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硝子体手術のワンポイントアドバイス38.網膜再剥離例に対する追加ガスタンポナーデと光凝固の併用療法(中級編)

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSはじめに硝子体手術後の再?離例に対しては,速やかに再手術を施行するのが原則であるが,初回硝子体手術時に十分な硝子体切除が施行されている無水晶体眼例では,追加ガスタンポナーデと経瞳孔的光凝固を施行することで網膜の復位が得られる場合がある.●本法の適応増殖性変化を認めないかあってもごく軽度な症例,再?離の原因裂孔が経瞳孔的光凝固施行可能な範囲にある症例,角膜の状態が良好である症例などが適応となる.●実際の方法実際の手順を以下に述べる.1)再?離が確認されたら,伏臥位でポンピングにより眼内液?空気置換を行う.2)翌日,眼内の空気が一塊となって,網膜が復位していることを確認する.この時点では下方に液体部分が生じているので,空気を追加しないと光凝固が施行しにくい(図1).3)空気追加時および光凝固施行時の疼痛緩和の目的で,球後麻酔を施行する.4)伏臥位で角膜輪部から眼内液を抜去した後,仰臥位で毛様体扁平部から空気を適量(眼圧が正常になるまで)注入する(図2).あるいは30ゲージ針で角膜輪部から空気を注入してもよい(角膜輪部からポンピングで液?空気置換を施行すると,気体がバブル状となり光凝固ができなくなる).5)眼内がすべて空気になった時点でGoldmann三面鏡あるいは倒像型高屈折レンズ(TransEquator?,Qudraspheric?,Mainster?など)を装着して光凝固を施行する(図3).(63)6)光凝固は気体を通して施行することになるが,眼内が空気でほぼ完全に満たされているので,全象限で光凝固が可能となる(図4).裂孔周囲だけでなく,バックル上やその後極も含めて比較的広範囲に凝固するほうが確実である.文献1)池田恒彦,田野保雄,玉田玲子ほか:硝子体手術後の再?離例に対するPneumaticretinopexy.眼臨82:1329-1332,1988硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載?38網膜再?離例に対する追加ガスタンポナーデと光凝固の併用療法(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1液?空気置換翌日の前眼部所見下方に液体部分が生じているので,空気を追加しないと光凝固が施行しにくい.図2空気追加後の前眼部所見伏臥位で角膜輪部から眼内液を抜去した後,仰臥位で空気を適量注入することで,眼内の空気を一塊のままにする.図3倒像型高屈折レンズによる光凝固裂孔周囲およびバックル上やその後極も含めて光凝固を施行する.図4空気追加後の状態眼内が空気でほぼ完全に満たされているので,全象限で光凝固が可能となる.

眼科医のための先端医療67.強度近視に続発する中心窩分離症

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS中心窩分離症とは中心窩分離症(myopicfoveoschisis)の歴史は古く1958年のPhillipsらの論文にさかのぼります.“Retinaldetachmentattheposteriorpole”と題してBritishJournalofOphthalmologyに記載されたのは「後部ぶどう腫の強い強度近視眼に続発した黄斑円孔を伴わない後極部網膜?離」でした1).1967年のDuke-Elderには強度近視眼の後極部に網膜分離が生じることが記載されており,その剖検図が記載されています.強度近視特有の萎縮性変化のため網膜のどの層で分離するかはっきりしませんが,網膜が内層と外層の2層に分離し,その間にcolumnとよばれるグリア細胞の架橋がみられます2).その後この疾病があまり注目されたとは思えません.一つはconventionalな細隙灯顕微鏡の観察では診断が容易でなく,軽症例は見逃され,重症例は黄斑円孔網膜?離と誤診されていたと筆者は勝手に想像しています.実際,多くの症例で中心窩網膜が非常に菲薄化しており,検眼鏡的に黄斑円孔と紛らわしくあります.しかしながら,1999年にTakanoらが光干渉断層計(OCT)で観察した中心窩分離症32眼を報告し,黄斑円孔網膜?離の前駆状態として注目を集めはじめました3).この疾病に対する理解が急速に深まった一番の理由はOCTという画期的な画像診断技術が普及し,誰でも診断や病態把握ができるようになったことです.加えてトリアムシノロンやインドシアニングリーンなど補助薬剤を使用した硝子体手術手技が確立するにつれ比較的安全に治療できるようになったことも皆が注目した理由でしょう.邦文による最初の硝子体手術の報告が2001年で4),その後多くの症例報告が相次ぎました5,6).現在,中心窩分離症に対する硝子体手術はかなり一般的となっています.中心窩分離症の治療比較的最近の疾病なので中心窩分離症を長期に観察した報告はきわめて少数です.Gaudricらは昨年のAmer-icanAcademyofOphthalmologymeetingで29眼を平均33カ月フォローし,約34%が不変,約48%が分離症悪化,約17%が黄斑円孔を発症したと報告しています.黄斑円孔網膜?離に至った場合は視力の回復がむずかしく,予防的な意味も含め,できれば黄斑円孔発症前に手術を行うのが望ましいという意見が趨勢になりつつあります.自験例では黄斑円孔のない場合,硝子体手術により約7割の症例が視力改善し,術後の黄斑円孔発症率は数%でした.このように硝子体手術は効果的かつか(59)◆シリーズ第67回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊生野恭司(大阪大学大学院医学系研究科眼科学)強度近視に続発する中心窩分離症図1典型的な中心窩分離症の眼底写真と光干渉断層像A:典型的な中心窩分離症の術前眼底写真.強度近視に伴う萎縮性変化を認める.検眼鏡的に中心窩分離ははっきりしない.B:術前の光干渉断層像.中心窩を含む網膜が分離している.C:硝子体手術3カ月後の光干渉断層計像.術後中心窩は完全に復位し,形態的に中心窩陥凹も回復している.ABC———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006なり安全な治療と考えられています(図1).硝子体手術の実際の手技はまず,トリアムシノロンで硝子体を可視化し7),網膜面にはりついている後部硝子体皮質をdiamond-dustedmembranescraperで除去します.強度近視眼では硝子体分離(vitreoschisis)が生じていることが多く,一見後部硝子体?離が生じているようにみえる場合でも網膜面を丹念に調べ,残存後部硝子体皮質の有無を確かめる必要があります.後部硝子体?離はできるだけ広範囲で作製するのが望ましいですが,癒着の強い例では医原性網膜裂孔を生じる可能性があるため,無理はしなくてかまいません.その後インドシアニングリーンで内境界膜を染色し最低3~5乳頭径?離します.強度近視眼では内境界膜が脆くちぎれやすいことに留意します.最後に眼内液?空気置換をし,ガスタンポナーデを行います.黄斑円孔のない場合はさほど長期のタンポナーデを要しません.中心窩分離症の病因現在までに中心窩分離症の病因が100%わかったわけではありません.しかしながら最近,おぼろげながらわかってきました.筆者らは硝子体手術を施行した中心窩分離症症例をOCTで観察し,その形態的変化を検討しました.すると約70%の症例で検眼鏡的には発見できないような微小な皺襞が形成されていることを発見しました(図2)8).この微小皺襞は網膜の細動静脈と一致しており,あたかも網膜血管が洗濯紐を引っ張るように網膜を吊り上げる,いわゆる“clotheslinetraction”を生じていると考えられました.この原因として,強度近視眼では後部ぶどう腫の形成や眼軸の延長など網膜に過剰な伸展が強いられていますが,たとえば硬化した網膜細動脈は神経網膜の伸展に追随できず,相対的に内方への牽引を生じているのではないかと考えられます.網膜血管だけでなく内境界膜の非伸展性9)や網膜前膜の存在10)により,網膜自身が内方に牽引され結果として外側の網膜と分離するというのが現時点での病因の考え方です.今後の課題中心窩分離症にはさらに議論を尽くすべき課題もあります.一つは内境界膜?離の是非です.従来から内境界膜?離の問題点として網膜機能障害の可能性が指摘されており,最近になって少数例ながら内境界膜?離を行わずに分離症の復位が可能であると報告されました11).筆者は内境界膜の非伸展性が主病因の一つであると考えており,内境界膜?離が必須との立場ですが,エビデンスはありません.他にもガスタンポナーデの是非や,手術基準などさらに検討を要する課題もあります.文献1)PhillipsCI:Retinaldetachmentattheposteriorpole.???????????????42:749-753,19582)Duke-ElderS,DobreeJH:Diseasesoftheretina.SystemofOphthalmology,VolX,p567,HenryKimpton,London,19673)TakanoM,KishiS:Fovealretinoschisisandretinaldetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaph-yloma.???????????????128:472-476,19994)石川太,荻野誠周,沖田和久ほか:高度近視眼の黄斑円孔を伴わない黄斑?離に対する硝子体手術.あたらしい眼科18:953-956,20015)KobayashiH,KishiS:Vitreoussurgeryforhighlymyopiceyeswithfovealdetachmentandretinoschisis.??????????????110:1702-1707,20036)IkunoY,SayanagiK,TanoYetal:Vitrectomyandinter-nallimitingmembranepeelingformyopicfoveoschisis.???????????????137:719-724,20047)SakamotoT,MiyazakiM,HisatomiTetal:Triamcino-lone-assistedparsplanavitrectomyimprovesthesurgicalproceduresanddecreasesthepostoperativeblood-ocularbarrierbreakdown.????????????????????????????????240:423-429,20028)IkunoY,GomiF,TanoY:Potentretinalarteriolartrac-tionasapossiblecauseofmyopicfoveoschisis.????????????????139:462-467,20059)KuhnF:Internallimitingmembraneremovalformaculardetachmentinhighlymyopiceyes.???????????????135:547-549,200310)PanozzoG,MercantiA:Opticalcoherencetomography?ndingsinmyopictractionmaculopathy.???????????????122:1455-1460,200411)SpaideRF,FisherY:Removalofadherentcorticalvitre-ousplaqueswithoutremovingtheinternallimitingmem-braneintherepairofmaculardetachmentsinhighlymyopiceyes.??????25:290-295,2005(60)図2硝子体手術術後にみられる典型的な網膜微小皺襞の光干渉断層像(矢印)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???(61)■「強度近視に続発する中心窩分離症」を読んで■今回は生野恭司先生に強度近視に続発する中心窩分離症について解説していただきました.個人的な感想をまず申しあげて恐縮ですが,このカラム記事は臨床の現場から新しい疾患概念が生まれ,進歩していく過程のロマンを解説していただいたすばらしいストーリーであると感じました.われわれ眼科医の最も大切なフィールドは言うまでもなく眼科の臨床現場です.先人の臨床的な先駆的な観察が優れた臨床医による研究,先端的な医学機械,そして治療学の進歩により確かな疾患エンティティーとして確立していく経過を興味深く,ダイナミックに,そしてわかりやすく書いていただきました.強度近視に続発する中心窩分離症の疾患の病態については,ここにあらためて解説する必要もないほどにわかりやすく書かれた本文を参照ください.特に感銘を受けたのは,病態について網膜血管による‘clotheslinetraction’理論は大変視覚的,感覚的にむずかしい病態を一瞬にして説明し理解できるすばらしい理論です.臨床医学の粋をみせていただいたと感じています.臨床医の基本であり,出発点は言い旧されてはいますが,患者さんをとにかくよく観察することです.すぐれた臨床医はすぐれた観察眼をもっています.生野先生の解説によりますと「中心窩分離症」を初めて記載したのは1958年のPhillipsとのことです.いまのような先端的な検査機器がない状態で新しい概念を生みだしたのはすばらしいことで,その業績はすばらしいと考えます.Phillipsの前にも同じような眼底を診察した臨床医は多数いたはずですが,最初の記載者はPhillipsになりました.しかし,光干渉断層計(OCT)の画像から‘clotheslinetraction’理論を考えつかれた生野先生もまた優れた観察者であると考えます.同様に生野先生と同じOCTをみた臨床医は以前にもいたはずですが,‘clotheslinetraction’理論の独創性は生野先生を待たなければなりませんでした.これは臨床医学のロマンであると考えます.われわれ臨床医の醍醐味を見せていただいた総説です.山形大学医学部視覚病態学山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ163.メトトレキセート硝子体投与-原発性眼内悪性リンパ腫の治療として-

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド原発性眼内悪性リンパ腫は,原発性中枢神経系悪性リンパ腫の1亜型でまれな疾患であり,通常はステロイド加療に抵抗する慢性の後部ぶどう膜炎を呈し,仮面症候群とよばれる.この疾患に対する治療として,おもに放射線治療と高容量のメトトレキセートを含む全身化学療法が行われてきたが,近年,眼局所の化学療法ということでメトトレキセートの硝子体投与が新たな選択肢として注目されるようになってきた1,2).?新しい治療方法1997年に原発性眼内悪性リンパ腫の治療にメトトレキセートの硝子体投与が安全かつ有効であることが報告され,その後の2002年の報告では16例26眼の原発性眼内悪性リンパ腫の治療に,再発した病変も含めて100%の寛解率を得たことが示された3,4).この数年で急激にこの治療法が浸透してきており,わが施設でも第一選択としてメトトレキセートの硝子体投与を行っている.?使用方法(治療の実際)以下のような硝子体注射を,導入療法として週2回×1カ月間,強化療法として週1回×1カ月間,維持療法として月1回×1年間行う.<硝子体注射の方法>①メトトレキセート400?gを0.05m?(あるいは0.1m?)に溶解したものを準備しておく.②手術時と同様に結膜?の洗浄,消毒を行う.③点眼麻酔をして開瞼器で開瞼後,まず前房穿刺(あるいは硝子体液吸引)を行う.④30ゲージ注射針にて,①を毛様体扁平部より硝子体に投与する.⑤生理食塩水で十分洗浄し,抗生物質入りの眼軟膏を塗布する.③では,注射前に低眼圧にすることで注射後に薬剤が眼外に漏れないようにしている.採取した硝子体液はサイトカイン解析で治療効果の判定に用いることができる.④の際に1/2インチ針を用いると眼内に針が当たることはなく,硝子体出血や網膜?離のリスクを避けることができる.治療効果の判定は,硝子体内細胞の数,治療前後の硝子体液サイトカイン濃度の変化,網膜浸潤病変の状態などを指標とできる.硝子体液のインターロイキン-10(IL-10)は悪性リンパ細胞から産出される1,2)ので,治療後に硝子体液IL-10の値が感度未満に低下すれば寛解と判断してよい.表1は当科でメトトレキセート硝子体内投与を第一選択として行った5症例における硝子体液サイトカイン濃度の推移であるが,全例で治療後のIL-10が感度未満となった.また症例1ではメトトレキセート硝子体投与によって速やかに網膜浸潤病巣が治癒した(図1).副作用として高頻度に角膜上皮障害が生じるが,点眼や眼軟膏で治癒しない場合や角膜輪部障害がみられた場合は,導入療法の週2回の注射を週1回に減らしたほうがよい(図2).角膜障害は1カ月に一度の注新しい治療と検査シリーズ(57)163.メトトレキセート硝子体投与─原発性眼内悪性リンパ腫の治療として─プレゼンテーション:曺麗加大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)コメント:後藤浩東京医科大学眼科学教室表15症例における硝子体液サイトカイン濃度の推移症例RorL治療前硝子体液IL-10/IL-6*1(pg/m?)治療後硝子体液IL-10/IL-6(pg/m?)経過観察期間(治療後)*31R4,870/57.6─*2/40.623カ月(M)L9,130/80.2─/3529M2R880/30.8─/9.631ML─/5.48M3R19.0/14.0─/27.46ML2,730/80.4─/32.223M4L4,080/280─/9.817M5R1,220/16─/14.419ML1,340/10.0─/5.76M*1IL-10:インターロイキン-10,IL-6:インターロイキン-6.*2─は,測定感度未満(≒0)を表す.*32006年6月現在.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006射頻度になると自然に治癒する.過去の報告では白内障の進行,黄斑症,硝子体出血,視神経萎縮,無菌性眼内炎などの副作用が問題となっているが,当科では現在,全例が白内障手術後であることもあり,角膜障害以外の副作用は生じていない.?本方法の良い点本治療法の良い点は,悪性リンパ腫が再発した場合もくり返し行えるという点と,治療の副作用が可逆的でコントロールできるという点であろう.放射線治療は有効であるが,一度しか行えず,放射線網膜症や難治性のドライアイなど非可逆的な副作用を生じる恐れがある1).当初,初発病変には放射線照射を行い,再発病変にはメトトレキセートの硝子体注射・全身投与を行うのが一般的であったが,最近の報告では初発病変においてもメトトレキセートの硝子体注射を全身化学療法とともに実施することが治療の第一選択として述べられているものもある2).しかしながら,本治療の歴史は浅く,長期的な副作用の有無,生命予後改善への寄与については今後の報告を待たねばならない.文献1)ChanCC,WallaceDJ:Intraocularlymphoma:updateondiagnosisandmanagement.??????????????11:285-295,20042)Levy-ClarkeGA,ChanCC,NussenblattRB:Diagnosisandmanagementofprimaryintraocularlymphoma.???????????????????????????19:739-749,20053)SmithJR,RosenbaumJT,WilsonDJetal:Roleofintra-vitrealmethotrexateinthemanagementofprimarycen-tralnervoussystemlymphomawithocularinvolvement.?????????????109:1709-1716,20024)FishburneBC,WilsonDJ,RosenbaumJTetal:Intravit-realmethotrexateasanadjunctivetreatmentofintraocu-larlymphoma.???????????????115:1152-1156,1997(58)?本方法に対するコメント?眼内悪性リンパ腫に対する治療の,少なくとも現時点における一般的な方法は眼局所への放射線照射である.一方,メトトレキセートの硝子体投与は比較的新しい治療法であるが,ここに紹介されているように切れ味もよく,有効な治療法であることは間違いない.放射線治療後の再発例などでは,これが唯一の治療法といっても過言ではない.ただし,メトトレキセート硝子体投与が放射線療法などを差し置き,第一選択の治療法として位置づけてよいのか否かは議論の分かれるところであろう.頻回な注射を必要とする現在のレジメについては検討の余地があるかもしれない.また,角膜障害をはじめとする有害事象についても十分な認識をもっておくべきである.なお,治療の効果判定に眼内液のIL-10測定は合理的な方法であるが,前房水のサイトカイン測定値はあてにならないことがあり,硝子体液を用いた評価が重要である.その採取に際しては合併症を生じて合併症を生じて本末転倒にならぬよう,細心の注意が求められる.図1表1の症例1の右眼眼底周辺部写真経過中,黄白色の網膜浸潤病巣が出現したが,メトトレキセート硝子体投与により治療後4カ月には網膜色素上皮の萎縮を残して治癒した.治療開始後4カ月治療開始後1カ月治療前図2メトトレキセート投与による角膜障害A:角膜びらん.B:糸状角膜炎.C:角膜輪部障害.Cのような所見が見られたら,メトトレキセート投与の頻度を減らすべきである.ABC

涙点プラグ:涙液油層減少を伴うドライアイ患者に対しての涙点プラグ挿入術-涙液油層治療の補助としての涙点プラグ-

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●涙液油層減少を伴うドライアイに対しての涙液油層治療涙液は,油層・水層・ムチン層の3層構造をとると考えられており,涙液油層には涙液の過剰な蒸発の防止,涙液層の安定性に寄与,光学的に平滑な涙液表面の形成,瞬目における潤滑,眼瞼縁におけるバリアという機能がある.このため涙液油層が減少しているとドライアイがひき起こされると考えられる.涙液油層の減少などの評価は従来困難であったが,涙液干渉像観察装置DR-1?(興和)が開発され1),その画像解析による涙液油層薄膜厚み測定が可能となってきている.これはナノメーターレベル薄膜の定量技術であるため“涙液ナノテクノロジー”と名付けた2).DR-1?画像でdarkgray-brown干渉色を呈する症例では涙液油層が薄くなっており(涙液油層減少),横井のDR-1?グレードの5および1または2の範疇に入る.グレード5は油層とともに涙液分泌が非常に減少している重症のドライアイである.グレード1,2の涙液油層減少には(正常者では明るいgray-brown干渉色を呈する)にはo?cedryeye(VDT症候群を伴うドライアイ.びまん性のマイボーム腺閉塞も高頻度にみられる)3),閉塞性マイボーム腺機能不全(MGD)(涙液分泌量正常なもの)4),Stevens-Johnson症候群などの重症ドライアイでMGDを合併しかつ比較的眼表面wetnessの保たれているもの5),フルオレセイン染色軽度の涙液分泌減少dryeye,shortBUT(tear?lmbreakuptime)dryeyeなどのドライアイ症例が含まれている.これらのうち,閉塞性MGDには油性点眼6),o?cedryeye3)および,Stevens-John-son症候群などの重症ドライアイでMGDを合併しかつ(55)涙点プラグセミナー監修/坪田一男後藤英樹鶴見大学歯学部眼科学講座4.涙液油層減少を伴うドライアイ患者に対しての涙点プラグ挿入術─涙液油層治療の補助としての涙点プラグ─近年,DR-1?を用い涙液油層減少を伴うドライアイの診断が可能となっており(涙液ナノテクノロジー),涙液油層治療がドライアイ治療の重要なオプションとなってきている.涙液油層治療に際しては適切な量の眼表面涙液貯留量が重要であり,ドライアイ症例で涙液貯留量が低下している場合,その増加をもくろむ手段としての涙点プラグ挿入術について述べた.ホワイトメディカル提供図1O?cedryeye患者のDR-1?画像涙液油層厚み40nm.ドライアイの治療で点眼治療と下涙点プラグを行ったあとの涙液干渉像.図2図1の症例に極少量オフロキサシン眼軟膏眼瞼縁投与後のDR-1?画像涙液油層厚みは若干のむらが見られるが,中心で90nm.眼の乾燥症状スコアも改善した.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(00)比較的眼表面wetnessの保たれているドライアイ5)には,極少量オフロキサシン眼軟膏眼瞼縁投与が有効であった.これらは局所油性分補充療法であり,施行後に涙液油層が(厚みに関しては)健常化するため“涙液油層治療”とよんでいる.●涙液油層治療の補助としての涙点プラグ現在ドライアイの治療は人工涙液点眼投与,ヒアルロン酸点眼投与を行い,効果が少なければ涙点プラグ挿入へ進むことが多い.Sj?gren症候群など上下涙点プラグ挿入が著効するタイプ(鼻刺激Schirmerテストが低下しているドライアイ,多くは横井のグレード4または5)や,下方または上方のみのプラグで効果のある症例もあるが,臨床上は,点眼治療に反応せず,上下涙点プラグ挿入では流涙がひき起こされ,かといって上下いずれかのみのプラグではあまり効果がないというタイプのドライアイが未解決の問題として残っている.このタイプのドライアイを詳細に観察すると上記の涙液油層減少を伴ったドライアイが多く含まれている.このタイプのドライアイでSchirmerテストが正常(涙液水分量十分)であれば上記の涙液油層治療へ進むが,Schirmerテストの異常(涙液分泌低下)を伴う場合,投与した油成分の水層上での伸展が不十分となる場合が多い(電車理論)7).これらの症例に点眼療法─下方プラグ─涙液油層治療と治療を追加していくと,油層治療により正常に近い厚みをもった涙液油層が形成され,眼乾燥感の症状も改善することが多いため,現在涙点プラグを涙液油層治療前のオプションとして利用している(このような症例にプラグを施行せず,直接涙液油層治療を行ったらいいのではないかというアイデアもあるが,油層治療はドライアイ治療としてはまだオーソドックスではないため点眼療法,涙点プラグをまずやってそれでも不十分な場合,追加するようなステップを踏んでいる.油層治療はある程度の眼表面涙液貯留量がないと効きにくいのではないかというのが現段階での印象である).通常,下方のプラグのみではSchirmerテストが正常化しないため,眼表面涙液貯留量の正常化までは期待されないが,この治療のメカニズムとしては,涙液メニスカスの微妙な変化から涙液油層の伸展が助けられているのではないかと推測している.文献1)YokoiN,TakehisaY,KinoshitaS:Correlationoftearlipidlayerinterferencepatternswiththediagnosisandseverityofdryeye.???????????????122:818-824,19962)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.??????????????????????????44:4693-4697,20033)後藤英樹,村戸ドール,松本幸裕ほか:極少量オフロキサシン眼軟膏眼瞼縁投与によるドライアイの治療.第29回角膜カンファランス,徳島,2005年2月17日4)GotoE,TsengSC:Di?erentiationoflipidtearde?ciencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.???????????????121:173-180,20035)GotoE,DogruM,MatsumotoKetal:Successfultearlipidlayertreatmentforseveredryeyepatientsbylow-doselipidapplicationonthefull-lengthlidmargin.Inter-nationalOcularSurfaceSociety,FortLauderdale,FL,2006.4.296)GotoE,ShimazakiJ,MondenYetal:Low-concentrationhomogenizedcastoroileyedropsfornonin?amedobstruc-tivemeibomianglanddysfunction.?????????????109:2030-2035,20027)川島素子,後藤英樹:眼の乾きと涙液油層─マイボーム腺脂質,涙液蒸発,涙液油層およびDR-1?.あたらしい眼科22:295-302,2005

眼感染症:アデノウイルス結膜炎迅速診断キット(免疫クロマトフラフィー法)

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS■アデノウイルス結膜炎の診断流行性角結膜炎と咽頭結膜熱がヒトアデノウイルス(HAdV)による結膜炎と理解されているが,いずれも臨床病名であり,実際には他のウイルスが原因となっているものもある.原因ウイルスにより治療法が異なることに加え,HAdVの場合は他者への感染予防が必要であるため,現在では正確に病因診断を行ったうえでアデノウイルス結膜炎と診断することが求められる.本稿のテーマの免疫クロマトグラフィー法を用いたキットは,日本ではアデノチェック?が1997年に初めて発売され,15分という短時間で判定できることや,特異度100%と陽性例では確定診断ができることなどから現在広く普及している1).現在は数社よりキットが発売されているが,すべて本法を用いているキットである.■原理一つのメンブレン上に,①金コロイド標識マウス抗HAdV抗体,②抗HAdV抗体,③抗マウス免疫グロブリン抗体の3つの抗体を有するものである.アデノチェック?を例にすると,まず患者結膜を滅菌綿棒でよく擦過し,擦過物を付属の抽出液に懸濁させる.抽出液をプレートに滴下すると,すぐ先に①の抗体があり一緒にメンブレン上を移動,HAdVが存在すると①との間に抗原抗体反応が起こり結合する.その後抽出液は②抗体の位置にまで流れ,HAdVが存在すると①,ウイルス粒子,②が結合した免疫複合体を形成,①の金コロイドが凝集して赤紫色のラインが形成される.HAdVが存在しなければこの反応は起こらない.一方,HAdVと反応しなかった①の抗体はそのままメンブレン上を流れていき,③の抗体と結合してここにも赤紫色のラインが形成される.すなわちHAdVが存在する場合は2本のラインが,存在しない場合は1本のラインが形成される.③のラインがないときは反応自体がうまくいっていないことを意味するため,検査は無効である(図1,2).(53)38.アデノウイルス結膜炎迅速診断キット(免疫クロマトグラフィー法)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次有賀俊英砂川市立病院眼科アデノウイルス結膜炎はウイルス性結膜炎の原因として約90%を占め,外来診療において頻繁に遭遇する疾患の一つである.ありふれた疾患ではあるが,ひとたび感染が拡大すると院内感染など大きな問題をひき起こすため,迅速かつ正確に診断する必要がある.迅速診断キットは有力なツールであり,積極的な利用が望まれる.図2アデノチェック?,キャピリア?アデノ・アイの実際の陽性例上:アデノチェック?,下:キャピリア?アデノ・アイ.判定部(SもしくはT),コントロール部(C)ともに赤紫色のラインが確認される(両キットで展開方向が逆なため,キャピリア?は逆さまにして撮影した).図1免疫クロマトグラフィー法の模式図金コロイドは凝集すると赤紫色の発色を呈する.図では?eeの金コロイド粒子も赤く示しているが,実際には分散状態では無色である.展開方向展開方向アデノウイルス金コロイド標識抗アデノウイルス抗体検体液中にアデノウイルスが存在する場合検体液中にアデノウイルスが存在しない場合抗アデノウイルス抗体抗マウス免疫グロブリン抗体———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006■キットの実際と陽性率アデノチェック?の一つの欠点としては,陽性率が60%前後と決して高くはないことがあった2).その後2003年に日本ベクトン・ディッキンソン社からより高感度のキャピリア?・アデノ(現キャピリア?アデノ・アイ,以下キャピリア?と略)が,また同時期にアデノチェック?の改良版も発売され,約70~80%と感度の向上が図られている.現在この2種のキットがいわゆる第二世代の迅速診断キットとして用いられている(表1).■アデノチェック?とキャピリア?アデノ・アイ添付文書によれば,アデノチェック?の検出感度は1×104粒子/m?,キャピリア?は1×103粒子/m?となっているが,筆者らが行った感度調査ではアデノチェック?73.5%3),キャピリア?66.4%4)とむしろアデノチェック?のほうが高くなっていた.ただ,両者には実験方法に差があり,キャピリア?で陽性率80%程度との報告もある5).後に行った臨床検体でのreal-timePCR(polymerasechainreaction)法によるDNAコピー数検査では,両キットにほとんど差はなく,同一条件での実験ではほとんど差はないのではと考えられる.両キットの大きな差は使用する抗体の違いであり,アデノチェック?は捕捉抗体としてポリクローナル抗体を,キャピリア?はモノクローナル抗体を用いている.この違いにより,血清型間の感度の差などが生じることが考えられ,特にモノクローナル抗体を用いたキャピリア?は抗原認識部位が1カ所であるため,この部位に変異のあるウイルスが出現すると感度の低下が起こりうる反面,親和性の高いウイルスでは少量でも非常に強く反応することが考えられる.そのため臨床検体を用いた実験で得られる感度差は,そのときに流行しているウイルスと抗体との親和性の違いによるものと考えられる.共通する問題点としては,いまだ20~30%の偽陰性が存在するということである.咽頭検体では眼科検体よりも良好な感度が得られており,両者の差の検討でさらなる感度上昇の鍵を得られるかもしれない.今後の発展に期待したい.いずれにしても両者とも陽性例では確実に診断できるキットであり,アデノウイルス結膜炎の正確な診断のためには積極的に利用していきたいものである.文献1)UchioE,AokiK,SaitohWetal:Rapiddiagnosisofade-noviralconjunctivitisonconjunctivalswabsby10-minuteimmunochromatography.?????????????104:1294-1299,19972)齋藤和香,内尾英一,青木功喜:免疫クロマトグラフィー法によるアデノウイルス結膜炎の迅速診断.臨眼51:1073-1076,19973)有賀俊英,三浦里香,田川義継ほか:改良版アデノチェックの臨床的検討.臨眼59:1183-1188,20054)大口剛司,有賀俊英,三浦里香ほか:アデノウイルス迅速診断キット「キャピリアアデノ」の検討.臨眼59:1189-1192,20055)竹内聡,中川尚,石岡みさきほか:第二世代のアデノウイルス迅速診断キットの評価.第41回日本眼感染症学会総会,札幌,2004(54)表1現在発売されているアデノウイルス結膜炎迅速診断キットキャピリア?アデノ・アイアデノチェック?イムノカードST?アデノウイルスアデノテストAD?販売元わかもと製薬㈱参天製薬㈱㈱テイエフビー㈱シード発売元日本ベクトン・ディッキンソン㈱明治乳業㈱製造元㈱タウンズSAScienti?c,Inc.MeridianBioscience,Inc.アドテック㈱包装5テスト10テスト5テスト10テスト反応時間15分10~15分(30分以内)10~15分15分捕捉抗体モノクローナル抗体ポリクローナル抗体モノクローナル抗体モノクローナル抗体■コメント■以前はアデノウイルス結膜炎の診断は臨床所見のみに頼ってなされていたが,この迅速キットが開発されて,実際の臨床現場ですぐに病因診断がなされるようになった.特に最近社会的に問題になっている院内感染における役割は重要で,未然に防止するための診断力の強化,あるいは院内感染が生じたときにその拡大を防ぐための入院患者全員のスクリーニングが可能である.筆者も述べているように今後,さらに感度の高いキットが開発されることが望まれる.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次

緑内障:新しい眼圧計アイケアR

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS圧入式のSchi?tz眼圧計を除き,現在繁用されている眼圧計はすべて,角膜を一定面積扁平化させるのに要する外力から眼内圧を推測する圧平式眼圧計(applanationtonometry)である.これに対して最近,新しい原理や測定方法に基づく眼圧計が相次いで開発され,臨床応用されつつある.その一つが,induction/impacttonometerまたはreboundtonometerとよばれるアイケア?(icareTA01,Tiolat社製)である.アイケア?は図1のように,携帯式の眼圧計で,ソレノイドとよばれるコイルを内蔵している.まず,先端にはプラスチックカバーがついた,ディスポーザブルの鉄製の細いプローブを装着する.電源を入れると自動的にキャリブレーションが行われる.被検者の眼前数cmの距離でスイッチを握ると,電流により磁場が生じて,プローブが角膜に向け発射される.プローブは角膜に当たって減衰し反跳するが,そのときのプローブの動きの変化で,コイル内に生じた磁場変化を電気信号に変換して眼圧を測定する1).数秒のうちに連続6回測定され,その平均がディスプレーされる.プローブと眼の距離や角度が正しくないため測定が不正確な場合は,エラー表示が出されるので再検する.アイケア?による眼圧測定には表面麻酔が不要なので麻酔薬アレルギーのある患者に使用しやすいし,プローブが細いので瞼裂の狭い個人でも測定が可能である.携帯式なので,車椅子の個人の測定が可能である反面,前後に傾けるとプローブの装着不良が生じるので仰臥位の(51)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄73.新しい眼圧計アイケア?中村誠神戸大学大学院医学系研究科器官治療医学(眼科学)アイケア?は,携帯式で,表面麻酔薬不要の眼圧計である.プローブが角膜にぶつかる動きのモーメントから眼圧を推測するため,induction/impactまたはreboundtonometerとよばれる.Goldmann圧平式眼圧計に比べ平均0.6~1.8mmHg高く眼圧を測定する.図1アイケア?左:装置全景.右:眼圧測定中の状態.赤丸印はプローブ先端の拡大.図2アイケア?とGoldmann眼圧計のBland-Altmanプロット横軸に両者の平均,縦軸に両者の差を取り,2機種の一致性をみた.直線は差の平均,破線は95%一致性限界.(文献5より改変引用)6420-2-4アイケア?とGoldmann眼圧計の差(mmHg)アイケア?とGoldmann眼圧計の測定値の平均(mmHg)051015202530図3中心角膜厚のアイケア?とGoldmann眼圧計の測定値差に及ぼす影響r2=0.202(p=0.0012)で,中心角膜厚が厚くなるほど2機種の差は大きくなる.(文献5より改変引用)6420-2-4アイケア?とGoldmann眼圧計の差(mmHg)中心角膜厚(μm)0450500550600650———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006患者には使用しにくい弱点がある.Goldmann圧平眼圧計とアイケア?の眼圧測定の一致性をみた最近の研究2~5)によれば,アイケア?はGold-mann眼圧計より全体として0.6~1.8mmHg高く眼圧を測定する(図2).その差は眼圧の値によらずほぼ一定であるので,Goldmann眼圧計との互換性はあるようである.これに対し,同じように携帯式であるトノペン?とは平均の差はないが,眼圧が高いときはアイケア?のほうが,低いときはトノペン?のほうが眼圧を高く測定するので,注意が必要である5).圧平式眼圧計は,中心角膜厚をはじめ,前眼部のさまざまな生物物理特性に影響されることが知られている.これに対し,筆者らの調べたところでは,アイケア?も,同様に角膜厚の影響を受け,角膜厚が厚いほど眼圧は高くなった5).そして,角膜が厚いほどGoldmann眼圧計に比べ眼圧をより高く測定する傾向があった(図3)5).先に述べたようにアイケア?はプローブの減衰率から眼圧を推測するので,角膜が厚かったり,硬かったりすると眼圧を高めに見積もる可能性があると思われる.このようにその特性と限界を知っておく必要はあるが,Goldmann眼圧計と互換性があり,短時間に簡便に測定できる携帯式眼圧計として,今後臨床の場に普及することが期待される.文献1)KontiolaAI:Anewinduction-basedimpactmethodformeasuringintraocularpressure.?????????????????????78:142-145,20002)Martinez-de-la-CasaJM,Garcia-FeijooJ,CastilloAetal:Reproducibilityandclinicalevaluationofreboundtonometry.?????????????????????????46:4578-4580,20053)vanderJagtLH,JansoniusNM:Threeportabletonome-ters,theTGDc-01,theICAREandtheTonopenXL,com-paredwitheachotherandwithGoldmannapplanationtonometry.???????????????????25:429-435,20054)FernandesP,Diaz-ReyJA,QueirosAetal:ComparisonoftheICare?reboundtonometerwiththeGoldmanntonometerinanormalpopulation.???????????????????25:436-440,20055)NakamuraM,DarhadU,TatsumiYetal:Agreementofreboundtonometerinmeasuringintraocularpressurewiththreetypesofapplanationtonometers.????????????????(inpress)(52)☆☆☆

屈折矯正手術:新しいScheimpflug原理を用いた前眼部解析装置の屈折矯正手術への導入

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSLASIK(laser???????keratomileusis)などの屈折矯正手術を行うにあたっては,keratectasiaや不完全フラップなどの合併症を予防するために,術前の角膜形状をできるだけ詳細に把握することが重要である.特に屈折矯正手術における最も大きな術後合併症のひとつであるkeratectasiaは,角膜の菲薄化による前方突出のために近視化や不正乱視の発生をひき起こす.この発症のリスクとして,術後に角膜が薄くなりすぎることや,術前から円錐角膜の素因をもっていることがあげられている1).したがってこれらの合併症を予防するためには,術前の角膜厚や角膜形状解析装置でしか発見できないような軽度円錐角膜(円錐角膜疑い)のスクリーニングが重要となる.これらのスクリーニングには,プラチドリングの反射像から角膜形状を解析する,ビデオケラトスコープでは角膜後面形状や角膜厚分布の情報が得られないため,スリット光をスキャンすることにより得られた複数のスリット像を元に解析する,スリットスキャン式角膜形状解析装置による角膜後面形状や角膜厚分布の情報もチェックすることがより確実である.これまで臨床使用されていたスリットスキャン式角膜形状解析装置はオーブスキャンのみであったが,近年回転式Scheimp?ugカメラの原理を用いた前眼部解析装置であるペンタカム?が使用できるようになった.ペンタカム?は内蔵したScheimp?ugカメラを180?回転しながらスキャンすることにより,角膜前後面,虹彩および水晶体の三次元構築を行うことができる.ペンタカム?は縦方向のスリット光を左右にスキャンするオーブスキャンと比較して角膜中心付近の情報量が多いと考えら(49)●連載?屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男74.新しいScheimp?ug原理を用いた前眼部解析装置の屈折矯正手術への導入中川智哉前田直之大阪大学大学院医学系研究科屈折矯正手術ではkeratectasiaなど合併症予防のため,術前に角膜厚や円錐角膜疑いをスクリーニングすることが重要である.新しいScheimp?ug原理を用いた前眼部解析装置であるペンタカム?は,角膜厚測定や円錐角膜の自動評価が可能であり,屈折矯正手術の術前評価に有用である.図1角膜厚マップ周辺の黒点の部分は強膜にかかり信頼性に乏しい部分であるが,広い範囲で測定可能である.カーソルをあてた任意の点で角膜厚を表示できる.図2LASIKの術前,術後における角膜厚の差画面左に術前,中央に術後,右に術前後の差が表示されている.LASIKにより角膜中央が薄くなっているのがわかる.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006れ,オートスタートとオートアラインメントや細分化された信頼係数の評価により,測定結果の再現性を高める工夫がなされている.ペンタカム?のスリット光は角膜輪部を越えてスキャンされるため測定範囲が広い.ペンタカム?による角膜厚測定のマップを示す(図1).角膜中央のみならず任意の点での角膜厚が計測でき,術前と術後の比較も可能である(図2).ペンタカム?の中心角膜厚は,検者間や検査間での再現性が高く,超音波パキメータとの差もおよそ6?m程度であったと報告されており2),比較的信頼性が高いと考えられる.しかしまだ多数例による評価ではないので,当面は超音波パキメータや角膜内皮スペキュラマイクロスコープなど,他の角膜厚測定装置との併用が望ましいと考えられる.筆者らの施設におけるLASIK術前中心角膜厚の基準は,術前に500?m以上,術後に400?m以上で,フラップ下の実質ベッドを250?m以上残せるもの,としている.ビデオケラトスコープを用いて角膜前面形状を解析することにより円錐角膜の自動診断を行うシステムは広く普及しているが,角膜後面形状の自動解析はあまり普及していない3).しかし前面形状や角膜厚は正常範囲であっても術後にkeratectasiaを発症する例があり,後面形状の異常についても関心が高まっている.角膜後面形状については,最もフィットする球面との差を示した高さデータのマップを見て判断することが必要である(図3).ペンタカム?には2つの判定基準に基づく円錐角膜の自動診断プログラムがある(図4).第1は,周辺から中央にかけての角膜の菲薄化をグラフ化して評価するプログラムであり,円錐角膜のような局所的菲薄化を検出できる.第2は,非対称性などの係数やFourier解析などから自動診断を行うプログラムであり,円錐角膜の程度判定や他の角膜異常を鋭敏に検出可能であるとしている.ペンタカム?は新しい機器であり,今後種々の応用が期待される.しかしまだ論文報告は十分とはいえず,より多数例での評価が必要であると考えられる.文献1)RandlemanJB,RussellB,WardMAetal:RiskfactorsandprognosisforcornealectasiaafterLASIK.??????????????110:267-275,20032)BarkanaY,GerberY,ElbazUetal:CentralcornealthicknessmeasurementwiththePentacamScheimp?ugsystem,opticallow-coherencere?ectometrypachymeter,andultrasoundpachymetry.???????????????????????31:1729-1735,20053)BesshoK,MaedaN,KurodaTetal:Automatedkerato-conusdetectionusingheightdataofanteriorandposteriorcornealsurfaces.????????????????(inpress)(50)図3円錐角膜疑い症例の4面マップ画面上段左に角膜前面の高さデータ,上段右に角膜後面の高さデータが表示されている.前後面ともに角膜中心より下方が最も高くなっているのがわかる.図4円錐角膜の自動診断プログラム画面上が菲薄化の程度を判定するプログラムであり,赤線で示された測定結果が正常よりも急激な菲薄化を示している.画面下には種々の係数と円錐角膜の重症度評価が表示されている.

眼内レンズ:Wieger靱帯の術中観察

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS白内障手術中におけるWieger?帯(図1)1,2)の重要性についてはわが国では吉富,大木,鳥井らによってたびたび強調されてきた.インドシアニングリーン染色液が後房に回って偶然Wieger?帯が線状に確認された藤田の報告(2002ASCRS)もある.今回筆者らは南によって改良されたMiyakeviewで豚眼のWieger?帯と思われる組織を確認できた(図2).動画では水晶体後?の挙動に一致してこの組織が動く様子がよく確認された.筆者らの施設(三好眼科)で昭63年4月から平成18(47)三好輝行*1吉田博則*2*1医療法人節和会三好眼科*2高知大学医学部眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎239.Wieger?帯の術中観察水晶体後?と前部硝子体膜が堅固に接着している部位があり,この部をWieger?帯とよぶ.豚眼の解剖所見および白内障手術中Wieger?帯と思われるラインを確認できた症例を呈示し,あわせてinfusionmisdirectionsyndrome(IMS)の発症機序についても述べた.図1Wieger?帯の解剖模式図Wieger?帯は,正式にはhyaloidcapsularligamentofWieger.図2豚眼におけるWieger?帯と思われる組織(赤丸内)水晶体後?にかなり強固に接着していた.図3眼内レンズ挿入後のWieger?帯(ライン)眼位,眼球運動によってもこのラインの位置は変わらない.図4I/A中に確認されたWieger?帯(ライン)4時から6時を回って10時まで確認できた.眼位,眼球運動によってもこのラインの位置は変わらない.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(00)年5月まで施行した白内障手術約27,000例のなかで現在までにWieger?帯を捉えられたものは15例あったが,すべてWieger?帯によると思われるラインを部分的に確認することができた症例のみである(図3,4).これらはZinn小帯が弱くかつWieger?帯が部分的に外れていた,すなわち部分前部硝子体?離が生じていた例と思われる.このような症例ではPEA(水晶体乳化吸引)またはI/A(灌流吸引)中に灌流液が容易にBerg-er腔に回り,infusionmisdirectionsyndrome(IMS)を生じ後?破損を起こす可能性が高い(図5)3).IMSによる破?を防ぐにはCole核操作具やMフックなどでPEA術中に後?を強制的に押し下げて,PEAスペースを確保するとよい(図6).映像として捉えることがむずかしいWieger?帯を確認することは,後?の動きを確実に認識するきわめて重要なステップの一つとなり,後?破損などの合併症を防ぐ一助となると思われる.文献1)HammingNA,AppleD:Anatomyandembryologyoftheeye.PrinciplesandPracticeofOphthalmology(edbyPey-manGA,SandersDRetal),p3-68,Saunders,PA,19802)猪俣孟,吉富文昭,沖坂重邦:ベルガー腔とウイガー?帯.臨眼54:1034-1035,20003)MackoolRJ,SirotaM:Infusionmisdirectionsyndrome.????????????????????????19:671-672,1993図5IMSの発症機序Zinn小帯が弱く,かつWieger?帯が一部でも外れている(部分前部硝子体?離の生じている)症例では,灌流液は密でないZinn小帯の間隙を速やかに通過して後房(Berger腔)にまわる.核片が大きい間は後?の上昇を核片自体がブロックしているが,核片が小さくなると後?は上昇し,この時点でサージが起こると容易に破?する.図6IMSによる後?破損の防ぎ方PEA後半,Cole核操作具やMフックなどで後?を強制的に押し下げて核乳化吸引を安全に行えるスペースを確保する.

コンタクトレンズ:角膜解析装置の現状

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS角膜,とりわけその表面は眼の光学系の最大屈折要素であり,角膜解析といえば表面形状計測のことを意味することが多い.最近は屈折測定やさらには屈折系の収差測定装置と合体させた複合装置,あるいは光切断で前房の三次元モデリングを行う装置などが登場し,角膜解析装置はますます複雑なものになってきている.●表面形状解析のほとんどはプラチド像解析1990年以降の屈折矯正手術の普及を背景に,世界中で数多くの角膜形状解析装置が販売されるようになった.図1に1987年に筆者らが先駆的に発売したリアルタイム計測装置を示すが,これ以降後述する最新の複合機能装置まで,ほとんどの機器は角膜表面による反射像(プラチド像)に基づいて表面形状計測を行っている.この方法の原理は角膜前方に同心円パターン(プラチド盤)を配置し,角膜表面によるその反射像を撮影して同心円の歪みや間隔を読み取って形状を数値的に割り出すというもので,いわば多重リングケラトメーターというべきものである.結果の表示は屈折力(=曲率)分布をカラーで表現した,いわゆるカラーマップが一般的で角膜形状計測の代名詞になっている.●カラーマップを解釈するうえでの注意点カラーマップはプラチド像のリング間隔を計測した結果をカラー変換したもので,乱視や屈折矯正術後の中心部の扁平化などを強調して表現する.プラチドを素顔とすれば,カラーマップは化粧した顔であり,これを解釈するうえではいくつかの注意点がある.その1は,コンピュータはリングの読み取りをしばしば間違えることである.図2に示すように隣り合うリングが合わさって再び分離したり,リングが蛇行する場合などもあり完全な自動読み取りを行うのはほとんど不可能である.間違った読み取りに基づくカラーマップを信じることは,付けまつ毛を本物と信じるごとしである.注意点その2は,カラーマップよりもプラチド像のほうがわかりやすい場合がしばしば存在することである.図2にその例を示すが,表面に傷やコンタクトレンズの圧迫痕がある場合,涙液層に異常のある場合などがこれに相当し,プラチド像を見るほうが角膜の状態を理解しやすい.注意点その3は,コンタクトレンズデザイン設計などを目的に正確(45)丸山節郎㈱サンコンタクトレンズコンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS265.角膜解析装置の現状図1初期のリアルタイム計測装置サンコンタクトレンズ社:PHORM200.1987年.フォトケラトスコープにCCDビデオカメラを搭載している.リアルタイムでプラチド像読み取りおよび解析を行うタイプの先駆的な装置.図2プラチド像とカラーマッププラチド像の自動読み取りがきわめて困難な例.またカラーマップよりもプラチド像のほうがわかりやすい例でもある.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(00)な形状再現(モデリング)を行おうとすれば,ピントを正確に合わせる,プラチド盤と角膜間の距離を十分大きくするなどの条件が必要になることである.形状測定の結果が本当に正確か?の検証は意外にむずかしく,筆者らはフルオパターンのシミュレーションと実際の比較を行って検証した.前記条件はケラトメーターの測定機構を想起すれば当然のことなのだが,カラーマップではあまり問題にされない.これは使用目的の大半が絶対値の正確性を必要としないという事情によるものと思われる.●光切断による前房モデリング装置図3は最近の前房モデリング装置で,多方向の光切断像をもとに前房全体の形状再現(モデリング)を行うが,その機能の一環として角膜表面形状のマッピングを行う.この装置以外の形状マッピングはすべてプラチド像に基づくものであり,その点からきわめて斬新な装置といえる.反射像によらずに測定精度を確保することは困難であり,高精細デジタルカメラおよび平滑化処理でマップ機能を実現していると思われるが,技術上の詳細は不明である.プラチド像の場合は進行した円錐角膜のように反射光が発散して撮影系に光が入らない部分の解析は不可能だが,本装置のように散乱を利用する場合はその制限が相当少なくなることが期待される.●トレンドは複合機能化角膜形状計測機についての近年の主要なトレンドはオートレフなどと一体化するハイブリッド化のようにみえる.図4はレフケラと機能を一体化した例だが,さらに屈折収差解析を行ったり,屈折力のマップ表示を行うなどますます複雑な機能付加が進行中である.角膜形状測定に関しては,機構の簡単さから今後ともプラチド像をベースにした形式が主流であろうと考えられるが,リング読み取りの間違いを減らすこと,情報源であるプラチド像をより明瞭に記録することなどが今後とも継続する課題であろう.図3最近の前房モデリング装置OCULUS社/中央産業貿易:ペンタカム.角膜の光切断像から前房モデリングを行う.角膜表面のマッピング機能があり,プラチド像に依存しないおそらく唯一の形状測定装置.図4最近の複合計測装置サンコンタクトレンズ社:PR-7000.レフケラ機能と形状測定機能を一体化したもの.

写真:ヘルペス眼瞼炎

2006年7月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(43)田聖花東京歯科大学市川総合病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦266.ヘルペス眼瞼炎①②③図2図1のシェーマ①:皮疹,一部痂皮化している,②:臍窩,③:発赤.図1上眼瞼内眼角側にみられた皮疹中央に臍窩を伴い,発赤した丘疹を認めた.図3図1と同一症例の球結膜所見充血が非常に強く,当初流行性角結膜炎(EKC)も疑われた.瞼縁にびらんも認める.図4図1と同一症例のフルオレセイン所見角膜輪部近くの球結膜に不規則な形のびらんを数カ所認める.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.7,2006(00)症例:55歳,女性.右眼の充血,眼脂,掻痒感があり近医を受診した.アレルギー性結膜炎あるいは流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivitis:EKC)を疑われてガチフロキサシン点眼,フルオロメトロン点眼およびプレドニゾロン軟膏を処方され,1週間継続するも改善がみられず,当科紹介受診となった.近医初診時,患側の顎下リンパ節腫脹と球結膜のびらんが認められていた.図1~4に呈示したような特徴的な水疱性皮疹を認めたため,ヘルペス眼瞼炎を疑い,アシクロビル眼軟膏を開始し,10日間で治癒した.ヘルペス眼瞼炎には単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)と帯状ヘルペス(varicella-zostervirus:VZV)によるものとがある.VZVの場合は三叉神経の支配領域に一致した皮疹を呈し,また眼瞼腫脹や眼周囲の頭痛が強いことが多く,鑑別は比較的容易である.HSVの場合は眼周囲の皮疹は三叉神経の分布域に一致しない.1型でも2型でも起こりうるが,大半は1型である.小児の初感染型と三叉神経への潜伏感染後の再発型とがある.まれに成人の初感染例もある.初感染型では口内炎や口唇ヘルペスの合併や,発熱などの全身症状を伴うことが多い.再発型では全身症状を伴わないことが多い.耳前リンパ節や顎下リンパ節の腫脹を伴うことがある.皮疹は発赤隆起し,臍窩を伴った水疱性皮疹を呈するのが特徴である(図1).疼痛はVZVの皮疹に比べると軽い.瞼縁の丘疹はびらんを呈する.急性濾胞性結膜炎を合併することが多くEKCとの鑑別が重要である.ときに結膜潰瘍(びらん)を伴うことがあり(図4),診察時にフルオレセイン染色を行うのが有用である.治療はアシクロビルの軟膏(ゾビラックス?軟膏)が基本である.瞼縁の皮疹や結膜所見の合併がある場合は眼軟膏を使用する.1日5回から開始し,改善に応じて回数を減らす.混合感染予防に抗生物質の点眼薬を1日3回併用する.ステロイドは併用しないのが原則である.この点からもEKCとの鑑別が大切である.呈示例も近医でEKCとして治療されていた(図3).原因検索にはウイルス抗原検出が手軽である.病巣擦過物をスライドグラスに塗布し,蛍光抗体法によってHSV1型と2型を鑑別することができるキットがあり,数時間で結果が得られるため,有用である.HSVは不安定なため,採取後すぐ検査室に供するようにするとよい.皮疹はしだいに痂皮化して,多くの場合瘢痕を残さず治癒し,予後はよい.文献1)Pavan-LangstonD:Herpeticinfections.TheCornea,3rded,p181-215,LittleBrownandCompany,Boston,19942)下村嘉一:単純ヘルペス,帯状ヘルペス.結膜クリニック,p20-24,医学書院,1997