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運転外来における視野障害患者の疾患別の視線特性と事故回避

2026年8月31日 月曜日

《第14回.日本視野画像学会.原著》あたらしい眼科43(8):1020.1025,2026c運転外来における視野障害患者の疾患別の視線特性と事故回避佐藤菜摘子*1國松志保*1平賀拓也*1岩坂笑満菜*1千葉るい*1黒田有里*1桑名潤平*2伊藤誠*2広田雅和*3寒重之*4横田聡*4高橋政代*4,5溝田淳*1井上賢治*6*1西葛西・井上眼科病院*2筑波大学システム情報系*3帝京大学医療技術部視能矯正学科*4神戸アイセンター病院*5株式会社ビジョンケア*6井上眼科病院CDisease-Speci.cEyeMovementPatternsandAccidentRiskinPatientswithVisualFieldImpairmentataDrivingAssessmentClinicNatsukoSato1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),TakuyaHiraga1),EminaIwasaka1),RuiChiba1),YuriKuroda1),JunpeiKuwana2),MakotoItoh2),MasakazuHirota3),ShigeyukiKan4),SatoshiYokota4),MasayoTakahashi4,5),AtsushiMizota1)andKenjiInoue6)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InstituteofSystemsandInformationEngineering,UniversityofTsukuba,3)DepartmentofOrthoptics,FacultyofMedicalTechnology,TeikyoUniversity,4)KobeCityEyeHospital,5)VisionCareInc.,6)InouyeEyeHospitalC目的:視野障害患者の運転時の視線の特性と事故回避に必要な因子についてドライビングシミュレータ(DS)を用いて検討した.対象と方法:緑内障C165名(緑内障群),網膜色素変性(RP)19名(RP群)に対し,視力検査,Hum-phrey視野検査(HFA24-2),両眼開放CEstermanテスト,DSを施行した.DS時には据え置き型視線計測装置にて視線の広がりを求めた.HFA24-2データを基に両眼重ね合わせ視野(IVF)を算出し,上下C13.24°内,12°内に分割し平均網膜感度を求め,両群を比較検討した.結果:RP群は緑内障群より若年であり(p<0.001),過去C5年間の事故歴および交通違反歴は有意に多く(p<0.001),視力良好眼の視力(p=0.027),視野良好眼・不良眼のCmeandeviation(p<0.001,0.003),EstermanCdisabilityscore(EDS)(p<0.001),IVF中心13.24°上下の平均網膜感度(p<0.001,<0.001)が有意に低下し,周辺視野障害をきたしていた.RP群は緑内障群より視線の広がりが大きく(p<0.001),DS事故件数に有意差がなかった.結論:RP群では,視線の広がりが大きく,DS事故件数が緑内障群と同程度であったことから,運転課題において視線補償行動が関与している可能性が示唆された.CPurpose:Toassessmotorvehiclecollisionriskindriverswithperipheralvisual.eldimpairmentusingadriv-ingsimulator(DS)withCanCeye-trackingCsystem.CMethods:NineteenCpatientsCwithCretinitisCpigmentosa(RP)andC165withglaucomaweretestedatadrivingassessmentclinic.AllpatientsunderwentevaluationusingaDSandtheHumphreyFieldAnalyzer24-2test.Thehorizontalandverticalspreadofsearchwerequanti.edasthestan-dardCdeviationCofCtheCx-andCy-coordinates,CrespectivelyCduringCtheC5-minuteCDSCtest.CResults:PatientsCwithCRPCwereCyoungerCandCexhibitedCpoorerCvisualCfunctionCcomparedCtoCthoseCwithCglaucoma.CMotorCvehicleCaccidentCinvolvementCoverCtheCprecedingC.veCyearsCwasCmoreCfrequentCinCRPpatients(68%Cvs.28%,p<0.001).CFurther-more,thesepatientsdemonstratedasigni.cantlywiderhorizontalspreadofsearch,despitenodi.erenceinDScol-lisionratesbetweenthegroups.Conclusion:Activehorizontaleyemovementsmayhelpmitigatetheriskofcolli-sionseveninindividualswithvisual.eldimpairment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(8):1020.1025,C2026〕Keywords:ドライビングシミュレータ,緑内障,網膜色素変性C.drivingsimulator,glaucoma,retinitispigmento-sa.Cはじめには,道路交通法施行規則第C23条において「視力が両眼でC0.7日本における自動車運転普通免許の取得・更新にあたって以上,かつ,一眼でそれぞれC0.3以上であること」および〔別刷請求先〕佐藤菜摘子:〒C134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:NatsukoSato,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANC1020(170)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY「一眼の視力がC0.3に満たない者,若しくは一眼が見えない者については,他眼の視野が左右C150°以上で,視力が0.7以上であること」と定められており,視力が良好な場合は著明な視野障害があっても運転免許を取得・更新することが可能である.しかし,安全運転のためには道路標識の認識,右・左折時の歩行者や自転車の確認のための十分な広さの視野が必要であり,視野障害による安全確認の不足は交通事故を引き起こしうる.緑内障患者1.4)および網膜色素変性(retinitisCpigmento-sa:RP)患者5,6)のいずれにおいても,健常者と比較して自動車事故の発生率が高いという報告が多い.一方で,McGwinらによる緑内障患者群C576名と正常群C115名の事故率を比較したところ,緑内障群のほうが運転に慎重になるため事故率は低かったという報告7)もあるなど,視野障害と自動車運転中の事故との関連は未だに明白ではない.さらに,自動車事故に関与する視野障害部位や程度は明らかにされていない.西葛西・井上眼科病院(以下,当院)は,視野障害患者を対象にC2019年C7月より運転外来を開設し,アイトラッカー搭載ドライビングシミュレータ(drivingsimulator:DS)を用いた自動車運転能力の評価を実施している.運転外来では,速度一定の条件下で,視野障害患者が事故を起こしやすいと予測される場面を織り込んだC5分間のCDS走行を行う.その後,リプレイ機能を活用し,運転場面ごとの視線の動きを確認しながら患者およびその家族に視野障害が原因で事故が起こりうることを知らせている8,9).今回筆者らは,RP患者と緑内障患者にドライビングシミュレータを施行することにより,事故回避に必要な因子を検討したので報告する.CI対象と方法2019年C7月.2025年C4月に,当院運転外来を受診した240例に対して,視力検査,Humphrey視野計CSITAStan-dard24-2プログラム(HFA24-2),両眼開放CEstermanテスト,運転調査(1週間あたりの運転時間,運転目的,過去5年間の事故歴(対人事故,対物事故,物損事故)の有無および交通違反歴の有無について,事前のアンケートにより自己申告で聞き取り,認知機能検査(mini-mentalstateexam-ination:MMSE)を行い,DSを施行した.視力検査,MMSE,DSは同一日に実施し,HFA24-2,両眼開放EstermanテストはCDS実施日の前後C3カ月以内に実施した結果を使用した.HFA24-2では,固視不良がC33%以上,偽陽性がC15%以上および偽陰性がC20%以上の場合は対象から除外した.また,HFA24-2を基に両眼重ね合わせ視野(integratedCvisual.eld:IVF)を作製し10),上方C12°内,下方13.C24°内に分割し平均網膜感度を算出した(図1).上方(13~24°)上方(0~12°)下方(0~12°)下方(13~24°)図1両眼重ね合わせ視野の区分運転評価のためのCDSには,エコ&安全運転教育用CDSであるCHondaセーフティナビ(本田技研工業)を改変したものを使用した.運転条件を統一するため速度は一定とし,ハンドル操作はなく,危険を感じたらブレーキを踏むのみとし,所要時間は練習走行約C3分,本走行約C5分である.運転場面は,信号や右折車,「止まれ」の標識,側方からの飛び出しなど,全C14場面中の事故の有無を記録した9).また,運転時の視線の動きは,据え置き型視線計測装置CTobiiCProNano(TobiiTechnology社)を使用した.そして,アイトラッキングの取得率がC50%以下の対象者は除外した.水平方向(X)および垂直方向(Y)の視線の座標位置の標準偏差(standarddeviation:SD)を求め,「視線の広がり」と定義した(図2).視線の広がりの数値が大きいほど眼の動きが大きく,視線を向けた範囲が大きいことを示している9).なお,本研究のCDS設定(モニターサイズおよび視距離)に基づく換算では,約C1ピクセルはC0.0365°に相当した.運転外来を受診したC240例のうち,車酔いによりCDSを途中で中止(8例),視野検査の信頼性が低い(3例),アイトラッキングの取得率がC50%以下(11例)であったC22例を解析から除外し,残りのC218例のうちCRP群(19例)と緑内障群(165例)を比較検討した.統計解析には,RP群と緑内障群の比較にCMann-WhitneyU検定およびCFisher正確確率検定を用いた.さらに,RP群C19例と緑内障群C165例では症例数に大きな差があり,年齢分布を一致させるため,ブートストラップ法(1,000回のリサンプリング)を用いた.各反復で得られたデータセットに対し,Mann.WhitneyU検定によるC2群比較を行い,その結果をもとに統計的評価を行った11).統計学的検討にはCJMP(version14.0)を用い,p<0.05を統計学的に有意と判定した.本研究は,当院倫理委員会の承認のもと実施され(「視野障害患者に対する高度運転支援システムに関する研究」,課題番号:201906-1),各対象者よりインフォームド・コンセントを得た.a(ピクセル)0100200Verticaleyeposition3004005006007008009001,00002004006008001,0001,2001,4001,6001,800(ピクセル)Horizontaleyepositionb(ピクセル)0100200Verticaleyeposition3004005006007008009001,00002004006008001,0001,2001,4001,6001,800(ピクセル)Horizontaleyeposition図2視線の動き(視線の広がり)が大きい例と小さい例視線の広がりの代表例.走行中に記録された全視線位置をCxy座標上にプロットした.Ca:視線位置が中央に集中して分布しており,視線の動きの幅が小さい例.Cb:視線位置が水平方向に広く分布しており,視線の動きの幅が大きい例.視線位置はピクセル単位で表示している.なお,本研究のドライビングシミュレータ(DS)設定では,約C1ピクセルはC0.0365°に相当する.CII結果今回対象としたC218例の平均年齢はC61.3C±14.0歳(平均C±SD,年齢C22.90歳),男性C166名,女性C52名であった.218例のうち,RP群C19例と緑内障群C165例を比較した結果を表1に示す.RP群は緑内障群と比較して,年齢は若く(p<0.001),視力良好眼の視力は有意に低かった(p=0.027).過去C5年間の事故歴および交通違反歴を有する症例数は,RP群でC13例(68%),緑内障群でC47例(28%)であり,RP群で有意に多かった(p<0.001).性別,MMSEtotalscore,1週間の運転時間,視力不良眼の視力に有意差はみられなかった.RP群は緑内障群と比較して,視野良好眼・不良眼のCMDが有意に低かった(p<0.001,p=0.003).IVF中心C12°上半・下半視野の平均網膜感度に有意差がないものの,IVF中心C13.24°上半・下半視野の平均網膜感度(p<0.001,p=0.001),Estermandisabilityscore(EDS)が有意に低く(p<0.001),RP群では中心13°より外側の周辺視野障害が高度であった.RP群では水平方向の視線の広がりが大きく(p<0.001),垂直方向の視線の広がりは両群間に有意差はみられなかった.DS事故件数は,両群間に有意差はなかった.ブートストラップ法により年齢マッチングを行い,RP群と緑内障群を比較した結果,RP群では視野良好眼・不良眼のCMD(p<0.001,p=0.03)およびCIVF中心C13.24°の平均網膜感度(p<0.001),EDSが有意に低く(p<0.001),過去5年間の事故歴および交通違反歴は有意に多かった(p<C0.01).一方で,水平方向の視線の広がりはCRP群で大きく(p=0.04),DS事故件数は両群間で有意差はみられなかった(図3).CIII考按今回筆者らは,DSを施行したCRP19例と緑内障C165例を比較した.その結果,RP群は緑内障群と比較して視野障害(MD)がより高度であり,とくにCIVF中心C13.C24°の平均網膜感度およびCEDSが有意に低く,高度な周辺視野障害を認め,過去C5年間に事故歴および交通違反歴を有する症例数表1患者背景RP群(n=C19)緑内障群(n=C165)p値年齢C46.4±15.5歳C64.0±12.5歳<C0.001+性別(男:女)14:5125:C40C0.78*CMMSEtotalscoreC29.0±1.3C28.7±1.9C0.78+1週間の運転時間(h/w)C9.29±15.30C5.64±9.76C0.75+過去C5年間に事故歴・交通違反歴を有する症例数68%(1C3例)28%(4C7例)<C0.001*視力良好眼視力(logMAR)C0.01±0.10C.0.03±0.08C0.027+視力不良眼視力(logMAR)C0.07±0.14C0.19±0.41C0.89+視野良好眼CMDC.22.08±6.79CdBC.11.72±6.39CdB<C0.001+視野不良眼CMDC.23.53±6.35CdBC.18.85±7.28CdBC0.003+IVF中心C12°上半視野の平均網膜感度C19.86±6.40CdBC19.32±10.15CdBC0.82+IVF中心C12°下半視野の平均網膜感度C22.19±7.37CdBC25.04±6.95CdBC0.07+IVF中心C13.C24°上半視野の平均網膜感度C6.71±7.57CdBC19.45±7.92CdB<C0.001+IVF中心C13.C24°下半視野の平均網膜感度C8.46±8.09CdBC21.90±6.76CdB<C0.001+CEDSC42.95±24.6C86.0±13.8<C0.001+水平方向の視線の広がり(ピクセル)C232.3±58.7C178.9±38.4<C0.001+垂直方向の視線の広がり(ピクセル)C89.5±20.3C88.8±21.7C0.88+DSでの事故件数C1.2±1.3C1.2±1.8C0.54+平均±標準偏差/.+:Mann-WhitneyU検定,*:Fisher正確確率検定.MMSE:mini-mentalCstateexamination,logMAR:logarithmCofCtheCminimumCangleCofresolution,MD:Cmeandeviation,IVF:integratedvisual.eld,EDS:Estermandisabilityscore,DS:drivingsimulator.は,RP群(68%)が緑内障(28%)と比較して有意に多かった.過去に,視野障害が高度であるほど事故が多いことが報告されている1.6).今回の筆者らの研究でも,周辺視野障害が高度なCRP群では過去C5年間において事故歴および交通違反歴を有する患者が多く,既報と一致していた.しかし,RP群は緑内障群より水平方向の視線の広がりが有意に大きく,DS事故件数は両群に有意差を認めなかった.これは,周辺視野障害がより高度なCRP群では視線を左右に動かすことで視野障害を補っている可能性があり,結果としてCDS事故件数が同程度にとどまった可能性がある.Pattersonらは,周辺視野障害を有する患者では視覚探索行動が増加しており,この補償行動は周囲に注意をはらううえで重要であると報告している12).Coeckelberghらは,中心視野障害や周辺視野障害をきたす緑内障や加齢黄斑変性などC87例の視野障害患者を対象にCDSおよび実車を用いた路上走行を行ったところ,中心視野障害患者では走行速度を低下させる補償行動がみられた一方で,周辺視野障害患者では左右への探索的視線移動が増加することを報告している13).LeeとCItohらは,健常者にピンホール眼鏡を用いて周辺視野障害を模擬してDSを行ったところ,左右に眼を動かす積極的補償を行うことにより,アクセル・ブレーキ反応時間が短縮し,危険場面での衝突数が減少したが,正常視野ドライバーより運転能力は劣っていたことを報告している14).そして,左右に眼を動かす積極的補償行動は事故回避に効果的だが,正常視野ドライバーと同様の安全性を保障するには限界があると述べている14).筆者らの研究においても,RP群にCDS事故が少なかったのは,視野狭窄下でも積極的補償行動をとることで,危険検出能力や衝突回避能力が改善したと考える.しかし,RP群で過去C5年間の事故歴および交通違反歴が多かったことから,実際の複雑な状況下での運転場面では左右に眼を動かす積極的補償行動による事故回避には限界がある可能性を示唆している.筆者らの先行研究では,運転外来を受診したC165例(本研究と一部症例が重複)を対象として,水平方向の視線の広がりに関連する要因を検討した.その結果,水平方向の視線の広がりが大きい群ではCDS事故が少なく,「左右から飛び出してくるかもしれないと注意している」など,危険を予測しながら運転していた15).これは,危険を予測することで視線の広がりが増大し,その結果CDS事故回避につながったと考えられる.つまり,周辺視野障害を有する患者では,意識的に左右へ視線や頭部を動かして見ることが危険予測と事故回避に重要な役割を果たすと考えられる.したがって,視野障害患者の安全運転指導においては,視aP<0.001bp=0.04(ピクセル)10035080300602502004015020100緑内障RPcp=0.08(件)876543210緑内障RP図3ブートストラップ法を用いた緑内障群とRP群の比較a:Estermandisabilityscore(EDS).b:水平方向の視線の広がり.c:DS事故件数C.C野障害があることを患者自身に理解してもらい,「左右によく眼を動かす」「見えにくい側を意識して確認する」といった具体的な指導をすることが有用と考えられた.本研究では,とくにCRP群の症例数が限られていたため,多変量回帰モデルによる解析は本研究デザインには適さないと判断し,群間比較を主とした解析およびブートストラップ法を用いた解析を行った.今後は症例数の増加に伴い,回帰モデルを用いて疾患別特性や事故関連アウトカムに関連する因子を検討することが,より包括的な理解につながると考えられる.また,運転時間による調整を行っておらず,事故歴および交通違反歴の比較において運転曝露量の違いを十分に考慮できていない点は,本研究の限界である.さらに,本研究ではCRP群の症例数が限られているため,年齢,視野の重症度(MD),および認知機能(MMSE)を同時に調整またはマッチングさせた解析を行うことができず,これらの交絡因子の影響を完全には除外できていない.また,視力の影響についても追加検討を行ったが,本研究の主結果の解釈に影響を及ぼすものではなかった.以上のような限界はあるものの,本研究の結果から,周辺視野障害が高度に進行した患者に対しては,安全運転指導に加え,買い物にはネットスーパーを利用する,公共交通機関を積極的に用いるなど,自動車運転の機会そのものを減らす工夫を提案することも重要である.今後は症例をさらに蓄積し,どの程度の残存視野およびどのような視線補償パターンであれば,安全な運転継続が可能かについて,基準作りを進めたいと考える.本研究は,一般財団法人トヨタ・モビリティ基金の助成を受けたものである.利益相反:高橋政代(株式会社ビジョンケア)文献1)SzlykCJP,CMahlerCCL,CSeipleCWCetal:DrivingCperfor-manceCofCglaucomaCpatientsCcorrelatesCwithCperipheralCvisual.eldloss.JGlaucomaC14:145-150,C20052)HaymesCSA,CLeblancCRP,CNicolelaCMTCetal:RiskCofCfallsCandCmotorCvehicleCcollisionsCinCglaucoma.CInvestCOphthal-molVisSciC48:1149-1155,C20073)TanabeCS,CYukiCK,COzekiCNCetal:TheCassociationCbetweenprimaryopenangleglaucomaandmotorvehiclecollisions.InvestOphthalmolVisSciC52:4177-4181,C20114)KwonCM,CHuisinghCC,CRhodesCLACetal:AssociationCbetweenCglaucomaCandCat-faultCmotorCvehicleCcollisionCinvolvementCinColderdrivers:aCpopulation-basedCstudy.COphthalmologyC123:109-116,C20165)FishmanCGA,CAndersonCRJ,CStinsonCLCetal:DrivingCper-formanceofretinitispigmentosapatients.BrJOphthalmolC65:122-126,C19816)武内宏樹,倉田健太郎,堀田喜裕:網膜色素変性症患者における自動車運転実態調査.臨眼C72:413-417,C20187)McGwinGJr,MaysA,JoinerWetal:Isglaucomaasso-ciatedCwithCmotorCvehicleCcollisionCinvolvementCandCdriv-ingavoidance?InvestOphthalmolVisSci45:3934-3939,C20048)Kunimatsu-SanukiS,FukuchiT,TakahashiMetal:Dis-crepancyCandCagreementCbetweenCsubjectiveCsymptomsCandCvisualC.eldCimpairmentCinCglaucomaCpatientsCatCaCdrivingassessmentclinic.SciRepC15:423,C20259)平賀拓也,國松志保,深野佑佳ほか:運転外来におけるドライビングシミュレータ事故に関与する因子.臨眼C77:1296-1302,C202310)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:Predictingbinoc-ularCvisualC.eldCsensitivityCfromCmonocularCvisualC.eldCresults.InvestOphthalmolVisSciC41:2212-2221,C200011)EfronCB,CTibshiraniRJ:ChapterC16ChypothesisCtestingCwithCtheCbootstrap.CAnCintroductionCtoCtheCbootstrap,CChapman&Hall/CRC,NewYork,199312)PattersonG,HowardC,HepworthLetal:TheimpactofvisualC.eldClossConCdrivingskills:aCsystematicCnarrativeCreview.BrIrOrthoptJC15:53-63,C201913)CoeckelberghCTR,CBrouwerCWH,CCornelissenCFWCetal:CThee.ectofvisual.elddefectsondrivingperformance:CaCdrivingCsimulatorCstudy.CArchCOphthalmolC120:1509-1516,C200214)LeeCJ,CItohM:E.ectsCofCdriverCcompensatoryCbehaviourConCrisksCofCcriticalCpedestrianCcollisionsCunderCsimulatedCvisual.elddefects.PLoSOne15:e0231130,C202015)深野佑佳,國松志保,平賀拓也ほか:運転外来における視野障害患者のドライビングシミュレータ事故と視線の動きの関連.臨眼C78:1220-1226,C2024***

視覚障害認定に用いる8 方向視野角度総和の代替指標探索 ─ 仮想Goldmann 視野I/4e イソプターに対するImageJ 形状解析

2026年8月31日 月曜日

《第14回.日本視野画像学会.原著》あたらしい眼科43(8):1013.1019,2026c視覚障害認定に用いる8方向視野角度総和の代替指標探索 ─ 仮想Goldmann視野I/4eイソプターに対するImageJ 形状解析増田敬翔生杉謙吾黒沢恭花高野玲紋間瀬陽子山下修人永嶋竜之介 加藤久美子近藤峰生三重大学医学部附属病院眼科CExploringSurrogateIndicesforthe8-DirectionVisualFieldAngleSumUsedinVisualImpairmentCerti.cation:ImageJShapeAnalysisofVirtualGoldmannI/4eIsoptersKeitoMasuda,KengoIkesugi,KyokaKurosawa,RemonTakano,YokoMase,ShutoYamashita,RyunosukeNagashima,KumikoKato,MineoKondoCDepartmentofOphthalmology,MieUniversityHospitalC目的:視覚障害認定で用いられるC8方向視野角度総和(CΣθ)の代替指標となりうるCImageJ形状指標を探索し,さらにC8方向視野角度の標準偏差(SDCθ)との関連も検討した.対象と方法:大規模言語モデルCChatGPT-4oでCGoldma-nn視野CI/4eイソプターを模した仮想視野C120例を作製した.8方向の視野角度からCΣθおよび標準偏差CSDCθを算出した.ImageJでCarea,perimeter,major/minoraxis,angle,circularity,aspectratio,roundness,solidityのC9指標を測定し,Σθ・SDCθと各指標のCPearson相関係数を求めた.結果:ΣθはCperimeter(r=0.985)をはじめ,area(r=0.974),majoraxis(r=0.964),minoraxis(r=0.980)ときわめて強い相関を示した.SDCθはCmajoraxis(r=0.883)との相関が最大で,aspectratioやCroundnessとも有意に関連した.結論:PerimeterはCΣθの有力な代替指標となりうる.ImageJによる形状解析は従来の角度法と整合しつつ,視野の広さと非対称性の定量化に有用である可能性がある.本研究は仮想視野を用いた方法論的検討であるため,今後は実臨床の視野データで妥当性検証が必要である.CPurpose:ThisstudyaimedtoexploreImageJ-derivedshapedescriptorsthatmightserveassurrogateindi-cesforthesumofeight-directionvisual.eldangles(CΣθ)usedinvisualimpairmentcerti.cationandexaminetheirassociationsCwithCtheCstandardCdeviationCofCtheeight-directionCangles(SDCθ).Subjects and Methods:UsingCtheClargelanguagemodelChatGPT-4o,wegenerated120virtualGoldmannvisual.eldI/4eisopters.Then,wecalcu-latedΣθandSDCθfromtheeight-directionvisual.eldangles.UsingImageJ,wemeasurednineshapedescriptors(area,Cperimeter,CmajorCaxis,CminorCaxis,Cangle,Ccircularity,CaspectCratio,Croundness,Candsolidity)C,CandCcomputedCPearson’sCcorrelationCcoe.cientsCbetweenCΣθ/SDCθandCeachCdescriptor.CResults:ΣθdemonstratedCveryCstrongCcorrelationswiththeperimeter(r=0.985)C,area(r=0.974)C,majoraxis(r=0.964)C,andminoraxis(r=0.980)C.CSDCθmoststronglycorrelatedwiththemajoraxis(r=0.883)andwassigni.cantlyassociatedwiththeaspectratioandroundness.Conclusions:PerimetermayserveasausefulsurrogateindexforΣθ.ImageJ-basedshapeanalysisiscompatibleCwithCtheCconventionalCangle-basedCmethodCandCmayChelpCinCquantifyingCtheCextentCandCasymmetryCofCvisual.elds.Asthismethodologicalstudyusedvirtualvisual.elds,validationusingclinicalvisual.elddataiswar-ranted.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(8):1013.1019,C2026〕Key words:Goldmann視野検査,イソプター,視野角度.ImageJ,ChatGPT.Goldmannperimetry,isopter,vi-sual.eldangle,ImageJ,ChatGPTC〔別刷請求先〕生杉謙吾:〒C514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:KengoIkesugi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityHospital.2-174Edobashi,Tsu-city,Mie514-8507,JAPANCはじめに視野検査は眼科診療において不可欠であり,緑内障をはじめとする多くの疾患の診断や経過観察に広く用いられている1,2).視野測定法には,固定検査点の閾値を評価する静的視野検査と,等輝度・等サイズの指標を移動させて境界を描出する動的視野検査がある.動的視野計の代表であるCGold-mann視野計は,1945年にCHansGoldmannにより開発され3),静的自動視野計の普及後も周辺視野の把握や小児・低視力例などで重要な役割を担っている2).日本の視覚障害認定では,Goldmann視野検査(Goldmannperimetry:GP)によるCI/4視標の周辺視野角度およびCI/2視標の中心視野角度の二つを用いたC8方向の角度測定と,その合計に基づく評価が基準として定められている.しかし,この角度法は紙面上でC8方向を定規で測定・集計する作業を要し,臨床現場で診断書を作成する医師・視能訓練士にとって時間的負担が大きい.加えて,境界の読み取りや測定手順の違いにより測定者間差が生じうる.したがって,角度法と整合性を保ちつつ,デジタル画像解析により簡便かつ客観的に算出できる代替指標があれば,実務の効率化と標準化に資する可能性がある.GPの定量化については,プラニメータを用いた面積測定を含めさまざまな手法が報告されてきたが,近年ではソフトウェアを利用したデジタル測定が普及しつつある.Zahidらは,AdobePhotoshopを用いたデジタル定量法が従来のデジタルプラニメトリーよりも再現性と効率に優れることを報告し4),また,視野体積を算出し疾患進行の指標として利用する試みなども行われている5,6).一方で,視覚障害認定で用いられるC8方向視野角度の総和(CΣθ)や角度分布のばらつき(SDCθ)と,汎用画像解析ソフトウェアCImageJにより得られる形状指標との関係を系統的に比較検討した結果は現在まで報告されていない.ImageJでは周囲長や形状指標を標準機能として測定できるため,条件を固定すれば手順の再現性を担保しやすい.近年では,ImageJのマクロ言語などを用いて視野角度を半自動的に算出するソフトウェアや独自の定量プログラムも報告されている7,8).実患者のCGPデータを用いて疾患・重症度・欠損形状の多様性を短期間で網羅しながら指標間の関係を広く検証することは,倫理的手続きやデータ整備の制約から必ずしも容易ではない.そこで本研究では,insilico(仮想データを用いた計算機上の検討)として,生成CAIにより仮想CGoldmann視野のCI/4eイソプター・データセットを構築し,視野角度(Σθ,SDCθ)とCImageJで算出される形状指標との幾何学的対応関係を明確化することを目的とした基礎的検討を行った.insilicoの枠組みは,倫理的・実務的制約が大きい状況であってもモデル化とシミュレーションにより検討を進め得る方法論として位置づけられており,指標探索の前段階として有用である9).本研究は,従来用いられてきた視野角度指標とCImageJから得られる形状指標を比較解析するための方法論的検討として位置づけられる.CI対象と方法OpenAI社の大規模言語モデルCChatGPT-4oを用い,Goldmann視野イソプターCI/4eを模した視野図を生成した.方位角はC0.360°をC15°間隔で等分割し,各方向について0.60°の範囲で視野角度を数値として出力,ランダム生成としつつ,正常視野,求心性視野狭窄,垂直半盲,水平半盲など多様な視野パターンが含まれるよう設定し,120例のイソプター画像を描画した.プロンプト指示は,「Goldmann視野のCI/4eイソプターを模した仮想視野をC120例作成.各症例について視野輪郭を極座標の半径(視野角度)で表し,0°からC360°までC15°刻み(計C24方向)の半径を数値で出力.【座標系】0°=右,90°=上,180°=左,270°=下(反時計回り).【半径の範囲】各方向の半径は0.60°.【含めるパターン】120例の内訳はつぎのC4群(各C30例)がすべて含まれる:A.ほぼ対称で広い(正常に近い)B.求心性狭窄C.垂直半盲様D.水平半盲様」とした.ただし,生成CAIは確率的出力を含むため同一指示でも出力が変動しうる.つぎに,24方向の角度テーブルから極座標プロットを作成し,I/4eイソプター輪郭を単一色で描画した.画像は背景を白とし,解析用にPNG形式で保存した.視覚障害認定の枠組みに準じ,各イソプターについてC8方向(0°,45°,90°,135°,180°,225°,270°,315°)の視野角度を用いた指標を算出した.8方向視野角度の総和を合計視野角度(Σθ)とし,さらに8方向視野角度の標準偏差(SDCθ)を算出して,視野角度の分布のばらつきを表す指標とした.ImageJソフトウェア(VersionC1.54p,CNationalCInstitutesCofHealth)を用いて,視野輪郭の形状指標を測定した.画像をCImageJに読み込み,8-bitへ変換後,輪郭内部が前景となるよう閾値処理により二値化,必要に応じて領域内部の欠損を補正した.二値化後の前景領域から関心領域(regionofinterest:ROI)を作成し,ROIManagerに登録した.ROIを対象としてCanalyze→setmeasurementsにて測定項目を設定し,表1に示すC9指標(area,perimeter,majoraxis,Cminoraxis,angle,circularity,aspectratio,roundness,solidity)を同一条件で出力した.得られた測定値は症例ごとに保存し,統計解析に用いた.視野形状の多様性を可視化するため,全C120例におけるCΣθおよびCSDCθの中央値をそれぞれ算出し(CΣθ中央値=150.94°,SDCθ中央値=5.62°),これらをカットオフとして以下のC4群へ分類した.Type1(広く対称):Σθが中央値以上かつCSDCθが中央値未満,Type2(求心性):Σθが中央値未満かつCSDCθが中央値未満,Type3(非対称):Σθが中央値以上かつCSDCθが中央値以上,Type4(狭小・不整):Σθが中央値未満かつCSDCθが中央値以上.統計解析にはCIBMCSPSSCStatisticsCversion30.0.0(日本IBM)を用いた.CΣθと各形状指標との関係について,Pear-sonの相関係数(r)を算出した.同様にCSDCθと各形状指標との関係についてもCPearsonの相関係数で評価し,有意水準は両側5%とした.本研究は,大規模言語モデルにより生成した仮想CGoldma-nn視野画像を解析対象としたCinsilico研究であり,実在の患者情報を使用していない.Insilico研究とは,コンピュータ上で仮想データなどを用いて行う計算機シミュレーション解析研究をさす.本研究では視野形状の幾何学的関係を仮想環境下で検討したものであるため,人を対象とする医学研究には該当せず,所属施設の倫理審査委員会による審査は不要と判断した.CII結果Σθは広範に分布し,正常視野に相当する広さから高度求心性狭窄,垂直半盲,水平半盲など多様な形状が含まれていた(図1).Σθの平均はC149.2C±62.4°,SDCθの平均はC8.77C±6.56°であった.前述のとおりCΣθの中央値はC150.94°,SDCθの中央値はC5.62°であり,これら中央値をカットオフとした4群分類では,Type1(広く対称)8例,Type2(求心性)52例,Type3(非対称)52例,Type4(狭小・不整)8例であった.CΣθとC9指標の相関係数rおよび有意確率Cpはそれぞれ,perimeter:0.985,minoraxis:0.980,area:0.974,majoraxis:0.964(いずれもp<0.001),angle:0.315(p=0.001),Caspectratio:0.216(p=0.018),roundness:C.0.265(p=0.003),circularity:C.0.137(p=0.135),solidity:C.0.149(p=0.104)となった(図2).面積および楕円近似に基づく長軸・短軸,とくに周囲長がCΣθと非常に強い相関を示した.一方で,形状の円形度を表す指標であるCcircularityとCsolidi-tyは有意な相関を示さず,aspectratioおよびCroundnessは弱い相関にとどまった.4群分類(Type1.4)で表示した散布図において,ΣθとCperimeter/area/major/minoraxisの強い正の関連は,特定の群に偏って生じるものではなく各群にまたがって同方向の傾向として観察された(図2).なお,4群分類は視野形状の多様性を可視化する目的で導入したものであり,群間差の統計的比較は本研究の目的としていない.CSDCθと各指標の相関係数Crおよび有意確率Cpはそれぞれ,majoraxis:0.883,area:0.850,perimeter:0.844,minoraxis:0.812,angle:0.427,aspectratio:0.404,round-ness:C.0.429(いずれもp<0.001),circularity:C.0.016(p=0.861),solidity:C.0.095(p=0.303)となった(図3).表1ImageJで算出した9形状指標の定義と意味①area(面積,mm2)視野の広さ.大きいほど見える範囲が広い②perimeter(周囲長,mm)視野のまわりの線の長さ.ギザギザが多いほど長いC③majoraxis(長軸,mm)フィット楕円の長軸長C④minoraxis(短軸,mm)フィット楕円の短軸長⑤angle(角度,°)フィット楕円の長軸がCx軸に対してなす角度C⑥circularity(円形度)視野がどれくらい円に近いか.C1に近いほど丸い,=C4Cπ×area÷perimeter2C⑦aspectratio(アスペクト比)長軸C÷短軸,形の細長さ.数値が大きいほど細長く小さいほど丸いC⑧roundness(丸み)視野の形の丸み.1に近いほど円に近い=4×area÷(Cπ×majoraxis2)C⑨solidity(凹凸率)凸包充填率,凹みの少なさ.1に近いほど凸C=area÷その視野を囲む最小の凸包面積本研究でイソプターの定量に用いたC9形状指標について,定義と単位,およびそれぞれが表す視野形状の特徴を示す.CSDCθが大きいほどCmajor/minoraxisやCarea,perimeterは増大する傾向を示した.また,SDCθは細長い形状を表す指標であるCaspectratioおよび円形を表す指標であるCround-nessとCr=0.4程度の中等度の有意な相関を認めた.4群表示(図3)では,SDCθが中央値以上の群(Type3/Type4)において,majoraxisが相対的に大きく,roundnessが低い点が多く分布する傾向が観察され,SDCθが形状の異方性と関連することが視覚的に示唆された.CIII考按本研究では,視覚障害認定に用いられる視野角度と,ImageJにより得られる形状指標との関係を,人工知能(Arti.cialIntelligence:AI)のC1種である大規模言語モデルで生成した仮想CGP視野図を用いて検討した.その結果,多数の指標のなかで,perimeterがCΣθともっとも強い相関を示しarea,majoraxis,minoraxisも非常に強い相関を認めた.一方で,SDCθはCmajoraxisともっとも強く相関し,視野形状の非対称性と関連する形状指標(aspectratio,round-nessなど)とも有意に関連した.従来,GPの定量化はイソプターで囲まれた面積を中心に議論されることが多かった10,11)が,日本の視覚障害認定基準では,I/4eおよびCI/2eについてC8方向それぞれの視野角度を計測し,その総和によって定量が行われている.これは,イソプター面積を厳密に求めようとすると,曲線を追ってプラニメータを使う必要があり,診療実務上の負担が大きいた90°102030405060180°0°180°270°90°102030405060180°0°180°270°90°1020304050600°180°270°90°1020304050600°180°270°90°1020304050600°270°90°1020304050600°270°図1AIで生成した仮想視野の代表例大規模言語モデルChatGPT-4oにより生成したCI/4eイソプター(C―.―)仮想視野図の代表例を示す.極座標上にC0.60°の視野角スケールをとり,異なる視野パターンを描出した.め,紙カルテ上のCGPチャートと定規で完結することのできる視野角度が定量法として設計されたと推測される.GPチャート上でイソプター形状がおおむね円形.楕円形であると仮定すると,8方向視野角度の平均半径Cr_Cmean=Σθ/8を用いて,面積CAはCAC.π(Σθ/8)C2=(π/64)(Σθ)2と近似され,理論的にはCAはCΣθの二次関数となる.一方で,本研究で扱ったCΣθの範囲においては,CΣθとAの間に高い直線的関係(r=0.974)を認めた(図2).とくに視野が狭い例では,CΣθがイソプター面積の単調変換量として視野の大きさをよく反映する代理指標であると考えられた.さらに本研究でCΣθは,areaのみならずCperimeter,majoraxis,minoraxisと高相関(r=0.964.0.985)であり,想定した範囲の視野形状においてCΣθは視野の大きさをよく表現していると考えられた.飯田らはCImageJオリジナルマクロを用いて視野角度測定および解析を半自動化し,作業時間のC60%短縮と高い再現性を報告している7).このようなマクロを用いた視野角度の(半)自動化は,視野定量の効率化に大きく寄与する優れた手法であるが,一方で,ImageJには従来,面積や周囲長といった形状指標が標準搭載されており,専用マクロを構築することなく,これら既存指標を定量指標として活用する選択肢も考えられる.本研究でCΣθがCImageJで算出した面積や周囲長ときわめて高い相関を示したことは,視覚障害認定基準で採用されている視野角度法が,これら汎用的な形状指標と同程度の情報を有する,信頼性の高い視野定量指標であることを示唆している.従来の視野角度による定量が,求心性狭窄など典型症例の重症度評価にはおおむね妥当であったことを裏づける一方で,今回はCImageJによる形状指標を併用することで,従来基準との互換性を保ちつつ,より直接的かつ情報量の多い定量評価へ移行し得る可能性が示された.実務上は現在もC8方向の情報を用いる点に変わりはないが,たとえば指標の一つperimeterはイソプター全周の情報をC1回の計測で反映し得る利点がある.ZahidらがCPhotoshopによる面積測定が従来のプラニメトリーより効率的であることを示したように4),将来的に視野画像C1枚を取り込むだけで周囲長や面積を自動算出する簡便なアプリケーションが普及すれば,「8回の視野角度測定」から「周囲長C1つの指標」への単純化が可能となり,CΣθをCperimeterに置き換えても本質的な情報損失はほとんどなく,計測負担の軽減につながると考えられる.また,視野輪郭の不規則性に着目すると,本研究でCSDCθは,majoraxisともっとも高い相関を示した.これは視野形状の方向性の偏りを数値として表現していると考えられる.この異方性についての定量評価を,視野の方向(上下,左右など)の情報とあわせて評価することで,ロービジョン者の読書や歩行安全性など日常生活機能を評価する新たな定area050100150200250majoraxisperimeter40030010001008060200050100150200250Σθ(°)Σθ(°)Σθ(°)Type4(狭小・不整)図2視野角度総和(Σθ)と9形状指標の相関ΣθとC9形状指標との関係を示す.横軸にCΣθ(°)を,縦軸に各形状指標(area:mm2,perimeter:mm,major/minoraxis:mm,angle:°,circularity・aspectratio・roundness・solidity:無単位)をとり,散布図と回帰直線,Pearsonの相関係数rおよびp値を併記した.非有意の指標には回帰直線を表示していない.点はCΣθおよびCSDCθの中央値に基づく幾何学的C4群分類(Type1.4)で色・点形状を変えて表示した.量指標となる可能性がある.ただし,本研究ではCΣθとCSDCθる.そのような場合に,circularityやCsolidityは評価に有効の間にも一定の相関が存在する可能性はあり,SDCθの情報な指標となる可能性がある.本研究のデータセットでは十分量をCΣθから独立して評価するためには,今後部分相関などに特徴づけられなかったが,臨床データに適用した際に特異を用いたさらなる検討が必要と考えられる.的なパターンを捉えうるかどうか,今後検討が必要であると本研究では,circularityやCsolidityはCΣθおよびCSDCθと考えている.の相関が乏しく,視野の大きさや単純な非対称性とは独立し本研究は,大規模言語モデルCChatGPTを利用してCGPのた輪郭の凹凸やくびれといった不規則性を反映している可能仮想データセットをランダムに作成し,insilicoで定量指標性がある.たとえば,1/4盲など局所的な凹型の視野欠損のの検討を行った点が特徴的である.仮想視野データセットを例では,perimeterによる評価では同程度の値であっても,用いることで,倫理審査やインフォームド・コンセントの手CΣθや実際の視機能と相関が得られにくいケースが想定され続きが不要であるだけでなく,多様な視野形状を短期間に網areamajoraxisperimeter40030000.02.55.07.510.012.515.017.520.01008060200.800は指示文(プロンプト)を入れても困難であったため,解析は行っていない.今後は患者の実データと組み合わせ,疾患特異的な形状指標の特徴を評価することでより理解が深まると考えられる.CIV結論本研究では,視覚障害認定で用いられるC8方向視野角度総和(Σθ)とCImageJ形状指標の対応関係をCinsilicoで検討した.その結果,perimeterはCΣθともっとも強い相関を示し,CΣθの有力な代替指標となりうることが示唆された.加えて,CSDCθはCmajoraxisなどと関連し,視野の広さに加えて非対称性の定量化にも寄与しうる.これらの臨床的妥当性および実務適用可能性は,つぎの段階として実患者CGPデータで検証する必要がある.謝辞:本研究を実施するにあたり,ご協力いただいた三重大学病院視能訓練士および眼科医師の皆様に深謝申し上げる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)JohnsonCA,WallM,ThompsonHS:Ahistoryofperime-tryCandCvisualC.eldCtesting.COptomCVisCSciC88:E8-E15,C20112)SampleCPA,CDannheimCF,CArtesCPHCetal:ImagingCandCperimetryCsocietyCstandardsCandCguidelines.COptomCVisCSciC88:4-7,C20113)GoldmannH:FundamentalsCofCexactCperimetry.C1945.COptomVisSciC76:599-604,C19994)ZahidCS,CPeelerCC,CKhanCNCetal:DigitalCquanti.cationCofCGoldmannCvisual.elds(GVFs)asCaCmeansCforCgenotype-phenotypeCcomparisonsCandCdetectionCofCprogressionCinCretinalCdegenerations.CAdvCExpCMedCBiolC801:131-137,C20145)DeLucaAP,WhitmoreSS,TatroNJetal:UsingGoldma-nnvisual.eldvolumetotrackdiseaseprogressionincho-roideremia.OphthalmolSciC3:100397,C20236)ChristoforidisJB:VolumeCofCvisualC.eldCassessedCwithCkineticCperimetryCandCitsCapplicationCtoCstaticCperimetry.CClinOphthalmolC5:535-541,C20117)飯田悠人,秋元正行:ソフトウェアを用いた視覚障害認定用ゴールドマン視野結果の半自動解析.臨眼C74:637-640,C20208)TachibanaM,KannoJ,HashimotoMetal:Quanti.cationofCGoldmannCvisualC.eldsCduringCresolutionCofCtraumaticCopticCneuropathy.CCaseCRepCOphthalmolCMedC2024:C5560696,C20249)PappalardoF,RussoG,TshinanuFMetal:Insilicoclini-caltrials:conceptsCandCearlyCadoptions.CBriefCBioinformC20:1699-1708,C201910)NieselCP,CFlammerJ:CorrelationsCbetweenCintraocularCpressure,visual.eldandvisualacuity,basedon11yearsofobservationsoftreatedchronicglaucomas.IntOphthal-molC3:31-35,C198011)HartCWM,CYablonskiCM,CKassCMACetal:QuantitativeCvisualC.eldCandCopticCdiscCcorrelatesCearlyCinCglaucoma.CArchOphthalmolC96:2209-2211,C1978***

調節けいれんを伴う片眼性の心因性視覚障害の1 例

2026年8月31日 月曜日

《第14回.日本視野画像学会.原著》あたらしい眼科43(8):1008.1012,2026c調節けいれんを伴う片眼性の心因性視覚障害の1例島内深希坂本麻里和田友紀中西裕子中村誠神戸大学医学部附属病院眼科CACaseofMonocularFunctionalVisualLosswithAccommodativeSpasmMikiShimauchi,MariSakamoto,YukiWada,YukoNakanishiandMakotoNakamuraCKobeUniversityHospital,DepartmentofOphthalmologyC目的:調節けいれんを伴う片眼性の心因性視覚障害の一例を報告する.症例:18歳,女性.X-1年,大学受験を控えた高校C3年の授業中に突然左眼の視力低下を自覚し近医を受診し,左眼の視力低下と中心暗点を認め当科に紹介となった.各種眼科的検査および頭蓋内検査で異常を認めず,左眼の視野障害はアイモ両眼ランダム測定で消失したことから心因性視覚障害と診断,経過観察となった.1年後のCX年,左眼視力が改善せず内斜視を呈したため再度紹介となった.左眼は指数弁で中心視野障害を認めるにもかかわらずCHess赤緑試験が測定でき,左眼に器質的異常を認めなかったことから,やはり心因性視覚障害と診断した.眼位は,会話中は正位.外斜視であったが,検査や診察中には内斜視を呈し変動した.また,他覚的屈折検査で左眼のみに高度な近視を認めたものの,調節麻痺下で消失したことから左眼の調節けいれんと診断した.結論:調節けいれんは心因性視覚障害とも関連し通常両眼性が多い.今回,まれな片眼性の調節けいれんと心因性視覚障害の合併例を経験した.単眼検査と両眼開放下の検査の組み合わせが診断に有用であった.CBackground:FunctionalCvisualloss(FVL),CaCnon-organicCdisorder,CmayCcoexistCwithCaccommodativeCspasm(AS).CAlthoughCASCisCtypicallyCbilateral,CunilateralCcasesCareCrare.CCase:ACfemaleChighCschoolCstudentCpreparingCforCuniversityCentranceCexaminationsCsuddenlyCnoticedCdecreasedCvisionCinCherCleftCeyeCduringCclass,CpromptingCaCvisitCtoCaClocalCclinic,CwhereCreducedCvisualCacuityCandCaCcentralCscotomaCinCherCleftCeyeCwereCdetected.CSheCwasCthenreferredtoourdepartment.Comprehensiveophthalmicexaminationsandintracranialevaluationsrevealednoabnormalities.Giventhatthecentralscotomainthelefteyedisappearedduringtheimobinocularrandomsingle-eyeCtest,CsheCwasCdiagnosedCwithCFVLCandCwasCmonitoredCwithoutCtreatment.COneCyearClater,CatC18CyearsCofCage,Cshewasreferredagainbecausethevisualacuityofherlefteyehadnotimproved,andshehaddevelopedesotro-pia.CAlthoughCtheCleftCeyeChadCcounting-.ngerCvisionCwithCaCcentralCvisualC.eldCdefect,CtheCHessCred.greenCtestCcouldCbeCperformed,CandCnoCstructuralCabnormalitiesCwereCidenti.ed.CSubsequently,CsheCwasCdiagnosedCwithCFVLagain.Thepatient’socularalignmentvaried,fromorthophoriatoexotropiaduringcasualconversationbuttoeso-tropiaCduringCexaminations.CObjectiveCrefractionCshowedCmarkedCmyopiaConlyCinCtheCleftCeye,CwhichCdisappearedCunderCcycloplegia,CleadingCtoCtheCdiagnosisCofCASCinCtheCleftCeye.CConclusion:AS,CwhichCisCoftenCassociatedCwithCFVL,typicallypresentsbilaterally.OurrarecaseofunilateralAScombinedwithFVL.highlightstheusefulnessofcombinedmonoculartestingandbinocularexaminationfordiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(8):1008.1012,C2026〕Keywords:調節けいれん,心因性視覚障害.accommodativespasm,functionalvisualloss.はじめにに女児に多くみられる1.5).また,調節けいれんとは毛様体心因性視覚障害(機能性視覚障害)は,器質的疾患がない筋の不随意な持続的収縮により高度な近視を呈する病態であにもかかわらず,視力障害,色覚異常,視野障害,両眼視機り,矯正視力が出ない,屈折値が大きく動揺する,間欠的輻能障害などを呈する病態であり,児童・生徒期の小児,とく湊けいれんの合併により内斜視を呈するなど,さまざまな症〔別刷請求先〕坂本麻里:〒C650-0017兵庫県神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MariSakamoto,KobeUniversityHospital,DepartmentofOphthalmology,7-5-2,Kusunoki-cho,Chuou-ku,Kobe,Hyogo650-0017,JAPANCa左眼アイモ単眼測定右眼中心窩閾値中心窩閾値0dB26dBb左眼アイモ両眼ランダム測定右眼中心窩閾値中心窩閾値26dB30dB図1初診時のアイモ静的視野検査(AIZE30―2)a:左眼,右眼の順に単眼ずつ測定したところ,左眼に中心暗点を認め,左眼の中心窩閾値はC0CdBであった.b:両眼ランダム測定を行ったところ,左眼の中心暗点は消失し,中心窩閾値もC26CdBに上昇した.また,両眼の視野の左側に同名性に感度低下を認めた.状を呈することが報告されている1.3,6,7).調節けいれんの原因は心因性と器質性(頭蓋内病変やウイルス感染,薬剤性など)があるが,心因性が多いとされ,小児例の報告が多い.調節けいれんは心因性視覚障害とも関連するとされ,両者の合併例が報告されているが,調節は通常,両眼対称性の反応であることから,心因性の調節けいれんも両眼性で生じることが多く,片眼性での報告は少ない1).今回筆者らは,片眼性の調節けいれんを伴う心因性視覚障害を経験したので報告する.CI症例患者:18歳,女性.主訴:突然の左眼の視力低下.現病歴:X-1年C9月(17歳時),大学受験を控えた高校C3年生の授業中に突然黒板が見えにくくなり近医を受診し,地元の神戸大学医学部附属病院眼科(以下,当科)に紹介となった.前眼部,中間透光体,眼底に異常を認めず,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では視神経乳頭および黄斑部に構造異常を認めなかった.網膜電図(elec-troretinogram:ERG)では暗所,明所での各種反応におい右眼:sph-0.25Dcyl-0.25DAx10°左眼:sph-0.50Dcyl-0.50DAx10°右眼:sph-0.75Dcyl-0.00DAx0°左眼:sph-7.50Dcyl-0.50DAx16°(sph-5.0~-8.25Dまで変動)調節麻痺薬点眼後右眼:sph-0.50Dcyl-0.75DAx165°左眼:sph-0.00Dcyl-1.25DAx3°図2他覚的屈折値の推移X―1年の初診時には左右の屈折値に差は認めなかったが,1年後の再診時には左眼に強い近視を認め,屈折値が変動した.調節麻痺下では左眼の近視は消失した.眼軸長は右眼C23.51Cmm,左眼C23.34Cmmで左右差は認めなかった.て両眼とも正常範囲で左右差なく,各波形成分の振幅C,潜時および波形に異常を認めなかった.視覚誘発電位も両眼ともに潜時・振幅は正常範囲であった.頭部CMRIでは眼窩内C,a左眼アイモ単眼測定右眼b左眼Hess赤緑試験右眼図31年後のアイモ単眼測定(AIZE24―2plus)およびHess赤緑試験の結果a:左眼の視力は指数弁で,アイモ単眼測定では左眼に全体的に感度低下を認めた.Cb:Hess赤緑試験ではC15°の範囲が測定可能であり,内斜視のパターンを呈した.視路を含め異常を認めなかった.視野検査では左眼の中心暗点を認めたためC,Leber病の三大遺伝子変異も検査されたが異常を認めなかった.家族がさらに精査を希望したため当科に紹介された.初診時の視力は右眼C0.8(1.5C×sph-0.25DCcyl-0.25DAx180°)左眼C0.03(0.04C×sph-0.50Dcyl-0.50DAx10°),前眼部,中間透光体,眼底,OCTでは器質的および構造的異常を認めず,アイモによる静的視野検査(AIZEC30-2)を行った.まず,左眼→右眼の順に単眼測定を行うと,前医での結果と同様に左眼に中心暗点を認め,中心窩閾値はC0dBだった.つぎに両眼ランダム測定を行うと左眼の中心暗点はなくなり,中心窩閾値もC26dBに改善した.また,両眼の視野の左側に同名性に感度低下を認めた(図1).アイモの結果よりC,受験勉強や学校でのストレスを契機に発症した心因性視覚障害と診断し,紹介元で経過観察の方針とした.1年後のCX年(18歳時)に,左眼の視力が改善せず,さらに内斜視を認めたため再度当科を紹介となった.再診時の視力は右眼C0.7(1.5C×sph-0.75D),左眼C30cm指数弁(40cm指数弁C×sph-1.00D)であった.他覚的屈折検査時には,左眼は固視不安定で内転位となり,左眼の屈折値はCsph-5.00.-8.25Dまで変動した.1年前の初診時には左右眼の屈折値に差を認めなかったが,今回は左眼に高度の近視を認めたため,調節麻痺下で他覚的屈折検査をしたところ,左眼の近視は消失した(図2).眼軸長は右眼C23.51mm,左眼C23.33Cmmで左右差はなかった.眼位検査では,左眼で視標を視認できずCKrimsky法で測定したところ,正位.左眼C12CΔ外斜視で,眼位は変動し不安定であった.また,診察室では,会話中には眼位は正位を保っていたが,眼位検査や細隙灯顕微鏡での診察時には内斜視を呈した.眼内所見およびCOCTはC1年前と同様に異常を認めなかった.前医での静的視野(アイモCAIZEC24-2Cplus,単眼測定)では左眼の中心窩閾値はC18dBで全体的な感度低下を示した(図3).つぎにCHess赤緑試験を行ったところ,左眼は指数弁であるにもかかわらず,赤マスおよび矢印を認識することができC15°の範囲を測定することができた.Hess赤緑試験では内斜視パターンを示した(図3).矯正視力や視野の結果とCHess赤緑試験の結果の乖離から,やはり左眼の心因性視覚障害と診断した.また,調節麻痺下表1調節けいれんの既報のまとめ年齢(歳)性別眼矯正視力他覚的屈折値(D)眼位その他の近見反応非調節麻痺下調節麻痺下本症例18女性左眼指数弁-8.000.00外斜視~内斜視常盤らC14女性左眼(1C.5)トリック法-17.25-7.00外斜位,後に内斜視視標注視時に輻湊性の固視微動7女性右眼0.2雲霧法-11.75+0.25内斜視縮瞳,輻湊(SVSで確認)左眼(0C.15)雲霧法-11.75+0.25C花形らC8女性右眼(1C.0)雲霧法-10.00C0.00CNA左眼(0C.9)雲霧法-10.50+0.50CNAC10女性右眼(0C.3)-8.75+1.75CNA左眼(C0.15)-7.75+1.00CNA野口らC9女性右眼(0C.5)-6.00+0.75内斜視調節性輻湊左眼(0C.9)-4.25+0.5014女性右眼(1C.0)-9.00-1.50CNA縮瞳,輻湊けいれん,固視微動左眼(1C.0)-8.50-2.00CNAC15女性右眼(1C.0)-12.00-0.50CNA縮瞳,輻湊けいれん,固視微動左眼(1C.0)-12.00C0.00CNAC13女性右眼(1C.0)トリック法-11.50-0.50CNA縮瞳,輻湊けいれん,固視微動左眼(1C.0)トリック法-10.50+1.00CNAC調らC11女性右眼0.3(n.c.)-7.50C0.00CNA左眼0.3(n.c.)-11.00C0.00CNAC9女性右眼(0C.7)トリック法-8.50C0.00CNA左眼(0C.7)トリック法-8.00C0.00CNAC11女性右眼(0C.2)-5.00-2.00CNA左眼(0C.3)-6.00+0.50CNAC9男性右眼0.4(n.c.)-8.50+0.50CNA左眼0.4(n.c.)-9.50+0.50CNA南雲C10男性右眼(0C.4)-11.00-1.25内斜視左眼(0C.5)-13.00-0.75NA:notapplicable.SVS:Spotvisionscreener.で近視が消失したことから,左眼の調節けいれんと診断した.トロピカミド点眼を処方し,遠方からの受診で当科への通院は困難であったことから,引き続き紹介元で経過観察の方針となった.CII考按心因性視覚障害の診断には,トリック法や雲霧法を用いた視力検査のほかに,アイモ静的視野計による両眼ランダム測定が,とくに片眼性の心因性視覚障害の場合に有用であることが報告されている4,5).本症例でも,アイモの単眼測定で認めた左眼の中心暗点が両眼ランダム測定では消失し,中心窩閾値も改善したことから,左眼の視覚障害は心因性であると診断した.両眼ランダム測定では,被検者はどちらの眼を検査されているかわからない.片眼性の心因性視覚障害の症例に両眼ランダム測定を行うと,患者が見えにくいと自覚する側に同名性に視野障害を認めることがあり5),本症例も両眼ランダム測定で両眼の左側に同名性の感度低下を認めた.つぎに,1年後の再診時にはCHess赤緑試験が本症例の心因性視覚障害の診断の一助となった.Hess赤緑試験は両眼分離して検査を行うため,低視力例や中心暗点を呈する症例では通常測定不能となるが,本症例では測定可能であった.このことから,指数弁以上の視力があることが示唆され,心因性の要素があることがわかった.Hess赤緑試験ではC,アイモ両眼ランダム測定と同様にC,被検者はどちらの眼を検査されているかわかりにくく,片眼性の心因性視覚障害の裏づけに有用であった可能性がある.また,本症例ではCHess赤緑試験は初めての検査であり,先入観が少なかったことも結果に影響した可能性がある.調節けいれんは,高度の近視が調節麻痺下では改善することで診断される1.3,6,7).本症例でも,初診時に左右眼の眼軸長や他覚的屈折値に差を認めなかったにもかかわらず,1年後には左眼のみに変動する強い近視を認め,調節麻痺下で近視が消失したことから,調節けいれんと診断した.わが国からの調節けいれんの既報では両眼性の報告が多く,片眼性は本症例と常盤らの報告1)のみで,いずれも左眼であった(表1).また,花形らの報告6)のC3例のうちC1例(8歳女児)は,当初両眼性の心因性視覚障害および調節けいれんを認め累進屈折力眼鏡で改善したが,眼鏡装用中断後に左眼のみに片眼性に視力低下および調節けいれんを認め,眼鏡常用でその後改善した.このことから,調節は通常両眼性のメカニズムであると考えられるが,片眼のみに強く調節が働くこともありうると考えられる.本症例および常盤らの報告では,他覚的屈折力はオートレフラクトメータで測定しており,測定時に両眼視が阻害されていた.両眼視が阻害された状況下でのみ調節けいれんや近見けいれんが誘発される成人(いずれも女性)の症例が報告されている8,9).Rutsteinらは,職業カメラマンで常に右眼でファインダーを覗いているC27歳女性で,右眼遮閉時のみ左眼の近視化と視力低下をきたす症例を報告している.常盤らの症例および本症例はいずれも左眼の心因性視覚障害があり,オートレフラクトメータ測定時に,自覚的によく見える右眼を遮閉されたことにより調節けいれんが誘発された可能性がある.同様の条件で測定した右眼には調節けいれんは認めなかったことから,見やすいほうの眼が遮閉されることに対するなんらかの心理的要因が調節けいれんを誘発した可能性が考えられた.本症例では,他覚的屈折値測定中に左眼は徐々に内転していき,屈折値も大きく変動したが,このときの反対眼(右眼)の屈折値や眼位は観察できていない.花形らは,両眼性の心因性視覚障害および調節けいれんのC7歳女児の屈折値,瞳孔径,眼位を,スポットビジョンスクリーナー(SpotCVisionScreener:SVS,WelchAllyn社)で経時的に観察し,近視度数の増加とともに縮瞳および内斜視が増加していることを報告した6).本症例でも,左眼測定時に右眼にも近視化や輻湊が起きていた可能性があり,今後同様の症例に遭遇した際には,SVSや両眼開放下での検査も行うべきと考えられた.調節けいれんとともに縮瞳や輻湊けいれん,固視微動などがみられる症例も報告されており,眼位は調節性輻湊によると思われる内斜視を呈する症例が報告されている(表1).本症例では瞳孔径や固視微動の有無については観察できていない.眼位は,会話中やCKrimsky法では正位.外斜視であったが,屈折検査や細隙灯顕微鏡検査など,片眼ずつの検査・診察を行うと左眼が内転位となった.これらの結果から,やはりなんらかの心理的要因が働き,左眼に調節性輻湊を起こしている可能性が考えられた.なお,Hess赤緑試験でも内斜視パターンを示した.Hess赤緑試験では,若年者では調節性輻湊が働きやすく内転位を示すデータが得られることもあり10),本症例も検査時に調節性輻湊が働いた可能性が考えられる.本報告の限界として,本症例は遠方からの紹介で当科への継続的な通院が困難であったため,その後の経過を十分に追跡できなかった点があげられる.調節けいれんおよび心因性視覚障害の治療方針,経過,予後に関しては今後さらなる症例の蓄積と検討が必要である.片眼性の心因性視覚障害と調節けいれんを伴った症例を経験した.発症のメカニズムにはまだ不明な点も多いが,片眼ずつの検査と,両眼開放下の検査を組み合わせることが診断に有用であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)常盤純子,石川奈津美,山本莉奈ほか:片眼性の調節痙攣が疑われた心因性視覚障害の一例.日視能訓練士協誌C43:C257-262,C20142)南雲幹:とくに注意したい病態の眼鏡処方,調節の異常・心因性視覚障害を伴う近視.あたらしい眼科C39:301-306,C20223)調廣子,関谷善文,山本節:過度の調節痙攣を示した症例について.日視能訓練士協誌C24:35-38,C19964)GosekiCT,CIshikawaCH,CShojiN:BilateralCconcurrentCeyeCexaminationCwithCaChead-mountedCperimeterCforCdiagnos-ingCfunctionalCvisualCloss.CNeuro-ophthalmologyC40:281-285,C20165)TakagiCY,CYokoyamaCS,CYokoyamaCYCetal:ACcaseCofCfunctionalvisuallossdiagnosedthroughbilateralrandom-izedCvisualC.eldCtestingCwithCaCtrickCmethod.CAmCJCOph-thalmolCaseRepC32:101877,C20236)花形麻衣子,大久保真司,宇田川さち子ほか:累進屈折力眼鏡が有用であった小児調節痙攣のC3例.神経眼科C38:C292-297,C20217)野口清子,生田由美,久保田伸枝:内斜視を主訴とした調節痙攣の治験例.日視能訓練士協誌C29:243-247,C20018)RutsteinRP,Marsh-TootleW:AcquiredunilateralvisuallossCattributedCtoCaccommodativeCspasm.COptomCVisCSciC78:492-495,C20019)FaucherC,GuseDD:Spasmofthenearre.extriggeredbyCdisruptionCofCnormalCbinocularCvision.COptomVisCSciC81:178-181,C200410)木村亜希子:眼球運動検査Hess赤緑試験.眼科検査ガイド第C3版(飯田知弘,近藤峰生,中村誠ほか編)C,Cp163-166,文光堂,2022(162)

長期治療が奏効した重症ノカルジア強膜炎の1 例

2026年8月31日 月曜日

《第61回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科43(8):1003.1007,2026c長期治療が奏効した重症ノカルジア強膜炎の1例新井陽介戸所大輔秋山英雄群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学CACaseofNocardiaScleritisthatwasSuccessfullyTreatedYosukeArai,DaisukeTodokoroandHideoAkiyamaCDepartmentofOphthalmology,GunmaUniversitySchoolofMedicineC目的:重症化し治療に難渋したが治癒に至ったノカルジア強膜炎を経験したので報告する.対象と方法:76歳,男性.近医で左眼強膜炎および周辺部角膜潰瘍の診断で抗菌薬とステロイド点眼を処方されたが,改善しないため群馬大学医学部附属病院眼科へ紹介された.左眼の強膜膿瘍,眼脂の付着を認めた.非感染性強膜炎を疑いステロイド点眼を継続したが反応が悪かった.眼脂培養でノカルジアが発育し,強膜擦過物の塗抹鏡検で分枝するグラム陽性桿菌を認め,ノカルジアによる感染性強膜炎と診断した.レボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼,スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)内服,イミペネム点滴,アミカシン結膜下注射を開始した.虹彩ルベオーシスから前房出血を生じたが炎症は徐々に改善し,ステロイド点眼はC5カ月,抗菌薬はC7カ月かけて中止した.結論:初期に非感染性強膜炎と診断し重症化したが,抗菌薬の長期投与により治癒が得られた.多量の眼脂を認める強膜炎では感染性強膜炎の可能性を考える必要がある.CPurpose:WeCexperiencedCaCcaseCofCNocardiaCscleritisCthatCprogressedCtoCsevereCcomplications.CPatientsandMethods:AC76-year-oldCmanCwasCseenCatCanCoutsideCclinicCwithCocularCdischargeCandCdiscomfortCinChisCleftCeye,CandCwasCsubsequentlyCreferredCtoCourCdepartmentCatCGunmaCUniversityCHospital.CUponCexamination,ChisCleftCeyeCexhibitedCscleralCinjectionCandCthinningCofCtheClimbalCscleraCandCperipheralCcorneaCwithCdischarge.CNoninfectiousCscleritiswassuspected,yetmultipleabscessesdevelopedonthenasalsclera1monthlater.AcultureoftheoculardischargerevealedthegrowthofNocardiaCspecies.Microscopicexaminationofscleralscrapingsrevealedbranch-ingCgram-positiveCbacilli,CleadingCtoCaCde.nitiveCdiagnosisCofCinfectiousCscleritisCdueCtoCNocardia.CTreatmentCwithCtopicalClevo.oxacinCandCcefmenoxime,CoralCstromalCcombination,CintravenousCimipenemCdrip,CandCsubconjunctivalCamikacinCinjectionCwasCinitiated.CHyphemaCfromCirisCrubeosisCdeveloped,CyetCspontaneouslyCresolved.CSignsCofCin.ammationgraduallyimproved,andthetopicalsteroidsandantibioticsweregraduallytaperedovera7-monthperiod.CThereCwasCnoCrecurrence,CandCcataractCsurgeryCwasCperformed.CConclusion:TheC.ndingsCinCthisCcaseCrevealedthatthepossibilityofinfectiousscleritismustbeconsideredwhencopiousoculardischargeispresent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(8):1003.1007,C2026〕Keywords:ノカルジア,強膜炎.Nocardia,scleritis.はじめに強膜炎は感染性と非感染性に分類され,多くは非感染性であり,感染性強膜炎は強膜炎全体のC5.10%とまれである.ほとんどが緑膿菌をはじめとする細菌性であり,ノカルジア強膜炎は希少である1).ノカルジア強膜炎は,発症初期には特異的な症状がなく診断が困難であり,培養にも時間を要する.また,確立された治療法はなく,治療に難渋し重症化すると強膜壊死を起こし,眼球摘出を余儀なくされることもある2).今回筆者らは,重症化し治療に難渋したが最終的に治癒に至ったノカルジア強膜炎のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:76歳,男性.主訴:左眼の眼脂,違和感.既往歴:慢性心不全,心房細動,慢性腎臓病,本態性高血〔別刷請求先〕新井陽介:〒C371-8511群馬県前橋市昭和町C3-39-15群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学Reprintrequests:YosukeArai,DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversitySchoolofMedicine,3-39-15Showa-machi,Maebashi,gunma371-8511,JAPANC図1左眼の前眼部写真a:初診時.下鼻側の輪部強膜に膿瘍を認める.Cb:24病日.強膜膿瘍が鼻側上方および下方へ拡大した.Cc:54病日.虹彩ルベオーシスにより前房出血を生じた.Cd:103病日.前房出血,強膜膿瘍が減少し,強膜が菲薄化した.e:229病日.強膜膿瘍,充血が消失し,炎症は鎮静化した.Cf:1年C2カ月.白内障術後.圧,2型糖尿病,高コレステロール血症,高尿酸血症.生活歴:趣味で園芸を行っていた.近医で緑内障および白内障の点眼治療を受けていた.現病歴:左眼の眼脂,違和感のため前医を受診し,左眼強膜炎,辺縁角膜潰瘍の診断で,レボフロキサシン点眼とリン酸ベタメタゾン点眼を処方された.改善がないため群馬大学医学部附属病院眼科(以下,当科)へ紹介された.初診時所見:視力は右眼C0.05(0.7pC×sph.5.00D),左眼0.2(0.3pC×cyl.2.75DAx55°),眼圧は右眼11mmHg,左眼C13mmHgであった.左眼鼻下側の輪部付近の強膜に膿瘍があり,眼脂も伴っていた(図1a).眼底にはとくに異常はみられなかった.自己免疫性の角膜潰瘍および強膜炎を疑い,点眼をガチフロキサシンC3回,リン酸ベタメタゾンC6回へ変更した.しかし,ステロイド治療に反応が悪く,感染性を疑い病変部の擦過を行った.塗抹鏡検では細菌は検出されなかった.腎臓リウマチ内科へ紹介したが,関節リウマチや膠原病は否定された.初診からC21病日,前房にフィブリンが析出し悪化があり,脈絡膜.離も出現した.網膜血管炎,硝子体混濁,網膜滲出斑はみられなかった.眼脂培養からノカルジア属が検出されたため,再度強膜擦過物を鏡検したところ分枝するグラム陽性桿菌がみられ(図2),ノカルジアによる感染性強膜炎と診断した.薬剤感受性試験(微量液体希釈法)の結果を表1に示す.入院のうえC1.5%レボフロキサシン点眼C6回,セフメノキシム点眼C6回およびC0.1%フルオロメトロン点眼C3回,スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)4,000Cmg/800Cmg/日の内服を開始した.鼻側上方および下方に新たな強膜膿瘍が出現したため(図1b),イミペネム水和物C1Cgおよびアミカシン硫酸塩C400Cmgの点滴を開始した.その後も改善はみられず,23病日に結膜切開術,デブリドマンを試みた.強膜膿瘍部を結膜切開したが液状の膿は排出されず,強膜自体が膨化,黄色化している状態であった.術後,アミカシン硫酸塩(30Cmg/0.3Cml)図2強膜擦過物の塗抹鏡検(グラム染色,1,000倍)分枝するグラム陽性桿菌がみられる().結膜下注射を開始した.注射は結膜下膿瘍の付近を標的に行った.徐々に炎症性の虹彩ルベオーシスが出現した.31病日,四肢体幹に皮疹があり,ST合剤を被疑薬と考えて内服を中止とした.33病日に虹彩ルベオーシスが減少し,アミカシン硫酸塩点滴を中止した.ST合剤の減感作療法を行い,2,000mg/400mgから内服を再開した.その後C4,000mg/800Cmgまで内服可能となったため,40病日にイミペネム水和物点滴とアミカシン硫酸塩の点滴および結膜下注射を中止した.42病日に退院とした.16CSribosomalRNA遺伝子解析から菌種はCNocardiaarthritidisと同定した.52病日に前房出血を起こしたが,強膜炎の悪化はなかった(図1c).その後前房出血は徐々に自然吸収され,強膜炎も鎮静化傾向であった.103病日に鼻側の強膜菲薄化は進行したが,炎症は低下し鼻下側の膿瘍のみ残存し,前房出血は消失した(図1d).134病日に鼻下側の膿瘍が消失し,144病日にCST合剤の内服を中止した.229病日に充血はほぼ消失し,その後抗菌点眼薬を漸減中止したが再燃はなかった(図1e).広範な虹彩癒着,強膜の菲薄化を残した.白内障が進行したため,初診からC1年C1カ月に白内障手術を施行した.合併症はなく経過し,再発もみられず視力はC0.7まで改善した(図1f).治療経過を図3に示した.CII考按本症例では,初診時には非感染性強膜炎を疑いステロイド点眼を行った.しかし,ステロイド治療への反応が悪いことと眼脂が多いことから感染性強膜炎を疑った.眼脂の培養と塗抹鏡検からノカルジア強膜炎と診断し,分離菌株はポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)法によりCN.arthritidisと同定した.角膜炎の所見は乏しく,強膜炎から波及したと考えられる前房内のぶどう膜炎もみられ表1薬剤感受性試験(微量液体希釈法)薬剤名MIC(μg/mCl)判定CPCGC2CICABPCC2CNTCACV/AMPCC0.5CNTCCTMC<=0.5CSCCTXC<=0.12CSCCTRXC<=0.12CSCCFPMC<=0.5CSCCZOPC0.25CNTCCDTRC0.25CNTCMEPMC1CRCLVFXC1CNTCEMC<=0.12CSCAZMC0.5CNTCCLDMC0.25CSCMINOC<=0.5CNTCVCMC>1CNTCSTC<=0.5CSCRFPC<=1CSCCPC16CNTS:感受性,I:中間,R:耐性,NT:適応外.PCG:ペニシリンCG,ABPC:アンピシリン,ACV/AMPC:クラブラン酸C/アモキシシリン,CTM:セフォチアム,CTX:セフォタキシム,CTRX:セフトリアキソン,CFPM:セフェピム,CZOP:セフォゾプラン,CDTR:セフジトレンピボキシル,MEPM:メロペネム,LVFX:レボフロキサシン,EM:エリスロマイシン,AZM:アジスロマイシン,CLDM:クリンダマイシン,MINO:ミノサイクリン,VCM:バンコマイシン,ST:スルファメトキサゾール・トリメトプリム,RFP:リファンピシン,CP:クロラムフェニコールC.た.入院のうえレボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼,アミカシン結膜下注射,ST合剤内服,イミペネム点滴,アミカシン点滴による治療を開始した.炎症が強いことからステロイド点眼はすぐに中止せず,約C5カ月間かけて漸減中止した.一時期眼球摘出も検討されたが,約C7カ月の治療を経て鎮静化させることができた.ノカルジアは土壌や水中に分布しており,易感染状態やステロイド,免疫抑制薬を使用中の患者に発症しやすく,呼吸器系や中枢神経系,皮膚に病変を形成することが多い.80種以上の菌種が存在することが知られており,菌種の同定にはC16SribosomalRNA遺伝子解析が有用である.ノカルジア強膜炎の起炎菌としてはCN.asteroides,続いてCN.Cnovaの頻度が高い1).ノカルジア強膜炎は過去の眼外傷,眼手術歴やステロイド(錠)43ST合剤210アミカシン点滴800mg/日アミカシン結膜下注射30mg/日イミペネム1g/日ガチフロキサシン1.5%レボフロキサシンセフメノキシムアジスロマイシンベタメタゾンリン酸エステル(回)320.1%フルオロメトロン10入院退院前房出血消失膿瘍消失充血消失培養判明|膿瘍減少050100150200(日)図3治療経過チャート入院後C1.5%レボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼,ST合剤の内服,アミカシン結膜下注射,イミペネムおよびアミカシン点滴を開始した.ST合剤による薬疹が出現したが,減感作療法により内服を再開した.点滴,注射の終了時点で退院とした.虹彩ルベオーシスの病勢に応じてステロイド点眼を継続した.充血の減少に伴いレボフロキサシン,セフメノキシム点眼を最終的に終了した.使用歴がリスクとなる.まれに眼外傷や手術歴がなくても発症することもあると報告されている.わが国ではまれだが,インドにおいては感染性強膜炎のC20%を占めており,土壌に曝露する機会が多い農業国であるためと考えられている3).初期症状は慢性眼痛,充血が多く,そのほか霧視,羞明,流涙などがある.臨床的な所見として結節性・多巣性強膜膿瘍や潰瘍性強膜炎がみられるが,非特異的である.そのため診断までに時間を要してしまうことが多く4),診断が判明するまで非感染性として長期のステロイド治療を開始される可能性がある.野々村らはノカルジア強膜炎から眼球内容除去へ至った症例を報告し,初診時の培養検査で菌が検出されず,ステロイド投与を機に状態が悪化したと述べている5).塗抹鏡検では,細長く分枝したフィラメント状のグラム陽性桿菌として観察される.弱抗酸性を呈するため,検出にはZiehl-Neelsen染色やCKinyoun染色も有用である.白色粉状の小さなコロニーを形成するが生育が遅く,最低C48.72時間を要する6).治療法としてはCST合剤を使用することが多いが,確立された治療法はなく,抗菌レジメンの選択は疾患の重症度,感染部位,患者の免疫状態に基づいて行う必要がある.また,薬剤感受性は菌種により異なるため,培養による同定が重要である.ノカルジア属はC80種以上存在するが,ヒトへの疾患と関連しているのは.N.asteroides,N.farcinica,N.Cbrasilien-sis,N.nova,N.otitidiscaviarum,N.transvalensisといった少数種に限定されている7).N.arthritidisは,2004年に関節リウマチ患者から初めて特定された新しい菌種である8).現状ではCN.arthritidisによる強膜炎の報告は少なく,治療法については個々の感受性試験に基づくべきである.今回の虹彩ルベオーシスの発症については,少数だが強膜炎からぶどう膜炎を生じる例があると報告されている3).前房内にぶどう膜炎が生じると,炎症性サイトカインにより房水の血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)濃度が上昇すると考えられており9,10),虹彩ルベオーシスが生じたと考えられた.本患者は趣味で園芸をしており,枝,葉,土などが眼に入るケースが年に数回あるとの生活歴があること,基礎疾患として糖尿病があり易感染性があることがノカルジア症発症に起因したと思われた.発症から治癒まで約C7カ月を要したことから,ノカルジア強膜炎は長期的な治療が必要であることを再認識した.一方で,本症例は虹彩ルベオーシスの抑制を目的にC0.1%フルオロメトロン点眼を長期的に使用した.治療を長引かせる要因となった可能性も否定できないが,眼圧上昇や前房出血の悪化を軽減し,眼球内容除去を阻止できた要因と考えた.CIII結論ノカルジアによる感染性強膜炎の治療に難渋したが,約C7カ月の薬物により治癒を得ることができた症例を経験した.ステロイド点眼に反応しないことおよび眼脂が多いことから感染性強膜炎の可能性を考慮し,塗抹鏡検,培養検査を行ってノカルジアによる強膜炎と診断した.薬剤感受性試験の結果に基づいた集中的な抗菌薬投与が有効だった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SharmaCS,CShethCJU,CMurthySI:Infectiousscleritis:aCreviewCofCetiologies,CclinicalCfeatures,CandCmanagementCstrategies.CFrontOphthalmol(Lausanne)C5:1493831,C2025C2)FrancisC,PrashantG,AshokKetal:Optimizingdiagno-sisCandCmanagementCofCNocardiaCkeratitis,Cscleritis,Candendophthalmitis:11-yearCmicrobialCandCclinicalCover-view..OphthalmologyC118:1193-1200,C20113)SomasheilaIM,SabhapanditS,BalamuruganSetal:Scle-ritis:di.erentiatingCinfectiousCfromCnon-infectiousCenti-ties..IndianJOphthalmolC68:1818-1828,C20204)CunhaLP,JuncalV,CarvalhaesCGetal:Nocardialscle-ritis:acasereportandasuggestedalgorithmfordiseasemanagementbasedonaliteraturereview..AmJOphthal-molC10:1-5,C20185)野々村美保,福岡秀記,山下耀平ほか:眼球内容除去に至ったCNocardia感染症の1例.日眼会誌C128:775-782,C20246)西村恵子:ノカルジア属菌―Nocardiaspp.検査と技術.49:286-289,C20217)CheronisCN,CCarrCD,CBhanotN:CutaneousCNocardiaCarthritidisinfectioninanorthotopiclivertransplantrecipi-ent..IDCasesC18:e00623,C20198)KageyamaCA,CTorikoeCK,CIwamotoCMCetal:NocardiaCarthritidisspnov,anewpathogenisolatedfromapatientwithCrheumatoidCarthritisCinCJapan.CClinCMicrobiolC42:C2366-2371,C20049)GulatiCN,CForooghianCF,CLiebermanCRCetal:VascularCendothelialCgrowthCfactorCinhibitionCinuveitis:aCsystem-aticreview..BrJOphthalmolC95:162-165,C201110)前田有紀,原佑妃,松本牧子ほか:ぶどう膜炎に続発した血管新生緑内障C2症例の前房内CVEGF濃度と治療経過.臨眼C72:787-793,C2018***

基礎研究コラム:網膜色素上皮とフェロトーシス

2026年8月31日 月曜日

網膜色素上皮とフェロトーシス網膜色素上皮とフェロトーシス加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD),とくに萎縮型CAMD(dryAMD)では,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)の変性が病態の中心と考えられています.近年,鉄依存性の脂質過酸化を特徴とする制御性細胞死「フェロトーシス」が,dryAMDにおけるCRPE障害に関与する可能性が注目されています1).フェロトーシスでは,酸化ストレス下で細胞膜を構成するリン脂質が過酸化され,その反応が連鎖的に進行することで細胞は致命的な障害を受けます.フェロトーシスは,カスパーゼ活性化を伴うアポトーシスや,膜破綻を特徴とするネクロプトーシスとは異なり,鉄依存的な脂質過酸化反応そのものが細胞死を規定する点に特徴があります.これまでフェロトーシス抑制の中心的因子としてはグルタチオンペルオキシダーゼC4(GPx4)がよく知られていましたが,近年,カルシウム非依存性ホスホリパーゼCA2(iPLA2β)も,フェロトーシス抑制および膜の恒常性維持に関与することが報告されています2).iPLA2βは,過酸化された脂肪酸鎖をリン脂質から切り離し,新たな脂肪酸と置換するCLands’cycleを担うことで,膜リン脂質の質的恒常性を維持します.この機構は,すでに生じた脂質過酸化物を還元するGPx4とは異なり,過酸化脂質が蓄積・増幅する前段階で膜障害の進展を防ぐ点に特徴があります.筆者らは,NaIO3を用いたCdryAMDモデルにおけるCRPEの酸化ストレス応答において,このCiPLA2βが脂質過酸化およびフェロトーシスの抑制因子として働くのではないか,という仮説を立てました.低用量のCNaIO3を用いてCRPEに比較的軽度の酸化ストレスを負荷すると,iPLA2βノックアウト(KO)マウスでは,過酸化脂質の蓄積が顕著となり,RPE変性が明確に認められました(図1).さらにこれらの障害は,フェロトーシス阻害薬や抗酸化剤の投与によって抑制され,iPLA2βがCRPEにおいて酸化ストレスおよびフェロトーシスから細胞を保護する役割を担うことが示されました3).ネクロプトーシスに関する考察一方,NaIO3モデルでは,ネクロプトーシスという別の制御性細胞死機構の関与も報告されています4).そこで筆者らは,NaIO3投与によってネクロプトーシスの中核分子であるRIP3のリン酸化(p-RIP3)は活性化されず,さらにCRIP3KOマウスにおいてもCNaIO3によるCRPE変性は生じること監修北澤耕司・村上祐介・中川卓鈴木貴文東京大学医学部眼科学教室CNalO3図1網膜色素上皮(RPE)におけるiPLA2βの働きNaIO3により誘導される酸化ストレス下では,鉄依存性にCPUFA含有リン脂質の過酸化が進行し,RPEでフェロトーシスが惹起される.正常なマウス(WT)ではCiPLA2βが過酸化脂質を除去し脂質過酸化を抑制するのに対し,iPLA2βノックアウトマウス(KO)では脂質過酸化が蓄積し,RPE障害が増悪する.を確認しました.これらの結果から,RPE変性の主たる細胞死機序はネクロプトーシスではなく,フェロトーシスであると結論づけました.今後の展望本研究は,NaIO3モデルにおけるCRPE変性の機序として,ネクロプトーシスよりもフェロトーシスが優位であること,CiPLA2βがその抑制因子として機能しうることを示しました.今後,ヒトCRPEやCAMD患者組織での検証,さらにはCiPLA2β経路を標的とした薬理学的・遺伝学的介入を進めることで,dryAMDに対する新たな治療戦略につながる可能性が期待されます.文献1)LiuB,WangW,ShahAetal:Sodiumiodateinducesfer-roptosisCinChumanCretinalCpigmentCepitheliumCARPE-19Ccells.CellDeathDisC12:230,C20212)ChenCD,CChuCB,CYangCXCetal:iPLA2β-mediatedClipidCdetoxi.cationcontrolsp53-drivenferroptosisindependentofGPX4.NatCommunC12:3644,C20213)SuzukiCT,CTeraoCR,CNagaharaCMCetal:iPLA2βprotectsCrtinalCpigmentCepitheliumCfromCferroptosisCinCaCsodiumCiodate-inducedmodelofdryAMD.InvestOphthalmolVisSciC66:55,C20254)HanusJ,AndersonC,SarrafDetal:Retinalpigmentepi-thelialCcellCnecroptosisCinCresponseCtoCsodiumCiodate.CCellCDeathDiscovC2:16054,C2016☆☆☆(151)あたらしい眼科Vol.43,No.8,202610010910-1810/26/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:279.緑内障チューブシャント手術既往眼におけるガスタンポナーデの影響(中級編)

2026年8月31日 月曜日

279緑内障チューブシャント手術既往眼におけるガスタンポナーデの影響(中級編)池田恒彦京都中部総合医療センター眼科近畿大学奈良病院眼科●はじめに緑内障チューブシャント手術既往眼に対して硝子体手術およびガスタンポナーデが必要となる場合がある.眼内の気体が濾過経路に与える影響としては,気体によるチューブ開口部の閉塞,チューブ内への気体迷入による濾過機能低下などが考えられる.C●症例提示患者はC40歳,女性.増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)の硝子体手術後に血管新生緑内障を併発したため,4年前にCAhmed緑内障バルブ(AGV)によるチューブシャント手術が施行された.AGVは毛様体扁平部から硝子体腔内に挿入されていた.その後は眼圧コントロール良好であったが,黄斑部近傍に再増殖膜と牽引性網膜.離が進行してきたため,再手術を施行した.再増殖膜除去を行い,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固を施行した.術後,硝子体腔内は気体で充満されていた(図1)が,眼圧上昇は認めなかった.経過中,濾過経路内への気体迷入も認めなかった(図2).C●チューブシャント手術既往眼におけるガスタンポナーデの影響緑内障濾過手術既往眼に対するガスの影響を検討した報告は少ないが,Endersらはトラベクレクトミー既往眼にCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty(DMEK)と前房内ガス注入を施行した症例で,濾過胞内に気体が迷入し,一過性眼圧上昇をきたしたとしてい.一方でKimらは,AGVによるチューブシャントC)1る手術後に前房内に空気を注入した群と注入しなかった群を比較して,注入した群のほうがむしろ眼圧上昇をきた.その理由として空気)2すことが少なかったとしているがチューブ開口部付近での血餅形成を防ぐ効果があった.)3ためとしており,Hwangらも同様の報告をしているMasdipaらは,AGVの圧力特性およびチューブ内に閉(149)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1硝子体手術後の細隙灯顕微鏡写真(1)硝子体腔内はガスが充満している.チューブ内に空気が迷入しているかは確認できないが,眼圧上昇はきたさなかった.図2硝子体手術後の細隙灯顕微鏡写真(2)濾過経路内への気体迷入は認めなかった.じ込められた空気の影響を実験的に評価し,AGVチューブ内の空気は,空気なしの場合に比べて再充填圧力を約2倍増加させるとしており,チューブ内に空気が残らないように注意する必要があるとしている4).本提示例は患者が術後の伏臥位を十分に保持し,チューブ先端には眼内液が十分に存在していたため,濾過機能が維持されていた可能性があるが,AGVなどのチューブシャント手術既往眼に対して硝子体手術+ガスタンポナーデを施行する際には,やはり術後の眼圧上昇に留意する必要がある.文献1)EndersCP,CAvgitidouCG,CHeindlCLMCetal:TemporaryC.lteringCblebCfailureCinducedCbyCanteriorCchamberCsulfurChexa.uoridegas:acomplicationafterdescemetmembraneendothelialCkeratoplasty.CCaseCRepCOphthalmolC10:120-126,C20192)KimCS,CKwonCY,CLeeJY:E.ectCofCintracameralCairCinjec-tionCduringCAhmedCglaucomaCvalveCimplantationConChypertensivephase.SciRepC15:2738,C20253)HwangCSH,CYooCC,CKimCYYCetal:IntracameralCairCinjec-tionCduringCAhmedCglaucomaCvalveCimplantationCinCneo-vascularCglaucomaCforCtheCpreventionCofCtubeCobstructionCwithbloodclot.MedicineC(Baltimore)96:e9092,C20174)MasdipaCA,CKaidzuCS,CTanitoM:FlowCpressureCcharac-teristicsoftheAhmedglaucomavalveandpossiblee.ectofentrappedairinthetube.TranslVisSciTechnolC12:C16,C2023あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026999

考える手術:Sagging eye syndromeの斜視手術

2026年8月31日 月曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅Saggingeyesyndromeの斜視手術飯田貴絵東京慈恵会医科大学眼科学講座後関利明国際医療福祉大学熱海病院眼科CSaggingeyesyndrome(SES)は,加齢に伴い眼窩プリーの外直筋-上直筋バンドが変性・菲薄化し,外直筋プリーが下垂することにより生じる高齢者の斜視の代表疾患である.外直筋-上直筋バンドの障害と外直筋の下降が両眼で同程度であれば開散麻痺様遠見内斜視(ARDE)を呈し,左右差があれば小角度の上下回旋斜視(CVS)を呈する.ARDEの遠見内斜視角は平均約7Δ,CVSの遠見上下斜視角は平均約6Δと,SESの斜視は小角度であることが特徴である.複視の自覚や患者の希望を含め,プリズム眼鏡で対応できなければ手術を検討する.ARDEに対しては,通常の内直筋後転では低矯正となるため,遠見での最大斜視角の倍量を目標斜視角とする内直筋倍量後転を施行する.CVSに対しては,上下直筋の後転術を行い,回旋偏位が強ければ水平移動術を併施する.上下斜視角が6Δ以内であれば,点眼麻酔下で眼位を確認しながら調整する段階的垂直直筋部分切腱術も有用である.一方,術後に約20%で再発を認めると報告されており,術前の説明が必要である.聞き手:SaggingCeyesyndrome(SES)の診断と手術適す2).プリズム眼鏡は水平偏位C10CΔ以内,垂直偏位C4CΔ応の基本的な考え方を教えてください.以内,回旋偏位C8°以内の患者では有効なことが多いと飯田:SESには,開散麻痺様遠見内斜視(age-related報告されています3).SESの斜視角は小角度のため,プCdistanceesotropia:ARDE)と,小角度の上下回旋斜視リズム眼鏡で対応できることも少なくありません.しか(cycloverticalstrabismus:CVS)のC2タイプがありまし,加齢とともに斜視は進行するため,プリズム眼鏡をす.ARDEは遠見で増大する内斜視であり,遠見は内何度も作り直している患者や,多焦点眼内レンズ挿入眼斜視ですが,近見は内斜位もしくは外斜位となるのが特など眼鏡装用自体を好まない患者など,眼鏡以外の方法徴です.SESは加齢に伴う眼窩プリーの外直筋C.上直での複視解消を希望する患者には手術を検討することが筋バンドの変性と外直筋プリーの下垂により生じる斜視望ましいです.また,回旋偏位は眼鏡では補正できないですが,変性の程度が左右同程度であればCARDEとなため,8°を超える回旋偏位を有する場合は手術を検討しり,左右で程度が異なるとCCVSとなります.そのため,ます.CVSでは,外直筋プリーの下垂が強いほうの眼が下斜視眼となり,外方回旋も下斜視眼で上斜視眼より強くな聞き手:ARDEの手術方法について教えてください.ります.また,頭部傾斜試験の左右差はC5CΔ以下となり飯田:ARDEに対しては,内直筋後転術や外直筋短縮ます.そのほか,上眼瞼の陥凹や腱膜性眼瞼下垂,下眼術で対応可能ですが,通常の内直筋後転では低矯正とな瞼の脂肪脱などCsaggingClikefaceとよばれる顔貌所見るため,目標斜視角を遠見内斜視角の倍量とする内直筋を呈することや1),やせ型の人に多いことなどが特徴で倍量後転術を施行します4).その際に正面眼位だけでな(147)あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026C9970910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術く,左右側方視時の第二眼位での内斜視角も確認し,もっとも内斜視角が大きい値のC2倍を目標斜視角として手術を行います.最大斜視角がC15CΔの内斜視では,目標斜視角はC30CΔとなります.Parksの定量表(表1)を参照しますが,予定手術が両眼内直筋後転術の場合は,Parksの定量表どおりC30CΔ狙いで両眼C4.5Cmm後転,片眼内直筋後転術であれば定量表のC60CΔで片眼C30CΔの効果と考えC6.5Cmm後転とします.ARDEの輻湊は良好であるため,内直筋倍量後転術を施行しても,近見での過矯正による複視を生じることはほとんどありません.私のグループでは,内直筋倍量後転術が,遠見内斜視角C10Δ以下の小角度のCSES症例に対しても,遠見内斜視の有意な改善を認め,近見での過矯正による複視は認めず有効であることを報告しています4).注意点としては,一見CARDEにみえても,微小な上下斜視を伴うCCVSであることがあります.3CΔ以上の上下斜視を有する患者では,術後に上下偏位による複視が残存する可能性があるため,上下斜視の手術を併施するか,術後に上下複視に対してプリズム眼鏡などが必要になる可能性について説明することが望ましいです.聞き手:CVSの手術方法について教えてください.飯田:上下斜視角がC6CΔ以下であれば,点眼麻酔下で眼位を確認しながら調整する段階的垂直直筋部分切腱術(gradedverticalrectustenotomy:GVRT)を施行します.直筋の全幅に対してC40%の切腱で約C2CΔ,60%で約4Δ,80%で約C6CΔの効果が得られるとされています.効果には個人差があるため,予定よりC10%ほど弱めで開始し,切腱するたびに患者を座位にし,交代カバーテストをしながら上下偏位がなくなるまで切腱を繰り返します.術中に微小な斜視角を確認するため,麻酔は必ず点眼麻酔のみで施行します.そのため,結膜切開は術野へのアプローチが容易なスワン切開で行い,筋を確保し表1Parksの斜視手術表目標内斜視角両眼内直筋後転術の術量C15ΔC3.0CmmC20ΔC3.5CmmC25ΔC4.0CmmC30ΔC4.5CmmC35ΔC5.0CmmC40ΔC5.5CmmC50ΔC6.0CmmC60ΔC6.5CmmC70ΔC7.0CmmCた後のCTenon.など筋周囲の結合組織の処理は最小限とします(動画①).視認性確保のため,切腱部位は焼灼してから切腱します.また,術前に第C2眼位での上下偏位を確認し,同側で上下斜視角が大きくなれば耳側から,対側で上下偏位が大きくなるなら鼻側から切腱します.切腱した筋が前転するのを防ぐために,結膜はタイトに縫合しないようにします(動画②).上下斜視角がC8CΔを超える場合や,回旋偏位がC8°以上ある患者では,垂直直筋後転術および水平移動を施行します.垂直直筋後転術ではC1mm後転でC3CΔの矯正効果と考えます.CVSでは基本的には外方回旋を有するため,下直筋は鼻側移動を,上直筋は耳側移動を行います.1筋腹の水平移動で約C7°の効果と考えられており,術後の外方回旋がC8°以内になるように半筋腹からC1筋腹移動させます.聞き手:術前に患者へ伝えておくべきことはありますか?飯田:SESは加齢に伴う眼窩プリーの変性により生じるため,術後も加齢に伴い斜視が増悪することがあります.SESの術後再発率は約C20%と報告されており5),術前に患者に説明する必要があります.また,内直筋倍量後転術や垂直直筋後転術および水平移動術は一般的な斜視手術の手技と変わりませんが,GVRTに関しては点眼麻酔下で施行するため,痛みが出ないよう慎重に操作する必要があります.患者には痛みが出る可能性があること,点眼麻酔で患者が痛みに耐えられないようであれば,術中に局所麻酔を追加し垂直直筋後転術に術式変更する可能性があることを伝えます.文献1)GosekiT:Saggingeyesyndrome.JpnJOphthalmolC65:C448-453,C20212)IidaCK,CGosekiCT,COnouchiCHCetal:BodyCmassCindexCisCassociatedCwithCorbitalCpulleyCdegenerationCsyndrome,Cincludingsaggingeyesyndrome.AmJOphthalmolC268:C312-318,C20243)稲垣理佐子,浅野麻衣,正木勢津子ほか:複視に対するプリズム適応の検討.日本視能訓練士協会誌C35:93-97,C20064)IidaK,GosekiT,FukayaKetal:E.cacyofthedouble-dosemedialrectusmusclerecessiontechniqueforsaggingeyesyndromewithesotropiaof10-prismdioptersorlessatdistance.CJpnJOphthalmol69:327-334,C20255)ChaudhuriZ,DemerJL:Long-termsurgicaloutcomesinthesaggingeyesyndrome.StrabismusC26:6-10,C2018998あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(148)

抗VEGF治療セミナー:網膜静脈閉塞症に対するトリアムシノロン併用抗VEGF治療

2026年8月31日 月曜日

●連載◯監修=安川力五味文170150網膜静脈閉塞症に対するトリアムシノロン新井悠介新井眼科クリニック併用抗VEGF治療網膜静脈閉塞症(RVO)は急性期に黄斑浮腫を合併し,視力低下を引き起こす.抗CVEGF治療は有効性が確立されているが,治療無効例が存在する.本稿では,慢性化したCRVOに対するトリアムシノロン後部CTenon.下注射併用抗CVEGF治療の効果とメカニズムについて解説する.はじめに網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)では,網膜静脈のうっ滞や閉塞により網膜循環障害を生じ,網膜出血や黄斑浮腫(macularedema:ME)が発症する.MEの発症は視力低下を招き,治療介入が必要となる.大規模臨床試験によって抗CVEGF薬の有効性・安全性は確立され,標準CRVO治療となっているが,RETAINstudyの長期成績では,約半数の症例で長期にわたる抗VEGF薬投与が必要とされている1).最近では第C2世代とよばれる新しい抗CVEGF薬も登場したが,全例が軽快できるわけではない.現在のCRVO治療では,MEの再燃により抗CVEGF治療から離脱できないことが大きな課題になっている.今回はそのような患者に対して,筆者らの行っているトリアムシノロンを併用した追加治療を紹介する.慢性化したRVOへの治療アプローチRVOが慢性化すると年間複数回の抗CVEGF薬投与が継続的に必要となる.ProCrenata(PRN)法で投与を行うと患者の通院負担が増加する.こうした背景から,慢性化したCRVOに対し患者負担軽減を目的とした個別化療法の重要性が高まっている.筆者らは,RVOに対する個別化治療としてCmodi.edtreat-and-extend(TAE)法の有効性を報告した2).必要最低限の通院回数で視力改善と維持が可能だが,ある程度経過すると,投与期間の延長が困難になる患者が出てくる.このような患者に対し,抗CVEGF治療以外の治療オプションの検討が求められている.トリアムシノロン併用抗VEGF治療慢性化したCRVOに伴うCMEには炎症性サイトカインの関与が示唆されており,ステロイド治療の有効性が期待される3,4).そこで筆者らは,トリアムシノロン併用抗CVEGF治療を行い,後ろ向き研究で検証した5).(145)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYTAE法による治療後,トリアムシノロン後部CTenon.下注射と抗CVEGF薬を同時に投与し,抗CVEGF薬単独治療から再燃期間がどのくらい延長できるかを調べた.併用療法前の抗CVEGF薬の平均投与回数はC14回であった.結果はC42眼中C26眼(62%)で投与間隔がC2週間以上延長できた.そのうちC2眼は投与後C1年間再燃が認められなかった(図1).単独療法時の平均投与間隔はC11.9週で,再燃がなかったC2眼を除いた平均延長期間はC9.7(±6.7)週であった.副作用としてC4眼で白内障の進行を認め白内障手術が施行されたが,眼圧上昇は認められなかった.急性期におけるステロイド併用療法は効果が乏しいとされている6).急性期のCME再燃ではCVEGFが主要因であり,ステロイドの効果は得られにくい.一方,慢性期ではさまざまな炎症性サイトカインが関係するため,逆に,VEGF単独を抑制する治療では再燃を防ぎきれない.そのため,慢性期においてはステロイドの効果が発揮される患者が存在するものと考えられる.本研究では,併用療法で投与間隔が延長した症例と,延長しなかった症例で,炎症性サイトカインの比較検討をした.その結果,IL-1αが大きいほど,またCIL-5,IL-6,Galectin-1が小さいほど,再燃までの期間が延長する可能性が示唆された.慢性期RVO治療における一つの選択肢筆者のCRVOに伴うCMEに対する治療方針は以下の通りである.急性期にはCmodi.ed-TAE法で抗CVEGF薬治療を行い,投与間隔がC16週まで延長できた患者は治療を中止し,経過観察する.投与間隔の延長が困難で再燃を繰り返す患者には,抗CVEGF薬を変更する前に,トリアムシノロン併用抗CVEGF治療を試みる.有効例には,再燃時に再び同治療を繰り返す.ただしトリアムシノロン併用でも再燃する患者は存在するため,抗VEGF治療からの離脱を可能とする新規治療法の開発あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026995図1トリアムシノロン併用抗VEGF治療が奏効した症例患者はC78歳,女性.網膜中心静脈閉塞症に対しアフリベルセプトC7回と汎網膜光凝固が行われていた.発症からC365日でトリアムシノロン併用抗CVEGF治療を施行.TAE期の最大投与間隔はC6週間.併用療法後,再燃なく経過し軽快.Ca:初診時眼底写真.耳側網膜血管の脱落が目立つ.Cb:併用療法前眼底写真.汎網膜光凝固が行われ,後極血管の白線化が目立つ.Cc:併用療法直前の光干渉断層計(OCT)像.中心窩網膜厚はC579Cμm.Cd:併用療法C1年後のCOCT像.黄斑浮腫の再燃を認めず,軽快状態を維持.が望まれる.文献1)CampochiaroCPA,CSophieCR,CPearlmanCJCetal:Long-termCoutcomesCinCpatientsCwithCretinalCveinCocclusionCtreatedCwithranibizumab:theCRETAINCstudy.COphthalmologyC121:209-219,C20142)AraiCY,CTakahashiCH,CInodaCSCetal:E.cacyCofCmodi.edCtreat-and-extendCregimenCofCa.iberceptCforCmacularCedemaCfromCbranchCretinalCveinocclusion:2-yearCpro-spectivestudyoutcomes.JClinMedC10:3162,C20213)NomaCH,CYasudaCK,CShimuraM:CytokinesCandCtheCpathogenesisCofCmacularCedemaCinCbranchCretinalCveinC996あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026occlusion.JOphthalmol2019:5185128,C20194)NomaH,YasudaK,ShimuraM:Cytokinesandpathogen-esisCofCcentralCretinalCveinCocclusion.CJCClinCMedC9:3457,C20205)AraiCY,CTakahashiCH,CInodaCSCetal:E.ectivenessCand.cytokinepro.leof.combinedantivascularendothelialgrowthfactorand.corticosteroidtherapyfor.chronicreti-nalCveinCocclusion.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC263:1427-1434,C20256)OsakaCR,CMuraokaCY,CNakanoCYCetal:OneyearCresultsCofCantivascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCcom-binedCwithCtriamcinoloneCacetonideCforCmacularCedemaCassociatedCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CJpnCJCOph-thalmolC64:605-612,C2020(146)

緑内障セミナー:緑内障診療における患者支援のための多職種連携 

2026年8月31日 月曜日

●連載◯310監修=福地健郎中野匡310.緑内障診療における患者支援のための渡辺芽里自治医科大学眼科学講座多職種連携緑内障患者は長期の経過のなかで,視機能のみならず生活環境や社会的背景も変化する.眼科医が把握しておくべき支援のための知識として,メディカルソーシャルワーカー,「スマートサイト」,移動支援にかかわる同行援護および歩行訓練士があげられる.多忙な日常診療においてこそ,多職種連携の視点が重要である.●はじめに緑内障はわが国における失明原因の第1位であり,新たに視覚障害の身体障害者手帳(以下,障害者手帳)を取得した者の約40%を占める疾患である1).進行性かつ不可逆性の疾患であり,治療期間が10年,20年と長期に及ぶなかで,福祉的介入が必要となる患者も少なくない.眼科医が診断書を作成して申請できる制度としては,障害者手帳(福祉支援)および障害年金(経済的支援)があげられる.障害者手帳の認定基準に,患者の視力や視野が該当するか否かの医学的判断は本来担当医の責務であるが,緑内障患者の視力は末期まで保たれることも多く,通常診療では中心10-2検査や両眼開放Esterman検査が必ずしもルーティンで施行されておらず,診断基準を満たしていても申請ニーズを診察時に把握することは容易ではない.こうした背景から,院内・院外における多職種連携が有用であり,担当医だけでなく,視能訓練士,看護師,受付スタッフなどの院内スタッフが患者の生活上の変化や困難に気づき,院外の福祉関係者へつなぐことが重要である.●医療と福祉のキーパーソン:メディカルソーシャルワーカーメディカルソーシャルワーカー(medicalsocialwork-er:MSW)は医療機関に所属する福祉職であり2),在宅サービスの導入・調整,各種福祉制度の紹介や申請支援,就労支援,地域資源との連携など,患者の社会的背景にかかわる支援を担っている.総合病院では「医療福祉連携室」「患者相談室」などに所属することが多く,日本医療ソーシャルワーカー協会のウェブサイトからMSWが所属する医療機関を検索することが可能である3).視覚障害に特化した支援に当初から精通しているMSWは必ずしも多くないが,眼科医療スタッフとMSWが連携し,支援内容や経過を共有することで,視覚障害者支援に関する連携体制が徐々に形成されていく.また,MSWが常駐していない医療機関においても,患者が他科で通院している総合病院やMSWと連携可能なロービジョン外来を有する眼科医療機関へ,福祉的介入を目的として紹介することは可能である.図1院内・院外における多職種連携の一例メディカルソーシャルワーカーは医療と福祉をつなぐ役割を担う.(143)あたらしい眼科Vol.43,No.8,20269930910-1810/26/\100/頁/JCOPY図2「スマートサイト」の例日本眼科医会ホームページの「スマートサイト関連情報」から各都道府県のパンフレットがダウンロードできる(栃木県版).障害者手帳の該当可否は眼科医が医学的に判断する一方,MSWは患者の生活背景や支援ニーズを踏まえ,申請手続きや申請後のサービス利用調整に関与する重要な役割を担っている(図1).●障害者手帳と同行援護緑内障患者は,障害者手帳の認定基準に該当する視覚障害を有していても(とくに視野障害のみの患者は)自立した生活を送っている例が少なくなく,手帳申請を勧めるべきか判断に迷う場面も多い.そのなかで,眼科医が把握しておくべき,視覚障害を対象とする障害者手帳関連支援の一つが同行援護である.同行援護は,視覚障害者の外出時における移動支援を目的としたサービスであり,移動時の介助に加え,外出先での代読・代筆などの視覚情報支援を含む3).障害者手帳を取得し白杖を使用すれば自由に外出できると誤解されることもあるが,白杖歩行には歩行訓練士による訓練が必要であり,白杖のみで安全かつ自由な移動が可能となるわけではない.同行援護は,通院や買い物といった日常生活上必要不可欠な外出に限らず,余暇活動などを含む社会参加を目的とした外出にも利用可能な制度である4).●「スマートサイト」と歩行訓練士,地域連携眼科医が担当医療圏における視覚障害関連の福祉・行政サービスや支援団体を把握し,患者に説明するためのツールとして,47都道府県ごとに「スマートサイト」(ロービジョンケア紹介リーフレット)が整備されている.日本眼科医会のウェブサイトから全国の「スマートサイト」をダウンロードすることが可能である(図2)5).多くの都道府県において「スマートサイト」には歩行訓練士をはじめとする地域の視覚障害支援にかかわる専門職および関係機関の連携先が明示されている.歩行訓練士は前述の通り視覚障害者が白杖などを用いて安全に移動できるよう歩行訓練を行う専門職であり,歩行訓練以外にも日常生活動作やコミュニケーション手段に関する訓練・支援を担う視覚障害生活訓練等指導者に該当する.視機能が同程度であっても,患者の年齢や生活背景により支援ニーズは大きく異なり,「スマートサイト」を契機として紹介された専門機関から,さらに別の専門機関へと支援が展開されるケースも少なくない.実際に「スマートサイト」を中心としたロービジョン支援ネットワークが構築されている都道府県も多く,ロービジョンケアの専門家でなくても,眼科医が診察室で「スマートサイト」を患者に手渡すことが,地域資源との連携に向けた重要な入口となっている.文献1)MatobaR,MorimotoN,KawasakiRetal:Anationwidesurveyofnewlycerti.edvisuallyimpairedindividualsinJapanforthe.scalyear2019:impactoftherevisionofcriteriaforvisualimpairmentcerti.cation.JpnJOphthal-mol67:346-352,20232)丸山昌子:総論医療ソーシャルワーカーの役割.小児科診療87:919-922,20243)公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会https://www.jaswhs.or.jp/4)萬代由希子:目の不自由な方に関する施策やサービス.理学療法ジャーナル58:757-762,20245)日本眼科医会:スマートサイト関連情報https://www.gankaikai.or.jp/info/detail/SmartSight.html994あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026(144)

屈折矯正手術セミナー:46 歳以上の患者におけるICL挿入術の臨床的特徴と術後成績

2026年8月31日 月曜日

●連載◯315監修=稗田牧神谷和孝315.46歳以上の患者におけるICL挿入術の大内雅之大内雅之アイクリニック臨床的特徴と術後成績46歳以上でICL手術を受ける患者は,術前は低矯正で過ごしていて,手術においては完全矯正を希望するケースが多い.術後は近用眼鏡装用率が上がるものの,高い満足度を得られるため,屈折矯正手術を希望する中年層に対するひとつの術式選択になりえると考える.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズ(implantablecontactlens:ICL)or(implantablecollamerlens:ICL)手術をはじめとした屈折矯正手術のガイドラインでは,適応年齢を20~45歳としているが,その上限年齢は主として老視の影響を考慮してのものと考えられる.しかし,ライフスタイルや患者ニーズの変化,ICL手術の一般への周知,さらに近年では災害への備えなど,ICL手術の希望者の年齢が広がっている.筆者のクリニックでは2020年1月~2023年9月に,トーリックモデルを含むICL(EVO+,StaarSurgical社)の挿入手術を490例971眼に施行し,このうち手術時年齢46歳以上は31例(男性11例,女性20例)60眼であった.これらの症例の特徴1)から,46歳以上の患者への本手術について考察する.表1術前および術後の視力と屈折値術前裸眼視力(logMAR)0.04(1.44±0.26)(範囲0.02~0.2)矯正視力(logMAR)自覚等価球面屈折値1.24(.0.09±0.09)(範囲0.6~1.5).7.94±3.00D(範囲.16.13~.2.25D)自覚球面屈折値.0.19±0.28D(.0.75~0D)自覚円柱屈折値.0.14±0.27D(.1.0~0D)等価球面屈折値.0.25±0.33D(.1.25~0D)術後裸眼遠方視力(logMAR)1.19(.0.07±0.17)矯正遠方視力(logMAR)1.35(.0.13±0.08)裸眼近方視力(logMAR)0.68(0.16±0.28)●術前屈折値と患者背景術前の自覚等価球面屈折値は.16.13D~.2.25(平均.8.0±2.9D)で(表1),13%の医療職を含む61%がデスクワーク中心の職業についていた.全眼の術前自覚等価球面屈折値の分布を図1に示す.術前のおもな矯正方法は,眼鏡12例,ソフトコンタクトレンズ14例,ハードコンタクトレンズ5例で,これらの矯正下で近用眼鏡を使用していた例はなかった.これら主たる矯正方法下では,31例60眼中8例14眼は1D以上の低矯正であり,近方視力は平均0.61で,少なくとも片眼が0.7以上だった症例は16例(52%)であった.一方,11例(35%)は,両眼とも0.5以下であった.ここから,日常視では低矯正で近方視力をある程度確保している症例が比較的多いことがうかがえる.(眼)109876543210-16/-14/-12/-10/-8/-14/-6/-2/-16-14-12-10-16-8-4術前等価球面屈折値(未満/以上D)図1術前等価球面屈折値(141)あたらしい眼科Vol.43,No.8,20269910910-1810/26/\100/頁/JCOPY達成矯正度数(D)2015105005101520目標矯正度数(D)図2目標矯正度数と達成矯正度数の散布図(等価球面値)●術後目標屈折値しかし,術後希望屈折値はこれと異なり,カリキュレーター入力に使った矯正における残存屈折値の平均は.0.31±0.32D(平均.1.75~0D),53眼は正視から.0.5Dを希望し,両眼手術症例29例中24例(82.7%)は,両眼の完全遠方矯正を希望した.一方で0.75D以上の低矯正を希望したものは5例7眼のみであった.また,正視を希望する症例においても過矯正は確実に回避することを重視したレンズ選択をすることで,結果として,術後の自覚屈折値が若干でも遠視になる症例は一例もなく,正視を希望した症例の平均も.0.25Dであった.●予測裸眼近方視力上述の希望術後屈折(換算コンタクトレンズ装用シミュレーション)における予測裸眼近方視力は0.2~1.2,平均0.71(logMAR0.14±0.14)で,11例は少なくとも片眼が0.5以下の近方視力を認容し,術後屈折は遠方重視の傾向であることがわかった.●術後視力,屈折,予測性術後3カ月目の屈折,視力情報を表1に示す.裸眼遠方視力は平均1.19(logMAR.0.07±0.17)と良好で,裸眼近方視力は平均0.68(logMAR0.16±0.28)であった.また1眼を除き,目標矯正度数からのずれは±0.5D992あたらしい眼科Vol.43,No.8,2026以内であった(図2).●有害事象眼圧は術前平均13.8±2.4mmHg,術後平均13.1±2.6mmHgと術前後で有意差はなく(p=0.27,pairedttest),4mmHgを超える眼圧上昇は術翌日から観察期間中,どの症例にもみられなかった.角膜内皮細胞密度は術前平均2,756.2/mm2,術後平均2,737.3/mm2で有意差はなく(p=0.32),減少率は平均.1.1%であった.術後の平均vaultは382.0±213.4m(111~1,051μm)であった.31例中19例(61.3%)が術後早期にグレアまたはハローを自覚したが,症状は軽度であり,二次的な介入は必要なかった.白内障の発症,著しい眼圧上昇,瞳孔ブロックは認められなかった.●眼鏡装用,患者アンケート術後の眼鏡装用は,遠用眼鏡はなく,近用眼鏡は31例中,要時装用7例,常時装用4例であった.常用すると答えた症例はいずれも50歳以上であった.患者満足度は,大変満足,満足,やや満足,やや不満,不満の5段階の選択肢で,30例が大満足と満足を選択し,やや不満と不満を選択した症例はなかった.これは注目すべき点であり,46歳以上で屈折矯正手術を希望する患者は,30年以上にわたって眼鏡もしくはコンタクトレンズが必須の生活を強いられており,手術によって平時の矯正が不要になれば,近用眼鏡の要時装用は充分認容できるケースが多いことを表している.●まとめライフスタイルや眼鏡の認容度にはバリエーションがあり,中高年層の近視に対する屈折矯正に関して,近用眼鏡装用が障壁になるという画一的な考え方があてはまらないことは,重要な知見といえる.上記の特徴をよく理解したうえで,ICL手術は屈折矯正を希望する中年層に対しても,ひとつの術式選択になりえると考える.文献1)大内雅之:46歳以上の後房型有水晶体眼内レンズ挿入症例の臨床的特徴と術後成績.IOL&RS38:273-279,2024(142)