———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSい.平成2年8月に厚生省児童家庭局長・健康政策局長通知(児発令638号)『「三歳児健康診査の実施について」の一部改正について』により,三歳児健診に視力検査が導入された.当初は,「弱視」は,保護者には聞き慣れない言葉であり,診断されても戸惑い,「治療用眼鏡」を処方しようとしても拒否され,せっかく早期発見できた弱視の治療が遷延することも少なくなかった.しかし,現在では「弱視」はまれな疾患ではなく早期に発見・治療すれば,良好な視力が得られることを理解している保護者は多い.弱視治療用眼鏡の療養費給付がなされることとなったのは,眼科医,視能訓練士,保健師,小児科医など医療者の努力だけではなく,弱視や斜視の児をもつ保護者たちが主としてインターネットを通して情報交換を行い支え合いながら,それぞれの社会保険事務所に「弱視治療用眼鏡の保険適用」を求めて申請を行ったことが大きい.筆者の把握している範囲では,初めて保険適用されたのは2002年1月であった.しかし,健康保険組合,国民健康保険組合,共済組合,政府管掌健康保険組合などそれぞれの組合や担当者でその対応が異なっていた.筆者も申請が提出された社会保険事務局から質問されたことがあるが,それぞれの担当者や事務局の解釈には大きな差があった.そのような状況下で,地域の社会保険事務所,県社会保険事務局が治療用眼鏡の療養費の支給をしないと決定したことを不服として,厚生労働省の社会保険審査会での再審査を請求した方もいた.「公開審I生活用眼鏡と治療用眼鏡眼鏡を装用する目的は,二つに大別される.一つは屈折矯正を行って生活を快適に過ごすこと(生活用眼鏡)で,もう一つは小児の視機能を発達させること(治療用眼鏡)である.たとえば,小学2年生までは裸眼視力が両眼ともに1.5でほぼ正視であったが,小学3年生の春の学校健診で裸眼視力が両眼ともに0.2になっていて,眼科受診すると両眼近視であり授業中黒板の字が見えにくいという理由で近視眼鏡を処方された場合,これは生活用眼鏡である.すでに視力の発達が十分で,処方された眼鏡の目的は「近視を矯正して黒板の字をはっきり見る」ことであり,「近視を矯正して視力を発達させる」ことではないからである.一方,三歳児健診で左眼の不同視弱視が発見され眼鏡を常に装用したうえで一日3時間の右眼遮閉(健眼遮閉)を5歳になった現在も続けていて,RV=1.2,LV=0.5(0.7×sph+5.00)の場合,装用している眼鏡は治療用眼鏡である.しかし,眼鏡そのものだけを見てもそれが生活用眼鏡か治療用眼鏡であるのかは見分けがつかず,処方される眼鏡の数は圧倒的に生活用眼鏡が多いなどの理由で,「眼鏡に対する療養費の支給」という考えにはなかなか至らなかったのが現状であった.II弱視治療─社会的な理解と保護者たち─小児眼科疾患の治療は保護者の協力なしではできな(3)????*YoshikoSugiyama:金沢大学大学院医学系研究科視覚科学〔別刷請求先〕杉山能子:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学大学院医学系研究科視覚科学特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1135~1139,2007治療用眼鏡の療養給付??????????????????????????????????????????????????杉山能子*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007理」は平成16年10月に厚生労働省で行われ,筆者は「参考人」として出席した.その結果,地域の社会保険事務局長が「家族療養費を支給しない」とした処分を取り消すとの裁決がなされた.その理由の一つに,「患者の眼の感受性のある時期を逸すると治療できないものであること,眼鏡等はその治療遂行上必要不可欠な装具であり,明らかな治療効果が認められていることが明らかであり,これからすると,本件の治療用装具(眼鏡等)は法第87条第1項に規定する療養費の支給要件に該当し,家族療養費の支給対象となるものと認めるのが相当である」とあった.また,「このような弱視治療用の眼鏡を,一般の,日常生活の不便を避けるために使用される眼鏡と同列に扱って療養費の支給を拒むことは,事柄の実態に眼をそむけたきわめて不当な態度」とした.保護者たちは,全国一律に治療用眼鏡が保険給付の対象となることを求めて,平成16年8月にインターネット署名活動を開始し,平成17年2月「あいぱっちくらぶ」のメンバーは29,656名の署名を厚生労働副大臣に提出した(その後平成18年1月に6,831名の追加分を提出).このような努力の結果,中央社会保険医療協議会は平成18年2月,治療用眼鏡・コンタクトレンズについて保険給付を認めることを承認した.平成18年3月15日付けの厚生労働省保険局長から(4)表1平成18年3月15日付けの厚生労働省保険局長からの通知(保発第0315001号),保険局医療課長からの通知(保医発第0315001号)─平成18年4月1日から小児の弱視,斜視および先天白内障術後の屈折矯正などの治療に必要であると医師が判断し処方した眼鏡などの療養費の支給が認められるようになった.─———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(5)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007(6)の通知(保発第0315001号),保険局医療課長からの通知(保医発第0315001号)を表1に示す.平成18年4月1日から小児の弱視,斜視および先天白内障術後の屈折矯正などの治療に必要であると医師が判断し処方した眼鏡やコンタクトレンズに対して係る療養費の支給が認められるようになった.III治療用眼鏡の療養給付(1)対象年齢9歳未満.(2)給付額眼鏡(掛け式眼鏡に限る):36,700円,コンタクトレンズ(1枚につき):15,400円のそれぞれ100分の103を支給の上限としている.具体的には給付の上限額は,以下のようになる.眼鏡:36,700円×103/100×0.7=26,460円コンタクトレンズ(1枚):15,400円×103/100×0.7=11,103円つまり,上限額(眼鏡:37,801円,コンタクトレンズ15,862円)未満の場合:購入金額×0.7円上限額(眼鏡:37,801円,コンタクトレンズ15,862円)以上の場合:眼鏡:26,460円コンタクトレンズ:11,103円ただし,乳幼児医療が適応された場合は,80%支給のことがある.自治体の乳幼児医療が適用され,医療費が無料となる年齢の児は,自己負担した30%(あるいは20%)が各自治体から支給され,支給上限額以内の場合自己負担が0円となることがある.(3)更新更新された眼鏡,コンタクトレンズなどの支給対象となる条件を以下に示す.5歳未満:更新前の装着期間が1年以上5歳以上:更新前の装着期間が2年以上ここで,装着期間の解釈であるが,実際に眼鏡などを装着していた期間ではなく,前回の申請からの期間と考えるのがよい.更新期間内に医師から度数変更の指示があった場合などについては,各保険者によってその対応が異なる場合がある.(4)申請に必要なもの①療養費支給申請書加入している健康保険申請窓口にある.患者が用意する.②療養担当に当たる保険医の「治療用眼鏡等」の作成指示書日本眼科医会製医療費控除申請用処方箋(毎年「日本の眼科」2月号に掲載)を用いる(表2).③患者の検査結果②の日本眼科医会製医療費控除申請用処方箋「Ⅳの2.治療を必要とする症状」に検査結果を記入する.④領収書購入した治療用眼鏡などの領収書が必要である.宛名を患者本人(児)にしてもらう,但し書は「治療用眼鏡」と記入してもらうと,よりわかりやすい.厚生労働省の通知では,治療用眼鏡などの製作所は,「薬事法第12条1項に規定する高度管理医療機器又は一般医療機器の製造又は販売について厚生労働大臣の許可を受けていること」とされているが,眼鏡は許可が必要でないので眼鏡店の制限はない.コンタクトレンズの販売は,高度管理医療機器販売の許可が必要である.⑤口座番号と印鑑療養費の支給が認められた場合,振込み先の口座番号と印鑑が必要である.(5)申請窓口患者が加入している保険団体によって違う.表3にそれぞれの申請窓口を示す.健康保険証の表の最下段に「保険者」として表記されているのが,加入している保険団体である.申請に関する問い合わせは,それぞれ保険団体に行うとよい(6)申請期限眼鏡,コンタクトレンズなどの代金支払翌日から2年間である.小児の弱視治療用眼鏡などが療養給付となり,保護者の負担も軽減されるが,それ以上に弱視の早期発見・治———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????(7)療に対する保護者はじめ国民の意識が向上するものと期待している.文献1)日本眼科医会総務部:治療用眼鏡の医療費控除について.日本の眼科78:181-185,2007表3申請窓口─申請窓口は患者が加入している保険団体によって違う─加入している保険申請窓口政府管掌健康保険各社会保険事務所国民健康保険市区町村の国民健康保険課健康保険組合各健康保険組合の事務局共済組合各共済組合の事務局表2日本眼科医会製医療費控除申請用処方箋(毎年「日本の眼科」2月号に掲載)