考える手術⑭監修松井良諭・奥村直毅裂孔原性網膜.離への強膜バックリング手術坂西良仁順天堂大学医学部附属浦安病院眼科裂孔原性網膜.離(RRD)は,1918年にJuleGoninによって網膜裂孔が原因であることが報告されてから徐々にその病態が解明され,1947年にはCustodisらがバックリング手術を報告し現在に至る.バックリング素材の変遷などはあるものの強膜バックリング(SB)手術は長い歴史があり,それだけに完成された術式といえる.RRDに対するSB手術の基本的な考え方は,網膜裂孔に癒着する硝子体の牽引を強膜側からの圧迫により解除することである.これを理解するには手術前に実際に患者を仰臥位にし,どの部位をどのように圧迫すると牽る.術中に裂孔部を同定する際,大きな網膜裂孔では裂孔の付け根の位置にもっとも牽引がかかっているため,この付け根の部分をしっかり同定してマーキングする.ピンポイントにマーキングができれば,その部位から後極側と周辺側が2:1になる部位にバックルのマットレス縫合を置くとバックルの隆起の途中に網膜裂孔が位置することになり,硝子体による網膜牽引を解除しやすい.一方,バックルの頂点では網膜牽引を解除する方向にベクトルがかからず,牽引が解除できない.また,萎縮性円孔も同様に2:1の位置に縫合することで円孔は閉鎖しやすく,この位置関係でのマットレス縫合は有用である.そして,バックル留置後に再び眼底を観察して網膜裂孔の閉鎖を確認する.もしバックルの位置と網膜裂孔が若干ずれて牽引が十分に解除できていない場合は,バックルの位置を修正することが望まれる.おおよその牽引が取れていればそのまま手術を終了したくなるが,そこでしっかりとした位置に修正し直すことで,よりよい手術結果が得られる.聞き手:硝子体手術が全盛の現在,バックル手術の適応時間が短く,シャンデリア照明など硝子体手術の周辺器や意義についてどう考えていますか?具も充実してきていることがその要因です.しかし,そ坂西:昨今の硝子体手術(parsplanavitrectomy:PPV)れでもすべてのRRDに対する手術がPPVになるとはの低侵襲化に伴い,確かに裂孔原性網膜.離(rheg-考えられません.SBの適応としては,若年者の萎縮性matogenousretinaldetachment:RRD)に対し強膜バッ円孔によるRRD,最周辺部裂孔,下方の陳旧性RRDなクリング(scleralbuckling:SB)手術が選択されることどがあげられます.若年者では後部硝子体.離が起きては少なくなってきています.PPVはSBに比べて手術いないため,PPVで後部硝子体.離(posteriorvitre-(85)あたらしい眼科Vol.40,No.2,20232230910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術ousdetachment:PVD)を起こすのが困難であること,PVDを起こす際に新たに網膜裂孔が生じる可能性があること,また白内障を誘発する可能性があることがPPVのデメリットになります.また,最周辺部網膜裂孔ではPPVでは視認しづらく処理がしづらいものの,SBではむしろ周辺部のほうが強膜を露出しやすく縫合しやすいので,SBが有利です.さらに下方の陳旧性RRDでは,PPVはガスなどの眼内タンポナーデが下方の網膜裂孔に当たりづらく復位しにくいため,長期に裂孔部の牽引を解除できるSBが有利です.もちろん場合により術式の選択は異なりますが,このあたりの考えを基に術式を検討する必要があります.また,SBの意義として,一つ目に強膜圧迫による網膜と硝子体牽引の関係を知るためのトレーニングとして術者の教育的な側面があげられます.二つ目はPPVでも重症例ではSBを併用することがあるという点です.したがって,SBは硝子体術者にとっては初心者でも熟練者でも必須の術式であるといえます.聞き手:SB手術を習得するコツは何ですか?坂西:まだSBに慣れていない術者がまずこの術式を習得するのに必要なコツは,常に同じ状況で手術をできるように自分の型・姿勢を常に意識するという点です.結膜切開や外眼筋の同定は当然手順を理解したうえで何度も繰り返すしかありませんが,問題はその後の強膜圧迫です.双眼倒像鏡を用いて行う場合,常に同じ型で圧迫できるように留意する必要があります.具体的には,術者は必ず圧迫する部位の対側に立ち,強膜圧迫している右手,20Dレンズを持っている左手,眼内に入射している光が,すべて安定して一直線上にあることで安定して眼底の状態を詳細に観察できるようになります.この眼底を見るときの姿勢と距離感を自分のものにできれば,一気にSBが上達します.中心に向かって圧迫することで眼球が回転せず適切に強膜圧迫ができる.図1強膜圧迫の方向圧迫する方向が中心に向かっていないと眼球が回転し,かつ滑ってしまいうまく圧迫できない.聞き手:SB手術時に冷凍凝固がうまくできません.坂西:SBの手技の中で冷凍凝固はもっともむずかしい手技の一つです.網膜裂孔の同定であれば鈎付きのマイヤーシュビッケラート(Meyer-Schwickerath)氏強膜圧迫鈎などを用いるため圧迫部がずれることはありませんが,冷凍凝固の器具は先端が滑らかであるため,圧迫の際に滑ってしまって必要な部位をうまく圧迫できないことがあります.このとき,冷凍凝固器具の先端を眼球中心に向かって押すようにすると,眼球に対してモーメントがかからず,また先端が動かないので滑りにくくなります.この眼球中心を意識した圧迫をいかにできるかが重要です.とくに最周辺部の冷凍凝固を行う際は滑りやすいため注意して行うことが必要です.また,どうしても滑ってしまう場合には,圧迫する前に軽く冷凍凝固をかけはじめ,凝固してきたらそのまま圧迫を強めて眼球を制御すると固定がよいです.聞き手:SB手術でもっとも重要なことは何ですか?坂西:手技の細かいところは慣れていくとして,SBでもっとも大事なのは最終的にその状態で結膜を閉じて手術を終了してよいかどうかを判断する,という点だと思います.すなわちバックル縫合を行った後に,そのバックルの位置でよいのか,位置を変更する必要があるのか,強膜側からの網膜下液排液やガス注入をする必要はあるのかを含めて,終了の判断をする必要があります.SBに慣れていないとこの判断がむずかしいですが,バックルの位置が網膜裂孔にぎりぎり乗っているかどうかで迷った場合には,必ず再縫合で位置を変更して網膜裂孔がバックルにしっかり乗っていることを確認することが重要です.網膜下液の排液は,下方の網膜.離の場合,陳旧例で網膜下液の粘稠度が高く自然吸収に時間がかかりそうな場合,バックルの位置はよいがまだ復位していない丈の高い場合には必要だと思います.さらにガス注入は網膜下液を大量に行って脈絡膜.離が出るほど低眼圧になった場合や,裂孔部が.shmouthになって閉鎖していない場合,黄斑.離をきたしている場合などが対象になります.いずれも術中に判断しますが,やはり術前にしっかりシミュレーションを行い,排液やガス注入を行うかある程度術前に計画しておくことで,スムーズかつ正確な手術につながると思います.224あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023(86)