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MIGSの適応と課題

2025年10月31日 金曜日

MIGSの適応と課題Which Minimally Invasive Glaucoma Surgery(MIGS)Approach for Which Patients?奥住奈南美* 盛 崇太朗*
はじめに
近年,さまざまなデバイスや術式の登場により,緑内障手術は多様化が進んでいる.選択肢が増えたこと自体は,患者一人ひとりに対してより適切な治療を提供できるという点で歓迎すべきことである.一方で,かつてのように緑内障手術が線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)一択であった時代と比べると,術者は多様な選択肢のなかから患者ごとに最適な術式を選ばなければならず,その分判断の負担も増しているのが現状である.本稿では,広義の低侵襲緑内障手術〔minimally inva-sive(または micro-invasive)glaucomasurgery:MIGS〕としてわが国で行われている各術式の特徴をとりあげ,それぞれの長所・短所を解説する.さらに,従来のトラベクレクトミーと比較しながら,読者が患者に応じた最適な術式を選択できるよう手助けすることを目的とする. 
I 緑内障手術の分類
MIGSという用語は,IkeAhmed教授らのグループによって初めて提唱された1).その定義は以下の 5項目をすべて満たす術式とされている.①トラベクレクトミーに伴う低眼圧や脈絡膜出血といった重篤な合併症が少なく,高い安全性を有すること②生理的な房水流出経路を大きく損なうことなく,眼組織への侵襲が最小限であること③角膜切開を通じた眼内アプローチであること④ 20%以上の眼圧下降,あるいは少なくとも点眼薬を 1剤以上減らす眼圧下降効果があること
⑤術後,患者が速やかに日常生活に復帰できる(ダウ
ンタイムが短い)こと,また白内障手術との併用に適していること本稿では,図 1に示すように緑内障手術を大きく二つ
に分類する.すなわち,隅角手術と濾過手術である.前者は,Schlemm管や線維柱帯に対して外科的アプローチを行い,ステントを挿入するあるいは切開することで房水流出を改善する術式のことをさし,多くの MIGSデバイスがこのカテゴリーに属する.このうちステントを挿入するものを眼内ドレーン挿入術,ステントを挿入せずに外科的に切開するものを流出路再建術に細分類する.一方で,房水を生理的経路以外に誘導する術式を濾過
手術と称し,トラベクレクトミーやロングチューブシャント手術に加えて,低侵襲濾過手術としての位置づけをもつプリザーフロマイクロシャント(以下,プリザーフロと表記)やエクスプレスなどがこれに該当する.なお,プリザーフロは MIGSという用語が一般化した後に登場したデバイスであり,MIGSに分類されることもある2,3).しかし,上記の定義②および③を厳密には満たさないことから,minimally invasive bleb sur-gery(MIBS)4)や less invasive glaucoma surgery(LIGS)5)といった呼称が用いられることもある.本稿では,プリザーフロを含めた広義の低侵襲緑内障手術をMIGSと定義し,議論を進める.*Nanami Okuzumi & Sotaro Mori:神戸大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕 奥住奈南美:〒650-0017 兵庫県神戸市中央区楠町 7-5-2 神戸大学医学部眼科学教室(1)(55) 12730910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

赤字:狭義の MIGS(Ahmedの 5要件を満たすもの),緑字:広義の MIGS.図 1 わが国における緑内障手術分類設定できるという利点がある.当初,谷戸はマイクロフックを用いた術式として,2カ所の角膜サイドポートから 2象限(180.240°)の切開を標準としていた17).しかしその後,1象限切開と 2象限切開との間で術後成績に有意差がないことが報告され18),スーチャートラベクロトミーにおいても 180°と 360°切開の前向きランダム化比較試験で眼圧下降率に差がなかったこと19),さらには 2023年の国際多施設共同研究において,120°・240°・360°の切開を比較しても眼圧下降や点眼薬数の減少に差がなかったこと20)が報告され,切開範囲を拡大しても眼圧下降効果に影響しないという結論に至っている.谷戸自身も現在は 1象限切開を標準としているようである21).特筆すべきは,術後早期合併症に関しては切開範囲が小さいほうが少ないという点である.切開範囲が狭いほど前房出血の頻度が低く19.21),一過性高眼圧の発生率が有意に低下することが示されている19). 
IV 流出路再建術の適応基準
流出路再建術の適応基準については,「緑内障診療ガイドライン第 5版」においても明確な記載はなく,現時点ではエビデンスに基づいた標準化がなされていないのが現状である.したがって,以下に述べる内容は筆者らの臨床経験に基づく一つの見解に過ぎないが,筆者らは以下の 2点を濾過手術ではなく流出路再建術を考慮すべき手術適応の目安としている.① Humphrey視野検査における平均偏差(MD)値が .12 dB以下の中等度緑内障であること②固視点近傍の中心 4点において,いずれも閾値が0 dB以下の絶対暗点を認めないこと①の基準設定においては,緑内障患者における主経路における生理的な房水流出能の低下が視野障害の重症度とある程度相関すると仮定しているためである.すなわち,進行期の緑内障では線維柱帯や Schlemm管に対する術式を施しても,集合管より末梢の排出経路まで房水排出の機能低下が及んでいる可能性が高く,流出路再建術の効果は限定的であると考えている.また,②の基準に関しては,流出路再建術が濾過手術と異なり術後に一時的な眼圧上昇をきたしやすいという特性を考慮している.濾過手術と違い,とくに眼内アプローチの流出路再建術の場合,術中や術後の逆流性出血の排出先がない.そのため濾過手術よりも出血を原因とする創部閉塞による一過性高眼圧をきたしやすい.中心視野にすでに障害を認める患者では,この一過性高眼圧によって急激な視力低下をきたすリスクがある(図 2).したがって,中心視野に絶対暗点を有する患者では,流出路再建術の適応に慎重であるべきと考えている.さらに,対側眼に視機能を有しない唯一眼の患者についても,低侵襲緑内障手術のほうが一見適しているように思われる一方で,術後出血によって急激に視機能を失う可能性を無視できない.とくに落屑緑内障では,Zinn小帯の脆弱性から前房出血が硝子体出血へ波及しやすく,視機能に深刻な影響を及ぼすことがある.高齢者では,このような視力障害に起因する生活の質(quality oflife:QOL)の低下が,認知症の進行リスクを高める可能性も指摘されている.出血量そのものは術者が完全に制御できるものではないため,こうしたリスクを十分に評価し,術式の選択には細心の注意をはらう必要がある.とくに,高リスク患者においてやむを得ず流出路再建術を選択する場合は,術後早期に前房穿刺を積極的に行い,出血の排出を促すことで視機能の早期改善と, ghost cell glaucomaの病態発症を防ぐことでの眼圧の正常化に努めるべきである. 
V 流出路再建術における白内障同時手術のメリット
従来の眼外法線維柱帯切開術から,眼内ドレーン挿入術,さらにトラベクトームやマイクロフックを用いた低侵襲の流出路再建術に至るまで,一貫して白内障との同時手術が眼圧下降効果を増強することが報告されている22.24).この効果の要因として,筆者らは隅角の開大が関与していると考えている.2015年に報告されたシステマティックレビューでは,白内障手術,とくに超音波乳化吸引術が隅角を広げるとともに,毛様体を後方に移動させることで眼圧を低下させるとされている25).さらに,開放隅角緑内障においても白内障手術により隅角がさらに拡大することが確認されており26),この機序は白内障手術単独による眼圧下降(57)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025   1275 

図 2 マイクロフック施行後に視機能が低下した POAGの症例( 74歳,男性)比較的進行した核白内障を認め,マイクロフックを併用した白内障手術を施行した.術C1週間後にC40CmmHgと一過性高眼圧を認め,その後すぐに眼圧は正常値に下降したが,不可逆的な中心視野障害による低視力に至った.Ca:術前.視力(0.8),眼圧C19CmmHg,点眼本数C4成分.Cb:術C1年後.視力(0.8),眼圧C14mmHg,点眼本数C3成分.a 

図 3 両眼高眼圧で喘息・統合失調症があり点眼が困難な症例( 71歳,男性)プリザーフロ術後早期から視力が温存され,眼圧下降が得られた.a:術前.右眼視力C0.3(1.2),左眼視力C0.2(0.6).右眼眼圧C21 mmHg,左眼眼圧C30CmmHg.術前点眼C3剤+炭酸脱水酵素阻害薬服用.Cb:術後初回診察(術C2週後).右眼視力C0.4(1.0),左眼視力C0.1(0.6).右眼眼圧C6mmHg,左眼眼圧C6mmHg.点眼C0成分.-

図 4 トラベクレクトミー施行後に脈絡膜.離が持続した落屑緑内障の症例( 87歳,女性)術C2週後より脈絡膜.離が出現し,追加縫合などの処置を経て術C5カ月後に脈絡膜.離は改善したが,術C8カ月後に網膜.離まで進展した.反対眼の高眼圧に対してはプリザーフロを選択,脈絡膜.離が出現したが,自然に改善した.術前:右眼視力(0.8),左眼視力(0.9).右眼眼圧C26CmmHg,左眼眼圧C17CmmHg.術前点眼C5成分.左眼術C5カ月後:右眼視力(0.03),左眼視力(0.7).右眼眼圧17mmHg,左眼眼圧C6mmHg.術後点眼C0成分.
a
プリザーフロ 7カ月後 b 

図 5 右眼 POAGの症例( 70歳,男性)右眼プリザーフロ挿入後に角膜内皮減少の進行が止まらず,プリザーフロ後術C8カ月でプリザーフロ抜去とトラベクレクトミーを施行した.Ca:右眼術前.視力(1.2),眼圧C45CmmHg,点眼成分C5成分.Cb:右眼プリザーフロC3カ月後.視力(1.2),眼圧10mmHg,点眼C0成分.Cc:右眼トラベクレクトミーC6カ月後.視力(1.2),術後眼圧C8mmHg,術後点眼C0成分.
おわりに
近年のCMIGSを中心とした低侵襲緑内障手術の進歩により,術者は多様な選択肢から患者の病態や生活背景に応じた最適な術式を選ぶことが求められている.術式ごとの眼圧下降効果や合併症リスク,術後管理の容易さなどを正しく理解し,個々の患者に即した判断を行うことが,治療成績の向上のみならず,患者のCQOL維持にも直結する.とくに,術後早期合併症や視機能への影響を最小限に抑えるには,術前の視野評価や対側眼の状態もふまえた適応判断が不可欠である.今後はエビデンスの集積と適応基準の標準化が期待されるが,それまでは各術式の特徴と限界を熟知したうえで,慎重かつ柔軟な術式選択が望まれる.文   献1)SahebCH,CAhmedI:Micro-invasiveCglaucomasurgery:CcurrentCperspectivesCandCfutureCdirections.CCurrentCOpi-nons OphthalmolC23:96-104,C2012
2)FeaCAM,CGhilardiCA,CBovoneCDCetal:ACnewCandCeasierCapproachCtoCpreser.oCmicroshuntCimplantation.CClinCOph-thalmolC16:1281-1288,C2022
3)GambiniCG,CCarlaCMM,CGiannuzziCFCetal:PreserF-loRMicroShunt:anCoverviewCofCthisCminimallyCinvasiveCdevice for open-angle glaucoma. Vision 6:12,C2022
4)KonopiC.skaCJ,CGo.aszewskaCK,CSaeedE:MinimallyCinva-siveCblebCsurgeryCversusCminimallyCinvasiveCglaucomasurgery:aC12-monthCretrospectiveCstudy.CSciCRepC14:C12850,C2024
5)Lim KS, Garcia-Feijoo J, Klabe K:Management practices and surgical techniques for ab externo less invasive glau-coma surgery:a literature review and expert recommen-dations.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmol:doi:
10.1007/s00417-025-06843-4 EpubCaheadCofCprint
6)AhmedCIIK,CFeaCA,CAuCLCetal:ACprospectiveCrandom-izedCtrialCcomparingChydrusCandCiStentCmicroinvasiveCglaucomaCsurgeryCimplantsCforCstandaloneCtreatmentCofopen-angleCglaucoma:TheCCOMPARECStudy.COphthal-mologyC127:52-61,C2020
7)FechtnerCRD,CVoskanyanCL,CVoldCSDCetal:Five-year,Cprospective,Crandomized,Cmulti-surgeonCtrialCofCtwoCtra-becularCbypassCstentsCversusCprostaglandinCforCnewlyCdiagnosedCopen-angleCglaucoma.COphthalmolCGlaucomaC2:156-166,C2019
8)IwasakiCK,CTakamuraCY,COriiCYCetal:PerformancesCofCglaucomaCoperationsCwithCKahookCDualCBladeCorCiStentCcombined with phacoemulsi.cation in Japanese open angle glaucoma patients.CInt J OphthalmolC13:941-945,C2020

9)Asaoka R, Nakakura S, Mochizuki T et al:Which is more e.ectiveCandCsafer?CComparisonCofCpropensityCscore-matchedCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyCandCiStentCinject. Ophthalmol TherC12:2757-2768,C202310)AlCYousefCY,CStrzalkowskaCA,CHillenkampCJCetal:Com-parisonCofCaCsecond-generationCtrabecularbypass(iStentinject)toCabCinternotrabeculectomy(Trabectome)byCexact matching. Graefes Arch Clin Exp OphthalmolC258:C2775-2780,C202011)WeinerCAJ,CWeinerCY,CWeinerA:IntraocularCpressureCafterCcataractCsurgeryCcombinedCwithCabCinternoCtrabecu-lectomyCversusCtrabecularCmicro-bypassstent:anCintra-subjectCsame-surgeonCcomparison.CJCGlaucomaC29:773-782,C202012)Guedes J, Amaral DC, de Oliveira Caneca K et al:Kahook DualCBladeCgoniotomyCversusCiStentCimplantationCcom-binedCwithphacoemulsi.cation:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis. J GlaucomaC34:232-247,C202513)MatsuoCM,CFukudaCH,CBuathongCJCetal:ComparisonCofC1-year e.ectiveness between phaco-microhook ab-interno trabeculotomyCandCphaco-iStentCtrabecularCmicro-bypassCstentCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCwithClow-teenCintraocularCpressure.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC263:193-200,C202514)SmithR:ACnewCtechniqueCforCopeningCtheCcanalCofCSch-lemm.CPreliminaryCreport.CBrCJCOphthalmolC44:370-373,C196015)Tanihara H, Negi A, Akimoto M et al:Surgical e.ects of trabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArch OphthalmolC111:1653-1661,C199316)FrancisCBA,CSeeCRF,CRaoCNACetal:AbCinternoCtrabecu-lectomy:developmentCofCaCnoveldevice(Trabectome)CandCsurgeryCforCopen-angleCglaucoma.CJCGlaucomaC15:C68-73,C200617)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries. Acta OphthalmolC95:e354-e360,C201718)MoriCS,CMuraiCY,CUedaCKCetal:ComparisonCofCe.cacyCandCearlyCsurgery-relatedCcomplicationsCbetweenCone-quadrant and two-quadrant microhook ab interno trabec-ulotomy:aCpropensityCscoreCmatchedCstudy.CActaCOph-thalmolC99:898-903,C202119)Sato T, Kawaji T:12-month randomised trial of 360°Cand 180°CSchlemm’s canal incisions in suture trabeculotomy ab internoCforCopen-angleCglaucoma.CBrCJCOphthalmolC105:C1094-1098,C202120)ZhangCY,CYuCP,CZhangCYCetal:In.uenceCofCgoniotomyCsizeConCtreatmentCsafetyCandCe.cacyCforCprimaryCopen-angleCglaucoma:ACMulticenterCStudy.CAmCJCOphthalmolC256:118-125,C202321)SugiharaCK,CIdaCC,COhtaniCHCetal:ComparisonCofCstand-
1280  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025(62)–’C

毛様体光凝固術の使いどころ

2025年10月31日 金曜日

毛様体光凝固術の使いどころ The Role and Timing of Cyclophotocoagulation in Glaucoma Management谷戸正樹*
はじめに現在,日本で行われている毛様体光凝固術には,マイクロパルス経強膜毛様体光凝固(micropulse transscleral cyclophotocoagulation:mpTSCP),内視鏡的毛様体光凝固(endoscopiccyclophotocoagulation:ECP),連続波経強膜毛様体光凝固(continuous-wave transscleralcyclophotocoagulation:cwTSCP)がある(表 1).また,cwTSCPを低出力長凝固時間で行う方法を緩徐毛様体光凝固(slow cyclophotocoagulation:slowCPC)とよぶ.経強膜法では,波長が長く組織深達度が高い 810 nmダイオードレーザーが用いられるのに対し,直接凝固を行う ECPでは波長が短い 532 nmグリーンレーザーが用いられる.ECP, cwTSCP,slowCPCでは,房水産生の場である毛様体ひだ部を凝固することで房水産生抑制による眼圧下降が図られる.一方で,mpTSCPでは毛様体ひだ部の後端から扁平部に相当する領域を凝固することで,房水産生抑制に加えてぶどう膜強膜経路を介した房水排出促進による眼圧下降が図られる.加えて,ひだ部の収縮による線維柱帯の後方牽引がピロカルピン様に作用し,線維柱帯 Schlemm管経路の房水排出促進が得られる可能性も推測されている.それぞれの術式は,侵襲度が異なるため,その適応にも大きな違いがある. I mpTSCP 

1. 特   徴レーザーの ON/OFFを繰り返すマイクロパルス(micropulse:MP)波を用いた毛様体光凝固の方法である.レーザー休止期間に熱拡散が促されるため,熱凝固による組織破壊が少ないとされる.本術式の眼圧下降効果の作用機序は,毛様体色素上皮および毛様体無色素上皮に閾値以下の細胞損傷を与え,房水産生を直接抑えることによる房水産生抑制,毛様体扁平部付近の細胞外マトリックスのリモデリングによるぶどう膜強膜流出の増加,毛様体筋収縮に伴うピロカルピン様効果による線維柱帯流出路の排出促進と考えられている.外眼手術であり,短時間で施行できるため,外来でも施行可能である.わが国では 2017年に mpTSCPを行うための装置である CycloG6(Iridex社,わが国での取り扱いはトプコンヘルスケア社)が承認された(図 1a).本機器に接続できるプローブには cwTSCP用の GプローブとmpTSCP用の MP3プローブがある(図 1b).もともとの MP3プローブは先端形状(フットプレート)が大きく,瞼裂狭小眼やプロスタグランジン関連眼窩周囲症が強い患者では照射しづらいという欠点があった.現在では,フットプレートが小さく改良された MP3プローブRev2がおもに用いられる.最近では,mpTSCPを行うことができる機器として,Vitra810(Lumibird Medical社,わが国での取り扱いはルミバードメディカルジャパン社)も登場している(図 2).フットプレートをはずして使用するため,先端が小さく操作性がよいという特徴がある.mpTSCPでは,輪部から2~3 mmの場所で強膜に垂*Masaki Tanito:島根大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕 谷戸正樹:〒693-8501 島根県出雲市塩冶町 89-1 島根大学医学部眼科学講座(1)(47) 12650910-1810/25/\100/頁/JCOPY 
表 1 毛様体光凝固術の種類術式 英語(略語) 光源 発振方式 凝固部位 標準的な凝固条件 眼圧下降機序 おもな適応 マイクロパルス経強膜毛様体光凝固  micropulse trans-scleral cyclophotoco-agulation(mpTSCP)  810 nm diode マイクロパルス波(0 .5 msec ON, 1.1 msec OFF= Duty cycle 31.3%) 毛様体ひだ部,扁平部(角膜輪部から2~3mm)  Duty cycle 25%~ 31.4%,2,000~ 2,500 mW, 160秒/全周(3時 9時を除く) 房水産生抑制ぶどう膜強膜経路房水排出増加線維柱帯 Schlemm管経路房水排出増加 活動性炎症のない緑内障内眼手術が困難な症例ECP施行不能症例(有水晶体眼など) 内視鏡的毛様体光凝固  endoscopic cyclopho-tocoagulation(ECP)  532 nm green 連続波 毛様体ひだ部(眼内から直接凝固) 200~3 00 mW, 3~4秒,数十発/全周 房水産生抑制 チューブシャント手術無効例チューブシャント手術施行不能例 連続波経強膜毛様体光凝固  continuous-wave transscleral cyclopho-tocoagulation(cwTSCP)  810 nm diode 連続波 毛様体ひだ部(角膜輪部から 1.2~ 1.5mm程度) 2,000 mW, 1秒,20~2 5発/3/4周(3時 9時を除く) 房水産生抑制 有効な視機能が残存しない高眼圧症例 緩徐毛様体光凝固  slow cyclophotoco-agulation(slowCPC)  810 nm diode 連続波 毛様体ひだ部(角膜輪部から 1.2~ 1.5mm程度) 1,000~ 1,250 mW,3~4秒,20~2 5発/3/4周(3時 9時を除く) 房水産生抑制 有効な視機能が残存しない高眼圧症例 
ab 
Gプローブ

MP3プローブ Rev2
図 1 Cyclo G6(Iridex社)の外観 a:本体.b:プローブ.(トプコンヘルスケア社のホームページより転載)ab 
図 2 Vitra810(Lumibird Medical社)の外観 a:本体.b:プローブ.(ルミバードメディカルジャパン社ホームページより転載) a 

図 3 mpTSCPの照射方向と照射部位 a:mpTSCPで用いられる専用プローブ(MP3プローブ)は,毛様体ひだ部後端から扁平部を凝固するために,輪部から 2~3 mmで強膜に垂直方向にレーザー照射を行うようデザインされている. b:照射部位をなぞるように連続照射する.長後毛様体動脈,神経への照射を避けるため,3時と 9時は照射しない.
図 4 mpTSCPの術中所見Peters奇形に伴う緑内障(小児例).有水晶体眼であるためECPは施行できない.Cab図 5 MTレーザーファイバカテーテル(ファイバーテック社)ECP専用カテーテルであるCMTレーザーファイバカテーテルのプローブ形状(Ca)と断面の模式図(Cb).(a:ファイバーテック社提供)

液晶カラーモニタ画像記録装置専用光源装置専用画像装置

図 6 MTレーザーファイバカテーテルの機器構成(ファイバーテック社提供)C120°

図 7 ECPの凝固範囲2カ所の角膜サイドポートから全周の凝固を行うことができる.
図 8 ECPの術中所見角膜サイドポートから挿入したカテーテルで直視下に毛様体ひだ部を凝固する.毛様体突起の形状が大きく変化せず,表面が白くなる程度()の凝固が適切である.表 2 ECPの適応よい適応 要注意 緑内障の特徴 チューブシャント手術効果不十分チューブシャント手術施行不能 房水産生能低下症例 原発開放隅角緑内障 血管新生緑内障 病型 若年開放隅角緑内障 ぶどう膜炎 小児緑内障 高齢者 

図 9 cwTSCPの照射方向と照射部位 a:cwTSCPで用いられる専用プローブ(Gプローブ)は,毛様体ひだ部を凝固するために,輪部からC1.2~1.5 mmの位置で視軸方向にレーザー照射を行うようデザインされている.Cb:cwTSCPでは,1象限6~8発程度の照射を行う.専用プローブは,先端のフットプレートの半分の幅が適切な照射間隔になるように設計されている.プレートのサイドの位置でつぎの照射を行っていくと,ちょうどいい照射数が得られる.
図 10 Gプローブによる毛様体光凝固( slowCPC)の術中所見本症例では,pop音が発生しない条件で施術している.Aqueous Humor Formation(μ l/min)2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0Age(年)青線:加齢による房水産生能の変化,緑線:毛様体光凝固により 3.mmHgの眼圧下降を得たときの房水産生能の変化,赤線:毛様体光凝固により 11.mmHgの眼圧下降を得たときの房水産生能の変化.図 11 年齢(横軸)と房水産生量(縦軸)の関係(CC-BYの規定に基づき文献C7より転載)C-

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SLTのタイミング

2025年10月31日 金曜日

SLTのタイミングRecommended Timing for Selective Laser Trabeculoplasty(SLT)片井麻貴*
I 選択的レーザー線維柱帯形成術( SLT)とは線維柱帯形成術の目的は,レーザーを線維柱帯に照射し房水流出率を改善することである.なかでも選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplas-ty:SLT)は,選択的光熱分解論に基づいた線維柱帯のメラニン色素含有細胞のみに作用させるレーザー治療である.通常は,組織にレーザーを照射すると,内部にエネルギーが蓄積され,さらに照射を続けると外へ放熱し,周囲組織が傷害される.そこで,照射エネルギーが周囲に拡散しない程度の短時間照射を用いて標的組織のみを熱分解させ,最小限に合併症を抑えつつ効果を狙った治療が SLTである1,2)(図 1).たとえば,この選択的光熱分解論を用いたレーザー治療として,形成外科の分野ではタトゥー除去があげられる.タトゥーの色素部のみを破壊し皮膚組織は温存されるため,処置を受けたあと,腫れや赤み,痛みなどの症状が落ち着き通常の生活に戻るまでの期間(いわゆるダウンタイム)は手術に比べて短縮される3).SLTも従来のアルゴンレーザー線維柱帯形成術(argon laser tra-beculoplasty:ALT)と異なり,線維柱帯の熱変性やSchlemm管の障害を生じにくい低侵襲な方法であり,反復照射も可能とされていることが特徴である1). II SLTの適応症例(表 1)
SLTに適した症例として,病型別では,原発開放隅角緑内障(primary openangle glaucoma:POAG),高眼圧症(ocularhypertension:OHT),落屑緑内障,色素緑内障,ステロイド緑内障,瞳孔ブロックを解除した原発閉塞隅角緑内障(primary angle closure glauco-ma:PACG),混合型緑内障などがあげられる.これらのほか,妊娠,授乳やアドヒアランス不良など点眼治療に支障がある場合や,副作用により点眼できないなどなんらかの理由で薬物治療が継続できない場合,また,緑内障手術の適応があるが手術同意が得られない場合も代替治療として用いられる4).患者自身が薬物治療そのものを望まない場合も SLTの適応があると考えられ,点眼の副作用の認知度が向上したのか,ここ数年で理由として散見されるようになり,施行例が増加している.一方で,ぶどう膜炎後の続発緑内障は周辺虹彩後癒着がなくても強い炎症が惹起される場合が多く適応外となり,ほか血管新生緑内障,外傷緑内障も避けるべきである.緑内障手術既往例も Schlemm管が虚脱している場合は効果が小さい. III SLTの作用機序
SLTの作用機序は,照射により色素細胞が活性化し炎症が生じる→サイトカインが放出され5)抗炎症細胞貪食能を増大6)→ Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進→房水流出抵抗減少,とされている.このような房水流出抵抗減少を目的とした流出路再建術の効果を期待するには,Schlemm管以降の流出路を担う集合管*Maki Katai:NTT東日本札幌病院眼科〔別刷請求先〕 片井麻貴:〒060-0061 北海道札幌市中央区南 1条西 15丁目 NTT東日本札幌病院眼科(1)(39) 12570910-1810/25/\100/頁/JCOPY 照射エネルギーが周囲に拡散しない表 1 SLTの適応症例短時間照射で標的組織のみ熱分解 
thermal con.nement=熱を閉じ込める
この段階で照射ストップ!このまま照射を続けると…

放熱.周囲組織傷害図 1 選択的光熱分解論
組織にレーザーを照射すると通常は内部にエネルギーが蓄積され,さらに照射を続けると外へ放熱され,周囲組織が傷害される.そこで,照射エネルギーが周囲に拡散しない程度の短時間照射を用いて合併症を最小限に抑える.適した症例 適応なし/慎重に適応 ・原発開放隅角緑内障 ・高眼圧症 病型 ・続発開放隅角緑内障,落屑緑内障,色素緑内障,ステロイド緑内障 ・ぶどう膜炎続発緑内障・血管新生緑内障・外傷緑内障 ・瞳孔ブロックを解除した原 ・緑内障手術既往例 発閉塞隅角緑内障 ・混合型緑内障 ・点眼治療の効果が不十分 背景 ・点眼治療に支障がある;妊娠,授乳,アドヒアランス不良など・副作用により点眼できない ・緑内障手術の適応があるが 手術同意が得られない ・患者が薬物治療を望まない 
表 2 LiGHT trial 36カ月の目標眼圧における治療効果点眼群 SLT群 36カ月後の平均眼圧(標準偏差) 16.3 mmHg( ±3.87) 16.6 mmHg( ±3.62) 36カ月後の目標眼圧における1眼あたりの薬剤数 点眼なし 16( 3.0%) 419( 78.2%) 1剤 346( 64.6%) 64( 12.0%) 2剤 99( 18.5%) 21( 3.9%) 3剤 35( 6.5%) 4( 0.8%) 4剤 3( 0.6%) 1( 0.2%) 36カ月で目標眼圧達成眼 499( 93.1%) 509( 95.0%) トラベクレクトミー追加要 11( 1.8%) 0(0%) 
36カ月の時点で SLT群の 78.2%は点眼なしで目標眼圧が達成された.追加でトラベクレクトミーを要したのは点眼群で 11眼であるのに対し,SLT群では 0眼であった.(文献 12より改変引用)= 36 
表 3 LiGHT trial 6年後の目標眼圧における治療効果点眼群 SLT群 p値 72カ月後の平均眼圧(標準偏差) 15.4CmmHg(C±3.9) 16.3CmmHg(C±4.0) <C0.001 72カ月後の目標眼圧達成眼 429眼(C94.7%) 437眼(C94.2%)  C0.73  点眼なし 106眼(C23.0%) 338眼(C71.9%) <C0.001  点眼・緑内障手術治療なし 83眼(C18.0%) 328眼(C69.8%) <C0.001 病状の進行 147眼(C26.8%) 107眼(C19.6%)  C0.01 トラベクレクトミー追加要 32眼(C5.8%) 13眼(C2.4%) <C0.001 
72カ月で眼圧はCSLT群のほうが高かった(p<0.001).薬物,緑内障手術治療追加なしで目標眼圧以下の維持が可能だったのはCSLT群のほうが多く,病状の進行をきたしたのは点眼群のほうが多かった(p=0.006).トラベクレクトミーを要したのは点眼群でC32眼(5.8%)であったのに対し,SLT群ではC13眼(2.4%)であった(p<0.01).(文献C13より改変引用)表 4 LiGHT trial 3年経過後に SLTに切り替え治療強化として SLTを追加施行した 6年後の目標眼圧における治療効果と SLT群との比較点眼群(n=549) SLT群(n=547) p値 点眼のみ(n=373) SLTへ切替(n=128) SLTを追加(n=48) 72カ月で目標眼圧達成眼 282眼(C94.9%) 108眼(C94.7%) 39眼(C92.9%) 437眼(C94.2%)C 0.16  点眼なし 21眼(C6.9%) 72眼(C63.2%) 13眼(C31.0%) 338眼(C71.9%)C NA  点眼・手術治療なし 10眼(C3.3%) 69眼(C60.5%) 4眼(C9.5%) 64眼(C12.0%) <C0.01 トラベクレクトミー追加要 20眼(C5.4%) 3眼(C2.3%) 9眼(C18.7%) 13眼(C2.4%) <C0.01 
72カ月時点でCSLTに切り替えたC69眼(60.5%)は追加の点眼・手術治療を必要としなかった.点眼群でC6年後にトラベクレクトミーを必要とした症例C32眼のうち,20眼は点眼治療のままの症例で,3年後にCSLTに切り替えていたのはC3眼,治療強化としての追加CSLTをうけていたのはC9眼であった.(文献C15より改変引用)表 5 LiGHT trial 72カ月後にトラベクレクトミーを受けずに目標眼圧に達した,点眼群から SLTへ切り替えた症例の治療強度SLT前 72カ月後で点眼群からCSLTへ切り替え目標眼圧達成眼数(%) 点眼数 眼数 点眼・緑内障手術なし 1剤併用 2剤併用 3剤以上併用 1剤 74眼 62眼(C83.8%) 9眼(1C2.2%) 2眼(2C.7%) 1眼(1C.4%) 2剤 25眼 6眼(2C4.0%) 9眼(C36.0) 9眼(3C6.0%) 1眼(4C.0%) 3剤以上 6眼 1眼(1C6.7%)C 0 1眼(1C6.7%) 4眼(6C6.7%) 
72カ月時点で追加の点眼・緑内障手術治療を必要としなかったCSLTに切り替えたC62眼(83.8%)は点眼C1剤からC.rst-line SLTへの切り替え症例であり,早期タイミングCSLT施行の良好な効果が示された. (文献C15より改変引用) (mmHg) 20  18  16.3  16   眼圧15.414  13.0  12  13.0  13.2  13.4  13.2  13.2  =12 10 SLT前  12 12  12  12  12  .rst-line  second-line  (カ月)  
図 2 12カ月の SLT前後の眼圧変化 .rst-lineSLT群では,SLT前の平均眼圧C16.3CmmHgはCSLT後C12カ月でC13.4mmHgとなった(p<0.001).second-lineSLT群では,SLT前の平均眼圧C15.4mmHgはC12カ月で13.2CmmHgとなり(p=0.005),両群とも有意に低下した.(文献C18より改変引用)=

表 6 12カ月,24カ月での基準 A,Bの成功率全症例 .rst-line SLT群 second-line SLT群 12カ月 24カ月 12カ月 24カ月 12カ月 24カ月 基準CA 83.8% 73.7%C 89.2%*C 76.3%C 68.0%*C 69.0% 基準CBC 19.2%C 31.6%C 23.0%§C 36.1%C 8.0%§C 23.7% 
*p=0.011 C§p=0.046基準A:CΔOP≧20%,基準CB:眼圧下降薬の追加点眼,SLTの反復,緑内障手術の追加を伴わない眼圧下降率≧20%.両基準ともC.rst-lineSLT群の成功率がCsecond-lineSLT群よりも高かった(それぞれp=0.011,0.046).2年時点でグループ別にみると,.rst-lineSLT群では基準CAでC76.3%,基準CBでC36.1%の成功率であったのに対し,second-line SLT群では基準AでC69.0%,基準CBでC23.7%の成功率であった.表 7 SLTの眼圧下降に関連する因子12カ月 24カ月 成功に関連する因子 *SLT前の眼圧が高い(p=0.005)*CCTが薄い(p=0.029)*3カ月後の眼圧下降が大きい(p<0C.001) §診察までの期間が長い(p<0C.001)C§年齢が若い(p=0.044)C§ベースライン眼圧が高い(p<0C.001)C§CCTが薄い(p<0C.001)C 不成功に関連する因子 *SLT前の眼圧が低い(p=0.030)*眼圧下降薬を使用している(p=0.002) *低いベースライン眼圧(p<0C.001)*CCTが厚い(p<0C.001) 
*Cox比例ハザード回帰分析 C§線形混合効果モデル(mmHg) 20 15 10 5

眼圧
.rst-line group second-line group 
0 SLT前  1  3  6  9  12  18  24 (カ月) 図 3 24カ月の SLT前後の眼圧変化 
2年でC.rst-line SLTでは平均眼圧がC16.7CmmHgからC13.7CmmHgに低下し,second-line SLTでは,平均眼圧15.9CmmHgからC13.2CmmHgに低下した.(文献C19より改変引用)= –’C

点眼変更および追加のタイミングと注意点

2025年10月31日 金曜日

点眼変更および追加のタイミングと注意点 Timing and Considerations when Switching orAdding Glaucoma Eye-Drop Medications内藤知子*はじめに緑内障治療の基本は点眼薬による眼圧下降であるが,その効果には個人差があり,治療経過に応じて薬剤の変更や追加が必要となることも少なくない.また,点眼薬による治療効果が不十分である,あるいは視神経障害の進行が認められる場合には,観血的治療への移行も視野に入れた対応が求められる.こうした判断には,眼圧コントロールの状況に加え,進行速度,患者の年齢,病型,アドヒアランス,副作用など,多様な要因を総合的に評価することが必要となる.本稿では,点眼薬の変更や追加を検討するタイミング,薬剤選択時の注意点,さらに多剤併用に至った際に観血的治療を選択肢に含めるべき状況について解説し,個別化された緑内障治療戦略の構築に寄与することを目的とする.C

I 点眼の変更および追加を検討するタイミング緑内障は視神経の不可逆的な障害を伴う慢性疾患であり,その進行を抑制する唯一のエビデンスに基づいた方法は眼圧下降である.緑内障診療ガイドライン第C5版
(以下,ガイドラインと表記)によると1),緑内障治療の最終目的は視覚の質(qualityCofvision:QOV)と生活の質(qualityCoflife:QOL)の維持であるが,視神経障害は非可逆的である一方,緩徐に進行するため治療効果の判定には長期間を要することから,患者ごとに目標とすべき眼圧レベル(目標眼圧)を設定して緑内障治療を進めていくことが提案されている.そして,眼圧下降手段には薬物治療,レーザー治療,手術治療があるが,患者の病型や病期・アドヒアランス,さらには副作用の忍容性など多岐にわたる因子を加味して個別に調整していく.基本的には点眼薬による薬物治療が第一選択となることが多く,目標眼圧を設定し,単剤からスタートしていく(「緑内障の病診連携,紹介のタイミング」p1224,図 1参照).個々の患者における視神経障害の進行速度とそれを抑制しうる眼圧を予測することは困難であるので,治療を開始するにあたっては,病期や無治療時眼圧などを勘案し,症例ごとに目標眼圧を設定する.後期例では,進行した場合にCQOLに及ぼす影響が大きいので,目標眼圧はより低く設定する必要がある.また,余命が長いと想定される場合も治療が長期にわたることから,目標眼圧をより低く設定し,積極的に進行抑制に取り組むことが推奨されている1).目標眼圧の設定法としては,初期例C19CmmHg以下,中期例C16CmmHg以下,後期例C14CmmHg以下というように病期に応じて設定する方法や,無治療時眼圧から20%,あるいはC30%の眼圧下降というように眼圧下降率を設定する方法がある1).目標眼圧を達成していても,視神経障害による構造的変化や機能的変化に進行がみられ,それが長期予後としてCQOVやCQOL悪化につながるリスクがあると推測される場合には,さらに低い目標眼圧に修正していくが,その過程で,薬剤の変更や異な
*TomokoNaito:グレース眼科クリニック〔別刷請求先〕 内藤知子〒700-0821岡山県岡山市北区中山下C1丁目C1-1グレースタワーⅢC2F グレース眼科クリニック(1)(33)C12510910-1810/25/\100/頁/JCOPY る作用機序の薬物の追加が必要となる.目標眼圧による治療の注意点は,その目標眼圧の妥当性が経過を経ないと判断できない点である(図 1).その値が適切であったかどうかは,視神経障害の進行を十分に抑制できたことが確認された時点で初めて判断できる.すなわち,目標眼圧を達成していても進行する例もあれば,目標眼圧を達成していなくともあまり進行しない例もあるので,目標眼圧はあくまでも治療の手段であって目的ではなく,一つの目安と捉える視点も必要である.C

II 視神経障害の機能的・構造的変化の評価進行速度の評価はおもに視野や光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)などの眼底所見から行う.視野の評価においては,MDslopeは予後予測が立てやすく患者への説明もしやすいが,進行に関する有意検定は検査回数や期間,検査の信頼性に応じて変わってくるので2),検査回数が少なくて信頼性も不良であると,進行判定までに長い期間を要してしまい,その間に視野がさらに悪化してしまうリスクがある.筆者らは,視野の連続悪化(2,3連続)がみられる場合はその後のCMDslopeが有意に悪化する可能性が高いことを報告している3).MDの連続悪化以外にも,QOVに大きくかかわる中心C10°以内の視野や下方視野の悪化がみられる場合は要注意であり,治療強化を検討していく.一方で,OCTでの評価が有用なのはおもに初期.中期例である.たとえば,網膜神経線維層(retinalCnerve.berClayer:RNFL)と網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)層の菲薄化が上下どちらかのみに限局していたのに,反対側にも菲薄化が出てきた場合は明らかな進行である.後期になってくるとC.oore.ectのためOCTでの判定はむずかしくなってくる.乳頭出血(dischemorrhage:DH)の出現も見過ごせない(図 2).DHは緑内障性視神経症の病態と深くかかわる所見の一つであるが,陥凹拡大に先行してみられる場合と,神経線維の脱落の結果として生じる場合があるという考え方があり,この所見が陥凹拡大の原因か結果であるかは未だに結論が出ていないが,緑内障性変化の特徴的な所見の一つとして認識されている.DHを生じている時点で,すでに神経線維層欠損(nerveC.verlayerdefect:NFLD)の存在を示唆しており,DHが観察された症例は視野の進行が高い割合でみられることが報告されている4).このため,DHは臨床上非常に重要な所見となる.DHが認められた場合には,進行のリスクが高いと判断し,治療方針の再評価や治療の強化を積極的に検討する.C

III 点眼変更および追加時の薬剤選択ガイドラインでは,最初に単剤として選択される薬剤はプロスタノイドCFP受容体作動薬(以下,FP作動薬と表記)が第一選択として推奨されている1).原発開放隅角緑内障においては,FP作動薬がもっとも優れた眼圧下降効果をもち,1日C1回の点眼回数ですむこと,副作用の面でも良好な許容性を有するためである.Cb遮断薬およびプロスタノイドCEPC2受容体選択性作動薬(以下,EPC2作動薬と表記)も第一選択になりうるが,Cb遮断薬は全身の副作用に留意して処方する必要がある.CEP2作動薬であるオミデネパグイソプロピル点眼液は2018年に承認され,眼圧下降効果はラタノプロストに非劣性であり,FP作動薬に特徴的な局所副作用であるプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandin-associatedperiorbitopathy:PAP)といった副作用もないと考えられているが,眼内レンズ挿入眼には禁忌である点には注意する.単剤治療にて目標眼圧が達成できない場合,つぎのステップとして薬剤の変更(スイッチ)または他剤の追加
(アドオン)を行う.どちらを選択するかについては,ガイドライン第C5版でフューチャーリサーチクエスチョン(FQ1)にまとめられている1).薬剤の変更を考える際,第一選択薬としてCFP作動薬を点眼していた場合には,ノンレスポンダーであった場合を除き,FP作動薬からほかの眼圧下降薬へ変更しても,さらなる眼圧下降効果は期待できないといわれている.第一選択薬としてFP作動薬以外を使用していた場合には,Cb遮断薬よりもCFP作動薬のほうが眼圧下降効果に優れていることはすでに多くの文献で報告されているので5.9),FP作動薬へ変更することで一層の眼圧下降効果が期待できる.副作用のために第一選択薬の使用が不適当な場合も変更を考慮する.一方,追加を検討する場合であるが,第二1252  あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025(34)

目標眼圧とは,患者ごとに目標とすべき眼圧レベル設定した目標眼圧が適切か否かは視神経障害の進行抑制が確認されて初めてわかる図 1 目標眼圧達成と十分な眼圧下降効果の関係図 2 DH乳頭上耳側にCDHがみられる().

図 3 OCTによる進行判定
GCC菲薄化部分が拡大しており,進行と判定できる.glaucomasurgery:MIGS)による流出路再建術などを併用した治療を早めに行うことなどを検討する.薬剤に対するアレルギー性結膜炎や眼瞼炎などの副作用で点眼継続が困難な患者や,アドヒアランスの改善が期待できない患者も手術療法の導入を早めに考慮する.また,白内障の有無は観血的治療を考慮するうえでのポイントになる.高齢者では白内障を併発している場合が多いが,MIGSを併用することで,眼圧下降のみならず緑内障点眼数を減らすことが期待できる.MIGSは濾過手術に比べると合併症リスクが少ないことが特徴でもあるので,緑内障患者の白内障手術施行時には積極的な併用も選択肢の一つと考える.なお,緑内障手術は視機能を改善する治療ではなく,眼圧を下げて進行を緩徐にするための治療である.術式によっては,むしろ見えにくくなる場合もあるため,手術を受けるか否かの判断には,患者の十分な理解と同意が不可欠である.そもそも,緑内障治療の本来の目的はQOVの維持であるが,進行例においては手術そのものがCQOVに影響を及ぼすリスクも見逃せない.実際,線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)では,術後に約1.0CdBの視野感度の低下が起こるという報告もあるので10),専門医への紹介も視機能が大きく損なわれる直前ではなく,まだ余裕のある段階で勧めることが望ましい.眼圧推移,視野・OCTの経過,薬剤の副作用歴,全身状態などの情報が揃っていれば,手術適否の判断にも役立つ.加えて,術前の局所的因子としてCPAPには注意が必要である.PAPは美容面のみならず,眼圧測定や濾過手術の成績にも影響することが知られている11.13).筆者の施設と島根大で行った研究では13),PAPの重症度が高いとトラベクレクトミーの成功率は有意に低下することが示された.そのため,手術前にはPAPの有無と重症度を評価することも重要である.なお,術直前の点眼薬変更によってCPAPを改善することはむずかしいため,日常診療の段階から適切な点眼指導を行い,薬剤選択にも配慮する必要がある.FP作動薬の種類によってCPAPの発現率は異なるので12),PAPのリスクを軽減するためには薬剤ごとの特性を理解したうえでの慎重な選択が求められる.

おわりに点眼薬の変更および追加は,緑内障治療において患者の予後を左右する重要な判断の一つである.ガイドラインに基づく理論的根拠と,個々の患者背景に応じた柔軟な判断力の両立が求められる.常に治療目標である視機能と生活の質の維持を念頭におきながら,過不足のない治療強化と患者に寄り添った継続的なケアを行う必要があり,患者が安心して快適な余生を送れるように,緑内障診療を進めていきたいと考える.文   献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)ChauhanCBC,CGarway-HeathCDF,CGoniCFJCetal:PracticalCrecommendationsCforCmeasuringCratesCofCvisualC.eldCchangeCinCglaucoma.CBr J OphthalmolC92:569-573,C2008
3)NaitoCT,CYoshikawaCK,CMizoueCSCetal:RelationshipCbetweenCconsecutiveCdeteriorationCofCmeanCdeviationCvalueCandCprogressionCofCvisualC.eldCdefectCinCopen-angleCglau-coma.CClin Ophthalmol 26:2217-2222,C2015
4)IshidaCK,CYamamotoCK,CSugiyamaCKCetal:DiskChemor-rhageCisCaCsigni.cantlyCnegativeCprognosticCfactorCinCnor-mal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC129:707-714,C2000
5)AlmCA,CStjernschantzJ:E.ectsConCintraocularCpressureCandCsideCe.ectsCofC0.005%ClatanoprostCappliedConceCdaily,CeveningCorCmorning.CACcomparisonCwithCtimolol.CScandina-vianCLatanoprostCStudyCGroup.COphthalmologyC102:1743-1752,C1995
6)CamrasCB:ComparisonCofClatanoprostCandCtimololCinCpatientsCwithCocularChypertensionCandglaucoma:aCsix-monthCmasked,CmulticenterCtrialCinCtheCUnitedCStates.CTheCUnitedCStatesCLatanoprostCStudyCGroup.COphthalmologyC103:138-147,C1996
7)MishimaCHK,CMasudaCK,CKitazawaY:ACcomparisonCofClatanoprostCandCtimololCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CAC12-weekCstudy.CArch Ophthal-molC114:929-932,C1996
8)WatsonCP,CStjernschantzJ:ACsix-month,Crandomized,Cdouble-maskedCstudyCcomparingClatanoprostCwithCtimololCinCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CTheCLatanoprostCStudyCGroup.COphthalmologyC103:126-137,C1996
9)LiF,CHuangCW,CZhangX:E.cacyCandCsafetyCofCdi.erentCregimensCforCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularhypertension:aCsystematicCreviewCandCnetworkCmeta-analysis.CActa OphthalmolC96:e277-e284,C2018

10)JunoyCMontolioCFJ,CMuskensCRPHM,CJansoniusNM:
(37)あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025  C1255 

原発閉塞隅角病の治療戦略

2025年10月31日 金曜日

原発閉塞隅角病の治療戦略 Treatment Strategies for Primary Angle Closure Disease吉水 聡*
はじめに
原発閉塞隅角緑内障(近年は前駆病変を含めて prima-ry angle closure disease:PACDと表記される)は,わが国を含む東アジアで失明の大きな原因となる疾患である.緑内障診療ガイドライン第 5版1)では,「治療できる原因があれば原因治療」が原則と述べられている.PACDは原発開放隅角緑内障(primary open angleglaucoma:POAG)と異なり,適切な時期に適切な治療ができれば,多くの症例で事実上の根治に持ち込みうる病型であることから,「早期発見・早期治療」が非常に重要となる.たとえば,開放隅角緑内障として点眼治療されていたものの眼圧上昇や視野進行を認めて紹介された症例が,隅角所見を確認すると閉塞隅角であることは散見される.プラトー虹彩形状の閉塞隅角眼では中心前房深度(anterior chamberdepth:ACD)がある程度保たれていることも多いため,閉塞隅角所見が未指摘となりがちである.また,当初は隅角所見が開放であった症例も,経過中に徐々に水晶体厚が増加していくため,いつのまにか隅角の閉塞・眼圧上昇を認めることもある.緑内障診療において,経過中に眼圧コントロールが不安定となった際には,一度立ち止まって病型の再評価を行うことが重要である.PACDの診断は隅角鏡検査所見をもとに行われる.静的隅角鏡検査(暗所,最小限の光量で,第一眼位で圧迫なく観察)において,後部線維柱帯が 2~3象限で視認できない,いわゆる occuludable angleのみの状態を原発閉塞隅角症疑い(primary angle closuresuspect:PACS)と称する.PACSに加えて周辺虹彩前癒着(peripheral anteriorsynechia:PAS)もしくは眼圧上昇をきたしたものを原発閉塞隅角症(primary angleclosure:PAC),さらに緑内障性視神経症(glaucoma-tous optic neuropathy:GON)をきたしたものを原発閉塞隅角緑内障(primary angle closureglaucoma:PACG)と称する.慢性経過の PACDにおいてはPACS → PAC → PACGと病状が進行するが,PACDのなかで急速に発症する(いわゆる急性緑内障発作)acute PAC(APAC/APACG)についてはどの段階であっても発症する可能性があることが注意点としてあげられる.PACDに対する治療は,POAGのように薬物治療を第一選択とせず,原則として外科的な隅角閉塞の解消(手術またはレーザー治療)を必要とする.薬物療法は補助的な治療となり,急性発作の解除や手術までの待機療法として行われる(図 1).本稿では PACDに関する治療戦略として,PACS/PAC/PACGの病期別の治療適応,隅角閉塞メカニズムごとの治療選択,急性発作への対応,閉塞隅角緑内障禁忌薬について述べる. I PACS,PAC,PACGの病期別の治療適応PACGはすでに高眼圧および GONを認め,PACGの失明率は POAGと比して高いことから,隅角閉塞に対
*Satoru Yoshimizu:神戸市立神戸アイセンター病院〔別刷請求先〕 吉水 聡:〒650-0047 神戸市中央区港島南町 2-1-8 神戸市立神戸アイセンター病院(1)(25) 12430910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

POAG PACD,,,

図 1 POAG・PACDの治療フローチャートPACDはCPOAGと異なり薬物治療を第一選択とせず,原則として外科的な隅角閉塞の解消を必要とする.(文献C1より引用)

図 2 PACDのメカニズム a:瞳孔ブロック.瞳孔縁における房水の流出抵抗上昇,虹彩の前方への弯曲がみられる.b:プラトー虹彩.毛様体前方回旋,虹彩根部厚の増加がみられる.虹彩後面は平坦で,中心前房深度は比較的保たれる.Cc:水晶体因子.水晶体厚の増加と水晶体前方移動がみられる.Cd:水晶体後方因子.毛様体脈絡膜.離・毛様体突起の前方回旋などによる房水の硝子体腔側への回り込みがみられる.通常の位置に比べて眼内レンズは前方へ突出し,虹彩は圧排されている.
LPI PI   LGP 水晶体摘出術 前部硝子体切除術後.切開術水晶体摘出術 図 3 隅角閉塞メカニズムごとの治療選択肢各メカニズムに応じて治療手段を検討するが,水晶体摘出術の汎用性が高い. 

*急性期の水晶体摘出術は合併症が生じやすいので熟練した術者が行うことが推奨される .図 4 APACの治療発作状態の解除をめざして,初期治療としてまず薬物療法が行われる.そのあとに隅角閉塞への治療として,レーザー虹彩切開,外科的周辺虹彩切除,水晶体摘出を行う.(文献C1より改変引用)
図 5 日本眼科医会発行の緑内障連絡カード緑内障病型,治療介入の有無をチェックボックスで入力するため,他科の医師や薬剤師にもわかりやすい.Chttps://www.gankaikai.or.jp/info/detail/glaucomainfocard.html(日本眼科医会ホームページより引用)

ぶどう膜炎による続発緑内障の治療選択

2025年10月31日 金曜日

ぶどう膜炎による続発緑内障の治療選択 Treatment Options for Secondary Glaucoma Caused by Uveitis徳田直人*はじめに緑内障診療において「緊急度」を決める指標としてもっとも優れたパラメータは「眼圧」であろう.眼圧が30~40 mmHgもしくはそれ以上になるような場合は緊急度が高く,早急な対応(治療開始)が必要となる.原発開放隅角緑内障でも眼圧が緊急を要するほどに高くなることもあるが,臨床で眼圧が緊急を要するほどに高くなる緑内障病型は,何かしらほかに原因がある「続発緑内障」であることが多い.続発緑内障の治療の基本は,緑内障診療ガイドライン第 5版の「緑内障治療の原則」にもあるように「治療できる原因があれば原因治療」である.しかし現場においては,原因治療だけで果たして本当によいのか不安になるケースもあり,対症療法と組み合わせることもしばしばである.また,薬物治療だけでは眼圧コントロールができず,緑内障手術を行わなくてはならない「治療変更」のタイミングも判断がむずかしい.本稿においては,「ぶどう膜炎による続発緑内障の治療」について「私ならこうする」方法を紹介する. 
I ぶどう膜炎続発緑内障の診断ぶどう膜炎続発緑内障はぶどう膜炎に伴い眼圧上昇が生じた緑内障病型である.そのため,ぶどう膜炎の原因を特定することがぶどう膜炎続発緑内障の治療においても重要である.ぶどう膜炎の診断の難易度は,診察時の所見の有無で大きく異なる.細隙灯顕微鏡所見で角膜後面沈着物(keratic precipitate:KP)や前房微塵(または細胞微塵:cell)など活動性の指標となる所見が認められる場合はぶどう膜炎の診断は比較的容易であるが,前医でぶどう膜炎の診断がついていても,実際目の前にいる患者の眼には所見がほぼないこともある.また,ぶどう膜炎の活動性があっても,眼圧上昇を伴う場合と伴わない場合もあり,1回の診察で正しい診断をつけることはむずかしい.ぶどう膜炎を疑う初診時前眼部所見についてフローチャートにまとめた(図 1).前眼部所見が認められる場合,KP(図 2)や cellの有無とその性状,虹彩や瞳孔の所見(図 3),隅角所見(図 4)などで原因疾患の見当がつく.そこから原因の確定診断のために血液検査などの全身精査を行う.ウイルス性ぶどう膜炎を疑った際には前房水を採取し,ポリメラーゼ連鎖反応(poly-merase chain reaction:PCR)法による分析を検討する.眼圧については,角膜の浮腫が認められるほどに眼圧上昇している場合もあれば,10 mmHg以下の場合もあり,眼圧変動が大きい症例が多い印象である. 

II ぶどう膜炎続発緑内障に対する薬物治療ぶどう膜炎続発緑内障の治療には,原因治療と対症療法がある.原因治療は「ぶどう膜炎の炎症を抑える,いわゆる消炎」であり,対症療法は「上がった眼圧を緑内障点眼薬や緑内障手術で下げる」治療になる.厳密にいえば,炎症の原因を治療することが真の原因治療なのかもしれないが,本稿では炎症を抑える治療をぶどう膜炎続発緑内障の原因治療とする.その症例の状況に応じて
*Naoto Tokuda:聖マリアンナ医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕 徳田直人:〒216-8511 川崎市宮前区菅生 2-16-1 聖マリアンナ医科大学眼科学教室(1)(19) 12370910-1810/25/\100/頁/JCOPY 

図 1 ぶどう膜炎疑い患者の診察時のポイントと疑うべき疾患PAS:peripheral anterior synechia(周辺虹彩前癒着),ICE:iridocorneal endothelial syndrome(虹彩角膜内皮症候群),Posner:Posner-Schlossman症候群.

図 3 ぶどう膜炎の瞳孔縁に生じた虹彩結節虹彩結節(Koeppe結節,)は肉芽腫様ぶどう膜炎でみられる.本症例はサルコイドーシスであり,KP()も認められる.図 2 ぶどう膜炎の肉芽腫様 KPサルコイドーシスやVogt-小柳-原田病などでみられる(本症例は後者).KP cell 虹彩隅角
図 4 ぶどう膜炎の隅角所見①巨大な色素沈着.②テント状または台形状周辺虹彩前癒着.③隅角結節.マブやアダリムマブ(adalimumab:ADA)〕の使用も検討すべきである.Behcet病以外の非感染性の中間部,後部,または汎ぶどう膜炎に対するCADAの使用についても同様である.以上のことから,ぶどう膜炎続発緑内障に対してまず行う治療は,私ならまずは強いステロイド点眼薬を使用し,前房内炎症による虹彩後癒着などの二次障害が生じそうな場合は散瞳薬を併用し,ステロイド点眼薬についてはその後の経過をみて点眼回数を漸減していく.そして,難治性のぶどう膜炎の場合は生物学的製剤の使用も考慮すべきと考える.C

2. 対症療法眼圧が高い場合には緑内障点眼薬を使用するが,その場合にほとんどすべての緑内障病型に対して第一選択薬となるのがプロスタノイド受容体関連薬である.しかし,ぶどう膜炎続発緑内障においては注意が必要である.各種プロスタノイド受容体関連薬の添付文書内には,「重要な基本的注意」として「眼内炎(虹彩炎,ぶどう膜炎)のある患者」については「眼圧上昇がみられたことがある」とされている.これは,プロスタノイド受容体関連薬の主成分が炎症起因物質であるプロスタグランジンであることが原因として考えられるが,それを理由にプロスタノイド受容体関連薬を第一選択とはせず,交感神経Cb遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬,またはその両者を含んだ緑内障配合点眼薬(コソプト配合点眼液,アゾルガ配合懸濁性点眼液など)が第一選択薬として選択されることが一般的には多い印象である.しかし,ぶどう膜炎続発緑内障の眼圧上昇の場合,それだけでは眼圧下降が十分に得られないことも多々あり,そのような場合はプロスタノイド受容体関連薬を含めたその他の緑内障点眼薬の併用を検討する.数多くある緑内障点眼薬のなかでも,リパスジル塩酸塩水和物点眼液(グラナテック点眼液)は,ぶどう膜炎続発緑内障に対する有効性が示された報告2)があり,追加薬として選択しやすい.また,炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド錠.ダイアモックス錠C250Cmg)の内服を併用させることもある.アセタゾラミド錠は眼圧の状態や患者の体重を考慮し,1錠/日~4錠/日まで調整可能である.ただし,アセタゾラミド錠内服にあたり,電解質異常やそれに伴うしびれが生じることがあることを事前に説明しておく必要がある.以上のことから,ぶどう膜炎続発緑内障の対症療法としては,私なら炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤を第一選択肢として,第二選択薬としては,リパスジル塩酸塩水和物点眼液,またはリパスジル塩酸塩水和物ブリモニジン酒石酸塩配合点眼液(グラアルファ)を選択し,それでも眼圧コントロールが得られず,緑内障手術が予定された場合には,その日までアセタゾラミド錠を内服させることを検討する.C
3. 原因治療と対症療法の併用個人的には,ぶどう膜炎続発緑内障に対して原因治療のみで眼圧コントロールが得られることが理想的だと考えるが,実際には眼圧はC30~40CmmHgを超えるような場合も多々あり,そのような緊急事態を前に原因治療のみで挑むということは少々無理がある.そのため,多くの場合で原因治療と対症療法の併用を行う.実際の処方例を示す(表 1).点眼がC3薬以上になることもあるが,その際点眼薬と点眼薬の間隔を「5分間開ける」のではなく「5分以上(可能な限り長く)開ける」ことが一つ一つの点眼薬のポテンシャルを生かすために重要と考えている.以上のことから,ぶどう膜炎続発緑内障に対する薬物療法としては,私なら強いステロイド点眼薬による原因治療と,炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤による対症療法の併用で臨むことが多い.また,これは賛否の分かれるところではあると思うが,私なら,ステロイド点眼薬を併用するのであれば,眼圧は下げたいものの,点眼回数が多くなることが治療にマイナスに働くと判断されるような場合については,点眼回数がC1回ですむプロスタノイド受容体関連薬,またはプロスタノイド受容体関連薬と交感神経Cb遮断薬の配合点眼薬も選択肢として検討する.C

III ぶどう膜炎続発緑内障に対する手術治療 1, 手術のタイミングぶどう膜炎続発緑内障の治療において,薬物治療から
1240  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025(22)表 1 ぶどう膜炎続発緑内障の処方例ぶどう膜炎活動性 眼圧上昇 原因治療 対症療法C ─ ++(3C0CmmHg以上) リンデロンCA中止 なし,またはCb-CAIをC2回 +  ±(2C0CmmHg未満) リンデロンCA3回 なし +~++ +(20~3C0mmHg) リンデロンCA4回 なし,またはCb-CAIをC2回 ++ ++(30~4C0mmHg) リンデロンCA6回C b-CAIをC2回 ++ +++(4C0CmmHg以上) リンデロンCA6回C b-CAIをC2回グラアルファをC2回 
リンデロンCA:ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩液,b-CAI:Cb-遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤,グラアルファ:リパスジル塩酸塩水和物/ブリモニジン酒石酸塩配合点眼液.-

高眼圧症および前視野緑内障の進展予測と管理戦略

2025年10月31日 金曜日

高眼圧症および前視野緑内障の進展予測と管理戦略─構造変化を捉えた早期診断とリスク層別化に基づく治療判断─Management Strategies for Ocular Hypertension and Preperimetric Glaucoma:From Early Structural-Based Diagnosis toRisk-Strati.ed Treatment野川千晶* 三木篤也*はじめに緑内障は,視神経乳頭の陥凹拡大や網膜神経線維層(retinal nerve.berlayer:RNFL)の菲薄化などの構造的変化を伴い,最終的に視野障害をきたす進行性で不可逆的な視神経疾患である1).一度失われた視機能を回復させる有効な方法はなく,早期に病態を把握し,適切な介入を行うことが視機能の長期維持につながる.日本緑内障学会の緑内障診療ガイドライン第 5版では,高眼圧症(ocularhypertension:OHT)を「眼圧上昇を認めるが視神経乳頭または視野に緑内障性変化を認めない状態」,前視野緑内障(preperimetric glaucoma:PPG)を「視神経乳頭または光干渉断層計(optical coherencetomograph:OCT)で緑内障性変化を認めるが,標準的な視野検査において異常を認めない状態」と定義している2).米国眼科学会(American Academy ofOphthalmology:AAO)や欧州緑内障学会(European GlaucomaSociety:EGS)のガイドラインでもおおむね同様の定義が採用されており,視野異常の有無よりも構造的変化の存在が診断上の重要な指標とされる.OHTと PPGはいずれも自覚症状に乏しく,経過観察中に初めて機能障害が明らかになることも多い.ガイドラインでは,OHTはハイリスク例に限定して治療介入を推奨し,PPGは原則経過観察としながらも進行のリスクが高ければ早期治療を検討すべきとされる2).しかし,具体的な治療開始の基準は明確ではなく,臨床医が個々の症例に応じて判断する必要がある.本稿では,OHTおよび PPGの定義,疫学,リスクファクター,治療介入の判断基準,画像診断の活用について,近年のエビデンスと症例を交えて述べる. 
I OHTの定義と疫学
OHTは,視神経乳頭や視野検査で緑内障性変化を認めず,統計的正常上限(おおむね 21 mmHg)を超える眼圧を示す状態と定義される2).正常眼圧の上限値は集団平均+2×標準偏差として求められた数値であり,日本人の眼圧分布からは 21mmHg前後が目安となる.AAOガイドラインでは,OHTは「眼圧が統計的上限を超え,緑内障性視神経障害や視野異常を伴わない状態」と定義され3),EGSもほぼ同様の基準を示している4).疫学的には,日本人では正常眼圧緑内障(normal ten-sionglaucoma:NTG)が緑内障全体の大多数を占めているが,OHTの有病率は 3~5%と報告されている5,6).一方,欧米では OHTの割合が高く,とくに白人集団では全緑内障の約半数が高眼圧例から発症するとされる7).この人種差は,角膜厚や眼球形態の差異,遺伝的背景,眼圧測定値の分布に起因すると考えられている.OHTが必ずしも緑内障へ進展するわけではないが,放置すれば一定割合が原発開放隅角緑内障(primaryopen-angle glaucoma:POAG)に移行する.Ocular Hypertension TreatmentStudy(OHTS)では,無治療群の 5年間累積発症率は 9.5%と報告しており7),これ*Chiaki Nogawa & AtsuyaMiki:愛知医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕 野川千晶:〒480-0015愛知県長久手市岩作雁又 1-1 愛知医科大学眼科学講座(1)(13) 12310910-1810/25/\100/頁/JCOPY 表 1 高眼圧症における緑内障発症のリスクファクター・高齢・高眼圧・垂直CC/D比が大きい
・垂直CC/Dの左右差・CCTが薄い・PSDが大きい・乳頭出血

ab 

cd 

図 1 初診時の緑内障 OCTおよび Goldmann視野検査の所見 a, b:初診時のCGoldmann視野検査.右眼(Ca)は明らかな視野障害なし.左眼(Cb)は中心視野障害および耳側にかけて視野欠損を認める.c, d:初診時の緑内障COCT.右眼(Cc)は明らかな視神経線維層の菲薄化なし.左眼(d)は著明な視神経繊維層の菲薄化あり.
60 50 40 30 20 10 

右眼眼圧(mmHg)左眼眼圧(mmHg)図 2 初診時からの両眼圧の経時的変化右眼CSLT後も眼圧は不十分であり,線維柱帯切開術後に良好な眼圧コントロールを得た.表 2 前視野緑内障から緑内障に進行するリスクファクター・RNFLやCGCCの進行が速い・平均眼圧が高値・眼圧の変動・家族歴・強度近視・乳頭出血===a  b  図 3 HFA24-2および緑内障 OCTにおける経時的変化 a:CHFA24-2のグレースケール画像における約半年ごとの経時的変化.C2024年C1月C16日の検査より,鼻下側から鼻側へ広がる階段状の視野障害(nCasalstep)が出現している.Cb:緑内障COCTにおける黄斑部CGCCマップの経時的変化.2C022年C7月C15日の時点で,黄斑部耳上側に限局したCGCCの軽度な菲薄化を認め,temporalCrapheCsignを示していた.C 
依然として異常を認めなかったことから,右眼CPPGと診断し,引き続き無治療での経過観察を継続した.2024年C1月の視野検査において,右鼻上部に鼻側階段様の視野欠損を初めて認め,その後の検査でも同部位に一致した再現性のある視野障害(nasalstep)を確認した.これをもって,2025年C4月に右眼CNTGと診断し,プロスタグランジン関連薬による点眼治療を開始した.本症例は,OCTで捉えられた軽度の構造的異常が約1年後に機能的異常として視野に出現した,いわゆる構造変化が機能変化に先行した症例であった.とくにGCC厚の変化は,網膜神経節細胞の変化を早期に捉える感度の高い指標であり,黄斑部COCTによる経時的評価は,PPGの診断および進行評価において非常に有用であると考えられる.本症例のように,視野異常が出現する以前の段階で構造的変化が確認される場合には,進行リスクの評価に基づき,治療介入のタイミングを見きわめる必要性がある.おわりにOHTおよびCPPGは,視野障害を認めないものの,進行性の視神経障害を有する可能性のある病態である.とくにCPPGにおいては,構造的評価による早期発見が重要であり,OCTを用いた定期的な観察が診療の要となる.治療介入の判断にあたっては,進行性変化の有無に加え,個々のリスクファクターを総合的に評価することが求められる.今後は,構造的・機能的評価を統合した診断法の確立が求められており,AI技術を用いたCOCT画像解析や視野パターンの自動検出など,次世代の診断支援ツールの実用化が進みつつある.PPGの概念は,構造評価技術の進歩とともに進化しており,今後はより洗練された診断基準と患者ごとの治療戦略が臨床に浸透していくと考えられる.文   献
1)WeinrebCRN,CAungCT,CMedeirosCFA.CTheCpathophysiologyCandCtreatmentCofglaucoma:aCreview.CJAMAC311:1901-1911,C20142)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌C126:85-177,C20223)AmericanCAcademyCofCOphthalmology.CPrimaryCopen-angleCglaucomaCsuspect:PreferredCPracticeCPatternR.COphthalmologyC127:151-210,C2020
4)EuropeanCGlaucomaSociety:TerminologyCandCGuidelinesCforCGlaucoma,C5thCedition.CPubliComm,CSavona,C2020
5)IwaseCA,CSuzukiCY,CAraieCM,CYamamotoCTetal;TajimiStudyCGroup:TheCprevalenceCofCprimaryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C2004
6)NakanoCT,COkamotoCN,CIkedaCYCetal:GlaucomaCpreva-lenceCandCriskCfactorsCinCaJapaneseCpopulation:theCHisayamaCStudy.COphthalmology112:1633-1637,C2005
7)KassCMA,CHeuerCDK,CHigginbothamCEJCetal:TheCOcularCHypertensionCTreatmentCStudy.CArchCOphthalmolC120:C701-713,C2002
8)MigliorCS,CPfei.erCN,CTorriCVCetal;EuropeanCGlaucomaCPreventionStudy(EGPS)Group:PredictiveCfactorsCforCopen-angleCglaucomaCamongCpatientsCwithCocularChyper-tensionCinCtheCEuropeanCGlaucomaCPreventionCStudy.COph-thalmologyC114:3-9,C2007
9)MigliorCS,CZeyenCT,CPfei.erCNCetal;EuropeanCGlaucomaPreventionCStudy(EGPS)Group:ResultsCofCtheCEuropeanCGlaucomaCPreventionCStudy.COphthalmologyC112:366-375,C2005

10)GordonCMO,CBeiserCJA,CBrandtCJDCetal:TheCOcularHypertensionCTreatmentStudy:baselineCfactorsCthatCpre-dictCtheConsetCofCprimaryCopen-angleCglaucoma.CArch Oph-thalmolC120:714-720,C200211)Kerrigan-BaumrindCLA,CQuigleyCHA,CPeaseCMECetal:CNumberCofCganglionCcellsCinCglaucomaCeyesCcomparedCwithCthresholdCvisualC.eldCtestsCinCtheCsameCpersons.CInvestCOphthalmol Vis SciC41:741-748,C200012)BudenzCDL,CAndersonCDR,CFeuerCWJCetal;OcularCHypertensionCTreatmentCStudyGroup:DetectionCandCprognosticCsigni.canceCofCopticCdiscChemorrhagesCduringCtheCOcularCHypertensionCTreatmentCStudy.COphthalmologyC113:2137-2143,C200613)SawadaCA,CManabeCY,CYamamotoCTCetal:Long-termCclinicalCcourseCofCnormotensiveCpreperimetricCglaucoma.CBr J OphthalmolC101:1649-1653,C201714)MikiCA,CMedeirosCFA,CWeinrebCRNCetal:RatesCofCretinalCnerveC.berClayerCthinningCinCglaucomaCsuspectCeyes.COph-thalmologyC121:1350-1358,C201415)JeongCSH,CParkCKH,CKimCDMCetal:PreperimetricCnor-mal-tensionglaucoma:long-termCclinicalCcourseCandCe.ectCofCtherapeuticCloweringCofCintraocularCpressure.CActa OphthalmolC92:e185-e193,C201416)HeijlCA,CLeskeCMC,CBengtssonCBCetal;EarlyCManifestCGlaucomaCTrialGroup:ReductionCofCintraocularCpressureCandglaucomaCprogression:resultsCfromCtheCEarlyCMani-festCGlaucomaCTrial.CArchCOphthalmolC120:1268-1279,C2002C1236  あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025(18)

緑内障の病診連携,紹介のタイミング

2025年10月31日 金曜日

緑内障の病診連携,紹介のタイミング Hospital-Clinic Collaboration and Timing of Referrals in Glaucoma Treatment本庄 恵*
はじめに緑内障は 40歳以上の 5%が罹患しているとされており,今後の高齢化に伴いさらなる有病率の増加が予想され,また,わが国における中途失明原因 1位の眼疾患でもある.基本的には慢性疾患であるため,緑内障患者の多くは地域のクリニックで診断と治療を受けており,必要時に行う観血的治療として緑内障手術を施行している大学病院や基幹病院,眼科専門施設で管理されている緑内障患者ははごく一部である.近年,機能選択的視野検査,そして網膜神経線維層の菲薄化や網膜神経節細胞層の減少を鋭敏に検出する光干渉断層計(optical coherence tomograph:OCT)が開発され,緑内障の早期診断・早期治療が可能となってきた.眼底検査に OCTを組み合わせることで緑内障の診断精度は向上している.緑内障患者の治療・管理は,若年層からの診断と高齢化を背景に必然的に長期化しており,クリニックですべての患者に対する十分な緑内障管理は困難であることから,病診連携が非常に重要となっている.クリニックのもっとも重要な役割は,緑内障の早期発見と適切な治療導入,そして治療脱落の防止,適切な治療強化時期の見きわめであり,病院のそれは適切な観血的治療介入およびクリニックとの連携保持であると考える.いずれにしても,個々の患者にとって適切な治療選択を提案できる関係性が必要である.
I 紹介を考えるタイミング
地域の眼科クリニックにおいては,患者の「かかりつけ医」として,日常的な経過観察や薬物治療の管理,生活指導を担い,継続的な信頼関係を築くことが長期的な緑内障治療の成功の鍵である.緑内障患者を診断し,治療開始・継続していくなかで,治療変更・強化を検討すべきか悩むポイントがあるが,これは病院への紹介を考えるタイミングともいえる(図 1). 1. 緑内障の発見・診断・治療開始時
一般に,緑内障の診断がつけば治療を開始するが,緑内障では眼圧下降治療が唯一エビデンスのある治療である.眼圧下降治療には薬物,レーザー,手術といった選択肢があるが,レーザーを含む観血的治療には合併症の危険性があることから,一般的に緑内障治療の第一選択は薬物療法である.閉塞隅角や続発緑内障など,治療可能な眼圧上昇の原因がある場合には,原因治療をまず行う.観血的治療が必要,あるいは続発緑内障や著明な高眼圧で薬物のみでの対応がむずかしいと考えられる場合は,早めの紹介も検討すべきである.また,クリニックでの緑内障診断・治療開始に悩むケースでも紹介がありうる.一般的な開放隅角緑内障(open angle glaucoma:OAG)の場合は,眼底検査・OCTで緑内障性視神経障害を認め対応する視野障害があれば,典型的症例で緑内障診断を迷うことは比較的少*Megumi Honjo:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕 本庄 恵:〒113-8655 東京都文京区本郷 7-3-1 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学(1)(5) 12230910-1810/25/\100/頁/JCOPY ①緑内障の発見診断・治療開始時②点眼薬による初期治療開始後・管理期(点眼ボトルの増加)③進行スピード・重症度の評価(手術検討)④患者教育とアドヒアランス(治療継続性)の維持と向上
良好
無点眼1ボトル→2ボトル→3ボトル→4ボトル手術後の点眼は経過や術式に応じて検討 SLT流出路再建術濾過手術不良
図 1 緑内障診療でクリニックから専門施設への紹介を考えるポイント・時期
(+)(-)
(-)(+)

(+)(-)

視神経所見・視野所見の悪化
目標眼圧変更

* 副作用やアドヒアランスも配慮する図 2 原発開放隅角緑内障(広義)の薬物治療方針(文献 1より引用)
図 3 症例 156歳,男性.初診時.右眼視力C0.1(1.0C×.2.5D),左眼視力C0.2(0.9C×.2.75D).右眼/左眼眼圧C12.18CmmHg.FP受容体作動薬(FP)/Cb遮断薬(Cb)+炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)/Ca2受容体作動薬(Ca2)(4成分).点眼中.で年間.0.3CdBは進行するという報告もある2).点眼をCfull medicationにしても進行が抑制できない患者は一定数存在するが,.0.3.C.0.5dB/年までの進行であれば,紹介しても手術まで至るかどうかは,リスクとデメリットをよく理解したうえで,患者の希望によると考えられる.ただし,全体としての視野進行は緩やかでも,視力に直結する中心窩閾値の進行,傍中心固視点C4点やC10-2での感度低下にも注意が必要である.濾過手術による眼圧下降は中心視野進行には有効であったとする報告が多く,中心視野に関しては,30-2で進行が緩やかでも10-2で有意な進行がみられる症例もあるため,症例によっては手術適応を検討する必要がある3).また,角膜厚は現在緑内障での測定は保険適用ではないが,薄い角膜の場合進行しやすく,正確な眼圧評価がむずかしいため,進行症例では確認しておくことが望ましい.症例1(図 3)は白内障術後だが,元々は強度近視であり,角膜厚がC480Cμm程度と薄いなかで,眼圧がC12.18CmmHg程度と変動する症例で,進行が速いことから紹介受診したC50代男性である.Humphrey視野C30-2で進行が速いのは左眼だが,右眼も中心視野は進行しており,これまでC10-2の評価が行われていないために正確な進行は把握できないが,自覚的に両眼とも視野進行しているとのことで,両眼とも手術適応と考えられた.この症例の紹介時には,詳細な眼圧経過が不明なことと,中心視野障害の経過がわからないことが手術適応の検討のなかでは判断がしにくく,不足している情報と考えられた.C
4. 患者教育とアドヒアランス(治療継続性)の維持と向上点眼のアドヒアランス不良は緑内障の進行に著しく関与する.緑内障は末期になるまで自覚症状がないため,アドヒアランス不良の患者は多数存在し,一部の症例はそのために進行してしまう.手術を依頼する施設との連携診療を行うことで,紹介をきっかけに患者の病識をたかめ,アドヒアランスの維持と向上につなげるのはよいオプションの一つといえる(図 1).緑内障患者では視野障害,とくに下方の視野障害が進行していると点眼成功率が有意に低いこと,高齢の患者では後彎症などの影響から座位での点眼がむずかしく,そういった場合には仰臥位のほうが成功率を良好にできることが報告されており,患者ごとに適切な点眼指導が望ましい4).点眼指導はなかなか病院レベルでは行えないため,クリニックでのきめ細やかな指導は緑内障治療の成功のために重要である.使用薬剤数がアドヒアランス不良に大きく影響すると報告されていることから,「患者が実行可能な」点眼本数,点眼回数での眼圧下降を模索することが大切である.また,点眼による充血やアレルギーもアドヒアランス低下につながりやすい.眼圧下降の必要性との兼ね合いで,ある程度患者ごとに忍容性は異なるため,副作用が過剰に出てしまっている場合も,病診連携での紹介により新しい視点で点眼整理などをするのはよい選択肢といえる.症例2(図 4)は視野変化はそこまで顕著ではないが,眼圧が高めとのことで,クリニックで多剤併用点眼が施行されているなかで,手術適応検討で紹介されたC60代女性である.強い結膜充血を認め,自覚的にも違和感が強い状態であった.角膜厚が厚めであり,まだ緑内障性変化が初期であることから,点眼C4成分をC2成分としたところ結膜充血は軽快し,眼圧上昇も認めていない.現時点では積極的な眼圧下降はそこまで必要ではないため,手術検討は経過をみて再度検討することとした.C

II 病診連携のために必要な情報
緑内障患者を紹介する際に必須な情報として,①視力,②眼圧経過(できればグラフ),そして③視野の経過がある.視力については,長期の経過でレフ(屈折)値の変化があればそれも記載,また白内障手術後であれば,術前のレフ値もわかれば望ましい.②眼圧経過は,ベースライン眼圧(わかれば),点眼変更のなかでの傾向,変動の有無・範囲,測定方法〔ノンコン(非接触型眼圧計)かCGoldmann眼圧計(GoldmannCapplanationCtonome-try:GAT)か〕の記載があると参考になる.③視野の経過については,直近C3年分の視野検査結果に加え,視(9)あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025  C1227 a 

b

図 4 症例 2 a~c:60代,女性.右眼眼圧C30mmHg,左眼眼圧C24CmmHgとのことで紹介受診.Cb:初診時右眼眼圧C20mmHg,左眼眼圧C18CmmHg.点眼はCFP/Cb+CAI/a2.角膜厚C570/590.点眼をCFPのみに変更(防腐剤フリー).c:1カ月後.右眼眼圧C18mmHg,左眼眼圧C18mmHg.
図 5 私の緑内障日記と眼圧記録カード
(緑内障フレンドネットワーク・参天製薬より許可を得て転載)

序説:緑内障の治療開始・治療変更のメルクマール─私ならこうする─

2025年10月31日 金曜日

緑内障の治療開始・治療変更のメルクマール─私ならこうする─Milestones for Starting and Changing Glaucoma Treatment:Here’s What I Would Do中野 匡* 大久保真司**
緑内障の有病率は 40歳以上で 5%1,2)とされ,今後の高齢化に伴い,さらなる有病率の増加が予想される疾患である.光干渉断層計(optical coherence tomograph:OCT)の普及に伴い,より早期に緑内障が診断されるようになってきており,さらに平均寿命が延び,人生 100年時代を迎えた現在,緑内障の管理すべき期間が長期化してきており,今後もこの傾向は続くと思われる.そうした緑内障の治療開始や治療変更のタイミングは,多くの先生が悩まれる点であろう.また,緑内障の大部分を占める(広義の)原発開放隅角緑内障(primary open angle glaucoma:POAG)のみならず,緑内障には,閉塞隅角緑内障やぶどう膜炎による続発緑内障など多くの原因と病型が存在し,それぞれで治療方針が大きく異なる.緑内障ガイドライン3)に基本的な流れや考え方は示されているものの,治療選択肢が増加した現在では,専門家間においても考え方が微妙に異なる場合や,患者の年齢や状態,生活環境も治療選択に影響を与えていると思われる.また,自施設だけではすべての病型,病期に対応することは現実的ではなく,大学病院や緑内障を専門とする基幹病院のみですべての緑内障患者の管理をすることも不可能である.そのため,緑内障の長期管理においては病診連携がきわめて重要である.本特集では,まず東京大学の本庄恵先生に,緑内障の病診連携と緑内障専門病院や大学病院への紹介のタイミングについて,治療変更のタイミングとあわせてご解説いただいた.ここでは,紹介のタイミングのみならず,病診連携や手術適応決定の際に必要な情報や,手術前後の病診連携についても詳しくまとめていただいた.この特集の総論的にまず読んでいただきたい内容である.また,眼圧は高値であるにもかかわらず,視神経乳頭や視野検査では緑内障性変化がみられない高眼圧症は,以前から治療の開始時期が悩ましい問題であった.また,OCTの普及により,通常の視野検査では異常を検出できない前視野緑内障が多く発見されるようになってきたために,前視野緑内障の治療開始時期に迷う機会も増えてきたことと思われる.愛知医科大学の野川千晶先生と三木篤也先生に,前視野緑内障および高眼圧の治療のタイミングについて,緑内障ガイドライン3)にも触れながら,リスクファクターに基づいた管理戦略をわかりやすく解説いただいた.続いて,聖マリアンナ医科大学の徳田直人先生に,ぶどう膜炎による続発緑内障に対する治療方針について,炎症を抑える治療と眼圧を下げる治療の基本的な考え方,ステロイドの使い方,緑内障点眼
*Tadashi Nakano:東京慈恵会医科大学眼科学講座

**Shinji Okubo:おおくぼ眼科クリニック,金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学

0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1) 1219 の開始および薬剤選択・変更追加,手術の選択につき詳しく解説いただいた.神戸市立神戸アイセンター病院の吉水聡先生には,原発閉塞隅角病の治療戦略について,原発閉塞隅角症疑い(primary angle closuresuspect:PACS),原発閉塞隅角症(primary angle closure:PAC)ならびに原発閉塞隅角緑内障(primary angle closureglaucoma:PACG)のそれぞれの病期別の治療適応,隅角閉塞のメカニズムごとにおける治療選択,急性発作への対応について,緑内障ガイドライン3)とその根拠となる論文に基づいてわかりやすく解説いただいた.また,緑内障診療を行うに際して,必ず考えなくてはならない,点眼変更および追加のタイミングと注意点および観血的治療を考慮すべきタイミングについて,グレース眼科クリニックの内藤知子先生にわかりやすくまとめていただいた.さらに,2019年に POAGまたは高眼圧症の第一選択治療として,点眼薬と選択的レーザー線維柱帯形成術(selective lasertrabeculoplasty:SLT)を比較した laser in glaucoma and ocular hyperten-sion(LiGHT)trial4)が Lancetに報告されて以来,英国で第一選択の治療になってきている SLTについて,その有効性および安全性についてまとめていただき,どのように SLTを活用するかを,NTT東日本札幌病院の片井麻貴先生に解説いただいた.緑内障手術が必要であるものの,全身状態や認知機能の低下などの理由で内眼手術が行えない症例は一定数存在する.以前は,そのような症例にのみ毛様体光凝固術が行われてきたと思われるが,以前より侵襲の少なくなったマイクロパルス経強膜毛様体光凝固は観血手術前の比較的初期の段階で行われるようになったり,房水産生能が旺盛と考えられる若年の POAGや小児緑内障などにも侵襲の少ない内視鏡的毛様体光凝固が行われるようになってきている.島根大学の谷戸正樹先生に選択肢の多くなってきた毛様体光凝固術に関して,現在日本で行われているマイクロパルス経強膜毛様体光凝固,内視鏡的毛様体光凝固,連続波経強膜毛様体光凝固について,それぞれの特徴と使いどころ,注意すべき点について詳しく解説いただいた.近年では,緑内障手術においてさまざまなデバイスや術式が登場してきており,そのなかでも従来の濾過手術に比べて侵襲が少ない低侵襲緑内障手術(minimally invasive glaucoma surgery:MIGS)がわが国でも急速に普及し,適応が広がってきている.一方で,プレートのあるチューブシャント手術も増加傾向にある.しかし,さまざまな手術が登場し,普及した現在においても従来からの線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)が必要な症例も一定数存在する.そこで,神戸大学の奥住奈南美先生と盛崇太朗先生に,プリザーフロマイクロシャントを含めた MIGSの種類とその特徴ならびに適応と課題を,熊本大学の井上俊洋先生に,流出路再建術の限界とトラベクレクトミーなどの濾過手術の適応,トラベクレクトミーとプレートのあるチューブシャント手術の有効性と安全性の比較を通して,トラベクレクトミーが必要である理由およびその問題点を,広島大学の廣岡一行先生に,チューブシャント手術の適応および Ahmed緑内障バルブと Baerveldt緑内障インプラントの使い分けについて詳しく解説いただいた.本特集により,最新の緑内障治療について整理し,明日からの緑内障診療に少しでも役立てていただければ幸いである.文   献1)Iwase A, Suzuki Y, Araie M et al:The prevalence of pri-mary open-angle glaucoma inJapanese:The Tajimi Study. Ophthalmology 111:1641-1648, 2004
2)Yamamoto T, Iwase A, Araie M et al:The Tajimi Study report 2:prevalence of primary angle closure and sec-

1220  あたらしい眼科 Vol. 42,No. 10,2025(2)

Paul Glaucoma Implant の短期臨床経験(予報)

2025年9月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科42(9):1206.1210,2025cPaulGlaucomaImplantの短期臨床経験(予報)千原悦夫千原智之千照会千原眼科CShort-termClinicalOutcomesafterPaulGlaucomaImplantSurgery-APreliminaryReportEtsuoChiharaandTomoyukiChiharaCSensho-kaiEyeInstituteC2023年C11月.2024年C12月の間に新しい緑内障ロングチューブインプラントであるCPaulCGlaucomaCImplant(PGI)を難治性緑内障の17例17眼に挿入し,その眼圧下降に関する手術成績を187眼のBaerveldtCGlaucomaImplant(BGI)の成績と比較した.術前C4.4剤の抗緑内障内服・点眼薬の使用下にC35.5±9.2CmmHgであった眼圧がC3カ月後にはC13.4±5.2CmmHg,6カ月後にはC16.8±6.0CmmHgに下がり,BGIの手術成績と遜色なかった.術後低眼圧による浅前房や脈絡膜.離はC11.8%にとどまった.PGIは術後深刻な低眼圧を起こす可能性が低く,眼圧の下降効果はBGIと有意差がないので今後有望な緑内障インプラント手術になると思われる.CPurpose:Toassessandcomparetheshort-termsurgicaloutcomesbetweenthePaulGlaucomaImplant(PGI,AdvancedCOphthalmicInnovations),CaCnewClong-tubeCglaucomaCdrainageCdevice,CandCtheCBaerveldtCGlaucomaImplant(BGI)forthereductionofintraocularpressure(IOP).SubjectsandMethods:Inthisstudy,wereviewedthepreliminaryoutcomesin17eyesof17refractoryglaucomapatientsinwhichPGIsurgerywasperformedfromNovember2023toDecember2024.Surgicaloutcomeswerecomparedwiththosein187eyesthatunderwentBGIsurgery.CResults:Preoperatively,CtheCmeanCIOPCunderCtheCuseCofC4.4CantiglaucomaCmedicationsCwasC35.5±9.2CmmHg.At3and6monthspostoperatively,meanIOPhaddecreasedto13.4±5.2CmmHgand16.8±6.0CmmHg,respectively,comparativetotheIOPreductionsobservedintheeyesthatunderwentBGIsurgery.TheincidenceofCpostoperativeCcomplications,CsuchCasCaCshallowCanteriorCchamberCandCchoroidalCdetachmentCdueCtoChypotony,Cremainedat11.8%.Conclusion:Our.ndingsshowthatPGIsurgerye.ectivelyreducesIOPtoalevelcomparablewiththatofBGIsurgery,andwithalowriskofpostoperativecomplications.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(9):1206.1210,C2025〕Keywords:ポール緑内障インプラント,難治性緑内障,濾過手術,術後成績,合併症.PaulCGlaucomaCImplant,Crefractoryglaucoma,.lteringsurgery,surgicaloutcome,complications.Cはじめに緑内障の観血手術は濾過手術と流出路手術に大別されるが,近年はいずれの手術も変革の時期を迎えている.濾過手術に関して,過去にはゴールドスタンダードといわれてきたトラベクレクトミーの手術件数が世界的に激減した.米国を例にとるとC9年ごとに手術件数が半減しており,1994年にはC63,278件であったものがC2003年にはC36,758件になり,2012年にはC18,007件へとC7割以上減った.この傾向は米国だけでなく,中国,カナダ,オーストラリア,韓国などでも同じである1,2).2021年には米国CMedicareのチューブ手術がC13,360件に対し,トラベクレクトミーはC8,320件まで減り,数の上でもチューブ手術に凌駕された3).このように激減する理由はいくつかあるが,術後処置が煩雑であることに加え,また,術後合併症が非常に多いということも理由の一つにあげられる,わが国で行われたCCBIITSstudyの結果に示されるように,術後C5年内の濾過胞感染の頻度はC2.2%であり4),手術後視力が低下する可能性はC43.9%にも達する5,6).濾過手術後の低眼圧は術後視力低下の一要因であるが7),その術後低眼圧の頻度はC30.9%に達し8),眼内炎による失明の頻度はC5年でC0.24.0.36%と報告されている9).濾過胞によ〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043京都府宇治市伊勢田町南山C50-1千照会千原眼科Reprintrequests:EtsuoChihara,M.D.,Sensho-kaiEyeInstitute,Minamiyama50-1,Iseda,Uji,Kyoto611-0043,JAPANC1206(126)る合併症はC5年で終わるものではなく,濾過胞がある限り10年,20年と続くものであり,患者の負担ははかり知れない.1968年のCCairnsによる報告以来C60年にわたって合併症を防ぐために種々の工夫がなされ結膜縫合法,強膜弁の形や縫合方法,5-フルオロウラシル(.uorouracil:FU)やマイトマイシンCC(MitomycinC:MMC)をはじめとする瘢痕抑制薬が導入され,術式は改善されてきたはずであるが,未だに日本における失明原因のなかで緑内障が占める割合が圧倒的な一位であるという事実10)は,従来の方法による緑内障治療の限界を示すものである.このようにトラベクレクトミーには種々の問題があるので,その欠点を補うためのデバイスとして緑内障インプラントが発達した,古くは馬の毛から始まる種々のCSetonが試みられたのであるが成功せず,その後チューブが開発されてきた.現代型のチューブとプレートからなるデバイスを開発したのはCMoltenoであり,その他にもCACTSEB,White,Krupin-Denver,Jacob,Drake,などが開発されては消えていった.現在日本で使われているのはプレートがない第C2世代としてCPreserFloとCEx-PRESSがあり,プレートとチューブがある第3世代としてはAhmedCGlaucomaCValve(AGV),BaerveldtCGlaucomaImplant(BGI),AhmedClearPath(ACP)が使用されている.これらのインプラント類の改良は現在も続いており,従来型で細かな修正がされる一方,新しいデザインのものが開発されており,PaulCGlaucomaImplant(PGI)もそのうちの一つである.今回はPGIの治療成績について検討した.CI国内未承認の医療器材の扱いPGIは国内未承認のデバイスであるので,筆者らは使用にあたって厚労省の未承認薬・医療器機の個人輸入に関する通達:薬生監麻発0331第1号(令和2年9月11日改正)と指導に従い,京都府庁薬務課を介して近畿厚生局に薬監証明を提出してデバイスを入手した.CIIPGIについてPGIはシンガポールのCPaulChew教授が開発し,2018年に販売開始されたチューブとプレートからなる第C3世代の緑内障治療用のロングチューブであり11),現在日本における医療材料としての認可をめざして申請中である.すでにヨーロッパのCCEマークを取得し,米国食品医薬品局(foodCandCdrugadministration:FDA)の認可を得ており,日本眼科学会雑誌を含めて多くの報告がなされている12,13).いわゆるCnon-valvedimplantに属し,材質はシリコーンであるのでCBGIと同類であるが,いくつかの改良がなされている.第一の特徴はチューブの内径が細いということでCAGVではチューブの外径はC0.635Cmmと内径はC0.305Cmmで断面積が0.0706CmmC2になっているのに対しPGIは外径が0.467Cmm,内径がC0.127Cmmで断面積がC0.0127CmmC2となっている.ちなみにCPreserFloの外径はC0.350Cmm,内径がC0.07Cmmで断面積がC0.0038CmmC2である.PGIは通常C6-0プロリン糸を挿入して使用するが,その場合の残存空間である有効断面積はC0.0071Cmm2となる.このことがロングチューブの問題点の一つであった術後低眼圧の軽減につながった.第二の特徴は改良されたプレートの形状である.エンドプレートの大きさは横幅がC21.9Cmm,縦幅がC16.1Cmm,厚さがC0.95mmとなっており,BGIにおけるC32mm,15mm,0.9mm,あるいはCAGVにおけるC13mm,26mm1.0mmとは異なった形状をしている(図1).表面積はCBGI350がC350Cmm2,AGVFP7がC184CmmC2なのに対してCPGIはC342CmmのC1タイプである.エンドプレートはCABCStudyで示されたように大きいほど眼圧下降効果が強いと考えられており14),PGIはCBGIとほぼ同じのプレート面積をもつのでこれに近い眼圧下降効果があると考えられている.プレートの形状にも工夫がされており,筋肉などで覆われる部分は濾過腔が形成されにくいと考えられているので,直筋の下に入り込む部分が少なくなるようにデザインしてある,実際の眼圧下降に寄与する部分を有効面積(e.ectiveCsurfacearea:ESA)というが,この面積はCBGI350がC246.85CmmC2,AGVがC184CmmC2であるのに対してCPGIはC305.42CmmC2でもっとも大きい.第三の特徴はプレート内に作られた房水貯留空間である.これに似たコンセプトはCMolteno3でみられるようなCridgeで囲まれた房水貯留部分であるが,PGIではプレート表面から膨隆することなく陥凹するようになっている.プレート周囲に形成される被.はエラスチンを含み,収縮能があるので,縮むことによってプレート上に空間を作るように作用すると思われる.CIII対象と方法対象は,少なくともC1回の緑内障手術を受け,眼圧コントロールができないいわゆる難治性緑内障で,緑内障のタイプは落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)4眼,EXGを除く続発緑内障C5眼,血管新生緑内障(neovascularCglauco-ma:NVG)3眼,先天緑内障C1眼,原発開放隅角緑内障C4眼である.本研究はヘルシンキ宣言に則り,さらに院内倫理審査委員会(institutionalCreviewboard:IRB)(座長天野)の承認(C2023-R3)を受けるともに,被検者に対してはインプラント手術によって起こりうる事態を説明し,インフォームド・コンセントを取得して治療にあたった.基礎データは表1に示すとおりである.男女比は男性C9名・女性C8名,経過観察期間はC187C±118日である.挿入部図1PaulGlaucomaImplantの概観図表1PGIとBGI手術を受けた症例の基礎データ年齢手術既往数術前点眼内服数術前小数視力屈折(Diopter)視野(MD)CPGICnC17C17C17C17C6C9平均±SDC63.2±17.9C2.5±1.4C4.4±1.5C0.44±0.47C.4.0±2.5C.16.3±11.2CBGICnC187C187C187C140C28C75平均±SDC62.8±14.5C2.6±1.9C4.2±1.2C0.54±0.46C.3.4±4.0C.17.5±10.8CANOVACpC0.912C0.770C0.449C0.381C0.703C0.757MD:meanCdeviation,PGI:PaulCGlaucomaCimplant,SD:standardCdeviation,BGI:BaerveldtCGlaucomaImplant,ANOVA:analysisofvariance.位は外耳側C11眼,鼻下側C4眼,鼻上側C1眼,耳下側C1眼,毛様溝挿入C14眼,前房挿入C1眼,経扁平部硝子体腔内挿入2眼である.全例保存強膜を使用し,結膜瘢痕の強さは高度3眼,中等度C5眼,軽度C7眼,なしC2眼である.右眼C6,左眼11,屈折はC11眼が偽水晶体あるいは無水晶体眼でデータがなく,残りのC6眼はC.4.0±2.5Dの近視であった,視野はC8眼がC0.05以下の視力で測定困難であり,残りのC9眼はHumphrey視野検査のCmeandeviation(MD)がC.16.3±11.2CdBで,最終観察時における眼圧はC15.1C±9.5CmmHgであった.術前角膜内皮細胞密度はC1,870C±542/mm2である.PGIの術式:①麻酔は局所麻酔であり,2%キシロカインを結膜下とCTenon.下に注射した.筋肉を触る際には痛みが強いので直筋の周囲には念入りに麻酔を行った.②原則,耳上側(耳上側が瘢痕化して使えない場合は鼻下側を第二選択にした)100°の輪部切開を行い,2直筋を露出してC4-0絹糸による牽引糸を通糸する.③強膜を露出して十分に周囲組織を廓清し,PGIのプレート部分をここに挿入し,チューブ内にC6-0プロリン糸を挿入してからプレートを強膜に縫着固定する.筆者らはプレートの前縁が輪部からC7.8Cmm後ろに来るようにしており,固定糸としてC5-0ダクロン糸を用いているがオリジナルは8-0ナイロン糸を使用している.④チュ.ブを前房に入れる場合は輪部からC2Cmm毛様溝に入れる場合はC2.5Cmm後方でマークし,25CG針で虹彩にあたらないように針の方向に注意しながら眼内に刺入する.前房挿入の場合は粘弾性物質を使うことはないが,毛様溝挿入の場合は粘弾性物質で虹彩を前方移動させる.⑤チューブを刺入口から目的の部位に挿入する.PGIはBGIやCACPとは異なり,チューブの結紮やCSherwoodCslitの作成を必要としない.⑥つぎにチュ.ブを強膜に固定し,保存強膜でパッチする(保存強膜以外のパッチ材料で被覆したり,強膜内トンネルを使用したりする報告もあるが筆者らは経験がないので記載を割愛した).⑦その後ステントを輪部に固定し,結膜を修復して手術を終わる.ステントは術後の眼圧を見ながら抜去する.今回一例を除きすべて抜去し,その平均はC34C±25日であった.CIV手術成績2023年11月から2024年12月までの1年間に17例17表2PGIとBGI手術を受けた症例の術前術後眼圧経過術前1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後CPGICnC17C16C14C11C3眼圧値C35.5±9.2C18.2±8.4C13.4±5.2C16.8±6.0C12.0±2.8CBGICnC187C184C176C170C152眼圧値C33.9±10.9C19.3±10.8C16.2±6.3C14.4±5.3C14.0±4.7CANOVACpC0.561C0.692C0.115C0.155C0.455図2血管新生緑内障でPGIとなった症例Optos(Nikon東京)による眼底写真.汎網膜光凝固の凝固斑と高度の血管白鞘化を認める.眼のCPGI手術を行い,類似手術であるCBGI187眼の手術成績と比較した.術後眼圧経過を表2に示す.術後C1年までの眼圧はCANOVAで有意差を認めない.経過中に緑内障再手術に至ったものはなく,点眼数は術前C4.4C±1.5剤からC1年後にはC0.67C±1.2剤に減った.術後短期合併症としては浅前房がC2/17(11.8%),脈絡膜.離がC2/17(11.8%)認められ,前房への大量出血(前房洗浄を要したもの)がC1/17(5.9%),6カ月以内にC30CmmHg以上の高眼圧を起こしたものがC3/17(17.6%),.胞状黄斑浮腫がC1/17(5.9%)認められ,後期合併症としては水疱性角膜症をC1/17(5.9%)認めた.実際の症例を供覧する(図2,3).患者はC64歳,女性.2004年より両眼の糖尿病網膜症にて某眼科病院に通院し両眼の白内障手術,汎網膜光凝固,トリアムシノロン結膜下注射による治療を受けてきた,2022年11月,左眼に網膜中心静脈閉塞(centralCretinalCveinCocclu-sion:CRVO)を発症し,5回にわたる抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注図3PGIの術中写真チューブにC6-0プロリン糸を挿入している.射で治療されていたが,2023年C11月C14日に左眼の視力低下を訴え,左眼視力(0.04),虹彩に血管新生を認め,左眼眼圧C32CmmHgとなって血管新生緑内障の診断のもとに当院を紹介された.初診時にはアセタゾラミド内服,ラタノプロスト点眼でC35CmmHg,HbA1c8.2%であり,2023年C12月にCPGIを左眼毛様溝に挿入した.第C20病日にC24CmmHgとなりステント抜去.第C80病日には無点眼下に眼圧C15mmHg,左眼視力=0.03.7カ月後に左眼アフリベルセプト硝子体腔内注射,眼圧6mmHg.11カ月後には,左眼視力=0.01(0.03),眼圧は無点眼下にC8CmmHgで,瞳孔は正円であり,インプラントに関する合併症を認めない.CV考按PGIのチューブは細い.このことが術後眼圧を高くしないかが危惧されたが,表2に示すように術後眼圧データをみる限りその心配はあたらないように思われる.角膜内皮障害についてCPaulChew教授は「チューブが細いので前房に挿入しても内皮損傷の程度は軽い」としているが,今回はほとんどの症例で毛様溝挿入を行ったので,内皮の脱落がどのようになるかは今後の課題である.チューブが細いことによって眼内に差し込む場合の操作性も気になるところであるが,PGIの場合はチューブ内にC6-0プロリン糸が入っているので剛性が上がり,操作において違和感を覚えることは少なかった.逆に,細いので周囲組織への損傷は少ない印象であり,毛様溝挿入に伴う出血の頻度はC1/17と少なかった.安全性については症例を増やさなければ断定的なことはいえないが,17例という少数の経験に関する限り大きな問題はなかった.利益相反:トーメー(株)およびCAOI(シンガポール):FII文献1)Arora,CKS,CRobinCAL,CCorcoranCKJCetal:UseCofCVariousCGlaucomaCSurgeriesCandCProceduresCinCMedicareCBene.ciariesCfromC1994CtoC2012.COphthalmologyC122,1615-1624,C20152)BolandCMV,CCorcoranCKJ,CLeeAY:ChangesCinCperfor-manceofglaucomasurgeries1994through2017basedonclaimsCandCpaymentCdataCforCUnitedCStatesCMedicareCBene.ciaries.OphthalmolGlaucomaC4,C463-471.C20213)WilliamsPJHussainZ,PaauwMetal:Glaucomasurgeryshiftsamongmedicarebene.ciariesafter2022reimburse-mentchangesintheunitedstates.JGlaucoma33:59-64,C20244)YamamotoCTCSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20145)KashiwagiK,KogureS,MabuchiFetal:Changeinvisu-alacuityandassociatedriskfactorsaftertrabeculectomywithCadjunctiveCmitomycinCC.CActaCOphthalmolC94:Ce561-e570,C20166)BindlishCR,CCondonCGP,CSchlosserCJDCetal:E.cacyCandCsafetyCofCmitomycin-CCinprimaryCtrabeculectomy:.ve-yearfollow-up.OphthalmologyC109,C1336-1341,C20027)ChiharaCE,CChiharaT:OcularChypotensionCandCepiretinalCmembraneCasCriskCfactorsCforCvisualCdeteriorationCfollow-ingCglaucomaC.lteringCsurgery.CJCGlaucomaC30:515-525,C20218)HigashideCT,COhkuboCS,CSugimotoCYCetal:PersistentChypotonyCaftertrabeculectomy:incidenceCandCassociatedCfactorsCinCtheCCollaborativeCBleb-RelatedCInfectionCInci-denceCandCTreatmentCStudy.CJpnCJCOphthalmolC60:309-318.C20169)YamadaH,SawadaA,KuwayamaYetal:Blindnessfol-lowingbleb-relatedinfectioninopenangleglaucoma.JpnJOphthalmolC58:490-495.C201410)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyearC2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C202311)KohCV,CChewCP,CTrioloCGCeta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