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写真:淋菌性角膜腫瘍

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(55)角環高知大学医学部眼科/東京歯科大学市川総合病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦264.淋菌性角膜潰瘍図1症例1:広範な角膜潰瘍と角膜穿孔(22歳,男性)両眼の流行性角結膜炎(EKC)としてレボフロキサシン点眼で治療されていたが,治療に抵抗し左眼角膜潰瘍出現後急速に悪化.角膜穿孔し紹介された.両眼脂よりニューキノロン耐性?????????????????????が検出された.保存角膜を用い10.5mm全層角膜移植術を施行し眼球形状を修復した.①②③④⑤⑥⑦図2図1のシェーマ①:著明な眼瞼発赤腫脹.②:虹彩脱出を認める角膜穿孔部(前房消失).③:瞳孔偏位.④:広範な角膜潰瘍と菲薄.⑤:極度の眼球結膜充血と結膜浮腫.⑥:全体に及ぶ実質内細胞浸潤.⑦:膿性クリーム状眼脂.図3症例2:周辺部角膜潰瘍と角膜穿孔(29歳,男性)症例1同様EKCとしてレボフロキサシン点眼で治療,治療に抵抗するため紹介された.著明な膿性クリーム状眼脂など特徴的な眼所見を認める.両眼脂よりニューキノロン耐性?????????????????????が検出された.図4症例2の術後2週間の前眼部写真3.5×1.5mm?apを用いて表層角膜移植術施行.眼所見の著明な改善と安定した前房形成が確認できる(虹彩前癒着解除のために散瞳薬使用).術前視力(0.01)→術後1カ月(1.5)に改善した.菌同定後,入院時否定していた風俗店利用を認め,排尿時痛後に眼症状が出現していたこともわかった.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(00)淋菌性結膜炎は新生児型と成人型に分類され,罹患すれば角膜潰瘍,角膜穿孔など重篤な合併症を伴う可能性のある疾患である.成人型は性感染症(sexual-lytransmitteddisease:STD)の一つであり淋菌感染者との性的接触による感染が知られており,近年増加傾向にある.好発年齢は20~30歳代の若年層で,男性のほうが多い.淋菌性結膜炎は化膿度の強い結膜炎の代表で,眼脂は膿があふれ出るようなクリーム状で膿漏眼とよばれる.極度の結膜充血,浮腫を呈し,眼瞼の腫脹,流涙,眼痛などの症状を示す.成人型は半日~3日の潜伏期で発症し,ほとんど両眼性である.多くは結膜炎で終息する場合が多いが,角膜に病変が及び角膜のバリア機能が障害されると,周辺部の実質内細胞浸潤や周辺部角膜潰瘍を併発する.これらの重症例では,非常に短時間で角膜穿孔に至る場合もある1).成人型は新生児型よりも角膜合併症が起こりやすく,進行も速く重篤になりやすい.細胞浸潤時に適切な治療を行えば速やかに反応するが,角膜潰瘍に至ると病気自体の進行もさらに速くなり,治療が難渋することから,視力予後は角膜合併症の程度による.治療はペニシリン系,テトラサイクリン系,マクロライド系,ニューキノロン系などの頻回点眼および全身投与を行うが,淋菌は薬剤耐性の獲得が速い細菌である.近年ペニシリンやニューキノロン耐性淋菌が報告されており,ニューキノロン系薬剤に対する耐性化に関して1980年代前半は0%であったが,90年代後半では24.4%と有意に上昇したとの報告もある2).できる限り早期から感受性の適合した薬剤を選択することが治療予後を左右するため,初診時の塗抹検査,細菌分離培養,薬剤感受性検査が必須である.淋菌は0.6~1.0?mのグラム陰性双球菌であり,塗抹検査は迅速で,確実な診断法として有用である.Polymerasechainreaction(PCR)法で淋菌のDNAを同定する方法も比較的速く結果が得られる.薬剤感受性検査の結果が不明な治療開始初期の段階では,第一選択として耐性化がほとんど問題になっていないセフェム系などとの複数系統の薬剤を使用することが望ましい.しかし薬物治療に反応なく角膜潰瘍から角膜穿孔に至った際,穿孔創が小さい場合(直径1.5mm以下)には治療用コンタクトレンズにより保存的治療が有効な場合もある.しかし範囲が大きいと保存的治療では前房の再形成を得られない場合が多く,外科的治療(角膜移植術)が必要となる.一般的に炎症の活動期には手術は禁忌とされているが,感染性角膜潰瘍で薬物による保存的治療が無効の場合には,感染巣の除去を目的として治療的角膜移植術が必要となる.角膜穿孔で角膜の構造の著しい変化をきたした場合は,眼球の形状を修復・維持するために整形的角膜移植術が行われる3).淋菌は温度変化や乾燥に弱く,体外では数時間しか生存できず潜伏期も短い.そのため成人型の結膜への感染は,感染分泌物をつけた手指やタオルなどで眼を擦るなど,性交渉を機会にして直接感染する.全身合併症には尿道炎,子宮頸管炎が多く,患者本人はもとより,sexpartnerを含めた全身治療を行う必要がある.積極的に他科との協力した治療にあたることが大切で,拡大防止のために感染経路の特定,混合感染の有無の確認,sexpartnerの診断,治療が重要である.文献1)UllmanS,RousselTJ,CulbertsonWWetal:Neisseriagonorrhoeaekeratoconjunctivitis.?????????????94:525-531,19872)田中正利:ニューキノロン系耐性Neisseriagonorrhoeaeに関する基礎的及び臨床的検討.日本化学療法学会雑誌47:543-552,19993)平山久美子,塩沢啓,沼慎一郎ほか:治療的・整形的角膜移植術が奏効した淋菌性角膜穿孔の2症例.臨眼56:167-172,2002

緑内障と他の視神経疾患の眼底所見と視野所見による鑑別

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS①検眼鏡検査(a)直像鏡:観察倍率が12倍と高く,乳頭の観察には優れているが,観察範囲が狭く,像が二次元であるという欠点がある.(b)倒像鏡:観察範囲は広いが拡大率が低く,立体像の得られる双眼倒像鏡を用いても,緑内障の検出および観察には不向きである.②細隙灯検査(a)非接眼レンズ:+78Dや+90Dを用いると倒像ではあるが,乳頭の拡大立体像および神経線維層が観察できるため優れている.(b)接眼レンズ:Goldmann型隅角鏡では,直像の拡大立体像が得られるため,散瞳のうえ必ず試みるべき検査である.③ステレオ眼底カメラ:眼底を立体観察でき,記録として残せば,陥凹の変化を経時的に観察できる.④その他の画像解析装置その他の機器として,opticalcoherencetomograph(OCT),Heidelbergretinatomograph(HRT),scanninglaserophthalmoscope(SLO)などがあるが,その所有は一部の施設に限られているのが現状である.また,乳頭や神経線維厚の立体計測は,各測定値の標準誤差が大きく,診断や鑑別には不向きである.経過観察用として用いることが望ましい.以上のように,視神経乳頭の所見を正確に読み取るために,日常の緑内障診療では散瞳下で非接眼レンズあるA.生理的乳頭陥凹と緑内障性視神経乳頭の特徴および鑑別はじめに2000~2003年に行われた多治見スタディによると,開放隅角緑内障の有病率は,40歳以上で3.9%であり,そのうち9割以上が正常眼圧緑内障であったと報告している1)ことからも,緑内障の診断における眼底検査の占める役割は,近年ますます高まったといえる.しかしながら,眼底の緑内障性変化は,典型例であれば正常との鑑別は容易であるが,比較的早期の緑内障では,正常眼にみられる陥凹,すなわち生理的乳頭陥凹との鑑別が困難になる.正常眼に見られる生理的乳頭陥凹は,一生涯,器質的および機能的障害はみられないものであるが,緑内障性陥凹は,乳頭辺縁部を形成している神経線維とグリア組織が脱落し,その脱落した部分だけ,生理的陥凹が拡大したものであり,それに相当して視野の欠損が検出されうる.このように両者の本質はまったく異なるものである.本項では,生理的乳頭陥凹と緑内障性視神経症の特徴と鑑別について概説する.I眼底検査の方法眼底の検査法によって,診断および鑑別能力が大きく異なる.(37)???*KyokoIshida:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕石田恭子:〒501-1193岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):599~615,2006緑内障と他の視神経疾患の眼底所見と視野所見による鑑別??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????石田恭子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006いは接眼レンズを用いた細隙灯検査(②)とステレオ眼底カメラ(③)は必ず施行したい検査である.II正常視神経乳頭および生理的乳頭陥凹の特徴緑内障を正確に診断するために,まず,正常視神経乳頭について理解する必要がある.ここにおいては,一般的な正常視神経乳頭の特徴について述べる.1.視神経乳頭の大きさと形状視神経乳頭の大きさは正常眼において0.8~6.0mm2と個体差が大きく,日本人の平均では,2.22mm2と報告されている.しかしながら,各個人での左右の乳頭の大きさにはほぼ差はない2).一般に,視神経乳頭の大きさは,正常眼(図1)と緑内障眼の間に差はないといわれているが,一方,正常眼圧緑内障の乳頭は,正常眼に比べて大きく,?性落?緑内障の乳頭は小さいとの報告もある3).正常眼の視神経乳頭の形態はさまざまであるが,通常,縦径は横径に比べ7~10%長くやや縦長の形態を有する.しかし,近視眼の多いわが国ではさらに縦長の乳頭が少なからず存在する.2.視神経乳頭辺縁部の形状乳頭辺縁部(リム)とは,視神経乳頭縁と陥凹縁との間の部分で,神経線維が存在する部位である.正常眼では,一般に乳頭がやや縦長で,陥凹がやや横長であることから,辺縁部の形態もこれに影響され,下方(inferi-or),上方(superior),鼻側(nasal),耳側(temporal)の順に広く4),ISN?Trule(図2)とよばれ,各部位でリムの厚みに差はあるが,神経線維の減少のあらわれであるリムの崩れは認めない.しかしながら,近視性の縦長の耳側に傾斜した乳頭や巨大乳頭ではISN?Truleが当てはまらないことも多く注意を要する.3.生理的乳頭陥凹陥凹の境界の決定には乳頭面上の血管走行に着目し,陥凹内に入る(あるいは乳頭辺縁部に出る)血管の屈曲点を乳頭上で結ぶことにより,陥凹の外縁を捉える(図3).生理的乳頭陥凹は通常,つぎのような特徴をもつ.①生理的乳頭陥凹は,乳頭のほぼ中央に存在し,やや横長の楕円形である.②生理的乳頭陥凹の奥行きは浅い.③生理的乳頭陥凹の大きさと深さは,乳頭の大きさに比例し,大きな乳頭ほど,大きく深い陥凹をもつが,陥凹縁にノッチは認めない(図4).④陥凹底の色調は黄色で,辺縁部(リム)は赤~橙赤色,陥凹壁はこれらの移行色をもち,陥凹底?陥凹壁?辺(38)図2ISN?Trule正常眼では,一般に乳頭がやや縦長で,陥凹がやや横長であることから,辺縁部の形態もこれに影響され,下方,上方,鼻側,耳側の順に広く,ISN?Truleとよばれる.しかしながら,近視性の縦長の耳側に傾斜した乳頭や巨大乳頭ではISN?Truleが当てはまらないことも多く注意を要する.上(Superior)下(Inferior)鼻側(Nasal)耳側(Temporal)図1正常視神経乳頭———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???縁部(リム)への移行はスムーズで,乳頭血管が,急激に屈折することはない⑤陥凹乳頭比(cup-to-discratio:C/D比)は,0.3~0.4以下である.0.7以上は,正常眼で5%にすぎず,異常である可能性が高い2).⑥水平C/D比>垂直C/D比:正常では,乳頭がやや縦長で,陥凹がやや横長であることから,水平C/D比>垂直C/D比であり,垂直C/D比のほうが大きい例は,正常眼の7%にすぎず,異常である可能性が高い.⑦陥凹は左右眼で対称:C/D比の左右差が0.2を超える場合は,正常眼では3%にすぎず,異常である可能性が高い(図5).III緑内障性視神経乳頭の変化緑内障性視神経障害は,神経線維の喪失による,リムの狭小化と乳頭陥凹の拡大,およびそれに伴う陥凹部の蒼白化,網膜神経線維層欠損に特徴づけられる.1.乳頭陥凹拡大と辺縁部の狭小化a.皿状陥凹緑内障の初期では,陥凹は視神経乳頭の全周方向に均一に浅く拡大し,その結果,乳頭辺縁部は,狭小化し皿状化(saucerization)する.皿状の陥凹(図6)は,特に血管の走行や,屈曲部などに注目し,立体観察をすることにより初めて把握でき,高眼圧緑内障の初期病変として重要である.b.陥凹の上,下耳側拡大とノッチングさらに緑内障が進行すると,浅く陥凹した部分は深みを増し,陥凹と辺縁部の境界はより明瞭となる.また,(39)図3視神経乳頭陥凹の境界の決定法正常視神経乳頭陥凹の境界の決定には乳頭面上の血管走行に着目し,陥凹内に入る(あるいは乳頭辺縁部に出る)血管の屈曲点を乳頭上で結ぶことにより,陥凹の外縁を捉える.図4正常サイズの視神経乳頭と,大きな生理的陥凹をもつ大きな正常視神経乳頭生理的乳頭陥凹の大きさと深さは,乳頭の大きさに比例し,大きな乳頭ほど,大きく深い陥凹をもつが,リムは保たれている.図5左右のC/D比に差がある片眼性の緑内障例図6皿状陥凹の1例浅い皿状の陥凹は,特に血管の走行や,屈曲部などに注目し,立体観察をすることにより初めて把握できる.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006この時期には,乳頭の上あるいは下極に向かって陥凹が拡大し,辺縁部の限局性の菲薄化,すなわちノッチングが観察される.ノッチングは,特に下耳側付近にみられることが多く,Bjerrum領域の視野障害と対応する(図7).一方,ノッチングが乳頭上極付近に観察され,下方の視野障害が先行する例は3割程度である.さらに進行すると,陥凹は最初のノッチング部と対側の方向にも拡大し,上下方向のリムが薄くなり,陥凹は縦長となる(図8).この時期になると視野は上下に弓状暗点を呈するようになる.c.辺縁部の全体的な消失末期に至ると辺縁部は全体に消失し,陥凹は全体に拡大する(図9).2.陥凹の深化,laminardotsign,undermining篩状板の孔の形や,大きさは乳頭の各部位により差があり,耳側は比較的小さい円形で,上下はやや大きい円形を呈し,正常眼でもみられることはある.しかし,緑内障の進行とともに神経線維が消失し陥凹が深くなると,陥凹底部に篩状板の窓孔が観察される.これをlaminardotsignとよぶ(図10).立体観察やSLOにより,篩状板の孔が不規則に拡大したり,横つぶれなど,配列の乱れや変形を認めた場合は緑内障,小さい孔が規則正しく並んでいる場合は生理的陥凹と鑑別される.さ(40)図7乳頭の下耳側にノッチングを認める正常眼圧緑内障症例上左:右眼視神経乳頭写真:乳頭下耳側のノッチングと対応する神経線維層欠損.上右:Heidelbergretinatomograph(HRT)画像:乳頭下耳側のノッチング.下左:Scanninglaserophthalmoscope(SLO)画像:ノッチングと対応する神経線維層欠損.下右:視野:神経線維層欠損と対応する視野障害.図8乳頭上下耳側にノッチングが形成された症例乳頭上下耳側にノッチングと神経線維層欠損を認める.この時期には,上下に視野障害を呈するようになる.図9末期の緑内障例末期に至ると,リムの全体的な消失と血管の耳側偏位を認める.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???らに進行すると陥凹底は,後方に偏位し,陥凹縁がえぐられたような下掘れ(undermining)を形成する(図11).3.血管走行の変化陥凹境界の決定に際しては乳頭上の血管の屈曲点を目安とするが,リムの変化に伴い血管の走行にも変化が現れる.a.Overpassing血管は陥凹底から,リムの表面に沿って走行するが,緑内障変化により陥凹が深くなると血管を支えていた組織が失われ,血管は陥凹から浮いて橋渡しをしたように走行する(図12).b.耳側偏位やがて,橋状に浮いていた血管は陥凹底に移行し,さらなる進行とともに,血管全体が耳側に偏位する(図9).しかし,生理的に大きな陥凹をもつ正常眼でも,血管が耳側に認められることがあるため注意を要する.c.Bayoneting陥凹縁では,血管の屈曲が強く,特にリムが下掘れ状になったところでは,血管がリムの下掘れに沿って一旦見えなくなってから,再び乳頭縁に現れ,bayoneting(銃剣状の走行)とよばれる(図11).4.乳頭陥凹拡大と乳頭の色調の変化(陥凹と蒼白部)正常眼では乳頭の陥凹部=蒼白部である.しかし,緑内障では,陥凹は,蒼白部に先行し拡大するため,両者の不一致が生じる.一方,他の疾患による視神経萎縮では,蒼白部>陥凹であるため,重要な鑑別所見である.5.乳頭出血乳頭上または,乳頭縁のノッチング部や神経線維層欠損部に隣接して存在することが多い.特に,正常眼圧緑内障に多く認められ,好発部位は,乳頭の下耳側,上耳側である.正常眼においては0.1~2%とされ,乳頭出血(dischemorrhage:DH)が認められた場合,緑内障の可能性,あるいは出血部位での進行の可能性を示唆する重要な所見5)であり,リムのノッチングや隣接する神経線維層欠損の有無,視野障害の有無をチェックする(図13).6.神経線維層欠損乳頭周辺の限局性の束状の神経線維層欠損(nerve?berlayerdefect:NFLD)は,糖尿病網膜症,光凝固後,正常眼においても認められることはあるが,緑内障の場合,乳頭陥凹拡大や視野欠損に先行して,乳頭耳上側や耳下側に生じることが多く,緑内障の早期診断に重要である.緑内障が進行すると,NFLDは乳頭縁のノッチングの部分から伸びる弓状の陰影として認められ,視(41)図10ラミナドットサイン(laminardotsign)を認める症例緑内障の進行とともに神経線維が消失し陥凹が深くなると,陥凹底部に篩状板の窓孔が観察される.図11リムの下掘れ(undermining)と血管の銃剣状走行(bayoneting)図12Overpassing陥凹が深くなると血管を支えていた組織が失われ,血管は陥凹から浮いて橋渡しをしたように走行する.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006野異常が明瞭となる(図7,8,13).さらに,広範なリムの変化を認める症例では,広い範囲にわたってびまん性に神経線維層が欠損する.神経線維は緑色光を最もよく反射するので,散瞳下で,緑色のフィルターを用いての観察や,SLOがその検出に有用である.7.乳頭周囲網脈絡膜萎縮(peripapillarychorioreti-nalatrophy:PPA)乳頭周囲網脈絡膜萎縮(PPA)は,乳頭に接して見られる半月状や輪状の脈絡膜変化で,検眼鏡的に,不規則な色素沈着を伴うPPAaと,近位に存在し,脈絡膜の萎縮を伴い強膜が透見可能なPPAbに分類される(図14).PPAaは,PPAbの外側に存在する場合と,単独に存在する場合があり,単独に見られるのは正常眼に多い.一方,PPAbは緑内障眼でしばしば認められ,その幅が広い象限ほど視神経乳頭リムの障害が強くなる傾向や,経過観察中のPPAbの拡大は,緑内障性視神経症の悪化(乳頭の変化と視野障害の悪化)とよく相関すると報告6)される.IVその他の鑑別を要する疾患生理的乳頭陥凹や緑内障性陥凹拡大と鑑別を要する疾患として,乳頭視神経乳頭の先天異常,中毒性視神経症,頭蓋内疾患による視神経萎縮,虚血性視神経症,Leber病などがあげられる.乳頭視神経乳頭の先天異常のほとんどは,視神経を詳細に立体観察することで,ある程度鑑別は可能である.診断に際しては,乳頭の大きさの異常(乳頭の大きさと黄斑部との距離の比:DM/DD比の測定),色調の異常(萎縮や低形成を示唆),乳頭部の陥凹や突出,乳頭上の増殖組織,乳頭周囲の網膜萎縮,乳頭部から起始する網膜血管の走行異常がないかを注意深く観察する.以下にいくつかの鑑別を要する疾患を示す.1.視神経乳頭低形成乳頭自体は小さく,乳頭周囲に正常の乳頭と同じ大きさの脱色素輪(doubleringsign)が認められる.診断にはDM/DD比≧3.2が参考となる.SSOH(superiorsegmentaloptichypoplasia)については,別項を参照.2.乳頭コロボーマ眼底下方に広がる白色の陥凹内に,脈絡膜,強膜が透見され,陥凹部の上方には不完全な視神経乳頭が存在する.(42)図13耳下に乳頭出血を認める正常眼圧緑内障例乳頭の下耳側に出血,ノッチング,神経線維層欠損,乳頭の上耳側にノッチング,神経線維層欠損を認め,鼻側に対応する視野欠損を呈する.図14乳頭周囲網脈絡膜萎縮を認める症例乳頭に接して見られる半月状や輪状の脈絡膜変化で,検眼鏡的に,不規則な色素沈着を伴うPPAaと,近位に存在し,脈絡膜の萎縮を伴い強膜が透見可能なPPAbを認める.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???3.視神経乳頭小窩(ピット)乳頭内の一部に生理的陥凹とは異なる円形の陥凹がみられる.大きさは0.1~0.7乳頭径(平均0.28).多くは耳側に存在し,ときに視野検査にて弓状暗点を呈する.漿液性黄斑?離を合併することがある(乳頭小窩黄斑症症候群).4.乳頭傾斜症候群一方の視神経乳頭縁が陥凹(下方が多い)し,反対側(上方)乳頭縁が突出し,しばしば乳頭周囲には楕円形の下方コーヌスを呈する.5.朝顔症候群視神経乳頭部の拡大および陥凹,陥凹内の白色組織,陥凹周囲の網脈絡膜萎縮輪が認められ,血管は狭細で,放射状,直線的に走行し,乳頭周囲で異常血管吻合が認められる.6.中毒性視神経症,頭蓋内疾患による視神経萎縮生理的乳頭陥凹では,陥凹部=蒼白部である.しかし,緑内障では,陥凹は,蒼白部に先行し拡大するため,蒼白部<陥凹となる.一方,中毒性視神経症や頭蓋内疾患では,早期には所見を認めないことが多いが,進行例では視神経萎縮を呈し,蒼白部>陥凹部となるため,重要な鑑別所見である.7.虚血性視神経症初期には,前部型の虚血性視神経症では乳頭辺縁部に火炎状出血を伴う蒼白腫脹を認めるが,後部型では特に所見はない.しかし,後期には,陥凹を伴う視神経萎縮をきたし蒼白化することがある.8.Leber病急性期には特有の発赤を有し,乳頭上および周囲血管が怒張,蛇行し,ときに表在出血をみる.乳頭はその後次第に退色し,陥凹を呈する症例もある.まとめ本項では,生理的乳頭陥凹と緑内障性視神経乳頭の特徴および鑑別について概説した.日常診療においては,常に,乳頭の立体観察およびステレオ写真撮影を行い,前述した項目について検討する.また,可能であれば,SLOによる神経線維層欠損の出現の有無を確認する.極早期にはそれでも鑑別困難な例があるが,この場合は6カ月から1年ごとにステレオ写真撮影および視野検査を行い,進行の有無を確認する.B.静的視野による診断と鑑別:緑内障と視路障害に伴う視野障害はじめに日常診療において,静的視野検査の占める役割は非常に大きく,静的視野を正しく読み取る能力は,視野障害をきたす疾患の診断と鑑別において不可欠である.本項では,緑内障および緑内障以外の視路障害に伴う視野障害の特徴,さらに両者の鑑別のポイントについて静的視野を用いて概説する.I静的視野のプログラムの選択Humphrey視野計(HFA)に代表される静的視野測定では,30?までを測定するプログラムを選択するのが望ましい.24-2では,神経低形成などの視野のedgeに暗点が出やすい症例や,下垂体腫瘍などの上方からの垂直ステップがみられる症例を見逃す可能性がある.閾値検査については,SITA(Swedishinteractivethresholdingalgorithm)では,正常者と緑内障の視野モデルから統計的推定を用い,被検者の応答に応じて視標刺激や視標呈示間隔が調整され,検査時間が大幅に短縮できるが,その原理から,基本的には緑内障専門のアルゴリズムと考えて用いるべきである.一方,fullthresholdでは半盲の検出に優れているとされ,頭蓋内疾患による視野障害が疑われる場合,可能であればこちらを選択する.II一般的な視野検査結果の読み方1.測定条件と方法図15は,正常眼圧緑内障患者の左眼視野のプリントアウトである.まず,視野図の上方(図15-①)に眼を(43)———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006向け,この視野がどのような条件および方法で測定されたかを把握する.2.検査の信頼性実際に視野図を判定する前に,検査の信頼性を確認する.検査の信頼性は,固視不良,偽陽性,偽陰性の3つ(図15-②),右下のGlobalIndexのSF(短期変動)(図15-③),ゲイズトラック法による検査中の固視表示(図15-④)から判定する.固視不良率が20%を超えた場合,偽陽性率や偽陰性率が33%を超えた場合,検査の信頼性は低いと考える.測定中に同一点を2回刺激して得られたその差から,短期変動(SF:shorttermfluctuation),すなわち測定中の反応のばらつきを知ることができ,正常範囲は1.0~2.5dBとされる.なお,SITAでは,SFは表示されない.固視不良,偽陽性,偽陰性,SFにより,視野の信頼性が低いと判定した場合は再検査を行うか,あるいは他のFastpacやSITA-fastなどに変えてみる.3.視野障害のパターンの評価視野障害のパターンを評価するには,数値テーブル,グレイスケール,トータル偏差,パターン偏差がある.a.数値テーブル図15の上段の中央にある数値テーブル(図15-⑤)は,測定点ごとで実測した閾値をデシベル(dB)表示したものである.b.グレイスケール実測値を5dBごとに分けて,それらを点の濃淡で表示したものがグレイスケールであり,大まかな視野の障害パターンを理解することができる.感度が低くデシベルの小さいものほど,濃く表示される(図15-⑤).c.トータル偏差視野の感度は年齢とともに低下するので,年齢を対応させた正常者と比較することが重要である.すなわち,トータル偏差は,測定値と年齢別正常値との差を測定点ごとに求めたものであり,その数値が中段左(図15-⑥)に示される.5dB以上の沈下が異常判定の一つの基準とされるが,正常者との差が5dB以下でもそれが正常者ではほとんど起こらないような場合は異常と判定しなくてはならない.そこで,HFAでは,そのような差が正常者の何%に起こるかを確率計算し,5%より低い確率でしか起こりえない場合を異常と判定して,5~0.5%の4段階でシンボル化して表示している(図15-⑦).d.パターン偏差びまん性の感度低下を除いて統計学的に算出されたものであり,白内障などによる中間透光体の混濁や縮瞳剤による全体的な視野の感度低下のために,視野が評価しにくい場合,局所的視野障害がより強調され有用である(図15-⑧).4.統計学的評価a.緑内障半視野テスト緑内障半視野テスト(GHT:glaucomahemi?eldtest)は,HFAに内蔵される視野判定プログラムで,上下の視野を5つのクラスターに分け統計学的に,正常範囲,境界閾,正常範囲外,全体的感度低下,異常高感度(44)図15Humphrey自動視野計プログラム中心30-2全点閾値検査の1例———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???の5種類の判定が行われる(図15-③の上段).b.グローバルインデックスプリントアウトの右下(図15-③)には,視野全体を統計解析した4つの指数が並んでおり,グローバルインデックスと総称される.(1)MD(meandeviation,平均偏差)は,年齢別の正常者との平均視感度の差を表し,マイナス数値が大きいほど視野障害が強い.(2)PSD(patternstandarddeviation,パターン標準偏差)は,正常者の視野の形状パターンから,どの程度逸脱しているかを表す指数であり,数値が大きいほど視野の凹凸が大きい.(3)SFは上述のとおり測定中の反応のばらつきを示す.(4)CPSD(correctedpatternstandarddeviation,修正パターン標準偏差)は,PSDをSFで補正したもの.いずれも,正常者の5%以下にしか起こりえない場合,各数値の隣に確率値(p値)が記載され,異常と判定される.III緑内障性視野障害の特徴と診断静的視野から,緑内障を正しく診断するためには,網膜神経線維の走行と緑内障性視野障害の特徴,および緑内障性視野障害の診断基準を理解する必要がある.以下にそれぞれを概説する.1.緑内障性視野障害と網膜神経線維層欠損網膜の網膜神経節細胞からの神経線維は,中心窩を通る水平経線の上方の網膜と下方網膜で大きく走行が分かれる(図167)).緑内障では,神経線維束が,視神経乳頭内で障害されると,その神経線維の支配領域の視機能が障害され,視野検査上で発見される局所的な感度の低下(図17:比較暗点)や孤立暗点(図18:絶対暗点)を呈する.やがて神経線維束の障害の程度が進むにつれて,早期の孤立暗点から,神経線維走行に沿った弓状暗点をきたす(図19).また,耳側での上下方の神経線維層の分離した走行から,一方のみが障害された場合,鼻側階段として現れる(図20).2.緑内障性視野障害のパターン緑内障性視野障害のパターンは,網膜神経線維の障害に対応して,①Bjerrum領域の孤立暗点(図18),②弓状暗点(図19),③耳側階段(図20),④全体的沈下のいずれか,またはこれらの組み合わせとして捉えることができる.進行すると,弓状暗点が上下の視野で進行した輪状暗点(図21)や,求心性視野狭窄(図22)へと進み,末期には中心部と耳側周辺部の島状視野(図23)のみとなり,最終的には中心部が消失する(図24).なお,視野の全体的沈下のみを呈する症例は白内障や,小瞳孔,弱視,屈折異常などの可能性があり,単独では診断的意義に欠けるため,他の所見を参考にする必要がある.(45)鼻側網膜耳側網膜視神経乳頭中心窩視神経の障害部位に対応している網膜障害部位沈下暗点Mariotte盲点(視神経乳頭に対応)耳側視野鼻側視野図16左眼の網膜神経線維束層と視野障害の関係上段:網膜神経線維束走行.中段,下段:網膜神経線維束障害と対応する視野異常の位置関係.(文献7より)———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(46)図17比較暗点の1例6~10dBの光感度閾値の低下を示し,大きさがMariotte盲点までの比較暗点.図18絶対暗点の1例図19網膜神経線維層欠損と一致する弓状暗点SLO(scanninglaserophthalmoscope)により検出された神経線維層欠損(左図)と,弓状暗点を示す同一症例の視野図(右図).———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(47)図20上方に耳側階段を認める1例図21輪状暗点視野障害が進行し,上下の弓状暗点が進行した輪状暗点.図22求心性視野狭窄の1例図23島状視野の1例中心部と耳側周辺部の視野のみ島状に残存.———————————————————————-Page12???あたらしい眼科Vol.23,No.5,20063.緑内障性視野異常判定のための基準緑内障性視野異常の検出にはいくつかの判定基準が用いられているが,臨床的な診断基準として広く用いられているのがAndersonらの判定基準8)(表1)であり,この基準の1つの項目でも満たす場合は,視野障害と視神経および神経線維層の障害との整合性を確認し緑内障性視野障害の診断を下す(図25).IV視路障害に伴う視野障害の特徴種々の神経眼科疾患が視野障害を呈するが,視路の解剖学的構造により障害部位に伴う基本的な視野障害のパターンは決まっている(図26)ため,緑内障との鑑別および病巣診断の参考となりうる.1.視交叉前病変視神経乳頭から視交叉前までの視神経の障害で,障害側の視野に中心暗点を含むさまざまな感度低下や,循環障害による水平視野欠損を呈する.a.虚血性視神経症急激な視力および視野障害を生じ,境界明瞭な水平半盲が特徴とされるが,弓状暗点や中心暗点,求心性狭窄もきたしうる.視野障害は通常非進行性であり,両眼性の水平半盲例では動脈炎性虚血性視神経症,片眼性では,非動脈炎性虚血性視神経症と考える.b.視神経炎55%の症例がびまん性の視野障害を呈し,45%が中心暗点などの局所性の暗点をもつ視野障害をきたす(図27).さらに,局所型の視野障害例の29%が水平半盲をきたしたと報告されている.視神経炎の視野は通常,改(48)表1Humphrey視野計における緑内障性視野異常のための判定基準1.パターン偏差の確率プロットで,p<5%の点が,最周辺部でない検査点に3つ以上かたまって存在し,かつ,そのうち1点がp<1%であれば,局所性の緑内障性欠損と考える2.CPSDまたはPSDにおいてp<5%3.GHTでの異常判定図24中心部が消失し,耳側視野のみ残存した症例図25早期緑内障性視野異常例パターン偏差確率プロット,CPSD,GHTのすべての判定で異常と診断されている.———————————————————————-Page13あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???善傾向(図27)を示す.c.中毒性視神経症,遺伝性視神経症両眼性の盲中心暗点,中心暗点,求心性視野狭窄をきたす.2.視交叉近傍病変解剖学的に視交叉では左右の鼻側線維が交叉するため,視野障害では特徴的な両眼性の耳側半盲を呈するが,浸潤,圧迫および循環障害などの病態によるため,必ずしも半盲は左右対称ではなく不完全であることが多い.また,病巣が視交叉部を下方から圧迫する場合は上方の,上方から圧迫する場合は下方の視野に障害をきたしやすい.まれではあるが,視交叉部が周囲から圧迫を受ける場合,両鼻側半盲を呈することがある.初期には視感度の軽度の低下のみを認めるため,視野結果は,実測閾値を用い垂直ステップの有無を判定する.a.下垂体腫瘍視交叉の前部を下方から上方に圧迫し,両眼の耳側上方の視野欠損を示す両耳側半盲(図28)を呈することが多い.b.髄膜腫鞍結節髄膜腫は左右いずれかに偏って発生することが多く,視力や半盲の程度に左右差がある.蝶形骨髄膜腫は,片眼の視力低下と鼻側の視野障害から始まる.c.頭蓋咽頭腫頭蓋咽頭腫は,視交叉部を後上方から圧迫するため,(49)図27視神経炎発症初期は中心暗点を示していたが,治療開始後10日で著明な視野改善を呈した.図26視路障害と視野異常の関係視路の各部位での障害によって特徴的な視野変化をきたしうるため,診断および鑑別の参考となる.左眼右眼左視野右視野314911121067825———————————————————————-Page14???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(50)耳側下方視野の障害が目立つ両耳側半盲を呈する.左右いずれかに偏って発生することが多く,左右差のある両耳側半盲となりやすい.d.脳動脈瘤眼動脈分岐部内頸動脈瘤がゆっくり増大し,片側性の視神経障害から,次第に視交叉部や反側の視神経を圧迫することがある(図29).また,外側から圧迫して,両鼻側半盲をきたすことがある.e.トルコ鞍空洞症候群(emptysella)トルコ鞍隔膜の欠損部からくも膜がトルコ鞍内に伸展し,下垂体が後方へ圧迫される状態で,両下鼻側1/4半盲,緑内障様の視野変化を呈することがある.3.視交叉後病変基本的には,患側と反対側の同名性半盲を呈し,後頭葉に近づくほど調和のとれた視野異常をきたす.V緑内障性視野障害と他疾患による視野障害との鑑別ポイント視野障害のパターンから,緑内障性視野障害と他疾患による視野障害を鑑別するためのポイントを以下に記す.1.網膜神経線維層の障害パターンか否か緑内障では,網膜神経線維の障害に対応して視野障害が出現する.そのため,視野障害を見た場合,網膜神経線維層障害型であるか否かをまず確認する.2.上下半視野の非対称性と水平経線との一致網膜神経線維走行の解剖学的特徴は,緑内障眼での上半視野と下半視野の障害程度の差として現れ,これも緑内障視野障害の特徴である(図15).また,特に,水平図28下垂体腫瘍による両耳側半盲———————————————————————-Page15あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(51)経線との一致から,病変部位を,網膜内層あるいは視交叉前の神経線維走行部位,Meyer?sloop,後頭葉の病変に特定できる.緑内障では,神経線維の走行に一致して鼻側のみ(図15)で,水平経線と一致する視野障害が片眼もしくは両眼に生じる.Meyer?sloopの病変では視野障害は両眼に生じ,同名性非協調性で耳側も水平経線と一致した視野異常をきたす.後頭葉病変では,両側同名性,調和性の視野異常となる.一方,網膜外層の病変,網膜より前の病変,視交叉部および視交叉後部病変による視野障害では,病変が水平経線と一致することはほとんど起こらないため,鑑別に有用である.3.垂直ステップの有無緑内障とは異なり,視交叉から後方の病変では,固視図29内頸動脈瘤による視神経萎縮および視野障害緑内障とは異なり,視神経萎縮の程度と視野障害の程度は一致しないことが多い.———————————————————————-Page16???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(52)点を通る正中経線を境に両側性に視野欠損が生じる(図28下垂体腫瘍,図29内頸動脈瘤,図30脳出血).経線の一致をHFAで判定する場合は,経線を挟んだ実測閾値を直接比較する.垂直正中線を挟んで隣り合う,上下の3つ以上の対で,一方が他方より常に実測閾値が低ければ,有意の垂直ステップと判断する(Millsの定義9)).あるいは,垂直正中線を挟んで隣り合う連続3点で3dB以上,または連続4点で2dB以上の閾値の差を認める場合,有意に垂直ステップありと判断する10)(図31).4.視野欠損の辺縁神経線維の障害,虚血性疾患,陳旧性の病変による視野障害では,イソプターの間隔が狭く急峻な辺縁をもつ異常となり,浮腫や,急性,活動性病変による視野障害では,イソプターの間隔は広く,緩やかな辺縁をもつ異常となることが多い.5.左右の視野の形の不一致性緑内障は通常両眼に発症するが,左右の眼の神経線維層が同程度で障害されることは少なく,通常,両眼の視野の形は一致しない.一方,視交叉から後方の病変で図30左側の脳出血による不規則な右側同名1/4半盲図31垂直ステップの見られる脳出血による視野障害例垂直経線を挟む枠に囲まれた実測閾値の5個の対で,一方が他方より常に実測閾値が低く,有意の垂直ステップと判断する.———————————————————————-Page17あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(53)は,同名半盲さらに,後頭葉に近づくにつれて左右で調和の取れた異常となる.まとめ本項では,静的視野による緑内障と視路障害に伴う視野障害の診断と鑑別のポイントについて概説した.緑内障性視野障害を正しく診断するには,視神経乳頭および神経線維層の障害との整合性を常に考慮する.視野所見が,水平経線や垂直経線に一致しているか否か,左右の半盲の形が一致しているか否かを判断することは,病巣診断のためにきわめて重要である.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)北澤克明監修:ClinicalScience検査法3.視神経乳頭の検査.緑内障,p133-152,医学書院,20043)TuulonenA,AiraksinenPJ:Opticdiscsizeinexfoliative,primaryopen-angleandlow-tensionglaucoma.????????????????110:211-213,19924)KirshRE,AndersonDR:Clinicalrecognitionofglauco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近視の乳頭所見と緑内障

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSに注目されており,「近視様乳頭」というキーワードが数年前から学会,論文などで散見される2).近視様乳頭の特徴としてあげられているのは,1)縦長乳頭,2)耳側の乳頭近傍網脈絡膜萎縮(PPA),3)乳頭の傾斜などである(表1).このような近視乳頭の特徴から思い浮かべるのは図1に例示するような典型的な近視乳頭ではないだろうか.言い換えればこれまで成書で書かれている近視乳頭に関する記述は典型例の提示にすぎない.この知識のみでははじめに緑内障の理解に視神経乳頭観察が重要であることは言うまでもない.眼科臨床に数年携わったものであれば乳頭の所見は一とおりは取れるようになる.しかしながら近視眼に合併した乳頭の観察は困難に感じていることが多いのではないか.何故か?それは近視眼に対する理論の裏付けがないためであり,また近視乳頭を見る筋道立てたトレーニングをしていない,あるいはする機会がないためである.そこで本稿では近視乳頭の捉え方,近視乳頭に合併した緑内障の考え方をまとめてみたい.I混沌とした近視乳頭近視が緑内障と関係があるということは古くから知られているが,近年特に脚光を浴びているのはNicolelaらが緑内障乳頭の4分類を提唱してからのことであろう1).この分類で述べられている近視乳頭(myopicglaucoma-tousdiscs)の特徴は,1)浅い陥凹,2)傾斜乳頭,3)耳側コーヌスの存在,4)乳頭出血が高頻度,となっている.また,わが国でも緑内障における近視眼の存在は特(31)???表1近視乳頭の特徴特徴乳頭傾斜での説明乳頭の傾斜─耳側にコーヌス傾斜による色素上皮のずれ縦長乳頭傾斜により耳側の境界線が後退乳頭出血が高頻度傾斜による血管の屈曲が原因?浅い陥凹強度近視での非傾斜群に該当する図1近視乳頭の典型症例屈折度-4.5Dの症例.乳頭は縦長でやや耳上側に傾斜している.鼻側のリムは発赤し,反対に耳側は蒼白でリムを同定できなくなっている.*ToshikazuTsuboi:つぼい眼科クリニック〔別刷請求先〕坪井俊一:〒132-0024東京都江戸川区一之江7-35-29一富ビル3階つぼい眼科クリニック特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):593~598,2006近視の乳頭所見と緑内障??????????????????????????????????????????????????????坪井俊一*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006種々雑多な近視乳頭に対して混乱するのみで,研修医や緑内障初心者が近視乳頭を見ることができないのは当然なのである.IIスマート&シンプルな近視乳頭の考え方1.乳頭の傾斜が最重要ポイント近視乳頭を考えるうえで最も重要なキーワードはobliqueinsertion=(視神経の眼球に対する)傾いた付着,すなわち「乳頭が傾斜している」ということである3,4).耳側コーヌスの存在や乳頭形態が縦長であるなどの特徴も実は乳頭の傾斜が根源である.正常眼では視神経が眼球に付着する角度はおおよそ垂直になっており,この状態は最も緊張の少ない生理的な状態である.この場合に網膜血管は乳頭の中央に位置し,乳頭形態もほぼ円状になり,生理的陥凹も中央に位置する.ところが近視眼では眼軸長の延長に伴い視神経の眼球への進入角度が変わってくる.理論上は眼軸長が長くなればなるほど,視神経の進入角度もきつくなり,乳頭の傾斜も強くなるように思われる.ところが実際は眼軸長の長い強度近視では後部ぶどう腫などを生じ,視神経乳頭の進入角度も垂直に近くなっているのではないかと推測される.その傍証としては,強度近視群では乳頭傾斜のない平坦な乳頭がよく見受けられることがあげられる.2.傾斜乳頭症候群と近視乳頭乳頭の傾斜をきたす疾患としてtilteddiscsyndromeが古くから知られている.本症候群の定義は先天性の疾患で,視神経は傾斜しており,多くは下方にコーヌスがみられる.乳頭下方もしくは鼻側の網膜は強い豹紋状眼底を呈する.この眼底変化に応じた視野障害を認めることもある.血管の走行異常や強い近視を伴うなどの多くの特徴をもつ.臨床上,本疾患に遭遇することはまれではない.しかしながら先天性かどうかの判定は不可能に近く,近視の進行に伴う後天的なものも多く含まれているものと推測している.III近視乳頭の分類近視乳頭はバリエーションが豊富で,近視眼全体を俯瞰で理解しようとするのは無理がある.前述した近視乳頭の特徴をいくら知ったところで,近視乳頭の典型例以外には対応できない.そこで近視乳頭を理解するためには近視眼の特徴を踏まえたうえで分類することが有用であり,傾斜の有無で分類するとわかりやすい.乳頭が傾斜をしている眼底写真上での所見として,1)網膜血管の起始部が中央から偏位していること,2)網膜血管の起始部が観察しにくいこと,とした(表2).このようにして近視乳頭を大き(32)乳頭網膜色素上皮脈絡膜図2傾斜のない乳頭正常丸型乳頭で,網膜血管の起始部(矢印)は中央に位置し,その根部まで十分に観察できる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???く2群に分けることで,近視眼の理解はより深まる(図2,3).このように「傾斜」を一つの軸として,乳頭の「型」をもう一つの軸として近視乳頭を7つに分類した5)(図4).その詳細を下記に述べる.1.傾斜群中等度以上の近視眼では乳頭の傾斜を見ることが多(33)表2乳頭が傾斜している所見・網膜血管起始部の偏位・網膜血管起始部が観察困難乳頭コーヌス網膜色素上皮脈絡膜図3耳側に傾斜した乳頭乳頭は耳側に傾斜をしており,その傍証として血管起始部の偏位があげられる(矢印).乳頭耳側はなだらかなスロープ状で,陥凹部と辺縁部の境界ははっきりしない.丸型縦楕円型斜め楕円型横楕円型傾斜群非傾斜群─図4近視乳頭の分類近視乳頭を傾斜の有無と形態をもとに7つに分類した.非傾斜群で斜め楕円型はまれなため空欄としている.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006い.近視眼では眼軸長が延長し,視神経が眼球に対し斜めに付着(obliqueinsertion)する.鼻側では視神経線維は急峻な角度で視神経に入り,このため傾斜した乳頭の鼻側は神経線維が盛り上がり,毛細血管のためにやや赤みを帯びている.耳側網膜からきた神経線維はなだらかに視神経乳頭内に入るため明らかな屈曲点をもたない.耳側の辺縁部は同定困難で,血管に乏しく,篩板が透見されて蒼白に見える.陥凹部との境界を明確にはできない.つぎに乳頭の形態を考える.正常乳頭の形態は丸型~やや縦長であり,一方,近視眼の乳頭は縦長であるとこれまでいわれている.しかし実際の近視眼は丸型のものから,つぶれた楕円状の乳頭まで種々雑多である.当然,乳頭の形態が丸型に近いほど所見は取りやすい.近視乳頭のもう一つの特徴としてコーヌス(脈絡膜コーヌス,強膜コーヌス)の存在がある.注目すべきはコーヌスの幅は乳頭の形態に関係がある点であろう.丸型の乳頭ではコーヌスは存在しないか,ごく薄いものである.乳頭の形態が縦長となるほどコーヌスの幅も広くなる.コーヌス部と乳頭部を足したものはほぼ丸型となることがわかる(図5).これは元の境界組織(Elschnig?sscleralring)であろうと考えている.(34)2.非傾斜群非傾斜群の定義は傾斜していない近視乳頭である.網膜血管の起始部は中央に位置し,その根部まで十分に観察ができることを傾斜のない所以とした.このグループは強度近視であることが多い.乳頭形態も特徴的で,まず陥凹部と辺縁部の境界がきわめて判別しにくい.そのため乳頭の所見もほぼ取れないと考えたほうがよい.非傾斜群ではコーヌスにも特徴がある.傾斜群で耳側コーヌスが多いのに比して,非傾斜群では乳頭全周にわたってコーヌスが形成され(輪状コーヌス),近視性網脈絡膜萎縮と相まって,神経線維層欠損(NFLD)の観察はほぼ不可能である.乳頭の大きさはさまざまであるが比較的大きいものが多く,平均からかけ離れた巨大乳頭というべきものも含まれる.乳頭の形態も丸型から楕円型までバリエーションは多い.傾斜群では耳下側に傾斜した乳頭が多いのに比べ,非傾斜群の乳頭で楕円型のものは,その長軸が垂直か水平のものがほとんどという点に特徴がある.IV近視乳頭での緑内障所見の取り方以上述べてきたような近視乳頭に緑内障を合併した場合,どのように考えていけばよいだろうか.われわれが図5傾斜した乳頭の症例傾斜した乳頭では耳側にコーヌスを伴うことがほとんどで,乳頭とコーヌスを足すと「丸」になる.言い換えれば乳頭が丸型であればコーヌスは幅が狭く(左),乳頭が縦長になるとコーヌスの幅も広くなる(右).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(35)臨床上よく遭遇する緑内障の多くは正常眼圧緑内障(NTG)であり,そのNTGはほとんどが近視眼といってよい.近視眼では緑内障になりやすく,屈折度が大きいほど緑内障を合併する割合が増えてくるということが大規模スタディで実証されている6).-3.0D程度の軽度近視眼であればその乳頭は近視性の変形はほぼなく,所見も取りやすいものが多い.しかし-4.0~-5.0Dを超えてくるとこれまで述べてきたような近視乳頭の特徴が出てくるし,緑内障を合併する可能性も増えてくる.そこでまず乳頭が傾斜型か非傾斜型かを大まかに捉えることから始めるのがよい.傾斜群のうち乳頭形態が丸型のものは網膜豹紋状変化がやや弱いため神経線維束欠損(NFBD)の観察が可能なことが多いので,まずこれに注目する.つぎに辺縁部図6コーヌス状まで血管の走行を観察することが重要傾斜した乳頭では耳側のリムがはっきりしない.しかし観察範囲をコーヌス状まで広げれば血管の走行所見(矢印)から視神経線維の盛り上がりを読み取ることも可能である.図7非傾斜群で横楕円型乳頭の症例このタイプの乳頭が陥凹部が浅いものがほとんどで,辺縁部の評価をすることができない.乳頭周囲の網膜も豹紋状変化が強く,NFBDも観察ができない.乳頭の所見からは上下に大きな差があるようには見えない.実際の視野は下方にのみ強い暗点が広がっている.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(36)の上下極に注目し差があるかを観察する.縦楕円型のものは上下極の辺縁部が「尖った」状態であると緑内障性視野変化をきたしていることが多い.また耳側コーヌスの幅が広いのでこの部分の血管走行状態を見逃してはならない(図6).非傾斜群については乳頭所見から緑内障を判定したり,その進行を判断するのはどんなにベテランの臨床医でも不可能と考えてよい.経験上,縦楕円型,横楕円型の非傾斜乳頭は思いもよらぬ視野異常をきたしていることが多い(図7)ので,検査が可能であれば動的または静的視野測定を施行し,将来の経時的観察に備えることが現実的である(図8).おわりに緑内障臨床での乳頭観察の重要性はよく知られたことであるし,緑内障に近視が多いこともまたよく知られている.しかしながら「近視乳頭の緑内障所見」というカテゴリーは今まであまり研究されてこなかったように思う.実際,緑内障の成書を見ても近視乳頭の特徴については数行ふれられているのみである.近年,画像解析装置が普及し,乳頭の形態が注目され,種々の乳頭指標が解析されているが,乳頭の形態の差異にまで踏み込んだものはほとんどみられない.十分に眼圧管理されているにもかかわらず悪化するNTGに対して乳頭の脆弱性が原因であろうという説明がされることが多い.今回提示したように乳頭の形態にこれだけの差があれば,その「脆弱性」にも大きく影響をしていることは容易に想像できる.本稿で述べた近視乳頭の分類は確立されたものではなく,筆者らの経験則から出てきたものであり,近視乳頭のバリエーションの多さを考えるとさらなるブラッシュアップが必要であろうと考える.乳頭傾斜の判定には眼底写真から得られる二次元情報を用いたが,三次元画像解析装置を用いればより有用な情報も得られるであろうし,その場合に乳頭形態を考慮することも重要であろう.今後の近視乳頭の研究に本稿が益することがあれば幸いである.本稿で用いた眼底写真はオリンピア眼科病院よりお借りいたしました.井上洋一理事長に深く感謝いたします.文献1)NicolelaMT,DranceSM:Variousglaucomatousopticnerveappearances.?????????????103:640-649,19962)YamazakiY,YoshikawaK,KunimatsuSetal:In?uenceofmyopicdiscshapeonthediagnosticprecisionoftheHeidelbergRetinaTomograph.????????????????43:392-397,19993)ShieldsMB:TextbookofGlaucoma,4thed,p86,Williams&Wilkins,Baltimore,19984)ShieldsMB:ColorAtlasofGlaucoma.p38,Williams&Willkins,Baltimore,19985)井上洋一:どう診る?緑内障視神経乳頭,p108-127,メジカルビュー社,20026)MitchellP,HourihanF,SandbachJetal:Therelation-shipbetweenglaucomaandmyopia:theBlueMountainsEyeStudy.?????????????106:2010-2015,1999近視乳頭を見たら傾斜なし傾斜あり豹紋状変化弱い豹紋状変化強いNFBDの観察リムの上下極に注目丸型乳頭楕円型(横・縦)視野検査図8近視乳頭の診察フローチャート

遺伝性視神経症の乳頭所見

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSいる4)が,実際には識別不能の色覚障害を示したり,赤緑色覚異常を示したりするので,注意が必要である.④視神経乳頭は両側性に耳側蒼白を示す.⑤同一家系でも視機能障害の重症度は違うことがある.視神経乳頭の所見は耳側蒼白で,乳頭黄斑線維の萎縮を示している.重症例では視神経乳頭全体が蒼白となる.軽症例では乳頭が正常の場合もある.乳頭のneuro-retinalrimが蒼白化していることも鑑別点である(緑内障眼でのrimの色調は正常である).緑内障と鑑別するための乳頭陥凹については以前は陥凹がないことが常染色体優性視神経萎縮の特徴といわれたこともあったが,Votrubaらは常染色体優性視神経萎縮58眼の視神経乳頭を検討した結果,約半数がC/D比(陥凹乳頭比)0.5以上であり,ほぼ約2割では深い陥凹を認め,乳頭所見からでは緑内障との鑑別において注意が必要であると報告している5).同様にFournierは常染色体優性視神経萎縮患者の乳頭を観察し,C/D比0.5以上が12/18であり,さらにこの陥凹が緑内障様乳頭陥凹の形態をとることが多く,正常眼圧緑内障と間違うことがあると報告している6).視野は重症度に応じてさまざまの障害を呈するが,典型例では中心暗点,盲点中心暗点となる.緑内障との鑑別においてこの視野変化は重要な鑑別点となり,中心暗点があれば緑内障は否定して考えていくのがよい.常染はじめにわが国でみられる遺伝性視神経症としては,常染色体優性視神経萎縮(dominantopticatrophy:DOA)とレーベル遺伝性視神経症(Leber?shereditaryopticneu-ropathy:LHON)の2つが臨床上大切である.原因遺伝子については常染色体優性視神経萎縮が????遺伝子であることが解明され,レーベル遺伝性視神経症ではミトコンドリアDNAに変異があることが解明された.本稿では,視神経乳頭の所見を中心に病態を解説する.I常染色体優性視神経萎縮(dominantopticatrophy:DOA)常染色体優性視神経萎縮は1959年にKjerが19家系を報告してから1つの疾患単位と認識されるようになった疾患で,罹患率は約1.2万~5万に1人と報告されている1).組織学的には網膜神経節細胞層の変性,乳頭黄斑間の神経線維の減少が認められる2,3).????遺伝子はミトコンドリア内の蛋白質を産生するので,後述のレーベル遺伝性視神経症と同様にミトコンドリアの機能障害により視神経萎縮が生じると考えられている.その臨床像は,①発症時期が不明な緩徐な両眼性の視力低下.就学時検診で0.1~0.5程度で発見されることが多い.②緩徐に進行し最終的な視力は0.01から1.0までと個人差があるが,視力低下は強くないことが多い.③後天性第三色覚異常を示すことが特徴といわれて(25)???*SanaeKanno:兵庫医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕神野早苗:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):587~591,2006遺伝性視神経症の乳頭所見????????????????????????????????????????????????神野早苗*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006色体優性視神経萎縮の軽度の症例では視野の変化がないことも多い.しかしその症例の乳頭に陥凹があれば緑内障が鑑別診断の候補にあがってくる.視力低下もなく視野も正常であれば,家族歴が重要なポイントとなるので,家族歴を尋ねるのを忘れないようにしなければならない.自験例の13歳女児は初診時視力が両眼0.2であった.小学1年時には両眼0.5であったとのことである.眼底写真(図1,2)では両眼の耳側蒼白が著明である.左眼の耳側5時に一見神経線維束欠損(NFLD)様の所見が見えるが,乳頭近傍で幅が太くなるという本来のNFLDと逆の所見があるうえ,視野にて同一部位に感度低下が認められない.この女児の母親である症例では(図4)乳頭陥凹がさらに緑内障様になっているが,視野では緑内障変化が認められない.このように幼少時より(26)図1DOA13歳女児の右眼眼底図4DOA13歳女児の母親の眼底写真図3DOA13歳女児の動的視野右眼の中心に小さな比較暗点.図2DOA13歳女児の左眼眼底———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???中心視力が悪い例では緑内障と鑑別するのは容易であるが,視力が良好な場合は乳頭所見,視野,隅角所見,家族歴を総合的に判断して????の遺伝子診断の必要性を判断しなければならない.常染色体優性視神経萎縮は現在治療法がない疾患であるが,緑内障では点眼,手術などの治療法がある.診断は重要なキーポイントとなるので慎重に判断することが大切である7).IIレーベル遺伝性視神経症(Leber?sheredi-taryopticneuropathy:LHON)レーベル遺伝性視神経症はミトコンドリアDNAの点突然変異により(11778,14484,3460)間違った塩基が産生され,ミトコンドリア内に不安定な状態が生じ,網膜神経節細胞の細胞死を生じるのではないかと考えられているが,詳細はいまだブラックボックスである8).ミトコンドリアの遺伝子異常であるために母系遺伝となる.その臨床像は7),①発症時は片眼,さらに数週間をおいて対眼の視力低下および中心暗点を生じる.視力は0.1以下となる.②急性ないしは亜急性に発症する.発症前はまったく正常の視機能を有している.③患者の8割から9割は男性である.④発症年齢は10歳から20歳代.ただし,40歳代にも小さな発症のピークがある.⑤発症時の視神経乳頭所見は,発赤・腫脹.傍乳頭毛細血管拡張,および神経線維層の腫脹.蛍光眼底造影では拡張した血管や乳頭からの色素の漏出はない.⑥発症後数カ月から1年後には視神経萎縮となる.⑦対光反応は初期には相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)が認められるが,その後視力低下や視野の変化にかかわらず良好な反応を保つ.⑧視力・視野の自然回復例がある.回復が生じるかどうかはミトコンドリア点突然変異が起こる位置で差がある9).⑨視力が回復しない症例でも,詳細に視機能を検査してみると視野の感度がモザイク状に上昇する例や中心フリッカー値がよくなる症例がある.視神経乳頭所見は発症初期は発赤,腫脹なので視神経(27)図5DOA13歳女児の母親の動的視野両眼の中心に小さな比較暗点がある.図7LHON17歳男性の蛍光眼底写真(138秒後)図6LHON17歳男性の発症1週間後の左眼眼底———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006炎との鑑別が重要となるが,1カ月後には視神経萎縮となり,耳側蒼白または視神経乳頭全体が蒼白となる.視神経乳頭は緑内障様の変化を起こし陥凹が認められるが,正常眼圧緑内障と比較すると変化は軽度である10).明白な中心暗点があれば診断に迷うことはない.自然回復期に観察すれば中心暗点が消え,視野が判定不能の形態をとるので診断に迷うかもしれない.家族歴,既往歴をよく問診することが大切である.図6,7は17歳男性の発症時の眼底写真である.視神経乳頭は発赤,軽度腫脹しているが,蛍光眼底造影では乳頭からの色素の漏出は認められない.図8~10は萎縮期に入ったレーベル遺伝性視神経症患者であるが,乳頭全体の色調が蒼白で,陥凹はあるがneuroretinalrimの色調が蒼白であり,レーベル遺伝性視神経症であることを示唆する.III緑内障性遺伝性視神経症?開放隅角緑内障には家族歴のある症例があり,50~60%が遺伝的なものとの報告もある11).近年,緑内障の遺伝子が次々と決定され,遺伝子異常をもつ症例に眼圧・年齢・高血圧・血管攣縮などの因子が網膜神経節障害を生じさせていると考えることもできるようになってきた.このような考え方をすれば,開放隅角緑内障は常染色体優性視神経萎縮やレーベル遺伝性視神経症緑内障と同じように,遺伝性視神経症といえるかもしれない.開放隅角緑内障と常染色体優性視神経萎縮は臨床像がよ(28)■用語解説■ミトコンドリア:細胞質にあるエネルギー産生や呼吸代謝の役目をもつ小器官.この中にもDNAが存在し,これをミトコンドリアDNAとよんでいる.第三色覚異常:青を感じる錐体細胞が欠如または機能低下している状態.日本人にはまれといわれている.盲点中心暗点:中心暗点とMariotte盲点がつながった暗点のこと.ラケット状暗点ともよんでいる.点突然変異:DNAの塩基が1つだけ変化しているもの.LHONの11778とはミトコンドリアDNAのC末端から11,778番目の塩基がグアニンからアデニンに変化(点突然変異)しているせいで,作られる蛋白質がアルギニンからヒスチジンとなっている.図8LHON(萎縮期)図9LHON(萎縮期)図10LHON(萎縮期)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(29)く類似しており12),ならば緑内障の病態とはミトコンドリア異常であるとの類推も可能である7).おわりに遺伝子異常による視神経症の治療は,将来的には遺伝子治療が可能になるかもしれないが,現在まだ有効な治療法は確立されていない.しかし,開放隅角緑内障には眼圧を下げる治療法が存在する.遺伝子疾患では治療法はなく,開放隅角緑内障では治療法があることは患者にとって大きな差となる.乳頭所見だけにこだわらず,視野,経過,家族歴すべてを参考にして総合的に診断することが大切である.文献1)KjerB,EibergH,KjerPetal:Dominantopticatrophymappedtochromosome3qregion.II.Clinicalandepide-miologicalaspects.?????????????????????74:3-7,19962)JohnstonPB,GasterRN,SmithVCetal:Aclinicopatho-logicalstudyofautosomaldominantopticatrophy.???????????????88:868-875,19793)KjerP:Histopathologyofeye,opticnerveandbraininacaseofdominantopticatrophy.??????????????????????61:300-312,19834)BrownJJr,FingertJH,TaylorCMetal:Clinicalandgeneticanalysisofafamilyaffectedwithdominantopticatrophy(OPA1).???????????????115:95-99,19975)VotrubaM,ThiseltonD,BhattacharyaS:Opticdiscmor-phologyofpatientswithOPA1autosomaldominantopticatrophy.???????????????87:48-53,20036)FournierAV,DamjiKF,EpsteinDLetal:Discexcava-tionindominantopticatrophy:differentiationfromnor-maltensionglaucoma.?????????????108:1595-1602,20017)VotrubaM,AijazS,MooreAT:Areviewofprimaryhereditaryopticneuropathies.???????????????????26:209-227,20038)WallaceDC,SinghG,LottMTetal:MitochondrialDNAmutationassociatedwithLeber?shereditaryopticneurop-athy.???????242:1427-1430,19889)中村誠:レーベル遺伝性視神経症の発症分子メカニズムの展望(総説):日眼会誌109:189-196,200510)MashimaY,KimuraI,YamamotoYetal:OpticdiscexcavationintheatrophicstageofLeber?shereditaryopticneuropathy:comparisonwithnormaltensionglau-coma.????????????????????????????????241:75-80,200311)McNaughtAI,AllenJG,HealeyDetal:Accuracyandimplicationsofareportedfamilyhistoryofglaucoma:experiencefromtheGlaucomaInheritanceStudyinTas-mania.???????????????118:900-904,200012)BuonoLM,ForoozanR,SergottRCetal:Isnormalten-sionglaucomaactuallyanunrecognizedhereditaryopticneuropathy?Newevidencefromgeneticanalysis.????????????????????13:362-370,2002

「楔状視野欠損と視神経先天異常」に対するコメント

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSillaryscleralhalo),④上方の神経線維層欠損(NFLD)(superiorNFLthinning)を特徴とし,下方の高度の視野欠損をきたすとされる.SSOHは,1977年にPetersen&Walton3)が1型糖尿病(IDDM)の母親から生まれた子17例に認め報告した特異な視神経低形成と同じ疾患であるとされる.これらの症例は文献に添付された症例の眼底写真を見ても,上述のわが国の緑内障外来で遭遇する症例とは似ていない.しかしながら,①~④はいずれも視神経乳頭上方の神経組織の欠損あるいは形成異常に帰することのできる所見であり,SSOHがもともと生理的な乳頭陥凹を有する眼に生じた場合には,筆者が緑内障外来で遭遇してきた症例のような視神経所見になることが推定される.筆者はそうした推定に至って以来,SSOHの病名を欧米での用語法に準じるのではなく,そのカテゴリーに類似しながら緑内障外来で遭遇する(つまり,陥凹拡大,辺縁部狭窄を一見連想させる)一連の症例に用いてきた.ただ,そうした用語法は文献に現れた正式なものではなかった.その後2002年にUnokiら4)(鹿児島大学)がSSOHの命名者であるHoytを共著者に迎え,筆者が“SSOH”(以下,引用符付のSSOHは原義とは若干異なる日本国内での慣用病名)と勝手によんでいた症例と同様の症例の光干渉断層法(OCT)所見を発表するに及び,自らの考え方が担保されることを学んだ.日本においても,すでに1987年に,難波ら5),岡崎ら6)がこの病名を使用していないものの,記載内容から推測して同一疾患と考えられる疾患の症例報告をしている.ほかに個別の症例報告も学会などで多くなされてきた.さて,正常眼圧緑内障に関心のある立場から,“SSOH”の有病率を知りたいと考えていたところ,多治見スタディと一緒に施行した多治見市民眼科検診で得られた眼底写真を読む機会を得たので,自ら日本人においては正常眼圧緑内障の有病率が3.60%と高く(40歳以上,日本緑内障学会多治見スタディ1)),また眼圧測定では緑内障検出力の低いことから,視神経乳頭形態が緑内障性視神経症と類似している他の視神経疾患との鑑別は日常臨床において重要性を増している.筆者は山梨医科大学に所属していた1980年代後半に緑内障の確定診断を求めて来院される若年患者のなかに本項の主題に近い楔状視野欠損と視神経乳頭先天異常を有する方が時々いることに気づいていたが,当初は明らかな診断名を見出すことができないでいた.これらの症例は,若年,無自覚,下方の視野欠損,視神経乳頭の鼻上側中心の辺縁部菲薄化(異常が必ずしも鼻上側に限局しているのではなく,他の部に及ぶことも多い),doubleringsign,血管走行の異常,など,いくつかの共通する特徴を有しており,数年の経過観察では視野進行を認めた症例はなかった.家族歴を有する症例はなかった.両眼性のことも片眼性のこともあった.眼圧は多くは正常であり,隅角にも異常を認めなかった.一見すると陥凹拡大に見えるために,緑内障の診断あるいはその疑いで紹介受診のことが多いが,主たる乳頭辺縁部病変の位置が緑内障典型例とは異なり,当然の帰結として視野欠損が緑内障としては非典型的であり,筆者には緑内障性視神経症には見えなかった.一方,superiorsegmentaloptichypoplasia(SSOH)はKimら2)により,1989年から使用された用語で,視神経乳頭および網膜神経線維層の4徴候,すなわち,①網膜中心動脈の上方偏位(superiorentranceofCRA),②乳頭上半の蒼白化(pallorofthesuperiordisc),③乳頭上方の周囲のハロー(superiorperipap-(23)???*TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕山本哲也:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):585~586,2006「楔状視野欠損と視神経先天異常」に対するコメント山本哲也*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,200614,431名28,396眼の眼底写真を判読し,うち37例(0.26%)54眼(0.19%)に“SSOH”を認め(図1),うち,23例で対応する視野異常を認めた(図2)7).対象となった40歳以上の全年齢層に満遍なく認められた.対象集団が疫学調査で適格とされる受診率を満たしていないという欠点はあるものの,本症の頻度に関する初めての報告である.その結果を正常眼圧緑内障の有病率(3.6%)と比較すると約1/10のオーダーであり,しかも正常眼圧緑内障が40歳以降で急激に有病率を増すことを考慮すると,“SSOH”が若年者での正常眼圧緑内障との鑑別で重要なことを再認識することができた.筆者がこうした考えをglaucoma-net(緑内障専門家のチャットルームの一つ)で流したところ,韓国のドクターから症例に関して問い合わせがあり,添付された眼底写真などはまさに筆者のよぶ“SSOH”であったので,本症が韓国にも存在することを知った.まとめると,現時点でわが国で“SSOH”とよばれている症例群は,視神経所見,母親の糖尿病歴,などの点で,欧米のオリジナルの記載とは若干異なる一群をさしている.これが同一疾患の地域による特異性として説明可能か否か現時点では明言はできない.遺伝子検索などによる本症の発症機序解明の必要性を指摘するにとどめたい.また,欧米の同一名称の疾患との同一性よりも重要なことは,本症がわが国において正常眼圧緑内障との鑑別を要することが多いことと,この疾患に対する一般眼科医の認識が低いことから確定診断に至らず緑内障薬物治療の対象とされていることの多いことである.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceandintraocularpressureofprimaryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)KimRY,HoytWF,LessellSetal:Superiorsegmentaloptichypoplasia.Asignofmaternaldiabetesmellitus.???????????????107:1312-1315,19893)PetersenRA,WaltonDS:Opticnervehypoplasiawithgoodvisualacuityandvisual?elddefects.????????????????95:254-258,19774)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomog-raphyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.????????????????86:910-914,20025)難波龍人,若倉雅登,白川慎爾ほか:視神経のSectorialhypoplasiaについて.神経眼科4:444-450,19876)岡崎茂夫,宮澤裕之,関谷義文ほか:見逃され易い視神経低形成について.神経眼科4:438-443,19877)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProj-ectparticipants.????????????????48:578-583,2004(24)図2Superiorsegmentaloptichypoplasiaの視野Mariotte盲点から下方に連続する視野欠損が特徴的である.図1Superiorsegmentaloptichypoplasiaの眼底鼻上側の乳頭辺縁部狭窄と蒼白化,対応するNFLDを認める.

楔状視野欠損と視神経先天異常

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSした報告3)では,周辺耳側欠損は初期変化としては出現しにくく,Humphrey視野計の報告4)において,周辺耳側欠損は,Bjerrum領域,中心30?以内の耳側異常が周辺耳側欠損と関連して起こるとされている.自動視野計においては,緑内障性初期変化として周辺耳側からの障害ではなく,盲点耳側から周辺に向かって視野欠損が起こると考えられる.耳側楔状欠損は視神経乳頭低形成においても生じる.報告5)は3例の低形成であるが,いずれも上鼻側の網膜神経線維層欠損に伴う下方楔状欠損である.視神経乳頭所見は小乳頭,鼻側乳頭部の部分的欠損または容量減少が指摘されている.耳側楔状欠損は,自覚症状が少なく,視野検査で偶然発見される可能性がある.耳側楔状欠損をみた場合に,緑内障か乳頭低形成どちらかを判断することは,視野欠損,乳頭所見からだけではむずかしいと考える.鼻側への陥凹拡大や網膜神経線維層欠損はどちらの例も伴い,中心部に緑内障性視野異常を伴わないかぎり,鑑別できない.経時的視野変化をみることが必要になるが,耳側視野の場合,自動視野計の中心30?のみでは不十分であり,周辺のプログラム(Humphrey視野計周辺60-4)での測定が必要である.またGoldmann視野計だけでは定量変化をみるのに不十分と考える.経時的視野変化がみられ,それが眼圧下降によって影響されれば,緑内障と考えられ,視野変化が認められなければ,乳頭低形成の可能性が高い.最低5年程度の自動視野計の経過観察は必要であろう.楔状視野欠損の定義は,中心から周辺に向かうにつれ,暗点が広がっている状態であり,基本的には30?よりも周辺に広がる状態と考える.水平方向であれば,網膜神経線維層に沿う障害であり,水平線を越えない.垂直方向の障害は,網膜神経線維に沿う場合と眼球後部の線維に沿う場合で異なる.眼球後部の神経いわゆる半盲によるものは,垂直経線を越えないが,網膜神経線維に沿うものは,垂直経線を越える.楔状欠損をきたす病態は,緑内障,半盲,視神経乳頭低形成などが考えられる.鼻側の楔状欠損は,鼻側階段として知られており,緑内障以外は考えにくい.上下の楔状欠損は,verticalstepとして,半盲の初期変化である可能性が高い.ただし,下の楔状欠損は,垂直経線を越えて周辺に広がっていれば,上部乳頭低形成の場合もある.問題となるのは耳側の楔状欠損はどうかである.耳側楔状欠損をきたす緑内障は古くから指摘されていたが,まとまった報告はBraisら1)の30例35眼の報告がある.35眼のうち29眼は鼻側の網膜神経線維層欠損を伴い,耳側欠損は上方6眼,下方24眼,上下5眼で,30例中8例は耳側欠損のみに進行がみられている.鼻側網膜神経線維層欠損,それに応じた耳側視野障害進行が認められれば,緑内障性と考えられる.またその頻度についてはWernerら2)により開放隅角緑内障のうち3%に単独の耳側欠損の緑内障(網膜神経線維層欠損を伴う)が生じると報告がなされている.これらは自動視野計以前の報告であり,本当に中心部(鼻側,Bjerrum領域)に緑内障性変化が存在していなかったかは疑問が残る.自動視野計以降の報告となると,オクトパスを使用(19)???*NaoyaFujimoto:千葉大学大学院医学研究院視覚病態学〔別刷請求先〕藤本尚也:〒260-8670千葉市中央区亥鼻1-8-1千葉大学大学院医学研究院視覚病態学特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):581~584,2006楔状視野欠損と視神経先天異常?????-?????????????????????????????????????????????????????????????????藤本尚也*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(20)左眼右眼a300(μm)右眼2001000020406080100120140160180200220240TEMPSUPNASINFTEMP300(μm)左眼2001000020406080100120140160180200220240TEMPSUPNASINFTEMPc左眼右眼b0.3401.110mm2正常範囲外0.2491.081mm2ボーダーラインcup/diskarearatio乳頭面積Classi?cation———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(21)左眼右眼dMD-1.110.170.04MD-0.800.05-0.49199720012005200120032005左眼右眼e図1症例初診時年齢56歳,男性,検診で高眼圧を指摘され来院.開放隅角で,眼圧は右眼20mmHg,左眼21mmHg,視力は右眼1.0(-4.5D),左眼1.2(-4.74D)で中等度の近視があった.中心角膜厚は右眼616?m,左眼614?mであった.その後無投薬で7年間視野経過をみた.a:視神経乳頭の陥凹の垂直方向への拡大は認められなかった.b:HRT(Heidelbergretinatomograph)Ⅱによる視神経乳頭解析では,cup/diskarearatioは右眼0.34,左眼0.249であった.乳頭面積は右眼1.110mm2,左眼1.081mm2と小乳頭であったが,classi?cationで右眼は正常範囲外,左眼はボーダーラインであった.c:OCT(光干渉断層法)による網膜神経線維層厚測定では,両眼とも下鼻側において菲薄化(↓)している.d:Humphrey視野計中心30-2では,盲点から上下耳側に暗点を認めたが,ほかには暗点はなかった.7年間,MD変化はなく,新たな暗点を認めなかった.e:Humphrey視野計周辺60-4では,おもに上耳側が障害されているが,4年間,変化を認めない.眼圧はこの4年間で,右眼13~21mmHgで平均18.5mmHg,左眼15~21mmHgで平均19.0mmHgで,視神経乳頭所見はHRTで緑内障も疑われた.網膜神経線維層厚の菲薄化に応じた耳側楔状欠損で,その中心,周辺視野に変化がないことから,現時点では小乳頭による視神経低形成と考えた.しかし,小乳頭の緑内障の場合,網膜神経線維層の異常が,視野,乳頭変化に先行することから,緑内障との鑑別に今後も引き続き視野,乳頭の観察が必要である.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006文献1)BraisP,DranceSM:Thetemporal?eldinchronicglau-coma.???????????????88:518-522,19722)WernerEB,BeraskowJ:Temporalvisual?elddefectsinglaucoma.????????????????15:13-14,19803)SeamoneC,LeblancR,RubillowiczMetal:Thevalueofindicesinthecentralandperipheralvisual?eldsforthedetectionofglaucoma.???????????????106:180-185,19884)PennebakerGE,StewartWC:Temporalvisual?eldinglaucoma:are-evaluationintheautomatedperimetryera.????????????????????????????????230:111-114,19925)BuchananTAS,HoytWF:Temporalvisual?elddefectsassociatedwithnasalhypoplasiaofthedisc.????????????????65:636-640,1981(22)眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社

中毒と視神経乳頭所見

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS識を有しているかを知る目的で,当院の朝のカンファレンスにおいて,出席医師(n=22)にその場で(書物などを調べずに)中毒性視神経症の原因となる物質,薬物で知っているものを回答してもらった.図1は上位6位の調査結果である.予想どおり,薬物としてはエタンブトール,化学物質としてメタノール(単にアルコールと記した医師が4名あったが,これもここに含めた)をあげる医師が多かった.しかし,3位にあるサリンは,わが国ではオーム事件での急性中毒があるが,中毒性視神経症といえる視神経への直接作用は証明されていない.5位の農薬(2名は有機リン,1名は抗コリンエステラーゼと回答)も,慢性中毒が実験的にも,臨床的にもわが国で多くの研究があったが,最近は臨床例の報告はほとんどみられていなはじめに中毒性視神経症の存在は,頭ではわかっていても,視神経症の症例を前にすると,しばしばその原因,鑑別診断から落ちこぼれてしまう.その最大の理由として,中毒性の大部分は急性中毒ではなく,微量の薬物やガスに曝露し続けた結果,網膜神経節ないしその軸索突起である視神経が傷害される形が多く,その原因や過程が確認しにくいことがあげられる.また,中毒性視神経症においては,因果関係の同定がしにくいことに加え,単発的な症例報告しかなく,原因物質ごとの臨床的特徴の全貌が必ずしも明らかになっていないことも問題である.こうしたなかで,視神経乳頭所見が中毒性視神経症の診断の助けになりうるか,というクエスチョンを問題意識として念頭に置きながら,中毒性視神経症についての知識を整理してみたい.I最近の中毒性視神経症に注目そもそも,特定化学物質や薬物の副作用としての中毒性視神経症は,その物質の使用の可能性や曝露の有無に思い至らなければ診断ができない.つまり,特定物質との関連を知らなければ,原因不明の視神経症(または炎)とか,進行した緑内障だとか,といった診断が,高いレベルの証拠なくつけられてしまいがちである.したがって,まず,どのような薬物や化学物質と視神経症の間に関連がありうるかという知識が大切である.一般眼科医が,中毒性視神経症についてどの程度の知(15)???*MasatoWakakura:井上眼科病院〔別刷請求先〕若倉雅登:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):577~580,2006中毒と視神経乳頭所見????????????????????????????????????????????若倉雅登*図1一般眼科医の念頭にある中毒性視神経症の原因物質(上位6位)井上眼科病院眼科医(n=22)に対する調査より.02468101214161820エタンブトールメタノールサリンシンナー農薬トルエン回答数———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006い.そのほか,この調査であげられたものとしては,タモキシフェン,キノホルム,タバコ,イソニアチド,一酸化炭素など,中毒性視神経症としての確実性の高い報告があるものが含まれていた.また,インターフェロンをあげた医師があったが,インターフェロンアルファーでは網膜出血のほか,虚血性視神経症の報告もあることを知っていたのであろう1).しかし,むしろ網膜毒性のみが知られているクロロキン,ジゴキシン,アレビアチンなどの物質をあげた医師や,網膜・視神経毒性としての明確な証拠がない水俣病やカネミ油症関連物質をあげている医師もあった.なお,22名のうち,中毒性視神経症や網膜症を経験したことがないという医師は9名であった.一方,臨床的に比較的多く用いられ,眼科医としては知っておくべきではないかと考えられる物質として,クロラムフェニコール,シスプラチン,ビンクリスチン,5-フルオロウラシル(5-FU),シクロスポリン,タクロリムス,エチレングリコール,鉛,タリウムなどがあるが,これらはあげられなかった.また,抗菌薬では,最近筆者らや他のグループにより次々と報告されたリネゾリドは,まだ知られていなかった.この抗生物質は,視神経症のほか末?神経障害も惹起し,視神経症は薬物中止により可逆性が高い点から,眼科医が知っておくべき薬物である2~4).これらの中毒性視神経症における,視神経乳頭所見については,症例により正常所見,乳頭腫脹,視神経萎縮などさまざまであり,特徴的,特異的なものは知られていない.機序が循環障害であり,前部虚血性視神経症を呈する場合は,しばしば出血を伴う腫脹,もしくは蒼白腫脹となり,慢性期には乳頭陥凹を呈する可能性もある5).IIシンナー中毒とは図1で4位にあげられたシンナーとは,もちろん特定の化学物質を指すのではなく,文字どおり「薄め液」,有機溶剤である.成分としてはトルエン,酢酸エチル,メチルアルコールなどがある.ほかにも,キシレン,ホルマリン,ノルマルヘキサン,トリクロールエタンなど,シンナー成分や有機溶剤の種類は,枚挙に暇がない.シンナーによる視神経症のわが国での報告は,竹内ら6)が皮切りのようであり,その後,シンナー乱用に警告を発する多数の報告がある7,8).多くは,他の神経学的所見を有するが,視神経症単独でみられるものもある.ここで,自験例を簡単に述べる.16歳の男性で,1週間程度前から右眼の視力低下に気づき当院を受診,入院した.矯正視力は右眼0.2,左眼0.6,右眼に相対的瞳孔反応障害がみられ,中心フリッカー値は,右眼25Hz,左眼35Hzであった.両眼に中心暗点がみられた.乳頭は一見異常とは思われなかった(図2)が,蛍光眼底造影では乳頭に軽度の過蛍光がみられ,乳頭周辺に顆粒状の蛍光のむらがみられた.このむらは,木村,石川(16)図3シンナー乱用が原因と考えられる両眼性視神経症患者にみられた乳頭の深い陥凹図2シンナー吸引により視覚障害が発症したと考えられる16歳,男性の右眼乳頭所見———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???らが報告していた所見に一致し7),入院中にシンナーを乱用していたことが明らかになり,シンナー中毒による視神経症と診断した.他の神経学的症候はみられず,頭部画像診断,脳波にも異常はみられなかった.本例は,シンナーからの離脱に成功したが,当初は,他の仲間のほうが頻繁に乱用しているのに視力がよい,自分はときどきなのになぜ視神経が悪くなったのかと,シンナーによる障害であることをなかなか受け入れなかった.なお,最終矯正視力は右眼0.1,左眼1.0であった.これまでの報告は,いずれもこのようなシンナー遊びなどシンナー乱用によるものであるが,筆者は職業上のシンナーの長期曝露によると考えられる視神経症を複数経験している.さて,シンナー乱用者は多幸感が得られやすい純粋トルエンを好むといわれ,石川7)はそうした中毒の臨床経験などからトルエン中毒の存在を主張している.一方,シンナーの気相成分として最も多いメタノールが原因であると考えている報告も少なくない.特に,メタノールの飲用などによる失明は戦後よくみられた,との言い伝えが残っているが,その一つの特徴として,非常に深い乳頭陥凹が知られている(図3).それは,緑内障性陥凹と区別がつかないと記載されている9,10).ここで,わが国でシンナー視神経症として報告されたものの乳頭所見を検討してみる.乳頭正常,乳頭発赤,乳頭周囲神経線維層の腫脹,耳側蒼白,視神経萎縮など,時期や症例ごとにかなり異なる.そのなかに,乳頭陥凹の拡大もしくは深い乳頭陥凹の存在を記載したものがあった11~13).これが,シンナー中毒の主因がメタノールであるという,もう一つの根拠ともなっている.シンナー中毒では網膜反射の異常,網膜脈絡膜の蛍光眼底造影上の異常など視神経乳頭以外の眼底異常や網膜電図(ERG)の異常,さらに中枢神経系のさまざまな異常が合併しうることを付け加えておく7,8).III中毒性視神経症における乳頭所見の特異性虚血性視神経症,特発性視神経炎,Leber遺伝性視神経症などでも,慢性期に乳頭陥凹の拡大がみられる症例のあることは,すでによく知られている5).しかし,どの程度の頻度で生じ,個々の例が,その形態だけで緑内障性乳頭陥凹と鑑別できるかどうかについては,十分信頼できる研究はない.冒頭にも記したように,中毒性視神経症の症例の多くは慢性期に見出され,眼科を訪れたときはすでに視神経萎縮に陥っていることが多い.その(17)ab図4エタンブトール視神経症患者の左眼眼底(a)と同眼のHumphrey視野(30-2)(b)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006ときに生じているかもしれない乳頭陥凹が,緑内障性陥凹と区別可能かという問いに対する回答を得ることは,さらにむずかしい.というのは,中毒性視神経症とはいうが,それで一括することはできず,中毒の原因となる物質ごとに臨床像は異なるはずで,しかも,各々の症例はかなり少ないため,特異的乳頭所見があるかどうかを研究することはきわめてむずかしい.比較的多くみられるエタンブトール視神経症の1例(57歳,女性)を見てみよう.矯正視力は右眼0.2,左眼0.1であった.左眼の乳頭所見と視野を図4に示す.右眼も同様の所見であった.乳頭は陥凹があり,耳側蒼白,視野は両眼とも上方から上耳側に感度低下が顕著であった.エタンブトール内服の既往がある点,感度低下域が耳側に強い点からは,それと診断がつくが,乳頭所見から疾患を推定することは困難である.もちろん,エタンブトール視神経症がこのような乳頭所見を呈しやすいという意味ではなく,もともとある視神経乳頭の種々の形態バリエーションや,決してまれでない緑内障性視神経乳頭の上に,中毒という因子がかぶる可能性があることを,強調したいのである.このように,メタノール中毒でみられる深い乳頭陥凹所見を除くと,中毒性視神経乳頭所見に特異性があるとは,現時点では明言できないのが実状である.(18)文献1)VardizerY,LinhartY,LowensteinAetal:Interferon-alpha-associatedbilateralsimultaneousischemicopticneu-ropathy.????????????????????24:98-99,20042)SaijoT,HayashiK,YamadaHetal:Linezolid-inducedopticneuropathy.???????????????139:1114-1116,20053)McKinleySH,ForoozanR:Opticneuropathyassociatedwithlinezolidtreatment.????????????????????25:18-21,20054)RuckerJC,HamiltonSR,BardensteinDetal:Linezolid-associatedtoxicopticneuropathy.?????????66:595-598,20065)若倉雅登:緑内障と鑑別を要する視神経疾患の眼底.神経眼科22:184-193,20056)竹内忍,久保田伸枝:シンナー・接着剤常用者にみられた急性視力障害.眼臨68:909-914,19747)石川哲:シンナー中毒と眼.その臨床と眼.臨眼39:245-255,19858)菅澤淳:シンナー中毒.眼科34:857-863,19929)PhillipsPH:Toxicandde?ciencyopticneuropathies.WalshandHoyt?sClinicalNeuro-Ophthalmology(edbyMillerNR,NewmanNJ),6thedition,Vol1,p447-463,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,200510)StelmachMZ,O?DayJ:Partlyreversiblevisualfailurewithmethanoltoxicity.?????????????????????20:57-64,199211)植田良樹,新井三樹,河野眞一郎ほか:シンナー中毒性視神経症の1症例.神経眼科7:87-91,199012)二宮元,浅原茂生,横田健司ほか:シンナー中毒による視神経障害の1例.眼紀41:640,1990

頭部画像診断の重要性

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSa.異形性の有無偽性うっ血乳頭は,共通した特徴がある.生理的陥凹(cup)を欠き,血管は乳頭中央から出て,3分岐,4分岐といった大血管系の異常を伴うことが多い.後天性の視神経乳頭腫脹とは,機械的に,あるいは,循環障害や炎症などの何らかの後天的な原因で軸索流が停滞することによって神経線維束が光学的に混濁した結果,検眼鏡的に視神経乳頭が腫れたようにみえる(discedema).後天性の腫脹は,この傍乳頭神経線維層の混濁の有無を評価判断することにある.異形性に基づく視神経乳頭の隆起は,神経線維束によって乳頭は隆起していても神経線維束には混濁はなく,乳頭縁に直交して放射状に走る網膜神経線維束のキラキラとした光学的反射を認めることができる.視神経乳頭上の静脈の自発拍動を認めれば,先天異常を支持する所見であるが,先天性か後天性かの決定は,決して一つの所見に基づくのではなく,両者の鑑別点を比較して総合的に判断する.異形性をもった視神経乳頭は“偽性”うっ血乳頭とよばれるが,真のうっ血乳頭を否定するものではない.一つでも疑わしい点があれば,うっ血乳頭除外のため頭部画像検査を施行する.b.うっ血乳頭の除外診断検眼鏡的にdiscedemaを認めた場合,鑑別診断は山のようにある1).見た目の様子だけからでは原因疾患は特定できない.診断には神経眼科の基本ルール,ことに視力と視野検査が役立つ(表1).視神経疾患に伴う視野はじめに視神経疾患は,現病歴から,視力,瞳孔,視野,色覚,眼底検査を含めた神経眼科的所見をもとに最も考えうる臨床診断から,超音波検査や蛍光造影眼底撮影などの眼科外来検査やコンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像法(MRI)といった画像検査を用いて鑑別を進め,必要に応じて,脳脊髄液の検査や神経内科医による診察を踏まえて総合的に患者を評価して初めて診断が可能となる.本稿では,頭部画像検査の必要な視神経疾患について,視神経乳頭の検眼鏡的所見をもとにまとめる.視神経乳頭の検眼鏡による鑑別診断視神経乳頭は,検眼鏡的に乳頭の隆起(elevation)の有無から診断を進める.1.隆起した視神経乳頭隆起した視神経乳頭(elevateddisc)を見れば,何はさておき,脳脊髄液圧亢進によるうっ血乳頭(papillede-ma)を除外しないといけない.うっ血乳頭は,脳神経学的な緊急状態を意味する.時間をおかずにただちに頭部画像検査が必要である.隆起した視神経乳頭(elevateddisc)は,まず,本当に視神経乳頭が腫れているかどうか,視神経乳頭の腫脹(discswelling)の有無を決定する.異形性の有無について,視神経乳頭の先天的形成異常である偽性うっ血乳頭(pseudopapilledema)を鑑別する.(9)???*SatoshiKashii:大阪赤十字病院眼科〔別刷請求先〕柏井聡:〒543-8555大阪市天王寺区筆ヶ崎町5-30大阪赤十字病院眼科特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):571~576,2006頭部画像診断の重要性?????????????????????????????????????????????????????????柏井聡*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006障害は,網膜神経線維束の走行に沿った欠損をつくることが知られている.疾患に応じて網膜神経節細胞の脆弱性が異なり,遺伝性や中毒性視神経症のように視力に関わる乳頭黄斑線維束が障害されると視野上,盲・中心暗点をつくり,緑内障や慢性うっ血乳頭では視力は保存され,網膜神経線維束が好んで障害される.こうした背景疾患をもとに生じる視力や視野障害は両眼性が原則である.一方,成人の視神経炎や非動脈炎性前部虚血性視神経症では単眼性発症が中心である.ここで,注意を要するのは,初期うっ血乳頭である.脳圧亢進に基づいて軸索流が渋滞し視神経乳頭が腫脹するが,初期では,必ずしも,両眼同時に発症するわけではなく左右差がある点である.軸索流の渋滞だけでは視機能障害は生じず,視神経乳頭周囲の隆起した網膜に基づく屈折性の暗点形成による盲点拡大が初期症状であるので,機能的な障害の認められない患者では,単眼性でも傍乳頭神経線維層の混濁を認めれば,うっ血乳頭の可能性がある.「うっ血乳頭は視力障害をきたさない」というルールは,小児に“中途半端”にあてはめてはいけない.成人では,頭蓋咽頭腫や胚細胞腫は,大きな腫瘤を形成することはまれだが,小児では腫瘍の進展に伴い第3脳室のMonro孔を閉塞しうっ血乳頭をきたすことがある.このように原発病変によっては視神経/視交叉を障害することがあるので,注意が必要である.また,小児の視神経炎は成人と異なり両眼発症が多いので「両眼性の視神経炎」に見えても,「うっ血乳頭と視力障害」が共存していることがあるため,小児の視神経炎ではうっ血乳頭を,ただちに,頭部画像検査によって除外しないといけない.したがって,両眼性は言うまでもなく単眼性でも視機能の良好な“微妙な”subtlediscedemaは,うっ血乳頭を除外するため,頭部の画像検査を行い,脳内占拠性病変を除外する必要がある.c.単眼性視神経乳頭腫脹脳圧亢進によるうっ血乳頭(papilledema)だけでなく視神経を取り巻くくも膜下腔の内圧が局所的に上昇しても視神経の軸索流が障害され検眼鏡的に視神経乳頭が腫脹(discedema)する.盲点拡大程度で視機能が保存された患者では,subtlediscedemaでも,誰が見てもわかるfull-blowndiscedemaでも,単眼性では浸潤性ないし圧迫性視神経症を除外する.したがって,単眼性discedemaでは「頭部」画像検査だけでは不十分で,眼窩部の画像検査を必ず施行しないといけない.表1脚注のように,通常は,(眼窩部)視神経?髄膜腫を含めて圧迫性視神経症は原則として潜行性進行性の中心視力の低下を伴うのが特徴である.単眼性discedemaに突発性あるいは急性の視力,視野障害をきたした場合は,発赤性腫脹の視神経炎(脱髄性視神経症)や蒼白性腫脹の前部虚血性視神経症が鑑別にあがってくる(表1).患者の年齢とともに確定診断には時間経過が必須となる.d.脳脊髄液圧の測定うっ血乳頭は検眼鏡的所見から疑って,実際に脳圧を測定しない限り診断は確定しない.頭部画像が正常であるからといって,脳圧が正常であるとは言えない.必ず,専門医に依頼し腰椎穿刺のうえ,脳圧を測定する.脳圧が亢進しているにもかかわらず,頭部画像上,占拠性病変が認められない場合,特発性および二次性頭蓋内圧亢進症を鑑別することになる2).ことに脳静脈洞閉塞(10)表1視神経疾患の視力と視野の特徴■両眼性1.中心視力の低下(+):乳頭黄斑線維束障害型(盲中心暗点)中毒性視神経症遺伝性視神経症(Leber遺伝性視神経症など)栄養障害性視神経症2.中心視力の低下(-):非乳頭黄斑線維束障害型(神経線維束障害型欠損)原発開放隅角緑内障慢性うっ血乳頭■単眼性3.中心視力の低下(±):混合型=乳頭黄斑線維束+神経線維束欠損型圧迫性視神経症外傷性視神経症急性緑内障視神経炎*虚血性視神経症*網膜中心動脈分枝閉塞症**乳頭黄斑線維束を保存することもある.一方,圧迫性視神経症,外傷性視神経症,急性緑内障では原則として中心視力の低下を伴うと考えてよい.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???症には最近MRvenographyの有用性が報告されているので,脳圧亢進患者の診断にあたっては通常のMRI検査に加えて施行するとよい.2.平坦な視神経乳頭視力や視野障害のある患者の視神経乳頭が検眼鏡的に平坦(?atdisc)なら,病的過程の結果かどうか,まず,先天的な乳頭の異形性の有無をチェックする.乳幼児では乳頭の異形性そのものが,腫瘍などの病的過程の結果生じることがあるので,年齢に応じて対応が異なる.a.異形性の有無乳幼児に乳頭低形成を認めると,成人とは対応がまったく異なる.これは,視神経乳頭低形成は,網膜神経節細胞の未発達,アポトーシスと関連し発達途上で,視交叉の構造異常(deMorsier症候群)や腫瘍(頭蓋咽頭腫や視神経膠腫)によってシナプスが形成できないと視神経乳頭低形成となるからである3).4歳までは全例頭部MRI検査を行い,透明中隔欠損(無害性),異所性下垂体後葉(下垂体前葉ホルモン低下症),大脳半球性異常(神経機能発達不全)などに注意する.deMorsier症候群ではプロラクチンの上昇で生後3~4歳までは正常の成長範囲内となることがあるので,4歳以降の正常発育児の乳頭低形成例では,小学生高学年までは体重と身長の成長曲線を記録するように母親に指導する.小児乳頭低形成において,年齢にかかわらず,進行性の視力・視野障害や視神経萎縮を認めたときは,潜在性の悪性疾患を考え,ただちに,視交叉の画像検査を行う.成人において,網膜神経線維束欠損型の視野異常に視神経乳頭の低形成などの異形性を認めると先天的な視野障害が示唆され,たまたま検査で発見されて視野障害に気づいた場合が多い4).典型的なdoubleringsignは診断が容易であるが,部分的な場合に低形成乳頭を取りまく色素輪を視神経萎縮と見誤られることがある.屈折性暗点を呈するlaterallytilteddiscsyndromeを含めて乳頭の形成異常や低形成に基づく視野障害は正中線を無視した視野欠損となることが多い.成人の視神経乳頭の形成異常例では,視野障害が進行性であるかどうか,必ず間隔を開けて視野の経時的変化を追うことが大切である.神経線維束欠損性の視野では初診の眼底検査だけでは正常眼圧緑内障を除外するものではないからである.b.視神経萎縮の有無視神経萎縮の鑑別診断は,生命的予後とも関連して実地臨床上まず何をおいても視神経の圧迫性病変を除外しないといけない.特に,視神経萎縮をきたす代表的疾患の緑内障では治療によっていくらうまく眼圧下降が得られても一旦消失した視機能は戻らない.圧迫性視神経症では手術的に減圧すれば視力,視野が著明に改善することが古くから知られており,失明の予防からも,早期に正しく診断することは眼科医として大切な責務である.視神経萎縮(opticatrophy)とは,何らかの不可逆的傷害の結果,網膜神経節細胞の軸索の消失が検眼鏡的に認められる状態を指す.したがって,視神経萎縮は,検眼鏡的な視神経乳頭部の色調が退色ないし網膜神経線維層の厚みが菲薄化した状態を指す臨床的呼称で診断名ではない検眼鏡的な乳頭の色調は乳頭の構造血管を反映しているので,乳頭の大きさは色調に影響し,大きな視神経乳頭は篩状板が大きいのでそれだけ蒼白化して見えやすい.また,視神経乳頭の耳側は,神経線維の直径が小さく,広く乳頭面上に広がるので,鼻側に比べ蒼白化して見えやすい.したがって,検眼鏡的な視神経乳頭の蒼白化を視神経萎縮と早合点してはいけない.乳頭の色調の蒼白化が視神経萎縮かどうかの判定は視機能障害の有無によって決まる.しかし,最近進歩した画像解析で網膜神経線維層の菲薄化が経時的に証明できれば,今ある検査法では機能障害の進行を検出できなくても,視神経萎縮が有意に進行したと判断できるようになってきた.ただ,一般の実地臨床では,検眼鏡的な視神経乳頭の蒼白化は,単眼性の場合や何らかの機能的な障害〔中心暗点,色覚障害,相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)など〕が認められる場合以外は,視神経萎縮の判定はむずかしい.c.圧迫性視神経症の除外眼窩内の圧迫性視神経症では,まれに眼窩後方の病変で乳頭腫脹を認めない場合があるが,多くは片側性の視神経乳頭腫脹をきたす.上記1-c項のように視機能がよく保存されているのと対照的な派手な腫れfull-blowndiscedemaが特徴である.一方,頭蓋内での圧迫性病(11)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006変は通常は乳頭腫脹をきたさないのが原則で,検眼鏡的に正常なものから視神経萎縮を呈するものまで,検眼鏡的所見のみから診断を下すことは基本的には困難で,視野などの臨床所見が必要である.ただ,Frisen-Hoytの3徴として知られる,(1)潜伏性に徐々に進行する視力障害の(2)視神経萎縮に(3)乳頭毛様静脈(optociliaryveins)を認めれば,検眼鏡的所見のみから,ただちに視神経?髄膜腫と診断できる.確定診断は眼窩部の画像検査による.単純CTで特徴的な石灰化像が描出されれば確定する.眼窩部MRI検査では,脂肪抑制モードにGd(ガドリニウム)造影しないと描出できないので,検査を申し込む際,注意を要する.蝶型視神経萎縮は特徴的だが検眼鏡だけではむずかしく,通常は,耳側半盲から逆に疑って観察しないと“そのように”見えない.d.緑内障性視神経症視神経萎縮の鑑別診断上で,日常,頻度的に最もよく遭遇するのが,緑内障性視神経症である.圧迫性視神経症の除外診断は,緑内障性視神経症をきちんと診断することと表裏一体をなす.緑内障性視神経障害の最も早期の変化は網膜神経線維束欠損(retinalnerve?berlayerdefect:NFLD)である.検眼鏡的な視神経乳頭の萎縮像だけに気を取られていると,緑内障の網膜神経線維束の初期脱落を見逃す.局所的に網膜神経線維束が脱落する緑内障性陥凹では,生理的陥凹の壁面を浸食するように拡大していく.したがって,緑内障では陥凹が蒼白部分(pallor)を越えて,辺縁部(rim)に食い込んでいくため,陥凹形成のほうが蒼白部分より先行していく傾向がある.一方,視神経乳頭より後方で視神経が傷害される圧迫性視神経症では,逆向性変性によるため,視神経乳頭の陥凹の形状とは無関係に萎縮が進み,蒼白部の範囲が生理的陥凹を無視して広がっていく.e.“緑内障”様視神経乳頭(glaucoma-look-a-like)視神経乳頭の陥凹が一見緑内障様に見えても,表2のように,緑内障としては非典型的な所見が認められれば,まず,圧迫性視神経症を除外すべく画像検査を施行する.また,緑内障患者でも当然脳内病変を伴うことが(12)表2“緑内障”様の陥凹で画像検査が必要な所見1.一眼に限局2.陥凹を越える辺縁部蒼白化(rimpale)3.半盲(1/4盲)性視野欠損4.陥凹の進行に先立つ視力低下や色覚異常図1症例(67歳,男性)の紹介1カ月前のGoldmann動的視野検査視力はVD=(0.8),VS=(0.5),右眼の耳下側にはI3eのイソプターで固視点に向かう垂直正中線を守る欠損が認められる.左眼はV4eでは耳側周辺部穿破型欠損だが,よく見るとI3eで垂直経線を守る耳側半盲パターンをすでに呈している.すでにこの段階で,左側視交叉の前部を横断性に右側視交叉の前上方にかけて圧迫性病変の存在が示唆される.LR———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(13)ab図4症例(67歳,男性)の頭部MRI(Gd造影T1強調画像)a:軸性断で視交叉上方のGdでよく造影される腫瘤(矢印)を認める.b:冠状断でGd造影される第3脳室間から視交叉上部の腫瘤(矢印)につながり,さらに下垂体柄に沿って広がる転移性腫瘍がよくわかる.本例のように圧迫性視神経症では早期から中心視力が低下する傾向がある.LR図2症例(67歳,男性)の紹介受診時のHumphrey静的視野検査(SITA-fast24-2)視力はVD=(0.07),VS=(0.5)と,右眼の中心視力が高度に障害され,静的中心視野検査で図1当時と比べると右眼の正中線を越える下鼻側の欠損が目立つ.左眼はGoldmannで認められた耳側半盲を示している.上方はグレースケール表示,下方はパターン偏差確率プロット図.LR*図3症例(67歳,男性)の紹介受診時の視神経乳頭のカラー写真右眼(R)の乳頭陥凹は細隙灯で見ると下方の浸食性の進展がよくわかるが,蒼白調の部分は陥凹の中心部に限局しており浸食側の底部(*)の色調は良好な緑内障のごく早期の変化を呈している(centralpallor).左眼(L)の視神経乳頭は浸食型陥凹を乗り越えて耳側辺縁部が蒼白化(矢印)している(rimpal-lor).右眼の急激な視力障害のわりに視神経乳頭はごく早期の緑内障性変化しか認められないことから,球後性の障害が急激に進行していることが示唆される.左眼の耳側半盲と辺縁蒼白より視交叉前部と両視神経の接合部の圧迫性病変についての画像検査がただちに必要である.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006ある.そうした例に図1の67歳,男性がある.近医で緑内障の治療を受けていた.2カ月前に肺癌のため呼吸器科に入院,当時VD=(0.8),VS=(0.5),視野は図1のごとくで,眼圧下降が不十分なため点眼薬が追加された.1カ月前より視力障害が急に進行しVD=(0.07),VS=(0.5)となったので紹介されてきた.静的視野検査(図2)で,左眼に明らかに半盲を呈し,検眼鏡的に左眼視神経乳頭の辺縁部蒼白化(図3)が認められ,頭部MRIを調べると視交叉に肺癌の転移性病変(図4)を認めた.眼圧が高値を示し,検眼鏡的に浸食性(undermining)の陥凹を見ると緑内障と反射的に考えやすいが,前医の視野をよく見るとGoldmann動的視野検査(図1)でも正中線を守る半盲性視野欠損を呈している.もちろん,緑内障でも半盲性欠損を呈することがあるが,正中線を守る視野欠損は,緑内障患者であろうとなかろうと,ただちに,視神経~視交叉の圧迫性ないし浸潤性視神経症を除外しないといけない5).視交叉前部の圧迫性視神経症では早期から視力低下を自覚するのが特徴で,同じ視力1.0でも反対眼と比べて「見えにくい」と訴えることが多い.また圧迫性病変の視力障害の大事な特徴に右下さがりの下降的経過がある.一方,緑内障では進行例を除いて乳頭黄斑線維束は保存されるので,視野検査で神経線維束欠損性の視野に中心視力の低下を伴う場合,外傷や急性視力視野障害の既往がなければ,まず,圧迫性視神経症を除外する必要がある(表1の脚注).おわりに視神経疾患で画像検査が必要な場合,頭部,眼窩部,(14)視交叉部など,どの部位の画像検査か,検査を予約する際にきちんと鑑別診断を念頭に施行しないといけない.圧迫性や浸潤性視神経症を考える場合は,視神経から視交叉について単純だけでなく造影検査を施行しないといけない.うっ血乳頭や半盲性視野を認める場合は,視交叉周辺から後頭葉を含めた頭部画像を造影を含めて検査する.CTは眼窩内を評価するのにはすぐれている.MRIは,脂肪抑制モードにGd造影すれば眼窩先端部の評価にはCTより詳細に見える.頭部の画像検査はMRIが原則である.脱髄病変はT2強調画像で見えるが,眼窩内では脂肪のため単純撮影では見えず,脂肪抑制モードにGd造影が必要である.髄膜腫は単純CTで石灰化が見えるが,MRIでは評価する際はGd造影が必要である.画像検査のオーダーには,具体的に,検査したい部位と疾患名を記載して,放射線医に最適の検査を施行してもらわないと“見えるもの”も見えなくなってしまう.文献1)柏井聡:視神経乳頭炎・浮腫の鑑別診断.臨眼54:102-104,20002)GansM,BurdeRM,KashiiSetal:Idiopathicintracranialhypertensionandpseudotumorcerebri.CurrentOcularTherapy5(edbyFraunfelderFT,RoyFH),p217-219,WBSaunders,Philadelphia,20003)KashiiS,KikuchiM,HashimotoTetal:Achildwithhypoplasticopticdiscwhohadasuprasellartumor.神経眼科14:98-106,19974)KashiiS,dGaunnttC,MatsumotoMetal:Acaseofatilteddiscsyndrome.神経眼科11:348-356,19945)KashiiS,dGaunnttC,ShimizuHetal:Acaseofnasalvisual?elddefect,inwhichglaucomawassuspected.神経眼科11:86-95,1994

視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか?

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが,立体的に観察できない場合は乳頭表面の小血管の屈曲する部位を参考にして陥凹縁を決定する.乳頭縁は乳頭周囲にある白色の強膜リングの内側縁により決定することができる.正常眼の乳頭の形状はやや縦長の楕円形が多い(図1)6).乳頭辺縁部〔neural(neuroretinal)rim〕は,乳頭縁と乳頭陥凹縁との間の部位で,おもに神経線維から構成されている.正常眼の乳頭辺縁部はオレンジ色またはピンク色で,その色調はほぼ一定である.正常眼では,乳頭陥凹の形状はやや横長の楕円形が多く,乳頭辺縁部の幅は広い順に,下側,上側,鼻側,耳側とされる(ISN?Tの法則)6)が,大きな乳頭や近視眼などではこの法則は必ずしも当てはまらない.乳頭蒼白部(pallor)は乳頭陥凹底で色調のコントラストが最も強く蒼白な部位である.正常眼の生理的乳頭陥凹では乳頭の蒼白部は陥凹にほぼ一致するか,あるいはそれよりもやや小さい.乳頭陥凹の大きさは乳頭の大きさに関係し,一般に乳頭が大きいほど陥凹は大きくなる.正常眼の乳頭径に対する陥凹径の比(cup/discratio:C/D比)は多くの場合0.3以下で,C/D比が0.7以上は全体の1~2%に過ぎないとされている7).正常者の乳頭陥凹は左右眼で対称的で,C/D比の左右差が0.2を超えるものは全体のわずか1%とされている7).通常正常眼では水平C/D比が垂直C/D比よりも大きい6).乳頭辺縁部の大きさも乳頭の大きさに関係し,一般に乳頭が大きいほど辺縁部も大きくなる.はじめに2000~2001年にわが国で行われた大規模な緑内障疫学調査(多治見スタディ)により,40歳以上の緑内障の有病率は5.0%であること,さらに緑内障の72%が原発開放隅角緑内障(広義)の正常眼圧群,いわゆる正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)であることが示された1,2).わが国に多いNTGの視神経障害と視野障害は,基本的に進行性,非可逆的であり,本症の早期診断,早期管理は重要課題となっている3).NTGの診断には,緑内障性視神経乳頭(乳頭)陥凹拡大など,緑内障性乳頭変化の検出が不可欠である.しかし,緑内障類似の乳頭陥凹拡大を呈する緑内障以外の先天性あるいは後天性疾患がいくつかあり,乳頭変化が緑内障によるものか否かの判定が容易でない場合がある4,5).本稿では,「視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか?」と題し,まず正常眼と緑内障眼の乳頭所見について述べ,正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合を仮定し,乳頭陥凹の診かたについて解説する.I正常眼と緑内障眼の乳頭所見網膜と平行に走行してきた神経線維は乳頭表面で後方へ屈曲し,乳頭のほぼ中央に凹みを形成するが,この凹みが乳頭陥凹(opticcup)である.乳頭陥凹縁は神経線維が乳頭内で急激に後方へ屈曲する部位とされている.乳頭陥凹縁の決定には乳頭の立体的な観察が必要である(3)???*MotohiroShirakashi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕白柏基宏:〒951-8510新潟市旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):565~570,2006視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか???????????????????????????????????????????????????????白柏基宏*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(4)図3緑内障眼の乳頭(2)同時立体眼底写真.乳頭陥凹はびまん性に拡大している.乳頭辺縁部はびまん性に菲薄化しているが,下耳側に切れ込みがあり,乳頭陥凹の下掘れもみられる.乳頭陥凹の下掘れの部位を走行する血管は強く折れ曲がっている.下耳側に乳頭出血がみられ,それに一致して楔状の網膜神経線維層欠損がみられる.図1正常眼の乳頭同時立体眼底写真.図2緑内障眼の乳頭(1)同時立体眼底写真.乳頭陥凹はびまん性に拡大している.乳頭陥凹の下掘れと強膜篩板孔の露出がみられ,陥凹の下掘れの部位を走行する血管は強く折れ曲がっている.乳頭辺縁部はびまん性に菲薄化しているが,下耳側に切れ込みがあり,それに一致して楔状の網膜神経線維層欠損がみられる.図4緑内障眼の乳頭(3)同時立体眼底写真.乳頭陥凹はびまん性に拡大している.乳頭辺縁部はびまん性に菲薄化しているが,特に上耳側で薄く,それに一致して楔状の網膜神経線維層欠損がみられる.耳側に大きな乳頭周囲網脈絡膜萎縮がみられる.図5緑内障眼における乳頭の陥凹拡大と蒼白部拡大一般に緑内障眼では乳頭の陥凹拡大が蒼白部拡大に先行する.検眼鏡的に,乳頭陥凹縁は乳頭表面の小血管の屈曲部位により決定する(①の破線)が,乳頭陥凹縁を蒼白部により決めて陥凹の変化を評価する(②の破線)と,陥凹の変化を過小評価する危険がある.①②表1緑内障眼の乳頭および乳頭周囲所見乳頭乳頭陥凹の拡大乳頭辺縁部の菲薄化乳頭陥凹の下掘れ強膜篩板孔の変形と露出乳頭蒼白部の拡大乳頭出血乳頭上網膜血管の変化(bayoneting,鼻側偏位,overpass,baring)乳頭周囲網膜神経線維層欠損乳頭周囲網脈絡膜萎縮———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???緑内障眼では神経線維の消失に伴い,乳頭陥凹が徐々に拡大する(図2~5,表1).乳頭陥凹拡大には,びまん性拡大と局所性拡大があるが,一般に両者が組み合わさった場合が多い.通常緑内障初期では乳頭陥凹は水平方向に比し垂直方向へ優位に拡大する.乳頭陥凹の局所性拡大は乳頭の上耳側または下耳側にみられることが多い.緑内障の進行に伴い,乳頭辺縁部は徐々に菲薄化し,その色調は蒼白化していく.乳頭辺縁部の菲薄化には,びまん性菲薄化と局所性菲薄化がある.乳頭辺縁部のびまん性菲薄化は乳頭陥凹のびまん性拡大に対応する.乳頭辺縁部の局所性菲薄化は乳頭陥凹の局所性拡大に対応し,辺縁部に楔状の切れ込み(notching)を形成する.緑内障の進行に伴い,乳頭陥凹の深さも増加し,陥凹の下掘れ(undermining)や強膜篩板孔の変形と露出(laminardotsign)がみられるようになる.乳頭蒼白部も徐々に拡大するが,一般に乳頭の陥凹拡大が蒼白部拡大に先行する(図5).乳頭陥凹が,その内側に蒼白な凹みを保持したまま,カップの受け皿状に拡大することがある(saucerization).乳頭の陥凹拡大や辺縁部菲薄化に対応し,乳頭周囲に網膜神経線維層のびまん性または局所性欠損がみられることがある.緑内障眼では乳頭出血(dischemorrhage)がみられることがある(図3)8,9).乳頭出血は乳頭上や乳頭に隣接する網膜上にみられる小さな線状の出血で,上耳側または下耳側に多くみられ,乳頭辺縁部の楔状の切れ込みや網膜神経線維層欠損の存在部位と一致してみられることが多い.乳頭辺縁部の高度の菲薄化や乳頭陥凹の下掘れが生ずると,この部位を走行する乳頭上血管は強く折れ曲がる(bayoneting).支持組織の消耗に伴い,乳頭上血管は鼻側へ偏位していく(nasaldisplacement).乳頭上血管が乳頭陥凹壁から離れて橋状に走行することがあり(vesseloverpass),本来乳頭陥凹縁に沿って走行する乳頭上血管が陥凹縁から離れて走行することもある(baringofthecircumlinearvessel).緑内障眼では乳頭周囲網脈絡膜萎縮〔peripapillary(parapapillary)chorio-retinalatrophy〕がみられることがある(図4).乳頭周囲網脈絡膜萎縮は乳頭のより遠位に存在するzonealphaとより近位に存在するzonebetaの2つに分類され,検眼鏡的にはzonealphaは色素の濃淡が混在する部位,zonebetaは脈絡膜および強膜が透見される部位である10).II乳頭陥凹の診かた(正常眼圧,開放隅角,緑内障類似の乳頭陥凹拡大の場合)正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合,NTGを疑う必要があるが,生理的乳頭陥凹拡大やその他の先天性あるいは後天性疾患による乳頭陥凹拡大のこともあり,診断には注意を要する.診断は,視神経所見のみに基づいて行うのではなく,視野所見など,その他の検査所見を併せた総合的評価により行う必要がある3).NTGと診断するために視神経所見や視野所見の悪化を確認せざるをえない場合があり,診断のための経過観察も重要となる.以下に,正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合を仮定し,乳頭陥凹の診かたについて述べる.眼底検査により乳頭を詳細に観察するには,十分な光量と高い倍率が必要である.乳頭を三次元的に評価することが重要で,そのためには乳頭の立体的な観察が必要である.散瞳後,まず倒像鏡を用いて眼底を周辺部まで観察し,網脈絡膜の異常の有無を調べる.つぎに細隙灯顕微鏡と補助レンズ(78D,90Dなどの非接触型レンズまたはGoldmann三面鏡などの接触型レンズ)を用いて乳頭を立体的に観察する.乳頭の形状,表面の形状(陥凹と辺縁部),色調(陥凹底と辺縁部の蒼白性),血管の走行などを観察するほか,NTGでは乳頭出血が高頻度にみられること8)から,その有無も観察する.網膜神経線維層欠損,乳頭周囲網脈絡膜萎縮など,乳頭周囲の異常の有無も観察する.視神経所見は同一眼の上下耳鼻側で比較し,さらに左右眼で比較する.眼底カメラ(同時立体眼底カメラを含む)を用いた視神経所見の観察と記録は有用である.眼底画像解析装置を用いた乳頭や網膜神経線維層の定量的評価は診断の補助的手段として有用である.一般に緑内障眼では乳頭の陥凹拡大が蒼白部拡大に先行する,すなわち,陥凹拡大と蒼白部拡大は一致しないことから,陥凹縁を蒼白部により決めて陥凹の変化を評価すると,陥凹の変化を過小評価する危険がある(図5).通常緑内障初期では乳頭陥凹は水平方向に比し垂直(5)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006方向へ優位に拡大するため,陥凹の大きさをC/D比を用いて評価する場合,水平C/D比よりも垂直C/D比が有用である.乳頭陥凹拡大の基準として,垂直C/D比が0.7以上,あるいは垂直C/D比の左右差が0.2以上などが用いられている1,2).しかし,乳頭陥凹の大きさは乳頭の大きさに関係し,一般に乳頭が大きいほど陥凹は大きくなり,C/D比も大きくなることから(図6)11),陥凹の大きさやC/D比が大きくても正常の場合があり,反対に陥凹の大きさやC/D比が小さくても異常の場合がある.したがって,乳頭陥凹の大きさやC/D比の評価は乳頭の大きさを考慮して行う必要がある.なお,乳頭中心から黄斑部中心窩までの距離はほぼ一定であることから,眼底写真を用いて乳頭径(discdiameter:DD)に対する乳頭中心から中心窩までの距離(disc-maculardistance:DM)の比,DM/DD比を求めることにより,乳頭の大きさを大まかに評価することができる(図7)12).DM/DD比の正常値は2.4~3.0とされ,DM/DD比が2.4より小さい場合は大きな乳頭,3.0より大きい場合は小さな乳頭と判定される12).緑内障眼では視神経所見に対応した視野所見がみられ,両所見には整合性がある(図2,8).したがって,乳頭陥凹拡大がNTGによるものと診断する際も,視神経障害と視野障害の部位と程度が一致することを確認し,整合性がみられない場合は,眼底と視野を再検査するとともに,NTG以外の疾患を検索する必要がある.乳頭陥凹拡大がみられても,垂直経線を境とした視野障害がみられる場合,中心視野障害や視力低下がみられ,これらが比較的急速に進行する場合などでは,頭蓋内疾患による視神経障害も疑い,画像診断による頭蓋内疾患の検索を行う必要がある.(6)図6乳頭の大きさと陥凹の大きさ乳頭が大きいほど,陥凹およびC/D比は大きくなる(乳頭辺縁部の大きさは一定と仮定した場合).(文献11より)C/D=0.2C/D=0.5C/D=0.8a2a1b図7DM/DD比乳頭径[DD=(a1+a2)/2]に対する乳頭中心から黄斑部中心窩までの距離(DM=a1/2+b)の比,DM/DD比を求めることにより,乳頭の大きさをおおまかに評価することができる.DM/DD比の正常値は2.4~3.0で,DM/DD比が2.4より小さい場合は大きな乳頭,3.0より大きい場合は小さな乳頭と判定される.(文献12より)図8緑内障眼の視野Humphrey30-2全点閾値検査(図2と同一眼).上半視野に弓状暗点と鼻側階段がみられ,視神経所見に対応した視野所見である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???NTGの乳頭陥凹拡大との鑑別が最も問題となるものとして,生理的乳頭陥凹拡大があげられる(図9).生理的乳頭陥凹拡大では,乳頭が大きいものが多く,乳頭陥凹縁は整っており,乳頭辺縁部の蒼白性や網膜神経線維層欠損はみられない.乳頭陥凹の大きさの左右差は少なく,C/D比の左右差が0.2を超えることは少ない.日本人に多い強度近視眼では著明な網脈絡膜萎縮を伴った乳頭陥凹拡大がみられることがある.この場合も,NTGの乳頭陥凹拡大との鑑別が問題となるが,一般に乳頭の初期緑内障性変化の検出は容易ではなく,併発する網脈絡膜萎縮などによる視野異常がみられることがあり,視野所見の評価には注意が必要である.乳頭陥凹の局所性拡大または乳頭辺縁部の局所性菲薄化がみられる場合,その乳頭内における位置を把握する必要がある.先天性の視神経低形成であるsuperiorsegmentaloptichypoplasia(SSOH)では乳頭辺縁部の局所性菲薄化がみられ,NTGとの鑑別が問題となるが,NTGでは乳頭辺縁部の局所性菲薄化は上耳側または下耳側に多いのに対し,SSOHでは上鼻側の乳頭辺縁部の菲薄化が特徴的である13).乳頭の色調が陥凹に比して蒼白な場合,すなわち蒼白部が陥凹よりも大きい場合,NTG以外の疾患を疑う必要がある.側頭動脈炎に発症した前部虚血性視神経症では緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられることがあるが,乳頭全体の蒼白化が特徴的である.動脈瘤や腫瘍などで視神経が圧迫されている場合でも,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられることがあるが,通常乳頭の蒼白部が陥凹より大きい.おわりに本稿では,「視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか?」と題し,まず正常眼と緑内障眼の乳頭所見について述べ,正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合を仮定し,乳頭陥凹の診かたについて解説した.緑内障類似の乳頭陥凹拡大を呈する緑内障以外の先天性あるいは後天性疾患がいくつかあり,乳頭変化が緑内障によるものか否かの判定が容易でない場合がある4,5).わが国ではNTGはありふれた疾患であるとして,正常眼圧で,乳頭陥凹拡大がみられる症例を安易にNTGと診断してしまう危険性が指摘されている5).診断は,視神経所見のみに基づいて行うのではなく,視野所見など,その他の検査所見を併せた総合的評価により行う必要がある.NTGと診断するために視神経所見や視野所見の悪化を確認せざるをえない場合があり,診断のための経過観察も重要となる.文献1)IwaseI,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseI,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:Prevalenceofprimaryangleclosureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.??????????????112:1661-1669,20053)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,20034)白柏基宏,八百枝潔,阿部春樹:緑内障眼における眼底所見.図説よくわかる緑内障検査法(三嶋弘,阿部春樹,新家眞,山本哲也編),p56-66,メディカルレビュー社,20035)若倉雅登:緑内障と鑑別を要する視神経疾患の眼底.神眼22:184-193,20056)JonasJB,GusekGC,NaumannGOH:Opticdisc,cupandneuroretinalrimsize,con?gurationandcorrelationsinnormaleyes.?????????????????????????29:1151-1158,19887)ArmalyMF:Geneticdeterminationofcup/discratiooftheopticnerve.???????????????78:35-43,19678)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemor-rhageinlow-tensionglaucoma.?????????????93:853-857,1986(7)図9生理的乳頭陥凹拡大同時立体眼底写真.乳頭は比較的大きい.乳頭陥凹縁は整っており,乳頭辺縁部の蒼白性や網膜神経線維層欠損はみられない.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,20069)YamamotoT,IwaseI,KawaseKetal:Opticdischemor-rhagesdetectedinalarge-scaleeyediseasescreeningproject.??????????13:356-360,200410)JonasJB,NguyenXN,GusekGCetal:Parapapillarycho-rioretinalatrophyinnormalandglaucomaeyes:I.Mor-phometricdata.?????????????????????????30:908-918,198911)EuropeanGlaucomaSociety:Opticnerveheadandreti-nalnerve?berlayer.TerminologyandGuidelinesfor(8)Glaucoma,IIndedition,p1.16-1.23,Dogma,200312)WakakuraM,AlvarezE:Asimpleclinicalmethodofassessingpatientswithopticnervehypoplasia:Thedisc-maculadistancetodiscdiameterratio(DM/DD).???????????????65:612-617,198713)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProjectpar-ticipants.????????????????48:578-583,2004眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

序説:視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(1)???多治見スタディで40歳以上の日本人の実に3.9%に開放隅角緑内障がみられること1)が明らかにされて以降,日本緑内障学会や眼科医会などの広報活動により,わが国では眼科専門医だけでなく一般の患者や臨床医にも広く緑内障診断の重要性が知られるようになりつつある.また,検診の際に従来は眼圧検査をもとに行われていた緑内障のスクリーニングが,眼底写真の乳頭所見をもとに行われるようになり,乳頭所見から緑内障を疑われて眼科専門医のもとを訪れる患者も急増している.しかし,日本人に多い近視性の乳頭変化や視神経の先天異常でも緑内障類似の乳頭陥凹を呈することがあり,眼科医でも判断に迷うこともしばしばである.そこで本特集では,まず眼圧が正常で視神経乳頭のおかしな患者が来院したとき,まずどのように考え,どのような検査をするかについて,新潟大学の白柏基宏先生に新潟大学での実際の対応法を解説していただいた.また,以前emptysellasyndrome2)や内頸動脈や前大脳動脈による圧迫3)で緑内障類似の乳頭所見や視野変化がみられることが話題になった.そこで,大阪赤十字病院の柏井聡先生に視神経乳頭の形態異常や陥凹拡大があるとき,視神経疾患で頭部のMRI(磁気共鳴画像)などで鑑別が必要なものを具体例とともにをあげていただいた.さらに中毒の際に視神経症を起こすことはよく知られており,特にメチルアルコール中毒慢性期では緑内障類似の乳頭所見を呈する.井上眼科病院の若倉雅登先生には,眼科医に対する中毒性視神経症のアンケート調査を踏まえて,中毒性視神経症診断の注意点について解説していただいた.さて,やはり緑内障性乳頭変化の鑑別で最も注意すべきものは先天異常と近視性変化である.このうち視神経の先天異常で一見緑内障性の楔状視野欠損をきたすものについて千葉大学の藤本尚也先生に解説していただき,本特集共編の山本哲也先生には視神経の先天異常のなかでも特に多治見スタディの際に頻度を実際にカウントしたsuperiorsegmentaloptichypoplasiaについて補足していただいた.頻度はそれほど多くはないが,遺伝性視神経症でも乳頭陥凹が拡大することがある.兵庫医科大学の神野早苗先生にはミトコンドリア遺伝子の点突然変異によるLeber病4)や常染色体の????遺伝子の異常による優性遺伝性視神経萎縮5)で陥凹の拡大がみられるものについて症例提示をお願いした.最も重要なものの一つである近視性変化の乳頭所見と緑内障との鑑別については,つぼい眼科クリニックの坪井俊一先生にお願いした.乳頭傾斜症候群を含め,日本人に多い中等度以上の近視の乳頭変化と緑内障との関係について解説していただいた.岐阜大学の石田恭子先生には,生理的な乳頭陥凹と緑内障性陥凹の異常の境界について乳頭の画像診0910-1810/06/\100/頁/JCLS*OsamuMimura:兵庫医科大学眼科学教室●序説あたらしい眼科23(5):563~564,2006視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法???????????????????????????????─?????????????????????????????三村治*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006断を主に鑑別点をあげていただき,さらに視野所見による緑内障と視路障害に伴う視野障害についても解説していただいた.本特集が,読者の視神経乳頭所見から緑内障を疑う患者の鑑別に役立てば幸いである.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)BeattieAM,TropeGE:Glaucomatousopticneuropathyand?eldlossinprimaryemptysellasyndrome.????????????????26:377-382,19913)NishiokaT,OkumuraR,IshikawaMetal:Prolapsinggyrusrectusasacauseofprogressiveopticneuropathy.???????????????40:301-309,20004)OpialD,BoelunkeM,TadesseSetal:Leber?shereditaryopticneuropathymitochondrialDNAmutationsinnor-mal-tensionglaucoma.?????????????????????????????????239:437-440,20015)FournierAV,DamjKF,EpsteinDLetal:Discexcava-tionindominantopticatrophy:dilerentiationfromnor-maltensionglaucoma.?????????????108:1595-1602,2001(2)Ⅰ神経眼科における診察法・検査法Ⅱ視路の異常〔1.視神経障害/2.視交叉およびその近傍の病変/3.上位視路の病変〕Ⅲ眼球運動の異常〔1.核上性眼球運動障害/2.核および核下性眼球運動障害/3.神経筋接合部障害/4.外眼筋および周囲組織の異常/5.眼振および異常眼球運動〕Ⅳ瞳孔・調節・輻湊機能の異常〔1.瞳孔・調節機能の異常/2.輻湊・開散機能の異常〕Ⅴ眼窩・眼瞼の異常〔1.眼窩の異常/2.眼瞼の異常〕Ⅵその他〔1.心因性反応/2.全身疾患と神経眼科/3.網膜疾患の接点/4.緑内障との接点/5.各種検査〕Ⅶこれからの神経眼科〔1.視神経移植と再生/2.遺伝子診断と治療/3.実験的視神経炎/4.視神経症の新しい治療法の試み/5.膝状体外視覚系/6.固視微動の解析/7.FunctionalMRI/8.Fibertracking〕新臨床神経眼科学<増補改訂版>【編集】三村治(兵庫医科大学教授)■内容目次■A4変型総312頁写真・図・表多数収録定価21,000円(本体20,000円+税)?メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替口座00100-5-69315電話(03)3811-0544(代)FAX(03)3811-0637