250硝子体手術に起因する医原性網膜静脈分枝閉塞症(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに硝子体手術の合併症のうち循環障害に関するものとしては,網膜動脈閉塞症や虚血性視神経症の報告が多いが,網膜静脈閉塞症の報告はきわめて少ない.硝子体手術は網膜に直接侵襲を加える操作が多いため,術中の網膜静脈への機械的損傷などにより網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinocclusion:BRVO)を発症するリスクは常に伴う.C●症例提示80歳,男性.左眼の眼内レンズ毛様溝縫着術後の網膜.離で紹介受診した.耳側に裂孔を認め,耳側から下方に胞状の網膜.離を認めた.コアの硝子体を切除したのち,強膜を圧迫しながら周辺部の硝子体を切除した.血管アーケード近傍にC1カ所医原性裂孔を形成したので,その部位から粘稠な網膜下液を吸引し,気圧伸展網膜復位術,眼内レーザー光凝固を施行して手術を終了した.術後早期にはとくに異常所見を認めなかった(図1)が,術C1カ月後に裂孔周囲の網膜静脈の分岐部が光凝固瘢痕に牽引され,その末梢に散在性の網膜出血が生じていた(図2).凝固斑部位の組織の収縮によって網膜静脈分岐部が牽引されたため生じた限局性CBRVOと考えられた.出血はその後徐々に自然消退した.C●硝子体手術に起因する医原性BRVO硝子体手術の術中操作による網膜静脈損傷や術後の牽引によりCBRVOが生じることは十分に考えられるが,その報告はきわめて少ない.Fischerらは,眼科手術に起因する血管閉塞性合併症を多数例で検討しており,黄斑上膜に対する膜.離時の網膜への直接侵襲が原因と考えられるCBRVOのC1例を報告している1).硝子体手術ではないがCShieldsらは,YAGClaservitreolysisによる網膜傷害によりCBRVOを発症したC1例を報告している2).後藤らは,網膜細動脈瘤による網膜下血腫のC1眼において,網膜切開部に生じた膜組織が静脈を絞扼して,術C7日後にCBRVOを生じたC1例を報告しており3),今回の提(91)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1術1週間後の左眼眼底写真上方の血管アーケード近傍に裂孔および光凝固斑を認める.網膜出血は認めない.図2術1カ月後の左眼眼底写真裂孔周囲の網膜静脈の分岐部が凝固瘢痕に牽引され,その末梢に散在性の網膜出血が生じている.示例と発症機序が類似している.網膜血管近傍の裂孔に対して種々の手術操作を施行する際には,血管に機械的侵襲が加わらないように注意する必要がある.また,内部排液のための意図的裂孔を作製する際には,既存の網膜血管から距離をおいて作製するよう心がける.文献1)FischerC,BruggemannA,HagerAetal:Vascularocclu-sionsCfollowingCocularsurgicalCprocedures:aCclinicalCobservationofvascularcomplicationsafterocularsurgery.JOphthalmol2017:9120892,C20172)ShieldsCRA,CChengCOT,CRubyCAJCetal:RetinalCcomplica-tionsCafterCyttrium-aluminum-garnetClaserCvitreolysisCforCvitreousC.oaters.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC52:610-613,C20213)後藤真里,舘野静香,輪島良平ほか:黄斑部硝子体手術の合併症.臨眼C52:1190-1194,C1998あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024327