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コンタクトレンズ:マルチパーパスソリューションとコンタクトレンズの相性(1)

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????とレンズケア製品との組み合わせによる角膜ステイニングが最初に報告されたのは,PureVision?(Bausch&Lomb)の終日装用者で,レンズケアにPHMBを主成分とするMPSであるReNuMultiPlus?(Bausch&Lomb)を使用し,びまん性の点状表層角膜症をひき起こした症例である2).その後,PHMBを主成分とするMPSは,SHCLとの組み合わせで,塩化ポリドロニウムを主成分とするMPSと比較して角膜ステイニングをひき起こしやすいとの報告3)や,PHMBを主成分とする2剤の異なったMPSを比較すると,角膜ステイニングの発生に有意差を認めた報告4)などMPSとレンズとの組み合わせによる問題点が現れてきた.また,この角膜ステイニングは,レンズ装用2~4時間後に最も強く,その後回0910-1810/07/\100/頁/JCLS●最近のソフトコンタクトレンズとレンズケア製品近年のソフトコンタクトレンズ(SCL)のレンズケアは,洗浄,すすぎ,保存,消毒が1本で可能であるマルチパーパスソリューション(MPS)が主流となっている.わが国で販売されているMPSには,塩化ポリドロニウムを主成分とするものと,塩酸ポリヘキサニド(polyhexamethylenebiguanide:PHMB)を主成分とするものが存在している(表1).さらに,うるおい成分の追加,蛋白除去,消毒力の強化されたものなども販売されるようになっている.SCLは,既存のハイドロゲルコンタクトレンズから,高い酸素透過性を有する素材であるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)への移行が始まっている.そのため,新しい素材であるSHCLとレンズケア製品との組み合わせによる適合性に問題があると思われる障害が散見されるようになった(図1)1).●ソフトコンタクトレンズとレンズケア製品との適合性レンズケア製品の承認申請法は,米国食品医薬品局のSCLとレンズケア製品との適合性を決めているグループ分類を日本でも採用している.この分類は,SCLの原材料の含水率とイオン性により分類し,個別のSCLごとに消毒剤との適合性を確認するのではなく,SCLをグループ化したうえで消毒剤とグループⅠの代表レンズとグループⅣの代表レンズとで確認している.しかし,この分類が困難なレンズについては,別途取り扱うことになっている.●ソフトコンタクトレンズに発生する角膜ステイニングMPSに関連したSCL装用者にみられる角膜ステイニングは,特にSHCL装用者に多く発生している.SHCL(59)工藤昌之工藤眼科クリニックコンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS279.マルチパーパスソリューションとコンタクトレンズとの相性(1)表1おもなマルチパーパスソリューションの消毒成分の種類?塩化ポリドロニウムオプティ・フリー?,オプティ・フリープラス??塩酸ポリヘキサニドエピカコールド,コンプリートアミノモイスト?,フレッシュルックケア,ボシュロムレニューマルチプラスなど図1マルチパーパスソリューションとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとの組み合わせによる角膜ステイニング塩酸ポリヘキサニドを主成分とするマルチパーパスソリューションに保存されたシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを,2時間装着した後の角膜所見.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007(00)復し,装用6時間後には軽減あるいはほぼ消失するといわれている5).●レンズ製造販売メーカーの対応このように,MPSとSHCLとの相性に問題があることが報告されているため,日本において最初にSHCLを販売したチバビジョン株式会社は,自社製品であるO2オプティクスのレンズケアには,MPSより過酸化水素消毒の使用を推奨するようになっている.海外では,SHCLであるACUVUE?ADVANCETMの消毒法として,SOLO-care?Plus(CibaVision)の使用を避けることを添付文書に記載されている.また,PureVision?は,過酸化水素消毒剤であるUltraCare?の使用を避けることが記載され注意をよびかけている.次回は,SHCLとレンズケア製品との組み合わせによる適合性を検討した試験を中心に具体的に解説する.文献1)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との適合性.あたらしい眼科22:1349-1355,20052)EpsteinAB:SPKwithdailywearofsiliconehydrogellensesandMPS.?????????????????????17:30,20023)JonesL,MacDougallN,SorbaraGL:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbala?lconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyaminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.??????????????79:753-761,20024)AmosC:Performanceofanewmultipurposesolutionusedwithsiliconehydrogels.????????227(5945):18-22,20045)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.??????????????????31:166-174,2005

写真:オルソケラトロジーによる合併症(2)-角膜感染症-

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS(57)吉野健一吉野眼科クリニック写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦280.オルソケラトロジーによる合併症(2)─角膜感染症─図4汚れたオルソケラトロジーレンズオルソケラトロジーレンズの?ttingcurveは,幅0.6mmの細い溝構造を呈しているため,指による単純のこすり洗いでは十分な洗浄が困難である.図1緑膿菌(??????????????????????)による細菌性角膜潰瘍(17歳,男性)オルソケラトロジーレンズを8時間の夜間装用で1年間使用.3日前より右眼の違和感を自覚するも,オフロキサシン点眼をしながら続行.右眼の充血,白濁,疼痛が悪化したため来院となる.コンタクトレンズケースから?????????????が分離された.(文献1より)図3オルソケラトロジーレンズと病巣部の位置関係オルソケラトロジーレンズの?ttingcurveに一致した部の角膜に感染巣を認める.(文献1より)図2図1のシェーマ①:潰瘍,②:輪状膿瘍,③:充血結膜,④:スリガラス状混濁,⑤:前房蓄膿.①②③⑤④———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007(00)前回に引き続き今回は,オルソケラトロジー(以下,オルソK)の合併症(2)角膜感染症である.オルソKレンズは,以下2点の特殊性において通常のRGPCL(rigidgaspermeablecontactlens)とは異なるかたちで角膜に影響を与える.すなわち,①日中の裸眼視力を向上する目的で,睡眠中に装用するといった特殊な使用方法,②角膜の形状を変化させることにより屈折異常を矯正するための特殊なレンズデザイン,である.Dk(酸素透過係数)値100を超える高酸素透過性素材の採用にても,睡眠中の装用は,瞬目を行わないことや眼球運動の減少からレンズ下涙液の交換率が低下し,レンズ下老廃物の残留や低酸素の原因となる.また,レンズ中間部から周辺部へ至るparallelまたはalignment?ttingといった特殊なレンズフィッティング,そして,センタリングを追求するあまりに起こしがちな周辺部の過度なtight?ttingも涙液交換率を低下させ低酸素の原因となる.角膜上の酸素分圧の低下は角膜上皮細胞のバリア機能を低下させ,一方,薬剤効果を変化させ角膜感染症のリスクを引き上げる1).さらに,この涙液交換率の低下は菌が形成するglycocalyxの破壊を困難にする.また,幅0.6mmの?ttingcurve(FC)部の細い溝構造はこすり洗いにても洗浄が困難で綿棒による入念な洗浄が望まれるが,不完全なレンズケアによるglycocalyxを形成した菌のレンズへの付着の原因となり(図4),やはり角膜感染症のリスクを引き上げる.オルソKが原因の角膜感染症の過去の報告17例のうち7例が,FC部に相当する角膜をその病巣としていた(図1,3).また,オルソKレンズのbasecurve(BC)部はフラットにフィッティングさせるため,本来はオルソKの適応とはならない,よりフラットなフィッティングが必要となる強度近視に対しての処方や,レンズ裏面が汚れていたりレンズ下に異物が迷入するとopticalzone(OZ)部の角膜は容易に障害され,やはり角膜感染症のリスクを引き上げる.安全に処方できる適応近視度数の遵守や,良好なフィッティングと入念なレンズケアは角膜感染症のリスクを下げるために最も重要なポイントといえる.オルソKレンズは,高酸素透過性素材を用いたハードコンタクトレンズ(HCL)であっても,そのレンズデザイン,使用目的,フィッティング原理すべてにおいてconventionalHCLとはまったく異なるレンズである.正しい知識をもたない処方者の無理な処方と使用者の杜撰な管理のもと,さらには本来CLの裝用は早いと考えられる学童に対しても,近視抑制効果の名目のもと処方がなされている現状があることから,合併症発生のリスクは勢い高くなることが予想される.正しいオルソKの評価は,このレンズがもっているポテンシャルリスクが,正しく処方され使用されたとしても臨床上の許容限界を超えているのか,それとも処方医師の未熟さや使用者の杜撰さがそのリスクを押し上げているのかを十分に見きわめて行わねばならないと考える.文献1)Araki-SasakiK,NishiI,YonemuraNetal:Characteris-ticsof???????????cornealinfectionrelatedtoorthokera-tology.??????24:861-863,2005

時の人

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS東邦大学医学部眼科学第二講座は平成3年に開設された新しい講座で,附属病院として大橋病院と佐倉病院がある.そのうち大橋病院は昭和39年に開院.昭和57年に網膜疾患の光凝固治療,白内障手術を専門とされる戸張幾生先生(現名誉教授)が初代眼科教授に就任.平成13年,二代目教授として網膜硝子体手術が専門の竹内忍先生(現客員教授)が就任.そしてこの度(平成19年5月),富田剛司先生が三代目の教授に就任された.*先任の戸張・竹内両教授とも主に網膜硝子体疾患を専門にされていたが,これから富田先生の専門領域である緑内障の診断・治療が中核的専門外来として育っていくことで,緑内障と硝子体手術の2本柱をもつ魅力的な教室となっていくものと大きな期待が寄せられている.さらにもう一つの特徴として,同教室は涙器と眼形成の専門外来,小児眼内腫瘍の治療を主とする腫瘍外来という,国内でも一流の専門外来を有しており,全国から紹介患者が来診している.*富田先生は昭和55年に岐阜大学医学部を卒業され,昭和59年同大学大学院を終了,当時の同大学眼科学教室教授の早野三郎先生(現名誉教授,元学長)のご指導により,「後房レンズループ固定機序に関する実験的研究」をテーマとした研究により医学博士号を授与された.早野教授退官の後,昭和60年に赴任された北澤克明教授(現名誉教授,前日本緑内障学会会長)のご指導の下で,緑内障の研究と臨床を開始され,昭和61年に岐阜大学医学部眼科学講師に昇任された.その後,昭和61~63年の2年間,緑内障リサーチフェローとして米国ボストンのタフツ大学に留学,緑内障視神経乳頭の画像解析を開始され,それがその後の緑内障研究のメインテーマとなっている.このボストンでの“緑内障様乳頭に関する研究”に対して,日本緑内障学会賞である第3回須田賞を受賞された.又,平成4年から1年間,ヘルシンキ大学眼科に客員研究員として赴任,同大学の緑内障画像解析の研究の進展に貢献された.帰国後の主な研究成果として,①網膜神経線維層厚が加齢により減少することを世界で初めて証明,②視野に障害がみられない部位においても,正常眼と比較して網膜神経線維層が有意に減少していることを証明,③乳頭周囲脈絡網膜萎縮の画像解析による測定の成功と緑内障視野障害との関連の解析,④乳頭出血と視神経障害の関連の研究,⑤正常眼視神経乳頭の解析,などがある.*このような研究活動が東京大学眼科学の新家眞教授の評価を得るところとなり,平成11年に同教室の助教授として招かれた.東大では,緑内障外来の中核として臨床をなさり,又,岐阜大学時代以来の画像解析を中心とした緑内障の臨床研究を続けられた.8年近くの東大での活動を通し,緑内障臨床および研究の専門家としての先生ご自身を確立できた気がしている,と述懐された.東大時代の研究業績としては,①多治見スタディに中核的研究者の一人として参加,②乳頭陥凹拡大症例の病態解明の研究,③HRTやGDxの新しい解析プログラムの評価,④サル眼を用いた実験緑内障による眼底変化の画像解析研究,などが挙げられる.*富田先生には,先輩からの忘れられない言葉が2つあるとのこと.一つは,「100%では足りない,120%でやって初めて人は目を向けてくれるものである」,もう一つは,「良いことでも,悪いことでも,見ている人は見ている」.これらの言葉を大切にして,目先の結果にこだわらず,教室が一つとなって自分たちが今やれることを少しずつ進めていければ,先輩方がこれまで築き上げてこられた大きな木の上に,必ずや将来さらに大きな花を咲かせることができるものと信じている,と語られた.(55)人の時東邦大学医学部眼科学第二講座・教授富??田?剛??司?先生

遮光眼鏡とロービジョン

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS身体障害者福祉法および児童福祉法でいう補装具としての遮光眼鏡は,「主として短波長領域を有効にカットする眼鏡」と大まかに書かれており,該当する眼鏡は各自治体に裁量がゆだねられている.いわゆる「サングラス」は,光吸収フィルターを用いた眼鏡を総称する一般用語であり,このうち家庭用品品質表示法に基づく雑貨工業品品質表示規定での特定の基準(中心の15mmの範囲に著しい歪みがなく,平行度が0.166D以下)を満たさないものを「ファッショングラス」という.本稿での「遮光眼鏡」は,ロービジョン学会用語委員会が提案する定義に基づいたもののうち,入射光の特定波長範囲を吸収する機能をもつものとし,具体的には,HOYAのレチネックス,レチネックスソフト,東海光学のCCP(図1),CCG,CCP400,NoIR社製サングラス,コーニングCPF?,ニコンビーダハード5などをさす.はじめに遮光眼鏡は,ロービジョンケアの補助具のなかで最も高い頻度で処方されるエイドである.まぶしい,視界がぼんやりしている,全体が白っぽく見えるなど,いろいろな愁訴に対して効力を発揮することは経験的に知られている.ところが,明確な処方の基準がなく,患者の自覚的装用感や医師や検者の経験に基づいて処方されているのが実情である.そのため,選択した患者自身も選定に関わるわれわれもその患者にとって本当に遮光眼鏡が有効であるのかどうか,あるいは最適な色の選択ができているのかどうか確信をもって処方ができないことがある.また,根拠に基づく医療を行うという観点から,客観的な根拠を確認したうえでの選定,処方が望ましい.本稿では,これらに対する過去の研究の紹介と自験例から得た知見を報告する.I遮光眼鏡の定義遮光眼鏡とは,言葉が使われる状況により意味合いが異なりはっきりとした定義はいまだにない.日本ロービジョン学会用語委員会は「グレアの軽減,コントラストの改善,暗順応の補助などを目的として装用する光吸収フィルターを用いた眼鏡」という定義を提案している1).入射光の特定波長範囲または特定比率を吸収する機能をもち,カラーレンズ(グレーを含む),フォトクロミックレンズ(調光レンズ),偏光レンズといった種類がある.(47)????*SanaeAsonuma:大阪大学大学院医学系研究科眼科学**TakashiFujikado:大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学〔別刷請求先〕阿曽沼早苗:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1179~1186,2007遮光眼鏡とロービジョン??????????????????????阿曽沼早苗*不二門尚**図1テストレンズ(クリップオンタイプ)東海光学CCP,全19色.板状のものもある.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007II遮光眼鏡の特性ロービジョン者の見えにくさの原因として,グレアや羞明,コントラストの低下,順応の低下などがある.Rayleighの法則から,波長の短い光線は,散乱光強度が強いためグレアを生じ,その結果,見え方の質を落とす症状が起こる.紫外線は角膜や水晶体でほとんど吸収されるため,眼内には届かず見え方には影響を及ぼさない.見え方の質を落とすのは,眼内に届く可視光中の短い波長である青色光である.遮光眼鏡はこれらの短波長光をカットして散乱を抑え,視感度の高い波長の光を選択的に透過させることから,コントラストや視力を改善させる効果をもつ.また,錐体の感受性が最も高い波長(550nm)以下をカットする種類の遮光眼鏡の装用によ(48)表1過去の報告著者遮光眼鏡の種類対象者の眼疾患視機能の変化コントラスト感度視力暗順応色覚その他グレア(-)グレア(+)Baileyetal(1978)Variousyellow?lters白内障↓↓LynchandBrilliant(1984)CPF?550網膜色素変性,白内障→↑↑↓Tupperetal(1985)SilverandLyness(1985)Red調光レンズ網膜色素変性→BarronandWaiss(1987)CPF?527いろいろ→Bremeretal(1987)CPF?527Conedystrophy→↓視野↑,EDT↑Leatetal(1990)CPF?527Pre-retinaldiseaseGratingacuity↑VandenBerg(1990)Redglass?lter網膜色素変性↑↑↑↓視野↑Zigman(1990)Seemore?lter白内障,加齢黄斑変性↑↑CohenandWaiss(1991)Gawandeetal(1992)PLS?530,540,550CPF?511,527,550網膜色素変性→→Zigman(1992)Seemore?lter白内障,加齢黄斑変性↑Fasceetal(1992)YelloworRed?lters加齢黄斑変性→LeguireandSuh(1993)CPF?527,NoIR?111いろいろ→FrennessonandNilson(1993)YellowandOrange加齢黄斑変性↑NguyenandHoeft(1994)CPF?450,511,527,550XDいろいろ→Provinesetal(1997)KodakWratten?ltersNo3andNo12白子症→Rosenblumetal(2000)Yellow(2種類),Amber,Orange白内障,無水晶体眼,白子症Congenitalmaculardystrophy↑↓↑Wol?sohnetal(2002)NoIR?yellow,orange,red,gray加齢黄斑変性↑↑→→仁科ら(2003)CCP各種いろいろ↑↑Langagergaardetal(2003)CPF?527,LVI527加齢黄斑変性↑石井ら(2005)CCP各種いろいろ↑↑阿曽沼ら(2007)CCP各種加齢黄斑変性↑↑↑↑:向上,→:変化なし,↓:低下,EDT:electro-diagnostictest.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????り,屋外ですでに暗順応をしているのと同じ状態となり,暗順応に時間がかかる症例では屋内にはいっての順応時間が短縮する.III過去の報告網膜色素変性症をはじめ各種網膜疾患,緑内障,視神経疾患,白内障術前後,各種角膜疾患,VDT(VideoDisplayTerminal)症候群など,多くの眼疾患において効果があるといわれており,過去より遮光眼鏡の効果についてのさまざまな報告がされてきている.そのほとんどは自覚的評価に基づく報告であり,客観的な評価を行った報告は多くはない.自覚的評価についての報告としては,おもに遮光眼鏡の装用前後での見え方を比較して評価したもの,疾患別に好まれるレンズの色合いを調査したものがある.他覚的効果についてはそれぞれの報告で用いられた遮光眼鏡の種類や検査条件や方法,対象者が異なるため,結果も一定していない(表1)2,3).科学的な処方を目的としていくつかの研究も行われているが,残念ながらいまだ処方の基準は確立できていない.この理由として,装用状況が異なることにより遮光眼鏡の効果も変化してしまうこと,遮光眼鏡装用による効果を判定する適切でスタンダードなロービジョン者用の検査装置がないことがあげられる.予防効果についての見解は,網膜色素変性症の進行防止については明確なエビデンスは得られておらず,加齢黄斑変性については有意な関連があると報告されている4).IV自験例大阪大学医学部附属病院眼科(以下,当科)では,遮光眼鏡の紹介時には,色の選定や有用性の客観的な根拠の確認のために可能な限りコントラスト感度や視力測定を行っている.加齢黄斑変性の症例について,これらの結果をレトロスペクティブに総括し,正常高齢者との比較検討を行った結果を紹介する.1.対象および方法対象は,当科に来院した加齢黄斑変性症例のうち遮光眼鏡を紹介した症例のなかで,遮光眼鏡によるコントラスト感度と視力,ND(neutraldensity)フィルターによるコントラスト感度を測定した37例と,軽度白内障以(49)図2分光透過率CCPは,短波長域の光の透過率が低く500~550nm付近からの透過率が高いが,NDフィルターは,全周波数域において透過率が一定である.①SC:スプリングカラー.②AC:オータムカラー.③LY:ライトイエロー.④YL:イエロー.⑤OY:オレンジイエロー.⑥RO:レッドオレンジ.⑦BR:ブラウン.⑧FL:フォーリンリーブス.⑨YG:イエローグリーン.⑩UG:アンバーグリーン.1.02.03.04.06.07.000105)%()%(0010500080070060050040530SCACLYYLOYROBRFLYGUGCCPNDフィルター———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007外に問題のない正常高齢者8例.加齢黄斑変性症例の年齢は62~88(75.9±6.4)歳,視力は,良いほうの眼が0.01~0.8(中央値0.1=1.0logMAR,平均0.92±0.34logMAR),視力の良いほうの眼が滲出型であったのが18例で,非滲出型が19例,同じく白内障眼が19例,眼内レンズ眼が18例であった.正常高齢者は,年齢が62~73(66.3±4.7)歳で,視力は(1.0)以上であった.対象者に遮光眼鏡とNDフィルターを用いて,各フィルター装用前後のコントラスト感度と視力を測定し,遮光眼鏡とNDフィルターとの比較,正常高齢者との比較を行った.用いた遮光眼鏡は東海光学CCPシリーズ,NDフィルターはFUJIFILM製の0.1~0.8(図2)であり,白色光に対する輝度低下率が最も近いCCPレンズとNDフィルターを比較した.コントラスト感度はCSV-1000(図3)装置にて,ロービジョン用の文字チャートのCSV-1000LV,縞視標チャートであるCSV-1000Eを用いて測定した.CSV-1000LVは2.5mでの測定であり2.4cycles/degreeの低周波の感度を表す.また24万cd/m2のグレア光を負荷したCSV-1000HGT(図3)装置においても同様の測定を行った.CSV-1000の背景輝度は85cd/m2に,CSV-1000HGTは1,480cd/m2に自動更正され,後者の輝度は晴天時屋外のアスファルト路面の輝度(1,500cd/m2)とほぼ同一である.視力はETDRS(EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy)チャート(図3)を用いて測定した.2.屋内用遮光眼鏡の有効性の検討グレアがない状態でのコントラスト感度と視力を測定し,NDフィルター装用下との比較と正常高齢者との比較を行った.用いたCCPは,黄色系,緑系,茶色系それぞれの色のなかから過去において当科での処方率が高かった色を選んだ.結果であるが,コントラスト感度について,フィルターなしと比較して,AC(オータムカラー),SC(スプリングカラー),YL(イエロー)とND0.2を装用時には,有意にコントラスト感度の改善がみられた(AC:p≦0.001,SC:p=0.016,YL:p≦0.001,ND0.2:p=0.016)(図4).各CCPレンズとNDフィルターとを比較すると,ACとND0.1,YLとND0.2の比較において,それぞれCCPのほうが有意に(p=0.008,p=0.03)コントラスト感度の改善がみられた(図5).コントラスト(50)図4CCPとNDフィルター装用前後のコントラスト感度何も装用していないときと比較して,AC,SC,YLとND0.2を装用すると,有意にコントラスト感度の改善がみられた.AC:p≦0.001;Paired?-test,SC:p=0.016;Wilcoxonsignedranktest,YL:p≦0.001;Paired?-test,ND0.2:p=0.016;Paired??-test.****58.099.049.00.168.088.029.098.0なしlogコントラスト感度ND0.1ND0.2ND0.3FLYLSCAC*p≦~0.016Paired?-test,Wilcoxonsignedranktestn=141.41.210.80.60.40.20図3CSV-1000LVとCSV-1000HGTとETDRSチャート上段:コントラスト感度測定に用いたCSV-1000の背景輝度は85cd/m2に,24万cd/m2のグレアを負荷したCSV-1000HGTの背景輝度は1,480cd/m2に自動更正され,チャートを任意に取り替えて測定できる.左のチャートはロービジョン者用の文字コントラスト感度チャートであるCSV-1000LVであり,右のチャートはCSV-1000RNである.下段:視力はETDRSチャートにて測定を行った.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????感度の改善における正常高齢者との比較では,AC装用下におけるCSV-1000LVチャートによる文字コントラスト感度は,加齢黄斑変性群では有意に(p<0.001)向上していた(図6).正常高齢者群ではCSV-1000RNチャートの文字がAC装用有無にかかわらずすべて読めたため結果に変化がなく比較ができなかった.そこで,正常高齢者に対してCSV-1000Eチャートによる縞視標コントラスト感度検査を施行した結果,文字コントラスト感度と最も近い周波数域である3cpdではACの有無による差は認められなかった(図6).視力については,AC装用下でのETDRS視力は,加齢黄斑変性群において有意に(p=0.004)可読文字数が増加したが,正常高齢者では有意な変化はなかった.また,装用前後の可読文字数の改善量は正常高齢者よりも加齢黄斑変性群のほうが有意に(p=0.011)大きかった(図7).3.屋外用遮光眼鏡の有効性の検討グレア負荷下でのコントラスト感度を測定し,NDフィルター装用下との比較と正常高齢者との比較を行った.用いたフィルターはCCPの全7色である.フィルター装用後のコントラスト感度は,装用前と比較してCCPにおいてもNDフィルターにおいても改善はしていたものの統計学的に有意な変化ではなかった.また,各フィルター装用下でのコントラスト感度の変化量を比較したところ,すべてのCCPとそれに対応するNDフィルターにおける有意な差は認められなかった.正常者との比較では,加齢黄斑変性群ではCCP全色におい(51)図5CCP各色とNDフィルターの比較各CCPと輝度低下率が同程度のNDフィルター装用下でのコントラスト感度の変化を比較した.グラフ中の数値は,各フィルターについて装用後-装用前のlogコントラスト感度である.ACとND0.1,YLとND0.2の比較において,それぞれCCPのほうが有意に(p=0.008;Paired?-test,p=0.03;Wilcoxonsignedranktest)コントラスト感度の改善がみられた.logコントラスト感度*p=0.03Wilcoxonsignedranktest*p=0.008Paired?-testn=140.250.10.150.10.050ACSCND0.1YLND0.2FLND0.3**0.130.080.030.150.060.010.02図6正常高齢者との比較:コントラスト感度左図:AC装用下におけるCSV-1000LVによる文字コントラスト感度は,加齢黄斑変性群では有意に(p<0.001;Paired?-test)向上していた.正常高齢者群ではCSV-1000RNの視標の文字がAC装用有無にかかわらずすべて読めたため結果に変化がなく比較ができなかった.右図:そこで,正常高齢者に対してCSV-1000Eによる縞視標コントラスト感度検査を施行した結果,文字コントラスト感度と最も近い周波数域である3cpdではACの有無による差は認められなかった.●●**CACA●●●●●●logコントラスト感度*p=0.03Paired?-test0.230n=8n=8n=190.40.30.20.10加齢黄斑変性正常高齢者———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007てコントラスト感度は向上したが,正常者においては逆にコントラスト感度は低下した.特に黄色やオレンジ色のLY,YL,OYと赤色のROでは,加齢黄斑変性群のほうが正常高齢者群よりも有意に(p<0.05)文字コントラスト感度が改善していた(図8).CCP各色についてグレア負荷下における白内障群と眼内レンズ群の比較をしたところ,全色において両群間で有意な差(p≦0.01)が検出された(図9).4.まとめ以上より,加齢黄斑変性に対する遮光眼鏡(特に黄色,オレンジ系)は屋内外においてコントラスト感度や視力の改善に有効であることが確認できた.黄色やオレンジのフィルターによりコントラスト感度が改善される理由は,複数の因子の関与があるといわれている.色の処理経路への杆体の関与が低下するため5,6),黄色フィルターの装用で瞳孔径が大きくなり網(52)図7正常高齢者との比較:視力(ETDRS)左図:AC装用下でのETDRS視力は,加齢黄斑変性群において有意に(p=0.008;Wilcoxonsignedranktest)可読文字数が増加したが,正常高齢者では有意な変化はなかった.右図:装用前後の可読文字数は正常高齢者よりも加齢黄斑変性群のほうが有意に(p=0.011;Mann-Whitneysignedranktest)増加した.n=9**n=7n=9n=7加齢黄斑変性正常高齢者加齢黄斑変性正常高齢者なしACなしAC文字数43210文字数706050403020100*p=0.008Wilcoxonsignedranktestp=0.356*p=0.011Mann-Whitneyranksumtest2.560.2962.1461.9024.1121.56図8グレア負荷下における正常高齢者との比較:文字コントラスト感度装用後-装用前のlogコントラスト感度である.加齢黄斑変性群ではCCP全色においてコントラスト感度は向上したが,正常者においては逆にコントラスト感度は低下した.LY,YL,OYの黄色・オレンジ色と赤色のROでは,加齢黄斑変性群のほうが正常高齢者群よりも有意に(p<0.05;Unpaired?-test)文字コントラスト感度が改善していた.logコントラスト感度*p<0.05Unpaired?-test0.90.70.50.30.1-0.1-0.3-0.5LYYLOYYGBRUGRO****:加齢黄斑変性n=10:正常高齢者n=7logコントラスト感度*p≦0.01Unpaired?-test0.350.250.150.05-0.05-0.15-0.25-0.35LYYLOYYGBRUGRO*******:白内障群n=6:眼内レンズ群n=4図9グレア負荷下における白内障群と眼内レンズ群の比較CCP各色について白内障群と眼内レンズ群における装用後-装用前のlogコントラスト感度を比較した.全色において,両群間で有意な差(p≦0.01;Unpaired??-test)が検出された.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????膜照度が上がるため7),色のスペクトルから青色を取り去ることにより,長波長の対象物のコントラストが上がるため8)などと説明されている.グレア下では,散乱光を最小にしてベールグレアを減じるため9),短波長光のブロックが眼内の散乱や自発蛍光を減少させるため10)といわれている.視力については,眼内への入射光量の減少を補正するために視覚分解能が上がる11)ことが原因であるといわれている.グレアなしの検討で有効性が認められたACは,本来白内障術後の使用を目的として開発されたレンズであり,光吸収特性はブルーライトフィルター眼内レンズとほぼ同一である.この眼内レンズの青色光の網膜障害に対する効果は実証されており,ACやこれと同等かそれ以上の短波長カット機能をもった他の色についても,網膜の保護効果が期待されるところである.V処方についてたくさんある色のバリエーションのなかから適切な色を選定するのはむずかしいと処方を敬遠する向きもあるが,遮光眼鏡は医師によって処方されるものである以上,選定も眼科で行われるのが理想的である.(53)図10症例左の症例は,網膜色素変性症,25歳.屋内用遮光眼鏡の選定に来院.自覚的な装用感は,何もなしよりは遮光眼鏡があるほうが自覚的にも良いが,色の決定に迷っていた.そこでコントラスト感度を測定し効果を比較してみた結果,3色の効果に大差はなく好みの色のFL:フォーリンリーブスに決定した.何もなしでは両眼視力は(1.0)だが,FL装用により(1.5)に向上した.右上は両眼視神経炎,右眼(0.08p),左眼(0.3p).CSV-1000LVチャートで測定すると,何もなしでは13文字しか読めないが,FLの装用により17文字読めた.何もなしでは両眼視力は(0.5)であったのが,FLの装用により(0.7p)に向上した.右下は糖尿病網膜症例,両眼とも汎網膜光凝固術を施行され右眼は牽引性網膜?離術後.視力は右眼(0.4),左眼(0.8),何もなしでは両眼視力(0.8)がACの装用により(1.0)に向上した.なしFLAC③FL②NL①なし④ACなし両眼網膜色素変性症両眼糖尿病網膜症両眼視神経炎———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007「カット」と「透過」の程度により遮光眼鏡の効能が左右されるため,処方に際しては分光透過率曲線を参考にして,患者の主訴のなかで最も解決したい問題を重視して色を選ぶ.羞明が強ければ,透過率が低くカット可能な波長の範囲が広いものが適切であり,色覚の変化ができるだけ少ないものが希望であれば,可視光範囲の透過率の高低差が少ないものが適切である.あるいは,暗くなりすぎるのが困るなら,視感透過率の高いものが勧められる.カットオフの曲線の角度がシャープであるほど効果的とされており,これは分光透過率曲線から読み取れることが可能であり,分光透過率や視感透過率のデータとともにパンフレットに記載してある.色の決定に迷うケースも多いが,このときにもコントラスト感度や視力の測定が利用できる(図10).いわゆるサングラスにも遮光眼鏡と類似した分光透過率をもつものがあり,見た目の色が同様であっても分光透過率が同じとは限らず,これを調べるには分光透過率測定器を用いるほか方法はない.自前のサングラスで問題がない場合はそれで構わないが,コントラスト感度や視力での他覚的所見により両者の効果を比較することができる(図10).以上のように,コントラスト感度や視力を測定することで遮光眼鏡の効果を客観的に評価することは可能であり,処方に際しては大いに活用されるべきであると考える.自覚的な装用感では気づきにくい変化もコントラスト感度などの他覚的な評価を行うことで効果が患者にも実感できることから,インフォームド・コンセントとして利用することもできる.もちろん,これらの検査は一状況下での評価にすぎないため,使用を想定した状況下での自覚的装用感を試すことは非常に大切であり,これに加えて客観的な評価を臨床でも行うということが今後の処方の方向として理想的であると考える.(54)文献1)日本ロービジョン学会用語委員会:ロービジョン関連用語ガイドライン,20062)EperjesiF,FowlerCW,EvansJW:Dotintedlensesor?ltersimprovevisualperformanceinlowvision?Areviewoftheliterature.??????????????????????22:68-77,20023)Wol?sohnJS,DinardoC,VingrysAJ:Bene?tofcolouredlensesforage-relatedmaculardegeneration.??????????????????????22:300-311,20024)TomanySC,CruickshanksKJ,KleinRetal:Sunlightandthe10-yearincidenceofage-relatedmaculopathy.TheBeaverDamEyeStudy.???????????????122:750-757,20045)阿曽沼早苗,長行司純子,前田江麻ほか:加齢黄斑変性に対する遮光眼鏡の有効性について.眼紀58(2007,印刷中)6)KellySA:E?ectofyellow-tintedlensesonbrightness.???????????????7:1905-1911,19907)KinneyJAS,SchlichtingCL,NeriDFetal:Reactiontimetospatialfrequenciesusingyellowandluminance-matchedneutralgoggles.??????????????????????60:132-138,19838)CheungSTL,PeasePL:Effectofyellow?ltersonpupilsize.?????????????76:59-62,19999)LuriaSM:Visionwithchromatic?lters.?????????????????????????????49:818-829,197210)YapM:Visionenhancementusingashortwavelengthlight-absorbing?lter.?????????????67:100-104,199011)Wol?sohnJS,DinardoC,VingrysA:Bene?tofcolouredlensesforage-relatedmaculardegeneration.??????????????????????22:300-311,2002■用語解説■Rayleighの法則:散乱の強さは波長の4乗に反比例する.視感透過率:レンズを通してみたときの明るさ感を示す値であり,レンズの波長特性に眼の比視感度を加重平均して求めた透過率.

瞳孔の加齢変化と老視矯正

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS方,イヌなど一部の動物では瞳孔括約筋にコリン作動性刺激とアドレナリン作動性抑制の二重神経支配を,瞳孔散大筋にはアドレナリン作動性刺激とコリン作動性抑制の二重神経支配を受けていることが証明されている.さらに瞳孔は中枢神経系や自律神経系以外にもサブスタンスPやプロスタグランジンなど種々のペプチド(生体内活性物質)により影響を受けることや,ヒップス(瞳孔動揺)と称される定常条件下の刺激がない状態でも生理的に周期的な動揺がみられる.機能的役割としては光に対して縮瞳することで眼球内に入射する光量を調整することや,近方視に対して縮瞳することで焦点深度を深めて高次収差などを減少させることが知られている.II瞳孔の加齢変化瞳孔の変化として生直後,特に新生児でも第30週頃から対光反応が出現し,瞳孔径は平均3.5mmに達すると報告されている1).瞳孔括約筋は第16週から発生し,第32週には完成するが,瞳孔散大筋は第24週から発生し,その完成は生後で5歳頃であるとされている.しかし生直後から5歳頃までの乳幼児期に瞳孔径が小さいのは,このような瞳孔散大筋の発生学的要因より,むしろ末?での交感神経系の未発達によるものとされている.それ以外にも眼球自体が小さいこと,脳の機能的発達が未熟,すなわち精神的活動が未熟であることからEdinger-Westphal核への中枢からの抑制(核上性抑制要素)が未発達であることなどが知られている.その後,はじめに瞳孔は大きさや反応を観察することで眼の状態はもとより感情変化,死の判定までもが“径”という定量性のある指標で評価可能である.その一方で検者の主観が入り客観性に欠けることや,高い有用性を備えた測定機器であってもさまざまな要因により影響を受けるため個人差が非常に大きく,その評価には多数の症例・被検者が必要である.瞳孔は中枢神経系や自律神経系の異常を反映するのみならず,視環境の変化に対する順応や明瞭な近方視の補助など視機能の面からも重要な役割を担っている.本稿では,瞳孔の加齢変化を中心に瞳孔に関する基礎知識を述べ,筆者らの施設で行っている瞳孔を考慮した老視矯正を紹介するとともにこれまでの研究結果から老視克服の可能性について述べる.I瞳孔の基礎知識正常な瞳孔は虹彩の鼻下側に位置し,形状はほぼ正円で左右同大である.大きさは光刺激に対する対光反応や近見刺激に対して縮瞳する輻湊反応,精神感覚性散瞳と称されるように驚愕や痛覚により散瞳を生じるなど,さまざまな外界からの刺激により影響を受けており,反応(運動)は虹彩の働きにより行われている.虹彩は瞳孔を散大させる放射状の瞳孔散大筋,瞳孔を収縮させる幅約1mmの輪状の瞳孔括約筋をもつが,それらの神経支配は瞳孔散大筋がアドレナリン作動性神経支配を受け,瞳孔括約筋がコリン作動性神経支配を受けている.一(41)????*KenAsakawa:北里大学大学院医療系研究科眼科学**HitoshiIshikawa:北里大学医療衛生学部視覚機能療法学〔別刷請求先〕浅川賢:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学大学院医療系研究科眼科学特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1173~1178,2007瞳孔の加齢変化と老視矯正???-????????????????????????????????????????浅川賢*石川均**———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007瞳孔径は二次性徴に伴い増大していき,20歳前後で最大となり,加齢性縮瞳と称されるように加齢に伴い縮瞳していく.この加齢性縮瞳は瞳孔括約筋の硬化や萎縮,交感神経系の減少によるものと考えられているが,80歳を過ぎると変化も一定となり平坦化する(図1).III瞳孔反応(対光反応・輻湊反応)の年代別検討対光反応の潜伏時間(潜時)はわずか200msecの反射であるが,輻湊反応は500msecとほぼ倍の時間を要する.また視標が近方から遠方へと遠ざかると,緩徐に散瞳していき,初期瞳孔径に戻るまでの時間は対光反応の10倍を要するとされ,これは核上性の複雑な神経経路を経由するためと考えられている.赤外線電子瞳孔計(イリスコーダ)を用いた年代別の対光反応を分析した報告2)によると,潜時は20歳代で最短であり,その後延長していく.最高縮瞳速度は10歳代が最も速く次第に低下するが,最大散瞳速度は10歳未満から低下する傾向を示す.初期瞳孔径は加齢に伴い縮小するものの,縮瞳率は全年齢でほとんど変化がない.乳幼児でも大きな瞳孔径を有することがあるが,そのような例でも対光反応は未熟であるなど,瞳孔径と対光反応は必ずしも並行しない.参考までにイリスコーダC-7364により得られる対光反応のパラメータ(図2)と各年代別の平均値を供覧する3)(表1).両眼開放下・外部視標のTriIRISC9000(定屈折近点計ダコモ+赤外線電子瞳孔計)を用いた年代別の輻湊反応を検討4)した結果では,初期瞳孔径は加齢に伴い縮小するものの,7D負荷に対する縮瞳率は20~50歳代の各年代で約30%前後とほとんど変化がなく,輻湊運動も加齢による影響を受けなかった(表2).一方で単眼視下・内部視標のA/A(赤外線オプトメータ+赤外線電子瞳孔計)による同様の検討5)では老視眼の縮瞳率に有意な増加が認められたが,これは測定条件の差による輻湊運動の関与が大きいものと考えられる.(42)図1瞳孔の加齢変化瞳孔径は乳幼児期には小さく,次第に増大していき20歳前後で最大となる.その後,加齢に伴い縮瞳していくが,この加齢性縮瞳も80歳を過ぎると変化は一定となり平坦化する.(本図は文献2の測定結果をグラフ化したものである)706050403020106050403020100:男性:女性年齢(歳)~10瞳孔面積(mm2)図2イリスコーダC-7364にて得られる対光反応のパラメータ1回の測定ごとに11種類のパラメータにて対光反応が分析される.これらのなかでT1の延長やA3の低下,CRの低下は視入力障害でみられる.また交感神経系機能は散瞳相(T5・VD),一方,副交感神経系機能は縮瞳相(CR・A3・VC・AC)に反映されると考えられている.A1:初期状態の瞳孔面積値(mm2).A2:光刺激後の最小縮瞳面積値(mm2).A3:光刺激後の変化瞳孔面積値(mm2).CR:縮瞳率A3/A1(%).T1:光刺激から縮瞳開始までの時間(msec).T2:変化面積の1/2まで変化するのに要した時間(msec).T3:瞳孔が最小になるまでに要した時間(msec).T5:瞳孔が最小から散瞳して,最小面積値の63%まで回復するのに要した時間(msec).VC:縮瞳速度の最高値(mm2/sec).VD:散瞳速度の最高値(mm2/sec).AC:縮瞳の加速度最高値(mm2/sec2).onT1T20.5A3Photostimulus(光刺激)Area(面積)Velocity(速度)Acceleration(加速度)Time(時間)ISA1A30.1VCVCACVDT5T3A20.63A3———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????IV老視の基礎知識老視とは加齢に伴う水晶体の硬化により,おもにその弾性が低下することで,調節力が減衰した状態である.すなわち調節力は加齢に伴い直線的に減衰し,再び増加することはないが,毛様体筋は70歳過ぎでも機能が低下することなく,加齢による影響を受けないとの報告6)も散見されることから,老視のおもな原因は水晶体の弾性低下によるものと考えられている.一般的に老視は遠方完全矯正にて近方視が困難な状態であり,眼前33cmで近方視力表を見せ,年齢に応じた加入度数(40歳代:+1.00D,50歳代:+2.00D,60歳代以上:+3.00D)を負荷すれば良好な近方視力が得られるが,広義の老視には角膜や水晶体などの光学的特性の変化である不正乱視や高次収差の増加,網膜や視覚領域皮質の機能低下による解像力の低下も含まれ,老視による視機能への影響(43)表1対光反応の各年代別の平均値男性年齢(歳)D1D2CRA1T1T2T3T5VCVDAC(n=24)10代平均18.546.915.350.2238.23270.80270.11963.171,595.943.911.7566.00標準偏差0.510.680.850.087.4223.7066.12220.78379.530.960.4520.84(n=447)20代平均25.306.695.060.2436.07253.36283.22961.191,610.933.971.7860.56標準偏差2.660.820.880.088.5627.9161.67209.30467.750.910.5017.14(n=362)30代平均33.886.454.890.2433.66254.07280.90960.101,643.243.851.7158.92標準偏差2.820.810.880.088.2327.9563.45207.29502.180.860.4517.25(n=181)40代平均43.326.194.700.2431.04257.98279.43972.891,646.063.661.6358.43標準偏差2.600.810.820.077.7525.9759.09213.64525.290.860.4217.04(n=62)50代平均53.715.574.010.2725.50260.99269.32955.881,685.993.901.6956.90標準偏差3.080.960.800.078.2624.1358.61219.02472.210.900.4215.95Totaln=1,076.女性年齢(歳)D1D2CRA1T1T2T3T5VCVDAC(n=17)10代平均18.596.945.350.2238.53258.79293.10978.401,637.224.011.9163.53標準偏差0.510.640.760.076.7818.7473.61209.73529.651.290.6015.42(n=163)20代平均23.856.574.930.2434.64254.36300.89980.641,623.583.981.8762.28標準偏差2.510.670.770.076.8628.3277.94218.75518.991.250.5521.07(n=96)30代平均36.206.114.560.2530.13252.05280.18945.631,614.203.871.8162.44標準偏差2.490.760.880.097.3529.4579.11228.12565.461.110.5623.50(n=224)40代平均43.895.844.370.2527.60253.39265.81931.891,616.193.801.6359.79標準偏差2.610.800.790.077.2824.0559.40207.53501.490.860.4319.36(n=56)50代平均52.825.544.010.2724.89255.19255.62929.431,604.913.931.6759.30標準偏差2.330.780.690.066.6823.5555.71213.64503.510.720.4214.74Totaln=556.初期瞳孔径であるD1(mm)と光刺激後の最小瞳孔径のD2(mm)は加齢に伴いその値が小さくなっている.一方でCRは全年齢で約25%前後とほとんど変化がない.(文献3より)表2輻湊反応の各年代別の平均値被検者数年齢(歳)初期瞳孔径(mm)最小瞳孔径(mm)縮瞳率(%)輻湊運動(mm)20歳代1324.7±1.85.94.229.21.40±0.4830歳代1033.6±2.84.83.332.51.52±0.3940歳代941.3±1.45.03.628.71.55±0.1750歳代955.8±2.94.23.127.11.33±0.26近見刺激に対する縮瞳率も全年齢で約30%前後とほとんど変化がないが,初期瞳孔径は加齢に伴い縮小している.また輻湊運動は初期瞳孔中心点からの移動距離(mm)として評価しているものの,加齢による影響は受けなかった.(詳細は文献4を参照)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007は複雑である.現段階で老視を予防する方法や治療法はいまだ確立されておらず,遠近両用もしくは近用の眼鏡・コンタクトレンズなどの視覚補助具による対称療法が主流である.近年では両眼視機能を考慮したモノビジョン法も老視矯正の一つになっている.眼鏡矯正にあたり注意すべき点は,不適正な矯正であっても十分な調節力を有する年代では調節自体で順応してしまうことである.一方で調節が減衰した老視眼では順応できないことから調節と密接に関連する眼位や輻湊運動などに影響を及ぼし,近方視に不均衡を生じる.そのため眼位や輻湊,両眼視機能を測定し,それらを考慮した矯正が重要になる.老視眼に限らず不適正な眼鏡は眼精疲労をはじめ頭痛や眩暈などさまざまな不定愁訴をひき起こす要因7)であることを改めて述べておく.老視の初期症状で最も多いのは調節弛緩速度の低下に起因した「近方作業後に遠方視がぼやける」という訴えであるが,このような症例に遠方視を基準とした矯正を行うと,かえって近方視困難を生じ眼精疲労の原因になる.誤った不適正な矯正をしないためにも患者の訴えを自覚的のみならず他覚的にも評価する必要がある8).V瞳孔を考慮した老視矯正眼鏡による老視矯正の詳細は別項に譲り,ここでは筆者らの施設で行っている瞳孔を考慮した広義の老視矯正(44)図3瞳孔形成術(pupilloplasty)耳側角膜より白内障手術を施行後,4カ所の角膜に小切開を加える(a~d).その後,レンズ固定用10-0糸にて瞳孔を縫合していく(e~h).最後に切開創を閉じて終了する(i).abcdefghi———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????について紹介する.瞳孔の機能的役割から考えると後天的に瞳孔が障害され,不可逆的な散瞳状態となった場合,後述するごとく近方視障害や羞明のみならず高次収差の増加やコントラスト感度の低下,軽度白内障眼による不正乱視の影響,白内障術後の眼内レンズ挿入眼ではグレアやハローを生じると考えられ,視機能の面からも無視できない問題を生じる.後天的に瞳孔が障害されるおもな要因としては内眼手術の合併症である.近年,安全性の高い手術法が確立されてからその頻度は少ないものの,虹彩損傷や瞳孔偏位(変形)を生じることが知られている.また超音波水晶体乳化吸引術・眼内レンズ挿入術自体も臨床的には許容できる範囲での瞳孔散大筋,瞳孔括約筋の双方が非可逆的障害を受けるとされている9).そのほかにも鈍的外傷により外傷性散瞳や動眼神経麻痺などの麻痺性散瞳,高眼圧による虹彩血管の虚血から二次的に瞳孔散大を生じることなどが知られている.現在,瞳孔括約筋の障害に対する有効な薬物治療はないことから,筆者らの施設では瞳孔散大固定患者に対して虹彩付きコンタクトレンズの処方をはじめ,人工虹彩挿入術,瞳孔形成術(pupilloplasty)を施行している.瞳孔形成術はコンタクトレンズの装用が不可能な症例に対して,有水晶体眼では前?の障害をきたす可能性が高いことから白内障手術と同時に施行している10)(図3).VI老視の克服老視の克服は眼科医療における最大のテーマであり,近年,自動焦点調節機能を備えた眼鏡の開発11)や外科的治療法の確立12)など興味深い報告が散見されつつある.ここでは現在までに得られた筆者らの研究結果を踏まえた老視の克服について述べる.老視による近方視障害のおもな原因は調節力の減衰であるが,実際の近方視の際には調節のみならず輻湊と縮瞳も誘発される,いわゆる『近見反応』が生じている.この近見反応は高次視覚領域における統合反応であり一つひとつを分離して誘発させることは不可能である.筆者らは若年者と老視者,白内障術後患者を対象に統合された近見3反応がどのように関連しているのかを検討した.近見縮瞳の結果としてA/Aを用いた若年群,老視群の4D負荷に伴う瞳孔反応の代表例を供覧する5)(図4).同様の近見負荷(近方視)であっても老視群では縮瞳率が有意に大きい結果となった.また眼内レンズ眼の近方視力と瞳孔径の相関をみると,遠方完全矯正下の近方視力は瞳孔径が小さいほど良好であった13)(図5).これらの検討より老視眼では調節力の減衰を縮瞳で代償し,近方視には瞳孔径が縮小しているほうが好都合であることが判明した.幸いにも瞳孔径は加齢に伴い縮瞳すること(45)図4A/Aにより得られた若年者と初期老視者の瞳孔反応(近見縮瞳)の代表例4D負荷(眼前25cm注視)に伴う瞳孔反応と調節反応を示す.同様の近見負荷で調節反応量はほぼ同等であるが,老視者では縮瞳率が有意に大きい結果となった.調節反応瞳孔反応4D700246.00若年者(22歳,男性)700246.00初期老視者(40歳,男性)縮瞳率———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007から合理的であるといえる.また白内障術後の調節力消失は避けられない問題であり,その対処法の一つとして調節性眼内レンズや多焦点眼内レンズが近年開発されているが,期待されたほどの近方視力は得られていないのが現状である.そこで筆者らの施設で行っているおもな老視治療法は,眼内レンズによるモノビジョン法である.モノビジョン法とは一眼を遠見用に,他眼を近見用に矯正する老視矯正法であるが,当院では予備研究をもとに設定した適応基準を満たす症例に対して,術前にholeinacardtestにて決定した優位眼を正視(0~+0.25D),非優位眼を近視(-2.00~-2.50D)に矯正している14).おわりに瞳孔の役割は視環境の変化に対する順応においても網膜(視細胞)の順応に比してきわめて劣ることや,近見縮瞳により明瞭な近方視を獲得するとしても調節が関与するための誤差情報である“ぼけ”は大きいほうが有効であることや,縮瞳を誘発させる誤差情報が未解明であること,さらに近見反応の応答潜時の点から考えても輻湊が150msecと最も速く,続いて調節,それに遅れて縮瞳が起こることから付加的な役割であるとされてきた.しかしこれまで述べてきたごとく視機能の質(quali-tyofvision)の向上に果たす役割はきわめて大きく,今後も基礎から臨床に至るまで多くの研究が報告されるものと期待される.文献1)IsenbergSJ,MolarteA,VazquezM:The?xedanddilat-edpupilsofprematureneonates.???????????????110:168-171,19902)長谷川幸子,石川哲:正常対光反応の加齢による変化─新型双眼性赤外線電子瞳孔計(C2515)を用いた検討─.日眼会誌93:955-961,19893)石川哲:新瞳孔計シンポジウム─正常瞳孔反応データ.神眼18:154-156,20014)高橋慶子,石川均,新田任里江ほか:トライイリスを用いた調節刺激に対する瞳孔径・輻湊の加齢変化.自律神経41:361-364,20045)NakagawaR,IshikawaH,ShimizuKetal:Pupillaryfun-cioninearly-stagepresbyopiaande?ectsofanadrener-gicagentonaccommodation.?????????????????????????????40:36-42,20036)吉冨健志,石川均,鳩野長文ほか:IOL挿入老人眼の毛様体筋収縮能.臨眼47:983-986,19937)鈴木武敏:調節負荷(過矯正)眼鏡と瞳孔.神眼18:138-141,20018)梶田雅義:眼鏡処方のテクニック.あたらしい眼科21:1441-1447,20049)KomatsuM,OonoS,ShimizuK:Thee?ectsofphaco-emulsi?cation-aspirationandintra-ocularlensimplanta-tiononthepupil:pupillographicandpharmacologicstudy.???????????????211:332-337,199710)石川均,清水公也,吉冨健志:瞳孔関連疾患の診断・治療におけるPitfall.神眼22:4-13,200511)藤田豊己,出澤正徳:老視用自動焦点調節補助眼鏡の可能性.あたらしい眼科19:165-172,200212)藤島浩,坪田一男:老視の外科的治療.あたらしい眼科18:1259-1262,200113)堀部円,石川均,浅川賢ほか:眼内レンズ挿入眼における両眼開放下近方瞳孔径と近方視力の関係.眼臨99:449-451,200514)清水公也,疋田朋子:眼内レンズによるモノビジョン法.日本の眼科77:25-26,2006(46)図5近方視力と瞳孔径の相関関係遠方完全矯正下の近方視力は眼前33cm注視時の瞳孔径が小さいほど良好な結果となり,有意な相関が得られた.1.00.60.40.2遠方完全矯正下の近方視力値Spearman順位相関:r2=0.39,p<0.05n=322.04.03.033cm注視時の瞳孔径(mm)

眼鏡レンズの光学設計とQOV

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI眼鏡レンズの光学系と収差眼鏡レンズの使用状態を図1で表すことができる.眼球は点Rを中心に回旋して見たいものに照準するようになっている.つまり,レンズ上いかなる点を通過する主光線も点Rを通過する.したがって,光学系の出射瞳位置は点Rにある.瞳の大きさは,眼球の瞳孔径と同程度で,最大でも6mm程度で,レンズの焦点距離に比べれば微々たるものである.視野はレンズ全体をカバーする必要があるので40?以上確保しなければならない.したがって,眼鏡レンズ光学系の特徴は,大視野小口径といえよう.レンズ1枚で大視野小口径の光学系を設計する場合に考える収差はおもに非点収差と像面弯曲の2種類である.眼鏡光学系は,カメラと違って,目標像面が平面ではない.単焦点レンズの場合,目標像面は?点を中心とはじめにQOV(qualityofvision)はさまざまな要因によって影響されるが,本稿では,眼鏡レンズの光学設計の要因だけに絞って議論を展開していく.眼鏡レンズといっても,使用目的,使用対象によって,さまざまな種類がある.ここではごく一般的な屈折異常補正用眼鏡レンズを対象とする.屈折異常補正用眼鏡レンズは,単焦点レンズと累進屈折力レンズ(以下,累進レンズと略す)とに分けられる.単焦点レンズはその名のとおり全レンズ面にわたっての単一屈折力なので,比較的単純である.ただ,厳密に全レンズ面にわたっての単一屈折力は理論的に不可能なので,いかにその理想に近づけるかが光学設計のポイントである.累進レンズは加齢による調節力低下を補うために開発されたレンズで,レンズ上方から下方に向けて屈折力が増加するように設計されている.屈折力を変化させることは,調節力補?効果を得ると同時に,ユレ・ユガミというQOV低下の要因もつくっている.本稿では単焦点レンズと累進レンズの光学設計の基礎知識と,設計目標の設定の底流にあるレンズ性能評価の考え方,方法について,従来の収差補正に加え,近年発展した新しい評価指数を紹介する.なお,内容の性質上どうしても数学式を多用せざるをえないので,多少のむずかしさを辛抱して読んでいただけるとありがたい.(31)????*HuaQi:HOYA株式会社ビジョンケアカンパニー開発部設計室〔別刷請求先〕祁華:〒190-0151あきる野市小和田1-1HOYA株式会社ビジョンケアカンパニー開発部設計室特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1163~1172,2007眼鏡レンズの光学設計とQOV?????????????????????????????????????????祁華*図1眼鏡レンズの光学系VQRFSFTFDxyzx¢y¢z¢POqVSFPS———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007した球面FPSである.ここの?点は軸上の像点で,レンズ後方頂点?との距離は,屈折力の逆数に等しい.たとえば,屈折力1Dの場合??=1m,屈折力-2.00Dの場合??=-50cmとなる.周辺光線の像点は目標像面FPS上におさまることが理想であるが,一般的に多少離れた場所にある.その乖離量は像面弯曲収差という.眼鏡の場合の像面弯曲は周辺光線の屈折力誤差を意味する.周辺光線の屈折力は後方頂点球面(?を中心とし,レンズ後方頂点?を通る球面)??から測る.図1の例では,周辺光線の屈折力がサジタル方向(円周方向)とタンジェンシャル方向(半径方向)それぞれKQFKQFTTSS==11,KQFKQFTTSS==11,である.仮に目標とする屈折力がKVF=1KVF=1だとすれば,平均屈折力誤差MOE(meanobliqueerror)と非点収差OAE(obliqueastigmaticerror)は下記のように定義されている:MOEKKKOAEKKTSTS=+()=12また,MOPKKTS=+()12は平均屈折力とよばれる.以上の説明は便宜上回転対称単焦点レンズの場合と仮定しているが,累進レンズの場合,各視方向それぞれ異なる目標屈折力?があると考えればいい.累進レンズは軸回転対称でないので,周辺視の非点収差主方向は必ずしもサジタル方向(円周方向)とタンジェンシャル方向(半径方向)にならず,一般条件下の非点光線追跡でそれを求める必要がある.乱視処方がある場合,目標屈折力自体に非点収差成分が含まれる(乱視と非点収差は同義語)ので,実際の屈折力からその非点収差成分を含めた目標屈折力を差し引いてMOEとOAEを算出する必要がある.その際周辺視方向における乱視軸方向の確定は,眼球回旋のリスティング法則に従うようにしなければならない.すべての視野角において,MOEとOAEをともにゼロとすることができれば理想的である.しかし,その理想が実現できるのは矯正度数?がゼロの単焦点レンズのケースだけである.このケースは本来眼鏡を必要としない.つまり,眼鏡レンズには多かれ少なかれ収差をもっていている.レンズの光学設計の役割は,収差によるQOV低下を最小限にとどめることにあるといえる.II単焦点レンズの光学設計外面と内面がともに球面形状の単焦点レンズを球面レンズという.球面レンズ設計の自由度は,外面のカーブ??だけである.ちなみにカーブとは面屈折力で,nr1で計算される.ここで?は屈折力,?は面半径である.1904年チェルニング(Tscherning)はザイデル(Seidel)収差領域で非点収差がゼロになる??をグラフにして発表した.このグラフは有名なチェルニングの楕円である1)(図2).図2のように,レンズ屈折力?が与えられたとき,ザイデル収差領域で非点収差がゼロになる??の解は2個あって,それぞれウォラストン(Wollaston)型とオストワルト(Ostwalt)型といわれている.後者のほうが前者よりカーブが浅く実用性が高い.チェルニングの楕円はあくまでもザイデル収差領域で非点収差がゼロになる解で,一般条件下の非点光線追跡では解が楕円曲線より離れる.また,非点収差のみを解消する考え方も合理性に欠けると考えられることもあって,実際メーカー各社の球面レンズ設計はオストワルト解より多少浅いカーブを採用している.それでも思い切って浅いカーブを採用することはできない.一方,眼鏡のファッション性,快適性から,薄い,軽いフラットなレンズが求められている.上述のように,球面のまま浅いカーブを採用すると収差が増えるので,非球面を採用して増えた収差を補正する方法が考えられた.図3はプラスレンズの各種設計の収差グラフの比較である.矯正度数によって,収差のスケール,そして視野角のスケールが異なるので,この図はあくまでイメー(32)図2チェルニングの楕円-30-205105101520???無限遠方物体25cm前方物体WollastonOstwalt-10———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????ジ図である.球面のままカーブを浅くすると,周辺視野で大きなMOEとOAEが生じる.片面非球面(前面または後面)を用いることによって,MOEとOAEを深いカーブの球面と同等なレベルに減らすことができる.両面非球面を採用することによって,さらにMOEとOAEを減らすことができる.この図はあくまでイメージで,設計の補正目標によっては,収差曲線が異なってくる.設計目標の設定はさまざまな考え方で行われている.たとえば,単純に無限遠方の物体に対して,すべての視野角でOAEをゼロに,またはMOEをゼロにする目標が考えられた.どちらか一方だけをゼロにするのは偏りすぎるので,MOEとOAEに重みをつけて最小化する目標も考えられた.老眼鏡は別にして,一般的な単焦点レンズは無限遠方ばかりではなく,中間距離や近方にある物体を見ることも多いから,さまざまな対物距離に対するMOEとOAEに重みをつけて最小化する目標も考えられた.さらに,眼鏡は眼球との位置関係を精密機械のように正確に保つことがむずかしいので,多少ずれた状態でも大きく性能が低下しないように設計されたレンズも商品化されている.III累進レンズの光学設計累進レンズは加齢による調節力低下のための眼鏡レンズの一種であり,遠方視から近方視へと,視線が下方へ移行することに対応して屈折力を累進的に増加させてあるレンズのことである.加齢による調節力低下対策レンズとしては,遠用単焦点レンズに近用の窓を開けるバイフォーカルレンズが古くからある.累進レンズは,近方視における調節力不足を補うことについてはバイフォーカルレンズと同様であるが,屈折力変化が連続的となっていることが決定的な違いである.この連続性は累進レンズの長所でもあり,欠点の原因でもある.すなわち,屈折力が連続的に変化している曲面には,視野領域の境界線が存在しないので,バイフォーカルレンズのように一目で老眼とわかってしまう欠点がない.遠方視から近方視への視距離の変化に対する調節力の補?が,連続的な屈折力変化により滑らかに行われるので,ごく自然な見え方となる.一方,屈折力の変化が倍率の変化をもたらすことになる.眼がレンズの異なる部分を透して見たものの大きさが変化するから,ユレ・ユガミの感覚をひき起こしてしまう.これが累進レンズのデメリットとなる.累進面は複雑な曲面だが,理解を容易にするために骨格の構造にたとえて解説する.まず,レンズ表面の中央部縦方向に所定の屈折力変化を与える断面曲線を配置する.これをレンズ面における“背骨”にたとえるならば,“肋骨”にあたる横方向の断面曲線を無数に配置することで,一つの曲面が形成される(図4).それらの直交断面曲線(背骨と肋骨)の曲率半径を,交点において相互に等しくすることにより,“背骨”に沿った曲面上の部分に微小球面の連なりをつくることができる.したがって,この“背骨”にあたる断面曲線は「へそ状子午線」ともよばれる.さて,この累進面では“背骨”に沿った曲率半径が下(33)図3プラスレンズの収差グラフのイメージ????????????????????????深カーブ球面浅カーブ球面浅カーブ単面非球面浅カーブ両面非球面パワー視野角視野角視野角視野角図4累進レンズ表面加入度明視領域累進帯度数変化曲線鼻側耳側近用内寄せ———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007方に向かって徐々に小さくなっているので,対応している各々の“肋骨”の曲率半径も下方に位置するものほど小さくなっている.このためこの無数の“肋骨”が織りなす面は,“背骨”から側方に遠ざかるにつれ,上方よりも下方が巻き込まれた,ねじれた曲面を形成している.そしてこのねじれた曲面こそ累進特有の非点収差の原因であり,このねじれを減らすことが非点収差を減らすことになる.累進レンズは光軸に関して回転対称ではないので,単焦点のようにグラフで収差を表示することができない.代わりに収差分布図というものがある.図5に示したのは収差図の一例で,左がMOP分布,右がOAE分布で,等高線の1階段が0.25Dである.非点収差OAEは眼にとって望まざるものなので,なるべく小さく抑えたいが,すべての領域でそれができるとは限らない.遠方領域のOAEフリー面積を広く取ると,そのしわ寄せが中間領域や近方領域にかかってくる.逆も然りである.累進レンズの設計は,各領域の広さのバランスをとって行われている.平たく言うと,度数変化がひき起こす非点収差という“しわ”をレンズ全体に薄く広く分布させるか,それともメリハリをつけて,あまり視線のいかないレンズ下方の両側に集中させるかである.前者はソフト設計,後者はハード設計といわれている.実際は各領域の明視域の広さ,非点収差の大きさのバランスをとって設計が行われている.バランスのとり方はすなわち設計目標の設定の仕方でもあり,でき上がったレンズの性格を決めてしまう.メーカー各社は長い間顧客と対話しながら,新製品開発を通じて,顧客満足を向上させるバランスのとり方を習得してきた.このプロセスは今後も続くであろう.設計目標の設定は,評価方法にもかかわる.単に非点収差分布と平均度数分布でレンズを評価することもあれば,QOVに直結するボヤケ,ユガミ,ユレの分布を評価する方法もある.後者については後に詳しく説明する.このように累進レンズの改善には収差バランスの適正化が不可欠であるが,より根本的な改善方法は収差量そのものを低減させることであろう.概して収差量は累進帯の屈折力変化曲線(図4参照)の勾配に比例していると考えられる.この屈折力変化勾配は遠近の視野間隔,すなわち累進帯長に逆比例しており,遠近の屈折力差,すなわち加入度数に正比例している.したがって累進帯長を長くするか加入度数を少なくすれば,収差量そのものを低減させることができる.そこで主として遠方視野を制限することで目的距離の明視範囲を広くする専用レンズが考案された.たとえば,遠方視野を通常より高めに配置することで累進帯長を長くし,中間部と近用部の視野を大幅に改善した室内用の「中近レンズ」.また,遠方視野を完全に取り除くことにより,加入度数を低く抑え,中間部も使える近用主体のレンズとした「近近レンズ」などが開発されている.こうした専用レンズは,遠近レンズとしての機能は果たせないが,中近や近近という限られた目的距離範囲では累進レンズの違和感が少なく,快適な見え方が実現されている.IV累進レンズの評価非点収差や度数誤差で累進レンズの光学性能を評価することはオーソドックスな方法だが,QOVの観点からみれば,やや適切さに欠ける感がある.累進レンズをかけて感じる不具合は,概してボヤケ,ユガミ,ユレの3つの感覚である.これらを非点収差と度数誤差では説明するのがむずかしい.HOYAは,ボヤケ,ユガミ,ユレの感覚を直接評価する評価指数を提唱し,累進レンズを評価している.それぞれ明瞭指数,変形指数,ユレ指数と称する.以下これらの指数の定義や評価例を紹介する.(34)図5累進レンズの収差分布図平均度数分布非点収差分布———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????1.明瞭指数ぼやける感覚は,光線が網膜黄斑部に集中せず,ある程度広い範囲にバラけることによってひき起こされる.光線の網膜上にバラける範囲の大きさを把握すれば,明瞭の程度を測ることができる.図6は明瞭指数の算出過程を示している.網膜上の光線分布を取得するには,眼球の光学モデルが必要である.ここでは,Navarro(1985)のモデルを採用した2).このモデルの一番大きな特長は眼球調節できることにある.つまり,調節度数によって,水晶体前後面の曲率や間隔が変化する方程式が記述されている.累進レンズの評価に使う眼球モデルとしては欠かせない性能である.レンズ上?点を透して?点を見る場合の光学系を考える.眼球以外の光学系要素は確定しているが,眼球調節度数を決める必要がある.眼球調節度数は?点の回旋中心?からの距離と,?点におけるレンズ形状によって,網膜に結像するために必要な眼球調節度数を算出し,さらに眼の調節力範囲内の最もそれに近い値を選んで決める.これで?点を網膜に写像するすべての光学系要素が確定した.後は?点から発し入射瞳を均等分割する多数の分割点を通る光線を追跡し,網膜上のスポットダイアグラム,さらにPSF(pointspreadfunction)を求めていく.入射瞳の位置は厳密に?点におけるレンズ度数に依存するが,ここでは??の延長線にあり,??¢=??を満たす位置に便宜上置いておく.また,正確なPSFを求めるためには入射瞳上の光線通過点を均等に分布させることが不可欠である.図6の分割例は,計算効率を上げるためになるべく少ない点数で円形の瞳を均等に分割する方法の一例である.PSFの具体的な形状はレンズ通過点位置,物体距離などによって大きく変化し,一定の関数でそれを正確に表現することはむずかしい.けれどもここでPSFを求める目的は光線の分布範囲の大きさを求めることなので,関数の正確さにこだわらなくてもいい.ここではPSFを下記の二次元正規分布関数に近似させてそのパラメータを求めることにする.PSFμνπσσρρμσρμνσμνμ,exp()=()12112122222μμννσνσ+22ここで,mとnは網膜上の位置座標だが,視角に換算されている.sm,sn,rは分布の大きさを表すパラメータで,スポットダイアグラムから下記のように決める.(1)σμσνρμνσσμνμν===∑∑∑11122NNNiiiiiii/式(1)中?は入射瞳分割数,m?,n?,は?番目の光線網膜通過点座標の視角換算値である.PSF分布の範囲は楕円112122222()+=ρμσρμνσσνσμμννであり,図7に示される.PSF分布楕円が大きいほど,物体点からの光線が網膜上分散し,視力が低下する.したがって,楕円の大きさは,視力と反比例の関係にある.楕円の大きさを表すパラメータとして,ここではσσσμν=+22を採用する.sはPSF分布の統計的代表(35)図6明瞭指数の定義PSF??入射瞳??’?入射瞳の分割?入射瞳分割点へ-3-2-10123-3-2-10123yz??¢-3-2-10123-3-2-10123yz図7PSF分布楕円νμνμνμνμμννμ()σρσ,()σσρ,()σσρ,()σρσ,σσ———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007半径を意味する.本来方位角によって楕円の半径は変化するが,ここでは最大半径よりも若干大きいsを採用し,厳しく評価する.視力は眼で区別できる2点の最小間隔(視角ベース)によって定義されている.sはそのPSFの場合のその最小区別間隔と考えることもできる.sから計算される視力値はVA..=′=′+1122σσσμν(2)となる.式(2)中の1¢は角度1?の60分の1で,視力1.0で分別できる最小視角である.もちろんこの視力値は実際の視力とは異なるものである.眼の視力は眼鏡や眼球の光学的要素のみならず,網膜や視神経,ないし皮質の複雑な処理にも影響される.式(2)で計算された視力は眼鏡や眼球の光学的要素だけで,しかもPSF関数を二次元正規分布に近似したときの結果であり,本当の視力からはかけ離れたものとなる.しかし,眼鏡レンズの明瞭さの相対的分布を表すには十分役に立つと考えられる.ここでは式(2)で計算された視力をレンズの明瞭指数と称する.明瞭指数はレンズ上一点を透してある距離の物体点を見る場合の明瞭さを表すものだが,レンズ上すべての点に対してしかるべき物体距離を設定し,明瞭指数を求めて分布図を描くことができる.図8に明瞭指数分布の一例を示している.左は丸レンズ,右が枠入れした後のイメージである.レンズはHOYAが販売している両面複合累進レンズHOYALUXiD,上平加入2.50Dである.物体距離は近用領域で後方頂点球面から40cmと設定し,眼球瞳孔径4mm,調節範囲は0~0.25Dと設定する.レンズサイズはf60mmで,位置を特定するための格子線,リング線の間隔は10mmである.累進帯付近は良好な視力が得られ,近用部両側の側方部は視力が落ちる.伝統的な非点収差分布図(図5)と似ている部分もあるが,もっと直接に明瞭さを表していると考えられる.2.変形指数伝統的に光学系による像の変形は歪曲収差として扱われる.歪曲収差は基本的に共軸光学系,つまりすべての光学面が同じ直線軸に関して軸対称の場合に,画像全体の歪曲を評価するのに適している.累進レンズの場合,場所によって異なる度数を配分しているので,歪曲収差で像の変形を評価するのは無理である.そこで,レンズ上任意一点を通過する光線の近傍光線の振る舞いを解析することで,微分領域での像の変形を評価することにした.図9のように,レンズ?点を透して?点を見るケースを考える.物体側?点の像は??の延長線上の?¢点であるとすると,?点を原点とするローカル座標系μνで近傍点Pdd+()μν,の像は,?¢点を原点とするローカル座標系μν′′でPdd′′()+μν,で表すことができる.なお,m,nは主方向??からそれぞれ横,縦方向の偏角を意味する.m¢,n¢も然り.?m¢と?n¢は下記の式(3)で表される.(36)図8明瞭指数分布例1.000.670.450.300.200.130.090.06見やすい←→見づらい図9眼鏡倍率楕円????νθ?物体側+?ω?¢?¢?ν¢θ¢?像側+¢¢?¢ω?眼鏡倍率楕円無限小円———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(3)dddAdBdddμμμμμννμνννμμν′=∂′∂+∂′∂=+′=∂′∂+∂′∂νννμνdCdDd=+ここで,ABCD=∂′∂=∂′∂=∂′∂=∂′∂μμμννμνν,,,は?点におけるレンズの形状によって決まっており,光線追跡の手法で値を算出することができる.式(3)を極座標形式変更すると,dAdBddCdDdωθωθωθωθωθ′′=+′′=+coscossinsincosωωθsinとなり,さらに像側と物体側の偏角比で定義される眼鏡倍率ddωω′と方位角q¢との関係を求めて整理すると,ddILωωθθ′()=+′′()2012cos(4)さらに像側方位角は,tantantanθθθ′=++CDABとなる.ここで定数?,?,q¢0はABCD=∂′∂=∂′∂=∂′∂=∂′∂μμμννμνν,,,より下記のように計算される.IADBCABCDJADBCDB=()+++()=()+121222222222CCAKADBCBDACLJKK22222012()=()+()=+′=tanθJJ式(4)のように,?点におけるレンズ形状が一次微分可能で,かつ全反射を起こす光線入射状況でなければ,物体側の無限小円(?wが方位角qにかかわらず一定)は像側に楕円として映ることが明らかである(図9参照).ここではこの楕円を眼鏡倍率楕円と称する.式(4)は眼鏡倍率楕円の方程式である.眼鏡倍率楕円は拡大率の情報と同時に,変形具合の情報ももたらしてくれる.変形がまったくない状態とは,方位角にかかわらず倍率が一定であるということなので,眼鏡倍率楕円は真円である.したがって,眼鏡倍率楕円の真円からの乖離具合を変形指数として定義し,ユガミを評価することができる.ここでは変形指数を式(5)のように定義する.HabILIL==+11(5)ここで,?,?は眼鏡倍率楕円の最大半径と最小半径である(図10).変形指数はレンズ上一点を透して見た場合の変形を表すが,レンズ上すべての点に対して求めて分布図を描くことができる.図11に変形指数分布の一例を示している.レンズは図8と同様,HOYALUXiDS0.00Dadd2.50Dである.累進帯付近では変形が少なく,近用の両脇は変形が大きい.図5と比較すると,非点収差が大きいところは変形も大きいことがうかがえるが,両者が正比例関係ではない.3.スキュー変形指数変形指数は眼鏡倍率楕円の形状だけを評価し,楕円の長軸の方向の方位角は考慮していない.しかし,たとえ同じ形状の眼鏡倍率楕円でも,楕円の長軸の方向如何によっては,ひき起こされる不快の度合いが異なるのである.図12では,その状況が示されている.仮に4種類(37)図10変形指数の定義¢0θ??¢?¢ν図11変形指数の分布例0.02.55.07.510.012.515.017.520.022.5変形小←25.0(%)→変形大———————————————————————-Page8????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007の眼鏡があり,変形指数の絶対値が同じで,眼鏡倍率楕円の長軸の方位角がそれぞれ0?,45?,90?,135?とする.それぞれを透してみたビルの像が示されている.明らかに45?,135?の場合の不快感は0?,90?の場合の不快感より強く感じられるのである.したがって,変形指数だけで変形によるQOV低下を評価するのは不十分で,もう一工夫が必要である.そこで,方位角を加味して変形指数を下記のように分解してみた.HHHHHns=′+′=+cossin202022θθHHn=′cos202θをノーマル変形指数といい,HHs=′sin202θHHs=′sin202θをスキュー変形指数という.ノーマル変形指数は0?と90?方向つまり縦横方向の変形を表し,スキュー変形指数は45?と135?方向の変形を表す.スキュー変形指数は変形による不快の度合いを一番的確に表していると考えることができる.図13はスキュー変形指数の分布例を表している.図11の変形指数からノーマル変形成分を取り除いて残った成分となる.4.ユレ指数「ユレ」は眼鏡レンズ,特に累進レンズ独特の現象で,伝統的な収差論では論じられていない.ユレの強さを評価するためには,ユレがどのような現象なのかを確立する必要がある.まずユレとユガミの違いを考える.ユガミは静的なイメージに対し,ユレは動的なものであるといえる.つまり,ユガミは視線移動しなくても感じるが,ユレは視線移動のときだけ感じるものといえる.前述のように,レンズ上異なる点を透して見る場合,異なる眼鏡倍率楕円で拡大された像が得られる.図14にはレンズの右,中央,左の部分を透してみた人物の顔(筆者)が異なる様子を示している.つまり,視線がレンズ上移動するときに,見たものの大きさや形が変化する.この現象は裸眼や単焦点レンズでは発生しないので,累進レンズ特有の不快感である.眼鏡によるユレは,この現象をさすと考えられる.すると,ユレの強さを評価するユレ指数は,視線移動時における像の形や大きさの変化率と考えることができる.厳密な定義は図15に示されている.レンズ上?点を透して?点を見た場合,?の像が?¢に位置し,眼鏡倍率楕円が確立されている.?点から微小角?Wだけ視線移動した??点においては,多少異なる眼鏡倍率楕円と(38)図12変形の方向性図13スキュー変形指数の分布例0.02.55.07.510.012.515.017.520.022.525.0(%)変形小←→変形大図14「ユレ」の現象μνθPωd+Pユレ指数=視線移動時における像の形や大きさの変化率μνθPωd+PμνθPωd+P———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(39)なる.2つの眼鏡倍率の差である??を?Wで割ると,眼鏡倍率の変化率が得られ,これがユレ指数と定義される.??は眼鏡倍率楕円の大きさと形の両方の差を反映するものでなければならない.ここでは,すべての方位角に対する眼鏡倍率差のRootMeanSquareを??として定義する.図16ではその定義が示されている.物体側無限小真円の方位角qにおける近傍点?+に対して,?¢の眼鏡倍率楕円の対応点が?¢+,??¢の眼鏡倍率楕円の対応点が??¢+とする.?¢+と??¢+の距離が方位角qにおける眼鏡倍率差と考えることができる.つまりdMPPNθ()=′′++.すべての方位角に対してdMθ()の二乗平均値を求めさらにルート計算すると,代表的な??が得られる.つまり,dMdMd=()∫12202πθθπルート内の積分は,図15右の図形の2つの楕円の間の塗りつぶした部分の面積に相当する(厳密に言うと違うが).つまり,2つの楕円の差異は重ねて共通部分を除いた領域の大きさというものである.??の定義は他にも考えられるが,数学的な処理のしやすさから上記の方法を採用した.数学式の演繹過程を省略し,結果のみを下記のように記す.(6)YdMddAddBddCddDd2222212=()=()+()+()+()221222=++()EFGcossinここで,?はユレ指数,jは視線移動方向の方位角である.定数?,?,?はそれぞれ,E=∂′∂∂+∂′∂∂+∂′∂22222212μμννμνμμ+∂′∂+∂′∂+∂′22222222νμμνν∂∂()=∂′∂+∂′∂νμμνμ222222212F∂′∂∂′∂()=∂′∂22222222μνννμGμμνμμμννμννμ∂∂′∂+∂′∂+∂′∂∂∂′∂+∂2222222222νν′∂である.なお,式中の2階偏導関数値は,1階偏導関数値ABCD=∂′∂=∂′∂=∂′∂=∂′∂μμμννμνν,,,ABCD=∂′∂=∂′∂=∂′∂=∂′∂μμμννμνν,,,同様,?点におけるレンズの形状によって決まっており,光線追跡の手法で値を算出することができる.図15ユレ指数の定義像側物体側ユレ指数=dMd眼鏡倍率差Md¢PPOQP+P¢P+¢PNP¢NPNP+NP¢NP+¢NPd図16眼鏡倍率差の定義ν?¢ν¢?θ¢??+?+¢?+¢??観測点?の倍率楕円近傍点??の倍率楕円)=?¢???¢?(??θ?図17ユレ指数の分布例0.0000.0630.1250.1880.2500.3130.3750.4380.450ユレ小←→ユレ大———————————————————————-Page10????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007(40)式(6)で明らかのように,ユレ指数は視線移動の方向によって変化する,その最大値はYEFGMax=++()1222である.特に断らなければ,ユレ指数はこの最大値を指す.ユレ指数はレンズ上一点を透して見た場合の形状変化率を表すが,レンズ上すべての点に対して求めて分布図を描くことができる.図17にはユレ指数分布の一例が示されている.レンズは図8,図11と同じである.図のように,累進レンズのユレは近用部におもに現れ,ピークは近用部のやや鼻側にある.そこは度数が一番急激に減少するところでもある.ユレの強さはレンズ上度数の変化率と強い相関関係にあるといえよう.おわりに眼鏡レンズの光学設計の基本,評価方法について説明した.累進レンズの評価指数としては,掛けたときに感じるボヤケ,ユガミ,ユレを直接測る明瞭指数,変形指数,ユレ指数を提案した.従来の平均度数,非点収差とは異なる角度で,よりQOVに直結する評価指数であると考えられる.また,本稿は紙面の制限で単眼視の状態の設計,評価のみ説明したが,両眼視性能もQOVの重要な側面である.これについては別の機会に譲りたい.眼鏡レンズ,特に累進屈折力レンズは,高齢化社会になってますます重宝される.眼鏡レンズメーカーとしては,これからもQOVを向上するレンズを開発し世に提供していくよう努力する所存である.文献1)小瀬輝次(監修):めがね工学,p98-101,共立出版,19832)NavarroR,SantamariaJ,BescosJ:Accommodation-dependentmodelofthehumaneyewithaspherics.???????????????2:1273-1281,1985

中近・近近眼鏡見

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSけたりするときにハッキリと快適に見やすい眼鏡が必要となってきている.パソコン作業をしない場合でも,一般に高齢者は若年者と比べ室内で過ごす時間が長くなるため遠方よりも近方や中間距離を見る時間が増えてくるので,その距離を見やすい眼鏡の需要が増えてくる.遠近レンズは遠くから近くまで見えて便利であるが,近方視するときは下方に視線移動しなければならず,加齢に伴い注視野が狭くなることからもわかるように,長時間の下方視は加齢とともに辛くなってくる.このようなニーズに応えるためいわゆる中近や近近レンズが登場した.いずれも累進屈折力レンズで,徐々に度数が変化している設計となっている.II近用単焦点レンズにおける不具合従来の近用単焦点レンズの場合遠方は正視で,近方視も近用度数がsph+1.50Dくらいまでの弱いうちは良いが,sph+2.50Dになってくると眼鏡を装用したままでは100/(+2.50D)=40cmが遠点距離となり40cmを超える距離はぼやけてしまう.仮にパソコンの画面が50cmの距離にあるとすれば顔を近づけないとハッキリ見ることができなくなってしまう.もちろん遠方はぼやけてよく見えない.また近用に限らず単焦点レンズを装用している場合には目標物の距離が変われば常に自身が調節をしなければピント合わせができないことになり,それが可能な範囲も狭い.しかし,累進屈折力レンズの場合にはレンズの度数変化を利はじめに日本で累進屈折力レンズが発売されて今年で40年となった.その間,眼鏡レンズには大きな変化が起きている.まずレンズ素材はガラスが主力だったものが現在ではプラスチックに変わり,約95%以上をプラスチックレンズが占めている.また,遠近両用レンズでは二重焦点タイプが激減し,累進屈折力設計である境目のない遠近両用タイプがやはり約95%以上となっている.累進屈折力の遠近両用レンズ(以下,遠近レンズと表す)のデメリットであるユレや歪みは発売初期と比べ設計の進化により減少し,その原因ともなる強すぎる加入度処方も少なくなったことなどにより,装用感が向上し,常用できるレンズとして広く普及し,遠くから近くまで見ることができる快適な眼鏡と認知されるようになった.さらに設計技術の飛躍的な進歩と,素材がプラスチックになったことで設計,製造の自由度が高まり,今では多様なニーズに合わせることができる眼鏡レンズ(中近・近近タイプ)が発売されている.I眼鏡に対する患者のニーズは何か近方用の眼鏡はかつて本や新聞が見えれば事足りた.しかし近年は,パソコンや携帯電話のメールなどIT機器の普及によりさらに近方視する機会が増え,目的距離,文字の大きさ,注視する時間などが変化してきている.現代の中高齢者には手元だけではなくパソコン画面のようにおもに40~60cmくらいの距離を長時間見続(25)????*KenjiYanashima:やなしま眼科〔別刷請求先〕簗島謙次:〒144-0051東京都大田区西蒲田7-69-1蒲田東京プラザ6Fやなしま眼科特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1157~1162,2007中近・近近眼鏡???????????????????????????????????????????簗島謙次*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007用することで調節が少なくても,ときには無調節でも視線移動によりピント合わせが可能である.III累進屈折力レンズの設計1.遠近レンズ第一眼位を遠方視の位置(遠用フィッティングポイント位置)とすればそこから4mm上方が遠用度数測定位置である.この遠用フィッティングポイント位置では遠方を明視でき,レンズのほぼ上半分が遠用部である.遠用アイポイント位置からレンズ下方にかけて加入度数が累進的に変化していく.この加入度が変化していく部分を累進帯といっている.累進帯の長さは商品により異なるが一般的には14mm前後である.近年小さいフレームが増え累進帯の長さが11mm前後の遠近レンズも発売されている.14mm前後としても後ほど述べる中近・近近と比べると度数変化と累進帯長の長さの関係から急に度数変化していることになる.(図1のレイアウト数値はHOYA製HOYALUXFDを例に記す.)遠近レンズでの近方視における問題点は,もし遠近レンズの加入度が2.50Dくらいでパソコン画面が顔と同じ高さにあるとすれば,眼前40cmにあるモニターを見るためには,加入度数を一杯一杯使う必要があるため,遠用のフィッティングポイント位置より14mm下のレンズ位置を使わなければならず,顎を上げるような姿勢でレンズの下方部分を通して見ないと画面をハッキリ確認することができない.つまり,高齢者は手元から中間距離を見るのに遠近レンズでも近用単焦点レンズでも見える部分はあるが,長時間見続けるにはいずれも最適とはいえない.2.中近レンズ遠用度数測定位置はレンズ幾何学中心より上方にあり,図2のレンズでは隠しマーク中央より14mm上にレンズメータを当てて測定する.第一眼位の高さに相当するフィッティングポイント位置はすでに加入度が累進的に変化している途中部分であり,加入度の約40%を示す度数となっている.さらにレンズ下方にかけて加入度数は変化し続け,累進帯の長さは23.5mmあり遠近レンズと比べ緩やかに変化していることになる.隠しマーク中央付近での見え方は仮に加入度が2.50Dとすれば,+2.50D×40%=+1.00Dとなっているので,この場合には100cmより手前の中間距離を見るのに適している.しかし,この位置での遠方視はぼやけてしまうことになる.遠方をハッキリ見たい場合には上目遣いをし,レンズの上部を使えばよい.遠近レンズと比べて中間,近方を見やすいのが特長である.なぜなら第一眼位からの視線移動量が少なくても(26)図1遠近レンズの設計例遠用アイポイント(隠しマークから4mm上)近用アイポイント加入度数測定位置プリズム量測定位置隠しマークとレンズ記号遠用PDに合わせます隠しマークと加入度情報累進帯長遠用度数測定位置遠用アイポイント(隠しマークから4mm上)近用アイポイント近用アイポイント加入度数測定位置プリズム量測定位置隠しマークとレンズ記号遠用PDに合わせます隠しマークと加入度情報累進帯長遠用度数測定位置図2中近レンズの設計例遠用度数測定位置加入度数測定位置遠用PDに合わせます中間アイポイント加入度の37%変化プリズム量測定位置隠しマークと加入度情報隠しマークとレンズ記号累進帯長遠用度数測定位置加入度数測定位置遠用PDに合わせます中間アイポイント加入度の37%変化プリズム量測定位置隠しマークと加入度情報隠しマークとレンズ記号累進帯長———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????見え,慣れてくれば調節をあまり使わなくてもピント合わせができ,近方作業が長い場合などには非常に快適に使用することができる.しかし,室内でも5m先のテレビの小さい文字をハッキリ楽に見たい場合には遠近レンズのほうが優れている.(図2のレイアウト数値はHOYA製HOYALUXiDクリアークを例に記す.)3.近近レンズ隠しマーク中央より8mm下方の位置が近用度数測定位置である.その位置から上方にかけて累進度数がマイナス側に変化していく設計である.その度数変化量は遠近レンズ,中近レンズとは逆にマイナス加入度数として表示されている.また,遠近レンズ,中近レンズで加入度は処方に応じ指定するが,近近レンズの場合にはその商品名にてマイナス加入度は決まっている.マイナス加入度は-0.75D,-1.00D,-1.50Dなどがあり,近用度数測定円より上方20mmの累進帯長で緩やかに変化している.中近レンズと異なり遠用度数領域はないのでもっぱら近方視に重きをおいたレンズである.しかしこの設計により近用単焦点レンズと比べ奥行き感や側方視したときに明視できる範囲が大きく広がっている.もし,遠用が正視で近用度数がsph+2.50Dの近用単焦点レンズの場合,この眼鏡を装用した状態では遠点が40cmとなる.調節力が1.00Dであれば約29cmが近点距離となるので,40~29cmの約11cmの範囲内のみピント合わせができる眼鏡となる.もっとも近くを見るだけであれば近用単焦点レンズでも適している.しかし,パソコン作業をはじめ,40cmより遠方にある目標物を明視しようとするときにはぼやけてしまう.そのような場合にこの近近レンズであれば視線を上方に移動することで度数がマイナスされているため,たとえば-1.50Dタイプであれば近用度数sph+2.50Dに対し上方20mmの位置ではsph+1.00Dであるのでその位置での遠点,近点はそれぞれ100cmと50cmである.したがって,近用度数測定位置での近点距離29cmから上方へ視線移動することにより100cmまでの範囲なら明視できる眼鏡となる.デスクワークをする患者であれば手元の資料からパソコン画面や机上にあるものなら視線移動により明視できることになる.遠方はもちろんぼやけているが,室内なら装用したまま歩いている患者がいる.上記の例ではレンズ上方ならsph+1.00Dなので,近視1.00Dの屈折異常の患者の裸眼の状態と等しい.sph+2.50Dの近用単焦点レンズでは装用したまま歩く気にはとてもならない.また,側方視したときにも幅広く見ることができるように近用度数測定位置から横方向にも度数変化をつけているため,たとえば新聞紙を机上に広げて見るときなどに広い範囲をハッキリ見ることができる.つまり,近近レンズは単焦点レンズより奥行き感だけではなく横幅も広く見ることができる設計になっている.(図3のレイアウト数値はHOYA製レクチュールを例に記す.)IV累進屈折力レンズの明視域の変化患者の調節力やレンズの加入度により同じ遠近レンズでも明視できる範囲は大きく異なるし,もちろん中近,近近も条件により明視域がずいぶん変化する.累進屈折力レンズはレンズ内の位置により度数変化しているため,レンズで見る位置(高さ)により明視できる範囲が変化する.その様子を図4に示す.条件は左側は調節力が2.00Dで加入度または近用度数を+1.50Dとした場(27)図3近近レンズの設計例近用度数測定位置(隠しマーク中央より8mm下)隠しマークとレンズ記号近用CDに合わせます近用度数からの変化量A:-1.00DB:-1.50D隠しマークとマイナス加入度近用度数測定位置(隠しマーク中央より8mm下)隠しマークとレンズ記号近用CDに合わせます近用度数からの変化量A:-1.00DB:-1.50D隠しマークとマイナス加入度———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007合(おおむね50歳)と右側は調節力1.00Dで加入度または近用度数を+2.50Dとした場合(おおむね60歳)のそれぞれの明視域を図示している.レンズは上から遠近,中近,近近(マイナス加入が1.50Dと1.00D)の場合を示している.横軸は視距離を,縦軸はレンズ内の視線位置を表す.加入度が1.50Dの状態ではまだ明視できる範囲が遠用部でも近用部でも広いことがわかる.しかし加入度が2.50Dの遠近レンズでは患者の調節力も低下していることもあり,各明視域が狭まり遠用,中間,近用と見える位置が限られてくる.このようなとき中近や近近タイプのレンズであれば,第一眼位に近いレンズ位置で中間,近用部を見ることができるので,患者の目的に合わせてレンズを選ぶと良い.1.製品紹介a.中近タイプiDクリアーク,タクト(HOYA)ルーメスト,キャスター,パフィーナ(SEIKOオプティカルプロダクツ)レアル(東海光学)b.近近タイプレクチュールA,レクチュールB,アドパワー(HOYA)ファンクリック,PCWay(SEIKOオプティカルプロダクツ)ソルテス(ニコンエシロール)ベルーナラルゴ,ウノ(東海光学)(28)図4累進屈折力レンズの明視域の変化遠近レンズ中近レンズ近近レンズ(-1.50D)近近レンズ(-1.00D)020406080100120140160180200加入度測定位置centerFEP02040608010012014016018020012mm近用度数測定位置4mmcenter+4mm+8mm+12mm+16mm02040608010012014016018020012mm近用度数測定位置4mmcenter+4mm+8mm+12mm+16mm020406080100120140160180200加入度測定位置12mm8mm4mmcenter+4mm+8mm遠用度数測定位置020406080100120140160180200加入度測定位置centerFEPサミットプロ02040608010012014016018020012mm近用度数測定位置4mmcenter+4mm+8mm+12mm+16mmレクチュールB02040608010012014016018020012mm近用度数測定位置4mmcenter+4mm+8mm+12mm+16mmレクチュールA020406080100120140160180200加入度測定位置12mm8mm4mmcenter+4mm+8mm遠用度数測定位置タクトサミットプロレクチュールBレクチュールAタクト調節力2.00D加入度または近用度数1.50D調節力1.00D加入度または近用度数2.50D———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????2.処方事例a.中近タイプ室内用の遠近両用と表現したほうがわかりやすいかもしれない.遠方視力はおまけ程度に見えれば良いが,逆に近方,中間を見る時間が多くこの距離を楽にハッキリと見たいという患者に向いている.度数イメージは加入度が2.00Dを超えかつ明視できる奥行き感も欲しいという患者に適している.また遠用度数が正視か弱度遠視系で遠方は眼鏡なしでも生活できる.しかし,手元は見にくく室内で過ごすときに掛け外しをしなくてもよい眼鏡を望むようなケースである.職業としては商店主や工場労働者など近方を見る機会が多く,ときには周辺も見なければならない高齢者に適している.オフィスワーカーや主婦でも該当することが多い.b.近近タイプおもに加入度2.00Dを超える遠近レンズを常用している患者で近方を見る機会が多い場合に,近業作業用として使い分けをする眼鏡として処方すると便利である.加入度が低い場合でも処方可能であり,その場合は奥行き感がさらに広いので中近のような明視域となる.もちろん近用の明視野が広いので近用単焦点レンズに代替するレンズとして必ず紹介したいレンズである.調節が少なくなったロービジョン患者の近方作業用のレンズとしても適したケースが多い.いずれの場合も患者がこのレンズの存在を知らないことが多いのでその長所,短所を伝える必要がある.手元での作業の多い,調理師,理容師,美容師,医師などに最適である.特にカウンターを挟んで客と接する調理師にとっては,手元の料理,盛り付けと同様に,カウンターの客の表情もよくわかり便利である.V今後の問題遠近両用レンズが先に存在し,10余年前に中近レンズが開発された.近近レンズは今世紀に入ってからの登場である.遠近レンズの認知度は高く装用者も多いが,中近や近近は患者だけではなくわれわれ眼科医を含めこれらの商品に対する情報が少なく認知度がきわめて低い.中近や近近というネーミングについてもしっくりこない場合がある.明視できる範囲は度数の状況により異なる.たとえば中近レンズや近近レンズでもレンズの見る位置をフルに使えば遠近レンズに近い明視域をもつ場合も起こり得る.その違いを患者のニーズに合わせて説明しなければならないが,単焦点のテストレンズだけではなかなか困難である.このような場合,見え方の違いを説明するのに各種の累進設計テストレンズによる装用テストが有効である.しかし,遠近レンズのテストレンズでも普及率は低いと想定され,中近,近近についてはほとんど設置されていないと思われる.HOYA株式会社に確認したところ希望があればレンズ説明のために訪問し,HOYA製累進屈折力テストレンズセット(図5)とHOYA累進屈折力レンズ医家向けマニュアルの提供が可能とのことである.衣類や靴などについてはそのときそのときの状況に合わせて,いろいろの色の服や,それに合った靴を履いて外出する.毎日使う眼鏡に関しても同様に,目的に合わせて専用の眼鏡を使用することは重要である.無理して一つの遠近累進レンズで何でもかんでも間に合わせることには無理があり,ひいては無駄に眼精疲労を誘発して,快適な日常生活を送ることができない.眼に関しても,TPOに合わせて状況に合った眼鏡を掛け替えることが大切である.ところで,オートレンズメータが普及しているが,そのオートモード測定では今回紹介した多様化している累進屈折力レンズのそれぞれの正しい測定位置で計測していないことが想定され,その場合正しい度数で表示されないことになる.概略の度数を知りたいときには便利な(29)図5テストレンズセット———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007ツールであるが,処方度数確認には手動で所定の位置に合わせて測らなければならない.おわりに今回は中近・近近レンズを紹介した.遠近レンズと複数使用で便利なレンズとして,また近用単焦点レンズに変わるレンズとして今後認知度が上がるとともに普及していくであろう.的確な問診により患者のQOL(qualityoflife)が向上する各種の進化したレンズを処方していただきたい.(30)■用語解説■フィッティングポイント:遠用フィッティングポイントであれば,第一眼位の視線で見るときに適したレンズ設計上の位置.メーカーによりアイポイントなどと表現することもある.CD(centrationdistance:心取り点間距離):眼鏡として製作するとき,レンズの光学中心をレイアウトする位置.遠用眼鏡では遠用PD(pupilarydistance:瞳孔間距離)と同位置で良いが,近用眼鏡の場合は眼鏡レンズと角膜頂点間距離が12mm程度あるため輻湊した瞳孔先端位置よりさらに内側にレンズ光学中心をレイアウトしなければならない.近業目的距離によっても変化する.このようにPDとCDでは異なる数値となり,それを区別するためJIS規格により制定された用語である.隠しマーク:レンズの種類,加入度,レイアウト,度数測定位置などを確認するためレンズに残された印.○や△などの記号が2カ所34mm離れた位置に水平に付けられていることが多く,一般に記号の下に商品略号や加入度情報を示す数字,文字が記されている.マークが眼鏡装用状態で妨げになってはいけないので細く小さく表示されている.累進帯長:遠用フィッティングポイントから近用フィッティングポイントにかけて加入度が累進的に変化している.一般的にその度数変化部分を累進帯とよび,その長さを累進帯長とよんでいる.なお,累進面がレンズの凸面側にある場合には凸面上の距離となり,凹面側にある場合には凹面上の距離となる.また最新の設計にはレンズの両面を複合的に設計して累進構造となっている設計もでている.そのため,メーカーによって規定が異なるので,一概に長さだけの比較はむずかしいので注意が必要である.

累進屈折力眼鏡と視線

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———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSよる像の揺れなどが避けられない.そこで,この収差による影響を軽減するため,累進面をレンズの両面に配置するなどの工夫がなされている1).他方,加入度を少なく,あるいは累進帯を長くするなどで収差を抑制し,「揺れや歪み」を低減した使用目的別の累進レンズも開発されている.ただし,いずれの場合でも,眼球の視線方向すなわちレンズの使用部位で,対象の奥行き位置に対応した屈折力となっていることが,レンズ設計上でも装用状態でも前提条件になっており,累進屈折力眼鏡の処方と作製・調整における重要な点と思われる.I累進レンズにおける屈折力分布と視線図1は使用目的別の各種累進屈折力レンズでの屈折力分布の代表例4)を示しているが,累進屈折力レンズの最適な屈折力分布,すなわち,レンズのどの部位にどの程度の屈折力を配置させるかは,実際の眼鏡装用上重要な問題である.一般に,加入度,累進帯長および輻湊角などに基づいて,各メーカーが独自に設定しているとは思わはじめに累進屈折力レンズが開発・発売されてから,すでに約40年が経過している.発売当初は,装用時の「画像の揺れや歪み」によって,「見え方が悪く,眼が疲れる」などの欠点が指摘されていたが,近年の累進レンズの設計および製作技術の進歩によって,装用感のすぐれた各種の累進屈折力レンズが実用化されている1).現在では老視用眼鏡として代表的なレンズとなっているが,超高齢化社会を迎えるにあたり,より快適に装用できる累進屈折力眼鏡の開発とその処方が必要とされている.さらに,小児における近視の進行を予防する目的で,累進屈折力眼鏡を積極的に利用する臨床試験例2),あるいはロービジョン者への応用3)など,老視用ばかりでなく多くの局面で累進屈折力眼鏡の有用性が期待されている.累進屈折力眼鏡では,遠・中・近方の視対象に対応させてレンズ各部位の屈折力を変化させることによって,遠近の焦点合わせを行っている.そのため,装用者の視野内で屈折力の異なる部分があり,眼球や頭部の運動に(19)????*TetsuoKawahara:金沢工業大学情報フロンティア学部生命情報学科〔別刷請求先〕河原哲夫:〒924-0838石川県白山市八束穂3-1金沢工業大学情報フロンティア学部生命情報学科特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1151~1156,2007累進屈折力眼鏡と視線???????????????????????????????????????????河原哲夫*図1使用目的別の各種累進屈折力レンズ(文献4より)遠・近重視型遠・中・近バランス型遠・中重視型中・近重視型———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007れるが,これに関する定説はない.用途別累進レンズはもとより,各人の生活スタイル,さらに視対象(視点)の移動に対して眼球をおもに回転させる(eyemover),あるいは頭部をおもに回転させる(headmover)などの生理的反応の個人差など,使用者による違いも考えられる.なお,この生理的特性を簡便に評価し,レンズタイプの選択(レンズ設計)に生かす手法が実用化されてはいる2)が,屈折力分布を評価することはできない.今後,累進屈折力眼鏡が快適に装用され,広く普及するには,使用者の視覚状態に合った屈折力分布をもつ最適なレンズを提供する必要があると考えられる.上記の問題を検討するにあたって必要なことは,日常生活の各種状況で,a.眼鏡レンズのどこを通して,b.何(どの距離)を見ているかを具体的・個人別に知ることだと思われる.以前,VDT(VisualDisplayTerminal)作業時および読書時における視線方向の測定例5)が報告されてはいるが,限られた視覚状態単独の結果であり,生活スタイルや個人差の解析には至っていない.本稿では,使用者の生活スタイルに合った累進屈折力眼鏡を設計・処方するための最適屈折力分布を求める前段階として,日常生活における眼鏡レンズの部分別使用頻度を測定した試み6)を紹介する.II日常生活における眼鏡レンズの部分別使用頻度1.測定および解析方法私たちは多種多様な環境下で生活しているが,日常生活の代表例として,おもに図2に示す5種類の状況での計測を試みた.なお,自然な状況での眼球運動を評価するため,被験者には姿勢や行動を特に指示せず,作業時間にも制限を設けなかった.図中の括弧内は,測定時間の概略である.作業中の視線方向(上下・左右方向の眼球回転角)の計測には,屋外や車載での使用が可能であり,校正が容易に短時間ででき,さらに測定中に頭部を自由に動かすことができる装置(ナック,アイマークレコーダ,EMR-(20)1.テレビを見ながらの食事(約10分)2.自動販売機の利用(約40秒)3.階段歩行(昇・降)(約30秒)4.自動車運転(約12分)5.靴を履き外出(約30秒)図2日常生活における各種状況と測定時間(被験者:大学生3名)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????8)を用いた.被験者は大学生3名であり,EMR-8のヘッド部を装着させた状態(図3左)で各状況での作業を行った.なお,各状況に慣れるため,最低2回の練習後に数回の測定を行った.実験・解析方法を図3に示すが,それぞれの状況で眼球の上下・左右の回転角度(視線方向)を計測し,眼鏡レンズでの使用部位を1/60秒ごとに求めた.眼球運動の計測と同時に,被験者の視野映像と注視点(視対象)をVTR(VideoTapeRecoder)へ記録し,被験者が何を見ているときにレンズのどの部分を使用しているかをほぼ連続的に計測・解析した.測定範囲は,眼鏡レンズ面上で左右方向が±26mm,上下方向が±18mmであった.2.テレビを見ながらの食事日常生活のなかで,「テレビを見ながら朝食を取る」あるいは居間で「本や雑誌,新聞などを読みながらテレビでナイター観戦する」ような状況も多い.図4はそれらを模した状況設定を示している.なお,椅子の高さは,姿勢を正したときにテレビ画面の中心が被験者の眼の高さになるように調整した.図5は,被験者3名(A,B,C)がテレビを見ながら食事したときのレンズ使用部位を1/60秒ごとにプロット(21)EMR-8(nac)視野映像VTR視線方向レンズ使用部位視対象「何を見ている」ときに「レンズのどの部位を使用」しているか図3実験・解析方法(samplingrate:60Hz)130cm約40cm21.5cm図4「テレビを見ながらの食事」における条件設定(提示番組:NHK「おはよう日本」,食事:KITランチ)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007している.図の横軸はレンズ面上での左右方向の位置,縦軸は上下方向の位置を表している.図中の楕円は測定点の95%が入る確率楕円であり,各視対象(テレビおよび食事)を見たときの使用頻度の高いレンズ部位を表している.全被験者ともに,食事部分を見ているときにはレンズの中央よりもやや下部を,食事の合間にテレビを見ているときにはレンズ中央やや上部をおもに使用していた.ただし,被験者Bでは食事部分を見るときのレンズ使用部位が,他の2名に比べてより下方に位置している.被験者側面から撮影したVTRによる照合結果でも,被験者Bは頭部をあまり傾けずに食事部分を見ており,他の被験者に比べて頭部運動よりも眼球運動の占める割合が多く,eyemoverの傾向が強いと考えられる.3.自動車運転図6は,特に混雑していない一般道路で10~12分間の自動車運転を行ったときの眼球運動を示している.なお,測定に使用した車両は被験者が通常乗っている車とし,さらに道に慣れてもらうため,事前に3回以上コースを走行させた.各被験者で使用した車両が異なるため,ミラーや速度メータまでの視距離や角度,座席の高さなどに多少の差異がある.そのため,図6の結果をそのまま比較することはできないが,全般的に以下の特徴が確認できる.フロントガラスを通して外界を見る場合には,視線がレンズ中央付近にほぼ集中しつつ水平方向に多少広がっており,運転中に真正面ばかりでなく,左右の広い範囲を見ていることが確認できる.サイドミラーを介して左右後方を確認するときの視線方向は,左右に細長い確率楕円となっている.サイドミラー自身は視野の狭い範囲内にあるが,VTRによる照合結果では,まず視線が先に動いてミラーに向かい,頭部がそれを追うように回転していた.それゆえ,レンズの使用部位がミラー部分の狭い範囲に集中せず,細長い楕円になったと考えられる.各車両の速度メータは,視角10?~15?下方,視距離65~75cmにあるが,メータ確認時にはその方向への視線移動(レンズ面で9~10mm下方)が確認できる.ただし,被験者Cの場合には,視線方向が左下方へ伸びた確率楕円となっている.これは,彼の車両がセンターメータ(左30?)を採用していた結果と考えられる.さらに,被験者Cでは,他の2名に比べて眼球運動の範囲が全般的に狭く,いわゆるheadmoverの傾向を示している.(22)図5「テレビを見ながらの食事」における注視対象とレンズ使用部位ABC注視対象(視距離):テレビ(130cm):食事(40cm)18(mm)0-18-260(mm)2618(mm)0-18-260(mm)2618(mm)0-18-260(mm)26———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(23)図6「自動車運転」における注視対象とレンズ使用部位C注視対象(視距離):外界(遠距離:500cm~):メータ(65/70/75cm):ルームミラー(近,遠距離):右サイドミラー(中,遠距離):左サイドミラー(中,遠距離)18(mm)0-18-260(mm)26A18(mm)0-18-260(mm)26B18(mm)0-18-260(mm)26身体動作注視対象(視距離):ディスプレイ(50~80cm):財布(40cm):金銭投入口(60~80cm):金額表示部(60~75cm):釣銭取出口(70~130cm):商品取出口(60~70cm):商品取出口(確認)(140cm)18(mm)0-18-260(mm)26AC18(mm)0-18-260(mm)26B18(mm)0-18-260(mm)26図7「自動販売機の利用」における注視対象とレンズ使用部位———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007(24)4.自動販売機の利用ほか図7は,自動販売機での商品購入の様子を示している.販売機の前で,財布からコインを出して投入口に入れ,金額を確認して商品を選択し,その後商品を取り出す過程でのレンズ使用範囲が確認できる.被験者Bの釣銭取り出し時に,視線が上下に大きく変化しているが,この時点以降,彼の身体が屈んだことがVTRから確認された.被験者Cの視線移動は,他の被験者に比べて全般的に狭く,自動車運転時と同様に,headmoverの傾向を示している.その他,「階段の上下歩行」,「靴を履いて外出」,「キャッチボール」などの状況で計測した結果,全般的にレンズ中心部の±12mmの範囲を使用していた.ただし,階段下降時には足元を見ている場合が多く,レンズ下部をおもに使用していた.5.全般的特徴日常生活全体における眼鏡レンズの使用部位およびその頻度は,作業環境や個人の生理的特性で異なることが確認された.それゆえ,屈折力分布が固定された1種類の累進屈折力レンズが,すべての使用者に適切であるとは言い難く,用途や個人の特性に合わせたカスタムメイドの累進屈折力眼鏡が最良と考えられる.ただし,異なる作業環境あるいは異なる被験者においてもほぼ同等の値となる項目も多く,その点は累進屈折力レンズの共通データとして有用であろう.おわりに個人ごとの生活スタイル,用途あるいは使用者の生理的反応の個人差(眼球と頭部の移動比率など)に合わせた累進屈折力レンズを個別設計するための基礎データ,すなわち各種使用状況における眼球運動の特性(レンズの部分的使用頻度)を計測し,使用者の視覚状況に最適な屈折力分布を求める試みを紹介した.現段階では,限られた視環境,限られた被験者による結果ではあるが,試作システムを用いて基本的計測と解析の可能なことが確認された.ただし,この種のシステムが有効に活用されるまでには,解決すべき多くの課題が残っている.今後,日常生活における多種多様な行動スタイルおよび幅広い年齢層(子供から老人まで)を対象とした計測・解析を行い,屈折力分布に関する全般的共通項目,用途あるいは作業環境に関する個別項目,さらに個人差に関する項目などを明らかにする必要があろう.より簡便にこの種の計測が可能なシステムの開発が望まれる.近い将来,個人ごとの生活スタイルや使用目的,視線移動の特性に合わせた個別設計(カスタムメイド)の累進屈折力眼鏡が普及し,より快適な視生活が得られることを願っている.文献1)高橋文男:累進屈折力レンズ─最近の進歩─.あたらしい眼科21:1455-1460,20042)長谷部聡:近視進行予防と眼鏡処方.視覚の科学26(4):84-88,20053)簗島謙次:ロービジョンと眼鏡.あたらしい眼科21:1461-1465,20044)高橋文男:最近の累進焦点レンズについて.視覚の科学15(2):107-111,19945)畑田豊彦:眼球運動と眼鏡.眼鏡の科学7:6-13,19836)河原哲夫,溝口智,吉澤達也:日常生活における眼鏡レンズの部分別使用頻度.第41回日本眼光学学会抄録集,p34,2005

眼鏡レンズによる乱視矯正とスラント感-より優れた眼鏡視力を提供するために-

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSンズを通して見る像は拡大(凸レンズ)または収縮(凹レンズ)して見える.乱視矯正に用いられる円柱レンズでは,この作用が,軸と直角な経線方向のみに見られることが特徴である(経線拡大・縮小効果).その割合は,頂間距離が12mmの場合,1Dに対して約1.25%である(たとえば2Dのレンズで2.5%,4Dでは5%).興味深いことに円柱レンズの軸が斜めに置かれると,経線拡大・縮小効果によってイメージが含む垂直線や水平線は,凹レンズでは軸へ近づく方向へ(図1下段),凸レンズでは軸から遠ざかる方向へ傾斜する.傾斜角は軸角度が45?または135?で最大となり,その割合は1Dに対して約0.4?である(たとえば5Dの円柱レンズでは,傾斜角は2?になる).はじめに眼鏡レンズによる乱視矯正においては,しばしば眼鏡視力と装用感の間にトレードオフの関係が発生する.つまり,優れた視力を得ようとすると装用感が悪化し,装用感を改善させようとすると視力を犠牲にせざるをえない局面に遭遇するのである.このような局面で,わが国で踏襲されてきたほとんど唯一の方法論は,「(試しがけをもとに)装用感を重視しながら,控えめの度数で処方する」という,いわばヒューリスティックな方法論(経験則に基づいて,近似的な答えを得るための意志決定法)であった.そして,これを実践する過程で,「見え過ぎる眼鏡=疲れやすい眼鏡」という誤った構図が形作られてきたように思われる.DavidGuytonは,すでに30年前,乱視矯正に使用する円柱レンズと三次元空間感覚の歪み(distortionofspatiallocalization)の関係を理論的に説明し,乱視矯正に関するよりシステマティックな方法論を提示した1).この理論に従って乱視矯正を実践することで,従来の方法論に比べてより確実かつ短時間で,優れた視力と装用感を兼ね備えた眼鏡に到達できると筆者は考えている.興味深いことに,この理論の鍵を握るのは両眼視である.本稿では,具体例をあげながら,この古くて新しい眼鏡レンズによる乱視矯正の方法について解説したい.I円柱レンズによるイメージの歪み眼鏡レンズは角膜から離れた位置に置かれるため,レ(13)????*SatoshiHasebe:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・眼科学〔別刷請求先〕長谷部聡:〒700-8558岡山市鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・眼科学特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1145~1150,2007眼鏡レンズによる乱視矯正とスラント感─より優れた眼鏡視力を提供するために─????????????????????????????????????????????????????????:??????????????????????????????長谷部聡*図1円柱レンズによるイメージの歪み(凹レンズの場合)45°135°90°180°———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007しかし経験的に,これら円柱レンズによる像の歪みに対しては,短期間で感覚的な順応が生ずることが知られている.したがって,不同視が見られない限り(乱視の度数と軸が,両眼で一致する場合),たとえばケース(1)(表1)では,処方例が示すように,乱視を完全矯正することによって最良の眼鏡視力を提供できる場合が少なくない1).II眼鏡の装用感を損なう原因は何か?円柱レンズによるイメージの歪み自体が大きな問題でないとすれば,何が,私たちをして眼鏡による乱視矯正を「控えめ」にさせるのだろう.その理由は両眼視にあると考えられる.両眼視の役割を一言で要約するなら,網膜上に投影された二次元画像情報を基に,両眼の差分(視差)を脳内で計算することにより,奥行き情報を含んだ現実世界の三次元コピーを脳内に構築することにある.両眼視の仕組みはあまりに精巧であるため,私たちは,眼前に広がる空間が実は網膜上に投影された平面画像を基に再構築されたコピーであるとは,にわかに信じられない.しかし,円柱レンズによる乱視矯正においては,両眼視こそが装用感を大きく損なう原因となっているのである.III軸が90?で度数が異なる円柱レンズがもたらすスラント感円柱レンズの軸が90?で度数に左右差がある場合,注視方向を通る垂直線を除くすべての視野で,水平方向の視差が発生する.ケース(2)(表2)は左眼のみに軸が90?の乱視がある症例であるが,もし完全矯正眼鏡を処方するなら,左眼のイメージは水平方向に約4%収縮して見えることになる.その結果,前額平面内にある図形ABCD(図2)を両眼視するとき,固視点を通る垂直線ABを境として,左側ではR/Lつまり交差性の視差が生じるため,手前に飛び出して見える.逆に右側ではL/Rつまり同側性の視差が生ずるため,奥に引っ込んで見える.視差の大きさは垂直線ABとの距離に比例するので(剪断性視差),図形ABCDは,全体として垂直線ABを軸として,奥行き方向に傾斜しているように知覚される(図3の上2段)(垂直線を軸とするスラント感)1,2).スラント感の大きさは幾何学的に,経線拡大・縮小効果の割合(M),対象物までの距離(Dcm),瞳孔間距離(IPDcm)によって予測できる(式1,図4).ここで興味深いのは,対象物までの距離によってスラント感が変動することである.「強いメガネをかけると目が回る」という症状は,このような理屈で説明できるのかもしれない.スラント感の大きさ(?)=tan-1?-1?+12????EII…(1)しかし幸いなことに,垂直線を軸とするスラント感に対しては,感覚的な順応が期待できる.Adamsらの実験3)によれば,スラント感をもたらす眼鏡を連続装用し(14)表1ケース(1)屈折値:右眼-cyl3.00DAx25?左眼-cyl3.00DAx25?処方例:右眼-cyl3.00DAx25?左眼-cyl3.00DAx25?表2ケース(2)屈折値:右眼0.00D左眼-cyl3.00DAx90?処方例:右眼0.00D左眼-cyl3.00DAx90?図2垂直線を軸とするスラント感の原理L/RR/L両眼視固視点ABCD左眼イメージ90°右眼———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????た場合,スラント感は時間経過とともに改善し,約1週間でスラント感は消失した(図5).そして眼鏡装用を中止したところ,今度は逆方向のスラント感が知覚されたという.この実験結果は,垂直線を軸とするスラント感は,通常約1週間で感覚的に順応しうることを示している.したがって,ケース(2)の処方例が示すように,感覚的な順応力が弱いとされる高齢者やパートタイムの眼鏡装用者を除けば,乱視を完全矯正することにより最良の眼鏡視力を提供できる場合は少なくない.ただし,「最初はスラント感に驚くかもしれないが,続けて使っているうちに1週間ほどで慣れるよ」という事前説明が必要になる.IV軸が斜めで直交する円柱レンズがもたらすスラント感軸が斜めで交差する円柱レンズ矯正では,別のタイプのスラント感が発生する.ケース(3)(表3)はその典型例であるが,完全矯正眼鏡を通して前額平面内にある図形ABCD(図6)を見ると,前述したように,垂直線ABは対称的に傾斜して見える.これらのイメージを両眼視するとき,中央の固視点を通る水平線を境として,図形の上半分では,R/Lすなわち交差性の視差が生じるため,手前に飛び出して知覚される.逆に図形の下半分では,L/Rすなわち同側性の視差が生じたるため,奥に引っ込んで知覚される.視差の大きさは水平線からの距離に比例するため(剪断性視差),図形ABCDは全体として,固視点を通る水平線CDを軸として奥行き方(15)図3スラント感を説明するステレオグラム(交差法で融像)図4幾何学的に予想される垂直線を軸とするスラント感の大きさ括弧内はイメージに生ずる水平方向の経線縮小効果を示す.2°4°9°100cm50cm33cm0D(100%)-cyl1.00DAx90?(99%)3°6°12°0D(100%)-cyl3.00DAx90?(96%)図5Adamsらの実験(文献3より)垂直線を軸とするスラント感は1週間で感覚的に順応する.垂直線を軸とするスラント感(?)Noadaptation108642050-5-10眼鏡on日数(日)眼鏡o?表3ケース(3)屈折値:右眼-cyl3.00DAx45?左眼-cyl3.00DAx135?処方例(1):右眼-cyl3.00DAx180?左眼-cyl3.00DAx180?処方例(2):右眼-0.50D-cyl2.00DAx30?左眼-0.50D-cyl2.00DAx150?———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007向に傾斜して知覚される(図3の下2段)(水平線を軸とするスラント感)1,2).スラント感の大きさは幾何学的に,垂直線の傾斜角(q?),対象物までの距離(Dcm),瞳孔間距離(IPDcm)から予測される(式2,図7).「平坦な道路が坂道に見える」という症状も,この原理で説明できる.tan〔スラント感の大きさ(?)〕=2????tan(q/2)…(2)垂直線を軸とするスラント感と異なり,水平線を軸とするスラント感では,感覚的な順応が期待しにくいことが経験的に知られている(理由は明らかでない).したがって,軸が斜めで交差する乱視に対しては,完全矯正は困難であることが多く,スラント感を許容範囲内に止めるために,つぎのような処方上の対策が必要になる.対策1:円柱レンズ度数の軽減.軽減した度数の1/2を球面値に加えて,等価球面値を一定に保つ.この場合,残余乱視は増加するので,眼鏡視力は低下する.対策2:頂間距離を短く(たとえば10mm)指定.同一度数であっても,頂間距離が短いほど経線拡大・縮小効果は小さくなるため(究極的にはコンタクトレンズ),スラント感は改善する.対策3:90?または180?方向への軸シフト.経線拡大・縮小効果は一定であるが,軸シフトとともにベクトル方向が変化するため,垂直線の傾斜は軽減し,スラント感は改善する(図8).この場合も,シフトとともに残余乱視が増大する(図9a).特に注意したいのは,軸シフトが30?を超えると(図中矢印),残余乱視は元来の乱視度数を超え,円柱レンズは乱視を作り出す方向に作用することである.したがって,シフト量は最小限(10?~20?)に止めるべきであろう.さらに残余乱視の増大を最小限にするためには,シフト量に応じて円柱レンズ度数を軽減させると良い.たとえば15?,30?の軸シフトに対しては,それぞれ円柱レンズ度数を80%,50%まで軽減するのが合理的である(図9b).この効果は部分的なものであるが,30?までの軸シフトなら,等価球面値に対し(16)図6水平線を軸とするスラント感の原理固視点45°135°L/RR/L両眼視ABCイメージD左眼右眼図7幾何学的に予想される水平線を軸とするスラント感の大きさ7°100cm3°50cm2°33cm左)-cyl1.00DAx45°右)-cyl1.00DAx135°19°左)-cyl3.00DAx45°右)-cyl3.00DAx135?7°10°図8円柱レンズの軸シフトとスラント感の関係を説明するステレオグラム(交差法で融像)15?30?45?スラント感大スラント感小軸シフト———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????て球面度数のみで処方するよりは良好な視力が期待できる(図中矢印).以上の理論を基に,ケース(3)に対する処方例を考えてみよう.処方例(1)は,両眼とも軸を180?に統一した例である.スラント感は見られず,装用感は良好である.しかし45?の軸シフトが行われた結果,残余乱視は元の乱視度数である3Dを超える.等価球面値に対して球面レンズのみ(-1.50D)で矯正したほうが,おそらく視力の点でも装用感の点でも優れている.処方例(2)は,それぞれ180?方向へ15?の軸シフトを行い,円柱レンズ度数を2/3に軽減した例である.スラント感が許容できる症例では,最良の眼鏡になる可能性がある.許容が困難な症例では,さらなる軸シフトと円柱レンズ度数の軽減が必要になる.V疾患により異なる眼鏡処方異常スラント感の原因は,円柱レンズの経線拡大・縮小効果によって周辺部網膜にもたらされる水平方向の視差である.このため片眼に中心暗点があり視力が不良な例では,通常と異なる処方箋が有効になる場合がある〔ケース(4)(表4)〕.両眼とも眼鏡で完全矯正すると最良の視力が得られる.しかし,左眼の周辺部網膜の視機能が残されているため,強度のスラント感が生じて,眼鏡装用は困難である.処方例(1)は,円柱度数を軽減した「控えめの」処方である.しかし,右眼の潜在的視力0.6を犠牲にしているばかりか,スラント感の問題も完(17)全には解決されていない.処方例(2)は,視力不良な左眼の視力を犠牲にして,左眼の軸を右眼の軸に揃えることにより装用感の改善を狙ったものである.両眼開放下で視力0.6が得られ,しかも装用感は良好である.斜視により抑制と交代視が見られる症例では,スラント感の問題は除外できるため,両眼とも完全矯正できる場合が多い.VI2モード・アプローチの勧め筆者は,健常者と眼疾患をもつ患者では,眼鏡処方の対応を切り替えるべきだと考えている.表5が示すように,健常者では一般的に,乱視や不同視が比較的小さく,視力的な余力がある.日常生活に必要な視力が得られれば良いので,処方の重点は視力より装用感に置かれることになる.この目的では,従来のヒューリスティックな(控えめの)方法論は有効であり,処方者の経験や眼科的知識を問われることは少ない.これに対して患者(たとえば角膜移植術後)では,乱視や不同視が極端に大きいことがまれでなく,矯正視力も乏しいことが多い.ここではまず,日常生活に最低限必要な視力を確保することが重要であり,装用感よりも眼鏡視力に処方の重点が置かれる.最良の眼鏡視力を追求するうえでの指針として,本稿で示したシステマティ表4ケース(4)左眼加齢黄斑変性症矯正:右眼(0.6×-cyl3.00DAx35?)左眼(0.02×-cyl3.50DAx130?)処方例(1):右眼(0.2×-1.00D-cyl1.00DAx35?)左眼(0.02×-1.25D-cyl1.00DAx130?)処方例(2):右眼(0.6×-0.50D-cyl3.00DAx35?)左眼(0.01×-0.25D-cyl3.00DAx35?)表5眼鏡処方における健常者と眼科患者の違い健常者眼科患者乱視小大不同視小大矯正視力良好(余裕あり)不良(余裕なし)処方の重点装用感>眼鏡視力装用感<眼鏡視力対応装用感を重視しながら控えめの度数で処方装用可能な範囲でベストの眼鏡視力を追求図9円柱レンズの軸シフトと残余乱視の関係0501001502000153045607590015304560759001530456075900153045607590正しい乱視軸に対するレンズ軸のシフト量(°)050100050100150200050100a.度数が一定の場合b.度数をシフト量に合わせて軽減した場合残余乱視(%)円柱度数(%)———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007(18)ックな方法論が役立つはずである.VIIその他の注意事項本稿で示したケースはいずれも典型例であり,実際の症例では,程度の差はあれ個々の要素が混在している.要素ごとに装用感への影響を分析したうえで,総合的な判断で処方を考える必要がある.小児では,スラント感に対する感覚的な順応力が強く,乱視は完全矯正できる場合が多い.ことに斜視や弱視を合併する場合は,調節麻痺下の屈折検査で得られた屈折値を基準に,完全矯正するのが原則である.逆に高齢者では感覚的な順応力が乏しく,度数や軸の変更にはより慎重でなければならない.軸が180?で度数の異なる円柱レンズで矯正する場合,垂直方向の経線拡大・縮小効果により,上下の視野において垂直方向の視差が発生する.垂直方向の視差は,単独ではスラント感を発生させにくいが,球面度数における不等像視の場合と同様,眼鏡装用感に影響を与える.またプリズム効果により,下方視(readingposition)で上下複視の原因となる場合がある.おわりにGuytonの理論に基づいたシステマティックな乱視矯正法を紹介した.この理論を基に円柱レンズの経線拡大・縮小効果に由来するスラント感の問題を見切ることで,より優れた眼鏡視力を患者に提供できる.システマティックな方法論を実践するうえでは,病態に関する情報(両眼視の有無,中心暗点の有無,期待される感覚的順応力の程度など)が不可欠である.一方,優れた眼鏡視力を獲得するうえでは,感覚的な順応過程(眼に眼鏡を合わせるだけではなく,眼鏡に眼を合わせる過程)が必要になる場合がある.この過程を乗り切るためには,眼鏡処方者と患者の間の信頼関係が重要である.これらの条件を満たし,積極的な乱視矯正を推進できる立場にあるのは,私たち眼科医である.文献1)GuytonDL:Prescribingcylinders:Theproblemofdis-tortion.???????????????22:177-188,19772)OgleKN,MadiganLF:Astigmatismatobliqueaxesandbinocularstereoscopicspatiallocalization.????????????????33:116-127,19453)AdamsWJ,BanksMS,vanEeR:Adaptationtothree-dimensionaldistortionsinhumanvision.????????14:1062-1064,2001

乳児の眼鏡

2007年9月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS断の起こった時期が生後早期であるほど重篤な弱視を形成する.したがって生直後から高度の水晶体混濁を生じた先天完全白内障では,片眼白内障や左右差の著しい例では生後1~2カ月以内に,両眼白内障でも生後3カ月以内に手術を行わないと良好な視機能は望めない2).さらに先天白内障では種々の眼・全身異常に伴うものが少なくない.近年,より低年齢児に対しても眼内レンズの適応が広がってきているが,乳児や合併症のある白内障に対する眼内レンズの術式と長期的な安全性は確立していないため3,4),水晶体切除・前部硝子体切除術を施行後,速やかに屈折矯正を行い弱視訓練を開始するのが原則である(図1).乳児の網膜硝子体疾患に対する硝子体手術の際には,第一次硝子体過形成遺残(persistenthyperplasticpri-maryvitreous:PHPV),家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR),未熟はじめに乳児期(ゼロ歳児)に眼鏡を処方する機会は限られている.しかし近年,先天白内障のみならず,未熟児網膜症などの難治性網膜硝子体疾患に対しても早期手術の技術が進歩し,術後の屈折矯正の適否が良好な視機能の獲得に関与するようになってきた1).乳幼児,特にゼロ歳児に対する適正な眼鏡の作製にはさまざまな問題点があり,良好な装用状態を維持するためには,きめ細かなケアが欠かせない.本稿では,乳児の眼鏡処方の対象となる疾患について説明し,処方の実際の進め方,処方後の管理,注意点について述べたい.I対象となる疾患乳児期に視覚発達を妨げる強度の屈折異常がある場合,なかでも術後無水晶体眼や強度遠視が眼鏡処方の対象となる(表1).1.無水晶体眼先天白内障や網膜硝子体疾患術後の無水晶体眼の矯正には,眼鏡またはコンタクトレンズが用いられるが,両眼性の場合,適切に使用すれば視機能の予後には差がないため,安全に取り扱うことができる眼鏡を処方することが多い.先天白内障は早期手術によって良好な視機能を獲得しうる代表的疾患である.視性刺激遮断に対する感受性は生後2カ月から2歳頃までがピークで,白内障による遮(9)????*SachikoNishina:国立成育医療センター眼科〔別刷請求先〕仁科幸子:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療センター眼科特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1141~1144,2007乳児の眼鏡??????????????????????????????????仁科幸子*表1乳児期に強度の屈折異常をきたす代表的疾患無水晶体眼先天白内障術後,PHPV術後,ROP,FEVR硝子体手術後強度遠視小眼球,Leber先天黒内障,早期発症調節性内斜視など強度近視・乱視発達緑内障,水晶体偏位,円錐水晶体,角膜瘢痕,未熟児網膜症,網膜有髄神経線維,Stickler症候群などPHPV:第一次硝子体過形成遺残,ROP:未熟児網膜症,FEVR:家族性滲出性硝子体網膜症.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)など,多くは網膜周辺部から水晶体後面に増殖組織が存在し牽引性網膜?離を生じているため,水晶体切除を要する.従来これらの疾患では,一部の軽症例を除き,手術によって網膜復位が得られても視力予後はきわめて不良であった.しかし重症未熟児網膜症(Ⅱ型,aggressiveposte-riorROP:AP-ROP)では,レーザー治療後の再増殖,牽引性網膜?離に対する早期硝子体手術の技術が進歩し,水晶体切除を要するが,比較的良好な視力予後が得られる可能性が出てきた.このため術後には合併症の管理とともに屈折矯正の重要性が増している.AP-ROPに対する早期硝子体手術の時期は修正在胎35~41週(平均37週)であり1),未熟児に対応した特別な規格の眼鏡の必要性が生じている(図2).2.強度屈折異常強度遠視をきたす疾患として,真性小眼球,Leber先天黒内障,強度近視・乱視をきたす疾患として発達緑内障,水晶体偏位,円錐水晶体,角膜瘢痕,未熟児網膜症,網膜有髄神経線維,Stickler症候群などの全身症候群があげられる.特に強度遠視や不同視がある場合には,弱視予防のため乳児期から眼鏡を処方する.しかし,一般に高度近視性不同視では網膜の器質病変を伴うことが多く,早期に眼鏡矯正と健眼遮閉による弱視治療を行っても視力予後不良である.内斜視を伴わない中等度遠視,強度近視・乱視で左右差がなければ2歳以降に眼鏡処方を考慮すればよい.たとえ重篤な視覚障害をきたす疾患であっても,残存視機能を発達させ活用させるためには,まず強度屈折異常を矯正する眼鏡を装用させることが大切である.3.早期発症内斜視乳児期に眼位異常をきたした場合,放置すると両眼視機能の発達が困難となる.早期発症内斜視の多くは早期手術を要するが,アトロピン点眼によって遠視(+3.0D以上)が検出された場合は,調節性要因の関与を疑い,完全矯正眼鏡を手術に先立って装用させるのが原則である.II眼鏡処方の実際疾患ごとの特徴を踏まえ,実際の処方の進め方,問題点と注意点について述べる.1.乳児の屈折検査視反応不良,眼位異常,眼振がみられる場合,全身疾患や器質的眼疾患に伴う強度屈折異常が疑われる場合には,必ず調節麻痺剤を使用した精密屈折検査を行う.調節麻痺剤として1%cyclopentolateは外来で簡便に点眼できて効果的であるが,特に内斜視を伴う場合には,ア(10)図1生後7カ月男児,両眼先天白内障術後の無水晶体眼に対する眼鏡(アンファンベビー,サイズ42mm,オグラ製)良好な装用状態を維持している.図2修正在胎43週男児,ROP早期手術後の無水晶体眼に対する眼鏡(アンファンベビー,サイズ30mm,オグラ製)テンプルが柔らかくバンドで頭部に固定しているため乳児に装着しやすい.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????トロピン点眼を用いた強力な調節麻痺下検査が不可欠である.乳児では0.25%アトロピンを1日2回,1週間点眼を原則としているが,全身的な副作用や中毒症状について十分説明し,点眼後に涙?部を圧迫するよう指導する.術後無水晶体眼では,術後炎症や角膜浮腫が消退し眼圧が安定する術後5~7日目に屈折検査を実施している.中等度以上の散瞳下では,検影法による検査が容易となる.乳児の精密屈折検査法は検影法が基本である.無水晶体眼から強度近視・乱視まで,角膜混濁などの器質的眼疾患がある場合でも測定可能である.正確な測定のためには,できるだけ自然な状態で,短時間で検査できるように普段から習熟しておくことが必要である5).やむをえず開瞼器を使用する場合は乱視の混入に注意する.体動が少ない乳児では,手持ちオートレフラクトメーターを用いると,測定可能な範囲であれば簡便に検査でき有用である.しかし,調節の介入や乱視の混入が多い点,眼振や器質病変がある場合は測定値のばらつきが多く不正確である点に注意を要する.2.眼鏡処方における注意点乳児期に眼鏡を処方する場合には,視力の発達途上の特性を考慮して,近見を重視し屈折矯正度数を決める.したがって,調節力を喪失した術後無水晶体眼に対しては,視機能発達を促すため,単焦点レンズで+3Dの近見矯正を原則としている.また有水晶体眼であっても,器質的眼疾患による高度の視覚障害をきたしている場合には,近距離に焦点を合わせて残余視機能の発達を促す.はじめに乳児の機嫌をとりながら近見にて瞳孔間距離を測定し,つぎに前述の精密屈折検査を実施して屈折矯正度数を決定し処方箋を発行するが,処方後に必ず,顔面の大きさ(顔幅)に適した乳児用眼鏡枠(フレーム)を選び,レンズのサイズが十分に広く,正しい位置に安定して装着されているかどうか,実際に装用状態(フィッティング)を確認することが大切である(図1).また,安全性と,重量や収差をできるだけ軽減するため,プラスチックレンズで作製するよう指示する.処方時には,弱視や斜視の治療目的に常用する眼鏡であることを家族に十分に説明し,頻回に作製する費用の負担を少しでも軽減するため,治療用眼鏡の療育費給付について情報提供する(前項の「治療用眼鏡の療養費給付」参照).眼鏡はコンタクトレンズに比べて取り扱いが容易で,角膜障害を起こすリスクがないため,全身疾患や眼合併症をもつ乳児に対しても安全に用いることができる.実際に家族に受け入れられやすくコンプライアンスが良好な点が弱視治療において最大のメリットであり,筆者らの施設の両眼先天白内障症例(全身・眼合併症例60%以上)では,約80%の例において術後1カ月以内で眼鏡の常用が可能であった6).しかし,眼鏡による矯正には収差や網膜像の拡大などの光学的欠点があり,レンズ中心がずれるとプリズム作用が出るため十分な注意が必要である7).乳児ではレンズの厚さや重さの問題が大きく,適正な眼鏡フレームであっても良好なフィッティングを維持することはむずかしい.特に,仰臥位が多く定頸していない未熟児や新生児はフレームがずれやすいため,覚醒時に集中して少しでも良好に装用できるよう家族に説明しておく(図2).3.眼鏡の作製範囲・問題点現在市販されている乳児用眼鏡フレームは,テンプルが柔らかく頭部にバンドで固定するなどの工夫がなされており,サイズ30mm,瞳孔間距離32mmから特注で作製できるため,未熟児の術後無水晶体眼にも対応可能となった(図2).瞳孔間距離40mm未満または顔幅に比べて瞳孔間距離の狭い例では,レンズを内よせして光(11)図3Hallermann-Strei?症候群の1歳男児,両眼小眼球・先天白内障術後の眼鏡顔面の大きさに比べて瞳孔間距離が狭いため作製および装用がむずかしい.レンズ面に多数の傷ができている.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007学間距離を一致させる(図1)が,顔幅に比べて極端に瞳孔間距離が狭い例では作製がむずかしく,テンプルが顔面を圧迫していたり,良好な装用位置を保持できないなどの問題が生じる(図3).さまざまな顔面の特徴をもつ患児に対応した眼鏡の開発が望まれる.レンズ度数は球面設計で+33.0Dまで作製可能であるが,+24.0Dを超えると高額レンズとなる.度数が大きいほど光学的欠点や重量が増すため,良好な装用状態を維持できるかどうかが問題となる.近年,眼鏡,コンタクトレンズともに+20.0Dを超えるハイパワーで作製可能な範囲,レンズの種類がきわめて限られたものとなっており深刻な問題である.未熟児,新生児に対する手術技術の進歩によって,術後の弱視治療に不可欠な屈折矯正の早期導入・開発の必要性も増していることを強調したい.III眼鏡処方後の管理乳児期に眼鏡を処方した際には,成長に伴って屈折度,顔面の大きさが著しく変化し,心身の発達に伴って体動も激しくなるため,処方後の綿密な管理が非常に重要である.成長に伴う屈折度の変化は,視覚の感受性の高い0~2歳で特に著しい.弱視治療のためには,この期間に頻回に検査を行って,度数変更が必要かどうかをチェックすることが大切である.術後無水晶体眼では,術後合併症の有無を検査するとともに,少なくとも2~3カ月ごとに屈折検査を施行し,眼鏡が+2~3Dの近見矯正に合っているかどうか確認する.強度遠視では測定誤差が出やすいため,眼鏡の装用状態が良好かどうかを確認して,レンズ装用下で検影法(overrefraction)を施行すると有効であり,4D以上の過矯正となれば変更する.屈折度の急激な変化を認めた場合には,緑内障などの術後合併症の発症が疑われるため十分注意する.顔面の成長も速いため,眼鏡フレームが顔幅に合っているかどうか,瞳孔間距離は変化していないか,装用状態(フィッティング)やレンズの状態は良好かどうか,つねに注意を払う.特に度の強いレンズは,瞳孔間距離のずれによってプリズム作用が生じるため,たとえレンズの度が同じでも2mm以上ずれていたら再処方を検討する.眼鏡はいったん慣れると継続して装用できることが多いが,心身の発達の過程で患児が装用を嫌がったり,取り扱いが粗雑になって,コンプライアンスが悪くなることがある.患児の手で眼鏡をいじるようになると,レンズ面に汚れや傷が多数ついたり,眼鏡フレームが曲がったりしやすくなる(図3).顔面の成長による変化に応じて適切な眼鏡を再処方し,早めに眼鏡のフィッティングを調整して,患児ができるだけ快適に眼鏡を装用できるように配慮する.そして,弱視治療が奏効すると,2歳頃には患児は好んで眼鏡を装用し手放さなくなることを説明し,目標達成に向けて,家族とともに根気強く対応していくことが大切である.文献1)AzumaN,MotomuraK,HamaYetal:Earlyvitreoussurgeryforaggressiveposteriorretinopathyofprematuri-ty.???????????????142:636-643,20062)BirchEE,StagerD,Le?erJetal:Earlytreatmentofcongenitalunilateralcataractminimizesunequalcompeti-tion.?????????????????????????39:1560-1566,19983)山本節:小児眼内レンズ挿入症例の長期観察.眼科手術13:39-43,20004)LambertSR,LynnM,Drews-BotschCetal:Acompari-sonofgratingvisualacuity,strabismus,andreoperationoutcomesamongchildrenwithaphakiaandpseudophakiaafterunilateralcataractsurgeryduringthe?rstsixmonthoflife.???????5:70-75,20015)仁科幸子:検影法,小児の屈折検査のコツ.眼科プラクティス9,屈折矯正完全版(坪田一男編),p25-26,文光堂,20066)野田英一郎,仁科幸子:小児白内障術後の屈折矯正法.眼科診療プラクティス95,屈折矯正法の正しい選択(田野保雄編),p118-122,文光堂,20037)三宅三平:無水晶体眼.眼科診療プラクティス9,屈折異常の診療(丸尾敏夫編),p82-85,文光堂,1994(12)