———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめにグラム陰性桿菌の緑膿菌(??????????????????????)による角膜炎の特徴は輪状膿瘍を伴う軟らかい潰瘍で,輪状膿瘍の周囲はスリガラス状混濁を呈します.輪状膿瘍は集簇した好中球とラメラ構造の破壊にほかなりません.また,軟らかい潰瘍は角膜実質組織の液化壊死で,スリガラス状混濁は輪部血管網から角膜病変に向かって走化中の好中球によるものです.緑膿菌性角膜炎は病変の進行がきわめて速く,広範な角膜潰瘍から穿孔をきたすことがあります.角膜病変が重篤化する原因として,本菌がプロテアーゼや毒素などの病原因子を産生すること,それに対して好中球を主体とする炎症細胞の浸潤が強く起こることがあげられます.好中球は細菌を貪食・殺菌し,菌の増殖を抑えますが,一方において,好中球に含まれるライソゾーム酵素や活性酸素などが細胞外にも放出され,組織破壊をきたします.好中球の浸潤には走化性因子が必要で,緑膿菌の外膜を構成するリポ多糖(このなかでもリピドA)は,補体系を活性化してC5aやC3aなどの走化性因子を生じます.緑膿菌性角膜炎におけるサイトカイン,ケモカインの役割近年,主としてマウスを用いた緑膿菌性角膜炎モデルでの研究からサイトカインやケモカインの役割が徐々に解明されてきました.マウスには緑膿菌感染において違った反応を示すC57BL/6J(B6)とBALB/cがいます.B6マウスは緑膿菌感染に感受性があり,重篤な角膜病変を生じ,穿孔するのに対し,BALB/cマウスは緑膿菌感染に抵抗性を示し,病変は軽度で治癒します.この違いが何からくるのか?サイトカインレベルで検討しながら,臨床例への治療に応用できないか考えてみたいと思います.まず,緑膿菌性角膜炎において重要なサイトカインやケモカインはインターロイキン(IL)-1b,IL-6,mac-rophagein?ammatoryprotein(MIP)-2(ヒトのIL-8に相当します),macrophageinhibitoryfactor(MIF),IL-10,IL-12,IL-18とinterferon-g(IFN-g)です(図1).特に,IL-1bは炎症反応の主たるサイトカインであり,MIP-2(IL-8)の産生を介して好中球の浸潤を亢進させます.IL-1bは角膜上皮細胞からのIL-6やMIP-2(IL-8)の発現を調整します.さらに,IL-1bは角膜実質細胞からのmatrixmetalloproteinases(MMP)の発現を亢進させます.IL-6は多機能性サイトカインで,IL-1やtumornec-rosisfactor(TNF)と重なる機能をもちます.IL-6ノックアウト(KO)マウスでは,緑膿菌感染モデルにおいて角膜病変が重篤化することより,IL-6は病変の軽減化に働いています.その機序としては,IL-6が感染初期においてintercellularadhesionmolecule-1(ICAM-1)やMIP-2の発現亢進を介して効果的に好中球浸潤を促すことによると考えられています.MIP-2(IL-8)はCXCケモカインで,好中球走化活性があります.緑膿菌感染モデルで,角膜内のMIP-2発現が持続しますと角膜内の好中球浸潤が遷延化し,かえって角膜病変が重篤になります.たとえば,緑膿菌感(59)◆シリーズ第68回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊松本光希熊本大学大学院医学薬学研究部視機能病態学〔現・NTT西日本九州病院眼科〕緑膿菌性角膜潰瘍の病変制御図1緑膿菌性角膜炎におけるサイトカイン,ケモカインネットワーク実線→:亢進作用,点線:抑制.IL-1Ra:interleukin-1receptorantagonist,MIF:macrophagemigrationinhibitoryfactor,MIP-2:macrophagein?ammatoryprotein-2,KC:cytokine-inducedneutrophilchemoattractant,MMP:matrixmetalloproteinases,ICAM-1:intercellularadhesionmolecule-1,B6:C57BL/6Jmice,BALB/c:BALB/cBJmice,PMN:polymorphonuclearleukocytes,NK:naturalkiller,NKT:naturalkillerT,IFN-g:interferon-g,TNF-a:tumornecrosisfactor-a.IL-1bMIFCaspase-1MMPs↑KCMIP-2(IL-8)ICAM-1IL-6IL-10血管新生IL-12(B6)IL-18(BALB/c)IL-1RaPMN浸潤殺菌組織破壊Caspase-1inhibitorNK細胞Th1細胞IFN-gTNF-aNK細胞NKT細胞Th2細胞IFN-g穿孔殺菌1a,25-DihydroxyvitaminD3(VD3)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006染に抵抗するBALB/cマウスにrMIP-2を投与しますと角膜内の好中球数が増加し,病変が重篤化します.一方,緑膿菌感染に感受性のあるB6マウスに抗MIP-2抗体を投与しますと角膜内の好中球数が減少し,病変が軽減されます.また,抗IL-1b抗体を投与しますとMIP-2とcytokine-inducedneutrophilchemoattrac-tant(KC)の活性が低下することより,MIP-2とKCはIL-1bによる調節を受けているといえます.MIFは最近発見された炎症性サイトカインで,好中球走化活性や血管新生を調節する役割が知られてきました.MIFは病変に関与しますが,これはIL-8やIL-1bの発現を介して起こっていると考えられます.IL-10は,微生物感染に対して,炎症メディエーターのバランスをとることにより,過剰な炎症や生体防御を調節していると考えられています.B6マウスに発現されるIL-12は,naturalkiller(NK)細胞やT細胞の増殖を亢進させるなど多くの生物活性を有します.たとえば,ヘルパーT(Th)1細胞への分化,他のサイトカイン,特にIFN-gの産生に影響します.緑膿菌感染に抵抗を示すBALB/cマウスはIL-12を発現しませんが,このBALB/cマウスにrIL-12を投与しますとIFN-gやTNF-aの発現を介して緑膿菌感染に感受性のあるB6マウスのような反応を示し,病変が重篤化します.BALB/cマウスに発現されるIL-18はIL-12といくつかの機能を共有します.すなわち,T細胞,NK細胞やNKT細胞によるIFN-gの産生を誘導します.IL-18はマクロファージや樹状細胞から産生されます.IL-1と同様に前駆体として放出され,IL-1g-変換酵素/cas-pase-1による活性化が必要です.BALB/cマウスでは,緑膿菌感染に伴い,角膜内にIL-18とIFN-gのレベルが上昇します.しかし,IL-12は検出されません.BALB/cマウスに抗IL-18抗体を投与しますとIFN-gmRNAが低下し,病変は悪化します.IFN-gKOマウスでは角膜内の菌数が有意に増加し,穿孔します.このことから,IL-18はIFN-gを誘導し,そしてIFN-gは殺菌に必要であることが示唆されます.以上を踏まえて,両マウスの緑膿菌感染に対する反応性を考察しますと,緑膿菌感染に抵抗するBALB/cマウスはTh2優位の反応を示し,IL-18駆動のIFN-gの発現を亢進させます.また,マクロファージが角膜内の好中球数を調節します.この系では効果的に菌の殺菌が行われ,組織障害も軽度であります.一方,B6マウスはTh1優位の反応を示し,IL-12駆動のIFN-gの発現を亢進させます.また,CD4+のT細胞によって角膜内の好中球数が調節されます.この系では角膜組織破壊,ひいては穿孔をきたします.サイトカイン,ケモカイン制御による緑膿菌性角膜炎の治療つぎに,緑膿菌性角膜炎におけるサイトカインネットワークを制御して治療効果を上げられないか考えてみます.抗IL-1b抗体を投与しますとIL-1bを介するIL-6やMIP-2(IL-8)の発現やMMP-9の産生が抑制され,角膜病変が軽減されることが予想されます.IL-1bの産生に必要なIL-1bconvertingenzyme(ICE)も重要で,そのKOマウスでは,感染病巣での好中球の減少,サイトカインやケモカインの低下,アポトーシスの増加,IL-1receptorantagonist(IL-1Ra)の増加をもたらします.このことからICEを抑制することにより生体反応を制御して病変の軽減化を図ることができると思われます.たとえば,抗菌薬にICE阻害薬を加えた治療は新たな治療法となる可能性があります.また,1a,25-dihydroxyvitaminD3(VD3)という物質を培養角膜上皮細胞に添加しますとIL-1b,IL-6とIL-8の発現が抑えられます.このことからVD3も新しい治療薬になる可能性があります.また,MIP-2を制御することにより病変を調節することが可能と考えられます.さらに,Toll受容体やneuropeptidesの役割を解明し,RNAsilencingのような新しい技術で疾患を制御する方法の開発も必要です.文献1)MatsumotoK,IkemaK,TaniharaH:Roleofcytokinesandchemokinesinpseudomonalkeratitis.??????24(Suppl1):S43-49,20052)RudnerXL,KernackiKA,BarrettRPetal:ProlongedelevationofIL-1in??????????????????????ocularinfec-tionregulatesmacrophage-in?ammatoryprotein-2pro-duction,polymorphonuclearneutrophilpersistence,andcornealperforation.?????????164:6576-6582,20003)ThakurA,BarrettRP,McClellanSetal:Regulationof??????????????????????cornealinfectioninIL-1bcon-vertingenzyme(ICE,caspase-1)de?cientmice.????????????29:225-233,20044)ThakurA,BarrettRP,HobdenJAetal:Caspase-1inhib-itorreducesseverityof??????????????????????keratitis(60)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????keratitis.??????????????????????????29:179-182,20019)ColeN,KrockenbergerM,StapletonFetal:Experimen-tal??????????????????????keratitisininterleukin-10geneknockoutmice.????????????71:1328-1336,200310)HazlettLD,RudnerXL,McClellanSAetal:RoleofIL-12andIFN-gin??????????????????????cornealinfection.?????????????????????????43:419-424,200211)HuangX,McClellanSA,BarrettRPetal:IL-18contrib-utestohostresistanceagainstinfectionwith??????????????????????throughinductionofIFN-gproduction.?????????168:5756-5763,200212)HazlettLD:Cornealresponseto??????????????????????infection.??????????????????23:1-30,2004inmice.?????????????????????????45:3177-3184,20045)XueML,ZhuH,ThakurAetal:1a,25-Dihydroxyvita-minD3inhibitspro-in?ammatorycytokineandchemokineexpressioninhumancornealepithelialcellscolonizedwith??????????????????????.?????????????????80:340-345,20026)ColeN,BaoS,StapletonFetal:??????????????????????keratitisinIL-6-de?cientmice.????????????????????????130:165-172,20037)XueML,ThakurA,WillcoxMDetal:Roleandregula-tionofCXC-chemokinesinacuteexperimentalkeratitis.???????????76:221-223,20038)ThakurA,XueML,WangWetal:Expressionofmacro-phagemigrationinhibitoryfactorduringPseudomonas(61)■「緑膿菌性角膜潰瘍の病変制御」を読んで■緑膿菌感染症はあらゆる細菌感染症のうちで,最も予防・治療がむずかしい疾患の一つです.それは,緑膿菌が広範な消毒薬や抗菌薬に対して抵抗性をもつからだけではなく,緑膿菌は低栄養下でも生存可能なため,医療現場を含むさまざまな環境下に存在し,完全に菌を消滅させることが不可能なことが理由としてあげられます.医療現場は緑膿菌の培地といってもよいほどなのです.治療に関していうと,近年は緑膿菌にも有効なチカルシリンやアミカシンなどの薬剤が開発されています.眼球外の臓器では,これらの薬剤は確かに有効ですが,「角膜の治療」には必ずしも有効とはいえません.なぜなら,緑膿菌は,ビオシアニンといわれる色素をはじめとしてさまざまな外毒素(エラスターゼ,アルカリプロテアーゼなど),溶血素,分泌酵素を出して宿主組織を破壊するので,きわめて強い組織反応が起こるからです.そして,その宿主反応自体が角膜の透明治癒を妨げます.つまり緑膿菌感染が治癒しても,角膜が混濁したならば「角膜の治療」に成功したとはいえないのです.緑膿菌感染に限らず,感染症に対する宿主反応は,破壊と再生の絶妙なバランスのうえに成り立っています.しかし,従来の方法ではこのバランスの理解が不十分でした.このバランスの解析は,マイクロアレイなどの網羅的研究により大幅に進歩し,宿主反応過程で働くサイトカイン,酵素,Toll-likereceptorなどの種類,発現時期などが理解されるようになりました.本稿で松本光希先生が述べられていることは,緑膿菌性角膜感染について,これらをわかりやすく解説されたものです.このことが理解されると,宿主反応をコントロールした「角膜の透明治癒」治療も可能になります.サイトカインネットワークというと,わかりにくく敬遠されがちですが,本稿ではこの点に関して重要な事柄が述べられています.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆