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写真:鉗子分娩によるDescemet膜破裂と水疱性角膜症

2023年4月30日 日曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史467.鉗子分娩によるDescemet膜破裂と笠松広嗣東京歯科大学市川総合病院眼科水疱性角膜症図2図1のシェーマDescemet膜破裂図1前眼部所見右眼に斜めに走るCDescemet膜破裂を認めた.図3前眼部OCT所見角膜の浮腫と.離したCDescemet膜,およびCDescemet膜の肥厚を認めた.図4トポグラフィマップ所見上段:Elevationmap.Descemet膜破裂と一致して前面(左)および後面(右)ともに平坦化を認めた.左下:AxialCpowermap.Descemet膜破裂と強主経線の一致を認めた.右下:Pachymetrymap.Descemet膜破裂に伴い角膜の肥厚を認めた.(81)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C5130910-1810/23/\100/頁/JCOPY症例は46歳,男性.30代からの視力低下を自覚していたが,もともと弱視であり,手術加療などはせずに様子をみていた.40代で右眼の疼痛を自覚し,疼痛の治療目的に当院を紹介受診した.初診時矯正視力は右眼C20Ccm指数弁であった.右眼にCDescemet膜破裂と角膜浮腫を認めた(図1,2).前眼部光干渉断層法では.離したCDescemet膜と肥厚したCDescemet膜を認めた(図3).トポグラフィマップ(図4)における前後面のCelevationmapは平坦化しており,帯状の領域はDescemet膜破裂の方向と強主経線の角度と一致していた.中心角膜厚はC1,024Cμmと肥厚しており,角膜内皮細胞密度も測定不能であった.鉗子分娩によるCDes-cemet膜破裂例に伴う水疱性角膜症と診断し,初診から2カ月後に水晶体再建術+Descemetstrippingautomat-edkeratoplasty(DSAEK)を施行した.術後角膜浮腫は改善し,疼痛も改善したが,最良矯正視力はC0.01に留まった.鉗子分娩によるCDescemet膜破裂はC1895年にCNoyesらが初めて報告した1).鉗子を用いた分娩は盲目的に行われるため,鉗子で誤って患児の眼球を圧迫ることにより生じる.疾患の病相は各ライフステージにおいて異なる.分娩直後にはCDescemet膜の欠損のため前房水が角膜実質に流入することにより角膜浮腫をきたすが,数週間~数カ月で瘢痕を内皮面に残して自然治癒し,角膜は透明化する.角膜乱視を生じた場合は弱視を生じるため,弱視を防ぐために幼少期には乱視の矯正,健眼遮蔽など,適切な弱視の管理が必要となる2,3).角膜内皮細胞は徐々に減少するため,中高年期に水疱性角膜症を発症し,視力低下や疼痛を主訴に病院受診をすることが多い4).鉗子分娩によるCDescemet膜破裂に続発する水疱性角膜症はわが国では水疱性角膜症のC1.6%5),DSAEK導入疾患の2%であり,比較的まれである6).水疱性角膜症の治療はCDSAEKが比較的良好な成績を示しているが7),もともと弱視であることが多いので,弱視の有無と最高視力を確認し,それ以上の視力は出ない可能性が高いことを患者に十分に説明したうえで手術を行う.手術の際の注意点としては,Descemet膜が肥厚し,実質との癒着が強いこともあるため,Descemet膜を丁寧に残さず.離除去することが重要である.また,角膜の変形が強く後面の凹凸が強い場合や,過度な平坦化をきたしている場合はグラフトの接着が悪いこともあるため,術前に十分に戦略を練り,術後は注意深く診察する必要がある.また,外傷であるためCDescemet膜破裂の方向や角膜の変形の度合いも個人差が大きい.現状では,視力の回復の早さや拒絶反応の少なさからDSAEKが第一選択であるが,変形の強い場合や角膜混濁が強い場合には全層角膜移植術のほうが有利な場合もあるので,術式は十分に検討する必要がある.文献1)NoyesHD:TraumaticCkeratitisCcausedCbyCforcepsCdeliv-eryCofCanCinfant.CTransCAmCOphthalmolCSocC7:454-455,C18952)AngellCLK,CRobbCRM,CBersonFG:VisualCprognosisCinCpatientsCwithCrupturesCinCDescemet’sCmembraneCdueCtoCforcepsinjuries.ArchOphthalmolC99:2137-2139,C19813)LambertCSR,CDrackCAV,CHutchinsonAK:LongitudinalCchangesCinCtheCrefractiveCerrorsCofCchildrenCwithCtearsCinCDescemet’sCmembraneCfollowingCforcepsCinjuries.CJAAPOSC8:368-370,C20044)HonigMA:Forcepsandvacuuminjuriestothecornea:Chistopathologicfeaturesoftwelvecasesandreviewoftheliterature.CorneaC15:463-472,C19955)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal;JapanBullousKera-topathyStudyG:NationalsurveyonbullouskeratopathyinJapan.CorneaC26:274-278,C20076)YazuH,YamaguchiT,AketaNetal:Preoperativeaque-ousCcytokineClevelsCareCassociatedCwithCendothelialCcellClossafterDescemet’sstrippingautomatedendothelialker-atoplasty.InvestOphthalmolVisSciC59:612-620,C20187)KobayashiA,YokogawaH,MoriNetal:CaseseriesandtechniquesCofCDescemet’sCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCforCsevereCbullousCkeratopathyCafterCbirthCinjury.BMCOphthalmolC15:1-7,C2015

色覚―検査と指導

2023年4月30日 日曜日

色覚―検査と指導ColorVisionTestingandInstruction杢野久美子*はじめに眼科医にとって色覚の知識は必要である.本稿では,小児の色覚異常の診療に必要と思われる,一般眼科で可能な検査・診断・指導について解説する.I色覚とはヒトの眼に入って明るさの感覚を起こさせるのは,380~780nm(=10-9m)の波長範囲にある電磁波で,人間は波長の差によって種々の色を感じる.光は視路を通って,大脳で色として認識される.人間の眼球内の網膜にある視細胞には,明るいところではたらく錐体(cone)と暗いところではたらく杆体(rod)がある.錐体の視物質は三種類あり,最大吸収波長が異なる.それらを含む錐体を,長波長感受性錐体(L-錐体),中波長感受性錐体(M-錐体),短波長感受性錐体(S-錐体)という.少なくとも二種類の錐体の興奮により,可視光を電気信号に変換し脳へ伝達して,色として認識される(図1).II色覚異常の分類色覚異常は先天色覚異常と後天色覚異常に分類される.先天色覚異常は遺伝子異常による錐体視物質の異常によって起こる.1型色覚はL-錐体,2型色覚はM-錐体,3型色覚はS-錐体の最大吸収波長が正常とは異なっている.先天色覚異常の大部分は1型色覚と2型色覚で,先天赤緑色覚異常である.2色覚(旧用語の色盲)は3種類の錐体視物質のうちの一つが欠損している.異常3色覚(旧用語の色弱)は一つの視物質の最大吸収波長が正常と異なるものである.先天赤緑色覚異常に関係する遺伝子はX染色体上に存在し1),遺伝形式はX染色体連鎖潜性(劣性)遺伝である.日本人では男性の約20人に1人(5%),女性の約500人に1人(0.2%)にみられる.保因者(女性)の頻度は約10人に1人(10%)である.1型色覚と2型色覚の比は1:3.0~3.5で,2型色覚が多い(図2).先天青黄異常の3型色覚と,杆体1色覚,錐体1色覚はきわめてまれである.本稿では先天色異常として,1型色覚と2型色覚の先天赤緑色覚異常について解説する.後天色覚異常は,遺伝的要因による先天色覚異常を除くすべての色覚異常で,視路のいずれの障害によっても色覚異常が起こる.小児の色覚異常の中には,心因性視覚障害の場合があることにも留意すべきである.III色覚に関する用語2005年10月に『眼科用語集』第5版で色覚関係の用語が改訂された2)(図3).旧用語の色盲,色弱は新用語では2色覚,異常3色覚にそれぞれ改訂された.2017年9月に日本遺伝学会は,『遺伝学用語』改訂において,英語<colorblindness>に対する旧来の訳語である色覚異常,色盲に替えて,邦語と英語をペアにした*KumikoMokuno:刈谷豊田総合病院眼科〔別刷請求先〕杢野久美子:〒448-0852愛知県刈谷市住吉町5-15刈谷豊田総合病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(71)503相対的感度L-錐体400500600700波長(nm)図1色覚とは人間の可視光の波長領域は380~780nm.波長の差によって色が変わると感じる.視細胞には錐体と杆体がある.最大感度波長の異なる少なくとも2種類の錐体細胞が,光を電気信号に変換し,脳へ伝達して色として認識される.XYXXXYXXXYXXXYXXXYXXXYXXXY=遺伝学的にも正常の女性=正常色覚男性XXXXXY=保因者=色覚異常女性=色覚異常男性図2先天赤緑色覚異常の遺伝形式X連鎖性潜性遺伝.日本人は男性の20人に1人,女性の500人に1人.保因者は約10%.1型色覚:2型色覚=1:3.0~3.5.図3色覚用語2005年『眼科用語集』第5版で色覚に関する用語が大幅に改訂された.従来の第1・第2・第3色覚異常は1型・2型・3型色覚,1色型・2色型・3色型色覚は1色覚・2色覚・3色覚と表され,3色覚は正常3色覚と異常3色覚に分けられる.新用語からは「色盲」「色弱」という表現がなくなった.2017年日本遺伝学会は,遺伝学用語改訂において,英語〈colorblindness〉に対する旧来の訳語である色覚異常,色盲に替えて,色覚多様性(colorvisionvariation)という呼称(概念)を提案した.1.赤と緑2.オレンジと黄緑3.緑と茶4.青と紫5.ピンクと白・灰色正常1型色覚2型色覚6.緑と灰色・黒7.赤と黒8.ピンクと水色1型色覚の混同色は1-82型色覚の混同色は1-6図4色感覚のモデルと先天色覚異常の混同色5,6)色覚異常のモデルの楕円では,赤と緑の隔たりが正常に比べて少なく,似ている色と感じられる.楕円の短径方向で向かい合う色が混同色.先天色覚異常の色感覚は,正常の円形が一定の方向に圧縮された楕円で表すことができる5)(図4).軽い色覚異常ならば円に近い楕円,強い色覚異常ならば細い楕円である.この色感覚モデルで円の直径の両端にある2色,たとえば赤と緑は反対色とよばれ色の違いが著明であるが,色覚異常のモデルの楕円では赤と緑の隔たりが正常に比べて少ない.これはこの2色が正常の感覚で見るほどには違って見えないことを示す.強度異常(楕円が細い)ほど赤と緑の位置が近づく.つまり非常に似た色と感じられる.先天色覚異常は,ふつうには著しい違いのある色がよく似て見えて識別しにくいことがある.色覚異常のモデルである楕円の短径の方向で向かい合うこのような色を混同色という.赤と緑,オレンジと黄緑,緑と茶,青と紫などは,1型・2型色覚で混同しやすい.さらに1型色覚では,L-錐体の異常により赤の感度が低下し暗く見えるため,赤を見分けにくい場合がある.先天色覚異常の混同色を図4に示す6).VI先天色覚異常の検査・診断1.色覚検査の種類①仮性同色表:互いに混同色である2色,数色を使った模様,数字によって構成された検査表である.石原色覚検査表(石原表),SPP標準色覚検査表第1部先天異常用(SPP-1),東京医科大学式色覚検査表などがある.仮性同色表は色覚異常の検出に用いる.複数の検査表を使用して検査することが望ましい.正常か先天色覚異常かの診断が可能であるが,不確実な場合は疑いとする.仮性同色表で程度分類や型の判定はできない.②色相配列検査:色相環に沿って色票(Cap)を並べる検査である.FarnsworthDichotomousTestPanelD-15(パネルD-15)が一般的に使用されている.色覚異常の程度を強度と中等度以下に二分する検査である.③アノマロスコープ:単色光の赤+単色光の緑=単色光の黄となる条件(Rayleigh均等,等色)を検査する.正確な診断はこの検査によってのみ可能であるが,一般の眼科には備えられていない.本稿では,石原表,SPP-1,パネルD-15について解説する.a.石原R色覚検査表(石原表)先天色覚異常の検出表として国際的に普及している色覚検査表で,国際版38表7)と24表版がある.石原R色覚検査表II国際版38表(2014年12月改訂)の検査表・検査方法・判定(図5).通常は数字表および環状表を検査・判定に用いる.数字が読めない被験者の場合は曲線表を参考として使用し,環状表を検査・判定に用いる.検査では,被験者に第1表から第15表を順番に読み,ついで第38表から第32表と遡順番で読むように指示する.第1表から第15表および第38表から第32表の計22表のうち,「誤読」表数が4表以下であれば正常色覚と判定する.「誤読」表数が8表またはそれ以上であれば先天色覚異常と判定する.数字の読めない被験者の場合,曲線表を使用する.この場合,これらの表は色覚異常の疑いにとどめ,異常の有無の判定には数字が読める状態または環状表で判定を行う(石原R色覚検査表II国際版38表,取扱説明書より引用).b.SPP標準色覚検査表第1部先天異常用8)(SPP-1)(図6)デモンストレーション表,検出表,分類表からなる.被検者が読んだ数字は記録用紙の該当する数字を○でかこむ.一つの表の中の二つの数字が読める場合は,どちらかはっきり読めるほうを答として採る.検出表10表のうち正常の答が8表以上ならば色覚正常とする.分類表では,1型の欄,2型の欄の○印の多いほうに分類する.No.1の表の読めないものは詐病の疑いがある(SPP標準色覚検査表第1部先天異常用より引用).FarnsworthDichotomousTestPanelD-159~11)c.(パネルD-15)(図7)色覚異常の程度を強度と中等度以下に二分する検査である.検査は基準色票(referencecap)を左側に固定し,他の15個のcolorcapを順不同に並べておく.まず,15個の中からreferencecapにもっとも近い色を選んでその隣に置き,続いてその色にもっとも近いものを次に並べるというように,似た色の順に全部のcolorcapを配列させる.Capの裏面の数字の番号を順序に従って記録用紙に記入し,その番号の順に図表の上の各点を結506あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023(74)図5石原R色覚検査表II国際版38表(2014年12月改訂)7)数字表(第C1表から第C19表),曲線表(第C20表から第C31表)および環状表(第C32表から第C38表)からなる.通常は数字表および環状表を検査・判定に用いる.数字が読めない被験者の場合は曲線表を参考として使用し,環状表を検査・判定に用いる.第C1表から第C15表および第C38表から第C32表の計C22表のうち,「誤読」表数がC4表以下であれば正常色覚,「誤読」表数がC8表またはそれ以上であれば先天色覚異常と判定する.写真は実際の検査表と色が異なるため,本図で検査はできない.(本図は公益財団法人一新会が著作権を保有しているため複製はできません)図6SPP標準色覚検査表第1部先天異常用StandardPseudoisochromaticPlates8)デモンストレーション表CNo.1~4は数字の形と配置を被検者に理解させるための表.検出表CNo.5~14はC1型・2型色覚者(先天赤緑色覚異常者)を検出するための表.正常者にしか読めない表と,正常者と異常者とで読み方のちがう表からできている.分類表CNo.15~19はC1型色覚とC2型色覚とを分類するためのもの.検出表C10表のうち正常の答がC8表以上ならば色覚正常とする.検査表の写真は,実際の検査表と色が異なるため,本図で検査はできない.記録図誤りなしのPass1型色覚異常2型色覚異常図7パネルD-15色覚異常の程度を強度と中等度以下に分類するための検査.Failした場合は強度の色覚異常.Passしても正常色覚とはいえず,中等度以下の色覚異常である可能性がある.誤りなしのPass,1型色覚異常,2型色覚異常のパターン.図8仮性同色表とパネルD-15による診断仮性同色表:色覚異常の検出に用いる.正常色覚か先天色覚異常か診断可能.程度分類や型の判定は参考程度にとどめる.不確実な場合は疑いとする.パネルCD-15:程度分類に用いる.1型,2型色覚異常のパターンでCFailする場合はC1型か2型か診断可能で,異常の程度は強度となる.表1色覚で制約がある資格試験,色覚が関連する職種の例自動車運転免許適性試験の合格基準色彩識別能力の合格基準赤色,青色及び黄色の識別ができること警視庁ホームページより引用鉄道別表二(第六条,第八条の二関係)視機能四色覚が正常であること動力車操縦者運転免許に関する省令航空身体検査基準第一種,第二種十,視機能第一種(定期運送用操縦士,事業用操縦士,准定期運送用操縦士)(七)色覚が正常であること第二種(自家用操縦士,一等航空士,二等航空士,航空機関士,航空通信士)(五)色覚が正常であること航空法施行規則別表第C4(航空法施行規則第C61条のC2関係)海技士身体適性基準海技士(航海)①石原色覚検査表国際版C38表(以下「石原表」という)により正常か否かを判定.②石原表により正常でないと判定された場合は,パネルD-15により合否を判定.国土交通省海事海技資格警察官警視庁身体基準色覚警察官としての職務執行に支障がないこと警視庁警察官採用試験受験案内より引用消防官東京消防庁試験方法第C2次試験身体・体力検査内容色覚消防官として職務執行に重大な支障がないこと令和C2年度東京消防庁消防官(CI類・CII類・CIII類)採用試験案内より引用自衛官身体検査などの基準について自衛官候補生検査項目色覚色盲または強度の色弱でないもの自衛官募集ホームページ防衛省・自衛隊より引用色を扱う職業の例塗装業,染色業,印刷業,繊維業,デザイン系,美容関係,映像関係,青果市場関連する職種の例を表1に示す.資格基準は変更される場合があること,地域によって異なる場合があるため,最新の情報を確認する必要がある.CVIII診療の流れ色覚について受診する小児とその保護者は,検査結果・診断について不安を抱えている.色覚検査を行い,診断して,生活・進路などについてアドバイスできるように,医療者側も色覚についての知識をもって対応する.参考資料として,日本眼科医会ホームページC13)目についての健康情報〈色覚異常といわれたら〉などがある.C1.問診受診した理由について問診する.保護者など周囲の人が色の間違いに気づいて受診する場合,学校の検査で異常を指摘された場合,進路の選択に際し相談のために受診する場合,本人・保護者とも色覚異常について気づいていなかった場合もあれば,色覚異常の家族歴があり気にしていた場合など,さまざまである.色に関してこれまでに気づいたこと,色を間違えたことがある場合,どのような色が見分けにくいか,間違えた色,その状況などを問診する.間違えた色が先天赤緑色覚異常の混同色の場合,色覚異常の可能性が推測される.また,幼小児において保護者が色の誤りに気づく場合,強度色覚異常の可能性がある.きょうだいの有無,父親,母親のきょうだいについて,色覚異常の家族歴の有無について問診する.C2.検査色覚検査だけでなく,視力・眼圧・細隙灯顕微鏡検査・眼底検査などの一般的眼科検査を行う.心因性視覚障害,後天色覚異常などは,色覚以外の検査結果と総合して判断することで診断できる.色覚検査中に被検者が答える様子,検査に要する時間などから,検査に対する理解度,色覚異常の有無,被検者の性格などを推測することができる.検査者が検査中に気づいたことは,コメントとしてカルテに記載するとよい.3.結果検査結果について話をする際,本人と保護者が同席していいか確認する.小学校低学年までの幼小児の場合,検査に対する理解がむずかしく診断できない場合がある.小学校高学年以上になると十分に検査可能と思われるため,適切な時期での再検査を勧める.筆者は,色感覚のモデル(図4)を示しながら,混同しやすい色について説明を行っている.また,パネルD-15をCFailした場合は,本人が並べたCCapの結果を保護者に示し,本人には隣り合う色が似て見えることを説明する.色覚異常がある場合,正常色覚者にとっては見分けやすい色でも,混同色では似て見えることがあり,見分けが困難な場合や,色があると気づかない場合,色を間違えてしまう場合があることを説明する.診断結果について学校に伝えるほうがよいか.保護者の判断にもよるが,色覚異常について伝えておくと,学校側も色について配慮しながら指導を行うことができると思われる.C4.先天色覚異常以外の疾患小学校中学年以上の場合,心因性視覚障害により色覚異常をきたす場合がある.また,まれではあるが,遺伝性疾患などにより後天色覚異常を起こす場合がある.非定型的な色覚検査結果や,視力・視野などに異常がある場合,先天色覚異常以外の疾患を考え,さらに精査をする必要がある.C5.先天色覚異常に対する指導先天色覚異常の治療法はない.先天異常の程度は一生変わらず,年齢とともに悪化することはない.視力には影響しない.色の見分けが困難な場合があるが,白黒しかわからないのではない.同じ色でも条件によって見分けが困難な場合,可能な場合がある.明るいところで見るとき,視標が大きいとき,色があざやかな場合,集中してじっくり見るときは見分けやすいが,薄暗いところで,淡い色,小さな視標を,一瞬で見分けるのはむずかしい場合がある.自身の色覚異常について頭の片隅におき,色のみで判510あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023(78)■用語解説■L-錐体:長波長感受性錐体,旧用語赤錐体CM-錐体:中波長感受性錐体,旧用語緑錐体CS-錐体:短波長感受性錐体,旧用語青錐体C1型2色覚:旧用語第1色盲C1型3色覚:旧用語第1色弱C2型2色覚:旧用語第2色盲C2型3色覚:旧用語第2色弱潜性遺伝recessive:旧用語劣性遺伝顕性遺伝dominant:旧用語優性遺伝-

学校教育とデジタルデバイスの使用

2023年4月30日 日曜日

学校教育とデジタルデバイスの使用UseDigitalDevicesDuringEducation吉田朋世*はじめに2019年末,文部科学省(文科省)は小・中・高等教育における情報活用能力のさらなる育成に向けて,「GIGA(globalandinnovationgatewayforall)スクール構想」を発足させた.さらに,2020年春より急速に拡大した新型コロナウイルス感染症に後押しをされ,2021年4月までに全国の小中学校で1人1台のデジタル機器が配布され,日常的に使用できる環境となった.本稿では,学校教育における情報教育の過去と現在,デジタル教科書の利点について解説し,それによって起こりうる子どもたちへの眼科的な弊害,またデジタル機器を使用するうえで指導すべき点について解説する.I学校教育における情報活用能力の育成わが国における情報教育の歴史は,1970年代前半に高等教育の専門教育において情報処理教育が行われたことに始まり,1989年の学習指導要領に「情報活用能力」を学校教育で育成することの重要性が示され,中学校の技術・家庭科において「情報基礎」科目や,各教科で情報に関する内容が取り入れられることとなった.1998年には小・中・高等学校段階を通じて,各教科でコンピューターや情報通信ネットワークの積極的な活用を行い,中・高等学校で情報に関する教科・内容を必修とし,情報教育の充実化を図った.2006年にはコンピューター教室1人1台の整備,教育用コンピューター1台あたり児童生徒3.6人の割合を達成,すべての教室をインターネットに接続など,2010年までにICT(informa-tionandcommunicationtechnology)環境を整備し活用するために達成すべき目標が明示されたが,結局これらの環境整備の遅れは解消されず,2018年の調査において,教育用コンピューター1台あたりの児童生徒数5.4人/台,普通教室の無線LAN(localareanetwork)整備率41.0%となっており1),学校におけるICT活用率が経済協力開発機構(OrganizationforEconomicCoopera-tionandDevelopment:OECD)の国のなかで最下位である2)という結果につながった.このことから,2019年12月,文科省は各学校に標準的に1人1台端末および高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するとともに,ICTを活用した学習活動を充実させるためGIGAスクール構想を立ち上げた3).小児に対する情報活用能力の育成のため,ICTの基本的な操作・情報の収集や発信,プログラミング授業の必修化,情報モラルの教育などを盛り込んだのである.実際の活用法としては,2011年に文科省が行った「学びのイノベーション事業」の調査に基づき,教員による教材の拡大提示や,音声・動画などの活用,また個別学習では一人ひとりの習熟の程度に応じた学習や,インターネットを用いた情報収集,情報端末の持ち帰りによる家庭学習などを主体に行われている4)(図1)5).*TomoyoYoshida:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕吉田朋世:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(63)495図1学校におけるICT機器を活用した学習場面(文献C5より引用)使用が急性後天内斜視につながる可能性もある.筆者らが過去に斜視患者に対しデジタルデバイスの使用状況について行ったアンケート調査によると,より低年齢の患者においてC1日平均使用時間が長くなくても斜視悪化を自覚した例が多く,低学年のデジタルデバイスの使用にはより注意を払うべきであると考えられる12).そのほか,ドライアイ,眼精疲労などのコンピューター視覚症候群も増加すると考えられる.Seresikrika-chornらがバンコクで行ったアンケート調査によると,15歳以下の子どもで,1日C6時間以上のデジタルデバイスの使用や,オンライン授業をC1日C5時間以上受けること,複数のデジタルデバイスを使用することなどが,コンピューター視覚症候群のハイリスクになると述べている13).CIIIデジタルデバイスを教育に用いる場合の留意点眼の健康を損なわないようにするためには,どのような使い方を指導すべきか.文科省は,2014年に策定した「児童生徒の健康に留意してCICTを活用するためのガイドブック」14),2018年に公開した「学習用デジタル教科書の効果的な活用の在り方などに関するガイドライン」15)のなかで,健康に関する留意点について記載している(図2)14).また,教育現場における急速なデジタルデバイスの配置を受けて,2021年C4月には日本眼科医会が眼の健康啓発漫画「ギガっこデジたん!」のポスターやリーフレットを作成し,教育現場に啓発を行っている16).以下に,記載されている改善策について説明する.C1.教室の明るさ暗いところ,あるいは極端に明るいところでデジタルデバイスを見ると眼精疲労が生じるため,教室内の明るさを一定に保つように工夫する必要がある.たとえば,教室の窓から入る光によって電子黒板に映り込みが生じ見えにくくなるため,遮閉カーテンを設置したり,晴天時にはカーテンを閉めたりするなどの工夫が必要である.また,教室の照明が電子黒板やタブレットパソコンに映り込むこともあり,反射防止用の専用フィルターを画面に取りつけることも対策となる.C2.電子黒板電子黒板自体も,窓に背を向けるように角度をつけ,位置を調整して反射せず見やすいように机・椅子なども移動する.教室の最後部に座る生徒にも見やすいよう拡大機能を利用するなどし,また最前列に座る生徒が見やすいよう机の距離をある程度離して設置する.C3.タブレットPCの使用児童生徒の姿勢が悪かったり,机と椅子が生徒の体格に合っていなかったりすると,画面が見えにくくなるため,適切な机と椅子を使い生徒が正しい姿勢で視聴できるように指導する.お尻を後ろにして深く腰掛け,背中を伸ばし,画面の角度を傾けて目線が画面に直行する角度に近づける,眼とコンピューターの距離はC30Ccm以上離して視聴するなどの指導が必要である(図3)16).一方で長時間同じ姿勢を続けると疲れてしまうので,授業の中で少し身体を動かして,眼や身体の疲労を軽減させることも重要である.C4.スクリーンタイム「児童生徒の健康に留意してCICTを活用するためのガイドブック」では,大人を対象とした「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」15)を引き合いに出し,連続作業時間がC1時間を超えないようにし,超える場合には休止時間を設けるという目安が示されていることを説明したうえで,授業中にデジタルデバイスを用いる場合,機器を用いない活動時間が含まれるため,実際には長時間の視聴は行われていないとしている.「ギガっこデジたん!」では,30分にC1回はC20秒以上遠く(少なくともC2Cm以上,可能であればC6Cm以上)を見て眼を休めること,眼が乾かないように瞬きをすること,就寝C1時間前からは画面を見ないように指導する内容となっている(図4)16).C5.屋外活動長時間同じ姿勢をとりやすいタブレットCPCの使用による起こる眼精疲労や頭痛,肩こりなどの軽減のほか,(65)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C497図2学習環境の充実を図るための留意点(文献C14より引用)図3タブレットPCを使うときのポイント(文献C14より引用)図4「ギガっこデジたん!」の啓発ポスター(文献C16より引用)表1デジタル教科書のおもな活用方法教科書の紙面を拡大して表示する教科書の紙面にペンやマーカーで書き込むことを簡単に繰り返す教科書の紙面に書き込んだ内容を保存・表示する教科書の紙面を機械音声で読み上げる教科書の紙面の背景色・文字色を変更・反転する教科書の感じにルビを振る音声を教科書の本文に同期させつつ使用する教科書の文章や図表を抜き出して活用するツールを使用する教科書の紙面に関連づけて動画・アニメーションなどを使用する教科書の紙面に関連づけてドリル・ワークシートなどを使用する大型提示装置や教師のコンピューターに児童生徒の教科書の画面を表示するネットワーク環境を利用して,児童生徒が行った書き込みの内容や関連して検索した情報などを教師や児童生徒間,さらには学校・家庭間で共有する(文献C15より改変引用)-

学校でのスポーツ眼外傷

2023年4月30日 日曜日

学校でのスポーツ眼外傷SportsRelatedOcularTraumaatSchool宮浦徹*はじめに子どもたちは危険を回避する能力が低いため,学校の管理下においてもさまざまな状況でけがをする.しかし,その体験を積み重ねることにより,子どもたちは危険を察知し,それを回避する能力を自然に身につけていくのである.一方,心身の発達を育むべき学校の場において,障害を残すような重度の外傷は避けなければならない.本稿では日本スポーツ振興センター(以下,センター)の基本統計資料1),学校事故例検索データベース(以下,検索データベース)を用いながら,学校での眼外傷について述べる.なお,ここで用いたデータはコロナ禍による影響を避けるため,パンデミック前年の令和元(2019)年度に,センターが運営する災害共済制度により給付金が支給された事例を対象とした.また,センターの検索データベースで得られるデータは現時点で検索できる得る平成30(2018)年度までの事例を対象とした.I学校における外傷全般の発生状況「学校での眼外傷」について述べる前に,まず学校での外傷全般について述べる.最初にセンターの基本統計資料より得られた学校における外傷全般の発生時の状況について述べる.図1は令和元(2019)年度の給付支給事例より得られた外傷発生時の状況を学校種別に分類したものある.小学校では外傷(疾病を含む)の約半数にあたる47.8%の事例が「休憩時間」に起きていた.教科間の休憩時間や給食時,昼休み,掃除や放課後の時間に子ども同士の遊び,ふざけ合い,けんか,アクシデントなど,教職員の目の届かない時間帯での受傷が多いのが小学校の特徴である.一方,小学校ではわずか2%であった「課外指導(以下,部活動)」が中学校,高等学校になるとそれぞれ48.9%,58.3%となり,そのうちのほとんどが運動部の活動時に発生したスポーツ外傷であった.つぎに多いのが「教科等」で,小学校29.9%,中学校27.8%,高等学校22.9%であり,そのほとんどが体育の授業中に発生したスポーツ外傷であった.1学年あたりの年間外傷発生件数がもっとも多かったのは中学校で,以下高等学校,小学校の順であった.なお,小学校での部活動は教職員の働き方改革の影響もあり,文部科学省の指導要領にも記載されておらず,今後は地域のスポーツクラブに依存する市町村が増えてくるといわれている.図2は学校の体育の授業と部活動でみられるスポーツ外傷が,どのようなスポーツで起きやすいのかを学校種別に示したものである.小学校での上位3位までのスポーツは球技34.9%,体操29.3%,陸上15.4%の順であった.中学校では球技73.7%,陸上9.4%,体操5.1%となり,高等学校では球技81.8%,陸上5.5%,武道5.1%となり,球技でもっとも多くの外傷が起きていることがわかる.*ToruMiyaura:宮浦眼科〔別刷請求先〕宮浦徹:〒564-0051大阪府吹田市豊津町13-44-205宮浦眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(55)487図1学校での負傷(含疾病)発生時の状況の学校種別割合特別活動は掃除・給食・ホームルームなど,課外活動は部活動を表す.日本スポーツ振興センターの令和元(2019)年度給付支給事例より作成した.0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%他:スキー,スケート,登山,自転車など準備:準備運動,組体操,縄跳びなど図2部活,体育授業時に受傷の原因となったスポーツの種類と学校種別割合日本スポーツ振興センターの令和元(2019)年度給付支給事例より作成した.II眼外傷を起こしやすい球技種目このように球技による外傷が多いなか,具体的にどのような種目が眼外傷を起こしやすいのかを推測してみた.対象を中学校と高等学校に絞り,センターの部位別・種目別集計により得られた1年間の球技種目別眼外傷数をそれぞれの部員数で除すことによって得られたものが図3,4の球技種目別年間受傷率〔令和元(2019)年度給付支給事例〕である.部員数についてはセンターの資料にはないため,中学校は日本中学校体育連盟の,高等学校は日本高等学校体育連盟および日本高等学校野球連盟の登録者数を用いた.各連盟への加入は学校に義務づけられていないものの,連盟に加入することで連盟主催の大会に参加できることから,学校の加入率は高い(約90%).正確な受傷率とはいえないが,これにより眼外傷を起こしやすい種目の概要が把握できるものと考えている.その結果,ソフトボール,野球,ラグビー,ハンドボールは中学校,高等学校ともに眼外傷の受傷率が高い種目といえる.一方でバレーボールと卓球は中学校,高等学校ともに年間の受傷率が低い種目といえる結果が得られた.このことは以前に同じ方法で実施した平成26(2014)年度の内容とほぼ同様の結果であった.III学校における重度の眼外傷学校での外傷全般の部位別発生状況〔令和1(2019)年度)〕を図5に示す.眼部受傷の割合は幼稚園では11.0%,小学校では7.8%,中学校では5.8%,高等学校では3.9%と学校が進むにつれてその割合は減少する.各割合は年度ごとに多少の変化はみられるものの,危険を回避する能力が成長とともに高まることの指標ともいえる2,3).一方,同年度の障害を残した重度の眼外傷の割合は幼稚園9.1%,小学校17.2%,中学校17.8%,高等学校21.8%となり(表1),幼稚園を除けば外傷全般の部位別発生状況の値より高率となっている.すなわち,眼部の外傷は幼稚園を除けば眼部以外の外傷に比べて障害を残しやすいことになり,学校が進むほどその傾向が顕著になっている.これについては,たとえば四肢の骨折は多数みられても多くは障害を残さず治癒するのに比べ,再生能力をもたない網膜,視神経を含む眼部は障害を残しやすく,さらに学年が進み運動量が増えるほど外傷による損傷は強くなり,その傾向が増すのではないかと考えている.障害を残す重度眼外傷の受傷時状況は,先に述べた学校での外傷全般の発生状況とほぼ同様である.すなわち,小学校では休憩時間など教職員の目が届きにくい時間帯に起こる遊び・ふざけ合い,けんか,アクシデントが多く,中学校,高等学校になると運動部や体育教科などスポーツ時の事故がほとんどを占めるようになる.表2は検索データベースにより平成30(2018)年度給付支給事例における眼障害時の状況を学校種別にみたものであるが,上記のことを反映している.なお,スポーツ眼外傷78例中73例(93.5%)は球技によるもので,残りは武道4例と陸上1例であった.このように,子どもたちは学校が進むにつれて危険を避ける能力を身につけていく一方で,眼障害数は残念なことに学校が進むにつれ増加する傾向にある.表3は平成17.30(2005.2018)年度の14年間にスポーツが原因で障害を残したスポーツの種目をまとめたものである.センターの検索データベースを用いて調べた結果,上位10種目のうち9位までが球技で占められていた.また,この14年間のスポーツによる眼障害総数969例中,球技が占める割合は882例(91.0%)と高率であった.一口に球技といってもボールの大きさ,性状,形,質量などは種目ごとに異なり,それにより外傷の内容も変わる.さらに事故の状況,たとえばボールによる打撲でも投球,打球,蹴球,跳ね返りの球などによって外傷の程度も変わる.また,ボール以外の打撲,接触プレーによるもの,ラケットやバット,ネットのワイヤーなど用具によるものなど,さまざまなケースがある.以下,障害の多かった種目の特徴を述べる.1.野球(軟式を含む)多くの眼障害例のうち野球によるものが最多で約半数を占めている.障害例の事故発生状況では自打球,捕球,複数プレーでの受傷が多く,バッティングマシーン(以下,マシーン),球出し(トス),打撃投手が続く.とくに自打球による障害が多く約1/3を占める.また,(57)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023489図3球技種目別の眼外傷の年間受傷率(中学校)眼外傷数はセンターの,部員数は日本中学校体育連盟の登録数を用いた.図4球技種目別の眼外傷の年間受傷率(高等学校)眼外傷数はセンターの,部員数は日本高等学校体育連盟,日本高等学校野球連盟の登録数を用いた.ソフトボール野球(硬軟)ハンドボールラグビーテニスサッカーバドミントンバスケットバレーボール卓球眼外傷数/部員数1,210/37,3431,424/167,475328/27,67842/6,0552.273/345,7271,243/193,602851/133,6611,675/289,389680/188,832338/262,550ソフトボールラグビーバドミントン野球(硬軟)ハンドボールバスケットサッカーテニスバレーボール卓球眼外傷数/部員数771/23,814249/20,001837/85,7531,372/152,08135,842,6331,122/143,6561,285/173,388929/166,401353/102,26155/76,510外傷の部位別発生状況3.9%※眼部の割合は頭・顔部に含まれる5.8%7.8%29.311.0%37.035.946.427.637.927.711.7対象事例15,199313,227277,552233,558園児小学生中学生高校生図5外傷全般の部位別発生率を学校種別に表示したもの日本スポーツ振興センター資料の令和元(2019)年度給付支給事例より作成した.表1負傷により発生した障害例を障害種別,学校種別に分類したもの幼稚園保育園小学校中学校高等学校支援学校計(%)歯牙障害0122126463(17.4)視力・眼球運動障害1(9.1%)17(17.2%)16(17.8%)33(21.8%)067(18.5)手指切断・機能障害06512225(6.9)上肢切断・機能障害1538017(4.7)足指切断・機能障害020002(0.6)下肢切断・機能障害0360110(2.8)精神・神経障害0131219044(12.1)胸腹部臓器障害02626236(9.9)外貌・露出部醜状障害9321620279(21.8)聴力障害021205(1.4)脊柱障害0546015(4.1)計11999015211363(100.0)小・中・高等学校では眼障害の発生率が図1の眼部の受傷率に比べて高くなっていた.平成元(2019)年度給付支給事例より.表2平成30(2018)年度の給付支給事例における眼障害例表3平成17~30(2005~2018)年度の14年間に眼障害を残し小学校中学校高等学校計スポーツ2265078遊び・ふざけ合い84012けんか2305アクシデント3317計153651102た重度眼外傷例を競技種目別,学校種別に表わしたもの(上位10種目)眼外傷受傷時の状況を学校種別に分類したもの.日本スポーツ振興センターの検索データベースより作成した.種目小学校中学校高等学校合計野球(硬軟)1153263417サッカー(フットサルを含む)287786191バドミントン0354580ソフトボール4182244バスケットボール8201240テニス(軟式を含む)0231437ラグビー021921バレーボール112619ハンドボール07714柔道03710日本スポーツ振興センターの学校事故事例検索データベースより作成した.種目となっている.7.ラグビー部員数が少ないため,軽度の負傷を含む眼外傷の総数は少ないが,眼外傷の年間受傷率は高校ではソフトボールについで2番目に高かった.14年間で21例の眼障害例は,すべて部活動時に起きたものである.事故発生状況ではボールによる打撲はまれで,頭,肩,肘,指,膝など,接触プレーによる障害がほとんどを占めている.8.バレーボール軽度の負傷を含む眼外傷数は少なく,年間受傷率も中学校,高校ともに卓球についで低い.レシーブ時の受傷が眼障害に至る例が多いが,ボールによるものはむしろ少ない.スパイク,ブロックなどネットプレーに絡んで障害に至る例もまれにあり,ネットのワイヤーによるものも時折みられる.9.ハンドボール年間受傷率は中学校ではソフトボール,野球についで3位,高等学校では5位と高かった.ただし,部員数が少ないためか,14年間の眼障害は14例であった.サッカーボールとほぼ同じ重さだが,それより少しサイズの小さいボールのため注意が必要である.障害例のほとんどがゴール付近で起きており,接触プレーやシュートボールによるものである.IVスポーツ眼障害の予防学校での眼障害の大部分はスポーツ眼外傷によるものであり,その多くが球技による眼外傷に起因している.現場で指導にあたる者は設備・用具の安全点検(練習用防護ネット,グランドの整備など),グランド・体育館の使用管理(複数プレーの同時進行を避ける),集中力が途切れないように過剰な練習は控えるなどの安全管理を常に心がけるべきであり,これらを遵守することで多くのスポーツ眼障害の発生を防ぐことができる.そのうえで今後,適正なスポーツ眼鏡など(以下,保護眼鏡)の開発・普及が望まれる4,5).これら保護眼鏡の学校での普及には品質が確保されており,プレーの妨げにならないことはもちろんのこと,安価であること,児童生徒が装用したくなる魅力あるデザインであること,さらに学校関係者や関連団体の理解と協力が欠かせない.とはいえ子どもたちに練習,試合を問わず保護眼鏡を常時装用させることは容易ではない.種目ごとに効率のよい保護眼鏡の使用方法を以下のように検討してみた.V種目別保護眼鏡保護眼鏡の条件のひとつに「個々のプレーの妨げにならないこと」がある.そのため,ヘディングの妨げになるサッカー,接触プレーの多いバスケットボール,ラグビー,ハンドボール,さらに武道,格闘技などでの使用は対象外と考えている.逆に保護眼鏡の使用により眼障害が減少することが期待でき,プレー上大きな妨げにならないと思われる野球・ソフトボール,バドミントン,テニスについて検討してみた.1.野球・ソフトボールファールチップしたボールがバットに当たってから顔面に達するまでの時間は0.05秒であり,自打球の回避は不可能であることが報告されている6).そこで打席に立つときにはヘルメットに加えて保護眼鏡の装用を義務づけることが望まれる.自打球による眼外傷を防止できれば,野球による眼障害の1/3を減らすことができることになる.さらにマシーン使用時やトスバッティングの練習では打者だけでなく,トス出しする者にも保護眼鏡の装用を義務づければ野球による眼障害を大幅に減らすことができると考えている.ただし,野球の硬球は重く(145g),その打球の破壊力は強力なため,保護眼鏡にはレンズやフレームに相当の強度が求められる.そのため価格面のハードルが高く,学校現場で使用されるようになるためには学校関係者だけでなく,競技や開発にかかわる団体の協力が必須である.2.バドミントンネットをはさんでの対面プレーにおいてはシングル,ダブルスにかかわらず保護眼鏡を装用すべきである.さらにシャトル出しでトス出しする者が保護眼鏡を装用す(61)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023493

中高生のコンタクトレンズ

2023年4月30日 日曜日

中高生のコンタクトレンズManagementofContactLensesforJuniorHighandHighSchoolStudents清水有紀子*はじめに毎年春になると,学校健診結果のお知らせを持った学童や生徒が受診する.弱視や斜視は小学校ですでに指摘されていることが多く,中高生では屈折変化による生活視力の低下が精密検査の中心となる.それに加えて,最近の中高生へのコンタクトレンズ(contactlens:CL)の普及により,CL関連の角結膜障害に対する対応が必要となっている.眼科学校保健の健診マニュアル1)の事前質問表には「本を読むと目が疲れたり,頭痛がしたりする」「目がかゆくなる,目やにが出る,目が赤くなる」「目がかわく,涙が出ることが多い」「メガネ・コンタクトレンズを使用している」「CL使用で,見にくい,充血,ゴロゴロする」などの項目がある.これをみると,不適切な屈折矯正,感染性およびアレルギー性結膜炎に代表される非感染性角結膜障害,ドライアイなどに加えて,CLに関連するトラブルが想定されていることがわかる.マニュアル1)ではさらに,健診後の留意事項として「眼鏡,コンタクトレンズ装用者については,装用状態を検査し,指導する.とくにコンタクトレンズについては,装用時間やケアの方法など適切なコンタクトレンズの使用方法の指導は大切である」と記載があり,CL管理の指導も学校保健の一部として求められている.本稿では,中高生のCL使用の現状とそれをふまえた管理について考察する.I中高生のコンタクトレンズの使用開始時期とレンズの種類日本眼科医会は2000年から3年ごとにCLの使用状況の全国調査を行っている.2018年にも各都道府県から1,2校を選抜して,全国の小学生30,882例,中学生23,610例,高校生23,610例を対象とした調査が行われた.その報告書2)では,中高生のCL使用の現状を反映する重要なデータが示されているので,一部を紹介する.まず,最近の小児はいつからCLを使い始めているのか.使用開始時期でもっとも多いのは高校1年生で,ついで中学1年生であり,学校が変わるタイミングに多いことは予想通りである.そして新年度から使用を開始した場合は,開始後1~2カ月で学校健診を受けることになる.健診ではCLを適切に使用できているかの確認と,充血などの異常に注意して観察する.健診後の医療機関受診時は,誤った使い方を修正するよい機会となる.CL使用率は中学生全体が8.7%,高校生全体が27.5%であるが,学年が上がるごとに増えて,学年別では高校3年生が29.2%と最多であった.中学生全体の使用率は2000年の4.6%から2倍近くに増加しており,開始時期が早くなっていることがわかる.カラーCLの使用経験ありは中学生の14.3%,高校生の18.2%であった.おもに使用しているレンズの種類は,中高生ともに使い捨てソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:*YukikoShimizu:ツカザキ病院眼科〔別刷請求先〕清水有紀子:671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(49)481表1SCLの種類小学生(%)中学生(%)高校生(%)1日使い捨てSCL82.862.452.61週間使い捨てSCL0.00.40.32週間頻回交換SCL15.535.945.5定期交換SCL1.71.21.5その他00.10.1小中高校生のいずれも1日使い捨てSCLがもっとも多く,ついで2週間頻回交換SCLの順であるが,その割合は異なる.2週間頻回交換SCLの割合が高校生では半分近くまで増える.a.中学生のCL購入場所b.高校生のCL購入場所雑貨店4.2その他1.7雑貨店4.2その他0.6薬局0.4薬局0.8■病院・眼科■CL量販店■眼鏡店■薬局■インターネット■雑貨店■その他(雑貨店:雑貨店・化粧品店・CLショップ)図1全国調査における中高生の通常CL購入場所(%)中学生,高校生ともに同じ順番であった.病院・眼科診療所隣接販売店(病院・眼科)がもっとも多く,つぎはCL量販店であった.インターネット・通信販売(インターネット)は三番目であるが,年々増えつつある.(文献2より改変引用)a.中学生のカラーCL購入場所b.高校生のカラーCL購入場所その他6.6病院・眼科6.3その他4.1病院・眼科6.5CL量販店1眼鏡店1.8薬局3.8■病院・眼科■CL量販店■眼鏡店■薬局■インターネット■雑貨店■その他(雑貨店:雑貨店・化粧品店・CLショップ)図2全国調査における中高生のカラーCL購入場所(%)カラーCLの購入場所は,中学生は雑貨店が最多で二番目のインターネットと合わせて67.6%を占めた.高校生はそれぞれ36.9%で合わせると73.8%となった.これらは眼科の処方なしに購入していると考えられる.(文献2より改変引用)図3CLの不適切使用により生じたアメーバ角膜炎17歳,女性.日常的にSCLを長時間使用し,角膜浸潤を繰り返していた.眼痛と充血の持続を訴えて眼科を受診し,抗生物質点眼でも改善せず当院へ紹介となった.病巣よりアカントアメーバが検出された.a.通常CL購入場所b.カラーCL購入場所インターネット5.3雑貨店0.4■病院・眼科■CL量販店■インターネット■雑貨店病院・眼科(眼科病院・医院),インターネット(インターネット・通信販売),雑貨店(大型量販店・雑貨店)図4姫路市とその近郊の高校生の通常CLとカラーCLの購入場所(%)CLの購入先は,通常CL群とカラーCL群で傾向が大きく異なった.通常CL群は眼科病院・医院が73.5%と最多であるが,カラーCL群はCL専門店が48.2%ともっとも多かった.(文献4より改変引用)

学校健診での斜視への対応

2023年4月30日 日曜日

学校健診での斜視への対応ManagementofStrabismusinSchoolMedicalExaminations國見敬子*後関利明**はじめに学校健診での斜視検査の意義は,顕性,潜在性斜視を早期に検出することで学校生活への支障を最小限にすること,つまり斜視・複視が原因で,勉学に集中できない,スポーツが苦手になってしまう,外見をからかわれることで精神的なストレスを受ける,などを予防することである.異常が疑われた際には専門機関への受診を勧め,治療の必要性の有無について判断しなければならない.本稿では学校健診における斜視の検出方法の留意点と,異常と診断された児童生徒の医療機関での精密検査の方法と治療方針について解説する.I学校健診での斜視検査1.視力検査眼科医の健診の前に視力検査をするのが望ましい.視力検査の結果と,以下の検査に矛盾がないかを確かめる.とくに片眼の視力低下がある児は,視力が良いほうの眼で無意識にのぞいてしまうことがある.顕性斜視を認めており,固視眼を遮閉したとき,開放眼が正中に移動しない場合は重度の弱視の可能性があり,精密検査を勧めるべきである.視力が1.0未満の場合は精密検査を勧める.2.視診頭位異常が明らかであれば,眼性なのか頸性なのか原因検索する必要があるため,精密検査を勧めるべきである.頭位異常とは,顎上げ下げ,顔回し,首の傾けを認めた場合である.3.角膜反射法Hirschberg法により確認する.Hirschberg法はペンライトによる角膜表面の反射輝点の位置を瞳孔領や角膜縁と比較する.輝点が瞳孔領で15°,瞳孔領と角膜縁の中間30°,角膜縁で45°の眼位ずれがあると推測できる(図1).正位以外は精密検査の対象であるが,角膜反射法だけでは斜位と正位は区別をつけられないため,後述の検査が必要である.4.遮閉試験はじめに遮閉試験で斜視の有無を確認する.その後,遮閉-遮閉除去試験で斜視および斜位を確認する.しっかりと観察したつもりでも,小角度の斜視や融像幅の強い患児は斜視を検出しづらく見逃されることが多い.時間に限りがあるため,全員に行うことはむずかしいかもしれないが,疑わしい児には長めに遮閉を行うのがよい(図2).正位・小角度の斜位以外は精密検査の対象である.5.眼球運動眼位眼球運動検査は調節視標を用いて行う.正面だけでなく,上下,左右,斜め上下を含む9方向の眼位を確*KeikoKunimi:東京医科大学眼科学講座,国際医療福祉大学熱海病院眼科,北里大学眼科**ToshiakiGoseki:国際医療福祉大学熱海病院眼科,北里大学眼科〔別刷請求先〕國見敬子:〒111-0032東京都台東区浅草1-26-5ROX・3G2F浅草ふじい眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(43)475bd図1Hirschberg試験角膜反射が瞳孔中央は正位(Ca),瞳孔瞭はC15°(Cb),瞳孔領と角膜縁の間はC30°(c),角膜縁はC45°(d)のおおよその斜視角となる.①②③図2遮閉試験a:遮閉試験.両眼開放で正位でも遮閉後外側または内側からの眼球運動が観察できれば斜視または斜位が疑われる.Cb:遮閉C-遮閉除去試験.片眼を遮閉し,単眼視の状態にし,その後遮閉を除いたとき,眼球の動きがあるかをみる.両眼開放で正位に戻るなら斜位,眼位ずれの状態であれば斜視となる.④小児問診票空欄に記入,または〇を付けてお答えください1.生まれた時の体重(g)2.出生週数(週日)3.自然分娩帝王切開その他()4.発達の問題があれば教えてください()5.全身疾患があれば教えてください()6.現在,通院中の病気があれば教えてください()7.家族歴(両親や兄弟などが病気を患っている)があれば教えてください()8.今日は誰と来ましたか?父母祖父母その他()9.一緒に住んでいる人は誰ですか?父母祖父母その他()10.本日,母子手帳は持参されていますか?はいいいえ11.聞きたいことがあれば,自由に書いてください()図3当院の小児患者への問診票どんな斜視が気になるか(水平・垂直の合併の場合,医学的には上下の異常が強くとも,両親は水平斜視を気にしていることがある)聞いておくと,手術の場合,患者・家族とのコミュニケーションがとりやすくなる.また,誰と来たか,家族構成を聞いておくと,原因として心因性を考察するにあたり一助となる.表1小児における手術適応外斜視・複視あり間欠性外斜視が恒常性外斜視へと悪化斜位時の両眼視機能が低下1日の半分以上で外斜視内斜視・整容面での治療希望・眼精疲労後天共同性内斜視(用語解説参照)で生活指導,適正眼鏡装用後も改善なし下斜筋過動が顕著顕著な首かしげ上下斜視abcd図4下斜筋過動の定量健眼(左眼)を外転外眼角まで外転,固視させ,右眼(内転眼)の下斜筋過動を評価する.Ca:下斜筋過動+1:健眼が外転したとき,内転眼がわずかに内上転する.外転眼が上外方視したとき,さらに内上転が観察される.Cb:下斜筋過動+2:健眼が外眼角まで外転したとき,内転眼が内上転する.Cc:下斜筋過動+3:健眼の外転時,明らかに内転眼が内上転する.d:下斜筋過動+4:健眼の外転時,内転眼が上転するほど過動する.下斜筋の作用領域で上転するため内転時に外転してしまうことがある.■用語解説■後天共同性内斜視:後天性に内斜視が発症する病態として急性後天性内斜視が存在するが13),その報告はC100年前のものであり,時代背景や生活様式の変化のため,現在では既報の診断基準に当てはまらない患者が多く存在している.昨今,調節輻湊など,機能的な異常による疾患の代表例として後天共同性内斜視(acquiredCcomitantesotropia:ACE)という疾患が存在することが報告されている.ACEとは,急性に限らず,後天性に発症した内斜視により複視を訴える疾患で,近年増加している14,15).近代化に伴う近見作業時間の増加,社会的生活環境の大きな変化が病態を変化させている可能性が考えられている.原因は,デジタルデバイスを使用した近見作業時間の増加16),近視の低矯正による輻湊と調節のアンバランスなどの報告がある.-

学童への眼鏡処方のタイミングと処方の留意点

2023年4月30日 日曜日

学童への眼鏡処方のタイミングと処方の留意点TimingandTipsforPrescribingSpectaclesinChildrenwithMyopia長谷部聡*はじめに表1文部科学省の視力判定区分ボストンの科学記者Dolginが「パンデミック」と称した近視人口の増加1)は,わが国も例外ではない.文部科学省の統計をみると,COVID-19に対する全国的な学級閉鎖や,黒板の代わりにタブレットを使う授業(GIGA構想)など,子どもを取り巻く視覚環境の激変により,近視人口の増加傾向はさらに加速しているようにみえる.一方,デフォーカス組み込み型(defocusincorpo-判定区分視力症状A1.0以上後ろの席から黒板の文字がよく見えるB0.9~0.7後ろの席から黒板の文字がほとんど見えるC0.7~0.3後ろの席では黒板の文字が見えにくいD0.3未満前の席でも黒板の文字が十分見えない2.0ratedmultiplesegments:DIMS)レンズなど特殊眼鏡0Dは近視進行速度を半減することが報告されており2),小1.0児の近視に対する関心はにわかに高まっている.こうした時代の流れを受け,日本弱視斜視学会,日本小児眼科学会,日本近視学会,日本眼光学学会,日本視視力-0.5D0.5能訓練士協会の5団体は合同で「小児眼鏡処方の手引き」が作成され,『日本眼科学会雑誌』に掲載される予定である.しかし,眼鏡処方の方法論については眼科医の間でも伝統や流派がみられ,必ずしも意見の一致がみられてないのが現状である.本稿では,近視眼鏡を中心に,眼鏡処方のタイミングと留意点について筆者の考えを述べる.I眼鏡処方のタイミングまず,古くから利用されている文部科学省の視力判定区分(表1)を考えてみる.ここでは,視力0.7以上ならば教室の後ろの席から黒板に書かれた文字が読める.-1D0.2-2D12345瞳孔径(mm)678図1瞳孔径と視力の関係(文献3より改変引用)つまり,視力0.7が眼鏡処方のタイミングを決める一つの目安となっている.また,視力0.3~0.7は,必要に応じて眼鏡を使用することになっているので,少なくとも眼鏡を持っておくべきであろう.しかし,この判定区分は,現象の一側面をみているに*SatoshiHasebe:川崎医科大学眼科学2〔別刷請求先〕長谷部聡:〒700-8505岡山市北区中山下2-6-1川崎医科大学眼科学20910-1810/23/\100/頁/JCOPY(35)467商品名1%アトロピン点眼液1%サイプレジン点眼液0.4%ミドリンP点眼液使用法1日3回3~5日間10分間隔で2回点眼点眼開始60分後5分間隔で2回点眼点眼開始30分後効果強力強力不完全持続時間10~15日1~2日3~6時間おもな副作用羞明,近見障害心悸亢進頭痛,発熱顔面紅潮羞明,近見障害心悸亢進羞明,近見障害図2調節麻痺薬の比較bc中和同行図3動的検影法による他覚的調節検査検者はレチノスコープ(R)と調節視標(T)を手に持ち,検眼に近づく.眼底反射が中和から逆行に変わる位置が,調節近点NPA(m)であり,その逆数が調節力(D)である.図は正視眼での検査を示す.中和bc中和逆行図4動的検影法による調節遠点(近視度数)の評価検者はレチノスコープ(R)と調節視標(T)を手に持ち,視標を見るように促しながら,ゆっくり検眼から遠ざかる.眼底反射が中和から逆行に変わる位置が調節遠点CFPA(m)であり,その逆数が近視度数(D)である.水平経線における評価を示す.中和まで逆行,そこではじめて中和がみられればC.5Dの近視である.ただし上記の情報は,スキャンを行う経線方向に限定される.つまり,スキャンの方向を変えて乱視の有無を調べる必要がある.ここが検影法の厄介な部分であるが,乱視度数に対する調節の影響は球面度数に比べて小さい.あらかじめ自動レフラクトメータ検査で一定の乱視があると考えられる場合には,得られた値をもとに円柱レンズで完全矯正を行い,検査用眼鏡枠の上から動的検影法を行うのも効率的である.CV患児や保護者に対する説明眼鏡装用を勧めるとき,患児や保護者の反応はさまざまである.弱視や斜視がみられる場合を除けば,眼鏡を装用しないことによって永続的な障害が起こるわけではない.最終的には眼鏡を作るかどうかの判断は患児や保護者の権利であり,自己責任である.提案はするが強制する必要ない.一般的に近視は成長とともに進行するため,こうした議論はやがて時間が解決してくれる.患児のなかには,裸眼視力が悪いにもかかわらず,「ちゃんと見えているので眼鏡は必要ない」と主張する場合も多い.近視による視力障害は緩徐に進むため,「見えにくさ」を実感できないためと思われる.このような場合は,「とりあえずよく見える眼鏡を持っておいて,必要なときだけ使用すればよい」と提案する.数カ月後,来院する頃には,眼鏡を上手に使いこなしているはずである.CVI経過観察-近視低矯正のスクリーニング近視眼鏡を使用する学童は,1年間に平均C.0.7Dの近視進行がみられ,なかにはC.1.5Dを超える児もまれではない7).眼鏡を処方したあとも定期的に経過観察を行い,眼鏡度数を確認することが望ましい.その目的にも動的検影法は有用である.手持ちの眼鏡を装着させ(オーバーレフラクション),同様に動的検影法を行う.距離C1Cmでスキャンを行い眼底からの反射光が中和のパターンを示せば,眼鏡には少なくてもC1Dを超える残余近視,つまり低矯正はないと判断できる.眼鏡視力が良好であれば,そのまま眼鏡を継続するよう伝える.もしC1Cmで逆行がみられれば,眼鏡にはC1Dを超える低矯正がある.50Ccmの距離でもなお逆行がみられれば,低矯正は.2Dを超えており,眼鏡を作り直す必要がある.CVII乱視矯正の考え方筆者が研修医の頃,つまり自動レフラクトメータが初めて登場した時代であるが,「乱視は,試し掛けの結果を参考にしながら,控えめに矯正するのがよい」と教わった.また「乱視軸がC90°またはC180°に近い場合,小角度の斜乱視であれば,これを無視してC90°またはC180°として眼鏡処方すべき」と指導された.しかし筆者は,とくに小児では,なるべく乱視は完全矯正をめざしている.第一の理由は,小児では感覚的順応力が強く,経線不等像視がもたらす空間感覚異常に速やかに順応できるためである.眼鏡レンズは角膜頂点から約C12Cmm前方に置かれるため,レンズ度数に応じてサイズ効果がある.これは球面レンズばかりでなく,円柱レンズでもみられる.図5は,円柱レンズ(凹レンズ)によるサイズ効果を示したものである.軸がC180°なら図形は上下に圧縮,軸がC90°なら水平方向に圧縮されて見える.興味深いのは軸が斜めの場合で,軸がC135°であれば,垂直線は反時計回転で傾斜,軸がC45°であれば,時計回転で傾斜して見える.像の歪は小さい(1.25%/D)が,歪み方が左右の眼で一致しないとき(経線不等像視),円柱レンズの度数や軸角度に応じて強い空間感覚の異常が生じることがある6).空間感覚異常には回転ドア感覚とスラント感覚のC2種類あり,通常,両者は混在する.それぞれ図6,7に,ステレオグラムとして例を示した.前者は,水平方向の経線不等像視によるもので,図形は中央の固視点を通る垂直線を軸として奥行き方向に傾斜して知覚される.後者は,斜め方向に直行する経線不等像視によるもので,図形は固視点を通る水平線を軸として奥行き方向に傾斜して知覚される.柱が傾いて見える,平坦な道路が坂道に見えるなどの異常感覚を引き起こし,経験的に成人では感覚的順応が起こりにくいことが知られている.この470あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023(38)図5円柱レンズ(凹レンズ)による画像の歪図6回転ドア感覚のステレオグラム寄り目で両眼視するとC3つの円が見える.中央の画像は奥行方向に傾斜して知覚される.たとえば右眼にC.2Dの円柱レンズを軸C90°,左眼にCplaneのレンズで処方する場合にみられる.図7スラント感覚のステレオグラム三つの円の中で中央の画像は,奥行方向に傾斜して知覚される.たとえば,右眼にC.2Dの円柱レンズを軸C45°で,左眼にC.2Dの円柱レンズを軸C135°で処方する場合にみられる.成人では順応がむずかしい.IX低矯正が必要な患児現実には,近視眼鏡を低矯正とすべき患児が一定数存在する.第一は,完全矯正眼鏡装用させた場合に,近見で内斜偏位が生じる患児である9).0.3Cmの距離に置いた調節視標をしっかり見せながら,交代遮閉試験を行えば判断できる.このような患児ではCAC/A比が高いため,近見に際して過度の調節性輻湊が起こる.次に生じた内斜偏位を代償するための融像性開散運動が起こり,輻湊性調節を介して調節が抑制される.像のボケを避けようとすれば複視が生じ,複視を避けようとすれば像はボケる.感覚的なコンフリクトにより眼精疲労が起こり,眼鏡に装用することが困難になる場合がある.このような患児では,意図的に低矯正眼鏡を処方するか,または累進屈折力眼鏡を処方するのがよい10).第二に,何らかの眼疾患により矯正視力が悪い(ロービジョン)患者があげられる11).低視力者では,たとえ焦点誤差が生じても,像のボケを認知しにくい.眼球の焦点深度(depthCoffocus:DOF)が広くなるとみなすことができる.DOFの範囲内では低矯正であっても遠見での視力低下が自覚しにくく,近視眼鏡は低矯正とすることができる.一方,矯正視力が低いと調節反応が低下するため,近業時に調節ラグが増大する.低矯正分だけ調節必要量は減るため,近見視力の改善が期待できる.第三は,自覚的・他覚的屈折検査のデータに大きなばらつきがみられ,検査の信頼性が乏しい場合である.固視不良や眼振が例としてあげられる.このような患児では,近視眼鏡を意図的に低矯正とすることで,過矯正に対する安全マージンを確保できる.乱視矯正の場合も,乱視軸データに大きなばらつきがみられる場合は,円柱度数を完全矯正すると,軸の誤差の程度に応じて強い残余乱視を作ることがある.軸の誤差がC30°を超えれば,円柱レンズの処方は逆に乱視を増やす方向に作用する.等価球面度数を一定に保ちながら(最小錯乱円を網膜上においたまま),円柱度数を減らすとよい.おわりに筆者は,診療の多忙を理由に,つい眼鏡処方を視能訓練士任せにすることがある.しかし,彼らによって提案された眼鏡処方箋が適切かどうか,診察室において,動的検影法を用いて最終確認することにしている.検影法は仕組みこそ単純であるが,調節検査に始まって斜視・弱視のスクリーニング,ひいては乳児の他覚的視力検査に至るまで,先人のさまざまなアイデアに満ちている.また,医師が直接,眼底反射の動きを眼で見て判断できる.ブラックボックスと化した自動レフラクトメータとは,別の意味で信頼できる検査法である.もしレチノスコープが引き出しの底に眠ったままになっているなら,小児の眼鏡処方に活用してはどうだろうか.文献1)DolginE:Themyopiaboom.NatureC519:276-278,C20152)LamCSY,TangWC,TseDYYetal:Defocusincorporat-edCmultiplesegments(DIMS)spectacleClensesCslowCmyo-piaCprogression:aC2-yearCrandomisedCclinicalCtrial.CBrJOphthalmol104:363-368,C20203)AtchisonCDA,CCharmanCWN,CWoodsRL:SubjectiveCdepth-of-focusCofCtheCeye.COptomCVisCSciC74:511-520,C19974)HunterDG:Dynamicretinoscopy:themissingdata.SurvOphthalmolC46:269-274,C20015)GuytonDL:Prescribingcylinders:theproblemofdistor-tion.SurvOphthalmolC22:177-188,C19776)ChungCK,CMohidinCN,CO’LearyDJ:UndercorrectionCofCmyopiaenhancesratherthaninhibitsmyopiaprogression.VisionResC42:2555-2559,C20027)HasebeCS,COhtsukiCH,CNonakaCTCetal:E.ectCofCprogres-siveCadditionClensesConCmyopiaCprogressionCinCJapanesechildren:aCprospective,Crandomized,Cdouble-masked,Ccrossovertrial.InvestOphthalmolVisSciC49:2781-2789,C20088)AdlerCD,CMillodotM:TheCpossibleCe.ectCofCundercorrec-tionConCmyopicCprogressionCinCchildren.CClinCExpCOptomC89:315-321,C20069)WallineCJJ,CLindsleyCK,CVedulaCSSCetal:InterventionsCtoCslowprogressionofmyopiainchildren.CochraneDatabaseSystRevC7:CD004916,C201110)HasebeCS,CNonakaCF,CNakatsukaCCCetal:MyopiaCcontrolCtrialCwithCprogressiveCadditionClensesCinCJapaneseCschool-children:baselinemeasuresofrefraction,accommodation,andheterophoria.JpnJOphthalmol49:23-30,C200511)BerntsenDA,SinnottLT,MuttiDOetal:ArandomizedtrialusingprogressiveadditionlensestoevaluatetheoriesofCmyopiaCprogressionCinCchildrenCwithCaChighClagCofCaccommodation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:640-649,C2012C(41)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C473

眼科学校医の役割

2023年4月30日 日曜日

眼科学校医の役割RoleoftheOphthalmologistsinSchoolHealth近藤永子*はじめに学校医の職務にすべての眼科医がかかわっているわけではない.しかし,現在担当していなくても,若い先生の中にはいずれ学校医になったり,勤務医でも学校医の職務につくこともありえる.また,学校での健診後の精査は地域の病院やクリニックで行うので,学校において児童生徒に対して,どのような目的でどのような検査が行われているのかを知ることは,日ごろの診療のためにも大切なことである.すべての眼科医に学校医の役割と内容を理解してもらいたく,できるだけわかりやすく解説する.I学校医(眼科学校医)とは1.学校保健の歴史-健康診断の始まりと学校医設置現在の学校における健康診断の始まりは,明治11(1878)年まで遡る.当時児童生徒らの中に病弱な者やそれにより休学や死亡する者が多く,その対応策として西洋体操が取り入れられた.その効果判定の目的として行われた体格や体力の測定「活力検査」が健康診断の始まりといわれる.明治21(1879)年に視力,明治30(1897)年には眼疾が検査項目に加わり,明治31(1898)年に「学校医制度」が創設された.大正9(1920)年には,これまでの環境衛生第一から個々の児童生徒らの健康状態の把握・指導管理へと移行し,事後措置の規定が加わった.そして,昭和33(1958)年に「学校保健法」(現「学校保健安全法」)が制定され,「身体検査」が「健康診断」に改められた.そこで,学校保健全般にかかわる医療関係の専門職として,学校医,学校歯科医および学校薬剤師(総称して「学校3師」といわれる)について,その設置が法令で定められた(学校保健安全法第23条).その職務についても施行規則第22条で明確にされ,表1に眼科に関連づけたおもな職務を示す1).ちなみに学校保健に携わる医師は「学校医」とだけあり,とくに科を規定しているものではない.実際内科,小児科,眼科,耳鼻咽喉科などの医師がおもに携わっている.すなわち,法令上は「眼科学校医」という言葉はないのである.平成20~21年にかけて学校現場では,情報化,少子化など社会環境や生活様式の急激な変化に伴い,児童生徒らの健やかな成長のうえで,単に体だけでなく心の健康についても課題として認識されるようになった.これを受けて「学校保健法」が改訂され,新たな時代の学校保健,学校安全について定めた「学校保健安全法」が平成21年4月1日に施行された.なお,これら学校保健の変遷についての詳細は文献2の巻末資料を参照されたい.2.学校保健における学校医の役割前述のように学校保健の歴史は非常に古く,その時代に合わせて児童生徒らの健康増進を図ってきた公衆衛生の一つであり,地域医療の大きな柱となっている.新しい学校保健安全法においては,「養護教諭その他*NagakoKondo:眼科三宅病院〔別刷請求先〕近藤永子:〒462-0825愛知県名古屋市北区大曽根3-14-20眼科三宅病院0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(27)459表1学校医の職務学校保健安全法施行規則第22条第1項学校医(眼科)のおもな職務1.学校保健計画および学校安全計画の立案に参与すること学校保健委員会をはじめ,学校医(眼科)として次年度計画に対する要望を学校長に伝えておく.2.学校の環境衛生の維持および改善に関し,学校薬剤師と協力して,必要な指導および助言を行うこと教室の照度・照明,プールの衛生管理(塩素濃度,ゴーグルの使用,洗眼器),教室の机・椅子の選択,教室のICT化による視環境,運動場のラインに使用する炭酸カルシウム,色のバリアフリーなどについて必要な指導と助言を行う.3.法第8条の健康相談に従事すること視力,色覚をはじめ眼科に関連する健康相談日を設定する.眼科健診後の時間を利用してもよい.4.法第9条の保健指導に従事すること健診時にたとえばCLの装用指導をアドバイスすることもこれにあたる.また受診勧奨で受診した児童生徒らには事後措置として保健指導に配慮する.5.法第13条の健康診断に従事すること感染性眼疾患,その他外眼部疾患および眼位の異常等に注意する.6.法第14条の疾病の予防処置に従事すること感染症の予防と早期発見の方法を指導する.7.法第2章第4節の感染症の予防に関し必要な指導および助言を行い,並びに学校における感染症および食中毒の予防処置に従事すること感染症発生時には出席停止(法19条)と休業(法20条)の要否(規則19条)とその期間(規則20条)などについて指導助言する.8.校長の求めにより,救急処置に従事すること緊急時の電話による指導助言なども含めて,応需態勢をとっておく.9.市町村の教育委員会または学校の設置者の求めにより,法第11条の健康診断または法第15条第1項の健康診断に従事すること法11条は就学時の健康診断,法15条は職員の健康診断である.健康教育の場として活用する.10.必要に応じ,学校における保健管理に関する専門的事項に関する指導に従事すること学校保健委員会に出席して指導助言する.機会があれば児童生徒への講話,保護者への講演,教職員との懇談などを行う.(文献1より許可を得て引用)保健調査(アンケート)小学校,中学校,高等学校,高等専門学校…全学年幼稚園,大学…必要と認めるとき視力:おもに養護教諭などの学校の先生で行われる予診的検査370方式裸眼の者裸眼視力幼稚園~高等学校…全学年眼鏡等を矯正視力大学…省略可している者*眼鏡等をしている場合は,裸眼視力は省略可眼の疾病および異常:定期健康診断時に学校医が行う幼稚園から大学生まで,ほぼ全員に実施される図1定期健康診断の検査項目および実施学年視力判定の手順:370方式正しい判別:上下左右4方向のうち3方向以上を正答した場合判別できない:上下左右4方向のうち2方向以下しか正答できない場合使用視標0.3判定結果DC区分0.3未満0.6~0.3事後措置等図2視力判定の手順(370方式)0.3の視標でC4方向のうち正答がC2方向以下の場合は「判別できない」とし,「D」と判定する.4方向のうちC3方向を正答できれば「正しい判別」と判定し,次にC0.7の視標にうつる.0.7の視標で同じく「判別できない」なら「C」と判定し,「正しい判別」と判定しC1.0の視標にうつる.1.0の視標でも同様に「判別できない」なら「B」と判定し,「正しく判別」できれば「A」と判定する.ただし,現場の状況などを考慮し視標をC1.0C→C0の状況C0.3の順に使用することも差し支えない.0.71.0図3見え方のABCD(文献C1より改変引用)020406080100(%)図4眼科学校医設置割合日本眼科医会の調査3)において,都道府県眼科医会学校保健担当役員向けに公立学校での眼科学校医設置状況につきアンケートを行った.回答したC43都道府県のうち,小学校では学校総数C16,449校のうちC12,966校(78.8%),中学校では7,809校のうちC6,167校(79.0%),高校ではC3,443校のうち2,584校(75.1%)であった.(文献C3より許可を得て引用)全体(n=294)6.510.215.019.49.929.39.9020406080100(%)■1校■2校■3校■4校■5校■6~9校■10校以上図51人あたりの担当学校数日本眼科医会の調査3)において,一般CA会員の約C10%を任意抽出しアンケートを行った.「学校医をしている」と回答した眼科医C1人が担当する学校数の平均はC4.6校であった.(文献C3より許可を得て引用)では,眼科医C1人が担当する学校数の平均はC4.6校(園)であった.図5はC1人あたりの担当学校数であり,約C4割の眼科学校医がC6校以上を担当しており,なかには10校以上担当していた医師もいた(9.9%).前述のように眼科学校医が必要ではあるが,実際はC1人の眼科学校医にかなり負担がかかっている.健診の時期は法律で定められており,その限られた期間内に学校行事を考慮しながら養護教諭と相談し日程のやりくりをしなければならない.担当校が多ければさらにむずかしいのは容易に想像できる.コロナ禍において例外的に健康診断の期間延長が認められたことで,複数校ある学校健診の予定が少し立てやすかったという経験をした学校医もいたのではないだろうか.前述のようにC1人あたりの担当学校数がC10校以上という学校医もいて,学校医不足が指摘されている.その一方で,「学校医をしていない」と答えたC16.2%のうち,43.9%が学校医をしていない理由を「地区に眼科医が多いため」と答えた3).このように,学校医不足に関してはかなり地域差があると思われる.これは眼科医の地域偏在などもあり,同じ都道府県内でも差がある.地域によっては開業医に限らず,勤務医の協力を得ながら行わないと成り立たないところもあり,実際,大学病院などに委託している例があるようである.地域の市民病院や総合病院など,協力が得られれば地域医療貢献の一環として携わってもらうこともあるだろう.また,今後は地域の勤務医を退職した医師で,希望があれば学校医として活動してもらえるような制度があってもよいのではないかと考える.眼科学校医不足や地域偏在について,眼科学校保健がすべての地域で円滑に行われるように今後の対策が望まれる.C4.新しい時代の眼科学校保健眼科の診療は診断機器の進歩によりこの数十年でかなり変化した.しかし,学校保健における眼科健診は,時間や場所の制約もあり,以前のスタイルと変わっていない.ただし,眼科医だからこそできる学校健診の意義があるのではないだろうか.内容についてはその時代にあわせて変化させていくことが望まれる.とくに学校医の役割の一つである健康教育において,健康や病気に関する知識だけでなく,予防に必要な生活習慣や行動を身に着け,それを将来にわたり継続させる力を獲得させる教育が求められる.本誌が発行されるC2023年C4月には「こども家庭庁」が創設される.社会全体で子どもの成長を後押しすべく,学校保健においても新しい変化を及ぼすことを期待したい.おわりに学校医の役割,学校における健康診断,学校医の抱える問題や今後の課題について解説した.成長期にある児童生徒が等しく眼科的な検査を受けることができる学校健診は非常に重要な機会である.眼科学校医は視覚の専門家として児童生徒の検査に直接かかわるだけでなく,教育的な役割を果たしている.それは,子どもたちが将来にわたり自身の眼に対して健康な状態を保つことを一人一人が意識できるよう,「健康リテラシー」を身につけるための大切なサポートである.眼科医の診療専門分野は細分化されつつあるが,眼科学校保健の内容はすべての眼科医が知っておくべき子どもの診療の基本でもある.一人でも多くの眼科医が眼を守る専門家として学校保健の大切さを理解し,学校医活動に積極的にかかわっていただければ幸いである.謝辞:本稿に貴重なご助言を賜った日本眼科医会常任理事柏井真理子先生に深謝いたします.文献1)日本眼科医会平成C26・27年度学校保健部編:眼科学校保健資料集.日本眼科医会,20162)日本学校保健会保健診断調査研究小委員会:児童生徒等の健康診断マニュアル.平成C27年度改訂.日本学校保健会,C20153)柏井真理子,宮浦徹,大藪由布子:眼科学校保健に関する全国調査の報告(平成C29年度調査).日本の眼科C9:C1274-1290,C2018参考文献柏井真理子:眼科学校保健総論学校健診─学校医の役割─.MBOCULISTAC103:1-8,C2021(33)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C465

就学時健診における発達障害児の視力検査

2023年4月30日 日曜日

就学時健診における発達障害児の視力検査HealthExaminationwhenEnteringSchool-VisualAcuityMeasurementsforChildrenwithDevelopmentalDisorders森隆史*はじめに就学時健康診断(以下,健診)は文部科学省の管轄にあり,学校保健安全法により実施が規定されている.出生後から乳幼児期に行われてきた母子保健法による健康診査(以下,健診)では,疾患の早期発見と早期治療が健診の目的であったのに対して,就学時健診では,義務教育に入るにあたって,支障なく学校生活をおくることができる身体状態かを判定し,必要に応じて適切な就学環境を整えることに主眼が置かれる.就学時健診は,小学校に入学する前年に,居住区の小学校を会場として,集団健診として行われるのが通常である.したがって,子どもの発達や成長に悩んでいる保護者にとっては参加しづらい状況で実施される.このような背景で集団健診を受診しなかった幼児や,集団健診での視力検査ができなかった幼児に対しても,学校生活に必要な視機能があるのかの判断が求められる.本稿では,就学先の相談に眼科医がかかわることを想定し,就学時健診の視力評価の位置づけとその目的を記述するとともに,ときに集団健診での対応が困難である発達障害をもつ小児の視力検査について解説する.I就学時健診の位置づけとその目的就学時健診にかかわる法律を抜粋して表1にまとめる.就学時の健康診断は,学校保健安全法第11条,第12条に定められた法定健診のひとつである.就学時健診は,市(特別区を含む)町村の教育委員会の任務として,学校教育法第17条に定められた義務教育諸学校への初めての就学にあたって,疾患に対する適切な治療や身体障害・発達障害に対する教育相談・就学支援に結びつけるために実施されている(表2)1).就学時健診では,就学予定者の心身の状態を把握するとともに,学校生活・日常生活に支障となる疾病や障害のスクリーニングが行われる.児童の発達障害を早期に発見するために,発達障害者支援法第5条の第1項では母子保健法での乳幼児健診,第2項では学校保健安全法での就学時健診で十分に留意されなければならないと規定されている.II就学時健診での視力検査就学時健診での視力検査の実施については,学校保健安全法施行令および規則に定められている.視力は就学後の学習のみならず日常生活に影響を与えるため,就学前に適切に把握されなければならない.また,就学時健診は3歳児健診で指摘されなかった弱視を発見する機会としても重要である.視力検査は,就学後の学校健診での視力検査と同様に,普通学校の通常学級での学習に支障のない見え方であるかどうかを判定する方法により,健診会場で実際に測定することが原則となっている.標準的な視力検査は,Landolt環の単独視標の0.3,0.7,1.0を使用した字ひとつ視力5mでの遠方視力検査である.上下左右4*TakafumiMori:福島県立医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕森隆史:〒960-1295福島市光が丘1福島県立医科大学眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(21)453表1就学時健診にかかわる法律就学時健診.学校保健安全法第十一条市(特別区を含む.以下同じ.)町村の教育委員会は,学校教育法第十七条第一項の規定により翌学年の初めから同項に規定する学校に就学させるべき者で,当該市町村の区域内に住所を有するものの就学に当たって,その健康診断を行わなければならない..学校保健安全法第十二条市町村の教育委員会は,前条の健康診断の結果に基づき,治療を勧告し,保健上必要な助言を行い,及び学校教育法第十七条第一項に規定する義務の猶予若しくは免除又は特別支援学校への就学に関し指導を行う等適切な措置をとらなければならない.視力検査.学校保健安全法施行規則第三条第四項視力は,国際標準に準拠した視力表を用いて左右各別に裸眼視力を検査し,眼鏡を使用している者については,当該眼鏡を使用している場合の矯正視力についても検査する.義務教育.学校教育法第十七条第一項保護者は,子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから,満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで,これを小学校,義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う.ただし,子が,満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校の課程,義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは,満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間においてこれらの課程を修了したときは,その修了した日の属する学年の終わり)までとする.発達障害の早期発見.発達障害者支援法第五条第二項市町村の教育委員会は,学校保健安全法(昭和三十三年法律第五十六号)第十一条に規定する健康診断を行うに当たり,発達障害の早期発見に十分留意しなければならない.表2就学時健診の目的①学校教育を受けるにあたり,幼児等の健康上の課題について保護者及び本人の認識と関心を深めること.②疾病又は異常を有する就学予定者については,入学時までに必要な治療をし,あるいは生活規正を適正にする等により,健康な状態もしくは就学が可能となる心身の状態で入学するよう努めること.③就学時の健康診断は,学校生活や日常生活に支障となるような疾病等の疑いがある者及び視覚障害者,聴覚障害者,知的障害者,肢体不自由者,病弱者(身体虚弱者を含む),その他心身の疾病及び異常の疑いのある者をスクリーニングし,適切な治療の勧告,保健上の助言及び就学支援等に結び付けること.(文献1より抜粋)支障はないとされている.D,C,Bはすべて眼科への受診勧告となる.1.0を「正しく判別」したものはA判定とされ,受診勧告は行われない.学校教育における視覚障害者の定義は,学校教育法施行令第22条にて,「両眼の視力がおおむね0.3未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち,拡大鏡等の使用によっても通常の文字,図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの」とされている.このような児では就学先について,教育委員会は保護者の意見を聞いて適切に対処する必要がある.一方で,このような児が受診した際,われわれ眼科医は,視力・視野などの正確な視機能を評価し,原因疾患の診断を行うとともに,適切な眼鏡やコンタクトレンズでの屈折矯正に加えて,視覚障害についての教育相談・就学支援のセンター的機能を担っている地域の視覚支援学校などの教育機関と連携して,就学に必要な補助具の選定や拡大教科書,ICT(informationandcommunicationtechnology)機器の活用について助言を行う.自院での対応が困難な場合には,小児眼科専門医に紹介して対応を依頼するのがよいと考える.また,視覚認知がむずかしい小児のなかには,単一の要因でなく,機能的弱視や器質的弱視に発達障害・知的障害などがかかわっている場合があることに配慮が必要である.III発達障害児の視力検査1.検査時の留意点発達障害児の視力検査で配慮すべきことは,障害者差別解消法での合理的配慮と共通している.また,視力検査の実施方法は,低年齢の幼児の検査と共通するものが多い.言語発達は知的障害の程度によって,まったく発語がない段階から,単語で話す,簡単な文で話す,日常生活の会話ができる,社会性のあるやり取りができる,書きことばが使える段階までさまざまである.したがって,その児がどの程度の言語能力をもっているのかを推測するために,検査室に呼び入れてから対面するまでの児と保護者とのやり取りを観察し,明るい挨拶で声がけして,その反応を確認する.着ている服や身に着けているものについて,褒めながら簡単な質問をしてみると,オウム返しでないか,こだわりが強そうかの推測ができる.それに加えて,われわれ検査者が発達障害の児に対応する際には,その行動の特徴を知っている必要がある.乳児期に言語を発するまでは言葉によらないコミュニケーションが重要であることと同様に,発達障害では表情や身振り,手まねなどのボディーランゲージを用いて音声言語での意思伝達の不足を補助する.また,検査者が発声する音声言語では,曖昧な表現を避け,短く,わかりやすく,はっきりと話すことを心がける.しかし,自閉症スペクトラム障害では,相手の表情や身振りから意図をくみ取り,情緒的な交流をすることがむずかしいのが特徴である.また,大きな声が恐怖となる聴覚過敏にも,声がけのときは注意が必要である2,3).2.検査を円滑に進めるための工夫音声言語で説明する際には,写真や絵カードなどの視覚素材をあわせて用いることが有効である.口から出た言葉はすぐに消えるが,視覚素材からだとゆっくりと時間をかけて,それが表していることを理解することができる(図1).今日,病院に来て,どんな人に会うのか,自分はどんなことをやるのか,あるいは,どんなことをされるのか,そして,いつ終わるのかを順序立てて児に説明し,ゴールに向かって一つずつ達成する動機づけをする.また,一つのことができた達成感が,次の検査への動機づけとなるので,できたことを褒め,喜びを得させることが,検査可能率の向上に役立つ(図2).重度の知的障害の場合には,視力検査は自覚的には困難であるため,「テラーアキュイティカード」(TellerAcuityCards)などのpreferentiallooking(PL)法を用いた行動観察によって他覚的に視力を測定する.特定の物にしか興味を示さず,視標では興味をひくことができない場合には,児の好きな玩具などを視反応の確認に用いる.また,知的障害では,周囲の環境に慣れるための時間や繰り返しの機会を設ける必要がある.初診時にはまったくコミュニケーションが取れなかった場合でも,保護者に日常の児の様子を聞いて,普段は意思表示ができているようであれば,初診時には児の嫌がることはせ(23)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023455図1絵カードa:視力検査.b:それ以外にやらなければならないこと.図2スケジュール確認a:今日のやることとその順番.b:できたところに印をつける.図3『たべたのだれかな?』絵本の表紙(a)と近方視力検査の練習(b).図4絵視標による視力検査視力検査装置以外には注意が向かないように配慮した検査室.a:絵合わせでの回答.b:ジェスチャーでの回答.

3 歳児健診への屈折検査の導入と精度管理に 向けて

2023年4月30日 日曜日

3歳児健診への屈折検査の導入と精度管理に向けてIntroductionandAccuracyControlofRefractionTestingina3-Year-OldChild’sHealthCheckup板倉麻理子*はじめに弱視の子どもの割合は約2%と報告されているが1),視力検査は自覚的な要素が大きく,幼児では検査が正しくできないことも多いため,眼科アンケートと家庭での視力検査の結果から要精密検査かを判定している自治体では,弱視の見逃しが問題となってきた2~4).視覚の発達にはタイムリミットがある.視覚感受性期に正常に脳の視覚領域が発達しなければ,生涯弱視になるおそれがある.手遅れにならないよう,弱視は3歳児健康診査(以下,健診)で発見し治療を開始すべきである.また,両眼視機能も,物を両眼で同時に見ることで発達する.脳の感受性が高い時期に斜視や不同視弱視などを発見して,治療を開始する必要がある.群馬県を例にみると,平成28年度の3歳児健康診査では従来行われてきた家庭での視力検査とアンケートによる眼科検査の結果,「視覚」で要医療と判定された児は全体の約0.1%しかなく,弱視のほとんどが見逃されていた4).I屈折検査の必要性幼児は0.3程度の視力があれば日常生活は不自由なく送ることができる.弱視があっても普段の生活では何も症状がないため,家族も気づかないことが多い(図1).また,3歳0カ月児のLandolt環を用いた視力検査の実施可能率は73.3%であり5),視力異常の検出を家庭での視力検査のみに期待するのは困難である.兵庫県宝塚市の3歳児視覚検査では,屈折検査で異常だった児の56.7%は家庭での視力検査では「見えた」と回答しており,さらに眼科精密検査で「弱視」と診断された児は,屈折検査では全例検出できたが,56.5%は家庭での視力検査で「見えた」と回答していて,家庭での視力検査のみでは見逃されてしまう症例があると報告されている6).視力異常をより効率よく,見落としがないように検出するには,視力検査に加えて健診会場などにおける二次検査で屈折検査を実施することが有効である.視力0.5以上にもかかわらず比較的強い遠視眼がある場合などは一次検査で見落とされるため,その解決法として屈折検査の併施が望ましく,同時に,視力が測れない児において問題となる屈折異常の検出の可能性を高めるためにも屈折検査は大きな意味をもつ7).令和3年に日本眼科医会から「3歳児健診における視覚検査マニュアル~屈折検査の導入に向けて~」が発刊され8),令和4年度には,厚生労働省「母子保健対策強化事業」の補助金も決定したことから,スポットビジョンスクリーナー(SpotVisionScreener:SVS,ウェルチアレンジャパン社)やプラスオプティクスA12(Plusoptix社),ビジョンスクリーナーS12C(同)など(図2),保健師や看護師でも簡単なトレーニングで精度の高い検査が可能なフォトスクリーナーによる屈折検査が保健センターでの二次検査に導入され,弱視などの要治療児発見率が向上している4,9~12).SVSは2015年に*MarikoItakura:前橋ミナミ眼科〔別刷請求先〕板倉麻理子:〒371-0814群馬県前橋市宮地町146-1前橋ミナミ眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(11)443幼児は視力が0.3程度あれば,生活に不自由がないため,周囲は異常に気づかない正常な見え方の例弱視児の見え方の例鳥さんいるね!ぼやけていても視力1.0イメージ鳥がいるとわかる視力0.3イメージ図1弱視児の見え方弱視の児は生まれてからずっとピントがぼやけた状態で過ごしているため,視力不良と訴えず,視力が0.3程度あれば不自由なく生活できるため,周囲もまったく気づかない場合がほとんどである.図2各種屈折検査(フォトスクリーニング)機器と検査の様子小型で持ち運びが可能で,視距離1mため調節の影響を受けにくい.ただし,屈折検査機器では視力そのものを評価することはできないため,屈折検査導入により視力検査を省略することはできない.PlusoptixビジョンスクリーナーS12Cスポットビジョンスクリーナー図3フォトスクリーナーの検査結果画面(自動判定機能付き)あらかじめ基準値を登録しておくと,自動で判定可能である.ただし,遠視や近視は等価球面度数で判定されるため,乱視の影響に注意が必要である.表1スポットビジョンスクリーナーの推奨判定基準基準自動判定機能の利用屈折(値は絶対値)斜視(度)遠視(等価球面度数)近視(等価球面度数)遠視(球面度数)近視(球面度数)乱視不同視垂直方向内側方向外側方向①現行基準≦可能2.50D1.25D──1.75D1.00D8°5°8°②学会推奨基準≦可能※2.50D2.00D──2.00D1.50D同上③球面度数を用いた基準<付加──2.00D2.00D2.00D2.00D7°※あらかじめ手動で異常判定基準を変更しておく.自治体の状況に合わせて,どの基準を用いても構わない.学会推奨基準は,現行基準よりも偽陽性が少なくなるよう設定されているため,偽陰性に注意が必要である.スポットビジョンスクリーナーによる斜視の検査では,間欠性斜視など眼位が変動するタイプの斜視は検査の際に検出できないことがある.3歳児健康診査眼科精密検査依頼票兼結果報告書眼科医療機関担当医様○○市長○○○○下記の方について、3歳児健康診査を実施しましたところ、眼科検査において、異常所見を認めました。つきましては、精密検査を実施いただき、その結果を精密検査結果報告書にて報告をお願い致します。1.視力検査□異常なし□異常あり(右眼・左眼・両眼)□検査不可2.屈折検査添付のとおり3.視覚アンケート□異常なし□異常あり(該当項目)4.その他()発行番号健診日西暦年月日精密検査結果報告書(眼科)ふりがな性別生年月日氏名男・女年月日視力・屈折値(測定不可の場合は斜線)裸眼視力矯正視力球面度数円柱度数調節麻痺点眼右□あり所見□なし左その他所見□アレルギー性結膜炎□眼瞼皮膚炎□霰粒腫□麦粒腫□睫毛内反□眼瞼下垂□眼位異常□その他()1屈折異常(弱視含まず)□遠視□近視□乱視2斜視(弱視含まず)□内斜視□外斜視□上下斜視□その他診断名3弱視□屈折異常弱視□不同視弱視□斜視弱視□形態覚遮断弱視4その他()1異常なし2経過観察□弱視疑い□定期検査が必要総合判定□検査不可□その他()3要治療□眼鏡処方□眼鏡処方予定□その他()□他施設紹介(紹介先)受診年月日医療機関名西暦年月日医師名連絡先:○○市○○課図43歳児健康診査眼科精密検査依頼票兼結果報告書市町村内だけでなく都道府県単位で精度管理を行うために,共通の結果報告書様式を用いる.(「群馬県3歳児健康診査における眼科検査の手引き」より引用)図53歳児健康診査(視覚検査)集計表市町村で結果を取りまとめ,県に提出する.要観察は,視力検査ができなかった場合など,本来視力再検査や眼科精密検査が必要な場合が含まれる場合があり,適切な眼科受診のタイミングを逃すことにつながりかねない.二次検査の判定ができない場合には適切な次のアクションにつなげられる形で分類し,データを管理する必要がある.(「群馬県C3歳児健康診査における眼科検査の手引き」より引用)異常なし眼位検査検査不可異常あり異常なし屈折検査検査不可異常あり異常なし視力検査検査不可異常ありアンケート異常なし異常あり3歳児健診受診者数対象人数二次検査の判定結果異常なし要精検治療中三次(眼科精密検査)総合判定異常なし要観察要治療精密検査結果異常ありの内訳屈折異常(弱視含まず)人斜視(弱視含まず)人弱視人その他人弱視の内訳屈折異常弱視人不同視弱視人斜視弱視人形態覚遮断弱視人図63歳児眼科健診二次検査のフローチャート二次検査から眼科精密検査依頼票発行,結果報告書確認までの流れの例.保健センター精密検査機関精密検査No異常なしYes自院でNo紹介状作成治療可能専門医療機関紹介Yes治療・観察開始自治体に結果報告書を送付保健センター要精検児のデータ管理二次検査後2~3カ月No保護者にNo結果報告精検受診の受診済あり受診確認再勧奨YesYes保護者からの結果報告をデータ化データの集計・分析年度末の健診受診に係る精密検査の受診状況が十分把握できる時期(6月末)まで眼科からの結果報告書を待ってから,分析する.終了図7要精密検査となった場合のフローチャート眼科精密検査~診断後の流れの例.要精密検査となった児の眼科精密検査結果は,一覧表に取りまとめ,市町村単体だけでなく,より広域での精度管理を行う.–