———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009750910-1810/09/\100/頁/JCLSミネラルとは地球上に存在する118種類の元素のうち,水素(H),炭素(C),窒素(N),酸素(O)のように蛋白質や脂質,炭水化物の主要元素となっているものを除いた114種類の元素はミネラルとよばれる.ヒトの体も元素によって構成されており,ミネラルは生体組織の構成や生理機能の維持,調節に重要な役割を果たしている.ミネラルのうち,ヒトの体内に存在し,栄養素として欠かせないとされるものを必須ミネラルとよび,1日の摂取量がおおむね100mg以上の主要(マクロ)ミネラルとしてナトリウム(Na),マグネシウム(Mg),リン(P),硫黄(S),塩素(Cl),カリウム(K),カルシウム(Ca),1日の摂取量がおおむね100mgまでの微量(ミクロ)ミネラルとして鉄(Fe),亜鉛(Zn),銅(Cu),クロム(Cr),マンガン(Mn),コバルト(Co),セレン(Se),モリブデン(Mo),ヨウ素(I)の16種類がこれまでに知られている(表1,今後増える可能性もある).わが国の食生活はメニューも豊富であり,これまでよほどのことがなければミネラル欠乏は起こらないと考えられてきた.一方で,特異な生活習慣や,加熱するダイエットブームによる偏食などもみられるようになった.最近の国民栄養調査によるとFe,Zn,Cu,Ca,Mgが欠乏傾向にあるとされている.日本でも2001年にCaとFe,2004年にはMg,Zn,Cuのサプリメントとしての規格基準が厚生労働省から示され,一般にも入手しやすくなったが,欠乏も過剰摂取もいずれも問題となるものである.本稿では,亜鉛を中心に微量ミネラルの視覚に対する効果について述べる.必須微量ミネラル:特に亜鉛と銅について1.亜鉛(Zn)人体では鉄のつぎに多い必須微量元素である.炭酸脱水酵素,DNAポリメラーゼをはじめ300種類を超える酵素の活性に関与し,おもに酵素の構造形成および維持に必須であり,これらの酵素の生理的役割は,骨組織の成長と石灰化,免疫機構の補助,創傷治癒,精子形成,味蕾の形成・維持,糖代謝など多岐にわたる.また,強い抗酸化作用をもつ.人体に入る亜鉛はすべて食品に由来するとされる.脳(海馬),前立腺などで濃度が高く,眼球にも比較的多くの亜鉛が存在する.母乳中の亜鉛含量は初乳で最も高い.ビタミンAの活性化にも関与するため,亜鉛の欠乏により,ビタミンA欠乏症が現れ(75)サプリメントサイエンスセミナー●連載⑧監修=坪田一男8.亜鉛と微量ミネラル寺田佳子広島市立広島市民病院眼科ヒトの体内に存在し,栄養素として欠かせないとされるものを必須ミネラルとよび,1日の摂取量がおおむね100mgまでの微量(ミクロ)ミネラルとして鉄(Fe),亜鉛(Zn),銅(Cu),クロム(Cr),マンガン(Mn),コバルト(Co),セレン(Se),モリブデン(Mo),ヨウ素(I)の9種類がこれまでに知られている.米国で行われたAREDSの結果から,亜鉛と亜鉛摂取時の銅の摂取は加齢黄斑変性の進行を遅らせるというエビデンスがあり,リスクのある人には摂取が勧められる.表1必須ミネラルのいろいろ主要(マクロ)ミネラルナトリウム(Na),マグネシウム(Mg),リン(P),硫黄(S),塩素(Cl),カリウム(K),カルシウム(Ca)微量(ミクロ)ミネラル鉄(Fe),亜鉛(Zn),銅(Cu),クロム(Cr),マンガン(Mn),コバルト(Co),セレン(Se),モリブデン(Mo),ヨウ素(I)表2亜鉛含有量(可食部100g当たり)6)食品亜鉛含有量(mg)カキ13.2にぼし7.2ブタレバー(生)6.9牛肉約5ゴマ5.5玄米1.8(文献6より)———————————————————————-Page276あたらしい眼科Vol.26,No.1,2009ることがある.金属としての亜鉛は人体に有害であり,蒸気(ヒューム)を吸引することで痙攣や呼吸困難をひき起こす.カキをはじめとする魚介類,鳥獣鯨肉の内臓,ゴマ,玄米などに多く含まれる(表2).眼科領域で注目されるのはその強い抗酸化作用である.抗酸化作用を期待し,米国で行われた加齢性眼疾患についての無作為前向き多施設研究(AREDS)1)では亜鉛単体あるいは抗酸化ビタミンとの組み合わせで投与された(いずれも亜鉛80mg).平均6.3年の経過観察の結果,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)について,AMDの進行率は亜鉛単独投与群でプラセボ群に対しオッズ比0.75(99%信頼区間0.551.03),亜鉛+抗酸化剤投与群でプラセボ群に対しオッズ比0.72(99%信頼区間0.520.98)と進行予防効果が認められた.比較的軽いものには予防効果は大きくなかったが,多くのあるいは大きなdrusenが認められる眼,geographicatrophyやすでに脈絡膜新生血管(choroidalneovascu-larization:CNV)がみられる眼やその僚眼といったハイリスク群(カテゴリー3,4)で,発症予防およびさらに重症のAMDへの進行をより予防するという結果であった2).残念ながら白内障の進行予防については効果が認められなかった3).一方で,亜鉛摂取により貧血が進行するとの報告もあり,現在進行中のAREDS2では亜(76)鉛は80mg/日あるいは25mg/日の2群に振り分けられ,減量が可能かどうか検討される4).その他,亜鉛100mg/日の大量摂取を継続すると前立腺癌の発症頻度が上がるとの報告もあり5),摂取量に留意する必要がある.2.銅(Cu)おもに骨や筋肉に多く存在し,濃度が高いのは脳,肝臓,腎臓である.銅は,各種の酸化還元酵素の補因子として生理活性を示す.鉄の輸送系にも銅は必要であり,ヘモグロビンを合成するために銅は不可欠であるため,銅が欠乏することで鉄欠乏性貧血に似た病態をひき起こす(節足動物や軟体動物では,哺乳類のヘモグロビンに相当する酸素結合蛋白質であるヘモシアニンの活性中心は銅である).抗酸化にも重要な役割を果たしており,スーパーオキシドディスムターゼ,ミトコンドリアにおける呼吸鎖関連酵素のシトクロムcオキシダーゼ,コラーゲン合成に必須なモノアミンオキシダーゼやリジルオキシダーゼなどの活性中心である.遺伝的な銅の過剰症としてWilson病が知られる.比較的摂取量が多く,通常の食生活では銅が不足することはまれであるが,欠乏症では神経障害,貧血,下痢などがみられる.亜鉛の過剰摂取によって小腸で金属結合性蛋白質であるメタロチオネインが誘導され,銅がこの蛋白質と結合してしまうために銅の摂取が阻害される.これによる銅の不足を防表3日本人成人の微量ミネラル食事摂取基準(1日当たり)男性女性推定平均必要量推奨量目安量上限量推定平均必要量推奨量目安量上限量亜鉛(mg)7889306730銅(mg)0.60.8100.50.60.710鉄(mg)5.56.56.57.54555月経なし40455.05.56.06.5月経あり9.010.5セレン(μg)253030354004502025350ヨウ素(μg)951503,000951503,000クロム*(μg)2535304020252530マンガン(mg)4113.511ビタミンB12**(μg)2.02.4***2.02.4***モリブデン*(μg)20252703201520230250*クロム,モリブデンは暫定値.**コバルトの代替として抜粋した.***上限量は策定しなかったが,過剰摂取しても胃から分泌される内因子が飽和するため吸収されない.(文献7より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.1,200977(77)ぐため,AREDSでは銅が含まれる内容になった(2mg/日).AREDS2でも同量が採用されている.その他の必須微量ミネラル3.鉄(Fe)鉄はヘモグロビンの活性中心として造血機能に必須である.鉄欠乏により貧血になることは周知のとおりである.鉄剤の過剰投与ではヘモクロマトーシス/ヘモジデローシスといった組織への鉄の沈着をひき起こし,有害である.鉄はレバー,小松菜などに多く含まれるほか,鉄製の鍋を用いた調理も良いとされる.4.セレン(Se)セレンは体内で蛋白質と結合しセレノプロテインとして存在し,ビタミンEと協調して抗酸化物質として働く.中国黒竜江省では土壌に含まれるセレンが不足し,そのために克山病といわれる風土病が知られるが,一般には欠乏は非常にまれである.セレンは摂取量の安全域が狭く,過剰摂取による発癌性や催奇形性,流産の増加も指摘されており,サプリメントとして安易に接取すべきではない.5.ヨウ素(I)ヨウ素は甲状腺機能の維持に必要であるが,過剰摂取では甲状腺機能亢進症と同様の症状となるため,いわゆる甲状腺眼症の症状が現れる可能性はある.海苔やワカメといった海藻を食べる習慣のある日本では比較的欠乏しにくい.食事からのヨウ素摂取量が少ない米国などでは,食塩にヨウ素を添加したものも売られている.6.クロム(Cr)クロムは正常な糖代謝を維持するために重要かつ必須である.食品で摂取する限りは問題ないが,多量,長期摂取では変異原性となる可能性が示されている.7.マンガン(Mn)ミトコンドリア内などに存在し,抗酸化や脂質代謝などに関わる.穀類,ナッツのほか茶葉に多く含まれる.過剰摂取で中枢神経障害の可能性がある.8.コバルト(Co)コバルト化合物として重要なのはシアノコバラミン(ビタミンB12)で,コバルトの必須性はビタミンB12の必須性と考えてよい.コバルト単体またはコバルトイオンとしての体内での働きは不明であり,単独での欠乏症はないとされる.9.モリブデン(Mo)酸化還元反応を触媒するモリブデン酵素の構成成分として必須である.大量摂取で血中尿酸値の上昇をひき起こす.貧血予防の観点から,若年女性などでは鉄の摂取は以前から推奨されてきた.その他,亜鉛と亜鉛摂取時の銅以外の微量ミネラルについて,「眼に良い」という信頼できるエビデンスを備えた報告はまだない.また,いずれの微量ミネラルも,通常欠乏はまれであり,過剰摂取となったときの有害性があることから,亜鉛と亜鉛摂取時の銅,鉄以外の安易な摂取は勧められない.文献1)TheAge-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:“TheAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS):DesignimplicationsAREDSreportno.1”.ControlClinTrials20:573-600,19992)TheAge-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20013)TheAge-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:TheAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)systemforclassifyingcataractsfromphotographs:AREDSreportno.4.AmJOphthalmol131:167-175,20014)EmilyChew,MDNationalEyeInstitute(NEI)DivisionofEpidemiologyandClinicalResearchClinicalTrialsBranch.AGE-RELATEDEYEDISEASESTUDY2PROTOCOLAge-RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2):AMulti-center,RandomizedTrialofLutein,Zeaxanthin,andOmega-3Long-ChainPolyunsaturatedFattyAcids(Doco-sahexaenoicAcid[DHA]andEicosapentaenoicAcid[EPA])inAge-RelatedMacularDegenerationIND#74,781.Version5.1,3December20075)LeitzmannMF,StampferMJ,WuKetal:Zincsupple-mentuseandriskofprostatecancer.JNatlCancerInst95:1004-1007,20036)食品成分研究調査会編:五訂日本食品成分表.医歯薬出版,20027)「日本人の栄養所要量─食事摂取基準─策定検討会」(座長:田中平三独立行政法人国立健康・栄養研究所理事長).「日本人の食事摂取基準(2005年版)」.厚生労働省ホームページより<参考図書>1)吉川敏一,桜井弘:サプリメントデータブック,オーム社,20062)坪田一男(編):眼科プラクティス22,抗加齢眼科学,文光堂,2008