———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS断の起こった時期が生後早期であるほど重篤な弱視を形成する.したがって生直後から高度の水晶体混濁を生じた先天完全白内障では,片眼白内障や左右差の著しい例では生後1~2カ月以内に,両眼白内障でも生後3カ月以内に手術を行わないと良好な視機能は望めない2).さらに先天白内障では種々の眼・全身異常に伴うものが少なくない.近年,より低年齢児に対しても眼内レンズの適応が広がってきているが,乳児や合併症のある白内障に対する眼内レンズの術式と長期的な安全性は確立していないため3,4),水晶体切除・前部硝子体切除術を施行後,速やかに屈折矯正を行い弱視訓練を開始するのが原則である(図1).乳児の網膜硝子体疾患に対する硝子体手術の際には,第一次硝子体過形成遺残(persistenthyperplasticpri-maryvitreous:PHPV),家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR),未熟はじめに乳児期(ゼロ歳児)に眼鏡を処方する機会は限られている.しかし近年,先天白内障のみならず,未熟児網膜症などの難治性網膜硝子体疾患に対しても早期手術の技術が進歩し,術後の屈折矯正の適否が良好な視機能の獲得に関与するようになってきた1).乳幼児,特にゼロ歳児に対する適正な眼鏡の作製にはさまざまな問題点があり,良好な装用状態を維持するためには,きめ細かなケアが欠かせない.本稿では,乳児の眼鏡処方の対象となる疾患について説明し,処方の実際の進め方,処方後の管理,注意点について述べたい.I対象となる疾患乳児期に視覚発達を妨げる強度の屈折異常がある場合,なかでも術後無水晶体眼や強度遠視が眼鏡処方の対象となる(表1).1.無水晶体眼先天白内障や網膜硝子体疾患術後の無水晶体眼の矯正には,眼鏡またはコンタクトレンズが用いられるが,両眼性の場合,適切に使用すれば視機能の予後には差がないため,安全に取り扱うことができる眼鏡を処方することが多い.先天白内障は早期手術によって良好な視機能を獲得しうる代表的疾患である.視性刺激遮断に対する感受性は生後2カ月から2歳頃までがピークで,白内障による遮(9)????*SachikoNishina:国立成育医療センター眼科〔別刷請求先〕仁科幸子:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療センター眼科特集●眼鏡の新しい展開あたらしい眼科24(9):1141~1144,2007乳児の眼鏡??????????????????????????????????仁科幸子*表1乳児期に強度の屈折異常をきたす代表的疾患無水晶体眼先天白内障術後,PHPV術後,ROP,FEVR硝子体手術後強度遠視小眼球,Leber先天黒内障,早期発症調節性内斜視など強度近視・乱視発達緑内障,水晶体偏位,円錐水晶体,角膜瘢痕,未熟児網膜症,網膜有髄神経線維,Stickler症候群などPHPV:第一次硝子体過形成遺残,ROP:未熟児網膜症,FEVR:家族性滲出性硝子体網膜症.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)など,多くは網膜周辺部から水晶体後面に増殖組織が存在し牽引性網膜?離を生じているため,水晶体切除を要する.従来これらの疾患では,一部の軽症例を除き,手術によって網膜復位が得られても視力予後はきわめて不良であった.しかし重症未熟児網膜症(Ⅱ型,aggressiveposte-riorROP:AP-ROP)では,レーザー治療後の再増殖,牽引性網膜?離に対する早期硝子体手術の技術が進歩し,水晶体切除を要するが,比較的良好な視力予後が得られる可能性が出てきた.このため術後には合併症の管理とともに屈折矯正の重要性が増している.AP-ROPに対する早期硝子体手術の時期は修正在胎35~41週(平均37週)であり1),未熟児に対応した特別な規格の眼鏡の必要性が生じている(図2).2.強度屈折異常強度遠視をきたす疾患として,真性小眼球,Leber先天黒内障,強度近視・乱視をきたす疾患として発達緑内障,水晶体偏位,円錐水晶体,角膜瘢痕,未熟児網膜症,網膜有髄神経線維,Stickler症候群などの全身症候群があげられる.特に強度遠視や不同視がある場合には,弱視予防のため乳児期から眼鏡を処方する.しかし,一般に高度近視性不同視では網膜の器質病変を伴うことが多く,早期に眼鏡矯正と健眼遮閉による弱視治療を行っても視力予後不良である.内斜視を伴わない中等度遠視,強度近視・乱視で左右差がなければ2歳以降に眼鏡処方を考慮すればよい.たとえ重篤な視覚障害をきたす疾患であっても,残存視機能を発達させ活用させるためには,まず強度屈折異常を矯正する眼鏡を装用させることが大切である.3.早期発症内斜視乳児期に眼位異常をきたした場合,放置すると両眼視機能の発達が困難となる.早期発症内斜視の多くは早期手術を要するが,アトロピン点眼によって遠視(+3.0D以上)が検出された場合は,調節性要因の関与を疑い,完全矯正眼鏡を手術に先立って装用させるのが原則である.II眼鏡処方の実際疾患ごとの特徴を踏まえ,実際の処方の進め方,問題点と注意点について述べる.1.乳児の屈折検査視反応不良,眼位異常,眼振がみられる場合,全身疾患や器質的眼疾患に伴う強度屈折異常が疑われる場合には,必ず調節麻痺剤を使用した精密屈折検査を行う.調節麻痺剤として1%cyclopentolateは外来で簡便に点眼できて効果的であるが,特に内斜視を伴う場合には,ア(10)図1生後7カ月男児,両眼先天白内障術後の無水晶体眼に対する眼鏡(アンファンベビー,サイズ42mm,オグラ製)良好な装用状態を維持している.図2修正在胎43週男児,ROP早期手術後の無水晶体眼に対する眼鏡(アンファンベビー,サイズ30mm,オグラ製)テンプルが柔らかくバンドで頭部に固定しているため乳児に装着しやすい.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007????トロピン点眼を用いた強力な調節麻痺下検査が不可欠である.乳児では0.25%アトロピンを1日2回,1週間点眼を原則としているが,全身的な副作用や中毒症状について十分説明し,点眼後に涙?部を圧迫するよう指導する.術後無水晶体眼では,術後炎症や角膜浮腫が消退し眼圧が安定する術後5~7日目に屈折検査を実施している.中等度以上の散瞳下では,検影法による検査が容易となる.乳児の精密屈折検査法は検影法が基本である.無水晶体眼から強度近視・乱視まで,角膜混濁などの器質的眼疾患がある場合でも測定可能である.正確な測定のためには,できるだけ自然な状態で,短時間で検査できるように普段から習熟しておくことが必要である5).やむをえず開瞼器を使用する場合は乱視の混入に注意する.体動が少ない乳児では,手持ちオートレフラクトメーターを用いると,測定可能な範囲であれば簡便に検査でき有用である.しかし,調節の介入や乱視の混入が多い点,眼振や器質病変がある場合は測定値のばらつきが多く不正確である点に注意を要する.2.眼鏡処方における注意点乳児期に眼鏡を処方する場合には,視力の発達途上の特性を考慮して,近見を重視し屈折矯正度数を決める.したがって,調節力を喪失した術後無水晶体眼に対しては,視機能発達を促すため,単焦点レンズで+3Dの近見矯正を原則としている.また有水晶体眼であっても,器質的眼疾患による高度の視覚障害をきたしている場合には,近距離に焦点を合わせて残余視機能の発達を促す.はじめに乳児の機嫌をとりながら近見にて瞳孔間距離を測定し,つぎに前述の精密屈折検査を実施して屈折矯正度数を決定し処方箋を発行するが,処方後に必ず,顔面の大きさ(顔幅)に適した乳児用眼鏡枠(フレーム)を選び,レンズのサイズが十分に広く,正しい位置に安定して装着されているかどうか,実際に装用状態(フィッティング)を確認することが大切である(図1).また,安全性と,重量や収差をできるだけ軽減するため,プラスチックレンズで作製するよう指示する.処方時には,弱視や斜視の治療目的に常用する眼鏡であることを家族に十分に説明し,頻回に作製する費用の負担を少しでも軽減するため,治療用眼鏡の療育費給付について情報提供する(前項の「治療用眼鏡の療養費給付」参照).眼鏡はコンタクトレンズに比べて取り扱いが容易で,角膜障害を起こすリスクがないため,全身疾患や眼合併症をもつ乳児に対しても安全に用いることができる.実際に家族に受け入れられやすくコンプライアンスが良好な点が弱視治療において最大のメリットであり,筆者らの施設の両眼先天白内障症例(全身・眼合併症例60%以上)では,約80%の例において術後1カ月以内で眼鏡の常用が可能であった6).しかし,眼鏡による矯正には収差や網膜像の拡大などの光学的欠点があり,レンズ中心がずれるとプリズム作用が出るため十分な注意が必要である7).乳児ではレンズの厚さや重さの問題が大きく,適正な眼鏡フレームであっても良好なフィッティングを維持することはむずかしい.特に,仰臥位が多く定頸していない未熟児や新生児はフレームがずれやすいため,覚醒時に集中して少しでも良好に装用できるよう家族に説明しておく(図2).3.眼鏡の作製範囲・問題点現在市販されている乳児用眼鏡フレームは,テンプルが柔らかく頭部にバンドで固定するなどの工夫がなされており,サイズ30mm,瞳孔間距離32mmから特注で作製できるため,未熟児の術後無水晶体眼にも対応可能となった(図2).瞳孔間距離40mm未満または顔幅に比べて瞳孔間距離の狭い例では,レンズを内よせして光(11)図3Hallermann-Strei?症候群の1歳男児,両眼小眼球・先天白内障術後の眼鏡顔面の大きさに比べて瞳孔間距離が狭いため作製および装用がむずかしい.レンズ面に多数の傷ができている.———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.9,2007学間距離を一致させる(図1)が,顔幅に比べて極端に瞳孔間距離が狭い例では作製がむずかしく,テンプルが顔面を圧迫していたり,良好な装用位置を保持できないなどの問題が生じる(図3).さまざまな顔面の特徴をもつ患児に対応した眼鏡の開発が望まれる.レンズ度数は球面設計で+33.0Dまで作製可能であるが,+24.0Dを超えると高額レンズとなる.度数が大きいほど光学的欠点や重量が増すため,良好な装用状態を維持できるかどうかが問題となる.近年,眼鏡,コンタクトレンズともに+20.0Dを超えるハイパワーで作製可能な範囲,レンズの種類がきわめて限られたものとなっており深刻な問題である.未熟児,新生児に対する手術技術の進歩によって,術後の弱視治療に不可欠な屈折矯正の早期導入・開発の必要性も増していることを強調したい.III眼鏡処方後の管理乳児期に眼鏡を処方した際には,成長に伴って屈折度,顔面の大きさが著しく変化し,心身の発達に伴って体動も激しくなるため,処方後の綿密な管理が非常に重要である.成長に伴う屈折度の変化は,視覚の感受性の高い0~2歳で特に著しい.弱視治療のためには,この期間に頻回に検査を行って,度数変更が必要かどうかをチェックすることが大切である.術後無水晶体眼では,術後合併症の有無を検査するとともに,少なくとも2~3カ月ごとに屈折検査を施行し,眼鏡が+2~3Dの近見矯正に合っているかどうか確認する.強度遠視では測定誤差が出やすいため,眼鏡の装用状態が良好かどうかを確認して,レンズ装用下で検影法(overrefraction)を施行すると有効であり,4D以上の過矯正となれば変更する.屈折度の急激な変化を認めた場合には,緑内障などの術後合併症の発症が疑われるため十分注意する.顔面の成長も速いため,眼鏡フレームが顔幅に合っているかどうか,瞳孔間距離は変化していないか,装用状態(フィッティング)やレンズの状態は良好かどうか,つねに注意を払う.特に度の強いレンズは,瞳孔間距離のずれによってプリズム作用が生じるため,たとえレンズの度が同じでも2mm以上ずれていたら再処方を検討する.眼鏡はいったん慣れると継続して装用できることが多いが,心身の発達の過程で患児が装用を嫌がったり,取り扱いが粗雑になって,コンプライアンスが悪くなることがある.患児の手で眼鏡をいじるようになると,レンズ面に汚れや傷が多数ついたり,眼鏡フレームが曲がったりしやすくなる(図3).顔面の成長による変化に応じて適切な眼鏡を再処方し,早めに眼鏡のフィッティングを調整して,患児ができるだけ快適に眼鏡を装用できるように配慮する.そして,弱視治療が奏効すると,2歳頃には患児は好んで眼鏡を装用し手放さなくなることを説明し,目標達成に向けて,家族とともに根気強く対応していくことが大切である.文献1)AzumaN,MotomuraK,HamaYetal:Earlyvitreoussurgeryforaggressiveposteriorretinopathyofprematuri-ty.???????????????142:636-643,20062)BirchEE,StagerD,Le?erJetal:Earlytreatmentofcongenitalunilateralcataractminimizesunequalcompeti-tion.?????????????????????????39:1560-1566,19983)山本節:小児眼内レンズ挿入症例の長期観察.眼科手術13:39-43,20004)LambertSR,LynnM,Drews-BotschCetal:Acompari-sonofgratingvisualacuity,strabismus,andreoperationoutcomesamongchildrenwithaphakiaandpseudophakiaafterunilateralcataractsurgeryduringthe?rstsixmonthoflife.???????5:70-75,20015)仁科幸子:検影法,小児の屈折検査のコツ.眼科プラクティス9,屈折矯正完全版(坪田一男編),p25-26,文光堂,20066)野田英一郎,仁科幸子:小児白内障術後の屈折矯正法.眼科診療プラクティス95,屈折矯正法の正しい選択(田野保雄編),p118-122,文光堂,20037)三宅三平:無水晶体眼.眼科診療プラクティス9,屈折異常の診療(丸尾敏夫編),p82-85,文光堂,1994(12)