———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS2.臨床所見の原則と捉え方基本病像は角膜中央部に単発して起こる円形の浸潤病巣である.この浸潤病巣は細菌そのものではなく,好中球などの炎症細胞が集積したものを見ていることを念頭におく.これは“感染症に禁忌”であるステロイドの点眼を行ってしまった場合,起炎菌が増殖しつつあってもみかけ上病巣が縮小するというパラドックスの原因であり,判断を誤らせてしまう要因になることを肝に銘じるべきである.発症に至る要因にはさまざまなものがあるため,基本病像は大きく修飾されうる.先行する角膜上皮障害やコンタクトレンズ装用者においては中央部に限らず周辺部角膜に病巣ができることも少なくない.この場合,円形ではなく,不整形を示すこともある.3.微生物学的検査感染性角膜炎の診断に鏡検および培養検査は欠かすことができない.具体的なことは成書に譲るが,臨床実地において重要な点について以下言及する.1)直前に防腐剤を含む点眼を行わない.角膜擦過時には点眼麻酔が必要であるが,通常のベノキシールR点眼には防腐剤が含まれており,これは培養検査の検出率を下げてしまう.必ず防腐剤を含まない点眼麻酔薬(ベノキシネートRミニムスなど)を使用する.2)眼 瞼縁などには触れずに角膜病巣のみから検体を採取する.はじめに感染症の鉄則は起炎菌の同定とそれに即した抗微生物薬の選択である.しかし実際の臨床の現場では起炎菌の同定未了の状態で治療を開始する.この初期治療ではわが国における感染症の“トレンド”を把握し,想定される起炎菌としてどのようなものがあるのかを知っておくことが最大の武器であろう.臨床の現場で遭遇するさまざまな角結膜感染性疾患について,その臨床所見からどのような初期治療を選択していくかに主眼をおいて筆者なりの考え方を述べさせていただく.なお,紙面の都合上本稿では角膜炎を中心とし,結膜炎については他書に譲ることとする.I感染性角膜炎の治療の前に1.透明組織を場とする感染症感染性角膜炎は当然のことながら角膜という透明組織を感染の場としている.このことは,病巣を詳細に観察することを可能としており,日々刻々と変化する所見を確実に捉えていく義務をわれわれ眼科医に与えるものである.本疾患の治療の目的は透明治癒である.感染をただ収束させればよいというわけにはいかず,的確な初期治療により瘢痕形成を最小限にとどめ,視力低下を防ぐ必要がある.瘢痕による角膜混濁のみならず,治癒後の視機能にも注意を払う必要がある.(3)ツꀀ 277*Toshihiko Uno:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕宇野敏彦:〒791-0295 愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)特集眼科薬物治療トレンド2008 あたらしい眼科 25(3):277282,2008角結膜感染性疾患InfectiousDiseaseontheOcularSurface宇野敏彦*———————————————————————-Page2278あたらしい眼科Vol. 25,No. 3,2008(4)桿菌に注意する必要がある.2.臨床所見の特徴細菌性角膜炎の臨床所見はきわめて多様であり,細菌学的検査の結果がきわめて重要である.しかしCL関連細菌性角膜炎のなかにはその臨床所見に特徴がみられることも少なくない.まず症例を供覧する〔症例〕25歳,女性.約3日前から左眼の違和感,結膜や眼瞼縁の常在菌の混入をなるべく防ぐ必要があり,擦過の際,病巣以外には触れないように注意する.このため開瞼器を使用することが望ましい.また病巣擦過の前に生理食塩水で病巣周囲を洗浄するとよい.3)潰瘍部の辺縁を擦過.病巣の中心のすでに融解が進んだ部分からは菌の検出は困難である.潰瘍部の辺縁の,融解していないところを狙って角膜擦過するとよい.4)スライドグラスにこすりつけない.綿棒などで病巣擦過した検体はスライドグラス上で転がすように塗布するとよい.こすりつけると検体中の菌が破壊されて判断がむずかしくなる.IIコンタクトレンズ関連細菌性角膜炎コンタクトレンズ(CL)関連感染性角膜炎はCL販売形態および保険行政の混乱もあり,患者数はかなり増加している.10代,20代の若年者の視力を脅かす眼感染症であることも大きな問題である.まずよりどころになるものとして“感染性角膜炎全国サーベイランス”について復習してみたい.1.感染性角膜炎全国サーベイランスより本サーベイランスは2003年の1年間に全国24施設で診療した感染性角膜炎について,細菌学的検査の結果・患者背景・治療などをまとめたものである1).これによると30歳未満の症例の約9割がCL装用者であるという結果であった.図1は検出菌(細菌)別にCL装用者の割合を示したものである.CL装用者で検出されやすい菌としてStaphylococcusepidermidis, Pseudomo-nasaeruginosa, Serratia sp. の3菌種がまずあげられる.同様の結果はBourcierらも指摘しているところであ り2),CL感染の細菌性角膜炎の起炎菌としてまずこの3菌種を念頭におくべきである.さらに図2はCLの種類と起炎菌についてのものである.従来型のソフトコンタクトレンズ(SCL)および2週間交換などの頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)ではグラム陰性桿菌が起炎菌として特に頻度が高いことがわかる.すなわち,装用したCLをはずし,洗浄・保存・再装着をくり返すCLの装用者での細菌性角膜炎起炎菌としてグラム陰性図1主要な検出菌ごとのCL装用者の割合症例数を上に示す.S.epidermidis, P.aeruginosa, Serratia sp.の3菌種においてCL装用者が多い.(文献1の図6を元に改変)?????????????????????????????????????????????????????????sp.17171195例:CL使用(-):CL使用(+)100806040200(%)図2CLの種類と起炎菌FRSCLや従来型のSCLではグラム陰性桿菌が検出される割合が高い.FRSCL:頻回交換SCL,DSCL:ディスポーザブルSCL,HCL:ハードコンタクトレンズ.(文献1の図5を元に改変)FRSCLDSCLSCL(従来型)HCL治療用SCL:検出されず:真菌・アメーバ:その他:グラム陰性桿菌:グラム陽性球菌50454035302520151050(例)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol. 25,No. 3,2008279(5)チアがCLと親和性の強い菌であるので,この2菌種を念頭におく必要がある.ハードコンタクトレンズ(HCL)やdisposable SCLの場合は本来眼表面に存在するグラム陽性球菌の頻度も高いため,緑膿菌とセラチアとともに表皮ブドウ球菌を含むCNS(coagulase negative Staphylococcus)も考慮する.臨床所見からは先述の症例のように,融解傾向の強い円板状ないしは輪状浸潤を伴う症例で緑膿菌とセラチアを考えていくべきと思われる.起炎菌が判明するまでの初期治療はニューキノロン点眼薬の頻回点眼を基本とするが,緑膿菌などのグラム陰性菌を想定する場合はアミノグリコシド点眼薬の併用も考える.CNSなどグラム陰性菌を念頭におく場合は,アミノグリコシドあるいはセフェム系の点眼薬などから併用を考えてよい.4.予想される治療経過と注意点緑膿菌などのグラム陰性菌が起炎菌の場合,治療開始後に病巣周囲の角膜浮腫が増強することがある.病巣が視軸をはずれている場合ではかえって視力が低下したと不満を訴えることも少なくない.詳細な機序は不明であるが,治療によって細菌そのものは死滅しつつあっても菌体外に放出されたさまざまなトキシンなどが周囲の角膜浮腫を増強させると考えるとわかりやすい.円板状の病巣そのものの変化を詳細に観察することが大切であり,このような経過をたどりうることをあらかじめ説明のうえ治療を開始するとよい.IIIアカントアメーバ角膜炎代表的なCL関連感染性角膜炎の一つである.症例数さらには眼痛を自覚するようになり近医受診後ただちに愛媛大学病院眼科を紹介受診された.FRSCL(2週間交換)を使用し,ケアにはいわゆるMPS(multi purpose solution)を使用するもこすり洗いは行っていなかった.視力は手動弁.前眼部所見を図3に供覧するが,傍中心部に融解傾向の強い円形の浸潤病巣を呈しており,周囲には広い範囲で強い角膜浮腫を伴っていた.なお,角膜擦過物よりグラム陰性桿菌を認め,培養で緑膿菌が検出されている.本症例は比較的短期間に重症化するCL関連細菌性角膜炎の典型的な症例である.緑膿菌などのグラム陰性桿菌を起炎菌として想定すべき臨床所見である.角膜融解の進行が速く一刻も早く治療を開始すべきであるが,治療にはよく反応する例が多い.3.パターン別起炎菌推定法細菌性角膜炎の確定診断は病巣擦過物から細菌を同定することであり,その抗菌薬感受性試験に応じて薬剤の選択を行うのが王道である.しかし冒頭でも述べたように,現実的には病歴・患者背景・臨床所見から治療を開始していく必要がある.例外も多数あると思われるが,ここでは私見も交え,かなり割り切った“パターン別起炎菌推定法”を提示する(図4).前述のように,FRSCLや従来型のSCLなど,洗浄・保存・再装着をくり返すCLの装用者ではグラム陰性桿菌をまず起炎菌として想定する.なかでも緑膿菌とセラ図3CL関連細菌性角膜炎症例の前眼部所見図4CL関連細菌性角膜炎におけるパターン別起炎菌推定法3大主要起炎菌…CNS・緑膿菌・セラチア重症!重症度から緑膿菌・セラチア?軽症CNS?FRSCL従来型SCLCLの種類からHCLdisposableSCL緑緑膿菌・セラチア?3大主要起炎菌———————————————————————-Page4280あたらしい眼科Vol. 25,No. 3,2008(6)軟膏を併用する.消毒剤の一種であるクロルヘキシジン(0.02%のステリクロンRとして市販されている)は結膜の洗浄・消毒の適応をもっており,原液のまま頻回点眼を行える.さらに欧米ではプールなどの消毒剤として市販されているPHMB(ポリヘキサメチレンビグアナイド)も0.02%の濃度での使用がなされており,クロルヘキシジンとほぼ同様の臨床効果であったという報告がある4).欧米では消毒剤であるクロルヘキシジンあるいはPHMBを中心とした治療であり,わが国では抗真菌薬を中心として施設によって消毒剤も併用しているというのが大筋のところであろう.治療方針については今後さらなる検討が必要であろう.IV真菌性角膜炎真菌性角膜炎はカンジダ(酵母菌)によるものと糸状菌によるものに大別できる.治療に難渋しやすい疾患であるが,現在の治療方針についてまとめてみたい.1.抗真菌薬の現況近年抗真菌薬のレパートリーが増えたためわれわれ眼科医も従来の画一的な治療から症例に応じた治療が可能となりつつある.その詳細は成書を参照していただくこととし,本稿では治療に必要なポイントのみを解説する.なお,眼科的な適応のある薬剤はピマリシン(点眼・眼軟膏)のみであり,その他の薬剤の眼局所への使用は適応外であること,使用に際しては医師の裁量となり,インフォームド・コンセントをとるなど,適切な対応が望まれる.抗真菌薬の主流はアゾール系薬剤であり,点眼用としても古くから使用されてきた.フルコナゾールは原液のまま点眼・結膜下注射が可能であるが,カンジダ属でも耐性化が進行している.糸状菌に対する効果は期待しにくいので治療の選択肢からはずしておくのが賢明であろう.ミコナゾールは生理食塩水などで10倍希釈して用いる.フルコナゾール耐性のカンジダおよびアスペルギルスにも一定の効果が期待できる.眼局所への刺激が強いこと,希釈後の安定が悪く2,3日ごとの再作が必要などの注意点に留意する.ボリコナゾールはFusarium, Paecilomyces, Alternariaなどの角膜炎起炎菌に対し効としては細菌性のものに及ばないが,昨今増加傾向であり3),治療が困難で長期に及ぶことを考慮すると社会的にも大きな問題である.本疾患はまず特徴的な所見を把握することにより臨床的診断を迅速に行うことが重要である.1.臨床所見アカントアメーバ角膜炎は上皮内を炎症の首座とする場合と実質を首座とする場合がある.前者の特徴的な所見として放射状角膜神経炎がまずあげられるが,一過性に出現して消失する場合もあるので必ずみられるものではない.一方,中央部角膜に多発する浸潤(図5)は必ずみられるといっても過言でなく,早期診断に最も重要な所見である.炎症が実質に移行すると円板状ないしは輪状の浸潤病巣を呈してくる.ここで大切なポイントはその実質内浸潤が多発する浸潤の集合体であるということである.この“ツブツブ”としたイメージもアカントアメーバ角膜炎診断の重要なポイントである.2.治療方針治療方針にゴールデンスタンダードはない.決め手となる薬剤がないため,各施設で独自に工夫したメニューを設定しているところが多い.一般的にはフルコナゾール,ミコナゾールを代表とするアゾール系薬剤を自家調整ののち頻回点眼を行う.施設によってはピマリシン眼図5アカントアメーバ角膜炎の前眼部所見9,11時方向の周辺部角膜に放射状角膜神経炎を認める.瞳孔領には多発する小浸潤の集合体が認められる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol. 25,No. 3,2008281(7)3.治療方針フサリウムなどの薬剤に感受性の低い起炎菌の場合,メディカルな治療には限界があり,次項の角膜移植の適応を睨みながら治療していく必要がある.カンジダが起炎菌である場合はアゾール系薬剤を自家調整したうえで頻回点眼を行う.前述のように,フルコナゾールは原液のまま点眼が可能であり利便性が高い.このほかミコナゾール・ボリコナゾールも使用可能である.フルコナゾール耐性のカンジダの台頭が叫ばれて久しいが,これを考慮する場合はミコナゾールあるいはボリコナゾールへのスイッチが有用であろう.糸状菌が起炎菌であればピマリシンとアゾール系薬剤の併用を行う.筆者はピマリシン眼軟膏(1日5回)とともにボリコナゾールの頻回点眼を第一選択としている.もちろんミコナゾールも使用可能であり,アスペルギルスなどキャンディン系薬剤のミカファンギンに感受性を有している起炎菌であることがわかっている場合にはこれも選択肢に入れる.糸状菌が起炎菌の場合,治療の経過中角膜実質深層に病巣が残っているにもかかわらず上皮が修復してしまう場合も多い.このときは薬剤の移行性を考慮し角膜上皮を擦過することも考慮してよい.4.治療的角膜移植前項のメディカルな治療が奏効しない場合治療的角膜移植を考慮する.外科的治療に踏み切るためにはいくつかの条件がある.まずこれまでの治療が最大限のものであるかということを確認する必要がある.感染症の治療は“過剰なくらい”行うべきであり,特に糸状菌感染の場合は初期から最強の治療を行うべきである.これによりメディカルな治療の限界を超えているのかの判断が早期に可能となる.つぎに病巣が完全に切除できる範囲にとどまっているかの判断を行う.通常使用するトレパンの直径78 mmを一つの基準とし,これを超えないうちに角膜移植の必要性を判断する.外科的治療の時期を逸すると隅角の閉塞をはじめきわめて厳しい予後が待っている.果が期待でき,1%の濃度で点眼加療が可能である5).キャンディン系のミカファンギンは比較的新しい系統の抗真菌薬である.カンジダに対し殺菌的に作用するほか,アスペルギルス属に効果がある.一方,フサリウムなど多くの糸状菌には無効である.点眼による薬物動態には不明な点が多い.ピマリシンはポリエン系の薬剤であり,フサリウムを含め幅広い抗菌スペクトルムを有する.結膜刺激症状,マイボーム腺炎,眼瞼炎などの副作用があるが,眼軟膏製剤のほうが副作用は少ないようである.2.臨床所見真菌性角膜炎は臨床所見および治療に関し,カンジダによるものと糸状菌によるものの2者に分けて考えるとよい.カンジダによる角膜炎は比較的限局した感染病巣を呈し,融解傾向が強い.ただし,同様の所見を取りうる細菌性角膜炎との鑑別はスリットランプのみでは困難である.糸状菌による病巣は境界が不鮮明で“羽毛状”とも形容される.初期には角膜実質の融解傾向が少ないこと,endothelial palqueとよばれる内皮面での病巣の広がり(図6)があれば本疾患を疑う手がかりとなる.反面,細菌学的検査では真菌を捉えることがむずかしく,上記臨床判断のみで治療を行わなければならないことが多い.図6フサリウムが起炎菌であった真菌性角膜炎中央部角膜実質深層の病巣とともにendothelial plaqueを認める.———————————————————————-Page6282あたらしい眼科Vol. 25,No. 3,2008Acanthamoeba keratitis:a parasite on the rise. Cornea 26:701-706, 2007 4) LinksLim N, Goh D, Bunce C et al:Comparison of poly-hexamethylene biguanide and chlorhexidine as monother-apy agents in the treatment of acanthamoeba keratitis. AmJOphthalmol 145:130-135, 2008 5) Ozbek Z, Kang S, Sivalingam J et al:Voriconazole in the management of Alternaria keratitis. Cornea 25:242-244, 2006文献 1) 感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌 110:961-972, 2006 2) Bourcier T, Thomas F, Borderie V et al:Bacterial kerati-tis:predisposing factors, clinical and microbiological review of 300 cases. BrJOphthalmol 87:834-838, 2003 3) Thebpatiphat N, Hammersmith KM, Rocha FN et al:(8)