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オルソケラトロジー

2022年11月30日 水曜日

オルソケラトロジーOrthokeratologyforImprovedVisionandMyopiaControl吉野健一*Iオルソケラトロジーの定義と歴史オルソケラトロジー(以下,オルソK)は,「屈折異常を一時的に除去または軽減するためのRGPCL(rigidgaspermeablecontactlens)」と定義され(ortho-=矯正,kerato-=角膜,-logy=論)る.通常は睡眠時に装用することにより角膜の形状を変化させ,日中はレンズをはずして目的の視力が維持される.装用を中止すればある一定期間(約3週間)を経て元の屈折状態に戻り,可逆的な屈折矯正効果を生む.日本では2009年,厚生労働省より「視力補正用コンタクトレンズ」とは異なる「角膜矯正用コンタクトレンズ」として薬事法に則り新たに医療機器に加えられた.オルソKの歴史は,1960年代からJessenにより通常のハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)をフラットに処方し,いわゆるcornealwarpageにより角膜を扁平化した第一世代のオルソK,すなわちOrthofocusから始まる.1980年代に入ると,Wlodygaにより開発されStoyanにより製造された「reversegeometrylens」(用語解説参照),すなわちベースカーブ(basecurve:BC)と,それに続くよりスティープな第2のカーブとその周辺のperipheralcurveといった3カーブをもつ第二世代のオルソKへと移行した.そして,現在の第三世代のオルソKは1990年代に入り開発され,すでに30年近くの歴史がある.そのレンズデザインは,①角膜中央を平坦化させる直径6.mmのBC②BC周辺のレンズを角膜に吸着させる幅0.6mmのスティープな第2のカーブreversecurve(RC)③RCに続き角膜の中間から周辺部にパラレルまたはアライメントに接触し,レンズのセントレーションに寄与する第3のカーブalignmentcurve(s)(AC)④レンズが角膜に固着するのを防ぐレンズエッジ部の第4のカーブperipheralcurve(PC)といった4カーブ(5カーブ)からなる(図1).この第三世代オルソKの屈折矯正効果は第一,第二世代のそれに比し,より早く,繊細(安全)に,正確に,再現性をもって達成される.その理由は,レンズデザインの改良にのみ負うのではなく,夜間装用の効果をより安全にするための,Dk値が100以上といった高酸素透過性素材の採用と,睡眠時のレンズのフィッティング状態を確認することを可能にしたトポグラフィーの登場にある.IIオルソKの屈折矯正原理オルソKによる近視矯正は,角膜上皮細胞層の厚さと形状を変化させることにより角膜中央部を平坦化させることによってなされる.すなわち,6mmの直径をもつBCは,角膜中心弱主径線のK値(.atK)に対しさらにフラットに設定され,レンズ下涙液に相対的な陽圧を生じさせることにより達成される.角膜中央部への圧迫は,レンズ後面の角膜上皮への直接の接触によるというよりは,涙液を介した圧力によるものとされている1).*KenichiYoshino:吉野眼科クリニック〔別刷請求先〕吉野健一:〒110-0005東京都台東区上野1-20-10風月堂本社ビル6F吉野眼科クリニック0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(43)1483:直径6mm⑤レンズ径:-B:basecurveD:reversecurveC:reversecurve(5層→2~3層)(5層→7~10層)図2オルソケラトロジーの屈折矯正メカニズムBC部の角膜上皮細胞層はC5層からC2.3層へ菲薄化し,一方,RC部の角膜上皮細胞層はC5層からC7.10層へ重層化し,とくに基底細胞の丈は増しその厚みを増す.これらの角膜上皮細胞層の形状変化を角膜上皮細胞の再分配(re-distribution)とよぶ.図3旧ガイドライン下(2016年)での年齢別処方数日本眼科医会による,181施設,10,937症例のアンケート調査結果のまとめ.20歳以上という適応年齢が現実的には遵守されておらず,20歳未満の未成年への処方がC6割を超え,12歳以下の学童への処方がC25%にも及び,旧ガイドラインの内容が形骸化した.(文献C3より改変引用)眼鏡・CLオルソK図4近視進行抑制効果(peripheralrefraction&aberration説)オルソCKによる矯正は,BC部の角膜形状は平坦化する一方,RC部の中間周辺部角膜は肥厚するため屈折は強くなり,眼鏡や通常のCCLにおける周辺部網膜の遠視性デフォーカスが改善し,これにより眼軸長の伸長が抑制,すなわち近視進行が抑制されるという説.図5RC部のレンズの汚れRC部の細い溝構造はレンズケアが行き届かず蛋白,細菌(バイオフィルム)が付着しやすい.ときに綿棒による同心円状のこすり洗いが必要になることもあるが,より強力な蛋白除去剤(プロージェント)の使用も有効である.Providenciastuartii(G(-))1%Nocardia(G(+)桿)1%Haemophilusin.uenzae(G(-)桿)1%Staphylococcus(G(+)球)2%Fungus(G(+))3%Serratiamarcescens(G(-)桿)3%図6オルソK角膜感染症の原因微生物緑膿菌がC38%,アカントアメーバがC31%で,全体の約C70%がこの二つの病原微生物が原因の角膜感染症である.〔オルソケラトロジーの安全性に関する英語文献C75編のレビュー(2005,C2006,2007)〕(文献C16より改変引用)■用語解説■reversegeometrylens:リバースジオメトリーレンズは,ベースカーブ(BC)から周辺方向に続き,よりスティープなカーブ,すなわちリバースカーブ(RC)をもったデザインのレンズをさす.「リバースジオメトリー」という用語は,従来のハードコンタクトレンズでは周辺カーブがCBCよりフラットであることに対し,リバースジオメトリーレンズでは,RCがCBCよりスティープであるという違いを明確にするために用いられた.オルソケラトロジーレンズの代名詞となっている.

眼精疲労対策

2022年11月30日 水曜日

眼精疲労対策ContactLensPrescriptionfortheTreatmentofAsthenopia梶田雅義*はじめに眼精疲労とは,眼を持続して使ったとき,健常者では疲れない程度の作業でも疲れを生じ,眼の重圧感,頭重感,視力低下,時には複視などを訴え,はなはだしいときには悪心・嘔吐まできたす状態をいう.眼精疲労は眼の使用状態,眼の能力および眼あるいは精神的な耐える力の三者がバランスを崩したときに発症すると考えられる1)(図1).スマートフォンの普及によって,近方の視覚情報量が増加し,近方視の時間も極端に長くなってきている.また,COVID-19によってオンラインやテレワークの時間が長くなり,遠くを見る機会が失われていることも眼精疲労増加の一因になっている.巷ではスマホ老眼とかスマホ斜視とよばれているように,最近の眼精疲労は調節機能異常と輻湊機能異常が発症原因になっている.I調節機能異常眼精疲労を訴えて受診する患者は,不適切な矯正状態にあることが多い.調節機能異常では視力値が良好であるため,一般の眼科検査では見逃されていることが多い.簡単な自覚的調節検査では年齢相応の調節力が得られるため,調節に異常はないと判断されるためである.コンタクトレンズ(contactlens:CL)使用者で眼精疲労の訴えがあるときには必ず,不適正な矯正の存在を疑う必要がある.CLを装用した状態でのオートレフラクトメータで測定した球面屈折値が.0.75Dよりも遠視寄りで,また数回の測定値で屈折値が変動する場合には,眼精疲労の原因として近視の過矯正,あるいは遠視の低矯正を疑う必要がある.CLの不適正な矯正を疑ったら,オートレフラクトメータで繰り返し,しつこく他覚的屈折値(オーバーレフ値)を測定してみる.球面度数が激しく変動する状態は調節異常の存在を示唆する.また,球面屈折値は安定していて円柱屈折値が1.00D以上の場合には,乱視矯正不足が眼精疲労の原因になっている可能性もある.さらに円柱レンズ度数や円柱軸度が変動する場合には激しい調節緊張にあることが疑われる.II両眼同時雲霧法と眼位検査近視過矯正や遠視低矯正,および乱視矯正不良が疑われる場合には,使用中のCLを装用したまま,両眼同時雲霧を実施すると,矯正度数の過不足を容易に見つけることができる.①オーバーレフの円柱度数が1.00Dならば,0.50Dを,1.25D以上の場合には0.75Dを減じた値の円柱レンズをオーバーレフの円柱軸に一致(10°ステップで近似)させて検眼枠に挿入する.②オーバーレフの球面屈折値に+3.00Dを加えた検眼レンズを両眼に装用する.③雲霧時間は設けないで,すぐに測定を開始する.④字づまり視力表を用いて,両眼視で視力値を確認しながら,両眼を同時に0.50Dずつレンズ交換法によっ*MasayoshiKajita:梶田眼科〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(37)1477図1眼精疲労環正三角形の板の中央に垂直に固定された柱がある.下方には眼精疲労環があり,柱は眼精疲労環を貫いている.正三角形の板の先端にはそれぞれ「眼の能力」「眼の使用」「耐える力」のおもりが吊されている.三つのおもりのバランスがとれていれば,柱は眼精疲労環の中央に位置しており,健康な状態である.三つのおもりがバランスを壊したときに,柱が眼精疲労環に接触し,眼精疲労を発症する.スクリーン図2ビノキュラーセパTN.3000(田川電気研究所製)接眼部より投影面までの距離(検査距離)がVDT(visualdisplayterminals)作業中のディスプレイ面とほぼ等しい距離であり,眼位異常によってVDT作業中に生じる眼精疲労の診断にきわめて有用である.1mの距離で検査を行えば,1cmのズレが1Δに相当するのも利点である.アコモレフ2(ライト製作所)AA-2(ニデック)図3調節機能解析装置どちらの装置も測定点を4カ所に減らした簡易モードを備えているが,眼精疲労の診断治療には,測定点を8カ所もつ通常モードで測定するのが望ましい.図4正常なFk.map(46歳,男性)図5調節けいれんのFk.map(29歳,男性)調節機能解析装置で記録される調節機能図で,横軸は視標位呈示視標に対して強い調節リードが生じており,HFC値も高置,縦軸は屈折値,カラーバーの上端は被検眼の屈折値,カラい値を呈している.ーバーの色は調節微動高周波数成分の出現頻度(HFC)である.カラーバーの高さで正しく調節ができるかがわかり,カラーバーの色で,その調節力を発揮するときにかかる毛様体筋への負担が推測できる.図7老視のFk.map(74歳,女性)調節反応量もほとんど生じていないし,HFC値が低く,調節努力も生じていない.眼精疲労の訴えはないが,近くがよく見えないと訴える.図6テクノストレス眼症のFk.map(19歳,女性)遠方視標に対しては,正常な所見を呈しているが,近接視標に対しては調節緊張症や調節けいれんの所見を呈する.図8スマホ老眼のFk.map(15歳,女性)図9老視の調節緊張症のFk.map(80歳,男性)老人のFk-mapとまったく同じ所見を呈している.遠くが見強い調節努力が生じており,それによってある程度の調節応答える単焦点レンズの矯正では手元が見えないと訴える.が生じている.眼精疲労を訴えているが,安定して見える矯正度数が定まらない.

老視対策

2022年11月30日 水曜日

老視対策ContactLensWearfortheCorrectionofPresbyopia塩谷浩*はじめに老視世代へのコンタクトレンズ(contactlens:CL)処方では,近方視での視力障害の自覚症状が出現しているCL装用者には近方視を補助する対応が必要となる.また,老視世代になって初めてCLを使用することを希望している患者には,はじめから近方視の補助を考慮した対応が必要となる.いずれの場合でも老視へ対応する方法を知らなければ,CLの使用をやめさせ眼鏡などで対応する方法をとらざるを得なくなる.しかし,日常生活で眼鏡を使用しない生活を希望している患者へは,生活スタイルを変化させないために可能な限りCLで対応する方法を選択すべきである.老視は加齢により調節力の衰えた状態を示した表現で,老眼研究会では医学的老視は近方視での自覚症状の有無にかかわらず片眼完全矯正下での調節幅が2.5D未満,臨床的老視は近方視での視力障害の自覚症状を有し,近方視力が40cm視力で0.4未満または30cm視力で0.3未満と定義している(表1).年齢別調節力をみると医学的老視は50歳頃に発症するが,CL処方における老視矯正は近方視に不自由が出現した状態であるため,40歳台からでも対応することがある(図1).一般的にCL処方での老視への対応法には,CLと眼鏡を併用する方法,CLの球面度数を中間距離に設定する方法,CLによるモノビジョン法,遠近両用CLの処方の四つの方法がある1)(表2).本稿では,この四つの方法によるCLでの老視への対応について解説し,老視表1老視の定義医学的老視近方視での自覚症状の有無にかかわらず片眼完全矯正下で調節幅が2.5D未満臨床的老視近方視での視力障害の自覚症状を有し40cm視力0.4未満または30cm視力0.3未満(老眼研究会ホームページより引用改変)世代のCL使用者の快適ライフのためにどう対応すべきかを考える.ICLと眼鏡の併用CLと眼鏡を併用する方法には,遠方視用に球面度数を適正に設定したCL装用上に近方視用に度数調整した近用眼鏡を処方する方法と,近方視用に遠方適正度数よりも球面度数をプラス側に設定したCL装用上に遠方視用に度数調整した遠用眼鏡を処方する方法の二つがある.患者の生活スタイルに応じて利便性が高いと思われる方法を選択する(表3).ソフトCL(softCL:SCL)処方の場合は,レンズ製品規格にある球面度数内で矯正しきれない強度屈折異常や中等度以上の乱視でトーリックSCLの適応となる患者では,遠近両用SCLでは見え方の質を維持することができないため有用な方法である.ハードCL(hardCL:HCL)処方の場合は,残余乱視が大きく前面トーリックHCLや両面トーリックHCLの適応となる患者*HiroshiShioya:しおや眼科〔別刷請求先〕塩谷浩:〒960-8034福島市置賜町5-26しおや眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(31)1471調節力(D)1514131211109876543210051015202580図1年齢別調節力と近点距離表2コンタクトレンズ(CL)の老視への対応法表3コンタクトレンズ(CL)と眼鏡の併用1.CLと眼鏡の併用2.CLの球面度数を中間距離に設定3.CLによるモノビジョン法4.遠近両用CLの処方・遠方視用度数設定CL+近用眼鏡・近方視用度数設定CL+遠用眼鏡表4コンタクトレンズ(CL)の球面度数を中間距離に設定コンタクトレンズの球面度数を中間距離に設定する老視への対応法には以下の二つの方法がある.・近視では低矯正に度数設定(度数を弱めに設定)・遠視では過矯正に度数設定(度数を強めに設定)表5モノビジョン法の種類モノビジョン法の種類優位眼非優位眼モノビジョン単焦点CL※1単焦点CL※2モディファイド・モノビジョン単焦点CL※1遠近両用CL※1モディファイド・モディファイド・モノビジョン遠近両用CL※1遠近両用CL※2※1遠方が両眼で違和感なく見えるように遠方適正度数に調整する.※2近方が両眼で違和感なく見えるように遠方適正度数からプラス側に調整する.ただし両眼視機能が維持できるように0.25D.1.50Dの範囲内とする.覗き孔法(hole-in-cardtest)両手で作った穴(またはカードの穴)遮蔽によって目標が見えなくなった側から両眼で目標を注視させる.の眼を優位眼と判定する.図2遠方視での優位眼の判定方法表6遠近両用コンタクトレンズの分類機能焦点形状中心光学部種類交代視二重焦点セグメント型遠用HCL同心円型同心円型遠用SCL二重焦点近用回折型近用同時視累進屈折力非球面型遠用HCLSCL近用SCL拡張焦点深度同心円型遠用SCL近用SCL:ソフトコンタクトレンズ,HCL:ハードコンタクトレンズ.交代視型セグメント型同心円型同時視型同心円型非球面型回折型図3遠近両用コンタクトレンズの光学部形状デザイン*見え方のイメージ遠方の景色道路標識テレビパソコン携帯電話近方視近方視近方視良好不良良好不良良好不良良好不良良好不良良好不良遠方視遠方視遠方視図4遠近両用コンタクトレンズの見え方の特性の分類CLの使用経験レンズの種類(SCL/HCL)を選択遠方視・近方視の重視度製品(デザイン/メーカー)を選択CLのフィッティング検査処方レンズの製品を決定見え方,装用感,ハンドリングレンズ規格を決定し,処方図5遠近両用コンタクトレンズ(CL)の処方手順まずCLの使用経験からレンズの種類を選択し,遠方視・近方視の重視度から製品を選択する.加入度数の設定年齢,近方矯正加入度数にかかわらず最初は,低い加入度数のレンズを選択球面度数の設定自覚的屈折度数※より0.50D~+1.00Dプラス側から設定図6遠近両用コンタクトレンズ(CL)の度数設定加入度数はまず低い加入度数を選択し,球面度数は低い加入度数であっても近方が見えるプラス側に設定し度数調整を開始する.装用開始時に確実に近方が見える度数設定になっていることで,度数調整は遠方矯正の不足分をマイナス度数の追加で対応することになり,度数調整がシンプル化され過矯正を起しにくい.

スポーツをする人にとってのコンタクトレンズ

2022年11月30日 水曜日

スポーツをする人にとってのコンタクトレンズContactLensesforUseinSports工藤大介*はじめに多くのスポーツにおいて,視力の果たす役割が重要であることは論をまたない.しかし,実際の競技能力とどの程度関係するかを科学的に評価するのはむずかしい.競技によっては,視力が競技能力にあまり影響しないものもある.競技能力に影響する因子は多く,視力はその中の一要因に過ぎない.眼科医がスポーツをする人の競技能力を,眼科的観点からサポートできるとすれば,現時点でできることは,眼疾患があればそれを治療し,視力を適切に,正しく矯正することだけである.現在,視力矯正は眼鏡,コンタクトレンズ(contactlens:CL),屈折矯正手術,オルソケラトロジー(orthokeratology:Ortho-K),レーザー角膜内切削形成(laserinsituker-atomileusis:LASIK)などさまざまな方法で行われているが,スポーツでもっとも多く使用されている矯正手段はCLであろう.本稿は,患者がスポーツ時にCLを用いたいと希望した際に,必要とされる基礎知識と処方時の留意点についての,眼科専門医のスポーツドクターである筆者からの提案である.筆者の個人的見解も多分に盛り込まれているので,あくまでもご自身がCLを処方される際の参考にしていただければ幸いである.ICLの適応があるかどうかまず,重要な点は,CLは誰にでも適応になる手段ではないことである.直接角膜上に装用することから,厚生労働大臣により,使用法を誤ると人体に重篤な合併症を生じさせる危険のある,高度管理医療機器に指定されている.したがって,角結膜疾患やドライアイで涙液分泌量の著しく低い患者には使用できないことがある.また,ディスポーザブルのCL以外は,レンズの洗浄などの定期的なケアが必要となる.患者がきちんとCLのリスクやケアの重要性を理解し,実施できるかどうか,年齢,使用環境,患者個人の性格などからの見きわめも重要となる.次に,CLによる矯正が必要か否かを判断する必要がある.多種多様な競技があるなかで,必ずしもすべての競技時の視力矯正手段としてCLが適しているわけではない.多様な視力矯正手段のなかから,CLを選択することが妥当かどうか,患者本人の希望と眼の状態,どのような状況で使用するかなど,多角的な面からの検討が求められる.また,CLによる矯正を選択した場合,競技種目の特性,競技環境によって,最適と思われるCLの種類は変わってくる.したがって,眼科医はそれぞれの競技の特徴や競技環境と,各種CLの特徴を理解したうえで,患者に対し,競技をするうえで最適なCLを提案する必要がある.IIスポーツの特性に適したCLのタイプスポーツ時に用いられるCLの種類はハードCL(hardCL:HCL),ソフトCL(softCL:SCL)に大別される.*DaisukeKudo:順天堂大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕工藤大介:〒113-8421東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(23)1463FrontedgeFrontedge図1スポーツ用SCL(スポーツビュー)のデザイン(アイミー提供)33CHCCHC2O-COCH32COCHCHOCHCHOPOCHCHN+CH3OR2222CHO3mnR:アルキル基図2MPCポリマーの化学構造式右用レンズ左用レンズ図3乱視矯正用SCL(ユーソフト)のガイドマーク調光反応前(シード提供)調光反応後(着色している)図4調光着色レンズの装用写真(ジョンソン・エンド・ジョンソン提供)の際のCL装用は,アレルギー性結膜炎などを惹起して問題となることがある.SCLに抗アレルギー薬であるケトチフェンを添加した抗アレルギー薬含有SCLは,そのような患者のスポーツ時の装用に用いることができる.しかし,アレルギー性結膜炎を発症した際は原則としてCLは装用中止とし,治療をすることが重要である.スポーツ選手,とくに競技を生業とするプロ選手は,自分の眼の状態よりも試合などの予定を優先して無理にCLを装用しようとする傾向があるので,とくに管理,指導する必要がある.IIIどの競技にどのタイプのCLが適しているかどの競技にどのタイプのCLを選択するかは,大きく競技の特性,競技中の環境という二つの面から考える必要がある.1.競技の特性から選択するそれぞれの競技ごとに競技自体のもつ特性があり,その特性に合わせたCLを選択する.CLの装用という点においては,その競技が①激しい動きや相手との接触を伴うかどうか②ボールや指標が動くかどうか,という二点で多くは分類できる.a.激しい動きや相手との接触を伴うかどうか体操,ダンス,エアロビクスなど,動きの激しい競技では,動きによってレンズが脱落しにくいSCLが適している.球技のなかでも相手との接触の多いラグビー,サッカー,バスケットボールや,格闘系の競技である柔道,ボクシング,レスリングなどでは,相手と接触する機会が多いので,眼そのものに対する接触や,強い衝撃により脱落しにくいSCLが適している.また,頻繁にジャンプを繰り返すバレーボールなども,着地の衝撃でCLが脱落することの少ないSCLの適応となる.一方,激しい動きや相手との接触のないビリヤード,パワーリフティング,ボディビルなどの競技ではSCL,HCLいずれでの競技も可能であり,競技者の眼の状態や本人が競技時にどちらのレンズで競技がしやすいか,といった点などから判断する.b.ボールや指標などが動くかどうか野球,テニス,バドミントンなどボールやシャトルが高速で移動する競技では,素早く頻回な眼球運動が要求されることが多く,瞬時の眼球運動でずれにくいSCLが望ましい.一方,ライフル射撃やアーチェリー,ダーツなど,固定された指標を明視する必要がある競技では,よりはっきり指標が見えることが有利である.同じ矯正視力でも,SCLと比較してHCLはコントラスト感度がよいとされ,またこのような競技では激しい動きも伴わないため,HCLが適している.SCLでも,レンズそのものに着色し,コントラスト感度を上げる機能を有するレンズが開発,市販され,米国ではメジャーリーグの選手などが用いており,日本でもかつて市販されていた.大学野球選手を対象とし,黄色に着色したSCLを用いた研究もあるが,羞明感などの自覚症状の改善を認めたが,競技パフォーマンスに与える影響は不明とされている4).2.競技中の環境条件から選択する競技中のCL装用者を取り巻く環境は競技によってさまざまであり,眼に与える影響も大きく異なる.それらの環境に応じたCLを選択することも重要である.a.埃や泥で汚染される環境での競技現在では人工芝のグラウンドも増えてきたが,まだまだ土のグラウンドも多い.土のグラウンドで行われるラグビーやサッカーなどの競技では,眼もCLも汚染される.このような環境では1日使い捨てタイプのSCL(disposableSCL:DDSCL)を用い,使用後は直ちに破棄するべきである.CLの脱落,紛失時に備え,必ず予備のCLを準備する.b.水中で行う競技①一般的な水泳競技Ortho-Kなどがよい適応になるケースも多いが,本稿ではCLの処方という観点から述べる.一般的な競泳では,視力が競技に及ぼす影響は大きくないので,マーカーや掲示板の表示が見える程度の視力でよいことが多い.水中での装用を認めているCLはないが,CLを装用しなければマーカーも見えないような選手は装用せざるを得ない.水中で脱落しにくい,という点ではSCL1466あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022(26)図5アカントアメーバ角膜炎の前眼部写真り,試合中に頻繁に味方,相手選手の動きと,電光掲示板の残り時間を見る必要があるが,どうもしっくり見えない,とのことで受診した.かなり激しい動きを伴う競技の特性と,選手自身が軽度のドライアイを有していたことから,レンズ径と含水率の異なる複数のレンズをトライアルとして処方,実際の練習や試合で使用してもらった.理論的にはレンズ径の大きく,低含水率のものが好まれるのではないか,と予想したが,実際に選手がもっともプレイしやすいと選んだのは,通常のレンズ径で高含水率のSCLであった.トライアルで渡したレンズはそれぞれ極端にフィッティングが異なるということもなかったが,SCLは同じベースカーブでも製品によりフィッティングが微妙に異なり,装用感に関しては主観的なものとなる.あくまで実際の練習,試合での装用が,本人が競技しやすく,満足できるものかどうかということが唯一の正解となる.したがって,スポーツ選手へのCL処方は,いくつかの候補のレンズを実際の試合や練習で使用してもらってから,本人の感想を参考にして選択したほうがよい.Vスポーツをする小児に対するCL処方小児にとっても,大人と同様にスポーツをする際,CLが適応となるケースは多い.小児のCL処方希望の動機は,運動のため,とするものがもっとも多く,全体の半数以上であったという報告がある.また,運動の内容としてはサッカー,野球などの球技系種目を中心に,バレエ,ダンス,武道などであった6).小児においても眼鏡やスポーツ用ゴーグル装用ができない場合,運動時にはCLの特性が適している.小児へのCL処方でもっとも問題となるのは,正しく安全に使用できるか,という点である.これには小児本人だけでなく,保護者への指導,啓発が重要となる.本人と保護者に対し,CLが高度管理医療機器に指定されていること,扱いを誤ると重篤な眼合併症を招くリスクがあることをしっかりと説明し,理解してもらうことが重要である.指導のみならず,定期経過観察を必ず行い,少しでも異常がみられた場合はすぐに装用を中止し,受診するよう指導する.レンズケアによるトラブルを避けるため,可能であれば洗浄不要なDDSCLを第一選択とし,スポーツ時のみの使用に限定したほうが,より安全に管理できると考える.VI最近の話題.eスポーツeスポーツ(e-sports)とは「エレクトロニック・スポーツ」の略で,電子機器を用いて行う娯楽,競技,スポーツ全般をさす言葉であり,コンピュータゲーム,ビデオゲームを使ったプレイヤー同士の対戦をスポーツ競技として捉える際の名称である.欧米ではチェスやビリヤードもスポーツとして認知されている.eスポーツは1990年代後半から欧米・韓国を中心に発展し,現在の世界プレイヤー人口推計は1億人以上と考えられている.eスポーツの競技としての特徴は,手の動き以外は激しい動きを伴わないが,大きい画面でのプレイでは,ゲームの種類によっては,かなり激しい眼球運動を伴う場合があること,長時間モニターを注視すること,基本的には室内で行われること,があげられる.眼科的には,モニターを注視することにより瞬目が減少し,眼瞼を大きく開大することにより乾燥すること,長時間凝視することによる眼精疲労などが問題となる.乾燥という点からは,CLよりは眼鏡のほうが適しているのではないか,と考えるが,不同視や,何らかの理由で眼鏡がかけられない場合は,CLを装用することもあるかもしれない.手以外の身体の部分は動かさないが,大画面での格闘ゲームなどではかなり激しい眼球運動を伴うこともあるので,乾燥に強いSCLを装用する.しかし,実際にはゲームの種類やプレイヤーの眼の状態,画面の大きさやプレイ時間などにもよるので,実際のゲーム時に使用してもらい,プレイヤー本人にとって最適なCLを処方するのがよい.どのようなCLを使用しても,非常に乾燥しやすい環境下での装用となるので,装用中は適宜人工涙液などを使用し,乾燥の予防をするよう指導する.VIIスポーツ時のCL装用は安全かわが国のスポーツによる外傷のうち,眼外傷の占める割合は全体の2.5%で,年間4,000件以上発生している.スポーツ外傷の受傷原因としては球技によるものがもっとも多く,全体の半数近くを占める7).スポーツ眼外傷1468あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022(28)

デスクワークの多い若い人

2022年11月30日 水曜日

デスクワークの多い若い人PrescriptionofContactLensesforYoungAdultswithDemandingDeskJobs大口泰治*はじめにデスクワークの多い若い人は近方視をいかに快適にするかが大切である.通常は近方視を楽にすること=低矯正と思われていることが多いが,単に低矯正とすることでは快適な近方視とはならないことがある.近方視にかかる調節の負担を減らすためには正の調節を減らすことが必要だが,低矯正とすることで遠方視が快適にできない場合は,ときには眼位の不安定さを生じ,毛様体筋と外眼筋の疲労を増加させることがある.視力補正は常に屈折・調節・眼位の三者のバランスを考慮しながら行う必要がある.壮年期前の若い人であっても調節や眼位に異常を生じていることもある.その状態を的確に把握しながらコンタクトレンズ(contactlens:CL)処方を行う必要がある.I近方視における眼の動きデスクワークの多い若い人は20~30歳台が想定される.学童期と違い1日中パーソナルコンピューター画面やスマートフォンを見たりしながら作業をすることになり,毛様体筋と外眼筋に負担がかかる(図1).遠方視時は毛様体筋が弛緩し水晶体を薄くしている(負の調節).近方視時は毛様体筋が緊張(収縮)し水晶体を膨らませてピントを調節している(正の調節).負の調節は交感神経支配であり,正の調節は副交感神経支配である.したがって,本来は日中や活動時には交感神経が優位となるが,眼においてはデスクワークを行うと副交感神経が優位となり,そのバランスが崩れてしまうことになる.調節力は測定可能な10歳台からは低下し,40歳時点で4~5D程度はあるとされる1)が,個人差が大きい.また,他覚的に測定可能な調節反応量は35歳までは加齢変化が明らかではないが,眼の疲労を訴える患者では若くても近方視に必要な調節反応量が記録できないことも多いことがわかっている2).したがって,個々の患者に合わせて必要な調節力を考慮して処方を考える必要がある.また,パーソナルコンピューターと異なり,スマートフォンの平均視距離は19.3cmでその輻湊角は31Δと報告3)されており,近方視は外眼筋に対する負担も大きい.CLでは眼鏡と異なり眼位を補正できるプリズムレンズはない.適切な視距離を保つためには低矯正にして視距離が短くなることは避けなければならない.II加入度数が+0.50D以下の低加入遠近両用CLCLで調節を補助する方法として遠近両用CLがある.とくに最近は各社のソフトCL(softCL:SCL)で加入度数が+0.50D以下の製品が発売されている(表1).加入度数が+0.50D以下の製品のメリットは遠方の見え方の質が低下しにくいことである(図2).加入度数が+0.50D以下のSCLは,長時間の近見作業で眼に疲れを自覚しているSCL装用者を対象に同一素材の単焦点と比較した報告4)で,アンケート結果では*YasuharuOguchi:梶田眼科,福島県立医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕大口泰治:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(15)1455ab図1近方視時の毛様体筋と外眼筋への負担a:遠方視時.b:近方視時.近方視時は毛様体筋と外眼筋に負担がかかる.表1各社加入度数+0.50D以下の遠近両用SCLの一覧1day2week商品名Prime1daySMARTFOCUS1dayPureうるおい1dayPureViewプラスFlexSupportEyeco.ret1dayUVMViewSupport2WEEKメニコンバイオフィニティDUOアクティブ製品外装製造会社アイレSEEDSEEDSEEDメニコンクーパービジョンDk値2830301234128B.C.8.8.mm8.8.mm8.8.mm8.6.mm8.6.mm8.6.mm球面度数+1.00~-9.00D+5.00~-10.00D+5.00~-12.00D±0.00~-8.00D-0.25~-10.00D+5.00~-12.00D加入度数+0.50D+0.50D+0.50D+0.50D+0.50D+0.25D直径14.2mm14.2mm14.2mm14.0mm14.5mm14.0mm中心近用遠用遠用遠用遠用近用B.C.:ベースカーブabc図2単焦点,低加入,高加入遠近CLのイメージa:単焦点.b:低加入.c:高加入.低加入であれば遠方の光量低下が少なく像の歪みも少ない.表2症例1(24歳,女性)の検査所見右眼左眼CL上のオーバーレフ-0.50D(cyl-0.50DAx139°+0.25D(cyl-0.50DAx11°CL視力(1.0×CL)(1.2×CL)裸眼の他覚的屈折値-8.25D(cyl-0.75DAx141°-6.75D(cyl-0.50DAx16°使用中のCL度数-7.00D-6.00D調節検査(アコモレフ)表3症例1に処方したCLと検査所見右眼左眼処方CL度数-7.00D-5.75DCL上でのオーバーレフ-0.50D(cyl-0.75DAx155°-0.25D(cyl-0.25DAx20°CL視力(0.9×CL)(1.2×CL)表4症例2(24歳,男性)の検査所見右眼左眼CL上のオーバーレフ+1.00D(cyl-0.75DAx180°+0.25D(cyl-1.50DAx176°CL視力(0.5×CL)(0.8×CL+1.25D(cyl-0.75DAx180°)(0.9×CL)(1.2×CL+0.25D(cyl-0.75DAx180°)裸眼の他覚的屈折値-3.25D(cyl-1.00DAx180°-4.25D(cyl-1.50DAx176°使用中のCL度数-4.50D-4.50D調節検査(AA2)表5症例2に処方したCLと検査所見右眼左眼処方CL度数-2.75D(cyl-0.75DAx180°-2.50D(cyl-0.75DAx180°CL上でのオーバーレフ-0.50D(cyl-0.25DAx141°-1.50D(cyl-0.75DAx4°CL視力(1.2×CL)(0.3×CL)表6症例3(23歳,女性)の検査所見右眼左眼CL上のオーバーレフ-0.50D(cyl-0.50DAx26°-0.25D(cyl-0.50DAx162°CL視力(1.0×CL)(1.2×CL)裸眼の他覚的屈折値-10.00D(cyl-0.50DAx23°-10.00D(cyl-1.00DAx165°使用中のCL度数-8.00D-8.50D調節検査(AA2)表7症例3に処方したCLと検査所見右眼左眼処方CL度数-8.00DLow(+0.75D~+1.25D)-8.50DLow(+0.75D~+1.25D)CL上でのオーバーレフ-1.00D(cyl-0.50DAx9°-0.75D(cyl-0.75DAx171°CL視力両眼遠方(0.8×CL)両眼近方(1.2×CL)--表8症例4(23歳,女性)の検査所見右眼左眼他覚的屈折値+0.25D(cyl-1.25DAx5°-2.75D(cyl-0.50DAx6°自覚的屈折値1.0(1.0×+0.75D)0.2(1.5×-1.75D)使用中の眼鏡0.00D(cyl-0.50D180°-1.50D(cyl-0.25D180°調節検査(AA2)表9症例4に処方したCLと検査所見右眼左眼処方CL度数+1.75D-1.75D°CL上でのオーバーレフ-1.75D(cyl-1.25DAx179°-0.50D(cyl-0.50DAx178°CL視力(0.2×CL)(1.2×CL)表10症例4に1カ月後に処方したCLと検査所見右眼左眼処方CL度数+1.75D-1.25D°CL上でのオーバーレフ-1.50D(cyl-1.25DAx3°-0.75D(cyl-0.50DAx2°CL視力(0.4×CL)(1.2×CL)表11症例5(20歳,女性)の初診時検査所見右眼左眼他覚的屈折値-4.25D(cyl-7.00DAx169°-3.25D(cyl-8.00DAx12°角膜曲率半径8.26.mm/7.25.mmcyl-5.75DA173°8.33.mm/7.23.mmcyl-6.25DA10°自覚的屈折値0.15(0.9×-2.75D(cyl-6.00DAx170°)0.4(0.8×-1.75D(cyl-6.00DAx10°)表12症例5に処方した左眼Bi.TorHCLと検査所見ベースカーブ1,2/球面度数,乱視度数/直径7.35.mm,8.35.mm/-1.50D,cyl-6.50D/9.0mmCL上でのオーバーレフ+0.25D(cyl-0.75DAx20°CL視力Vs=(0.9×CL)(1.0×CL×cyl-0.50DAx20°)abcde図3症例5の強度直乱視に対するBi.TorHCL処方a:前眼部OCT(axialpower).b:球面HCL.c:bの前眼部OCT像.d:Bi-TorHCL.e:dの前眼部OCT像.

小中学生のコンタクトレンズ使用の現況

2022年11月30日 水曜日

小中学生のコンタクトレンズ使用の現況CurrentStatusofContactLensesUseinElementaryandJuniorHighSchoolStudents宮本裕子*はじめに日頃,臨床の現場で「コンタクトレンズ(contactlens:CL)は何年生になったらできますか?」とよく聞かれる.筆者は,自分で自分の目の管理ができるなら,中学生でも必要な場合は使用してよいのではと答えている.では,小学生はどうなのか.処方医によって考えが異なり,CLは中学生からとしている先生もおられる1)が,筆者自身は必要な場合は小学生にもCL処方を行うことはある.そもそも軽度近視はよい眼であるという話もあるが,近年は近視進行管理を意識してCLを処方することがある.多焦点のソフトCL(softCL:SCL)を使用したり,オルソケラトロジーにおいては6~8歳で開始すべき2)とする報告もいくつかあるので,一般眼科においても小学生にCLを処方する機会が増加しているように思われる.そこで今回,近年の小中学生に対するCL使用の現況を考えてみる.I学校現場でのコンタクトレンズ使用状況日本眼科医会が行った平成30年度の学校現場でのCL使用状況調査の結果3),小中高校生ともに,使い捨て(2週間頻回交換や定期交換レンズを含む)SCLつまり使用期限のあるSCLがもっとも多く使用されている(図1).そのなかでもとくに1日使い捨てSCLがもっとも多い.特徴的なのは,小学生では,オルソケラトロジーレンズが2番目に多く使用されていることである.また,初めてCLを使用する時期は中学1年生と高校1年生が多く,小学5,6年生は少ないながら近年増加傾向にある.実際,学校健診に行っても,小学校の高学年でクラスに1人くらいすでにCLを使用している児童がいたりする.小中高一貫校を除いて多くの場合は学校が変わり,新学期を迎える中学1年生あるいは高校1年生でCLデビューをすることが多いのではないかと思われる.本調査で気になるのは,CLの入手場所として小中高生ともにネット購入が増加し,また診察を受けない例が増加している点である.ネット購入例では,度数の管理ができておらず乱視矯正ができていなかったり,近視の進行に対応できないままであったり,逆に過矯正の度数のレンズが使用されていたりと,正しい処方ができていないのが現状である.II小中学生に処方する可能性のあるCL1.単焦点SCL初めて小中学生にCLを処方するとき,ほとんどの場合は単焦点SCLが処方されていると思う.1日使い捨てタイプや2週間交換タイプなどを本人と保護者に説明してどのようなレンズにするのかを決めていくが,スポーツや稽古事をするときにCLを使用したいという理由で,1日使い捨てタイプを処方することが多いように思う.自分でCLを取り扱えるように,レンズの装着脱や取り扱い指導をしっかり行うが,一度でできないことも多く,できるようになるまで何度か試みる.小学生でもスムーズに取り扱いができるようになる場合もあるが,*YukoMiyamoto:アイアイ眼科医院〔別刷請求先〕宮本裕子:〒558-0023大阪市住吉区山之内3-1-7アイアイ眼科医院0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(9)1449図1使用しているコンタクトレンズの種類a:小学生,b:中学生,c:高校生.ハード通常(日中装用ハードコンタクトレンズ)ハード連続(連続装用ハードコンタクトレンズ)オルソCK(オルソケラトロジーレンズ)ソフト通常(使用期限なしソフトコンタクトレンズ)カラーCCL(カラーコンタクトレンズ)使い捨てソフト(使用期限ありソフトコンタクトレンズ)(文献C3より許可を得て引用)表1当院の1年あたりのSCL度数変化ab右眼CSCL度数球面デザインのみ非球面デザインのみ進行度合い(4C2眼)(1C0眼)0.09D/年以下18眼(C42.9%)6眼(6C0.0%)0.25D/年以上9眼(2C1.4%)2眼(2C0.0%)右眼CSCLの球面デザインのみ非球面デザインのみ進行度数(4C2眼)(1C0眼)1年あたりの平均進行度数C0.15±0.12DC0.12±0.14Da:球面デザインの単焦点CSCLのみを使用してきた例と非球面デザインの単焦点CSCLのみを使用してきた例において,レンズ度数があまり変わらなかった例の割合と変化の大きかった例の割合.Cb:球面デザインの単焦点CSCLのみあるいは非球面デザインの単焦点SCLのみを使用してきた例のC1年あたりの平均進行度数の比較.a,bともに対象は,近視あるいは近視性乱視でCSCLを使用しC5年以上観察できている症例の右眼のレンズ度数.表2低加入度ソフトコンタクトレンズ2週間交換タイプ1日使い捨てタイプ商品名2WEEKメニコンデュオバイオフィニティアクティブシードC1dayPureうるおいプラスCViewSupportプライムワンデースマートフォーカス製造元メニコンクーパービジョンジャパンシードアイレ含水率CDk値72%34C48%128C58%30C58%C28ベースカーブC8.6CmmC8.6CmmC8.8CmmC8.8Cmm度数-0.25~-6.00(C0.25ステップ)-6.50~-10.0(C0.5ステップ)5.00~-6.00(C0.25ステップ)-6.50~-12.00(C0.5ステップ)5.00~-6.00(C0.25ステップ)-6.50~-12.00(C0.5ステップ)1.00~-7.00(C0.25ステップ)-7.50~-9.00(C0.5ステップサイズC14.5CmmC14.0CmmC14.2CmmC14.2Cmm加入度数C0.50DC0.25DC0.50DC0.50Dその他ガイドマークありシリコーンハイドロゲルレンズUVカット機能ありUVカット機能ありab図2ソフトコンタクトレンズの屈折度数分布デザインの例a:2重焦点ソフトコンタクトレンズの屈折度数デザインの例.中心に遠用度数が配置されその周囲に近用度数が配置されている場合.Cb:累進屈折ソフトコンタクトレンズの屈折度数デザインの例.中心の遠用部分に累進屈折度数が配置されその周囲に近用度数が配置されている場合.c:EDOF(extendedCdepthCoffocus)型ソフトコンタクトレンズの屈折度数デザインの例.中心に遠用部分があり遠用度数,中間度数,近用度数が複雑に組み合わされている場合.(画像提供先:BrianHoldenVisonInstitute,株式会社シード)就学前児童-abcd--図4日本眼科医会が作成したコンタクトレンズ啓発動画のQRコードa:第C1話.Cb:第C2話.Cc:第C3話.Cd:第C4話.■用語解説■高度管理医療機器:医療機器は,一般医療機器,管理医療機器,高度管理医療機器に分類され,そのなかで,高度管理医療機器は,副作用または障害が生じたときに人の生命や健康に重大な影響を与える可能性のあるものをさす.そのなかには,人工呼吸器,人工心肺装置,自動体外式除細動器(AED),心臓ペースメーカー,コンタクトレンズなどの医療機器が含まれている.–

10代でおしゃれを楽しみたくなったら

2022年11月30日 水曜日

10代でおしゃれを楽しみたくなったらIfYouWanttoEnjoyFashioninYourTeens月山純子*はじめにコンタクトレンズ(contactLens:CL)の装用目的はさまざまであるが,眼鏡をかけたくない,おしゃれを楽しみたいという理由も大きい.CL装用者の約C7割が女性である1)というデーターからみても,美容やおしゃれ目的でCCLを装用することは多いと思われる.10代を過ぎるあたりから,性別にかかわりなく自分の外観を気にするようになるが,これは成長過程での自然な流れである.そんな中で,カラーCCLも含めてCCLを希望することも多くなる.このような望みに寄り添いながらも,高度管理医療機器であるCCLを安全に使ってもらうための方法について考えてみる.CIまずは共感CLやカラーCCLを装用したい気持ちを,まずは受け止めることが大切である(図1).医療従事者自身の価値観を押しつけてはいけない.この共感のステップがないと,不満がくすぶってしまう.むずかしければまずはオウム返しでよいので,「CLを装用したいのですね」「カラーCCLが希望ですね」など,ひとこと伝える.そのうえで診療に進む.アレルギー性結膜炎や角結膜上皮障害など,CL装用よりも治療を優先しなければならない,あるいは乱視が強くてハードCCL(hardCL:HCL)でないと視力がでないなど,患者の希望に添えないときも,共感のステップを踏んでいないと,頭ごなしに否定されたと感じてしままずは共感CLやカラーCLをしたい,という気持ちを受け止める例「CLを装用したいのですね」「カラーCLを希望ですね」診療図1コミュニケーションのポイントいがちである.共感性については,個人差があることが報告されている.英国の精神科医であるCBillingtonら2)によると,共感性については,男女の差が顕著で女性は共感性が高い人の割合が多いが,男性では共感性が低い人が多い.共感性が低いタイプでは,物事を論理的に捉えることに長けていることが多く,論理的な説明が納得につながりやすい.共感性が高い人は,他人との会話においても共感性を求める傾向にあり,この要求が満たされないと不満につながりやすい.逆に,論理性が高いタイプの人に,論理的な説明がなく,共感のみを伝えても説得力に欠ける.CLやカラーCCLを希望して来院される患者には女性が多く,共感性が高い人の割合が多いと推察される.医療従事者自身が,共感性が低く論理的なタイプであったとしても,診療におけるコミュニケーションテクニック*JunkoTsukiyama:つきやま眼科クリニック〔別刷請求先〕月山純子:〒648-0065和歌山県橋本市古佐田C1-5-5つきやま眼科クリニックC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(3)C1443の一つとして,まずは共感し,そのうえで論理の説明へとつなげてもらいたい.CII現在のCLの流通状況現在のCCLの流通状況については,ハイスペックなCLから,厚生労働省の承認はあるものの,安全性について心配なもの,厚生労働省の承認がなく安全性についてまったくわからない個人輸入のものなど,さまざまなレベルのものが流通している.個人輸入をすることで,厚生労働省未承認のCCLもインターネット通販で簡単に手に入るようになってしまっており,とくにカラーCCLでは注意が必要である.乱視用のカラーCCLは,厚生労働省承認のものは,まだまだ種類が少なく,乱視軸や度数の種類も多くない.このため,インターネットで検索して,知らず知らずのうちに,個人輸入をしてしまっていることがある.ホームページは日本語で書かれており,個人輸入であることは,ほんの小さな文字で,普通では認識できないところに書かれていることが多いので,気がつきにくい.かなりCLに詳しくないと,個人輸入サイトであることを見破るのはむずかしいと感じる.実際に,過去に個人輸入のカラーCCLの使用で角膜炎を生じた患者に,個人輸入したのかとたずねると,本人は個人輸入の意味さえ知らず,まったく気がついていなかった.このように,いつの間にか本人の自覚がないまま,個人輸入の厚生労働省未承認レンズを使用してしまっていることがある.十分な警戒が必要である.筆者らは,乱視用カラーCCLの性状について調べたが3),個人輸入の乱視用カラーCCLでは,本来,乱視用レンズに必要なガイドマークがない,レンズ表面が非常に粗いなど,多くの問題点がみつかった.個人輸入のレンズは,安全性にかかわる重要な基準を満たしているかどうか不明な,品質について非常に不安が大きいレンズである.CLの販売方法は多岐にわたっており,眼科医療機関を経由しての販売だけではなく,インターネット通販,眼鏡店やドラッグストアでの販売,雑貨店での販売などさまざまである.わが国では,CLの販売の際に,CL処方箋の義務づけがない.このため,CLの規格さえわかれば,自由に購入できてしまう.とくに,10代でおしゃれをしたい場合,情報源は友人やCSNSなどがほとんとで,誤った情報をそのまま受け取り,購入へと進んでしまいがちである.この状況を変えていくには,多大な労力を要するが,国民の眼を守るという視点に立ち,少しでもよい方向に向かうことを切に願う.CIII酸素透過率の問題2022年現在は,酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルCCL(siliconeChydrogelCL:SHCL)の割合が増加してきている.欧米ではCSHCLの比率がすでにC70.80%に達している.わが国ではCSHCLの割合は約C50%程度である4).わが国では,安全性を重視して,1日使い捨てCSCLの比率が高い.しかし,コストの問題もあり,SHCLではC2週間頻回交換型が多く処方されてきた.しかし,ここ数年は比較的低価格のC1日使い捨てCSHCLが続々と登場してきており,今後CSHCLの比率が増加していくものと思われる.このような,ハイスペックなCSHCLが登場している一方で,インターネット通販などでは,低含水性CHEMA(2-hydroxyethylCmethacrylate)とよばれる酸素透過性が低い素材も,1日使い捨てで,30枚入りC1箱C1,000円程度の低価格で出回っている.これまでカラーCCLでよく使われていた素材であるが,最近は透明なレンズでも低含水性CHEMA素材が数多く登場しており,価格につられて購入する人が増えてしまっている.低含水性CHEMAは,1972年にわが国で承認されたSCLであるので,約C50年前の素材である.含水率がC38%というのが大きな特徴で,添付文書やホームページに低含水性CHEMAとは書かれていないが,HEMAと架橋剤としてCEGDMA(ethyleneCglycolCdimethylacry-late)が使用されており,HEMAまたはC2-HEMA,EGDMAなどと記載されている.含水率が約C38%で,SHCLではない場合,低含水性HEMAである可能性が高い.低含水性CHEMAの酸素透過係数は,種類によっても若干異なるがC9.5C×10-11(cmC2/sec)・(mlOC2/ml×mmHg)程度である.仮にC0.1mmの厚みであったとすれば,酸素透過率CDk/LはC9.5C×10-9(cm2/sec)・(mlOC2/ml×mmHg)となり,Holden1444あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022(4)表1低含水性HEMA素材を見抜くためのポイント・含水率約C38%・シリコーンハイドロゲルレンズではない・HEMA(2-hydroxyethylCmethacrylate)と,架橋剤としてEGDMA(EthyleneCglycolCdimethylacrylate)が使用されており,添付文書ではCHEMAまたはC2-HEMA,EGDMAと記載されている.ab図2カラーCLの希望や装用歴をいわず,CLの度数が知りたいと来院した女子高校生の症例a:一見問題ないようにみえるが,わずかな充血と角膜の血管新生を認める.b:フルオレセイン染色をすると,涙液のブレイクアップと,上方と下方に深い点状表層角膜炎を認めた.--表2眼障害を起こして来院したときのポイント・怒るのではなく,脅す.・現在の状況と,今後起こり得る最悪の事態について淡々と説明.失明の可能性についても言及.・できる限り具体的に,画像などを示しながら説明.・納得していないようでも,無理に説得しようとせず,自分で善悪を判断させるよう,専門家としての意見を述べる.・次回の来院につなげるようにする.

序説:世代別コンタクトレンズで快適ライフ

2022年11月30日 水曜日

世代別コンタクトレンズで快適ライフComfortableLifewithContactLensbyGeneration糸井素純*外園千恵**梶田雅義***日本におけるコンタクトレンズの歴史は,1950年代の酸素を通さないポリメチルメタクリレート(PMMA)製のハードコンタクトレンズの普及から始まった.その後,1960年代に低含水性のハイドロゲル素材のソフトコンタクトレンズが登場し,1970年代には酸素透過性素材のハードコンタクトレンズ(RGPCL)が,1980年代には含水率が50%を超える高含水性ソフトコンタクトレンズが普及していった.1980年代はハードコンタクトレンズ装用者がソフトコンタクトレンズ装用者より圧倒的に多く,ハードコンタクトレンズ装用者の割合は80%を超えてた.1990年代に入ると1週間連続装用ソフトコンタクトレンズ,2週間交換ソフトコンタクトレンズ,1日使い捨てソフトコンタクトレンズと,次々とディスポーザブルソフトコンタクトレンズが登場した.2000年代に入るとシリコーンハイドロゲル素材のディスポーザブルソフトコンタクトレンズが登場し,次第に製品数も増え,コンタクトレンズ装用者の80%以上がソフトコンタクトレンズ装用者となり,ソフトコンタクトレンズ装用者の50%以上がシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者となった.1990年代の前半までは,日本ではディスポーザブルソフトコンタクトレンズは球面レンズのみが販売されていたが,その後,乱視用(トーリック),遠近両用(マルチフォーカル),カラーソフトコンタクトレンズ(ファッション目的,整容目的)が普及し,最近では,乱視用兼遠近両用,乱視用兼カラー,カラーシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズも登場してきた.そのほかにも,オルソケラトロジーレンズ,近視進行抑制ソフトコンタクトレンズ,調光用ソフトコンタクトレンズ,抗アレルギー薬配合ソフトコンタクトレンズ,スポーツ用ソフトコンタクトレンズなど,さまざまな付加価値のついたコンタクトレンズも処方可能となっている.さまざまなコンタクトレンズが登場してきたことによって,コンタクトレンズ装用者の年齢も拡大した.以前はコンタクトレンズ装用者の年齢層は高校生.50歳過ぎまでが主だったが,付加価値のついたコンタクトレンズの普及により,小児.高齢者と年齢層は広い世代にまたがり,適応自体も広がった.ユーザーはさまざまな付加価値のついたコンタクトレンズを知り,目的に応じて使いこなすことで,スポーツ,仕事など多方面で快適ライフを楽しむことができるようになったともいえる.その一方で,安易なコンタクトレンズの購入による眼トラブルが増えている.コロナ禍で外出を避け,眼科で処方を受けずにインターネット,薬局,*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院**ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学***MasayoshiKajita:梶田眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(1)1441

滲出型加齢黄斑変性を対象としたラニビズマブ(遺伝子組換え) バイオ後続品SJP-0133 の第III 相臨床試験─先行バイオ医薬 品との比較ならびに継続長期投与時の有効性および安全性評価

2022年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(10):1421.1434,2022c滲出型加齢黄斑変性を対象としたラニビズマブ(遺伝子組換え)バイオ後続品SJP-0133の第III相臨床試験─先行バイオ医薬品との比較ならびに継続長期投与時の有効性および安全性評価近藤峰生*1小椋祐一郎*2髙橋寛二*3飯田知弘*4石橋達朗*5坂本泰二*6辻川明孝*7五味文*8長谷川久美子*9山本明史*9徳重秀樹*9*1三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学*2名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*3関西医科大学眼科学講座*4東京女子医科大学医学部眼科学教室*5九州大学*6鹿児島大学医学部眼科学教室*7京都大学大学院医学研究科眼科学*8兵庫医科大学眼科学講座*9千寿製薬株式会社CPhaseIIIClinicalTrialtoVerifytheEquivalencebetweenRanibizumab(GeneticRecombination)Biosimilar(SJP-0133)andaRanibizumabReferenceProductinPatientswithWetAge-RelatedMacularDegenerationandEvaluatetheLong-TermSafetyandE.cacyofSJP-0133MineoKondo1),YuichiroOgura2),KanjiTakahashi3),TomohiroIida4),TatsuroIshibashi5),TaijiSakamoto6),AkitakaTsujikawa7),FumiGomi8),KumikoHasegawa9),AkifumiYamamoto9)andHidekiTokushige9)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,5)KyushuUniversity,6)DepartmentofOphthalmology,KagoshimaUniversity,7)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicine,8)DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,9)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.C目的:滲出型加齢黄斑変性を対象に,ラニビズマブ(遺伝子組換え)バイオ後続品(SJP-0133)と先行バイオ医薬品(先行品)の同等性を検証し,またCSJP-0133の継続長期投与時の有効性・安全性を確認すること.対象および方法:351名にCSJP-0133または先行品を投与し,12週の同等性を検証した.12週以降は全例にCSJP-0133を必要時投与し,52週の有効性と安全性を評価した.結果:12週の視力の変化量(文字)は,SJP-0133群がC7.4,先行品群がC8.9であり,両群の差はC.1.5(95%両側CCI:C.3.2.0.3)で同等性が検証された.52週の視力の変化量は,SJP-0133群がC8.7,先行品群がC9.9であった.副作用はCSJP-0133群がC12.0%,先行品群がC6.3%であった.結論:SJP-0133は,滲出型加齢黄斑変性に対して有効性・安全性ともに先行品と同等であることが確認された.CPurpose:Toverifytheequivalencebetweenranibizumabbiosimilar(SJP-0133)andareferenceproduct(RP)Candevaluatethelong-termsafetyande.cacyofSJP-0133inpatientswithwetage-relatedmaculardegeneration(wAMD)C.SubjectsandMethods:ChangesCinCvisualCacuityCatCweekC12CwereCevaluatedCinC351CparticipantsCwhoCreceivedSJP-0133orRP.Afterweek12,SJP-0133wasadministeredasneeded,anditssafetyande.cacywereevaluatedCatCweekC52.CResults:Changes(letters)atCweekC12CwasC7.4CandC8.9CinCtheCSJP-0133CandCRPCgroups,Crespectively,CwhereCaCdi.erenceCofC.1.5(95%CI:C.3.2Cto0.3)demonstratedequivalence.CChanges(letters)atCweek52was8.7and9.9intheSJP-0133andRPgroups,respectively.IntheSJP-0133andRPgroups,theoccur-rencesofadversereactionswere12.0%and6.3%,respectively.Conclusion:Theseresultssuggestthatthesafetyande.cacyofSJP-0133aresimilartothoseofRPfortreatingwAMD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(10):1421.1434,C2022〕Keywords:バイオ後続品,ラニビズマブ(遺伝子組換え),滲出型加齢黄斑変性,同等性試験.biosimilar,Cranibi-zumab(geneticrecombination)C,wetage-relatedmaculardegeneration,equivalencestudy.C〔別刷請求先〕徳重秀樹:〒650-0047神戸市中央区港島南町C6-4-3千寿製薬株式会社研究開発本部Reprintrequests:HidekiTokushige,Ph.D.,ResearchandDevelopmentDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,6-4-3Minatojima-Minamimachi,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0047,JAPANCはじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)は脈絡膜新生血管(choroidalCneovasculariza-tion:CNV)が網膜下あるいは網膜色素上皮下に伸展し,そのCCNVから滲出や出血などが生じることで視力低下を招く予後不良の疾患であり1),その病態生理には血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が深く関与していると考えられている2.4).そのため,VEGF阻害によりCCNVを抑制することを目的として,ラニビズマブやアフリベルセプトなどの抗CVEGF薬が開発され,広く臨床に使用されている.ラニビズマブは,VEGFと特異的に結合する遺伝子組換えヒト化モノクローナル抗体のCFab断片であり5),わが国では最初に中心窩下CCNVを伴うCAMDの効能を取得している.滲出型CAMDを対象としたラニビズマブの海外第CIII相試験では,ラニビズマブ投与群の視力改善効果はシャム群または光線力学的療法群に対して優越性が示されている6,7).一方,バイオ医薬品である抗CVEGF薬は光線力学的療法に比べ高い有効性を示すものの,高額な薬剤の継続的かつ長期にわたる投与が必要となるため患者の経済的負担が大きく,患者の経済状況によっては治療継続を断念せざるをえないという課題がある.そのため,先行バイオ医薬品よりも安価で患者の費用負担を軽減できるバイオ後続品の開発が望まれてきた.バイオ後続品を含むバイオ医薬品は,高分子量の蛋白質やポリペプチドなどが主体であり,その製造に生体による生合成過程を利用していることから,構造が複雑で翻訳後修飾などに伴う不均一性を有している8).そのため,先発医薬品が化学合成可能な低分子化合物主体で,後発医薬品も同一の構造をもつ医薬品の場合とは異なり,バイオ医薬品の場合は後続品と先行医薬品の有効成分の同一性を実証するのは困難である8).したがって,バイオ後続品の開発にあたっては,品質や非臨床で先行バイオ医薬品との同等/同質性を確認したうえで,臨床試験において先行バイオ医薬品との同等性を示すことが求められている8).SJP-0133はラニビズマブを主成分とするわが国初の眼科用抗CVEGF注射薬のバイオ後続品であり,品質特性解析および非臨床試験にて先行バイオ医薬品であるラニビズマブ(ルセンティス)硝子体内注射用キットC10Cmg/mlとの同等/同質性が示されている.今回,滲出型CAMD患者を対象にSJP-0133と先行バイオ医薬品の投与C12週までの同等性を検証するための第CIII相比較試験を実施した.投与C12週以降は全被験者にCSJP-0133を必要時投与(prorenata:PRN)するよう計画し,SJP-0133の継続投与および先行バイオ医薬品からの切替え投与における投与C52週までの有効性および安全性を検討した.また,投与C52週までの評価からは,SJP-0133がCPRN投与されなかった被験者を除外したため,追加解析として,投与C12週以降も治験を継続した被験者の全治験期間を通した有効性について検討した.CI対象および方法1.治験実施期間および実施医療機関本治験は開始に先立ち,すべての実施医療機関の治験審査委員会で審議されて承認を得たうえで,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,「医薬品,医療機器等の品質,有効性および安全性の確保等に関する法律」第C14条第C3項および第C80条のC2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守し,2017年C11月.2020年C2月に,表1に示す全国C85医療機関で実施した.治験の実施状況はCUMIN-CTRに登録した(UMIN試験CID:UMIN000030010).C2.対象対象は無治療の滲出型CAMDで表2の基準に該当する患者とした.すべての被験者から治験参加前に,文書による同意を得た.C3.方法a.治験薬被験薬は,1回の投与量(0.05Cml)中にラニビズマブ(遺伝子組換え)バイオ後続品C0.5Cmgを含有する硝子体内注射用プレフィルドシリンジキット(SJP-0133),対照薬は,1回の投与量(0.05Cml)中にラニビズマブ(遺伝子組換え)0.5mgを含有するラニビズマブ硝子体内注射用キット10Cmg/ml(ルセンティス)である.Cb.治験デザイン・投与方法本治験は,多施設共同無作為化単遮閉(評価者遮閉)並行群間比較試験として実施した.SJP-0133および先行バイオ医薬品を無作為化し,投与開始日からC4週ごとに投与C8週までに片眼に計C3回硝子体内投与した(比較期).投与C12週の評価後は,全被験者にCSJP-0133を症状に合わせてCPRN投与により投与C48週まで片眼に硝子体内投与した(PRN期).観察はC4週ごとに行い投与52週までを評価した(図1).治験薬はC1キットずつ小箱に入れて封緘し,外観上の識別不能性を確保した.治験薬は,独立した治験薬割付責任者が,識別不能性を確認したのち,ブロック法により無作為化した.また,群間の偏りをなくすため,CNV病変サブタイプならびに投与開始日の最高矯正視力および中心窩網膜厚を因子とし,SJP-0133群および先行バイオ医薬品群の比が,1:1となるよう中央登録方式で割付けした.割付表は厳封し,開鍵時まで治験薬割付責任者が保管した.Cc.被験者数および設定根拠同等性許容域をCEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyC表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師実施医療機関治験責任医師医療法人竹内眼科竹内眼科クリニック竹内忍医療法人社団研英会林眼科病院平田憲医療法人湘山会眼科三宅病院近藤永子佐賀大学医学部附属病院江内田寛三重大学医学部附属病院松原央日本赤十字社長崎原爆病院米田愛医療法人小沢眼科内科病院木住野源一郎宮崎大学医学部附属病院大久保陽子旭川医科大学病院大野晋治医療法人明和会宮田眼科病院片岡康志北海道大学病院野田航介鹿児島大学病院坂本泰二市立札幌病院今泉寛子獨協医科大学病院須田雄三医療法人社団桑園むねやす眼科竹田宗泰東京医科大学病院若林美宏福島県立医科大学附属病院石龍鉄樹順天堂大学医学部附属浦安病院海老原伸行富山大学附属病院林篤志東京医科大学八王子医療センター安田佳奈子自治医科大学附属病院髙橋秀徳昭和大学病院附属東病院淺野泰彦高崎佐藤眼科佐藤拓千葉大学医学部附属病院横内裕敬信州大学医学部附属病院村田敏規聖マリアンナ医科大学病院高木均東京医科大学茨城医療センター三浦雅博社会医療法人愛生会総合上飯田第一病院古川真理子埼玉医科大学病院篠田啓名古屋市立大学病院安川力東邦大学医療センター佐倉病院前野貴俊独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院加賀達志順天堂大学医学部附属順天堂医院平塚義宗高須眼科高須逸平日本大学病院田中公二広島大学病院竹中丈二東京女子医科大学病院丸子留佳山口大学医学部附属病院波多野誠慶應義塾大学病院小澤洋子琉球大学医学部附属病院古泉英貴医療法人調布眼科医院大野仁東北大学病院國方彦志独立行政法人国立病院機構東京医療センター秋山邦彦群馬大学医学部附属病院松本英孝独立行政法人国立病院機構千葉医療センター新井みゆき医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック小林宏明山梨大学医学部附属病院杉山敦杏林大学医学部付属病院岡田アナベルあやめ国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院竹内聡学校法人聖路加国際大学聖路加国際病院都筑賢太郎愛知医科大学病院藤田京子名古屋大学医学部附属病院伊藤逸毅医療法人社団同潤会眼科杉田病院杉田威一郎京都大学医学部附属病院大音壮太郎京都府立医科大学附属病院外園千恵大阪医科大学附属病院喜田照代滋賀医科大学医学部附属病院澤田智子医療法人財団シロアム会新城眼科医院風間成泰独立行政法人国立病院機構京都医療センター喜多美穂里秋田大学医学部附属病院齋藤昌晃大阪大学医学部附属病院坂口裕和佐藤眼科医院銅町クリニック佐藤さくら関西医科大学附属病院髙橋寛二横浜市立大学附属市民総合医療センター伊藤亜里沙社会福祉法人聖隷福祉事業団総合病院聖隷浜松病院尾花明学校法人藤田学園藤田医科大学病院堀口正之兵庫県立尼崎総合医療センター王英泰関西医科大学総合医療センター西村哲哉兵庫医科大学病院五味文社会医療法人きつこう会多根記念眼科病院川村肇一般財団法人住友病院御手洗慶一地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立神戸アイセンター病院宮本紀子神戸大学医学部附属病院三木明子近畿大学病院日下俊次独立行政法人国立病院機構大阪医療センター松田理香川大学医学部附属病院白神千恵子岡山大学病院森實祐基徳島大学病院仙波賢太郎地方独立行政法人堺市立病院機構堺市立総合医療センター沢美喜福岡大学筑紫病院久冨智朗奈良県立医科大学附属病院緒方奈保子大阪市立大学医学部附属病院河野剛也独立行政法人国立病院機構小倉医療センター喜多岳志医療法人社団玄心会吉田眼科病院吉田紳一郎九州大学病院塩瀬聡美C─C─表2おもな選択基準および除外基準おもな選択基準1)50歳以上の外来患者(日本人),性別不問2)滲出型CAMDに起因した中心窩下CCNV(傍中心窩CCNV病変を含む)を認めた者おもな除外基準1)中心窩を含む網膜下出血を認めた者2)中心窩下に線維症または萎縮を認めた者3)網膜色素上皮裂孔を認めた者4)他の原因によるCCNVを認めた者5)視力の評価に影響を及ぼす他の網脈絡膜疾患を認めた者6)硝子体出血を認めた者7)過去に抗CVEGF薬を使用した者8)過去にCAMDに対する外科手術を実施した者9)本治験で使用する薬剤の成分に対し,アレルギーまたは重大な副作用の既往のある者投与開始日8週12週48週52週先行バイオ医薬品群SJP-0133群主要評価項目の評価図1治験デザインStudy(ETDRS)可読文字数でC4文字に設定し,投与C12週の最高矯正視力の変化量の標準偏差をC11,有意水準両側C5%,検出力をC80%,先行バイオ医薬品群とCSJP-0133群の差をC0文字と設定し,必要な評価被験者数を各群C160例と算出した.目標被験者数は,5%の脱落を考慮し各群C169例,合計C338例と設定した.C4.検査・観察項目表3に検査項目およびスケジュールを示す.最高矯正視力はCETDRS視力表を用いて測定した.C5.併用薬および併用処置治験期間中,抗CVEGF薬および副腎皮質ステロイドの眼局所および全身投与を禁止した.治験期間中,光線力学療法,レーザー網膜光凝固術などの滲出型CAMDに対する処置を禁止した.C6.評価項目a.有効性主要評価項目は,投与C12週における最高矯正視力の投与開始日からの変化量とした.副次評価項目は,(1)各来院日での最高矯正視力の実測値および投与開始日からの変化量,(2)投与開始日から投与12週およびC52週の最高矯正視力の減少がC15文字未満の被験者の割合,(3)投与開始日から投与C12週およびC52週の最高矯正視力の増加がC15文字以上の被験者の割合,(4)各来院日での中心窩網膜厚の投与開始日からの変化量,(5)投与12週およびC52週におけるCCNV面積の実測値およびスクリーニング日からの変化量,(6)投与C12週およびC52週におけるCdryretina(OCTで網膜内.胞様浮腫および網膜下液を認めないと定義)の達成率とした.Cb.安全性治験薬を投与された被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病またはその徴候を有害事象として収集した.安全性評価項目は,有害事象,眼圧,最高矯正視力,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)による網膜所見,角膜・結膜・水晶体・前房所見,眼底,血圧,脈拍数,臨床検査ならびに先行バイオ医薬品およびCSJP-0133に対する免疫反応(抗薬物抗体)とした.コンビネーション医薬品の機械器具などの破損,作動不良表3検査・観察スケジュール1:投与C1週の初期安全性評価被験者のみ実施.などを不具合として収集し評価した.C7.統計解析a.有効性有効性は,組み入れられたすべての被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,選択基準2)および除外基準に抵触した被験者,投与開始日以降の再来院がないなどの理由により有効性が評価できなかった被験者を除外した集団を最大の解析対象集団(fullCanalysisset:FAS)とし,FASを主たる解析対象集団とした.投与開始日から投与C12週を比較期,投与C12週から投与52週をCPRN期として解析した.PRN期の解析は,PRN期に一度でもCSJP-0133が投与された被験者を対象とし,PRN期に継続してCSJP-0133を投与した被験者をCSJP-0133群,PRN期に先行医薬品からCSJP-0133に切り替えて投与した被験者を先行医薬品群とした.PRN期の解析対象集団の条件はCSJP-0133をCPRN期で一度でも投与された被験者に限定しているため,比較期と解析対象集団が異なっている.そのため,投与開始日から投与52週までの有効性が評価できるように,比較期と同様の解析対象集団の条件でも全期間を追加解析した.主要評価項目の解析は,スクリーニング日のCCNV病変サブタイプ(classic型CCNVを伴うタイプまたはCclassic型CNVを伴わないCoccult型CCNVのみのタイプ)および層別化した投与開始日の最高矯正視力(54文字以下,55文字以上)を因子とした共分散分析(analysisCofcovariance:ANCOVA)を用いた投与群ごとの最小二乗平均値およびC95%両側信頼区間(confidenceinterval:CI)ならびに投与群の最小二乗平均値の差および差のC95%両側CCIを算出した(同等性検証).欠測値は,lastCobservationCcarriedCforward(LOCF)によりデータを補完した.Cb.安全性安全性は,組み入れられたすべての被験者のうち,治験薬の投与を一度も受けなかった被験者,初診時(投与開始日)以降の再来院がないなどの理由により安全性が評価できなかった被験者を除外した集団を安全性解析対象集団(safetyset:SS)とした.有害事象は,発現割合(発現例数/SS)を算出した.SJP-0133群は比較期にCSJP-0133を投与した被験者,先行バイオ医薬品群は比較期に先行バイオ医薬品を投与した被験者,全CSJP-0133群は,1度でもCSJP-0133が投与された被験者を対象とした.眼圧,最高矯正視力,OCTによる中心窩網膜厚,角膜・結膜・水晶体・前房所見,眼底,血圧,脈拍数,臨床検査ならびに先行バイオ医薬品およびCSJP-0133に対する免疫反応(抗薬物抗体)は,治験薬の投与前後を比較した.II結果1.被験者の構成a.被験者の内訳同意を取得したC523例のうちC351例が無作為化され,330例が比較期を完了した.比較期を完了したすべての被験者はPRN期に移行し,300例がCPRN期を完了した(図2).Cb.解析対象集団無作為化されたC351例から,手順違反などのC14例を除いたC337例(SJP-0133群C170例,先行バイオ医薬品群C167例)をCFASとし,投与遵守違反C1例(SJP-0133群)を除いた350例(SJP-0133群C175例,先行バイオ医薬品群C175例)をCSSとした(図3).被験者背景(FAS)を表4に示した.C2.有効性a.比較期主要評価項目である,投与C12週における最高矯正視力の投与開始日からの変化量(最小二乗平均値)は,SJP-0133群がC7.4文字,先行バイオ医薬品群がC8.9文字であった.両群の差(SJP-0133群C.先行バイオ医薬品群)は,C.1.5(95%両側CCI:C.3.2.0.3)文字で,95%CCIが同等性許容域(C±4文字)内にあることから,SJP-0133群の先行バイオ医薬品群に対する同等性が検証された.副次評価項目である最高矯正視力の実測値および変化量(1)は,各時点で両群とも同様の推移を示し,経時的に改善した(表5,図4).投与開始日から投与C12週の最高矯正視力の減少がC15文字未満の被験者の割合(2)および投与開始日から投与C12週の最高矯正視力の増加がC15文字以上の被験者の割合(3)は,両群とも同程度であった(表6).中心窩網膜厚の変化量(4)は,両群で同様の推移を示し,投与C1週で顕著に減少し,その後も投与C12週まで経時的に減少した(表7).投与C12週のCCNV病変面積の実測値および変化量(5)は,両群とも同程度で,スクリーニング時から改善した(表8).投与C12週のCdryretinaの達成率(6)は,両群とも同程図3解析対象集団FAS:最大解析集団,SS:安全性解析対象集団.表4被験者背景(fullanalysisset)先行バイオSJP-0133群医薬品群合計(n=170)(n=167)(n=337)項目区分例数(%)例数(%)例数(%)性別男性125(73.53)121(72.46)246(73.00)女性45(26.47)46(27.54)91(27.00)年齢(歳)平均±標準偏差C74.4±7.51C74.1±7.32C74.3±7.41最小値,最大値C50,C92C54,C88C50,C92CNV病変サブタイプclassic型CCNVを伴うタイプ64(37.65)61(36.53)125(37.09)classic型CCNVを伴わない106(62.35)106(63.47)212(62.91)occult型CCNVのみのタイプ眼局所の合併症の有無1有153(90.00)153(91.62)306(90.80)無17(10.00)14(8.38)31(9.20)眼局所以外の合併症の有無有159(93.53)147(88.02)306(90.80)無11(6.47)20(11.98)31(9.20)最高矯正視力(文字)平均±標準偏差C61.9±12.68C61.3±13.46C61.6±13.06中心窩網膜厚(μm)平均±標準偏差C385.3±135.44C388.2±127.48C386.7±131.38CNV面積(mmC2)平均±標準偏差C5.664±3.9537C5.611±4.4084C5.638±4.1791C1:左右眼どちらか一方でも該当した場合を有とした.度であった(表9).Cb.PRN期PRN期では,投与C12週から投与C48週にCSJP-0133を一度でも投与された被験者を対象に解析した.最高矯正視力の実測値および変化量(1)は,投与C12週から投与C52週まで,両群とも経時的に増加した(表5).また,投与C52週の最高矯正視力の減少がC15文字未満の被験者の割合(2)は,両群とも投与C12週よりわずかに減少した.最高矯正視力の増加がC15文字以上の被験者の割合(3)は,両群とも投与C12週よりわずかに増加した(表6).中心窩網膜厚の変化量(4)は,投与C12週から投与C52週まで,両群とも大きな変化は認めず,比較期終了後以降も網膜厚の減少効果を維持した(表7).投与C52週のCCNV病変面積の実測値および変化量(5)ならびに投与C52週のCdryretinaの達成率(6)は,両群とも投与C12週と同程度で,比較期終了後以降も改善を維持した(表8,9).Cc.追加解析追加解析では,PRN期でのCSJP-0133の投与の有無にかかわらずCFASを対象とし,比較期とCPRN期を同じ条件の対象集団で解析を行い,全期間の最高矯正視力の推移を確認した.最高矯正視力の変化量は,投与C12週から投与C52週まで,SJP-0133群はC6.3.8.7文字,先行バイオ医薬品群は7.9.10.1文字で推移した.投与C12週までの治療効果が,SJP-0133の継続投与,先行バイオ医薬品からCSJP-0133への切り替え投与ともに,投与C12週以降も継続していることを確認した(図5).(135)3.安全性治験期間中に発現した有害事象は,SJP-0133群C130/175例(74.3%),先行バイオ医薬品群C129/175例(73.7%),全SJP-0133群C242/327例(74.0%)であった.このうち副作用は,SJP-0133群C21例(12.0%),先行バイオ医薬品群C11例(6.3%),全CSJP-0133群C29例(8.9%)であった.おもな副作用は,SJP-0133群では眼圧上昇C8例(4.6%),網膜出血C2例(1.1%),先行バイオ医薬品群では脳梗塞C3例(1.7%),網膜色素上皮裂孔C2例(1.1%),全CSJP-0133群では眼圧上昇C8例(2.4%),網膜出血C3例(0.9%),網膜色素上皮裂孔C3例(0.9%),脳梗塞C3例(0.9%),高血圧C2例(0.6%)であった(表10).安全性に関連する他の検査項目でも,臨床上問題となるような変動や所見に関連する副作用はなかった.CIII考按SJP-0133と先行バイオ医薬品との有効性の比較において,本治験の主要評価項目である投与C12週における最高矯正視力の投与開始日からの変化量の差は,事前に設定した同等性許容域内であり,SJP-0133の有効性が先行バイオ医薬品と統計学的に同等であることが示された.副次評価項目である投与C12週までの最高矯正視力の実測値および変化量(1),投与C12週の最高矯正視力の減少がC15文字以上の被験者の割合および増加がC15文字以上の被験者の割合(2)(3),中心窩網膜厚の変化量の推移(4),CNV病変面積の実測値および変化量(5)ならびにCdryretinaの達成率(6)についてあたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C1427表5最高矯正視力の実測値および変化量の推移(fullanalysisset)VISIT最高矯正視力SJP-0133群先行バイオ医薬品群比較期(文字)(n=170)(n=167)スクリーニング実測値C62.6±12.29(C170)C61.8±13.21(C167)投与開始日実測値C61.9±12.68(C170)C61.3±13.46(C167)投与4週実測値C66.0±12.70(C163)C66.1±13.62(C162)変化量C4.2±6.55C5.0±6.67投与8週実測値C67.1±13.06(C160)C67.8±13.50(C163)変化量C5.4±7.87C6.6±7.62投与12週実測値C68.1±13.15(C160)C69.5±12.89(C157)変化量C6.3±8.51C7.9±8.70SJP-0133群C1先行バイオ医薬品群1PRN期(n=156)(n=147)投与12週実測値C65.4±13.88(C65)C65.0±13.67(C56)変化量C3.2±8.26C3.9±5.67投与16週実測値C67.1±13.34(C113)C67.0±14.25(C103)変化量C5.1±8.35C4.9±9.24投与20週実測値C67.8±13.18(C132)C68.6±13.95(C121)変化量C6.0±8.83C7.0±9.79投与24週実測値C68.5±12.96(C143)C69.5±14.20(C131)変化量C6.7±9.14C8.3±10.50投与28週実測値C69.5±12.50(C147)C69.7±13.91(C131)変化量C7.5±9.19C8.0±11.01投与32週実測値C69.3±13.05(C144)C70.3±13.83(C134)変化量C7.6±9.13C8.2±10.22投与36週実測値C68.9±13.02(C144)C70.8±13.20(C131)変化量C7.2±9.94C8.8±10.35投与40週実測値C70.2±12.48(C142)C70.8±12.52(C131)変化量C8.6±9.58C8.9±9.61投与44週実測値C70.1±12.70(C142)C71.2±12.63(C133)変化量C8.6±10.34C9.5±10.39投与48週実測値C70.5±12.63(C140)C71.5±13.03(C133)変化量C9.2±10.66C9.8±10.17投与52週実測値C70.0±12.47(C140)C71.5±12.75(C132)変化量C8.7±10.70C9.9±10.54平均値±標準偏差(例数).1:PRN期にCSJP-0133を一度でも投与された被験者を対象とし,PRN期における初回のCSJP-0133投与以降の値を用いて集計した.も,SJP-0133群と先行バイオ医薬品群で同程度であった.投与開始日からの変化量は,本治験のCSJP-0133群ではC7.4とくに,副次評価で認められた中心窩網膜厚やCCNV病変面文字の改善であり,他方,先行バイオ医薬品の海外臨床試験積などの形態学的な変化は,主要評価項目の結果を裏付けるのCMARINA,ANCHOR,HARBORおよびCCATTの各試結果であった.験でのC0.5mg投与群では,5.6文字.10.0文字の改善であ本治験の投与C12週までの結果を,これまでに実施されたった6,7,9,10).とくに本治験と同じ投与方法で先行バイオ医薬先行バイオ医薬品の臨床試験と比較すると,最高矯正視力の品が投与されているCHARBOR試験との比較では,中心窩網最高矯正視力の投与開始日からの変化量(文字)25●:SJP-0133,○:先行バイオ医薬品20151050-5投与開始日4812(週)SJP-0133(170)(163)(160)(160)先行バイオ医薬品(167)(162)(163)(157)(例数)平均値±標準偏差図4最高矯正視力の変化量の推移図(比較期)(fullanalysisset)膜厚については本治験では投与C12週でC104.0μmの減少,HARBOR試験のC0.5Cmg投与群では,投与C3カ月で約C150μmの減少であった9).上述した先行バイオ医薬品の海外臨床試験の症例の大部分が白人であり,本治験では許容した傍中心窩下CCNVの症例を含まないため,本治験での対象集団とは異なるが,先行バイオ医薬品の海外臨床試験における視力改善効果や中心窩網膜厚の減少効果は本治験結果と同様であった.以上のこと,および本治験によって先行バイオ医薬品とCSJP-0133が統計学的に同等であると検証されたことから,投与C12週におけるCSJP-0133の有効性は,先行バイオ医薬品と同等であることが明らかとなった.また,先行バイオ医薬品でもCEXTEND-I試験で日本人症例C88例での検討がされているが11),本治験ではCEXTEND-Iを大きく上回る351症例でCSJP-0133と先行バイオ医薬品との比較検討をした.先行バイオ医薬品での臨床試験などの結果との比較については先述のとおりであるが,本試験では先行バイオ医薬品群も含めて,十分な症例数の日本人でCSJP-0133と先行バイオ医薬品を比較検討できており,日本人での有効性,安全性をより明確にできたと考える.本治験のCPRN期では,比較期のCSJP-0133群および先行バイオ医薬品群の両群ともに,SJP-0133がCPRN投与された.PRN期の解析では,SJP-0133を継続投与した場合および先行バイオ医薬品からCSJP-0133に切り替えて投与した場合の両者で,比較期終了後から投与C52週まで,最高矯正視力の経時的な改善が認められた.副次評価項目についても,比較期終了後から投与C52週まで改善の維持が認められた.以上のことから,SJP-0133をCPRN投与によって継続投与した場合と先行バイオ医薬品からCSJP-0133に切り替えて投与した場合の両者で,有効性は投与C52週まで持続すること(137)表6最高矯正視力の増減があった被験者の割合(fullanalysisset)SJP-0133群先行バイオ医薬品群投与12週(n=170)(n=167)15文字以上増加例数(%)95%CCI差(%)C1差のC95%CCIC115文字未満減少例数(%)95%CCI差(%)C1差のC95%CCIC1C23(13.53)(8.77,C19.61)C.5(.3.29)(.10.43,C3.84)159(93.53)(88.72,C96.73)2(.0.60)(.5.74,C4.54)28(16.77)(11.44,C23.31)157(94.01)(89.26,C97.09)SJP-0133群先行バイオ医薬品群2投与52週(n=170)(n=147)15文字以上増加例数(%)95%CI差(%)C1差のC95%CCIC115文字未満減少例数(%)95%CCI差(%)C1差のC95%CCIC1C39(22.94)(16.85,C30.00)8(1.54)(.6.86,C9.95)141(82.94)(76.43,C88.27)9(.6.92)(.14.39,C0.54)31(21.09)(14.80,C28.58)132(89.80)(83.73,C94.18)CI:con.denceinterval.1:差はCSJP-0133群C.先行バイオ医薬品群.スクリーニング日のCCNV病変サブタイプ(classic型CCNVを伴うタイプまたはclassic型CCNVを伴わないCoccult型CCNVのみのタイプ)および初回投与開始日の最高矯正視力.(54文字以下,55文字以上)を層別因子としたCochran-Mantel-Haenzel型推定値.2:PRN期の先行バイオ医薬品群は,SJP-0133を投与された被験者を対象とした.が確認された.本治験のCPRN期の投与C52週までの結果を,これまでに実施された先行バイオ医薬品の臨床試験と比較すると,最高矯正視力の投与開始日からの変化量は,本治験のCSJP-0133群ではC8.7文字の改善であり,他方,先行バイオ医薬品の臨床試験のCMARINAおよびCANCHORの各試験では,それぞれC7.2文字およびC11.3文字の改善であった6,7).両試験では先行バイオ医薬品が毎月投与されているが,SJP-0133の視力改善効果は両試験結果と比較して大きく劣るものではなかった.また,HARBOR試験における先行バイオ医薬品C0.5mg投与C12カ月でのC8.2文字の改善は,本治験のCSJP-0133群の結果と同様であり,中心窩網膜厚の変化量については,投与C12カ月におけるCHARBOR試験でのC0.5Cmg投与群では161.2Cμmの減少,本治験では投与C52週でC110.7Cμmの減少あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C1429表7中心窩網膜厚の実測値および変化量の推移(fullanalysisset)VISIT中心窩網膜厚SJP-0133群先行バイオ医薬品群比較期(μm)(n=170)(n=167)投与1週実測値C338.9±106.60(156)C339.0±106.49(159)変化量C.49.9±66.62C.52.0±72.86C投与2週実測値C320.9±100.92(155)C319.9±100.65(152)変化量C.68.5±80.11C.74.8±80.71C投与4週実測値C306.3±92.85(157)C304.8±102.18(152)変化量C.82.3±86.06C.85.4±85.89C投与8週実測値C292.5±91.99(155)C285.0±101.36(154)変化量C.98.9±95.11C.108.3±100.50C投与12週実測値C285.6±86.27(155)C267.0±74.54(150)変化量C.104.0±98.31C.119.7±103.90CSJP-0133群C1先行バイオ医薬品群1PRN期(n=156)(n=147)投与12週実測値C295.3±78.07(62)C289.9±83.44(51)変化量C.98.6±100.61C.107.7±97.06C投与16週実測値C298.0±98.55(109)C299.6±92.03(98)変化量C.105.3±119.19C.98.1±116.23C投与20週実測値C290.3±88.81(132)C281.1±77.32(119)変化量C.104.7±120.83C.110.2±117.97C投与24週実測値C289.0±89.80(141)C278.8±82.76(130)変化量C.100.9±107.98C.114.6±116.71C投与28週実測値C282.4±97.03(145)C279.4±78.04(128)変化量C.111.0±120.46C.113.1±115.34C投与32週実測値C289.2±91.36(143)C278.9±83.74(132)変化量C.102.5±129.71C.112.6±117.18C投与36週実測値C277.8±94.23(142)C270.4±69.81(130)変化量C.115.2±133.87C.117.5±113.65C投与40週実測値C278.5±74.97(139)C272.6±68.98(127)変化量C.111.0±120.37C.113.7±102.39C投与44週実測値C278.3±84.43(140)C266.0±66.12(130)変化量C.115.1±126.12C.118.7±104.04C投与48週実測値C282.4±78.43(138)C266.6±67.90(131)変化量C.111.7±128.38C.118.3±108.26C投与52週実測値C280.8±84.09(138)C268.5±68.43(129)変化量C.110.7±134.14C.115.0±108.42C平均値±標準偏差(例数).1:PRN期にCSJP-0133を一度でも投与された被験者を対象とし,PRN期における初回のCSJP-0133投与以降の値を用いて集計した.表8CNV病変面積の実測値および変化量の推移(fullanalysisset)VISITCNVの総面積SJP-0133群先行バイオ医薬品群比較期(mm2)(N=170)(N=167)スクリーニング実測値C5.664±3.9537(C170)C5.611±4.4084(C167)投与12週実測値C2.083±3.1621(C160)C1.571±2.8223(C156)変化量C.3.604±3.8556C.4.029±4.2157SJP-0133群C1先行バイオ医薬品群1PRN期(n=156)(n=147)投与12週実測値C3.309±3.5064(C64)C2.745±3.4756(C56)変化量C.2.573±3.0143C.4.193±5.5272投与52週実測値C2.143±3.2799(C137)C2.004±2.9398(C131)変化量C.3.383±4.3360C.3.611±4.6739平均値±標準偏差(例数).1:PRN期にCSJP-0133を一度でも投与された被験者を対象とし,PRN期における初回の本剤投与以降の値を用いて集計を行った.表9Dryretinaの達成率(fullanalysisset)VISITSJP-0133群先行バイオ医薬品群比較期(N=170)(N=167)投与12週CDry72(42.35)(160)82(49.10)(157)CNon-dry88(51.76)75(44.91)SJP-0133群C1先行バイオ医薬品群1PRN期(n=156)(n=147)投与12週CDry13(C8.33)(C64)15(C10.20)(C56)CNon-dry51(C32.69)41(C27.89)投与52週CDry62(C39.74)(C140)62(C42.18)(C132)CNon-dry78(C50.00)70(C47.62)達成例数(%)(例数).1:PRN期にCSJP-0133を一度でも投与された被験者を対象とし,PRN期における初回の本剤投与以降の値を用いて集計を行った.で,大きな差異は認めらなかった9).以上のように,投与C52週におけるCSJP-0133の有効性は,これまでに実施された先行バイオ医薬品の臨床試験結果と比較しても大きな差はなく,先行バイオ医薬品と同等であることが明らかとなった.HARBORおよびCCATTの各試験では先行バイオ医薬品の毎月投与とCPRN投与での効果を比較しているが,毎月投与のほうが視力改善効果は良好であったことが示されている9,10).しかし,毎月投与は患者の経済的負担や,毎月の注射に対する心理的負担が課題である.よって,導入期に毎月連続して投与して病状を落ち着かせ,その後は病状に合わせたCPRN投与は,効果と負担軽減のバランスのとれた方法であると考えられるが,治療が遅れる場合も生じうる.先行バイオ医薬品で,毎月投与やCPRN投与以外の投与方法として近年注目されている方法がCtreatandextend(TAE)投与である12.14).TREND試験は滲出型CAMDにおいて先行バイオ医薬品のCTAE投与(323例)と毎月投与(327例)を比較した国際共同治験である13).TREND試験において,投与12カ月における最高矯正視力の投与開始日からの変化量はTAE投与群でC6.2文字の改善,毎月投与群ではC8.1文字の改善であり,毎月投与群に対するCTAE投与群の非劣性が検証された13).TAE投与は,再発時に投与するCPRN投与よりもプロアクティブな投与方法であり,毎月投与のような固定投与よりも投与回数を減少させることができると考えられている15,16).近年では,維持期の抗CVEGF薬の投与方法として,PRN投与よりもCTAE投与のほうが広く使用されているという報告もある17).本治験では先行バイオ医薬品の添付文書に記載されている投与方法で投与を実施しており,TAE投与の検討は実施していない.このため,SJP-0133のCTAE投与による有効性および安全性については不明であるが,経済的な負担の軽減も含め,さらに治療負担を軽減させることができると考えられることから,今後,SJP-0133のCTAE投与による有効性および安全性の検討が必要であると考える.本治験では,試験期間を通したCSJP-0133の有効性を確認●:比較期SJP-0133/PRN期SJP-0133,○:比較期先行バイオ医薬品/PRN期SJP-0133最高矯正視力の投与開始日からの変化量(文字)2520151050-5投与開始日481216202428323640444852(週)SJP-0133(170)(163)(160)(160)(160)(159)(157)(156)(153)(152)(150)(148)(145)(145)先行バイオ医薬品(167)(162)(163)(157)(156)(153)(152)(149)(146)(143)(143)(142)(142)(141)(例数)平均値±標準偏差図5最高矯正視力の変化量の推移図(全期間)(fullanalysisset)PRN期もCSJP-0133の投与の有無にかかわらずにCFASを対象とし,比較期とCPRN期の対象集団を同一にして全期間を解析した.するため,投与開始日から投与C52週までのCSJP-0133群および先行バイオ医薬品群の最高矯正視力の変化量の推移を追加解析により検討した.その結果,SJP-0133群および先行バイオ医薬品投与群ともに,投与開始日以降,52週にわたって継続した視力改善が認められた.また,両群の視力推移には大きな差異はなく,未治療の滲出型CAMD患者へのSJP-0133の投与および先行バイオ医薬品からの切替え投与においても視力を維持できることが確認された.以上のように,本治験の主要評価項目である投与C12週における最高矯正視力の変化量がCSJP-0133群と先行バイオ医薬品群で統計学的に同等であったこと,SJP-0133の投与C12週およびC52週の有効性が先行バイオ医薬品の臨床試験結果と同様であったことから,SJP-0133の有効性は先行バイオ医薬品と同等であると考えられた.一方,投与C12週における各有効性評価項目の評価結果について,表5~9に示したとおり,SJP-0133の数値は先行バイオ医薬品の数値と比較してわずかに小さい傾向が認められた.しかし,滲出型CAMDの真のエンドポイントであり,臨床的な意義が明確な視力については,SJP-0133と先行バイオ医薬品で統計学的に同等であることが検証されており,また,先行バイオ医薬品との差異は小さいことから,本剤の有効性は先行バイオ医薬品と同様であると考えられる.なお,実臨床におけるCSJP-0133と先行バイオ医薬品との有効性の差異および本治験で認められたわずかな差異の原因については,さらなる検討が必要である.SJP-0133と先行バイオ医薬品との安全性の比較において,本治験の投与C12週までに認められた有害事象の発現率は両剤で同程度であった.全身性CVEGF阻害に関連すると考えられる動脈塞栓症イベントや,抗CVEGF薬の注射で認められる眼内炎などの有害事象について,本治験の投与C52週におけるCSJP-0133群での発現頻度はCHARBOR試験での発現頻度と同程度であった9).また,SJP-0133群で多く認められた副作用は眼圧上昇で8例(4.6%)であり,先行バイオ医薬品群ではC1例(0.6%)であった.12週以降は全被験者でCSJP-0133が投与されているため,本試験で投与C52週までに認められた全SJP-0133群の眼圧上昇の有害事象の発現率と,HARBOR試験で投与C12カ月までに認められた眼圧上昇の有害事象の発現率を比較したところ,同程度の発現頻度であった9).これらのことから,眼圧上昇の発現頻度は先行バイオ医薬品と比較して大きな差異はないと考えられた.以上のことから,SJP-0133の安全性は先行バイオ医薬品と同様であると考えられた.今回,SJP-0133は先行バイオ医薬品と同等/同質の品質,安全性および有効性を有するバイオ後続品であることが確認された.バイオ後続品の薬価は先行バイオ医薬品の約C7割程度となるため18),先行バイオ医薬品よりも安価なCSJP-0133は,滲出型CAMD患者の経済的な負担を軽減することで継続して治療を受けやすくし,患者のCQOLを改善できる薬剤であると考える.なお,本治験では投与C52週までのCSJP-0133の安全性および有効性が確認されたが,より長期の安全性および有効性表10副作用一覧副作用名1SOCCPTSJP-0133群(n=175)例数(%)件数先行バイオ医薬品群(n=175)例数(%)件数全CSJP-0133群C2(n=327)C例数(%)件数眼障害網膜出血網膜色素上皮裂孔眼痛網膜裂孔高眼圧症緑内障結膜炎網膜.離C視神経乳頭出血C眼充血C8(C4.57)C92(C1.14)C21(C0.57)C11(C0.57)C21(C0.57)C1C1(C0.57)C1C1(C0.57)C1C1(C0.57)C1C0C00C00C05(C2.86)C71(C0.57)C12(C1.14)C21(C0.57)C10C00C00C00C01(C0.57)C11(C0.57)C11(C0.57)C112(C3.67)C153(C0.92)C33(C0.92)C31(C0.31)C21(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C1心臓障害C心房細動C0C00C01(C0.57)C11(C0.57)C11(C0.31)C11(C0.31)C1一般・全身障害および投与部位の状態胸痛1(C0.57)C1C1(C0.57)C1C0C00C01(C0.31)C11(C0.31)C1感染症および寄生虫症鼻炎1(C0.57)C1C1(C0.57)C1C0C00C01(C0.31)C11(C0.31)C1臨床検査眼圧上昇g-グルタミルトランスフェラーゼ増加血中クレアチンホスホキナーゼ増加10(C5.71)C118(C4.57)C91(C0.57)C1C1(C0.57)C1C1(C0.57)C11(C0.57)C10C00C010(C3.06)C118(C2.45)C9C1(C0.31)C11(C0.31)C1神経系障害脳梗塞くも膜下出血大脳動脈塞栓症塞栓性脳梗塞C3(C1.71)C31(C0.57)C11(C0.57)C1C1(C0.57)C1C0C04(C2.29)C43(C1.71)C30C00C01(C0.57)C16(C1.83)C63(C0.92)C31(C0.31)C11(C0.31)C11(C0.31)C1血管障害高血圧1(C0.57)C11(C0.57)C11(C0.57)C11(C0.57)C12(C0.61)C22(C0.61)C21:副作用名はCICH国際医薬用語集CMedDRA/JVersion21.1を用いて分類した.2:治験期間中にC1回以上CSJP-0133が投与された被験者の合計については検証されていない.先行バイオ医薬品の長期投与の有効性については,MARINAおよびCANCHORの各試験の試験後症例を対象としたCHORIZON試験(試験期間:合計4年),HORIZON試験の試験後症例を対象としたCSEVEN-UP試験(試験期間:平均C7.3年)およびCCATT試験の試験後症例を対象としたCCATTFollow-up試験(試験期間:平均C5.5年)で検討されている19.21).これらの試験はCPRN投与での経過をみた試験であるが,HORIZON試験ではベースラインまで,そのほかの試験ではベースラインよりも視力が低下しており,その原因として平均投与回数が他のCPRN投与を用いた臨床試験と比較して少なく,undertreatmentであったことが考えられている19.22).以上のことから,長期の視力維持のためには臨床試験で規定されるような厳密な治療が重要であると考えられているが,実臨床でそのような治療を実施するのは困難であることから,TAE投与のように個々の病状や事情に合わせて計画的に治療を行っていく個別化治療の検討が必要であると考えられており22,23),実臨床においてはCTAE変法のようにCTAE投与の課題に対応した投与方法も検討されている24).SJP-0133についても,先行バイオ医薬品と同様に,投与方法の検討も含め,さらなる長期投与での安全性と有効性の検証が必要であると考える.利益相反:小椋祐一郎(カテゴリーCF:ベーリンガーインゲルハイム,ノバルティスファーマ),飯田知弘(カテゴリーCF:ニデック,トプコン),坂本泰二(カテゴリーCF:ノバルティスファーマ,パレクセルインターナショナル),辻川明孝(カテゴリーCF:ファインデックス,キヤノン),長谷川久美子(カテゴリーCE:千寿製薬株式会社),山本明史(カテゴリーCE:千寿製薬株式会社),徳重秀樹(カテゴリーCE:千寿製薬株式会社)文献1)MitchellCP,CLiewCG,CGopinathCBCetal:Age-relatedCmacu-lardegeneration.LancetC392:1147-1159,C20182)Kli.enM,SharmaHS,MooyCMetal:Increasedexpres-sionofangiogenicgrowthfactorsinage-relatedmaculop-athy.BrJOphthalmolC81:154-162,C19973)MelincoviciCCS,CBo.caCAB,C.u.manCSCetal:VascularCendothelialCgrowthfactor(VEGF)C-keyCfactorCinCnormalCandCpathologicalCangiogenesis.CRomCJCMorpholCEmbryolC59:455-467,C20184)SpilsburyK,GarrettKL,ShenWYetal:OverexpressionofCvascularCendothelialCgrowthfactor(VEGF)inCtheCreti-nalCpigmentCepitheliumCleadsCtoCtheCdevelopmentCofCcho-roidalCneovascularization.CAmCJCPatholC157:135-144,C20005)中村信介,嶋澤雅光,原英彰:網膜血管新生とその治療薬.日薬理誌135:149-152,C20106)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMedC355:1419-1431,C20067)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal;ANCHORStudyGroup:RanibizumabCversusCvertepor.nCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNCEnglCJCMedC355:C1432-1444,C20068)厚生労働省医薬・生活衛局医薬品審査管理課長通知,薬生薬審発C0204第C1号「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」.令和C2年C2月C4日9)BusbeeCBG,CHoCAC,CBrownCDMCetal:Twelve-monthCe.cacyCandCsafetyCofC0.5CmgCorC2.0CmgCranibizumabCinCpatientsCwithCsubfovealCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC120:1046-1056,C201310)MartinCDF,CMaguireCMG,CYingCG-SCetal;CATTCResearchGroup:RanibizumabCandCbevacizumabCforCneo-vascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMedC364:1897-1908,C201111)TanoY,OhjiM;EXTEND-IStudyGroup.EXTEND-I:CsafetyCandCe.cacyCofCranibizumabCinCJapaneseCpatientsCwithCsubfovealCchoroidalCneovascularizationCsecondaryCtoCage-relatedCmacularCdegeneration.CActaCOphthalmolC88:C309-316,C201012)BergCK,CPedersenCTR,CSandvikCLCetal:ComparisonCofCranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedCmacularCdegenerationCaccordingCtoCLUCASCtreat-and-extendprotocol.OphthalmologyC122:146-152,C201513)SilvaR,BertaA,LarsenMetal;TRENDStudyGroup:CTreat-and-extendCversusCmonthlyCregimenCinneovascularage-relatedCmaculardegeneration:resultsCwithCranibi-zumabCfromCtheCTRENDCStudy.COphthalmologyC125:C57-65,C201814)KertesCPJ,CGalicCIJ,CGreveCMCetal:E.cacyCofCaCtreat-and-extendCregimenCwithCranibizumabCinCpatientsCwithCneovascularCage-relatedCmaculardisease:aCrandomizedCclinicaltrial.JAMAOphthalmolC138:244-250,C202015)髙橋寛二,大島裕司,大中誠之ほか:滲出型加齢黄斑変性治療の臨床エビデンスと実態.日眼会誌C124:902-924,C202016)FreundCKB,CKorobelnikCJF,CDevenyiCRCetal:Treat-and-extendregimenswithanti-VEGFagentsinretinaldiseas-es:aCliteratureCreviewCandCconsensusCrecommendations.CRetinaC35:1489-1506,C201517)髙橋寛二,大島裕司,古泉英貴ほか:滲出型加齢黄斑変性診療の実態:実地診療を担う専門医を対象としたアンケート調査.眼科62:491-502,C202018)厚生労働省保険局長通知,保発C0210第C3号「薬価算定の基準について」.令和3年2月10日19)SingerCMA,CAwhCCC,CSaddaCSCetal;HORIZONCStudyGroup:HORIZON:anCopen-labelCextensionCtrialCofCranibizumabforchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedCmacularCdegeneration.COphthalmologyC119:C1175-1183,C201220)RofaghaCS,CBhisitkulCRB,CBoyerCDSCetal;SEVEN-UPStudyCGroup:Seven-yearCoutcomesCinCranibizumab-treatedpatientsinANCHOR,MARINA,andHORIZON:CaCmulticenterCcohortstudy(SEVEN-UP)C.COphthalmologyC120:2292-2299,C201321)MaguireCMG,CMartinCDF,CYingCGSCetal;ComparisonCofCAge-relatedCMacularCDegenerationCTreatmentsCTrials(CATT)ResearchGroup:Five-yearoutcomeswithanti-vascularendothelialgrowthfactortreatmentofneovascu-larCage-relatedCmaculardegeneration:theCcomparisonCofCage-relatedCmacularCdegenerationCtreatmentsCtrials.COph-thalmologyC123:1751-1761,C201622)大中誠之,髙橋寛二:抗CVEGF薬治療のストラテジー(特集加齢黄斑変性アップデート).眼科C58:1573-1584,C201623)StewartMW:IndividualizedCtreatmentCofCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:whatCareCpatientsCgaining?orlosing?JClinMedC4:1079-1101,C201524)OhnakaCM,CNagaiCY,CShoCKCetal:ACmodi.edCtreat-and-extendCregimenCofCa.iberceptCforCtreatment-naiveCpatientsCwithCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC255:657-664,C2017C***

緑内障眼に対する白内障手術併用Ab Interno Trabeculotomy の手術成績

2022年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(10):1417.1420,2022c緑内障眼に対する白内障手術併用AbInternoTrabeculotomyの手術成績石部智也*1八坂裕太*1,2久保田敏昭*1*1大分大学医学部眼科学教室*2九州大学大学院医学研究院眼科学教室SurgicalOutcomesofAb-InternoTrabeculotomyCombinedwithCataractSurgeryforGlaucomaTomoyaIshibe1),YutaYasaka1,2)andToshiakiKubota1)1)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine白内障手術併用abinternotrabeculotomyの術後短期成績について報告する.対象は2018.2021年に大分大学医学部附属病院眼科にて白内障手術と併施してマイクロフックを用いて線維柱帯切開術を施行した26例37眼.年齢は47.89歳(平均73.7歳),術前眼圧は8.25mmHg(平均14.1mmHg),術後観察期間は6.21カ月(平均7.7カ月)であった.病型は原発開放隅角緑内障14例18眼,落屑緑内障10例16眼,続発開放隅角緑内障2例3眼であった.術後3カ月で13.5±3.7mmHg,術後12カ月の眼圧は13.3±3.4mmHgと術前と比較して有意な変化はみられなかったが,薬剤スコアが術前2.6±1.3点から術後3カ月で0.4±0.7点,術後12カ月で0.9±1.4点とぞれぞれ有意に減少した.眼圧のコントロール不良により追加手術が必要となった症例は存在せず,また術後感染症や低眼圧をきたした症例もみられなかった.術後黄斑浮腫が1例にみられたが,その他白内障手術に関連した合併症はみられなかった.白内障手術併用abinternotrabeculotomyは良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させる.緑内障眼に対して,白内障併用abinternotrabeculotomyは良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させるのに有用であった.Purpose:Toreporttheshort-termsurgicaloutcomesofab-internotrabeculotomy(TLO)combinedwithcat-aractsurgeryforglaucoma.PatientsandMethods:Thisstudyinvolved37eyesof26glaucomapatients[meanage:73.7years(range:47.89years)]whounderwentmicrohookab-internoTLOcombinedwithcataractsur-geryattheDepartmentofOphthalmology,OitaUniversityHospital,Oita,JapanfromDecember2018toJune2021.Themeanfollow-upperiodwas7.7months(range:6.21months).Results:Meanintraocularpressure(IOP)priortosurgerywas14.7mmHg(range:8.25mmHg),whilethatat3-and12-monthspostoperativewas13.5±3.7mmHgand13.3±3.7mmHg,respectively.Themedicationscoredecreasedfrom2.6±1.3priortosurgeryto0.4±0.7and0.9±1.4,respectively,at3-and12-monthspostoperatively(p<0.01).Nopatientrequiredanadditionaloperation,andnohypotonyorpostoperativeinfectionwasobserved.Therewerenocomplicationsassociatedwithcataractsurgery,except1caseinwhichpostoperativemaculaedemaoccurred.Conclusion:Inglaucomapatients,ab-internoTLOtrabeculotomycombinedwithcataractsurgerycanreducethemedicationscorewithgoodIOPcontrol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(10):1417.1420,2022〕Keywords:線維柱帯切開術,白内障手術,手術成績.trabeculotomy,cataractsurgery,surgicaloutcomes.はじめにり,おもに眼球外からアプローチする眼外法(abexterno)緑内障眼に対する線維柱帯切開術(trabeculotomy)は線維と眼内からアプローチする眼内法(abinterno)が存在する.柱帯を切開することで生理的房水流出を再建する術式であ近年低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasur-〔別刷請求先〕久保田敏昭:〒879-5593大分県由布市挟間町医大ケ丘1-1大分大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ToshiakiKubota,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama-machi,Yufu,Oita879-5593,JAPANgery:MIGS)とよばれる低侵襲な緑内障手術が開発され,角膜の小切開創から施行でき,重篤な術後合併症が非常に少ない手術法として注目を浴びている.2016年に谷戸らが報告したマイクロフックを用いた線維柱帯切開術は簡便な手術器具によって短時間のうちに行える新たなabinternotra-beculotomyであり,眼圧下降効果も従来のabexternotra-beculotomyと遜色ないことが報告されている1.3).今回筆者らは,大分大学医学部付属病院眼科(以下,当院)で施行した白内障手術併用のマイクロフックを用いたabinternotra-beculotomy(以下μLOT)の短期手術成績について報告する.I対象および方法対象は2018年12月.2021年6月に当院で白内障手術と表1患者背景症例数37眼/26例年齢,歳平均±標準誤差(レンジ)73.7±10.5(47.89)歳性別男性女性16眼/13例21眼/13例病型原発開放隅角緑内障落屑緑内障続発緑内障18眼16眼3眼logMAR視力平均±標準誤差(レンジ)0.34±0.35(0.1.7)眼圧平均±標準誤差(レンジ)14.1±4.3(8.32)mmHg屈折値平均±標準誤差(レンジ).3.6±6.92(.25.2)D内皮細胞数平均±標準誤差(レンジ)2,496±281(1,934.3,114)個/mm2MD値平均±標準誤差(レンジ).10.6±8.71(.30.3.0.01)dB併用して谷戸氏abinternoトラベクロトミーマイクロフック(以下,谷戸氏フック)(M-2215S,イナミ)を用いてtra-beculotomyを施行した26例37眼である.性別は男性13人16眼,女性13人21眼であった.平均年齢は73.7±10.5歳(47.89歳),平均観察期間は7.7±4.2カ月(6.21カ月)であった.病型は原発開放隅角緑内障14例17眼,落屑緑内障10例16眼,続発開放隅角(ステロイド)緑内障2例3眼であった(表1).全例白内障手術との併用手術であり,耳側からのアプローチで白内障手術を施行し,眼内レンズを挿入後に角膜サイドポートから直の谷戸氏フックを挿入し,隅角プリスムでの観察下に鼻側の線維柱帯を約120°切開した.術前後の眼圧値,薬剤スコア,視力,屈折誤差,角膜内皮細胞数について比較検討,術後合併症についても検討した.薬剤スコアは緑内障点眼薬を1点,配合剤点眼薬を2点,アセタゾラミド内服を2点とした.緑内障点眼薬は術後に原則的にすべて中止とし,術後の眼圧に応じて適宜点眼,内服薬を再開した.眼圧値と薬剤スコアはDunnett法を用いて統計学的検討を行い,有意水準5%未満を有意差ありとした.II結果術前と術後の眼圧値,薬剤スコア,視力について示す(図1~3).術前の眼圧値は14.7±5.2mmHg(8.32mmHg),術後の眼圧値は術後1週間で17.5±9.0mmHg(7.4328n=37logMAR視力眼圧(mmHg)24201612840術前124132652(週)図1術前後の眼圧経過術前と比較してすべての時点で有意差を認めなかった.3.50.83.00.62.5薬剤スコア(点)0.42.01.51.00.20術前124132652(週)-0.2術前42652(週)図2術前後の点眼スコア経過図3術前後の視力経過術前と比較して各時点で有意な減少を認めた(p<0.01).術後早期より有意な改善を認めた(p<0.01).mmHg),術後2週間で15.0±4.8mmHg(7.29mmHg),術後1カ月で12.6±3.0mmHg(7.19mmHg),術後3カ月で13.5±3.7mmHg(7.22mmHg),術後6カ月で12.6±3.6mmHg(7.20mmHg),術後12カ月で13.3±3.4mmHg(9.21mmHg)であった.術前と比較してすべての時点で有意差を認めなかった.薬剤スコアは術前が2.6±1.3点(0.5点),術後1週間で0.5±0.9点(0.3点),術後2週間で0.5±0.9点(0.3点),術後1カ月で0.4±0.7点(0.2点),術後3カ月で0.4±0.7点(0.3点),術後6カ月で0.5±0.8点(0.4点),術後12カ月で0.9±1.4点(0.4点)であった.薬剤スコアは術前と比較して各時点で有意に減少した(p<0.01).視力は平均logMAR視力にて術前0.35±0.35(0.+1.70),術後1カ月で0.04±0.14(.0.08.+0.40),術後6カ月で0.01±0.11(.0.20.+0.10),術後12カ月で.0.02±0.09(.0.20.+0.10)と術前と比較して有意に改善した(p<0.01).(1,934角膜内皮細胞数は術前2,496±281個/mm2.3,114個/mm2),術後1.3カ月で2,499±269個/mm2(1,669.3,073個/mm2).術後1.3カ月での角膜内皮細胞数は0.4±9.0%で術前とほぼ変化はなかった.術後3カ月における平均屈折誤差は.0.09±0.54D(.1.25.+0.75D)で,73%(27眼)が目標屈折の±0.5D以内,97%(36眼)が±1.0D以内の誤差であった.術後合併症を表2に示す.線維柱帯を切開した際に認める逆流性出血は92%(34眼)にみられた.術後1日目にニーボーを形成する前房出血は27%(10眼)にみられたが,いずれも1週間以内に吸収された.一過性眼圧上昇(術後1週間以内で一過性に眼圧30mmHg以上)は16%(6眼)にみられた.遷延性の眼圧上昇(術後3カ月以降で眼圧21mmHg以上)は8.1%(3眼)にみられ,緑内障点眼再開により眼圧下降している.眼圧のコントロール不良により線維柱帯切除術などの追加手術が必要となった症例は存在しなかった.また,術後感染症や5mmHg以下の術後低眼圧をきたした症例はみられなかった.角膜上皮障害が5.4%(2眼)にみられたが,いずれも点眼加療にて3日以内に軽快した.また,黄斑浮腫が2.7%(1眼)にみられたが,点眼加療により増悪なく経過している.III考按従来,緑内障に対する観血的治療は線維柱帯切除術および眼外から行う線維柱帯切開術が主であったが,2011年にわが国で認可されたTrabectomeを皮切りにiStent,KahookDualBladeなど,低侵襲の緑内障手術を可能とするさまざまなデバイスが登場してきた.欧米では成人の開放隅角緑内障に対する標準術式は線維柱帯切除術とされているが,このようなデバイスを用いた線維柱帯切開術も行われるようになっている1).利点として,結膜を温存することができるため,表2術後合併症逆流性出血34眼(92%)術後1日目にニボー形成する前房出血10眼(27%)一過性眼圧上昇(術後1週間以内で一過性に眼圧30mmHg以上)6眼(16%)遷延性の眼圧上昇(術後3カ月以降で眼圧21mmHg以上)3眼(8.1%)角膜上皮障害2眼(5.4%)黄斑浮腫1眼(2.7%)術後に眼圧のコントロールが困難となった場合でも追加で線維柱帯切除術やインプラント手術を行うことができる.谷戸氏フックはそれらのデバイスと同様に角膜小切開創から施行でき,手術時間も短時間で行うことができる.また,比較的安価な手術器具によって手術を行うことができることは他のデバイスと比較して秀でている点である2,3).谷戸氏フックの登場からまだ年月が浅いことや海外では一般的でないこともあるが,μLOTの手術成績に関する報告はあまり多くない.既報では2017年に谷戸らがμLOT単独手術で術前眼圧25.9±14.3mmHgおよび薬剤スコア3.3±1.0が,188.6±68.8日の平均観察期間で14.7±3.6mmHgおよび2.8±0.8に,白内障手術併用のμLOTで術前眼圧16.4±2.9mmHgおよび薬剤スコア2.4±1.2が,術後9.5カ月で11.8±4.5mmHgおよび2.1±1.0に低下したと報告している1).当院における手術では術後にすべての緑内障点眼薬を中止し,その後の経過観察中に必要に応じて点眼薬を再開しており一概に比較ができないが,術前の眼圧をほぼ維持しながら薬剤スコアを顕著に減少させており非常に良好な手術成績を得られていると思われる.術後になんらかの合併症を認めた頻度は30%(37眼中11眼)と既報3.6)より低めであった.低眼圧,感染症などの重篤な合併症は過去の報告も当院でも存在しなかった.筆者らは白内障手術を併用したμLOTを行い良好な眼圧コントロールを得ながら薬剤スコアを減少させることができた.緑内障眼に対して白内障手術を行う際,点眼加療でコントロールできている症例に対しμLOTは点眼を減らすために有用と思われる.今回の報告は観察期間が短期間かつ症例が少数であり,今後はさらなる長期的かつ多数例での観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TanitoM,SanoI,IkedaYetal:Short-termresultsofmicrohookabinternotrabeculotomy,anovelminimallyinvasiveglaucomasurgeryinJapaneseeyes:initialcaseseries.ActaOphthalmol95:e354-e360,20172)TanitoM,SanoI,IkedaYetal:Microhookabinternotrabeculotomy,anovelminimallyinvasiveglaucomasur-gery,ineyeswithopen-angleglaucomawithscleralthin-ning.ActaOphthalmol94:e371-e372,20163)TanitoM,IkedaY,FujiharaEetal:E.ectivenessandsafetyofcombinedcataractsurgeryandmicrohookabinternotrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmol61:457-464,20174)EsfandiariH,ShahP,TorkianPetal:Five-yearclinicaloutcomesofcombinedphacoemulsi.cationandtrabectomesurgeryatasingleglaucomacenter.GraefesArchClinExpOphthalmol257:357-362,20195)MoriS,MuraiY,UedaKetal:Acomparisonofthe1-yearsurgicaloutcomesofabexternotrabeculotomyandmicrohookabinternotrabeculotomyusingpropensityscoreanalysis.BMJOpenOphthalmol5:e000446,20206)石田暁,庄司信行,森田哲也ほか:TrabectomeRを用いた線維柱帯切開術の短期成績.あたらしい眼科30:265-268,2013***