———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが,最近③水晶体の外科的治療(白内障手術)が注目されてきた.レーザー治療はいまだにACGの治療の中心であることは間違いなく,その手技については多くの報告がある1).本稿では最近話題となっているレーザー治療による問題点について自験例を中心にわかりやすく解説し,さらに最近注目され始めたACGに対する治療的白内障手術についてその利点や問題点について述べる.I閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の問題点1.角膜内皮障害と水疱性角膜症〔症例1〕77歳,男性.LI後の角膜内皮障害の進行.62歳時に右眼の急性発作〔急性閉塞隅角緑内障(AACG)〕で近医で治療された.このとき両眼にLIが施行された.約10年後より右眼が霞むようになり近医を受診しBKの診断で当科に紹介受診した(図1).視力は矯正で右眼0.1,左眼1.0であった.角膜内皮細胞密度は予防的LIの左眼2,200cells/mm2で,右眼は測定不能であった.右眼のBKは悪化したが,角膜移植の希望はなかった.初診より5年後,左眼の白内障が進行し矯正で0.6となり白内障手術を予定した.左眼の角膜内皮細胞密度は550cells/mm2と著明に減少していた(図1b,c).ポイント1:発作眼のLI後10年目でBKを発症.ポイント2:予防的LIで僚眼も角膜内皮障害,白内障(核白内障)手術の難化.はじめに1)閉塞隅角緑内障治療の変遷:閉塞隅角緑内障(ACG)の治療は1980年代前半までは内科的治療として縮瞳薬の点眼,外科的には周辺虹彩切除(PI)が一般的であった.もっとも他に方法がなかったというのがより正しいかもしれない.しかしながら縮瞳薬の点眼は暗黒感や長期的な白内障の進行などをもたらし,またPIは悪性緑内障や感染症など予期せぬ合併症をまれながら生じた.さらに眼圧コントロールが不良なACGに対する濾過手術は濾過手術の合併症の宝庫とさえいえた.1980年代半ばに入りレーザー虹彩切開術(LI)が開発され,外来で短時間で簡便にできること,外科的手術に伴う合併症がほぼ皆無であることなどから急速に普及し現在に至っている.2)レーザー虹彩切開術の問題点:理論的で安全,簡便な治療と考えられていたLIによる予期せぬ合併症が問題となり始めた.問題点として①白内障の進行,②眼圧コントロールが中~長期的に不良となる症例が存在する,③角膜内皮障害と水疱性角膜症(BK)の発症の3点があげられる.特にBKの治療には角膜移植が必須であり,ドナー角膜の供給の圧倒的に少ないわが国において大きな問題となっている.3)閉塞隅角緑内障の病態と白内障手術:ACGの発症には①相対瞳孔ブロック,②プラトー虹彩形状と③水晶体起因の3つの要因がある.これまでACGの治療にはレーザーによる①,②に関する治療が中心となっていた(37)????*ShoichiSawaguchi:琉球大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤口昭一:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部眼科学教室特集●隅角のすべてあたらしい眼科23(8):1013~1018,2006レーザーか手術か:古くて新しい問題─レーザー虹彩切開術の問題点と白内障手術(clearlensectomyを含む)─(─澤口昭一*———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.23,No.8,20062.慢性閉塞隅角緑内障(CACG)に対するレーザー治療後の眼圧上昇〔症例2〕70歳,男性.予防的LI術後の眼圧上昇と白内障手術.55歳時に左眼AACGで近医受診し,左眼のみLIを施行された.1回目のLIで虹彩に孔が開かず,翌日2回目のLIで虹彩に孔が開いた.10年後に左眼のBKを発症し,当科に紹介受診した.右眼はLIを行わず経過観察したところ,2年後に眼圧が次第に上昇し,点眼による治療が開始されたが,眼圧は下降せずLIを行った.LI施行半年後より眼圧の再上昇を認め,縮瞳薬の点眼を行ったところ,ようやく眼圧は安定した〔図2a,超音波生体顕微鏡(UBM)〕.その3年後に白内障の進行による視力低下があり手術を予定している.しかし瞳孔は縮瞳薬の影響で散瞳不良となった(図2b).ポイント1:CACGに対するレーザー治療後に眼圧の再上昇.(38)ab図2症例2a:レーザー虹彩切開術施行後に縮瞳薬でわずかに隅角が開大(プラトー虹彩形状).b:レーザー虹彩切開術施行(10時方向)と縮瞳薬の併用で散瞳不良となった.abc図1症例1a:レーザー虹彩切開術施行後の水疱性角膜症.b:レーザー虹彩切開術施行後(2時方向)の白内障進行と角膜内皮減少(c).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????ポイント2:縮瞳薬の追加で白内障のいっそうの進行と散瞳不良による手術の難化.3.急性発作眼のレーザー虹彩切開術施行後の眼圧再上昇〔症例3〕59歳,男性.AACGへのLI後の眼圧再上昇.56歳時,左眼のAACGで近医で加療,LIを施行した.右眼は予防的にLIが行われた.1年後より左眼の眼圧が次第に上昇したためβ遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の点眼を開始したがコントロール不良で当科に紹介受診.UBMで下方にわずかにスリット状の隅角の開放している所見がみられた(図3a,b).ラタノプロスト追加投与で眼圧はコントロールされた.ポイント1:LI後も眼圧再上昇に注意する.ポイント2:プロスタグランジン製剤はACGに有効2).II閉塞隅角緑内障に対する白内障手術の利点と問題点1.急性閉塞隅角緑内障の白内障手術〔症例4〕58歳,女性.急性発作の状態と白内障術後の状態.56歳時,右眼のAACGで当科に紹介受診(図4a).救急処置で発作は解除し,角膜内皮が観察できた時点で白内障手術を施行した.術後,中央前房深度,周辺前房深度は非常に深くなっている(図4b,c).その後2年間眼圧コントロールは点眼なしで良好.左眼はLIを施行.ポイント1:AACGへの治療的白内障手術の効果.2.慢性閉塞隅角緑内障の白内障手術〔症例5〕72歳,女性.CACGのLI後.CACGに対してLI施行も左眼の眼圧コントロール不良にて当科に紹介受診.b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,プロスタグランジン製剤の点眼を行っていた.隅角検査でプラトー虹彩形状,左眼は3/4周を超える周辺虹彩前癒着であった.LIと隅角形成術を施行も眼圧はコントロール不良で白内障手術を施行した.白内障手術施行後も眼圧コントロールは不良で最終的に線維柱帯切除術を施行した(図5).ポイント1:LI後の眼圧上昇と慢性化.ポイント2:白内障手術のタイミングと術後の眼圧コントロール(慢性化するとこじれる).3.閉塞隅角緑内障予備軍〔primaryangleclosure(suspect)〕に対する白内障手術〔症例6〕66歳,女性.視力良好例(clearlens)で間欠的に小発作をくり返す.数年前より右眼の違和感,軽度の充血,軽度の頭痛,霞む感じを特に夕方以降暗くなると感じていた.近医に受診したが心配ないと言われていた.眼の重苦しい感じ,霞む感じが次第に増強したため当科に受診した.中(39)図3症例3a:急性発作後にレーザー虹彩切開術を施行した.瞳孔は散瞳気味.b:隅角は下方のみわずかに開大している.ab———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006央前房深度はやや浅く,周辺前房はvanHerickI度であった.UBMでは暗室で4方向の閉塞の所見を示していた(図6a).視力は良好であったが,AACGの家族歴があり白内障の手術を希望した.UBMで前房,隅角とも非常に深くなった(図6b).その後症状は消失し,眼圧も良好である.ポイント1:中年の女性の眼を含めた不定愁訴はACGをまず疑う.ポイント2:治療の選択には十分なインフォームド・コンセントが大切である.まとめ1)レーザー治療の問題点:ACGやその予備軍に対するLIの合併症について当科で経験した症例を提示し解説した(症例1~3).ACGに対するLIは今後も治療の主流として必要な手技と考えられるが,一方で,頻度は少ないもののいくつかの合併症,問題点が生じており,今後ともその発症病因の解明が望まれる.特にBKは一旦発症した場合,角膜移植が必要となるが,わが国におけるドナー角膜の入手の困難さ,さらに角膜移植における本症のいっそうの増加は今後も引き続き重要な問題である(症例1).LIが全能の治療法でないことも次第に明らかとなってきた.LI後,眼圧が再上昇し眼圧コン(40)図4症例4および類似症例a:急性発作時の前眼部所見.散瞳,充血,角膜浮腫が認められる.b,c:白内障術後には前房深度(b),周辺前房深度(c)は著しく深くなる(aとは異なる症例).abc図5症例5最終的に線維柱帯切除術を施行し,濾過胞が形成されコントロールは良好となった.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006????(41)トロールが悪化する症例がかなり存在することが明らかとなってきており注意を払う必要がある(症例2,3).特に急性および慢性のACGに対するLIやPI後にその半数以上の症例に慢性の眼圧上昇をきたし,そのなかの半数以上が濾過手術を含めた追加的な治療が必要となることも報告されている3,4).一方で,AACGの僚眼や,まだ眼圧上昇のないACG予備軍〔primaryangleclo-sure(suspect)〕に対する予防的なLI後に眼圧が上昇する危険性は非常に少ないが,皆無ではないことも知っておく必要がある(症例2).LIやPIでは術後の房水の流出経路が変化するため白内障の進行が速まることが推定され,さらに高齢化によりこのような症例に対する白内障の手術の適応がいっそう増加することが予想される.このとき,すでに行ったLIによる角膜内皮障害や縮瞳薬による縮瞳や核の硬化は手術の難易度を高め,白内障手術自体のリスクを増加させる(症例2,3).2)なぜ白内障手術か:白内障手術を施行することで症例4,5,6に示すようにACGの解剖学的な異常は解消し,長期的な眼圧上昇のリスクは軽減あるいは消失する5).急性,あるいは慢性のACGに対して白内障手術を行うことで中~長期的で良好な眼圧コントロールが得られることが知られてきた.特に慢性のACGでは隅角の器質的な異常がPIあるいはLI後も進行するため,中~長期的な眼圧上昇はほぼ必発とされる4).これに対し,白内障手術はACGの異常な形態を解消し,それによって眼圧の低下,眼圧下降治療薬剤の軽減,中~長期的な眼圧コントロールが得られる6,7).もっとも症例5のように眼圧コントロール不良なCACGでは最終的に濾過手術が必要となる場合もまれではない.手術時期についても今後検討が必要と考える.3)白内障手術の問題点:白内障手術は内眼手術であり,LIとは違ったリスクを背負っている.LI自体は経験豊かな眼科専門医であれば短時間で比較的簡便に行え,しかも短期的な治療成績は術者にかかわらずほぼ100%である.一方で白内障手術を選択する場合は手術に伴うリスクが皆無ではない.破?,感染症,角膜内皮への影響,特に前房が非常に浅い眼に対する白内障手術は,それだけで白内障手術のリスクが高まることは言うまでもない.しかも良好な視力の患者を手術する場合,術後の視力が改善することはありえず(屈折は改善するが),眼内レンズの測定誤差によってはむしろ患者の満足度が低下する恐れもある.LIの適応についてはいくつかの考え方が提起され,一定のコンセンサスが得られている.今後,ACGに対する白内障手術(clearlensを含む)に関してもその適応を含めてなんらかの基準が提起される必要がある.文献1)澤口昭一,桑山泰明(編集):閉塞隅角緑内障:診断と治療のアップデート.あたらしい眼科22:1167-1217,20052)SakaiH,ShinjoS,NakamuraYetal:Comparisonoflatanoprostmonotherapyandcombinedtherapyof0.5%timololand1%dorzolamideinchronicangleclosureglau-ab図6症例6a:暗室では全方向に超音波生体顕微鏡で隅角閉塞の所見がみられる.b:白内障術後に隅角は全方向に広く開大した.———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.8,2006(42)comainJapanesepatients.21:483-489,20053)AungT,AngLP,ChanSPetal:Acuteprimaryangleclosureglaucoma:long-termintraocularpressureout-comeinAsianeyes.131:7-12,20014)Alsago?Z,AungT,AngLPKetal:LongtermclinicalcourseofprimaryangleclosuregalucomainanAsianpopulation.?????????????107:2300-2304,20005)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocesscon?gurationaftercata-ractsurgeryforprimaryangleclosure.113:437-441,20066)筋野哲也,上野聡樹,青山裕美子ほか:慢性閉塞隅角緑内障に対する水晶体摘出の影響.臨眼52:369-372,19987)JacobiPC,DietleinTS,LukeCetal:Primaryphacoemul-si?cationandintraocularlensimplantationforacuteangleclosureglaucoma.109:1597-1603,2002『あたらしい眼科』別巻発売のお知らせ発売中特集:トシル酸トスフロキサシン点眼液定価:2,940円(本体2,800円+税5%)送料は140円です。本誌、臨時増刊号とは別に本年も別巻を発行いたしました。本号は特別号のため、年間予約ご購読料に含まれておりません。お申し込みは、小社ホームページご注文フォーム、郵便、FAXのいずれにても結構です。あるいは、本誌巻末に綴じ込んであります「振替用紙」にてお振込下さい。年間予約ご購読読者様はお申し込みの際、読者コードを必ずご記入下さい。〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5階ホームページ:http://www.medical-aoi.co.jpFAX:03-3811-06372006年7月株式会社メディカル葵出版