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後期臨床研修医日記2.

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS慶應義塾大学医学部眼科学教室では,この4月に後期研修医12名が眼科医としての第一歩を踏み出しました.ごきげん教授として有名な坪田一男先生の指導の下,多忙ながらも充実した研修生活を送っています.今回はそんな私たち後期研修医の一日を追いながら,慶大眼科の後期研修プログラムを紹介したいと思います.眼科の朝は早い!起床時間の平均は6時半くらいでしょうか(女性研修医は化粧の時間を考慮してマイナス30分!?).手術件数が多かった日の翌日は起床時間が5時台に突入してしまうこともあります.病棟では8時から朝食が開始となるため,それまでに担当患者の診察を終えておく必要があり,朝はどうしても早起きにならざるを得ません.たまにはゆっくり朝寝坊したいなあ,と思ってしまうこともありますが,そこは若さと根性でなんとか乗り切っています!朝のラッシュアワーラッシュといっても東京名物の満員電車ではなく(実際ほとんどの研修医が病院から徒歩圏内に住んでいます),朝の眼科診察室でのことです.患者さんの朝食までに診察を終えなければいけないのは皆共通なのですが,できれば5分でも長く布団の中にいたいという気持ちもまた同じです.その結果研修医の出勤時間は見事に重なってしまい,朝の診察室は大混雑となります.5台あるスリット台が常にフル稼働で,さらに台が空くのを数人が待ち構えているという状態です.眼科病棟は朝からにぎやかです.朝の定例勉強会研修医は8時までに受け持ち患者の診察を終えますが,8時から外来開始までの時間を利用し朝の定例勉強会が行われています.これは各専門外来の医師によって行われる約30分間の講義のことです.講義内容の一例としては「視野検査の原理と解釈」,「双眼倒像鏡の構造と使用方法」など,実践ですぐに役に立つ知識や技術に加え,各分野での最新トピックなども盛り込まれています.この勉強会は週に3回行われていますが,勉強会がない日は朝の全体カンファランスがあるため,研修医に朝をのんびり過ごす暇はありません!研修医とオーベン慶大眼科では,研修開始の最初の2カ月はオーベンとよばれる2年目の後期研修医とペアを組んで診療を行っています.研修医は出勤から帰宅まで常にオーベンと一緒に行動するため,オーベンとはまさに寝食をともにする関係であり,非常に強い絆で結ばれています.眼科の基本的知識や技術,病棟業務などはすべてオーベンから教わるといっても過言ではありません.来年の今頃は自分もオーベンとして後輩の指導を行っているはずなのですが,自分が教えている姿は現時点ではまったく想像がつきません….(65)後期臨床研修医日記●シリーズ②慶應義塾大学医学部眼科学教室伴紀充▲朝の定例勉強会———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007手術・外来日中の業務はおもに担当患者の手術の助手,もしくは外来の手伝いです.手術室ではオーベンの下で第二助手として手術を支えるはずなのですが,多くの場合は支えるどころか完全に足を引っ張っています.眼科の手術器具は一度に覚えるには数が多すぎて(そして名前がとってもユニーク!),すでに頭はパニックです.オーベンの力を借りてようやく道具を並べたところで,術者から一言「□@?☆出しといて.」…それは一体何ですか?薬の名前でしょうか?それとも器具の名前でしょうか?もし器具だとしたらそれはどのような器具なのでしょうか?ってモタモタしているうちに術者が自分で用意しちゃったよ.なんだか自分がいないほうが物事がスムーズに進むような気がします,本当に.教育講演とiPod夕方には外部講師による特別講演も多数組まれており,徹底的に眼科知識の基礎固めをします.また,毎週1回は研究を中心とした講演会もあり,教室をあげて取り組んでいる抗加齢医学に関する最新の研究についての講演を多数聴くことができます.臨床のみならず研究にも触れることができるのは大学の良いところでしょう.ただし,少々オーバーワーク気味の研修医はこの頃になると椅子に座ったとたんに睡魔が襲ってくるため,一人また一人と夢の世界へと旅立っていきます.また,外勤などでどうしても講義に参加できない人もいます.そのために朝の勉強会を含めたすべての講義はビデオ撮影されており,その映像をダウンロードしてiPodで見ることができます.なんと,このiPodはオリエンテーション初日に坪田教授から後期研修医全員にプレゼントされたものなのです!坪田教授には本当に感謝ですが,IT技術の進歩にも頭が下がります.本当に便利な世の中になりました.夜の病棟にて病院には怖いうわさ話がつきものですが,4月の眼科病棟では夜の診察室から何やらあやしい物音が聞こえるという噂が.いいえ,噂じゃありません.消灯後真っ暗な診察室を覗いてみると,そこには多数の人影が….そう,それはお互いに診察練習をする研修医でした.日中の激務を終え気付けばもう消灯時間のため,夜の診察室で黙々と診察の練習です.当然ながらお互いに診察技術は未熟であるため,眼圧を測定すればチップが角膜にめり込むし,散瞳して眼底検査をすればやたらまぶしいだけでちっとも眼底は見えません.そして日付が替わろうとする頃にようやく研修医の長い一日が終わります.傷ついた角膜と開いた瞳孔は今日一日がんばった証.明日も朝は早いぞ,がんばろう!オーベンからの独立,そして今後の研修プログラム4月から手取り足取り指導してくれたオーベンもいつまでも私たちについてくれるわけではありません.オーベンは次々と関連病院へ出張となるため,独立の時が刻一刻と迫ります.この緊張感でとても胃が痛みますが,自分で考え行動するために必要なのはやはり日々の勉強であり,独立へ向け現在奮闘中です.また,後期研修プログラムはようやく2年目を迎えた(66)▲夜の病棟で診察練習▲歩きながらiPodで勉強する筆者———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????ばかりで,まだまだ改善すべき点がたくさんあります.定期的に開催されるプログレスミーティングでは,研修の進行状況の確認と今後の研修プログラムについて,坪田教授を囲んでざっくばらんに議論をします(もちろんおいしいシャンパンを飲みながら!).忙しい毎日ですが,こういった“ごきげんイベント”が多いのも慶大眼科の特徴です.おわりに後期研修医の一日を追いながら,慶大眼科の後期研修プログラムについて紹介しました.研修開始から毎日があっというまに過ぎてしまいますが,12名で協力しながら一流の眼科医を目指して努力していきます.(67)☆☆☆?プロフィール?伴紀充(ばんのりみつ)平成17年慶應義塾大学医学部卒業,北海道北見赤十字病院にて初期臨床研修,平成19年4月より慶應義塾大学医学部眼科学教室後期研修医.教授からのメッセージ「ごきげんな研修医生活」研修時代は本当に大変です.覚えることはたくさんあるし,仕事も忙しい.僕も毎日,眠い目をこすりながら跳ね起きて病院に出かけたのを覚えています.でも,研修時代に習得した知識,経験は貴重.今ではよい思い出です.忙しくても毎日1時間はテキストを読む習慣をつけることを僕たちの時代は皆でやっていました.特に寝る前の学習は記憶に刻まれて効果的という脳の研究の報告を最近知って,今はさっそくこの方法でお勉強しています.スタートしたばかりの研修制度なので,改善すべき点も多々あると思うので,皆といっしょに新しい合理的で快適な研修システムをつくっていければうれしく思います.気づいたことがあったらぜひフィードバックしてください.とにかく貪欲に吸収してほしい.「ごきげんな研修医生活」の鍵は,自らのその貪欲さにあると僕は思います.慶應義塾大学医学部眼科・教授坪田一男

私が思うこと7. ほめて育てる

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????私が思うこと●シリーズ⑦(61)最近の子供を取り巻く環境は厳しく,小中学生の自殺や家庭内での事件など心を痛めるニュースばかりが取り沙汰されています.私も,眼科医である夫との間に小学5年生の息子がおり,「医師家庭での悲劇」などという週刊誌の見出しは他人事ではありません.人間関係が希薄になる一方で,受験競争は激しさを増し,他人からの評価は成績などわかりやすい数値によるものになりがちです.成績が下がったり友達から仲間はずれにされたりすると,自分には生きている価値がないという気持ちになってしまい,始まったばかりの人生を放棄してしまう子供がいるのです.このような子供たちには「自己肯定感がもてない」という共通点が見られるそうです.すなわち「自分はありのままの存在として素晴らしい,周りの人から愛され,認められている」という気持ちをもてない子供が多いということなのです.*今回タイトルに選んだ“ほめて育てる”は,恥ずかしながらわが家の教育方針です.生後7週目から保育園とお年寄りに育てられ,3歳から5歳の子供時代にドイツの強烈な異文化の洗礼を受けた息子は,超・日本人的な(脱・日本人か?),いわゆる“おりこうさん”の対極にある,変わった子供に育ちました.平凡な両親の理解を超えた個性的な性格に,どのように育てればこの個性をよい方向に伸ばせるだろうか,と夫婦で相談して教育方針を決めたのは,まだ子供が小さいころでした.それ以来,独創性があって常識にとらわれず,臆せずに友達の輪に入っていける積極性を,ただひたすらにほめ続けることにしました.ドイツから帰って日本の小学校に入学してからは,何度も先生をびっくりさせる珍事件を起こしました.1年生の1学期,3時間目が始まるチャイムがなっても2人の子供が教室に帰ってきません.不審者に誘拐されたか,あるいは遊んでいて池に落ちたか,と先生方は授業を自習にして必死に捜索してくださいました.すると4時間目のチャイムがなったとき,「してやったり」という顔で得意そうに教室へ帰ってきたというのです.なんと,いつも休憩時間に校庭で遊んでいて,教室に帰ってくるのが遅いと先生に叱られるので,ならば授業の間トイレに隠れていて次のチャイムで教室に入ればバレないだろう,と考えたというのです.100人の大学の講義室ならまだしも,25人しかいない小学1年生の教室ではごまかせるわけもなく,直ちに御用!となって職員室でお叱りをうけました.もちろん私も呼び出されたことは言うまでもありません.迎えに行ったときの,作戦失敗…というがっかりした顔がおかしくて,思わず笑ってしまいました.私自身は,親にあまり心配をかけないまじめな子供でしたので,わが子が引き起こす想像を超えた珍事件の0910-1810/07/\100/頁/JCLS小泉範子(??????????????)同志社大学研究開発推進機構再生医療研究センター1969年大阪府生まれ.専門は角膜の再生医療であるが,ヘルペス感染症とぶどう膜炎も好き.昨年結婚10周年を機に,夫と共通の趣味をもとうとレスポール(エレキギター)を購入するも,3日で投げ出す努力の続かない性格.「お母さんの得意料理は卵かけごはん」と子供が作文に書いたほどの料理上手?(本当はもう少し上手).(小泉)ほめて育てる▲AmericanAcademyofOphthalmologyにて医局の先生方と(1998年/ニューオリンズ)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007数々にとても不安になっていました.そんな私を力づけてくださったのが「この子は植物の球根です.芽が出る時期が来るまでは,いくら水や肥料をやっても腐らせるだけです.お母さん,芽の出る時を待ちましょう.」という1年生の担任の先生の言葉でした.その先生のお蔭であせらずに子供を見守ることができたように思います.周りの子供と比較して,できないことばかりを叱っていたら,自分に自信をもてない卑屈な子供になっていたかもしれませんが,幸い今のところ元気いっぱいに成長しています.つい怒りたくなるようなひどい成績表をもって帰り,ほめるところを探すのに苦労することもありますが,ほめられたときの嬉しそうな表情は,まだまだ子供だなあ,ほめられると嬉しいのだなあ,と思います.いつの日か大きな花を咲かせる日を楽しみに,あとわずかな子供時代を見守っていたいと思います.*“ほめて育てる”といえば,私自身もほめられてここまできたことに気づきました.私をほめてくださったのは,恩師の木下茂先生(京都府立医科大学教授)です.研修医の頃の私は体力がないうえに緊張症で,いろんな失敗をやらかしながら研修をしていたのですが,落ち込みそうになると,木下教授はいつも絶妙のタイミングで小さいことをほめてくださっていたのです.「こつこつ努力をするタイプだから,きっと小泉さんには研究とか教育が向いているよ」と暗示にかけるように言われ続けてきたことが,今の仕事にもつながっているのだと思います.木下教授は,見かけのイメージとは違うのですが(木下先生,ごめんなさい),実は医局員一人一人の精神状態,たとえば元気に働いているか,楽しそうに働いているかということにも大変細やかな心配りをされていることに,自分が人に指導する立場になった現在,ようやく気づきました.医師を取り巻く環境も最近は厳しくなっており,医師不足は眼科においても重大な問題となっています.医師不足を解決する手段の一つが,女性医師が仕事を続けやすくする環境を整えることだといわれており,産休・育休のシステムや保育園や病時保育の整備など,さまざまな試みがなされていることは素晴らしいことです.しかし現実には,環境を整えるだけでは十分ではなく,実家が遠いとかご主人の理解が得られないなど,まだまだ女性医師の職場復帰を妨げるハードルがいっぱいです.そのような困難に直面したときに,それでも仕事を続けようと思うか,やめてしまおうと思うかというところは,最終的には本人の仕事に対する執着心ではないかと思います.個々の状況は色々で,それらを一挙に解決するマジックはありませんが,一つだけどんな人にもある程度の効果のある方法があるとすれば,やはり“ほめて育てる”ことではないでしょうか.周りの上司や先輩から優れた点をほめられて,職場に必要な人材であることを伝えられたら,自分は職場や患者さんから必要とされている,自分にしかできない活躍を期待されている,という気持ちが励みになるに違いありません.仕事も子育てもまず10年,そこまで続けば眼科医としての実力もそれなりについているでしょうし,仕事を続けてきたことに対する自負心もできていますので,辞めるのはもったいないということに気づくはずです.最初の何年間かは,体力的につらくても経済的にメリットがなくても(子育ての最初の数年間は,自分の収入を超えるベビーシッター代がかかるということはよくあります),将来の自分への投資と割り切って仕事へのモチベーションを保ち続けることができれば,いつか子供と仕事,一生の宝物を両方手に入れることができるはずです.*私は眼科医として14年間働いてきましたが,入局したときには子供を育てることなど考えておらず,医局の先生方にも大変ご迷惑をかけながら,木下教授に「できる,できる」とおだてられながら何とか仕事を継続してきました.ブタもおだてりゃ木に登る,です.家族には「おだてられて木に登っているうちに,木登りもうまくなった」と笑われています.研究も大好きですが,臨床(62)▲球根くんが5歳のころ(2002年/ドイツの英国人学校にて)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????の現場も楽しくて,いつまでも眼科医として患者さんと接していたいと思っています.来年からは勤務する大学にできる新しい学部の教員となる予定で,生命医科学の研究者や技術者を目指す大学生,大学院生の教育に関わることになりました.これからは私が先輩方にお世話になった恩返しを,次の世代の人たちへの教育という形で返して行きたいと思います.講義や研究指導,就職指導など,私にできるのかと不安になることもあるのですが,悩んでいるときにやはり私の恩師は言いました.「小泉さんには向いているよー,すべてがいいほうに回っているね」(そうかしら,私には先生が向いているのかも.誰もやってないことだし楽しそう!)またしても,おだてられて新しい木に登ろうとしている私でした.小泉範子(こいずみ・のりこ)1994年京都府立医科大学卒業,眼科学教室入局2000年京都府立医科大学大学院修了,眼科修練医2000年ドイツケルン大学留学(フンボルト財団研究員,眼科研究員)2003年~現在同志社大学研究開発推進機構再生医療研究センター准教授2007年~現在京都府立医科大学客員講師☆☆☆(63)眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

硝子体手術のワンポイントアドバイス53.網膜下出血を伴う糖尿病牽引性網膜剥離に対する硝子体手術(中級編)

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに増殖糖尿病網膜症では,後部硝子体?離の牽引により新生血管から破綻性の出血が網膜前あるいは硝子体腔内に生じるが,高度の牽引性網膜?離を併発した症例では,網膜下にも出血を認めることがある.陳旧性の牽引性網膜?離例あるいは裂孔併発型牽引性網膜?離例では,内部排液の際に多量の出血やghostcellが意図的裂孔を介して吸引されることがある.●網膜下出血の原因このような糖尿病牽引性網膜?離に伴う網膜下出血の出血源に関しては不明な点が多いが,筆者らは過去に,網膜下出血を伴う増殖糖尿病網膜症の11例11眼に対して硝子体手術を施行し,その臨床的特徴を検討した1).その結果,全例とも,増殖膜が視神経乳頭上あるいはその近傍に存在し,視神経乳頭周囲の網膜を前方に向かって高度に牽引していた.また,網膜下出血は,視神経乳頭に連続する形で?離網膜下に存在していた.よって網膜下出血は,乳頭上増殖膜による前方への牽引により,乳頭周囲の血管(おもに短後毛様動脈の分枝)が破綻することにより生じるのではないかと推察した.●網膜下出血を伴う糖尿病牽引性網膜?離に対する硝子体手術のポイント一般に網膜下出血をきたす糖尿病牽引性網膜?離例は,視神経乳頭周囲の増殖膜に働く牽引は強いが,周辺部は後部硝子体?離が生じていることが多いので,手術の難易度は見かけほど高くない.出血が多量に存在する症例では,意図的裂孔から網膜下液を吸引する際に,可能なかぎり出血も除去しておく.通常,糖尿病牽引性網膜?離の網膜下液は粘稠なので,出血は網膜下液とともに排出されることが多い.なお,この操作は眼内液?空気同時置換術を施行する前,すなわち灌流液下で必ず施行しておく必要がある.(59)文献1)大内雅之,安原徹,小泉閑ほか:網膜下出血を伴う増殖糖尿病網膜症の臨床的特徴.眼紀49:592-596,1998硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?53網膜下出血を伴う糖尿病牽引性網膜?離に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1網膜下出血を伴う糖尿病牽引性網膜?離例a:術前の眼底所見.黄斑部に牽引性網膜?離を認め,網膜下出血は視神経乳頭から耳側血管アーケード内に裾広がりに貯留している.矯正視力は0.02.b:硝子体手術後1カ月の眼底所見.網膜下出血は視神経乳頭上方と下方の血管アーケード周囲に一部残存するも大半は吸収され,網膜は復位している.矯正視力は0.1.ab図2網膜下出血か生じる原因網膜下出血は視神経乳頭上の増殖膜による前方への牽引により,乳頭周囲の血管(矢印)が破綻するため生じるのではないかと考えられる.

眼科医のための先端医療82.網膜細胞を増やす!

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS中枢神経のなかで再生が起こる場所最近は大人になっても脳の細胞が新しく生まれていることが知られています.といっても,記憶に関与するといわれる海馬と,鼻の感覚神経を生み出す脳室下帯では常に再生していることが知られていますが,その他の領域で神経が新生するかどうかは議論のあるところです.虚血などの障害後に大脳皮質などでも神経が新生するという報告1)もありますが,新生しないという意見も根強くあります.網膜では神経細胞の新生があるのか筆者らは,中枢神経の一部である網膜を対象に,傷害後に神経が新生するかどうかを確認しました.傷害後にミュラー(M?ller)細胞が分裂を始めるのですが,数日後にはミュラー細胞の存在する内顆粒層にあった分裂細胞が徐々に外顆粒層あるいは内網状層に移動していくことを観察しました.さらに外顆粒層に移動した分裂細胞,すなわち新しく生まれた細胞のなかには,視細胞特有の蛋白質であるロドプシンを発現する細胞があることがわかりました.つまり,もともとミュラー細胞であったものが,分裂して新しい視細胞を生み出したことになります2)(図1).網膜神経新生を促進することができるのかしかし,新生する視細胞の数はわずかで,顕微鏡の1視野に数個という量でした.傷害後の視機能を再生させるためには足りませんので,これを増やすために幹細胞の増殖因子であるWnt蛋白に着目しました.Wntは造血系の幹細胞を増殖させたり,網膜の発生過程でも毛様体辺縁部に存在する網膜幹細胞を増殖させる働きをもっています.そこで,網膜をそのまま取り出し(器官培養),培養液中にWnt3aを添加してみますと,前記のミュラー細胞の分裂が20倍以上に増幅され,生まれる視細胞も格段に多くなりました3).これは,中枢神経における傷害後の神経細胞新生促進の初めての例です.新生した視細胞が双極細胞とシナプスを形成すれば,視機能の回復,保持に寄与する可能性があります.海馬では,新生した細胞は神経回路網に組み込まれ機能することが証明されていますので,網膜でも薬物による網膜機能回復促進の可能性があります.つまり,網膜傷害後,硝子体中にWnt3aを投与すれば網膜の修復機構で少量再生される視細胞を大量に増やして機能回復を促進することができるかもしれないということです.ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針上記は内在性幹細胞による網膜再生ですが,細胞移植に関しては,昨年9月に厚生労働省から示された「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」が施行され,それまでにすでに行われている以外の新たに計画された臨床研究,あるいはすでに行われている細胞移植でも変更がある場合はこの指針に従うこととなりました.指針では,研究の体制,細胞の採取,調整時の安全対策,品質管理,移植時の安全対策などが定められており,細胞調整は薬剤と同様にGMP(goodmanufacturingpractice)基準のCPC(cellprocessingcenter)に準ずる施設で行うように規定されています.臨床研究の計画は,所属機関の倫理委員会の認可のもと,厚生科学審議会で検討され,その審議を踏まえた厚生労働大臣の承認が必要です.胎児細胞を用いた研究にはこの指針は適応されず,実質日本では胎児細胞を用いた臨床研究はできないのが現状です.現在申請されている臨床研究は骨髄細胞を用いた自家移植が大半です.(55)◆シリーズ第82回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊高橋政代(理化学研究所神戸研究所発生・再生科学研究センター/神戸市立医療センター中央市民病院眼科)網膜細胞を増やす!図1網膜傷害時のミュラー細胞からの視細胞新生の模式図分裂ミュラー細胞移動視細胞新生内顆粒層外顆粒層Nestin+Pax6+Rhodopsin+Recoverin+———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007実際に行われている細胞移植指針施行以前から行われている細胞移植としては,皮膚移植,角膜上皮細胞移植,膵島移植(糖尿病),骨髄由来各種幹細胞移植(下肢虚血や心筋梗塞,歯・骨・軟骨疾患),数例の骨格筋芽細胞の心筋移植があります.効果はまだ不明ですが,脳梗塞や脊髄損傷に対して骨髄間質細胞移植が,脊髄損傷に関しては鼻粘膜細胞の移植も日本で行われています.(輸血も広義の細胞移植であり,血液疾患に対する造血幹細胞移植も早くから行われています.)また,日本では行われていませんが,海外ではパーキンソン(Parkinson)病や脊髄損傷,そして網膜色素変性や加齢黄斑変性に対して胎児細胞移植が行われています.脊髄損傷に対しては,血液中のマクロファージ細胞移植も行われています.つぎに控える細胞移植このように,皮膚,角膜,血管,骨・軟骨のつぎに神経が対象となってきており,特にパーキンソン病の胎児細胞移植はランドマイズ研究で有効性が確認されています.ただし,高齢者のパーキンソン病には効果が出にくいなど,対象疾患の病期や状態に大きく左右されますので,効果判定には慎重な臨床研究が必要と思われます.神経がつぎの候補としてあげられる理由の一つにES細胞から神経が分化しやすいということがあります.膵臓や肝臓などの内胚葉系細胞はES細胞から分化させるのがむずかしいので,大量の移植細胞確保の目処が立っていません.それに対し,ヒトES細胞からパーキンソン病の治療に使用されるドーパミン細胞や網膜前駆細胞は大量に得られます.また,中枢神経は免疫租界なので拒絶反応が比較的少ないと考えられており,他家移植であるES細胞由来細胞の移植も行いやすいということがあります.現在,骨髄細胞移植につぐ移植細胞源であるES細胞由来細胞の移植に向けての準備が海外でも日本でも着々と進められており,脊髄損傷に対するヒトES細胞由来神経幹細胞移植はアメリカで近々行われる予定です.次世代の細胞移植源最近,京都大学再生医科学研究所の山中らが,皮下の線維芽細胞に4種類の遺伝子を導入することでES細胞に酷似した性質をもつiPS(inducedpluripotentstemcells)細胞の作製に成功しました4).これは早くも世界中でノーベル賞が噂されるほどの画期的な成果で,クローンES細胞を作製せずとも患者本人の細胞からES細胞同様のあらゆる細胞になる細胞源がつくれるのです.ES細胞から分化させるのと同じようにiPS細胞から視細胞を分化させることができれば,拒絶反応のない移植細胞源ができます.遺伝子導入による腫瘍化の問題などが残っていますが,免疫抑制剤不要の移植治療は患者さんにどれだけ福音となるか計り知れません.文献1)NakatomiH,KuriuT,OkabeSetal:Regenerationofhip-pocampalpyramidalneuronsafterischemicbraininjurybyrecruitmentofendogenousneuralprogenitors.????110:429-441,20022)OotoS,AkagiT,KageyamaRetal:Potentialforneuralregenerationafterneurotoxicinjuryintheadultmamma-lianretina.??????????????????????101:13654-13659,20043)OsakadaF,OotoS,AkagiTetal:Wntsignalingpro-motesregenerationintheretinaofadultmammals.???????????27:4210-4219,20074)OkitaK,IchisakaT,YamanakaS:Generationofgerm-line-competentinducedpluripotentstemcells.??????448:313-317,2007(56)■「網膜細胞を増やす!」を読んで■今回は理化学研究所/神戸市立医療センター中央市民病院の高橋政代先生に網膜を中心に再生医療の高度で最先端の成果をとてもわかりやすく解説していただきました.われわれ眼科医にとっての泣きどころは,網膜が再生しないため,糖尿病網膜症や緑内障で網膜細胞障害の原因を取り除く,または病態を落ち着かせることができても一度破壊された網膜のため視力の回復につながらないということです.この問題に解決の方向を見だされた高橋先生はこの分野のパイオニアで,網膜は中枢神経だから新しく生まれ変わることはありえないと考えていた迂闊な私にとって高橋先生の一連のお仕事はきわめて衝撃的なものでした.サイエ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????(57)☆☆☆ンスの進歩というのは自ら制限をしてできないと思ってはいけないのだという,いわばサイエンスのフィロソフィーをもういちど思い起こさせたお仕事です.ES細胞に代表される多分化能をもった細胞の開発においては社会的な面,倫理的な面が今後も大きな問題になると考えます.韓国ソウル大学の黄教授(当時)がヒトクローン胚を始めてつくることに成功したという報告が研究方法の面,実際の科学的な検証からの面で問題があり,最終的には論文の捏造という不幸な形となったことは皆さんの記憶に新しいことと思います.人類の幸福のために行う科学研究では激烈な競争があり,ともするとこれが研究の本質をゆがめてしまう可能性があります.たとえきちんとした研究がなされても高橋先生の総説中にあるように国によってはかなり慎重な態度で再生医療の研究方法に制限をつけている段階ですので,ひとつの大きな不祥事で研究全体に対する社会の支持を一挙に失う可能性すらあります.再生医療の基本となるES細胞の作製には先陣争いでのいろいろな苦い経験をした人類が,京都大学山中伸弥教授のES細胞に酷似した性質をもつiPS(inducedpluripotentstemcells)細胞(本文参照)の開発にたどり着いたことは,ES細胞の開発には受精卵またはその発生の進んだ初期胚を用いる必要があるという倫理的に大変な慎重さを要求される研究手法から一気に開放されるすばらしい業績で,高橋先生が「これは早くも世界中でノーベル賞が噂されるほどの画期的な成果」と絶賛される意味がわかります.このような研究成果が日本から発信されたことは大変誇らしく思います.また,高橋先生は網膜の再生の研究では日本を代表し,世界の最先端におられますが,このような研究者が眼科臨床の現場から生まれて眼疾患に悩む患者さんのために研究をしておられることに同じ眼科医として大変誇らしく思います.山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野山下英俊

新しい治療と検査シリーズ175.Brilliant Blue G(BBG)による内境界膜染色

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLSm?以下の濃度であれば,明らかな網膜における組織障害を認めなかった3).さらに角膜内皮細胞に対してもその安全性を証明した4).さらに,ヒトでの手術を想定し,カニクイザルを用い実際に硝子体手術を施行し,BBGでの内境界膜染色と?離を行った.術後,眼底および蛍光眼底造影での経過観察を行ったが,網膜変性などの重篤な合併症は認めなかった2).?BBGを用いた内境界膜?離の使用法と注意点筆者らは九州大学におけるBBG使用の臨床研究の承認の後,現在患者に十分なインフォームド・コンセントを得た後,アジュバントとして手術に使用している.新しい治療と検査シリーズ(53)?バックグラウンド眼科手術に際し,各種薬剤を手術補助剤(アジュバント)として用いた術中眼内染色は,元来手術中に見えなかった組織を可視化することで,より確実かつ安全な手術の実施が可能になり,手術成績の大幅な向上にも寄与している.現在内境界膜における術中染色にはおもにインドシアニングリーン(ICG)とトリパンブルー(TB)が用いられているが,近年それらの網膜に対する組織障害の報告が相次いでいる.またトリアムシノロンアセトニド(TA)も内境界膜?離に用いられるが,手技的に若干の慣れが必要であり,内境界膜の視認性ではICGに劣る.かつて筆者らもICGの網膜毒性の可能性の報告1)を行っておきながら,実際は当時術中に使用しているという矛盾に,なんとかして解決策を見いだそうとしていた.したがって,内境界膜の十分な染色性を有する安全性の高いアジュバントの開発と臨床応用は,この分野における重要な課題であった.?新しい手術アジュバントの安全性評価筆者らは,新しい内境界膜染色のための色素の有力な候補としてBrilliantBlueG(BBG)を見いだした.BBGを実際の手術アジュバントとして用いる臨床試験に先立ち,安全性の評価のため実験動物を用いた非臨床試験を実施した.まず,網膜に対する影響を検討するため,さまざまな濃度のBBGをラットの硝子体腔に注入し留置後に電気生理学的,さらに眼球を摘出し組織学的な検討を行った.組織学的には高濃度(10mg/m?)のBBG注入群でも,明らかな網膜障害を示唆する所見は認めなかった.また網膜電図(ERG)の観察でも振幅の低下は生じなかった2).また,誤って網膜下に迷入した場合を想定し,ラット網膜下にBBGを注入したが,その結果0.25mg/175.BrilliantBlueG(BBG)による内境界膜染色プレゼンテーション:江内田寛1,2)石橋達朗1)1)九州大学大学院医学研究院眼科学分野/2)国立病院機構九州医療センター眼科コメント:山本禎子山形大学医学部附属病院眼細胞工学講座図1BBGを用いた内境界膜?離黄斑円孔症例において,BBGによる内境界膜染色後に,鉗子を用いて内境界膜を?離する(a).染色された領域と?離部の境界は明瞭に区別される(b).黄斑上膜症例での使用では,BBGを注入しても,黄斑上膜の明らかな染色は認めない.黄斑上膜を?離(c)の後,再度BBGを注入すると,残存している内境界膜は鮮明に染色され,その?離も容易に行える(d).abcd———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007実際の硝子体手術では,人工的後部硝子体?離を作製の後,0.25mg/m?に調整したBBG溶液を0.5m?ほど硝子体腔に注入し,すぐに眼内灌流液で洗浄を行う.内境界膜は明瞭に青色に染色され,鉗子を用いた?離も容易に行える(図1a,b).染色に際しTBで行う液?空気置換などの煩雑な手技も必要でない.眼内での染色の特徴として,内境界膜についてはきわめて良好な染色性を示し,ICGと同様に黄斑上膜や残存硝子体などについては染色を認めない(図1b,c).現在筆者らが使用しているBBG溶液の性状は調整後でpHおよび浸透圧も眼内灌流液と同等である2).有害事象については,これまで実施し報告した症例(黄斑円孔と黄斑上膜での成績)について,6カ月以上の術後経過を観察した限りでは,薬剤によると考えられるいかなる合併症や副作用も認めておらず,高い眼内での安全性と,臨床使用における有効性が証明されている5).BBGはこれまでおもに生化学や分子生物学の分野において,電気泳動の際のゲル内の蛋白染色に用いられていた色素である.言うまでもなく,ヒトに対する安全性については十分に確立されているものではない.使用に際しては,所属機関の倫理委員会の承認と患者に対する十分なインフォームド・コンセントが必要である.文献1)EnaidaH,SakamotoT,HisatomiTetal:Morphologicalandfunctionaldamageoftheretinacausedbyintravitre-ousindocyaninegreeninrateyes.????????????????????????????????240:209-213,20022)EnaidaH,HisatomiT,GotoYetal:Preclinicalinvestiga-tionofinternallimitingmembranepeelingandstainingusingintravitrealBrilliantBlueG.??????26:623-630,20063)UenoA,HisatomiT,EnaidaHetal:BiocompatibilityofBrilliantBlueGinaratmodelofsubretinalinjection.???????27:499-504,20064)HisatomiT,EnaidaH,MatsumotoHetal:Thebiocom-patibilityofBrilliantBlueG:PreclinicalStudyofBrilliantBlueGasanajunctforcapsularstaining.????????????????124:514-519,20065)EnaidaH,HisatomiT,HataYetal:BrilliantblueGselec-tivelystainstheinternallimitingmembrane/BrilliantBlueG-assistedmembranepeeling.??????26:631-636,2006(54)?本方法に対するコメント?内境界膜を?離する際に用いられる手術補助剤は,現在,トリアムシノロンアセトニド(TA),インドシアニングリーン(ICG)やトリパンブルーなどが代表的である.TAは染色による組織毒性はないが,所詮は内境界膜の上に乗っているだけなので途中で内境界膜の?離断端を見失ってしまうことがある.ICGやトリパンブルーは網膜毒性が報告されており,その濃度や照明光の曝露時間に注意を要する.本報告に用いられている0.25mg/m?のBrilliantBlueG(BBG)はICGの0.125%に類似した染色程度で,内境界膜の一部が切開されると境界部分がより明瞭になるので,内境界膜の?離操作に非常に有用である.ただし,多くの染色剤が濃度および曝露時間依存性に網膜障害を生じるので,今後も引き続いて本剤の安全性についての検討を行っていただきたい.☆☆☆

眼感染症:多剤耐性淋菌

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS淋菌(?????????????????????)は性行為感染症(sexu-allytransmitteddiseases)の代表的な起因菌である.淋菌感染症は2002年をピークとして減少傾向となっているものの現在も性器クラミジア感染症についで発生頻度の高い性感染症である1).淋菌による眼感染症としては膿漏眼といわれる結膜炎がよく知られており,その多くは産道感染による新生児結膜炎や淋菌性尿道炎,子宮頸管炎を有する成人例での報告であったが,近年では小児例の報告もみられている2,3).淋菌性結膜炎は診断・治療が遅れると角膜潰瘍や角膜穿孔から失明といった重篤な合併症をきたす可能性があるといわれている4).近年,キノロン系薬耐性をはじめとした多剤耐性淋菌が増加しており,適切な抗菌薬の選択が必要である.■塗抹鏡検での見方とコツ淋菌性結膜炎では,膿性眼脂を認めることが多いためにグラム染色で好中球に貪食されたグラム陰性双球菌を確認できれば淋菌を推定することが可能である(図1).しかし,検体採取時に皮膚常在菌の混入があった場合は,淋菌と同様にグラム陰性双球菌に染色される非病原性ナイセリアとの鑑別が必要となる.塗抹標本中の好中球の存在およびその貪食像は重要な鑑別点となる.■材料採取における注意事項眼分泌物の採取においては皮膚常在菌の混入がないよう細心の注意が必要である.淋菌は低温,乾燥に弱く死滅しやすいために輸送培地入りの滅菌綿棒で採取し,速やかに細菌検査室に提出する必要がある.しかし,やむを得ず保存が必要なときは室温で保存する.一方,保険適用はないがPCR(polymerasechainreaction)法により眼分泌物中の淋菌を同定する場合は,輸送培地の入らない滅菌綿棒で採取する必要がある.■薬剤感受性試験淋菌の薬剤感受性試験の標準法5)を表1に示す.MIC(49)53.多剤耐性淋菌眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一幸福知己兵庫県立尼崎病院検査・放射線部淋菌性結膜炎は新生児,成人のみならず小児感染例も報告され,早期に診断・治療がされなければ角膜穿孔から失明に至る可能性がある.淋菌性結膜炎では検体が適切に採取されればグラム染色による推定が可能であり,早期診断としての有用性が高い.また,近年はキノロン系薬耐性をはじめとした多剤耐性淋菌が増加しており,適切な抗菌薬療法が必要である.図1淋菌性結膜炎の膿性眼脂とグラム染色像a:淋病を疑う膿漏眼(写真提供:鈴木崇先生(愛媛県鷹の子病院).b:眼分泌物の塗抹標本(グラム染色,1,000倍).aの所見を呈する膿漏のグラム染色で多核白血球(好中球)に貪食されたグラム陰性双球菌を認めれば,??????????????????????と推定可能である.ab———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007(最小発育阻止濃度)を求める方法として寒天平板希釈法があるが,測定方法が煩雑なために,多くの施設ではディスク拡散法を用い,感性(S),中間(I),耐性(R)の報告を行っているのが現状である.■淋菌の薬剤耐性メカニズムと薬剤感受性成績淋菌の薬剤耐性機構を表2に示す.b-ラクタム系薬耐性としては,以前多くみられたPPNG(PenicillinaseProducing?????????????????????)は現在では数%以下となり,多くはb-ラクタム系薬の標的酵素であるペニシリン結合蛋白(PBP)の変異による耐性となっている.また,近年では経口抗菌薬としては,淋菌に対して最も抗菌力の強いセフィキシム(CFIX)の耐性率も増加している.これはPBP-1の遺伝子である????遺伝子の点変異(Len421Pro)およびPBP-2の遺伝子である????遺伝子が他の?????????属の遺伝子とキメラ化を起こしていることによる.一方,キノロン系薬耐性としてはDNAgyraseやTopoisomeraseⅣの遺伝子である????や????などの点変異がおもな耐性メカニズムとなっている6,7).2006年に近畿地区の医療施設から分離された淋菌209株に対して,筆者らが実施した薬剤感受性成績を表3に示す8).ペニシリンG(PCG),テトラサイクリン(TC),レボフロキサシン(LVFX)の耐性率はそれぞれ96.2%,87.6%,84.2%と高く,治療薬としては選択できない状況である.CFIXの近畿地区における耐性率は7.7%であったが,30~50%が耐性であったとの報告もある9).セフトリアキソン(CTRX)およびスペクチノマイシン(SPCM)の耐性株はなかった.また,PCG・TC・LVFX同時耐性は64株(30.6%),PCG・TC・LVFX・CFIX同時耐性を11株(5.3%)認め,多剤耐性化がみられた.■基本的な治療薬剤日本性感染症学会の性感染症診断・治療ガイドライン200610)では,淋菌性結膜炎に対してはSPCMの筋注(臀部)2.0g単回投与が推奨されている.保険適用はないが,セフォジジム(CDZM)の静注1.0g単回投与またはCTRXの静注1.0g単回投与も有効とされている.投与期間については,個々の症例ごとに考慮されるべきであるとしている.点眼薬としては,セフメノキシム(50)表1淋菌に対する薬剤感受性試験(CLSIM2-A9andM7-A7/M100-S17)抗菌薬ディスク拡散法(mm)寒天平板希釈法(?g/m?)R(耐性)I(中間)S(感性)R(耐性)I(中間)S(感性)ペニシリンG≦2627~46≧47≧20.12~1≦0.06セフィキシム──≧31──≦0.25セフトリアキソン──≧35──≦0.25テトラサイクリン≦3031~37≧38≧20.5~1≦0.25レボフロキサシン*≦2425~30≧31≧20.5~1≦0.25スペクチノマイシン≦1415~17≧18≧12864≦32*レボフロキサシンは判定基準がないためにオフロキサシンの判定基準を代用.表2淋菌の抗菌薬耐性b-ラクタム薬耐性?PPNG(PenicillinaseProducing?????????????????????)プラスミド獲得によるb-lactamase(TEM-1)産生菌?CMRNG(Chromosomally-mediatedresistant??????????????????????)染色体に存在するPBP-1,2または外膜蛋白質遺伝子の変異?CZRNG(Cefozopran-resistant?????????????????????)PBP-2遺伝子????の大部分が他の?????????属とキメラ化テトラサイクリン系薬耐性(染色体性,プラスミド性)?外膜蛋白質遺伝子の変異?薬剤排出システムの亢進(高度耐性tetM)キノロン系薬耐性(染色体性)?DNAgyrase(????),TopoisomeraseⅣ(????)遺伝子の点変異?外膜蛋白質遺伝子の変異,薬剤排出システムの亢進(文献6より一部改変)表3淋菌に対する各種抗菌薬の薬剤感受性成績(2006年,209株)抗菌薬感受性率(%)MIC90(?g/m?)感性(S)中間(I)耐性(R)ペニシリンG3.84452.22セフィキシム92.37.7*0.25セフトリアキソン1000*0.06テトラサイクリン12.435.452.24レボフロキサシン15.89.175.1>4スペクチノマイシン1000032*感性(S)以外.(幸福知己ほか,近畿耐性菌研究会)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????(51)(CMX)の抗菌力が強いが,経口セフェム耐性淋菌に対して,有効であるかどうかは不明である.キノロン系薬に対しては80%以上が耐性株であるため,ニューキノロン含有点眼薬は使用すべきではない.一方,サンフォード感染症治療ガイド200711)では淋菌性結膜炎に対して小児ではCTRX25~50mg/kg筋注または静注(125mgを超えない)単回投与,成人には1g筋注または静注単回投与となっている.現在,淋菌治療において確実に効果が期待できる抗菌薬はSPCM,CTRX,CDZMである.他の抗菌薬は,薬剤感受性試験の結果に基づき使用すべきである.文献1)小坂円,岡部信彦:発生動向調査からみた性感染症の最近の動向.日本性感染症学会誌17(Suppl):90-98,20062)後藤亜紀,稲田紀子,菅谷哲史ほか:小児に発症したフルオロキノロン耐性淋菌結膜炎の2症例.眼科47:2003-2008,20053)田中才一,雑賀司珠也,大西克尚:8歳男児に発症したレボフロキサシン耐性淋菌性角結膜炎の1例.眼臨98:873-875,20044)永田正子,小野眞史,永堀通男:成人淋菌性結膜炎の2症例.眼紀50:301-305,19995)ClinicalLaboratoryStandardsInstitute:PerformanceStandardsforAntimicrobialSusceptibilityTesting:Sev-enteenthInformationalSupplement,M100-S17,NationalClinicalLaboratoryStandardsInstitute(formerlyNCCLS),Pennsylvania,20076)松本哲朗:淋菌感染症.産科と婦人科72:837-843,20057)村谷哲郎,松本哲朗:淋菌感染症の現況と対策.化学療法の領域21:1107-1112,20058)幸福知己,折田環,木下承晧ほか:淋菌に関する薬剤耐性菌調査成績─第5回目調査─.第18回日本臨床微生物学会総会抄録集,20079)AkasakaS,MurataniT,YamadaYetal:Emergenceofcephemsandaztreonamhigh-resistant??????????????????????thatdoesnotproduceb-lactamase.???????????????????7:49-50,200110)日本性感染症学会編:性感染症診断・治療ガイドライン2006.日本性感染症学会誌17:35-39,200611)サンフォード感染症治療ガイド2007.p24,ライフサイエンス出版,2007◎検査室から眼科医へ◎淋菌性結膜炎疑いの場合は検査材料として眼脂が提出されますが,可能なかぎり常在菌の混入を避けた検体採取をお願いしたいと思います.また,疑う感染症名によって検体の保存条件,使用培地,培養条件などが異なるために,検体提出時に情報が検査室に伝達されれば,より確実な検査が可能となります.さらに,淋菌の感受性試験においては事前に測定抗菌薬を検査室と協議しておくことが重要であると思います.◎眼科医から検査室へ◎ご指摘のとおり,一般に眼脂や結膜ぬぐい液を採取する際に皮膚の常在菌を持ち込まないことは重要だと思います.幸い,淋菌性結膜炎の場合は眼脂がきわめて大量のため,皮膚の菌をcontaminationさせる可能性は逆に低いように思います.一方,淋菌の結膜での病原性が非常に強いために,眼科医の大部分は淋菌が強い菌であると誤解しているのが現状で,検査室への輸送や保存にあたって注意がなされていないように思います.死滅しやすい弱い菌であることを多くの眼科医に知っていただく必要があると思います.それと,淋菌性結膜炎では診断・治療が遅れると角膜穿孔につながり,重度の視力障害を生じますので,塗抹検鏡でグラム陰性球菌を認めた場合は,その結果を速やかに眼科医に報告していただければと思います.淋菌性結膜炎は言われているように検査室と眼科医の連携が特に重要となる疾患といえるでしょう.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次☆☆☆

緑内障:“ガード付きナイフ”による2重強膜弁作製

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS●緑内障手術における強膜弁作製緑内障手術において,強膜弁の作製は術後の眼圧コントロールに重要な位置を占めている.強膜弁の大きさは4×4mmであるが,常に一定の厚さに作製することはなかなかむずかしい.さらに,最近は線維柱帯切開術だけでなく,線維柱帯切除術においても,2重強膜弁を作製する傾向にある.しかし,2重強膜弁を2枚とも一定の深さで作製することは経験を要するところである.そこで,一定の厚さで切開を入れることが可能なガード付きナイフを2重強膜弁作製に使用することを検討した.適切な深さのガード付きナイフで2枚の強膜弁を作製することにより,第1強膜弁は常に一定の厚さで,弁の辺縁まで均一で直角の理想的な強膜弁が作製可能となり,第2強膜弁を一定の厚さで作製することにより自動的にSchlemm管を露出することが可能となる(図1).このことは,常に同じ条件で手術をすることがむずかしい緑内障手術の定型化が可能となる.さらに,緑内障手術の執刀が少ない医師にとってはしっかりとした強膜弁の作製およびSchlemm管露出の助けとなり,緑内障手術を多数執刀する医師にとっては手術時間の短縮につながる方法と考えられた.●強膜厚の測定超音波生体顕微鏡(UBM)を使用し,強膜表面からブドウ膜までの厚さを測定した.4例の強膜をUBMで測定し,730±86;620~820?m(mean±SD;range)の厚さであることを確認した(表1).●ガード付きナイフの種類BD社からディスポーザブルのBDビーバークリアコーニア“ガード付きナイフ”が発売され,切開の深さは(47)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄88.“ガード付きナイフ”による2重強膜弁作製川瀬和秀大垣市民病院眼科緑内障手術における強膜弁作製に“ガード付きナイフ”の使用を検討した.超音波生体顕微鏡での強膜厚を測定し,2重強膜弁作製に適した300?mの“ガード付きナイフ”を使用した.“ガード付きナイフ”の使用により緑内障手術手技の定型化,手術時間の短縮および手術手技習得の簡便化が可能と考えられる.表1UBMによる強膜厚の測定結果年齢(歳)性別強膜厚(?m)50男性82046女性77063男性71073女性620730±86?m(mean±SD)図12重強膜弁作製第1強膜弁第2強膜弁———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007250?m,300?m,350?mの3種類がある(図2a).また,フェザー安全剃刀株式会社からは再使用可能なアルミニウムハンドルによる“緑内障ナイフ”が0.20,0.30,0.40mmの深さで用意されている(図2b).強膜厚測定結果より両方のナイフで使用できる300?mを使用した.BD社製のガード付きナイフは,ガードの部分が厚く,一定の厚さ以上に深く切開することは少ないが,細かい部分の切開にはガードが邪魔になることもある(図3).フェザー安全剃刀社製のガード付きナイフは,ガードの部分が薄く,追加切開などでやや深く切開されることがあるが,操作性は良好である.それぞれの特性を生かして好みのナイフを使用することをお勧めする.(48)図3第2強膜弁の作製ab図2ガード付きナイフa:AccurateDepthKnife300?m.b:マイクロフェザーNo.6330G.☆☆☆

屈折矯正手術:Epi-LASIKのエンハンスメント

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS本稿では,Epi(Epipolis)-LASIK(laser???????kera-tomileusis)で行うエンハンスメント手術について述べる.当院では,2004年11月にEpi-LASIKを導入した.その後現在まで,22例33眼でEpi-LASIKでエンハンスメントを行った.●エピケラトームについて現在,日本国内で利用できるエピケラトームは4機種ありそれぞれに特徴がある.しかし,最近のEpi-LASIKでは,初回手術での実質穿孔例が報告されるようになりメーカーに確認したところでは,エンハンスメント手術について公式に安全性を認めているメーカーはなく,その利用は医師の自己責任とのことである.かなり乱暴な言い方だが,Epi-LASIKでエンハンスメント手術を施術する医師は各自,エンハンスメント手術の報告はないのか確認して,医師の自己責任のもとに手術を行う必要がある.●当院での適応初回手術がLASIKであれば禁忌である.LASIKのフラップは外力でずれやすく,エピケラトームで上皮フラップを作る際には,正常に上皮フラップができる可能性は低いものと推測される.初回手術が,PRK(pho-torefractivekeratectomy),LASEK(laser-assistedsubepithelialkeratectomy),Epi-LASIKの場合は適応と考えている.初回手術が,RK(radialkeratotomy)の場合もRKの切開創から実質へ穿孔してしまう可能性が高いものと思われ,禁忌と考えている.●ノモグラムエピケラトームの吸引リングが角膜曲率と関係する場合は,LASIKの場合と同じでエンハンス手術直前の曲率値を採用する.レーザーのノモグラムは初回手術と同じもので行い,特にエンハンスメント手術専用のものは使っていない.●症例今回のエンハンスメント前の手術は33眼中25眼がPRK,8眼がwavefront-guidedEpi-LASIKであった.●結果上皮フラップ作製時の安全性エンハンスメント手術時のフラップのトラブルは33眼中5眼で生じた.Epi-LASIK導入から間もない14眼中5眼で生じた.内訳は3眼が結膜の偽吸引に気づかずカットし,不完全フラップになった.このうち2眼は,レーザーの照射範囲にかかっていたので,レーザーを照射せず後日再手術を行い問題なく手術を終えた.1眼はレーザーの照射範囲は問題なかったためレーザーを照射し経過は良好であった.2眼がフリーフラップになったが,レーザーを照射し経過良好であった.言い訳になってしまうが,この14眼を手術した頃は,普通の初回手術のEpi-LASIKでもたびたび結膜の偽吸引が起きていた.一種のラーニングカーブのようなものなのかもしれない.そこで,手術時の眼位を厳密に水平にし,開瞼器をオリジナルに作製し,最近では結膜の偽吸引はみなくなった.しかし,最近でもフリーフラップは時々みられるが,フラップが戻せなくても術後視力に影響は出ていない.幸い実質穿孔したエンハンスメント症例は1例もない.万が一穿孔したときは,フラップに残っている実質を捨てずに穿孔部に戻すことを薦める.(45)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男89.Epi-LASIKのエンハンスメント合屋慶太こやのせ眼科クリニックEpi(Epipolis)-LASIK(laser???????keratomileusis)で行うエンハンスメントでは,実質穿孔しないでエピケラトームが作動するのか,メーカーは安全性を公式には認めていない.施術医師の自己責任で手術を行わなければならない.しかも,術後経過も初回手術とは異なり,視力の立ち上がりが遅く,3分の1の症例では2~3カ月の間,強い遠視化を認め注意が必要である.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007●術中所見フラップをめくると,Bowman膜が残っている部位と前回の手術時のレーザー照射部の表面は明らかに異なり,一目で見分けがつく.初回手術でのレーザー照射部が中心ずれを起こしていることがすぐにわかる症例もある.この部の顕微鏡下の見え方は,Bowman膜表面とも,LASIKの角膜ベッド表面とも異なるもっとテカテカとした独特の光沢をもったものである(初回Epi-LASIKで実質穿孔したときは,LASIKの角膜ベッド表面と似ている).●視力と屈折3カ月間術後を観察できた28眼でみると,図1に示すように,視力は平均でみると立ち上がりが遅い.屈折は図2に示すように平均は術後1週目から良い値を示すが,その分布をみると(図3),術後1カ月目には±0.5D以内が28眼中16眼(57%)あるものの,理由は不明だが1D以上遠視化している症例も9眼(32%)あり,良いグループと遠視化するグループがあり注意を要する.3カ月後には±0.5D以内の症例数16眼は変わりないが,1D以上遠視化している症例が2眼(7%)と減少している.術前のインフォームド・コンセントで視力の立ち上がりに2週間ほどかかること,および約3分の1の症例は,2カ月ぐらい強い遠視化を伴うことがあるが,その後急激に遠視が軽くなることを説明しておく必要がある.おわりにEpi-LASIKでのエンハンスメントは,初回手術とかなり異なった手術経過をとること,エピケラトームによっては,エンハンスメント症例の報告がないものもあり注意が必要であることを強調しておきたいと思う.(46)☆☆☆00.51.01.52.0術前:裸眼視力:矯正視力1週1カ月3カ月図1術後平均視力の経過-1.5-1.0-0.500.51.0術前1週1カ月3カ月図2屈折(等価球面)の経過05101520-1D以内眼数:1カ月:3カ月±0.5D以内2.0以上2D以内1D以内図3屈折(等価球面)の分布

眼内レンズ:白内障術後の壊死性強膜炎

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????0910-1810/07/\100/頁/JCLS●症例患者は83歳,女性.白内障手術目的に当院紹介となった.両眼とも小瞼裂で,散瞳不良を伴う落屑症候群がありZinn小帯脆弱が疑われた.全身の既往歴としては2年前より慢性関節リウマチに対し加療を開始されており,内科主治医からは手術施行可能の旨が確認されていた.まずは右眼白内障手術を施行(切開創は3.5mm上耳側強角膜切開),術中には瞳孔縁小切開およびイリスリトラクターによる虹彩拡張を行った.術中合併症なく手術を終了した.4日後,左眼白内障手術を施行,術中にZinn小帯断裂を認めたため,硝子体切除術+眼内レンズ毛様体溝縫着術にコンバートした.確実に閉創を行い,手術を終了した.左眼は術翌日,経過良好であったが,術後2日目に鼻側結膜縫合部が創離解し,術後2週間で左眼鼻側の眼内レンズ縫着糸が強膜上へ露出(図1)したため,翌週の結膜縫合術を予定した.結膜縫合術予定日,左眼の疼痛,毛様充血,鼻側強膜の融解,前房内および硝子体腔内炎症を認めた(図2,3).眼内炎と診断し,同日,硝子体手術を施行した.なお,右眼にも強角膜創菲薄化と(43)周辺部角膜浸潤(図4)を認めた.術中は前回手術時の強角膜創や強膜ポートを中心とした強膜融解と房水漏出を認めた.網膜の炎症程度はごく軽度であった.強膜が非常に脆弱でナイロン糸では穿孔するため,バイクリル糸で縫合を行った.しかし,房水漏出が持続し術翌日には眼球虚脱と著明なDescemet膜皺襞,脈絡膜?離,硝子体腔内フレアを認めた(図5).また,同日の採血ではCRP(C反応性蛋白)=11.9と著明な高値をきたしていた.手術によって惹起された壊死性強膜炎(SINS)を疑い,術後2日目よりステロイド全身投与を開始した.経過とともに強膜炎は徐々に軽減し,10日ほどで強膜創は閉鎖し房水漏出も消退した.山岸哲哉医療法人旦龍会町田病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎254.白内障術後の壊死性強膜炎白内障手術のまれな術後合併症として壊死性強膜炎surgicallyinducednecrotizingscleritis(SINS)が報告されている1~3).今回,両眼の白内障術後にSINSを発症し治療に苦慮した症例を経験したので報告する.図1左眼鼻側(白内障術後2週間)結膜創は離解し,強膜上に眼内レンズ縫着糸が露出している.図2左眼前眼部(白内障術後3週間)著明な充血と眼内炎症を認めた.図3図2と同日の左眼鼻側左眼鼻側は著明な充血があり,結膜・強膜の融解所見が見られる.図4図2と同日の右眼上方白内障手術時の切開創周囲の強膜炎・強膜菲薄化を認めた.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007(00)その後,ステロイド投与量を漸減しつつ治療を続け,消炎が得られた(図6).右眼の周辺部角膜浸潤も治癒した.なお,硝子体液の鏡検・培養では病原体を検出できず,強膜炎の炎症波及による無菌性眼内炎の可能性も考えられた.●Surgicallyinducednecrotizingscleritis(SINS)とは白内障手術のみならず,翼状片手術4,5),斜視手術6),輪状締結術など,あらゆる眼科手術の術後数週から数十年後に発症する強膜炎で,膠原病(慢性関節リウマチ,Wegener肉芽腫など)の関与が疑われている(ただし,非合併例の報告も多く,関与は断言できない)7).病因としては複数や両眼の手術手技の既往による強膜抗原に対する感作が考えられている.治療法としてはステロイドの点眼・全身投与,シクロスポリンA点眼,免疫抑制薬(シクロホスファミド,アザチオプリン)全身投与,強膜移植などが有効である.点眼のみで消炎する症例もあれば,免疫抑制薬にも抵抗し強膜穿孔から眼球摘出に至る症例もあり,治療に対する反応にも個体差があるのが特徴的である.文献1)気賀沢一輝,川村真理,入久巳ほか:白内障術後に発症した壊死性強膜炎の1例.眼紀37:1027-1036,19862)今泉綾子,川村俊彦,原吉幸ほか:白内障術後に発症した重篤な両眼性壊死性強膜炎の1例.眼紀47:1277-1282,19963)藤田聡,後藤浩,浅谷哲也ほか:眼球破裂と眼内レンズの脱出を生じた壊死性強膜炎の1例.眼科43:73-76,20014)Alsago?Z,TanDT,CheeSP:Necrotisingscleritisafterbarescleraexcisionofpterygium.???????????????84:1050-1052,20005)SridharMS,BansalAK,RaoGN:Surgicallyinducednec-rotizingscleritisafterpterygiumexcisionandconjunctivalautograft.??????21:305-307,20026)MahmoodS,SureshPS,CarleyFetal:Surgicallyinducednecrotisingscleritis:reportofacasepresenting51yearsfollowingstrabismussurgery.???16:503-504,20027)O?DonoghueE,LightmanS,TuftSetal:Surgicallyinducednecrotisingsclerokeratitis(SINS)─precipitatingfactorsandresponsetotreatment.???????????????76:17-21,1992←図5左眼所見(再手術翌日)房水漏出により眼球は虚脱している.角膜には著明なDescemet膜皺襞を認める.→図6左眼所見(再手術後3週間)ステロイド全身投与により,強膜創の閉鎖と房水漏出の消失が得られた.

コンタクトレンズ:マルチパーパスソリューションとコンタクトレンズの相性(2)

2007年10月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007????によってひき起こされると推察されている.●MPSとSHCLとの組み合わせによる安全性2)以前筆者らが行った臨床試験でSHCLとレンズケア製品との適合性を検討したので説明する.7種類のMPSに24~48時間浸漬させたO2オプティクス(チバビジョン株式会社)を,2時間および6時間装着させ,レンズ装着前後の角膜ステイニングの発生状況を確認した.角膜ステイニングは,面積と密度をスコア化し評価した.全体的に,レンズを2時間装着後の角膜ステイニングは強く現れ,6時間装着後では改善傾向を示している(図1).これらはMPSの毒性によるものと考えられ,0910-1810/07/\100/頁/JCLS●ソフトコンタクトレンズに発生する角膜ステイニングソフトコンタクトレンズ(SCL)とマルチパーパスソリューション(MPS)との相性によりひき起こされる角膜ステイニングは,その組み合わせによって複雑で程度も異なっている.角膜ステイニングは,シリコーンハイロゲルコンタクトレンズ(SHCL)に特有のものではなく,既存のハイドロゲルコンタクトレンズでも確認されている1).また,この組み合わせによる角膜への影響は,MPSの消毒成分を含めたすべての毒性を示す物質の,レンズへの接着とレンズ装着時の角膜への放出との関係(41)工藤昌之工藤眼科クリニックコンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS280.マルチパーパスソリューションとコンタクトレンズとの相性(2)図1同一被検者のレンズを2時間と6時間装着後の角膜所見a:レンズを2時間装着後の角膜所見.びまん性に角膜ステイニングを認める.スコア値6点以上.b:レンズを6時間装着後の角膜所見.角膜周辺部に比較的軽い角膜ステイニングを認める.スコア値2点以下.ab図2レンズ装着2時間後および6時間後の角膜ステイニングのスコア値2時間装着後の角膜ステイニングは強く現れ,6時間装着後では改善傾向を示している.012345678ロートC3ソフトワン?モイスレニューマルチプラスフレッシュルックケアコンプリート10min?エピカコールドオプティ・フリープラス?オプティ・フリー?:装着前:2時間装着後:6時間装着後角膜ステイニングスコア(点)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.10,2007(00)その種類によって程度に差が出ることが確認された.また,この試験のスコア値が高い組み合わせは,臨床的に問題となることが予想され,なるべく避けるべきであると考えている(図2).●MPSとコンタクトレンズとの相性の検討感染性角膜炎をひき起こした10歳代の96.3%,20歳代の89.8%が,コンタクトレンズ使用者であったことが報告されている3).また,MPSの毒性による角膜ステイニングを認めた場合,認めない場合と比較して角膜炎をひき起こす確率は3倍であると報告されている4).角膜上皮のバリア機構の破綻は,角膜への微生物の侵入と付着の足がかりになり角膜感染症の誘因となる.また,MPSは,煮沸(熱)消毒や過酸化水素消毒に比較して消毒効果では劣っており,こすり洗い・すすぎなどの工程を省略してしまうと洗浄効果だけではなく消毒効果まで減弱する.これらのことを考えると,MPSとコンタクトレンズとの相性には注意が必要であり,相性を考慮したレンズケアの指導も,コンタクトレンズに関連した角膜感染症の予防に有効なのかもしれない.●MPSの相性に関連した角膜ステイニングの対策MPSの相性に関連した角膜ステイニングは軽微なことが多いが,レンズケアの説明の際は相性のよい組み合わせを指導する.MPSの消毒効果を高くすることは,角膜感染症の予防には有効な手段ではある.しかし,レンズとの組み合わせによる相性で角膜ステイニングが発生し,角膜のバリア機構の破綻をひき起こすと角膜感染症の誘因となる.したがって,角膜のバリア機構に影響の少ない,消毒効果の高い消毒剤を選択することが必要である.しかし,すでに相性に問題があると考えられるMPSを使用している場合は,フルオレセイン染色後の角膜観察や,レンズ装用2~3時間後となる午前中の診察など注意深く診察を行う.また,過酸化水素消毒剤への変更は,組み合わせによる相性の問題が少なくなるだけではなく,消毒効果も高まり有効な手段である.文献1)BegleyCG,EdringtonTB,ChalmersR:E?ectoflenscaresystemsoncorneal?uoresceinstainingandsubjectivecomfortinhydrogellenswearers.??????????????????????21:7-13,19942)工藤昌之,糸井素純:O2オプティクスと各種ソフトコンタクトレンズ消毒剤との組み合わせによる安全性.あたらしい眼科24:513-519,20073)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌110:961-972,20064)CarntN,JalbertI,StrettonSetal:Solutiontoxicityinsoftcontactlensdailywearisassociatedwithcornealin?ammation.????????????84:309-315,2007