあり群で有意に罹病期間が長かった(表3).つぎに,代表症例を示す.表2DR重症度と糖尿病罹病期間DR重症度平均罹病期間(年)DRなし(n=32)C3.6±5.3年SDR(n=24)C7.0±7.8年PPDR(n=15)C8.3±9.8年PDR(n=8)C9.5±10.0年表3DRなし群とDRあり群の比較網膜症なし(n=32)網膜症あり(n=47)p値年齢C57.6±12.1歳C57.4±11.6歳C*0.94性別男性C26/女性C6男性C43/女性C4C**0.17罹病期間C3.6±5.3年C7.9±8.7年C*0.02HbA1c値C10.7±2.7%C10.5±2.7%C*0.79内科継続の有無※C1/15C5/28C**0.6※未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)を除く*Mann-WhitneyU検定**|2検定[症例]患者:50代,男性.既往歴:30代後半で糖尿病を指摘されるが放置していた.201X年鎖骨骨折のため当院整形外科で手術予定となり,術前採血でCHbA1c10.9%が判明し,血糖コントロールのため,当院内分泌・糖尿病内科に紹介された.栄養指導をうけ,骨折手術後退院,退院後の内科通院歴は不明である.現病歴:201X+5年C2月,下肢に浮腫が出現し近医を受診し,HbA1c13.6%と高値を指摘され,当院内分泌・糖尿病内科へ紹介され,201X+5年C3月に内科から眼科へ紹介された.経過:視力は両眼とも矯正C1.2,両眼に網膜点状─斑状出血および軟性白斑を多数認め(図2a),両眼CPPDRと診断し,蛍光眼底造影検査で,無灌流領域がC3象限に認められたため(図2b),両眼汎網膜光凝固術を施行した.そのC4カ月後,当院内科・眼科とも外来受診しなくなった.201X+6年2月再び下肢に浮腫が出現し,近医受診し当院内科へ紹介された.HbA1c5.9%であった.また両眼視力低下を自覚し,C201X+6年C12月に近医眼科から当科へ紹介.視力は両眼とも矯正C0.6,両眼糖尿病黄斑浮腫を認め(図3),抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬治療を開始した.現在は,定期的に内科・眼科受診を継続している.CIII考按本研究では,糖尿病患者が初めて眼科に紹介された時期と,その時点でのCDRの状態を検討した.内科初診から眼科受診までの期間は平均C1.8C±6.2カ月と比較的速やかであったが,糖尿病と診断されてから初めて眼底検査を受けるまでには平均C6.1C±7.8年(最大C34年)を要していた.TheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)は,糖尿病罹病期間がC5年以上経過するとCDR発症リスクが有意に高まると報告しており4),日本人C2型糖尿病患者におけるCDRの発症・進行の決定因子を検討した後ろ向き研究でも,罹病期間が唯一の決定因子であったとされている5).本研究でも,DRのある群が有意に長い糖尿病罹病期間であり,この結果はこれらの先行研究と一致している.一方で,糖尿病罹病期間が長いほどCDRが重症化する傾向は認められたものの,統計学的有意差は得られなかった.本研究では,未診断(今回初めて糖尿病を指摘された)症例を罹病期間C0とカウントしていること,それ以外に罹病期間が判明した症例がC45例と限られていたことから,統計解析の検出能力が十分ではなかった可能性がある.今後は症例数を増加させ,より高い検出能力をもつ解析を行うことで,糖尿病罹病期間とCDRの重症度との関連性についても,さらに詳細に検討したいと考える.本研究において,眼科受診までもっとも長期間を要した症例は,受診後も通院を自己中断していた.この患者は,通院中断の理由として外来の待ち時間が長いことをあげており,他施設の報告でも「多忙」や「待ち時間の長さ」が糖尿病患者の通院中断の要因として指摘されている6).現在,当院では「DRスクリーニング外来」を設置し,待ab図2代表症例(50代,男性)①a:初診時カラー眼底写真.b:初診時フルオレセイン蛍光造影.ち時間の短縮を図るため,眼科の診察枠を効率的に運用している.いる.具体的には,内分泌・糖尿病内科の医師が診察予約を今回の検討では,内科から眼科への紹介が比較的速やかに管理し,眼科外来で無散瞳での超広角走査型レーザー検眼鏡行われている一方で,糖尿病発症から眼底検査までに平均C6による撮影を実施して7),眼科医がCDRの有無をチェックす年かかっている現状が明らかになった.また,内科通院を自るしくみを採用している.これにより,眼科受診のハードル己中断した患者,あるいは糖尿病を指摘されていたが放置しを下げ,患者が気軽に眼底検査を受けられる環境を整備してていた患者が半数以上を占めていた.この結果を踏まえ,今ab図3代表症例(50代,男性)②a:再初診時カラー超広角走査型レーザー検眼鏡所見.b:再初診時光干渉断層計所見.後は地域の医療機関とのさらなる病診連携の強化と,糖尿病患者に対する教育が一層重要であると考えられた.本論文の要旨は第C30回日本糖尿病眼学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)StrainCWD,CCosCX,CHirstCMCetal:TimeCtoCdomore:CaddressingCclinicalCinertiaCinCtheCmanagementCofCtypeC2CdiabetesCmellitus.CDiabetesCResCClinCPractC105:302-312,C20142)TanakaH,SugiyamaT,Ihana-SugiyamaNetal:Chang-esCinCtheCqualityCofCdiabetesCcareCinCJapanCbetweenC2007CandC2015:ACrepeatedCcross-sectionalCstudyCusingCclaimsCdata.DiabetesResClinPractC149:188-199,C20193)Ihana-SugiyamaCN,CSugiyamaCT,CHiranoCTCetal:PatientCreferral.owbetweenphysicianandophthalmologistvisitsforCdiabeticCretinopathyCscreeningCamongCJapaneseCpatientsCwithdiabetes:ACretrospectiveCcross-sectionalCcohortCstudyCusingCtheCNationalCDatabase.CJCDiabetesCInvestigC14:883-892,C20234)KawasakiCR,CTanakaCS,CTanakaCSCetal:IncidenceCandCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCinCJapaneseCadultswithtype2diabetes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)C.CDiabetologiaC54:C2288-2294,C20115)NakayamaCY,CYamaguchiCS,CShinzatoCYCetal:Retrospec-tiveCexploratoryCanalysesConCgenderCdi.erencesCinCdeter-minantsforincidenceandprogressionofdiabeticretinop-athyCinCJapaneseCpatientsCwithCtypeC2CdiabetesCmellitus.CEndocrJC68:655-669,C20216)山田幸男,高澤哲也,鈴木正司ほか:dropCoutが原因で透析・失明に至った患者の実態と予防策.プラクティスC10:C426-431,C19937)野崎実穂:糖尿病診療における合併症の管理糖尿病網膜症.診断と治療110:325-330,C2022***

基礎研究コラム:オートタキシン高発現による開放隅角緑内障の誘導

2025年9月30日 火曜日

オートタキシン高発現による開放隅角緑内障の誘導清水翔太開放隅角緑内障における眼圧上昇機構とオートタキシンの役割開放隅角緑内障における眼圧上昇は,おもに線維柱帯およびCSchlemm管を通る房水流出経路(主流出路)の流出抵抗が増加することにより引き起こされます.流出抵抗の増加には,線維柱帯の機能低下,Schlemm管内皮のバリア機能の亢進や,房水流出経路への細胞外マトリックス(extracellu-larmatrix:ECM)の沈着,線維化などが関与していることが示唆されています.これらのメカニズムにはさまざまな房水中メディエーターが関与していますが,未解明な部分も多く残されています.オートタキシン(autotaxin:ATX)はリゾホスファチジン酸(lysophosphatidicacid:LPA)を産生する分泌型の酵素で,産生されたCLPAは細胞増殖や線維化といった多様な細胞応答を引き起こします.緑内障患者の眼組織中や房水中ではCATX濃度が高く,眼圧と相関しており,また線維柱帯細胞のCECMの発現を増加させることが明らかとなっています1,2).しかし,ATXが実際に生体において,臨床でみられるような慢性高眼圧を引き起こすかはまだ明らかにされていませんでした.CATX発現誘導による眼圧上昇タモキシフェン誘導型CATXトランスジェニック(ATXTg)マウスを用いて,眼内でのCATX過剰発現が眼圧に与える影響を評価しました.ATXTgマウスにタモキシフェンを点眼投与することで,眼組織でCATXの過剰発現が誘導されることを確認しました.ATXTgマウスではコントローC2018東京大学医学部附属病院眼科・視覚矯正科千寿製薬株式会社オキュラーサイエンス研究所ル群と比較して有意に高い眼圧が観察され,房水流出機能の低下が確認されました.発現誘導のC2週間およびC3カ月後には,collagenIやC.bronectinなどが蓄積していることが確認されました(図1)3).これらのことから,ATXの過剰発現が房水流出抵抗を増加させ,マイルドな眼圧上昇を長期間維持することが示唆されました.また,発現誘導からC3カ月後のマウスの網膜辺縁部では網膜神経節細胞数が減少しており,緑内障性視神経症の徴候がみられました.今後の展望本研究で評価したCATXTgマウスは,緑内障病態におけるCATX-LPA経路の詳細な役割や,他のメディエーターとの相互作用を解明するための重要なツールとして活用されることが期待できます.房水流出抵抗の増加に深く関与するATX-LPA経路のメカニズムを明確にすることができれば,緑内障治療における新たな戦略が広がる可能性があります.文献1)HonjoCM,CIgarashiCN,CKuranoCMCetal:Autotaxin.lyso-phosphatidicacidpathwayinintraocularpressureregula-tionandglaucomasubtypes.InvestOphthalmVisSciC59:C693-701,C20182)HonjoM,IgarashiN,NishidaJetal:Roleoftheautotax-in-LPACpathwayCinCdexamethasone-inducedC.broticCresponsesCandCextracellularCmatrixCproductionCinChumanCtrabecularCmeshworkCcells.CInvestCOphthalmCVisCSciC59:C21-30,C20183)ShimizuCS,CHonjoCM,CLiuCMCetal:AnCautotaxin-inducedCocularChypertensionCmouseCmodelCre.ectingCphysiologicalCaqueousbiomarker.InvestOphthalmVisSci65:32,C2024線維柱帯付近のECM評価(3カ月)CollagenIF-actinFibronectin眼圧(mmHg)16141210ATXTgControl蛍光強度(%)300250*n.s.**200150100500864ATXTgControl20タモキシフェン1234567891011121314点眼ATX発現誘導後の週数Fibronectin/DAPI図1ATXの過剰発現による眼圧上昇と隅角ECM発現の上昇左図はタモキシフェン点眼によるCATXの過剰発現誘導後の経時的な眼圧変化を示す.ATX発現誘導により約C4CmmHg程度の眼圧上昇がC2カ月間持続したのち,徐々に低下がみられた.右図は発現誘導からC3カ月後の隅角付近のC.bronectin免疫染色画像と,collagenI,F-actin,.bronectinの画像解析結果を示す.ATX過剰発現の誘導C3カ月後に,隅角周辺にCcollagenIおよび.bronectinが蓄積していることが明らかとなった.(93)あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025C11730910-1810/25/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:268.糖尿病性黄斑偏位(中級編)

2025年9月30日 火曜日

268糖尿病性黄斑偏位(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに糖尿病性黄斑偏位は,視神経乳頭近傍の線維血管増殖膜による網膜の接線方向の牽引によって黄斑部が鼻側に偏位し,視力低下,変視症などの症状をきたす病態である1.3).近年は光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomog-raphy:OCT)により,偏位の状態が詳細に観察できるようになってきている.C●症例提示44歳,男性.増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)に対して汎網膜光凝固術が施行されていたが,視神経乳頭鼻側を中心に線維血管増殖膜が発育し,血管アーケードが鼻側に偏位する乳頭逆位の所見を呈するようになってきた(図1a).それとともに矯正視力がC0.2に低下し,変視症も出現してきた.OCTでは.胞様黄斑浮腫に加えて,視神経乳頭上に網膜が乗り上げるような所見を呈していた(図1b).硝子体手術施行後,乳頭逆位は残存したが(図2a),視神経乳頭への網膜の乗り上げの程度は改善し,中心窩と視神経乳頭の距離もやや広がった(図2b).矯正視力はC0.6に改善した.C●糖尿病性黄斑偏位に対する硝子体手術の有用性PDRでCmacularheterotopiaと称される黄斑偏位が形成されることは,古くから報告がある1).網膜の接線方向の牽引による視細胞外節の配列や網膜層状構造の乱れなどが,視力低下や変視症の原因になると考えられる.PackerらはCPDRにおける進行性の黄斑偏位を認めたC4眼に硝子体手術を施行し,視力改善を得たことを報告している2).筆者らは糖尿病性黄斑偏位C13例C14眼に対しb図1術前の眼底写真とOCT視神経乳頭鼻側を中心に線維血管増殖膜が発育し,黄斑部が鼻側に偏位している(a).OCTでは.胞様黄斑浮腫に加えて,視神経乳頭上に網膜が乗り上げるような所見を呈している(b).Cb図2術後の眼底写真とOCT硝子体手術施行後,乳頭逆位は残存したが(a),視神経乳頭への網膜の乗り上げの程度は改善し,中心窩と視神経乳頭の距離もやや広がった(b).て硝子体手術を施行し,黄斑部への網膜硝子体牽引発生からC8週間以内に手術を施行したC8眼ではC7眼(88%)に術後視力改善が得られたのに対して,9週以上経過したC6眼では視力改善例がC2眼(33%)に留まったとして,早期硝子体手術の有用性を報告した3).糖尿病性黄斑偏位の疑われる患者ではCIS/OSラインや網膜層状構造の変化に加えて,中心窩と視神経乳頭の距離を経時的にOCTで観察するとともに,眼底所見に比較して視力低下や変視症が著しい場合には早期に硝子体手術を考慮すべきと考えられる.文献1)BresnickGH,SmithV,PokornyJ:Visualfunctionabnor-malitiesCinCmacularCheterotopiaCcausedCbyCproliferativeCdiabeticretinopathy.AmJOphthalmolC92:85-102,C19812)PackerAJ:VitrectomyCforCprogressiveCmacularCtractionCassociatedCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CArchCOphthalmol105:1679-1682,C19873)日下俊次,池田恒彦,田野保雄:糖尿病性黄斑偏位に対する硝子体手術.臨眼45:165-169,C1991(91)あたらしい眼科Vol.42,No.9,202511710910-1810/25/\100/頁/JCOPY

考える手術:Mooren潰瘍の外科的治療

2025年9月30日 火曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅Mooren潰瘍の外科的治療四條泰陽東京歯科大学市川総合病院眼科周辺部角膜潰瘍は,感染,自己免疫・炎症性疾患,変性疾患など,さまざまな原因によって発症する.本稿では,その中でもとくに治療に難渋することの多いMooren潰瘍に対する外科的治療について述べる.軽症例では,病変が視軸から離れた部位に限局しているため,ステロイド点眼やシクロスポリン点眼などの薬物療法が主たる治療となる.角膜穿孔がわずかである場合には治療用ソフトコンタクトレンズの装用により改善する例もあるが,重症化する例もあり,進行の抑制が重要である.一方,若年者や両眼性の患者には,局所治療外科的治療には,病巣に隣接する結膜を輪部から約3mm切除する結膜切除術(Brown手術)や潰瘍底の掻爬が標準的な手技とされているが,さらに角膜輪部幹細胞疲弊症をきたすような重症例や再発を繰り返す場合は,角膜輪部移植や角膜上皮形成術の併用が有効であり,長期的な炎症制御と視機能の維持が報告されている.穿孔をきたし前房が消失しているような患者には表層角膜移植も併用する.角膜移植を行う際には,視機能への影響を最小限に抑えるため,移植片のサイズやデザイン(円形,扇形),縫合糸のテンションや方向,さらには切除範囲の決定にも十分配慮する.また,早期に上皮化するように移植片との間に段差が生じないように注意し縫合する.術後は炎症が消退するまでステロイドや,シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制薬による局所および全身治療を継続・漸減していくが,その間も緑内障や感染症,全身性副作用,さらには再発に注意しながら慎重に経過観察する必要がある.聞き手:周辺部角膜潰瘍の原因について教えてください.連角膜症(lacrimalCdrainageCpathwayCdisease-associat-四條:周辺部角膜潰瘍の原因は感染性角膜潰瘍,Cedkeratopathy:LDAK)に周辺部角膜潰瘍が発生するMooren潰瘍,膠原病による角膜炎,角膜フリクテンなことが報告されています.これらのように周辺部角膜潰どによる非感染性の炎症性疾患,円錐角膜やCTerrien辺瘍には複数の原因があることを知っておくことが大事で縁角膜変性などの変性疾患など多岐にわたります.ます.た,潰瘍には至りませんが,隆起性構造物(翼状片や濾過胞など)が原因で生じる菲薄性変化(dellen)は鑑別す聞き手:では,Mooren潰瘍の外科的治療について教える必要があります.最近は,涙道閉塞などに伴う涙道関てください.(89)あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025C11690910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術四條:Mooren潰瘍は基本的にステロイドや免疫抑制薬の点眼や全身投与などの薬物療法で疾患の消炎を図ることが第一選択となりますが1),若年で両眼性の場合(atypicalやCmalignantとよばれる)は治療に反応が悪いとされます.そのような患者には薬物療法を併用しつつ,外科的治療も視野に入れます.具体的には,①結膜切除術(Brown手術),②角膜上皮形成術,③表層層状角膜移植術があげられます.聞き手:まずは,Brown手術について教えてください.四條:Brown手術は,病変部に一致した輪部からおおよそC3Cmmの結膜を切除し,強膜を露出させる手技です.結膜血管からの炎症細胞の遊走を物理的に遮断し,角膜組織への接触を抑制します.Brown手術単独では沈静化しないケースも多く,潰瘍底に蓄積した炎症細胞の掻爬や,浸潤を伴った角膜の切除も並行して行われます.手術だけに頼らず,点眼や内服治療も同時に行うことが大切です2).聞き手:次に,角膜上皮形成術に用いる切片の作製について教えてください.四條:上皮形成術に使用するClenticuleには,結膜組織の侵入をブロックする効果があります3).さまざまな作製方法がありますが,ここでは全層移植後の強角膜片からの作製方法を述べます.全層移植後の強角膜片の輪部付近に剪刀やメスでC2mm程度の切れ込みを入れ,Katzin剪刀で輪部に沿って切開をしていきます.その後,実質側を剪刀で押し当てるようにトリミングし,厚みをC1/3程度まで薄くして縫合後にホスト角膜と段差が生じないようにします.このとき,裏表がわからなくならないように皮膚ペンなどで上皮側にマーキングしておきます.また,作業中に角膜が乾燥しないよう粘弾性物質を塗布するなどします.Lenticuleの作製が終わったら縫合ですが,潰瘍部の外周に設置して両端をC10-0ナイロン糸で緩みがないように縫合します.重症なCMooren潰瘍では,全周性に輪部組織が傷害され輪部幹細胞疲弊に至っていることもあります.そのような場合は,上皮供給のために輪部移植片を作製して,掻爬した潰瘍部を覆うように縫着します.聞き手:表層層状角膜移植の際の角膜切除について注意点はありますか?四條:Mooren潰瘍の場合,病変が輪部に沿って広範囲に広がっているケースがほとんどですので,扇形のデザインで表層角膜移植をすることが多いです.まず,手動トレパンを用いて中心側をマーキングして,病変部をすC1170あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025べて覆うように扇状に切除範囲を決定します(病変部よりC0.5Cmm以上距離をとります).また,その後の移植片作製のために,カリパーなどで各頂点間の距離を測定しておきます.次にマーキングに沿ってできるだけ垂直にメスを入れ,表層.離刀やゴルフ刀を用いて角膜を切除します.穿孔していても虹彩が嵌頓して前房が形成されていればそのまま処置を行い,前房が保持されていない場合は粘弾性物質を用います.また,顕著な菲薄部や穿孔部周辺の切除はなるべく最後に回して,他の部分からとりかかるといいでしょう.聞き手:扇形の移植片の作製で注意点はありますか?四條:前述したマーキングを参照にして移植片の作製を行います.移植片の作製は可能なかぎり透明な角膜組織部分を用いるようにします.用意した強角膜切片に対して,最初に中心側の円形部分のトリミングから行います.ドナーパンチを用いて角膜裏面から打ち抜く場合は,0.25Cmm大きいサイズで打ち抜きます.穿孔して眼球が虚脱しているような場合はC0.5Cmm大きく打ち抜くこともあります.続いて各頂点間の距離を参考にして,打ち抜いて残った強角膜切片をスプリング剪刀や角膜剪刀を用いてさらにトリミングします.切除部分に合わせて適宜形状や厚みを確認し調整していきます.とくに重要な点は,上皮同士がしっかり合うようにデザインすることです.聞き手:表層層状角膜移植の縫合で注意点はありますか?四條:扇形の移植片の内側からC10-0ナイロン糸を用いて端々縫合していきます.その後,移植片の両端を縫合して周辺側の強膜側という順で縫合していきます.中心側は上皮を合わせること,乱視をできるかぎり惹起しないようにすること,瞳孔に縫合糸がかからないようにすることなどに注意します.周辺部の強膜側の縫合はバイトを長めにして,少し強めに縫うなどすると,上皮が合わせやすくなります.ある程度縫合が終わったら,嵌頓していた虹彩の整復や前房内の粘弾性物質の除去を行います.文献1)木下茂,大橋裕一:Mooren潰瘍の病態と治療.日眼紀C41:2055-2061,C19902)MallemCK,CLibermanCP,CBerkenstockCMKCetal:ClinicalCoutcomesinperipheralulcerativekeratitis.AmJOphthal-molC272:98-105,C20253)KinoshitaS,OhashiY,OhjiMetal:Long-termresultsofkeratoepithelioplastyCinCMooren’sCulcer.COphthalmologyC98:438-445,C1991(90)

抗VEGF治療セミナー:抗VEGF薬硝子体内注射後の網膜色素上皮裂孔

2025年9月30日 火曜日

●連載◯159監修=安川力五味文139抗VEGF薬硝子体内注射後の狩野久美子九州大学医学部眼科網膜色素上皮裂孔新生血管型加齢黄斑変性に対する抗CVEGF治療では,眼局所においてもいくつかの合併症が起こりうる.投与後の細菌感染症や外傷性白内障,薬剤によってはぶどう膜炎・網膜血管閉塞などもあげられるが,今回は網膜色素上皮裂孔を引き起こすリスクに関して述べる.はじめに新生血管型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)に対する治療は,抗VEGF治療が第一選択となっている.2009年に発売されたラニビズマブを筆頭に,現在C6剤の使用が可能な状況である.その中でもブロルシズマブはぶどう膜炎や網膜血管閉塞を起こす可能性があることが報告されているが,現在ではステロイド投与によりその発症をある程度予防できることが知られている1,2).しかし,注射後の細菌性眼内炎や外傷性白内障,網膜色素上皮裂孔(reti-nalCpigmentCepitheliumtear:RPEtear)はどの薬剤でも発症する可能性のある合併症である.とくにCRPEtearは手術などの治療手段もなく,一度発症すると不可逆性で,視力低下の可能性も高い予後不良な合併症である.今回は抗CVEGF治療によるリスクの一つとして,CRPEtearについて述べる.症例患者はC62歳の男性.主訴は右眼歪視,右眼矯正視力は(1.0)であった.右眼に丈が比較的高い大きな網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)とそれを裏打ちする一部線維化した黄斑新生血管(macu-larneovascularization:MNV)を認めた.周囲には漿液性網膜.離を伴っていた.また,PEDの中に黒く抜ける間隙,いわゆるCcleftサインを認めた(図1).網膜色素上皮下の新生血管であるため,nAMD(typeCIMNV)の診断のもと,右眼にアフリベルセプトC2Cmg硝子体内注射を施行した.注射施行後C4日目から急に暗くなったと投与後C1週間で再来.眼底には大きなCRPEtearを認めた(図2).その後,治療の継続を希望しなかったため経過をみているが,RPEtearは拡大して黄斑部に及び,視力低下をきたした.また,黄斑部にはMNVによる網膜下出血を認め,線維瘢痕化,.胞様黄斑浮腫に至り,最終受診時の右眼矯正視力は(0.06)と著明に低下している.CRPEtear発症リスク軽減のためにはRPEtearは発症を完全にコントロールできる合併症ではないため,投与前の検査でリスクの高い患者をみきわめることが重要になってくる.高リスク要因の一つ目は,大きな丈の高いCPEDがあることである.二つ目はPEDの形状で,裏に新生血管による裏打ちがあるものや,内部にCcleftサインがあるもの,また網膜色素上皮の一部欠損,いわゆるマイクロリップがあるとリスクは高い3,4).RPEtearの発症は,抗CVEGF薬投与によるMNVの収縮による牽引が原因の一因と考えられている.以前は,アフリベルセプト以降の抗CVEGF薬は,VEGF-A以外の因子にも作用するため,VEGF-Aのみを阻害するラニビズマブよりも強い力でCMNV収縮を引き起こし,RPEtearを起こすのではないかと議論されていたが,現在では薬剤による差はないとの報告もされている5).しかし,筆者の病院では,リスクの高い患者に関しては少しでもCMNVの急激な収縮を防ぐため,ラニビズマブCBSの投与から開始し,丈が小さくなる,もしくは導入期のC3回投与でCRPEtearを起こさなかった患者に関しては,他の抗CVEGF薬へスイッチしている.そして万が一CRPEtearが発生した場合には,薬剤投与を中止せずに抗CVEGF薬投与を継続している.その理由は,先に紹介した症例のように,抗CVEGF薬投与を中断することでCMNVの活動性が増悪し,滲出性変化および線維瘢痕化を引き起こし,さらなる視力低下を起こすことが危惧されるためである.(87)あたらしい眼科Vol.42,No.9,202511670910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2眼底写真と自発蛍光aは初診時,Cbは網膜色素上皮裂孔(RPEtear)を起こした直後の眼底写真と眼底自発蛍光所見.RPEtear部位はカラー眼底写真では暗くなり,眼底自発蛍光検査では低蛍光になっている.CRPEtearが黄斑部に及ぶか及ばないかで視力予後は大きく変わってくるが,そのリスクを治療前に完全に予測するのはむずかしい.しかし,RPEtearはCMNVが収縮することにより起こる病態と考えられるので,PEDとCMNVの位置からある程度予測を立てることは可能である.PEDとCMNVが黄斑部からはずれている場合はCRPEtearを起こしても黄斑部に影響はない場合が多いが,黄斑部をまたぐようにCPEDとCMNVが存在C1168あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025図1初診時OCT網膜色素上皮.離(PED)は,1型黄斑新生血管(MNV)が裏打ちする部分で波打ち(),cleftサイン(内部は輝度が不均一になり黒く抜けている※の部分)を伴っている.する場合は,RPEtearを起こした際に病変が黄斑部に及び視力低下をきたしやすい.だが仮に黄斑部に及んだとしても,病態の活動性が低い場合は,抗CVEGF薬継続により,増殖膜を形成することなくCBruch膜と網膜が直接接着し,ある程度の視力を維持できることもある.ただし病態の活動性が高いと,抗CVEGF薬を継続しても滲出性変化や線維瘢痕化による視力低下をきたす.いずれにしてもCRPEtearは治療前視力良好例にも発症しやすいことから,治療前に必ずリスクを説明しておくことが大事である.文献1)HolzFG,IidaT,MarukoIetal:Aconsensusonriskmit-igationforbrolucizumabinneovascularage-relatedmacu-lardegeneration:PatientCselection,Cevaluation,CandCtreat-ment.RetinaC42:1629-1637,C20222)KataokaK,HoriguchiE,KawanoKetal:Threecasesofbrolucizumab-associatedCretinalCvasculitisCtreatedCwithCsystemicandlocalsteroidtherapy.JpnJOphthalmolC65:C199-207,C20213)NagataJ,ShioseS,IshikawaKetal:Clinicalcharacteris-ticsCofCeyesCwithCneovascularCage-relatedCmacularCdegen-erationCandCretinalCpigmentCepitheliumCtears.CJCClin.CMedC12:5496,C20234)MitchellCP,CRodriguezCF.J,CJoussenCAMCetal:Manage-mentCofCretinalCpigmentCepitheliumCtearCduringCanti-vas-cularCendothelialCgrowthCfactorCtherapy.CRetinaC41:671-678,C20215)AhnJ,HwangDD,SohnJetal:Retinalpigmentepitheli-umCtearsCafterCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration.COphthalmologicaC245:1-9,C2022(88)

緑内障セミナー:緑内障と認知症

2025年9月30日 火曜日

●連載◯303監修=福地健郎中野匡303.緑内障と認知症吉田悠人島根大学医学部眼科学講座視覚障害の主要な原因である緑内障は,近年,認知症との関連性が注目されている.今後は認知症予防の観点からも,緑内障診療の重要性が一層高まると考えられる.また,診療上の課題をふまえ,認知症を考慮した柔軟な診療体制の構築が求められる.●認知症における視覚障害の役割社会の高齢化に伴い,認知症の予防と対策は国際的に喫緊の課題となっている.2022年には,Alzheimer病治療薬のクレネズマブが臨床試験において十分な効果を示さなかったことを受け“NewYorkTimes”紙が「認知症予防には薬剤よりも行動介入が重要である可能性がある」と報じた.この流れを受け,公衆衛生の専門家らは,新規薬剤の開発を待つのではなく,すでに知られている修正可能なリスク因子への介入の重要性を強調している.こうした動きを背景に,医師や公衆衛生の専門家で構成されるCLancet認知症予防委員会は,認知症に関連する修正可能なリスク因子として,当初のC12項目に加え,2024年の改訂で「視覚障害」および「高CLDLコレステロール血症」を新たに追加した1)(図1).これらのリスク因子を生涯にわたり適切に管理することで,認知症症例の最大C45%が予防あるいは発症遅延できる可能性があると試算されている.なかでも高齢期における視覚障害の改善は,認知症の発症を約C2%減少させる可能性があると報告されている.実際,米国やアジアを含む複数の疫学研究により,視覚障害が認知症リスクの上昇と関連していることが示されている2,3).C●緑内障と認知症の関連視覚障害の代表的疾患である緑内障についても,認知症との関連に注目した報告が近年増加している.Wangら4)のメタアナリシスでは,緑内障患者は認知症との有意な関連を示し,全認知症(オッズ比C1.21,95%信頼区間C1.13.1.29),Alzheimer型認知症(オッズ比C1.19,95%信頼区間C1.10.1.29),血管性認知症(オッズ比1.25,95%信頼区間C1.09.1.44),軽度認知障害(オッズ比C1.36,95%信頼区間C1.14.1.61)のいずれにおいても有意な関連が認められた.また,Huhら5)による病型別解析では,原発開放隅角緑内障はCAlzheimer型認知症のリスクをC29%(相対リスクC1.29,95%信頼区間C1.16(85)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1認知症に対する修正可能なリスク因子2024年,Lancet認知症予防委員会は,視覚障害を新たに認知症の修正可能なリスク因子として追加したと報告した.(文献C1より許可を得て改変引用).1.44)増加させる一方で,閉塞隅角緑内障との間には有意な関連は認められなかった.また,原発開放隅角緑内障およびCAlzheimer型認知症はいずれも中枢神経系の慢性神経変性疾患に分類され,両者に共通する病態機序が多数報告されている.代表的なものとして,アミロあたらしい眼科Vol.42,No.9,20251165図2緑内障と認知症に共通する病態機序の概略図緑内障と認知症を結びうる接点を,現時点での知見に基づいて図式化したものである.イドCbの蓄積,神経炎症,酸化ストレス,脳および網膜における血流低下などがあげられる6)(図2).一方で,中枢神経系との直接的な関連が明らかでない病型であっても,視覚障害を介して認知機能に間接的な影響を及ぼす可能性は否定できない.したがって,緑内障の病型にかかわらず,視覚障害の進行を抑えることは認知症の発症や進行の予防につながる可能性があり,緑内障の早期発見と適切な管理は公衆衛生上きわめて重要な意義をもつと考えられる.C●認知症を考慮した緑内障診療のあり方認知症を有する患者に対しては,緑内障の治療や管理にも特別な配慮が求められる.現在,緑内障治療は薬物療法(点眼),レーザー治療,外科的治療に大別され,近年では低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglauco-masurgery:MIGS)なども導入されており,治療戦略は多様化している.しかし,認知機能が低下した患者では,点眼薬の自己管理や適切な点眼手技が困難となりやすく7,8),とくに複数回投与や多剤併用が必要な場合には,治療アドヒアランスの低下を招き,眼圧コントロールが不良になることも少なくない.外科的治療を選択する場合でも,術後の通院継続や自己管理のむずかしさ,生活衛生の乱れなどから,感染や出血などの合併症リスクが高まる可能性がある.また,診療においては視野検査の信頼性にも注意が必要である.Ichitaniら9)の報告C1166あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025によれば,Mini-Cogテストで認知機能障害が疑われた患者では,Humherey視野検査において偽陰性および偽陽性の頻度が有意に高いことが示されており,視野検査結果の解釈には慎重を期すべきである.必要に応じて光干渉断層計などの他覚的検査を併用し,包括的に病状を把握することが望ましい.こうした背景から,将来的な認知機能の低下や術後管理の負担をみすえたうえで,MIGSやレーザー治療の併用など,個々の状況に応じた治療戦略が重要となる.今後の緑内障診療においては,視機能の維持のみならず,認知機能や生活背景に応じた個別化医療の実践がますます求められる.C●おわりに緑内障は視覚障害の原因にとどまらず,認知症との関連が注目される時代を迎えている.認知症予防という観点からも緑内障の早期発見と適切な管理が重要であり,今後は緑内障診療の役割もさらに広がっていくことが期待される.文献1)LivingstonCG,CHuntleyCJ,CLiuCKYCetal:DementiaCpreven-tion,Cintervention,Candcare:2024CreportCofCtheCLancetCstandingCommission.LancetC404:572-628,C20242)KuzmaCE,CLittlejohnsCTJ,CKhawajaCAPCetal:VisualCimpairment,eyediseases,anddementiarisk:Asystemat-icCreviewCandCmeta-analysis.CJCAlzheimersCDisC83:1073-1087,C20213)YoshidaCY,CHiratsukaCY,CUmeyaCRCetal:TheCassociationCbetweenCdualCsensoryCimpairmentCanddementia:ACsys-tematicreviewandmeta-analysis.JAlzheimersDisC103:C637-648,C20254)WangX,ChenW,ZhaoWetal:Riskofglaucomatosub-sequentCdementiaCorcognitiveCimpairment:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CAgingCClinCExpCResC36:172,C20245)HuhMG,KimYK,LeeJetal:RelativerisksfordementiaamongCindividualsCwithglaucoma:ACmeta-analysisCofCobservationalCcohortCstudies.CKoreanCJCOphthalmolC37:C490-500,C20236)ZhengCC,CZengCR,CWuCGCetal:Beyondvision:ACviewCfromCeyeCtoCAlzheimer’sCdiseaseCandCdementia.CJCPrevCAlzheimersDisC11:469-483,C20247)TakaoE,IchitaniA,TanitoM:EstimationoftopicalglauC-comaCmedicationCover-prescriptionCandCitsCassociatedCfac-tors.JClinMed13:184,C20238)TanitoM,MochijiM,TsutsuiAetal:FactorsassociatedwithCtopicalCmedicationCinstillationCfailureCinglaucoma:CVRAMS-QPiGStudy.AdvTher40:4907-4918,C20239)IchitaniA,TakaoE,TanitoM:Rolesofcognitivefunctiononvisual.eldreliabilityindicesamongglaucomapatients.JClinMedC12:7119,C2023(86)

屈折矯正手術セミナー:白内障屈折矯正手術トレンドの変化

2025年9月30日 火曜日

●連載◯304監修=稗田牧神谷和孝304.白内障屈折矯正手術トレンドの変化佐藤正樹サトウ眼科老視矯正眼内レンズ(とくにC3焦点)を用いる術者が増加し,IOL度数計算ではCBarrettのCUniversalII式およびCTrueK式(角膜屈折矯正術後)が急速に普及している.屈折矯正手術における状況は海外とは大きく異なり,有水晶体眼内レンズがC7割強のシェアを占めている.●はじめに日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)は過去C30年以上にわたり会員向け年次調査を実施しており,2024年に直近C20年間のデータが報告された1).必ずしも国内全体の状況に合致するものではないが,トレンド変化は正確に捉えられている.これらの一部を,グローバルな商業データも含めて,海外と比較する.C●周術期管理抗菌薬前房内投与を行う術者の割合は緩やかに増加しているが,ここ数年はC3割でほぼ安定している〔欧州白内障屈折矯正手術学会(ESCRS)ではほぼルーチン2),米国白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)では過半数3)〕.施設の種類別でみると,クリニックでの約C40%に対して大学病院ではC10%未満であり,o.-labeluseに起因する結果と考えられる.C●白内障手術手技切開方位は「12時中心」が減少し,欧米では強く好まれる「耳側」が増加傾向にあるものの,依然として「きき手斜め上方」がもっとも多い(図1a)1).切開組織部位では,「強膜切開」は大幅に減少し,「角膜切開」は緩やかに増加している.角膜切開と強膜切開の長所をあわせもつ「経結膜強角膜一面切開(TSSI)」はC2010年に日本で報告され,以後緩やかに増加している(図1b)1).もともと強膜切開CSTIを好む術者の一部がCTSSIに移行したと考えられ,角膜切開が好まれる欧米とは異なる,日本独特の傾向といえる.CFemtosecondClaser-assistedCcataractCsurgery(FLACS)を行っている会員の割合はC10%未満であり,欧米と比較するとかなり少ない〔ESCRS19%(2016年),ASCRS39%(2018年)〕.●眼内レンズおよび眼内レンズ度数計算老視矯正眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を用いる術者は過去C10年で倍増している.2焦点CIOLは激減し,3焦点CIOLと連続焦点CIOLが増えている.IOL度数計算ではCBarrettのCUniversalII式およびCTrueK式(角膜屈折矯正術後)が,いずれも急速に普及している(図2)1).C●屈折矯正手術MarketCScopeC2022CRefractiveCSurgeryCMarketCReport4)によると,世界での屈折矯正手術は今後も平均2%程度の増加率が続くと予想されている.しかし,諸外国と比較すると日本の屈折矯正手術件数は極端に少ない(図3)4).術式は,中国ではClenticleCextraction(SMILE)が増加しているが,欧米ではClaserCinCSituKeratomileusis(LASIK)が過半数を占めている.JSCRSでの過去C10年間のデータでは,LASIKなどのエキシマレーザー関連手術はいずれも減少し,SMILEは横ばい,唯一CphakicIOLのみが増加している.世界各国での屈折矯正手術全体におけるCimplantableCcollamerlens(ICL)占有率を図4に示す5).2018年はどの地域においてもCICLのシェアはC10%未満だったが,2023年は世界全体で平均C15%に増加し,日本ではシェアC73%と尋常ではない伸びを示している(逆をいえば,世界全体ではC85%,米国においてはC98%がCLASIK・SMILEなどCICL以外の手術である).日本ではC2013年に都内のC1施設で術後感染性角膜炎のCoutbreakが報告され,消費者庁から注意喚起がなされ,以降エキシマレーザー屈折矯正手術件数は大幅に減少した.さらに日本人の保守的思考も少なからず関与していると考えられ,いずれにせよ諸外国とは異なった非常に特殊な状況にあることは間違いない.(83)あたらしい眼科Vol.42,No.9,202511630910-1810/25/\100/頁/JCOPYaa2004(%)(%)2011200510020132009902014201080372015201170201620126030272017262013502014402018102015302019201620202020171020212018020222019202312時中心きき手斜め上方耳側主経線上b2004(%)20052006b802007(%)20122008807336281101222013201420097020102011602015201220165020132017201820192020202120222023201440201530201620172020181020190強膜角膜経結膜・強角膜一面図1白内障手術の切開創a:切開方位.b:切開組織部位.(文献C1より転載)図2眼内レンズ度数計算法a:通常症例(複数回答).b:角膜屈折矯正術後症例(複数回答).(文献C1より転載)100%90%202380%73%201870%1,4001,2001,0008006004002000ThousandsofProcedures■LASIK■SurfaceAblation■LenticuleExtraction■PhakicIOL■RefractiveLensExchange40%図32022年に行われた屈折矯正手術の国別件数および術式30%23%17%20%15%UnitedWesternJapanOtherWealthyChinaIndiaLatinRestof60%StatesEuropeNationsAmericaWorld50%(文献C4より転載)8%10%2%1%●おわりに方向性を誤り,将来,世界標準から逸脱することのないよう,現在わが国で行われている白内障・IOL・屈折矯正手術の変遷および海外との相違を把握しておくことは,非常に重要だと考える.JCSRSの調査データは膨大なので,ごく一部のデータのみを提示した.さらなる詳細は文献C1をご覧いただければ幸いである.文献1)SatoCM,CKamiyaCK,CHayashiCKCetal:ChangesCinCcataractCandCrefractiveCsurgeryCpracticeCpatternsCamongCJSCRSCmembersCoverCtheCpastC20Cyears.CJpnCJCOphthalmolC68:C443-462,C20242)KohnenT,FindlO,NuijtsRetal:ESCRSClinicalTrendsSurvey2016-2021:6-yearCassessmentCofCpracticeCpat-ternsCamongCsocietyCdelegates.CJCCataractCRefractCSurgC1164あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025GlobalJapanChinaSouthKoreaUnitedStates図4世界全体・日本・中国・韓国・米国における2018年および2023年の屈折矯正手術全体に対するICLの占有率(StaarSurgical社資料)C49:133-141,C20233)ChangDF,RheeDJ:Antibioticprophylaxisofpostopera-tiveendophthalmitisaftercataractsurgery:resultsofthe2021CASCRSCmemberCsurvey.CJCCataractCRefractCSurgC48:3-7,C20224)MarketCScopeRC2022CRefractiveCSurgeryCMarketCReport,CGlobalCAnalysisCforC2021CtoC2027.Chttps://www.market-scope.com/.les/products/brochures/357/2022%20RefracCtive%20Surgery%20Report%20Brochure.pdf.CAccessedC10CApril20255)STAARCSurgicalCInvestorCPresentation,CMarchC2024.Chttps://s24.q4cdn.com/405935222/.les/doc_presentationsC/2024/03/march-2024_staar_investor-presentation_.nal.Cpdf.Accessed30March2025(84)

眼内レンズセミナー:落下IOL摘出鑷子

2025年9月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋森井香織460.落下IOL摘出鑷子森井眼科クリニック眼内レンズ(IOL)が硝子体中に完全に脱臼し,網膜上に落下している患者にしばしば遭遇する.その落下IOLを安全に摘出するために,新しく硝子体鑷子を考案したので,形状や手術手技などを紹介する.●はじめに加齢によるCZinn小帯の脆弱化が原因で,白内障手術後に眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が脱臼する患者にしばしば遭遇する1,2).IOLが後房内に留まる場合には,前房からアプローチする手術で摘出し,新しいIOLを縫着または強膜内固定することが可能である3,4).しかし,IOLが完全に脱臼して硝子体中に落下した場合には,硝子体手術による摘出が必要となる5,6).現在,硝子体手術で広く使用されている内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)鑷子は,ILMの把持と除去を目的として設計されており7),厚みのあるアクリルCIOLを確実に掴むのには適していない.そのため,手術中にCIOLが鑷子から滑り落ち,網膜を損傷する可能性があった.この問題を解決するため,脱臼したIOLを安全かつ確実に摘出するための新しい「落下CIOL摘出鑷子」を開発した.図1に落下CIOL摘出鑷子と従来のCILM鑷子の先端形状を示す.C●デバイスの説明新しい「落下CIOL摘出鑷子」には,従来のCILM鑷子に以下のような改良を施した(図2).1.把持部分の延長:鑷子先端の把持部分をC3.3Cmmとし,従来のCILM鑷子よりも大幅に長く設計した.これによりCIOLを確実に掴むことが可能である.2.先端形状の改良:レンズが滑り落ちないように片側にギザギザをつけ,開き角度をC16.13°,開き幅を1.4Cmmに拡大した.これにより,厚みのあるアクリルレンズにも対応できるようになった.3.シャフトの延長:長眼軸眼にも対応するため,シャフトをC30Cmmと長くした.C●手術手技手術は,Tenon.下麻酔を行ったのち,硝子体手術用のポートを強膜に作製し,IOL摘出用に角膜を切開(3Cmm)する.硝子体が残存した状態でCIOLを引き上げると,IOLと硝子体が絡まり,網膜を牽引し網膜.離のリスクが生じるため,まず硝子体切除を行う.硝子体切除後,右手の硝子体カッターを落下CIOL摘出鑷子に持ち替え,ダイレクトに落下CIOLの支持部の根本を把持し,虹彩直下まで引き上げる.IOLにCSommerringや水晶体.が付着している場合は,落下CIOL摘出鑷子でIOLを把持した状態で硝子体カッターを挿入し,SomC-merringや水晶体.を除去し,IOLのみの状態にしてIOLを虹彩直下まで引き上げる.落下CIOL摘出鑷子でIOLを後房に把持した状態で,前房内に粘弾性物質を充.し,Sinskey逆フック(イナミ)またはダブルフック(イナミ)を反対側の角膜サイドポートからCIOL後面に図1落下IOL摘出鑷子とILM鑷子の先端形状の比較ILM鑷子と落下CIOL摘出鑷子を同条件下で撮影し,拡大縮小なしで比較した.ILM鑷子の先端は短く繊細に設計されており,ILMを安全に把持・除去するための特性をもつ.(81)あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025C11610910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2落下IOL摘出鑷子の先端形状挿入し,IOLループと光学部をこのフックで虹彩上に引き上げた後,落下CIOL摘出鑷子をCIOLから離し,硝子体ポートから抜去し,角膜切開創から挿入し,IOLループを把持し眼外に摘出する(図3).筆者が落下CIOL摘出鑷子を用いて行った手術では,すべてC1アクションでCIOLをしっかり把持することができた.IOLの周囲にCSommerringや水晶体.があるものも,1アクションでCIOLを把持でき,IOLを把持したまま安全に硝子体カッターによる処理が行えた.その後もCIOLを把持したまま,虹彩上までCIOLを引き上げることが可能であった.全例で網膜硝子体に重大な合併症を認めなかった.C●おわりにILM鑷子は,ILMを安全に.離するために,先端が小さく繊細に作製されている.20ゲージ硝子体手術の時代は鑷子類も大きく,さまざまな形状のものがあり,それらを利用してCIOLを把持,摘出することができたが,スモールゲージ硝子体手術になり,硝子体切除の効率もよくなった結果,多様な鑷子は不要となり,ILM鑷子に一本化された.現在のCIOLの主流であるアクリルCIOLは厚みがあり,ILM鑷子では把持しにくいため,図3手術手技①硝子体切除後,落下CIOL摘出鑷子で直接落下CIOLの支持部の根本を把持する.②把持したまま持ち上げる.③虹彩後面までCIOLを持ち上げ,鑷子で把持したまま,角膜サイドポートからダブルフックをCIOL後面に挿入し,IOLを虹彩上に引き上げる.かつての硝子体手術の器具のようなCIOLをしっかり把持できる鑷子をイメージして本鑷子を考案した.「落下IOL摘出鑷子」は,硝子体手術におけるCIOL摘出の安全性と効率性を大幅に向上させ,脱臼したCIOLの摘出に関連する合併症を減少させる可能がある.文献1)KimSS,SmiddyWE,FeuerWetal:Managementofdis-locatedCintraocularClenses.COphthalmologyC115:1699-1704,C20082)LeeGI,LimDH,ChiSAetal:RiskfactorsforintraocularlensCdislocationCafterphacoemulsi.cation:aCnationwideCpopulation-basedCcohortCstudy.CAmCJCOphthalmolC214:C86-96,C20203)NoguchiS,NakakuraS,TabuchiHetal:Directintraocu-larlensextractionusinganewlydevelopedlens-grabbingforceps.JClinMedC13:2938,C20244)FukuokaCS,CKinoshitaCT,CMoritaCSCetal:IntraocularClensCextractionCusingCtheCcartridgeCpull-throughCtechnique.CJCataractRefractSurgC47:e70-e74,C20215)DikciS,YilmazT:Vitreoretinalsurgeryinpatientswithintraocularlensdislocationintothevitreous.AnnMedResC28:2128-2133,C20216)SellaS,RubowitzA,Sheen-OphirSetal:Parsplanavit-rectomyforposteriorlydislocatedintraocularlenses:riskfactorsCandCsurgicalCapproach.CIntCOphthalmolC41:221-229,C20217)FerraraM,Rivera-RealA,HillierRJetal:ArandomisedcontrolledCtrialCevaluatingCinternalClimitingCmembraneCpeelingCforcepsCinCmacularCholeCsurgery.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC261:1553-1562,C2023

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 21.未来のコンタクトレンズ技術(1)

2025年9月30日 火曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く21.未来のコンタクトレンズ技術(1)土至田宏聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会がC2021年に発表した“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicCReports(CLEAR)”は第C11章「コンタクトレンズ技術の将来像(ContactClensCtechnologiesCofCthefuture)」1)が最終章である.視力矯正のみならず病気の診断・モニタリングや薬物送達,近視進行抑制,老視対応,augmentedvision(拡張視覚)など,多機能,多目的化が進むと期待されている未来のコンタクトレンズについて,数回に分けて紹介する.全身疾患の診断・モニタリング機能コンタクトレンズ(CL)は今後,表1に示すような全身疾患や眼疾患の診断・モニタリングツールとして機能する可能性がある.とくに,CLは長時間涙液と接触するため,CLにセンサーを組み込み,涙液に含まれる多様なバイオマーカーを検出することで,非侵襲かつ継続的に体内の生理的変化を把握する技術が注目されている.全身性疾患に関しては,糖尿病の管理を目的とした涙液中グルコースの検出を中心に紹介している.光学的(色調・蛍光変化)あるいは電気化学的(電流変化)センサーを組み込んだレンズが開発されており,将来的にはスマートフォンなどを用いたリアルタイム測定が可能とされている.ただし,血糖値との時間差やセンサーの安定性,製造時の課題(高温・高圧への耐性)など,技術的・臨床的課題も指摘されている.癌の早期診断にも応用が期待されており,涙液中のlacryglobinなどの蛋白質は,乳癌・肺癌・前立腺癌などとの関連が報告されている.CLを短時間装用することで,涙液に含まれる微量成分をレンズ内に集積させ,レンズ除去後に分析する手法も検討されている.眼疾患の診断・モニタリング機能眼疾患では,緑内障における眼圧の連続モニタリング技術が実用化され,医療機器として認可されている.Sensimed社の「Trigger.sh」は,シリコーン製CCLに微細なストレインゲージセンサーを内蔵し,角膜形状のわずかな変化からC24時間眼圧変動を測定するデバイスである.睡眠中や日常生活中の眼圧変化を捉えられる点が画期的である.さらに,ドライアイに関連して,涙液の浸透圧,サイトカイン濃度,IgGなどの免疫マーカー,瞬目の頻度,眼表面温度の測定にもCCLが活用されつつある.蛍光色素を組み込んだレンズや温度感応性液晶を用いた試作も報告されており,電子回路を使用しない簡表1涙液中で検出される全身性疾患のバイオマーカー疾患名涙液中の潜在的バイオマーカーAlzheimer病dermcidin,lacritin,lipocalin-1,lysozyme-C増加癌lacryglobin増加,特定の蛋白質群の組成変化.胞性線維症IL-8,IFN-c,MIP-1Ca,MIP-1Cb糖尿病グルコース増加,終末糖化産物(AGEs),サイトカイン変化多発性硬化症IgGオリゴクローナルバンド,Ca-1-アンチキモトリプシンParkinson病CTNF-a,オリゴマー型Ca-シヌクレイン甲状腺疾患CIL-1b,IL-6,IL-17,TNF-a,IL-7IL(interleukin):インターロイキン,IFN(interferon):インターフェロン,MIP(macrophagein.ammatoryprotein):マクロファージ炎症性蛋白質,TNF(tumornecrosisfactor):腫瘍壊死因子,IgG(immunoglobulinG):免疫グロブリンCG(79)あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025C11590910-1810/25/\100/頁/JCOPY易型診断ツールとしての応用も期待される.また,網膜血管や結膜血管のモニタリングに関しても,超音波センサーや光学センサーをレンズ内に組み込むことで,脈拍や血流動態,酸素飽和度などを連続的に計測する技術が検討されている.これらの生体情報は,疾患の予兆を捉えたり,患者の状態変化をリアルタイムで医師に通知したりするための重要な指標となる.こうした診断・モニタリング技術をC1枚のCCLに統合し,複数のバイオマーカーや生理指標を同時に計測できるマルチセンサー型スマートレンズの開発が将来的な目標である.これにより,眼科のみならず全身医療においても,CLが新たな医療インターフェースとして機能することが期待される.治療目的への応用従来,CLは角膜上皮欠損などの眼表面障害に対するバンデージ目的で使用されてきたが,将来は能動的に疾患を治療する医療デバイスとしての機能の発展が期待される.まずはドライアイに対する応用がとりあげられており,単なる保湿作用を越えて,レンズに電気的機構や機能性材料を付加することで涙液動態や眼表面環境を積極的に回復させるアプローチが紹介されている.例として,電気浸透流を利用し,レンズ表面に配置したマイクロ電極により涙液の分布を制御する設計や,グラフェン被覆による蒸発抑制およびバリア機能の付帯があげられる.さらには,涙液分泌を促進する電気刺激デバイスの一体化も試みられている.従来の鼻腔内刺激装置と同様の神経経路を経て反射性分泌を誘導し,光またはCRF信号で作動する素子をレンズに組み込むことで,外部電源なしに駆動する設計が提案されている.酸化ストレスに起因する眼表面障害に対しては,活性酸素除去能を有する材料,とくにセリアナノ粒子を含有したCCLの応用が注目されている.これにより,過酸化水素などの有害な酸素種を分解し,炎症や細胞障害の進行を抑制する効果が期待される.また,マトリックスメタロプロテナーゼ(matrixmetalloproteinase:MMP)抑制材として,ジピコリルアミンを有するハイドロゲルを用いたCMMP-9阻害作用を有するレンズ材料の開発も報告されている.CLを足場(スキャフォールド)とする幹細胞移植の技術も紹介されている.輪部幹細胞欠損症に対して,培養幹細胞をCCLに播種し,そのまま角膜上に装用することで上皮再建を図る手法で,成功例の報告もあり,将来的な再生医療への応用が期待される.視機能補助としての応用例として,光量に応じて透過率を変化させる液晶素子内蔵レンズがあげられている.これは,人工虹彩あるいは可変ピンホールとして機能し,羞明・散瞳異常・色覚異常・慢性頭痛などへの適応が考えられる.レンズ内に組み込まれた開口部が電子的に制御されることで,動的な視環境調整が可能となる.文献1)JonesCL,CHuiCA,CPhanCCMCetal:CLEARC-ContactClensCtechnologiesCofCtheCfuture.CContCLensCAnteriorCEyeC44:C398-430,C2021C