———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSりこれを見直そうという動きが2004年より具体化し,DryEyeWorkshop(通称DEWS)が結成された.定義と診断基準に限らず,検査,疫学調査,基礎研究,治療の各分野にわたる広い範囲で現在に至るまで検討が行われている(http://www.tear?lm.org/dewshome.html).DEWSにおけるドライアイの定義・診断基準の決定は,まだ最終結論を得るに至っていないが,方向性はかなりまとまってきているので,今回,ドライアイ研究会としてはこの流れを参考にして新しい基準を作成することとした.II診断基準改訂に当たっての立場今回の改訂に当たっては,以下の3つの点を特に留意した.1.世界の基準との整合性上述のように,世界的にドライアイの定義・診断基準の見直しが行われており,わが国もこれに参加している.今回のドライアイ研究会の改訂は,わが国のドライアイの定義と診断基準を定めるために行われたが,世界の動きとの整合性を図ることは,日本発の研究を国際的に広めていくうえでも重要と考えられる.したがって,特にドライアイの定義を定めるに当たっては,DEWSでの討議を意識した.もちろんまったくの翻訳ではなく,ニュアンスが多少異なる部分もある.また診断基準Iドライアイ診断基準見直しの経緯ドライアイ研究会が,1995年にドライアイの定義と診断基準を発表してから10年が経過した1).同じ診断基準にのっとって臨床研究を行うことが,ドライアイ研究を進めるうえで欠かせない,という認識のもとに前回の発表を行ったが,この10年間でその目的は十分に果たしたと考えている.この10年はドライアイ研究にとって非常に多くの進歩が見られた.新しい診断機器の導入,涙腺,涙液,オキュラーサーフェスに関する基礎的・臨床的研究の進歩,ドライアイの内科的・外科的治療の開発など,多方面で新しい知見が得られた.そのかなりの部分が,わが国の研究者からもたらされたことはまことに喜ばしい.さらに,一般の人々の間でのドライアイの認知も大幅に進んだ.最近では自分がドライアイではないか,といって来院される受診者も珍しくなくなった.これらドライアイを取り巻く環境の変化に応じて,10年前に発表したドライアイの定義・診断基準の見直しを図ることとし,今回,ドライアイ研究会のメンバーによる協議の結果,改訂版を発表するに至った.アメリカでも日本と時を同じくして,1995年にNationalEyeInstituteのサポートのもとに,DrLempが中心となってドライアイの定義と分類が定められた2).10年が経過し,世界中のドライアイ研究者の間よ(47)???*JunShimazaki:ドライアイ研究会,東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕島?潤:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科あたらしい眼科24(2):181~184,2007?2006年ドライアイ診断基準???????????????????????????????????????島?潤*(ドライアイ研究会**)**ドライアイ研究会:世話人代表;坪田一男(慶應義塾大学)世話人;木下茂(京都府立医科大学)大橋裕一(愛媛大学)下村嘉一(近畿大学)田川義継(北海道大学)濱野孝(ハマノ眼科)高村悦子(東京女子医科大学)横井則彦(京都府立医科大学)渡辺仁(関西ろうさい病院)島?潤(東京歯科大学)(順不同)総説———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007など,わが国のほうがむしろ検討が進んでいる部分も多い.今回,わが国での基準が定められて広く用いられるようになれば,これをもとに世界に情報を発信して世界の診断基準に影響を与えることも期待される.2.検査法と診断基準10年前の論文でも同様のことを述べたが,診断基準に用いられる検査法は,「ほとんどの施設で日常的に行うことができる」ものを取り上げた.いかに優れた検査法であっても,一部の施設でしか行うことができないのでは,診断基準に含める意味がないと考えた.したがって,検査機器や診断法の進歩によっては,今後の新たな検査法が取り入れられることは十分考えられる.3.診断基準とカットオフ値ドライアイの検査法には絶対的なものがないことはよく知られている.個々の方法の感度・特異度は十分でなく,再現性にも問題がある.そのなかで最善の基準をもって判定が行われるべきであるのは当然のことである.たとえば,シルマー法で何ミリより少なければ異常とするか,についての基準(カットオフ値の設定)は,エビデンスに基づいて行われるべきと考える.1995年の基準は,その時点でのドライアイ専門家の意見を元に定められた.これが適当であったかどうかの検討もドライアイ研究会で行ってきたが,十分な結論が得られたとはいえない.この点については今後も研究を続けていき,より良い基準を作ることが重要と考えている.したがって今回の改訂では,明らかに変更したほうがよいと意見が一致したものを除いて,カットオフ値の変更は行わなかった.今後の研究によって新たなデータが得られれば,これについても変更される可能性がある.IIIドライアイの定義今回の討議により,ドライアイの定義は表1のように改訂された.10年前の定義「涙液(層)の量的・質的異常によって引き起こされる角結膜上皮障害」と比較すると,いくつかの大きな変化があったことがわかる.一つは,自覚症状を有することが定義に含まれた点である.日常診療においても,涙液分泌の少ない患者がすべて眼不快感を訴えるわけではない.ドライアイ治療の目的の多くが,患者の自覚症状の軽減にあることを考えると,自覚症状を有することが定義に含まれたのは自然のことといえる.ちなみにNEI(NationalEyeInstitute)の定義2)でも自覚症状は含まれており,新しいDEWSの討議でも症状を有することが定義として明記されている.さらに今回,「眼不快感」だけでなく,「視機能異常」もドライアイの症状と定められたことも大きな特徴である.ドライアイの多くは,視機能異常をきたすことはないといわれてきたが,近年の研究で運転やVDT(visualdisplayterminal)作業など,瞬目が少なくなるような環境では,持続開瞼によって不正乱視の増大,視力低下が生じることが明らかとなってきた3,4).日常診療でも,ドライアイ患者が漠然とした見づらさを訴えることはよく経験されるが,矯正視力には異常がないことが多かった.今回の定義で視機能異常が含まれたことは,ドライアイ検査法の進歩が,ようやく患者の訴えを検出できるまで進歩したことの表れといえる.また,スティーブンス・ジョンソン症候群などの重症ドライアイでは,眼表面の著明な角化によって逆に異物感や乾燥感などの眼不快感を訴えなくなることが経験されるが,こうした場合も視機能異常を伴うことが定義に定められたことで矛盾がなくなった.今回,ドライアイの原因が多岐にわたる「多因子による疾患」であることが明記された.これまでも「ドライアイ症候群」という単語もあるように,多くの因子がその発症や増悪に関わっていることが指摘されていたが,今回この点を定義に含めたことでさらに明確となった.IV診断基準今回定められた診断基準を表2,3に示す.10年前のものと比べると,以下の点で違いがある.1.自覚症状を有することが診断基準に含まれた定義のところでも述べたが,ドライアイの自覚症状(視機能異常を含む)を有することが,診断の必須項目となった.内容をよく吟味すれば疫学的調査(ドライアイの頻度や性差など)もアンケートのみによって行うことは十分可能であることが示されている5~8).ここで問題となるのが,どういった症状をいかにして捉えるか,という点である.患者側から訴えるもののみを取り上げ(48)表1ドライアイの定義(2006年,ドライアイ研究会)ドライアイとは,様々な要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???るのか,医師側から積極的に聞くのか,あるいは問診表などの形式をとるのかによって,自覚症状をもつ者の割合は大きく左右される.自覚症状を聴取することには,(1)疫学的調査,(2)ドライアイの診断,(3)ドライアイの治療判定,などいくつかの目的がある.それぞれによって聴取項目や方法が異なることは当然である.この点については,ドライアイ研究会が中心となって標準となる症状の聴取項目の設定がなされる見通しである.この問題はDEWSでも独立したワーキンググループのもとでディスカッションが行われている.これによってさらに統一されたドライアイ診断が行われることが期待される.また,ドライアイの定義に含まれた視機能異常を検出する方法の確立も望まれる.従来の視力検査では検出することができなかった異常を調べる検査法として,tear?lmstabilityanalysissystemや実用視力などが提唱されている4,9,10)が,その検査法や解析法はいまだ検討中であり,検査機器の入手法とともにその確立が望まれる.2.涙液検査涙液異常の検査法としては,シルマー法と涙液層破壊時間(BUT)が選ばれた.以前の診断基準に含まれていた綿糸法(10mm以下が異常)は,国際的に広く行われているとはいえないことと,必ずしも涙液貯留量を反映しているとはいえない11)などの理由で今回の基準からは省かれた.ただし,コンタクトレンズ装用の適否のスクリーニングなどの場での有用性はあると考えられるので,検査法そのものの意義が否定されたわけではない.検査法の標準化も大きな問題として取り上げられた.シルマー法,BUT検査ともにいろいろなバリエーション,判定方法があり,これを標準化しないと一定の基準で判定したことにならない.シルマー法は,点眼麻酔を用いない第Ⅰ法で自然瞬目状態で測定することが推奨されたが,用いる試験紙の種類や試験紙の挾み方,検査時に涙液をふき取るかどうかなど,施設によって微妙な差異がある.またBUT検査はさらにバリエーションが大きく,用いるフルオレセイン染色液の濃度と量,時間の測定法,繰り返して結果を平均化するか,涙液break-upの判定法などさまざまである.研究会で推奨する方法を表4に示すが,これらの検査法の標準化に向けてさらなる啓発と基礎的検討が必要であることが示された.3.角結膜上皮障害の検査染色試験によって角結膜上皮障害の判定を行うことには変わりがないが,その判定基準と用いる染色液について若干の変更があった.まず,フルオレセイン染色試験の判定方法では,従来の角膜上の染色を3点満点で判定(49)表2ドライアイの診断基準1.涙液の異常①シルマー試験Ⅰ法にて5mm以下②涙液層破壊時間(BUT)5秒以下①,②のいずれかを満たすものを陽性とする2.角結膜上皮障害*①フルオレセイン染色スコアー3点以上(9点満点)**②ローズベンガル染色スコアー3点以上(9点満点)**③リサミングリーン染色スコアー3点以上(9点満点)**①,②,③のいずれかを満たすものを陽性とする*生体染色スコアリングを臨床研究に用いる場合は,用いる治療法や薬剤の特性を考慮して,適宜改変して用いることが望ましい.**図1参照.表3ドライアイ診断における確定例と疑い例①自覚症状○○×○②涙液異常○○○×③角結膜上皮障害○×○○ドライアイの診断確定疑い疑い疑い**涙液の異常を認めない角結膜上皮障害の場合は,ドライアイ以外の原因検索を行うことを基本とする.表4涙液層破壊時間(BUT)検査の方法点眼するフルオレセイン溶液の量は最小限にする時間の測定はストップウォッチやメトロノームで正確に行う検査は3回行って,その平均をとる涙液層の破綻は,角膜全体のどこかに生じたときに陽性とする図1角結膜上皮障害スコアリング(フルオレセイン,ローズベンガル,リサミングリーンとも)耳側球結膜,角膜,鼻側球結膜における染色の程度を各々3点満点で判定し,これを合算して9点満点として計算する.角膜03点03点03点鼻側結膜耳側結膜———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007して1点以上を陽性とする基準から,角膜と結膜を9点満点で判定して3点以上を陽性とする基準に改められた(表3,図1).ドライアイにおいては,結膜上皮の障害が角膜上皮障害より高率に認められ,点眼や涙点プラグなどの治療を行った後も結膜染色が残存する傾向が強い.従来,結膜上皮障害は,ローズベンガル染色によって判定することが推奨され,今回もこの判定基準はそのまま残された.フルオレセインとローズベンガルの染色メカニズムが異なることは報告されているが,日常診療においては,フルオレセイン染色によっても結膜上皮障害を十分に判定しうると考えられる.フルオレセインによる結膜上皮障害をさらに詳細に検討・記録するには,ブルーフリーフィルターなどを使用する方法もある12).結膜の異常に目を向けることが,ドライアイ診療において重要であることが示されたといえる.また,ローズベンガルとともに,リサミングリーンも角結膜上皮障害の判定に用いることができることが示された13).ローズベンガルの染色スコアは,シェーグレン症候群の診断基準にも用いられているが,点眼後の疼痛を訴える例が多く,特に光毒性が強いため日常診療には用いにくいという欠点があった.リサミングリーンはこうした障害が少なく,特別な観察フィルターも必要がないため,その有用性があると判断された.この上皮障害スコアリングとそのカットオフ値の正当性についても,今後の研究結果によっては変更がありうることを再度確認のために記しておく.また,生体染色液による上皮障害スコアリングを臨床研究に用いる場合は,用いる治療法や薬剤の特性を考慮して,適宜改変して用いることが望ましい.まとめ今回10年ぶりに改訂された,新しいドライアイの定義と診断基準を紹介した.いまだ発展途上であり,今後の研究の進展をまたなくてはならない部分も多いが,新しい基準を用いることで,これまで以上にドライアイの病態の理解が深まることが期待される.文献1)島﨑潤:ドライアイの定義と診断基準.眼科37:765-770,19952)LempMA:ReportoftheNationalEyeInstitute/IndustryWorkshoponClinicalTrialsinDryEyes.??????21:221-232,19953)KohS,MaedaN,KurodaTetal:E?ectoftear?lmbreak-uponhigher-orderaberrationsmeasuredwithwavefrontsensor.???????????????134:115-117,20024)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndromes.???????????????139:253-258,20055)SchaumbergDA,SullivanDA,BuringJEetal:Preva-lenceofdryeyesyndromeamongUSwomen.????????????????136:318-326,20036)LinPY,TsaiSY,ChengCYetal:PrevalenceofdryeyeamonganelderlyChinesepopulationinTaiwan:theShi-hpaiEyeStudy.?????????????110:1096-1101,20037)ScheinOD,MunozB,TielschJMetal:Prevalenceofdryeyeamongtheelderly.???????????????124:723-728,19978)LeeAJ,LeeJ,SawSMetal:Prevalenceandriskfactorsassociatedwithdryeyesymptoms:apopulationbasedstudyinIndonesia.???????????????86:1347-1351,20029)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Anewmethodfortear?lmstabilityanalysisusingvideokeratography.????????????????135:607-612,200310)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,200411)YokoiN,KinoshitaS,BronAJetal:TearmeniscuschangesduringcottonthreadandSchirmertesting.??????????????????????????41:3748-3753,200012)KohS,WatanabeH,HosohataJetal:Diagnosingdryeyeusingablue-freebarrier?lter.???????????????136:513-519,200313)ManningFJ,WehrlySR,FoulksGN:Patienttoleranceandocularsurfacestainingcharacteristicsoflissaminegreenversusrosebengal.?????????????102:1953-1957,1995(50)☆☆☆