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眼内レンズ:Intraoperative Floppy Iris Syndrome(1)-症状と機序-

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS前立腺肥大症に対して排尿障害改善剤a1ブロッカーを内服している患者において,白内障手術中に「水流による虹彩のうねり」,「虹彩の脱出・嵌頓」,「進行性の縮瞳」を三徴とするintraoperative?oppyirissyndrome(IFIS,術中虹彩緊張低下症候群)が生じることが最近報告されている.2005年のASCRS(TheAmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery)において米国のChangとCampbellが提唱したのが最初で1),その後,種々の施設から同様の症例が報告され,わが国でも報告が相次いでいる.IFISは虹彩のトーヌスが低下し,rigidity(剛性)が損なわれている状態であり,術中のさまざまな段階において認められる.水流によって虹彩がうねる(図1,2),創口やサイドポート,あるいは超音波チップに虹彩が嵌頓・脱出する(図3,4),進行性に縮瞳する(図5)など(69)図4a超音波チップへの虹彩の嵌頓大鹿哲郎筑波大学大学院人間総合科学研究科機能制御医学専攻眼科学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎245.IntraoperativeFloppyIrisSyndrome(1)─症状と機序─Intraoperative?oppyirissyndrome(IFIS,術中虹彩緊張低下症候群)とは,前立腺肥大症に対して排尿障害改善剤a1ブロッカーを内服している患者において,白内障手術中に「水流による虹彩のうねり」,「虹彩の脱出・嵌頓」,「進行性の縮瞳」を三徴とする虹彩異常が生じるものである.図1aUS時の水流による虹彩のうねり図1b図1aのシェーマ図2b図2aのシェーマ図2aI/A時の水流による虹彩のうねり図3a創口からの虹彩の脱出傾向図3b図2aのシェーマ図4b図3aのシェーマ———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(00)の症状がみられる.当初,米国では前立腺肥大症の排尿障害改善剤である塩酸タムスロシン(ハルナール?)を服用している患者に集中してIFISが発現するとされていたが,その後の調査で,a1受容体サブタイプ(a1A,a1B,a1D)のうちa1A受容体サブタイプに選択性が高い薬剤によってIFISが生じることが明らかになっている.前立腺と同じく,虹彩の散大筋でもa1A受容体がドミナントであることから,これらの薬剤が両者に影響しているものと考えられる.わが国では6種類の排尿障害改善剤が市販されているが,そのなかでa1A受容体サブタイプに選択性が高く,IFISを生じる可能性の高いものは3種類である(表1).なお,点眼のaブロッカーであるブナゾシンは受容体サブタイプ選択性が異なるため,IFISをひき起こすことはない.発生頻度は白内障手術患者中,米国で約2%1),わが国で約1%2)と報告されている.a1A受容体選択性ブロッカーを内服している患者ではさらに高く,40~60%でIFISが発症するとされている.文献1)ChangDF,CampbellJR:Intraoperative?oppyirissyn-dromeassociatedwithtamsulosin.???????????????????????31:664-673,20052)OshikaT,OhashiY,InamuraMetal:Incidenceofintra-operative?oppyirissyndromeinpatientsoneithersys-temicortopicala1-adrenoceptorantagonist.????????????????143:150-151,2007表1IFISを生じる可能性が高い排尿障害改善剤メーカー一般名商品名アステラス製薬塩酸タムスロシンハルナールハルナールD旭化成ファーマ日本オルガノンナフトピジルフリバスアビショットキッセイ薬品第一製薬シロドシンユリーフ図5進行性の縮瞳

コンタクトレンズ:カラーソフトコンタクトレンズを処方するうえでの注意点

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLSカラーソフトコンタクトレンズ(以下,カラーSCL)には,医療用として虹彩欠損症,無虹彩症,瞳孔異常などに処方される虹彩付きレンズと,整容用としてファッション目的,角膜白斑,虹彩異色症などに処方される美容用レンズ(表1)がある.本稿では,一般に屈折異常の矯正にも広く用いられている後者を処方するうえでの注意点について述べる.●処方適応の注意点本来,眼科医は屈折異常を矯正する医療を目的とした症例に対してのみコンタクトレンズ(CL)を処方するべきであるが,CLの処方と処方後の安全管理を行い得るのは眼科医のみであるため,ファッション目的でカラーSCLの処方を希望する症例に対しても関わらなければならないのが現状である.屈折異常の矯正を目的とする症例の適応は,一般的な球面ソフトコンタクトレンズ(SCL)と同様である.屈折矯正を必要としないファッション目的の正視やカラーSCLの規格外の度数の遠視,乱視の症例では,CL装用による視力が裸眼視力より低下しない状態(planoレンズあるいはレンズ下の涙液レンズによっても屈折が変化しない場合)であれば適応となる.カラーSCLの見え方への影響が大きいと予想される生活環境(暗所での就労者,運転手,良好な近方視力を要する近業従事者など)にある症例は適応とならない.カラーSCLに独特な注意点として,レンズのセンタリングに影響の出る極端な下三白眼(下方球結膜露出が著しい場合)や閉瞼不全(メイキャップによる二重瞼眼も含む)は適応とならないことがあげられる.着色部分に金属成分が含まれているカラーSCLでは,金属アレルギーの既往のある症例は適応とならないことがある.●フィッティングの注意点一般的なSCLのベースカーブ(BC)の選択時には,涙液交換が十分になるよう適度な動きがあることが優先される.カラーSCLでも,基本的には同様の考え方でBCを選択する.カラーSCLでは光学部の周辺に同心円状に着色部分があるため,見え方に影響を及ぼさないためと装着時の整容的観点から,一般的なSCLの処方時よりもセンタリ(67)塩谷浩しおや眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS271.カラーソフトコンタクトレンズを処方するうえでの注意点表1カラーソフトコンタクトレンズ一覧レンズ名イリュージョンエレガンス(ナチュラルタッチ)デュラソフトカラーフレッシュルックカラーフレッシュルックカラーブレンドスーパーカラビュータイプFDA分類含水率ベースカーブ直径度数瞳孔径従来型Ⅰ37.5%8.3,8.6,8.9mm13.8mm±0~-10.00D5.2mm従来型Ⅰ38%8.4,8.7mm13.8mm±0~-6.00D5.1mm従来型Ⅲ38%8.3,8.6,8.9mm13.8,14.5mm+3.00~-20.00D5.0mm2週間頻回交換型Ⅳ55%8.6mm14.5mm+0.25~-8.00D5.0mm2週間頻回交換型Ⅳ55%8.6mm14.5mm+0.25~-8.00D5.0mm2週間頻回交換型Ⅰ38.5%8.7mm13.8mm-0.25~-8.00D5.0mmレンズ名フレッシュルックデイリーズカラーブレンドワンデーアキュビューカラーワンデーアキュビューディファインタイプFDA分類含水率ベースカーブ直径度数瞳孔径1日交換型Ⅱ69%8.6mm13.8mm-0.50~-6.00D5.0mm1日交換型Ⅳ58%8.5mm14.2mm+1.00~-9.00D5.4mm1日交換型Ⅳ58%8.5mm14.2mm+1.00~-9.00D7.7mmFDA:アメリカ食品医薬品局.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(00)ングが重視される.さらに瞬目時と上下左右への視線の移動時のレンズの動きが少ないことが重視される.図1,2は上眼瞼圧が強く,角膜曲率半径(角膜形状)が小さいためレンズが下方にずれている例である.このような症例では,たとえ角膜曲率半径が小さくても標準のBC(?atなBC)を初めに装用させフィッティングを観察し,その結果によりBCに種類があれば,つぎにsteepなBCを選択する.センタリングが良好になっても,レンズの動きが少なく,装用経過中にtight?t化することが予想される場合には,レンズの種類を変えるか,処方を断念する.●屈折矯正の注意点カラーSCLでの見え方は,レンズの光学部以外が不透明あるいは半透明であるため,レンズの角膜上での安定位置と動き,瞳孔の大きさ,昼夜の時間帯,環境の明暗による影響を受けやすい.そのため処方検査時に視力が出にくく,過矯正を生じやすいので注意する必要がある.また検査室内では自覚的な見え方に満足が得られても,実際の使用で不満が出る場合があることを想定し,予想される見え方について説明しておく必要がある.●カラー選択の注意点カラーSCLは同じ系統のカラーであっても,種類により着色部分の虹彩紋理や透光性などの特徴が異なっている.レンズのカラーを選択する際には,この特徴により,装着時には装用者の虹彩の色とその濃淡の影響を受けて,色合いが異なって見えることを説明する.また装着状態での色合いの判断時には,他人と接する距離まで鏡から離れて観察するよう指導する.●装用指導時の注意点軽度の屈折異常,正視やoccasionaluseの症例では,カラーSCLをファッション装具としてのみ認識していることが多いと思われる.レンズ,ケア方法,装用方法の説明や指導の際には,高度管理医療機器としての理解が得られるようにレンズの角膜や結膜への影響や定期検査の必要性について十分に説明する.また,貸し借りの危険性,従来型カラーSCLでの一般的な使用期間(半年から1年以内)について装用開始前に理解させる.さらに,着色部分に金属成分を含むカラーSCLの装着状態でMRI(磁気共鳴画像)検査が施行されると,角膜障害を惹起する可能性があることを説明する.●定期検査一般的なCLの定期検査と同様に屈折検査,細隙灯顕微鏡検査,詳細な使用状況の聴取を行う.細隙灯顕微鏡検査では,必ずレンズをはずして角膜の状態を観察する.また使用中の従来型カラーSCLは実体顕微鏡で観察する.←図1カラーSCLの下耳側へのずれ→図2カラーSCLの下方へのずれ

写真:Glistening(グリスニング)

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??0910-1810/07/\100/頁/JCLS(65)柴琢也東京慈恵会医科大学眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦272.Glistening(グリスニング)①②③④図2図1のシェーマ①:glistening,②:レンズ前面,③:瞳孔縁,④:前?縁.図1Grade3のglistening(76歳,男性)水晶体乳化吸引術+眼内レンズ(PEA+IOL)術後6カ月頃よりglisteningを認め,術後1年6カ月頃には写真のようにgrade3(200/mm3)まで増加した.既往歴にコントロール不良の糖尿病があり,術中合併症はない.図3Grade2のglistening(82歳,男性)PEA+IOL術後4カ月頃よりglisteningを認め,術後1年頃には写真のようにgrade2(100/mm3)まで増加した.既往歴は特記すべきことはなく,術中合併症はない.図4Grade1のglistening(71歳,女性)PEA+IOL術後6カ月頃よりglisteningを認め,術後2年を経過しても写真のようにgrade1(50/mm3)のままである.既往歴にコントロール良好の糖尿病と高血圧症があり,術中合併症はない.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(00)10年ほど前よりアクリルソフト眼内レンズAcrySof?(Alcon?)の光学部に,小輝点が認められることが報告されるようになった1).この小輝点はglisteningとよばれており,術後しばらく経過してから観察される.Glisteningはアクリルレンズに認めることが多いが,他素材のレンズにおいても発生することが報告されている2,3).すべての症例にglisteningを認める訳ではなく,程度もさまざまであるため(図1,3,4),その発生にはさまざまな要因が関与していることが推察される.その要因の一つにmolding製法とよばれる鋳型製法があげられている.この製法で作製されたレンズ内には材質の不均一な部分があり,そこにmicrovoidとよばれる小間隙が形成される.このレンズが眼内に挿入されることにより,房水がmicrovoidに取り込まれてきらきらと輝いて見えるという説である1).また,温度がその発生に関与しているとする報告も多く,レンズを高温環境や温度変化が大きい環境に暴露すると発生しやすくなるとされている4,5).前の説で解釈すると,温度変化によってレンズ内の不均一性が増すことによりmicrovoidが形成されやすくなり,そのことがglisteningの発生につながると考えられる.したがって,アクリルレンズを温水に浸水させて折りたたみやすくすることは,glisteningを発生しやすくする可能性があるため行うべきではない.Glisteningは,古くはアメリカで発売されていたアクリパックとよばれるレンズケースとともに滅菌処理されることにより出現し,日本や欧州で発売された車輪型のケースでは出現しないとされていた6).しかし,車輪型のケースで包装されたAcrySof?においても高頻度にglisteningを生じるという報告もされている7).当初は,glisteningが視機能に影響を与えることはなく,美容的な問題とされてきた.しかし,glisteningが発生したことによってコントラスト感度が低下した症例1)や,後発白内障治療のためのYAGレーザーのターゲット光が集光しない症例8)などが報告されていることより,美容的な問題と簡単に処理してよいものかは疑問である.現在のアクリルソフト眼内レンズは,各メーカーの技術開発により従来のものに比べてglisteningが発生しにくくなっているが,完全になくなったわけではない.視機能に異常がないという報告があることに甘んじることなく,一生涯患者の水晶体として機能する人工臓器である以上は,glisteningのまったく発生しないフォルダブル眼内レンズが開発されることが望まれる.文献1)DhaliwalDK,MamalisN,OlsonRJetal:Visualsigni?-canceofglisteningsseenintheAcrySofintraocularlens.???????????????????????22:452-457,19962)MilauskasAT,KershnerRM,ZiembaSL:Siliconeintra-ocularlensimplantdiscolorationinhumans.????????????????109:913-915,19913)宮田章,内田信隆,中島潔ほか:シリコーン眼内レンズのグリスニング発生実験.日眼会誌106:112-114,20024)ShibaT,MitookaK,TsuneokaHetal:InvitroanalysisofAcrySofintraocularlensglistening.????????????????13:759-763,20035)宮田章,内田信隆,中島潔ほか:アクリルレンズに発生する輝点とその発生モデル.日眼会誌104:349-353,20006)OmarO,PirayeshA,MamalisNetal:InvitroanalysisofAcrySofintraocularlensintheAcryPakandwagonwheelpackaging.???????????????????????24:107-113,19987)三戸岡克哉:眼内レンズの変化グリスニング.眼科診療プラクティス52:66-67,19998)三戸岡克哉,柴琢也,常岡寛ほか:Glisteningにより視機能低下を認めた眼内レンズ挿入眼の1症例.眼科40:1501-1504,1998

磁気共鳴画像(MRI)を用いた網膜,脈絡膜腫瘍の診断

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS眼内の腫瘍性病変に対するMRI検査の問題点としては,硝子体もT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を示すので,T1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を呈する一般的な病変はコントラストの面で判別しにくい.さらにMRIの解像度から,ある程度,腫瘍に厚み(3mm以上)がないと検出困難である.しかし,MRI検査が診断に非常に有用な情報をもたらす眼内腫瘍の症例もあるので,今回,MRI検査を用いた網・脈絡膜腫瘍の診断について概説する.I悪性腫瘍悪性の網・脈絡膜腫瘍で頻度が高いのは,脈絡膜悪性黒色腫,網膜芽細胞腫,転移性脈絡膜腫瘍,眼内悪性リはじめに一般に腫瘍性病変の確定診断は,生検あるいは摘出した腫瘍の病理組織学的検索によって行われることが原則である.最近の網膜硝子体手術の発達によって眼内に存在する網膜,脈絡膜腫瘍に対しても生検や摘出術が行われるようになってきたが,ある程度の視機能低下をひき起こすことは避けられない.また,悪性腫瘍を疑って眼球摘出を行い,術後の病理組織学的検索で良性であったという場合には患者のqualityoflife(QOL)を著しく損なってしまうこともある.そこで網膜,脈絡膜腫瘍に対してはさまざまな非侵襲的な方法を駆使して診断を目指すことが重要である.検眼鏡的所見,フルオレセイン蛍光眼底造影検査,インドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影検査,超音波検査,シンチグラフィー,コンピュータ断層撮影(CT)検査,磁気共鳴画像(MRI)検査などが行われている.一般にMRI検査はT1およびT2強調画像での信号強度の特異性から種々の病変の診断に頻用されている(表1)1).多くの病変はT1強調画像で低~等信号,T2強調画像で等~高信号を示す.T1強調画像で高信号を示す病変は比較的少なく,脂肪を含む病変,高蛋白の?胞,悪性黒色腫,発症数日後から数カ月の出血などである.T2強調画像で低信号を示す病変も比較的まれで,悪性黒色腫,髄膜腫の一部,転移性腫瘍の一部,石灰化,出血後数日までの急性期血腫と数カ月以上経過した陳旧性血腫などである1,2).(59)??*HiroshiTakamura:山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野〔別刷請求先〕高村浩:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):59~63,2007磁気共鳴画像(MRI)を用いた網膜,脈絡膜腫瘍の診断???????????????????????????????????????????????????????????????高村浩*表1いろいろな病変の信号強度低信号高信号T1強調画像大部分の病変脂肪腫特に水を成分とする?胞奇形腫高い内容濃度,出血を伴う?胞黒色腫亜急性期の血腫T2強調画像黒色腫大部分の病変髄膜腫特に海綿状血管腫線維腫骨腫急性期,陳旧性の血腫(文献1の表1を改変)———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(60)ンパ腫である.1.脈絡膜悪性黒色腫脈絡膜悪性黒色腫は腫瘍に含まれるメラニン色素が磁性体であるためMRI検査でT1とT2が短縮し,T1強調画像で高信号,T2強調画像で低信号を呈するので,硝子体と鮮明なコントラストがみられるのが特徴である1,3).ガドリニウム(Gd-DTPA)造影では腫瘍は均一に造影される(図1).悪性黒色腫と同様のT1,T2強調画像のパターンを示すものに網膜芽細胞腫がある.発症年齢である程度区別できるが,比較的年齢の進んだ網膜芽細胞腫症例との鑑別が困難な場合がある4).また,腫瘍内のメラニンの多寡によってT1,T2強調画像の信号強度が変化することもある(図2).そこで,脈絡膜悪性黒色腫を診断するためのその他の検査所見として以下のようなものがあげられる.検眼鏡的に,黒色調で,ときに出血や網膜?離を伴う隆起性病変がみられること.フルオレセイン蛍光眼底造影検査でmultiplepinpointleaks,二重循環(doublecirculation),コロナ状の蛍光色素漏出などがみられること.インドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影検査で腫瘍内血管が検出されること3,5).超音波検査でchoroidalexcavationやcollarbuttonshapeの所見がみられること6)などである.特に最近はN-isopro-pyl-p-[123I]-iodoamphetaminsinglephotonemissionCT(123I-IMPSPECT)の有用性が強調されている5,7)(図3).2.網膜芽細胞腫網膜芽細胞腫も脈絡膜悪性黒色腫と同様にMRI検査でT1強調画像で高信号,T2強調画像で低信号を示すが,T1強調画像で硝子体よりわずかに高信号を呈する8),T1強調画像で硝子体と等信号を呈する9),造影で腫瘍はほぼ均一に造影され著明な高信号を呈する8)とすa図1脈絡膜悪性黒色腫(72歳,男性)a:眼底所見.腫瘍は豊富なメラニン色素を伴って著明に隆起している.b:T1強調画像.腫瘍は著明な高信号を呈している.c:T2強調画像.腫瘍は著明な低信号を呈している.d:造影T1強調画像.腫瘍は均一に造影されている.bcd———————————————————————-Page3(61)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??るものもある.網膜芽細胞腫では腫瘍内に石灰化がみられることがあるのでCT検査が有用である.その石灰化に対応してMRI検査では腫瘍内の信号強度が不均一にみられることがある(図4).3.転移性脈絡膜腫瘍転移性脈絡膜腫瘍のMRI所見は,T1およびT2強調画像とも外眼筋と等信号を呈するとか,T1強調画像で等~高信号,T2強調画像で低~等信号を呈し,中等度の造影効果を示すなどさまざまな所見を呈するとされる2,8).腫瘍は比較的扁平なものが多いと思われ,MRI検査での検出は困難である.肺や乳房などの他臓器の悪性腫瘍の既往があり,眼底で黄白色調の腫瘤をみた場合は,転移性腫瘍の可能性を考えるべきである.4.眼内悪性リンパ腫眼内悪性リンパ腫は,硝子体混濁を主とする病型と網膜滲出斑を主とする病型に大別される.網膜の病巣が隆起してみられることもあるが,MRI検査で検出できる図2脈絡膜悪性黒色腫(78歳,女性)a:眼底所見.b:眼球摘出時の腫瘍の肉眼所見.腫瘍はメラニン色素が乏しく,白色調である.c:T1強調画像.腫瘍は淡い高信号を呈している.d:T2強調画像.腫瘍は低信号を呈している.e:造影T1強調画像.腫瘍は不均一に造影されている.cdeab図3脈絡膜悪性黒色腫の123I-IMPSPECT所見腫瘍に一致して集積がみられる(矢印).(文献5より)———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(62)ほどの厚みはないので,眼内悪性リンパ腫をMRI検査で診断することは困難である.ステロイド治療が無効であるぶどう膜炎(仮面症候群)の臨床経過や網膜や硝子体の生検による細胞診,免疫組織化学的検討,遺伝子再構成,フローサイトメトリーなどの検索から確定診断に至る.硝子体液中のinterleukin-10/interleukin-6の比が1以上であることも悪性リンパ腫と炎症を鑑別するうえで有用とされている.II良性腫瘍良性の網膜,脈絡膜腫瘍には,脈絡膜血管腫,網膜血図4網膜芽細胞腫(3歳,女児.両眼性)a:T1強調画像.腫瘍は硝子体よりわずかに高信号である.b:T2強調画像.腫瘍は低信号で内部が一部不均一である.c:造影T1強調画像.腫瘍は不均一に造影されている(国立がんセンター中央病院眼科の鈴木茂伸先生のご厚意による).d:CT所見(0歳,男児.両眼性).腫瘍内の石灰化がみられる.abcd図5脈絡膜骨腫(41歳,女性)a:CT所見.右眼球の後壁に骨と同じ吸収値をもつ扁平な病変がみられる.b:T1強調画像.c:T2強調画像.MRI検査では病変は検出できない.abc———————————————————————-Page5(63)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??管腫,脈絡膜母斑,網膜色素上皮肥大,視神経乳頭上黒色細胞腫,脈絡膜骨腫などがあるが,一般に扁平で,サイズも小さいのでMRI検査で検出されることは少ない.そのなかで,脈絡膜血管腫はT1強調画像で硝子体よりわずかに高信号を呈するが,メラニンに富んだ悪性黒色腫に比べて信号強度は低いとされる.T2強調画像では硝子体より若干低い程度で,造影すると均一に高信号を呈するとされている2,8).また,脈絡膜骨腫の診断にはCT検査が有用である2)(図5).おわりに網膜,脈絡膜腫瘍のなかでも著明な隆起を示す悪性黒色腫や網膜芽細胞腫に対してはMRI検査が診断に大きな威力を発揮する.しかし,ときに典型的なMRI所見を呈さない場合もあるので,MRI検査以外の種々の検査を組み合わせて総合的に診断することが必要である.稿を終えるにあたりまして,貴重な網膜芽細胞腫症例のMRI検査画像をご提供いただきました国立がんセンター中央病院眼科の鈴木茂伸先生に深く感謝いたします.文献1)百島祐貴:MRI.眼科診療プラクティス90,眼窩疾患の診療(丸尾敏夫,坂上達志,本田孔士ほか編),p84-87,文光堂,20032)木村肇二郎,志賀逸夫,中村裕ほか:MRI診断のポイント.症例編.眼科MRIガイドブック(慶應義塾大学病院眼科眼窩外来編),p29-57,金原出版,19983)高村浩,佐藤武雄,高橋茂樹:脈絡膜悪性黒色腫の蛍光眼底造影所見と病理組織学的所見の比較検討.眼臨93:50-57,19994)笠木靖夫,山口克宏,高橋茂樹:11歳の男児に発症した片眼性網膜芽細胞腫の1例.眼臨93:78-81,19995)後藤浩:眼科領域の悪性黒色腫と悪性リンパ腫のマネージメント:眼と全身の連携.あたらしい眼科19:593-602,20026)佐野秀一:眼内腫瘍.眼科診療プラクティス50,眼科で診る腫瘍性疾患(柏井聡,丸尾敏夫,本田孔士ほか編),p34-37,文光堂,19997)GotoH:Clinicale?cacyof123I-IMPSPECTforthediag-nosisofmalignantuvealmelanoma.????????????????9:74-78,20048)佐野秀一:ぶどう膜腫瘍.眼内腫瘍(箕田健生編),p29-130,金原出版,19999)志賀逸夫:MRI.眼科診療プラクティス24,眼窩疾患と画像診断(小口芳久,丸尾敏夫,本田孔士ほか編),p78-87,文光堂,1996

視神経乳頭観察法の進歩(緑内障を中心に)

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI視神経乳頭観察法視神経乳頭の観察方法としては,倒像鏡,直像鏡および細隙灯顕微鏡を用いた方法がある.しかし,通常の倒像鏡による眼底検査では像が小さく視神経乳頭の詳細な観察には不向きである.いずれの場合も散瞳して観察を行うことが望ましいが,さまざまな事情で散瞳できない場合も多い.非散瞳下では直像鏡が有用である.直像鏡では視神経乳頭の拡大率が大きく詳細な観察が可能である.直像鏡は単眼での平面的な観察ではあるが,視線の方向を変えながら,血管の屈曲点を注意深く観察することによりかなり正確に乳頭辺縁部(リム)を同定できる.90DやSuper?eldなどの非接触型前置レンズやGoldmann三面鏡,隅角鏡でも非散瞳下のリムをある程度立体的に把握できる.さらに,ステレオバリエータのついているタイプでは,これを用いることにより像は平坦化するが小瞳孔でも立体視が得やすい.立体視が得られない場合でも,スリット光を動かしながら観察することによりある程度陥凹を把握することが可能である.散瞳下では,Goldmann三面鏡,隅角鏡,非接触型前置レンズなどを症例および状況に応じて使用し,立体的に視神経乳頭の観察を行う.1.細隙灯顕微鏡を用いた眼底検査における使用レンズの特性細隙灯顕微鏡を用いた眼底検査を行う際に使用するレはじめに視神経乳頭観察は眼科医の診察の基本であり,基本的な観察方法に大きな変化はない.視神経乳頭を観察するポイントとして,視神経に異型性がないか色調がどうであるかなどの平面的な情報だけでなく,視神経乳頭が隆起しているかあるいは陥凹がないかといった立体的な評価をする必要がある.特に緑内障の診断と経過観察には,視神経乳頭の緑内障性変化を的確に評価することが最も重要である.多治見スタディの結果1),日本人には正常眼圧緑内障が多いことが明らかになり,緑内障スクリーニングにおける視神経乳頭観察の重要性も増してきている.しかし,視神経乳頭観察は主観的で経験に左右される.定量性がないために視神経乳頭による病期分類や経過の比較が困難である.そのため,視神経乳頭評価の数字化や,ステージングを行うことが試みられてきた.今回,視神経乳頭観察と,その評価法の進歩に関して緑内障を中心に述べたい.近年,視神経乳頭を客観的に定量的に評価するためにさまざまな検査機器が開発されている.これらの代表的な機器として,HeidelbergRetinaTomographII(HRTII;HeidelbergInstruments,Dossenheim,Germany)およびOpticalCoherenceTomography3000(OCT3;CarlZeissMeditec,Dublin,CA)の視神経乳頭解析について簡単に解説したい.(51)??*ShinjiOhkubo&KazuhisaSugiyama:金沢大学大学院医学系研究科視覚科学〔別刷請求先〕大久保真司:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学大学院医学系研究科視覚科学特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):51~57,2007視神経乳頭観察法の進歩(緑内障を中心に)????????????????????????????????????????????????大久保真司*杉山和久*———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(52)ンズの特性を理解しておく必要がある.眼底観察像の大きさ(横倍率)は眼の全屈折力(60D)と前置レンズの屈折力の比でほぼ決定される.たとえば,90Dレンズを用いた倒像鏡検査では眼底像は約2/3倍になる.眼底の凹凸など観察方向の倍率(縦倍率)は横倍率の2乗に比例するので,眼球に接触させずに手軽に使用できる90DやSuper?eldでは,視神経乳頭の陥凹は実際の約1/2となり初期の微妙な陥凹を観察評価するには適さない.それに対してGoldmann三面鏡や隅角鏡は縦倍率が1倍で陥凹の詳細な観察に適する.ここで忘れてならないのは,細隙灯顕微鏡の倍率を上げてもレンズの解像度を代償することはできないことである.すなわち低倍率の前置レンズを使用した場合,いくら細隙灯顕微鏡の倍率を上げても高い解像度の像を得ることはできない.2.緑内障診療における視神経乳頭観察のポイント視神経乳頭陥凹を評価する際,平面的に乳頭の色調のみから陥凹の大きさを判断すると早期の緑内障ではその評価を誤る可能性があり,必ず立体的に評価する.乳頭陥凹は一般に視神経乳頭が大きいほど大きいので,大きい乳頭では過大評価されやすい.したがって,乳頭陥凹の大きさよりもむしろリムの厚みに注目し,視神経乳頭を観察する.実際の緑内障診療における視神経乳頭の観察においては乳頭陥凹の大きさ,リムの厚みだけではなく乳頭陥凹の左右差(水平cup/disc比の左右差が0.2より大きいことは正常人の3%以下であるとされている),notch-ing(乳頭辺縁の局所的な菲薄化),乳頭上網膜血管の鼻側偏位,視神経乳頭の線状出血および乳頭周囲の網脈絡膜萎縮(peripapillaryatrophy:PPA)などに注意する.また視神経乳頭のみならず網膜神経線維層欠損(nerve?berlayerdefect:NFLD)がないか注意して観察する.小さい視神経乳頭など緑内障性変化を評価しにくい場合には,NFLDなど網膜神経線維の変化の観察が有用である(図1).II眼底写真通常の平面的な眼底写真でも注意深く血管の屈曲点を追うことで乳頭陥凹を評価できる.しかし,血管のない部位の評価が困難であること,乳頭鼻側の陥凹拡大を見落としやすいことなどの欠点がある.ステレオ眼底写真は,視神経乳頭を立体的に観察することができ診断および経過観察に役立つ.撮影角度の変わらない同時撮影のステレオ眼底写真が理想的であるが,通常のカメラでも左右に少し移動して片眼を2枚撮影することによってステレオ眼底写真を撮影することができる(図2,3a).し図1右緑内障眼の眼底写真視神経乳頭は小さく,乳頭陥凹の判定は困難である.網膜神経線維層欠損(黒矢印で囲まれた部位)とその境界に視神経乳頭出血(白矢印)がみられる.図2右緑内障眼のステレオ眼底写真(平行移動法)ステレオ眼底写真を用いることで視神経乳頭陥凹を立体的に観察することができる.6時半に視神経乳頭出血(白矢印)を認める.———————————————————————-Page3(53)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??かし,同時撮影でない場合は常に撮影角度が一定とはいえないので,正確に視神経乳頭の経時的な立体的変化を評価することは困難である.また,最近ではコンピュータのソフトと特殊なメガネを使用してステレオ眼底写真を観察するビューワーシステムが開発されており,大量に眼底写真の読影が必要な際に重宝する.III視神経乳頭変化の定量化緑内障診療において①診断(健常か緑内障かの鑑別),②おおまかな病期分類,③経過観察(進行したかどうかを判断する)ために,視神経乳頭変化を定量化する必要がある.1.Cup-to-discratio(C/D比)1960年代にArmaly2)が報告したC/D比は,視神経乳頭のダメージを定量的に評価した最初の指標であり,非常に簡単で使いやすいために普及し,現在も広く用いられている.一般的にC/D比が大きいほど,緑内障が疑われるが,実際にはC/D比が大きくとも緑内障でない人もいれば,C/D比が大きくなくても緑内障の人もいる.正常人の平均C/D比は緑内障患者の平均C/D比より小さいが,C/D比は両群ともばらつきが大きくて,かなりの人がオーバーラップする3).よって垂直および水平C/D比のみでは,特に早期の緑内障診断は困難である.C/D比での緑内障診断を困難にしている原因はおもに①C/D比は中心を測定するので,乳頭陥凹の同心円性の拡大は正確に評価できるが,緑内障の場合は偏心して乳頭陥凹の変化を起こすことも多い,②notchingなどの局所的な変化を反映しない,③健常人において視神経乳頭線維の数が同じとすれば,リムの面積は同じになるが,視神経乳頭が小さければC/D比は小さくなり,視神経乳頭が大きくなればC/D比は大きくなる,以上の3点が考えられている.2.TheDiskDamageLikelihoodScale(DDLS)近年C/D比での問題点を解決すべく,TheDiskDamageLikelihoodScale(DDLS)というシステムが報告されている4).このシステムは少しずつ改変されており,9段階に分類されたバージョンに関する論文が最も多いが,10段階に分類される最新バージョン5)が最も単純でわかりやすい.このシステムは,いずれの部位であっても最も薄い幅のリム/乳頭比に基づいて決められ,さらにリムが消失している場合はリムの消失している角度で評価される.具体的には,視神経乳頭径が1.5mmから2.00mmの平均的な大きさの場合,DDLSのステージ1は最も狭いリム/乳頭比が0.4以上,同様にステージ2は最も狭いリム/乳頭比が0.3から0.39,ステージ3では最も狭いリム/乳頭比が0.2から0.29,ステージ4では最も狭いリム/乳頭比が0.1から0.19,ステージ5では最も狭いリム/乳頭比が0.1以下(0ではない)である.リム/乳頭比が0すなわち,いずれかの場所でリムが消失している場合はステージ6から10に分類される.リムが消失している角度が45?未満の場合はステージ6,46?から90?の場合はステージ7,91?から180?の場合はステージ8,181?から270?の場合はステージ9,270?以上の場合はステージ10に分類される.この際耳側のリムの評価には注意を要する.すなわち,傾斜しているリムを,リムの消失と誤らないようにしなければならない.さらに視神経乳頭の大きさを考慮して,小さい視神経乳頭(乳頭径<1.5mm)の場合ステージを1段階上げ,大きい視神経乳頭(乳頭径>2.0mm)の場合ステージを1段階下げる.ちなみに視神経乳頭径は,60Dから90Dのレンズを用いて測定し,レンズごとに決まった値の補正値を使用して求める.DDLSの欠点としては,リムが狭細化している場所が考慮されていない点および連続していないリムの狭細化■用語解説■C/D比(cup-to-discratio):通常視神経乳頭の中央は凹んでおり,乳頭陥凹とよばれる.乳頭陥凹の大きさをある経線上の端から端で計測(陥凹径)して,その同一線上での乳頭径に対する比である.Armalyの定義では,C/D比といえば横径を計測する水平C/D比であるが,初期の緑内障変化は陥凹の垂直方向の変化から起こることが多く,緑内障性変化を評価する際には縦径を計測する垂直C/D比が重要である.———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(54)があった場合,狭い部位に関しては考慮されない点があげられる.また先天奇形を伴った視神経乳頭など分類が困難な視神経乳頭を,評価することは困難である.このシステムは,C/D比に比べてやや複雑であるが,基本的な考え方としては,緑内障を評価する際には,乳頭陥凹の大きさよりもむしろリムの厚みに注目し,視神経乳頭を観察するという原則や,緑内障性変化は小さい乳頭では過少評価され,大きい乳頭では過大評価されやすい点を考慮している点はわれわれが通常診療において常に気をつけている点と一致している.しかし,C/D比にしろDDLSにしろいずれの評価法においても,評価は主観的で観察者に依存する.その点を克服するために,画像解析装置が用いられてきている.IV最近の画像解析装置(HRTおよびOCT)視神経乳頭を定量的に評価して客観的に緑内障を診断し,経過観察を行うための手段として,近年Heidel-bergRetinaTomograph(HRT;HeidelbergEngineer-ing,Dossenheim,Germany)と光干渉断層計(OpticalCoherenceTomography:OCT;CarlZeissMeditec,Dublin,CA)などが用いられてきている(症例呈示:図3a~d).1.HeidelbergRetinaTomographII(HRTII)HRTは波長670nmのダイオードレーザーを使用した共焦点レーザー走査型顕微鏡で,優れた測定再現性および乳頭パラメータの信頼性をもつ画像解析装置である.近年HRTの普及型として解析部位を視神経乳頭に絞り,撮影画角のサイズを15?×15?に固定したHRTIIが導入された.HRTIIでは検査にあたって散瞳する必要はなく,内部固視灯を被検者が固視するとちょうど画面の中央に視神経乳頭が位置するように設定されている.検査眼のフォーカスを合わせて一度操作ボタンを押すだけでHRTIIは自動的にスキャン幅を決定し,その後3回連続して画像を取り込み,面倒な設定なしに短時間で平均画像を得ることができる.取り込んだ画像は16から64枚の連続的で等距離(1/16mm)の二次元のシリーズ画像で構成され,各二次元画像は384×384ピクセルの解像度をもつ.コンピュータがその画像を立体的に再構築し,三次元解析が可能となる.検者が測定画面上で視神経乳頭縁(コントアライン)を決定すると,自動的にコントアラインに沿った網膜表面の高さが得られる(図?図3左緑内障眼のステレオ眼底写真(a),HRTII解析結果(b),OCT3のOpticNerveHead解析画面(c)およびHumphrey視野(d)a:乳頭陥凹は拡大しており,5時から6時のリムは完全に消失している(白両矢印).明瞭ではないが,2時と5時に網膜神経線維層欠損(NFLD)(黒矢印で囲まれた部位)がみられる.b:ベースライン検査では,トポグラフィ画像(上段左),反射画像(上段右),Y軸高さプロファイル(上段中央),X軸高さプロファイル(中段左),コントアラインの高さ変化(中段右),立体計測パラメータ(下段左)およびMoor?elds回帰解析結果(下段右)が表示される.トポグラフィ画像は,各測定点における眼底表面の高さを表している.明部は凹部,暗部は凸部を表している.さらに乳頭には赤/青/緑のオーバーレイを表示.赤の領域は視神経乳頭の陥凹領域で,乳頭の残りのリム領域は,傾斜部(青)と平らな部分(緑)に分けられる.反射画像は,各測定点の反射率を表示.明るい部分はより多くの反射光がカメラに戻ってきた場所を示す.さらに視神経乳頭を6分割して各セクターのMoor?elds回帰解析判定結果を重ねて表示.Moor?elds回帰解析判定が“withinnormallimits”,“borderline”,“outsidenormallimits”であれば,それぞれ緑色のチェックマーク,黄色の感嘆符,赤い×印が表示される.コントアラインの高さは耳側,上側,鼻側,下側の順に展開した曲線として表示(中段右).この症例ではMoor?elds回帰解析は“Outsidenormallimits”(下段右).HRTIIで測定した視神経乳頭サイズ(DiskArea)2.234mm2,垂直C/D比(LinearCup/DiskRatio)は0.792(下段左).c:画面左にスキャン画像(この図では垂直方向のスキャン),その下に眼底画像が表示される.スキャン画像中のライトブルーの円内のライトブルーの2本の直線の交点(白矢印)が網膜色素上皮の終結する参照点.この2点の参照点間を結んだ直線が乳頭径と定義される.この直線に対して150?m前方に平行する赤点線(赤矢印)より高い位置がリム(赤の凝縮された部位),低い位置が陥凹とされる.画面右側の表示は視神経乳頭解析画像で,6本の放射状スキャン画像から構築される視神経乳頭の合成画像.赤線で囲まれた円の内部がDiskArea,緑線で囲まれた円の内部がCupArea.OCT3で測定した視神経乳頭サイズ(DiskArea)2.394mm2,垂直C/D比(Cup/DiskVert.Ratio)は0.885(下段右).d:Humphrey視野では,下方のリム消失に対応した上方の視野変化および2時のNFLDに対応すると思われる下方の視野変化(グレースケールでは,はっきりしないが,パターン偏差では明瞭となっている)がみられる.HfaFilesVer5(BeelineO?ceCo.Japan)によるプリントアウト.———————————————————————-Page5(55)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??3b中段右).耳側350?~356?のセクターにみられる乳頭黄斑束部のコントアラインの平均の高さより50?m低い位置は,神経線維層の底の部分とほぼ同じ位置になり,その線がリファレンスプレーンの位置となる.リファレンスプレーンより上がリム,リファレンスプレーンより下が陥凹と定義される.HRTIIでは視神経乳頭に関する多くのパラメータが表示されるとともに,視神経乳頭の緑内障性変化の有無を判定する自動診断プログラムが付属されている.視神経乳頭を6セクターに分け,Wollsteinら6)が報告したMoor?eldsの回帰解析に基づき全体と各セクターでのリム面積と乳頭領域の面積比を評価することにより,“withinnormallimits”,“borderline”,“outsidenormallimits”の3段階で判定する(図3bの下段右).abcd図3左緑内障眼のステレオ眼底写真(a),HRTII解析結果(b),OCT3のOpticNerveHead解析画面(c)およびHumphrey視野(d)(図説明はp.54参照)———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(56)2.OpticalCoherenceTomography3000(OCT3)近年OCTも,緑内障診断に用いられている.OCTは従来の超音波を用いた画像診断と類似の原理に基づく測定機器であり,超音波の代わりにダイオード光源による波長820nmの近赤外線低干渉光を用いるため,非侵襲的に高い解像度の画像が得られ,OCT3では縦断面,横断面ともに10?mの解像度が得られる.OCT3では,検査可能な被検者の最小瞳孔径が3.2mmとなったので,無散瞳でも検査可能になった.OCT3には,緑内障診断補助プログラムとして,RNFLThicknessAverage(網膜神経線維層厚解析),RNFLThicknessMap(網膜神経線維層厚マップ),OpticNerveHeadAnalysis(視神経乳頭解析)がある.そのなかで乳頭解析プログラムとしてはOpticNerveHeadAnalysis(視神経乳頭解析)があり,視神経乳頭を4mmの放射状ラインで6本スキャンして得られる結果から,水平・垂直C/D比,リム面積・体積,カップ径,陥凹の深さなどが自動的に計測解析される(図3c).この解析では反射輝度の特定の閾値を検索することによって神経線維層前面と網膜色素上皮を検出する.解剖学的に網膜色素上皮が終結する視神経乳頭の両端が解剖学的マーカー(参照点)として決定され,この2点が視神経乳頭の全解析の基本となる.視神経乳頭両端の2点の参照点間を直線で結ぶことにより乳頭径が求められる.この直線に対して150?m前方に平行する赤点線より高い位置がリム,低い位置が陥凹とされる.これらは客観的に自動的に計算されるが,手動で参照点を調整することができる.OCT3では,解像度は低いが6本のラインスキャンを1.92秒で一度に捉えることができるfastscansというシステムが導入された.通常の高解像度のスキャンでは1本のラインのスキャンに1.28秒かかり,これを少なくとも6本測定しなければならない.Kamppeterら7)は,正常人を通常のモード(OpticalDisc),fastscansモード(FastOpticalDisc)の2つのモードで測定し,それぞれにおいて自動で参照点を決めて計算した場合と,参照点を手動で修正した場合で再現性について検討し,通常のモードで修正しなかった場合はアーチファクトのため良いデータが得られず,fastscansモードで参照点を手動で修正した場合が最も再現性が高かったと報告している.その理由として,1本ずつ捉えるパターンでは全スキャンが終了するまで時間がかかり,その間患者の固視移動,スキャン部位の移動などで解析結果にばらつきが生じるためと思われる.3.HRTIIとOCT3の測定値の比較(図3)近年それぞれの測定値の関係について検討されてきている.HRTIIとOCT3で測定した視神経乳頭面積は高い相関があるが,HRTIIで測定した平均の視神経乳頭面積は,OCTで測定した乳頭面積よりいずれの視神経乳頭サイズでも常に小さい傾向にあるようだ8,9).Arthurら10)は,水平C/D比と垂直C/D比について,同時撮影ステレオ眼底写真,HRTII,OCT3で比較し,OCT3が水平C/D比と垂直C/D比ともに最も大きく,水平C/D比が最も小さかったのは同時撮影ステレオ眼底写真で,垂直C/D比が最も小さかったのはHRTIIであったと報告している.水平C/D比と垂直C/D比ともにOCTは陥凹の最長径に対する視神経乳頭最長径の比率を計算しているのに対して,HRTIIでは視神経乳頭の中心でC/D比を測定している.この点が,OCTのC/D比が,HRTIIのC/D比より大きい理由の一つと考察されている.各機器で測定された各パラメータはそれぞれよく相関しているが,それぞれの機器のデータの互換性は今のところないので,同一機種間での経過観察には使用できるが,各パラメータを比較する際には注意を要する.おわりにいかに画像解析装置が進歩しようとも,視神経乳頭を立体的に観察することは緑内障診療の基本であり,視神経乳頭を常に立体的に観察する習慣をつける必要がある.C/D比なり,DDLSなり自分なりの視神経乳頭変化の定量化システムをもつことは,緑内障の診断,病期分類および経過観察の際に重宝する.最新の画像解析装置は再現性も信頼性も高く,客観的に定量化することができ,診断および経過観察の心強い補助診断機器と思われる.———————————————————————-Page7(57)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??6)WollsteinG,Garway-HeathDF,HitchingsRA:Identi-?cationofearlyglaucomacaseswiththescanninglaserophthalmoscope.?????????????105:1557-1563,19987)KamppeterBA,SchubertKV,BuddeWMetal:Opticalcoherencetomographyoftheopticnervehead:interindi-vidualreproducibility.??????????15:248-254,20068)Ho?mannEM,BowdC,MedeirosFAetal:Agreementamong3opticalimagingmethodsfortheassessmentofopticdisctopography.?????????????112:2149-2156,20059)SchumanJS,WollsteinG,FarraTetal:Comparisonofopticnerveheadmeasurementsobtainedbyopticalcoher-encetomographyandconfocalscanninglaserophthalmo-scopy.???????????????135:504-512,200310)ArthurSN,AldridgeAJ,DeLeon-OrtegaJetal:Agree-mentinassessingcup-to-discratiomeasurementamongstereoscopicopticnerveheadphotographs,HRTII,andStratusOCT.??????????15:183-189,2006文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.?????????????111:1641-1648,20042)ArmalyMF:Theopticcupinthenormaleye.I.Cupwidth,depth,vesseldisplacement,oculartensionandout-?owfacility.???????????????68:401-407,19693)CaprioliJ,MillerJM:Videographicmeasurementsofopticnervetopographyinglaucoma.?????????????????????????29:1294-1298,19884)BayerA,HarasymowyczP,HendererJDetal:Validityofanewdiskgradingscaleforestimatingglaucomatousdamage:correlationwithvisual?elddamage.????????????????133:758-763,20025)SpaethGL,LopesJF,JunkAKetal:Systemforstagingtheamountofopticnervedamageinglaucoma:acriteriareviewandnewmaterial.???????????????51:293-315,2006コンタクトレンズフィッティングテクニック【著】小玉裕司(小玉眼科医院院長)CLの処方に必要な角膜・涙液・屈折矯正・その他の知識/CLの選択/ハードCLの処方/フルオレセインパターンの判定方法と注意点/レンズデザインと角膜形状/ベベル・エッジのチェック/SCLの処方・種類・選択/CLと定期検査・眼障害/HCLの修正/修正によるHCLの苦情処理-くもり・充血・異物感・視力/SCLの苦情処理-くもり・かすみ・視力低下・異物感・眼痛・流涙・充血/乱視に対するCLの処方/ドライアイ/ラウンドコルネア/カラーCL/治療用SCL/無水晶体眼・乳幼児と小児に対するCLの処方/光彩付きCL・義眼CLの処方/ハード・ソフトタイプバイフォーカルCLの処方/HCLのカスタムメイドの処方/CLと点眼薬/CLとケア用品/●ワンポイントB5判総152頁カラー写真多数収載定価8,400円(本体8,000円+税400円)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■この本があれば,明日からのコンタクトレンズ診療は安心して出来る!株式会社

超音波カラーDoppler法を用いた網脈絡膜疾患血流動態解析

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに超音波カラーDoppler(CDI)による眼血流測定は,通常の眼底検査で透見できない眼窩内の球後血流を測定する方法である.その血流測定は,眼動脈(OA),網膜中心動脈(CRA),短後毛様動脈(PCA)について血流速度を測るものであり,血流量そのものは測れない.収縮期と拡張期の最高速度から血管抵抗指数(後述)を求め,眼循環を評価するものである.測定にあたっては,球後の血管走行は複雑で個人差が大きく,検者の熟練を要する.検者は測定値の変動係数が10%以下になることが要求される.I測定の実際1,2)被検者の血圧,脈拍を測定後,測定眼の眼瞼上にゼリーを塗布し,眼球を圧迫せずにプローブを当てて測定する.Bモードでプローブは眼球に対して水平に当て,上下スキャンし眼球形態を把握したうえで,視神経と眼球を断層画像として検出させる.カラーモード画面で目的部分血管をスキャンし,プローブに向かってくる血流は赤色(動脈系)で,その逆は青色で表される(図1,2).網膜中心動脈では眼球後方の視神経内で,短後毛様動脈では視神経に並行して眼球内に入る直前で観察される.眼動脈は眼球後方深部から前方にて観察される.網膜中心動脈,短後毛様動脈の正常人における最高流速値は10~15cm/sec,最低流速値は3~5cm/secと報告されている.また,正常人の眼動脈の最高流速値は30~(47)??*SatoshiKato:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学〔別刷請求先〕加藤聡:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):47~50,2007超音波カラーDoppler法を用いた網脈絡膜疾患血流動態解析????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????加藤聡*図1網膜中心動脈(CRA)の測定結果図2短後毛様動脈(PCA)の測定結果———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(48)45cm/sec,最低流速値は10cm/secと報告されている.末?血管の抵抗を反映し,その結果,末?の動脈循環の指標として末?血管抵抗指数としてResistivityIndex(RI)とPulsatilityIndex(PI)の2つが考案され,眼循環の評価に利用されている.RI=(最高流速値-最低流速値)/最高流速値PI=(最高流速値-最低流速値)/時間平均流速値末?血管抵抗に影響する因子として,血管の長さ,血管径,血管圧力に対する伸展性,血管の狭窄,血液の粘性などがある.II眼科疾患とCDI1~3)本題では網脈絡膜疾患とCDIではあるが,CDI測定は特に緑内障の視神経障害の機序の一つとして考えられている循環障害を示す指標として活用されてきた.すなわち,原発開放隅角緑内障や正常眼圧緑内障では各血管の血流速度,特に最低流速値が低下し,RIが高値であると報告され,緑内障点眼薬の選択にあたってもCDI測定にて眼血流が改善するような薬剤が考慮されるようになってきている.III網脈絡膜疾患とCDI眼底の網膜循環を評価するには,眼底が透見できる場合は蛍光眼底撮影や他の網膜の血流が測れる機器による計測が行われている.しかし,CDIによる測定によって球後血流,特に脈絡膜循環についての情報を得ることができる.現在までに糖尿病網膜症,加齢黄斑変性,網膜中心静脈閉塞症においてCDIを用いた検討が行われている.そのほかに糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術や硝子体手術の影響,透析中の糖尿病網膜症患者の循環動態についての報告がある.以下に今までの報告とともに筆者らの検討した結果を併わせて示す.IV糖尿病網膜症4~6)以前からCDIを用いた研究にて糖尿病患者では,眼動脈と網膜中心動脈では最高血流速値と最低血流速値がともに低く,糖尿病による血液性状の変化や凝固能の亢進を裏付ける報告がされていた.さらに筆者らは糖尿病患者73例において,CDIを用い,短後毛様動脈,網膜中心動脈,眼動脈およびおのおのの静脈にて収縮期最高血流速度(PSV),拡張期最低血流速度(EDV),ResistivityIndex(RI:収縮期最高流速値-拡張末期最低流速値/収縮期最高流速値)を指標として座位にて測定した.糖尿病症例73例を,糖尿病網膜症を認めない38例と糖尿病網膜症を認める35例の2群に分けて検討した.73例中36例は経時的に観察を行った.経過観察期間中に網膜症が進行した群としなかった群を比較した.その結果,断面的検討では,単純糖尿病網膜症群では非糖尿病群に比較して短後毛様動脈における拡張期最低血流速度は減少しており(p=0.01),RIは増加していた(p=0.0003).また,同様に網膜中心動脈のRIは単純糖尿病網膜症群では非糖尿病群に比し,有意に増加していた(p=0.006).眼動脈のRIは単純糖尿病網膜症群では非糖尿病網膜症群および非糖尿病群に比較して有意に高値であった(p=0.007,p=0.004).短後毛様動脈のRIは,非糖尿病網膜症群では非糖尿病群に比較して有意に高値であった(p=0.01)が,網膜中心動脈のRIは非糖尿病群と有意差は認められなかった(p=0.32).網膜中心動脈におけるEDVの減少は非糖尿病群に比較して,非糖尿病網膜症群でも認められた(p=0.007).また,網膜中心静脈の平均血流速度は非糖尿病網膜症群に比較して,単純糖尿病網膜症群で有意に増加していた(p=0.0007).同様に単純糖尿病網膜症群の網膜中心静脈のRIは,非糖尿病網膜症群および非糖尿病群に比し,有意に増加していた(p=0.0004,p=0.0002).つぎに,経時的に糖尿病患者にて計測していった検討では,経過観察期間中に糖尿病網膜症が進行した症例では,網膜中心静脈のすべての指標(PSV,EDV,RI)が網膜症が進行する前の値に比し有意に増加していた(p=0.004,p=0.04,p=0.02).その一方,経過観察期間中に糖尿病網膜症が進行しなかった群ではすべての指標で有意な変化はみられなかった.以上のことより今回の検討では,短後毛様動脈の循環が非糖尿病網膜症群および単純糖尿病網膜症群で変化していたことは脈絡膜循環の異常を示唆させるものであると考えられた.非糖尿病網膜症眼で短後毛様動脈のRI———————————————————————-Page3(49)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??が増加していたことは,糖尿病網膜症発症以前に脈絡膜血管壁が硬化していることが推測された.また,経時的検討からは,糖尿病網膜症の進行に最も影響を受けるのは網膜中心静脈であることが示唆された.V加齢黄斑変性7,8)筆者らは44例の加齢黄斑変性患者および32例の正常患者においてCDIを用い,短後毛様動脈,網膜中心動脈,眼動脈にてPSV,EDV,PI,RIを指標として座位にて測定した.加齢黄斑変性患者を初期加齢黄斑変性11例,滲出型後期加齢黄斑変性25例,線維型後期加齢黄斑変性8例に分類し,比較した.また,片眼性滲出型加齢黄斑変性21例を対象として健眼の血流を検討した.その結果,滲出型加齢黄斑変性例での短後毛様動脈のPIは正常例に比較して有意に増加していた(p=0.0075)ものの,初期加齢黄斑変性および線維型後期加齢黄斑変性では正常眼に比較して有意差はみられなかった.片眼性滲出型加齢黄斑変性眼では,正常例に比し有意にRIは高値であり(p=0.0157),その健眼では正常例に比し,EDVが有意に減少していた(p=0.0164).両眼とも正常例に比し,PIが有意に高値であった(p=0.0191,p=0.0327).しかし,片眼性滲出型加齢黄斑変性眼とその他眼ではどの指標でも有意差はみられなかった.以上のことより,今回の検討において滲出型加齢黄斑変性での短後毛様動脈のPIが有意に増加していたことは,この段階の加齢黄斑変性では脈絡膜循環が低下していることが考えられた.片眼性の滲出型加齢黄斑変性眼では,患眼および健眼ともに差がなく,短後毛様動脈のRIおよびPIが正常例に比し有意に上昇していたことは,健眼であろうともすでに脈絡膜循環が低下していることを示唆させるものであった.今回の結果から,循環動態の変化は初期加齢黄斑変性の発症に関与する因子ではないが,滲出型加齢黄斑変性へ進展する際に何らかの役割をしていることが示唆された.VI網膜中心静脈閉塞症9)網膜中心静脈閉塞症では,網膜中心動脈と網膜中心静脈の血流速度は他眼や正常の対照に比べて有意に低下していることが報告されている.そのなかでも虚血型の網膜中心静脈閉塞症では,網膜中心静脈の血流速度は低下しており,発症から3カ月以内の虹彩新生血管の発生と網膜中心静脈の血流速度の低下との関連を指摘し,臨床的な有用性が明らかになっている.VII糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術や硝子体手術の影響10,11)糖尿病網膜症症例では網膜光凝固術前から眼動脈,網膜中心動脈の血流速度は低下しているが,光凝固後さらに血流速度が低下すると報告されている.また,硝子体手術の影響により,網膜中心動脈と短後毛様動脈の血流速度の低下と網膜中心動脈にてRIが一過性に上昇することが認められ,硝子体術後の視機能が十分に改善しないことがある症例を経験することと関連するのではないかと報告している.VIII透析中の糖尿病網膜症患者の循環動態12)透析中の糖尿病網膜症患者の眼動脈血流抵抗は大きく,さらに網膜中心動脈血流速度の低下を合併している増殖糖尿病網膜症患者では,特に虹彩ルベオーシス発症に対して注意が必要であると報告されている.おわりにCDIは今まで,緑内障および緑内障点眼薬の研究に応用されていたことが多かったが,最近の研究では糖尿病網膜症をはじめとする網膜疾患の研究にも有用であることが判明し,一部の結果は臨床上有用性が高いものとなっており,今後の研究に期待がかかる.しかしCDIを用いた検査は,検者の測定値の信頼性が大きく左右されることであることを十分念頭においておく必要がある.すなわち,一研究において複数の検者による測定は信頼性が低く,論文のなかにも検者が1名であることを明記することが望ましいと考えられる.文献1)宇治幸隆:超音波カラードプラ法による眼血流測定.神経眼科20:407-416,20032)井戸正史:眼血流測定法Ⅱ.超音波カラードップラー(CDI).———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(50)?????????????????????4:181-185,20033)井戸正史,宇治幸隆:GlaucomaQ&A眼圧下降はそのまま眼循環改善につながるのでしょうか?.??????????????????????3:129,20024)MendivilA,CuarteroV,MendivilMP:Ocularblood?owvelocitiesinpatientswithproliferativediabeticretinopa-thyandhealthyvolunteers:aprospectivestudy.???????????????79:413-416,19955)DimitrovaG,KatoS,TamakiYetal:Choroidalcircula-tionindiabeticpatients.???15:602-607,20016)DimitrovaG,KatoS,YamashitaHetal:Relationbetweenretrobulbarcirculationandprogressionofdiabeticretino-pathy.???????????????87:622-625,20037)DimitrovaG,TamakiY,KatoSetal:Retrobulbarcircula-tioninmyopicpatientswithorwithoutmyopicchoroidalneovascularization.???????????????86:771-773,20028)DimitrovaG,TamakiY,KatoS:Retrobulbarcirculationinpatientswithage-relatedmaculopathy.???16:580-586,20029)WilliamsonTH,BaxterGM:Centralretinalveinocclu-sion,aninvestigationbycolorDopplerimaging.??????????????101:1362-1372,199410)KarharinaK,ElzbietaP,AndreasWetal:Ocularblood?owparametersafterparsplanavitrectomyinpatientswithdiabeticretinopathy.??????23:192-196,200311)MendivilA:Ocularblood?owvelocitiesinpatientswithproliferativediabeticretinopathyafterpanretinalphotoco-agulation.???????????????42:S89-95,199712)斉藤禎子,椿森省二,阪本吉広ほか:透析中の糖尿病網膜症患者における眼循環動態.眼紀54:172-175,2003

網膜硝子体手術における眼底観察法の進歩

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI硝子体手術用前置レンズ眼底の観察は,+60D(角膜:+40D+水晶体・眼内レンズ:+20D)を中和する凹レンズ(たとえば-60D)を前置して正立像を観察するか,相応する凸レンズ(たとえば+60D)を前置して倒像系で観察することで可能となる1)が,それぞれの観察法が硝子体手術へ応用され,進化した2).1.平凹レンズ型・プリズム凹レンズ・メニスカス型凹レンズ単純なレンズ構造が簡便で,観察しながらの手術操作が行いやすいため,経毛様体扁平部アプローチの確立以来現在まで最も汎用されている.a.レンズの形状と素材の進化液?空気置換による網膜復位法が確立すると,硝子体腔を空気に置換した状態での眼内操作が必要となった.角膜・前房・水晶体による巨大な凸レンズは,前後面ともに空気に接すると,+100Dを超え(図1),石英ガラス(屈折率1.488)の平凹レンズでは中和できないため,両凹型レンズ(通称「ズボラレンズ」と愛称)が用いられたが,収差がきわめて大きく,液?空気置換後の操作はごく大まかなものに限られた.そこで,田野ら3)は,高屈折素材(HRI:屈折率1.901)による前置レンズを開発し,空気置換後の眼内操作に必要な視認性が得られるようになった.はじめに硝子体手術の観察系は,他の外科顕微鏡手術分野と異なり,眼球自体が光学組織であるため,手術顕微鏡光学系以外に,前置される眼内観察用レンズ,手術眼ごとに異なるレンズ形状の角膜,水晶体・眼内レンズを含めた光学系を通して,眼内の任意の組織を任意の方向から観察する必要がある.しかし,手術顕微鏡は,眼球光学系を含めて設計されているわけではない.硝子体手術における観察技術革新の一つの鍵は,「眼球光学系の収差情報を含む手術顕微鏡光学系」を備えた「眼科手術顕微鏡」を開発することにある.一方,顕微鏡観察には,接眼レンズを通して肉眼で観察する系と,CCDカメラなどからの映像をディスプレイ表示して観察する系がある.従来,後者はもっぱら記録や中継などを目的としてのみ利用されていた.しかし近年の映像技術分野の進歩は,高精細立体視映像手術システムの実用化の可能性を開いた.肉眼では観察不能な超高感度,超詳細映像デバイスを用いた手術顕微鏡観察システムが臨床応用されれば,現在の限界を超える精度の観察が実現される可能性がある.観察映像に検査画像情報などを付加して表示したりすることも可能である.さらに,映像化された手術顕微鏡観察像は,手術室内以外の任意の場所でも閲覧できるため,専門性の高い医療技術の施設間支援への活用も期待される.本稿では,硝子体手術に関係した観察系の進歩と今後の展望について概説する.(37)??*TohruNoda:国立病院機構東京医療センター眼科〔別刷請求先〕野田徹:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1国立病院機構東京医療センター眼科特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):37~46,2007網膜硝子体手術における眼底観察法の進歩?????????????????????????????????????????????????????????????野田徹*———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(38)b.高屈折素材前置レンズ(HRIレンズ)高屈折前置レンズでは,広い視野が観察でき,また,プリズムレンズではふれ角がより大きくふれるため,より周辺部までの観察も容易となった.これにより硝子体手術はより安全に能率よく行えるようになった.c.高屈折低分散素材前置レンズ(HHVレンズ)へ網膜硝子体境界面と前部硝子体に関連した病態の理解とその処理法の確立とともに,硝子体手術の課題は,重症の増殖病変を伴う網膜?離の復位から,黄斑部手術へと移行した.人工的後部硝子体?離の作製に引き続き,内境界膜?離の有用性が注目されると,より詳細な眼底観察が求められた.しかし,HRIレンズでは,顕微鏡の倍率を上げても網膜面の微細構造がはっきりと見えない.高屈折素材は分散(各色ごとの焦点のずれ:色収差)が大きく結像状態が低下したためである.そこで,高屈折率でありながら分散の低い(異分散)素材を用いた前置レンズをHOYAが提供し,眼底の視認性はさらに改良された.d.前置レンズの材質・形状と色収差各種素材の平凹型,およびメニスカス型前置レンズを用いて標準的な(20D)PMMA(ポリメチルメタクリレート)眼内レンズ挿入眼の黄斑部を観察した場合の,各波長光の焦点の位置のずれを図2に示す.平凹型レンズでは,石英素材は波長の変化に伴う焦点位置のずれが少ないが,高屈折素材(HRI)はずれが大きく生じ,観察像自体が悪く,顕微鏡でいくら拡大してもはっきり見えない原因がよくわかる.高屈折低分散素材(HHV)では,そのずれが半減されている.注目すべきは,メニスカスレンズの特性で,その効果は単に倍率が大きく観察されるだけでなく,色収差が各素材ともにほとんど生じないため,黄斑部の詳細な観察などには最適な条件であることがわかる(図2).図1有水晶体眼の空気置換時の眼底観察有水晶体眼で硝子体腔を空気で置換すると,角膜・前房・水晶体により約100Dの巨大なレンズが形成される.眼底観察には,それ以上の屈折力の凹レンズを要するため,高屈折素材のレンズが必要となった.約+100D図2各素材の硝子体手術用コンタクトレンズを前置して黄斑部を観察した場合の各波長光の焦点位置のずれ(PMMA20D眼内レンズ挿入眼)平凹型レンズでは,石英に比してHRIは波長ごとの焦点のずれ(色収差)が大きいが,HHVでは,そのずれが半減されている.メニスカスレンズ型のレンズでは,各素材ともに色収差は少なく,黄斑部などの手術を行う場合の観察に適していることがわかる.a.平凹型コンタクトレンズb.凸凹(メニスカス)型コンタクトレンズ0-500-1,0001,000波長(nm)600500:石英:HRI眼底虚像形成位置(μm)5000-500-1,0001,000波長(nm)600500眼底虚像形成位置(μm)500:HHV———————————————————————-Page3(39)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??手術顕微鏡内の光学系は,後述のごとくアポクロマート補正により,このような色ずれは高度に補正された光学系で構成されている.しかし,硝子体手術では,前置レンズ,眼内レンズを含めた眼球光学系を通して眼底を観察する必要があり,手術顕微鏡だけでは光学設計が不十分となる.これは眼科以外の科の顕微鏡手術にはない特異的な条件といえる.したがって,硝子体手術のための手術顕微鏡開発においては,「顕微鏡,前置レンズ,眼球光学系の収差を統合的に考えた観察システム」を考える必要がある.2.倒像観察系前置レンズ(wide-angle-viewingsystem)倒像鏡を日常診療で常用している眼科医にとって,広い視野で眼底周辺部までの観察が行え,小瞳孔や中間透光体の混濁などの条件に強い倒像観察系で硝子体手術を行うことは長年の課題であった.高屈折素材による非球面レンズ設計,多層膜コーティング技術,さらに,倒像を直像に変換するインバーターの開発により,手術用のレンズが実用化され,改良が加えられてきた4).a.接触型前置レンズVOLK,OCULUS,OcularInstrumentからそれぞれに工夫されたレンズが市販されている.2枚以上の非球面レンズで構成される(+60D~+130D)が,滅菌の必要があるため,レンズ間のスペースに結露しないように,開放構造や,レンズが分解できる構造などの工夫がされている.複数の素材を複合レンズに合成した一体型レンズもある.レンズを良好な位置に保持する必要があり,柄を取り付けて助手が保持するが,やや慣れが必要であり,角膜接触面にレンズを支える足のような部分が付けられているものもある.b.非接触型前置レンズシステム既存の手術顕微鏡システムに取り付け可能なBIOM-Ⅱ(OCULUS),顕微鏡と一体設計となったOFFISS(TOPCON)がある.前者は,各社の既存の手術顕微鏡に取り付けができ,汎用性が高い(LEICAの顕微鏡は,コントロールユニットも電動で連動する).後者は,顕微鏡が限定されるが,画期的な広視野照明を装備したシステムとの総合設計であるため,光学的にも操作性にも利点がある.II硝子体手術用顕微鏡1.照明光学系a.眼内照明ライトガイドなどの眼内照明は,前眼部の光学面での散乱を伴わずに直接眼内組織を照明できるのが特長である.硝子体切除では,照明光による硝子体フレアを観察するため,照明角の狭いライトガイドが観察しやすい.逆に,wide-angle-viewingsystemを用いる場合は,広い観察視野に対応して照明角が広いタイプのライトガイドが有用である.両手法による手術操作を行う際には,ライトガイドがシャフトに挿入できる剪刀や鑷子を用いるか,インヒュージョンプラグまたは独立した位置に照明を設置するシステム(シャンデリア照明)を併用する.最近は,スリット照明装置やOFFISSなどの顕微鏡照明も手術条件に合わせて選択できるようになった.b.顕微鏡照明近年は超音波白内障・眼内レンズ同時手術も行われることが多いため,顕微鏡は良好な徹照が得られる観察系も備えている必要がある.(1)同軸照明同軸照明とは,対物レンズを通しての照明で,観察光路の軸にできるだけ近い方向(2?程度)から照明すると良好な徹照光が得られやすく,また狭く深い術野まで照明が届きやすくなる.逆に,観察光路軸からずれた方向(6?程度)からの照明では,観察面の凹凸に影を形成して立体感が増す効果が得られる.ZEISSの顕微鏡は2?同軸照明に術者の好みに応じて6?照明を付加調光できるシステムを備えている(図6b).●OFFISS藤田保健衛生大学の堀口とTOPCON社が共同開発した観察系で,ちょうど眼底カメラを用いて眼底を観察しているような広い照明視野がwide-angle-viewingsys-temにより得られ,両手で手術操作が行える.眼内レンズなどの反射面が存在すると表面からの反射光を生じるため,眼内レンズ挿入は眼内操作の終了後に行うようにする.———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(40)(2)斜照明斜照明は対物レンズの外からの照明で,観察光路と照明光路の軸が大きくずれるため,術野が奥深く狭いと照明が届きにくく,徹照も得られないため,眼科手術顕微鏡では通常のものは,ほとんど用いられていない.●スリット照明装置(図3)近年,硝子体手術においてもその有用性が注目されている.原理は細隙灯顕微鏡と同様で,観察系焦点位置がスリット光の焦点となるように斜照明を装備したものである.硝子体基底部のshavingなど前部硝子体の観察処理には,直接硝子体から網膜面を直接観察できるため,特に有用である.後極部の病変に対しては,(反射防止加工した前置レンズを用いて:HOYA)両手法で操作が行える.フランスなど,欧州の術者は好んで用いているが,米国ではあまり普及していない.c.硝子体手術に用いる光源:ハロゲンvsキセノン眼科では,光毒性の問題から,一般の手術顕微鏡には短波長(青)成分が少ないハロゲン光源がおもに使用されてきた.キセノン光源は,照度に優れるが,網膜の光毒性の問題があるため,あえて避けられてきた(他科では汎用されている).しかし,近年,25ゲージ手術システムの普及とともに,細いゲージから有効に照度が得られる利点を生かして,眼科領域でもキセノン光源の有用性が注目されてきている(図4).●キセノン光源の特徴キセノン光源は,ヒトの視覚に最も影響する550nm前後のスペクトラムが高い(より長波長の成分はハロゲンに比して相対的に低くなる)ため,照度に優れる.短波長(青)成分は散乱を生じやすい.したがって,半透明な硝子体を照明すると,散乱光が多く生じるため硝子体が観察しやすい.また,網膜表面へ照明した場合は,より表層からの反射が強くなるため,表面の性状が観察しやすい.逆に,中間透光体などに混濁がある場合は散乱が生じて観察が妨げられやすく見にくいことがある.ライトガイド,スリット照明,顕微鏡同軸照明それぞれに,手術条件に合った光源の組み合わせを選択することで,より明瞭な観察が行える.2.観察光学系a.基本構造手術用顕微鏡の観察像からの光束は,対物レンズ系で平行光線となり,中間鏡筒光学系を経て接眼部に至る.図3スリット照明装置(ZEISS)近年,硝子体手術においてもその有用性が注目されている.前部硝子体の処理は直視下で硝子体を明瞭に観察でき,低反射加工前置レンズ(HOYA)を用いれば,後極部の操作も両手法で行うことができる.図425ゲージシステムとキセノン照明光源25ゲージシステムでは,細いライトガイドから効率よく明るい照明光を得る必要がある.キセノン光源は熱の発生を伴わずに高い照度を得やすいため,眼科手術においてもその有用性が再認識されている.a:20ゲージおよび25ゲージの照明プラグ(Synergetics).b:キセノン光源ユニット(上:ZEISS,中:Synergetics,下:Alcon).20ゲージ25ゲージab———————————————————————-Page5(41)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??接眼部では,倍率をさらに拡大するとともに正立像とし,術者の観察姿勢にあった方向に光路を向ける.中間鏡筒内は原則的に平行光であるため,距離が増えても中心視野にはあまり影響はない.したがって,その間に,フィルターやビデオシステム,正・倒像インバーターなど,いくつか光学系を重ねて設置することができる.(1)対物レンズ:焦点距離(作動距離)高性能な手術顕微鏡は,術者および助手用顕微鏡の観察系と照明系とを同じ対物レンズで共有する構造となっている.(2)中間鏡筒光学系1)変倍モジュール硝子体手術では,フットペダルで倍率をコントロールするズーム変倍装置を用いる.2)レーザー保護フィルター使用する眼内レーザーの波長特性に合ったフィルターを設置する.アルゴンレーザーは波長域が広いため(半値幅が広い),広範囲の可視波長域をカットする必要があり,フィルターはレーザー装置と連動して照射時のみに電動で挿入されるシステムが必須である.810nm赤レーザーや,ダイオードを用いた532nm緑レーザーを用いる場合も同様であるが,ダイオードでは発振波長のみをシャープにカットすればよいため,視認性への影響が少ないフィルターを常時挿入して手術を行う術者もいる.3)ビームスプリッター・ビデオカメラシステム術者用観察系または助手用観察系の中間鏡筒部にハーフミラーを設置し,光束の一部をカメラへ分配する.以前は50%程度の分光比率が多かったが,最近はカメラの性能の向上に伴い,20%程度の設定が多い.ビームスプリッターで分配された光束は,使用するCCD板などの面積に合った焦点距離のレンズを介してカメラに接続する.4)絞り高性能な明るく解像度のよい(開口が大きい)顕微鏡は,不可避的に焦点深度が浅くなる.解像度よりも焦点深度の深さが優先される手術では,絞りを設置して,必要に応じて開口を絞ることにより焦点深度を深める効果が得られる.5)正・倒像インバーター(wide-angle-viewingsystem)OCULUSのSDI-Ⅱ(電動)のほかOcular,VOLKのシステム(手動)がある.前者は,各社の顕微鏡に汎用されている.TOPCON社のOFFISSも正・倒像インバーターはOCULUS社のSDIを用いている.6)周辺部観察用収差補正システム眼内レンズ挿入眼の周辺部眼底を観察する際には,高屈折素材の眼内レンズを鋭角に斜めに横切る光束での観察となるため,大きな収差(特に非点収差)が生じ,前置するプリズムレンズで生じる色収差とともに,詳細な眼底観察が行えない.筆者らは,TOPCONとの共同開発により,さまざまな色収差,非点収差を補正する収差補正ユニットの開発を進めている.(3)接眼レンズ顕微鏡の接眼レンズは10×程度が適当で,10×,25図5正・倒像リインバーターを内蔵した接眼鏡ユニット(ZEISS)正立・倒立リインバーターを接眼鏡ユニットに組み込むことは,顕微鏡の基本的なしくみから最も合理的であり,限りなく自然に正立像,倒立像を変換することができる.また,顕微鏡全体の構成もすっきりと配置される.a:術者用,助手用それぞれのリインバーター内蔵接眼鏡ユニット.b:リインバーター内蔵接眼鏡ユニットを用いた場合の顕微鏡システムの概観.c:従来の接眼鏡ユニットとSDI-Ⅱを組み合わせた顕微鏡システムの概観.abc———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(42)mm視界は53?視角に相当し,平均的な術者が観察しやすい視角となっている.●正・倒像リインバーターを内蔵した接眼鏡ユニット(ZEISS)ZEISS社は,wide-angle-viewingsystemで用いる正・倒像インバーターを接眼レンズ系に組み込み,手動切り替えを行うシステムを開発した(図5).元々,接眼ユニットは像の方向を術者の観察方向に合わせる機能を受け持つ光学部分であり,正立像,倒立像の変換を行うユニットとしてはまさに最適といえ,実際,変換を行ってもほとんど見え方が変わらず自然な観察が得られる.問題は,ビデオモニター映像が倒像のまま記録されることであるが,映像信号に関しては方向の変換は比較的容易に行えるため,必要に応じて画像変換機器を用いればよい(インバーター機能を備えたビデオシステムもある:Ikegami).(4)術者用顕微鏡と助手用顕微鏡(図6)最近の顕微鏡は,術者と助手のそれぞれの左右の観察光路は互いに直行した位置関係に配置され,同軸(つまり同じ接眼レンズで)立体観察するシステムがとられている.術者用顕微鏡は電動ズーム方式,助手用顕微鏡は手動の段階式変倍形式をとるものが多いが,術者と助手が変倍モジュールも共有して常にほぼ同じ条件で観察できるシステムもある.術者および助手の左右の開口部分と照明の位置関係は,眼科手術顕微鏡の設計コンセプトに大きく関係する.TOPCONのOMS800(図6a)は,術者の左右の観察光路に対して助手の観察光路はずれた位置関係にある.この配置は,術者の観察光路付近に大きな照明をおくことができるため,前眼部手術の際には良好な徹照と立体感を併せて得やすくきわめて良好な条件となるが,眼底観察などの際には術者と助手の光路がずれているため,助手の観察が術者とずれを生じる可能性がある.前眼部手術をおもに行う術者や術者主導の硝子体手術を組み立てる術者には,きわめてコストパフォーマンスに優れた構造といえる.それに対して,ZEISS(図6b),LEICA(図6c)の顕微鏡は,術者と助手の観察光路が完全に直行した位置関係に配置され両者はほぼ完全な同軸観察となるため,両者の観察は眼底観察などにおいても常にほぼ共有されたものとなる.術者と助手が常に共同して手術を進める術者,教育熱心な術者には,最適な顕微鏡である.4つの観察光路が近接し,照明を設置するスペースは若干狭くなるので,照明は複数に分けるなどの配置をとっている.特に,LEICAの顕微鏡は,術者と助手の観察光路は同等の光学系でちょうど90?回転した位置に配置され,両者は常にほぼ同じ光学条件で観察される.この4つの光路はズーム変倍ユニットも連動し,術者と助手の術野の観察像は常に共有される特筆すべきシステムになっている.将来,接眼レンズを通しての肉眼観察が高性能カメラ映像に取って代わられた場合の次世代の顕微鏡システムの可能性を考えると(その具体的なシステム開発を計画すると),これは,時代を大きく先取りしたシステムといえる.b.収差補正解像度の高い高性能な顕微鏡には,高度な収差補正がなされている.手術顕微鏡性能の評価の際,しばしばポイントとされるのが,像面弯曲収差と色収差の補正の度合いであるが,眼科用のハイクラスな顕微鏡はいずれの収差も高度に補正されている.(1)像面弯曲:プランレンズ系硝子体手術に使用される顕微鏡は,眼底の観察の際に拡大すると黄斑部が隆起して見えるなどの不都合などが生じないように,全観察視野にわたって像面弯曲が補正され,平面がゆがみなく観察されるプランレンズである必要がある.(2)色収差補正:アクロマートとアポクロマート自然のままでは短波長の青色光は長波長の赤色光よりも焦点を短く結ぶ.そのずれ(色収差)は,色にじみや色ずれ,ぼけの原因となるため,高性能な顕微鏡では,主要な波長の焦点を一致させるように高度な技術で補正がなされている.色収差補正の等級には,アクロマート(赤:656nmと青:486nmの像点が一致する規格),アポクロマート(主要3波長の像点が一致する規格)などがあるが,現在の高性能な眼科手術顕微鏡では,アポクロマート補正が行われている.———————————————————————-Page7(43)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??〔参考〕開口数,解像度,観察像の明るさ,焦点深度解像度を高くするためには,大きな開口数(NA)つまり,より大きな口径の対物レンズを必要とする.NAが大きいほど分解能,明るさの点で優れている.観察像の明るさは,照明光の明るさ,レンズの開口数,総合倍率で変わり,観察倍率を2倍にすれば明るさは1/4となる.像の明るさ(I)=観察面の明るさ(Io)×(NA/Mo)2大口径の(NAの高い)レンズ光学系は,明るく,解像度が高いが,色収差をはじめとする収差の完全補正のためにはより複雑な(きわめて高価な)レンズ系を要し,かつ焦点深度が浅くなる.両者は相容れない条件であり,そこで,手術操作にいかに対応した設定とするかが各社の特徴となっている.たとえば,解像度が高く明るい顕微鏡は,黄斑部など特定の部分観察には抜群の見や図6術者観察光路,助手観察光路,同軸照明の光路配置a:TOPCONOMS800.術者と助手の観察光路がややずれた位置に配置されている.硝子体手術の際には,助手は観察が妨げられる可能性がある(術者と同じ視野での観察を優先する場合は,術者の片側の光路を分光して助手の左右に振り分け,擬似立体として観察する).前眼部手術には,術者の観察光路付近から大きな同軸照明を配置できるため,最良の条件となる.b:ZEISSOPMIVISU200(最新モデルはVISU210).術者と助手の観察光路が90?回転した位置に配置され,術者と助手はほぼ同じ視野で観察できる.同軸照明の配置は,徹照を得るための2?照明と,立体感を得るための6?照明とに分けて設置され,6?照明は観察条件に応じて調光可能となっている.c:LEICAM844F40.術者と助手の観察光路は同等の光学系でちょうど90?回転した位置に配置され,両者は常にほぼ同じ光学条件で観察される.この4つの光路はズーム変倍ユニットも連動し,術者と助手の術野の観察像は常に共有されている.同軸照明は4つの観察光路の外側の位置に2カ所設置されている(※下図:QuadZoomTMユニットの構造模型).術者※助手助手術者術者白内障手術硝子体手術助手a.TOPCONOMS800c.LEICAM844F40b.ZEISSOPMIVISU200(最新モデルはVISU210)IlrRLrlIlrRLrlIIRLrlIIlrRLR:術者右観察光路L:術者左観察光路r:助手右観察光路l:助手左観察光路I:照明(反射鏡)———————————————————————-Page8??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(44)すさを発揮するが,焦点深度が浅く,単純硝子体切除の際に頻繁にピント合わせを要したり,白内障手術などで操作部位と後?とが同時に確認しづらかったりする.III手術映像の撮影,映像信号の転送・記録手術顕微鏡で観察される映像は,ビデオカメラで撮影することにより,見学者にもモニターで供覧したり,録画して手術映像を残したりすることができる.従来のビデオ映像は,それらを目的としてもっぱら用いられてきた.しかし近年,肉眼機能を超える超高感度,超高精細の映像システムが開発されており,今後の手術映像システムは,従来の接眼レンズを通した顕微鏡観察をはるかに超える特殊機能を備えた観察系として開発が進められる可能性が示唆されてきた.さらに,術野の映像に,術前・術中に採取された検査画像情報などを付加して表示することも可能となる.すでに脳神経外科領域では,脳腫瘍手術の際,顕微鏡映像にMRI画像を重ねて表示する手術支援システムが実用化されている5).将来的には,生体眼底顕微鏡と手術ロボット開発の組み合わせにより,網膜血管外科手術や,生体網膜細胞操作などの超微細手術やそれらの遠隔手術システムの実用化も必ずしも夢ではない時代となってきた.1.ビデオカメラ手術映像を記録するカメラの工学技術も飛躍的に進歩している6).高性能CCDなどの撮像素子の技術開発によるところが大きいが,さらに,手術野の特殊な条件で撮像された映像信号が,いかにしたら自然な画像となるか,色(特に術野では赤の再現性が重要)や輝度分布特性とその変化に対応するプログラム設定も重要なノウハウであり,各メーカーにより開発が進められている.a.CCDカメラ現在,主流となっているカメラの撮像方式は,RGBの3原色を各々1枚ずつのCCDで電気信号に変換する3CCD方式である.解像度,色再現性に優れるが,高価でやや大型になるのが欠点である(価格は販売台数に最も大きく依存する.手術専用のような設定のカメラは,販売台数が著しく限られるため価格は高価となる.先端的技術であっても汎用モデルはきわめて安価となる).1CCDや2CCD(G:緑はカメラの内蔵信号で代用)カメラは小型だが,映像は3CCDに大きく劣り,良好な画質が必要とされる分野での実用性はない.●HDTV(ハイビジョン)3CCDカメラ眼科手術顕微鏡に取り付けができ,手術映像として満足できる画質の小型ハイビジョンカメラはきわめて限られているのが現状で,2007年1月現在,SONYHDC-X300(図7)が唯一の選択となっている.しかし,カメラ本体が大型で,顕微鏡にかかる重量負荷も大きい.コントロールユニット(CCU)を分けるなど,早急に医療用に即した小型カメラの開発が切望される.ハイビジョンカメラを用いれば,細隙灯顕微鏡では,従来のカメラでは撮像困難であった角膜内皮細胞も描出でき,手術顕微鏡においても高品位高精細な手術映像が記録できる.b.最先端技術を備えた超高性能カメラ(1)超高感度高精細カメラSuperHARPカメラは,NHK放送技術研究所の谷岡ら7)が開発した超高感度高精細カメラで,肉眼ではほとんど視認不能な暗視野での鮮明なカラー画像の撮像を可能とし,多くの事件報道などで活用されている.すでに三宅ら7)は,同じくNHKの望月7)の開発したハイビジョン立体ビューワーと組み合わせた眼科顕微鏡手術システムを用いて,きわめて低照度で眼科顕微鏡手術が行えることを報告している.現在は,固体HARPカメラの開発により,さらにカメラの小型化が進められている.その他にも,IMPACTRONTMをはじめとする超高感度画像素子を利用した小型軽量のカメラの開発が進められている.超高感度高精細カメラを用いた低照度手術は,眼科領域では光毒性の問題からも,局所麻酔下で患者の受ける手術の質の向上の観点からもきわめて有用であり,今後の実用化が期待される.(2)超高速撮影用カメラnac社は,高解像度(1,280×1,024ピクセル),超高速(最大2億コマ/秒まで)の撮像を実現した世界最高速のハイスピードカメラを開発し,スポーツをはじめとするさまざまな映像分野において貴重な映像を提供している.眼科手術領域においても,硝子体カッターにより硝子体が切除される状態の分析や,超音波水晶体乳化吸引機序の解析などの研究に応用されている(三好ら8)).———————————————————————-Page9(45)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??2.立体ビューワー観察システムモニター映像による手術は,外科領域ではすでに内視鏡手術として,広く臨床応用されている.眼科手術はきわめて微細であるうえに立体観察を要するために高精細立体映像システムは不可欠なものとなる.立体観察システムの方式には,偏光や赤緑信号を利用して左右の映像に画面を振り分け,偏光眼鏡や赤緑眼鏡で観察する方法などさまざまな方式がある.NHK放送技術研究所の望月らは,左右の顕微鏡観察映像を一つのハイビジョン画面の左右に配置して表示して,立体ビューワーで観察するシステム(図7)を開発している.長時間の観察を行っても他の立体ビューワーに比して疲れにくいのが特長である.左右の顕微鏡映像は,2組のCCDカメラ(カメラは通常のNTSCでも可能)で撮像して合成機を用いて1画面のハイビジョン映像に合成する方式(図7-2)と,アダプターレンズを用いて左右の映像を1台のハイビジョンCCDカメラに投影する方式がある(図7-1).ハイビジョンカメラで撮影される立体映像自体はかなり良好で,微細な手術操作も可能と思われるが,このシステムの実用化における今後の課題は小型で高精細のハイビジョンモニターの開発にかかっている.3.記録装置VHS,S-VHSなどのアナログビデオテープの映像は,複製,編集などにより映像が劣化するが,DVなどのデジタルビデオテープを用いて録画しておけば,手術ビデオの編集作業も画質の劣化がほとんど伴わずに容易に行えるようになった.近年,デジタル技術はさらに進み,DVDやブルーレイディスク,安価で大容量で高速のハードディスク(HDD)などのメディアに映像を直接記録したり,搬送に用いたりすることが可能となっていab左カメラ右カメラ右左2つのカメラからの映像をハイビジョン1画面に合成1)ab3)2)図7ハイビジョン立体映像撮影システム(望月,NHK)1)術者用顕微鏡の左右の観察光路からの2つの映像を1台のハイビジョンカメラに投影するビームスプリッター・アダプターレンズを用いたシステム(顕微鏡:ZEISSOPMIVISU200,ハイビジョンカメラ:SONYHDC-X300).a:カメラが大型であるため,ビームスプリッター・アダプターユニットを介して顕微鏡の後方に設置する.b:ハイビジョンカメラとステレオ・ビームスプリッター・アダプターレンズユニット.2)従来の小型CCD(NTSC)カメラ×2台で左右の顕微鏡映像を撮影し,1つのハイビジョン画面に映像を合成して表示するシステム(顕微鏡:TOPCONOMS800).3)ハイビジョン立体ビューワー(望月,NHK).1つのハイビジョン画面に表示された左右の顕微鏡映像を,立体ビューワー(プリズム+凸レンズ)で立体観察する.a:手術顕微鏡に接眼鏡と併設し,必要に応じてビューワーで観察する.b:見学者も術者と同じ立体映像を観察できる.———————————————————————-Page10??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(46)る.映像も,より高精細なハイビジョンの規格へと移行しつつある.以前はきわめて高額な映像機器を要した手術映像の編集作業も,今はパソコンで容易に行えるようになった.今後,手術顕微鏡整備を計画する際には,ハイビジョンデジタル映像記録を基調とした映像機器整備を併せて計画していく必要がある.4.医療画像の送信技術と遠隔医療への応用近年,インターネットの普及とともに,ADSL(asym-metricdigitalsubscriberline),光ファイバーなどによるデータの高速転送が可能となった.しかし,手術映像をはじめとする医療映像信号は,守秘されるべき個人情報であるため,それらの情報ネットワークを単純に利用して送受信を行うことはできない.ブロードバンド回線を利用した遠隔手術支援の実用化には,手術操作を行えるだけの高画質映像情報をリアルタイムに転送できること,ネットワーク接続が切断されないこと,通信のセキュリティーが保護されること,などが必要条件となる.映像が高精細になれば情報量が飛躍的に増大し,また,通信セキュリティー確保のための暗号強度の強化も,通信に遅延を生じるため,いずれも通信速度との干渉条件となる.東京医療センターと慶應義塾大学病院とは,和田らを中心とする外科チームが,シスコシステムズ,オリンパスプロマーケティング,フォーカスシステムズなどの技術協力を得て,外科内視鏡手術遠隔支援システムを構築し,倫理委員会の承認に基づいた実際の手術経験によるシステム検証を重ねてきている.音声情報による口頭指示や手術映像にペンで記入するなどの情報の付加もできるシステムとなっている.今後は,眼科手術へも応用し,さらに,光ファイバー回線を用いたハイビジョン立体映像システムへと発展させていく予定である.文献1)野田徹:眼底観察と前置レンズ.臨眼52(11):173-176,19982)野田徹:手術顕微鏡.眼科診療プラクティス71:32-40,20013)田野保雄,柏木豊彦,眞鍋禮三:高屈折率眼底観察用コンタクトレンズ.眼科手術1:161-165,19984)大路正人:硝子体手術とWideAngleViewingSystem.眼科手術11:321-327,19985)森田明夫,光石衛,割澤伸一ほか:深部脳神経外科支援ロボットMM1.Newton(日本語版)9:76-83,20046)野田徹:映像信号とそのデジタル化.眼科診療プラクティス33:84-87,19987)MiyakeK,OtaI,MiyakeSetal:Applicationofanewlydeveloped,highlysensitivecameraanda3-dimensionalhigh-de?nitiontelevisionsysteminexperimentalophthal-micsusrgeries.???????????????117:1623-1629,19998)三好輝行,吉田博則:超高速デジタルビデオカメラによる超音波チップの観察.眼科手術19:193-197,2006

網膜酸素飽和度画像解析の臨床応用

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS起こった結果」を観察していることになる.OCTなどにより,より上質な形態観察が可能となった現在,さらに必要な情報となるのは,網膜の機能や代謝に関するものであると強く考える.筆者らの教室では,眼底での酸素飽和度測定装置をイスラエルのAppliedSpectralImaging(ASI)社と共同開発し,酸化および還元ヘモグロビンを非侵襲的に定量的解析をすることに成功した.この装置を多様な眼底病変で臨床応用し,その測定の臨床意義を明らかにしているところであるが,これを確認するには多施設での測定が必須であり,まだ評価が定まったものではない.しかし,従来の画像解析では得られなかった,網膜を代謝の側面から検索するするものであり,今後の臨床応用の発展を期待しているものである.本稿では,測定装置の紹介と理論背景,および測定の実際について紹介し,その測定意義について考察する.I酸素飽和度測定装置を理解するための基礎知識本酸素飽和度測定装置の基礎となっているのは,Sci-ence誌に発表されたSpectralKaryotyping(SKY)に使用されてされている装置である.SKY法を簡単に紹介すると,本法では染色体を蛍光染色し,その染色情報24通りのアルゴリズムに基づきスペクトルデータを解析するものである.これにより,従来解析困難であった複雑な染色体異常が容易に検出ではじめに眼底の画像解析法の古典であり,現在もその情報量において比肩するものがないのは蛍光眼底造影法と考える.この検査法では,網膜血管の配列・形態とともに血行動態を微小循環のレベルで検索をすることが可能であるほか,血液網膜柵の評価などその情報は多彩である.蛍光眼底造影法は,有意な検査法であるが,唯一の問題点として蛍光色素を投与する必要があること,言い換えれば,侵襲的な検査法であることがあげられる.しかし,良質な微小循環の画像化は,情報の不足も意識させることになる.それが酸素飽和度の問題である.眼底での非侵襲での酸素飽和度測定の試みは,1989年にDeloriらによって報告されている.その後もその試みは散見されるが,測定範囲は眼底血管上の一点であったり,測定精度の問題もあり,研究レベルでの話題でしかなかった.近年コンピュータ技術の発展により,多量の情報を演算解析することが可能となり,新たな画像解析法が開発されている.これには,レーザー技術の発展も大きく寄与しており,従来観察できなかった透明組織を画像化することに成功している.これが光干渉断層法(OCT)であり,ポラリメータである.これらにより,網膜を組織切片を見るように観察することや,網膜神経線維層の厚さを測定できるようになった.これにより,眼底疾患の理解が飛躍的に深まったことは周知のとおりである.しかし,これによる情報は,形態の変化であり,「何かが(31)??*ShinYoneya:埼玉医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕米谷新:〒350-0495埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38埼玉医科大学眼科学教室特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):31~35,2007網膜酸素飽和度画像解析の臨床応用??????????????????????????????????????????????米谷新*———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(32)きるようになっている.スペクトル解析に重要なのがLamber-Beerの法則である.つまり,Lmaberの法則は,入射光の強度?0と透過光の強度?との比の対数が吸収物質の厚さ?に比例する実験則であり,一方,溶液による光の吸光係数が濃度?に依存することを表したのがBeerの法則である.これを併せたのがLamber-Beerの法則で,つぎのように表される.log10(?0/?)=e??.e??.が吸光度となる.(図3bを参照)II測定装置の紹介装置の基本は吸光分析法で,これにより眼底の色素の定性および定量的検索が可能である.筆者らの使用した装置は,イスラエルのASI社と共同研究開発したもので,眼底カメラ,サニアック型干渉計,CCDカメラとFourier変換などを行う解析プログラムをもったコン図1b装置の光路を示す概念図対象画像の有する波長情報を解析し,波長ごとのイメージ画像が得られることを示す.sesnelgnitamilloCrettilpsmaeBsrorrimgnidloFaremacDCCmrofsnarTreiruoFegamIlartcepSsegamImargorefretnIretemorefretnIcangaS(x1,y1)x1,y1,I(λ1(I,)λ2(I,…,)λn)λ1λ2λ3λ4λnλλ1)ebuClaniteR(URC図1a装置の全景眼底カメラ,その上にサニアック型干渉計とCCDカメラが搭載され,コンピュータシステムに測定結果が送られ,Fourierモジュールを使って演算される.———————————————————————-Page3(33)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??ピュータシステムから構成される(図1a,b).眼底観察は画角20?および35?での観察と測定が可能である.480~640nmの範囲で,2nmごとのスペクトルデータの取得ができる.測定時間は6秒間であるが,アイトラッキングシステムが搭載されている.装置の簡単な原理について説明する.眼底からの光を2つの位相差のある光路に分け,それを干渉させることによりインターフェログラム(光路差による光の強度の変化を示したもの)が得られる.それをFourier解析を行い,1ピクセルごとに眼底から反射してきた光の波長成分と強度を測定する.ヘモグロビンの酸素飽和度を評価するにあたっては,酸化および還元ヘモグロビンの標準吸光曲線をこの強度,すなわち光学濃度(OD)に数学的に変換する(図2a,b).この変換の基本は上述したLamber-Beerの法則によるものである.酸化および還元ヘモグロビンの比率が酸素飽和度になるが,これはその光学濃度と比例的な関係を示す.標準ヘモグロビン光学濃度と,測定された波長の光学濃度をコンピュータ上でフィットさせ,各ピクセルにおける酸素飽和度を算出する(図3).この各ピクセルで算出された酸素飽和度は,0~100%までを濃い青から赤までのカラーバーを使って表示し,その結果を対応する眼底画像の上にダブらせる.したがって,その測定結果は眼底画像上にカラーマッピングされる(図4).図4は,網膜中心静脈閉塞症の2症例と,そのうちの一症例の対側眼の所見を示す.症例1(図4a)では網膜浅層を中心に,べったりとした大きな網膜出血斑が後極部眼底にみられる.その蛍光眼底造影所見では,網膜静脈の拡張・蛇行が顕著であり,視神経乳頭面や網膜面で,血管壁からの蛍光漏出が観察される.静脈閉塞は高度であり,網膜血管床も後極部一帯で閉塞している.こ図2a酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光特性60,00050,00040,00030,00020,00010,0000500:HbO2:Hb吸光度[1/(cm×M)]波長(nm)520540560580600620640図2b網膜からの反射光に含まれる,ヘモグロビンに相当する光学濃度基準曲線図2aから,酸化ヘモグロビンの光学濃度を算出したものに図2bをフィットさせ,酸素飽和度を算出する.65060055050000.511.522.5波長(nm)光学濃度b:光学濃度(OD)の算出DOR+A(λ)=l(gol-R+Al/W)DOR(λ)=l(gol-Rl/W)(DOλ:)度濃学光lR+A(λ:))部脈動膜網(度強ルトクペスlR(λ:))部膜網景背(度強ルトクペスxelferlarelcSDOR+ADORaniterdiorohcarelcsaaniteRyretralR+A(λ)lW(λl)R(λ)図3光学濃度算出のための光路図(a)と理論式(b)———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(34)ab図4網膜中心静脈閉塞症(a,b)と健常対照眼(c)における酸素飽和度測定結果1ピクセルごとの酸素飽和度が,色表示されている.カラーバーに対応した酸素飽和度を示し,青から赤に行くに従って酸素飽和度は高くなる.閉塞の重症度に従って,後極部眼底の酸素飽和度は低いことが理解される.bでは,青く染まった中に,赤い点が線状に並び,網膜動脈と一致している.本装置の解像度は,網膜細動脈を描出するにはまだ不十分であることも理解される.c———————————————————————-Page5(35)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??れに対応する波長解析による酸素飽和度測定の結果では,後極部は,濃い青で塗りつぶされており,高度の低酸素飽和度状態になっていることは一目瞭然である.これに対して症例2(図4b)では,高度の循環障害はあるが,網膜静脈からの蛍光漏出は顕著であるが,血管床閉塞は,黄斑耳側の一部で観察されるのみである.この症例の酸素飽和度測定結果では,酸素飽和度約50%を示す明るい青を主体に観察され,その中にまだらに,酸素飽和度40%以下を示す濃い青が島状に存在する.網膜動脈に一致して黄または赤の点が線状に配列している.この患者の対側眼(図4c)では,蛍光眼底造影上視神経乳頭周囲には著変なく,その一致する部位での酸素飽和度測定結果では,70%から100%近い酸素飽和度を示す黄から赤の点で塗りつぶされているのが観察される.網膜動脈枝に一致して赤点が配列している.筆者らのカラーマッピング法導入前に行った予備実験では,視神経乳頭近傍の網膜動脈はほぼ100%,静脈では70%で算出され,再現性のある測定ができることを確認している.III眼底での酸素飽和度測定の意義と問題点眼底での低酸素状態は,臨床的に直接検査する手段はなく,従来は蛍光眼底造影法で血管床閉塞の有無をみて間接的に乏血状態を定性的に評価していた.筆者らの開発した波長解析法による評価の最大の特徴は,非観血的な観察が可能な点である.そして,ここで臨床例をあげたように(図4),眼底局所の変化は蛍光眼底造影法での結果にほぼ対応するするが,その後の多彩な臨床例での検索では,その情報の質は,蛍光眼底造影法で得られるものとは別物であるとの感触を得ている.つまり,本法で表される酸素飽和度は,供給される酸素と消費された酸素の差を測定しているものであるため,局所の組織活性度?が結果に反映されていると考えている.これは,健常若年者と老年者との比較より,若年者で眼底後極部での酸素飽和度は老年者のそれに比べて低い,という結果より筆者らが推測をしていることである.また,血流量の測定結果とも必ずしも一致していない.これらの事実は,網膜循環だけでなく,網膜を代謝の面から検索可能であることを示唆していると考えられる.本装置の有用性については,多施設での評価が必要であり,まだ研究の緒についたばかりである.しかし,網膜酸素代謝を指標とした,網膜疾患を検索する新しい画像診断装置であると理解しており,今後の発展が期待される.文献1)YoneyaS,SaitoT,NishiyamaYetal:Retinaloxygensaturationlevelsinpatientswithcentralretinalveinocclusion.?????????????109:1521-1526,20022)BrindleyGS,WilmerEN:There?exionoflightfromthemacularandperipheralfundusoculiinman.?????????116:350-356,19523)vanNorrenD,TiemeijerLF:Spectralre?ectanceofthehumaneye.??????????26:313-320,19894)DeloriFC,P?bsenKP:Spectralre?ectanceofthehumanocularfundus.??????????????28:1061-1077,19895)CabibRA,BuckwaldY,GariniYetal:SaptiallyresolvedFouriertransformspectroscopy(spectralimaging):apowerfultoolforquantitativeanalyticalmicroscopy.????2678:278-291,1996

眼循環検査(HRA2を用いて)

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———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS画角15?で16フレーム/秒と多く,動画撮影にはこちらのほうが適している.I眼循環をみるために必要な機能1.動画動画が必要とされるのは,血管閉塞性疾患における血流動態の把握,加齢黄斑変性(AMD)における新生血管の流出入血管の検出,ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)におけるポリープ状病巣の拍動の有無の確認など,さまざまな用途がある.動画の連続撮影時間は,1秒からコンピュータのメモリがフルになるまで(約1分弱)に設定することができる.また,撮影した動画をExpandし,動画内のすべての画像を単一画像としてみることがはじめにHRA2(HeidelbergRetinaAngiograph2)(図1)は,デジタルでフルオレセイン蛍光造影(FA),インドシアニングリーン蛍光造影(IA)を撮影する共焦点走査レーザーシステムで,FA,IA単独,もしくは同時に実行することができる眼底造影撮影装置である.この器械の最も優れた点は,静止画,動画ともに解像度の高い詳細な所見を得ることが可能なことである.造影画像はそれぞれ384×384,もしくは1,536×1,536画素の解像度でデジタル化され,コンピュータのハードディスクに保存される.視野走査サイズは標準装備の対物レンズで15?×15?,20?×20?,30?×30?に設定できるが,オプションでより広角な眼底像を得られる55?ワイドフィールドレンズという対物レンズを設置すると,55?×55?と広範囲の眼底造影画像を撮影することができる.さらに,接眼式の広角レンズを用いると,画質はやや落ちるものの,画角150?で動画,静止画ともに撮影することができる.スキャン解像度は,高画質モードと高速モードの2種類から選択でき,高画質モードはデジタル解像度5?m/pixelで,画像サイズは画角30?で1,536×1,536pixelと解像度の高い画像を得ることができる.この場合,取り込み速度が画角30?で5フレーム/秒と少ないため,静止画の撮影に適している.一方,高速モードはデジタル解像度10?m/pixelで,画像サイズは画角30?で768×768pixelと高画質モードより解像度はおちるが,取り込み速度が画角30?で9フレーム/秒,(23)??*ChiekoShiragami&FumioShiraga:香川大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕白神千恵子:〒761-0793香川県木田郡三木町大字池戸1750-1香川大学医学部眼科学教室特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):23~29,2007眼循環検査(HRA2を用いて)??????????????????????????????????????????????????????????????????白神千恵子*白神史雄*図1HRA2のカメラ本体とコンピュータ———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(24)できる.そこで,瞬目などによる不要な画像を削除することが可能で,さらに眼の動きを補正する機能(AlignMovie)も備わっている.2.FA,IA同時撮影FA,IAの同時撮影をすると,同時期に同部位のそれぞれの画像を一つのモニターで並べてみることができる.同時撮影静止画像の画面上で,FA,IAのどちらかの画像上の一カ所にカーソルを合わせると,もう一方の眼底像の同部位に指標がでるので,FAとIAの同時画面上同じ部位を同時に示すことが可能である.AMDではIAで検出される脈絡膜新生血管の範囲,PCVではIAで検出されるポリープ状病巣の位置などの確認が,FA画像上の網膜血管や中心窩をランドマークにすることによって容易であり,レーザー光凝固などの治療の際に非常に有用である.また,網膜静脈閉塞症において,FAでは出血などによって網膜血管の蛍光が遮断され,血管の走行や閉塞部位が不明瞭になることがあるが,IAは網膜出血の影響をあまり受けず,網膜血管の走行が比較的明瞭に描出されるため,FA,IAの同時撮影を行うと病態をより把握しやすくなる.3.画像処理コンピュータ内蔵のソフトにて,さまざまな画像処理,画像操作を行うことができる.まず,撮影画像をより鮮明な画像にするために,コントラストや明るさの調整,画像ノイズの処理,輪郭強調を調整することができる.また,角膜曲率半径の入力が必要であるが,画像上で距離や面積の測定ができるため,病変の面積や最大径,血管径などの測定ができる.さらに,眼底広範囲の造影写真を撮影した場合,それらの画像を選択してコンポジット処理を行うと,瞬時にパノラマ写真が合成される機能も備わっている.4.広角撮影標準装備のカメラの対物レンズは拡大が大きいため,黄斑疾患など血管アーケード内に主体病巣がある症例には適しているが,ぶどう膜炎,糖尿病網膜症など広範囲の撮影が必要なときは,静止画なら前述のコンポジット機能を用いる方法もあるが,オプションの55?ワイドフィールドレンズの対物レンズを使用すると,55?画角で動画,静止画ともに撮影できる.また,接眼式の広角レンズ(Staurenghi230SLORetinaLens,Ocular)を用いると,画角150?と広範囲の画像(図2)を撮影することが可能で,眼底全体の造影所見を一度に確認できる.II疾患別眼循環検査1.AMDa.栄養血管(FV)(図3)AMDにおいて,脈絡膜新生血管に血流を供給する動脈系のFVが検出されることがあり,栄養血管光凝固治療を行うことがある1).FVを検出するためにはIAの造影早期における動脈相の動画が必要である.高速モードで撮影すると,Rodenstock社製走査レーザー検眼鏡(SLO)で撮影したアナログ動画と同等のデジタル動画を得ることができ,さらに動画画像を高解像度の単一画像としてもみることができる.動画を1フレーム/秒で動くように設定すると,ビデオのコマ送りと同様にスローモーションで動画を読影することができるため,図2画角150?のIA画像接眼式の広角レンズ(Staurenghi230SLORetinaLens,Ocular)を用いて画角150?で撮影したポリープ状脈絡膜血管症のIA写真.———————————————————————-Page3(25)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??FVの検出の際には,たいへん役に立つ.また,FA,IAの同時撮影を行った同時画面において,IAにて検出されたFVの起始部の位置をFA画像上でマーキングすることが可能で,治療の際にFA画像上での網膜血管の位置をランドマークにすることが容易となる.b.PCVのポリープ状病巣の拍動PCVは,IAにて,まず異常血管網が造影され,ついでその先端が瘤状に拡張したポリープ状病巣がみられるのが典型例である.PCVの活動性を判断する際に,ポリープ状病巣の拍動の有無は重要である.拍動のあるポリープ状病巣は自然経過でも破裂して大出血を生じやすいため,早めにレーザー治療などの出血予防処置をしておいたほうがよい.ポリープ状病巣の拍動をみるにはIA造影早期の動画が必要であるが,HRA2で撮影すると拍動の細かい動きも確認することができる.c.網膜血管腫状増殖(RAP)の網膜流出入血管RAPは網膜内に血管腫状の新生血管が発生し,網膜細動静脈と吻合して新生血管が発育していく疾患であ図3加齢黄斑変性のIA画像a:造影早期動脈相に脈絡膜新生血管(CNV)の栄養血管(FV)(矢印)が造影されている.b:静脈相になるとFVは不明瞭となり,CNV全体の新生血管網が明瞭に造影されている.ab図4網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)RAPの症例は,網膜の流出入血管の同定はFA(a)のほうがわかりやすく(矢印:流入動脈,矢頭:流出静脈),新生血管の範囲(矢頭)はIA(b)のほうがわかりやすい症例が多い.ab———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(26)る2)が,RAPと診断するためには造影検査によって網膜血管と新生血管の吻合を検出することが重要である.RAPの症例では網膜の流出入血管の同定はFA,新生血管の範囲はIAのほうがわかりやすい症例が多い(図4)ので,FA,IAの同時撮影を行い両画像の動画をみることによって診断が容易となる.d.光線力学的療法(PDT)後の脈絡膜血管の循環障害AMDに対しPDTを施行すると,ほとんどの症例において術後1週目頃にはレーザーの照射範囲がIAにて低蛍光を示しており,一時的に脈絡膜毛細血管や脈絡膜中大血管の一部が閉塞するものと考えられる(図5).このIAでの低蛍光の所見は造影早期から晩期にかけて認められ,脈絡膜循環障害であることを示している3).2.特発性黄斑部毛細血管拡張症(idiopathicmaculartelangiectasia)この疾患は,黄斑部の網膜毛細血管が拡張し,あるいは毛細血管瘤を形成して,血管壁の透過性が亢進し黄斑図5光線力学的療法(PDT)後の脈絡膜血管の循環障害ポリープ状脈絡膜血管症の症例で,典型的な瘤状に血管が拡張したポリープ状病巣を術前のIA(a)が示している.PDT施行後1週のIA(b)では,レーザーの照射野に一致して脈絡膜毛細血管の閉塞によると考えられる低蛍光の所見がみられる.abab図6特発性黄斑部毛細血管拡張症この疾患の診断にはFAの造影早期にみられる網膜毛細血管の拡張や毛細血管瘤が必要であるが,FAでは造影後期になると毛細血管からの蛍光漏出が強く(a),加齢黄斑変性などと鑑別がむずかしくなる.一方,IA(b)は網膜血管からの造影剤の蛍光漏出が少ないためこういった疾患の診断には有用である.———————————————————————-Page5(27)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??浮腫が生じることによって,中心視力が低下する疾患である4).診断にはおもにFAの造影早期を用いるが,FAは造影後期になると蛍光漏出が旺盛なため(図6a),AMDや黄斑分枝静脈閉塞症などと診断を誤る症例も少なくない.FAにて造影早期の写真がきれいに撮れていれば問題はないが,IAで撮影すると造影剤の血管外漏出がほとんどないため,造影開始後ある程度時間がたっても網膜血管の走行が明瞭に確認でき(図6b),診断には有用である.3.多発性消失性白点症候群(MEWDS)MEWDSは眼底後極部から赤道部にかけて網膜深層に白色の滲出斑が多発性散在性に生じる炎症性疾患である.FAにおける過蛍光の部位に一致して,IAでは造影早期から晩期まで低蛍光を示す(図7).HRA2は,FAとIAの同時撮影ができることと,造影早期から晩期の造影画像が鮮明なことから,MEWDSなどぶどう膜炎の診断にも有用である.また,眼底広範囲に病変があるので,55?ワイドフィールドレンズを用いて撮影す図7多発性消失性白点症候群の蛍光眼底所見a:FA,IA同時撮影(造影早期).白点病巣はFA(左)にて過蛍光,IA(右)では低蛍光を示す.b:白点病巣のIA所見は造影早期から後期までの低蛍光である.ab図8網膜静脈分枝閉塞症a:造影開始後16秒のIA.網膜動脈のみ造影されている.b:造影開始後18秒のIA.閉塞した網膜静脈の血管壁が染色されている.c:造影開始後25秒のIA.閉塞血管は拡張,蛇行し,循環時間は著しく遅延している.また,網膜循環の側副血行(矢印)が形成されている.abc———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(28)るほうが病態全体を把握しやすい.4.網膜静脈閉塞症a.循環時間IAは網膜出血や滲出斑による蛍光ブロックの影響がFAに比較すると少なく,造影剤の血管外漏出も少ないため,網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)では,IAの動画撮影によって血管の閉塞部位の検出が容易となる.また,血管の閉塞部位より末?側での側副血行路の形成がしばしば認められるが,これもIAの動画にて静脈の血流を確認できるため検出しやすい(図8).それらの動画を高解像度の単一画像の静止画としてみることもでき,網膜循環の詳細を1枚ずつ読影することが可能である.b.治療前後の血管径の変化画像操作ツールを用いて網膜血管径を測定することができるので,網膜静脈閉塞症に対する治療の前後における血管径の変化を定量的に把握することができる(図9).c.網膜中心静脈閉塞症(CRVO)CRVOは病変が広範囲であるので,55?の広角レンズを用いて造影検査を行うのがよい(図10).FAでは造影早期から強い蛍光漏出を示し,出血や滲出斑によって網膜血管の走行が不明瞭となるが,IAを施行するとそれらの影響をあまり受けないため,網膜血管の拡張,蛇図9網膜静脈閉塞症の血管径の変化a:拡張した網膜静脈の血管分岐部における血管径をIA画像上測定したところ,0.23mmであった.b:同症例に硝子体手術を施行後,同部位の血管径を測定すると,0.16mmと細くなっていた.0.16mm0.16mm0.23mm0.23mmab図10網膜中心静脈閉塞症(CRVO)CRVOに55?ワイドフィールドレンズを用いて造影検査を行うと,FA(a)では造影早期から強い蛍光漏出を示し,また出血や滲出斑によって,網膜血管の走行が不明瞭となる.一方,IA(b)はそれらの影響をあまり受けないため,網膜血管の拡張,蛇行などの状態を把握しやすい.ba———————————————————————-Page7(29)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??行などの状態を把握しやすい.5.網膜細動脈瘤前述したように,FAは網膜出血の影響で網膜血管の走行や形状が不明瞭となるが,IAはあまり影響を受けないため,網膜前出血のある症例での細動脈瘤の部位の同定にIAは有用である(図11).特に,造影早期の動画でみると,活動性のある細動脈瘤では拍動が確認できる.おわりにHRA2の特徴は,鮮明な画像を動画,静止画ともに撮影することが可能で,さらに動画を連続した単一画像としてみることができることから,さまざまな病変における部位の同定,範囲の把握,また脈絡膜血管の異常,ランドマークとしての網膜血管走行などを明瞭に検出できることである.特に,IAの施行はメリットが多く,FAだけでは不明瞭な病変や網膜血管を検出できるので,循環検査には有用である.HRA2を用いた眼循環検査では,疾患や造影検査の目的に合わせてFA,IAの同時撮影,広角レンズを用いた広角撮影,造影早期の動画撮影を行うことが必要である.文献1)ShiragaF,OjimaY,MatsuoTetal:Feedervesselphoto-coagulationofsubfovealchoroidalneovascularizationsec-ondarytoage-relatedmaculardegeneration.??????????????105:662-669,19982)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration.??????21:416-434,20013)Schlotzer-SchrehardtU,ViestenzA,NaumannGOetal:Dose-relatedstructurale?ectsofphotodynamictherapyonchoroidalandretinalstructuresofhumaneyes.????????????????????????????????240:748-757,20024)YannuzziLA,BardalAM,FreundKBetal:Idiopathicmaculartelangiectasia.???????????????124:450-460,2006図11網膜細動脈瘤網膜前出血のある症例では,FA(a)では出血による蛍光ブロックのため細動脈瘤の部位が不明だが,IA(b)では出血の影響をあまり受けないため細動脈瘤(矢印)の部位が特定できる.ab

光干渉断層計/走査レーザー検眼鏡(OCT/SLO)の実際

2007年1月31日 水曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSめ,検査室の四隅にも設置可能である.検査は,短時間で簡単にでき,被検者に無侵襲なため,研修医やスタッフが使用しても必要な病変部位を容易に撮影できる.光源は,波長820?mのスーパールミネセンスダイオード(SLD)を用いており,被検者の羞明感がない.眼底画像,OCT断層像を同一光源で取得することで,位置情報を正確に把握することが可能となる.散瞳不良症例(3mm以上の瞳孔径)の撮影にも有効である.OCT画像の解像度は,Z軸:9??m,X-Y平面:18?mで,断面層厚は最大6mm(可変)であるが,通常1.5mmを使用している.撮影範囲は,最大30?×30?(可変)で,初期値は24?×24?となっている.スキャン速度は,C-scan:2~32フレーム/秒,B-scan:1または2フレーム/秒で,固視に問題がない場合は,C-scan:2フレーム/秒,B-はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)により,非侵襲的に網膜断層像を,顕微鏡で組織切片を見るように観察可能となった.2002年には分解能が向上したOCT3000がCarlZeissMeditecから製品化された.しかし,このOCT装置では二次元情報が主であり,三次元化のためにはスキャン部位をかえて数10~数100枚の画像を取得後,ボリュームレンダリングなどの技術で再構築する必要がある.測定に長い時間を要し,アライメントも煩雑となり,高精度の三次元画像の構築はできないのが実状であった.1998年,Kent大学のPodoleanuらによって,二次元的にOCT像を取得する方法が考案され1),この原理を用いることにより三次元的に網膜を評価する可能性が生まれた.2003年になると,OTI社から走査レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)とOCTとを組み合わせて断層像を評価できるOCT/SLOが製品化された.この装置の特徴として,従来のOCT画像と同様の断層像(B-scan)を得ることもできるが,眼底と平行面のスキャン(C-scan)を重ね合わせて,三次元の画像を得ることができる.日本では(株)ニデックからOCTオフサルモスコープ(C7)として市販化されている.IOCTオフサルモスコープ(C7)の概要C7のシステムは測定器本体,液晶モニタ,コンピュータ本体,プリンタからなる(図1).対面式ではないた(15)??*YujiKato,SatoshiIshiko&AkitoshiYoshida:旭川医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕加藤祐司:〒078-8510旭川市緑が丘東2-1-1-1旭川医科大学眼科学講座特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):15~21,2007光干渉断層計/走査レーザー検眼鏡(OCT/SLO)の実際????????????????????????????????????????????????????/?????????????????????????????(???/???)??????加藤祐司*石子智士*吉田晃敏*図1OCTオフサルモスコープの撮影風景———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(16)scan:1フレーム/秒で使用している.B,C-scan像ともグレースケールと疑似カラー両者の表示が可能である.B,C-scanの撮影モードのほかに,立体撮影による網膜厚の評価も可能である.II測定方法と検査データの読み方1.C-scan眼底に平行な面(X-Y面)としての断層像を得ることができる.1スライスの厚さ,スキャン幅は可変であるが,通常は厚さ(Stackthickness)30??m,スキャン幅(Stackdistance)1,500??mで撮影している(図2).この場合,50枚のC-scanが得られる.このC-scan連続OCT像から,奥行きのある立体的な像が構築できる.また,SLO画像とC-scan画像はpixeltopixelで対応しているので,重ね合わせることで正確に病変部位を評価,確認できる(オーバーレイ機能).スキャン範囲は面であるが,眼底が凹に弯曲していることをイメージして読影する必要がある.C-scanは網膜水平方向の断面を表し,最も高反射となるラインが網膜色素上皮層で,正常者では同心円に描出される.円の外側が網膜色素上皮より深層,つまり脈絡膜で円より内側が感覚網膜である.網膜色素上皮層との位置関係により病変部の形状,大きさ,深さの情報を得ることがC-scan読影上のポイントである(図3).2.B-scan光軸方向のスキャンの幅は通常は1.5mm幅で,網膜?離や後部ぶどう腫など丈の高い疾患ではスキャン幅を大きくできる(図4).得られる画像は従来型OCTと一見同じである(図5)が,そのスキャン方法に違いがある.従来型OCTはA-scanを合成して断層像を得てい図2C-scan奥行き方向に任意の間隔で設定可能.疾患部の大きさ,位置,形状を考慮して設定する.図3正常者のOCTオフサルモスコープ所見左:共焦点画像,右:C-scan.最も高反射となるラインが網膜色素上皮で,正常者では同心円状に描出される.図4B-scan深さ方向(Z軸)に6mmまで測定範囲を切り替え可能.疾患部の大きな症例も逃さず撮影できる.図5正常者のOCTオフサルモスコープ所見(B-scan)視神経乳頭から黄斑部まで走査した.B-scan画像は網膜断面の各層をわかりやすくするため,深さ(高さ)方向を拡大表示している(上段).下段は縦横比1:1で表示した場合.———————————————————————-Page3(17)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??るが,C7では,まず横方向(一眼底平面,X,Y方向)に高速でスキャンし,つぎにリファレンスミラーを奥行き方向へ動かすことでB-scan像を取得する(図6).断従来のOCTOCT/SLOX-YaxisZaxisMultipletransversal-scansMultipleA-scans図6断層像の取得方法従来のOCTはZ軸方向にスキャンした像を合成して眼底断面像を得ている.OCT/SLOは,水平方向にスキャンし,つぎにリファレンスミラーを奥行き方向へ動かすことで断層像を得ている.共焦点画像B-scan図73D-クロス表示図8共焦点画像とトポグラフィー固視のずれなどがあっても眼底の画像を見ながら任意の測定部位を探すことが可能である.図9Zone解析中心1mmの平均網膜厚,周辺3mmの平均網膜厚を表示する.従来のOCTのRetinalMapと比較するのに有用である.512×512の測定点を有しているので,マウスポインターを置くと,ピンポイントで網膜厚を表示することも可能である(矢印).図10トポグラフィー画像の3D表示(網膜色素上皮?離)ウインドウ上でのマウス操作により,表示の向きや傾きが変化し,三次元的に病巣部を捉えることが可能となった.———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(18)面位置の角度の変更も光軸中心に15?間隔で回転する.断面位置の上下・左右の変更も可能なため,共焦点画像を見ながら,C-scanで得た情報を基に,病変部を見落とすことなくB-scanを行うことが可能である.また,共焦点画像とB-scan像を3D-クロス画像として表示すると,患者への説明やプレゼンテーションに有用である(図7).図12症例1:硝子体黄斑牽引症候群のB,C-scanB-scan(上段)では,肥厚した後部硝子体膜に黄斑が牽引(↑)され,網膜?離が生じている様子が描出される.①の断面でC-scanを行うと(下段左),後部硝子体膜による網膜牽引の様子が,②の断面では網膜?離の広がりが理解しやすい(下段右).RPE:網膜色素上皮.①①②②網膜?離RPEC-scanC-scanB-scanオーバーレイオーバーレイ図11トポグラフィーのCompare機能上:網膜厚の増減を治療前後や,経時的な網膜厚の変化を詳細に把握することが可能.同一ポイントで比較できるように共焦点画像を参照して位置合わせを行う(ALIGN).下:2つのトポグラフィーのずれを自動補正した後,網膜厚の変化をマッピングするとともに,平均網膜厚差を表示する.初診時治療経過観察後———————————————————————-Page5(19)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??3.トポグラフィー撮影(FastTopographyStack)網膜厚をC-scan画像を用いて詳細に計測できるモード.従来のOCTでの網膜厚測定は,B-scanを数枚撮影してカラーマップを作成するが,それに比べデータ量が豊富である.512×512の測定点をもっている.この豊富なデータ量を利用することで,共焦点画像を参照し確認しながら(図8),Grid解析(64分割の小エリアでの平均網膜厚を表示),Zone解析,ピンポイント解析で黄斑部の網膜厚測定が可能となる(図9).またトポグラフィー画像はRender表示(3D)によりあらゆる面から立体的に病変のOCT像が観察できる(図10).Com-pare機能を用いると,網膜厚の経時変化を定量的に計測することができる.同一ポイントで比較できるように位置合わせを行い,変化部位のカラーマップ表示と平均変化量の表示を行うことが可能である(図11).IIIOCT/SLO像?異常所見とその解釈従来のOCTから得られた知見は多くの論文や書籍で述べられている2,3).本稿では,いくつかの網膜硝子体疾患についてOCT/SLO像を,症例呈示し供覧する.図13第3期黄斑円孔のOCT/SLO所見上段のC-scanでは,円孔周囲に放射状に広がるHenle層の皺襞が花弁状に円孔を取り囲んでいるのが描出される.下段は中心窩を通るB-scanの水平断(0?).円孔周囲の網膜内層間分離を認め,蓋が後部硝子体皮質に付着して黄斑部に浮遊している.B-scanには,キャリパー機能もあり網膜色素上皮から蓋までの距離は0.9mmである.図14症例3:原田病の初診時眼底像(a)およびOCT/SLO所見(b)a:網膜?離は複数の?離が癒合した形を取っている(46歳,女性,視力0.2).黄斑部を含む類円形の網膜?離の断層像を矢印上で観察した.b:B-scan水平断(0?)では,網膜下腔に線状のOCT反射がある.B-scan(90?)では,2つの?離が接しており,この間の網膜に高度の?胞状の浮腫を認める.C-scanでは,漿液性網膜?離が近接しており,病変の広がりを確認することができる.ab共焦点画像C-scan感覚網膜網膜?離網膜?離RPEB-scan(0°)B-scan(90°)———————————————————————-Page6??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(20)症例1:硝子体黄斑牽引症候群図12は増殖糖尿病網膜症の症例である.部分的に?離した硝子体皮質が黄斑部網膜を牽引している様子が描出される.C-scanでは,X-Y面での後部硝子体膜や網膜?離の広がりがわかる.症例2:黄斑円孔黄斑円孔は,OCTでその形成過程を鮮明に描出できる.硝子体皮質の薄い?離は,細隙灯顕微鏡でも通常は観察困難で,OCTがその同定には不可欠である.図13は第3期黄斑円孔のC7の結果で,蓋が後部硝子体皮質に付着して黄斑部に浮遊している画像である.症例3:原田病(図14)原田病の急性期では後極部に漿液性網膜?離が生じる.OCT/SLOを用いることにより,網膜?離の広がりを鋭敏に捉えることができる.症例4:加齢黄斑変性(図15)加齢黄斑変性の脈絡膜新生血管(choroidalneovascu-larization:CNV)は,Gassが病理学的に2タイプに分類している4).網膜色素上皮(RPE)下に脈絡膜血管由来の新生血管が発育するタイプ(type1)とRPEの上に新生血管が発育するタイプ(type2)である.蛍光眼底造影検査とあわせ,OCT/SLOはこのような網膜外層の病理を考えるうえで非常に有用である.図15症例4:加齢黄斑変性の初診時眼底像(a),フルオレセイン蛍光眼底造影(b)およびOCT/SLO所見(c)a:網膜下に線維化の進行したtype2新生血管が見られる.b:フルオレセイン蛍光眼底造影.新生血管は早期に網目状を呈し,後期に組織染を示す.バーはOCTのB-scan部位.c:B-scan.RPEの高反射層の断裂様所見を認め(↑),網膜下に突出し,高反射の線維血管膜を認める.感覚網膜には?胞様黄斑浮腫(CME)を認める.CNV:脈絡膜新生血管,RPE:網膜色素上皮.acb共焦点画像C-scan感覚網膜硝子体腔脈絡膜CNVCNVRPEの断裂CMEB-scan(0°)RPE———————————————————————-Page7(21)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??おわりにOCT/SLOは従来までのOCTとは異なり,網膜表層画像(共焦点画像)と,断面画像(C-scan画像)を同時に取得することで,今まで断層でしか観察できなかった症例を三次元表示させることが可能となった.今後のソフトウエアの改良で,体積が数値化できるため,客観的な診断,評価が可能となり,治療法の選択やインフォームド・コンセントなどに有用な装置となる.さらに,retinalnerve?verlayer(RNFL,網膜神経線維層)の解析がすでに可能となっており,緑内障分野にも活用される.また,インドシアニングリーン(ICG)蛍光眼底造影の搭載したOCT/SLO/ICGの開発も進んでいる.眼底病変を三次元,さらに眼循環などの機能検査と組み合わせて評価する時代が現実になろうとしている.文献1)PodoleanuAG,SeegerM,DobreGMetal:Transversalandlongitudinalimagesfromtheretinaofthelivingeyeusinglowcoherencere?ectometry.?????????????3:12-20,19982)岸章治(編):眼科診療プラクティス78,OCTの読み方,文光堂,20023)飯田知弘:光干渉断層計.あたらしい眼科21:319-323,20044)GassJDM:Biomicroscopicandhistopathologicconsider-ationsregardingthefeasibilityofsurgicalexcisionofsub-fovealneovascularmembranes.???????????????118:285-298,1994