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写真セミナー:ブリモニジンによる角膜混濁を伴った虹彩異色症

2025年9月30日 火曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史496.ブリモニジンによる角膜混濁を伴った白根茉利子東京歯科大学市川総合病院眼科虹彩異色症図2図1のシェーマ①角膜混濁②色素が少ない虹彩図1左眼の前眼部写真(白内障手術後)角膜実質内にghostvesselを伴う角膜混濁を認めた(点線内).右眼(図3)と比較すると,全体的に虹彩色素が少ない.図4右眼の前眼部光干渉断層写真角膜実質の混濁()を認める.図3右眼の前眼部写真角膜実質内にghostvesselを伴う角膜混濁(点線内)を認めた.(77)あたらしい眼科Vol.42,No.9,202511570910-1810/25/\100/頁/JCOPYブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)の長期使用歴のある77歳の女性の症例を提示する.生下時より虹彩の色調に左右差を認めていた.両眼の原発開放隅角緑内障に対し,数年前よりブリモニジンを使用していたが,数年前から両眼に角膜混濁が出現した.右眼は黄斑変性により元来視力不良であったが,約1年前から徐々に左眼も視力低下が進行したため,治療目的で筆者の病院を紹介受診した.初診時,矯正視力は右眼(0.01),左眼(0.1)であった.両眼とも角膜周辺部から瞳孔領にかけて脂肪変性とghostvesselを伴う角膜混濁を認めた(図1~4).ブリモニジンの長期使用歴があることから,ブリモニジン関連角膜混濁が考えられた.また,虹彩色調の左右差を認め,虹彩異色症(heterochromia)と診断した.左眼は核硬化3度の白内障が視力低下の主因と考えられたため,水晶体再建術を施行し,矯正視力は(1.0)まで改善した.ブリモニジン点眼は中止とした.虹彩の色調はメラニン量とその分布により決定する.虹彩異色症は,虹彩メラニンの量や分布の差異により,左右眼で虹彩の色調が異なる疾患である.片眼の虹彩全体に色素異常を認める完全虹彩異色症,一部のみが異なる部分虹彩異色症に分類される.原因は先天性と後天性に大別される.先天性の場合は遺伝的要因や胎生期の発達異常により発症し,多くは眼所見や全身異常を伴わないが,Waardenburg症候群やSturge-Weber症候群などの一症状として出現することもある.後天性では外傷,Fuchs異色虹彩毛様体炎などの眼炎症,腫瘍に伴い発症することがある.虹彩異色症そのものに治療の必要はないが,後天性の場合は原因となる眼疾患の検索や,全身疾患の合併について精査を行う.本症例は生下時からすでに虹彩異色を認めていたこと,全身合併症の既往もないことから,先天性の虹彩異色症と判断した.ブリモニジンはa2作動薬であり,房水産生抑制およびぶどう膜強膜流出促進作用により眼圧を下降させる.しかし近年,ブリモニジンの長期使用により炎症性角膜混濁をきたすことが報告された2).結膜充血や濾胞性結膜炎に続き,角膜周辺部に輪状の浸潤が出現し,新生血管の伸長とともに混濁は中心部へ向かい,扇形を呈する3).治療はブリモニジンの中止とステロイド点眼による消炎を行うが,角膜瘢痕が残存することが多く,早期発見・早期診断が重要である.文献1)RennieIG:Don’titmakemyblueeyesbrownhetero-chromiaandotherabnormalities.Eye26:29-50,20122)MaruyamaY,IkedaY,YokoiNetal:Severecornealdis-ordersdevelopedafterbrimonidinetartrateophthalmicsolutionuse.Cornea36:1567-1569,20173)篠崎友治,溝上志朗,細川寛子ほか:ブリモニジン関連角膜実質混濁の臨床経過─自験3症例からの考察.あたらしい眼科41:82-88,2024

眼科外傷および眼科救急における禁忌と診療上の 留意点─自験例から学ぶ盲信回避の重要性

2025年9月30日 火曜日

眼科外傷および眼科救急における禁忌と診療上の留意点─自験例から学ぶ盲信回避の重要性ContraindicationsandCriticalMindsetinOcularTraumaandOphthalmicEmergencies:LessonsLearnedfromClinicalExperienceontheImportanceofAvoidingBlindTrust藤澤邦見*はじめに本稿は眼科の外傷と救急における禁忌がテーマだが,「リカバリーできないほどの禁忌」というと案外むずかしい.恩田が想定される眼外傷と原因,疾患を表に示している1)ので,その項目に沿って記述した.本稿の内容は禁忌といっても,リカバリーがまったく不可能なことばかりではない.あわせて自験例について,別の視点で(禁忌とまではいかないが)重要な心構えについても詳しく記載した.これら自験例の内容について「こんなことをするわけがない」と思う読者もいるだろうが,筆者の反省も込めて記載しており,参考にしていただきたい.ちなみに,chatGPT5に眼外傷と救急における禁忌を聞くと,疾患項目ごとの記載が返され,最後に下記であるとまとめられていた.①視力・生命にかかわる処置を優先②圧迫を避け,眼球を保護③専門医への速やかな搬送なるほど,と思うところであるが,本稿で自験例を用いながら示したのは,chatGPTは示してくれない内容である.I眼外傷の禁忌1.鈍的眼外傷における禁忌a.眼窩壁骨折で筋絞扼型を見逃す外眼筋が萎縮してしまう絞扼型に至急の対応をしなければ,回復不能の眼球運動障害を残してしまう.受傷後,嘔吐や強い疼痛などが継続し,強い眼球運動障害があれば強く疑う.眼窩のCT像(冠状断)で,副鼻腔側に必ず眼窩脂肪や外眼筋の絞扼を確認でき2),診断がつく.forcedductiontestは筋絞扼型ではさらなる筋の挫滅を生じる危険性があり,外来では禁忌である3).筋絞扼型は可及的速やかに手術する必要がある.b.眼球破裂で見える裂傷範囲だけを確認する必ず見えない裂傷範囲を探す.具体的には,結膜下,外眼筋下,主裂傷の対側などである.見てすぐに確認がとれる場所ばかりが裂傷部位ではない.2.裂傷,穿孔,貫通型眼外傷における禁忌a.感染が疑われる場合に培養せずに診療を進める初診時すぐや手術時の前房水や硝子体での培養は必須であり,忘れれば機会を失う.b.眼球の刺入物を無計画に抜く安易に抜いて房水や眼内組織が脱出すれば,即座の対応をしないとリカバリー不能となる可能性がある.3.眼内・眼窩内異物による眼外傷における禁忌a.眼窩異物・眼内異物を見逃す異物を疑えば必ずCT撮影をするべきである.b.金属異物の疑いがあるのにMRIを行う少しでも金属異物の疑いがあれば,MRIは行わない.このほか,裂傷部位確認や感染については項目1,2*KunimiFujisawa:昭和医科大学横浜市北部病院眼科〔別刷請求先〕藤澤邦見:〒224-8503神奈川県横浜市都筑区茅ヶ崎中央35-1昭和医科大学横浜市北部病院眼科(1)(69)11490910-1810/25/\100/頁/JCOPYと同様である.4.薬傷・熱傷・電磁波による眼外傷における禁忌a.洗眼よりも受診を優先する指示薬傷や熱傷では,水道水の流水での洗眼を早く十分にやるほど予後がよくなる可能性が高まる.時間との勝負なので,受診よりもまず十分な洗眼を指示し,そのあとに受診するようにすべきである.5.外傷以外における禁忌a.緑内障発作でのレーザー虹彩切開で虹彩に穴を開けられずに終わる角膜の浮腫などで,どうにも虹彩に穴を開けられないことがある.縮瞳薬などですでに降圧がはかられていればよいが,瞳孔ブロックが解除できないままでは治療を終わるべきではなく,どうしてもレーザーで開けられなければ,観血的な治療に変えて完遂すべきである.b.眼内炎での診察の遅延眼内炎,とくに眼底がみえない術後眼内炎におけるのんびり診察は禁忌である.菌によるが,1時間ごとに病態は悪化していく.ほかの外来や手術を止めて,1分を争って診断し,抗菌薬投与や手術に踏み切る.菌によっては1.2時間遅れるだけで予後を悪くしてしまう.6.全般的な禁忌a.全身状態,脳への影響,迷走神経反射を考えないどんな場合であっても,これらを念頭におかないのは禁忌である.b.反対眼の診療を怠る反対眼の診療を怠らず,激しい外傷であれば交感性眼炎をつねに念頭におく.緑内障発作や網膜.離では,反対眼にも生じそうなことや,すでに生じていることもある.c.至急の患者の受診診察を翌日以降にするこれは禁忌というほどではないが,極力すべきではない.実際にみるまでは,本当のところどうなっているかはわからないからである.視力などの検査ができなくとも,1回診察してみるべきである.そのうえで,治療を翌日にするというのは当然ありうる.とはいえ,すぐの診察を現場で実践するのはなかなかむずかしく,網膜.離などでは「明日の朝一番に来てください」「週明けに来てください」と伝えることもある.II自験例筆者が,もっとも尊敬するかたにかつていわれたと思い込んでいる言葉があり,診療のたびに思い出し,うまくできず反省したりしている.「いいかい藤澤君,誰も信じちゃいけないよ.自分だけを信じなさい.」という言葉である.後年,「そんなこといったかな?」とのことだったので,筆者が思い込んでいるだけのようだが,筆者的には勝手な思い込みと解釈から,大事な戒めとしている.そのままでは人間不信のようだが,他を信じることで,自身でしっかりみたり,聞き取ったり,調べたりすることに少しでも手を抜いてはいけないという言葉として解釈している.つまり,「他を盲信してはいけない.自身を信じられるように律せよ」ということであり,とても大事なことを示唆している.どんな診療においても重要なことであるが,時間や環境が整わないことの多い救急ではとくに大事なのではないかと考える.患者の話を信じない,前医の診療を信じない,スタッフを信じない,機器の測定結果を信じない.どれもひどいことに聞こえるが,「盲信してはいけない」といえばわかっていただけるだろうか.患者の話を盲信するのも,前医の診療を盲信するのも,スタッフを盲信するのも,機器の測定結果を盲信するのも禁忌──ということである.加えると,さらに重要なのは「自分を信じない」ことと,「自分だけを信じる」ということである.自分の行為も疑ってみると同時に,自身のみたこと,聞いたこと,調べたことをきちんと把握できているなら,それだけは信じて診療にあたることである.患者の話は,受傷機転などをしっかり聞いたつもりでも,患者本人が脚色していることもあれば,誰かに脚色させられている(“労災飛ばし“のときなど)こともある.所見との相違などがあれば,話を鵜呑みにせず,多方面から聞き取る必要がある.医師が患者の話を勝手に思い込みで解釈していることもあるので,本当に客観性1150あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025(70)のある見方なのかを自身に問いかけながら話を聞く必要がある.前医での診療結果は,実際に自分で診察するまで鵜呑みにしないこと.優秀な先生がみていても,見逃しや思い込みでの診断がありうる.治療において,「この先生ならこれぐらいできるだろう」と考えるのも危険である.救急では,いつもできていることができないこともある.環境によって,人は能力が変わるのである.スタッフはこれぐらいのことはわかっているだろう,できるだろうと考えていると足元をすくわれる.筆者が師事した先生は,手術の前日に必ず手術室を訪れて看護師をよび出し,手術の段取りをシェーマにして説明し,重要事項やタイミングを詳しく伝えていた.スタッフが「これぐらいのことは教えなくともできるだろう」というような考えはもたずに,ルーチンで事前に重要ポイントを伝えていた.実際のところ,筆者自身これらがうまくできているかといえばなかなかむずかしいのだが,以下の眼科救急の自験例を,自戒を込めつつ示す.[症例1]63歳,男性.網膜に釘が刺さっていた穿孔性眼外傷の症例である.地方病院で筆者の診察日の前に,2名の医師がそれぞれ別日に診察していた.初診時は,「木の枝に左眼がぶつかった」という訴えだったが,あとから日曜大工で釘打ち機エアガンを使っていて受傷したことが判明した〔→患者(の話)を信じてはいけない〕.この受傷機転の話と所見から,初診時では眼内異物の想定はむずかしく,CTは行われていなかった.角膜裂傷と軽度の水晶体損傷があったが眼圧は保たれており,矯正視力1.0であった.眼底はOptosで広角撮影(図1a)されていた.初診時には釘打ち機の話が出ておらず,硝子体混濁もほとんどなかったため,点眼などで4日間保存的に経過をみられていた.白内障が進行して視力低下しており水晶体損傷があるが,この地方病院で手術可能かと筆者に診療が回ってきた.当該の週だけは日曜日と火曜日が筆者の診察日であり,診療時間は限られていたものの日曜日が筆者の初見となった.視力・眼圧などは落ち着いており,前房の炎症も少なく,硝子体混濁は軽度であった.2名の医師が眼底チェックもしており,Optosの眼底所見をみて,素早く眼底を観察し,損傷のある白内障手術の説明をして短時間の診察とした.Optos撮影は診察のたびに行っていたが,異物は写っていなかった(撮影の際に開瞼が足りなかったか,睫毛に隠されたと思われる).翌々日の火曜日に再診とした.「すでに専門医受験前で知識も豊富な2名の医師が眼底検査をしており,Optos像でも明らかな問題がないので,眼底には大きな問題はないだろう.植物が眼内異物になっていればみつかるだろうし,刺さったなら真菌には要注意かな」.このように,前医の診療とOptos眼底像を盲信してしまった.あとから考えれば,短時間でも眼底の大きな問題はチェックし切れていると自分を過信・盲信し,「この施設では非常勤医師しかいないし,硝子体手術して入院管理は困難だから,点眼で保存的に加療できる状態でよかった」と,都合のよいほうに診療内容を誘導してしまっている(→機械の所見を盲信してはいけない.前医の所見を盲信してはいけない.自分でしっかりみよ!).前医を非難しているのではまったくない.患者の受傷時の説明,炎症や硝子体混濁の少なさ,Optos画像,角膜裂傷があり接眼レンズでの眼底精査がしにくい状態であったことなどで,筆者を含め3回の診察で眼内異物をみつけ損ねており,キャリアを考えれば筆者が一番反省すべきである.そして,火曜日(受傷後6日)の診察時に倒像鏡で散瞳精査したところ,鼻下側周辺に光るものが!「これは…….眼内異物.釘……?」スタッフにそのことを伝え,Optos撮影を再度依頼すると,見事に異物が撮影されていた(図1b).約1週間で感染性眼内炎や網膜.離は生じておらず,取り返しがつかないことにはなっていないと自分を慰めながら,患者に状態を説明し,約200km離れた昭和医科大学横浜市北部病院眼科(以下,当院)での入院手術を計画した(図2a~d).術式の詳細は本稿の論じるところではないので記さないが,受傷後9日目に水晶体乳化吸引術(phacoemulsi.-cationandaspiration:PEA)+眼内レンズ(intraocularlens:IOL)+硝子体切除術(vitrectomy)で,眼内異物(71)あたらしい眼科Vol.42,No.9,20251151a図1症例1の眼底広角撮影a:初診時.眼内異物は確認できない.b:受傷後6日後.眼内異物を確認できる.a図2症例1の大学病院受診時a:前眼部写真.b:CT像.c:超音波Bモード写真.d:眼底パノラマ写真.図3症例1の眼内異物摘出術中写真[症例2]26歳,男性.午後になってドクターtoドクターで連絡が来た救急の穿孔性眼外傷である.前医からの連絡は「誤ってナイフで自分の眼を刺した若者で,角膜裂傷になっている.虹彩がかんでいて現状ほとんどリークはないから,明日まで様子をみられるかもしれないが,とりあえず受けてほしい.水晶体損傷はあるかもしれない」という内容だった.「とにかくすぐ来てもらってください.見ます」と返事をした.Iの項目でも述べたとおり,ここで「今からだと時間外になる可能性が高いですし,抗菌薬の点眼と眼帯保護をして,明日受診してください」といった返事は禁忌である.救急の患者は,なにより自分の目で可及的速やかにみることである.みたうえで「明日再度受診してください」ならばよい.この時点で勤務後の予定もあった筆者は,前医からの話から「うまく虹彩がかんでいるなら,メディカルユースでカバーして,明日のオペ日にしっかり対応すれば大丈夫かも」という甘い考えが巡っていた.しかし,前医としては「大学病院は忙しいからあまり負担をかけたくない」という気持ちもあるだろうし,もしかすると「重症度が高いといって,断られたらどうしよう」という考えもあるかもしれない.これらはクリニックの立場からすれば当然である.救急診療の依頼者がどんなに優秀なドクターであっても,伝えられる所見を盲信せず,参考程度に割り切り,できるだけすぐに一度診察するべきである.今回の症例とは異なるが,来院が遅くなるほど人員の確保もむずかしくなり,対応が悪くなるのは当然なので,「すぐに向かわせます(行きます)」という前医(患者)の言葉を鵜呑みにするのは禁忌である.こちらから,「そこからタクシーなら○時には受診できるでしょうから,それまでに来てください」「入院の準備で荷物を家にとりに帰ったりするのは避けてください」「連絡なしで受診されない場合は,いらっしゃらないと判断して医師もスタッフも不在となる可能性があります」などと伝えることが重要だと考える.症例に戻るが,診察すると角膜裂傷にとどまらず強膜にも相当の裂傷があり(図4),虹彩も大きく脱出していた.受傷の原因となったのは,仕事で建具を工作していたノミ(図5a,b)で自分の眼を切り裂いたことだった.明日まで待つのも不可能ではないだろうが,可及的速やかに創を確認し,縫合することが必要と判断し,眼脂培養のうえですぐの緊急入院・緊急手術とした.結膜を開いていくと,鋸状縁に届く強角膜裂傷だった.角膜裂傷3.5mmに続き強膜裂傷10mmであった.この日は創縫合のみとし,強膜裂傷部にラジアールバックルを置いた.その後,水晶体損傷も強く,PEA+IOL+vitrecto-myを行い,矯正視力1.2と良好に回復した.[症例3]49歳,男性.水晶体温存で硝子体混濁に対し筆者がクリニックで行った硝子体術後眼内炎である.手術翌日は炎症も硝子体混濁もごく軽度であった.2日目の朝6時頃よりかすみはじめ,9時に開くクリニックに受診.クリニックで診察を待っている間も,時間とともにどんどん見えなくなったとのことであった.クリニックで瞳孔のフィブリンと眼底が透見不能であった.前房蓄膿は認めなかった.超音波Bモードでは明確な網膜.離や菌塊を認めていない.術後眼内炎の診断で,当大学病院に紹介受診.午前11時,筆者は手術室だったがいったん止めて外来診察し,同様の所見を認め,至急での対応を指示.眼脂培養,全身検査,IOL計測などを行い,バンコマイシンなどの全身投与を開始し,病棟には行かず外来から直接手術に入り,手術室は定期手術を止め,13時半頃からPEA+IOL+vitrectomyを開始した.ぼやけだしてから7時間半後,クリニック受診の4時間半後,当院受診の2時間半後であった.硝子体混濁は著明で,眼底血管は大半が白線化し網膜出血も広範にあり,白血球塊が網膜面に多数付着していた(図6).眼内炎では,網膜中心静脈閉塞(centralretinalveinocclusion:CRVO)様所見はかなり強くても,対応が早ければかなり回復するので失明まではないと考えたが,どこまでの視力回復が得られるかは悩ましい状態であった.しかし,そのあとの抗菌薬投与と2回のvitrectomyで,まだらにみえるとの訴えはあるものの,最終的な矯正視力は1.2となった.もし初回手術が数時間後であれば,網膜の不可逆的損傷が進行し,それほどの視力回復は得られなかった可能性がある.1154あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025(74)図4症例2の大学病院受診時前眼部写真図5症例2のノミの先端(a)と柄(b)図6症例3の術後眼内炎術中写真強度の網膜中心静脈閉塞症様眼底と白濁塊の網膜付着を認める.

全身疾患に伴う眼科診療における禁忌 ─背景疾患を考慮した安全な眼科治療のために─

2025年9月30日 火曜日

全身疾患に伴う眼科診療における禁忌─背景疾患を考慮した安全な眼科治療のために─ContraindicationsinOphthalmicPracticeAssociatedwithSystemicDiseases─TowardSafeOphthalmicManagementwithConsiderationofUnderlyingConditions─篠田啓*はじめに眼科診療においては,眼局所の所見や症状に目を奪われがちであるが,眼は「全身の窓」と称されるように,多くの全身疾患の徴候が表れる臓器である.同時に,眼科的治療や処方,検査が患者の全身状態に影響を与えることも少なくない.とくに,全身疾患を背景にもつ患者に対しては,眼科的アプローチが直接的に健康や生活の質にかかわる場合もあり,特定の治療や薬剤が「禁忌」となりうるケースも存在する.本稿では,全身疾患を背景とする患者に対する眼科診療において,とくに注意すべき禁忌事項および安全な診療のための他科連携の重要性について述べる.I全身情報のスクリーニングと情報収集安全な眼科診療の第一歩は,患者の全身状態を正確に把握することである.既往歴の聴取:糖尿病,高血圧,心疾患,腎疾患,呼吸器疾患,自己免疫疾患,血液疾患,悪性腫瘍,感染症,神経疾患など.内服薬の確認:抗凝固薬,ステロイド,免疫抑制薬,精神科薬,分子標的薬,a1遮断薬など.アレルギー歴の確認身体所見の観察:顔色,歩行,意識レベル,呼吸状態.などに留意する.II内科疾患と眼科診療の注意点1.糖尿病:血糖コントロールと眼科治療の相互作用糖尿病(表1)は,全身の細小血管障害を引き起こし,眼に多様な合併症を引き起こすもっとも頻度の高い全身疾患の一つである.a.眼合併症の概要糖尿病網膜症(増殖性,非増殖性),糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME),血管新生緑内障,白内障,角膜上皮障害,眼筋麻痺(外眼筋麻痺)などがある.血糖コントロールの指標であるHbA1cが高値の場合,手術など眼科治療介入時には内分泌内科医との血糖管理における密な連携が必須である.b.注意点・禁忌血糖コントロール不良例(HbA1c>9%が目安)における局所・全身ステロイドの投与:高血糖を悪化させ,全身合併症を招くリスクがある.たとえば手術後には,血糖コントロール不良が感染リスクを高め,術後合併症のリスクを増大させる.眼科的治療の必要性と血糖コントロールの状態を斟酌し,できるだけ血糖値を安定させてから治療を行う.急激な血糖コントロール:重症の糖尿病網膜症患者において,急激な血糖降下は,一時的に網膜症の進行(早期悪化現象)を招くことがある.網膜症の状態を考慮し,緩やかな血糖降下をめざす必要がある.糖尿病性腎症:造影剤(蛍光造影など)を使用する検*KeiShinoda:埼玉医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕篠田啓:〒350-0495埼玉県入間郡下呂山町下呂本郷38埼玉医科大学医学部眼科学教室(1)(59)11390910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1糖尿病眼合併症と治療薬薬剤名血糖値への影響禁忌・注意点推奨される対応高血糖を助長血糖コントロール不良例では内科と連携し,投与前後で血糖ステロイド(局所・全身)使用慎重モニタリング黄斑浮腫改善→血糖依存性あり*妊娠中は禁忌,腎機能障害例は妊娠の有無確認・内科連携・抗VEGF薬慎重投与腎機能チェックチアゾリジン系糖尿病薬黄斑浮腫を悪化糖尿病黄斑浮腫例では原則禁忌眼科でDME進行の有無を確(ピオグリタゾン)認・内科と連携低血糖リスクは少ない脱水や腎機能障害に注意定期的な腎機能・血糖のSGLT2阻害薬フォローアップビグアナイド系低血糖なし/乳酸アシドーシスに腎機能障害,脱水,高齢者での脱水防止と定期的な血液検査,(メトホルミン)注意使用に注意内科連携*血糖コントロール不良例では再発しやすく,効果が持続しにくいSGLT2:sodium/glucosecotransporter2.図1ワルファリンの過剰摂取によると思われる自然発生脈絡膜上腔出血67歳,男性.受診時右眼に脈絡膜上腔出血を生じ,国際標準化比率(INR)>8でワルファリンの過剰摂取が原因と考えられた.手術により血液の廃液が行われた.手術動画が公開されている(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6157128/.gure/MOESM1/)(文献2より転載)生物学的製剤(テプロツムマブ)が開発された.a.代表的な眼症状眼球突出,眼瞼後退,外眼筋の肥大・線維化による眼球運動障害(複視),兎眼による角膜潰瘍,視神経圧迫による視神経症(視力低下,視野異常)など.b.注意点・禁忌甲状腺眼症の急性増悪期:活動期にある甲状腺眼症の患者に対する眼窩減圧術や斜視手術,あるいは放射線治療は,炎症をさらに増悪させ,予後を悪化させる可能性があるため原則として禁忌で,ステロイドパルス療法などの炎症を抑える全身治療が優先される.ただし,重症視神経症状(視力低下,視野異常)が急速に進行する場合は,活動期であっても例外的に緊急眼窩減圧術が行われることがある.3.Sjogren症候群a.注意点・禁忌慢性的なドライアイは,角膜上皮障害や角膜感染症のリスクを高める.眼科検査や処置時に角膜を傷つけないよう細心の注意を払う.4.多発性硬化症a.注意点・禁忌視神経炎を合併して,視力低下や色覚異常をきたすことがある.ステロイドパルス療法が治療の選択肢となるが,その全身副作用に留意し,神経内科との連携が不可欠である.IV妊娠・授乳と眼科治療1.注意点・禁忌以下は原則禁忌または慎重投与である.妊娠中の抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬(胎盤通過),授乳中の蛍光造影(母乳への移行).V神経・精神疾患統合失調症やうつ病,認知症などの患者は,薬剤感受性が異なる場合や,意思決定能力に課題を抱えることがある.眼科で使用する抗コリン薬は,とくに精神症状を悪化させる恐れがある.1.注意点・禁忌統合失調症患者への抗コリン作用の強い薬剤(例:アトロピン点眼)使用は認知障害の増悪のリスクがある.重症筋無力症では自己抗体がアセチルコリン受容体を攻撃し,筋肉が刺激に反応しにくくなるため,筋弛緩作用のある薬剤に過敏になる.麻酔薬使用に際し作用が過度になる,持続時間が予測以上に延びる,呼吸抑制や術後無呼吸のリスクなどに注意する.認知症や意思疎通困難例では十分に意思疎通や理解度を確認し,単独手術同意取得は行わない.VI血液疾患(出血性素因,凝固亢進状態)血友病,血小板減少症,播種性血管内凝固症候群(disseminatedintravascularcoagulation:DIC)などの出血性素因をもつ患者や,深部静脈血栓症,肺塞栓症の既往がある凝固亢進状態の患者では,眼科診療において注意が必要である.1.注意点・禁忌a.出血性素因がある場合侵襲的処置(手術,注射,生検など)はきわめて慎重に適応を考える.止血能の評価〔プロトロンビン時間-国際標準化比率(prothrombintime-internationalnor-malizedratio:PT-INR),活性化部分トロンボプラスチン時間(activatedpartialthromboplastintime:APTT),血小板数など〕を厳密に行い,必要に応じて輸血や凝固因子の補充を行う.局所麻酔時の針の刺入,術後の出血,外傷時の出血など,あらゆる出血リスクを最小限に抑える必要がある.b.凝固亢進状態(血栓形成リスク)血管閉塞性の眼疾患(網膜動脈閉塞症,網膜静脈閉塞症など)を合併している可能性に注意する.長期臥床を要する手術後には,深部静脈血栓症や肺塞栓症のリスクが高まるため,弾性ストッキングや早期離床などの予防策を講じる.1142あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025(62)VII感染症全身性の感染症は,眼に直接的な合併症を引き起こすだけでなく,患者の全身状態や感染制御の観点から眼科診療に制約を与えることがある.1.HIV/後天性免疫不全症候群免疫不全を特徴とするHIV/後天性免疫不全症候群(acquiredimmunnode.ciencysyndrome:AIDS)患者は,さまざまな眼合併症や日和見感染のリスクがある.a.眼合併症の概要サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)網膜炎,カポジ肉腫,ニューモシスチス肺炎後視神経障害,HIV網膜症など.b.注意点・禁忌日和見感染のリスク:免疫力が低下しているため,侵襲的検査(眼内生検など)や眼内注射は,日和見感染のリスクを大幅に高める可能性がある.強力な免疫抑制下での緑内障手術:免疫抑制下では,濾過手術後の感染性眼内炎のリスクが増大する.血液曝露リスク回避:HIVキャリア患者の血液や体液に触れる可能性のある処置(採血,手術など)では,医療従事者の血液曝露リスクを避けるため,標準予防策を徹底する.2.ウイルス肝炎(B,C型)a.眼合併症の概要以前はインターフェロン治療による網膜症(軟性白斑,出血)が報告されていた,近年は他の治療法が中心となり,網膜症はほとんどみられなくなった.b.注意点・禁忌B型およびC型肝炎ウイルスキャリアの患者への処置では,医療従事者への血液曝露リスク回避のため,採血や手術時における標準予防策を徹底することが重要である.VIII血液疾患・白血病・悪性腫瘍血液凝固異常や骨髄抑制を伴う血液疾患,悪性腫瘍患者の化学療法中は,出血や感染のリスクが高まる.1.眼合併症の概要白血病網膜症(網膜出血,軟性白斑,網膜浸潤),脈絡膜浸潤,眼窩浸潤など.2.注意点・禁忌a.重度の血小板減少化学療法による重度の血小板減少(例:血小板数5万/μl以下)時には,網膜光凝固や硝子体手術などの侵襲的な治療は原則として禁忌である.必要に応じて血小板輸血などを行い,血小板数が改善してから処置を検討する.b.化学療法中の全身状態化学療法中は,骨髄抑制による易感染性や全身倦怠感がある.造影剤使用や,局所麻酔薬を含む薬剤の選択にも,肝機能や腎機能,全身状態を考慮した配慮が必要である.IX悪性腫瘍と抗癌剤治療悪性腫瘍自体の眼への転移(脈絡膜転移など)や,腫瘍随伴症候群として眼症状を呈することがある.また,抗癌剤治療は眼にさまざまな副作用をもたらす.1.抗癌剤による眼毒性(表2)5.7)a.タモキシフェン網膜症〔黄斑浮腫(macularedema:ME),網膜への結晶沈着,網膜色素上皮異常〕を引き起こす可能性がある(図2)8).b.シスプラチン網膜毒性(視力低下,色覚異常,視野異常)や視神経障害が報告されている.c.タキサン系抗癌剤種々の癌に用いられるパクリタキセル,ドセタキセルは,ドライアイ,視神経症,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)を生じうる(図3).d.分子標的薬EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌の治療に用いられる分子標的薬である上皮成長因子受容体(epidermalgrowthfactorreceptor:EGFR)阻害薬(ゲフィチニブ,エルロチニブ)による角膜障害(角膜上皮欠損),結膜(63)あたらしい眼科Vol.42,No.9,20251143表2抗癌剤の種類と眼科的副作用種類薬剤名眼科的副作用C1.殺細胞性抗癌剤白金製剤シスプラチン,他視神経炎,視神経症,網膜障害微小管阻害薬タキサン系抗癌剤パクリタキセル,ドセタキセル,他結膜炎,涙道障害,網膜障害,視神経障害代謝拮抗剤フルオロウラシル系抗癌剤S-1(ティーエスワン),5-フルオロウラシル(FU)角膜障害,涙道障害抗癌性抗生物質マイトマイシンC(MMC)点眼角膜障害,涙道障害C2.分子標的薬*抗体薬標的抗原はCEGFR,HER2,VEGFなど多数ある抗CHER2抗体トラスツズマブ,ペルツズマブ,デルクステカン,他角膜障害,黄斑浮腫,視神経乳頭浮腫小分子化合物チロシンキナーゼ阻害薬①CBCR-ABL阻害薬,②CBRAF阻害薬**,③CMEK阻害薬**,EGFR阻害薬,他①イマチニブ,ダサチニブ,ポナチニブ,他②ベムラフェニブ,タブラフェニブ,エンコラフェニブ③トラメチニブ,ビニメチニブ④ゲフィチニブ,エルロチニブ結膜浮腫,結膜炎,涙道障害,眼瞼浮腫,眼球突出,黄斑浮腫,網膜出血網膜障害,黄斑浮腫,視覚異常,眼痛,羞明視力低下,網膜色素上皮.離,漿液性網膜.離角膜障害,結膜炎マルチキナーゼ阻害薬ソラフェニブ,スニチニブ,アキシチニブ,他結膜炎,眼乾燥症,網膜静脈閉塞,視神経障害FGFR阻害薬ペミガチニブドライアイ,視力低下C3.癌免疫療インターフェロン抗CPD-1抗体薬ニボルマブ,ペムブロリズマブ,セミプリマブ虹彩炎,ぶどう膜炎,視神経炎法免疫チェックポイント阻害薬抗CPD-L1抗体薬アベルマブ,アテゾリズマブ,デュルバルマブ抗CCTLA-4抗体薬イピリムマブぶどう膜炎,視神経炎C4.ホルモン療法薬抗エストロゲン薬,他タモキシフェン,トレミフェン,フルベストラント視神経症,タモキシフェン黄斑症,結晶性網膜症太字は眼科領域の副作用が報告されている薬剤.S-1(ティーエスワン):テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合の合剤,EGFR:epodermalgrowthfactorreceptor,HER2:ChumanCepidermalCgrowthCfactorCreceptorCtypeC2,VEGF:vascularCendothelialCgrowthfactor,BCR-ABL:BreakpointCclusterCregion-AbelsonCmurineCleukemiaCviralConcogeneChomolog,BRAF:B-RafCproto-oncogene,Cserine/threonineCkinase,MEK:Mitogen-ActivatedCProteinKinaseKinase.*:抗体薬は細胞外の標的分子に作用し細胞外にある蛋白質などを標的とすることが多く,小分子薬は細胞内に取り込まれて細胞内の標的分子に作用する.例えば,細胞外のCEGFRやCVEGFを標的とした抗体薬とこれらの細胞内での機能を阻害する小分子薬がある.**:BRAF阻害薬,MEK阻害薬はチロシンキナーゼの下流にあり,それぞれCBRAF,MEKを阻害する.図2抗エストロゲン薬投与中にみられた黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)type2に類似した黄斑症のOCT所見53歳,女性.右眼(Ca,c,e)および左眼(Cb,d,f)における深部強調COCT画像において中心を通る水平画像の連続的な変化を示す.a,b:初回来院時には両眼中心窩においてCellipsoidzone(EZ)およびCinterdigitationzone(IZ)の消失と,内外に層状の空洞を認めた.Cc,d:初診からC3カ月後,EZ消失面積と内外の層状の空洞の範囲は左眼では減少したが,右眼では減少しなかった.Ce,f:初診からC22カ月後,EZ消失面積は初診C3カ月後と比較して両眼でさらに減少し,内層の空洞は消失し,外層の空洞もほぼ消失した.しかし,中心窩でのCIZは消失したままであった.(文献C8より転載)図3免疫チェックポイント阻害薬による原田病様多発性漿液性網膜.離78歳,男性.腎癌に対してC4カ月前からニボルマブを使用.初診時視力(0.03)/(0.2).ステロイドパルス療法2回,8週間後に漿液性網膜.離は消失し,ステロイド漸減,白内障手術により,60週後には視力(1.2)/(1.2)に改善した.Ca:両眼底写真.Cb:両フルオレセイン蛍光造影初期相の写真.Cc:OCT写真.黄斑部の垂直断面(脈絡膜は肥厚しており,深部強調画像でも強膜との境界は検出できず).d:60週間後の両COCT写真.黄斑部の垂直平断面.表3他科薬剤による眼副作用ステロイド本文のⅢ章(1C.Behcet病・SLE・サルコイドーシス)を参照抗凝固薬・抗血小板薬本文のⅡ章(C2.高血圧症・心疾患:循環動態への影響を意識した薬剤選択と手術管理)を参照糖尿病薬表C1を参照抗癌剤表C2を参照抗てんかん薬ビガバトリン(サブリル)点頭てんかん視野障害ヒドロキシクロロキン(プラケニル)SLE,LE網膜症(黄斑症)膠原病治療薬合成免疫抑制薬メトトレキサート(リウマトレックス),アザチオプリン(イムラン),シクロスポリン(ネオーラル)など生物学的製剤TNF阻害薬:インフリキシマブ(レミケード),エタネルセプト(エンブレル),アダリムマブ(ヒュミラ)などIL-6阻害薬:トシリズマブ(アクテムラ),サリルマブ(ケブザラ)などT細胞共刺激分子調節薬:オレンシア(アバタセプト)分子標的薬JAK阻害薬:トファシチニブ(ゼルヤンツ),バリシチニブ(オルミエント),ペフィシチニブ(スマイラフ)など関節リウマチ,潰瘍性大腸炎,ネフローゼ症候群,アトピー性皮膚炎,重症筋無力症などの自己免疫疾患や炎症性疾患(薬剤ごとに異なる)結膜炎,角膜炎,ドライアイ,ぶどう膜炎,視神経炎,眼感染症など(薬剤ごとに異なる)副腎皮質ステロイド白内障,緑内障多発性硬化症治療薬フィンゴリモド(イムセラ),a4b1インテグリン,ナタリズマブ(タイサブリ),シポニモド(メーゼント)多発性硬化症急性網膜壊死,黄斑浮腫抗精神病薬クロルプロマジン(コントミン),チオリダジン(メレリル)統合失調症,躁病など白内障,網膜症エストロゲン(低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤:ピル)経口避妊薬網膜静脈閉塞症エルゴタミン製剤片頭痛網膜静脈閉塞症,黄斑浮腫,視神経炎バゼドキシフェン(ビビアント)骨粗鬆症網膜中心静脈閉塞症その他シデナフィル(バイアグラ)勃起不全青視症(Ccyanopsia),羞明ボリコナゾール(ブイフェンド)抗真菌薬羞明,視力低下,視野狭窄,色覚異常タムスロシン(Ca1遮断薬)前立腺肥大に伴う排尿障害白内障手術時のCIFISアミオダロン不整脈角膜混濁(アミオダロン角膜症)TNF:腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF),IL-6:インターロイキン(interleukin:IL)6,JAK:Januskinase.図4アミオダロン内服中に生じた角膜症68歳,男性.左眼細隙灯顕微鏡写真.視力は(1.0).

神経眼科診療における禁忌

2025年9月30日 火曜日

神経眼科診療における禁忌Let’sAvoidContradictionsinNeuro-Ophthalmology澤村裕正*はじめに日常診療で神経眼科疾患に遭遇する頻度は決して多くはなく,系統立てて習熟する機会にも乏しい.また,他の多くの眼科疾患では細隙灯顕微鏡所見,眼底所見,光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)所見など疾患の特徴を可視化することが可能である一方,球後視神経炎などでは通常の眼科診療で行われる検査では可視化できない場合も多い.さらには患者の訴えが多岐に渡り,一言で「みづらい」という訴えで受診しても,器質的な障害がある場合から非器質性の障害まで,あるいは光刺激の受容に障害がある場合から眼球運動障害のために生じる障害など,複雑な要素が入り組んでいることもある.そのため,神経解剖学や全身疾患の知識に加え画像検査・採血検査を駆使する必要があり,敬遠されがちな分野の一つである.しかし,神経眼科疾患は重篤な視機能障害を生じることや生命予後を左右することがあるのもまた事実である.本特集のテーマは「絶対に避けたい!眼科診療における禁忌」である.本稿ではそのなかでも神経眼科領域の禁忌(やってはいけないこと)として,ステロイド全身投与加療の施行が禁忌肢になる場合,反対にステロイド全身投与加療を行わないことが禁忌肢となる場合,の双方を取り上げる.I眼科領域でのステロイドを用いた加療ステロイドは強力な抗炎症作用,抗免疫抑制作用を有する.眼科領域ではおもに局所投与療法として点眼,眼軟膏,結膜下注射,Tenon.下注射が選択されることが多い.神経眼科の領域では視神経炎,甲状腺眼症,特発性眼窩炎症,外傷性視神経症,サルコイドーシスなどに対して経口内服,点滴静注(ステロイドパルス療法)などの全身投与療法が用いられている.ステロイドの副作用は多岐にわたるため,とくに全身性に投与を行う場合には既往歴の確認,採血検査,生理検査,放射線検査などのスクリーニング検査が必須となる.たとえば,B型肝炎ウイルス感染患者の場合には,ステロイド療法によるウイルスの再活性化・肝炎の重症化が生じる可能性があるため消化器内科にコンサルトのうえで慎重に施行する必要がある.ステロイド全身投与における使用法,容量や使用に際しての注意点は本稿の趣旨と離れるため,成書を参照していただきたい.IIステロイド全身投与加療の施行が禁忌になる場合ステロイドはその効果を期待され,診断がつかない場合や,診断がつく前に使用される場合がある.とくに視機能が悪化の一途をたどっている場合や,ほかの治療法がなかなか効かないなどの場合に用いられることがある.ステロイドが効果的である場合も多いものの,その選択が禁忌となる場合がある.ステロイドは免疫抑制効果も強いため,感染症が疑われる場合に対しての単独使用は禁忌となる.代表例として,眼窩蜂窩織炎や真菌性副鼻腔炎から生じる視神経症がある.蜂窩織炎は採血や*HiromasaSawamura:帝京大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤村裕正:〒173-8606東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医学部眼科学教室(1)(55)11350910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1副鼻腔真菌症に伴う視神経症の症例a:左眼後極写真では視神経乳頭の腫脹,乳頭周囲出血が認められる.また,網膜にピントが合っているため,腫脹している乳頭部の頂点側のピントが合っておらず,硝子体内へ突出していることがわかる.b:頭部CT画像軸位断面では左眼窩周囲副鼻腔に骨破壊を伴う軟部陰影を認める.図2副鼻腔真菌症に伴う視神経症の症例a:左眼後極写真では視神経乳頭に軽度の発赤と乳頭腫脹を認め,視神経炎との鑑別が困難であった.b:眼窩部造影T1強調MRI画像の矢状断面では蝶形骨洞壁に沿って造影効果を認める().図3真菌症に伴う視神経症を疑う場合のフローチャート表1神経眼科での禁忌・安易なステロイドの全身投与は避ける・視神経炎疑い+強い疼痛=副鼻腔真菌症に伴う視神経症も疑いCT撮影を行う・副鼻腔真菌症に伴う視神経症にはステロイドの全身投与は禁忌・動脈炎性の虚血性視神経症ではステロイドの全身投与が必要図4頭部造影T1強調MRI画像の冠状断面頸部動脈の血管壁に造影効果を認める(◎).

ぶどう膜炎診療における禁忌

2025年9月30日 火曜日

ぶどう膜炎診療における禁忌ContraindicationsintheManagementofUveitis髙瀬博*はじめにぶどう膜炎は眼内炎症性疾患の総称であり,その原因は40種類以上に及び,非常に多岐にわたる.これらは非感染性,感染性,眼内リンパ腫を主とする腫瘍性疾患などに大別される.正確な診療を行うには,網羅的な眼科的検査と全身検査に基づく診断,それに対する疾患特異的な治療が要求される.しかし,その過程にはさまざまな禁忌事項が存在し,それを知らずに診療を行うことはときに大きな問題を生じ,誤った対応は不可逆的な視機能喪失や生命の危険に直結することがある.本稿では,ぶどう膜炎を診療する際に避けるべき禁忌事項について述べる.I診断の禁忌1.ぶどう膜炎を細隙灯顕微鏡検査だけで診断する重篤な疾患を見落として手遅れになるというのはあらゆる疾患で避けるべきことだが,これはぶどう膜炎診療においてもしばしば問題となる.当然ながら,散瞳眼底検査を行わないと眼底病変は見逃され,そのなかには数日.数週間の間に劇的に病態が変化するものがある.とくに急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)は短期間に進行する予後不良な疾患だが,当初はヘルペスウイルス性前部ぶどう膜炎として治療されてしまうことが意外に多い.ヘルペスウイルス性前部ぶどう膜炎の特徴は,片眼性であること〔サイトメガロウイルス(cyto-megalovirus:CMV)虹彩炎の場合は3%は両眼性1)〕,図1ARNの前眼部写真豚脂様角膜後面沈着物と毛様充血がみられる.(文献2より引用)豚脂様(またはぺったりとした)角膜後面沈着物(図1)2)をしばしば呈すること,そして高眼圧を呈することなどである(表1).ここでみられる高眼圧はときに40mmHgを超えるような場合もあるが,瞳孔ブロックを伴わないため,疼痛などを伴うことはほとんどなく無自覚なことが多い.しかし,これらの所見からヘルペスウイルス性前部ぶどう膜炎あるいは単に虹彩炎とだけ診断して,点眼や眼軟膏の処方のみで「1週間後に再診」などとすると,重大な見逃しを生じることとなる.ARN初期の眼所見には,前房細胞または豚脂様角膜後面沈着物がある,眼圧上昇があるといった前眼部診察*HiroshiTakase:宮田眼科東京〔別刷請求先〕髙瀬博:〒160-0004東京都新宿区四谷1-2-8THビル6F宮田眼科東京(1)(47)11270910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1前房水多項目PCR検査が有用な感染性ぶどう膜炎の眼所見疾患前眼部所見眼底所見ヘルペスウイルス性前部ぶどう膜炎・豚脂様またはぺったりした角膜後面沈着物・片眼性(※CMV虹彩炎ではまれに両眼性)・高眼圧(4C0.mmHgを超えることもある)基本的に眼底異常なしCARN上記と同様の前眼部炎症所見が出ることもある・周辺部の網膜黄白色病変(顆粒状→癒合)・網膜動脈炎・視神経乳頭発赤・炎症性硝子体混濁・急速な進展・網膜裂孔・網膜.離後天性眼トキソプラズマ症上記と同様の前眼部炎症所見が出ることもある・典型的には古い瘢痕に隣接する黄白色の網膜病巣・強い硝子体混濁(headlightCinCthefog)表2ARNの診断基準診断基準の考え方初期眼所見項目,経過項目,検査項目を総合して診断する.初期眼所見項目のC1aとC1bを認めた場合にはCARNを強く疑い,必要な検査と治療を開始することが望ましい.その後の経過と検査結果に基づいて診断を確定する.ARNは免疫健常人に発症する疾患であるが,免疫不全の背景を有する患者においては,以下に限らない多彩な眼所見を呈することに留意する.C1.初期眼所見項目C1a.前房細胞または豚脂様角膜後面沈着物があるC1b.一つまたは複数の網膜黄白色病変(初期は顆粒状・斑状,次第に癒合して境界明瞭となる)が周辺部網膜に存在するC1c.網膜動脈炎が存在する1d.視神経乳頭発赤があるC1e.炎症による硝子体混濁がある1f.眼圧上昇があるC2.経過項目C2a.病巣は急速に円周方向に拡大する2b.網膜裂孔,網膜.離を生じるC2c.網膜血管閉塞を生じる2d.視神経萎縮をきたすC2e.抗ヘルペスウイルス薬に反応するC3.眼内液検査前房水または硝子体液を用いた検査(PCR法あるいは抗体率算出など)で,HSV-1,CHSV-2,VZVのいずれかが陽性C4.分類(C1)確定診断群:C1.初期眼所見項目のうちC1aとC1b,およびC2.経過項目のうちC1項目を認め,かつC3.眼内液検査でHSVまたはCVZVが病因と同定されたもの(C2)臨床診断群:眼内液においてウイルスの関与を証明できない,あるいは検査未施行であるが,初期眼所見項目のうちC1aとC1bを含むC4項目と経過項目のうちC2項目を認め,他疾患を除外できるものHSV:単純ヘルペスウイルス(herpesCsimplexvirus).(文献C3より改変引用)図2ARNの後極部眼底写真視神経乳頭の強い発赤腫脹がみられる.(文献C2より引用)表3免疫抑制治療と関連する感染リスクおもなリスク感染症必要な事前検査・対応B型肝炎の再活性化(劇症肝炎)B型肝炎(HBs抗原,HBc抗体)潜在梅毒感染の顕在化梅毒(TPHA/RPR)VZV初感染(播種性水痘),一般細菌感染VZV(CIgG抗体,水痘,帯状疱疹の罹患歴聴取)潜在性結核の顕在化,粟粒結核胸部CX線C/CT,ツベルクリン反応,CIGRA(T-Spotなど)ニューモシスチス肺炎,潜在性真菌感染Cb-Dグルカン測定表4主要なぶどう膜炎疾患の鑑別ポイント疾患鑑別対象共通点鑑別ポイントVogt-小柳-原田病急性緑内障発作裂孔原性網膜.離・狭隅角と急激な眼圧上昇・頭痛を伴う・網膜.離・両眼性である・強い眼痛・嘔吐は少ない・発症後に急な近視化(老眼が治ったなど)・漿液性網膜.離を伴う・COCTで脈絡膜肥厚,bacillaryClayerdetachment,脈絡膜の波うちを確認Behcet病網膜静脈閉塞症・網膜血管炎像・網膜無血管域・若年男性に多い・アフタ性口腔内潰瘍・陰部潰瘍・結節性紅斑の有無・蛍光眼底造影でシダの葉様の蛍光漏出を検出-図3Vogt-小柳-原田病のOCT漿液性網膜.離,bacillaryClayerdetachment,脈絡膜の波打ち,脈絡膜肥厚がみられる.(文献C12より引用)図4Behcet病網膜ぶどう膜炎の蛍光造影検査シダの葉様の蛍光漏出がみられる.(文献C13より引用)表5ぶどう膜炎診療における主な禁忌一覧項目禁忌内容臨床的帰結推奨される対応診断細隙灯+OCTのみでぶどう膜炎を診断ARNなど重篤な後眼部疾患の見逃し散瞳眼底検査を行う薬物治療感染性ぶどう膜炎を除外せずにCSTTA潜在性全身感染症を除外せずに免疫抑制治療ぶどう膜炎の劇症化重篤な全身感染症の発症感染症除外のための全身スクリーニング検査および眼内液PCRを行う外科治療原田病を裂孔原性網膜.離として硝子体手術原田病を急性緑内障発作としてレーザー虹彩切開術眼内炎症の増悪両眼の所見を確認,眼底とOCTを確認するBehcet病を網膜静脈閉塞症として光凝固治療眼内炎症発作の誘発蛍光眼底造影検査で血管炎の有無を検索する-’C

網膜硝子体疾患診療における禁忌

2025年9月30日 火曜日

網膜硝子体疾患診療における禁忌ContraindicationsintheTreatmentofVitreoretinalDiseases大石明生*はじめに網膜硝子体疾患診療においても,他の領域と同様に一般的な注意として,患者の状態によって使用を注意すべき薬剤がある.もっとも重要な禁忌はその患者にアレルギー歴のある薬剤である.対象となるものは少ないが胎児に対する影響も注意が必要である.また肝機能,腎機能が低下している患者ではそれぞれで代謝,排泄される薬剤のクリアランスが低下することに留意する.そのほか,網膜硝子体疾患でとくに注意すべき点としてはガス注入や眼内炎の診療に関するものがあり,これらについて概説する.CI蛍光造影剤蛍光造影に用いられるフルオレセインナトリウムおよびインドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG)は,網膜,脈絡膜血管や炎症性病変の評価に有用である一方で,重篤な副反応を起こすことがあるため,使用時には十分留意すべきである.とくにフルオレセインは添付文書でも蕁麻疹がC0.1~5%となっており,0.1%未満となっているCICGと比べてもアレルギー反応は出やすい.実際にアナフィラキシーによる死亡例の報告もあり注意が必要である.もっとも重要な禁忌は,過去にこれらの造影剤に対するアナフィラキシー反応を呈した既往のある患者である.これらの薬剤に対するアナフィラキシーの既往がなくても,喘息やアレルギー体質のある患者では注意が必要で,リスクの高い場合は造影を行わず,光干渉断層計(opticalCcoherencetomograph:OCT)や光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)で代替することも検討する1)(図1).また,ICGはヨード含有物質であるため,ヨードアレルギーや甲状腺疾患などを有する患者では慎重な適応判断が求められる.ただし,ヨードアレルギーといわれる人は基本的にヨードを含む造影剤または消毒剤に対するアレルギーである.ヨード(ヨウ素)は生体に必須な物質で,誰もが食物から毎日摂取しているものであり,ヨードそのものにアレルギー反応を生じることは考えにくい2).ヨード造影剤に対するアレルギー既往があるからCICGのリスクが特別高いというよりは,他の薬剤の場合と同様に薬剤アレルギーの既往があることがリスク,という解釈が正しいと思われる.フルオレセインは尿からの排泄,ICGは肝代謝であるため,それぞれ腎機能,肝機能障害の患者で注意することはもちろんである.CII妊娠における抗血管内皮増殖因子薬抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬は,加齢黄斑変性(age-relatedCmac-ulardegeneration:AMD)や糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME),網膜静脈閉塞症における黄斑浮腫の第一選択薬として広く使用されている.これらの薬剤は網膜局所への投与を前提としているが,微量とはいえ全身循環への移行が確認されており,VEGFが胎児や胎盤の血管形成にきわめて重要な役割を担っている*AkioOishi:長崎大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕大石明生:〒852-8501長崎市坂本C1-7-1長崎大学医学部眼科学教室(1)(41)C11210910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1同一症例の蛍光造影とOCTA画像a:蛍光造影.b:OCTA.漏出が確認できないなどの限界はあるものの,無灌流域や新生血管などの描出はおおむね遜色ない.図2近視性黄斑部新生血管からの出血を繰り返す症例20代,女性.若年にもかかわらず両眼性に近視性黄斑部新生血管からの出血を繰り返す症例の眼底写真(上段)とCOCT画像(下段).挙児希望があり,禁忌とはなっていないラニビズマブで治療しながら注意深く経過をみている.ab図3感染性眼内炎の前眼部写真とMRI画像20代で外傷,手術歴のない症例に生じた感染性眼内炎の前眼部写真(Ca)とCMRI画像(Cb).ぶどう膜炎としてステロイドを投与されていたためか,特異な前房蓄膿を呈している.眼窩内膿瘍を合併しており,最終的には眼球摘出となった.=図4術後眼内炎の術中所見前日夕方の診察では異常がなく,朝の診察で感染が疑われ,午前中に手術を行ったが,網膜上に菌塊が形成され,網膜全体に血管炎の所見を呈している.図5網膜.離に対する硝子体手術の眼底写真-残存する気体が上方に確認できる.レーザー照射部も瘢痕化しつつあり,.離の治療としてはほぼ心配なくなる時期だが,この程度の量の気体の残存でも航空機への搭乗は避けるべきである.

緑内障診療における禁忌

2025年9月30日 火曜日

緑内障診療における禁忌ContraindicationsintheManagementofGlaucoma齋藤瞳*はじめに日本人の緑内障の7割が正常眼圧緑内障であるため1,2),多くの症例では急な判断を必要とする場面はなく,比較的禁忌の少ない疾患である.しかし,緑内障は慢性進行性疾患であり,機能障害は原則不可逆であるため,治療方針の判断ミスが取り返しのつかない結果を生むこともある.急性原発隅角閉塞症や著しい高眼圧の開放隅角緑内障などは治療が遅れると致命的な機能障害を起こしてしまうので,速やかに正しい治療を提供しなくてはならないのはいうまでもない.本稿では,緑内障診療に対してもう少し高度な理解を必要とする禁忌を症例とともに解説する.I緑内障病型診断の際に隅角検査を怠らない緑内障を疑い,治療方針を立てるうえで不可欠な検査は細隙灯顕微鏡検査,眼圧検査,眼底検査,視野検査など多岐にわたるが,隅角検査は非常に重要であるにもかかわらず軽視されやすい検査である.隅角検査をすることで開放隅角と閉塞隅角の鑑別ができるのはもちろんだが,先天性隅角低形成や過去の眼内炎症,外傷の既往などを診断できることもあるため,必ず行うべき検査である.緑内障の病型によって治療方針が大きく変わるので,隅角検査を怠ったことにより誤った治療を開始してしまうこともある.症例1:60代,男性.結膜充血と霧視を主訴に前医を受診.右眼視力(0.8×+1.0D),右眼眼圧19.mmHg.前医にてぶどう膜炎と診断され,ベタメタゾン(0.1%)点眼と散瞳薬を処方された.帰宅後に点眼を開始したところ,症状が悪化し,眼痛も伴うようになったため,当院を救急受診された.当院初診時:右眼眼圧55mmHg,角膜浮腫+,結膜充血++(図1).中央の前房深度は1~1.5角膜厚程度であったが,周辺の前房が非常に浅かったため,隅角検査を行ったところ,全周隅角が閉塞しており,プラトー虹彩症例であったことが判明した.初診日に右眼レーザー隅角形成術(lasergonioplasty)を施行して一時的な眼圧下降を得たが,また眼圧が再上昇したため,翌週に右眼水晶体乳化吸引術(phacoemu-lsi.cationandaspiration:PEA)+眼内レンズ(intraoc-ularlens:IOL)+眼内法線維柱帯切開術(abinternotrabeculotomy)を施行し,以降眼圧は10mmHg台前半にコントロールされている.隅角検査を怠ったため,閉塞隅角を見逃し,散瞳薬を投与したことで閉塞隅角を悪化させてしまった症例であった.プラトー虹彩は中央の前房深度がそれほど浅くならない症例も多く,とくに見逃しがちなので注意が必要である.II緑内障以外の疾患を見落とさない日本人の開放隅角緑内障の9割が正常眼圧緑内障であるが1,2),視神経萎縮もしくは視野異常があるだけです*HitomiSaito:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕齋藤瞳:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学(1)(33)11130910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1初診時の隅角検査を怠って閉塞隅角緑内障を見落とした症例a:中心前房深度は浅いが,完全に消失しているわけではない.結膜充血が著しい.b:周辺の前房深度は非常に浅い.ab図2正常眼圧緑内障と誤診断されそうになった脳腫瘍症例ca:乳頭上方の辺縁部がやや菲薄化しており,色の蒼白化がある.Cb:乳頭周囲のCOCTでは上耳側の神経線維層菲薄化を認めるが:黄斑部のCOCTでは上下にわたるびまん性の菲薄化を認める.Cc:乳頭所見や乳頭周囲のCOCT所見と一致しない中心視野異常を含む著しい視野障害.Cd:頭部CMRIでトルコ鞍上部を主座とするC2.2C×2.2×1.7cmの髄膜腫を認めた().e:腫瘍摘出後の静的視野検査で視野異常の改善を認める.Cde図3緑内障経過観察中に緑内障以外の眼底疾患で視野が悪化した症例a:左眼の乳頭写真.上下の辺縁部の菲薄化を認める.Cb:進行した視野障害を認める.MDはC.26.76CdB.Cc:中心視野の経時変化.患者から中心視野障害の悪化の訴えがあったタイミングで急激な視野異常の進行を認めており,2カ月後の視野検査でも再現性がある().網膜出血が改善した後に行った視野検査は改善している().d:中心視野障害悪化時の眼底写真.黄斑部の網膜前出血を認める.e:半年後の眼底写真.黄斑部の出血はおおむね引いている.ab図4中心30/24度の視野検査では中心視野障害の進行を検出しにくかった症例a:中心C30/24度の視野検査の経時変化.下方の周辺視野が徐々に進行しているのはわかるが,中心視野に関してはあまり変化がないようにみえる.b:中心C10°の視野検査の経時変化.中心の上方・下方ともに視野障害が進行しているのがはっきりとわかる.ab図5緑内障点眼アレルギーであることに気づかずステロイド投与で眼圧が上がってしまった症例a:前医初診時の視野検査結果.両眼とも下方の初期緑内障性視野障害を認める.Cb:当院初診時の前眼部写真.両眼の結膜充血を認めるが,明らかな前房内炎症はない.Cc:当院初診時の視野検査結果.高眼圧が数カ月以上持続していたため,両眼とも視野が悪化している.d:緑内障点眼中止後C1週間の前眼部写真.結膜充血が著明に改善している.Cd

白内障診療における禁忌

2025年9月30日 火曜日

白内障診療における禁忌ContraindicationsinCataractPracticeTreatment松島博之*はじめに手術機器,手術デバイス,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の進歩によって,白内障術後早期より良好な視機能を獲得できる時代となった.良好な術後成績を獲得できる白内障手術だからこそ,術前・術中・術後に見逃してはいけないチェックポイントがある.本稿では白内障手術を成功させるためのチェックポイントを「してはいけない」という視点から注意点を解説する.新しい試みをいただき,自分でも多くの気づきがあった.しかし,すべてを網羅することはむずかしく,不足していることも多いかもしれない.本稿を参考にして,さらに自分の経験を追記して,白内障手術における禁忌を確立してほしい.I問診時に見逃してはいけないポイント診察前の問診は重要で,気をつけなければいけないポイントが数多くある(表1).手術適応を考えるうえでも予期せぬトラップにかからないようにしなければならない.たとえば,患者から「自分は白内障なので,手術をしたい」と話があっても鵜呑みにせず,ほかの疾患がないか,本当に白内障なのか症状を聞き出す.視機能低下があっても,歪みや部分的な見え方の異常は,黄斑前膜,中心静脈閉塞症,緑内障などの眼底疾患が隠れている.患者とのコミュニケーションをとり,病状を客観的に予測することでほかの疾患を見逃さない.緑内障や軽度の黄斑前膜では,白内障のみ手術の適応となることも表1問診で見逃さないチェックポイント□視機能低下の種類(歪視・暗点)□CL使用□認知障害,閉所恐怖症□全身疾患□亀背,deepseteyeよくある.このような患者に多焦点IOLを選択すると,コントラスト低下によるwaxyvision(用語解説参照)が生じる可能性がある.抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の硝子体内注射の既往は後.破損を伴うことがある.白内障手術の適応が決まった場合でも,コンタクトレンズ(contactlens:CL)を装用している患者はIOL度数計算に影響する.診察当日はCLをはずして受診している患者もいるので,たとえCLを装用していなくても確認が必要である.過去の屈折矯正手術の既往も注意を要する.超高齢者の認知障害や閉所恐怖症の患者では,手術用のドレープをかけただけでパニックになる場合がある.既往やMRI検査時に不安が生じたなど閉所恐怖症が疑われる場合は,術前のシミュレーションが有用である.これは外来で実際の手術と同様の状態を経験してもらう手法で,手術が可能かどうかを判断するために有用である.筆者の施設では手術ベッドに横になってもらい,ドレープをかけて20分間安静状態を保てるか確認し,局所麻酔での手術の可否を判定している.むずかしい場合*HiroyukiMatsushima:獨協医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室(1)(27)11070910-1810/25/\100/頁/JCOPYは全身麻酔やセデーションによる手術への変更も必要となる.背中の弯曲が強い亀背は横になることがむずかしい場合がある.この場合も術前にシミュレーションし,背中や膝裏に枕を入れるなどの工夫が必要になる.認知障害がある患者では術後せん妄が生じやすい.せん妄は可逆性なので,発症した場合は家に帰って通常の環境に戻ると改善することが多いので,日帰りの白内障手術か,入院する場合はせん妄症状が出た場合に退院帰宅する可能性があることを家族に理解してもらう.全身状態では,心不全患者では横になると息苦しくなる場合がある.糖尿病でのCHbA1cの値については,コントロール不良でも白内障の術後成績に影響が出にくいという臨床研究報告1)があったので,白内障手術を中止する理由にはなりがたい.禁忌ではないが,コントロール不良では全身状態の増悪や将来の糖尿病網膜症の発生に関連するため,内科的治療の強化を説明する必要がある.前立腺肥大や抗精神薬の既往は術中虹彩緊張低下症候群(intraoperative.oppyirissyndrome:IFIS,用語解説参照)の予測に役立つ.そのほか,deepseteyeは術野の確保に影響するので,問診時に確認が必要である.CII細隙灯顕微鏡検査で見逃してはいけないポイント(表2)C1.白内障病型後極白内障に遭遇した場合は後部円錐水晶体であり,破.しやすい可能性がある(図1).また,限局した後.の混濁をみつけた場合,抗CVEGF注射による後.破損も考える.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomograph:OCT)は診断の助けになることがある.疑わしい場合は術中硝子体処理が必要になる可能性があるので,破.処理に準じて器具の準備が必要である.アトピー白内障にみられる前.下線維性混濁が大きい場合,前.切開時に障害となることがある.前.剪刀で線維化部分を切開する必要がある.また,アトピーでは網膜.離を合併していることもある.術前に眼底を確認し,網膜変性にはレーザーを施行しておく.困難な場合は術後の確認を施行する.成熟白内障など,眼底が透見できない状態で手術を行うときは,超音波CBモードなどでできるだけ眼内の状態を把握しておく.網膜電図や術前色感覚の確認は術後視機能予測の助けとなる.色を感じない場合は,術後視力改善しがたい.成熟白内障は前.切開が困難となるため,トリパンブルー希釈液の準備が必要となる.C2.前房深度浅前房患者では散瞳検査による閉塞隅角緑内障の発生を予測し,疑われる患者では散瞳検査を避ける.片眼の閉塞隅角緑内障発作を生じた患者では対眼も高率に発作が発生するので,放置せずに早めの手術を予定する.手術を待っている間に発作が生じる場合もあるので,早めの手術を勧める.閉塞隅角の発作予防でピロカルピン塩酸塩の点眼を施行していた患者では,術前に点眼を中止すると発作を誘発する可能性がある.レーザー周辺虹彩切除患者では角膜内皮細胞減少を念頭におく.手術時は,手術中に希釈したミドリンCPを使用する2),手術直前に散瞳薬を点眼する,などの対策が必要となる.ミドリンCPを前房内投与する場合は原液を使用すると防腐剤の毒性で角膜内皮障害が生じるので,必ず希釈して使用する.プラトー虹彩では前房が深くても隅角が閉塞しているので,周辺虹彩までの観察が必要である.C3.瞳孔形状瞳孔の形状からも多くの情報が得られるので見逃さない.まずは縮瞳状態で瞳孔形状の左右差をみる.差がみられれば網膜疾患があるケースや,外傷後の麻痺性散瞳が生じているケースがある.瞳孔の左右差や瞳孔が正円でないときには,虹彩離断があれば外傷を疑う(図2).ボールなどの鈍的外傷の既往があると,打撲した眼は瞳孔径が大きく,Zinn小帯断裂が生じていることがある.そのあとに浅前房患者以外は散瞳して瞳孔形状を観察する.落屑症候群では散瞳状態が悪くCZinn小帯脆弱を伴うこともある.虹彩炎の既往があると虹彩後癒着があり散瞳しにくい(図2).また,消炎していない状態での白内障手術は虹彩炎の再燃などの原因となるので,消炎後数カ月経過してからの手術が望ましい.とくに男性で中等度散瞳の場合には,前立腺肥大の治療をしているかどうかを確認しておく(IFISが疑われる).1108あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025(28)表2細隙灯検査で見逃さないチェックポイント□水晶体:前.線維化,後部円錐水晶体,成熟白内障C□前房深度:浅前房C□瞳孔:左右差,瞳孔変異,虹彩離断C□角膜:円錐角膜,周辺部潰瘍,ドライアイC□結膜,強膜:過去手術の瘢痕,翼状片図1注意すべき白内障病型a:後部円錐水晶体.効能に限局した丸い混濁があり,後.破損のリスクがあるので硝子体切除とCIOL.外固定光学部キャプチャーに備えてC3PIOLを準備する.b:アトピー白内障の線維性混濁.線維性混濁部の前.は癒着があり切り難いので混濁部を避けて前.切開を行う.混濁部は剪刀で切開可能である.図2注意すべき瞳孔形状a:外傷による虹彩離断.離断部に一致してCZinn小帯断裂が生じていることがある.白内障手術時に瞳孔整復が必要となる.b:虹彩炎後の虹彩後癒着.虹彩炎のために虹彩と水晶体.が癒着し,散瞳すると瞳孔の変形がみられる.潰瘍)では周辺部角膜が薄くなっているので,前眼部OCTなどで角膜が薄い部分を避けて手術を施行する.C5.結膜・強膜手術や外傷既往があると白内障手術に影響する.緑内障手術の既往がある場合は,白内障手術の創口が以前の手術と重ならないようにマネジメントする.結膜の癒着があり,創口作成に苦渋することもある.網膜硝子体手術の既往があると核白内障が進行していることがあり,無硝子体であるために術中CinfusionCmisdirectionCsyn-drome(IMS,用語解説参照)が生じやすい.翼状片も角膜不正乱視の原因となる.角膜トポグラフィーなどで角膜への影響を確認し,影響が及んでいる場合は先に翼状片の手術を施行したあとに改めて白内障手術を施行したほうが度数ずれは生じにくい.CIII術前検査で見逃してはいけないポイント1.角膜内皮細胞検査角膜内皮細胞数が減少している患者では,白内障術後の水疱性角膜症を考慮に入れる.角膜内皮細胞数がC1,000Ccells/mm2以下の患者ではとくに注意が必要である.また,Fuchs角膜変性症は中高年女性に多く,角膜後面のコラーゲン状物質の蓄積が滴状角膜(corneagut-tata)としてみられ(図3),角膜内皮細胞数の減少を生じやすいので,熟練した術者が対応すべきである.C2.角膜トポグラフィートーリックCIOL選択に必要なほか,角膜不正乱視に注意が必要である.円錐角膜ではCIOL度数ずれと術後の進行度合いを考慮する.翼状片がある場合も翼状片による不正乱視が生じやすい.角膜トポグラフィーの変化から翼状片の影響を考え,瞳孔中央部まで変化がみられれば,前述のとおり先に翼状片の手術を行う.C3.IOL度数計算とねらい値単焦点CIOLを選ぶときには,患者の術前屈折もねらい屈折値を決めるうえで重要な要因となる(図4).術前屈折値が近視の患者が遠方合わせを希望した場合に,術前は見えていた近方が見えなくなって不満が生じるというのはよくあるトラブルである.一方で,CLを使用している患者は遠方合わせを希望することが多いが,CL装用時に近方をどのようにカバーしていたかを確認しておく.老眼鏡を使用していたのであれば,術後も同様に使用する必要があることを説明する.強度近視の場合はねらい値がむずかしい.両眼手術の場合は前述のとおり,近方の見え方とCCLの使用に注意してCIOLを選択する.問題は片眼のみ手術を行う場合で,過去には比較的若年の患者で対眼の手術がしばらく必要ではないと判断した場合に,強い近視度数を目標屈折値にすることはあったが,最近ではあまり好ましい選択肢ではない.屈折矯正を目的とした白内障手術や,手術までの間にCCLを使用するなど,患者の視覚の質(qualityCofvision:QOV)を考えた選択肢を勧める.年齢や生活環境もCIOL選択に影響する.運転を重視しない場合は,遠方に合わせるよりも,若干近方に合わせて生活しやすい屈折を選択する.日常生活や仕事などのライフスタイルの確認は重要で,外で体を使う仕事なのか,PCを使うことが多いのか,本を読む機会が多いのかなど,もっとも重視する距離がどこにあるのか確認する.一度の診察でCIOLの種類とねらい値を決めるのではなく,最終的に患者が納得してもらえるねらい値に導くことが術後満足度の向上につながる.多焦点CIOLも種類が増えて選択の幅が年々増加している.進行した網膜疾患や緑内障では適応外となるが,軽度のものでは適応が増えつつある.CIV白内障手術時の合併症と禁忌順調に手術が進んでいるうちは禁忌項目が生じない.しかし,術中合併症3)が生じたときに,行ってはいけない項目が出現する(表3).C1.早期穿孔強角膜切開における合併症として,早期穿孔がある.早期穿孔が発生した状態で手術を継続すると虹彩が脱出し,手術の継続がむずかしくなる.虹彩損傷が酷くなる前に創口を縫合し,他の場所に新しい創口を作製することで安全に手術を継続できる.早期穿孔の創口をそのまま継続して使用することは薦められない.また,脱出し1110あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025(30)図3滴状角膜Fuchs角膜変性症ではスペキュラーマイクロスコープにて角膜内皮細胞が黒く抜けるCcorneaguttataがみられる.図4一般的な単焦点IOL選択方法正視・遠視眼は遠方合わせが多い.近視眼でもCCLを使用している場合は遠方合わせが多い.近視眼で眼鏡に慣れている場合や運転する機会が少ない場合は近方に合わせる.基本的には患者生活スタイルに合わせる.表3白内障手術の術中合併症発生時のチェックポイント□早期穿孔:創口閉鎖+再作製C□前.切開クラッツ:前房内圧制御,1PIOL.内固定C□後.破損:前房内圧制御,硝子体切除図5液状後発白内障細隙灯顕微鏡で観察すると,IOL反射の後ろ側に乳白色液状物が貯留している.

網膜穿孔という斜視手術最大のリスク ─Hang-back 法の勧め

2025年9月30日 火曜日

網膜穿孔という斜視手術最大のリスク─Hang-back法の勧めRetinalPerforation:TheMostSeriousRiskinStrabismusSurgery─AdvocacyfortheHang-BackTechnique長谷部聡*はじめに斜視手術における最大のリスクの一つは,強膜への通糸時に誤って網膜を穿孔し,重大な病態を誘発することである.とくに,外眼筋腱付着部の後方では強膜が極端に薄く,0.6Cmm以下となることもあるため,穿針の深さと角度を誤れば,網膜に孔を穿つ可能性が高まる.穿孔が引き起こす網膜.離や眼内炎は,視力予後に深刻な影響を与え,本来は斜視の矯正を目的として来院した患者を,硝子体手術や網膜修復のために別の医療施設に送らなければならない事態にもなりうる.このように,安全性の確保が斜視手術において最重要課題であるという点は,執刀医にとってつねに意識すべき基本である.CI従来法における工夫と限界たとえば,強膜が薄い部分での通糸リスクを低減させる目的で,針先を水平に保持しつつ強膜を垂直方向に圧迫し,強膜表面に傾斜を作り,その傾きに沿って浅く通糸する方法が古くから提案されてきた.しかし実際には,針先が強膜表面を軽くかするだけに終わることが多く,外眼筋を確実に固定するために必要な通糸の深さを得られないばかりか,操作を繰り返すことで強膜を損傷し,強膜通糸が一層困難になることもある.また,強膜が極端に薄く硬い症例や,通糸部が眼球赤道部に付近にあり,強膜の傾斜角度が強い場合は,いかに慎重を期しても穿孔リスクを完全に回避することはむずかしく,術者の技量のみでは安全性を担保しきれないab図1強膜通糸に関する工夫針先を水平に保持しつつ強膜を垂直方向に圧迫し(Ca),できた強膜の斜面を利用し,水平方向に針を進める(Cb).矢印は力の方向を示す.という限界もある.CIIHang-back法採用の必然性と安全性こうした背景のもとで,hang-back(HB)法または吊り下げ術の採用は非常に有用である.この術式は,強膜が比較的厚い外眼筋の元付着部からその前方に向かって針を通し,そこで筋腱を吊るすように後方に固定する方式である.強膜が薄く穿孔リスクが高い後方部の通糸を避けることができるため,安全性が飛躍的に高まることが最大の利点である1,2).実際,欧米においては,,HB法は後転術(recession)を行う際の標準的な手術手技と*SatoshiHasebe:川崎医科大学眼科学C2教室〔別刷請求先〕長谷部聡:〒700-8505岡山県岡山市北区中山下C2-6-1川崎医科大学総合医療センター眼科(1)(21)C11010910-1810/25/\100/頁/JCOPY図2筋間膜への処置が矯正効果に及ぼす影響筋間膜の.離操作をしないと,眼球は筋間膜を介して後転筋により牽引されるため,縫合糸はたわみ,低矯正が起こる(a).定量性を確保するためには,術後縫合糸が張った状態(b)が望ましい.RRiiRRii図3中心縫合の位置と術後の断端形状中心縫合を付着部近傍に作ると(a1),筋腱の断端は曲線(アーク)を呈する(a2).2Cmm後方に作ると(b1),構成される縫合糸の形状には変化はないが,断端が直線化する(b2).L1>L2.CC,CR,i,.は,それぞれ,中心縫合,lockingbite,付着部,筋腱に加わる張力を示す.abc図4ダブルアームドロックバイトの手技aは縫合不全が起こりやすい.ループをひねる(Cb),またはループにC2回通す(Cc)ことが推奨される.はひねりを示す.図5筋裏面の腱膜除去腱膜を.離・除去する操作により,筋腱と強膜の接着を確実にする.中心縫合を損傷しないよう注意する.L1nhnh図6HB法の定量付着部に通糸後(Ca),縫合糸を牽引,キャリパーでCLC1を定量し持針器で固定する(Cb).持針器上で縫合糸を結紮する(Cc).後転量(LC2)にCfudgeCfactorを加えた値がCLC1になる(Cd).iは付着部,nhは持針器を示す.==’C

眼鏡・コンタクトレンズ処方のDos and Don’ts

2025年9月30日 火曜日

眼鏡・コンタクトレンズ処方のDosandDon’tsDosandDon’tswhenPrescribingGlassesandContactLenses山田昌和*はじめに成人における眼鏡使用率は約C70%であり,眼鏡を常用しているのは男性で約C4割,女性で約C2割とされている1).必要に応じて使う,コンタクトレンズ(contactlens:CL)と併用するなどを含めると眼鏡がもっとも普及した屈折矯正法であることがよくわかる.しかし,その一方でC10.8%の成人は眼鏡が必要と思われるのに所持しておらず2),26.4%は老視の矯正(老眼鏡)を行っていないという報告もあり3),屈折異常や老視への対応が十分でないことが推測される.成人の眼鏡処方は,日常生活の改善を目的とする.眼鏡装用の目的や用途を明確にしたうえで,ライフスタイルに応じて慎重に度数を選択することが求められる.ここでは眼鏡処方に伴うCDosとCDonC’tsについて概説したい.CIDos:眼鏡レンズの三つの作用を考慮しよう眼鏡に用いられるレンズには三つの作用がある.光を屈折させて焦点を変える作用,像を拡大・縮小する作用,プリズム作用である.屈折力によってピントを合わせることがレンズの基本的な作用であるが,後者二つを意識すべき場面もある.眼鏡レンズは角膜頂点から約C12Cmm前方に置かれるので,屈折力に応じて像が拡大・縮小する.凸レンズでは像が拡大,凹レンズでは縮小し,その程度はC1ジオプター(D)あたりC1.25%とされる.強度近視などでは像がC10%程度縮小することがあり,眼鏡とCCLを併用する場合には距離感覚の異常の原因となることがある.また,左右でレンズの度数が異なる場合には不等像視が問題となることがある.プリズム入りのレンズでなくても,眼鏡レンズで視線がレンズの中心からはずれた場所を通る場合には,プリズム効果が生じる.瞳孔間距離がずれている場合だけでなく,上下や側方視でも左右でレンズ度数が異なる場合にはプリズム作用のために複視を生じることがある.逆に斜位・斜視がある症例でレンズのプリズム効果を意図的に利用した眼鏡処方がなされる場合もある.本稿ではこの後にも三つの作用の功罪に触れる部分があるので参照してほしい.CIIDon’ts:眼鏡で100点満点の見え方にしてほしい初めて眼鏡を作ったとき,世界がすっきりと鮮明に見えたことを筆者は今でも覚えている.眼鏡を作るときにこうした過去の成功体験を求めている患者は少なくない.また,眼疾患のために視機能が低下しているのに眼鏡を作れば視力が回復すると思っている患者もいる.しかし実際には,老視の患者に遠近両用の眼鏡を処方しても調節力が回復するわけではなく,視線の向け方を覚えたり,周辺部のぼけた見え方を許容したりと,ある程度の我慢と慣れが必要になってくる.また,慢性の眼*MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山田昌和:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室(1)(15)C1095疾患を有する患者では,屈折矯正を施しても疾患による視機能損失分を割り引いた見え方が限界となり,若い頃の記憶とは違った見え方にしかならない.患者はどうしても以前のC100点満点の見え方を求めてしまう傾向がある.患者と医師の間にはリテラシーギャップが存在することを忘れてはならない.CIIIDon’ts:今日の視力検査で眼鏡処方箋をください診察室で患者から「今日の視力検査で眼鏡処方箋をください」といわれた経験は,誰もが一度や二度ではないであろう.検査室における視力測定では,正視を作り完全矯正による最良視力を求める.これに対し,眼鏡処方は日常的に装用できる眼鏡の度数を決めるものである.検査室の視力検査は眼の機能や治療効果を判定するために最高出力を求めており,日常生活に必要とされる視機能とは別物である.また,屈折・視力検査では,屈折検査も視力検査も片眼ずつ行う.忙しいときなど,これで屈折や視力に大きな左右差がなければそのまま眼鏡処方と考えるかも知れない.しかし,やはり両眼での見え方や両眼開放視力をチェックして装用テストを行う必要がある.両眼での見え方を確認するのは,日常視に近い状態での見え方を体験してもらい,両眼のバランスをみるのが最大の目的である.矯正視力は両眼で同程度か,優位眼の視力がやや高い状態が一般的には許容されやすい.装用テストでは視力値にこだわるのではなく,自覚的な見え方を重視することが大切である.視力値自体は片眼ずつよりも両眼の視力のほうが若干高くなるとされている.ある程度は生理的なものであるが,なかには片眼遮閉時の調節緊張の影響で過矯正になっていることや,まれに潜伏眼振が影響している場合がある.自覚的に片眼と両眼での見え方が大きく異なる場合には過矯正になっていないか注意するとよい.逆に両眼で見ると遠くがぼけて見えるという場合もあり,考えやすいのは斜位近視である.外斜位斜視がある場合に遠見眼位を斜位に持ち込むために調節性輻湊が働くことがあり,輻湊に伴う調節のために焦点が近方にずれる現象である.この場合には,レンズにプリズムを組み込むことを考慮する.このようにそれほど頻度は高くないが,片眼ずつの見え方と両眼での見え方が異なることがあり,眼鏡処方では両眼開放視力と自覚的な見え方のチェックが必須である.CIVDosandDon’ts:近視の眼鏡は低矯正にする学童に近視の眼鏡を処方する場合には低矯正にしないと近視が進行しやすくなる,と以前はいわれていた.しかし,最近はむしろ完全矯正が近視の進行抑制には望ましいとされている.成人の場合も基本的には無理に低矯正にする必要はないと考えられる.ただし,完全矯正にはどうしても過矯正のリスクがあり,オートレフ値そのままの眼鏡処方は絶対に避けるべきである.過矯正眼鏡では近見時の調節必要量が増えたり,調節性輻湊を介して眼位が内斜したりする可能性があり,近業時のぼやけや眼精疲労が生じやすい.また,軽度の近視を残しても瞳孔径がC1.5Cmm程度の範囲であれば良好な視力を確保できるので,成人の場合には近視をやや低矯正とする眼鏡が処方されることが多い.低矯正が望ましい場合もあり,代表的なのは老視の初期など調節機能が減弱した症例である.近視を低矯正で眼鏡処方すると,明視域が近方に移動するために近見作業が楽になる.また,低視力者では網膜像のデフォーカスを認知しにくいため,低矯正にしたほうが被写界深度(depthof.eld:DOF)を拡大できると考えられている.以上のように,理論的には近視の眼鏡は完全矯正でよいが,成人に処方する場合にはやや低矯正にして,装用テストで見え方と装用感を確認するのが現実的なようである.CVDos:不同視は眼鏡で矯正できることもある一般的にはC3D以上の不同視は許容できず,眼鏡よりCLが望ましいとされる.これは不同視眼を眼鏡で矯正すると網膜像の大きさに左右差,不等像視(aniseikonia)を生じるためである.不等像視の融像限界はC4.7%といわれているが,快適に融像できる範囲は狭く,1.3%の不等像視で眼精疲労などの症状が出現するとされる.前述したように眼鏡レンズではC1DあたりC1.25%の像の拡大・縮小が生じるので,これに順応できる限界がC3Dという計算になる.なお,不等像視は球面レンズだけでなく,円柱レンズでもみられる〔経線不等像視(meridi-onalaniseikonia)〕.ただし,上記の記述は屈折性不同視の場合であり,例外的に軸性不同視の場合には大きな不同視があっても不等像視が生じにくく,眼鏡で矯正できることがある(Knappの法則).小児の不同視弱視は軸性不同視であり,適応能力も高いので,基本的には不同視があってもそのままの度数で眼鏡を処方する.成人でも軸性不同視であれば理論的には眼鏡で矯正できるはずであるが,実臨床ではCCLのほうが適していることが多い.なお,黄斑前膜や黄斑円孔など網膜疾患で不等像視を生じることがあり,網膜性不等像視とよばれる.この場合にサイズレンズという特殊なレンズを用いて不等像視の軽減が試みられることがある.CVIDos:乱視は控えめに矯正するのがよい眼鏡で矯正できる乱視はいわゆる正乱視で,経線方向の屈折力の違いにより焦点がC2カ所にできる屈折異常であり,円柱レンズで矯正できる.乱視も屈折異常であり,本来は完全矯正したほうがよりよい見え方を確保できるはずである.しかし,乱視は控えめに矯正するのがよいとされ,所持眼鏡を参考に違和感を覚えない自然な見え方という点を重視して度数と軸を調整することが推奨されている.これはなぜだろうか.円柱レンズでは軸によって屈折力が異なるために,上下あるいは斜め方向に像の拡大・縮小が生じる.さらに左右で度数が異なる場合には不等像視が生じることもある.これらは乱視を完全矯正したときの違和感の原因となるので,違和感を軽減するために乱視の度数を減らして低矯正にする,あるいは乱視の軸をC90°あるいはC180°に近づけるなどの方法が採られる.乱視の度数を減らすと矯正視力が低下するが,装用感の改善が勝るようなら低矯正を選択したほうがよい.また,低矯正で乱視を残すことのもうC1つのメリットとしてCDOFの拡大があげられる.小さな乱視を意図的に残すことで,大きな視力低下を伴わずに明視域の拡大をはかることができる.乱視の軸に関しては,10°やC170°の乱視軸の場合にはC180°で眼鏡レンズを調整したほうが違和感が少なくなることがある.また,斜乱視の場合は左右の乱視軸をたとえば右眼C30°,左眼C150°と左右対称にするなど,左右で軸のバランスを整えることも重要となる.ただし,乱視軸をずらすと残余乱視が増加し,眼鏡視力は低下する.軸をC15°シフトさせると乱視の矯正効果はC50%程度となり,30°シフトさせれば残余乱視は元の乱視と変わらなくなってしまう.乱視軸をずらすのは最大でもC15°,できればC10°程度が望ましい.CVIIDon’ts:麻痺性斜視はプリズム眼鏡の適応ではないプリズムは眼内に入る光の向きを変えて光学的に複視や眼精疲労などの軽減をめざすものである.プリズム眼鏡の適応としては,以下のようなものがあげられる.①複視の消失,軽減〔外斜位斜視,上斜筋麻痺,開散麻痺,saggingeyesyndrome(SES)など〕.②眼位を斜位に保つために生じる眼精疲労の軽減(外斜位斜視,上斜筋麻痺など).③頭位異常の軽減(麻痺性斜視,眼位性眼振など).成人で多いのは外斜位斜視と上斜筋麻痺,SESなどである.このうち,上斜筋麻痺など麻痺性斜視ではむき眼位によって眼位ずれの角度が異なり,回旋偏位を伴うことがあるのでプリズム眼鏡の適応でないと考えられがちだが,そうでもない.融像幅の範囲であれば眼位ずれがあっても両眼単一視ができる場合があるし,正面や下方など日常でよく使われるむき眼位で単一視ができればそれだけでも眼鏡を処方する価値がある.融像幅は一般に水平方向は広いが,上下方向は狭い.そのため,プリズムで上下偏位の補正を行うと,水平方向は融像により斜位に持ち込めることがある.プリズムでは回旋偏位の補正はできないが,上下と水平の眼位ずれをプリズムで補正すると,回旋偏位も斜位に持ち込める可能性がある.また,外斜位斜視や代償不全型の上斜筋麻痺では融像幅が正常者より広いことが多いので,プリズムである程度眼位ずれを補正すると斜位に持ち込みやすい.したがって,プリズム眼鏡を試す際には,眼位ずれを全部補正する必要はなく,必要最小限の度数にとどめるのがよいと思われる.また,患者にはプリズムは万能ではないこと,プリズムによる違和感や見え方の低下などマイナス面があることを理解してもらう必要がある.眼位ずれが小角度の場合には,球面・円柱レンズのプリズム効果を利用する方法もある.眼鏡レンズで視線がレンズの中心からはずれた場所を通る場合,Prenticeの式〔プリズム効果=偏心距離(cm)C×レンズパワー(D)〕に対応するプリズム効果が生じる.軽度の外斜位,内斜位ではあえて瞳孔間距離をずらした眼鏡が処方されることがある.また,若年者の外斜位では屈折度数をあえて過矯正にして調節性輻湊を促すCoverminustherapyが試みられることもある.これらの方法は像の歪みや眼精疲労などの問題が生じやすく,実際に処方される機会は少ないが,知識として知っておくことは重要であろうと考えられる.プリズムの度数としては,眼鏡レンズに組み込むことができるのは通常はC5CΔ程度までであり,それ以上の眼位ずれを矯正したい場合にはCFresnel膜プリズムをレンズに貼付することになる.Fresnel膜は不透明であり,装用時の視力低下があること,外見上レンズが曇って見えることなど不都合もあるが,大角度の眼位ずれを補正したい場合には試用する価値がある.最近はシリコーン製の膜プリズムも市販されており,レンズがクリアで,変色や硬化が生じにくいなどのメリットがある.もう一つ,複視がある場合の対応として遮閉レンズがある.これは片眼を遮閉し,もう片眼で単眼視することで複視を解消しようとする方法である.両眼視をあきらめて単眼視にする方法でプリズムレンズとは逆の発想になる.外見上は透明に近いが遮閉効果をもつレンズが開発されており,通常の方法では複視や不等像視に対応できない場合や整容的な問題がある場合に試してもよい方法と思われる.場合によっては虹彩付きのCCLを試みてもよい.CVIIIDos:老視対策では明視域を意識する老視はC40代後半から顕性化する調節力の低下である.調節力はC10.50代後半までほぼ直線的に低下し,40.50歳でC3D程度となり,近見時の見にくさを自覚するようになる.調節力の低下には個人差があり,元の屈折状態(潜伏遠視や近視など)も関係するので,老視を自覚し始める年齢には幅がある.最近はCIT眼症やスマホ老眼など,若年者でも近見障害を訴えることがある.老視ではすぐに近用眼鏡,遠近両用眼鏡と考えなくてもよい.近視で眼鏡やCCLを使用している場合,老視の初期ならば所持眼鏡の度数を少し落とす(0.5D程度)ことで対処できることがある.これは焦点をずらすことで明視域を近方に寄せることになる.たとえば,2.5Dの調節力が残っている場合にC0.5D低矯正にすることで,無限遠.40Ccmであった明視域をC2Cm.33Ccmにすることができる.乱視がある場合には意図的に残してCDOFを拡げるのも有用である.明視域を考えるうえでもう一つ重要と思われるのはペアリングの概念である.左右で度数を調整して優位眼を遠方重視,非優位眼を近方重視とする方法で,完全なモノビジョンというよりも両眼の明視域が重なることを意識したほうがよい.老視がある程度進行すると近用眼鏡が必要となるが,この場合にも最初は度数の弱いものから処方する.度数が強ければ強いほど明視域が近方で限定されるからである.眼鏡の掛け替えが面倒,老眼鏡を掛けたくないという場合には遠近両用を考慮する.遠近両用の眼鏡でもCLでも最初に老視が治るわけではないこと,見え方に不自然さが生じることをよく説明する必要がある.眼鏡とCCLでは遠近両用の原理が異なり,眼鏡では遠用部と近用部が分かれていて視線の向きで焦点を合わせるのに対し,CLは同時視型である.CLでは遠用重視,近用重視などレンズによってデザインが異なるが,いずれの場合にも像の不鮮明さ,ぼやけた感じが生じるので,適応は慎重に見定める必要がある.遠近両用眼鏡で使用される累進屈折力レンズは,遠用部+累進部+近用部で構成される.各帯状領域を単純な球面とすると側方部での収差が大きくなるので,累進部の形状が工夫されているが,側方の像の歪みは完全には解消されず,遠用部・近用部での明視幅は狭くなる.累進屈折力レンズを装用する場合,眼鏡フレームの形状は玉型の高さが狭い(30Cmm以下)と近用部が実用的にならない可能性がある.近用部分がきちんと使えているか(視線を下方にずらすことができているか),遠近両用や