———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSす.この時点では角膜中央やや耳側に角膜浮腫を認めた程度であったが,角膜内皮細胞密度が少なかったため不可逆的内皮細胞数減少と判断し全層角膜移植手術となる.手術時に得られた角膜をデスメ(Descemet)膜ごと?離し,位相差顕微鏡にて観察した角膜内皮細胞面の所見を示す(図2).図2Aの内皮面のパノラマ写真に示すように角膜内皮面に無数の細胞が付着し,一部には内皮細胞が残存し(図2B),変性した組織に集まる細胞が帯状に伸び,その周辺の内皮細胞は存在しない所見が観察された(図2C).このデスメ膜状の細胞は組織学的に白血球の中の単核球が主体で(図3A),免疫染色では多くの細胞がマクロファージマーカーのCD68陽性細胞であった(図3B,C,D).またこれら細胞はCD163というスカベンジャーレセプター(清掃屋受容体)ももつことから(未公開データ),マクロファージ系細胞の角膜内皮面への浸潤であると考えられた.この症例をきっかけに角膜移植時に得られた角膜内皮面を検討したところ,LI後の角膜ではその後検討した4例中2例にCD68陽性細胞が検出されたのに対し,LI以外が原因の水疱性角膜症では,CD68陽性細胞の検出ができなかった(n=7).観察中の印象としては,LI以外が原因の水疱性角膜症の内皮細胞は細胞と細胞の細かい隙間ができているものが多いのに対し(図4A),LI後の角膜内皮は広い面積の内皮細胞がまとまって消失しており,内皮細胞が島状に残っているものが多かった(図4B).はじめにレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)後の水疱性角膜症は,1.わが国やアジアの国々では問題となっているが,アングロサクソンなど白人ではほとんど起きないためその存在さえ認識されていない,2.アルゴンレーザーでかなりの照射数に及んだ場合に多いが,YAGレーザー後では発症しないとされる,3.予防的なLI後でも発症するが,緑内障発作発症眼での頻度が高く,水疱性角膜症に至らない症例でも内皮細胞数が減少していることが多い,ことが知られており,これらの特徴は,LI後の水疱性角膜症発症機序を考えるうえでも何らかの手掛かりとなる可能性がある.本稿では,少数症例ながら患者角膜内皮から得られたエビデンスや傾向に加え,上記の特徴に基づいて仮説をたて検討した実験データをもとに,LI後の水疱性角膜症の発症機序について自説を述べる.ILI後内皮面にマクロファージ浸潤を認めた症例症例は,76歳,女性.平成7年,右眼LI施行.平成14年3月右眼超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術施行.平成15年10月全層角膜移植施行となる.図1に全層角膜移植術施行1カ月前の前眼部写真を示(37)???*1SatoruYamagami&SeiichiYokoo:東京大学大学院医学系研究科角膜組織再生医療寄附講座(アルブラスト株式会社)*2MarikoSuzuki,TomohikoUsui&ShiroAmano:東京大学大学院医学系研究科眼科・視覚矯正科〔別刷請求先〕山上聡:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科角膜組織再生医療寄附講座特集●レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症を解剖する!あたらしい眼科24(7):885~890,2007レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症の発症機序─マクロファージ説─?????????????????山上聡*1鈴木真理子*2横尾誠一*1臼井智彦*2天野史郎*2———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007以上から何らかの前房内環境の変化(京都府立医大・東原尚代先生が報告している血液・房水柵の破綻による前房水の組成の変化,炎症惹起物質の前房水への混入1))が基礎にあり,そこにダメージを受け変性したデスメ膜,内皮細胞,その他の組織が存在するとマクロファージが浸潤する.このマクロファージは変性蛋白を含んだ細胞・組織を貪食するなどして活性化し,さらに多くのマクロファージの浸潤を促すのではないかと考えた.(38)図1全層角膜移植術施行1カ月前の前眼部写真瞳孔領に一部かかる局所的角膜浮腫を認める.図2LI後水疱性角膜症に対する全層角膜移植時に得られた角膜の内皮面の位相差顕微鏡所見A:角膜内皮面のパノラマ写真.角膜内皮面に多数の細胞浸潤を認める.B:Aの拡大写真.多数の細胞浸潤に加え,写真右下には残存する内皮細胞が認められる.C:線維化した組織(おそらく線維化した内皮細胞)に集簇する細胞.細胞の周辺に内皮細胞の残存はない.図3LI後水疱性角膜症に対する全層角膜移植時に得られた角膜内皮断面の組織所見A:ヘマトキシリンによる核染色.デスメ膜上に単核球を中心とする多数の細胞が重層化している.B,C,D:白血球の細胞表面マーカーによる免疫染色の結果を示す.Bはサイバーグリンによる核染色(緑色),CはマクロファージマーカーのCD68による染色結果(赤色),DはB,Cの融合写真.角膜内皮面に付着する多くの細胞はCD68陽性細胞である.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???また京都府立医大・外園千恵先生は,LI後の水疱性角膜症の全層角膜移植時に前房水や虹彩がネバネバした感じになっていることがあると述べておられるが,筆者らも同様の所見を経験しており,これもマクロファージ系細胞の多数の浸潤が関与している可能性もあるものと考えている.II活性化マクロファージのヒト角膜内皮細胞に対する影響そこで図5に示すような検討を行った.口つきの培養用フラスコに培養ヒト角膜内皮細胞をコンフルエントになるまで培養した.フラスコに各400万個の5種類のヒト白血球(全白血球,T細胞,B細胞,好中球,単球・マクロファージ)を入れ,図5Aに示すように立てた磁気スターラーにフラスコを貼り付けた.白血球の分離には,magneticcellsorting(MACS)注1)を用いた.前房内の温流にあたる培養液のフローを起こすためにフラスコ内でスターラーを回転させ,3日間培養し〔培養条件は,RPMI-1640培地+10ng/m?interleukin(IL)-1a+10ng/m?tumornecrosisfactor(TNFa)+1%fetalbovineserum(FBS),37℃インキュベーター5%CO2〕,内皮面を観察した.結果として全白血球を入れた培養ヒト内皮細胞(図5B)をはじめ,T細胞,B細胞,好中球を入れたフラスコの培養ヒト内皮細胞も,サイトカイン刺激のため線維芽細胞様の形態をとっている以外に変化はなかった.しかしこれと対照的に,単球・マクロファージ注2)を入れたフラスコの培養ヒト角膜内皮細胞は,細胞が?離しており,単球・マクロファージにより傷害された可能性が高いと考えられた.また残存している細胞に単球・マクロファージと考えられる細胞が集簇している所見が得られた.この所見は図2Cで示(39)注1)Magneticcellsorting(MACS):磁気ビーズのついた抗体で目的細胞を特異的に標識し,強力な永久磁石に設置された分離カラムにアプライする.分離カラムは強力な磁場が生じ,磁気標識した細胞はカラムに保持され,標識されていない細胞はカラムを通過する.分離カラムを強磁場から外すと磁気標識により保持されていた細胞は溶出される.これにより磁気標識細胞のフラクションと非標識細胞のフラクションが完全に分離できるシステムで以下のサイトで紹介されている.http://www.miltenyibiotec.co.jp/intro/prcpl/prcpl1.htm注2)単球・マクロファージ:磁気ビーズのついた抗体のカクテルでヒトの白血球を分離しても,もともと多くが起源を同一にする血液中の単球とマクロファージは完全には分離できない.図4全層角膜移植時に得られた内皮面の代表的な写真A:LI後水疱性角膜症以外の全層角膜移植時に得られた角膜の内皮面.内皮細胞の小さい隙間があちこちにできている(矢印).B:LI後水疱性角膜症に対する全層角膜移植時に得られた角膜の内皮面.内皮細胞が島状に残り(矢印),他はデスメ膜が広く露出している.図5活性化マクロファージのヒト角膜内皮細胞に対する影響A:培養用フラスコに培養ヒト角膜内皮細胞をコンフルエントになるまで培養し,フラスコに各400万個の5種類のヒト白血球(全白血球,T細胞,B細胞,好中球,単球・マクロファージ)を入れた.立てた磁気スターラーにフラスコを貼り付け,培養液のフローを起こすためにフラスコ内でスターラーを回転させ,3日間培養した後(培養条件は,RPMI-1640培地+10ng/m?IL-1a+10ng/m?TNFa+1%FBS,37℃インキュベーター5%CO2),内皮面を観察した.B:フラスコ内に全白血球を入れた結果を示す.炎症性サイトカインの影響で,内皮細胞は線維性変化を示している以外変化はなかった.T細胞,B細胞,好中球,を入れたものもこの結果とほぼ同様であった.C:単球・マクロファージを入れたフラスコでは培養ヒト角膜内皮細胞は局所的に?ぎ取られており,残存内皮細胞に単球・マクロファージが浸潤を起こしている所見がみられた(矢印).この所見は,図2Cで示したLI後水疱性角膜症の内皮面にみられた所見と酷似していた.全白血球T細胞B細胞好中球単球・マクロファージ培養角膜内皮細胞約60°培養用フラスコスターラー———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007したLI後水疱性角膜症角膜の内皮面にみられた所見に酷似していた.前房内を模したこのシステムでは,かなり高濃度の炎症性サイトカインを添加してあるため,内皮細胞のみならずマクロファージもかなり活性化した状態になっていると考えられる.活性化したマクロファージは,マクロファージの産生する活性酸素,酸化窒素(NO)により正常内皮細胞に傷害を与えうる.マクロファージはもともと体の清掃屋として働いているので,傷害を受け変性した細胞・組織を自己,非自己の区別なく変性した蛋白として認識し貪食するためにこのような現象を起こすものと思われる.このマクロファージのもつ機能は,アロ抗原の認識といった高次の免疫能とは異なるより原始的な機能によるもので,本実験では,仮に白血球と培養ヒト角膜内皮細胞が同一人由来であったとしても同じことが起こるものと考えられる.III虹彩に対する熱凝固は単球・マクロファージを刺激するのか?前述したように,欧米ではLI後の水疱性角膜症はきわめてまれで,その病態自体認識されていないことから考えた仮説は,東洋人の虹彩に存在する色素がマクロファージ浸潤のきっかけをつくる.YAGレーザーで治療を行った場合は,水疱性角膜症を発症することはなく,アルゴンレーザーで治療を行いかつかなりのショット数に及んだ場合に起こることが多いことから考えた仮説は,アルゴンレーザーの熱により虹彩色素が変性し,単球・マクロファージ系細胞に対し,異物と認識されやすくなるというものである.前者の仮説に関しては白人の虹彩を得る機会がなかったために検討できなかった注3)が,後者については虹彩を用いて以下の検討を行った.まず線維柱帯切除術時に採取された虹彩を2つに分け,片方はYAGレーザ-にて粉砕し,もう一方はアルゴンレーザーにて処理した.これらの虹彩を別々に平底96ウェルに入れ,1ウェル当たり50万個の単球・マクロファージと混合し,経過を観察した.培養(RPMI-1640培地+1%FBS,37℃インキュベーター5%CO2)後,虹彩存在部に細胞が集積しコロニーを形成し始めたため,9時間後に各コロニーの面積を測定した.図6に示すようにYAGレーザーにて粉砕したもの(図6A)に比べてアルゴンレーザーで処理した虹彩(図6B)に対し細胞は有意に大きなコロニーを形成した(図6C).このことはアルゴンレーザーで焼?した虹彩に対し,より多くの単球・マクロファージが強く反応することを示しており,アルゴンレーザーで焼?した虹彩がマクロファージ浸潤のきっかけをつくる可能性を示唆している.IV急性緑内障発作に対するLI後の一過性角膜浮腫ここで通常の水疱性角膜症に至る経過とは異なるLI後の角膜浮腫の症例を提示する.症例は,78歳,女性.主訴は右眼視力低下で,経過は平成8年右眼急性緑内障発作を発症.両眼にLI施行(40)注3)BALB/cなどの白いマウスの虹彩とC57BL/6などの黒いマウスの虹彩に対して,マウスの単球・マクロファージがどのように反応するかを調べることで検討可能かもしれない.図6アルゴンレーザーおよびYAGレーザーで処理した虹彩に対する単球・マクロファージの反応各レーザーで処理した虹彩を96穴に置き,50万個の単球・マクロファージを入れ反応を観察した.時間の経過に伴って虹彩片の周りに単球・マクロファージが集合し,コロニーを形成し始めた.培養9時間後にYAGレーザーで処理した虹彩片のコロニー(A)とアルゴンレーザーで処理した虹彩片のコロニー(B)の代表的な写真を示す.コロニーの外側を白線で囲んだ.アルゴンレーザーで処理した虹彩片のBのコロニーがAのコロニーより大きい傾向を示した.C:これらのコロニーの平均面積を算出したところ,アルゴンレーザーで処理した虹彩片のコロニーの面積が,YAGレーザーで処理した虹彩片のコロニーの面積に比べて有意に大きかった.(Mann-WhitneyU-test,p<0.01)(1×104μm2)*p<0.013.02.01.00YAGアルゴンレーザーコロニー面積———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???される.平成12年12月視力低下し近医受診.右眼は中央部から耳下側にかけて角膜浮腫の状態であった(図7A).平成14年2月全層角膜移植の登録を目的に当院初診となり,右眼矯正視力(0.05)であった.その後数回連絡をするも家族の都合で入院できず,平成15年3月の受診時に角膜浮腫は軽減していたが,角膜中央部の内皮細胞密度は326/mm2と少なかったため角膜移植の登録は継続とした(図7B).この時点でも角膜浮腫のため内皮細胞密度の測定ができなかった1~2年前と比べてかなり細胞密度は回復していたものと推察された.平成16年3月に全層角膜移植を目的に入院となったが,入院後の診察で角膜は透明性を回復し,内皮細胞密度は500/mm2であったため,全層角膜移植は行わずそのまま退院として経過観察を行うこととした.平成16年10月右眼内皮細胞密度613/mm2(図7C),平成17年2月右眼内皮細胞密度644/mm2と,測定のたびに角膜中央部の内皮細胞密度が増加していった.その後白内障手術を施行し,平成19年4月の時点で角膜は透明性を維持している.本症例の解釈は以下のようである.急性緑内障発作に対するLI後眼で血管透過性が亢進していた眼で,何らかの変性蛋白に対しマクロファージが浸潤,貪食.貪食したマクロファージが活性化し,角膜中央部の内皮細胞を傷害し,部分的な水疱性角膜症の状態へ移行.周辺部の内皮細胞は保たれていたため内皮細胞の再配列が進み,臨床的に水疱性角膜症は治癒したのではないかと考えている.VLI後の水疱性角膜症発症機序のまとめ以上の結果から考えられるLI後の水疱性角膜症発症に関して想定される機序をシェーマに示す(図8).A.急性緑内障発作によりまたは過剰なアルゴンレーザー照射により,虹彩血管の透過性が亢進する.これにより単球・マクロファージが前房内へ直接浸潤しやすくなるだけでなく,浸潤を促すケミカルメディエーターが前房内へ漏出しやすい前房内環境となる.アルゴンレーザー照射部位のデスメ膜,内皮細胞は熱変性を受け,また焼?された虹彩色素が角膜内皮面に付着する.これらは変性蛋白であるため自己の組織由来であっても異物として認識されやすくなる.B.変性したデスメ膜,内皮細胞,アルゴンレーザーで焼?された色素を含んだ虹彩に対し,マクロファージがこれらを異物と認識し貪食する.貪食によりマクロファージは活性化し,炎症性サイトカイン(IL-1,IL-12,IL-18)を産生し,さらに活性化を促進し,ケモカイン(monocytechemotacticprotein:MCP-1/CCL2)産生によりマクロファージを前房内へ呼び込む.ヒト角膜内皮細胞も炎症刺激によりMCP-1/CCL2を産生することから2),内皮細胞自体もマクロファージの遊走を促進する注4).C.貪食により活性化したマクロファージは,さらに貪食能を亢進するほか,活性酸素,NO産生により周辺の正常内皮細胞に傷害を与え,傷害を受けた内皮細胞やデスメ膜は,再び異物としてマクロファージに認識され(41)注4)マクロファージ系の細胞は,CCR2というケモカインレセプターを発現しており,これはMCP-1/CCL2というケモカインに走化性を示す.このMCP-1/CCL2はマクロファージ自体が産生するほか,ヒト角膜内皮細胞も産生しうる.図7急性緑内障発作に対するLI後の一過性角膜浮腫A:LI後4年目の前眼部写真.角膜中央部から耳下側にかけて部分的な浮腫の状態.B:Aの時点から2年4カ月後の角膜中央部の内皮細胞所見.角膜浮腫は軽減しており,内皮細胞密度の測定が可能となっていた.細胞はかなり大きく,角膜中央部の内皮細胞密度は326/mm2である.C:Bからさらに1年7カ月目の角膜中央部の内皮細胞所見.細胞面積は一見して小さくなっており,613/mm2となっている.部分的な内皮細胞減少が周辺部の内皮細胞により代償されたものと考えられる.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007貪食を受けるという悪循環を起こす.これにより自己の組織であるにもかかわらず自己のマクロファージにより傷害されることになる.D.角膜内皮細胞全体のびまん性の細胞数減少でなく部分的な虫食い状の内皮細胞減少と部分的な角膜浮腫が起こり,内皮細胞のmigrationにより代償できれば再び角膜は透明性を回復するが,透明性を維持可能な閾値を超えて内皮細胞が傷害されると水疱性角膜症に至る.以上のような機序によるとすれば,LI直後ではなく数年後に水疱性角膜症が発症するのは,きっかけになる変性蛋白の存在とそれに対するマクロファージの浸潤はいつでも起こりうることであるため説明がつく.また切開孔のある上方ではなく下方から発症することがある理由は,切開部位の変性蛋白に加えてアルゴンレーザーで焼?された虹彩色素がきっかけを作り細胞浸潤が起きると考えれば,どの部位の内皮細胞も減少する可能性があるからと考えられる.おわりにいくつかのエビデンスに加えて,マクロファージや角(42)膜内皮細胞の一般的な性質を考慮して想定されるLI後の水疱性角膜症の発症機序について自説を述べた.LI後の水疱性角膜症の発症機序は一つとは限らず,個々の症例によって全く異なった原因で起こっている可能性も否定できないため,今回示したマクロファージが関与する機序は,全症例にあてはまるものとまでは考えていない.しかしLI後の水疱性角膜症のなかのある一定の症例に関しては,部分的な一致であるにせよかなりこれに近い機序が関与しているのではないかと考えている.謝辞:本研究の一部は,京都府立医科大学の外園千恵先生,木下茂先生との共同研究によって行われました.ここに感謝申し上げます.文献1)東原尚代:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症の病態─前房・房水柵破綻説─.あたらしい眼科24:871-878,20072)YamagamiH,YamagamiS,InokiTetal:Thee?ectsofproin?ammatorycytokinesoncytokine-chemokinegeneexpressionpro?lesinthehumancornealendothelium.?????????????????????????44:514-520,2003図8LI後の水疱性角膜症発症で想定される機序のシェーマA:虹彩血管の透過性亢進が存在.アルゴンレーザー照射部位のデスメ膜,内皮細胞は熱変性を受け,また焼?された虹彩色素などの変性蛋白が角膜内皮面に付着.B:変性蛋白をマクロファージが異物と認識し貪食.貪食によりマクロファージは活性化し,炎症性サイトカイン(IL-1,IL-12,IL-18)を産生しさらに活性化を促進し,ケモカイン(MCP-1/CCL2)産生によりマクロファージを前房内へ誘導促進.C:活性化マクロファージは,さらに貪食能を亢進するほか,活性酸素,酸化窒素(NO)産生により周辺の正常内皮細胞に傷害.傷害を受けた内皮細胞やデスメ膜は,異物としてマクロファージに認識され貪食.D:内皮細胞の部分的な虫食い状の減少が起こり水疱性角膜症へ.ACDBアルゴンレーザーによるLI内皮細胞,デスメ膜の損傷炎症性サイトカイン・ケモカイン産生変性内皮,デスメ膜にマクロファージ浸潤虹彩血管の透過性亢進