眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋伊藤格440.親水性アクリル製IOLとBBG前.染色市立室蘭総合病院眼科レンティスコンフォートは保険診療で挿入可能な多焦点眼内レンズ(IOL)で,明視域の拡大により高い視機能を期待できる付加価値CIOLである.一方で素材が親水性アクリルであることから,カルシウム沈着など特有のリスクも抱えている.本稿では水晶体前.染色剤によるCIOL青染例の報告も含め解説する.●はじめに現代の白内障手術時に挿入される眼内レンズ(intraoc-ularlens:IOL)はアクリル製が主流であり,素材の含水率により親水性(含水率C18~34%以上)や疎水性とよばれている.親水性CIOLは多くの水分を含有することから生体に近い素材とされ,疎水性CIOLに比較し炎症が起きづらいことやグリスニングが形成されづらいなどのメリットがある一方で,液空気置換を伴う硝子体手術症例などにおいてカルシウム沈着を起こす可能性も報告1)されている.現在広く用いられている親水性CIOLの一つにレンティスコンフォート(参天製薬)がある.C●レンティスコンフォート(LS-313MF15)レンティスコンフォート(以下,レンティス)はC2019年にわが国で承認され,保険診療で挿入可能となった分節型多焦点CIOLで,特徴として二つの単焦点レンズを組み合わせることで遠方から中間距離(眼前C70Ccm前後)までの良好な視力を期待できる.一般的な回折型多焦点CIOLと比べてハロー・グレアが少なく,焦点深度の拡張により単焦点CIOLよりも明視域が広いとされる.素材の含水率は約C26%の親水性アクリルであり,カルシウム沈着例の報告も散見することから,硝子体手術症例などでの使用は慎重に考えるべき側面もある.C●水晶体前.染色とBBG水晶体前.染色は,白内障手術時の連続円形切開の際に,水晶体混濁や皮質混濁が強く徹照光が不十分で視認性の確保が困難な場合に行われるほか,教育的側面から初級術者が執刀する際に手術安全性を高める目的にも有用な場合もある.生体染色剤として従来トリパンブルー(trypanblue:TB)やインドシアニングリーン(indocyC-(69)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPYaninegreen:ICG)が用いられていたが,invitro系での研究から網膜や角膜への組織毒性の懸念が報告2,3)されている.ブリリアントブルーCG(BrilliantCblueG:BBG)は蛋白質に非特異的に結合し負に荷電させる性質があることから,元来ポリアミドゲル電気泳動などに用いられていた素材で,2006年に網膜内境界膜および水晶体前.染色への有用性が報告4,5)された.眼内使用推奨濃度はC0.25Cmg/mlとされているが,より高濃度での研究においても組織毒性が少なく,より安全な生体染色剤と考えられている4).C●レンティスのBBGによる青染例筆者の施設において,BBG前.染色を併用した白内障手術後に,.内挿入したレンティスが術後に青染されたC1例を経験した(第C46回日本眼科手術学会で報告).粘弾性物質下で前.染色を施行後,定型通りに手術が進行し,IOL挿入後の前房内洗浄も十分に行った(つもり)ではあったが,翌日診察時に前房内がやや青く,BBG成分の残留が示唆された(図1).虹彩裏に残った粘弾性物質に絡む形でCBBG成分が残留し,術後に溶け出して前房内に広がったものと推測される.経過観察にて前房内はクリアになったものの,IOLが青染され,術後C6カ月経過しても見た目は改善されることはなかった(図2).患者はやや青紫に見えるなどの自覚症状があったが,術前に比較し視力が大きく向上したことからCIOL交換は希望しなかった.C●親水性IOLと生体染色剤既報においてCTBやCICGによるハイドロジェルCIOLの染色例の報告6,7)があり,TBの添付文書には親水性IOLを用いる際の使用は控えるよう記載がある.当院での経験症例から,親水性CIOLがCBBGに染色される可能あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023C917図1術中所見a:粘弾性物質下でCBBGによる水晶体前.染色を施行.染色後に一度粘弾性物質を洗浄し,再度前房形成を行った.Cb:レンティスコンフォートを水晶体.内へ挿入.Cc:IOL裏および前房内の粘弾性物質を洗浄.Cd:手術終了時.前房内にCBBG残留は確認されない.性があり,自然経過における改善はあまり期待できないことも示唆された.水晶体前.染色を施行する際には,IOL挿入後にブラインドになりやすい虹彩裏まで含め十分な洗浄を心がける必要性があり,より確実な洗浄方法の確立も期待される.文献1)GartaganisCSP,CPrahsCP,CLazariCEDCetal:Calci.cationCofChydrophilicCacrylicCintraocularClensesCwithCaChydrophobicsurface:Laboratoryanalysisof6cases.AmJOphthalmolC168:68-77,C20162)JacksonTL,HillenkampJ,KnightBCetal:SafetytestingofCindocyanineCgreenCandCtrypanCblueCusingCretinalCpig-mentCepitheliumCandCglialCcellCcultures.CInvestCOpthalmolCVisSci45:2778-2785,C20043)vanCDoorenCBT,CdeCWaardCPW,CPoort-vanCNouhuysCHCetal:Cornealendothelialcelldensityaftertrypanbluecap-右眼左眼図2術後6カ月の臨床所見右眼がレンティスコンフォートのCBBG青染例.左眼(他のIOL眼)に比較し,右眼のCIOLは明らかに青く,また眼底写真(下段)も右眼で青みがかっている.CsuleCstainingCinCcataractCsurgery.CJCCataractCRefractCSurgC28:574-575,C20024)EnaidaH,HisatomiT,HataYetal:BrilliantblueGselec-tivelystainstheinternallimitingmembrane/brilliantblueG-assistedmembranepeeling.RetinaC26:631-636,C20065)HisatomiT,EnaidaH,MatsumotoHetal:StainingabilityandCbiocompatibilityCofCbrilliantCblueG:preclinicalCstudyCofCbrilliantCblueCGCasCanCadjunctCforCcapsularCstaining.CArchOphthalmolC124:514-519,C20066)後藤憲仁,松島博之,向井公一郎ほか:親水性ハイドロジェル眼内レンズの薬物吸着・徐放作用.あたらしい眼科C20:C1451-1456,C20037)WernerCL,CAppleCDJ,CCremaCASCetal:PermanentCblueCdiscolorationofahydrogelintraocularlensbyintraopera-tiveCtrypanCblue.CJCCataractCRefractCSurgC28:1279-1286,C2002C