●連載◯132監修=安川力髙橋寛二112OCTAを活用した無症候性の脈絡膜有馬武志日本医科大学眼科学教室新生血管への対処法脈絡膜新生血管(CNV)の第一選択の治療である抗CVEGF薬硝子体内注射の追加を決める際に,光干渉断層血管撮影(OCTA)が有用となることがある.本稿ではCOCTAの特性とCCNV治療へのCOCTAの活用法を概説する.光干渉断層血管造影(OCTA)のメリット・デメリット脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の診断・治療方針には,従来から行われているフルオレセイン蛍光造影(.uorescenceangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)だけでなく,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)が必須検査となっている.CNVの病型や病態を理解するためにCFA,IAを行い,抗CVEGF薬の硝子体内注射で滲出性変化を抑えながら長期マネージメントするのが一般的である.非侵襲的なCOCTを用いて網膜色素上皮(retinalCpig-mentepithelium:RPE)の隆起の有無を確認し,網膜内,網膜下やCRPE下のC.uid成分の増悪を確認して治療できる時代になってきた.しかし実臨床において,わずかな滲出性変化でも,恒久的な網膜外層のダメージが残ってしまう患者があることは事実である.これからのCNV治療には滲出性変化が悪化する前(無症候性の時期)に増悪する予兆をみつけ,早期治療を行う戦略が重要である.近年,検査領域でCOCTを用いて網脈絡膜の血管構造を層別に検出する新しい技術である光干渉断層血管造影(OCTangiography:OCTA)が登場し,CNVの治療戦略において新たなゲームチェンジャーとなる可能性がある.従来のCFA,IAと比較したCOCTAのメリットとしては,造影剤を使用する必要がなくショック・アレルギーの心配が不要な点と,撮影時間も短く網膜表層~深層の血管構造を層別に検出できる点があげられる.非侵襲的な検査のため頻回撮影して経時変化を捉えることも可能である.デメリットとしてはアーチファクトや画角の問題などがあり,今後克服すべき課題でもある.現時点でCOCTAは単独で診断や治療方針を決定する検査手法とはいいがたいが,補助的検査機器として(95)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY活用することでCCNVや網脈絡膜の虚血病変を正確に検出・病態を把握できる可能性は高い1,2).COCTAを用いたCNVへの対処法筆者らの網膜硝子体外来におけるCOCTAの活用の一例を紹介する.患者はC79歳,男性.5年前に右眼の滲出型加齢黄斑変性と診断され,視力,その他の自覚症状,OCTの所見の変化を基本とした必要時投与(proCrenata投与)でおおむねC3~4カ月おきの抗CVEGF薬硝子体内注射にて右眼矯正視力C0.4前後で推移していた.当院でCOCTA導入後に定期的に血管動態の観察を行っていたところ,視力,その他の自覚症状,OCT所見は不変であったが,OCTA上で血管網所見の増悪を認めた.前回の抗CVEGF薬硝子体内注射からC8週目で時期的には早かったが,患者に状況を説明して抗VEGF薬の追加投与を行ったところ,所見が改善しただけでなく,これまででもっとも良好な右眼矯正視力0.9が得られた(図1).このようにCOCTAを用いることで,自覚症状が生じる前にCCNVの病状の進行をとらえることができる可能性がある.OCTAは非侵襲的に脈絡膜レベルまでの血管動態を調べることが可能であり,OCTでは一見不変であっても,OCTAで追加検査することで微細な血管構造の変化をチェックし,より適切な時期に硝子体内注射を施行できるケースがあると思われる.しかし,OCTAの所見の解釈が確立していないことから,CNVの病態把握をC1枚のCOCTA画像でできると考えるのは,やや早計であろう.筆者が考えるCOCTA活用の大事なポイントは「変化」を捉えることである.経時変化を捉えるために,定期的に時間をおいてCOCTAを撮影し,網膜深層での微細な変化が生じてくれば,OCTや視力その他の自覚症状の変化と総合的に見比べて評価すればよいのである.一度あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023807ab図1OCTAの経時変化に伴う血管構造の変化および治療後の変化同一症例の経時的なCOCTAの画像を示す.Ca:定期的な抗VEGF薬硝子体内注射により安定していた時期のCOCTA.網膜外層~脈絡膜の領域に血管網を疑う高輝度所見を認める.b:患者の視力,その他の自覚症状に変化はなく抗VEGF薬硝子体内注射後からC8週目であり,OCTでもCRPEの形状に変化は認めない.しかしCOCTAでは網膜の深層部で血管網の増悪所見(C..)を認める.Cc:抗CVEGF薬硝子体内注射を追加したところ,所見の改善を認め(C..),視力がさらに改善した.のCOCTAの所見にとらわれずに数回のCOCTA画像を比較することが大事である.自覚症状やCOCT所見がない時期に,OCTAからCCNVの治療を開始すべきタイミングを導き出せれば,今後多くの患者の福音となる可能性がある.また近年,抗CVEGF薬硝子体内注射の治療法に新たに抗CVEGF+アンジオポエチンC2(angiopoi-etin-2:Ang-2)阻害薬が登場し,今後期待されている.Ang-2は網脈絡膜血管において血管内皮細胞とペリサイトの離脱に関与している.Ang-2阻害により,ペリサイトは血管内皮細胞に強固に接着することで新生血管の足場をブロックする.VEGFだけでなくCAng-2も抑制することで新生血管を抑制するだけでなく,ペリサイトと血管内皮細胞の接着を促進して血管の安定化が得られる.動物実験レベルでの新生血管においても,Ang-2の増減に伴い,ペリサイトが離脱した血管構造の病理画像は有意な所見として観察される3).実臨床においても抗CVEGF+Ang-2阻害薬の普及により,今後は網脈絡C808あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023膜血管の構造変化を観察することが治療の効果判定に有用となる時代が来る可能性が高い.FAやCIAのように蛍光漏出の影響を受けないので,理論的にはCOCTAを用いてCAng-2の影響による血管構造の変化を捉えることが可能であると思われる.今後,こういった新たな治療方法の評価の補助にもCOCTAが有効となる可能性が高く,より詳細な調査が期待される.文献1)TakasagoCY,CShiragamiCC,CKobayashiCMCetal:MacularCatrophy.ndingsbyopticalcoherencetomographyangiog-raphyCcomparedCwithCfundusCauto.uorescenceCinCtreatedCexudativeage-relatedmaculardegeneration.CRetina39:2,C20192)IkebukuroCT,CIgarashiCT,CKameyaCSCetal:OpticalCcoher-enceCtomographyCangiographyCofCnonarteriticCcilioretinalCarteryCocclusionCalone.CCaseCRepCOphthalmolCMedC27:C8845972,C20213)ArimaCT,CUchiyamaCM,CShimizuCACetal:ObservationCofCcornealCwoundChealingCandCangiogenesisCusingClow-vacu-umscanningelectronmicroscopy.TranslVisSciTechnol9:14,C2020(96)