重症アレルギー性結膜疾患における分子標的薬治療のアップデートUpdatesinMolecularTargetedTherapyforSevereAllergicConjunctivalDiseases坂口秀人*福田憲*はじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)に対する免疫抑制点眼薬が登場すると,その効果と安全性からVKCの治療にパラダイムシフトが生じた.現在では多くのVKC患者において,ステロイド点眼薬を用いずに炎症のコントロールが可能である.しかし,タクロリムス点眼薬の市販後全例調査の報告で示されているように,免疫抑制点眼薬とステロイド点眼薬による治療に抵抗する症例も未だ一定数存在する1).免疫抑制点眼薬が登場して約20年が経過するが,その後新規の治療薬は上市されておらず,VKCの難治例に対する治療の開発がアレルギー性結膜疾患治療におけるアンメットニーズとなっている.アレルギー疾患は,アレルギーマーチとよばれるように複数の臓器に成長とともにさまざまな疾患を発症するのが特徴である.これらのアレルギー疾患は2型炎症という共通の病態を有しており,近年は2型炎症に対するさまざまな分子標的薬が開発・上市されている2).本稿では,アレルギー疾患に対する分子標的薬によってアトピー性角結膜炎(atopickeratoconjunctivitis:AKC)・VKCが改善した症例のエビデンスを中心に解説し,これらの疾患の病態について考察する.IVKC・AKCの病態VKCはおもに小児の男児に好発する慢性重症アレルギー性眼疾患である.アトピー性皮膚炎(atopicderma-titis:AD)を合併することが多いが,ADがなくても発症する.上眼瞼結膜の巨大乳頭や輪部病変などの結膜増殖性変化と角膜病変が臨床的特徴であり,視力障害をきたしうる.結膜巨大乳頭では,好酸球や2型ヘルパーT細胞(Thelper2cell:Th2)細胞などの炎症細胞浸潤に加えて,線維芽細胞の増加や細胞外マトリックス(extracellularmatrix:ECM)の沈着などが組織学的な特徴である3).免疫抑制点眼薬とステロイド点眼薬による治療によっても改善しない巨大乳頭のtranscriptome解析の研究によって,サイトカインではインターロイキン(interleukin:IL)-4とIL-13がもっとも発現していることが示され4),これらのサイトカインが巨大乳頭形成,VKCの病態に重要な役割を果たしていることが明らかとなった.細胞生物学的な検討により,IL-4とIL-13は結膜線維芽細胞に作用し,①細胞増殖の促進5),②遊走の促進6),③アポトーシスの抑制7)により,巨大乳頭における線維芽細胞の増加に寄与すると考えられる.また,④コラーゲンやフィブロネクチンなどのECMの産生亢進5),⑤ECMを分解するマトリックスメタロプロテアーゼ(matrixmetalloproteinase:MMP)の産生抑制8),⑥MMPの内因性のインヒビターであるtissueinhibitorofmetalloproteinases(TIMP)の産生亢進によって,ECMの沈着に寄与する.これらのさまざまな作用により,IL-4/IL-13は巨大乳頭の形成に重要である可能性が推察されている(図1)6).VKCにおける角膜病変の病態においては,角膜病変の重症度が涙液*HidetoSakaguchi&KenFukuda:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕坂口秀人:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮185-1高知大学医学部眼科学講座(1)(23)7390910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1春季カタルにおける結膜巨大乳頭形成におけるインターロイキン(IL)-4およびIL-13の役割IL-4とIL-13は結膜線維芽細胞に作用し,ケモカイン産生に加えて,細胞増殖・遊走の促進,アポトーシスの抑制やコラーゲンやフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス(ECM)の産生亢進,ECMを分解するmatrixmetalloproteinase(MMP)の産生抑制とMMPの内因性のインヒビターであるTIMP(tissueinhibitorofmetallo-proteinases)の産生を亢進させる.-図2春季カタルにおける角膜病変におけるIL-4およびIL-13の役割涙液中に分泌されたCIL-4とCIL-13は腫瘍壊死因子(TNF)-αと共同して角膜実質細胞からCeotaxinを産生し,好酸球を遊走させて角膜病変の形成に重要な役割を果たす.CabトラロキヌマブⅠ型受容体Ⅱ型受容体図3IL-4受容体および分子標的薬の作用部位a:IL-4受容体はCIL-4Rαサブユニットを共有するC2種類の受容体を形成する.I型受容体(IL-4Rα鎖+共通γ鎖)はCIL-4のみに応答し,おもにリンパ球などの造血細胞に発現する.Ⅱ型受容体(IL-4Rα鎖+IL-13Rα1鎖)はCIL-4およびCIL-13の両方に応答し,線維芽細胞などの非造血細胞に広く発現する.b:デュピルマブはCIL-4Rα鎖に結合することで,I型およびⅡ型受容体を介したCIL-4とCIL-13の両者シグナルを阻害する.IL-13抗体であるトラロキヌマブおよびレブリキズマブはCIL-13のみを阻害する.JAK阻害薬は細胞内でシグナル伝達分子であるCJAKを阻害することで,IL-4・IL-13のシグナル伝達を抑制する.IL:interleukin,JAK:Januskinase,Tyk:tyrosinekinase,STAT:signaltransducerandactivatoroftranscription,TNF:Ctumornecrosisfactor.C下する.デュピルマブは中等.重症CADにおいて,プラセボ群と比較して有意に症状改善を示している16).さらに外用ステロイドとの併用によるC1年間の長期試験においても,デュピルマブはC52週にわたって持続的な改善効果が維持されることが報告されている17).現在,デュピルマブはさまざまなアレルギー疾患に適応があるが,AD患者でのみ約C10.30%の患者にデュピルマブ関連眼表面疾患(dupilumab-associatedCocularCsurfacedisease:DAOSD)とよばれる結膜炎・眼瞼炎などの眼表面炎症が生じることがさまざまな論文で報告されている.DAOSDの機序として,IL-4/IL-13シグナルの遮断が眼表面局所における免疫バランスの変化や,結膜杯細胞機能の低下やムチン産生抑制などが仮説として提唱されている2)が,詳細な機序は現在も解明中である.またCIL-13を選択的に阻害するトラロキヌマブ(アドトラーザ)やレブリキズマブ(イブグリース)も,デュピルマブと同様にCAD患者においては結膜炎を生じることが報告されている.DAOSDの詳細に関しては本特集の他項を参照されたい.JAK阻害薬は,細胞内チロシンキナーゼであるCJAKを阻害することで,多種のサイトカインシグナルを包括的に遮断する低分子薬である.サイトカインが受容体に結合すると,受容体に会合したCJAKが活性化してSTATをリン酸化し,核内に移行したCSTATが標的遺伝子の転写を誘導する.JAK阻害薬はこのCJAK-STATシグナル軸を遮断することで,Th2系(IL-4/IL-13/IL-5/IL-31)のみならずCTh1・Th17系など幅広いサイトカインシグナルを同時に抑制する.ADに対してはC3種類のCJAK阻害薬が承認されている.ウパダシチニブはCJAK1選択的阻害薬18),バリシチニブはCJAK1/JAK2阻害薬,アブロシチニブはCJAK1選択的阻害薬である.JAK1の阻害により,IL-4/IL-13/IL-31/TSLP/IL-6/CIFN-γなど多彩なサイトカインシグナルを抑制することができる.CIII新規AD治療薬の重症アレルギー性結膜疾患に対する有効性VKCの治療は免疫抑制点眼薬の登場によりパラダイムシフトが生じ,ステロイド点眼薬を用いずに眼圧上昇を気にすることなく治療できる患者も多くなった.しかし,点眼治療に抵抗する難治例が一定数存在し,難治例に対する新規治療薬がアンメットニーズとなっている.このような点眼治療で難治な患者に対して,新規CAD治療薬の有効性を示す症例が報告されている.C1.抗IL-4受容体α抗体(デュピルマブ)が奏効したVKC/AKC症例デュピルマブは,上述のとおりCIL-4Rαを介してIL-4/IL-13の両シグナルを遮断するため,VKCやAKCの病態に直接作用すると考えられる.筆者らは,巨大乳頭を伴う重症のCAKCに対して抗CIL-4受容体α抗体(デュピルマブ)が奏効したC2症例を報告した9).1例目はデュピルマブ投与開始日に「眼の調子が悪い」と皮膚科から紹介されたC33歳のCAD患者である.診察すると両眼の上眼瞼に巨大乳頭がみられ(図4a,b),眼脂には多数の好酸球が観察され,活動性の高い増殖性変化を伴うCAKCと診断した.デュピルマブが同日に開始されるため,点眼治療は行わなかった.2週間後の再診時には,巨大乳頭は著明に平坦化し(図4c,d),そのC2週間後(デュピルマブC2回目投与後)には巨大乳頭は完全に消退していた(図4e,f).2例目は,タクロリムス点眼薬およびリン酸ベタメタゾン点眼薬で加療しても,結膜巨大乳頭と角膜のシールド潰瘍が改善しないC25歳のCAKCの難治例である(図5a).幼少時からCADも加療していた.点眼治療に抵抗するため,巨大乳頭切除術をC2回施行しても,すぐに巨大乳頭が再発し(図5b),角膜病変も改善しなかった.3回目の巨大乳頭切除術施行の同時期にCADの治療がデュピルマブに変更された.その後,巨大乳頭は再発せず,角膜病変も改善した(図5c).また,筆者らの報告後,海外からも同様の症例が複数例報告されている.Tsuiらは,点眼療法に抵抗性の難治性CVKCに対し,デュピルマブの追加により上眼瞼結膜の巨大乳頭の消退と,角膜病変が治癒した小児症例を3例報告した19).これらは,眼瞼へのタクロリムス軟膏塗布・ステロイド点眼でもコントロール不能であった重症例であったが,デュピルマブ追加後は再燃なく良好な経過が得られている.さらに,日本からも齋藤らがデュ742あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026(26)図4デュピルマブによる巨大乳頭の消退アトピー性角結膜炎の症例.Ca,b:デュピルマブ投与前の所見.右眼(Ca)と左眼(Cb)の上眼瞼結膜に巨大乳頭を認める.Cc,d:デュピルマブ初回投与C2週間後の所見.巨大乳頭が著明に平坦化している.Ce,f:デュピルマブC2回目投与C2週間後の所見.巨大乳頭が完全に消退した.(文献C9より引用)図5デュピルマブによる巨大乳頭および角膜病変の改善a:タクロリムス点眼薬およびステロイド点眼薬で加療中のアトピー性角結膜炎の症例で,結膜巨大乳頭と角膜シールド潰瘍を認める.Cb:巨大乳頭切除術をC2回施行後の所見.速やかに再発した.Cc:3回目の切除術と同時にCAD治療をデュピルマブに変更したあとの所見.巨大乳頭は再発せず,角膜病変も改善した.(文献C9より引用)図6JAK阻害薬による春季カタルの改善タクロリムス点眼薬およびステロイド点眼薬で加療中の春季カタル症例(13歳,女児).a:ウパダシチニブ内服前は上眼瞼結膜に巨大乳頭と点状表層角膜症がみられる.Cb:内服開始C1カ月後には巨大乳頭の範囲が縮小した.Cc:内服C3カ月後には巨大乳頭がほぼ平坦化し,角膜上皮障害も消退した.(文献C21より引用)-