考える手術⑲監修松井良諭・奥村直毅涙小管炎の手術岩崎明美大多喜眼科涙小管炎では,涙小管内に菌石や涙点プラグなどが存在する.典型的な症状は片眼の結膜充血,眼脂,小型の乳頭増殖を伴う慢性結膜炎,涙点周囲の皮膚発赤や腫脹である.涙点内に膿や菌石の白い塊が見え,涙小管部分を圧迫すると眼脂や菌石が出る.ときに涙点から炎症性肉下種(ポリープ)が出現する.通水テストでは通水可能な場合が多く,菌石,眼脂,血液の逆流がみられることもある.治療は菌石の除去である.涙道内視鏡がない施設や涙道が専門でない医師でも簡単にできる.通水が不可能(涙道閉塞がある)で流涙の治療希望がある場合去である.①麻酔は,内眼角の少し上のくぼみ(眼球と上顎骨前涙.稜の間で,内眼角腱の上約5mmの部分)に30ゲージ1/2インチ(12mm)強膜固定用針を垂直に根元まで挿入するか,27ゲージなどの針を約1cm挿入し,必ず逆血を確認してから1%または2%キシロカインを1.2.ml入れる.針を抜いたあとに刺入部を数十秒間圧迫する(眼球圧迫をしない).ベノキシールで点眼麻酔後,点眼用キシロカイン4%0.5ml程度を病変側の涙点から1段針を使って注入し,通水の要領で涙道内麻酔を行う.②涙点にスプリング剪刃の片刃を挿入して約3.5mm鼻側に切開する(明らかに耳側が膨らんでいたら耳側を切ってもよい).③綿棒や鑷子などで菌石を圧出する.石が出なくなったら,キシロカインゼリー0.3ml位を涙小管の少し奥側から涙道内に入れるとゼリーと一緒に菌石が出てくる.圧出とゼリー注入を繰り返し,菌石が出なくなるまで繰り返す.涙点近傍と総涙小管手前に菌石が残りやすいので注意する.最後は涙管洗浄を上下ともに行う.聞き手:放線菌や菌石とはなんですか?いので,皮下注射でもよいですか?岩崎:放線菌は口腔内に常在する嫌気性菌です.放線菌岩崎:滑車下神経麻酔は注射時に少し疼痛があり,ときは菌石を作り,涙小管内腔を広げ,炎症性肉芽腫(ポに球後出血が起きますが,眼球に当てなければ大きなトリープ)を作ります.菌石は周囲に炎症細胞と放線菌のラブルもなく,第一選択です.涙小管周囲への皮下麻酔菌糸があり,中央にはムコ多糖類やムチン,カルシウムでも処置可能ですが,疼痛が残ることがあります.涙道が沈着しています.内麻酔は喉や鼻粘膜に麻酔がかかるので使用を最小限にし,喉の違和感は30分で改善することを伝えます.聞き手:滑車下神経麻酔も涙道内麻酔もやったことがな(77)あたらしい眼科Vol.40,No.7,20239250910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:涙小管はハサミで切って大丈夫ですか?岩崎:片側涙点と涙小管の一部を切除しても,術後流涙はほとんど増えません.多くの場合,涙点拡張しなくてもスプリング剪刃を挿入できます.涙道処置全般にいえることですが,患者に耳側を見てもらい,瞼を耳側に引っ張り固定した状態で行うとやりやすいです.また,涙点から肉芽腫が出ている場合は,鑷子で引っ張り単純切除しても問題ありません.聞き手:菌石除去のポイントはありますか.岩崎:しつこく取ること(笑).マイボーム腺圧出鑷子が便利ですが,圧出できればなんでもかまいません.涙小管径は5mm以上に広がり,涙点から耳側にも石がたまることもあります.指で触って硬い取り残し部分がないか確認します.涙小管の中に鋭匙を入れる涙小管掻把は,石が残りやすいのと粘膜やポリープを傷つけて涙小管閉塞を起こすことがあり,私は圧出のほうが好きです.聞き手:キシロカインゼリーは必要ですか?岩崎:必須ではありませんが,便利です.動画のように,圧出では出なくても,ゼリーを入れるとゼリーの逆流に合わせて涙点が自然に広がって石が出てきます.白内障手術でのビスコエクストラクションと同じです.ゼリーの屈折が違うため,涙点内に残存している菌石の様子がよく見えることも利点の一つです.アレルギーなどでゼリーを使えない場合は生理食塩水で洗浄しますが,涙点を鑷子で把持して広げます.鼻涙管側より涙点側のほうが広くて圧が少ない状態にするのがポイントです.聞き手:キシロカインゼリーはどう準備すればよいですか?岩崎:涙管洗浄針の1段針または20.24ゲージの血管留置針外筒がお勧めです.ペットボトルの蓋のような容器にゼリーをいれ,2.5ml位のシリンジで2ml吸い,シリンジ先端についたゼリーをガーゼで拭き,しっかりab接続して使います.聞き手:涙管チューブは入れなくてもよいのですか?岩崎:涙小管閉塞などを伴っているときは涙管チューブも挿入していますが,通水可能な場合や,通水不可能な場合でも高齢などの理由でとりあえず涙小管炎を治したい場合には,涙管チューブを入れる必要はありません.聞き手:培養や病理に出しますか?岩崎:涙小管炎では放線菌や他の菌,ときにカビが混在しています.放線菌は嫌気性菌なので,培養には嫌気性菌専用の容器が必要で手間がかかります.放線菌の確定診断をしたい場合は,菌石をつぶして綿棒などで周りに広げて塗抹標本を作ると放線菌らしい菌糸が確認できます.菌石をホルマリンにつけて病理でわかることがあります.涙小管炎自体は悪性ではないので培養や病理などは必須ではありません.聞き手:手術の診療報酬点数を教えてください.岩崎:K199涙点,涙小管形成術660点とL006球後麻酔および顔面・頭頸部の伝達麻酔(瞬目麻酔および眼輪筋内浸潤麻酔を含む)150点に薬剤を請求できます.病理などに出した場合は別途追加で請求できます.聞き手:術後管理はどうしたらよいですか?岩崎:滑車下神経麻酔で複視や眼瞼下垂が生じるので,抗菌薬軟膏を点入して眼帯を5時間します.抗菌薬の内服3日間,点眼は抗菌薬を1カ月くらい,また涙道内には結構ポリープがあるので0.1%フルオロメトロン点眼3回を2カ月使用しています.私は術後1週,その後は2週間ごとくらいに2カ月は涙管洗浄をしています.1段針を使用して生理食塩水5mlくらいでよく洗います.1週間位で結膜炎は治りますが,治らないときは菌石が残っている可能性があります.改善しないときは再度治療を考慮します.c図1涙小管炎の手術・必要物品まとめ2.5mLシリンジ3本a:涙小管炎の前眼部写真.(涙道内麻酔,麻酔の注射,ゼリー用)b:右下涙小管炎と滑車下涙管洗浄針1本細めの鋭針神経麻酔の部位の模式図.ハサミ(スプリング剪刀)マイボーム腺圧出鑷子(押すもの)青実線は眼球,青点線は眼ドレープ,不織布やガーゼ窩,オレンジの線は内眼角眼帯,テープ腱上縁.眼球と眼窩の間でベノキシール4%点眼用キシロカイン内眼角腱の上5mm位のく1または2%キシロカインキシロカインゼリー2%ぼみ部分に麻酔をする.c:手術に必要な道具.926あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023(78)