———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS能の面で多焦点IOLは魅力的であるが,眼軸長や角膜曲率半径が変化するため,どの時点に合わせるかなどの問題があり,現段階では適応としていない.ここでは屈折が安定した成人を前提に述べる.1.若年例いわゆる老視を経験したことのない45歳ぐらいまでの症例は,回折型IOLの良い適応年齢といえる.従来の単焦点IOLでは,視力が低下していても,水晶体摘出による調節機能障害の欠点を考慮して,手術時期を遅らせる傾向にあった.また,僚眼に白内障手術の可能性がなければ,通常は僚眼と屈折度数を合わせ,老眼鏡をかけることへの抵抗に対しては,やや近方視に合わせたIOL度数を選択していた.屈折型IOLは,わが国でArray?(AMO社)が承認を受け,すでに臨床報告もされている5,6).IOL光学部中央の直径2.1mmが遠用,そのまわりの3.4mmまでが近用ゾーンと同心円状に度数が遠用と近用の交互になっている.近用ゾーンを使用するには,瞳孔径が2.2mm以上必要となるが,若年例では瞳孔径が比較的大きく,高齢者よりも視力が出やすい7).しかしながら,夜間の瞳孔径も大きいことから,グレア,ハローを訴える例が多く,それほど普及していないのが事実である.回折型では遠方および近方が見えるので,通常,正視目標のIOL度数を選択する.回折型IOL挿入後の夜間グレア,ハローは単焦点IOLよりハローを訴える例がはじめに屈折型多焦点眼内レンズ(IOL)に続き,回折型が導入され,挿入後の良好な裸眼遠方および近方視力が報告されている1~3).今まで多焦点IOLというと,単焦点IOLよりも遠方視力の出方が悪い,近方視力が思ったよりも出ない,夜間のグレア,ハローが強い,また,術前および術後検査の項目が多く,患者への説明にも時間がかかるといった,あまりいい印象がなかった.しかしながら,これから導入される回折型は,明らかに良好な遠方および近方視力が得られ,挿入された症例の満足度は非常に高い4).特に白内障手術の大半である老人性白内障例では,眼鏡なしで遠方および近方が見えるのは若い時代に戻ったようだという喜びの声がきかれ,今までの単焦点IOL術後には達成できなかったqualityoflifeを提供できる.白内障手術において,一つの新しい時代に入ったといっても過言ではないであろう.筆者は,屈折型および回折型IOL両者の挿入経験から,回折型は,眼科医が適応をしっかり把握していれば,非常に良好な結果が得られることを確信している.2007年後半,遅くとも2008年前半には,回折型IOLがわが国でも承認されることを期待して,導入時に重要な適応判断について述べる.I年齢白内障の大半は老人性で,いわゆる老視年齢層であるが,若年例もある.幼児や小児は水晶体摘出後,調節機(13)???*HirokoBissen-Miyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区三崎町2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科特集●バイフォーカル眼内レンズあたらしい眼科24(2):147~150,2007回折型眼内レンズの適応???????????????????????????????????????????????ビッセン宮島弘子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007多い傾向にあるが,屈折型IOLに比べ程度が軽度で,日常生活には問題ない.また,コントラスト感度については,高周波数領域で単焦点IOL挿入後より落ちているが,日常生活で気になるような差ではない.2.老視年齢層すでに眼鏡を装用している例がほとんどであるが,眼鏡のわずらわしさから,遠方および近方を眼鏡なしで見えるようになりたい人には回折型IOLは非常に魅力的である.すでに承認を受けている屈折型IOLは,年齢が増すとともに,瞳孔径が小さくなるため,高齢者は近方視で瞳孔径2.2mm以下の例も多く,その場合は近方視力が出にくい.回折型は瞳孔径に影響されないため,高齢者でも良好な近方視力が出る.老眼年齢の症例でも,遠方および近方を眼鏡なしで生活したいという希望がある場合に,第一選択となるIOLである.ただし,先にも述べたようにコントラスト感度の低下を考慮すべきである.高齢者は若年者よりも全体にコントラスト感度が低下しており,そこへさらにコントラスト感度を低下させる要素のIOLを挿入することになる.実際には,単焦点IOLを挿入した例と比べ,高周波領域のみやや低下している程度なので,高齢者でも問題ないと考えている.II術前の屈折白内障において,術前の近視や遠視をIOL度数で矯正することが一般的に行われている.実際に術前の屈折によって適応は異なるのだろうか?問題はIOL度数がぴったり合うかどうかにかかわってくる.長眼軸眼や短眼軸眼ではIOL度数が予定よりずれやすい.単焦点IOLにおいて,度数決定がむずかしくなる要素がある場合,多焦点IOLでも注意する必要がある.近年,IOL度数については,測定装置や計算式が改良され,かなり良好な成績になっている.詳細は「眼内レンズ度数決定」の項で述べられているが,まず,使用する回折型多焦点IOLと同材質およびデザインである単焦点IOLを何例か挿入して,A定数を確認しておくことを勧める.1.近視例もともと手元近くで読むことができたため,術後も同様に良好な裸眼近方視力を望む例が多い.従来の単焦点IOLでは,術後屈折を-3.0Dぐらいの近方視に合わせるようにしていた.回折型多焦点IOLは,術前の近視例でも術後屈折を正視にし,かつ近方視力が得られる.ただし,強度近視例では,眼鏡をはずして,かなり本などを近づけて読む習慣があるので,術後の最適読書距離が30cm前後であることを説明しておく.2.遠視例術前は遠用と近用の眼鏡,あるいは遠近両用の眼鏡をしている例が多く,多焦点IOL挿入後は,どちらの距離も見やすくなるので,満足度が非常に高い.今回は白内障例における回折型多焦点IOLの適応であるが,欧米では,白内障のない遠視例に老視治療も兼ねてこのIOLを挿入する屈折矯正手術が行われている8).3.角膜乱視角膜乱視は適応を決めるうえで,非常に重要な要素である.術前乱視は水晶体乱視と角膜乱視があるが,術後には角膜乱視のみとなるので,角膜乱視をチェックする.実際の挿入例における乱視度数と裸眼視力の関係をみると,1D以内であれば遠方は1.0以上,近方も0.7以上が得られ,眼鏡なしで遠方と近方が見える.ただし,乱視が1.5D以上になると,当然のことながら,裸眼視力は遠方のみならず,近方も低下する.良好な裸眼視力を得るには,乱視は少なければ少ないほどよい.ただし,乱視例でも,乱視矯正の眼鏡のみで,遠方と近方が良く見えるので,眼鏡が1つで足りる点は有利である.乱視に対する対応として,切開位置や切開法で調整する方法,術後にLASIK(laser???????keratomileusis)などのエキシマレーザーで調整する方法がある.現在,回折型デザインに乱視矯正を加えたIOLが開発されているので,近い将来,乱視が1.5D以上でも回折型IOLのみで良好な裸眼視力が得られる可能性は高い.III職業従来の屈折型多焦点IOLは,夜間のグレア,ハロー(14)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???を訴える率が高いため,職業上,夜間の運転が多いタクシー運転士やトラック運転士には,慎重に挿入していた.回折型では,屈折型に比べグレアやハローを訴える例は少ない.アンケート調査などで,単焦点IOLよりもハローを訴える例は多いが,日常生活に支障をきたす危険性が少ない.このため,職業上の規制はほとんどないともいえる.逆に,職業上の適応として,眼鏡やコンタクトレンズ装用がむずかしい例,すなわち,大工や,冷凍庫に入る仕事では,眼鏡やコンタクトレンズによる危険性があるので,眼鏡なしの視力が非常に重要である.また,接客業では外見上,遠方視はもちろん近方視でも老眼鏡はかけたくないという例が多いので,このような場合もよい適応である.医師,歯科医師への挿入経験から,術後の日常診療に支障がなく,遠方と近方を交互に見るのに非常に便利という声が聞かれ,満足度が高かった.IV眼鏡なしでの生活への願望何はともあれ本人の意思が重要である.せっかく回折型IOLを挿入しても,眼鏡に慣れていたので,眼鏡をしていないと不安という症例には,多焦点IOLを挿入した利点が生かされない.多少,球面度数や乱視の影響で裸眼視力が悪くても,このIOLのおかげで遠方と近方が眼鏡なしで見えるということを理解できることが大切である.日頃,矯正視力さえ良ければよしとしていたが,眼鏡なしに遠方も近方も見たいと願っている人の数が予想外に多く,今後,術後の裸眼視力向上が重要である.V白内障でなく屈折矯正のみとして考える場合の注意本項では白内障手術ということで,症例は白内障により視力低下があることが前提である.今後,軽度の白内障,あるいは,欧米のように白内障がない場合でも,老視治療として,clearlensectomy,refractivelensex-change(RLE)が検討される時代がくると思われるので,その際の注意点を簡単に述べておく.遠方裸眼視力が良好な例では,回折型IOL挿入後の裸眼遠方視力に満足できない例が出る可能性がある.それは,このIOLのデザインから入ってくる光が遠方と近方に分散されるためのコントラストの低下である.多少遠方の見え方が落ちても,近くを眼鏡なしで見たいという希望が強い例には,このことを十分説明してIOL挿入を検討すべきである.一方,遠視のため,遠方も眼鏡による矯正が必要な,遠近両用眼鏡をしている例では,裸眼遠方および近方の両方の視力が向上するので,非常に喜ばれる.近視では,前述したように,もともと近方は裸眼で良く見えていたので,遠方の見え方は非常に改善されるが,近方は見やすい距離が30cm前後であることを確認しておく.これらの点に注意すれば,今後,老視年齢層における屈折矯正手術として普及していく可能性が高い.おわりに白内障手術は術式およびIOLの完成度が高く,あまり大きな進歩がないように言われているが,回折型IOLは,この流れを大きく変えるであろう.今まで,症例によって意外に近方視力が良好であった例や瞳孔径による影響が論じられていたが,安定して良好な遠方および近方視力が保証されるIOLはなかったといっても過言ではない.これが,可能になっただけでも,非常に大きな進歩である.最後に,適応のポイントとしては,患者サイドでは,角膜乱視が少ない,本人が眼鏡のない生活を望んでいるという条件,手術施設サイドでは,白内障手術経験があり,良好な結果が得られている,IOL度数に関して習熟しているという条件が満たされれば,非常に良好な結果が得られる.今まで数多くの白内障手術を施行し,術翌日に多くの患者が,明るくなった,世界が変わったなど視力の回復を喜んでくださった.しかし,このIOL挿入後の感激は,ただ見えるようになっただけでなく,近くの字も見えるという,今まで以上の喜び方で,医師のみでなく検査をする視能訓練士,看護師などスタッフ全員が,その素晴らしさを感じている.患者への説明時間がかかる,検査時間がかかるといった印象をもたれているが,実際の症例を経験すると,通常の単焦点IOLでどこに焦点を合わせるか,遠方か近方かといった選択の悩みもなくなり,かえってIOL度(15)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007数選択は単純である.術後視力も遠方と近方を測定,コントラスト感度や焦点深度といった,多くの項目があるが,これは,症例を経験すれば,全例にする必要はなくなる.眼鏡なしでの生活はqualityoflifeの向上につながることが報告されている9,10)が,このIOLが正しい方向でわが国に普及することを心より願って,この稿を締めたい.文献1)KohnenT,AllenD,BoureauCetal:Europeanmulti-centerstudyoftheAcrySofReSTORapodizeddi?ractiveintraocularlens.?????????????113:578-584,20062)ChiamPJ,ChanJG,AggarwalRetal:ESTORintraocularlensimplantationincataractsurgery:Qualityofvision.???????????????????????32:1459-1463,20063)BlaylockJ,ZhaominS,VickersC:Visualandrefractivestatusatdi?erentfocaldistancesafterimplantationoftheReSTORmultifocalintraocularlens.???????????????????????32:1464-1473,20064)鈴木高佳,ビッセン宮島弘子:眼内レンズの進歩:Multifo-calIOL.あたらしい眼科21:591-596,20045)NegishiK,Bissen-MiyajimaH,KatoKetal:Evaluationofazonal-progressivemultifocalintraocularlens.???????????????124:321-330,19976)HayashiK,HayashiH,NakanoFetal:Correlationbetweenpupillarysizeandintraocularlensdecentrationandvisualacuityofazonal-progressivemultifocallensandamonofocallens.?????????????108:2011-2017,20017)後藤英樹,中村邦彦,ビッセン宮島弘子:若年者における屈折型多焦点眼内レンズの効果.あたらしい眼科17:1417-1420,20008)Bissen-MiyajimaH:MultifocalIOLsforPresbyopia.HyperopiaandPresbyopia(edbyTsubotaK,BoxerWachlerBS,AzarDTetal),p237-248,MarcelDekker,NewYork,20039)JavittJC,SteinertRF:Cataractextractionwithmultifocalintraocularlensimplantation─amultinationalclinicaltrialevaluatingclinical,functional,andquality-of-lifeoutcomes.?????????????107:2040-2048,200010)JavittJ,BrauweilerHP,JacobiKWetal:Cataractextrac-tionwithmultifocalintraocularlensimplantation:clinical,functional,andquality-of-lifeoutcomes.Multicenterclini-caltrialinGermanyandAustria.???????????????????????26:1356-1366,2000(16)