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総説:眼科の先生方にお伝えしたいGIP/GLP-1 dual agonistチルゼパチド

2026年6月30日 火曜日

あたらしい眼科43(6):653.658,2026c第30回日本糖尿病眼学会総会特別講演(内科)眼科の先生方にお伝えしたいGIP/GLP-1dualagonistチルゼパチドUnderstandingTirzepatide:Mechanism,Bene.ts,andClinicalApplication大西由希子*はじめに以下は第30回日本糖尿病眼学会総会特別講演2でお話しさせていただいた内容をまとめたものである.I朝日生命成人病研究所の紹介筆者の勤務する公益財団法人朝日生命成人病研究所は,朝日生命保険相互会社の創業70周年記念事業のひとつとして,社会福祉に貢献することを目的に1960年に設立された.その後,朝日生命糖尿病研究所の開設,成人病研究所との合併を経て,2011年以降は現在の中央区日本橋馬喰町の朝日生命ビル内で「医学研究と最適な診療で社会に貢献する」という理念と「一人ひとりの“生きる”を支え,健康寿命の延伸に寄与する」というビジョンのもと研究と診療を行っている.糖尿病を中心とする患者が毎月約3,000人受診する施設で,2023年医学会総会の会頭だった春日雅人所長のもと糖尿病内科,循環器内科,消化器内科の常勤医がいる.外来患者の8割以上が糖尿病患者という特殊な施設なので,非常勤だが眼科の先生に毎日糖尿病網膜症のスクリーニングおよび治療を手伝っている.そのおかげでほぼすべての糖尿病患者は眼底検査を定期的に受診することができる環境となっている.糖尿病患者は受付後に体重,血圧を測定したのち耳朶血にて血糖値とHbA1cを検査して,その日のデータをもとに糖尿病専門医が診療を行っている.また,当院に勤務しながら最先端の研究をされた先生がたが,全国で内分泌糖尿病代謝の大学教授としてご活躍されている.当院の診療の特徴のひとつに「学習入院」がある.「学習入院」とはいわゆる糖尿病教育入院である.当院ではおいしい糖尿病食の提供に力を入れている.恥ずかしながら筆者自身も朝日生命成人病研究所に就職するまでは「糖尿病食=まずい」と思っていた.しかし,当院の糖尿病食は出汁や香辛料などを駆使した丁寧な調理で患者からおいしいとの評価をいただいている.筆者も当直の際に検食するが,実際とてもおいしい.入院すると,糖尿病教室があり,午前1時間は医師が,午後1時間は看護師,栄養士,薬剤師,検査技師で糖尿病療養指導士の資格をもつスタッフが対面の糖尿病教室の授業を毎日行っている.また,2023年は病棟をリニューアルし,入院中に運動療法も実施してもらえるよう,運動マシンも3種類導入した.20代から80代までさまざまな世代の患者が安全に運動してもらえるように負荷を変更できる油圧式の運動機器もある.また,入院中にオンラインで仕事ができるようWi-Fiを整備するとともに簡素だがデスクワークスペースも設けた.学習入院をしてもらえると,糖尿病教室などを通じて糖尿病の病態,合併症,治療を理解できるようになるだけでなく,食事療法・運動療法を実践したりおいしい糖尿病食を食べたりといった生活習慣の改善に伴って血糖値も日々改善していくことも実感してもらえる.また,入院している患者同士の情報交換により,実体験に基づく病気との付き合い方を知ることで治療への取り組みも積極的になる患者が多い.*YukikoOnishi:朝日生命成人病研究所附属医院糖尿病内科〔別刷請求先〕大西由希子:〒103-0002東京都中央区日本橋馬喰町2-2-6朝日生命成人病研究所附属医院糖尿病内科0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(59)653図1糖尿病治療の目標(糖尿病ガイドラインより引用)II糖尿病治療の目標糖尿病治療の目的は,糖尿病のない人と変わらない寿命とCQOLをめざすことにある(図1).C1.寿命と併発かつて糖尿病患者は寿命がC10年短いといわれていた.その根拠となったのは日本糖尿病学会が定期的に実施している「糖尿病患者の死因に関するアンケート調査」と考えられる.2016年の同調査によると,糖尿病患者の平均死亡年齢は男性C71.4歳,女性C75.1歳だった1).当時の日本人C0歳平均余命は男性C79.6歳,女性C86.3歳だったため,その差はたしかに約C10年となる.しかし,これは直接比較できる指標ではない.はたして糖尿病患者は本当に寿命が短いのだろうか.別の調査では日本人のC40歳平均余命は非糖尿病患者と糖尿病患者それぞれで男性はC41年とC32年,女性はC48年とC41年でやはりC7.9年差があると報告している2).では糖尿病患者の死因のC1位はというと悪性新生物,つまり癌である.厚生労働省の疾患基礎調査「NIPPONDATA80」によると,糖尿病があると大腸癌,肝臓癌,膵臓癌,胆管癌のリスクが約C1.5.2倍という報告がある2).したがって,糖尿病患者の主治医は血糖,血圧,脂質,体重のマネージメントや禁煙指導にとどまらず,がん検診の受診を促すことで悪性腫瘍を早期発見早期治療して死因にしないことが大事である.一般的ながん検診にとどまらず,腹部エコーなどでハイリスクとされる膵.胞や脂肪肝などのフォローにも配慮した診療が必要である.私見だが,糖尿病は一病息災という言葉にふさわしい疾患だと思う.1.2カ月に一度,定期的に糖尿病外来に通院していると「そういえば,がん検診受けましたか?」などと主治医からリマインドされたり,少し体調不良があるときにすぐに主治医に相談できたりして,いろいろな糖尿病以外の病気の早期発見早期治療につながると思われる.当院の糖尿病患者の死亡年齢を調べたC2020年の研究報告では,40歳平均余命が男性C39年,女性C44年であり,糖尿病のない人と数年しか差がなかった3).さらに今年発表されたばかりの最新の糖尿病の死因に関する日本糖尿病学会の報告によると,糖尿病患者の平均死亡年齢は前回調査から男性でC3.0年,女性でC2.2年高くなり,その伸びはC0歳平均余命の伸びよりも長くなっている.さらに非糖尿病患者の死亡年齢も同時に調査したところ,主たる死因では糖尿病があってもなくても死亡年齢は差がないことが報告された4).つまり糖尿病合併症が糖尿病患者の寿命を短縮しているとは限らないとも解釈できる.C2.スティグマもうひとつ,日本糖尿病学会の最近の取り組みをご紹介したい.それは糖尿病患者のスティグマについてである.スティグマとは特定の属性に対して刻まれる「負の烙印」とも訳され,誤った知識や情報が拡散することにより,対象となったものが精神的・物理的に困難な状況に陥ることをさす4).糖尿病患者のスティグマは精神的苦痛であるのみならず,血糖マネージメントにも影響することを筆者らは報告している5,6).したがって,糖尿病のある人が良好に血糖マネージメントをしつつ,糖尿病のない人と同じCQOLを得るにはスティグマをもたない正しい病気の理解が必要,ということである.そのためには日本糖尿病眼学会や日本糖尿病学会,日本糖尿病協会などが一丸となってアドボカシー活動を展開していくことが重要である.当院でも少しでも糖尿病患者のスティグマが減るようにと,教育入院から学習入院,栄養指導から栄養相談,といった言葉の見直しを進めている.以上述べたように,糖尿病診療では悪性疾患をはじめとする糖尿病併存症やスティグマを考慮した診療がとても大切である一方,食事運動療法とともに薬物療法は多くの患者で欠かせないものである.CIIIGLP-1受容体作動薬当院では糖尿病治療薬の開発に長くかかわってきた.現在広く使われているCDPP-4阻害薬,SGLT2阻害薬,速効性インスリン分泌促進薬,チアゾリジン薬,GLP-1受容体作動薬やインスリンアナログ製剤など糖尿病治療薬の治験を実施するとともに,糖尿病神経障害や肥満症の臨床試験にも参加してきた.そのなかでも血糖値依存的にインスリン分泌を促すインクレチンの作用を活かしたCDPP-4阻害薬,GLP-1受容体作動薬はC2型糖尿病の治療を大きく変えた.なかでも低血糖を起こさず強力な血糖降下作用をもつCGLP-1受容体作動薬は画期的な注射薬として登場した.1.GLP-受容体作動薬の開発インクレチンのひとつであるCGLP-1は食事摂取に伴い小腸から分泌され,血糖値依存的にインスリン分泌を促すとともに食欲を抑制する作用がある.ただし,半減期は短い.そこでその半減期が長くなるように開発されたのがCGLP-1アナログ製剤である.GLP-1の生理的作用をはるかに上回る濃度と作用時間を実現することにより,血糖降下作用のみならず,食欲抑制作用も期待できる.そのため,当初は糖尿病治療薬として開発されたが,食欲抑制作用を利用した肥満症治療薬としての開発が進んだ.現在はセマグルチドが肥満症の治療薬として日本でも承認されている.GLP-1受容体作動薬はペプチド製剤であるため注射治療であったが,sodiumCN-[8-(2-hydroxybenzoyl)Caminocaprylate]通称CSNACとよばれる吸収促進剤とセマグルチドを配合することによって経口投与が可能となった.注射薬が経口薬になったことは画期的で,注射治療に対して強い抵抗を感じる患者には福音となった.しかし,経口セマグルチドの服薬には注意が必要で,起床後すぐなどの空腹状態でコップ半分くらいの水で服用し,その後C30分以上経過し薬剤の吸収を待ってから食事をしなければ薬剤有効性が落ちてしまう.実際の診療では,毎朝上記のような制限があるよりは週C1回の注射のほうがよい,という選択をする患者もいる.このように発売当初,毎日C1.2回注射することが必要だったGLP-1受容体作動薬が今は週C1回の注射,あるいは毎日の内服など投与頻度や投与経路の選択肢が広くなった.C2.非ペプチドGLP-1受容体作動薬の開発さらに,まだ治験の段階だが,非ペプチドCGLP-1受容体作動薬の開発も進んでいる.ペプチドではないことにより,注射投与の必要もなく,また経口セマグルチドのような服薬制限もなく一般的な経口薬と同じようにして服薬すればよい.なかでもCorforglipronは中外製薬が創薬しイーライリリーが開発を継承し日本でもすでに第Ⅲ相試験が行われている.その血糖降下作用や体重減少効果は注射薬に劣らないことが第CIb相試験から明らかにされている7).CIVGIP/GLP-1受容体作動薬GLP-1受容体作動薬の開発とともに,もうひとつの(%)ベースラインからの平均変化量0.0-0.5-1.0-1.5-2.0-2.5-3.0-3.5-4.00412244052(週)全体集団ベースライン時の平均HbA1c:8.18%*********************************-2.37*********-2.82主要評価項目-1.29***-2.55期間チルゼパチド5mg群(n=158)チルゼパチド10mg群(n=156)チルゼパチド15mg群(n=159)デュラグルチド0.75mg群(n=159)図2HbA1cのベースラインから投与52週間の変化量の推移[副次評価項目]インクレチンであるCGIPとCGLP-1両方の受容体に作用する薬剤の開発も進んだ.それが今回の特別講演の依頼があったCGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドである.チルゼパチドはCGIP受容体への作用を主としながらもGLP-1受容体にも作用するCdualagonistである.その臨床成績は以下に述べるように,まるでCGLP-1受容体作動薬であるかのようだが,主たる刺激はCGIP受容体とされているのでCGLP-1受容体作動薬とは異なる種類の薬剤と考える.生理的濃度では肥満やインスリン抵抗性を誘導されるとされていたCGIPだが,薬理学的濃度になると肥満やインスリン抵抗性を逆に軽減することがわかり,糖尿病治療薬および肥満治療薬として期待されるようになった.現在は糖尿病治療薬として承認されている.C1.チルゼパチドの用量・用法チルゼパチドの維持用量は週C1回C5Cmg皮下注だが,処方開始の際には週C1回C2.5Cmgから開始し,4週間投与したのち,週C1回C5Cmgに増量する.効果や副作用によって適宜増減するが,週C1回C5Cmgで効果不十分な場合は,4週間以上の間隔でC2.5Cmgずつ増量し,最大用量は週C1回C15Cmgまで増量することができる.注射デバイスはC1回使い切りで,針の付けはずしがなく簡便で(文献C8より改変引用)ある.C2.チルゼパチドの国内臨床試験SURPASSJ-mono試験は,日本人成人C2型糖尿病患者へのチルゼパチド単独療法の有効性と安全性を評価する試験である8).被験者C636例を対象に,チルゼパチド5Cmg,10Cmg,またはC15Cmgを週C1回投与したときの対照薬デュラグルチドC0.75Cmg投与に対する優越性を評価した国内第Ⅲ相試験である.主要評価項目は,HbA1cのベースラインから投与C52週時までの平均変化量で,このほかに副次評価項目として,体重および空腹時血糖値などを評価している.主要評価項目であるCHbA1cのベースラインからの変化量はチルゼパチドC5Cmg/週では平均C2.4%,10Cmg/週ではC2.6%,15Cmg/週ではC2.8%と,いずれもデュラグルチドの平均C1.3%よりも有意に低下した(図2).これは,他のインクレチン関連薬であるCDPP-4阻害薬やCGLP-1受容体作動薬の臨床試験成績を上回る血糖降下作用であった.また,副次的評価項目のCHbA1c7%未満の達成率は対照薬のデュラグルチドでC67%だったのに対し,5Cmg/週ではC94%,10Cmg/週でC97%,15Cmg/週ではC99%とすべての群で達成率が9割以上となった.この成績から,実施には維持用量の5Cmgでほとんどの人の血糖マネージメントができるのベースラインからの平均変化量(kg)20-2-4-6-8-10-12チルゼパチド5mg群(n=158)チルゼパチド10mg群(n=156)チルゼパチド15mg群(n=159)デュラグルチド0.75mg群(n=159)図3体重のベースラインから投与52週間の変化量の推移[副次評価項目]ではないかと思われる.同じく副次的評価項目の体重のベースラインからの変化量はC5mg/週ではC5.8kg,10mg/週でC8.5kg,15mg/週ではC10.7kg減少し(図3),用量依存的に体重が変化している.しかし,現時点ではこの薬剤はC2型糖尿病の治療薬であって,肥満症の治療薬ではないことを忘れてはならない(補足:2026年現在はチルゼパチドも肥満症治療薬として承認されている).チルゼパチドをはじめとするインクレチン受容体作動薬は,処方を開始する際,漸増することが大切である.それでもC1.2割に悪心,便秘,食欲減退や下痢などの消化器症状が出る.はじめてインクレチン関連薬を処方する際には,チルゼパチドに限らずCGLP-1受容体作動薬も含め,患者に作用と副作用の両方を説明することが大事である.C3.チルゼパチドの適用外使用の問題チルゼパチドは大きな期待のもと日本でも発売が開始されたが,発売直後から出荷調整されるという異例の事態となった.自費診療で痩身などを目的に糖尿病ではない人が使っているといわれている.また,最少用量の2.5Cmgから順次増量していくはずであるのに最大用量のC15Cmgが発売直後に市場からなくなるという想定外の異常事態となった.糖尿病治療薬が本来の糖尿病患者に処方できない事態は非常に残念であった.救急外来に(文献C8より改変引用)悪心・嘔吐を理由に受診した患者が痩身目的で最初から高用量のCGLP-1受容体作動薬やチルゼパチドを処方されていた,といった話も聞く.適用外使用により適応疾患の患者の治療ができないだけでなく,新たな病人を生み出しているというのは問題である.おわりに糖尿病内科は糖尿病患者の合併症の早期発見早期治療のために,眼科(糖尿病網膜症)をはじめとして腎臓内科(糖尿病腎症),循環器内科(冠動脈疾患),神経内科(糖尿病神経障害,認知症),消化器内科(脂肪肝,膵.胞)との連携がとても大切である.また,看護師,栄養士,運動療法士,薬剤師,検査技師などコメディカルとともにチームで診療をしている.これからも患者を中心とする医療チームが一丸となって,糖尿病があってもなくても皆が元気に長生きできるように診療していきたいと考えている.文献1)中村二郎,神谷英紀,羽田勝計ほか:糖尿病の死因に関する委員会報告─アンケート調査による日本人糖尿病の死因─C2001.2010年のC10年間,45,708名での検討.糖尿病C59:667-684,C20162)TurinTC,MurakamiY,MiuraKetal:DiabetesandlifeexpectancyCamongCJapaneseC-NIPPONCDATA80.CDiabe-tesResClinPractC96:e18-e22,C20123)GotoCA,CTakaoCT,CYoshidaCYCetal:CausesCofCdeathCandCestimatedClifeCexpectancyCamongCpeopleCwithCdiabetes:CaCretrospectiveCcohortCstudyCinCaCdiabetesCclinic.CJCDiabetesCInvestigC11:52-54,C20204)中村二郎,吉岡吉成,片桐秀樹ほか:アンケート調査による日本人糖尿病の死因─C2011.2020年のC10年間,68,555名での検討.糖尿病C67:106-128,C20245)HamanoS,OnishiY,YoshidaYetal:Associationofself-stigmaCwithCglycatedChemoglobin:CaCsingle-center,Ccross-sectionalCstudyCofCadultsCwithCtypeC1CdiabetesCinCJapan.CJDiabetesInvestigC14:479-485,C20236)KatoCA,CFujimakiCY,CFujimoriCSCetal:HowCself-stigmaCa.ectsCpatientCactivationCinCpersonsCwithCtypeC2Cdiabetes:Cacross-sectionalstudy.BMJOpenC10:e034757,C20207)PrattE,MaX,LiuRetal:Orforglipron(LY3502970)C,anovel,CoralCnon-peptideCglucagon-likeCpeptide-1CreceptorCagonist:CaCphaseC1a,Cblinded,Cplacebo-controlled,Crandom-ized,single-andmultiple-ascending-dosestudyinhealthyCparticipants.DiabetesObesMetabC25:2634-2641,C20238)InagakiN,TakeuchiM,OuraTetal:E.cacyandsafetyofCtirzepatideCmonotherapyCcomparedCwithCdulaglutideCinCJapaneseCpatientsCwithCtypeC2diabetes(SURPASSJ-mono):adouble-blind,multicentre,randomised,phase3trial.LancetDiabetesEndocrinolC10:623-633,C2022

国内未承認老視矯正眼内レンズ

2026年6月30日 火曜日

国内未承認老視矯正眼内レンズTheEvolutionofPresbyopia-CorrectingIntraocularLensesinJapan:ClinicalRationaleandSelectionStrategiesforUnapprovedAdvancedIOLs秦誠一郎*はじめに白内障手術は,眼科領域でもっとも頻繁に行われる手術の一つであり,その術後視機能の質は,挿入される眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の性能に大きく左右される.IOLの進化はめざましく,単焦点から多焦点,焦点深度拡張型(extendeddepthoffocus:EDOF),高度な乱視矯正機能をもつモデルまで,多様な患者ニーズに応える製品が世界中で開発されている.しかし日本では,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)に基づく承認を受けたIOLに限定して使用が許されているため,臨床現場では,患者の視機能に対する高い要求や,承認レンズでは対応できない特殊な症例に直面した際に,医師の裁量と責任において,個人輸入による未承認IOLを選択せざるを得ないケースが一定数存在する.本稿では,日本における未承認IOLの使用実態について,医学的な必要性,制度的な制約,具体的なレンズの種類と特徴,そして医療機関が直面する倫理的・法的課題に焦点をあて考察する.I未承認IOLが用いられる制度的・医学的背景1.薬事承認制度と医療保険制度未承認IOLに関する問題は,日本の薬事承認制度と医療保険制度が複合的に関与する構造に起因する.薬機法に基づく承認は安全性・有効性を担保するため厳格であり,一定の時間とコストを要するが,これは米国の米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)や欧州医療機器規則(medicaldeviceregula-tion:MDR)においても同様であり,日本のみが特異的に遅いわけではない.一方で,日本市場の規模や経済的インセンティブの問題から,海外メーカーが一部製品の申請を見送る傾向があり,とくに多焦点IOLやトーリックIOLなどの高付加価値製品で顕著である.さらに,日本の白内障手術はレンズ代が手術費用に含まれるため,企業側の新規デバイス導入インセンティブは相対的に低い.2020年に導入された選定療養制度は,多焦点IOLにおいて患者負担と保険診療の両立をはかるものであるが,対象は承認レンズに限定されており,未承認IOLの課題を解決するものではない.このように,日本の制度は安全性と公平性を重視する一方で,治療選択肢の多様性や新規デバイス導入の迅速性に制約を有する.一方で,医学的観点から未承認IOLが必要となる患者も存在する.すなわち,極端な眼軸長や強度乱視により承認レンズの度数範囲を超える患者,角膜不正乱視や外傷眼など通常の光学設計では対応困難な患者,さらに既存IOLの屈折誤差補正や機能追加を目的としたAdd-onIOLの適応患者である.これらの場合,承認レンズのみでは十分な視機能を達成できず,未承認IOLが合理的な選択肢となりうる.*SeiichiroHata:スカイビル眼科〔別刷請求先〕秦誠一郎:〒220-0011神奈川県横浜市西区高島2-19-12スカイビル9Fスカイビル眼科(1)(51)6450910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1多焦点IPCLによるAdd-on前眼部OCT画像表1各レンズの製造範囲の比較レンズ名球面(S)乱視(C)おもな特徴RayOneGalaxy+6.+30+0.75.+4.5spiralAI設計IC-8+10.+30―1.5Dまで乱視耐性IntensitySL+5.+34+1.+4.5trifocal+二つのintensifer焦点Opti.exXtense+7.+30(6.5,30.5.40カスタム対応で製造可能)+1.+6(6.75.15.0カスタム対応で製造可能)屈折型EDOFEVOLVE.5.+30+1.0D.+15.0D広い度数レンジ+高シリンダー対応ATLISAtri.5.+35+1.+12高乱視特注可能ATELANA0.+34―疎水性trifocal/smoothmicrophase(SMP)MiniWELL/MiniWELLPROXA+10.+30+1.0.+10.0Daberration-modulatedopticaldesign図2RayOneGalaxy中央にスパイラル構造を認める.図3IC8老視矯正用リングをCIOL光学部中央に入れたレンズである.ピンホール効果で遠方の見え方を損なうことなく,連続視域を実現している.図4IntensitySL4loop,Plate,CloopのC3種類のハプティックスをもつ.Cloop以外はセミプリセット型のインジェクターを使用しており,レンズに触れずに眼内への挿入が可能である.また最近,疎水性アクリル素材を採用したプリセット型のCIntensityHPの供給も開始された.図5Opti.exXtenseComfortPlus疎水性アクリル素材のCC-loopplatformを採用している.abFARvisionzoneEDOFzone図7ATELANA&ATLISAtriATCELANA841(Ca)は疎水性アクリル素材でCC-loopplatform,CATCLISAtri(Cb)は親水性アクリル素材の表面に疎水性加工がさ図6EVOLVEれたCplateplatformを採用している.素材は親水性アクリル素材C4loopデザイン,5°のハプティクスアングルを採用している.長径はC11.2.11.8Cmmまで度数により異なる.中央約C1.7Cmmに特殊光学ゾーンをもち,周辺部は遠方単焦点設計となっている.C-図8MiniWELLとMiniWELLPROXAMiniWELLはC3ゾーン,MiniWELLPROXAはC5ゾーンが組み込まれており,2レンズを組み合わせることで広い焦点距離を実現している.´C

トーリック眼内レンズによる乱視矯正の臨床的意義と実際

2026年6月30日 火曜日

トーリック眼内レンズによる乱視矯正の臨床的意義と実際AstigmatismCorrectionwithToricIntraocularLenses:ClinicalSignificanceandPracticalConsiderations中野伸一郎*はじめに白内障手術は近年,単に混濁した水晶体を摘出する手術から,術後の屈折状態を最適化する屈折矯正手術としての側面を強くもつようになっている.術後裸眼視力を最大化するためには,球面度数だけでなく乱視成分の適切な補正が重要である.実際に白内障手術患者の多くは術前から角膜乱視を有しており,術後に乱視が残存した場合には裸眼視力や視機能に影響を及ぼす可能性がある.トーリック眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は,白内障手術と同時に角膜乱視を矯正することができる方法として広く普及している.角膜切開による乱視矯正や術後の眼鏡矯正とは異なり,眼内で乱視を補正できる点が特徴であり,術後裸眼視機能の向上に寄与する.本稿では,トーリックIOLの臨床的意義,矯正戦略,さらに使用時の注意点について文献的考察を交えて概説する.I角膜乱視と白内障手術白内障手術患者の多くは角膜乱視を有している.過去の報告では,白内障手術症例の約40%が1.0D以上の角膜乱視を有するとされており.1),乱視矯正は術後視機能を左右する重要な要素である.残余乱視がわずかであっても視機能に影響を及ぼす可能性が指摘されている.Schallhornらは,0.25~0.50Dの残余乱視が存在する場合,術後裸眼視力が1.0未満となる確率が約1.7~1.9倍に増加することを報告している.2).また,多焦点IOLでは残余乱視が0.25D以上存在する場合,あるいはレンズ軸ずれが5°以上生じた場合に視機能が有意に低下することが示されている.3).このような知見から,近年では白内障手術において乱視を可能な限り矯正することが重要と考えられるようになっている.IIトーリックIOLの原理トーリックIOLはレンズの直交する二つの主経線に異なる屈折力をもたせることで乱視を補正する構造を有する.すなわち,角膜乱視と反対方向の円柱成分をIOLにもたせることで角膜乱視を中和する.これは眼鏡やコンタクトレンズ(contactlens:CL),エキシマレーザーによる乱視矯正とは原理が異なる.眼鏡やレーザーでは強主経線(屈折力が強い軸)の同軸方向に負の円柱レンズを付加して乱視を補正する(+に対して―で打ち消す)のに対し,トーリックIOLではレンズ自体の円柱レンズにより,弱主経線(屈折力が弱い軸)に正の円柱レンズを付加する(―に対して+で打ち消す)よって乱視を補正する(図1).この方法の利点は,角膜組織を切開したり形状を変化させたりすることなく乱視を補正できる点である.角膜切開による乱視矯正(limbalrelaxingincisionなど)は術後効果の予測性や長期安定性に課題があることが知られているが,トーリックIOLではレンズ度数そのもの.*ShinichiroNakano:龍ケ崎済生会病院眼科〔別刷請求先〕中野伸一郎:〒301-0854茨城県龍ケ崎市中里1-1龍ケ崎済生会病院眼科(1)(43)6370910-1810/26/\100/頁/JCOPYab図1乱視矯正法の違いa:トーリック眼内レンズ.b:眼鏡,CL,エキシマレーザー.トーリック眼内レンズが直交する軸に正の度数を付加する(a)のに対して眼鏡,CL,エキシマレーザーは同軸に負のレンズを付加する(b).凹凸のある土地を平坦にするとき,トーリック眼内レンズは周囲を嵩上げして,眼鏡,CL,エキシマレーザーは盛り上がりを削って平らにするのと同じである.(D)男性女性残余乱視1.251.000.750.7560708090(歳)完全矯正1モデル弱矯正2モデル弱矯正図2完全矯正か低矯正か倒乱視化は50歳以降で0.025D4).完全矯正でも問題が起こる前に平均寿命を迎える.術前測定術中・角膜形状の評価・惹起乱視の把握・マーキング/軸あわせ・回旋予防>術後成績向上の鍵図3トーリックIOL術後精度に影響する要因トーリックIOL術後エラーはおもに術前角膜乱視計測,つぎに軸ずれ,最後に傾斜である5).%ofEyesab(%)AS-OCTrealpower98%100%(%)SimulatedBarrett100%10097%10086%86%86%79%8078%86%72%72%8069%71%60%606045%404020200%0%00.0.25D.0.50D.0.75D.1.00D.1.50D.2.00D.0.25D.0.50D.0.75D.1.00D.1.50D.2.00DPreoperativeCornealAstigmatismPostoperativeRefracticeAstigmatism図4角膜後面実測は不要かa:角膜後面実測値あり.Cb:角膜後面実測値なし.CASIAリアルパワー実測とCBarrettカリキュレーターは同程度に術後乱視を軽減する(p<C.0001C0.01MannCWhitneyCUtest).新しい計算式を用いればオートレフケラトメータのみでもよい成績は得られる(中野,ESCRS2019)C.C~表1各社単焦点トーリック眼内レンズの比較(2026年6月現在)アルコンCClareonCToricCCNWTCAMOCTECNISCOptiblueCtoricCIICZCWCDIWCHOYACVivinexCToricCXY1ATCXY1EMTコーワCAvanseeCToricCYP-TニデックCNex-LoadCNPCToricCNP-T参天製薬CLentisCcomfortCtoricCLS-313MF15T光学部材質疎水性アクリル一体型疎水性アクリル一体型疎水性アクリル一体型疎水性アクリル一体型疎水性アクリル一体型親水性アクリル,疎水表面加工,プレート型サイズ光学部6Cmm全長C13Cmm光学部6Cmm全長C13Cmm光学部6Cmm全長C13Cmm光学部6Cmm全長C13Cmm光学部6Cmm全長C13Cmm光学部C6Cmm全長C11Cmm円柱加入度数(眼内レンズ面)+1.50~+6.00D+1.5~+3.75D+1.50~+4.50D+1.50~+6.00D+1.50~+4.50D+1.50~+4.50Dトーリックマーカーの位置円柱軸上,3点円柱軸上,3点円柱軸上,3点円柱軸上,楕円状C2点円柱軸上,2点円柱軸上,線状球面度数範囲(D)+6~+30(0C.5D)+6~+30(0C.5D)+10~+30(0C.5D)+6~+30(0C.5D)+1(T3)+2(T4~T6)+3(T7)~+30(0C.5/1.0D)+10~+30(0C.5D)特徴・円柱度数バリエーションが多い・プリセット型/ワゴンホイール型両方・プリセット型・支持部粗面加工による軸ずれ耐性大・高次非球面型もあり・プリセット型・支持部粗面加工あり・強化型単焦点もあり・プリセット型・円柱軸が支持部とC60°ずれて設定・プリセット型・支持部粗面加工あり・球面度数にClowC-powerの設定あり・プレート型・クリアレンズ・低加入度数CEDOF様(D)1.5遠方裸眼視力1D-3M-0.210.5-0.10.10.20.301D1W1M3M術前1D1W1M3MN.S.Steel=DwasstestN.S.Steel=Dwasstest自験例:unpublisheddata自験例:unpublisheddata軸ずれ3M)°(6*5.034*3.001.441.581.7221.080.800BVIJ&JAlconNIDEKKOWASANTENLENTISpodeyeEyhanceClareonNP-TYP-TLENTIS(大回旋なし)*p<0.01Steel=Dwasstest自験例:unpublisheddata図5筆者施設における最近の各社単焦点トーリックIOLの術後成績+デジタルガイダンス,波面解析装置+角膜形状解析装置レフケラトのみ・正乱視≧1D・散瞳良好,重篤な網膜疾患なし・正乱視≧0.75D,3D≧・不正乱視混在・円錐角膜・多焦点トーリック図6適応拡大のステップいきなり難症例にチャレンジせず,機材の充実度,技能の習熟度に応じ適応範囲を広げていく.ab図7角膜乱視量の大小によるcornealmapの違い角膜乱視量の大きいマップCA(Ca)はCbowtie型の典型的な倒乱視の所見を示しているのに対し,角膜乱視量の小さいマップCB(Cb)は乱視軸がわかりづらいことに注目.–

単焦点眼内レンズ

2026年6月30日 火曜日

単焦点眼内レンズMonofocalIntraocularLens根岸一乃*はじめに近年,老視矯正眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が広く臨床に導入されている.これらは,白内障手術後の遠方・中間・近方の視機能を改善し,術後の眼鏡依存を軽減することを目的として開発されてきた.現時点で若年者の水晶体を完全に再現する視機能は実現できないものの,近年は光学設計の改良が著しく,現在使用されている老視矯正CIOLは良好かつ安定した臨床成績を示している.1).しかし,そのような進歩にもかかわらず,「自分の眼にCIOLを挿入するなら単焦点CIOLを選択する」と考える眼科医は少なくないと推察される.筆者自身もその一人である.本稿では,代表的な老視矯正CIOLの光学的特性および臨床的課題を整理し,自分の眼に単焦点CIOLを選択する理由について,光学原理,neuroadaptation(神経適応,後述),満足度,そして長期的視機能という観点から考察する.なお近年,ヨーロッパ(とくにCISO・ESCRSなど)を中心にCpresbyopia-correctingCIOLの用語を整理する動きがあり,2024年のCISO規格改訂(ISO11979-7)で老視矯正CIOLの上位概念としてCsimultaneousCvisionIOLというカテゴリーが定義され,その下位のカテゴリーとして,multifocalIOL,extendedCdepthCofCfocusIOL,fullCvisualCrangeIOLが位置づけられている.国内では普及していないため,本稿では「多焦点IOL」という従来的な用語で記述する.CI多焦点IOLの光学原理と視覚的トレードオフ白内障手術で挿入されるCIOLは,理想的には遠方から近方まであらゆる距離において良好な裸眼視機能を提供することが望ましい.しかし,この目標を実現しようとすると,光学および物理学の原理により,視覚の質には一定のトレードオフが生じる.1).多焦点CIOLは,遠方・中間・近方といった複数距離の視機能を得るため,レンズ表面に回折あるいは屈折構造を設けて複数の焦点を形成する設計となっている.1).しかし,このような光学構造は不可避的に光学的副作用・視機能低下を生じさせる.そのもっとも代表的なものが,コントラスト感度低下とグレア・ハロー・スターバーストなどの不快な光視症である.多焦点CIOLは,網膜上に複数の像が同時に形成される同時視(simultaneousvision)であり.1),それが上記の原因である.すなわち,多焦点CIOLでは入射光が複数の焦点を形成するため,遠方像と近方像が同時に網膜上に存在する.そのため遠方像にピントがあっている場合でも,同時に近方物体のぼやけた像が存在する.この像の分離の程度は主にレンズの加入度数によって決定される.1).単焦点CIOLでは入射光エネルギーの大部分が単一の焦点に集中するため,高いコントラストをもつ像が形成される.これに対し,多焦点CIOLでは光エネルギーが.*KazunoNegishi:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕根岸一乃:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室(1)(39)C6330910-1810/26/\100/頁/JCOPY複数の焦点に分散されるため,それぞれの焦点に集まるエネルギーは減少し,像の鮮明さが低下する可能性がある.1).また,多焦点CIOLの設計によっては光エネルギーの一部が中心焦点に集中し,残りが周囲に分散する場合がある.この場合,中心の像は比較的鮮明である一方,周囲に分散した光が像の周囲に輪状の光を生じさせ,ハローとして知覚されることがある.1).このように,多焦点CIOLは広い視距離を提供する一方で,光学原理に由来する視覚的トレードオフを伴う.視覚の鮮明さやコントラスト,夜間視といった視覚品質を重視する立場からは,この点はCIOL選択を考えるうえで重要な要素となる.CIINeuroadaptation多焦点CIOLでは,コントラスト感度低下やハローなどの光学現象が生じることがあるが,脳が新しい視覚入力に順応し,焦点外の光によるぼやけを抑制し,日常生活で支障なく視覚を利用できるようになる過程はCneu-roadaptationとよばれる.1).多くの患者では時間とともに新しい視覚入力に適応するが,満足できる視覚に到達するまでの期間には大きな個人差がある.1).Neuroadaptationは神経系の可塑性だけでなく,網膜像の質にも影響される.高次収差が存在すると視覚の質が低下し,neuroadaptationに要する時間が長くなる可能性がある.1).高齢者に多いドライアイも高次収差増加の原因となりうる.さらに,neuroadaptationは術前の視覚状態にも影響される.進行した白内障症例では術後に光透過が改善するためCIOL由来の光学現象は相対的に目立ちにくく,比較的容易に適応が起こる.一方,屈折矯正目的の水晶体摘出術(refractiveClensexchange:RLE)では術後に新たな光学現象が顕著に知覚されるため,neuroadapta-tionがより困難になる可能性がある.1).このように多焦点CIOL挿入眼の視機能にはCneuroad-aptationが大きく関与しており,術後視機能は個人差が大きく予測がむずかしい.術後視機能の予測性と安定性を重視する場合,この点はCIOL選択を考えるうえで重要な要素である.III術後の眼鏡依存と患者満足度多焦点CIOLを選択するおもな目的の一つは術後の眼鏡依存を減らすことである.しかし,眼鏡を使用すること自体が必ずしも患者満足度の低下につながるとは限らない.実際,白内障手術後の患者報告アウトカムを検討した研究では,術後の視覚満足度は必ずしも眼鏡装用の有無だけで決まるものではなく,視覚の鮮明さや光学的副作用などの要因が大きく関与することが示されている.2).すなわち,術後に眼鏡が必要であったとしても,視覚の質が良好であれば患者満足度は高く維持される可能性がある.眼鏡使用に関する患者の認容性が高い場合は,多焦点CIOLは必ずしも第一選択とはいえない.なお,単焦点CIOLに分類されるCenhancedCmonofocalCIOLは,視覚の質を落とさずに焦点深度を延長させて中間視力を向上させるとの報告もあるが.3),その効果は年齢によって異なる可能性がある.4)ことや,近用眼鏡の必要性において通常の単焦点CIOLとの差別化が明確にできないことから,筆者自身は積極的には使用していないし,現状においては自身の眼に使用する予定はない.CIV術後変化への対応長寿社会においては,白内障手術後の視機能を長期的な視点で考えることが重要である.白内障手術後の長期屈折変化では球面度数は安定しているが,角膜の加齢変化により切開位置に関係なく,倒乱視が徐々に起こる5,6).多焦点CIOLは単焦点CIOLと比較するとわずかな屈折変化でも視機能が低下し,長期的には再び眼鏡が必要となる場合もある.また,加齢とともに緑内障,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症などの眼疾患の罹患率は増加する.これらの疾患によって網膜機能が低下した場合,多焦点IOLでは視機能低下がより顕著になる可能性がある1).一方で,単焦点CIOLは光を単一焦点に集める単純な光学設計であるため,網膜機能が低下した状況でも比較的良好な視機能を維持しやすいと考えられる.また,将来的に硝子体手術が必要となる可能性も考慮する必要がある.多焦点CIOLでは回折構造などの影響により術中の634あたらしい眼科Vol.C43,No.6,2026(40)表1単焦点IOLと多焦点IOLの臨床的特徴の比較項目単焦点CIOL多焦点CIOL光学設計単一焦点複数焦点網膜像単一像同時視(simultaneousvision)コントラスト感度高い低下する可能性あり光視症(グレア・ハロー)少ない単焦点と同様.多いCneuroadaptationほぼ不要個人差が大きい術後眼鏡依存必要な場合が多い低減可能屈折変化への耐性比較的高い低い場合がある網膜疾患の影響比較的少ない視機能低下が顕在化しやすい硝子体手術時の視認性良好低下する可能性あり

Enhanced monofocal眼内レンズ

2026年6月30日 火曜日

Enhancedmonofocal眼内レンズEnhancedMonofocalIntraocularLens竹下哲二*はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は長い開発史の過程で,素材,直径,支持部の形状,着色などさまざまな工夫が凝らされてきた.光学設計の面では,IOL自体の球面収差のみならず角膜球面収差まで補正する非球面IOLが主流になっている1).本来収差を減らす目的で開発されてきた構造だが,光エネルギーを意図的にやや近方寄りに振り分けることで,遠方にあわせた場合でも中間視力まで期待できるIOLが出はじめた.海外ではこのようなIOLは単焦点扱いながらenhancedmonofocalあるいはmonofocalplusとよんでいる2).日本国内においては認可の関係で「焦点深度拡張」という言葉が使えず,各社苦肉の策ともいえるよび方をしている.しかし,同じIOLが海外サイトではenhancedmonofocalとうたっていることや,国内でもその特徴が認識されてきたことから,本稿ではEM-IOLという表記で総称することとする.I要求距離による大まかなIOL選択よく受ける質問に「これだけたくさんあるIOLのなかからどうやって選択しているのか?」というものがある.上天草総合病院(以下,当院)は天草医療圏のほぼ中央にあるが,橋でつながっている3島の合計面積は新潟県佐渡島に匹敵する.鉄道がなく,バス路線も廃止が相次ぎ,住民が移動するには自分で自動車を運転するしかないのが現状である.したがって,白内障術後の見え方として良好な裸眼遠方視力がまず無条件に求められる.モノビジョンについて説明したことも過去にあったが,理解できる患者はいなかった.目標屈折値を無限遠方としたうえで,中間や近方の視力はどこまで必要かを尋ね,大まかなIOLを決定する.イメージを図1に示す.船員で夜間ワッチ(監視)業務がある,長距離トラックのドライバーで夜間走行が多いなどの場合は従来型の単焦点IOLを選択する.とはいえ,船員ならば海図を見ることもあるし,漁師でも漁網の補修作業は行う必要がある.それぞれの患者の業務内容を聞いたのちに,70cm視力が良好なほうが望ましいと思われる場合はEM-IOLを選択する.専業主婦の場合は50cmが裸眼で見えるかどうかによって日常生活のしやすさが違ってくるため,禁忌でなければレンティスコンフォート(LS-313MF15,参天製薬)を選択することが多い.禁忌というのは,プレート型IOLの場合は挿入時のZinn小帯への負荷が強いため,Zinn小帯断裂が懸念される落屑や打撲既往眼などの症例をさす.多焦点IOLはもとよりEM-IOLでもZinn小帯断裂によってレンズの偏位や傾斜が生じれば非点収差やコマ収差が発生する可能性があり,そのような症例には従来型の単焦点,できれば補正量の少ない非球面レンズが望ましい.また,レンティスコンフォートは2焦点とはいえ多焦点IOLであるため,少ないものの3,4)光視症やwaxyvisionといった不具合事象を感じる症例がある.Clare-*TetsujiTakeshita:上天草市立上天草総合病院眼科〔別刷請求先〕竹下哲二:〒866-0293熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸1419-19上天草市立上天草総合病院眼科(1)(31)6250910-1810/26/\100/頁/JCOPY従来型単焦点enhancedmonofocal図1目標屈折値を遠方0Dとした場合,患者の求める中間~近方視力によるIOLの選択基準表1国内で使用可能なEM-IOL製品名VivinexImpressTECNISEyhanceNSP-3型番XY1-EMDIB00V/DIWNS60YA素材疎水性アクリル疎水性アクリル疎水性アクリル光学部仕様独自の非球面単焦点高次非球面単焦点新非球面構造単焦点トーリックモデルT2.T7の6段階DIW150.DIW600の7段階無着色・非着色着色着色着色光学径6.0.mm6.0.mm6.0.mmA定数(超音波式)118.8118.8119.1A定数(光干渉式)119.193119.3―パッケージとIOL外観視力(logMAR)-0.1-0.0500.050.10.150.20.250.35m70cm50cmXY1-EMEyhanceNSP-3図23種のEM-IOLの距離別視力の比較70.cm,50.cmはC5.m矯正下視力.Kruskal-Wallis検定.(文献C6より作成)CTECNISEyhanceIOLTECNISワンピースIOLPower(DIB00V)(ZCB00)図3Eyhanceの光学設計の模式図例示を目的としたシミュレーション画像.(画像提供:エイエムオージャパン)表23種のEM-IOLの術後コントラスト感度(2行目)とアンケートの結果(3行目以下)XY1-EMCEyhanceCNSP-3P値コントラスト感度C1.48±0.15C1.49±0.13C1.50±0.13C0.88新聞C3.76±1.00C3.05±0.91C3.31±1.01C0.13人の顔の識別C4.09±0.97C3.76±0.54C3.56±0.96C0.13買い物時の値札C3.73±0.98C3.50±0.89C3.38±0.96C0.44でこぼこ道での歩行C3.91±0.87C3.95±0.22C3.62±0.96C0.34針仕事C3.33±0.80C3.38±0.92C3.21±0.89C0.5テレビの字幕C3.59±0.96C3.76±0.54C3.75±0.86C0.61趣味の工作C3.75±0.85C3.76±0.54C3.36±0.74C0.15夜の車の運転C3.33±0.82C3.74±0.56C3.15±0.69<C0.05明順応C3.68±0.72C3.29±0.56C3.56±0.89C0.21全体的な満足度C8.14±0.71C7.38±2.09C7.84±1.21C0.45Kruskal-Wallis検定.コントラスト感度および夜間の車の運転以外の満足度には有意差がない.1.00.90.8NSP-20.40.30.2NSP-30.10.0-0.75-0.50-0.250.000.250.500.751.001.25(D)図4NSP-3のMTF曲線(ニデックの資料より転載)MTFat50lp/mm図5Impressの中心2mmにおける光学設計(hoyasurgicaloptics.comより引用)XY1-EMEyhanceNSP-3819.59.563.631.84.566.722.211.101020なし304050遠近両用60近用7080遠用90100(%)図63種のEM-IOLの眼鏡処方率(文献C6より作成)C0.800.700.600.500.400.300.200.100.00MTFat100lp/mm-1.00-0.500.000.501.001.502.00(D)Defocus図7ImpressのMTF曲線瞳孔径:3.0.mm,光源:546.nm,角膜球面収差:0.28.μm.(HOYAの資料より転載)その他1%多焦点選定療養図82025年の上天草総合病院におけるIOL使用内訳(合計697枚)従来型単焦点CIOLは合計でC40%,多焦点CIOLとCEM-IOLを合わせるとC60%.-

低加入度数分節型眼内レンズの特徴と選択・使用時の注意点

2026年6月30日 火曜日

低加入度数分節型眼内レンズの特徴と選択・使用時の注意点Low-Add-PowerSegmentedIntraocularLenses:Characteristics,PatientSelection,andPracticalConsiderations松岡貴大*はじめに白内障手術における眼内レンズ(intraocularlens:IOL)選択は,術後の視機能と生活の質(qualityoflife:QOL)に直結する重要な決断である.近年では,単焦点IOLと多焦点IOLの中間的な位置づけとして,低加入度数分節型IOLが注目を集めている.本稿では,国内で使用可能な低加入度数分節型IOLの代表例として知られる低加入度数分節型IOLであるレンティスコンフォート(参天製薬)の特徴,筆者自身の症例における使用経験,および使用時の注意点について述べる.Iなぜ今,低加入度数分節型IOLなのか1.多焦点IOLの課題回折型多焦点IOLは遠方から近方まで幅広い焦点を提供するが,グレア・ハローといった光学的副作用が避けられない.とくに夜間運転を頻繁に行う患者では,これらの視覚障害が問題となる.加えて,光エネルギーが複数焦点に分散するため,コントラスト感度の低下が指摘されている.Buckhurstら.1)は,回折型多焦点IOL挿入眼においてグレア・ハロー症状の訴えが高頻度に認められることを報告した.また,Kohnenら.2)の報告によれば,焦点深度拡張型(extendeddepthoffocus:EDOF)や3焦点IOL術後患者の一部では視覚障害が日常生活に影響を及ぼす可能性が指摘されている.2.単焦点IOLの限界単焦点IOLは光学的な副作用が少なく,遠方視力は良好であるが,近方視では眼鏡装用が必須となる.Goldbergら.3)は,単焦点IOL術後患者の眼鏡依存度が高いことを報告している.とくに,スマートフォンやタブレット端末の使用頻度が高い現代においては,中間距離から近方までの連続的な視機能が求められる.また,偽水晶体ミニモノビジョンの眼鏡自立度および患者満足度についてHafezTAら.4)が報告している.さらに,複数のモノビジョン戦略(premiummonovision,hybridmonovisionなど)の比較としてLabirisら.5)が報告している.3.生活視機能を重視する時代従来の視力評価は遠方視力が中心であったが,近年は「生活視機能」を重視する流れが強まっている.読書,パソコン作業,調理など,日常生活で求められる視距離は多様であり,単なる視力値だけでは評価できない.こうした背景から,遠方視力とコントラスト感度を維持しつつ,中間距離も実用的な視力を提供する低加入度数分節型IOLへの期待が高まっている.II分節型IOLの光学原理と特徴1.セグメンタル屈折型の設計分節型IOLは,光学部内に遠方用および近方用の屈折領域を有する非対称設計であり,網膜上には両焦点の.*TakahiroMatsuoka:浜松医科大学眼科学講座,静岡赤十字病院眼科〔別刷請求先〕松岡貴大:〒420-0853静岡県静岡市葵区追手町8-2静岡赤十字病院眼科(1)(23)6170910-1810/26/\100/頁/JCOPY像が同時に形成される.脳内での選択的処理により,実用的な視機能が得られる.2.回折型との違い回折型IOLでは全視線を通して遠方・近方像が同時に形成され,光量が分配される.そのため,どちらかの焦点が常にデフォーカス像として重なり,コントラスト感度が低下する.一方で,分節型IOLでは遠方用および近方用の像が同時に網膜上に形成されるが,回折型IOLと異なり光エネルギーの分配や回折による光学的ロスが少ないため,コントラスト感度が比較的保たれやすい.Pedrottiら.6)の報告では,レンティスコンフォート挿入眼において良好なコントラスト感度が維持されたとされている.また,低加入度数分節型IOLは遠方から中間距離における実用視力を補完しうることが示されており,長期成績においても遠方・中間視機能の良好な維持が報告されている.8).さらに,単焦点IOLとEDOFIOLの組み合わせ(mixandmatch)に関する臨床研究も報告されており.9),患者の生活背景に応じた設計の重要性が示唆される.3.焦点深度曲線の特性焦点深度曲線は,異なる焦点距離における視力変化を示す指標である.回折型2焦点IOLでは遠方・近方にピークが二つ存在するが,中間距離で視力が低下する「M字型」を示す.また,回折型3焦点IOLは,遠中近に三つのピークを示す.これに対し,低加入度数分節型IOLでは遠方から中間距離にかけて比較的なだらかに視力が低下し,近方でも実用的な視力が保たれる「なだらかな台形」を呈する.4.レンティスコンフォートの仕様レンティスコンフォートは,加入度数+1.5Dの分節型IOLであり,日本では2018年に承認された.プレートハプティックデザインを採用し,IOL全体の回転を抑制する構造となっている.光学部径は6.0mm,全長13.0mmである.Nakajimaら.7)は,レンティスコンフォート術後の遠方・中間視力が良好であり,患者満足度も高いことを報告している.また,Oshikaら.8)の5年長期成績では,術後経過を通じて遠方・中間視力が安定していたと述べられている.ただし,近方視力は中等度にとどまり,完全な眼鏡フリーは得られていない点も指摘されている.III適応症例と患者選択1.よい適応症例低加入度数分節型IOLが適している患者像は以下のとおりである.a.夜間運転が多い患者回折型多焦点IOLでは,対向車のヘッドライトに対してグレア・ハローが生じやすい.分節型IOLはこれらの光学的副作用が少ないため,夜間運転が頻繁な患者に適している.b.コントラスト感度を重視する患者美術関係や精密作業に従事する患者など,視覚の質を重視する場合には,分節型IOLが有利である.c.回折型多焦点IOLに抵抗がある患者グレア・ハローを懸念して多焦点IOLを避けたいが,近方視力もある程度確保したい患者に対し,分節型IOLは妥協点となりうる.d.中間距離作業が多い患者パソコン作業,料理,楽器演奏など,60.80cm程度の中間距離での作業が主体の患者には,分節型IOLの焦点域が適合しやすい.2.不適応症例以下のような患者には,分節型IOLは不向きである.a.完全眼鏡フリーを強く希望する患者加入度数が+1.5Dと低いため,40cm程度の近方作業では視力が不十分な場合がある.完全な眼鏡不要を期待する患者には,3焦点IOLなどの選択肢を検討すべきである.b.強い近方作業を必要とする患者細かい文字を読む頻度が高い,裁縫や手芸など至近距離作業が多い患者では,近方視力が不足する可能性がある.c.不正乱視が強い患者角膜不正乱視が強い場合,分節型IOLのみならず,618あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(24)すべての多焦点CIOLで光学性能が十分に発揮されず,十分な視機能が得られない.角膜形状解析で不正乱視を評価し,適応を慎重に判断する必要がある.Cd.眼疾患を有する患者黄斑疾患,緑内障など視機能に影響を及ぼす眼疾患がある場合は,多焦点性CIOL全般が不適応となる.術前の光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)検査,視野検査による評価が必須である.C3.術前カウンセリングのポイント患者には,「遠方はクリアに見えるが,近方はやや見づらくなる可能性がある」こと,「完全な眼鏡フリーではない」ことを十分に説明する.また,夜間のグレア・ハローは少ないが,完全に消失するわけではない点も伝える.患者の期待値を適切にコントロールすることが術後満足度向上の鍵となる.なお,低加入度数分節型CIOLにはほかにも複数の設計が存在し,それぞれ光学特性が異なるため,個々の製品特性を理解したうえで選択する必要がある.CIV筆者の基本戦略1.ターゲット屈折の設定筆者は,分節型CIOL挿入時のターゲット屈折を正視..0.3Dに設定している.軽度近視化により,中間距離での視力がさらに向上し,読書機能も改善されるためである.正視狙いでは遠方視力は最大化されるが,中間距離での視力がやや低下する傾向がある.C.0.3D程度の軽度近視化により,焦点深度曲線のピークが中間距離側にシフトし,実用視力域が拡大する.この設定は,後述するMNREADデータにおいても有用性が示唆されている.C2.優位眼・非優位眼の扱い通常の両眼挿入の場合,筆者は優位眼・非優位眼で屈折ターゲットを変えていない.両眼とも正視.C.0.3Dを目標とし,均等な視機能を提供する.ただし,患者が強く近方視力を希望する場合や,職業上の理由で近方作業が多い場合には,後述するモノビジョン法を検討する.3.IOL度数計算の注意点IOL度数計算には,BarrettCUniversalⅡ式またはKane式を使用している.角膜乱視がC1.0D以上の場合は,トーリックCIOLの使用を検討する.トーリックIOLの場合,術後の軸ずれによる視力低下リスクがあるため,術中のマーキング精度が重要である.C4.術中のポイントプレートハプティックデザインのため,.内での安定した展開と適切な位置決めが重要である.CV分節型IOL×モノビジョンという選択肢1.モノビジョンの原理モノビジョンとは,優位眼を遠方視に,非優位眼を近方視に設定する方法である.古典的には単焦点CIOLで用いられてきた手法だが,分節型CIOLとの組み合わせにより,さらに良好な視機能が期待できる.筆者は,モノビジョンを採用する場合,優位眼をC0D,非優位眼をC.0.75Dに設定している.非優位眼の近視度数をC.1.0D以上にすると,立体視や遠方視力に影響が出やすいため,.0.75D程度にとどめている.C2.筆者の比較データ筆者自身の症例で,レンティスコンフォート・モノビジョン群(優位眼C0D,非優位眼C.0.75D,15例)と,回折型C3焦点CIOLPanOptix両眼挿入群(10例)を比較する探索的検討を行った(表1,図1).主要評価項目である術後眼鏡装用率は,レンティスコンフォート群C6.7%(1/15例),PanOptix群C20.0%(2/10例)であり,レンティスコンフォート群で眼鏡依存度が低い傾向がみられたが,症例数が限られており統計的有意差には至らなかった(Fisher検定Cp=0.54).遠方・中間・近方の裸眼視力も両群で有意差を認めなかった(p>0.05).これらの結果から,分節型CIOLモノビジョンは,3焦点CIOLと大きな差を認めない視機能を示しつつ,眼鏡装用率が低い傾向を示したが,症例数が限られた探索的検討であり,今後より大規模な前向き研究での検証が必要である.(25)あたらしい眼科Vol.C43,No.6,2026C619表1レンティスコンフォート・モノビジョン群とPanOptix群の眼鏡装用率比較(探索的検討)群眼鏡使用眼鏡不要装用率レンティスコンフォート1例14例C6.7%C(n=15)PanOptix(n=10)2例8例C20.0%Fisher検定Cp=0.54,有意差なし.Cab(logMAR,(%)平均SD)レンティスコンフォート・0.450PanOptix群(n=10)裸眼視力0.3400.2眼鏡装用率300.10.02010-0.1-0.20レンティスコンフォート・PanOpモノビジョン群(n=(n=15)tix群10)50070測定距離40(cm)図1レンティスコンフォート・モノビジョン群とPanOptix群の眼鏡装用率(a)および視機能(b)の比較(探索的検討)有意差は認めなかった(Fisher検定).読書のように連続的な文字を追う作業では,視力だけでなく読書速度や持続性が重要となる.Radner.10)は,読書機能評価には専用のチャートが必要であり,単なる視力検査では読書能力を反映しきれないと指摘している.MNREADチャートは,文字サイズを段階的に変化させた文章を読ませ,読書速度・臨界文字サイズ(criticalprintsize:CPS)・読書速度持続性(readingCspeedCsus-tainability:RSS)を測定する標準化ツールである.11).IOL術後の読書機能評価に関する先行研究として,MNREADを用いた機能的読書能の評価.12)および読書成績・QOLに関する報告.13)がある.筆者は,レンティスコンフォート挿入眼(31眼/17名)と単焦点CIOL(Clareon)挿入眼(17眼/9名)を対象に,術後のMNREAD評価を行う探索的検討を実施した(表2,図2).線形混合モデルを用いて解析した結果,主要評価項目であるC100%CareaCundercurve(AUC),臨界文字サイズ(CPS),読書速度持続性(RSS)のC3項目すべてにおいて,レンティスコンフォート群が単焦点CIOL群より良好な傾向が認められた.分節型CIOLが単焦点CIOLに比べて読書機能を改善する可能性が考えられるが,症例数が限られた単施設での後ろ向き検討であり,今後,多施設共同研究での検証が望まれる.C2.臨床的意義と今後の課題正視..0.3D程度の軽度近視化により,近方視力が若干向上し,読書速度も改善される可能性が,筆者らのMNREADデータから示唆された.ただし,術後屈折を共変量に追加した副解析でもレンティスコンフォート群の優位性が維持されたことから,IOLの光学設計そのものが読書機能向上に寄与している可能性も考えられる.今後,前向き研究での検証が望まれる.本検討は別途,倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2025-05).CVII限界と注意点1.近方視の限界加入度数+1.5Dは,完全な眼鏡フリーを保証するものではない.40Ccm以内の至近距離作業では,視力が不十分となる場合がある.とくに,小さな文字を読む,針に糸を通すといった作業では,老眼鏡が必要となることを患者に説明する必要がある.Oshikaら.8)の長期報告でも,近方視力は中等度にとどまり,完全な近方視は得られていないと述べられている.C2.トーリックIOLの軸ずれリスク乱視矯正のためにトーリックCIOLを使用する場合,術後のCIOL回転による軸ずれが問題となることがある.プレートハプティックデザインは回転安定性が比較的高いとされるが,完全に回転を防げるわけではない.Oshikaら.14)は,レンティスコンフォート・トーリックのCIOL回転は比較的少ないものの,一部症例で大回転を認めたと報告している.術後C1週間,1カ月での軸確認が重要である.なお,プレートハプティック型回旋非対称トーリックCIOLにおいてC45°以上の大きな軸ずれ(misalignment)が一定割合で生じうることも報告されており.15),術前説明および術後フォローにおける留意点となる.C3.レンズの変形プレートハプティック型CIOLは,ループハプティック型に比べて前.収縮による光学部の変形リスクが指摘されている.ただし,レンティスコンフォートでは臨床的に問題となる報告は少ない.長期経過観察が必要である.C4.グレア・ハロー完全消失ではない分節型CIOLは回折型に比べてグレア・ハローが少ない傾向があるが,完全に消失するわけではない.夜間運転時に軽度のグレア・ハローを自覚する患者も存在する.患者には「少ない傾向がある」が「ゼロではない」ことを説明し,過度な期待をもたせないことが重要である.Kohnenら.2)は,EDOFIOLでも光学的副作用は存在すると報告している.C5.患者選択の重要性分節型CIOLの適応は慎重に判断すべきである.完全眼鏡フリーを強く希望する患者,強い近方作業を必要とする患者には,他のCIOL(3焦点CIOLなど)を検討する.(27)あたらしい眼科Vol.C43,No.6,2026C621AUC(単位)表2レンティスコンフォート群と単焦点IOL群のMNREAD評価結果(線形混合モデル,探索的検討)評価項目β(レンティスコンフォート―単焦点IOL)C95%CIp値CAUC+97.2[+41.1,+153.3]C0.001CCPS(logMAR)C.0.16[.0.28,C.0.03]C0.012CRSS+0.27[+0.13,+0.41]<C0.001logMARAUC:100%CareaCundercurve,CPS:臨界文字サイズ,RSS:読書速度持続性.解析:線形混合モデルを用い,患者CIDをランダム効果とし,年齢および眼軸長で調整した.CaAUC(読書速度曲線下面積)bCPS(臨界文字サイズ)cRSS(読書速度持続性)1.75**0.8*0.11.500.61.250.41.000.21000.7500.0レンティスコンフォート群(n=31眼)CNW(n=17眼)レンティスコンフォート群(n=31眼)CNW(n=17眼)レンティスコンフォート群(n=31眼)CNW(n=17眼)図2レンティスコンフォート群と単焦点IOL群(CNW)のMNREAD評価結果線形混合モデルにより解析し,患者CIDをランダム効果とし,年齢および眼軸長で調整した.*p<0C.05,**p<0C.01,***p<C0.001.—

EDOF眼内レンズの特徴と選び方・私の流儀

2026年6月30日 火曜日

EDOF眼内レンズの特徴と選び方・私の流儀FeaturesofEDOFIntraocularLensesandHowtoChooseThem:MyApproach眞野富也*はじめに近年,老視矯正眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は多様化をきわめており,3焦点CIOLや連続焦点CIOLを含め,さまざまな選択肢が臨床に存在する.その一方で,グレア・ハロー,コントラスト感度低下といった多焦点CIOL特有の副症状が,患者満足度を左右する重要な因子であることも広く認識されるようになった.こうした背景のなかで,焦点深度拡張型(extendedCdepthCoffocus:EDOF)IOLは,多焦点CIOLの利点を部分的に享受しつつ,副症状を可能な限り抑える選択肢として注目されている.本稿では,EDOFIOLの歴史的背景と代表的な製品の特徴を概説したうえで,筆者自身の患者選択における考え方,「私の流儀」について述べる.CIEDOFIOLの歴史と位置づけEDOFIOLは,多焦点CIOLに伴う光視現象を軽減しつつ,単焦点CIOLに近い自然な見え方を維持することを目的として開発されてきた.現在では,単焦点CIOL,CenhancedCmonofocalIOL,EDOFIOL,多焦点CIOLという連続したスペクトラムとして理解することが重要である.老視矯正CIOLの開発は,長らく多焦点CIOLを中心に進められてきた.回折型多焦点CIOLは,遠方視に加えて中間視・近方視を同時に獲得できるという大きな利点を有する一方で,グレア・ハローなどの光視現象やコントラスト感度低下といった副症状が臨床上の課題として指摘されてきた.これらの問題は,とくに夜間運転や暗所作業を行う患者において満足度を低下させる要因となり,老視矯正CIOLの適応を限定する一因ともなっていた.こうした背景のもと,多焦点CIOLと単焦点CIOLの中間的な概念として登場したのがCEDOFIOLである.CEDOFIOLは,明確な複数焦点を形成するのではなく,焦点域を連続的に拡張することにより,遠方視の質を維持しながら中間距離を中心とした視機能の向上をはかる設計思想に基づいている1,2).初期のCEDOFIOLは回折型光学設計を採用した製品が中心であり,従来の多焦点CIOLと比較して光視現象の軽減が期待された.しかし,回折構造を有する以上,光エネルギーの分配やコントラスト感度低下といった課題を完全に回避することは困難であった.その後,光学設計の進歩により,回折構造を用いない非回折型CEDOFIOLが登場し,より単焦点CIOLに近い見え方を志向する流れが加速した.近年では,EDOFIOLは一つの固定したカテゴリーというよりも,単焦点CIOLから多焦点CIOLへと連なる連続的なスペクトラムのなかで理解されるようになっている.すなわち,従来の単焦点IOL,球面収差制御などにより焦点深度をわずかに拡張したCenhancedmonofo-calIOL,回折型・非回折型CEDOFIOL,そして多焦点IOLという位置づけである.このような概念整理は,術*TomiyaMano:吹田徳洲会病院眼科〔別刷請求先〕眞野富也:〒565-0814大阪府吹田市千里丘西C21-1吹田徳洲会病院眼科(1)(19)C6130910-1810/26/\100/頁/JCOPY前説明や患者選択を行ううえできわめて有用である.CEDOFIOLは「老視を完全に解決するレンズ」ではなく,「見え方の質と利便性のバランスを重視した現実的な選択肢」として位置づけることが重要である.多焦点CIOLの副症状を懸念する患者や,単焦点CIOLではもの足りなさを感じる患者に対し,EDOFIOLは両者の間を埋める役割を果たす存在であり,今後もその適応はさらに広がっていくと考えられる.CII使用可能なEDOFIOLの特徴EDOFIOLは光学設計の違いにより複数のタイプに分類される.代表的なCEDOFとしてCSymfony,Mini-Well,IC-8があげられる.近年では非回折型CEDOFであるVivity,PureSeeが登場している.C1.PureSeePureSeeは,非回折型のCEDOFIOLであり,回折構造を用いない屈折型光学設計を特徴とする.連続的な屈折曲率プロファイルにより焦点深度を拡張することで,単焦点CIOLに近い自然な見え方を維持しつつ,遠方から中間距離,日常生活レベルの近方視までをカバーすることを目的としている.回折リングを有さない構造から,グレア・ハローといった光視現象が比較的少なく,コントラスト感度の低下も最小限に抑えられる点が特徴である.また,瞳孔径変化の影響を受けにくい設計とされており,暗所においても安定した視機能が得られやすい.近方視については細かな近業では眼鏡が必要となる場合があり,術前に十分な説明が求められる.C2.VivityVivityは,アルコン社が提供する非回折型CEDOFIOLであり,独自の波面シェーピング技術(X-WAVE)を用いた光学設計を採用している.入射光を分割するのではなく,波面を伸長・再配置することで焦点深度を拡張する点が特徴で,光エネルギーのロスがきわめて少ないとされている.臨床的には,単焦点CIOLに近いコントラスト感度と遠方視の質を保ちつつ,中間距離の視機能改善が期待できる.グレア・ハローの発現は少なく,夜間運転や暗所作業を行う患者においても選択しやすいレンズである.一方で,近方視の改善は限定的であり,近方作業に対しては眼鏡併用を前提とした説明が重要である3).CIII私の流儀1.レンズ選択さて,本題となる「私の流儀」であるが,これまでたくさんの回折型多焦点CIOLを使用してきたなかで,初期にはCwaxyvision,それから夜間のグレア・ハローとの闘いであった.術前に遠方・中間・近方の見え方と夜間のグレア・ハローの見え方について十分に説明し,経過中にほとんど気にならなくなり満足する患者も多いなか,どうしてもグレア・ハローの症状になじめない患者が結構いたのも事実である4).このような状況のなか,単焦点の範疇に入るCenhancedCmonofocalCIOL(Eyhance,Impressなど)が上市され,遠方から中間まで見え,なかには近方まで驚くほど見えて満足する患者も結構いることは驚きであり,保険診療でカバーされることもあって治療する側にも勧めやすいレンズである.このCenhancedCmonofocalIOLが普及してきたところに,さらに焦点深度を拡張させた多焦点CIOL(選定療養)の範疇に入るレンズとしてつぎに登場したのがEDOFのCPureSeeである.単焦点やCenhancedCmonofo-calのCEyhanceとほぼ同じで,夜間のグレア・ハローがほとんどないのが特徴で,今までの回折型多焦点レンズと違い患者にはとても勧めやすく,術者として術前の説明も楽で,以前からの回折型構造の多焦点CIOLには戻れないのが現状である.ただ,近方が少し見にくいと訴える患者もいるため,その点は丁寧に説明する必要がある.しかし,近方が見にくいといっても近見視力を測ると悪くてもほとんどの患者でC0.4は見えているので,日常生活では眼鏡も必要なく快適に生活できるレベルだと思われる.近方の細かい字を見るときは近用眼鏡を使用する必要があることは術前に強調しておくべきである.C2.IOLの狙い度数a.PureSee筆者の狙い度数は,もともと遠視や正視の患者には基614あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(20)視力(平均値±標準偏差)logMAR0.60.40.20.0遠見中間近見EyhanceCPureSee遠見中間近見遠見中間近見Cn28眼28眼28眼36眼36眼36眼平均(logMAR)C.0.059C0.120C0.476C.0.031C0.068C0.300平均(少数視力)C1.15C0.76C0.33C1.07C0.86C0.500標準偏差C0.0873822C0.14061958C0.205122212C0.094784487C0.110115238C0.183055004WelchのCt検定(p値)C0.22C0.10C0.0006*遠見,中間(70cm),近見(30cm)の裸眼視力.図1EyhanceとPureSeeの術後1カ月後の視力遠見,中間(70cm),近見(30cm)の裸眼視力.

Pairingを行う回折型3焦点眼内レンズ

2026年6月30日 火曜日

Pairingを行う回折型3焦点眼内レンズBilateralPairingImplantationofaTrifocalIOL藤本可芳子*はじめに白内障手術治療は大変にポピュラーであり,最近では年間約C160万件行われている.2002年から多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の出現により多くの種類が開発され,老眼治療としても注目される治療となっている.当初は屈折型のみであったが,回折型C2焦点,3焦点,そして焦点深度拡張型(extendedCdepthCoffocus:EDOF)など,さまざまな種類の国内外の多焦点CIOLが承認された.自分に適しているのはどれか,説明資料を見ても患者は選択に迷い,医師もどのCIOLを選択すべきか悩ましい.現在は多数の選択肢があるにもかかわらず,国内の多焦点CIOLの使用率はC5%前後と海外のC18%に比べると少ない1,2)のが現状である.これは,先進医療での使用が終了して費用が自己負担になったことや,保険適用の低加入度数CIOLやプレミアム単焦点IOLなどが使用可能となったことも理由であろう.また,多焦点CIOL術後の見え方に不満があるケース(7.2%)や不満足によるCIOLの摘出(1.2%)があるため3),術者が患者選択に慎重になっていることも考えられる.不満の原因になるのは,コントラストの低下,グレア・ハローの不快光視症,屈折ずれ(不十分な裸眼視力)などで,少数ではあるが患者の期待どおりの結果が得られないこともある3).一方で,単焦点CIOLでは手に入らない遠方,中間,近方の裸眼視力が術前より改善して良好で,術後結果に満足している患者も多い.I多焦点IOLの選択近年では多焦点CIOLの認知度が高まっており,手術を受けた患者の経験や術後結果をCSNSやCYouTubeで調べたうえで,知識をもって受診するケースも増えつつある.選定療養になってから使用できるCIOLの種類は増加しており,各患者にどのCIOLが適しているか,担当医師が選ぶ必要がある.患者の生活内容,仕事内容,車の運転,夜間の運転,希望する視力,もっとも重要視する距離,明暗,遠近の瞳孔径などを調べて,患者に最適なIOLの選択が必要である.本稿では,HOYAのCVivinexGemetric回折型多焦点IOLと,近方への光配分を増やしたCVivinexGemetricPlusの両方を用いたペアリングという治療について解説する.C1.GemetricとGemetricPlusHOYAのCGemetricはC2024年C8月に承認され,続いてC2025年C4月,近方エリアの光配分を増やしたデザインのCGemetricPlusも使用可能となった.全長C13mmの疎水性アクリルCIOLで光学部は直径C6mm,多焦点の加入度数面積は直径C3.3Cmmと他社の加入度数面積より狭い.その周辺部は単焦点のため,夜間視や遠方視時は散瞳するが,グレア・ハローが少ないと期待されている(図1).GemetricPlusは遠方の光配分を減らし,近*KahokoFujimoto:フジモト眼科〔別刷請求先〕藤本可芳子:〒530-0041大阪市北区天神橋C6-6-4平蔵ビルC2Fフジモト眼科(1)(13)C6070910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1Gemetric,Gemetricトーリックのデザインとサイズ瞳孔径:3.0mm0.50.40.30.20.10.0光源:546nm-1.00.01.02.03.04.0(D)Defocus図2GemetricとGemetricPlusの光量配分の位置(HOYAの資料より転載)MTFat50lp/mmスクリューロッドプランジャーノズルスライダーインサートシールド図3プッシュ・スクリューが選択できるプリロードインジェクターa(%)8060エネルギーの割合402002.02.53.0瞳孔径3.54.0近方中間4.5(mm)遠方b(%)8060エネルギーの割合402002.02.53.03.54.04.5(mm)瞳孔径近方中間遠方図4Gemetric(a)とGemetricPlus(b)の瞳孔径サイズにおけるエネルギー比率(HOYAの資料より転載).3.0D近方(35cm前後)までの視力が得られている4).同じプラットフォームのレンズを組み合わせるため,異種レンズを組み合わせたCmixCandmatchよりも違和感が少ない.一方で,左右差に敏感な患者や神経質な患者には不向きな場合があり,注意を要する.CII筆者の施設における多焦点IOL手術のこだわり多焦点CIOLは通常の白内障手術や単焦点CIOLと比べて,術後屈折誤差が生じると良好な裸眼視力が出ないために不満やクレームにつながる.レンズ度数の選択をより慎重に選択する必要がある.フジモト眼科(以下,当院)では視力不良眼や非優位眼を先に手術し,1日.1週間後に遠近の裸眼視力,術後屈折誤差の有無を確認し,僚眼の手術は必要があれば度数変更をして行っている.優位眼が遠方・近方どちらにあるかを確認しておくことも大切である.pairingの場合,近方の効き目にはGemetricPlusを用いる.C1.多焦点レンズの長期安定性多焦点CIOL挿入後長期に良好な視力を得るためには,IOLのセンタリングが大変重要である.筆者の場合は,自身でデザイン作成したCCCCマーカーで角膜表面に直径C5.6mmのマーキングを行い,鑷子でCCCCを作成している.マーキングがあるとガイドになり,眼球の大きさや瞳孔径に左右されず正確なサイズのCCCCが作成しやすい.IOLの中心固定,IOLエッジが前.でコンプリートカバーできるように注意して作成する.強度近視や偽落屑症候群(pseudoexfoliationCsyndrome:PE),硝子体術後眼,アトピー性白内障,外傷眼などでは,Zinn小帯が弱い症例が多く,この場合にはカプセルの収縮やずれが生じやすい.カプセルテンションリング(capsulartensionring:CTR)の予防的な挿入は適用外であるが,当院では上記の症例で予防的にCCTR130A0(HOYA)を挿入しており,費用は施設負担で行っている.白内障術後平均C11年くらいでC0.1%にCIOL脱臼が起こると報告されており8),万一術後に偏位が発生した場合,CTR挿入眼では,水晶体.とCIOLをともにC10-0プロリン糸で強膜にC3点固定縫着が可能である9).Zinn小帯が緩んでレンズが脱臼・偏位した場合でもCCTRが入っている患者は多焦点CIOLの再利用や長期使用ができる.C2.pairingの選択と患者への説明Gemetricpairingを選択する患者は眼鏡なしの生活を希望し,時々車を運転し,デスクワークや近見作業も行い,パソコンや携帯も裸眼で見たい人たちである.pairingについて患者へ説明する際,「唯一の国産多焦点レンズで,両方とも遠方・中間・近方が見える多焦点レンズですが,片方にはより近くが見やすいレンズデザインを入れるのでデスクワークもしやすいです」と説明すると理解されやすく,現役で仕事をしている患者に希望者も多い.トーリックもT2.T5(0.7.2.6D)まで揃っており,乱視眼にも対応できる.ときにC3D以上の乱視例では,多焦点CIOL術後に残存する乱視や屈折異常があれば,LASIKや角膜輪部減張切開(limbalCrelaxingincision:LRI)で追加修正を行い,より良好な裸眼視力を追及している.C3.当院の使用例実際の症例を示す.両眼CGemetricを使用した症例(57歳,女性)の術後裸眼視力は,遠方視では右眼C1.5(n,c),左眼C1.5(n.c),両眼C1.5(n.c),近方裸眼視力は,右眼がC30Ccm,50Ccm,70CcmでそれぞれC0.8,0.5,0.6,左眼がC30cm,50cm,70cmでそれぞれC0.7,0.4,0.5で,両眼近方視力はC30Ccm,50Ccm,70Ccmでそれぞれ0.9,0.6,0.6であった.一方で,pairingを行った例(同じくC57歳,女性)の術後視力は,右眼C1.5(n.c),左眼C1.5(n.c),両眼C1.5(n.c),近方裸眼視力は右眼がC30Ccm,50Ccm,70CcmでそれぞれC1.0,0.8,0.9,左眼がC30cm,50cm,70cmでそれぞれ0.8,0.8,0.8,両眼が30cm,50cm,70CcmでそれぞれC1.0,0.8,1.0と,両眼CGemetricと同様遠方視力が良好なのに加えて,pairing症例では近方視力がさらに良好となった.おわりに多数の多焦点CIOLが入手できる昨今では,選択肢が610あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(16)-

回折型3焦点・連続焦点眼内レンズ

2026年6月30日 火曜日

回折型3焦点・連続焦点眼内レンズDiffractiveTrifocalandContinuousRangeofVisionIntraocularLenses佐々木洋*はじめに近年,コントラスト感度が良好で不快光視現象の少ない焦点深度拡張型(extendeddepthoffocus:EDOF)が,世界的にも国内でも多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)として選択されることが多くなってきたが,EDOFでは約半数程度で近用眼鏡が必要になるため,眼鏡依存度を低減したい患者では回折型3焦点あるいは連続焦点IOLが第一選択となる.本稿では,代表的な3焦点IOLのPanOptix(アルコン社)とFINEVISIONHP(BVI社),連続焦点IOLのTECNISOdyssey(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)について,基本的事項および本カテゴリーIOLの選択理由,他のカテゴリーIOLとの使い分け,3種IOLでの使い分けについて,個人的なこだわりも含め解説する.I基本的事項表1に回折型3焦点および連続焦点眼内レンズの特性比較を示す.1.PanOptixClareonPanOptixは,アルコン社の疎水性アクリル素材Clareonを用いた回折型3焦点IOLであり,AcrySofIQPanOptixの後継レンズとして国内で承認され2022年4月より使用が開始されている.独自のENLIGHT-EN光学テクノロジーにより,4焦点設計を起点に焦点距離120cmからの光エネルギーを遠方に再配分することで,40cmの近方焦点を維持したまま,作業距離として頻用される60.cmに中間焦点を設定している.瞳孔径3.0mmでの光エネルギー利用率は88%と高く,回折領域を4.5mmとすることで瞳孔径への依存性を低減し,低照度・大瞳孔時でも遠・中・近の視機能のバランスを保ち,日常環境での見え方を安定させるよう配慮されている.光配分は遠方に50%,残りを中間と近方に25%ずつ配する設計で,遠方視の質の高さを担保しながら,中間・近方の視機能も維持している.素材・プラットフォームとしてのClareonは,AcrySofで課題であった表面ヘイズとグリスニングを抑制し,長期的に透明性が維持されることも特長である.STA-BLEFORCEハプティクスにより前房深度の変化を最小限に抑えるとともに,トーリックモデルでは軸回旋を最小限にとどめることで安定した乱視矯正を可能にしている.2.PanOptixProClareonPanOptixProは,アルコン社のClareonPanOptixを基盤に開発された改良型3焦点IOLとして国内で承認され,2026年4月より使用が開始されている.ClareonPanOptixProは従来のClareonPanOptixの光学性能を継承しつつ,新たにENLIGHTENNXT光学テクノロジーを採用し,回折構造を最適化させることで,従来ロスしていた光エネルギーの約半分を使用可能*HiroshiSasaki:金沢医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕佐々木洋:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学1-1金沢医科大学眼科学講座(1)(3)5970910-1810/26/\100/頁/JCOPY表1回折型3焦点および連続焦点眼内レンズの特性比較レンズタイプ多焦点(3焦点)多焦点(3焦点)多焦点(3焦点)多焦点(連続焦点)商品名ClareonPanOptixClareonPanOptixProFINEVISIONHP/ファインビジョンHPTECNISOdyssey製品番号CNWTT0(TORIC)CNWTT2/3/4/5/6PXYAT0(TORIC)PXYAT2/3/4/5/6PODFGF(TORIC)PODFT49P1.0/1.5/2.25/3.0/3.75DRN00V(TORIC)DRT150/225/300/37度数+6.0.+30.0D(0.5D刻み)+6.0.+25.0D(0.5D刻み)+10.0D.+30.0D(0.5D刻み)+5.0.+28.0D(0.5D刻み)光学部径6.0.mm(回折領域径4.5.mm)6.0.mm(回折領域径4.5.mm)6.0.mm6.0.mm形状3焦点回折型(ENLIGHTENテクノロジー)非球面バイコンベックス3焦点回折型(ENLIGHTENNXTテクノロジー)非球面バイコンベックス3焦点回折型(FINEテクノロジー)非球面バイコンベックス前面:非球面構造後面:回折構造紫外線・青色光吸収剤含有紫外線・青色光吸収剤含有紫外線・青色光吸収剤含有紫外線・紫色光吸収剤含有材質アクリル樹脂アクリル樹脂アクリル樹脂アクリルーメタクリル架橋共光学部特性(含水率1.5%)(含水率1.5%)(含水率4.9%)重合体屈折率1.55(35℃)1.55(35℃)1.531.47(35℃)エッジ設計シャープエッジデザインシャープエッジデザイン360°シャープエッジデザインProTEC360エッジデザイン円柱度数IOL面―(TORIC)1.00D/1.50D/2.25D/3.00D/3.75D―(TORIC)1.00D/1.50D/2.25D/3.00D/3.75D―(TORIC)1.00D/1.50D/2.25D/3.00D/3.75D―(TORIC)1.50D/2.25D/3.00D/3.75D角膜面―(TORIC)0.65D/0.98D/1.47D/1.96D/2.45D―(TORIC)0.65D/0.98D/1.47D/1.96D/2.45D―(TORIC)0.68D/1.03D/1.55D/2.06D/2.57D―(TORIC)1.03D/1.54D/2.06D/2.57D加入度数IOL面+2.17D(中間)/+3.25D(近方)+2.17D(中間)/+3.25D(近方)+1.75D(中間)/+3.5D(近方)非公表眼鏡面+1.65D(中間)/+2.35D(近方)+1.65D(中間)/+2.35D(近方)+1.34D(中間)/*+2.67D(近方)公式なデータなし非公表支持部特性全長13.0mm13.0mm11.4mm13.0mm形式シングルピースSTABLEFORCEシングルピースSTABLEFORCEダブルCループCループ素材紫外線・青色光吸収剤含有アクリル樹脂(含水率1.5%)紫外線・青色光吸収剤含有アクリル樹脂(含水率1.5%)紫外線・青色光吸収剤含有アクリル樹脂(含水率4.9%)紫外線・紫色光吸収剤含有アクリルーメタクリル架橋共重合体設計光学部―支持部の角度0度光学部―支持部の角度0度RiDgeTecデザインHapticsoffsetfromoptics,Tri-FIXデザイン(TORIC)Hapticsoffsetfromoptics,Tri-FIXデザイン,フロストループ販売会社名日本アルコン日本アルコンBVIジャパンエイエムオージャパンとしている.光エネルギーロスを半分に軽減したことで,光エネルギー利用率を94%まで向上させている(従来型88%→Pro94%).これは,3焦点IOLで報告されているなかでも最高水準の光利用率である.利用可能な94%の光エネルギーを遠・中・近の焦点と,100cm付近へ再配分したことで,全距離における途切れのない光配分が可能となっている.この改善により,遠方および遠方.中間距離での視力の質を向上させ,患者の高コントラスト視力に寄与することが期待されている.臨床的には,前向きランダム化試験による左右眼比較において,ClareonPanOptixProは従来のClareonPanOptixと比較し,遠方,遠方.中間120cm,中間,近方のいずれの距離においても,ClareonPanOptixProの見え方を好む患者の割合が多いことが示されており,改良された光学設計の有効性が裏づけられている(Alcondataon.le,2025:REF-27698).3.FINEVISIONHPFINEVISIONHP(以下,FINEVISION)は,BVI社の疎水性アクリル素材の回折型3焦点IOLであり,前面に回折構造を有する非球面バイコンベックス光学部を採用し,+3.5Dおよび+1.75Dの二つの加入度数を組み合わせた設計となっている.回折による光エネルギー損失を最小限に抑えつつ,遠・中・近のバランスの取れた視覚機能を実現している.とくに近方に対する光エネルギー配分が高く,35.40cmの作業距離において良好な近方視力が得られる.光学設計としては,瞳孔径の拡大に伴い遠方への光配分を増加させるアポダイゼーションと,回折溝頂点を滑らかにすることでスターバーストを抑制するコンボリューションを組み合わせた独自のCoPODizeテクノロジーを採用している.これにより,低照度下では遠方視の光配分が高まり,グレア・ハローの軽減とともに良好な夜間視機能が期待される.支持部には全長11.4mmのダブルCループハプティクスを採用しており,4点支持に近い接触様式を形成することで安定した.内固定性と適切な圧着力が得られ,術後の偏心や傾斜の抑制に寄与するとともに,軸回旋の抑制および.収縮の予防効果が期待される.4.TECNISOdysseyTECNISOdyssey(以下,Odyssey)は,ジョンソン・エンド・ジョンソン社の連続焦点型多焦点IOLであるTECNISSynergy(以下,Synergy)の後継レンズとして2024年11月に国内での使用が承認された連続焦点多焦点IOLである.Synergyは回折型2焦点IOLであるTECNISMultifocalにTECNISSymfonyのエシェレット回折構造を組み合わせることで,遠方から近方まで落ち込みのない連続的な焦点深度を実現したIOLであり,他の多焦点IOLと比べ30cm視力が良好であったが,不快光視現象が強く,コントラスト感度が低下する傾向があった.Odysseyは複雑で滑らかな表面構造を形成することで高精度な光配分を実現し,Synergyで課題であった不快光視現象の軽減を目的とした光学設計となっている.また,OptiBlueおよびTECNIS@プラットフォームの採用により球面収差をほぼゼロに補正するとともに,低屈折率・高Abbe数の素材特性により色収差を抑制し,良好なコントラスト感度が期待される.Tri-Fix3点固定による前房深度安定性および良好な中心固定に加え,光学部周辺のリム部構造により前.下への房水灌流が促進されることで,前.切開縁の線維性混濁および前.収縮抑制効果が期待される.さらに,支持部側面のすりガラス状研磨(TECNIStoricⅡ)による術後の軸ずれ軽減効果も継承されている.II本カテゴリーIOLの選択理由および他カテゴリーIOLとの使い分け回折型3焦点IOLおよび連続焦点IOLを選択する最大の理由は,「眼鏡依存度の軽減」である.もともと多焦点IOLは「眼鏡依存度の軽減」を目的に開発されており,その原点となるコンセプトを最重要視しているのがこのカテゴリーのIOLである.したがって,3焦点・連続焦点は裸眼で遠方から近方35.40cmまで見たい患者には最適なIOLになる.遠近両用眼鏡や多焦点コンタクトレンズを使用していない老視眼については,遠視眼.正視眼では近用眼鏡装用が不要なるので,中間.近方視で高い満足度が得られる.とくに,老視のある強(5)あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026599度近視眼は,裸眼全距離視力がきわめて不良であり,3焦点・連続焦点IOLの使用により矯正用アイテム使用から解放され,全距離での裸眼視力が改善するため,非常に高い満足度が得られやすい.近年ではEDOFの選択肢も増えており,3焦点・連続焦点との使い分けが必要になっている.EDOFはコントラスト感度が良好で不快光視現象がほとんどないが,実用的な近方裸眼視力が得られるのは50cm程度まであり,30.40cmの近方視では近用眼鏡が必要になることが多い.両カテゴリーのIOLの選択におけるポイントとしては,①近用眼鏡使用への許容度,②最頻視距離,③鮮明な遠方視力の必要性,④夜間運転の頻度,⑤神経症傾向の有無,などがあげられる.3焦点・連続焦点は,近用眼鏡への拒絶感が強い,最頻視距離が40cm前後,ゴルフや仕事などでの鮮明な遠方視力が必須ではない,夜間運転の頻度が少ない,神経症傾向がない患者は適用としてよく,上記にあてはまらない場合はEDOFを選択すると高い満足度が得られやすいと考えている.図1はPanOptix挿入眼とVivity挿入眼における神経症傾向とVF14による術後満足度の相関をみたもので1),PanOptix挿入眼では神経症傾向が強いと術後満足度が低下するが,Vivityではその傾向が少ないことがわかる.新たな選択肢として,EDOFと3焦点・連続焦点の組み合わせであるMix&Matchの有用性が報告されている2).とくに優位眼にコントラストが良好で不快光視現象の少ないEDOF,非優位眼に近方視の良好な3焦点・連続焦点IOLを使用すると高い満足度が得られやすい.両眼にPanOptixあるいはVivityを使用した患者(Pan-Optix群,Vivity群)と両IOLを組み合わせたMix&Match群の比較では,近方視力はPanOptix群とMix&Match群が同等で,Vivity群より有意に良好であった(図2).近用眼鏡装用率はMix&Match群がPanOptix群よりは高くなったが,Vivity群よりはやや低く,眼鏡依存度を軽減できる可能性がある(図3).さらにPhoticPhenomenatest(PPT)3)で測定した不快光視現象もMix&Match群はハローを自覚するが,その明度がPanOptix群より軽度であり,夜間運転も多くの患者で問題なく可能であった(図4).優位眼にコントラスト感度が良好で不快光視現象の少ないEDOFを使用することで,3焦点IOLで自覚される症状が軽減された可能性が高く,有用な方法である.ただし,Mix&Matchでは近方視力の左右差があるため,近方立体視がわずかに低下する可能性があり,細かい近方作業が必要な患者における適用には注意が必要である.3焦点・連続焦点IOLは,単焦点IOLやEDOFと比較しコントラスト感度,とくに薄暮環境での視機能がやや低下すること,患者によってはハロー・スターバーストなどの不快光視現象が強く自覚される場合があることについては十分な術前説明が必要であり,職業ドライバー,暗所での作業が求められる患者への適用は控えたほうが無難である.そのような患者が強く本カテゴリーのIOLを希望した場合は,IOLにより異なる角膜高次収差および瞳孔径の不快光視現象への影響を検討し,患者によってはMix&Matchを選択する.3焦点・連続焦点IOLは,軽度の屈折ずれや残余乱視の視機能への影響も他のカテゴリーのIOLに比べ大きく,高い精度のIOL度数・トーリックタイプおよび軸の決定,手術が必要となる.また,角膜高次収差が強い患者では,術後眼球高次収差も大きくなり,視機能低下につながる.3焦点・連続焦点はレンズの光学特性の指標となる変調伝達関数(modulationtransferfunction:MTF)が低いため,高次収差の視機能への影響は他のカテゴリーのIOLより顕著に表れるので,角膜高次収差が強い患者には選択すべきではない.とくに注意が必要なのは,角膜鉄片異物などの角膜瘢痕のある患者,翼状片術後患者,ドライアイ患者では肉眼所見での変化は軽度であっても角膜高次収差の強いことが多く,適応とすべきではないことである.III3種のIOLの使い分けPanOptix,FINEVISION,Odysseyはいずれも異なる特性を有するが,実臨床において明確に使い分けるのは容易ではない.理想的には,全距離視力,コントラスト感度,不快光視現象に加え,屈折誤差や残余乱視に対する許容性,高次収差や瞳孔径の影響,さらには眼内での偏心・傾斜特性など,多角的な観点から総合的に判断する必要がある.しかし,これらを網羅的に比較した十600あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(6)aPanOptix挿入眼24例(69.8±5.0歳)質問1電話帳,食品ラベル,薬瓶ラベルなどの小さな活字を読む質問3大きな活字の本や雑誌を読む質問2新聞や本を読む質問9ビンゴ,ドミノ,カードゲーム,麻雀などのゲームをプレイする質問1質問2質問3質問9y=-0.2123x+4.9199y=-0.1688x+4.9644y=-0.1705x+5.2503y=-0.3145x+5.7742VF14質問スコアVF14質問スコアVF14質問スコアVF14質問スコア11357113571135701357神経症スコア神経症スコア神経症スコア神経症スコアbVivity挿入眼34例(64.9±12.0歳)質問1電話帳,食品ラベル,薬瓶ラベルなどの小さな活字を読む質問3大きな活字の本や雑誌を読む質問2新聞や本を読む質問8用紙への名前や住所の記入質問1質問2質問3質問8y=0.0691x+2.8668y=0.0698x+3.1974y=0.0308x+4.1149y=-0.0203x+4.03366R2=0.01626R2=0.01255432VF14質問スコアVF14質問スコア11111357135713571357神経症スコア神経症スコア神経症スコア神経症スコア図1神経症傾向スコアと近見作業満足度スコアの関係a:PanOptix挿入眼C24例(69.8C±5.0歳).十分な視機能が獲得できている症例でも神経症傾向スコアが高いと不満例になる.b:Vivity挿入眼C34例(64.9C±12.0歳).神経症傾向スコアが高い症例でも不満例になりにくい.(logMAR)PanOptix群:n=102(65.96±8.57歳)ANOVAwithtukey:*p<0.05**p<0.01図2PanOptix群,Mix&Match群,Vivity群の全距離視力PanOptix群:両眼にCPanOptixを使用,Mix&Match群:両眼にCPanOptixとCVivityを組み合わせて使用.Vivity群:両眼にCVivityを使用.***(%)1009080706050403020100PanOptixMix&MatchVivity頻繁に使用する半分くらい使用する細かい文字を読むときのみ使用するほとんど使用しないχ2検定:*p<0.05**p<0.01図3近用眼鏡装用率PanOptix群:n=62(65.7C±9.3歳),Mix&Match群:n=21(66.6C±8.9歳),Vivity群:n=30(64.2C±7.4歳)図4不快光視現象の比較PanOptix群:n=40(65.7C±8.3歳),Mix&Match群:n=20(66.3C±8.56歳),両眼CVivity群:n=22(64.1C±9.4歳)(logMAR)-0.20-0.100.000.100.200.300.400.50*:p<0.05,**:p<0.01(tukey)図53種IOL挿入眼の片眼全距離視力PanOptix:n=247(65.6C±9.1歳),FINEVISIONHP:n=71(64.1C±9.6歳),Odyssey:n=16(64.9C±9.3歳)(AULCSF)*2.001.801.601.401.201.000.800.600.400.200.00*:p<0.05,**:p<0.01(tukey)図63種IOL挿入眼のコントラスト感度(AULCSF)PanOptix:n=313(65.6C±9.1歳),FINEVISIONHP:n=66(64.3C±9.6歳),Odyssey:n=16(63.5C±9.3歳)CPanOptixFINEVISIONHPOdysseyn=75(65.3±9.6歳)n=29(64.5±9.3歳)n=33(68.1±11.5歳)瞳孔径4.5mm以上(全体の28%)瞳孔径3.5mm以上4.5mm未満(全体の47%)瞳孔径3.5mm未満(全体の25%)図73種IOL挿入眼の不快光視現象と瞳孔径(logMAR)PanOptixPro-0.20PanOptix-0.100.100.200.300.403040506070100(cm)5m小数視力に換算した平均視力PanOptixPro0.650.941.020.980.971.001.34PanOptix0.560.860.960.990.940.881.30Mann-WhitneyU検定図8PanOptixとPanOptixPro挿入眼の片眼全距離視力PanOptix:n=122(63.5C±5.1歳),PanOptixPro:n=16(60.6C±7.7歳)CPanOptix図9PanOptixとPanOptixPro挿入眼の不快光視現象(PPT平均画像)PanOptix:n=32(63.7C±6.6歳),PanOptixPro:n=9(57.3C±6.6歳)

序説:最新眼内レンズの特徴と選び方・私の流儀

2026年6月30日 火曜日

最新眼内レンズの特徴と選び方・私の流儀FeaturesandSelectionoftheLatestIntraocularLenses:MyApproach大鹿哲郎*白内障手術が「濁りを取り除いて終わり」であった時代は,もはや遠い過去のことである.いまわれわれ眼科医が向き合っているのは,混濁した水晶体の代わりに,どのような光学系を眼内に「実装」するかという選択である.しかも,その選択肢は少なくない.回折,屈折,分節,焦点深度拡張型(extendeddepthoffocus:EDOF),トーリック,さらには「少しだけ便利な単焦点」まで,同じ眼内レンズ(intraocularlens:IOL)という語のもとに,設計思想の異なる道具がずらりと並ぶ.患者からすれば「よく見えるレンズを入れてほしい」という切実な一言に集約されるが,術者の脳内では,生活様式,性格,職業,夜間視機能,併存疾患の有無,将来の追加矯正の可能性,そして「どこまでの不全を許容できるか」という,きわめて人間味あふれる天秤が揺れ動いているのである.現代の術者は,ある種の「贅沢な悩み」に直面しているといえる.選択肢が増えれば増えるほど,「どのレンズを,どの患者に,なぜ選ぶのか」という問いはより深く,より複雑になる.これほどまでに選択肢が成熟した時代において,眼科医はいかなる判断軸をもって患者と向き合うべきか.本特集は,この問いに向き合うために企画された.老視矯正IOLの歩みをたどれば,回折型2焦点IOLの登場は大きなステップであった.回折現象を応用し,遠近の双峰性にピントを合わせるという独創的な設計は,患者に福音をもたらした.しかし,その光学的恩恵の裏側で,グレア・ハローといった異常光視症やコントラスト感度の低下,あるいは中間視力の落ち込みといった課題を内包していたことも事実である.その後,絶え間ない技術革新を経て,3焦点,連続焦点,EDOFといった概念が確立され,市場には各社の英知を結集した新製品が次々と投入されてきた.多種多様なレンズが鎬を削る現在,もはや「老視矯正IOLを挿入する」という一言のみでは,その臨床的意図をなんら語り得ない時代を迎えているのである.本特集では,現在臨床で用いられる老視矯正IOLを網羅的にカバーすべく,各分野を牽引するエキスパートの方々にご寄稿いただいた.まず,佐々木洋先生(金沢医科大学)には,現在の老視矯正IOL市場で主役を担う回折型3焦点・連続焦点IOLについて解説いただいた.基本的な光学特性から,先生ご自身の緻密な使い分けの哲学まで,豊富な臨床経験に裏打ちされた論考をお願いした.続いて,藤本可芳子先生(フジモト眼科)には,回折ゾーンが狭く近方加入度数が高いというユニークな特性をもつ老視矯正IOLを用いた「pairing」戦略についてご紹介いただいた.両眼に異なる特性*TetsuroOshika:筑波大学医学医療系0910-1810/26/100/頁/JCOPY(1)595