●連載◯272監修=稗田牧神谷和孝272.ICL挿入眼での白内障手術の注意点大内雅之大内雅之アイクリニックICL挿入眼の眼内レンズの度数計算には注意が必要である.光学的眼軸長測定装置では,まず同機の光干渉断層像などの測定画像をみて,水晶体前面の認識が正しいかを確認する.もしもCICL前面を水晶体前面と誤認しているようなら,別の方法で前房深度,水晶体厚を測定し,その値を代入して再計算する.●はじめに近視矯正手術にはClaserCinCsituCkeratomileusis(LASIK)と並び,後房型有水晶体眼内レンズ(implant-ablecollamerlens:ICL)挿入手術がある.中央に灌流口を設け,術後の房水動態が改善されたモデルの登場で,近年その普及が加速している.屈折矯正手術既往患者が白内障手術を受けるケースも増えてきている.LASIK既往眼では角膜形状が大きく変わっているため,白内障手術時の角膜曲率,予測術後眼内レンズ位置(e.ectivelensposition:ELP)の算出値が変わってしまい,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算に大きく影響を与え,これらの手術が課題となっている.一方,ICL挿入手術では,角膜形状は変化しないが,前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)が変化している可能性があり,さらにCICLの存在が,測定光,測定結果に影響を与える可能性もある.今後,ICLによる屈折矯正手術を受けた患者に白内障手術を行う機会が激増することは明白である.その際は,眼内のさまざまな測定値が影響を受けるため,別の注意が必要である.表1ICL挿入前後の生体計測値ICL挿入前眼ICL挿入後眼眼軸長(mm)C26.57±1.27C26.58±1.24前房深度(mm)PCI全例(n=100)CPCI誤認なし(n=25)CPCI誤認あり(n=75)C前眼部COCT全例(n=100)C3.72±0.30C3.79±0.30C3.71±0.30C3.84±0.28C3.23±0.343.72±0.353.20±0.343.79±0.25水晶体厚(mm)PCI全例(n=100)CPCI誤認なし(n=25)CPCI誤認あり(n=75)C前眼部COCT全例(n=100)C3.70±0.33C3.88±0.30C3.84±0.28C3.71±0.30C4.19±0.383.83±0.273.87±0.233.77±0.31PCI:光学的眼軸長測定装置,誤認:PCIにてCICL前面を水晶体前面と誤認●何が変わるのか国外では早くから,ICL挿入前後における眼軸長測定結果の比較がなされており,いずれも有意な変化がなかったことが示されている1,2).筆者の検討3,4)においても,光学的眼軸長測定装置(IOLマスターC700)を用いて測定し,さらにCIOL度数計算(SN60WFを対象とし,正視を目標とした)をしたところ,眼軸長はCICL挿入後の測定値がわずかにC0.01Cmm短くなったが,ICL挿入眼の多くは長眼軸であるため,IOL度数計算への影響はきわめて少なかった.そして角膜屈折力も変わらなかった.しかし,ACDはCICL挿入後で平均C0.5Cmm短く計測され,水晶体厚(lensthickness:LT)はC0.5Cmm薄く計測された(表1).そのため,ACDやCLTがパラメータに含まれるCHaigis式,Barretuniversal式では,ICL挿入後はそれぞれC0.3D,0.2D小さな度数が算出された(表2).眼軸長と角膜屈折力だけで算出されるCSRK/T式では,ICL挿入前後でCIOL度数計算は変わらない.C●なぜ変わるのか図1はCIOLマスターC700のCOCT像であるが,ICL挿入眼ではC4本のCsegmentationlineのうち,水晶体前面を同定しているはずの左からC3本目のラインが正しく水表2ICL挿入前後の眼内レンズ度数計算結果(SN60WFを対象に,正視となる度数を計算)計算式ICL挿入前眼ICL挿入後眼ICL挿入後眼(代入値)※SRK/T式C11.70±3.53DC11.61±3.51DC11.61±3.51DHaigis式C12.05±3.60DC11.75±3.53DC12.02±3.60DBarret式C11.78±3.43DC11.57±3.37DC11.80±3.43DCBarret式:BarretuniversalIITKformula※代入値:前眼部COCTによって計測した前房深度,水晶体厚の値を,IOLマスターC700に手入力し,再計算した値.(67)あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023670910-1810/23/\100/頁/JCOPYab水晶体前面を正しく認識(25/100眼)ICL前面を水晶体前面と誤認(75/100眼)図1光学的眼軸長測定装置における水晶体前面の認識ICL挿入後眼のCIOLマスターC700による測定では,75%でCICLの前面を水晶体前面と誤認し,前房深度が正しく計測されなかった.晶体前面を認証している例(図1a)はわずかC25%で,残りのC75%はCICL前面を水晶体前面と誤認していた(図1b).IOL度数計算式のうちCSRK/T式では,眼軸長とK値のみが計算パラメータとして使われるが,Haigis式,Barretuniversal式では,ACDとCLTがこれに含まれる.測定時に水晶体位置を正しく認識していなければ,ACDやCLTをパラメータに含むCBarretuniversalCIITK式やCHaigis式では正しく計算できないのは自明である.もちろん,水晶体前面を正しく認識したC25%のケースでは,ACD,LT計測値はCICL挿入前後で変わらなかった(表1).C●どう対応するのかそこで,ICL挿入眼でCIOL度数を決めるときは,まずCIOLマスターなど光学的眼軸長測定装置で測定後,断層像や各種波形(IOLマスターC700であればC4本のCsegmentationline)などをみて,測定時に水晶体前面が正しく認識されているか,ICL前面を水晶体前面と誤認していないかを確認する.正しく認識していれば,どの計算式であっても,そのまま提示されている度数のCIOLを選択して問題ない.もしも正しく認識されていなければ,次の手順に入る.まず,前眼部COCTなど,他の手段でCACD,LTを測定する.筆者はCCASIA2を用いたが,ここでもCICL前面を水晶体前面と認識してCACDが表示されているケースがあったため,ICL挿入後のACDは平均でC0.05Cmm短く,LTはC0.06Cmm長く測定された.誤認しているケースでは,トレース修正をかけ,改めてCACD,LTを表示させる(ただし,この手法を用いてもマニュアル操作が挟まるため,多少の誤差は生じる).次に光学的眼軸長測定装置の手入力画面を開C68あたらしい眼科Vol.40,No.1,2023き,前述の方法で正しく測定されたCACD,LTを代入し,再計算する.そうすると,ICL挿入前と同じCIOL度数が計算される.前眼部COCTなどを持ち合わせてなければ,代替策としてCACD,LTを用いない計算式(=SRK/T式)の結果のみでCIOL度数を決める(表2)2).C●おわりに屈折矯正手術既往者が白内障手術を受けるケースが増えた現在,白内障手術におけるCIOL度数計算は大切な問題である.LASIK既往眼だけでなく,今後はCICL挿入眼に白内障手術を行う機会が増加することは間違いない.角膜形状が変わるCLASIKほどではないにしても,やはりCIOL度数の算出が影響を受けるため,意識の高い白内障術者は,上記のような知識を持ち合わせておく必要がある.文献1)SandersCDR,CBernitskyCDA,CHartonCPJCJrCetal:TheCvisianCmyopicCimplantableCcollamerClensCdoesCnotCsigni.cantlyCa.ectCaxialClengthCmeasurementCwithCtheCIOLMaster.JRefractSurgC24:957-959,C20082)PitaultG,LeboeufC,LerouxlesJardinsSetal:BiometrieoptiqueCdesCyeuxCavecCimplantsCphaques.CJCFrCOphtalmolC28:1052-1057,C20053)大内雅之:有水晶体眼内レンズ挿入が眼内レンズ度数計算に与える影響.IOL&RSC35:463-469,C20214)OuchiM:EvaluationCofCimpactCofCposteriorCphakicCIOLCimplantationonbiometryande.ectivenessofconcomitantuseCofCanteriorCsegmentCOCTConCIOLCpowerCcalculationCforcataractsurgery.CJCataractRefractSurgC48:657-662,C2022(68)