———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの適合性,眼障害,選択方法について概説する.I日本で販売されているMPSの特徴現在,市販されているMPSの消毒成分は塩化ポリドロニウムあるいはポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)である.上述したStandalonetestはISOで採用されているコンタクトレンズケア用品の消毒評価試験であるが,試験菌のうち細菌(黄色ブドウ球菌ATCC6538,緑膿菌ATCC9027,セラチア菌ATCC13880)に対しては対数減少値が3以上で,真菌(カンジダATCC10231,フザリウムATCC36031)に対しては対数減少値が1以上であると消毒剤は液に漬けておくだけで効果があると判断され,一次基準をクリアしたMPSに分類される.このはじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)は細菌や真菌などの微生物に汚染しやすいため,毎日の消毒が義務づけられている.日本では1972年のSCL発売以来,100℃で20分間の加熱消毒(煮沸消毒)が厚生労働省(旧厚生省)により定められていたが,加熱によるSCLの劣化の防止,簡便性やコンプライアンスの面からコールド消毒(化学消毒)が開発された.1992年には過酸化水素を用いた消毒剤が,1995年には多目的用剤(multipurposesolu-tion:MPS)が,2001年にはポビドンヨードを用いた消毒剤が発売された.MPSは,1剤で洗浄だけでなく,消毒,すすぎ,保存ができることから,誤使用がない,簡便であるがゆえにコンプライアンスが高いなどの特徴があるが,他の消毒法に比べて消毒効果が弱いという問題がある.しかしながら,MPSの消毒効果は近年向上しており,国際標準化機構(ISO)のStandalonetestの一次基準に適合したもの(multipurposedisinfectingsolution:MPDSといわれることもある)も発売された.一方,消毒効果が高くなれば細胞毒性が問題となる症例が生じる.特に,シリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)とMPSおよびMPDSとの適合性が問題視されている1~4).これらに含まれる化学物質によってアレルギー反応を生じることもある5).本稿では,MPDSを含めたものを広くMPSとし,日本で販売されているMPSの特徴を述べた後に,SCLと(53)???*KiichiUeda:山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科**RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):747~757,2007マルチパーパスソリューション?????????????????????植田喜一*柳井亮二**図1ISOのStandalonetest(文献6より改変)**:contactlensdisinfectingproduct(コンタクトレンズ消毒液)に分類**:contactlensdisinfectingregimen(コンタクトレンズ消毒システム)に分類Standalonetest不合格一次基準試験合格*試験合格**Regimentest二次基準不合格試験不合格不合格試験不合格合格合格———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(54)表1市販されているMPSの性状と特徴メーカー日本アルコン日本アルコンエイエムオー・ジャパンエイエムオー・ジャパンチバビジョンロート製薬ロート製薬製品名オプティ・フリー?プラスオプティ・フリー?コンプリート?テンミニッツコンフォートケア?フレッシュルックケア?10ミニッツロートCキューブソフトワンモイスト?ロートCキューブソフトワンクール?外観消毒成分塩化ポリドロニウム(ポリクォッド)(11ppm)塩化ポリドロニウム(ポリクォッド)(11ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分クエン酸テトロニッククエン酸ポロクサマーチロキサポールポロクサマーポロクサマーポロクサマー粘稠剤──HPMCHPMC─HPMCHPMC特徴クエン酸とテトロニックによるデュアルアクション洗浄システムテトロニックによる潤いの持続作用独自の消毒成分ポリクォッドによる高い消毒効果と高い安全性クエン酸による洗浄システム独自の消毒成分ポリクォッドによる高い消毒効果と高い安全性消毒が最短10分で完了HPMCとポロクサマーの働きで優れた潤いクッションポロクサマーとPHMBの働きで優れた洗浄・消毒効果涙液に近い性状で瞳にやさしいしっかり消毒.蛋白汚れの付着も防止レンズに潤いを与える成分をプラス涙液に近い性状だから,目にやさしい1本で,洗浄・すすぎ・消毒・保存がOK消毒,洗浄が最短10分で完了リン酸塩,EDTA,ポロクサマーの3つの成分で相乗的に汚れ除去液体粘性を高めることで,潤いを持続清涼洗浄成分をプラスすることで,爽快なつけ心地を実現メーカーファシル旭化成アイミー旭化成アイミーエイコーエイコー日本油脂日本オプティカル製品名フォレストリーフレンズコートワンボトルケアクリアモイストケアピュアモイストケアピュラクルモイストティアラ外観消毒成分PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分───ポロキサマーポロキサマー─ポロキサマー粘稠剤HPMC─HPMCHPMCHPMC─HPMC特徴PHMBでSCL表面を効果的に消毒HPMCで乾燥を防ぎ,快適な装用感涙液成分(リン脂質)に着目し,開発された潤い成分(リピジュア)配合PHMBでSCL表面を効果的に消毒HPMCで乾燥を防ぎ,快適な装用感乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去涙液成分(リン脂質)に着目し,開発された潤い成分(リピジュア)配合乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去PHMB:ポリヘキサメチレンビグアニド,HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース.(メーカー提供)*ワンボトルケアはフォレストリーフのOEM,モイストティアラはクリアモイストケアのOEM,レンズコートはピュラクルのOEM.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???一次基準をクリアするほどの消毒効果はないものの,二次基準(3種類の細菌に対し対数減少値がそれぞれ1以上,かつその和が5以上を示すとともに,真菌に対して浸漬中に菌数の増加を認めない)に適合する消毒剤はregimentest(用法用量に従った試験)の合格基準(消毒後の菌数の平均がレンズ当たり10コロニーを超えないこと)をクリアした場合はregimen試験適合消毒剤と判断される6,7)(図1).日本でも2003年に,市販されているMPSに対してこのStandalonetestに準拠した方法で,一次基準に合格する消毒効果を有するかどうかを自主点検するようにという内容の行政通知が発出されている6).現在,日本でメーカーが一次基準をクリアしたと公表しているMPS(いわゆるMPDS)はレニュー?,レニュー?マルチプラス,コンプリート?アミノモイスト,エピカコールド,バイオクレン?ワン,バイオクレン?ゼロである.現在市販されているMPSの性状ならびに特徴をまとめたものを表1,2に示す.各製品は消毒成分のほかに洗浄成分(界面活性剤)や保湿成分(粘稠剤)などを添加して付加価値を高めている.IIMPSとSCLとの適合性SCL使用者にMPSを使用すると角膜ステイニングが発生することから,SCLとMPSとの適合性がこれまでにも問題視されていたが,新しい素材であるSHCLにおいても同様の角膜ステイニングが高頻度に発現することが報告されている4).1.短時間使用による角膜ステイニングMPSに浸漬したSCLの短時間装用試験ではMPSに配合される消毒成分によって角膜ステイニングの発生に差があることが報告されている4)が,筆者らも検証を行った8).試験レンズにはSCL2種(2ウィークアキュビュー?,マンスウエア)とSHCL1種(O2オプティクス)を,化学消毒剤にはMPS3種(エピカコールド,レニュー?マルチプラス,オプティ・フリー?プラス)と過酸化水素消毒剤1種(エーオーセプト?)を用いた.2ウィークアキュビュー?はイオン性高含水SCL,マンスウエアは(55)表2市販されているMPDSの性状と特徴メーカーボシュロム・ジャパンボシュロム・ジャパンエイエムオー・ジャパンメニコンオフテクスオフテクス製品名レニュー?マルチプラスレニュー?コンプリート?アミノモイストエピカコールドバイオクレン?ワンバイオクレン?ゼロ外観消毒成分PHMB(1.1ppm)PHMB(0.7ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分ポロキサミンハイドラネート(蛋白除去成分)ポロキサミンポロクサマーPOE硬化ヒマシ油(植物原料の界面活性剤)ポロクサマーポロクサマーポリリジン(蛋白付着防止)粘稠剤──HPMC──ヒアルロン酸,HPMC特徴ハイドラネートの働きで蛋白除去まで1本でOKPHMB(ダイメッド?)とポロキサミンの働きで優れた洗浄・消毒効果PHMB(ダイメッド?)の働きで優れた消毒効果を発揮ポロキサミンの働きで優れた洗浄効果と潤いの持続3つの潤い成分(PG/HPMC/ポロクサマー)で潤いを長時間キープアミノ酸配合で瞳にやさしい環境をサポートアミノ酸で蛋白変性防止消毒効果と安全性の両立高い脂質洗浄力蛋白付着防止効果2つの潤い成分(POE硬化ヒマシ油/PG)による潤い効果PHMBでしっかり消毒ポロクサマーで高い洗浄効果と潤い効果ヒアルロン酸の効果で潤いを持続ポリリジンで蛋白付着防止POE:ポリオキシエチレン,PG:プロピレングリコール.(メーカー提供)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007非イオン性高含水SCLで,エピカコールドとレニュー?マルチプラスはPHMBを含有し,オプティ・フリー?プラスは塩化ポリドロニウムを含有する.ブリスターケースから取り出した試験レンズを化学消毒剤に16~24時間浸漬した.男性6名,女性9名の計15名を被験者として,片眼には化学消毒剤で処理した試験レンズを装用し,他眼にはブリスターケースから取り出した試験レンズを生理食塩水で十分にすすいだ後に装用した.2時間装用した後に,試験レンズをはずして,角膜所見をフルオレセイン染色下で細隙灯顕微鏡(ブルーフリーフィルターを使用)で観察した所見を宮田の点状表層角膜症の重症度分類〔AD分類(A:area,D:density)〕9)に照らして評価した(表3).化学消毒剤で処理された試験レンズの装用によって生じた角膜ステイニングの代表例を図2に示す.化学消毒剤を使用しない未処理の各レンズにおいても角膜ステイニングが発生したが,程度の軽いものであった.a.SCLの装用による角膜ステイニング2ウィークアキュビュー?ではすべての化学消毒剤においてこれらで処理をしたレンズと未処理のレンズで発生した角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなく,化学消毒剤の種類によって発生した角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかった(図3).マンスウエアではエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?で処理されたレンズは未処理のレンズと角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスで処理されたレンズは有意に高かった.エピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?については発生した(56)表3点状表層角膜症の重症度分類〔AD分類(A:area,D:density)〕GradeArea(範囲)Density(密度)0点状染色なし点状染色なし1点状染色の範囲:角膜全体の1/3未満点状染色の密度:疎(離れている)2点状染色の範囲:角膜全体の1/3~2/3点状染色の密度:中程度3点状染色の範囲:角膜全体の2/3以上点状染色の密度:密(ほとんど隣接)図2化学消毒剤で処理されたレンズの装用によって生じた角膜ステイニングの例※:本試験においてA2D3に相当する症例は観察されなかった.(文献8より)A1D1A1D2A1D3A2D1A2D2A3D1A3D2A3D3A2D3※———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???角膜ステイニングの範囲,密度のいずれにおいても有意な差がなかったが,レニュー?マルチプラスは角膜ステイニングの範囲においてエピカコールドおよびエーオーセプト?より有意に程度が高く,密度においてもエピカコールドと有意な差があった(図4).b.SHCLの装用による角膜ステイニングエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?で処理されたO2オプティクスは未処理のO2オプティクスと角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスで処理されたO2オプティクスは有意に高かった(図5).エピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?については発生した角膜ステイニングの範囲,密度のいずれにおいても有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスはエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?より角膜ステイニングの範囲が有意に広く,密度も有意に高かった(図5).SCLについては含水率およびイオン性の異なる2種類の含水性レンズを使用したが,SCLによって角膜ステイニングの発生に違いがあった.非イオン性高含水SCLのマンスウエアでは化学消毒剤の種類によって角膜ステイニングの発生に有意な差を認めたが,イオン性高含水SCLの2ウィークアキュビュー?では有意な差を認めなかった.PHMBはプラスに帯電しているため,(57)図32ウィークアキュビュー?の短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3図4マンスウエアの短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)**1*2**2*1*20%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・リー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade31:**p<0.01Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.01Steel-Dwass検定1:**p<0.05Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.05Steel-Dwass検定———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007マイナスに帯電している2ウィークアキュビュー?とのイオン結合は強く,レンズ内にPHMBは著しく取り込まれる一方で,レンズ外には放出されにくい.そのためPHMBを含むMPSで処理された2ウィークアキュビュー?では角膜ステイニングの発生が少なかったのではないかと推察する8).MPSとSCLの組み合わせによる角膜ステイニングの発生には,PHMBなどの薬剤のSCLへの吸着と放出が関与していると考える.工藤らはPHMBを含有するMPSで処理したO2オプティクスを装用すると高頻度に角膜ステイニングを発生すると報告している4)が,現在市販されているMPSは消毒成分としてPHMBを含有していても,それぞれPHMB以外の配合物を含有するため,これらの作用によって角膜ステイニングの発生が異なると考える.エピカコールドはPHMBを含有するが,その他の成分としてグリコール酸やアミノメチルプロパンジオール(AMPD)が配合されており,これらの相互作用によりイオンバランスが調整され,PHMBの角膜への影響を弱めていると推察する8).化学消毒剤で処理されたSCLの装用による角膜ステイニングは装用後短時間で発生し,その後回復傾向を示す.具体的には装用2時間後に強い角膜ステイニングを認めた症例でも,装用6時間後には軽微となっていることがほとんどであると報告されている4).MPSに含まれる消毒成分やその濃度,さらには他の成分などが角膜上皮細胞に影響を及ぼし,角膜ステイニングを生じたと考えるが,上皮障害そのものの程度は軽いため角膜上皮細胞の伸展,移動で治癒すると推察する.2.継続使用による角膜ステイニング角膜ステイニングはレンズをはずして,フルオレセインで染色してブルーフリーフィルターでわかる程度の軽度の所見が多いが,このステイニングが臨床上問題になるかを確認することを目的として,筆者らはMPSでケアされたレンズを継続使用した症例の角膜所見を評価した.試験レンズにはSCL2種(2ウィークアキュビュー?,マンスウエア)とSHCL1種(O2オプティクス)を,化学消毒剤にはMPS2種(エピカコールド,オプティ・フリー?プラス)を用いた.男性10名,女性24名の計34名の被験者を3群(2ウィークアキュビュー?群:16名,マンスウエア群:8名,O2オプティクス群:10名)に分けて,エピカコールドとオプティ・フリー?プラスをそれぞれ1カ月間使用させて,角膜ステイニングの発生を調べた.フルオレセイン染色下で,細隙灯顕微鏡(ブルーフリーフィルターを使用)で観察した所見をAD分類9)に照らして評価した.レンズの装用時間は10時間以上とした.(58)図5O2オプティクスの短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)**1**2**2**2**1**2**2**20%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade31:**p<0.01Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.01Steel-Dwass検定———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???2ウィークアキュビュー?では,エピカコールドの使用で2名4眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で1名2眼に,マンスウエアではエピカコールドの使用で1名2眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で1名1眼に,O2オプティクスではエピカコールドの使用で1名2眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で2名4眼にMPSによると考えられる角膜ステイニングが観察された.ただし,これらの角膜ステイニングは,いずれのレンズにおいても軽度なものであり,臨床上問題とはならなかった.いずれのレンズにおいても,エピカコールドとオプティ・フリー?プラスで角膜ステイニングの発生に有意な差はなかった(図6~8).エピカコールドとオプティ・フリー?プラスは短時間使用でも角膜ステイニングの発生の少なかったMPSであるが,本試験の結果から継続使用によるMPSの成分の蓄積で角膜ステイニングが悪化する可能性が低いこと(59)図62ウィークアキュビュー?の継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=320%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=32図7マンスウエアの継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=160%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=16図8O2オプティクスの継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=200%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=20———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007が示唆された.日本ではSCLの消毒として1992年より化学消毒剤が使用されるようになった.当初,化学消毒剤の製造(輸入)承認申請に際しては,各レンズについて個々の化学消毒剤との組み合わせごとに一定の試験を行いその適合性が評価されていたが,1999年にSCLを原材料ポリマーの含水率およびイオン性により分類(FoodandDrugAdministration:FDA分類)されるようになってからは,4分類(グループⅠ:非イオン性低含水,グループⅡ:非イオン性高含水,グループⅢ:イオン性低含水,グループⅣ:イオン性高含水)のうち,グループⅠおよびⅣに属する任意の代表レンズを各1種類ずつ選択し,そのレンズに対する適合性について必要な試験を行うだけで評価されるようになった.すなわち,レンズと化学消毒剤が1対1の対応から,グループ分類に従って,2種類のレンズを試験することによって,市販されるすべてのレンズについて認可が得られるようになり,煩雑であった申請が簡素化され,多くの化学消毒剤が短期間で認可されるようになった.このFDA分類は含水性SCLに対してはあまり問題になることはなかったが,SHCLについても同様に分類してよいかという問題がある10).SHCLを含む含水性SCLと化学消毒剤の適合性は個別に確認したほうがよいと考える.IIIMPSによる角結膜障害上述した角膜ステイニング以外に注意したいのはアレルギー反応である.両眼に生じた原因不明の角結膜障害(輪部充血,角膜周辺部に多発する小さな角膜浸潤など)を生じた場合(図9)にはMPSによるアレルギー反応を疑う必要がある5).角結膜障害はステロイドの点眼ですぐに治癒するが,MPSを再使用すると同様の障害が生じることで臨床的に診断できる.他の種類のMPSに変更するか,過酸化水素消毒剤,ポビドンヨード消毒剤に変更する.MPSで消毒できない細菌の毒素に対するアレルギー反応が生じることもある.MPSによるこすり洗いを徹底させることや,消毒効果の高いMPSや他の消毒剤に変更する必要がある.最近では細菌がレンズケースに付着してバイオフィルムを形成し,バイオフィルム感染症を生じることがあると報告されている11).レンズを装用したらレンズケースの中の保存液を捨てて汚れを十分に洗浄して自然乾燥させることや,1~3カ月ごとにレンズケースを交換することを指導して,レンズケースが微生物に汚染されないようにしなければならない.IVMPSの選択MPSに求められる条件としては,高い消毒効果と洗浄効果を有すること,生体に対する安全性に優れていること,CLへの影響が少ないこと,などである.これらのバランスがよいものが第一選択となる.1.消毒効果MPSは消毒剤であることから,高い消毒効果を有することが求められる.筆者らはMPSを含む化学消毒剤の微生物に対する消毒効果の有効性を検討した.図10は塩化ポリドロニウム製剤(日本アルコン株式会社),PHMB製剤(AMOジャパン),過酸化水素製剤(AMOジャパン),ポビドンヨード製剤(株式会社オフテクス)の消毒効果を比較したものである.細菌に対してはどの消毒剤も十分な消毒効果を示したが,カンジダ,アカントアメーバ,アデノウイルスに対してはポビドンヨード製剤以外の消毒剤は十分な消毒効果を示さなかった12,13).(60)図9MPSによるアレルギー反応(文献5より)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???2.生体に対する安全性筆者らはSCLの消毒剤として使用されている消毒成分の安全性を確認するために,培養したヒト角膜上皮細胞を用いてニュートラルレッド法により評価した.すべての消毒成分が濃度依存性に細胞障害性を示していたが,製剤で使用されている濃度では過酸化水素の細胞障害率は90%以上であったのに対して,PHMB製剤は10%程度でPHMBが最も安全性が高かった(図11)14).市販SCL消毒剤の家兎角膜上皮のバリア機能を評価した実験でも,過酸化水素製剤はカルボキシルフルオレセインの取り込み量が有意に増加していたが,塩化ポリドロニウム製剤およびPHMB製剤はコントロールと差がなかった(図12)15).過酸化水素製剤は角膜上皮バリアに影響を与えるが,PHMBは影響を与えないことが(61)図10化学消毒剤の微生物に対する消毒効果(文献12,13より改変)細菌真菌アカントアメーバウイルス緑膿菌黄色ブドウ球菌セラチアフサリウムカンジダアカントアメーバアデノウイルス:ポビドンヨード製剤:過酸化水素製剤:塩化ポリドロニウム製剤:PHMB製剤543210微生物減少値(log個/m?)図11化学消毒剤のヒト角膜上皮細胞に対する影響(文献14より改変)細胞障害率(%)100806040200010201008060402000102010080604020001020(時間)(時間)(時間):0.05%(製剤配合濃度):0.005%(1/10):3%(製剤配合濃度):0.3%(1/10):0.03%(1/100):0.003%(1/1,000):0.1%(1,000倍):0.01%(100倍):0.001%(10倍):0.0001%(製剤配合濃度)ポビドンヨード過酸化水素PHMB図12家兎摘出眼球に対する化学消毒剤の角膜障害性(文献15より改変)0.040.030.020.010カルボキシフルオレセイン取り込み量(nmo?/mm2)*ポビドンヨード製剤過酸化水素製剤塩化ポリドロニウム製剤PHMB製剤コントロールn=3,平均±標準誤差4時間曝露*:Dunnett?stestp<0.05———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007示唆され,PHMBの細胞毒性は比較的軽いものと考えられる.3.CLへの影響MPSによってレンズに物理化学的な変化が生じないことは必須である.レンズの物理化学的変化はレンズの光学性の変化,フィッティングの変化,装用感の悪化,角結膜障害につながる.筆者はO2オプティクスを化学消毒剤6種(エーオーセプト?,オプティ・フリー?プラス,コンプリート?・モイストプラス,レニュー?マルチプラス,フレッシュルック?ケア,クレンサイド)で処理した後に,レンズの形状,外観,色調,直径,ベースカーブ,頂点屈折力(パワー),含水率,光線透過率(視感透過率)を測定した.各測定値は厚生労働省告示第349号(2001年10月5日)と医薬発第1097号(2001年10月5日)の基準を満たしていた16)(表4).これらの測定値以外に各種化学消毒剤のレンズ表面の沈着やレンズ内への蓄積に問題がないかなどを検証する必要があると考える.このように各MPSは,製品によって消毒効果や生体への安全性,CLの影響ならびにCLとの適合性(角膜ステイニングの発生など)に違いがある.さらに,蛋白除去などの洗浄効果や潤い効果にも違いがあるため,これらを考慮して製品を選択する必要がある.消毒効果の高いMPSは微生物に強く作用するだけでなく,正常な角膜上皮細胞にも影響を及ぼす可能性がある.頻回交換SCLのように比較的短期間で新しいレンズと交換するのであれば,消毒効果の低いMPSでも臨床上問題になることは少ないと考えるが,従来型SCLや1~3カ月間の定期交換SCLのように長期間使用するのであれば,消毒効果の高いMPSを選択したい.特に角膜感染症の既往のある人では消毒効果の高い化学消毒剤(MPDS,ポビドンヨード製剤,過酸化水素消毒剤)あるいは煮沸消毒を選択する.白内障術後の無水晶体眼で従来型SCLを使用している人に対しては煮沸消毒が第一選択である.おわりにMPSは簡便なレンズケアとして,SCL使用者に広く普及しているが,消毒効果が弱いことや,含水性SCLおよびSHCLとの組み合わせによる角膜ステイニングの発生,MPS特有のアレルギー反応などの問題がある.現在,MPSは多くの製品が販売されているが,これらの特徴を把握してCL使用者に適する製品を選択することが求められる一方,MPSの使用による眼障害を認めた場合はその原因を究明して適切な対応を図ることも求められる.Standalonetestは特定の細菌ならびに真菌,それも特定した菌株に対する消毒効果を評価したものであるため,これをクリアすればすべての細菌ならびに真菌に対して効力があるというわけではない.一次基準をクリアしたMPDSであるにもかかわらず,海外ではフザリウムによる感染を生じた例がある17,18).ウイルスやアメーバなど他の微生物に対する評価法は規定されていない6).MPSはこれらの微生物に対する消毒効果が低いので十分な消毒効果を期待するのならば他の消毒法を選択したほうがよいといえる.MPSの使用にあたってはこすり洗いの徹底とレンズケースの洗浄,乾燥,および短(62)表4O2オプティクスに対する化学消毒剤の影響1.形状,外観,色調内部に気泡,不純物または変色がなかった表面に有害な傷または凹凸がなかったエッジが角膜に障害を与えるような形状になっていなかった2.直径直径の許容差;±0.20mm内であった3.ベースカーブベースカーブの許容差;±0.20mm内であった4.頂点屈折力(パワー)頂点屈折力の許容差;±0.25D内であった5.含水率含水率の許容差;±2%(絶対値)内であった6.光線透過率(視感透過率)視感透過率の許容差;±5%(絶対値)内であった———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???期間の交換を促すことが重要である.最近のトピックスとして,SHCLとの適合性の観点から角膜ステイニングの発生のことが取り上げられているが,このステイニングがどの程度臨床上問題になるかを検討する必要がある.個人的な意見としては,臨床上大きな問題となる症例は少ないので,軽度なステイニングであれば経過をみていいのではないかと考える.それよりも重篤な角膜感染症を予防するという観点から消毒効果の高いMPSを選択することが優先される.もし中等度以上の角膜ステイニングが発生した場合に他の消毒剤に変更すればよいと考える.そして,MPSの使用者については定期検査の際に角膜ステイニングやアレルギー反応が生じていないかを注意深く観察することと,充血,異物感,眼痛などの自覚症状がある場合にはMPSの使用をやめてすぐに眼科専門医の診察を受けるように指導することが大切である.(各表中に記載した製品名は2007年4月1日現在市販されているものを列挙した.)稿を終えるにあたり,各製品の調査につきまして多大なご協力を賜りました株式会社メニコンの杉本圭司氏,酒井利江子氏に心から謝意を表します.文献1)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.????????????????31:166-174,20052)JonesL,MacDougallN,SorbaraGL:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbala?lconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyaminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.??????????????79:753-761,20023)AmosC:Performanceofanewmultipurposesolutionusedwithsiliconehydrogels.????????227:18-22,20044)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20055)植田喜一:塩化ポリドロニウム(POLYQUAD?)による角結膜障害が疑われた1例.日コレ誌42:164-166,20006)岡田正司:ソフトコンタクトレンズの消毒の評価法(スタンドアロンテスト).日コレ誌48:93-97,20067)小玉裕司:新しいマルチパーパスソリューション.あたらしい眼科22:1345-1348,20058)植田喜一:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49(2007)(印刷中)9)MiyataK,AmanoS,SawaM:Anovelgradingmethodforsuper?cialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.????????????????121:1537-1539,200310)佐野研二:FDA分類とSCLケア.日コレ誌47:284-286,200511)工藤昌之:レンズケアと感染症(バイオフィルム感染症).日コレ誌47:224-226,200512)柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:細菌・真菌に対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌47:32-36,200513)柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:アカントアメーバおよびウイルスに対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌47:37-41,200514)YanaiR,YamadaN,UedaKetal:Evaluationofpovi-done-iodineasadisinfectantsolutionforcontactlenses:antimicrobialactivityandcytotoxicityforcornealepitheli-alcells.??????????????????????29:85-91,200615)柳井亮二,植田喜一,戸村淳二ほか:家兎に対するポビドンヨード製剤の安全性.日コレ誌47:120-123,200516)植田喜一:シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズと化学消毒剤との適合性.臨眼60:707-711,200617)LevyB,HeilerD,NortonS:Reportontestingfromaninvestigationof????????keratitisincontactlenswear-ers.????????????????32:256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