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序説:加齢黄斑変性に対する最新の治療 ─薬物治療の現状と未来─

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(1)???本号の特集として,「加齢黄斑変性(AMD)の薬物治療」を企画した.AMDはかつて老人性円盤状黄斑変性症(SDMD)などとよばれ,予後不良,治療法皆無の疾患であった.唯一認められていたのがレーザー光凝固術であった.しかし,当然のことながら,黄斑を凝固すると直後から視力は急激に低下する.国際学会のパネルディスカッションで,症例が提示され,治療法は光凝固で全員意見が一致したが,座長が「もし自分が患者だったら光凝固を受けますか」と訊くと,パネリスト全員がNoと言った,という笑えない話もある.その後1990年代半ば頃より,重症例に対する外科的治療が始まった.重篤な合併症である網膜下出血に対する血腫除去術や,脈絡膜新生血管抜去術,さらには黄斑移動術といった黄斑下手術が一世を風靡した.それまでの治療では考えられないくらい良好な術後視力を得る症例が存在したものの,広く施行されるには至らなかった.その理由は,手術対象の多くがすでに病巣の拡大している進行例であり,視力成績が全体として期待されるほどには至らなかったことと,術後の脈絡膜新生血管の再発・拡大やその他合併症で,術後一旦改善された視力が再低下するのを食い止めることができなかったことにある.1990年代後半になり登場したのが,経瞳孔温熱療法(TTT)と光線力学的療法(PDT)である.外科的治療法に比べ,侵襲が少なく,患者負担が軽いので,世界的に広く行われており,PDTは現在のAMD治療の主流である.しかし,治療成績は視力維持,もしくは,無治療に比べ視力低下が抑制された,というものであり,患者の期待する視力改善は達成できていない.適応を早め,病巣が小さく視力の良好な初期症例に施行すれば,日常生活に必要な良好な視力の維持が可能と予想される.しかし,治療直後には照射範囲の脈絡膜血管が健常部も含めて閉塞することから,組織侵襲は無視できず,また,少数ではあるが照射後に出血などのため急激に視力低下をきたす症例もあるので,早期適応の是非には議論の余地が残っている.そして,今世紀に入りスポットライトを浴びているのが本特集で取り上げる薬物療法である.2004年に米国においてpegaptanib(Macugen?)が,AMDの薬物治療として初めて認可された.新生血管の発症・伸展に重要な役割を果たしている血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の作用を抑制することにより,脈絡膜新生血管を抑えようという治療法である.Pegaptanibは標的蛋白質(この場合VEGF)に結合することのできる核酸分子である.同様の目的で,VEGFに対する抗体が開発された.Ranibi-zumab(Lucentis?)とbevacizumab(Avastin?)がそれである.現在わが国ではpegaptanibとranibi-zumabが臨床治験中(エントリーは終了)であり,0910-1810/07/\100/頁/JCLS*MotohiroKamei:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室●序説あたらしい眼科24(3):267~268,2007加齢黄斑変性に対する最新の治療─薬物治療の現状と未来─???????????????????????????-????????????????????????????─????????????????????????????????????─瓶井資弘*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007(2)数年以内に使用可能となると思われる.しかし,現在使用は不可能であるので,脚光を浴びているのがbevacizumabである.欧米では大腸癌に対する薬剤として認可されているが,わが国では未承認薬であり,しかも,眼科使用は適応外である.倫理的観点から,使用に際しては法的手続きを要し,かつ,慎重な使用が望まれるが,現在わが国で唯一使用可能な抗VEGF薬である.海外からはこれら抗VEGF薬の単独,もしくはPDTと組み合わせた治療法に関する,前向き臨床試験の結果が報告されている.その結果を含め,野田佳宏先生にpegap-tanib(Macugen?),辻川明孝先生にranibizumab(Lucentis?),坂口裕和先生にbevacizumab(Avas-tin?)の解説をお願いした.また,以前よりステロイド薬には血管新生抑制作用があることが知られている.抗VEGF薬より早く,1990年代半ばにはAMDに対するtriamcino-lone硝子体内投与の効果が検討され,その後副作用を抑えたanecortaveacetateも開発された.Tri-amcinolone硝子体内投与は黄斑浮腫に対する治療法としては欧米で広く行われており,応用が容易であったと考えられる.しかし,臨床試験の結果,やや効果が弱いと考えられ,今後はPDTなどとのカクテル療法に使用されることになると予想される.大久保明子先生にはtriamcinoloneの治療経験を含めた解説をお願いし,山岡青女先生にはanecor-taveacetateについて執筆していただいた.上述のごとく,AMDに対する治療は,めまぐるしく変化している.侵襲のある治療法から,患者負担も少ない薬物治療へ移行してきているといえる.広い視野からみると,この薬物治療の隆盛はきわめて望ましいものであり,さらには,予防医学が望ましい.そういう観点から,森隆三郎先生にサプリメントについて解説していただいた.臨床現場では,すでに片眼が進行したAMD患者から,「まだ発症していないほうの眼をどうやって守っていったらいいか」との質問を受けることも多いので,その対応の一助になれば幸いである.最後に,安川力先生にAMDの発症メカニズムを踏まえた新しい薬物療法の可能性の解説をお願いした.本特集に目を通している若い世代が,AMD治療をさらに発展させてくれることを期待したい.

眼科医にすすめる100冊の本-2月の推薦図書-

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS「失敗学」の勧めで有名な畑村洋太郎先生が技術を正しく,発展するように伝えていくためにはどうするかを体系的にわかりやすく解説したすばらしい本です.われわれ眼科医は眼科という一種の技術を発展させていくことにより国民の視覚をまもることが仕事の使命です.この際に大切なことは次世代を育成し,われわれが解決できなかった問題を解決していってくれるシステムを構築することです.時代は厚生労働省が新臨床研修制度を導入して,新しい眼科医をどのようにして育成していくかに大きな関心が高まっています.本書ではおもに伝える側の視点にたって,どのようにして伝えるべきものを正しく伝えていくかを豊富な事例と多角的な視点からわかりやすく解説しています.伝えるべき技術は,眼科でいうと白内障の手術のやり方とか,網膜光凝固のやり方といった狭い範囲のものではなく(これは技能に属するとしています),「知識やシステムを使い,他の人と関係しながら全体を作り上げていくやり方」と定義しています.伝えるべきはそれぞれの知識を有機的な意義を考えられる能力を指しているように捉えました.畑村先生は回転ドアの事例を出しておられます.回転ドアに子供さんが挾まれて亡くなるという痛ましい事故の経緯を調べると,「回転ドアは軽くなければ危ない」という大切な知識が伝わらず,とぎれたまま設計がなされたそうです.軽いドアであれば挾まれても軽い怪我ですみます.その意味づけがうまく伝わらなかった.眼科学を含む臨床医学でも多くの知識が蓄積されていますが,その多くに意義,意味があるはずです.それを理解して新しい診断,治療の技術を開発することが臨床医学の進歩ということになります.進歩を支えるのも技術の正しい伝達ということになります.われわれが新人を教育するときには上記の文章「知識やシステムを使い,云々」の上に「眼科学の」とつければいいことになります.うまく技術が伝わるうえで一番大切なことは受け入れる側にその素地をつくること,受け入れの動機づけがうまくできていることと畑村先生は説きます.そのために大切なポイントとして5項目をあげておられます.1)まず体験させろ2)はじめに全体を見せろ3)やらせたことの結果を必ず確認しろ4)一度に全部を伝える必要はない5)個はそれぞれ違うことを認めろです.一つひとつが腑に落ちる内容のある言葉です.動機づけの観点からいいますと,まずは体験させ,失敗の体験を含めて今後の眼科医としての向上のやる気につなげてやります.失敗といってももちろん患者さんに迷惑を絶対にかけないように指導医が入念にチェックしつつ,ある部門での仕事を責任をもってやらせることが大切であるということです.そして,全体像を見せることで,眼科学の面白さ,難しさ,一生をかける価値のある学問であり仕事であることを示すことができます.あとの3項目についてはそれぞれ読んで字のごとくです.このような教育の場での理想的な環境として「でき上がった形をそのまま伝えるのではなく,欲しい人が自分でむしり取る」のが大切と述べられています.臨床医学の教育で指導医について一日中診療をみながら1対1での教育をしていることも多いと考えますが,それがこれにあたると考えます.ただ,むしり取る側の意欲は特に大切ということに変わりはありません.最後にこのような教育の現場となる組織について『とくに伝達することを意識していないものの,すべての活動を通じて自然に伝わったり,伝わってほしいものもあ(81)■2月の推薦図書■組織を強くする技術の伝え方畑村洋太郎著(講談社現代新書)シリーズ─70◆山下英俊山形大学医学部視覚病態学———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007ります.それは「価値観」や「信頼感」「責任感」といった「企業文化」「気」です』という記述があります.これは眼科を含めて臨床医学におけるまさに医局の果たしてきた役割ではないかと考えます.多くの優れた先輩が営々として築き上げてきた大切な価値観(「責任感」や「信頼感」)を伝えていく母体が必要です.これは上記の1対1の人間関係でもできる場合と不幸にしてできない場合があるでしょう.それをかなりの確率で伝達可能にしていく場が教育の安定的な継続を生み出し,これが優秀な医師を陸続として世の中に送り出す教育機関が存在し続ける礎になると考えます.本書は指導的な立場にたつ眼科医が読むと必ず自分の教育について深く考え,検証して今後の指導に役立つと考えます.また,これから指導を受ける眼科医もどのような方針で教育をうけるかという,自分のうける教育のチェックポイントを教えられたようなものなので,ぜひ読んでみては如何でしょうか?指導を受ける側も必ず指導する側に回ります.その際によりよい教育をしてすぐれた医師を育てるときの大きな参考になるでしょう.(82)☆☆☆眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

私が思うこと3. 涙液とマイアミビーチ

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???私が思うこと●シリーズ③(77)はじめにこのコーナーは好きなことを書いてよいということでしたが,あまり眼科に関係ないことを書いても,今後「あたらしい眼科」から永遠に執筆依頼がこないような状況も予想され,やはり眼科に関係のあることで私が思うことを書かせていただこうと思います.私は,2000年8月にマイアミ大学バスコムパルマー眼科研究所に留学させていただきました.指導教授はSCGTseng先生で,当時東京歯科大学の坪田一男先生の親友というご縁で話がまとまりました.Tseng先生とコンタクトをとらせていただいたのはその2年くらい前で,坪田先生の命により,学会で日本を訪れたTseng先生を成田にお迎えにあがったのが最初でした.東京までの車中1時間ほど,私がほとんど英語をしゃべれない状態であったため,かなりつらい状況が予想され,事実まったくそうでしたが,Tseng先生の,わかりやすい英語での,「英語なんて通じなくても心配ない!研究なんて今の段階でできなくてもまったく問題ない!!」という力強いメッセージ,お人柄に引き込まれTseng先生の下で勉強したいと強く思うようになりました.そしていよいよ留学させていただくことになったわけですが,「英語が通じなくても心配ない!」ということは実際には間違いであると気づかされました.さらに日常生活ではスペイン語がちょっとできないと買い物などで困ったりもしました.しかし親切な人が多く,ありがたいことに言葉が通じなくてもなんとか仲間に入れてもらうことができました.そして少しずつ生活のセットアップをしつつ研究室での生活が始まることになりましたが,「研究なんてできなくてもまったく問題ない!!」ということもやはり誤りでした.当時Tseng先生のラボは,羊膜・角膜幹細胞研究に非常に力を入れており,先任のproductiveな研究者たちに追いつくのは至難のことと思われました.おもにヨーロッパ,イスラエルや南米からきていた仲間ですが皆,素晴らしい友人です.そこで私は何をしていたかというと,最初の1年は朝から深夜までラボにいるにはいましたが,なにも生産的なものはなかったような気分になり非常に落ち込んでいました.土地柄でしょうか,臨床系の医師やproductiveな研究者たちも,「暗くなると0910-1810/07/\100/頁/JCLS後藤英樹(?????????)鶴見大学歯学部眼科学講座角膜カンファランスの雰囲気に惹かれて臨床・研究を続けています.涙液とマイアミビーチが大好きです.ちなみに私が育った藤沢市はマイアミビーチ市と姉妹都市で,鵠沼海岸は東洋のマイアミビーチとよばれています!?(後藤)涙液とマイアミビーチ図1バスコムパルマーでのTseng教授とFellowたちとのひとこま昔の写真を引っ張り出してきました.懐かしい!感慨を覚えます.バスコムパルマーではよくこのような会が催されておりました.この頃は,私の思い込みによるものか,不完全な英語習得によるものか,とにかく勘違いで,アメリカでは相手を?rstnameで呼ばなければ失礼にあたると強く思いこんでおり,Tseng教授を“Sche?er”と呼んでしまっていたり,Tseng先生と坪田先生が一緒にいらっしゃるところでは,こともあろうに坪田先生を“Kazuo”と呼ばせていただいてしまったりして,英語ってヘンな言語だなと思っておりました.後にヘンなのはぼくの英語であることが判明して焦りました.(マイアミでは床屋さんに苦労し,この頃とても長髪になっています.)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007危ない!」といって夕方には帰宅していましたが,そうした状況のなかでも日曜日にはFMann先生のラボ仲間(邱彗先生など)とミニサッカーをしたり,Martin先生と格安ゴルフに行ったりしました.そのうち残念ながら,私は足を患いスポーツはあまりできなくなってしまいました.その後,それまでは単身留学でしたが,現静岡赤十字病院医長の許斐健二先生の結婚式に招かれ帰国したときに,今度は家族を伴って再びマイアミに戻りました.そこでゴージャスなNorthBeachのコンドミニアムから,ショボいSouthBeachのアパートに移りました.家族に評判は悪かったのですが,これがマイアミの生活を楽しむうえでなかなかよかったのです.マイアミビーチマイアミビーチ市はマイアミ本土から橋を渡ったところにある島です.ARVO(AssociationforResearchinVisionandOphthalmology)が毎年開催されるFortLauderdaleからは車で南に1時間ほどであり,ARVOに行かれる際には足を伸ばしてみることをお勧めします.表参道,六本木,江ノ島を足して3で割ったようなイメージの町です.ラテンアメリカ,ヨーロッパ,北米のテイストが混ざっています.OceanDriveとLincolnRoad(ここに住んでいました)が中心街です.ラボとの往復に明け暮れていた私もせっかく留学したマイアミの雰囲気を楽しもうというムードが盛り上がってきました.残念なことに,危険なところとのイメージが強いせいか,日本人はあまり住んでいませんでした(少なくとも最近は,気をつければあまり危険でないと思います).ここで生活スタイルを少し変えてみました.夕食を家族と食べることにしたのです.これは非常に新鮮でよい習慣でした.そして,夕食後家族でLincolnRoadに散歩がてらコーヒーでも飲みに行くことにしたのでした.コーヒーはアイスクリームでもいいわけですが,とにかくoutgoingな変化であり,SouthBeachの雰囲気を満喫できました.CubanCaf?によくいっていましたが,ラジオでかかっていたサルサと,あのCafeconLecheの味は忘れられません.そしてさらなる生活の変化としては,8時ごろ家族を家に送って行き,私は再び夜のビーチに旅立つのです.マイアミビーチではあちこちのカフェで勉強している人が結構いるのです.ScienceCaf?どころの騒ぎではありません.電源がとれて,BGMがうるさくないお店を探します.コーヒー一杯で粘ります.机にある程度長い時間座っているという状態が,良くも悪くも臨床漬けであった日本での状況とギャップが大きく,新鮮でした.眼科の患者さんや研究のこともいろいろ考えましたし,帰国したらどのような構想で自分のアイデアを実現していこうか?などの夢想をする時間ももてました.今だから白状いたしますが,ほとんど読んだことのなかった英語の論文もなんとか通読できるようになりました(大学の眼科図書館の司書のおばさま,お姉様方にも感謝!).ほとんど物書きをしたことがなかった私も少しずつ書くことに慣れていったようです.Tseng先生はいつも唱えておられました.Writeeveryday!またThink,otherwiseyouare?nish!とも.細かい指示はよく理解できなかったこともありましたが,これらのストレートなメッセージはうなされるほど強烈でした.昼食時などには留学生仲間といつもTseng先生のものまね大会で盛り上がりました.用法としては,“Let?sgoouttoArgentinaRestaurant,OTHERWISEYOUAREFINISH!”などです.子供が地元のナーサリースクールに通っていたため,家族にはそれなりにお友達ができていたようで,町で会うと楽しそうにしていました.公園などでも仲良くしてもらっていました.はっきりいってジモティー度は私より高く,少しうらやましかったくらいです.マイアミ大学に勤務・留学されていた日本人の先生方,企業駐在員の方々との交流も楽しかった日々として思い出されます.(78)図2マイアミビーチの風景SouthBeach,LincolnRoadのVanDykeCaf?です.いい雰囲気です.日本でも今後もぜひoutgoingしていきたいと思います.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???訪ねてきてくれて行方不明になったり,ダウンタウンで迷子になったりした人騒がせな学友たちにも,夢にまで見たメーヤウのおみやげカレーを持ってきてくれたので感謝でした.Tseng先生宅でのホームパーティーや,連れていっていただいた在マイアミの台湾系の方々のクリスマスパーティーも忘れ得ぬ思い出です.マイアミの奇跡“マイアミの奇跡”は,一般的には,1996年アトランタオリンピック・男子サッカー第一次リーグにおいて,日本代表がブラジル代表を1対0で下した試合の日本における通称ですが,私たちの間ではマイアミに留学して無事に帰国すると“奇跡”だと称してふざけあっています.バスコムパルマー眼科研究所が眼科界では世界的に有名な施設であるため,私たちの身近でも多くの先生が留学されています.最近では私のほかに吉野健一先生,大高功先生,川北哲也先生,松本幸裕先生などがいらっしゃっています.大抵ちょっとしたトラブルを経験しているようですが,皆“奇跡的”に無事に帰ってきたと,集まると大概そういう話題になって盛り上がります.NeuroanatomicIntegrationofOcularSurface;眼表面の神経解剖学的統合話は急にかわりますが,眼の乾きとは,涙の供給が足りないか,喪失の過剰により,潤い不足である状態と思われます.これらが眼の乾き症状をひき起こし,病気になるとドライアイとよばれています.ドライアイにはさまざまな病態があり,その病態にアプローチする方法はいくつかあると思います.個人的に最もピンときているのがTseng先生の“neuroanatomicintegrationofocu-larsurface”の説明です.この説明では,この眼の湿潤を維持するシステムを,compositionalfactor(構成要(79)素:涙液の3層構造構成要素である脂質,水成分,ムチン,それぞれの分泌組織,分泌刺激,神経伝達,大本の神経刺激)とhydrodynamicfactor(動的要素:瞬目,閉瞼それぞれの神経伝達,大本の神経刺激)の双方から考えるものであり,眼の乾燥がある場合,どこが障害されているかを考える助けとなるものです.ドライアイおよび眼の乾きの病因,原因を探るのに非常に有用な考え方だと思っております.この考え方と,東京歯科大学で坪田先生を中心に教えていただいたドライアイに対しての考え方が合わさって,今の私の考え方の基礎をなしていると思っております.現在,涙液油層,涙液メニスカスともに非侵襲的な評価方法が発展してきており,ムチンに関してもブレークスルーが期待されています.評価が発展すれば,治療にも新しいアイデアが反映されることとなり,ドライアイ診療のさらなる発展が期待される今日このごろです.まとめマイアミビーチと涙液はあまり関係ありません.しかしマイアミで涙液専門の偉大な先生に指導していただき大変勉強になりました!後藤英樹(ごとう・えいき)1970年生まれ1994年慶應義塾大学医学部卒業,眼科学教室入局1996年東京歯科大学市川総合病院眼科2000年マイアミ大学バスコムパルマー眼科研究所留学(SCGTseng教授)2002年OcularSurfaceResearchandEducationFoundation(SCGTseng先生)・マイアミ大学バスコムパルマー眼科研究所(JMParel教授)2003年飯田橋眼科クリニック2004年慶應義塾大学医学部眼科学教室2006年鶴見大学歯学部眼科学講座現在に至る☆☆☆

よくわかる医療情報のお話5.医療者が作成する医療用ソフトウェアの世界

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS一般的には医療用のシステムやソフトウェアはプロのエンジニアが開発するものと思われているかもしれません.しかしながら,多くの医療現場では医療者が作成したソフトウェアが用いられているということも事実です.ここで言うソフトウェアとは限られた部内あるいは個人が用いる種類のものではなく,施設全体にわたって稼働する業務システムを意味しています.実例としては,松波総合病院や神鋼加古川病院など,多数のシステムが知られています.筆者も紙ベースクリニカルパスの管理システム,病院業務の支援システム,職員検診システムなどを浜松労災病院や川崎医科大学附属病院に導入した経験があります.本来,実用化されているシステムであれば作成者は問題ではなく,施設独自に作成するということが本質であり,ベンダー開発のものとは異なる特徴があります.導入費用が安価であることは言うまでもありませんが,コンテンツの変更に柔軟な対応ができること,作成したソフトウェアに含まれるワークフローや医療知識が適切に抽出されたものであることなどが指摘されています.ベンダーに委託して導入されたシステムは変更希望があっても費用の点やベンダーの対応という点で十分な対応がなされないといったことは身近によくあることです.他方,施設独自に作成した場合はシステムの管理が問題で,多くの事例では独自に管理者を養成していますが,なかには商品化により解決を図っているものもあります.医療者は現場でどのようなシステムが必要なのかの具体的なプランを有していますが,それを実現する手段をもっていません.逆に,医療をターゲットとするエンジニアはそうしたプランを実現する手段は有していますが,医療に固有の知識に乏しいのが通常です.ベンダーに委託する場合,エンジニアとコミュニケーションを図ることは基本的なことでありながら,現実には容易なことではありません.また,導入あるいはカスタマイズに要する費用負担も軽くはありません.そのために,ベンダーに委託するシステムを医療現場に最適なものにすることはむずかしいという現実があります.ソフトウェアとしては稚拙であっても細部にまで手の届くシステムが医療者の手で作成され,現場で使用される理由にはこうした背景があります.これまでのところ,医療者によって作成・実用化され,発表されてきたソフトウェアに対する評価は,ベンダーによって開発されるソフトウェアと同じものさしで行われているように感じられますが,このことは医療者がソフトウェアを作成する意義と価値が正しく理解されているとはいえないと言い換えることもできます.2005年12月に日本クリニカルパス学会において「医療者が作成する医療用ソフトウェアの現状と将来性」というシンポジウムが行われましたが,これは特に「医療者作成」に焦点を当てたものであり,わが国における初めての議論の場となりました.シンポジウムでは,医療者が作成するソフトウェアが病院情報システムとの連携を図って構築しうること,さらにベンダーへの提案あるいは共同開発にまで至る可能性があることが示唆されています.医療者が作成するソフトウェアの分野はやっと全国的なレベルで活動が始まったところですが,今後,ますます大切な分野になってゆくものと思われます.(75)よくわかる医療情報のお話●連載(隔月)⑤若宮俊司*医療者が作成する医療用ソフトウェアの世界*ShunjiWakamiya:川崎医科大学眼科学教室/川崎医療福祉大学感覚矯正学科/同医療情報学科/名古屋大学大学院医学系研究科医療管理情報学教室医療者によるコーディング(VC++)

硝子体手術のワンポイントアドバイス45.水晶体を温存した周辺部硝子体切除のコツ(中級編)

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに周辺部の硝子体を十分に切除するためには,水晶体を摘出したほうが有利なのは明白だが,混濁のない若年者の水晶体は可能なかぎり温存したいものである.眼底周辺部に増殖性病変を有する症例,あるいは水晶体を切除しないと十分な牽引の解除ができない裂孔原性網膜?離などでは,水晶体は切除すべきであるが,最近の学会報告を聞いていると,やや安易に水晶体を摘出しすぎているといった印象がある.筆者は,以前から顕微鏡同軸照明下で強膜圧迫を行いながら,水晶体を温存したまま可能なかぎり周辺部の硝子体を切除する方法を適宜行っている1).もちろん,水晶体を摘出した場合と比較して残存硝子体量は多くなるが,慣れれば結構周辺部まで切除できるものである.●水晶体を温存した周辺部硝子体切除のコツ硝子体カッターを動かして無理に周辺部の硝子体を切除しようとすると,水晶体を損傷してしまうので,カッターの位置は極力固定したまま,強膜を圧迫しながら,切除したい部位の硝子体をカッターに近づけていく(図1).このとき,硝子体切除する象限の方向へ眼球をやや傾けるのがコツである.耳側,鼻側,上方は比較的楽に周辺まで硝子体を切除できる.特に上耳側と上鼻側の硝子体は慣れれば硝子体基底部の後縁まで切除することが可能である(図2).切除がややむずかしいのは下方である.まず,少し後極寄りの強膜を圧迫し(図3a,b),その後はやや角膜寄りの強膜を圧迫して,残った硝子体を硝子体カッターの吸引口に近づける(図4a,b).おわりに水晶体摘出を併用した硝子体手術に慣れてしまうと,ついつい安易に水晶体を摘出する癖がついてしまう.上記の方法に普段から慣れていれば,結構抵抗なく水晶体が温存できるので,硝子体手術を専門にしている術者(73)は,ぜひとも習得しておきたい手技である.文献1)池田恒彦:最近の網膜硝子体手術特殊手技の適応と実際.あたらしい眼科11:1337-1344,1994硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?45水晶体を温存した周辺部硝子体切除のコツ(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図2上耳側周辺部の硝子体切除慣れれば上耳側と上鼻側の硝子体は基底部の後縁まで切除することが可能である.図3下方の硝子体切除(その1)a:まず,少し後極寄りの強膜を圧迫する.b:シェーマ.aba図4下方の硝子体切除(その2)a:ついで,やや角膜寄りの強膜を圧迫して,残った硝子体を硝子体カッターの吸引口に近づける.b:シェーマ.b図1周辺部硝子体切除のコツカッターの位置は極力固定したまま,強膜を圧迫しながら,切除したい部位の硝子体をカッターに近づけていく.この角度は一定に

眼科医のための先端医療74.網膜疾患におけるレドックス制御-チオレドキシンの関与-

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSレドックスレドックスとは還元(reduction)と酸化(oxidation)の合成語であり,酸化還元反応を介した細胞機能の制御をレドックス制御とよびます.生体は細菌・ウイルス感染や種々の有害物質などのストレスに曝露されています.通常,細胞内に発生した活性酸素種(reactiveoxy-genspecies:ROS)はそれ自身がセカンドメッセンジャーとしてさまざまな細胞機能を調節していますが,酸化ストレスにより過剰に産生されたROSは蛋白質,脂質,核酸などを酸化し障害をもたらします.生体内には制御機構としてレドックス反応による活性酸素消去系が存在していますが,この制御機構はおもに蛋白質のシステイン残基上のチオール基の可逆的構造変化による遺伝子発現,細胞増殖,分化,細胞死の制御など多様な生命現象にも深く関与しています.チオレドキシン(TRX)レドックス制御にはグルタチオン系とチオレドキシン(TRX)系が知られています.TRXは原核生物からヒトまで保存されている活性部位(-Cys-Gly-Pro-Cys-)を有する分子量約12kDaの蛋白質です.2つのシステイン残基の間でジスルフィド(S-S)結合をつくる酸化型と-SH-SHの還元型が存在し,還元型は基質蛋白質を還元し自ら酸化型となります(図1).酸化型TRXはNADPH(reducednicotinamideadeninedinucleotidephosphate)とTRX還元酵素により還元型に還元されます.TRXの細胞内濃度はグルタチオンと比較して約1/1,000程度ですが,TRXノックアウトマウスは胎生致死に至るためグルタチオン系では補完できない必須の役割を果たしていると考えられます1).種々のストレス(紫外線,放射線,酸化剤,ウイルス感染,虚血再灌流障害など)により誘導されることが知られており,単独で一重項酸素やヒドロキシラジカルを消去するほか,ペルオキシレドキシンとの協調作用によりROSを消去する抗酸化物質として生体内で働きます.TRXは種々のストレスにより誘導されることから,酸化ストレスのマーカーとして血清中のTRX値を測定し種々の疾患予後に利用できることが報告されています.慢性心不全の程度と血清TRX値が正の相関を示し治療効果判定の指標になることや,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症やC型肝炎などの慢性感染症でも上昇し疾患予後の指(69)◆シリーズ第74回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊猪俣泰也(国家公務員共済組合連合会熊本中央病院眼科)網膜疾患におけるレドックス制御─チオレドキシンの関与─OxidativestressGlutamate-inducedneurotoxicityIschemicinjuryetc.還元型TRX酸化型TRXASK-1ASK-1ASK-1p38/JNKApoptosis核細胞質NADPHNADPS-SS-STRXTrxRS-STRXTRXSHSHTRXSHSHSHSH基質(還元型)基質(酸化型)H2OMKKsH2O2Peroxiredoxin蛋白質蛋白質図1虚血やグルタミン酸興奮毒性に対するTRXの作用(仮説)酸化ストレスで発生する過酸化水素は還元型TRXとperoxiredoxinの協調作用により水に還元される.還元型TRXはASK-1に結合し活性化を抑制しているが,酸化ストレスにより酸化型TRXへ変換するとASK-1と結合がはずれ,ASK-1が活性化する.p38の活性化も直接制御していると考えられている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007標となることが報告されています.TRXは抗炎症作用を有することも知られており間質性肺炎,肝障害,脳や腎での虚血再灌流障害などで細胞保護効果を示すことより,製剤としての臨床医薬への応用が期待されています.網膜疾患でのチオレドキシン眼は光を感受するという臓器特異性により,眼組織は生涯にわたり光に曝露されており活性酸素の発生が生じやすい環境下にあります.各組織にて過度の光や紫外線照射にて酸化ストレスに起因する細胞障害を生じますが,TRXは生体防御機構の一部として働いています.水晶体内にもTRX,チオレドキシン還元酵素(TrxR)が発現しており,光に対するラジカル消去機構として働いていることが示唆されています2).網膜において加齢黄斑変性症は酸化ストレスに加え遺伝的因子,環境因子などが発症機序へ関与しており,緑内障に関しても酸化ストレスとの関連が報告されています3).動物実験では光照射による網膜障害モデルにて,TRX投与により障害抑制効果を認め4),さらにGGA(geranylgeranylace-tone)5)などのチオレドキシン誘導物質でも,同様の障害抑制効果を認めています.グルタミン酸興奮毒性6)や虚血再灌流モデル7)にてもTRXによる網膜神経節細胞への細胞保護効果を認めています.NMDA(?-methyl-D-aspartate)による網膜障害モデルにおいては,NMDAにより網膜内にフリーラジカルが産生され,ROS依存的なMAPKs(p38,JNK)およびMAPKkinase(MKKs)の活性化,caspase-3,-9の活性化が生じますがTRXにより抑制され,その効果にはTRXの活性部位が必須であることが確認されております6).MKKK(MAPKkinasekinase)ファミリーに属するASK-1(apoptosissignal-regulatingkinase1)はTRXと結合しその活性を制御しておりますが,ASK-1のノックアウトマウスでは,網膜虚血による神経細胞死が軽減される報告もあり8),酸化ストレスに対するASK-1-JNK/p38-caspase経路に対する細胞死に対しTRXは抑制的に作用することが予想されます.今後の展望TRXは生体内に存在する酸化ストレスに対する防御因子ですが,外的投与にてもさまざまなストレスに関する細胞保護効果を認めることから,現在臨床応用(製剤化)にむけた研究がなされており,眼疾患への臨床応用も十分期待できると考えられます.今回紹介しませんでしたが,ASK-1以外にもTRXが標的とする物質も同定(TBP2/VDUP1)されており,糖,脂質代謝や癌化,老化との関連がすでに報告されています.今後眼疾患においてもTRXと関連分子のさらなる分子機構の解明が期待されます.文献1)MatsuiM,OshimaM,OshimaHetal:Earlyembryoniclethalitycausedbytargeteddisruptionofthemousethio-redoxingene.????????178:179-185,19962)LouMF:Redoxregulationinthelens.??????????????????22:657-682,20033)TezelG:Oxidativestressinglaucomatousneurodegener-ation:mechanismsandconsequences.??????????????????25:490-513,20064)TanitoM,MasutaniH,NakamuraHetal:Cytoprotectivee?ectofthioredoxinagainstretinalphoticinjuryinmice.?????????????????????????43:1162-1167,20035)TanitoM,KwonYW,KondoNetal:Cytoprotectivee?ectsofgeranylgeranylacetoneagainstretinalphotooxi-dativedamage.??????????25:2396-2404,20056)InomataY,NakamuraH,TanitoMetal:ThioredoxininhibitsNMDA-inducedneurotoxicityintheratretina.???????????98:372-385,20067)ShibukiH,KataiN,YodoiJetal:Protectivee?ectofadultT-cellleukemia-derivedfactoronretinalischemia-reperfusioninjuryintherat.??????????????????????????39:1470-1477,19988)HaradaC,NakamuraK,NamekataKetal:Roleofapop-tosissignal-regulatingkinase1instress-inducedneuralcellapoptosisinvivo.???????????168:261-269,2006(70)■「網膜疾患におけるレドックス制御─チオレドキシンの関与─」を読んで■今回は,猪俣泰也先生による酸化ストレス制御の面からの疾患病態制御のお話です.広く知られるようになったことですが,種々の疾患に酸化ストレスが関与します.本総説を拝読すると,酸化還元反応を介した細胞機能の制御=レドックス制御は生命現象の根本に位置していることがわかります.細胞が生きて活動する際に必要なエネルギー代謝によりROS(本文参照)が発症することによる障害を抑制し,かつ,外界からの酸化ストレスによる攻撃からも生命をまもっている機構ということになります.レ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???(71)ドックス制御に重要な酸化還元反応での電子の受け渡しの主体となる分子としてグルタチオン系とチオレドキシン(TRX)系があることが示され,そのうちTRXに今回はフォーカスを合わせて解説されています.眼疾患に関連することが体系だってまとめられており,網膜疾患,白内障,緑内障など日常診療で遭遇する多くの疾患に関連することがわかります.最後の項目でTRXを治療薬として応用する可能性が述べられております.われわれ臨床医としてはその開発を待ち望んでいます.たとえば,加齢黄斑変性は進行した脈絡膜血管新生を伴った病的組織の治療としては,光線力学的療法(PDT),抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体などのVEGF制御薬などが臨床応用されつつあり,治療が有効に行えるようになった現在,加齢黄斑変性の予防ないしは軽症例の進展阻止のための治療法の開発が急務です.TRX製剤による酸化ストレス制御はいい候補ではないかと考えます.ただ,酸化ストレス制御のメカニズムで薬効が認められた薬剤で網膜疾患が適応になっている薬剤はありません.生体が自らの防御機構としてもっているシステムを強化するという治療戦略での治療薬開発はサイトカインの臨床応用にも似ていますが,breakthroughとして一つの薬物が効果,安全性が確認されて承認されるという実績をつくることが大切のように感じます.今回の総説は論理的に整理され今後の研究の方針を考えるために大変役立つ解説になると考えます.山形大学医学部視覚病態学山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ169.OCT-ophthalmoscope

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS度は最大6mmまで可能であるので,ある程度の大きさの病変にも対応可能である.撮影途中にはB-scanへの切り替えもできる.眼底写真上の赤のラインを動かすことで,撮影部位を任意に選択できる.撮影結果はB-scan,C-scanともにグレースケールと擬似カラーで表示することができる.C-scan像はSLO像とoverlayすることが可能で,病変の正確な位置,大きさ,範囲の判定が容易にできる.網膜厚の測定や3D立体画像の構築も内蔵ソフトで可能である(図1).ただし,B-scan像はC-scan像を元に構築されるため,時間が多少必要となり,固視不良例では鮮明な画像を得るのがむずかしい場合がある.また,この装置はGull-strand模型眼を元に製作されているため,強度近視眼などの眼軸長が極端に長い場合には鮮明なOCT像を得るのにある程度の技術の習熟が必要である.?本方法の良い点OCT-ophthalmoscopeは,従来のOCTでは不可能であった網脈絡膜の断面画像(C-scan)が得られるのが一番の利点である.つまり,眼底写真同様の平面的な病変新しい治療と検査シリーズ(67)?バックグラウンド黄斑部疾患をはじめとする網脈絡膜疾患では立体的な観察が必須であるが,opticalcoherencetomography(OCT)の開発により詳細な断層像(B-scan)が得られ診断が容易になった.このOCT-ophthalmoscopeではさらに断面画像(C-scan)の撮影が可能となり,三次元的に病変を観察することで,病変の大きさ,位置,形状などの把握がより容易にできるようになった.?新しい検査法(原理)従来のOCTと同様にスーパールミネッセンスダイオード(SLD)光源を用い,参照光と測定光の干渉現象を利用して画像を構築する.さらに従来のOCTと異なり,測定光路内にガルバノミラーを挿入することで,網膜内のある点と等光路面上を高速にスキャンすることが可能となっている.まず横方向にスキャンし平面での情報を得た後,リファレンスミラーを動かすことで奥行き方向の情報を得られる.この方法を用いることで,従来の断層像(B-scan)のみならず任意の深さの断面画像(C-scan)が撮影可能となった.また,OCT測定光軸と同一光軸の走査型レーザー検眼鏡(SLO)画像も同時に得られるため,鮮明な眼底像を確認しながら測定でき,かつ撮影箇所を任意に選択できる.?実際の使用方法─治療,検査法の実際のやり方撮影は無散瞳でも可能であるが,通常は散瞳下に行う.まず,前眼部観察用モニターで撮影眼の瞳孔中心が光軸にくるように位置を調節する.つぎに,患者に内部固視標を固視させ,撮影したい場所を画面左側の眼底画像に表示させるように誘導する.撮影モードを選択し,撮影を開始する.深度を調整することで,画面右側にC-scan像が現れる.深度の調節は手動でも自動でも可能である.測定深169.OCT-ophthalmoscopeプレゼンテーション:佐柳香織大阪大学大学院医学研究科視覚病態学コメント:飯田知弘福島県立医科大学医学部眼科学講座図1OCT-ophthalmoscopeで構築した3D立体画像B-scan,C-scan像と同様にグレースケールと擬似カラーを任意に選択できる.網膜厚の測定も可能である.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007観察が可能となり,病変の正確な位置判定のみならず微小視野計などの他の検査との対比が行いやすい.また,3D画像を比較的容易に作成することができるので,病変を立体的に把握することも可能である.自験例でこのOCT-ophthalmoscopeが有用であった例としては,強度近視眼の後部ぶどう腫部における網膜微小皺襞があげられる1,2).SLOによる眼底像とC-scan像を撮影,重ね合わせを行うことによって,この皺襞が網膜動脈の走行と一致することが判明した(図2).つまりこの網膜皺襞は,動脈硬化で伸展性が低下した血管が,眼軸長延長に伴う眼球の変化に対応できずに網膜を吊り上げることによって形成されると推察される.また,中心性漿液性網脈絡膜症では,C-scan像で漿液性網膜?離や網膜色素上皮の変化が鮮明に観察され,この部位が蛍光造影撮影における蛍光漏出点と一致することがわかった.したがって,この機械を用いることで非侵襲的に漏出点の同定が行えるのみならず,B-scan像を用いることで従来の網膜断層像による形態学的評価も可能である3).文献1)IkunoY,GomiF,TanoY:Potentretinalarteriolartrac-tionasapossiblecauseofmyopicfoveoschisis.????????????????139:462-467,20052)SayanagiK,IkunoY,GomiFetal:Retinalvascularmicrofoldsinhighlymyopiceyes.???????????????139:658-663,20053)MitaraiK,GomiF,TanoY:Three-dimensionalopticalcoherencetomographic?ndingsincentralserouschorio-retinopathy.????????????????????????????????244:1415-1420,2006(68)?本方法に対するコメント?OCT-ophthalmoscopeでは,本文に述べられているようにB-scanだけでなくC-scan画像が得られ,三次元的に病変を把握することができる.しかし,かなり自動化されているOCT3と比べると画像の取得には慣れが必要である.OCT-ophthal-moscopeの機能を十分発揮するには,検者は限定される.多くの検査機器に共通することではあるが,見たい病変部位のOCT像を得るには,やはり,その眼科医自身が検者になる必要がある.また,C-scan画像の読影には多少の経験が必要となる.これらの欠点はあるものの,本装置には大きなメリットがある.それは,従来機種に比べ高解像度のB-scan画像が得られることと,OCT画像がSLO画像と1対1で対応しているので病変の正確な位置を把握できることである.解像度が良いので,網膜の層構造や視細胞内節外節の境界部(IS/OS)が観察できる.IS/OSの変化は視機能に影響するとされる.形態的変化と機能的変化の関係をみていくうえで,有用な検査機器であると考える.図2強度近視眼における網膜微小皺襞a:左がSLOによる眼底像,右がC-scan像である.黄色矢印が網膜血管を,白矢印が微小皺襞部を示している.b:aの眼底像とC-scan像をoverlayしたものである.図にあるよう微小皺襞部と網膜血管の走行は一致し,皺襞が網膜血管の牽引によって形成された可能性を示唆している.ab

眼感染症:グラム染色の効用-眼科医の眼・検査室の眼-

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■臨床と検査の連携眼科医による初診時臨床診断≪眼科医の眼≫は,患者の主訴,基礎疾患,既往歴などに基づく視診(肉眼観察と顕微鏡観察)で決定される.その眼は,眼瞼炎,涙?炎,結膜炎,角膜炎,虹彩炎,網膜炎などの特徴を捉え,さらに細菌性,真菌性,ウイルス性を推察し,加えて特定微生物をも見据えることができる.つぎは,確定診断のための精密検査を企画実行し,経験的治療を開始することになるが,この時点で有用となるのが鏡検法であり,眼科医の眼から検査室の眼に判断を委ねることになる.依頼を受ける検査室としては,適正に採取された材料であることを望み,可能な限りの患者情報や検査目的を詳細に入手することが大切となる.これは,臨床医からの情報に基づいて検査法の選別追加,培養方法(検体希釈,培地選択)や培養時間の延長,鏡検成績と培養成績の矛盾判断,汚染菌と病原性菌の鑑別に役立てるためである.これらの情報を基にグラム染色を中心とした各種鏡検法が遂行され,≪検査の眼≫による分析と特定微生物の推定を速やかに臨床医に報告する.成績の伝達に際しては推定微生物名称のみならず,その微生物に関する病原的意義や抗菌薬情報(耐性度など)などの付加価値を伝えることも大切である.大手前病院では,特殊検査や臨床医の要請に応じ技師が眼科診察の現場に出向し,材料採取に立会うとともに,直接医師からの情報(患者状態や目的など)を取得し,その意思≪眼科医の眼≫を念頭に迅速検査を行い,リアルタイムで成績≪検査の眼≫を報告している.■鏡検法迅速検査の実例1.?????????????????????感染症例患者は25歳,女性.眼瞼腫脹,結膜浮腫,疼痛にて来院.眼科医の眼:大量の膿性眼脂,膿漏眼(眼瞼からあふれる,図1)を認め,淋疾患を疑う.ただちに検査室に状態を伝え,材料採取とグラム染色を依頼.検査室の眼:膿性分泌物を採取し,その場で塗抹標本を作製.検査室に持ち帰りグラム染色鏡検した(培養も実施).その結果,炎症細胞(白血球)に貪食されたグラム陰性双球菌を認め(図2),臨床医の推察どおり???(63)45.グラム染色の効用─眼科医の眼・検査室の眼─眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一山中喜代治大手前病院臨床検査部眼科領域におけるpointofcaretesting(POCT)技術は免疫学,分子生物学手法を中心に浸透しているが,最も経済的で迅速性を発揮できるのは鏡検法であり,なかでもグラム染色検査は群を抜いた迅速検査の一つである.ここでは,眼感染症における鏡検法の効用について概説し,グラム染色については従来のHucker変法に代わるB&M(Bartholomew&Mittwer)法について紹介した.図1??????????????による結膜炎膿漏眼(眼瞼からあふれる膿).図2膿漏眼分泌物のグラム染色??????????????を推定.図3角膜擦過物の生標本アカントアメーバシストを確認.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???????????を推定し,最近分離される??????????????の多くがキノロン耐性であることを含め,臨床に報告した.2.アカントアメーバ角膜炎症例患者は29歳,男性.異物感と充血,疼痛にて来院,コンタクトレンズ使用.眼科医の眼:斑状混濁が散発,前房蓄膿,無菌性眼内炎を疑い,アカントアメーバ検査を目的に検査室に連絡.検査室の眼:診療現場に赴き,採取した角膜擦過物をその場でスライドグラス数枚および専用培地に塗布.検査室では無染色標本を観察し,アカントアメーバシスト(図3)および微動の栄養型を認めた.さらにファンギフローラY染色にて明るい蛍光を発するシスト(図4)を確認し,臨床医の眼による診断に間違いないことを伝えた.また,これまでの実験1)にて確認したアカントアメーバに対する薬剤効果成績(ジフルカン,フロリード,ファンギゾンは耐性傾向にありピマリシンが有効)も伝えた.(64)←図7a角膜潰瘍擦過物のグラム染色neo-B&M法????????????????????????を推定.→図7b角膜潰瘍擦過物のグラム染色Hucker変法?????????????を推定.図4角膜擦過物のファンギフローラ染色蛍光を発するアカントアメーバシスト.図6a眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色neo-B&M法??????????????を推定.図6b眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色Hucker変法??????????????を推定.図5グラム染色neo-B&Mワコーの染色手順1.材料の塗抹2.メタノール固定4.ヨウ素水酸化ナトリウム溶液を作用5.アセトンアルコールで脱色7.100倍率1,000倍率で鏡検3.調整クリスタルバイオレットで前染色6.パイフェル液で後染色乾燥1分≪通常はガラス瓶に満たしたアルコールに浸し固定する≫水洗30秒≪水洗を省略し続けてヨウ素液を満載することもできる≫水洗30秒≪1NNaOH調整ヨウ素液を作用させ,十分水洗する≫水洗数秒≪漿液性材料はアルコールのみで十分.濃厚材料はアセトンアルコールを用いる≫水洗数秒≪100400倍率は乾燥系,1,000倍率は油浸系レンズで鏡検≫乾燥≪脱脂スライドグラスを使用≫≪瞬間の染色時間で十分であり,しっかり洗浄し,乾燥させる≫———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???■グラム染色検査最も手軽で迅速なグラム染色であるが,手技手法によっては熟練を要し,鏡検時に苦慮する場合も少なくない.筆者らは,古くから知られるHucker変法に代わり,特別な訓練なしでグラム陽性,陰性が判別しやすいグラム染色B&M(Bartholomew&Mittwer)変法2)『neo-B&Mワコー(和光純薬)』を開発した(図5).このneo-B&Mは,染色時間や手技を無造作に行っても良好な染色像が得られ,Hucker変法のようにグラム陽性菌が薄い陽性色または陰性に染まるような傾向は見られない.両染色法の比較を図6a,bおよび図7a,bに紹介する.文献1)奥村真理子,藤本雅彦,原田純ほか:薬剤感受性試験の結果が治療に有効であったアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀55:301-305,20042)山中喜代治:グラム染色“Bartholomew&Mittwer”を試そう.日臨微生物誌3:21-26,1993(65)☆☆☆◎検査室から眼科医へ◎臨床医が微生物検査を依頼するときのターゲットの絞り方のポイントは?◎眼科医から検査室へ◎眼科医が感染を疑った場合は,まず,細菌・ウイルス・真菌・原虫のいずれであるかを考えます.基本的には進行が速くて好中球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら粘液膿性眼脂,角膜炎なら濃厚な混濁)細菌を,進行が速くてリンパ球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら漿液線維素性眼脂,角膜炎なら淡い混濁)ウイルスを,進行が遅ければ真菌や原虫を考えます.あとはそのなかでさらに菌種を絞りますが,よほど特徴的な所見のもの(本文中にある淋菌性結膜炎やアカントアメーバ角膜炎,あるいは緑膿菌による輪状角膜潰瘍など)や特定の患者背景と結びついたもの(アトピー性皮膚炎患者に黄色ブドウ球菌感染が多いなど)以外は絞りきれずに,検査室にお願いする場合のほうが多いように思います.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■臨床と検査の連携眼科医による初診時臨床診断≪眼科医の眼≫は,患者の主訴,基礎疾患,既往歴などに基づく視診(肉眼観察と顕微鏡観察)で決定される.その眼は,眼瞼炎,涙?炎,結膜炎,角膜炎,虹彩炎,網膜炎などの特徴を捉え,さらに細菌性,真菌性,ウイルス性を推察し,加えて特定微生物をも見据えることができる.つぎは,確定診断のための精密検査を企画実行し,経験的治療を開始することになるが,この時点で有用となるのが鏡検法であり,眼科医の眼から検査室の眼に判断を委ねることになる.依頼を受ける検査室としては,適正に採取された材料であることを望み,可能な限りの患者情報や検査目的を詳細に入手することが大切となる.これは,臨床医からの情報に基づいて検査法の選別追加,培養方法(検体希釈,培地選択)や培養時間の延長,鏡検成績と培養成績の矛盾判断,汚染菌と病原性菌の鑑別に役立てるためである.これらの情報を基にグラム染色を中心とした各種鏡検法が遂行され,≪検査の眼≫による分析と特定微生物の推定を速やかに臨床医に報告する.成績の伝達に際しては推定微生物名称のみならず,その微生物に関する病原的意義や抗菌薬情報(耐性度など)などの付加価値を伝えることも大切である.大手前病院では,特殊検査や臨床医の要請に応じ技師が眼科診察の現場に出向し,材料採取に立会うとともに,直接医師からの情報(患者状態や目的など)を取得し,その意思≪眼科医の眼≫を念頭に迅速検査を行い,リアルタイムで成績≪検査の眼≫を報告している.■鏡検法迅速検査の実例1.?????????????????????感染症例患者は25歳,女性.眼瞼腫脹,結膜浮腫,疼痛にて来院.眼科医の眼:大量の膿性眼脂,膿漏眼(眼瞼からあふれる,図1)を認め,淋疾患を疑う.ただちに検査室に状態を伝え,材料採取とグラム染色を依頼.検査室の眼:膿性分泌物を採取し,その場で塗抹標本を作製.検査室に持ち帰りグラム染色鏡検した(培養も実施).その結果,炎症細胞(白血球)に貪食されたグラム陰性双球菌を認め(図2),臨床医の推察どおり???(63)45.グラム染色の効用─眼科医の眼・検査室の眼─眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一山中喜代治大手前病院臨床検査部眼科領域におけるpointofcaretesting(POCT)技術は免疫学,分子生物学手法を中心に浸透しているが,最も経済的で迅速性を発揮できるのは鏡検法であり,なかでもグラム染色検査は群を抜いた迅速検査の一つである.ここでは,眼感染症における鏡検法の効用について概説し,グラム染色については従来のHucker変法に代わるB&M(Bartholomew&Mittwer)法について紹介した.図1??????????????による結膜炎膿漏眼(眼瞼からあふれる膿).図2膿漏眼分泌物のグラム染色??????????????を推定.図3角膜擦過物の生標本アカントアメーバシストを確認.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???????????を推定し,最近分離される??????????????の多くがキノロン耐性であることを含め,臨床に報告した.2.アカントアメーバ角膜炎症例患者は29歳,男性.異物感と充血,疼痛にて来院,コンタクトレンズ使用.眼科医の眼:斑状混濁が散発,前房蓄膿,無菌性眼内炎を疑い,アカントアメーバ検査を目的に検査室に連絡.検査室の眼:診療現場に赴き,採取した角膜擦過物をその場でスライドグラス数枚および専用培地に塗布.検査室では無染色標本を観察し,アカントアメーバシスト(図3)および微動の栄養型を認めた.さらにファンギフローラY染色にて明るい蛍光を発するシスト(図4)を確認し,臨床医の眼による診断に間違いないことを伝えた.また,これまでの実験1)にて確認したアカントアメーバに対する薬剤効果成績(ジフルカン,フロリード,ファンギゾンは耐性傾向にありピマリシンが有効)も伝えた.(64)←図7a角膜潰瘍擦過物のグラム染色neo-B&M法????????????????????????を推定.→図7b角膜潰瘍擦過物のグラム染色Hucker変法?????????????を推定.図4角膜擦過物のファンギフローラ染色蛍光を発するアカントアメーバシスト.図6a眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色neo-B&M法??????????????を推定.図6b眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色Hucker変法??????????????を推定.図5グラム染色neo-B&Mワコーの染色手順1.材料の塗抹2.メタノール固定4.ヨウ素水酸化ナトリウム溶液を作用5.アセトンアルコールで脱色7.100倍率1,000倍率で鏡検3.調整クリスタルバイオレットで前染色6.パイフェル液で後染色乾燥1分≪通常はガラス瓶に満たしたアルコールに浸し固定する≫水洗30秒≪水洗を省略し続けてヨウ素液を満載することもできる≫水洗30秒≪1NNaOH調整ヨウ素液を作用させ,十分水洗する≫水洗数秒≪漿液性材料はアルコールのみで十分.濃厚材料はアセトンアルコールを用いる≫水洗数秒≪100400倍率は乾燥系,1,000倍率は油浸系レンズで鏡検≫乾燥≪脱脂スライドグラスを使用≫≪瞬間の染色時間で十分であり,しっかり洗浄し,乾燥させる≫———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???■グラム染色検査最も手軽で迅速なグラム染色であるが,手技手法によっては熟練を要し,鏡検時に苦慮する場合も少なくない.筆者らは,古くから知られるHucker変法に代わり,特別な訓練なしでグラム陽性,陰性が判別しやすいグラム染色B&M(Bartholomew&Mittwer)変法2)『neo-B&Mワコー(和光純薬)』を開発した(図5).このneo-B&Mは,染色時間や手技を無造作に行っても良好な染色像が得られ,Hucker変法のようにグラム陽性菌が薄い陽性色または陰性に染まるような傾向は見られない.両染色法の比較を図6a,bおよび図7a,bに紹介する.文献1)奥村真理子,藤本雅彦,原田純ほか:薬剤感受性試験の結果が治療に有効であったアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀55:301-305,20042)山中喜代治:グラム染色“Bartholomew&Mittwer”を試そう.日臨微生物誌3:21-26,1993(65)☆☆☆◎検査室から眼科医へ◎臨床医が微生物検査を依頼するときのターゲットの絞り方のポイントは?◎眼科医から検査室へ◎眼科医が感染を疑った場合は,まず,細菌・ウイルス・真菌・原虫のいずれであるかを考えます.基本的には進行が速くて好中球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら粘液膿性眼脂,角膜炎なら濃厚な混濁)細菌を,進行が速くてリンパ球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら漿液線維素性眼脂,角膜炎なら淡い混濁)ウイルスを,進行が遅ければ真菌や原虫を考えます.あとはそのなかでさらに菌種を絞りますが,よほど特徴的な所見のもの(本文中にある淋菌性結膜炎やアカントアメーバ角膜炎,あるいは緑膿菌による輪状角膜潰瘍など)や特定の患者背景と結びついたもの(アトピー性皮膚炎患者に黄色ブドウ球菌感染が多いなど)以外は絞りきれずに,検査室にお願いする場合のほうが多いように思います.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■臨床と検査の連携眼科医による初診時臨床診断≪眼科医の眼≫は,患者の主訴,基礎疾患,既往歴などに基づく視診(肉眼観察と顕微鏡観察)で決定される.その眼は,眼瞼炎,涙?炎,結膜炎,角膜炎,虹彩炎,網膜炎などの特徴を捉え,さらに細菌性,真菌性,ウイルス性を推察し,加えて特定微生物をも見据えることができる.つぎは,確定診断のための精密検査を企画実行し,経験的治療を開始することになるが,この時点で有用となるのが鏡検法であり,眼科医の眼から検査室の眼に判断を委ねることになる.依頼を受ける検査室としては,適正に採取された材料であることを望み,可能な限りの患者情報や検査目的を詳細に入手することが大切となる.これは,臨床医からの情報に基づいて検査法の選別追加,培養方法(検体希釈,培地選択)や培養時間の延長,鏡検成績と培養成績の矛盾判断,汚染菌と病原性菌の鑑別に役立てるためである.これらの情報を基にグラム染色を中心とした各種鏡検法が遂行され,≪検査の眼≫による分析と特定微生物の推定を速やかに臨床医に報告する.成績の伝達に際しては推定微生物名称のみならず,その微生物に関する病原的意義や抗菌薬情報(耐性度など)などの付加価値を伝えることも大切である.大手前病院では,特殊検査や臨床医の要請に応じ技師が眼科診察の現場に出向し,材料採取に立会うとともに,直接医師からの情報(患者状態や目的など)を取得し,その意思≪眼科医の眼≫を念頭に迅速検査を行い,リアルタイムで成績≪検査の眼≫を報告している.■鏡検法迅速検査の実例1.?????????????????????感染症例患者は25歳,女性.眼瞼腫脹,結膜浮腫,疼痛にて来院.眼科医の眼:大量の膿性眼脂,膿漏眼(眼瞼からあふれる,図1)を認め,淋疾患を疑う.ただちに検査室に状態を伝え,材料採取とグラム染色を依頼.検査室の眼:膿性分泌物を採取し,その場で塗抹標本を作製.検査室に持ち帰りグラム染色鏡検した(培養も実施).その結果,炎症細胞(白血球)に貪食されたグラム陰性双球菌を認め(図2),臨床医の推察どおり???(63)45.グラム染色の効用─眼科医の眼・検査室の眼─眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一山中喜代治大手前病院臨床検査部眼科領域におけるpointofcaretesting(POCT)技術は免疫学,分子生物学手法を中心に浸透しているが,最も経済的で迅速性を発揮できるのは鏡検法であり,なかでもグラム染色検査は群を抜いた迅速検査の一つである.ここでは,眼感染症における鏡検法の効用について概説し,グラム染色については従来のHucker変法に代わるB&M(Bartholomew&Mittwer)法について紹介した.図1??????????????による結膜炎膿漏眼(眼瞼からあふれる膿).図2膿漏眼分泌物のグラム染色??????????????を推定.図3角膜擦過物の生標本アカントアメーバシストを確認.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???????????を推定し,最近分離される??????????????の多くがキノロン耐性であることを含め,臨床に報告した.2.アカントアメーバ角膜炎症例患者は29歳,男性.異物感と充血,疼痛にて来院,コンタクトレンズ使用.眼科医の眼:斑状混濁が散発,前房蓄膿,無菌性眼内炎を疑い,アカントアメーバ検査を目的に検査室に連絡.検査室の眼:診療現場に赴き,採取した角膜擦過物をその場でスライドグラス数枚および専用培地に塗布.検査室では無染色標本を観察し,アカントアメーバシスト(図3)および微動の栄養型を認めた.さらにファンギフローラY染色にて明るい蛍光を発するシスト(図4)を確認し,臨床医の眼による診断に間違いないことを伝えた.また,これまでの実験1)にて確認したアカントアメーバに対する薬剤効果成績(ジフルカン,フロリード,ファンギゾンは耐性傾向にありピマリシンが有効)も伝えた.(64)←図7a角膜潰瘍擦過物のグラム染色neo-B&M法????????????????????????を推定.→図7b角膜潰瘍擦過物のグラム染色Hucker変法?????????????を推定.図4角膜擦過物のファンギフローラ染色蛍光を発するアカントアメーバシスト.図6a眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色neo-B&M法??????????????を推定.図6b眼瞼膿瘍(結膜炎)のグラム染色Hucker変法??????????????を推定.図5グラム染色neo-B&Mワコーの染色手順1.材料の塗抹2.メタノール固定4.ヨウ素水酸化ナトリウム溶液を作用5.アセトンアルコールで脱色7.100倍率1,000倍率で鏡検3.調整クリスタルバイオレットで前染色6.パイフェル液で後染色乾燥1分≪通常はガラス瓶に満たしたアルコールに浸し固定する≫水洗30秒≪水洗を省略し続けてヨウ素液を満載することもできる≫水洗30秒≪1NNaOH調整ヨウ素液を作用させ,十分水洗する≫水洗数秒≪漿液性材料はアルコールのみで十分.濃厚材料はアセトンアルコールを用いる≫水洗数秒≪100400倍率は乾燥系,1,000倍率は油浸系レンズで鏡検≫乾燥≪脱脂スライドグラスを使用≫≪瞬間の染色時間で十分であり,しっかり洗浄し,乾燥させる≫———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???■グラム染色検査最も手軽で迅速なグラム染色であるが,手技手法によっては熟練を要し,鏡検時に苦慮する場合も少なくない.筆者らは,古くから知られるHucker変法に代わり,特別な訓練なしでグラム陽性,陰性が判別しやすいグラム染色B&M(Bartholomew&Mittwer)変法2)『neo-B&Mワコー(和光純薬)』を開発した(図5).このneo-B&Mは,染色時間や手技を無造作に行っても良好な染色像が得られ,Hucker変法のようにグラム陽性菌が薄い陽性色または陰性に染まるような傾向は見られない.両染色法の比較を図6a,bおよび図7a,bに紹介する.文献1)奥村真理子,藤本雅彦,原田純ほか:薬剤感受性試験の結果が治療に有効であったアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀55:301-305,20042)山中喜代治:グラム染色“Bartholomew&Mittwer”を試そう.日臨微生物誌3:21-26,1993(65)☆☆☆◎検査室から眼科医へ◎臨床医が微生物検査を依頼するときのターゲットの絞り方のポイントは?◎眼科医から検査室へ◎眼科医が感染を疑った場合は,まず,細菌・ウイルス・真菌・原虫のいずれであるかを考えます.基本的には進行が速くて好中球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら粘液膿性眼脂,角膜炎なら濃厚な混濁)細菌を,進行が速くてリンパ球が多いことを示す所見なら(結膜炎なら漿液線維素性眼脂,角膜炎なら淡い混濁)ウイルスを,進行が遅ければ真菌や原虫を考えます.あとはそのなかでさらに菌種を絞りますが,よほど特徴的な所見のもの(本文中にある淋菌性結膜炎やアカントアメーバ角膜炎,あるいは緑膿菌による輪状角膜潰瘍など)や特定の患者背景と結びついたもの(アトピー性皮膚炎患者に黄色ブドウ球菌感染が多いなど)以外は絞りきれずに,検査室にお願いする場合のほうが多いように思います.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次

光線力学的療法(PDT):光線力学的療法の方法

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS本稿では,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegen-eration:AMD)に対する光線力学的療法(photody-namictherapy:PDT)の実際の方法について述べる.●PDTを行う前にPDTを行う前にはPDT認定医の資格をもった眼科専門医,ツァイス社製ビズラスPDTシステム690S(図1),レーザー用のコンタクトレンズ,ノバルティスファーマ社ベルテポルフィン(ビスダイン?),ビスダイン?静注用の薬品・物品が必要である.PDTに必要な器具を図2に示す.PDT認定医資格取得については「眼科PDT研究会」のウェブサイト1)に説明されているので詳細は割愛させていただくが,資格取得には講習会を受講して試験に合格する必要がある.コンタクトレンズは通常の網膜光凝固の際に使用するレンズで構わないが,低倍率,高倍率両方のレンズが準備できることが望ましい(理由は後述する).また,初回治療後は48時間の入院が義務づけられているため,遮光の可能な入院施設であることが施設要件となる.●PDT治療の流れPDT適応患者へのインフォームド・コンセント/同意取得・術前検査を治療前に行い,治療当日はベルテポルフィンの投与,その後レーザー照射という2ステップで治療が行われる.治療後は経過観察を行い,3カ月ごとに再治療の要否を決定するというのが大まかな流れである.(61)野田佳宏九州大学大学院医学研究院眼科学分野光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子5.光線力学的療法の方法光線力学的療法(PDT)を行うにはPDT認定医,専用レーザー機器,薬剤が必要である.治療前には蛍光眼底造影を行い,レーザー照射サイズの決定と,身長・体重から薬剤投与量を算出しておく.治療は薬剤投与・レーザー照射の2段階で行われる.治療時には薬剤の血管外漏出に注意する.治療後は光線過敏症対策が必要で,初回治療後48時間までは入院しなければならない.その後は3カ月ごとに再治療の要否を決定していく.提供図2PDTに必要な器具①:シリンジポンプ,②:30m?シリンジ,③:10m?シリンジ,④:18ゲージ針,⑤:静脈内留置針,⑥:Y字チューブ,ラインフィルター,三方活栓のセット,⑦:延長チューブ,⑧:留置針接続チューブ(静脈確保から治療まで時間が空く場合にヘパリンと同時に使用),⑨:輸液セット(ブドウ糖液と接続),⑩:レーザー用コンタクトレンズ,⑪:⑥⑦⑨をつないだもの.図1ビズラスPDTシステム690S写真は細隙灯顕微鏡SL130に装着されたビズラスPDTシステム690S.日本で薬事承認された唯一のPDT専用レーザー機器である.レーザー波長は689nm(±3nm)に固定されている.(ツァイス社カタログより許可を得て転載)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,20071.インフォームド・コンセント/同意取得PDTは視力維持が目的であるが視力低下することもあること,網膜下出血などの副作用についても説明する.2.術前検査フルオレセイン眼底造影検査(FA),身長・体重計測は必須の検査である.FAの結果から病変の最大直径(greatestlineardimension:GLD)および治療時のレーザースポットサイズを決定する.身長・体重から算出された体表面積を用いてベルテポルフィンの投与量を決定する.インドシアニングリーン眼底造影検査(IA)や光干渉断層計(OCT)は必須ではないが,病変サイズの決定や治療後の効果判定の重要な指標となるため,ほぼ必須の検査といってよい.3.レーザー機器の動作チェックビスダイン?は高価な薬剤であるため,調整する前にレーザー機器のテスト照射を行い,動作を確認する.4.薬剤調整ビスダイン?を7m?の日局注射用水で溶解した後(液容積が7.5m?になる),必要量(6mg/m2)を別のシリンジで採取し,5%ブドウ糖注射液を加えて30m?にする.ビスダイン?の容量は1バイアル15mgであるので,日局注射用水に溶解した時点で2mg/m?となり,溶解液必要量は6mg/m2×体表面積(m2)/(2mg/m?)=3×体表面積(m?)となる.つまり体表面積1.6m2の患者には4.8m?が必要ということになる(「体表面積の3倍」と覚えておくとよい).薬剤調整後は4時間以内にレーザー照射を終了しなければならない.5.薬剤投与/レーザー照射静脈注射ラインを組み立て,ライン内に5%ブドウ糖液を満たした後,シリンジポンプに総量30m?となったビスダイン?をセットする.静注は10分間(180m?/hの設定)で行い,静注終了後静注ライン上のビスダイン?を5%ブドウ糖注射液でフラッシュする.静注開始15分後にビズラスPDTシステム690Sを用いて83秒間のレーザー照射を行う.本機器は通常の細隙灯顕微鏡より眼底は暗く不鮮明に観察されるため,コンタクトレンズは病変サイズに合わせてレーザースポット倍率がなるべく低く,明るいレンズを用いると治療は容易となる.そのため,倍率の異なる複数のレンズを症例により使い分けることが望ましい.ビスダイン?の血管外漏出がないように血管確保は確実に行い,漏出が発生しても光の曝露が避け難い手背からは血管を確保しないようにするべきである.しかしビスダイン?が万一血管外漏出してしまった際はすぐに投与を中止し,投与量が半分以上の場合は投与開始後15分で予定通りレーザー照射を行い,投与量が半分未満であった場合は別の静脈から残りの薬剤の投与を行った後,再投与開始から15分後にレーザー照射を行う.漏出部位はすぐに冷湿布か氷をあてるなど,適切な処置を行う.ビズラスPDTシステム690Sの設定については,本誌22巻12号(2005年)の特集2)に詳しく述べたので,本稿では割愛させていただく.●PDT治療直後光線過敏症対策として日光やハロゲン光を遮る必要があるため,帽子,サングラス,長袖シャツ,長ズボン,手袋,靴下を予め準備しておき,治療後に着用する.治療後5日まで遮光を行うが,治療後48時間までは薬剤の血中濃度が高いので遮光は確実に行う.蛍光灯やテレビの光などは問題ないので真っ暗にする必要はない(むしろ蛍光灯の光は浴びたほうがよいとされている).●PDT治療後のフォローアップPDT治療後1カ月までは網膜下出血などの有害事象が起こりやすいので,PDT後は1カ月を目処に外来診察を行うことが望ましい.その後は治療から数えて3カ月ごとに再治療の要否を判定し,必要があれば再治療を行っていく.再治療時の入院は必須ではない.文献1)眼科PDT研究会http://www.pdti.jp/2)野田佳宏:「最新のレーザー治療機器バイヤーガイド」ビズラスPDTシステム690S(カールツァイス).あたらしい眼科22:1613-1617,2005(62)☆☆☆

緑内障:眼圧日内変動を探る

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS眼圧日内変動は1904年に眼圧計を用いて報告されて以来の古くて新しい話題である.変動のメカニズムはまだ解明されていないが,体内時計により視交叉上核で制御され,交感神経が大きく関与している可能性が高い.眼圧には,体位,運動,薬物,嗜好品,ストレスなどが影響しており,さらに医療機関での終日測定は通常の環境と異なるため,正確な個人の日内変動を測定することは困難である.最近,体位を考慮した眼圧日内変動の報告が相ついでおり,夜間の眼圧への注目度が高まっている.●ヒトの眼圧日内変動従来眼圧は午前中に高く,午後低くなり,夜間は昼より低いとされてきていたが,それは座位での測定による.環境が異なり,個々の要因も影響するために精度の高い日内変動測定は困難であったが,Liuらはsleepinglaboratoryという個人の日々の活動時間や光環境,嗜好品などの条件を整え,1週間測定室の環境に適応させたうえでの眼圧測定を行う日内変動測定法を整備し,信頼性の高いデータを出している.まず座位,仰臥位同一体位測定ではともに眼圧は明け方が最も高く,夕方にかけて下降し,明け方に向かって上昇する1,2).房水動態の研究から日中は交感神経系の関与が高い房水産生が亢進し,夜間は房水産生が低下していることがおもに関与している.このことは房水産生抑制効果のあるβ遮断薬による夜間の眼圧下降効果は減弱し,一方同じく房水産生抑制による眼圧下降機序を呈する炭酸脱水酵素阻害薬による夜間眼圧下降効果は維持される,という最近の報告からも裏づけられている3).●夜間眼圧体位の影響注目すべきは,仰臥位では確実に眼圧が上昇し,座位(59)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄80.眼圧日内変動を探る相原一東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学一般的に眼圧日内変動は同一体位では朝方に高く夜にかけて低くなり,開放隅角緑内障患者でも同様である.仰臥位では座位に比べ眼圧が常に4~5mmHg高いことから,生活体位における眼圧変動が推定でき,現実的に夜間の高眼圧が起こりうる.マウスの眼圧日内変動測定により,光環境,体位に連動した上強膜静脈圧,時計遺伝子の影響が判明している.図1若年正常人の眼圧日内変動a:若年正常人の眼圧日内変動.b:開放隅角緑内障眼(OAG)と正常眼の日内変動は明け方に高く夜に低下するパターンを呈する.仰臥位で常に一定量上昇する.(文献1,2より改変)23222120191817161514supinesitting3:30PM5:30PM7:30PM9:30PM11:30PM1:30AM3:30AM5:30AM7:30AM9:30AM11:30AM1:30AM262524232221201918171615143:30PM5:30PM7:30PM9:30PM11:30PM1:30AM3:30AM5:30AM7:30AM9:30AM11:30AM1:30AM○:仰臥位●:座位夜間・睡眠時日中・覚醒時日中・覚醒時時刻(24時間)眼圧(mmHg)○△:コントロール●▲:OAG○●:座位△▲:仰臥位a夜間・睡眠時日中・覚醒時日中・覚醒時時刻(24時間)眼圧(mmHg)b———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007日内変動と平行に4~5mmHg高い値を示す点で,機序としては仰臥位では上強膜静脈圧の上昇によるものと考えられる.われわれヒトの通常の生活パターンである日中座位,夜間就寝時の仰臥位(生活体位)を考慮すると図1aのように,夜の眼圧はかなり高いことになる.幸いに緑内障眼での仰臥位による夜間の眼圧上昇は,正常人ほどではないが,それでも緑内障眼は正常人より終日高く,朝方に眼圧が最も高い2)(図1b).またHaraらも日本人正常眼圧緑内障(NTG)患者において仰臥位では終日座位より一定の幅で眼圧が上昇することから,日中の仰臥位,座位間の眼圧差を測定しておけば,終日座位の日内変動から生活体位における日内変動を推定することができると報告している4).同様に日本人NTG患者において視野進行と仰臥位眼圧が有意に相関すると報告され,生活体位での特に夜間仰臥位眼圧への関心が高まっている5).●眼圧日内変動のメカニズムを探るマウスでの研究過去にはウサギによる数多くの研究がなされ,中枢性には視交叉上核,その出力として頸部交感神経の関与が解明されているが,マウスでも日内変動が測定できるようになり,興味深い結果が得られている.マウスは夜行性であるためにヒトとは日内変動のピークがシフトしており,夕方から夜中にかけて眼圧が上昇し,明け方下降する6).これも活動性にかかわる交感神経が関与していることを示唆する.さらに終日明室あるいは暗室においた場合には日内変動が不規則になり,個体間の同調がなくなり,しかも終日暗室条件下では眼圧が上昇する7)(図2).これらは光刺激やストレスによる影響を受けやすいことを示しており,ヒトにも共通する眼圧制御因子であろう.また,マウスは生活体位が腹臥位である点でヒトのような体位による眼圧変化を考慮する必要がないが,実験的に体位を変化させ上強膜静脈圧と眼圧の変化を調べると,体位と上強膜静脈圧,眼圧が連動していることが判明した8).ヒトでのこのような実験は困難であるが,体位変化と眼圧変動はおそらくこの上強膜静脈圧の変化と捉えてよいと考える.また,時計遺伝子の一つを欠損させたマウスで眼圧日内変動が消失したことから,眼圧は上位レベルでは体内時計で制御されていることが判明した9).今後は体位による日内変動も考慮し,夜間眼圧の上昇も念頭においた終日眼圧下降させる薬剤の選択も重要である.また,病型や個体差などから日内変動にかかわる因子の解明が期待される.文献1)LiuJH,BoulignyRP,KripkeDFetal:Nocturnaleleva-tionofintraocularpressureisdetecatableinthesittingposition.?????????????????????????44:4439-4442,20032)LiuJH,ZhangX,KripkeDFetal:Twenty-four-hourintraocularpressurepatternassociatedwithearlyglauco-matouschanges.?????????????????????????44:1586-1590,20033)QuarantaL,GandolfoF,TuranoRetal:E?ectsoftopicalhypotensivedrugsoncircadianIOP,bloodpressure,andcalculateddiastolicocularperfusionpressureinpatientswithglaucoma.?????????????????????????47:2917-2923,20064)HaraT,HaraT,TsuruT:Increaseofpeakintraocularpressureduringsleepinreproduceddiurnalchangesbyposture.???????????????124:165-168,20065)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofpro-gressionofvisual?elddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientswithnormal-tensionglau-coma.?????????????,2006(inpress)6)AiharaM,LindseyJD,WeinrebRN:Twenty-four-hourpatternofmouseintraocularpressure.????????????77:681-686,20037)SugimotoEI,AiharaM,OtaTetal:E?ectoflightcycleon24-hourpatternofmouseintraocularpressure.???????????15:505-511,20068)AiharaM,LindseyJD,WeinrebRN:Episcleralvenouspressureofmouseeyeande?ectofbodyposition.????????????27:355-362,20039)MaedaA,TsujiyaS,HigashideTetal:Circadianintraoc-ularpressurerhythmisgeneratedbyclockgenes.?????????????????????????47:4050-4052,2006(60)図2光周期の違いによるマウス眼圧日内変動通常では夜間高く日中低い二相性変動が明室,暗室条件で飼育すると消失し,暗室条件下では眼圧上昇もみられる.(文献7より改変)302520151050:終日暗条件飼育:12時間ごと明暗条件飼育:終日明条件飼育時刻(24時間)眼圧(mmHg)6:009:0012:0015:0018:0021:000:003:006:00n=11