———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが知られている5)(図1).さらに,日本在住の日本人と,南米やハワイなどに移住した日系人,その子孫との間にその発症頻度に大きな差がみられないことも知られている.このように,人種的に発症頻度に大きな差がみられることと,移住による環境要因の変化によってもその発症頻度に大きな差がみられないことから,VKH病の発症には遺伝的な要素が大きくかかわっていることが以前から考えられてきた.IIVKH病とHLAの関係HLA(humanleukocyteantigen)クラスⅠアリルと原田病の相関については,過去にいくつかの報告がなされている.日本人ではHLA-B54頻度がVKH病患者群で高いと報告されている5,6)が,韓国人7),中国人8,9),ブラジル人10),ヒスパニック11)ではHLA-B54との相関はみられないことが報告された.また,韓国人ではHLA-A31,B-55の頻度が有意に高い7)ことも報告された.このことから,日本人でHLA-B54と連鎖不平衡にある遺伝子が調べられ,HLA-DR4,-DR53,-DQ4がVKH病と相関することが報告された5,12,13).しかし,DR53はDR4,7,9と連鎖不平衡にあるにもかかわらず,DR7および9にはVKH病患者とコントロール群との間で有意差がみられないことから,DR53の増加はDR4に連鎖したものと考えられるようになった.HLAタイピングの技術の進歩により,この後DR4はさらに細かいサIVogt?小柳?原田病の病態Vogt?小柳?原田病(VKH病)は両眼性の肉芽腫性汎ぶどう膜炎を主体とする疾患である.しかし,その症状は眼科領域にとどまらず,頭痛,発熱,耳鳴り,感音性難聴,頭髪のぴりぴり感,めまい,皮膚の白斑,頭髪の白変,脱毛など多岐に及ぶ1,2)(表1).VKH病の本態は,患者リンパ球がメラノサイトを攻撃している組織像がみられること3),患者リンパ球がメラノサイトに対し細胞障害性を示すこと4)などからメラノサイトに対する自己免疫疾患と考えられている.また,VKH病は日本をはじめ,韓国,台湾などの東アジアやオーストラリアのアボリジニ,北米や中米,南米などのアメリカインディアン,イヌイット,インディオなどのモンゴロイドに多くみられるが,アフリカの黒人にはみられず,白人ではその発症は非常に少ないこと(15)????図1VKH病の世界分布*YukoTakemoto&ShigeakiOhno:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕竹本裕子:〒060-8648札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1529~1533,2006HLAとVogt?小柳?原田病???????????????????????????????????????????????-????????-??????????????竹本裕子*大野重昭*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006ブタイプに分類されるようになり,日本ではDRB1*0405およびDRB1*0410と,中国,ラオスではDRB1*0405と,メキシコやブラジルではHLA-DRB1*04との非常に強い相関がみつかっている12,14~16).また,日本人ではHLA-DRB1*1302やDRB1*0803と負の相関があること,DQA1*0301および*0401が正の相関を,DQA1*0103が負の相関を示すことも報告されている12).しかし,DQA1*0301はDR4およびDR9と連鎖不平衡にあるが,DR9に有意差がみられないことから,DQA1*0301はDR4に連鎖しているための二次的上昇と考えられるようになった.HLAと疾患との相関は,HLAそのものが特定の自己あるいは非自己抗原に対する免疫応答の個体差を決定することにより疾患感受性を直接的に決定している場合と,HLAと連鎖不平衡にあるHLA以外の疾患感受性遺伝子が存在する場合の2通りが考えられる.たとえば,前者では自己免疫疾患などがその例であると推定される.また疾患感受性を示す自己ペプチドとHLAの複合体が,胸腺におけるT細胞レパートリーの形成(posi-tiveselection)に重要な役割を担い,このようなT細胞のなかに自己免疫疾患を誘導する自己反応性T細胞が含まれる可能性も提唱されている.後者の例としては,補体第2,第4あるいはB因子欠損症および21-ヒドロキシラーゼの欠損による先天性副腎過形成などがある.(16)表1VKH病の診断基準完全型(complete):1~5の全項目を満たすもの1.穿孔性眼外傷あるいは手術の既往歴がない2.他の眼疾患を示唆する臨床所見がないか補助検査に該当しない3.両眼性であり,疾患の時期によりaまたはbが満たされているa.初期所見(1)他の炎症所見の有無にかかわらず,びまん性脈絡膜炎を示唆する次のどれかの所見(a)限局性の網膜下液,または(b)胞状漿液性網膜?離(2)網膜下液や網膜?離が明確でない場合は,次の両所見が必要(a)フルオレセイン蛍光眼底造影検査による限局性の脈絡膜灌流遅延,多発性点状漏出,大きな斑状過蛍光,網膜下蛍光貯留,または乳頭蛍光染色,および(b)超音波検査によるびまん性脈絡膜肥厚b.晩期所見(1)3aを示唆する原病歴,および次の(2)および(3),あるいは(3)の複数の所見(2)次のいずれかの眼色素脱失所見(a)夕焼け状眼底,または(b)杉浦徴候(3)他の眼所見(a)貨幣状の網脈絡膜色素脱失斑,または(b)網膜色素上皮遊走を示唆する色素沈着の所見,または(c)再発性あるいは慢性前部ぶどう膜炎4.神経,聴覚所見(眼科診察の際にすでに消失している可能性がある)a.髄膜刺激症状b.耳鳴りc.髄液細胞増加5.皮膚所見(ぶどう膜炎発症前には存在しない)a.脱毛b.白毛c.皮膚白斑不全型(incomplete):項目1~3,および項目4あるいは項目5を満たすもの疑い例(probable):項目1~3を満たすもの(ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.???????????????131:647-652,2001より)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????これらの疾患は,特定のHLA-BおよびHLA-DR対立遺伝子と連鎖した,補体第2,第4,B因子あるいは21-ヒドロキシラーゼの構造遺伝子に突然変異が生じ,機能を有する蛋白質が産生されないことに起因する.この場合,疾患と相関を示すHLA対立遺伝子は単なるマーカーにすぎず,HLAと疾患発症との間には因果関係はない.そこで,VKH病と正の相関を示すDRB1*0405,*0410および負の相関を示す*0803,さらにVKH病の発症のまれな白人で最も多いHLA-DR4サブタイプであるDRB1*0401のアミノ酸配列を比較してみたのが表217)である.この表からわかるとおり,DRB1*0405および*0410の両者に共通して特異的なアミノ酸は57番目のセリンであり,さらにVKH病と負の相関を示すDRB1*0803では57番目のセリンと,70番目にアスパラギン酸をもっていることがわかった.これらのアミノ酸はいずれもaへリックスに位置し,これらの部位でのアミノ酸変化は抗原結合部位の立体構造変化をもたらし,抗原ペプチドとの結合やT細胞受容体の認識に大きな影響をもたらすことが報告されている18~21).このため,HLA-DRB1*0405やDRB1*0410に特異的なこれらのアミノ酸がVKH病疾患感受性因子として働いていると考えられる.IIIHLA-DRB1*0405と日本人日本人においてHLA-DRB1*0405の頻度は約12%と非常に高い(表3)22).しかし,VKH病の新患は北海道大学では年間10人前後,ぶどう膜炎患者の新患全体の約10%であることからHLA-DRB1*0405をもつ日本人の多くは,VKH病を発症しないでその生涯を終えることが予想される.また,VKH病の家族発症頻度は低く,このことからも遺伝要因以外にもVKH病発症に関与する要因が存在すると考えられる.このように,単一の要因で発症するか否かが決まらず,複数の要因が発症に関(17)表2HLA-DRB1のアミノ酸配列アミノ酸配列番号9135770717486DRB1*0101WQLKFDQRAGDRB1*0401E─V─H──K──DRB1*0402E─V─H─DE─VDRB1*0403E─V─H───EVDRB1*0404E─V─H────VDRB1*0405E─V─HS────DRB1*0406E─V─H───EVDRB1*0407E─V─H───E─DRB1*0408E─V─H─────DRB1*0409HS─K──DRB1*0410S───VDRB1*0411S──EVDRB1*0803EYSTGSD─L─(大野重昭:第96回日本眼科学会総会宿題報告免疫と眼眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌96:1558-1579,1992より)表3日本人におけるHLA-DRB1アリル頻度AlleleGenefrequencyDRB1*0101DRB1*0401DRB1*0403DRB1*0404DRB1*0405DRB1*0406DRB1*0407DRB1*0410DRB1*0701DRB1*0802DRB1*0803DRB1*0901DRB1*1001DRB1*1101DRB1*1201DRB1*1202DRB1*1301DRB1*1302DRB1*1401DRB1*1403DRB1*1405DRB1*1406DRB1*1407DRB1*1412DRB1*1501DRB1*1502DRB1*16020.0650.0070.040.0010.1150.0350.0090.0180.0030.040.0810.1240.0090.0340.0380.0150.0070.0770.0420.0150.0110.0180.0030.0010.0850.10.009(SaitoS,OtaS,YamadaEetal:Allelefrequenciesandhap-lotypicassociationsde?nedbyallelicDNAtypingatHLAclassIandclassIIlociintheJapanesepopulation.???????????????56:522-529,2000より)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006与する疾患を多因子疾患とよぶ.このため,HLA-DRB1以外の遺伝子とVKH病との相関や,感染などの環境要因とVKH病発症との関係が調べられている.IVVKH病の発症機序現在,VKH病の発症にはチロシナーゼが関わっている可能性が示唆されている.チロシナーゼとはチロシンをメラニンやドーパミンに変換する際に働く酵素である(図2).この酵素を構成するペプチドの一部を合成し,ラットや秋田犬に投与したところ,脱毛やぶどう膜炎などのVKH病様の症状を惹起することが確認された23,24).また,VKH病患者から得られたT細胞株をチロシナーゼ構成ペプチドで刺激すると免疫反応を惹起することが確認されている25,26).さらに,T細胞免疫応答を誘導するこの構成ペプチドは,HLA-DRB1*0405結合ペプチドモチーフを含むと報告されている25).しかし,患者と健常人のチロシナーゼをコードしている遺伝子に多型はみられなかった27).つまり,チロシナーゼの発現や構造にはVKH病患者と健常人で変化はなく,その認識系に変化が生じていると考えられる.以上から,HLA-DRB1*0405などの内的要因(遺伝素因)をもっているヒトに,感染などの外的要因が加わることによって,本来は免疫寛容で免疫機構に認識されないはずの自己蛋白であるチロシナーゼとHLA-DRB1*0405との複合体に対してCD4+T細胞が誤って反応してしまい,メラノサイトに炎症が惹起されると推定される.また,現在までのところ,HLA-DRB1以外の遺伝子とVKH病との相関は報告されていないが,おそらくHLA-DRB1以外のVKH病疾患感受性遺伝子が存在することが予想され,今後の研究報告が待たれるところである.おわりにVKH病はわが国ではサルコイドーシスについで多くみられる内眼炎である.本病のHLAとの真の相関機序,さらには全ゲノムにわたる疾患感受性遺伝子の検索により,本病の分子遺伝学的発症機序が解明され,将来はその応用としての遺伝子診断,そして遺伝子治療が確立されることが強く望まれる.文献1)杉浦清治:Vogt?小柳?原田病.臨眼33:411-424,19792)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.????????????????131:647-652,20013)OkadaT,SakamotoT,IshibashiTetal:VitiligoinVogt-Koyanagi-Haradadisease:immunohistologicalanalysisofin?ammatorysite.???????????????????????????????234:359-363,19964)MaezawaN,YanoA,TaniguchiMetal:TheroleofcytotoxicTlymphocytesinthepathogenesisofVogt-Koyanagi-Haradadisease.???????????????185:179-186,19825)OhnoS:ImmunologicalaspectsofBeh?et?sandVogt-Koyanagi-Harada?sdiseases.???????????????????????101:335-341,19816)TagawaY:Lymphocyte-mediatedcytotoxicityagainstmelanocyteantigensinVogt-Koyanagi-Haradadisease.????????????????22:36-41,19787)KimMH,SeongMC,KwakNHetal:AssociationofHLAwithVogt-Koyanagi-HaradasyndromeinKoreans.???????????????129:173-177,20008)ZhaoM,JianY,AbrahamsW:AssociationofHLAanti-genswithVogt-Koyanagi-HaradasyndromeinaHanChi-nesepopulation.???????????????109:368-370,19919)ZhangXY,WangXM,HuTS:Pro?linghumanleukocyteantigensinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.????????????????113:567-572,199210)GoldbergAC,YamamotoJH,ChiarellaJMetal:HLA-DRB1*0405isthepredominantalleleinBrazilianpatientswithVogt-Koyanagi-Haradadisease.???????????59:183-188,199811)WeiszJM,HollandGN,RoerLNetal:AssociationbetweenVogt-Koyanagi-HaradasyndromeandHLA-DR1and-DR4inHispanicpatientslivinginsouthernCalifor-nia.?????????????102:1012-1015,1995(18)図2チロシナーゼのはたらきチロシン3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)ドーパミンノルアドレナリンアドレナリンフェニルアラニン3,4-キノンメラニンチロシナーゼチロシナーゼ———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????12)ShindoY,InokoH,YamamotoTetal:HLA-DRB1typ-ingofVogt-Koyanagi-Harada?sdiseasebyPCR-RFLPandthestrongassociationwithDRB1*0405andDRB1*0410.???????????????78:223-226,199413)OhnoS,CharDH,KimuraSJetal:Vogt-Koyanagi-Hara-dasyndrome.???????????????83:735-740,197714)ShindoY,InokoH,NakamuraSetal:Clinicalandimmu-nogeneticinvestigationofaLaotianpatientwithVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.???????????????210:112-114,199615)Arellanes-GarciaL,BautistaN,MoraPetal:HLA-DRisstronglyassociatedwithVogt-Koyanagi-HaradadiseaseinMexicanMestizopatients.???????????????????6:93-100,199816)AlaezC,delPilarMoraM,ArellanesLetal:Strongasso-ciationofHLAclassIIsequencesinMexicanswithVogt-Koyanagi-Harada?sdisease.???????????60:875-882,199917)大野重昭:第96回日本眼科学会総会宿題報告免疫と眼眼疾患の免疫遺伝学的研究.日眼会誌96:1558-1579,199218)BjorkmanPJ,SaperMA,SamraouiBetal:StructureofthehumanclassIhistocompatibilityantigen,HLA-A2.??????329:506-512,198719)BjorkmanPJ,SaperMA,SamraouiBetal:TheforeignantigenbindingsiteandTcellrecognitionregionsofclassIhistocompatibilityantigens.??????329:512-518,198720)SchwartzRH:T-lymphocyterecognitionofantigeninassociationwithgeneproductsofthemajorhistocompati-bilitycomplex.???????????????3:237-261,198521)SpiesT,BresnahanM,BahramSetal:AgeneinthehumanmajorhistocompatibilitycomplexclassIIregioncontrollingtheclassIantigenpresentationpathway.??????348:744-747,199022)SaitoS,OtaS,YamadaDetal:Allelefrequenciesandhaplotypicassociationsde?nedbyallelicDNAtypingatHLAclassIandclassIIlociintheJapanesepopulation.???????????????56:522-529,200023)YamakiK,KondoI,NakamuraHetal:Ocularandextra-ocularin?ammationinducedbyimmunizationoftyrosi-naserelatedprotein1and2inLewisrats.???????????71:361-369,200024)YamakiK,TakiyamaN,IthohNetal:ExperimentallyinducedVogt-Koyanagi-HaradadiseaseintwoAkitadogs.???????????80:273-280,200525)KobayashiH,KokuboT,TakahashiMetal:TyrosinaseepitoperecognizedbyanHLA-DR-restructedT-celllinefromaVogt-Koyanagi-Haradadiseasepatient.???????????????47:398-403,199826)GochoK,KondoI,YamakiK:Identi?cationofautoreac-tiveTcellsinVogt-Koyanagi-Haradadisease.??????????????????????????42:2004-2009,200127)HorieY,TakemotoY,MiyazakiAetal:TyrosinasegenefamilyandVogt-Koyanagi-HaradadiseaseinJapanesepatients.????????????????(inpress)(19)