———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS抗原と顕著に相関することが知られており1,2),疾患感受性遺伝子はHLA-B*51対立遺伝子(アリル)であると考えられる.しかしながら,HLA-B*51アリルを保有する人は日本人の約16%(1,500万人以上)も存在するが,本病を発症する人はそのなかのほんのわずかにすぎない(浸透率が低い).したがって,本病発症には外来抗原などの外的要因やHLA-B*51アリル以外の他の疾患感受性遺伝子(内的要因)も関与していると考えられる.本稿では,Beh?et病の病態およびHLAとの関連について,最新の知見を交えながら概説したい.IBeh?et病の疫学旧厚生省および厚生労働省の全国疫学調査3~5)によると,患者数は1972年には8,500人,1984年には12,700人,1991年には18,300人と年々増加していたが,2002年には15,000人と減少した.性比(男/女)の推移をみると,1.20(1972年),0.86(1977年),0.92(1984年),0.96(1991年),0.93(2002年)で,当初は男性患者が多かったものの,女性患者の激増により1977年には女性が多くなっている.その後,男性患者が増加する傾向がみられるが,現在も女性の割合がやや多い.平均発症年齢は32.2歳(1972年),35.5歳(1984年),37.8歳(1991年)とこの20年間で上昇し続けている.また発症するBeh?et病の症状にも変化がみられ,疑い例と分類不能例を除いた完全型と不全型のみの割合でみると男性でははじめにBeh?et病は1937年にトルコのイスタンブール大学皮膚科のHulusiBeh?et教授により初めて報告された疾患で,口腔内アフタ性潰瘍,眼症状,皮膚症状,外陰部潰瘍を4主症状とする再発性の難治性炎症性疾患である.しばしば関節炎,副睾丸炎,消化器病変,血管病変,中枢神経病変などの副症状を伴い,出現する症状により完全型,不全型,疑いおよび特殊型に分類される(表1).青壮年期に多く発症し,長期間にわたり再発と寛解をくり返すため,患者のqualityoflife(QOL)に大きく影響する.本病はわが国のぶどう膜炎の原因疾患として頻度が高く,近年の治療法の進歩により視力の予後は改善してきているが,今なお失明率の高い疾患である.Beh?et病の発症機構はいまだ明確ではないが,本病は特定の内的遺伝要因のもとに何らかの外的環境要因が関与して発症する多因子疾患と考えられている.単一遺伝子性疾患は1つの遺伝子における変異が原因で発症し,その遺伝子変異を有している人はほぼ100%の確率でその疾患を発症すると予測される(浸透率100%).これに対して,多遺伝子性疾患の場合,特定の遺伝子のみでは疾患を発症しないが,その疾患に対する罹患リスクを上昇させるため,そのような遺伝子は疾患感受性遺伝子とよばれる.本病の疾患感受性を規定している遺伝要因の少なくとも1つは第6染色体短腕上のHLA(ヒト白血球抗原;humanleukocyteantigen)領域に存在すると考えられている.本病は人種を超えてHLA-B51(7)????*AkiraMeguro&NobuhisaMizuki:横浜市立大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕目黒明:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室特集●組織適合抗原(HLA)のすべてあたらしい眼科23(12):1521~1527,2006HLAとBeh?et病????????????????????????????????????????????目黒明*水木信久*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006完全型が50.9%(1972年)→44.1%(1984年)→35.9%(1991年)→29.9%(2002年),女性では38.7%→36.5%→32.8%→27.8%と男女ともに完全型が減少している.さらに過去1年間における臨床経過では,1991年は1972年に比べて,各症状の“発作なしまたは改善”の頻度が大幅に上昇(24.5%→57.0%)し,逆に“不変または悪化”の頻度が大幅に減少(不変:42.0%→31.7%,悪化:30.1%→9.1%)している.死亡例も減少傾向(1.0%→0.4%)にあり,近年,Beh?et病は軽症化傾向にあるといえる.これらのことより,受診しない軽症者の割合が増加したことが推測され,この軽症化が1991年から2002年にかけての患者数の大幅な減少に影響を与えた可能性が考えられる.そのため患者数は潜在患者を考慮すると報告数よりもかなり多いと推定される.IIBeh?et病の病因1.内因Beh?et病は,世界的には地中海沿岸から中近東,東アジアに至る北緯30度から北緯45度付近のシルクロード沿いの地域で多く発症することが知られている(図1)2,6~20).本病はHLA-B51抗原と強く相関していることが明らかにされており,これらの地域のどの民族においても患者群のHLA-B51抗原陽性頻度は35~80%であり,健常群の10~30%と比較して有意に上昇しているため(表2)21~30),HLA-B51抗原が本病の発症に何らかの影響を及ぼしていることが考えられる.シルクロー(8)図1Beh?et病の世界分布:推定有病率を面積で相対的に示した.有病率はトルコが10万人当たり100人以上と最も高く,日本は10万人当たり約13.5人である.:推定有病率が10万人当たり1人未満の地域を示す.:有病率は不明であるが発症報告が少ない,あるいはまれである地域を示す.×:これまでに発症の報告なし.Beh?et病の発症が地中海沿岸から東アジアにかけての北緯30度から45度の地域で高頻度にみられる.表1Beh?et病の症状と診断基準(厚生省ベーチェット病調査研究班,1987年改訂)(1)主症状①口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍②皮膚症状(a)結節性紅斑様皮疹(b)皮下の血栓性静脈炎(c)毛?炎様皮疹,?瘡様皮疹参考所見:皮膚の被刺激性亢進③眼症状(a)虹彩毛様体炎(b)網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)(c)以下の所見があれば(a)(b)に準じる(a)(b)を経過したと思われる虹彩後癒着,水晶体上色素沈着,網脈絡膜萎縮,視神経萎縮,併発白内障,続発緑内障,眼球癆④外陰部潰瘍(2)副症状①変形や硬直を伴わない関節炎②副睾丸炎③回盲部潰瘍で代表される消化器病変④血管病変⑤中等度以上の中枢神経病変(3)病型診断の基準①完全型経過中に4主症状が出現したもの②不全型(a)経過中に3主症状,あるいは2主症状と2副症状が出現したもの(b)経過中に定型的眼症状とその他の1主症状,あるいは2副症状が出現したもの③疑い主症状の一部が出現するが,不完全型の条件を満たさないもの,および定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの④特殊病変(a)腸管(型)Beh?et病─腹痛,潜血反応の有無を確認する(b)血管(型)Beh?et病─大動脈,小動脈,大小静脈障害の別を確認する(c)神経(型)Beh?et病─頭痛,麻痺,脳脊髄症型,精神症状などの有無を確認する———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????ド沿いの地域の有病率は人口10万人当たり10~370人と多いのに対し,北欧や北米では10万人当たり1人にも満たないまれな疾患である.北欧および北米の健常群のHLA-B51抗原陽性頻度が0~10%と低値であるように人種間におけるHLA-B51抗原出現頻度の偏りがこの有病率の地域差に反映していると推測される.一方,イタリア,ポルトガル,エスキモーの健常群のHLA-B51抗原陽性頻度は17~28%とシルクロード沿いの地域の健常群と同等であるのにもかかわらず,本病の有病率はイタリア,ポルトガルでは10万人当たり2人前後,エスキモーにおいては本病の発症は報告されていない.このため本病の発症をHLA-B*51アリルのみで規定することはできず,何らかの外的環境要因もしくは他の疾患感受性遺伝子の存在を考慮しなければならない.本病は家族内発症の報告が少ないのに加え,日本人と同じ遺伝背景をもつハワイやアメリカ本土在住の日系人では本病の発症がほとんどみられないことからも環境因子が関与している可能性が高い.また,本病患者の20~50%はHLA-B51抗原陰性者であるため,環境因子に加えてHLA-B51遺伝子以外の他の内的遺伝因子の関与も示唆される.Beh?et病では一般に好中球の機能亢進が認められていることから,近年では免疫応答を制御する炎症性サイトカインに関与する遺伝子の相関解析が盛んであるが,いまだ確証を得た結果は得られていない.2.外因Beh?et病は,シルクロード周辺地域に偏在することから,地域特異的な外的環境因子が考えられる.Beh?et病を初めて報告したBeh?et教授は外因としてウイルスをあげているが,これまでに有意な結果を示す報告は少ない.また,わが国では1960年代より急激にBeh?et病の患者数が増加したことから,高度成長期下の環境汚染あるいは環境の変化が発症の要因であるとして検討されたこともあったが,因果関係はわからなかった.近年,患者の口腔内細菌叢に高頻度にみられるレンサ球菌由来の熱ショック蛋白質(HSP)が注目されている.HSPは熱などの細胞にとってストレスとなる刺激により発現し,シャペロンとして生体防御や機能維持に関与する細胞内蛋白質である.HSPは免疫原性が強く,種を超えてアミノ酸配列の相同性がきわめて高いため,細菌由来のHSPとヒト由来のHSPの交叉反応性からBeh?et病が発症するという自己免疫反応説を示唆する報告もされている.IIIBeh?et病の病態活動期のBeh?et病では,急性炎症病変部への好中球主体の浸潤が観察される.好中球は末?血中の多形核白血球の90%以上を占め,高い運動性と貪食能により体内に侵入する細菌を細胞内に取り込み,効率よく殺菌分解する.本病の基本病態はこの好中球の機能亢進にあると考えられている.本病患者の好中球では,走化性亢進,活性酸素およびサイトカイン産生能の亢進がみられるため,元来,生体の防御機構の初期に作用する物質が組織障害をひき起こし,本病の病態形成に関与すると推測されている.このことから好中球の機能異常と本病で高頻度に保有されるHLA-B51抗原の関連が検討されており,現在までにHLA-B51分子が好中球の機能制御に関与している可能性が示唆されている.HLA-B51抗原陽性者はBeh?et病の有無にかかわらず,好中球による活性酸素産生能が亢進していた.さらに,ヒトのHLA-B51遺伝子を発現したトランスジェニックマウスの好中球はfMLP(N-formyl-Met-Leu-Phe)刺激により活性酸素を産生するのに対し,HLA-B35遺伝子を発現したマウスでは活性酸素の産生はなかった.このように(9)表2各国のHLA-B51抗原陽性頻度国患者健常者文献東アジア日本韓国中近東アジアイランヨルダンサウジアラビアトルコヨーロッパイタリアスペインギリシャドイツ白色人種58.9%35.2%61.9%63.2%76.9%75.0%57.4%36.2%78.9%57.6%42.9%13.8%22.5%28.7%16.0%22.2%24.7%19.2%19.6%22.5%12.3%10.0%21)22)23)24)25)26)27)28)29)26)30)———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006HLA-B51遺伝子自体が好中球の機能を制御し,本病の発症に深く関与している可能性が示唆されている.IVBeh?et病とHLA領域ヒトの主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocom-patibilitycomplex:MHC)であるHLAは,第6染色体短腕上の6p21.3領域(3.6Mb)に存在している.HLAは自己の標識として異物由来の抗原ペプチドをT細胞に提示し自己と非自己の識別に関与することにより,免疫応答の誘導に深く関わっている.HLA領域の遺伝子の最大の特徴は,機能を有するヒトの遺伝子としては最も高度な多型性(個人差)を示すことである.これまでの遺伝子解析の結果から,多くの遺伝子座が多型性を示すことが明らかとなっており,通常の遺伝子座では数個の対立遺伝子が観察されるにすぎないが,HLA遺伝子座には膨大な数のアリル(対立遺伝子)が存在し,HLA-A遺伝子座には400種類以上,HLA-B遺伝子座には800種類以上,HLA-DR遺伝子座には500種類以上のアリルが報告されている.この類いまれなる多型性(個人差)により,免疫応答の個人差が生じ,疾患発症のかかりやすさに違いが生じてくることがわかってきた.HLA領域では,これまでに数多くの疾患と特定のHLAアリルとの有意な相関が報告されている.このように,疾患とHLA遺伝子が相関を示した場合,一般的にはHLA遺伝子自体が抗原に対する免疫応答の個体差を決定する遺伝要因となり,疾患に対する感受性を規定していると考えるが,病因および病態が明確ではない疾患では,HLA遺伝子は単なる遺伝子マーカーであり,その相関は真の感受性遺伝子が近傍に存在するため,強い連鎖不平衡により観察されている可能性があることを考慮しなければならない.Beh?et病では,主要な遺伝要因としてHLA-B*51アリルが見いだされ,HLA-B51を中心としたHLA領域の解析が進んでいる.1.HLA-B*51対立遺伝子HLA-B遺伝子は最も高度の遺伝的多型性を有し,800種類以上の対立遺伝子が報告されている.この著明な多型性のため,HLA-B遺伝子は疾患の感受性遺伝子を検索するうえで優れた遺伝標識となっている.必ずしもHLA-B遺伝子自体が疾患に対する感受性を規定しているとは限らないが,これまでに多くの疾患で特定のHLA-Bアリルとの相関が認められている(表3).一般に,HLA分子は外来抗原ペプチドを収容溝に取り込み,CD8+T細胞への抗原提示を行うが,そのペプチド収容溝を構成するアミノ酸の相違によって結合ペプチドが異なるため,特定のペプチドに対する免疫応答が大きく異なり,それにより疾患が発症する可能性がある.Beh?et病では,どの民族においても患者群でHLA-B51抗原が顕著に増加することが知られているが,興味深いことに,HLA-B51抗原と2カ所のアミノ酸残基以外まったく同一であるHLA-B52抗原は本病とまったく相関していない.このためHLA-B51分子特異的な2カ所のアミノ酸,63番目のアスパラギンおよび67番目のフェニルアラニンに結合する特定の抗原に対する免疫応答がBeh?et病の発症に直接関与している可能性が考えられている.近年の研究により,HLA分子と結合する抗原ペプチドが解析され,HLA-B51分子は他のHLA分子とはまったく異なるHLA結合モチーフを有することがわかっている.しかしながら,本病に関与する外来抗原および自己抗原はいまだ不明であり,病因を解明するうえで今後のさらなる解析が必要である.2.MICA分子MICA(MHCclassⅠchain-relatedgeneA)はHLA-B遺伝子座のわずか46kbセンテロメア側のきわめて近傍に位置する非HLA遺伝子であり,HLAクラスⅠ類似蛋白質をコードする.筆者らの以前の研究ではMICA遺伝子の膜貫通領域に存在するマイクロサテラ(10)表3HLA-Bと疾患との相関疾患HLA-BBeh?et病強直性脊椎炎Reiter病高安病全身性エリテマトーデス亜急性甲状腺炎Basedow病B51B27B27B52B8,B39B35B8,B35,B46———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.12,2006????イト(MS)多型とBeh?et病との有意な相関が見いだされた.MSとはゲノム上に散在する数塩基単位の反復配列のことで,その反復配列に多型性があり,疾患感受性遺伝子マッピングの有用な遺伝マーカーとなりうる.本病患者ではアラニンをコードするGCTを6回反復するMS(MICA-A6)が健常群に比して有意に上昇していることが明らかにされた31).MICA-A6遺伝子と本病の相関はHLA-B*51アリルによる相関と同程度の高値を示しており,本病の有力な感受性遺伝子である可能性が考えられた.しかし,HLA-BとMICAの遺伝子座は近接して座位しており,両遺伝子間には強い連鎖不平衡が存在するため,両遺伝子が本病に対しておのおの独立に作用する可能性は低い.その後の筆者らの両遺伝子間の連鎖解析(層別解析)により,多くの民族でHLA-B*51アリルが本病と第一義的に相関しており,HLA-B遺伝子近傍領域に存在する本病の感受性遺伝子はMICA-A6アリルではなく,HLA-B*51アリルである可能性が示唆された21,27,29).しかしながら,興味深いことに,MICA分子の発現は上皮細胞,血管内皮細胞,ケラチノサイトなどに限局し,Beh?et病の病変部(粘膜上皮,血管内皮,皮膚)と一致している.また,MICA分子はナチュラルキラー(NK)細胞,gdT細胞およびCD8+T細胞に抗原提示し,何らかの免疫応答に関与することが示唆されているが,まさに本病患者の病変部ではNK細胞,gdT細胞およびCD8+T細胞の機能亢進が報告されている.これらの報告からも,MICA-A6がBeh?et病の病態形成に何らかの関わりがある可能性も依然残っている.近年,HLA-B51分子はMICA-A6を含むペプチドと高い親和性があることが報告されており,MICA-A6を含むペプチドがHLA-B51分子上に提示され,それを認識するCD8+T細胞がMICA-A6発現細胞を傷害し,炎症性病態を形成する可能性も示唆されている.これらのことより,HLA-B*51アリルの著しく強い連鎖不平衡の下に発現したMICA-A6アリルが本病発症に二次的に関与している可能性も考えられ,本病の病態誘導にはHLA-B51分子とMICA-A6分子の両者の組み合わせが重要である可能性も考えられている.(11)図2日本人,ギリシャ人,イタリア人,ヨルダン人のマイクロサテライト多型解析各民族の患者において,HLA領域に存在する8種類のMSマーカー(C1-2-A,MICA,MIB,C1-4-1,C1-2-5,C1-3-1,C2-4-4,C3-2-11)およびHLA-B遺伝子の多型解析の結果を示す.横軸は各MSマーカーの位置をHLA-B遺伝子からの距離で示している.縦軸は患者群と健常群でのMSのアリル分布の統計学的有意差検定の値(p値の対数の逆数値)を示している.Locationofpolymorphicmarkerspvalue2.01.00.50.22C1-2-AMICA(GCT)nMIBHLA-BC1-2-5C1-3-1C2-4-4C3-2-11C1-4-1101221866249171630(kb)ギリシャ人ヨルダン人イタリア人日本人———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.12,20063.HLA-B遺伝子近傍領域のマイクロサテライト多型解析1999年,筆者らはヒトゲノムプロジェクトの一環として,HLAクラスⅠ領域(1.8Mb)の全塩基配列を決定し,HLA-B遺伝子近傍にMICA遺伝子のほか多くの未知の遺伝子および700個以上のMSを同定した32).HLA-B遺伝子近傍に本病とより強固に相関する真の感受性遺伝子が存在する可能性も残っていたため,筆者らは日本人,ギリシャ人,イタリア人,ヨルダン人を対象にHLA-B遺伝子を含むHLAクラスⅠ領域の約1.1bのMS多型解析を行った24,33,34).その結果,すべての民族においてHLA-B遺伝子が本病と最も強く相関しており,この領域に存在する本病の感受性遺伝子はHLA-B*51アリルであることが示唆された(図2).HLA領域には130個を超える発現遺伝子が存在し,その半数近くが免疫系に関与している.現在,HLA領域には多くの免疫疾患の疾患感受性遺伝子がマッピングされている.Beh?et病では,HLA-B遺伝子近傍領域の解析が盛んに行われてきたが,残りのHLA領域はいまだ詳細には解析されていない.今後,これらの領域をさらに解析していきたい.VBeh?et病と非HLA領域Beh?et病患者の20~50%はHLA-B51抗原陰性であり,本病発症にはHLA-B*51アリル以外の他の疾患感受性遺伝子も関与している可能性が高い.しかしながら,HLA領域以外に本病の有力な疾患感受性遺伝子は現在まで見つかっていない.一般的に,免疫に関連する疾患の遺伝解析が困難な理由として,①候補遺伝子が明確ではなく,検索すべき遺伝子が特定できない,②メンデル遺伝形式が不明である,③遺伝子の浸透率が低く,検出感度が落ちる,④外的環境の影響が大きい,などがあげられる.これらの問題点を考慮し,筆者らは2003年より,全染色体を網羅する23,465個のMSマーカーを用いて,全ゲノムを網羅的に解析し,Beh?et病の疾患感受性遺伝子の検索を行っている.現在,全染色体でMSスクリーニングを終了しており,本病の疾患感受性遺伝子の候補領域を147領域まで絞り込んでいる.本病の全ゲノム網羅的解析の詳細については,本特集の「疾患感受性遺伝子同定のアプローチと今後の展望」の項を参照されたい.おわりにBeh?et病の病態および遺伝学的発症機序についてHLAを中心に紹介した.疾患感受性遺伝子を同定する最終的な目的は,臨床応用すなわちトランスレーショナルリサーチである.本病の疾患感受性遺伝子を解明し,本病の有効な予防法および治療法に結びつけられるよう努力していきたい.文献1)OhnoS,AokiK,SugiuraSetal:HL-A5andBeh?et?sdis-ease.??????ii:1383-1384,19732)OhnoS,OhguchiM,HiroseSetal:CloseassociationofHLA-Bw51withBeh?et?sdisease.???????????????100:1455-1458,19823)厚生省特定疾患ベーチェット病調査研究班,昭和47年度研究業績,p1-27,p38-43,19734)厚生省特定疾患ベーチェット病調査研究班,平成3年度研究業績,67-69,19925)厚生労働科学研究(難治性疾患克服研究事業)ベーチェット病に関する調査研究,平成16年度研究報告書,p89-94,20056)VerityDH,MarrJE,OhnoSetal:Beh?et?sdisease,theSilkRoadandHLA-B51:historicalandgeographicalper-spectives.???????????????54:213-220,19997)BangD,LeeJH,LeeESetal:EpidemiologicandclinicalsurveyofBeh?et?sdiseaseinKorea:the?rstmulticenterstudy.????????????????16:615-618,20018)Al-OtaibiLM,PorterSR,PoateTWJ:Beh?et?sdisease:areview.??????????84:209-222,20059)SakaneT,TakenoM,SuzukiNetal:Beh?et?sdisease.????????????341:1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