———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI角膜形状解析装置ビデオケラトスコープ角膜形状解析装置には,オートレフラクトメーターをはじめさまざまな種類があるが,オートレフラクトメーターは角膜上の数点しか角膜曲率半径を計測できないのに対して,フォトケラトスコープは同心円状の多数のリングを角膜に投影することにより,大まかな角膜形状を把握できるようになったこと,角膜曲率半径計測ポイントも増えたことなど大きく改善された.その次世代として登場したビデオケラトスコープは同じく角膜に同心円状のリングを投影するのであるが,そこから得られたマイヤー像をもとに1本のリング当たり約250ポイント,28本のリングを投影すれば約5,000ポイントもの角膜曲率半径をはじきだすことができるようになった(図1).しかもそれをカラーコードマップに変換することにより初期の円錐角膜でも,画期的にしかも容易に検出できるようになった2).このビデオケラトスコープがわれわれにもたらした恩恵は多大なものがある.ただこのマイヤーリングを用いて測定するタイプの装置は,眼表面の涙液の影響を受けるという,唯一ともいえる欠点がある.測定時は必ず瞬きをして開瞼して間もないとき(涙液層が安定している間)に測定をしなければきれいなマイヤー像は得られず,角膜形状を正しく反映しない場合がある(図2).筆者らはこのビデオケラトスコープが円錐角膜をはじめとする角膜形状異常をスクリーニングすることに成功したことから,その他のあらゆる角膜疾患はじめに日常の診察において非常にポピュラーな疾患であるドライアイは,Sj?gren症候群のような重症型からOA作業などに伴う軽症型まで疾患内のスペクトル幅はとても広く,またその病態にいたっては,基本的に涙腺の機能異常を主とする涙液分泌低下型と涙液層の安定性の異常を主とする蒸発型とに分類されてはいるものの,眼表面という観点からいうと,さまざまな要因がからみあっていることが多く,個々の病態に応じた治療戦略が必要とされる.ドライアイの診断基準が1995年にドライアイ診断基準委員会によって発表されてからも診断にあたって確実な基準となる検査法が見出されないまま,昨今ではその見直しがすでに検討され,ついに新たな診断基準が発表された1).患者の自覚症状を盛り込んだことで,最近ドライアイ患者数が増えている要因ともいうべき涙液層破壊時間(BUT)短縮型のドライアイをその診断基準のなかで取りこぼすことがないよう,非常にうまく改善された.しかしながら涙液を含む眼表面の恒常性を非侵襲的にできるだけ簡単なパラメーターで評価することは今後も大きな課題である.今回の小論では,そういった問題点から筆者らが開発することに至った角膜形状解析装置を利用した,涙液安定性評価装置(TearStabilityAnalysisSystem:TSAS)について,説明と考察を加える.(17)???*TomokoGoto:鷹の子病院眼科〔別刷請求先〕五藤智子:〒790-0925松山市鷹子町525-1鷹の子病院眼科特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):415~421,2007TearStabilityAnalysisSystem(TSAS)による涙液動態検査??????????????????????????????(????)五藤智子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007をスクリーニングできることを目標とした.もともと涙液に影響を受けやすいという欠点を逆手にとり,涙液を非侵襲的に評価することに成功したのである.II涙液安定性評価装置(TearStabilityAnalysisSystem:TSAS)3)1.測定原理図2aは開瞼直後に撮影した正常角膜であるが,同じ眼を10秒間開瞼させた状態で撮影すると図2bのように異常なフラット像が現れる.角膜表面の涙液層が変化することによってその部位のマイヤーリングに変化をきたし,結果的にカラーコードマップに変化をきたすのである.このように角膜形状解析装置のビデオケラトスコープは涙液の影響を受けやすい.その欠点を利用して開瞼時から連続撮影できるよう改良を行った.図3a,bにTSASで得られた代表的な検査結果を示す.図3aは,正常眼の検査結果で,左上が開瞼直後0秒時のもの,以後,1秒,2秒と最長10秒まで,開瞼したままの状態で1秒ごとに連続撮影している.最後の右下のカラーマップはbreakupmapとよばれるもので,開瞼後の何秒の時点で角膜屈折値に0.5ジオプトリー(D)以上の変化が現れたかを示している.これによれば,涙液層の安定性を時間軸と面積軸からよりビジュアルに把握することができる.この症例では,開瞼直後からカラーマップにほとんど変化が認められず,涙液層がきわめて安定し(18)図1ビデオケラトスコープ同心円状のリング光を角膜に投影し,得られたマイヤー像を解析することでカラーコードマップに変換する.図2TSASの原理a:開瞼直後の角膜形状.b:aと同じ眼を開瞼して10秒後に撮影したもの.涙液破壊のため異常なフラット像がみられる.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???た状態にあると考えられる.つぎに図3bは,Schirmer値は正常範囲であるがドライアイ様の症状を訴える症例である.ご覧のように,開瞼直後よりカラーマップが変化し,涙液層の安定性が悪いことがうかがわれる.2.TSASの有用性の検討はたしてこの検査がドライアイの検出に有用であるかどうかを,0.5D以上の角膜屈折値変化が現れるまでの時間(秒)であるTMS-BUTと,5秒以内に変化の認められた領域を面積比で表したTMS-BUAという,2つのパラメーターを用いて検討してみた(図4a,b).これらのパラメーターを従来からのBUT(SLE-BUTと記載)と比較したところ,TMS-BUTとは正の相関が,(19)表1SLE-BUTとTSASの比較検討SLE-BUTTotaleyesTMS-BUTTMS-BUA>5sec≦5sec<0.2≧0.2Norml(>5seconds)3423112212Short(≦5seconds)4603430640SLE-BUT:tearbreakuptimeevaluationusingslit-lampmicroscope.TMS-BUA:ratioofareahavingtearbreakuptime≦5secondstothewholecolor-codearea;TMS-BUT:TMStearbreakuptime.SLE-BUT正常群のなかにTSASにて異常を示した例がみられ,その89%になんらかのドライアイ症状が認められた.(文献3より)図3aTSASによって撮影された1回1眼に対する検査データ0秒から10秒までほとんど角膜屈折値に変化がみられず,涙液が非常に安定していることを表している.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007TMS-BUAとは負の相関が得られた(図5a,b).また,表1に示すように,あらかじめBUT短縮群と正常群に分けてそれぞれTSASの検査結果を検討したところ,正常群と判定されたなかにTSASでは異常を示す症例が認められ,さらにその89%が何らかのドライアイ症状を有していたことがわかった.これまでの検査では捉(20)図3b涙液の安定性が悪い症例開瞼直後より角膜屈折値にさまざまな変化がみられ,非常に涙液の安定が悪い.図4bTMS-BUAの算出方法TMS-BUA=0.89●TMS-BUT:thetimingofoccurrenceoftearbreakup(changeofcornealpower>0.5D)Areawithtearbreakuptime≦5sec●TMS-BUA=──────────────────Wholecolor-codearea図4aTSASから導いたパラメーターTMS-BUTとTMS-BUAの2つのパラメーターを用いてTSASの有用性について検討した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(21)えられなかった潜在的なドライアイ患者ポピュレーションを検出している可能性もある.3.TSASによるLASIK術前後評価4)LASIK(laser????????keratomileusis)は短時間で安定した矯正を得られることなどから,今や屈折矯正手術の大半を占めている.その合併症の一つである術後ドライアイは,ほとんどの症例が数カ月で改善が得られるということにはなっているが,なかには術後点状表層角膜症(super?cialpunctatekeratopathy:SPK)が遷延化し涙点プラグの挿入を余儀なくされる症例もみられる.その機序は明確にはされていないものの,角膜知覚が術後3カ月までは有意に低下している事実からも,マイクロケラトームによる角膜神経の切断が関与していることは明らかである.しかし3カ月以降は回復する傾向がみられるという事実があるにもかかわらず,ドライアイが重症化する症例が見受けられるのはなぜであろう?そもそもドライアイというのは涙液側とそれを保持する上皮側,上皮に均一な涙液層をつくる眼瞼,など多くの要因がその病態をつくり出す恐れのある眼表面疾患なのである.もともと悪条件を有する潜在的ドライアイに,涙液のre?exloopの求心路を担っている角膜知覚神経切断という大きなストレスが加わった場合,不可逆性のドライアイ状態となりうるのではないだろうか.筆者らは,TSASを用いてLASIK術前後の評価をし,術前においてTSASが異常であった場合にドライアイ合併症が多いという結果を得られた.その結果と術前ケアとして今後考えられることについて検討したことを,以下に述べる.4.LASIK術前後のTSASLASIKの手術前後でTSASにて撮影し,比較してみると(図6a),術後に涙液層の安定性が悪化していることがよくわかる.術後3カ月までは有意な低下がみられ6カ月で回復傾向がみられる.しかし症例のなかには術前のSchirmer試験,SLE-BUTは正常であったにもかかわらず,LASIK術後,SPKが長期間にわたって遷延し,最終的に涙点プラグを挿入せざるをえなくなったケースがみられ,その症例の術前TSASでは,わずかながらも開瞼直後よりカラーマップに乱れがあり,涙液層の安定性が悪いことが示されていた.術後のドライアイ合併症としてSPKが散見される.ほとんどの症例は回復し,自覚症状も改善がみられる.しかしながら,この症例のように術後ドライアイが重症化し角結膜上皮障害が遷延化するケースにおいては術前より何らかの潜在性ドライアイ要因があったのではないかと思われる.そこで筆者らは術前TSASのデータが正常であった群と異常であった群に分けてSPKの出現率をみてみることにした(図6b).その結果,グラフに示すように明らかに術前TSASが異常を示した群においては有意に術後経過中SPKの出現率が高かった.しかもその症例のなかには6カ月を経てもSPKが遷延化し,重症化するケー図5aTMS-BUTとSLE-BUTの関係正の相関関係がみられる.(文献3より一部改変)1412108642002468101214SLE-BUT(秒)TMS-BUT(秒)r=0.7219p<0.0001図5bTMS-BUAとSLE-BUTの関係負の相関関係がみられる.(文献3より一部改変)102468101214SLE-BUT(秒)TMS-BUAr=0.6317p<0.00010———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(22)スが含まれた.このことよりTSASは術前検査において潜在性のドライアイ要因を鋭敏に検出しているのではないかと推察された.TSAS異常群においては,涙液量だけでなく涙液安定性に異常を及ぼすような要因を総合的に問診,観察をして突きとめておかなければならない.要因として考えられるものには,コンタクトレンズによる影響,アレルギー性結膜炎,その他の結膜炎,軽微なドライアイ,マイボーム腺機能異常などである.そのケアとしてはコンタクトレンズ離脱時間の考慮をはじめとしてそれぞれに対する点眼治療などであり,TSASが改善された状態において施術をすれば,術後ドライアイの重症化は防げる可能性も十分あるのであろう.図7ドライアイ患者(67歳,女性)への0.1%ヒアルロン酸点眼後のTSASによる涙液安定性の評価点眼前BUI:35.130.756.61分後30分後BUI:57.366.3120分後5分後Schirmer:5mmBUT:2秒A2D2図6aLASIK前後のTSAS術後1週より涙液の安定性は低下し,術後3カ月まで有意な低下がみられる.(文献4より一部改変)02468106カ月3カ月1カ月1週術前TMS-BUT(秒)****p<0.05経過期間図6b術前TSASとSPK出現率術前TSASが異常であった群において有意にSPK出現率が高い.(文献4より一部改変)1009080706050403020100SPK出現率(%)****6カ月3カ月1カ月経過期間1週術前:異常TSAS値:正常TSAS値*p<0.05———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(23)現在TSASは改良が進められ,その評価法も新たなインデックスBUI(breakupindex)の導入が愛媛大学眼科学教室の山口らによって行われ,点眼薬が涙液安定性に及ぼす影響などさまざまな取り組みがなされている.5.ヒアルロン酸点眼薬の涙液への影響TSASを用いたさまざまな試みがなされているなかで,筆者らの愛媛大学眼科学教室では点眼薬が涙液に与える影響についてすでに検討を行った.図7に示すのはドライアイ患者に0.1%ヒアルロン酸を点眼した後の涙液安定性を経時的にTSASで評価したものである.指標として用いているBUIは新たに導入されたインデックスで,100を最高とし数値が高いほど涙液安定性がよいことを示している.点眼前はBUIが35.1と涙液安定性が悪かったのに対して,ヒアルロン酸点眼1分後では若干悪くなり,5分後,30分後と涙液の安定性は改善し,120分後には最も安定した数値が得られている.ヒアルロン酸は涙液保持効果が高いということからドライアイの治療に使われるようになって久しいが,実際点眼してからどのような時間経過で涙液を保持し安定化させることができるのかをこのような形で評価することができるということは画期的である.今後新薬の開発やその他の薬剤の評価に用いることが可能であり,いっそう期待されるところである.おわりにドライアイ患者の病態を捉えるためには,患者自身の生活環境や眼表面の病態を把握するため,詳細な問診と注意深い眼の観察を行うことが必要である.『なんとかしてこの上皮欠損を治したい!!』という熱意のなか,悪循環サイクルからの離脱策がひとたび奏効すれば,これ以上の快感はないであろう.しかしながら,涙液層を客観的に評価する方法がなければ,説得力のない独りよがりの診察となってしまいかねない.検査は非侵襲的で客観的な手法であることが望ましい.今後も新たなよりよい涙液評価法の開発が待たれるところであるが,そのなかでTSASは非侵襲的な検査法であり,そのデータを共有できる客観性もある.今後厳密な検討がなされ,涙液評価法の一つとして利用され役に立つ存在になることを期待したい.文献1)島?潤ほか(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)MaedaN,KlyceSD,SmolekMK:Neuralnetworkclassi?-cationofcornealtopography.Preliminarydemonstration.?????????????????????????36:1327-1335,19953)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Anewmethodfortear?lmstabilityanalysisusingvideokeratography.????????????????135:607-612,20034)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Evaluationofthetear?lmstabilityafterlaserinsitukeratomileusisusingthetear?lmstabilityanalysissystem.???????????????137:116-120,2004