‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

硝子体手術のワンポイントアドバイス:269.ドレープの息漏れによる術中視認性低下(初級編)

2025年10月31日 金曜日

269ドレープの息漏れによる術中視認性低下(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに多くの硝子体術者が経験していることと思われるが,術中にドレープの息漏れにより,広角眼底観察システムのレンズに結露を生じ,術中の視認性が低下することがある.
●症例提示患者は55歳,男性.右眼の上耳側に弁状裂孔を認め,上方から耳側にかけて胞状の網膜.離が生じていた.この患者に対して超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+硝子体手術を施行した.ドレープ装着時に鼻側の皮膚面との接着が不十分で,同部位から息漏れが生じた.白内障手術はとくに支障なく遂行できた(図 1)が,硝子体手術で広角眼底観察システム(Resight)のレンズをセットしたときに,レンズに結露が生じて眼底の視認性が低下した(図 2).ドレープを一部切除したうえで,皮膚面の水分を十分にガーゼで除去し,滅菌テープを同部位に貼付して息漏れを防いだ(図 3)ところ,眼底の視認性は一時改善した(図 4).しかし,手術終了時に再度息漏れによりレンズに結露が生じた.Resightのレンズを少し挙上したところ結露は軽減し,最後まで手術の遂行が可能となった.

●ドレープの息漏れの予防と対策ドレープの息漏れは,多くの場合トレープと皮膚との接着が弱く,鼻側のドレープが浮き上がることによって生じる.予防としては眼周囲消毒のあと,とくに鼻側の皮膚に水分が残らないようにしっかりとガーゼで拭き取り,接着力の強いドレープを使用することが重要である.また鼻の高い患者では,鼻の湾曲に沿って丁寧にトレーピングを行う.息漏れが生じた場合の応急処置としては,ドレープを一部切除して皮膚面の水分を確実に除去し,滅菌テープを貼付する.レンズを挙上することで(91)0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 図 1 術中所見(1)ドレープ装着時に鼻側の皮膚面との接着が不十分で,ドレープが浮かび上がり同部位から息漏れが生じた.図 2 術中所見(2)硝子体手術で広角眼底観察システムのレンズをセットしたときに,レンズに結露が生じて眼底の視認性が低下した.図 3 術中所見(3)滅菌テープを貼付して息漏れを防いだ.
図 4 術中所見(4)眼底の視認性は一時改善した.

も結露は軽減するが,眼底像が縮小するといった欠点がある.Moriokaらは二酸化炭素イメージングカメラを用いて呼気による気流の変化を可視化し,粒子カウンターを使用して眼の周囲の粒子数の変化を評価した.その結果,ドレープの鼻側が皮膚から.がれた場合は,眼の周囲に気流が生じ粒子数が大幅に増加することで術野が汚染される可能性が高くなることを示した1).硝子体手術に限らず,眼科手術のドレーピングは息漏れが生じないように心がけるべきである.文   献
1)MoriokaM,TakamuraY,MiyazakiHetal:Relationshipbetweensurgical.eldcontaminationbypatient’sexhaledairandthestateofthedrapesduringeyesurgery.SciRep13:5713,2023あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  1309 

考える手術:Digital assisted vitrectomy

2025年10月31日 金曜日

考える手術.監修 松井良諭・奥村直毅 Digital assisted vitrectomy
奥田吉隆医療法人奥田眼科,八尾徳州会総合病院眼科C
Digital assisted vitrectomyとは,硝子体手術においてデジタル技術を活用する手法の一つである.とくにデジタル技術による術中の視認性の向上は,手術結果に大きく貢献する.眼科手術の歴史は肉眼観察下の外科手術で始まり,1970~1980年代に手術顕微鏡を得て飛躍的に進歩した.手術顕微鏡は術野を直接観察するものと,カメラで撮像してモニター映像を観察するものがあるが,近年は後者が注目されてきている.その代表的ラの利用とデジタル技術による映像加工は,HUSの大きな利点であり,コントラストと色調を変換することで,鏡筒での肉眼観察よりも組織の機造が強調され,判別しやすくなる点と,低照明での手術が可能という点は,硝子体手術においてはとくに有利に働く.また,HUSを使用することで術者と同等の術野を他のスタッフも共有できることから,より質の高い教育が可能となる.そのほかにも術者の姿勢の改善,異なる情報の術中同時表示として術中 OCTやサージカルガイダンス(切開位置,前.切開位置,乱視軸の投影)など,さまざまな digital assistがあり,今後さらなる発展をとげる可能性がある.聞き手:硝子体手術におけるCheads-upsurgery(HUS)加工機能,これらによって,各手術場面において最適なの利点はなんですか?術野が得られ,より質の高い硝子体手術が可能になりま奧田:日本の硝子体術者の多くは顕微鏡で直接観察してす.また,リアルタイムで各場面の術野を共有することいると思われます.それはCHUSシステムへの慣れや導で,若手医師の手術教育やメディカルスタッフを含めた入コストなどの問題があるからだと思います.現時点で手術チーム全員の状況把握にも役立ちます.は,HUSシステムは顕微鏡を覗く直接観察システムに取って代わるシステムではないかもしれません.しか聞き手:DigitalCassistedvitrectomyの工夫を教えてくし,硝子体手術においてCHUSはたくさんの利点がありださい.ます.光量の軽減,高度な被写界深度,高い解像度での奧田:HUSでは,設定を変えることでより良い術野を強拡大機能,画像鮮明化機能,特定の色を強調する画像確保できます.HUSの代表的な機器にはCARTEVO
(89)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1307 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

考える手術
(Zeiss社),SeeLuma(BauschC&Lomb社),NGENU-ITY(Alcon社)などがありますが,今回は私が使用しているCNGENUITYを例に解説します(図 1).まず,硝子体郭清の場合ですが,BlueCEnhancement,CGreenEnhancementを入れます.従来,硝子体はライトガイドなどで照らし可視化しますが,ColorCEnhancementを入れることでより精度の高い可視化が実施し,硝子体郭清の精度が上がります.また,硝子体出血の場合はSaturationをC0に近づけ,画面をモノクロにします.そうすることで出血に隠れている網膜の視認が可能となり,カッターによる網膜損傷や網膜誤吸引を回避し,より安全に硝子体郭清が可能となります.また,トロカール抜去時に結膜下出血などで視認性が悪いときも有用です.空気置換時の場合は,RGBのCYellowを増やし,HUEを+に増やします.網膜.離の手術時などで行う空気置換時は多くの光の収差が生じ,眩しさにより視認性が低下することが多々あります.しかし,この設定により収差は軽減し,より良い術野を確保できるため,網膜下液の排液やレーザー凝固などの手技もより精度が高くなります.黄斑操作の場合は,NGENUITY EnhanceC-mentを入れ,Gammaを下げます.ブリリアントブルーG使用時はCBlueを,インドシアニングリーン使用時はGreenを入れます.そうするとCILM.離時の視認性が改善します.さらに,強度近視眼の黄斑操作の場合は,超眼軸で眼底が赤・黄色い症例にはCHUEを+に増やし,赤色や黄色を強調してモノクロにすると,コントラストがはっきりし,黄斑操作が楽になると思われます.このように設定を変えることで眼科用染色剤の濃度も下げることができ,より網膜に優しい手術が可能となります.HUSシステムにはまだまだたくさんの細かい設定があり,それらを駆使すればよりさまざまな場面において精度の高い術野を得られる可能性があります.聞き手:DigitalCassistedvitrectomyによる教育についてどう考えていますか?奧田:HUSシステムは今後,より普及していくと考えております.HUSシステム以上に教育に向いているCdigitalassistはないと考えています.その理由はさまざまな設CRGBK値 Gain 
定を駆使したより精度の高い術野を得られるだけでなく,その術野をリアルタイムで手術室内のすべての人と共有できるからです.当院では,視能訓練士と看護師対象に,4カ月間「鏡筒のみで教育したグループ」「HUSシステムのみで教育したグループ」を比較しました.その結果.鏡筒群ではC4カ月で白内障手術,術中合併症も含め完璧に対応できる人がC6人育ちましたが,硝子体手術や他の手術まで完璧にこなせたのはC3人でした.一方,HUS群では,白内障と硝子体を完璧にこなせたのがC5人,さらにどの手術でも完璧にこなせる人はC2人でした.もちろん個人差はありますが,教育効果の点ではCHUSシステムが優れていると思います.これは若手医師の教育にもいえます.HUSシステムによる教育は,より短期間で若手医師やメディカルスタッフが成熟する助けになる可能性がありますし,このことは高い水準の眼科医療を提供するために必要であると考えています.聞き手:今後のCdigitalCassistedvitrectomyへの期待は何ですか?奧田:HUSシステムはまだまだ発展過程にあります.現在でも術野を映しているモニターにCpictureCinCpic-ture(PIP)でCOCT画像などを挿入可能ですが,今後はさまざまな外来画像を術野にオーバーレイできるシステムが開発されることを期待しています.そうなれば,黄斑上膜や無灌流領域などの範囲を術中に精確に確認できます.また,緑内障患者の黄斑円孔の手術では,暗点拡大を防ぐ目的で,マイクロペリメータを用いて内境界膜.離の位置と範囲を決定した報告があります1).将来的には,digital assistedによりマイクロペリメータの検査結果を術野にオーバーレイすることで,緑内障患者の黄斑処理時に視機能の悪化をさらに防ぐことが可能になると考えられます.このようにCdigitalCassistedCvitrecto-myには今後も多くの可能性があると考えています.文   献1)MatobaCR,CKanzakiCY,CMoritaCTCetal:Microperimetry-guided inverted internal limiting membrane .ap site selec-tionCtoCpreserveCretinalCsensitivityCinCmacularCholeCwithCglaucoma. Am J Ophthalmol Case RepC33:102007,C2024C
Digital Picture 図 1 NGENUITYのおもな設定項目RGB:モニター画像全体のCRGHを調整する.K値:色温度モード使用時のCKelvin値の変更で暖色と寒色のバランスを調整する.Gain:カメラ感度を招請・変更する.CDigital Picture:モニター画像の輝度・コントラスト・中間色の明るさ・色調・彩度を調整・変更する.
1308  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025(90)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性とサプリメント

2025年10月31日 金曜日

●連載◯160監修=安川 力 五味 文     140 加齢黄斑変性とサプリメント沢 美喜堺市立総合医療センターアイセンター
米国の大規模スタディCAREDS・AREDS2においてビタミンCC・E,亜鉛,ルテイン・ゼアキサンチンを含有するサプリメント摂取による中期・後期加齢黄斑変性(AMD)に対する予防効果が示された.わが国の新ガイドラインでもサプリメント摂取推奨が明記され,発症予防に対するサプリメントの重要性が再認識されている.
はじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は先進国における失明原因の主因となる疾患であり,高齢化の進行とともに患者数は増加している.その病態背景には喫煙や光線曝露による酸化ストレスの関与が推察され,AMD予防においては「抗酸化」が重要視されている.米国CNationalCEyeInstitute(NEI)主導の大規模臨床試験,Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudy(AREDS)ならびにその後のCAREDS2では,ビタミンC・Eや亜鉛などの抗酸化作用を期待したサプリメントがCAMD発症予防につながるかどうかを長期的に調査した1,2).C
AREDS・AREDS2AREDSでは,抗酸化サプリメント配合の最適な組み合わせ,摂取量について調査を行った1).2001年の調査では,ドルーゼンのサイズ,対側眼CAMD発症の有無に基づいて四つカテゴリーに分類しCAMD発症の有無を検証した.少数の小型・中型ドルーゼンを有するカテゴリーC1・2ではサプリメントの有効性はみられず,カテゴリーC3(多数の中型・大型軟性ドルーゼン)とC4(中心窩外の地図状萎縮もしくはCAMDの僚眼)を合わせた群でのC5年CAMD発症率は,プラセボでC28%,抗酸化物質+亜鉛の併用摂取でC20%であった.この結果から,サプリメントのCAMD発症予防効果を示すことができた.その一方で,サプリメントの有害事象として,高容量亜鉛摂取による地図状萎縮発生,男性の泌尿器系異常,AMD患者には喫煙者が多いことからCb-カロテン摂取に伴う肺癌リスクとの関連が問題視されていた.そこで,亜鉛減量やカロテノイド変更などの検証が求められ,次なるCAREDS2が実施された.AREDS2では,ハイリスク群のカテゴリー3・4の症例に限定して調査が行われた2).先行のCAREDSサプリメントの組み合わせを基本として,bカロテン削除・ル(87)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY テイン・ゼアキサンチンへの変更,亜鉛減量などを検討した.さらに,魚などに多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)/エイコサペンタエン酸(EPA)などのC~-3多価不飽和脂肪酸の追加摂取の効果についても検討したものの,その有効性を見出すことはできなかった.亜鉛25Cmgへの減量はCAMD発症率への影響がなく,bカロテンからルテイン・ゼアキサンチンへの置き換えは予防効果が増強することが示された.また,食事アンケートに基づいて,緑黄色野菜摂取頻度をC4群に分けたサブ解析において,緑黄色野菜摂取のもっとも少ない群においてはCAMD発症予防効果もみられた.

サプリメント摂取に関する国内の報告小規模ではあるが,国内でのCAMDに対するルテインサプリメント研究の論文が散見される.JFAM studyは,片眼が後期CAMDで,僚眼に眼底自発蛍光異常を認める患者を長期に観察した国内の多施設研究である.眼底自発蛍光異常を有するCAMD僚眼のC5年間の後期CAMD発症率はC30.4%であり,サプリメント非摂取者では新生血管型CAMD(neovascular-AMD:nAMD)進行リスクが高かったと発表している3).また,筆者らが行った単施設研究では,片眼性nAMD患者C39人を対象とし,20Cmgルテインを半年間摂取してもらい,AMD対側眼の黄斑色素密度と血漿ルテイン濃度をC3カ月ごとに測定した.血漿ルテイン濃度はC3カ月でベースラインの約C2倍,6カ月で約C3倍と有意に増加し(図 1),黄斑色素密度も上昇傾向がみられた(図 2)4).さらに,疫学調査に基づくCAMDリスク因子と摂取開始前の血漿ルテイン濃度との関連についてサブ解析を行った.高齢化(図 3),男性,現喫煙者,週C1回以下の緑黄色野菜摂取患者では血漿ルテイン濃度が低い傾向がみられた.興味深いことに,食事アンケートに基づく野菜摂取頻度と血漿ルテイン濃度には有意な相関がみられ(図 4),毎日C1回以上の摂取群に比べて,週C1回以下の摂取群の平均血漿ルテイン濃度は約C1/3であっあたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  1305 (ng/ml)(DU)(ng/ml) 0.52 180 160 0.50 

140 120 100
血漿ルテイン濃度0.48 0.46 0.44 80 60 40 0.42 20 0 70 80900.40 
ベースライン3カ月6カ月年齢(歳)
ベースライン3カ月6カ月図 1 ルテイン 6カ月摂取による平均血漿ルテイン濃度の推移片眼性CnAMD患者C39例を対象としたルテインC20Cmg含有サプリメントのC6カ月摂取による平均血漿ルテイン濃度の推移を示す.血漿ルテイン濃度は有意に増加した.(文献C4から改変引用)(ng/ml) 180*p<0.05図 2 ルテイン 6カ月間摂取による平均黄斑色素密度の推移片眼性CnAMD39例を対象としたルテイン20Cmg含有サプリメントのC6カ月摂取による平均黄斑色素密度の推移を示す.黄斑色素密度は増加傾向がみられた.DU:density unit.(文献C4からの改変引用)

おわりに図 3 ルテイン摂取前における年齢と血漿ルテイン濃度の関係年齢とサプリメント摂取前の血漿ルテイン濃度には負の相関がみられた.血漿ルテイン濃度=333.41734~C3.8749641×年齢,RC2=0.225841,p<0.01(文献C4からの改変引用)
ベースライン血漿ルテイン濃度160 140 120 100 80 60 40 20 0
毎日1回以上週2~6回週1回以下緑黄色野菜摂取頻度
2024年に発表された「新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン」で示されているように,超高齢社会におけるCAMD発症予防はきわめて重要である.AMDを発症していても,もう一方の眼の視力が良好であれば日常生活への大きな支障はない.多忙なCAMD診療の中でも,禁煙指導やルテインサプリメントによる予防啓発に取り組む必要があると考える.文   献
1)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup:ACran-図 4 ルテイン摂取前における緑黄色野菜摂取頻度domized, placebo-controlled, clinical trial of high-dose sup-と血漿ルテイン濃度の関係
緑黄色野菜摂取頻度をC3段階(毎日C1回以上,週C2~6回,週C1回以下)に分け,サプリメント摂取前の血漿ルテイン濃度の比較をしたところ,摂取頻度と血漿ルテイン濃度には有意な相関がみられた.(文献C4からの改変引用)た.摂取頻度が極端に少ない理由は,野菜嫌いという食習慣の偏り,ワーファリン内服による野菜摂取制限などであった.

地図状萎縮に対するルテインサプリメント最近発表されたCAREDS事後解析の論文において,ルテインサプリメント摂取群では中心窩方向への萎縮拡大面積が緩やかであったという結果が報告された5).萎縮型CAMDに対するルテインサプリメントの効果も期待できるかもしれない.C1306  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025plementationCwithCvitaminsCCCandCE,CbetaCcarotene,CandCzincCforCage-relatedCmacularCdegenerationCandCvisionloss:AREDSCreportCno.C8.CArchCOphthalmolC119:1417-1436,C20012)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:CLutein+zeaxanthin and omega-3 fatty acids for age-relat-edCmaculardegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C2013
3)OshimaCY,CShinojimaCA,CSawaCMCetal:ProgressionCofCage-relatedCmacularCdegenerationCinCeyesCwithCabnormalCfundusCauto.uorescenceCinCaJapaneseCpopulation:JFAMCstudy report 3. PLoS OneC17:e0264703,C2022
4)SawaCM,CShuntoCT,CNishiyamaCICetal:E.ectsCofCluteinCsupplementation in Japanese patients with unilateral age-relatedCmaculardegeneration:TheCSakaiCLuteinCStudy.CSci RepC10:5958,C2020
5)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup;Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:OralCanti-oxidantCandCLutein/ZeaxanthinCsupplementsCslowCgeo-graphicCatrophyCprogressionCtoCtheCfoveaCinCage-relatedCmacular degeneration. OphthalmologyC132:14-29,C2025

(88)

緑内障セミナー:呼吸機能と眼圧の関連

2025年10月31日 金曜日

●連載◯304監修=福地健郎 中野 匡
304.呼吸機能と眼圧の関連寺内 稜東京慈恵会医科大学眼科学講座
近年のビッグデータ解析から,呼吸機能と眼圧には関連性があると報告されている.慢性閉塞性肺疾患(COPD)では眼を含むさまざまな臓器で血流障害・低酸素血症をきたしていると考えられ,眼科疾患との関連が注目されている.●はじめに
眼圧下降療法は緑内障に対する唯一のエビデンスのある治療法であり,眼圧についての知見を深めることは緑内障診療において重要である.眼圧は常に一定の値をとるのではなく,さまざまな要因の影響を受けながら常に変動している.たとえば,血圧や血糖値が高いと眼圧は高くなる.短期的な変動としては日内変動がよく知られており,長期的には日本人の眼圧は加齢とともに低下する.近年では,大規模な臨床情報を扱うビッグデータ研究によって全身因子と眼圧との新たな関連性があいついで発見されている.筆者らは呼吸器疾患と眼の関連に着目し,全国C28万人の眼圧データを用いて,スパイロメトリーで測定された呼吸機能と眼圧の関連を調査した1).C
●閉塞性換気障害と眼圧
本調査では,人間ドック受診者C283,199名(平均C51.7C±10.3歳)を対象に,非接触型眼圧計およびスパイロメトリーの測定結果を用いた.代表的な呼吸機能評価の指標である一秒率(FEV1%),対標準一秒率(%CFEV1),対標準努力肺活量(%CFVC)(図 1)と眼圧値の関連を検討し,血圧や血糖値などの既知の眼圧影響因子は共変量として調整した.その結果,FEV%と眼圧には正の相関があることが示唆された(b=0.0115,95%CCI:0.013~0.016,p<0.001).FEV%は呼吸機能障害のなかでも閉塞性換気障害を評価す1る代表的な指標であり,70%未満の場合は閉塞性障害が疑われる.FEV%がC95~100%の健常者C4,940名とCFEV%がC60%未満1のC2,288名を比較すると,後者の眼圧は1前者と比較してC0.89mmHg低いことが明らかになった(図 2).この結果から,呼吸機能は眼圧に対する独立した影響因子であることが示唆され,その効果量がC1CmmHg弱にまで及ぶとすれば,臨床的なインパクトは決して小さくないと考えられた.(85)

● COPDは眼圧を下げる?閉塞性換気障害をきたす代表的な疾患として慢性閉塞性肺疾患(chronicCobstructiveCpulmonarydisease:COPD)があげられるが,本調査ではCFEV%が低いグループで喫煙率が高かったため,閉塞性換気1障害の原因としてCCOPDが関与していることが示唆された.このことからCCOPDによる閉塞性換気障害の増悪に伴って眼圧が低下する可能性が考えられた.COPDでは血管収縮に働くエンドセリンC1の血清中濃度が上昇している(図 3).この影響が眼組織にも及んでいるとすれば,エンドセリンC1による過剰な血管収縮によって毛様体の血流障害・低酸素状態が引き起こされ,房水産生能が障害される可能性がある.実際のところ,COPD患者に対して光干渉断層血管撮影(opticalCcoherenceCtomogra-phy angiography:OCTA)を実施した研究では,低酸素状態の悪化と関連して網膜表層・深層および視神経乳頭周囲の血管密度は低下し,中心窩無血管域の有意な拡大も認められた2).さらにCCOPDでは脈絡膜厚が菲薄化しているとの報告もある3).これらの知見をふまえると,COPDにおいて房水産生能が低下しているという仮説は十分考慮に値すると思われる.一方でCCOPDでは肺に溜めた空気を吐き出す際に努力呼吸となる.これに伴い胸腔内圧が上昇し,頭部からの静脈還流が低下することで眼圧が上昇する可能性も考えられる.このようにCOPDでは眼圧を低下させる機序と上昇させる機序の両方が考えられるが,筆者らの研究結果を考慮すると,眼圧低下に作用する機序がより強く影響しているものと思われる.C
● COPDと緑内障COPDは眼圧だけでなく緑内障そのものとの関連も指摘されている.UKBiobankのC85,369名を対象とした研究では,肺機能検査の各指標と眼圧は正の相関を示すとともに,緑内障の有病率と有意な逆相関の関係がああたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  1303 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

一秒率対標準一秒率図 1 換気障害の分類換気障害は閉塞性および拘束性に大別される.閉塞性換気障害は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息が代表的な疾患であり,一秒率が低下する.拘束性障害は肺線維症や間質性肺炎などで対標準肺活量が低下する.

ることが明らかにされた4).また,8,941名を対象とした韓国からの報告でも,COPDは女性において緑内障のリスクになることが示唆されている5).COPDが緑内障リスクを高める機序は不明であるが,眼圧上昇を介さずに網膜の微小血管障害や虚血性変化などが関与している可能性がある.C
●ま と め
このように近年の大規模データを用いた研究を中心に,呼吸機能と眼の関連があいついで報告されている.睡眠時無呼吸症候群と緑内障の関連はすでによく知られているが,COPDを含めた他の呼吸器疾患も緑内障診療において重要かもしれない.前述の通りCCOPDが眼圧や緑内障発症に影響を及ぼす機序については仮説の範疇を出ず,ほとんど解明されていないのが現状であり,今後のさらなる研究が期待される.C1304  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,202590 to 95 85 to 90 80 to 85 75 to 80 70 to 75 65 to 70 60 to 65 under 60 
-1.5-1.0-0.5 0.0 0.5 眼圧(mmHg)図 2 1秒率( FEV1%)と眼圧の関係 FEV1%がC95%以上のグループを基準としてCFEV%の低下に伴う眼圧の変化を示す.年齢,性別,BMI,血圧1,HbA1c,心拍数,ヘマトクリット,喫煙,飲酒,運動習慣などを共変量として調整した.図 3 慢性閉塞性換気障害( COPD)が眼圧に与える影響COPDでは努力呼吸に伴う胸腔内圧上昇により頭部からの静脈還流が低下し,眼圧上昇をきたす機序が考えられる.一方で過剰なエンドセリン1の産生は,毛様体への血流障害を引き起こし,房水産生能を低下させる可能性がある.文   献1)TerauchiCR,CFukaiCK,CFujimotoCSCetal:RelationshipCbetween intraocular pressure and pulmonary function. Sci RepC15:21187,C2025
2)Songur MS, .ntepe YS, Bayhan SA et al:The alterations ofCretinalCvasculatureCdetectedConCopticalCcoherenceCtomography angiography associated with chronic obstruc-tive pulmonary disease. Clin Respir JC16:284-292,C2022
3)Alim S, Demir HD, Yilmaz A et al:To evaluate the e.ect ofCchronicCobstructiveCpulmonaryCdiseaseConCretinalCandCchoroidalCthicknessesCmeasuredCbyCopticalCcoherenceCtomography. J OphthalmolC2019:7463815,C2019
4)YuCJ,CZhangCY,CKamCKWCetal:LungCfunctionCasCaCbio-markerCforglaucoma:TheCUKCBiobankCStudy.CInvestCOphthalmol Vis SciC66:48-48,C2025
5)LeeCJS,CKimCYJ,CKimCSSCetal:IncreasedCriskCofCopen-angleCglaucomaCinCnon-smokingCwomenCwithCobstructiveCpatternCofCspirometricCtests.CScienti.cCReportsC12:16915,C2022

(86)

屈折矯正手術セミナー:ICL縦固定の実際

2025年10月31日 金曜日

●連載◯305監修=稗田 牧 神谷和孝 305. ICL縦固定の実際北澤世志博アイクリニック東京
有水晶体後房レンズのCimplantable collamer lens(ICL)は,ホールの開発により虹彩切除が不要になったことで必ずしも横固定にする必要がなくなった.そこでレンズのサイズ選択に悩む場合やトーリックCICLで回旋を避けるために縦固定が施行されている.しかし,縦固定用のサイズ決定方法が未確立の現時点では,全症例を縦固定にするのではなく横固定と縦固定を使い分けることが望ましい.● ICLが耳側切開&横固定であった理由
スターサージカル社(以下,STAAR社)の有水晶体後房レンズCimplantableCcollamerlens(ICL)はC2010年に厚労省の承認を受けたが,当時はホールがなく,虹彩切開・切除が必要であった.そのため切除した房水循環の穴がレンズで閉鎖されないようにレンズは水平に固定しなければならなかった.その後C2014年にホールCICLが登場して虹彩切除は不要になったが,レンズ挿入時に透明水晶体に触れないように,また眼内に挿入後に回転させる必要がないことから,レンズは耳側切開挿入で水平固定が安全とされた.また,トーリックCICLは乱視軸が垂直方向に入っていたため,レンズは水平方向,すなわち横固定にしなければならなかった.C
● ICL縦固定の必要性

ICLにはC12.1,12.6,13.2,13.7のC4サイズがあるが,術後にレンズと水晶体との距離(vault)が極端なChighvaultやClowvaultになり,レンズのサイズ交換が必要になることがあった.実際,筆者がC2007年C11月~2025年C8月にCICLを挿入したC16,609例C33,067眼のうち,ホールCICL 15,687例C31,246眼においてサイズ交換が必要となったケースがC30例C38眼(0.12%)あった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomorgaphy:OCT)のCCASIA2に推奨サイズと術後予想Cvaultが表示されるCNK式とCKS式が搭載されて,サイズの問題はかなり減った.しかし,両式の推奨サイズが異なる場合は,術後予想CvaultがC500Cμmに近いサイズを選択していたが,結果として全体でC18.8%が術後Chighvaultに,そしてC16.9%がClowvaultになった(図 1).また,トーリックCICLでは,サイズが小さく極端なClow vaultにな(83)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 
るとレンズが縦に90°
回転したり,vaultが十分あるにもかかわらずレンズが回旋することで乱視矯正効果が減弱してしまうケースが散見された.このような場合には一つ大きなサイズに入れ替えて縦固定にするとレンズの再回旋が防げることから,レンズを縦固定にするという発想が生まれた.つまり,ホールICLの開発によりレンズは必ずしも水平方向に固定する必要がなくなり,トーリックの回旋を防ぐためにもレンズは最初から縦固定にするほうがよいのではないかとの考えから,縦固定1,2)の臨床成績が報告されている.また,STAAR社が縦固定用のトーリックICLの生産を増やしたこともあり,レンズの縦固定が一般的に施行されるようになった.C● ICL横固定縦固定v.s.筆者はCASIA2による推奨サイズが両式で異なる場合を中心に,サイズ選択に迷う場合にはサイズが大きいほうのレンズを縦固定にする方法を採用した.選択した割合(%) 100 ■ low vault ■ normal vault ■ high vault 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0サイズ図 1 両式の推奨サイズが異なった症例の術後 Vault(207眼)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  1301 
横固定(4,627眼)縦固定(613眼)Normal vaultを 200~800μmと定義0.9%3.1%4.4% 100.0 ■ low vault ■ normal vault ■ high vault 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 
40.0 30.0
図 2 選択したレンズのサイズ(固定方向別) 20.0 10.0レンズのサイズを方向別にみると,横固定ではC12.6がC0.0 12.1 12.6 13.2 13.7全体割合(%)

■ 12.1 ■ 12.6 ■ 13.2 ■ 13.7 ■ 12.1 ■ 12.6 ■ 13.2 ■ 13.7 
65.1%ともっとも多く,ついでC13.2,12.1の順となったのに対して,縦固定ではC13.2がC56.4%ともっとも多く,ついでC12.6,12.1の順となった(図 2).また,縦固定を施行するようになって術後Cvaultは全体でC78.3%がCnor-malvaultとなり,lowvaultはC6.7%,highvaultは15.0%でChigh vaultやClow vaultの症例を減らすことができた(図 3).とくに縦固定にした症例だけをみると,全体のうちC84.3%がCnormalvaultでClowvaultはC10.4%,highvaultはC5.2%で,多くの症例で適切な術後vaultを得ることができた(図 4).それならば全症例を縦固定で施行すればよいのではないかという意見もあるが,今回の結果はあくまでもレンズのサイズ選択で悩む場合においてのみ縦固定を施行した結果であること,さらに全症例を縦固定にした場合はレンズのサイズがC4サイズしかないことからClow vaultやChigh vaultの症例が増えることが予想される.また,縦固定は横固定よりも術後Cvaultが有意に低く,術前の予想Cvaultとの差も大きいという報告3)もあり,現時点では両式の推奨サイズを参考に基本的には横固定とするが,サイズ選択に悩む場合は縦固定をオプションとして採用するのが最善の方法と考えられる.C●適切なサイズ選択の限界と今後
ICLの術後Cvaultは両式のたび重なる改良やサイズ選択に悩む場合に大きめのレンズを縦固定にすることで適切になる症例が増えるが,それでも完全に問題が解決されたわけではなく,少数例ではあるが術後にサイズ交換が必要になることもある.近年,機械学習による縦固定の術後Cvault予想式の報告4)や両式の縦固定用のノモグラムも開発中であること,さらにCSTAAR社はCICLのサイズ自体を現在のC4サイズからC6サイズに増やす計画C1302  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025サイズ図 3 サイズごとの術後 Vault(全症例 5,240眼)
割合(%) 100.0 ■ low vault ■ normal vault ■ high vault 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 サイズ図 4 サイズごとの術後 Vault(縦固定のみ 613眼)
であり,近い将来,レンズのサイズ問題で入れ替える必要がなくなることに期待したい.文   献1)Kamiya K, Ando W, Hayakawa H et al:Vertically .xated posteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCthrough a superior corneal incision. Ophthalmol Ther 11:C701-710,C2022
2)LeeCY,CHanCSB,CAu.arthCGUCetal:VerticalCimplantableCcollamer lens as a novel method to increase rotational sta-bility. PLoS One 19:e0308830,C2024
3)Ouchi M:Vault of the phakic intraocular lens during ver-tical and horizontal .xation within patient comparison. Sci Rep 15:10002,C2025
4)ShimadaCR,CKatagiriCS,CHoriguchiCHCetal:PredictionCofCvaultsCinCeyesCwithCverticalCimplantableCcollamerClensCimplantation. J Cataract Refract SurgC51:45-52,C2025

(84)

眼内レンズセミナー:Marfan症候群における毛様体突起と毛様溝の形成不全

2025年10月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木 洋461. Marfan症候群における毛様体突起と 杉浦 毅 杉浦眼科 毛様溝の形成不全 
Marfan症候群を有し水晶体偏位をきたしたC3例C6眼を観察した.6眼とも毛様体突起は正常眼でみられる眼内に向かう突起がほとんどなく,毛様体突起の幅は細く萎縮していた.毛様体突起間の隙間も大きく,毛様体突起同士の癒合も認めなかった.このため毛様溝は形成されていなかった.●はじめにMarfan症候群における水晶体偏位はCZinn小帯断裂によって発症するが,その原因となっているであろう毛様溝と毛様体突起についての研究はわずかしかない.Palvinらは,超音波生体顕微鏡(ultrasoundCbiomicros-copy:UBM)を用いてCMarfan症候群の生体眼を調べ,Zinn小帯断裂と毛様体突起の平坦化を認めたと報告した1).筆者はCMarfan症候群によって水晶体亜脱臼をきたしたC3例C6眼において,眼内レンズ毛様溝縫着術時に眼内内視鏡を用いて毛様溝を観察し,毛様体突起の形成不全を認めたので報告する2).C
●症   例はじめにCMarfan症候群を有さない無水晶体眼の毛様溝を示す(図 1).毛様体突起は太く内側に張り出し,その根元の部分では隣同士が癒合し面を形成している.この面と虹彩裏面で毛様溝が形成される.症例C1はC46歳,女性.水晶体亜脱臼のため水晶体摘出術と眼内レンズ毛様溝縫着術を両眼に施行した.眼内レンズ縫着の前に,内視鏡で観察したところ,両眼とも毛様体突起の幅は細く萎縮していて眼内に向って張り出す突起がなかった.毛様体突起間の隙間も大きく,正常眼でみられる毛様体突起同士の癒合も認めなかった.このため,毛様溝も形成されていなかった(図 2).症例C2はC53歳,男性.両眼の水晶体亜脱臼のため水晶体摘出術と眼内レンズ毛様溝縫着術を施行した.内視鏡による観察で,両眼とも症例C1と同様の毛様体突起の形成不全を認めた(図 3).症例C3はC41歳,男性.36歳時に右眼の,41歳時に左眼の水晶体亜脱臼を発症し,水晶体摘出術と眼内レンズ毛様溝縫着術を施行した.内視鏡による観察で,右眼は毛様体突起の形成不全を認めた.左眼は,10時方向の毛様体突起は隣同士の癒合をわずかに認め,面をわずかに形成していたが,毛様溝を形成するほどの毛様体突(81)起の張り出しはなかった(図 4).C
●考   按Marfan症候群における水晶体偏位は,変異フィブリリン-1蛋白質により,Zinn小帯が脆弱化して生じる3).しかし,毛様体突起の形成不全も関係している可能性がある.ここで問題となるのは,Zinn小帯の脆弱化と毛様体突起の形成不全のどちらが先に起こるかである.Zinn小帯の脆弱化が先だと仮定すると,脆弱なCZinn小帯は,胎生期に毛様体突起を十分に内側に牽引できないため,毛様体突起は内側に張り出すように形成されないと推測される.一方,毛様体突起の形成不全が先だと仮定すると,毛様体突起が十分形成されないため,水晶体赤道部と毛様体突起の距離が長くなり,Zinn小帯が引き延ばされて脆弱になると推測される.筆者は,水晶体.内摘出術後C16年とC21年を経た無水晶体眼の毛様溝をCUBMと眼内内視鏡で観察したが,どちらも毛様体突起は萎縮していなかった4).この事実から,毛様体突起の形成不全が先に生じて,Zinn小帯を引き延ばして細くなり,さらに,変異フィブリリン-1蛋白質の作用もあって,Zinn小帯の脆弱性と断裂を生じると推論するが,今後の研究課題である.文   献1)PavlinCCJ,CBuysCYM,CPathmanathanT:ImagingCzonularCabnormalitiesCusingCultrasoundCbiomicroscopy.CArchCOph-thalmolC116:854-857,C1998
2)SugiuraCT,CSakimotoT:CiliaryCprocessesCandCciliaryCsul-cusChypoplasiaCinCMarfanCsyndrome.CJCRSCOnlineCCaseCRepC12:e00136,C2024
3)ZeiglerCS,CSloanCB,CJonesJA:TheCpathophysiologyCandCpathogenesisCofCMarfanCsyndrome.CAdvCExpCMedCBiolC1348:185-206,C2021
4)Sugiura T, Kaji Y, Tanaka Y:Anatomy of the ciliary sul-cusCand the optimumCsiteCofCneedleCpassage forCintraocularClensCsutureC.xationCinCtheClivingCeye.CJCCataractCRefractCSurgC44:1247-1253,C2018

あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1299 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 
図 1 Marfan症候群を有さない無水晶体眼の毛様溝の内視鏡画像

図 2 症例 1(46歳,女性)の毛様溝の内視鏡画像 a:右眼C2時方向,Cb:右眼C8時方向,Cc:左眼C10時方向,Cd:左眼C4時方向.
図 3 症例 2(53歳,男性)の毛様溝の内視鏡画像 a:右眼C2時方向,Cb:右眼C8時方向,Cc:左眼C10時方向,図 4 症例 3(41歳,男性)の毛様溝の内視鏡画像 d:左眼C4時方向.右眼はC36歳時,左眼はC41歳時.Ca:右眼C2時方向,Cb:右眼8時方向,Cc:左眼C10時方向,Cd:左眼C4時方向.

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 未来のコンタクトレンズ技術(2)

2025年10月31日 金曜日

■オフテクス 提供■ コンタクトレンズセミナー 英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く
22. 未来のコンタクトレンズ技術( 2)土至田 宏聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学/川崎市立多摩病院眼科
英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の最終章「コンタクトレンズ技術の将来像(Contact lens technologies of the future)」1)を前回に引き続き紹介する.
オキュラーサーフィスへのドラッグデリバリー薬物送達の手段としてコンタクトレンズ(CL)を用いるために,多様な材料・構造・放出制御技術が考えられている.点眼薬による治療では,涙液・瞬目・角膜バリアの影響により薬物の生体利用率が低く(5%未満),頻回点眼においてはアドヒアランス低下や全身吸収に伴う副作用のリスクも課題となる.これに対し,CLをドラッグデリバリーシステム(drugCdeliveryCsystem:DDS)として用いれば,薬物を持続的かつ高い精度で眼表面に供給することが可能となる.もっとも基本的なアプローチは,レンズの材料自体に薬剤を含浸・吸着させる手法であるが,単純な含浸では初期バースト放出が避けられず,制御された持続放出には限界がある.このため,薬物放出を制御するための多様な技術が考案されている.分子インプリンティングによる方法は,薬物の分子構造に対応する空間をレンズ内に構築し,薬物の再結合に特異性をもたせることで,放出速度を緩徐にするものである.とくに,アセタゾラミドや非ステロイド性抗炎症薬のCketorolacなどで有効性が示されている.ナノ粒子やリポソームの担持による手法は,薬物を含むナノキャリアをレンズ内に分散させ,これらからの徐放を通じて薬物の時間依存的放出を制御するアプローチである.ヒアルロン酸やカルボキシメチルセルロースなどの高分子と組み合わせることで,粘着性や持続性を向上させる設計も検討されている.層状構造や多層コーティングを用いて中間層に薬剤を保持し,外層を拡散バリアとして機能させることで薬物の流出速度を抑制し,持続性の向上を図るレンズも報告されている.ポリマー被覆やイオノマー膜の利用などにより,特定の薬剤放出プロファイルの設計が可能となる.光応答性材料を利用し,外部光刺激により薬物放出をオンデマンドに制御する技術も研究されている.紫外線(79)や近赤外線などを用いて,光照射に応じて化学構造が変化し,薬物が遊離するシステムが構築されている.また,温度応答性材料や磁気応答性材料も理論的には応用可能であり,外的制御因子を利用した放出制御技術は今後の展開が期待される.実臨床への応用に向けては,安全性,生体適合性,レンズの光学的・物理的特性の保持,製造工程での安定性など,多くの課題も残されているが,点眼薬に代わる新たな投薬手段としてのポテンシャルはきわめて高い.とくにラタノプロストやチモロールなどの緑内障治療薬,ステロイド,抗菌薬,抗真菌薬,抗アレルギー薬などで有望な結果が得られている.

抗菌コンタクトレンズ抗菌CCLは感染症予防を目的とした次世代CCL技術として注目されている.とくに,角膜感染症(例:感染性角膜炎)は視力に深刻な影響を及ぼすことがあり,予防的なアプローチの必要性が高まっている.近年の研究では,レンズ表面や内部に抗菌性物質を導入することで,レンズ自体が抗菌バリアとして機能する可能性が示されている.その設計はおもに,①銀ナノ粒子などの直接的な殺菌作用をもつ素材をレンズ材料に組み込む方法,②抗菌薬をレンズ内に含浸させ,装用中に徐々に放出させるドラッグデリバリー型,③バイオフィルム形成を抑制するための表面改質技術を活用したもの,に大別される.動物実験やCinvitro試験により,多くの抗菌CCLが細菌増殖を抑制する効果が示されており,とくに緑膿菌や黄色ブドウ球菌といった眼感染症の主要な起因菌に対する有効性が確認されている.さらに,薬剤徐放機能を組み合わせることで治療用CCLとしての応用も期待されており,術後感染予防や角膜損傷の治癒促進など,臨床的価値は高いと考えられる.一方で,長期装用における安全性や抗菌成分の安定あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1297 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 性・毒性,さらには耐性菌出現の可能性など,解決すべき課題も多い.今後は規制面での整備や製造コストの抑制,さらには臨床での有効性の実証が求められる.将来的には,個別化医療やスマートレンズ技術との融合により,より高機能かつ安全性の高い抗菌CCLの実現が期待されている.

セラノスティクスセラノスティクス(theranostics)は,治療(therapy)と診断(diagnostics)を融合させた新しい医療概念であり,CL技術においてもその応用が進められている.とくにオキュラーサーフィス(眼表面)は薬物送達や生体情報のモニタリングに適した部位であり,CLをプラットフォームとすることで,個々の患者に最適化された治療・診断の一体化が可能となる可能性が高い.セラノスティックCCLの実装には,リアルタイムでの生体マーカー検出と,同時またはタイミング制御された薬剤放出機能の融合が必要である.具体的には,涙液中のグルコース,炎症性サイトカイン,pH,浸透圧などのバイオマーカーを感知し,それに応じて薬剤を放出するスマートな設計が提案されている.また,これらの検出には,ナノテクノロジーやマイクロセンサー,光学的・電気化学的センシング技術の応用が必須である.近年では,緑内障やドライアイ,アレルギー性結膜炎,角膜感染症などの慢性眼疾患に対して,患者の状態に応じて薬剤放出量を自動制御する機構の開発が試みられている.これにより,過剰投与や副作用のリスクを軽減し,治療効果の最大化をめざすことが可能となる.さらに,セラノスティクスの応用は疾患の早期検出やモニタリングにも拡大しており,たとえば糖尿病網膜症に対する涙液中グルコース濃度の継続的測定を通じた血糖コントロール支援,炎症性眼疾患の活動性モニタリングによる再発予測といった臨床的有用性が期待されている.一方で,複雑なデバイス構成や電源供給,眼表面における生体適合性,長期使用における安定性と安全性など,解決すべき課題も多い.今後は,これらの技術的障壁の克服に加え,個別化医療の流れのなかで,セラノスティクスCCLが眼科診療の新たなスタンダードとなることが期待されている.文   献1)JonesCL,CHuiCA,CPhanCCMCetal:CLEARC-ContactClensCtechnologiesCofCtheCfuture.CContCLensCAnteriorCEyeC44:C398-430,C2021C

写真セミナー:メトトレキサート硝子体内注射による角膜上皮障害

2025年10月31日 金曜日

写真セミナー監修/福岡秀記 山口剛史曽谷 令 497. メトトレキサート硝子体内注射による神戸大学医学部附属病院眼科角膜上皮障害楠原仙太郎神戸大学大学院医学研究科外科学講座眼科分野

図 2 図 1のシェーマ①点状表層角膜障害②渦巻き状角膜症図 1 メトトレキサート硝子体内注射による角膜上皮障害渦巻き状角膜症のフルオレセイン染色後の前眼部写真.角膜周辺部に異常上皮への染色がみられ,中央部に向かって渦巻き状の染色像を呈している.角膜中央部には点状病変が確認できる.

図 3 メトトレキサート投与前のカラー眼底画像生検C1カ月後.黄斑部および黄斑部耳側に黄白色網膜下病変を認める.乳頭鼻側の瘢痕は網膜下生検によるものである.図 4 メトトレキサート投与終了後のカラー眼底画像黄白色網膜下病変は消失している.
(77)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1295 0910-1810/25/\100/頁/JCOPY 眼内悪性リンパ腫の治療のためメトトレキサート(以下,MTX)硝子体内注射を施行し,経過中に角膜上皮障害を発症した症例を紹介する.患者は85歳,女性.左眼に多数の黄白色隆起性網膜下病変を認めた.眼所見から眼内悪性リンパ腫(硝子体網膜リンパ腫)が強く疑われた.硝子体混濁が軽度であったため,硝子体生検に加え網膜下生検を実施した結果,B細胞眼内悪性リンパ腫の確定診断に至った.全身精査で他臓器病変が確認されず,患者が予防的全身治療を希望されなかったことから,眼局所治療としてCMTX硝子体内注射を選択した.寛解導入治療として週C2回のCMTX硝子体内注射を開始したところ,6回目のCMTX投与後に視力低下と渦巻き状角膜症を認めたため,MTX投与を一時中断した(図 1, 2).1カ月の休薬により角膜上皮障害が軽快したことから,MTX硝子体内注射を再開した.20回目のMTX投与後に網膜下病変は完全に消失したため,硝子体内注射は中止とした.以降再発なく経過している(図 3, 4).MTX硝子体内注射は全身化学療法に比して副作用が少なく,眼局所病変に対する制御効果が高いことから,眼内悪性リンパ腫の初期治療として選択されることが多い.筆者らの施設(以下,当院)では初報のプロトコールに準拠し,MTX(400Cμg/0.1Cml)を週2回(4週間),週C1回(8週間),月C1回(9カ月間),計C25回のスケジュールで施行している1).葉酸拮抗薬であるCMTXは,角膜上皮細胞に対して毒性を示すことが知られており,繰り返し硝子体内に投与することにより,本症例のように渦巻き状角膜症が生じ,休薬が必要となる場合もある.しかし,休薬や投薬間隔の延長によって改善が得られることが多い.また,ヒアルロン酸点眼による表層保護や葉酸製剤の内服といった支持療法の有用性も示されている2,3).一方,病勢が強くCMTX治療の継続を優先せざるを得なかったケースでは,角膜障害が遷延し,最終的に不可逆的な視力障害を残した患者も当院で経験している.また,本症例では結膜や角膜輪部の充血は伴っていなかったが,MTX治療中に輪部炎を生じ,それに伴い上皮障害を生じた症例も報告されている4).そのため,各回のCMTX硝子体内注射後には眼表面の詳細な観察を行い,障害が認められた場合には病勢や視機能への影響を考慮し,休薬や支持療法の導入を含めた適切な対応を速やかに検討することが重要である.葉酸製剤は全身投与において,MTXによる副作用を軽減する効果があることが知られており,硝子体内注射に伴う角膜障害に対しても有効であったとの報告がある3).当院では,角膜上皮障害が出現した際にはCMTXの投与を一時中止し,活性型葉酸製剤の内服を併用している.本症例では,MTX硝子体内注射中に生じた角膜上皮障害により一時的な治療中断を余儀なくされたが,MTX休薬により速やかに角膜病変の改善が認められたことから,その後のCMTX硝子体内注射継続が可能となり,網膜下病変の寛解が得られた.本症例はCMTX治療の効果と副作用を正確に評価し,適切な対応を行うことの重要性を示す一例である.しかし,眼内悪性リンパ腫患者のC60~80%は経過中に中枢神経系リンパ腫を発症し,その場合の生命予後は不良である.2009年にわが国で行われた多施設後ろ向き研究では,原発眼内悪性リンパ腫のC5年生存率はC61.1%であった5).MTX硝子体内注射は眼内病変には有効である一方,中枢神経系リンパ腫進展への抑制効果は限定的であるため,生命予後の改善を見すえた集学的な治療戦略の確立が望まれる.文   献1)FrenkelCS,CHendlerCK,CSiegalCTCetal:IntravitrealCmetho-trexateCforCtreatingCvitreoretinallymphoma:10CyearsCofCexperience. Br J OphthalmolC92:383-388,C2008
2)GorovoyCI,CPrechanondCT,CAbiaCMCetal:ToxicCcornealCepitheliopathy after intravitreal methotrexateCand its treat-mentCwithCoralCfolicCacid.CCorneaC32:1171-1173,C2013
3)Jeong Y, Ryu JS, Park UC et al:Corneal epithelial toxici-tyCafterCintravitrealCmethotrexateCinjectionCforCvitreoreti-nallymphoma:ClinicalCandCinCvitroCstudies.CJCClinCMedC9:2672,C2020
4)Sahay P, Maharana PK, Temkar S et al:Corneal epithelial toxicity with intravitreal methotrexate in a case of B-cell lymphomaCwithCocularCinvolvement.CBMJCCaseCRepCbcr2018226005,C2018
5)KimuraCK,CUsuiCY,CGotoH;JapaneseCIntraocularCLymphomaStudy Group:Clinical features and diagnostic signi.cance ofCtheCintraocularC.uidCofC217CpatientsCwithCintraocularClymphoma. Jpn J OphthalmolC56:383-389,C2012

チューブシャント手術の適応と使い分け

2025年10月31日 金曜日

チューブシャント手術の適応と使い分け Indications and Di.erentiation for Tube Shunt Surgery廣岡一行*はじめにチューブシャント手術(ロングチューブ)にはいくつかのデバイスがあるが,2011年に Baerveldt緑内障インプラント(Baerveldt glaucomaimplant:BGI),2014年に Ahmed緑内障バルブ(Ahmed glaucomavalve:AGV)がわが国で承認された.正式承認を契機に,2012年に日本緑内障学会から発行された「緑内障診療ガイドライン第 3版」の補遺にチューブシャント手術に関するガイドラインが公表された.海外では,①代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった症例,②結膜の瘢痕化が高度な症例,③線維柱帯切除術の成功が見込めない症例,④濾過手術が技術的に施行困難な症例に対して行われてきたのを受け,通常の線維柱帯切除術の施術が困難である,奏効が期待できない,あるいは従来の線維柱帯切除術では重篤な合併症が予測される症例に適応を限定すべき,と記された.国内承認後10年以上が経過した現在におけるチューブシャント手術の適応とBGI,AGVの使い分けについて解説する. 
I チューブシャント手術の適応観血的緑内障手術は,流出路再建術と濾過手術の二つに大別される.緑内障の病期,術前眼圧,年齢,視野障害の進行速度などを勘案して術後の目標眼圧を設定し,術式を選択する.とくに流出路再建術は病型により手術効果に差が生じるため,病型も術式選択には重要になってくる.筆者らの施設における線維柱帯切開術(眼内法)の手術成績は,線維柱帯切開術単独での累積手術成功率(成功基準:18 mmHg未満,かつ術前よりも 20%以上の眼圧下降など)は 3年で 25%となっている1).また,白内障手術併用の線維柱帯切開術では累積手術成功率(成功基準:18 mmHg未満,かつ術前よりも 20%以上の眼圧下降など)は 3年で 47.7%となっている2).単独手術では手術の効果自体も弱く,白内障との同時手術であっても時間とともに手術の効果は減弱し,眼圧コントロールが不十分となる患者が増えてくる.また,血管新生緑内障やぶどう膜炎による続発緑内障では線維柱帯切開術の効果が期待できないため,これらの患者では濾過手術が必要になってくる.チューブシャント手術の適応を考える際には,同じ濾過手術である線維柱帯切除術との比較が必要になってくる.Primary Tube versusTrabeculectomy(PTVT)Studyは,眼科手術の既往のない緑内障眼に対して BGI(101-350)の前房内挿入とマイトマイシン C(Mitomy -cinC:MMC)併用線維柱帯切除術を無作為に割り当てた多施設共同研究である.5年後の累積手術不成功率(成功基準:眼圧 6 mmHg以上 21 mmHg以下で,眼圧下降率が 20%以上など)は BGIが 42%で線維柱帯切除術が 35%であった(p=0.21).低眼圧(5 mmHg以下)による手術不成功が BGIでは 0眼であったのに対して,線維柱帯切除術では 5眼(13%)にみられた.また,5年後の平均眼圧は BGIが 13.4 ±3.5 mmHgであり,線維柱帯切除術が 13.0 ±5.2mmHgであった(p=0.52).*KazuyukiHirooka:広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕 廣岡一行:〒734-8551広島市南区霞 1-2-3 広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)(1)(71) 12890910-1810/25/\100/頁/JCOPY 一方で,5年後の緑内障点眼数はCBGIがC2.2C±1.3であったのに対して,線維柱帯切除術がC1.3C±1.4であった(p<0.001)3).PTVTStudyの結果において,初回手術におけるCBGIと線維柱帯切除術の間には緑内障点眼数で差がみられたものの,明確な優劣は示されなかった.CTubeCversusTrabeculectomy(TVT)Studyは線維柱帯切除術または白内障手術の既往のある緑内障眼に対して,BGI(101-350)の前房内挿入とCMMC併用線維柱帯切除術を無作為に割り当てた多施設共同研究である.5年後の累積手術不成功率(成功基準:眼圧C6CmmHg以上C21.mmHg以下で,眼圧下降率がC20%以上など)はBGIがC29.8%で線維柱帯切除術がC46.9%であり(p=0.002),BGIのほうが良好であった.低眼圧(5CmmHg以下)による手術不成功がCBGIではC3眼(13%)であったのに対して,線維柱帯切除術ではC13眼(31%)にみられた.5年後の平均眼圧はCBGIがC14.4C±6.9CmmHgであり,線維柱帯切除術がC12.6C±5.9CmmHgであった(p=0.12).またC5年後の緑内障点眼数はCBGIがC1.4C±1.3であったのに対して,線維柱帯切除術がC1.2C±1.5であった(p=0.23)4).眼圧下降は両手術とも同程度であるが,BGIのほうが線維柱帯切除術に比べて高い成功率であったと結論づけられている.しかし,線維柱帯切除術では低眼圧による不成功が多かったため,結果の解釈には注意を要すると思われる.CTVTStudy,PTVTStudyともに難治性緑内障である血管新生緑内障は除外されている.緑内障手術既往のない血管新生緑内障眼に対してCBGI(102-350,103-250,101-350)とCMMC併用線維柱帯切除術を無作為に割り当てた多施設共同研究では,1年後の累積手術成功率(成功基準:21CmmHg以下,かつ術前よりもC20%以上の眼圧下降など)はCBGIがC59.1%,線維柱帯切除術がC61.6%であった(p=0.71).BGIは術前眼圧C38.9C±12.0CmmHgであったのが術後C2年でC13.3C±6.3CmmHg,線維柱帯切除術では術前眼圧C33.1C±9.3.mmHgであったのが術後C2年でC13.6C±2.5.mmHgに低下し,BGIと線維柱帯切除術では術後C2年での眼圧に差を認めなかった(p=0.90).2年後の緑内障点眼数はCBGIがC1.3C±1.6であったのに対して,線維柱帯切除術がC0.6C±1.5であった(p=0.41)5).2段階以上の視力低下がCBGIでC8眼(34.8%)であったのに対して,線維柱帯切除術ではC3眼(11.1%)であった(p=0.04).術後早期の合併症はCBGIと線維柱帯切除術では差がなかったものの,晩期の合併症はチューブの露出が最多でC5眼(21.3%)にみられ,その結果CBGIのほうが多くなった.したがって,血管新生緑内障に対する初回手術としてのCBGIと線維柱帯切除術との間に手術成績の差はみられなかったものの,合併症に関してはCBGIのほうが多いという結果になった.初回の線維柱帯切除術が不成功に終わった場合につぎの手術として再度線維柱帯切除術を行った場合とCAGVを行った場合とで比較したメタ解析では,術後C3年までの平均眼圧は両手術間で差は無かったが,眼内炎を含む重篤な合併症がCAGVでC1.18%,線維柱帯切除術で0.45%とCAGVで多かったことから,初回の線維柱帯切除術が不成功に終わった場合は再度の線維柱帯切除術を推奨している6).日本緑内障学会の濾過胞感染多施設共同研究で得られたデータの二次利用解析で,5年後の累積手術不成功率(成功基準:眼圧C5mmHg以上C21mmHg以下で,眼圧下降率がC20%以上など)は,初回の線維柱帯切除術ではC72.7%,2回目の線維柱帯切除術ではC72.6%,3回目以上ではC51.4%であり(p=0.0073),3回目以降の線維柱帯切除術,すなわちC2回以上の線維柱帯切除術の既往があると線維柱帯切除術の手術成績は悪くなった(図 1)7).これらの結果から,2回の線維柱帯切除術が不成功に終わり,3回目の手術を考える際にチューブシャント手術が選択肢としてあがってくるのではないかと思われる.ただし,術後の眼圧がC10CmmHg前後と非常に低い眼圧が望まれるような症例に対しては,チューブシャント手術は適切な選択肢にはならないと米国眼科学会(AmericanCAcademyCofCOphthalmolo-gy:AAO)が報告している8).つぎに術後の合併症について考えてみたい.BGIと線維柱帯切除術の術後合併症の頻度はCTVTStudyではそれぞれC39%とC60%(p=0.004)9),また,PTVTCStudyではそれぞれC34%とC48%となっており(p=0.046)10),いずれの報告でも線維柱帯切除術ではCBGIに比べて合併症が多い結果となった.早期合併症で線維柱帯切除術に創口からの房水漏出が多くみられ(11.12%),術後1290  あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025(72)累積手術成功率(%)100 50 0 
30 60(月)図 1 緑内障手術既往回数による線維柱帯切除術の累積手術成功率
図 2 チューブ前房挿入後の前眼部所見 a:チューブ前房挿入.b:チューブ後房挿入.表 1 チューブシャント手術の適応①代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった症例②手術既往により結膜の瘢痕化が高度な症例③線維柱帯切除術の成功が見込めない症例④ほかの濾過手術が技術的に施行困難な症例(緑内障診療ガイドライン第C5版より作成)===-累積手術成功率(%)表 2 平均眼圧と緑内障点眼数BGI(n=247) AGV(n=267) p値 術前 眼圧C 31.8±11.8.mmHgC 31.2±10.9.mmHg  C0.53 点眼数C 3.3±1.1C 3.3±1.1  C0.60 術後1年 眼圧C 13.6±5.9.mmHgC 15.9±5.3.mmHg <C0.001 点眼数C 1.4±1.4C 1.8±1.3  C0.003 術後2年 眼圧C 14.2±6.0.mmHgC 15.3±6.0.mmHg  C0.069 点眼数C 1.2±1.4C 1.9±1.4 <C0.001 術後3年 眼圧C 13.8±4.8.mmHgC 15.3±4.8.mmHg  C0.007 点眼数C 1.3±1.4C 1.9±1.4 <C0.001 術後4年 眼圧C 13.9±4.6.mmHgC 15.8±5.4.mmHg  C0.002 点眼数C 1.5±1.4C 2.1±1.5 <C0.001 術後5年 眼圧C 13.2±4.7.mmHgC 15.8±5.2.mmHg <C0.001 点眼数C 1.5±1.4C 1.9±1.5  C0.023 
(文献C14より改変引用)C100 AGV90 BGI 80 70 60 50 40 30 20 10 0 
0 6 121824303642485460(月)図 3 AGVと BGIの累積手術不成功率–

線維柱帯切除術の適応

2025年10月31日 金曜日

線維柱帯切除術の適応 Clinical Indications for Performing Trabeculectomy Surgery井上俊洋*はじめに一般的に低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglau-comasurgery:MIGS)は従来の濾過手術に比べて,小切開・眼内アプローチ(abinterno)で房水流出を改善する手術群をさす.組織損傷や瘢痕リスクが少なく,回復が早く安全性が高いという特徴は前項のとおりであり,わが国でも急速に普及し,件数が増加している1).一方で,濾過手術のC1種で歴史が古い線維柱帯切除術は,以前はもっとも一般的な緑内障手術であった2)が,少なくとも件数においてはCMIGSが大部分を占めると思われる流出路再建術が線維柱帯切除術を凌駕している.さらに,プレートのあるチューブシャント手術の件数も徐々に増加傾向にあり,件数が横ばいの線維柱帯切除術は,緑内障手術のなかで占める割合が減少しているといえる.しかし,線維柱帯切除術が一定の件数を維持していることも事実であり,現代でも必要な症例が存在すると考えられる.MIGS全盛の時代に,線維柱帯切除術が果たすべき役割とその立ち位置を,エビデンスを交えて再考する.C

I 流出路再建術の限界と濾過手術の適応(表 1)MIGSは多様なデバイス・手技が存在するうえに歴史が比較的浅いため,それぞれの長期成績はまだ限られており,エビデンスの蓄積が十分とはいえない.また,多くのCMIGSが分類される流出路再建術は,基本的にSchlemm管レベルの抵抗除去にとどまり,外眼静脈側表 1 流出路再建術( MIGS含む)ではなく濾過手術を選ぶポイント・歴史が長くエビデンスが蓄積されている術式が多い・眼圧下降効果が大きい・流出路再建術既往眼に適応可能・幅広い病型に適応可能の抵抗や上強膜静脈圧により眼圧下降効果が限られる.とくに低い目標眼圧が求められる症例では,MIGSが十分な眼圧管理を実現できない可能性がある3).したがって,濾過手術が必要とされる理由は,より低い目標眼圧が求められる症例の存在による.例をあげると,後期緑内障や正常眼圧緑内障で長期に視神経の進行を防ぐには,眼圧をきわめて低く,たとえばC10CmmHg以下にコントロールする必要がある.とくに,家族歴や低い眼灌流圧など,緑内障進行に対する危険因子を有する場合には,低い目標眼圧が強く求められる.MIGSを含む流出路再建術ではそのレベルに届かないことが多く,ここに濾過手術の存在意義がある.さらに,いったん流出路再建術で眼圧が下降したものの,再上昇した場合にも濾過手術が必要となることが多い.流出路再建術を行ったあとに,視野進行により目標眼圧を下方修正する必要に迫られた場合も,濾過手術が有用である.適応となる病型が幅広いことも濾過手術の特徴である.流出路再建術が基本的に一部の開放隅角緑内障を適応とするのに対し,濾過手術はほぼすべての病型に適応可能である.ただ
*ToshihiroInoue:熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座〔別刷請求先〕 井上俊洋:〒860-8556熊本市中央区本荘C1-1-1 熊本大学大学院生命科学研究部眼科学講座(1)(65)C12830910-1810/25/\100/頁/JCOPY 表 2 濾過手術のなかで線維柱帯切除術を選ぶポイント・歴史が長くエビデンスが蓄積されている・幅広い背景因子,病型に適応可能・角膜内皮細胞数の面で有利な傾向・インプラント露出のリスクがない・もっとも低い目標眼圧を設定可能結論として,プリザーフロの普及にかかわらず,大きな眼圧下降効果を求めるためには線維柱帯切除術が必要といえる.添付文書におけるプリザーフロの禁忌・禁止として,つぎの患者には使用しないこととなっている.①閉塞隅角緑内障,②本品使用部位に結膜瘢痕,結膜切開手術歴,その他の結膜病変(結膜菲薄化,翼状片など),③活動性虹彩血管新生,④眼部の活動性炎症(例:眼瞼炎,結膜炎,強膜炎,角膜炎,ぶどう膜炎),⑤前房内硝子体脱出,⑥前房眼内レンズ,⑦シリコーンオイル注入眼.線維柱帯切除術の病型・既往に対する守備範囲は,エクスプレスと同様,プリザーフロより広いと考えられる.C

III 濾過手術のなかでの線維柱帯切除術 vsプレートのあるチューブシャントプレートのあるチューブシャント手術は,MMCを併用しても結果があまり変わらないという点で,線維柱帯切除術とは少し異なる眼圧下降メカニズムを有する手術である.わが国では,Baerveldt緑内障インプラント
(以下,Baerveldt),Ahmed緑内障バルブ(以下,Ahmed)が主流である.近年,バルブのないCAhmedクリアパス,さらにそのチューブ径を細くしたものが認可されている.各インプラントの詳細は次項に譲る.いずれもわが国ではC2012年以降の導入であるが,欧米ではMMC併用線維柱帯切除術と同等の歴史があり,経験値の蓄積と長期経過のエビデンスを有する.両者を比較したエビデンスもある程度蓄積されており,前述のメカニズムの違いもあって,線維柱帯切除術との住み分けは理解しやすい.そのため,プレートのあるチューブシャントが導入されて長い時間が経過するが,線維柱帯切除術が選択されるべき症例は多く残っているといえる.線維柱帯切除術と比較して,プレートのあるチューブシャント手術の利点は,なんといっても手術瘢痕を有する症例など,濾過胞が潰れやすいとされる症例に強いところであろう.白内障および/もしくは緑内障手術既往眼に対するCRCTであるCTVTstudyのC5年成績では,眼圧下降効果はCBaerveldtが優り,術後早期合併症はBaerveldtで少なく,術後晩期合併症の発生率は同等で,合併症に対する再手術率は同等であった.いわゆるハイリスク眼において,Baerveldtは線維柱帯切除術より効果は高く,安全性は同等か優れることが確認された11).一方で,手術既往のないCPOAGに対するCRCTであるCPTVTstudyのC5年成績では,累積成功確率では有意差がないものの,術後C1年およびC3年の平均眼圧は線維柱帯切除術のほうが低く,緑内障点眼数も術後C5年まで線維柱帯切除術のほうが少なかった.一方で合併症は早期合併症の確率のみ有意差があり,線維柱帯切除術のほうが多かった12).したがって,いわゆるローリスク眼では,線維柱帯切除術のほうが眼圧コントロールで勝るが,早期の安全性はやや劣るという結果となった.ただし,眼圧コントロールの面ではサブグループ解析があり,術前眼圧が低いほど線維柱帯切除術の成績がよく,逆に術前眼圧が高い群ではCBaerveldtが優秀な傾向があった.角膜内皮に対する影響は,線維柱帯切除術のほうが有利であるが,チューブを硝子体腔に挿入する場合には角膜内皮への影響は極端に少なくなる13).インプラント露出の心配がないことも線維柱帯切除術の利点となる.一方で,緑内障点眼薬の副作用であるプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandinCassociatedCperiorbitopa-thy:PAP)が与える影響の違いも,近年注目されている.線維柱帯切除術の眼圧下降効果がCPAPの重症度に大きな影響を受けるのに対し14),AhmedではCPAPの影響は有意ではなかったことが報告され15),PAPの程度も術式選択の際に考慮に入れる必要があることがわかっている.以上の結果を基にして考えると,プレートのあるチューブシャント手術と比較した場合には,手術既往がなく,術前眼圧が低い症例において有利であり,全緑内障手術のなかでも線維柱帯切除術がもっとも強く眼圧下降効果を発揮すると考えられる.C

IV 線維柱帯切除術の問題点(表 3)線維柱帯切除術は眼圧下降効果が強いぶん,高度な脈絡膜.離や低眼圧黄斑症といった,視力を脅かす低眼圧関連の合併症に注意する必要がある.とくに駆逐性出血を生じれば,失明にいたることも珍しくない.また,房水漏出や虚血性濾過胞(図 1)から濾過胞炎・眼内炎(図
(67)あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025  C1285 表 3 線維柱帯切除術の問題点・低眼圧関連の合併症のリスクが高い・年余にわたる濾過胞関連感染症のリスクがある・術式と術後管理の習得に経験を要する・術後管理が煩雑・DUESおよび結膜瘢痕の影響を受けやすいDUES:deepeningCofCupperCeyelidCsalcus.
図 2 線維柱帯切除術後の眼内炎全周の眼球結膜に高度の充血と,前房蓄膿を認める.
図 1 線維柱帯切除術後の虚血性の濾過胞年余にわたる濾過胞炎・眼内炎のリスクがあるため,医療者・患者の心配と,日常生活上の注意が継続し,生活の質を下げることにつながりうる.
図 3 眼内炎に至った濾過胞の所見濾過胞周囲に高度の充血と,濾過胞の混濁を認める.表 4 実臨床での術式選択のポイント・患者の年齢,治療歴,全身的な併存症,現病歴といった背景を確認・自覚症状,緑内障手術に対する患者の考えを確認・所見から緑内障病型,視野進行度,眼圧レベルを把握し,目標眼圧を設定・情報を総合的に評価して,患者と相談しながら術式を決定・専門家としての情報提供を行い,推奨術式まで提案するC–