EssilorStellestによる近視管理MyopiaManagementUsingEssilorStellestLenses松村沙衣子*IStellestの原理近視は単なる屈折異常ではなく,眼軸長の過剰伸長により強度近視に進展すると近視性黄斑症,網膜.離,緑内障などの重篤な視機能障害リスクが増大する.現在は近視有病率の増加や近視発症の低年齢化から,世界中において小児期の近視進行抑制が医学的・社会的急務である.そのなかで,近視進行抑制治療として臨床的有用性が示された治療法の一つに,近視管理用眼鏡(多分割レンズ)が位置づけられている.Stellestは,近視進行抑制を目的に開発された近視管理用眼鏡レンズであり,highlyasphericallenslettarget(HALT)テクノロジーを採用している.ステレストは中央9mmに単焦点矯正ゾーンを有し,周辺部には11リングにわたり配置された多数の高度非球面レンズレットを組み込む構造で,レンズ全体として1,021個の高プラスレンズレットを配置している(図1).眼鏡は,コンタクトレンズ(contactlens:CL)治療に比べ侵襲性が低く,装用ハードルが低い一方で,従来の単焦点眼鏡(single-visionlens:SVL)は中心視の矯正はできても,周辺網膜上での像位置(周辺デフォーカス)を十分に制御できず,眼軸伸長が生じるという限界があった.HALTテクノロジーの概念的特徴は,周辺網膜に近視性デフォーカスを付加するという設計であり,これにより,中心視の視力を保ちつつ,周辺網膜領域に対して眼軸伸長を抑制する視覚刺激を与えることで,近視進行抑制効果が得られると考えられている(図2).近視性デフォーカスによる眼軸伸長抑制は,動物モデルや臨床研究により支持されてきた理論であり,網膜上に提示される焦点位置が眼球成長を制御する重要な因子であることが示されている.さらに,レンズレットの強さ(asphericity)が異なる設計(highlyasphericallens-lets:HAL,slightlyasphericallenslets:SAL)を比較することで,デフォーカス量の違いが治療効果の差につながるという用量反応(dose-response)が示されている.中国・温州で実施された二重盲検RCTにて,8~13歳の近視児にHAL,SAL,通常SVLを2年間装用させ比較した.その結果,HALとSALはいずれもSVLより近視進行(sphericalequivalentrefraction:SER)と眼軸長伸展を有意に抑制し,効果はHALでより大きかったことが報告されている1).IIStellestの近視進行抑制効果1.StellestのRCTの有効性Stellestに関しては,複数のランダム化比較試験(ran-domizedcontrolledtrial:RCT)で有効性が示されている.もっとも重要なエビデンスは,中国・温州で実施された二重盲検3群RCT(2年)である.対象は.0.75Dから.4.75Dの近視をもつ8~13歳の小児であり,157名が完遂した1).脱落はHAL3.6%,SAL5.4%,SVL7.3*SaikoMatsumura:東邦大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕松村沙衣子:〒143-8540東京都大田区大森西6-11-1東邦大学医学部眼科学講座(1)(45)5170910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1Highlyasphericallenslettarget(HALT)レンズ9.0mmの中心領域のクリアゾーンは遠方の屈折異常を矯正し,周辺には高次非球面微小レンズ1,021個を11リングに配置したデザインである.(画像提供:Essilor)図2HALTレンズの近視進行抑制HALTテクノロジーは,中心視の視力を保ちつつ,周辺網膜領域に対して眼軸伸長を抑制する近視性デフォーカスを付加するという設計である.(画像提供:Essilor)a(D)0b(mm)0.8等価球面度数変化量-0.40.6眼軸長変化量0.40.2-0.8-1.2-1.60061218(月)24061218(月)24時間時間図3HALTレンズの二重盲検3群RCT(2年)の結果a:2年間の近視進行はChighlyCasphericallenslets(HAL)C.0.66D,slightlyCasphericallenslets(SAL)C.1.04D,single-visionlens(SVL)C.1.46Dであり,HALはCSVLよりC0.80D,SALはC0.42D有意に抑制した.Cb:2年間の眼軸長伸長はCHAL0.34Cmm,SAL0.51mm,SVL0.69Cmmであり,HALはCSVLよりC0.35Cmm有意に抑制した.(文献C1より改変引用)処方可能であり,強度近視家族歴や本人・家族の希望が強い場合も適応となりうる.眼鏡の作製範囲は球面度数+2.00D~.12D,円柱度数≦C.4Dである.C3.禁忌または慎重処方両眼視機能異常(斜視・弱視・眼振など),調節異常(偽近視含む),症候群や眼疾患に伴う近視,二次性近視,円錐角膜,先天白内障術後などは原則禁忌であり,不同視は慎重判断が必要とされる.C4.処方前検査(推奨される評価項目)・問診(既往歴,家族歴,近視発症年齢・進行速度,治療歴)・屈折検査(他覚・自覚)・視力検査(裸眼・矯正,近見も含む)・遮閉試験(遠方・近方)・調節麻痺下屈折検査・眼軸長測定(推奨)・両眼視機能評価(Bagolini線状レンズ,立体視など)・追加検査〔細隙灯顕微鏡,眼底検査,必要に応じ光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)など〕調節麻痺はシクロペントラートC1%をC2回点眼後C45~60分を推奨している.これは,近視進行評価の精度確保のためきわめて重要であり,非調節麻痺下オートレフのみでは誤差が大きくなる可能性が示唆されている.BaoらによるC1年報告では,HAL,SALとCSVLのC3群間で近見視力や斜位,調節ラグに差がなかったことが示されているが,とくに近見時の両眼視異常(輻湊不全,外斜位優位)や調節ラグが強い場合は,近業時の症状や装用継続性に影響しうる可能性があるため,初回に眼位評価や両眼視機能を評価することは重要である.C5.Stellestの推奨眼鏡フレーム推奨される眼鏡フレームは,頻繁な調整にも耐えられる金属製またはプラスチック製のフルリムフレームが望ましい.サイズは瞳孔中心がフレーム開口部の中央付近に位置するものが適しており,レンズ全体が枠内に収まる必要はないが,上眼瞼を十分に覆える高さを確保したフレーム(垂直幅C30~38Cmm程度)が推奨される.CIVStellestの定期検査のチェックポイント装用開始後の経過観察をC2週間後,その後はC6カ月ごとに行うことを基本としている.C1.装用開始2週間後この時点では適応評価が重要であり,視力低下・眼精疲労・頭痛などの有無,装用時間(1日C12時間以上,毎日),レンズ度数の適切性,センタリングを確認する.過矯正の除外をするために,単なるレンズ度数測定ではなく,装用下で自覚的屈折やオーバーレフを推奨される.とくに重要なのは,フィッティング確認であり,Stellestはレンズレット構造を用いるため,視線が中心ゾーンからはずれた状態が続くと,コントラストの低下より装用離脱にもつながる.フレームのフィッティングとレンズ中心(瞳孔中心)合わせを丁寧に行い,装用時の違和感・視覚症状(ぼやけ,ピント調整困難,複視など)を拾い上げる.C2.6カ月ごとのフォローアップ6カ月ごとの定期検査では,2週間後と同様,症状確認に加え,調節麻痺下屈折値や眼軸長測定による治療評価が推奨される.8歳未満や進行が速い場合には,受診ごとに視機能評価を行うことが望ましいとされる.C3.レンズ交換の基準片眼または両眼で等価球面度数が.0.50Dを超えて進行した場合は,レンズ交換を検討する.経済的負担も考慮し,購入日からC6カ月以内であればC1回の保証交換制度を活用することが望ましい.さらに,Stellestの効果を最大化するにはクリアゾーン中心が瞳孔中心に一致することが重要であり,センタリング許容範囲は水平・垂直ともにC1Cmm以下とされる.この条件を満たさない場合は,再加工やフレーム調整を行う.C4.治療抵抗性の確認一定期間経過しても近視進行が十分に抑制されない場合は,装用時間不足,フィッティング不良や中心ズレ,520あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026(48)近業過多・屋外活動不足などの環境因子を順に確認する.これらを改善しても効果が不十分な場合には,低濃度アトロピン点眼との併用療法も検討する.C5.治療終了の考え方近視管理用眼鏡は現時点のエビデンスでは中止後のリバウンドは生じにくく,理由を問わず中止可能とされている.一方で,近視進行が停止するまで継続することが望ましく,一般に進行停止の目安はC18歳C±2歳とされる.6カ月ごとのフォローアップで屈折度数や眼軸長に変化がC2回連続して認められない場合は装用終了を検討し,代替となる屈折矯正法(SVL,累進屈折力眼鏡,CLなど)を提示する.終了後も可能であればC6カ月ごとに屈折度数と眼軸長を追跡し,再進行がみられた場合は装用再開を考慮する.CVStellestによるPremyopia(前近視)への介入エビデンス近視発症年齢の低年齢化が進むなか,近視発症前段階であるCPremyopia(前近視)において眼軸伸長を抑制し,近視発症を遅らせる戦略が報告されている.前近視は,調節麻痺下屈折値が>.0.50Dかつ≦+0.75Dであることに加え,両親の近視,屋外活動不足,過度な近業などの近視進行リスク因子を有する状態と定義される.屈折は近視域に至らないものの遠視リザーブ(hyperopicreserve)が乏しく,眼軸伸長が加速している集団であり,近視へ移行するリスクが高い.Stellestは,度なし(plano)設計を含めたCHAL技術を応用し,前近視段階から網膜に近視性デフォーカス刺激を与えることで眼軸伸長を抑制することを目的としている.Stellestの前近視に対する有効性については,RCTおよび実臨床データの双方から報告されている.Zhangらは,6.0~9.9歳の低遠視リザーブ小児(調節麻痺下屈折値C0.00~+2.00D)108名を対象にCHAL群とSVL群をC12カ月間比較するCRCTを実施した.全体解析では屈折変化および眼軸伸長に有意差は認められなかったが,装用時間を考慮した解析では週C30時間以上装用した群でCHAL群の眼軸伸長がCSVL群より有意に小さく(0.11CmmCvs0.27Cmm),装用時間が長いほど効果が高いCdose-response関係が示された6).さらにCWangらは,4~9歳の非近視児(調節麻痺下屈折値>.0.50Dかつ≦+0.75D)に対するCplanoHALの装用効果を後ろ向きに解析し,105名を対象に介入前後の眼軸伸長速度を比較した7).その結果,眼軸伸長速度は介入前の+0.44Cmm/年から介入後の+0.13Cmm/年へ低下し,年間差C.0.31Cmm/年と有意な抑制効果が示された.また装用時間が長いほど抑制効果が大きく,1日C6時間以上装用した群で眼軸伸長抑制がより顕著であった.以上より,Stellestは前近視小児においても,十分な装用時間が確保されれば眼軸伸長を抑制し,近視発症を遅らせる可能性が示唆される.CVI低濃度アトロピンとの併用療法近視進行抑制治療は単独療法では十分な抑制が得られない症例も存在し,近年は併用療法の有用性が報告されている.Simらの前向きコホート研究では,低濃度アトロピン(0.01%またはC0.025%)でC6カ月間にC0.5D以上進行したC6~11歳小児C50例に対し,ステレストを追加し経過を観察した8).その結果,併用開始前の進行は0.60D/0.24mm(6カ月)であったのに対し,併用後はC6カ月で.0.06D/0.06mm,12カ月でC.0.15D/0.14Cmmへと著明に抑制された.CVIIHALTの応用性HALTテクノロジーは,児童・生徒期近視の進行抑制に対して確立したエビデンスが蓄積されつつあるが,近年では「高リスク近視」や「特殊な病態に伴う近視」に対しても応用可能であることが示唆されている.C1.未熟児網膜症関連近視に対するHALTの有効性未熟児網膜症(retinopathyCofpremature:ROP)既往児に生じる近視は,一般的な児童・生徒期近視とは異なる特徴を持ち,強度近視へのリスクが高い9).前眼部の発育異常(角膜曲率の増加,前房の浅さ,水晶体厚増大,短眼軸長など)から起こる屈折性近視であり,児童・生徒期以降は眼軸伸長を伴う進行性近視として経過する症例も認められる.Parrozzaniらは,ROP既往を有する早産児における近視(myopiaCofprematurity:(49)あたらしい眼科Vol.43,No.5,2026C521等価球面度数変化量a0.300.23-0.50.20-10.0006(月)12612時間StandardlensesHALTlenses図4HALTレンズの未熟児網膜症既往の近視小児への有効性a:12カ月後の近視進行は単焦点群C.0.93±0.34Dに対し,HALT群C.0.32±0.20Dと有意に抑制された.Cb:眼軸長伸長は単焦点群C0.46C±0.09Cmmに対し,HALT群C0.12C±0.05Cmmと大幅に抑制された.(文献C10より改変引用)–