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改良型プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固 術後に両眼に黄斑浮腫を発症した1 症例

2023年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(3):410.414,2023c改良型プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固術後に両眼に黄斑浮腫を発症した1症例馬場口紘成藤代貴志杉本宏一郎相原一東京大学医学部附属病院眼科CACaseofMacularEdemainBothEyesafterBilateralMicropulseCyclophotocoagulationUsingtheImprovedProbeKouseiBabaguchi,TakashiFujishiro,KoichiroSugimotoandMakotoAiharaCDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospitalC目的:MicroPulseCP3DeviceRev2プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固術(MP-CPC)後に両眼に黄斑浮腫を発症した症例を経験したので報告する.症例:48歳,男性.落屑緑内障による両眼高眼圧の治療のため当院を受診した.両眼にCMP-CPCを行い,右眼,左眼とも術後C28日で黄斑浮腫を発症した.右眼は術後C56日の時点で自然軽快したが,左眼は黄斑浮腫の程度が強く,術後C42日でトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA)を行い,術後C79日で改善を得た.結論:MicroPulseCP3DeviceRev2プローブによるCMP-CPCで黄斑浮腫を発症した初めての報告である.MP-CPC後の黄斑浮腫の治療にCSTTAが有効である可能性がある.CPurpose:Toreportacaseofmacularedema(ME)inbotheyesafterbilateralmicropulsecyclophotocoagula-tion(MP-CPC)usingtheMicroPulseP3DeviceRev2(IridexCorp.)probe.Casereport:A48-year-oldmalewasreferredtoourhospitalfortreatmentofhighintraocularpressureinbotheyesduetoexfoliationglaucoma.Bilater-alCMP-CPCCwasCperformed,CyetCMECdevelopedCinCbothCeyesCatC28-daysCpostoperative.CAtC56-daysCpostoperative,CtheMEinhisrighteyeresolvedspontaneously,yetat42-dayspostoperative,theMEinhislefteyewassevere,sosub-Tenon’sCcapsuleCtriamcinoloneCacetonideinjection(STTA)wasCadministeredCandCimprovementCwasCachievedCat79-dayspostoperative.Conclusion:Thisisthe.rstreportedcaseofMEinbotheyesafterbilateralMP-CPCwiththeMicroPulseP3DeviceRev2probe,andSTTAmaybeane.ectivetreatmentforMEafterMP-CPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(3):410.414,C2023〕Keywords:緑内障,マイクロパルス毛様体光凝固術,MicroPulseP3DeviceRev2,黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射.glaucoma,micropulsetransscleralcyclophotocoagulation,MicroPulseP3DeviceRev2,macularedema,sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection.Cはじめに緑内障は視神経と視野に特徴的な変化を有する疾患であり,通常は眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる.現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一の治療法は眼圧下降のみである.眼圧を下降させる方法としては点眼加療,レーザー治療,観血的治療などがある.これまでは点眼やレーザー治療による眼圧下降が不十分な場合は手術で眼圧下降を行っていたが,社会的な理由(高齢,僻地)などにより入院や通院が困難で,加療ができずに失明に至る患者もおり課題が残っていた.近年日本に導入されたマイクロパルス毛様体光凝固術(micropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:MP-CPC)は合併症が少なく安全に眼圧下降を得られ,入院や頻回の通院を必要としない治療として注目されている1).今回,新型のプローブ(MicroPulseCP3CDeviceRev2)を用いて両眼にCMP-CPCを行い両眼とも術後黄斑浮腫(macu-laredema:ME)を発症した患者を経験したので報告する.〔別刷請求先〕馬場口紘成:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:Kouseibabaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC410(128)I症例患者:48歳,男性.既往歴:重症アトピー性皮膚炎.手術歴:2001年に両眼水晶体再建術,2019年に右眼,2021年に左眼眼内レンズ強膜内固定術.現病歴:2013年に両眼落屑緑内障(pseudoexfoliationsyndrome:PE)の診断を受け,近医で点眼加療を受けていた.両眼にカルテオロール塩酸塩ラタノプロストC1回,ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミドC2回,リパスジル塩酸塩水和物C2回を点眼していたが,2022年C3月に右眼眼圧C38mmHg,左眼眼圧C29CmmHgと両眼眼圧上昇を認めたため,緑内障治療目的に東京大学医学部附属病院に紹介となった.初診時所見:視力は右眼矯正視力(0.7)(logMAR換算値0.16),左眼矯正視力(1.2)(logMAR換算値C.0.08).眼圧はGoldmann圧平眼圧計で右眼C28CmmHg,左眼C22CmmHg.角膜に異常はなく,前房炎症もなかった.両眼とも落屑物質が虹彩縁にみられCPEと診断した.両眼眼内レンズ強膜内固定後で正位,両眼底とも光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)上で黄斑浮腫はなかった.網膜静脈分枝閉塞症などの血管閉塞性病変の合併もなかった.重症アトピー症候群のため瞼裂は非常に狭小で眼瞼肥厚を認めた.Humphrey30-2静的視野検査では平均偏差(meandeviation:MD)値は右眼C.23.28CdB,左眼C.3.05CdBと右眼で,進行した視野障害を認めた(図1).CII経過眼瞼の状態が悪く術野の確保が困難であるため,手術加療が困難であると判断し,MP-CPCを行う方針となった.2022年3月に右眼MP-CPC,2022年4月に左眼MP-CPCを,それぞれCCycloG6GlaucomaLaserSystem(Iridex社)を用いて行った.CMicroPulseCP3CDeviceRev2プローブを用い,麻酔はC2%リドカイン塩酸塩水和物CTenon.下麻酔C3Cml,レーザー設定は出力C2,500CmW,dutycycle31.3%,経結膜で上下半球それぞれ片道C20秒かけて往復しC2往復ずつ(計C80C×2秒)照射した.両眼とも眼内レンズ強膜内固定後であるが,4時,10時方向の眼内レンズ固定部位へも他の部位と同様に照射した.術中にとくに疼痛の訴えはなかった.術後点眼としてガチフロキサシン点眼C4回,0.1%ベタメタゾン吉草酸エステル点眼C4回をC1週間使用した.右眼は術後C7日で眼圧C16CmmHg,28日後C15CmmHg,56日後C22CmmHg,77日後C23CmmHgと眼圧下降を認めたが,98日後にC40CmmHgと再上昇した.眼瞼の状態が悪く線維柱帯切除術後の濾過胞維持が困難と予想され,Ahmed-FP7によるチューブシャント手術を予定している.術後の前房炎図1静的視野検査MD値:右眼C.23.28CdB,左眼C.3.05CdB.右眼でとくに進行した視野障害を認めた.症は軽度であった.術後C28日の時点でごく軽度のCMEを認めたが,術後C56日の時点では自然軽快しており,以降再発なく経過している(図2).矯正視力は術前ClogMAR換算値0.16に対して,MEを発症した術後C28日の時点でC0.40と低下を認め,ME改善後も視力は変化していない.左眼は術後C7日で眼圧C13CmmHg,28日後C14CmmHg,49日後C20CmmHg,79日後C15CmmHgと眼圧下降を認めた.術後の前房炎症は軽度であった.術後C7日後の時点では,MEを認めなかったが,術後C28日で著明なCMEを認め,術後C42日でトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)(20mg)を行った.術後C79日でCMEはほぼ消失した(図3).矯正視力は術前logMAR換算値C.0.08に対して,MEを発症した術後C28日の時点でC0.52と悪化を認めたが,術後C79日でCMEがほぼ消失するとC0.10と回復した.この間,高眼圧に対する治療としては,MP-CPC術後点眼以外に点眼の追加や内服の追加は行わなかった.STTA後に点眼の追加は行わず,非ステロイド性抗炎症薬(snon-steroidalCanti-in.ammatorydrugs:NSAID)点眼は使用しなかった.CIII考按MP-CPCは従来型の連続波CPCと比較して遷延性低眼圧,ME,視力低下,眼球勞などの重篤な合併症の率が少ないことが特徴である2,3).MP-CPCは従来型プローブとしてC2017年に日本に導入されたが,先端が大きいため狭瞼裂症例で照射困難をきたすことがあり,先端部分の面積が小さく改良され,プローブ先端が眼球面に沿うように形状が改良されたRev2プローブが導入された.MP-CPCによって組織に供給されるエネルギーに影響を与える既知の因子として,出力,時間,dutyCcycle(実際の照射時間:CycloCG6CGlaucomaCLaserSystemでは,照射時間のC31.3%),sweep時間(プローブを眼球に押し当てて結膜上を滑らす片道移動時間)の四つの変数が報告されている4.6).MP-CPCの有効性と安全性眼圧(mmHg)504030201000306090視力(logMAR)0.800.30-0.200306090MP-CPC術後日数(日)図2右眼経過術後C28日でごく軽度の黄斑浮腫を発症したが,経過観察のみで術後C56日で軽快した.術後C98日で眼圧C40mmHgと上昇を認め,チューブシャント手術を予定している.眼圧(mmHg)504030201000306090視力(logMAR)0.800.30-0.200306090MP-CPC術後日数(日)図3左眼経過術後C28日で著明な黄斑浮腫を発症し,術後C42日でCSTTAを行った.黄斑浮腫発症に伴い視力低下を認めたが,術後C79日でCMEが改善すると視力も改善傾向を認めた.(130)表1MP-CPCと黄斑浮腫についての既報術前眼圧最終受診眼圧Sweep時間黄斑浮腫視力低下低眼圧眼球勞既報(mmHg)(mmHg)エネルギー(J)(秒)(%)(%)(%)(%)Limetal11)C31.5±12.0C23.8±11.8(術後C2年)31.3.C125.2C10C1.4C13.9C0.5C3.4CWilliamsetal10)C31.9±10.251%眼圧低下(術後C8カ月)75.1.C225.4C-5.0C17.0C8.8C0CLimetal12)C35.2±11.0C31.8±13.2(術後C3年)31.3.C112.7C-2.3C32.6C7.0C4.7CChamardetal13)C24.9±7.1C18.9±6.3(術後C6カ月)C75.1C15C1.4C14.3C1.1C0CdeCrometal15)C23.5±9.4C16.8±9.2(術後C2年)100.2.C112.7C-1.4C24.7C0.7C0のバランスには出力(W)C×時間(s)C×dutycycle(0.313)で計算されるエネルギー(J)が関与すると報告されており7,8),SanchezらはC112.150CJのエネルギーを理想的なレーザーパラメーターとして報告している9).MP-CPC後の合併症として知られるCMEは,その頻度は決して高くなくC1.1.5%程度ではあるが10),視力低下をきたしうる重要な合併症の一つである.従来型プローブを用いた既報ではCLimらはC62.8C±12.2JのCMP-CPC後にC1.4%でMEを発症し,いずれも発症後C3カ月以内に自然消退したと報告している11).また,別の報告ではC31.3J.112.7JのMP-CPC後にC2.3%でCMEを発症し,2カ月以内に自然消退したと報告している12).ChamardらはC75.1CJのCMP-CPC後1週間でC1.1%の症例にCMEを認めたが,自然消退したと報告している13).本症例では両眼ともC125.2CJのCMP-CPC後28日でCMEを発症した.左眼はCSTTAを行ったが,両眼ともCMEの発症時期や軽快までの期間は既報と同程度であった.また,MP-CPC術後に両眼CMEを発症した報告はこれまでになく,きわめてまれと考える(表1)10.14).MEの治療に関して,一般的なCMEの治療としてはNSAIDs点眼やステロイド点眼,長期に効果が持続するSTTAが有効である15).既報ではCMP-CPC後のCMEは自然治癒したが,本症例では左眼のCMEの程度が強く,STTAを行い,STTA後C37日(MP-CPC後C79日)で改善を得た.MP-CPC後のCMEは症例数が少ないためにまだ確立した治療法はなく,STTAの治療が適切であるかどうか今後の検討が必要である.既報との相違点としては,まずCME発症の既報は従来型のCMP-CPCプローブを用いて行われたのに対して,今回は新プローブのCRev2を用いていることと,sweep時間も既報のなかでは長いC20秒であったことである.MEが発症した理由として,一つめは,本症例では重症アトピー症候群および長期間のCFP受容体作動薬使用により眼瞼の状態がきわめて悪く,瞼裂が非常に狭小であった.その平均値±標準偏差ためCRev2を用いても治療に十分な照射スペースを確保することがむずかしく,今回のような狭瞼裂に対しては従来型のプローブよりも容易に照射可能であるが,照射の向きが従来型のプローブと異なり,従来型のプローブでは眼球に対して垂直に照射するのに対して,Rev2では視軸に対して平行に照射する.そのため従来型プローブとCRev2で同じエネルギー照射量であったとしても,Rev2の照射は網膜側に向かうため,エネルギーが散乱することで網膜方向へある程度のレーザーエネルギーが伝わり,炎症性のCMEを惹起した可能性が考えられた.二つめは,sweep時間は術者によって異なる因子であり,片道約C5秒.30秒の間で報告されている4).レーザープローブのCsweepの時間を変化させることで治療効果や副作用を比較した報告はまだないが,同じレーザー出力の設定であってもsweep時間が長くなるほど組織の熱変性が大きくなると考えられ,今回は片道C20秒でレーザープローブをCsweepさせたため,既報のなかではプローブのCsweep時間が長いために熱変性が大きくなり炎症性のMEが生じた可能性が考えられた.三つめは,本症例は両眼とも眼内レンズ強膜内固定術後であり,後.が残っておらず無硝子体眼であったこともCME発症に関与していた可能性がある.ME発症時の僚眼へのCMP-CPCに関して,両眼発症の報告はなく不明だが,片眼でCMP-CPC術後にCMEを生じた場合は僚眼のCMP-CPCによるCMEの発症リスクが通常より高い可能性も十分考えられる.治療の際は僚眼への適応を慎重に考え,術前にはCME発症リスクについて患者に十分に説明したうえで理解を得る必要があると考える.また術後は,眼圧だけでなく,OCTで黄斑部の定期的な検査の必要があると考えられた.CIV結論今回,筆者らはCRev2を使用して両眼にCMP-CPCを行い,両眼にCMEを発症した症例を経験した.Rev2によるMP-CPCでCMEを発症した初めての報告であり,ME発症にはCRev2の照射角度やエネルギー,sweep時間,眼瞼の状態などが関与していた可能性がある.MP-CPC後のCMEの治療としてCSTTAが有効である可能性があるが,さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山本理紗子,藤代貴志,杉本宏一郎ほか:難治性緑内障におけるマイクロパルス経強膜的毛様体凝固術の短期治療成績.あたらしい眼科C36:933-936,C20192)AquinoMC,BartonK,TanAMetal:MicropulseversuscontinuousCwaveCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinrefractoryCglaucoma:aCrandomizedCexploratoryCstudy.CClinExpOphthalmolC43:40-46,C20153)VarikutiCVNV,CShahCP,CRaiCOCetal:OutcomesCofCmicro-pulsetransscleralcyclophotocoagulationineyeswithgoodcentralvision.JGlaucomaC28:901-905,C20194)AbdelmassihY,TomeyK,KhoueirZ:Micropulsetranss-cleralcyclophotocoagulation.JCurrGlaucomaPractC15:C1-7,C20215)KabaCQ,CSomaniCS,CTamCECetal:TheCe.ectivenessCandCsafetyCofCmicropulseCcyclophotocoagulationCinCtheCtreat-mentCofCocularChypertensionCandCglaucoma.COphthalmolCGlaucomaC3:181-189,C20206)NguyenCAT,CMaslinCJ,CNoeckerRJ:EarlyCresultsCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCforCtheCtreatmentCofCglaucoma.CEurCJCOphthalmolC30:700-705,C20207)JohnstoneCMA,CShaozhenCS,CPadillaCSCetal:Microscopereal-timevideo(MRTV)C,high-resolutionOCT(HR-OCT)&histopathology(HP)toCassessChowCtranscleralCmicro-pulselaser(TML)a.ectsCthesclera,CciliaryCbody(CB)C,muscle(CM)C,secretoryCepithelium(CBSE)C,Csuprachoroi-dalspace(SCS)&CaqueousCout.owCsystem.CInvestCOph-thalmolVisSciC60:2825,C20198)SanchezCFG,CPeirano-BonomiCJC,CBrossardCBarbosaCNCetal:UpdateConCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagula-tion.JGlaucomaC29:598-603,C20209)SanchezFG,Peirano-BonomiJC,GrippoTM:Micropulsetransscleralcyclophotocoagulation:aChypothesisCforCtheCidealCparameters.CMedCHypothesisCDiscovCInnovCOphthal-molC7:94-100,C201810)WilliamsCAL,CMosterCMR,CRahmatnejadCKCetal:ClinicalCe.cacyandsafetypro.leofmicropulsetransscleralcyclo-photocoagulationinrefractoryglaucoma.JGlaucomaC27:C445-449,C201811)LimCEJY,CAquinoCCM,CLimCDKACetal:ClinicalCe.cacyCandCsafetyCoutcomesCofCmicropulseCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithCadvancedCglauco-ma.JGlaucomaC30:257-265,C202112)LimEJY,AquinoCM,LunKWXetal:E.cacyandsafe-tyofrepeatedmicropulsetransscleraldiodecyclophotoco-agulationCinCadvancedCglaucoma.CJCGlaucomaC30:566-574,C202113)ChamardC,BachouchiA,DaienVetal:E.cacy,safety,andCretreatmentCbene.tCofCmicropulseCtransscleralCcyclo-photocoagulationCinCglaucoma.CJCGlaucomaC30:781-788,C202114)deCCromCR,CSlangenCC,CKujovic-AleksovCSCetal:Micro-pulseCtrans-scleralCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithglaucoma:1-andC2-yearCtreatmentCoutcomes.CJCGlauco-maC29:794-798,C202015)ReichenbachCA,CWurmCA,CPannickeCTCetal:MullerCcellsCasCplayersCinCretinalCdegenerationCandCedema.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC245:627-636,C2007***

遅発性に顔面神経麻痺を合併したFisher 症候群の1 例

2023年3月31日 金曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(3):404.409,2023c遅発性に顔面神経麻痺を合併したFisher症候群の1例篠原大輔*1林孝彰*1須田真千子*2鈴木正彦*2中野匡*3*1東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター脳神経内科*3東京慈恵会医科大学眼科学講座CACaseofMillerFisherSyndromeComplicatedbyDelayedFacialNervePalsyDaisukeShinohara1),TakaakiHayashi1),MachikoSuda2),MasahikoSuzuki2)andTadashiNakano3)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,2)DepartmentofNeurology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC目的:遅発性に顔面神経麻痺を合併したCFisher症候群のC1例について報告する.症例:患者はC26歳,男性.両眼性複視を自覚し,近医眼科を受診,両眼の外転障害を指摘された.頭部CMRIでは原因となる異常を認めず,発症第C3病日に東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科受診となった.初診時所見は両眼の外転障害であったが,第C7病日に両眼の全方向性の眼球運動障害を認めた.神経学的診察で深部腱反射消失と失調を認め,Fisher症候群が強く疑われたが,上下肢の運動・感覚神経障害を疑う自覚症状もあり,Guillain-Barre症候群も否定できないため,入院後(第C12病日)に免疫グロブリン大量静注療法を行った.同日より遅発性に左末梢性顔面神経麻痺を認めた.眼球運動障害や四肢症状の改善がみられた後,ステロイドなどの追加治療を要さず,第C54病日に顔面神経麻痺の改善を認めた.結論:免疫グロブリン大量静注療法後に遅発性顔面神経麻痺を合併したCFisher症候群のC1例を報告した.遅発性顔面神経麻痺に対しては,必ずしも追加治療を必要としない症例も存在する.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCMillerCFishersyndrome(MFS)complicatedCbyCdelayedCfacialCnerveCparalysis.CCasereport:A26-year-oldmalecomplainedofbinoculardiplopiaandvisitedanophthalmologyclinic,andexami-nationrevealedbilateralabductionde.ciency.At3dayspostonset,thepatientwasreferredtoourophthalmologydepartmentforfurtherexaminationandtreatment,althoughabrainMRIshowednocausativeabnormality.Uponexamination,bilateralabductionde.ciencywasfound,andbilateralomnidirectionalophthalmoplegiawasobserved4dayslater.Neurologicalexaminationrevealedalossofdeeptendonre.exandataxia,andMFSwasstronglysus-pected.Sincethereweresubjectivesymptomssuggestingmotorandsensoryneuropathyoftheupperandlowerlimbs,CandCsinceCGuillain-BarreCsyndromeCcouldCnotCbeCruledCout,Chigh-doseCintravenousimmunoglobulin(IVIG)Ctherapywasinitiated5dayslater.Onthatsameday,delayedleftperipheralfacialnerveparalysisdeveloped,yetafterCimprovementCofCtheComnidirectionalCophthalmoplegiaCandClimbCsymptoms,CtheCfacialCnerveCparalysisCalsoCimproved42dayslaterwithoutadditionaltreatment,suchassteroids.Conclusion:Our.ndingsrevealedacaseofMFSCcomplicatedCbyCdelayedCperipheralCfacialCnerveCparalysisCafterChigh-doseCIVIGCtherapyCinCwhichCadditionalCtreatmentfortheperipheralfacialnerveparalysiswasnotrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(3):404.409,C2023〕Keywords:Fisher症候群,遅発性顔面神経麻痺,外眼筋麻痺,免疫グロブリン大量静注療法.MillerCFisherCsyn-drome,delayedfacialnerveparalysis,ophthalmoplegia,high-doseintravenousimmunoglobulintherapy.Cはじめに性末梢神経障害とは,自己免疫性機序により,末梢神経の髄Fisher症候群(MillerCFishersyndrome:MFS)は,急性鞘あるいは軸索の障害をきたす疾患群をさす.MFSは,に発症する外眼筋麻痺,運動失調,深部腱反射の低下・消失Guillain-Barre症候群(Guillain-Barresyndrome:GBS)のを三徴とする免疫介在性末梢神経障害である1,2).免疫介在臨床亜型と考えられているが,数カ月でほとんどの症状が自〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:TakaakiHayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANC404(122)然軽快し予後良好な疾患である3).外眼筋麻痺以外の脳神経障害を認める症例もあり,MFSではC32%に顔面神経麻痺を合併すると報告されている4).多くはCMFS発症早期での合併例であるが,まれに外眼筋麻痺や運動失調症状のピーク直後,もしくは改善傾向を示したのち,遅発性に顔面神経麻痺を発症するケースがあり,追加治療を行った報告が散見される5,6).今回,遅発性に顔面神経麻痺を合併したが追加治療を必要とせずに改善したCMFSのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:26歳,男性.主訴:両眼性複視.現病歴:3日前に焦点の合いづらさを自覚した.2日前,右眼で見た際に物が左に傾いて見え,歩きづらくなった.前日起床時に複視を自覚し,近医眼科を受診した.両眼外転障害を指摘され,近医内科で頭部CMRI検査を施行したが,明らかな異常を認めなかった.洗髪時の両手指の動かしづらさ,両手関節以遠の異常感覚,歩行時の左下肢脱力の自覚もあり,発症第C3病日に東京慈恵会医科大学葛飾医療センター(以下,当院)眼科を紹介受診した.既往歴:健康診断で高血圧,肝機能障害,尿蛋白の指摘はあったが,治療歴はなし.初診時眼所見:矯正視力は右眼(1.2C×sph-6.25D(cylC.0.75DCAx180°),左眼(1.5C×sph.5.25D(cyl.0.75DAx180°)であった.眼圧は正常範囲内であった.両眼の外転障害を認め,正面視では左眼固視,右眼は内斜していた.Hess赤緑試験でも内斜と外転制限の所見を認めた(図1).前眼部,中間透光体ならびに眼底に特記すべき所見はみられなかった.血液検査所見:白血球C9,800/μl,CRP0.64Cmg/dl,血沈(1時間値)43Cmm,赤血球数,血小板数,凝固系,腎機能,電解質値に異常なし,AST50CU/l,ALT88CU/l,LDH229U/l,T-Bil0.9mg/dl,ALP83U/l,Cc-GTP111U/l,CHbA1c6.2%,リウマチ因子陰性,抗アセチルコリン受容体抗体陰性,TSH刺激性レセプター抗体陰性,HBs抗原陰性,HCV抗体陰性で,炎症反応,肝胆道系酵素の軽度上昇,軽度の耐糖能異常以外に明らかな異常所見はなかった.頭部・眼窩CMRI検査所見:頭蓋内・眼窩内に眼球運動障害の原因となる明らかな異常所見を認めなかった.経過:第C7病日,頭痛とふらつき,手指の異常感覚の増悪を自覚し再受診となった.診察上,両眼とも下転は比較的保たれていたが,両眼の全方向性の眼球運動制限を認めた.輻湊も不能であった.同日,全身症状を含めた精査目的に当院脳神経内科へ紹介した.神経学的所見として,膝蓋腱・アキレス腱・上腕二頭筋・上腕三頭筋で腱反射の消失を認め,Mann試験は陽性であった.そのほか,眼球運動障害以外の脳神経の異常や,上下肢の運動障害,温痛覚・触覚・位置覚・振動覚の異常は認めなかった.脳神経内科で追加施行した血液検査所見は,白血球10,300/μl,白血球分画は,好中球C76.4%,リンパ球C15.0%,単球7.3%,好酸球1.0%,好塩基球0.3%,Alb4.8g/dl,空腹時血糖C120Cmg/dl,IgG2,148Cmg/dl,IgA408Cmg/dl,CIgM229Cmg/dl,C3155Cmg/dl,C421Cmg/dl,CH50C69.5U/ml,ACE10.2CU/l,PR3-ANCA1.0CU/ml未満,MPO-ANCA1.0CU/ml未満,可溶性CIL-2レセプターC319CU/ml,抗ds-DNAIgG抗体10IU/ml未満,抗Sm抗体陰性,抗SS-A抗体陰性,抗CSS-B抗体陰性,梅毒CRPR陰性,梅毒TP抗体陰性,T-SPOT.TB陰性,Cb-D-グルカンC6.0Cpg/ml未満,ビタミンCB12681Cpg/ml,葉酸C7.4Cng/ml,ビタミンCB141Cng/mlであった.脳脊髄液検査所見は,細胞数C1個/μl,糖C81Cmg/dl,蛋白C24.8Cmg/dl,Alb159.9Cμg/ml,IgG2.7Cmg/dl,ミエリン塩基性蛋白C40.0Cpg/mlであり,蛋白細胞解離やCIgGindexの上昇を認めなかった.脳脊髄液の墨汁染色検査は陰性で,オリゴクローナルバンドも陰性であった.臨床経過から,外眼筋麻痺,運動失調,腱反射消失の三徴を満たし,MFSが強く疑われた.詳細な問診で,当院眼科初診のC1カ月前に下痢症状があったことが判明し,先行感染のエピソードが確認された.しかし,上下肢の運動・感覚障害の自覚症状もあり,GBSの可能性も考慮され,精査加療目的で第C9病日,脳神経内科に入院となった.入院時の瞳孔所見として,瞳孔径に左右差はなく,直接対光反応は迅速で左右差はなかった.同日施行した頭部造影MRI検査で,明らかな頭蓋内の異常や眼球運動障害の原因となる所見を認めなかった.神経伝導速度検査は,右正中神経・尺骨神経,左脛骨神経・腓腹神経で測定し,運動・感覚ともに遠位潜時・振幅・伝導速度・F波の出現率に異常を認めなかった.入院後も両眼の全方向性眼球運動障害を認め改善はみられなかった.このときのC9方向眼位写真を示す(図2).第C12病日から免疫グロブリン大量静注療法(intrave-nousimmunoglobulin:IVIg)として献血ヴェノグロブリンCIH400mg/kg/日を5日間施行した.身長171cm,体重118Ckg,BMIC40.4Ckg/m2と肥満があり,IVIgに伴う血栓症リスクが大きいと考え,ヘパリンナトリウム製剤を併用した.IVIg開始直後(第C12病日),左眼の睫毛徴候に加え,飲みものが口から漏れる,口笛が吹けないなどの訴えもあり左末梢性顔面神経麻痺と診断された.左眼の異物感や眼痛などの訴えはなかった.第C13病日,脳神経内科で追加施行した血清学的検査から抗ガングリオシド抗体のなかで,抗CGQ1bIgG抗体および抗CGT1aIgG抗体が陽性であることが判明し,MFSと確定診断された.その後は増悪なく経過し,両眼外転障害は改善傾向を認め,第C26病日に退院した.経図1眼科初診時(発症第3病日)のHess赤緑試験両眼の外転制限を認める.図2脳神経内科入院時(発症第9病日)の9方向眼位写真両眼とも下転は比較的保たれているが,両眼の全方向性の眼球運動障害を認める.過中,一過性に軽度の肝酵素上昇や尿蛋白を認めたが,その後改善した.IVIg前後の血清中CIgGの変化はC2,148Cmg/dl(治療前)からC5,628Cmg/dl(治療C6日後)であった.第C54病日,左眼睫毛徴候陽性も,口角の左右差は消失し,顔面神経麻痺の回復傾向を認めた.治療開始約C6週後(第C56病日),水平複視は残存していたが,Hess赤緑試験全方向の眼球運動障害の改善を認めた(図3).また,軽度の左眼閉瞼不全はみられたものの明らかな角膜上皮障害はみられなかった.治療開始C10週後(第C82病日)には左末梢性顔面神経麻痺(睫毛徴候)は消失した.その後再燃なく経過し,治療開始C4.5カ月後(第C147病日)の眼科最終受診には複視は消失し,Hess赤緑試験でも明らかな眼球運動制限はみられなかった(図4).経過中,両眼ともに視力障害はなかった.II考按本症例の診断に関して,外眼筋麻痺に伴う複視で発症し,運動失調と深部腱反射の消失を認め,MFSの三徴を呈しており,当初は典型的なCMFSと考えられた.MFSでは多くのケースで複視またはふらつきで発症し,三徴のみの場合もあるが,三徴の揃わない不全型CMFSも報告されている.通常,MFSと診断された場合,無治療で経過観察となる.しかし,外眼筋麻痺を伴うCGBSやCBickersta.型脳幹脳炎(Bickersta.Cbrainstemencephalitis:BBE)への移行例の報告や,MFSと咽頭・頸部・上腕型CGBS(pharyngeal-cervi-cal-brachialCvariantCofGBS:PCB-GBS)とのオーバーラップ例などの臨床病型も報告されている2,4,7).本症例も経過中,上肢優位に四肢運動・感覚障害の自覚症状があり,MFS単図3治療開始約6週後(発症第56病日)のHess赤緑試験水平複視は残存している,全方向の眼球運動障害の改善を認める.図4治療開始4.5カ月後(発症第147病日)のHess赤緑試験軽度の内斜は残存しているものの,明らかな眼球運動制限はみられない.独ではなく外眼筋麻痺を伴うCGBSやCPCB-GBSとのオーバーラップ例であった可能性は否定できない.神経伝導速度検査では明らかな異常を認めなかったが,発症早期には異常がみられない報告例もあり3,8),PCB-GBSとのオーバーラップ例を疑う場合には検査を複数回行うことが重要と考えられている.MFSの原因に関してはCCampylobacterCjejuniやCHae-mophilusin.uenzaなどの先行感染の関与が示唆されており,急性期のCMFS患者の約C80.90%でガングリオシドGQ1bに対するCIgG抗体が血清中に検出される2,9).本症例でも先行感染を確認した.先行感染病原体の抗原刺激により抗体が産生され,それが神経組織の共通構造を有する糖鎖抗原に作用して神経障害が発症すると考えられている2).また,神経組織における抗原の局在が臨床病型を規定していると考えられており,GQ1b糖鎖抗原が外眼筋を支配する脳神経の傍絞輪部や後根神経節の一部の大型細胞,筋紡錘のなかのIa感覚線維に富んだ領域に多く存在することが三徴を引き起こす原因と考えられている2).GQ1bはガングリオシドGT1aとも交差反応を示し,抗CGT1a抗体陽性例のC94%で抗CGQ1b抗体も検出される10).また,抗CGT1a抗体はCPCB-表1遅発性顔面神経麻痺を認めたFisher症候群の過去の報告例との比較渡邊ら5)本症例症例1症例2症例3年齢26歳35歳46歳46歳性別男性男性女性女性抗ガングリオシド抗体CGQ1bIgG,GQ1bIgG,GQ1bIgG,GQ1bIgGCGT1aIgGCGT1aIgGCGM1IgM初期治療CIVIg免疫吸着CIVIgなし顔面神経麻痺発症日16病日(左側)12病日(右側)9病日(左側)8病日(両側)顔面神経麻痺に対する治療なしステロイド(パルス,ステロイド(パルス,CIVIg内服),免疫吸着内服)顔面神経麻痺回復開始日21病日20病日20病日顔面神経麻痺消失日82病日24病日31病日175病日以降抗CGD抗体:抗ガングリオシド抗体,IVIg:intravenousimmunoglobulin(免疫グロブリン大量静注療法).GBSとの関連性が指摘されている10).本症例では抗CGQ1b抗体,抗CGT1a抗体ともに陽性であり,純粋なCMFSの病態だけでなく,MFSにCPCB-GBSがオーバーラップしていたとしても矛盾はないと考えられる.一方でCMFSのC24.50%に四肢の異常感覚を合併したとの報告もあるが4,9),抗GT1a抗体の関与については言及されていない.抗CGQ1b抗体陽性のCMFSは,無治療でも自然軽快し比較的予後良好と考えられており,無治療で経過観察されることが多い2).四肢脱力や中枢神経障害を合併した場合には,GBSに準じて免疫療法(IVIgや血漿交換療法)を行うことが推奨されている11).IVIgは血漿交換療法に比べ患者負担が少ないことや小児の川崎病に対しても施行されていることから,現在CGBSの第一選択薬となっている.本症例も当初は典型的なCMFSと思われたが,四肢の運動・感覚障害のエピソードや,急速な外眼筋麻痺の増悪もあり,早期にCIVIgを行った.IVIgの作用機序としては,IgGが結合するCFcCc受容体を介したマクロファージの活性化の阻害,補体を介する免疫反応の抑制,抗イディオタイプ抗体による自己抗体の制御,炎症性サイトカインの制御などが考えられている12).免疫療法を実施するのであれば,早い段階で行うことが望ましく,発症早期の段階で外眼筋麻痺を伴うCGBSやCBBEへの移行の可能性を評価することが重要で,神経症状悪化の進行が速いCMFS症例では免疫療法の実施を積極的に検討する必要がある.MFSの多数例を検討した臨床研究で,MoriらのC50例の検討では,発症からC6カ月の時点で運動失調と外眼筋麻痺は50例全例で消失したと報告されている4).また,大野らはMFSのC19例を解析し,経過を追跡することができたC18例において複視消失までの期間は平均C70日,無治療で経過観察を行ったC17例の複視消失までの期間も平均約C70日で,最長でもC180日であったと報告している9).本症例ではCIVIgを施行したものの,複視の発症から消失までに約C150日を要しており,IVIgによって症状改善までの期間が短縮されたかは不明である.しかし,IVIg開始後に顔面神経麻痺以外の症状は早期に改善傾向を示しており,自然経過による改善も否定はできないが,IVIgによる一定の効果はあった可能性が考えられる.前述のとおり,MFSでは外眼筋麻痺以外の脳神経障害を認める場合もあり,眼瞼下垂(58%),瞳孔異常(42%),顔面神経麻痺・球麻痺(30%)の順に合併しやすい11).Moriらは,MFSのC32%(16/50例)に顔面神経麻痺を合併し,12%(6/50例)が他の症状が回復したあとに顔面神経麻痺が出現したと報告している4).ほかにも外眼筋麻痺や運動失調の症状がピークに達した,もしくは改善後に遅発性に顔面神経麻痺をきたした症例の報告も散見され,Bell麻痺やCRam-say-Hunt症候群も鑑別となり,ステロイド,IVIgもしくはバラシクロビルが使用されていた5,6).渡邊ら5)が報告した遅発性顔面神経麻痺を合併したCMFSのC3例と本症例を比較した(表1).MFSに対する初期治療はC2例で施行され,遅発性顔面神経麻痺の発症は第C8病日から第C12病日でみられ,全例でステロイド治療もしくはCIVIg治療が施行されていた.遅発性顔面神経麻痺の回復は,3例いずれも第C20.21病日で始まり,本症例の第C54病日に比べ短縮していた.一方,遅発性顔面神経麻痺の消失日に関して,MFSの初期治療が施行されなかったC1例で第C175病日でも閉瞼不全が残存していたが,他のC2例では第C24からC31病日で消失し,本症例に比べ短縮していた.Tatsumotoらは,GBS(195例)とMFS(68例)における遅発性顔面神経麻痺について検討しており,GBSのC28%(55/195例)そしてCMFSのC18%(12/68例)で顔面神経麻痺を合併し,GBSのC12例(6%)がそしてMFSのC4例(6%)が遅発性に生じたと報告している13).また,遅発性顔面神経麻痺合併例のC16例全例でステロイドなどの追加治療を必要とせず,遅発性顔面神経麻痺発症からC3週以内に改善したと報告している13).本症例も他症状がピークに達したのちに顔面神経麻痺を発症しており,遅発性の定義に当てはまると考えられ,初回のCIVIgのみで,追加治療を必要とせずに回復しており,Tatsumotoらの既報13)と同様の結果であった.以上まとめると,MFSに対する初期治療の有無にかかわらず,遅発性顔面神経麻痺は発症しうること,遅発性顔面神経麻痺に対する治療の有無にかかわらずほとんどの症例で短期的に消失する可能性があるものの,遷延化した場合,追加治療を検討する必要があると考えられた.MFSでは外眼筋麻痺以外の脳神経障害の合併例が報告されていること,また,外眼筋麻痺を伴うCGBSやCPCB-GBSとのオーバーラップ例などの臨床病型も存在することから,MFSに対しては,眼科医と脳神経内科医が連携し診療にあたることが重要であると考えられた.文献1)FisherM:AnCunusualCvariantCofCacuteCidiopathicCpoly-neuritis(syndromeCofCophthalmoplegia,CataxiaCandare.exia).NEnglJMedC255:57-65,C19562)千葉厚郎:Fisher症候群と抗CGQ1b抗体.神経眼科C33:C161-170,C20163)山岸裕子,楠進:Guillain-Barre症候群および関連疾患の診断と治療.診断と治療C105:89-92,C20174)MoriM,KuwabaraS,FukutakeTetal:ClinicalfeaturesandCprognosisCofCMillerCFisherCsyndrome.CNeurologyC56:C1104-1106,C20015)渡邊将平,山崎博充,山本麻未ほか:Fisher症候群における遅発性顔面神経麻痺.末梢神経C22:353-354,C20116)佐藤萌美,森悠,赤塚和寛ほか:遅発性に顔面神経麻痺を呈したCFisher症候群のC1例.末梢神経C30:361,C20197)篠田紘司,村井弘之,柴田憲一ほか:Fisher症候群と咽頭・頸部・上腕型CGuillain-Barre症候群のオーバーラップ症例と考えられたC1例.臨床神経学C52:30-33,C20128)内堀歩,千葉厚郎:【免疫性神経疾患Cupdate-基礎・臨床研究の最新知見-】診断と治療ギラン・バレー症候群/フィッシャー症候群(1)診断・治療と今後の展望.日本臨牀78:1881-1887,C20209)大野新一郎,三村治,江内田寛:Fisher症候群C19例の臨床解析.日眼会誌C119:63-67,C201510)NagashimaT,KogaM,OdakaMetal:Continuousspec-trumCofCpharyngeal-cervical-brachialCvariantCofCGuillain-Barresyndrome.ArchNeurolC64:1519-1523,C200711)日本神経学会,日本神経治療学会,日本神経免疫学会ほか.ギラン・バレー症候群,フィッシャー症候群診療ガイドラインC2013.南江堂,201312)小谷俊雄,堀田哲也:適正な治療のためにCcグロブリン大量静注療法.日内会誌C98:2512-2517,C200913)TatsumotoM,MisawaS,KokubunNetal:DelayedfacialweaknessCinCGuillain-BarreCandCMillerCFisherCsyndromes.CMuscleNerveC51:811-814,C2015***

不完全型網膜中心動脈閉塞症の発症を契機に 結節性多発動脈炎と診断された1 例

2023年3月31日 金曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(3):395.403,2023c不完全型網膜中心動脈閉塞症の発症を契機に結節性多発動脈炎と診断された1例飯田由佳*1林孝彰*1伊藤寿啓*2筒井健介*3根本昌実*3中野匡*4*1東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター皮膚科*3東京慈恵会医科大学葛飾医療センター総合診療部*4東京慈恵会医科大学眼科学講座CACaseDiagnosedwithPolyarteritisNodosaaftertheDevelopmentofIncompleteCentralRetinalArteryOcclusionYukaIida1),TakaakiHayashi1),ToshihiroIto2),KensukeTsutsui3),MasamiNemoto3)andTadashiNakano4)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,2)DepartmentofDermatology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,3)DivisionofGeneralMedicine,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,4)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC目的:不完全型網膜中心動脈閉塞症(CRAO)の発症を契機に結節性多発動脈炎と診断されたC1例を報告する.症例:73歳,男性.突然の左眼視力低下を自覚し,4日後に東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科を受診した.左眼の視力は(0.05)であった.眼底に多数の綿花様白斑がみられ,黄斑部の光干渉断層計画像で網膜内層から中層にかけて高反射帯を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査で,網膜動脈の充盈遅延を認め,不完全型CCRAOと診断された.血液検査で高度の炎症反応を認めたものの,抗好中球細胞質抗体は陰性であった.右下腿・紫斑部の皮膚生検で,フィブリノイド壊死性血管炎の所見がみられ,また両下肢の多発性単神経炎の存在が確認され,結節性多発動脈炎の確実例と診断された.プレドニゾロンならびに免疫抑制薬による加療が行われ,眼科初診からC3カ月後に左眼視力は(0.4)まで改善した.2年C4カ月経過し,結節性多発動脈炎の病状は安定し,左眼視力(0.4)を維持していた.結論:結節性多発動脈炎は,血管炎による多彩な全身症状を認め,CRAOを併発する可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCdiagnosedCwithCpolyarteritisnodosa(PAN)afterCdevelopmentCofCincompleteCcen-tralCretinalCarteryCocclusion(CRAO)C.CCasereport:AC73-year-oldCmaleCvisitedCourCophthalmologyCdepartmentC4Cdaysafterbecomingawareofsuddenvisionlossinhislefteye.Uponexamination,thebest-correctedvisualacuity(BCVA)inCthatCeyeCwasC0.05.CFundoscopyCexaminationCrevealedCnumerousCcotton-woolCspots,CandCopticalCcoher-encetomographyimagesshowedhyperre.ectivelesionsfromtheinnertomiddleretinallayersintheleftmacula.Fluoresceinangiographyshoweddelayed.llingofthecentralretinalartery,andhewasdiagnosedwithincompleteCRAO.CBloodCtestsCshowedCsevereCsystemicCin.ammatoryCreactions,CbutCanti-neutrophilCcytoplasmicCantibodiesCwereCnegative.CACskinCbiopsyCofCtheCrightClowerClegCwithCpurpuraCrevealedC.brinoidCnecrotizingCvasculitis,CandCmononeuritismultiplexwaspresentinbothlowerextremities,thusresultinginade.nitivediagnosisofPAN.Pred-nisoloneCandCimmunosuppressiveCtherapiesCwereCadministered,CandCBCVACinChisCleftCeyeCimprovedCtoC0.4CatC3CmonthsCafterCpresentation.CTwoCyearsCandC4CmonthsClater,CtheCdiseaseCconditionCofCPANC.nallyCstabilized,CandChisCleft-eyeCBCVACremainsCatC0.4.CConclusion:PANCexhibitsCaCvarietyCofCsystemicCsymptomsCdueCtoCvasculitisCandCCRAOmaybecomplicatedwiththedisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(3):395.403,C2023〕Keywords:網膜中心動脈閉塞症,結節性多発動脈炎,フィブリノイド壊死性血管炎,光干渉断層血管撮影.cen-tralretinalarteryocclusion,polyarteritisnodosa,.brinoidnecrotizingvasculitis,opticalcoherencetomographyan-giography.C〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:TakaakiHayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANCはじめに結節性多発動脈炎(polyarteritisnodosa:PAN)は,中型血管を主体として血管壁に炎症を生じる疾患で,難病(告示番号C42)に認定されている1).PANの本態は,中・小動脈の壊死性血管炎で,糸球体腎炎あるいは細小動脈・毛細血管・細小静脈の血管炎を伴わず,血清中の抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicCantibody:ANCA)と関連のない疾患と定義されている2).PANの平成C27年度特定医療費(指定難病)受給者証所持者数はC3,442人であったことから,PANはまれな疾患である1).厚生労働省作成疾患概要説明文(https://www.nanbyou.or.jp/entry/244)に,「平均発症年齢はC55歳で,男女比はC3:1でやや男性に多い傾向」であることが記されている.PANの症状は多彩で,炎症による全身症状と罹患臓器の炎症および虚血,梗塞による臓器障害の症状の両者からなる1,3).厚生労働省が作成した表1結節性多発動脈炎の診断基準(1)主要症候①発熱(38℃以上,2週以上)と体重減少(6カ月以内にC6Ckg以上)②高血圧③急速に進行する腎不全,腎梗塞④脳出血,脳梗塞⑤心筋梗塞,虚血性心疾患,心膜炎,心不全⑥胸膜炎⑦消化管出血,腸閉塞⑧多発性単神経炎⑨皮下結節,皮膚潰瘍,壊疽,紫斑⑩多関節痛(炎),筋痛(炎),筋力低下(2)組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在(3)血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞(4)診断のカテゴリー①CDe.nite(確実例):主要症候C2項目以上と組織所見のある例②CProbable(疑い例):(a)主要症候C2項目以上と血管造影所見の存在,(b)主要症候のうち①を含むC6項目以上存在する例(5)参考となる検査所見①白血球増加(10,000/μl以上),②血小板増加(400,000/μl以上),③赤沈亢進,④CCRP強陽性(6)鑑別診断①顕微鏡的多発血管炎,②多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症),③好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎),④川崎病動脈炎,⑤膠原病(全身性エリテマトーデス,関節リウマチなど),⑥CIgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)(難病情報センターホームページより一部改変して引用)PANの診断基準を表1に示す.主要症候C2項目以上と組織所見のある例はCDe.nite(確実例),主要症候C2項目以上と血管造影所見の存在する例,または主要症候のうち「①発熱(38℃以上,2週以上)と体重減少(6か月以内にC6Ckg以上)」を含むC6項目以上存在する例はCProbable(疑い例)と診断する.網膜中心動脈閉塞症(centralCretinalCarteryocclusion:CRAO)は,急激な視力障害をきたす疾患で,網膜中心動脈への血栓や塞栓によって発症する4).CRAOは,その原因により動脈炎性(arteritic)と非動脈炎性(non-arteritic)に大別される5,6).動脈炎性CCRAOは,全身性エリテマトーデスや巨細胞性動脈炎などの全身性血管炎に合併してみられる7,8).また,閉塞の程度によりCincomplete(不完全型・再灌流),subtotal(完全型に近い・部分再灌流),total(完全型・非再灌流)に分類する試みもある5,9,10).フルオレセイン蛍光造影所見として,incomplete型では網膜動脈の充盈遅延が,subtotalでは網膜動脈の著明な充盈遅延がみられる5,10).今回筆者らは,不完全型CCRAOの発症を契機にCPANと診断された症例を経験したので報告する.CI症例患者:73歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:4カ月前から両側下腿に紫斑を認めていた.4日前から頭痛に加え,左眼視力低下も自覚したため,4日後に近医眼科を受診した.左眼視力は(0.04)に低下し,左眼眼底に多数の白斑がみられ,同日,東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科を紹介受診した.既往歴:S状結腸癌切除後で経過観察中,変形性膝関節症,下肢静脈瘤切除.なお,高血圧,脂質異常症,糖尿病の指摘はなし.初診時眼所見:視力は右眼C0.3(1.2C×sph+2.00D(cylC.0.50DCAx80°),左眼0.04(0.05C×sph+3.00D(cyl.1.50DAx80°),眼圧は右眼C18mmHg,左眼C13mmHgであった.白内障を除き前眼部・中間透光体には特記すべき所見はなかった.眼底検査で左眼に乳頭出血および多数の綿花様白斑を認めた(図1a).右眼眼底に明らかな異常所見はみられなかった(図1a).黄斑部の光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT,CirrusCHD-OCT5000,CarlCZeissMeditec社)検査において,右眼に異常所見はみられなかったが,左眼では網膜内層から中層にかけて高反射帯に加え,漿液性網膜.離を伴う網膜色素上皮.離を認めた(図1b).左眼の脈絡膜厚は,右眼に比べ肥厚しており,Haller層血管の拡張を認めた(図1b).光干渉断層血管撮影(OCTCangi-ography:OCTA,CirrusCHD-OCT5000)では,網膜血管の血流は観察されたものの,網膜毛細血管網の血流シグナル図1初診時の眼底およびOCT所見a:カラー眼底写真を示す.右眼に明らかな異常所見はないが,左眼に乳頭出血および多数の綿花様白斑を認める.b:黄斑部COCTのCBスキャン画像を示す.右眼に異常所見はみられないが,左眼では網膜内層から中層にかけて高反射帯(.)に加え,漿液性網膜.離(.)を伴う膜色素上皮.離を認める.左眼の脈絡膜厚は,右眼に比べ肥厚しており,Haller層血管の拡張(.)を認める.c:左眼黄斑部COCTA画像を示す.Bスキャン画像で示した網膜全層CslabにおけるOCTAのCenface画像で,網膜血管の血流は観察されるものの,網膜毛細血管網の血流シグナルが全体的に低下している.また,OCTのCenface画像で,広範囲に高反射病変がみられる.図2初診時の左眼フルオレセイン蛍光造影写真造影開始C15秒からC18秒後まで,choroidal.ushおよび一部の網膜動脈の造影は観察されるが他の網膜動脈は造影されていない.造影開始20秒後に一部下方の網膜動脈が造影され,造影開始C27秒後に上方の網膜動脈の灌流がみられる.造影早期から中期(2分C32秒)・後期(6分C43秒)にかけて中心窩上方に網膜色素上皮障害に伴う蛍光漏出を認める.が全体的に低下していた(図1c).黄斑部網膜の虚血性変化と考え,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiog-raphy:FA)およびインドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyanineCgreenangiography:ICGA)を施行した.FAにおいて,造影開始C15.18秒後まで初期脈絡膜蛍光(cho-roidal.ush)および一部の網膜動脈の造影は観察されたが他の網膜動脈は造影されていなかった(図2).造影開始C20秒後に一部下方の網膜動脈が造影され,造影開始C27秒後に上方の網膜動脈の灌流がみられ,網膜動脈の充盈が遅延しており,不完全型CCRAOと診断した(図2).また,造影初期から,中期・後期にかけて中心窩上方に網膜色素上皮障害に伴う蛍光漏出が確認された(図2).一方,右眼に網膜血管炎を示唆する異常所見はみられなかった.ICGAでは,右眼に異常所見はみられず,左眼において造影中期から後期にかけて,血管アーケード内の脈絡膜血管透過性亢進による過蛍光の所見が観察された(図3).血液検査所見:赤血球数,凝固系,肝機能,電解質値は正常範囲内であった.血小板数C40.4万/μl,白血球数C8,300/μl,CRP6.23mg/dl,血液沈降速度(血沈)1時間値119Cmmと高度な炎症反応を認めた.白血球分画は,好中球77.7%,リンパ球C15.6%,単球C5.8%,好酸球C0.5%,好塩基球0.4%でやや好中球の割合が高かった.Cr0.76mg/dl,CeGFR76Cml/分/1.73CmC2,LDLコレステロールC108Cmg/dl,中性脂肪127mg/dl,HbA1c6.2%,MPO-ANCAC1.0U/ml,PR3-ANCA1.5CU/ml,リウマトイド因子C12.6CIU/ml,CASO20CIU/ml,抗CSS-A抗体(C.),抗CSS-B抗体(C.),抗図3初診時のインドシアニングリーン蛍光造影写真右眼に異常所見はみられず,左眼において造影中期(造影開始C4分C14秒)から後期(造影開始C11分C37秒)にかけて,血管アーケード内の脈絡膜血管透過性亢進による過蛍光の所見が観察される.カルジオリピン抗体CIgG8CU/ml,ループスアンチコアグラント正常範囲内,HBs抗原(C.),HBs抗体(C.),HBc抗体(.),HCV抗体(C.),梅毒CRPR(C.),梅毒CTP抗体(C.),Cb-D-グルカンC6.0Cpg/ml,T-SPOT.TB(C.)と明らかな異常所見はみられなかった.経過:かかりつけ医の許可を得て,同日よりアスピリン腸溶錠(100Cmg/日)を開始した.翌日以降,視力の改善がみられた.原因精査の目的で頭部・眼窩単純CMRIを施行したものの,明らかな異常は認められなかった.つぎに,側頭動脈超音波検査を行い,両側側頭動脈に壁肥厚はなく,血流は保たれていた.圧迫による痛みなど巨細胞性動脈炎を示唆する臨床所見はみられなかった.高血圧,脂質異常症,糖尿病の既往がなかったことから,血管炎症候群を疑ったものの,採血結果でCANCA関連血管炎は否定され,不完全型CCRAOの原因,そして全身性の炎症所見の原因がはっきりせず,眼科初診からC1週間後に当院総合診療部に紹介した.追加の血液検査が施行され,白血球分画で桿状核好中球は0%,分葉核好中球はC74%と左方移動はみられなかった.抗TPO抗体C9CIU/ml,抗Cds-DNAIgG抗体C10CIU/ml,抗CCCP抗体C0.6CU/ml,抗CRNP抗体(C.),抗CSm抗体(C.),抗Jo-1抗体(C.),抗CScl-70抗体(C.)であり,他の臨床所見から,重篤な感染症,全身性エリテマトーデスや関節リウマチは否定された.血管炎症候群の精査目的で胸腹部CCTならびにCCT血管造影検査が施行され,動脈の狭窄・閉塞所見を含め明らかな異常所見はみられなかった.一方,両側下腿浮腫・紫斑を認めていたことから,当院皮膚科にて右下腿・紫斑部より皮膚生検を施行した.病理標本で小動脈の血管壁にフィブリノイド変性に加え,血管周囲に炎症細胞浸潤を認め,壊死性血管炎の所見と考えられた(図4).また,両下肢に異常感覚があり,神経伝導速度検査施行したところ,伝導速度の遅延がみられ多発性単神経炎が疑われる結果であった.PANの診断基準(表1)の主要症侯である⑧多発性単神経炎と⑨皮下結節,皮膚潰瘍,壊疽,紫斑のC2項目を満たし,組織所見であるフィブリノイド壊死性血管炎の存在を認図4右下腿・紫斑部の皮膚病理所見a:ヘマトキシリン・エオジン染色で,小動脈の血管壁にフィブリノイド変性(.)に加え,血管周囲に炎症細胞浸潤(.)を認める.b:ElasticaVanGieson染色で,紫黒色に染色される弾性線維は消失している.めたことから,PAN確実例と診断した.眼科初診からC2週後に左眼視力は(0.25)まで改善し,左眼眼底にみられた綿花様白斑はほぼ消失した(図5a).また,OCTAで網膜毛細血管網の血流シグナルの改善を認めた(図5c).眼科初診からC1カ月半後,総合診療部に入院となり,PANに対してプレドニゾロン(prednisolone:PSL)60Cmg/日内服治療を開始,その後徐々に下腿浮腫とCCRP値の低下がみられ,1週後CPSL50Cmg/日に漸減したが,両下肢のしびれはむしろ増強したため,免疫抑制薬であるシクロホスファミド(500mg)のパルス療法(1日C1回のシクロホスファミド点滴治療をC2週以上開けて複数回施行する治療)を計C2回追加し,CRP値は徐々に低下した.眼科初診からC3カ月後,左眼視力は(0.4)まで改善した.ここまでの,治療経過,CRP値の経時変化,左眼矯正視力の推移を図6に示す.後療法としてPSLに免疫抑制薬のアザチオプリン(25Cmg/日)内服が追加され,2週後アザチオプリンC50Cmg/日に増量した.眼科初診からC6カ月後,左眼視力は(0.4)を維持し,左眼CGoldmann視野検査で,中心約5°以内CI/2eからCI/3eの暗点が検出されたが周辺視野は良好であった.その後は再発なく,PSLおよびアザチオプリンを漸減しながら治療を行い,眼科での経過観察も継続された.最終受診時(眼科初診から2年4カ月後),PSL1mg/日,アザチオプリン25mg/日でCPANの病状は安定していた.左眼視力は(0.4)を維持し,眼底所見(図5b)の悪化はみられず,OCTAで黄斑部の網膜色素上皮.離は残存していたものの網膜毛細血管網の血流シグナルは改善維持していた(図5d).経過中,右眼視力は(1.2)を維持していた.II考按今回,急激な片眼性視力障害を認め,不完全型CCRAOの診断を契機にCPANと診断された症例を経験した.動脈は血管径により,大型,中型,小型,毛細血管に分類され,PANは,中型血管を主体として,血管壁に炎症を生じる疾患である.抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA)や抗好中球細胞質プロテイナーゼC3抗体(PR3-ANCA)は血清中には検出されず,顕微鏡的多発血管炎などとは区別される1).PANに対する特異性の高い診断マーカーは存在しない.そのために,主要症侯ならびに組織学的所見がCPANの診断に重要となる.厚生労働省作成の疾患概要説明文で,PANは炎症による全身症状に加え中型血管炎による臓器障害を呈するが,眼症状を呈することはまれと記載されている.本症例は,ANCA関連血管炎,巨細胞性動脈炎,抗リン脂質抗体症候群,全身性エリテマトーデス,関節リウマチなどが除外され,PAN診断基準(表1)の主要症侯のC2項目を満たし,皮膚紫斑部の組織所見でフィブリノイド壊死性血管炎の存在(図4)を認めたことから,PANの確実例と診断された.1993年にCAkovaら11)は,眼症状を合併したCPANのC5例について,強膜炎,周辺部角膜潰瘍,非肉芽腫性ぶどう膜炎,網膜血管炎,特発性眼窩炎症(旧称:眼窩炎性偽腫瘍)などがみられ,眼病変は多岐にわたりみられたと報告している.5例のうちC1例(75歳,女性)で,左眼にCCRAOを発症した後にCPANと診断されている11).今回の症例では,強膜炎,角膜潰瘍,虹彩毛様体炎,特発性眼窩炎症の所見はみられなかった.Rothschildらのメタ解析研究では,PANの図5左眼の眼底写真とOCTA画像a:眼科初診からC2週後のカラー眼底写真で,綿花様白斑はほぼ消失している.Cb:眼科初診からC2年C4カ月後のカラー眼底写真で,乳頭出血および綿花様白斑は消失している.Cc:眼科初診からC2週後の網膜全層CslabにおけるCOCTAのCenface画像で,網膜毛細血管網の血流シグナルの改善を認める.Cd:眼科初診からC2年C4カ月後の網膜全層CslabにおけるOCTAのCenface画像で,黄斑部の網膜色素上皮.離は残存しているものの網膜毛細血管網の血流シグナルは改善維持されている.500mg500mgシクロホスファミドCRP[mg/dl]PSL[mg]604020065432106050PSL40350.50.45CRP0.40.4左矯正視力0.350.30.250.250.20.20.150.10.050.0500102030405060708090眼科初診からの経過(日数)図6治療経過,CRP値ならびに左眼矯正視力の経時変化左眼矯正視力横軸に眼科初診からの経過(日数),左側縦軸にプレドニゾロン(PSL)内服とシクロホスファミドパルス療法の投与量およびCCRP値,右側縦軸に左眼矯正視力を示す.眼科初診から約C1.5カ月後にCPSL内服開始,その後,CRP値は低下している.両下肢のしびれが増強したため,シクロホスファミドパルス療法を計C2回追加している.眼科初診から約C3カ月後,視力は(0.4)に改善している.393例のうちC42例(10.7%)に眼症状があり,このなかで突然の視力障害がC8例(19%)でみられ,その原因として網膜血管炎によるものが多かったと報告している12).Akovaら11)の報告以降,PANにCCRAOを合併した報告例を調べてみると,2001年にCHsuら13)は,70歳,女性が突然の右眼手動弁の視力低下をきたし,毛様網膜動脈回避を伴う右眼CRAO,そして左眼に虚血性視神経症を発症し,その後施行された大腿二頭筋と腓腹神経の生検後にCPANと診断されたことを報告している.また,高熱と結節性紅斑を認めたC1カ月後に両眼の視力障害を訴え両眼CCRAOと診断され,血液検査および皮膚生検によりCPANと診断されたC3歳,男児の報告例もある14).前述のとおり,突然のCCRAOなどによる視力障害の精査過程でCPANと診断されたケースは報告されている一方,PANの診断・治療後にCCRAOを発症した報告例はなかった.したがってCCRAOの発症後にCPANと診断された際は,速やかにステロイドや免疫抑制薬の治療を開始することが重要である.本症例では,CRAOで通常みられない漿液性網膜.離を伴う網膜色素上皮.離を認めた(図1b).不完全型CCRAOを発症した左眼では,Haller層血管拡張による脈絡膜肥厚のOCT所見(図1b)に加え,ICGA(図3)で脈絡膜血管透過性亢進による過蛍光の所見がみられたことから,中心性漿液性脈絡網膜症発症と類似の機序による網膜色素上皮障害が起こり,網膜色素上皮.離および漿液性網膜.離を生じた可能性が推察された.実際,本症例の左眼CFA所見(図2)は,中心性漿液性脈絡網膜症でみられるCFA所見に類似していた.一方,不完全型CCRAO発症時に網膜色素上皮.離が検出された理由ははっきりしなかったものの,2年C4カ月経過した最終受診時においてもCHaller層血管の拡張を伴う網膜色素上皮.離は観察された.以上から,不完全型CCRAO発症以前から,左眼のCHaller層血管拡張による脈絡膜肥厚が存在していた可能性が考えられた.PANの初期治療としては,1mg/kg/日のPSLに加え,シクロホスファミドの点滴治療(10.15Cmg/kg/回をC3.4週間にC1度)の併用が推奨されている1).本症例も同様な初期治療を行ったことでその後の臓器障害が抑制できたと考えられた.眼所見に関して,本症例では翌日以降視力の改善を認め,2週後には眼底所見の改善も認めた(図5).その後視力は(0.4)まで改善し,6カ月後の視野では中心暗点が検出されたものの周辺視野は良好であった.内科的治療によって,視機能の改善・維持のみならず,眼所見の再燃・悪化ならびに僚眼への発症が抑制できたと考えられた.筆者らが医中誌を調べた限り,わが国からCPANの診断前後にCCRAOを発症した報告例はなかった.以上をまとめると,PANにCRAOを合併することはまれであるもののCPANの診断以前に起こりうる合併症であること,一方,治療介入後の発症は起こりにくい可能性が示唆された.その病因としては,網膜中心動脈血管炎自体だけでなく血管炎による血栓形成による閉塞の可能性があり,PANに関連したCCRAOは動脈炎性と考えられる.岡本ら15)が報告した不完全型CCRAO10例の検討では,クリオフィブリノーゲン血症に合併したC17歳症例を除いて,明らかな動脈炎性の症例は報告されていない.このことから,原因にかかわらず動脈炎性の不完全型CCRAOはまれな病態と考えられる.本症例に関しては,動脈炎性の不完全型CCRAOの可能性が考えられたが,高齢者でかつ軽度耐糖能異常がみられたことから,非動脈炎性を完全には否定できなかった.CRAOは不可逆的かつ恒久的な重度視力障害を引き起こす重篤な眼疾患の一つである.本症例を経験し,CRAO症例に対しては,PANに合併した可能性を鑑別にあげ,詳細な血液検査を行い,免疫膠原病内科医,皮膚科医,総合診療部に紹介し全身検査を速やかに行うとともに,早期診断そして早期治療介入することが重要であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本循環器学会,日本医学放射線学会,日本眼科学会ほか:血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版).p50-53,C20182)JennetteJC,FalkRJ,BaconPAetal:2012revisedInter-nationalCChapelCHillCConsensusCConferenceCNomenclatureCofVasculitides.ArthritisRheumC65:1-11,C20133)HocevarCA,CTomsicCM,CPerdanCPirkmajerK:ClinicalCapproachtodiagnosisandtherapyofpolyarteritisnodosa.CurrRheumatolRepC23:14,C20214)HayrehSS:AcuteCretinalCarterialCocclusiveCdisorders.CProgRetinEyeResC30:359-394,C20115)門之園一明:網膜中心動脈閉塞症のアップデート.日眼会誌C124:601-608,C20206)津田聡,中澤徹:網膜動脈閉塞症.あたらしい眼科C39:31-37,C20227)RatraCD,CDhupperM:RetinalCarterialCocclusionsCinCtheyoung:systemicassociationsinIndianpopulation.IndianJOphthalmolC60:95-100,C20128)SmithCMJ,CBensonCMD,CTennantCMCetal:CentralCretinalCarteryocclusion:aretrospectivestudyofdiseasepresen-tation,Ctreatment,CandCoutcomes.CCanCJCOphthalmolC2022.COnlineaheadofprint.9)SchmidtCD,CSchumacherM:Stage-dependentCe.cacyCofCintra-arterialC.brinolysisCinCcentralCretinalCarteryCocclu-sion(CRAO)C.Neuro-ophthalmologyC20:125-141,C199810)SchmidtDP,Schulte-MontingJ,SchumacherM:Progno-sisCofCcentralCretinalCarteryocclusion:localCintraarterialC.brinolysisversusconservativetreatment.AmJNeurora-diolC23:1301-1307,C200211)AkovaYA,JabburNS,FosterCS:Ocularpresentationofpolyarteritisnodosa.clinicalcourseandmanagementwithsteroidandcytotoxictherapy.OphthalmologyC100:1775-1781,C199312)RothschildPR,PagnouxC,SerorRetal:OphthalmologicmanifestationsCofCsystemicCnecrotizingCvasculitidesCatdiagnosis:aCretrospectiveCstudyCofC1286CpatientsCandCreviewoftheliterature.SeminArthritisRheumC42:507-514,C201313)HsuCCT,CKerrisonCJB,CMillerCNRCetal:ChoroidalCinfarc-tion,CanteriorCischemicCopticCneuropathy,CandCcentralCreti-nalarteryocclusionfrompolyarteritisnodosa.RetinaC21:C348-351,C200114)ThakkerCAD,CGajreCM,CKhubchandaniCRCetal:BilateralCcentralCretinalCarteryocclusion:anCunusualCpresentationCofCpolyarteritisCnodosa.CIndianCJCPediatrC81:1401-1402,C201415)岡本紀夫,栗本拓治,大野新一郎ほか:不完全型網膜中心動脈閉塞症C10例の検討.臨眼C67:301-304,C2013***

Vogt-小柳-原田病類似症状で発症したMTX-LPD の1 例

2023年3月31日 金曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(3):389.394,2023cVogt-小柳-原田病類似症状で発症したMTX-LPDの1例大久保麻希坂本万寿夫岩橋千春日下俊次近畿大学医学部眼科学教室CACaseofMTX-LPDwithOcularManifestationsSimilartoVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseMakiOkubo,MasuoSakamoto,ChiharuIwahashiandShunjiKusakaCDepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicineC目的:Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)類似の眼病変で発症したメトトレキサート(MTX)関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)の症例を報告する.症例:68歳,男性.両眼視力低下と眼瞼腫脹を自覚し眼科受診,初診時視力は右眼(0.15),左眼(0.2),両眼結膜浮腫,前房内炎症,脈絡膜肥厚,右眼漿液性網膜.離を認めた.同時期より間欠性の発熱や頸部リンパ節腫脹などがみられたこと,血清CsIL-2R36,478CU/ml,前房水CIL-10/IL-6>1より,リンパ腫病変を疑い頸部リンパ節生検を施行した.びまん性大細胞型CB細胞性リンパ腫であり,また,3年前に発症した関節リウマチに対してC3カ月前よりCMTXの内服が開始されていたことより,MTX-LPDと診断した.MTX休薬を行うも全身症状が悪化したため,初診C2週間後よりCR-CHOP療法を施行,治療開始C4週間後には両眼とも視力(0.9)となり,眼炎症所見は速やかに改善した.しかし,4カ月後に中枢神経病変を認め,R-MPV療法を施行するも中枢神経病変増悪のため発症C7カ月後に死亡した.経過中,眼所見の再発はみられなかった.結論:MTX-LPDに原田病類似の眼所見を伴う可能性がある.CPurpose:Toreportapatientwithmethotrexate(MTX)-associatedlymphoproliferativedisorders(MTX-LPD)CwhoCpresentedCwithCocularCmanifestationsCsimilarCtoVogt-Koyanagi-Harada(VKH)disease.CCasereport:A68-year-oldmanpresentedwiththeprimarycomplaintofbilateralblurredvisionandswellingoftheeyelids.Anophthalmicexaminationshowedconjunctivaledemaandchoroidalthickeninginbotheyes,aswellasaserousreti-naldetachmentintherighteye,whichmatchedthesymptomsofVKH.Intermittentfeverandcervicallymphade-nopathy,CsymptomsCofCsystemicCinvolvement,CwereCobserved,CandCaCcervicalClymphCnodesCbiopsyCrevealedCdi.useClargeB-celllymphoma.HewasdiagnosedwithMTX-LPDbasedonhishistoryoforalMTXuse.MTXdiscontinu-ationwasine.ective,soR-CHOPtherapywasadministered.Fourweeksaftertreatmentinitiation,theocularmani-festationsimprovedrapidlyandtheconcentrationofinterleukin-10intheanteriorchamberwasnormalized.How-ever,CtheCpatientCdiedC7CmonthsCafterCtreatmentCdueCtoCtheCexacerbationCofCaCcentralCnervousCsystemClesion.CConclusion:MTX-LPDmaybeaccompaniedbyVKH-likeocularmanifestations.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(3):389.394,C2023〕Keywords:MTX-LPD,関節リウマチ,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,眼内リンパ腫.methotrexate-associatedlymphoproliferativedisorders,rheumatoidarthritis,serousretinaldetachment,choroidalthickening,intraocularClymphoma.Cはじめにメトトレキサート(methotrexate:MTX)は葉酸代謝拮抗作用を有し抗腫瘍薬として悪性リンパ腫や急性白血病などに用いられる薬剤である.一方でCMTXは低用量で免疫抑制薬として自己免疫疾患にしばしば用いられており,とくに関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)に対し,日本では2000年頃より治療の第一選択薬として使用されている.1991年,Ellemanら1)によりCMTX投与中のリンパ腫発症が報告され,同様な症例の報告数増加に伴いメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(methotrexate-associatedClymphop-〔別刷請求先〕大久保麻希:〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MakiOkubo,DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohno-higashi,Osakasayama,Osaka589-8511,JAPANC図1治療前後の前眼部写真および頭部単純MRI画像(T2W画像)a:初診時右眼前眼部写真.耳側を中心に著明な結膜浮腫を認める.b:治療開始C4週間後の右眼前眼部写真.結膜浮腫は改善している.c:治療前の頭部CMRI.両眼眼球周囲,眼窩に軟部影(.),右眼の漿液性網膜.離を認める(▲).d:治療開始C5カ月後の頭部MRI.眼球周囲,眼窩の軟部影は消失している.roliferativedisorders:MTX-LPD)として疾患概念が確立された.2008年の世界保健機関(WorldCHealthCOrganiza-tion:WHO)によるリンパ系腫瘍の組織分類第C4版では「他の医原性免疫不全症関連増殖性疾患」の一つに分類されている2).MTX-LPDの多くはCRA患者であり,原因は明らかではないものの欧米よりわが国からの報告が多い.病理組織像はびまん性大細胞型CB細胞性リンパ腫(di.useClargeCB-celllymphoma:DLBCL)がC35.60%,Hodgkinリンパ腫がC12.25%とされる3).60%の症例で節外病変を生じ,肺,骨髄,消化管・皮膚の順に多く4),近年は中枢神経系(centralner-voussystem:CNS)病変の報告が散見される5).一方,筆者らの知る限りでは眼科領域におけるCMTX-LPDは眼窩6)および眼内7)に発症した症例がC1例ずつであり,いずれも全身所見を伴わず眼単独病変である.今回,Vogt-小柳-原田病(以下,原田病)類似病変で眼症状を発症し,同時に間欠性の発熱や体重減少などリンパ腫に伴う全身症状も出現したMTX-LPDの症例を経験したので報告する.CI症例68歳,男性.3年前にCRAと診断され,プレドニゾロン2.5Cmg/日とサラゾスルファピリジンC1Cg/日で加療されていたが,RAのコントロール不良のため1年前のC12月よりCMTX8Cmg/週を追加されていた.翌年C3月より両眼の視力低下と眼瞼腫脹を自覚,近医眼科で右眼漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)と両眼脈絡膜肥厚を認めたため,原田病疑いでC4月に近畿大学病院眼科を紹介受診となった.初診時矯正視力は右眼(0.15),左眼(0.2),眼圧は右眼C9CmmHg,左眼C7CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で,両眼の結膜浮腫,前房内炎症C1+,角膜後面沈着物を認めた(図1a).眼底検査で右眼のCSRDを認め,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で両眼の脈絡e図2初診時眼底写真および治療前後のOCT所見a,b:初診時広角眼底写真(Ca:右眼,b:左眼).硝子体混濁や網膜下腫瘤性病変は認めない.c,d:初診時黄斑部水平断のCOCT(Cc:右眼,Cd:左眼).両眼の脈絡膜肥厚と右眼の漿液性網膜.離を認める.Ce,f:治療開始C4週間後の黄斑部水平断のCOCT(Ce:右眼,f:左眼).両眼の脈絡膜肥厚と右眼の漿液性網膜.離が改善している.膜肥厚がみられた(図2a~d).網膜下の腫瘤性病変や硝子体混濁はみられなかった.急性期原田病にみられる頭痛,頭髪の違和感,耳鳴り,難聴はみられなかったが,全身症状としてC3月頃より間欠性の発熱,体重減少,4月以降には頸部リンパ節腫脹とそれに伴う食事摂取困難を伴っていた.血液検査で白血球数C5,950/μl,血色素量C12.2g/dl,血小板数137,000/μl,CRP6.941Cmg/dl,乳酸脱水素酵素(LDH)989U/l,可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)36,478CU/ml,フェリチンC1,550Cng/dl,EBV-DNA定量C3.18ClogIU/mlであった.全身状態不良のため,蛍光造影検査や眼病巣の生検は困難であったが,前房内のCIL-10,およびCIL-6の測定を行ったところ,IL-10:440Cpg/ml,IL-6:386Cpg/mlであり,眼内リンパ腫を疑う結果であった.血液内科の診察では悪性リンパ腫のCB症状である間欠性の発熱や体重減少がみられたこと,sIL-2RおよびCLDHの異常高値などの所見より悪性リンパ腫が疑われた.頸部および胸腹部CCTで多発する頸部リンパ節腫大(図3a),頭部CMRIでは眼窩周囲に軟部影を認めたがCCNS病変はみられなかった(図1c).頸部リンパ節生検を施行し,大型のリンパ球様の腫瘍細胞のびまん性増殖を認めた.免疫染色で,Bリンパ球表面抗原(CD20)陽性,多数のCKi-67陽性細胞を認めたことから,組織型はびまん性大細胞型(DLBCL)と判断された(図3c,d).MTX投与の既往や病理検査結果からCMTX-LPDと診断された.初診時よりCMTXを休薬していたものの,全身状態図3頸部リンパ節の病理組織検査およびCNS病変a:初診時頸部CCT.リンパ節腫大を複数認める(.).b:治療C7カ月後の頭部CMRI.左前頭部の病変(〇)による脳室圧迫がみられる.c:頸部リンパ節生検.HE染色(×200).大型のリンパ球様腫瘍細胞のびまん性増殖を認める.d:頸部リンパ節生検.CD20染色(×200).CD20陽性細胞を多数認める.の悪化とCsIL-2RがC43,023CU/mlまで上昇したため,初診日よりC2週間後から全身化学療法としてCR-CHOP(リツキシマブ,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン)療法を開始した.治療開始C4週間後に視力は右眼(0.9),左眼(0.9)まで改善し,結膜浮腫は消失し(図1b),OCTで両眼の脈絡膜肥厚や右眼のCSRDの改善がみられた(図2e,f).R-CHOP療法をC4クール施行し,治療開始C3カ月後には全身のリンパ節腫脹は縮小,sIL-2Rも579CU/mlまで低下した.しかし,4カ月後のCMRIでCCNS病変が出現しCR-MPV(リツキシマブ,メトトレキサート,オンコビン,プロカルバジン)療法を開始した.5カ月後診察時は両眼(1.0),眼窩軟部影の再燃,SRDおよび脈絡膜肥厚は認めず(図1d),前房水CIL-10:20Cpg/mlと眼病変再燃はみられなかった.しかし,治療開始C6カ月以降にCCNS病変の拡大により脳室圧迫が進行(図3b),CNS病変に対する放射線治療が追加されるも意識障害の出現と全身状態の急激な悪化のため治療開始C7カ月後に死亡した.CII考察本症例はCRAに対するCMTX導入C3カ月後に全身病変とともに原田病類似の眼病変が同時期に出現した患者であった.本症例では初診時の全身状態が不良のため硝子体生検や結膜生検が施行できず細胞診による眼疾患の診断は不可能であったが,前房水CIL-10/IL-6比がC1を超えていたこと,化学療法により早期に眼内病変および結膜病変も改善したこと,前房水中のCIL-10濃度が正常化したことから眼症状もCMTX-LPDに伴うものと考えられた.また,過去のCMTX-LPDに伴う眼病変では全身病変と合併した報告はなく,本症例は,MTX-LPDの全身病変と眼病変を同時期に発症したまれな一例と考えられる.MTX-LPDの発症年齢中央値はC65.70歳,RAの罹病期間中央値はC10年以上,MTXの服用期間中央値はC5.10年とされているが,本症例のようにCMTX内服開始後数カ月で発症することもあり8),MTX服用期間にかかわらずCRAに対しCMTX服用中の患者では常にCMTX-LPDの発症リスクを考え,疑わしい場合には本症例のようにリンパ節生検を行い確定診断することが重要である.本症例の眼病変は脈絡膜肥厚とCSRDを伴っており原田病が鑑別疾患としてあげられる.全身状態として発熱や倦怠感があったものの,原田病に特徴的な頭痛,難聴,皮膚症状はみられず,化学療法中もプレドニゾロンの増量なく眼病変は改善しており,症状や経過から原田病とは一致しないと考えられた.プレドニゾロンの投与歴やCOCT所見からは中心性漿液性網脈絡膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC)の可能性も考えられるが,結膜浮腫や前房内炎症の眼随伴所見が一致せず,化学療法で脈絡膜肥厚も含め眼病変が改善していることからCCSCも否定的と考えられた.眼科領域におけるCMTX-LPDの報告は少ないが,本症例は頸部リンパ節の生検の結果,DLBCLであったことから,DLBCLが約C95%を占める眼内リンパ腫(intraocularClym-phoma:IOL)と類似した病態であることが予想される.IOLでみられる所見は硝子体混濁(91%)や網膜下の腫瘤性病変(57%)が多く,虹彩炎(31%),角膜後面沈着物(25%),網膜血管炎(10%)など多彩であるが9),原田病に類似したCSRDや脈絡膜肥厚を伴う症例はCFukutsuらの報告を含む数例のみである10).Soneら7)は硝子体混濁が主体とするMTX-LPDの眼内病変に対して硝子体手術とCMTX休薬で軽快した症例を報告しており,MTX-LPDにおいてもさまざまな眼所見や経過を呈する可能性がある.IOLでみられるSRDや脈絡膜肥厚のメカニズムは明らかではないが,Chanら11)はCIOL眼の脈絡膜生検の結果として網膜と網膜下に悪性リンパ腫細胞,脈絡膜にはCT細胞が存在すること,このT細胞は腫瘍細胞に対する免疫反応を反映し,T細胞の増加が脈絡膜間質の面積の増加に寄与していると考えられることを報告している.一方,リンパ腫細胞の脈絡膜浸潤の可能性も否定されておらず,Fukutsuら10)はCIOLにおいても腫瘍細胞による脈絡膜肥厚と循環障害がCSRD出現に関与していると推測している.以上のことから本症例においても脈絡膜における炎症性細胞もしくはリンパ腫細胞の急激な浸潤による脈絡膜肥厚と脈絡膜循環障害によりCSRDが生じた可能性が考えられる.MTX-LPDの機序は不明な点も多いが,RAなどの自己免疫疾患による慢性炎症やCMTXの投与によるリンパ増殖抑制機能低下がCLPD発症に関与すると考えられている.また,EBVの関与も指摘されており,MTX投与による免疫抑制がCEBVを再活性化することでリンパ増殖をきたすとされ,MTX-LPD患者のC60%がCEBV陽性である12).MTX-LPDを疑った場合は,MTXを休薬することで約C2/3の患者で病変は自然退縮するが,自然退縮が得られなかった症例では化学療法が行われる.徳平ら13)はCDLBCL群では非退縮率が高い傾向にあり,またCMTX-LPD発症時のCCRP,LDH,sIL-2Rが高い群(平均値CCRP5.6Cmg/dl,LDH403.5CIU/l,CsIL-2R3,100CU/ml)では非退縮例が多いと報告している.本症例ではCMTXを休薬するも全身状態悪化とCsIL-2Rのさらなる上昇がみられたため化学療法を行った.化学療法により眼内病変や結膜病変はC1カ月以内に消失し視力の改善も得られたが,4カ月後にCCNS病変が出現し,7カ月後にCCNS病変増悪のため死亡した.EBV陽性であったことからMTX-LPDの発症リスクを有し,また組織型のCDLBCLと初診時のCCRP,LDH,sIL-2Rの値が大幅に非退縮群の平均値を上回っていたことから予後不良群であったと考えられる.IOLではC16%の症例で眼病変の診断時にCCNS病変の既往があり,眼病変の診断時にはCCNS病変を伴わない症例においても,経過中にCCNS病変を発症する症例も多く,眼病変とCCNS病変は前後して発症することが多い9).同様に眼病変を伴うCMTX-LPDではCCNS病変を後に発症する可能性があるため,経過観察中CCNS病変の出現に注意する必要があると考えられる.今回筆者らは,MTX服用中に原田病類似の眼病変および全身のリンパ腫病変を生じたC1例を経験した.MTXを休薬するも改善なく,化学療法で眼病変は改善したものの半年後に発症したCCNS病変により不幸な転帰をたどった.MTX-LPDでは原田病類似の眼病変を合併する可能性があり,MTX服用中のCRA患者で原田病に似た病変を呈する患者では,MTX-LPDを鑑別疾患にあげる必要があると考えられた.利益相反:日下俊次[F]参天製薬千寿製薬文献1)EllmanCMH,CHurwitzCH,CThomasCCCetal:LymphomaCdevelopingCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritisCtakingClowCdoseCweeklyCmethotrexate.CJCRheumatolC18:1741-1743,C19912)SwerdlowCSH,CCampoCE,CHarrisCNLCetal(eds):WHOCclassi.cationCofCtumoursCofChaematopoieticCandClymphoidCtissues.WHOclassi.cationoftumours,4thedition,volume2,IRAC,2008C3)SwerdlowCSH,CCampoCE,CHarrisCNLCetal(eds):WHOCclassi.cationCofCtumoursCofChaematopoieticCandClymphoidCtissues.WHOclassi.cationoftumours,revised4thedition,Volume2,IRAC,20174)TokuhiraM,SaitoS,OkuyamaAetal:Clinicopathologicinvestigationofmethotrexate-inducedlymphoproliferativedisorders,CwithCaCfocusConCregression.CLeukCLymphomaC59:1143-1152,C20185)UnedaCA,CHirashitaCK,CKandaCTCetal:PrimaryCcentralCnervousCsystemCmethotrexate-associatedClymphoprolifera-tivedisorderinapatientwithrheumatoidarthritis:casereportandReviewofLiterature.NMCCaseRepJC7:121-127,C20206)KobayashiCY,CKimuraCK,CFujitsuCYCetal:Methotrexate-associatedorbitallymphoproliferativedisorderinapatientwithCrheumatoidarthritis:aCcaseCreport.CJpnCJCOphthal-molC60:212-218,C20167)SoneK,UsuiY,FujiiKetal:Primaryintraocularmetho-trexate-relatedClymphoproliferativeCdisorderCinCaCpatientCwithCrheumatoidCarthritisCundergoingClong-termCmetho-trexateCtherapy.COculCImmunolCIn.ammC29:456-459,C2021C8)BurgCMR,CSchneiderSW:EarlyConsetCofCmethotrexate-associatedClymphoproliferativeCdisorderCmimickingCHodg-kin’slymphoma.HautarztC73:71-74,C20229)KimuraCK,CUsuiCY,CGotoCHCetal:ClinicalCfeaturesCandCdiagnosticCsigni.canceCofCtheCintraocularC.uidCofC217CpatientsCwithCintraocularClymphoma.CJpnCJCOphthalmolC56:383-389,C201210)FukutsuCK,CNambaCK,CIwataCDCetal:Pseudo-in.am-matoryCmanifestationsCofCchoroidalClymphomaCresemblingCVogt-Koyanagi-Haradadisease:caseCreportCbasedConCmultimodalimaging.BMCOphthalmolC20:94,C202011)ChanCC:MolecularCpathologyCofCprimaryCintraocularClymphoma.CTransCAmCOphthalmolCSocC101:275-292,C200312)IchikawaCA,CArakawaCF,CKiyasuCJCetal:Methotrexate/CiatrogenicClymphoproliferativeCdisordersCinCrheumatoidarthritis:histology,CEpstein-BarrCvirus,CandCclonalityCareCimportantCpredictorsCofCdiseaseCprogressionCandCregres-sion.EurJHaematolC91:20-28,C201313)徳平道英,木崎昌弘:臨床的視点から理解するメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患.臨床血液C60:932-943,C2019C***

基礎研究コラム:70.ミクログリアと眼の関係

2023年3月31日 金曜日

ミクログリアと眼の関係ミクログリアとはミクログリアとは,神経回路の恒常性を保つ中枢神経系グリア細胞の一種で,自然状態では中枢神経内において唯一の免疫担当細胞です.中枢神経疾患においては,脳梗塞後の炎症,変性疾患,腫瘍,外傷,虚血性脳障害に関与しているといわれています.眼科領域においては網膜の自然免疫環境を制御し,網膜の定常状態の維持に重要な役割を果たしているといわれています.眼内(網膜内)におけるミクログリアはゲートキーパーとして機能し,炎症,変性,虚血性網膜症などの組織の変化を検出し,サイトカインなどを分泌して病態変化に重要な役割を果たしており,加齢性黄斑変性,ぶどう膜炎,緑内障,網膜変性などの病態に関与しています.一方,ミクログリアの定常状態・疾患状態での機能は未だ十分に解明されていません.これまでに報告されていることとしては,ミクログリアは,炎症を増悪させる機能と,免疫寛容にかかわり,炎症を抑制する相反する機能があります.眼におけるミクログリアの発生ミクログリアは発生期に卵黄.で発生し,血流を介して中枢神経系(脳など)へ移動し,血液脳関門などの血管系の完成とともに外界と隔離され,生着すると報告されています1).マウスの眼においては,ミクログリアは血管発生とともに網膜内で増加・移動します.その一方,血管発生前にもごく少数のミクログリアが存在することが報告されています(図白木暢彦大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室C1)2).そこで筆者らのグループは,眼局所に眼の一部の免疫系が自然発生してくる可能性があるのではないかと着想しました.ヒト幹細胞を用いた眼オルガノイドCself-formedecto-dermalCautonomousmulti-zone(SEAM)法にて免疫系細胞を探索した結果,眼オルガノイド内に血流を介さず局所にミクログリア様細胞が出現してくることがわかりました3)(図2).そして,このミクログリアは,眼のマスター遺伝子であるCPAX6を発現している,PAX6陽性のミクログリアでした.今後の展望本研究は,従来の仮説である卵黄.から脳や眼に血流を介して移動し生着するという仮説を補完し,眼を含む中枢神経系の局所に自然に局所的に発生してくるミクログリアと卵黄.から移動するミクログリアのC2種類がある,という可能性を示唆します.これは,先述した相反する機能の理由を説明することができる可能性があるという点からも,非常に画期的な発見です.この新規免疫細胞を検討することで,加齢性黄変性,ぶどう膜炎,緑内障,網膜変性などの眼疾患の画期的な治療法,すなわち新規薬剤探索,ヒト人工多能性幹細胞(hiPS)細胞由来の細胞移植,病因探索などを開発できる可能性があると考えております.文献1)GinhouxF,LimS,Hoe.elGetal:Originanddi.erentia-tionofmicroglia.FrontCellNeurosciC7:45,C20132)LiCF,CJiangCD,CSamuelMA:MicrogliaCinCtheCdevelopingCretina.NeuralDevC14:12,C20193)ShirakiN,MaruyamaK,HayashiRetal:PAX6-positivemicrogliaCevolveClocallyCinChiPSC-derivedCocularCorgan-oids.StemCellReportsC17:221-230,C2022図2眼オルガノイドにおけるミクログリアヒト幹細胞由来の眼オルガノイドには,ミクログリアが存在している.(99)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.40,No.3,2023C381

硝子体手術のワンポイントアドバイス: 238.真の鋸状縁断裂に対する硝子体手術(初級編)

2023年3月31日 金曜日

238真の鋸状縁断裂に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに一般に巨大裂孔は,硝子体基底部の後縁に沿って網膜硝子体牽引が作用することにより形成される.その結果,鋸状縁部には網膜の一部が残存することが多い.一方,鈍的外傷による鋸状縁断裂は,硝子体基底部内で裂孔を形成することが多く,このタイプは裂孔縁の翻転や網膜.離は合併しにくいことが報告されている1).硝子体基底部内裂孔のなかでも,感覚網膜と毛様体無色素上皮自体が解離するタイプは真の鋸状縁断裂とよばれることがある2).筆者らは鈍的外傷により真の鋸状縁断裂を2カ所に発症したが,網膜.離を合併せず,単純硝子体切除で治癒した1例を経験し報告したことがある3).●症例提示67歳,男性.左眼眼球打撲による前房出血と硝子体出血をきたし,硝子体手術を施行した.前房洗浄後に上方と下方の虹彩離断を認めた.超音波水晶体乳化吸引術を施行したが,Zinn小帯が広範囲に断裂しており眼内レンズは挿入しなかった.続いて硝子体切除術を施行したところ,4時~7時および10時~1時の範囲にわたって鋸状縁断裂を認めた(図1).断裂部は感覚網膜と毛様体無色素上皮が解離しており,辺縁の網膜には網膜硝子体牽引を示唆する所見は認めず,網膜.離の合併もなかった.眼球の高度の変形により,鋸状縁部が接線方向に伸展することで生じた真の鋸状縁断裂と考えられた.硝子体切除後に眼内光凝固および輪状締結術を行い,ガスタンポナーデは施行せず手術を終了した.術3カ月後に眼内レンズ毛様溝縫着術および虹彩整復術を施行し,矯正視力は(0.7)に改善した.●真の鋸状縁断裂の臨床的特徴Hahlerらは,硝子体基底部内裂孔をその位置により硝子体基底部内毛様体扁平部裂孔,鋸状縁断裂,硝子体(97)0910-1810/23/\100/頁/JCOPYab図1硝子体手術中の所見下耳側(a)および上鼻側(b)にかけて約90°の鋸状縁断裂を2カ所認める.裂孔縁の翻転や網膜.離は認めなかった.(文献3より引用)図2鋸状縁断裂の発症機序硝子体基底部後縁裂孔の発症には硝子体牽引が関与する(a)が,真の鋸状縁断裂の発症には網膜の接線方向の牽引が関与する(b).(文献3より引用)基底部内網膜裂孔に分類している1).厳密にいうと,鋸状縁断裂は基底部内毛様体扁平部裂孔,基底部内網膜裂孔,硝子体基底部前縁裂孔,硝子体基底部後縁裂孔とは区別されるべきであるが,従来の報告ではこれらが混同されていることが多い.硝子体基底部後縁裂孔の発症には硝子体牽引が関与するが(図2a),硝子体基底部内裂孔は硝子体牽引の関与が少なく,真の鋸状縁断裂は構造上脆弱な感覚網膜と毛様体無色素上皮との境界が解離するもので,裂孔の前後縁に硝子体が付着し,裂孔縁の翻転や網膜.離の合併は少ないとされている(図2b).しかし,真の鋸状縁断裂において網膜.離が発症したとする報告もみられるため2),光凝固に加えてガスタンポナーデや輪状締結術の併施も必要に応じて考慮すべきである.文献1)HaglerWS,NorthAW:Retinaldialysisandretinaldetachment.ArchOphthalmol79:376-388,19682)小沢洋子,石田晋,篠田啓ほか:外傷による真の鋸状縁断裂に網膜.離を伴った1症例.あたらしい眼科15:725-728,19983)角南健太,家久来啓吾,森下清太ほか:鈍的外傷により巨大鋸状縁断裂を形成するも網膜.離をきたさなかった1例.眼科手術28:647-650,2015あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023379

考える手術:15.涙道内視鏡手術

2023年3月31日 金曜日

考える手術⑮監修松井良諭・奥村直毅涙道内視鏡手術後藤聡涙道手術のゴールデンスタンダードである涙.鼻腔吻合術は100年以上の歴史があり,鼻内・鼻外によらず世界標準となっている.涙道内視鏡は1979年にCohenが報告したものの,わが国に登場したのは2002年であった.涙道内視鏡用のマイクロスコープの開発とともに,わが国では涙道内視鏡併用涙管チューブ挿入術(lacrimalendoscopicintubation:LEI)が独自の発展を遂げてきた.LEIのポイントは,①涙道内視鏡検査,②閉塞部の解除,③涙管チューブ留置,④確認のための涙道内視鏡検査である.①は内視鏡による涙道の観察scopepuncture(SEP)がある.涙道内視鏡の破損や仮道形成を避けるために発展した.③は涙管チューブを正確に涙道に留置するための方法として,sheathguidedintubation(SGI),後藤式SGI,lidocainejellyexpandedintubation(LJEI)などが開発された(表1).④のチューブ留置後の観察も重要である.チューブの留置状況をみて仮道形成がないことを確認すると同時に,症状の改善のために狭窄部位を開放する.術直後に涙道がもっとも開放・拡張された状況にすることが大切である.聞き手:流涙患者の治療には,チューブ挿入と考えてよかし,LEI(動画1)の術後1年の成功率(通水検査で症いでしょうか?状が消失している割合)は,私の施設では90%となっ後藤:流涙の6割が涙道原性,4割が涙道以外の眼表面ており,一般的な盲目的チューブ挿入より高い成功率で疾患,眼瞼疾患などによるとされています.原因が涙道す.また,閉塞の部位・状態の確認,再閉塞の状態を把であれば涙道内視鏡併用涙管チューブ挿入術(LEI)で治握することで自分の手術の癖,手術適応の考察など,手る可能性がありますが,他の原因のチェックも必要です.術成績の改善以外にも得られる情報は多いと考えます.聞き手:盲目的チューブ挿入で多くが治るように感じま聞き手:上下涙小管閉塞や涙.炎既往例はLEIの術後すが,涙道内視鏡を使う必要はあるでしょうか?成績が悪いと聞きます.治療成績を上げるコツはなんで後藤:盲目的なチューブ挿入で手術成績がよい場合は,すか?あるいは手術適応はどのようなものですか?あえて涙道内視鏡を使う必要はないかもしれません.し後藤:コツはLEI後にしっかり涙道を拡げ,涙道と(95)あたらしい眼科Vol.40,No.3,20233770910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術チューブの間にスペースを確保することです.また,適応ですが,1年後の疎通率は慢性涙.炎後では9割くらいと良好ですが,急性涙.炎後では4割が1年以内に再閉塞します.このため,急性涙.炎では説明の際に涙.鼻腔吻合術の成功率も伝え,患者さんにLEIか涙.鼻腔吻合術を選択してもらいます.急性涙.炎以外の第一選択は基本的にLEIにしています.聞き手:涙道内視鏡で涙小管の観察がうまくできません.後藤:涙.鼻涙管の観察と比較して,涙小管観察はより涙道内視鏡操作の技術が必要です.むずかしさの理由は,涙小管が可動性ある眼瞼内を走行することと,涙.鼻涙管に比べ内径が狭いためだと思います.涙小管観察ができないと涙小管閉塞に対処できません.涙道内視鏡は先端が粘膜に触れると観察できないので,眼瞼を外側に引っ張り,解剖学的な涙小管の走行,眼瞼を引っ張る方向,涙道内視鏡の方向を同一軸に合わせる必要があります(図1)(動画2).また,涙道内視鏡があれば涙道を余すところなく観察できるわけではなく,どうしても見えない箇所が存在するケースも存在します.聞き手:シースは使ったほうがいいですか?後藤:より良い観察・治療のためにも18G血管留置針を使用したシースを装着して涙道内視鏡を使用することをお勧めします.涙道の狭窄・屈曲部を進むためにシースを先に出してから涙道内視鏡を進める方法があります(ZOOMtechnic).聞き手:涙道内視鏡手術はどれくらいやれば巧くなりますか?後藤:ほかの手術もそうですが,手術をどのレベルにもっていくかで異なります.よい指導者にアドバイスをもらいながら手術をしていけば,観察力の鋭い人で100件程度,そうでない人でも300件程度で,問題なく手術を完遂できるレベルになると思います.聞き手:涙道内視鏡をマスターするために一番大切なポイントはなんですか?後藤:ずばり,よく観察することです.たとえば内総涙点に入るときに前回は見逃してしまったとしたら,「今回はしっかり見る!」という意識をもって見るようにするといいと思います.そしてできるだけ見えていない時間を減らすように意識してください.涙道内視鏡は当初は3,000画素でしたが,最近は15,000画素や20,000画素に改良されてきました.私もいまだに毎日発見の連続です.最初はなんとなく涙道内を見て,なんとなくチューブを入れて,なんとなく治ったり治らなかったりということもあると思います.しかし,丁寧に観察すると,どのような症例が治ってまた治らないのか術中に推測できるようになっていきます.表1涙道内視鏡併用涙管チューブ挿入術の用語directendoscopepuncture(DEP):涙道内視鏡のプローブで直接閉塞部位を開放する方法.sheath-guidedendoscopepuncture(SEP):プローブに被せたシースで閉塞部位を開放する方法.柔らかいシースで閉塞部位を開放するため,仮道をつくりにくい.sheath-guidednon-endoscopicpuncture(SNEP):硬い閉塞の場合はシースでは開放できないため,涙管ブジーに入れ替えて閉塞を解除する方法.sheathguidedintubation(SGI):シースにチューブを連結して,鼻内視鏡を使用してチューブを留置する方法.G-SGI(SGI後藤式):鼻内視鏡なしでチューブ留置するSGI.lidocainejellyexpandedintubation(LJEI):リドカインゼリーを使ってチューブを留置する方法.378あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023(96)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性:ブロルシズマブ切り替え成績

2023年3月31日 金曜日

●連載◯129監修=安川力髙橋寛二109加齢黄斑変性:コンソルボ上田朋子富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座ブロルシズマブ切り替え成績滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対する治療は,抗CVEGF薬硝子体内注射が第一選択となっているが,患者によって治療効果が異なり,なかには短期間で再発を繰り返す症例や治療抵抗性の症例もある.本稿では,そのような症例のブロルシズマブ切り替え成績と眼内炎症発生後の経過について概説する.ブロルシズマブ切り替え効果ブロルシズマブはヒト化一本鎖抗体フラグメントであり,分子量が約C26CkDと非常に小さく眼組織への移行性が高い.また,溶解性も高いためモル換算でラニビズマブの約C22倍の投与量となり,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)への高い効果と効果の持続が期待される.第CIII相試験であるCHAWK&HARRIER試験では,アイリーアに対するブロルシズマブの非劣性が示され,半数以上の症例で治療間隔がC12週であった1).当院では,アフリベルセプトからブロルシズマブへ切り替えたCtreatCandextendレジメンで加療中のC1型黄斑新生血管(macularneovascularization:MNV)症例19例C19眼と,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCa1型MNV(n=19)16choroidalvasculopathy:PCV)症例C22例C23眼の,切り替え後C18カ月間の臨床経過を後ろ向きに検討した2).その結果,1型CMNVの治療間隔はC7.4±1.4週からC11.6C±2.6週に延長され(p<0.001),PCVではC6.9±1.3週からC11.7±3.1週に延長された(p<0.001).また,1型MNVでは新生血管の小さな症例ほど治療間隔が長く,PCVではポリープ数の少ない症例ほど治療間隔が長くなった(図1).このような強い相関関係はブロルシズマブ以前の抗CVEGF薬ではみられず,ブロルシズマブ切り替え効果を予測できる可能性が示唆され,今後さらに多数例・長期間での検討が待たれる.ブロルシズマブ投与後の眼内炎症発生後の経過ブロルシズマブ投与後の眼内炎症は,HAWKC&HARRIER試験ではC5.6%(1,088眼中C60眼)で発生し,CbPCV(n=23)16ブロルシズマブ投与間隔(週)ブロルシズマブ投与間隔(週)1284128400新生血管の大きさ(mm2)ポリープ数図11型黄斑新生血管(MNV)およびポリープ状脈絡膜血管症(PCV)でみられたブロルシズマブ投与間隔との相関関係a:1型CMNVでは,ブロルシズマブ投与間隔と新生血管の大きさの間に負の相関関係があった(r=-0.81;p=0.0002).b:PCVではブロルシズマブ投与間隔とポリープ数の間に負の相関関係があった(r=-0.81;p=0.0016).051015048(93)あたらしい眼科Vol.40,No.3,20233750910-1810/23/\100/頁/JCOPYa:切り替え前b:Switchback後1年図21回目のブロルシズマブ投与後に眼内炎症が生じた症例(自験例)67歳,男性.a:アフリベルセプトC8週間隔で滲出(.)がみられた.RV=(0.2).b:ブロルシズマブ切り替え後に眼内炎症がみられ,アフリベルセプトへCswitchbackした.そのC1年後,投与間隔はC12週まで延長された.RV=(0.5).網膜色素上皮の隆起は平坦化し,ポリープ内の血流情報はみられなくなった(.).網膜血管閉塞はC2.1%で発生した3).眼内炎症が進行する前の早期発見,早期治療(0.1%ベタメタゾン点眼やトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射)を行うために,投与前の患者への説明と投与後の注意深い経過観察が不可欠である.眼内炎症が残存した状態でCAMDに対する他剤投与を行うと,炎症が再燃し網膜血管閉塞に進展する危険性がある4).一方,眼内炎症が発生した場合でも,ブロルシズマブ切り替えによるCAMDへの効果は持続する.さらに,眼内炎症後CAMDが再燃し,元の抗CVEGF薬へCswitchbackした場合も,治療間隔は元の間隔よりも延長できることが少なくない.当院で経験した症例を図2に示す.眼内炎症後のCAMD再燃に対し,アフリベルセプトへCswitchbackしたが,治療間隔は元の間隔よりも延長され,1年後も滲出の改善が維持されていた.Awhらは,網膜下液や網膜内液が残存する症例や治療頻度が高い症例にブロルシズマブ切り替えを行い,ブロルシズマブを平均C1.78回(1~4回)投与したのち,元の抗VEGF薬へCswitchbackした.その結果,眼内炎症の発生した症例を含めC54%(41眼中C22眼)の症例で,滲出の改善が少なくともC6カ月間維持された5).このようなブロルシズマ切り替えによる滲出抑制効果がCswitchback後どれだけの期間持続するかは,今後の長期検討が必要である.C376あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023おわりに短期間で再発を繰り返す患者や治療抵抗性の患者に対するブロルシズマブ切り替えは,たとえ眼内炎症が発生したとしても,AMDの活動性が抑制され,のちに良好なコントロールが得られる可能性がある.眼内炎症の早期発見と早期治療が大前提であるが,長期にわたって治療を継続しなければならない患者にとって,ブロルシズマブ切り替えは大切な選択肢の一つである.文献1)DugelCPU,CKohCA,COguraCYCetal:HAWKCandCHARRI-ER:Phase3,multicenter,randomized,double-maskedtri-alsCofCbrolucizumabCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC127:72-84,C20202)Ueda-ConsolvoCT,CTanigichiCA,CNumataCACetal:Switch-ingtobrolucizumabfroma.iberceptinage-relatedmacu-larCdegenerationCwithCtypeC1CmacularCneovascularizationCandCpolypoidalCchoroidalvasculopathy:anC18-monthCfol-low-upCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC261:C345-352,C20233)MonesCJ,CSrivastavaCSK,CJa.eCGJCetal:RiskCofCin.amma-tion,retinalvasculitis,andretinalocclusion-relatedeventswithbrolucizumab:posthocreviewofHAWKandHAR-RIER.OphthalmologyC128:1050-1059,C20214)WitkinCAJ,CHahnCP,CMurrayCTGCetal:OcclusiveCretinalCvasculitisfollowingintravitrealbrolucizumab.JVitreoretinDisC4:269-279,C20205)AwhCCC,CDavisCEC,CThomasCMKCetal:Short-termCout-comesCafterCinterimCtreatmentCwithbrolucizumab:aCret-rospectivecaseseriesofasinglecenterexperience.RetinaC42:899-905,C2022(94)

緑内障:クロックチャートとその有用性

2023年3月31日 金曜日

●連載◯273監修=福地健郎中野匡273.クロックチャートとその有用性江浦真理子近畿大学医学部眼科学教室「クロックチャート」は緑内障患者に自己の視野異常を自覚させるための視野自己チェックシートである.非常に簡便な手法であるが,緑内障患者に自己の視野異常を確実に自覚させることができ,今後,自動車免許更新時や高齢者講習における視野異常チェックツールとしての応用も検討されている.個のアC4(ネコ)のC°52,(チョウ)C°02,シ)●はじめに緑内障は病期が進行するまで自覚症状に乏しく,診断時にはかなり視野障害が進行していることが多い.緑内障患者に自分の視野異常を確実に自覚させることは,スクリーニングによる疾患の早期発見のみならず,点眼指導や手術導入におけるアドヒアランスの向上,自動車運転をはじめ,さまざまな社会的リスクの回避の面からもきわめて重要であると考える.本稿では,自己の視野異常を自覚させるために近畿大学医学部眼科学教室のチームが開発した視野自己チェックシート「クロックチャート(CLOCKCHART)」について述べる.C●緑内障患者が視野異常を自覚しにくい理由緑内障患者が視野異常を自覚しにくい要因としては,中枢レベルでの補.現象(.lling-inphenomenon)のほかに,日常では視野検査条件とは異なり,両眼開放下で視覚情報処理を行っていること,眼球運動や頭位の変換をすることにより視野異常部位をカバーしていることなど,さまざまな理由が関係している1).C●クロックチャートクロックチャートは,新聞紙面を用いた視野自己チェックシートとして開発された(図1)2).検査視標として,10°(テントウムシ),15°(イモムシ),20°(チョ図1クロックチャートa:片眼を遮蔽し,中心の赤い点を固視し,Ca用紙との距離を変えていく.イモムシが消える距離で,チャートを時計のようにC15oずつ回転させ,常にC4個の視標が消えていないかを自己チェックする.b:検査視標として,10°(テントウムシ),15°(イモムウ),25°(ネコ)のC4アイテムが配置されている.また,中心C5°にはアムスラーチャートとその周りにヒマワリの花びらが配置されており,黄斑疾患を含めた固視点近傍の視野障害にも対応している.検査方法は,まず被検者が自分の片手で非測定眼を遮蔽し,中心の赤い点を固視する.チャートとの距離を変えていくと,用紙から30~40cmの距離でイモムシがC15°のCMariotte盲点に一致し消えるところがある.この検査距離を保ちつつ,チャートをC15°ずつ時計のように回転させ,常にC4個の視標が見えるかどうかを確認していく.チャートをC360°回したあと,中心のヒマワリの花びらに欠けがないか,格子に歪みがないかを確認し,他眼も同様に行う.クロックチャートと静的視野検査の一致率は,緑内障初期(91%),中期(96%),進行期(96%)である.具体的な症例を図22)に示す.2009年に全国で新聞広告にてC3日間クロックチャートをC6,245万枚配布し,WEB上でも公開した.インターネットによる調査で,クロックチャートを認知した人が約C1,472万人,実際に使用した人が約C758万人,異常を自覚した人がC49万人,病院を受診した人がC33万人,緑内障と診断された人が3万人であった3).C●両眼クロックチャートクロックチャートの応用として,運転免許更新時におイテムが配置されている.中心C5°にはアムスラーチャートとその周りにヒマワリの花びらが配置されている.(文献C2より引用)(91)あたらしい眼科Vol.40,No.3,20233730910-1810/23/\100/頁/JCOPYaクレースケールComparison(オクトパス)(オクトパス)クロックチャート図2クロックチャートの症例自動視野計オクトパス(ハーグストレイト社)による静的視野検査結果とクロックチャートの結果をC25比較した.Ca:左眼正常眼圧緑内障のC61歳,男性.静的視野検査では固視部上方にわずかな感度低下を認める.クロックチャートでCbも同部位の初期の視野異常を検出できている.Cb:左眼開放隅角緑内障のC58歳,男性.静的視野検査では鼻側上方に感度低下が認めC25られる.クロックチャートでも静的視野と類似した視野変化を検出することができている.Cc:左眼cける視野異常の自己チェックを目的に,両眼クロックチャート(図3)が開発された4).わが国における普通運転免許取得基準は,視力の条件として両眼でC0.7以上,かつ片眼でそれぞれC0.3以上が必要と規定されている.片眼の視力がC0.3に満たない者のみ視野検査が実施され,視力が良いほうの眼の視野が左右C150°以上必要とされている.運転免許センターにおける視野検査は水平視野計で測定されているが,この検査で不合格となることは非常に少ないのが現状である.両眼クロックチャートはオリジナルのクロックチャートをさらに簡略化し,用紙からC30Ccmの距離で,両眼開放下で中心の赤い点を固視しながらハンドルを回すように用紙をC30°ずつ360°回転させ,10°(子ども),15°(自転車),20°(車),C25°(信号)のC4個の視標が消えないかをチェックしていく.非常に簡便な手法であるが,両眼開放下でも存在すC374あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023開放隅角緑内障のC67歳,男性.静的視野検査では上下の感度低下を認め,進行期の症例である.クロックチャートでもほぼ一致したC25進行した視野異常を検出することができている.(文献C2より改変引用)図3両眼クロックチャートa:運転免許更新時における視野異常の自己チェックシートとして開発された.両眼開放下にハンドルを回すように用紙をC30°ずつ回転させ,4個の視標が消えないかをチェックする.Cb:検査視標として,10°(子ども),15°(自転車),20°(車),25°(信号)のC4個のアイテムが配置されている.(文献C4より引用)る,運転や日常生活に支障をきたす重度の視野異常を,明確に自覚させることができる.警察庁の高齢者講習において視野異常を自覚させるツールとしての応用も検討されている.文献1)江浦真理子:視野異常の自己チェック.OCULISTAC110:C27-32,C20222)MatsumotoCC,CEuraCM,COkuyamaCSCetal:CLOCKCCHARTR:aCnovelCmulti-stimulusCself-checkCvisualC.eldCscreener.JpnJOphthalmol59:187-193,C20153)松本長太:緑内障と視野に魅せられたC37年.あたらしい眼科38:1051-1063,C20214)IshibashiCM,CMatsumotoCC,CHashimotoCSCetal:UtilityCofCCLOCKCCHARTCbinocularCeditionCforCself-checkingCtheCbinocularvisual.eldinpatientswithglaucoma.BrJOph-thalmol103:1672-1676,C2019(92)

屈折矯正手術:屈折矯正白内障手術

2023年3月31日 金曜日

●連載◯274監修=稗田牧神谷和孝274.屈折矯正白内障手術渡邊敬三南大阪アイクリニック屈折矯正白内障手術は,患者の術後のライフスタイルを重視し,より快適に過ごしてもらうために行われる白内障手術と言い換えることができる.患者の生活によりそった眼内レンズ選択と,白内障手術にかかわる技術的革新を利用した正確な手術を行うことが求められている.望の術後CSEを選択することが求められる.C●はじめにIOLの種類および術後CSEの選択にあたっては,術前白内障手術は多焦点眼内レンズ(intraocularlens:の患者の生活スタイルを詳細に聴取することが重要で(一IOL)の登場以来,手術を受けたあとの生活の質の向上部抜粋),希望するCIOL・術後CSEにおけるメリットとデがより期待できるようになり,屈折矯正の意味合いが大メリットを詳細に説明している.きくなってきた.一方で,多焦点CIOLに限らず単焦点最近では保険適用内で使用可能なレンティスコンIOLを使用した白内障手術においても,術後屈折精度のフォート(参天製薬)およびテクニスアイハンス(AMO向上に伴い,患者の期待値が上がってきたこともあり,社)が登場し広く使用されているが,患者の期待値が非術後不満症例が多くなってきたように感じている.単焦常に高い場合があり,メリットに対しデメリットを大き点・多焦点CIOLを問わず患者満足度の高い屈折矯正白く感じてしまう患者も少なくないため,術前説明を丁寧内障手術を成功させるポイントについて述べる.に行う必要性を感じている.C●術前検査●屈折精度角膜および眼軸長の正確な測定が基本かつ重要である術後屈折精度は術後満足度を大きく左右するものの,が,角膜計測においては従来から行われてきたレフケラ今後求められていく予測屈折誤差±0.25Dの精度は十分トメーターおよび眼軸長測定装置に加え,前眼部光干渉とはいえない1).断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)などを精度向上のためには眼軸長測定装置の最適化は必須で用いて角膜屈折力の測定誤差を確認することが,術後のはあるが,結果のバラつきを解消することは困難であ屈折精度を向上させるうえで重要である.また,角膜高る.当院では,2種の眼軸長測定装置を用いて測定誤差次収差の検出は,多焦点CIOLの使用可否決定に必須のを最小化し,最適化後のCA定数の変化に着目した患者ものと考える.眼軸長測定については,セグメントごとごとの屈折誤差の予測を行い,術中波面収差解析装置の屈折率の差を考慮した装置が実用化され,注目してい(ORASystem,アルコン社)を用いて,精度とバラつる.き対策を行っている.これらの対策により当院の屈折精度(図1)は飛躍的に向上し,バラつき(図2)についてC●眼内レンズ決定も抑制傾向にある.両眼手術の場合には同時手術は行わ多焦点CIOLの種類は多岐にわたり,メリット・デメないなどの対策を実施しながら,今後さらなる対策が必リットはレンズの種類により多様である.また,単焦点要と考えている.IOLを選択する場合においても,焦点距離を従来のようC●乱視矯正・残余乱視な遠方か近方かだけを患者に問うたり,近視だから近方に合わせるといった考えではなく,術後等価球面度数角膜乱視を軽減し,術後裸眼視力を向上させるために(sphericalCequivalent:SE)により遠見・近見視力が大トーリックCIOLが使用される.現在ではCBarrettToricきく異なること(たとえばCSE=0Dであれば遠方視力はCalculatorに代表されるさまざまな予測式が開発され,1.0となるがC50Ccm視力はC0.4になる.一方CSE=-0.5D角膜前後面乱視および惹起乱視を予測したうえでCIOLなら遠方C0.8,50Ccm0.6程度になる)をふまえた焦点距が選択され,良好な矯正効果が報告されている.一方,離の選択肢が存在することを患者に提示したうえで,希正確なレンズ固定は術後結果に大きく関与し2),手術室(89)あたらしい眼科Vol.40,No.3,20233710910-1810/23/\100/頁/JCOPY≧±0.25D≧±0.5D≧±0.75D≧±1.0D対策前対策後図1術後屈折誤差の対策前後の比較3カ月以上経過観察のできた白内障手術施行症例における術後屈折誤差の対策前(n=58)・対策後(n=142)の比較を示す.C±0.25D以内およびC±0.5D以内の割合が大きく改善している.で行うマニュアルマーキングは,イメージガイドシステムの使用と比較し,有意な軸ズレを生じる点に留意が必要である.また,ORASystemの術中測定に基づいて眼内レンズが選択された場合,残余乱視C0.5D以内の割合はC97.8%であったのに対し,術前検査結果のみでは80.3%であったという報告3)があり,眼球全乱視成分を検出するCORASystemの有用性についてさらなる検討が必要である.トーリックCIOLにより乱視矯正効果は向上したが,角膜乱視の矯正のみでは説明されない想定外の大きな残余乱視を経験することがある.近年,手術惹起乱視(surgicallyCinducedastigmatism:SIA)の合計変化量(totalSIA)の概念が提唱されているが,筆者の行ったノントーリックCIOL挿入眼における残余乱視の検討4)では,術後残余乱視と術前角膜前後面円柱度数やCIOLの偏心・傾斜には有意な相関がなく,術中波面収差測定による提示円柱度数および術後角膜前後面円柱度数のみが有意に相関する結果を得た.しかし,術中測定と術後角膜前後面のデータ間には相関がみられず,網膜などに起因する残余乱視について今後さらなる検討が必要であると考えている.C●術後不満対応術後不満の多くは,ひと言で表せば,患者のニーズに応えられていないということである.不満の種類はさまざまではあるが,術後屈折誤差や残余乱視による術後裸眼視力の低下によるものと,術前説明が不十分であることに基づくレンズ選択ミスと考えられるものに大別されると考えている.裸眼で見えるようにしたかった・すっきり見えない,といった不満は,屈折誤差の最小化と十分な術前説明によって減少させることが可能である.加えて術後結果を踏まえた不満への対応も忘れてはならない.患者の立場に立たない安易な発言には十分に注意すC372あたらしい眼科Vol.40,No.3,20231.000.800.600.400.200.00-0.20-0.40-0.60-0.80-1.00■Barrett(ARGOS)■Haigis(ARGOS)■ORA+ARGOS■SRK/T(ARGOS)図2各種計算式による予測屈折誤差の比較眼軸長測定装置CARGOS(santec)を使用してCSRK/T式,Barrett式,Haigis式で算出した予測値と,ARGOSとCORASystemを併用して算出した予測値について,それぞれ術後等価球面度数との誤差を示す.対象はC3カ月以上経過観察のできた白内障手術施行症例(n=180)である.ORASystemの併用により,術前計測単独に比べ,バラつきは抑制傾向である.SD:標準偏差べきである.C●おわりに今後さらに屈折矯正白内障手術が発展するためには,執刀医自身が術後屈折精度を適時振り返りながら屈折精度の向上に努めることに加え,IOLの選択肢を各医師の経験で取捨選択するのではなく,医師およびコメディカルスタッフが患者の生活状況をふまえたアドバイスを行い,患者とともに最適解を探すことが欠かせないと考えている.文献1)KamiyaK,HayashiK,TanabeMetal:Nationwidemulti-centreCcomparisonCofCpreoperativeCbiometryCandCpredict-abilityCofCcataractCsurgeryCinCJapan.CBrCJCOphthalmolC106:1227-1234,C20222)WebersCVSC,CBauerCNJC,CVisserCNCetal:Image-guidedCsystemCversusCmanualCmarkingCforCtoricCintraocularClensCalignmentCinCcataractCsurgery.CJCCataractCRefractCSurgC43:781-788,C20173)BlaylockJF,HallB:Astigmaticresultsofadi.ractivetri-focaltoricIOLfollowingintraoperativeaberrometryguid-ance.ClinOphthalmolC14:4373-4378,C20204)WatanabeK:EvaluationCofCrefractiveCaccuracyCofCORACandCtheCfactorsCimpactingCresidualCastigmCatismCinCpatientsimplantedwithtrifocalIOLsduringcataractsur-gery:ACretrospectiveCobservationalCstudy.CClinCOphthal-molC16:2491-2503,C2022(90)