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世界の眼科における日本のリーダーシップ

2026年8月31日 月曜日

世界の眼科における日本のリーダーシップJapan’sLeadershipinGlobalOphthalmology大鹿哲郎*はじめに医学領域にとどまらず,近代の国際的な学術組織の多くは,米国および西欧諸国の主導のもとに設立され,発展してきた.組織運営の共通言語も英語やフランス語が中心であり,設立当初から今日に至るまで,要職や指導的立場の多くを欧米出身者が占めてきた.眼科学の世界もこの流れの例外ではない.そのような状況にあっても,日本の眼科学は着実に独自の学術的・臨床的基盤を築いてきた.その発展と歩調をあわせるように,わが国の先達たちも国際舞台において次第に確固たる存在感を示すようになった.とりわけ,海外留学での研鑽や人的交流が重要な契機となり,言語・文化の壁を乗り越えて,国際眼科の場においても重要な地位を担うに至ったのである.本稿では,主要な国際眼科組織における日本人眼科医の貢献と活躍を過去から現代まで振り返り,世界の眼科医療における日本のリーダーシップのあり方を考察する.I国際眼科学会1.歴史国際眼科学会評議会(InternationalCouncilofOph-thalmology:ICO)は,世界の眼科学会を束ねる国際組織である.ICOの起源は古く,1857年にベルギーのブリュッセルで開催された「第1回国際眼科学会」にさかのぼる.これは,あらゆる医学専門分野の中でもっとも歴史が古い国際学会とされる.19世紀半ばは,眼科学が内科や一般外科から独立した専門分野として確立しはじめた時期であった.急激な発展を遂げる眼科学において,国境を越えて眼科医が集い,最新の科学的発見や手術手技,治療法に関する知識を共有し議論するための「国際的なプラットフォーム」が求められたことが,設立の最大の理由である.2.日本人眼科医の参加国際眼科学会に出席した最初の日本人眼科医は,宮下俊吉(東京慈恵会医科大学)とされる.宮下は1888年にハイデルベルクで開催された第7回学会に出席し,その詳細な報告を日本の医学雑誌に寄稿した.その後,1899年の第9回学会(ユトレヒト)に朝山郁治郎(京都大学)が,1909年の第11回学会(ナポリ)に水尾源太郎(大阪大学),石原忍(東京大学)らが出席したとの記録が残っている.1).第一次および第二次世界大戦によって,国際眼科学会は数度の中断を余儀なくされた.第二次世界大戦後の再開は,1950年の第16回学会(ロンドン)であったが,敗戦国である日本からの参加は叶わなかった.その後,1954年にモントリオールおよびニューヨークで開催された第17回学会において,日本は正式にICOへの復帰を果たし,植村操(慶應義塾大学)をはじめとする8名の日本人眼科医が参加した.以降,日本か*TetsuroOshika:筑波大学医学医療系〔別刷請求先〕大鹿哲郎:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系(1)(101)9510910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1第23回国際眼科学会(京都,1978年)図2皇太子殿下(現在の上皇陛下)の御臨席中島章会長による開会挨拶.図3岡本太郎氏によるロゴ(左,中)と記念切手(右)-表11978年国際眼科学会にあわせて開催されたサテライト・シンポジウム第3回国際視野学会シンポジウム第7回国際労働学会シンポジウム国際眼光学シンポジウム第2回国際眼免疫・免疫病理学シンポジウム第4回国際医学コンタクトレンズ・シンポジウム国際網膜芽細胞腫シンポジウム国際斜視学会第3回代謝異常眼疾患・第1回小児眼科国際合戸シンポジウム第2回国際近視学会第5回国際眼内レンズ学会網膜研究会第3回国際眼研究学会第1回国際角膜学会第16回国際臨床視覚電気生理シンポジウム国際緑内障シンポジウム国際眼圧計規正委員会会議第3回国際涙器シンポジウム遺伝性眼疾患シンポジウム図4中島章ICOPresident(1990.1998年),APAOPresident(1972.1976年),AOIPresident(1988.1990年).表2国際眼科学会の開催地1857年ブリュッセル1933年マドリード1994年トロント1862年パリ1937年カイロ1998年アムステルダム1867年パリ1950年ロンドン2002年シドニー1872年ロンドン1954年モントリオール・ニューヨーク2006年サンパウロ1876年ニューヨーク1958年ブリュッセル2008年香港1880年ミラノ1962年ニューデリー2010年ベルリン1888年ハイデルベルグ1966年ミュンヘン2012年アブダビ1894年エディンバラ1970年メキシコ2014年東京1899年ユトレヒト1974年パリ2016年グアダラハラ1904年ルツェルン1978年京都2018年バルセロナ1909年ナポリ1982年サンフランシスコ2020/2022年(virtual)1922年ワシントンDC1986年ローマ2024年バンクーバー1929年アムステルダム・ハーグ1990年シンガポール2026年プラハ図5WOC2014開会式(東京)大鹿哲郎会長による挨拶.左奥に皇太子殿下(現在の天皇陛下).図6東京国際フォーラムの中庭に設置された満開の桜オープニングセレモニーの日に満開を迎えるよう特殊な技術で準備が行われた.図7ジャパンナイトでの乾杯約3,000人が参加する壮大な懇親会となり,各国の参加者が大いに交流を深めた.図8田野保雄図9大鹿哲郎図10三島濟一図11新家眞APAOPresident(2005.2009年).APAOPresident(2025年.).APAO1991年(京都)会長.APAO2014年(東京)会長.表3APAOの開催地1960年マニラ1997年カトマンズ2016年台北1964年メルボルン1999年マニラ2017年シンガポール1968年シンガポール2001年台北2018年香港1972年オークランド2003年バンコク2019年バンコク1974年コロンボ2005年クアラルンプール2020年キャンセル1976年バリ2006年シンガポール2021年Virtual1979年カラチ2007年ラホール2022年Virtual1981年バンコク2008年香港2023年クアラルンプール1983年香港2009年バリ2024年バリ1985年ニューデリー2010年北京2025年ニューデリー1987年クアラルンプール2011年シドニー2026年香港1989年ソウル2012年釜山2027年シンガポール1991年京都2013年ハイデラバード2028年マニラ1993年ダッカ2014年東京2029年京都1995年香港2015年広州2030年シドニー図12清水弘一AOIPresident(2002.2006年).

先天白内障手術の長期成績からわかったこと

2026年8月31日 月曜日

先天白内障手術の長期成績からわかったことLong-TermOutcomesofCongenitalCataractSurgery:ImportantLessonsLearned大鹿哲郎*はじめに成人の白内障手術と比べて,小児白内障手術には固有のむずかしさがある.第一に,手技の難易度が高く,術後合併症の発生率も高い.第二に,続発緑内障などの合併症がいったん発症すると難治性である.第三に,眼球の成長に伴う予測困難な変化が長期にわたり生じる.こうした理由から,幼少期の白内障に対する眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入については従来否定的な見解が支配的で,とくに小児眼科を専門とする医師の間では,IOLを禁忌とみなす意見も根強く存在した.一方で,成人における白内障手術は過去30年間でめざましい進歩を遂げた.その技術革新と安全性の圧倒的な向上に鑑みるとき,小児白内障手術のみが旧来のパラダイムにとどまり続けることに,筆者は長年強い疑問を抱いていた.実際に,自験例では小児(先天)白内障に対するIOL挿入術は,きわめて良好な成績を得ていた.小児白内障の術後成績を評価するうえで,成人と同様に術後数カ月という短期間で判断することはまったく意味をなさない.真の予後を論じるためには,長期にわたる綿密な経過観察が不可欠である.日本の眼科には,緻密なデータの積み重ねと丁寧な記録という世界に誇るべき財産がある.筆者らは多施設共同研究を通じ,日本の眼科臨床が長年にわたり丹念に蓄積してきた記録を体系的に解析することで,小児白内障の術後成績について,いくつかのエビデンスを提示してきた1~6).本稿では,これらの長期成績から得られた知見を概説し,小児(とくに先天)白内障手術におけるIOLの位置づけと展望について述べたい.I先天白内障と発達白内障1.定義小児白内障(pediatriccataract)は,出生時から存在する先天白内障(congenitalcataract)と,生後に発症する発達白内障(developmentalcataract)に分けられるが,この二つを厳密に区別することは困難である.生後早期に全例に対して眼科的スクリーニングを行う英国のようなシステムがあれば7,8),先天白内障を確実に捉えることが可能であるが,日本を含む多くの国ではそのような体制は敷かれていない.患児自身が視力障害を訴えることはないため,正確な発症時期の特定はほとんどの場合において不可能である.実際に,白内障の発生から治療(手術)介入までにタイムラグが生じるケースが多く,発症時期を特定することはむずかしい.したがって,臨床の現場や研究においては,以下のような基準による分類・定義が一般的に用いられている.・狭義の先天白内障(strictlyde.nedcongenitalcata-ract):生後6カ月以内に発見され,手術が行われるもの.固視不良や眼振などの異常な眼球運動がみられることが多い.・発達白内障(developmentalcataract):生後6カ月の時点では,保護者からみて瞳孔領の混濁がなく,追視*TetsuroOshika:筑波大学医学医療系〔別刷請求先〕大鹿哲郎:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系(1)(93)9430910-1810/26/\100/頁/JCOPYや物をつかむなどの行動を通して良好な視力が保たれていると推測された児に,その後発症するもの.ただし,先天白内障と発達白内障の間に明確な境界線を引くことは容易ではなく,臨床的にはいずれとも断定しがたい境界領域の症例も多数存在する.2.手術成績(術後予後)の違い白内障の起源が先天性であるか発達性であるかは,術後予後に多大な影響を及ぼす.・手術の難易度:眼球が解剖学的に小さいほど,手術の難易度は飛躍的に増大する.小児特有の前.や強膜の高弾性により,連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の作製はむずかしく,強膜創や角膜創も自然閉鎖しない.さらに,先天白内障のほうが,成熟白内障へと進行している割合が高い.・視力および立体視の予後:発達白内障と比較して,先天白内障は最終的な視力および立体視(stereoacuity)の予後が不良であることが示されている.これは,視覚機能が発達するうえできわめて早期の重要な感受性期(criticalperiod)に形態覚遮断が生じることに加え,全身的あるいは眼科的な併発疾患を伴う頻度が高いことにも起因している.・術後の屈折変化とばらつき:術後に生じる眼軸長の伸長に伴う近視化(myopicshift)は,先天白内障のほうが大きい.また屈折のばらつきも大きく,予測が困難である.このように,狭義の先天白内障は発達白内障と比較して,視覚機能の発達や屈折変化の予測・管理が格段にむずかしいため,術後にはより慎重かつ長期的なフォローアップが不可欠となる.II先天白内障の手術上記の定義に従い,狭義の先天白内障症例,すなわち生後6カ月以内に手術が行われた症例について解説する.1.臨界期視力や深視力(立体視)の正常な発達には,生後早期の視覚経験がきわめて重要な役割を果たす(視覚発達の臨界期理論).視覚系がまだ成熟していない時期は,おもに皮質下経路(subcorticalpathways)に依存しているため,この期間内であれば形態覚遮断(formdeprivation)による視力喪失は生じにくいとされている.そのため,視覚遮断による永続的な悪影響を最小限に抑えるには,この臨界期(潜伏期)内に手術介入を行うことが理想的である.9).先天白内障において視覚遮断の影響を最小限にするための理想的な手術時期(臨界期)は,片眼性の場合は生後6週以内,両眼性の場合は生後8.12週以内と定義されている.2.手術時期発見時に水晶体混濁が高度であり,視性刺激遮断弱視(stimulusdeprivationamblyopia)の発症が強く懸念される場合には,速やかな手術介入が必要となる.ただし,新生児期の手術は手技上の難易度がきわめて高いため,眼球の解剖学的な成長を考慮しつつ,臨界期の限界を見きわめて施行するのが現実的である.とくに片眼性先天白内障の場合は,臨界期を逸脱すると術後の視力予後は著しく不良となり,最終視力が0.1未満にとどまることが多い.したがって,早期発見,早期手術,そして術後の厳密な弱視訓練の遂行がきわめて重要となる.両眼性症例においても,混濁が強く眼底の透見が困難な場合には早期手術の適応となる.しかし,両眼同程度の胎生核混濁(図1)の症例については,必ずしもその限りではない.明らかな左右差がなく,眼底が十分に透見でき,眼振などの症状を伴わない場合には,急いで手術を行う必要はない.このような症例では,児童・生徒期や思春期,あるいはそれ以降まで経過観察が可能な場合も多い.早期手術による「視覚発達の確保」というメリットと,「調節力の喪失」および「術後の大きな屈折変化(近視化」というデメリットのバランスを常に考慮し,個々の症例に応じた最適な手術時期を判断する必要がある.3.手術方法無水晶体眼とするか偽水晶体眼(IOL挿入)とするか944あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(94)図1胎生核の混濁両眼同程度の胎生核混濁で,眼底が十分に透見でき,眼振などの症状を伴わない場合は手術を急ぐ必要はない.C-図2IOLを使用する場合強角膜切開,連続円形切.(CCC)を正確に行い,後.切開(PCCC),前部硝子体切除を施行したうえで,IOLを確実に.内に固定する.創口は自己閉鎖しないため,しっかりと縫合する.(logMAR)00.20.40.60.811.21.41.61.8両眼片眼図3矯正視力術後C10年以上観察した症例の矯正視力は,両眼性症例が片眼性症例よりよく,偽水晶体眼が無水晶体眼より良好であった(Kruskal-WallistestwithBonferroniadjustment).表1最終視力にかかわる因子:重回帰分析(ステップワイズ)(%)最終矯正視力標準化係数βp値両眼C>片眼C.0.273C<0.001全身合併症C0.272C<0.001眼合併症C0.213C<0.001偽水晶体眼C>無水晶体C0.143C0.023続発緑内障C0.146C0.02425201510除外された変数:手術時年齢(p=0.063),視軸混濁(p=0.232),網膜.離(p=0.624),前部硝子体切除C5(p=0.318),施設(p=0.503.0.988).C0両眼片眼図4続発緑内障発症率無水晶体眼では約C20%に続発緑内障が発症したが,偽水晶体眼ではみられなかった(Fisher’sexacttest).表2視軸混濁発生頻度両眼性片眼性無水晶体眼偽水晶体眼p値無水晶体眼偽水晶体眼p値C7.2%C33.3%C<0.001C0%C16.7%C0.231C屈折変化量(D)0-2-4-6-8-10-12-140123456789術後経過図5術直後を基点とした屈折変化量両群とも術後に指数関数パターンの近視化を呈し,長期経過においても継続した偽水晶体眼の変化は,無水晶体眼より大きかった(Mann.WhitneyUtest).図6視軸混濁発症の機序後.切開(PCCC)と前部硝子体切除が行われているが,小児では水晶体上皮細胞の増殖・移動能が高いため,IOLの後面に沿った細胞増殖が発生する.-

近視進行抑制のサイエンス

2026年8月31日 月曜日

近視進行抑制のサイエンスTheScienceofControllingtheProgressionofMyopia平岡孝浩*はじめに近視は単なる屈折異常ではなく,眼軸長の過伸展を本態とする進行性疾患として捉えるべき時代に入った.近視が軽度から中等度にとどまる場合には眼鏡やコンタクトレンズ(contactlens:CL)で視力矯正が可能であるが,眼軸長が過度に伸長すると,近視性黄斑症,網膜.離,緑内障,白内障などの発症リスクが上昇し,生涯にわたる視機能障害の原因となる.Holdenらは,2050年には世界人口の約半数が近視となり,約10%が強度近視に達すると予測しており,近視はすでに個人の視力問題を超えた公衆衛生上の課題となっている1).このような背景から,小児期に近視進行を抑制し,最終的な近視度数および眼軸長を少しでも低く抑えることの重要性が強調されている.BullimoreとBrennanは,近視を1D抑制するだけでも将来的な近視関連合併症リスクを有意に低減できる可能性を示し,「1Dの価値」を明確に提示した2).したがって,近視進行抑制の目的は単に眼鏡度数の進行を遅らせることではなく,将来の病的近視を予防し,生涯にわたる視覚の質(qualityofvision:QOV)と生活の質(qualityoflife:QOL)を守ることにある.近年,小児近視に対しては,屋外活動,近視管理用眼鏡,多焦点ソフトCL(softCL:SCL),オルソケラトロジー(orthokeratology:OK),低濃度アトロピン点眼,反復低強度赤色光照射(repeatedlow-levelred-lighttherapy:RLRL)など,多くの介入法が提案され,臨床応用されている.これらは一見するとまったく異なる治療法にみえるが,その多くは「網膜が受け取る視覚情報を変える」「網膜から脈絡膜・強膜へ伝わる成長シグナルを修飾する」「強膜リモデリングを抑制する」という共通の生物学的枠組みのなかで理解できる.本稿では,近視進行抑制の基礎メカニズムから各治療法の臨床的意義までを概説し,最後に実地医家が明日からの診療に活用できる臨床医向けメッセージを述べる.I近視進行の基本概念:眼軸長の視覚制御機構近視進行の本態は,多くの場合,眼軸長の過剰な伸長である.小児の眼球は成長過程にあり,出生後,角膜,水晶体,眼軸長が互いに調和しながら正視化へ向かう.この過程をemmetropizationとよぶ.正視化は単なる遺伝的プログラムではなく,網膜に投影される像の質に依存して調節される視覚依存性の成長制御機構である.この概念を確立したのが,形態覚遮断近視(formdeprivationmyopia)およびレンズ誘発近視(lens-inducedmyopia)の動物実験である.若年動物に半透明ゴーグルや眼瞼縫合を行って網膜像をぼかすと,眼軸長が伸長して近視化する.また,マイナスレンズを装用させて焦点を網膜後方に移動させると,眼球はその遠視性デフォーカスを補正するように伸長する.逆にプラスレンズにより近視性デフォーカスを負荷すると,眼軸長伸長は抑制される.すなわち,眼球は網膜像のぼけの「量」だけでなく,「符号」すなわち焦点が網膜前方にあるの*TakahiroHiraoka:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕平岡孝浩:〒305-8575つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科(1)(81)9310910-1810/26/\100/頁/JCOPY凹レンズ負荷遠視性眼軸伸長デフォーカス変化なし負荷なし(眼軸維持)凸レンズ負荷眼軸短縮近視性デフォーカス図1レンズ誘発近視(lens-inducedmyopia)の模式図凹レンズによる遠視性デフォーカスは眼軸長伸長を促進し,凸レンズによる近視性デフォーカスは眼軸長伸長を抑制する.か後方にあるのかを認識し,成長方向を変化させる能力を有している(図1).この事実は,近視進行抑制の根本的なサイエンスである.現在使用されている多くの光学的介入は,この「遠視性デフォーカスは眼軸長伸長を促進し,近視性デフォーカスは眼軸長伸長を抑制する」という考え方に基づいて設計されている.II周辺網膜デフォーカス(軸外収差)理論従来,眼球成長を制御する視覚入力は中心窩を中心とした中心視に由来すると考えられてきた.しかし,Smithらのサルを用いた一連の研究により,中心窩のみならず周辺網膜が眼球成長制御に重要な役割を果たすことが示された3).中心窩を含む黄斑部の視覚入力が障害されても,周辺網膜に適切な視覚情報が入力されていれば正視化が生じることから,眼球成長は中心窩依存性ではなく,網膜局所あるいは広範囲の網膜入力によって制御されると考えられるようになった.近視眼は一般に前後方向に長いprolate形状を呈するため,通常の単焦点眼鏡やCLで中心窩を矯正しても,周辺網膜では相対的な遠視性デフォーカスが残存しやすい.この周辺部遠視性デフォーカスが眼軸長伸長を促すシグナルとして働く可能性があり,これが周辺網膜デフォーカス理論である(軸外収差理論ともよばれる)(図2).ただし,近年の研究では,この理論だけですべての近視進行抑制効果を説明できるわけではないことも明らかになりつつある.たとえば,後述するdi.usionopticstechnology(DOT)レンズのように,明確な近視性デフォーカスではなく,網膜像のコントラストを変調することで眼軸長伸長を抑制するデザインも登場している4).したがって現在では,近視進行抑制の光学的メカニズムは「近視性デフォーカス」だけでなく,「網膜像質」「コントラスト」「空間周波数」「高次収差」などを含むより広い概念として理解すべきである.III網膜―脈絡膜―強膜シグナル伝達系眼軸長伸長は最終的には強膜の構造変化として現れる932あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(82)通常の眼鏡(凹レンズ)矯正結像面周辺部遠視性デフォーカス図2周辺網膜デフォーカス理論近視眼では周辺網膜に遠視性デフォーカスが生じやすく,これが眼軸長伸長の刺激となると考えられている.内境界膜神経線維層.網膜神経節細胞層内網状層・ドパミン・像質認識ドパミン内顆粒層・視覚刺激により外網状層ドパミンなどの神経伝達物質を放出外顆粒層視細胞層(近視抑制シグナルの開始)網膜色素上皮層網膜色素上皮層.脈絡膜Bruch膜・肥厚・血流変化脈絡膜毛細血管・脈絡膜が応答し肥厚・血流が変化脈絡膜血管・網膜から脈絡膜へのシグナルを中継(中小血管)脈絡膜血管(大血管).強膜・低酸素・ECMリモデリング・強膜の低酸素シグナルやECM代謝が変化強膜線維芽細胞・眼球の伸展性が調節されるコラーゲン線維.眼軸長・伸長抑制眼軸長の伸長眼軸長の伸長抑制図3網膜―脈絡膜―強膜シグナル伝達系網膜で受容された視覚情報は脈絡膜および強膜へ伝達され,眼軸長伸長を制御する.非球面性が高いレンズほど効果が高いことから,単なる加入度数ではなく,網膜前方に形成される光学的ボリュームが重要である可能性が示唆される.Cc.DOTレンズとコントラスト理論DOTレンズは,従来の近視性デフォーカス理論とは異なり,網膜像のコントラストを変調することで近視進行を抑制するという新しい概念に基づいている4).周辺部に微小な光散乱要素を配置し,網膜のコントラストシグナルを変化させることで,ON/OFF経路や空間周波数処理に影響を与える可能性がある.この理論は,従来の「鮮明な像がよく,ぼけた像が悪い」という単純な構図では説明できない.むしろ,近業環境における高コントラスト刺激,人工照明,屋内環境特有の空間周波数分布が近視進行に関与する可能性を示すものである.DOTレンズは,近視進行抑制のサイエンスを「デフォーカス」から「網膜像質全体」へ拡張する重要な治療概念である.C3.多焦点SCLによる光学的介入多焦点CSCLは,日中装用により中心視の矯正と同時に周辺網膜へ近視性デフォーカスを付与する.代表的なものにMiSightC1day(クーパービジョン)がある.ChamberlainらのC3年間ランダム化比較試験では,MiSight群は単焦点CSCL群と比較して,屈折進行および眼軸長伸長をC50%以上抑制した14).さらに,6年間の長期試験でも効果の持続が確認されている15).装用中止後の研究でも,明らかなリバウンドは認められていない16).多焦点CSCLの利点は,OKと異なり夜間装用を必要とせず,1日使い捨てタイプであればレンズケアの負担が少ない点である.一方,装用時間が治療効果に大きく影響する可能性があり,日中の装用コンプライアンスが不十分な患者では効果が低下する.スポーツや学校生活との相性,保護者の管理能力,装用・脱着の習熟度を考慮して適応を判断する必要がある.Cextendeddepth-of-focus(EDOF)タイプのCSCLも注目されている.Sankaridurgらは,EDOFデザインのCLにより,単焦点CSCLと比較して近視進行および眼軸長伸長が有意に抑制されることを示した17).EDOFでは,網膜前方から網膜上の像質を比較的維持しつつ,網膜後方の像質を低下させることで,遠視性デフォーカスに由来する眼軸伸長刺激を減弱させると考えられている.C4.OKによる光学的介入OKは,高酸素透過性ハードCCL(hardCL:HCL)を就寝時に装用し,角膜中央部を扁平化,周辺部を相対的に急峻化させることで,日中の裸眼視力を改善する治療である.近視進行抑制においては,角膜形状変化により周辺網膜の遠視性デフォーカスが軽減され,近視性デフォーカスが形成されることがおもな作用機序と考えられている.ChoらのCRetardationCofCMyopiaCinCOrthokeratology(ROMIO)studyでは,OK群で眼軸長伸長が単焦点眼鏡群と比較して有意に抑制された18).Hiraokaらは日本人におけるC5年間の長期観察研究において,OKによる眼軸長伸長抑制効果が長期間持続することを報告した19).OKはC30.50%程度の眼軸長伸長抑制効果を示すとされ,光学的介入のなかでもエビデンスが豊富な治療法である.一方で,OKでは夜間装用という特性上,感染性角膜炎のリスクを常に念頭におく必要がある.適切なレンズケア,定期検査,保護者の理解,装用中止基準の説明が不可欠である.とくに小児では自己管理能力に限界があるため,家族を含めた教育が治療の成否を左右する.また,OK単独で十分な効果が得られない患者,あるいは低年齢で進行が速い患者では,低濃度アトロピンとの併用が検討される.Kinoshitaらは,OKにC0.01%アトロピンを併用することで,OK単独より眼軸長伸長が有意に抑制されることを報告した20).作用機序としては,OKによる光学的デフォーカス制御と,アトロピンによる薬理学的な網膜・脈絡膜・強膜シグナル修飾が相加的に働くと考えられる.C5.低濃度アトロピン点眼による薬物介入アトロピンは,古くから近視進行抑制効果が知られている薬剤である.1%アトロピンは非常に強力な効果を示すが,散瞳,羞明,調節麻痺による近見障害などの副作用が強く,小児に長期使用するには実用上の問題が大936あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(86)きい.そこで低濃度アトロピンが注目されるようになった.CatropineCforCtheCtreatmentCofmyopia(ATOM)1ではC1%アトロピンの有効性が示され21),ATOM2では0.5%,0.1%,0.01%が比較され,低濃度でも近視進行抑制効果が認められた22).ただし,ATOM2ではC0.01%アトロピンの屈折進行抑制効果に比して眼軸長伸長抑制効果が限定的である点が後に議論された.その後,low-concentrationatropineformyopiapro-gression(LAMP)studyにより,0.05%,0.025%,0.01%アトロピンの効果がプラセボ対照で検討され,濃度依存的な効果が明確に示された23,24).1年目の結果では,0.05%がもっとも強い抑制効果を示し,0.025%,0.01%がこれに続いた.3年目の継続・中止比較では,治療継続群のほうが中止群より進行抑制効果が高く,リバウンドは濃度依存的に認められるものの,臨床的には管理可能な範囲とされた25).5年成績では,0.05%アトロピンを中心とした長期管理の有効性が示されている26).わが国ではCHiedaらによるCATOM-Jにおいて,0.01%アトロピンの有効性と安全性が確認された27).さらにCORANGEstudyでは,0.025%アトロピンを含む低濃度アトロピン点眼の有効性が日本人小児で検討され,0.025%群でより強い抑制効果が示された28).この結果に基づき,リジュセアミニC0.025%点眼液が厚生労働省の承認を受け市販化に至っている.アトロピンの作用機序は完全には解明されていない.従来は調節麻痺による近業負荷軽減が主作用と考えられていたが,ヒヨコなど調節機構が哺乳類と異なる動物でも効果を示すことから,単なる調節麻痺では説明できない.現在では,ムスカリン受容体遮断,網膜ドパミン経路,α2Aアドレナリン受容体,Cγ-アミノ酪酸(gammaCaminobutyricacid:GABA)系,炎症性サイトカイン,脈絡膜肥厚,強膜線維芽細胞への作用など,多因子作用が想定されている6,7).低濃度アトロピンは,導入しやすく,CLを希望しない低年齢児にも使用しやすい.一方で,濃度選択,治療期間,中止時期,リバウンドへの対応,長期安全性については,今後もエビデンスの蓄積が必要である.6.低出力赤色光反復療法と光生物学的介入低出力赤色光反復療法(repeatedClow-levelCred-lighttherapy:RLRL)は,近年注目されている新しい近視進行抑制法である.従来の光学的治療が網膜像を修飾する治療であり,アトロピンが薬理学的にシグナル伝達を修飾する治療であるのに対し,RLRLは光生物学的に網膜や脈絡膜の代謝を変化させる可能性がある.RLRLではC650Cnm前後の赤色光を反復照射する.作用機序としては,ミトコンドリアのシトクロームCcオキシダーゼ(cytochromecoxidase)活性化,アデノシン三リン酸(adenosinetriphosphate:ATP)産生増加,活性酸素種や一酸化窒素の調節,脈絡膜血流増加,脈絡膜肥厚,強膜低酸素改善,COL1A1発現変化などが想定されている29).この視点では,RLRLは網膜から強膜へ至る成長シグナルのうち,代謝・血流・低酸素にかかわる経路を標的とする治療と位置づけられる.Jiangらのランダム化比較試験では,RLRLが小児近視の屈折進行および眼軸長伸長を有意に抑制することが報告された30).一方で,RLRLについては,安全性,長期成績,中止後のリバウンド,網膜への光毒性リスク,適切な照射条件,対象年齢など未解決の課題が多い.とくに,治療効果が強い一方で,長期安全性に関する国際的コンセンサスは十分ではなく,慎重な臨床導入が求められる.各介入法の現在考えられている作用部位を図5にまとめて示す.CV有効性・安全性・長期成績の考え方小児近視の進行はほぼ眼軸長伸長により説明されるため,将来的な病的近視リスクを考えるうえで眼軸長はきわめて重要な指標である.屈折値は調節,測定条件,角膜や水晶体の変化に影響されるため,可能であれば光学式眼軸長測定を定期的に行うことが望ましい.有効性の概略として,DIMS,HAL,多焦点CSCL,OK,低濃度アトロピンC0.025%やC0.05%はいずれも中等度以上の抑制効果を有すると考えられる.一方で,0.01%アトロピンや従来型累進屈折力レンズは,患者によっては効果が限定的である.RLRLは強い効果が報告されているが,長期安全性と国際的な適用基準に課題が(87)あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026C937網膜脈絡膜強膜(後極部)(後極部)(後極部)屋外活動・高照度環境近視管理眼鏡多焦点SCLOK低濃度アトロピン点眼RLRL◎:おもな作用○:中等度の作用△:副次的な作用が期待される図5各近視進行抑制治療介入のおもな作用部位各治療介入が主として作用すると考えられている網膜,脈絡膜および強膜の部位を示す.SCL:ソフトコンタクトレンズ,OK:オルソケラトロジー,RLRL:低出力赤色光反復療法VII保険診療・選定療養・自由診療との関連近視進行抑制治療を実地診療に導入する際には,各治療法が保険診療,選定療養,自由診療のいずれに位置づけられるのかを正確に理解しておく必要がある.近年,わが国でも小児近視管理に関する医療制度上の整理が進みつつあり,治療法ごとに取り扱いが異なる点に注意が必要である.多焦点CSCLであるCMiSightはわが国において承認されており,保険診療として処方可能である.また,低濃度アトロピン点眼については,2026年C6月から選定療養として位置づけられた.ただし,年C2回,各C2項目まで保険査定が認められるという制限があり,診療時にはこの制度上の枠組みを踏まえた説明と運用が求められる.近視管理用眼鏡については,従来の眼鏡と同様に,通常の保険診療の範囲内で処方可能である.一方で,眼鏡レンズ自体の費用負担や製品選択については,患者・保護者に十分説明しておく必要がある.OKは,近視矯正用としてはわが国で承認されているが,近視進行抑制を目的とした適応については現在治験中であり,現時点では承認されていない.そのため,近視進行抑制を目的として行う場合には自由診療として扱われる.また,RLRLもわが国では未承認であり,自由診療の枠組みで慎重に取り扱う必要がある.このように,近視進行抑制治療は,保険診療,選定療養,自由診療が混在する領域となっている.したがって,実地医家は各治療法の医学的エビデンスだけでなく制度上の位置づけを理解したうえで,患者・保護者に対して治療目的,期待される効果,限界,副作用,費用負担,代替手段,中止基準を明確に説明する必要がある.とくに「近視が治る」「必ず止まる」といった表現は避け,「近視進行速度を抑える治療」「将来の強度近視リスクを低減するための管理」と説明するのが適切である.近視管理は単なる眼鏡やCCLの販売ではなく,眼軸長を含む医学的評価,リスク層別化,治療選択,安全管理,長期フォローアップを伴う医療行為である.制度上の枠組みを正しく理解し,保険診療・選定療養・自由診療を適切に区別しながら,エビデンスに基づいた近視管理を提供することが,今後の実地眼科診療において重要となる.CVIII臨床医へのメッセージ近視進行抑制は,もはや一部の専門施設だけが行う特殊診療ではない.小児近視が増加し,強度近視に伴う将来的な視覚障害が懸念される現在,一般眼科医にとっても近視管理は重要な日常診療の一部となりつつある.明日からの診療でまず行うべきことは,近視小児に対して単焦点眼鏡を処方して終わるのではなく,「この子は将来どの程度進行しそうか」を考えることである.そのためには,年齢,近視度数,進行速度,両親の近視歴,生活習慣,可能であれば眼軸長を確認する.つぎに,屋外活動や近業姿勢などの生活指導を行い,進行リスクが高い患者には,近視管理用眼鏡,低濃度アトロピン,多焦点SCL,OKなどを選択肢として提示する.治療法の優劣を単純に比較するのではなく,患者ごとに継続可能な方法を選ぶことが重要である.低年齢で安全性重視なら近視管理用眼鏡,日中裸眼希望が強ければOK,1日使い捨てCCLが可能なら多焦点CSCL,CLが困難なら低濃度アトロピン,進行が速ければ併用療法を検討する,というように,患者背景に合わせた個別化が求められる.近視進行抑制のゴールは,眼鏡度数を少し軽くすることではない.将来の病的近視を減らし,生涯にわたる視機能を守ることである.この視点を保護者と共有し,過度な期待を避けつつ,科学的根拠に基づいた現実的な近視管理を提供することが,これからの実地眼科医に求められる役割である.CIX日本から世界へ発信された近視進行抑制研究最後に,本特集のテーマである日本発の研究についてまとめる.わが国はこの領域の発展において重要な成果を世界に向けて継続的に発信してきた.眼鏡による近視進行抑制研究では,Hasebeらが日本人小児を対象に累進屈折力眼鏡の有効性を検証し31),また,Kandaらは周辺遠視性デフォーカスを軽減する眼鏡レンズの多施設無作為化比較試験を実施した32).これらの研究は大きな治療効果を示すには至らなかったものの,近視進行抑制の光学的機序を検証する重要な基盤と(89)あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026C939なった.さらに,現在世界中で広く使用されているDIMSレンズは,日本のCHOYA社によって開発された近視管理眼鏡であり,日本発の光学技術が国際的な近視管理の発展に大きく貢献している10,11).OK領域では,KakitaらによるC2年間の前向き研究33)に続き,HiraokaらがC5年19)およびC10年34)にわたる長期成績を報告し,眼軸長伸長抑制効果の持続性を示した.また,Hiraokaらは高次収差,とくにCcoma-likeaberrationが近視進行抑制効果に関与する可能性を報告し,作用機序の解明にも貢献した35).さらに,Kinoshi-taらはCOKとC0.01%アトロピン点眼の併用療法を世界に先駆けて報告し,現在広く実践されている併用療法の礎を築いた20).薬物療法の分野では,ATOM-J研究により日本人小児におけるC0.01%アトロピン点眼の有効性と安全性が検証され27),さらに治療中止後のリバウンドが明らかでないことも報告された36).その後,ORANGEstudyではC0.025%アトロピン点眼の有効性と安全性が示され28),これらの成果はわが国初の近視進行抑制点眼薬であるリジュセアミニ点眼液の承認へと結実した.さらに近年では,Tsubota,Kurihara,Toriiらによるバイオレットライト研究が注目を集めている.波長360.400Cnmのバイオレットライトが近視進行を抑制しうることが基礎研究および臨床研究から示され37),その後,バイオレットライト透過眼鏡を用いた小児ランダム化比較試験も報告された38).屋外活動による近視予防効果を波長特異的な光生物学の観点から説明しようとするこの研究は,日本発の独創的な概念として国際的な関心を集めている.このように,わが国の研究者は近視進行抑制の基礎研究,作用機序解明,臨床試験,新規治療法開発の各分野において重要な成果を発信してきた.近視人口のさらなる増加が予測されるなか,わが国から発信される新たなエビデンスや技術革新は,今後の近視管理の発展においても重要な役割を担うものと期待される.文献1)HoldenCBA,CFrickeCTR,CWilsonCDACetal:GlobalCpreva-lenceCofCmyopiaCandChighCmyopiaCandCtemporalCtrendsCfrom2000through2050.OphthalmologyC123:1036-1042,C20162)BullimoreCMA,CBrennanNA:Myopiacontrol:whyCeachCdioptermatters.OptomVisSciC96:463-465,C20193)SmithCELC3rd,CRamamirthamCR,CQiao-GriderCYCetal:CE.ectsCofCfovealCablationConCemmetropizationCandCform-deprivationCmyopia.CInvestCOphthalmolCVisCSciC48:3914-3922,C20074)Wol.sohnCJS,CGi.ordKL:OpticalCstrategyCutilizingCcon-trastCmodulationCtoCslowCmyopia.COphthalmolCSciC5:C100672,C20245)AshbyCR,CHarbCEN,COstrinCLACetal:IMI:theCroleCofClightCinCrefractiveCdevelopmentCandmyopia:evidenceCfromanimalandhumanstudies.InvestOphthalmolVisSciC66:5-5,C20256)UpadhyayCA,CBeuermanRW:BiologicalCmechanismsCofCatropineCcontrolCofCmyopia.CEyeCContactCLensC46:129-135,C20207)HornCD,CSalzanoCAD,CJeneweinCECCetal:Topicalreview:potentialmechanismsofatropineformyopiacon-trol.OptomVisSci102:260-270,C20258)YinCX,CGeJ:TheCroleCofCscleralCchangesCinCtheCprogres-sionofmyopia:areviewandfuturedirections.ClinOph-thalmolC19:1699-1707,C20259)HeCM,CXiangCF,CZengCYCetal:E.ectCofCtimeCspentCout-doorsatschoolonthedevelopmentofmyopiaamongchil-drenCinChina:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMAC314:C1142-1148,C201510)LamCSY,TangWC,TseDYetal:DefocusincorporatedmultipleCsegments(DIMS)spectacleClensesCslowCmyopiaprogression:a2-yearrandomisedclinicaltrial.BrJOph-thalmolC104:363-368,C202011)LamCSY,TangWC,ZhangHYetal:Long-termmyopiacontrole.ectandsafetyinchildrenwearingDIMSspecta-clelensesfor6years.SciRepC13:5475,C202312)BaoJ,YangA,HuangYetal:One-yearmyopiacontrole.cacyCofCspectacleClensesCwithCasphericalClenslets.CBrJOphthalmolC106:1171-1176,C202213)BaoJ,HuangY,LiXetal:Spectaclelenseswithaspheri-calClensletsCforCmyopiaCcontrolCvsCsingle-visionCspectaclelenses:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC140:472-478,C202214)ChamberlainP,Peixoto-de-MatosSC,LoganNSetal:A3-yearrandomizedclinicaltrialofMiSightlensesformyo-piacontrol.OptomVisSciC96:556-567,C201915)ChamberlainCP,CBradleyCA,CArumugamCBCetal:Long-termCe.ectCofCdual-focusCcontactClensesConCmyopiaCpro-gressionCinchildren:aC6-yearCmulticenterCclinicalCtrial.COptomVisSciC99:204-212,C202216)ChamberlainCP,CHammondCDS,CBradleyCACetal:EyeCgrowthCandCmyopiaCprogressionCfollowingCcessationCofCmyopiaCcontrolCtherapyCwithCaCdual-focusCsoftCcontactClens.OptomVisSciC102:353-358,C2025940あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(90)—

画像鮮明化技術の臨床展開:眼科から他領域へ波及するイノベーション

2026年8月31日 月曜日

画像鮮明化技術の臨床展開:眼科から他領域へ波及するイノベーションClinicalApplicationofImageSharpeningTechnology:InnovationSpreadingfromOphthalmologytoOtherFields小林正浩*森洋斉**大鹿哲郎***はじめに医療現場において,画像や映像の視認性は診断精度や手術の安全性に直結する重要な要素である.しかし,実際の臨床現場では,撮影条件や周辺環境の影響により画質が低下し,不鮮明となるケースも少なくない.こうした課題を解決し,視認性を向上させる「画像鮮明化技術」は,新たな医療支援技術として大きな期待を集めている.日本で開発された独自のアルゴリズムに基づくLogi-calImageSensitizer(LISr)は,入力画像がもつ元情報を忠実に復元させるものである.人工知能(arti.cialintelligence:AI)を用いた画像処理とは本質的に異なり,存在しない情報の補完や画像の生成・改変を一切行わないため,医療画像において致命的となりうるアーチファクト(偽像)を発生させるリスクがない.さらに,動画映像であってもほぼ遅延なくリアルタイム処理が可能であり,正確性と再現性が求められる医療分野で高い信頼性をもって活用できる.本技術の有用性は,眼科領域で初めて客観的に実証された1~5).「視覚のスペシャリスト」である眼科研究者が有用性を報告したことは,他領域の研究者に高い信頼性をもたらし,応用分野拡大の重要な契機となった.現在,眼科での実績を基盤として,他の医療分野や産業分野への展開が進みつつある.I画像鮮明化の原理1.基本原理街頭カメラや監視カメラなどで取得される屋外映像は,降雨や霧などの気象条件,あるいは白飛びや黒つぶれといった露出の過不足により,細部の情報が失われ視認性が著しく低下することが少なくない.こうした「劣化した」映像から,被写体が本来もっていた情報をリアルタイムで復元する目的で開発されたのが,本稿で紹介する画像鮮明化テクノロジーである.本法の基本は,画像内の「局所的」な階調(グラデーション)を最適化する処理である.画像全体の画素を一律に操作するのではなく,入力画像に対して「局所領域ごと」に解析し,それぞれに適応的な演算を行うことで,画像の隅々まで階調を拡張し,視認性を飛躍的に高めることが可能となる.図1に,暗い地上,逆光による明るい空,階調のきわめて淡い雲が混在する風景における鮮明化処理の例を示す.処理前の画像(図1a)では,赤丸で示した各局所領域において,輝度分布を示すヒストグラムが非常に狭い範囲に集中しており,コントラストが著しく低い状態にある.これに対し,本技術を用いて各局所領域の階調を最適に拡張することで,地上の細部や雲の立体的な構造が鮮明に可視化される(図1b).このように,画像に潜在しながらも埋没していた情報を,独自のアルゴリズムによって数学的に引き出すのが本技術の基本原理である.*MasahiroKobayashi:ロジック・アンド・デザイン**YosaiMori:宮田眼科病院***TetsuroOshika:筑波大学医学医療系〔別刷請求先〕大鹿哲郎:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系(1)(69)9190910-1810/26/\100/頁/JCOPYab187~222(35階調)0~18(18階調)82~212(130階調)28~109(81階調)図1風景映像の鮮明化白飛び・黒つぶれが生じている映像(a)に対し,鮮明化処理によって階調を最適化することで視認性を劇的に向上させている(b).画像に潜在しながらも埋没していた情報を,独自のアルゴリズムによって数学的に引き出している.近傍明度分布輝度分布が狭い2.計算方法局所的な階調最適化を実現する一般的な方法は,画像を細かく分割して各領域で処理を行い,その結果を合成する手法である.しかし,この方法は大量の計算量とメモリーを必要とするため,映像のリアルタイム処理には不向きである.そこで本技術では,走査線に沿った逐次処理を採用することでこの問題を解決している(図2).映像は走査線が画面左上から右方向に水平走査を繰り返しながら下方向へ進み,画面右下で1フレームが完成する.走査線の920あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(70)PSFが大きいPSFを小さくする図3復元高解像度化a:ピンボケ画像において周辺に拡散した光の分布を点広がり関数(PSF)として定義し,deconvolution(逆畳み込み)処理によって1点に収束するよう再構築する.b:予測や補間に頼ることなく,本来の解像度を算術的に復元する.①AI超解像②復元高解像度化③Photoshopスマートシャープ④復元高解像度化図5超広角眼底画像における周辺部網膜裂孔の描出元画像(a)に対する鮮明化処理により,周辺部の網膜裂孔が明確に描出されている(b,).図6硝子体出血症例の眼底写真元画像(a)に鮮明化処理を施すことで視認性が向上し,網膜裂孔が明瞭に確認できるようになる(b,).図7小瞳孔例における眼底写真撮影失敗と思われた不鮮明な元画像(a)であっても,鮮明化処理を施すことで,診断に必要な病変情報が適切に記録されていたことがわかる(b,).図8スマートフォンで撮影した未熟児網膜症の眼底写真不十分な散瞳,体動,硝子体混濁などの悪条件下での撮影(a)において,画像鮮明化技術は大きな威力を発揮する(b).図9蛍光眼底造影画像元画像(a)に対し,鮮明化処理により微細な血管網の構造やコントラストが強調され,情報量が飛躍的に増大している(b).図10上皮型角膜ヘルペス症例元画像(Ca)に対する鮮明化処理により,角膜上皮の樹枝状病変が鮮明に強調されている(Cb,).図11後部円錐水晶体の前眼部OCT画像元画像(Ca)に対する鮮明化処理により,水晶体後.中央部における円錐状の突出がより明確化された(Cb,).C-ab図12涙道内視鏡映像元画像(Ca)に対し,画像鮮明化およびハニカムノイズ除去を適用することにより(Cb),病変の観察が容易となる.実際の動画ではさらに違いが著明である.図13Heads-up手術映像顕微鏡下のリアルタイム映像(Ca)に対しても,遅延を生じることなく鮮明化処理を施すことが可能である(Cb).図14胸部X線写真元画像(Ca)に対して,中等度の鮮明化(Cb)および高度の鮮明化(Cc)を施行している.目的の組織に応じて鮮明化の強度を調整できる.図15歯科におけるX線写真元画像(Ca)を鮮明化することにより,歯根や歯槽骨の微細な構造など,圧倒的に多量の情報が顕在化している(Cb).図16脳神経外科における外視鏡下の脳血管障害手術微細な血管や,くも膜が明瞭に描出されることで(Ca→Cb),血管損傷リスクが低減し,安全かつ容易な手術操作が可能となるC.(公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院脳神経外科・武部軌良先生のご厚意による)図17整形外科におけるガンマネイル(髄内釘固定術)骨の外層(コーティカル部分)の明瞭化により(Ca→b),インプラントの適切な位置決定が容易となる.低線量での画質維持により被ばく量の低減も期待できるC.(医療法人徳洲会八尾徳洲総合病院整形外科・當麻俊彦先生のご厚意による)

眼科におけるAIの発展とポテンシャル

2026年8月31日 月曜日

眼科におけるAIの発展とポテンシャルAdvancementsandPotentialofAIinOphthalmology田淵仁志*はじめに人工知能(arti.cialintelligence:AI,用語解説参照)は,日常生活になくてはならないものになりつつある.つい最近まで「ググる」といってGoogle検索を使うのが当たり前であったが,今では同じ疑問をChatGPTに尋ねたり,GoogleでもAIモードで聞いてみたりすることが増えてきた.とりわけ筆者らのような職種で頻度が上がっているのが英訳であろう.英単語そのものを検索する時代から,文章全体をそのままAIに入力して訳文を待つほうが便利になっている.ChatGPTの黎明期には,「近くの眼科クリニックを探して」と入力すると,「中央クリニック」「学園前眼科」といった,いかにもありそうな名前の医療機関を「創作」して返してきた.今ではこうした,事実でないことをもっともらしく答えてしまうハルシネーション(halluci-nation,用語解説参照)とよばれる現象も,めだって少なくなっている.とはいえ,開院時間・休診日・提供している医療内容といった細かな事実になると,回答が本当かどうかはまだまだわからないのが現状である.本稿では,こうしたAIを医療現場でどう役立てられそうかについて,筆者のチームが取り組んでいる試みを中心に解説する.医療のなかでも眼科は,AIが最初に実用の舞台に立った領域である.眼は画像として捉えやすく,治療成績という形で結果も数値化しやすい.この二つの条件がそろう眼科は,医療AIの最前線であり続けてきた.実際,医療のあらゆる分野を通じて初めて承認された「自律型」AI診断も,糖尿病網膜症(diabeticretinopa-thy:DR,用語解説参照)スクリーニングという眼科の応用であった.日本の眼科も黎明期から世界の開発競争に加わってきた.筆者のチームは2017年に深層学習による網膜.離の検出を報告し,国産の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT,用語解説参照)の画像鮮明化は市販装置にすでに実装され,手術室の安全照合システムは延べ37,529件という世界でも有数の規模で運用されている.日本の眼科サイエンスが世界へ発信してきたこの流れの先に,AIの時代をどう捉えるか─結論を先取りすれば,きたるべき時代に日本の眼科が世界をリードする鍵は,最先端のアルゴリズムそのものよりも,地道に積み上げた診療データと,AIの得手・不得手を見きわめる臨床的な判断力にあると筆者は考えている.IAIとは何か―「学習」がすべてまず,AIとはどのようなもので,どんな種類があるのかを簡単に整理する.AIの大前提は「学習が必要である」ということ,裏を返せば「学習していないものは答えられない」ということである.DRを学習した画像診断AIに緑内障末期の患者の眼底写真を見せても,返ってくるのは「DRではありません」という答えだけである.つまり「何を学習したAIなのか」こそが,AIを使うときに最初に確認すべき点である.*HitoshiTabuchi:ツカザキ病院眼科,兵庫医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕田淵仁志:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科(1)(63)9130910-1810/26/\100/頁/JCOPYつぎは?これを一語ずつ繰り返して文章を作る図1大規模言語モデルは「つぎに来る単語」を確率で選んでいるこれまでの文章(文脈)からつぎの単語の候補を確率で評価し,もっとも確からしい語を選んで文章に加える.これを一語ずつ繰り返して文章を作る.内容の真偽を判断しているわけではない.では,現在のCAIの中心である大規模言語モデル〔largeClanguagemodel:LLM(ChatGPT,Claude,Geminiなど,用語解説参照)〕は何を学習しているのか.最新世代のCLLMでは,およそC10兆語にのぼる文字情報が学習に取り込まれているとされる.これは英語版Wikipedia全体のC2,000倍を優に超える分量である1).これだけ学習しているからこそ,まるで何でも知っているかのように答えてくる.ただし,その中身を一言で言えば,LLMは「文章のなかでつぎに来る単語は何か」を答えているにすぎない.単語の連なりのなかで,つぎに来る語を確率的に選び,それをつなげて文章を組み立てているのである(図1).重要なのは,LLMは内容が正しいかどうかを理解しているわけではない,という点である.CIIAIが原理的に苦手なこと「未来は予測できない」「境界例は分離できない」.このC2点は,AIを使ったアプリケーションを利用するうえで心にとどめておくべき基本である.第一に,未来は常に不確実であり,AIをもってしても予測は不可能である.起きてもいない事象は学習できないからだ.よくたとえられるのは,月までロケットを飛ばして戻ってくることのほうが,都会のコンビニまで自転車で行って帰ってくることよりも,機械にとってはむしろやさしい,という逆説である.ロケットの軌道は物理法則に従う「例外のない」世界だが,街中の道は何が起こるかわからない.人気のない夜道で,突然自転車に乗った人が車道を横切る確率は非常に低い─しかしゼロではない.自動運転のむずかしさはここにある.同じ事象を学習させることはできるが,すべての例外を予測し尽くすことはできない.だからこそ,トヨタ自動車が未来都市の実験として建設しているCWovenCCity(ウーブン・シティ)では,自動運転車専用のレーンを設け,歩行者と物理的に分離している2).予測で解くのではなく,予測しなくてよい環境を作る,という発想である.第二に,どちらともつかない事象を無理に分離させるのは,そもそも課題設定の誤りである.三重県が関西なのか東海なのかは,何を基準に問うかで答えが変わる.分離できないものをCAIに判別させるべきではない(図2).LLMにも,嘘を本当のことのように答えるハルシネーションの問題は残っている.とくに注意が必要なのが画像の読み取りである.現在の仕組みでは,入力された内容を一度「文字情報」に置き換えてから回答を組み立てるため,文字情報と画像情報の間のギャップをうまく埋められないことが最大の課題として残る.文字情報だけで答えられる医学知識クイズに比べ,医療画像の読影問題では性能が伸びていない.実際,眼科症例を画像だけで診断させると正答率は約C5割にとどまり,臨床情報(テキスト)を加えて初めて成績が上がることが報告されている3)(図3).914あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(64)集団A(例:正常)ある検査値→図2重なりあう集団は境界をAIで「分離」できない平均も頂点も異なるC2集団(例:正常と異常)でも,分布が重なる領域では原理的に判別できない.重なりが避けられない課題は,AIに二者択一を強いるべきではない.図3文字は得意,画像は苦手―読影で生じる「ギャップ」現在の仕組みは入力された「文字情報」を起点に答えを作るため,画像と文字の橋渡しが弱い.文字だけの知識問題では正答率が高い一方で,画像を含む医療情報の読影問題では,画像を文字情報に変換する過程でギャップが生じ,正答率が下がる.a.回帰分析型のRPE検出(従来法)b.異常形状を「暗記」したAI図4「教えただけ全部覚える」AIは突発的な網膜色素上皮(RPE)変形に強い回帰分析型の検出(従来法)は突発的な隆起を滑らかに通過して追従できないが(Ca),異常形状を学習し尽くしたCAIは隆起を正しく追従する(Cb).(文献C6を基に作図)図5手術室の安全を守るAI照合システム①本人確認,②左右の確認,③CIOLの照合のC3点を手術開始の前にCAIが自動照合し,不一致ならアラートで停止する.ツカザキ病院眼科で実働し,延べC37,529件の手術で運用された.(文献C9を基に作図)図6AI時代の土台は「構造化されたデータベース」検査値を構造化して蓄積し,大規模言語モデルの分析力と組み合わせることで,疾患別の長期経過や治療成績を解析できる.地道なデータ整備こそが,AIの分析力を臨床価値へ変える.-

AIプログラムの臨床への取り入れ方

2026年8月31日 月曜日

AIプログラムの臨床への取り入れ方PracticalIntegrationofAIProgramsintoOphthalmicClinicalPractice髙橋秀徳*はじめに眼科は,医学のなかでも画像情報と機能評価が高密度に結びついた領域である.眼底写真,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT),視野検査,前眼部画像など,日常診療で得られる情報はきわめて豊富であり,しかもその多くがデジタルデータとして蓄積されている.この特性は,人工知能(arti.cialCintelli-gence:AI)を臨床応用するうえで大きな強みであり,眼科は医療CAIの社会実装がもっとも進みやすい領域の一つといえる.日本の眼科サイエンスは,これまで精密な画像診断,緻密な臨床観察,光学・工学との融合によって発展してきた.AIプログラムは,その延長線上にある新しい診療支援技術である.すなわち,AIは眼科医の経験や判断を単純に置き換えるものではなく,膨大な画像情報を整理し,見落としを減らし,経時的変化を可視化し,患者にとって負担の少ない診療へとつなげるための道具である.日本発の眼科CAIが実臨床に導入されつつある現在,その意義は単なる技術開発にとどまらず,眼科診療の流れそのものを再設計しうる点にある.一方で,AIを用いた医療プログラムでは,アルゴリズムの性能と臨床現場での有用性は同義ではない.CGoogleHealthによる糖尿病網膜症CAIをタイの診療現場に導入した人間中心評価では,アルゴリズムそのものの精度とは別に,画像品質判定に伴う再撮影,看護師の業務負担,患者の動線などが,実装上の重要な制約となることが示されている1).AIを臨床に取り入れるには,どの検査のあとに用いるのか,誰が結果を確認するのか,どの判断を補助するのか,そして最終的な責任をどこにおくのかまで含めて設計する必要がある.本稿では,眼底写真CAI,健診・遠隔読影支援,OCT解析CAI,とくにCOCTから視機能に関連する情報を推定するCAIプログラムを例に,眼科CAIを臨床へ取り入れる際の考え方を述べる.CI眼底写真AIを健診・読影支援にどう組み込むか眼底写真CAIの臨床実装例としては,2018年に米国で承認された糖尿病網膜症診断CAIであるCiDx-DR(現LumineticsCore)がよく知られている2).これは,眼底写真から中等症非増殖糖尿病網膜症以上の有無を判定し,眼科受診の要否を提示する自律型CAIである.一方で,日本では同様の診断CAIが広く普及している状況にはなく,現時点で眼底写真CAIを臨床に取り入れる現実的な場面は,健診や遠隔読影における読影支援である.読影支援CAIを用いる場合に,重要なのはCAIが自動的に診断結果を返すことではなく,眼科医の読影過程にどのように組み込むかである.たとえば,AIにより異常候補を提示したり,読影の優先順位づけを行ったり,所見の見落としを減らしたりすることで,限られた読影医の負担を軽減できる.われわれの設立した自治医大・筑波大発認定ベンチャーであるCDeepEyeVisionでは,.*HidenoriTakahashi:筑波大学医学医療系サイバーメディスン研究センター,自治医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕髙橋秀徳:〒305-8575茨城県つくば市天王台C1-1-1筑波大学医学医療系サイバーメディスン研究センター(1)(57)C907図1眼底写真読影支援AIによる診断候補提示画面の例眼底写真に対して,AIが複数疾患のスクリーニング結果を提示する読影支援画面の例.白内障,緑内障などの候補診断があらかじめ入力され,医師は眼底写真とCAI出力を確認したうえで,必要に応じて診断名を修正・追加し,つぎの画像の読影へ進む.本システムではCAIが自動的に最終診断を返すのではなく,眼科医による確認と承認を前提として読影作業の効率化と見落とし低減を支援する.遠隔読影事業において,中心C45°カラー眼底写真のみから,周辺まで含んだ糖尿病網膜症病期を判定するCAI3)や数十疾患に対応するスクリーニングCAI(図1)を読影支援に用いている.ただし,未承認CAIであるため結果を自動返却するのではなく,眼科医がCAI出力を確認・修正・承認したうえで,健診施設などへ読影結果を返している.自治医科大学健診センターでは,1時間程度かかっていた眼底読影がC5分で終わるようになった.このような運用では,AIは眼科医を置換するのではなく,読影作業の前処理と品質管理を担う補助技術として位置づけられる.さらに,内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(strategicCinnovationCpromotionprogram:SIP)第C3期「統合型ヘルスケアシステムの構築」では,アカデミア発の日本語・医療特化の大規模言語モデルや大規模マルチモーダルモデル(用語解説参照)を開発し,上記CAIへの追加実装を行っている.近年では,眼底写真だけでなく問診情報,血圧,血糖値などの全身情報を組み合わせ,自然文の読影レポートを生成する試みも始まった.従来の健診読影では,限られた所見名を選択して結果を返す形式が中心であったが,生成CAIを用いることで,左右眼ごとの所見,全身疾患との関連,撮影条件やアーチファクトの可能性を,内科医にも理解しやすい文章として提示できる可能性がある.眼底写真CAIを臨床に取り入れる際には,単に画像分類精度を競うのではなく,読影医,健診施設,紹介先医療機関の間で情報がどのように流れるかを設計することが重要である.CII日本初の眼科承認AIの誕生と実臨床への実装2025年C10月,日本で初めて眼科領域の承認CAIが誕生した.本機器は,日本眼科学会と国立情報学研究所の共同研究で作成されたCAIモデルを基盤とし,日本眼科医療機器協会の子会社である合同会社CG-Dataが製造販売するものである.糖尿病網膜症など特定疾患の診断を目的とするものではなく,緑内障,糖尿病網膜症,病的近視,網膜静脈閉塞症などを含む代表的眼疾患の特徴を検出し,「有所見」または「所見なし」として提示するスクリーニング支援CAIである.本CAIの重要な点は,AIが単独で確定診断を行うのではなく,医師による診療や読影を補助する位置づけで承認されていることである.臨床性能評価試験では,眼科医(非専門医)レベルのスクリーニング精度を目標として,感度C98.3%,特異度C83.3%が示された.想定されるおもな使用場面は健康診断施設などであり,AIが異常の可能性を検出した症例を眼科医による二次読影へつなげることで,見逃しを減らしつつ,不要な読影負担を軽減することが期待されている.したがって,日本初の眼科承認CAIは,「AIが眼科医の代わりに診断する」技術というより,健診現場から眼科医読影へ至る流れを整理する技術と捉えるべきである.実臨床への導入では,AIの出力を誰が確認し,どの基準で二次読影や眼科受診へつなげるか,また結果をどのように健診受診者へ返すかをあらかじめ決めておく必要がある.承認CAIであっても,現場の運用設計なしに有用性が自動的に生まれるわけではない.CIII眼底写真の健常逸脱部位可視化AIの実臨床導入DeepEyeVision社では,眼底写真において健常例から逸脱している可能性のある部位を可視化(用語解説参照)するCAI医療機器プログラムとして,DeepEyeVi-sionCforRetinaStationの認証をC2021年に取得した.本プログラムは,ニコンのフルオート無散瞳眼底カメラRetinaStationに搭載されている.疾患名を自動判定するのではなく,健常例と比較して異常が疑われる領域をヒートマップ(用語解説参照)として表示する点に特徴がある.このようなCAIの臨床的意義は,診断名を直接提示することではなく,医師の注意を向けるべき部位を示すことにある.たとえば,視神経乳頭周囲にヒートマップが表示されれば緑内障性変化などを,黄斑部に表示されれば網膜上膜や加齢黄斑変性などを疑う契機となりうる4).すなわち本CAIは,眼科医の診断を代替するものではなく,読影時の視線誘導や見落とし低減を目的とした支援技術として位置づけられる.また,眼科以外の診療科においても,高血圧や糖尿病など全身疾患に伴う網膜変化を把握する補助として応用が期待される.同じく健常逸脱部位をヒートマップ表示するCAIとして,超広角走査型レーザー検眼鏡COptosCalifornia用のCDeepEyeVisionCforCaliforniaもC2022年に認証を取得した.OptosCaliforniaは画角C200°で網膜の広範囲を撮影できる一方で,撮影範囲が広いほど小病変の見落としが問題となりうる.超広角画像に対して健常からの逸脱部位を可視化することで,網膜小裂孔などへの注意喚起が可能となり,忙しい外来診療における読影支援としての利用が期待される(図2)5).CIV医療機器プログラムAI-COの実臨床導入緑内障診療では,構造評価としてのCOCTと,機能評価としての視野検査を組み合わせて病期や進行を判断する.緑内障による視野障害は,網膜神経節細胞複合体(ganglionCcellcomplex:GCC)の菲薄化と対応するため,従来からCGCC厚マップを二次元化し,健常データベースからの逸脱をカラーマップなどで表示する解析プログラムが用いられてきた.一方で,GCC厚マップと視野障害は常に単純な一対一対応を示すわけではない.強度近視では元からCGCCが菲薄化しており,末期緑内障では薄すぎてその変化を従来のカラーマップで把握することは困難,網膜上膜ではCGCCが乱れる.2025年に薬事認証を受けた自動視野・眼撮影装置(OCT)用プログラムCAI-COは,数万枚のCOCTデータから構築されたCAI6)により設計した画像処理フィルタを用い,OCTの三次元像から視機能に関連する情報を出力する医療機器プログラム(softwareCasCaCmedicaldevice:SaMD,用語解説参照)である.出力は濃淡の付いた平面グレースケール画像として表示される(図3).数万件までデータを増やしたことによって,強度近視,末期緑内障,網膜上膜,黄斑変性,中枢神経疾患に伴う逆行性経シナプス変性などであっても,精度の低下が小さい.AI-COを実臨床に取り入れる際の意義は,自動視野検査を置き換えることではない.自動視野検査は緑内障診療に不可欠である一方で,患者の理解度,集中力,疲労,学習効果,反応傾向などの影響を受ける.OCT画像に基づくCAI-CO出力は,このような検査反応に由来するばらつきとは異なる情報源として,視機能評価を補助しうる点に意義がある.図2DeepEyeVisionforCaliforniaによる超広角眼底画像の読影支援表示左に元画像,右にCDeepEyeVisionCforCaliforniaによる鮮明化処理および健常からの逸脱が疑われる部位のヒートマップ表示を示す.本プログラムは疾患名を自動診断するものではなく,医師が超広角眼底画像を読影する際に注意すべき領域を把握しやすくするための読影支援として用いられる.図3自動視野・眼撮影装置(OCT)用プログラムAI-COにおけるOCT解析結果閲覧画面の例左側にCOCT解析結果の経時的変化を示すスロープ表示を,右側に各撮影時点の解析結果を示す.AI-COでは,OCT撮影ごとに得られた解析結果を蓄積し,視機能に関連する変化の傾向を経時的に確認できる.自動視野検査を頻回に実施することが困難な症例においても,患者負担の少ないCOCT撮影を通じて,臨床判断を補助する情報を継続的に得られる点が特徴である.最大の臨床上の利点は,視野検査が困難な患者,あるいは十分な信頼性をもつ視野検査結果が得られにくい患者においても,OCT撮影が可能であれば,視野障害に関連する変化を継続的に評価できる点である.さらに,OCT撮影は短時間で実施でき,患者負担も比較的小さい.自動視野検査を毎月行うことは患者負担の面から現実的でないことが多いが,OCT撮影であれば診療ごとに反復しやすい.そのため,AI-COによる評価を経時的に蓄積することで,より早い段階で変化の傾向を把握できる可能性がある.おわりに今後,眼科CAIを広く臨床実装するためには,単に高い画像診断性能を示すだけでは不十分であり,多施設・多機種データによる外部検証,実臨床での安全性評価,医師とCAIの責任分界の整理が不可欠である.また,薬事承認後も,保険償還,既存機器との接続,健診・外来現場での運用設計,結果説明や紹介基準との整合性が課題となる.AIを「診断する装置」として単独で捉えるのではなく,検査,読影,説明,紹介,経過観察の流れのなかに位置づけることが重要である.日本でも眼科CAIは研究段階から実装段階に入りつつある.眼底写真やCOCTを中心とした豊富な画像データ,精密な読影文化,光学・工学との連携,そして臨床現場に根ざした課題設定は,日本の眼科が世界に示しうる大きな強みである.AIプログラムは,眼科医を置き換えるものではなく,眼科医がより本質的な判断と患者説明に集中するための支援技術である.AIの性能は使用環境,画像品質,対象患者,運用方法に左右されるため,出力を過信せず,医師が最終的に判断する姿勢は変わらない.今後重要になるのは,「AIを使うか否か」ではなく,「どの臨床課題に,どの責任分担で,どのようにCAIを組み込むか」である.眼科医がCAIの限界を理解したうえで主体的に使いこなすことにより,眼科診療の均てん化,効率化,患者負担の軽減が期待される.さらに,日本発の眼科CAIが実臨床で鍛えられ,世界の医療現場へ展開されることで,日本の眼科サイエンスは,画像診断の精密さと臨床実装力を兼ね備えた新たな価値を国際的に発信できるに違いない.文献1)BeedeCE,CBaylorCE,CHerschCFCetal:AChuman-centeredCevaluationCofCaCdeepClearningCsystemCdeployedCinCclinicsCforCtheCdetectionCofCdiabeticCretinopathy.CProcCCHICConfCHumFactorsComputSyst2020:1-12,C2020

AIによる前眼部疾患診断補助

2026年8月31日 月曜日

AIによる前眼部疾患診断補助AI-AssistedDiagnosisofAnteriorSegmentEyeDiseases上野勇太*はじめに眼科診療は人工知能(arti.cialintelligence:AI)を用いた画像解析技術との相性が非常によい.前眼部はアプローチしやすいために多様な測定装置が開発されており,角膜形状解析においては1990年代から機械学習プログラムが実装され,現在でも汎用されている.深層学習が実装されて以降は膨大な情報量をもつ画像にもAI解析が導入されるようになり,2020年以降は前眼部カラー写真を対象とした汎用性の高いプログラムが相ついで報告され,前眼部診療を一変させうる段階に入りつつある.本稿では,現状でAIがどのような前眼部疾患診断補助を可能にするのか,現在の開発到達点を整理したうえで,臨床現場への社会実装に向けたロードマップやAIと共存する近未来の前眼部診療風景を読者と共有したい.I前眼部画像解析装置を用いたAI研究角膜形状解析データを用いたAI研究として,円錐角膜の診断補助プログラムが数多く報告されている.その代表がKlyce/Maedaindexであり,プラチド型トポグラファーに搭載され,正常眼と円錐角膜眼を高精度に分類可能である1).また,近年では角膜形状解析装置を用いたドライアイのサブタイプ分類2),進行性円錐角膜か否かの判定3),コンタクトレンズフィッティングの判定4),角膜移植の予後予測5)など,単純な診断補助の枠を超えて臨床的に踏み込んだ機能を有するプログラムが,深層学習を利用して開発されている.前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)データに基づいたAI研究では,角膜移植後6~8)や原発閉塞隅角緑内障9),白内障10,11)など,さまざまな疾患を対象としたプログラム開発が報告されている.角膜移植後では,内皮移植後のホスト.グラフト間隙の自動検出6)やカラーマップ生成7),治療用ガス注入の必要性予測8)など,術後診察の精度を高めるために有用な報告がなされており,すぐにでも日常診療に導入したいツールである.また,水晶体核・皮質のセグメンテーション10),白内障混濁部位の特定11)などの報告を参照すると,将来的には前眼部OCTが白内障術前検査のスタンダードになりうると考えられる.II前眼部カラー写真を用いたAI研究前眼部疾患の診療は,細隙灯顕微鏡の操作法を習熟したうえで外観から診断を下すため,医師の経験により差がつきやすい領域である.2020年以降,疾患の見逃しや診療経験の差を埋め,医師の正診率を向上させるためのAI診断補助プログラムが報告されるようになった.ディフューザー法を用いた前眼部カラー写真を題材とし,感染性角膜炎を検出するもの12)や,その他の角膜疾患も含めたマルチ疾患分類を行うもの13),感染性角膜炎の病原体分類を行うもの14)など,臨床的に有用な診断補助プログラム開発が報告されている.また,角膜に*YutaUeno:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕上野勇太:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科(1)(49)8990910-1810/26/\100/頁/JCOPY限らず,眼瞼腫瘍15)やアレルギー性結膜炎16)についてもCAIを用いた診断補助プログラム開発の報告が出てきている.眼腫瘍はとくに専門家とよべる医師が少なく,まれな疾患ゆえに経験も積みにくい一方で,誤診や見逃しが生命予後にもかかわりうるため,AIによる診断補助の需要が高い分野であるといえる.ディフューザー写真は,細隙灯顕微鏡に限らずスマートフォンやその他の機器を用いても同等な写真を撮影可能であり,スマートフォン写真に対するCAI診断補助プログラムの精度検証も報告されている12).スマートフォンは操作が簡便で,眼科医のみならず他科医師やメディカルスタッフによる撮影も想定される.夜間救急外来での初期対応や医師不足地域での遠隔医療に利用できるため,AI診断補助プログラムを導入することで,これまでの前眼部診療を大きく変革しうると考えている.ここで一つ問題となるのが,AI診断補助プログラムで読み込む画像の質である.AI研究でよく言及されるのが,プログラム開発時には良好なデータで検証されている一方で,リアルワールドにおける低品質なデータも混在した条件では,精度不良になってしまうという点である.これは撮影者の経験不足に起因する面が大きく,他科医師やメディカルスタッフによるスマートフォン撮影を遠隔医療に運用する際にはとくに注意すべきである.近年では,前眼部写真の撮影条件や画質などを自動分類するプログラムが報告されており,スリット光の有無を判別したり,ピンボケや固視不良,開瞼不良など質の悪い写真を弁別したりすることが可能である17).これらのプログラムをメインの診断補助プログラムの前に実行するシステムを構築することで,すべての撮影画像から質の高い特定条件の写真のみを自動抽出してから診断補助にかけることも可能であり,これにより低品質画像を読み込んで誤診を招くリスクを抑制することができる.また,これを動画ファイルに応用することで,診察時に動画撮影したなかから適切なピントや撮影条件の静止画を一度に複数枚抽出し,それらを統合して診断補助を行うようなシステムも将来的に実現可能であり,スマートフォン撮影者の経験の差を埋めることができると考えている.IIIわが国における角膜・前眼部AI診断補助プログラムの開発わが国でも日本眼科CAI学会,国立情報学研究所,日本眼科医療機器協会の支援のもと,日本角膜学会関連18施設からC9カテゴリー(正常,感染性角膜浸潤,非感染性角膜浸潤,角膜瘢痕,角膜沈着,水疱性角膜症,腫瘍性病変,水晶体混濁,急性緑内障発作)の細隙灯顕微鏡写真C5,270枚を収集し,物体検出モデルCYOLOv5に学習させた自動分類プログラムが完成した18).テストデータC500枚に対し正診率C88.8%で分類し,眼科医が画像のみから診断した際の正診率を上回った.また,鳥取大学から,前眼部写真の情報のみから感染性角膜炎の4種の病原微生物(細菌,真菌,アカントアメーバ,単純ヘルペスウイルス)を正診率C90.7~97.9%で自動分類するCAIが報告されている14).筆者らはこのC9分類プログラムと病原体C4分類プログラムを統合し,前眼部疾患AI診断支援システム「CorneAI」を開発した.前眼部カラー写真を読み込むと数秒でC9カテゴリーそれぞれの尤度が表示され,感染性角膜炎の場合にはさらにC4病原体の尤度が示される(図1)19).筆者らはC40名の眼科医の協力のもと,CorneAIのC9分類プログラムに関する性能評価試験を行った20).医師が画像のみを読影して診断した場合と,その後にCAIが解析した結果付きの画像を読影して診断した場合とで,医師の正診率がどの程度向上したのかを調査した.読影試験に用いたC50枚の画像において,眼科医C40名の正診率は画像のみC81.6%からCAI補助付きでC89.2%に向上し,これはCCorneAI単体の正診率C86%を上回った.すなわち,AIが誤った選択肢を提示している画像でも医師が正解の分類を選んでいることが示され,社会実装された際のプログラムの有用性を示す重要なエビデンスとなっている.これを受け,筆者らは早期の社会実装に向け,まずは国内の医薬品医療機器総合機構(PharmaceuticalsCandCMedicalCDevicesAgency:PMDA)承認の申請準備中である(2026年C5月現在).日本のCPMDA,米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA),欧州医療機器規則(MedicalDeviceRegulation:MDR)のいずれにおいても,角膜・前眼部疾患を診断補助するCAIプログ900あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(50)図1前眼部カラー写真のAI診断支援プログラム,研究用プロトタイプCorneAIex(G-Data)a:感染性角膜浸潤(病原体:真菌).b:成熟白内障.Cc:翼状片.Cd:水疱性角膜症.AIが考える分類に対する尤度(確率)をバーで表示する仕様であり,いずれの症例も正しい分類名の尤度が最大であった.海外展開を見据えて英語表記も可能である.dの症例のように複数分類の尤度が大きく見積もられることもあり,AIが複数の疾患で迷っていることがわかる.(文献C19より引用)ab図2スマートフォンを用いた前眼部撮影と研究用アプリCorneAIforiOSa:ボランティアの撮影風景.被写体に近づくことでマクロ撮影モードに切り替わり,特殊なアタッチメントなしでも前眼部の拡大画像が取得可能である.Cb:急性緑内障発作の症例.スマートフォン上で作動する研究用のCAI診断補助アプリケーションを用いて解析することで,その場で上位のC3病名候補が提示され,診断補助に利用可能である.C-細隙灯顕微鏡オートレフラクトメータ(MR-6000)図3同一症例に対して異なる機種で撮影した前眼部カラー画像の比較上段:感染性角膜浸潤.中段:顆粒状角膜変性.下段:急性緑内障発作.いずれの症例も,細隙灯顕微鏡およびオートレフラクトメータ(MR-6000,トーメーコーポレーション)で撮影した画像を並べた.オートレフラクトメータの写真においても,細隙灯顕微鏡のディフューザー写真と同等のレベルで病的所見が描出されており,診療に使用するのに申し分のない画質である.VAIと共存する近未来の前眼部診療AI診断補助プログラムが提供する近未来の前眼部診療風景を描いてみたい.たとえば,眼科医のいない離島の診療所に,充血と眼痛を訴える患者が訪れる.常駐するメディカルスタッフが多機能オートレフラクトメータあるいはスマートフォンで前眼部を撮影すると,画質判定プログラムが自動で適切な一枚を抽出し,数秒のうちにCCorneAIが細菌による感染性角膜浸潤の可能性を提示する.メディカルスタッフと総合診療医はこの結果に基づいて初期対応とトリアージを行い,本土の基幹病院に画像と解析結果を伝送する.本土の眼科医は日常業務の合間にこれを確認し,培養結果の確定を待たずに初期治療を助言し,それに従って現地の総合診療医が診察と処方を行う.これまで角膜専門家にたどり着くまでに数日以上を要した僻地の患者が,受診したその場で適切な初期診療を受けられる―AIとの共存は,専門家の目を従来届かなかった場所にまで届ける可能性を秘めており,筆者らはそのようなシステムの構築をめざしている.おわりにAIによる前眼部疾患診断補助について,国内外の動向と近未来像,そして日本発のシステムが世界基準になるための活動状況をまとめた.報告されているプログラムは診断補助に留まらず予後予測モデルや低品質な写真を除外するモデルなど,早期の臨床実装が期待されるものばかりであり,医師とCAIが共存する時代の到来は想像に難くない.このような潮流のなかで多くの先生方が抱く疑問は「どうCAIと共存すべきか?」であろう.筆者らは以前,CorneAIを用いた実験において,AIの解析結果を適切に解釈するためには医師の経験が必要であることを示した22).つまり,画像読影試験において,AIがあえて誤答を示すように解析結果を加工した画像を混ぜ,医師の経験によってCAIのミスリードに左右されやすいか否かを検証した.その結果,一般眼科医はAIのミスリードにより正診率を大きく落とす一方で,角膜を専門とする医師は惑わされにくいことが示された.CorneAIに限らず,今後ますます便利なシステムが日常診療を支え,医師がCAIと共存する時代が到来すると思われるが,最終的な判断を下すのは医師自身であることは変わらないであろう.臨床医たるもの,診断や治療法の選択をCAIに一任してはならない.自身の経験と知識に基づいてこれらのツールを使いこなせる医師こそが,真にCAIと共存できると考える.若手の先生方には,引き続き日々の自己研鑽に励み,実臨床での経験を何より大切にしていただきたいと切に願い,本稿のまとめとさせていただく.文献1)MaedaCN,CKlyceCSD,CSmolekMK:NeuralCnetworkCclassi.cationCofCcornealCtopography.CpreliminaryCdemon-stration.InvestOphthalmolVisSci36:1327-1335,C19952)YokoiCN,CKusadaCN,CKatoCHCetal:DryCeyeCsubtypeCclassi.cationCusingCvideokeratographyCandCdeepClearning.Diagnostics(Basel)C14:52,C20233)KamiyaK,AyatsukaY,KatoYetal:Predictionofkera-toconusCprogressionCusingCdeepClearningCofCanteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomographyCmaps.CAnnCTranslCMedC9:1287,C20214)AbadouCJ,CDahanCS,CKnoeriCJCetal:Arti.cialCintelligenceCversusconventionalmethodsforRGPlens.ttinginkera-toconus.ContLensAnteriorEyeC48:102321,C20255)KunduG,D’SouzaS,ModakDetal:Usingarti.cialintel-ligenceCforCanCe.cientCpredictionCofCoutcomesCofCdeepCanteriorClamellarkeratoplasty(DALK)inCadvancedCkera-toconus.TranslVisSciTechnol14:30,C20256)TrederCM,CLauermannCJL,CAlnawaisehCMCetal:UsingCdeeplearninginautomateddetectionofgraftdetachmentinCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:aCpilotCstudy.CorneaC38:157-161,C20197)GlatzA,BohringerD,ZanderDBetal:Three-dimension-alCmapCofCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplastydetachment:developmentandapplicationofadeeplearn-ingmodel.COphthalmolSciC1:100067,C20218)HayashiT,IliasianRM,MatthaeiMetal:TransferabilityofCanCarti.cialCintelligenceCalgorithmCpredictingCrebub-blingsafterDescemetmembraneendothelialkeratoplasty.CorneaC42:544-548,C20239)ShanCJ,CLiCZ,CMaCPCetal:DeepClearningCclassi.cationCofCangleclosurebasedonanteriorsegmentOCT.OphthalmolCGlaucomaC7:8-15,C202410)HanX,ZhangX,ZhangJetal:Automatedquanti.cationoflenscortexandnuclearopacitybasedonswept-sourceanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JRefractSurgC41:e1042-e1048,C202511)ZeboulonCP,CPanthierCC,CRougerCHCetal:DevelopmentCandCvalidationCofCaCpixelCwiseCdeepClearningCmodelCtoC904あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(54)–

偏光OCTの開発と生体応用

2026年8月31日 月曜日

偏光OCTの開発と生体応用DevelopmentandBiomedicalApplicationsofPolarization-SensitiveOCT山成正宏*はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT).1)が眼科において欠かせないツールとなって久しい.一方で,とりわけ理工系の研究機関では,OCTにハードウェア的あるいはソフトウェア的な仕掛けを加えることでさまざまな機能拡張を付与する研究が行われてきた.OCTの機能拡張にはさまざまな種類があり,そのなかの一つである光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)はOCT信号からモーションを検出して三次元血管網を描出する技術であり,筑波大学の巻田らによって2006年に発明された日本発の技術である.2).その後,OCTAは登場から20年,製品化から10年以上が経過し,普及が進んでいる.偏光OCTもOCTの機能拡張の1種であり,光の振動方向である偏光が特定の生体組織で変化することをコントラスト源として利用するOCTである.通常のOCTと同様に3,4),偏光OCTも技術的シーズにより誕生した.5).初のFourierドメイン偏光OCTは,筑波大学の安野らによって2002年に開発された.6).その翌年,タイムドメイン方式に対するFourierドメイン方式の原理的優位性がウィーン医科大学とハーバード大学によって証明され,現在のOCTの技術的な礎が築かれた7,8).OCTのFourierドメイン方式への移行に対し多大な貢献を行ったこれら3施設が,同時に偏光OCTのパイオニアでもあったことは.9),偶然ではなく必然である.なぜなら,通常のOCTそのものが偏光感受性をもち,画像コントラストは偏光依存性をもつゆえに,OCTと偏光は切っても切り離せない関係があるためである.したがって,偏光依存性のないOCT画像を提供すること,および偏光依存性をOCTの画像コントラストに活用することは,OCTの技術的発展においてきわめて自然な成り行きであった.しかし,実際にどのように活用できるかについては,偏光顕微鏡による先例が参考になったものの,深さ分解できる偏光測定は先例がなく,原理開発と応用開拓の両方について手探りで進んできた.筆者らは筑波大学でスペクトルドメイン方式の偏光OCT.10),波長掃引方式の偏光OCTを開発し11,12),その後も民間企業で偏光OCTの新型干渉計開発.13)や多変量最尤推定法の導入による偏光コントラストの高画質化.14)に取り組んできた.これらは日本のさまざまな公的研究支援制度を活用して得られた成果であり,偏光OCTの開発において日本は世界の名だたる研究機関と肩を並べ,この分野をリードしてきた.一方で,偏光OCTは技術的難易度が高いために理工系の研究機関のなかでもごく一握りが開発しており,臨床研究が可能な研究機関はきわめて限られていた.しかし近年,筆者の所属機関から臨床用として世界初の偏光OCT商用機が発売され,臨床研究も年を追うごとに増加している.このように,初期開発者から初期採用層へと徐々に広まりつつある偏光OCTではあるが,現時点で偏光OCTは研究機関を中心に用いられている技術であり,.*MasahiroYamanari:株式会社トーメーコーポレーション技術部,東京科学大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕山成正宏:〒451-0053愛知県名古屋市西区枇杷島3-12-7株式会社トーメーコーポレーション技術部(1)(31)8810910-1810/26/\100/頁/JCOPYaEybEyEXEXZZ図1偏光状態の模式図光の進行方向zに垂直な面内2成分Ex,Eyの振幅とそれら間の位相差で偏光状態は記述できる.例として斜め45°直線偏光(a),円偏光(b)を示す.-=図2光干渉と偏光の基本的な関係を端的に示す模式図a:測定対象物からの光の偏光を示す.光干渉を発生させる前である.b,c:水平または垂直偏光を参照光として合波させ,得られる光干渉縞を示したもの.aで示していた光がもつ数百THzの振動は省略しているが,実際にその振動が消えたわけではなく,数百THzの振動に対し光干渉で振幅変調された低周波の信号のみを簡略的に図示していることに注意.d:b,cの光干渉縞の包絡線をとり2乗して得られるOCT強度.3.偏光OCTの各種コントラスト前節で説明したアーチファクトは通常のOCTが偏光感受性をもっているから発生する現象であり,PD検出機構を備えた偏光OCTでは図2のような信号処理をすることで防ぐことができる.このことを示したのが図3である.図3a,bはPDなしのOCT強度であり,通常のOCTを模した画像である.図3a,bの→で示す部分に,それぞれSchlemm管様アーチファクトまたは強膜内血管様アーチファクトが見える.それらに対し,図3c,dに示されるPDありのOCT強度では図3a,bのような管腔状構造はみられない.すなわち,偏光OCTは通常のOCTよりも正確なOCT強度画像を提供できる.さらに,偏光OCTは偏光情報をさまざまな形で信号処理することで,通常のOCTでは得られない画像コントラストを得ることができる.代表的なものが複屈折と偏光解消性であり,それぞれ図3a,bおよびg,hに示す.複屈折とは,偏光に依存した屈折率をもつ媒質の性質をさす.生体においては神経線維やコラーゲン線維が複屈折をもつことが知られており,線維密度や配向性が高いほど複屈折は強い.19).図3aでアーチファクトがみられた領域は複屈折が強いことが図3eでわかる.16).この輪部と線維柱帯の間に位置する強膜の線維密度は高いことが知られており.20),生体力学的観点からどのような役割をもつのか,今後の研究が待たれる.同様に,図3bの視神経乳頭近傍強膜でアーチファクトがみられた領域は複屈折が強いことが図3fでわかる.偏光解消性とは,光の偏光状態または測定対象の偏光特性がランダムになる現象や性質をさす.一般に偏光解消性には時間的・空間的な乱雑さが原因として存在するが,偏光OCTにおける偏光解消性は空間的な乱雑さを評価する.21).偏光解消性を数値化する指標にはさまざまな種類があるが,図3g,hの偏光解消性は偏光エントロピーとよばれる指標で,0は完全に均一な偏光特性を意味し,1は完全にランダムな偏光特性を意味する.一般に生体で計測される偏光エントロピーは0と1の間の中間的な値を示し,定量的コントラストとして利用できる.生体内で偏光解消性を示す代表的なものはメラニン色素である.22).メラニン懸濁液の希釈濃度を変化させて測定した偏光エントロピーは濃度と高い相関を示し,定量的尺度として有用であることが以前の研究で示された.23).図3gでは毛様体や虹彩色素上皮,図3hでは網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)や脈絡膜といったメラニン色素を含む組織で偏光エントロピーが高いことがわかる.II偏光OCTの眼科応用1.緑内障の評価と術後管理a.網膜神経線維層の評価緑内障は網膜神経節細胞とその軸索からなる網膜神経線維層(retinalnerve.berlayer:RNFL)が障害される疾患だが,偏光OCTを用いることで,従来のRNFLの厚みという形態的評価にRNFLの複屈折という微細構造を反映した評価を加えることができる.RNFLが示す複屈折は,おもに網膜神経節細胞の軸索内に平行に走る微小管(microtubules)などの細胞骨格構造に由来する.24).緑内障の進行過程において,RNFLの厚みが減少し組織が失われる前から微小管の破壊といった細胞骨格レベルの微細な構造変化が先行して起こる,という仮説がある.25).どの程度有効な早期指標になるかまではまだ明らかではないため.26),さらなる研究が待たれる.また,RNFLの複屈折は重度の緑内障評価にも有用である可能性がある.従来のOCTを用いたRNFL厚の測定は,緑内障が重症化してRNFLが極端に薄くなると,網膜の血管組織などの影響を受けて画像セグメンテーションが不正確になりやすい.偏光OCTが測定するRNFLの複屈折は画像セグメンテーションの影響を限定的にできるため,重度の緑内障においても視野欠損の進行度と強く相関し,より信頼性の高い構造評価の指標となる可能性がある.27).b.濾過胞の評価線維柱帯切除術などの緑内障濾過手術では,眼圧を下げるために房水を結膜下に導く濾過胞を形成する.濾過胞が機能しなくなるおもな原因は,創傷治癒反応による濾過胞壁の瘢痕化である.高度に組織化されたコラーゲン線維を含む瘢痕組織は強い複屈折を示すため,偏光OCTを用いることで濾過胞内部の瘢痕化を非侵襲的に検出できる.機能が良好な濾過胞は複屈折が低く,機能884あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(34)前眼部眼底OCT強度(PDなし)OCT強度(PDあり)複屈折の大きさ偏光解消性図3生体の複屈折によるアーチファクトと偏光OCTコントラストそれぞれの断層画像を前眼部隅角近傍(左列)と眼底視神経乳頭近傍(右列)について示す.a,b:偏光ダイバーシティ(PD)なしのOCT強度.c,d:PDありのOCT強度.e,f:複屈折の大きさを示す局所位相遅延量.g,h:偏光解消性を示す偏光エントロピー.不全の濾過胞では強い複屈折が認められる.偏光COCTによる経過観察により,手術後1カ月といった比較的早期の段階で現れる軽度な複屈折増加(軽度な線維化)を検出することで,その後の眼圧上昇や濾過胞の機能不全を予測できる可能性がある28.30).また,濾過胞壁のどの部分に瘢痕組織が存在し,癒着して房水流出を妨げているのかを可視化できるため,濾過胞再建術など追加治療の戦略を練るうえで有用と考えられる.31).C2.AMDやRPE関連疾患の評価a.RPEのセグメンテーションとメラニン評価RPE細胞内にはメラニン顆粒が豊富に存在し,これが偏光解消性を示す.偏光COCTでは,偏光均一度(degreeCofpolarizationCuniformity:DOPU)や前述の偏光エントロピーといった指標を用いることで偏光解消性を定量化し,RPEを周囲の網膜層や病変から自動的かつ特異的に抽出できる.たとえば萎縮型CAMDの評価.32),漿液性網膜色素上皮.離におけるCRPE-Bruch膜の微小な損傷やメラニンの欠損の検出.33),Chyperre.ectivefoci(HRF)として知られる遊走したRPEの観察34,35),RPEapertureの構造と機能の多角的評価.36)など,AMDに対する応用は多岐にわたる.また,血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)を抑制する抗CVEGF薬投与の経過に伴うRPEの質的変化を示唆する報告があり37,38),AMD治療に対する偏光COCTを用いたモニタリングの可能性についても研究の進展が期待される.Cb.網膜下線維化の検出滲出型CAMDの末期に網膜下に形成される線維性瘢痕の検出は,AMDの活動性の有無や視力への影響を客観的に判断するうえで重要である.この線維性瘢痕は高度に組織化されたコラーゲン線維を主成分とするため強い複屈折を示す.従来のCOCTでは,網膜下の高輝度物質(subretinalChyperre.ectiveCmaterial:SHRM)のなかに含まれる新生血管,血液,滲出物,そして線維化組織を区別することは困難だった.偏光COCTはCSHRMのうち複屈折を示す部分のみを線維性瘢痕として検出できるため,滲出型CAMDの状態を把握するために役立つ可能性がある39,40).Robertsらは,非線維性の滲出物が線維性瘢痕へと移行するCangio.broticswitchのプロセスを偏光COCTを用いて早期かつ客観的に捉え,治療効果の判定に貢献できる可能性を示した.41).このように偏光OCTは,メラニンによる偏光解消性とコラーゲンによる複屈折という特異的なコントラストを提供することで,従来のCOCTで行われてきたCAMDの病態評価を精緻化し発展させる可能性をもっている.Cc.RPRPの進行モニタリングでは,従来おもにリポフスチン由来の短波長自発蛍光(short-wavelengthauto.uorescence:SW-AF)やメラニン由来の近赤外自発蛍光(near-infraredauto.uorescence:NIR-AF)が用いられてきた.しかし,AFイメージングは深さ分解能に欠け,RPEだけでなく視細胞層や脈絡膜からの蛍光も混在するという限界があった.偏光COCTを用いることで,RPEを層特異的に検出し,RPEメラニンのみの分布を正確かつ定量的に評価することが可能である.また,NIR-AF画像では周辺部に向かって信号強度が急激に消失する傾向がみられる症例でも,偏光COCTで測定される偏光エントロピーの低下は比較的緩やかであることが確認されている(図4).42).NIR-AFも偏光OCTの偏光解消性もおもにメラニンを検出していることは間違いないが,このようなコントラストの違いの要因が今後の研究で明らかになれば,両方の装置を相補的に活用することで,さらに詳細な病態の把握につながることが期待される.また,RP患者およびCAMD患者に対して人工多能性幹細胞(inducedCpluripotentCstemcell:iPSC)由来RPEを移植した臨床研究において,偏光COCTが移植細胞の評価に活用されている.偏光COCTは,移植されたiPSC-RPEがもつメラニンに由来する高偏光エントロピー領域を抽出することで,網膜下でCiPSC-RPEが拡大・生着していく様子を特異的かつ三次元的に可視化・定量化することに成功した.43).このように,偏光COCTを用いたCRPEのセグメンテーションとメラニン評価は,AMDやCRPの病態理解に貢献するだけでなく,次世代の細胞治療における移植細胞の非侵襲的なモニタリング指標としても重要な役割を果たすと期待されている.886あたらしい眼科Vol.C43,No.8,2026(36)図4網膜色素変性(RP)のマルチモーダル眼底イメージングの代表的画像a:Short-wavelengthauto.uorescence(SW-AF)画像.Cb:Near-infraredAF(NIR-AF)画像.Cc:偏光COCTによる偏光エントロピーCBスキャン画像.Cd:RPEの偏光エントロピーを抽出したCenface画像.白線はCcの位置を示す.〔文献C42からCCC-BY4.0(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)のもとに引用〕図5正常眼の代表的な偏光OCT画像a:OCT強度.Cb:偏光エントロピー.c:0.1以上の偏光エントロピーをCOCT強度画像に重畳した画像を示す.Cd~f:a~cそれぞれの拡大画像を示す.網膜外層内で高い偏光エントロピーが観察される(Ce,fの).〔文献C44からCCC-BY4.0(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)のもとに引用〕に,偏光COCTパラメータと機械学習を組みあわせることで,早期の円錐角膜を鑑別する精度が従来機器のみの場合よりも向上することが報告されている.49).また,角膜クロスリンキング(cornealcrosslinking:CXL)後の角膜実質におけるコラーゲン線維の架橋やリモデリングによる継時変化を,偏光COCT画像上の特徴的な偏光特性の変化として捉えた報告もある.50).このように偏光COCTは,円錐角膜診療において従来の角膜形状解析を補完し,コラーゲン線維レベルでの異常検出を間接的ながら可能にする.ごく初期の診断からCXLの治療経過観察まで,実臨床でどの程度有用となるかはさらなる研究が必要である.C6.病的近視と強膜の評価従来のCOCTは強膜の形状や厚みなどの形態的評価が限界であるのに対し,偏光COCTは強膜コラーゲン線維の密度と配向を反映した複屈折を通じて強膜の質的評価を可能にする.後部強膜の複屈折は,眼軸長が伸展する前から生じる強膜の微細な生体力学的変化を捉える可能性がある.51).Liuらは,近視が進行すると強膜線維の編み目状にさまざまな方向で折り重なった構造が変化し一方向に引き伸ばされて整列するため,強膜複屈折が上昇していると解釈している.そして強膜複屈折は,単純な強度近視から病的近視への進行リスクを予測する客観的なバイオマーカーとなる可能性が期待されている.また,偏光COCTは線維の走行方向の違いから乳頭周囲強膜を放射状に走行する内層と同心円状に走行する外層に明確に区別できる.52).病的近視に特徴的な局所的変形であるCdome-shapedmacula(DSM)や後部ぶどう腫の辺縁部では,強膜全体が均等に変化しているのではなく,内層の線維のみが局所的に凝集・肥厚し,外層を圧迫していると考えられることが偏光COCTによる観察で明らかとなった(図6)53,54).こうした強膜の詳細な層別の評価は,複雑な眼球変形のメカニズム解明に寄与すると期待される.以上のように,偏光COCTは病的近視における強膜の生体力学的な脆弱性に関連したコントラストを提供する.偏光COCTを用いた今後の研究により,眼球変形による合併症が起こる前の早期リスク判定や,後部強膜補強術といった治療介入の適切なタイミングの決定を補助する可能性など,さまざまな応用が期待される.CIIIまとめと臨床医向けメッセージ偏光COCTは,通常のCOCTに偏光をコントラスト源として加えることで,生体組織の構造の質を非侵襲的かつ定量的に評価できるイメージングモダリティである.コラーゲン線維の規則性は複屈折として,メラニン色素の分布は偏光解消性として画像化される.これらのコントラストを活用することで,通常のCOCTでは検出困難な組織の微細構造変化や質的変化を定量的に評価することが可能となる.本稿で述べたように,その応用範囲は幅広い.緑内障では,RNFLの厚みという従来の形態評価に加えて微小管レベルの変化を複屈折として捉えることで,形態評価だけではわからない微細構造の変化を検出できる.また,緑内障濾過手術後の濾過胞壁の瘢痕化を術後早期から客観的に評価し,追加治療の判断を支援できる可能性がある.AMDにおいては,偏光解消性によりCRPEをその周囲組織から特異的に抽出でき,萎縮範囲の定量評価,網膜下線維化の検出,抗CVEGF治療に伴うCRPEの質的変化のモニタリングなど,従来のCOCTでは困難であった評価が可能となる.網膜色素変性では,深さ分解されたメラニン評価によってCRPEの層特異的な変化を追跡できるほか,iPSC由来CRPE移植後の生着モニタリングへの応用も報告されており,次世代の細胞治療を支える評価方法の一つとして期待される.さらに,VKHにおける脈絡膜メラニンの深さ分解評価と鑑別診断への応用,円錐角膜の早期検出や角膜CCXL後の経過観察,病的近視における強膜の生体力学に関連した評価など,偏光COCTが貢献しうる疾患領域は眼科の広い分野に及ぶ.一方で,偏光COCTが日常診療において広く普及するためには,いくつかの課題が残る.現時点では使用可能な装置が臨床用とは言え研究機関向けに限られており,画像解析や解釈に一定の専門知識を要する面がある.しかし,偏光COCTに関する学術研究は年々増加し活発化しており,産業界でもさまざまな動きがみられる.日本発のCOCTAが登場からC20年,製品化からC10年以上を(39)あたらしい眼科Vol.C43,No.8,2026C889図6Dome-shapedmacula(DSM)の強度近視左眼の偏光OCT画像a:中心窩を通る水平方向の複屈折CBスキャン画像.乳頭と黄斑間の強膜線維がみられる.Cb:中心窩を通る垂直方向の複屈折CBスキャン画像はCDSMにおいて低複屈折(緑)をもち凝集・肥厚した強膜線維を示す.Cc:線維走行を示す複屈折軸画像において,相対的に厚い水平方向線維(青色)が広範囲にみられる.垂直方向線維(黄色)の薄い層が黄斑下の深層強膜にみられる.垂直方向線維が乳頭と黄斑の間の深層強膜にみられる.Cd:線維走行を示す複屈折軸の垂直Bスキャン画像において,DSMでは水平方向(青色)と斜め方向(赤紫色)の線維走行がみられる.それらの線維に対し深層の強膜では,垂直方向の線維(黄色)がみられる.その垂直方向の線維をもつ深層強膜は肥厚していないが凝集しているようにみえる.DSMに対し上方および下方の深層強膜はおもに垂直方向の線維(黄色)で構成される.〔文献C53からCCCCBYClicense(https://jamanetwork.com/pages/ccby-license-permissions)のもとに引用〕C–polarization-sensitiveCFourierCdomainCopticalCcoherenceCtomographyCusingCB-scan-orientedCpolarizationCmodula-tionCmethod.COptExpressC14:6502-6515,C200611)YamanariCM,CMakitaCS,CYasunoY:Polarization-sensitiveCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCwithCcontinu-ousCsourceCpolarizationCmodulation.COptExpressC16:5892-5906,C200812)YamanariCM,CLimCY,CMakitaCSCetal:VisualizationCofCphaseCretardationCofCdeepCposteriorCeyeCbyCpolarization-sensitiveCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCwithC1-micromCprobe.COptCExpressC17:12385-12396,C200913)YamanariCM,CUematsuCS,CIshiharaCKCetal:ParallelCdetec-tionCofCJones-matrixCelementsCinCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomography.CBiomedCOptCExpressC10:C2318-2336,C201914)YamanariCM,CTsudaCS,CKokubunCTCetal:EstimationCofCJonesCmatrix,CbirefringenceCandCentropyCusingCCloude-PottierCdecompositionCinCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomography.CBiomedCOptCExpressC7:3551-3573,C201615)山成正宏:OCT技術の基本を紐解こうC.視覚の科学C39:C37-44,C201816)UenoCY,CMoriCH,CKikuchiCKCetal:VisualizationCofCanteriorCchamberCangleCstructuresCwithCscattering-andCpolariza-tion-sensitiveCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomog-raphy.CTranslVisSciTechnolC10:29,C202117)MiuraCM,CMakitaCS,CYasunoCYCetal:Birefringence-derivedCscleralCartifactsCinCopticalCcoherenceCtomographyCimagesCofCeyesCwithCpathologicCmyopia.CSciCRepC12:C19713,C202218)MiuraCM,CMakitaCS,CYasunoCYCetal:Birefringence-derivedCartifactCinCopticalCcoherenceCtomographyCimagingCofCtheClaminaCcribrosaCinCeyesCwithCglaucoma.CSciCRepC13:17189,C202319)山成正宏:偏光感受型COCTのコントラストメカニズムと眼科応用C.日本レーザー医学会誌C45:432-443,C202520)CrowellCEL,CBakerCL,CChuangCAZCetal:CharacterizingCanteriorCsegmentCOCTCangleClandmarksCofCtheCtrabecularCmeshworkCcomplex.COphthalmologyC125:994-1002,C201821)山成正宏:偏光COCTによる偏光解消性測定の基礎知識C.視覚の科学C44:68-73,C202322)BaumannCB,CBaumannCSO,CKoneggerCTCetal:PolarizationCsensitiveCopticalCcoherenceCtomographyCofCmelaninCpro-videsCintrinsicCcontrastCbasedConCdepolarization.CBiomedCOptExpress3:1670-1683,C201223)YamanariCM,CMaseCM,CObataCRCetal:MelaninCconcentra-tionCandCdepolarizationCmetricsCmeasurementCbyCpolariza-tion-sensitiveCopticalCcoherenceCtomography.CSciRepC10:C19513,C202024)HuangCXR,CKnightonRW:MicrotubulesCcontributeCtoCtheCbirefringenceCofCtheCretinalCnerveC.berClayer.CInvestCOph-thalmolVisSciC46:4588-4593,C200525)CenseCB,CChenCTC,CParkCBHCetal:ThicknessCandCbire-fringenceCofChealthyCretinalCnerveC.berClayerCtissueCmea-suredCwithCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomog-raphy.CInvestOphthalmolVisSci45:2606-2612,C200426)SteinerCS,CSchwarzhansCF,CDesissaireCSCetal:BirefringentCpropertiesCofCtheCperipapillaryCretinalCnerveC.berClayerCinChealthyCandCglaucomaCsubjectsCanalyzedCbyCpolarization-sensitiveCOCT.CInvestOphthalmolVisSciC63:8,C202227)ParakkelCRR,CWongCD,CLiCCCetal:RetinalCnerveC.berClayerCdamageCassessmentCinCglaucomatousCeyesCusingCreti-nalCretardanceCmeasuredCbyCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomography.CTranslCVisCSciCTechnolC13:9,C202428)FukudaCS,CBeheregarayCS,CKasaragodCDCetal:Noninva-siveCevaluationCofCphaseCretardationCinCblebsCafterCglauco-maCsurgeryCusingCanteriorCsegmentCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC55:5200-5206,C201429)KasaragodCD,CFukudaCS,CUenoCYCetal:ObjectiveCevalua-tionCofCfunctionalityCofC.lteringCblebCbasedConCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomography.CInvestOphthalmolVisSciC57:2305-2310,C201630)FukudaCS,CFujitaCA,CKasaragodCDCetal:ComparisonCofCintensity,CphaseCretardation,CandClocalCbirefringenceCimagesCforC.lteringCblebsCusingCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomography.CSciRep8:7519,C201831)YamanariCM,CTsudaCS,CKokubunCTCetal:Fiber-basedCpolarization-sensitiveCOCTCforCbirefringenceCimagingCofCtheCanteriorCeyeCsegment.CBiomedCOptCExpress6:369-389,C201532)AhlersCC,CGotzingerCE,CPircherCMCetal:ImagingCofCtheCretinalCpigmentCepitheliumCinCage-relatedCmacularCdegen-erationCusingCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisCSciC51:2149-2157,C201033)MiuraCM,CMakitaCS,CAzumaCSCetal:EvaluationCofCfocalCdamageCinCtheCretinalCpigmentCepitheliumClayerCinCserousCretinalCpigmentCepitheliumCdetachment.CSciCRep9:3278,C201934)MiuraCM,CMakitaCS,CSugiyamaCSCetal:EvaluationCofCintra-retinalCmigrationCofCretinalCpigmentCepithelialCcellsCinCage-relatedCmacularCdegenerationCusingCpolarimetricCimaging.CSciRep7:3150,C201735)TeraoCR,CAokiCS,CKitamotoCKCetal:Quanti.cationCofChyperre.ectiveCfociCinCage-relatedCmacularCdegenerationCbyCpolarization-sensitiveCOCT.COphthalmolSciC5:100792,C202536)ObataCR,CYoshinagaCA,CYamamotoCMCetal:ImagingCofCaCretinalCpigmentCepitheliumCapertureCusingCpolarization-sensitiveCopticalCcoherenceCtomography.CJpnJOphthalmol65:30-41,C202037)SchutzeCC,CWedlCM,CBaumannCBCetal:ProgressionCofCreti-nalCpigmentCepithelialCatrophyCinCantiangiogenicCtherapyC(41)あたらしい眼科Vol.C43,No.8,2026C891-

前眼部三次元OCTと角膜疾患

2026年8月31日 月曜日

前眼部三次元OCTと角膜疾患NewInsightsintoCornealDiseasesUsingThree-DimensionalOCT(3D-OCT)山口剛史*はじめに医用画像技術の進歩は「記録」だけでなく,臨床現場で「可視化」と「定量化」の二つの意義から精密医療(precisionmedicine)を実現させてきた.角膜診療においても同様で,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)やScheimp.ug像の解析から,角膜混濁で見えなかった角膜深部や前房内構造などがはっきりと見えるようになり(可視化),細隙灯顕微鏡で漠然と混濁の程度を基準に行ってきた角膜治療評価が角膜光学データに変換可能になった(定量化).前眼部三次元OCTという日本が生んだ技術から,角膜混濁眼・円錐角膜眼をはじめメジャーな角膜疾患のトポグラフィパターン,および角膜収差や混濁の定量,特徴づけ研究が世界に先駆けて日本で行われてきた.特記すべきイノベーションは,海外でメジャーであるScheimp.ug型角膜形状解析では透明角膜に限られる解析が,わが国で独自に開発された前眼部三次元OCTを用いると混濁角膜の解析も可能になり,ほぼすべての角膜疾患において,混濁および収差の定量が可能になったことである.これらの研究を通じて,角膜疾患においてどのような不正乱視・混濁をどの程度きたすのか明らかになり,さらに疾患横断的に,治療前後のデータと視機能改善の程度とを組み合わせることで,たとえば角膜移植の適応や,術後視機能不良の原因検索,さらに術式別の収差量の比較などが可能になりつつある.本稿では,画像解析の基礎から明日からの診療の指針となる知見について紹介する.Iトモグラフィーと前眼部OCTOCTは,低コヒーレンス干渉法を用いて非接触的に眼球の高精細画像を取得する技術である.OCTは主として眼底三次元画像解析技術として普及してきたが,前眼部へ応用されることで,現在では角膜および前眼部の臨床評価に欠かせない評価法となっている.トモグラフィー(tomography,断層撮影法)はギリシャ語の「切り分ける」(tomos)と「描写する」(graphin)を語源とし,スキャニングスリット光線技術を用いたORB-SCANⅡ(ボシュロム)やシャインプルーフ技術を用いたPentacam(OCULUS),前眼部OCTであるCASIA2(トーメーコーポレーション)などによって得られる断層画像をさす.角膜の断層像を評価することで,角膜構造(菲薄化の部位や角膜厚分布),病変(浸潤,沈着,瘢痕など)の深さと範囲だけでなく,隅角構造や前房深度,虹彩構造,水晶体などを含めた前眼部全体の空間的かつ経時的な評価が非侵襲的に可能となった.また,前眼部OCTは前眼部構造を画像化する点で超音波生体顕微鏡に類似するが,音波でなく光を用いるため,眼内の微細構造をきわめて高解像度で描写することができる.前眼部OCTの測定光には中心波長1,310nmの近赤外光が用いられ,検査時に強いまぶしさを感じにくい.そのため,小児や高齢者に対しても比較的容易に測定を*TakefumiYamaguchi:国際医療福祉大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕山口剛史:〒272-8513千葉県市川市菅野5-11-13国際医療福祉大学市川総合病院眼科(1)(21)8710910-1810/26/\100/頁/JCOPY角膜からの距離10mm20mm30mm40mmd図1前眼部三次元OCTを用いた角膜収差および混濁の定量化a.c:角膜屈折面(前面+後面)の位置情報を取得(a),16面について位置情報を再現し(b),仮想光線1,000本を用いた光線追跡法を用いると収差データになる(c).d:OCT輝度を極座標で示した部位取得し,角膜上皮(角膜前面から50.μm以内),角膜内皮(角膜後面から10.μm以内)とその間を角膜実質と定義すると,層別の解析が可能となる.=~図2円錐角膜中央の突出がある.図3角膜ヘルペスの治癒後の瘢痕瘢痕部に突出がある.図4緑膿菌感染後の瘢痕非対称パターンを呈している.図5Ⅲ型格子状角膜ジストロフィ瞳孔領直上の角膜実質深部の混濁に一致した角膜後面不正を認めた.このような症例では視力は悪い.ab図6針金による外傷性角膜瘢痕(a)とホッチキスによる穿孔性角膜外傷後の瘢痕(b)a:トポグラフィ所見は非対称パターンを呈する.b:円錐様トポグラフィ所見.弊,角膜血管侵入,眼瞼炎症,睫毛乱生を生じ,高度の視力障害をきたす症例が少なからず存在する.角膜トモグラフィー所見として,結膜上皮の角膜への侵入と肥厚,実質の菲薄化,実質混濁がみられる.Axialmapでは非対称パターンが多く,ついで上皮の肥厚を伴う突出パターン,ごく一部に平坦化パターンをきたすことが多いとされる12)(図7).このようなトポグラフィマップ異常に伴い,角膜不正乱視が増加し視力低下をきたすため,一部の症例では強膜レンズが視力矯正には有効とされている.ただし,一部の症例では角膜上皮が不安定であり涙液サイトカインの上昇など上皮欠損が実質融解,角膜穿孔をきたす素因もあるため,不用意な強膜レンズは注意を要する.事前の角膜不正乱視の評価に基づけば,強膜レンズの必要・不必要の鑑別ができる.強膜レンズの適正使用が視機能矯正にも重要であると考える.Cf.水疱性角膜症水疱性角膜症は,角膜内皮細胞の減少に伴う角膜実質浮腫をきたす疾患でこれまで浮腫による混濁が視力低下の原因と考えられてきた.しかし実際には,角膜内皮機能不全に伴う角膜浮腫による混濁の増加のみならず,さまざまな微小構造異常によって,角膜不正乱視が増加し,視機能低下に関与していることが明らかになってきた.その要因として,①角膜上皮のターンオーバー不全によるChotspot形成13),②実質浮腫の不均等性(上下の浮腫の差),③角膜内皮面の凹凸形成(局所的バリア機能破綻による深層実質浮腫)などがあげられる14).876あたらしい眼科Vol.C43,No.8,2026(26)図7Stevens-Johnson症候群(SJS)トポグラフィ所見で非対称パターンを呈する.また,角膜上皮異常(microcysticCchangeなど),角膜厚の不均一性,角膜後面異常を伴うことが多いことは,理論的にもCHCLでの矯正には向かないことを示唆する.治療は角膜内皮移植〔Descemet膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:DMEK)やCultra-thinDescemet膜.離角膜内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkerato-plasty:DSAEK)〕が選択されることが多い(図8).CIII角膜移植手術での応用角膜の光学特性を理解することは,角膜移植をはじめ角膜手術において最適な術後視機能を得るためにきわめて重要である.近年ではパーツ移植の技術向上に伴いその適応は拡大し,現在では角膜移植の多くをパーツ移植が占めるようになってきた.パーツ移植は全層角膜移植と比較し拒絶反応のリスクを低減できるだけでなく生体力学的に有利であり,不正乱視を抑制できるなど多くの利点を有する.一方で,パーツ移植後に角膜透明性が良好であるにもかかわらず,十分な視力改善が得られない症例が少なからず存在する.この原因はこれまで十分に明らかではなかったが,前眼部COCTによる断層画像解析によって,術後視機能を規定する重要な因子として角膜不正乱視が関与することが理解されるようになってきた.まず,どのような患者が角膜移植によって良好な視力改善を得られるのだろうか.筆者らは角膜移植後の視機能改善は術前の角膜不正乱視量に依存すると報告した15,16).つまり,術前の不正乱視が高度な例ほど視力改善が大きく,一方で術前角膜不正乱視が軽度な症例では,たとえ角膜混濁が除去されても視力改善が限定的であった.図9は疾患横断的に角膜不正乱視量を比較したものである.この図からさまざまな知見がみえてくる.まず,円錐角膜と同様の高度な角膜不正乱視が角膜ヘルペス,角膜感染後の瘢痕,SJS,角膜外傷後の瘢痕でも認められることがわかる.一方で,角膜混濁性疾患のなかでも角膜ジストロフィでは不正乱視量が比較的少ない.また,いずれの疾患においても角膜不正乱視量の標準偏差(standarddeviation:SD)が大きく,同一疾患であっても患者間の差が大きいことが示唆されている.さらに,これに全層角膜移植後の平均的な不正乱視量(点線)を重ねると新たな視点が得られる.円錐角膜や重症角膜ヘルペスでは,角膜移植により約半分に角膜不正乱視を減らすことができる.したがって,十分な視力回復が期待できる.一方で,格子状角膜ジストロフィや斑状角膜ジストロフィでは,もともとの不正乱視量が少ないため,単純な不正乱視改善余地は限られている.このことは,角膜移植をする際には,より一層術後の不正乱視を軽減する工夫が重要であること,さらに術前に角膜不正乱視量を評価することが不可欠であることを示唆している.とくに,わが国では角膜の提供が少なく,限られた医療資源を有効に活用するためにも適切な(27)あたらしい眼科Vol.C43,No.8,2026C877不正乱視量(total4mm)られ,角膜不正乱視が高度であるほど視力は低下する.た,角膜不正乱視量もごくわずかながらCDMEKが0.0DSAEKより少ないことも報告されている17).過去の臨床報告で,術後平均視力がCDMEKはC0.8,DSAEKは0.7と報告されている.水疱性角膜症でCDMEKとDSAEKのどちらを選択するかは,患者の原疾患や必要とされる術後視機能,それぞれの術式の利点・欠点を総合的に考慮して決定する必要がある.その際,術前後の図9疾患横断的な角膜不正乱視量の比較疾患横断的に角膜不正乱視量を比較し,全層角膜移植後の角膜不角膜不正乱視評価は,術式選択に有用な情報をもたらす正乱視量を重ねるとさまざまなことがみえてくる.Cと考えられる.さらに,健常な眼では角膜の前面と後面は互いに平行878あたらしい眼科Vol.C43,No.8,2C026(28)(mm)0.80.60.40.20.0全層角膜移植術後DSAEK後DMEK後図11角膜移植後の不正乱視で視力不良の症例DSAEKグラフトに皺が形成されると視力は(0.1)程度にとどまり,眼鏡やCCLによる矯正が不能である.不正乱視量(total4mm)水疱性角膜症正常眼図10角膜移植の術式ごとの術後不正乱視量(水疱性角膜症と正常眼のデータとの比較)水疱性角膜症を例に,術前の水疱性角膜症における角膜不正乱視と正常眼のグラフに,全層角膜移植後,Descemet膜.離角膜内皮移植術(DSAEK)後,Descemet膜角膜内皮移植術(DMEK)後の平均術後角膜不正乱視量をのせた.C–’C

網膜疾患と視機能

2026年8月31日 月曜日

網膜疾患と視機能RetinalDiseasesandVisualFunction岡本史樹*はじめにこの20年間で網膜疾患に対する治療は飛躍的な進歩を遂げた.硝子体手術の小切開化や広角観察システムの導入,内境界膜.離手技の確立,さらに抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法の登場により,網膜上膜(epiretinalmembrane:ERM),黄斑円孔(macularhole:MH),網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO),糖尿病網膜症(dia-beticretinopathy:DR),裂孔原性網膜.離(retinaldetachment:RD)など,多くの網膜疾患における解剖学的・機能的予後は大きく改善した.とくにERMや網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO),黄斑.離のないRDでは治療後視力が1.0まで改善する患者も増え,「見えるか,見えないか」という時代から,「どのように見えるか」を重視する時代へと変化している.従来,網膜疾患の治療成績は主として視力と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見で評価されてきたが,視力という因子は,視機能のなかの形態覚の一部を反映しているに過ぎない.実臨床では視力が良好であるにもかかわらず,「歪んで見える」「小さく見える」「はっきり見えない」「立体感がない」などの訴えを示す患者は少なくなく,これらは不定愁訴として片付けられがちである.しかし「歪んで見える=変視」「小さく見える=不等像視」「はっきり見えない=コントラスト感度」「立体感がない=立体視」というように,ある特定の視機能因子の障害として理解することができる.近年の研究により,これらの因子がそれぞれ独立した視機能因子として定量化可能であり,さらに患者の視覚に関連した生活の質(qualityoflife:QOL)と密接に関連することが明らかになってきた.しかもこれら視機能やQOLに関する臨床研究は日本が世界をリードしている分野である.本稿では,網膜疾患における重要な視機能因子である変視,不等像視,コントラスト感度を中心に,その病態,網膜構造との関連,治療による変化,さらにQOLとの関連について概説する.I変視1.概要変視とは,物体の形状が実際とは異なって歪んで見える症状であり,黄斑疾患患者がもっとも頻繁に訴える視覚異常の一つである1).患者は「直線が曲がって見える」「文字が歪む」「人の顔が傾いて見える」などと表現する.変視の評価には従来Amslergridが用いられてきたが,定量性に乏しく経時的評価を行うには限界があった.現在では日本で開発されたM-CHARTSを用いた定量評価が世界に普及しており,変視を数値化することが可能となった.2.ERMと変視ERMは変視をもっとも強く呈する代表的疾患である.患者の約80.90%が変視を自覚し,その程度は他の網*FumikiOkamoto:日本医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕岡本史樹:〒113-8603東京都文京区千駄木1-1-5日本医科大学眼科学教室(1)(15)8650910-1810/26/\100/頁/JCOPYab図1網膜上膜(ERM)患者が見た世界a:電柱や電線が細くなったり曲がったりしている.Cb:エスカレーターのステップの模様が歪んでいる.ab図2黄斑円孔(MH)患者が見た世界a:障子の桟が細くなったり曲がったりしている.Cb:バスを正面から見ると、中心に引き込まれて見える.図3黄斑.離を伴う裂孔原性網膜.離(RD)の術後OCT画像の経時変化a,b:術前視力は(0.1),術後視力は(0.7)まで改善した.術後一過性の.胞様黄斑浮腫を認め,-10%の高度な小視症を呈した.c:術後C6カ月に黄斑浮腫は消退したものの,-10.5%の小視症は残存した.増殖糖尿病網膜症5.4文字糖尿病黄斑浮腫9.2文字黄斑円孔14.3文字網膜上膜15.0文字網膜静脈分岐閉塞症15.0文字網膜.離術後17.4文字正常24文字図4さまざまな網膜疾患の治療前における文字コントラスト感度の平均値視標の大きさは小数視力でC0.08である.にもかかわらず各疾患はC○で示す視標よりも薄い文字は判別できない.=–