考える手術.監修松井良諭・奥村直毅バックフラッシュニードルを用いたEPembedding福島正樹富山大学医学薬学研究部眼科学講座,近畿大学医学部眼科学教室分層黄斑円孔(lamellarmacularhole:LMH)という疾患概念は,1976年にGassらによって初めて報告された.その後,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)によってLMHでは黄斑上に厚い増殖組織を伴うことが報告され,その異常組織はlamellarhole-associatedepiretinalproliferation(LHEP)と名づけられた.LHEPはLMHだけではなく,網膜前膜(epiretinalmembrane:ERM)や全層黄斑円孔(full-thicknessmacularhole:FTMH)など他の黄斑疾患にも伴うことがわかってきたため,近年でにLMHに対しEPを円孔内に埋め込む術式が考案され,良好な術後成績を達成できるようになったため,近年,本術式が急速に普及してきている.原法ではILM鑷子を用いてEPを.離し,円孔縁に付着させたまま円孔内に埋め込むが,この手技は鑷子の精緻な技術を要する.EPを網膜に近い位置で把持する必要があるため,場合により感覚網膜や内境界膜の損傷となり,医原性の暗点が生じることがある.また,EPには粘着性があり鑷子先端に強く付着することがあるため,EPを鑷子からはずすことができず,意図せず円孔縁から遊離してしまうこともある.今回は,それらの問題点を克服するバックフラッシュニードルを用いた方法を紹介する.聞き手:バックフラッシュニードルを使ってepiretinal弾性が網膜へのダメージを最小限にすると考えられまproliferation(EP)を.離する方法とその設定を教えてす.そして,受動吸引にてEPの吸引.離を行います.ください.受動吸引ではボトル高や眼内灌流圧に準じた吸引圧が発福島:図1に示すように,バックフラッシュニードルは生します.私は20~22mmHgの設定で行っています.先端にシリコーンチップ付きのものを使用します.私はEPの.離温存が完了したあとは,原法の通り内境界膜「ディスポシラガ氏バックフラッシュニードルシリコー(internallimitingmembrane:ILM).離を行い,最後ンエクステンジブル25G(DORC社)を使用しています.に液空気置換を行い終了します.シリコーンチップがないと網膜に直接的な機械的損傷をきたしてしまう可能性があります.シリコーンの適度な聞き手:このテクニックの注意点はありますか?(59)あたらしい眼科Vol.41,No.4,20244250910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術福島:まず,能動吸引をしてしまうと,黄斑付近に強い吸引が発生してしまうので注意が必要です.誤吸引の発生を避けるため,フットペダルから足をはずしておいたほうが安全です.また,眼内灌流圧を自動で調整するCONSTELLATION(アルコン社)のIOPcontrolシステムでは,強い吸引圧が発生してしまう可能性があるため,IOPcontrolはOFFにしておくべきだと考えます.次に,EPが存在する範囲はEPを.離するまでわからないことが多いため,黄斑から2乳頭径ほど離れた位置から吸引.離を開始することをお勧めします.EPの範囲を可視化するために,最初にブリリアントブルーGにてILM染色を行うことや,どこまで吸引.離を行ったかを把握するために,トリアムシノロンアセトニド(マキュエイド,わかもと製薬)を使用することも非常に有用です.また,厚い網膜前膜(epiretinalmem-brane:ERM)を合併したLMH症例においては,本手法が無効なこともあるため注意が必要です.聞き手:EPは円孔の中に完全に埋め込んだほうがよいですか?それとも軽く寄せるだけで十分ですか?福島:近年,少数例ですがLMHに対してEPを埋め込んだ群(embedding)と埋め込まない群(sparing)の比較研究が報告され,術後視力・網膜外層の回復・円孔の閉鎖形態に有意差を認めないという結果でした.私の経験からも,液空気置換を行うのみで,翌日にはEPが円孔内に埋没されているのをOCTにて全例で確認できて図1バックフラッシュニードルを用いた術中操作a:シリコーンチップ付きのバックフラッシュニードルを用い,受動吸引にてEPを.離する.b:網膜上の後部硝子体皮質(*)は選択的に除去される.c:EP(.)は円孔縁から除去されずに温存することができる.d:ILMはブリリアントブルーGによって一様に染色され,ILMを損傷することなくEP.離が可能であることがわかる.いるため,過度な埋め込みによる網膜色素上皮や黄斑組織の損傷予防の観点からも,完全に埋め込む必要はないと考えます.聞き手:円孔に対しEPが大きい場合や,後部硝子体皮質が付着してしまっている場合に,トリミングを行いますか?福島:原法では,EPのサイズが円孔に対して大きいときや,EP以外の後部硝子体皮質が付着しているときには,カッターにてトリミングを行うとされています.しかし,本手法を用いると,EPは円孔縁に付着したまま温存されますが,白色透明の後部硝子体皮質は選択的に除去されることが多いため,トリミングを必要としません.これらの理由は不明ですが,EPが網膜内層のMuller細胞から遊走し,円孔縁に強く付着している性質からくるものと考えられます.聞き手:その他のデバイスも同じくEP.離には有用ですか?福島:フィネッセフレックスループ(アルコン社)やダイヤモンドダストスイーパー(DORC社)も同様にEP.離に有用です.しかし,これらのデバイスは感覚網膜やILM損傷をきたすことが知られており,また,後部硝子体皮質もまとめて温存してしまうため,これらの点において,バックフラッシュニードルに優位性があると考えます.図2EPを伴う分層黄斑円孔の術前後のOCT所見a:黄斑部の網膜内層の欠損があり,EP(▽)のembeddingにより術後12カ月で黄斑形態の改善が得られている.b:網膜外層のellipsoidzone()の連続性の改善と視力改善も得られている(b).426あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024(60)