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2023年6月30日 金曜日
インフォームド・コンセント先進国としての米国の歴史と現状InformedConsentintheUnitedStatesasaDevelopedCountry:PastandPresent後藤聡*はじめに医師や看護師,研究者らが患者や被験者(対象者)に対して治療および研究内容の説明を行い,対象者の同意が得られたうえで,治療や治験を開始するというインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)のプロセスは,今では日本の医療や臨床研究の現場において,一般的なものとなった.ICは医療を受ける患者の権利に関するものであると同時に,臨床研究における被験者の権利を守るための原理にもなっているが,社会構造や疾病概念,医療行為の多様化に伴って,現在も継続された議論が続けられており,変化と発展の途上にあるといえる.本稿では,ICの先進国とされる米国におけるCIC確立の歴史と現状について述べる.CI医学研究におけるICの歴史1964年に世界医師会総会において採択された「ヘルシンキ宣言」は,医学研究においては被験者本人の自発的同意,すなわちICが不可欠であるとする研究倫理を確立した1).「ヘルシンキ宣言」は,第二次世界大戦終結後に制定されたC1947年のニュルンベルク綱領をもとにしている2).ナチス・ドイツの戦争責任を戦勝国が追及した法廷がニュルンベルク裁判であり,この裁判の判決のなかで「許可できる医学実験」と題された部分が「ニュルンベルク綱領」といわれる.その冒頭では「許容できる医学の実験においては,被験者の自発的同意が絶対に必要である.これは被験者が,同意を与える法的能力をもっていること,強制がない状況で,自由な意志で選択できること,実験内容を十分に理解していることを含む」と述べられ,研究目的の医療行為を行うにあたって厳守すべきC10項目の基本原則が示された.さらに,2000年のエディンバラ改訂後は,正式名称が「ヘルシンキ宣言人を対象とする医学研究の倫理的原則」となり,医学研究を治療的要素の有無によって区別しないこととした.これによってCICは,臨床研究と非臨床研究の双方に適用されるものになった.CII米国のIC確立の歴史米国でCICという言葉が初めて使われたのは,1957年のカルフォルニア控訴裁判所によるCSalgo判決においてであった3).原告は,歩行時に足の痛みを感じ,その痛みは徐々に広がっていったため,サンフランシスコの南に位置するスタンフォード大学病院を受診し,腹部大動脈の循環異常を疑われ,大動脈造影が実施された.しかし,検査の翌日,原告の脚全体の麻痺が発見され,その状態は改善することはなかった.原告は大学病院と担当医師らを医療過誤であるとして訴えた.裁判所は原告の訴えを認め,医師が行った医療行為について,患者が同意するための必要な情報を説明しなかったと述べた.Salgo判決は,開示義務を論ずる中で「IC」という表現を米国で初めて使用し,「ICに必要な事実を十分に開示すること」と述べたが,どの程度の情報開示が必要かという点において,患者の状況を考慮に入れるべきと述べ*SoGoto:カルフォルニア大学バークレー校オプトメトリー〔別刷請求先〕後藤聡:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(79)C7911960年2020年0.53.2■白人■黒人■アジア■ヒスパニック図1国勢調査結果に基づく米国における民族の割合(%)の一つとして言語の問題があげられる.ヒスパニックは米国最大のマイノリティグループであるが,英語以外の言語においてスペイン語が一般的に話される言語のうち62%を占めている.米国の国勢調査の結果によると,英語以外の言語を話す人は,1980年には約C10人にC1人の割合だったが,2019年には約C5人にC1日(3億C2,830万人中のC6,780万人)に増加した.このように,多様な人種・民族から構成される米国ではマイノリティが臨床試験の内容を理解できるよう配慮が必要となる.2010年には米国連邦議会による「患者保護ならびに医療費負担適正化法」の制定により,HHS内の六つの組織にそれぞれマイノリティ健康・健康公平事務室が設置された.そのうちの一つは,医薬品行政を担う食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)内に設けられた.FDAはマイノリティが臨床研究に参加することやその際のCICの重要性について,明確な声明を示している.CIV米国のICの現状21世紀以降,コンピュータサイエンスや通信技術,イメージングなどの技術革新により研究の規模と特性が劇的に変化している.2003年に完了宣言がなされ,2022年に完全解読が達成されたヒトゲノム計画が精密医療(precisionmedicine)へと導かれ,個人の特定を可能にする膨大なデータが多数の人々に共有しうるようになり,病院や研究機関の診療環境の中で,電子化された診療情報,バイオバンクや大規模データベースの既存試料・情報を活用する研究がますます増加している.そのような時代の中で,身体的リスクのみならず情報リスクについての比重が高まっており,2017年には連邦政府の助成金を受ける「人を対象とする研究」に適用される国家研究法(NationalCResearchAct)に基づく「研究対象者保護規則」が全面改正された7).現在,研究対象者保護規則を管轄するのは研究対象者保護局(O.ceCforCHumanCResearchProtections:OHRP)である.研究対象者保護規則の基本構成は,「respectCforpersons(人権の尊重)」の原則から導かれるCICの要件,研究計画に対する「risk-bene.tassessment」を責務とする倫理審査委員会(InstitutionalCReviewBoard:IRB)の機能である.続いて,典型的な「弱者」と位置づけられる研究対象者における各類型に特異的なCICの要件と,より高いCbene.t/risk比を要件とする考え方が規定されている.2017年の改定による最大の変更点は以下の三つである.1)IC文書の公開規定が設けられ,2)「広範囲な同意」の要件およびこれに基づく情報・試料の二次利用の要件が規定され,3)多施設研究のCIRB審査を一つの承認に依拠すべきと義務づけた.さらに「個人特定可能なプライバシー情報」と「個人特定可能な人体試料」を定義し,これらについても保護の対象とした.また,それら情報・試料の二次利用や保存以外にも,教育学的研究など,主として情報リスク以外のリスクが低い研究については,プライバシー保護のための限定的な規定を設けたうえで,本規則全体を遵守することは例外的に免除する扱いとなった.教育学的研究についての説明の中で,免除規定を設ける一方で「研究対象者に通知することによってオプトアウトの機会を提供する」ことを要件としなかった理由として,手続き的負担を増大させるため,と説明されている7).CV米国におけるヒト胚研究規制ヒト胚研究を規制する連邦法は現時点では存在しないが,人間を対象とする研究に参加する機関や施設は,被験者を保護する目的で作成されたCProtectionofHumanSubjects(45CFR46)に従う必要がある8).国立衛生研究所(NationalCInstitutesCofHealth:NIH)からの助成を受ける研究には,NIHガイドラインという形で助成金の適応範囲を定める法規制がかけられ,いくつかの厳格な手続きが必要である.一方,ヒトCES細胞を使用する研究はCNIHの研究助成の対象であり,オバマ大統領時代には樹立も対象となったことで,NIHはヒトCES細胞の研究ガイドライン(連邦官報C65FR51975)を作成した.米国科学アカデミー(NationalAcademyofScienc-es:NAS)のガイドラインとともに,ヒトCES細胞研究を審査する仕組みは明確であり,各機関のCIRB,Embry-onicCStemCCellCResearchCOversightCCommittee(ESCRO),InstitutionalCAnimalCCareCandCFacilitiesCommittees(IACUC)で審査を行う必要がある.(81)あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023C793電子署名での同意書紙媒体の同意書図2使用頻度が増している電子署名の同意書と従来使用されてきた紙媒体の同意書の例
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2023年6月30日 金曜日
過去の裁判例・紛争例から検討するインフォームド・コンセントExaminationofInformedConsentBasedonPastCourtCasesandDisputeCases峰村健司*はじめに日本眼科医会眼科医事紛争事例調査(2022)1)によると,2018.2020年に調査された眼科医事紛争事例の約3分の1を白内障手術関連の紛争が占めており,白内障手術におけるインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)は医事紛争予防のために重要と考えられる.しかし,白内障手術における説明義務が論点とされ,実際に訴訟を提起されて判決に至り,判決文が公開された事例は多くない.本稿では,まず医療訴訟における医師の説明義務の規範について概観し,ついで2001年以降に提起された,説明義務が問題となった白内障手術(7例)および後発白内障手術(1例)の訴訟事例を紹介し,最後にそれらに対する考察を行う.I医療訴訟で問題とされる医師の説明義務の規範医療訴訟で問題とされる医師の説明義務は,患者が,自身が受ける治療について自ら比較検討のうえで決定できるようにし,それにより患者の自己決定権を保証するための義務である.その内容は,①病名および病状,②実施予定の治療の内容,③実施予定の治療に付随する危険性,④他に選択可能な治療方法があればその内容と利害得失,⑤予後,であることが2001年の最高裁判例2)で判示され,その後の医療訴訟では原則としてこの基準に沿って判断されている.危険性の説明については,「出現頻度の高い合併症や症状の重篤な合併症が対象」であり,「無数にある合併症のすべてを説明することを求められるものではない」と判示した裁判例もある3).しかし,個々の事例における説明義務の内容の判断は,裁判官の裁量によって変化し,画一的な基準を提示することはむずかしい.II白内障手術におけるICを問題とされた訴訟の判決以下の紹介では,訴訟内容のうち説明義務に関係する部分のみを摘示し,説明義務に関係しない手技上の過失などについては言及しないものとする.1.東京地裁平成20年(ワ)第30183号事件(平成22年8月30日判決)4)50歳,男性.両眼小眼球症患者の左眼白内障手術.左眼術前視力は0.04(矯正不能),右眼はそれ以前に失明していた.術前にZinn小帯断裂を認めていたため,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)毛様溝縫着術が予定され,予定通り施行された.術後矯正視力は(0.4).その後,縫着部位から増殖硝子体網膜が発生し牽引性網膜.離をきたし,後医で硝子体手術を施行されたが最終的に失明した.裁判で原告は,白内障手術についての術前説明がなかったこと,術後合併症の有無とその頻度,IOL毛様溝縫着により術後に網膜.離を生じて失明する可能性があることなどを説明する義務があったことなどを主張した.*KenjiMinemura:こはら眼科,順天堂大学医学部病院管理学〔別刷請求先〕峰村健司:〒180-0006東京都武蔵野市中町1-4-4スクゥアー三鷹ビル1階こはら眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(73)785判決では,診療録の記載に基づき,IOL縫着の必要があることが説明され,担当医から説明を聞き十分に納得了承したことが記された手術承諾書に署名して提出されていたことが認められた.一方,白内障手術によって網膜.離による失明の可能性が高まったとは認められず,その点を説明する義務はなかったと判断された.なお,判決では,後医における網膜.離に対する硝子体手術に関する過失のため,後医について70万円の慰謝料が認められた.2.東京地裁平成23年(ワ)第40436号事件(平成24年6月21日判決)5)83歳,男性.硝子体黄斑牽引症候群による限局性網膜.離を合併した右眼白内障に対する白内障および硝子体の同時手術.術前矯正視力(0.1).術後最高矯正視力は(0.2),その後加齢黄斑変性発症のため,他院に紹介された.裁判で原告は,白内障に関する説明も,また原告の右眼が白内障であったとの説明も受けていないなどと主張した.なお裁判は,原告に代理人弁護士がつかないまま進められた.判決では,診療録の記載に基づき,手術の主目的は硝子体黄斑牽引症候群の進行予防であること,視力改善の程度は不明であること,白内障にも罹患しており同時手術を行うことなどが説明されていたと認められ,また,提出された承諾書に,現在の病状および手術の必要性とその内容,危険性などについて十分な説明を受け理解し実施を承諾する旨が記載され,原告および妻の署名押印がされていたことから,説明義務違反は認められなかった.3.横浜地裁平成24年(ワ)第1426号事件(平成29年1月19日判決)6)57歳,女性.近視矯正手術を希望して被告眼科を受診したところ,矯正視力は両眼とも(0.7),両眼白内障を指摘され手術を施行され.問題なく終了した右眼に続いて行われた左眼手術の際に後.破損が発生し,IOLは.外に挿入された.術後最高矯正視力は(0.6)であったが,虚血性視神経症を発症し(0.2)まで低下し固定した.裁判で原告は,後.破損などのため術前より視力が低下する危険性についての説明が一切なかったと主張した.判決では,診療録や承諾書に説明内容の記載はないものの,承諾書に「手術中,止む負えない合併症については,いかなることが発生しても一切異議を申し立てないことを承諾します」(原文のまま)との記載があり,原告はこれを持ち帰り,合併症について質問することなく数日後に署名押印して提出していることから,被告医師は少なくとも合併症の存在については説明をしたものと考えるのが自然であると判断された.4.東京地裁平成25年(ワ)第33208号事件(平成27年9月30日判決)7)67歳,男性.糖尿病網膜症,黄斑浮腫,緑内障を合併した右眼白内障手術.術前矯正視力は(0.5).術後最高矯正視力は(0.9)となったが,術後50日で虹彩新生血管を認め,血管新生緑内障が進行して失明した.裁判で原告は,白内障手術の施行により糖尿病網膜症から血管新生緑内障が続発し,失明に至る危険があることを説明すべき義務があったと主張した.判決では,小切開白内障手術では糖尿病網膜症が進行する危険は低下しており,白内障手術が糖尿病網膜症から血管新生緑内障を続発させる危険因子であるという見解が確立していたとはいえず,その点について説明する義務があったとは認められなかった.5.東京地裁平成26年(ワ)第23739号事件(平成29年7月27日判決)8)75歳,男性.糖尿病網膜症および緑内障合併眼の白内障手術.術前矯正視力は右眼(0.2),左眼(0.4).糖尿病網膜症に対し網膜光凝固を行う必要があるが,眼底透見困難であり,白内障手術を速やかに行う必要があると判断された.術後に糖尿病網膜症および緑内障が進行し,最終的に右眼は失明し,左眼は矯正視力(0.7)となった.裁判で原告は,病名,病状,網膜光凝固術をすることなく白内障手術をする理由,その場合の失明などの危険性などを原告に説明し,判断する機会を与える義務があ786あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(74)ったこと,および原告が当時75歳と高齢で理解力に欠けていたので,家族に対しても説明する義務があったなどと主張した.判決では,診療録や承諾書などの記載に基づき,被告医師は術前に糖尿病の状態がかなり悪いこと,術後炎症が取れ次第網膜光凝固を施行する必要があること,視力がよくなるとは限らないことなどを説明していたと認められた.また,手術に際して患者が意思能力を欠く状態であったとは認められず,家族に対して説明をする義務はなかったと判断された.6.東京地裁平成28年(ワ)第22464号事件(平成30年7月5日判決)9)60代,女性.両眼白内障手術目的に近医から紹介され,術前矯正視力は右眼(0.3),左眼(0.15).両眼強度近視かつ左眼に中心窩分離症を認めたが,明らかな硝子体牽引は認めなかった.両眼白内障手術を施行され近医に戻された.術後最高矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.8).その後,左眼に黄斑円孔網膜.離を発症し,他院で硝子体手術を施行されたが,円孔は閉鎖せず左眼矯正視力は(0.1)となった.裁判で原告は,白内障手術を行った医師には,原告の左眼の状態について説明し,黄斑円孔網膜.離を発症する前に,硝子体手術および中心窩分離症に対して適切な管理ができる医療機関を紹介する義務があったと主張した.判決では,診療録などの記載に基づき,被告医師は左眼の状態について,光干渉断層計検査などの結果を踏まえ,黄斑分離,黄斑円孔網膜.離の危険性などを原告に説明し,また紹介元には診療情報提供書などを通じて,原告の左眼の状態や今後起こり得る合併症などについての情報を提供していることから,合理的な対応がなされていたと判断した.7.東京地裁平成29年(ワ)第42453号事件(令和3年4月30日判決)10)80歳,男性.両眼加齢黄斑変性合併眼の白内障手術.術前矯正視力は右眼(0.02),左眼(0.3).右眼手術ではZinn小帯脆弱が認められたが問題なく終了した.左眼手術ではZinn小帯断裂および後.破損をきたし,IOLを挿入せずに終了した.術後に眼圧が上昇し,前房穿刺を複数回施行され,また眼圧下降薬を処方された.後日IOL縫着術を施行されたが最終的に失明した.裁判で原告は,術中・術後の合併症について説明がなく,とくに左眼はZinn小帯脆弱のため難易度が高いこと,Zinn小帯断裂や後.破損を発症しIOLを挿入できない可能性,術後眼圧上昇などの危険性の説明,手術を実施しない場合の利害得失の説明をされなかったと主張した.一方被告は,診療録の記載の通りそれらの説明を行ったと主張した.判決では,診療録の記載の体裁,被告医師の証言などに基づき,診療録に記された説明内容について,事実認識とは異なる内容を後から記載した改ざんであり,実際には適切な説明がなされていなかったと判断された.そして説明が適切に行われていれば,原告は手術を受けることはなかったと判断され,全損害として960万円余りの賠償を命じた.8.東京高裁平成26年(ネ)第956号事件(平成26年9月18日判決)11)74歳,女性.公的健康診断を受けた当日に後発白内障に対するYAGレーザー後.切開術を施行された事例.術前矯正視力は右眼(0.6),左眼(0.6),術翌日矯正視力は右眼(0.7),左眼(0.8).右眼眼内レンズにピットが一つ認められた.裁判では,治療によってIOLにピットを生じる可能性を説明されず,自己決定権を侵害されたと主張した.被告医師は,看護師が説明手順書を用いて網膜.離やIOL破損の可能性についても説明したなどと主張した.一審は原告が敗訴したが,控訴審判決では,看護師が使用した後発白内障クリティカルパス記載の説明内容欄に,重篤な合併症はまれであるとの記載があるものの,網膜.離やIOL破損などの具体的な記載がなく,これらを説明したと認めることはできないと判断された.よって原告は十分な説明を受けないままに治療を決定することになり,自己決定権が侵害されたとして55万円の賠償を命じられた.(75)あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023787III考察まず目につくことは,書面による記録の重要性であろう.説明書や承諾書には当該手術一般の説明が書かれていることが基本と思われるが,事例3においては,診療録や承諾書に具体的な説明内容の記載がなくとも,手術中のやむを得ない合併症について一切異議を申し立てない旨が承諾書に書かれていることから,説明がなされたことが推認されているほどである.事例3の承諾書の文言は現代において参考にすべきではないと思われるが,書面による記録の重要さの証左にはなると考える.一方で説明内容について厳しい判断がなされる例も散見する.事例7ではカルテ改ざんを認められた以上,説明が不十分であったと認められたことは裁判の判断としては不自然ではないと思われる.事例8では説明内容不備を厳しく認定して賠償を認めたが,そもそも健康被害が事実上認められていない事例において説明義務違反による自己決定権の侵害を認めることは,通常の司法判断ではあり得ない.先に述べたように,画一的な対策を立てにくい所以である.事例1.7のうち,トラブル要因となる術前合併症を認めない通常の白内障手術例は事例3のみである.筆者が知る白内障手術関連訴訟の中には,術前に特段の合併症を認めていない通常の白内障手術で,術後細菌性眼内炎で失明に至るなど,重篤な予後をきたした事例が複数例あるが,そのうち説明義務違反を問われた訴訟例は事例3のみである.事例3のように説明内容の記録が一切ない事例は別として,一般的な事例では定型的な白内障術前説明がなされていて,原告としても説明義務違反を問うことはむずかしいと考えるからであろうと推察している.逆に,事例1,2,4.7からわかるように,トラブル要因を合併した眼の白内障手術事例では,その要因についての説明の適否を追求されやすいことがわかる.これは定型的な説明書ではカバーできない部分であり,適切に説明していない場合や,説明したことを診療録に書き残さない場合があるからであると考えている.紹介した事例にみられるように,裁判では厳しい判断をされるとは限らないが,紛争予防の観点からは,トラブル要因となりうる合併症についても説明し,説明したことを記録に残すことが望ましいし,できれば承諾書に追記する仕組みを構築しておくのがよいと考える.なお,多焦点IOLに関する訴訟事例は,これまで筆者は確認していない.しかし筆者は,多焦点IOLの特性を説明せずに使用して紛争になった事例について弁護士から意見を求められた経験がある.また,ある都道府県医師会の医事紛争関連委員会の法律家委員からは,多焦点IOLはそれ自体が過失前提の医療機器であると考えている旨を聞かされた経験もある.説明内容については他稿に譲るが,使用に際しては慎重な説明が必要であると考える.おわりに説明義務をめぐる司法判断は裁判官によってばらつきがあり,画一的に対策を立てることはむずかしい.一般的な術前説明に加えて,個々の患者の眼の状態に応じた追加の説明を行い,説明内容を記録し,また記載した説明書を交付し承諾書を受領することが,紛争低減に資するものと考えられた.文献1)眼科医事紛争事例調査(平成30年度・令和元年度・令和2年度)の結果と診療上の留意事項について.日本の眼科93:1444-1446,20222)乳がんの手術に当たり,当時医療水準として未確立であった乳房温存療法について医師の知る範囲で説明すべき診療契約上の義務があるとされた事例.判例タイムズ1079:198-203,20023)事件番号平成23年(ワ)第40103号事件,ウエストロー(判例データベース)収載4)眼内レンズの縫着部位を誤った過失や眼内に強膜プラグを残置した過失などがあるとして,損害賠償を求めた事例.医療判例解説35:113-137,20115)ウエストロー(判例データベース)収載6)術後管理義務違反により白内障手術中または術直後に発症した虚血性視神経症が不可逆手的になり視力低下したとして損害賠償を求めた事例.医療判例解説69:68-85,20177)峰村健司:糖尿病網膜症患者の白内障術後に,新生血管緑内障を発症して最終的に失明したことについて,診療義務違反および説明義務違反等が争われた訴訟.眼科グラフィック8:103-109,20198)峰村健司:糖尿病網膜症かつ緑内障眼につき,白内障術後に失明したことに対する責任が争われた訴訟.眼科グラフィック8:211-216,2019788あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(76)
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2023年6月30日 金曜日
臨床研究のインフォームド・コンセントInformedConsentinClinicalResearch八木彰子*岩江荘介**宮田和典*はじめに医学・医療分野の研究の大半は,政府が策定した「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」1)(以下,倫理指針)の対象である.ただし,人を対象としたものでも,再生医療は再生医療法で,医薬品や医療機器を使って有効性や安全性の検証を目的とするものは臨床研究法で,また国による承認や適応拡大をめざすいわゆる治験は医薬品,医療機器等に関する法律(薬機法)で,別々に規制されている.いずれの規制でも,研究計画の科学的妥当性,倫理的妥当性について法律あるいは倫理指針が規定する委員会で審査と承認を受け,実施施設の責任者による実施許可を得る必要がある.それらを経て初めて,研究対象者からインフォームド・コンセント(informedconcent:IC)を取得することも,研究を開始することも,データ解析や論文作成もできるのである.そのICであるが,大きく分けて「文書説明・文書同意(以下,文書IC)」「口頭説明・同意記録(以下,口頭IC)」および「通知または公開(通知・公開)」(通知・公開に研究参加拒否の機会の保証を付加したものが,いわゆる「オプトアウト」である)の3種類がある.研究倫理の原則では文書ICが基本であり,可能な範囲で対応すべきである.とくに,研究目的の医薬品投与や穿刺などの侵襲のある研究では文書ICが必須である.ただし,研究の内容や状況によっては,別の方法により研究対象者の意思確認を行うことができる(図1~3).たとえば,いわゆる後ろ向き研究など日常診療で蓄積されたカルテ情報を二次的に利用するだけの研究であれば,一定の条件を満たせば「通知・公開」によって文書ICに代えることができる.しかし,文書ICを取得しなくてよいからといって,適当な内容の研究概要を,適当な場所に公示することでよいわけではない.この「通知・公開」あるいは「オプトアウト」を行うにも充足すべき要件があり,実施上の注意点もある.「カルテ情報を使用する研究」は,開業医にとって実施しやすい研究であり,観察研究の中でもその割合はそれなりに多い.以下,カルテ情報を使用する場合のICについてのキーポイントを述べる.I既存資料・情報とはカルテ情報は,元々は診療目的で取得された情報であるため,倫理指針では「既存試料・情報」とされ,以下のように定義されている.「試料・情報のうち,次に掲げるいずれかに該当するものをいう.①研究計画書が作成されるまでにすでに存在する試料・情報,②研究計画書の作成以降に取得された試料・情報であって,取得の時点においては当該研究計画書の研究に用いられることを目的としていなかったもの」1)①は,すでに実施した研究のデータや保存検体,記載済のカルテ情報や残余検体が該当する.いわゆる「後ろ向き観察研究」で使用する試料・情報はこれに当たる.*AkikoYagi&KazunoriMiyata:宮田眼科病院**SosukeIwae:宮崎大学〔別刷請求先〕八木彰子:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(67)779はい文書ICいいえはい文書IC口頭IC+記録いいえはい文書IC口頭IC+記録いいえはい文書IC口頭IC+記録図1新たに試料・情報を取得して研究を実施する場合フローチャートは文献2を参考に指針の規定をわかりやすく示したものであり,網羅的に反映したものではない.はい通知または公開いいえはいオプトアウト可いいえ文書IC口頭IC+記録図2既存情報を用いて研究を実施する場合フローチャートは文献2を参考に指針の規定をわかりやすく示したものであり,網羅的に反映したものではない.いいえ文書IC口頭IC+記録はいはいオプトアウト可いいえ提供不可図3他の研究機関に既存情報を提供する場合フローチャートは文献2を参考に指針の規定をわかりやすく示したものであり,網羅的に反映したものではない.公開(HP)この研究にご協力いただけない場合は,問い合わせ先まで連絡ください.ご協力いただけなくても,患者さまの不利益は生じませんのでご安心ください.図4オプトアウトの例表1通知・公開に記載する事項1.試料・情報の利用目的及び利用方法(他の機関へ提供される場合はその方法を含む)2.利用し,又は提供する試料・情報の項目3.利用又は提供を開始する予定日4.試料・情報の提供を行う機関の名称及びその長の氏名5.提供する試料・情報の取得の方法6.提供する試料・情報を用いる研究に係る研究責任者(多機関共同研究にあっては,研究代表者)の氏名及び当該者が所属する研究機関の名称7.利用する者の範囲8.試料・情報の管理について責任を有する者の氏名又は名称9.研究対象者等の求めに応じて,研究対象者が識別される試料・情報の利用又は他の研究機関への提供を停止する旨10.9の研究対象者等の求めを受け付ける方法(文献1より引用)III通知または公開+オプトアウトの実際オプトアウトは患者に研究参加拒否の機会の保証することで,「あなたのデータをこの研究に使用したくない場合はいつでも窓口に申し出てください」という記載が該当し,常に「通知・公開」とセットになっている.通知は研究概要を個人配布することで,公開は研究概要を院内掲示またはホームページ掲載することであり(図4),通知・公開すべき内容は倫理指針に規定されている(表1).また,公開とは「研究対象者等が容易に知り得る状態」と定義されており,掲示場所は患者の目につきやすい場所,ホームページでは可能であればワンクリック,多くてもツークリックで情報にアクセスできるようにすることが奨められている.IVその他の注意点文書ICなど,直接研究対象者から同意の意思確認を行うことが基本である点を改めて強調したい.たしかに,臨床現場で費やす時間を確保し,コストはできるだけ節約したいため,ICの手続きもできることなら簡便な方法を選びたいところである.ただし,海外誌に論文投稿した際に「writtenIC」を求められることも往々にしてある.文書ICは,取得に時間と手間がかかる分,研究対象者による明確な同意を取得できるため,同意を得た範囲内であれば提供を受けた試料・情報を柔軟に利活用できる利点がある.そのため,前向き研究のように,研究対象者と直接コンタクト可能な状況下では,できる限り文書ICを取得することを奨める.たとえオプトアウトの場合でも,ホームページ上に研究概要を掲示するのもよいが,患者にそれを直接配布することで確実に周知できる「通知」のほうが望ましい.次に,手術説明書に「将来の研究のために,あなたのカルテ情報を使用することがあります」のように記載すれば二次利用の際のIC手続きが不要になる,と誤解されがちなので注意が必要である.「白紙同意」のような方法は認められていない.ただし,日常診療の中で発生した患者の試料・情報が,将来において研究利用されることを,事前にある程度想定できる状態にしておくことは大切である.たとえば,白内障手術説明書にカルテ情報を将来の白内障の術後成績の評価などの研究に使用することや,研究実施時には研究計画書を作成し,研究実施に必要な手続きを行うことなどを併記して,了解を得ておくことが考えられる.こうした倫理的配慮を行うことで,研究対象者との信頼の醸成につながり,「既存試料・情報」の研究利用が円滑に進められると考える.おわりにICは研究を実施するために必要なステップであり,本来の目的は研究対象者の権利保護である.したがって,侵襲や介入のある患者へのリスクの高い研究では,「研究者による十分な説明」「研究対象者の十分な理解」「研究対象者の自発的同意」がセットで成立することが重要である.同意書に署名をもらえば終わりではなく,円滑な研究遂行のためには,研究者と研究対象者となる患者の相互理解を深め,研究に対してお互いが何をすべきなのか十分に理解しあうことが重要と考える.2002年に制定された「疫学研究に関する倫理指針」では,カルテ情報を使用した研究については例外なくオプトアウトが標準であった.この10年で指針の統合,改定によってIC手続きが複雑になってしまったが,根本にあるのは,この施設なら,この医師なら自分のカルテ情報を適正に利用してくれるという信頼関係である.指針を遵守することに加えて,日常診療で培われた患者との信頼関係をもとに,必要な要件を満たしつつ必要な範囲でICの簡略化を利用して研究を進めることを望む.文献1)文部科学省,厚生労働省,経済産業省:人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針.令和3年3月23日(令和4年3月10日一部改正,令和5年3月27日一部改正))2)厚生労働省:人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針ガイダンス.令和3年4月16日(令和4年6月6日一部改訂,令和5年4月17日一部改訂)782あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(70)■用語解説■「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」の用語侵襲:研究目的で行われる,穿刺,切開,薬物投与,放射線照射,心的外傷に触れる質問などによって,研究対象者の身体または精神に傷害または負担が生じることをいう.一義的には研究計画書の作成に際して研究責任者が判断し,その妥当性を含めて倫理審査委員会で審査するものとする.軽微な侵襲:侵襲のうち,研究対象者の身体または精神に生じる傷害または負担が小さいものをいう.日常生活や日常的な医学検査で被る身体的,心理的,社会的危害の可能性の限度を超えない危険であって,社会的に許容される種類のものが該当する.たとえば,採血および放射線照射に関して,労働安全衛生法に基づく一般健康診断で行われる採血や胸部単純X線撮影などと同程度(対象者の年齢・状態,行われる頻度などを含む)であれば,「軽微な侵襲」を伴うと判断してよい.16歳未満の未成年者を研究対象者とする場合には,身体および精神に生じる傷害および負担が必ずしも小さくない可能性を考慮して,慎重に判断する.一義的には研究計画書の作成に際して研究責任者が判断する.一義的には研究計画書の作成に際して研究責任者が判断し,その妥当性を含めて倫理審査委員会で審査するものとする.要配慮個人情報:個人情報のうち,一定の記述(病歴,医師などにより行われた健康診断などの結果,医師などより指導または診療もしくは調剤が行われたことなど)が含まれるものは該当する.たとえば,診療録,レセプトに記載された個人情報は学術研究機関等:(個人情報保護法の定義)大学その他の学術研究を目的とする機関もしくは団体またはそれらに属する者をいう.
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2023年6月30日 金曜日
動画を活用したインフォームド・コンセントInformedConsentviaVideoInstructions森山涼*はじめに白内障手術に関するインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)に必要な医療者サイドが提供すべき情報の量は年々増加傾向にある.そのおもな要因は,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の種類が20年前には単焦点レンズ1種類だったのが,現在では単焦点IOLに加え,保険適用の付加価値レンズ,選定療養適用の多焦点レンズ,クリニックによっては個人輸入の自費レンズと非常に多種多様化したことだと考える.その結果,ICに膨大なマンパワーを割くことになり,人件費や外来患者の待ち時間の増加を引き起こした.当院は2019年に開院し,当初は医師からの説明に加え,紙のパンフレットを用いて,看護師や視能訓練士が直接オリエンテーションを行っていた.しかし,前述のマンパワーや待ち時間管理の観点から2021年より動画を用いたICを導入した.本稿では,動画を用いたICについて運用の実際やメリット・デメリットについて解説する.I動画を活用したICの実際動画のイメージは図1~10の通りである.動画の全編は当院ホームページにリンクがあるので,そちらも参照いただきたい.元々当院で使用していた紙のIC用パンフレットを軸に動画作成業者に依頼して作成した.全編7分半の動画で文字,アニメーションに加えてナレーション音声で説明する.動画の内容は,手術前の注意点,術前および術後の点眼方法,白内障の疾患説明および手術の方法,術後の注意点,合併症などを説明している.また,高度の難聴の人のために字幕もつけている.この動画データを院内の複数台のタブレット端末に入れておいて患者の散瞳待ちなど,空いた時間にタブレットおよびイヤホンを使用し視聴させている.現在は,ナレーションの言語として,日本語版,英語版,中国語版,韓国語版を用意している.II動画ICのメリット第一にマンパワーの削減である.以前,紙のパンフレットで説明していたときには,患者1人あたり平均15分程度かかっていた.当院では2022年現在,年間約2,000件の白内障手術を行っており,口頭での説明のみでは膨大なマンパワーを必要としていた.動画IC導入後は,患者は先に動画を視聴しているため,対面では個別に説明が必要な事項,患者からの質問に答えるだけでよいため,補足説明に要する時間は半分程度に圧縮できた.また,患者は待ち時間に動画を視聴しているため,患者の在院時間の短縮にもなる.第二のメリットは,患者がクリニック受診前にホームページで視聴し予習ができること,また手術日までに復習も可能である.当院では紙のパンフレットも従来通り使用しているため,アナログ,デジタルどちらでもオリエンテーションを復習することができる.また,オリエンテーションに同席できない患者の家族にもホームページ経由で見せることができる.手術は申し込まないが,*RyoMoriyama:森山眼科クリニック〔別刷請求先〕森山涼:〒190-0021東京都立川市羽衣町2-49-6森山眼科クリニック0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(63)775図1タイトルページ図2術前点眼図3術後に必要な物品の案内図4来院スケジュール図5術後点眼図6術後の生活上の制限図7白内障の疾患説明図8手術方法図9術後合併症図10個別説明の案内
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2023年6月30日 金曜日
クリニックにおけるインフォームド・コンセントInformedConsentinanOutpatientClinic三戸岡克哉*福沢紫乃*熊谷光*はじめにクリニックにおけるインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)といっても,大学病院と大きくその内容が変わるわけではない.白内障の状態や治療方法について説明し,患者が手術に対して期待していることを把握し,手術によって治ることと治らないことを患者に十分理解してもらい,手術に同意してもらうことであると思っている.しかし,そのやり方については,複数医師が在籍する施設とは異なり,個人クリニックでは,そのすべての説明を医師一人で行うことはむずかしく,看護師や受付スタッフの手を借りる必要がある.また,麻酔科医や硝子体術者がいる環境ではないため,患者の全身状態や眼の状態によっては近隣の総合病院への紹介も検討する必要がある.当クリニックは,保険診療で取り扱い可能な単焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)のみを使用している.以上の点を踏まえて,当クリニックにおける手術に関するIC,および術前後の注意点として患者に説明していることを,その一連の流れに沿って紹介する.I通常の外来にて白内障手術目的で他院から紹介となった患者を除き,初診時に白内障手術適応と診断したとしても,当日に手術日まで決めないようにしている.まずは,白内障という病気をしっかり理解してもらうことから始めている.現在の視力などの検査結果,白内障の程度,白内障の進行スピードなどを説明し,日常生活でどのような場面で不自由を感じているかを尋ねる.その要因が白内障に起因するものであれば,白内障手術に関するパンフレットを渡し,自宅で家族と一緒に読んでもらい,白内障およびその手術について理解を深めてもらう.パンフレットのおもな内容は図1に示す通りで,大学病院勤務時代に使用していたものをクリニック用にアレンジしている.また,ホームページにもパンフレットと同様の内容を掲載し,離れた家族でも内容を共有できるようにしている(図2).そして患者が手術を希望した際には,改めて手術相談の予約を取って来院してもらう.II手術相談(手術決定時)検査,診察後に,現状について医師から説明を行い,患者が手術を希望した場合に,大まかな白内障手術の説明から始める.おもな内容は,濁った水晶体を取り除き,透明なIOLに入れ替える手術であること,傷口を作って手術を行うので,その傷口から細菌などが入ってしまうと,眼の中にひどい炎症を起こし失明につながることがあるため,術後管理が重要であること,水晶体.を破損したり,Zinn小帯断裂などがあればIOL挿入できず,後日IOL縫着(強膜内固定)が必要になることがあることなどである.とくに,過熟白内障,小瞳孔,前.線維化が顕著な患者などは,そのリスクが高くなることを説明し,同意書も通常患者と異なるものを用意している.*KatsuyaMitooka,ShinoFukuzawa&HikaruKumagai:北戸田駅前みとおか眼科〔別刷請求先〕三戸岡克哉:〒335-0021埼玉県戸田市新曽2220-1北戸田駅前みとおか眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(57)769図1患者に配布しているパンレットQ&A方式で記載し,患者や家族が読みやすいように工夫している.図2ホームページへの掲載ホームページにもパンフレットと同様の内容を掲載し,離れた家族でも内容を共有できるようにしている.医師からの説明後に,看護師が手術日程の調整および周術期における情報収集を行う.白内障の日帰り手術であること(入院できないこと),手術予定眼や術後予定屈折度数の確認,手術までの流れ,そのほか,術後制限などを説明する.また,問診や薬剤情報などを元に現在治療中の疾患・怪我,入院や手術歴,アレルギー情報,眼外傷歴,前立腺肥大治療薬の服用歴などを聴取する.看護師が情報収集することにより,眼外傷歴,前立腺肥大治療薬の服用歴などが判明したり,患者から新たな質問が出ることが多く,その都度医師に報告し適切な対応を行う.III術前検査時術前検査時には家族同伴での来院をお願いしている.個別に一連の術前検査を行ったあとに,家族とともに集団で看護師が説明を行う.おもな説明内容は,1)白内障とは,2)白内障の代表的な原因,3)白内障の治療および手術を受けるのに適した時期,4)手術の流れ(手術は局所麻酔であり,医師や看護師から声かけをしたり,音楽を流したりして緊張感を和らげるように心がけていることも加えて説明),5)術後の見え方(術後予定度数の違いや老視についても説明),6)手術に関する合併症(アレルギー,Zinn小帯断裂・後.破損,術後眼内炎など,状況に応じて転院加療が必要であること,そのほかパワーずれや後発白内障などについて説明),7)検査データや手術動画などを医学研究目的で使用することがある,といったことである.一連の説明終了後に質疑応答を行うが,もし,患者から質問が出ないようであれば,感想を聞いてみることによって,質問を引き出すことができるようである.看護師からの説明後に,医師が,患者および家族へ現在の眼の状況を説明する.その際には,患者自身と正常眼の細隙灯顕微鏡画像を比較提示して白内障の状況を説明するだけでなく,患者自身と正常眼の眼底写真を比較提示すると,どれほど患者が見えにくい状況であることを家族が理解しやすいようである(図3).最後に,看護師が説明した内容について質問がないかどうかの確認をする.追加質問に対し医師から説明し,理解を得られたら,手術同意書に捺印してもらう.同意書は項目ごとに捺印することで,各項目が確実に理解できているか確認してもらう(図4).IV術前診察時術前診察時にも家族同伴での来院をお願いしている.最初に,個別に医師から術前検査の結果報告,術後予定屈折度数の確認を行う.次に家族とともに集団で看護師から,手術当日までのオリエンテーションを行う.おもな内容は,1)術順・来院時間に関する事項,2)術前の日常生活に関する事項,3)手術当日の流れに関する事項,4)手術当日の身支度などに関する事項である.引き続き,そのまま集団で医師から,1)術後眼内炎,2)Zinn小帯断裂・後.破損などによりIOL入ができない場合,3)老視,4)パワーずれ,5)状況に応じて転院加療が必要であることを説明する.そのほか,術後にエッジグレアや飛蚊症を感じることがあることについても説明する.集団で説明する利点として,他者からの質疑応答があることでグループダイナミクス効果による納得感や,集団心理による安心感が得やすいと考えている(図5).最後の会計時には受付スタッフが術前点眼の確認,手術当日の注意事項(来院時間,服装,化粧など)について再度説明し,あわせて手術当日の費用についても説明する.V手術当日手術終了後に,受付スタッフが痛みや急変時の当クリニック緊急連絡先,および当クリニックから連絡が必要な場合のための患者連絡先の確認を行う.また,翌日来院時は眼帯を装着しているため見えづらさがあること,術後の注意事項などの説明があるため,家族の同伴が望ましいことを説明する.VI術後診察時視能訓練士が視力や眼圧検査などを施行し,とくに問題ない場合には,医師の診察の前に,看護師から術後の注意事項などの説明し,手術相談,術前検査,術前診察で繰り返し指導した内容を振り返り術後管理の重要性を772あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(60)〈白内障手術同意書チェックリスト〉白内障手術計面書を良く読んで頂き、ご理解頂けましたら全ての項目に確認印を押して下さい。「手術計画書」を渡され、その内容をよく読みました。「手術計画書」に書かれている内容について理解致しました。手術の必要性を説明してもらいました。通常手術によって良い視力を回復しますが、眼の状態によっては手術後に視力が回復しない場合がある事を理解致しました。極めてまれですが、眼の状態によって手術前の視力よりも悪くなる場合がある事を理解致しました。手術は非常に安全ではありますが、まれに手術中に合併症が発生する事がある事を理解致しました。まれに、手術の際、眼内レンズを挿入しない方が良い事がある事を理解致しました。当施設の対応出来ない状況が発生した場合、転院・加療も必要になる揚合がある事は、説明を受け理解出来ました。検査データや手術動画などを医学研究の目的で個人を特定できない状態で使用される事がある事を理解致しました。今回手術を受けるにあたり、手術によって得る利益と、手術によって起こる危険性について説明を受け十分に検討し、手術を受ける事を希望致しました。平成年月日患者氏名同席行氏名(ご関係)図4同意書同意書は,チェックリスト方式として,項目ごとに捺印することで,各項目が確実に理解できているか確認してもらっている.図5患者および家族への集団の説明風景コロナ禍以前は,10組以上の集団で説明していたが,現在は4組程度に縮小して行っている.他者からの質疑応答があることでグループダイナミクス効果による納得感や,集団心理による安心感が得やすい.図3患者および家族への個別の説明風景患者自身と正常眼のスリット画像を比較提示して白内障の状況を説明するだけでなく,患者自身と正常眼の眼底写真を比較提示すると,どれほど患者が見えにくい状況であることを家族が理解しやすい.
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2023年6月30日 金曜日
クリニックにおけるインフォームド・コンセントInformedConsentinaClinic柴琢也*はじめに現在の白内障手術は,超音波水晶体乳化吸引術とfoldable眼内レンズ(intraocularlens:IOL)による小切開創白内障手術が普及しており,多くの患者で良好な術後視機能を獲得することが可能になっており,わが国でも年間約170万件もの手術が行われている(一般社団法人日本眼科医療機器協会アニュアルレポート2022より推察).このことは世間的にも広く認知されており,ともすれば白内障手術を安易に捉える風潮も否定できないが,現在でも術中・術後合併症や,なんらかの既往症により良好な術後視機能が得られないことも経験する.そのため,患者やその家族が白内障手術を受ける前に医師から医療行為について十分な説明を受け,それに対して疑問があれば解消し,内容について十分納得したうえでその医療行為に同意するインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)が重要である.I当院の概要当院のICについて述べる前に,医院の環境について説明する.当院は病床を有しないクリニックであり,東京の繁華街である六本木に位置している.公共交通機関が発達しており,ほとんどの患者は地下鉄やタクシーを利用して来院する.また,周辺3km以内に筆者の出身医局を含む5つの医学部附属病院,5つの眼科を有する総合病院,1つの公立病院が存在する,いざというときの後方病院に恵まれているエリアである.ここで医師1人(筆者)と看護師を含むスタッフ数名で手術を行っている.白内障手術を受ける人の85%以上は他院からの紹介患者であり,紹介元のほとんどが眼科クリニックである.II白内障手術術前の流れ当院を受診する患者はすでに紹介元にて白内障についてある程度の説明を受けていることが多いため,情報や知識を整理することを目的として,まずは文章での説明を行っている.具体的な流れは,患者に問診票を書いてもらい,視力検査および眼圧検査がすんだ状態で患者と初めて対面する.アナムネ聴取および未散瞳状態の前眼部診察を行ったあとに,続きの検査の指示を出す.必要であればコントラスト感度を測定したあとで,施行可能であれば散瞳薬点眼を行う.その後,眼軸長や角膜内皮細胞密度の測定を行い,必要に応じて光干渉断層計撮影や角膜形状解析検査を行った後に待合室で白内障手術説明書(図1)を読んでもらい,本人が読めない場合は付き添いの人に読んでもらう.読んだ後で残りの診察を行い,白内障手術の適応があればその旨を伝えるが,その時点で説明書を読んでいるので,まずはその内容について理解できない点や不安な点などを聞いて説明を行う.理解してもらいたいことは説明書にすべて網羅しているが,そのほかに質問したいことがあるかも尋ねる.規模が大きい施設では,医師以外がカウンセリングや手術説明会を行ったり,集団での手術説明会を行っているケー*TakuyaShiba:六本木柴眼科〔別刷請求先〕柴琢也:〒106-0032東京都港区六本木1-7-28-201六本木柴眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(49)761図1白内障手術の説明書表紙を入れると12ページにわたり,I.白内障について,II.六本木柴眼科で白内障手術を希望される方へ,III.白内障手術を受けられた方への3項目から構成されている.患者はこれを読んでから散瞳後の診察を受ける.障手術を安全に行いやすい時期があるので,定期検査を受けてその時期を逸しないようにすることが重要である.③一般に,時期が早いほうが手術を安全に行いやすく,手術時期を延ばして白内障を進行させすぎると,核が硬くなったり,水晶体が膨化したりして手術の難易度が高くなる.④進行しすぎた場合,手術時間の延長や,最新の術式を採用できなくなることがある.また,放置したままにすると,緑内障の発作や水晶体の脱臼などを生じて視機能に不可逆的な影響を及ぼす可能性がある.⑤手術後1週間くらいは,根を詰めた仕事はしないほうがよく,旅行や軽い運動は2週間くらい,ゴルフなどの運動や海外旅行などは1カ月くらいは避けたほうがよい.したがって,これらの予定を考えたうえで手術日を決定する.⑥術中に生じた結膜下出血が消えるのに2.3週かかることがあるため,結婚式や重要な会合がある場合なども,1カ月程度余裕をみたほうがよい.6.手術後には必ず見えるようになりますか?①手術である以上,その安全性は100%ではないが,最近の白内障手術はきわめて安全になっている.②白内障以外の眼疾患を有しなければ,ほとんどの場合手術によってよい視機能を獲得することができるが,視力が安定する時期には個人差があり,手術翌日からよく見えるようになる人や1カ月ほどを要することもある.③網膜や視神経が障害されている場合には,視機能が十分に上がらないことがある.なお,白内障で水晶体が強く混濁している場合には術前に十分な眼底検査を行うことができないため,術前には網膜や視神経が障害されていることがわからないことがある.④水晶体(亜)脱臼や後.破損の状態によっては,1回の手術で眼内レンズを挿入しないほうがよいことがあるが,手術後の眼の状態が良好であれば,後日眼内レンズを特殊な方法(縫着術,強膜内固定など)で眼内に固定することが可能である.その場合は,大学病院など他院で手術を受けてもらう可能性がある.⑤きわめて安全に行われるようになった白内障手術でも,必ず一定の割合で手術中に合併症が発生するが,最終的にはほとんどの患者で通常の場合と大差ない結果を得ることができる.⑥通常の眼内レンズには調節機能がないため手術後には眼鏡装用が必要となる.⑦多焦点眼内レンズを挿入すると遠方から近方にかけてピントを合わせることができるが,見え方の質が少し劣ることがあり,このレンズが適していない患者もある.また,通常の保険診療では使用できない.⑧もっとも重篤な合併症の一つは術後眼内炎である.わが国では5,000例に1例の頻度で発生するといわれている.一度発症すると視力の回復を望めない場合があり,このような合併症を未然に防ぐためにも,手術後の管理や診察が大変重要である.II.六本木柴眼科で白内障手術を希望される方へ1.手術前に決めておいたほうがよいことはありますか?術後にどこを裸眼で見たいかによって目標屈折度数を設定するが,一人ひとりの眼の状態が違うため,どうしても誤差が生じることがある.2.手術の時に発生しうる合併症は?①水晶体(亜)脱臼,後.破損の状態によっては,1回の手術で眼内レンズを挿入しないほうがよい場合があり,そのようなときには手術の時間も長くなる.手術後の眼の状態が良好であれば,後日眼内レンズを特殊な方法(縫着術,強膜内固定など)で眼内に固定することが可能である.②駆逐性出血が発症する可能性があるが,現在の小切開創手術になってからはきわめてまれな合併症になった.③白内障手術は,全身状態への影響が非常に少ない手術であるが,手術と関係なく突然心筋梗塞や脳梗塞が起こる可能性がある.3.手術直後,強い痛みは起こりますか?通常の白内障手術では,術直後に異物感を感じること(51)あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023763があるが,強い痛みを感じることはなく,痛みを感じた場合には医師に相談すること.4.術後はどのように見えますか?①通常は良好な視機能を獲得することが可能である.②手術直後は,顕微鏡光により陽性残像を生じるが,自然に消滅する.③飛蚊症状を術前よりも強く自覚することがある.④羞明感を強く感じたり,色感覚が変わることがある.5.手術がむずかしい眼であるといわれているのですが,大丈夫ですか?①散瞳不良症例,先天異常眼,全身疾患合併症例,外傷や手術歴のある場合などは,手術の難易度が高くなるが,従来に比べて安全に手術を行うことが可能になっている.②手術を受けるか否かは,現在感じている不自由さと手術をしないでそのまま放置していた場合にさらに悪化していく可能性などを検討したうえで,最終的に患者自身が総合的に判断すべきである.③医師は,これらの情報を患者に提供し,判断を委ねられた場合には「自分の家族ならば手術をしたほうがよいと思うか」ということを基準にアドバイスするが,残念ながらその結果を保証することはできない.6.白内障手術は本当に簡単なのですか?①簡単であると思われる要素以前に比べて手術時間が短くなり,手術中の痛みも少なく手術の安全性も飛躍的に向上した.また,日帰りで手術を受けることも可能になり,患者にとっては以前よりも負担が少なく,気軽に手術を受けることができるようになった.②白内障手術を軽視すると大変ですどんなに安全な手術であっても,合併症はやはりある一定の確率で生じる.手術中に術者が誤った処置をしていないにもかかわらず合併症が発生する頻度は,ごくわずかと考えられているが,中には術後視機能が十分に回復できない場合もある.手術である以上,危険性をゼロにすることはできないため,あまり軽い気持ちで手術を受けることは避けたほうがよい.③安全が第一,眼に優しい手術を心がけています当院では,合併症に対してできる限りの適切な処置を行うが,硝子体手術など当院で対応できない治療が必要になった場合には,大学病院などを責任もって紹介するのでそちらを受診してもらう.III.白内障手術を受けられた方へ1.手術直後の見え方はどのようになりますか?①明るく鮮明だが,羞明感がある特殊な状態の場合を除き,術翌日から非常に明るく,物が鮮明に見えるようになるが,少しまぶしすぎるように感じることがある.手術直後はかなりまぶしく感じるものの,時間が経過するとあまり感じなくなってくる.まぶしさが続くようであれば,白内障術後用のサングラスを使用すること勧める.②陽性残像を自覚するが,自然消失する手術顕微鏡により視野の中心に感じることがあるが,数日で消失する.③青視症の可能性白内障により黄色味がかった水晶体が短波長のフィルターの役割を果たしていたが,これを摘出して眼内レンズに置き換わったため生じる.現在はほとんど着色レンズを使用しているため,以前に比べると症状は軽減している.④飛蚊症の出現術後,飛蚊症の出現や増悪を自覚することがある.これは,術前よりも眼内に入る光量が増えたことにより,硝子体混濁を自覚しやすくなったことが原因であるが,まれに網膜.離などの前兆として現れることもあるので,術後必ず眼底検査を行うが,自覚した場合は医師に伝えることが必要である.⑤Positivedysphotopsia,negativedysphotopsiaほとんどが術後経過により改善されるが,症状が残ることもあり,ごくまれではあるが眼内レンズの入れ替えを行った報告もある.764あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(52)2.視力はすぐによくなりますか?①視力の回復の速さは,人によって,また眼の状態によって大きく異なる.②裸眼視力(屈折)は少しずつ変化する.裸眼視力が安定するのは術後1.2カ月後のため,その間は眼鏡の度数も変化する.3.眼鏡はいつ作ればよいのですか?屈折状態が安定するのに1.2カ月かかるため,手術直後に合わせた眼鏡が数カ月で合わなくなることがある.①術後1.2カ月してから眼鏡を作製することを勧める場合・術前に使用していた眼鏡である程度不自由なく見える場合・術後に眼鏡を使用しなくてもある程度不自由なく見える場合今までの眼鏡を使って,または眼鏡なしで1.2カ月過ごす.②術後1週以内に眼鏡を作製することを勧める場合・術前の眼鏡や眼鏡なしでは,日常生活・社会生活に困る場合・作り変えることを納得したうえで,すぐに最善の眼鏡を使用したい場合術後すぐに適切な眼鏡を作製し,2.3カ月後に微調整した新しい度数の眼鏡を作り直すことが前提になる.4.日常生活の注意点は?①術後感染症予防のため,手指などを清潔に保つことが大切である.②洗顔は,術後数日で可能であるが,流水を使い眼球を圧迫しないよう注意して行う.術後4.5日は眼球周囲に触れないよう洗顔する.③入浴は最初のうちはシャワーだけにして,数日後から浴槽に入るようにする.④洗髪は,術後1週くらいから可能であるが最初はシャンプーなどが眼に入らないよう注意が必要であり,術直後は美容院・理容室での洗髪が必要である.5.仕事や運動はいつからできますか?①通常の白内障手術では,日常の家事や散歩は術後3日目頃より可能であり,術後1カ月を経過すればほぼ術前と同じ生活ができる.仕事の種類にもよるが,重労働でなければ術後数日で職場復帰は可能である.②ゴルフなどの通常のスポーツは3.4週後より可能だが,眼を打撲する可能性のある競技や水泳などは1.2カ月ぐらい避けておいたほうがよい.6.術後の合併症として,何に気をつければよいのですか?①術後早期の合併症:細菌性眼内炎もっとも重篤な合併症の一つである術後細菌性眼内炎は,術直後何も問題なく鮮明に見えるようになっていたにもかかわらず,術後3.7日頃に急に見にくくなり,強い痛みやひどい充血が生じた場合にはこの合併症の可能性がある.放置すると失明する危険あるため,すぐに近医または当科を受診すること.早期に治療を開始する必要がある.②術後数カ月.数年経過してから生じる合併症:後発白内障術後しばらく経過してから,眼内レンズを入れている水晶体の.が混濁して手術前のように霧がかかって見えるようになることがある.後発白内障という合併症であり,外来でレーザー治療を受けることによってすぐに治療することが可能である.術後視機能低下を感じたら,あきらめずに診察を受けることを勧める.7.何か心配がおありですか?①眼内レンズの寿命特別なことがなければ,50.100年くらいの耐久性があるが,何か問題が生じれば眼内レンズを交換することも可能である.②眼球掻痒について通常の衝撃では,眼内レンズがはずれたりずれたりすることはないが,まれに水晶体.がはずれやすい人がいるため,術後異変を感じたら受診が必要である.(53)あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023765図2説明同意書説明同意書(図右側黒線内)に,目標屈折度数や使用する眼内レンズを記載している(図左側赤線内).図3FLACSの説明書12ページにわたりFLACSを説明している.図4多焦点眼内レンズの説明書4ページにわたり多焦点眼内レンズについて解説しており,最後に今回使用するレンズの名称とその特徴を患者ごとに記載している.
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2023年6月30日 金曜日
大学病院(教育施設)におけるインフォームド・コンセントInformedConsentforCataractSurgeryatUniversityHospitals木澤純也*はじめに教育機関である大学病院におけるインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)が他の施設と異なる点としては,病院は教育現場であるためさまざまな職種の学生や研修医が手術および診療にかかわること,初期研修医や眼科専攻医が将来自身でICを取得するための教育を行うこと,研究機関でもあるため臨床研究についてICを取得する必要があることと考える.本稿では大学病院でのICの取得について要点について解説を行う.I大学病院(教育施設)の医学教育大学病院において「●●大学附属病院は教育機関でもあるため,学生が診療に参加することへ,患者さんのご協力とご理解をお願いします.また,学生の診療参加を望まない場合は,気兼ねなく申し出てください」などの医学教育に関する協力をお願いする掲示は,病院内の新患受付や各診療科の診察受付前に設置されている.しかし,白内障患者のなかにはこれらの掲示を確認できない人もいるため,個々の患者へ医学養育への協力の説明は必要であると考える.大学病院(教育施設)での白内障手術のICにおいても最重要事項は,医師と患者間での手術法・麻酔法・術後予後・合併症に関するICを医療スタッフの同席のもとに取得・了承を得ることであり,この点においてはクリニックや他の病院でのICの取得と同様であると考える.その際に,教育施設では学生(医学部,看護学部,薬学部,視能療法学科)や研修医,眼科専攻医が術前後の診察を行うことや,手術時の見学や助手や執刀医として参加する医学教育の重要性を説明し,医学教育に関するICも取得する必要がある.医学教育における手術場や術前後の病棟診療での体験により,眼科医を志すきっかけとなる場合もあるため,学生が参加できる現場を多く設ける努力を指導医はするべきであると思う.IC取得のほとんどが外来診察室で執刀医と医療スタッフ1名程度が同席する少人数で行うことが多いと思われる.しかし,入院後は多くの病棟スタッフがかかわることや,手術室内にも複数の医師と看護師,各業種の学生など,多くの人が在室していると事前に説明しておくとよい.この理由としては,少数ではあるがこの説明していないと手術室への入室時に患者が急に不安になり,「こんなに人がいるとは聞いていなかった.この手術室では晒し者にされるから手術したくない」と患者にいわれ,在室する関係者の多くを退室させてから手術を行ったことがあるからである.また,手術前後の病棟診療を研修医,専攻医,高次臨床実習の医学生,さらに指導医もそれぞれが行うことなども説明すると,入院中に病棟診察室と病室を何往復もしてもらうことにも了承していただけることがほとんどである.術後経過が良好な患者においては,視機能改善した喜びがこれらの労力よりも優るため,問題にはならないと考えている.しかし,とくに術翌日の視機能改善が思わしくない患者においては,自覚症状が改善していないにもかか*JunyaKizawa:岩手医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕木澤純也:〒020-8505岩手県盛岡市内丸19-1岩手医科大学医学部眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(45)757わらず何度も診察室に呼び出されることに激高した患者を経験しているので,入院後の診療体制についても説明しておいたほうがよいと考えている.II指導医が完遂する手術のIC取得:眼科専攻医や研修医(医学生)が同席している場合指導医が眼科専攻医や研修医(医学生)と同席してIC取得する場合は,患者に専攻医などを紹介し,一緒に診察してよいか確認し,了承を得ておくと,その後は専攻医などと交代して診察することができる.専攻医などに白内障所見を細隙灯顕微鏡で診させ,指導医がその場で指導がすることによる臨床教育の効果は高いと考えている.コロナ禍では一緒に患者を診る機会が少なく,電子カルテの画像によるカンファランスなどにより白内障所見の教育をしていたが,実際に診察室で細隙灯顕微鏡を使用して徹照像を含めて白内障や前眼部疾患の所見を指導医と一緒に確認できると,専攻医などはスキルアップを実感できるようである.とくに一般のクリニックや病院では比較的まれな症例とされる患者を多く診療している大学病院では,このような患者を指導を受けながら交互に診療した経験は,その後の眼科医としての重要な経験値となると思っている.たとえば白色瞳孔が疑われている新生児や乳児の先天白内障と網膜芽細胞腫などを含めた網膜疾患との鑑別方法や,新生児の水晶体所見,診察時に行う抑制帯やバスタオルによる患児の抑制方法などは,実際に行った経験があるかどうかで,独り立ちした後の診療が変わると思うので,専攻医などに実際に体験させることが重要であると思う.また,全身疾患に伴う他科と関連する水晶体や白内障診療の機会も多いので,これらの患者に対する診療経験も重要であり,ぜひ経験させる必要があると思う.IC取得においては,患者やその家族が理解しやすい説明を行うだけではなく,専攻医自身が将来ICを取得する際に参考になる内容で行うことはIC取得の教育にもなるが,自身の説明方法を見直すきっかけとなることもあると考えている.1.麻酔方法現在,白内障手術の麻酔方法はほとんどが局所麻酔で行われるが,患者の心身の状態により全身麻酔が必要な患者は大学病院に紹介になることがある.麻酔方法選択を判断する基準としては,入室時の自立歩行や杖歩行の状況,車いすの場合は高齢女性の脊椎圧迫骨折による円背の程度や腰痛の有無,問診により15分程度の仰臥位が可能であるかなどを確認し,まずは判断する.先天白内障や小児白内障は全身麻酔を選択し,重度の統合失調症,認知症,発達障害を伴う患者の白内障手術では,外来診察に協力が得られなければ全身麻酔を選択する.しかし,軽度の統合失調症,認知症,発達障害を伴う白内障手術における術中の安静維持ができるかの判断は,外来処置ベッド上で圧布と開瞼器を使用して外来手術顕微鏡による模擬手術環境を整えて判断すると,手術中止となる患者は少なくなると考え実践している.さらに振戦がある患者では,体位や緊張により振戦の具合が変動することもあるので,外来の処置ベッドで体動を確認する.これらの過程を患者の家族と一緒に行うと,全身麻酔の必要性について家族の理解も得られやすい.全身麻酔が可能な全身状態の判断については,かかりつけ医に紹介するなどの確認を行ってから,麻酔科へ麻酔を依頼する必要がある.また,局所麻酔での手術が可能であると判断した患者が,手術室で不穏状態となり,安全な手術が不能となった場合はその日の手術を中止して退院となる場合もある.この際も事前に不穏で手術中止になる可能性を説明しておけば,後日改めて行う全身麻酔での白内障手術の検査や再入院をスムーズに行うことができることが多い.2.現症と術後屈折値の説明現症については,白内障の病型や原因,左右の進行程度,病型により予測される複視や霧視などの視機能症状,視力など現状に状況について説明する.白内障の病型などについては前眼部写真撮影を行うと説明に対する理解度が高くなると思う.白内障手術を行うべきか判断を患者が迷っている場合は,白内障が軽微であればその病型と症状が一致するかどうか重要であり,その白内障病型と症状が一致しない場合はコントラスト感度や波面収差解析の結果が手術適応になるかの判断材料になるこ758あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(46)
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2023年6月30日 金曜日
大学病院におけるインフォームド・コンセントInformedConsentatKeioUniversityHospital西恭代*はじめに本稿では,慶應義塾大学病院における白内障手術患者に対するインフォームド・コンセント(informedcon-sent:IC)の実際について述べる.当院における初診から白内障手術までの診療の流れは表1のとおりである.以下に各項目の詳細を述べる.I初診から術前検査までの確認事項1)1.全身および眼合併症の有無ICを行う前に全身および手術眼の合併症の有無,使用している内服薬(とくにa遮断薬),薬剤アレルギーの有無を確認する.どの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を選択するかについては,患者の希望を聞く前に,医学的にみた適応・不適応を検討する.たとえば,糖尿病などの全身疾患により眼底管理が必要な場合は,光学径が一定以上大きいレンズを選択するなどの配慮も必要である.また,眼合併症によって視機能が著しく低下している眼に多焦点IOLを入れても,その機能を十分に発揮できない可能性があるため,ICの前に医師が十分にこの点を把握して,患者のIOL選択の際に情報として伝える必要がある.また,小児や認知症のある患者,迷走神経反射などのため局所麻酔が困難な患者については,あらかじめ麻酔科説明外来を受診してもらい,全身麻酔に関する説明と同意を得る.2.ライフスタイル単焦点IOLの場合,ねらい度数を決めるのに患者のライフスタイルを把握することは重要である.仕事や趣味,自動車の運転,スポーツなど,どのようなときにできるだけ裸眼でいることがメリットなのか,患者の希望を把握したうえ推奨する狙いを提案する.また,多焦点IOLを希望する場合も,仕事の内容やライフスタイル,性格,期待度によっては多焦点IOLが推奨できない場合もあるので,これらについて把握すべきである.多焦点IOLの希望者には,あらかじめ多焦点IOLの特徴や,術後の見え方の違い(単焦点IOLに比べハロー・グレアが強く,コントラスト感度の低下が起こりやすいなどデメリットを含む)についてまとめた動画を視聴してもらい,医師との最終的な度数決定の際の参考にしてもらう.3.患者の理解度初診時の面談で理解度に問題があると感じられた場合には,ICを行う日に必ず家族あるいは家族に近い第三者に来てもらうよう手配しておく.説明同意書は事前に渡しておき,ICまでに家族などとともに自宅でゆっくり眼を通してきてもらったうえで話をする.II看護師によるオリエンテーション術前後の点眼や術後の療養上の注意などは,看護師がオリエンテーションを行う.看護師から手術前点眼や手*YasuyoNishi:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕西恭代:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(39)751表1初診から白内障手術までの診療の流れ1.初診:手術適応の検討2.術前検査3.(全身麻酔の場合)麻酔科説明外来4.看護師オリエンテーション5.執刀医によるIC6.手術表2慶應義塾大学ICガイドライン1.インフォームド・コンセントについて2.目的3.対象者4.対象となる医療行為5.方法6.カルテへの記載・保管7.理解・意思の確認8.患者からICを取得できない場合9.患者が同意書に署名できない場合10.外国人など日本語が堪能でない患者の場合11.身体抑制に関する説明および同意12.麻酔科外来における全身麻酔手術説明13.反復して輸血・特定生物由来製品を投与する場合14.感染症検査を実施する場合15.説明同意書標準フォーマット16.説明同意書の作成・修正・廃止17.当ガイドラインの改廃について表3患者が若年の場合のIC対象者0歳.6歳7歳.18歳未満18歳以上親権者のみでもよい.本本人と親権者が必ず説明本人のみでもよい.人にも年齢相応の説明をを受ける.本人への説明親権者がいる場合には,することが望ましい.内容は,本人の年齢や性親権者にも説明すること格を考慮し,事前に親権が望ましい.者と相談をすること.(文献2より改変引用)表4医療行為のグレード分類と説明同意者・病院側同席者グレード123医療行為の内容侵襲度が低い医療行為(生理検査,造影剤を用いない画像検査,採血,末梢静脈路確保,抗癌剤・生物学的製剤以外の薬物治療,など)侵襲度が中等度の医療行為(造影剤を用いる画像検査,髄液検査,骨髄検査,内視鏡検査,局所麻酔を伴う手術・処置,内視鏡による手術・処置,抗癌剤治療,生物学的製剤,血管内カテーテル治療・検査,輸血療法,人工透析療法,中心静脈カテーテル挿入,身体抑制など)侵襲度が高い医療行為(全身麻酔を伴う手術,ハイリスク症例に対する治療,高難度治療,など)説明者主治医,または主担当医,または担当医など主治医,または主担当医,または担当医など主治医,または主担当医病院側同席者必ずしも同席しなくともよい看護師あるいは説明者以外の医師,その他の医療者の同席が望ましい看護師あるいは説明者以外の医師の同席を必要とする患者(家族等)の理解・意思(賛同)確認必ずしも確認しなくともよい説明者以外の医療者による確認が望ましい説明者以外の医療者による確認を必要とする文書同意必ずしも必要としない必要必要(文献2より改変引用)表5説明同意書に記載される一般事項・病名と病態(眼の解剖を含む)・手術の目的・手術の方法麻酔方法,レンズの種類,狙い・注意事項・避けられない合併症その他の不利益後.破損,Zinn小帯断裂,感染性眼内炎,駆逐性出血,術後屈折の予測誤差・当該の治療・検査に代替可能な治療・検査の有無眼鏡,コンタクトレンズについて・何も治療・検査を行わなかった場合に予想される経過・セカンドオピニオン他の医療機関でセカンドオピニオンを受けることが可能であること個人的な病状について以下の項目の通りですので疑問の点は主治医におたずねください..以下の病状がありますので,その影響で視力は通常通りには回復しない可能性があります..網膜・黄斑疾患.緑内障.糖尿病網膜症.強度近視性網脈絡膜萎縮.網膜色素変性症.不正乱視.その他().白内障の進行のため,眼底検査ができません.手術後の視力回復の程度は,眼底の状態によります.眼底に病気があった場合は,手術後に改めて,検査とご説明をさせていただきます..以下のため,眼内レンズの度数を計算する際に誤差が生じやすい可能性があります..LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの屈折矯正手術後.PTK(PhotoThelapeuticKeratetomy,治療的角膜切除術)術後.円錐角膜.角膜移植後.白内障手術時は,瞳孔を広げて(散瞳)手術を行いますが,前立腺肥大の治療薬を内服している場合,手術中に広がっていた瞳孔が縮んで,手術の難易度が上がる可能性があります..レンズを支えるZinn小帯という組織がもろい状況が考えられます.Zinn小帯脆弱・Zinn小帯断裂という合併症をおこしやすくなります.次の合併症の項目をご覧ください..緑内障によって失われた視野は,白内障手術によって悪化する可能性はありますが,改善することはありません..その他()図1ハイリスク症例の説明同意書厚生労働省承認多焦点眼内レンズ使用をご希望の方へ以下の点については,単焦点レンズ使用の場合と異なります.説明を受けられた後,不明な点がありましたら,何でもおたずねください.【ご注意いただきたい事項等】《手術前》1.多焦点眼内レンズ説明用DVD「白内障手術と眼内レンズ」を視聴していただいた後,内容について不明な点は必ず確認してください.《手術後》2.手術後,見え方に順応するまでに3カ月.6カ月を要することがあります.3.手術後に屈折異常(近視,遠視,乱視など)がある場合には,眼鏡が必要なことがあります.眼鏡をかけたくない場合,適応があれば手術(乱視矯正手術やレーシックなど)により矯正可能ですが,その場合の費用は自費になります.4.将来的に他の眼科疾患になった場合,眼内レンズを摘出しなければならない事があります.【避けられない合併症その他の不利益】5.多焦点眼内レンズを使用しても,見るものの距離によっては眼鏡が必要なことがあります.6.多焦点眼内レンズをいれるとコントラスト感度の低下(見え方の質の低下)がおこることがあります.7.多焦点眼内レンズをいれるとグレア・ハロー(光のにじみ,ハレーションを起こしたようにみえる現象)を生じることがあります.そのため夜間の作業(例えば車の運転等)がしづらくなることがあります.8.手術中の状況によっては,挿入予定の多焦点眼内レンズではなく,単焦点眼内レンズに変更することがあります.【費用について】9.厚労省承認の多焦点眼内レンズを使用する場合,手術費用(眼内レンズ代を含む)は以下の金額となり,全額自費になります..厚労省承認の多焦点眼内レンズを使用する場合1眼あたり60万円(税別)になります..厚労省承認の乱視矯正多焦点眼内レンズを使用する場合1眼あたり63万円(税別)になります.10.入院の場合には,入院費用は自費での追加負担となります.11.合併症が生じた場合には,治療費は患者さんの負担となります.12.合併症なく手術および術前後の管理が十分に行われたにもかかわらず,患者が多焦点眼内レンズの見え方に満足せず,眼内レンズ摘出や交換を希望した場合,あるいは原因不明の視機能低下により眼内レンズ摘出や交換を希望した場合,その要用は原則全額自費担となります.図2多焦点眼内レンズの説明同意書図3ICノート
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2023年6月30日 金曜日
特殊症例(追加説明を要する症例)のインフォームド・コンセントInformedConsentinSpecialCases(RequiringAdditionalExplanations)松島博之*I白内障手術における特殊症例とは本稿では通常の白内障手術とは異なる条件が追加された,いわゆる難症例を中心に解説する.難症例にはたくさんの種類がある.少し例をあげるだけで,小瞳孔,浅前房,角膜混濁,角膜内皮障害,硬い核,成熟白内障,Zinn小帯断裂,水晶体亜脱臼,外傷性白内障,術中虹彩緊張低下症,認知障害,閉所恐怖症,聴覚障害などと枚挙にいとまがない.今回はこの中から日常診療でよく遭遇する特殊症例に絞って,筆者が実際にインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)を活用している図を用いて解説する.特殊症例の説明をするためには,まず通常の白内障手術のことを知ってもらう必要がある.わかりやすく+効率よく説明するために,iPadにPDF化した図を用意して患者に見せながらICを行っている.PDFデータを分類して保存するアプリは多数あるが,筆者はNoteshelf(FluidTouch社)を利用している(図1).Noteshelfは手書きノートやPDFデータを保存し書き込みができるアプリで,保存しているIC図をいつでも選択してスライドショーとして見せることができるので,ICの内容をパターン化できる.ほかにもGoodNotes(APLEON)などのアプリがある.外来時間が長くなり,疲れてきたときなどに生じやすい説明の抜けを予防する効果もある.電子カルテを使用している施設では,説明内容を文書化して電子カルテ内に保存できるので,IC後のカルテの記入も短時間で可能となる.さらに,外勤に行く場合にもiPadを持参していけば同じICができるという有用性もある.最初に通常の白内障手術について理解してもらったうえで,特殊症例の解説を始める.大学病院への紹介であると前クリニックである程度説明を受けていることも多いが,実際に話を聞くと,なぜ大学病院まで白内障手術を受けにきているのか不思議に思っている患者も多い.口頭の説明だけはわかりにくいことも多いので,特殊症例のパターンもiPadに図として保存してあり,ICに活用している.ここからは,それぞれの説明内容について解説する.II通常症例のIC通常症例のICについては,他項目で解説1,2)しているので,簡単に説明する.まずは,眼球解剖は必要で,水晶体がどこにあってどのような役目をしているのか説明する.水晶体核硬度の相違は柔らかいものから硬いものまでカラー写真で用意しておき,外来で撮影した患者の水晶体と比較すると,混濁の程度を理解してもらえる(図2).核硬度を知ってもらうことは,硬い核や成熟白内障の解説前にとくに有用である.後は水晶体がカプセルに囲まれた細胞の塊で,カプセル内の混濁水晶体を破砕吸引除去して,その中にプラスチック素材の眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を入れることで水晶体の代用となることを知ってもらう(図3).通常では水晶体.*HiroyukiMatsushima:獨協医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(31)743図1iPadを活用した白内障手術のICアプリであるNoteshelf内にいくつかのパターンの説明用図を保存し,ICに活用している.軽度中等度重度図2白内障程度の解説水晶体核硬度をカラー写真で用意しておき,外来で撮影した患者の水晶体と比較すると,混濁の程度を共有できる.白内障を削り取る眼内レンズを入れる図3通常白内障手術のIC水晶体がカプセルに囲まれた細胞の塊であり,手術ではカプセル内の混濁水晶体を破砕吸引除去して,その中に眼内レンズを入れることを説明する.あとの特殊症例の説明時に有用となる.通常の白内障手術小瞳孔図4小瞳孔の解説先にiPadで通常と小瞳孔の散瞳状態をみてもらう.その後に患者の眼を撮影した細隙灯顕微鏡写真を見せることで,自分の眼の状態が理解できる.図5前眼部OCTによる狭隅角の説明CASIA2(トーメーコーポレーション)では正常症例(左)と実症例(右)を並べて表示できるので,隅角が狭くなっていることをわかりやすく解説できる.毛様体図6狭隅角眼に対する白内障手術の効果水晶体と眼内レンズで厚みに差があることを説明し,白内障手術によって隅角が開大することを理解してもらう.通常の白内障角膜混濁のある白内障図7角膜混濁眼の解説先にCiPadで通常の白内障の状態と角膜混濁眼の白内障状態を見てもらう.その後に患者の眼を撮影した細隙灯顕微鏡写真を見せることで,自分の眼の状態が理解できる.図8角膜内皮障害の解説角膜の最内層に角膜内皮細胞があり,ポンプのように水の量をコントロールして角膜の透明性を維持していることを説明する.通常の白内障進行した白内障図9硬い核・成熟白内障の解説同様にCiPadで通常と進行した白内障状態を見てもらう.図C2の白内障程度も一緒に見せるとさらに効果的である.その後に患者の眼を撮影した細隙灯顕微鏡写真を見てもらい,自分の眼の状態を理解してもらう.通常の白内障進行した白内障図10外傷白内障の解説外傷白内障は虹彩形状が異なることを説明する.虹彩離断部に一致してCZinn小帯断裂が疑われることを理解してもらう.図11Zinn小帯断裂白内障手術のICZinn小帯の一部が断裂していると,水晶体が傾いてしまい手術操作ができない.水晶体.拡張(CTR)リングを使って補強しながら白内障手術を行う.水晶体.が取れてしまうと特殊な眼内レンズを眼内レンズが入らない強膜に固定する図12強膜内固定術のICZinn小帯断裂などで水晶体.が取れてしまうことがある.水晶体.がないと眼内レンズを入れる場所がないので,支持部が細く硬い眼内レンズを使用して,強膜に直接固定する方法を行う.■用語解説■水晶体.拡張リング(capsulartensionring:CTR):Zinn小帯断裂や脆弱によって白内障手術が困難な状況で,水晶体.をCPMMA製のリングを挿入して安定性を増し,白内障手術を可能にする補助器具.2014年C7月より国内で認可された.
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2023年6月30日 金曜日
白内障手術特殊症例のインフォームド・コンセントInformedConsentinSpecialCataractSurgeryCases鵜飼祐輝*佐々木洋*はじめに近年の白内障手術はさまざまな眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)が開発され,より良い視機能の獲得をめざした屈折矯正・老視矯正手術としての意味合いが大きくなった.選択できるCIOLが増えたことにより,術後視機能への期待度は高くなっている.しかし,白内障手術後には術前にはなかった不快光視現象を自覚したり,期待した視力やコントラスト感度が得られなかったりすることがある.さらに,同じCIOLを使用しても瞳孔径により術後の明視域は異なることや,残余乱視が術後視機能に大きく影響するなど,さまざまな因子が患者満足度に影響する.このような事象に関しては,術前に適切なインフォームド・コセント(informedconsent:IC)を行うことで患者の理解を得られやすい.また,患者に最適なCIOL選択もきわめて重要である.本稿では術後不快光視現象を考慮したCIC,術後に良好な視力が期待できにくい患者のCIC,近方視狙いの単焦点CIOL挿入における瞳孔径別目標屈折値のCIC,術後CIOL軸回転を生じやすいアトピー白内障のCICについて解説する.CI術後不快光視現象を考慮したIC術後不快光視現象には,グレア,ハロー,スターバーストがあり,とくに夜間の運転時に自覚され,まぶしさと視界を妨げることから不満の原因となっている.有水晶体眼や単焦点CIOL挿入眼でもグレアとスターバーストは自覚されるが,ハローを自覚することはほとんどない.低加入度数分節型CIOLのCLENTISComfort挿入眼では小型の扇状のハロー,3焦点CIOLのCPanOptixおよび連続焦点CIOLのCSynergy挿入眼では円形のハローを自覚するが,その程度はCSynergy挿入眼で強いことが報告されている1).正視眼に比べ軽度近視で不快光視現象が増強され,瞳孔径の大きい患者でも不快光視現象は強く自覚されることが報告されている2,3).図1はCLEN-TISComfortを挿入したC71歳の男性に凸レンズを負荷することで近視状態を作り,不快光視現象測定検査であるCphoticCphenomenatest(PPT)4)を施行した結果である.患者の矯正少数視力は(1.5),遠見みかけ瞳孔径は明所でC3.29Cmmであった.正視状態では比較的軽度だったスターバーストおよび扇状ハローが,近視量の増加に伴い増強していることがわかる.患者の自覚症状としても近視化に伴い「徐々に眩しさが増していく」ことを訴えた.次に,LENTISComfort挿入眼(54例C76眼,C69.0±8.6歳,瞳孔径C3.83±0.75mm),PanOptix挿入眼(35例C35眼,65.8±8.3歳,瞳孔径C4.15±0.84Cmm),Synergy挿入眼(33例C33眼,62.8±9.0歳,瞳孔径C4.05C±0.63Cmm)についてCPPT環境下での瞳孔径とCPPT測定値の関係について検討した(表1).3種CIOLともグレアと瞳孔径の間には有意な相関はなかったが,LENTISComfort挿入眼では瞳孔径が大きい症例ほど大きいハローを自覚し,Synergy挿入眼では瞳孔径が大きいほど大きく強いハローとスターバーストを自覚した.Pan-Optix挿入眼では瞳孔径と不快光視現象には有意な相関*YukiUkai&HiroshiSasaki:金沢医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕鵜飼祐輝:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学C1-1金沢医科大学眼科学講座C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(25)C7370D-0.50D-1.00D-1.50D-2.00D図1LENTIS挿入眼における屈折値ごとの不快光視現象表1不快光視現象と瞳孔径の関係IOL不快光視現象回帰式Crp値ハローサイズCy=0.0554x.0.0179C0.35<C0.05LENTIS挿入眼ハロー明度CスターバーストサイズC─C─Cn.s.n.s.スターバースト明度C─Cn.s.ハローサイズC─Cn.s.PanOptix挿入眼ハロー明度CスターバーストサイズC─C─Cn.s.n.s.スターバースト明度C─Cn.s.ハローサイズCy=1.4445x+0.2676C0.53<C0.01Synergy挿入眼ハロー明度CスターバーストサイズCy=0.1197x.0.0044Cy=0.0599x+0.3318C0.480.47<C0.01C0.01スターバースト明度Cy=0.1037x+0.1351C0.59<C0.01(logMAR)-0.30p<0.01p<0.05-0.20-0.100.00良好群(n=8)同等群(n=63)不良群(n=16)図2白内障手術前における混濁程度に対する矯正視力別の白内障手術後矯正視力図3単焦点IOL挿入眼の-3.0Dの見え方(瞳孔径2.0mm)図4単焦点IOL挿入眼の-2.5Dの見え方(瞳孔径2.0mm)図5単焦点IOL挿入眼の-2.5Dの見え方(瞳孔径3.0mm)表2アトピー白内障手術後のtoric軸回旋量翌日1週間1カ月有意差平均回旋量(°)C7.00±6.23C8.91±11.63C8.72±8.96Cn.s.表3アトピー白内障手術後のtoric軸回旋量(CTRの有無による比較)翌日1週間1カ月平均回旋量(°)CTR挿入群C4.60±3.56C4.50±3.10C3.25±0.83CTR非挿入群C7.71±6.67C10.56±13.13C10.29±9.59
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