240糖尿病網膜症と自然免疫―その1(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに近年,糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)の病態に自然免疫系が関与しているとする報告が多数出てきている1).筆者らはCDRと免疫に関する近年の論文をレビューし報告したことがある2).C●糖尿病網膜症とNLRP3インフラマソーム自然免疫系では多数のパターン認識受容体(patternrecognitionCreceptors:PRRs)が重要な役割を担っている.PPRRsの一つであるCNLRP3は,インフラマソームの構成要素であり,自然免疫の重要なレギュレーターである.高グルコース,低酸素はCNLRP3インフラマソームを活性化するが,NLRP3インフラマソーム活性化は好中球の浸潤や血液網膜関門の透過性亢進を引き起し,DRの病態に関与すると考えられる.C●DRとDAMPsDAMPs(damage-associatedCmolecularpatterns)とは細胞死などに伴って放出される物質である.DRでは,主要なCDAMPsであるCHMGB1やCATPが好中球などの細胞死によって産生され,自然免疫系の受容体であるTLR(toll-likereceptor)2,TLR4やCP2X7を介して図1糖尿病網膜症(DR)における自然免疫の関与NLRP3インフラマソームは自然免疫の重要なレギュレーターであり,炎症,血管新生,線維化などを惹起しCDRの病態に深く関与している.また,DRの発症と進行は,遷延化した創傷治癒過程に類似しており,創傷治癒の出血凝固期・炎症期に相当するCSDRやprePDRにはCM1Mzが,増殖期・リモデリング期に相当するCPDRにはCM2Mzが関与すると考えられる.(文献C2より改変引用)NLRP3インフラマソームを活性化し,炎症を惹起する.一方でCNLRP3インフラマソームはCVEGFやCTGFbを介して血管新生や線維化を促進する.C●DRと創傷治癒過程の類似性創傷治癒は出血凝固,炎症,増殖,リモデリングのC4期に分けられる.単純糖尿病網膜症(simpleCdiabeticretinopathy:SDR)や増殖前糖尿病網膜症(preprolifera-tiveCdiabeticretinopathy:prePDR)では出血やフィブリン沈着,血管漏出などの炎症反応が,そして増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)では血管新生と線維化を伴う増殖性変化やリモデリングが認められるため,創傷治癒過程の前C2者がCSDRとCpre-PDR,後C2者がCPDRに相当すると考えられる.創傷治癒の炎症期にはCM1マクロファージ(Mz)が炎症性サイトカインを産生して病態に関与する.その後,増殖期にはCM2MzがCDAMPsを消去し抗炎症的に働くと同時に血管新生と線維化を惹起する.高血糖や低酸素は,炎症性CM1Mzから抗炎症性CM2Mzへの極性化を抑制し,SDRにおける持続的な炎症と浮腫を引き起こす.その一方でCPPARcの活性化はCM2Mzへの極性化を促進し,PDRにおける増殖性変化を惹起すると推測される.以上の仮説をもとに次回はCDRの種々の病態がなぜ生じるのかを考えてみたい.文献1)XuCH,CChenM:DiabeticCretinopathyCandCdysregulatedCinnateimmunity.VisionRes139:39-46,C20172)IkedaCT,CNakamuraCK,CKidaCTCetal:PossibleCrolesCofCanti-typeIIcollagenantibodyandinnateimmunityinthedevelopmentCandCprogressionCofCdiabeticCretinopathy.CGraefesArchClinExpOphthalmolC260:387-403,C2022(83)あたらしい眼科Vol.40,No.5,20236610910-1810/23/\100/頁/JCOPY