考える手術.監修松井良諭・奥村直毅眼窩壁骨折整復術奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学眼窩壁骨折は眼部を打撲することにより眼窩を形成する骨が骨折した状態である.症状は,複視,眼球運動時痛,眼瞼腫脹,三叉神経第2枝領域の知覚異常,悪心・嘔吐,鼻出血などさまざまである.診断はCT画像で行う.骨折の種類には筋絞扼型,脂肪絞扼型,開放型の3種類が存在し,鑑別する必要がある.筋絞扼型,脂肪絞扼型骨折は外傷時,骨折部位から眼窩内組織が副鼻腔内に脱出し,その後骨片が元の位置に戻ることが瞬時に生じることにより外眼筋や眼窩脂肪の絞扼が起こる.開放型骨折は組織の絞扼を認めないが,外眼筋や眼窩脂は経皮膚と経結膜があるが,経皮膚アプローチのほうが視野は広く,手術はやりやすい.骨折部位が内壁ならLynch切開,下壁では睫毛下皮膚切開を行う.皮膚切開後,骨膜まで組織を分けながら進める.骨膜を切開後,眼窩縁から骨膜を.離していき,前方の骨折線を探す.骨折線では組織が副鼻腔内に脱出しているため,糸付き小綿(ベンシーツ)などで愛護的に眼窩内に戻しながら後方の骨折線を追っていく.骨折線を全周追えるようになれば副鼻腔内への眼窩内組織の脱出はなくなったことになる(動画①).その状態で人工骨が骨折線全周を覆うようにトリミングし,挿入する.眼窩壁骨折は患者ごとに骨折部の場所や大きさ,組織脱出量が異なるので,挿入する人工骨を過不足なくトリミングする必要がある.また,眼窩内には視神経や外眼筋など,損傷すると合併症が生じる組織が多数存在する.眼窩内の正常構造を常に念頭に置き,患者ごとに術前のCTを見て,どの組織がどの場所にあり,自分の操作している場所がどこであるかを常に考えながら手術を行う必要がある.聞き手:手術が必要になるのはどのような場合ですか?が壊死すると著しい眼球運動障害が残るため,診断がつ奥:基本的に眼窩壁骨折の手術は,骨折による複視や眼いたら,すぐに専門機関に紹介することをお勧めしま球陥凹などの自覚症状があれば適応となります.す.脂肪絞扼型骨折では緊急性はないですが,経過観察をしても眼球運動障害が改善しないため早期の手術を検聞き手:眼窩骨折の手術のタイミングを教えてください.討します.一方,開放型骨折では,眼窩組織が脱出した奥:筋絞扼型骨折では徐々に絞扼した組織が壊死するたままで瘢痕治癒してしまうと,術後眼球運動の改善に影め,緊急手術(24時間以内)が必要となります.外眼筋響を及ぼします.手術のタイミングは報告によりさまざ(69)あたらしい眼科Vol.41,No.12,202414530910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術まですが,受傷後2週間以内が大きな目安になります.実際,受傷後2週目以降での手術では脱出した眼窩内組織が副鼻腔内と癒着していることが多い印象です.しかし,京都府立医科大学附属病院の検討では受傷後1カ月以内までは手術成績は大きく変わらなかったため,遅くとも1カ月以内には手術を行いたいです.聞き手:挿入する整復材料はどのような種類がありますか?奥:自家骨か人工物か,メッシュ構造をもつかどうか,吸収性かどうかなど,さまざまな選択肢があります.自家骨は腸骨や肋骨などから骨を採取しますが,骨の採取手技および骨欠損部に合わせた形状作製がむずかしいというデメリットがあります.チタンメッシュなどの有孔性の材料は,眼窩組織が孔にはまりこみ,癒着してしまうデメリットがあります.そのため,私たちの病院では吸収性のポリマーで構成された素材(superFIXSORBなど)やシリコーンプレートを使用しています.superFIXSORBは骨折部に合わせた形状作製が容易であり,長期間かけて吸収されるため合併症が少ないです.シリコーンプレートは骨折線を人工骨で完全に覆えない内下壁骨折など,広範囲の骨折の場合に隙間を埋めるために挿入しますが,長期留置で血腫が生じる可能性があるため,術後3カ月くらいで抜去します.聞き手:手術の合併症などはありますか?奥:手術の合併症としてもっとも重篤なものは視力低下です.原因としては,術中操作による直接損傷と血腫による眼窩コンパートメント症候群があげられます.とく術前術後図1右眼窩下壁骨折整復術前後のCT所見人工骨が骨折ラインを前端から後端まで覆っている.に内壁操作時は操作箇所が奥になれば視神経が近くなりますので,慎重に操作をする必要があります.骨折線より副鼻腔側の組織を触っているかぎりは視神経の損傷は生じません.しかし,骨折線の後端を露出する場合は骨折線より眼窩側の操作になるため,肉眼で手術はせず,顕微鏡を用いて視野を拡大しながら慎重に手術を行います.その他の合併症としては,下壁骨折の場合は眼窩下神経損傷による頬部の知覚異常があります.眼窩下神経は眼窩外組織であり,眼窩下溝に沿って眼窩組織と連続する結合組織は焼灼,切開し,眼窩内組織と分ける必要があります.眼窩下神経の走行パターンは患者により異なるため,術前CTでイメージしておく必要があります.聞き手:術後の眼球運動がよくない場合は,何が原因として考えられますか?奥:眼球運動の改善のためには手術時に人工骨を後端に挿入し,さらに骨折線を全周覆うことが重要です(動画②).術後眼球運動が不良な場合は,まずは整復不良がないかを確認します.私たちの病院では術翌日にCTを撮像し,眼窩内組織が副鼻腔内に残存していないか,人工骨が予定外の位置に挿入されていないかを確認します.まれに人工骨が眼窩内組織を分断するように挿入されていて,眼球運動が悪化した状態で紹介されるケースがあります.術後CT検査で,挿入した人工骨が後端から前端までの骨折ラインを過不足なく覆っていることを確認することが重要です(図1).手術終了時のCT画像をイメージし,そのイメージが術後のCT画像と同じになることが理想です.聞き手:術後管理で気をつけることはありますか?奥:術後の眼球運動は,数カ月から半年かけて徐々に改善していきます.眼窩内はconnectivetissueseptaといわれる膜様の構造により眼窩脂肪,外眼筋,神経,血管などの組織がつながっています.手術により外眼筋,眼窩脂肪を眼窩内に整復し,術後眼球運動のリハビリを行うことでconnectivetissueseptaによって外眼筋や眼窩脂肪は徐々に本来の位置に戻り,眼球運動が改善します.そのため術後早期から眼球運動リハビリをしてもらうことが大事です.また,術後1カ月は,力むと眼窩内出血のリスクが上がります.また,鼻をかむと副鼻腔からの空気が眼窩内に入り込むため,なるべく避けるように指導します.1454あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024(70)