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屈折矯正手術:ICL挿入眼での白内障手術の注意点

2023年1月31日 火曜日

●連載◯272監修=稗田牧神谷和孝272.ICL挿入眼での白内障手術の注意点大内雅之大内雅之アイクリニックICL挿入眼の眼内レンズの度数計算には注意が必要である.光学的眼軸長測定装置では,まず同機の光干渉断層像などの測定画像をみて,水晶体前面の認識が正しいかを確認する.もしもCICL前面を水晶体前面と誤認しているようなら,別の方法で前房深度,水晶体厚を測定し,その値を代入して再計算する.●はじめに近視矯正手術にはClaserCinCsituCkeratomileusis(LASIK)と並び,後房型有水晶体眼内レンズ(implant-ablecollamerlens:ICL)挿入手術がある.中央に灌流口を設け,術後の房水動態が改善されたモデルの登場で,近年その普及が加速している.屈折矯正手術既往患者が白内障手術を受けるケースも増えてきている.LASIK既往眼では角膜形状が大きく変わっているため,白内障手術時の角膜曲率,予測術後眼内レンズ位置(e.ectivelensposition:ELP)の算出値が変わってしまい,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算に大きく影響を与え,これらの手術が課題となっている.一方,ICL挿入手術では,角膜形状は変化しないが,前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)が変化している可能性があり,さらにCICLの存在が,測定光,測定結果に影響を与える可能性もある.今後,ICLによる屈折矯正手術を受けた患者に白内障手術を行う機会が激増することは明白である.その際は,眼内のさまざまな測定値が影響を受けるため,別の注意が必要である.表1ICL挿入前後の生体計測値ICL挿入前眼ICL挿入後眼眼軸長(mm)C26.57±1.27C26.58±1.24前房深度(mm)PCI全例(n=100)CPCI誤認なし(n=25)CPCI誤認あり(n=75)C前眼部COCT全例(n=100)C3.72±0.30C3.79±0.30C3.71±0.30C3.84±0.28C3.23±0.343.72±0.353.20±0.343.79±0.25水晶体厚(mm)PCI全例(n=100)CPCI誤認なし(n=25)CPCI誤認あり(n=75)C前眼部COCT全例(n=100)C3.70±0.33C3.88±0.30C3.84±0.28C3.71±0.30C4.19±0.383.83±0.273.87±0.233.77±0.31PCI:光学的眼軸長測定装置,誤認:PCIにてCICL前面を水晶体前面と誤認●何が変わるのか国外では早くから,ICL挿入前後における眼軸長測定結果の比較がなされており,いずれも有意な変化がなかったことが示されている1,2).筆者の検討3,4)においても,光学的眼軸長測定装置(IOLマスターC700)を用いて測定し,さらにCIOL度数計算(SN60WFを対象とし,正視を目標とした)をしたところ,眼軸長はCICL挿入後の測定値がわずかにC0.01Cmm短くなったが,ICL挿入眼の多くは長眼軸であるため,IOL度数計算への影響はきわめて少なかった.そして角膜屈折力も変わらなかった.しかし,ACDはCICL挿入後で平均C0.5Cmm短く計測され,水晶体厚(lensthickness:LT)はC0.5Cmm薄く計測された(表1).そのため,ACDやCLTがパラメータに含まれるCHaigis式,Barretuniversal式では,ICL挿入後はそれぞれC0.3D,0.2D小さな度数が算出された(表2).眼軸長と角膜屈折力だけで算出されるCSRK/T式では,ICL挿入前後でCIOL度数計算は変わらない.C●なぜ変わるのか図1はCIOLマスターC700のCOCT像であるが,ICL挿入眼ではC4本のCsegmentationlineのうち,水晶体前面を同定しているはずの左からC3本目のラインが正しく水表2ICL挿入前後の眼内レンズ度数計算結果(SN60WFを対象に,正視となる度数を計算)計算式ICL挿入前眼ICL挿入後眼ICL挿入後眼(代入値)※SRK/T式C11.70±3.53DC11.61±3.51DC11.61±3.51DHaigis式C12.05±3.60DC11.75±3.53DC12.02±3.60DBarret式C11.78±3.43DC11.57±3.37DC11.80±3.43DCBarret式:BarretuniversalIITKformula※代入値:前眼部COCTによって計測した前房深度,水晶体厚の値を,IOLマスターC700に手入力し,再計算した値.(67)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023670910-1810/23/\100/頁/JCOPYab水晶体前面を正しく認識(25/100眼)ICL前面を水晶体前面と誤認(75/100眼)図1光学的眼軸長測定装置における水晶体前面の認識ICL挿入後眼のCIOLマスターC700による測定では,75%でCICLの前面を水晶体前面と誤認し,前房深度が正しく計測されなかった.晶体前面を認証している例(図1a)はわずかC25%で,残りのC75%はCICL前面を水晶体前面と誤認していた(図1b).IOL度数計算式のうちCSRK/T式では,眼軸長とK値のみが計算パラメータとして使われるが,Haigis式,Barretuniversal式では,ACDとCLTがこれに含まれる.測定時に水晶体位置を正しく認識していなければ,ACDやCLTをパラメータに含むCBarretuniversalCIITK式やCHaigis式では正しく計算できないのは自明である.もちろん,水晶体前面を正しく認識したC25%のケースでは,ACD,LT計測値はCICL挿入前後で変わらなかった(表1).C●どう対応するのかそこで,ICL挿入眼でCIOL度数を決めるときは,まずCIOLマスターなど光学的眼軸長測定装置で測定後,断層像や各種波形(IOLマスターC700であればC4本のCsegmentationline)などをみて,測定時に水晶体前面が正しく認識されているか,ICL前面を水晶体前面と誤認していないかを確認する.正しく認識していれば,どの計算式であっても,そのまま提示されている度数のCIOLを選択して問題ない.もしも正しく認識されていなければ,次の手順に入る.まず,前眼部COCTなど,他の手段でCACD,LTを測定する.筆者はCCASIA2を用いたが,ここでもCICL前面を水晶体前面と認識してCACDが表示されているケースがあったため,ICL挿入後のACDは平均でC0.05Cmm短く,LTはC0.06Cmm長く測定された.誤認しているケースでは,トレース修正をかけ,改めてCACD,LTを表示させる(ただし,この手法を用いてもマニュアル操作が挟まるため,多少の誤差は生じる).次に光学的眼軸長測定装置の手入力画面を開C68あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023き,前述の方法で正しく測定されたCACD,LTを代入し,再計算する.そうすると,ICL挿入前と同じCIOL度数が計算される.前眼部COCTなどを持ち合わせてなければ,代替策としてCACD,LTを用いない計算式(=SRK/T式)の結果のみでCIOL度数を決める(表2)2).C●おわりに屈折矯正手術既往者が白内障手術を受けるケースが増えた現在,白内障手術におけるCIOL度数計算は大切な問題である.LASIK既往眼だけでなく,今後はCICL挿入眼に白内障手術を行う機会が増加することは間違いない.角膜形状が変わるCLASIKほどではないにしても,やはりCIOL度数の算出が影響を受けるため,意識の高い白内障術者は,上記のような知識を持ち合わせておく必要がある.文献1)SandersCDR,CBernitskyCDA,CHartonCPJCJrCetal:TheCvisianCmyopicCimplantableCcollamerClensCdoesCnotCsigni.cantlyCa.ectCaxialClengthCmeasurementCwithCtheCIOLMaster.JRefractSurgC24:957-959,C20082)PitaultG,LeboeufC,LerouxlesJardinsSetal:BiometrieoptiqueCdesCyeuxCavecCimplantsCphaques.CJCFrCOphtalmolC28:1052-1057,C20053)大内雅之:有水晶体眼内レンズ挿入が眼内レンズ度数計算に与える影響.IOL&RSC35:463-469,C20214)OuchiM:EvaluationCofCimpactCofCposteriorCphakicCIOLCimplantationonbiometryande.ectivenessofconcomitantuseCofCanteriorCsegmentCOCTConCIOLCpowerCcalculationCforcataractsurgery.CJCataractRefractSurgC48:657-662,C2022(68)

眼内レンズ:アセタゾラミドによる脈絡膜剝離と浅前房化

2023年1月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋東花枝434.アセタゾラミドによる脈絡膜.離と浅前房化横浜市立大学附属病院眼科緑内障の治療や内眼手術前後の眼圧下降目的などで用いられるアセタゾラミドは,毛様体脈絡膜.離による急性閉塞隅角緑内障を引き起こすことがある.その臨床所見や病態に関して,海外で報告されている事例,および筆者が経験した症例を交えて紹介する.●はじめにアセタゾラミドはスルホンアミド誘導体であり,生体に存在する炭酸脱水酵素の作用を抑制することにより,眼圧下降,中枢神経系の刺激伝達抑制(てんかん発作の抑制),呼吸賦活(呼吸性アシドーシスの改善),および利尿などの作用を示す1).重大な副作用として,代謝性アシドーシス,電解質異常,ショック,アナフィラキシー様症状,再生不良性貧血,溶血性貧血,無顆粒球症,血小板減少性紫斑病,皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症,急性腎不全,腎・尿路結石,精神錯乱,痙攣,肝機能障害,黄疸があり,その他の副作用として知覚異常や消化器症状,一過性近視などが現れることがあると薬剤添付文書に記載されている1).眼科領域では,毛様体上皮中に存在する炭酸脱水酵素の作用を抑制することで房水産生を減じ眼圧下降させるため,とくに緑内障による高眼圧の治療や術前術後の眼圧上昇に対して用いられるが,毛様体脈絡膜.離による浅前房および急性閉塞隅角緑内障を起こすことがあると報告されている2,3).C●海外からの報告毛様体脈絡膜上腔は強い細胞同士の接着構造をもたず,層状にたたまれた組織構造をしているため,容易に毛様体脈絡膜.離を起こし,超音波生体顕微鏡(ultra-soundbiomicroscopy:UBM)では強膜と毛様体最外層の間に浮腫状の低エコー領域として観察される.毛様体脈絡膜.離は低眼圧を伴うこともあるが,毛様体の前方回旋により虹彩根部と水晶体.が前方に偏位し,続発性の隅角閉塞を引き起こすこともある4).内眼手術(強膜内陥術や線維柱帯切除術など)や原田病,後部強膜炎などがおもな要因となるが,スルホンアミド構造をもつ薬剤(アセタゾラミド,ヒドロクロロチアジド,ST合剤など)もその原因となる.治療は散瞳・調節麻痺点眼,(65)副腎皮質ステロイド投与や硝子体切除術を行う4).Mancinoら2)は,左眼の白内障手術直後にアセタゾラミドを投与し,翌日に両眼の浅前房,眼圧上昇および広範な脈絡膜.離を伴う閉塞隅角緑内障を発症したC76歳男性の症例を報告している.右眼はC7年前に白内障手術を受け人工水晶体眼であった.アセタゾラミド投与を中止し副腎皮質ステロイドの大量静注を行い速やかに改善がみられた.また,Parthasarathiら3)は,慢性開放隅角緑内障の既往があるC66歳の男性患者に対し,左眼の白内障手術直後にアセタゾラミドを内服投与したところ,左眼および有水晶体眼である右眼も眼圧上昇し,浅前房となり毛様体浮腫を認めたと報告している.薬剤性の毛様体浮腫の詳細な機序は明らかではないが,薬剤に対するぶどう膜組織のアレルギー反応5)や,エイコサノイド(プロスタグランジンやトロンボキサンなどの生理活性物質)の代謝不均衡により引き起こされるという説もある3).C●症例筆者が経験した症例4)を紹介する.患者はC57歳,男性.眼疾患の既往はなく,主訴は右視力低下で,視力は右眼C0.1(0.15C×sph-1.00D),左眼(1.2C×sph-0.25D(cyl-0.75DAx180°),眼圧は右眼16mmHg,左眼18CmmHg,両眼に核白内障を認めた.前房深度と眼軸長は正常であり,眼底に異常所見はなかった.右眼白内障手術直前にアセタゾラミド錠を内服投与し,右眼にレボフロキサシン点眼と散瞳・調節麻痺点眼を行った.右眼の超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を施行し,合併症なく終了した.術後C3時間で頭痛と霧視を自覚し,術後C9時間で受診時,眼圧が右眼C70CmmHg,左眼C62CmmHg,瞳孔径が右眼C6Cmm,左眼C3Cmmで,対光反射は両眼でやや減弱していた.両眼毛様充血,角膜浮腫と浅前房(vanHeri-ck0度)を認めた(図1)4).創部漏出はなく眼内レンズは.内中央固定で,光干渉断層像や超音波画像(Bモーあたらしい眼科Vol.40,No.1,2023C650910-1810/23/\100/頁/JCOPY右眼左眼図1右眼白内障手術後9時間の細隙灯顕微鏡所見両眼の毛様充血と角膜浮腫,浅前房(vanHerick0度)を認め,右眼は前房炎症細胞を軽度認めた.(文献C4より転載)ド)で異常所見はなかった.瞳孔ブロックを考え,D-マンニトール点滴,アセタゾラミド錠内服,両眼にピロカルピン点眼,眼圧下降点眼,ベタメタゾンC0.1%点眼を開始したが眼圧下降せず,左眼のCUBMを行った.前房深度はC1.34Cmmで,毛様体上腔の液体貯留および虹彩,水晶体.の前方移動がみられた(図2).両眼眼底の全周に毛様体浮腫を認めた.毛様体脈絡膜.離による急性閉塞隅角緑内障(acuteCangleCclosureglaucoma:AACG)と判断し,アトロピン点眼開始したところ眼圧は下降しはじめ,プレドニゾロン内服をC2週間継続し正常眼圧を得た.本症例では,手術当日朝からC2週間アセタゾラミドを内服していた.術後C10日目には毛様体脈絡膜.離と浅前房は改善したが,術後C3週間までプレドニゾロン内服下であったため,術前術後に内服したアセタゾラミドが毛様体脈絡膜.離の原因となった可能性は否定できない.本症例では後日左眼も白内障手術を行い,手術前後にアセタゾラミドは内服せず,術前後にデキサメタゾン2.5Cmgの静脈内投与を行い経過良好であった.被疑薬の中止および副腎皮質ステロイドの予防的投与が,毛様図2左眼の超音波生体顕微鏡所見前房深度はC1.34Cmmで,毛様体上腔の液体貯留および虹彩,水晶体.の前方移動がみられた.(文献C4より転載)体浮腫の予防に有効であったと考えられた.C●おわりに内眼手術後などに原因不明の脈絡膜.離や浅前房化がみられたときは,まれではあるがアセタゾラミドによる毛様体脈絡膜.離が原因となっている可能性もあり,鑑別として考慮する必要がある.文献1)三和化学研究所:炭酸脱水素酵素抑制剤アセタゾラミド添付文書C2021年C11月改訂(第C1版)2)MancinoCR,CVaresiCC,CCerulliCACetal:AcuteCbilateralCangle-closureCglaucomaCandCchoroidalCe.usionCassociatedCwithCacetazolamideCadministrationCafterCcataractCsurgery.CJCataractRefractSurgC37:415-417,C20113)ParthasarathiCS,CMyintCK,CSinghCGCetal:BilateralCacet-azolamide-inducedCchoroidalCe.usionCfollowingCcataractCsurgery.EyeC21:870-872,C20074)東花枝,山田教弘,竹内正樹ほか:片眼の白内障手術後早期に両眼の著明な浅前房と高眼圧をきたしたC1例.臨床眼科76:531-538,C20225)TripathiCRC,CTripathiCBJ,CHaggertyCCCetal:Drug-inducedCglaucomaCmechanismCandCmanagement.CDrugCSafetyC26:49-767,C2003

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 ハードコンタクトレンズを処方する

2023年1月31日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療5.ハードコンタクトレンズを処方する糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)はソフトコンタクトレンズ(SCL)と異なり,柔軟性や弾力性に乏しく,ベースカーブ(basecurve:BC)や直径など,選択すべきレンズ規格の選択肢が多い.このため,HCLを処方する際には,トライアルレンズを患者の眼に実際に装着し,満足のいくフィッティングが得られるまでトライアルレンズを変更するというtrialanderrorを行う.しかし,このtrialanderrorに慣れないため,「HCLの処方はむずかしい」と感じる先生が少なくない.そこで本稿では,HCLの処方手順に沿って,トライアルレンズの選択方法とフィッティングの評価方法のポイントをわかりやすく解説する.■素材の選択HCLは,素材ごとにDk値(酸素透過係数)で表される酸素透過能が異なり,Dk値が高いほど酸素透過能が高くなる.一般に,Dk値が高いほどレンズを経由した酸素供給が多くなるため角膜への負担が減少するが,一方で汚れが付着しやすくなり,変形や破損が生じやすくなるなどのデメリットも生じる1).そのため,強度近視でレンズが分厚い患者,装用時間が長い患者,角膜内皮の形状異常を生じている患者には高Dk素材のレンズを,アレルギーやドライアイなどのレンズが汚れやすい患者には低Dk素材のレンズを選択するとよい.■直径の選択レンズの直径は,瞼裂幅・角膜曲率半径を参考にして決定する.瞼裂幅が狭い眼ではレンズと眼瞼の接触による不快感が生じやすいため,直径の小さなレンズを選択するのがよい.一方,瞼裂幅が広い眼では,上眼瞼によるレンズの保持が得にくいためにレンズの動きが不安定になりやすく,比較的直径の大きなレンズが有用である2).また,角膜曲率が大きい眼は直径が大きなレンズ,角膜曲率が小さい眼は直径が小さなレンズのほうが,レ(63)視覚再生機能外科学道玄坂糸井眼科フラットパラレルスティープ図1ベースカーブ(BC)と角膜曲率の関係BCが角膜曲率より大きい状態をフラット,BCと曲率が等しい状態をパラレル,BCが角膜曲率より小さい状態をスティープとよぶ.ンズの動きが安定することが多い.■BCの選択第一選択となるBCはレンズの種別,直径,デザインによって異なるため,メーカーのフィッティングマニュアルを参考にする.実際にはオートケラトメータから得られた角膜曲率半径の弱主経線値,あるいは弱主経線値と強主経線値の中間値に近いBCを選択することが多い.BCと角膜曲率の関係性について,BCが角膜曲率より大きい状態をフラット,BCと曲率が等しい状態をパラレル,小さい状態をスティープとよび,原則としてはパラレルを理想とする(図1).■フィッティングの評価フィッティングは,涙液交換の有無を含めたレンズの動きを評価する動的評価と,レンズ中央と周辺部のフルオレセイン濃度の差(染色パターン)からBCと角膜曲率の関係性を推測する静的評価に分けられる.フィッティングの評価には涙液量が大きく影響するため,若年者やコンタクトレンズ装用が初めてで刺激性涙液分泌が多い場合は,HCL装用後に15~20分程度時間をおいたのちに評価を行うとよい.動的評価では,レンズの動きと安静位置を評価する.HCLの装用時は,瞬目ごとにレンズが上下に運動することでレンズ下の涙液交換を行っている.そのため,瞬目時のHCLの動きは,瞬目に一致してHCLが上方に引き上げられたあとに,緩徐に下方に下がってきて角膜あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023630910-1810/23/\100/頁/JCOPYアピカルタッチパラレルアピカルクリアランス図2フルオレセイン染色パターンの名称フルオレセイン染色パターンは,レンズ周辺部が中央部より明るく染色されるアピカルタッチ,レンズ全体が均一に染色されるパラレルフィッティング,レンズ中央部が周辺部より明るく染色されるアピカルクリアランス,の3種に分類される.中央に静止するのが理想である.動きが大きく早い場合はルーズ,小さく遅い場合はタイトとよび,このあとの静的評価の結果に応じて,BC・周辺デザインを変更する.静的評価では,フルオレセイン染色パターンを評価する.フルオレセイン染色パターンを評価する際には,レンズが偏位した状態での正確な評価はむずかしいため,レンズを角膜中央に移動させて評価する.フルオレセイン染色パターンは,レンズ中央部より周辺部が濃く染色されるアピカルタッチ,全体が均一に染色されるパラレルフィッティング,レンズ中央部が濃くて周辺部が薄く染色されるアピカルクリアランスの3種に分類される(図2).パラレルフィッティングは,レンズと角膜曲率が平行となるため,角膜への負担が少なく,理想的なフィッティングとされている.一方,アピカルタッチはレンズがフラットで角膜頂点で支えられている状態,アピカルクリアランスはレンズがスティープで角膜周辺部で支えられている状態である.■レンズ周辺部の確認レンズ最周辺部には,装用感を良好に保ち,涙液交換を円滑に行うために,ベベルというカーブが設けられている.フルオレセイン染色時にはベベル下に貯留した涙狭い適正広い図3レンズ周辺カーブ(ベベル)の比較レンズ周辺カーブが角膜に適合しているかどうか,ベベル下に貯留した涙液の幅からベベル幅を評価する.液の幅からベベル幅を評価し,ベベルが角膜形状に適しているかどうかを判定する(図3).HCLのBCと角膜曲率がパラレルであったとしても,ベベル幅が広いとレンズの曇り・過剰なレンズの動き(ルーズ)の原因となり,ベベル幅が狭いと,レンズの固着や装用時の不快感,涙液交換の不良による角膜上皮障害の原因となるため,周辺部デザインの変更を検討する.適切なベベル幅はメーカーやレンズの種類によってまったく異なるので,各社のフィッティングマニュアルを参考にするのがよい.■おわりに第2回セミナーで述べたように,HCLは光学性に優れており,唯一無二のメリットをもつ有用な屈折矯正手法である.また,HCLの処方は「やや煩雑でむずかしい」と捉えられているが,上述のようにポイントをふまえて処方を行えば,決してむずかしいものではない.HCLを適切に処方することで,質の高いコンタクトレンズ診療を行いたい.文献1)BennettES,HenryVA:Clinicalmanualofcontactlenses.5thedition,p145-147,WoltersKluwerHealth,20192)小玉裕司:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識4.HCL処方-サイズの決定.あたらしい眼科37:1117-1118,2020

写真:画像鮮明化ソフトウェアのフルオレセイン画像への応用

2023年1月31日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦464.画像鮮明化ソフトウェアの福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科フルオレセイン画像への応用視覚機能再生外科学図1リンパ管拡張によるdellenのフルオレセイン染色画像(a)とSjogren症候群のフルオレセイン染色画像(b)図2図1aの画像の鮮明化処理後(a)と図1bの画像の鮮明化処理後(b)図3図1aのシェーマ図4図1bのシェーマ①角膜,②Dellen,③フルオレセインの溜まり,①結膜優位の点状表層角膜症.④リンパ管拡張により隆起した結膜.(61)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023610910-1810/23/\100/頁/JCOPYフルオレセイン染色画像の取得には最大吸収波長が494nm(青色),励起波長が521nm(緑色)のフルオレセインナトリウムを用いる.点眼で前眼部の所見が観察可能であり,静脈内注射は網膜血管造影などに利用される.前眼部では,角結膜上皮の障害部位やバリア機能の低下した部位にフルオレセインが留まり,病変部位が検出できる.また,フルオレセインの強度の違いにより涙液層の厚みやその動態観察も可能である.フルオレセイン画像取得には青色波長の光の照射を行い,励起された波長の観察が必要である.フルオレセイン染色は点眼直後より時間経過や瞬目により刻々と変化するため,撮りたい画像を得るには熟練した技術が必要である.本稿では,画像鮮明化装置MIEr(ロジック・アンド・デザイン製)によりフルオレセイン画像への鮮明化技術の可能性を示した.画像鮮明化処理ソフトウェアとは,デジタル画像(デジタルに変換すればアナログ画像でも可)からオリジナリティを保持した状態で画像に独自の処理を行うことで,画像全体を人間の眼に見えやすいように強調する技術である.この技術は,消防レスキュー隊の利用するカメラや監視カメラなどの暗所・逆光や半逆光映像の鮮明化など,さまざまな領域で応用され,筆者は眼科領域での有用性を報告してきた1).具体的には,ドライアイの涙液層破壊パターン2),超広角走査レーザー検眼鏡画像3)や眼科手術動画の鮮明化である.図1a,2a,3は結膜下のリンパ管拡張に続発したdellenのフルオレセイン染色画像である.隆起病変により盗涙減少が引き起こされ,隆起部から距離をおいて潰瘍などの病変が認められるが,鮮明化処理前の画像(図1a)はぼやけて見えにくい.鮮明化処理後(図3)は角膜輪部の7-8時付近の角膜潰瘍を観察することが容易となった.図1b,2b,4はSjogren症候群による角膜結膜所見のフルオレセイン染色画像である.特徴としては,涙液貯留量が少ないうえに結膜優位の点状表層角膜症があるが,鮮明化処理前(図1b)は暗く病変が見えにくい.しかし,鮮明化処理後(図4)は明るくなり,一見して結膜優位の点状表層角膜症を確認できる.画像鮮明化ソフトウェアにより所見の不明瞭な画像が明瞭になり,フルオレセイン画像一般に有用であると筆者は考えている.文献1)福岡秀記,横井則彦,外園千恵:画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEFの眼科画像に対する有用性の検討.あたらしい眼科36:559-565,20192)青木崇倫,横井則彦:画像鮮明化装置LISr-101の眼科手術動画への応用.あたらしい眼科37:443-444,20203)福岡秀記,横井則彦:画像鮮明化ソフトによる涙液層破壊パターンへの応用.あたらしい眼科35:785-786,20184)山下耀平,福岡秀記,永田健児ほか:画像鮮明化処理ソフトウェアの超広角走査レーザー検眼鏡画像への有用性の検討.日眼会誌126:574-580,2022

抗VEGF 薬の副作用

2023年1月31日 火曜日

抗VEGF薬の副作用AdverseEventsAssociatedwiththeUseofAnti-VEGFDrugs片岡恵子*はじめに血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)は発生および生体の維持に必要不可欠の因子である.また,虚血や炎症などにより誘導されると血管漏出や病的な新生血管を生じる因子でもある.抗VEGF薬の登場は,加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫をはじめとする黄斑疾患や新生血管緑内障や未熟児網膜症などの治療を劇的に改善し,今では臨床現場に必要不可欠な治療薬となった.実臨床で使用する機会が増えた薬剤ではあるが副作用も存在するため,本稿では全身副作用および眼内炎症について解説する.CI抗VEGF薬の全身副作用抗CVEGF薬は従来から抗癌剤として全身投与が行われている薬剤であり,抗CVEGF薬の全身投与における副作用はいくつか報告されている1).抗CVEGF薬は血管内皮細胞での一酸化窒素の産生を抑制することで高血圧を生じるとされる.腎臓の糸球体上皮細胞と血管内皮細胞に作用し蛋白尿を生じる.血管新生は創傷治癒の過程に必要不可欠であるが,抗CVEGF薬により創傷治癒が障害されることで外科手術後の創離開などの合併症の増加が報告されている.また,血栓傾向や心拍出量の低下,甲状腺機能低下などの内分泌機能の低下も報告されている.しかし,これらはすべて全身投与により長期間高濃度の抗CVEGF薬の暴露を受けた場合の副作用である.硝子体内に投与を行った場合,血中へ移行した抗VEGF薬の濃度は全身投与の場合のC1/1,000程度ときわめて低濃度である2).したがって,抗CVEGF薬の全身副作用の発生頻度もきわめて低いことが予想される.無作為化臨床試験のメタ解析を用いて抗CVEGF薬の硝子体内投与により全身副作用の発現が増加するかを調べた報告では,心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントや,それらによる死亡のリスクは増加しなかったと報告されており3),抗CVEGF薬の硝子体投与による副作用の発現頻度は著しく低いと考える.ただし,無作為化臨床試験に参加する被検者は比較的健康である可能性が高いことと,後ろ向き研究ではあるがC65歳以上の患者では抗VEGF薬投与後に脳梗塞のリスクがあがったという報告もあることから4),著しく全身状態が不良などのハイリスク患者に抗CVEGF薬の硝子体内投与を行う際には多少の留意が必要と思われる.現在発売されている抗CVEGF薬は,ラニビズマブ,アフリベルセプト,ブロルシズマブのC3種類と,VEGFとアンジオポエチンC2の両者を阻害するファリシマブがある.抗体には,抗原と結合するフラグメント(Fab領域)と結晶化フラグメントとよばれるCFc領域があり,Fc領域は体内での抗体の分解や腎臓からの除去を制御することで抗体の再利用,つまり抗体の血中濃度の維持に役立っている.抗CVEGF薬は抗体の構造を利用して作製された薬剤であるが,ラニビズマブとブロルシズマブはCFc領域をもたないため,血中から早期に分解および除去され,全身副作用を低減できると期待される(表*KeikoKataoka:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕片岡恵子:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(57)C57表1抗VEGF薬の特徴薬剤構造Fc領域の有無抗体CVEGFFabFc領域ありラニビズマブCVEGFなしアフリベルセプトCVEGFFc領域ありブロルシズマブCVEGFなしファリシマブCVEGFAng-2改変したFc領域Fc領域は改変されている表2ブロルシズマブ関連眼内炎症の臨床的特徴症状検査所見<細隙顕微鏡検査>充血異物感・痛み充血前房細胞角膜後面沈着物前房蓄膿前部硝子体細胞<眼底検査>飛蚊症霧視視力低下硝子体混濁網膜出血,軟性白斑白鞘化した網膜血管網膜血管の蛇行,拡張視神経乳頭の発赤/腫脹<フルオレセイン蛍光造影>暗点視野欠損網膜血管からの蛍光漏出網膜血管の充盈遅延/欠損無灌流領域視神経乳頭からの蛍光漏出図1飛蚊症を自覚して来院したブロルシズマブ関連眼内炎症の一例白鞘化した網膜血管()と網膜出血()がみられる.表3ステロイド治療の例投与法薬剤注意点点眼0.1%ベタメタゾン点眼4回/日前房の炎症が強い場合は点眼回数の増量や散瞳薬の併用を考慮する眼圧上昇の可能性があるTenon.下注射トリアムシノロンアセトニドC20Cmg/0.5Cml眼圧上昇や白内障の増悪の可能性がある内服プレドニゾロン0.5mg/kg/日炎症所見に応じて漸減糖尿病や全身感染症の増悪の可能性がある-

網膜視神経に副作用を生じる薬剤

2023年1月31日 火曜日

網膜視神経に副作用を生じる薬剤SideE.ectsofSystemicDrugsontheRetinaorOpticNerve篠田啓*菅野順二*はじめに近年,診断技術の進歩や分子標的薬をはじめとする多くの抗癌剤の登場などによって,他科薬剤による眼科領域の副作用が増えている.処方科と診断する科が異なるために診療科間の連携がとくに重要であるが,同時に眼科医として一定の知識を日常的にアップデートしておきたい.ここでは,抗てんかん薬や,膠原病治療薬,糖尿病治療薬などの薬剤による眼部副作用について解説する.I抗てんかん薬ビガバトリン(サブリル)は2016年に承認された点頭てんかんに対する薬で,c-アミノ酪酸(GABA)という,脳神経の興奮を抑える抑制性神経伝達物質の分解を抑制してGABA濃度を高めることでてんかんを抑えるとされている.1999年に不可逆的な視野障害が報告されたが,本剤による視野障害誘発については今も議論が続いている1.3).視野障害の頻度は高くないものの不可逆性であり,米国ではtheRiskEvaluationandMitiga-tionStrategy(REMS)によって登録とモニター継続が必要とされている.わが国でも使用は登録医療機関のみに限られ,使用前と,使用中も定期的な眼科でのモニターが必要である.詳しくは日本眼科学会ホームページhttps://www.nichigan.or.jp/member/news/detail.html?itemid=138&dispmid=917を参照されたい.錐体機能障害と視神経萎縮を生じ,視野検査が困難な場合は網膜電図(electroretinogram:ERG)が有用である.また,近年はスペクトラルドメイン光干渉断層計(spectraldomainopticalcoherencetomography:SD-OCT)による神経線維厚の計測の有用性が報告されている4).II膠原病治療薬1.ヒドロキシクロロキン全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythema-tosus:SLE)や皮膚エリテマトーデスに対するヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine:HCQ)(プラケニル)はわが国では2015年に承認された.SLE診療のガイドライン5)では「AmericanCollegeofRheumatology(ACR)改訂分類基準」(1997)もしくは「SystemicLupusInternationalCollaboratingClinics(SLICC)分類基準」(2012)を参考にSLEを診断したうえで,すべての患者にHCQ投与を考慮するとされているため,適応は広く使用者の数がますます増加すると予想される.本剤の副作用として網膜症が有名で1),わが国でも2021年に網膜症が報告された6)(図1).HCQは,網膜色素上皮細胞の代謝阻害によっておもに黄斑部の錐体に毒性を発現し,進行すると網膜障害は不可逆性で,投与中止後も進行しうるとされている7,8).2,000例を超える多数例での累積発症率の検討では治療開始後5年以内の発症はまれであるため,米国のガイドラインでは投与開始後5年目以降のスクリーニングが推奨されている9,10).また,近年の検査法を用いた網膜症診断の報告では,有*KeiShinoda&JunjiKanno:埼玉医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕篠田啓:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38埼玉医科大学医学部眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(51)51右眼左眼29カ月図1ヒドロキシクロロキン(HCQ)網膜症の1例37歳,女性.全身性エリテマトーデスに対してCHCQ(プラケニル)をC200Cmg(4.4mg/実体重kg/日,4.4mg/理想体重kg/日)(うちC5カ月間C300Cmg/日に増量)(計C182Cg)内服時(治療開始後C29カ月時)に診断された網膜症.上段:HCQ中止時眼底カラー画像および眼底自家蛍光画像.中段:治療前,開始後C29カ月(HCQ投与中止時),中止後C17カ月のCSD-OCT画像.下段:治療前,開始後C29カ月,中止後C8カ月の中心視野.傍中心窩の網膜症を認め,中止後もやや進行している.ab図2経口血糖降下薬による黄斑浮腫の1例64歳,女性.問診で糖尿病治療薬としてピオグリタゾン(アクトス)を使用中と判明し,主治医と相談して薬剤を変更したところ,体重はC10kg減少し,眼瞼浮腫,黄斑浮腫も軽減した.Ca:眼科初診時の外眼部および左眼黄斑部断層画像.b:薬剤変更C1カ月後の同画像.(矢田眼科堀江英司先生のご厚意による)いては新たな発症はまれであるが,既存の黄斑浮腫が内服早期に増悪する可能性があるとされている(図2).CIV多発性硬化症治療薬スフィンゴシンC1リン酸(sphingosine1-phosphate:S1P)受容体阻害薬であるフィンゴリモド(イムセラ,ジレニア),a4b1インテグリン(veryClateantigen-4:VLA4)阻害薬であるナタリズマブ(タイサブリ),S1P受容体のサブタイプであるCS1P1とCS1P5に対する阻害薬であるシポニモド(メーゼント)の副作用として,急性網膜壊死,黄斑浮腫の報告がある1,15).黄斑浮腫の発症率はC0.3%,内服開始後C3カ月以内に多い.無症状例も多く,多発性硬化症そのものに伴うものであるという議論もある.治療は休薬であるが,ステロイドCTenon.下注射(sub-tenonCtriamcinoloneCacetonideCinjec-tion:STTA)や硝子体内注射(intravitrealCtriamcino-loneacetonideinjection:IVTA)の奏効例もある.CVコロナワクチン接種に関連したぶどう膜炎SARS-CoV-2ワクチンの投与後に発症したぶどう膜炎の報告が相ついでいる.海外では急性前部ぶどう膜炎が,わが国では原田病が多い.サルコイドーシス,ヘルペス感染症,多巣性脈絡膜炎や,ぶどう膜炎以外でも急性帯状潜在性網膜外層症(acuteCzonalCoccultCouterretinopathy:AZOOR),多発消失性白点症候群(multi-pleevanescentwhitedotsyndrome:MEWDS),中心性漿液性脈絡網膜症,acuteCmacularCneuroretinopa-thy,paracentralacutemiddlemaculopathy,角膜移植後の拒絶反応,視神経炎などが報告されている.mRNAによるCINF-c,CD4陽性T細胞,CD8陽性T細胞,などの炎症性因子やコルチコステロイドの誘導などを介した機序や,COVID-19患者は複数のタイプの自己抗体を発症する傾向があり,COVID-19ワクチン接種による既存の潜在的な自己免疫疾患を引き起こす可能性などが考えられている16).現在,日本眼炎症学会を中心とした,COVID-19ワクチン接種後の眼炎症性疾患発症実態調査が進行中である.VIエタンブトール視神経症結核および非結核性抗酸菌症に用いられるエタンブトール(ethambutol:EB)による視神経障害(図3)についての初めての報告は,1962年CCarrとCHenkindによるもので,わが国でもC1963年に原田らの報告をはじめとして多くの報告がされている.わが国の報告によると,EB視神経症の発生頻度はC0.44.6%(subclinicalにはC10%を超えるという報告もある),発症までの期間は2.6カ月が多いが,6カ月以上の例が多い,あるいは長いほどリスクも継続するとも報告されている17.21).1日投与量C25mg/kg/日,総量C100.400Cgで発症しやすく,危険因子としてC60歳以上,糖尿病,高血圧,腎障害,貧血などがある17.21).金嶋らは,EB内服開始目的で受診しC6カ月以上経過観察できたC152例を検討し,4例で視神経症を疑い内服を中止し,多くは視力および限界フリッカ値(criticalCfusionfrequency:CFF)の低下を認めたが,6カ月程度で自然に回復し,重篤な障害は残さなかったと報告している19).近年,非結核性抗酸菌症に対する長期投与例が増加しており,日本結核・非結核性抗酸菌症学会,日本眼科学会,日本神経眼科学会のC3学会合同で,呼吸器内科医がEB投与に際して行うべき眼科的副作用対策が協議され,EBによる視神経障害に関する見解が報告された22)(https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/news/ethambutol.pdf).その骨子は,①投与前に早期発見のための最適な自己検査法,診察間隔,眼科医との連携について患者に十分に説明する.②投与中は定期的に眼科で評価を受ける.自覚症状がなければC1.3カカ月ごと,自身で毎日自己評価できる患者はC3カ月に一度,眼科で定期的に評価を受けることが早期発見に重要である.③検査内容は,視力検査(矯正視力)は必須で,視野検査も行う.必要に応じて,中心CCFF検査も行う.色覚検査(石原式),Amslerチャート(簡易な中心視野検査)も早期発見に有用である.というものである.CVIIその他経口避妊薬(低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤)による網膜静脈閉塞症1),エルゴタミン製剤(片54あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023(54)図3エタンブトール視神経症の1例77歳,男性.3週間前からの霧視を主訴に来院.視力は右眼(0.15),左眼(0.1),限界フリッカ値は右眼C5CHz,左眼C5CHz.6カ月前からエタンブトール(エブトール)をC750Cmg/日(10Cmg/kg)内服中であることが判明.投与を中止したところ,4カ月後に視力は右眼(0.6),左眼(0.4)まで改善した.上段左:初診時右眼眼底写真.視神経蒼白所見は明らかではない.左眼も同様であった.上段右:右眼CGoldmann視野.中心暗点を認める.左眼も同様の所見であった.下段:初診時COCT所見.両眼とも神経節細胞複合体層の菲薄化を認める.(キッコーマン総合病院眼科平井千順先生のご厚意による)(55)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023C55-

癌治療薬に伴う網膜副作用

2023年1月31日 火曜日

癌治療薬に伴う網膜副作用RetinalAdverseEventsAssociatedwithSystemicAnticancerDrugs加藤久美子*松原央*はじめに近年,悪性腫瘍の治療法の進歩はめざましく,癌患者の5年生存率は向上している.悪性腫瘍に対する薬物治療は,悪性腫瘍切除後の転移巣の制御や再発防止を目的として行われる.薬物治療には化学療法,分子標的療法,ホルモン療法があり,いずれの治療法も全身および眼副作用を発症しうることが知られている(図1).本稿では,これらの薬物治療のうち,網膜副作用をきたしうるものについて述べる.I化学療法化学療法とは細胞障害性抗癌剤を用いた治療である.細胞増殖のしくみに着目し,その過程を阻害することで癌細胞の増殖を抑制する.細胞障害性抗癌剤は癌細胞だけではなく,正常な細胞の増殖を障害してしまうため副作用が発生する.網膜副作用を引き起こしうる細胞障害性抗癌剤は以下の通りである1).1.白金製剤代表的薬剤:シスプラチン,カルボプラチン,オキサリプラチン.作用機序:癌細胞のDNAに結合することでDNAの複製を阻害し,癌細胞のアポトーシスを誘導する.全身症状:骨髄抑制,悪心・嘔吐,腎障害,神経障害,聴覚障害.眼症状:網膜動脈閉塞症,視神経症,網膜虚血による視力低下,視野障害.検査所見:眼底検査では点状出血や硬性白斑を認める.網膜動脈閉塞を発症すると,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で網膜内層の高反射化や網膜肥厚を呈する.発症機序:網膜あるいは視神経の微小血管が閉塞するためと考えられている.経過:発症は用量依存性で,しばしば不可逆的である.失明に至る場合もある.症例1:膀胱癌に対しシスプラチンとゲムシタビン投与を6コース施行した.眼底写真では網膜出血が散在し,網膜OCTでは網膜内層が高輝度となっていた(図2).シスプラチンによる網膜虚血と考えられた.2.微小管作用薬代表的薬剤:パクリタキセル,ドセタキセル.作用機序:細胞分裂の際に重要な役割を果たす微小管を阻害する.全身症状:白血球減少,末梢神経障害.投与時のアレルギー反応.眼症状:黄斑浮腫による視力低下.視神経症や角膜炎,ドライアイなどの副作用も報告されている.検査所見:OCTで両眼性の黄斑浮腫を認める.蛍光造影検査では造影剤の漏出は認められない.網膜電図検査ではsub-normalとなる.*KumikoKato&HisashiMatsubara:三重大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕加藤久美子:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学医学部眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(43)43図1抗癌剤と眼副作用抗癌剤の種類と眼副作用が起こりうる場所を示した.図2シスプラチンに起因する網膜出血a:左眼底には出血が散在している.b:OCTでは網膜内層の高反射を認めた.発症部位初診時右眼左眼ab図3パクリタキセルによる黄斑浮腫a:初診時の眼底.明らかな異常を認めない.b:初診時のOCT.両黄斑浮腫を認めた.c:パクリタキセル中止後1カ月後のOCT.黄斑浮腫は消失した.パクリタキセル中止後1カ月初診時右眼左眼ab図4エンコラフェニブ・ビニメチニブによる漿液性網膜.離a:初診時の眼底.明らかな異常を認めない.b:初診時のOCT.両黄斑部に漿液性網膜.離を認めた.Cc:エンコラフェニブ・ビニメチニブ中止後C10日目のOCT.網膜下液は消失した.エンコラフェニブ・ビニメチニブ中止後10日目右眼左眼右眼左眼初診時1週間後2週間後4週間後図5ペムブロリズマブによる原田病様のぶどう膜炎a:初診時の眼底所見および蛍光造影検査.黄斑部を中心として漿液性網膜.離を認め,蛍光眼底造影では右眼において点状の蛍光漏出を認めた.b:OCTの経時的変化.治療開始後約C1カ月で漿液性網膜.離は消失した.初診時右眼左眼ab初診から約2年後図6ニボルマブ投与後2年で明らかとなった夕焼け眼底と睫毛の白毛化a:初診時および初診からC2年後の眼底写真.2年後には夕焼け眼底を呈していた.Cb:初診後C2年目の前眼部写真.睫毛は白毛化していた.初診時右眼左眼ab図7タモキシフェン投与後5年目に認められた網膜症a:初診時の眼底.明らかな異常を認めない.b:初診時のOCT.両眼の網膜内に.胞を認めた.Cc:タモキシフェン中止後C3カ月目のOCT..胞病変は左眼においてやや改善していた.中止後3カ月-

Stevens-Johnson 症候群

2023年1月31日 火曜日

Stevens-Johnson症候群Stevens-JohnsonSyndrome上田真由美*はじめにStevens-Johnson症候群(Stevens-JohnsonCsyn-drome:SJS)は,突然の高熱,結膜炎,皮膚の発疹に続いて,全身の皮膚・粘膜にびらんと水疱を生じる全身性の皮膚粘膜疾患である.中毒性表皮壊死症(toxicepi-dermalnecrolysis:TEN)は,SJSの重症型を含んだ病型であり,日本では皮疹の面積がC10%未満のものをSJS,それ以上のものをCTENとよんでいる1).薬剤が誘因となって発症すると考えられており,重症薬疹の一つである.重症薬疹とは,薬疹のなかでも臓器障害を併発し,生命に危険を及ぼす可能性のある薬疹のことをさす.SJSとCTENの発症率はC1年あたり百万人に数人で,大変まれな疾患であるが,小児を含めあらゆる年齢に発症する.SJSとCTENの眼所見は類似し,急性期ならびに慢性期をとおして,眼所見より両者を鑑別することは困難であること,また眼科では瘢痕性角結膜上皮症に至った慢性期の患者を診ることが多いことより,眼科ではSJSとCTENを併せて広義のCSJSと呼称している.CI原因薬SJS/TENの原因薬として,海外のおもに皮膚科医が中心となった研究では,抗痛風薬であるアロプリノール2)や,カルバマゼピン3)をはじめとする抗てんかん薬がよく報告されている.一方,厚生労働省の研究班の報告1)では,解熱鎮痛消炎薬(SJS14.6%,TEN16.8%)が抗菌薬に続いて二番目に多い被疑薬であり,総合感冒薬(SJS5.5%,TEN7.2%)と合せると,感冒時に処方される感冒薬が,抗菌薬を抜いてもっとも多い被疑薬となる.実際に,筆者らが京都府立医科大学附属病院眼科で診療している重篤な眼合併症を伴うCSJS/TEN患者の約C80%が,感冒様症状に対して病院で処方,あるいは市販の感冒薬を内服後に発症している.筆者らは,感冒薬が原因薬である場合は,他の薬剤と比べて重篤な眼合併症が生じやすいことも報告している4).また,海外の眼科医からの報告でも,重篤な眼後遺症を伴ったCSJS/TEN患者の原因薬としては感冒薬がもっとも多いことが示されている5~7).ただし,同じ解熱鎮痛消炎薬でも感冒様症状以外(たとえば,腰痛,関節リウマチなど)に対する処方をきっかけに発症している患者はほとんどいないため,感冒薬に加えて,感冒様症状のきっかけとなった何らかの微生物感染も同時に誘因になっている可能性があると考えている8).CII急性期の眼所見SJS/TEN全体における急性期の眼合併症発生率は,軽度の結膜炎を入れると約C70%であるが,眼後遺症につながるような重篤な眼合併症(偽膜と角結膜上皮欠損を伴う重度の結膜炎)の発生率は約C40%である4).眼科で診療するCSJS/TENは,皮膚科で診断されるCSJS/TENの一部であることに注意が必要である(図1).眼後遺症につながる重篤な眼合併症を伴うCSJS/TENの急性期の眼所見の特徴は,皮疹,粘膜疹とほぼ同時に*MayumiUeta:京都府立医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕上田真由美:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(37)C37皮膚表皮.離の面積眼科で診療する広義のSJS粘膜病変あり粘膜病変なし図1皮膚科で診断されるStevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症(SJS/TEN)における重篤な眼合併症を伴うSJS/TENの位置づけ図2眼後遺症を残す重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN(SJS)の急性期の眼所見皮疹,粘膜疹とほぼ同時に両眼性の重度の結膜充血(Ca),角結膜上皮欠損(Cb),偽膜形成(Cc)を生じる.#:結膜上皮欠損,*:角膜上皮欠損.a.眼表面に広範囲の上皮欠損が生じ角膜上皮幹細胞が消失した場合b.眼表面の上皮欠損が少なく角膜上皮幹細胞が残存した場合図3急性期の角結膜上皮欠損と視力予後a:十分に眼表面の消炎がされないと急性期に角膜上皮幹細胞(輪部上皮の基底部に存在)が消失し,慢性期に角膜は結膜組織で被覆され混濁する.b:十分に消炎ができて角膜上皮幹細胞が残存した場合には,角膜はほぼ透明化する.図4重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN(SJS)の眼後遺症重篤な眼合併症(重度の結膜炎,角結膜上皮欠損,偽膜)を生じたCSJS/TEN患者ほぼ全例に重篤なドライアイ(Ca)ならびに睫毛乱生(b)が生じる.瞼球癒着(Cc,d)や眼瞼の瘢痕化(Ce)を認めることも多い.重症例では,眼表面が皮膚のように角化する(Cf).C-

蛍光造影剤に伴う副作用とその対策

2023年1月31日 火曜日

蛍光造影剤に伴う副作用とその対策SideE.ectsAssociatedwithFluorescentAngiographicAgentsandTheirManagement松本英孝*はじめに現在,眼科領域で使用されている蛍光造影剤はフルオレセインとインドシアニングリーンである.これらを用いた蛍光造影検査では,一定の割合で副作用が起きることが知られている.本稿では,それぞれの蛍光造影剤の特徴をまとめ,副作用とその対策について解説する.I蛍光造影剤の特徴1.フルオレセインフルオレセインはフルオレサイト静注500mg1)としてノバルティスファーマから発売されている.1バイアル5.mlの赤色~黄赤色澄明の水性注射液である.通常,フルオレセイン200~500mgを肘静脈に注射する(留置針で静脈路を確保して側管から投与する).フルオレセインは血中で約80%が蛋白質(おもにアルブミン)と結合する.アルブミンと結合したフルオレセインは脈絡毛細血管板は透過するが,血液―網膜関門である網膜色素上皮と網膜血管は透過しない.フルオレセインの血中最大吸収波長は490nm付近で,最大蛍光波長は520~530nmであり,励起光,蛍光ともに網膜色素上皮に吸収されやすいため,脈絡膜血管の観察は困難である.網膜血管や網膜色素上皮の評価に有用である.静注されたフルオレセインは肝臓で代謝され,健常人では24時間以内に大部分は尿中に,一部は胆汁中に排泄される.このため,尿は変色する.また,フルオレセイン静注後1分以内に皮膚は黄染し,この変化は約2時間続く.禁忌として,フルオレセインに対して過敏症の既往歴のある患者,全身衰弱の患者,重篤な糖尿病の患者,重篤な心疾患のある患者,重篤な脳血流障害のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある患者,肝硬変の患者があげられている.2.インドシアニングリーンインドシアニングリーンはオフサグリーン静注用25.mg2)として参天製薬から発売されている.1バイアル25mgの暗緑青色塊を添付の注射用水2mlで溶解する.通常,インドシアニングリーン25mgを肘静脈に注射する(留置針で静脈路を確保して側管から投与する).インドシアニングリーンは血中で約98%が蛋白質(おもにグロブリン分画のa1もしくはb-リポプロテイン)と結合し,脈絡毛細血管板は透過するが,血液―網膜関門である網膜色素上皮と網膜血管は透過しない.インドシアニングリーンの血中最大吸収波長は766nm,最大蛍光波長は826nmといずれも近赤外領域にある.近赤外領域の波長は網膜色素上皮で吸収されないため,脈絡膜の観察が可能である.網膜色素上皮の変化は検出されにくく,網膜の大血管は観察可能だが,毛細血管は観察困難なことが多い.静注されたインドシアニングリーンは血中から肝臓に選択的に取り込まれ,肝臓から胆汁中に高率かつ速やかに排泄される.禁忌として,インドシアニングリーンに対して過敏症の既往歴のある患者,ヨード過敏症の既往歴のある患者(薬剤にヨウ素が*HidetakaMatsumoto:群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学〔別刷請求先〕松本英孝:〒371-8511群馬県前橋市昭和町3-39-15群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(31)31表1フルオレセイン蛍光造影の副作用頻度報告者(年度)調査数全副作用率重篤合併症率死亡率Zografos(1983)Yannuzzi(l986)Kwiterovich(1991)Jennig(l994)Lepri(1997)松浦(1996)京兼(1997)Mai(2004)Musa(2006)Kwan(2006)Kalogeromitros(2007)Lira(2007)河田(2007)Moosbrugger(2008)Bearelly(2009)Kalo(2009)Kalogeromitros(2009)594,687例22,781回2,025例2,789回1,173例6,524例10,003回1,499例580例8,344例3,58例1,1898回224例1,039例3,497例1,200例1,400例1,284回1,284回4.8%7.5%5.7%10.7%8.3%11.2%1.1%3.6%9.72%1.53%2.5%4.3%4.3%0.006%0.005%0.2%0%0.27%0.35%0%0.48%0.3%0.08%0.16%0.002%0.005%0%0%0%(文献3より引用)報告者(報告年)調査数全副作用率軽症中等症重症死亡率河内(1983,他科)文献検索0.05~0.3%0.009~0.07%(ショック)Hope-Ross(1994)1,226例1,923回0.15%0.2%0.05%0.0003%Obana(1994)2,820例3,774回0.34%0.26%今本(1993)2,820例3,774眼0.34%B社調査(2007)1,024例0.68%0.29%0.2%0.2%(文献3より引用)図1アナフィラキシーの診断基準(文献4より引用)さらにステップ4,5,6を速やかに並行して行う1アナフィラキシーを認識し,治療するための文書化された緊急時用プロトコールを作成し,定期的に実地訓練を行う.可能ならば,曝露要因を取り除く.例:症状を誘発していると思われる検査薬や治療薬を静脈内投与している場合は中止する.23患者を評価する:気道/呼吸/循環,精神状態,皮膚,体重を評価する.4助けを呼ぶ:可能ならば蘇生チーム(院内)または救急隊(地域).5大腿部中央の前外側にアドレナリン(1:1,000[1mg/ml]溶液)0.01mg/kgを筋注する(最大量:成人0.5mg,小児0.3mg).投与時刻を記録し,必要に応じて5~15分毎に再投与する.ほとんどの患者は1~2回の投与で効果が得られる.6患者を仰臥位にする,または呼吸困難や嘔吐がある場合は楽な体位にする.下肢を挙上させる.突然立ち上がったり座ったりした場合,数秒で急変することがある.7必要な場合,フェイスマスクか経ロエアウェイで高流量(6~8l/分)の酸素投与を行う.8留置針またはカテーテル(14~16Gの太いものを使用)を用いて静脈路を確保する.0.9%(等張)食塩水1~2lの急速投与を考慮する(例:成人ならば最初の5~10分に5~10ml/kg,小児ならば10ml/kg).必要に応じて胸部圧迫法で心肺蘇生を行う.910頻回かつ定期的に患者の血圧,心拍数・心機能,呼吸状態,酸素濃度を評価する(可能ならば持続的にモニタリング).図2アナフィラキシーの初期対応(文献4より引用)酸素(酸素ボンベ,流量計付きバルブ,延長チューブ)リザーバー付きアンビューバッグ(容量:成人700~1,000.ml,小児100~700.ml)使い捨てフェイスマスク(乳児用,幼児用,小児用,成人用)経口エアウェイ:口角(前歯)から下顎角までに対応する長さ(40.mm~110.mm)ポケットマスク,鼻カニューレ,ラリンジアルマスク吸引用医療機器挿管用医療機器静脈ルートを確保するための用具ー式,輸液のための備品一式心停止時,心肺蘇生に用いるバックボード,または平坦で硬質の台手袋(ラテックスを使用していないものが望ましい)聴診器血圧計,血圧測定用カフ(乳幼児用,小児用,成人用,肥満者用)時計心電計および電極継続的な非侵襲性の血圧および心臓モニタリング用の医療機器パルスオキシメータ除細動器臨床所見と治療内容の記録用フローチャートアナフィラキシーの治療のための文書化された緊急時用プロトコール(文献4より引用)

抗癌剤に伴う角膜・涙道副作用

2023年1月31日 火曜日

抗癌剤に伴う角膜・涙道副作用AdverseEffectsofAnticancerDrugsontheCorneaandLacrimalDuct鎌尾知行*はじめに近年,癌薬物治療はめざましい進歩をみせている.従来の抗癌剤は癌細胞だけでなく正常な細胞にも作用する「殺細胞性抗癌剤(化学療法)」であった.正常な細胞にも作用するため全身に多岐にわたる副作用がみられた.これに対して1990年代以降,癌細胞の増殖にかかわる特定の分子に作用する「分子標的治療薬(分子標的療法)」が開発された.正常な細胞には影響が少ないため,副作用が軽減した.さらに「ホルモン製剤(内分泌療法)」や,近年では「免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法)」が登場し,数種の抗癌剤を組み合わせた薬物治療が可能となり,従来は治療が困難であった癌に対しても生命予後が著明に改善している.一方で,抗癌剤を投与される患者の増加,期間の長期化に伴い,生命予後に影響しないさまざまな副作用が増加している.眼の副作用も例外ではなく,しかも障害部位は眼瞼,涙道,角結膜,ぶどう膜,水晶体,網膜,視神経と多岐にわたり,視機能に影響する副作用もある.眼科医は,癌疾患の診療に携わる機会が少なく,抗癌剤に対して明るくないことが多いが,知らなかったでは済まされない副作用もある.そこで,本稿では抗癌剤の角膜・涙道副作用について概説する.I抗癌剤の角膜・涙道障害の機序抗癌剤の基本的な作用は細胞増殖の阻害,抑制であり,細胞増殖の盛んな組織,毛髪や皮膚,血球系などに副作用を生じやすい.角膜上皮や涙小管上皮は重層扁平上皮で構成されており,細胞増殖の盛んな組織として知られており,抗癌剤の影響をもっとも受けやすい組織である.作用機序としては,血液中から涙腺に取り込まれた抗癌剤の成分が涙液中に分泌され,涙液中の抗癌剤の濃度上昇により角膜上皮細胞,涙小管上皮細胞の増殖が抑制されることで,角膜障害,涙道閉塞を引き起こすと考えられている.また,血中の抗癌剤の成分が直接角膜,涙小管上皮に働く機序も推定されている.II抗癌剤の角膜副作用角膜障害を引き起こす代表的な抗癌剤としては,5-FUなどのフルオロウラシル系抗癌剤,ドセタキセルなどのタキサン系抗癌剤,エルロチニブなどの上皮成長因子受容体(epidermalgrowthfactorreceptor:EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬があげられる1.3).近年,もっとも問題となっているのがフルオロウラシル系抗癌剤のS-1(ティーエスワン)である.なぜならS-1は,わが国でもっとも多く処方されている内服抗癌剤であり,眼合併症である角膜,涙道障害が高頻度で,臨床で遭遇する頻度が高いためである.S-1は,テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合の抗癌剤である.テガフールが主薬であり,フルオロウラシルのプロドラッグである.ギメラシルはフルオロウラシルの分解阻害薬で抗腫瘍効果を高め,オテラシルカリウムは消化管障害を軽減する作用をもつ.肝臓で代謝されたフルオ*TomoyukiKamao:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学〔別刷請求先〕鎌尾知行:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(23)23図1S-1による角膜障害a:点状表層角膜症(II型角膜上皮障害).フルオレセイン染色.b,c:角膜上方からシート状の異常上皮が下方に向かって侵入してくる場合(IV型角膜上皮障害).フルオレセイン染色(b)と強膜散乱法.-図2エルロチニブ角膜障害の一例75歳,女性.肺腺癌多発転移(EGFR変異陽性)に対してエルロチニブ内服を開始後,両眼に点状表層角膜症を認め,ヒアルロン酸点眼で治療を行うも,両眼とも角膜潰瘍に進行し,左眼は角膜穿孔に至った.涙管通水検査にて両側鼻涙管閉塞を認めたため,涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術を施行したところ,右眼の角膜潰瘍が消失した.Ca:右眼角膜下方に細胞浸潤の乏しい角膜潰瘍を認める.Cb:右眼フルオレセイン染色検査所見.Cc:涙管チューブ挿入術後C2週間.右眼角膜潰瘍は縮小傾向.Cd:涙管チューブ挿入術後C2カ月.右眼角膜潰瘍は消失した.表1抗癌剤による涙道閉塞の部位抗癌剤閉塞部位涙点涙小管涙.・鼻涙管CS-15(3C1%)10(C63%)1(6%)ドセタキセル6(5C5%)5(4C5%)C0(文献C10より改変引用)表2抗癌剤による涙道閉塞に対する治療方法と症状の改善率抗癌剤治療方法流涙症状の改善涙点形成術涙管チューブ挿入術涙腺へのボトックス注射CS-1CドセタキセルC0C4C13C13C11014(C58%)17(C100%)S-1は涙管チューブ挿入術で治療できない症例が半数おり,それらの症例に涙腺へのボトックス注射を行い,涙液分泌量を減らす治療を行っているが,流涙症状の改善を得られていない.一方,ドセタキセルは涙点形成または涙管チューブ挿入術で流涙症状がC100%改善している.(文献C11より改変引用)C-重症度手術方法Grade1涙点からブジーが10mm以上挿入可能.涙管通水検査にて上下交通が確認できる.涙管チューブ挿入術Grade2涙小管造袋術涙点からブジーが7.8mm以上挿入可能.涙管通水検査にて上下交通がない.経皮的涙小管再建術Grade3涙点からブジーが7.8mm未満しか挿入不可.結膜涙.鼻腔吻合術図3涙小管閉塞の重症度と対応する手術方法矢部・鈴木分類は,涙点から閉塞部の距離で重症度を分類する簡便な評価方法である.涙小管閉塞は,閉塞距離が長くなればより重症となるが,非観血的に閉塞部以降の状態を把握できないため,閉塞距離を評価することはできない.閉塞部の場所が涙点近傍であるほど閉塞距離が長くなるリスクが高くなることで評価する.図4涙小管造袋術の手術方法涙乳頭が存在する場合は,その部位にC18ゲージ針もしくは15°メスで穿刺し,涙小管垂直部を探索する.涙乳頭が存在せず涙点の位置が明確でない場合,涙点があったと考えられる部位からC15°のメスで瞼縁を切開し,涙小管を探す.白色で光沢のある組織が涙小管内腔の上皮である.その場所で涙小管を見つけられない場合,切開部位より鼻側に新たな切開を加えて探索する.図5経皮的涙小管再建術の手術方法涙点側からブジーを挿入して閉塞部位を鼻側に押し付けて,内総涙点側からメスで切開・開放する.表3結膜涙.鼻腔吻合術の治療成績と合併症報告者報告年症例数治療成績合併症CSteinsapirKD16)C1990C79C96%脱落C51%偏位C22%チューブ閉塞C23%CSekharGC17)C1991C69C98.5%脱落C30%偏位C28%チューブ閉塞C28%CRoseGE18)C1991C326C91%脱落C41%CLeeJS19)C2001C124C97%脱落C10%結膜侵入C12%図6結膜涙.鼻腔吻合術の手術方法結膜.と涙.もしくは鼻腔とをバイバスする方法.鼻外法や鼻内法,レーザーアプローチで涙.鼻腔吻合術を行ったあと,結膜から涙.または鼻腔へステントを通す.結膜から涙小管を介さずにステントを介して涙.,鼻腔へと涙液が流れる.2008~20132014~2018Grade2,39%Grade15%図7S-1関連涙道障害の初診時の障害部位2009.2018年のC10年間に当院でCS-1関連涙道障害と診断し,涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術を施行した患者C88例C169側の当院初診時の障害部位の内訳を示す.2009.2013年を前期治療群,2014.2018年を後期治療群とした.障害部位は涙管通水検査,ブジー,涙道内視鏡による観察で判定した.後期治療群では涙点・涙小管狭窄の割合が増加し,Grade1以上の涙小管閉塞の割合が減少しているのがわかる.’C