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Tear Stability Analysis System(TSAS)による涙液動態検査

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSI角膜形状解析装置ビデオケラトスコープ角膜形状解析装置には,オートレフラクトメーターをはじめさまざまな種類があるが,オートレフラクトメーターは角膜上の数点しか角膜曲率半径を計測できないのに対して,フォトケラトスコープは同心円状の多数のリングを角膜に投影することにより,大まかな角膜形状を把握できるようになったこと,角膜曲率半径計測ポイントも増えたことなど大きく改善された.その次世代として登場したビデオケラトスコープは同じく角膜に同心円状のリングを投影するのであるが,そこから得られたマイヤー像をもとに1本のリング当たり約250ポイント,28本のリングを投影すれば約5,000ポイントもの角膜曲率半径をはじきだすことができるようになった(図1).しかもそれをカラーコードマップに変換することにより初期の円錐角膜でも,画期的にしかも容易に検出できるようになった2).このビデオケラトスコープがわれわれにもたらした恩恵は多大なものがある.ただこのマイヤーリングを用いて測定するタイプの装置は,眼表面の涙液の影響を受けるという,唯一ともいえる欠点がある.測定時は必ず瞬きをして開瞼して間もないとき(涙液層が安定している間)に測定をしなければきれいなマイヤー像は得られず,角膜形状を正しく反映しない場合がある(図2).筆者らはこのビデオケラトスコープが円錐角膜をはじめとする角膜形状異常をスクリーニングすることに成功したことから,その他のあらゆる角膜疾患はじめに日常の診察において非常にポピュラーな疾患であるドライアイは,Sj?gren症候群のような重症型からOA作業などに伴う軽症型まで疾患内のスペクトル幅はとても広く,またその病態にいたっては,基本的に涙腺の機能異常を主とする涙液分泌低下型と涙液層の安定性の異常を主とする蒸発型とに分類されてはいるものの,眼表面という観点からいうと,さまざまな要因がからみあっていることが多く,個々の病態に応じた治療戦略が必要とされる.ドライアイの診断基準が1995年にドライアイ診断基準委員会によって発表されてからも診断にあたって確実な基準となる検査法が見出されないまま,昨今ではその見直しがすでに検討され,ついに新たな診断基準が発表された1).患者の自覚症状を盛り込んだことで,最近ドライアイ患者数が増えている要因ともいうべき涙液層破壊時間(BUT)短縮型のドライアイをその診断基準のなかで取りこぼすことがないよう,非常にうまく改善された.しかしながら涙液を含む眼表面の恒常性を非侵襲的にできるだけ簡単なパラメーターで評価することは今後も大きな課題である.今回の小論では,そういった問題点から筆者らが開発することに至った角膜形状解析装置を利用した,涙液安定性評価装置(TearStabilityAnalysisSystem:TSAS)について,説明と考察を加える.(17)???*TomokoGoto:鷹の子病院眼科〔別刷請求先〕五藤智子:〒790-0925松山市鷹子町525-1鷹の子病院眼科特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):415~421,2007TearStabilityAnalysisSystem(TSAS)による涙液動態検査??????????????????????????????(????)五藤智子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007をスクリーニングできることを目標とした.もともと涙液に影響を受けやすいという欠点を逆手にとり,涙液を非侵襲的に評価することに成功したのである.II涙液安定性評価装置(TearStabilityAnalysisSystem:TSAS)3)1.測定原理図2aは開瞼直後に撮影した正常角膜であるが,同じ眼を10秒間開瞼させた状態で撮影すると図2bのように異常なフラット像が現れる.角膜表面の涙液層が変化することによってその部位のマイヤーリングに変化をきたし,結果的にカラーコードマップに変化をきたすのである.このように角膜形状解析装置のビデオケラトスコープは涙液の影響を受けやすい.その欠点を利用して開瞼時から連続撮影できるよう改良を行った.図3a,bにTSASで得られた代表的な検査結果を示す.図3aは,正常眼の検査結果で,左上が開瞼直後0秒時のもの,以後,1秒,2秒と最長10秒まで,開瞼したままの状態で1秒ごとに連続撮影している.最後の右下のカラーマップはbreakupmapとよばれるもので,開瞼後の何秒の時点で角膜屈折値に0.5ジオプトリー(D)以上の変化が現れたかを示している.これによれば,涙液層の安定性を時間軸と面積軸からよりビジュアルに把握することができる.この症例では,開瞼直後からカラーマップにほとんど変化が認められず,涙液層がきわめて安定し(18)図1ビデオケラトスコープ同心円状のリング光を角膜に投影し,得られたマイヤー像を解析することでカラーコードマップに変換する.図2TSASの原理a:開瞼直後の角膜形状.b:aと同じ眼を開瞼して10秒後に撮影したもの.涙液破壊のため異常なフラット像がみられる.ab———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???た状態にあると考えられる.つぎに図3bは,Schirmer値は正常範囲であるがドライアイ様の症状を訴える症例である.ご覧のように,開瞼直後よりカラーマップが変化し,涙液層の安定性が悪いことがうかがわれる.2.TSASの有用性の検討はたしてこの検査がドライアイの検出に有用であるかどうかを,0.5D以上の角膜屈折値変化が現れるまでの時間(秒)であるTMS-BUTと,5秒以内に変化の認められた領域を面積比で表したTMS-BUAという,2つのパラメーターを用いて検討してみた(図4a,b).これらのパラメーターを従来からのBUT(SLE-BUTと記載)と比較したところ,TMS-BUTとは正の相関が,(19)表1SLE-BUTとTSASの比較検討SLE-BUTTotaleyesTMS-BUTTMS-BUA>5sec≦5sec<0.2≧0.2Norml(>5seconds)3423112212Short(≦5seconds)4603430640SLE-BUT:tearbreakuptimeevaluationusingslit-lampmicroscope.TMS-BUA:ratioofareahavingtearbreakuptime≦5secondstothewholecolor-codearea;TMS-BUT:TMStearbreakuptime.SLE-BUT正常群のなかにTSASにて異常を示した例がみられ,その89%になんらかのドライアイ症状が認められた.(文献3より)図3aTSASによって撮影された1回1眼に対する検査データ0秒から10秒までほとんど角膜屈折値に変化がみられず,涙液が非常に安定していることを表している.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007TMS-BUAとは負の相関が得られた(図5a,b).また,表1に示すように,あらかじめBUT短縮群と正常群に分けてそれぞれTSASの検査結果を検討したところ,正常群と判定されたなかにTSASでは異常を示す症例が認められ,さらにその89%が何らかのドライアイ症状を有していたことがわかった.これまでの検査では捉(20)図3b涙液の安定性が悪い症例開瞼直後より角膜屈折値にさまざまな変化がみられ,非常に涙液の安定が悪い.図4bTMS-BUAの算出方法TMS-BUA=0.89●TMS-BUT:thetimingofoccurrenceoftearbreakup(changeofcornealpower>0.5D)Areawithtearbreakuptime≦5sec●TMS-BUA=──────────────────Wholecolor-codearea図4aTSASから導いたパラメーターTMS-BUTとTMS-BUAの2つのパラメーターを用いてTSASの有用性について検討した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(21)えられなかった潜在的なドライアイ患者ポピュレーションを検出している可能性もある.3.TSASによるLASIK術前後評価4)LASIK(laser????????keratomileusis)は短時間で安定した矯正を得られることなどから,今や屈折矯正手術の大半を占めている.その合併症の一つである術後ドライアイは,ほとんどの症例が数カ月で改善が得られるということにはなっているが,なかには術後点状表層角膜症(super?cialpunctatekeratopathy:SPK)が遷延化し涙点プラグの挿入を余儀なくされる症例もみられる.その機序は明確にはされていないものの,角膜知覚が術後3カ月までは有意に低下している事実からも,マイクロケラトームによる角膜神経の切断が関与していることは明らかである.しかし3カ月以降は回復する傾向がみられるという事実があるにもかかわらず,ドライアイが重症化する症例が見受けられるのはなぜであろう?そもそもドライアイというのは涙液側とそれを保持する上皮側,上皮に均一な涙液層をつくる眼瞼,など多くの要因がその病態をつくり出す恐れのある眼表面疾患なのである.もともと悪条件を有する潜在的ドライアイに,涙液のre?exloopの求心路を担っている角膜知覚神経切断という大きなストレスが加わった場合,不可逆性のドライアイ状態となりうるのではないだろうか.筆者らは,TSASを用いてLASIK術前後の評価をし,術前においてTSASが異常であった場合にドライアイ合併症が多いという結果を得られた.その結果と術前ケアとして今後考えられることについて検討したことを,以下に述べる.4.LASIK術前後のTSASLASIKの手術前後でTSASにて撮影し,比較してみると(図6a),術後に涙液層の安定性が悪化していることがよくわかる.術後3カ月までは有意な低下がみられ6カ月で回復傾向がみられる.しかし症例のなかには術前のSchirmer試験,SLE-BUTは正常であったにもかかわらず,LASIK術後,SPKが長期間にわたって遷延し,最終的に涙点プラグを挿入せざるをえなくなったケースがみられ,その症例の術前TSASでは,わずかながらも開瞼直後よりカラーマップに乱れがあり,涙液層の安定性が悪いことが示されていた.術後のドライアイ合併症としてSPKが散見される.ほとんどの症例は回復し,自覚症状も改善がみられる.しかしながら,この症例のように術後ドライアイが重症化し角結膜上皮障害が遷延化するケースにおいては術前より何らかの潜在性ドライアイ要因があったのではないかと思われる.そこで筆者らは術前TSASのデータが正常であった群と異常であった群に分けてSPKの出現率をみてみることにした(図6b).その結果,グラフに示すように明らかに術前TSASが異常を示した群においては有意に術後経過中SPKの出現率が高かった.しかもその症例のなかには6カ月を経てもSPKが遷延化し,重症化するケー図5aTMS-BUTとSLE-BUTの関係正の相関関係がみられる.(文献3より一部改変)1412108642002468101214SLE-BUT(秒)TMS-BUT(秒)r=0.7219p<0.0001図5bTMS-BUAとSLE-BUTの関係負の相関関係がみられる.(文献3より一部改変)102468101214SLE-BUT(秒)TMS-BUAr=0.6317p<0.00010———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(22)スが含まれた.このことよりTSASは術前検査において潜在性のドライアイ要因を鋭敏に検出しているのではないかと推察された.TSAS異常群においては,涙液量だけでなく涙液安定性に異常を及ぼすような要因を総合的に問診,観察をして突きとめておかなければならない.要因として考えられるものには,コンタクトレンズによる影響,アレルギー性結膜炎,その他の結膜炎,軽微なドライアイ,マイボーム腺機能異常などである.そのケアとしてはコンタクトレンズ離脱時間の考慮をはじめとしてそれぞれに対する点眼治療などであり,TSASが改善された状態において施術をすれば,術後ドライアイの重症化は防げる可能性も十分あるのであろう.図7ドライアイ患者(67歳,女性)への0.1%ヒアルロン酸点眼後のTSASによる涙液安定性の評価点眼前BUI:35.130.756.61分後30分後BUI:57.366.3120分後5分後Schirmer:5mmBUT:2秒A2D2図6aLASIK前後のTSAS術後1週より涙液の安定性は低下し,術後3カ月まで有意な低下がみられる.(文献4より一部改変)02468106カ月3カ月1カ月1週術前TMS-BUT(秒)****p<0.05経過期間図6b術前TSASとSPK出現率術前TSASが異常であった群において有意にSPK出現率が高い.(文献4より一部改変)1009080706050403020100SPK出現率(%)****6カ月3カ月1カ月経過期間1週術前:異常TSAS値:正常TSAS値*p<0.05———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(23)現在TSASは改良が進められ,その評価法も新たなインデックスBUI(breakupindex)の導入が愛媛大学眼科学教室の山口らによって行われ,点眼薬が涙液安定性に及ぼす影響などさまざまな取り組みがなされている.5.ヒアルロン酸点眼薬の涙液への影響TSASを用いたさまざまな試みがなされているなかで,筆者らの愛媛大学眼科学教室では点眼薬が涙液に与える影響についてすでに検討を行った.図7に示すのはドライアイ患者に0.1%ヒアルロン酸を点眼した後の涙液安定性を経時的にTSASで評価したものである.指標として用いているBUIは新たに導入されたインデックスで,100を最高とし数値が高いほど涙液安定性がよいことを示している.点眼前はBUIが35.1と涙液安定性が悪かったのに対して,ヒアルロン酸点眼1分後では若干悪くなり,5分後,30分後と涙液の安定性は改善し,120分後には最も安定した数値が得られている.ヒアルロン酸は涙液保持効果が高いということからドライアイの治療に使われるようになって久しいが,実際点眼してからどのような時間経過で涙液を保持し安定化させることができるのかをこのような形で評価することができるということは画期的である.今後新薬の開発やその他の薬剤の評価に用いることが可能であり,いっそう期待されるところである.おわりにドライアイ患者の病態を捉えるためには,患者自身の生活環境や眼表面の病態を把握するため,詳細な問診と注意深い眼の観察を行うことが必要である.『なんとかしてこの上皮欠損を治したい!!』という熱意のなか,悪循環サイクルからの離脱策がひとたび奏効すれば,これ以上の快感はないであろう.しかしながら,涙液層を客観的に評価する方法がなければ,説得力のない独りよがりの診察となってしまいかねない.検査は非侵襲的で客観的な手法であることが望ましい.今後も新たなよりよい涙液評価法の開発が待たれるところであるが,そのなかでTSASは非侵襲的な検査法であり,そのデータを共有できる客観性もある.今後厳密な検討がなされ,涙液評価法の一つとして利用され役に立つ存在になることを期待したい.文献1)島?潤ほか(ドライアイ研究会):2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20072)MaedaN,KlyceSD,SmolekMK:Neuralnetworkclassi?-cationofcornealtopography.Preliminarydemonstration.?????????????????????????36:1327-1335,19953)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Anewmethodfortear?lmstabilityanalysisusingvideokeratography.????????????????135:607-612,20034)GotoT,ZhengX,KlyceSDetal:Evaluationofthetear?lmstabilityafterlaserinsitukeratomileusisusingthetear?lmstabilityanalysissystem.???????????????137:116-120,2004

実用視力の臨床応用:ドライアイから白内障まで

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS測定の概念である.実用視力測定においては,実用視力(functionalvisu-alacuity:FVA),測定時間内の変動する視力の積分値が,測定スタート時の視力が仮にずっと維持できた場合のそれに対する割合である視力維持率(visualmainte-nanceratio:VMR)をおもな視標として検出する2).詳細は前項『新しい視力計:実用視力の原理と測定方法』を参照されたい.IIドライアイドライアイにおいて実用視力が低下すること3,4),また治療によりドライアイ症状が改善すると実用視力も改善すること4,5)が報告されている.ドライアイでは,眼光学系の最前層である涙液層に異常をきたし,涙液層の安定性が低下する6).そして,涙液層に乱れが生じた状態では,視機能が低下していることが予想される.図1は,ドライアイ症例の実用視力測定結果の一例である.スタート時の視力(通常の矯正視力)が右眼1.0,左眼1.2であるのに対し,FVAは右眼0.769,左眼0.517である.この症例は,Sj?gren症候群に伴う比較的重症のドライアイで,Schirmer試験における低値,角膜染色,眼乾燥感など典型的なドライアイの自覚・他覚症状を認めたが,それ以外に“かすみ目”の訴えもあった.この症例に対し,治療として上下涙点への涙点プラグ挿入術が行われた.そして図2はその1週間後の実用視はじめに矯正視力が正常であるにもかかわらず,患者から“かすみ目”や“見づらさ”の訴えを聞くことはしばしば体験する.そしてわれわれは,その自覚的な視機能の低下を他覚的にとらえることができないと,診断や治療に苦慮せざるをえない.診断ができない責任を「視力はいいのだから気のせいだ」「患者が神経質だから」と患者に転嫁し,お互いの信頼関係を損ねることにもなりかねない.それに対し,グレア視力測定,コントラスト視力測定といった測定条件を工夫した視力検査,近年では波面収差や点像強度分布解析の手法を使った視機能検査1)など,通常の視力検査では検出できない視機能の低下を客観的に検出するさまざまな試みがなされている.I実用視力測定通常の矯正視力検査では,被検者がものを見る能力の最高値を検出する.“風”にたとえるなら“最大瞬間風速”だといえる.しかし,視力1.2の人が日常生活において常に1.2の視力でものを見ているわけではない.眼表面から大脳視覚野までの形態的,機能的変化に伴って視機能も常に変化しているはずである.常に変化し続ける風速の一定期間の平均を平均風速とするならば,視力にも平均視力の概念が持ち込めるのではないか,そして日常生活においてわれわれが実際に感じている“見え方”を評価する手法の一つになりうるのではないか,これが,経時的に連続して視力を測定し解析する実用視力(11)???*ReikoIshida:いしだ眼科〔別刷請求先〕石田玲子:〒421-0301静岡県榛原郡吉田町住吉427-1いしだ眼科特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):409~413,2007実用視力の臨床応用:ドライアイから白内障まで????????????????????????????????????????????????????????????????????─?????????????????????????????????石田玲子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007力測定の結果である.まず,視力の変動が治療前に比べて小さく,安定しているのがわかる.60秒間の視力の変動幅が小さくなり,FVAは右眼1.155,左眼0.944に改善している.患者自身も「ものの見え方が改善した」と喜んでいた.もう一つ注目すべきは瞬目回数である.治療前の測定では,60秒間に20回以上であった瞬目が治療後は10回未満に減少している.ドライアイでは瞬目回数が増加することが報告されている7)が,実用視力と瞬目との相関についても,今後検討される必要があると思われる.III白内障白内障の手術適応の決定には,まず矯正視力が検討される.患者がいくら見づらさを訴えていても,視力が1.0あれば適応外とされることが多いと思われる.コントラスト視力などの視機能検査が行われることもあるが,実際患者がどのくらい見づらいのかを検出することはむずかしい.図3は,矯正視力が1.0であるにもかかわらず霧視を訴える患者のFVA測定結果である.FVA0.601,VMR0.92で,視力が安定せず変動が大きいことがわかる.眼底と眼表面には異常がなく,FVA低下は白内障によると考えられ白内障手術が施行された.図4は手術後のFVA結果である.矯正視力は1.2と1段階の改善であるが,FVAは0.993,VMRも1.00に改善した.自覚的には,霧視が解消されて見やすくなったと満足が得られた.IV後発白内障後発白内障は,白内障術後に一定期間をおいて発生する霧視,矯正視力の低下がおもな症状であり,通常は比較的容易に診断に至る.治療として,一般的にYAGレーザーによる後?切開が施行される.図5は,両眼とも眼内レンズ挿入眼で,右眼の強い霧(12)FVA=0.517VMR=0.91FVA=0.769VMR=0.96左眼右眼図1ドライアイの実用視力左右とも視力が不安定である.左眼FVA=0.944VMR=0.96右眼FVA=1.155VMR=0.96図2図1と同じ症例の涙点プラグ挿入後の実用視力治療前に比べ視力が安定している.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???V眼瞼けいれん眼瞼けいれんは,眼輪筋の不随意な収縮が発生し,末期には開瞼困難で日常生活に多大な支障をきたす疾患である.図10のように特徴的な顔貌を示すことと,パチパチと素早く瞬目することができないのを注意して観察できれば,初期でも診断は可能である.しかし,初期に視を訴える症例の実用視力測定結果である.右眼に軽度の後?混濁を認めたが,両眼とも矯正視力は1.2で眼底は正常であるため,当初は霧視の原因が何かが議論された.YAGレーザーによる後?切開は,組織侵襲が比較的少ない治療ではあるが,無用な治療は行うべきではない.しかし,実用視力は右眼において著明に低下を示し,FVAは0.547,VMRは0.90であった.患者の訴えを他覚評価できたため,YAGレーザーによる後?切開を施行した.ところが,術後に自覚的な霧視,実用視力ともに改善は認められなかった(図6).後?切開は,瞳孔領中心に約3mm径であった(図7)が,瞳孔内に混濁した後?が残存していた(図8).そこで,レーザー照射を追加して切開部を明時瞳孔径よりも大きく拡大したところ,強く訴えていた霧視は解消された.矯正視力は術前と変わらず1.2であったが,図9のように実用視力は著明に改善し,FVAは0.817,VMRは0.99であった.(13)図4図3と同症例の白内障手術後の実用視力FVAは0.993に改善し,視力が安定している.白内障術後FVA=0.993VMR=1.00白内障術前FVA=0.601VMR=0.92図3白内障の実用視力通常の矯正視力は1.0であるが,FVAは0.601と低下している.右眼FVA=0.547VMR=0.90左眼FVA=1.22VMR=0.97図5後発白内障の実用視力後?混濁をほとんど認めない左眼と比べ,右眼は視力が不安定である.矯正視力はともに1.2と変わらない.FVA=0.563VMR=0.88図6後?切開術後(右眼)の実用視力1回目のYAGレーザーによる後?切開後.実用視力は改善していない.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007はその多くがドライアイと診断されているといわれている8)ように,なかなか診断に至らず,結果として治療が遅れてしまうケースもある.図11は,眼瞼けいれん患者のFVA測定の一例である.途中から測定の続行ができなくなっているのがわかる.検査員からは「検査方法が理解できないため測定不可能」という報告であった.この疾患の初期から中期では,眼輪筋が常時収縮しているわけではなく,「何かを見ようとすると目が閉じてしまう」ことが多い.この症例においても,視標を凝視しようとすることで眼輪筋の収縮が誘発されたものと考えられる.ドライアイを含めた他の疾患では測定不可能になることはなく,眼瞼けいれんに特異的な変化として診断の一助になるのではないかと期待される.この症例に対し,治療としてボツリヌストキシンの眼周囲局注が施行された.図12は,その1週間後の(14)図7後?切開術後(右眼)図6の症例の写真.後?の切開部が小さい.図8後?再切開術後(右眼)1回目より切開部を広げてある.図9後?再切開術後(右眼)の実用視力矯正視力は1.2のままであるが,FVAは0.817に改善している.FVA=0.817VMR=0.99図10軽度眼瞼けいれん患者の顔貌眉間に深い縦じわがよるのが特徴である.図11眼瞼けいれん症例の実用視力(ボツリヌストキシン使用前)60秒間視標を見続けていることができないことがわかる.FVA測定不可———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(15)FVA測定結果である.不安定ではあるが,治療前と違い60秒間視標を見続けることが可能になっていることがわかる.おわりに臨床の現場における実用視力測定の例をいくつかあげた.ドライアイの視機能低下を検出するために開発された手法であるが,被検者の自覚的な見え方を直接的に解析するため,さまざまな症例において,他の視機能検査では検出できなかった“見づらさ”の拾い出しができる可能性がある.疾患の診断や治療効果の検討,そして患者への説明や指導のために,実用視力測定が効果的に活用されていくことが望まれる.文献1)NegishiK,KobayashiK,OhnumaKetal:Evaluationofopticalfunctionusinganewpointspreadfunctionanalysissystemincataractousandpseudophakiceyes.?????????????????50:12-19,20062)KaidoM,DogruM,YamadaMetal:FunctionalvisualacuityinStevens-Johnsonsyndrome.???????????????142:917-922,20063)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.???????????????133:181-186,20024)IshidaR,KojimaT,DgruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndromes.???????????????139:253-258,20055)GotoE,YagiY,KaidoMetal:Improvedfunctionalvisualacuityafterpunctalocclusionindryeyepatients.???????????????135:704-705,20036)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,20047)TsubotaK,HataS,OkusawaYetal:Quantitativevideo-graphicanalysisofblinkinginnormalsubjectsandpatientswithdryeye.???????????????114:715-720,19968)MartinoD,DefazioG,AlessioGetal:Relationshipbetweeneyesymptomsandblepharospasm:amulti-centercase-controlstudy.??????????20:1564-1570,2005図12図11の症例のボツリヌストキシンによる治療後60秒間視標を見続けることができるようになり,測定が可能になった.FVA=0.473VMR=0.87

新しい視力計:実用視力の原理と測定方法

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS日常生活ではヒトは常に眼を使い,連続的にものを見ている.経時的な視力変化を測定することにより,日常生活での視機能を評価するのが実用視力なのである.実用視力は従来の視力検査では検出できない,「視力検査では1.0であるが,なんとなく見えにくい」といった視機能を評価するのに有用であると考えられる.I原理実用視力はGotoらにより最初にその概念が紹介された4).ヒトが集中してものを見るとき,瞬きが抑制される1,2).このような状態での視機能を評価しようとしたのが実用視力である.Gotoらは瞬目を意図的に抑制して開瞼させた状態を「集中してものを見る」,すなわち「凝視」の状態と仮定し,瞬目を抑制した状態で視力を測定することで視機能を評価した.眼表面点眼麻酔により瞬目を抑制させ,開瞼後10秒の時点での視力を実用視力として測定した.眼表面麻酔は涙液の反射性分泌を抑制し,また開瞼による眼の痛みや不快感を最小限にすることにより10秒以上の開瞼を可能にするためである.しかし,開瞼後10秒時点での正確な視力測定は検査員の熟練を要し,一般的な測定方法として適していない.そこで開発されたのが実用視力計である.II実用視力測定方法視力変化を連続的に測定する新しい視力検査機器として実用視力計がIshidaらにより紹介された5).Gotoらはじめに実用視力(functionalvisualacuity)は連続して視力を測定することにより視機能を評価するものであり,通常の視力検査では検出できないような「見え方の質」を評価するのに有用であると考えられる.通常の視力検査では自由な瞬目下の,ある一時点での視力を測定しており,一瞬でも見えればそれが視力として評価される.しかしこの視力が日常生活での視力にどの程度反映しているかは議論されるところである.実際,ドライアイの診療において視力検査では良好な視力が得られているにもかかわらず,「かすみ目」の訴えをしばしば経験する.読書,パソコン,車の運転などの凝視作業時にかすみ目を感じることがあり,このことは目を継続して使用することにより視力が低下する可能性を示唆している.そして,この視力の変動は開瞼中の眼表面の涙液層の状態変化に関係しているのではないかという仮説に基づき,実用視力という概念が提案された.凝視により瞬目は抑制され眼表面は乾き,涙液層は不安定になる.開瞼下では涙液層の乱れが生じることにより視力は低下すると考えられ,特にドライアイ患者で視力は著しく低下すると報告されている1,2).実際にドライアイ患者は正常者に比べて涙液の安定性が悪いという報告3)があり,Gotoらはドライアイ患者を対象に開瞼10秒後の視力を測定し,従来の視力検査で得られた視力値より低下していること,ドライアイ患者では正常者に比べ有意に低下していることを示している4).(3)???*MinakoKaido:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕海道美奈子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室特集●前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)あたらしい眼科24(4):401~408,2007新しい視力計:実用視力の原理と測定方法???????????????????????????????????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????????????海道美奈子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007は強制開瞼10秒後の一時点での視力を実用視力と定義したのに対して,実用視力計を用いることにより設定した時間内の経時的な視力変化の測定が可能になった.Ishidaらはこの実用視力計を用いて強制開瞼下で30秒間の視力変化を測定し,10秒あるいは20秒,30秒の時点の視力を実用視力とし,通常の視力検査で得られた視力値と比較している.実際には実用視力を開検10秒時点の視力に限定する必要はないが,通常の視力検査での視力値と開瞼10秒時点の視力の関係に有意差が認められており4,5),10秒時点の視力を実用視力として用いるのは妥当であると考えられる.しかし,眼表面点眼麻酔により強制的に開瞼した状態での視力は本当に集中してものを見る「凝視」という状態を反映しているのだろうか.日常生活でのヒトが感じている視力を検出するためには,もっと自然な状態での測定方法が検討されるべきである.そこで,自然状態に近いように,点眼麻酔をせずに自然瞬目下で連続的に視力を測定する方法が推奨されている.連続的に視標マークを見るという行為そのものが「凝視」であり,この状態で測定した視力がむしろ日常の見え方であると考えられる.III実用視力計実用視力計はハードディスク,モニター,ジョイスティックの3つの構造より構成されており,患者はモニターに表示されたLandolt環に応じてジョイスティックを動かし,回答する仕組みになっている(図1).視力は瞬目により正常な涙液層が生じた直後が最も良好で,その後徐々に低下するという仮説に基づいて実用視力計が開発されたため,初期型実用視力計ではモニターに表示される視標は経時的に視力が低下していくようにプログラムされていた.すなわち,視標マークは回答が不正解または無回答ごとに視力が一段階低下し,正解の場合は同サイズの視標マークが表示される.しかし,実際に測定してみるとジョイスティックの精度や患者の誤操作により回答が不正解と判定される場合があり,このため実際より低い実用視力値が結果として表示されることがわかった.バージョンアップされた最新型実用視力計では回答が不正解または無回答の場合には視標マークが大きくなるが,正解の場合には視標マークの大きさは変わらないという従来の測定モードに加えて,回答の正誤に伴い視標マークが大きくなったり小さくなったりする測定モードが追加搭載された(図2).視力測定範囲は検査距離を1m,2.5m,5mのいずれかを選択することにより,0.01から2.0の視力測定が可能である.実際の検査では,本機種を用いて手動検眼により最高矯正視力を測定し,この視力値をスタート視力として完全矯正下で実用視力の測定を開始する.モニ(4)図2視力表示の仕組みモニターに表示される視標マークに対して,1回目の回答が正解の場合は同サイズの視標マークが表示されるが,2回目の回答でさらに正解の場合には一段階小さい視標マークが表示される(矢印).不正解の回答に対しては随時,大きな視標が表示される.解正1目回答回無・解正不答回無・解正不正解2回目解正1目回解正1目回答回無・解正不正解2回目答回無・解正不解正1目回答回無・解正不解正1目回答回無・解正不答回無・解正不図1最新型実用視力計———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???ターに矯正最高視力のLandolt環の視標マークが表示され,この表示に対しジョイスティックで回答する.視標マークが表示される時間(視標表示時間)は1~5秒が選択できる.経験的に視標表示時間は2秒に設定しているが,その根拠は特にない.視標表示時間内でジョイスティックを動かした場合には,その時間が応答時間として表示され,つぎの視標マークが回答の正誤に従い表示される.設定時間内に回答できない場合には不正解とみなされて,視標表示時間後に自動的に一段階大きい視標マークが表示される.検査結果は表とグラフにより表示される(図3).表では,経時的変化に伴い被検者が回答したすべての視力値が,正解の場合は○マーク,不正解の場合は×マーク,無回答の場合は空欄になるように表示される.また,回答に要した時間も反応時間として表示される.グラフ表示では,回答が正解であった視力値のみをプロットし,(5)図3実際の実用視力結果(表とグラフ)表による結果表示では,経時的変化に伴い回答が得られたすべての視力値が表示される.回答と同時に瞬目した場合はレ点,つぎの回答との間で瞬目が生じた場合は^1,2(数字は瞬目回数)で表示される.回答の正誤は○マーク,×マークで,無回答の場合は空欄で表示される.グラフ表示では,回答が正解であった視力値のみをプロットすることにより,視力の変動を表示する(赤線).青線はスタート視力,緑線は実用視力,矢印(↓)は瞬目時点を示す.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007線でつなげることにより視力の変動が判読しやすい.さらに,検者が被検者の瞬目をチェックし,瞬目時にキーボードのキーを押すことにより瞬目時点をグラフに↓マークで表示することが可能になった.IV実用視力評価項目従来の実用視力評価方法は経時的に測定した視力の10秒時点,あるいは20秒,30秒時点の視力を実用視力として評価していた4,5).しかし,通常の視力検査で得られる視力がある一時点での視力であるのと同様に,この評価法も「開瞼後のある一時点での視力」である.これに対し,最新型実用視力計では連続的に測定して正解が得られたすべての視力の平均視力を実用視力として算出されるようになった.さらに,視力維持率(visualmaintenanceratio:VMR)が重要な評価項目として追加された(図4).この視力維持率とはスタート視力に対する実用視力の比である.視力維持率は,VMR=(2.7-FVA)/(2.7-スタート視力)の式で算出する.2.7は最小視力の対数視力であり,手動弁を小数視力0.002とした対数視力値である.視力維持率は通常の視力値に対して連続的な見え方がどの程度維持できるかというもので,視力の違う群同士の比較研究においても客観的な評価ができるようになったことでその意義は大きい6).そのほか,実用視力の標準偏差(対数表示),測定時間内の最高視力と最低視力,平均応答時間,瞬目時点の瞬目回数が表示される.平均応答時間とは回答が正解のときの応答時間を平均した値である.最高視力,最低視力の表示により測定時間内の変動の大きさ,すなわち連続的にものを見る場合の視力の安定性が評価できる.また,瞬目時点の表示が可能になり,測定時間内の合計瞬目回数も算出される.これにより,瞬目と視力変動の関係についても今後の検討が期待される.V実用視力測定の適応ドライアイ患者では眼表面の涙液層が不安定であることが示されており,また実用視力についても正常者に比べ低下していることが明らかにされている4,5,7,8)(図5,(6)=RMVの面積/で囲まれた面積図4視力維持率赤線は視力の変動であり,視力維持率は赤網部分の面積を青点線で囲まれた面積で割った値である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(7)0.1AVtratS49.0AVF99.0RMV図5正常眼の実用視力典型例スタート視力は1.0,経時的視力変化はほぼ横ばいで,実用視力は0.94,視力維持率は0.99である.5.1AVtratS26.0AVF77.0RMV図6ドライアイ眼の実用視力典型例スタート視力は1.5であるが,経時的視力変化の測定直後より視力は低下している.実用視力は0.62,視力維持率も0.77と低値を示している.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.4,20076).そもそも実用視力はドライアイ眼の視機能を評価するために考案されたが,実際に通常の視力検査では検出しがたい視機能を評価するのに有用であると考えられる.さらに,ドライアイ眼に対する涙点プラグ治療の評価にも実用視力は有用であることが示されている5).涙点プラグ挿入により眼表面の涙液層が改善することがTearStabilityAnalysisSystem(TSAS)を用いて示されており,この涙液層の安定性の増加が実用視力の改善に影響している可能性が示唆される3)(図7a,b).また,LASIK(laser????????keratomileusis)後の視力の評価においても実用視力は有用である.LASIK後の視力は通常非常に良好であるにもかかわらず,「何となくかすむ」という訴えがある.TanakaらはLASIKを受けたドライアイ患者とドライアイ疑わしい患者の2群(8)図7aBUT(tear?lmbreakuptime)短縮型ドライアイの涙点プラグ挿入前の実用視力とTSAS視力は測定直後より低下し,ある時点でほぼ横ばいに維持されている.BUI(breakupindex)は37.4%であった.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007???(9)について術後1日,1週間後の実用視力を比較している9).両群とも術後の視力は良好であるにもかかわらず,ドライアイ確定患者では術後1日の実用視力は低下しており,「何となくかすむ」という自覚症状を裏付ける結果を示している.さらに,Stevens-Johnson症候群患者の視機能評価においても実用視力検査は有用である.KaidoらはSte-vens-Johnson症候群とSj?gren症候群,正常者の実用視力を比較している6).これまで涙液機能の低下に伴い実用視力は低下するとされていたが,本報告で対象となった症例において,Stevens-Johnson症候群はSj?gren症候群に比べ良好な涙液機能であるにもかかわらず,実用視力は悪化していた.このことは単に実用視力は涙液機能のみに影響されているのではなく,その他の要因が実用視力に影響していることが示唆された.そして臨床所見と実用視力との関係において,角膜混濁と角膜への血管侵入という2つの臨床所見が実用視力に有意に関係があることが明らかにされた.このことは,実用視力が涙液機能との関係だけでなく,他の要因にも影響される可能性を示し,他の疾患の視機能を評価するのにも有効図7bBUT(tear?lmbreakuptime)短縮型ドライアイの涙点プラグ挿入後の実用視力とTSAS視力は経時的にほぼ維持されており,BUI(breakupindex)も95.8%と改善している.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.4,2007(10)であることを示唆している.VI今後の展望実用視力計により従来の視力検査では検出できない視機能の低下を評価できるようになったことは画期的である.最新型実用視力計では実用視力値に加え視力維持率の算出を可能にしたことにより視力の違う群との比較も可能にした.元来,ドライアイの視機能評価のために実用視力という概念が考案され,正常眼に比べドライアイ眼では実用視力が低下していることが明らかにされた4,5).しかしSj?gren症候群ほど涙液機能が低下していないStevens-Johnson症候群で実用視力がより低下していることが示されたことより,涙液機能に関連した疾患の視機能評価だけでなく,今後はもっと広い範囲での実用視力の応用が期待される.単に実用視力値や視力維持率に焦点を置くのではなく,瞬目回数と視力の関係や,視力の変動など実用視力の応用範囲は拡大されることが期待される.文献1)TsubotaK,NakamoriK:Dryeyesandvideodisplayter-minals.????????????328:584,19932)NakamoriK,OdawaraM,NakajimaTetal:Blinkingiscontrolledprimarilybyocularsurfaceconditions.???????????????124:24-30,19973)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,20044)GotoE,YagiY,MatsumotoYetal:Impairedfunctionalvisualacuityofdryeyepatients.???????????????133:181-186,20025)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndromes.???????????????139:253-258,20056)KaidoM,DogruM,YamadaMetal:FunctionalvisualacuityinStevens-Johnsonsyndrome.???????????????142:917-922,20067)LizZ,P?ugfelderSC:Cornealsurfaceregularityandthee?ectofarti?cialtearsinaqueoustearde?ciency.??????????????106:939-943,19998)RiegerG:Theimportanceoftheprecornealtear?lmforthequalityofopticalimaging.???????????????76:157-158,19929)TanakaM,TakanoY,DogruMetal:E?ectofpreoper-arivetearfunctiononearlyfunctionalvisualacuityafterlaserinsitukeratomileusis.???????????????????????30:2311-2315,2005

序説:前眼部四次元検査(前眼部キネティック アナリシス)

2007年4月30日 月曜日

———————————————————————-Page1(1)???0910-1810/07/\100/頁/JCLS眼科検査は日々進歩を続けているが,診断効率をさらに上げるために,より多面的な角度から情報を得ることが重要である.その好例として,OCT(光干渉断層計)による網膜の三次元表示があげられるが,この三次元を超えるファクターとして「時間」がある.従来,眼科検査ではある瞬間の画像や検査結果をデータとしてきたが,新たに時間の要素を取り込み,よりダイナミックに解析しようとする動きが,オキュラーサーフェスを中心に広がりつつある.たとえば,視力測定を考えてみると,従来まではある一瞬だけの最高視力をその個人の視力と規定してきた.しかしながら,ドライアイにおいては開瞼中に涙液層が破綻し,光学面が不整となる結果として,開瞼中に視力が低下することがわかってきた.もちろん,車の運転やVDT(visualdisplayterminal)作業中でも瞬目数が減少して開瞼時間が長くなることにより視力は低下する.そこで最近,一定時間における眼表面,特に涙液層の安定性を評価するいくつかの方法が考案されている.ここでは,どのくらいの時間,同一の視力が保持できるかという実用視力の考え方を,海道美奈子先生,石田玲子先生(いしだ眼科,慶應義塾大学医学部・眼科)に,連続したトポグラフィー検査によって涙液の安定性を評価するTSAS(TearStabilityAnalysisSystem)のコンセプトを五藤智子先生(鷹の子病院・眼科)に解説していただく.また,涙液の動態については,古くから京都府立医科大学・眼科の横井則彦先生がDR-1?を用いて研究されてこられたが,最近,この画像を動画として解析する方法が確立しつつある.これこそ,まさにキネティックアナリシス,時間軸を用いた手法であるが,この先駆的な領域を開発しつつある保坂絵里先生・後藤英樹先生(鶴見大学歯学部・眼科)に基本原理の解説を行っていただく.一方で,横井則彦先生も,その動画情報を用いて涙液のレロロジー解析という画期的な手法を開発された.2006年2月の角膜カンファレンスで,この発表を最初に聞いた時の感動は忘れられない.静止画像でなく,動画画像の変化率を求めることによって涙液の性状をたった一つのパラメーターで表現するという,これからの検査機器の方向性をも示唆する素晴らしい考え方だったからだ.これについて横井先生・山田英明先生にわかりやすく解説をしていただく.そして,最後は古くも新しい課題である温度測定である.現代医学がこれだけ進歩してもまず病院で測定するのは体温である.温度は身体の状況を正直に反映する.それならば,臓器レベル,組織レベルではどうなのか?これまでなかなか臨床応用がむずかしかった分野ではあるが,眼科専用の機器を試作し,時間軸の考え方を導入した新しい方法論が確立されつつある.これについては,川?史朗先生ら(愛媛大学医学部・眼科)に解説をしていただく.今までの静止画による診断ではなく,時間軸の概念を加えて,ダイナミックに画像解析することにより,より機能的な診断が可能となる.そうした新しい四次元検査の萌芽と未来への可能性を今回の特集から知っていただければ幸いである.*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室**YuichiOhashi:愛媛大学医学部眼科学教室●序説あたらしい眼科24(4):399,2007前眼部四次元検査(前眼部キネティックアナリシス)??????????????????????????????????????????????坪田一男*大橋裕一**

眼科医にすすめる100冊の本-3月の推薦図書-

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSこの連載で意外と科学関係の書籍が紹介されていないようなので,今回は科学の面白さ,そして科学研究の面白さを教えてくれる本を紹介したいと思う.本書は講談社科学出版賞を受賞した作品であり,科学読み物のなかでは珍しく一般の読者にも広く読まれている本であると聞く.最近ではスローライフなどの言葉も聞かれるが,逆にいえば私たち現代人は時間に縛られて生活しているということを誰しも強く感じている.時には時間の束縛から逃げ出したくもなろうか.ところが,よく考えればそもそも生物にとって時間とはとても重要なものであって,むしろ現代人以上に昔の人類にとって,あるいは人類以外の生物にとっても,時間や季節とともに生活することが必要であったはずである.なぜなら地球上には昼と夜があり,春夏秋冬の季節がある.生物が生きてゆくうえで昼と夜の生活リズムをつくり,自分に有利な時間帯で休んだりエサを探したりの行動をし,季節に合わせて活発に活動したり冬眠をしたり,特定の季節に生殖活動を行うなど,その重要性は説明するまでもないだろう.それゆえ生物にとって時間を知ることはとても重要なことであるのは間違いない.それでは,生物はどのようにして時間を知ることができるのだろうか.時間を知る方法としてはもちろん太陽が昇ったり沈んだりということが最も考えられるが,実はそれだけではない.生物は自らの体内で時間を正確に知る体内時計(生物時計)を備えているのである.その証拠にマウスなどをまったくの暗闇で生活させてもマウスはほぼ一日のリズムを守って生活することがわかっている.その他の例として,セミなどはまだ暗いうちに土の中から這い出し,明け方には羽化している.私たち自身も時差ぼけというようなことで昼夜とは関係なしに体のリズムができているということは実感しているはずである.これらはすべて生物時計の働きで行われている.生物時計がどれほど重要かということは,地球上のほとんどあらゆる生物が生物時計の仕組みをもっていることからもうかがうことができる.しかも驚くべきことにその仕組みはヒトとショウジョウバエとでほとんど変わることがないという.ショウジョウバエとヒトが進化のうえで別れたのは7億年以上前とされているので,生物時計は7億年以上の進化の壁を越えて受け継がれているわけである.また,生物時計は体内で起こる多くのことを制御しているが,私たち人間にとって最も生物時計との関連を感じることができるものは睡眠であろう.睡眠もまた身近でありながら多くの謎に満ちた行動であり,大変魅力的な研究分野である.誰もが興味をもつであろう生物時計と睡眠という2つが本書のテーマである.著者である粂和彦氏は東京大学医学部を卒業後,分子生物学の分野で第一線の研究を続ける医学研究者であり,そのかたわら内科の診療を行う医師でもある.最近では「眠らないハエの研究」でメディアにも登場しているのでご存知の読者もあるかもしれない.本書のなかで粂氏は生物時計,睡眠に関する研究の最近の進歩を非常にわかりやすく,かつ面白く説き明かしてくれる.粂氏自身がそれらの研究に参加し,多くのすばらしい業績をあげた経験を織り込んでの話だけに,その語りは臨場感にあふれている.そういうとノーベル賞学者のワトソン博士の著書「二重らせん」にあるような研究者同士の熾烈な競争を描いたものを想像されそうだが,本書では研究者間の競争を描いているわけではなく,それぞれの研究者の業績を公平に,わかりやすく述べていて,その視(75)■3月の推薦図書■時間の分子生物学─時計と睡眠の遺伝子─粂和彦著(講談社現代新書)シリーズ─71◆吉田宗徳名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007点はあくまでも純粋に研究を楽しむ者のそれであると感じられるのも好感がもてる.あまり内容を詳しく紹介してしまうと実際に本書を手にとられてからの楽しみを損なう恐れがあるが,ごく一部を以下に紹介させていただく.まず生物時計をつかさどる仕組みであるが,驚くべきことにこの十数年ほどの間に生物時計の仕組みはほぼ完全に解明されてしまった.それも,その仕組みとは次のように非常に単純なものであった.ある種の蛋白質が細胞内で産生され,その産生にネガティブフィードバックがかかることによって,蛋白質の量がある周期で増減する.つまり,振り子時計の振り子と同じように一定周期を刻む役をするのである.この周期がちょうど地球の自転と同じ24時間周期になっているのである.しかし,一つひとつの細胞が勝手に時を刻んでいては全体の調和が取れない.これをつかさどり全体をまとめている部署が人間では視交差上核という脳のちょうど視交差の上の部分にある.生物時計は朝の光の刺激によってリセットされるので,ここにあることは都合が良いのだろう.ちなみに本書のなかには生活リズムが狂ってしまったような場合にどのようにすれば狂ってしまった生物時計をもとに戻すことができるかとか,どうすれば時差ボケを最低限に済ませられるか,といったことのヒントが示されているので,興味のある読者はぜひ試してみていただきたい.睡眠に関しても大変面白いことがたくさん学ばせてもらえるが,一つ紹介するとすればナルコレプシーに関する記述だろう.ナルコレプシーは日中などに突然睡眠の発作を起こしてしまう病気として知られる.ナルコレプシーの原因としてオレキシンという神経伝達物質の受容体に異常を起こしていることが1999年に突き止められた.これはそもそも遺伝的にナルコレプシーを起こすイヌを用いて10年かかって見つけられたものである.一方,別のグループではオレキシンのノックアウトマウス(オレキシンが体内で働かなくなるように遺伝子を操作されたマウス)を用いて,オレキシンが働かないとナルコレプシーを起こすことをほぼ同時期に発見した.このように科学の大発見というものはしばしばまったく別のアプローチから同じ結果を得ることがあり,また,偶然にも同時にゴールにたどり着くことがあるのは不思議である.先にも述べたようにあまり内容を詳しく紹介したくはない.あとは読者の皆さんがご自分でこの奥深い世界を自由に楽しんでいただきたい.内容の面白さは保証する.また,現在研究に励んでいる眼科医,あるいは今後研究を志す眼科医にはぜひ本書を手に取っていただきたい.実は粂氏は私の古い友人でもある.その人柄どおり,あくなき科学への興味を素直に研究にぶつけている粂氏の姿勢は本書から十分感じ取っていただけるものと思う.同時に本書を通じて研究のすばらしさ,研究の楽しさに触れることができるものと確信する.(76)☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス46.硝子体出血をきたした網膜分離症に対する硝子体手術(中級編)

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSはじめに先天性網膜分離症は網膜硝子体ジストロフィの一つで,伴性劣性遺伝形式をとり,網膜神経線維層で感覚網膜が内層と外層に分離する疾患である.本疾患は車軸状の黄斑部網膜分離に加えて,周辺部網膜分離が約50%の症例に合併するとされている.周辺部網膜分離は耳下側赤道部付近に薄く半透明な隆起として認められ,しばしば円形あるいは楕円形の内層裂孔を伴っている.ときに,この部位の架橋網膜血管が破綻して硝子体出血をきたすことがある.●硝子体出血をきたした網膜分離症に対する硝子体手術出血は自然吸収する場合もあり,超音波Bモードで網膜?離が生じていなければ,しばらく経過をみることが多いが,出血が消退しない場合には硝子体手術の適応となる.この際,分離した網膜内層と架橋網膜血管を硝子体カッターで切断し,その断端を確実に凝固止血することにより再出血を予防する方法が一般的と考えられ(73)る.網膜を内層ごと切除する理由としては,分離した内層網膜は外層網膜とシナプスの連絡が絶たれているため,たとえ内層を温存し復位できても,その部分の視機能は回復しないこと,網膜分離部の網膜硝子体癒着は非常に強固であり後部硝子体?離の作製は困難であること,などがあげられる.また,網膜分離症の進行を予防する目的で,分離境界部に網膜光凝固を加えることもある.ただし,網膜光凝固は網膜外層裂孔を惹起する可能性があるとされ賛否両論がある.●自験例の術中所見筆者らが経験した3歳,男児の症例(左眼の硝子体出血)では,後部硝子体は全象限で未?離であったが,上方の非網膜分離部は硝子体カッターにて比較的容易に後部硝子体?離を作製することができた.しかし,下方は硝子体と内層網膜の癒着が強固であったため,硝子体カッターで内層網膜ごと切除した(図1).架橋網膜血管を切除する際の出血量はわずかであり,血管の断端に眼内ジアテルミー凝固を施行した(図2).網膜分離は下方の血管アーケードまで進行しており,これ以上の進行を予防するために網膜内層切除断端の健常側に眼内光凝固を施行した.術後,右眼アイパッチによる弱視訓練にて術2カ月後で左眼視力0.2(術前光覚弁)に改善した(図3)1).文献1)産賀真,植木麻理,村井克行ほか:硝子体出血をきたした先天性網膜分離症に対して硝子体手術を施行した1例.眼科手術19:381-384,2006硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?46硝子体出血をきたした網膜分離症に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1術中所見(1)下方は硝子体と内層網膜の癒着が強固であったため,硝子体カッターで内層網膜ごと切除した.図2術中所見(2)架橋網膜血管を切除する際の出血量はわずかであり,血管の断端に眼内ジアテルミー凝固を施行した.図3術後左眼眼底写真術2カ月後,左眼視力は0.2に改善した.

眼科医のための先端医療75.ノックアウトマウス,トランスジェニックマウスを用いた細胞生物学的眼研究

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSノックアウトマウス,トランスジェニックマウス分子生物学的,分子遺伝学的な一つの研究方法に,遺伝子組換えによってある物質の発現を抑制するノックアウトマウス,ある物質を強制的に発現させるトランスジェニックマウスを用いた方法があります.ノックアウトマウスの本来の目的はその物質の発現を抑制することによって生体のどのような機能に影響が生ずるか,それによってどのような機能に関与しているかを調べることです.このようなマウスに病的な負荷を与えてその疾患過程を調べたときに,正常対照(ワイルド)との間に何らかの差異が生じたとしたら,疾患におけるその物質の役割を推測することが可能となり,応用研究の一つの方法として用いられます.グルタミン酸受容体ノックアウトマウスに対する眼圧上昇モデルグルタミン酸は興奮性神経伝達物質の一つで,細胞外に放出された過剰量のグルタミン酸は神経細胞死をひき起こすことが知られています.脳虚血後の遅延型(二次性)細胞死に強くかかわっていると考えられています.緑内障性視神経症(GON)への関与については,肯定的意見,否定的意見が相半ばし,今のところ不確定です.筆者らはグルタミン酸の受容体のうちe1サブユニットをノックアウトしたマウス眼と正常対照マウス眼の眼圧を上昇させ,両者を比較しました1).すると,眼圧上昇の程度と経過はほぼ同様であったにもかかわらず,眼圧上昇後1カ月ではノックアウトマウスの網膜神経節細胞(RGC)死が有意に抑制されていました.しかし,3カ月では両者のRGC死はほぼ同程度でした.この実験結果から,グルタミン酸は何らかの形でGONにかかわることが証明されました.さらに,眼圧上昇後,早期には関与するが,長期経過では関与は薄いことが示唆されました.このように早期と後期で結果が異なった点に関して,RGC死のメカニズムが眼圧上昇直後と時間経過後で切り替わる可能性と,この実験系では経過とともに眼圧が低下していたことから,眼圧の程度によって切り替わる可能性が考慮されると思います.RGCが発光するトランスジェニックマウス????は,免疫グロブリンスーパーファミリーの一種で,マウスでは胸腺,T細胞,神経細胞,糸球体メサンギウム細胞など多くの細胞膜表面に発現する糖蛋白質です.網膜ではRGCに特異的に発現しており,RGCのマーカーとして生化学的実験に用いられてきました.筆者らはRGC特異的マーカーである????遺伝子のプロモーター領域を含む8.1kbpの???RI断片を???Ⅱで切断し,緑色蛍光蛋白(green?uorescentpro-tein:GFP)遺伝子を組み込んだ導入遺伝子ベクターを作製しました(図1).この導入ベクターを????????マウスの受精卵にマイクロインジェクションし,生まれたマウス仔の尻尾よりゲノムDNAを抽出してポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainreaction:PCR)法によって遺伝子型の確認を行い,遺伝的にRGCが蛍光発色するトランスジェニックマウスを作製しました.こ(69)◆シリーズ第75回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊福地健郎酒井康弘松田英伸(新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野)ノックアウトマウス,トランスジェニックマウスを用いた細胞生物学的眼研究図1DNAコンストラクトのシェーマ????遺伝子プロモーター下流にGFP遺伝子を組み込んだ導入遺伝子ベクターを作製した.GFP(green?uorescentprotein):495~545nmで緑色に発色し,蛍光眼底カメラ・SLOで撮影が可能である.exon1exon4exon3???Ⅱ???ⅡGFPGFPexon2exon1exon4???RⅠ???RⅠ???RⅠ???RⅠ———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007のトランスジェニックマウスでは,網膜断層切片でほぼすべての網膜神経節細胞に蛍光発色が認められました2).緑内障の基礎研究において,ラットやマウスの虚血再灌流モデルや視神経挫滅モデルといった緑内障類似のRGC死を誘導する動物モデルが用いられます.これらの障害モデルのRGC死の評価法として,網膜切片や蛍光色素の逆行性標識によりRGC数を計数する形態学的手法,????の発現量をreversetranscription(RT)-PCR法やELISA法(酵素結合免疫吸着剤検出法)により測定する生化学的手法が用いられてきました.しかし,これらの方法では,侵襲的操作を要するため同一眼での経時的変化を評価することは困難でした.RGCを蛍光発色させた遺伝子改変マウスを用いることで,逆行性標識などの操作を要せず,簡便にRGC死の評価を行うことができます.さらにその眼底を走査型レーザー顕微鏡や蛍光眼底カメラで撮影することにより,RGC死の程度を同一個体で経時的に観察することが可能となりました.RGC発光マウスとノックアウトマウスの配合マウスではすでに各種のトランスジェニックマウス,ノックアウトマウスなど遺伝的背景が明確な系統が数多く存在します.これら既存の遺伝子改変マウスとRGC蛍光発色マウスを掛け合わせて,両者の特徴を併せもつマウスの作製も試みられています.ラット眼の虚血再灌流モデルにおいて,プロスタグランジン生合成の律速酵素であるcyclooxygenase-2(???-?)を薬理学的に阻害することにより,RGC死が抑制されると報告されています3).筆者らは,???-?ノックアウトマウスとRGC蛍光発色トランスジェニックマウスを交配させ,遺伝的に???-?が欠失し,かつRGCが蛍光発色するマウスを作製しました.このマウスで同様に虚血再灌流後のRGC死の評価を行うと,???-?が欠失したマウスではRGC死の程度は軽度に抑えられ,薬理学的な???-?阻害によるRGC保護効果と同様の結果が得られました(図2).文献1)松田英伸:マウスを用いた実験的緑内障モデルの開発とその網膜神経節細胞死におけるNMDA受容体e1サブユニットの関与.新潟医学会雑誌118:702-711,20042)TanakaT,FukuchiT,UedaJetal:RetinalganglioncellsintransgenicmiceexpressingGFPasanindexofRGCDamageunderanesthetizedmice.?????????????????????????44:E-Abstract111,20033)JuWK,KimKY,NeufeldAH:Increasedactivityofcyclo-oxygenase-2signalsearlyneurodegenerativeeventsintheratretinafollowingtransientischemia.???????????77:137-145,2003(70)図2???-?ノックアウトマウスと???トランスジェニックマウスの配合マウスでの虚血再灌流7日後の網膜における神経節細胞数遺伝的に???-?が欠失したマウス[???-?(-/-)マウス](右)では,ワイルドタイプ[正常対照,???-?(+/+)マウス](左)に比較して,多くの網膜神経節細胞が残存し細胞死の程度が軽度であった.GFP(+)???-?(+/+)マウスGFP(+)???-?(-/-)マウス***———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???(71)☆☆☆■「ノックアウトマウス,トランスジェニックマウスを用いた細胞生物学的眼研究」を読んで■現在,トランスジェニックマウスは,生物学研究のなかで大変重要な役割を果たしています.????????あるいは培養細胞による研究では,細胞反応が分子レベルまでわかっていても,その分子が実際の個体ではどのように働いているのかわかりませんでした.ところが,本文のようにトランスジェニック動物を作ることで,目的分子の働きが,個体レベルでもわかるようになりました.この方法については,すでに多くの本に書かれていますので,ここでは触れません.しかしながら,特に本文で重要なのは,トランスジェニックマウスを用いてバイオイメージングを行う方法が,眼科の一般的な疾患(緑内障)研究に応用された点です.バイオイメージングとは,生きた細胞・動物に起こる現象を画像化することをいいます.そして,この方法により,生命現象をさまざまな時間軸,空間軸で広く捉えることが可能となりました.たとえば,細胞内情報伝達については,今までは細胞表面蛋白,細胞質蛋白,核蛋白を別々に解析することで,情報の伝達経路を分析してきました.しかし,この方法は情報伝達を「点」として捉えただけであり,情報伝達で最も大切な「情報の連続的な受け渡し」,すなわち「線」が捉えられませんでした.そこで,細胞内目的分子にGFP(green?uorescentprotein)のタグを付けて,バイオイメージングを行い,細胞内分子の変化を生きたまま観察したところ,GFPによる緑の蛍光が,時間とともに細胞膜からミトコンドリアを経て核に移行してゆく像が得られました.つまり,情報の伝達が連続して起こっていることを,直視下に確認することができたのです.現在,この方法により,細胞の情報伝達だけではなく,遊走,貪食などの変化が,時間的,空間的視点から捉えることが可能となっています.福地健郎先生らが本文で述べられているのは,このバイオイメージングを眼科疾患研究に応用したものです.緑内障は,長期にわたって眼に障害を及ぼす疾患であり,ある特定の時期の変化を見ただけでは,疾患の全体像をつかむことはできません.しかし,バイオイメージングにより,一つの個体が変化してゆく様子を,時間軸に沿って捉えることが可能になれば,疾患の全体像あるいは本質的な像をつかむことが可能になります.本文で述べられているように,グルタミン酸は眼圧上昇早期には視神経障害に関係するが,長期では弱い影響しかなさそうであるという発見は,この方法により明らかになったものです.この方法が広がることで,眼科領域の多くの疾患の病態解明が,大きく前進するものと思われます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二

新しい治療と検査シリーズ170.ArtiflexRレンズ

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLStoricレンズを使用するか,Arti?exレンズを挿入後LASIKにて乱視のみを矯正するかのどちらかになる.?手術方法麻酔は点眼および3~9時の結膜下に2%キシロカインを0.2m?注射する.上方からの3.2mm角膜切開を行い,粘弾性物質にて前房内を置換した後,レンズを挿入し,虹彩に固定する.その後粘弾性物質をI/A(灌流/吸引)にて除去して終了である.レンズの虹彩への固定はむずかしく,熟練を要する.多くのArtisan?レンズ挿入を経験したのちに,Arti?ex?レンズに取り組むの新しい治療と検査シリーズ(67)?バックグラウンドLaser???????keratomileusis(LASIK)の爆発的な普及に伴い,強度近視に対するLASIKの功罪も浮き彫りになってきた.術後視機能の点ではLASIKよりも有水晶体眼内レンズ(phakicIOL)のほうが優れているという報告も多く1),注目されはじめた技術である.PhakicIOL自体の歴史は古く1950年代から開発されているが,現在筆者らが使用している虹彩支持型のレンズの原型は1986年に開発されている2).長らくポリメチルメタクリレート(PMMA)であった材質が光学部をシリコーン素材とすることにより,小切開創からの挿入が可能となり,手術時間や術後早期の成績が格段に改善された(図1,2).?新しい治療法10Dを超えるような強度近視の場合,エキシマレーザーにて矯正しようとすれば,120~130?m以上の切除深度になることも多く,残存角膜が非薄化することは避けられない.筆者らが現在第一選択としてphakicIOLを勧めるのは,-8~-10D以上の強度近視であるが,近視度数が軽度~中等度であっても角膜厚が450?mを下回るようなケースでは,積極的に勧めている.また,明らかな円錐角膜ではなくとも,トポグラフィーにてINDEXが陽性になるような場合も勧めている.適応において,今までのArtisan?レンズとの相違点は,前房深度が3.2mm以上必要なことである(Artisan?レンズは3.0mm).これは,レンズが前房中で開くこととレンズの設計が異なるためである.また,レンズ度数の製作範囲が-14.5Dまでのため,それ以上の度数が必要なケースには今まで通りのArtisan?レンズを使用することになる.また,Toricレンズは製作されていないため,-2.5D以上の乱視度数がある場合,PMMAのArtisan?170.Arti?ex?レンズプレゼンテーション:荒井宏幸南青山アイクリニック横浜コメント:高橋洋子神奈川クリニック眼科・東京慈恵会医科大学眼科学教室図1Arti?ex?レンズの全体図2Arti?ex?挿入の術後写真———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007が望ましい.初めのうちは,分子量の大きい粘弾性物質を準備しておくと安全であろう.ある程度の熟達度になれば,10~15分にて終了する手術である.当然だが,角膜径が大きく,前房が深いケースほど容易である.?今後の展開現在筆者の施設では,適応があればすべてArti?ex?レンズを勧めている.手術時間も短く,視力の立ち上がりもLASIKと比べて遜色はない.今後,レンズ度数の製作範囲の拡大やToricレンズが開発されれば,80%以上のケースがArti?ex?レンズで手術することになるであろう.レンズ設計や手術の術式に改良の余地はあるが,虹彩支持型レンズは,常にレンズの状態が把握できるため,長期にわたる観察も容易であることが利点の1つである.角膜内皮細胞数や前房内持続炎症などの観察も重要であるが,筆者の経験では,正しく固定がなされていれば,そうした合併症が認められることはない.外傷性に支持部が脱臼しても,レンズは内皮側に傾くことはなく,真下に偏位するため,時期を逸せずに再固定すれば問題はない.LASIKのように,視力が良くても「見えづらさ」を訴えられるケースはほとんどないため,術後のfollowにはストレスはない.こうした術後満足度が高い点も,この方法の良い点の1つであろう3).文献1)ElDanasouryMA,ElMaghrabyA,GamaliTO:Compari-sonofiris-?xedArtisanlensimplantationwithexcimerlaserinsitukeratomileusisincorrectingmyopiabetween-9.00and-19.50diopters:arandomizedstudy.??????????????110:2063-2064;authorreply2064,20032)WorstJGF,vanderVeenG,LosLI:Refractivesurgeryforhighmyopia:TheWorst-Fechnerbiconcaveirisclawlens.??????????????75:335-341,19903)荒井宏幸:強度近視に対する手術療法.眼科診療プラクティス9,p82-89,文光堂,2005(68)?本方法に対するコメント?現在,屈折矯正目的で有水晶体眼に挿入可能な眼内レンズとして,前房タイプと後房タイプがあるが,そのうちArti?ex?レンズは,前房虹彩保持型のフォルダブルレンズである.レンズの固定にやや熟練を要するが,創口サイズが3.2mm角膜切開であり創口作製の不安定さが少ないと考えられ,今後大いに期待ができるものと考えられる.ただし,乱視に関しては,後房タイプでは,-0.5Dから作製されているのに比して,Artisan?レンズでは,-2Dからの対応のため一考の余地がある.また後房タイプにおいて以前問題にされた術後の白内障の合併に関しては,水晶体膨化のみられない若年者ではほとんど認められないという意見もあり,長期的挿入が必要であるエキシマレーザー治療不適応の症例の若年者には後房タイプ,術後比較的内皮障害の懸念が少なく,術後に白内障の合併のリスクの高い40歳以上には前房タイプと眼内レンズの使い分けをするのが,現在では最適であるかもしれない.頻度は少ないがさまざまな合併症が起こった場合に失う視機能やリスクを熟考のうえ,各症例にとって最適な術式選択がなされることを切望する.☆☆☆

眼感染症:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■検体の採取およびグラム染色検体の採取時の注意点としては常在菌の混入を防ぐことが大切で,睫毛や眼瞼皮膚に触れないように採取し,できる限り早く検査室に提出する1).また,消毒液による眼洗浄や眼科用薬剤を点眼した場合は4時間以上経過後に行う.検体からのグラム染色は迅速診断として重要で,結膜擦過物や角膜潰瘍部からの標本の作製は採取綿棒を直接スライドガラスに薄く塗布する.房水などは菌量が少ないことが多いため,白金耳などで塗り広げないで自然に乾燥させる.染色標本の観察は最初に100倍で炎症細胞の有無と染色性を確認してから,油浸系の1,000倍で微生物と炎症細胞の種類をチェックする.図1に眼内炎患者のグラム染色を示す.スライドでは多数の多核白血球とともに,ブドウ状の丸いグラム陽性球菌が散在しており,多核白血球内に貪食された球菌も認められる.表皮ブドウ球菌などのcoagulasenegative??????????????(CNS)も否定はできないが,グラム染色所見の炎症像や貪食像から黄色ブドウ球菌の感染が最も疑われる.メチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)かメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の判別はできない.■培養同定・感受性培養は通常血液寒天培地,チョコレート寒天培地,HK半流動寒天培地などを用いる.検体を接種した血液寒天培地やチョコレート寒天培地は35℃,5%炭酸ガス培養を行い,18~48時間で判定する.増菌培地として利用されるHK半流動寒天培地は,他の培地が陰性でも7日間の継続培養を実施し,培養の最終確認をする.図1に示すように,グラム染色でブドウ状のグラム陽性球(63)46.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一木下承晧神戸大学医学部附属病院検査部細菌性眼感染症は耐性菌が増加傾向にある.MRSA感染症は難治性であり,初期診断の遅れが病状回復に大きな問題となるため,グラム染色やMRSA判定を迅速に行うことが重要である.グラム染色は1時間程度で炎症像やブドウ球菌の有無が確認できる.眼材料からのMRSAスクリーニング培地による培養は,ほぼ1日で判別が可能である.図1白内障術後3日目に眼内炎を発症した患者のグラム染色(Bar=10?m.)図2眼検体からのMRSAスクリーニング培地の培養培養20時間後,血液寒天培地の黄色ブドウ球菌を確認後の判定(左:MRSA,右:陰性MSSA).———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007菌を認めたときやブドウ球菌感染を強く疑うときは,MRSAスクリーニング培地を追加する.黄色ブドウ球菌は,血液寒天培地上でb(完全)溶血を示す白色~淡黄色の集落であり,培養1日目に判別可能である.図2に示すMRSAスクリーニング培地はMRSAとMSSAの1夜培養である.MSSAは発育が認められないが,MRSAは発育集落の全体が黄色くマンニット分解能が陽性で,集落の周りに白く濁った卵黄反応が認められMRSAと判定できる.感受性は微量液体希釈法(MIC)値またはディスク拡散法を行い,MRSAを判別する.MRSAの判定基準は2),表1に示すとおり,MIC法ではoxacillin(オキサシリン)感受性が,ディスク拡散法ではオキサシリンまたはcefoxtin(セフォキシチン)が用いられる.オキサシリンとセフォキシチンは同時に測定する必要はないが,オキサシリンに比べて,セフォキシチンのほうが阻止円の判定が容易である.オキサシリンが中間(I)やMRSAと判定が明らかでないときは,????遺伝子の検出またはpenicillinbindingprotein(PBP2?)のラテックス凝集反応検査で確認する.メチシリン耐性CNS(??????????????を除く)はMRSAに比べ,オキサシリンの検出感度が高いため判定が異なるので注意が必要である.特に,??????????????のなかでは????遺伝子がないのに耐性を示す????????????????のような菌株も存在しているため,セフォキシチンによるメチシリン耐性菌の検出が良いとされる.■抗菌薬の選択本院での眼材料から分離される微生物の20~40%が黄色ブドウ球菌で,その約半数をMRSAが占めている.MRSA眼感染症の抗菌薬治療には,抗MRSA薬の点滴静注,眼内注入,点眼薬,軟膏などが用いられる.また,MRSAの併用(補助)抗菌薬としてリファンピシリン(RFP),トリメトプリム・スルファメトキサゾール(ST),ホスホマイシン(FOM)なども投与される3).フルオロキノロンは高濃度の0.3%濃度(3,000?g/m?)点眼薬が初期治療に用いられてきたが,本院分離MRSAに対してレボフロキサシンは98%が耐性を示し,MICが8~64?g/m?に分布しているため,房水や結膜への移行濃度からして十分であるとは言い難い.バイコマイシン(VCM),アルベカシン(ABK)の点眼薬は0.5%濃度(注射用バイアルを滅菌生理食塩水で溶解)に自家調整して用いる.VCM,ABKを点滴静注する場合は,腎毒性,聴覚毒性の点からTDM(therapeuticdrugmoni-toring:血中薬物濃度)によりコントロールする.■検査部との連絡体制糖尿病患者,白内障手術後などにMRSAが疑われるときは,目的菌をオーダして直ちに検査室へ搬送するとともに,グラム染色とMRSAスクリーニング培養を依頼する.同定,感受性検査は3~4日で報告されるため迅速性に欠けるが,培養1日目で黄色ブドウ球菌の判定が可能である.検査部と診療科が協議し必要に応じた連絡体制をとるべきである.また,迅速報告の連絡先(主治医のPHSなど)を検査担当者に必ず告げることも重要である.文献1)MurrayPRetal:ManualofClinicalMicrobiology,8thed,vol1,p286-330,ASMPress,Washington,DC,20032)ClinicalLaboratoryStandardsInstitute:PerformanceStandardsforAntimicrobialSusceptibilityTesting:Six-teenthInformationalSupplement,M100-S16,NationalClinicalLaboratoryStandardsInstitute(formerlyNCCLS),Pennsylvania,20063)浅利誠志:MRSA消毒・除菌と治療─チーム医療で退治できるMRSA─.改訂増補第2版,最新医学社,2000次頁へ続く(「検査室から眼科医へ」,「眼科医から検査室へ」)(64)表1MRSAの判定基準(CLSIM7-A7/M100-S16)抗菌薬感性中間耐性MICOxacillin≦2─≧4ディスク法Oxacillin(1?g)≧1311~12≦10Cefoxitin(30?g)≧20─≦19MIC:微量液体希釈法.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???(65)◎検査室から眼科医へ◎MRSA感染を疑ったときは,安易に点眼抗菌薬を使用しないで,塗抹・培養検査を必ず検査をする.また,治療終了後も数日後に確認培養を行っていただきたい.◎眼科医から検査室へ◎塗抹培養検査は感染症診断の基本中の基本ですが,多忙な臨床のなかで,これを励行している眼科医はそれほど多くはありません.現在,外眼部の細菌感染症治療における第一選択はニューキノロンの点眼です.投与により患者の90%は治癒させることができますが,この効率の良さが塗抹培養検査の軽視につながっている可能性は大いにあります.このニューキノロンの網をかいくぐって出現するのが多剤耐性菌による感染症であり,ここで取り上げられたMRSAはその代表です.MRSAによる眼感染症は,高齢の入院患者,糖尿病患者,アトピー性皮膚炎患者,長期の免疫抑制薬投与患者などによくみられるため,患者背景から可能性をある程度類推できますが,臨床所見だけで確定はできません.この意味で,分離培養からもたらされる情報は治療に向けての大きな拠りどころとなります.今一度,感染症診断の原点に立ち戻ることが重要と猛省する次第です.愛媛大学医学部眼科大橋裕一☆☆☆年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2007Vol.24月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2007Vol.20■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・光線力学的療法・眼感染症)新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.http://www.medical-aoi.co.jp

光線力学的療法(PDT):光線力学的療法を成功させるために

2007年3月31日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS光線力学的療法(PDT)は2004年5月に厚生労働省より認可されて以来,加齢黄斑変性(AMD)の治療の主体となった.わが国ではJapaneseAge-RelatedMacularDegeneration(JAT)Study1)をはじめとして多くの報告で80%以上に視力の維持・改善が得られている.本稿では,PDTを成功させるために,実施の際の注意点を述べる.●病態の把握PDTを成功させるには,正確な診断が重要であることはいうまでもない.PDTのガイドライン2,3)ではフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)により,病変の最大直径(GLD)を求め,それに1,000?mを加えて照射径とし,脈絡膜新生血管(CNV)が疑われるところすべてに照射することになっている.FAの読影のポイントとして,早期像ではclassicCNVの範囲,早期像と後期像を比較して,occultCNVの範囲,出血や色素,瘢痕によるブロック,漿液性網膜色素上皮?離(PED)を診断する.さらに後期像でCNVからの漏出の程度により活動性を判定する.しかし,FAでは網膜色素上皮下病変の観察が不十分なため,インドシアニングリーン造影(IA)や光干渉断層計(OCT)が必要である.特に日本人に多いポリープ状脈絡膜血管症(PCV)ではIAが不可欠で,典型例では網膜色素上皮下にあるポリープ状血管とネットワーク血管が(61)今泉寛子市立札幌病院眼科光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子6.光線力学的療法を成功させるためにフルオレセイン蛍光眼底造影(FA),インドシアニングリーン造影(IA),光干渉断層計(OCT)での正確な病態の把握が第一である.ポリープ状脈絡膜血管症ではIAが必須であり,IA所見も加味して病変の最長径(GLD)を決定する.トリアムシノロンの局所投与の併用も有用なことがあるが,眼圧上昇に注意する.患者の期待度が高いため効果と限界についての十分な説明と,経過観察が重要である.提供図1症例1:PCV症例の治療経過上:網膜下出血と漿液性網膜?離を伴った橙赤色のPED(白矢印)があり,FAでは初期に網目状血管像,後期に軽度の漏出がみられ,classicCNV様の所見を示す.耳側にwindowdefectの過蛍光がある(黒矢印).IAではブドウの房状のネットワーク血管とポリープがみられ(白矢印),PCVと診断した.FAでのwindowdefect部(黒矢印)にも異常血管網があり,ここも含めてGLD1,600?mでPDTを行った.下:3カ月後,器質化した網膜下出血によるブロックがあるが,蛍光漏出はないので,再治療は行わず,経過観察とした.1年後,OCTでPEDが残存しているが,蛍光漏出はなく,視力も改善した.症例1治療前(3.0)0AF□85□21AF□73□1AI□20□91AI□53□()断直垂る通を窩心中1TDP年後)6.0(31AF□20□51AI□93□3TDPヵ月後)1.0(血出下膜網たし化質器73’41AF□71AI□40□———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.3,2007造影される.ネットワーク血管上の網膜色素上皮は萎縮していることが多く,FAではwindowdefectとなり,GLDを測定する際の病変に含まれなくなる.IAを行うとこのwindowdefect部にネットワーク血管が高率に検出されるため,IA所見を加味してGLDを決定したほうがよい(図1).また,図2のような大きいPEDの例では,FAでのGLDが治療可能な範囲を超えたり,正常網膜が広く照射野に含まれてしまう場合もある.IA所見をもとに照射範囲を決定するIA-guidedPDTという概念がとりいれられ,その検討が行われている.●再治療をどうするか?JATStudyでは初回PDT後12カ月の平均治療回数は2.8回であり,PDT後は3カ月ごとの検査で再治療するかどうかを決定する.FAでCNVから色素漏出がみられた場合は再治療を実施する,となっているが,2005年のガイドラインの改訂版3)では病巣が“安定”した場合は再治療を3カ月延期できるとしている.“安定”とは,最高矯正視力が安定か改善,FAでCNVからの蛍光漏出が最小限で,前回治療範囲を超えた漏出がなく特に中心窩に漏出がない,病変は平坦化し瘢痕様となり,網膜下液は最小限かみられない,場合である.再治療にあたっては,FAでの過蛍光が蛍光漏出か組織染か区別がつきにくいことがあるので,過剰な治療を避けるため病巣の“安定”の概念を考慮し,OCTでの網膜浮腫や漿液性網膜?離の有無も参考にして決定する.●併用療法は?頻回の治療は脈絡毛細管板の循環障害を起こす可能性があるとの報告があり,抗血管新生薬との併用療法が検討されている.現在,トリアムシノロン(TA)が使用可能である.TAの抗血管新生作用と抗炎症作用により,治療回数を減らし,視力予後,病変の縮小に効果があった,と報告されている.硝子体注射(4mg)か後部Tenon?下注射(20mg)でPDTの直前,または1,2週間前に投与する.眼圧が上昇することがあり,しかも一旦高眼圧になると長期間続くので,眼圧チェックをこまめに行う.●インフォームド・コンセントと経過観察治療後視力が不変でも明るくなった,ゆがみが減ったなど自覚症状が改善することも多いが,一方で患者の期待が大きいため,CNVが閉塞しても患者の満足度と一致しないことがある.視力維持のための治療であること,病型などにより効果に差があること,出血や急性視力低下などの合併症が起こりうることなど,効果と限界をよく説明し,理解してもらう必要がある.またCNVの再発もあるので,経過観察が必要である.文献1)TheJapaneseAge-relatedMacularDegenerationTrial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearresultsofphotodynamicthera-pywithvertepor?ninJapanesepatientswithsubfovealchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.???????????????136:1049-1061,20032)眼科PDT研究会:加齢黄斑変性症に対する光線力学的療法のガイドライン.日眼会誌108:234-236,20043)Vertepor?nroundtableparticipants:Guidelinesforusingvertepor?n(Visudyne)inphotodynamictherapyforcho-roidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationandothercause:update.??????25:119-134,2005(62)図2症例2:PEDを伴うoccultCNVの治療経過(3回目にTA併用IA-guidedPDT)治療前1.5乳頭径大のPEDの下方にoccultCNVがみられた.PEDを含めてPDTを2回行ったが,PEDが拡大し,CNVも拡大した(初回PDT9カ月後).ガイドラインに従うとGLD9,100?mとなり照射できないので,IAで検出できたCNVに対してGLD2,450?mでPDTを行い,TA20mgのTenon?下注射も併用した.1カ月後耳側のPEDは消失,上方のPEDも縮小し,FA・IAでは蛍光漏出が減少した.症例2治療前初回9TDPヶ月後(3回目TDP前)3回目1TDPヵ月後(5.0)(5.0)(7.0)DEPDEP大拡のVNCtluccO2AF□93□5AF□10□11AF□34□02AI□35□41AI□43□51AI□15□VNCTCO)断直垂る通を窩心中(