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基礎研究コラム:組織透明化と房水流出路の観察

2026年3月31日 火曜日

組織透明化と房水流出路の観察組織透明化組織透明化は組織観察で使用される手法です.この技術は,レーザー走査型顕微鏡と組み合わせることで標本内の表層から深層までの撮影画像の取得を可能とし,これを再構成することで三次元的な形態学的解析が可能です.これまでいくつかの透明化試薬が考案されてきましたが,いずれも原理は同じで,組織内の水分と透明化試薬が置換されることで,組織内の屈折率が均一となり,透明化されて見えるというものです.近年考案されたCLUCID(illuminationCofCclearedCorgansCtoCidentifyCtargetmolecules)は,2,2-チオジエタノールという非毒性の物質を主成分とした透明化試薬であり,自家蛍光や蛍光抗体を用いた従来の観察が可能なだけでなく,一度透明化した検体でも,また水に浸漬すれば元の状図1透明化前後のヒト眼上段はホルマリン固定後,下段はCLUCID浸漬後.強膜内の血管が透見できる.メラニンは残存している.図2ヒト眼の房水流出路の観察a~dの→はそれぞれ,虹彩根部(a),線維柱帯(Cb),Schlemm管様の空隙(Cc),集合管様の管腔構造(d).e,f:集合管様の管腔構造.朝比奈祐一東京大学大学院医学系研究科眼科学態に戻り,薄切しても病理診断でも問題ない程度のCHE染色や免疫染色が可能です1).眼の領域ではどうでしょうかたとえば強膜は不透明ですので,これを透明化することで強膜内の構造を可視化することが可能です(図1).筆者らはこれを用いて房水流出路を線維柱帯から集合管まで連続して可視化できることを報告しました.薄切することなく,任意の方向から房水流出路を三次元的に観察できます(図2)2).今後の展望不透明なために詳細な観察ができないものについては全般的に有用と考えられるので,たとえば角膜混濁は対象となりえます.薄切することなく観察でき,透明化後の検体も元の状態に戻せるため,病理診断のためのブロック検体として保存されている手術検体を観察対象とすることができます.また,脱メラニン化と併用すれば,ぶどう膜,とりわけ脈絡膜の観察にも応用が期待されます.文献1)AsahinaCY,CHinataCM,CTanakaCACetal:Transparency-enhancingCtechnologyCallowsCtheCthree-dimensionalCassess-mentCofCesophagealCcarcinomaCobtainedCbyCendoscopicCsubmucosalCdissection.CEsophagusC21:405-409,C20242)AsahinaY,AiharaM,MiyaiTetal:Visualizationofpor-cineCandChumanCaqueousChumorCout.owCtractCanatomiesCwithCtransparencyCenhancement.CJpnCJCOphthalmolC69:C460-468,C2025C(75)あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026C3030910-1810/26/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:274.糖尿病硝子体手術後に生じた眼内凝血塊

2026年3月31日 火曜日

274糖尿病硝子体手術後に生じた眼内凝血塊(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopa-thy:PDR)に対する硝子体手術後の再出血は頻度の高い合併症である.易凝血性の患者で術中に新生血管から網膜面上に凝血塊を形成することはあるが,術後にゲルのない眼内液中に大きな凝血塊を形成することは比較的まれである.●症例提示患者は27歳,女性.眼科的治療歴のない血管新生緑内障を併発した非常に活動性の高いPDR(図1)に対し,抗VEGF薬硝子体内注射を施行のうえ,初回手術で水晶体を温存した硝子体手術を施行した.術後,眼圧は低下し,矯正視力も0.5に改善していたが,術3週間後に再度眼圧が50mmHgに上昇し,前房出血および硝子体出血を認めたため,再手術を施行した.超音波Bモード検査では硝子体腔内に凝血塊を疑わせる大きな陰影を認めた(図2).再手術では視神経乳頭から下方にかけて大きな凝血塊が生じており,硝子体カッターで切除した(図3).視神経乳頭および下方の血管アーケード周囲に凝血塊と網膜の強固な癒着を認めたため,網膜と凝血塊の間隙を慎重に確認しながら切除を進め,眼内光凝固を追加し手術を終了した.血液検査で凝固系の異常はとくに認めなかった.●硝子体手術後に凝血塊を生じる症例の特徴PDRに対する硝子体手術後早期の出血は,赤血球が硝子体腔内に拡散し,大きな凝血塊を形成することは少ない.宮本らは,PDRに対する硝子体手術後に硝子体腔内に巨大な凝血塊を形成した1例を報告し,組織プラスミノーゲン活性化因子の硝子体内注入が凝血塊処理に有用であったと報告している1).また,このような凝血塊が形成される機序として,空気との界面の出血は凝血(73)0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1初回手術前の左眼眼底写真非常に活動性の高い無治療の増殖糖尿病網膜症で,硬性白斑,網膜前出血,線維血管増殖膜を認めた.図2術後再出血時の超音波Bモード検査高輝度陰影を硝子体腔内に認め,大きな凝血塊が疑われた.図3再手術時の術中所見視神経乳頭から下方にかけて大きな凝血塊が生じていた.しやすく,その上に血液が流れ重なることによって巨大化するのではないかと述べている.本提示例は初回手術でガスタンポナーデを施行していないが,初期に形成された凝血塊の上に出血が重なって形成された可能性が考えられる.筆者は今までに数例,同様の症例を経験しているが,いずれも非常に活動性の高い若年のPDR症例であり,硝子体腔内を充満するような巨大な凝血塊をきたした症例では,術中網膜面の確認に苦慮し,不用意な操作で医原性裂孔を形成しやすい.また,いずれの症例も血液検査で凝固系の異常はみられず,易凝血性の原因については不明な点が多い.文献1)宮本武,雑賀司珠也,岡田由香ほか:硝子体切除後硝子体腔内血腫手術時に組織プラスミノーゲンアクチベーターが有用であった1例.眼臨医98:198-200,2004あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026301

考える手術:気体網膜復位術

2026年3月31日 火曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅気体網膜復位術秋山邦彦国立病院機能東京医療センター眼科気体網膜復位術(PnR)はガスの浮力と表面張力によって.離網膜を.離前の元の位置に復位させ,光凝固または冷凍凝固を行って網膜を固定する方法である.この方法は観血的な手術手技とは異なり,きわめて低侵襲であることと,ガスの力でゆっくりきれいに網膜を復位させることが特徴であり,それによってより良い視機能が得られるとされる.屈折変化,白内障,眼球運動障害などの手術に伴う合併症も生じにくい.一方でPnRは治療前の網膜硝子体の病態観察が結果を大きく左右すること,ガス下でのレーザー治療にそれに対するすべての治療法のなかで,PnRは各患者の病態に基づく方法論を考え抜き,考えたとおりに実行する聞き手:最近,気体網膜復位術(pneumaticretinopexy:襲治療することができます.もうひとつ重要なポイントPnR)が話題にのぼる機会が増えていますが,すでに強は,手術中に液空気置換で強制的に網膜を復位させる硝膜バックリング手術や硝子体手術が確立されているにも子体手術と異なり,ガスの浮力を利用してゆっくり網膜かかわらず,網膜.離の治療方法としてPnRを考えるを復位させるという点です.それがどのように結果に反意義はなんでしょうか?映されるかというと,有名なものとしてはPIVOT秋山:たしかに裂孔原性網膜.離の手術治療は,とくにTrial(硝子体手術とPnRを比較したランダム化比較試日本では治療成績もかなり良好です.それに比較して験)で報告されている術後歪視の問題があります1).こPnRは初回復位率が10%程度落ちるとされていますのの研究ではPnRのほうが術後歪視は少なかったと報告で,いったいなぜあえてその治療を選択するのか,といされています.実臨床でどの程度差があるのかは今後検うのは当然の疑問です.それを考える前提として,PnR討を要するとはいえ,理論的にはPnRのほうが網膜には前房水抜去と硝子体内ガス注入,それにレーザー(ま無理な力を加えず自然に復位させることができる,といたは冷凍凝固)を組み合わせて,.離した網膜を.離すうことは間違いありません.したがって私は,手術とる前の状態にガスの力で「現状復帰」させ固定する,とPnRを同列で並べて選択する,というよりも,PnRでいう方法ですので,ほかの手術と比較して圧倒的に低侵治せる可能性があるものはなるべくPnRを行い,復位(71)あたらしい眼科Vol.43,No.3,20262990910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術を得られなければ手術にスイッチする,という考え方で治療を行っています.もちろん患者には手術と両方の情報を説明し,復位率の違いも説明したうえで選択してもらっています.この方法を始めた当初は,復位率がより高い方法を選択するのではないかと思っていたのですが,実際には復位率が低くてもより低侵襲な方法をまず試したい,と希望する患者が圧倒的に多数派です.聞き手:では,実際にPnRを行うにあたって,適応はどのように考えればよいでしょうか.秋山:PnRの適応の判断は,まず網膜硝子体所見の正しい把握から始まります.硝子体手術や最近のシャンデリアを使用するバックル手術のように手術中に眼内から確認することはできませんから,術前の見落としは致命的です.最周辺部まで,よく観察してください.ガスで裂孔を閉鎖するので,やはり上方の小さめの裂孔が有利です.それを端的に表した適応はPIVOTtrialの論文にイラスト付きで説明されているので,参考にしてください1).術者と患者双方の理解とやる気が十分あれば,その適応からはずれたものも治療可能ですが,初回復位率は適応を広げるほど低下する傾向があります2).一方でPIVOTtrialの基準に合う患者を対象とする日本人での最近のデータでは初回復位率が90%以上でした2,3).聞き手:治療はすべての患者に同じ方法で行うのか,あるいは患者ごとにカスタマイズするのでしょうか?秋山:前房水抜去とガス注入までは,おおむね標準化された方法です.私が行っている方法は,先に前房水を30ゲージ針と1ccシリンジ(内筒を抜いたもの)で抜去し,抜去された量を計測して,抜去量+0.3ccの膨張性ガス(抜去量が0.3cc未満であってもガスの最低量は0.6cc)を硝子体内に注入する,というものです(動画①).1回のガス注入量で不十分であれば(下方裂孔,巨大裂孔や多発裂孔など),3日目あたりで2回目のガス注入を行い,ガスの体積を増やすことも検討します.ガス注入後は患者の頭位を指示するわけですが,これは網膜の状態によって変わります.典型的な方法はSteam-roller法といって,腹臥位を数時間,そこから1時間ごとに30°ずつ,裂孔の方向に向かって頭を挙上させていき,最後は裂孔がもっとも高くなる頭位を1週間程度保つ,というものです.これによって後極から周辺部に向かって網膜下液をガスの力で移動させ,黄斑部のズレ(fovea-o.の場合)や新たな黄斑.離(fovea-onの場合)を防ぐことができます.翌日以降,裂孔周囲の網膜が復位したらすぐにレーザーを開始します.裂孔や格子状変性の周囲を5列ぐらい,隙間なく,鋸状縁まで完全に埋300あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026めることがコツです4).ガスの浮力で裂孔が鋸状縁に向かって拡大する可能性も見越して,幅広く完璧にレーザーで囲む必要があるので,ここは術者の技量が試される部分です(動画②).もう完璧,といえるまで,毎日でも診察してレーザーを足していきます.ここで妥協すると治るものも治りませんので,面倒がらずに徹底的にやることが大切です.聞き手:合併症対策について教えてください.秋山:もっとも避けたい合併症の一つはガスの網膜下迷入です.これはガスが小さな多数の泡(.sheggs)になってしまい,しかも裂孔が大きめの時に生じやすい現象ですので,.sheggsを避けることが大切です.そのためには,ガス注入時の刺入部が眼球のもっとも高い位置になること,針の先端1/3だけを刺入し,比較的速い速度で一息に注入することがコツです(動画①).それでも.sheggsになってしまったら,1~2日で融合するまで腹臥位をしっかり保ってもらい,ガスを裂孔から離すようにすれば網膜下迷入をかなり避けることができます.迷入してしまって硝子体腔に戻らない場合は,早急に硝子体手術を行う必要があります.合併症対策はほかにもいろいろありますので,文献などにあたってみてください4).聞き手:PnRは手術ではなく低侵襲ではあるものの,簡単な手技ではない,と考えてよいでしょうか.秋山:そのとおりです.むしろPnRのほうが手術よりもむずかしい部分が多いうえに,手間はかなりかかります.決して簡単で単純な手技と思って安易に行うのではなく,患者のためによい治療を行う,という意識で徹底的に治療を行ってください.そうすればきっとよい結果が得られます.文献1)HillierRJ,FelfeliT,BergerARetal:Thepneumaticreti-nopexyversusvitrectomyforthemanagementofprimaryrhegmatogenousretinaldetachmentoutcomesrandomizedtrial(PIVOT).Ophthalmology126:531-539,20192)AkiyamaK,MatsukiT,WatanabeKetal:ImplementationofpneumaticretinopexyintheJapanesepopulation.JpnJOphthalmol2025.doi:10.1007/s10384-025-01241-z.Onlineaheadofprint3)YamadaH,AkiyamaK,SotaniYetal:OutcomesofpneumaticretinopexyforprimaryrhegmatogenousretinaldetachmentinaJapanesecohort.SciRep15:24182,20254)秋山邦彦:Pneumaticretinopexy.眼科手術37:193-198,2024(72)

抗VEGF治療セミナー:新生血管型加齢黄斑変性の長期マネージメントのコツ

2026年3月31日 火曜日

●連載◯165監修=安川力五味文145新生血管型加齢黄斑変性の太田光名古屋大学医学部附属病院眼科長期マネージメントのコツ新生血管型加齢黄斑変性の治療は抗VEGF薬投与が基本であり,treatandextend(TAE)法は視力維持と治療負担の軽減を両立する方法として現在主流となっている.本稿では,長期マネージメントに関して筆者の病院のデータを中心に現状と課題を述べる.はじめに新生血管型加齢黄斑変性(neovascularage-relatedmaculardegeneration:nAMD)は,抗VEGF薬の硝子体内注射の登場により視力予後は飛躍的に改善した.一方で,この治療法は継続的な投与が必要であり,薬剤コストの高さも相まって,患者のみならず医療従事者や医療経済全体にとって大きな負担となっている.抗VEGF薬の投与方法nAMDの治療は抗VEGF薬投与が第一選択である.投与方法としては,固定投与法,reactive治療であるprorenata(PRN)法,proactive治療であるtreatandextend(TAE)法に大別され,病状や患者背景に応じて選択される.抗VEGF薬は投与方法によって視力予後が異なることが報告されている.システマティックレビューおよびメタ解析により,TAE法は視力予後において固定投与法と同等であり,PRN法よりも良好であることが示されている.また,注射回数は固定投与法より少なく,PRN法より多い.これらの結果から,視力予後の維持と患者負担の軽減を両立できるTAE法が,現在では主流の投与方法となっている.00.1**TAE法の長期成績の実際日本においてアフリベルセプト2mgが発売されてから10年以上が経過し,長期使用における安全性と治療効果に関するエビデンスが確立されている.筆者らは以前,nAMD症例に対するアフリベルセプト2mgを使用したTAE法の5年間の成績を報告した1).対象は2014年1月.2016年12月に名古屋大学附属病院を受診した未治療nAMD患者111例112眼であり,後ろ向きに解析を行った.そのうち,アフリベルセプト2mgをTAE法で5年以上継続したのは66眼,脱落したのは46眼であった.脱落群は5年継続群と比較して有意に高齢であった(p<0.05)が,初診時の視力やnAMDの病型に有意差はなかった.最高矯正視力は,脱落群を含む全症例および5年継続群のいずれにおいても,初診から1年後に有意に改善し,その後5年目まで維持された(図1).ただし,3年目と4年目では有意差が消失していた.これは,19眼において白内障の進行に伴い,治療開始から平均38.3カ月後に白内障手術が行われたことが影響したと考えられる.網膜厚も初診から1年後に有意に減少し,5年目まで維持された.注射回数は1年目が平均約7回,2年**0.20.30.4012345(N=66)(N=66)(N=66)(N=66)(N=66)(N=66)Post-treatmentperiod(year)図1アフリベルセプト投与をTAE法で5年間継続した症例における視力推移*:p<0.05,Wilcoxon検定,Bonferroni補正MeanBCVA(logMAR)(69)あたらしい眼科Vol.43,No.3,20262970910-1810/26/\100/頁/JCOPY■4weeks■5~8weeks■9~12weeks■13~15weeks100%80%60%40%20%0%目から5年目は平均約5回であった.これらの結果は,nAMD症例においてアフリベルセプト2mgでTAE法を継続することで,比較的少ない治療負担で良好な視力成績が得られることを示している.一方で,注射間隔が8週以下に留まった症例が1.5年で21.7.30.3%存在し,頻回投与が必要な患者における治療負担軽減も今後の重要な課題と考えられる(図2).難治症例に対する治療法の変更これまでに,アフリベルセプト2mgで注射間隔の延長が困難な症例が他剤へ切り替えた場合の治療成績が報告されている.アフリベルセプト2mgからブロルシズマブへ切り替えた場合は,87%の症例で滲出性変化の改善が認められ,65%の症例で注射間隔の延長が得られている2).一方で,ブロルシズマブ使用例では,日本人において11.3.22.1%と比較的高率に眼内炎症が報告されており,使用にあたっては注意が必要である.ファリシマブへの切り替えでは,29.52%の症例で滲出性変化の改善が認められ,41%の症例で注射間隔の延長が得られている.また,アフリベルセプト8mgへの切り替えでは,68%の症例で滲出性変化の改善が報告されている.これらの結果から,頻回の注射を要する患者においては,他剤への切り替えにより注射間隔の延長が可能となり,患者負担の軽減につながることが期待されるTAE法の中断先述の筆者らの研究では,アフリベルセプト2mgでTAE法を継続した場合,最長注射間隔が16週以上に到達した症例は1.5年目で22.7.47.0%であった(図2).これらの症例は病状が安定していると考えられ,注射を中断する試みも報告されている.中断の方法として298あたらしい眼科Vol.43,No.3,202612345Post-treatmentperiod(year)図2アフリベルセプト投与をTAE法で5年間継続した症例における注射間隔の割合16~weeksは,TAE法で最長12.16週まで注射間隔を延長し,その間隔で2.3回連続して滲出性変化の再発を認めない場合に注射を中断し,その後は2.3カ月ごとに経過観察を行うというプロトコールが用いられている.その結果,1.2年間の経過で13.0.52.9%に再発が認められている.また,これらの報告の一部では,再発例において中断時と比較して有意に視力が悪化しており,中断に伴う再発や視力低下には注意が必要である.さらに,注射中断後1年間は,中断前と比較して有意に通院回数が増加することも報告されている.以上より,現状ではすべてのnAMD患者において,条件を満たした場合に注射を中断することのメリットがあるかどうかについては,依然として議論が分かれている.おわりに現時点でnAMDの完治は不可能であり,適切な治療と長期管理を行わなければ不可逆的な視力低下を容易に招く.黄斑新生血管の活動性は一時的に安定しても長期的には再発する可能性があり,滲出を繰り返すことで萎縮性変化や線維性瘢痕を生じ,視力が著しく低下する.今後も蓄積されるエビデンスを注視しつつ,病状や患者負担を考慮し,患者とともに持続可能な管理方法を選択することが求められる.文献1)OtaH,KataokaK,AsaiKetal:Five-yearoutcomesoftreatandextendregimenusingintravitreala.iberceptinjectionfortreatment-naiveage-relatedmaculardegen-eration.GraefesArchClinExpOphthalmol262:1-9,20242)OtaH,TakeuchiJ,NakanoYetal:Switchingfroma.ibercepttobrolucizumabforthetreatmentofrefractoryneovascularage-relatedmaculardegeneration.JpnJOph-thalmol66:1-7,2022(70)

屈折矯正手術セミナー:ICLサイズの多機種による決定法

2026年3月31日 火曜日

●連載◯310監修=稗田牧神谷和孝310.ICLサイズの多機種による決定法五十嵐章史代官山アイクリニックICLサイズ計算式は前眼部光干渉断層計によるものが主流となっており,計算式の改良により予想Cvaultのほか,術後前房深度,隅角も解析可能になっている.また,近年主流となっている垂直固定用の式もアップデートされている.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズのCICL(implantableCcolla-merClens,STAAR社)はCcentral.ow技術(ICLCKS-AquaPORT)の登場により,国内の屈折矯正手術のゴールデンスタンダードとなっている.安全性が高いCICLであるが,術後合併症をなくすには最適なレンズサイズを選択することが重要である.近年新たなレンズサイズ計算式が続々と登場し,実用化に至っている.C●前眼部解析装置またはマニュアル測定によるWTWを用いた式STAAR社が提供するサイズ計算式はCwhitetowhite(WTW)と前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)から,適切なレンズサイズを推測する式である.しかし,WTWはもともと不明瞭な指標であり,測定機器によって測定値に差があることもわかっており,機器間の互換性に問題がある.STAAR社の式はもともとCOrb-scan(BauschC&Lomb社)で測定したCWTWを採用しているが,すでにこの機器は国内で販売されていないため,ほかの測定機器で代用しなければいけない.筆者が過去にCWTWを種々の検査機器とマニュアル法であるカリパー(Castroviejo型カリパーCHS-2810,はんだや)を用いて同一健常眼のCWTWを測定した結果1)では,Orbscan-2のCWTW値に対して,TMS-4(トーメーコーポレーション)は約C0.3mm,IOLmaster700(CarlZeiss社)は約C0.6Cmm有意に長く計測される傾向にあることがわかっている.現状ではこれらの誤差を考慮してOrbscan測定値に近づけるように他機種の値を変換しなければいけないが,機種により再現性が不良なものもあり,注意が必要である.C●超音波生体顕微鏡を用いたサイズ計算式ICLはCsulcusCtosulcus(STS)に固定するレンズであり,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)は唯一直接CSTSを測定できる機器であることか(67)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYら,サイズ計算式の指標としては理想と思われる.過去に小島らはCVuMax-II(Sonomed社)を用いてサイズ計算式であるCK式を考案した2).K式で用いられたパラメータはCACD,STS,STSL(STSと水晶体前面の膨隆量)の三つで,この式を用いた平均CvaultはC0.64±0.25Cmm,0.25.0.75Cmm範囲にC74.1%が入ったとしている.ただし,一般的にCUBMによるサイズ式は測定の再現性に課題(検者間差・解釈のバラつき)があり,患者にとっても侵襲が高く,検査時間が長いことが欠点であり,現状ではサイズに迷う例に対する補助的な役割となることが多い.C●前眼部OCTを用いたサイズ計算式光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)は非接触かつ短時間に再現性の高い高精度な前眼部構造を測定できるため,現在CICLサイズ決定の主流となっている.とくに国内では世界に先駆けてCNK式,KS式といった計算式が発表され,各式は日々改訂を繰り返し精度の高いものになっている.これらの式はすでに前眼部COCTのCCASIA2(トーメーコーポレーション)に搭載済み(図1)であり,国内ユーザーにとっては必須の検査機器となっている.また,ANTERION(HeidelbergEngineering社)によるサイズ計算式を秦らが開発し,臨床応用可能となっている.C1.NK式NK式は強膜岬間距離(anteriorCchamberwidth:ACW)とCcrystallineClensrise(CLR)をメルクマールとして,最適なレンズサイズを算出する計算式で,Naka-muraが報告したオリジナル式3)から改良が加わり,最新はCVer.3式4)となっている.NK式は開発当初から横情報のCACWに加え縦情報のCCLRが採用され,最適なレンズサイズを算出する式であったが,予測Cvaultを算出する式でなかったため,当初は選択するレンズサイズを変更させた時に予測Cvaultが大きく変動する欠点があった.その後CNK3式になり,その点は改善され,現在あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026295垂直固定用の式も開発されている.C2.KS式KS式はCangletoangle(ATA)をメルクマールとして予測Cvaultを算出する計算式で,2019年に筆者が考案したオリジナル式5)から改良が加わり,現在はCVer.5となっている.当初は単純にCATAのみから術後Cvaultを予測した式であったが,その後CNK式で採用されているCLRを加え,水平・垂直固定式を別に作成した.現在の最新CVer.5はCATAの描出が向上し,各サイズ別に水平・垂直固定用の計C8式を作成することで,任意のサイズ・固定位置に対して精度の高い予測Cvaultを算出可能としている.C3.術後の予測ACD,隅角最新のCCASIA2には予測Cvaultのほか,術後の予測ACD(角膜内皮.ICL前面)やCtrabecular-irisCangle(TIA)500が算出可能となっている(図1).それぞれの予測値のカットオフ値はC2.0mm,15.2°とされており,最低でもその値を超えるようなサイズを選択すべきとしている.C4.ANTERIONを用いたICLサイズ計算式前眼部COCTは機器間による測定値の互換性に課題があるとされている.過去の報告6)でもCCASIA2とANTERIONでは主要なメルクマークとなるCATAやCLRに差がみられる傾向があり,当然これまでの計算式をそのまま導入すると誤差が生じるため,別の式を作成する必要がある.その問題に対して秦らは,ANTERIONC296あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026図1CASIA2におけるICLサイズ選択画面最新のソフトではCNK式,KS式の最新CVerおよび水平(H),垂直(V)式を任意に選択することが可能となっている(Ca).また,水平固定のみになるが予想CACD,TIA500も算出可能で,総合的な術後前房形状の予測からサイズ選択を行うことができる(Cb).Cbの測定値を用いたCICLサイズ式を構築し良好な結果を得たと報告6)している.垂直固定用の式も今後登場予定となっており,機器内にこれら式が標準装備されると臨床的には魅力的な機器となりえる.C●おわりにICLサイズ計算式は前眼部COCTが主流となっており,今後CAIを導入した新たな式の発表も控え,より普及が見込まれている.文献1)五十嵐章史:ICLのサイズ選択.あたらしい眼科C32:C75-76,C20152)KojimaCT,CYokoyamaCS,CItoCMCetal:OptimizationCofCanCimplantableCcollamerClensCsizingCmethodCusingChigh-fre-quencyultrasoundbiomicroscopy.AmJOphthalmolC153:C632-637,C20123)NakamuraT,IsogaiN,KojimaTetal:Implantablecolla-merClensCsizingCmethodCbasedConCswept-sourceCanteriorCsegmentopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol187:99-107,C20184)NakamuraCT,CNishidaCT,CIsogaiCNCetal:EvaluationCofCimplantableCcollamerClensCsizingCdevelopedCbyCreviewingCtheChorizontalCcompression-vaultCcoe.cient.CJCCataractCRefractSurgC49:525-530,C20235)IgarashiA,ShimizuK,KatoSetal:PredictabilityofthevaultCafterCposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CJCataractRefractSurg45:1099-1104,C20196)YamashitaK,KobayashiM,Igarashietal:EnhancedICLsizingCaccuracyCusingCadvancedCopticalCcoherenceCtomog-raphy-basedCpredictiveCformula.CAmCJCOphthalmolC268:C86-93,C2024(68)

眼内レンズセミナー:3焦点トーリック眼内レンズ亜脱臼症例の眼内縫着

2026年3月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋466.3焦点トーリック眼内レンズ亜脱臼症例水戸毅金沢医科大学眼科学講座の眼内縫着多焦点眼内レンズ眼における良好な視力の獲得のためには,レンズの偏位・傾斜,屈折誤差や残余乱視を最小限にする必要がある.それゆえに亜脱臼した多焦点レンズの温存整復はきわめて困難である.本稿ではトーリックモデルの多焦点レンズ亜脱臼に対して,眼内での縫着により良好な位置固定が得られた症例を紹介する.●はじめに多焦点眼内レンズ(multifocalintraocularlens:M-IOL)を扱うにあたっては,乱視のマネージメントは必須であり,トーリックモデルのラインアップもますます充実してきている.近年の社会の高齢化によりIOL亜脱臼症例が増えている状況にあるが,万が一トーリックM-IOLが亜脱臼を生じた場合は,M-IOLを抜去し単焦点IOLを用いた強膜内固定術などを行うことが一般的であり,多焦点機能は失われてしまう.今回,亜脱臼したトーリックM-IOLの眼内縫着を試み,良好な成績が得られた症例を経験した1).●症例患者は43歳,男性.他院にて左眼の白内障手術を施行され,PanOptixtoric(TFNT30,Alcon社)を乱視軸55°で.内固定された.術後2年経過した時点で突然の見えにくさを訴え,前医にてIOL亜脱臼を指摘され当院を紹介受診した(図1).当初はIOL抜去をすすめたが,患者自身がM-IOLの温存を希望されたため,縫着による眼内整復を施行した.術式はhapticexternalization(HE)法2)を用いた.まず眼内で完全に脱臼させたIOLを虹彩上に挙上し,支持部先端のみを角膜創から眼外へ引き出した.目標乱視軸55°にIOLのトーリック軸が近くなるように,強膜への縫着通糸部をあらかじめ設定しておき,眼内に通した10-0縫着用の糸を角膜創から引き出し,眼外にて支持部先端に結紮し眼内に戻した.その際にIOLの強い傾斜を認めたため,IOL光学部の前面あるいは後面に糸を張るtram-tracksuture(TTS)法3)によりIOL傾斜を修正した(図2).術後の偏心や深さといったIOL固定位置は良好で,IOL傾斜も許容範囲であり,目標軸に近いトーリック軸固定が得られた(図3).近方から遠方までの各距離における裸眼視力は0.8以上あり,グレアやハローも少なく(65)0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1術前の散瞳下での前眼部写真下方のhapticが虹彩前方に亜脱臼している.1時と7時方向に乱視軸マークが確認できる.患者の満足度は高かった.●まとめ亜脱臼したM-IOLを抜去せずに眼内で整復固定した報告は少なく,トーリックモデルのシングルピースの場合となるとさらにまれである.その理由は明白であり,トーリックM-IOLの縫着には偏位・傾斜・屈折誤差(IOL深度)・そして残余乱視のすべてが最小限でなければならないという4重苦が待ち受けるからである.とくにトーリック軸合わせが最難関ポイントであり,術前の入念なシミュレーションが必須となる.本症例では結果的に良好な視力が獲得できたが,毎回同様の結果が得られるかは不明であり,症例を蓄積して検証する必要がある.また将来的には,より簡便に行える新たな術式や,縫着に適した乱視矯正M-IOLの登場が待たれる.あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026293図2術中写真亜脱臼IOLを前房内に移動させ,hapticのみを角膜創から眼外に引き出す(a,b).縫着時にIOLの乱視軸マークが目標軸に近づくよう,あらかじめ強膜への縫着部位を設定し,長針付き10-0糸を眼内に通糸する(c).眼内から10-0糸を引き出し,haptic先端に結び,眼内に戻す(d~f).強膜への縫着時にIOLが傾斜したためTTS法で修正を図った(g,h).a図3トーリックM-IOLの眼内整復術後の所見センタリングは良好であり,乱視軸マークも目標軸に近い位置に確認できる(a).ウェーブフロントアナライザーでは,角膜収差に対してトーリックM-IOLによる内部収差が打ち消しあい,眼球収差が改善されている(b).文献raryhapticexternalizationthroughaclearcornealinci-1)MitoT,TsuruokaH,OmuraSetal:Suturerepositioningsion.JCataractRefractSurg30:1049-1056,2004forsubluxationofatoric-typesingle-piecemultifocal3)KimSI,KimK:Tram-tracksuturetechniqueforpupil-intraocularlens.Cureus17:e89566,2025larycaptureofascleral.xatedintraocularlens.CaseRep2)KokameGT,YamamotoI,MandelH:Scleral.xationofOphthalmol7:290-295,2016dislocatedposteriorchamberintraocularlenses:Tempo-

コンタクトレンズセミナー:乱視と視機能

2026年3月31日 火曜日

■■コンタクトレンズセミナーあたらしいコンタクトレンズ診療監修前田直之2.乱視と視機能はじめにコンタクトレンズ(CL)診療において,乱視は日常的に遭遇する屈折異常であるが,トーリックCCLの選定の煩雑さや費用などの面から球面CCLが選択され,弱度の乱視は矯正されないことが多い.弱度の乱視であっても,見え方の質やパフォーマンスを低下させることが知られており,近年は弱度乱視の積極的矯正が推奨されつつある1.3).本稿では乱視の見え方と視機能への影響を整理し,弱度乱視矯正の意義について述べる.乱視の見え方乱視では,経線方向で異なる屈折力により光が一点に集まらず,方向性のある像のぼけを生じる.図14)は倒乱視眼の前焦線・最小錯乱円・後焦線での視標の見え方を示しており,遠方視(後焦線)では水平線が見やすい.直乱視は縦と横のぼけの方向が逆転し,垂直線が見やすくなる.一方,近方視により網膜の位置が前焦線に変わると,像のぼけ方が逆転し,倒乱視でも直乱視の遠方と同様の見え方となる(図2)5).強主経線弱主経線長谷川優実筑波大学眼科弱度の乱視が視機能に与える影響乱視量に応じて像のぼけは強くなり,視機能も低下する.どの程度の乱視から視機能は低下するのであろうか.通常視力は直乱視C2.0D以上,倒乱視C1.0D以上の乱視で低下する6)とされるが,実用視力はより弱度の直乱視C0.5Dから低下する7)という報告がある.筆者らの検討でも,倒乱視ではC1.0Dで通常視力が,0.75D以上で実用視力とコントラスト感度が低下した.斜乱視では0.75D以上で通常視力と実用視力が低下し,0.5D以上でコントラスト感度が低下した.一方,直乱視ではC1.0Dで通常視力と実用視力が低下し,コントラスト感度は低下しなかった4).乱視がもつ方向性のため,視機能に与える影響は視標や乱視軸によって異なり,視機能が低下しやすい倒乱視や斜乱視は,積極的に矯正する必要があると考えられる.弱度乱視を矯正する意義近年,弱度の乱視をトーリックCCLで矯正すると視機能や自覚症状が改善することが示されている.トーリックCCL装用で近方の高・低コントラスト視力,読書ス前焦線最小錯乱円後焦線図1倒乱視の前焦線,最小錯乱円,後焦線およびその見え方(文献C4より引用)(63)あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026C2910910-1810/26/\100/頁/JCOPY直乱視倒乱視遠方視50cm図22Dの直乱視・倒乱視における遠方視と近方視(50cm)のシミュレーション2Dの直乱視・倒乱視の遠方視・近方視(50cm)における焦点と網膜面の関係を示した図とV・H・Rの文字が乱視によってどのようにぶれて見えるかをシミュレーションした像である.直乱視の遠方視と倒乱視の近方視でぶれの方向が同じになり,直乱視の近方視と倒乱視の遠方視よりも文字が判別しやすいように見える.(文献C5より引用)ピード,必要コントラスト,読書エラー,自覚的な近見作業時の快適性やかすみ目が改善する1,2).Chaudhryらの報告では,両眼視力は球面CCLと同程度でも,視覚の鮮明度や満足度,疲れにくさがトーリックCCLで改善した3).これらの結果は弱度乱視の矯正が視力を改善するだけでなく,見え方の質,近方作業の効率,眼精疲労を改善するうえで重要であることを示しており,弱度乱視の積極的な矯正は,より良いCCL診療に不可欠である.まとめ1.0D未満の弱度の乱視であっても視機能が低下する可能性がある.CLは取りはずしが容易で,外科的な屈折矯正と異なり,乱視矯正の効果を気軽に試せるという利点がある.患者の「なんとなく見えにくい」「疲れる」「違和感」を見逃さず,乱視の影響を考慮することがより質の高いCCL診療につながると考える.文献1)ChaoCC,CSkidmoreCK,CTomiyamaCESCetal:SoftCtoricCcon-tactlenswearimprovesdigitalperformanceandvision-ArandomisedCclinicalCtrial.COphthalmicCPhysiolCOptC43:C25-34,C20232)ReadCSA,CVincentCSJ,CColoradoCLHCetal:TheCimpactCofCtoricCcontactClensCcorrectionCuponCfunctionalCnearCvisualCperformanceCwithCdigitalCdevices.CJCContCLensCAnteriorCEyeC48:102415,C20253)ChaudhryCM,CSahCSP,CSharmaCIPCetal:DoesCo.eringConlyCtheCsphericalcontactClenstrialtotheClowastigmatsmisleadCtheCpractitioners?CIntCJCOphthalmolC14:1281-1284,C20214)長谷川優実:乱視視機能への影響と各種治療アップデート乱視眼の視機能.IOL&RS36:356-361,C20225)長谷川優実:乱視と視機能.OCULISTAC135:6-11,C20246)大谷伸一郎,宮田和典,阪上祐志ほか:白内障手術時における乱視矯正同時手術の適応.IOL&RSC14:142-145,C20017)WatanabeCK,CNegishiCK,CKawaiCMCetal:E.ectCofCexperi-mentallyCinducedCastigmatismConCfunctional,Cconventional,CandClow-contrastCvisualCacuity.CJCRefractCSurgC29:19-24,C2013C

写真セミナー:結膜錯角化症

2026年3月31日 火曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史林仁502.結膜錯角化症神戸赤十字病院眼科高静花大阪大学大学院医学系研究科視覚先端医学講座図2図1のシェーマ①不鮮明な皮膚粘膜移行部②凹凸不整な肥厚した組織結膜本来の所見はみられない.図1初診時の上眼瞼翻転所見(左眼)通常みられる眼瞼結膜は存在せず,凹凸不整の肥厚した組織に覆われている.皮膚粘膜移行部も不鮮明である.図3左眼の角膜フルオレセイン染色所見広汎な角膜上皮障害を認める.上眼瞼異常組織による物理的な擦過刺激が主因と考えられる.図4図1の病理検査結果結膜組織はなく,異常に重層角化した皮膚のような構造である.結膜錯角化症と診断された.(61)あたらしい眼科Vol.43,No.3,20262890910-1810/26/\100/頁/JCOPY数年前からの左眼の異物感と視力低下を主訴に受診した75歳男性の症例を提示する.職業はトラック運転手.上眼瞼を翻転すると,本来存在するはずの眼瞼結膜はみられず,赤色調かつ凹凸不整に肥厚した組織に覆われていた(図1,2)1).結膜血管走行は確認できず,皮膚粘膜移行部も不鮮明であった.組織表面は湿潤状態というよりむしろ乾燥傾向を示していた.下眼瞼結膜では,瞼縁近くに慢性炎症所見がみられて血管走行は不明瞭であったが,上眼瞼結膜のような凹凸不整や肥厚は認められなかった.左眼の角膜全域にわたって著明な上皮障害があり,いわゆる“ハリケーン様”の所見を呈していた(図3).一方で,右眼の眼表面や上下眼瞼結膜には異常所見は認められなかった.既往歴として両眼の眼瞼下垂手術歴があったが,内眼手術歴や熱傷などの外傷既往歴はなく,点眼薬の頻回使用歴もなかった.この眼瞼結膜の病変に対して限局的切除による病理織診断を施行したところ,所見はおおむね次のとおりであった.①異常な重層化と角化,②偽膜形成なし,③軽度の炎症細胞の浸潤を認めるが悪性所見なし,④汗腺を含む皮膚に類似した構造.以上より,本病変は眼瞼結膜の錯角化症(parakeratosis)と病理学的に診断された(図4).この診断をふまえて,ステロイドを主とした消炎治療およびドライアイ治療に準じた湿潤加療で経過をみた.しかし数カ月間の保存的治療にもかかわらず所見の改善はみられず,逆に悪性化や増悪化も認められなかった.治療用ソフトコンタクトレンズにより角膜上皮障害および視力は一時的に改善したものの,上眼瞼からの圧排によりレンズが容易に脱落するため,継続装用は困難であった.さて錯角化症の理解には,まず正常角化という過程を考える必要がある.正常角化とは,皮膚(表皮)基底部にある角化細胞が順次表層へ分化移行して,最終的には自らの細胞死によって角質層という体表面を覆う層(膜)を形成する過程である.そして異常角化症には,錯角化と過角化がある.錯角化は不全角化ともよばれ,角化周期が早まることが根底にある.角化日数が短縮されて角質層が急に薄くなると,肌細胞は核をもったままの未完成な角質細胞となる.一方で,過角化は角化周期が遅れることが根底にある.角質層は過剰に作られて,角質層の上層がはがれ落ちずに付着したままになって続発的に肥厚する状態である.一般的に生体粘膜では皮膚(表皮)と異なり,通常角質層をもたないため,粘膜に角質層が出現することはすでに病的である.粘膜の角化病変としては,口腔外科学における口腔白板症(oralleukoplakia)と扁平苔癬(orallichenplanus)がある2).前者は口腔粘膜が角化と肥厚を呈する前癌状態,後者は口腔粘膜が癌化するリスクをもっている慢性炎症性角化症である.本症例は,病理像から扁平苔癬に近い病態と考えられた.扁平苔癬や結膜角化の原因としては,遺伝・免疫・金属などによる接触性アレルギー・精神的ストレスなどがあげられる3)が,本症例のように誘因なく片眼性に眼瞼結膜のみが特発的に角化する例はきわめてまれである.また,眼球結膜に異常所見が認められなかった点も特異的であり,病態形成には不明な要素が残る.治療方針としては,外科的切除と粘膜再建治療が最善であると思われ,その再建材料として羊膜,口唇・口腔粘膜,あるいは再生医療的な生体粘膜組織などが最適であると考えられる.文献1)HayashiH,KohS:Unilateralconjunctivalparakeratosis:Ararecaseofmucosalkeratosiswithpathological.ndings.AmJOphthalmol276:e3-e4,20252)水城春美:口腔粘膜の角化性病変─口腔白板症ならびに扁平苔癬の臨床病理と病因.岩医大歯誌27:67-73,20023)MaumeneeAE:Keratinizationoftheconjunctiva.TransAmOphthalmolSoc77:133-143,1979

オキュロミクスとその展望

2026年3月31日 火曜日

オキュロミクスとその展望OculomicsandItsPerspective三宅正裕*はじめに眼はしばしば「全身の窓」と称される.眼底を覗けば,高血圧による細動脈狭窄,糖尿病性の微小血管障害,動脈硬化の進行,さらに神経変性や腎障害など,身体の多様な病態が反映されていることが知られている.すなわち,眼底とは「生体内部を非侵襲的に直接観察できる臓器」であり,脳や心血管,腎臓と密接に連動する全身の鏡である.この「眼と全身の相関」は古くから注目されてきたが,近年,深層学習(ディープラーニング,deeplearning:DL)を中心としたAI技術の発展により,その概念は質的に変化した.人工知能(arti.cialintelligence:AI)が眼底画像から,年齢・性別・喫煙歴・血圧・血糖など,従来は採血や測定を要した多様な全身情報を直接推定できるようになったのである.DLによって,眼底がもはや「観察の対象」ではなく,「情報を抽出するセンサー」として再定義されたと言える.さらに,この動きは基盤モデル(foundationmodel)の登場によって新たな段階に入った.これらのモデルは,数百万枚規模の眼底画像を事前学習し,わずかなラベル付きデータで多様な疾患(心不全,糖尿病,認知症など)を予測できる.従来の単一疾患ごとのAIモデルから,全身状態を包括的に推定する「汎化された医療AI」への転換である.すなわち,眼底から読み取れる情報量は指数的に拡大しつつあり,眼は今や「全身のマルチモーダル指標」を映し出す生体スクリーンとして位置づけられる.このような背景のもと,オキュロミクス(oculomics)という新しい学問領域が生まれた.オキュロミクスは,眼科画像データをビッグデータ解析とAIで統合し,全身疾患の診断・予測・リスク層別化に応用する取り組みである(図1).これにあたっては,ハードウェア(高解像度イメージング),ビッグデータ(大規模連結コホート),そしてソフトウェア(AIアルゴリズム)の三位一体的進化が,この領域の急速な発展を支えている.本稿では,このオキュロミクスの最新動向を,深層学習による眼底情報抽出,基盤モデルによる進展,それによって開かれた新たな医療応用の可能性,という流れに沿って整理し,その展望を概説する.IDLによるパラダイムシフト2015年前後からのDLの登場は,眼科画像解析のありかたを根底から変えた.従来の研究では,血管径や屈曲度,乳頭径などを専門家が定義し,半自動ソフトウェア(例:IVAN,SIVA)で解析していたが,人間の眼で捉えられない情報を扱うことはできず,また,膨大な画像を扱うには限界があった.これに対して,DLは「人間が特徴を設計せず,画像そのものから特徴量を自動抽出できる」点で革命的であり,眼底から得られる情報の次元を大きく拡張した.*MasahiroMiyake:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕三宅正裕:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学(1)(55)2830910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1眼に映る全身疾患のオーバービュー眼は「全身の窓」として,脳・心血管・腎・肝など多臓器の病態を反映する.ディープラーニングをはじめとする人工知能(AI)技術の発展により,眼底画像から神経変性疾患(Alzheimer病,Parkinson病,多発性硬化症),心血管疾患(冠動脈疾患,心血管イベント),代謝疾患(高血圧,高血糖,脂質異常症),腎疾患(慢性腎臓病,糖尿病性腎症),および肝胆疾患など,従来は血液検査や画像検査を要した全身情報を非侵襲的に推定できるようになった.オキュロミクスは,このような「眼を通じた全身疾患の解析」を統合的に捉える新たな研究領域である.個別化医療非侵襲的アウトカムスクリーニング改善科学的洞察疾患の早期検出費用対効果のよい診断適時介入経済的負担の軽減図2オキュロミクスがもたらす臨床的価値オキュロミクスは,眼底画像を通じて全身疾患を非侵襲的に評価する新たな医療パラダイムである.これにより,費用対効果の高い診断,疾患の早期検出,適時介入が可能となり,個別化医療やアウトカム改善,医療経済負担の軽減へとつながる.さらに,網膜を介した生体情報の解析は,病態理解を深化させる「科学的洞察(scienti.cinsights)」をもたらし,医療と研究の両面で新たな価値を創出する.-Ahdiらは,眼底年齢と実年齢の差の指標として,実年齢に眼底年齢を回帰した残差を眼底年齢加齢(eyeageaccel)と定義し,ゲノムワイド関連解析を行った.この結果,38の遺伝子座で示唆的な関連が得られ,そのうち12遺伝子座はゲノムワイドレベルで有意な関連を示した.非常に強い関連を示したのはSH3YL1,ACP1,ALKAL2の3遺伝子を含む遺伝子座で,これはのちに行われた筆者らの日本人での研究においても再現性が確認されている.また,眼科医にとって興味深いのは,加齢黄斑変性の疾患感受性遺伝子であるARMS2がヒットしている点である.これらヒットした遺伝子が他疾患の疾患感受性遺伝子と重複しているかどうかを評価したところ,黄斑網膜厚,注意欠陥多動性障害,加齢黄斑変性,等価球面度数,屈折異常などと共通点がみられた.筆者らも長浜スタディの参加者においてretinalagegapを計測して全身疾患との関連を評価したところ,脂質異常症と糖尿病の存在が有意に関連していた.Reti-nalagegapは高血圧・脂質異常症・糖尿病・脳梗塞・心疾患の発症を予測することはできなかったが,高血圧や脂質異常症が発症するとretinaagegapが大きくなる(網膜年齢と実年齢の乖離が大きくなる)ことがわかった.このように,眼底年齢と実年齢の乖離は,各種疾患との関連が見られるのみならず,ゲノムレベルで評価しても強い関連をもつ遺伝子も同定されており,加齢に伴う微小変化を統合的に反映する可能性のある興味深い新規バイオマーカーである.2.心血管・代謝疾患の予測心血管疾患はオキュロミクス研究の中心領域である.眼底血管の口径・屈曲度などが動脈硬化や高血圧の指標となりうることは昔から知られていたが,人間の眼による読影には限界があり,精密な予測はむずかしかった.しかし,AIモデルを用いれば,冠動脈石灰化スコア(coronaryarterycalciumscore:CAC)や心筋梗塞リスクを非侵襲的に推定できることが明らかになっている.たとえば,Rimらは21万枚超の眼底画像を用い,冠動脈石灰化の存在確率を推定する深層学習モデルreti-nalCACscore(RetiCAC)を開発・検証した.Reti-CACは,CACの有無を予測する性能でAUC0.742(95%信頼区間:0.732.0.753)を示し,単一の臨床パラメータモデルをすべて上回った.これは外部検証でも一定の精度を示したことから,RetiCACはCT計測と同等の心血管イベント予測性能を示すと報告されている.このアプローチは,放射線被曝を伴わず,低リソース環境でも容易に取得可能な眼底画像を活用できることから,非侵襲的で汎用性の高い心血管スクリーニングツールとしての応用が期待される.代謝疾患領域でも,AIは血糖・HbA1c・脂質・腎機能〔推算糸球体濾過量(estimatedglomerular.ltrationrate:eGFR)など〕を推定できることが報告されている.Zhangらは,57,672名から得られた115,344枚の眼底写真を用いて,慢性腎臓病(chronickidneydis-ease:CKD)および2型糖尿病(type2diabetesmelli-tus:T2DM)を同時に検出する深層学習モデルを開発した.このモデルは,眼底画像単独ないしは臨床メタデータ(年齢・性別・BMI・血圧など)と組み合わせてCKDおよびT2DMを識別でき,AUC0.85.0.93の高い性能を示した.このモデルは,血液検査に依存せずにeGFRを平均絶対誤差11.1.13.4ml/分/1.73m2で推定,血糖値を0.65.1.1mmol/lの誤差で予測できた.さらに,外部検証やスマートフォン眼底画像による前向き試験でも再現性が確認され,疾患進行リスクの層別にも有用であることが示された.この研究は,眼底画像が腎・代謝機能の非侵襲的バイオマーカーとしても利用可能であることを初めて大規模に実証し,オキュロミクスの応用範囲を「臓器疾患」から「生化学的表現型」へと拡張した.3.神経疾患の予測眼と脳は発生学的に同一の外胚葉由来構造をもち,血管・神経の微細構築も相似している.このため,古くから眼底所見が中枢神経疾患の間接的指標となることが知られてきた.近年ではDLを活用することで,この関連がより定量的かつ予測的に示されつつある.Cheungらは,11の多国籍コホートから収集された12,949枚の眼底画像(AD患者648名・対照3,240名)を用いて眼底写真のみからAlzheimer型認知症を識別する286あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026(58)深層学習モデルを開発した.モデルにはE.cientNet-B2を基盤ネットワークとして採用し,両眼の視神経乳頭中心像および黄斑中心像(計4枚)を統合する「bilateralmodel」を構築した.内部検証データセットでは,精度83.6%(±2.5),感度93.2%(±2.2),特異度82.0%(±3.1),AUC0.93(±0.01)を達成した.外部テストデータでは,国・施設の異なる5研究を用いてAUC0.73.0.91を維持し,うち三つのコホートではpositronemis-siontomography(PET)によるアミロイドb陽性・陰性を分別可能であった(AUC0.68.0.86)と報告されている.この研究は,眼底画像からADを高精度に検出できることを初めて多施設レベルで示したものであり,非侵襲的な認知症スクリーニングの可能性を拓いた.現在では,光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)や光干渉断層血管撮影(OCTangiogra-phy:OCTA)による網膜神経節細胞層・毛細血管密度解析と組み合わせることで,軽度認知障害(mildcogni-tiveimpairmen:MCI)や前臨床期ADにおける神経変性の早期検出をめざす試みも進展している.これらの成果は,眼底が「脳を覗くための新しい窓(anewwin-dowtothebrain)」として中枢神経疾患の予防・早期診断の入口となりうることを示している.III基盤モデルの登場とオキュロミクスの加速1.基盤モデルとは医療AI研究は近年,個別疾患・個別表現型を対象とする教師あり学習から,大規模自己教師あり学習へと移行しつつある.この流れのなかで登場したのが基盤モデル(foundationmodel)と総称される新たな枠組みである.基盤モデルとは,膨大なデータを事前学習し,得られた特徴表現を多様な下流タスクに転移させることで,少量のラベル付きデータでも高精度な学習を可能にするモデル群をさす.自然言語処理でいうとChatGPTの元となっているGPT5にあたる(GPT5という基盤モデルに,Q&Aという下流タスクを学習させたものがChatGPTである).これは,医療画像分野においても「疾患ごとに学習するAI」から「基盤的視覚表現を共有するAI」への移行を意味する.眼科領域における代表的研究が,RETFoundである.RETFoundは英国NHSデータベースの約90万枚の眼底画像と約70万枚のOCT画像を用いてVisionTrans-former(ViT)をベースに自己教師あり学習を行い,多疾患転移性能を検証した.糖尿病網膜症・緑内障・加齢黄斑変性などの眼疾患だけでなく,心不全やParkinson病などの全身疾患のリスク推定にも一定の汎化性能を示した.基盤モデルを使用することにより,従来よりも少ないラベル付きデータによって高精度のモデルを作成することが可能となることから,オキュロミクスの加速が大きく期待される.このようななかにおいて,基盤モデルを自国で作成することの重要性が増すと考えられており,各国で競争が始まっている.2.眼科領域の基盤モデルの具体例RETFoundの登場以降,眼科領域では基盤モデルの概念を応用した多様な試みが報告されている.これらは単なる疾患分類精度の向上にとどまらず,眼底画像を多疾患・多モダリティ解析のための生体情報プラットフォームとして再定義する動きを加速させている.RETFoundは,英国Moor.eldsEyeHospitalのデータセットなどから得られた904,170枚のカラー眼底写真と736,442枚のOCT画像を用いてViTベースの自己教師あり学習を行った.上述の通り,学習後の表現を下流タスクに転移した結果,糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・緑内障といった眼疾患だけでなく,心不全やParkinson病などの全身関連タスクにも一定の性能を示した.この流れを汎用化したのが,VisionFMである.VisionFMはCT,X線,病理画像など複数の医用モダリティを横断的に統合したマルチモーダル・マルチタスク型基盤モデルであり,約340万枚の画像と50万人超の被験者データから事前学習を行った.眼底画像はその一部として扱われ,少数データでも精度を保つ転移性能が報告された.眼科特化モデルに比べ精度はやや劣るが,医療画像横断的なモデルを実現した点で意義が大きい.さらに,画像基盤モデルを言語情報と結合する試みも進んでいる.RetiZeroは,画像と言語の対応関係を学(59)あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026287

眼と糖尿病

2026年3月31日 火曜日

眼と糖尿病EyesandDiabetes三田村瑞穂*齋藤理幸*はじめに糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は日本における視覚障害の原因疾患の第3位であり1),とくに労働年齢層における失明原因としてもっとも多い疾患である.網膜は全身の窓であるといわれ,人体で唯一微小血管系を直接観察できる部位として積極的に研究されている器官であり,網膜の状態と全身の状態を結びつける研究は兼ねてより行われてきた.近年,画像解析技術手法や人工知能(arti.cialintelligence:AI)の発展に伴って,この事実が再度クローズアップされており,眼から得られる情報と全身状態の関連を探求する学問はオキュロミクス(oculomics)と名づけられている2).IDRの自動診断DRについても例外ではなく,2018年には米国で,AIによるDRに対する自動診断システムであるIDx-DR(DigitalDiagnostics社)が承認され3)(図1),カナダでも同様のスクリーニング機器であるEyeArtを承認,2022年には農村部に同機器を提供する民間サービスが発表された.これらの自動診断システムは,眼科医が眼底検査や眼底写真の読影をしなくても自動でDRのスクリーニングを行ってくれるため,眼科医の労力を減らしてくれるスクリーニングツールとして非常に重要であると考えられる.IDx-DRは,図2のように眼底写真から出血や軟性・硬性白斑を検出して,DRの有無を自動的に判定してくれる.しかし,眼底における糖尿病性変化とは出血と白斑だけではない.糖尿病網膜症の発症に先行する眼底所見としてよく知られているものに,網膜血管の変化がある.眼底写真を用いて網膜血管径を測定した先行研究では,網膜血管の拡大は網膜症の予測因子であり,網膜細動脈拡張は1型糖尿病の若い患者の網膜症の発症を予測すること4,5),また,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)では発症前に網膜細動脈細静脈およびそれらの黄斑枝が有意に拡張伸長している6)といった報告がある.このように,DRにおける眼底変化は人間の眼で容易にわかる所見からわかりづらい所見まで多岐にわたるが,AIを用いてDRの「有無」を学習し判定するときには,AIがこの血管変化を検出することは困難であると考えられる.その理由の一つは,出血や軟性・硬性白斑の有無という指標はわかりやすいからである.AIは判定精度の向上を至上命題として画像を解析するため,網膜血管の変化よりもわかりやすい出血や白斑の有無を検出したほうが判定精度が向上するので,微細な網膜血管の変化はAIには無視されてしまう.理由の二つめは,そもそも血管変化をAIに学習させていないからである.糖尿病があり網膜血管に変化があっても,DRがない,つまり出血や白斑がない眼は「網膜症なし」として学習させているので,当然基準に該当しない網膜血管の変化は学習対象とならず無視されてしまうわけである.それでは,DR発症の予測という観点に立ってみるとどうであろうか.*MizuhoMitamura&MichiyukiSaito:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕三田村瑞穂:〒060-8648北海道札幌市北区北14条西5北海道大学大学院医学研究院眼科学教室(1)(47)2750910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1眼科用AI医療機器・IDx-DR糖尿病網膜症(DR)を1分で自動診断できる.(https://www.healthvisors.com/en/idx-dr/より転載)Lesion-BasedDiseaseDetectionLeslonDetectionQualityDiseaseAssessmentPassAssessment:AnatomyDR+/DR-Localization図2IDx-DRによる画像解析と判定網膜のデジタル画像を独自のAIアルゴリズムで解析し,DRが陽性か陰性かの判断を行う.(https://www.healthvisors.com/en/idx-dr/より転載)AI:arti.cialintelligence,DL:deeplearning.図3ニューラルネットワークの概念図(https://medium.com/@UdacityINDIA/di.erence-between-machine-learning-deep-learning-and-arti.cial-intelligence-e9073d43a4c3より改変引用)図4ニューラルネットワークを用いた画像認識の1例(https://wiki.tum.de/display/lfdv/Image+Semantic+Segmentationより転載)ニューラルネットワーク生成図5HokkaidoUniversityretinalvesselsegmentation(HURVS)model筆者らが開発したCHURVSmodelは,眼底写真から網膜動静脈を自動識別するニューラルネットワークである.(文献C7改変より改変引用)(pixels)(pixels)動脈面積5,00010,00015,000静脈面積10,00020,00030,0002,5002,5002,500(cm/秒)2,5001,0001,5002,000(cm/秒)2,500脈波伝播速度脈波伝播速度動脈面積R=-0.40,静脈面積R=-0.36,各p<0.001図6脈波伝播速度と動脈面積,静脈面積との負の相関(文献C9より改変引用)図730歳代の糖尿病患者の眼底DR発症前に比較的血管密度が高い領域,とくに動脈で血管密度が変化する.Ca:網膜動脈.b:網膜静脈.赤領域:増加.青領域:減少.(筆者らが作成)図8HokkaidoUniversitymacular.uidsegmentation(HUMFS)modelHUMFSmodelはCOCT画像から網膜液の予測画像を作成するニューラルネットワークである.(文献C15より引用)図9網膜液(MF)画像生成の代表的画像a,d:糖尿病黄斑浮腫(DME)の網膜液(MF)のみを抽出した網膜内液(IRF)画像.Cb,e:面積測定用の二値化画像.c,f:平均輝度および輝度分散を測定するための重み付け画像.(文献C16より引用)図10Gradient-weightedClassActivationMapping(Grad-CAM)画像AIが視力の判定に重要であると認識した部位を可視化したCGrad-CAMのC1例.(筆者らが作成)=メンテーションモデルを用いて,定量的・定性的なCMFのパラメータを分析できたことは意義があると考える.この定性的CMFパラメータは,MF内部の高反射性物質の濃度の変化と不均一性を反映している可能性があり,DR進行に伴うCDME病態の理解を深めるうえで有用であると考えられる.また,同研究ではCMFのみを抽出したマスク処理COCT画像から視力を推量することが可能であった.MFの形態や性状が最終的に視力に影響を与えることが証明されるとともに,今後どのようなCMFが視力に影響を及ぼすのか解析対象として有用であることが示された.図10はCAIが視力の判定に重要であると認識した部位を可視化したCGradient-weightedCClassCActivationMapping(Grad-CAM)画像18)であるが,MF部位やCMFが存在しない部位がさまざまに強調されており,MFの性状(形態,輝度,部位など)やそれ以外の複数の微細構造の変化を,AIが視力の判定に重要であると認識している可能性がある.このCDME研究の展望としては,AIの判断根拠部位の解析により黄斑浮腫と視力の関係をより明らかにできると考え,治療薬剤の種類による黄斑浮腫の治療効果の違いなど臨床に即した研究を計画しており,今後治療効果予測や視力予後予測など臨床応用できる可能性がある.おわりに眼底画像やCOCTなどの医療画像を用いたCAI研究は,眼と全身疾患を結びつける新たな視点を与え,スクリーニングや診断から治療判定・予後予測まで筆者らの日常診療に欠かせないものとなっている.そして,眼科学の知見とCAIの計算力の融合によって,糖尿病を含めた全身疾患におけるさまざまな眼底変化を定量化,可視化することは,病態解明につながると考える.文献1)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C20232)WagnerCSK,CFuCDJ,CFaesCLCetal:InsightsCintoCsystemicCdiseaseCthroughCretinalCimaging-basedCoculomics.CTranslCVisSciTechnolC9:6,C20203)KhanZ,GaidhaneAM,SinghMetal:DiagnosticAccura-cyofIDX-DRforDetectingDiabeticRetinopathy:ASys-tematicCReviewCandCMeta-Analysis.CAmCJCOphthalmolC273:192-204,C20254)CheungN,RogersSL,DonaghueKCetal:Retinalarteri-olardilationpredictsretinopathyinadolescentswithtype1diabetes.DiabetesCareC31:1842-1846,C20085)VelayuthamCV,CCraigCME,CLiewCGCetal:Extended-zoneCretinalvascularcaliberandriskofdiabeticretinopathyinadolescentsCwithCtypeC1Cdiabetes.COphthalmolCRetinaC4:C1151-1157,C20206)KristinssonCJK,CGottfredsdottirCMS,CStefanssonE:RetinalCvesseldilatationandelongationprecedesdiabeticmacularoedema.BrJOphthalmolC81:274-278,C19977)FukutsuK,SaitoM,NodaKetal:Adeeplearningarchi-tectureCforCvascularCareaCmeasurementCinCfundusCimages.COphthalmolSciC1:100004,C20218)MitamuraM,SaitoM,FukutsuKetal:Sexdi.erencesinage-relatedCchangesCinCretinalCarteriovenousCareaCbasedCondeeplearningsegmentationmodel.OphthalmolSciC5:C100719,C20259)FukutsuCK,CSaitoCM,CNodaCKCetal:RelationshipCbetweenCbrachial-ankleCpulseCwaveCvelocityCandCfundusCarteriolarCareacalculatedusingadeep-learningalgorithm.CurrEyeResC47:1534-1537,C202210)SaitoM,MitamuraM,FukutsuKetal:Retinalarteriove-nousCinformationCimprovesCtheCpredictionCaccuracyCofCdeepClearning-basedCpulseCwaveCvelocityCfromCcolorCfun-dusphotographs.InvestOphthalmolVisSci66:63,C202511)WongTY,KnudtsonMD,KleinRetal:Computer-assist-edmeasurementofretinalvesseldiametersintheBeaverDamEyeCStudy:methodology,CcorrelationCbetweenCeyes,Cande.ectofrefractiveerrors.OphthalmologyC111:1183-1190,C200412)SchleglCT,CWaldsteinCSM,CBogunovicCHCetal:FullyCauto-matedCdetectionCandCquanti.cationCofCmacularC.uidCinCOCTCusingCdeepClearning.COphthalmologyC125:549-558,C201813)HsuHY,ChouYB,JhengYCetal:Automaticsegmenta-tionCofCretinalC.uidCandCphotoreceptorClayerCfromCopticalCcoherenceCtomographyCimagesCofCdiabeticCmacularCedemaCpatientsCusingCdeepClearningCandCassociationsCwithCvisualCacuity.BiomedicinesC10:1269,C202214)AlryalatCSA,CAl-AntaryCM,CArafaCYCetal:DeepClearningCpredictionofresponsetoanti-VEGFamongdiabeticmac-ularCedemapatients:TreatmentCResponseCAnalyzerSystem(TRAS)C.Diagnostics(Basel)C12:312,C202215)MitamuraCM,CSaitoCM,CNishiyama-HirookaCKCetal:AI-basedCanalysisCofCsurgicalCoutcomesCinCvitrectomyCwithCandCwithoutCcystotomyCforCrefractoryCcystoidCdiabeticCmacularedema.SciRepC15:14629,C2025(53)あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026C281