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ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ ブリンゾラミド配合点眼薬への変更後の長期経過

2023年8月31日 木曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(8):1085.1088,2023cブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更後の長期経過塩川美菜子*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CLong-TermE.cacyofSwitchingtoBrimonidine/BrinzolamideFixedCombinationfromConcomitantUseMinakoShiokawa1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BBFC)のC1年間の効果と安全性を後向きに調査する.対象および方法:ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬の併用治療からCBBFCへ変更した原発開放隅角緑内障,高眼圧症C116例を対象とした.変更前と変更C12カ月後までの眼圧,Humphrey視野のCmeandeviation(MD)値を比較した.副作用と脱落例を調査した.結果:眼圧は変更前C14.3C±2.9CmmHg,変更3,6,9,12カ月後がC14.0C±3.1,C14.0±3.1,14.2C±3.2,14.1C±3.2CmmHgで維持された.MD値は変更前C.10.12±6.11CdB,12カ月後C.9.63±6.13CdBで同等だった.副作用はC8例(6.9%)で出現し,掻痒感,結膜充血などだった.脱落例はC32例(27.6%)あった.結論:BBFCは,1年間にわたり併用治療と同等の眼圧,視野を維持でき,安全性もほぼ良好だった.CPurpose:ToCretrospectivelyCinvestigateCtheC1-yearCoutcomesCandCsafetyCofCbrimonidine/brinzolamideC.xedcombination(BBFC)inpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG)orocularhypertension.PatientsandMethods:Thisretrospectivestudyinvolved116patientswithPOAGorocularhypertensionwhosetreatmentwasswitchedCfromCtheCconcomitantCuseCofCbrimonidineCandCbrinzolamideCtoCBBFC.CIntraocularpressure(IOP)andCmeandeviation(MD)IOPvaluesusingtheHumphreyvisual.eldtestprogramwerecomparedatbaselineanduptoC12CmonthsCpostCswitch.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCalsoCinvestigated.CResults:IOPCwasCfoundCtoCbeCmaintainedat3,6,9,and12monthspostswitch(i.e.,14.0±3.1,C14.0±3.1,C14.2±3.2,CandC14.1±3.2CmmHg,respec-tively)comparedwithatbaseline(14.3C±2.9mmHg)C.TheMDIOPvalueatbaselineandat12monthspostswitchwere.10.12±6.11CdBand.9.63±6.13CdB,respectively,thusillustratingnosigni.cantdi.erencebetweenthetwo.In8(6.9%)ofthe116patients,adversereactionssuchasitching,conjunctivalhyperemia,andotherdidoccur,andin32(27.6%)ofthe116patients,administrationwasdiscontinued.Conclusion:BBFCe.ectivelymaintainedIOPandvisual.eldsequivalenttothoseofconcomitanttherapyovera1-yearperiod,andtheoverallsafetywassatis-factory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(8):1085.1088,C2023〕Keywords:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,眼圧,副作用,変更,長期.brimonidine/brinzolamide.xedcombination,intraocularpressure,adversereaction,switching,long-term.CはじめにsiveCglaucomasurgery:MIGS),チューブシャント手術な緑内障は進行性,非可逆性の視神経症で,現在のところエどが普及してきているものの,緑内障の主たる治療が薬物治ビデンスのある唯一の治療は眼圧下降である1).近年,レー療であることは現時点では変わらない.内服薬であれば多剤ザー線維柱帯形成術や低侵襲緑内障手術(minimallyCinva-を一度に服用することが可能であるが,点眼薬の場合はC5分〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,CJAPANC以上の点眼間隔をあけなければならず,薬剤数が多いほど時間がかかり日常生活に大きな負担を強いることとなる.緑内障診療においては点眼治療の継続率が悪いことが課題である2)が,多剤併用症例では使用点眼薬剤数が増加するに従ってアドヒアランスが低下することも報告されている3).点眼指導,アドヒアランスの向上が疾患の進行抑制に重要であることが緑内障診療ガイドラインにも記されている1).アドヒアランス向上をめざして配合点眼薬が開発され,わが国では現在C9種類の配合点眼薬が使用可能となった.なかでもブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド)はC2020年C6月に発売されたCb遮断薬を含まない数少ない配合点眼薬の一つで,心疾患,慢性閉塞性呼吸器疾患,高齢者などCb遮断薬使用が禁忌または望ましくない患者への有用性が期待される.井上眼科病院(以下,当院)ではブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬をC3.6カ月使用時の効果と安全性について検討し報告した4,5).今回はブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬の併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更後C1年間の眼圧下降効果と安全性を検討したので報告する.CI対象および方法対象は当院に通院中の原発開放隅角緑内障と高眼圧症で,2020年C6月.2021年C6月にC0.1%ブリモニジン点眼薬とC0.1%ブリンゾラミド点眼薬の併用治療からC0.1%ブリモニジン/0.1%ブリンゾラミド配合点眼薬に変更したC116例C116眼とした.方法はブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用治療からCwashout期間を設けずにブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更した症例について,診療録より後ろ向きに調査した.変更前と変更C3,6,9,12カ月後の眼圧変化,変更前と変更C12カ月後のCHumphrey視野検査(30-2SITAstandardプログラム)のCmeandeviation値(MD値)の変化,副作用と脱落例を検討項目とした.眼圧については眼圧変化量をC2mmHg以上下降,2mmHg未満の変化,2mmHg以上上昇に分けた調査も行った.統計学的解析はC1例C1眼で行った.両眼該当症例は投与前眼圧の高い眼,眼圧が同値の場合は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.変更前と変更C3,6,9,12カ月後の眼圧変化の解析にはCANOVAとCBonferroniCandDunn検定を用いた.変更前と変更C12カ月後のCMD値の比較にはCWil-coxonの符号順位検定を用いた.統計学的検討における有意水準はp<0.05とした.本研究は井上眼科病院倫理審査委員会で承認を得た.研究情報は院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.II結果1.患者背景116例中,男性はC62例,女性はC54例,平均年齢はC65.5C±11.8歳(33.89歳)であった.病型は狭義原発開放隅角緑内障C96例,正常眼圧緑内障C17例,高眼圧症C3例であった.平均使用薬剤数はC4.3C±0.7剤(3.6剤)だった.配合剤はC2剤とカウントした.C2.眼圧変化眼圧変化を図1に示す.変更前平均眼圧はC14.3C±2.9mmHg,変更C3カ月後C14.0C±3.1CmmHg,6カ月後C14.0C±3.1mmHg,9カ月後C14.2C±3.2CmmHg,12カ月後C14.1C±3.2mmHgで,変化なく維持された.12カ月後の眼圧変化量は,変更前と比べてC2CmmHg以上下降C25例(29.4%),2CmmHg未満C37例(43.5%),2CmmHg以上上昇C23例(27.1%)だった(図2).2CmmHg未満C37例の内訳はC2CmmHg未満の上昇がC12例,不変C9例,2CmmHg未満の下降がC16例だった.C3.MD値MD値の変化を図3に示す.変更前CMD値はC.10.12±6.11dB,変更C12カ月後C.9.63±6.13CdBで変化はみられなかった(p=0.2895).C4.副作用・脱落副作用はC116例中C8例(6.9%)で出現した.内訳は掻痒感がC2例で変更C1カ月後,3カ月後に出現,結膜充血がC2例で変更C3カ月後,5カ月後に出現した.霧視が変更C3カ月後に,角膜障害が変更C4カ月後に,アレルギー性結膜炎が変更C6カ月後に,眼瞼炎が変更C9カ月後に各C1例出現した.8例中C6例は投与を中止した.中止により症状は改善した(表1).脱落はC116例中C32例(27.6%)あった.内訳は眼圧上昇が9例,薬剤追加がC8例,副作用がC6例,併用薬による副作用がC5例,白内障手術がC2例,転院がC2例だった.CIII考按ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬はわが国で行われた臨床試験において良好な眼圧下降と安全性が報告された6,7).市販後のブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の効果については,当院だけでなく他施設からも報告されている8.10).短期的検討としてCOnoeらは,ブリンゾラミドとブリモニジンの併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更したC22例を対象に行った研究で,眼圧は変更前がC15.0C±4.1CmmHg,変更C3カ月後がC14.8CmmHgで同等で,3カ月後の角膜上皮障害の軽度の悪化がみられたものの結膜充血に変化はなかったと報告した8).高田らは併用治療から配合点眼薬へ変更したC33例を対象とし,眼圧は変更前がC13.5C±2.3CmmHg,変更C3カ月後がC12.9C±3.1CmmHgで有意差はなく,副作用はなかったと報告した9).当院で行20NS18162mmHg以上下降眼圧(mmHg)25例,29.4%121014.3±2.914.0±3.114.0±3.114.2±3.214.1±3.28n=116n=115n=99n=92n=85642n=850変更前変更変更変更変更3カ月後6カ月後9カ月後12カ月後図1変更前後の眼圧眼圧は変更前後で変化はなかった(NS).C図2変更12カ月後の眼圧変化量2CmmHg未満(3C7例)の内訳は,2CmmHg未満上昇12例,不変9例,C2CmmHg未満下降16例だった.0NS副作用表1変更後の副作用発現時期継続・中止MD値(dB)-53カ月後継続1例-10結膜充血2例3カ月後継続1例5カ月後中止1例霧視1例3カ月後中止-20変更前変更12カ月後角膜障害1例4カ月後中止図3変更前後のMD値アレルギー性結膜炎1例6カ月後中止MD値は変更前後で変化はみられなかった(p=眼瞼炎1例9カ月後中止-15-10.12±6.11(n=80)-9.63±6.13(n=52)0.2895).った併用治療から配合点眼薬への変更後C3カ月の調査でも,眼圧は変更前はC14.2C±3.0mmHg,変更C3カ月後はC14.9C±4.4CmmHgで変化はなかった4).長期的効果で山田らは併用治療から配合点眼薬に変更した8例C15眼を対象として,眼圧は変更前C12.9C±2.1CmmHg,変更C3カ月後C13.6C±2.3mmHg,変更C6カ月後C12.6C±1.7CmmHgで有意差はなく,副作用として霧視がC2例,眼瞼皮膚炎がC1例出現したと報告した10).当院ではC102例を対象にブリンゾラミドとブリモニジンの併用治療からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更C6カ月後の調査を行い,眼圧は変更前がC14.4C±3.0mmHg,変更C6カ月後がC13.9C±2.8CmmHgと同等,副作用はC7例,6.9%に出現し,結膜充血がC3例,掻痒感がC2例,霧視がC1例,アレルギー性結膜炎を伴う眼瞼炎がC1例あったと報告した5).今回はC1年間の調査でわが国における既報はないものの,3カ月,6カ月後と同様にブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬へ変更後も眼圧は変わらず維持され,併用治療と同等副作用はC8例(6.9%)で出現したが,6例は投与中止により症状が改善した.の効果を得られた.変更C12カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg以上下降がC29.4%,2CmmHg未満がC43.5%,2CmmHg以上上昇がC27.1%であった.併用治療よりも眼圧下降が得られた症例のなかには,点眼本数が減ったことにより点眼遵守が良好となった症例がある可能性が示唆された.一方,配合剤のデメリットとして,1剤の点眼忘れがC2成分の眼圧下降効果減少を招くことがあげられる.眼圧が上昇した症例のなかにはもともとアドヒアランスが不良で,点眼本数が減っても点眼遵守につながらなかった症例も含まれている可能性がある.今後は点眼状況の聴取などアドヒアランスに重点をおいた前向き調査も検討の必要があると考えた.MD値はC1年間では変更前後に変化はなかった.さらに長期的な経過観察が必要であるが,緑内障は疾患の性質上,治療により目標眼圧に達していても視野障害が悪化する症例は存在するため11),長期になるほど点眼薬との関連を考察することは困難となることも予想される.副作用はC8例(6.9%)に出現し,内訳は掻痒感,結膜充血,霧視,角膜障害,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎であった.わが国で行われたブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の臨床試験では,ブリモニジンからの変更で副作用の出現が12.9%6),ブリンゾラミドからの変更でC8.8%7),内訳はいずれも霧視,結膜充血,角膜障害,アレルギー性結膜炎,眼刺激などで,重篤な副作用はなかったと報告されている.当院で行ったC6カ月の調査における副作用の出現はC6.9%5)で,今回はC1年の調査であったが副作用の発現頻度の増加はなく内訳も既知のものだった.長期使用による新たな事象もみられず比較的安全に使用できる点眼薬であることが示唆された.脱落がC32例(27.6%)あった.内訳は眼圧上昇,薬剤追加,副作用,併用薬による副作用,白内障手術,転院だった.眼圧上昇のC9例中C6例は他の薬剤を追加,3例は患者の希望によりブリモニジンとブリンゾラミドの併用治療に戻した.薬剤追加したC8例は眼圧に変化はないものの,さらなる眼圧下降を期待して他の点眼薬を追加していた.副作用による脱落6例はブリモニジンとブリンゾラミドの併用治療に戻し,ブリモニジンかブリンゾラミドを中止した症例だった.併用薬による副作用C5例は結膜充血,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎で併用していたリパスジルの副作用を疑い,リパスジルを中止した症例だった.配合点眼薬のデメリットとして含有する2成分のどちらの成分の副作用か不明になることがある.利便性やアドヒアランスの問題はあるものの,最初にブリモニジンとブリンゾラミド併用治療を行い,十分に効果と安全性を確認してから配合点眼薬へ変更するほうが患者の理解も得やすいかもしれない.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬はC1年間にわたり併用治療と同等の眼圧下降効果が得られ安全性も良好で,とくにCb遮断薬の使用が望ましくない患者に対する緑内障治療に有用であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C20143)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20094)井上賢治,國松志保,石田恭子ほか:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果.あたらしい眼科39:226-229,C20225)InoueK,Kunimatsu-SanukiS,IshidaKetal:Intraocularpressure-loweringCe.ectsCandCsafetyCofCbrimonidine/Cbrinzolamide.xedcombinationafterswitchingfromothermedications.JpnJOphthalmolC66:440-441,C20226)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科37:1289-1298,C20207)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科37:1299-1308,C20208)OnoeCH,CHirookaCK,CNagayamaCMCetal:TheCe.cacy,CsafetyCandCsatisfactionCassociatedCwithCswitchingCfrombrinzolamide1%CandCbrimonidine0.1%CtoCaC.xedCcombi-nationCofbrinzolamide1%CandCbrimonidine0.1%CinCglau-comapatients.JClinMedC10:5228,C20219)高田幸尚,住岡孝吉,岡田由香ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド併用使用から配合点眼薬へ変更後の短期の眼圧変化.眼科64:275-280,C202210)山田雄介,徳田直人,重城達哉ほか:ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬の有効性について.臨眼C76:695-699,C202211)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C1998***

基礎研究コラム:75.グルタチオンペルオキシダーゼ4の網膜での役割

2023年8月31日 木曜日

グルタチオンペルオキシダーゼ4の網膜での役割東邦洋グルタチオンペルオキシダーゼ4と三つのアイソフォームグルタチオンペルオキシダーゼ(glutathioneperoxidase:GPx)ファミリーは複数の抗酸化酵素からなるグループで,GPx1およびCGPx4が全身に分布しています.GPx4は,酸化脂質を直接還元することができる抗酸化酵素で,生体の発生,発達,生存に必須であることがわかっています1).GPx4は細胞質型,ミトコンドリア型,核小体型の三つのアイソフォームがあり,細胞質型CGPx4が生体内では主要なアイソフォームです.これまでの研究から発生,発達,生存に細胞質型CGPx4のみが重要であることがわかります.また,細胞質型CGPx4は,酸化脂質依存性制御ネクローシスであるフェロトーシスの重要な制御因子であることが報告され,癌治療の研究分野で注目されています.一方,ミトコンドリア型GPx4(mGPx4)や核小体型CGPx4は発生・生存に必須ではありません.mGPx4のみをノックアウトしたマウスで男性不妊を呈しますが正常に発生,生存します.以上よりCmGPx4が精子運動・受精に重要であること以外は,その働きは不明でした.ミトコンドリア型GPx4は網膜における主要なアイソフォーム筆者らのグループは,視細胞特異的に全CGPx4をコンディショナルノックアウトしたマウスを作製し,そのマウスが早controlmGPx4KO図1ControlマウスとmGPx4ノックアウト(KO)マウス生後30日の網膜mGPx4KOマウスで錐体細胞(PNA,緑)が消失し,杆体細胞(rhodopsin,赤)が菲薄化しているのがわかる.核はCDAPI(青)で染色している.mGPx4:ミトコンドリア型CGPx4.東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学期に視細胞変性することを報告しました2).その際,視細胞内節にCGPx4の強い発現が認められました.視細胞内節はミトコンドリアが集中しており,mGPx4が視細胞における主要なアイソフォームなのではないかと仮説を立て,mGPx4のみをノックアウトしたマウスを作製し,その網膜を解析しました.すると,mGPx4ノックアウトマウスは視細胞変性を認め,とくに錐体細胞が早期より消失し,杆体細胞も生後1カ月には菲薄化し,錐体C-杆体ジストロフィ様の変化を示しました.細胞死メカニズムはフェロトーシスではなく,アポトーシスでした.ほかの臓器のCGPx4欠失と同様に,mGPx4ノックアウトマウスの杆体細胞の変性はビタミンCEによりレスキューされました.しかし,錐体細胞の消失はレスキューできませんでした3).今後の展望今回,mGPx4が視細胞で重要な役割を果たしていることが初めて明らかになりました.今後,ヒトの錐体C-杆体ジストロフィでもCmGPx4の欠失などが報告されたり,mGPx4が新たな治療ターゲットになるかもしれません.文献1)ImaiCH,CMatsuokaCM,CKumagaiCTCetal:LipidCperoxida-tion-dependentCcellCdeathCregulatedCbyCGPx4CandCferrop-tosis.In:ApoptoticCandCnon-apoptoticCcelldeath(NagataCS,CNakanoCH,eds),CCurrentCTopicsCinCmicrobiologyCandCimmunology,CvolC403,Cham:SpringerCInternationalCPub-lishing,Cp143-170,C20162)UetaCT,CInoueCT,CFurukawaCTCetal:GlutathioneCperoxi-dase4isrequiredformaturationofphotoreceptorcells.JBiolChemC287:7675-7682,C20123)AzumaCK,CKoumuraCT,CIwamotoCRCetal:MitochondrialCglutathioneCperoxidaseC4CisCindispensableCforCphotorecep-tordevelopmentandsurvivalinmice.JBiolChemC298:C101824,C2022CDAPI/rhodopsin/PNA図2これまでの研究でわかってきたGPx4のアイソフォームごとの役割*下線は今回わかったこと(93)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C10790910-1810/23/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:243.硝子体手術後に再燃した中心性漿液性網脈絡膜症(初級編)

2023年8月31日 木曜日

243硝子体手術後に再燃した中心性漿液性網脈絡膜症(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに中心性漿液性網脈絡膜症(centralCserousCchorioreti-nopathy:CSC)は脈絡膜の循環障害により二次的に網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)が障害され,漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)をきたす疾患である.CSCはステロイドの使用のほかに,種々の内眼手術が誘因となる可能性が過去に指摘されている.C●症例提示61歳,男性.CSC既往眼である左眼に発症した特発性黄斑上膜に対して,経毛様体扁平部硝子体手術(parsCplanavitrectomy:PPV)を施行した.術前光干渉断層計(opticalCcoherencetomogaphy:OCT)でCRPEの不整を認め,矯正視力はC0.6であった(図1).白内障手術後に硝子体を切除し,ついで黄斑上膜を.離した.術翌日には矯正視力がC0.3に低下し,OCTでドーム状のSRDをきたしていた(図2a).フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)ではCRPE萎縮によるCwindowdefectに加えて漏出点をC2カ所認めた(図2b).PPVが誘因となって再発したCCSCと診断し,術1週間後に漏出点に対してレーザー光凝固を施行した.その後,SRDは徐々に消退し,矯正視力はC0.7に改善した(図3).C●硝子体手術後のCSCの増悪CSCは,ステロイドに加えて白内障手術,緑内障手術,PPVなどの内眼手術が誘因となる可能性が報告されている.PPVに関するものとして,黒田らは網膜.離および眼内レンズ亜脱臼に対してCPPVを施行後,早期にCCSCを発症したC2例を報告し,2例とも全身疾患のためステロイド内服中であり,ステロイドと手術侵襲の両者が発症に関与した可能性を述べている1).山崎らも黄斑上膜を合併したサルコイドーシスに対してCPPVとステロイドCTenon.下注射を施行し,翌日にCCSCを発症したC1例を報告している2).Imasawaらは糖尿病黄(91)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1術前の左眼OCT黄斑上膜に加えてCRPEの不整を認め,矯正視力はC0.6であった.Cab図2術翌日の左眼OCTとFAa:OCTでドーム状のCSRDをきたしていた.b:FAでは漏出点をC2カ所認めた.図3術2週間後の左眼OCT蛍光漏出点に対するレーザー光凝固後,SRDは徐々に消退した.斑浮腫に対してCPPVとトリアムシノロン硝子体内注射後にCCSCが発症したC1例を報告している3).一方,今回のようにCCSCの既往眼にCPPVが誘因となってCCSCが再発したとする報告として,Moreno-Lopezらは網膜.離に対するCPPV後の肥厚した内境界膜に対して再度PPVを施行したところ,CSCが増悪したC1例を報告している4).筆者らも過去に,黄斑上膜に対するCPPV後,晩期にCCSCが再燃したC1例を経験している5).以上のことから,CSCの既往眼にCPPVを施行する際には,術前にCFAを施行してCCSCの活動性を評価することに加えて,PPV後にCCSCが再燃する可能性を念頭におくことが重要と考えられる.文献1)黒田佳陽,吉田章子,三輪裕子ほか:硝子体手術後に中心性漿液性脈絡網膜症を発症したC2例.眼臨紀C9:766-771,C20162)山崎厚志,富長岳史,佐々木慎一ほか:黄斑上膜手術とトリアムシノロンCTenon.下注射が中心性漿液性脈絡網膜症を誘発したサルコイドーシスのC1例.眼臨紀C9:819-822,C20163)ImasawaCM,COhshiroCT,CGotohCTCetal:CentralCserousCchorioretinopathyCfollowingCvitrectomyCwithCintravitrealCtriamcinoloneacetonidefordiabeticmacularoedema.ActaOphthalmolScandC83:132-133,C20054)Moreno-LopezCM,CPerez-LopezCM,CCasas-LleraCPCetal:CPersistentsubretinal.uidduetocentralserouschorioreti-nopathyCafterCretinalCdetachmentCsurgery.CClinCOphthal-molC5:1465-1467,C20115)森下清太,河本良輔,福本雅格ほか:黄斑上膜を伴う中心性漿液性脈絡網膜症のC2例.眼臨紀10:905-909,C2017あたらしい眼科Vol.40,No.8,20231077

考える手術:20.網膜血管腫に対する硝子体手術

2023年8月31日 木曜日

考える手術⑳監修松井良諭・奥村直毅網膜血管腫に対する硝子体手術石川桂二郎九州大学大学院医学研究院眼科学硝子体手術が必要となるおもな網膜血管腫は,先天網膜過誤腫のvon-Hippel-Lindau(VHL)病と後天性の網膜血管増殖性腫瘍である.治療は,網膜光凝固,経強膜冷凍凝固,光線力学療法,抗血管内皮増殖因子療法が行われるが,黄斑上膜,硝子体出血,網膜.離などを合併する場合は硝子体手術が適応となる.網膜血管腫に対する硝子体手術の目的は以下①血管腫の退縮,②すでに形成された線維膜の除去による網膜牽引解除,③硝子体切除(硝子体出血がある場合は出血の除去),④網膜.離がある場合は網膜復位,⑤術後に生じる線維増殖に対成に十分注意する.網膜血管腫では眼内に線維増殖を促進する因子が高濃度で存在しているため,手術操作による網膜への過度の損傷は術後の増殖硝子体網膜症のリスクを高めるからである.③では血管腫から連続する硝子体を郭清し,後部硝子体.離を周辺まで広げて切除を行う.④では裂孔のない牽引性網膜.離に対しては,前述したように,不要な網膜損傷を避ける必要があるため,意図的裂孔作製による網膜下液排液の必要性は慎重に判断する.タンポナーデ物質は,空気,ガス,シリコーンオイルを術者の判断で選択する.⑤では線維増殖の足場となる後部硝子膜の除去,黄斑上膜予防のための内境界膜.離を行う.線維増殖による網膜.離や牽引が強い場合や術後の増殖リスクが高い場合は,輪状締結などバックリンク手術を併施する.網膜血管腫に対する手術は,通常の硝子体手術で行う手技の組み合わせであり,特殊な手技を要さない.ただし,血管腫は炎症性サイトカインや成長因子などを旺盛に分泌していることから,術後に線維性増殖が起きやすい環境であることに十分留意して,過剰な凝固や網膜損傷を避けた低侵襲な手術を行うことが肝要である.聞き手:硝子体手術の適応にならない網膜血管腫に対し聞き手:網膜光凝固の条件を教えてください.ては,どのような治療を行いますか?石川:緑または黄色のレーザー光を用いて,照射時間は石川:血管腫は小さいサイズの病変であれば,網膜光凝0.3~0.5秒,200~500mWで血管腫を直接凝固します.固療を行います.von-Hippel-Lindau(VHL)病では,一度の光凝固で完結させるのではなく,数週間で2回以直径1.5mm以下であれば網膜光凝固が有用であること上に分けて血管腫の状態を観察しながら行います.が報告されています.(89)あたらしい眼科Vol.40,No.8,202310750910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:血管腫が大きい場合はどのように治療しますか?石川:VHL病では4.5mmまでの大きさであれば,網膜光凝固を試す価値があるとされています.その際は,血管腫への直接凝固に加えて,流入血管に対して光凝固を行い,血管閉塞による血管腫退縮をめざします.網膜血管増殖性腫瘍も含めて,光凝固では制御が不十分な大型の血管腫に対しては経強膜冷凍凝固を行い,血管腫の頂点まで凝固を行います.光線力学療法の効果は限定的とされており,抗血管内皮増殖因子療法は滲出性変化には効果があったという報告がありますが,血管腫を退縮させる効果は乏しいようです.聞き手:硝子体手術を行う場合に,血管腫は切除しなくていいのですか?石川:ほとんどの患者において初回手術時に血管腫を切除する必要はないと思われます.初回の硝子体手術で眼内光凝固と経強膜冷凍凝固を行っても出血,滲出性変化が制御不能である場合に限って,血管腫の切除を考慮します.ただし,血管腫の切除は網膜切開など侵襲が大きくなりますので,術後の増殖硝子体網膜症への進展には術前十分注意する必要があります.血管腫の切除を行う際は,前房に移動させて強角膜創から摘出します.眼内レンズ挿入眼で,大型の血管腫を摘出する際は,後.切開窓を通しての血管腫の前房内移動は困難であるため,眼内レンズの摘出も考慮します.聞き手:バックリンク手術を単独で行う場合はありますか?石川:血管腫が周辺部に存在し,網膜への牽引が血管腫の周囲のみに限局している場合には網膜牽引の解除を目的にバックリンク手術を単独で適応することがあります.血管腫からの滲出を制御する目的で,術前や術後に光凝固を行い,術中には経強膜冷凍凝固を行います.聞き手:硝子体手術後の管理で注意する点はありますか?石川:滲出性変化の増悪に注意し,適宜網膜光凝固の追加を考慮します.また,術後に.胞様黄斑浮腫が出現することがありますので,点眼による消炎に加えて,必要であればトリアムシノロンアセトニドの局所注射を行います.術後図1von-Hippel-Lindau病の術前,術後写真術前術後図2網膜血管増殖性腫瘍の術前,術後写真1076あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023(90)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性へのラニビズマブBSの使用経験

2023年8月31日 木曜日

●連載◯134監修=安川力髙橋寛二114加齢黄斑変性へのラニビズマブBSの加藤亜紀名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学使用経験滲出型加齢黄斑変性の治療において,抗CVEGF薬の硝子体内注射は第一選択である.複数の抗CVEGF薬が承認されており選択肢が広がるなか,バイオ後発品(バイオシミラー:BS)も承認された.本稿では,わが国で最初に承認されたCBSであるラニビズマブCBSにて治療したポリープ状脈絡膜血管症の症例を紹介する.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)に対する治療は抗CVEGF薬の硝子体内注射が第一選択となっている.ラニビズマブは滲出型AMDに対して,現在使用されている抗CVEGF薬の中では,最初に有効性が示された薬剤である.その後アフリベルセプト,近年ブロルシズマブ,ファリシマブが相次いで承認され,選択の幅が広がっている(表1).しかし,抗CVEGF薬は複数回の投与を必要とすることが多く,高額な薬価が患者の負担になり,理想的な治療の継続が困難になることもある1).バイオ医薬品の後発品はバイオシミラー(biosimilar:BS)とよばれ,「国内で既に新有効成分含有医薬品として承認されたバイオテクノロジー応用医薬品(先行バイオ医薬品)と同等/同質の品質,安全性,有効性を有する医薬品として,異なる製造販売業者により開発される医薬品」と定義されている2).先発品と比較して薬価が低く設定されていることが多く,新規後発品の薬価は先発品のC50%,バイオシミラーについてはC70%と規定されている3).滲出型CAMD治療に用いられる抗CVEGF薬においても,2009年にわが国で承認されたラニビズマブのCBSが,2021年に『ラニビズマブCBS硝子体内注射用キットC10Cmg/ml「センジュ」』として各種非臨床試験および日本人の滲出型CAMD患者への第Ⅲ相試験を経て承認された4).本稿ではラニビズマブCBSを用いて治療したポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalCneovas-culopathy:PCV)の症例を提示する.症例患者はC74歳,男性.左眼の視力低下を自覚し受診.初診時左眼視力0.1(0.5×sph+1.50D(cyl.1.00DAx70°).傍中心窩の橙赤色病変に一致して光干渉断層計で網膜色素上皮の急峻な立ち上がりおよび網膜下液(subretinal.uid:SRF)を認め,蛍光眼底造影検査ではポリープ状病巣が描出されたことから,PCVと診断した(図1).患者が費用負担の少ない治療を希望し,か表1滲出型加齢黄斑変性に承認されている抗VEGF薬一覧(2023年7月現在)ラニビズマブアフリべルセプトブロルシズマブファリシマブ構造ヒト化マウス抗CVEGFモノクローナル抗体のCFab断片VEGFR-1VEGFR-2細胞外ドメインとヒトCIgG1のCFcドメインからなる融合蛋白ヒト化抗CVEGFモノクローナル抗体一本鎖CFv断片抗VEGF/抗CAng-2ヒト化二重特異性モノクローナル抗体分子量約C48CkDa約C115CkDa約C26CkDa約C149CkDa1回投与量C0.5CmgC2CmgC6CmgC6Cmg特徴VEGF-Aに結合CVEGF-A,CPlGF,VEGF-B,に結合VEGF-Aに結合VEGF-A,Ang-2に結合薬価*先発品108,987円131,083円135,000円163,894円CBS76,772円Ang:アンジオポエチン,PlGF:胎盤増殖因子,BS:バイオシミラー(87)あたらしい眼科Vol.40,No.8,202310730910-1810/23/\100/頁/JCOPYOCTRPEmap図1ポリープ状脈絡膜血管症の初診時所見傍中心窩の橙赤色病変に一致して,フルオレセイン・インドシアニングリーン蛍光造影(FA/IA)後期相でポリープ状病巣,光干渉断層計(OCT)で網膜色素上皮(RPE)の急峻な立ち上がりおよび漿液性.離を認め,ポリープ状脈絡膜血管症と診断した.週数0W4W10W18W24W32WIVRBS矯正視力(4W)(6W)(8W)(6W)(8W)(0.5)(0.7)(0.7)(0.7)SRF再燃(0.7)(0.8)図2治療経過ラニビズマブCBSに硝子体内注射(IVRBS)よる導入期なしのCtreatandextendレジメン治療を開始.治療開始32週(W),5回投与後矯正視力はC0.8,網膜下液(SRF)も改善している.つ硬性白斑や網膜下出血は伴わず,病変サイズも比較的小さいことから,ラニビズマブCBSによる治療を開始した.1回の投与でCSRFは消失した.患者と相談して導入期なしのCtreatCandextendレジメンで治療を継続した.途中C1回の再燃がみられたためC8週からC6週に投与間隔を短縮したが,その後延長が可能となり,最終受診時C8週目でCSRFの再燃はなく,左眼矯正視力はC0.8に改善し,次回投与はC12週に延長とした(図2).おわりに近年承認された抗CVEGF薬は,投与間隔が長くても先行承認薬と同等の有効性を有するとされているが,先行したラニビズマブでも投与の延長1)や休止が可能5)な場合もある.患者に応じて薬剤を選択することが,患者の経済的,精神的負担を軽減し,結果的に長期的治療が可能になると考えられる.C1074あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023文献1)KatoCA,CYasukawaCT,CSugitaCICetal:MentalCstatusCandCfeasibilityofanintravitrealranibizumabtreat-and-extendregimeninpatientswithNeovascularage-relatedmaculardegeneration.AdvTherC39:1403-1416,C20222)厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」(令和2年2月4日付,薬食審査発0204第1号)3)厚生労働省保険局長通知「薬価算定の基準について」(令和4年2月9日付,保発0209第1号)4)近藤峰生,小椋祐一郎,髙橋寛二ほか:滲出型加齢黄斑変性を対象としたラニビズマブ(遺伝子組換え)バイオ後続品SJP-0133の第CIII相臨床試験─先行バイオ医薬品との比較ならびに継続長期投与時の有効性および安全性評価.あたらしい眼科C39:1421-1434,C20225)柴田有紗,木村雅代,加藤亜紀ほか:滲出型加齢黄斑変性に対して血管内皮増殖因子阻害療法が休止可能で良好な視力が維持された症例の検討.眼薬理36:30-34,C2022(88)

緑内障:緑内障とライフスタイル

2023年8月31日 木曜日

●連載◯278監修=福地健郎中野匡278.緑内障とライフスタイル羽入田明子慶應義塾大学医学部眼科学教室緑内障は遺伝的要因と環境要因が複雑に関与する多因子疾患であり,食生活の変化や運動不足など,さまざまなライフスタイルの影響も指摘されている.本稿では,修正可能なライフスタイルの中で,とくに緑内障との関連が指摘されている血圧,身体活動,睡眠に関して解説する.●はじめに緑内障はわが国の中途失明の主要な原因疾患であるが,未だ眼圧下降以外にエビデンスのある有効な予防や治療法はみつかっていない.昨今,疫学研究を中心に,糖尿病や睡眠時無呼吸症候群などさまざまな慢性疾患と緑内障との関連が指摘されており,眼圧下降の点眼加療にとどまらず,ライフスタイルへの介入を含めた有効な予防法の探索が期待されている.本稿では,高齢者に関心の高いライフスタイルの中でも,①血圧,②身体活動,③睡眠に着目し,緑内障との関連について紹介する.C●血圧と緑内障複数の疫学研究から,全身の血圧が眼圧に影響を及ぼすことがわかってきた.メタアナリシスによると,血圧と眼圧の関連は,収縮期血圧がC10CmmHg上昇するごとに眼圧はC0.26CmmHg上昇し,拡張期血圧がC5CmmHg上昇するごとに眼圧はC0.17CmmHg上昇するという正の関連が報告されている1).一方,血圧と緑内障の関連に関しては,血圧が高いと緑内障の有病率・発症率が上昇するという報告が多いものの,研究ごとの異質性が高く,とくに拡張期血圧と緑内障の関連に関しては議論の余地がある.この背景として,視神経乳頭の循環の指標である眼灌流圧という観点が最近注目されている.眼灌流圧は,全身の平均血圧から眼圧を引いたものと定義され,低い眼灌流圧は緑内障進行の危険因子であることがわかってきた.Leeらの決定木分析を用いた報告によると,正常眼圧緑内障C166名を対象に,血圧とCOCTで測定される乳頭周囲網膜神経線維層と神経節複合体の構造変化を評価したところ,収縮期血圧がC108CmmHg以下の群は,収縮期血圧がC108CmmHgより高い群と比べ,有意に網膜神経線維層の菲薄化を有することがわかった(図1)2).この研究から,収縮期・拡張期血圧はそれぞれ108/63CmmHgがカットオフ値で,それよりも血圧を下げすぎると緑内障性視神経症の進行リスクとなる可能性(85)が示唆される2).緑内障診療ガイドライン第C5版では,緑内障の進行にかかわる危険因子として,「眼灌流圧が低い」と「拡張期・収縮期血圧が低い」があげられている3).以上から,適切な血圧管理は緑内障発症・進行管理の観点からも重要であると考えられる.C●身体活動と緑内障身体活動と緑内障性視神経障害に関するエビデンスは年々増えており,身体活動量が増えると緑内障の進行を抑制する可能性が示唆されている4).60.80歳の緑内障および緑内障疑いの患者C141人を対象に,加速度計を用いて身体活動量を計測し,視野障害の進行を縦断的に検討したところ,5,000歩/日または座位時間をC2.6時間/日短くすると,視野欠損の進行を約C10%抑制できることがわかった4).運動は,ドパミンや神経成長因子の上昇や,循環血流量の増加により網膜神経節細胞に保護的に働くと考えられる.一方で,運動の中でも,ウェイトリフティングのようないきむ動作のある筋トレやヨガの頭低位は一時的に眼圧を上昇させることが知られているため,運動の種類によっては注意が必要と考えられる5).以上から,適度な有酸素運動は緑内障進行抑制の観点からも重要と考えられる.C●睡眠睡眠時無呼吸症候群は緑内障のリスク因子であることがわかってきた(図2a)6).年齢,性別でマッチさせた閉塞性睡眠時無呼吸症候群とコントロール群を対象にC5年間フォローした縦断研究では,睡眠時無呼吸症候群における緑内障のハザード比がC1.67倍に達した(図2b)6).そのメカニズムとして,当初は,夜間の無呼吸発作時に胸腔内圧が上昇し,眼圧が上がることで緑内障を誘引するという説が有力であったが,研究が進むにつれて,睡眠時無呼吸症候群に起因する虚血や低酸素が緑内障性視神経傷害を誘引する可能性が示唆されている.実際,日本人の緑内障患者を対象とした研究において,睡眠時無あたらしい眼科Vol.40,No.8,202310710910-1810/23/\100/頁/JCOPYSurvivalprobabilityた結果,乳頭周囲網膜神経層菲薄化をきたす収縮期血圧のカットオフ値はC108CmmHgであった.(文献C2より改変引用)図2睡眠時無呼吸症候群とGlaucoma-FreeSurvivalRate0.990.980.970.96緑内障の関連a:睡眠時無呼吸症候群と対照群の開放隅角緑内障生存曲線の比較.Cb:5年間縦断における開放隅角緑内障の発症率.対照群に対して,睡眠時無呼吸症候群の患者では調整0.95後のハザード比がC1.67倍と有意に上昇した.C0.94(文献C6より改変引用)CDayafterIndexDate文献05001,0001,5002,000呼吸症候群の患者では血中酸化ストレスが上昇しており,MDslopeの進行も速いことが報告された7).さらに,睡眠時無呼吸症候群を有する緑内障患者に持続陽圧呼吸療法を導入すると,MDslopeの進行抑制が認められた8).以上から,良質な睡眠は緑内障予防・治療の観点からも重要で,とりわけ睡眠時無呼吸症候群の早期治療介入が望まれる.C●おわりに本稿では,緑内障に関連するライフスタイルの中で,血圧・身体活動・睡眠に関して疫学研究を中心に紹介した.緑内障は多因子疾患であり,遺伝的要因だけでなく,生活・環境要因などさまざまな因子が発症に関与する.未だ眼圧降下以外にエビデンスの高い予防・治療法はないが,大規模なCpopulation-basedの疫学調査により,適正な血圧の維持,適度な有酸素運動,良質な睡眠は,眼圧管理や神経保護の観点からも重要と考えられる.今後もアジア人を対象とした,より客観的な評価法を用いた大規模な前向き研究の蓄積が望まれる.1)ZhaoCD,CChoCJ,CKimCMHCetal:TheCassociationCofCbloodCpressureCandprimaryCopen-angleCglaucoma:aCmeta-analysis.AmJOphthalmolC158:615-627,Ce9,C20142)LeeCK,CYangCH,CKimCJYCetal:RiskCfactorsCassociatedCwithstructuralprogressioninnormal-tensionglaucoma:CIntraocularpressure,systemicbloodpressure,andmyopia.CInvestOphthalmolVisSciC61:35,C20203)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌126:85-177,C20224)LeeCMJ,CWangCJ,CFriedmanCDSCetal:GreaterCphysicalCactivityisassociatedwithslowervisual.eldlossinglau-coma.OphthalmologyC126:958-964,C20195)ZhuCMM,CLaiCJSM,CChoyCBNKCetal:PhysicalCexerciseCandglaucoma:areviewontherolesofphysicalexerciseonintraocularpressurecontrol,ocularblood.owregula-tion,neuroprotectionandglaucoma-relatedmentalhealth.ActaOphthalmolC96:e676-e691,C20186)LinCC,HuCC,HoJDetal:Obstructivesleepapneaandincreasedriskofglaucoma:apopulation-basedmatched-cohortstudy.OphthalmologyC120:1559-1564,C20137)YamadaCE,CHimoriCN,CKunikataCHCetal:TheCrelationshipCbetweenincreasedoxidativestressandvisual.elddefectprogressionCinCglaucomaCpatientsCwithCsleepCapnoeaCsyn-drome.ActaOphthalmolC96:e479-e484,C20188)HimoriCN,COgawaCH,CIchinoseCMCetal:CPAPCtherapyCreducesCoxidativeCstressCinCpatientsCwithCglaucomaCandCOSASCandCimprovesCtheCvisualC.eld.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmolC258:939-941,C20201072あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023(86)

屈折矯正手術:屈折矯正手術の世界的動向

2023年8月31日 木曜日

●連載◯279監修=稗田牧神谷和孝279.屈折矯正手術の世界的動向北澤世志博アイクリニック東京屈折矯正手術はClaserinsituCkeratomileusis(LASIK)を中心に普及したが,近年はCimplantablecollamerlens(ICL)やCsmallincisionlenticuleextraction(SMILE)も増えている.国ごとに屈折矯正手術の歴史や承認の影響もあり,普及術式も異なる.C●論文投稿数にみる屈折矯正手術の世界的動向屈折矯正手術の世界的動向をみるために,インターネットの文献検索で汎用されるCPubMedを使い「myo-pia,LASIKまたはCICLまたはSMILE」で検索してヒットした論文数をまとめた(図1).1990年代の論文はほぼCLASIKのみで,ICLはC1998年にCSandersらが米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)のトライアルについて報告したもの1)が最初である.SMILEの最初の論文はC2010年にCBlumらが報告した2)ものである.LASIKの論文投稿数はC2005年まで右肩上がりに増加し続けたが,2008年のリーマンショックの影響で施行数の減少とともに,論文数も減少傾向にある.一方,ICLとCSMILEの投稿論文数は増加し続け,2022年はCLASIKとCSMILEがほぼ同数で,ついでCICLである.C●矯正手術の世界的動向では実際のシェアはどうであろうか.2022年のCMar-ketScopeのデータでは,世界的にはCLASIKやCSMILEを含めたClaserCvisioncorrectionがC82.2%(403.6万眼)でもっとも多く,ついでrefractivelensexchange(RLE)がC10.0%(49.1万眼),ICLを含めたCphakicIOLはC7.8%(38.2万眼)であった.PhakicIOLの中ではCICLが81%,前房型のCArtisanやCArti.exがC10%,残るC9%がその他のレンズであった.地域別にみると,米国ではLASIKがC70%を超え,ついでCRLE,SLIMEの順でphakicIOLは数%しかない.また,欧州でもCLASIKが50%を超え,ついでRLE,SMILE,phakicIOLの順で,ある.アジアの中で屈折矯正手術の施行数がもっとも多い中国では,LASIKとCSMILEが約C40%ずつで,pha-kicIOLはC20%弱である.また,韓国では興味深いことにCSMILEのシェアがC75%と圧倒的に多く,続いてLASIK,そしてCICLは数%である.韓国においては日本と同じようなCLASIKのネガティブキャンペーンがあ(83)り,LASIKの減少と対照的にCSMILEが増加した.また,日本ではCLASIKの施行数が減る一方でCICLが急速に増加し,2022年はCICLの施行数がCLASIKの施行数を初めて上回った.C●LASIKの変遷と今後の展望LASIKはこれまでもっとも多くの患者に施行された屈折矯正手術である.1990年当初のCconventionalLASIKは,器械的なマイクロケラトームでフラップを作り,エキシマレーザーは近視と乱視のみの矯正しかできず,レーザーの照射径も小さいためリグレッションやハロー・グレアは必発で,視力の質の低下が問題であった.2003年頃からフラップ作製はフェムトセカンドレーザーで作製されるようになり,照射径の拡大と高次収差も矯正できるCwaveCfrontCguidedLASIK(WFG-LASIK)が普及した.日本においてC2008年に厚生労働省の承認を受けたエキシマレーザーCSTARS4IR(John-sonC&Johnson社)のCiDesigniLASIKはその代表である.その後CWFG-LASIKに大きな進歩はなかったが,同社は角膜前面のCtopographyと高次収差を測定するCWFanalyzerを合体させたCiDesignCRefractiveCStudioを開発してさらなる視機能の低下抑制に取り組んでいる.LASIKは日本では感染症多発事件,LASIK難民や集団訴訟事件,厚生労働省の注意喚起などにより施行数が激減したが,世界的には未だ施行数がもっとも多く,当面その地位は変わらないであろう.C●ICLの変遷と今後の展望ICLは古くはC1986年に最初のレンズが埋植され,1993年から現在の素材Ccollamerが使用され,1997年にCICL,2011年にホールCICLがCCEマークを取得した.日本ではC2010年にCICLが,そしてC2014年にホールICLが厚生労働省に承認された.ホールCICLの普及に伴い,当初問題であった緑内障や白内障の術後合併症は激減し手術件数が増加した.ICLは強度から最強度近視あたらしい眼科Vol.40,No.8,202310690910-1810/23/\100/頁/JCOPY(件)250LASIKmyopiaICLmyopiaSMILEmyopia200150100500(年)図1PumMedでの論文検索ヒット数1993199519971999200120032005200720092011201320152017201920212023が適応であったが,日本眼科学会屈折矯正手術ガイドラインの改訂もあり,世界的に対象の屈折度は低度数化している.筆者はC2007年C11月.2023年C6月にC10,016例C19.911眼のCICLを施行したが,このC2.3年で症例数が急増し,対象の平均屈折度はC2008年の-9.36DからC2022年には-6.08Dに下がっている3).しかし,米国ではC2004年のCFDA承認取得後ホールCICLの承認が遅れ,phakicIOLはC2004年にCFDAの承認を取ったVerisyse(JohnsonC&Johnson社)が中心で,ホールICLが早期に承認された欧州や日本に大きく遅れを取った.Verisyseは虹彩固定の前房型のため手技の煩雑さや角膜内皮細胞の減少が危惧され,米国ではCLASIKが中心で,phakicIOLは普及しなかった.しかし,2022年にホールCICLがCFDAに承認され,今後米国でもCICLの症例数増加が予想される.C●SMILEの変遷と今後の展望SMILEの前身はC2008年にCSekundoらが報告したフェムトセカンドレーザーのみでレンチクルを作製し近視を矯正するCfemtosecondClenticuleextraction(FLE)である.しかし,FLEはCLASIKと同様にフラップを作ることからメリットが少なく,SekundoやCBlumらは2010年にフラップを作らず角膜実質をレンチクルとして除去し近視を矯正するCSMILEを報告した.SMILEはCFLEと違い,最小C2Cmmの角膜切開創からレンチクルを抜き取るので角膜知覚神経の損傷が少なくドライアイになりにくいこと,また高次収差の増加も少なく外傷にも強いことから,LASIKに勝る手術として注目されC1070あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023施行数が増加している.しかし,SMILEができるフェムトセカンドレーザーがCVisuMax(CarlZeiss社)に限られることに加え,手技的なラーニングカーブが長いこと,そしてCLASIKやCICLよりも術後視力の改善,とくに術翌日の視力回復が遅いことがデメリットである.また,術後の創間炎症やまれにCkeratectasiaの報告もある.SMILEはC2018年にCFDAが承認後,厚生労働省も2023年C3月に承認し,これまでC750万眼以上に施行されてきた.日本ではまだなじみの薄いCSMILEであるが,SMILEができる数社のフェムトセカンドレーザーが出てきており,今後CICLと同様に施行数が増加し,そのシェアは伸びていくであろう.C●おわりに屈折矯正手術のC3大術式はCLASIK,ICL,SMILEであり,国ごとに各術式のシェアは異なるが,長期的にはLASIKの施行数はゆっくり減少し,ICLやCSMILEのシェアが伸びていくと予想される.文献1)SandersCDR,CBrownCDC,CMartinCRGCetal:ImplantableCcontactClensCforCmoderateCtohighCmyopia:phaseC1CFDACclinicalCstudyCwithC6CmonthCfollow-up.CJCCataractCRefractCSurgC24:607-611,C19982)BlumCM,CSekundoW:FemtosecondClenticuleCextraction(FLEx).OphthalmologyC107:967-970,C20103)北澤世志博:老視対応CPhakicIOL.CIOL&RSC37:2023.印刷中(84)

眼内レンズ:Cerulean cataractの臨床所見と視機能

2023年8月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋中村美月鵜飼祐輝441.Ceruleancataractの臨床所見と視機能金沢医科大学眼科学講座CeruleancataractはCbluedotsおよびCfocaldotsを伴う先天白内障の一種で,成人後に徐々に進行し手術が必要になることがあるが,その認知度はきわめて低く,症例報告以外の詳細な報告はほとんどない.今回,ceru-leancataractの混濁の特徴および自験例での頻度を紹介するとともに,代表例C2例における混濁形態から,視機能への影響について考察する.●CeruleancataractとはCeruleancataractは先天性白内障に分類される両眼性の発達性白内障である.常染色体優性遺伝性疾患であるといわれており,クリスタンCb-B2(CRYBB2),クリスタンCy-D(CRYGD),筋腱膜線維肉腫,および主要な内因性蛋白質遺伝子など,特定の遺伝子の変異が原因であると報告されている1).青みがかった点状混濁(bluedots)と加齢に伴い徐々に進行する同心円状に広がる白点状混濁(focaldots)が特徴である.細隙灯顕微鏡ではbluedotsが水晶体核部に認められ,focaldotsが核部および水晶体周辺部に観察され,冠状白内障を赤道部付近に合併することも多い(図1).徹照像では微細な点状陰影が観察され(図2),進行に伴い陰影密度は増加する.C●Ceruleancataractの頻度CeruleanCataractの認知度はきわめて低く,国内での報告はなく,海外からの報告もケースレポートがほとんどである.本疾患の有病率は不明であるが,筆者らが図1Ceruleancataractのslit像BluedotsおよびCfocaldotsが水晶体核部に認められ,水晶体周辺部にはCfocaldotsおよび冠状に広がる棍棒状のCcoronarycataractが観察される.(81)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY2007年以降に金沢医科大学病院で白内障手術を行った患者のカルテの所見から,bluedotsの記載があったものを後ろ向きに検討したところ,8,538例C17,076眼のうちC24例C48眼(0.28%,平均年齢C47.3C±21.5歳)に本疾患が確認され,全症例両眼発症であった.しかし,最近はCceruleancataractで手術が必要になる患者を多く経験することから,視機能低下をきたしていない患者を含めると実際の有病率はさらに高いと考えられる.一般的にC40代までに白内障手術が必要になるのはアトピー白内障,糖尿病白内障,前.下白内障などが多いと考えられていたが,ceruleancataractの頻度も少なくない可能性がある.Ceruleancataractでは小児期から水晶体混濁を認めることがあるが,混濁は軽度であり視機能への影響は少ないため,小児が症状を自覚することはない.成人期になり白内障手術が必要になる患者の割合が増加することが報告されている1).C●症例呈示視力低下をきたしたC19歳の女性(症例C1)と視力低下図2Ceruleancataractの徹照像徹照像では微細な点状陰影が観察される.あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1067右眼左眼図3症例1の水晶体所見BluedotsおよびCfocaldotsを認め,徹照像での著明な陰影を認める.右眼左眼図4症例2の水晶体所見BluedotsおよびCfocaldotsを認めるが,徹照像での陰影は軽微である.のないC32歳の男性(症例2)の水晶体所見を提示する.症例C1は視力は右眼C0.5(0.7C×.1.0D(cyl.0.5DAx130°),左眼C0.7(0.8C×cyl.2.0D)で,羞明および視力低下を自覚しており,両眼にCfocaldots,bluedotsを認め,徹照像では微細な混濁陰影が多数みられた(図3).コントラスト感度は両眼とも明所・薄暮視のグレアon・o.とも著明に低下し,C-quant(OCULUS社製)で測定した迷光量(正常値:1.4Clog(s)以下)は右眼1.59Clog(s),左眼C1.75Clog(s)と上昇,TearFilmAna-lyzer(Visiometrics社製)で測定したCobjectiveClightCscatteringindex(OSI)(透明水晶体眼で平均C1.45以下2))は右眼C6.8,左眼C8.9と著明な上昇を認めた.症例C2は視力は右眼C0.2(1.5C×.2.0D(cyl.1.0DCAx17°),左眼C0.08(1.2C×.2.0D(cyl.2.0DAx30°)で,羞明および視力低下の自覚はなかった.症例C1と同様に両眼にCfocaldots,bluedotsを認めたが,徹照像での微細な混濁陰影は軽微であった(図4).コントラスト感度は正常範囲,迷光量は右眼C1.31Clog(s),左眼C1.39log(s),OSIは右眼C0.6,左眼C1.2と正常範囲であった.両症例とも細隙灯顕微鏡像で著明なCfocaldotsおよびCbluedotsを認めたが,徹照像では視機能低下のある症例C1のみ著明な混濁陰影を認めた点で違いがみられた.このことからCCeruleancataractにおける視機能低下は,比較的大きな混濁であるCbluedotsや白色のCfocaldotsによるものではなく,徹照像でのみ確認できる微細な陰影所見による前方散乱の増加が要因であると考える.C●おわりにCeruleancataractはまれな白内障だと考えられてきたが,手術適応となる若年~40代では少なくない白内障病型で,徹照像で確認される混濁陰影所見が視機能低下の要因として重要である.Bluedotsを認めた場合は,必ず散瞳により徹照像所見を確認し,瞳孔領を占める微細な陰影所見に視機能低下を伴う場合は,手術治療の適応を検討すべきである.文献1)KumawatCD,CJayaramanCN,CSahayCPCetal:MulticolouredClenticularCopacitiesCinCaCcaseCofCceruleanCcataract.CBMJCCaseRep12:e230167,C20192)GalliotCF,CPatelCRS,CBeatriceC:ObjectiveCscattererindex:Workingtowardanewquanti.cationofcataract?JRefractSurgC32:96-102,C2016

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 Contact lens discomfortの概要

2023年8月31日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療12.Contactlensdiscomfortの概要糸井素啓京都府立医科大学■はじめに現在,contactlensdiscomfort(CLD)とよばれる「コンタクトレンズ(CL)装用中に生じる眼の不快感」に注目が集まっている.以前から,CL装用時に乾燥感や不快感を訴える患者が存在することは知られており,臨床的に重要な課題であった.しかし,2013年にCTearCFilmCandCOcularSociety(TFOS)という国際会議でCLDという用語が定義され,同年のCInvestigativeOph-thalmologyC&CVisionScience誌で特集号が組まれたことで,その重要性が広く知られるようになった.現在,筆者が所属しているニューサウスウェールズ大学でもCLDに関する研究は多数行われており,CLDはCCL分野における重要なトピックであることは間違いない.本稿では,CLDについて解説する.C■CLDの定義CLDは「コンタクトレンズと眼の環境との適合性の低下により生じる,レンズ装用に関連した視機能異常の有無を問わない,一過性あるいは持続する眼の感覚異常であり,装用時間の減少あるいはレンズ装用の中止を余儀なくされるもの」と定義1)されている.文章にすると少しわかりづらく感じるが,1)涙液層破壊時間の短縮や上皮障害などの客観的所見や視機能異常の有無を問わず,2)CLを装用したくなくなるような不快感,と考えるとわかりやすい.また,CLDは「CL装用に伴って生じ,CLをはずすとその症状は軽快・軽減するもの」と述べられており,「ドライアイを有するCCL装用者のドライアイ症状」とは区別されている.C■CLDの評価方法CLDは臨床的な所見の有無にかかわらず,自覚症状によって診断される.しかし,「“CLを装用したくなくなる不快感」というのは主観的な表現であるため,その有無を問うだけでは客観性に乏しく,CLDを適切に評価したとはいえない.そこで,質問表を用いて症状の頻度と程度を数値化することが試みられている.とくにCContactCLensCDryCEyeQuestionnaire(CLDEQ)はCCL装用者に特化した質問表として開発されており,ソフト(79)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY道玄坂糸井眼科図1J-CLDEQ-8(文献C2より引用)コンタクトレンズ(SCL)に対する満足度を評価することが可能とされている.2019年には,高らはCCLDEQの短縮版として知られるCCLDEQ-8の日本語版である「J-CLDEQ-8」を開発し,カットオフ値をC11点(全C37点)とすれば,SCLに対する満足度を判別することができると報告した2).J-CLDEQ-8は日常臨床や研究において活用されている(図1).C■CLDの原因と治療CLDの原因は多岐にわたるが,CLに関連するものと装用環境に関連するものに大別される.CLに関連する要因としては,素材,レンズのデザイン,フィッティンあたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1065図2Contactlensdiscomfortの分類コンタクトレンズに関連するものと環境要因に大別され,さらに細かく分かれる.(文献C3より引用)グと装用スケジュール,ケア手法があげられ,装用環境に関連する要因としては,年齢や性別などの患者固有の要因,コンプライアンスなどの変更可能な患者要因,眼表面の状態,外部環境に分けられる(図2).そして,これらの要因が複合的に作用することでCCLDが生じていると考えられている.CLDの治療とは,これらの要因のうち変更可能なものから改善することであり,SCLにおけるCCLDの治療では,1)ケア用品の変更,2)1日交換使い捨て型への変更,3)装用スケジュールの変更,4)素材やデザインの変更,5)涙液の補充,6)環境の改善などがあげられる.C■CLDの詳細TFOSでは,CLDをC8部門(subcommittee)に分け,それぞれの分野について総括している.各部門の総括はCInvestigativeCOphthalmologyC&CVisionScience誌からそれぞれ発表されている.本稿で紹介しているのはそのごく一部であるため,興味をもった方はぜひ,原文を読んでいただきたい.8編も英語の論文を読むのは骨が折れると感じる方は,まとめとなるCExecutivesummary3)だけでも一読することをお勧めする.C■おわりに株式会社サンコンタクトレンズの協賛の下,これまで12回にわたって執筆させていただいた本セミナーも今月号で最終回となる.CLは非常に多面的な研究分野であり,学会に参加すると,眼科医をはじめとした臨床家のほかに,デザインや素材,ケア製品の開発者,製造技術の開発者など,光学・化学・工学などのさまざまな分野の研究者が関与していることを実感する.そういった異分野研究の協力がCCL分野を支えており,筆者はその多面性こそがCCL研究の最大の魅力だと感じている.本セミナーでは,そういった魅力に気づくうえで必要となるCCLに関する基本的な知識を,臨床的に役立つポイントとともに紹介してきた.本セミナーが,皆様にとってCL分野のもつ面白さ・奥深さに触れる良いきっかけとなったのであれば,嬉しく思う.文献1)横井則彦:TheCTFOSCInternationalCWorkshopConCContactLensDiscomfort.日コレ誌57:286-287,C20152)KohS,ChalmersR,KabataDetal:Translationandvali-dationofthe8-itemContactLensDryEyeQuestionnaire(CLDEQ-8)amongCJapaneseCsoftCcontactClenswearers:CTheCJ-CLDEQ-8.CContCLensCAnteriorCEyeC42:533-539,C20193)NicholsCJJ,CWillcoxCMD,CBronCAJCetal:TheCTFOSCInter-nationalCWorkshopConCContactCLensDiscomfort:execu-tiveCsummary.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:TFOS7-13,C2013C

写真:眼類天疱瘡への角膜輪部移植

2023年8月31日 木曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史鈴木孝典471.眼類天疱瘡への角膜輪部移植東京歯科大学市川総合病院眼科図2図1のシェーマ①結膜上皮の侵入②角膜の角化③睫毛乱生④上下眼瞼の癒着図1初診時の前眼部所見角膜上に結膜上皮が侵入し,角膜の角化や睫毛乱生,上下の眼瞼同士の癒着を認める.図3角膜輪部移植後の前眼部所見(左眼)初診からC3カ月後に角膜輪舞移植を行った.ドナー角膜輪部をC字にトリミングし,10-0ナイロン糸を用いてレシピエント角膜に縫合した.術後C4カ月の時点で結膜上皮の侵入や角膜新生血管の改善が認められる.図4図3のフルオレセイン染色下前眼部所見術後C4カ月経過し,角膜上皮は滑らかになり,異常結膜上皮の改善を確認することができる.(77)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C10630910-1810/23/\100/頁/JCOPY症例は53歳の男性.両眼の睫毛内反,瞼球癒着,角膜上皮障害にて近医眼科より別の医療機関の眼科を紹介受診した.所見から眼類天疱瘡(ocularcicatri-cialpemphigoid)を疑い確定診断目的に各種抗体検査を施行したが,抗デスモグレイン抗体などはいずれも陰性であった.蛍光抗体間接法にて検体基底膜側にCIgGの沈着を認めたものの,その他の検査では類天疱瘡に特異的な検査結果は得られなかった.症状および所見から類天疱瘡の可能性が高いと判断され,臨床的に類天疱瘡と診断された.眼症状に対する治療のため東京歯科大学市川総合病院眼科(以下,当科)紹介となった.当科初診時の所見として,両眼性に結膜の瞼球癒着,上下の瞼結膜同士の癒着,睫毛乱生,角膜への結膜侵入,角膜への血管新生,角膜上皮の角化を認めた(図1,2).以上の所見より術前のCFoster分類はCIV期の状態にあると判断した.涙点は確認できなかった.術前の視力はC10Ccm指数弁であった.慢性結膜炎の治療として抗菌薬点眼を行い,慢性炎症の治療として低用量ステロイド点眼を行い,角結膜上皮のメンテナンスとして睫毛抜去を定期的に施行した.初診からC3カ月経過した時点で角膜輪部移植を計画した.手術は点眼麻酔と球後麻酔を併用し施行した.瞼球癒着を解除し,ドナー角膜をトレパンを用いて円形に打ち抜いた.ドナー角膜輪部をCC字になるようにトリミングし,10-0ナイロン糸を用いてレシピエント角膜輪部に端々縫合した.同時に毛根切除および羊膜移植を施行した.術後はモキシフロキサシンおよびリン酸ベタメタゾンをC1日C4回点眼し,術後C1週間で角膜上の上皮化を促進する目的で縫着した羊膜を摘除した.上皮化は良好に完了し,結膜組織の侵入や角膜角化の改善を認めた.術後C4カ月経過した時期の視力はC0.4(矯正不能)まで改善を認めた(図3,4).眼類天疱瘡は粘膜類天疱瘡(mucousmembranepem-phigoid)の亜型とされ1),おもに両眼性に発症する角結膜の瘢痕性変化を伴う自己免疫性疾患である.疫学的に高齢女性に好発し,慢性結膜炎として発症することで知られている.所見として結膜.の短縮や瞼球癒着,睫毛乱生といった眼表面の慢性瘢痕性変化を認める.経過とともに次第に涙液分泌が不良となるうえ,角膜上皮幹細胞が消失した結果,結膜組織の角膜への侵入や新生血管の角膜への侵入を生じる2).治療は低濃度ステロイド薬点眼,人工涙液点眼,抗菌薬点眼などの点眼治療のほか,対症療法としての定期的な睫毛抜去に留まることもある3).観血的治療としては角膜輪部移植をはじめ,ヒト(自己)口腔粘膜由来上皮細胞シート移植やヒト羊膜基質使用ヒト(自己)口腔粘膜由来上皮細胞シート移植などの治療が注目されている.本症例はドナー角膜を用いた角膜輪部移植を行ったが,自覚症状および他覚的所見ともに改善を認めた.シート移植との優劣については今後の研究が待たれるが,積極的な外科的加療の選択肢が増えていることは,眼類天疱瘡治療の今後に向けた明るい材料である.文献1)ArafatCSN,CSuelvesCAM,CSpurr-MichaudCSCetal:Neutro-philCcollagenase,Cgelatinase,CandCmyeloperoxidaseCinCtearsCofCpatientsCwithCStevens-JohnsonCsyndromeCandCocularCcicatricialpemphigoid.OphthalmologyC121:79-87,C20142)DaCostaJ:OcularCcicatricialCpemphigoidCmasqueradingCasCchronicconjunctivitis:aCcaseCreport.CClinCOphthalmolC6:2093-2095,C20123)SawCVPJ,CDartJKG:OcularCmucousCmembraneCpemphi-goid:diagnosisandmanagementstrategies.OculSurfC6:C128-142,C2008C