———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSく前葉と後葉という2つのグループに分けることができる.前葉は眼瞼皮膚と眼輪筋から成り立っており,顔面神経により支配され,眼瞼を閉じる働きをする.後葉は上眼瞼挙筋,M?ller筋,瞼板および瞼結膜から成り立っており,動眼神経と交感神経支配により眼瞼を挙上する働きをする.眼窩隔膜は前葉と後葉の境目になる組織であるが,その前面には?brousadiposetissue,その後面には眼窩脂肪という2つの脂肪組織が存在する.眼瞼を挙上する筋肉には眼瞼挙筋とM?ller筋の2つがあり,眼瞼下垂手術の術式でも挙筋短縮術1)とM?ller筋短縮術2)が存在する.M?ller筋短縮術またはタッキング術は眼瞼挙筋に侵襲を加えず,M?ller筋の処理のみで下垂を治療するとされているが,その術式の奏効機序については筆者は少し異なる考えをもっている.その前に上眼瞼挙筋の解剖であるが,その起始部は眼窩先端,総腱輪上方の蝶形骨小翼の骨膜から始まり,瞼板,眼瞼皮下および眼窩隔膜に達する約45mmの長さの筋肉である.おもに横紋筋線維よりなっているが,円蓋部のWhitnall靱帯を過ぎたあたりからは次第に筋線維が結合組織に置き換わり,挙筋腱膜(aponeurosis)とよばれる.したがって,一般に行われている眼瞼挙筋短縮術は実際は挙筋腱膜を短縮していることになる.この挙筋腱膜であるが,実際は1枚ではなく,いくつかの層に分かれている.Yuzurihaら3)は挙筋腱膜を組織学的所見に基づいて眼窩隔膜に移行するsuperiorexpan-sion,眼瞼皮下に達するmiddleexpansionおよび瞼板はじめに眼瞼下垂は現在確実にその患者数が増加しつつある疾患であり,手術加療を必要とする患者数も増加の一途である.その原因はまず人口の高齢化に伴う老人性眼瞼下垂患者の増加であり,さらに白内障手術などの内眼手術も開瞼器の使用により眼瞼下垂を悪化させる要因になる.もう一つはハードコンタクトレンズ装用による眼瞼下垂があり,長年のハードコンタクトレンズの使用により眼瞼下垂が生じることはもはや眼科の常識である.それに対して眼瞼下垂の手術治療については術前評価から術式の選択に至るまでいまだに定まったガイドラインのようなものは存在しない.そのためそれぞれの術者がそれぞれの方法で手術を行っているのが現状であり,これから眼瞼下垂の手術を始める者にとっては混乱の原因になっている.本稿では今まで間違って行われている眼瞼下垂術前評価の方法の問題点について述べ,磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)を用いた正しい術前評価法を紹介する.さらに眼瞼の臨床解剖についても考察を加え,現在行われているさまざまな眼瞼下垂術式の整理を試みた.そして最後に,筆者が行っている眼瞼挙筋短縮術の術式を紹介する.I眼瞼下垂手術のための上眼瞼解剖上眼瞼は解剖学的に眼瞼皮膚,眼輪筋,眼窩隔膜,上眼瞼挙筋,M?ller筋(瞼板筋),瞼板および瞼結膜の7つの要素から成り立っているが,その働きによって大き(9)???*YoshikazuKanemori:ゆうこう眼科クリニック〔別刷請求先〕兼森良和:〒675-0101加古川市平岡町新在家1573-1ゆうこう眼科クリニック特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):547~555,2007眼瞼下垂手術─術式の選択と手術治療の実際─????????????????????????????????兼森良和*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007前に達するdeepexpansionの3層に分けている.しかし,術中所見ではmiddleexpansionとdeepexpansionを分けることはできない.実際の臨床所見では眼窩隔膜につながる密な膜様の結合組織からなる層と皮下や瞼板に達する疎な結合組織からなる層の2つに分けられる(図1).この層についてはさまざまな呼び名があるが,ここでは井出らが用いている浅層と深層という用語を用いることにする4).挙筋腱膜の浅層は前方の眼窩脂肪を包むように後上方に折り返し眼窩隔膜につながっていく.挙筋腱膜と眼窩隔膜が合流する部分は白い帯状の結合組織になっており,whitelineとよばれる.ここは非常にしっかりとした結合組織であるので挙筋短縮術の際,瞼板に縫合固定する目安になる.それに対してM?ller筋は円蓋部の高さで眼瞼挙筋横紋筋線維の遠位端から始まり,瞼板上縁に達する10~12mm長の平滑筋である.筋紡錘としての働きが報告されているが,眼瞼挙筋に比べるとその長さも短く収縮力も弱い.実際,Horner症候群では交感神経麻痺のためM?ller筋は麻痺しているが,それでも下垂の程度は健側と比べて軽度である.しかし,動眼神経麻痺により眼瞼挙筋が麻痺した場合,眼瞼はほとんど挙上しない(図2).ここで再びM?ller筋短縮術の奏効機序を考えると,M?ller筋の起始部は上円蓋部の眼瞼挙筋にあるのでM?ller筋短縮術はM?ller筋を介して眼瞼挙筋の収縮力を瞼板に伝えていることに他ならない.したがって挙筋短縮術のターゲットがM?ller筋なのか眼瞼挙筋なのかという議論に対しては,眼瞼挙筋が主でM?ller筋は補助的役割であると筆者は考えている.実際はM?ller筋は筋紡錐としての働きがあり5),ある程度のテンションを保っている必要があるので,筆者は挙筋腱膜とM?l-ler筋を同時に短縮することにしている.眼瞼の解剖でもう一つ述べておかなければならないことはlowerpositionedtransverseligament(LPTL)の存在である.LPTLは挙筋腱膜前方の浅層を滑車から涙腺窩に向かって斜めに走る靱帯であるが,その形状は個人差が大きい.眼窩脂肪の発達した症例ではこのLPTLが発達している傾向がみられ,眼窩脂肪の少ない症例ではLPTLもあまり発達していないことが多い.しかし問題は,ときどきこの発達したLPTLがWhitnall靱帯として間違えられることがあり,これについてはすでに柿崎らが報告している6).それ以降も誤った報告が散見されており,もう一度強調しておきたい.Whitnall靱帯は瞼板上縁より15mm上後方に位置し放射状の靱帯(radiativeligament)により,さらに眼窩上縁の骨膜に固定されている.スリーブ状の構造をしており,MRIでみると電車の吊り革のように前後運動をするが,靱帯(10)図1眼瞼挙上のメカニズム眼瞼挙筋はWhitnall靱帯の部位で挙筋腱膜となり,挙筋腱膜はさらに浅層と深層に分かれて眼瞼と瞼板を挙上する.M?ller筋も同部位から始まり,瞼板上縁に達し,瞼板を挙上する.眼窩隔膜挙筋腱膜浅層挙筋腱膜深層M?ller筋眼瞼挙筋Whitnall靱帯図2M?ller筋と眼瞼挙筋の筋力の違い上:左Horner症候群,M?ller筋のみが麻痺するHorner症候群では眼瞼下垂の程度は軽い.下:左動眼神経麻痺,動眼神経麻痺により眼瞼挙筋が麻痺すると高度の下垂を生じる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???であるので筋肉のように伸縮運動をするものではない.高度の先天眼瞼下垂に対してはWhitnall靱帯懸垂法が報告されている7)が,本当にWhitnall靱帯の高さに瞼板が縫合固定されたとすると,その短縮量は17~18mmになり,この場合,努力閉瞼を行っても強い閉眼障害を生じることになる.実際は発達したLPTLがWhitnall靱帯として間違えられ,固定されることが多く,そこまでの閉瞼障害をきたすことはないようである.Whitnall靱帯懸垂法を行うような症例は非常に挙筋機能が不良の症例であり,本来は前頭筋吊り上げ術の適応であると筆者は考える.II術前評価と術式の選択従来の報告では先天下垂,後天下垂を問わず,眉毛部を固定して下方視と上方視時の眼瞼の動きを眼瞼挙筋機能としているが,それは大きな間違いである8).老人性やコンタクトレンズによる眼瞼下垂でわれわれが眼瞼の動きから評価しているものは開瞼機能であり,挙筋機能ではないからである.挙筋機能という言葉についても現在のところ,その定義が曖昧であり,混乱の原因になっている.本来の挙筋機能とは眼瞼挙筋が筋肉としてどれほど伸び縮みするかその移動距離をさす.一般によく目にする老人性眼瞼下垂の場合,われわれが外側からみている眼瞼の動きは眼瞼挙筋の動きをそのまま反映するものではない.瞳孔が隠れる程度の高度の老人性眼瞼下垂の場合,眼瞼の動きのみではあたかも挙筋機能が不良であるかにみえる.しかし,眼瞼のなかでは挙筋は正常に動いていることがほとんどである.筆者は下垂手術の術中に直視下で挙筋の動きを常に観察してきたが,今まではそれを術前に確認できる良い方法がなかった.そのため筆者は術前に眼瞼MRIを撮影することで眼瞼挙筋機能を術前に評価する方法を考案し報告している9).若年の先天眼瞼下垂では挙筋の収縮と瞼縁の動きが一致するが,老人性をはじめとする腱膜性眼瞼下垂では挙筋の収縮に比べて瞼縁の動きは少ない(図3).実際に眼瞼下垂術前のMRI画像から計測を行うと先天下垂の症例(図3A)では4mmの挙筋の収縮に対して瞼縁の挙上も4mmみられたが,老人性下垂の症例(図3B)では10mmの挙筋の収縮に対して瞼縁の挙上は5mmしかみられなかった(図3).したがって腱膜性眼瞼下垂では眼瞼の動きで挙筋機能を評価することは間違っていることになる.このMRIを用いた術前眼瞼挙筋機能評価が最も必要とされるのは先天眼瞼下垂の術式決定のときである.先天眼瞼下垂は先天的に眼瞼挙筋そのものに形成不全があるので筋肉としての伸縮運動が弱い10).あまり伸び縮みしないものを目いっぱい短縮すると伸展しないので術後に強い閉瞼障害を生じることは容易に想像できる.先天眼瞼下垂では下方視のlidlag(眼瞼の置き去り現象)や軽い閉瞼障害が術前よりみられるので,その病態は下垂のみでなく眼瞼の伸展障害でもある.現在は高度の先天眼瞼下垂に対してもまずは挙筋短縮術を行い,その後,効果が不十分であれば前頭筋吊り上げ術を考慮するといったような治療傾向がみられる.しかし本来ある病態の治療のためには最初から最善の術式を用いるべきであり,とりあえずの術式を行うことは患者の利益にならないことであり,慎むべきである.一部の教科書ではすべ(11)図3MRIによる眼瞼挙筋機能評価A:先天眼瞼下垂症例,下方視から上方視まで眼瞼挙筋の収縮4mmに対して瞼縁も4mm挙上される.B:老人性眼瞼下垂症例,眼瞼挙筋の収縮は10mmであるが,瞼縁は5mmしか挙上されない.老人性下垂では挙筋機能と眼瞼の動きは比例しない.(→:眼瞼挙筋腱膜眼窩隔膜合流部,△:瞼縁,左端の1目盛りは5mm)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007ての眼瞼下垂に対して挙筋短縮術のみを用いると述べているものもある11)が,これはすべての網膜?離を網膜復位術のみで治すと公言するのと同じようなことである.増殖硝子体網膜症に進んだ網膜?離に対しては,やはり硝子体手術が必要になることと同様,挙筋機能がまったくみられない眼瞼下垂に対しては,前頭筋吊り上げ術が第一選択になる.実際の前頭筋吊り上げ術の適応であるが,MRIで挙筋機能が4mm以下のものは前頭筋吊り上げ術のほうが術後結果が良好である.臨床的には下垂した眼瞼で瞳孔領がすべて隠れるような先天眼瞼下垂症例と考えてよい.吊り上げ術の材料としては人工硬膜(商品名ゴアテックス?)でも大腿筋膜でもよい.自家組織の採取を希望しない場合や外来手術を希望する場合は人工硬膜を利用することになる.眼科手術での保険適用にはなっていないので術者が自己負担と自己責任のもと,患者に十分な説明と同意のうえで用いなければならない.しかし,心臓血管外科や脳外科領域ですでに1,200万例以上の使用実績がある人工材料であるので,その安全性は高いと考える.それでは実際人工硬膜による前頭筋吊り上げ術を行った先天眼瞼下垂症例を示す(図4).術前,瞳孔領のすべてが隠れるような高度の先天眼瞼下垂であり,眼瞼MRIでも挙筋機能は4mm以下であった.仕事の都合上,外来手術を希望されたので人工硬膜を用いた前頭筋吊り上げ術を両眼同時に行った.術後は前頭筋を用いて十分な開瞼が得られ,閉瞼障害も認めない(図5).つまり,前頭筋の伸縮運動を利用して良好な開閉瞼機能を再建できたことになる.それに対して眼瞼挙筋短縮術を行(12)図4前頭筋吊り上げ術を行った先天眼瞼下垂症例術前,高度の両眼瞼下垂を認めるが,前頭筋吊り上げ術により術後十分な開瞼が得られている.図5前頭筋吊り上げ術後の眼瞼の動き前頭筋吊り上げ術後の開瞼,閉瞼,上方視および下方視の状態を示す.前頭筋の力で良好な開瞼が得られたうえに閉瞼障害もまったく生じていない.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???った先天眼瞼下垂の症例を示す(図6).中程度の挙筋機能があるので眼瞼挙筋短縮術を行った.術後の開瞼は良好であるが,術前からの閉瞼障害は術後,悪化している.このように先天眼瞼下垂に対する挙筋短縮術では良好な開瞼と十分な閉瞼を同時に得ることはできない.重要なことなので重ねて述べるが,先天眼瞼下垂は眼瞼挙筋そのものの形成不全があるので眼瞼挙筋の伸縮運動を利用する挙筋短縮術では良好な開閉瞼機能を再建することはできない.その代わり,前頭筋は挙筋の代償としてよく発達しているので,高度の先天眼瞼下垂では前頭筋の力を利用する吊り上げ術が第一選択となる.III筆者の眼瞼挙筋短縮術(図7)それでは筆者が行っている眼瞼挙筋短縮術を紹介する.筆者の術式は挙筋腱膜の浅層,深層およびM?ller筋を一度,周辺組織からすべて切り離してから瞼板に再固定する方法である.筆者はこれをlevatorsystemtotalrepositioning法とよんでいる.軽度の眼瞼下垂の場合は挙筋タッキングやM?ller筋短縮など他の方法でも十分改善できるので,筆者の術式は中程度以上の眼瞼下垂を適応としている.A:術前デザイン眼瞼の皮膚切開線は瞼縁の4~5mmの高さで自然に存在する重瞼線に沿うデザインとする.さらに瞳孔の中心とその左右7mmの位置を上眼瞼皮膚上に皮膚ペンでマーキングする.このデザインにより眼瞼挙筋は14mmの幅で挙上され,その中央部が瞳孔の中心の位置に固定されることになる.老人性の眼瞼下垂では眼瞼挙筋が瞼板の外側に変位するlateralshiftという現象がよくみられる.初心者が外側にずれた挙筋をそのまま挙上し短縮,固定した場合,外側が吊り上がった瞼(lateraltriangle)となるので整容的に問題となる.瞳孔の中心の位置にマーキングしその位置に固定することで初心者でも自然なラインの眼瞼挙上を行うことができる.また,あらかじめ左右の挙筋?離の幅を決めておくことは内外眼角への手術操作を減らし,内外眼角動脈からの出血を予防できる.初心者にとって出血のコントロールは術野を確保するために重要な問題である.B:余剰皮膚眼輪筋切除2%エピネフリン入りキシロカイン?を皮膚切開予定線に沿って1.5m?ほど,皮下浸潤麻酔を行う.また同じ薬剤で眼表面にも点眼麻酔を行い,眼軟膏を少量点入したのち,角板で角膜を保護する.多くの術者は挟瞼器(13)図6挙筋短縮術を行った先天眼瞼下垂症例中程度の左先天眼瞼下垂に対して挙筋短縮術を行った.術後,良好な開瞼が得られているが,術前からの閉瞼障害は悪化している.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(14)図7筆者の眼瞼挙筋短縮術(levatorsystemtotalrepositioning法)A:術前デザイン,B:余剰皮膚眼輪筋切除,C:眼窩隔膜切開,D:挙筋腱膜浅層露出,E:M?ller筋?離,F:LPTL切離,G:挙筋腱膜,M?ller筋?apの前面,H:挙筋腱膜,M?ller筋?apの後面,I:挙筋腱膜への通糸,J:M?ller筋への通糸,K:瞼板への通糸,L:仮固定,M:術中開瞼確認,N:眼窩脂肪除去,O:皮膚縫合.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???で眼瞼を固定して眼瞼挙筋の同定を行うが,筆者は自然な状態で術中眼瞼挙筋の動きを見て挙筋の短縮量を決めるので挟瞼器は使用しない.老人性眼瞼下垂の場合は上眼瞼皮膚弛緩症も伴っているので先に余剰皮膚眼輪筋を切除する.C:眼窩隔膜切開瞼板上縁から5mm以上の高さで眼窩隔膜に水平切開を加える.眼瞼挙筋腱膜と眼窩隔膜は瞼板上2~5mmの位置で合流すると報告されているのでこの高さであれば,挙筋腱膜を誤って切開することはない12).剪刀で切開を広げていくと脂肪膜で包まれた眼窩脂肪が露出する.D:挙筋腱膜浅層露出眼窩脂肪を上方に押し上げるように鈍的?離を行うとその下層で眼瞼挙筋腱膜の浅層を見つけることができる.眼瞼挙筋腱膜と眼窩脂肪の間は疎な結合組織がわずかに存在するのみであるので剪刀で軽く押し広げると離れていく.もし何らかの癒着があるとすれば,間違った層を?離していることになる.この症例では索状によく発達したLPTLがみられるが,LPTLの形状は個人差が大きい.E:M?ller筋?離瞼板前から挙筋腱膜の深層を?離し,瞼板上端からM?ller筋を?離する.コンタクトレンズによる下垂の場合は結膜とM?ller筋が癒着している傾向がみられるが,老人性眼瞼下垂では疎な結合組織のみが存在するので簡単に?離することができる.F:LPTL切離この症例では発達したLPTLが開瞼運動を制限していると判断したので左右で切離した.すべての症例で切離する必要はない.挙筋腱膜の内外側に広がるmedialhornとlateralhornも切離するので挙筋腱膜の浅層,深層およびM?ller筋を含む幅14mmの?apを挙上することになる.G:挙筋腱膜,M?ller筋?apの前面挙筋腱膜,M?ller筋?apの前面を示す.LPTLのさらに上方にWhitnall靱帯が見える.H:挙筋腱膜,M?ller筋?apの後面挙筋腱膜,M?ller筋?apの後面を示す.瞼板上縁か(15)ら?離されたM?ller筋が見える.I:挙筋腱膜への通糸6-0ナイロン糸で挙筋腱膜に通糸を行う.この症例ではLPTLの下方,whitelineの高さで通糸した.J:M?ller筋への通糸Flapを飜転してM?ller筋にも通糸を行う.K:瞼板への通糸瞼縁から6mm程度の高さで瞼板にも通糸を行う.その深さは瞼板の半層までとする.L:仮固定瞳孔中心の位置に仮縫合を行う.この後,角板を外して開瞼の程度を確認する.M:術中開瞼確認十分な開瞼と自然な眼瞼のラインが形成されていることを確認する.眼輪筋が麻痺しているため術中は軽度の閉瞼障害を生じるが,術者が患者の眼瞼外側を軽く抑えて閉瞼できる程度であれば,術後に閉瞼障害を生じることはない.N:眼窩脂肪除去この症例では眼瞼の腫れぼったさについても患者が修正を希望されたので外側と内側の眼窩脂肪も一部除去した.中央の脂肪を取りすぎると眼窩の陥凹が目立つので切除量はあくまで控え目にする.O:皮膚縫合6-0ナイロン糸で端々縫合を行う.しっかりとした重瞼を希望する場合は,瞼縁の皮下組織と瞼板前組織に2~3カ所埋没縫合を行う.この症例では術前より重瞼線が存在するので,皮膚縫合時に瞼板前組織に2~3カ所anchorsutureを行うだけで十分重瞼線が形成される.IVさまざまな眼瞼下垂症例への応用〔症例1〕ハードコンタクトレンズによる眼瞼下垂20年以上のハードコンタクトレンズ装用により瞳孔領の半分が隠れる中程度の両眼瞼下垂を生じた.3mm幅の上眼瞼余剰皮膚切除と7mmの挙筋短縮術により良好な開瞼が得られた(図8).〔症例2〕老人性眼瞼下垂術前,瞳孔領のすべてが隠れる程度の高度の両眼瞼下垂を認めた.8mmの上眼瞼余剰皮膚切除と10mmの———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(16)挙筋短縮術により良好な開瞼が得られた(図9).おわりに最後にまとめとして筆者の眼瞼下垂治療についての考え方を述べることにする.眼瞼下垂はさまざまな原因による結果であり,まずはその原因について考える.筆者はすべての眼瞼下垂を二つに分類している.一つは挙筋機能の良好な眼瞼下垂であり,老人性,内眼術後およびコンタクトレンズ装用による眼瞼下垂が含まれる.もう一つは挙筋機能不良の眼瞼下垂であり,先天性,重症筋無力症および進行性外眼筋麻痺による眼瞼下垂などがこれに含まれる.挙筋機能とは外からみた眼瞼の動きでなくMRIで描出される眼瞼の中の挙筋の動きが正しいことはすでに述べている.挙筋機能良好な眼瞼下垂は眼瞼挙筋の力を利用した術式で治療する.挙筋タッキング,挙筋短縮,M?ller筋タッキングやM?ller筋短縮は眼瞼挙筋の力を利用した術式であり,それぞれの術式に大きな優劣はないと考える.しかし,筆者が眼窩隔膜を切開し,挙筋腱膜浅層に必ず通糸する理由は,挙筋腱膜浅層が眼瞼を挙上する組織のなかで最もしっかりした結合組織であり,術後の再下垂が少ないと信じているからである.特に老人性眼瞼下垂は結合組織が脆弱であり,術後の再下垂を無視することはできない.一方,挙筋機能が不良の眼瞼下垂は手術の難易度が高いことを認識すべきである.挙筋機能不良とは挙筋の可動域が狭いことを意味し,過度の挙筋短縮は医原性の兎眼をつくることになる.したがって挙筋機能不良の眼瞼下垂症例は前頭筋の伸縮運動を用いた前頭筋吊り上げ術が第一選択となる.今回は誌面の関係上,前頭筋吊り上げ術の詳細については述べることができなかったが,術式の詳細についてはこれから報告していきたい.術式の選択は非常に重要な問題であり,戦略の誤りを戦術で補うことができないのと同様,術式の選択を誤るといくら上手にその術式を行っても良い結果を得ることはできない.筆者も初期の頃は自分で行った挙筋短縮術のなかでいくつかの不十分な結果に終わった症例を経験した.またすでに挙筋短縮術を他院で受けた後に,効果不十分のため再手術を希望される患者の治療も多数経験している.そのような症例に共通する要因は挙筋機能不良という問題であり,その問題はいくら上手に挙筋短縮術を行っても解決されない.そのために術前挙筋機能を正確に評価する方法として眼瞼MRIを用いるようになり,その後は術式選択の誤りのため再手術を必要とする症例は経験していない.筆者のこの経験がこれから眼瞼下垂手術に取り組む術者の一助になれば幸いである.図8コンタクトレンズによる眼瞼下垂症例20年以上のハードコンタクトレンズ装用により中程度の眼瞼下垂を生じたが,眼瞼挙筋短縮術で良好な開瞼が得られている.図9老人性眼瞼下垂症例瞳孔領が隠れる高度の老人性眼瞼下垂であるが,眼瞼挙筋機能は良好であり,挙筋短縮術で良好な開瞼が得られている.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(17)本稿を終えるにあたり,眼瞼下垂手術のご指導をいただいた京都大学形成外科野瀬謙介先生に深謝いたします.なお誌面の都合上,本稿で掲載できなかった眼瞼下垂に関する文章や画像をインターネットのホームページ(http://www.mabuta.jp)にて掲載しております.文献1)兼森良和:眼瞼挙筋短縮術による老人性眼瞼下垂の治療.眼科45:1091-1096,20032)三村治:眼瞼下垂手術.眼科47:395-401,20053)YuzurihaS,MatuoK,KushimaH:Ananatomicalstruc-turewhichresultsinpu?nessoftheuppereyelidandanarrowpalpebral?ssureintheMongoloideye.???????????????53:466-472,20004)井出醇,山崎太三,三戸秀哲ほか:日本人上眼瞼の組織所見.臨眼58:2331-2339,20045)MatsuoK:StretchingoftheM?ller?smuscleresultsininvolutionalcontractionofthelevatormuscle.???????????????????????????18:5-10,20026)柿崎裕彦,嘉鳥信忠:眼瞼下垂手術─虎の巻─.あたらしい眼科20:1623-1629,20037)野田実香:眼瞼下垂(4)眼瞼挙筋短縮術・Whitnall靱帯吊り上げ術.臨眼60:1358-1365,20068)AndersonRL,DixonRL:Aponeuroticptosissurgery.???????????????97:1123-1128,19799)兼森良和:磁気共鳴画像(MRI)による眼瞼下垂術前挙筋機能評価.あたらしい眼科23:555-558,200610)IsakssonI,MellgrenJ:Pathological-anatomicalchangesinthelevatorpalpebraesup.muscleincongenitalblepha-roptosis.?????????????????????????????????51:157-160,196111)久保田伸枝:眼瞼下垂.文光堂,200012)MeyerDR,LinbergJV,WobigJLetal:Anatomyoftheorbitalseptumandassociatedeyelidconnectivetissues.Implicationsforptosissurgery.???????????????????????????7:104-113,1991眼内レンズを科学する【編集】小原喜隆(獨協医科大学教授)西起史(西眼科病院院長)松島博之(獨協医科大学講師)B5判総140頁写真・図・表多数収録定価9,450円(本体9,000円+税)「眼内レンズ」に関する最新の情報を網羅したエンサイクロペディアofIOL!Ⅰ眼内レンズの歴史Ⅱ眼内レンズの視機能上の役割・利点Ⅲ眼内レンズのデザイン,材質と特性Ⅳ眼内レンズと生体適合性Ⅴ眼内レンズ作製法Ⅵ眼内レンズ滅菌法Ⅶ眼内レンズと視機能Ⅷ各種眼内レンズの特徴Ⅸ眼内レンズと挿入法Ⅹ眼内レンズと後発白内障ⅩⅠ屈折手術用眼内レンズⅩⅠⅠ多重手術と眼内レンズ■内容目次■株式会社メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替口座東京00100─5─69315電話(03)3811─0544(代)FAX(03)3811─0637