内因性光感受性網膜神経節細胞と緑内障吉川匡宣内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRCG)とは眼内において光を感受することができる細胞は視細胞だけでしょうか?2002年に発見された内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallyCphotosensitiveCretinalCganglioncells:ipRGC)はこれまでの常識を大きく覆すものでした.このCipRGC1)は光感受性視物質であるメラノプシンを発現することで光刺激を直接受容することが可能です.種により異なるものの,ヒトでは全網膜神経節細胞のC0.2~0.8%程度を占めることが報告されています.ipRGCの大きな特徴は,眼外からの光刺激を生体リズム中枢である視交叉上核へ伝達することで光同調において重要な役割を果たすことです.ヒトの体内時計の周期は個人差があるもののC24時間よりもわずかに長く,体外環境のC24時間とはずれがあります.この体内時計と体外時刻のずれの補正(光同調)にはCipRGCへの青色光刺激(460~480Cnm)が必要であるであることがわかっています.実際に,メラノプシン遺伝子を破壊したマウスは光同調障害を引き起こすことが報告されています.また,ipRGCは中脳視蓋前域オリーブ核などへ投射することで対光反射にも関与していることがわかっています(図1).ipRGCによる対光反射の特徴は青色光刺激後の遷延する対光反射で,これを利用することでCipRGCの機能(光感受性)を評価することが可能です.ipRGCの光感受性は2005年に動物実験で上記の対光反射と関連すること,2010年にヒトでCpost-illuminationCpupilresponse(PIPR)2)として評価可能であることが報告されました.筆者らも持続的対光反射測定機器CRAPDx(KonanMedical社)を用いて緑内障患者のCPIPRを測定し,視野重症度が強いほどCipRGC機能が低下していることを明らかにしました.これはドナー眼の実験研究で示された緑内障眼におけるCipRGC密度低下を支持する結果といえます.緑内障患者におけるipRGC障害の影響それでは緑内障患者ではCipRGCの障害から生体リズムの乱れが生じているのでしょうか.緑内障患者を対象とした筆者らのコホート研究において,生体リズム指標として広く用いられている尿中メラトニン代謝産物濃度が緑内障患者で低く,さらに緑内障重症度とも相関していたことが明らかとなりました.この緑内障患者におけるメラトニン分泌低下は,緑内障が生体リズムの乱れ(光同調障害)を引き起こす可能性を示唆するものです.さらに緑内障患者では血圧日内変動奈良県立医科大学眼科学教室よしかわ眼科クリニック図1内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)の投射経路ipRGCの脳内への投射経路は複数存在し,おもなものとして生体リズム中枢である視交叉上核への経路があり,上頸神経節を経て松果体に達しメラトニン分泌を制御しています.また,中脳視蓋前域オリーブ核への経路も存在します.Edinger-Westphal核,毛様体神経節を経て虹彩に伝達され,対光反射に関与しています.その他,視覚情報に関与する外側膝状体,膝状体間葉にも投射しています.SCN:視交叉上核,SCG:上頸神経節,P:松果体,OPN:中脳視蓋前域オリーブ核,EW:Edinger-Westphal核,CG:毛様体神経節,LGN:外側膝状体,IGL:膝状体間葉.リズムの障害3),生体リズムの乱れが寄与する睡眠障害,認知機能障害,うつ症状などと関連していたことも報告されています.しかし,緑内障と生体リズム障害に関する研究は横断解析が多く,今後の縦断研究で因果の方向を明らかにすることが必要です.今後の展望緑内障患者ではCipRGC障害が生じ,血圧や睡眠などの生体リズムの乱れと関連している可能性があります.今後,ipRGCに着目した緑内障・生体リズム研究が,緑内障の新たなメカニズム解明や新規治療に発展する日が訪れるかもしれません.文献1)BersonCDM,CDunnCFA,CTakaoM:PhototransductionCbyCretinalCganglionCcellsCthatCsetCtheCcircadianCclock.CScienceC295:1070-1073,C20022)KankipatiCL,CGirkinCCA,CGamlinPD:Post-illuminationCpupilCresponseCinCsubjectsCwithoutCocularCdisease.CInvestCOphthalmolVisSciC51:2764-2769,C20103)YoshikawaCT,CObayashiCK,CMiyataCKCetal:IncreasedCNighttimeCBloodCPressureCinCPatientsCwithGlaucoma:CCross-sectionalAnalysisoftheLIGHTStudy.Ophthalmol-ogyC126:1366-1371,C2019(89)あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023C14590910-1810/23/\100/頁/JCOPY