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緑内障点眼薬で注意すべき全身副作用

2024年9月30日 月曜日

緑内障点眼薬で注意すべき全身副作用SystemicSideE.ectstoKeepinMindWhenUsingGlaucomaEyeDrops根本穂高*本庄恵*はじめに緑内障において唯一エビデンスのある治療は眼圧下降であり,さまざまな眼圧下降薬が緑内障の治療として臨床現場で使用されている.点眼薬は眼局所治療薬であるため,内服薬と比較すると全身への副作用は少ないものの,点眼薬は経結膜・経鼻的に粘膜から吸収されて肝代謝を受けずに全身移行することから,起こりうる全身副作用について知識をもっておくことは重要である(図1).本稿では現在臨床現場でおもに使用されている薬剤を中心に,各種薬剤と全身副作用について解説する.CIプロスタグランジン関連薬(FP作動薬)天然に存在するプロスタグランジンを低用量投与すると,多くの動物種で眼圧下降を生じることが報告されているが,眼圧下降薬が最大となる用量では結膜充血や眼刺激などの眼科的副作用が顕著となるため,臨床的には有用でなく,緑内障点眼薬として市販されているプロスタグランジン関連薬は低用量のものが採用されている.さらに,ラタノプロストでは血漿中半減期はC17分と早いことが報告されており,全身副作用はほとんど生じないと考えられている1).CIIb遮断薬心臓に分布するCb1受容体を遮断することで徐脈,低血圧,心拍出量低下を生じうるため,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック,心原性ショックのある患者に対する投与は禁忌となっている.また,呼吸器のCb2受容体を遮断することから気管支平滑筋収縮作用があり,気管支喘息またはその既往のある患者,気管支けいれんまたは重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者に対する投与も禁忌である.点眼薬として使用されているCb遮断薬は非選択性で,点眼後数分以内に体内のCb受容体のC70~90%が遮断されることが明らかになっており,眼局所投与とはいえ全身副作用は決して無視できない(図2)2).そのほか,精神神経症状として抑うつや不安神経症も知られている.Cb受容体は膵臓からのグルカゴン分泌やインスリン分泌に関与しているため,コントロール不良な糖尿病患者に対しては慎重に投与する必要がある.b遮断薬によって動悸,頻脈などの低血糖症状が自覚されにくくなってしまうため,いきなり低血糖の意識障害を生じる可能性があり,注意が必要である.緑内障は長期にわたってフォローアップが必要な疾患である.初診時には心疾患や呼吸器疾患がなくとも,通院中に患者が年を重ねて心疾患や呼吸器疾患を発症することは十分考えられる.受診時に血圧・脈拍やパルスオキシメーターを確認することで,徐脈や酸素濃度の低下などを早期に拾い上げることができる.簡便な検査であることからも日常診療に取り入れやすいと考えられる.Cb遮断薬は点眼投与といえども,徐脈によるペースメーカー埋め込み施行の報告や気管支喘息悪化による呼吸困難での死亡例なども報告されており,細心の注意を払っ*HotakaNemoto&MegumiHonjo:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕根本穂高:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(37)C1079全身性吸収(50%以上)メインの吸収経路(経結膜・経鼻)マイナーな吸収経路(経鼻涙管・経咽頭・経消化管・経皮・経房水)図1点眼薬の全身性吸収ルート点眼薬はC1滴約C25~40Cμlの量があり,結膜.約C10Cμlよりも多いため,薬剤の多くはおもに鼻腔から吸収され全身性に移行する.吸収された薬剤は肝臓による初回代謝の影響が少ないため,各組織に高い濃度で作用する可能性がある.A.b1-ReceptorB.b2-Receptor100100Receptoroccupancy(%)80806040206040200001020304050600102030405060Time(min)Time(min)図2b遮断薬点眼投与後のb受容体遮断率b遮断薬点眼後数分で,全身のCb受容体のC70~90%が遮断される.(文献C2より引用)図3ブリモニジン酒石酸塩および類薬の化学構造a:クロニジン塩酸塩.Cb:アプラクロニジン塩酸塩.Cc:ブリモニジン酒石酸塩.表1緑内障点眼薬のFDA薬剤胎児危険度分類薬剤FDAカテゴリープロスタグランジン関連薬(FP作動薬)CCCb遮断薬CC炭酸脱水酵素阻害薬CCCa2作動薬CBROCK阻害薬未カテゴリーCBは「ヒトと動物におけるデータがさまざま,もしくは矛盾している.例えば,動物実験では何らかの有害性が認められたが,臨床試験では安全性が示された場合,あるいは動物実験では安全性が示されたが,臨床試験が利用できなかった場合」に分類される.カテゴリーCCは,「動物モデルで副作用が認められた医薬品や,動物実験とヒトでの検証が不十分な医薬品」に用いられる.(文献C14より改変引用)(ng/ml)1.510.50図4涙.部圧迫による点眼薬血中濃度の抑制血中濃度0.5%チモロールマレイン酸塩を点眼後,1時間後の血中濃度のグラフ.涙.部圧迫,閉瞼ともに全身への移行が約C1/3に抑制される.(文献C13より改変引用)無処置涙嚢部圧迫閉瞼

緑内障点眼薬とオキュラーサーフェス

2024年9月30日 月曜日

緑内障点眼薬とオキュラーサーフェスAnti-GlaucomaMedicationsandOcularSurfaceDisease三重野洋喜*はじめに緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降である1).現在,眼圧下降のための治療の中心は点眼治療だが,緑内障点眼薬の長期使用はオキュラーサーフェスにさまざまな影響を及ぼすことが知られている.緑内障とオキュラーサーフェスは切っても切れない関係であり,本稿では,緑内障点眼薬がオキュラーサーフェスに及ぼす影響について詳述し,適切な管理と対策方法について考察する.CI緑内障と眼表面疾患の合併緑内障点眼薬を使用している緑内障患者のC49~59%に眼表面疾患(ocularCsurfacedisease:OSD)が認められる.緑内障点眼薬は,開始からC3カ月以内に灼熱感・刺激感・かゆみ・流涙・視力低下を引き起こすことがあるが,これらのCOSDは,点眼治療によって増悪する既往症である場合と,点眼治療開始後に顕在化する新規疾患である場合がある2).緑内障点眼薬を使用している患者では,使用していない同年代のCcontrolと比較してドライアイの有病率が高く,Schirmerテストでの涙液の減少,涙液層破壊時間(tearbreak-uptime:TBUT)の短縮,結膜上皮障害,充血などが有意に多くみられたとする報告がある3).長期にわたる緑内障点眼薬の使用は,OSDの原因となり,結膜の炎症,短縮,収縮を引き起こす4).これは,臨床的にも病理学的にも眼類天疱瘡(ocularcicatricialpemphigoid:OCP)と区別がつかず,文献的には薬剤性瘢痕性結膜炎(drugCinducedCcicatrizingCconjunctivi-tis)および偽類天疱瘡(pseudopemphigoid)とよばれている5).緑内障点眼薬が薬剤性瘢痕性結膜炎のもっとも多い原因である6).このように,緑内障とCOSDの合併では緑内障点眼薬がCOSDの原因となることが示されているが,未治療の原発開放隅角緑内障患者は,高眼圧の患者と比較して22%,controlと比較してC27%基礎涙液回転率が低いとする報告もある7).緑内障に起因する自律神経の障害がその理由として考察されているが,緑内障患者ではそもそもCOSDを生じやすい可能性がある.CII緑内障点眼薬がオキュラーサーフェスに及ぼす影響緑内障には,それぞれ作用機序の異なる点眼薬が用いられるが,いずれの製剤もオキュラーサーフェスに影響を与える.プロスタグランジン製剤は,閉塞性のマイボーム腺機能不全の有病率と重症度の上昇に関連している8).b遮断薬は涙腺のCb受容体に作用し,基礎涙液回転率を低下させる9).また,眼表面,とくに涙液の粘液層に損傷を与える10).a2作動薬であるブリモニジンは,他の点眼薬と比較して眼アレルギーの発生率が有意に高く,その後に使用する点眼薬のアレルギーの発現も高める可能性があることが報告されている11).Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬であるリパスジルでは,結膜炎,眼瞼*HirokiMieno:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕三重野洋喜:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(31)C1073図1ブリモニジンによる眼瞼炎図2リスパジルによる結膜炎図3ブリモニジン角膜実質混濁の治療経過a:ブリモニジン点眼開始後C25カ月.この時点では炎症を認めない.Cb:ブリモニジン点眼開始後C28カ月.結膜充血だけでなく,角膜実質深部への浸潤と血管新生を認める.Cc:治療開始C1カ月後.ブリモニジン使用を中止し,ベタメタゾンC0.5Cmgの内服をC2日間,1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.1%のフルオロメトロン点眼液を併用.充血と血管新生は消退している.Cd:治療開始C5年後.0.1%のフルオロメトロン点眼液を使用.角膜実質混濁は残存している.(御池眼科クリニック池田陽子先生のご厚意による)図4BAK含有点眼薬から防腐剤フリー点眼薬に変更した際のフルオレセイン染色a:BAK含有ラタノプロスト点眼液を使用時.角膜上皮障害を認める.Cb:防腐剤フリーのラタノプロスト点眼液に変更後.角膜上皮障害の改善を認める.(御池眼科クリニック池田陽子先生のご厚意による)図5単剤併用から合剤の点眼薬に変更した際のフルオレセイン染色a:ブリンゾラミドC1%点眼液とブリモニジンC0.1%点眼液の併用時.角膜上皮障害を認める.Cb:ブリンゾラミド/ブリモニジン配合合剤点眼液に変更後.角膜上皮障害の改善を認める.(御池眼科クリニック池田陽子先生のご厚意による)は知る限り存在しない.したがって,このような患者でのCSLTへの切り替えには慎重であるべきである.しかし,初回治療としてのCSLTの有効性はエビデンスがある.筆者も角膜外来やドライアイ外来から紹介される,もともとCOSDで通院中の患者に緑内障を合併した例では,患者と相談のうえ初回治療に積極的にCSLTを取り入れている.近年普及している低侵襲緑内障手術(minimallyinva-siveCglaucomasurgery:MIGS)は,結膜を温存したうえで緑内障点眼薬を減らせることからオキュラーサーフェスには有利に働く.白内障手術時にCiStentを併用することでオキュラーサーフェスが改善することが報告されている20).一方,トラベクレクトミーは,点眼薬を減らすことでOSDを減少させる可能性があるが,結膜瘢痕や慢性的な眼刺激を経験することがある.個々の患者では有効な例も存在するが,全体としてみると,緑内障点眼薬を使用している患者と使用していないトラベクレクトミー後の患者では,ドライアイ症状に差がなかったとする報告21)や,トラベクレクトミーを受けた患者は点眼治療を受けた患者よりもC5年後の眼刺激率が高いとする報告22)があり,オキュラーサーフェスの改善には必ずしも寄与しないといえる.わが国でも最近行われるようになった新しい濾過手術であるプリザーフロマイクロシャント手術は,濾過胞がトラベクレクトミーより後方にできることから,眼刺激率が低下することが期待される.実際,最近の報告によるとプリザーフロマイクロシャント手術は眼表面の自覚症状に加えてCTBUT,Schirmerテスト,フルオレセイン染色検査の結果を改善させた.さらに,涙液浸透圧と角膜上皮も有意に改善した23).長期成績をみていく必要があるが,プリザーフロマイクロシャント手術はCMIGSよりも緑内障点眼薬を減らせることから,今後重篤なOSD患者に対する有効な選択肢になると思われる.おわりに高齢化に伴い,緑内障患者は増加の一途をたどっている.緑内障とCOSDはしばしば併発するため,これらの両方をうまく管理することが日常診療において重要となる.緑内障診療では眼圧の推移のみに目が向きがちだが,眼表面の管理を適切に行うことで結果的に眼圧コントロールが改善されることがある.現在は緑内障の点眼薬も配合剤が増え,手術の選択肢も広がっている.患者の状態に応じてこれらの治療法を組み合わせることで患者の良好な視機能と生活の質(QOL)の維持につながるよう,われわれ眼科医はベストを尽くす必要がある.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会.緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)ZhangX,VadoothkerS,MunirWMetal:OcularsurfacediseaseCandCglaucomamedications:aCclinicalCapproach.CEyeContactLens45:11-18,C20193)FineideCF,CLagaliCN,CAdilCMYCetal:TopicalCglaucomaCmedicationsC-clinicalCimplicationsCforCtheCocularCsurface.COculSurfC26:19-49,C20224)SchwabCIR,CLinbergCJV,CGioiaCVMCetal:ForeshorteningCofCtheCinferiorCconjunctivalCfornixCassociatedCwithCchronicCglaucomamedications.OphthalmologyC99:197-202,C19925)LiesegangTJ:Conjunctivalchangesassociatedwithglau-comatherapy:implicationsCforCtheCexternalCdiseaseCcon-sultantCandCtheCtreatmentCofCglaucoma.CCorneaC17:574-583,C19986)SinghS,DonthineniPR,ShanbhagSSetal:DruginducedcicatrizingCconjunctivitis:aCcaseCseriesCwithCreviewCofCetiopathogenesis,CdiagnosisCandCmanagement.COculCSurfC24:83-92,C20227)KuppensCEV,CvanCBestCJA,CSterkCCCCetal:DecreasedCbasalCtearCturnoverCinCpatientsCwithCuntreatedCprimaryCopen-angleglaucoma.CAmJOphthalmolC120:41-46,C19958)MocanMC,UzunosmanogluE,KocabeyogluSetal:TheassociationCofCchronicCtopicalCprostaglandinCanalogCuseCwithCmeibomianCglandCdysfunction.CJCGlaucomaC25:770-774,C20169)KuppensEV,StolwijkTR,deKeizerRJetal:BasaltearturnoverCandCtopicalCtimololCinCglaucomaCpatientsCandChealthyCcontrolsCbyC.uorophotometry.CInvestCOphthalmolCVisSciC33:3442-3448,C199210)HerrerasCJM,CPastorCJC,CCalongeCMCetal:OcularCsurfaceCalterationCafterClong-termCtreatmentCwithCanCantiglauco-matousdrug.OphthalmologyC99:1082-1088,C199211)OsborneSA,MontgomeryDM,MorrisDetal:Alphaganallergymayincreasethepropensityformultipleeye-dropallergy.Eye(Lond)C19:129-137,C200512)MaruyamaY,IkedaY,YokoiNetal:Severecornealdis-ordersCdevelopedCafterCbrimonidineCtartrateCophthalmicC(35)あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024C1077

配合剤の活用法

2024年9月30日 月曜日

配合剤の活用法HowtoUseCombinationEyeDropsfortheTreatmentofGlaucoma三浦瑛子*齋藤雄太*はじめに緑内障は視神経と視野に特徴的変化を有し,唯一の治療は眼圧を下降させることである.緑内障の眼圧下降治療の第一選択は点眼薬による薬物治療である.しかし,単剤の使用では目標眼圧に達しない,あるいは治療効果が不十分ということが少なくない.こうした場合には薬剤の変更や追加が検討されるが,増えているのが配合点眼薬の使用である.複数の有効成分を一つの製剤に組み合わせることで点眼の回数を減らし,患者のアドヒアランスを向上させることができる1).本稿では,この配合点眼薬の概要と選択・使用について解説する.CI配合点眼薬のメリット・デメリット1.配合点眼薬のメリットa.点眼回数の減少複数の薬剤をC1度に投与できるため,点眼回数が減って患者の負担が軽減される.これによりアドヒアランスが向上し,治療の継続性が高まることが期待できる.Cb.治療効果の向上配合点眼薬は単剤併用に比べてアドヒアランスの向上により眼圧下降効果が同等,あるいは増強されることが多い2~6).C2.配合点眼薬のデメリットa.点眼を忘れた場合のリスク配合点眼薬を忘れると,複数の成分がC1度に欠落するため,眼圧管理が不十分になるリスクが高まる.Cb.費用の問題配合点眼薬は単剤併用に比べて高価なことが多く,長期的な治療において経済的な負担となることがある(表1)7).たとえば,ザラカムやデュオトラバ,コソプトは先発単剤併用より高価である.C3.経済的選択肢としての後発品後発品は治療コストを抑えることができるため,経済的な選択肢となりうる.後発配合剤と後発単剤併用を比較すると,トラチモのみ後発配合剤のほうが高価である一方,ラタチモ,タフチモ,ドルモロールは後発配合剤のほうが安価である.CII配合点眼薬の選択と使用配合点眼薬の選択は,患者の状態や副作用リスクを考慮しながら慎重に行うことが重要である.以下に,配合点眼薬の選択と使用に関する具体的なポイントを示す.C1.国内で使える製剤と配合パターン日本国内で使用可能な配合点眼薬はC5成分中C2成分を含有するC9製剤であり,以下のC5パターンがある(図1).なお,ビマトプロスト含有の配合剤はない.①CFP受容体作動薬(以下,FP作動薬)+b遮断薬.C②Cb遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhy-draseinhibitor:CAI).*EikoMiura&YutaSaito:昭和大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕三浦瑛子:〒142-0054東京都品川区西中延C2-14-19昭和大学病院附属東病院眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(25)C1067表1配合点眼薬1本あたりの費用先発品名称先発品薬価後発品名称後発品薬価単剤併用薬価(先発品,最高値)単剤併用薬価(後発品,最安値)ザラカムC1653.25ラタチモC694.25C1425.5(C886+539.5)C759(C426+284)ミケルナC1422C1658(C886+772)**C841.75(C426+415.75)デュオトラバC1692.75トラチモC935.25C1687.5(C1148+539.5)*C919.75(C635.75+284)タプコムC1772.25タフチモC932.75C2037(C1497.5+539.5)C1054(C770+284)コソプトC1838.5ドルモロールC624.5C1388.5(C539.5+849)C1133(C284+849)アゾルガC1368C1547(C539.5+1007.5)**C804(C284+520)アイベータC2017C2020(C539.5+1480.5)**C822.5(C284+538.5)アイラミドC2208.5C2488(C1480.5+1007.5)**C1058.5(C538.5+520)グラアルファC2527C3727.5(C1480.5+2247)C2785.5(C538.5+2247)単位(円/本),2024年C6月現在.先発配合薬より後発配合薬のほうが安価である.後発配合薬よりも後発の単剤併用のほうが安価な場合もある(*).グラアルファ以外は,後発がない配合点眼薬は後発単剤併用より高価である(**).(文献C7より改変引用)製品名ミケルナザラカムデュオトラバタプコムコソプトアゾルガアイベータアイラミドグラアルファFP作動薬ラタノプロストトラボプロストタフロプロストb遮断薬カルテオロールチモロールa2作動薬ブリモニジン炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミドブリンゾラミドブリンゾラミドROCK阻害薬リパスジル図1現在使用可能な配合点眼薬表2SU-PAPグレードC0C1C2C3グレード名PAPなし表層整容的CPAP深層整容的CPAP眼圧測定に影響するCPAP定義変化なし眼瞼色素沈着睫毛伸長上眼瞼溝深化眼瞼皮膚弛緩の退縮眼窩周囲脂肪の消失眼球陥凹一つ以上を含む整容的変化PAPに関連した上眼瞼溝深化眼瞼硬化眼瞼下垂眼球陥凹によりCGoldmann眼圧測定が困難/Goldmann眼圧の信頼性が低下(文献C10より改変引用)Ca組み合わせ①ミケルナザラカムデュオトラパタプコムアイラミド3本5成分b組み合わせ②グラナテックミケルナザラカムデュオトラパタプコムグラアルファ3本5成分c組み合わせ③ドルゾラミドプリンゾラミドラタノプロストグラアルファコソプトトラボプロスト(ドルモロール)タフルプロストアゾルガビマトプロスト3本5成分orオミデネパグ図2最小本数の組み合わせになる3パターンa:FP作動薬・Cb遮断薬+a2作動薬・CAI+ROCK阻害薬.Cb:FP作動薬・Cb遮断薬+a2作動薬・ROCK阻害+CAI.Cc:FP作動薬+a2作動薬・ROCK阻害+b遮断薬・CAI.表3FP受容体作動薬によるDUESの頻度DUESの発症率(%)ビマトプロストC60.0トラボプロストC50.0ラタノプロストC24.0タフルプロストC18.0ウノプロストンC8.0(文献C13より改変引用)表5ブリンゾラミドとブリモニジン酒石酸塩/ブリンゾラミドの霧視の比較霧視の発症率(%)1%ブリンゾラミドC6.20.1%ブリモニジン酒石酸塩/1C%ブリンゾラミド配合剤C3.3(文献C17より改変引用)表4b遮断薬による点状表層角膜症の頻度発症率(%)チモロールC46.2カルテオロールC4.2(文献C15より改変引用)表6配合点眼薬の防腐剤点眼薬防腐剤ザラカム塩化ベンザルコニウムデュオトラバ塩化ポリドロニウムタプコム塩化ベンザルコニウムミケルナ(ホウ酸)コソプトなしアゾルガ塩化ベンザルコニウムアイベータ塩化ベンザルコニウムアイラミド塩化ベンザルコニウムグラアルファ濃ベンザルコニウム塩化物C50ベンザルコニウム塩化物:白色~黄白色の粉末または無色~淡黄色のゼラチン状の小片.濃ベンザルコニウム塩化物C50:50.0~55.0%のベンザルコニウム塩化物を含む液体.表7ブリモニジン単剤とブリモニジン/チモロール配合剤の副作用の比較結膜充血の発症率アレルギー性結膜(%)炎の発症率(%)ブリモニジンC0.2%C22.8C9.4ブリモニジンC0.2%/チモロールC0.5%配合剤C14.5C5.2(文献C19より改変引用)C’C—

追加点眼薬の選択と留意点

2024年9月30日 月曜日

追加点眼薬の選択と留意点TheSelectionofAdditionalOphthalmicSolutionsandSpeci.cPointstoKeepinMind井上賢治*I追加点眼薬の必要性緑内障診療ガイドラインにある緑内障治療の導入のフローチャートでは緑内障治療は単剤投与からはじめると記載されている1)(「第一選択薬の考え方(1030頁)」図1参照).薬剤を投与する際には目標眼圧を設定し,目標眼圧を達成した場合はそのまま薬剤を継続する.目標眼圧を達成できない場合は薬剤の変更あるいは多剤併用(薬剤の追加)となる.薬剤を変更する理由としては薬剤のノンレスポンダーや副作用出現が考えられる.それ以外の場合には薬剤の追加となる.II単剤投与緑内障治療は単剤投与から始めるが,緑内障点眼薬は濃度の違いも含めれば20種類以上存在する(図1).医師はおのおのの点眼薬の効果や副作用を考慮し,患者にもっとも適した点眼薬を使用する.点眼薬の選択肢が多いため,すべての点眼薬を検討して薬剤を選択するのは困難をきわめる.しかし,緑内障診療ガイドラインには第一選択薬はプロスタノイドFP受容体作動薬(以下,FP作動薬)で,その理由として眼圧下降が強力な点,全身性副作用が少ない点,1日1回点眼の利便性がある点の三つが記載されている1).医師はガイドラインに準拠して診療を行うべきで,FP作動薬を第一選択薬として使用するのがよい.また,第一選択薬としてはb遮断薬についても言及されている.今回は,追加点眼薬を考慮する際に単剤投与はFP作動薬が使用されていることを原則とした.III点眼薬単剤投与の効果と安全性点眼薬には効果と副作用がある.前者としては眼圧下降効果,視野維持効果,後者としては全身性副作用,眼局所副作用がある.副作用の出現はアドヒアランスの低下を引き起こす可能性があるので,投与前に患者に副作用の説明と副作用に対する考え方を聴取すべきである.また,全身性副作用が出現すると全身に影響を及ぼすので,とくにb遮断薬を使用する際には呼吸器系疾患や循環器系疾患を有していないかの確認が必須である.単剤投与の眼圧下降効果のメタアナリシスでは,眼圧下降はFP作動薬がもっとも強力で,b遮断薬が続き,a2作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)はほぼ同等である2)(図2).筆者らはネットワークメタアナリシスの手法で各点眼薬を0.5%チモロール点眼薬と比較した際の眼圧下降効果と安全性を調査した3).ビマトプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト,ラタノプロストのFP作動薬は有意に眼圧下降が強力だった(図3).ウノプロストン(イオンチャネル開口薬),ニプラジロール(a1b遮断薬)は同等で,ブナゾシン(a1遮断薬),ブリモニジン(a2作動薬)は有意に弱かった.副作用の出現は,筆者らの報告3)ではブナゾシン(a1遮断薬)が0.5%チモロール点眼薬に比べて有意に少な*KenjiInoue:井上眼科病院〔別刷請求先〕〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(17)1059プロスタノイドFP受容体作動薬ラタノプロスト・トラボプロスト・タフルプロスト・ビマトプロストチモロールマレインカルテオロールプロスタノイドEP2ニプラジロールレボブノロールベタキソロール炭酸脱水酵素阻害薬副交感神経作動薬ドルゾラミドピロカルピンブリンゾラミドa2作動薬ブリモニジンイオンチャネル開口薬イソプロピルウノプロストンROCK阻害薬リパスジル図1日本で使用可能な緑内障点眼薬a1遮断薬ブナゾシン01234567ビマトプロストラタノプロストトラボプロストレボブノロールタフルプロストチモロールブリモニジンカルテオロールレボベタキソロールアプラクロニジンドルゾラミドブリンゾラミドベタキソロールウノプロストン(平均と95%信頼区間,mmHg)図2単剤投与の眼圧下降(文献C2より改変引用)RelativeIOPreduction(mmHg)RelativeAdverseReactionRate(%)図3日本での単剤投与の眼圧下降図4日本での単剤投与の副作用出現(文献C3より引用)(文献C3より引用)表1日本で使用可能な配合点眼薬商品名発売日成分ザラカム2010年C4月チモロール+ラタノプロストデュオトラバ2010年C6月チモロール+トラボプロストコソプト2010年C6月チモロール+ドルゾラミドアゾルガ2013年C11月チモロール+ブリンゾラミドタプコム2014年C11月チモロール+タフルプロストミケルナ2017年C1月カルテオロール+ラタノプロストアイベータ2019年C12月ブリモニジン+チモロールアイラミド2020年C6月ブリモニジン+ブリンゾラミドグラアルファ2022年C12月ブリモニジン+リパスジル井上眼科病院井上賢治作成FP作動薬FP作動薬/b遮断薬配合点眼薬FP作動薬/b遮断薬配合点眼薬+a2作動薬FP作動薬/a2作動薬/a2作動薬/b遮断薬+CAIorROCK配合点眼薬配合点眼薬配合点眼薬FP作動薬/a2作動薬/b遮断薬+CAI+ROCK阻害薬or配合点眼薬配合点眼薬FP作動薬/a2作動薬/b遮断薬+ROCK+CAI配合点眼薬配合点眼薬図5アドヒアランスの観点からの薬剤投与(代表例)FP作動薬FP作動薬+CAI/b遮断薬配合点眼薬FP作動薬+CAI/b遮断薬+a2作動薬/ROCK配合点眼薬配合点眼薬図6眼圧下降の観点からの薬剤投与(代表例)0%25%50%75%100%平均0.20.2種類数全体(n=443)4494253.50.40.4施設別病院(n=184)3.6クリニック(n=259)5753443.4■1種類■2種類■3種類■4種類■5種類■6種類■7種類■8種類図7緑内障点眼薬の最大処方数(ボトル数)緑内障診療実態調査アンケートの「緑緑内障治療で使用する点眼薬に限った場合,最大で何種類(ボトル数)の点眼薬を処方されていますか」という質問に対する回答結果(https://www.ryokunaisho.jp/member/oasis/jgs/questionnaire/enq_02-1.pdf).(文献C9より改変引用)48343表2防腐剤を含有しない緑内障点眼薬ユニット・ドーズ型タプロスミニ点眼液C0.0015%コソプトミニ配合点眼液PFデラミ型ラタノプロストCPF点眼液C0.005%「日点」チモロールCPF点眼液C0.25%「日点」チモロールCPF点眼液C0.5%「日点」カルテオロール塩酸塩CPF点眼液1「日点」カルテオロール塩酸塩CPF点眼液2%「日点」ニプラジロールCPF点眼液C0.25%「日点」レボブノロール塩酸塩CPF点眼液C0.5%「日点」C■用語解説■配合点眼薬:一つの点眼薬に二つの有効成分を配合した製品.-

第一選択薬の考え方

2024年9月30日 月曜日

第一選択薬の考え方First-LineMedicationsfortheTreatmentofGlaucoma寺内稜*はじめに眼圧下降療法は緑内障に対するエビデンスを伴った唯一の治療である.そのなかでも点眼薬を用いた眼圧管理は,緑内障治療の基本であり,その中心的役割を担っている.緑内障治療に用いられる点眼薬は近年その種類が増えてきており,さらに配合点眼薬や後発医薬品が登場するなど,薬剤選択のバリエーションは大幅に拡大している.そのため,緑内障点眼薬についてはとくに継続的な知識のアップデートが求められる.本稿では緑内障治療の第一選択薬を考えるうえで必須となる知識をまとめ,とくに原発開放隅角緑内障に対する第一選択薬であるプロスタノイド受容体関連薬(FP受容体作動薬およびCEP2受容体作動薬),b遮断薬のC3種類の薬剤を中心に解説する.CI基本的な第一選択薬の考え方まず,緑内障診療ガイドライン(第C5版)1)をもとに,第一選択薬を選択するための基本的な考え方を振り返る.緑内障に対する薬物治療の大原則は「必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ること」であり,多剤の併用は副作用の増加やアドヒアランスの低下につながるため十分な注意が必要である.この大原則に従い,緑内障診療ガイドラインでは点眼薬の初回導入は単剤から開始することをグレードC1Bで推奨している(図1).初回導入時に複数薬剤を同時に開始すべきでない他の理由として,眼圧下降効果が得られないノンレスポンダーを検出しにくいこと,何らかの副作用が発生した場合に原因薬剤を特定しにくいことがあげられる.プロスタノイド受容体関連薬であるCFP受容体作動薬(以下,FP作動薬)は,緑内障点眼のなかでもっとも優れた眼圧下降効果をもち,点眼回数がC1日C1回のため患者負担が少なく,さらに副作用の面で良好な認容性を示すことから,開放隅角緑内障に対する第一選択薬としてもっとも使用されている.続いて第一選択薬となりうるのは,眼圧下降効果と認容性の観点からCEP2受容体作動薬(以下,EP2作動薬)およびCb遮断薬である.これらC2種類の点眼薬については禁忌症例が存在するため,薬剤選択をするうえで十分な注意が必要である.第一選択薬の候補となるC3種類の薬剤について,それぞれの概要を表1に示す.CIIFP作動薬緑内障点眼薬のなかで眼圧下降効果がもっとも高い薬剤はCFP作動薬であると報告されている2).FP作動薬は優れた眼圧下降効果をもつばかりでなく,点眼回数がC1日C1回と少なく,いつ点眼してもよいため患者の負担が少ない.全身的な副作用のリスクが少ない点も薬剤選択をするうえで大きなメリットといえる.これらの理由から,緑内障診療ガイドラインではCFP作動薬を第一選択とすることをグレードC1Aで推奨している.使用にあたり,眼局所の副作用については十分に把握しておく必要がある.FP作動薬特有の副作用として重*RyoTerauchi:東京慈恵会医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕寺内稜:〒105-8461東京都港区西新橋C3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(11)C1053(-)(+)(+)(-)*副作用やアドヒアランスも配慮する.図1原発開放隅角緑内障に対する眼圧下降治療のフローチャート眼圧下降の初期治療として単剤投与による点眼治療が推奨されている.緑内障診療ガイドラインにおける推奨の強さはC1(強く推奨する),エビデンスの強さはCB(効果の測定値に中等度の確信がある)である.(文献C1より引用)図2プロスタグランジン関連眼窩周囲炎ビマトプロスト点眼の長期使用により,プロスタグランジン関連眼窩周囲炎をきたした緑内障患者の眼瞼写真(左眼).睫毛多毛,眼窩周囲脂肪の萎縮,眼瞼皮膚弛緩の退縮,上眼瞼溝深化(DUES)を認める.表1プロスタノイド受容体関連薬およびb遮断薬の特徴FP受容体作動薬EP2受容体作動薬Cb遮断薬一般名ビマトプロストオミデネパグイソプロピルチモロールラタノプロストカルテオロールトラボプロストタフルプロスト点眼回数1日1回1日1回1日2回(長期作用型は1日1回)経ぶどう膜強膜流出路の促進経線維柱帯流出路の促進房水産生の抑制作用機序経ぶどう膜強膜流出路の促進無水晶体眼気管支喘息,気管支攣縮,慢性閉禁忌眼内レンズ挿入眼タフルプロストとの併用塞性肺疾患,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショック緑内障点眼のなかでもっとも眼比較的新しい点眼薬で使用実績FP作動薬・EPC2作動薬に次いで眼概要圧下降効果が高く,初回導入の第一選択薬.眼局所の副作用で*あるCPAPに注意.は年々増加している.黄斑浮腫の出現リスクのため,禁忌・慎重投与が存在.圧下降効果が高く,眼局所の副作用が少ない.全身性の副作用があり禁忌に注意.局所副作用結膜アレルギー・結膜炎+/--+/-結膜充血+.+++++/-角膜上皮障害+/-+/-+/-眼瞼炎--+縮瞳---睫毛多毛++--虹彩・眼瞼色素沈着+++--黄斑浮腫+/-+-角膜肥厚-+-上眼瞼溝深化+--*PAP:Prostaglandin-associatedperiorbitopathy(プロスタグランジン関連眼窩周囲症)(文献C1より改変引用)年間処方数2,500,0002,000,0001,500,0001,000,000500,00002019年2020年2021年2022年図3オミデネパグの年間処方数の推移オミデネパグイソプロピルはC2018年C11月より日本国内で販売開始となった.2019年以降の年間処方数を厚生労働省の匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)に基づいて算出した.–

緑内障点眼薬の最新の動向

2024年9月30日 月曜日

緑内障点眼薬の最新の動向LatestTrendsandSolutionsintheTreatmentofGlaucoma鈴木万理恵*稲谷大*はじめに緑内障に対する唯一のエビデンスのある治療法は眼圧下降治療である.眼圧下降治療には薬物,レーザー,手術があるが,なかでも基本となるのは点眼薬による薬物治療であり,第一選択となることが多い.緑内障点眼薬は眼圧下降機序によって房水産生抑制作用薬と房水流出促進作用薬に分けられ,さらに後者は流出促進経路によって二つに分けられる.一つは線維柱帯経路で,線維柱帯→Schlemm管→集合管→房水静脈へと流れる.もう一つはぶどう膜強膜経路で,毛様体間隙→ぶどう膜→強膜へと流れる(図1).房水流出の8割は線維柱帯経路であることから,線維柱帯経路は主経路,ぶどう膜強膜流出路は副経路ともよばれる.現在使用可能な点眼薬を種類ごとに表1にまとめた.プロスタノイド受容体関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,a2作動薬,a1遮断薬,ROCK阻害薬,副交感神経作動薬,イオンチャネル開口薬の大きく8種類がある.房水産生抑制作用のある点眼薬は炭酸脱水酵素阻害薬,b遮断薬,a2作動薬である.主経路からの流出促進作用のある点眼薬はEP2受容体作動薬,ROCK阻害薬,副交感神経作動薬,イオンチャネル開口薬であり,副経路からの流出促進作用のある点眼薬はプロスタノイド受容体関連薬(FP受容体作動薬,EP2受容体作動薬),a2作動薬,a1遮断薬である.それぞれの点眼液について解説する.Iプロスタノイド受容体関連薬プロスタノイド受容体関連薬は,緑内障診療ガイドラインにおいて眼圧下降効果がもっとも優れていること,重篤な全身副作用がないことから第一選択薬として推奨されている.本薬剤にはFP受容体作動薬(以下,FP作動薬)とEP2受容体作動薬(以下,EP2作動薬)がある.FP作動薬は副経路からの房水流出促進作用を示すのに対して,EP2作動薬は2018年に薬価収載された比較的新しい点眼薬である,主経路と副経路の両方に作用して眼圧下降効果を示すと考えられている.EP2作動薬は,FP作動薬であるラタノプロストと非劣性の眼圧下降効果をもつことが報告されている1).FP作動薬は,FP作動薬を含まないその他の配合点眼液と眼圧下降効果が同程度との報告もあり,もっとも効果の大きい薬剤である2).現在使用可能なFP作動薬は4種類あり,ビマトプロスト,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの順で眼圧下降効果が高いと報告されている3).副作用として結膜充血や黄斑浮腫,プロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandinassociatedperiorbi-topathy:PAP)とよばれる眼瞼色素沈着や,睫毛伸長,上眼瞼溝深化(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES),結膜充血などの眼局所副作用が問題となる.PAPは整容面の問題だけでなく,圧平眼圧計による正確な眼圧測定が困難になることや,重症のDUES患者*MarieSuzuki&MasaruInatani:福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学〔別刷請求先〕鈴木万理恵:〒910-1193福井県吉田郡永平寺町松岡町下合月23-3福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(3)1045線維桂帯表1作用機序ごとの点眼薬一覧分類薬剤房水産生抑制薬③炭酸脱水酵素阻害薬②b遮断薬副経路④a2作動薬房水流出促進薬主経路①EP2作動薬⑥ROCK阻害薬⑦副交感神経刺激薬⑧イオンチャネル開口薬副経路①プロスタノイド受容体関連薬④a2作動薬⑤a1遮断薬図2細隙灯顕微鏡による房水静脈の観察a:房水静脈(C.).b:aの強拡大.血管内に透明な房水の層流がみられる(C.).リパスジル点眼液ラタノプロスト点眼液da点眼前GrayValueGrayValueGrayValueGrayValueGrayValueGrayValueDistance(pixels)b点眼2時間後ecf点眼8時間後Distance(pixels)図3リパスジルによる房水カラムの拡張リパスジル点眼後は房水カラムの拡張がみられるが,ラタノプロスト点眼後は拡張はみられない7).表2配合点眼薬の一覧製品名プロスタノイド受容体関連薬Cb遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬Ca2作動薬ROCK阻害薬コソプトチモロールドルゾラミドアゾルガチモロールブリンゾラミドザラカムラタノプロストチモロールデュオトラバトラボプロストチモロールタプコムタフルプロストチモロールミケルナラタノプロストカルテオロールアイベータチモロールブリモニジンアイラミドブリンゾラミドブリモニジングラアルファブリモニジンリパスジル図4点眼補助具の例図5点眼補助具の使用方法(参天製薬CHPより引用)-

序説:緑内障点眼薬の光と影

2024年9月30日 月曜日

緑内障点眼薬の光と影TheProsandConsofGraucomaEyeDropMedications中野匡*緑内障点眼薬は緑内障治療の基本かつ重要な手段である.最近では日本で処方可能な配合点眼薬の種類が増え,従来よりも効果的に眼圧を下降させることが可能になった.これにより,患者にとって有益な治療選択肢が広がる一方で,処方する医師にとってはどの点眼薬から治療を開始し,次にどの点眼薬を追加すべきか治療戦略に悩む患者が増加している印象がある.日本はすでに超高齢社会に突入しており,今後ますます長期にわたって緑内障点眼治療を継続する患者が増えることが予想される.外来通院を続ける緑内障患者にとって,「アドヒアランス(治療遵守)」の低下は緑内障の進行に大きく影響することがさまざまな研究で報告されている良好な点眼治療を継続するためには,点眼薬による眼表面や全身的副作用に細心の注意を払う必要がある.また,実際の点眼手技の指導や患者の生活環境に即したアドバイスも重要となる.さらに,点眼薬だけでなく緑内障手術の術式も急速に多様化しており,従来よりも早い段階で手術が行われる傾向がある.そのため,このような患者に対する適切な周術期の点眼処方パターンを構築することが重要である.本特集では,現代の緑内障治療戦略における最新の緑内障点眼薬を網羅的に紹介することをめざして企画・編集を行った.福井大学の鈴木万理恵先生,稲谷大先生には「緑内障点眼薬の最新動向」として現在市販されている緑内障点眼薬を,配合点眼薬も含めて眼圧下降の機序ごとに副作用を含めて整理していただいた.つぎに,東京慈恵会医科大学の寺内稜先生には「第一選択薬の考え方」として,現在日本で第一選択薬として推奨されているFP受容体作動薬やb遮断薬,さらに近年FP作動薬ラタノプロストに対する非劣性が報告されたEP2受容体作動薬について,その特徴と留意点を解説していただいた.井上眼科病院の井上賢治先生には,第一選択薬としてFP作動薬を処方した際の治療強化として「追加点眼薬の選択と留意点」というテーマで薬剤選択の考え方を具体例を交えてわかりやすく解説していただいた.昭和大学の三浦瑛子先生,齋藤雄太先生には「配合剤の活用法」として,現在日本で処方可能な9種類の配合点眼薬について,薬剤機序や副作用に加え,医療経済的な視点からも解説していただいた.眼局所の副作用として眼表面疾患(ocularsurfacedisease:OSD)の対策が非常に重要であるが,京都府立医科大学の三重野洋喜先生には「オキュラーサーフェースの課題」として緑内障点眼薬の作用機*TadashiNakano:東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(1)1043

糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対し27ゲージシステム経毛様体扁平部硝子体切除術併用線維柱体切除術が奏効した2症例

2024年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(8):1031.1035,2024c糖尿病網膜症による血管新生緑内障に対し27ゲージシステム経毛様体扁平部硝子体切除術併用線維柱体切除術が奏効した2症例藤原雅治田片将士横山弘荒木敬士関谷友宏五味文兵庫医科大学眼科学教室CTwoCasesofDiabeticRetinopathyAssociatedNeovascularGlaucomaSuccessfullyTreatedby27-GaugeParsPlanaVitrectomyCombinedwithTrabeculectomyMasaharuFujiwara,MasashiTakata,HiroshiYokoyama,TakashiAraki,TomohiroSekiyaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoMedicalUniversityC目的:糖尿病網膜症(DR)による血管新生緑内障(NVG)に対しC27ゲージシステム経毛様体扁平部硝子体切除術(PPV)併用線維柱帯切除術(TLE)を施行したC2例を報告する.症例:症例C1はC56歳,男性.左眼視力低下を主訴に近医を受診,左眼血管新生緑内障と診断され兵庫医科大学病院(以下,当院)を紹介受診.初診時,左眼矯正視力C0.05,左眼眼圧C24CmmHg.水晶体再建術併用のCPPVとCTLEを同日施行した.術後,矯正視力C0.6,眼圧C15CmmHgとなった.症例C2はC60歳,男性.糖尿病加療中に右眼視力低下と眼痛を主訴に当科を受診.初診時,右眼矯正視力はC50Ccm手動弁,右眼眼圧はC44CmmHg.虹彩ルベオーシスと幅広い範囲に周辺虹彩前癒着を認めた.水晶体再建術併用のCPPVとTLEを同日施行した.術後,PPV併用CTLEにより良好な眼圧コントロールを得た.CPurpose:Toreporttwocasesofdiabeticretinopathyassociatedneovascularglaucomathatweresuccessfullytreatedwith27-gaugeparsplanavitrectomy(PPV)combinedwithtrabeculectomy(TLE)C.Casereports:Case1involvedCaC56-year-oldCmaleCwhoCpresentedCatCaCnearbyChospitalCwithCtheCprimaryCcomplaintCofCdecreasedCvisualacuity(VA)inhislefteyeandwassubsequentlyreferredtoourdepartmentafterbeingdiagnosedwithneovascu-larCglaucomaCinCthatCeye.CUponCexamination,CtheCcorrectedCVACandCintraocularpressure(IOP)inCthatCeyeCwereC0.05and24CmmHg,respectively.PPVcombinedwithphacoemulsi.cation,intraocularlens(IOL)implantation,andTLEwasperformedonthesameday.Postsurgery,thecorrectedVAandIOPinthateyewas0.6and15CmmHg,respectively.Case2,a60-year-oldmale,visitedourdepartmentwiththeprimarycomplaintofdecreasedVAandpaininhisrighteyeduringtreatmentfordiabetes.Uponexamination,thecorrectedVAandIOPinthateyewashandCmotionCatC50CcmCandC44CmmHg,Crespectively,CandCrubeosisCiridisCandCextensiveCperipheralCanteriorCsynechiaeCwereCobserved.CPPVCcombinedCwithCphacoemulsi.cation,CIOLCimplantation,CandCTLECwasCperformedConCtheCsameCday.Postsurgery,thecorrectedVAandIOPinthateyewas0.6and9CmmHg,respectively.Conclusion:IncasesofCneovascularCglaucomaCdueCtoCdiabeticCretinopathy,CgoodCIOPCcontrolCcanCbeCachievedCviaCtheCcombinationCofC27-gaugePPVandTLE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):1031.1035,C2024〕Keywords:27ゲージ経毛様体扁平部硝子体切除術,線維柱帯切除術,血管新生緑内障,糖尿病網膜症.27-guageCparsplanavitrectomy,trabeculectomy,neovascularglaucoma,diabeticretinopathy.Cはじめにanteriorsynechia:PAS)を生じることで房水流出が阻害さ血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は,後眼れ,眼圧上昇が生じる難治性の続発緑内障である.糖尿病網部の虚血や血管閉塞により血管新生因子が放出され,前眼部膜症(diabeticretinopathy:DR),網膜静脈閉塞症,眼虚血に新生血管が発生し,器質性の周辺虹彩前癒着(peripheral症候群がC3大原因疾患であるが,慢性ぶどう膜炎などの炎症〔別刷請求先〕藤原雅治:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1C-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:MasaharuFujiwara,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineHospital,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC図1前眼部写真a:症例1.虹彩の広い範囲に新生血管を認める.Cb:症例2.虹彩下方に新生血管を認める.性疾患,眼腫瘍などでも発症しうる1).NVGでは点眼や内服では眼圧下降が不十分であることが多く,汎網膜光凝固術(panretinalCphotocoagulation:PRP),血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)抗体の硝子体注射を行い,最終的に線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)などの外科的介入を必要とする1).PRPを最周辺部まで確実に行うことができる経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanavitrectomy:PPV)とCTLEの併用術は酸素需要を低下させ,血管新生因子の放出を抑制することで,眼圧下降が期待できる.今回,DRのCNVGに対し,27ゲージCPPVとCTLEの併用術により最終的に眼圧下降が得られたC2症例を経験したので報告する.CI症例[症例1]56歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:他院内科にて糖尿病に対し内服加療中(HbA1cは7%台),眼科受診歴は不明であった.1週間前からの左眼視力低下を自覚し同病院眼科にコンサルトされた.左眼視力30Ccm指数弁,左眼眼圧C36CmmHg,左眼虹彩ルベオーシスと高度角膜浮腫を認め,NVGと診断された.左眼にドルゾラミド塩酸塩・チモロールマレイン酸塩配合液,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩点眼液およびアセタゾラミド250Cmgの内服を開始し,手術加療目的で兵庫医科大学病院眼科(以下,当院)紹介受診となった.既往歴:2型糖尿病.初診時所見:視力は右眼C0.09(1.0C×sph.4.00D),左眼0.04(0.05C×sph.3.50D(cyl.1.50DAx180°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C24CmmHgであった.左眼は角膜透明平滑,前房深度は正常であったが,虹彩に広範囲に及ぶルベオーシス(図1a)を認め,隅角鏡検査にてCPASIndexはC50%程度であった.両眼水晶体にCEmery-Little分類CGradeIIの核白内障を認めた.眼底には両眼とも点状出血,硬性白斑が散在していた(図2a).フルオレセイン蛍光造影検査では,両眼とも広範囲に無灌流領域を認め,右眼は新生血管を認めたが,左眼にはみられず,腕-網膜時間はC25秒と延長を認めた.経過:当科初診日より両眼のCPRPを開始,左眼に抗VEGF薬硝子体内注射を施行した.右眼はC250.300Cμm/30msec/140.400CmWでC1,540発,左眼はC250Cμm/30Cmsec/340CmWでC1,924発施行した.その後も左眼眼圧はC24.37mmHgで推移していた.初診日よりC26日後に左眼水晶体再建術,PPV,TLEを施行した.水晶体再建術を施行後,3ポートを作製し中心部硝子体切除を行い,トリアムシノロンアセトニドで硝子体を可視化し後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)を作製,強膜圧迫子を使用し周辺部の網膜光凝固術を追加した.硝子体出血,牽引性網膜.離は認めなかった.インフュージョンチューブ灌流下で,円蓋部基底で結膜切開を行い,12時方向の角膜輪部にC3Cmm四方の強膜C2枚弁を作製し,0.04%マイトマイシンCC(Mito-mycinC:MMC)をC3分間塗布後,10-0ナイロン糸にて強膜弁をC5針縫合し,10-0ナイロン糸で結膜縫合し手術を終了した(図3).術翌日より前房内および硝子体内にフィブリンを認めたため,リンデロン点眼を左眼C4回からC6回に,リンデロン眼軟膏を左眼C3回追加したところ,次第にフィブリンは軽快した.適宜レーザー切糸(lasersuturelysis:LSL)を施行し,入院中左眼圧はC4.16CmmHgで,術C10日後で退院となった.術後C9週で左眼圧はC14CmmHg,虹彩ルベオーシスが残存していたため,抗CVEGF薬硝子体注射を施行した.術後C23週の時点での左眼視力は(0.4C×sph.3.00D),眼圧は緑内障点眼なしでC14CmmHg,虹彩ルベオーシスは消失し,濾過胞の状態はCIndianaCBlebCAppearanceCGradingScale(IBAGS)でCH2CE3CV2S0であった.以降左眼眼圧はC10.18CmmHgで推移し,術後C55週にC24CmmHgに上昇したため,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を開始した.ab図2後眼部写真a:症例C1.両眼とも点状出血,硬性白斑の散在を認める.Cb:症例C2.左眼は視神経乳頭出血,点状および斑状出血が広範囲にみられた.後日右眼にも網膜前出血,軟性白斑を認めた.術後約C1年半が経過した当科最終受診時の左眼視力は(0.6C×sph.3.00D),緑内障点眼を併用し眼圧はC15mmHgであった.[症例2]60歳,男性.主訴:右眼視力低下と眼痛.現病歴:他院内科にて糖尿病に対し内服加療中(HbA1cは6%台),近医眼科に通院中であったが,1週間前からの右眼視力低下と眼痛を自覚し当科受診となった.既往歴:2型糖尿病,心筋梗塞(冠動脈バイパス手術後).初診時所見:視力は右眼手動弁,左眼(0.9C×sph.1.75D),眼圧は右眼C44CmmHg,左眼C14CmmHgであった.右眼は前房深度正常であったが,中等度散瞳,角膜上皮浮腫,虹彩ルベオーシス(図1b)を認め,隅角鏡検査ではCPASIndexは100%であった.両眼水晶体にCEmery-Little分類CGradeCIIIの核白内障を認めた.右眼は網膜前出血,軟性白斑を認め,左眼は視神経乳頭出血,点状および斑状出血が広範囲にみられた(図2b).経過:受診当日,右眼に抗CVEGF薬硝子体内注射を施行し,20%マンニトール点滴を施行したところ眼圧はC32mmHgに改善した.同日右眼にラタノプロスト,ブリンゾ図3術中写真インフュージョンチューブによる灌流下で,円蓋部基底で結膜切開を行い,12時方向の角膜輪部にC3Cmm四方の強膜C2枚弁を作製している.ラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液を開始した.翌日外来にて右眼のCPRPを開始したが,散瞳不良のため十分に施行できなかった.5日後の再診時に眼圧がC42CmmHg,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩点眼液の追加投与を行った.翌日には眼圧がC26CmmHgまで低下した.右眼虹彩ルベオーシスは改善したが,保存的治療では眼圧下降が得られなかったことから外科的治療を行うこととなった.水晶体再建術を施行し,3ポート作製後,中心部硝子体切除および周辺部の硝子体切除を施行した.PVDはすでに形成されており,強膜圧迫を行いながらCPRPを完成させた.トロッカーを抜去し,円蓋部基底で結膜切開を行い,角膜輪部の12時方向にC3mm四方の強膜C2枚弁を作製,0.04%CMMCをC3分間塗布し,前房メインテナーによる灌流下で線維柱帯切除を行い,10-0ナイロン糸にて強膜弁をC5針縫合し,結膜をC10-0ナイロン糸にて縫合し手術を終了した.術翌日より硝子体内にフィブリンを認めたため,リンデロン点眼を右眼C4回からC6回に増量したところ,徐々にフィブリンは消失した.LSLを適宜施行し,術C7日後に退院となった.入院中の右眼眼圧はC3.16CmmHgであった.退院後しばらく右眼眼圧は一桁を推移していた.術後C13週で虹彩ルベオーシスは認めなかったが,硝子体出血と視神経乳頭付近に新生血管を認め,眼圧がC24CmmHgに上昇したため,抗VEGF薬硝子体内注射を施行した.術後C16週の時点で右眼視力は硝子体出血のため(0.15C×sph+7.00D),眼圧は緑内障点眼なしでC4CmmHg,濾過胞はCIBAGSでCH2CE3CV2CS0であった.3カ月後より濾過胞に部分的な癒着形成がみられ,眼圧がC35CmmHgまで上昇したため,術後C30週に右眼CNee-dling術を施行した.その後数カ月間,右眼眼圧はC2.8mmHgを推移,術後C1年後の最終受診時の所見は右眼視力(0.6C×sph+2.00D(cyl.1.00DAx60°),眼圧は緑内障点眼なしでC9CmmHgであった.CII考按NVGは難治であることが知られ,TLEを行っても不成功に終わることが少なくない.後眼部の虚血による低酸素状態で誘導されるCVEGFは,眼内の新生血管発生に大きく関与する2).またCVEGFは,Tenon.線維芽細胞などの非血管系細胞を誘導することで濾過胞の瘢痕形成を促進することが報告されている3).TLE施行後に長期的な眼圧コントロールをめざすには,VEGFのさらなる産生を抑制し,濾過胞を維持することが重要である4).そのための手段として早期のCPRPと適切な抗CVEGF薬の投与が必須となる5).しかし,NVGでは角膜浮腫,散瞳不良,あるいは併発する硝子体出血などで,十分にCPRPができないことも少なくない.PPVを行うことで鋸状縁まで十分な網膜光凝固術を施行でき,とくに硝子体出血や硝子体混濁,眼外からのCPRPが困難な症例でも最周辺部まで確実な網膜光凝固術が可能となるため,同時CPPVはCTLEの成功に寄与する可能性がある.一方で同時にCPPVを行うデメリットもある.Takiharaら6)はCMMC併用CTLEの予後不良因子として,NVGの他に硝子体手術の既往を報告している.NVG発生のメカニズムには虚血によるCVEGFのほか,インターロイキン(interleu-kin:IL)-6,IL-8,monocytechemotacticprotein-1などの炎症性サイトカインの関与が示唆されている7).濾過胞の瘢痕形成にも炎症細胞から放出されるCtransformingCgrowthCfactor-bなどの炎症性サイトカインが関与していることが示されている8).PPVと眼内網膜光凝固術の併施はCTLE単独と比較して侵襲性が高まって術後炎症が増加することで,濾過胞の維持に影響する可能性が考えられる.本症例では,術後に追加の抗CVEGF薬硝子体内注射を要し,また症例C2では濾過胞維持のための追加処置が必要になったが,2例とも術後C1年の時点では良好な眼圧を得ている.Kiuchiら9)はCNVGに対するCPPV併用CTLEに関し,硝子体出血,増殖膜,牽引性網膜.離のある群と,これらを合併していない群とに分けて術後成績を報告している.それによると,増殖膜と牽引性網膜.離を合併している症例では眼圧は優位に低下せず,その他の症例では優位に眼圧下降が得られていた.今回のC2症例ではこれら予後不良因子の合併はなかったため,よい成績が得られたと考えられ,仮にこれらを合併していた場合は,もともと眼内のCVEGF濃度が高いと考えられるうえに手術侵襲が増すことで炎症も増え,術後成績が悪化した可能性がある.なおCTLEとの併用を考えた場合,PPV時のポート作製に伴う結膜損傷は最小限にしておくことが望まれる.家兎眼を対象とした異なるゲージで実施したCPPV後の比較試験では,小口径であるほど硝子体内蛋白濃度が有意に低く,結膜瘢痕化の程度が低いことが報告されている10,11).松本ら12)もNVGを含む続発緑内障に対するC25ゲージCPPVとCMMC併用CTLEの同時手術において,網膜周辺部まで十分な網膜光凝固を追加し,良好な眼圧コントロールと視力を得た症例を報告している.27ゲージシステムを用いた低侵襲硝子体手術(microCincisionCvitrectomysurgery:MIVS)は,従来のゲージシステムよりも結膜の温存と術後炎症反応の軽減に有効であると考えられる.今回経験したC2症例ではC27ゲージシステムを採用し,より低侵襲で手術を行うことができたことも,良好な経過をとった一因になった可能性がある.NVGの眼圧コントロールにおいて,PPVとCTLEのいずれもが重要な役割を果たす.現在のCMIVS時代におけるPPV併用CTLEの有用性を確認するためには,今後,症例数を増やした前向き研究が望まれる.文献1)BrownCGC,CMagargalCLE,CSchachatCACetal:NeovascularCglaucoma.CEtiologicCconsiderations.COphthalmologyC91:C315-320,C19842)CampochiPA:Ocularneovascularization.JMolMedC91:C311-321,C20133)LiCZ,CBergenCVanCT,CVanCdeCVeireCSCetal:InhibitionCofCvascularendothelialgrowthfactorreducesscarformationafterCglaucomaC.ltrationCsurgery.CInvestCOphthalmolCVisCSciC50:5217-5225,C20094)BergenVanT,VandewalleE,VeireVandeSetal:TheroleCofCdi.erentCVEGFCisoformsCinCscarCformationCafterCglaucomaC.ltrationCsurgery.CExpCEyeCResC93:689-699,C20115)WakabayashiT,OshimaY,SakaguchiHetal:Intravitre-alCbevacizumabCtoCtreatCirisCneovascularizationCandCneo-vascularCglaucomaCsecondaryCtoCischemicCretinalCdiseasesCinC41CconsecutiveCcases.COphthalmologyC115:1571-1580,C20086)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20097)OhiraCS,CInoueCT,CShobayashiCKCetal:SimultaneousCincreaseCinCmultipleCproin.ammatoryCcytokinesCinCtheCaqueoushumorinneovascularglaucomawithandwithoutCintravitrealCbevacizumabCinjection.CInvestCOphthalmolCVisCSciC56:3541-3548,C20158)SeiboldLK,SherwoodMB,KahookMY:Woundmodu-lationCafterC.ltrationCsurgery.CSurvCOphthalmolC57:530-550,C20129)KiuchiCY,CNakaeCK,CSaitoCYCetal:ParsCplanaCvitrectomyCandCpanretinalCphotocoagulationCcombinedCwithCtrabecu-lectomyforsuccessfultreatmentofneovascularglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmolC244:1627-1632,C200610)InoueCY,CKadonosonoCK,CYamakawaCTCetal:Surgically-inducedin.ammationwith20-,23-,and25-gaugevitrec-tomysystems:anCexperimentalCstudy.CRetinaC29:477-480,C200911)GozawaCM,CTakamuraCY,CMiyakeCSCetal:ComparisonCofCsubconjunctivalCscarringCafterCmicroincisionCvitrectomyCsurgeryusing20-,23-,25-and27-gaugesystemsinrab-bits.ActaOphthalmolC95:602-609,C201712)松本行弘,三浦克洋,筑田眞:続発緑内障に対する硝子体手術と線維柱帯切除術同時施行例の手術成績.眼臨C100:775-780,C2006***

近視性共同性内斜視における角膜高次収差の検討

2024年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科41(8):1026.1030,2024c近視性共同性内斜視における角膜高次収差の検討三木岳*1稗田牧*2鎌田さや花*2井村泰輔*2中井義典*2中村葉*2外園千恵*2木下茂*3*1京都市立病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室*3京都府立医科大学感覚器未来医療学CCornealHigher-OrderAberrationsinAcquiredComitantEsotropiaAssociatedwithMyopiaTakeruMiki1),OsamuHieda2),SayakaKamata2),TaisukeImura2),YoshinoriNakai2),YoNakamura2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita3)1)DepartmentofOpthalmology,KyotoCityHospital,2)DepartmentofOpthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOpthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:近視に伴う後天共同性内斜視(以下,近視性共同性内斜視)の角膜高次収差を明らかにすること.対象および方法:対象は近視性共同性内斜視群C14例C28眼(男性C7例,女性C7例:年齢C17.49(平均C29.2±標準偏差C8.6)歳)と,斜視のない近視症例である対照群C14例C28眼(男性C5例,女性C9例:年齢C24.55(36.1±10.6)歳).OPD-Scan(ニデック製)を用いて角膜全高次収差,角膜球面様収差,角膜球面収差,角膜コマ様収差を測定した.各高次収差および裸眼視力,最良矯正視力,眼圧について両群間で比較検討を行った.結果:解析径C4Cmmにおける角膜全高次収差および角膜コマ様収差が近視性共同性内斜視群で有意に高値であった(各々Cp=0.015,0.035).また,最良矯正視力は対照群が有意に高値であり,眼圧は近視性共同性内斜視群が有意に高値であった(各々Cp=0.019,0.022).結論:近視性共同性内斜視は角膜高次収差が増大しており,内斜視との関連が示唆された.CPurpose:Toclarifycornealhigher-orderaberrations(HOAs)inacquiredcomitantesotropiaassociatedwithmyopia(myopiccomitantesotropia).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved28eyesof14patients(7malesand7females;meanage:29.2±8.6[mean±standarddeviation]years,range:17-49years)inthemyopiccomi-tantCesotropiaCgroupCandC28CeyesCofC14Ccontrolsubjects(5CmalesCandC9females;meanage:36.1±10.6Cyears,range:24-55years)whoCwereCmyopicCcasesCwithoutstrabismus(controlgroup).CTotalCcornealCHOAs,CcornealCspherical-likeaberration,cornealsphericalaberration,andcornealcoma-likeaberrationweremeasuredusingtheOPD-Scan(Nidek)refractiveCworkstation.CInCadditionCtoCHOAs,CuncorrectedCvisualacuity(VA),Cbest-correctedVA(BCVA),CandCintraocularpressure(IOP)wereCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:TotalCcornealCHOAsandcornealcoma-likeaberrationweresigni.cantlyhigher(p=0.015,Cp=0.035,respectively)inthemyopiccomitantCesotropiaCgroupCatCtheCanalysisCdiameterCofC4Cmm.CBCVACwasCsigni.cantlyChigherCinCtheCcontrolCgroup,CwhileIOPwassigni.cantlyhigherinthemyopiccomitantesotropiagroup(p=0.019,Cp=0.022,respectively).Con-clusion:MyopiccomitantesotropiaisassociatedwithincreasedcornealHOAs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):1026.1030,C2024〕Keywords:近視性共同性内斜視,後天共同性内斜視,角膜高次収差,角膜不正乱視,調節性輻湊.myopicCcomi-tantesotropia,acquiredcomitantesotropia,cornealhigher-orderaberrations,cornealastigmatism,accommodativeconvergence.Cはじめにcomitantesotropia:AACE)として報告されている疾患の近年,スマートフォンの普及に伴い,長時間のデジタルデなかにも,発症から受診までの期間が数カ月から数年と長いバイスの使用が関連していると考えられる後天内斜視の報告ものが含まれる.92例中C82例(90.2%)は亜急性発症といが増えている1.3).急性後天共同性内斜視(acuteCacquiredう報告もあり,亜急性や潜行性の発症である場合が多い4).〔別刷請求先〕三木岳:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上る梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakeruMiki,DepartmentofOpthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC1026(154)こうした後天共同性内斜視では近視患者での発症が多いことから4.6),筆者らは,後天共同性内斜視のなかで近視に伴って生じるものを「近視性共同性内斜視」とよび,これまで検討を行ってきた5,7,8).近視が未矯正または低矯正のまま長時間の近見作業を行ったことが一つの契機となって後天性に発症する共同性内斜視は,以前から報告されている9).「近視性共同性内斜視」の発症はC10.30歳代に多く,間欠性内斜視の遠見複視の症状で発症し,徐々に近見でも複視を自覚するようになり,最終的に恒常性の内斜視となる潜行性発症である5,7).一方で,近視を伴う後天内斜視のなかには強度近視性内斜視という疾患もあるが,これは長眼軸長の強度近視眼において,眼球後部が外直筋と上直筋の間の筋円錐から脱臼して生じるもので10),高齢女性に多く,今回検討した「近視性共同性内斜視」とは異なる疾患である.近視性共同性内斜視の発生機序はまだ解明されていないが,近視眼で近い視距離での近見作業を長時間行う生活習慣が関与している可能性がある.近視性共同性内斜視の調節機能は正常である8)ことから,輻湊けいれんにより内斜視になっているのではない.近視であるため近見作業時に調節を行わず輻湊のみが起こり,調節性輻湊が働かず近接性輻湊が増強されることにより内直筋のトーヌスが上昇し,内直筋が優位な状態となり内斜視が生じている可能性が指摘されている9).近年,調節を伴わず輻湊することが角膜および強膜形状に影響することが報告されており11),近接性輻湊の増強が前眼部形状の変化を起こすため,近視性共同性内斜視の病態に関連している可能性が考えられる.近視性共同性内斜視と前眼部形状の一つの指標である角膜高次収差の関係については,筆者らが調べた限りでは報告されていない.そこで今回,近視性共同性内斜視の角膜高次収差を明らかにするために,斜視のない近視眼を対照として角膜高次収差を比較検討した.CI対象および方法2013年C9月.2022年C7月に京都府立医科大学附属病院またはバプテスト眼科クリニックを受診し,近視性共同性内斜視と診断した患者のなかで,角膜形状/屈折力解析装置COPD-Scan(ニデック製)を測定したC14例C28眼を近視性共同性内斜視群とした.近視性共同性内斜視の定義は既報7)と同様であり,近視眼に後天性に発症した共同性内斜視で,中枢性病変を伴う患者や,眼球運動制限のある患者,眼球後部の筋円錐からの脱臼により生じる強度近視性内斜視の患者,また明らかな輻湊けいれんの症例を除外した.斜視のない近視症例を対照群とした.具体的には,バプテスト眼科クリニックにてC2011年C4月.2022年C6月にClaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)もしくはCphotorefractivekeratectomy(PRK)を施行目的で検査を行った患者である.近視性共同性内斜視群の対象と①自覚的球面度数,②自覚的円柱度数,③年齢の順番に症例をマッチングして選出した.球面度数のマッチングは,両眼のうちより近視が強い眼を用いて選出した.以下の項目を斜視手術および屈折矯正手術の前に測定した.①角膜高次収差:OPD-Scanを用いて測定した.解析径4CmmおよびC6Cmmにて角膜全高次収差,角膜球面様収差,角膜球面収差,角膜コマ様収差の値を算出した.質的な比較として,コマ収差については水平コマおよび垂直コマのもっとも大きな方向により判断し,方向の頻度を比較した.②裸眼視力および最良矯正視力:5メートルの標準視力表で測定した.③自覚的屈折度数:最良矯正視力時の球面度数,円柱度数を測定した.④眼軸長:非接触型眼軸長測定装置CIOLマスター(ZEISS社製)を用いて測定した.⑤眼圧:ノンコンタクトトノメータ(非接触型圧平眼圧計ニデック製)を用いて測定した.統計解析は統計ソフトウェアCJMPProを使用し,p<0.05を有意差ありとした.背景因子である性別はC|二乗検定を行った.また年齢,自覚的球面度数,自覚的円柱度数は対応のあるCt検定を行った.各数値は平均値C±標準偏差(stan-darddeviation:SD)で表記した.検討項目である角膜高次収差,裸眼および最良矯正視力,眼軸長,眼圧を目的変数とし,患者番号を変量効果,対象群を固定効果として両眼を用いて混合モデルで解析を行った.各数値は最小二乗平均(95%信頼区間)で表記した.本研究は京都府立医科大学附属病院の倫理審査委員会の承認(ERB-C-1054-4)のもとで行った.CII結果近視性共同性内斜視群C14例C28眼(男性C7例,女性C7例,年齢C17.49歳,平均年齢C29.2C±8.6歳),対照群14例28眼(男性C5例,女性C9例,年齢C24.55歳,平均年齢C36.1C±10.6歳)であった.患者背景を表1にまとめた.両群間で年齢,性別,自覚的球面度数,自覚的円柱度数に有意差を認めなかった.角膜高次収差について両群間の比較を行った.解析径C4mmにおける角膜全高次収差,角膜コマ様収差において近視性共同性内斜視群が対照群に比べて有意に高値であった(各Cp=0.015,0.035).その他の角膜高次収差においては両群間に有意差を認めなかった(表2).解析径C4Cmmでコマ様収差の値に有意差を認めたため,4mm角膜コマ収差を用いてコマ収差の方向を検討した.近視表1患者背景近視性共同性内斜視群対照群p値年齢C29.2±8.6歳C36.1±10.6歳C0.068性別(男:女)7:7人5:9人C0.094自覚的球面度数C.4.79±2.80DC.5.02±2.53DC0.30自覚的円柱度数C.0.79±0.87DC.1.17±1.11DC0.19患者背景はすべての項目で両群間に有意差を認めなかった.表2角膜形状解析による高次収差〔最小二乗平均(95%信頼区間)〕近視性共同性内斜視群対照群p値4Cmm角膜全高次収差0.18(C0.15.C0.22)Cμm0.12(C0.08.C0.16)CμmC0.015*4Cmm角膜コマ様収差0.13(C0.11.C0.16)Cμm0.10(C0.07.C0.12)CμmC0.035*4Cmm角膜球面様収差0.08(C0.07.C0.09)Cμm0.07(C0.06.C0.08)CμmC0.2104Cmm角膜球面収差0.05(C0.04.C0.06)Cμm0.05(C0.03.C0.06)CμmC0.3436Cmm角膜全高次収差0.56(C0.41.C0.72)Cμm0.42(C0.27.C0.58)CμmC0.1936Cmm角膜コマ様収差0.40(C0.28.C0.53)Cμm0.31(C0.18.C0.43)CμmC0.2836Cmm角膜球面様収差0.27(C0.22.C0.31)Cμm0.28(C0.23.C0.32)CμmC0.7596Cmm角膜球面収差C0.29±(C0.25.C0.33)Cμm0.26(C0.22.C0.30)CμmC0.272近視性共同性内斜視群では対照群と比較して,解析径C4Cmmにおける角膜全高次収差および角膜コマ様収差が有意に高値であった(各Cp=0.015,0.035).その他の項目では両群間に有意差を認めなかった.近視性共同性内斜視群対照群水平鼻側水平鼻側垂直上方7.1%垂直上方14.3%14.3%14.3%水平耳側14.3%水平耳側39.2%垂直下方39.2%垂直下方57.1%n=14n=14図1コマ収差の方向両群間に有意差は認めなかった.傾向として,近視性共同性内斜視群では水平鼻側方向が14.3%と,対照群C7.1%の約C2倍頻度が高かった.また,水平耳側方向についてはC14.3%であり,対照群C39.2%と比較すると頻度が少なかった.性共同性内斜視群では水平鼻側方向がC14.3%と,対照群C7.1正視力は両群とも良好であり,眼圧も両群とも範囲内であっ%の約C2倍頻度が高かった.また,水平耳側方向についてはたが,ともに二群間で有意差を認めた(各Cp=0.001,0.022).14.3%であり,対照群C39.2%と比較すると頻度が少なかった眼軸長は有意差を認めなかった(表3).(図1).CIII考察近視性共同性内斜視群の代表症例のCOPD-Scanの結果を提示する.4Cmm角膜における全高次収差はC0.289Cμmであ近視性共同性内斜視群は対照群と比較して,角膜全高次収った(図2).差および角膜コマ様収差が有意に高値であった.つぎに裸眼視力,最良矯正視力,眼圧,眼軸長について比近視性共同性内斜視群における最小二乗平均のC4Cmm角膜較を行った.裸眼視力は両群間で有意差を認めなかった.矯全高次収差はC0.18Cμmであり,4Cmm角膜コマ様収差はC0.13図2近視性共同性内斜視眼のOPD-Scan所見上段左はCOPDmap瞳孔内の屈折度分布.上段中央は角膜屈折力のCmap.上段右は測定時の瞳孔および角膜反射.下段左は高次収差を表し4Cmm角膜全高次収差はC0.289Cμmである.下段中央は各種角膜形状指数.下段右はCMayerRing像.上記図のコマ収差の方向は垂直下方.表3視力眼圧眼軸長の比較〔最小二乗平均(95%信頼区間)〕近視性共同性内斜視群対照群p値裸眼視力(logMAR)1.11(C0.94.C1.29)1.29(C1.13.C1.45)C0.140最良矯正視力(logMAR)C.0.07(C.0.10.C0.03)C.0.16(C.0.20.C0.12)C0.001*眼圧15.1(C13.8.C16.4)CmmHg12.9(C11.7.C14.2)CmmHgC0.022*眼軸長25.82(C24.90.C26.74)Cmm25.69(C24.88.C26.51)CmmC0.832近視性共同性内斜視群では対照群と比較して最良矯正視力が有意に不良であり,眼圧は有意に高値であった(各Cp=0.001,0.022).その他の項目では両群間に有意差を認めなかった.μmであった.既報12)によると日本人のC4Cmm角膜全高次収差はC0.05.0.1Cμm程度といわれており,近視性共同性内斜視群のC0.18Cμmは日本人の平均値よりも高値であった.同様に,日本人におけるC4Cmm角膜コマ様収差はC0.05.0.08Cμm程度との報告があり12),近視性共同性内斜視群におけるC0.13μmは高値であった.角膜高次収差の増大が近見作業によって生じるとの報告13)があり,近見作業を契機として生じると考えられる「近視性共同性内斜視」において高次収差が大きかったこととの関連性が示唆される.また,強膜炎により角膜乱視が増えるという報告があり14),強膜の変化は角膜乱視に影響すると考えられる.近視性共同性内斜視では輻湊が働くことにより,鼻側強膜の変化に伴って耳側強膜が伸展し,角膜の非対称性が増大することに伴ってコマ様収差の増大が生じ,全高次収差が増大する可能性がある7,11).この仮説に則って今回の結果を考察すると,近視性共同性内斜視群では対照群と比較して,コマ収差の方向は水平耳側が減少し,水平鼻側で増加していた.耳側強膜が伸展したことにより耳側角膜が平坦化し,水平耳側のコマ収差が減少した可能性を示唆している.近視性共同性内斜視群と対照群を比較すると,裸眼視力は両群間で有意差を認めなかった.最良矯正視力は両群ともに良好であったが,二群間に有意差を認めた.屈折矯正手術の術前である対照群は通常の診療よりも詳しく視力検査を施行しており,測定値に影響を与えた可能性がある.近視性共同性内斜視群および対照群ともに眼圧は正常範囲内であったが,有意差を認めた.眼圧が高いと近視の程度が強くなるという既報15)があり,輻湊によって眼圧が上がると考えられている.近視性共同性内斜視では輻湊が多く働くため,対照群と比較して眼圧が上昇している可能性がある.ただし,眼圧測定に非接触型圧平眼圧計ノンコンタクトトノメータを使用しており,測定値に誤差が生じた可能性があるため今後検討を要する.近視性共同性内斜視は比較的新しい疾患概念であり,今回の検討では症例数がC14例C28眼と少数であったため,今後さらに症例数を増やし検討を行う必要がある.また,近視性共同性内斜視群はC2施設でデータを測定したのに対し,対照群は単一施設でデータを測定したため,機械の誤差が影響を与えた可能性がある.CIV結論近視性共同性内斜視はC4Cmm角膜コマ様収差が増大しており,調節せずに輻湊することにより前眼部形状が変化している可能性が示された.また,角膜形状の変化で最良矯正視力が影響を受けている可能性が示された.今後は斜視と角膜高次収差の関連についてさらに検討していく予定である.今回,近見作業時間および強膜の変化については検討を行っていないが,今後はこれらの要因も含めて検討していきたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IimoriCH,CNishinaCS,CHiedaCOCetal:ClinicalCpresentationsCofacquiredcomitantesotropiain5-35yearsoldJapaneseandCdigitalCdeviceusage:aCmulticenterCregistryCdataCanalysisstudy.JpnJOphthalmolC67:629-636,C20232)LeeCHS,CParkCSW,CHeoH:AcuteCacquiredCcomitantCeso-tropiaCrelatedCtoCexcessiveCSmartphoneCuse.CBMCCOph-thalmolC16:37,C20163)CaiC,DaiH,ShenY:Clinicalcharacteristicsandsurgicaloutcomesofacuteacquiredcomitantesotropia.BMCOph-thalmolC19:173,C20194)RodaCM,CGeronimoCN,CValsecchiCNCetal:Epidemiology,CclinicalCfeatures,CandCsurgicalCoutcomesCofCacuteCacquiredCconcomitantCesotropiaCassociatedCwithCmyopia.CPLOSCONEC18:1-9,C20235)鎌田さや花,稗田牧,中井義典ほか:近視性後天性内斜視の臨床像と手術成績.眼臨紀11:811-815,C20186)ZhengK,HanT,HanYetal:Acquireddistanceesotro-piaassociatedwithmyopiaintheyoungadult.BMCOph-thalmolC18:51,C20187)稗田牧:近視性共同性内斜視.あたらしい眼科C39:907-912,C20228)吉岡誇,稗田牧,中井義典ほか:近視性後天性内斜視の調節機能および立体視機能.あたらしい眼科C36:1213-1217,C20199)川村真理,田中靖彦,植村恭夫:近視を伴う後天性内斜視のC5例.眼臨81:1257-1260,C198710)YamaguchiCM,CYokoyamaCT,CShirakiK:SurgicalCproce-dureCforCcorrectingCglobeCdislocationCinChighlyCmyopicCstrabismus.AmJOphthalmolC149:341-346,C201011)NiyazmandCH,CReadCSA,CAtchisonDA:E.ectsCofCaccom-modationCandCsimulatedCconvergenceConCanteriorCscleralCshape.OphthalmicPhysiolOptC40:482-490,C202012)不二門尚:眼科検査診断法新しい視機能評価システムの開発.日眼会誌108:809-835,C200413)BuehrenT,CollinsM-J,CarneyL-G:NearworkinducedwavefrontCaberrationsCinCmyopia.CVisionCResC45:1297-1312,C200514)BernauerCW,CPleischCB,CBrunnerM:Five-yearCoutcomeCinimmune-mediatedscleritis.GraefesArchClinExpOph-thalmolC252:1477-1481,C201415)MoriK,KuriharaT,UchinoU:Highmyopiaanditsasso-ciatedCfactorsCinCJPHC-NEXTEyeCStudy:ACCross-Sec-tionalObservationalStudy.JClinMedC8:1788,C2019***

線維柱帯切除術後の過剰濾過に対してソフトコンタクトレンズ連続装用が有効であった1例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):1022.1025,2024c線維柱帯切除術後の過剰濾過に対してソフトコンタクトレンズ連続装用が有効であった1例小沢優輝中元兼二白鳥宙岡本史樹日本医科大学眼科学教室CUsefulnessofExtended-WearSoftContactLensesforOver-FiltrationafterTrabeculectomyYukiKozawa,KenjiNakamoto,NakaShiratoriandFumikiOkamotoCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolC目的:マイトマイシンCC併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)の術後の過剰濾過による浅前房および脈絡膜.離に対して,ソフトコンタクト連続装用が有効であったC1例を経験したので報告する.症例:30代,女性,若年性特発性関節炎による両眼続発緑内障で日本医科大学付属病院を紹介受診した.右眼CTLEを施行したところ,術後,当日から浅前房,巨大濾過胞および脈絡膜.離を認めた.術翌日,眼所見の改善はなく,経結膜強膜弁縫合,圧迫縫合,ステロイド内服を行った.術後C9日目でも右眼の低眼圧が遷延し,脈絡膜.離が増悪した.術後C14日目より,ソフトコンタクトレンズを連続装用したところ,徐々に脈絡膜.離が改善し,術後C18日目に浅前房は改善し,術後C42日目に脈絡膜.離は消失した.結論:TLE術後の過剰濾過に対してソフトコンタクトレンズ連続装用が有用であった.CPurpose:ToCreportCaCcaseCinCwhichCcontinuousCsoftCcontactlens(SCL)wearCwasCe.ectiveCinCmanagingCaCshallowanteriorchamberandchoroidaldetachmentduetoexcessive.ltrationaftertrabeculectomy(TLE).Case:CACwomanCinCherC30sCwithCbilateralCglaucomaCdueCtoCjuvenileCidiopathicCarthritisCwasCreferredCtoCourCclinic.CTLECcombinedwithmitomycinCwasperformedonherrighteye,yetat1-daypostoperative,ashallowanteriorcham-ber,alarge.lteringbleb,andchoroidaldetachmentwasobserved.At9-dayspostoperative,prolongedlowintraoc-ularpressureandworseningchoroidaldetachmentwasobservedinthateyedespiteinterventionssuchasscleral.apsuturing,compressionsutures,andoralsteroids.Startingat14-dayspostoperative,continuousSCLwearwasinitiated,resultingingradualimprovementofchoroidaldetachmentby18-dayspostoperativeandresolutionoftheshallowanteriorchamberby42-dayspostoperative.Conclusion:ContinuousSCLwearwasfoundtobee.ectiveformanagingexcessive.ltrationaftertrabeculectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(8):1022.1025,C2024〕Keywords:線維柱帯切除術,過剰濾過,脈絡膜.離,ソフトコンタクトレンズ.trabeculectomy,over.ltration,choroidaldetachment,softcontactlens.Cはじめに緑内障は日本における中途失明原因の第C1位であり1),科学的証拠に基づいた唯一確実な治療は眼圧下降である.近年,緑内障手術では,低侵襲緑内障手術が広く行われるようになったが,特に続発緑内障ではマイトマイシンCC併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)が施行される機会は少なくない.TLEの術後早期合併症の一つに脈絡膜.離があり,その原因として,過剰濾過に伴う低眼圧,短眼軸,眼炎症などが指摘されている2).過剰濾過に対する治療法には,経結膜的もしくは結膜弁を開放しての強膜弁縫合,結膜上からの圧迫縫合,前房内粘弾性物質(または空気)注入,濾過胞内自己血注入,圧迫眼帯などがある3,4).今回,TLE術後の過剰濾過に対して,経結膜強膜弁縫合および圧迫縫合を施行するも改善が得られず,ソフトコンタクト(softCcontactlens:SCL)連続装用で,過剰濾過が改善し浅前房および脈絡膜.離が治癒した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕小沢優輝:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiKozawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPANC1022(150)図1TLE術後当日の前眼部所見a,b:術当日から浅前房,巨大濾過胞があった.Cc:前眼部光干渉断層計検査所見.浅前房を認めた.Cd:超音波CBモード所見.高度な脈絡膜.離があった.I症例患者:35歳,女性.既往歴:若年性特発性関節炎.現病歴:小児期から若年性特発性関節炎に伴う両眼ぶどう膜炎を発症し,両眼続発緑内障で他院を受診していた.小児期に両眼白内障に対して水晶体再建術が施行され,無水晶体眼用の連続装用CSCLを使用していた.その後,左眼眼圧がコントロール不良となったため,TLEを施行されたが,緑内障の進行,水疱性角膜症による角膜混濁などで,視力は手動弁となっていた.今回,薬物治療で管理されてきた右眼の眼圧が徐々に高くなってきたため,緑内障手術目的で当院を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C0.1(0.4C×sph+16.50D(cylC.4.00DAx95°),左眼手動弁(矯正不能),眼圧は右眼30mmHg,左眼C12mmHg,眼軸長は右眼C22.97mm,左眼24.53Cmm,中心角膜厚は右眼C522Cμm,左眼C802Cμmであった.角膜は,右眼の鼻側と耳測に軽度の帯状角膜変性症,左眼に水疱性角膜症による角膜混濁があった.両眼とも人工的無水晶体眼で,右眼の瞳孔領にはわずかに硝子体線維の嵌頓があった.左眼は高度な角膜混濁があり,前房隅角および眼底は透見困難であったため,以下,右眼の所見のみ記す.隅角鏡検査では,ぶどう膜炎によると思われる台形状の周辺虹彩前癒着を全象限に認めた.眼底検査では,著明な乳頭陥凹拡大を呈していた.Gold-mann視野検査では,40°以内の視野のみ残存していた.緑内障治療として,両眼にドルゾラミドC1%/チモロールマレイン酸塩C0.5%C1日C2回点眼,ブリモニジンC0.1%C1日C2回点眼,リパスジルC0.4%C1日C2回点眼およびアセタゾラミドC250Cmg1日C1回朝内服が処方されていた.若年性特発性関節炎の治療として,小児科よりプレドニゾロンC2.5Cmg内服を継続処方され,内科的な症状は安定していた.経過:右眼に対してCTLEを施行した.術当日の術後診察時から浅前房,巨大濾過胞および脈絡膜.離があったが,眼圧はC20CmmHgであった(図1).ベタメタゾンC0.1%C1日C4回点眼,レボフロキサシンC1.5%C1日C4回点眼に加えて,悪性緑内障の可能性も考慮してアトロピンC1%C1日C1回点眼で治療を開始した.術翌日,眼所見に改善はなく,眼圧はC28図2TLE術後14日目の前眼部所見a:SCL終日装用C1日目,前房は術当日より深くなった.Cb:SCLは輪部結膜および強膜弁の一部を圧迫できていた.Cc:前眼部光干渉断層計所見.前房は術当日より深くなっていた.mmHgと上昇した.術後炎症および過剰濾過の影響を考え,経結膜強膜弁縫合C2針,圧迫縫合C1針,さらにプレドニゾロンC5.0Cmgを増量しC1日C7.5Cmgの内服を行った.術後C8日まで眼所見は変化しなかったが,術後C9日目に眼圧がC9CmmHgと低眼圧になり,その後,脈絡膜.離が徐々に増悪した.観血的な強膜弁縫合を提案したが,患者の同意が得られなかったため,術後C14日目より,SCLによる結膜弁および強膜弁の圧迫効果を期待して,もともと術前に装用していたCSCL(ブレス・オー,直径C13.5Cmm)を終日装用として再開した図3TLE術後42日目の眼所見a:SCL連続装用後C28日目,前房はより深くなっていた.Cb:前眼部光干渉断層計所見.前房は術後C14日目よりさらに深くなっていた.c:超音波CBモード所見.脈絡膜.離は消失していた.(図2).装用再開翌日,CLの辺縁が覆っている部位の濾過胞の丈は低くなり,前房は深くなった.SCLをはずすと,速やかに前房が浅くなるため,SCLを連続装用として継続した.以後,脈絡膜.離は徐々に改善し,18日目に浅前房は改善し,術後C42日目には視力(0.3),SCL装着中にCSCL上から手持ち眼圧計CiCareproで測定した眼圧はC16CmmHg,SCLをはずしたときのCGoldmann平眼圧計で測定した眼圧はC6CmmHg,前房深度は深く,脈絡膜.離は消失した(図3).現在,手術後C1年以上経過しているが,眼圧6.7CmmHg程度で濾過胞形態も安定しており,濾過胞感染などの合併症はない.CII考按TLEには多くの早期合併症があるが,頻度が高い合併症の一つに過剰濾過がある.過剰濾過は,しばしば巨大濾過胞,浅前房,低眼圧黄斑症や脈絡膜.離など多彩な合併症の原因となる.過剰濾過に対する治療法には,保存的治療と外科的治療とがある.保存的治療として,炭酸脱水酵素阻害薬点眼・内服やCb遮断薬点眼などで房水産生を抑制する方法があり,奏効すると数日以内に改善することもある.また,過剰濾過による浅前房に対して,前房内粘弾性物質注入(あるいは空気注入)や濾過胞内自己血注入を行うことがある.外科的治療には経結膜強膜弁縫合,結膜弁を開放して直視下での強膜弁縫合,結膜上からの圧迫縫合などがある3,4).本症例では,術当日から過剰濾過による浅前房,脈絡膜.離があったため,術翌日に経結膜強膜弁縫合と圧迫縫合を併施したが,過剰濾過を十分に抑制できなかった.そこで,結膜弁を開放して直視下で強膜弁縫合の追加を検討したが,炎症などによる眼圧の再上昇の懸念や,患者本人が観血的治療に同意しなかったため,SCL装着で経過観察する方針となった.TLE後のCSCL装用で期待できる治療効果として,角膜上皮の保護,切開部の治癒促進,過剰濾過の抑制などがある5.7).Liら8)は,SCL径が濾過胞を覆うのに十分であった場合には,切開部,濾過胞を覆い隠すことができるため,前房深度が改善することを報告している.SCLの直径は一般にC14.0Cmmであり,レンズが濾過胞の一部を覆って圧迫することで過剰濾過を抑制することができると考えられている8).本症例においては,使用したCSCLの直径がC13.5Cmmと一般的なCSCLよりも小さかったが,角膜径もC11Cmmと健常人9)よりやや小さかったため,強膜弁の一部を覆うことができたと考えられる.ただし,本症例でも,ブレス・オーを装着する前に医療用CSCLの装着を試みたが,切開部,濾過胞の一部を覆い隠すことはできていたにもかかわらず,過剰濾過を改善させることはできなかった.ブレス・オーは医療用CSCLより厚みと硬さがあるため,強膜弁を圧迫する効果が高まり,過剰濾過を改善できた可能性がある.よって,過剰濾過に対するCSCLによる治療では,濾過胞の圧迫に十分な素材の厚みや硬さも重要と考えられる.本症例は,術後早期では浅前房に加えて眼圧が高かったため,悪性緑内障の関与が疑われた.本症例は人工的無水晶体眼であるが,術前から瞳孔領に硝子体線維が少量嵌頓していた.TLE術後,瞳孔領に嵌頓した硝子体線維の量が検眼鏡的に増加しており,その結果,瞳孔における後房から前房への房水流出抵抗が増加した可能性がある.さらに,炎症や過剰濾過により,毛様体浮腫や脈絡膜.離が毛様突起を前方回旋させ,TLEの周辺虹彩切除部位を閉塞させたことで,後房の房水が前房に回りにくくなり,一過性の悪性緑内障を引き起こした可能性も考えられる.一方,術当日から巨大濾過胞および脈絡膜.離があったことを考慮すると,実際の眼内圧は一貫して低かった可能性もあり,術後早期の眼圧値が高く測定されたのは,もともと本症例の瞼裂が狭かったことに加えて,手術による眼瞼腫脹があったため,開瞼時の眼球圧迫などの影響も否定できない.今回の症例は,TLE術後の早期合併症の過剰濾過に対して,SCLが有用であったが,TLE術後のCSCL装用で懸念される合併症の一つに濾過胞関連感染症がある10).本症例は人工的無水晶体眼であるため,現在もCSCLを連続装用し,また,若年性関節リウマチでステロイド内服を継続しているため,濾過胞関連感染症にはとくに注意が必要と考えている.これらの要旨は,第C34回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)白神史雄:厚生労働科学研究費補助金.難治性疾患政策研究事業.平成C28年度総括・分担研究報告書:32,20172)PopovicV:EarlyCchoroidalCdetachmentCafterCtrabeculec-tomy.ActaOphthalmolScandC76:361-371,C19983)金本尚志:トラベクレクトミー術後合併症への対応.眼科グラフィックC2020年別冊:191-196,C20204)伊藤訓子,狩野廉,桑山泰明:強膜弁再縫合を必要とした線維柱帯切除術後CUvealE.usion.眼紀C54:211-225,C20035)BlokCMD,CKokCJH,CvanCMilCCCetal:UseCofCtheCMegasoftCBandageLensfortreatmentofcomplicationsaftertrabec-ulectomy.AmJOphthalmolC110:264-268,C19906)WuCZ,CHuangCC,CHuangCYCetal:SoftCbandageCcontactClensesinmanagementofearlyblebleakfollowingtrabec-ulectomy.EyeScienceC30:13-17,C20157)ShohamA,TesslerZ,FinkelmanYetal:Largesoftcon-tactClensesCinCtheCmanagementCofCleakingCblebs.CCLAOCJC26:37-39,C20008)LiB,ZhangM,YangZ:Studyofthee.cacyandsafetyofCcontactClensCusedCinCtrabeculectomy.CJCOphthalmol2019:18397129)Duke-ElderCS,CWyberK:TheCAnatomyCofCtheCVisualSystem:SystemCofCOphthalmologyCVol.2,Cp92-94.CHenryCKimpton,London,196110)BellowsCAR,CMcCulleyJP:EndophthalmitisCinCaphakicCpatientsCwithCunplannedC.lteringCblebsCwearingCcontactClenses.OphthalmologyC88:839-843,C1981***