———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS数の約50%に及んでおり,本調査の結果は十分わが国の現状を反映していると推測された.なお,今回のスタディでは,以前に角膜移植の既往がある例(再移植)は検討に含めず,角膜内皮機能に影響を及ぼす因子が複数ある場合には,そのなかで主要と思われるものを原因とした.すなわち,たとえばLIに先立ってあるいはその後に白内障手術を行い,それによる内皮障害が大きかった例や,滴状角膜などで術前から内皮機能が強く障害されていた例は含まれていない.この全国調査の結果,3年間で報告されたBK症例数は963眼で,同期間の角膜移植全体の24.2%を占めていた.今回は,他の原因による角膜移植については調査をしていないため比較はできないが,BKが角膜移植の主要原因の一つであることは疑いがない.BKの主要原因は,数が多かった順に,白内障術後,LI,LI以外のはじめにレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)術後の水疱性角膜症(bullouskeratopathy:BK)は,わが国では近年,大きな話題となっているものの,世界的にみるとそれほどでもない.文献検索をしてみても,これまでの同様な報告はほとんど1例もしくは数例の症例報告である1~5).欧米の眼科医と話しをしてみても,「例外的な事例だろう」「元から内皮障害があったのでは?」「レーザーの打ちすぎだと思う」といった反応ばかりでどうも話しがかみ合わない.わが国からの英文論文による報告も少数にとどまっている背景には,本疾患の存在そのものを疑問視する欧米の医師の見解が反映しているように思われる.本稿では,先ごろ日本角膜学会で行ったBKの全国調査の結果をもとに,わが国でのLI後BKの現状について述べたい6).併せて,これまでの報告と自験例のデータをもとに本疾患の臨床的特徴についても述べたい.I水疱性角膜症の全国調査日本角膜学会では,角膜移植の原因としてBKが増加していることに注目して,その現状を調査するためのスタディグループを2002年に立ち上げた.グループのメンバーが作成したアンケートを,角膜学会会員が所属する施設に配布して集計した.アンケートの回答が得られたのは86施設で全体の約20%であったが,それらの施設で施行された角膜移植件数は,同じ期間の全国施行件(3)???*JunShimazaki:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕島?潤:〒272-8513市川市菅野5-11-13東京歯科大学市川総合病院眼科特集●レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症を解剖する!あたらしい眼科24(7):851~853,2007レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症─国内外の状況─????????????????????????-???????????????????????????島?潤*図1水疱性角膜症の原因(文献6より改変)白内障術後428その他83他眼疾患41佐藤氏法15分娩時外傷Fuchs変性症18硝子体手術21緑内障26外傷40緑内障手術51(単位=眼)LI225———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007緑内障手術,外傷,緑内障,ビトレクトミーであり,内眼手術を契機に発症したものが多かった(図1).欧米で主要原因にあげられるFuchs角膜変性症は,わが国では約2%を占めるにすぎず,BK原因が国や人種によって大きく異なることが示された.IILI後BKのプロフィール今回報告されたLI後BK(LI-BK)は,225眼とBK全体の23.4%を占めていた.患者の平均年齢は,71.7±7.8歳であり,184眼(81.8%)が女性であった.高齢で女性に多いという特徴は,狭隅角緑内障の患者背景を反映してのものと考えられた.LI施行から受診までの期間は,2カ月~20年(平均6.8年)と広範囲にわたっていた.既往症としては,糖尿病を有するものが13眼,虹彩炎が2眼含まれていた.IIILI施行の目的と条件LIの施行目的は,137眼(60.9%)で明らかであった.そのうち,急性閉塞隅角緑内障(緑内障発作)発症時に施行されたものは69眼と,約半数を占めていた.緑内障発作の他眼に施行されたものは17眼(12.4%)であり,残りの37.2%は,狭隅角眼(angleclosure)に対して予防的に施行されたものであった(図2).適応が明らかに記載されていなかった例の多くも,予防的な目的でLIが施行された例と推測され,過半数が緑内障を発症していない例に行われたものであると考えられた.LIの施行条件が明らかとなったものは,50眼(22.2%)に留まっていた.これは,LIの施行施設とBKの治療を行った施設が異なる場合が多かったことと,LI施行後の経過が長く,情報が残っていない例があったためと推測された.使用レーザーが明らかとなった例の大半(96.0%)でアルゴンレーザーが用いられており,YAGレーザー単独,あるいはアルゴンとYAGレーザーが併用されていたものは2眼にすぎなかった.LIの照射エネルギーの内容が明らかな16眼のうち,10J未満のものが8眼,10~20Jが5眼で,3眼が20J以上であった.多くの照射を必要としたものの大半は,緑内障発作時にLIが施行されていた例であった.日本人の大半を占める茶色~黒茶色の虹彩では,LIは100~300発の照射で完成するとされている7).今回の症例では,やや照射数の多い例も含まれていたが,全体としては過剰照射が明らかな原因とはいえない結果であった(表1).IVLI-BKの治療と予後LI-BKに対しては,大多数で角膜移植が行われており,特に全層角膜移植と白内障手術(典型的には水晶体?外摘出術+眼内レンズ挿入)の,いわゆるトリプル手術が行われていたものが195眼(86.7%)と多数を占めていた(図3).最終観察時での角膜透明治癒率は81.3%であり,同時に調査が行われた他の例によるBKよりも,その予後はむしろ良好であった.また,矯正視力が2段階以上向上した例が76.4%,不変(1段階の改善も含む)が4眼であった.視力不良例の原因としては,表2のようなものがあげられた.全層角膜移植後に緑内障(4)表1LI-BK症例でのレーザー照射数レーザー照射数(発)眼~3006301~5003501~1,00051,0013緑内障発作時69眼不明88眼予防的(狭隅角)51眼緑内障発作の僚眼17眼図2LI施行原因PKP+IOL縫着PKPと水晶体摘出(+IOL)不明PKP+ICCEPKPのみPKP+ICCE+ACIOL図3LI-BKの手術法の内訳———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.7,2007???を認めた例は10.1%,拒絶反応,感染例は各々8.0%,2.2%であり,これも白内障術後など他の原因によるBKと比べて比較的良好な結果であった(表3).LI-BKの予後が比較的良好であることは,他施設の報告でも指摘されている.トリプル手術による虹彩と角膜の位置関係などの解剖学的変化が関係する可能性も考えられた.VLI-BKの頻度についてLI-BKが近年増加していると考えられることは,いくつかの発表がなされている.筆者らの施設で治療を行った自験例を,過去15年間さかのぼって調査をしたところ,2000年代に入ってから著明にLI-BKの割合が増加していることが確認された,LIによるBKが,どのくらいの頻度で生じるのかについては,直接的な調査がむずかしい.その理由は,厚生労働省から発表されるデータからは,LIのみの施行件数は明らかでなく,網膜光凝固を含めた例数が発表されているにすぎないためである.筆者らは,LIと網膜光凝固の年間施行件数を複数の施設で調べ,この両者の施行件数の比を調べ,そこからLI-BKの発症頻度を計算した.その結果,LI施行後のBK発症の頻度を約1.8%と推計した(未発表データ).LIの施行件数については,施行施設や地域によってかなりの差があることが予想され,正確な頻度の推計にはさらに大規模な調査が必要であると考えられた.おわりに初めに述べたように,LI-BKはわが国での発症例が他国に比べて圧倒的に多い.急性閉塞隅角緑内障,および狭隅角の頻度は,欧米に比べてアジア人で著明に高い.LI-BKの頻度の差は,LI施行件数の違いに起因するところが大きいと思われる.ところで他のアジアの眼科医と話しをすると,限定された角膜専門医のところでは,同様の症例が少しずつ経験されているようである8).わが国と他のアジアの国々とのLI-BK発症率の違いは,おそらくレーザーの普及率と,それに伴ったLI施行例数の差によるところが大きいと推測される.今後経済の発展に伴って,アルゴンレーザーを所有する施設が増えることで,わが国が経験したLI-BKの増加が,他のアジアの国でもくり返される可能性は十分ある.LI-BK発症のメカニズムとその予防策の解明は,こうした意味でも焦眉の急と考えられる.文献1)JengS,LeeJS,HuangSC:Cornealdecompensationafterargonlaseriridectomy─adelayedcomplication.????????????????22:565-569,19912)SchwartzAL,MartinNF,WeberPA:Cornealdecompen-sationafterargonlaseriridectomy.????????????????106:1572-1574,19883)WilhelmusKR:Cornealedemafollowingargonlaseriri-dotomy.???????????????23:533-537,19924)WuSC,JengS,HuangSCetal:Cornealendothelialdam-ageafterneodymium:YAGlaseriridotomy.??????????????????????31:411-416,20005)ZabelRW,MacDonaldIM,MintsioulisG:Cornealendo-thelialdecompensationafterargonlaseriridotomy.????????????????26:367-373,19916)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal:NationalsurveyonbullouskeratopathyinJapan.??????26:274-278,20077)桑山泰明:レーザー虹彩切開術.眼科診療プラクティス(丸尾敏夫,本田孔士,臼井正彦,田野保雄編),Vol.3,レーザー治療の実際,p150-154,文光堂,19938)LimLS,HoCL,AngLPetal:Inferiorcornealdecompen-sationfollowinglaserperipheraliridotomyinthesuperioriris.???????????????142:166-168,2006(5)表2術後視力不良の原因不明20眼緑内障10眼拒絶反応8眼内皮機能不全4眼感染3眼角膜ヘルペス2眼Primarygraftfailure1眼混濁1眼表3BK全体,白内障術後BK,LI-BKの患者背景と予後原因眼数平均年齢(歳)手術例でのPKPのみの割合(%)拒絶反応発生率(%)術後眼圧上昇(%)透明治癒率(%)BK全体96368.8±12.351.610.815.575.6白内障42871.7±11.070.310.916.977.3LI22571.7±7.810.48.010.181.3(文献6より改変)