《第36回.日本緑内障学会.原著》あたらしい眼科43(6):686.690,2026c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査2024年版小笠原涼*1井上賢治*1塩川美菜子*1鶴岡三惠子*1國松志保*2溝田淳*2富田剛司*1,3石田恭子*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院SurveyoftheCurrentStatusofVisualImpairmentCertificationApplicationsforGlaucomaPatientsin2024RyoOgasawara1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),AtsushiMizota2),GojiTomita1,3)andKyokoIshida3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)を申請した緑内障患者の身体障害者手帳の実態について検討した.対象および方法:2024年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院で手帳申請を行った緑内障126例を対象とした.緑内障病型,視覚障害等級,視野測定方法を後ろ向きに調査した.2021年の前回調査の結果と比較した.結果:病型は原発開放隅角緑内障76例(60.3%),続発緑内障23例(18.3%)などだった.視覚等級は1級14例(11.1%),2級74例(58.7%),3級1例(0.8%),4級8例(6.3%),5級29例(23.0%)であり,病型,等級は前回調査と差はなかった.視野測定はGoldmann視野計(50例,39.7%)と自動視野計(75例,59.5%)を用いており,自動視野計での手帳申請の割合が前回調査より有意に増加した(p<0.01).結論:手帳申請者の緑内障病型は原発開放隅角緑内障が最多だった.視覚障害等級は1級と2級で約7割を占めた.視野測定は自動視野計が多く,経年変化では増加していた.Purpose:Tosurveyandassessthecurrentstatusofvisualimpairmentcerti.cationapplicationsforglaucomapatientsin2024.Methods:Weretrospectivelyanalyzed126glaucomapatientswhoappliedforaphysicaldisabili-tycerti.cateatInouyeEyeHospitalorNishikasai-InouyeEyeHospitalbetweenJanuaryandDecember2024.Glau-comatype,visualdisabilitygrade,andvisual.eld(VF)measurementmethodswereexaminedandcomparedwiththe.ndingsinthe2021survey.Results:Primaryopen-angleglaucoma(POAG)wasthemostcommonglaucomatype(60.3%),followedbysecondaryglaucoma(18.3%).VisualdisabilitygradeswereGrade1in11.1%,Grade2in58.7%,Grade3in0.8%,Grade4in6.3%,andGrade5in23.0%.VFassessmentwasperformedusingtheGold-mannperimeterin39.7%andautomatedperimetryin59.5%.Nosigni.cantdi.erencewasobservedinglaucomatypeordisabilitygradecomparedwiththe2021.ndings.However,certi.cationbasedonautomatedperimetryhadincreasedsigni.cantly(p<0.01).Conclusion:Inthissurvey,POAGwasthemostcommonglaucomatypeobserved.AutomatedperimetryhadincreasinglybeenusedforVFassessment,and70%oftheapplicationswereclassi.edasvisualdisabilityGrade1or2.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(6):686.690,2026〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野計,視野障害等級.glaucoma,visualimpairment,physical-lydisabilitycerti.cate,perimeter,visualdisabilitygrade.はじめにを対象とした多治見スタディでは40歳以上の5.0%で,年緑内障は視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)認齢とともに有病率は上昇していた2).そこで手帳に該当する定者の原因疾患の第一位である1).緑内障の有病率は日本人緑内障患者の実態を知り,対策をとることは今後の失明予防〔別刷請求先〕小笠原涼:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RyoOgasawara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN686(92)今回調査(126例)前回調査(153例)原発閉塞隅角緑内障発達緑内障(1例,0.8%)原発閉塞隅角緑内障発達緑内障(2例,1.3%)(4例,3.2%)(5例,3.3%)図1緑内障病型の比較有意差なし(χ2検定).の観点から重要である.緑内障にはさまざまな病型があり,病型により重症度や進行速度に差があり,緑内障による手帳該当者にも違いがある可能性がある.そこで筆者らは井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院において2015年3),2021年4)に手帳申請を行った緑内障患者の実態を調査・報告した.手帳認定基準は2018年4月27日に厚生労働省から「身体障害者福祉法施行規則等の一部を改正する省令」が公布され,視野障害は従来のGoldmann視野計に加えて自動視野計も使用可能となった.筆者らの2021年の調査(以下,前回調査)4)では,視野障害の認定はGoldmann視野計60.1%,自動視野計39.9%で,依然としてGoldmann視野計が多かった.今回,前回調査4)より3年間が経過したので再度同様の調査を行った.さらに前回調査4)の結果と比較し,経年変化もあわせて検討した.I対象および方法2024年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者で,同時期に手帳申請を行った126例(男性74例,女性52例)を対象として後ろ向きの観察研究を行った.対象の年齢は24.94歳で,平均年齢は70.8±12.8(平均±標準偏差)歳であった.手帳申請時の緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級,視野検査方法(Goldmann視野計,自動視野計)を身体障害者診断者・意見書の控えおよび診療記録より調査した.緑内障病型別に視覚障害等級を,視野検査方法別に視野障害等級を比較した.さらに前回調査4)と緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級を比較した.視野検査ではGoldmann視野計あるいは自動視野計のどちらを使用するかは視野障害を評価する医師の判断で選択した.統計学的検討は患者背景の年齢の比較には対応のないt検定,男女比,緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級の比較にはχ2検定,Fisherの直接法を用いた.有意水準はp<0.05とした.なお,緑内障病型は続発緑内障の原因が多岐にわたっていたため合算し,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障,発達緑内障の5群として検討した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.II結果緑内障病型は原発開放隅角緑内障76例(60.3%),続発緑内障23例(ぶどう膜炎10例,落屑緑内障10例,血管新生緑内障2例,ステロイド緑内障1例)(18.3%),正常眼圧緑内障22例(17.5%),原発閉塞隅角緑内障4例(3.2%),発達緑内障1例(0.8%)であった(図1).視覚障害等級は1級14例(11.1%),2級74例(58.7%),3級1例(0.8%),4級8例(6.3%),5級29例(23.0%),6級0例(0%)であった(図2).視力障害での申請は56例,視野障害での申請は125例で,重複申請は55例あった.視力障害の等級内訳は1級2例(3.6%),2級5例(8.9%),3級7例(12.5%),4級17例(30.4%),5級8例(14.3%),6級17例(12.5%)で,視野障害の等級内訳は2級88例(70.4%),3級1例(0.8%),4級1例(0.8%),5級35例(28.0%)であった(表1)視野障害等級と視野検査方法に差はなかった(p=0.5767).視野検査方法は,Goldmann視野計50例(39.7%),自動視野計75例(59.5%)であった(図3).視野障害等級は今回調査(126例)前回調査(153例)3級(1例,0.8%)表1視野障害等級と視野検査方法等級今回調査前回調査視力障害1級2(1.6%)0(0.0%)2級5(4.0%)88(69.8%)3級7(5.6%)1(0.8%)4級17(13.5%)1(0.8%)5級8(6.3%)35(27.8%)6級17(13.5%)0(0.0%)なし70(55.6%)1(0.8%)1級0(0.0%)0(0.0%)2級88(69.8%)94(61.4%)視野障害3級1(0.8%)3(2.0%)4級1(0.8%)0(0.0%)5級35(27.8%)56(36.6%)6級0(0.0%)0(0.0%)なし1(0.8%)0(0.0%)Goldmann視野計では2級42例(84.0%),5級8例(16.0%),自動視野計では2級46例(61.3%),3級1例(1.3%),4級1例(1.3%),5級27例(36.0%)であった(表2).視野検査の種類による視野等級に差はなかった(p=0.05).前回調査4)の緑内障病型は原発開放隅角緑内障83例(54.2%),続発緑内障34例(ぶどう膜炎14例,落屑緑内障14例,ステロイド緑内障3例,血管新生緑内障2例,角膜移植後1例)(22.2%),正常眼圧緑内障29例(19.0%),原発閉塞隅角緑内障5例(3.3%),発達緑内障2例(1.3%)であった(図1).視覚障害等級は1級19例(12.4%),2級77例(50.3%),3級4例(2.6%),4級12例(7.8%),5級41例(26.83級(4例,2.6%)図2視覚障害等級の比較有意差なし(χ2検定).%),6級0例(0%)であった(図2).今回調査と前回調査4)との比較では,緑内障病型は同等(p=0.82),視覚障害等級も同等(p=0.58)であった.視野検査方法は,前回調査4)でGoldmann視野計92例(60.1%),自動視野計61例(39.9%)で,今回調査では前回調査4)に比べて自動視野計の割合が有意に増加した(p<0.01).III考按手帳認定者の全国規模の疫学調査が2019年4月.2020年3月の患者を対象に行われた1).原因疾患は緑内障(40.7%),網膜色素変性(13.0%),糖尿病網膜症(10.2%),黄斑変性(9.1%)の順だった.2024年度の筆者らの施設の調査5)では原因疾患は緑内障(54.3%),網膜色素変性(14.7%),黄斑変性(9.1%),視神経症(6.9%)の順だった.2021年1.12月に行った調査4)と比較すると緑内障が最多であることには変わりないが,2024年調査5)では緑内障の割合が有意に増加した.獨協医科大学埼玉医療センターの安蘇らの報告でも,2013.2015年の3年間と2020.2022年の3年間を比較したところ,原因疾患として緑内障が増加傾向にあった6).その要因として,緑内障は加齢とともに有病率が上昇する7)ため,社会の高齢化に伴い患者が増加して重症例も増加することが考えられる.また,加齢黄斑変性や糖尿病網膜症では抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬や硝子体手術の進歩により重症例が減少したことも考えられる.そこで,前回調査4)より3年間が経過したため今回手帳を申請した緑内障患者の実態を調査した.さらに前回調査4)の結果と比較した.緑内障病型は今回調査と前回調査4)で順位は原発開放隅角緑内障,続発緑内障,正常眼圧緑内障の順で割合に差はなか該当なし今回調査(126例)前回調査(153例)(1例,0.8%)図3視覚障害等級の比較*p<0.05(χ2検定).った.外来を受診した緑内障患者の実態調査では,緑内障病型は正常眼圧緑内障45.6%,原発開放隅角緑内障33.1%,続発緑内障7.8%などであった8).今回調査の緑内障病型が原発開放隅角緑内障60.3%,続発緑内障18.3%,正常眼圧緑内障17.5%などであり,過去の報告8)と比較すると今回調査では原発開放隅角緑内障と続発緑内障が多い傾向だった.緑内障進行リスクとして高眼圧,とくに眼圧変動や経過中の平均眼圧が高いことがあげられている7).眼圧が高い原発開放隅角緑内障,眼圧変動が大きい続発緑内障が重症化しやすい可能性がある.視覚障害等級は1級と2級を合わせて今回調査では69.8%,前回調査4)では62.7%であった.緑内障の手帳申請者は依然として重症例が多いことが明らかとなった.視野障害等級は前回調査4)と比較して変化がなかった.手帳申請の視野検査方法は2018年の改定から自動視野計が利用可能となったが,自動視野計の使用割合が前回調査4)39.9%よりも今回調査59.5%では有意に増加した(p<0.05).今回調査の全症例での検討5)でもGoldmann視野計が有意に減少し,自動視野計が有意に増加した(p<0.01).自動視野計は緑内障が網膜色素変性,網脈絡膜萎縮,糖尿病網膜症に比べて有意に多く使用されていた5).視野障害判定に自動視野計が使用可能となったことは緑内障患者にとって視野障害認定の面では有益であった可能性がある.視野障害等級は,Goldmann視野計は2,5級のみ,自動視野計は2,3,4,5級の症例が存在し,自動視野計はGoldmann視野計よりも詳細に視野障害の評価ができる可能性がある.一方で,今回調査では前回調査4)に比較して緑内障による手帳申請者の件数は減少していた.近年,緑内障分野の新規配合点眼薬(ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬,2022年上市)や,低侵襲緑内障手術(microinvasiveglaucomasur-gery:MIGS)としてiStent,KahookDualBlade,谷戸式表2今回調査と前回調査との視力障害等級,視野障害等級の比較視野障害等級自動視野計Goldmann視野計(GP)2級46423級104級105級278合計75(59.5%)50(39.7%)マイクロフックロトミー,TrabExなどが導入され治療選択肢が拡大している.これらの新規の点眼薬や手術の効果のために重症例に至る症例が減少した可能性がある.今後も治療の進歩や啓発活動の普及により,緑内障患者がより早期に診断される可能性が高まり,その結果として重症例の割合や病型分布に変化が生じる可能性がある.今後も注意深い経過観察が必要である.本論文は第36回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MatobaR,MorimotoN,KawasakiRetal:Anationwidesurveyofnewlycerti.edvisuallyimpairedindividualsinJapanforthe.scalyear2019:impactoftherevisionofcriteriaforvisualimpairmentcerti.cation..JpnJOphthal-mol67:346-352,20232)鈴木康之,山本哲也,新家眞ほか:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)総括報告.日眼会誌112:1039-1058,20083)比嘉利沙子,井上賢治,永井瑞希ほか:緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年度版)..あたらしい眼科.34:1042-1045,20174)正井智子,井上賢治,塩川美菜子ほか:緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査2021年版.あたらしい眼科.40:958-962,20235)井上賢治,鶴岡三恵子,天野史郎ほか:眼科専門病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請(2024年).眼臨紀19:92-97,20266)安蘇谷浩乃,相馬睦,杉谷邦子ほか:眼科における身体障害者手帳申請の現況と過去との比較.日本ロービジョン学会誌.24:41-44,20247)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第5版).日眼会誌126:85-177,20228)小林大航,井上賢治,塩川美菜子:多施設における緑内障実態調査2024年版―薬物治療―.あたらしい眼科42:881-886,2025***