●連載◯298監修=稗田牧神谷和孝298.ICL挿入術後の中毒性前眼部症候群に五十嵐章史代官山アイクリニックどう対応するかImplantableCcollamerlens(STAAR社)挿入術後の中毒性前眼部症候群(TASS)は感染性眼内炎と異なり,自覚症状が軽度で,病状の進行は緩徐で,前房内に限局した強い炎症が特徴である.治療はステロイド治療によく反応するため,予後は良好であるが,常に感染性眼内炎の可能性を視野に入れて慎重に治療を行う必要がある.●ICL挿入術後のTASS中毒性前眼部症候群(toxicCanteriorCsegmentCsyn-drome:TASS)は,白内障手術などの内眼術後に急性発症する病態で,「術中に前房内に混入した物質により起こる無菌性眼内炎」と定義される1).原因としては,レンズ製造工程内での異物混入,灌流液,手術器具,術中使用薬剤などさまざまなものが考えられており,エンドトキシンの関与も指摘されている.現在,世界的に多数の白内障手術が行われているが,TASSの報告はまれである.一方で,ICL挿入術後のCTASSは,国内に限定しても定期的に散見される時期がある.筆者の記憶では,ICL挿入術後のCTASSについて国内複数施設のまとまった報告例が出たのは過去にC3回あり,最初は中村が報告したC2018年C12月.2019年C10月に生じたC20例C24眼である2).この報告ではほとんどの症例でCICL前面にフィブリンの析出を伴う強い前房内炎症が生じた一方で,患者の訴えは霧視感が主で,疼痛はあまりなく,軽度であった.ステロイド治療に反応し,最終的には全例良好な視力へ改善している.原因は不明であったが,発生が一部のロットに偏っていたことなどから,ICL製造・出荷時になんらかの形で残存したエンドトキシンの関与が疑われた.次の報告はC2021年12月.2022年9月に生じた国内6施設,13例18眼である.これは筆者が関与したものも含まれているが,TASSが発生した施設は,使用したインジェクターがSTAAR社専用のものではなく,白内障手術で用いられているアキュジェクトユニフィット(WJ-60MCII,Medicel社)であった施設に限られたことから,このインジェクターが主因とされた.もちろんこのインジェクターは白内障手術で世界的にも多数例に使用されており,同時期に白内障手術ではCTASSの報告はほとんどないことから,ICLとこのインジェクターの組み合わせがなんらかの影響を及ぼしたものと考えられた.この報告でもステロイド治療に反応し,全例矯正視力はC1.2以(81)上へ改善した.そして直近のCTASS発生は,2023年末.2024年の春頃に国内全域で散見されたものになる.全国の複数施設で発生が報告されており,当院では2023年12月.2024年4月の間に14例14眼のTASSを認めた.C●ICL挿入術後のTASSの特徴上記の当院でのCTASS発生は未だ原因不明であるが,このC14例をもとにCTASS発症例の特徴を他誌で報告した3).まず当院での同時期におけるCTASS発生率はC1.34%(14/1047例),全例片眼のみの発症で,平均年齢はC31.3±4.7歳(25.41歳),男性C5眼・女性C9眼であった.5日(0C.0±患者の訴えから推測される平均発症日は1.1.2日)と急性発症であり,訴えとして霧視感(85.7%),充血(64.3%),疼痛(35.7%)の順で多く,所見としては前房内のフィブリン析出(50%),前房蓄膿(7.1%)であり,硝子体混濁を生じた例はなかった.全例でCTASS発症眼と僚眼(未発症眼)と矯正視力,角膜厚,等価球面度数を経時的(術前,発症日,治療後C1週間,治療後1カ月)に比較した.その結果,矯正視力はCTASS発症眼で低下を認めるものの,発症日(WilcoxonCsignedCranktest,p=0.11),治療後C1週(p=0.07),1カ月(p=0.052)と有意差はなく,視力低下が比較的軽度で,治療後は全例C1.2以上と予後が良好であった.また,角膜厚はCTASS発症眼では発症日に有意に厚く(p<0.001)なり,治療後C1週間(p=0.008)まで有意差が生じ,1カ月(p=0.69)で左右差はなくなった(図1).そして等価球面度数もCTASS発症眼では発症日(p=0.001),治療後1週間(p=0.02)で有意な近視化を認め,1カ月(p=0.21)で屈折差はなくなった(図2).つまり,角膜厚増加と近視化がCTASS発症時の特徴的所見と考えられた.C●ICL挿入術後TASSの治療方針当院では以下のように対応した.①軽症例(前房内の炎症が強いもののフィブリン析出やあたらしい眼科Vol.42,No.3,20253450910-1810/25/\100/頁/JCOPY角膜厚(μm)図1TASS発症眼と未発症眼の角膜厚の変化TASS発症眼は未発症眼と比べ,中心角膜厚は発症時に有意に厚く(p<0.001)なっており,治療後C1週間もまだ厚くなる傾向(p=0.008)が残存し,治療後C1カ月で左右差がなくなった(p=0.69).-10.00pre発症日1W1MN=14N=14N=14N=11図2TASS発症眼と未発症眼の自覚等球面度数の変化TASS発症眼は未発症眼と比べ,自覚等価球面度数は発症時(p=0.01),治療後C1週間(p=0.02)で有意な近視化を認め,1カ月で左右差はなくなった(p=0.21).自覚等価球面度数(D)2.000.090.210.040.11-2.00-6.24-0.09-0.39-0.020.00-4.00-6.00-6.17-8.00p=0.01p=0.02p=0.21図3TASS重症例の前眼部写真とOCT像前房内はCICL前後面にフィブリンの析出を認め,散瞳不良となり眼底透見不能であったため,感染性眼内炎も疑い,前房洗浄時にレンズを摘出した症例.摘出後,眼底異状はなくCTASSと診断し,ステロイド治療をしたところ急速に改善し,摘出後C1カ月でレンズ再挿入を行い,術後裸眼視力C2.0に改善した.前房蓄膿がない場合):ステロイド点眼の頻回投与(1.2時間おき)とステロイド(プレドニゾロンC10Cmg)の内服をC3日.1週間行う.②中等例(前房内の炎症が強くフィブリン析出もしくは前房蓄膿を伴う場合):軽症例治療に加え前房洗浄およびステロイド結膜下注射を追加する.③重症例(前房内炎症が強くフィブリン析出もしくは前房蓄膿を伴い,眼底の状態が確認できない場合):中等例治療に加えCICLレンズ摘出を行う(図3).TASS治療において前房洗浄を行うことが有効か否かは意見が分かれるところであるが,筆者の経験では,前房洗浄を行ったほうが自覚・他覚症状が急速に改善する傾向があり,フィブリン析出や前房蓄膿を生じる場合は抗菌薬を加えた灌流液で前房洗浄をすぐに行うようにしている.C●感染性眼内炎との鑑別臨床現場においてCICL挿入術後に突然前房内に強いC346あたらしい眼科Vol.42,No.3,2025炎症が生じると,感染なのかCTASSなのかをみきわめるのは非常にむずかしい.TASSの場合は,①充血や自覚症状(疼痛,視力低下)が弱いこと,②前房内に炎症が限局すること,③発症時は角膜厚が肥厚し,近視化すること,④病状の進展が緩徐であること,が特徴である.ただしCTASSと診断しても,常に感染性眼内炎の疑いを捨てず,治療当日は数時間おきに患者に自覚症状に悪化がないか聞くように注意している.TASSの場合は上記治療を行うと,少なくともその後悪化することはない.文献1)Hernandez-BogantesE,Ramirez-MirandaA,Olivo-PayneAetal:Toxicanteriorsegmentsyndromeafterimplanta-tionofphakicimplantablecollamerlens.IntJOphthalmolC12:175-177,C20192)中村友昭:ICL後のCTASS.CIOL&RSC35:599-609,C20213)五十嵐章史:後房型有水晶体眼内レンズ.OCULISTAC140:C59-66,C2024(82)