●連載◯280監修=稗田牧神谷和孝280.屈折矯正手術後の感染症子島良平宮田眼科病院LASIKやCPRKなどの角膜屈折矯正手術や有水晶体眼内レンズ挿入術後の感染症は,視機能に障害を残す可能性がある重篤な術後合併症である.屈折矯正手術は視機能が良好な患者に対して行われる手術であることから,通常の眼科手術に増して術後感染症に対する対処法を理解しておくことが求められる.●はじめに現在行われている屈折矯正手術は,laserinsituker-atomileusis(LASIK)やCphotorefractiveCkeratectomy(PRK)などの角膜屈折矯正手術と,有水晶体眼内レンズ挿入術に大別される.角膜屈折矯正手術は基本的にはエキシマレーザーで角膜を切除する術式であり,術後の感染症としては感染性角膜炎がある.有水晶体眼内レンズはレンズを固定する位置により前房型および後房型に分けられる.いずれの術式も内眼手術であり,術後には感染性眼内炎のリスクがある.LASIKや有水晶体眼内レンズ挿入術は,基本的に良好な視機能をもつ患者に対して行われる手術である.それゆえ術後感染症により視機能が障害された場合は,患者は強い不満を訴えることが多く,その対処法を理解しておく必要がある.本稿では屈折矯正手術後の感染症について概説する.C●角膜屈折矯正手術後の感染性角膜炎角膜屈折矯正手術の感染性角膜炎の発症率は,LASIKでは0.004%(2万5千件に1件),PRKでは0.01%(1万件にC1件)程度と報告されており1),いずれもまれな合併症である.発症時期は術後C1.2週以内のものが多いが,それ以降の発症もある.危険因子には術前のドライアイや眼瞼炎の存在,患者が医療従事者である場合,またCLASIKであれば術中の上皮欠損などがあげられている.視力予後についてはC80.90%程度の患者で(0.5)以上の矯正視力が得られているが,角膜移植を要した症例も報告されている.発症数や起炎菌についてはCAmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery(ASCRS)のCsurveyでまとめられている2).2001年ではC116件の術後感染があり,起炎菌としては非定型抗(77)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY酸菌によるものが最多であったと報告されている.2008年には発症数はC19件に減少し,起炎菌では非定型抗酸菌は検出されず,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌が4株ともっとも多くなっている.国内ではC2008年にLASIK術後のアウトブレイク事例が発生(同一施設で手術を受けたC30例C39眼)しており,術後C2週以内の発症がC92%,起炎菌としては非定型抗酸菌がC23%で検出されている.アウトブレイクの原因として手術器具の不十分な滅菌があげられている3).角膜屈折矯正手術後の感染性角膜炎の臨床所見としては,角膜への浸潤,フラップ下の膿瘍,結膜充血,疼痛などがある(図1).鑑別疾患としてCLASIK術後に生じることがある層間角膜炎があり,注意を要する.治療についてはC2005年のCASCRSのCWhitePaperでまとめられており,屈折矯正手術後の感染性角膜炎を疑う患者ではフラップの挙上を行い,検鏡・培養検査を行うことが推奨されている4).術後C2週以内の発症であれば起炎菌としてブドウ球菌やレンサ球菌などが疑われ,第C4世代のフルオロキノロン系抗菌点眼薬に加えて,セファゾリンやバンコマイシンの点眼を使用し,術後C2週以降の発症であれば非定型抗酸菌やノカルジア,真菌などが起炎菌として考えられ,第C4世代フルオロキノロン点眼に加え,アミカシン点眼などを用いる(図2).C●有水晶体眼内レンズ術後眼内炎有水晶体眼内レンズ術後の眼内炎について現時点ではまとまった報告は少ないが,AllanらはC0.017%(約6,000件にC1件)程度と報告している5).発症時期については術後C5日以内が多いが,それ以降の発症もある.起炎菌については表皮ブドウ球菌やレンサ球菌などのグラム陽性球菌などのほか,CutibacteriumacnesやCAsper-gillusCsp.が報告されている.治療はレンズ抜去に加えあたらしい眼科Vol.40,No.9,20231199LASIK術後1週目瘢痕治癒後図1LASIK術後の感染性角膜炎LASIK術後C1週目に右眼の霧視を自覚,診察時にC9時方向のフラップ下に膿瘍を認めた.フラップを挙上し検鏡・培養検査を行ったが,菌は検出されなかった(a).抗菌点眼薬を使用し最終的に瘢痕治癒したが,最終矯正視力は(0.7)となった(b).発症時治療後図3有水晶体眼内レンズ術後の眼内炎術後C3日目より左眼疼痛,霧視感を自覚(a).まずCTASSを疑いベタメタゾン点眼を増量したが軽快せず,前房洗浄,硝子体手術および有水晶体眼内レンズ術摘出術を行った.硝子体液からは表皮ブドウ球菌検出された.その後有水晶体眼内レンズを再挿入し,視力はC1.5(n.c)と良好(b).[出典:神谷和孝,清水公也編『有水晶体眼内レンズ手術』(医学書院,2022),p128.129,後藤田哲史ほか「眼内炎」より許可を得て転載.写真は北里大学・神谷和孝先生のご厚意による]前房内への抗菌薬投与,場合によっては硝子体手術が行われる.予後については視力不良例もあるが,比較的良好な視力が得られていることが多い(図3).鑑別すべき疾患には非感染性の炎症である中毒性前眼部症候群(toxicCanteriorsegmentCsyndrome:TASS)があげられる.有水晶体眼内レンズ術後のCTASSは術翌日からC3日以内に起こることが多く,疼痛は軽度で硝子体混濁は認めない,ステロイドによる治療に反応することが眼内炎との相違点である.しかし,両者の鑑別は困難であり,術後早期に強い眼内炎症を認める患者では厳重な経過観察が望まれる.C1200あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023フラップの挙上+検鏡・培養術後2週以内術後2週以降想定される起炎菌想定される起炎菌ブドウ球菌・レンサ球菌属など非定型抗酸菌・真菌などGFLXもしくはMFLXGFLXもしくはMFLX++セファゾリンまたはアミカシン点眼バンコマイシン点眼GFLX:ガチフロキサシンMFLX:モキシフロキサシン図2角膜屈折矯正手術後の感染性角膜炎に対する治療戦略角膜屈折矯正手術後の感染性角膜炎では,LASIKであればフラップを挙上し,検鏡・培養検査を行う.発症時期より起炎菌を推定し,抗菌点眼薬の投与を開始する.検鏡・培養検査の結果を参照に治療方針を調整する.(文献C4より作図)C●おわりに近年,LASIKやCPRKは減少傾向にあるものの,未だ一定数の手術が行われている.有水晶体眼内レンズ挿入術は屈折矯正手術として有望視されており,今後患者数が増加する可能性がある.屈折矯正手術後の感染症の頻度はまれであり,実際に診察する可能性は高くはないが,良好な視機能を残すために適切な診断および対処が重要である.文献1)SchallhornCJM,CSchallhornCSC,CHettingerCKCetal:Infec-tiouskeratitisafterlaservisioncorrection:Incidenceandriskfactors.JCataractRefractSurgC43:473-479,C20172)SolomonCR,CDonnenfeldCED,CHollandCEJCetal:MicrobialCkeratitisCtrendsCfollowingCrefractivesurgery:resultsCofCtheCASCRSCinfectiousCkeratitisCsurveyCandCcomparisonsCwithpriorASCRSsurveysofinfectiouskeratitisfollowingkeratorefractiveCprocedures.CJCCataractCRefractCSurgC37:C1343-1350,C20113)YamaguchiCT,CBissen-MiyajimaCH,CHori-KomaiCYCetal:CInfectiouskeratitisoutbreakafterlaserinsitukeratomile-usisCatCaCsingleClaserCcenterCinCJapan.CJCCataractCRefractCSurgC37:894-900,C20114)DonnenfeldCED,CKimCT,CHollandCEJCetal:ASCRSCwhiteCpapermanagementofinfectiouskeratitisfollowinglaserinsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC31:2008-2011,C20055)AllanCBD,CArgeles-SabateCI,CMamalisN:EndophthalmitisCratesafterimplantationoftheintraocularCollamerlens:CsurveyCofCusersCbetweenC1998CandC2006.CJCCataractCRefractSurgC35:766-769,C2009(78)