———————————————————————-Page10910-181008\100頁JCLSいる抗精神病薬としてフェノチアジン系のものがあげられる.代表的なものはクロルプロマジンで,これはドパミンD2遮断作用薬としては最も歴史が古い.古典的薬物ではあるが,今も統合失調症をはじめ,躁うつ病など広く用いられてきた薬剤で,眼副作用としては角膜,水晶体や網膜,ぶどう膜への物質沈着が知られる1,2).筆者は羞明を主訴に来院した,統合失調症で10年以上本剤を投与されていた女性例で,角膜〔特に内皮側〕に細かなやや黄色がかった白色物質が多数沈着している症例をみたことがあるが,この例では水晶体や網膜には異常がなく,視力や網膜電図(ERG)にも異常はなかった.しかし,皮膚には全体に色素沈着がみられた.網膜色素変性類似の網膜症の報告が比較的多いのがチオリダジンである2).自覚的には無症状で眼底に明確な異常はみられないのにERGの律動様小波に異常が現れる軽度のものから,夜盲や視力視野異常の明確なものまで,種々の例が報告されている.網膜変性がなぜ生ずるかについては諸説あるが,D2/D4受容体遮断作用との関係が提唱されている3).このほか,フェノチアジ系薬物の副作用としてoculo-gyriccrisis(眼球上転発作)やping-ponggazeなどの異常眼球運動の報告が散見される.II抗コリン作用と閉塞隅角緑内障閉塞隅角緑内障の急性発作の契機に抗コリン作用を有した薬物投与が関わることがある.精神神経疾患治療薬はじめに厚生労働省が発表した平成17年患者調査によると,精神性疾患を主傷病として通院している患者数は303万人に及ぶ.平成11年は204万人であるから,6年間に100万人増加したことになる.これは,主傷病であるから,大半が精神科か心療内科通院の患者である.実態調査ではないが,気分障害(うつ病,躁うつ病)の潜在患者は人口の5%あると推定されていることからみても,不眠症,不安神経症,身体表現性障害などで各科で薬物処方を受けいている患者は,おそらく500万人を超えるであろう.2005年の精神神経疾患治療薬(広義の向精神薬)の推定市場規模は3,210億円に上り,循環器用剤につぐ規模である.筆者がある一日に診た患者(72名)のうち,抗不安薬,睡眠導入薬を含む精神神経疾患治療薬を処方されている患者は21名29%に上った.筆者がおもに神経眼科外来を行っているという特殊性もあろうが,おそらく一般眼科に通院している患者でも,こうした精神神経疾患治療薬を処方されている患者はまれでなく,それゆえ,われわれは眼科的副作用や眼科関連の愁訴に留意しなければならない.以下,抗精神病薬,抗不安薬,睡眠導入薬において,起こしうる眼副作用を検討する.I抗精神病薬薬物やその代謝物質の沈着などの眼副作用が知られて(39)???*MasatoWakakura:井上眼科病院〔別刷請求先〕若倉雅登:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院特集●眼科における薬剤副作用あたらしい眼科25(4):461~464,2008抗精神薬,抗不安薬の眼科副作用???????????????????????????????????????????????????????????若倉雅登*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(40)III調節障害多くの精神科関連薬の添付書類の副作用に「目のかすみ」の記載がある.これは,ムスカリン性アセチルコリン受容体遮断作用による調節障害を意味していると考えられるが,各薬物の開発,治験段階で,「目のかすみ」については関心が乏しく,マイナーな副作用として処理されてしまっていると考えられる.それゆえ,「目のかすみ」が調節障害によるものか,その他の理由かもわからないし,実際の調節がどれだけ障害されるのかのデータは皆無といってよい.しかし,日常臨床では,こうした精神科関連薬服用者が,目のかすみ,視力低下,眼精疲労を自覚して眼科を訪れる場合は決してまれでないことを,筆者は経験的に知っている.しかも,この自覚症状の一つの特徴は,初期には,常時同じようにかすむのではなく,時々そのようなことを強く自覚することである.また,投与薬物に変更があったときにも,しばしばみられる.つまり,自覚症状に日内変動や日差などの動揺があるのが特徴であり,おそらく薬物の血中濃度や組織内濃度に関連しているのではないかと考えられる.一般に,眼科医は精神神経疾患治療薬によるこうした副作用を知らないか,意識のなかにないので,このような訴えに対し,単に眼精疲労などとして処理し,患者に内服薬の内容を尋ねることもしないことが多い.精神神経疾患治療薬の使用状況をみると,米国では単剤,または2剤までの処方が多いの対し,日本では多剤大量処方が多くなされ批判されている.これは統合失調症において特に顕著である6~8)が,同様の傾向は他の精神疾患でも普通にみられ,また非精神科医による抗うつ薬,不安薬,睡眠導入薬のみだりな処方も困ったものである.筆者は,薬物投与量の軽減や変更で,視覚の不定愁訴ともいえる自覚症状が改善された例を数多く経験している.「目がかすむ」といった自覚症状は一般には軽視されがちではあるが,患者自身にとっては実は非常に不愉快で,仕事などへの影響も多大であるため,一般眼科医は,そうした不定愁訴のある患者に対して精神神経疾患治療薬が投与がなされていないか,多剤投与の傾向がないかに関心をもつべきで,場合によっては処方医師に情で抗コリン作用を有するものを表1に示す.すべての薬物で緑内障発作を生じたことが確認されているわけではないが,狭隅角の症例では注意すべきである4,5).なお,抗ヒスタミン薬,感冒薬,鎮咳薬,胃腸薬,抗不整脈薬,散瞳薬など日常的に用いられる多くの医薬品や一般薬にも抗コリン作用があるので,このことは精神神経疾患治療薬に限ったことではない.このような薬物誘発性閉塞隅角緑内障の発現頻度は知られていないが,臨床経験上も決して高頻度とは思えない.それゆえ,こうした薬物を使用する可能性の高い比較的高齢者の狭隅角眼では,単に薬物投与を禁止することはそれらの薬物投与の必要性が高ければ現実的でないと考えられる.そこで,眼圧上昇のリスクがあることを患者に理解させ,レーザー虹彩切開をしておく,場合によっては白内障手術をしたうえで眼圧の定期的チェックが行われるという方針がとられるべきであろう.表1抗コリン作用を有するおもな精神科関連用剤1.三環系抗うつ剤アモキサピン(アモキサン),アミトリプチリン(トリプタノール),イミプラミン(トフラニール),クロミプラミン(アナフラニール),ドスレビン(プロチアデン)2.四環系抗うつ剤マプロチリン(ルジオミール)3.精神賦活剤メチフェニデート(リタリン)4.ベンゾジアゼピン・チエノジアゼピン系トリアゾラム(ハルシオン),ニトラゼパム(ベンザリン,ネルボン),フルニトラゼパム(サイレース,ロヒプノール),フルラゼパム(ダルメート,ベノジール),プロチゾラム(レンドルミン),リルマザホン(リスミー),ロルメタゼパム(エバミール,ロラメット)アルプラゾラム(コンスタン,ソラナックス),エチゾラム(デパス),クロチアゼパム(リーゼ),クロナゼパム(リボトリール,ランドセン),クロルジアゼポキシド(コントール,バランス),ジアゼパム(セルシン,ホリゾン),フルタゾラム(コレミナール),ブロマゼパム(レキソタン),ロフラゼプ酸エチル(メイラックス)5.SSRIパロキセチン(パキシル),フルボキサミン(デプロメール,ルボックス),セルトラリン(ジェイゾロフト)6.その他ゾピクロン(アモバン),トリヘキシフェニディール(アーテン),ピペリデン(アキネトン),プロフェナミン(パーキン),レボドパ製剤(———————————————————————-Page3———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(42)は9例あり,うち7例は改善を示した.特に1,2カ月間服用の2例と2年服用の1例では薬物中止後,完全に回復した.眼瞼痙攣患者はもともと女性に多い疾患であるが,エチゾラムおよびベンゾジアゼピン誘発眼瞼痙攣ではその傾向がより強く出た.眼瞼痙攣の発症機序はなお不明ではあるが,エチゾラムおよびベンゾジアゼピンが作用するGABA-A(g-ami-nobutyricacid-A)の脳内受容体が劣化することが原因ではないかと推定される.特に女性に対してのエチゾラムおよびベンゾジアゼピン系薬物の長期服用は,眼瞼痙攣発症の危険因子となることは,すべての医師が知っておくべきである.文献1)HullDS,CsukasS,GreenK:Chloropromazine-inducedcornealendothelialphototoxicity.?????????????????????????22:502-508,19822)OshikaT:Ocularadversee?ectsofneuropsychiatricagents.Incidenceandmanagement.????????12:256-263,19953)FornaroP,CalabriaG,CoralloGetal:Pathogenesisofdegenerativeretinopathiesinducedbythioridazineandotherantipsychotics:adopaminehypothesis.???????????????105:41-49,20024)TripathiRC,TripathiBJ,HaggertyC:Drug-inducedglaucomas:mechanismandmanagement.????????26:749-767,20035)LachkarY,BouassidaW:Drug-inducedacuteangleclo-sureglaucoma.????????????????????18:120-133,20076)三澤仁,加藤温,落合理路ほか:抗精神病薬の多剤併用療法の実態.日本精神科病院協会雑誌24:74-77,20057)石郷岡純:抗精神薬と気分安定併用療法の現状と今後の課題.臨床精神薬理8:181-190,20058)稲垣中,冨田真幸:日本における新規抗精神病薬と多剤大量処方.臨床精神薬理6:391-401,20039)若倉雅登:眼瞼けいれんと顔面けいれん.日眼会誌109:667-680,200510)若倉雅登,井上治郎:眼瞼痙攣患者における2006年ドライアイ診断基準の適用.臨眼(印刷中)11)山本紘子:瞬目─この無視されてきた重要問題,薬物性ジストニーと眼瞼痙攣.神経眼科20:43-48,200312)WakakuraM,TsubouchiT,InouyeJ:Benzodiazepine-andthienodiazepine-inducedblepharospasm.????????????????????????????75:506-507,2004アで,これらの抗精神薬11)に加え,筆者らは,ベンゾジアゼピン系,チエノジアゼピン系薬物が,しばしば眼瞼痙攣を惹起することを報告した12).この研究結果を以下に要約するが,その前に,チエノジアゼピンやベンゾジアゼピン系薬物は日本では非常に多く処方されている事実を述べておきたい.すなわち,チエノジアゼピンもベンゾジアゼピンも抗不安薬,睡眠導入薬として用いられ,日本では1,000億を超える市場で,単純計算で少なくとも800万人以上がこれらの薬物を内服していることになる.チエノジアゼピンとしてはデパス?=エチゾラム,リーゼ?などがあり,ベンゾジアゼピン系は抗不安薬としてレキソタン?,ソラナックス?,ワイパックス?,セルシン?など,睡眠導入薬としてハルシオン?,リスミー?,レンドルミン?,ベンザリン?,ユーロジン?,サイレース?,ロヒプノール?など多数の製品がある.米国ではうつ病や身体表現性障害の第一選択薬として選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)が通常単剤処方として用いられるのに対し,日本ではまずチエノジアゼピンやベンゾジアゼピン系薬を選択する医師が多く,しかも単剤より多剤投与が多いという指摘がある.不眠に対してはチエノジアゼピンやベンゾジアゼピン系薬を「軽い薬」と称して内科を含め多くの科の医師が処方している実態がある.さて,筆者らの研究は254例の眼瞼痙攣患者の発症前の服薬歴を調査し,血管圧迫が原因(中枢神経系の異常ではない)と考えられる片側顔面痙攣61例を対照(コントロール)として比較検討したものである.254例(男女比67:187)の模