———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS眼圧日内変動は1904年に眼圧計を用いて報告されて以来の古くて新しい話題である.変動のメカニズムはまだ解明されていないが,体内時計により視交叉上核で制御され,交感神経が大きく関与している可能性が高い.眼圧には,体位,運動,薬物,嗜好品,ストレスなどが影響しており,さらに医療機関での終日測定は通常の環境と異なるため,正確な個人の日内変動を測定することは困難である.最近,体位を考慮した眼圧日内変動の報告が相ついでおり,夜間の眼圧への注目度が高まっている.●ヒトの眼圧日内変動従来眼圧は午前中に高く,午後低くなり,夜間は昼より低いとされてきていたが,それは座位での測定による.環境が異なり,個々の要因も影響するために精度の高い日内変動測定は困難であったが,Liuらはsleepinglaboratoryという個人の日々の活動時間や光環境,嗜好品などの条件を整え,1週間測定室の環境に適応させたうえでの眼圧測定を行う日内変動測定法を整備し,信頼性の高いデータを出している.まず座位,仰臥位同一体位測定ではともに眼圧は明け方が最も高く,夕方にかけて下降し,明け方に向かって上昇する1,2).房水動態の研究から日中は交感神経系の関与が高い房水産生が亢進し,夜間は房水産生が低下していることがおもに関与している.このことは房水産生抑制効果のあるβ遮断薬による夜間の眼圧下降効果は減弱し,一方同じく房水産生抑制による眼圧下降機序を呈する炭酸脱水酵素阻害薬による夜間眼圧下降効果は維持される,という最近の報告からも裏づけられている3).●夜間眼圧体位の影響注目すべきは,仰臥位では確実に眼圧が上昇し,座位(59)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄80.眼圧日内変動を探る相原一東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学一般的に眼圧日内変動は同一体位では朝方に高く夜にかけて低くなり,開放隅角緑内障患者でも同様である.仰臥位では座位に比べ眼圧が常に4~5mmHg高いことから,生活体位における眼圧変動が推定でき,現実的に夜間の高眼圧が起こりうる.マウスの眼圧日内変動測定により,光環境,体位に連動した上強膜静脈圧,時計遺伝子の影響が判明している.図1若年正常人の眼圧日内変動a:若年正常人の眼圧日内変動.b:開放隅角緑内障眼(OAG)と正常眼の日内変動は明け方に高く夜に低下するパターンを呈する.仰臥位で常に一定量上昇する.(文献1,2より改変)23222120191817161514supinesitting3:30PM5:30PM7:30PM9:30PM11:30PM1:30AM3:30AM5:30AM7:30AM9:30AM11:30AM1:30AM262524232221201918171615143:30PM5:30PM7:30PM9:30PM11:30PM1:30AM3:30AM5:30AM7:30AM9:30AM11:30AM1:30AM○:仰臥位●:座位夜間・睡眠時日中・覚醒時日中・覚醒時時刻(24時間)眼圧(mmHg)○△:コントロール●▲:OAG○●:座位△▲:仰臥位a夜間・睡眠時日中・覚醒時日中・覚醒時時刻(24時間)眼圧(mmHg)b———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.2,2007日内変動と平行に4~5mmHg高い値を示す点で,機序としては仰臥位では上強膜静脈圧の上昇によるものと考えられる.われわれヒトの通常の生活パターンである日中座位,夜間就寝時の仰臥位(生活体位)を考慮すると図1aのように,夜の眼圧はかなり高いことになる.幸いに緑内障眼での仰臥位による夜間の眼圧上昇は,正常人ほどではないが,それでも緑内障眼は正常人より終日高く,朝方に眼圧が最も高い2)(図1b).またHaraらも日本人正常眼圧緑内障(NTG)患者において仰臥位では終日座位より一定の幅で眼圧が上昇することから,日中の仰臥位,座位間の眼圧差を測定しておけば,終日座位の日内変動から生活体位における日内変動を推定することができると報告している4).同様に日本人NTG患者において視野進行と仰臥位眼圧が有意に相関すると報告され,生活体位での特に夜間仰臥位眼圧への関心が高まっている5).●眼圧日内変動のメカニズムを探るマウスでの研究過去にはウサギによる数多くの研究がなされ,中枢性には視交叉上核,その出力として頸部交感神経の関与が解明されているが,マウスでも日内変動が測定できるようになり,興味深い結果が得られている.マウスは夜行性であるためにヒトとは日内変動のピークがシフトしており,夕方から夜中にかけて眼圧が上昇し,明け方下降する6).これも活動性にかかわる交感神経が関与していることを示唆する.さらに終日明室あるいは暗室においた場合には日内変動が不規則になり,個体間の同調がなくなり,しかも終日暗室条件下では眼圧が上昇する7)(図2).これらは光刺激やストレスによる影響を受けやすいことを示しており,ヒトにも共通する眼圧制御因子であろう.また,マウスは生活体位が腹臥位である点でヒトのような体位による眼圧変化を考慮する必要がないが,実験的に体位を変化させ上強膜静脈圧と眼圧の変化を調べると,体位と上強膜静脈圧,眼圧が連動していることが判明した8).ヒトでのこのような実験は困難であるが,体位変化と眼圧変動はおそらくこの上強膜静脈圧の変化と捉えてよいと考える.また,時計遺伝子の一つを欠損させたマウスで眼圧日内変動が消失したことから,眼圧は上位レベルでは体内時計で制御されていることが判明した9).今後は体位による日内変動も考慮し,夜間眼圧の上昇も念頭においた終日眼圧下降させる薬剤の選択も重要である.また,病型や個体差などから日内変動にかかわる因子の解明が期待される.文献1)LiuJH,BoulignyRP,KripkeDFetal:Nocturnaleleva-tionofintraocularpressureisdetecatableinthesittingposition.?????????????????????????44:4439-4442,20032)LiuJH,ZhangX,KripkeDFetal:Twenty-four-hourintraocularpressurepatternassociatedwithearlyglauco-matouschanges.?????????????????????????44:1586-1590,20033)QuarantaL,GandolfoF,TuranoRetal:E?ectsoftopicalhypotensivedrugsoncircadianIOP,bloodpressure,andcalculateddiastolicocularperfusionpressureinpatientswithglaucoma.?????????????????????????47:2917-2923,20064)HaraT,HaraT,TsuruT:Increaseofpeakintraocularpressureduringsleepinreproduceddiurnalchangesbyposture.???????????????124:165-168,20065)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofpro-gressionofvisual?elddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientswithnormal-tensionglau-coma.?????????????,2006(inpress)6)AiharaM,LindseyJD,WeinrebRN:Twenty-four-hourpatternofmouseintraocularpressure.????????????77:681-686,20037)SugimotoEI,AiharaM,OtaTetal:E?ectoflightcycleon24-hourpatternofmouseintraocularpressure.???????????15:505-511,20068)AiharaM,LindseyJD,WeinrebRN:Episcleralvenouspressureofmouseeyeande?ectofbodyposition.????????????27:355-362,20039)MaedaA,TsujiyaS,HigashideTetal:Circadianintraoc-ularpressurerhythmisgeneratedbyclockgenes.?????????????????????????47:4050-4052,2006(60)図2光周期の違いによるマウス眼圧日内変動通常では夜間高く日中低い二相性変動が明室,暗室条件で飼育すると消失し,暗室条件下では眼圧上昇もみられる.(文献7より改変)302520151050:終日暗条件飼育:12時間ごと明暗条件飼育:終日明条件飼育時刻(24時間)眼圧(mmHg)6:009:0012:0015:0018:0021:000:003:006:00n=11