———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSer)ドメインOCTである.以上の製品化の流れは,多くの眼科医の経験してきたところであるが,ここにきて「タイムドメインOCTの限界」や「次世代OCTとしてのフーリエドメインOCT」などと難解な光学技術用語が出てくるに至り,多くの眼科医の先生方の思考は麻痺するのではないか.「OCTの進歩」を考えるとき,計測技術としてのOCT技術の研究の背景を知ることにより,むしろ今後のOCTの理解が容易になると思われる.ここでは,「OCT=OCT2000またはOCT3000」という経験上の固定概念を崩し,「OCTは光により物の断層像を描出する技術の一つ」という原点に立ち返り,それにより,OCT2000の登場は序章にすぎなかったこと,今後OCT装置に大きな展開があるという理解を共有したい.IOCTという技術の成り立ち光は粒子であるとともに波の性質も有する.生体を通過あるいは反射した光波は,生体組織の多重散乱などの影響で乱雑な波面を形成する.この光が生体から受ける乱れのなかにこそ,実は生体組織の豊富な情報が詰まっている.生体組織の影響を受けた光波面を直接検出し画像化する(イメージング)ことができれば,生体組織のさまざまな情報が得られると期待されるが,残念ながら現存する検出器(detector)の速度が幾桁も不足し,現時点でも近未来にも「光の直接イメージング」は見込みが立たない.その代わりに,光のもつコヒーレンス(可はじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,眼科診療にかなり浸透したといえるが,その歴史はコンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像(MRI)に比べるとまだ浅い.国内では1997年にHumphrey社(現在CarlZeissMeditec)から最初のモデルOCT2000が発売された.群馬大学の岸らが,第1号機を購入し,OCTの臨床的意義を広めたことは記憶に新しい.OCT2000は,網膜断層を内層・外層が議論できる程度に可視化し,さまざまな病変の断層イメージを提供し,眼底疾患の診断に革命的進展をもたらした.特に,網膜硝子体界面と中心窩病変の描出により黄斑円孔の病態解明と病期決定において疾患概念を変える知見をもたらした.また,実際の臨床においては,黄斑円孔手術後の円孔閉鎖の有無を容易に確認できるようになり,網膜厚計測とマッピングにより糖尿病黄斑症や網膜静脈閉塞症における黄斑浮腫の治療効果の評価にも不可欠となった.2002年に発売となったStratusOCT(OCT3000)は,深さ分解能(axialresolution)が10?mへ向上したが,技術的にはマイナーチェンジであり,眼科診療に変革をもたらすほどではなく,発売から10年が経過し,計測精度,病変描出力,撮影速度などにおいて限界が指摘されるようになった1).これは,従来のOCT製品が用いていたOCT技術であるタイムドメインOCT(timedomainOCT)の技術的限界でもある.そして,現在次世代のOCTとして注目されているのがフーリエ(Fouri-(3)?*MasanoriHangai:京都大学大学院医学研究科運動感覚系外科学眼科学〔別刷請求先〕板谷正紀:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科運動感覚系外科学眼科学特集●最新の網膜硝子体検査あたらしい眼科24(1):3~13,2007眼底OCT技術の進歩??????????????????????????????????????????????????????????板谷正紀*———————————————————————-Page2?あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007干渉性)という波の性質に着目し,組織からの反射光(後方散乱光)と参照光の時間領域の干渉を検出し,後方散乱光が有する生体情報を間接的に検出し画像化する技術,いわば「光の間接イメージング」が,opticalcoherencetomographyである2,3).この原理を最初に提案したのが山形大学の丹野らであり,1990年のことであった(表1)4).続いて1991年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のFujimotoらにより画像化が実現された5).IIOCTの検出原理の研究の流れ1991年に,最初に画像化に成功したOCTはタイムドメイン(timedomain)とよばれる検出方式を取る.一方,2003年に,OpticsExpressやOpticsLetterなどの光学系ジャーナルに高速かつ鮮明な網膜の画像化が相ついで報告されはじめたのが,フーリエドメイン(Fourierdomain)とよばれる別の検出方式である(表1).タイムドメインOCTは,光波の干渉を実空間(時間(4)表1光干渉断層計(OCT)技術研究および製品化の流れ年代研究製品上市国内国外1990・山形大・丹野ら,国内特許出願1991・MITのFujimoto,国際特許出願・MITのFujimoto,ScienceにOCT画像を発表1993・Fujimotoら,OpticsLetterに眼底断層像掲載1995・FD-OCTの原理についての報告が掲載され始める1997・CZM社,OCT2000発売(群馬大・岸ら1号機購入)2000・筑波大・安野らによりFD-OCTのシステムが報告される2001・MITのDrexler,Fujimotoら,NatureMedicineに網膜のUHR-OCT画像を発表2002・CZM社OCT3000発売2003・FD-OCTの画像化成功が相つぐ2004・JST「生体計測用超高速フーリエ光レーダー顕微鏡」(筑波大・谷田貝)・MT社「EGスキャナー」発売・NIDEK社「OCTOphthalmoscopeC7」発売2005・JST先端計測分析技術・機器開発事業「生体計測用・超深達度光断層撮影技術」(北里大・大林)・NEDO「生活習慣病超早期診断眼底イメージング」(PL京都大・吉村)2006・トプコン社「3DOCT-1000」発売表中敬称略.MIT:MassachusettsInstituteofTechnology,FD-OCT:Fourierdomainopticalcoherencetomography,UHR-OCT:Ultrahighresolutionopticalcoherencetomography,CZM社:CarlZeissMeditec社,MT社:MicroTomography社(マイクロトモグラフィー社),PL:Projectleader.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007?領域)で行う.これに対し,フーリエドメインOCTは,光波の干渉をフーリエ空間(周波数領域または波長領域)で行う.別名,スペクトラルドメイン(spectraldomain)OCTまたはフリーケンシードメイン(frequen-cydomain)OCTともよばれる.眼科医が理解しておくとよいのは,フーリエドメインOCTがタイムドメインOCTよりも桁違いに高速撮影ができることである.高速化を可能にする大きな違いは,深さ方向への機械的走査の必要性の有無にある.タイムドメインOCTは,1回の計測により,試料の三次元構造の1点の情報を得る方式であるため,二次元の断層画像を構成するためには,横方向に加えて深さ方向(axialscan)の機械的走査を要する.フーリエドメインOCTは,深さ方向の情報が1回の計測で取得できる.すなわち,深さ方向の機械的走査を必要とせず,横方向の走査のみで二次元の断層画像を構成できる.したがって,深さ方向の機械的走査に要する時間だけ,フーリエドメインOCTは,タイムドメインOCTより高速になる.文献上では25~100倍速くなる6).さらに,光源の波長を高速に変化させることにより光波の干渉を同じくフーリエ空間で行う方式の波長走査型OCT(sweptsourceOCT:SS-OCT)の画像化も報告されているが,これもフーリエドメインOCTの一つであり,高速撮影が可能である.筑波大学計算光学グループ(ComputationalOpticsGroup:COG)が前眼部のSS-OCTによる高速撮影に成功している.開発される光源の性能次第では,将来のOCTの主流になる潜在力をもつ技術である.IIIしのぎを削るOCTの研究開発【フェーズ1】タイムドメインOCTの高分解能化OCTの深さ方向の分解能は,光源の波長の広さ(波長帯域)に依存する.OCT2000もOCT3000も,中心波長830nmで波長帯域20nmのスーパールミネッセント・ダイオード(superluminescentdiode:SLD)を使用するため,限界深さ分解能は,10?m程度である.2001年,MITのFujimotoとDrexler(現ImperialCol-lege)は165nmの広い波長帯域をもつフェムト秒レーザー(femtosecondlaser;別名,チタン・サファイアレーザー:titanium-sapphirelaser)を光源として用い,深さ分解能3?mの網膜断層画像を報告した7).超高分解能OCT(ultrahighresolutionOCT:UHR-OCT)とよばれる.以来,眼科英文メジャージャーナルにUHR-OCTの臨床報告が相ついでいる(図1)8~10).分解能が(5)図1超高分解能光干渉断層計(UltrahighresolutionOCT:UHR-OCT)の正常眼における断層像例中心波長815nm,波長幅125nmのtitanium:sapphirefemtosecondlaserを光源に用い,分解能3?mを得ている.水平Aスキャン数3,000である.商用タイムドメインOCTに比べ,網膜層構造が明瞭になり,特に外境界膜が可視化され,色素上皮層の高反射ラインの内方にもう1本の高反射ラインが観察される.A:黄斑断層像,B:Aの中心窩の拡大.INL:内顆粒層,IPL:内網状層,OPL:外網状層,RPE:網膜色素上皮,ELM:外境界膜,GCL:神経節細胞層,NFL:網膜神経線維層,ONL:外顆粒層,IS/OSjunction:視細胞内節外節境界部.(KoTH,WitkinAJ,FujimotoJGetal:Ultrahigh-resolutionopticalcoherencetomographyofsurgicallyclosedmacularholes.???????????????124:827-836,2006より)500μm250μmAB———————————————————————-Page4?あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007向上したが,撮影速度が遅くなったのが,実用性として問題である.高分解能化により眼底OCT画像の何が変わるだろうか?①網膜層構造のコントラストの向上:病変がどの層に存在するかが描出される(図1).②外境界膜と視細胞層の可視化:OCT3000では視細胞の外節内節境界部(photoreceptorinnerandoutersegmentjunction:IS/OS)と色素上皮層が高反射な二重ラインを成す(図1).一方,UHR-OCTではIS/OSの内側に外境界膜(ELM)が描出され,色素上皮層のラインが2つのラインに分離される.つまり四重ラインをなす.外境界膜の可視化は,視細胞層の病変(肥厚や菲薄化)を観察可能とし,黄斑円孔,黄斑浮腫,黄斑上膜などさまざまな黄斑疾患の視力障害と中心窩視細胞層の病変との関係を研究可能とする8~10).また,視細胞層の描出力も向上する.OCT3000では円孔部の視細胞は破壊されてなくなっているかのようにしか見えないが,UHR-OCTで観察すると円孔部のIS/OSの後方反射は光学的に減弱化しているものの低反射な視細胞層は観察され前方に吊り上げられている様子が理解できる9).手術後に円孔が閉鎖するとIS/OSが復元される.黄斑円孔でなぜ視力が改善するかが理解できる.③オカルト型脈絡膜新生血管(occultCNV)の可視化:色素上皮?離やoccultCNVにおいて網膜色素上皮の太い高反射ラインのすぐ外方に高反射な細い直線的なラインが観察される8).Bruch膜の外層と見なせるが,もしこれが正しければ,occultCNVは新生血管がBruch膜内部に存在することが示唆される.【フェーズ2】フーリエドメインOCTの画像化成功で火がついたOCT研究フーリエドメインOCTは,深さ方向への機械的走査が不要な技術であるため,二桁以上三桁未満高速に画像を得ることができるようになったことは前述した6).これに加え,フーリエドメインOCTはプローブ光の利用効率が高い検出法であるため,タイムドメインOCTと比べ信号雑音比(signal/noise)が高い,すなわち高感度であることが,理論的に予想され,実験的に実証されてきた.この2つの特性が,注目されていたが画像化にはもっと年月を要すると考えられていた.ところが,CCDなどの周辺ハードウエアの高機能化やFujimotoやDrexlerらを中心とするOCT研究者層の増大を背景に,フーリエドメインOCTの画像化が,特に眼底において一気に進んだ.2003年の光学系ジャーナルに,フーリエドメインOCTによる高速網膜断層撮影の成功の発表が相ついだ.わが国でも筑波大学COGの安野・谷田貝らが,フーリエドメインOCTによる網膜の画像化に成功し,(株)トプコンがCOGのシステムを基に3DOCT-1000を上市したことはご承知のことである.筆者は,2005年1月のBiomedicalOptics(BiOS)に参加し,FujimotoやDrexlerの超高分解能化された(ultra-high-resolution)フーリエドメインOCTの美しい網膜断層像を目の当たりにし驚愕したことが記憶に新しい.フーリエドメインOCTの成功とともに,BiOSにおけるOCTの発表が爆発的に増え,2006年のARVO(AssociationforResearchinVisionandOphthalmolo-gy)のフーリエドメインOCT関連発表の爆発的増加に波及した.IVOCTの将来「多様化するOCT」1.高深達OCT現行OCTでは,網膜色素上皮下の画像が急に不鮮明になる.原因は現行OCT光源の中心波長が800nm前後であるため多くが色素上皮で吸収されてしまうことにある.そこで,OCTの光源の波長を長くする研究が行われてきた.波長が長くなるほど組織の吸収が減り深達性が向上するが,逆に水への吸収が増えるため眼底へ届く光量が減るというジレンマがある.できるだけ長波長で水の吸収の谷間として注目されるのが1,040nm前後の光源である11).1,040nm前後の光源を用いると脈絡膜の描出が著しく改善する(図2).現在,OCT用の1,040nm前後光源の開発が行われてきており,将来の眼底用OCTは1,040nm前後の光源へ変わると予想される.色素上皮下や篩状板の病変の観察が向上すること(6)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007?が期待される.2.Full?eldOCT特殊なタイムドメインOCTであり,三次元的に最も高い分解能を実現でき細胞の可視化が期待される夢のOCT技術である.わが国の(財)山形県産業技術振興機構の陳,秋葉ら,フランスのBoccaraらにより研究開発されている.生摘出豚眼においては,角膜の上皮細胞,ケラチノサイト,内皮細胞が可視化され12),網膜神経節細胞が可視化されている.生きたヒト眼への応用には幾つかのハードルがあるが,現在克服に向けた研究が進行中である.わが国では,新エネルギー・産業技術総(7)図2高深達光干渉断層計(OCT)の原理:800nm光源と1,040nm光源のOCT像比較1,040nmは光の吸収が少ない谷間であるため長波長でありながら十分な光量が眼底へ到達する.長波長の特性として色素上皮の吸収が比較的少なく,色素上皮下の画像信号が十分得られる.実際,眼底を深く明らかに脈絡膜血管の構築の描出が改善している.眼底用OCTの理想的な波長である.NFL:網膜神経線維層,IPL:内網状層,OPL:外網状層,IS/OS:視細胞内節外節境界部,RPE:網膜色素上皮.(UnterhuberAetal:Invivoretinalopticalcoherencetomographyat1040nm-enhancedpenetrationintothecho-roids.??????????????13;3252-3258,2005より)200μm50μm:800nm:1,040nm1.51.00.50.0log.Intensit[a.u.]0100200300400500Depth[μm]OPLIS/OSRPEIPLNFLsubretinalvessels———————————————————————-Page6?あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007合開発機構(NEDO,プロジェクトリーダー京都大学・吉村長久)が助成している.OCTの深さ分解能は光源の波長帯域(波長の幅)で決まるが,横方向(X-Y面)の分解能は,対物レンズの開口により決まる.通常のタイムドメインOCTもフーリエドメインOCTも細く絞った光ビームを眼底に入射し,かつビームを横方向に走査する必要があるため,対物レンズの開口を大きくできないため,横方向の分解能が20?m程度である.Full?eldOCTはサンプルのX-Y断層画像を非走査で測定する技術であるため,光ビームの走査を必要とせず,サンプルのX-Y面と二次元センサーの間で結像関係を保つため対物レンズの開口を十分に活用することができ,高精細なCCDカメラを用いることで高い横方向分解能を成しうる.本技術がヒトの眼底に応用可能となれば,細胞レベルの病的異常に基づくまったく新しい次元の眼底疾患・緑内障の医療が始まる可能性がある.3.補償光学OCT(adaptiveopticsOCT:AO-OCT)眼底撮像において角膜・水晶体の波面(ウェーブフロント;wavefront)の収差が,分解能劣化の最大の原因であることは周知である.計測した波面収差をレーザーにより除去しクリアなvisionを得ようというのがwave-frontLASIK(laser????????keratomileusis)である.一方,波面収差を除去しクリアな像を得る学問を補償光学と言い,元は軍事技術として始まった.大気圏の波面収差を補償して人工衛星から敵国の軍事施設を偵察しようというわけである.実際には,補償光学は天文学の分野で実用化され,天体望遠鏡観察において大気圏の波面収差を除去しクリアな星々の像が得られている.日本では(8)10μmdepth10μm10μm10μm10μm10μm10μm10μm0μm1.5μm3μm4.5μm6μm7.5μm9μm10μmdepth10μm10μm10μm10μm10μm10μm10μm0μm1.5μm3μm4.5μm6μm7.5μm9μm図3補償光学光干渉断層計(adaptiveopticsopticalcoherencetomography:AO-OCT)超高分解能光干渉断層計(ultrahighresolutionOCT:UHR-OCT)に前眼部の波面収差を除去する目的の波面制御デバイスを融合した装置による視細胞画像.鉛直断面像(enface画像=Cスキャン画像)が7枚示されている.外顆粒層?外境界膜?外節を1.5?mずつ連続して示されている.1個1個の視細胞の断層が可視化されている.(FernandezEJetal:Three-dimensionaladaptiveopticsultrahigh-resolutionopticalcoherencetomographyusingaliquidcrystalspatiallightmodulator.??????????45:3432-3444,2005より)10μmdepth10μm10μm10μm10μm10μm10μm10μm0μm1.5μm3μm4.5μm6μm7.5μm9μm———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007?すばる顕微鏡に補償光学用の可変鏡が搭載されている.1997年に,Rochester大学のWilliamsらが眼底カメラに補償光学を適用し視細胞の撮影に成功したと報告した.続いて当時Houston大学(現カリフォルニア大学バークレー校)のRoordaが,SLOに補償光学を適用し白血球流の動画撮影に成功した(http://vision.berkeley.edu/roordalab/).そして,補償光学は,OCTにも適用が試みられ,感度の向上や視細胞の可視化が報告されている(図3;AO-OCT)13).まだ,ラボの装置だが,眼底の神経細胞のその場観察に基づく医療の可能性が示された.4.機能OCT(functionalOCT)―形態から機能へ生体を通過あるいは反射した光波は,ドップラー(Doppler)シフト,物性依存吸収スペクトル,偏光(polarization)など形態以外の機能的情報を豊富に有する.単に形態を描出する診断機器から網膜・視神経乳頭の機能を立体的に解析するためのfunctionalOCTの研究が行われている.①ドップラーOCT:観測者との相対的な速度によって波の周波数が異なって観測される現象をドップラー効果という.網膜血管の血流を求める技術として,眼底レーザードップラー装置が開発されている.ドップラーシフト量は血管の光軸に対する角度により補正してはじめて血流の絶対値に変換できる.製品としては,唯一キヤノン製CanonLaserBloodFlowmeter100は眼球トラッキングと2軸レーザー光を用いて血管の角度を考慮し,血管角度を反映して網膜の血流を計測できる優れた装置であったが,撮影に熟練を要し,残念ながら販売中止となっている.OCTは三次元情報を有するためドップラーOCT法は,網膜血流の絶対値を求める潜在的に最も優れた技術である14).レーザードップラーに対するアドバンテージは,血管の中の血流分布を(9)図4網膜のドップラーOCTの例京都大学プロトタイプFD-OCTによる網膜動脈のドップラーシフト量解析による網膜血流解析の例.筑波大学ComputationalOpticsGroupのプログラムを基に当科坂本らが改変した.血管内の血流分布が可視化され定量可能である.———————————————————————-Page8??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(10)可視化できることである(図4).血管の中心と血管壁の近くの血流の差を計測可能とし,糖尿病や高血圧など生活習慣病診断に資するきわめて有用な情報をもたらすことが期待できる.②偏光OCT:偏光は分子が一定方向に配列する組織において生じる.眼底においては網膜神経線維とコラーゲンを含む篩状板,血管壁,強膜などが偏光を示す.わが国では,筑波大学COGの安野・山成らが視神経乳頭の偏光OCT画像を報告しているが,篩状板や強膜輪の偏光が可視化されている.われわれ眼科医に馴染みがあるGDxは,網膜神経線維の偏光の一つである複屈折性(birefringence)を計測し,神経線維量を計測している.GDxは計測値を内部のデータベースに対してニューラルネットワークを用いて統計的に解析し神経線維厚を推定しているため統計誤差が含まれる.偏光OCTの利点は深さ方向の複屈折分布が計測できることである.すなわち,偏光としての神経線維量と形態情報としての神経線維厚を計測し分けることが可能になると考えられる.③分光OCT:分光とは,物質がもつ光の吸収特性からその物質の量を求める技術である.われわれ眼科医が手術のときに使用する末?血酸素飽和度をモニターするパルスオキシメータは,実用化された分光医療機器である.酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの光の吸収特性の差を利用して血中の酸素飽和度を求める装置である.他にもグルコース,中性脂肪,蛋白質,コレステロール,尿素などが分光計測の研究対象であるが,精度の問題などで普及に至っていない.眼底においては,イスラエルのAppliedSpectralImaging社が眼底酸素飽和度を求める装置を試作し埼玉医科大学の米谷らにより臨床研究が報告されているが,実用化には至っていない.眼底カメラや走査レーザー検眼鏡(SLO)では,網膜と脈絡膜の情報が分離できない問題があるが,OCTは深さ方向の情報をもつため分光OCTは,網膜と脈絡膜の情報が分離できる.しかし,OCTは,深さ情報と分光波長解析力にはトレードオフ(trade-o?)が存在する.糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,緑内障(特に正常眼圧緑内障)において酸素計測そのものの臨床的意義は高く,山積する技術的問題を解決し信頼性の高い検査機器が開発されることが期待される.わが国では,山形大学の山下(医),湯浅(工)らが分光OCTによる酸素飽和度三次元断層分布測定装置を提案している.V今後のOCT診断装置のスタンダードになる3D-OCT「3D-OCT」は,フーリエドメインOCT技術により高速化した結果生まれる臨床的特性の観点からの診断装置概念である.すなわち,高速になったため一気に三次元OCT情報を取得できるようになったことにより,3Dという新しい診断装置概念が生まれる15~18).現時点では,3D-OCT=フーリエドメインOCTであるが,将来,高速なsweptsourceOCT技術が実用化されれば,それも3D-OCTという診断装置を構成するはずである.診断装置としての3D-OCTの特性は,つぎの3つのスパイスにより構成される.[3つのスパイス]【高速】→【三次元情報】:後述するように,数秒で三次元空間のOCT情報を取得することが可能となり,三次元の形態情報を扱う新しい検査法へ発展した.【高感度】+【高分解能】→【微細な病変の可視化】:感度が上がるほど,ノイズに隠れて認識がむずかしい真の形態情報が,認識可能な画像として表出する.網膜の層構造がより明瞭になり,内網状層,内顆粒層,外網状層,外顆粒層,視細胞層の境界が同定可能になる(図5).これは,網膜厚だけではなく層ごとに厚み計測ができるポテンシャルのある画像である.特に重要なことは,視力に関係が深い中心窩視細胞層の外境界膜と視細胞層内節外節境界部(IS/OS)に相当する2本の高反射ラインが描出されることである(図5).この2本のラインは,描出される眼底疾患の活動期および治癒後の中心窩病変を読み解く鍵になる.[3D-OCTの撮影法]中心窩を含む3~6mm平方の領域に水平Aスキャン256本からなるBスキャンを垂直方向に256枚一定間———————————————————————-Page9(11)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??隔で連続撮影する.言い換えると,256×256の格子状のAスキャンを行う(図6).このスキャンのデザインをラスタスキャンプロトコール(rasterscanprotocol)という.[3D-OCTにより生まれる新しい臨床アプローチ]①三次元観察:得られた三次元OCTデータをボリュームレンダリング法を用いて3D画像を得る(図7,8).3D画像は,黄斑円孔の網膜硝子体界面の観察に威力がある(図8).しかし,3D画像では,網膜内部の病変を観察できないため,やはり断層画像の観察が基本となる.断層画像は,これまでBスキャン像とよんできた断層像(crosssec-tion)と,3D画像の切断面としての立体断面(sec-tionedvolume)の2通りの観察法がある.そして,従来のOCTとは異なる3D-OCTの利点の一つは,水平方向,垂直方向,鉛直断面方向(いわゆるCスキャン方向)をはじめとする任意の面で切り取った断層像および立体断面を観察できることである(図7,8).さらには,これら断層および断面像は,ランダムに存在するのではない.水平方向なら,12~24?mおきの断層像が連続して並んでいるため,映画のコマ送りのように病変の網膜接線方向の広がりを観察することが可能となる(図7).②眼底カメラ系画像との照合:そして,さらに重要なことは,三次元情報は病変の深さ方向のみならず横方向の位置情報をもっていることである.われわれが日常見慣れている検眼鏡眼底像や眼底カメラタイプのベーシックな検査データ(カラー眼底写真,蛍光眼底造影写真,SLO,マイクロペリメトリーなど)は病変を光軸へ直交する面(Cスキャン面)への広がりとして認識しているわけであるが,3D-OCTは同様の形態情報の広がりを有する.同様の広がりをこの網膜の任意の深さのCスキャン像として観察することも可能になる(図7,8).OCTは3D-OCTになって眼底カメラ系画像と照合可能となった.図5フーリエドメイン光干渉断層計(Fourierdomainopticalcoherencetomography:FD-OCT)による正常網膜断層像例京都大学プロトタイプFD-OCTによる画像例.中心波長830nm,波長幅50nmのスーパールミネッセントダイオードを使用し空気中の分解能は6.1?m.超高分解能光干渉断層計(ultrahighresolutionOCT:UHR-OCT)に比べると分解能は低いが,感度が高いため,UHR-OCTに匹敵して,中心窩の4本の高反射ラインが観察される.IS/OS:photoreceptorinnerandoutersegmentjunction,視細胞内節外節境界部,VM:Verhoe??smembrane.(板谷正紀:3DOCTによる網膜病変の三次元観察.眼科手術19:501-505,2006より)神経節細胞層内網状層内顆粒層外網状層外顆粒層視細胞内節視細胞外節脈絡膜図6ラスタスキャンプロトコールの1例三次元OCTデータ取得を目的としたAスキャンの分配パターンをラスタスキャンプロトコール(Rasterscanprotocol)という.撮影範囲と水平および垂直方向に行うAスキャン数を決める.図は,3mm×3mmの正方形の範囲に,水平方向256本,垂直方向256本で格子状にAスキャン(赤矢印群)を行うラスタスキャンプロトコールの実例である.ラスタスキャンプロトコールにより得た三次元OCTデータを,LabVIEW7.1(NationalInstrumentsCorporatio,Austin,TX,USA)で変換し,三次元画像解析ソフトAmira3.1(MercuryComputerSystemsInc.,Chelmsford,MA,USA)によりボリュームレンダリングを行い三次元OCT像を構築した.(板谷正紀:3DOCTによる網膜病変の三次元観察.眼科手術19:501-505,2006より)———————————————————————-Page10??あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007(12)図7正常網膜三次元OCT画像の観察パターン三次元OCT画像は緻密な三次元形態情報を有するが,網膜内部の三次元構造を一目で観察することはむずかしい.ここに列挙するような多彩な観察法で,緻密な観察を行い形態と病変の三次元的広がりを理解することが重要である.A:3D外観,B:水平断層像,C:水平立体断面像,D:プロジェクション画像(projectionimage),E:Enface断層像,F:Enface立体断面像,G:約12?mごとの連続した断層像を映画のコマ送りのように1枚1枚観察し病変の緻密な変化の三次元の広がりを観察する.H:あらゆる方向の断層像を観察できる.(板谷正紀:3DOCTによる網膜病変の三次元観察.眼科手術19:501-505,2006より)図8黄斑円孔三次元OCT画像の観察パターンステージ3黄斑円孔症例を例に取り,3DOCTの観察法の実例を示す.ここに列挙するような多彩な観察法で,緻密な観察を行い病変の三次元的広がりを理解することが重要である.A:3D外観,B:水平断層像,C:水平立体断面像,D:3D画像におけるB,C,E,F,H,Iの観察面.E:垂直断層像,F:垂直立体断面,G:あらゆる方向の断層像を観察することが可能,H:Enface断層像,I:Enface立体断面像.(HangaiMetal:Three-dimensionalimagingofmacularholeswithhigh-speedopticalcoherencetomography.Ophthalmology,inpressより改変)———————————————————————-Page11(13)あたらしい眼科Vol.24,No.1,2007??おわりにわれわれ医師は,医療メーカーを通して,診断装置を知る.装置,ひいては技術の研究開発に精力を傾ける工学研究者の姿や研究の歴史に触れる機会は少なかった.しかし,OCTの分野では,ARVOや国内眼科学会でも工学研究者の発表を目にする機会が増えてきた.実は,OCTは世界的に見ても,医工連携がきわめてうまく機能している分野であり,逆に言うと医工の連携なくして良質な仕事が生まれない分野である.わが国では,丹野らがOCTの原理を世界に最初に提案し,岸らによりOCT装置の臨床的意義を世界に発信したことからわかるように,OCTの工学および医学の両サイドに胸を張れる実績を有する.現在では,筑波大学が台風の目になりOCTの医工連携が活性化している.(株)トプコン社の3DOCT-1000が世界で最初にわが国で発売になったこの時期に,3D-OCTの臨床的意義を明らかにし世界に発信することは,眼科臨床医に期待される仕事である.その意味で,これからも続くOCT技術の進歩をダイナミックに理解し,その行方を学会などで注視することは,今後の臨床に役に立つと考える.謝辞:・FD-OCTの説明に使用しました画像は,筑波大学ComputationalOpticsGroupと(株)トプコンの協力により京都大学附属病院に設置したFD-OCTプロトタイプによる(ヘルシンキ宣言遵守,京都大学医学研究科「医の倫理委員会」の承認取得,インフォームド・コンセント取得).ご指導をいただきました諸氏に深謝します.筑波大学ComputationalOpticsGroup:安野嘉晃先生,巻田修一様,山成正宏様,谷田貝豊彦先生.(株)トプコン:福間康文様,大塚浩之様,木川勉様塚田央様.京都大学画像外来の先生方.・本稿のご高閲をいただきました吉村長久教授に深謝します.文献1)SaddaSR,WuZ,WalshACetal:Errorsinretinalthick-nessmeasurementsobtainedbyopticalcoherencetomog-raphy.?????????????113:285-293,20062)丹野直弘,岸章治:光コヒーレンス断層画像化法と臨床診断.??????????????????????????17:3-10,19993)陳建培,丹野直弘:光波コヒーレンス断層画像化法.???17:8-14,20034)丹野直弘,市村勉,佐伯昭雄:光波反射像測定装置,日本特許第2010042号(出願1990)5)HuangD,SwansonEA,Lin,CPetal:Opticalcoherencetomography.???????254:1178-1181,19956)伊藤雅英,安野嘉晃,谷田貝豊彦:フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィ.視覚の科学26:50-56,20057)DrexlerW,MorgnerU,GhantaRKetal:Ultrahigh-reso-lutionophthalmicopticalcoherencetomography.???????7:502-507,20018)DrexlerW,SattmannH,HermannBetal:Enhancedvisualizationofmacularpathologywiththeuseofultra-high-resolutionopticalcoherencetomography.????????????????121:695-706,20039)KoTH,FujimotoJG,DukerJSetal:Comparisonofultra-high-andstandard-resolutionopticalcoherencetomogra-phyforimagingmacularholepathologyandrepair.??????????????111:2033-2043,200410)SchocketLS,WitkinAJ,FujimotoJGetal:Ultrahigh-res-olutionopticalcoherencetomographyinpatientswithdecreasedvisualacuityafterretinaldetachmentrepair.?????????????113:666-672,200611)UnterhuberA,Pova?ayB,HermannBetal:Invivoreti-nalopticalcoherencetomographyat1040nm-enhancedpenetrationintothechoroids.??????????????13:3252-3258,200512)GrieveK,PaquesM,DuboisAetal:Oculartissueimag-ingusingultrahigh-resolution,full-?eldopticalcoherencetomography.?????????????????????????45:4126-4131,200413)FernandezEJ,PovazayB,HermannBetal:Three-dimensionaladaptiveopticsultrahigh-resolutionopticalcoherencetomographyusingaliquidcrystalspatiallightmodulator.??????????45:3432-3444,200514)YazdanfarS,RollinsAM,IzattJA:Invivoimagingofhumanretinal?owdynamicsbycolorDoppleropticalcoherencetomography.???????????????121:235-239,200315)WojtkowskiM,SrinivasanV,FujimotoJGetal:Three-dimensionalretinalimagingwithhigh-speedultrahigh-resolutionopticalcoherencetomography.?????????????112:1734-1746,200516)Schmidt-ErfurthU,LeitgebRA,MichelsSetal:Three-dimensionalultrahigh-resolutionopticalcoherencetomog-raphyofmaculardiseases.?????????????????????????46:3393-3402,200517)AlamS,ZawadzkiRJ,ChoiSetal:ClinicalapplicationofrapidserialFourier-domainopticalcoherencetomographyformacularimaging.?????????????113:1425-1431,200618)HangaiM,OjimaY,GotohNetal:Three-dimensionalimagingofmacularholeswithhigh-speedopticalcoher-encetomography.?????????????,inpress