LV-SEMの眼科応用LV-SEMとは透過型電子顕微鏡(transmissionCelectronmicroscope:TEM)は組織の微細構造を詳細に観察でき,診断や研究に有用ですが,観察に複雑な専門技術を要する点,撮影から観察までに時間を要する点,限られた範囲を非選択的に観察する点など,専門性の高さから,適応には限りがありました.近年,簡易・迅速に免疫染色スライドから電子顕微鏡観察を可能にする低真空走査型電子顕微鏡(low-vacuumscanningelectronmicroscope:LV-SEM)が開発され,腎臓などの領域ではすでに有用性を認められており1),活用されています.LV-SEMは簡易な前処理で観察できる低真空状態のCSEMであり,重金属染色を組み合わせることで生物資料を効果的に観察できます.TEMを比較するとCLV-SEMは有効な研究ツールであることがわかります(表1).眼の領域ではどうでしょうか筆者らはラット角膜アルカリ外傷モデルを作製し,外傷後の角膜新生血管の形成過程を時系列でCLV-SEM観察しました2).血管新生の形成に関しては,血管内皮細胞とそれを囲むペリサイトの関係が重要です.血管新生期にはペリサイトが離脱するのに対して,安定期には両者が固着しています.血管内皮細胞をCPt染色で,ペリサイトをCa-SMA染色で免疫染色した後にオスミウム処理して二重に強調させてLV-SEM観察したところ,外傷後C4日目に血管新生期におけるペリサイトの離脱を観察することができました(図1).今後の展望これまで観察不可能だったさまざまな研究対象が今後表1LV.SEMとTEMの比較LV-SEMCTEM手技の難しさ簡易煩雑観察までの時間1日以内約1~2週間画像三次元的二次元的設備投資/約C500万円/約C6,000万円C/年間維持費100万円以内約C200万円①広範囲①狭い範囲のみ観察可能な範囲②ピンポイントで選択し②観察箇所の特定がた箇所の観察が可能不可能高倍率超高倍率観察倍率(~10,000-fold)(100,000-fold以上)LV-SEMは卓上型でコンパクト.倍率ではCTEMに劣るが,さまざまな面でCLV-SEMにはメリットがある.有馬武志日本医科大学眼科・解析人体病理学LV-SEMを用いて解析されることが期待できます.その一例としてCZinn小帯の微細構造の観察があげられます.角膜で発生した炎症細胞が水晶体にも波及することはわかっていましたが,その経路として,毛様体赤道部から発生した好中球,マクロファージなどの免疫浸潤細胞がCZinn小帯を通過して水晶体上皮細胞基底膜へと移動することが,近年明らかになってきました3).アルカリ外傷モデルにおいて浸潤細胞が綱渡りのように水晶体に向かって遊走する現象をLV-SEMで観察したところ,Zinn小帯の線維に沿って遊走するマクロファージ細胞を認めました(unpublisheddata).一部のマクロファージは線維の組織構造を破壊するように遊走していることも確認できました.これらの結果から,炎症細胞が白内障のみならず,その遊走過程でCZinn小帯断裂も引き起こしているという仮説が成立し,炎症に起因する白内障においてCZinn小帯脆弱例が多いことの病態説明になりうる可能性があります.今後もCLV-SEMを用いてさらに研究が進展することを願っております.文献1)MasudaCY,CYamanakaCN,CIshikawaCACetal:GlomerularCbasementmembraneinjuriesinIgAnephropathyevaluat-edCbyCdoubleCimmunostainingCforCa5(IV)andCa2(IV)CchainsoftypeIVCcollagenandlow-vacuumscanningelec-tronmicroscopy.ClinExpNephrolC19:427-435,C20152)ArimaCT,CUchiyamaCM,CShimizuCACetal:ObservationCofCcornealCwoundChealingCandCangiogenesisCusingClow-vacu-umscanningelectronmicroscopy.TranslVisSciCTechnolC9:14,C20203)DeDreuCJ,CBowenCCJ,CLoganCCMCetal:AnCimmuneCresponseCtoCtheCavascularClensCfollowingCwoundingCofCtheCcorneainvolvesciliaryzonule.brils.FASEBCJ34:9316-9336,C2020血管新生期安定期図1LV.SEMを用いたラットアルカリ外傷後の角膜新生血管の観察アルカリ外傷後約C4日で角膜新生血管が出現する.ペリサイト(P)と血管内皮細胞(En)が離脱している像が観察できた.外傷後C14日で離脱したペリサイトが血管内皮細胞に再度接着し,安定した血管像が観察できた.(75)あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C15150910-1810/22/\100/頁/JCOPY