———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI相対的瞳孔ブロック機序による閉塞隅角眼にLIは有効か?相対的瞳孔ブロック機序による原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)には,臨床的に急性型,慢性型およびその中間型として亜急性型または間欠型がある.緑内障視神経障害のない急性発作は,急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangle-clo-sure:APAC)とよぶが,相対的瞳孔ブロックにより後房に房水がうっ滞して後房圧が上昇し,虹彩が前彎して虹彩根部で広範囲にわたる隅角閉塞を起こし,房水の急激な流出障害とともに急激な眼圧上昇をきたす.一般的に,50歳以上の女性の遠視眼に多いとされる.自覚症状としては視力低下,霧視,虹視,眼痛に加え,頭痛,悪心,嘔吐を伴うため最初に内科を受診することもまれではない.APACが発症する数日前に何度か霧視を自覚して眼科を受診し,亜急性型原発閉塞隅角症(prima-ryangle-closure:PAC)で発見されることもある.他覚所見としては,浅前房,角膜浮腫,毛様充血,中等度散瞳などがあり,眼圧上昇は40~80mmHgに達する.片眼にAPACを発症した場合,5年以内に反対眼にもAPACを起こす確率は50~80%であり1),反対眼に対してはPASのない狭隅角眼(primaryangle-closuresuspect:PACS)であっても予防的LIを施行すべきであるとされてきた.アジア人ではAPACの反対眼に予防的LIを行った場合,経過中にAPACが発症したといはじめに閉塞隅角緑内障は,隅角閉塞により眼圧上昇をきたす疾患である.隅角閉塞をひき起こす機序には,一般的に相対的瞳孔ブロック機序とプラトー虹彩機序があげられる.しかしながら,アジア人では相対的瞳孔ブロック機序とプラトー虹彩機序の両方の関与で隅角閉塞が生じていることがまれではない.すなわち,瞳孔ブロックを解除する目的でレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)を行った後も虹彩前癒着(peripheralanteriorsyn-echiae:PAS)が進行する症例が存在する.加えてLIは,症例によっては水疱性角膜症という重篤な合併症をひき起こすことがわが国では問題となっている.一方,加齢とともに水晶体厚は増加するとともに前房深度や前房容積は減少することがすでに知られており,閉塞隅角眼での水晶体の存在は明らかに隅角を閉塞させる原因と考えられ,水晶体摘出は古くから閉塞隅角緑内障では有効な治療法であるとされてきた.超音波白内障手術機器や手術手技が進歩し,より安全確実に水晶体再建術が行えるようになった現在,閉塞隅角眼に対してLIを行うよりも水晶体再建術を第一選択と考える術者も増えはじめている.本稿では,閉塞隅角緑内障の病態を考えたうえで,第一選択となるのはLIかあるいは水晶体再建術かを再考してみたい.(31)????*YasumasaOtori:大阪大学大学院医学系研究科感覚器外科学(眼科学)〔別刷請求先〕大鳥安正:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科感覚器外科学(眼科学)特集●原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジあたらしい眼科24(8):1015~1020,2007原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術か水晶体再建術(PEA+IOL)か????????????????????????????????????????????????-????????????????:??????????????????????????????????(???+???)?大鳥安正*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007う報告はなく,約9割で眼圧上昇を予防できると報告されている2).すなわち,APACを発症したその反対眼に対するLIはAPACの発症を確実に予防できる処置(本来の意味での予防的LI)であり,EBM(evidence-basedmedicine)の確立された治療法であるとされている3).慢性型PACGは,急性型の既往がないものおよび急性型の既往があり,LIなどで瞳孔ブロックを解除できたものの眼圧コントロールが不安定であるものがあり,自覚症状なく経過することが多く,視野障害が進行していることもまれではない.また,急性型の既往がない場合には,ときに開放隅角緑内障と診断されていることもある.緑内障視神経障害をきたし眼圧上昇をきたしているPACGに対してLIを行った場合,観血的治療が必要となる確率は,急性型の既往がある場合には62.9%であり,急性型の既往がない場合には45.8%であると報告されている4).すなわち,慢性型PACGでは,LIによって薬物治療を含めて眼圧コントロールが得られる確率は約50%であり,行う場合には外科的治療の必要性を患者に十分説明しなければならない.慢性型PACGでは,PASが進行し眼圧の高い症例も多く,LIを行っても眼圧コントロールが悪いものと推測される.このことは,LIという手技があくまでも瞳孔ブロックを解除し,虹彩を平坦化させる手段であって,既存のPASの範囲を減少したり,隅角機能を再建する手技ではないことを証明しているのかもしれない.さらに,最近の報告では,後述するプラトー虹彩機序を合併しているPACGでは,LI後でもPASの進行が起こりやすいとされており5),慢性型PACGの治療方針を決める場合は,プラトー虹彩機序の関与がないかどうかを超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)で確かめておく必要がある.IIプラトー虹彩機序による閉塞隅角眼にLIは有効か?プラトー虹彩機序とは,虹彩根部の形態異常があり,虹彩根部が隆起しているため虹彩面は平坦で相対的瞳孔ブロック機序を伴っていないにもかかわらず散瞳すると虹彩根部が隅角を閉塞するものであり,厳密にはLIを施行し相対的瞳孔ブロック機序を完全に除去することが必要である.診断にはUBMが有用で,プラトー虹彩機序がある場合には,毛様体の前方偏位および毛様溝の消失が特徴的な所見となる6).このような虹彩の形態異常をプラトー虹彩形態(plateauiriscon?guration)とよび,プラトー虹彩機序があり,視神経障害を伴わないものをプラトー虹彩症(plateauiris)とよび,視神経障害を伴うとプラトー虹彩緑内障(plateauirisglaucoma)とよぶ.ときに,APACあるいは急性型PACGで発症することもある.実際には,プラトー虹彩形態のみが関与している閉塞隅角緑内障はまれであるが,相対的瞳孔ブロックが隅角閉塞の原因と考えられLIを施行された症例のうち約40%にプラトー虹彩機序を合併しているとの報告もあり7),わが国ではまれな疾患とされていたプラトー虹彩が多くの閉塞隅角眼に合併している可能性が高い.プラトー虹彩形態にLIを行った場合,隅角形態はLI前後でまったく変化がないと報告されている8).加えてプラトー虹彩機序を合併しているPACGでは,LI後でもPASの進行が起こりやすいとされている5).したがって,少なくともプラトー虹彩優位の閉塞隅角眼に対するLIは,隅角を開大させる目的には適さないといえる.一方,プラトー虹彩症候群に対するレーザー周辺隅角形成術は隅角閉塞を改善する目的では意味がある治療法とされている9).一般的に予防的LIが行われている症例のなかにプラトー虹彩機序が関与しているものが含まれている可能性は高く,筆者はプラトー虹彩優位の閉塞隅角眼に対しては,隅角閉塞を改善するためにはLIを行うよりもむしろ水晶体再建術を行うほうが理にかなっていると考えている.プラトー虹彩症候群に水晶体再建術を行うと,虹彩と毛様体の形態には変化はないとされているが,前房深度および隅角角度は開大する10)ことから,プラトー虹彩症候群での水晶体再建術は隅角を開大するという目的では有効な治療法であると考えられる.しかしながら,PASが進行しているあるいはPASの位置がSchwalbe線よりも高いような症例では,水晶体再建術のみでは,隅角機能が再建できないことがあるため,隅角癒着解離術や線維柱帯切開術などの房水流出路再建術の併用が望ましい.(32)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????III原発閉塞隅角症の治療方針:LIか?水晶体再建術か?緑内障診療ガイドラインには,原発閉塞隅角症(pri-maryangle-closure:PAC),すなわち,狭隅角眼で,かつ各種負荷試験陽性眼,あるいはPASが存在する症例では,瞳孔ブロック機序の存在が明らかであることからLIの適応としてよいと記載されている.しかしながら,瞳孔ブロック機序の存在は,vanHerick法などの細隙灯顕微鏡検査だけでは,正確には判断できない(図1).UBMをすることで,隅角閉塞の原因が相対的瞳孔ブロック機序なのか,プラトー虹彩機序なのかがわかる(図2,3).UBMがなければ圧迫隅角検査で,ダブルハンプサイン(サインウェーブサイン,図4)がみられればプラトー虹彩機序の関与をおおよそ予想できるが,手技には多少熟練を要する.現時点では,UBMで虹彩の前彎があるかどうかをチェックすることが相対的瞳孔ブロック機序の関与を判定するうえで最も確実な方法である.近年,非接触式前眼部解析装置が開発されているが,毛様体を含む虹彩裏面を評価できる機器はUBMのみであり,今後もUBMの存在意義がなくなることはなく,個人的には閉塞隅角眼の正確な病態把握には必須の機器であると考えている.PACに白内障を合併していたり,遠視がつよくQOL(qualityoflife)に障害があれば,水晶体再建術を勧めることには異論はないと考える.しかしながら,白内障がないPACで,視力がよくQOLにまったく障害をきたしていない患者に隅角閉塞の進行を防ぐためにLIを行うか水晶体再建術を行うかが問題となる.筆者の施設では,非接触式前眼部3D解析装置であるペンタカムを用いて,閉塞隅角眼に対して前房深度および前房容積の変化を検討している.PACS,PAC,PACGを含む閉塞隅角眼に対して水晶体再建術を行ったところ,前房深度は2.6倍(平均値で術前1.43mmが(33)図1閉塞隅角眼の前眼部細隙灯写真A:70歳,女性,PACS,前房深度1.94mm,前房容積65mm3,眼圧14mmHg.B:66歳,女性,亜急性PAC,前房深度1.71mm,前房容積64mm3,眼圧54mmHg.C:Aと同一症例のvanHerick像2度.D:Bと同一症例のvanHerick像0~1度.AとBでは,前房容積はほぼ同じであり,細隙灯顕微鏡検査では周辺前房深度がBのほうが狭い以外に差はない.ABCD———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007(34)図3プラトー虹彩機序が優位の閉塞隅角眼の超音波生体顕微鏡所見(図1症例Bと同一症例)3時,9時でわずかに虹彩の前彎があるが,虹彩が平坦化している12時,6時では,毛様体の位置が前方偏位し,毛様溝が消失している.対光反応があり,ピロカルピン点眼で眼圧は下降したが,相対的瞳孔ブロック機序よりもプラトー虹彩機序が眼圧上昇の主原因と考えられた.軽度白内障があったため,レーザー虹彩切開術をせずに,後日水晶体再建術を施行し,前房深度は2.73mm,前房容積は127mm3に増加した.反対眼にも水晶体再建術を施行した.12時3時6時9時図2相対的瞳孔ブロック機序が優位の閉塞隅角眼の超音波生体顕微鏡所見(図1症例Aと同一症例)3時,6時,9時の3象限で虹彩の前彎があり,相対的瞳孔ブロックが隅角閉塞の優位な原因と考えられる.両眼ともに急性発作の既往はなく,反対眼には20年前レーザー虹彩切開術が施行され,急性発作を起こさず,虹彩前癒着の進行もなかったが,現在核白内障となり,水晶体再建術を予定している.レーザー虹彩切開術をしていないこの眼は,虹彩前癒着の進行もなく,白内障の進行を待って水晶体再建術を行う予定としている.内皮細胞の大きさや密度に左右差はない.12時3時6時9時———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????術後3.69mmに増加)に,前房容積は2.4倍(平均値で術前59.2mm3が術後142.7mm3に増加)にそれぞれ増加した.一方,APAC,PACS(APACの反対眼),PAC,PACGを含む閉塞隅角眼に対してLIを行うと,前房深度は不変(平均値で術前1.74mmが術後1.74mm)で,前房容積は1.4倍(平均値で術前58.7mm3が術後84.2mm3に増加)程度にしか増加しないことがわかった11)(図5).すなわち,LI前後では前房深度には変化なく,虹彩が平坦化することで周辺前房深度が増加し,前房容積が1.4倍に増加する程度であるのに対して,水晶体再建術では,水晶体が眼内レンズに置き換わることで前房深度が増加するのみならず,瞳孔ブロックも解消され,さらに前房容積が2.4倍にまで増加し,同年齢の開放隅角眼とほぼ同程度の前房容積に近づくのである.したがって,閉塞隅角眼を解剖学的に開放隅角眼に近づけるには,水晶体再建術のほうがLIよりも有利であることは明らかである.Nonakaらは,閉塞隅角眼の水晶体再建術後には,毛様体突起の位置が後方に移動することで隅角がさらに開大すると報告している12).プラトー虹彩緑内障でも水晶体再建術によって隅角が開大する理由として,毛様体突起が後方に位置することで説明がつく.以上のことから,閉塞隅角眼に対して,隅角を開大する目的には,水晶体再建術を第一選択とする考え方は手術が問題なく行えれば正しいといえる.しかしながら,閉塞隅角眼は前房深度が浅く,ワーキングスペースが開放隅角眼と比較すると明らかに狭いうえに,急性発作後では,Zinn小帯が脆弱であることも多いため,手術経験が浅い術者にとっては,やはり難易度が高い.わが国では,LI後の水疱性角膜症が問題となっているが,水疱性角膜症の原因疾患として最も多いのが水晶体再建術後である13)ことを忘れてはならない.さらに,左右差があるような閉塞隅角眼では,水晶体亜脱臼が隠れていることもあり,なぜ隅角が閉塞しているのかということを常に念頭において病態を把握することが重要である.QOLに障害のないPACに対して,LI後の水疱性角膜症の発症が多いからLIよりも水晶体再建術を安易に勧めるという単純思考は慎まれるべきである.おわりに本来の予防的LIとは,急性発作眼の反対眼に対するLIを意味しており,このような症例では,まずLIを行うことがEBMの確立された治療法である.ただし,白(35)図4圧迫隅角鏡検査でのダブルハンプサイン(サインウェーブサイン)A:圧迫前の超音波生体顕微鏡写真.B:圧迫後の超音波生体顕微鏡写真(イメージ).プラトー虹彩形態で毛様体が前方偏位している場合には,圧迫隅角検査では,虹彩根部は隅角の根元の部分で盛り上がり,虹彩のこぶが2つみえる.BA図5ペンタカムでの閉塞隅角眼に対する水晶体再建術とレーザー虹彩切開術の手術前後の前房容積の変化(両群ともn=13,文献11より改変)水晶体再建術後では,前房容積は2.4倍に増加する(同年齢の開放隅角眼の前房容積144.2mm3とほぼ同程度の前房容積)のに対し,レーザー虹彩切開術後では,前房容積は1.4倍の増加しか得られない.LI:レーザー虹彩切開術.180160140120100806040200水晶体再建術前水晶体再建術後前房容積(mm3)58.7LI後LI前84.259.2142.7———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007(36)内障や強度の遠視がなくQOLに障害のない閉塞隅角眼(PAC,PACG)にLIをするか水晶体再建術をするかを決める場合,相対的瞳孔ブロック機序が優位であれば,まず安全にLIを行うべきであろう.経過中に白内障が進行し,視力低下をきたせば水晶体再建術をすれば患者の理解も得やすい.ただし,慢性型PACGでは,LIが根本治療にはならないことを十分説明したうえで治療を行うようにすべきである.プラトー虹彩機序が優位であれば,LIは隅角を開大する目的では治療効果は低いと考えられ,レーザー隅角形成術や水晶体再建術を考慮しながら経過をみるべきであろう.文献1)LoweRF:Primaryangle-closureglaucoma:thesecondeye:ananalysisof200cases.???????????????46:641,19622)AngLP,AungT,ChewPT:AcuteprimaryangleclosureinanAsianpopulation:long-termoutcomeofthefelloweyeafterprophylacticlaserperipheraliridotomy.??????????????107:2092-2096,20003)SawSM,GazzardG,FriedmanDS:Interventionsforangle-closureglaucoma.Anevidence-basedupdate.??????????????110:1869-1879,20034)Alzago?Z,AungT,AngLPetal:Long-termclinicalcourseofprimaryangle-closureglaucomainanAsianpopulation.?????????????107:2300-2304,20005)ChoiJS,KimYY:Progressionofperipheralanteriorsyn-echiaeafterlaseriridotomy.???????????????140:1125-1127,20056)PavlinCJ,RitchR,FosterFS:Ultrasoundbiomicroscopyinplateauirissyndrome.???????????????113:390-395,19927)近藤武久:UltrasoundBiomicroscopy(UBM)による緑内障診断.あたらしい眼科15:403-407,19988)PolikofLA,ChanisRA,ToorAetal:Thee?ectoflaseriridotomyontheanteriorsegmentanatomyofpatientswithplateauiriscon?guration.??????????14:109-113,20059)RitchR,ThamCC,LamDS:Algonlaserperipheralirido-plasty(ALPI):Anupdate.???????????????52:279-288,200710)TranHV,LiebmannJM,RitchR:Iridociliaryappositioninplateauirissyndromepersistsaftercataractextraction.???????????????135:40-43,200311)岡奈々,大鳥安正,岡田正喜ほか:前眼部3D解析装置(Pentacam?)における閉塞隅角緑内障眼の前眼部形状.日眼会誌110:398-403,200612)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocesscon?gurationaftercata-ractsurgeryforprimaryangleclosure.?????????????113:437-441,200613)ShimazakiJ,AmanoS,UnoT,MaedaN,YokoiN;TheJapanBullousKeratoplastyStudyGroup:NationalsurveyonbullouskeratopathyinJapan.??????26:274-278,2007