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アトピー性皮膚炎に対する治療強化により角結膜所見の改善を認めた難治性春季カタルの2例 

2026年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科43(4):449.452,2026cアトピー性皮膚炎に対する治療強化により角結膜所見の改善を認めた難治性春季カタルの2例齋藤寛剛*1長島崇充*1清水俊輝*1,2加藤直子*1水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野CTwoCasesofTreatment-ResistantVernalKeratoconjunctivitiswithImprovedCorneoconjunctivalFindingsFollowingIntensifiedTreatmentforAtopicDermatitisHirotakaSaito1),TakamitsuNagashima1),ToshikiShimizu1,2)C,NaokoKato1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,DepartmentofVisualScience,NihonUniversitySchoolofMedicineC重症のアトピー性皮膚炎と春季カタルを合併したC2症例に対し,タクロリムス点眼に加えステロイド点眼や巨大乳頭切除でも改善がみられなかったが,アトピー性皮膚炎の治療強化により春季カタルの所見改善を認めたC2例を経験したので報告する.アトピー性皮膚炎が重症で春季カタルの治療反応性が悪い場合には,眼科的治療と並行して皮膚科でのアトピー性皮膚炎治療強化を行うことが有用な場合がある.CWeCreportCtwoCcasesCofCvernalkeratoconjunctivitis(VKC)inCpatientsCwithCsevereCatopicdermatitis(AD)C,CinCwhichCstandardCophthalmicCtreatmentsCincludingCtacrolimusCeyeCdrops,CcorticosteroidCeyeCdrops,CandCevenCgiantCpapillaCexcisionCfailedCtoCproduceCsigni.cantCimprovement.CHowever,CnotableCclinicalCimprovementCinCVKCCwasCobservedinbothcasesfollowingtheintensi.cationofdermatologictherapyforAD.The.ndingsinthesetwocas-essuggestthatinpatientswithpoorly-controlledsevereADandaninadequateresponsetoconventionalophthal-mictreatmentforVKC,amultidisciplinaryapproachthatincludesaggressivemanagementofADbyadermatolo-gistmaybebene.cialinachievingbetterocularoutcomes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(4):449.452,C2026〕Keywords:春季カタル,アトピー性皮膚炎.vernalkeratoconjunctivitis,atopicdermatitis.はじめに春季カタルは眼瞼結膜の巨大乳頭や輪部結膜の堤防状隆起などの増殖性変化を伴うアレルギー性結膜疾患であり,アトピー体質の小児に好発するが,一部には成人になってから発症する例もある.重症例の場合は角膜びらん,角膜シールド潰瘍などの角膜上皮病変を合併し,強い眼痛や視力低下を引き起こす.治療は抗アレルギー点眼薬に加えて重症例ではステロイド点眼薬が用いられ,点眼治療のみで効果不十分な患者に対して以前はステロイド瞼結膜下注射や内服,乳頭切除などが行われることもあった.2006年にシクロスポリン点眼薬,タクロリムス点眼薬のC2種類の免疫抑制薬の点眼が使用可能になり,ステロイド瞼板下注射や乳頭切除まで必要となる症例は激減した.しかし,まれに免疫抑制薬の点眼を用いても治療効果が不十分な症例が存在する.筆者らは,タクロリムス点眼処方でも改善がみられなかったが,合併するアトピー性皮膚炎の治療強化により春季カタルの所見の改善を認めたC2例を経験した.CI症例[症例1]42歳,男性.主訴:両眼充血,眼瞼腫脹,眼脂.既往歴:アトピー性皮膚炎.現病歴:中学生の頃から春季カタル,角膜潰瘍を繰り返しフルメトロンC0.02%点眼,タクロリムス点眼,巨大乳頭切除を受けていた.XX年CX月に左眼異物感を主訴として近〔別刷請求先〕齋藤寛剛:〒C236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HirotakaSaito,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9,Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama-shi,Kanagawa236-0004,JAPANC図1症例1の外眼部写真a:初診よりC1カ月後.左眼上眼瞼結膜に巨大乳頭と強い充血,浮腫がみられる.Cb:初診よりC1カ月後.左眼角膜の広範囲にびらんを認める.c:デュピルマブ投与C4カ月後.左眼上眼瞼結膜の巨大乳頭は消退している.Cd:デュピルマブ投与C4カ月後.左眼角膜上皮欠損は上皮化している.実質には血管新生を伴った瘢痕がみられる.医眼科を受診し,春季カタル,カタル性角膜潰瘍の診断でレボフロキサシンC0.5%点眼左眼C1日C4回,フルオロメトロン0.1%点眼左眼C1日C4回,ヒアルロン酸点眼左眼C1日C4回,オフロキサシン眼軟膏左眼C1日C2回を処方されたが,改善しないためCXX+1年CX月に当科に紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.8p(1.0C×sph+0.50DCcyl-1.00DAx35°),左眼1.0(矯正不能),眼圧は右眼9mmHg,左眼C16CmmHg.細隙灯顕微鏡観察では,両眼の球結膜充血と強い結膜浮腫,充血,眼脂を伴う上眼瞼結膜巨大乳頭を認めた.上眼瞼結膜巨大乳頭は左眼でとくに顕著だった.左眼には点状表層角膜症と角膜びらんを認めた.経過:春季カタルと判断し,タクロリムス点眼両眼C1日C2回を開始したところ,翌月再診時には右眼の巨大乳頭は消退した.しかし,左眼では巨大乳頭が残存し角膜びらんが遷延した.びらん周囲の堤防状の上皮を掻把し,巨大乳頭切除を施行するも改善を認めなかった(図1a,b).局所の治療のみで春季カタル改善は困難と判断し,皮膚科にアトピー性皮膚炎の治療強化を依頼した.皮膚科では,もともと投与されていた体幹のモメタゾンフランカルボン酸エステル軟膏,顔面のタクロリムス軟膏に加え,XX+1年CX+4月よりデュピルマブ皮下注射の投与が開始された.デュピルマブ投与開始以降左眼の巨大乳頭は徐々に改善した(図1c).左眼角膜病変はシールド潰瘍を形成していたため,潰瘍底掻把を行ったところ角膜上皮は速やかに上皮化した(図1d).デュピルマブ投与C2カ月後,結膜の炎症所見はほぼ消失し実質に混濁を残したものの角膜の上皮化も得られたため,タクロリムス点眼を終了した.[症例2]17歳,男性.主訴:両眼充血,眼脂.既往歴:アトピー性皮膚炎,小児喘息.現病歴:XX年春頃より両眼の掻痒,充血を主訴に近医眼科を受診し半年ほど治療を受けるも改善せず,他院を受診して両眼春季カタル,左眼角膜潰瘍と診断され,精査加療のため当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.15(0.5C×sph-4.00DCcyl-2.25DAx5°),左眼C0.1(0.5C×sph-3.75DCcyl-1.25DAx110°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C19CmmHg.両眼上眼瞼結膜に強い結膜浮腫,充血,眼脂を伴う巨大乳頭増殖(図2a,b)と右眼角膜には点状表層角膜症を認めた.左眼角膜にはシールド潰瘍(図2c,d)を認めた.図2症例2の外眼部写真a:初診時.右眼上眼瞼結膜に巨大乳頭と充血,浮腫,眼脂を認める.Cb:初診時.左眼上眼瞼結膜には巨大乳頭と充血,浮腫,わずかだが眼脂を認める.Cc:初診時.左眼角膜下方にシールド潰瘍を認める.Cd:フルオレセインでシールド潰瘍部に一致し染色されている.Ce:デルゴシチニブ投与開始C6カ月後.右眼巨大乳頭は横ばいだが眼脂は改善している.f:デルゴシチニブ投与開始C6カ月後.左眼巨大乳頭は消退した.経過:初診時より両眼にタクロリムス点眼C1日C2回,ベタ療のみでの改善は困難と判断し,同院皮膚科にアトピー性皮メタゾン点眼C1日C4回,エピナスチンC0.1%点眼C1日C2回,膚炎の治療を依頼した.プレドニゾロン眼軟膏C1日C1回を開始した.1カ月後の受診皮膚科では,近医で処方されていたプレドニゾロン眼軟時には左眼のシールド潰瘍は上皮化した.しかし,右眼にシ膏,d-クロルフェニラミンマレイン酸塩内服から,顔面のールド潰瘍が出現したためタクロリムス軟膏両眼皮膚C1日C1デルゴシチニブ軟膏,体幹のベタメタゾン軟膏とワセリン軟回を追加し,潰瘍底掻把を行ったところ,徐々に上皮化傾向膏に変更となり,アトピー性皮膚炎はC2カ月で改善がみられがみられ,矯正視力は右眼(0.9),左眼(1.2)まで改善した.た.それに伴い,右眼巨大乳頭は横ばいであったが左眼巨大しかし,両眼上眼瞼結膜巨大乳頭の改善が乏しく,局所の治乳頭は消退した(図2e,f).II考按今回,重症の春季カタルで眼科的な局所の投薬,外科的治療で治癒せず難渋したが,皮膚科に依頼して全身のアトピー性皮膚炎の治療を強化したことにより眼症状の改善がみられたC2例を経験した.春季カタルで形成される結膜巨大乳頭は,CD4陽性CT細胞,NK細胞,好酸球,好塩基球,マスト細胞などから産生されるC2型ヘルパーCT細胞(Th2)サイトカインであるインターロイキン(interleukin:IL)-4やCIL-13によって活性化された多核白血球から分泌される蛋白融解酵素による正常な結膜下組織の破壊,線維芽細胞による新たな細胞外マトリックスの産生亢進によるリモデリングの結果生じると考えられている1).また,IL-4,IL-13などのCTh2サイトカインや腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)-αは角膜への好酸球遊走を促進させることで角膜上皮びらんやシールド潰瘍の形成に寄与していると考えられている2).近年使用されるシクロスポリン点眼,タクロリムス点眼などのカルシニューリン阻害薬は,T細胞のクローン増殖を引き起こすCIL-2のT細胞内での発現を抑制することにより春季カタルの炎症を改善させる.一方で,アトピー性皮膚炎は免疫グロブリンCE(immuno-globulinE:IgE)を産生しやすい素因や皮膚の脆弱性を背景に,外的刺激により表皮角化細胞からのCIL-33,IL-25,胸腺間質性リンパ球新生因子(thymicCstromalClymphopoi-etin:TSLP)が産生され,IL-4,IL-5,IL-13,IL-31が産生される.2型炎症はアレルゲン特異的CIgEを誘導し,それはマスト細胞上のCIgE高親和性受容体に結合し炎症を惹起する3).今回アトピー性皮膚炎の治療強化で追加された薬剤のうちデュピルマブはCIL-4,IL-13のシグナル伝達を抑制する作用をもっており,カルシニューリン阻害薬の薬理作用点より下流にて直接CTh2系サイトカインを阻害することにより眼瞼のさらなる病勢の改善を得たと考えられる.また,症例C2で用いられたデルゴシチニブはサイトカイン受容体の細胞質部分であるヤヌスキナーゼを阻害し,IL-4,IL-13などのTh2サイトカインの伝達を抑制することで線維芽細胞の活性化を抑制して,結膜炎症の改善に寄与したと考えられる.春季カタルとアトピー性皮膚炎はともに,リンパ球,好酸球などの炎症細胞,IL-4,IL-13などのCTh2サイトカインが病態の中心となっている.全身的に重度のアトピー性皮膚炎を合併している症例では,局所的な春季カタルの治療を行っても十分な炎症コントロールが得られない場合があり,そのような場合には,眼局所の治療と並行して皮膚科に薬剤治療の強化を依頼し,全身的にアレルギー炎症の抑制が必要と考えられる.既報には今回の症例と同様に眼局所治療に反応性の悪い症例に対して,合併するアトピー性皮膚炎に対する治療強化として抗CIgE抗体製剤であるオマリズマブやヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)1阻害薬であるウパダシチニブを用いたことにより春季カタルの治療効果を得た報告や4.6),デュピルマブを用いたことにより巨大乳頭を伴うアトピー性角結膜炎や春季カタルの治療効果を得た報告もある7,8).それらにおいても全身のアレルギー炎症の抑制が春季カタルの改善に寄与した可能性が指摘されており,今回の症例もそれを支持するものと考える.気をつけるべき点としては,デュピルマブでは結膜炎など眼局所の副作用の出現が報告されており,また,デルゴシチニブでは過量投与では全身への影響が懸念され,局所の免疫低下による合併症も報告されているため3),投与中は注意深い経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FukudaCK,CKumagaiCN,CFujitsuY:FibroblastsCasClocalCimmunemodulatorsinocularallergicdisease.AllergolIntC55:121-129,C20062)福田憲:重症アレルギー性結膜疾患の病態と今後の治療展望C.アレルギー70:171-177,C20213)日本皮膚科学会,日本アレルギー学会,アトピー性皮膚炎診療ガイドライン策定委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2024.日皮会誌134:2741-2843,C20244)ZengariniCC,CRodaCM,CSchiaviCCCetal:SuccessfulCtreatmentCofCsevereCrecalcitrantCvernalCkeratoconjunctivitisCandCatopicdermatitisassociatedwithelevatedIgElevelswithomalizumab.ClinExpDermatolC47:604-606,C20225)MimaY,TsutsumiE,OhtsukaTetal:Acaseofrefrac-toryCvernalCkeratoconjunctivitisCshowingCimprovementCafterCtheCadministrationCofCupadacitinibCforCtheCtreatmentofatopicdermatitis.Diagnostics(Basel)C14:1272,C20246)KitoK,CFukudaCK,CKishimotoTCetal:TreatmentCofCvernalCkeratoconjunctivitisCusingCupadacitinib.CJAMACOpthalmolC142:680-681,C20247)FukudaK,EbiharaN,KishimotoTetal:AmeliorationofconjunctivalCgiantCpapillaeCbyCdupilumabCinCpatientsCwithCatopicCkeratoconjunctivitis.CJCAllergyCClinCImmunolCPractC8:1152-1155,C20208)TsuiMC,ChiangBL,WangIJetal:Successfultreatmentandpreventionoftherecurrenceofrefractoryvernalker-atoconjunctivitisCwithCdupilumab.CClinCExpCOphthalmolC50:1100-1103,C2022***

基礎研究コラム:MEK阻害薬と濾過手術

2026年4月30日 木曜日

MEK阻害薬と濾過手術濾過手術の現状濾過手術は,薬物療法で眼圧をコントロールできない患者への標準治療ですが,術後の瘢痕形成が問題となります.現在,瘢痕形成を抑制するためにマイトマイシンCC(Mitomy-cinC:MMC)が使用されていますが,より効果的な薬剤が求められています.通常は静止期にある結膜線維芽細胞は,手術により活性化されることで細胞周期が進行し,線維性瘢痕形成につながります.そのため,細胞周期を制御することは濾過手術の成功に重要です.濾過手術に対するMEK阻害薬の効果MEK阻害薬は,Raf/MEK/ERK経路を介した細胞周期の停止(図1)と線維化抑制の両方に有効性を示しており,悪性黒色腫をはじめとする腫瘍の治療に使用されています1).MEK阻害薬は,ヒト結膜線維芽細胞において,TGF-β1による筋線維芽細胞への分化を抑制することが示されています2).筆者らは,ヒト結膜線維芽細胞におけるCMEK阻害薬の細胞周期停止効果と,ウサギの濾過手術モデルに対する効果を検討しました.その結果,MEK阻害薬は,ヒト結膜線維芽細胞の増殖を濃度依存的に抑制し,細胞周期マーカーであるCPCNAとCcyclinD1の発現を減少させ,p27の発現をRafMEK阻害薬MEK監修北澤耕司・村上祐介・中川卓李真熙キッコーマン総合病院眼科増加させ,細胞周期をCG0/1期で停止させることが示されました.ウサギの濾過手術モデルにおいて,MEK阻害薬投与群では対照群と比較して充血が少なく,びまん性の濾過胞が形成されました3)(図2).今後の展望本研究により,MEK阻害薬が緑内障濾過手術後の瘢痕形成抑制に有益である可能性が示されました.術後の線維化形成の過程には複数の細胞間相互作用が関与しており,複数の阻害薬を併用することで相乗効果が期待できます.MEK阻害薬は,DNA損傷を引き起こすCMMCとは異なるメカニズムで作用するため,MMCの補助療法としても有用であると考えられます.MEK阻害薬の使用法について,さらなる研究が必要と考えられます.文献1)AkinleyeCA,CFurqanCM,CMukhiCNCetal:MEKCandCtheinhibitors:frombenchtobedside.JHematolOncolC6:27,20132)WenCJ,CLinCX,CGaoCWCetal:MEKCinhibitionCpreventsCTGF.β1.inducedCmyo.broblastCtransdi.erentiationCinChumantenon.broblasts.MolMedRepC19:468-476,C20193)LeeCJ,CHonjoCM,CAiharaMA:ACMEKCinhibitorCarrestsCtheCcellCcycleCofChumanCconjunctivalC.broblastsCandCimprovesCtheCoutcomeCofCglaucomaC.ltrationCsurgery.CSciCRepC14:1871,C2024対照群MEK阻害薬投与群図1MEK阻害薬とRaf/MEK/ERK経路図2MEK阻害薬がウサギの濾過手術モデルに与える影響MEK阻害薬はCRaf/MEK/ERK経路Cpathwayを介MEK阻害薬投与群では,対照群と比較して充血が少なく,びまん性の濾過胞がして細胞周期を停止させる.形成された.黄色の線で囲まれた部分が濾過胞.(1C01)Cあたらしい眼科Vol.43,No.4,2C026C4430910-1810/26/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:275.陳旧性黄斑円孔底に見られる顆粒状沈着物(初級編)

2026年4月30日 木曜日

275陳旧性黄斑円孔底に見られる顆粒状沈着物(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに黄斑円孔(macularhole:MH)の陳旧例では,しばしば円孔底の網膜色素上皮面に黄白色の顆粒状沈着物を認める.これは視細胞外節の崩壊物と考えられている.C●症例提示患者はC77歳,女性.右眼は約C1/3乳頭径大のCMHを認め,円孔底に黄白色の顆粒状沈着物を認めた(図1).OCTでは同部位の網膜色素上皮上に顆粒状の隆起病変を認め,MH縁の色素上皮側はやや凹凸があり,不規則な形状を呈していた(図2).矯正視力はC0.05であった.手術は超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術後にコア硝子体を切除し,マキュエイド塗布後に黄斑上のbursapremacularisを黄斑部から.離させ,硝子体カッターの吸引で周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製した.ついでCMH周囲のCepiretinalproliferation(EP)をダイアモンドダストスクレイパーで除去し,ブリリアントブルーCGを塗布してCMH周囲の内境界膜を.離した.MH縁のCEPは円孔内に埋め込んだ.その後液空気置換を施行して手術を終了した.術後,MHは閉鎖したが,IS/OSラインの修復がやや不良で,術後C6カ月の時点で矯正視力はC0.3に留まっている(図3).C●陳旧性黄斑円孔底に見られる顆粒状沈着物と黄斑円孔辺縁の形状変化陳旧性CMHの円孔底に見られる顆粒状沈着物はSmmidyらによりCdrusen-likeyellowishCdepositsとして報告され1),その後CIshibashiらがCadaptiveCopticsimagingを用いて,これが網膜色素上皮上に沈着した視細胞の崩壊物であることを示した2).Patelらは,陳旧性CMHの円孔縁の色素上皮側に見られる凹凸を“SharkCJaws”signと名付け,視細胞外節が傷害されている所見図1術前の右眼眼底写真約C1/3乳頭径大のCMHおよび円孔底に黄白色の顆粒状沈着物を認めた.図2術前のOCT所見円孔底の網膜色素上皮上に顆粒状の隆起病変を認め(.),円孔縁の色素上皮側はやや凹凸があり,不規則な形状を呈していた(.).図3術後のOCT所見黄斑円孔は閉鎖したが,IS/OSラインの修復がやや不良で矯正視力はC0.3に留まった.とした3).またCGovettoらは,この顆粒状沈着物と円孔縁の不規則な形状との関係を検討し,顆粒状沈着物は円孔縁の視細胞外節がダメージを受けて落下し,その残骸が色素上皮上に堆積したものであると推測している4).いずれにしても,これらの所見はCMHが陳旧性で,すでに視細胞外節がかなりダメージを受けていることを示しており,硝子体手術後の視力改善が不良となる一因になると考えられる.文献1)SmiddyCWE,CGassJD:MasqueradesCofCmacularCholes.COphthalmicSurgC26:16-24,C19952)IshibashiT,WakabayashiT,NishidaK:Remnantsofpho-toreceptorCouterCsegmentsCatCtheCbaseCofCtheCmacularChole.OphthalmolRetinaC2:1187,C20183)PatelR,DelhiwalaK,KhamarDetal:“SharkJaws”signinCmacularChole.CAsiaCPacCJOphthalmol(Phila)10:502,C20214)GovettoA,BacheriniD,RomanoMRetal:Full-thicknessmacularhole:AresupraRPEgranulardepositsremnantsofCphotoreceptorsCouterCsegments?CClinicalCimplications.CAmJOphthalmolC245:86-101,C2023(99)あたらしい眼科Vol.43,No.4,20264410910-1810/26/\100/頁/JCOPY

考える手術;乳頭ピット黄斑症候群の手術戦略

2026年4月30日 木曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅乳頭ピット黄斑症候群の手術戦略厚東隆志杏林大学医学部眼科学教室乳頭ピット黄斑症候群は,自然軽快する患者が一定数存在し,診断された時点ですぐに手術適応とするべきではない.視力良好例や自覚症状が軽度な場合には,OCT所見と視機能を中心に経過観察を行い,少なくとも半年程度慎重なフォローアップを要する.増悪傾向が明らか,あるいは視力低下や変視など視機能の低下があって初めて手術を検討するという姿勢が求められる.手術の基本方針は,後部硝子体.離(PVD)の作製による硝子体牽引の解除である.本疾患の病態には乳頭縁に付着した後部硝子体皮質の関与が大きく,まずはその牽引を解除することで,網膜内・網膜下の液体動態が徐々に改善していく患者が多い.初回手術として内境界膜.離やガスタンポナーデをルーチンに併用する必要性はなく,最小限の介入で病態の変化を見きわめる.一方で,すべてのケースでPVD作製のみで復位するわけではない.術前のOCTで網膜.離が乳頭ピット部と直接交通している症例や網膜下液が主体では,非復位例が多い.また,視機能障害の出現と同時期の頭痛は,圧動態の関与を示唆する所見として注意を要する.これらの患者では,ピット部への液体流入経路そのものに介入する必要が生じる.非復位例や難治例に対しては,乳頭上膜や内境界膜を用いたplug手技など,ピットを物理的に遮断する方法が選択肢となる.さらに,plug手技でも十分な閉鎖が得られない場合は,視野欠損のリスクを理解したうえで乳頭周囲レーザーを検討する.本疾患の治療において重要なのは,特定の手技に固執することではなく,自然経過を重視しながら,病態に応じて介入の強度を段階的に高めていく戦略的な判断である.聞き手:乳頭ピット黄斑症候群は自然経過で軽快すること分離や網膜.離は必ずしも進行性ではなく,自然経過でもある疾患ですが,どのようなタイミングで手術を考えれば軽快する患者が一定数存在します.そのため,診断されいいですか?た時点ですぐに手術を考えるのではなく,視力が保たれ厚東:乳頭ピット自体は先天異常ですが,黄斑部の網膜ている場合や自覚症状が軽度な場合には,まずは経過観(97)あたらしい眼科Vol.43,No.4,20264390910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術察を行います.具体的には,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見と視機能を中心に,少なくとも半年程度は慎重にフォローします.その過程で網膜分離や網膜.離が増悪する傾向を示す場合や,視力低下,変視など,視機能に明らかな影響が出てきた場合に手術を検討します.重要なのは,やみくもに手術にふみきるのではなく,この疾患が本来もつ自然経過の幅を理解したうえで,手術が必要な患者を見きわめることだと考えています.聞き手:手術を行う場合は,どのような術式を基本としていますか?厚東:基本術式は,硝子体手術による後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)の作製です(動画①).特別な追加手技を行う前に,まずは乳頭縁にかかっている後部硝子体皮質の牽引を解除することをもっとも重視しています.乳頭ピット黄斑症候群では,乳頭ピットそのものよりも,硝子体牽引が病態形成に大きく関与している場合が多く,まずはその牽引を解除することで,時間をかけて網膜が復位していくことを経験しています.そのため,初回手術では内境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離やガスタンポナーデをルーチンに併用するのではなく,PVDを確実に作製することを基本としています.聞き手:ILM.離やガスタンポナーデを併用せず,まずはPVD作製のみでよいと考える理由を教えてください.厚東:乳頭ピット黄斑症候群では,液体がどこから来て,なぜそこに貯留するのかを考えることが重要です.多くの患者では,乳頭ピットが存在していても,硝子体牽引が加わらなければ病変は進行しません.PVDを作製することで,乳頭縁にかかっていた牽引力が解除され,網膜に加わる力学的環境が変化します.その結果,網膜内や網膜下に貯留していた液体が新たに供給されにくくなり,時間をかけて自然吸収に向かうと考えています.このように,病態を生じさせていた条件を取り除くという考え方から,初回手術としてはPVD作製のみで十分な場合が多いと考えています.聞き手:PVD作製後早期に網膜が復位しない場合は,どのようにしたらよいでしょうか?厚東:本疾患の術後経過は特徴的で,短期間で形態学的改善が得られる患者はむしろ少ないです.術後も網膜分離や網膜.離がしばらく残存する患者は少なくなく,術後早期のOCT所見のみで手術の成否を判断すべきではないと考えています.多くの場合,まず網膜分離が改善し,その後に網膜下液が徐々に吸収されていきます.この過程には半年から1年以上を要することもあり,術後は焦らず経過を見守ることが重要です.聞き手:PVD作製のみでは復位が得られにくい患者には,特徴がありますか?厚東:術前OCTで網膜.離が乳頭ピット部と直接交通しているようにみえる場合は,PVD作製のみでは病態が収束しにくいという印象をもっています.網膜分離が乏しく,網膜下液が主体の場合も注意が必要です.加えて,視力低下の出現と時期を同じくして頭痛を伴う場合は,圧動態の関与を示唆する所見として注意します.脳脊髄腔との交通を示唆する可能性はありますが,その時点で明確に証明することはむずかしく,あくまで術前に留意すべき一つのサインとして捉えています.聞き手:そのような非復位が予測される,あるいは初回手術で十分な改善が得られなかった場合は,どのような追加手技を考えますか?厚東:その場合は,乳頭ピット部への液体の流入経路そのものに介入することを考えます.基本的な考え方は,なんらかの方法でピットを物理的に遮断するという点にあります.乳頭上膜が確認できる場合は,それを用いてピット部をplugする方法を選択します(動画②)が,乳頭上膜が認められない場合にはinvertedILMflap法や遊離ILM片でplugする手技を用いることもあります.動画で示している手技は乳頭上膜を用いたplugですが,本質的には,適切な組織を用いてピット部を遮断するという考え方が重要だと思っています.聞き手:plug手技を行う際に注意すべき点があれば教えてください.厚東:plug手技は初回手術のルーチンとする必要はなく,段階的治療戦略の中で位置づけることが重要だと考えます.乳頭上膜が利用できれば比較的安定したplugが可能ですが,invertedILMflapはピットの大きさや位置関係から,うまくピットを覆えるとは限りません.遊離flapを用いるなど複数の選択肢を頭に置いて,臨機応変に術式を選択するとよいでしょう.また,plug手技でも十分な閉鎖が得られない難治例では,視野欠損のリスクを理解したうえで乳頭周囲レーザーを検討することもあります.どの手技も万能ではなく,侵襲と得られる効果のバランスを考えながら,病態に応じて段階的に治療を進めていくことが大切だと思います.440あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(98)

抗VEGF治療セミナー:抗VEGF薬の半減期と緑内障点眼薬

2026年4月30日 木曜日

●連載◯166監修=安川力五味文146抗VEGF薬の半減期と緑内障点眼薬伊野田悟自治医科大学眼科学講座抗CVEGF薬はC2000年代に登場以降,種々の網膜疾患治療に不可欠な存在となった.現在までに抗CVEGF薬作用の延長を目的に,抗体製剤の分子量・電荷の調整,Ang-2阻害併用,PEG修飾などの薬剤開発研究が行われている.本稿では身近な緑内障薬の点眼で抗CVEGF薬眼内半減期が延長する可能性を紹介する.はじめに抗CVEGF薬は,新生血管型加齢黄斑変性(neovascu-larCage-relaterCmaculardegenetation:nAMD),糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫をはじめとした網膜疾患において,その有効性の高さから既存治療と置き換わった.2009年にラニビズマブ(ルセンティス),2012年にアフリベルセプト(アイリーア),2020年にブロルシズマブ(ベオビュ),2022年にファリシマブ(バビースモ)と,改良が重ねられた薬剤が発売されてきた.改良のおもなポイントは,より良い有効性と安全性であり,近年は有効性の中でもその作用時間と長期予後に注目が集まっている.筆者の私見であるが,アフリベルトC2Cmgにおいて抗CVEGF薬としての浮腫の抑制作用はすでに十分であり,今後の新規薬剤には,低分子量・高い溶解性によるCVEGFの抑制作用や,Ang-2を抑制するなどのさらなる「付加価値」が求められる.現在も新規作用機序や薬剤の改良が行われているが,未だどの薬剤においても患者によってはC1,2カ月ごとの眼内注射が必要であり,薬剤の効果持続期間にみられる顕著な個人差の要因については,現時点では解明されていない.眼内に注入された抗CVEGF薬は代謝・分解されない.抗CVEGF薬の硝子体内注射後の正確な薬物動態は解明されていないが,少なくとも一部は房水と同様に,受動的に眼内循環によって硝子体腔から全身循環へ排出されると考えられている1).房水の循環はCSchlemm管を介して全身循環へと排泄・再吸収される.緑内障点眼薬は房水循環に作用することで眼圧を下げる.炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseinhibitors:CAI),β遮断薬,α2作動薬は,房水産生を抑制して眼圧を下げ,プロスタグランジン関連薬(prostaglandinCanalogues:PGA),Rhoキナーゼ阻害薬,α2作動薬は房水流出抵抗を低下させる.筆者らは,この緑内障点眼薬による房水循環への作用(95)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYによって,投与後の抗CVEGF薬の眼外への排出が遅延し半減期が延長する仮説を立て,後ろ向きに検討を行った(図1)2).生理的な状態では房水が産生され,その流れに従い受動的に抗VEGF薬は眼外へ排出される房水の流れ抗VEGF薬房水産生抑制点眼薬併用により,房水の流れが滞り,抗VEGF薬の眼外へ排出は抑制される図1緑内障点眼薬による注射後の抗VEGF薬への影響仮説試験の概要nAMDに対する初回アフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.ibercept:IVA)1カ月後の房水中アフリベルセプト濃度について,緑内障点眼薬併用の影響を検討することを目的とした.2013年C7月~2020年C11月に自治医科大学および東京新宿メディカルセンターにおいて,nAMD治療のために初回CIVAを受け,かつ緑内障治療のため点眼薬を使用している患者C17眼C17人を対象とした.コントロール群として,同時期に初回IVAを受け,かつ房水循環に影響を及ぼす薬剤を使用していないCnAMD患者C40眼C40人を年齢・性別・眼軸長でマッチングさせた.IVAのC1カ月後に房水を採取し,Kruskal-Wallis検定およびCDunn検定で群間比較をあたらしい眼科Vol.43,No.4,2026437アフリベルセプト(μg/ml)302520151050コントロール緑内障点眼使用群図2前房水中アフリベルセプト濃度比較行った.対象群の点眼薬は,作用機序に応じて房水流出促進薬(PGA,Rhoキナーゼ阻害薬など)と房水産生抑制薬(CAI,β遮断薬,α2作動薬など)に分類し,解析を行った.その結果,各群の房水中アフリベルセプト濃度の中央値(四分位範囲)は,コントロール群C6.83Cμg/ml(1.94~10.34),房水流出促進薬使用群C9.93μg/ml(2.58~17.44),房水産生抑制薬使用群C15.95Cμg/ml(7.20~22.57)であった(図2).Kruskal-Wallis検定により,三群間で統計的に有意差を認め(p=0.0075),房水産生抑制薬使用群はコントロール群および房水流出促進薬使用群と比較して有意に高いアフリベルセプト濃度が示された(それぞれCp=0.0085およびCp=0.044,Dunn検定).半減期の延長効果アフリベルセプトは眼内に投与後,徐々に眼外へ排出される.眼内での生理活性はC79~87日程度維持される3).筆者らはC84日後に生理活性が失われると仮定し,房水産生抑制点眼薬併用による半減期延長効果を右の式にて予測した.28日後の前房水中アフリベルセプト濃度の違いから,房水産生抑制点眼薬を併用することでアフリベルセプトの眼内での生理活性濃度を維持できる期間はC84日からC142日~167日程度に延長する結果となり,C2~3カ月程度の延長効果が期待できる可能性が示唆された.結果の解釈と今後の展望房水循環によって硝子体内に投与した薬剤の延長が期C438あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026待できるのであれば,世界的にも安全性が確立した緑内障点眼薬のさらなる活用が期待できる.本研究ではnAMDを対象としたが,硝子体内注射を必要とする複数の疾患への応用も考えられるだろう.糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,近視性脈絡膜新生血管などへの抗CVEGF薬との併用が期待できる.また,本検討2)では示していないが,筆者らはCXCL-1やTNF-αといったサイトカインについても解析を行っており,本検討と同様の有意差を認めた.これは,房水循環の違いが,眼内生理活性物質動態へ影響を与えうる可能性を示している.すなわち,房水循環の排出抵抗が高いなどすると,サイトカインが貯留しやすくなる可能性である.今後の研究によって,房水循環に影響のある排出経路の個人差が,緑内障以外の眼疾患の発症リスクと関連している可能性も示されるかもしれない.今回はCnAMD患者のうち緑内障併発患者に限定しての後ろ向き検討であり,症例数も少ない.房水循環は緑内障の有無で異なる可能性もあり,さらなる検討が望まれる.重要なことだが,抗CVEGF薬延長を目的として緑内障点眼薬を処方してはならない(適用外使用となる).緑内障点眼薬が必要な抗CVEGF加療中の患者における点眼薬選択の参考程度に役立てていただければと思う.文献1)Garcia-QuintanillaCL,CLuaces-RodriguezCA,CGil-MartinezCMCetal:PharmacokineticsCofCintravitrealCanti-VEGFCdrugsinage-relatedmaculardegeneration.Pharmaceutics11:365,C2019C2)InodaS,TakahashiH,TakahashiRetal:Effectofcombi-nationuseofaqueoushumorsecretioninhibitoreyedropsonCa.iberceptlevel:ACpreliminaryCanalysis.CTranslCVisCSciTechnolC14:21,C2025C3)StewartCMW,CRosenfeldPJ:PredictedCbiologicalCactivityCofCintravitrealCVEGFCtrap.CBrCJCOphthalmolC92:667-668,C2008(96)

緑内障セミナー:緑内障と眼瞼下垂

2026年4月30日 木曜日

●連載◯306監修=福地健郎中野匡306.緑内障と眼瞼下垂柚木達也富山大学医学部眼科学教室緑内障と眼瞼下垂の合併は比較的多く,とくに長期の点眼治療や緑内障手術が発症の契機となることがある.眼瞼下垂は上方の視野異常や眼圧測定値の変動を招き,緑内障の正確な評価や管理をむずかしくする要因となる.本稿では両者の関連性を整理し,臨床で留意すべきポイントについて述べる.●はじめに緑内障と眼瞼下垂はいずれも中高年に多くみられ,両者の合併も少なくない.緑内障患者では長期にわたる点眼治療や手術が眼瞼下垂の一因となることがあり,とくにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬によるプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandin-associatedperiorbitopathy:PAP)は,眼瞼形態の変化や下垂を誘発することが知られている.眼瞼下垂は視野検査や眼圧測定の精度に影響し,緑内障の正確な評価を妨げる可能性があるほか,角膜形状にも変化を及ぼすことが報告されている.本稿では,緑内障と眼瞼下垂の関連性,診療への影響,そして臨床対応の要点について概説する.C●緑内障手術と眼瞼下垂の発生緑内障手術後には比較的高頻度に眼瞼下垂が発生することが知られている.濾過手術後の眼瞼下垂の原因としては,手術侵襲や開瞼器による眼瞼挙筋腱膜の離開,上眼瞼および結膜の慢性的な炎症の持続などがあげられる1).術後眼瞼下垂の発生率はC15%前後と報告されており,白内障手術や硝子体手術後よりも高い傾向にある2,3).さらに,BaerveldtやCAhmedなどのCglaucomaCdrainagedevice(GDD)留置後には,さらに高率に眼瞼下垂が生じるとされ,濾過手術以上のリスクを伴う可能性がある4).このように,緑内障手術は眼瞼下垂発症のリスクが比較的高い手術であることを十分に理解し,術後には眼瞼の形態変化や開瞼機能の評価を継続的に行うことが重要である.C●緑内障患者における眼瞼下垂の影響瞳孔から上眼瞼までの距離であるCmarginre.exdis-(93)tance(MRD)-1がC2.5mm以下になるとCQOLの低下や上方視野異常が生じるといわれており,緑内障視野異常の評価がむずかしくなる.実際,眼瞼下垂術後には上方視野の改善が報告されており,上方視野悪化時には眼瞼下垂の進行を考慮することが重要である5).また,濾過手術眼における眼瞼下垂手術は,術操作による濾過胞への影響が懸念されるが,近年の報告では濾過胞の形態や眼圧に大きな影響を与えず,安全に施行可能とされている6)(図1).緑内障の正確な視野評価と視機能維持のためには,眼瞼下垂の適切な診断と手術が重要である.C●PG関連薬の副作用と眼瞼下垂の関連PG関連薬の長期点眼により生じるCPAPは,眼瞼・眼窩周囲の形態変化を特徴とする.おもな所見は,眼瞼の色素沈着,睫毛の伸長・乱生,上眼瞼溝陥凹(deepen-ingoftheuppereyelidsulcus:DUES),眼瞼下垂,皮膚硬化などである(図2).これらは整容的問題にとどまらず,皮膚の硬化により内眼手術が困難となる,アプラネーションによる眼圧測定が不正確になる,さらに濾過手術の成績不良を招くなど,臨床的影響も大きい7).PAPの発症機序は眼窩脂肪の萎縮や挙筋腱膜の菲薄化などが関与するとされ,ビマトプロストやトラボプロストでリスクが高い8).したがって,PG関連薬使用患者では眼瞼下垂を生じるリスクが高いことを念頭に置くべきである.C●PAPの視機能への影響PAPを伴う眼瞼下垂では,眼瞼圧の上昇により角膜形状が変化し,高次収差や正乱視・不正乱視の悪化を通じて視機能低下を招くことが報告されている9,10).PAPは薬剤選択により回避可能な副作用であり,視機能を保つためには重症化例でのCPG関連薬の中止・切替えが重要あたらしい眼科Vol.43,No.4,20264350910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1緑内障術後濾過胞を伴った症例(78歳,女性)a:眼瞼下垂手術前.Cb:術前の左眼にみられる.濾過胞がみられる.c:術後C6カ月,MRD-1の改善を認める.Cd:術後C6カ月,左眼.濾過胞の縮小や濾過関連合併症は認められない.bd図3上眼瞼溝陥凹を伴う症例(72歳,女性)a:術前.Cb:前眼部COCTによる術前の角膜形状.Cc:術後C3カ月.MRD-1は改善し,上眼瞼溝の陥凹は軽減している.Cd:前眼部OCTによる術後C3カ月の角膜形状.角膜乱視はC.2.3DからC.1.4Dへ減少している.(文献C9より改変引用)である.また,眼瞼下垂手術により眼瞼圧が改善すると角膜が平坦化し,これらの収差や乱視が改善して視機能向上が期待される(図3)9).一方で,PAP眼では薬剤の影響や涙液環境などオキュラーサーフェス異常の関与が疑われ,病態は複合的である.今後,PAP眼における視機能への影響についてさらなる研究が望まれる.C●おわりに緑内障患者は眼瞼下垂の合併が多く,視野異常や乱視成分が悪化することがある.また,PAPの重症化は濾過手術成績の不良や不正乱視の原因となるが,濾過胞眼であったとしても眼瞼下垂手術は比較的安全に施行可能図2PAPを伴った症例(79歳,女性)眼瞼の色素沈着,上眼瞼溝陥凹,眼瞼下垂などがみられる.であり,視機能改善のため積極的な対応が望まれる.文献1)TanCP,CMalhotraR:OculoplasticCconsiderationsCinCpatientsCwithCglaucoma.CSurvCOphthalmolC61:718-725,C20162)Naruo-TsuchisakaA,MaruyamaK,ArimotoGetal:Inci-denceCofCpostoperativeCptosisCfollowingCtrabeculectomyCwithmitomycinC.JGlaucomaC24:417-420,C20153)FukushimaCM,CYunokiCT,COtsukaCMCetal:AssociationCofCdeepeningoftheuppereyelidsulcuswiththeincidenceofblepharoptosisCafterCglaucomaC.ltrationCsurgery.CSeminCOphthalmolC35:348-351,C20204)AkaiCR,CYunokiCT,COtsukaCMCetal:IncidenceCofCblepha-roptosisafterparsplanaBaerveldt350glaucomaimplantsurgeryCbyCaCsingleCsurgeon.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC39:357-360,C20235)TaniguchiCA,CYunokiCT,COtsukaCMCetal:VisualC.eldCchangesCinCglaucomaCpatientsCafterCblepharoptosisCsur-gery.EurJOphthalmolC32:3353-3357,C20226)YunokiCT,CTojoCN,COiwakeCTCetal:GlaucomaC.lteringCblebCanalysisCbeforeCandCafterCaponeuroticCblepharoptosisCsurgery.OphthalmicPlastReconstrSurgC36:45-48,C20207)MikiT,NaitoT,FujiwaraMetal:Effectsofpre-surgicaladministrationofprostaglandinanalogsontheoutcomeoftrabeculectomy.PLoSOneC12:e0181550,C20178)InoueCK,CShiokawaCM,CWakakuraCMCetal:DeepeningCofCtheCupperCeyelidCsulcusCcausedCbyC5CtypesCofCprostaglan-dinanalogs.JCGlaucomaC22:626-631,C20139)NumataA,YunokiT,OtsukaMetal:Cornealtopograph-icCchangesCafterCblepharoptosisCsurgeryCinCpatientsCwithCdeepeningCofCtheCupperCeyelidCsulcus.CJpnCJCOphthalmolC65:282-287,C202110)YunokiCT,CUozumiCY,CTojoCNCetal:CornealCFourierChar-monicanalysisinprostaglandin-associatedperiorbitopathypatientsCwithCblepharoptosis.CJpnCJCOphthalmolC69:360-364,C2025C436あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(94)

屈折矯正手術セミナー:レーザー屈折矯正術後眼の鑑別方法

2026年4月30日 木曜日

●連載◯311監修=稗田牧神谷和孝311.レーザー屈折矯正術後眼の鑑別方法小島隆司名古屋アイクリニックレーシックを中心とするレーザー屈折矯正手術はC2000年代後半に日本で急速に普及したことから,今後,白内障手術の適応年齢に達する患者が増えることが予測される.術後眼では角膜形状の変化により,通常の眼内レンズ度数計算式を用いると術後遠視ずれを生じやすいため,適切な鑑別は患者満足度の維持に不可欠である.鑑別には細隙灯顕微鏡によるフラップエッジの観察,角膜トポグラフィーを用いた角膜前面形状の評価,前眼部光干渉断層計による角膜厚や角膜前後面比の解析が重要である.また最近,眼軸長測定装置に搭載された自動判定アルゴリズムも有用である.これらの所見を組み合わせることで,レーザー屈折矯正術後眼の鑑別精度は向上し,眼内レンズ度数計算の最適化に寄与すると考えられる.●なぜ鑑別が必要か現在,レーシック後の白内障手術で問題となるのは術後予測屈折誤差である.レーシックを受けた患者は裸眼で過ごしたいという欲求が強く,予測屈折誤差が大きくなることは,それだけ患者満足度が低下することにつながる.レーシック後眼に対して,正常眼に対するのと同じ眼内レンズ度数計算式を用いると,術後は遠視ずれを起こす.これは中心角膜屈折力の推計誤差,角膜前後面比の異常によると考えらている.しかし,レーシック後眼向けに作成された計算式を用いれば,予測の±0.5D以内にC70~80%が,±1D以内にC90%以上が入るとされる1).したがって,術前にレーザー屈折矯正術後眼であるかどうかを確実に鑑別することはきわめて重要である.C●鑑別の方法まず,平均角膜屈折力がC42D以下などの角膜がフラットでレーシック後眼が疑われる患者では,細隙灯顕微鏡にてフラップのエッジを確認することが重要である.疑わしい患者では倍率をできるだけ上げて角膜周辺部を観察することが重要である.角膜トポグラフィーがあると,多くは鑑別可能である.図1に正常眼との比較を示す.正常眼では角膜中心部ほどスティープであり,周辺部ほどフラットである.矯正量が少ないレーシック後眼ではこれがわかりづらい場合もある.その場合はマップの表示をCinstantaneousmapにすると,周辺部の矯正されていない部分と矯正された部分の境目が明瞭になってわかりやすい.前眼部光干渉断層計があると,角膜後面および角膜厚の情報が加わるため,鑑別はさらに容易である.以下の点をチェックするとよい.典型的な症例を図2に示す.①角膜トポグラフィー同様,角膜前面形状がCoblate形状(角膜中心部ほどフラットで周辺ほどスティープ).正常眼はこの逆でCprolate形状(中心部がよりスティープで,周辺部はフラット).②角膜の菲薄化.眼の術前の角膜厚にもよるが,多くはC500μm以下であることが多い.③低い角膜前面の屈折力④角膜前後面比が高くなる.角膜前後面比の正常眼の平均値はC1.19と報告されており2),レーザー角膜屈折矯正手術後は角膜前面の曲率半径が後面に比して大きくなる.C●トピックス:眼軸長測定装置に付随したレーシック後眼の鑑別システム最近アップデートした眼軸長測定器機COA-2000Comfort(トーメーコーポレーション)は,付随する角膜トポグラフィー機能を用いて,特殊な眼内レンズ度数計算式が必要なCLVC後眼と円錐角膜のリスク評価が可能になっている(図3).LVC後眼の判定アルゴリズムには角膜離心率とCFourier解析による非対称成分が用いられている.感度はC93.3%,特異度はC87.5%であり,臨床では十分有用であることが示されている3).(91)あたらしい眼科Vol.43,No.4,20264330910-1810/26/\100/頁/JCOPYAxialmapInstantaneousmap図1正常眼とレーシック眼の角膜トポグラフィー所見TMS-4N(トーメーコーポレーション)の画面.Axialmapでは,スケールをノーマライズドにすると角膜中心部フラット,周辺部スティープのCoblate形状がわかりやすい.さらにCinstantaneousmapで表示すると,屈折矯正を行った領域としていない領域の違いがはっきりして,レーザー屈折矯正手術後かどうかが一目瞭然である.文献1)GettingerK,MasuiS,OmotoMetal:Accuracyofrecentintraocularlenspowercalculationmethodsinpost-myopicLASIKeyes.SciRepC14:26560,C20242)HasegawaCA,CKojimaCT,CYamamotoCMCetal:ImpactCofCtheCanterior-posteriorCcornealCradiusCratioConCintraocularC434あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026図2前眼部光干渉断層計におけるレーシック術後眼の特徴CASIA2(トーメーコーポレーション)使用.図3光学式眼軸長測定装置搭載のLVCリスク評価システムOA-2000comfort(トーメーコーポレーション)の画面.この症例はCLVC後眼である確率が高いことが示されている.lenspowercalculationerrors.ClinOphthalmolC12:1549-1558,C20183)NishidaT,KojimaT,IsogaiNetal:Discriminantpredic-tionCequationCusingCanCopticalCbiometerCforCidentifyingCpostmyopiclaservisioncorrectioneyes.JCataractRefractSurgC50:1151-1156,C2024(92)

眼内レンズセミナー:COVID-19ワクチン接種後に両眼同時発症した急性原発閉塞隅角症の 1 例

2026年4月30日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋467.COVID-19ワクチン接種後に両眼同時発桑野和沙東京慈恵会医科大学眼科学講座症した急性原発閉塞隅角症の1例近年,COVID-19関連眼炎症性疾患発症の報告が散見される.筆者らはCCOVID-19ワクチン接種翌日に両眼同時発症した急性原発閉塞隅角症に対して,水晶体再建術が奏効した症例を経験したので報告する.●はじめに急性原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureCglauco-ma:PACG)および急性原発閉塞隅角症(acuteCprimaryCangleclosure:APAC)は急激な眼圧上昇により視機能障害をきたす疾患であり,視力低下・眼痛・悪心・嘔吐などの症状を呈し,対応が遅れると不可逆的視神経障害に至る.典型的には片眼性で発症し,両眼同時発症はまれで,Vogt・小柳・原田病,薬剤性,炎症性,解剖学的異常など続発性であることが多い.近年,COVID-19ワクチン接種後の多彩な眼合併症が報告されている.今回筆者らは,明らかな誘因なくワクチン接種翌日に両眼同時発症したCAPACを経験した.C●症例提示患者はC69歳,女性.COVID-19ワクチンC4回目を接種した当日の深夜に右眼羞明・眼痛を自覚し,翌日に前医を受診した.視力は右眼C0.07(0.5C×sph-4.50Dcyl-0.50DC×Ax125°),左眼C0.01(1.0C×sph-3.25Dcyl-0.75DC×AxC50°).両眼とも眼圧C62CmmHgで,浅前房・中等度散瞳を認め,グリセオール点滴後に当院紹介受診となった.来院時の眼圧は右眼C56CmmHg,左眼C19CmmHgで,前眼部光干渉断層計(CASIA2)で両眼とも浅前房(前房深度は右眼1.59Cmm,左眼C1.65Cmm),iridotrabecularcontact(ITC)indexは右眼C92.8%,左眼C80.0%であった(図1).眼軸長は右眼C24.09Cmm,左眼C23.84Cmmで短眼軸ではなかった.眼底に漿液性網膜.離や脈絡膜肥厚はなく,Vogt・小柳・原田病は否定的であった.右眼耳側に白色病変を認めたが,蛍光眼底造影では軽度蛍光漏出以外に炎症所見はなかった.採血・胸部CX線に異常所見はなかった.続発性のCAPACと診断し,D-マンニトール点滴,ピロカルピン塩酸塩点眼,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼で眼圧下降を試みた.しかし,発作が解除されないためピロカルピン塩酸塩点眼からアトロピン硫酸塩水和物点眼に変更したところ発作は解除され,眼圧は右眼C11CmmHg,左眼C13CmmHgまで下降し,前房深度は右眼C1.76mm,左眼C1.69mm,ITCIndexは(89)右眼C39.2%,左眼C44.7%に改善した(図2).ワクチン接種11日後に,再発を認めなかったためアトロピン硫酸塩水和物点眼を中止したところ,同C13日後に右眼にCAPACが再発し,眼圧はC40CmmHg,前房深度C1.62Cmm,ITCCIndex33.6%であった.同日,右眼水晶体再建術を施行し,発作の解除と眼圧下降を得た(図3).また左眼に対してはワクチン接種C1カ月後に水晶体再建術を施行し経過観察を行ったが,APACの再発は認められなかった.C●考按一般的に両眼同時発症のCAPACはまれだが,これまでに複数の症例が報告されており,その多くが続発性であるため,本症例においてもぶどう膜炎,薬剤性,ウイルス感染などの誘因を検索したが,原因の特定には至らなかった.このため,COVID-19ワクチンの影響と考えられた.COVID-19ワクチン接種後の眼の炎症反応のメカニズムとして,ワクチンとぶどう膜ペプチドの分子相同性,Ⅲ型過敏反応,ワクチン接種によって誘発される自然免疫反応により二次的に生成される抗原の活性化などが示唆されている1,2).また既報では,COVID-19ワクチンC2回接種後にぶどう膜炎を発症する症例が多く,その理由として用量依存性反応の関与が考えられている3).APACの成因としては,①相対的瞳孔ブロック,②プラトー虹彩,③水晶体因子,④水晶体後方因子(毛様体因子など)が複合的に関与している可能性が高い.またCAPACの解剖学的リスク因子には,浅前房,浅い虹彩角膜角,水晶体膨隆に伴う水晶体肥厚,短眼軸があげられる4,5).本症例は①~③を満たすCAPACのハイリスク群であり,そこにCOVID-19ワクチンが発症機転となって①~④が複合的に関与し,両眼同時にCAPACが発症した可能性がある.APAC治療に関しては,従来はレーザー虹彩切開術が選択されることが多かったが,近年では水晶体再建術が眼圧コントロールや再発予防に優れ,予後がよいとの報告がある6).COVID-19感染後の両眼同時CAPACに対しても水晶体再建術が奏効した報告があり7),本症例でも再発した右眼と予防あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026C4310910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1来院時(ワクチン接種翌日)の前眼部光干渉計所見CASIA2(トーメーコーポレーション)にて,浅前房(上段),iri-dotrabecularcontact(ITC)indexにて広範囲な隅角閉塞(下段)を認める.図3水晶体再建術後の右眼前眼部光干渉計所見前房深度の拡大を認める.的に施行した左眼ともに術後は隅角開放と眼圧安定が得られ,以後再発を認めていない.COVID-19関連CAPACにおいて,水晶体再建術は有用であると考えられる.C●まとめ両眼同時発症CAPACはまれであり,本症例は解剖学的リスクを有していたが他に明確な誘因を認めず,COVID-19ワクチンの関与を否定できなかった.また,COVID-19関連CAPACに対して水晶体再建術は有用な治療法の可能性が図2ワクチン接種2日後の前眼部光干渉計所見前房深度の拡大(上段),ITCindexにて閉塞範囲の改善(下段)を認める.示唆された.文献1)WatadA,DeMarcoG,MahajnaHetal:Immune-mediat-edCdiseaseCflaresCorCnew-onsetCdiseaseCinC27CsubjectsCfol-lowingCmRNA/DNACSARS-CoV-2Cvaccination.CVaccines(Basel)9:435,C20212)TeijaroCJR,CFarberCDL,CGriffinCDECetal:COVID-19Cvac-cines:modesofimmuneactivationandfuturechallenges.NatRevImmunolC21:195-197,C20213)LiS,HoM,MakAetal:Intraocularinflammationfollow-ingCOVID-19vaccination:Ctheclinicalpresentations.IntOphthalmolC43:2971-2981,C20234)日本緑内障学会:第C2章緑内障の分類,Ⅱ続発緑内障(secondaryglaucoma).緑内障ガイドライン(第C5版).日眼会誌126:98,C20225)LeeHS,ParkJW,ParkSWetal:FactorsaffectingrefracC-tiveoutcomeaftercataractsurgeryinpatientswithahis-toryCofCacuteCprimaryCangleCclosure.CJpnCJCOphthalmolC58:33-39,C20136)OngCAY,CMcCannCP,CPereraCSACetal:LensCextractionCversuslaserperipheraliridotomyforacuteprimaryangleclosure.CCochraneCDatabaseCSystCRevC2021:CD015116,C20217)NivashCA,CKumarCS,CReddyCPCetal:BilateralCangle-clo-sureattackinaCOVID-19-positivepatient.OmanJOph-thalmolC17:264-267,C2024

写真セミナー:先天性遺伝性角膜実質ジストロフィ

2026年4月30日 木曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史本宮奈月503.先天性遺伝性角膜実質ジストロフィ東京歯科大学市川総合病院眼科図2図1のシェーマ①角膜実質浮腫図1右眼の当院初診時所見(4歳,女児)角膜はびまん性に実質浮腫をきたしている.矯正視力はC0.04.図3右眼DALK後1カ月の前眼部所見(左図)と光干渉断層計所見(右図)術後角膜浮腫はなく,角膜グラフトの接着は良好であった.矯正視力はC0.4.(87)あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026C4290910-1810/26/\100/頁/JCOPY先天性遺伝性角膜実質ジストロフィ(congenitalhereditarystromaldystrophy:CHSD)は,先天性に発症する常染色体優性遺伝性角膜実質混濁である.Decorin遺伝子異常により,コラーゲン線維間距離を一定に保つことで透明性を維持するタンパク質の構造に異常をきたすことで角膜混濁が生じる1).電子顕微鏡による観察でコラーゲン線維の不規則な配列や広い裂隙を認める.CHSDは両眼角膜実質全層のびまん性混濁を特徴とし,角膜厚や角膜径,角膜内皮機能は正常である2).治療法は角膜移植であり,全層角膜移植術(pene-tratingCkeratoplasty:PKP)3)や深部層状角膜移植術(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)2)が選択される.症例はC4歳,女児.両眼のCCHSDで精査・加療目的に当院を紹介受診した.初診時視力は右眼C0.02(0.04C×sph+2.00Dcyl-3.00DCAx180°),左眼C0.04(0.04C×sph0.00Dcly-3.50DCAx180°),眼圧は右眼21.6CmmHg,左眼C22.2CmmHgであった.角膜径は右眼10Cmm,左眼C10Cmm,中心角膜厚は右眼C668Cμm,左眼668Cμmであった.両眼にびまん性の角膜実質混濁を認め(図1,2),角膜内皮細胞密度は両眼とも測定不能であった.右眼は初診の約C2カ月後に,左眼は約C5カ月後に全身麻酔下にてCDALKを施行した.術後はモキシフロキサシン塩酸塩C1日C4回,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC1日C4回点眼とした.術後角膜浮腫はなく,術後眼圧は正常範囲内で角膜グラフトの接着は良好であった(図3).初診後約C8カ月(右眼はCDALK後約C6カ月,左眼はCDALK後約C3カ月)時点の視力は右眼(0.6C×sph+4.50Dcyl-4.50DAx20°),左眼(0.7C×sph+3.00Dcyl-2.50DCAx5°)であった.初診の約C9カ月後,右眼に角膜縫合糸の緩みによる結膜充血と角膜浮腫が出現したため,そのC1カ月後に全身麻酔下にて右眼角膜縫合糸の抜糸を施行した.右眼は縫合糸の緩みによる炎症により角膜不正乱視が残存し,術後視力は(0.2C×sph-1.00Dcyl-5.00DCAx10°)となった.左眼視力は(1.0C×sph+2.50Dcyl-2.50DAx40°)であったC.文献1)MorikawaH,NishinaS,ToriiKetal:Apediatriccaseofcongenitalstromalcornealdystrophycausedbythenovelvariantc.953deloftheDCNgene.HumanGenomeVaria-tionC10:1-4,C20232)KimCJH,CKoCJM,CLeeCICetal:ACnovelCmutationCofCtheCdecoringeneidentifiedinaKoreanfamilywithcongenitalhereditaryCstromalCdystrophy.CCorneaC30:1473-1477,C20113)BergerCT,CHasenfusCA,CBredrupCCCetal:Long-termCfol-low-upCofCpediatricCexcimerClaser-assistedCpenetratingCkeratoplastyCforCcongenitalCstromalCcornealCdystrophy.CCorneaC43:784-789,C2024

Sagging Eye Syndrome vs Heavy Eye Syndrome vs 強度近視性内斜視

2026年4月30日 木曜日

SaggingEyeSyndromevsHeavyEyeSyndromevs強度近視性内斜視SaggingEyeSyndromevsHeavyEyeSyndromevsHighMyopicEsotropia國見敬子*はじめにSaggingeyesyndrome(SES)とheavyeyesyndrome(HES)は,いずれも眼球運動を安定させるorbitalpul-leysystem(眼窩プリー)の障害を背景とする後天斜視である.SESは主として加齢性の結合組織変化により外直筋プリーの下垂外直筋─上直筋(LR-SR)バンドの伸展および断裂をきたし,開散麻痺様内斜視や外方回旋を伴う微小上下斜視を呈する.HESは軸性強度近視に伴う眼球後部の筋円錐外脱臼が主因で,外転および上転障害を伴う進行性の内下斜視へ移行しうる.両者はスペクトラムとして重複しており,その中間に値する疾患として,強度近視性内斜視も存在する.日常診療では「臨床像でSESを疑う」「必要時にMRIで脱臼角を評価する」という二段階のアプローチが実用的である.本稿では原因,自然経過,検査の要点,非観血的治療と観血的治療(術式選択と定量)を整理する.I原因1.眼窩プリーとその役割眼窩プリーは,外眼筋が赤道部で屈曲する「滑車」(pulley)として働き,眼球位置と回旋軸を安定化させる結合組織系である.Pulleysleeve,pulleyarray(ring/band),pulleyslingから構成され,部位ごとにコラーゲン・エラスチン・平滑筋の比率が異なる.Pulleysleeveは各直筋をとりまく筒状結合組織で,筋がTenon.を貫く部位から後方で連続し,境界不明瞭にTenon筋膜へ移行する「鞘」として直筋経路を包み込む.中央には強固な結合組織の環であるpulleyringが存在し,直筋の機能的起始部として筋の力学的ベクトルを安定化する.Pulleyarrayは赤道部後方で眼球をとりまく一連の構造で,外直筋-下直筋間を除く,内直筋,上直筋,外直筋間のring同士を結ぶpulleybandに加え,下斜筋および上斜筋の一部が連結し,隣接筋間でプリー位置を安定させる.Pulleyslingは前方では眼窩壁(外側はWhitnall結節,内側は後涙.稜眼窩壁)に付着し,後方は後部Tenon筋膜と連続して眼球後方を包む「ハンモック」としてプリー全体を懸垂する1~3)(図1).眼窩プリーは「筋円錐(musclecone)が眼球を包む」という古典的概念とは異なり,「外眼筋の走行とベクトルの方向を眼窩壁側から制御する支持組織」という概念となる.外眼筋は,筋力や神経支配が保たれていても,筋が走行する経路がずれるだけで,眼位が共同性にずれ,複視を生じる.つまり,眼窩プリーによる斜視疾患の原因の主座は,筋そのものや麻痺ではなく,筋の経路を安定させている眼窩結合組織による支持機構にある,という見解が重要である4~6).この眼窩支持組織の加齢性変化が,SESやHESとして臨床像に現れる.2.SES:加齢性変化による「たわみ」SESは,眼窩プリーの一部であるLR-SRバンドの加齢性変化により生じる後天斜視である.LR-SRバンドは加齢により薄化・延長し,断裂に至るにつれ,外直筋*KeikoKunimi:神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科〔別刷請求先〕國見敬子:〒221-0835神奈川県横浜市神奈川区鶴屋町3-31-6神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科(1)(79)4210910-1810/26/\100/頁/JCOPY論文サイト動画サイトorbitalpulleysystemについての論文および動画サイトのQRコード図1眼窩プリーの構造Orbitalpulleysystem(眼窩プリー)は,眼球の位置および運動を安定させる結合組織である.Ca:pulleysleeve.各直筋を包む鞘で眼窩プリーの土台となる.b:pulleyarray.赤道部後方で眼球運動を安定させる主体となる組織の総称.Cc:pulleyring.pulleyarrayの一部でpulleysleeveの中央に位置する強度の高い組織で構成され,機能的な支点となり力の向きを固定する.Cd:pulleyband/pulleyring.pulleyarrayの一部で隣接するCpulleyring同士をつなぐ帯.Ce:pulleysling.眼窩壁からハンモック状に眼球後方に存在し,Tenon嚢と一塊となり全体を支える.図2眼窩プリーのsaggingeyesyndrome(SES)病態による変化a:SESは,眼窩プリーの加齢変化により,とくに外直筋-上直筋(LR-SR)バンド(図左)が延長(図中央),そして断裂(図右)し,徐々に外直筋プリーが下方へ偏位する.Cb:左右対称性の障害であると,遠見優位の内斜視である開散麻痺様内斜視を生じる.c:左右非対称の障害であると,外方回旋を伴う微小上下斜視を生じる.ab0,017Sunkenuppereyelid上眼瞼のくぼみBaggylowereyelidBlepharoptosis腱膜性眼瞼下垂percentageofpatientsineachBMIgroup0,017(%)100806040200<18.518.5-21.922-24.9.25下眼瞼の眼窩脂肪織によるふくらみRangeofBMISES(n=42)non-SES(n=98)図3SESに特徴的な身体的特徴a:顔貌所見(sagginglikeface).上眼瞼陥凹(sunkenuppereyelid),腱膜性眼瞼下垂,下眼瞼の眼窩脂肪織によるふくらみ(baggylowereyelid)はCSESを疑う手掛かりとなる.Cb:BMIとの関連.BMI低値ほどCSESが多く,BMI<18.5でCSESが有意に多い.複視を自覚するようになる13).HESについては,前段階病変である強度近視性内斜視を発症し,年単位で緩徐に内斜視が悪化し,外転・上転制限が目立ってくることが多い.初期は「遠見で複視」「疲れると悪化」程度でも,眼球後部脱臼が進むと複視が恒常化し,最終的には内下転位に固定されるHESとなる12).CIII必要な検査SESおよびCHESの診断は,①麻痺・炎症・変動性疾患を除外しつつ,②臨床像を把握し,③必要時にCMRIで病態の確認である.検査所見については,微小角・回旋を「拾う」ことが関門であり,ここを逃すと過剰検査や診断遅延につながる.C1.臨床像からSESおよびHESを疑うための初期評価問診では発症様式(急性か緩徐か),遠見・近見の斜視角の差,視線方向の差,眼鏡歴(単焦点,累進,プリズム),近視歴(眼軸長,屈折,白内障手術歴)を確認する.視力・屈折を確認し,完全矯正下で眼位測定し,遠見と近見の両方での最大偏位を測定する.遠見優位の訴えは開散麻痺様内斜視を示唆し,年齢によっては調節輻湊不全による内斜視である急性共同性内斜視などの別の病態もあわせて考える.眼内レンズ眼の場合も考慮し,必ず眼軸長を確認し,強度近視例ではCHES寄りの病態を想定してCMRI画像評価へつなげる6,11).SESは微小角であることが多く,交代プリズム遮閉試験(alternateCprismCcovertest:APCT)だけでなくCMaddoxCdoubleCrodtest,parallaxtest,Bagolini線条鏡などの自覚的検査を併用確認することも重要である.C2.眼球運動・回旋評価のポイント眼球運動ではC9方向眼位を記録し,上転・外転制限の有無と程度を評価する.回旋はCMaddoxCdoubleCrodCtestに加えて眼底写真で視神経の垂直の中心から水平に引いた線と中心窩に引いた線の角度Cdisc.foveaangle(DFA)を測定し,外方回旋を定量する(正常眼:約7.25°,外方回旋で高値)方法や14),中心窩が乳頭下方1/3~1/4を正常とし,中心窩が乳頭の下端よりも下方であると外方回旋と判断する方法もある15).下斜視眼の外方回旋が強い場合,プリズムのみでは複視が残りやすく,術式選択や患者説明に回旋所見を反映させる.C3.鑑別診断(除外すべき病態)SESおよびCHESを疑う状況でも,①脳神経麻痺(外転・動眼・滑車神経),②甲状腺眼症,③重症筋無力症,④外傷・眼窩骨折・眼窩手術後は必ず除外する.とくに甲状腺眼症と重症筋無力症は「高齢者の複視」としてまぎれやすく,炎症徴候(痛み,充血,眼瞼後退),変動性,日内変動,眼球突出,眼瞼左右差を系統的に拾い,必要に応じて血液検査・神経学的評価・画像を追加する.C4.MRIは必要時に実施SESの診断に眼窩CMRI画像は必須ではないが,強度近視合併,外転・上転制限が目立つ,斜視角が大きい,あるいは経過から除外診断が必要な場合に有用である.撮像は冠状断CT1強調画像またはCT2強調画像(脂肪抑制なし)を基本とし,視神経-眼球接合部の前方C6~9Cmmで外眼筋位置関係を評価する.SESではCLR-SRバンドの伸展・断裂,外直筋下方偏位,外直筋上部の耳側傾斜などが手がかりとなる.HESおよび強度近視内斜視との鑑別は,脱臼角が一般にC120°以上ならCHES様病態を強く疑う(図4).MRIの所見は①外直筋中心の下方偏位,②上直筋中心の鼻側偏位,③CLR-SRバンドの断裂,④脱臼角を系統的に評価する.脱臼角が大きい場合は斜視角が小さくても脱臼優位と判断し,横山法の適応や将来的な進行を患者へ説明する(図5)10,11).CIV治療方法(非観血・観血)治療選択は患者の主訴とCLR-SRバンドの状態を相対的に評価することが重要である.画像所見が典型的でも症状が乏しければ非観血的治療を選択でき,回旋自覚が強い,日常生活支障が大きい,あるいは脱臼角が大きく進行が見込まれる場合は早期に斜視専門医へ紹介し,術式選択を含めて検討する.424あたらしい眼科Vol.43,No.4,2026(82)a図4Heavyeyesyndrome(HES)の顔貌と眼窩MRI画像所見a:顔貌所見.HESのC9方向眼位写真.各方向で視線移動がほとんど得られず,眼位が内下転位でほぼ固定している.b:眼窩CMRI画像所見.右眼C190°,左眼C188°と著明な脱臼を示す.術式選択では水平筋手術単独より上外直筋縫着術(横山法)を優先して検討する.〔出典:後関利明『複視診療のストラテジー』(三輪書店,2024),p75~76〕小大内直筋後転術横山法(2倍量)脱臼角図5眼窩プリー疾患の病態のスペクトラムおよび治療眼窩プリー異常に関連する病態を連続体として示す模式図である.左(青)は加齢性変化に伴うプリー支持組織変性が主体のCSES,右(赤)は強度近視に伴う眼球脱臼によりプリー破綻が主体のCHESを表す.中央(黄)は強度近視性内斜視を示す.背景の二つの三角形は,左が「加齢性変性」,右が「脱臼による破壊」の寄与が左右で入れ替わることを示す.下段の脱臼角を指標に,両眼内直筋倍量後転術または横山法を選択する.外直筋右眼図6上外直筋結合術(横山法)SRとCLRを付着部から約C15Cmm後方の筋腹で縫着し,脱臼孔を閉鎖して眼球後部脱臼を整復する.