———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSある特徴を個々の症例ごとに使い分けられるのではないかという期待ももつことができる.そうした意味では,シリコーンハイドロゲルCLの今後の発展方向性は臨床家の意見にかかっているのかもしれない.本稿では,筆者の私見を交えながら,現在発表されている各種シリコーンハイドロゲルCLの特徴と選択方法について述べたい.Iシリコーンハイドロゲル素材は万能か近い将来,すべてのSCL用ハイドロゲル素材はシリコーンハイドロゲルに代わるのか.前述した長所だけ拾い上げれば,誰もがこれに代わると答えるに違いない.しかし,シリコーンハイドロゲル素材の合成には,もともと矛盾がつきまとっていることを知っておくべきである.現在の酸素透過性HCL素材の主成分としては,酸素溶解係数に優れた含フッ素系材料と酸素拡散係数に優れたシリコーン系材料があげられるが,この両者とも非常に撥水性が高く,親水性のハイドロゲルとは,モノマーレベルでは,うまく均一に混合できない.均一な状態でモノマーを重合できなければ,十分な光線透過率も得られないし,期待するガス透過性能やイオン透過性能(マトリックス中の水の流れ)も得られない.すなわち,少々乱暴な表現をすれば,シリコーンハイドロゲル素材とは,油と水を混ぜ合わせて,一見,均一になったところを重合して固めてしまおうという,モノマー同士の物理的化学的相性を犠牲にして合成したハイドロゲル素材はじめにシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(シリコーンハイドロゲルCL)は,酸素拡散係数の非常に高いシリコーン系ハードCL(HCL)素材(図1)と,水を担体として酸素が運ばれる含水性ソフトCL(SCL)素材の両者の長所を併せ持たせようとして開発されたCLである.CLが角膜の生理に及ぼす影響を最小限にとどめるためには,良好な酸素透過性,水濡れ性,涙液成分の交換が必須のため,含水性素材で酸素透過性HCL並みのガス透過性をもつシリコーンハイドロゲルCLのコンセプトは,これらの諸問題を一気に解決してくれるようにも思える.しかしながら,同じ到達点を目指しながら,われわれがレンズを手にしただけで,その性状の違いがわかる数種のシリコーンハイドロゲルCLを見るとき,このレンズの開発がいまだに発展途上であるむずかしさを感じると同時に,臨床的には,これらのバラエティー(9)913eniSano267118特集●コンタクトレンズ・ここが知りたいあたらしい眼科25(7):913922,2008各種シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの特徴と選択方法CharacteristicsofSiliconeHydrogelContactLenses佐野研二*図1シリコーン系素材シリコーン系ポリマーでは,Siのまわりの側鎖の回転エネルギーがきわめて低く,容易に回転する側鎖の間隙を酸素分子が効率よく移動する.酸素拡散係数が高いのが特徴で,結果的に酸素透過係数Dk値が高くなる.———————————————————————-Page2914あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(10)相分離をひき起こしてしまうため,現在市販されているシリコーンハイドロゲルCL用素材では,重合する前に,重合性レンズ先駆組成物(特許用語そのまま)なる混合物をあらかじめ作製している.この混合物は,塩,架橋剤,いくつかの親水性モノマーと疎水性モノマー,いくつかのシリコーン系マクロマー,および重合開始剤から成っている.マクロマーの定義は,きちんとしたものがないが,単量体であるモノマーと,それが重合して形成された分子量1万以上の高分子の間の物質と考えてよい.シリコーンをマクロマーにすることによって,親水性モノマーと混合したときに相分離しにくくさせているのがポイントである(図2).シリコーンハイドロゲルの重合性レンズ先駆組成物なるものは,1つまたは複数のシリコーン系マクロマーを親水性モノマーに混合させ,この混合物が均質組成物になるまで,シリコーン系マクロマーに起きやすい気泡形成をさせないように注意しながら相対的に遅い速度,特許上では1分間当たり約100500回転(rpm)で攪拌することによってつくり上げられる.この混合物に含まれる親水性モノマー,シリコーン系マクロマーの分子量や側鎖の長さ,架橋材の特性と量が,最終的に合成されたミクロ相分離構造のシリコだということもできる.また,さらにシリコーンハイドロゲルが,レンズとして臨床的に用いられた場合にはシリコーンのもつ親油性も問題になる.もともと,撥水性の材料をハイドロゲルと組み合わせて用いているのに,装用を続けている間に脂質が吸着して,さらにレンズの撥水性が高まることは容易に想像できる.筆者は新しい技術に対して常に敬意を払うものであるが,臨床家としては,こうした知識を頭のどこかに置き,患者の経過観察をすることが大切であろう.IIシリコーンハイドロゲルにおける「ものづくり」1.透明均一な材料をつくるむずかしさそれでは,相性の決してよくないシリコーンとハイドロゲルをどうやって均質に混合,重合することができるのか.臨床的には新しい素材であるがゆえ,慎重な経過観察が必要であることを強調したが,シリコーンハイドロゲルには,高分子学的には画期的なアイディアが満載されている.含水性SCLにさらなる高酸素透過性能を求めるならば,ゲルの骨格となる高分子網目構造の部分に,前述した酸素透過性HCL素材の酸素透過機序を持ち込まざるをえない.すなわち,シリコーン系素材か含フッ素系素材のハイドロゲルへの導入である1).酸素透過性素材はもともと強い撥水性をもっており,これがうまくハイドロゲルと融合することができれば,CLに必須である良好な水濡れ性の獲得にもつながるのであるが,撥水性のものと親水性のものは混ざりにくく相分離するため,物質が透明性を保つための規則正しい均一な構造ができない.しかしながら,シリコーンのブロックコポリマーを用いると高分子が化学的に結合されているため,ハイドロゲルとは水と油のようなマクロなスケールで分離せず,その結果,ミクロ相分離構造とよばれる10nm1μmスケールの自己組織化された相分離構造がつくられ,それぞれの高分子の利点をもった透明な高分子が完成する.実際の合成に際しては,シリコーン系モノマーをハイドロゲル合成のためのモノマーと混合しても,ただちにシリコーン系マクロマー親水性モノマー図2シリコーン系マクロマーの利用シリコーンをマクロマーにすることによって,親水性モノマーと混合したときに相分離しにくくさせているのがポイントである.1つ,または複数のシリコーン系マクロマーを親水性モノマーに混合させ,この混合物が均質組成物になるまで,シリコーン系マクロマーに起きやすい気泡形成をさせないように注意しながら相対的に遅い速度,特許上では1分間当たり約100500回転(rpm)で攪拌し,均一に混合している状態で重合を行い,シリコーンハイドロゲルが合成される.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008915(11)イドロゲルの網目構造の中に均一にしかも効果的に配置するためには,相互侵入高分子網目構造,いわゆるIPN(interpenetratingnetwork)構造(図4)につくり上げ,酸素透過性と水濡れ性を制御することが理想であるが,現在のシリコーンハイドロゲルは,残念ながら,そこまで洗練された構造ではなく,シリコーン系マクロマーと親水性モノマーをランダムに重合させた共重合体である(図5).ミクロのレベルでは,十分な機能をもった相分離構造をつくり上げていると考えられるが,やはりシリコーン材料が表面に出現している部分での水濡れ性は悪く,その親油性も手伝い,レンズを装着し続けているとーンハイドロゲルの酸素透過係数(Dk値),モジュラス(軟らかさ),含水率,引っ張り強度,アイオノフラックス(イオン透過性),表面湿潤性などの物性値を決める(図3).あまりにパラメータが多く,筆者は架橋材量と,それに対する理工学的性質を測定した経験しかない(表1)が,架橋材量の変化だけでも,素材の固さや酸素透過性,引っ張り強度が有意に変化することから2),適当な理工学的性質をもったシリコーンハイドロゲル素材の合成のむずかしさに加えて,理想的素材へと向かって改良の余地もあることが示唆される.2.シリコーンの撥水性と親油性の克服撥水性で,かつ親油性であるシリコーンを,親水性ハ表1非含水性SCL素材の理工学的性質と架橋剤Sample123ゴム硬度35.8±0.838.8±0.844.6±2.0Dk値*60.8±1.656.0±2.041.7±1.5屈折率(n20D)1.380±0.0011.377±0.0011.378±0.001水に対する接触角(°)79.8±3.880.2±1.881.0±4.5破断強度(g/mm2)2,5001,4001,300モノマー溶出率(wt%)0.0180.001未満0.001未満*Dk値単位:×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg).架橋剤のペンタエリスリトールテトラアクリレートの量を,モノマー全体量に対して1,3,5wt%となるように3種類のsample1,2,3を合成し,各種理工学的性質を測定した.架橋剤の量によって,フレキシビリティを表すゴム硬度,破断強度は著しく変化する.ハイドロゲル相自由水の移動シリコーン相高酸素透過性図3ミクロ相分離構造性質の異なる種類の高分子は通常,水と油のように非相溶であり,ブレンドすると相分離することが知られている.しかしながら,ブロックコポリマーは高分子が化学的に結合されているために水と油のようにマクロなスケールで分離することができない.その結果,ミクロ相分離構造とよばれる10nm1μmスケールの自己組織化された相分離構造がつくられ,それぞれの高分子の利点をもった透明な高分子が完成する.アイオノフラックス(イオン透過性)特性はハイドロゲル相が,また,酸素透過性はおもにシリコーン相が担当している.:シリコーン系ポリマー:ハイドロゲルポリマー図4筆者の理想のシリコーンハイドロゲル構造シリコーン系ポリマーとハイドロゲルポリマーが互いに規則的に絡み合って一つの均一な物質をつくっている筆者のシリコーンハイドロゲル理想図.撥水性で,かつ親油性であるシリコーンを,親水性ハイドロゲルの網目構造の中に均一にしかも効果的に配置するためには,相互侵入高分子網目構造,いわゆるIPN(interpenetratingnetwork)構造につくり上げ,酸素透過性と水濡れ性を制御することが理想である.———————————————————————-Page4916あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(12)III各種シリコーンハイドロゲルCLの特徴1.O2OPTIX東京医科歯科大学医用材料工学研究所では,生体材料,特にCL素材としてのフッ素系材料の安定性,撥油性,酸素透過性に着目をして研究が行われていた2,3).その視点からみると,O2OPTIXは,含フッ素系材料とシリコーン系材料の両者の特徴を併せ持つ非常にユニークなハイドロゲル素材にみえる(図6).シリコーン誘導体の欠点である親油性を,撥油性のフッ素を含有させることにより,耐汚染性,耐劣化性を改善している点は評価すべきポイントである.酸素透過性はシリコーンハイドロゲルのなかで最も高く,わが国でも最近,30日連続装用の認可がおりた.24%という含水率は,市販中のシリコーンハイドロゲルCLのなかで最低であり,水分蒸発量は抑えられ,装用中,あまり乾きを感じさせない.一方,低含水ならではのモジュラスの低さ,すなわちフレキシビリティの低い硬い感じのするレンズである.ベースカーブ8.6mmと8.4mmの2種類があり,平均的なオキュラーサーフェス形状をもつものにとっては理想的なレンズでありながら,これからはずれた強角膜形状をもつものにとっては,フィッティングが少々むずかしく,特に角膜曲率の大きな症例では角膜上方部の角膜上皮障害,superiorepithelialarcuatelesion(SEAL),いわゆるepithelialsplitting(図7)に注意が必要である.販売名は不明であ水濡れ性はさらに悪くなると考えられる.現在,シリコーンハイドロゲルの撥水性を解決するために,①プラズマ処理,②プラズマコーティング,③親水性ポリマー添加の3種類のレンズ表面改質技術が開発されている.現在,わが国で発表されているシリコーンハイドロゲルCLにおいては,Bausch&Lomb社とメニコン社が①プラズマ処理を,また,CIBAVision社が②プラズマコーティングを,そしてJohnson&Johnson社が③親水性ポリマーの添加による表面処理を施している.図5ランダム重合親水性モノマーAと,シリコーン系モノマーBが,不規則的ランダムに重合している.現在,発売されているシリコーンハイドロゲルレンズは,このランダム重合によって合成されており,何とか実用レベルのミクロ相分離構造を獲得していると考えられる.図6O2OPTIXの素材シリコーン誘導体の欠点である親油性を,撥油性のフッ素を用いて耐汚染性,耐劣化性を改善している.ハイドロゲルにジメチルアクリルアミドを用いたのは両者ともメチル基が多く相性が良いのであろう.CCNOCH2CH2RCH3CH3CH3CH3DMAOOOOOOHOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiOSiCH3CH3Siシリコーン・モノマーフルオロシリコーン・マクロマーTRISNCOOlml3HNCOOCH23CH2CH2CH2CF2CF2CF2CH3CH3HOSiCH3CH3SiNCOOHNNHCCOOOOOnCF2CF2O3HNCOOOOCH23———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008917(13)カーブやレンズ径をラインアップしたO2OPTIXCustom含水率32%の特殊シリコーンハイドロゲルレンズを海外では用意している.本レンズはレースカット製法のオーダーメード的なレンズであるが,社会貢献を求められる企業として,ぜひわが国でも発表していただきたい.2.PureVisionRわが国では連続装用専用シリコーンハイドロゲルCLとして登場したが,最近,終日装用による使用も可能になった.現在発売されているシリコーンハイドロゲルCLのなかで,唯一のイオン性素材である.基本的にイるが,もう少しフレキシビリティに富んだ含水率33%の外国版O2OPTIXが発売される予定だと聞いている.本レンズの構造もシリコーン誘導体に含フッ素系材料を組み合わせ,ハイドロゲル化しているので,耐汚染性が期待できると思う.これらのレンズの親水表面処理は,メタンプラズマコーティング(図8)4)とよばれる手法がとられている.メタンガスに空気を入れてプラズマコーティングしたところがポイントで,20nmという,超薄膜でありながら,C,N,Oを基盤上に析出させ,重合化,超親水化に成功している.正しくはメタンガス・エア・プラズマコーティングとよぶべきであろう.この超薄膜超親水化技術は,あらゆる撥水性素材のCLへの応用を可能とさせうるばかりか,CL以外のさまざまな分野へ応用可能と思われる.シリコーンハイドロゲルレンズの治療用CLとしての応用については海外ではすでに報告がある5)が,わが国でも,東原6)が,本レンズをSjogren症候群,遷延性上皮欠損,化学外傷後などの治療用バンデージレンズとして応用し,良好な結果を残している.確かに通常のハイドロゲルレンズでドライアイによく認められるsmilemarkstaining(図9)は本レンズではほとんど起こさない.CIBAVision社では,病的近視や,白内障術後用の+20D20Dと幅広い度数と,非常に細かいベース図7Epithelialsplitting硬いシリコーンハイドロゲルCLではsuperiorepithelialarcu-atelesion(SEAL),いわゆるepithelialsplittingが起きやすい.定期的な経過観察が必要である.図9Smilemarkstaining通常のハイドロゲルレンズ装用のドライアイによく認められるsmilemarkstainingは低含水のシリコーンハイドロゲルCLではほとんど起こさない.疎水性CLC,N,Oのインプラント重合重合反応(モノマー)(メタンガス+空気)グロー放電図8メタン・プラズマコーティングメタンガスに空気を入れてプラズマコーティングしたところがポイントである.20nmという,超薄膜でありながら,C,N,Oを基盤上に析出させ,超親水化に成功している.この超薄膜超親水化技術は,さまざまな分野へ応用可能と思われる.———————————————————————-Page6918あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(14)AcuvueROasysTMが後発であるが,OasysTMを単により乾きにくく酸素透過性の高い改良版プレミアムレンズバージョンと位置づけるのには,少々AdvanceTMを過小評価しており,AdvanceTMにはこのレンズ特有の長所がある.AdvanceTMの注目すべき点は含水率が47%と非常に高いシリコーンハイドロゲルCLであり,ミクロ相分離構造のうち,ハイドロゲル相のイオン透過機能が十分機能していると思われる.すなわち,酸素が溶解した水の移動とともに,さまざまな物質の十分な交換も期待できる.また,最も軟らかなシリコーンハイドロゲルCLとして,2種類のベースカーブを利用すれば,どんな角膜形状にも対応できるし,乾きやすいという訴えがあれば,人工涙液の頻回点眼を指示すればよい.高分子学的には,AdvanceTMは疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のOH基を取り付けることに成功して,NVP,DMA(ジメチルアントラセン),HEMAとの相性を改善させている(図12).4.AcuvueROasysTMOasysTMはさらにシリコーンの量を増やして酸素透過性能を高め,同時に良好なフレキシビリティの獲得に成功している.UsanCouncilのホームページからAcu-オン性素材は蛋白質やリン脂質分解酵素が付きやすかったり7,8),ソリューションに敏感であるといった報告がある9)が,非イオン性素材にフォーカスを当ててきたBausch&Lomb社が,あえて,このレンズをイオン化させたのは,基本的に連続装用を想定して十分なフレキシビリティと親水性を付与させたかったのではないかと推察する.イオン性モノマーの導入で極性をもたせることによって,蛋白質が付着しやすくなったり,ソリューションに敏感になったりするデメリットもあるが,むしろ,シリコーン誘導体特有の硬さや強い撥水性を抑えるという効果のメリットのほうが上回るかもしれない.イオン性で含水率36%ともなると,適度な軟らかさをもち,シリコーンハイドロゲルの本来の固さを上手く緩和しており,連続装用愛好者の筆者には非常に快適なレンズに仕上がっている.最近,消毒,ケアを行いながらの終日装用も認められて使いやすくなった.親水性処理は反応ガスとして酸素を用いたプラズマ処理を施している.親水基のもぐり込み効果の出現が想定されるが,涙液状態を眼科医がチェックして,人工涙液点眼の指導がきちんとなされていれば問題ないだろう(図10).さらに,疎水性シリコーン誘導体のTRIS(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)に親水性のNH基を取り付けることに成功して,ハイドロゲルのN-ビニルピロリドン(NVP),ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)との相性を改善させていることも特筆すべき点である(図11).3.AcuvueRAdvanceTM米国ではAcuvueRAdvanceTMが先発で,後述する水中空気中疎水性CL親水基図10プラズマ処理と,もぐりこみ効果高分子構造の中でSiの側鎖や線状ポリマーの主鎖のまわりの親水基は,乾くと素材内に埋没してしまう.図11PureVisionRの素材疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のNH基を取り付けることに成功してNVP,HEMAとの相性を改善させている.TRISVC(TRIS誘導体)CCOOCH2CH3CH2CH2OHHEMACHNCOCH2CH2CH2CH2NVPOOOOOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiOOOOHNOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiTRIS———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008919(15)vueROasysTMの化学構造を読み取ると,シリコーン誘導体の側鎖を伸ばし,十分な軟らかさを獲得させようとしていることがわかる.親水処理には,もともと含水率を高く設定し,前述したようにシリコーン誘導体にOH基を導入したうえに,超親水性ポリマーであるHydraclearTM(ポリビニルピロリドン)を二相性ミクロ相分離構造のハイドロゲル部分に埋抱させている(図13).NVPをポリマー状態で,レンズの主成分となるモノマーと重合させる手法は,筆者らがフッ素系非含水性SCL素材を合成したときと同じ方法である2)が,素材の十分な光線透過率を獲得するためにも有効な手段であると思う.涙液などで濡れた雰囲気のなかで,HydraclearTMはレンズ表面に顔を出し,非常に良好な親水性を示す.筆者が2週間装用した後,乾燥させて生理的食塩水を滴下すると接触角は約30°,再び生理的食塩水に浸漬して測ると接触角は0°となった(図14).また,HydraclearTMの成分であるポリビニルピロリドンの保水能力は非常に高いので,レンズ自体の水分保持能力にも貢献しているはずである.AcuvueROasysTMは,含水率38%という見かけの数値以上に軟らかく,酸素透過性能に優れているため,筆者らは,よくピギーバックレンズシステム(PBLS)に利用している(図15).AcuvueROasysTM(0.50D)のフレキシビリティと親水性は素晴らしく,円錐角膜に容易にフィットするうえ,メニコンZR(3.0D)との組み図12AcuvueRAdvanceTMとAcuvueROasysTMの素材疎水性シリコーン誘導体のTRISに親水性のOH基を取り付けることに成功して,NVP,DMA,HEMAとの相性を改善させている.AcuvueROasysTMはさらにシリコーンの量を増やし,酸素透過性能を高め,同時に側鎖を長くして良好なフレキシビリティの獲得に成功している.SiMA(TRIS誘導体)OOOOOSi(CH3)3Si(CH3)3Si(CH3)3SiOOOOOHOSi(CH3)3Si(CH3)3CH3SiTRISCCOOCH2CH3CH2CH2OHCCNOCH2RCH3CH3HEMACHNCOCH2CH2CH2CH2DMANVP図13HydraclearTM超親水性ポリマーであるHydraclearTM(ポリビニルピロリドン)を二相性ミクロ相分離構造のハイドロゲル部分に埋抱.レンズ素材———————————————————————-Page8920あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(16)ら発表された.同社では10年以上前からシリコーンハイドロゲルを開発しており,筆者もプロトタイプをみせていただいたことがある.今回,さまざまな改良を行い,ようやく発売となった.構造式は企業秘密とのことで明かしてもらえなかったが,①N,N-ジメチルアクリルアミド,②ピロリドン系化合物,③ケイ素含有メタクリレート系化合物,④ケイ素含有アクリレート系化合物の親水性モノマーとシリコーン誘導体から成るとのことであった.このうち,④のケイ素含有アクリレート系化合物ではポリジメチルシロキサン(図16)のもつ優れた酸素透過性だけでなく,硬くなりがちなシリコーンハイドロゲルに柔軟性を付与させる機能を追加して新規に開発したとのことである.おそらく,③のケイ素含有メタクリレート系化合物の側鎖を十分に長く軟らかくなるように分子設計を行ったのであろう.また,②の新規ピロリドン系化合物は,優れた吸水性と保水性を付与させるために,主鎖構造とアミド基の配置にこだわって分子設計を行ったとのことである.これらの改良によって,酸素透過性HCL並みの酸素透過係数と従来のハイドロゲルに近い含水率を両立させたという.合わせで,酸素透過率(Dk/t値)は計算上67.6となり,数値上は連続装用も可能である.装用感は1DayAcu-vueRMoistTMに匹敵し,ランニングコストもこちらのほうが安い.AdvanceTMとOasysTMは,PBLSに唯一応用できる軟らかいシリコーンハイドロゲルレンズである.5.Premioわが国初のシリコーンハイドロゲルCLがメニコンか図14HydraclearTM(PVP)による親水化AcuvueROasysTM&AdvanceTMに搭載.2週間装用後,乾燥生理的食塩水に対する接触角:約30°2週間装用後,乾燥後,再び含水生理的食塩水に対する接触角:0°gnizilituSLBPgnizilituSLBP8891ecnisLCSD8891ecnisLCSD図15AcuvueROasysTMとメニコンZRによるピギーバックレンズAcuvueROasysTM(0.50D)のフレキシビリティと親水性は素晴らしく,円錐角膜に容易にフィットするうえ,メニコンZR(3.0D)との組み合わせで,Dk/t値は計算上67.6となる.装用感は1DayAcuvueRMoistTMに匹敵する.SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiOCH3CH3SiCH3CH3図16ポリジメチルシロキサンポリジメチルシロキサン.Dk値は500の超酸素透過性ポリマー.超撥水性,親油性でもある.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008921(17)Premioは含水率40%と,シリコーンハイドロゲルとしては高い含水率をもっているが,こうした,高含水化の方向性はある意味ユニークである.つまり,ゲルの中の溶媒である水には,自由水,中間水,結合水の3つがあり(図17),自由水は高分子内で自由に移動し,酸素を運ぶことができるが,シリコーンハイドロゲル中には自由水が多く存在し,その含水率から想像する以上のイオン透過性が期待できるからである.シリコーンが撥水性の分,ハイドロゲルの含水率をどの程度に落ち着かせるのが良いのか興味深いところである.表面処理ではプラズマ処理を採用している.特定元素のインプランテーションによる化学的改質を追求するのではなく,物理的な特性,すなわちイオンエッチングによる表面のダメージを抑制することを最大限に考慮し,優れた水濡れ性と耐汚染性を発現させたとのことである.おわりに本稿で述べたシリコーンハイドロゲル材料の特徴がレンズ選択の参考になれば幸いである.表2に各種シリコーンハイドロゲルCLの規格を示した.本レンズでは,一般に含水率が高いほどフレキシビリティに富む.メカニカルストレスによる障害がみられれば,まずベースカーブの変更で対応したいところであるが,選択肢がない場合には,含水率の高いレンズに変更してみると良い.乾きの訴えが強い場合には低含水率のレンズが有利であ図17高分子と水の束縛状態ゲルの中の溶媒である水には自由水,中間水,結合水の3つがある.自由水は高分子内で自由に移動し,酸素を運ぶことができる.シリコーンハイドロゲル中には自由水が多く存在し,その含水率から想像する以上のイオン透過性が期待できる.HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHOOOHHHOOHHHHOOOOOOOOOO結合水中間水自由水自由水〈親水性高分子と水〉HHHHHHHHHHHHHHHHCH3CH3CH3OOOOOOOO〈疎水性高分子と水〉表2各種シリコーンハイドロゲルCLの規格レンズ名O2OPTIXO2OPTIX(海外版)PureVisionRAcuvueRAdvanceTMAcuvueROasysTMPremio製造会社CIBAVisionCIBAVisionBausch&LombJohnson&JohnsonJohnson&Johnsonメニコン含水率(%)243336473840Dk/t値17513811086147161表面処理メタンプラズマコーティングメタンプラズマコーティングプラズマ処理親水性ポリマー添加親水性ポリマー添加プラズマ処理ベースカーブ(mm)8.68.48.68.68.78.38.88.48.6一般に含水率が高いほど,フレキシビリティに富む.メカニカルストレスによる障害が見られれば,まずベースカーブの変更で対応したいところであるが,選択肢がない場合には,含水率の高いレンズに変更してみると良い.乾きの訴えが強い場合には低含水のレンズが有利であるが,一方でメカニカルストレスの制御はシビアになる.———————————————————————-Page10922あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(18)るが,一方でメカニカルストレスの制御はシビアになる.シリコーンハイドロゲルCLは通常のハイドロゲルCLよりも固く,数値では表せない角膜から強膜への移行部の形状におけるフィッティングにも注意を払うべきである.シリコーンハイドロゲルCLは,いまだ発展途上にあり,三者三様,性質は微妙に異なっているのは解説したとおりである.このレンズが,ベースカーブを選べない,使い捨て,または頻回交換レンズをベースに登場している以上,多様な性質を示すオキュラーサーフェスのすべての例に対応することはむずかしい.レンズの種類を揃えて,それぞれのレンズの特性を利用すること,さらに通常のハイドロゲルCLという選択肢を残しておくことが必須だと思う.シリコーンハイドロゲルCLの今後の発展のためにも,臨床家は,その超酸素透過性ばかりに注目せず,その含水率やフレキシビリティはもちろん,表裏一体にある撥水性や汚れやすさといったsideeectにも考慮して,レンズ処方,経過観察することが大切である.文献1)黒川考臣:機能性ふっ素高分子.p132,日刊工業新聞社,19822)佐野研二,所敬,鈴木禎ほか:フッ素系非含水性ソフトコンタクトレンズ用素材の研究.日コレ誌36:196-200,19943)佐野研二:コンタクトレンズの生体インターフェース技術について.バイオメカニズム学会誌16:287-296,19924)松沢康夫:シリコーンハイドロゲルレンズの基礎知識─表面の性質について─.あたらしい眼科22:1315-1324,20055)AnnaMA,JackPS,JerzyS:Therapeuticuseofasiliconehydrogelcontactlensinselectedclinicalcases.Eye&ContactLens30:63-67,20046)東原尚代:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの治療用コンタクトレンズとしての可能性.あたらしい眼科22:1339-1344,20057)望月弘嗣,山田昌和,大野建治ほか:ソフトコンタクトレンズに沈着したsPLA2によるドライアイ.第47回日本コンタクトレンズ学会総会抄録集,p46,20048)清水健太郎,佐野研二,柴田優子ほか:イオン性ソフトコンタクトレンズに付着したタンパク質に対するこすり洗いの効果.日コレ誌49:23-25,20079)佐野研二:イオン性素材─何が問題なのか.あたらしい眼科17:917-921,2000