———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSくら含水率を高めても水の酸素透過係数(Dk値)を超えることはできない1,2).またレンズの形状保持性,耐久性,耐汚染性を維持しながら薄型にし,酸素透過率(Dk/L)を高めることには技術的な限界がある.このような理由から従来型SCLは酸素透過性があまり高くないが,水分が多いため,柔軟で角膜への刺激が少なく,角膜形状にフィットしやすいという特徴がある.含水性SCLは,素材に含まれるイオン性成分の多寡でイオン性(イオン性成分の含有量1mol%以上)と非イオン性(イオン性成分の含有量1mol%未満)の2つに分けられる.これがさらに素材の含水率の高低で高含水(含水率50%以上)と低含水(含水率50%未満)の2つに分けられ,FDA分類(米国食品医薬品局の基準による分類)ではⅠ~Ⅳの4つのグループに分けられている(表1).最近は,乾燥しにくくするために素材に親水性高分子を配合したり,保存液中に保湿成分を添加したりしたレンズもあり3,4),必ずしもこの分類によるレンズの性質が当てはまらないこともあるが,基本的な考え方として以下に示すFDA分類での従来型SCLの特徴を理解しておくことは重要である(表1).グループⅠ:低含水非イオン性素材のSCLである.低含水率で非イオン性であり蛋白質の汚れは付きにくく,耐久性に優れる.低含水率であるため酸素透過性が低いが,装用時の乾燥感が少なく,また素材の形状保持性が良好なため薄型に作られることにより角膜形状へ柔軟にフィットし,外れにくく,長時間の装用でも装用感はじめに従来型ソフトコンタクトレンズ(SCL)といえばハイドロゲル(含水性ゲル)を主成分とした含水性SCLを意味しており,現在も多くの種類の従来型SCLが各メーカーから発売されている.従来型SCLは,素材のイオン性と含水率で,それぞれ特徴があるが,特別な場合を除きSCLを処方するうえで,その違いをそれほど意識する必要はなかった.しかし最近発売されたシリコーンを主成分としたSCL,すなわちシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)は,従来型SCLとレンズの性質が大きく異なっており,SCLを処方する場合には,従来型SCLとSHCLの特徴を理解し,レンズを選択する必要が出てきた.そこで本稿では,従来型SCLとSHCLの特徴を概説し,SCLを処方する場合の従来型SCLとSHCLの選択時の一般的な考え方を述べることにする.I従来型ソフトコンタクトレンズの特徴コンタクトレンズ(CL)の装用による角膜への影響を少なくするためには,大気中からの角膜への酸素供給が減少しないようにすることが重要である.従来型SCLは,主成分の含水性ゲルが酸素を透過しないため,素材中の水を介して角膜に酸素を供給している.そこでレンズの酸素透過性を高くするためには,素材の含水率を高くするか,レンズを薄くする必要がある.しかし含水率が高くなるとレンズは脆く,汚れがつきやすくなり,い(3)9079608034526特集●コンタクトレンズ・ここが知りたいあたらしい眼科25(7):907~912,2008従来型ソフトコンタクトレンズとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの選択方法SelectionofHydrogelSoftContactLensesandSiliconeHydrogelContactLenses塩谷浩*———————————————————————-Page2908あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(4)グループⅣ:高含水イオン性素材のSCLである.高含水率でイオン性であるため帯電した蛋白質の汚れが他のグループのSCLより付きやすく,低含水率の素材より軟らかく耐久性は劣り,長時間の装用時に乾燥感が出やすい.しかし装着直後のフィット感が良好で,装用感への慣れが早いレンズが多い.高含水率であるため酸素透過性が高く,長時間の装用での角膜への負担が軽い.IIシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの特徴SHCLは,シリコーンを主成分とした新しいタイプのSCLである.従来型SCLが素材の水を介して酸素を透過しているのに対して,SHCLは主として素材のシリコーンを介して酸素を透過している.シリコーンのDk値が水と比べて数倍以上と非常に高いため,SHCLは含水率が50~60%より低い値ならば,含水率が低いほどDk値が高い1,2).したがってSHCLは酸素透過性を高くするために含水率を高める必要がなく,その特徴であるが良いレンズが多い.グループⅡ:高含水非イオン性素材のSCLである.高含水率であるためグループⅠのSCLより汚れが付きやすいが,非イオン性であるためグループⅢやグループⅣのSCLよりは帯電した蛋白質の汚れは付きにくい.また低含水率の素材より軟らかく耐久性は劣り,厚みのあるデザインで作られることにより,装用直後のフィット感に優れぬレンズもあるが,固着しにくいため,角膜周辺部で涙液交換が十分に行われ,長時間の装用時にも乾燥感が少ないレンズが多い.酸素透過性が高く長時間の装用に適している.グループⅢ:低含水イオン性素材のSCLである.イオン性であるためグループⅠのSCLより帯電した蛋白質の汚れは付きやすいが,非イオン性であっても高含水率であるグループⅡのSCLと同程度の汚れの付きやすさであると考えられる.低含水率であるため酸素透過性は低いが,装用時の乾燥感が少なく,耐久性が優れているレンズが多い.表1FDA分類と従来型ソフトコンタクトレンズの特徴FDA分類素材の特性特徴グループⅠ低含水(含水率50%未満)非イオン性酸素透過性は低い.汚れが付きにくく,耐久性に優れる.薄型でも形状保持性が良い.グループⅡ高含水(含水率50%以上)非イオン性酸素透過性は高い.汚れがやや付きやすく,耐久性はやや劣る.柔軟性があり,固着しにくく,乾燥感が比較的少ない.グループⅢ低含水(含水率50%未満)イオン性酸素透過性は低い.汚れがやや付きやすいが,耐久性に優れる.形状保持性が良く,乾燥感が比較的少ない.グループⅣ高含水(含水率50%以上)イオン性酸素透過性は高い.汚れが付きやすく,耐久性は劣る.柔軟性があり,装用感が良い.表2シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの種類製品名O2オプティクスアキュビューRアドバンスTMアキュビューRオアシスTMアキュビューRオアシスTM乱視用ピュアビジョンピュアビジョン乱視用2ウィークプレミオメーカーCIBAVisionJohnson&JohnsonJohnson&JohnsonBoush&LombメニコンFDA分類ⅠⅠⅠⅢⅠ含水率(%)2447383640Dk*14060103101129Dk/L**17585.7147110161装用形態1カ月終日装用2週間終日装用2週間終日装用1週間終日装用2週間終日装用1カ月連続装用1週間連続装用*Dk:酸素透過係数〔単位=×1011(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕.**Dk/L:酸素透過率〔単位=×109(cm/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008909(5)ばれる弧状の角膜上皮障害やレンズ下に小さい透明な球体であるムチンボール(mucinballs)(図3)が認められることがあり,注意が必要である.III従来型ソフトコンタクトレンズの選択方法これまでの一般的な従来型SCLのなかから処方するレンズの種類を選択する場合には,まず,装用者の希望しているCLの使用スタイルからレンズの種類を選択する.すなわち,日常的に規則正しく使うのか,必要なときだけ使うのか(毎日装用,不規則装用)などの装用者の希望しているCLの使用スタイルを検討し,使用可能期間により分類されているSCL(1日交換,1週間交換,酸素透過性を維持しながら,レンズとしての柔軟性と,ある程度のイオンの透過性を保持するように含水率が設定されている.元来,SHCLは,主成分であるシリコーンが疎水性で,親油性であり,硬い素材であるため,そのままレンズ化されると,従来型SCLと比べ蛋白質や脂質の汚れがつきやすく,柔軟性が劣り,角膜へ固着しやすくなることが問題とされてきた.そこでそれを克服するためSHCLの各製品では,表面処理や親水性高分子の配合などの素材への加工が施され,デザインも工夫されている.現在,日本では4社から5種類7製品(球面レンズ5製品,トーリックレンズ2製品)が発売されている(表2).SHCLの特徴をまとめると以下のようになる.すなわちシリコーンが主成分であるため酸素透過性が高く,長時間,長期間の装用でも角膜への影響が少ない.シリコーンの性質上,脂質の汚れが付きやすいが,低含水率で,素材の表面へ特殊な加工が施されているため蛋白質の汚れは付きにくく,装用時の乾燥感が少ない.従来型SCLより硬い素材であるため,角膜形状へのなじみが悪く,フィッティングが不良の場合,装用直後のフィット感が優れぬ場合,長時間の装用で角膜へレンズが固着すること(図1)があるが,耐久性が高く,形状保持性が良いため取り扱いやすい.また従来型SCLではまれなSHCLに特有の眼変化として,角膜上方輪部にSEALs(superiorepithelialarcuatelesions)(図2)とよ図1レンズの固着による球結膜の圧痕図2角膜上皮障害(superiorepithelialarcuatelesions:SEALs)図3ムチンボール(mucinball)———————————————————————-Page4910あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(6)SHCLの特徴を知っていれば,従来型SCLとSHCLの選択方法は理解しやすくなる.従来型SCLの選択方法の第二段階である装用時間と装用形態,最終段階である眼の装用条件では,主として素材の違いからレンズの種類を選択する.このとき素材の高酸素透過性,低含水率と素材への加工が装用者に利点をもたらす場合には従来型SCLより優先してSHCLを選択する.すなわち高酸素透過性により安全性の向上が期待されるため,長時間装用者,不規則装用者,若年者,酸素欠乏症状(pigmentedslide,角膜血管新生,角膜内皮細胞密度減少)の出現した既装用者,酸素欠乏による球結膜充血のある既装用者やレンズの厚みにより高酸素透過性を必要とする強度の屈折異常(強度近視,強度乱視,強度遠視)などの場合にSHCLを選択する.また低含水率と素材への加工による低乾燥性,耐汚染性により,軽度のドライアイ,乾燥感や球結膜充血のある既装用者,レンズが汚れやすいアレルギー性結膜炎の既往のある装用者の場合にSHCLを選択する(表3).Vシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの適応と非適応SHCLは,従来型SCLよりはるかに高酸素透過性で,乾燥感が少なく汚れにくい素材であり,生体に影響の少ない優れたレンズであるが,このレンズをSCLが適応となるすべての装用者に対して選択してはいけないのであろうか.素朴な疑問であるが,答えは可であると同時に否である.たとえSHCLの素材の性質が優れていても,現状ではSCLとしての他の要素で従来型SCLより劣っている点もあり,それぞれの装用者の眼の条件を検討したうえで選択することが処方を成功させるためには重要である.2週間頻回交換,定期交換,従来型SCL)のなかの適当なレンズの種類を選択する.つぎに装用時間の長さと装用形態(終日装用,連続装用,装用中の仮眠の有無)などの予想される装用状況を検討し,レンズの種類を限定する.最後に装用者の涙液,角膜,眼瞼結膜,瞬目,閉瞼の状態,屈折異常の程度,既往歴(ドライアイ,アレルギー性結膜炎,CLでのトラブル)などの眼の装用条件とSCLの使用環境(スポーツ,パソコン使用,アウトドア,車の運転)から総合的に判断して,素材の含水率,イオン性・非イオン性,酸素透過性,レンズのデザイン(ベースカーブ,サイズ,厚さ,周辺部形状)をどうするかを検討し,適正と考えられるレンズを決定する(図4).IVシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの選択方法SHCLの選択方法は,前述の一般的な従来型SCLの選択方法に,素材のまったく違うSHCLという選択肢が加わったということである.素材の違いから生まれる使用スタイルを検討使用期間により分類されたSCLのなかから選択(1日交換,1週間交換,2週間頻回交換,定期交換,従来型SCL)装用時間と装用形態を検討酸素透過性を考してSCLを選択眼の装用条件とSCLの使用環境を検討フィッティング,見え方,低乾燥性,耐汚染性からSCLの種類を決定図4従来型ソフトコンタクトレンズの選択方法の流れ表3シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの特徴と適応特徴適応高酸素透過性長時間装用者,不規則装用者,若年者,酸素欠乏症状(pigmentedslide,角膜血管新生,角膜内皮細胞密度減少)の出現した既装用者,酸素欠乏による球結膜充血のある既装用者やレンズの厚みにより高酸素透過性を必要とする強度屈折異常(強度近視,強度乱視,強度遠視)低乾燥性軽度のドライアイ,乾燥感や球結膜充血のある既装用者耐汚染性レンズが汚れやすいアレルギー性結膜炎の既往歴のある既装用者———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008911(7)SHCLは,酸素欠乏による合併症の少ない,安全性の高いレンズであると考えられているが,角膜浸潤(図5)が起こることがあるし,汚れが付きにくいレンズであるにもかかわらず巨大乳頭結膜炎(giantpapillarycon-junctivitis:GPC)(図6)が惹起されることもある.このように高酸素透過性,低乾燥性,耐汚染性を必要とする条件(特に乾燥感や充血をはじめとする従来型SCLの装用で問題を抱えているような既装用者)に対してSHCLを処方した場合に,装用者によっては合併症が起こることがある.トラブルの予防のためにCLの選択時にSHCLの適応と非適応を判断することができればよいのであるが,確実な基準がないのが現状である.しかし,これまでの筆者の処方経験からは,トライアルレンズのフィッティングでレンズのずれやエッジの浮き上がりがあり,ベースカーブを小さいものに変える必要がある眼では,装用開始後しばらくしてから,おそらくレンズの角膜上での動きが減少する時間帯にレンズが角膜に固着し,角膜上皮障害を起こす確率が高く,SHCLの非適応と考えられる.またトライアルレンズ装用時の数回の瞬目でレンズの表面に汚れが付着する状態の眼,CLの未経験者であれば上眼瞼結膜にわずかでも充血を伴う中等度のサイズの濾胞が散在する眼,SCL既装用者であれば上眼瞼結膜の円蓋部側にCL起因乳頭結膜炎(contactlensrelatedpapillaryconjunctivitis:CLPC)が認められる眼,ハードCL既装用者であれば上眼瞼結膜の眼瞼縁側にCLPCが認められる眼では,乳頭が増殖してGPC化する確率が高く,現状では1週間以上の長期間使用するSHCLは非適応であり,1日交換型使い捨てSCLが適応であると考えられる.VIシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの処方例最後に従来型SCLからSHCLへの変更で,装用者の自覚症状の見えづらさと乾燥感,他覚的所見の点状表層角膜症(supercialpunctatekeratopathy:SPK)が軽快した症例を供覧し,SHCLの特徴を理解するうえでの図5角膜浸潤7症例に認められた点状表層角膜症(supercialpunctatekeratopathy:SPK)図6巨大乳頭結膜炎(giantpapillaryconjunctivitis:GPC)———————————————————————-Page6912あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(8)助けとしたい.症例は43歳の女性で,酸素透過性ハードCLを24年間装用していたが,1年前からFDA分類グループⅣの2週間頻回交換SCLに変更した.装用開始後,徐々に矯正視力が低下し,近視化と乱視の出現で何度も度数を変更していた.疲労感と近方視に不自由さを感じ,慢性的な乾燥感と異物感があり,ヒアルロン酸点眼液を常用していた.初診時には両眼にSPKが認められた(図7)が,CLを外して2カ月の治療後にSPKが消失したため2週間頻回交換SHCLを処方した.変更後3カ月でも乾燥感と異物感はなく,角膜に異常は認められず(図8),SHCLの高酸素透過性と低乾燥性が奏効したと考えられた.おわりにSCLを処方する場合には,CLを装用する眼の状態を観察し,実際に装用したレンズのフィッティングと経過観察から処方するレンズを選択することが基本である.従来型SCL,SHCLどちらのタイプを選択する場合にも素材のスペックだけを頼りにしないことが処方の成功につながると考えられる.文献1)植田喜一:シリコーンハイドロゲルレンズの基礎.日コレ誌49:10-15,20072)糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ.あたらしい眼科24:697-703,20073)小玉裕司:乾燥予防ワンデー使い捨てコンタクトレンズ.あたらしい眼科24:717-721,20074)佐野研二:コンタクトレンズ素材とその進歩.日コレ誌50:13-23,2008図8シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用後の症例の角膜