提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療4.レンズケアはむずかしい?■はじめに現在,さまざまなコンタクトレンズ(CL)ケア用品が登場しているが,レンズケアについて記述した教科書は多くない.また,レンズケアに関する研究も数多く行われているが,その多くは英語論文であり,日本語論文は少ない.このため,レンズケアはフィッティングなどと比較して学びづらい状況にある.そこで本稿では,レンズケアの概要をわかりやすく解説する.C■不適切なCLケアによるトラブル涙液に含まれる蛋白質・脂質がレンズに付着すると,レンズのくもりだけでなく,レンズの酸素透過性の低下,角膜への機械的刺激の増加を生じる.その結果,くもりによる視力低下や,眼瞼結膜のアレルギー反応や機械的刺激の増加に伴う装用感の悪化など,さまざまな症状を引き起こす.また,CL装用による機械的刺激や角膜低酸素によって角膜上皮のバリア機能が破綻すると,CLに付着した微生物が増加した際に,角膜感染症を発症しやすくなる.C■レンズケアの目的と工程レンズケアの目的は,①レンズに付着した蛋白質・脂質・微生物を除去し,②衛生的に保存・装用するとともに,③レンズの特性を失わないことである.そのため,レンズの洗浄・消毒のみならず,清潔に取り扱うための手指洗浄やケースの乾燥・洗浄もレンズケアの工程に含まれる.レンズケアの工程と注意点を図1に示す.C■手指洗浄レンズケアではハンドソープを用いた手指洗浄が必須である.手指洗浄の目的は,手指からの汚れをレンズに付着させないことである.レンズの洗浄・消毒は正しくできているにもかかわらず,不十分な手指洗浄が原因でレンズがくもることは珍しくない.見落としがちではあるが,レンズケアの一環として手指洗浄をしっかりと指導したい.糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科視覚再生機能外科学道玄坂糸井眼科レンズの装用前に丁寧に手指を洗浄するSCLのすすぎに水道水の使用は禁止洗浄後,水分を拭き取り乾燥させるレンズをはずす前にも手指を洗浄するこすり洗いを必ず行うSCLのすすぎに水道水の使用は禁止過酸化水素剤・ポビドンヨードによる消毒では中和を行う図1レンズケアの工程手指洗浄やレンズケースの乾燥も,レンズケア工程の一つである.C■洗浄と消毒レンズケアの工程には,付着した汚れを除去することを目的とした「洗浄」と,病原微生物の除去を目的とした「消毒」がある.わが国では,ソフトCCL(SCL)のケアには洗浄と消毒が必要とされている一方で,ハードCL(HCL)は洗浄のみで消毒は必要ないとされている.これは,HCLの素材が水分を含まないため微生物が繁殖しづらいことが理由として考えられる.しかし,オルソケラトロジーレンズのような特殊形状CHCLはレンズ内面の汚れを落としづらく,洗浄だけでは汚れや微生物が十分に除去できない可能性がある.そのため,2017年のオルソケラトロジーガイドラインでは,ポビドンヨード剤による消毒が推奨されている.HCLの洗浄方法は,こすり洗いとつけおき洗いのC2種類に大別され,こすり洗いを行う場合は専用クリーナーとCHCL用の保存液が,つけおき洗いを行う場合は洗浄保存液が必要となる.物理的洗浄であるこすり洗いは,化学的洗浄であるつけおき洗いに比較して洗浄効果が優れており,HCLのケアではこすり洗いが原則となる1).ほかにも,蛋白汚れや脂質汚れが目立つ場合は,それぞれ蛋白除去剤や,アルコール入りの洗浄液を使用する.(65)あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16330910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1SCL消毒方法の比較種類主成分消毒力注意点細菌真菌アカウントアメーバCPHMBCMPSアレキシジン△.○C△C×製品ごとの消毒力の差が塩化ポリドロニウム大きい過酸化水素剤過酸化水素C○C○C△中和を要する中和を要するポビドンヨード剤ヨウ素C◎C◎C○甲状腺機能障害の既往があると禁忌図2乾燥時のレンズケースの置き方左はCSCL,右はCHCLのレンズケース.いずれも清潔なティッシュペーパーで十分に水分を拭き取り,8時間以上乾燥させる.現在,SCLの消毒方法は,C①CMPS(multipurposesolution)またはCMPDS(multipurposeCdisinfectingsolution),②過酸化水素,③ポビドンヨードのC3種に大別され,それぞれ消毒力が異なる(表1).MPSは,洗浄から保存までをC1本で行えるため利便性に優れているが,製品ごとの消毒力の差が大きく,他の方法に比較して消毒力が劣っている.しかし近年は,MPSに比べて消毒力の高いCMPDS2)が新しく登場している.過酸化水素とポビドンヨードは,いずれもCMPSよりも消毒力に優れているが,それぞれ中和が必要なため,利便性に劣る.とくに過酸化水素は,中和をしないで装用すると強い痛みとともに角膜上皮障害を引き起こすため,使用方法について,丁寧な指導を行うことが望ましい.また,アカントアメーバのシストにはC3種とも十分な消毒効果を示さない3)ことに注意を要する.上述のC3種の消毒方法は,消毒効果と生体安全性,利便性がそれぞれ異なるため,患者の希望と感染リスクに応じて選択する.■レンズケースのケアケース消毒後に,残留した微生物がケース内に増加すると,レンズに汚れ・微生物が再付着する可能性が高くなり,眼感染症の危険因子となる4).また,レンズケース内の汚染が長期にわたると,菌同士が強固に接着したバイオフィルムを形成し,細菌の除去がより困難となる.そのため,レンズケースは水洗い後に乾燥させて水分を除去し,1.2カ月ごとに交換することが望ましい(図2).C■おわりに安全かつ快適なCCL装用を続けるには,適切なレンズの取り扱いとレンズケアが欠かせない.そのため,各種ケア方法の特徴に基づいて患者に適したレンズケア方法を選択するだけでなく,手指消毒の徹底,こすり洗いの遵守,レンズケースの乾燥・交換などの基礎的な対策の有効性をくり返し説明することが望ましい.文献1)糸井素純:安全性を優先したコンタクトレンズのケア.あたらしい眼科28:1665-1671,C20112)水野洋平:消毒成分配合CMPDSの消毒効果.日本コンタクトレンズ学会抄録集,20223)KobayashiT,GibbonL,MitoTetal:E.cacyofcommer-cialCsoftCcontactClensCdisinfectantCsolutionsCagainstCAcan-thamoeba.JpnJOphthalmolC55:547-557,C20114)山崎勝英:レンズケース内の消毒.日コレ誌C28:163-166,C2020C