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新しい治療と検査シリーズ165.小切開角膜内皮移植

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド角膜内皮移植は,2000年前後にいくつかの臨床報告がなされてから急速に術式の発展がみられた.当初は,マイクロケラトームを用いて深部実質を移植する術式としてmicrokeratome-assistedendotheliallamellarkera-toplasty(ELK)1,2)と,強角膜切開から深部実質を挿入するposteriorlamellarkeratoplasty(PLK)あるいはdeeplamellarendothelialkeratoplasty(DLEK)が注目されていた3).その後,ELKは徐々に衰退して,現在では強角膜から深部実質を移植する流れになっている.?新しい治療法DLEKでは,角膜厚を調整することを目的にレシピエント側の実質を切除するステップが含まれていたが,最近ではDescemet膜のみを?がして深部実質を移植する術式にシフトしつつある.代表的な術式は,Des-cemet?sstrippingwithendothelialkeratoplasty(DSEK)とよばれており,Priceらによって報告された4).DSEKはDLEKと比較して深層実質を切除するステップが省けるため,手技が比較的容易であるのが最大の特徴である.一方で,術後に実質が多少厚くなる可能性があるため,浅前房眼,前房レンズ挿入眼などは良い適応とはならない.実質の余分な厚みは,今のところ術後経過に影響するという報告はないものの,今後の経過観察が必要である.?実際の手術法DSEK,DLEKは現在5.0mm幅の小切開創よりドナーが挿入されている.原法では水晶体?外摘出術(ECCE)新しい治療と検査シリーズ(65)165.小切開角膜内皮移植プレゼンテーション:榛村重人慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:稲富勉京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学図1レーザー虹彩切除術後の水疱性角膜症に対して,PEA+IOL+DLEKを施行した症例図2Pseudophakicbullouskeratopathy(左)に対するDSEK(右)幼少時の角膜実質炎による角膜浅層の淡い混濁も認められる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006と同じ9.0mm前後の強角膜切開より行われていたが,少量の粘弾性物質を内皮面に塗布することでドナーを半折りにしても問題ないことがわかってきた.ドナーがレシピエントの内皮面に接着するのは内皮細胞のポンプ作用とされている.術終了時に前房内空気でドナー組織をレシピエントに数分間押しつけるだけで内皮は接着する.Terryらはすでに100例近くの症例を報告している5,6)が,術後6カ月の拒絶反応は4%,平均内皮細胞密度は2,140±427cells/mm2という良好な結果を得られている.DSEK,DLEK最大の利点である屈折変化は,術前と比較して0.28±1.08Dの乱視変化しか認めていない.いずれのデータも全層角膜移植(PKP)より良好であり,今後はさらに術式の改良とともに発展することが予想される.約4~10%の頻度で術後に内皮のずれが報告されているが,再度空気注入で整復が可能である.文献1)AzarDT,JainS,SamburskyR:Anewsurgicaltechniqueofmicrokeratome-assisteddeeplamellarkeratoplastywithahinged?ap.???????????????118:1112-1115,20002)BusinM,Ar?aRC,SebastianiA:Endokeratoplastyasanalternativetopenetratingkeratoplastyforthesurgicaltreatmentofdiseasedendothelium:initialresults.??????????????107:2077-2082,20003)MellesGR,LanderF,vanDoorenBTetal:Preliminaryclinicalresultsofposteriorlamellarkeratoplastythroughasclerocornealpocketincision.?????????????107:1850-1856;discussion1857,20004)PriceFWJr,PriceMO:Descemet?sstrippingwithendo-thelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcorne-altransplant.??????????????21:339-345,20055)TerryMA,OusleyPJ:Deeplamellarendothelialkerato-plastyvisualacuity,astigmatism,andendothelialsurvivalinalargeprospectiveseries.?????????????112:1541-1548,20056)TerryMA,OusleyPJ:Deeplamellarendothelialkerato-plasty:earlycomplicationsandtheirmanagement.??????25:37-43,2006(66)?本方法に対するコメント?新しい角膜内皮移植術としてはposteiorlamellarkeratoplasty(PLK),microkeratome-assistedendo-theliallamellarkeratoplasty,Descemet?sstrippingwithendothelialkeratoplasty(DSEK)がある.全層角膜移植での不正乱視,縫合糸部での感染,創離解などの問題を解決できる画期的な方法である.しかし手術手技は煩雑であり,さらに特殊器具を必要とするなど,一般化しにくい一面は否定できない.特にPLKでの角膜実質層間?離では,切除角膜厚の調整や円形切除には技量と経験を必要とする.視機能面では良好な結果が報告されているが,当初期待された免疫的反応や内皮細胞の推移は全層角膜移植術と同等であり,内皮型拒絶反応には注意がいる.今回紹介されている小切開術式が主流になるのは間違いなさそうであるが,Mellesらの報告では早期の角膜内皮細胞の減少が9mmより5mm切開で速い一面は気になる.角膜内皮細胞への悪影響や創傷治癒については十分な検討が待たれる.安定した手技取得には,時間と症例数が必要であり,移植片の位置づれや接着不良などが散見され,完成された全層角膜移植と比較すると初期症例の克服には課題が残る.また平面での創傷治癒が起こるため,混濁による視機能への影響が危惧される.内皮移植は乱視抑制や縫合糸に関連する合併症が少ない利点は評価に値するが,現方法が将来的に全層角膜移植に置き換わるためには,より完成度の高い手技への改良と長期的な内皮細胞への影響が検証されることが必須であるように感じている.☆☆☆

眼感染症:アカントアメーバ培養検査

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS■アカントアメーバを見つけよう!アカントアメーバ(以下,アメーバ)は,角膜炎を起こすことが知られている微生物で,淡水や土壌に住む原虫である.外傷をきっかけに角膜に感染するが,近年ではコンタクトレンズ装用者に重篤な感染症をひき起こす原因微生物として問題となっている.角膜の病巣からアメーバを証明するには,病巣を擦過(あるいは掻爬)して(図1),検体を塗抹鏡検するか,あるいは分離培養する必要がある.迅速診断としては塗抹鏡検が有用であるが,さらに分離培養を行うことによって,アメーバの存在が確定的になるだけでなく,その増殖力を観察することで病勢を判断できる.栄養体は3~4日,?子は5~7日で確認できる(図2).アメーバの培養検査にはさまざまな方法があるが,本稿では,筆者らが用いている培養法を中心に紹介する.■培養検査に必要なもの(図3)アメーバの培養には,方法の詳細に関わらず,以下のような準備が必要である.?アメーバ用培地:抗生物質を含まない寒天培地.?菌液:大腸菌,あるいは納豆菌,イースト菌など,アメーバの餌になる菌を含んだ液.?菌液を培地に塗布する道具:コンラージ棒など.?角膜擦過に用いる器具類:開瞼器,スパーテル,鑷子,impressioncytology用の膜・MQAなど.?保管場所:25~30℃の室温,あるいは孵卵器.■培養検査の手順1.培地の準備①アメーバ用培地を作製する.(63)41.アカントアメーバ培養検査眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次亀井裕子東京女子医科大学東医療センター眼科アカントアメーバ角膜炎はその多彩な病像ゆえに診断に苦慮することがある.そんなとき威力を発揮する培養検査は,病巣部だけでなくコンタクトレンズやケース内保存液を用いてアメーバの存在を証明できる有用な手段である.納豆菌を用いた培養法は,特別な道具や施設がなくても比較的簡単に作製できる便利な方法といえる.図1アカントアメーバ角膜炎の偽樹枝状病変と掻爬部位写真にで示すように,病巣部付近を大きめに掻爬する.図2寒天培地上で培養されたアカントアメーバ(生体顕微鏡で観察,400倍)左:培養3日目.多数の栄養体(トロホゾイド)があり,盛んに分裂している(矢印↑).右:培養7日目.二重壁の?子(シスト)が多数みられる.(背景にある微細な粒子が,寒天表面で増殖した納豆菌)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006②菌液を作製する.③菌液を培地に塗る.2.角膜擦過①点眼用キシロカイン?4%液で点眼麻酔する.②開瞼器をかける.③スパーテルで角膜を擦過する.④擦過した角膜をスパーテルですくい,培地の中央に載せる.3.培地の観察①培地のふたをテープでシールする.この際テープに小さい穴を数カ所開けておく.②25℃の室温,あるいは孵卵器に静置する.③培地を生体顕微鏡に載せ,観察する.■納豆菌を用いた培養法の実際筆者らが用いているのは,納豆菌を用いた培養法である.抗菌薬を含まないアカントアメーバ培地をまとめて作製しておく.納豆菌液は,検体を採取する直前に作製して,使用する必要枚数だけ培地に塗布するのがよい.1.アメーバ用培地の作製用意するもの:滅菌シャーレ(直径6cm),寒天,生理食塩水.方法:20倍に希釈した生理食塩水で寒天を溶かして1.5%濃度とし,滅菌シャーレに厚さが5mmになるよう注ぐ.オートクレーブで121℃,15分間滅菌する.2.菌液の作製と培地への塗布用意するもの:市販の納豆(発泡スチロール,あるいは紙カップに入ったもの),滅菌蒸留水,滅菌シリンジ,コンラージ棒,アルコールランプ.方法:市販の納豆パックを開封し,納豆が入ったまま容器内に蒸留水を入れて,20分ほど静置する.蒸留水が淡い乳白色になっているのを確認して,シリンジで静かに液を吸う.作製した菌液を,アメーバ用培地に2~3滴滴下し,アルコールランプで熱消毒したコンラージ棒を用いて,まんべんなく塗布する.■コツ1)培地の保管:納豆菌を塗布する前の培地は冷蔵庫で1週間は保存できる.納豆菌を塗布したらできるだけ早く使用する.2)納豆菌液の作製:納豆はできるだけ新しいものを購入する(水戸の納豆がよい?).菌液を吸う際には,ねばねばした固まりを吸い込まないように注意しながら丁寧に行う.3)検体採取と接種:病巣部よりやや大きめに掻爬するとよい.検体は培地の中心に置く.スパーテルを培地に軽く押し付けるようにすると培地に軽い傷ができ,置いた場所がわかりやすい.文献1)石橋康久,本村幸子:アカントアメーバ角膜炎の診断と治療.眼科33:1355-1361,19912)石尾香,岡田克樹,石橋康久ほか:アカントアメーバ角膜炎の確定診断における培地の比較.眼紀46:1021-1025,1995(64)■コメント■アカントアメーバ角膜炎の診療では確定診断はきわめて重要な位置を占める.病原体の分離により,大きな自信をもって治療に取り組めるからである.アカントアメーバの分離には餌となる細菌の存在が必要である.一般病院の検査室では大腸菌が使用されることも多いが,ここで紹介された納豆菌(学名?????????????????natto)も便利なアイテムである.特に,水戸の納豆は,人間のみならずアカントアメーバにとっても大好物に違いない.アカントアメーバ角膜炎を疑った場合,分離培養を試みることをお勧めする.培地の塗布液面にアカントアメーバの軌跡を発見したとき,このうえない感動に襲われるはずである.愛媛大学医学部眼科大橋裕一寒天培地納豆パックコンラージ棒図3培養検査に必要なもの

光線力学的療法(PDT):狭義滲出型加齢黄斑変性の診断

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS現在一般的に用いられている加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の分類は1995年にBirdらが提唱した国際分類による1).この分類では加齢性の黄斑の変化は加齢黄斑症(age-relatedmaculopathy:AMD)とまとめられていて,初期と後期に分けられている.滲出型加齢黄斑変性(exudativeage-relatedmaculadegeneration:exudativeAMD)は,萎縮型(drytype)とともに後期加齢黄斑症に分類されている.臨床の現場でよく目にする滲出型AMDは,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が網膜色素上皮下や感覚網膜下に伸展し,出血や滲出性病変を生じて最終的には瘢痕下する疾患である.これまでのフルオレセイン蛍光造影(FA)に加えて,近年普及したインドシアニングリーン蛍光造影(IA)や光干渉断層計(OCT)によってより詳細に滲出型AMDの病態を観察することが可能となったが,これまで滲出型AMDとして考えていたもののなかにさまざまな病態が含まれていることが報告されてきた.この数年で広く知られるようになったポリープ状脈絡膜血管症(polypoi-dalchoroidalvasculopathy:PCV)2)と網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)3)が新しい概念の滲出型AMDの病態である.PCVやRAPも黄斑部に滲出病変を生じ最終的に瘢痕化することから,滲出型AMDに含まれる一病型と考えられる.しかし,その臨床経過やCNVの進展や予後が異なることから臨床では区別して考えるのが一般的であり,これらを除いた滲出型AMDを狭義滲出型AMDとよんでいる.狭義滲出型AMDの診断には基本となる検眼鏡所見に加え,FAやIA,OCTといった画像検査が大いに参考となる.狭義滲出型AMDの基本病態はCNVであるが,この(61)永井由巳関西医科大学眼科光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子1.狭義滲出型加齢黄斑変性の診断滲出型加齢黄斑変性とは,高齢者の黄斑部に脈絡新生血管が生じてその滲出変化により視機能が低下する疾患である.狭義滲出型加齢黄斑変性とは,滲出型加齢黄斑変性から,その亜型で新生血管の形態や位置など病態や予後の異なるポリープ状脈絡膜血管症(PCV)や網膜内血管腫状増殖(RAP)を除いたものをいう.提供図1Gass1型のCNV眼底には網膜色素上皮の色素むらと扁平な漿液性網膜?離,網膜下出血を認め(a),FAでは早期に顆粒状過蛍光と出血による蛍光ブロックを認める(b).FA後期では淡い蛍光漏出を認めた(c).IAでは早期に網目状のCNVがみられ(d),晩期にはplaque状過蛍光を示した(e).OCTでは網膜色素上皮の扁平な隆起と重層化を認めた(f).abcedf出血によるblock網目状のCNV漿液性網膜?離網膜色素上皮層の隆起CNVoccultCNV図2Gass2型のCNV眼底には灰白色病変と周囲に漿液性網膜?離とを認める(a).FAでは早期から境界明瞭な過蛍光を示すCNVがみられ(b),時間とともに旺盛な蛍光漏出を認めた(c).IAでも早期から低蛍光輪に囲まれた境界明瞭な過蛍光を示すCNVがみられた(d,e).OCTでは網膜色素上皮の断裂部から網膜下に突出したCNVの中等度反射塊を認める(f).classicCNV後期の蛍光漏出CNVdarkrim網膜色素上皮の断裂2型CNV?胞様黄斑浮腫abcedf———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(00)CNVの発育進展部位は網膜色素上皮下と感覚網膜下とがある.この発育部位の違いにより臨床所見や治療の効果も異なってくることから,その診断には注意を要する.Gassは網膜色素上皮下に発育するCNVを1型(図1),感覚網膜下に発育するCNVを2型(図2),両者が混在する混合型と分類した.これらを分類するのにFAやIA,OCTが有用である.検眼鏡所見を含めたこれらの検査所見の特徴を表1に示す.CNVの分類は上記で述べたとおりであるが,臨床的には1型と2型との両者を含む,混合型が最も多いことから,光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)を行ううえで効果を比較するためにFAでは図3のように分類する.滲出型AMDの診断は,眼底検査が最も重要ではあるが,これらの画像の読影パターンを数多くの症例を経験して把握することで,正確に行うことができる.文献1)BirdAC,BresslerNM,BresslerSBetal:Aninternationalclassi?cationandgradingsystemforage-relatedmaculop-athyandage-relatedmaculardegeneration.TheInterna-tionalARMEpidemiologicalStudyGroup.????????????????39:367-374,19952)YannuzziLA,SorensonJ,SpaideRFetal:Idiopathicpol-ypoidalchoroidalvasuculopathy(IPCV).??????10:1-8,19903)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration.??????21:416-434,2001表1Gass1型CNVと2型CNVの所見の特徴Gass1型Gass2型CNVの発育部位網膜色素上皮下感覚網膜下FAでの分類OccultClassic検眼鏡所見(CNVの部位)網膜色素上皮の隆起?漿液性網膜色素上皮?離?線維血管性網膜色素上皮?離?網膜色素上皮下出血網膜下の灰白色病変?縁取り状の網膜下出血や網膜浮腫・網膜?離FA所見OccultCNV?網膜色素上皮下のCNVなのではっきりと造影されない.?線維血管性色素上皮?離(FVPED)?起源不明の後期蛍光漏出病巣(late-phaseleakageofundeter-minedsource)ClassicCNV?造影早期から境界明瞭で旺盛な蛍光漏出?CNVの周りに低蛍光輪(darkrim)IA所見造影早期には網目状の血管がみられることが多く,晩期になるとCNVの範囲全体が面状の過蛍光を示し,plaqueとよばれる.造影早期に網目状の血管がみられ,晩期になると旺盛な蛍光漏出がみられるが,線維化が進むとほとんど蛍光を示さないこともある.OCT所見網膜色素上皮下に広がるCNVのため,網膜色素上皮の高反射層が肥厚あるいは二重化を示す.網膜色素上皮層に断裂部がみられ,そこから感覚網膜下に広がるような高反射塊がみられる.線維化が進むとCNVの反射はより高反射となる.図3光線力学的療法におけるCNVのFAでの分類病変におけるclassicCNVの割合で分類する.a:predomi-nantlyclassicCNV(50%以上),b:minimallyclassicCNV(50%未満),c:occultwithnoclassicCNV(0%).a-1c-1b-1a-2c-2b-2:occultCNV:classicCNV

緑内障:前眼部3D解析装置ペンタカムによる閉塞隅角緑内障の前眼部形状

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSペンタカム(オクルス社)は,光源を180?回転させることにより複数のScheimp?ug像を撮影できる回転式Scheimp?ugカメラで,撮影画像からコンピュータ上で角膜前後面,虹彩,水晶体前後面を立体構築することにより,1)角膜の前後面形状測定,2)複数測定点での角膜厚,前房深度測定,3)前房容積測定などが可能である(図1,2).この装置を用いて閉塞隅角眼での解析を試みたところ,狭隅角群の前房容積(74.5±21.1??)はレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)施行後群(96.4±21.4??),開放隅角群(144.2±31.6??)に比較して有意に小さかった(p<0.001).前房容積は周辺前房深度と最も強く相関し(p<0.001),LI施行前後では,中心前房深度には変化はなく,前房容積,周辺前房深度のみ有意に増加した(p<0.001).以上より,ペンタカムによる前房容積および周辺前房深度の測定は,狭隅角眼の前房形状の指標として有用であると考えられた1).閉塞隅角緑内障の発症機序としては,相対的瞳孔ブロックとプラトー虹彩が最も大きく関与しているとされている.最近の報告では,相対的瞳孔ブロックの成分が(59)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄76.前眼部3D解析装置ペンタカムによる閉塞隅角緑内障の前眼部形状大鳥安正大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)一般的に狭隅角眼に対する予防的レーザー虹彩切開術の相対的適応は,圧迫隅角検査で周辺虹彩前癒着が生じている場合(原発閉塞隅角症)とされている.圧迫隅角検査に加えて,非接触式前眼部3D解析装置により,経時的に前眼部形状変化を定量評価することは,病態把握に有用である.図1ペンタカムの概観前房容積中心前房深度Scheimpflug画像中心角膜厚角膜曲率隅角角度デンシトメトリー中間前房深度周辺前房深度図2ペンタカムのオーバービューディスプレー表示約2秒で,Scheimp?ug画像,前眼部3D解析,角膜トポグラフィ,パキメトリー,デンシトメトリーの5つの解析が可能である.閉塞隅角眼の前眼部形状解析には,中心前房深度,周辺前房深度,前房容積などが参考になる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006強い場合には,LIにより隅角は開大するが,プラトー虹彩形状では,LIを行っても隅角形状はほとんど変化なく,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechiae:PAS)の進行もあるとされている2).すなわち,PASの存在だけでLIを施行しても必ずしもPASの進行を抑制できるわけではないということになる.プラトー虹彩形状に関しては,圧迫隅角検査でサインウェーブサイン(あるいは,ダブルハンプサイン)があれば超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)で虹彩形状を確認することが望ましく,プラトー虹彩形状であれば,安易にLIをせずに隅角底を広げるような処置としてピロカルピン点眼,レーザー隅角形成術および水晶体混濁があれば水晶体摘出を行うことを考慮すべきであろう.アジア人では相対的瞳孔ブロック以外の原因によって閉塞隅角緑内障が発症していることが少なくないことに加えて,わが国では予防的LI後の水疱性角膜症の発症率が高いことから,LIの適応の見直しが必要となってきている.狭隅角眼では,圧迫隅角検査によるPASの有無やUBMによる虹彩形状を確認することに加えて,ペンタカムのような非接触式3D画像解析装置により前眼部形状変化(前房深度や前房容積など)を経時的に解析することにより,LIの適応を慎重に考慮すべきであると考える.文献1)岡奈々,大鳥安正,岡田正喜ほか:前眼部3D解析装置Pentacam?における閉塞隅角緑内障眼の前眼部形状.日眼会誌110:398-403,20062)ChoiJS,KimYY:Progressionofperipheralanteriorsyn-echiaeafterlaseriridotomy.???????????????140:1125-1127,2005(60)☆☆☆年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2007Vol.24月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2007Vol.20■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・光線力学的療法・眼感染症)新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.http://www.medical-aoi.co.jp

屈折矯正手術:屈折矯正手術のセットアップ-何から始めるか,何を揃えるか-

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS屈折矯正手術を始めるにあたって,まずはハードウエアとして設備を整え,そしてつぎにソフトウエアとしてシステムの構築とスタッフの育成・教育が必要になってくる.●設備1.機械を揃えるa.検査機器1)角膜形状解析装置角膜乱視の有無・程度・局在を調べるとともに,最も避けなければならない合併症の一つであるkeratectasiaを防止するため,最も重要である.円錐角膜のindexが付いているビデオケラトスコープやOrbscan,ペンタカムは有用である.2)角膜厚測定装置最重要検査項目である.超音波パキメーターやスペキュラーマイクロスコープ,Orbscan,ペンタカムなどで測定できる.3)瞳孔径測定装置暗所瞳孔径は術後の夜間視機能を考えた場合,術前情報としてとても重要となる.COLVARD社のPupillo-meterが多く用いられている.b.エキシマレーザー(表1)年々進化をしており,その得失や今後の発展性などを勘案して選定すべきである.(57)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男77.屈折矯正手術のセットアップ─何から始めるか,何を揃えるか─中村友昭名古屋アイクリニック屈折矯正手術を始めるにあたって,ハードウエアとして設備を整え,ソフトウエアとしてシステムの構築とスタッフの育成・教育が必要になってくるが,実際この診療を行っていくにあたって重要かつ苦心するのは後者のソフト面である.安全かつ満足できる医療を提供するためには,常によりよいシステム作りが要求されるものである.表1各種エキシマレーザーの得失ブロードビームスリットスキャニングフライングスポット長所・一括照射が可能・ムラの少ないスムーズな照射が可能・カスタム照射が可能・ヘイズを生じにくい短所・照射ムラ(セントラルアイランド)を生じやすい・ヘイズを生じやすい・カスタム照射が困難・照射時間が長い(現在は改善)・固視が重要(アイトラッキングにより改善)機種AMO/VISX*NIDEK*ZEISS,B&L,Alcon,Wavelight*2006年8月時点での厚生労働省の認可機種.図1空調の管理(除湿機)レーザー発振部に結露をきたさないよう,特に湿度管理が重要である.当院では24時間連続除湿を行い,常に一定の湿度を保っている.図2セミナー室での説明会風景大勢の参加者に対し説明を行うことにより,時間の節約とともに,説明を行ったこと,説明内容の厳然たる証拠を残すことができ,後のトラブルの回避になる.また,患者自身も同様な気持ちの方がいることによる安心感を感じることができる.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006c.マイクロケラトーム,その他各種が製造・販売されているが,その主たる違いは作製されるフラップのヒンジの位置であり,それぞれ得失がある.最近ではフェムトセカンドレーザーによるフラップ作製や,エピトームによるepi-LASIK(laser???????keratomileusis)も広く行われるようになった.2.施設を整えるa.手術室(温度・湿度・清潔度)(図1)エキシマレーザーを定常状態に維持するために,常に一定の温度・湿度に保つための空調管理は重要となる.また,清潔度に関しては,内眼手術に準じたものであれば十分であろう.b.セミナー室(図2)待合室などを利用して集団説明会を行えるよう,配置の工夫やプレゼンテーション用の映写設備を揃える必要がある.c.カウンセリング室プライバシーに関わる問題も安心感をもって話し合えるようなスペースが確保できると理想である.●システム(インフォームド・コンセント)近視矯正手術は健康な眼に対するプラスの医療のため,患者の要求度も高い.「話が違う」「そんなことは聞いていない」「こんなことなら受けなければよかった」など,医療者側の説明不足や患者の理解不足による術後のトラブルは絶対に避けなければならない.そのため,術前の十分な時間をかけた説明や患者とのコミュニケーションはとても大切である.いわゆるインフォームド・コンセントであるが,これは患者を守るだけではなく,説明不足による不本意な訴訟などに至らないよう医療者であるわれわれを守ることにもなる.過不足なく,効率よく行うシステム作りが要求される.a.流れを決める筆者の施設での手術までの説明に関する流れ.①ホームページ⇒②資料(説明文書)⇒③説明会⇒④適応検査時カウンセリング・診察⇒⑤術前オリエンテーション・診察.b.資料(パンフレット・ハンドブック)を作成する(図3)手術に際し,必要な眼の知識や手術全般にわたる解説を記載し,文章での説明を残す.パンフレットは資料請求時,ハンドブックは説明会のときに渡す.説明資料の内容は,①眼の仕組み,②屈折・調節,③LASIK手術の手順,④適応(検査項目),⑤手術当日の流れ,⑥術後起こりうる症状(夜間視機能低下,ドライアイなど),⑦術後合併症などである.c.スタッフ教育1)勉強会まずは院内勉強会を開き,手術の内容,検査項目,説明内容などを十分理解させ,医院に合ったシステムを話し合いのなかから決めていく.2)カウンセラー育成説明と患者把握はとても重要であるが,それを医師自身が行うと膨大な時間を要し,物理的に不可能であったり,通常の診療業務の妨げにもなる.そこで,当院では担当職員を育成して,説明会の後,問診票,適応検査のデータに基づき,個別に説明をするとともに質問を受け,患者背景と性格その他を把握させている.ここで重要なことは“傾聴”による患者把握であり,終始説明に徹したり,手術の勧誘であっては絶対にいけない.●集患(ホームページ)さて,準備はすべて整っても,手術を行っていることを広く告知しなければ,自然に患者が来院することはない.現状ではインターネットでホームページを開設することが規制や費用対効果の面でも有用と考える.内容としては,手術に興味をもった方への解説となるが,医院の特色なども示すとよい.ただし,誤解を招くような表現は極力避けることが望まれる.(58)図3説明資料(パンフレット・ハンドブック)手術に際しての必要な眼の知識や手術全般にわたる解説を記載し,文章での説明を残す.手術の利点とともに問題点も示すことにより,手術の選択を正しく行えるよう,有益な情報を盛り込む.

眼内レンズ:Hydrodissection,水晶体乳化吸引術灌流液動態とZinn小帯周辺組織

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS●目的と方法豚眼を使用し筆者が考案したSide-View眼球撮影法1,2)で,Hydrodissectionと水晶体乳化吸引術(PEA)施行時の灌流液動態との関係を観察した.また灌流液にZinn小帯線維染色用赤墨汁液(600倍希釈)を,Hydro-dissection溶液にピオクタニンブルー溶液(5倍希釈)を使用した(図1).●結果まず,Hydrodissectionを行わずPEAを施行した場合,以下①~③の灌流液動態パターンが観察された.①センタースカルプティングを行うも,後房への灌流液流入は観察されなかった.②周辺部皮質を吸引すると同時にこの部位に相応して突発的に灌流液によるHydrodis-sectionが発現し,またこの領域に相応する後房へ虹彩後方からの灌流液流入が観察された(図2).③PEAの有無に関わらず突発的に灌流液によるHydrodissectionが広範囲に発現し,これに相応する虹彩後方から後房への連鎖的灌流液流入が観察された(図3).つぎにHydrodissectionを施行した場合,上記③と同(55)南宣慶医療法人みなみ眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎242.Hydrodissection,水晶体乳化吸引術灌流液動態とZinn小帯周辺組織Hydrodissectionが,元来白内障術中の前房内あるいは術野空間保持を目的とした灌流液そのものを,後房内いわゆるZinn小帯周辺組織へ容易に流入させ,また連鎖的な組織損傷を惹起させる誘因となりうる知見が得られたので報告する.図1赤墨汁とピオクタニンブルーの工夫(イラスト)豚眼でのHydrodissectionの施行を容易にするためピオクタニンブルー注入前に,M-HOOK?を用いて機械的に水晶体実質と?を一部分離した.図2灌流液動態パターン②PEA施行時(a~d),染色灌流液により発現した部分的なHydrodissection領域が進展(赤点線b~d)するのに併せて,相応する後房域が染色灌流液により連鎖的に流入・染色されるのが観察された(矢印b~d).abcd図3灌流液動態パターン③超音波チップ眼内挿入直後(a)に,染色灌流液により発現したHydrodissection領域の広範囲で急激な進展(赤点線b~d)と,それに引き続く灌流液流入による後房の染色・膨大が観察された(矢印b~d).abcd———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(00)様の結果が得られた(図4).また,いずれの場合も後房に流入した灌流液はZinn小帯線維を染色し,また,一部,ときには全体的に赤道部,後部Zinn小帯線維ならびにWieger?s靱帯を含む前部硝子体膜と水晶体?との間に離断が観察された.●考察人為的であれ無作為であれ,部分的であれ広範囲であれ,Hydrodissectionが一旦形成されれば,その部位における水晶体?形状を内側から保持する圧排力が欠如し,つまりは後房形状保持力をも欠如するため,結果的に後房に虹彩後方から灌流液を引き込む水晶体?を介したダイアフラグムポンプ様の内圧変化(PumpE?ect)が生じ,また前房の安定した陽圧が虹彩辺縁を水晶体?前面へと圧排することによる一旦後房に流入した灌流液の逆流を抑える弁様効果(ValveE?ect)をも生じ,さらには急激な後房の膨大を促し,最終的にはZinn小帯周辺組織の連鎖的な組織損傷を惹起しているものと考えられた3)(図5).まとめすでに,筆者は豚眼Zinn小帯線維の生体における組織学的解剖学的構造あるいはそれらの強度がヒト眼に近似していることを報告している4).今回の実験結果は,白内障手術の安全性とあり方を検討するうえで意義あるものと思われた.文献1)南宣慶:Zinn小帯線維とその関連組織との関係.あたらしい眼科13:109-113,19962)MinamiN:ThezonuleofZinn?bersunveiled!.XIIIthCongressoftheESCRSVideoCompetition,19953)MinamiN:Somepitfallsofhydrodissection(H.D.)methodapparentlyassumedtobehighlysafe!?.XXIIICongressoftheESCRSVideoCompetition,20054)MinamiN:Interesting?ndingsonhumaneye?szonuleofZinn?bers.XVIthCongressoftheESCRSVideoCompeti-tion,1998図5図3dの拡大図とPump&ValveE?ect(イラスト)矢印↑の部位に,灌流液流入後の後房の膨大によるZinn小帯と水晶体?との離断が観察された.右下に,ダイアフラグムポンプ様のPump&ValveE?ectをイラストにて解説.図4Hydrodissection施行後の灌流液動態ピオクタニンブルー溶液を用いたHydrodissection施行後(a),染色灌流液により発現するHydrodissectionとは無関係に,超音波チップ眼内挿入直後よりパターン③と同様な後房への灌流液動態が観察された(b~d).abcd

コンタクトレンズ:トライアルレンズの管理(1)

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)を処方する際には,メーカーから提供されたトライアルレンズを角膜に装着してレンズの安定位置(センタリング)と動きから,選択したトライアルレンズがうまく眼にフィットしているかを判断する.ハードコンタクトレンズ(HCL)では,トライアルレンズ下のフルオレセインの染色パターンや瞬目に伴う涙液交換を評価して,ベースカーブ(BC)や周辺部デザインが適合しているかどうかを判定する.CLの度数は,トライアルレンズを装用した上から追加矯正を行って決定する.このようにトライアルレンズはCLの処方において欠かせないものであるが,トライアルレンズのサイズやBC,度数などが規格通りでないと正しい検査結果が得られない.また,不衛生な状態で保存されていると,レンズ,保存液,レンズケースに微生物が増殖するので,管理には細心の注意が求められる.●ハードコンタクトレンズ1996年にウエダ眼科と山口大学医学部附属病院眼科で使用していた10社19種329枚のトライアルレンズのBCと度数を調査した結果,約10%のレンズに1段階(±0.05mm,±0.25D)以上の誤差を認めた1).したがって,トライアルレンズのBCや度数などの規格を確認することが求められる.BCはラジアスコープで,度数はレンズメータで測定できる.規格通りではなかった場合にはメーカーに交換を依頼する.酸素透過率(Dk値)の高いガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)は変形しやすいので,取り扱いには注意を要する.酸素を透過しないポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のレンズはdryな状態で保存してもよいが,RGPCLはwetな状態で保存しなければならない.RGPCLに含まれるシリコン系成分やフッ素系成分は疎水性であるため,dryな状態ではレンズ表面に疎水基が,wetな状態では親水基が多く配列するので,保存液に浸漬された状態のほうが水濡れ性が高くなる2)(図1a,b).HCLは一般に消毒という操作を行わないため,長期間保存液を交換しないままだと微生物が増殖することが考えられるので,定期的なトライアルレンズの洗浄と保存液の交換が求められる.レンズケースに付着したバイオフィルムによる感染症が問題になっているので,定期的にレンズケースを交換することを薦める.(53)植田喜一山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS268.トライアルレンズの管理(1)図1aDry状態のレンズレンズと空気の界面は疎水基が多く配列し,全体的に涙に濡れにくい表面となっている.レンズ空気親水基疎水基涙に濡れやすい涙に濡れにくい図1bWet状態のレンズ水中に浸漬するとレンズと水の界面に親水基が多く配列し,涙に濡れやすい表面になる.レンズ水中———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(00)●従来型ソフトコンタクトレンズソフトコンタクトレンズ(SCL)のBCの測定は困難であるが,度数はレンズメータで測定できるのでトライアルレンズの度数を確認したほうがよい.含水性SCLは乾燥すると変形が著しい(図2)ので,必ずwetな状態で保存しなければならない.SCLは微生物が増殖しやすいため,消毒が義務づけられている.患者に使用したトライアルレンズはこすり洗いを十分に行った後に消毒を行い,レンズケースに保存する.消毒は煮沸消毒が最も効果的であるが,煮沸消毒ができない場合には化学消毒剤による消毒を行う.トライアルレンズを使用しない場合であっても定期的に洗浄,消毒を行うことが大切である.HCLと同様にレンズケースの交換を定期的に行うことが望ましい.●ディスポーザブルSCL,頻回交換SCL,定期交換SCLこれらのトライアルレンズはブリスターケースに入っているので,レンズは衛生的に保存されていると考えられる.しかしながら,トライアルレンズには使用期限が記載されているので,その期限内であることを確認する必要がある.使用したトライアルレンズは再使用せずに廃棄する.●その他HCLおよび従来型SCLの処方時に異なる規格のトライアルレンズを使用することがあるが,レンズケースに誤って戻さないように細心の注意を払う必要がある.メーカーからトライアルレンズを委託された場合には,レンズの紛失,破損などが生じないようにしなければならない.災害などでトライアルレンズが使用できなくなった場合の損失は莫大な金額になるので,こうした場合の対応についてもメーカーとよく協議しておいたほうがよい.トライアルレンズを衛生的に保存することは重要なことであるが,これについては次回で山口大学の柳井亮二先生に詳しく述べていただく.文献1)竹内弘子,植田喜一,西田輝夫ほか:ハードコンタクトレンズにおける規格不良の検討.日コレ誌40:7-11,19982)植田喜一:ハードコンタクトレンズの水濡れ性.あたらしい眼科19:71-72,2002図2乾燥に伴うレンズの形状変化a:シリコーンハイドロゲルレンズ(グループⅠ).b:含水性ソフトコンタクトレンズ(グループⅣ).c:含水性ソフトコンタクトレンズ(グループⅡ).d:含水性ソフトコンタクトレンズ(グループⅣ).放置直後15分後ab放置直後15分後放置直後15分後放置直後15分後cd

写真:水晶体偏位(Marfan症候群)

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS(51)西村栄一谷口重雄昭和大学藤が丘病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦269.水晶体偏位(Marfan症候群)水晶体が外上方に偏位図2図1のシェーマ図1水晶体偏位水晶体偏位を認める(左眼).図4カプセルエキスパンダーカプセルエキスパンダーで水晶体?を支持しながら超音波水晶体乳化吸引術を施行することにより,核落下,著明な硝子体脱出を予防しつつ,手術を行うことが可能である.図3図1の症例の片眼(右眼)Marfan症候群は両側性に水晶体偏位を生じることが多い.———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(00)Marfan症候群は,中胚葉系形成異常により,全身の結合組織が低形成を呈する疾患で,水晶体異常,骨格異常,心血管系異常を三徴とする.遺伝形式は常染色体優性遺伝がほとんどを占めるが,15%は孤発性のこともある.大動脈,皮膚,Zinn小帯に含まれる蛋白質である?brillinをコードする遺伝子(????)の異常も判明している1).眼症状としては水晶体異常,球状水晶体,眼瞼下垂,網膜?離,コロボーマ,隅角異常,緑内障,青色強膜などを認める.水晶体異常は先天的に水晶体の位置がずれる水晶体偏位,後天的に位置がずれる亜脱臼・完全脱臼に分類されるが,Marfan症候群は両側性に水晶体偏位を生じる代表的な疾患であり,約60~80%に合併するといわれている(図1~4).原因はZinn小帯の断裂または脆弱に起因する.Zinn小帯は不均一に弱くなるため,Zinn小帯が強いほうへ水晶体は牽引され,外方・上外方に偏位することが多い.若年者の場合,有形硝子体やWieger?帯で水晶体が支えられ,あまり偏位しないこともある2).症状としては調節障害,単眼複視を生じ,水晶体が瞳孔領から大きく外れたり後方へ偏位したりすると遠視化する.また前方に偏位すると近視化を生じ,瞳孔領をブロックする場合には,急性緑内障発作を生じることもある.治療は特異的な治療法はなく,対症療法が主となる.偏位が軽度の場合は,経過観察とする.弱視を生じている場合は屈折矯正をしたうえで,遮閉法を行う.薬物療法の適応は少ないが,高眼圧に対し降眼圧療法を行うことや,体位変動で瞳孔ブロックを生じた場合は,水晶体を後房に戻した後,縮瞳薬を用いることもある.手術治療の適応は水晶体偏位が進行して視力低下を生じた場合,白内障が進行した場合,水晶体が脱臼した場合,急性緑内障発作を生じた場合などである.術式は一般的には?内摘出術を選択することが多いが,経輪部または経毛様体扁平部からのアプローチで水晶体摘出する方法もある.どちらの方法を用いても硝子体脱出は必発であり,水晶体核・皮質の硝子体内落下の危険性もあり,適切な処理をしないと,駆逐性出血,術後網膜?離などの重篤な合併症を生じかねない.近年カプセルエキスパンダーを用いて超音波水晶体乳化吸引を行い,毛様溝縫着術を施行後に水晶体?を処理すると,低眼圧,著明な硝子体脱出,水晶体の硝子体内落下などを予防しつつ,比較的安全に手術を施行することも可能である.文献1)田中靖彦:水晶体偏位.眼科診療ガイド(丸尾敏夫ほか編),p243-244,文光堂,20042)永原幸:水晶体偏位.講義録眼・視覚学(山本修一,大鹿哲郎編),p164-165,メジカルビュー社,20063)谷口重雄:カプセルエキスパンダー.??????18:82-83,20044)NishimuraE,YaguchiS,NishiharaHetal:Acapsuleexpanderdesignedtopreservelenscapsuleintegritydur-ingphacoemulsi?cationwithaweakzonule.???????????????????????32:392-395,2006

時の人

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????0910-1810/06/\100/頁/JCLS東京歯科大学眼科学教室は,1990年に坪田一男・藤島浩・戸田郁子の3先生の他,視能訓練士,秘書の方々などごく少数のスタッフにより産声をあげ,当初より角膜,ドライアイなどの前眼部疾患に焦点を絞った診療・研究を行い,その成果を積極的に国内外に発信し続けてきた.その後,島?潤先生,ビッセン宮島弘子先生,篠崎尚史先生(現・角膜センター長)などがスタッフに加わり,角膜移植,白内障手術,屈折矯正手術などの分野で着々と実績を重ねてこられた.さらに,2000年にはビッセン宮島先生が,新設された同大学水道橋病院眼科の教授として異動し,白内障・屈折矯正手術を専門とするユニークな眼科を立ち上げられ,同時に2000年には,再生医学関係の大型研究費を取得,また,世界で唯一の角膜センタービルの竣工をみるなど研究体制が飛躍的に充実した.この間,角膜移植・角膜再生・ドライアイ・アレルギーなどのキーワードで海外一流誌に次々に論文を発表し,国際的にも大きな注目を集めるようになった.そして2003年,それまで13年にわたり同大学眼科学教室を牽引してこられた坪田先生が慶應義塾大学医学部眼科学教室に教授として赴任され,本教室は新しい時代に入り,島?部長のもと従来を上回る例数の角膜移植を行いつつ,培養上皮移植などの角膜再生の臨床応用,若手スタッフの教育などを積極的に推し進めてこられた.*このように若い本教室の第二代の教授に就任されたのが島?潤先生である.先生は1982年慶應義塾大学医学部を卒業後,眼科学教室に入局された.1985年に済生会神奈川県病院眼科に医長として赴任され,1987年にはボストン大学およびEyeResearchInstituteofRetinaFoundationに留学された.1989年慶應義塾大学病院眼科に戻られ,1992年1月に慶應義塾大学伊勢慶應病院眼科に部長として赴任された.同年10月に東京歯科大学眼科学教室に講師として招かれ,さらに1999年4月に助教授になられた.そしてこの度2006年1月に第二代の教授に就任されたのである.先生の専門は,角膜疾患,角膜移植,眼表面再建,再生医療,ドライアイ,屈折矯正など多岐にわたり,その業績も角膜移植関連,特に移植後の管理や視機能向上に関する臨床研究,オキュラーサーフェス再建関連,羊膜移植や輪部移植,培養上皮移植などに関する臨床.基礎的研究,またドライアイ関連,マイボーム腺機能不全の臨床研究,ドライアイ診断基準の作成など多くを数える.*先生は「世界レベルの診療・研究・教育を通じて最高の前眼部治療を行う」こと,さらに「眼科のなかでも角膜疾患,ドライアイ,白内障といった前眼部疾患に焦点を絞り,世界に通用するレベルの診療,教育を行うことを目標にする」ことを教室の使命とし,また,大切にすべきこととして次の4点をあげられた.①アカデミック:理論やエビデンスに基づいた診療,研究,教育と世界への発信,②オープン:学閥,性別,年齢に捉われずに有能な人材を受け入れ,他の医療機関や研究施設と積極的に交流,③協力:医師,パラメディカル,研究員,アイバンクスタッフは対等な関係のもとに協力,④患者さん主体:病院全体のハード・ソフト両面での改善も必要.このような方針の下,先生は現在およびこれからの研究テーマとして,角膜再生,角膜移植,ドライアイ,アレルギー炎症の4つをあげられた(なお,教室のHPのURLはhttp://www.tdc-eye.comである).最後に先生の信念・信条をお尋ねしたところ,①良い臨床医の条件としての“知識・常識・プロ意識”をもって,②“どうせやるなら楽しんで”をモットーにされている,とのこと.また,ご趣味は囲碁(免状6段,実力8段!),スポーツクラブ(週2回目標),読書,ゴルフと多彩である.(49)人の時東京歯科大学眼科学教室・教授島?????潤???先生

免疫とアンチエイジング眼科学

2006年10月30日 月曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSよとの本誌のご指示に従い敢えて独善的な考えを述べてみたい.浅学菲才ゆえの偏りについてはご寛恕賜りたい.筆者らは,加齢とともに免疫応答の一指標であるTh1/Th2バランスの偏奇が認められること,本偏奇が局所循環血流の低下や不安定性による局所酸素分圧の揺らぎを介する酸化ストレスや,ホルモンアンバランス〈交感神経・副交感神経バランス〉に基づく,抗原提示細胞(APC:マクロフアージ;Mf,樹状細胞;DC)の細胞内レドックス状態の偏奇によることを明らかにしている(表1)1~5).I低酸素組織環境と免疫応答癌組織の中心部は低酸素状態となりMfの浸潤が著明となり,血管内皮増殖因子(VEGF),インターロイキン(IL)-8などの血管新生因子の産生が促進され,血管新生抑制因子の機能は抑制され,DCの遊走能は抑制され,腫瘍血管新生が亢進する.この制御機構は癌組織はじめに筆者の眼科との接点は18年前になる.順天堂大学の金井淳教授から水晶体蛋白変性制御に筆者らのクローニングしたヒトチオレドキシンが使えないかとのお尋ねに始まる.本稿主題の一つであるグルタチオン(GSH)はグリシン,グルタミン酸,システインからなるトリペプチドであり,活性酸素の発生抑制/酸化ストレス予防,活性酸素の捕捉/酸化ストレス軽減,酸化ストレス障害の修復・再生の3段階のいずれにも働く優れた酸化ストレス防御物質である.GSHは水晶体の皮質で生合成され,水晶体の核内へと移行し,若年者では水晶体組織全体に分布するが,加齢とともに核内移行が傷害され老人性白内障の原因となる.GSHの細胞内局在という課題である.加齢に伴い循環器系疾患,糖尿病,悪性腫瘍,リウマチ様関節炎,筋萎縮など多様な疾患の発生頻度が高まる.眼科に限っても,老視をはじめ加齢黄斑変性症,加齢白内障,緑内障,ドライアイ,糖尿病網膜症など,ほとんどの眼疾患リスクが加齢とともに増加する.加齢性眼疾患について対応するには,正常な老化プロセス,インスリン様信号の担う寿命シグナルについての理解が基本的に不可欠であり,細胞代謝,Ca2+代謝,活性酸素など多様な軸が必要となる.免疫,炎症,癌の基礎研究ならびにレドックス研究に携わった筆者に,主題に応えることは任を超えるが,木下茂・坪田一男・谷原秀信先生らに戴いたご厚情をもとに,また,総花的記述を避け(41)????*JunjiHamuro:慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室/京都府立医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕羽室淳爾:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室特集●眼科におけるアンチエイジング医学の流れあたらしい眼科23(10):1283~1289,2006免疫とアンチエイジング眼科学???????????????????????????????????????????????羽室淳爾*表1加齢とTh1,Th2バランス老化→酸化ストレスの蓄積(ハーマンら,1955)(多くの生活習慣病の原因の一つ)加齢→Th1/Th2バランスのTh2への偏奇(羽室ら,2001)抗原提示細胞の細胞内レドックス状態がTh1/Th2バランスを規定する*(羽室ら,2000)低酸素→抗原提示細胞を酸化型に偏奇**(羽室ら,2002)(*図3参照,**図4,5参照)———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006を超えて,前眼部,後眼部においても同様と想定される.局所浸潤Mf/DCは細胞外マトリックスの構築に対しても重要な働きを示す.組織は低酸素状態になるとVEGFやVEGF受容体を発現し血管新生やリンパ管新生を誘発し,増殖促進や組織炎症亢進につながる.NO(一酸化窒素)がVEGF遺伝子発現を誘導することやプロスタグランジン(PG)E2などのアラキドン酸代謝産物が同様の作用を有すること,Mf由来のメタロプロテアーゼがプラスミノーゲンを分解して血管新生阻害因子であるアンジオスタチンを産生すること,TGFbもNO産生を抑制することなどは,血管,リンパ管新生も,Mfのレドックス機能と連関することを強く示唆する(表2).局所低酸素環境による酸化ストレスは,加齢とともに病態進展の認められる黄斑変性症,糖尿病網膜症の局所病態の制御に忘れてはならない視座である(図1).II細胞内レドックス機能とアミノ酸の取り込み一人寿命シグナルのみならず多くの生活習慣病,加齢に伴い病態の増悪する疾患には蛋白質の異化,同化作用のバランスが影響を与える.本バランスに係る重要な信号が寿命シグナルと考えられるインスリン様シグナルである(図2).加齢とともに筋肉細胞へのアミノ酸の取り込みには障害が生じ(同化作用の低下),ハウスキーピングの蛋白質から異化作用でアミノ酸を生成させアデノシン三リン酸(ATP)系に供給しエネルギー源として用いられる.老衰状態や末期癌患者,炎症性腸疾患患者などでみられる体重減少の一因である.アミノ酸を取り込むトランスポーター機能も細胞内レドックス状態により制御され,酸化状態では取り込みが減少する(図3).加齢とともに微小循環血流の低下が起こると,組織微小環境(42)図1低酸素環境下では組織内で活性酸素(ROS)が産生され酸化型組織に傾斜低酸素ミトコンドリアROSL-Glu-Cys+GlyL-Glu-Cys+ATP2GSHGSSGHIF-1aR-HS+ATPBSONADP+NADPHBCNU蛋白安定化gGCSGSSGレダクターゼアミノ酸蛋白質筋肉細胞(細胞内レドックス状態)(血漿中レドックス状態)[Cys]2/Cys2:生活習慣病の指標Ox-Alb:グルタチオンが結合した酸化型アルブミンOx-homoCys:酸化型ホモシステインGSSG>GSHGSH>GSSG創傷治癒癌循環器系疾患老化・体重減少糖尿・筋萎縮インスリンCysAlbCys2アミノ酸Ox-homoCysOx-AlbhomoCys図2老化プロセス,寿命シグナルとレドックス制御図3局所酸素分圧と抗原提示細胞機能温熱血流腫瘍間質酸素分圧血流改善(温熱療法,免疫療法,食品,代替療法)Mf/DC内レドックス状態遺伝子発現制御ミトコンドリア機能制御蛋白発現制御(Bax,Bcl)(プロテアゾーム経路での分解)(hsp90,70)(NF-κB,AP-1)表2免疫応答と組織修復血流(の揺らぎ),低酸素(の揺らぎ),低栄養,血管新生腫瘍関連マクロフアージ(TAM)とリンパ管,血管新生TSP(熱帯性痙性麻痺)の機能と分布(TGFbに関連)蛋白分解制御(遺伝子解析では不可能)NatMed(2004)末?でのVEGF受容体-3を介する信号制御による獲得免疫の人為的制御:VEGF受容体-3を介する信号を遮断すると樹状細胞のリンパ節への遊走が阻止され,遅延型過敏症も抑制され,角膜移植拒絶反応が抑制される.JCI(2006)丸山;京都府立医大CD11b+はリンパ管形成に関与:リンパ管内皮細胞にtransdi?erentiationする.眼アレルギー,感染防御:自然免疫vs獲得免疫タイプ1IFNvsIFN-g(IRFフアミリー,IL-15,IL-18,IL-33)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????の酸素分圧が低下し,この低下をミトコンドリア膜上に存在するNADPH(nicotinamideadeninedinucleotidephosphate)などが感知し細胞内や組織内のレドックス状態は酸化型に傾斜する(図4).結果として,局所免疫応答は液性免疫(Th2)側に傾斜する(図4).線維芽細胞や肝細胞においては,NADPHが酸素分圧感知に働き,アクチン細胞骨格に保持されるKeap-1蛋白を酸化することで,Keap-1に会合するNrf-2蛋白が解離,核移行し,抗酸化応答性エレメント(ARE)に結合し,さまざまの抗酸化応答遺伝子を活性化する.この結果glu-tamatecysteineリガーゼ(GCL)の触媒サブユニットであるGCLCや制御サブユニットであるGCLMが誘導され細胞内GSH含量が増加する.抗酸化ストレスにおける蛋白分解に働くプロテアゾーム発現亢進にも本Keap-1/Nrf-2経路が関与する.Nrf-2は活性化Mfにおいて高発現されている.炎症終息に働く15d-PGI2はCOX-2の作用でアラキドン酸から産生されるが,一方で,Keap-1と付加体を形成し,Nrfの解離核移行を促進し,HO-1やパーオキシレドキシンの産生を促進し抗酸化応答を惹起する6).結果,腫瘍壊死因子(TNF)-a,MIF(マクロファージ遊走阻止因子)産生を抑制し,NFkBを抑制する.加齢とともにNrf-2の発現が低下することがGCL発現を低下させ,結果としてGSH合成が加齢とともに低下することに繋がる7).血流,組織酸素分圧,深部体温,APCやリンパ球の細胞内レドックス状態,アミノ酸の取り込み能が,血管新生の制御とともに組織炎症のpathophysiologyを規定する(図3).IIIアミノ酸代謝とマクロファージ機能の可塑性細胞が置かれている環境中のアミノ酸/アミノ酸代謝が,シグナル伝達物質/シグナル機能としての役割をもち,そのアミノ酸濃度のバランスを感知する機構が細胞に備わっている.ロイシンはmTOR(mammaliantar-getofrapamycin)を活性するが,本mTORが低酸素でも誘導される.非侵襲時には非必須アミノ酸であるグルタミンは,侵襲時にはその需要が増加し,必須アミノ酸となる.この傾向は粘膜組織において著しい.グルタチオン合成の律速段階は,システインの供給量である.システインは直接,あるいは,GSH合成・代謝を介して,Mf内の酸化還元状態を規定し,Th1あるいはTh2の極性化の鍵を握る因子であることになる(図5).アルギニンは,免疫栄養における最も重要な栄養成分の一つと考えられている.Mf内のアルギニン代謝機構として2つの経路が考えられている.iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)を介しNOを産生する経路は,アルギニンによる感染抵抗性などの免疫賦活作用に関与する.アルギナーゼを介し,オルニチンを経てポリアミンに代謝される経路が今一つのものである.Th1病といわれる炎症性腸疾患,リウマチの病態においてはNOの過剰産生が,Th2病といわれる喘息病態モデルにおいてはアルギナーゼの亢進が認められている(図5).Mfによ(43)酸化型マクロファージ・樹状細胞還元型マクロファージ・樹状細胞細胞性免疫弱い:Th2細胞性免疫強い:Th1酸素の多い少ない:ミトコンドリアが察知周辺環境で酸素分圧が低いと組織,細胞内の酸素が増加(ROS)図4局所酸素分圧と抗原提示細胞機能図5還元型・酸化型マクロファージL-ArgL-OH-ArgONiNOSArginasePolyamineProOrnithine液性免疫細胞増殖創傷治癒細胞性免疫殺菌細胞障害RMfArgiNOSNO↑CitrullineArginaseOrn↑IL-6,IL-10,TGFb??fArg??fTrp・IFN-g・TNFa・IL-1IDOTrp↓???Cys↑Cys↓???IL-2↑IL-2↓GSH>GSSGGSSG>GSH抗原提示細胞より産生されるサイトカインOMfTh1サイトカイン・IL-4/IL-13・IL-10Th2サイトカインIL-12,IL-15,IL-18———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006るアルギニンの消費によりTリンパ球の機能低下が起こるが,これは,抗原情報の細胞内シグナル伝達に不可欠なCD3x鎖の発現低下に起因する.IV酸化型/還元型マクロファージの機能とTh1/Th2バランスの制御1972年,Parishは細胞性免疫と液性免疫応答の間の逆相関を感作抗原量の変化により観察した.T→T相互作用を担うIL-2,インターフェロン-g(IFN-g)などの可溶性因子を産生する活性化CD4+Tリンパ球がTh1,T→B相互作用を担うIL-4,IL-5,IL-6,IL-10,IL-13などの可溶性因子を産生するものがTh2と呼称されるようになった.現在では,Th1,Th2の前駆細胞としてのTh0に加えてTh3,Tr-1と呼称される免疫調節性のCD4+Tリンパ球亜集団の存在やCD8+Tリンパ球においてもサイトカイン産生パターンの異なる亜集団(Tc1,Tc2)の存在が示されている.筆者らは,Mfの機能の多様性をレドックス機能の視点から解析し,Th1/Th2バランスがAPCであるMfやDCの細胞内レドックス状態により制御されるとする新しいパラダイムを提唱した(表1,図5).細胞内の還元型グルタチオン含量の高いものを還元型Mf,低いものを酸化型Mfと呼称する.還元型GSH含量の高い還元型MfからのみIL-12は産生される.酸化型MfからはIL-12の産生はまったく認められず,Th1/Th2バランスに重要な働きを示すIL-12の産生が酸化型/還元型Mfのバランスで一義的に規定されていると考えている.Th1サイトカインIL-2,IFN-gは還元型Mfを誘導するのに対し,Th2サイトカインIL-4,IL-10,IL-13は酸化型Mfを誘導すること,TGFbはデキサメサゾン同様に強力に酸化型Mfを誘導する.サイトカイン自身がMf/DCの酸化型/還元型を選択的に規定するという知見である.還元型MfでのIL-12産生増強はp38MAPKの活性化とJNK活性阻害を介する.TGFbの作用は多様でNFkB,p38MAPK阻害を介する前炎症性サイトカイン産生阻害とSmad3,AP-1経路を介するMCP-1産生増強などが知られているが,いずれもMf内のレドックス制御を受ける.Mfにdichot-omyを想定するところに最大の新視点がある1~5).VエイジングとTh1/Th2バランス加齢とともに免疫能の低下することは一般紙に掲載されるほどであるが,内容は不分明なまま怪しげな健康食品が広がっている現状には忸怩たる思いを抱く.動物実験では,Th1/Th2バランスはTh2に傾斜する.野生型では加齢とともにTh2への傾斜が認められるが,チオレドキシンTgマウスでは若齢形質が保持され(図6),寿命の延長も認められる.固型癌局所壊死巣は,低酸素状態に陥り,DCの遊走が抑制され,酸化型Mfが浸潤し,悪液質や免疫抑制を誘導する.局所低酸素状態では外科,放射線治療いずれの予後も著しく不良である.加齢に伴い発症するリウマチ様関節炎患者では関節腔浸潤Tリンパ球は酸化ストレスにより抗原情報伝達に重要な(44)002040608001021248421262.752005001051002IFN/IL-4年齢(月)年齢(月):TRXマウス:WTマウスIFN-g/IL-4(雄)(雌)図6加齢に伴うTh1/Th2バランスの変遷加齢に伴ってCD4Tリンパ球から産生されるサイトカインがTh2に偏奇する.抗加齢にはTh1/Th2バランスの修復が必要.(羽室ら:MolImmunol,2001)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????細胞膜上のLAT(lymphocyteactivatingtransducer)分子が細胞質に移行しTリンパ球機能は低下する(細胞内の機能性蛋白質の細胞内局在が細胞内レドックス状態で規定されることを示す).加齢とともに蓄積する酸化ストレスはこうしたからくりでTリンパ球機能不全状態を招来する.リウマチ様関節炎を自然発症するSKGマウスではAPCからのIFN-g産生が亢進し,IL-10産生は低下する.ために,局所自然免疫が偏奇し,Th1サイトカイン病態が惹起される.IL-2受容体g鎖,JAK3ノックアウトマウスでは酸化型APCが主流で短命である(図7).加齢に伴いインスリン非依存性糖尿病を自然発症するNODマウスは,Langerhans島破壊期には還元型APC/Th1回路が主となり,酸化型誘導により発症抑制と延命効果が認められる.OVA(卵白アルブミン)誘発喘息モデルでは,還元型誘導で遲発性気道抵抗性の改善が認められる.VI自然免疫応答とレドックス機能還元型Mf自身,Th1サイトカインの典型であるIFN-g産生をし,Th1/Th2バランスをTh2に傾斜させるIL-10は酸化型Mfからより多量に産生される.DCからの産生も還元型から起こる.IFN-g産生誘導能を有するIL-18も還元型Mfから産生されることも判明した.IL-15産生も還元型で起こり,IL-15自身還元型を誘導する(羽室ら,JExpMed印刷中).以上のことは,免疫応答の惹起段階でDCからIFN-gが産生され,本サイトカインによって局所浸潤Mfが還元型に傾斜し,IL-12,IL-15,IL-18が産生され,これらサイトカインの共存下において局所でIFN-gが著量産生されるというautocrine/paracrineactivationpathwayが局所自然免疫応答に重要な役割を担うことを示す.炎症局所に存在するMf/DCからIFN-g,IL-15,IL-18,IL-10のいずれが産生されるかによってTh1サイトカイン病,Th2サイトカイン病ともいうべき病態が起こる.IL-10は典型的な免疫抑制性サイトカインであるが酸化型Mfを誘導する.この作用はNFkBの抑制を介することが明らかであるが,本作用の過程にproteindisul?deisomerase(PDI)が介在する.IL-10により誘導されたPDIが細胞質内でのIkBの蛋白分解を阻害していると考えられている.PDIはNFkBのnegativeregulatorという点で構造類似のチオレドキシン(TRX)がposi-tiveregulatorとして作用することと好対照をなす.若年者では水晶体組織全体に分布するGSHが加齢とともに核内移行が傷害され老人性白内障の原因となることは前述したが,機能性蛋白質の細胞内局在が細胞内レドックス状態で規定されることと階層的制御機構の存在することを物語る.抗原情報を核に伝達するのに不可欠のLAT分子の細胞内局在にはレドックス系が関与し,酸化型ではLAT分子は細胞質に分散しTリンパ球の信号伝達不全状態を招来する.細胞のアポトーシスに関係するBcl-2分子の細胞内局在にもレドックス系が関与し還元型ではBcl-2分子は核に移行し,アポトーシスに抵抗性となる.白内障との関係で研究の進展が望まれる.VII加齢と微小循環血流温熱療法は癌細胞やウイルス感染細胞の易熱性による直接的効果を超え,熱ストレスにより誘導される熱ショック蛋白質(HSPs)による抗原提示の亢進など免疫賦活化作用のあることが判明している.全身温熱療法は血流改善,エンドルフィン産生促進などを介し癌性疼痛を軽減することが示唆されている.副交感神経優位の状態に偏奇させる自律神経免疫療法とみなしうる側面も有する.加齢とともにみられる老視や老人性白内障,緑内障,ドライアイなどには局所微小血流,交感/副交感神経系のバランスの加齢による揺らぎの低下が関与するのではないかと筆者は想定している(図8).また,硝子体(45)2.50864205年齢(月)年齢(月)JAK3+/-IL-2Rg+/YIL-2Rg-/YJAK3-/-7.51.00.90.80.70.60.51.00.90.80.70.60.5図7酸化型マクロファージに傾斜すると短命になる———————————————————————-Page6????あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006(46)の皮質領域のゲル組織の中に存在する硝子体細胞(ヒアロサイト)は単球/Mf系の細胞とされており,分化の進んだMfとも考えられる.したがって,その機能は可塑的で加齢とともに不可逆変化を起こすことは容易に想像される.硝子体細胞が生理的には網膜色素上皮細胞,虹彩色素上皮細胞,血管内皮細胞の増殖抑制に働くことを考えると,硝子体腔の透明性維持,糖尿病硝子体網膜症の発症に関与していると考えられる.山田潤(明治鍼灸大学)らは角膜組織のレドックス状態が人為的に制御できることを明らかにしており(図9),アンチエイジングに向けた眼科領域における新しい試みとして期待される.図8免疫・内分泌・神経系と体温免疫系内分泌系神経系刺激交感神経優位副交感神経優位分泌されるホルモンの種類によって,免疫力が弱くなったり強くなったりする免疫細胞が抗原の刺激を受けると神経系を刺激して発熱し,ホルモンが分泌されて熱が下がる痛み・苦味・熱など体内の異常を認識し,異物の混入を防ぐ外部の刺激を受け,指令を出すホルモンの分泌で臓器の機能を保つTRPM8<22℃TRPV322~42℃TRPV142~52℃TRPV2>52℃MCBMerge(CD11b+Pl)Merge(MCB+CD11b)MCBMerge(CD11b+Pl)Merge(MCB+CD11b)a:生理食塩水b:シスチン誘導体図9角膜組織内のレドックス状態の人為的制御(山田潤,木下茂ら:未発表データ)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.10,2006????(47)おわりに加齢に伴い血流機能障害,ホルモンバランス障害,局所酸素分圧障害,あるいは,より高位の交感/副交感神経系バランス障害が起こり結果として,MfやDCのレドックス状態を偏奇させて,結果,免疫応答の質的変化,血管,リンパ管形成の偏奇,炎症応答の遷延化など起こすことが,加齢に伴う多くの眼科疾患,視覚障害の原因の一つであると考える.再生医療を含めた新しい取り組みを最後に表3にまとめる.眼科の臨床現場を知らない素人の独白の機会をお許しいただいた木下茂編集主幹,本特集の企画者の坪田一男先生に深く感謝いたします.文献1)MurataY,ShimamuraT,TagamiTetal:TheskewingtoTh1inducedbylentinanisdirectedthroughthedis-tinctivecytokineproductionbymacrophageswithelevat-edintracellularglutathionecontent.???????????????????2:673-689,20022)MurataY,OhtekiT,KoyasuSetal:IFN-gammaandpro-in?ammatorycytokineproductionbyantigen-pre-sentingcellsisdictatedbyintracellularthiolredoxstatusregulatedbyoxygentension.?????????????32:2866-2873,20023)MurataY,AmaoM,HamuroJ:Sequentialconversionoftheredoxstatusofmacrophagesdictatesthepathologicalprogressionofautoimmunediabetes.?????????????33:1001-1011,20034)UtsugiM,DobashiK,IshizukaTetal:c-JunN-terminalkinasenegativelyregulateslipopolysaccharide-inducedIL-12productioninhumanmacrophages:roleofmito-gen-activatedproteinkinaseinglutathioneredoxregula-tionofIL-12production.?????????171:628-635,20035)UtsugiM,DobashiK,KogaYetal:Glutathioneredoxregulateslipopolysaccharide-inducedIL-12productionthroughp38mitogen-activatedproteinkinaseactivationinhumanmonocytes:roleofglutathioneredoxinIFN-gprimingofIL-12production.?????????????71:339-347,20026)ItohK,MochizukiM,IshiiYetal:TranscriptionfactorNrf2regulatesinflammationbymediatingthee?ectof15-deoxy-Δ12,14-prostaglandinJ2.?????????????24:36-45,20047)SuhJH,ShenviSV,DixonBMetal:Declineintranscrip-tionalactivityofNrf2causesage-relatedlossofglutathi-onesynthesis,whichisreversiblewithlipoicacid.??????????????????????101:3381-3386,2004表3眼科領域におけるアンチエイジング眼科領域での医療用具,医薬品再生医療:角膜再生,網膜再生生活習慣病と眼のはたらき疫学,全身疾患系統介入/食品:ARED(bカロチン,ビタミンC,E,亜鉛),Ocuvite,再生を促進する食品!加齢と眼のはたらき「眼から始めるアンチエイジング」坪田一男遺伝子による支配,免疫力の低下,フリーラジカルなどによる組織変性,ホルモンの低下木下茂,山田潤1.角結膜組織のGSH含量:どこに焦点をあわせるか非侵襲的診断(モニター)技術とリンク2.涙液のレドックス機能