———————————————————————-Page1(1)???1980年代以降,すなわちレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)の普及後に眼科医になった世代にとって,原発閉塞隅角緑内障は解決済み疾患のリストに入っていたといえる.眼科医が一般に共有していた原発閉塞隅角緑内障診療の原則とは,まず第一に,原発閉塞隅角緑内障における隅角閉塞のメカニズムはほとんど瞳孔ブロックによっており瞳孔ブロック以外のメカニズムが問題となるのは例外と考えること.第二に,瞳孔ブロックを解除するためにLIを施行すれば基本的には治療完了するはずであり,LIを行っても眼圧が下降しない症例はすでに広範な周辺虹彩前癒着が生じているなどの進行例であるか開放隅角緑内障とのcombinedmecha-nismと考えること.そして,その場合にはやむをえないので濾過手術などを行う,というものであった.しかし,このような考え方は後述するような理由から改変を迫られており,原発閉塞隅角緑内障は現在の眼科学における重要なトピックスとなっている.前世紀末から今世紀初頭にかけてアジアでの緑内障疫学調査が進み,東アジアおよび南インド地域では欧米に比べて原発閉塞隅角による緑内障の頻度が非常に高く,予後も大変に悪いことが報告された.たとえば,北モンゴルの蒙古系民族とシンガポールの漢民族での調査結果を基にメタアナライシスを行ったFosterらは,中国の170万人の両眼失明者のうち91%が原発閉塞隅角緑内障によるものであり原発閉塞隅角緑内障の失明率は原発開放隅角緑内障の約3倍に上ると推計し,原発閉塞隅角緑内障は東アジアにおける失明の最大原因疾患であるとした.同時に,こうしたショッキングな調査結果を公衆衛生上のインフラやシステムの問題に帰せるのか,原発閉塞隅角緑内障を医学的にも解決済みの疾患とはできないのではないかとの疑念も上がってきた.すなわち,欧米と東アジアでは原発閉塞隅角緑内障の頻度も深刻さも大きく異なるが,隅角閉塞の病型そのものが大きく異なっていることが明らかになってきたのである.欧米における原発閉塞隅角緑内障の隅角閉塞のメカニズムについては,Ritchらは隅角閉塞の90%は瞳孔ブロックに起因すると見積もっており,こうした考え方が世界標準としてわが国にも導入された.しかし,近年,東アジアにおける原発閉塞隅角緑内障の隅角閉塞は瞳孔ブロック以外のメカニズムも大きく関与していると理解されるようになってきた.中国では原発閉塞隅角緑内障の約60%が瞳孔ブロックメカニズムにプラトー虹彩メカニズムや水晶体因子などを加えたマルチメカニズムによる隅角閉塞0910-1810/07/\100/頁/JCLS*1YasuoKurimoto:神戸市立医療センター中央市民病院眼科*2HidenobuTanihara:熊本大学大学院医学薬学研究部視機能病態学●序説あたらしい眼科24(8):985~986,2007原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジ?????????????????????????????????-????????????????栗本康夫*1谷原秀信*2———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007と報告されており,日本人を対象にした筆者らの検討結果もこれにほぼ一致する.欧米では,瞳孔ブロックによる閉塞隅角緑内障のみを“primaryangle-closureglaucoma”とし,プラトー虹彩によるものは“primaryangle-closureglaucoma”とは分別する立場をとる成書もあるが,これは少なくとも東アジアにおいては不適切である.くり返しになるが,東アジアの原発閉塞隅角緑内障は瞳孔ブロックだけでなくプラトー虹彩や水晶体因子が複合的に絡んでおり,純粋に瞳孔ブロックのみによる隅角閉塞はむしろまれといえる.原発閉塞隅角緑内障とは線維柱帯の閉塞という?nalcommonpathwayを有するいくつかの異なる病態を含むと考えるべきであろう.原発閉塞隅角緑内障の治療においては,冒頭に述べたように,隅角閉塞の機序は瞳孔ブロックによるという考え方を基にLIが第一選択治療とされてきた.LIは瞳孔ブロックを少ない侵襲で解除できる優れた治療方法であるが,最近,LI後長期間を経て発症する水疱性角膜症がわが国では大きな問題となっている.また,LIは慢性の原発閉塞隅角緑内障に対しては従来考えられていたほどの治療効果はなく,多くの症例では追加治療が必要となることもわかってきた.特に東アジアにおいては瞳孔ブロック以外のメカニズムの関与が大きいので,LIの治療効果は欧米よりも低いと考えるべきであろう.こうした事情をうけて,瞳孔ブロックだけでなくプラトー虹彩や水晶体因子にも治療効果を有する白内障手術を原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択にするという考え方も出てきた.隅角閉塞のメカニズムの理解と併せて,治療方針の立て方についてもさらなる検討を要する課題である.わが国を含む東アジアの原発閉塞隅角緑内障については,欧米で確立された考え方をそのままあてはめるわけにはゆかない.われわれは,東アジアの実状に即した原発閉塞隅角緑内障診療の方法論を構築する必要があろう.本特集では,「原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジ」と題して,原発閉塞隅角緑内障に関する最新の論点を各分野に造詣の深い先生方にわかりやすく解説していただいた.また,症例に応じた最適の治療方針を立てるうえで,LIと白内障手術の得失を異なる立場から論じていただき,閉塞隅角緑内障の診療において必須な術式でありながら必ずしも十分に普及していない周辺虹彩切除術と隅角癒着解離術については実戦的な解説もお願いした.本特集が,変革期にある原発閉塞隅角緑内障診療の現状を理解する一助になると同時に,明日からの診療のお役にたてれば,企画者として幸甚の至りである.(2)