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屈折矯正手術:PRKとLASIKの術後成績の期間別比較

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSPhotorefractivekeratectomy(PRK)とlaser???????keratomileusis(LASIK)に代表されるエキシマレーザーを使用した近視矯正手術は,現在,屈折矯正手術の主流となりその症例数も増加している.わが国でも,PRK認可後,6,7年が経過し,良好な結果が報告されているが,1年以内の短期データが多い.一方,手術を受ける側から変わらず出てくる質問の一つに,手術結果の安定性がある.そこで,今回はPRKとLASIKの短期データと長期データの検討比較を行い,それぞれの特徴を述べるとともに,その原因をさぐる.●術後1年以内の変化PRKとLASIKを比較した場合に,よく取りざたされるのが,術後早期視力と疼痛である.術後視力は術後1年以内では,LASIKが術直後から良好で安定しているのに比較して,PRKはLASIKと同等への視力改善までに時間を要する(図1).PRKは角膜上皮層を除去後,実質表層の切削が行われるために,創傷治癒機転としては,まず術後1,2週で生じる角膜上皮細胞層の再生とそれに遅れて実質表層部の細胞応答が生じる.術後1,2週の視力が不十分であるのは前者の,その後徐々に視力が安定するのは後者のためと考えられる.一方,LASIKはフラップ直下の実質,つまり実質層内での切削が行われる.実質切除部は角膜のもつ陰圧により接着し,創傷治癒機転としての細胞応答は生じず,フラップ周辺の上皮層のみ創傷治癒が生じる.そのために,安定するのが速く一定の結果が(57)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男81.PRKとLASIKの術後成績の期間別比較宮田和典宮田眼科病院Photorefractivekeratectomy(PRK)とlaser???????keratomileusis(LASIK)の術後経過を比較すると,術後1年以内はPRKと比較してLASIKが成績良好で安定性も高い.しかし,2,3年経過するとPRKのほうが安定し,LASIKは近視化が生じる.この近視化は角膜前方突出ではなく,中央角膜厚の増加によるものと考えられる.図1術後1年以内の裸眼視力1.0以上の症例割合PRKvsLASIK1Y6M3M1M1W:PRK:LASIK100806040200(%)4Y3Y2Y1Y:PRK:LASIK100806040200(%)図2術後1~4年の裸眼視力1.0以上の症例割合PRKvsLASIK***4Y3Y2Y1Y:PRK:LASIK*p<0.05Mann-Whitney?sU-test1.00.50-0.5-1.0-1.5-2.0度数(D)図3術後1~4年の等価球面度数の変化PRKvsLASIK———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007早期に得られると考えられる.この手術部位による差は,角膜の知覚神経の再生にも関与する.PRKの場合,表層のみの神経再生ですむが,LASIKは実質内で神経線維を切断してしまうため,再生に時間を要する.その結果,角膜知覚の低下と改善の遅延,それに伴うと考えられる角膜バリア機能,涙液分泌能の低下と改善の遅延が生じる1).また角膜前方変位はPRKに比較してLASIKのほうが早期に生じ,その程度も大きい2).●術後1~4年の変化それでは,同一症例の術後1~4年の長期経過をみてみると,PRKは1年以降安定した視力結果を得ているのに対して,LASIKは視力の低下がみられ,視力成績が逆転している(図2).等価球面度数の変化をみてみても,PRKが安定しているのに対して,LASIKは徐々に近視化している(図3).このLASIKの近視化はなぜ生じているのか?LASIKに多いといわれている角膜の前方変位を比較してみると,PRK,LASIK両者ともに1年以降は安定している(図4).一方,角膜中央厚の変化をみてみると,PRKと比較してLASIKは増加していた(図5).中央の角膜厚の増加は,結果として角膜フラップ前面がsteep化するために角膜屈折力が増加し,近視の戻りが生じたと考えられる.このLASIKに生じる長期間の角膜実質の変化の原因は今のところ検討中であるが,実質内に作製されたフラップ面はその周囲の角膜実質細胞に何らかの影響を与え続けていると考えられる.術後数年たっても,再手術の際容易にフラップを?がすことができること,眼圧が上昇した場合に角膜上皮下ではなく,角膜実質内のフラップの境界面?に水分が貯留すること3)などの臨床的な所見から,角膜実質内のフラップ面での創傷治癒が完成していないことは明らかである.この面により,角膜内に張り巡らされた角膜神経線維,および角膜実質細胞同士がgapjunctionを介して構成するネットワークが破壊されており,正常の細胞機能が失われている可能性はある.最近の検討では,術後角膜実質細胞の密度の長期的変化も指摘されており4),角膜実質細胞が手術により受けた刺激への細胞応答が持続している可能性もある.わが国でも導入後飛躍的に伸びたLASIKの症例群は,これから術後4,5年を迎える症例が今後急激に多くなってくる.本稿に述べたような,近視の戻る症例も増加してくるものと考えられる.また,このLASIKの長期でみられる変化は今後も持続する可能性もあり,さらなる検討が必要である.文献1)NejimaR,MiyataK,TanabeTetal:Cornealbarrierfunction,tear?lmstability,andcornealsensationafterphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileu-sis.???????????????139:64-71,20052)YoshidaT,MiyataK,TokunagaTetal:Di?erencemaporsingleelevationmapintheevaluationofcornealfor-wardshiftafterLASIK.?????????????110:1926-1930,20033)GalalA,ArtolaA,BeldaJetal:Interfacecornealedemasecondarytosteroid-inducedelevationofintraocularpres-suresimulatingdi?uselamellarkeratitis.??????????????22:441-447,20064)ErieJC,PatelSV,McLarenJCetal:Cornealkeratocytede?citsafterphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileusis.???????????????141:799-809,2006(58)4Y3Y2Y1Y:PRK:LASIK*p<0.05Mann-Whitney?sU-test6050403020100移動量(?m)6M3M1M35.3*32.233.832.233.131.132.924.526.426.827.928.127.126.5図4術後4年間の角膜前方移動の変化PRKvsLASIK図5術後4年間の角膜中心厚の変化PRKvsLASIK4Y3Y2Y1Y:PRK:LASIK*p<0.05Mann-Whitney?sU-test520500480460440420400380中心厚(?m)6M3M1W1M449.7*447.9461.1462.9468.6466.5470.0479.4441.7440.0446.7452.7455.3456.6456.3455.0

眼内レンズ:Intraoperative Floppy Iris Syndrome(2)-対処法-

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS前立腺肥大症に対して排尿障害改善剤a1ブロッカーを内服している患者の40~60%にIFISが発症するとされている1,2).IFISの三徴は,白内障手術中の「水流による虹彩のうねり」,「虹彩の脱出・嵌頓」,「進行性の縮瞳」である.IFIS症例で最初に生じる徴候は,hydrodissection時に虹彩が脱出気味になり,縮瞳してくることである.ハイドロ針で虹彩を押さえつつhydrodissectionを行うようにする(図1).虹彩の脱出傾向が強い場合は,創口部の虹彩上にヒーロン?Vかビスコート?を注入し,虹彩を押さえるようにする.また,BSS(balancedsaltsolu-tion)の注入量は控えめとし,必要最低限のhydrodis-sectionを行うよう心がける.つぎに,ヒーロン?Vを注入して散瞳し,虹彩を安定化させる(図2).ヒーロン?Vが前房中に残っている間は散瞳が維持されるが,吸引除去されてしまうと速やかに縮瞳してくるので,ヒーロン?Vを吸引除去しないよ(55)大鹿哲郎筑波大学大学院人間総合科学研究科機能制御医学専攻眼科学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎246.IntraoperativeFloppyIrisSyndrome(2)─対処法─Intraoperative?oppyirissyndrome(IFIS,術中虹彩緊張低下症候群)の症状が生じたら,ヒーロン?Vで虹彩を安定化させ,散瞳を維持し,US(超音波)装置の設定値を適正に変更して手術を行う.それでも手術の進行が困難な場合は,その他の対処法を組み合わせる.IFISの対処法は,通常の小瞳孔例の対処法と異なるため,術前に排尿障害改善剤服用の有無を尋ねてIFISの発生を予期しておくことが重要である.図1a虹彩が脱出傾向にあるので,ハイドロ針で虹彩を押さえつつhydrodissectionを行う図1b図1aのシェーマ図3ヒーロン?Vを吸引除去しないよう超音波装置の設定値を下げるこの場合,吸引流量(aspiration?ow)を15mm/min,吸引流量(vacuum)を100mmHg程度に下げている.図2ヒーロン?Vを注入して散瞳し,虹彩を安定化させる———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(00)う超音波装置の設定値を変更しておく必要がある.通常は,吸引流量(aspiration?ow)を15mm/min,吸引流量(vacuum)を100mmHg程度に下げて(図3),この低い設定値のまま分割まで終える.核分割終了後は設定値を上げて,核片を引き寄せて処理する(図4).ただ,ここで設定値を上げすぎると,対側の虹彩を誤吸引するおそれがあるので注意が必要である(図5,6).通常の小瞳孔例では,2本の虹彩フックによって瞳孔をストレッチする方法がときに行われるが,この方法では一時的に散瞳効果は得られるものの,虹彩がより脆弱になってrigidityが低下し,IFIS症状が悪化するので行ってはいけない(表1).瞳孔縁の切開(multiplesphincterotomy)も虹彩の脆弱化を招くので勧められない.このように,通常の小瞳孔例の対処法と,IFIS症例の対処法は異なるため,術前に排尿障害改善剤服用の有無を尋ねてIFISの発生を予期しておくことが重要である.文献1)ChangDF,CampbellJR:Intraoperative?oppyirissyn-dromeassociatedwithtamsulosin.???????????????????????31:664-673,20052)OshikaT,OhashiY,InamuraMetal:Incidenceofintra-operative?oppyirissyndromeinpatientsoneithersys-temicortopicala1?adrenoceptorantagonist.????????????????143:150-151,2007図5設定値を上げすぎると対側の虹彩を誤吸引するおそれがある表1IFISの対処法やっていいことやってはいけないことヒーロン?Vの使用1,000倍エピネフリンの灌流虹彩レトラクターの使用虹彩エクスパンダーの使用虹彩の機械的なストレッチ虹彩切開図4低い設定値のまま分割まで終えた後,設定値を上げて,核片を引き寄せて処理する図6一旦,誤吸引した虹彩は,容易に再吸引されるため,フックで押さえるなど注意して操作を行う

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用による乱視-残余乱視-

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???余乱視を計算することができる3).残余乱視=全乱視-角膜乱視全乱視:完全矯正値を測定することで得られる乱視(度数,軸).角膜乱視:ケラトメータで測定することによって得られる乱視(度数,軸).残余乱視:全乱視から角膜乱視を差し引いた理論上の乱視(度数,軸).HCLおよびSCLを装用した状態での残余乱視を考えると以下のようになる.HCL装用下における残余乱視≒全乱視-角膜乱視≒水晶体乱視SCL装用下における残余乱視≒全乱視円柱レンズの合成は倍角座標上のベクトル計算が必要で単純な加減算では対処できないが,軸が同じあるいは直交した場合には加減算でよい.実例を表1,2に示す.このように,HCLとSCLを装用したときに,どちらのレンズのほうが残余乱視が少なくなるかを予測してレンズを選択するとよい3).症例によってはトーリックHCLやトーリックSCLの処方を検討する必要がある.0910-1810/07/\100/頁/JCLS乱視があればハードコンタクトレンズ(HCL)で矯正すればよいと考える人がいるが,HCLを装用することでかえって乱視が強くなることがある.HCL下の涙液レンズの作用によって角膜前面乱視がほとんど矯正されることで,これを補正していた水晶体乱視が顕性になることがある.コンタクトレンズ(CL)装用により出現する乱視を持ち込み乱視とよぶ1).一方,CLを装用した状態で生じる乱視を残余乱視という.残余乱視は水晶体乱視,CLで完全に矯正されない角膜乱視,網膜乱視,CLによる持ち込み乱視の合成系として生じる2).CLの処方においてはqualityofvisionの観点から残余乱視をいかに小さくするかを考えることは重要である.●CLを選択する際の残余乱視の計算CLを選択する際は,あらかじめ残余乱視を計算しておくとよい.HCLを装用した場合は角膜乱視が完全に矯正されたと仮定し,またソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用した場合はほとんど角膜乱視が矯正されないと仮定して考えると,おおよそではあるが簡単に残(53)植田喜一山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS272.コンタクトレンズ装用による乱視?残余乱視?表1残余乱視とCLの選択症例全乱視角膜乱視残余乱視第一選択するCLHCL(予測値)SCL(予測値)1cyl-1.50DAx180?cyl-2.00DAx180?cyl-0.50DAx90?cyl-1.50DAx180?球面HCL2cyl-0.50DAx90?cyl-1.00DAx180?cyl-1.50DAx90?cyl-0.50DAx90?球面SCL3cyl-1.00DAx180?cyl-2.50DAx180?cyl-1.50DAx90?cyl-1.00DAx180?前面トーリックHCLまたはトーリックSCL4cyl-4.25DAx180?cyl-3.00DAx180?cyl-1.25DAx180?cyl-4.25DAx180?後面トーリックHCL5cyl-2.50DAx180?cyl-4.00DAx180?cyl-1.50DAx90?cyl-2.50DAx180?両面トーリックHCL6cyl-1.50DAx90?cyl-0.50DAx180?cyl-2.00DAx90?cyl-1.50DAx90?トーリックSCL———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(00)文献1)日本コンタクトレンズ学会(編):コンタクトレンズ用語辞典,p64,メジカルビュー社,20012)日本コンタクトレンズ学会(編):コンタクトレンズ用語辞典,p27,メジカルビュー社,20013)植田喜一:トーリックレンズ.日コレ誌40:179-188,1998表2残余乱視の計算(表1の症例1~6の計算)症例1全乱視cyl-1.50DAx180?角膜乱視cyl-2.00DAx180?1.HCLを装用した場合-1.500--2.000=+0.500sph+0.50Dcyl-0.50DAx90°予想される残余乱視=cyl-0.50DAx90?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-1.50DAx180?症例4全乱視cyl-4.25DAx180?角膜乱視cyl-3.00DAx180?1.HCLを装用した場合-4.250--3.000=-1.250sph±0Dcyl-1.25DAx180°予想される残余乱視=cyl-1.25DAx180?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-4.25DAx180?症例2全乱視cyl-0.50DAx90?角膜乱視cyl-1.00DAx180?1.HCLを装用した場合0-0.50--1.000=+1.00-0.50sph+1.00Dcyl-1.50DAx90°予想される残余乱視=cyl-1.50DAx90?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-0.50DAx90?症例5全乱視cyl-2.50DAx180?角膜乱視cyl-4.00DAx180?1.HCLを装用した場合-2.500--4.000=+1.500sph+1.50Dcyl-1.50DAx90°予想される残余乱視=cyl-1.50DAx90?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-2.50DAx180?症例3全乱視cyl-1.00DAx180?角膜乱視cyl-2.50DAx180?1.HCLを装用した場合-1.000--2.500=+1.500sph+1.50Dcyl-1.50DAx90°予想される残余乱視=cyl-1.50DAx90?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-1.00DAx180?症例6全乱視cyl-1.50DAx90?角膜乱視cyl-0.50DAx180?1.HCLを装用した場合01.50--0.500=+0.50-1.50sph+0.50Dcyl-2.00DAx90°予想される残余乱視=cyl-2.00DAx90?2.SCLを装用した場合予想される残余乱視=cyl-1.50DAx90?

写真:Avellino角膜ジストロフィにThygeson点状表層角膜炎が合併した症例

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS(51)杉田二郎名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦273.Avellino角膜ジストロフィにThygeson点状表層角膜炎が合併した症例②①図2図1のシェーマ①:やや大きめに点状に染色されている.②:小さな点状病巣の集合体.図1Avellino角膜ジストロフィにThygeson点状表層角膜炎を合併した症例のフルオレセイン染色所見(62歳,女性)数カ所にやや大きめの点状染色所見がみられる.おのおのの病変は小さな点状病巣の集合体であり,Thygeson点状表層角膜炎の特徴を呈している.図3図1と同一症例のディフューザー所見Avellino角膜ジストロフィの実質混濁が背景にあるため,Thygeson点状表層角膜炎の上皮内混濁は不明である.図4Thygeson点状表層角膜炎の典型例(70歳,女性)角膜上皮内に灰白色のやや大きな点状混濁が多数認められる.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007(00)Thygeson点状表層角膜炎は,1950年にPhillipsThygesonにより初めて記載された特異な再発性の角膜上皮炎である1).その特徴として,1)慢性・両眼性の点状角膜上皮炎,2)経過は長く,緩解・増悪をくり返す,3)最終的には瘢痕を残さずに治癒する,4)抗生物質の局所・全身投与や上皮除去に反応しない,5)ステロイドの点眼が著効する,の5つがあげられている2).本疾患の原因はいまだに不明であるが,病変はリンパ球を主体とする単核球の浸潤からなり,ステロイドの点眼に反応することから,この疾患の本態が上皮内に存在する抗原(おそらくウイルス抗原)に対する過敏反応であることが示唆されている3).自覚症状は,異物感・羞明・軽度の視力低下などである.細隙灯顕微鏡検査では,おもに角膜上皮内に数個から多数の灰白色の点状混濁が認められ,それぞれの混濁はさらに微細な混濁の集積として観察される(図4).病巣直上の角膜上皮は,急性期にはフルオレセインにて星芒状に染色されることが多い.上記の特徴を認めれば本症の診断および治療は比較的容易であるが,角膜実質に混濁がある症例ではフルオレセイン染色所見をよく観察することが重要である.今回Avellino角膜ジストロフィ患者の経過観察中,視力低下と異物感を訴えた症例を示した.スリット所見では,Avellino角膜ジストロフィによる角膜実質混濁以外に,特に異常はないと思われたが,フルオレセイン染色にてやや大きめの点状に染色される病変が,角膜実質混濁とは無関係に数個散在していた(図1,3).このやや大きめな点状病巣の一つひとつは,Thygeson点状表層角膜炎に特徴的な小さな上皮病変が集合して形成されていた.低力価のステロイド(フルオロメトロン)の点眼治療を行ったところ,速やかに治癒した.近年,Thiel-Behnkeジストロフィの混濁が,Thy-geson点状表層角膜炎の罹患後に消失したという報告があり,非常に興味深い4).しかし今回のAvellino角膜ジストロフィの症例では,実質混濁に変化はみられなかった.文献1)ThygesonP:Super?cialpunctatekeratitis.????144:1544-1549,19502)ThygesonP:Furtherobservationsonsuper?cialkeratitis.???????????????66:34-38,19613)宇野敏彦,大橋裕一,渡辺潔:Thygeson点状表層角膜炎.角膜クリニック,第2版(井上幸次,渡辺仁,前田直之,西田幸二編),p72-73,医学書院,20034)KobayashiA,IjiriS,OhtaT,SugiyamaK:DisappearanceofhoneycombopacityofThiel-BehnkecornealdystrophyafterThygesonsuper?cialpunctatekeratitis.??????24:1029-1030,2005

総説:2006年ドライアイ診断基準

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSりこれを見直そうという動きが2004年より具体化し,DryEyeWorkshop(通称DEWS)が結成された.定義と診断基準に限らず,検査,疫学調査,基礎研究,治療の各分野にわたる広い範囲で現在に至るまで検討が行われている(http://www.tear?lm.org/dewshome.html).DEWSにおけるドライアイの定義・診断基準の決定は,まだ最終結論を得るに至っていないが,方向性はかなりまとまってきているので,今回,ドライアイ研究会としてはこの流れを参考にして新しい基準を作成することとした.II診断基準改訂に当たっての立場今回の改訂に当たっては,以下の3つの点を特に留意した.1.世界の基準との整合性上述のように,世界的にドライアイの定義・診断基準の見直しが行われており,わが国もこれに参加している.今回のドライアイ研究会の改訂は,わが国のドライアイの定義と診断基準を定めるために行われたが,世界の動きとの整合性を図ることは,日本発の研究を国際的に広めていくうえでも重要と考えられる.したがって,特にドライアイの定義を定めるに当たっては,DEWSでの討議を意識した.もちろんまったくの翻訳ではなく,ニュアンスが多少異なる部分もある.また診断基準Iドライアイ診断基準見直しの経緯ドライアイ研究会が,1995年にドライアイの定義と診断基準を発表してから10年が経過した1).同じ診断基準にのっとって臨床研究を行うことが,ドライアイ研究を進めるうえで欠かせない,という認識のもとに前回の発表を行ったが,この10年間でその目的は十分に果たしたと考えている.この10年はドライアイ研究にとって非常に多くの進歩が見られた.新しい診断機器の導入,涙腺,涙液,オキュラーサーフェスに関する基礎的・臨床的研究の進歩,ドライアイの内科的・外科的治療の開発など,多方面で新しい知見が得られた.そのかなりの部分が,わが国の研究者からもたらされたことはまことに喜ばしい.さらに,一般の人々の間でのドライアイの認知も大幅に進んだ.最近では自分がドライアイではないか,といって来院される受診者も珍しくなくなった.これらドライアイを取り巻く環境の変化に応じて,10年前に発表したドライアイの定義・診断基準の見直しを図ることとし,今回,ドライアイ研究会のメンバーによる協議の結果,改訂版を発表するに至った.アメリカでも日本と時を同じくして,1995年にNationalEyeInstituteのサポートのもとに,DrLempが中心となってドライアイの定義と分類が定められた2).10年が経過し,世界中のドライアイ研究者の間よ(47)???*JunShimazaki:ドライアイ研究会,東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕島?潤:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科あたらしい眼科24(2):181~184,2007?2006年ドライアイ診断基準???????????????????????????????????????島?潤*(ドライアイ研究会**)**ドライアイ研究会:世話人代表;坪田一男(慶應義塾大学)世話人;木下茂(京都府立医科大学)大橋裕一(愛媛大学)下村嘉一(近畿大学)田川義継(北海道大学)濱野孝(ハマノ眼科)高村悦子(東京女子医科大学)横井則彦(京都府立医科大学)渡辺仁(関西ろうさい病院)島?潤(東京歯科大学)(順不同)総説———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007など,わが国のほうがむしろ検討が進んでいる部分も多い.今回,わが国での基準が定められて広く用いられるようになれば,これをもとに世界に情報を発信して世界の診断基準に影響を与えることも期待される.2.検査法と診断基準10年前の論文でも同様のことを述べたが,診断基準に用いられる検査法は,「ほとんどの施設で日常的に行うことができる」ものを取り上げた.いかに優れた検査法であっても,一部の施設でしか行うことができないのでは,診断基準に含める意味がないと考えた.したがって,検査機器や診断法の進歩によっては,今後の新たな検査法が取り入れられることは十分考えられる.3.診断基準とカットオフ値ドライアイの検査法には絶対的なものがないことはよく知られている.個々の方法の感度・特異度は十分でなく,再現性にも問題がある.そのなかで最善の基準をもって判定が行われるべきであるのは当然のことである.たとえば,シルマー法で何ミリより少なければ異常とするか,についての基準(カットオフ値の設定)は,エビデンスに基づいて行われるべきと考える.1995年の基準は,その時点でのドライアイ専門家の意見を元に定められた.これが適当であったかどうかの検討もドライアイ研究会で行ってきたが,十分な結論が得られたとはいえない.この点については今後も研究を続けていき,より良い基準を作ることが重要と考えている.したがって今回の改訂では,明らかに変更したほうがよいと意見が一致したものを除いて,カットオフ値の変更は行わなかった.今後の研究によって新たなデータが得られれば,これについても変更される可能性がある.IIIドライアイの定義今回の討議により,ドライアイの定義は表1のように改訂された.10年前の定義「涙液(層)の量的・質的異常によって引き起こされる角結膜上皮障害」と比較すると,いくつかの大きな変化があったことがわかる.一つは,自覚症状を有することが定義に含まれた点である.日常診療においても,涙液分泌の少ない患者がすべて眼不快感を訴えるわけではない.ドライアイ治療の目的の多くが,患者の自覚症状の軽減にあることを考えると,自覚症状を有することが定義に含まれたのは自然のことといえる.ちなみにNEI(NationalEyeInstitute)の定義2)でも自覚症状は含まれており,新しいDEWSの討議でも症状を有することが定義として明記されている.さらに今回,「眼不快感」だけでなく,「視機能異常」もドライアイの症状と定められたことも大きな特徴である.ドライアイの多くは,視機能異常をきたすことはないといわれてきたが,近年の研究で運転やVDT(visualdisplayterminal)作業など,瞬目が少なくなるような環境では,持続開瞼によって不正乱視の増大,視力低下が生じることが明らかとなってきた3,4).日常診療でも,ドライアイ患者が漠然とした見づらさを訴えることはよく経験されるが,矯正視力には異常がないことが多かった.今回の定義で視機能異常が含まれたことは,ドライアイ検査法の進歩が,ようやく患者の訴えを検出できるまで進歩したことの表れといえる.また,スティーブンス・ジョンソン症候群などの重症ドライアイでは,眼表面の著明な角化によって逆に異物感や乾燥感などの眼不快感を訴えなくなることが経験されるが,こうした場合も視機能異常を伴うことが定義に定められたことで矛盾がなくなった.今回,ドライアイの原因が多岐にわたる「多因子による疾患」であることが明記された.これまでも「ドライアイ症候群」という単語もあるように,多くの因子がその発症や増悪に関わっていることが指摘されていたが,今回この点を定義に含めたことでさらに明確となった.IV診断基準今回定められた診断基準を表2,3に示す.10年前のものと比べると,以下の点で違いがある.1.自覚症状を有することが診断基準に含まれた定義のところでも述べたが,ドライアイの自覚症状(視機能異常を含む)を有することが,診断の必須項目となった.内容をよく吟味すれば疫学的調査(ドライアイの頻度や性差など)もアンケートのみによって行うことは十分可能であることが示されている5~8).ここで問題となるのが,どういった症状をいかにして捉えるか,という点である.患者側から訴えるもののみを取り上げ(48)表1ドライアイの定義(2006年,ドライアイ研究会)ドライアイとは,様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???るのか,医師側から積極的に聞くのか,あるいは問診表などの形式をとるのかによって,自覚症状をもつ者の割合は大きく左右される.自覚症状を聴取することには,(1)疫学的調査,(2)ドライアイの診断,(3)ドライアイの治療判定,などいくつかの目的がある.それぞれによって聴取項目や方法が異なることは当然である.この点については,ドライアイ研究会が中心となって標準となる症状の聴取項目の設定がなされる見通しである.この問題はDEWSでも独立したワーキンググループのもとでディスカッションが行われている.これによってさらに統一されたドライアイ診断が行われることが期待される.また,ドライアイの定義に含まれた視機能異常を検出する方法の確立も望まれる.従来の視力検査では検出することができなかった異常を調べる検査法として,tear?lmstabilityanalysissystemや実用視力などが提唱されている4,9,10)が,その検査法や解析法はいまだ検討中であり,検査機器の入手法とともにその確立が望まれる.2.涙液検査涙液異常の検査法としては,シルマー法と涙液層破壊時間(BUT)が選ばれた.以前の診断基準に含まれていた綿糸法(10mm以下が異常)は,国際的に広く行われているとはいえないことと,必ずしも涙液貯留量を反映しているとはいえない11)などの理由で今回の基準からは省かれた.ただし,コンタクトレンズ装用の適否のスクリーニングなどの場での有用性はあると考えられるので,検査法そのものの意義が否定されたわけではない.検査法の標準化も大きな問題として取り上げられた.シルマー法,BUT検査ともにいろいろなバリエーション,判定方法があり,これを標準化しないと一定の基準で判定したことにならない.シルマー法は,点眼麻酔を用いない第Ⅰ法で自然瞬目状態で測定することが推奨されたが,用いる試験紙の種類や試験紙の挾み方,検査時に涙液をふき取るかどうかなど,施設によって微妙な差異がある.またBUT検査はさらにバリエーションが大きく,用いるフルオレセイン染色液の濃度と量,時間の測定法,繰り返して結果を平均化するか,涙液break-upの判定法などさまざまである.研究会で推奨する方法を表4に示すが,これらの検査法の標準化に向けてさらなる啓発と基礎的検討が必要であることが示された.3.角結膜上皮障害の検査染色試験によって角結膜上皮障害の判定を行うことには変わりがないが,その判定基準と用いる染色液について若干の変更があった.まず,フルオレセイン染色試験の判定方法では,従来の角膜上の染色を3点満点で判定(49)表2ドライアイの診断基準1.涙液の異常①シルマー試験Ⅰ法にて5mm以下②涙液層破壊時間(BUT)5秒以下①,②のいずれかを満たすものを陽性とする2.角結膜上皮障害*①フルオレセイン染色スコアー3点以上(9点満点)**②ローズベンガル染色スコアー3点以上(9点満点)**③リサミングリーン染色スコアー3点以上(9点満点)**①,②,③のいずれかを満たすものを陽性とする*生体染色スコアリングを臨床研究に用いる場合は,用いる治療法や薬剤の特性を考慮して,適宜改変して用いることが望ましい.**図1参照.表3ドライアイ診断における確定例と疑い例①自覚症状○○×○②涙液異常○○○×③角結膜上皮障害○×○○ドライアイの診断確定疑い疑い疑い**涙液の異常を認めない角結膜上皮障害の場合は,ドライアイ以外の原因検索を行うことを基本とする.表4涙液層破壊時間(BUT)検査の方法点眼するフルオレセイン溶液の量は最小限にする時間の測定はストップウォッチやメトロノームで正確に行う検査は3回行って,その平均をとる涙液層の破綻は,角膜全体のどこかに生じたときに陽性とする図1角結膜上皮障害スコアリング(フルオレセイン,ローズベンガル,リサミングリーンとも)耳側球結膜,角膜,鼻側球結膜における染色の程度を各々3点満点で判定し,これを合算して9点満点として計算する.角膜03点03点03点鼻側結膜耳側結膜———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007して1点以上を陽性とする基準から,角膜と結膜を9点満点で判定して3点以上を陽性とする基準に改められた(表3,図1).ドライアイにおいては,結膜上皮の障害が角膜上皮障害より高率に認められ,点眼や涙点プラグなどの治療を行った後も結膜染色が残存する傾向が強い.従来,結膜上皮障害は,ローズベンガル染色によって判定することが推奨され,今回もこの判定基準はそのまま残された.フルオレセインとローズベンガルの染色メカニズムが異なることは報告されているが,日常診療においては,フルオレセイン染色によっても結膜上皮障害を十分に判定しうると考えられる.フルオレセインによる結膜上皮障害をさらに詳細に検討・記録するには,ブルーフリーフィルターなどを使用する方法もある12).結膜の異常に目を向けることが,ドライアイ診療において重要であることが示されたといえる.また,ローズベンガルとともに,リサミングリーンも角結膜上皮障害の判定に用いることができることが示された13).ローズベンガルの染色スコアは,シェーグレン症候群の診断基準にも用いられているが,点眼後の疼痛を訴える例が多く,特に光毒性が強いため日常診療には用いにくいという欠点があった.リサミングリーンはこうした障害が少なく,特別な観察フィルターも必要がないため,その有用性があると判断された.この上皮障害スコアリングとそのカットオフ値の正当性についても,今後の研究結果によっては変更がありうることを再度確認のために記しておく.また,生体染色液による上皮障害スコアリングを臨床研究に用いる場合は,用いる治療法や薬剤の特性を考慮して,適宜改変して用いることが望ましい.まとめ今回10年ぶりに改訂された,新しいドライアイの定義と診断基準を紹介した.いまだ発展途上であり,今後の研究の進展をまたなくてはならない部分も多いが,新しい基準を用いることで,これまで以上にドライアイの病態の理解が深まることが期待される.文献1)島﨑潤:ドライアイの定義と診断基準.眼科37:765-770,19952)LempMA:ReportoftheNationalEyeInstitute/IndustryWorkshoponClinicalTrialsinDryEyes.??????21:221-232,19953)KohS,MaedaN,KurodaTetal:E?ectoftear?lmbreak-uponhigher-orderaberrationsmeasuredwithwavefrontsensor.???????????????134:115-117,20024)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndromes.???????????????139:253-258,20055)SchaumbergDA,SullivanDA,BuringJEetal:Preva-lenceofdryeyesyndromeamongUSwomen.????????????????136:318-326,20036)LinPY,TsaiSY,ChengCYetal:PrevalenceofdryeyeamonganelderlyChinesepopulationinTaiwan:theShi-hpaiEyeStudy.?????????????110:1096-1101,20037)ScheinOD,MunozB,TielschJMetal:Prevalenceofdryeyeamongtheelderly.???????????????124:723-728,19978)LeeAJ,LeeJ,SawSMetal:Prevalenceandriskfactorsassociatedwithdryeyesymptoms:apopulationbasedstudyinIndonesia.???????????????86:1347-1351,20029)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Anewmethodfortear?lmstabilityanalysisusingvideokeratography.????????????????135:607-612,200310)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,200411)YokoiN,KinoshitaS,BronAJetal:TearmeniscuschangesduringcottonthreadandSchirmertesting.??????????????????????????41:3748-3753,200012)KohS,WatanabeH,HosohataJetal:Diagnosingdryeyeusingablue-freebarrier?lter.???????????????136:513-519,200313)ManningFJ,WehrlySR,FoulksGN:Patienttoleranceandocularsurfacestainingcharacteristicsoflissaminegreenversusrosebengal.?????????????102:1953-1957,1995(50)☆☆☆

インフォームド・コンセントと患者満足度

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSを用いて調査したので,その一部を抜粋して紹介する.MVFTは三宅らが米国版VF14を日本人向けに改良したものであり,遠・中・近の各距離に大・中・小の大きさの文字や対象物を組み合わせて,日常生活の具体的な項目が設問されている1,2).図1に質問表の一部を紹介する.回答は「読みにくいことはない」から「ほとんど見えない」を5段階に分けて,4点~0点のスコアとして計算する.まず術後1年の眼鏡使用状況についてのアンケート結果を図2に示す.回折型IOL群では,眼鏡を使用せずが58.8%,遠用のみ使用が5.9%に対し,同時期に単焦点IOLを挿入した群では,全例近用または遠近両用眼鏡を使用していた.これは従来の回折型・屈折型IOL挿入後の眼鏡使用状況と比較しても良好な結果である3~5).最も興味ある眼鏡なしでのMVFTスコアを図3に示す.日常生活で不自由なしという100点が回折型IOLでは41%に比べ,単焦点IOLでは0%であった.また,90点以上が回折型IOLで91%,単焦点IOLで41%と明らかな違いが認められた.この結果から,患者の満足度が非常に高いことがわかり,このメリットについては,医師側が十分に強調してよいであろう.3.細かい字が見えるかどうか単焦点IOLでも,術後屈折が正視にもかかわらず,遠くも近くもよく見えると満足される症例を日常経験する.偽調節,瞳孔径など,いろいろ考察されているが,はじめに白内障手術時のインフォームド・コンセントについては,すでに各施設で工夫されたパンフレットやビデオなど,定番の説明様式があると思われる.従来の単焦点眼内レンズ(IOL)の説明に対し,バイフォーカルIOL,今回は特に回折型IOLにおいては,どのような内容を加え,どのような点に注意を払うべきか,さらに,どうすれば術後の患者満足度を上げることができるか,回折型IOLを100眼以上に挿入し,すでに2年の経過観察を行った経験から述べたい.I回折型IOL挿入によるメリットの説明1.眼鏡なしでの良好な遠方および近方視力このIOLのメリット,従来の単焦点IOLと比較した場合の優位性は「眼鏡なしで遠方,近方ともに見える」の一点に尽きる.適応や術後成績の詳細は他項に述べられているが,角膜乱視が少なく,裸眼遠方視力1.2が得られれば,裸眼近方視力もほぼ1.0近くが得られる.これは,患者側というより,まず医師側が感動する内容である.2.アンケート結果からわかる患者満足度視力が良好なのは,検査結果から数値として確認できるが,実際の見え方に対する自覚的な満足度はアンケート調査に頼るしかない.今回は,回折型IOL挿入後に改良型VF14(modi?edvisualfunctiontest:MVFT)(43)???*YokoTaira:眼科龍雲堂医院〔別刷請求先〕平容子:〒353-0004志木市本町4-3-17眼科龍雲堂医院特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):177~180,2007インフォームド・コンセントと患者満足度?????????????????????????????????????????平容子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007近くが見えるという場合の字の大きさに注意すべきである.近くが見えると一言で言っても,大きな字が見えるのと細かい字が見えるのでは,かなり違う.実際に単焦点IOL群のMVFTスコアでも,得点が低いのは近見の細かい文字であり,ある程度の大きさになると近見でも判読可能で得点は上がる.回折型IOLでは,近方視力が0.7以上の症例が多く,この視力であれば辞書の字も裸眼で読める.単焦点IOLで,遠方視に度数を合わせた症例で,近くがここまで見える例は今まで経験がない.4.患者側のメリットに対する理解度現在,回折型IOLの保険診療上の扱いが未定である.インフォームド・コンセントにより患者自身が回折型IOLを選び,そのメリットに対して海外のように,ある程度の代価を個人的に払うことになれば,その期待のハードルは高いものとなる.患者自身が「遠方・近方ともに眼鏡なしで見える」ことの,優位性・利便性・必要性を本当に確実に理解しているか,言い換えれば,単焦点IOLで正視にすると近くは見えないということを,理論的に理解できているか,医師側がしっかりと見きわめる必要がある.この点がしっかり理解されていれば,多少のデメリットが生じても患者の満足度は高いものとなるであろう.II回折型IOL挿入によるデメリットの説明1.自覚症状の有無にかかわらず起こりうるデメリット回折型IOL挿入後の患者満足度が非常に高いことから,自覚的に感じるデメリットは非常に少ないといえ(44)両用近用のみ遠用のみ眼鏡使用なし0100(%)50:単焦点群:多焦点群0058.805.9088.2411.8011.8023.50図2眼鏡使用状況10090~9980~89MVFTスコア70~790(%)50:単焦点群:多焦点群410504765330図3MVFTスコア図1視機能アンケート(MVFT)用紙(抜粋)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???る.しかし,回折というデザインによる理論的なデメリットがあり,実際の検査にても単焦点IOLより明らかである.大きく分けて3つで,グレア・ハロー,コントラスト感度の低下,中間視力の低下である.2.グレア,ハロー屈折型IOLでは,術前に夜間のグレア,ハローが出現することを十分説明し,納得できる症例にしか挿入すべきでなかった.海外では,このため,IOL摘出例がでている.回折型ではどうなのだろうか?モデル眼などから得られた写真でも単焦点IOLよりグレア,ハローが明らかである.特に夜間のハローは,回折型IOL挿入後のアンケート調査でも100%に認められた.しかし生活に支障をきたすようなものはではなく,そのために夜間の運転ができないという症例はなく,明らかに屈折型とは異なる.インフォームド・コンセントとして,これらは必ず説明しなければならないが,内容を具体的に説明することで,このIOLのメリットに比べると,非常に小さなデメリットであることが理解してもらえるであろう.3.コントラスト感度・コントラスト視力コントラスト感度についても,実際の測定結果では単焦点IOLより低下している例があるものの,日常生活に影響する例はなかった.このタイプのIOL挿入後早期に,「よく見えるが何となく落ち着かない」「水の中で見ているような感じがする」「ショボショボする」などの訴えを経験する.これらは,表現は異なっているが,ほぼ同じような感覚を表しているとも思える.幸いにもある程度時間が経過するとこの症状は自然に消失するが,これらの表現が,コントラスト感度と関係している可能性は否定できない.4.中間距離の見え方中間距離の見えにくさは,遠方と近方の2点に明らかにデフォーカスカーブをもつ回折型IOLの光学特性から,最も気にしていた点であるが,実際にはほとんどの症例で自覚的な訴えはなかった.中間視力に関して,「書店で書架に並んだ本の背表紙の文字が読めずビックリしたが,少し顔を近づけると読めたので,納得した」と話した症例を経験したが,このように,1メートル前後の距離では遠方や近方ほど視力がでていないことがわかる.この点は,術前に説明しておくべきである.すなわち,若い頃のように,どの距離でもはっきり見えるのではなく,遠方と30cmぐらいの近方が見やすいIOLなのである.5.視力の安定ほとんどの症例は術翌日,1週後と単焦点IOL挿入後と変わりない視力の回復をみせるが,まれに,術翌日は良好な視力が得られたにもかかわらず,その後しばらくの間,裸眼のみでなく矯正視力も不安定な症例を,高齢者で経験した.従来の回折型IOLでも高齢者において視力の戻りが遅いとの報告6)があるが,原因は明らかでない.しかし術後3カ月から6カ月で視力は安定したので,術後早期に視力が予想より不良な場合でも,時間経過とともに改善する可能性が高いと考える.おわりに以上,回折型IOL挿入前のインフォームド・コンセントは,単焦点IOLに比べ,付け加えるべき項目はそれほど多くない.従来の白内障手術について言えば,眼内炎の発生率や破?の割合を詳しく説明しても,白内障で日常生活に支障があるので,患者側は手術を選ぶことになる.それは今のところ手術以外に視力を回復する手段がないからである.つまり,従来のインフォームド・コンセントは,術後の医事紛争を避けることが主眼であり,患者の納得を得ることに傾けられている7,8).しかし「IOLの種類を選ぶ」となると,まさに医師側の説明と情報により,患者側が選択することになる.挿入後に起こりうる症状に言及しておくことは,インフォームド・コンセントの基本であり,患者の安心と信頼を高めるものであるが,あまり?子定規に説明すると,術後かえってその事柄にこだわり,神経質な患者の不定愁訴を誘発する恐れもあるので,注意を要する.回折型IOLは単焦点IOLに比べ,非常にメリットのあるIOLであることは,実際の臨床結果から明らかである.この回折型IOLが実際に使えるようになった場(45)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007合,まず適応を守り,そのうえで医師側が,患者の性格・生活状況・知識や理解度などを見きわめて,今まで述べた点について注意を払いインフォームド・コンセントをすれば,まず問題はないと考える.術後,患者とともに医師も高い満足度を得られる.今後,患者自身の理解と希望で,より高いqualityofvision(QOV)・quali-tyoflife(QOL)の得られるIOLが,自由に選択できるようになることが望まれる.文献1)三宅三平,太田一郎,前久保久美子ほか:視機能評価法(VF14)の改良.????????11:116-120,19972)三宅三平,三宅謙作,太田一郎ほか:アンケート調査を利用した白内障における視機能評価法.視覚の科学20:52-57,19993)別当京子,馬嶋慶直,黒部直樹ほか:多焦点眼内レンズの手術適応について.???6:330-334,19924)黒部直樹,馬嶋慶直:回折型多焦点眼内レンズ.あたらしい眼科8:1751-1754,19915)庄司信行,清水公也:屈折型多焦点眼内レンズの術後成績と適応.臨眼53:259-263,19996)上田勇作:回折型多焦点レンズ移植眼の術後視機能.臨眼46:1677-1681,19927)杉浦康弘:説明義務と手術承諾書.????????20:76-85,20068)平岡孝浩,大鹿哲郎:眼科手術におけるインフォームド・コンセント白内障手術.眼科47:813-820,2005(46)

回折型眼内レンズ-症例報告

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSも7眼(19.4%)認められた.遠方矯正視力は36例全眼で0.7以上,1.0以上も9眼(25.0%)認められた(図1b).近方裸眼視力は1眼(2.8%)が0.3であったが,それを除く35眼(97.2%)で新聞活字を判別可能な0.4以上の視力が得られた(図2a).0.6以上の裸眼視力を得られたのは28眼(77.8%)で,1.0以上も4眼(11.1%)認められた.近方矯正視力は全眼で0.5以上,1.0以上は10眼(28.6%)であった(図2b).遠方矯正下近見視力は36眼全眼で0.4以上,32眼(88.9%)0.6以上,0.8以上22眼(61.1%),1.0以上6眼(16.7%)であった(図2c).屈折型多焦点眼内レンズでは,瞳孔径に依存して近方視力が不十分となることがあるため,術後近方視力0.4以上が得られるのは裸眼では30~94%,遠方矯正下ではじめに多焦点眼内レンズの挿入は,従来の単焦点レンズでは得られなかった遠方と近方の視力回復が同時に可能になることから,白内障患者の術後qualityoflife(QOL)への影響は大きいものと考えられる.回折型多焦点眼内レンズ・ZM900の術後成績を報告し,生活背景の異なる症例について,その有用性に関して報告する.I対象対象は2005年8月24日から2006年2月7日までに大木眼科にてAMO社製ZM900(TECNISTMMultifo-cal)を挿入した18例36眼で,年齢は29~76歳(平均54.3歳),性別は男性9例,女性9例である.患者選定基準は20歳以上,角膜乱視1.5D以下の両眼白内障患者で,本レンズと白内障に関するインフォームド・コンセントの後に,本レンズを使用する白内障手術を希望した患者である.上方強角膜切開の後,超音波乳化吸引術を施行し,本レンズを完全?内固定に挿入した.なお,眼内レンズの術後屈折度数は正視狙いとした.II結果1.視力術後6カ月の遠方裸眼視力は36眼全眼で0.5以上の視力が得られた(図1a).運転免許取得可能な0.7以上の裸眼視力を得られたのは31眼(86.1%)で,1.0以上(35)???*NaokoShimizu:大木眼科〔別刷請求先〕清水直子:〒171-0014東京都豊島区池袋2-17-1大木眼科特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):169~175,2007回折型眼内レンズ─症例報告????????????????????????????????????????????????????清水直子*図1a遠方裸眼視力(6カ月):0.5以上0.7未満:0.7以上1.0未満:1.0以上7(19.4%)5(13.9%)24(66.7%):0.5以上0.7未満:0.7以上1.0未満:1.0以上27(75.0%)9(25.0%)図1b遠方矯正視力(6カ月)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007は48~100%,0.6以上は裸眼では29~41%,遠方矯正下では34~59%と報告されている1~4).本レンズでは,0.4以上の近方裸眼視力は97.2%,遠方矯正下視力は100%,0.6以上の近方裸眼視力は77.8%,遠方矯正下視力は88.9%であり,非常に良好な近方視力を得ている.一方,従来の回折型多焦点眼内レンズでは,術後良好な視力を得るまでに時間がかかり,矯正視力が遠方,近方ともに低下する傾向があるのが欠点とされてきた5,6).しかし,本レンズの症例では,遠方,近方ともに,矯正視力は非常に良好であった.また,単焦点眼内レンズとの間で視力回復の速さにも差は感じられなかった.2.両眼視力術後3カ月の両眼での遠方裸眼視力は全例0.5以上,0.7以上が17例(94.4%),1.0以上が11例(61.1%)であった(図3a).遠方矯正視力は両眼では全例で1.0であった(図3b).近方裸眼視力は全例で0.4以上,0.8以上が15例(83.3%),1.0以上も4例(22.2%)認められた(図4a).遠方矯正下近見視力は全例で0.6以上,0.8以上17例(94.4%),1.0以上は6例(33.3%)であった(図4b).(36)表1遠方および近方両眼裸眼視力遠方視力近方視力0.5以上0.7未満0.7以上1.0未満1.0以上0.4以上0.8未満1110.8以上069:0.5以上0.7未満:0.7以上1.0未満:1.0以上18(100%)0図3b両眼遠方矯正視力(3カ月):0.5以上0.7未満:0.7以上1.0未満:1.0以上11(61.1%)1(5.6%)6(33.3%)図3a両眼遠方裸眼視力(3カ月):0.4以上0.6未満:0.6以上0.8未満:0.8以上1.0未満:1.0以上4(22.2%)1(5.6%)2(11.1%)11(61.1%)図4a両眼近方裸眼視力(3カ月):0.4以上0.6未満:0.6以上0.8未満:0.8以上1.0未満:1.0以上6(33.3%)1(5.6%)011(61.1%)図4b両眼遠方矯正下近見視力(3カ月):0.4以上0.6未満:0.6以上0.8未満:0.8以上1.0未満:1.0以上13(37.1%)10(28.6%)3(8.6%)9(25.7%)図2b近方矯正視力(6カ月):0.4以上0.6未満:0.6以上0.8未満:0.8以上1.0未満:1.0以上16(44.4%)6(16.7%)4(11.1%)10(27.8%)図2c遠方矯正下近見視力(6カ月):0.3以下:0.4以上0.6未満:0.6以上0.8未満:0.8以上1.0未満:1.0以上16(44.4%)4(11.1%)1(2.8%)7(19.4%)8(22.2%)図2a近方裸眼視力(6カ月)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???両眼視力は1例を除いて,15例(83.3%)が遠方0.7以上,近方0.4以上の視力を得た(表1).この視力は運転免許取得可能であり,近方視では新聞も判別可能な視力である.夜間運転や精密な近方作業も可能な遠方1.0以上,近方0.7以上の視力を得られた症例も9例(50.0%)認められ,さらに遠方,近方両方とも1.0以上という驚異的な見え方を示す症例も2例(11.1%)認められた.3.眼鏡使用状況術前は眼鏡を使用していない症例が3例で,それ以外の15例は眼鏡を使用しており,それらは遠用2例,近用9例,遠近両用8例,計19種類の眼鏡であった(表2).一方,術後は17例で眼鏡が不要になった.1例のみ遠用眼鏡を使用しているが,その眼鏡で近見視も十分に可能であり,近用眼鏡を新たに必要とする症例は認められなかった.従来の屈折型多焦点眼内レンズでは,眼鏡が一切不要になる症例は1/3程度であり,眼鏡が要らなくなるのではなく眼鏡の使用頻度が減少する眼内レンズであった2,4,6).それと比較すると,本レンズの結果は非常に良好であり,眼鏡からの解放を可能にする眼内レンズであると考えられた.4.ハロー,グレア,コントラスト感度眼内レンズ挿入眼では従来の単焦点眼内レンズ挿入眼においてもハロー,グレアの訴えがみられることがあるが,特に多焦点眼内レンズではその出現頻度が高く,7~8割程度に認めるという報告もみられる2~4).今回の症例においてはハロー,グレアはそれぞれ14例(38.9%),6例(16.7%)で(表3,4),従来よりも少なく,その程度もいずれも軽度であった.こちらから質問をして聞き出さない限りはハロー,グレアに関する愁訴は認められなかったことからも,その程度が軽微であったことが推察される.タクシー運転手の症例においても,軽度のハローの訴えはあるものの夜間運転に支障をきたすことはなかった.回折型多焦点レンズではコントラスト感度の低下が危惧されるが,本レンズの症例においては臨床上問題となるコントラスト感度の低下を認めた症例はなく,症例ごとによる個人差を認めたのみであった(図5).5.後発白内障多焦点眼内レンズ挿入眼は単焦点眼内レンズに比べ後発白内障に対しては敏感とされ,コントラスト感度低下にもつながるため,比較的早期に見にくさを訴える症例があると考えられれている.術後6カ月の時点で,後発白内障による視力低下のため12%の症例にYAGレーザーを施行したという報告もある7).本レンズは光学部がシリコーンレンズであり,後発白内障の問題は重要である.今回の症例では術後3カ月の時点で11眼(30.6%)に軽度の後?混濁を認めた.しかし,いずれも6~12カ月後に進行は認められず(図6),視力低下のため(37)表2眼鏡使用状況術前術後(6カ月)なし317遠方用21近方用90遠近両用80表3ハロー1週間1カ月3カ月6カ月なし32(88.9%)22(61.1%)22(61.1%)22(61.1%)軽度4(11.1%)14(38.9%)14(38.9%)14(38.9%)中等度0000重度0000合計36363636表4グレア1週間1カ月3カ月6カ月なし29(80.6%)30(83.3%)32(88.9%)30(83.3%)軽度7(19.4%)6(16.7%)4(11.1%)6(16.7%)中等度0000重度0000合計36363636———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007YAGレーザーを必要とした症例もなかった.後発白内障の発現についてはレンズ素材のみならず,眼内レンズのデザインが影響することから,本レンズのデザインの優秀性を示唆する結果とも考えられるが,今後の長期の観察が必用である.6.運転,読書乗用車,バイクなどの運転をする症例が18例中10例あり,うち1例はタクシーの運転手であった.いずれの症例も術後眼鏡装用なしで運転が可能であった.ハロー,グレアはそれぞれ6例,2例に訴えがあったが,運転に支障をきたしている症例は認められなかった.多焦点眼内レンズの適応について,コントラスト感度低下やハロー,グレアの問題から,夜間運転者に対しては適応に関し慎重を要するとする意見が多い2,5~7)が,今回経験したタクシー運転手の症例では,軽度ハローを認めたものの,夜間運転にも支障はないとのことであった.長時間読書をする症例は8例であった.写植をしている症例,視覚障害者に朗読するボランティアをしている症例,大学教員の症例など,職業的に長時間活字を見る症例も4例あった.視覚障害者に朗読するボランティアの症例のみ術後眼鏡を必要としたが,それは乱視矯正の遠用眼鏡で,それのみで近方視も可能であった.そのほかの症例も,近見時に特に近用眼鏡が必要になった症例はなかった.III症例〔症例1〕28歳,男性,元プロボクサー.術前:視力VD=0.4(0.4×cyl+1.0DAx90?)(38)図6術後前眼部写真図5コントラスト感度28歳69歳71歳———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???VS=0.1(0.1×cyl+1.0DAx90?)眼鏡使用なし術後:視力遠方VD=0.8(1.2×cyl+1.0DAx80?)VS=0.9(1.2×cyl+1.25DAx80?)近方VD=0.7(1.0×cyl+1.00DAx80?)遠方矯正下1.0VS=0.6(0.9×cyl+1.25DAx80?)遠方矯正下0.9両眼視力遠方裸眼視力1.0,近方裸眼視力0.9,遠方矯正下近見視力1.0.眼鏡使用なし,ハロー(-),グレア(-).瞳孔径右眼明所遠方4.14,近方3.98,暗所遠方5.34,近方5.37.左眼明所遠方3.91,近方3.44,暗所遠方4.94,近方4.67.術後良好な視力が得られ,運転免許を取得し,就業することができた.運転,読書時を含め,眼鏡装用の必要はなく,運転時のハロー,グレアの訴えも認められない.「非常に良い」という患者評価が得られた.本症のように術前に老視の経験のない若年者では,従来の単焦点眼内レンズ挿入では視力は回復するが調節力は消失してしまうため,高齢者に比べ就業者も多いことから術後のQOLに対する問題点は少なくない.ZM900を挿入した本症例は術後遠方,近方視力ともに良好な視力が得られ,ハロー,グレアの訴えもなかった.ごく軽度の後?混濁は認めるものの術後1年経過後も進行はみられず,術後コントラスト感度も良好であった.屈折型多焦点眼内レンズは年齢に伴う瞳孔径の減少に伴い,多焦点機能の減弱が懸念されている8)が,本レンズは瞳孔径に左右されないため,長期的に良好な多焦点機能が期待できると考えられることからも,調節力の消失を懸念する若年白内障患者への期待は大きいものと推察される.〔症例2〕55歳,男性,タクシー運転手.術前:視力VD=0.05(0.7×-3.75D)VS=0.05(0.9×-4.0D)遠近両用眼鏡使用術後:視力遠方VD=0.9(1.2×-0.25D)VS=0.9(1.2×cyl-0.5DAx130?)近方VD=1.2(n.c.)遠方矯正下1.2VS=1.2(1.2×+0.25Dcyl-0.5DAx130?)遠方矯正下1.2両眼視力遠方裸眼視力1.0,近方裸眼視力1.0,遠方矯正下近見視力1.2.眼鏡使用なし,ハロー軽度(+),グレア(-).瞳孔径右眼明所遠方2.18,近方1.90,暗所遠方3.71,近方2.67.左眼明所遠方2.35,近方2.10,暗所遠方3.73,近方2.74.多焦点眼内レンズの適応について,コントラスト低下やハロー,グレアの問題から,タクシーなどの職業運転者や夜間に自動車を運転する習慣のある患者に対しては慎重を要するとする意見が多いが,本症例では十分なインフォームド・コンセントの後,患者の希望により本レンズを挿入した.術後非常に良好な視力が得られ,運転も眼鏡なしで可能である.ハローの訴えが軽度あるものの,夜間のタクシー運転にも支障はなかった.また,運転時に車のメーターを見たり車内での代金の受け渡しをしたりするなどの,薄暗い中での近方,中間距離の見え方も非常に良好であり,「非常に良い」という患者評価が得られた.本症例は瞳孔径が比較的小さいことが幸いした可能性もあるが,非常に良好な結果が得られ,本レンズは職業運転者に対しても適応を広げていける可能性を有する多焦点眼内レンズであると考えられた.〔症例3〕69歳,男性,溶接工.術前:視力遠方VD=0.1(0.8×-0.75Dcyl-1.00DAx140?)VS=0.2(0.3×+0.50Dcyl-1.50DAx110?)近用,遠近両用眼鏡使用,仕事(溶接)の際には,その上に保護マスクを使用.術後:視力遠方VD=0.8(0.8×cyl-0.75DAx160?)VS=1.0(1.0×cyl+0.75DAx170?)近方VD=0.6(0.8×+0.5Dcyl-0.75DAx160?)遠方矯正下0.5VS=0.6(0.9×+0.5Dcyl+0.75DAx130?)遠方矯正下0.5(39)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007両眼視力遠方裸眼視力1.0,近方裸眼視力0.8,遠方矯正下近見視力0.9.眼鏡使用なし,ハロー(-),グレア(-).瞳孔径右眼明所遠方2.57,近方2.40,暗所遠方4.04,近方3.67.左眼明所遠方2.56,近方2.18,暗所遠方4.17,近方3.94.術前,溶接の際に近用眼鏡と保護マスクを併用しなければならないことに不自由を感じていたが,術後は良好な視力が得られ,保護マスクのみで溶接を行うことができるようになった.また,溶接の炎を見てもハロー,グレアは見られず,まったく問題ないとのことであった.「非常に良い」という患者評価が得られた.溶接業務のように眼前に保護マスクを装着して精密な近見作業を行う職業では,良好な近方視力と眼鏡からの解放は患者のQOLに与える影響は大きく,本レンズはその期待に応えうるものであったと考えられる.〔症例4〕73歳,女性,美容師.術前:視力VD=0.4(n.c.)VS=0.6(0.7×cyl-1.0DAx40?)眼鏡使用なし.術後:視力遠方VD=1.2(n.c.)VS=1.2(n.c.)近方VD=0.6(n.c.)遠方矯正下0.6VS=0.6(n.c.)遠方矯正下0.6両眼視力遠方裸眼視力1.5,近方裸眼視力0.7,遠方矯正下近見視力0.7.眼鏡使用なし,ハロー(-),グレア(-).瞳孔径右眼明所遠方3.38,近方2.46,暗所遠方4.40,近方3.53.左眼明所遠方3.14,近方3.62,暗所遠方4.17,近方4.41.この症例は美容師という職業柄,ハサミによる髪切と鏡によるスタイルの確認など遠方視と近方視を交互に行わなければならない.通常の遠見,近見視とは違い,細かく視線を動かすことが多いため,術前には遠近両用眼鏡の使用が困難であることを訴えていた.ZM900挿入により術後良好な視力が得られ,眼鏡使用なしで遠近同時作業が支障なく行えるようになり,「非常に良い」という患者評価が得られた.症例3,4のように,職業的に眼鏡の使用が困難であるような症例に対し,本レンズは視力回復だけでなく,眼鏡からの解放が可能であり,非常に有益であると考えられる.〔症例5〕69歳,女性,ボランティアで視覚障害者に朗読をしている.術前:視力VD=0.3(0.6×-0.75Dcyl-1.00DAx50?)VS=0.2(0.4×-1.50Dcyl-1.00DAx145?)遠近両用眼鏡使用術後:視力遠方VD=0.9(n.c.)VS=0.8(cyl-1.00DAx155?)近方VD=0.6(0.7×+0.75D)VS=0.5(0.6×+0.75Dcyl-1.00DAx155?)両眼視力遠方裸眼視力0.7,近方裸眼視力0.6,遠方矯正下近見視力0.8.遠用眼鏡(乱視用)使用,ハロー(-),グレア(-).瞳孔径右眼明所遠方2.59,近方2.51,暗所遠方4.27,近方3.95.左眼明所遠方3.42,近方2.67,暗所遠方4.14,近方4.13.術後乱視矯正の遠用眼鏡のみを装用しているが,読書,朗読など長時間の近見時にも近用眼鏡は必要としていない.今回の本レンズ挿入症例のなかで,唯一術後眼鏡を使用している症例であるが,「本当は眼鏡を掛けなくても見えるけれども,皺が目立つので掛けている」という美容上からの理由であり,「非常に良い」との患者評価が得られた.長時間の読書や朗読を行うという生活背景のある患者に対しても,本レンズのもたらす近方視力は十分その要望に応えうるものであり,本症例のように眼鏡を使用する場合でも遠方用眼鏡のみで近方作業が行える点は,従来の単焦点レンズとは明らかに一線を画する眼内レンズであると考えられる.(40)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???(41)おわりに回折型多焦点レンズ・ZM900を挿入した18例36眼の術後成績と,年齢や生活背景の異なる5症例につき職種上の有用性を報告した.回折構造を有する回折型多焦点眼内レンズは,機能的には遠方と近方の2点での良好な視力を目指したバイフォーカル眼内レンズと考えられ,今回の術後成績は,本レンズが幅広い年齢層,多様な職種にわたり有用性を発揮する可能性を強く示唆するものと考えられる.文献1)戸田由美子,徳田晶子,南部典彦ほか:多焦点眼内レンズ(AMOArray?PA154N)の視機能.????????13:92-97,19992)磯貝由美,佐藤友香,加地秀ほか:屈折型多焦点眼内レンズ挿入後の患者の視機能と日常生活における満足度.日本視能訓練士協会誌29:211-215,20013)山田慎,栗原秀行,矢那瀬淳一ほか:AMO社製ARRAY屈折型多焦点眼内レンズの使用経験.????????13:35-40,19994)小野英尚,佐々木克哉,白木邦彦:屈折型多焦点眼内レンズの術後成績と患者満足度.????????19:441-445,20055)江口秀一郎:多焦点IOL.????????16:37-40,20026)江口秀一郎:多焦点眼内レンズと問題点.眼科手術14:197-201,20017)佐々木淳子,岩切玉代:屈折型多焦点眼内レンズ.眼臨92:156-160,19988)庄司信行,清水公也:屈折型多焦点眼内レンズの術後成績と適応.臨眼53:259-263,1999

回折型眼内レンズの術後成績

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSmm,近用加入度数は+4.0Dとなっている.その特筆すべき点は,AMO社製Z9000単焦点IOL同様,レンズ前面の光学表面を球面収差が最小となるような非球面構造‘Modi?edPROLATE?surface’をもつことであり,これにより散乱光で誘発されるコントラストの喪失を最低限まで抑えることが期待される(図2).II対象となる症例回折型多焦点IOLの対象となる症例は,術後遠方視力が0.7以上を期待でき,正視狙いを目標としている場はじめに遠方視,近方視とも眼鏡に依存せずにすむようになることを目的として多焦点眼内レンズ(IOL)が1986年に初めて使用されてから,いくつもの多焦点IOLと単焦点IOLの比較がなされ報告されてきた1,2).多焦点IOLには屈折型と回折型があるが,それぞれに特徴があり,屈折型は良好な遠方視力が得られるが,近方視がその構造上,瞳孔径に依存すること,夜間のハローやグレアがでやすいことが知られている3).回折型は瞳孔径に依存せず近方視が得られるが,階段状の段差を有する回折現象により,2カ所に焦点が形成され,入射光の41%ずつが遠用,近用に分配され,残り18%が回折により失われるためコントラスト感度の低下が大きな問題であった4).これまで臨床上はコントラスト感度の低下を懸念して,屈折型が市場では主流であった感がある.しかし,新世代の回折型多焦点IOLでは光学部のデザインの改良によりコントラスト感度の低下が低減されてきており,再び注目されるようになっている5).本稿では,新世代の回折型多焦点IOL,おもにAMO社製TEC-NISTMMultifocal(ZM900)の臨床結果について述べたい.I非球面回折型多焦点IOL(AMO社製TECNISTMMultifocal・ZM900)AMO社製TECNISTMMultifocal(ZM900)(図1)は回折型多焦点IOLで,材質はシリコーン製,光学部径6.0(29)???*KunihikoNakamura:たなし中村眼科クリニック〔別刷請求先〕中村邦彦:〒188-0011西東京市田無3-1-13ラ・ベルドゥーレ田無1Fたなし中村眼科クリニック特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):163~167,2007回折型眼内レンズの術後成績??????????????????????????????????????????????????????????????中村邦彦*図1AMO社製TECNISTMMultifocal(ZM900)回折型多焦点IOLで,材質はシリコーン製,光学部径6.0mm,近用加入度数は+4.0Dとなっている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007合である.角膜乱視1.5D以上の場合は,遠方視時,近方視時とも眼鏡に依存する可能性が高くこのIOLの特性を十分に発揮できないので避けたほうがよい.また,他眼に単焦点のIOLが挿入されている場合も避けたほうがよい.瞳孔径は,屈折型多焦点IOLでは良好な近方視を得るために非常に重要であったが,回折型多焦点IOLでは近方視は瞳孔径に依存しないのであまり考慮しなくてもよい.このような条件のもとにZM900を挿入した症例について,術後3カ月以降に遠方視力(裸眼,矯正),近方視力(裸眼,遠方矯正,矯正),両眼視力(遠方および近方),最良近方距離,焦点深度,コントラスト感度,グレア,ハロー,眼鏡装用状況,満足度について観察した.III視力遠方視力は,裸眼で72%が1.0以上で,全例が0.6以上,矯正は94%が1.0以上で,全例0.9以上であった(図3).近方視力は,裸眼で85%が0.6以上,全例が0.4以上で,矯正は92%が0.8以上,全例0.7以上,そして遠方矯正下近方視力は89%が0.7以上,全例0.4以上であった(図4).両眼の遠方視力は裸眼,矯正とも全例0.9以上,近方視力は裸眼,遠方矯正下とも全例0.6以上であった(図5,6).(30)図2Modi?edPROLATE?surfaceレンズ前面の光学表面を球面収差が最小となるような非球面構造.Di?ractivepattern+4.0DAddPosteriorAnteriorModi?edPROLATE?surface32annularringsofequaldistributionandheight図3遠方視力1.5以上1.2以上1.0以上0.9以上0.8以上0.7以上:遠方裸眼視力:遠方矯正視力(視力)(%)1009080706050403020100図5両眼の遠方視力2.0以上1.5以上1.2以上1.0以上0.9以上:遠方裸眼両眼視力:遠方矯正両眼視力(視力)(%)1009080706050403020100図4近方視力1.2以上1.0以上0.9以上0.8以上0.7以上0.6以上0.5以上0.4以上:近方裸眼視力:遠方矯正下近方視力:近方矯正視力(視力)(%)1009080706050403020100———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???この結果を遠方と近方視力について,同様のレンズ前面に光学表面を球面収差が最小となるような非球面構造をもつAMO社製Z9000単焦点IOLの結果と比較してみた.遠方裸眼,遠方矯正,近方矯正には差がなかったが,近方裸眼,遠方矯正下近方では有意にTECNISTMMultifocal(ZM900)回折型多焦点IOLの視力が良好であった(unpaired?-test,p<0.001)(図7,8).IV最良近方距離最良近方距離は,28cmから39cmの間に分布しており,平均33.3±3.9cmであった.日本人の近方視の距離が30cm程度といわれているので,これは理想的な距離であると思われる.V焦点深度曲線焦点深度曲線は図9のように,0Dと-3.0Dの2カ所にピークができる二峰性となった.この結果は前述の良好な遠方と近方視力の結果を支持するものである.図では単焦点IOLと屈折型多焦点IOLの結果も同時に示してあるが,単焦点IOLでは単峰性,屈折型多焦点IOLでは二峰性となるが,近方視での焦点深度のピークは回折型多焦点IOLより低くなっている.回折型多焦点IOLでは近方視がとても良好であることになるが,その一方で焦点深度曲線は際立った二峰性となるので,中間距離においての見にくさを訴える可能性があると思われた.VIコントラスト感度さて回折型多焦点IOLでは最も懸念されてきたコン(31)図6両眼の近方視力1.2以上1.0以上0.9以上0.8以上0.7以上0.6以上:近方裸眼両眼視力:遠方矯正下近方両眼視力(視力)(%)1009080706050403020100矯正裸眼0.1単焦点単焦点多焦点多焦点1.00.11.01.041.071.321.37図7多焦点IOLと単焦点IOLの比較(遠方視力)裸眼,矯正視力とも,両群間に有意差はなかった.図8多焦点IOLと単焦点IOLの比較(近方視力)裸眼,遠方矯正下では有意に多焦点IOLの視力が良好であった(unpaired?-test,p<0.001).矯正単焦点多焦点0.11.00.930.98遠方矯正下単焦点多焦点*p<0.0010.11.00.800.20**裸眼単焦点多焦点0.11.00.690.20図9焦点深度曲線0Dと-3.0Dの2カ所にピークができる二峰性となった.単焦点IOLでは単峰性,屈折型多焦点IOLでは二峰性となるが,近方視での焦点深度のピークは回折型多焦点IOLより低くなっている.21.510.50-1.5焦点深度(D)-2-0.5-1-2.5-3-3.5-4-4.5-50.10.51.0視力:単焦点:屈折型多焦点:回折型多焦点———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007トラスト感度については全周波数において正常範囲内であったが,単焦点IOLとの比較では,18cycleperdegree(cpd)でのみ有意に多焦点IOLのほうが低い結果となった(unpaired?-test,p<0.05)(図10).しかし,過去に報告された球面回折型多焦点IOL(3M社製)の結果との比較では全周波数において良好であった.またこの結果は,屈折型多焦点IOLと比較しても遜色がないものと思われた.VIIグレア・ハローグレアについては,自覚のなかったものが83%,軽度の自覚が17%,ハローについては,自覚のなかったものが78%,軽度の自覚が22%,中等度,重度の自覚があったものはなかった(図11).過去にも報告されているとおり,屈折型多焦点IOLではグレア,ハローの自覚が少なくなく,時にスターバーストとよばれる強いグレアにより不快感を覚える患者もいるが,これに比べ(32)て回折型多焦点IOLではあまり自覚されない.今回の結果も同様で,グレア,ハローは回折型多焦点IOLではあまり問題とならないようであった.VIII眼鏡装用率日常生活において眼鏡を装用しているものはまったくなかった.しかし,パソコン操作時,ピアノの楽譜を見るときに使用していると答えた患者が各1名あった.これはどちらも読書などと違い中間距離に相当すると思われ,前述の焦点深度の結果のとおり中間距離においてやや難点があるのかと思われた.しかし,前述の焦点深度の結果では,屈折型と比較して中間距離の焦点深度が劣るわけではないので,相対的に自覚するためであると思われた.IX患者満足度満足度については,大変良い,良い,悪い,非常に悪い,の4段階で評価してもらったが,全例が良いか,大変良いで不満を訴えたものはなかった(図12).屈折型図10コントラスト感度全周波数において正常範囲内であったが,18cycleperdegree(cpd)でのみ有意に単焦点IOLより低かった(unpaired?-test,p<0.05).点焦単点焦多3(点焦多)M図11グレア・ハローグレア,ハローとも,中等度,重度の自覚があったものはなかった.軽度17%なし83%中等度,重度0%グレアの自覚軽度22%なし78%中等度,重度0%ハローの自覚図12患者満足度(良い,非常に良い,悪い,非常に悪いの4段階)全例が良いか,大変良いで不満を訴えたものはなかった.良い10例非常に良い8例悪い,非常に悪い0%———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???(33)多焦点IOLでは,近見の見え方に物足りなさを訴える例が少なくない.術後長期の結果で評価してもらったわけではないが,これは良好な近見視力を反映したものと思われる.X非球面回折型多焦点IOL(Alcon社製ReSTOR?)海外ではすでに市場に出回っているAlcon社製ReSTOR?(SD60)は,アクリル製の回折型多焦点IOLで,TECNISTMMultifocal(ZM900)同様,光学部径6.0mm,近用加入度数は+4.0Dとなっている(図13).光学特性を改善するため光学部中央3.6mmにappodiza-tionと称されるシステムを加えた回折型,その周囲が単焦点デザインのアクリル製シングルピースである.焦点深度曲線は0Dと-3.0Dの2カ所にピークができる二峰性となり,最良近方距離の平均は27.48~27.58cmでTECNISTMMultifocal(ZM900)とほぼ同様の特性をもつ.両眼視時の裸眼遠方視力が0.7以上,かつ裸眼近方視力が0.4以上であった症例が88.1%,術後1年で眼鏡を必要とした症例は7.5%で良好な遠方視力と近方視力が得られ眼鏡依存度が低下している.また遠方視時のコントラスト視力も単焦点IOLと有意差を認められていない.おわりに多焦点IOLは,収差を増しているだけで,遠くも近くも見えるレンズではなく,遠くも近くもあまりよく見えないレンズなどといわれることもあった.コントラスト感度の低下から一度は葬られかけていた回折型多焦点IOLが光学特性の改良によって,本当に遠くも近くもよく見えるレンズであるとして,再び脚光を浴びてきているのはある意味感慨深いものがある.しかし今回の症例は-1.5D以下の症例に限られており,良好な結果を得るには角膜乱視への対処,またより精密なIOLパワーの決定が必要不可欠と思われる.患者の期待度が高くなる分,術者の負担も大きくなることが予想されるIOLであるが,今後の展開が注目される.文献1)AllenED,BurtonRL,WebberSKetal:Comparisonofadi?ractivebifocalandamonofocalintraocularlens.????????????????????????22:446-551,19962)PercivalSPB,SettySS:ProspectiverandomizedtrialcomparingthepseudoaccommodationoftheAMOARRAYmultifocallensandamonofocallens.???????????????????????19:26-31,19933)WalkowT,LiekfeldA,AndersNetal:Aprospectiveevaluationofadi?ractiveversusarefractivedesignedmultifocalintraocularlens.?????????????104:1380-1386,19974)PiehS,WeghauptH,SkorpikC:Contrastsensitivityandglaredisabilitywithdi?ractiveandrefractivemultifocalintraocularlenses.???????????????????????24:659-662,19985)ChiamPJT,ChanJH,AggarwalRKetal:ReSTORintra-ocularlensimplantationincataractsurgery:Qualityofvision.???????????????????????32:1459-1463,2006図13Alcon社製ReSTOR?(SD60)回折型多焦点IOLで,光学部径6.0mm,近用加入度数は+4.0Dである.光学部中央3.6mmが回折型,その周囲が単焦点デザインのアクリル製シングルピースである.

回折型眼内レンズの術前後の検査と注意点

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS良好な視力を望んでIOLを挿入しても,乱視があるために眼鏡による矯正が必要になったのでは本来の目的からずれてしまう.白内障眼では乱視には角膜乱視と水晶体乱視の要素があるので,純粋な角膜乱視に注目する.当院において回折型IOLを挿入した例の角膜乱視の度数と裸眼視力を図1に示す.通常の単焦点IOLでも同じであるが,裸眼視力の面から角膜乱視は1.5D,できれば1D以内とする.近年の小切開あるいは極小切開では手術によって生じる乱視は軽減したが,術者自身の切開方法や切開位置による乱視への影響も考慮する.乱視例については,欧米ではLRI(limbalrelaxinginsicon)という切開法での調節や,IOL挿入後しばらくしてからLASIK(laser???????keratomileusis)で乱視矯正を行っている施設がある.はじめに多焦点眼内レンズ(IOL)は,術前および術後検査がむずかしい,あるいは時間がかかるといわれている.術後に良好な遠方および近方裸眼視力を得るためには,適応判断のみでなく,正確な術前検査が必要である.また,挿入後の視機能を判断するうえで,さまざまな検査法がある.現在,屈折型IOLのみが承認を受けている1)が,近い将来,回折型の使用が可能になるであろう.多焦点IOLという名称が広く使われているが,回折型においては,明らかに遠方と近方の2点に焦点が合う,二焦点あるいはバイフォーカルIOLである.多くの施設では,術前,術後の視力検査をはじめとする視機能検査,IOL度数検査を視能訓練士が行っている.本稿では,当院において視能訓練士が担当している回折型IOL挿入例の術前および術後検査において,どのような点に注意すべきかを述べる.I術前検査1.術前検査の流れ通常の単焦点IOLと同じ検査の流れである.回折型IOLを希望する場合,術前乱視,瞳孔径(屈折型),IOL度数決定が重要なポイントである.2.角膜曲率半径,角膜形状解析検査回折型IOL挿入後,良好な遠方および近方視力を得るには,角膜乱視が重要である.せっかく眼鏡なしでの(23)???*ShinichiOhki:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕大木伸一:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):157~161,2007回折型眼内レンズの術前後の検査と注意点???-????????-???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????大木伸一*10.250.50.751.51.251.2術後視力術前角膜乱視(D)1.00.80.6図1角膜乱視と術後裸眼視力———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,20073.視力検査術前は,通常の単焦点IOLと同様である.白内障があるため,近方視力の測定は困難だが,日常生活において,どの距離で読書をしたりするのかは確認しておくとよい.回折型IOL挿入後の近方視の最適距離は30cm前後である.近視が強い例では,かなり近づけて字を読む,逆に遠視例では多少離して読む習慣があるので,IOL挿入後の最適距離が変わる可能性は説明が必要となる.4.IOL度数検査IOL度数検査は,回折型IOL挿入例における術前検査で最も重要ともいえる.術後に眼鏡が必要なくなることを目的として挿入するのであるから,IOLの度数が合わず,術後に遠視や近視になってしまうと,当然,近方視力も低下するため,問題は倍増してしまう.等価球面度数で0.5D以内の精度が問われる.近年開発されたレーザー干渉法を用いて眼軸長を測定するIOLマスター?は,その測定精度が高いことが報告されている2).非接触型で涙液表面から網膜色素上皮までを測定しているため,従来使用していたAモードより眼軸長が長く測定される.このため,通常使用しているIOL製造会社が推奨するA定数をそのまま入力すると,遠視化する可能性がある.IOLマスター?のA定数が表記されているホームページ(http://www.augenklinik.uni-wuerzburg.de/eulib/index.htm)は各IOLのA定数を更新しているので確認しておくとよい.参考までに,代表的な屈折型および回折型IOLのメーカー推奨のA定数とIOLマスター?のA定数を表1に示す.術者によりA定数を調整することは,すでに行われているが,Aモードと両者の検査を行っている場合,その差を知っておくのも良い.また,混濁の強い白内障ではIOLマスター?で測定できないことがある.この場合は,従来のAモードに頼るしかないが,前にも述べたように,両者での測定結果を比較しておくと便利である.今後,強度近視や遠視例への適応が広がることが予想されるが,当科において強度近視例ではおおむね良好な結果を得ているが,今後,長眼軸長または短眼軸長例へのA定数の最適化が望まれる.IOLマスター?では術後の屈折度数を入力して,各術者のA定数を調整するプログラムも含まれているので,これを利用するのもよいであろう.5.瞳孔径ここで述べる回折型IOLは,近方視力が症例の瞳孔径に依存しないのが大きな利点で,術前の瞳孔径検査は必要ない.わが国で承認を受けているArray?レンズ,あるいはこれから出てくるReZoomTMレンズは屈折型であるので,瞳孔径検査についても簡単に述べる.どちらのIOLも,遠用,近用ゾーンが順に並んだ同心円デザインである.中心の直径2.1mmが遠用ゾーン,そこから3.4mmが近用ゾーン,そのまわりが遠用と5つのゾーンになっている.近方視力は近方視時に瞳孔径が近用ゾーンに満たないと効果がでない.実際には瞳孔径が2.2mm以上必要である.瞳孔径測定はHaab瞳孔計が多くの施設で使われているが,このような0.1mm単位の瞳孔径を測定するには精度が劣る.当科では,電子瞳孔計FP-10000を用い,両眼開放下で日常生活に近い条件での瞳孔径を測定している.白内障年齢層では近方視時の瞳孔径は若年者に比べ小さいこと,術後の瞳孔径が小さくなる傾向も考慮する.II術後検査1.視力検査a.遠方視力遠方視力は単焦点IOLと同様,裸眼と矯正を測定する.オートレフラクトメーターが遠方か近方のどちらで測定しているかわからないこと,また,乱視度数や軸も(24)表1IOLマスター?用A定数レンズ種類メーカー推奨A定数IOLマスター?用A定数(SRK/T)Array?SA40(AMO社)屈折型118.0117.9ReZoomTMNXG1(AMO社)屈折型118.4118.8TECNISTMMultifocalZM900(AMO社)回折型119.0119.8ReSTOR?SA60D3(Alcon社)回折型118.1118.5———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???参考にならないことがあるので注意する.まず,オートケラトメーターなどで角膜乱視を測定する.この乱視を参考に球面度数を調整していくのが良い.裸眼視力検査での注意点だが,症例によっては0.6から0.8で読むペースが一時落ちる.後述する高周波領域でのコントラスト感度の低下が影響している可能性があるが,少し時間をおくと,そこから1.2まで問題なく見える.実際に視力測定をしていて,この点を理解しているか否かで視力結果がかなり異なる.b.近方視力裸眼遠方視力が良好な例は,当然,近方視力も良好である.回折型IOL挿入後では,近方視力がだいたい0.7ぐらいなのを知っておくと,検査がスムーズである.角膜乱視や度数ずれがあると,当然裸眼視力は低下するが,遠方矯正下近方視力は良好である.回折型IOL挿入例では,最初のうちは,裸眼,遠方矯正,完全矯正の3種の近方視力測定をする.視力測定をする者が,回折型IOLが挿入されていることを知らず,通常の単焦点IOLのように+3Dのレンズを付加して近方視力を測定しても,遠方の焦点を近方に合わせて視力は出てしまうので注意する.c.両眼視力回折型IOLは両眼挿入により,視力やコントラスト感度が上昇する傾向にある.両眼挿入例では,両眼の遠方および近方視力測定をすすめる.d.中間視力遠方と近方に加え,50cm(はんだや製50cm近点視力表,図2)または1m視力表(はんだや製新井氏1M視力表,図3)がある.後で述べるように中間が見えにくいと訴える場合,この視力測定が参考になる.また回折型IOLは焦点が2つあるため,レンズをマイナス加入したものとプラス加入したもの,2種類のレンズで中間視力の測定が必要となる.2.コントラスト感度回折型IOLの特徴として,コントラスト感度は正常範囲内の症例が多いが,高周波領域でのコントラストが低下する傾向にある.コントラスト感度測定はいろいろな機種がある.明所または暗所,遠見または近見が測定可能なもの,光源の調整でグレアのあるなしが測定できるものがある.来院時に毎回測定する必要はないが,当科では術後1カ月以降で測定している.視力は良好なのに,何となく見えにくいという訴えのある例ではコントラスト感度が通常より低下していないか調べる.視力検査でも述べたように,両眼挿入例では両眼でのコントラスト感度検査をする.多くの症例で両眼における結果は良好である.(25)図250cm近点視力表図3新井氏1M視力表———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,20073.焦点深度焦点深度検査は,どの程度の度数きざみで測定するかによっても異なるが,検査時間および患者への負担を考慮し,全例行う必要はない.しかし,回折型IOLの特徴を理解するうえで重要な検査なので,導入する場合は必ず何例か行うべきである.当科では,プラスレンズおよびマイナスレンズを0.5Dきざみに,プラス側は2Dまで,マイナス側は6Dまで行っているが,片眼で約10分間必要である.実際には図4のような用紙に,その度数ごとの視力を記載し,グラフ化することで曲線の特徴がわかる.単焦点はピークが遠方のみであるが,屈折型および回折型では二峰性である3).ここで述べている回折型では,±0Dおよび-3Dに屈折型よりも明らかなピークがある.4.グレア,ハローグレア,ハローはモニター画面を用いて検査する方法があるが,通常は問診である.問診では光源を見たときにグレアやハローがない,気にならない程度だがわずかにある,気になるが日常生活に支障がない,日常生活に支障があるなどの程度分類が一般的である.屈折型ではこちらから尋ねなくても,患者自身がグレアやハローを訴える例があるが,回折型では少ない.5.満足度近年,術後のqualityoflife(QOL)が重視され,その検査法が報告されている.これらの検査を基準に,バイフォーカルの利点がどの程度いかされているか問診が可能である.6.眼鏡が必要な場合回折型IOLでは眼鏡なしで日常生活ができることを基準としているが,焦点深度の特徴からも明らかなように,遠方と近方が非常に良好で,中間が多少落ちている.これは,単焦点レンズの焦点深度曲線と比較して劣っているわけではないが,どうしても近方が見えるということでその先が見えにくいことが気になる例がある.また,術前検査で述べたように乱視の程度によっては眼鏡が必要になる.通常は遠方を合わせることで,近方視力も良好になり,眼鏡は1つでよい.実際に眼鏡処方を必要とした症例は,パソコンの距離や音楽の譜面を見る距離で見づらい症例,あるいは乱視が1.5D近い症例のみである.回折型IOL挿入後に眼鏡処方する場合,遠方と近方のどちらの焦点側から中間に合わせるかという問題が出てくる.遠方の焦点を中間に合わせると(プラスレンズを加入すると)中間距離と近方が見え,近方の焦点を中間に合わせると(マイナスレンズを加入すると)中間距(26)図4焦点深度の測定用紙+2.0+1.5+1.0+0.5?0.5?1.0?1.5?2.0?2.5?3.0?3.5?4.0?4.5?5.0+2.0+1.5+1.0+0.5?0.5?1.0?1.5?2.0?2.5?3.0?3.5?4.0?4.5?5.0———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???離と遠方が見える.後者の場合,遠方が少し過矯正気味になるため,当科では前者の遠方の焦点を中間距離に合わせ+1Dから+1.5D加入している.7.術後検査のプランニング上記の検査を来院時に毎回行う必要はない.参考までに当科で行っている術前後検査内容と検査時期を表2に示す.近年の手術は侵襲が少なく,術後早期から安定した結果が得られる.時期に関しては,各施設での外来の状況により工夫が可能である.おわりに回折型IOLは,術前検査や術後検査に時間がかかるという印象がもたれている.ここで述べてきたように,回折型の特徴を理解するには従来の単焦点IOLよりも検査項目が多く,その分時間がかかるのは事実である.まず,検査の前に,術者,スタッフがこのIOLの特徴を理解しておくこと,そして,各施設での術前検査および術後検査の流れをうまく調整する.検査項目が多くても,遠方および近方が眼鏡なしで見える患者の喜びは大きく,検査する側も非常に感銘を受ける.ここで述べた検査法は,今後さらに変化していく可能性はあるが,回折型IOLは,患者のQOLをさらに向上させる次世代のIOLとして今後さらに普及することが予想される.文献1)鈴木高佳,ビッセン宮島弘子:眼内レンズの進歩MultifocalIOL.あたらしい眼科21:591-594,20042)石黒進,酒井幸弘,宇陀恵子ほか:眼軸長測定におけるIOLMasterTMと超音波A-mode法の比較.日本視能訓練士協会誌32:151-155,20033)SchmidingerG,GeitzenauerW,HahsleBetal:Depthoffocusineyeswithdi?ractivebifocalandrefractivemulti-focalintraocularlenses.???????????????????????32:1650-1656,2006(27)表2手術前後の検査内容術前翌日1週間1カ月3カ月6カ月以降遠方視力○○○○○○近方視力○○○○○中間距離視力○IOL度数検査○角膜内皮細胞検査○○コントラスト感度○焦点深度検査○眼鏡検査※必要時に検査

眼内レンズ度数決定と手術時の注意点

2007年2月28日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS多焦点レンズに適する乱視量は,1.5ジオプター(D)以内なので,等価球面度数を0にするためには,通常0.75D以内の遠視の球面度数を目標とすることになる.はじめに現在,いくつかの新しい多焦点眼内レンズの治験が進行中である.回折型多焦点レンズReSTOR?(アルコン社,図1)は,結果の解析が終了した.多焦点レンズで患者満足を得るには,術前の正しい患者選択と正確な眼内レンズ度数の測定が不可欠である.また,多焦点レンズは,乱視やレンズ偏位による視機能の劣化が,単焦点レンズに比べて大きいので,手術における創口作製やレンズ偏心・傾斜に特別な配慮が必要である.本稿では,レンズ度数決定などの術前検査と手術時の注意点について述べる.I術前の注意点1.目標とする球面度数眼内レンズ挿入眼の最適焦点距離は,理論上,全屈折における球面度数ではなく,等価球面度数で決まる.そのため,球面度数が0を目標にするのではなく,乱視量を考慮して,等価球面度数が0になるのをねらうのが正しい.つまり,本来は術後乱視量から考えて,等価球面度数が0となるように目標球面度数を決定する.単焦点レンズは,通常軽い近視を目標にするが,多焦点レンズの等価球面度数は正視ねらいが好ましい.これらを考慮すると,多焦点レンズの球面度数の目標値は,軽い遠視ねらいになる(表1).しかし,球面度数を遠視にするのに抵抗がある場合は,妥協点として,正視ねらいにしても良いと思われる.(17)???*KenHayashi:林眼科病院〔別刷請求先〕林研:〒812-0011福岡市博多区博多町駅前4-7-13林眼科病院特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):151~155,2007眼内レンズ度数決定と手術時の注意点????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????林研*表1多焦点レンズ挿入のための目標屈折値症例1:術前視力・屈折値0.1(0.3×+1.5D×-0.5DAx90?)術前-0.5Dの倒乱視であれば,術後に角膜乱視は変化しないと仮定した場合,全屈折の乱視は軽度(約0.25~0.5D)倒乱視化するので,0.5×1/2+0.25~0.5Dで+0.5~0.75Dの球面度数を目標とする.症例2:術前視力・屈折値0.08(0.2×-0.5D×-1.0DAx180?)術前-1.0Dの直乱視であれば,全屈折の直乱視は軽度軽減するので,1.0×1/2-0.25~0.5Dで,0~+0.25Dの球面度数を目標とする.図1回折型多焦点レンズReSTOR?挿入眼———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007球面度数が軽度遠視になった場合でも,遠見は十分に見えることが多い.多くの多焦点レンズは,近見の至適距離が0.3mになるように近見度数が加入されているので,レンズ度数が近視方向にずれると,近見の最適距離がそれ以上近くにずれてしまう.軽い遠視にずれた場合,至適距離が中間距離になるので,コンピュータなど中間距離の仕事がやりやすいという利点がある.多焦点レンズの明視域は遠見と近見の二峰性であるが,明視域の活用という観点からは,遠見は近視方向にずれたほうが有利であるし,逆に近見は遠視方向にずれたほうが有利になるという矛盾を含んでいる(図2).特に,屈折型レンズは,通常近見の明視域が狭いので,近視方向にずれると,近見視力が出ない.どちらにずらしぎみにするかは,それぞれの多焦点レンズの明視域を把握したうえで,考慮する必要がある(図3).2.乱視の許容範囲多焦点レンズは,乱視が強いと,遠見・近見視力ともに著しく損なわれる.乱視による視力低下は,多焦点レンズのほうが,単焦点レンズに比べて著しい.乱視を屈折型多焦点レンズ(AMO社Array?,以下Array?)に負荷した検討の結果では,球面度数が0と仮定すると,1.0D以内であれば,遠見0.7,近見0.5に近い有用視力が得られる(図4)1).1.5Dでは,遠見・近見ともに有用視力に達しない.1.5D以上であれば,遠見・近見視力の劣化は,単焦点レンズよりも大きくなってしまう.これらの点から,多焦点レンズは,術前乱視が1.0D(18)図2多焦点レンズの明視域多焦点レンズの明視域は,遠見と近見の二峰性なので,近視方向にずれると裸眼近見視力が不良となり,遠視方向にずれると裸眼遠見視力が不良になる.視力うまく合った場合0.3m5m視力近視にずれた場合→裸眼近見視力が悪い0.3m5m視力遠視にずれた場合→裸眼遠見視力が悪い0.3m5m距離(m)視力うまく合った場合0.3m5m視力近視にずれた場合→近視はみえず単焦点レンズと変わらない0.3m5m視力遠視にずれた場合→裸眼遠見視力の低下は少ない0.3m5m距離(m)図3近見の明視域が狭い多焦点レンズ近見明視域が狭い多焦点レンズの場合,近視方向にずれると裸眼近見視力が著しく不良となり単焦点レンズと変わらない.一方,遠視方向にずれても遠見視力に大きな影響はない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???以内が適応で,1.5Dが許容範囲と考えられる.これ以上であれば,むしろ単焦点レンズを使うほうが,乱視によって明視域が広がるので有効である.現在は,切開幅が2mm台まで小さくなったので,術前乱視があまり変化しなくなった(図5).つまり,術前と術後の乱視量が変化しないので,術前乱視量によって患者選択がしやすくなった.具体的には,術前の乱視量が1.5D以内の患者を選択するとよい.3.瞳孔径の許容範囲多焦点レンズは,瞳孔径の影響を受けやすい.特に,屈折型多焦点レンズは,十分な瞳孔径がないと多焦点効果が出ない.たとえば,Array?の場合,筆者らの検討では,4.5mm以上の瞳孔径がなければ近見視力が十分出なかった2).Kawamoritaら3)の光学的シミュレーションでは,3.4mm以上が必要と報告されている.瞳孔径は,白内障術前と術後で強く相関するので,予測性は高く,術前の瞳孔径で患者選択をすることが可能である4).しかし,手術により平均10%程度縮小するので,術前に縮小分も考慮して選択しなくてはならない.一般にArray?など屈折型多焦点レンズでは,術前4.5mm程度の瞳孔径が有効近見視力を得るために必要と考える.また,糖尿病患者では,網膜症のない眼は正常眼と大きく変わらないので容認されるが,網膜症のある眼では瞳孔径の平均は4.0mmに達しないので,適応外としたほうがよい(表2).さらに,落屑症候群の患者や高齢者では,瞳孔径が4.5mm以下のものが多い.これらでは,Array?を挿入しても近見視力は十分ではなく,単焦点レンズと変わらない状態になるだけでなく,入射光の一部は近見に分かれるのでコントラスト感度が低下する可能性もある.回折型多焦点レンズは,瞳孔径に影響されない.たとえば,ReSTOR?では,遠見から近見まで全距離の視力が瞳孔径と相関しない.そのため,回折型多焦点レンズには,小さな瞳孔径の患者も挿入可能という大きな利点がある.4.角膜不正乱視レフラクトメーターで測った屈折乱視が許容範囲でも,角膜不正乱視が予想外に大きい患者がいる.このような患者では,多焦点レンズを挿入しても視力が悪い.多焦点レンズを希望する患者は,眼内レンズに対する期待が大きいので,できればこのような患者もスクリーニ(19)表2非糖尿病患者と糖尿病患者眼の術前・術後の平均瞳孔径瞳孔径(mm)術前術後1カ月非糖尿病患者4.9±1.04.6±0.9糖尿病患者網膜症なし4.9±0.94.6±0.9単純網膜症4.4±0.94.2±0.7(前)増殖網膜症3.9±1.23.5±0.9p値0.0051*<0.0001**4群間に有意差あり.視力距離(m)0.30.50.712350D0.5D乱視1.0D乱視1.5D乱視2.0D乱視2.5D乱視図4負荷乱視量による屈折型多焦点レンズ挿入眼の全距離視力図5切開幅が2.4mmの場合,術前(左)・術後(右)の角膜形状切開幅が2.4mmの場合,術前・術後の角膜形状や乱視はほとんど変化しない.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007ングして除外したほうがよい.現在市販されている器械としては,トーメーのTopographicModelingSystem(TMS)で不正乱視の定量ができるし,波面収差解析装置で測定した角膜高次収差で代用してもよい(図6).いずれにしろ,角膜の質は,多焦点レンズの視機能に大きな影響を与えるので,術前に不正乱視の強い患者を除外しておくと,万一の場合のクレームを少なくすることができる.5.レンズ度数測定時に推奨される方法多焦点レンズでは,レンズ度数が予想からはずれると多焦点効果は損なわれる.そこで,眼軸長測定には,超音波AモードとIOLマスター?の両方を使用して,測定精度を上げる必要がある.特に,超音波Aモードのように,測定に習熟を要する検査は,何人かの検査者がまったく別に測定して値が合致するかどうかを確かめる必要がある.筆者の施設では,3人が測定して,値がほぼ合致するまで確認している.また,核の硬化した例など,超音波とIOLマスター?の測定値に差がある場合もある.このような場合は,再検してそれでも差が出るときは,IOLマスター?の値を重視するほうがよい.II手術時の注意点1.惹起乱視の少ない創口作製先述のように,術前の乱視量で患者を選択しているので,手術で乱視を変化させない創口作製を心がける.すなわち,切開幅は,当然小さいほど良い.創口幅は,惹起角膜乱視量からみると,強膜切開では3mm以下,角膜切開なら2.5mm以下であれば,惹起乱視量の平均は小さく,許容範囲内と考えられる.現在ではインジェクターを使えば,ほとんどのフォルダブル多焦点レンズは,この幅から挿入できるので,問題はない.一方,PMMA(ポリメチルメタクリレート)製の多焦点レンズはできれば避けたい.角膜切開の惹起乱視はばらつきが大きいので,角膜切開をする場合は,乱視軸を考慮して切開位置を決めたほうが安全である.つまり,倒乱視の場合は,側方切開をして乱視を減らす方向にして,万一の場合に備える.さらに,核が硬いなど創口に負担がかかる例は,乱視の変化が大きいので,なるべく多焦点レンズの選択からはずしたほうが安全である.どうしても入れたい場合は,なるべく後方から切開するなど,特別乱視への配慮が必要になる.縫合すると,角膜乱視が増大するので,創が閉鎖ししだい抜糸する.術中の創の状態によって,術後1週から1カ月の間に抜糸するとよい.2.瞳孔を傷害しない術後に瞳孔が変形すると,多焦点効果が減弱するだけでなく,グレアやハローが強調される.そのため,瞳孔をなるべく傷害しないような注意が必要である.また,手術侵襲が強く,灌流量が多ければ,瞳孔の縮小率が大きくなる.なるべく器械の設定を低くして,タイトな創口で灌流液が漏出しないようにする.特に,手間取りそうな例では,滞留性の良い粘弾性物質を使用して,できるだけ虹彩の動揺を防ぐ.3.レンズ偏心・傾斜を起こさない屈折型多焦点レンズでは,偏心が大きいと遠見・中間距離視力が低下する.たとえばArray?では,偏心が0.7mm以上になると良好な視力が得られない.許容範(20)図6術前検査としての不正乱視トーメーのTopographicModelingSystem(TMS)では,角膜形状のFourier解析ができるので,不正乱視が強くないかどうかスクリーニングしておくとよい.この例は通常の検査では問題ないが,不正乱視がやや強いので,多焦点レンズには不適である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???囲は0.9mmまでと考えられる.通常の手術で,0.9mm以上の偏心を起こすことはまれであるが,それでも1~3%に起こる.傾斜すると高次収差が大きくなることが知られている.偏位が比較的軽度で視力低下をきたさない場合でも,コントラスト感度を低下させたり,単眼複視を起こしたりする可能性がある.治験の結果では,回折型多焦点レンズであるReSTOR?では偏心・傾斜量と全距離の視力に相関がなかった.すなわち,回折型レンズは偏位の影響を受けにくい.それでも大きく偏位した場合は,やはり視機能に影響を及ぼすはずである.そこで,回折型レンズでも,偏位を起こさない配慮が必要である.日本で市販されるReSTOR?は,シングルピースアクリソフ?になるので,術中の最後にレンズの中心固定を確認しておいたほうがよい.このように,多焦点レンズは偏位にも弱いので,レンズを偏位させない手術を心がける.たとえば,シングルピースアクリソフ?のように,支持部が軟らかいレンズでは,手術の最後にレンズを中央に戻しておいたほうが安全である.術中に破?やZinn小帯断裂などの?合併症が起こった場合は,多焦点レンズは挿入しないほうがよい.すでに僚眼に多焦点レンズを入れている場合でも,偏位した場合の視機能の悪化を考えると,単焦点レンズを挿入したほうがよい.?内偏位を起こしやすい落屑症候群,網膜色素変性,外傷,長眼軸長眼,閉塞隅角緑内障などは,最初から比較適応外と考えられる5).(21)おわりに多焦点レンズを挿入する場合の術前と手術時の注意点を述べた.多焦点レンズで十分な効果を得るためには,単焦点レンズ以上に,術前検査と手術の正確性が必要とされる.これらがうまくいかないと,多焦点効果が得られないだけでなく,単焦点レンズに比べ,むしろ視機能の劣化をまねきやすい.今後,それぞれの多焦点レンズが実際に市販されれば,どのような利点と欠点があるか明確になるはずである.その特徴をよく理解して,術前検査や手術を行う必要がある.文献1)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:In?uenceofastig-matismonmultifocalandmonofocalintraocularlenses.???????????????130:477-482,20002)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Correlationbetweenpupillarysizeandintraocularlensdecentrationandvisualacuityofazona-progressivemultifocallensandamonofocallens.?????????????108:2011-2017,20013)KawamoritaT,UozatoH:Modulationtransferfunctionandpupilsizeinmultifocalandmonofocalintraocularlensesinvitro.???????????????????????31:2379-2385,20054)HayashiK,HayashiH:Pupilsizebeforeandafterphaco-emulsi?cationinnondiabeticanddiabeticpatients.????????????????????????30:2543-2550,20045)HayashiK,HirataA,HayashiH:Possiblepredisposingfactorsforin-the-bagandout-of-the-bagintraocularlensdislocationandoutcomesofintraocularlensexchangesur-gery.?????????????(inpress)