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運転外来における視野障害ドライバーの運転時の自覚症状と それに関連する因子

2023年9月30日 土曜日

《第11回日本視野画像学会原著》あたらしい眼科40(9):1217.1221,2023c運転外来における視野障害ドライバーの運転時の自覚症状とそれに関連する因子深野佑佳*1國松志保*1平賀拓也*1小原絵美*1岩坂笑満菜*1黒田有里*1桑名潤平*2伊藤誠*2田中宏樹*1井上賢治*3*1西葛西・井上眼科病院*2筑波大学システム情報系*3井上眼科病院CFactorsRelatedtoSubjectiveSymptomsduringDrivinginPatientswithVisualFieldImpairmentataDrivingAssessmentClinicYukaFukano1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),TakuyaHiraga1),EmiObara1),EminaIwasaka1),YuriKuroda1),JunpeiKuwana2),MakotoItoh2),HirokiTanaka1)andKenjiInoue3)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InstituteofSystemsandInformationEngineering,UniversityofTsukuba,3)InouyeEyeHospitalC目的:視野障害患者の運転時の自覚症状の有無を検討する.対象および方法:2019年C7月.2022年C3月に運転外来を受診したC107名(平均年齢C62.8C±13.8歳)を対象に,運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無を調査した.視力検査,Humphrey視野計中心C24-2SITA-Standard(HFA24-2),両眼開放CEstermanテスト,認知機能検査CMini-Men-talStateExamination(MMSE),運転調査,ドライビングシミュレータ(DS)を施行した.HFA24-2より両眼重ね合わせ視野(integratedvisual.eld:IVF)を作成し,上下C13-24°内,上下C12°内の平均網膜感度を求めた.運転能力はDSのC15場面の事故件数を用いて検討した.それぞれの検討項目とCDSの事故件数について,自覚症状あり群と自覚症状なし群のC2群に分けて,比較検討を行った.結果:107例中,運転時の見えにくさがあったのはC40例(37%)であった.自覚症状あり群は,視力良好眼の視力,視力不良眼の視力,IVF上方C13-24°,IVF上方C12°の平均網膜感度が有意に低下していた(p<0.05Wilcoxon検定).また,初期から中期,後期と病期が進行するに従い,自覚症状のある頻度は高くなっていた(p=0.0463,Cochran-Armitage検定).過去の事故歴の有無やCDS事故数,左右眼の視力,視野障害度,IVF下半視野の平均網膜感度に有意差はなかった.結論:視野障害患者は,視野障害の自覚症状が乏しい.自覚症状のある視野障害患者は,上方視野が障害されており,運転時の見えにくさにつながったと思われる.CPurpose:Toinvestigatesubjectivesymptomsduringdrivinginpatientswithvisual.eld(VF)impairmentataCdrivingCassessmentCclinic.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC107CpatientsCwithCVFCimpairmentCatCaCdrivingCassess-mentCclinicCwhoCunderwentCtestingCwithCtheCHumphreyCFieldCAnalyzerC24-2CSITA-Standardprogram(HFA24-2)C,CtheCbinocularCEstermanCVFtest(EVFT)C,CandCaCdrivingsimulator(DS,CHondaCMotorCo.)C.CPatientsCwereCaskedwhethertheyhadanysubjectivesymptomsduringdriving,suchasfearofdrivingordi.cultyseeingtra.csignals,CseeingCatCnight,CorCseeingCinCtheCrain.CCognitiveCimpairmentCwasCassessedCusingCtheCMiniCMentalCStateExamination(MMSE)C.CWeCcalculatedCtheCintegratedVF(IVF)basedConCtheCHFAC24-2Cdata.CTheCpatients’CbestCpoint-by-pointmonocularsensitivitywasused.WeevaluatedmeanIVFsensitivityinthecentralareaoftheinferi-orCandCsuperiorChemi.eldsCwithinC0CtoC12degrees(IVFC0-12)andCwithinC13CtoC24degrees(IVFC13-24)ofCtheC.xationCpoint.Better-eyeVFmeandeviation(MD)wasusedtocategorizeglaucomaseverity:greaterthan.6CdB(mild);ClessCthanC.6CdBCandCgreaterCthanC.12CdB(moderate)C,CandClessCthanC.12CdB(severe)C.CTheCrelationshipCbetweenCglaucomaseverityandtherateofsubjectivesymptomsduringdrivingwasassessed.Results:Ofthe107patients,40(37%)hadCsubjectiveCsymptomsCduringCdriving.CVisualCacuityCofCtheCbetter-eyeCandCworse-eye,CsuperiorChemi.eldIVF1-12Csensitivity,andinferiorhemi.eldIVF13-24Csensitivitywerelowinthegroupwithsubjectivesymp-tomsduringdriving(p<0.05,Wilcoxonranksumtest).Reportsofsubjectivesymptomsduringdrivingwerehigh-erinthesevereglaucomagroup(p=0.046,Cochran-Armitagetrendtest).Therewasnosigni.cantdi.erencein〔別刷請求先〕深野佑佳:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YukaFukano,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANC0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(95)C1217thenumberofcollisionsintheDSbetweenthegroups.Conclusions:VisualsymptomsarenotcommoninpatientswithVFimpairment.However,subjectivesymptomsduringdrivingcanoccurinpatientswithsuperior-hemi.elddefects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(9):1217.1221,C2023〕Keywords:視野障害,運転時の自覚症状,運転外来.visual.elddefects,subjectivesymptomswhiledriving,outpatientdriving.Cはじめに視野障害をきたす疾患は,自覚症状に乏しいことが知られている.視野障害をきたす代表的な疾患である緑内障の過去に行われた疫学調査では,緑内障患者のC50.90%と,多くが眼科未受診であった1.5)ことも,緑内障が自覚症状に乏しく,発見されにくいことが原因とされている.Crabbらは緑内障患者C50名を対象に,視野障害を自覚しているかどうか,自覚している場合,どのように見えているのか調査を行った.その結果,正常に見える(自覚症状なし)と答えたのは,50名中C13名(26%)で,視界がにじんで見える・ぼやけて見えると答えたのはC27名(54%),視界が欠けて見えると答えたのはC8名(16%)であったと報告している6).このことからも,やはり緑内障は自覚症状に乏しいことがうかがい知れる.日本の運転免許の取得・更新にあたっては,中心視力が良好であれば視野検査は実施されない.しかし,安全運転のためには,信号や標識を認識し,左右からの飛び出しに反応するなど,十分な視野が保たれている必要がある.自動車運転は,生活の質の維持のために必要不可欠であるが,視野障害患者が安全に運転を継続するには,自身の視野障害を理解して,注意して運転することが重要であると考える.西葛西・井上眼科病院(以下,当院)では,日本の眼科医療機関として初となる運転外来を開設し,運転を継続している視野障害患者に対して,アイトラッカー搭載ドライビングシミュレータ(以下,DS)を施行し,視野障害患者に対して,起こりうる事故の危険性を患者本人に説明し,安全運転のための助言をしている7,8).そこで,今回筆者らは,当院運転外来を受診した視野障害患者に対して,運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無と視機能(視力,視野障害)や運転技能(DSの事故数)に関連があるか検討したので報告する.CI対象および方法2019年C7月.2022年C3月に,当院の運転外来を受診し,DSを施行した視野障害患者C107例を対象に,運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無を調査した.平均年齢はC62.3C±13.8(27.85歳),疾患別内訳は緑内障C97例,網膜色素変性6例,その他(脳梗塞,脳出血,下垂体腺腫など)4例,男女比は男性C87例,女性C20例であった.調査にあたっては,医師による問診のあとに,視能訓練士が,これまで運転中に見えにくさを感じた場面や,危機感を感じた場面があるか,アンケート形式で質問をし,聞き取りを行い,①「信号が見えにくい」,②「夜間や雨天時の見えにくさがある」,③「左右からの飛び出しに気づきにくい」,④「白線が見えにくい」,⑤「運転が怖い」に該当し,運転時に見えにくさを訴えたものを「運転時の自覚症状あり」とした.全例に対して,視力検査,Humphrey自動視野計中心C24-2SITA-Standard(HFA24-2),両眼開放CEstermanテスト,運転調査(1週間の運転時間,過去C5年間の事故歴の有無),認知機能検査CMini-MentalCStateCExamination(MMSE),DSを施行した.また,HFA24-2をもとに,既報に基づき9,10),両眼重ね合わせ視野(integratedCvisual.eld:IVF)を作成し,上下C13-24°,12°内の平均網膜感度を算出した.視力検査,運転調査,MMSE,DSは同一日に実施し,HFA24-2,両眼開放CEstermanテストはCDS実施日の前後C3カ月以内に実施した結果を使用した.運転能力の評価のために,DSを施行した.これは,エコ&安全運転教育用ドライビングシミュレータである「Hondaセーフティナビ」(本田技研工業)を改変したものであり11),全C15場面での事故の件数を記録し,運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無と,DS事故数との関連を検討した.運転時の見えにくさ(自覚症状)のある群(自覚症状あり群)と,ない群(自覚症状なし群)に分けて,年齢,性別,CMMSEtotalscore,完全矯正視力(logMAR),視野障害度(meandeviation:MD),Estermanスコア,1週間の運転時間,過去C5年間の事故歴の有無,病期別,両眼視野CIVFの平均網膜感度(dB)を比較した.比較にあたっては,C|2検定,Fisher正確確率検定,Wilcoxon検定を行った.緑内障患者C97名については,病期別(初期:MD>C.6CdB,中期:MD-12.C.6CdB,後期:MD<C.12CdB)12,13)に分類し,病期別の運転時の自覚症状の有無を検討した(Cochran-Armit-age検定).本研究は,当院倫理委員会で承認の得られた研究説明文書を用いて〔「視野障害患者に対する高度運転支援システムに関する研究」(課題番号:201906-1)〕各対象者にインフォームド・コンセントを行い,研究への参加について自由意志表1患者背景自覚あり(n=40)自覚なし(n=67)p値年齢(歳)C64.4±13.0C61.8±14.3C0.447†性別(男:女)32:855:1C2C0.802*CMMSEtotalscoreC27.9±2.4C28.6±2.0C0.159†1週間の運転時間(時間)C4.1±4.8C6.4±9.5C0.913†過去C5年間の事故歴あり13例(C32.5%)18例(C26.9%)C0.660**betterVA(logMAR)C0.00±0.10C.0.04±0.07C0.009†worseVA(logMAR)C0.26±0.46C0.14±0.30C0.048†betterMD(dB)C.13.34±5.78C.10.83±6.79C0.071†worseMD(dB)C.19.31±6.71C.18.58±7.65C0.925†EstermanスコアC82.8±17.4C83.6±18.4C0.562†平均±標準偏差.†:Wilcoxon検定,*:Fisher正確確率検定,**:|2検定.表2自覚症状の有無とDS15場面の事故件数自覚あり自覚なし(n=40)(n=67)p値15場面の事故件数(件)C2.0±2.0C1.7±1.9C0.343C平均±標準偏差.Wilcoxon検定.表3IVF平均網膜感度と自覚症状の有無自覚あり自覚なし(n=40)(n=67)p値上方CIVFC13-24C16.7±8.5C21.4±8.1C0.005上方CIVFC0-12C18.2±9.8C23.9±8.1C0.003下方CIVFC13-24C21.1±6.7C20.8±8.5C0.842下方CIVFC0-12C24.1±8.6C25.2±7.7C0.567CIVF:両眼重ね合わせ視野(dB).平均C±標準偏差.Wilcoxon検定.による同意を文書により得た.CII結果今回,運転外来を受診したC107例中,運転時に見えにくさ(自覚症状)があったのはC40例(37%),なかったのはC67例(63%)であった.運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無別の患者背景を表1に示す.自覚症状のある群では,視力良好眼・不良眼の視力が低下していた(p=0.0089,p=0.048,Wilcoxon検定).一方,年齢,性別,MMSE,1週間の運転時間,過去のC5年間の事故歴,視野良好眼,不良眼のCMD値,Estermanスコアでは,自覚症状の有無による有意差はみられなかった.DSのC15場面の事故件数は,自覚症状の有無による有意差はみられず(p=0.34,Wilcoxon検定),自覚症状の有無により運転能力に差はなかった(表2).緑内障患者C97名を対象に,病期別で自覚症状の有無を比較した結果,自覚症状のある群の割合は,初期ではC18例中100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%p値=0.046***初期MD>-6dB中期MD-12~-6dB後期MD<-12dB(n=18)(n=34)(n=34)■自覚あり(n=39)■自覚なし(n=58)***:Cochran-Armitage検定図1緑内障患者の病期別の自覚症状の有無4例(20.0%),中期ではC34例中C14例(41.2%),後期では45例中C21例(46.7%)と初期から中期,後期と進むにつれて高くなっていた(p=0.0463,Cochran-Armitage検定)(図1).運転の自覚症状の有無によるCIVF平均網膜感度を比較検討した結果を表3に示す.自覚症状のある群では,上方13-24°,上方C12°の平均網膜感度が低くなっていた(p=0.0050,p=0.0030,Wilcoxon検定).一方で,下方視野障害度に有意差はみられなかった.CIII考按今回筆者らは,運転時の見えにくさ(自覚症状)の有無と視機能,運転技能の関連について検討した.その結果,運転時に自覚症状があったのは,107例中C40例(37%)であった.緑内障患者C97名では,初期から中期,後期と,病期の進行に伴い,運転時に見えにくさがある割合は,20.0%,41.2%,46.7%と高くなっていた.緑内障の自覚症状の有無と病期別の比較について,過去に生野らが,緑内障患者C250例を対象に,緑内障の自覚症状の有無について調査を行った結果,無自覚・未治療だったのは,250例中C233例(93.2%)であった.さらに,病期別に自覚症状があったのは,初期C149例中C140例(94.0%),中期C56例中C51例(91.1%),後期C45例中C41例(91.1%)と,どの病期でもC90%以上が無自覚・未治療だったと報告している14).これを,病期別の自覚症状ありの割合にすると,初期C6.0%,中期C8.9%,後期C8.9%と,筆者らの結果よりも割合が低くなっていた.これは,生野らの報告は「自覚症状」であるのに対して,筆者らは「運転時の自覚症状」と,運転場面に限った見えにくさの有無を調べたため,自覚しやすかったことによるものと考える.運転時は,信号を確認したり,標識を見たり,左右からの車や人の飛び出しに気をつけるなど,危険を感じる場面や注意をしなければならない場面が多々存在し,「見えにくさ」に気がつく場面が,日常生活のなかよりも多かったものと考えられる.Sabapathypillaiらは,55.90歳の緑内障患者C111例と,年齢をマッチングした対照群C47例に対して,運転のしづらさ,運転回避行動,運転に対する否定的感情を調べ,緑内障重症度と路上運転成績との関係を検討した.その結果,緑内障患者は,対照群と比較して,初期緑内障の段階から,「運転のしづらさ」を感じて(p=0.0391),中期緑内障から「運転に対する否定的な感情」をもっていた(p=0.0042).路上運転評価で「危険がある(at-risk)」と判定されたのは,「運転のしづらさ」のある緑内障患者ではC3.3倍であり,「運転に対する否定的な感情」のある緑内障患者ではC4.2倍と高くなっていた.今回の筆者らの検討でも,緑内障患者C97名では,初期から中期,後期と,病期の進行に伴い,運転時に見えにくさがある割合が増えており,同様の結果であった.一方,DS事故数による運転評価では,運転時に見えにくさの自覚症状の有無による有意差は認められなかった.これは,Sabapathypillaiらは路上運転での評価であったのに対して,筆者らはCDS事故数を比較した結果で,運転評価方法の違いによるものだと考える.今回は,DS事故数のみで比較したが,実際には,DSでの視線の動きなどの運転行動に違いがみられるかもしれず,今後検討していきたい.今回,筆者らは運転時の見えにくさの有無と,視野障害部位の関連を検討した.その結果,自覚症状あり群ではなし群と比較して,IVF上方網膜感度が低下しており,上方視野障害が運転時の見えにくさと関係している可能性が示唆された.過去の報告では,Yamasakiらが緑内障ドライバーの運転回避行動を調べた結果,上方視野障害があると,夜間と雨の日の運転・霧の中の運転を避ける傾向があると報告しており,上方視野障害が運転回避行動と関係していることを指摘している16).今回,筆者らの検討では,運転時の見えにくさの自覚症状あり群では,IVF上方網膜感度の低下がみられた.Yamasakiらの研究は運転回避行動を調べたものであり,運転時の見えにくさの有無を調べた筆者らの研究とは異なるものの,両者とも,運転には上方視野障害が関与する,という結果であったことは,運転時は上方部分に信号や標識など,注意をしなければならない対象物が多いため,上方視野障害があると運転回避行動が起き,運転時の見えにくさを自覚しやすい傾向になったと考える.2019年に網膜色素変性症患者(両眼ともCGoldmannV4指標で中心C10°)が,自覚症状なく運転していて起こした死亡事故についての民事訴訟にて,事故と視野狭窄の因果関係が認められ,裁判官は,眼科医が注意を促すことの必要性を示唆した17).では,どのような患者に注意をするべきなのか.今回,運転時の見えにくさ(自覚症状)があったのは約C4割であり,自覚症状がないまま運転を継続しているケースが多いことがわかった.自覚症状あり群では,上方視野の平均網膜感度が低下していた.過去には,Kunimatsu-Sanukiらが,右折してくる対向車との事故には,下方視野障害が関与していると報告しているが18),今回の結果から,下方視野障害例では,見えにくさに気がつく機会が,より少ない可能性があることがわかった.視野障害患者が,安全に運転するためには,自身の見えにくい部分や運転時に苦手な場面を把握し,注意喚起につなげる必要がある.そのため,眼科医療機関では,「運転時の自覚症状がある人は少ない」ことを念頭に,視野検査結果を知らせながら,視野障害様式別に,起こりうる事故のリスクを伝え,運転指導を行うことが重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HennisCA,CWuCS,CNemesureCBCetal:AwarenessCofCinci-dentCopen-angleCglaucomaCinCapopulationCstudy:TheCBarbadosCEyeCStudies.COphthalmologyC114:1816-1821,C20072)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:TheCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1643-1648,C20043)ShenSY,WongTY,FosterPJetal:TheprevalenceandtypesofglaucomainMalaypeople:TheSingaporeMalayEyeCStudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:3846-3851,C20084)DielemansCI,CVingerlingCJR,CWolfsCRCCetal:TheCpreva-lenceCofCprimaryCopen-angleCglaucomaCinCaCpopulation-basedCstudyCinCtheNetherlands:TheCRotterdamCStudy.COphthalmologyC101:1851-1855,C19945)VarmaR,TorresM,PenaFetal:PrevalanceofdiabeticretinopathyCinCadultLatinos:TheCLosCAngelesCLatinoCEyeStudy.OphthalmologyC111:1298-1306,C20046)CrabbDP,SmithND,GlenFCetal:Howdoesglaucomalook?Patientperceptionofvisual.eldloss.COphthalmolo-gyC120:1120-1126,C20137)平賀拓也,國松志保,野村志穂ほか:運転外来にて認知機能障害が明らかになったC2例.あたらしい眼科C38:1325-1329,C20218)高橋佑佳,國松志保,平賀拓也ほか:西葛西・井上眼科病院における職業運転手の運転機能評価.臨眼C76:1259-1263,C20229)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:Predictingbinoc-ularCvisualC.eldCsensitivityCfromCmonocularCvisualC.eldCresults.InvestOphthalmolVisSciC41:2212-2221,C200010)CrabbCDP,CFitzkeCFW,CHitchingsCRACetal:ACpracticalCapproachCtoCmeasuringCtheCvisualC.eldCcomponentCofC.tnesstodrive.BrJOphthalmolC88:1191-1196,C200411)Kunimatsu-SanukiS,IwaseA,AraieMetal:Anassess-mentofdriving.tnessinpatientswithvisualimpairmenttoCunderstandCtheCelevatedCriskCofCmotorCvehicleCacci-dents.BMJOpenC5:e006379,C201512)HodappCE,CParrishCR,CAndersonCDRCetal:ClinicalCdeci-sioninglaucoma.p52-61,CVMosby,StLouis,199313)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.Cp363,CVMosby,StLouis,199914)生野裕子,岩瀬愛子,青山陽ほか:多治見市民眼科検診で発見された緑内障患者の自覚症状.眼臨C100:18-20,C200615)SabapathypillaiCSL,CPerlmutterCMS,CBarcoCPCetal:Self-reportedCdrivingCdi.culty,Cavoidance,CandCnegativeCemo-tionCwithCon-roadCdrivingCperformanceCinColderCadultsCwithglaucoma.AmJOphthalmol241:108-119,C202216)YamasakiCT,CYukiCK,CAwano-TanabeCSCetal:BinocularCsuperiorCvisualC.eldCareas.CassociatedCwithCdrivingCself-regulationinpatientswithprimaryopenangleglaucoma.BrJOphthalmol105:135-140,C202117)國松志保:視野障害と自動車事故.日本の眼科C91:1304-1309,C202018)Kunimatsu-SanukiS,IwaseA,AraieMetal:Theroleofspeci.cCvisualCsub.eldsCinCcollisionsCwithConcomingCcarsCduringCsimulatedCdrivingCinCpatientsCwithCadvancedCglau-coma.BrJOphthalmol101:896-901,C2017***

基礎研究コラム:76.網膜発生におけるヒストン修飾の役割

2023年9月30日 土曜日

網膜発生におけるヒストン修飾の役割ヒストン修飾による遺伝子発現制御遺伝情報をもつCDNAは細胞核内でヒストンC8量体に巻きつき,クロマチンの基本単位であるヌクレオソームを形成しています.ヒストンの特定のアミノ酸がメチル化などのさまざまな修飾を受けると,修飾を介した複合体の形成や電荷の変化により,遺伝子の転写状態に影響を及ぼします.このようなCDNA配列の変化を伴わないエピジェネティックな遺伝子発現制御は,発生や再生など数多くの生命現象にかかわっています.網膜発生におけるヒストン修飾の役割ヒトを含むさまざまな種の網膜発生において,種々の網膜細胞は網膜前駆細胞から逐次的に産生されます(図1).正常な網膜発生には厳密な遺伝子発現制御が不可欠であり,重要な転写因子群が明らかにされています.網膜発生におけるヒストン修飾の役割は,この十数年で知見が深まってきました.筆者らは,転写の不活性化に寄与するヒストンCH3の27番目のリジンのトリメチル(H3K27me3)に対するメチル化酵素や脱メチル化酵素の網膜特異的ノックアウトマウスの解析により,H3K27me3が網膜前駆細胞の増殖能や運命決定に関与していることを明らかにしました1,2)(図2).今後の展望ヒストン修飾や修飾酵素は多数同定されており,ヒストン修飾間の相互作用もあるため,網膜発生におけるヒストン修飾の役割の解明にはまだ多くの労力が必要だと考えられま胎生期哺乳期網膜前駆細胞神経節細胞水平細胞アマクリン細胞錐体視細胞桿体視細胞双極細胞Muller細胞図1マウス網膜発生における各網膜細胞の産生胎生期から哺乳期にかけて,網膜前駆細胞は増殖能を変化させながら各網膜細胞を逐次的に産み出す.(文献C1より改変引用)(87)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY岩川外史郎東京大学大学院医学系研究科網膜発生・疾患病態学す.シークエンス解析技術の飛躍的な進歩により,1細胞レベルで網羅的な遺伝子発現解析が可能となっていますが,ヒストン修飾をC1細胞レベルで網羅的に解析することはまだ困難が多い状況といえます.より少ない細胞数で解析可能なCUT&Tagなど,次世代の技術が開発されており3),網膜発生におけるヒストン修飾の役割の全貌解明とともに,網膜再生への応用も期待されます.文献1)IwagawaCT,CWatanabeS:MolecularCmechanismsCofCH3K27me3andH3K4me3inretinaldevelopment.Neuro-sciResC138:43-48,C20192)IwagawaCT,CHondaCH,CWatanabeS:Jmjd3CplaysCpivotalCrolesintheproperdevelopmentofearly-bornretinallin-eages:amacrine,Chorizontal,CandCretinalCganglionCcells.CInvestOphthalmolVisSciC61:43,C20203)Kaya-OkurHS,WuSJ,CodomoCAetal:CUT&Tagfore.cientCepigenomicCpro.lingCofCsmallCsamplesCandCsingleCcells.NatCommunC10:1930,C2019胎生期哺乳期早期分化桿体視細胞Muller細胞Jmjd3(脱メチル化酵素)ノックアウト産生異常神経節細胞水平細胞アマクリン細胞双極細胞図2網膜特異的Ezh2あるいはJmjd3ノックアウトマウスの表現型H3K27me3のメチル化酵素であるCEzh2や脱メチル化酵素であるCJmjd3を網膜でノックアウトすると,増殖能の低下,早期分化,産生異常といった表現型が現れ,H3K27me3の制御が網膜発生において重要であることが示された.(文献C1より改変引用)あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C1209

硝子体手術のワンポイントアドバイス:244.経毛様体扁平部超音波水晶体乳化吸引術後の強膜創菲薄化(初級編)

2023年9月30日 土曜日

244経毛様体扁平部超音波水晶体乳化吸引術後の強膜創菲薄化(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに経毛様体扁平部超音波水晶体乳化吸引術(parsplanephacoemulsi.cationandaspiration:PPPEA)を施行する際に生じる強膜熱傷については,本シリーズNo.194「経毛様体扁平部超音波水晶体乳化吸引術による強膜熱傷(初級編)」で記載したことがある.PPPEA施行後晩期には著明な強膜の菲薄化を認めることがあるが,筆者らは再手術時に強膜創が緩開し,自己強膜パッチによる閉鎖が必要であった1例を経験し報告したことがある1).●症例提示73歳,女性.8年前に右眼の網膜.離に対して硝子体手術+PPPEAを施行され,その後眼内レンズ(intra-ocularlens:IOL)毛様溝縫着術が施行されたが,鼻側の縫合糸が断裂してIOLが偏位した.鼻側のループを毛様溝に再縫着するために上耳側に25ゲージ(G)トロカールを設置したが,トロカール刺入部位の強膜が非常に菲薄化しており,トロカール抜去後にその部位の強膜が約3mmにわたって楕円形に欠損した(図1).同部位は以前にPPPEAを施行した部位と一致していた.縫合しても眼内液の漏出が止まらなかったため,下方の強膜を半層切除し(図2),強膜創にパッチした(図3).その後漏出は止まり,術後の眼圧は安定した.●PPPEA後の硝子体再手術時の注意点PEAの術中合併症に強膜創熱傷がある2)が,通常のPEAではスリーブ内の灌流液による冷却効果により,強角膜創に生じる熱傷害は軽度である.一方,チップがむき出しになるPPPEAでは,冷却効果がないため熱傷の程度が大きくなる.とくにPPPEA施行中にチップ内に水晶体組織が詰まり閉塞状態になると,急激な温度上昇が生じる3).コラーゲンの分子量は約30万で,1本約10万の線維状の蛋白質が3本集まって螺旋構造になっている.コラーゲンに熱が加わるとこの構造が崩壊し,同時に強膜血管も途絶するため,長期経過で創口周囲の強膜はさらに脆弱化,菲薄化するものと考えられる.本(85)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1再手術の術中所見(1)トロカール刺入部位は前回手術時にPPPEAを施行した部位で,強膜が非常に菲薄化しており,トロカール抜去後に強膜が約3mmにわたって楕円形に欠損した.図2再手術の術中所見(2)下方より強膜を半層切除した.図3再手術の術中所見(3)半層強膜を強膜欠損部位にパッチした.症例では,結膜上から25Gトロカールを刺入したためPPPEA施行部位の強膜の菲薄化を確認しづらく,同じ部位に刺入することになった.その結果,強膜が約3mmにわたって楕円形に欠損してしまったため,強膜パッチを余儀なくされた.過去にPPPEAを施行した患者に対して硝子体再手術を施行する際には,結膜を切開して過去にPPPEAが施行された部位を確認したうえで,新たな強膜創はその部位を避けて作製すべきであると考える.文献1)TerubayashiY,MorishitaS,FukumotoMetal:Scleralpatchgraftingforscleralwoundthinningafterparsplanaphacoemulsi.cationandaspiration:Acasereport.Medi-cine(Baltimore)98:e15598,20192)ErnestP,RhemM,McDermottMetal:Phacoemulsi.cationconditionsresultinginthermalwoundinjury.JCataractRefractSurg27:1829-1839,20013)SatoT,YasuharaT,FukumotoMetal:Investigationofscleralthermalinjuriescausedbyultrasonicparsplanaphacoemulsi.cationandaspirationusingpigeyes.IntOphthalmol39:2015-2021,2019あたらしい眼科Vol.40,No.9,20231207

考える手術:21.白内障手術

2023年9月30日 土曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅白内障手術渡邉敦士大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)現代の白内障手術は,基本的なプロセスが標準化されている.しかし,その中にも術者ごとの工夫や特徴がみられ,完全に同じ手術は存在しない.前提として術式に正解はなく,個々の術者が生涯にわたり各々の術式に改良を重ねていくべきものと考える.これを踏まえたうえで,筆者の手術の要点を述べる(動画①).まず,mainport(MP)をBENT角膜切開(2.4mm)で作製する.次に,sideport(SP)を2時方向に作製する.SPとMPは最低でも90°以上離し,超音波破砕(以下,US)中の核回転操作性の低下を防ぐ.次に,を狙い,前.をすくい上げるように針先をスライドさせながら少し持ち上げ,水を発射する.この操作は通常2カ所で行い,必要に応じて回数を増やす.次に,hydrodelineationを行うが,ここではゴールデンリングが出ない程度に少量追加する.(=“Half-delineation”)(図1).USの段階では,チップのベベル方向とそれによって発生する水流の方向を利用する.ベベルアップで核中央をsculptし,この溝にベベルアップでチップ先端を深く置き,チョッパーでホリゾンタルチョップを行う.最少の手数で核を完全遊離させることが重要である.4分割後はベベルライト(ベベルを右に向ける)で遊離核を吸引する.この際,チョッパーは反転させてベベル背後のスペースに配置し,遊離核吸引効率の向上と後.への保護として活用する(図2).通常,US終了直後は皮質が残らないことが多い(図1).眼内レンズ挿入前のOVD注入はSP経由で前房形成する.これはUS中の核片がSPに挟まることが多いためである.最後に,OVD除去の際は前房維持性を考慮し,IAチップの先端が外に出る直前で連続灌流をOFFとし,素早くチップを外に出す.MPの閉創はトンネルの上壁のみで十分であり,ヨード点眼を用いて各portの閉創を確認する.聞き手:先生の術式でとくに重要と考える過程はありまし,epinucleusが後.に対する保護作用を果たし,安全すか?性を高めます.また,epinucleusが核と同時に回転する渡邉:手術中の動作にはすべて意味がありますが,そのことで生じるpolish効果により,US終了時には皮質が中でもとくに重要なプロセスは,hydrodissectionと水晶体.に付着せず,すでに除去されます.これら二つhydrodelineationだと考えています.私の方法では,超の現象を意図的に再現できるように工夫しています.音波破砕(以下,US)の後半に核とepinucleusが分離(83)あたらしい眼科Vol.40,No.9,202312050910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:US終了時点で皮質がなくなる現象をまれに経験しますが,意図的に行えるものなのでしょうか?渡邉:まず前提としてhydrodissectionを前.直下のスペースに回し,皮質と水晶体.をより厳密に分離します.この状況で,hydrodelineationを行わず(核とepi-nucleusを分離せず)にUSを行うと,この現象を容易に再現できます(図1パターン3).これは仮説ですが,US中に核を回転させる過程で,epinucleusが核と一緒に回転した結果,epinucleusが皮質をpolishし,水晶体.から皮質を分離すると考えています.逆に,hydrodissectionとhydrodelineationを完全に行うと,US中にepinucleusは核と一緒に回転せず,上述のpolish効果を再現しづらいと考えられます(図1パターン1).パターン1はepinucleusがUS中に分離し安全性が高いですが,US終了時に皮質がなくなることはありません.逆に,パターン3はUS終了時に皮質がなくなりますが,epinucleusは分離せず,後.に対する保護が弱く,また連続円形切.が小さい場合には核片が大きくなり遊離しづらくなります.そこで,パターン1とパターン3の両方の利点をもつパターン2(図1)をめざしています.パターン2では,hydrodelineationを少量行い(ゴールデンリングが見えない程度),核とepinucleusをあえて中途半端に分離します.この中途半端に核とepinucleusを分離することがポイントです.この場合,US中に核を回転させると,epinucleusと核は完全に分離していないため,皮質に対するpolish効果が期待できます.また,US後半では核とepinucleusはより分離していき,最終的にはepinu-cleusが自然に遊離し,後.に対する保護となります.私はこの中途半端に行うhydrodelineationを“half-delineation”とよんでいます.聞き手:なるほど,先生の提唱するパターン2は利点が多いわけですね.しかし,すべてのケースでこれは再現可能なのでしょうか?渡邉:この手法は一般的な場合,つまり70歳以上で核硬度2.5以下の症例に有効です.白内障手術は標準的な症例であっても,年齢による水晶体の粘り具合と核硬度により,さまざまな組み合わせがあります.たとえば,60歳代で核硬度2の症例では,動画2のようになります.動画1と同様に,「前.直下のhydrodissection+half-delineation」を行っていますが,US終了時に皮質が残ってしまいます.60歳代では皮質の粘りが高いためです.聞き手:US中,とくに遊離核吸引時の器具の配置が独特に見えますが,何かポイントはありますか?渡邉:US中はチップのベベル方向を意識的に使い分け,それにより生じる水流を活用しています.核分割はベベルアップで行い,遊離核吸引はベベルを右方向(ベベルライト)に向けて行います.核片がベベルの背後のスペースに迷い込むと,核吸引効率が悪くなると考えています.そのため,図2のようにUSとチョッパーで「八の字」を作り,核片をベベル背後のスペース以外に追い込んでいます.このような水流を利用し,またこのスペースに遊離核を追い込むHydrodissection水晶体.Hydrodelineation“Half-delineation”Epinucleusパターン1パターン2パターン3Hydrodissection+HydrodelineationHydrodissection+”Half-delineation”HydrodissectiononlyUS中のepinucleus分離:○US中のepinucleus分離:○US中のepinucleus分離:.反転させたチョッパー遊離核処理中はUS終了時の皮質polish効果:.US終了時の皮質polish効果:○US終了時の皮質polish効果:○ベベル背後のスペースベベルライト図1Hydrodissectionとhydrodelineationの3パターン図2べべルライトによる水流を利用した遊離核処理1206あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023(84)

抗VEGF治療:糖尿病黄斑浮腫の治療選択

2023年9月30日 土曜日

●連載◯135監修=安川力五味文115糖尿病黄斑浮腫の治療選択坂西良仁順天堂大学医学部附属浦安病院眼科糖尿病網膜症はさまざまな病態を呈するが,その中でも糖尿病黄斑浮腫(DME)は直接視力低下につながるため重要な病態の一つである.DMEの治療には複数の選択肢があり,本稿ではそれらの特徴と,どのように組み合わせて治療をすべきかについて筆者の考えを述べる.はじめに糖尿病は慢性的な炎症と微小血管障害を起こすことが知られており,とくに網膜血管の微小循環に影響し,糖尿病網膜症を引き起こす.糖尿病網膜症は網膜血管疾患の中でもっとも多い疾患として知られており,多彩な病態を示す.とくにその病態の一つとして糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)は視力低下の直接の原因となりえるため,その治療は重要である.治療の選択肢としては抗CVEGF薬硝子体内注射,ステロイド硝子体内あるいはCTenon.下注射,さらには毛細血管瘤(microaneurysm:MA)の直接凝固などがあげられる.複数の治療選択肢があるため,それらをどのように組み合わせて治療するかが問題である.抗VEGF療法もっとも一般的な治療は,やはり抗CVEGF薬である.その有用性については大規模スタディでも多くの報告があり1),また実臨床でも多くの医師がその効果を実感していると思われる(図1).抗CVEGF療法は頻度の高い合併症もないため実施することは容易ではあるが,高額な治療であるため継続が困難であることが多い.したがって問題は投与レジメンであるが,筆者は基本的には導入期C3回投与および必要時(prorenata:PRN)投与を行っている.これは標準的なレジメンであるが,メタ解析でもCtreatCandextend(TAE)投与とCPRN投与で治療効果に差がないと報告されており2),施設の状況や患者の状態によりいずれのレジメンでもよいと考える.また,DMEは多彩な病因があるが,炎症性サイトカインの関与が大きいといわれている3).したがって抗VEGF薬だけでなく,抗炎症の目的でステロイド局所投与も有効であると考える.投与は硝子体内とCTenon.下注射の二通りある.硝子体内注射は早期からの効果も十分報告されているが4),一方で眼圧上昇の可能性が高く,また有水晶体眼(81)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体内注射黄斑浮腫を呈していても抗CVEGF薬硝子体内注射にて改善する.では白内障進行の懸念が大きいなど,行える患者は限られている.Tenon.下注射は硝子体内注射に比べて早期の効果はやや劣るものの,眼圧上昇や白内障進行の頻度が少ないことから,筆者はこちらを好んで選択している.毛細血管瘤の検出さらに慢性的な血管障害疾患であるCDMEではしばしばCMAの関与がみられる.MAからの漏出に対しては直接凝固が有効であり,これを同定するためにフルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)あるいは昨今では光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyCangiography:OCTA)が使用される.既報ではCMA検出率はCFAのほうが優れていると報告されているが5),FAではアナフィラキシーショックなどあたらしい眼科Vol.40,No.9,20231203副作用の懸念もあるため,実臨床ではその侵襲性と有用性を考慮したうえで,どちらの検査を選択するかを決定する必要がある.筆者は軟性白斑が散在するなど網膜虚血が疑われる所見にCDMEが合併している患者や治療抵抗性のCDMEに対して,虚血範囲を同定する目的ならびにCMAを厳格に検出する目的でCFAを行っている.それ以外の患者では基本的にはCOCTAを用いてわかる範囲でCMAを検出している.筆者の治療方針これらのようにCDMEに対していくつかの選択肢があるが,これらをどのように組み合わせるかが重要である.基本的には第一選択は抗CVEGF薬であり,先に述べたように導入期C3回とCPRN投与がよいと考える.それでも再発を繰り返す患者に対してはステロイドTenon.下注射を行う.おおよそここまでの治療で黄斑浮腫がいったん軽快する患者が多いが,それでもなかなか浮腫が改善しない場合は,MAからの漏出による可能性が高いため,FAあるいはCOCTAを用いてCMAを検出し,直接凝固を行う(図2).さらに直接凝固に抵抗を示すCDMEでは,最終手段として硝子体手術にて内境界膜.離および.胞切開術を行うことで浮腫が起こりにくくなる.硝子体手術後のCDME眼では,眼内のクリアランスが上がっているため抗CVEGF薬もより早く吸収されると考えられるが,実臨床において注射回数は変わらないと報告されており,またトリアムシノロンC1204あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023図2毛細血管瘤を合併している糖尿病黄斑浮腫毛細血管瘤を合併している場合は,抗VEGF薬硝子体内注射に毛細血管瘤直接凝固を併用することで浮腫を改善させやすくなる.Tenon.下注射であれば眼内のクリアランスも関係ないため追加投与も行いやすいと考えられる.もともと慢性疾患である糖尿病に伴う黄斑浮腫であるため,注射のみでは浮腫を完全にコントロールすることは困難であり,複数回の治療後に多少の浮腫が残っていても視力に影響しなければ,そこまで厳格な追加治療は必要ないのではないかと考えている.文献1)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-realCa.iberceptCforCdiabeticCmacularCedema.COphthalmolo-gyC121:2247-2254,C20142)SarohiaCGS,CNanjiCK,CKhanCMCetal:Treat-and-extendCversusCalternateCdosingCstrategiesCwithCanti-vascularCendothelialgrowthfactoragentstotreatcenterinvolvingdiabeticmacularedema:Asystematicreviewandmeta-analysisCofC2,346Ceyes.CSurvCOphthalmolC67:1346-1363,C20223)NomaCH,CYasudaCK,CShimuraM:InvolvementCofCcyto-kinesinthepathogenesisofdiabeticmacularedema.IntJMolSci22:3427,C20214)QiCHP,CBiCS,CWeiCSQCetal:IntravitrealCversusCsubtenonCtriamcinoloneCacetonideCinjectionCforCdiabeticCmacularedema:asystematicreviewandmeta-analysis.CurrEyeResC37:1136-1147,C20125)HamadaCM,COhkoshiCK,CInagakiCKCetal:VisualizationCofCmicroaneurysmsCusingCopticalCcoherenceCtomographyangiography:comparisonofOCTAenface,OCTB-scan,OCTCenCface,CFA,CandCIACimages.CJpnCJCOphthalmolC62:C168-175,C2018(82)

緑内障:新しい低侵襲濾過手術「プリザーフロマイクロシャント」

2023年9月30日 土曜日

●連載◯279監修=福地健郎中野匡279.新しい低侵襲濾過手術坂田礼東京大学医学部附属病院眼科「プリザーフロマイクロシャント」「プリザーフロマイクロシャント」は,前房内に樹脂製チューブを挿入・留置させて結膜下に房水を導き濾過胞を作製する新規の術式である.線維柱帯切除術と比較すると,手術手技のみならず術後早期の濾過胞管理も簡便である.低侵襲の濾過手術という位置づけで,患者は術後も視覚の質を維持しやすくなるだろう.●はじめに線維柱帯切除術と同様に結膜下に前房水を導くというコンセプトのもと,濾過手術の新しいドレナージデバイスとして「プリザーフロマイクロシャント」(参天製薬,大阪.以下,プリザーフロ)が上市された.すでに米国を除き,欧州,カナダ,アジア・太平洋諸国では使用されているが,日本ではC2022年C8月から一部の医療機関(おもに大学病院など)で使用できるようになっている(ソフトローンチ).線維柱帯切除術は,術後の処置(レーザー切糸,ニードリング,場合によっては縫合)が必須であることや,前房出血,低眼圧(網膜皺襞,脈絡膜.離),眼内炎などの視力低下につながる合併症の発生頻度において,医療者側も患者側も納得のいくような経過が得られるとは限らない術式であった.●プリザーフロとはプリザーフロは,ポリスチレン-ブロック-イソブチレン-ブロック-スチレン(SIBS)という不活性な生体適合樹脂でできており,これは非常に柔軟で熱耐久性に優れている.外径C350Cμm,内径C70Cμmで,内腔にバルブがなく,先端が斜めにカットされた長さC8.5Cmmのチューブである(図1).プリザーフロの途中にフィン構造(幅1.1Cmm)があり,強膜ポケットにフィンを固定し,チューブの先端を前房に向けて挿入する.前房穿刺を伴う強膜トンネルは,角膜輪部からC3Cmmの部位より特殊なメス「ダブルステップナイフ」を用いて作製する(2023年C6月現在).このメスは,プリザーフロチューブの前房内への挿入を容易にするために日本で独自に開発されたものである(図2).一方,海外における挿入ガイドは,25ゲージまたはC27ゲージの針で行われている.図1プリザーフロの本体ベベルアップで前房内に挿入し,フィン部分を強膜ポケットに固定させる(ここでチューブ周囲からのリークもブロックする).チューブ遠位端はフリーの状態で強膜上にのる.(参天製薬から使用許可済)図2ダブルステップナイフ(マニー製)の先端メスの幅は先端の細い部分でC0.5Cmm,太い部分がC1.0Cmmである.強膜下に刺入させる部位は先端のC4.5(mm)という数字が書いてあるところまでである.(参天製薬から使用許可済)(79)あたらしい眼科Vol.40,No.9,202312010910-1810/23/\100/頁/JCOPY図3プリザーフロ挿入後の隅角(自験例)線維柱帯(色素帯)にプリザーフロが挿入されている.ダブルステップナイフによる前房穿刺は盲目的な操作となるため,Schwalbe線側や強膜岬側にチューブが挿入されることも十分ありうる.以下,プリザーフロの利点と注意点を解説する.C●プリザーフロの利点結膜切開と強膜露出,マイトマイシンCC塗布は従来の濾過手術と同じだが,強膜弁の作製,強角膜ブロック除去や虹彩切除が不要である.術中に低眼圧になる心配もなく,短時間で手術を行うことが可能となる.強膜弁の作製と縫合がなく,低眼圧になりにくいため,術後の惹起乱視が線維柱帯切除術よりも小さい可能性がある.濾過胞のできる位置はより円蓋部側であり,角膜輪部からの房水漏出はしづらいと考えられる.C●プリザーフロの注意点日本人の緑内障眼における効果と安全性の知見がほぼない1).とくにわが国で多い正常眼圧緑内障眼に対する眼圧下降効果や安全性,緑内障進行に与える影響については前向きに検討が必要である.また,基本的にはプリザーフロは原発開放隅角緑内障が適応となるため,閉塞隅角緑内障や続発緑内障,小児緑内障,難治緑内障などに対する効果と安全性は,海外より数件の報告があるのみである.術後,フィブリンや出血などでチューブの閉塞が疑われた場合は,外来での対処がむずかしい.エクスプレスのようにチップの先端にCYAGレーザーをあてて閉塞を解除することはできないため,チューブ閉塞時は結膜を再切開して灌流させるしかない.結膜瘢痕化の場合はニードリングで癒着を解除するが,チューブからC1202あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023の流量は一定のため,すぐに濾過胞ができない.しばらく時間をおいてから確認する必要がある.また,チューブ挿入部(図3)は角膜内皮側に近いため,角膜内皮細胞密度に対する影響も無視できない.C●効果と安全性原発開放隅角緑内障患者において,プリザーフロの有効性と安全性を線維柱帯切除術と比較したC2年間の前向き研究2)では,395人(プリザーフロ群)とC132人(線維柱帯切除術群)の患者が無作為化された.1年目の成功確率は,線維柱帯切除術群と比較してプリザーフロ群で低かった(それぞれC72.7%対C53.9%,p<0.01).プリザーフロ群では,ベースラインのC21.1C±4.9CmmHgから1年目にC14.3C±4.3CmmHg(C.29.1%)に低下(p<0.01)した.一方,線維柱帯切除術群では,平均眼圧はC21.1C±5.0CmmHgからC11.1C±4.3CmmHg(C.45.4%)に低下した(p<0.01).術後処置は,40.8%(プリザーフロ群),67.4%(線維柱帯切除術群)であった(p<0.01).C●まとめ低侵襲緑内障手術(microCinvasiveCglaucomaCsur-gery:MIGS:流出路再建術)の件数が爆発的に増加しているが,プリザーフロの登場で,濾過手術の適応ハードルはだいぶ下がると思われる(使用上の注意は添付文書を確認のこと).術者のストレスも減り,術後のメンテナンスにかける時間も少なくてすむため,日帰りでの施行も増えていくことだろう.安全性,有効性のほかにも,MIGSとの使い分けや有効性の比較,白内障との同時手術の成績など,この新しいインプラントに関わるさまざまな臨床報告を興味深く待ちたい.文献1)AhmedT,HonjoM,SakataRetal:Long-termresultsofthesafetyande.ectivenessofanovelmicroshuntinJapa-neseCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucoma.CJpnJOphthalmolC66:33-40,C20222)BakerCND,CBarnebeyCHS,CMosterCMRCetal:Ab-externoCMicroShuntversustrabeculectomyinprimaryopen-angleglaucoma:One-yearCresultsCfromCaC2-yearCrandomized,Cmulticenterstudy.OphthalmologyC128:1710-1721,C2021(80)

屈折矯正手術:屈折矯正手術後の感染症

2023年9月30日 土曜日

●連載◯280監修=稗田牧神谷和孝280.屈折矯正手術後の感染症子島良平宮田眼科病院LASIKやCPRKなどの角膜屈折矯正手術や有水晶体眼内レンズ挿入術後の感染症は,視機能に障害を残す可能性がある重篤な術後合併症である.屈折矯正手術は視機能が良好な患者に対して行われる手術であることから,通常の眼科手術に増して術後感染症に対する対処法を理解しておくことが求められる.●はじめに現在行われている屈折矯正手術は,laserinsituker-atomileusis(LASIK)やCphotorefractiveCkeratectomy(PRK)などの角膜屈折矯正手術と,有水晶体眼内レンズ挿入術に大別される.角膜屈折矯正手術は基本的にはエキシマレーザーで角膜を切除する術式であり,術後の感染症としては感染性角膜炎がある.有水晶体眼内レンズはレンズを固定する位置により前房型および後房型に分けられる.いずれの術式も内眼手術であり,術後には感染性眼内炎のリスクがある.LASIKや有水晶体眼内レンズ挿入術は,基本的に良好な視機能をもつ患者に対して行われる手術である.それゆえ術後感染症により視機能が障害された場合は,患者は強い不満を訴えることが多く,その対処法を理解しておく必要がある.本稿では屈折矯正手術後の感染症について概説する.C●角膜屈折矯正手術後の感染性角膜炎角膜屈折矯正手術の感染性角膜炎の発症率は,LASIKでは0.004%(2万5千件に1件),PRKでは0.01%(1万件にC1件)程度と報告されており1),いずれもまれな合併症である.発症時期は術後C1.2週以内のものが多いが,それ以降の発症もある.危険因子には術前のドライアイや眼瞼炎の存在,患者が医療従事者である場合,またCLASIKであれば術中の上皮欠損などがあげられている.視力予後についてはC80.90%程度の患者で(0.5)以上の矯正視力が得られているが,角膜移植を要した症例も報告されている.発症数や起炎菌についてはCAmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery(ASCRS)のCsurveyでまとめられている2).2001年ではC116件の術後感染があり,起炎菌としては非定型抗(77)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY酸菌によるものが最多であったと報告されている.2008年には発症数はC19件に減少し,起炎菌では非定型抗酸菌は検出されず,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌が4株ともっとも多くなっている.国内ではC2008年にLASIK術後のアウトブレイク事例が発生(同一施設で手術を受けたC30例C39眼)しており,術後C2週以内の発症がC92%,起炎菌としては非定型抗酸菌がC23%で検出されている.アウトブレイクの原因として手術器具の不十分な滅菌があげられている3).角膜屈折矯正手術後の感染性角膜炎の臨床所見としては,角膜への浸潤,フラップ下の膿瘍,結膜充血,疼痛などがある(図1).鑑別疾患としてCLASIK術後に生じることがある層間角膜炎があり,注意を要する.治療についてはC2005年のCASCRSのCWhitePaperでまとめられており,屈折矯正手術後の感染性角膜炎を疑う患者ではフラップの挙上を行い,検鏡・培養検査を行うことが推奨されている4).術後C2週以内の発症であれば起炎菌としてブドウ球菌やレンサ球菌などが疑われ,第C4世代のフルオロキノロン系抗菌点眼薬に加えて,セファゾリンやバンコマイシンの点眼を使用し,術後C2週以降の発症であれば非定型抗酸菌やノカルジア,真菌などが起炎菌として考えられ,第C4世代フルオロキノロン点眼に加え,アミカシン点眼などを用いる(図2).C●有水晶体眼内レンズ術後眼内炎有水晶体眼内レンズ術後の眼内炎について現時点ではまとまった報告は少ないが,AllanらはC0.017%(約6,000件にC1件)程度と報告している5).発症時期については術後C5日以内が多いが,それ以降の発症もある.起炎菌については表皮ブドウ球菌やレンサ球菌などのグラム陽性球菌などのほか,CutibacteriumacnesやCAsper-gillusCsp.が報告されている.治療はレンズ抜去に加えあたらしい眼科Vol.40,No.9,20231199LASIK術後1週目瘢痕治癒後図1LASIK術後の感染性角膜炎LASIK術後C1週目に右眼の霧視を自覚,診察時にC9時方向のフラップ下に膿瘍を認めた.フラップを挙上し検鏡・培養検査を行ったが,菌は検出されなかった(a).抗菌点眼薬を使用し最終的に瘢痕治癒したが,最終矯正視力は(0.7)となった(b).発症時治療後図3有水晶体眼内レンズ術後の眼内炎術後C3日目より左眼疼痛,霧視感を自覚(a).まずCTASSを疑いベタメタゾン点眼を増量したが軽快せず,前房洗浄,硝子体手術および有水晶体眼内レンズ術摘出術を行った.硝子体液からは表皮ブドウ球菌検出された.その後有水晶体眼内レンズを再挿入し,視力はC1.5(n.c)と良好(b).[出典:神谷和孝,清水公也編『有水晶体眼内レンズ手術』(医学書院,2022),p128.129,後藤田哲史ほか「眼内炎」より許可を得て転載.写真は北里大学・神谷和孝先生のご厚意による]前房内への抗菌薬投与,場合によっては硝子体手術が行われる.予後については視力不良例もあるが,比較的良好な視力が得られていることが多い(図3).鑑別すべき疾患には非感染性の炎症である中毒性前眼部症候群(toxicCanteriorsegmentCsyndrome:TASS)があげられる.有水晶体眼内レンズ術後のCTASSは術翌日からC3日以内に起こることが多く,疼痛は軽度で硝子体混濁は認めない,ステロイドによる治療に反応することが眼内炎との相違点である.しかし,両者の鑑別は困難であり,術後早期に強い眼内炎症を認める患者では厳重な経過観察が望まれる.C1200あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023フラップの挙上+検鏡・培養術後2週以内術後2週以降想定される起炎菌想定される起炎菌ブドウ球菌・レンサ球菌属など非定型抗酸菌・真菌などGFLXもしくはMFLXGFLXもしくはMFLX++セファゾリンまたはアミカシン点眼バンコマイシン点眼GFLX:ガチフロキサシンMFLX:モキシフロキサシン図2角膜屈折矯正手術後の感染性角膜炎に対する治療戦略角膜屈折矯正手術後の感染性角膜炎では,LASIKであればフラップを挙上し,検鏡・培養検査を行う.発症時期より起炎菌を推定し,抗菌点眼薬の投与を開始する.検鏡・培養検査の結果を参照に治療方針を調整する.(文献C4より作図)C●おわりに近年,LASIKやCPRKは減少傾向にあるものの,未だ一定数の手術が行われている.有水晶体眼内レンズ挿入術は屈折矯正手術として有望視されており,今後患者数が増加する可能性がある.屈折矯正手術後の感染症の頻度はまれであり,実際に診察する可能性は高くはないが,良好な視機能を残すために適切な診断および対処が重要である.文献1)SchallhornCJM,CSchallhornCSC,CHettingerCKCetal:Infec-tiouskeratitisafterlaservisioncorrection:Incidenceandriskfactors.JCataractRefractSurgC43:473-479,C20172)SolomonCR,CDonnenfeldCED,CHollandCEJCetal:MicrobialCkeratitisCtrendsCfollowingCrefractivesurgery:resultsCofCtheCASCRSCinfectiousCkeratitisCsurveyCandCcomparisonsCwithpriorASCRSsurveysofinfectiouskeratitisfollowingkeratorefractiveCprocedures.CJCCataractCRefractCSurgC37:C1343-1350,C20113)YamaguchiCT,CBissen-MiyajimaCH,CHori-KomaiCYCetal:CInfectiouskeratitisoutbreakafterlaserinsitukeratomile-usisCatCaCsingleClaserCcenterCinCJapan.CJCCataractCRefractCSurgC37:894-900,C20114)DonnenfeldCED,CKimCT,CHollandCEJCetal:ASCRSCwhiteCpapermanagementofinfectiouskeratitisfollowinglaserinsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC31:2008-2011,C20055)AllanCBD,CArgeles-SabateCI,CMamalisN:EndophthalmitisCratesafterimplantationoftheintraocularCollamerlens:CsurveyCofCusersCbetweenC1998CandC2006.CJCCataractCRefractSurgC35:766-769,C2009(78)

眼内レンズ:μフックトラベクロトミートリプル術後の毛様体剝離と一過性近視化

2023年9月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋442.μフックトラベクロトミートリプル術後の清水啓史医療法人茗山会清水眼科毛様体.離と一過性近視化μフックトラベクロトミーは白内障手術と相性のよい低侵襲緑内障手術として広く普及している.しかし,術後早期に毛様体.離に伴い一過性に近視化する症例があり,眼内レンズ度数ずれなどによる術後屈折誤差との鑑別を要する.●はじめにμフックトラベクロトミーは白内障手術と相性がよく,同時手術が広く行われている.従来の緑内障手術トリプルに比較して侵襲が小さく,術後早期の視力の立ち上がりが早い.以前は「緑内障手術の術後早期は見づらい」というのは当たり前のことであったが,μフックトラベクロトミーで前房出血が少ない場合は通常の白内障単独手術とさほど変わらない良好な術後視力経過をたどる.クリニックなどで日帰り手術として行われることも増えたため,翌日から視力検査を受ける患者が増えていることが予想される.それゆえに術者も患者も,術後早期の屈折誤差が白内障単独手術同様に気になるようになってきている.術後早期には毛様体.離に伴って近視化する場合があり,眼内レンズの度数ずれなどによる屈折誤差,いわゆるCrefractivesurpriseとの鑑別を要する.C●μフックトラベクロトミーの術式詳細は成書に譲るが,白内障手術を型通り行い,眼内レンズを挿入する.前房を粘弾性物質で満たしたうえで角膜上に隅角鏡を載せ,隅角を観察しながらCμフックを白内障手術の術創から挿入し,線維柱帯を切開する.C●実際の症例49歳,男性.術前左眼視力C0.04(0.8C×sph.4.0D(cylC.0.75DAx130°),左眼眼圧17mmHg.左眼原発開放隅角緑内障,白内障の診断で,左眼の水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)+μフックトラベクロトミーを計画した.目標屈折値は.3.0Dとした.術翌日の受診時は「少しかすむが,見えます」とのことで,左眼視力はC0.09(1.0C×.3.0D),眼圧はC11CmmHgであった.屈折値は予定通りで,前房深度も正常であった.術C3日目に「全然見えない」とのことで再受診した.左眼視力はC0.05(1.0C×.5.0D),眼圧はC10CmmHg(75)で,近視化していた.術翌日は狙い通りの屈折値であったことから,眼内レンズの度数ずれではなさそうだと判断した.細隙灯顕微鏡では前房深度が浅くなっていた(図1).創からのリーク,瞳孔ブロックなども鑑別にあがるが,前眼部COCTで観察したところ,眼内レンズが前方にせり出しており,前房深度が浅くなっていて,よくみると切開範囲である鼻側と耳側の毛様体の.離がみられた(図2).毛様体.離に伴う浅前房,近視化と診断し,散瞳薬点眼で経過観察した.1週間後の再診では「見えるようになった」とのことで,左眼視力はC0.08(1.0C×.3.0D),眼圧はC16CmmHgであった.毛様体.離は軽快し,前房深度は正常化し,屈折値も目標値に戻っていた(図3).C●μフックトラベクロトミーと毛様体.離本症例では手術翌日は屈折誤差はなく,3日目に浅前房化し,毛様体.離を認め,1週間で軽快した.術翌日に全患者に毛様体.離の評価をしているわけではないため,手術後いつから毛様体.離を生じていたかは不明である.眼圧は翌日C11CmmHg,3日目C10CmmHg,1週間後C16CmmHgであった.眼圧の推移からは,術翌日は毛様体.離による房水産生低下と,隅角の出血や残存粘弾性物質に伴う流出抵抗の増大で,バランスが保たれており前房深度は正常であった可能性が考えられる.トラベクロトミー翌日に近視化している患者を前眼部COCTで評価すると,毛様体.離が生じていることがある.術後の一過性の毛様体.離を前眼部COCTで評価するとMiyakoらは術翌日にC29%,AkagiらはC42%の患者で認められたと報告しており,けしてまれではない.術後屈折誤差として眼内レンズの度数ずれとの鑑別を要するが,前房深度を評価することで鑑別は比較的容易であり,多くは散瞳薬点眼などでの経過観察で軽快するため,大きな問題にはならない.一方で,毛様体.離が遷延し,低眼圧が問題になるケースがまれながら存在する.IshidaらはCμフックトあたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C11970910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1術翌日および3日目の細隙灯顕微鏡写真術翌日(Ca)は前房深度が正常だが,3日目(Cb)は浅くなっている(散瞳薬点眼後).図2術3日目の前眼部OCT像眼内レンズが前方にせり出し,前房が浅くなっている.鼻側と耳側の毛様体.離を認める.ラベクロトミー後の多数の患者を検討し,547例中C4例に遷延する低眼圧を伴う毛様体.離を認めたと報告した.そのような患者では,前房と上脈絡膜腔の交通があり,とくに近視眼の若年者では注意が必要のようである.C●おわりにμフックトラベクロトミーと白内障手術のトリプル手術は今後ますます普及していくことが予想される.術後早期に屈折誤差が生じた場合は前房深度を評価し,毛様体.離を鑑別することが重要である.図3術1週間後の前眼部OCT像前房深度が正常化し,毛様体.離が消失している.文献1)MiyakoF,HirookaK,OnoeHetal:Transientciliochoroi-dalCdetachmentCafterCmicrohookCabCinternoCtrabeculoto-my:ItsCfrequencyCandCpotentialCriskCfactors.CFrontCMed(Lausanne)9:1028645,C20222)AkagiT,NakanoE,NakanishiHetal:Transientciliocho-roidalCdetachmentCafterCabCinternoCtrabeculotomyCforopen-angleCglaucoma:ACprospectiveCanterior-segmentCopticalCcoherenceCtomographyCstudy.CJAMACOphthalmolC134:304-311,C20163)IshidaA,MochijiM,ManabeKetal:Persistenthypotonyandannularciliochoroidaldetachmentaftermicrohookabinternotrabeculotomy.JGlaucomaC29:807-812,C2020

写真:感染性角膜炎治療前後の角膜形状変化

2023年9月30日 土曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史松村健大472.感染性角膜炎治療前後の角膜形状変化福井大学医学部眼科学教室図2図1のシェーマ①白色病巣②角膜浸潤,浮腫,上皮欠損図1前眼部写真角膜中央付近に感染巣,浸潤,浮腫,上皮欠損を認める.図3前眼部OCT所見角膜浸潤や浮腫の範囲が断面像で確認できる.図4前眼部OCTによる角膜形状解析角膜浸潤や浮腫の影響で,角膜形状に非対称的な変化が生じている.図5治療後の前眼部所見と角膜形状解析瞳孔領付近に瘢痕を残して治癒した.角膜形状は随分改善したが,軽度の不正乱視が残った.(73)あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C11950910-1810/23/\100/頁/JCOPY症例は40代の男性.2日前からの右眼の痛み,充血,見えにくさで受診した.右眼角膜の瞳孔領に感染巣と思われる白色の円形病変が2カ所あり,周囲に角膜浸潤,角膜上皮欠損,角膜浮腫を認めた(図1,2).右眼視力は矯正(0.03)と低下しており,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で非対称的な角膜形状の変化と高次収差(higher-orderaber-rations:HOAs)の著しい増加を認めた(図3,4).まず角膜擦過物の検鏡と培養検査を行い,起炎菌としてグラム陽性菌が疑われたため,フルオロキノロン系とセフェム系の抗菌薬点眼を開始した.その後,培養検査でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptibleCStaphylococcusaureus)が検出され,治療開始後は浸潤などの角膜所見も改善傾向であったため,薬剤の変更は行わず,そのまま同じ治療を継続した.治療開始C7日後には上皮欠損がなくなり,治療開始C21日後には瘢痕治癒が得られた.治癒後,角膜形状は治療前より改善したものの,瞳孔領とその近傍に円形の瘢痕が残り,治療後の角膜CHOAs(total,6Cmm)はC1.31Cμmで,右眼視力は矯正(0.6)であった(図5).感染性角膜炎の診断は,角膜擦過物の直接検鏡,培養,薬剤感受性試験といった微生物学的検査がゴールドスタンダードであるが,近年のポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)法やメタゲノム解析の臨床応用,AI診断の発展によって診断技術はより洗練されていく可能性がある.また基本となる細隙灯顕微鏡による所見以外に,前眼部COCTやCinvivoconfocalmicroscopyといった画像検査も感染性角膜炎診療の補助となる1).とくに前眼部COCTは,重症度や角膜所見の経時的な変化を客観的に定量化できるだけではなく,角膜混濁眼においても角膜CHOAsを測定し,不正乱視といった視機能を評価することも可能である.角膜HOAsは視力と強い相関があることが各種角膜疾患で報告されている2.5).感染の急性期から瘢痕治癒期にかけて,角膜形状は変化していくが,正常に近い形状に回復するほど角膜HOAsは小さくなり,視力も良好となる.感染性角膜炎において,正常もしくは正常に近い形状以外でもっとも多い角膜形状の変化は,非対称パターンであることが報告されている4,5).可及的速やかに診断と適切な治療を行い,感染を治めることで,できる限り混濁や形状異常を残さず治癒させたい.前眼部COCTは診療におけるモニタリング機器として役立つものと思われる.文献1)TingDSJ,GopalBP,DeshmukhRetal:Diagnosticarma-mentariumCofCinfectiouskeratitis:ACcomprehensiveCreview.OculSurf23:27-39,C20222)KashizukaCE,CYamaguchiCT,CYaguchiCYCetal:CornealChigher-orderaberrationsinherpessimplexkeratitis.Cor-neaC35:1562-1568,C20163)IbrahimCOMA,CYagi-YaguchiCY,CNomaCHCetal:CornealChigher-orderCaberrationsCinCStevens-JohnsonCsyndromeCandCtoxicCepidermalCnecrolysis.COculCSurfC17:722-728,C20194)MatsumuraT,YamaguchiT,SuzukiTetal:ChangesincornealChigher-orderCaberrationsCduringCtreatmentCforCinfectiouskeratitis.SciRepC13:848,C20235)ShimizuCE,CYamaguchiCT,CYagi-YaguchiCYCetal:CornealChigher-orderaberrationsininfectiouskeratitis.AmJOph-thalmolC175:148-158,C2017

ウイルス性肝炎の治療・感染予防

2023年9月30日 土曜日

ウイルス性肝炎の治療・感染予防TreatmentandPreventionofViralHepatitis戸島洋貴*柿崎暁**是永匡紹***はじめに肝炎ウイルスには,A~E型の5種類がある.A型,E型は経口感染が主体で,B型,C型,D型は血液・体液を介して感染し,A型,B型,C型,の一部は性行為感染による急性肝炎の原因になりうる.B型,C型肝炎は急性感染ののち,慢性化し肝硬変・肝癌など重大な病態へ進展しうるため,肝炎ウイルス対策は国内のみならず世界的な喫緊の課題となっている.WHOは2016年に,2030年までにウイルス性肝炎を撲滅する戦略を掲げた.わが国では2010年に肝炎対策基本法が制定され,2023年の改定では,肝炎検査を行った施設は「その規模を問わず」検査結果を受検者に適切に説明し,受診・受療につなげることを求めている.肝炎ウイルス検査は手術前等のスクリーニング検査として医療機関で広く行われている.手術件数の多い眼科においては検査件数も多く,眼科における肝炎ウイルス対策は重要な課題である.IB型肝炎1.B型肝炎ウイルスとはB型肝炎ウイルス(hepatitisBvirus:HBV)はヘパドナウイルス科のDNAウイルスである.出産時・乳幼児期の感染では9割が持続感染に移行し,約1割が慢性肝炎へ至る.成人が感染した場合,潜伏期間(6週~6カ月)後に30~50%が急性肝炎を発症し,典型的には臨床的寛解に至るが,慢性化する場合もある.HBV感染者は全世界に4億人ほど存在すると推定されている.国内における感染率は1%程度であり,高齢者層において感染率が高い1).A~J型の9つの遺伝子型があり,わが国では遺伝子型CとBが多く,近年A型も増加している2).2.感染経路感染力の強いウイルスであり,血液・体液から感染する.垂直感染(母子感染)と水平感染に分けられ,水平感染としては性行為感染,傷のある皮膚への体液の付着(針刺し事故など),刺青・ピアスの穴開け,静注薬物の乱用,不衛生な器具を用いた医療行為などがあげられる.かつては感染経路として母子感染が最多であったが,1980年代から開始されたハイリスク者への出生直後のワクチン接種・免疫グロブリン投与により減少した.現在では水平感染,とくに性行為感染が多い.3.感染症としての特徴不特定多数との交渉をもつ者はとくに感染のリスクが高く,ワクチン接種をはじめとする感染予防を行うことが望ましい.近年,5~10%と高率に慢性化する遺伝子型AのHBVが増加しており2),若年者の性的接触や薬物乱用を原因とする水平感染に関与しているとして注目されている.*HirokiTojima:群馬大学大学院医学系研究科内科学講座消化器・肝臓内科学分野,厚生労働省「肝炎ウイルス検査受検率の向上及び受診へ円滑につなげる方策の確立に資する研究」班**SatoruKakizaki:国立病院機構高崎総合医療センター臨床研究部,厚生労働省「肝炎ウイルス検査受検率の向上及び受診へ円滑につなげる方策の確立に資する研究」班***MasaakiKorenaga:国立国際医療研究センター肝炎・免疫研究センター,厚生労働省「肝炎ウイルス検査受検率の向上及び受診へ円滑につなげる方策の確立に資する研究」班〔別刷請求先〕戸島洋貴:〒371-8511群馬県前橋市昭和町3-39-15群馬大学大学院医学系研究科内科学講座消化器・肝臓内科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(67)1189表1B型肝炎,C型肝炎の関連検査表2B型慢性肝炎・肝硬変の治療法~核酸アナログとペグイン検査項目検査の意義B型肝炎ターフェロン~HBV感染を示す,感染有無のスクリーニングHBs抗原に用いる.HBV既往感染またはワクチン接種により得らHBs抗体れる防御抗体.HBe抗原一般的にCHBVの増殖能が高いことを示す.HBe抗体一般的にCHBVの増殖能が高くないことを示す.既往感染を意味し,ワクチン接種では誘導さHBc抗体(IgG)れない.HBc抗体(IgM)急性感染を示唆する.血液中のCHBVのウイルス量を示す.陽性であCHBVDNAれば感染力がある.抗ウイルス治療のマーカーとなる.核酸アナログ治療PEG-IFN治療治療効果高率予測困難治療期間生涯にわたる48週間副作用少ない多彩(発熱,網膜症など)投与経路経口皮下注射催奇形性否定できないなし薬剤エンテカビルCPEG-IFNa-2aテノホビルアラフェナミドテノホビルジソプロキシル肝硬変症例使用可能(必須)治療不可HCV抗体HCV感染有無のスクリーニングに用いる.ウイルスが排除されても陽性のまま残る.C血液中のウイルス量を示す.治療により持続HCVRNA陰性化したことをもってウイルスが排除されたと定義され,治療成功例では陰性である.ロン(peginterferon:PEG-IFN)治療がある(表2).核酸アナログはC9割以上の確率でCHBVDNAの減少・陰性化とCALTの正常化を達成できる.現在使用される薬剤(エンテカビル,テノホビルジソプロキシル,テノホビルアラフェナミド)は長期的にも治療効果が高いが5~7),内服中止により高率に肝炎の再燃をきたすため治療期間は一生涯にわたる.また,催奇形性のため挙児希望がある場合は安全性が比較的高いテノホビルジソプロキシルが選択される.ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode.ciencyvirus:HIV)共感染例に核酸アナログを単剤投与するとCHIV薬剤耐性変異を誘導するため,治療前にはCHIV感染を調査する.PEG-IFN治療はドラッグフリーをめざすことができるが,効果の予測が困難であり,副作用も多く,非代償性肝硬変の患者に対しては禁忌である.C7.再活性化HBs抗体やCHBc抗体のみ陽性の既往感染者も免疫抑制・化学療法によりCHBVの再活性化をきたすことがある.リツキシマブなど抗CCD20抗体薬によるものが有名だが,ステロイドや生物学的製剤,ヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)阻害薬の投与でも生じる.重症化しやすく,HBs抗原陰性者ではC40%が劇症肝炎化し,50%が死亡するため8),再活性化による肝炎を確実に予防する必要がある.予防策は厚生労働省研究班によりガイドラインが発表されている.免疫抑制をきたす治療を行う前にはCHBs抗原・HBs抗体・HBc抗体の検査が必要であり,陽性の場合は治療中~治療終了後C1年までは定期的なCHBVDNA,AST・ALTの測定が求められる.HBs抗原陽性者,HBVDNA陽性者はあらかじめ核酸アナログの投与が行われる.経過中にCHBVDNA陽性化がみられた場合は,速やかに専門科と連携し診療にあたる.CIIC型肝炎1.C型肝炎とはC型肝炎ウイルス(hepatitisCCvirus:HCV)はC1989年に発見されたフラビウイルス科のCRNAウイルスである.感染するとC70%で慢性化し,自然排除率は年間C0.2%に留まり,数十年を経て肝硬変へと進展する.肝硬変では年率約C7%で肝細胞癌を発症する.わが国における肝細胞癌の最多原因であり,肝癌対策上大きな課題となっている.感染者数は全世界でC5,800万人,国内においてはC90~130万人と推定されている.遺伝子型によってC1型~6型に分類され,国内ではC1b型,2a型,2b型が多くを占めている.HBV同様,高齢者で有病率が高い1).C2.感染経路血液・体液を介して感染する.以前は輸血・血液製剤を介した感染が多くみられたが,現在はまれになった.ほかに医療従事者の針刺し事故,汚染された医療器具を用いた医療行為,注射器・針の使いまわし,刺青やピアス,性的接触などがあげられる.HBVより感染力は弱く,母子感染での感染率はC4~7%,針刺し事故での感染率はC1.8%ほどである9).C3.性感染症としての特徴HBVより確率は低く,異性パートナー間での感染率はC0.6%とされる.男性同性間性的接触者での感染率は高く10),性感染症としてのCHCVが流行する危険性は危惧されている.不特定多数との性接触もリスクとなる.C4.感染予防・ワクチン現在有効なワクチンはない.性的接触時のコンドームの使用や,医療従事者においては血液・体液への接触予防策が有効である.C5.検査HCV抗体陽性の場合に感染を疑い,HCVRNA定量を行う.HCVRNA陽性は持続感染を示し,感染力を有する.HCV抗体はウイルス排除後も陽性が持続する(表3).C6.治療かつて主力であったインターフェロン(interferon:IFN)治療は副作用(発熱・関節痛や血球減少,網膜症など)が多く,治療期間が長く,治療成功率もC40~50(69)あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C1191表3C型慢性肝炎・肝硬変のDAA治療薬剤名略称遺伝子型投与期間非代償性肝硬変への投与腎機能初回治療ソホスブビル・レジパスビル配合剤CグレカプレビルC/ピブレンタスビル配合剤CソホスブビルC/ベルパタスビル配合剤C再治療ソホスブビルC/ベルパタスビル配合剤+リバビリンCSOF/LDVCGLE/PIBSOF/VELSOF/VEL+RBV1,2すべてすべてすべて12週C慢性肝炎8週肝硬変,再治療例1C2週※遺伝子型C1,2以外1C2週C12週(8週投与は不可)24週C××〇適応×eGFR>3C0〇eGFR>3C0eGFR>5C0図1肝炎検査後の対応フローチャートa.陰性説明資料b.HBV陽性説明資料c.HCV陽性説明資料図2肝炎検査結果説明資料■用語解説■核酸アナログ:HBVの増殖過程を抑制することにより効果を発揮する.現在第一選択となっている薬剤はいずれも治療効果が高く,薬剤耐性変異を誘導しにくい.核酸アナログは増殖過程において逆転写酵素の働きを阻害し,HBV-DNAの増殖を抑制する.HIVの共感染者に核酸アナログを単剤で用いると,HIVの逆転写酵素も阻害され,これによりCHIVに薬剤耐性変異を誘導する可能性があり注意が必要である.CSustainedvirologicalresponse(SVR):主としてCC型肝炎治療に用いられる.薬剤投与(IFNまたはCDAA)を終了してもウイルスが血中から検出されなくなることをさしており,一般的には治療終了後C24週間にわたりCHCV-RNAが検出されなくなったことを治癒と判定する(SVR24).治療終了後の経過観察期間中にHCV-RNAが再検出された場合は再燃と診断され,追加治療が検討される.肝炎医療コーディネーター:2008年に通知された肝炎患者等支援対策事業実施要項に基づき各都道府県で育成が行われており,肝炎患者らが適切な医療や支援を受けられるように,医療機関,行政機関その他の地域や職場の関係者間の橋渡しを行うことが期待されている.主として看護師や保健師,自治体職員,職域の健康管理者,医師・歯科医師,臨床検査技師,薬剤師,患者会・自治会役員などが対象であるが,各都道府県で定め講習を受講するなどすれば職種を問わず資格を取得できる(取得の基準は各都道府県の規定による).