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写真:瞳孔膜遺残

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(47)若倉雅登野口圭井上眼科病院写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦263.瞳孔膜遺残図1瞳孔膜遺残典型例36歳,男性.人間ドックで眼底写真を撮ろうとして膜があると指摘された.他眼にもこれより軽い遺残があった.矯正視力は両眼とも1.2.膜状の遺残物の脚部は,小虹彩輪と大虹彩輪の境界部(小動脈輪に一致する虹彩分割輪)に連続している.このような症例では対光反応も正常で,処置,治療は不要である.①②④③図2図1のシェーマ①:大虹彩輪.②:虹彩分割輪.③:小虹彩輪.④:瞳孔膜遺残.図3糸状の瞳孔膜遺残45歳,女性.人間ドックで緑内障を疑われ受診.細隙灯顕微鏡による観察でたまたま,右眼に写真のような耳上側から鼻下側へかけての糸状遺残が見出された.他眼も同様所見がある.矯正視力は1.2,緑内障も否定された.このような糸状の瞳孔膜遺残は,外来で注意しているとかなりの症例で見出される.糸状物の片端は虹彩分割輪にあることが多い.表1瞳孔膜遺残で治療を考慮する場合状態治療矯正視力低下散瞳薬で視機能改善白内障の合併不同視弱視,斜視弱視整容的,精神的コンプレックス手術散瞳薬,YAGレーザー,手術白内障手術とともに切除弱視治療,手術手術———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(00)●原因瞳孔膜遺残(persistentpupillarymembrane)は胎生期に存在した虹彩瞳孔膜が点状,索状,網状,膜状などのさまざまな形で遺残したものである.本来,瞳孔膜は胎生9週頃に二次間葉細胞が眼杯の前面に進入し,虹彩実質とともに形成される.胎生5カ月で水晶体前面をほぼ完全に塞ぐ程度まで成長した後,退縮し始め,胎生7~9カ月までには消失する.この退縮消失過程の不全あるいは遅延により瞳孔膜が生後も残存したもの.生直後にわずかな遺残があっても,生後1年以内に大部分が退縮吸収するという.●頻度膜状で瞳孔領を塞いだものは,特に病的瞳孔膜遺残とよばれる.それに対して,特に症状がなく細隙灯顕微鏡検査でようやく確認できる程度のものは生理的瞳孔膜遺残とよばれ,生直後にはごく軽度のものを含めるとかなりの頻度(35~95%まで,いろいろな数字が発表されている)で存在する.健常成人においてもなお3~10%に認められたという.眼科で最もよく遭遇する先天異常の一つである.●症状と診断見た目には高度であっても意外に視力はよいことが多い.瞳孔膜が瞳孔領の広範囲に及ぶような症例では視力低下の原因となることがある.典型的な症例では,膜状の瞳孔膜が虹彩に索状の瞳孔膜脚部を介して繋留されている(図1),軽度のものでは瞳孔にクモの巣状,糸状の遺残物が付着しているのを認めるのみ(図3)である.ほとんどが偶然見つかるものである.瞳孔膜や瞳孔膜脚部は水晶体に癒着していることがあるが,瞳孔縁の水晶体への癒着はないのが原則である.小児の場合,特に片眼性の場合は,不同視弱視,斜視弱視の原因となりうる.膜状遺残を示していた韓国人24症例の転帰を報告したものによると1),両眼性15例,片眼性9例であった.その矯正視力の平均はlogMAR視力で0.32,少数視力では0.5弱に相当する.うち5例は0.3(20/70)以下で,4眼は片眼性で視性刺激遮断弱視を呈していた.小角膜,大角膜,牛眼,角膜混濁,隅角異常,虹彩欠損,第一次硝子体過形成遺残,先天白内障などの合併が知られている.●治療糸状,膜状でも瞳孔領が保たれ,あるいは瞳孔領を覆っていても視機能に特に障害のない場合,すなわち,ほとんどの場合は治療の対象にならない.ただし,表1に示す条件がある場合は治療を考慮する.治療は手術のみではない.弱視になる可能性がある場合には,弱視治療が十分機能すると考えられる.手術は通常,瞳孔形成手術である.瞳孔形成手術ではアルゴンレーザーやYAGレーザーによる瞳孔膜,脚部の非観血的切開も報告されているが,粘弾性物質と虹彩切開用剪刀を用いれば,出血があっても制御でき,伸縮性のある瞳孔膜も安全に除去可能で,最近はこのような観血的手術が選択される.また,水晶体に癒着がある場合でも強固ではなく,水晶体を温存して手術が可能である.一般に整容的手術は避けるべきとされるが,本症の存在が当人の精神生活に影響を与えるほどのものであれば,瞳孔形成術は禁忌とはいえないと考えられる.文献1)LeeSM,YuYS:Outcomeofhyperplasticpersistentpap-illarymembrane.??????????????????????????????41:163-171,2004

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2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS帝京大学医学部は昭和46年(1971年)に発足,眼科学講座も同時に設けられた.初代教授は斜視・弱視・形成眼科をご専門とされる丸尾敏夫先生(現客員教授)で,このたび鈴木康之先生が平成17年7月,第三代の主任教授に就任された.鈴木先生のご専門は緑内障で,網膜硝子体・白内障を含む眼科手術一般にも通じられている.講座のスタッフは,形成眼科・眼窩・涙道を専門とされる根本裕次助教授,網膜硝子体がご専門の渡邊恵美子講師,緑内障・白内障がご専門の清水総子講師,および加齢黄斑変性を中心とする黄斑疾患がご専門の落合淳一医局長に加え,網膜,黄斑疾患がご専門の小林義治兼任助教授,斜視・弱視・形成眼科を専門とされる坂上達志兼任助教授,さらには丸尾客員教授と久保田伸枝客員教授も2週に1度,斜視・弱視の外来診療を担当されている.その他,助手6名,非常勤講師4名,多くの医員,視能訓練士など多士済々のスタッフ陣である.*鈴木先生のご経歴を研究・診療内容とともにお伺いした.鈴木先生は昭和61年3月に東京大学医学部医学科を卒業され,医学部眼科学教室に入局された.この年は三島濟一教授の最後の年であった.翌年助手となられたが,この東大時代は,増田寛次郎先生のご指導のもと学位取得のために,レーザースペックル法を用いた網膜血流測定の研究を行い,また,新家眞先生,白土城照先生のご指導のもと,視野障害解析をはじめとした緑内障に関する臨床研究も行われた.その後,平成1年6月に関東逓信病院,同6年2月に都共済組合青山病院に勤務された.平成6年9月には,米国Yale大学に留学され,MarvinSears教授の指導のもと,房水産生における細胞内情報伝達経路の研究に従事された.平成8年10月に日本医科大学眼科学教室の講師に就任され,大原國俊主任教授のもとで,日本人におけるミオシリン遺伝子変異解析や原発開放隅角緑内障の進行に関する因子の多変量解析などの緑内障に関する基礎・臨床研究を行われた.平成10年5月には,東京大学へ講師として戻られ,新家眞教授,富田剛司助教授とともに,緑内障に関する基礎研究や視野障害様式や視神経乳頭変化などの臨床研究を行われた.さらに,平成15年4月,帝京大学医学部附属市原病院に教授として赴任された.この時期に緑内障,網膜硝子体,白内障の多くの手術症例を経験され,同時にその成績について解析を行われた.その後,平成17年7月には帝京大学医学部眼科学講座主任教授に就任された.鈴木先生は現在も帝京大学医学部附属市原病院・教授を兼任されており,週の前半は板橋病院で外来・手術を担当され,週の後半は市原病院で外来・手術を行われている.ただ,4月からは市原病院の後任教授が赴任される予定で,鈴木先生は板橋病院に専念される予定であるとのことである.*鈴木先生の現在のご専門は緑内障で,疫学,視野のセクタリング,神経保護や眼圧下降に関する薬理学的検討,網膜血流に関する研究,分子遺伝学的研究,術式や成功率に関する検討など,実に多彩である.*最後に,鈴木先生に教室運営上の目標をお伺いした.先生は,まず専門分野をもって自らの情報を発信することを基礎としながらも,眼科すべての分野に関して一定の程度で精通し,かつその知識を絶えず更新していけるような眼科医を養成していきたいと述べられた.このことは結局,どのような疾患に対しても動じずに,冷静かつ的確に対処できる医師を養成することであると,やや厳しい表情でおっしゃられた.(45)人の時帝京大学医学部眼科学講座・教授鈴??木?康??之??先生

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2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20060910-1810/06/\100/頁/JCLS金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)教室は本学の開学とともに故倉知与志先生が初代教授に就任し,昭和52年に佐々木一之先生が第二代の教授に,平成12年に高橋信夫先生が第三代の教授にそれぞれ就任された.そして,平成17年5月に佐々木洋先生が第四代の教授に就任された.本教室では,佐々木一之先生の時代から主として水晶体・白内障に関する基礎・臨床・疫学の研究および眼光学を柱としてこられた.教室のスタッフは,臨床教授の中泉祐子先生,助教授の北川和子先生,講師の小島正美先生,福田正道先生,坂本保夫先生のほか,助手4名で構成されているが,講師の3先生はすべてPh.D.である.*佐々木先生は昭和62年に金沢大学医学部を卒業され,同年4月に自治医科大学眼科学教室に入局された.同教室では,網膜?離,白内障手術,ぶどう膜炎,角膜疾患,緑内障,硝子体手術などを学ばれ,この9年間が先生の臨床の基礎になっているとのことである.平成3年8月から同5年8月まで,米国オークランド大学眼研究所研究員として,Reddy教授,Giblin教授のもとで水晶体研究に従事された.その後,平成5年10月に自治医科大学眼科の助手,同8年3月に金沢医科大学眼科の講師に就任された.*佐々木先生の研究活動は,自治医科大学での9年間と金沢医科大学での9年間の2期に分けられる.前半は“ぶどう膜炎”に関する臨床研究で,後半は米国留学を機に“水晶体(白内障)”を主課題にされている.(1)在米中は,培養水晶体上皮細胞,水晶体器官培養・X線白内障モデル,ガラクトース白内障を用いた水晶体酸化障害に関する研究をされ,ExperimentalEyeResearch(1994),InvestOphthalmolVisSci(1995,1998)に発表されている.その後,紫外線被曝によるヒト培養水晶体上皮細胞傷害(ExpEyeRes,2001),培養水晶体上皮細胞傷害への抗酸化剤の効果,ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットに発症する白内障へのリポ酸の有効性,ステロイド白内障など白内障発症機構の解明,白内障発現抑制薬の研究をされている.(2)国内外での調査をもとに白内障の疫学研究を行い,アイスランド,シンガポール,中国などとの国際共同研究を精力的になされ,また,疫学調査を通して白内障のphenotypeとgenotypeの検討を予定されている.(3)教室で開発された画像診断法を用いた前眼部生体計測,白内障発症と進行の予測の研究をされている.さらに水晶体混濁の詳細な観察と視機能評価から,白内障手術適応の新しいガイドライン策定を目指されている.(4)このほか,緑内障,加齢黄斑変性症,屈折異常,滴状角膜,翼状片の疫学や後発白内障の原因解明,新しい眼内レンズの臨床評価,サルコイドーシスの臨床研究,等々多岐にわたる研究活動をされている.*佐々木先生はご自身の信念あるいは信条として,次のように語られた.(1)佐々木先生が諸先輩から多くのことを学ばれたように,若い先生方に教え,同時に学びやすい環境,多くのチャンスを提供し,建学の精神である“良医の育成”を実践していきたい.また,患者さんから学ばせてもらっているという謙虚な姿勢を忘れないことを教育していきたい.同時に,パラメディカル,看護師,事務職員の人との共同体制をつくっていきたい.(2)忙しさに流されず,大学,教室の発展に尽力していきたい.(3)超高齢化社会を迎え,誰しもが罹患する“水晶体疾患”に関する残された課題の研究を積極的に進めていきたい.(44)人の時金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)・教授佐?々?木?洋???先

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS帝京大学医学部は昭和46年(1971年)に発足,眼科学講座も同時に設けられた.初代教授は斜視・弱視・形成眼科をご専門とされる丸尾敏夫先生(現客員教授)で,このたび鈴木康之先生が平成17年7月,第三代の主任教授に就任された.鈴木先生のご専門は緑内障で,網膜硝子体・白内障を含む眼科手術一般にも通じられている.講座のスタッフは,形成眼科・眼窩・涙道を専門とされる根本裕次助教授,網膜硝子体がご専門の渡邊恵美子講師,緑内障・白内障がご専門の清水総子講師,および加齢黄斑変性を中心とする黄斑疾患がご専門の落合淳一医局長に加え,網膜,黄斑疾患がご専門の小林義治兼任助教授,斜視・弱視・形成眼科を専門とされる坂上達志兼任助教授,さらには丸尾客員教授と久保田伸枝客員教授も2週に1度,斜視・弱視の外来診療を担当されている.その他,助手6名,非常勤講師4名,多くの医員,視能訓練士など多士済々のスタッフ陣である.*鈴木先生のご経歴を研究・診療内容とともにお伺いした.鈴木先生は昭和61年3月に東京大学医学部医学科を卒業され,医学部眼科学教室に入局された.この年は三島濟一教授の最後の年であった.翌年助手となられたが,この東大時代は,増田寛次郎先生のご指導のもと学位取得のために,レーザースペックル法を用いた網膜血流測定の研究を行い,また,新家眞先生,白土城照先生のご指導のもと,視野障害解析をはじめとした緑内障に関する臨床研究も行われた.その後,平成1年6月に関東逓信病院,同6年2月に都共済組合青山病院に勤務された.平成6年9月には,米国Yale大学に留学され,MarvinSears教授の指導のもと,房水産生における細胞内情報伝達経路の研究に従事された.平成8年10月に日本医科大学眼科学教室の講師に就任され,大原國俊主任教授のもとで,日本人におけるミオシリン遺伝子変異解析や原発開放隅角緑内障の進行に関する因子の多変量解析などの緑内障に関する基礎・臨床研究を行われた.平成10年5月には,東京大学へ講師として戻られ,新家眞教授,富田剛司助教授とともに,緑内障に関する基礎研究や視野障害様式や視神経乳頭変化などの臨床研究を行われた.さらに,平成15年4月,帝京大学医学部附属市原病院に教授として赴任された.この時期に緑内障,網膜硝子体,白内障の多くの手術症例を経験され,同時にその成績について解析を行われた.その後,平成17年7月には帝京大学医学部眼科学講座主任教授に就任された.鈴木先生は現在も帝京大学医学部附属市原病院・教授を兼任されており,週の前半は板橋病院で外来・手術を担当され,週の後半は市原病院で外来・手術を行われている.ただ,4月からは市原病院の後任教授が赴任される予定で,鈴木先生は板橋病院に専念される予定であるとのことである.*鈴木先生の現在のご専門は緑内障で,疫学,視野のセクタリング,神経保護や眼圧下降に関する薬理学的検討,網膜血流に関する研究,分子遺伝学的研究,術式や成功率に関する検討など,実に多彩である.*最後に,鈴木先生に教室運営上の目標をお伺いした.先生は,まず専門分野をもって自らの情報を発信することを基礎としながらも,眼科すべての分野に関して一定の程度で精通し,かつその知識を絶えず更新していけるような眼科医を養成していきたいと述べられた.このことは結局,どのような疾患に対しても動じずに,冷静かつ的確に対処できる医師を養成することであると,やや厳しい表情でおっしゃられた.(45)人の時帝京大学医学部眼科学講座・教授鈴??木?康??之??先生———————————————————————-Page1???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20060910-1810/06/\100/頁/JCLS金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)教室は本学の開学とともに故倉知与志先生が初代教授に就任し,昭和52年に佐々木一之先生が第二代の教授に,平成12年に高橋信夫先生が第三代の教授にそれぞれ就任された.そして,平成17年5月に佐々木洋先生が第四代の教授に就任された.本教室では,佐々木一之先生の時代から主として水晶体・白内障に関する基礎・臨床・疫学の研究および眼光学を柱としてこられた.教室のスタッフは,臨床教授の中泉祐子先生,助教授の北川和子先生,講師の小島正美先生,福田正道先生,坂本保夫先生のほか,助手4名で構成されているが,講師の3先生はすべてPh.D.である.*佐々木先生は昭和62年に金沢大学医学部を卒業され,同年4月に自治医科大学眼科学教室に入局された.同教室では,網膜?離,白内障手術,ぶどう膜炎,角膜疾患,緑内障,硝子体手術などを学ばれ,この9年間が先生の臨床の基礎になっているとのことである.平成3年8月から同5年8月まで,米国オークランド大学眼研究所研究員として,Reddy教授,Giblin教授のもとで水晶体研究に従事された.その後,平成5年10月に自治医科大学眼科の助手,同8年3月に金沢医科大学眼科の講師に就任された.*佐々木先生の研究活動は,自治医科大学での9年間と金沢医科大学での9年間の2期に分けられる.前半は“ぶどう膜炎”に関する臨床研究で,後半は米国留学を機に“水晶体(白内障)”を主課題にされている.(1)在米中は,培養水晶体上皮細胞,水晶体器官培養・X線白内障モデル,ガラクトース白内障を用いた水晶体酸化障害に関する研究をされ,ExperimentalEyeResearch(1994),InvestOphthalmolVisSci(1995,1998)に発表されている.その後,紫外線被曝によるヒト培養水晶体上皮細胞傷害(ExpEyeRes,2001),培養水晶体上皮細胞傷害への抗酸化剤の効果,ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットに発症する白内障へのリポ酸の有効性,ステロイド白内障など白内障発症機構の解明,白内障発現抑制薬の研究をされている.(2)国内外での調査をもとに白内障の疫学研究を行い,アイスランド,シンガポール,中国などとの国際共同研究を精力的になされ,また,疫学調査を通して白内障のphenotypeとgenotypeの検討を予定されている.(3)教室で開発された画像診断法を用いた前眼部生体計測,白内障発症と進行の予測の研究をされている.さらに水晶体混濁の詳細な観察と視機能評価から,白内障手術適応の新しいガイドライン策定を目指されている.(4)このほか,緑内障,加齢黄斑変性症,屈折異常,滴状角膜,翼状片の疫学や後発白内障の原因解明,新しい眼内レンズの臨床評価,サルコイドーシスの臨床研究,等々多岐にわたる研究活動をされている.*佐々木先生はご自身の信念あるいは信条として,次のように語られた.(1)佐々木先生が諸先輩から多くのことを学ばれたように,若い先生方に教え,同時に学びやすい環境,多くのチャンスを提供し,建学の精神である“良医の育成”を実践していきたい.また,患者さんから学ばせてもらっているという謙虚な姿勢を忘れないことを教育していきたい.同時に,パラメディカル,看護師,事務職員の人との共同体制をつくっていきたい.(2)忙しさに流されず,大学,教室の発展に尽力していきたい.(3)超高齢化社会を迎え,誰しもが罹患する“水晶体疾患”に関する残された課題の研究を積極的に進めていきたい.(44)人の時金沢医科大学感覚機能病態学(眼科学)・教授佐?々?木?洋???先

合併症対策:破嚢時のレスキューグッズ

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS水晶体核落下や網膜?離といった重大な術中,術後合併症を併発する危険性が高まる.後?破?,硝子体脱出を疑わせる術中所見として,①水晶体核が大きく傾斜する②水晶体核の位置が急に深くなる③瞳孔領に水晶体核や水晶体皮質を含まない暗黒色の領域が出現する④水晶体核が超音波チップ先端で吸引できない⑤瞳孔が偏位する⑥前後房中央で超音波チップを操作しているのに周辺の水晶体核や皮質が牽引される⑦後?に線状の破?線が観察されるなどがある.超音波乳化吸引中に水晶体核が急に大きく傾斜したり,水晶体核が急に後房側に沈下して前房深度が急に深くなるような現象が発生した場合は,比較的大きな後?破?が生じて水晶体核の硝子体落下が始まっている可能性がある.水晶体皮質や水晶体核で白濁している瞳孔領の一部に暗黒色の領域が出現する(図1)ことは,後?破?と硝子体脱出が生じ,脱出した硝子体により,近傍の水晶体核や皮質が押しのけられて暗黒色の透明野を作り出していることを意味する.さらに硝子体脱出が進行し,前後房で水晶体皮質や水晶体核と硝子体が絡み合うと,超音波チップ先端で硝子体をも吸引してしまうため,水晶体核がチップ先端に接しているにもかかわらず,目的とする水晶体核を吸引できなくなってしまう.はじめに白内障手術は手術装置の発達,手術手技の改良,新たな手術材料の出現とともに手術精度と安全性が向上し,術中合併症の発生頻度が低下している.しかし,術中後?破?やZinn小帯断裂,硝子体脱出を生涯経験しない眼科外科医はきわめてまれであろう1).また,一旦発生したこれらの術中合併症を適切に処置し,術眼に与える侵襲を最低限に抑えることは,患者の良好な術後視機能を維持するためにきわめて重要である.しかし,合併症発症頻度が下がり,まれな合併症となったために,その対処法に習熟できず,稚拙な術中処置を行った場合は,単に術後視機能低下を招くのみならず2),網膜?離,水疱性角膜症を始めとする重大な術後合併症発症に直結する3).患者の要求度の高まっている白内障手術において,これらの重大な術後合併症は患者の大きな不満のもととなり,医療訴訟に直結しかねない.本稿においては,近年,標準的白内障手術術式として普及した超音波白内障手術の代表的な術中合併症である後?破?と硝子体脱出を取り上げ,その術中合併症を確実に処理する基本的な手術戦略と手技,必要な手術器具や材料に関して概説する.I後?破?と硝子体脱出をどのような場合に疑うか?術中合併症を軽微に留める最大のポイントは早期発見である.術中合併症に気づかずに手術操作を続けると,(37)???*ShuichiroEguchi:江口眼科病院〔別刷請求先〕江口秀一郎:〒040-0053函館市末広町7-13江口眼科病院特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):459~464,2006合併症対策:破?時のレスキューグッズ??????????????????????????:?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????江口秀一郎*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006手術操作に伴う硝子体の牽引をその後も続けると,超音波チップに硝子体索が嵌入したまま手術操作が続けられるため,前房中央で手術操作を行っていても,瞳孔縁の一部が手術操作につられて牽引されたり,術操作を行っている領域より遠く離れた瞳孔領周辺部に存在する水晶体核や水晶体皮質が,手術操作に連動して動揺する現象が認められる.水晶体核や水晶体皮質の吸引除去がかなり終了した状態で後?に焦点を合わせると,大きく亀裂した後?の両端を明瞭に観察することもできる(図2).II後?破?に対する処置法1.ハンドピースをいきなり抜かない後?破?に気がついたら,直ちにすべての手術操作を中止する.ただし,急いで超音波チップを抜いたり眼内灌流を止めてはいけない.術中合併症に気づいたために慌ててハンドピースを引き抜くと,眼内から創口への圧勾配により脱出した硝子体が創口に嵌入してしまう.一旦,創口に硝子体が絡んでしまうとその切除がむずかしいだけでなく,引き続いて行われる眼内操作に伴う手術器具の出し入れ,または眼内操作のたびに,創口の硝子体を牽引することとなり,硝子体基底部付近の網膜裂孔を作製しやすくなってしまう.後?破?に気づいて手術操作を中止した後,サイドポートから粘弾性物質を前房内に十分量注入し(図3),前房内圧を上げて,ハンドピースを引き抜いても前房が虚脱せず,硝子体が創口に嵌入しないような状態を作り出してから静かにハンドピースを引き抜く.しかし,すべての症例で切開創にまったく硝子体が嵌入しないでハンドピースを引き抜くことができるわけではない.もし創口に硝子体が嵌入した場合は,創外に脱出している硝子体をMQAと剪刀を用いて切除し,創口や創間に残留している硝子体索をフックや粘弾性物質を用いて前房内に押し戻す.2.水晶体核の処理が先瞳孔領の状態をよく観察し,後?破?の範囲,硝子体脱出の程度,残留している水晶体核の大きさ,個数をよく把握する.水晶体核を残したまま脱出硝子体の切除を始めると,かろうじて硝子体上に乗っていた水晶体核片(38)図1後?破?時の術中所見瞳孔透明野を認める.図3破?時の処置法超音波ハンドピースを引き抜く前にサイドポートから粘弾性物質を前房内に十分量注入する.図2後?破?時の術中所見前?切開線と異なる後?の断裂線を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???が,灌流液の水圧と水流により瞬時に硝子体腔内に落下していく.特に分割手技を用いて行っていた水晶体核処理の最中における後?破?,硝子体脱出例にては,それまでに行っていた水晶体核の分割と,乳化吸引処理されていない水晶体核片の部位,個数をよく考慮して,どの方向の虹彩下,水晶体?赤道部に大きな水晶体核が残存しているかを把握し,その摘出処理を確実に行うようにする.後?破?時に大きな水晶体核が残存している場合は,前後房を粘弾性物質で満たした後に創口を十分な大きさに拡大し,フックを用いて水晶体核を前房内に脱臼させてから輪匙を用いて水晶体核を確実に摘出する(図4).水晶体核が分割されている場合は切開創をあまり大きく拡大する必要もないが,水晶体核の厚さがある場合は,摘出時に見た目よりも大きな切開創を必要とすること,術中合併症を生じた場合の処理操作において新たな合併症を追加しないために,大きめの切開創を作製することを基本とする.残留している水晶体核片が小さい場合,または硝子体と絡まっている場合は,輪匙や超音波チップで除去するよりは,ビスコエクスプレッション手法にて水晶体核を娩出する.ビスコエクスプレッションを行うに当たっては,創口より虹彩面上で挿入した粘弾性物質注入針を,まず摘出する水晶体核の下方より水晶体核を通り越し,創口と水晶体核をはさんで対側に至る位置に置く(図5).その位置に保持しながら粘弾性物質を注入し続けると,次第に眼圧が上昇してくる.このとき粘弾性物質注入を続けながら創口を注入針でわずかに押し下げてやると,水晶体核背面から創口に向かう圧勾配が生じ,粘弾性物質の流れとともに前房内に残留した水晶体核が眼外へ圧出されてくる.粘弾性物質を注入する位置や注入方法に多少の慣れを要する点や,比較的多量の粘弾性物質を要する点に難点は残るが,小さめの水晶体核摘出や硝子体と絡まってしまった水晶体核の娩出にはきわめて有用な手術手技であり,習得を要する.水晶体核の摘出が終了したら,再度創口に嵌入した硝子体索を硝子体カッターやMQAと剪刀を用いて切除し,創口を絹糸などで一旦縫合する(図6).(39)図4Simcoeループ針を用いた水晶体核摘出図6MQAを用いた硝子体切除手技図5ビスコエクスプレッション法の実際粘弾性物質注入針の先端と水晶体核の位置関係に注意.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20063.水晶体皮質除去と硝子体切除:ドライビトレクトミー手技か2-way手技か?比較的小さな後?破?と限局した硝子体脱出の場合は,ドライビトレクトミー手技をその処理法として選択する.粘弾性物質を前後房に注入し,残留している水晶体?を広げてから,灌流を止めたSimcoe針を眼内に挿入し,吸引孔を水晶体皮質の厚い部分に位置させてからゆっくりと水晶体皮質を吸引し,皮質を捕まえたらそのまま水晶体?から引き?がし前房中央に移動させる(図7).捕獲した水晶体皮質を前房中央で吸引してしまうと,より多量の粘弾性物質が必要となるだけでなく,硝子体を誤吸引する確率が高まり,硝子体と水晶体皮質が絡んでそれ以降の水晶体皮質吸引除去が困難となることもあり,水晶体皮質は全周にわたって処理を終えるまで前房中央に移動させるに留める.粘弾性物質が吸引され前房が虚脱するようなら,粘弾性物質を追加しながらすべての水晶体皮質を水晶体?から引き?がす.硝子体が前房内に脱出している場合は,Simcoe針の皮質吸引除去操作に先立ち,灌流を用いずに硝子体カッターにて脱出硝子体を切除する(図8).この際,後?の亀裂より後方まで硝子体カッターを深く挿入し,前部硝子体切除を行い,その空間に分散型の粘弾性物質を注入しておくと(図9),凝集型の粘弾性物質を注入した場合に比べ,粘弾性物質が後?下に長く残留するため,さらなる硝子体脱出を防止する4).硝子体切除により眼球が虚脱しそうな場合は,粘弾性物質を眼内に注入しながら硝子体切除(40)図9分散型粘弾性物質の硝子体腔注入によるタンポナーデ操作図102-way硝子体切除操作図7後?破?時のSimcoe針による水晶体皮質吸引除去操作図8後?破?時の硝子体カッターを用いたドライビトレクトミー———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???(41)を行う.皮質吸引や脱出硝子体切除を同軸灌流を有する通常のI/A(irrigationandaspiration,灌流吸引)チップやA-vit(硝子体カッター)にて行うと,灌流液が硝子体腔に回り込むことにより,さらなる硝子体脱出を促す.また通常のI/Aチップでは万一硝子体を誤吸引した際の開放操作が困難であるため,皮質吸引はSimcoe針を用いる.水晶体皮質がすべて前房中央に集まったら,ビスコエクスプレッション法で眼外に圧出するか,硝子体カッターで吸引除去する.ドライビトレクトミー法はくり返し粘弾性物質を注入しながら行う必要があるが,最低限の硝子体切除にて手術を行えるため,眼球が虚脱しにくく水晶体?も温存しやすい利点がある.大きな後?破?で多量の硝子体脱出や水晶体皮質が硝子体と絡まっている場合は2-way手技を選択する(図10).硝子体カッターのカットレートは最大とし,吸引はやや低めに設定し,灌流ボトルの高さを上げる.灌流は同軸とせず,前房メインテナーなどのやや太い注入針に連結する.通常,角膜輪部の3時および9時にサイドポートを作製し,まず硝子体カッターを9時のサイドポートから前房内に挿入し,創口や3時方向のサイドポート付近の硝子体索を,灌流を用いずに,またはわずかに加えるのみで切除する.ついで3時のサイドポートに灌流針を挿入し,本格的に前部硝子体切除を行うが,初めから灌流針をサイドポートに挿入して硝子体切除を行うと,創口付近の硝子体の嵌頓を悪化させてしまうことがあるので,初めは灌流を用いずに硝子体を切除する.サイドポートから硝子体カッターを挿入することにより,通常では処理のむずかしい12時付近の創口に嵌入した硝子体索も容易に切除することができるとともに,灌流を用いることにより眼球虚脱の心配なく十分な硝子体切除が行える.硝子体カッター先端は瞳孔縁から虹彩下まで挿入し,残留皮質と周辺部硝子体を十分に切除する.左右の器具を交代して硝子体切除を行うことにより,瞳孔縁に沿って360?の残留皮質除去と硝子体切除を行うことができる.III眼内レンズ挿入後の処置水晶体皮質除去と硝子体切除を行った後,眼内レンズを水晶体?外固定または経毛様体溝強膜縫着固定する.眼内レンズの良好な固定を確認した後に,前房内に塩化アセチルコリン(オビソート?)を注入し,縮瞳させる(図11).硝子体索が創口に嵌入している場合は瞳孔に変形をきたすため,その変形を手がかりに硝子体切除を追加するとともに,フックや注射針を用いたワイパリングを行い,創口に嵌入した硝子体索を完全に解放する.脱出硝子体を確認するために前房内にトリアムシノロンを注入し,硝子体を視認化して処理する方法も報告されている5)が,瞳孔の変形を目安として処理できる場合が多い.ワイパリングとは,目的とする創口より45?から90?離れたサイドポートよりフックまたは注射針を虹彩面上に沿って目的とする創口,隅角底付近に挿入し,そこから瞳孔中央に向かってフックや注射針をワイパーの図11オビソート?注入後の縮瞳と硝子体索嵌頓による瞳孔変形図12ワイパリング操作———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(42)ように動かすことにより,創口に強く嵌入した硝子体索を瞳孔領に引き戻す操作をいう(図12).硝子体脱出を生じている症例で,前房内が灌流液で満たされている場合,手術器具の出し入れに伴い眼内と眼外に圧勾配が常に生じるため,器具を出し入れする創口には,眼内灌流液の流れに乗って必ず硝子体索が嵌頓していると考え,手術器具を出し入れした切開創に対しては手術操作の最後に必ずワイパリングを行い,硝子体索嵌頓を解除しておくことが必要である.文献1)PingreeMF,CrandallAS,RandallJQ:Cataractsurgerycomplicationsin1yearatanacademicinstitution.????????????????????????25:705-708,19992)IonidesA,MinassianD,StephenT:Visualoutcomefol-lowingposteriorcapsuleruptureduringcataractsurgery.???????????????85:222-224,20013)OsherR,CionniR:Thetornposteriorcapsule;itsintra-operativebehavior,surgicalmanagement,andlong-termconsequences.???????????????????????16:490-494,19904)Arshino?SA:Dispersive-cohesiveviscoelasticsoftshelltechnique.???????????????????????25:167-173,19995)BurkSE,DaMataAP,SnyderMEetal:Visualizingvit-reoususingKenalogsuspension.???????????????????????29:645-651,2003眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社

合併症対策:水晶体嚢拡張リングの使い方アップデート

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS落下する症例が出現した(図3).これに対して,1年遅れて1997年に導入した縫着リングは有望なアイテムではあったが,当初の術式ではCTR挿入とECCEで白内障摘出術が終了してから縫着リングによる水晶体?の強膜縫着固定を行っていたので,手技的な煩雑さから,結果的にCTR単独で手術中さえ乗り切れればという症例も複数存在していた.しかしその後,2002年頃から,CCCの完成直後に縫着リングを?内に挿入し,?を強膜に仮固定してから超音波乳化吸引術にて白内障摘出を行う術式が安定して施行できるようになった.これでようやく,Zinn小帯脆弱/断裂例でも比較的安全な小切開白内障手術が行えるようになったため,その適応は大きく広がった.結論から言えば,Zinn小帯脆弱/断裂例に対する適応は縫着リングが第一選択であり,比較的軽度で進行性がほとんどないと思われる場合のみ,例外的にCTR単独使用とした.具体的には,術前の無散瞳検査で水晶体振盪や偏位を認める症例は原因にかかわらず縫着リングの適応とした.また,術中にZinn小帯強度を検討する例では,比較的限定的な部分Zinn小帯脆弱例(誤吸引による医原性が多い)を除いて,縫着リングの適応を原則としている.さらに,はっきりとした水晶体の前方移動が認められる症例も術中に必要性が否定されない限り,縫着リングによる?の強膜固定を行っている.ところで,CTRの適応を変更しても,挿入例数はそれほど減少していない.CTR単独使用の適応そのものはじめに前回の特集で,水晶体?拡張リングに関して報告1)してから約7年が経過した.通常の拡張リングを導入してから11年,水晶体?を強膜に縫着固定できるリングを使い始めて10年の経験を踏まえて,現時点での知見を報告する.前回と重複する部分で,再度述べる重要性のない部分は割愛するので,既報1)を参考にしていただきたい.更新する内容として,リングの適応の変化,?固定用リングの定型術式と二次的強膜縫着術,虹彩欠損用リング,後発白内障予防用リングに関して述べる.Iリングの適応通常の水晶体?拡張リング(図1:capsulartensionring2),以下,CTR)の適応は,水晶体?強膜縫着リング3)(図2:以下,縫着リング)の術式の定着により大きく変化した.1996年のCTR導入当時は,比較的範囲の広いZinn小帯断裂例や全周性のZinn小帯脆弱例でも,CTRを挿入し粘弾性物質を多用した?外摘出術(ECCE)を行えば,少なくとも眼内レンズ(IOL)を挿入して手術を終了させることは,かなりの症例で可能であった.しかし,既報1)に記載したとおり,CTRには水晶体?の位置固定作用はないため,たとえCTRで手術は完遂できたとしても,術後に残存Zinn小帯の劣化が継続し,最終的には水晶体?がCTRとIOLを内包したまま眼底に(31)???*YoshihiroTokuda:井上眼科病院〔別刷請求先〕德田芳浩:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):453~458,2006合併症対策:水晶体?拡張リングの使い方アップデート???????????????????????????????????????德田芳浩*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006も拡大しているためと思われる.高齢者(80歳以上が目安),強度近視眼,成熟/過熟白内障,浅前房眼〔しばしば,レーザー虹彩切開術(LI)後〕,緑内障手術眼,偽水晶体落?症候群の軽症例,網膜色素変性症例,ぶどう膜炎長期経過例,網膜硝子体手術例,その他原因不明例など,CTRを念のために挿入している.これらの症例では,いずれも前?切開時にごく軽度のZinn小帯脆弱を認める例が多く,それによって起こる術後の軽度の?収縮がますますZinn小帯脆弱と断裂を促進し,それによって?を伸展する張力が失われて,さらにZinn小帯の脆弱と断裂が進行するという悪循環に陥ることがある.これは,拡張性心筋症で心筋が伸展されることで筋の張力が低下し,それが原因となってますます心臓が拡張してしまうという悪循環と病態が類似している.そのような負のスパイラルを最初の時点で断ち切る意味において,CTRをあらかじめ挿入しておく意義は少なくないと考えて使用している.II縫着リングの定型術式2002年以降,高分子高濃度粘弾性物質(ヒーロンV?:AMO社)の導入によって,縫着リングによる小切開白内障手術がほぼ,現在の形として行えるようになった.以下,手順を示す.(1)結膜切開制御糸をかけたのち,通常の白内障手術と同じ形で円蓋部基底の結膜切開を10時~12時と4時~6時に作製する.ただし,下方の切開(と麻酔)は白内障摘出術成功後でもよい〔術中に?内摘出術(ICCE)に切り替わることもありうるので〕.(2)麻酔2%リドカイン点眼で開始し,結膜切開後にTenon?下麻酔を,縫着部位に一致させて,10時30分に2.0m?,4時30分に1.0m?,合計3.0m?行う.(3)強角膜切開11時付近を中心に4.5mm幅の強角膜トンネルを作製する.トンネルは操作性を重視して短めにし,自己閉鎖にはこだわらない.(4)角膜サイドポート3時と9時の対側位置で,輪部から0.5mmぐらい内側の透明角膜に1.5mm程度の角膜サイドポートを作製する〔以上(1)~(4)まで,図4).(5)前房形成前房水を流出させつつ,ビスコート?約0.1m?を注入し,引き続き,ヒーロンV?で前房を全置換する.従来の高分子粘弾性物質による前房形成では,不安定な水晶体の動きを制限するには不十分であったが,ヒーロンV?であれば,前房内を全置換することで水晶体の動きがかなり抑制される(図5).ヒーロンV?は,粘弾性が高いことで直接的に水晶体の動きを止めると同時に,硝子体腔の液状成分が水晶体の前面に回り込むことがないため,水晶体はあたかも前(32)図1水晶体?拡張リング(CTR)閉鎖直径12.0mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)製リング.図2水晶体?縫着リングCTRに縫着用のハプティクスがついている.リングは赤道部に挿入し,ハプティクスは前?切開窓から前?の前面に出る.ハプティクスの先端のアイレットに糸を通して,強膜に縫着固定する.図3CTR挿入?の硝子体腔落下CTRとIOLを内包した水晶体?が網膜上に落下している.左下に視神経乳頭が見える.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???房側に吸い付けられたかのように視軸方向の動きも抑制する作用がある.さらに,前?切開や縫着リング挿入中に切開創から流出することもないため,前房内の操作性は格段に向上した.縫着リングの手術には必須の粘弾性物質である.(6)前?切開きっかけは27ゲージ針で作製し,半径が切れたら前?鑷子にて連続円形切?(CCC)を行う.水晶体の動きが大きい場合は,フックで抑制する(図6).大きく切れない場合や,かなり偏心した場合は切りなおせばよい.(7)縫着リング挿入まず,ビスコディセクションテクニックで,前?と皮質を360?にわたって赤道部まで?離しておく.あらかじめ縫着用のプロリンループ糸をハプティクスホールにカウヒッチノットで結んだ縫着リングを,上方の強角膜切開創から反時計回りに水晶体?内に挿入する.挿入中のリングがCCCから脱臼しないように,左手のフックで押さえ込みながら押し込んでいく(図7,8).(8)縫着針による強膜通糸水晶体?の動揺が大きい場合は,この時点で強膜に通糸して?を仮固定してもよいが,7割ぐらいの症例は縫着リングの挿入のみで次の白内障摘出のステップに移行できる.強膜への通糸は,通常のIOL縫着と同じ手技であるが,水晶体?を損傷しないように粘弾性物質で十分に?を後退させておく.(9)核乳化吸引と皮質吸引中央核のみをハイドロデリニエーション手技でくり抜くように分離し,溝は作製せずにフェイコチョップ手技(33)図4縫着リング症例:前房形成直前結膜切開,強角膜切開,サイドポート作製後.11時~3時までの水晶体赤道部が見えている.同部のZinn小帯断裂と7時方向への水晶体偏位のあることがわかる.図5縫着リング症例:前房形成後ヒーロンV?で前房を全置換すると,水晶体の偏位はやや矯正され振盪もかなり抑制される.前?切開中も前房深度は保たれる.図6縫着リング症例:前?切開連続前?切開を鑷子で行う.Zinn小帯の張力がない方向への切開では,先端が鈍なフック(本例では分割君?)を水晶体に刺入させて動きを止めながら施行する.図7縫着リング症例:リングの挿入Sinskeyフックで縫着リングが連続前?切開縁から脱臼しないように押さえながら,反時計回りに押し込んでいく.図8縫着リング症例:リング挿入完成縫着リングが挿入できたら,ハプティクスを前?の前に出しておく.縫着糸を強膜に通糸して仮固定するか,または,写真のように左右のサイドポートから出しておく.図9縫着リング症例:白内障摘出終了時12時部分のハプティクスがはっきり観察できる.白内障処理前に強膜通糸していない場合は,この直後に行う.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006にて中央核を乳化吸引する.分厚いエピヌクレウスは再度,粘弾性物質に水晶体?から分離して中央に集めると容易に吸引除去できる(図9).皮質吸引はI/Aで可能な場合も多いが,硝子体ストランドが前房中にあって容易に吸引される場合は,角膜サイドポートからSimcoe針で吸引するほうが有利である.(10)縫着糸の強膜通糸白内障摘出前に通糸しなかった場合は,この時点,連続後?切開(PCCC)と前部硝子体切除を行う前に施行する(図10).(11)PCCCと前部硝子体切除すでに縫着糸を仮固定している場合は,糸を緩めて縫着リングの伸展力を解除する.27ゲージ針で後?に切開を入れ,カプセル鑷子にてPCCCを行う.両側の角膜サイドポートからそれぞれ,A-vitカッターと灌流ラインを使い,PCCC開窓部より後方の前部硝子体を切除する(図11).(12)IOL挿入,強角膜縫合,粘弾性物質除去できるだけ大きな光学径のIOL(筆者は直径6.5mmのアクリルIOLを使用)を?内に完全固定したら,強角膜創を縫合し,粘弾性物質を除去して眼圧を正常化させる.(13)縫着糸の固定,結膜縫合強膜にポケットを作製して,センタリングを見ながら縫着糸を埋没縫合する.最後に縮瞳させて正円瞳孔を確認して,結膜縫合で手術を終了させる(図12).III縫着リングの二次的縫着固定Zinn小帯脆弱/断裂例で縫着リングが第一選択となった場合,比較的軽度の症例では,本当に強膜縫着固定まで必要なのかどうかを術中に迷う症例は少なくない.そのような場合,筆者は縫着リングのみを?内固定し,強膜への縫着固定を行わずに手術を終了している.後日,縫着が必要と判断した時点で,二次的に縫着固定する治療方針である.縫着リングの二次的縫着は,従来のIOLの前房内操(34)図12縫着リング症例:終了時縮瞳確認前.4時30分と10時30分に縫着リングのハプティクスが観察できる.IOLのセンタリングも良好.図10縫着リング症例:縫着糸の通糸粘弾性物質で前?を十分に後退させ,4時30分と10時30分の対角で強膜に通糸する.この後の後?切開に備えて,糸は緩めておく.図11縫着リング症例:前部硝子体切除後?を連続切開し,その開窓部から前部硝子体を切除する.縫着操作による硝子体の牽引を取るためであり,外傷例では硝子体混濁の除去を兼ねることもある.図13縫着リングの二次的固定縫着用ハプティクスのある位置にサイドポートを対角に作製し,ハプティクスを硝子体手術用の眼内鑷子で把持して,アイレットに縫着用の針を通している.縫着用針にはプロリンループ糸がついているので,アイレットはカウヒッチノットで固定できる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???作による二次的縫着手技4)と同じ手順で施行可能である.角膜サイドポート2カ所を使用して,ハプティクスに縫着用プロリンループ糸をカウヒッチノットで固定し,そのまま強膜に通糸して固定する(図13).現時点では,外傷性Zinn小帯脆弱例で縫着リング挿入による白内障手術を施行し,後日,悪性緑内障発作状態に陥ったために,改めて強膜に縫着して水晶体?を固定した1例を経験しているのみである.IV虹彩リング既報では引用のみに留めた虹彩欠損用のリングは,部分虹彩リングと全周虹彩リングの2種類がある(図14a,(35)図15部分虹彩リング使用例5時30分を中心とした,外傷性隅角離断部分に虹彩リングを?内固定してあてがっている.図14虹彩リングa:部分虹彩リング,b:全周虹彩リング.ab図16全周虹彩リング使用例a:1枚目を?内に挿入したところ.b:2枚目を挿入して配置をずらし,ドーナツ状の遮閉効果を得たところ.ab図17全周虹彩リング50Ca:遮閉板の小さいタイプの全周虹彩リング.b:挿入例.IOL光学部直径が6.5mmなので,瞳孔径も約6.5mmあることがわかる.ab図18虹彩付きIOLa:全長13.5mm,光学部外径10.0mm,瞳孔領部径4.0mm.b:術後6カ月を経過した挿入例の前眼部像.ab———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006b).両方とも,CTRに光の遮閉板を取り付けた構造であり,黒い色素で着色してある.色素に関しては,CE規格における溶出試験基準を満たしているというレベルでの安全性は保証されている.部分虹彩リングは90?カバーの遮閉板なので,そのまま補いたい部分に配置すればよい(図15).全周虹彩リングは,?内に2枚挿入し,遮閉板が互い違いになるように配置してドーナツ型の虹彩を水晶体?内に再現する,優れたアイデアの製品である(図16a,b).全周虹彩リングは,瞳孔径約4.0mmのタイプ50D(図14b)とそれよりやや大きなタイプ50C(図17a,b)がある.タイプ50Dは?内に固定したときの瞳孔径が6.5mm近くあるので,正常眼の明室での瞳孔径よりは大きくなるが,遮閉板が50Dと比べて小さいので挿入の操作性はかなりよい.また,当然のことながら,全周虹彩リングは散瞳しないので,眼底の観察や治療に支障がありそうなら50Cが選択となる.なお,外傷性虹彩欠損の場合,必ずしも水晶体?が保存できるとは限らない.そういう場合用に虹彩付きIOLという選択肢もある.CTRとは無関係であるが,必要な場合もあるので,紹介しておく(図18a,b).V後発白内障予防リングそもそものリングの考案者,宇都宮市の原孜先生5)がご研究中のリングであり,現時点ではまだ文献にはなっておらず,販売もされていない.筆者の使用経験もないが,ビデオ映像による報告では,シリコーン製のクローズドリングで断面がコの字型になっており,内側にIOLを納めると同時に,外側のシャープエッジ効果で水晶体上皮細胞の後?側への進展を阻止することで,後発白内障を予防する構造の優れたリングである(図19a,b).一日も早い実用化を望みたい.おわりに筆者は,CTRは韓国のルシード社から,その他のリングや虹彩付きIOLはドイツのモルシャー社から購入している.いずれも,FAXやメールの簡単なやり取りで購入は可能であるが,すべて日本では未認可の医療材料なので,医師の責任において輸入許可を取り,使用するという制限がある.モルシャー社はホームページで商品を紹介している(http://www.morcher.com).ここに紹介した以外のリングや変わったIOL,自社製品の手術ビデオなども(ブロードバンドなら)観ることもできるので,興味のある人は一度,閲覧することをお勧めする.文献1)德田芳浩:白内障手術の再評価.水晶体?拡張リング.あたらしい眼科16:1235-1241,19992)GimbelHV,SunR,HestonJP:Managementofzonulardialysisinphacoemulsi?cationandIOLimplantationusingthecapsulartensionring.??????????????????????28:273-281,19973)CionniRJ,OsherRH:Managementofprofoundzonulardialysisorweaknesswithanewendocapsularringdesignedforscleral?xation.???????????????????????24:1299-1306,19984)德田芳浩:亜脱臼IOLの前房内リサイクル.あたらしい眼科16:491-492,19995)HaraT,HaraT,YamadaY:Equatorringformainte-nanceofthecompletelycircularcontourofthecapsularbagequatoraftercataractremoval.???????????????22:358-359,1991(36)図19後発白内障予防リングa:シリコーン製クローズリングの全景:IOLのハプティクスはリングの溝に挿入できる.b:水晶体?内での断面図:断面がカタカナのコの字になっている.IOLab

屈折矯正手術としての白内障手術

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS屈折矯正手術として成立する命運を握っていると言ってよい.また単焦点レンズにおける屈折矯正では当然ながら遠方もしくは近方のどちらかを選択することになり,その結果として遠近のどちらか一方は,裸眼での視力向上はあきらめざるをえない.すでに老視年齢である高齢者では術前から老視用眼鏡の使用経験があり,術前のinformedconsentでこのことに対する十分な確認を得ておけば大きな問題は生じないが,老視用眼鏡の使用経験のない若年患者の場合は,術後のqualityoflife(QOL)を考えるうえで重大な問題になる.それらの理由から,優れた多焦点眼内レンズは白内障手術が屈折矯正手術として発展するうえでの必要条件として待ち望まれてきた.白内障手術が屈折矯正手術として成り立つためには,かなり正確な眼内レンズ度数算定と優秀な多焦点眼内レンズが不可欠である.III白内障治療とrefractivelensexchangeの違い最近になって登場してきた多焦点眼内レンズは好成績も報告されはじめており,白内障手術の屈折矯正手術としての可能性をさらに広げるものとして期待されている.しかし,白内障治療の一環として多焦点眼内レンズを用いることと,屈折矯正手術として混濁のない水晶体を摘出して多焦点眼内レンズを挿入すること(refrac-tivelensexchange)とでは,かなり意味合いが異なる.筆者は白内障治療とrefractivelensexchangeとでは,I白内障手術の屈折矯正手術的側面白内障手術は水晶体混濁に伴う視機能障害を改善する目的で行われる.通常の白内障手術は,水晶体という光路に存在する凸レンズを摘出除去し,眼内レンズをその代替として挿入する手術である.それ故に,眼球全体の屈折に与える影響は非常に大きい.非常にダイナミックに屈折状態を変更できる手術と言ってよい.単焦点眼内レンズを用いても,近視や遠視の減弱を行うことができるので,レンズ度数の選定を患者の希望に合わせることにより,屈折矯正的なメリットをもたらすことは可能である.たとえば,近視用コンタクトレンズ使用者は近視を減弱することによってコンタクトレンズの使用から解放される.また遠方と近方の双方に眼鏡を使用していた遠視・老視患者は,眼内レンズ挿入によって正視になれば裸眼視力の向上と,近見のみの眼鏡使用で済むようになる.このように白内障手術は眼内レンズを使用するようになった時点で,屈折矯正手術としての意味合いを深めてきたと考えられる.II屈折矯正手術になるための条件先にも述べたように,現在の白内障手術は水晶体の摘出に伴い眼内レンズを挿入する.挿入する眼内レンズ度数は術前に計算され,その算定に見合った眼内レンズが患者の無水晶体状態の矯正に用いられる.したがって,この術前の眼内レンズ度数計算の正確さは白内障手術が(25)???*KotaroOhki:大木眼科〔別刷請求先〕大木孝太郎:〒171-0014東京都豊島区池袋2-17-1大木眼科特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):447~451,2006屈折矯正手術としての白内障手術???????????????????????????大木孝太郎*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006多焦点眼内レンズの評価基準も同様にはならないと考えている.術前矯正視力の良好なrefractivelensexchangeでは遠方,近方視力のみならず,中間距離視力やコントラスト感度,また術後のハロー・グレア症状などの評価について,混濁した水晶体のために術前視力の低下した白内障患者よりも厳しく求められことは当然である.逆に術前視力の低下している白内障治療という観点から考えれば,遠近双方の裸眼視力の向上が得られたときの患者の満足度は単焦点眼内レンズの場合に比べさらに高いものになる.白内障治療における多焦点眼内レンズとrefractivelensexchangeにおける多焦点眼内レンズの位置づけを同等と考えることはできないと思う.IV屈折型と回折型の特徴多焦点眼内レンズには屈折型と回折型に分けられる.表1にその概略を示す.屈折型は文字通り1枚の眼内レンズ内に屈折力の違う領域を作製し,遠方・中間距離・近方それぞれの視力矯正を目指している.問題点として瞳孔径との関係が重要視されており,小瞳孔眼では眼内レンズの周辺部の度数は使用できないため多焦点レンズとして機能できない.一方,回折型は眼内レンズ表面を特殊な形状とし,光の回折を利用して遠近それぞれの焦点を作製するものである.多焦点というよりは二重焦点であり,中間距離での視力が出にくいことが若干問題となる.最近の多焦点眼内レンズはすべてfoldableIOLとなり,小切開手術に対応していることは言うまでもない.1.屈折型多焦点レンズ図1は代表的屈折型多焦点眼内レンズReZoom(AMO社)(図2)の構造を示している.図からわかるように,屈折型多焦点レンズの光学部では同心円状に遠方用と近方用の屈折力の異なった領域が交互にくり返されている.長所としては,単焦点と同様の遠方視力が担保されていること,コントラスト感度の低下が起こりにくいこ(26)表1屈折型と回折型多焦点レンズの比較屈折型回折型レンズArray,ReZoomTecnisMultifocal,ReSTOR特徴・遠用ゾーンと近用ゾーン組み合わせ機構による結像・ゾーン移行部にて中間視力のための光が配分される・レンズ表面の回折機構により,遠用および近用の2点に光を配分する効果・単焦点レンズと同様の遠方視が期待される・全距離における視力が期待できる・瞳孔径に関係なく,良好な遠近視力が期待できる課題・瞳孔径の影響が大きい・ハローおよびグレアの発現・中間距離の視力・コントラスト感度の低下屈折型は瞳孔径の影響が懸念され回折型は中間距離視力が出にくい.Distance-DominantZoneDistance-DominantZoneNear-DominantZoneNear-DominantZoneDistance-DominantZoneDistance-DominantZoneNear-DominantZoneNear-DominantZoneDistance-DominantZone図1屈折型多焦点レンズReZoomの屈折度数配分遠近の度数が同心円状にくり返される.図2屈折型多焦点レンズReZoomレンズの大きさなどは通常の単焦点レンズと同じであり,特殊な挿入手技は必要ない.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???とがあげられるが,短所としては,構造からも推察されるように,瞳孔径と眼内レンズの中心固定に左右されることである.小瞳孔では光学部周辺に局在する度数部分は使用できない.度数ゾーンの移行部を工夫し,夜間のハロー・グレア現象の軽減を目指している.2.回折型多焦点レンズ図3はTecnisMultifocal(AMO社),ReSTOR(Alcon社)で両者とも回折型多焦点眼内レンズである.回折型多焦点レンズは光学部に同心円状の段差を有することが特徴で,光の回折を利用して遠方と近方の2カ所に焦点が合うように作製されている(図4).TecnisMultifocalでは,球面収差を減らす非球面デザインを採用しており,多焦点眼内レンズの問題点であるコントラスト感度の低下と夜間視力の改善を目指している.ReSTORは光学部の中心3.6mmが回折構造で,その周辺は通常の単焦点と同じになっており,瞳孔径が小さい昼間では遠方および近方に焦点が合い,薄暮から夜間にかけての瞳孔径が大きくなる状態では遠方視力への加重が大きくなる特徴がある.構造の特徴からコントラスト感度の低下は否めないが,臨床上に問題になるほどの低下ではないと言われている.中間距離視力への配分は不足するが,遠近双方の優秀な視力は最大の利点である.V手術時の問題点先にも述べたとおり,多焦点眼内レンズはレンズの構造自体が特殊である.したがって,眼内レンズの正しい挿入固定は非常に重要になる.まず前?切開はcontinu-ouscircularcapsulorrhexis(CCC)を確実に行い,術後の眼内レンズの偏位,中心ずれが最小になるような手術を目指すべきである.CCCの大きさとしては眼内レンズ周辺部を確実に覆うことが理想であり,完全?内固定を行う(図5).後発白内障も多焦点眼内レンズには好ましいとは言えず,レンズとしてはいわゆるシャープエッジを有し,後発白内障抑制効果の期待できるものが望ましいと思われる.また眼内レンズを正確に?内に挿入固定しても瞳孔を傷つけ大きく偏位させるようでは,多焦点眼内レンズの効果も期待できない.(27)図3回折型多焦点眼内レンズ左側がTecnisMultifocal,右側がReSTOR.光学部の回折構造が観察される.図4回折型多焦点レンズの集光シミュレーション光の回折現象を利用して遠方と近方の2焦点に集光させている.遠方と近方の鮮明な視力が期待できる.図5挿入直後の回折型多焦点レンズCCCを行い確実に?内固定を行う.術後の偏位が大きいと機能を発揮できない可能性がある.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006VI眼内レンズ度数計算の重要性白内障手術によって屈折矯正を行う場合,単焦点,多焦点どちらの眼内レンズを使用するにしろ,術前に行う眼内レンズ度数計算は非常に重要である.予想屈折値と術後屈折が大きくずれるようでは,屈折矯正手術の役割は果たせない.最近になって従来までの超音波Aモードに加えて,光干渉法を利用し半導体ダイオードレーザーを使用した光学式眼軸長測定器IOLマスター(Zeiss社)(図6)が使用可能になり,より精度の高い眼軸長測定が行えるようになってきた.接触式である超音波Aモードではプローブの圧迫や角度,測定者の熟練度などにより結果にばらつきがあり,術後屈折誤差の要因の一つとして問題視されてきたが,IOLマスターは非接触型であり操作が簡便で測定時間も短い.また眼軸長だけでなく前房深度,角膜曲率半径を1台の器械で測定でき,眼内レンズ度数の算出とA定数の最適化が可能である.超音波Aモードと比較してIOLマスターの有用性は多く報告されているが,進行した白内障や後?混濁の強い白内障ではIOLマスターでの計測が困難な場合もある.したがって,超音波AモードとIOLマスターの双方を通常から使用し,その結果を比べながらそれぞれのA定数の最適化を行っておくことが非常に重要である.VII米国での取り扱いと日本への導入の問題点現在の米国における新機能眼内レンズの取り扱いはわが国の現状とは大きく異なり,これには驚きを禁じえない.2006年2月現在,米国では眼内レンズ手術についてのある種の新しい償還制度が施行されている.これは米国のCMS(CentersforMedicareandMedicaidSer-vices)が制定した制度であり,現時点では眼科・眼内レンズのみに特化した制度で,NTIOLs(NewTechnolo-gyIOLs)とPatientSharedBilling(混合診療)の二つがすでに運用されている.1.NTIOLs(NewTechnologyIOLs)(表2)眼内レンズの新しい機能につきその有用性・有効性が認定された場合,その特定眼内レンズを使用した指定医療施設に対して加算償還されるという制度である.2006年2月現在ではTecnisMonofocal(AMO社)のみが「ReducedSphericalAberrations(球面収差減少)」というクラスに該当する眼内レンズとして認定を受けており,1眼につき50ドルが追加償還される.米国FDA(FederalDrugAdministration)は眼内レンズでは初めてTecnisMonofocal(AMO社)に対し新規機能による視機能改善効果を認め,これを受けて(28)表2米国における新規機能眼内レンズの取り扱い1.球面収差改善という新しい機能区分を認定2.現時点で,TecnisMonofocal(AMO社)のみ3.このIOL使用で医療施設に50ドル支払われる4.視機能とコントラスト感度向上を認定表3米国における眼内レンズの混合診療1.Presbyopia-CorrectingIOLをクラス制定2.患者の自己負担によりこのクラスのIOLを選択できる3.認定IOLCrystalens(Eyeonics社):825ドルAcrySof?ReSTOR(Alcon社):875ドルReZoom(AMO社):875ドル老視矯正というカテゴリーとして多焦点眼内レンズの混合診療が認められている.図6非接触型眼軸長計測装置レーザー光を利用した眼軸長測定はその精度の高さが報告されている.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???CMSにて新規クラスを設定したという背景がある.2.PatientSharedBilling(混合診療)(表3)CMSが眼内レンズに適用した制度で,償還価格を超える金額を患者負担とする,わが国における混合診療に似たシステムである.CMSは「Presbyopia-Correcting(老視矯正)眼内レンズ」というカテゴリーを制定しているが,2006年2月現在では3種の眼内レンズが認定され,それぞれ800ドルを超える価格で販売されており,償還価格(150~200ドル)との差額を患者が負担することでこれらの眼内レンズを使用することができる.表3にも示したとおり,3種のうち2種は多焦点眼内レンズであり,多焦点眼内レンズの老視矯正機能が評価されていることがわかる.今後も新たな多焦点眼内レンズが同システムにより混合診療として使用されていく可能性が高い.おわりに以上のような米国での多焦点眼内レンズの取り扱いと値段は,わが国の眼科医療にとって衝撃的である.わが国の現行健康保険システムでは,すべての眼内レンズは同じ取り扱いであり,新機能を有した眼内レンズの特別扱いも混合診療も許されていない.米国での単焦点眼内レンズの値段がおおむね150~200ドルとすると,800ドルを超える多焦点眼内レンズは4~5倍の値段に相当する.このような高額な眼内レンズをわが国の保険システムに組み入れることは何らかのシステム上の変更を行わない限り不可能と考えられる.現在の健康保険点数においては白内障手術の採算性は非常に低く,これ以上コスト高になる高額な多焦点眼内レンズの使用は医療機関にとっては現実問題として厳しいと言わざるをえない.また眼内レンズメーカー側としても,米国で高額で販売している眼内レンズを,わが国で極端な低価格化を行うことは不可能であろう.使用の見込みが立たなければ,そのビジネスとしてのメリットはまったくない.現行のままではメーカー側も,わが国で販売することへの積極性を欠くことにすらなるのではないかと筆者は懸念している.多焦点眼内レンズが患者の術後QOLへ与える影響は相当大きなものと考えられ,その導入が遅延することはわが国の白内障患者にとって大変重大な問題である.現行のままでは今後,同じ時期に白内障手術を受けた日米の患者間で,術後QOLに格差が生じる可能性は否定できない.現在,日本国民がインターネットを含む各種メディアを通じて新しい情報を獲得する速度は非常に速く,優れた多焦点眼内レンズに関する情報も遅からず広まることが想像される.一部の臓器移植希望患者が,わが国を離れ海外で手術を受けていることはすでに広く知られているが,白内障患者についてもそのような事態が起こらないとは断言できないのではなかろうか.筆者は早急な対応が議論されてしかるべきと考えている.文献1)ビッセン宮島弘子:特殊な眼内レンズ.??????19:297-301,20052)清水公也,庄司信行:多焦点眼内レンズ.眼科38:695-702,19963)別当京子,馬嶋慶直,黒部直樹ほか:二焦点眼内レンズ(di?ractiveIOL,refractiveIOL)の臨床成績.臨眼46:1571-1574,19924)佐藤彩,須藤史子,島村恵美子ほか:眼内レンズ度数算出における非接触型眼軸長測定装置(IOLマスターTM)の有用性.あたらしい眼科22:505-509,20055)庄司信行,清水公也:屈折型多焦点眼内レンズと瞳孔径.???8:163-168,19946)岡本周子:非球面眼内レンズ.??????19:271-274,2005(29)

最近の眼内レンズ:非球面眼内レンズについて

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSに述べたい.I眼球光学系の収差の変化と非球面眼内レンズ光が角膜を通過するときには球面収差が生じる.若年正常人ではこの角膜で生じた球面収差を,水晶体の非球面性が補正している(図1a).加齢に伴い,眼球の収差はコマ様収差,球面様収差ともに増加する.そのなかで,加齢に伴うコマ様収差の増加はおもに角膜のコマ様収差の増加が原因で生じ(図2),一方,加齢に伴う眼球の球面様収差の増加は,角膜とは相関せず(図3),おもに水晶体の球面様収差の増加により生じる(図4).この水晶体の球面様収差の増加は,白内障によって生じる水晶体の形状変化により生じ,角膜の収差の補正が不十分になる(図1b).また,白内障手術時に球面眼内レンズはじめにいわゆる後房型の眼内レンズが主流になって,すでに20年が経過しようとしている.その間に白内障手術関連の技術は格段の進歩をとげた.手術方法としては,手術用顕微鏡,超音波乳化吸引術機器,CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)に代表される術式,粘弾性物質や抗炎症薬などの薬剤が開発,導入された.また,白内障手術後眼の評価も,視診による主観的方法に,スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞数,パキメーターによる角膜厚,フルオロフォトメーターによるバリア機能,レーザーフレアセルメーターによる前房内炎症,角膜形状解析装置による角膜変形,Scheimp-?ugカメラによる後発白内障や眼内レンズの位置の測定など,機器による客観的評価方法が加わり,詳細なる検討ができるようになった.手術効果に関しては,裸眼,矯正視力に,コントラスト感度の測定などが加わり,詳細に検討ができるようになっている.このように,手術方法,客観的術後眼評価法,術後視機能評価法の開発などにより,白内障手術後の水準の高い結果を目指すことが可能となった.最近,新しい眼球光学系の評価方法として,波面収差解析法が加わった.この方法により,収差というヒト眼における机上の概念が臨床的に解析できるようになり,さらにその結果を利用して,収差を減少させる新しいデザインの眼内レンズ,非球面眼内レンズが開発された.本稿では,この収差に着目した眼内レンズの効果を中心(19)???*KazunoriMiyata:宮田眼科病院〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):441~445,2006最近の眼内レンズ:非球面眼内レンズについて????????????????????????????????宮田和典*図1加齢と収差の変化a.若年者b.高齢者c.球面IOL挿入眼d.球面収差補正IOL挿入眼———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006が挿入された場合,水晶体による球面収差の補正は白内障を伴った水晶体同様,角膜の収差の補正は不十分で,やはり眼球光学系における収差は若年時に比較して増加している(図1c).そこで若年者の水晶体の収差補正機能を,眼内レンズにもたせたのが非球面眼内レンズである(図5).具体的には,正常人の角膜球面収差と眼球全体の収差を測定し,水晶体のもつ非球面性を算出し,眼内レンズに非球面性をもたせている.メーカーによって,眼内レンズ使用後の眼球全体の収差を若年者の収差としたり,収差が最小になるようにしたり,とねらいは若干異なる.これにより,非球面眼内レンズ眼では,若年眼同様の収差補正が行われる(図1d).II非球面眼内レンズの臨床成績アクリル素材の非球面眼内レンズと従来の球面眼内レンズの臨床成績を比較してみると(宮田眼科病院データ,ZA9003AMOvsAR40eAMO),裸眼視力,矯正視力,コントラスト感度など,従来の術後視機能は同等であった.ZA9003は球面眼内レンズAR40eに非球面性をもたせた眼内レンズであるため,臨床成績に差がないのは肯ける.しかし,従来法では非球面眼内レンズの優位性も得られていない.そこで,他覚的に波面収差解析を行い,術前と術後1カ月を比較すると,角膜が収差の変化の主体のコマ様収差では術前後の変化も,両眼内レンズ間の(20)r=0.347,p<0.00010.70.60.50.40.30.20.101020304050607080角膜コマ様収差(?m)年齢(歳)図2年齢と角膜コマ様収差の相関r=0.168,p=0.05510.40.30.20.101020304050607080角膜球面様収差(?m)年齢(歳)図3年齢と角膜球面様収差の相関r=0.260,p=0.00260.80.70.60.50.40.30.20.10-0.11020304050607080眼球球面様収差(?m)年齢(歳)図4年齢と眼球球面様収差の相関キヤノンスターAQ-310AiシリコーンAMOZ9000シリコーンAMOZA9003アクリル図5各種非球面眼内レンズ———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???差も認められていない(図6).球面様収差および球面収差は球面眼内レンズ眼では術前後に差は認められていないが,非球面眼内レンズ眼では有意に術後に収差が減少しており,両眼内レンズ間でも有意に非球面眼内レンズ眼の収差が少なかった(図6).その結果,全高次収差で(21)も同様に非球面眼内レンズ眼において有意に収差の減少が認められた(図6).同一症例に挿入された,球面,非球面眼内レンズの収差解析より得られた網膜像のシミュレーションを比較すると,明らかに非球面眼内レンズの像が鮮明である(図7).この有意な全高次収差の減少がもたらす臨床的優位性は,水晶体の非球面性が収差の減少をもたらす瞳孔散大時に生じる.通常の生活では,夜間の運転時のグレアなどの減少効果が期待されるが,通常の臨床検査の明度条件ではその差は検出されにくい.そこで,コントラスト感度を明度条件を変えて測定すると,71.4lux,181.9luxでは差がなかったが,13.9luxという低照度では有意に非球面眼内レンズのほうが良好であった(表1).非球面眼内レンズの問題点ただし,このような優位性が非球面眼内レンズを使用した全症例にみられるわけではない.暗所でのコントラスト感度が球面眼内レンズに比較して,改善される症例と改善されない症例がある.両眼内レンズを使用した同一症例の左右眼を比較してみると,明所時のコントラスト感度には両者に大差ないが,暗所時のコントラスト感度の改善は,瞳孔径の大きな症例にみられることがわかる(図8,9).つまり瞳孔径の小さな症例では眼内レンズの非球面性の長所が出にくい.また,非球面眼内レンズは角膜で生じる収差を打ち消すように設計されているが,その程度は一定であるため角膜の収差が大きすぎる症例では,十分に収差が改善されない可能性もある.長期的に考えると後発白内障が生じたら,もちろんその収差改善効果は減弱することが予想される.であるから,非球面眼内レンズの長所を生かすためには,後発白内障の少ない素材,デザインを選択すべきである.一方,シリコーンとアクリルの球面眼内レンズを比較した筆者らの検討では,今のところどちらの素材もほぼ同等表13種類の明度下のコントラスト感度(縞コントラスト)の比較13.85(lux)71.47(lux)181.9(lux)ZA90031.42±0.161.75±0.191.79±0.22AR40e1.30±0.201.74±0.251.80±0.15*p<0.05(paired?-test).AULCSF*NSNS※※※※※†††††:ZA9003:AR40e1.00.90.80.70.60.50.40.30.20.10コマ様収差術前1カ月球面様収差術前1カ月全高次収差術前1カ月球面収差術前1カ月0.740.670.520.610.520.460.190.420.920.830.560.750.200.210.050.30Mann-Whitney’sUtest※※p<0.01※p<0.05Wilcoxon’stest††p<0.01†p<0.05瞳孔径6mmRMS(μm)図6瞳孔径6mm時の球面眼内レンズと非球面眼内レンズの収差の比較AR40eZA9003図7収差のデータからシミュレーションした網膜像———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(22)121714810:ZA9003:AR40e2.42.221.81.61.41.21AULCSF瞳孔径(mm)2.42.62.833.23.43.63.844.24.499224558111114141313127663310図8明所の症例別術後瞳孔径とコントラスト感度11138294371512345678961010111414131212AULCSF:ZA9003:AR40e瞳孔径(mm)1.91.81.71.61.51.41.31.21.110.90.83.844.24.44.64.855.25.45.65.866.2図9暗所の症例別術後瞳孔径とコントラスト感度経過期間Density(CCT)統計学的有意差なし0.010.020.030.040.050.0Y1M6M3M1W126.6827.3624.6723.2223.1223.9026.3325.1924.0523.75:シリコーンClariFlex:アクリルMA60BM図10シリコーン眼内レンズとアクリル眼内レンズの後?混濁の比較経過期間AreaofCCC(mm2)0.05.010.020.015.025.030.0Y1M6M3M1D2W122.9222.2921.65※††††††††††††††††††††※※※※※※21.8220.8721.3721.8119.0018.3518.7520.7621.08Mean-Whitney’sUtest※※p<0.01※p<0.05Wilcoxon’stest††p<0.01†p<0.05:シリコーンClariFlex:アクリルMA60BM図11シリコーン眼内レンズとアクリル眼内レンズの前?切開面積の比較経過期間収縮率(%)-5.00.05.010.015.020.025.030.0Y1M6M3M1:シリコーンClariFlex:アクリルMA60BMWilcoxon’stest†p<0.05††p<0.01†††††††††3.599.845.6312.5213.7810.345.337.59図12シリコーン眼内レンズとアクリル眼内レンズの前?切開面積収縮率の比較0.80.60.40.20:アクリルZA9003:シリコーンZ9000両群間に有意差なしコマ様収差球面様収差全高次収差球面収差瞳孔径6mmRMS(μm)0.050.020.570.590.200.280.530.52図13非球面シリコーン眼内レンズと非球面アクリル眼内レンズの収差比較———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???の結果(図10~12)が得られている.現状では素材としては,シリコーンでもアクリルでも大差がないと考えられる.また,短期的なデータではアクリル,シリコーン,両素材の眼内レンズの収差減少効果にも差はない(図13).素材の選択に関しては,これからの長期的データが待たれる.まとめ以上のことを考慮すると,非球面眼内レンズは球面眼内レンズと比較して,安定性は同等で,症例によるが暗所での優位性が認められる.これといった短所はみられないため,これからの眼内レンズの主流になる可能性が高い.(23)コンタクトレンズフィッティングテクニック【著】小玉裕司(小玉眼科医院院長)CLの処方に必要な角膜・涙液・屈折矯正・その他の知識/CLの選択/ハードCLの処方/フルオレセインパターンの判定方法と注意点/レンズデザインと角膜形状/ベベル・エッジのチェック/SCLの処方・種類・選択/CLと定期検査・眼障害/HCLの修正/修正によるHCLの苦情処理-くもり・充血・異物感・視力/SCLの苦情処理-くもり・かすみ・視力低下・異物感・眼痛・流涙・充血/乱視に対するCLの処方/ドライアイ/ラウンドコルネア/カラーCL/治療用SCL/無水晶体眼・乳幼児と小児に対するCLの処方/光彩付きCL・義眼CLの処方/ハード・ソフトタイプバイフォーカルCLの処方/HCLのカスタムメイドの処方/CLと点眼薬/CLとケア用品/●ワンポイントB5判総152頁カラー写真多数収載定価8,400円(本体8,000円+税400円)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■この本があれば,明日からのコンタクトレンズ診療は安心して出来る!株式会社

極小切開白内障手術を可能にした器具

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS定できる.その細かな設定ゆえに,以前のパルスモードのようなONとOFFの差を明らかに感じることなく,あたかも連続発振のような感覚でパルスモードの長所を生かすことが可能になった.パルスモードでは,超音波ONのときには,核を破砕し,OFF時には,核を引きつけ,さらにチップを冷却する.SovereignTMのシステムでは,極短時間にONとOFFがくり返されるために,一度一度のON時間が短くまた,毎回OFF時にすぐに冷却されるために,チップは発熱しない.核を破砕するそばから,引きつけるので,核をはじくこともなく核を効率よく保持できるようになった(図2).さらに最近では,このシステムが進歩発展し,超音波を発振させる3段目のペダルの踏み込み具合により,このONとOFF時間の組み合わせを変化させることが可能になった.核が硬く,踏み込みを必要とする場合には,超音波の発振時間を長くするように設定し,踏み込みが浅い位置では,発振時間を短く設定することも可能になり,さらに効率のよい超音波発振が可能となっている.極小切開白内障手術,特にbimanualphacoでは,スリーブをはずした状態で超音波操作を行う.チップ周囲を灌流液は流れるわけであるが,操作中にチップの一部は創口に押し付けられる.したがって,スリーブに囲まれている場合よりもより直接的に創口熱傷を起こしやすい.このリスクは,上記のようなクールフェイコとよばれる進化したパルスモードの開発により回避できるようはじめにここ数年,1~2mmといった切開幅から白内障手術を行う極小切開白内障手術が注目を集めている.切開創を小さくすることは,単に乱視を軽減させるだけでなく,術後眼内炎の発症を抑えられる可能性などさまざまな可能性を秘めている.極小切開白内障手術は,現在大きく分けてbimanualphaco,coaxialphacoの2つの方法がある.ただ,もともと極小切開白内障手術は,bimanualphacoによって開始されたものであり,注目を集め始めたのは,最近になってである1)が,その起源は20年も前に?る.わが国でも,Haraらの先駆的な仕事がこの分野の開発に寄与したものが大きい2).ただ,この手術法は,その当時は普及されるに至らなかったが,最近リバイバルされ,広く注目を集めるようになった.これにはさまざまな技術革新や器具の開発があった.今回はこの点に注目してみたい.I超音波機器の進歩1.パルスモードの進化パルスモードは,従来より超音波効率を高めるものとして存在し,超音波がONになる時間とOFFになる時間が同じに設定されていた.この設定をもっと細かく自在にできるように超音波装置が進歩した.その先駆けであるSovereignTM(図1)のシステムでは,さまざまに超音波がONになる時間とOFFになる時間を細かく設(13)???*DaijiroKurosaka:岩手医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕黒坂大次郎:〒020-8505盛岡市内丸19-1岩手医科大学眼科学講座特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):435~439,2006極小切開白内障手術を可能にした器具??????????????????????????????-?????????????????????????黒坂大次郎*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006になった.現在各社の最新の機器では,似たような類似のシステムが搭載されていることが多い.2.前房の安定性の向上Bimanualphacoにせよcoaxialphacoにせよ極小切開白内障手術と従来の超音波白内障手術との操作性・安全性の違いは,極小切開白内障手術での灌流量が少ないということである.少ない灌流量で従来と同じ設定で手術を行うと,前房の安定性が低下してしまう.したがって,安定性を維持するために,灌流量を確保するか,設定を下げる必要が出てくる.灌流量の確保のためには,灌流ボトルを上げていけば,単位時間当たりの灌流量は確保でき前房は安定するようになるが,眼内での灌流液の流れが強くなり,核片が舞いやすくなり角膜内皮障害が懸念されるなどのマイナス面も出てきてしまう.一方,吸引流量や吸引圧を落とすと,前房の安定性は向上するが,操作性に欠ける印象をもってしまう.前房内圧をセンサーで検出しコンピュータ制御によりサージを起こりにくくしたり,あるいは,吸引流量を落としても設定の圧まではポンプを高速に回して吸引の立ち上がりをよくする機能などを最新のマシンは装備しており,これにより設定を変えても従来とほとんど遜色なく手術操作が可能になり,しかも多少の低灌流であっても前房(14)図1SovereignTM(AMO社)パルスモードの劇的な向上(whitestar)をもたらし,bimanualphaco時の創口熱傷のリスクが回避できるようになった.現在は,variablewhitestarになり,この秋にもさらにバージョンアップが予定されている.図3In?nityTM(Alcon社)センサー系やPC系,チューブ系が劇的に向上し,PEAの安定性が大幅に向上している.吸引の立ち上がりをコントロールでき,ベンチュリーポンプ式よりも早く立ち上げることも可能である.図2SovereignTM─パルスモード(whitestar)の実際通常の超音波では,ON,OFFが50%ずつであったが,whitestarでは,ON,OFFの1回当たりの時間を大幅に短くし,ON,OFFの割合も変化させられるようになった.WHITESTAR10modeWHITESTAROFFTime50%OFFTime50%ONTime50%ONTime50%ONTime50%ONTime100%従来型SHORTPULSE連続発振———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???の安定性を維持できるようになった(図3).IIBimanualphacoに必要な器具1.灌流付きフックBimanualphacoでは,灌流と超音波チップを分離するため,フック側に灌流の機能が付帯することが必須となる.灌流量が不十分だと操作中の前房が不安定になりさまざまな問題につながる.現在の灌流付きフックは,改良が加えられほぼ安定した操作が可能となっている.灌流付きフックは,フックの形状と灌流孔の位置により分類することが可能である.フックの形状は,分割君?タイプの先端が平べったいもの(図4)と,チョッパータイプのものに分けられる.灌流孔については,種々のものが発売されている.基本は,フロントオープンタイプであるが,これにも,灌流孔が1つのもの,左右2つのものなどが存在する.Bimanualphacoでは,フックの向きや位置を変えることにより眼内での灌流の流れを変化させることが可能である.たとえば,核片を水流に乗せて引き寄せたりすることも可能になる.また,灌流孔を後?側に向け,超音波チップより後?側へおくと,灌流孔からの灌流により後?を硝子体側へ押しやることが可能になる.後?破損を予防する機能をもたせることになるが,わざわざフックを後?側へ向けなくとも,灌流が後?へ向かうように,灌流孔を下向きにつけているフックもある(図5).2.創口拡大用ナイフBimanualphacoでは,1.2~1.4mm程度の切開創からの手術となるが,現状ではこの切開創から挿入できる眼内レンズはごく一部のものに限られている.したがって創口を2mm程度まで拡張することが必要となるが,1.2mmの創口に沿って確実にナイフを挿入するのは意外とむずかしく,創口拡大用ナイフが考案された(図6).このナイフを使うと容易に創口を広げることが可能になる.3.レキシス鑷子などの鑷子類Bimanualphacoの創口は,1.2~1.4mmと小さいため,従来のレキシス鑷子などを使用することがむずかしくなる.通常の鑷子タイプのものでは,先端を広げることができないし,たとえクロスアクションのものでも,創口に引っかかり挿入できない.サイドポートからの使用が可能な,硝子体鑷子タイプのものが必要となる(図7).(15)図4MST社Duet─常岡式灌流フックの先端フロントオープニングで灌流量を確保している.図5DK社鍋島氏分割フックタイプイリゲーションチョッパー下方に灌流孔があり,後?を押し下げる(下方から見たところ).図7池田氏式レキシス鑷子サイドポートから挿入が可能で,前?片のコントロールがしやすい.図6フェザー社創口拡大用ナイフ先端にガイド部分がついており,このガイド部分を創に滑らせることにより,創が二重に切開されてしまうことを防ぐ.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006(16)IIICoaxialphacoに必要な器具スリーブとチップ極小切開で行うcoaxialphacoでは,現在1.9mmないしは2.2mm程度の切開創から手術操作が可能なものが発売されている.Alcon社のシステムは,ウルトラスリーブとナノスリーブの2種類が用意されている.このシステムは,スリーブを細く薄くし,外径を小さくしても内径をある程度確保できるようにしたこと(図8,9),チップの長年の改良により,フレアータイプのチップが開発されたこと(図10)が大きい.チップ径を細くすれば,灌流量を確保できるわけであるが,それでは超音波操作の効率が悪くなってしまう.そこで灌流が通過する創口の部分のチップ径を細くし,先端は太くしたフレアータイプのチップが用いられる.一方,AMO社のシステムは,従来から存在したラミナーフローチップ用スリーブ(図11)を用いる.このチップの外径が,Alcon社のナノスリーブとほぼ同じだったことより2.2mm程度の創口からの操作が可能になる.チップも従来のものと同じものを使用する.ただ,灌流液が通る断面積は,Alcon社のものより小さくなり,ナノスリーブでの1.9mmよりも少し広めの2.2mm程度の創口から手術を行っている術者が多い.IV眼内レンズ1.極小切開白内障手術用眼内レンズThinOptix社の眼内レンズ(図12)が,極小切開白内障用眼内レンズとして海外では市販されている(日本では認可されていない).この眼内レンズは専用のインジェクターを用いて,眼内レンズを紙巻タバコのようにロールさせて筒状にして眼内へ挿入する.2.通常の眼内レンズ現在一般に市販されている眼内レンズは,いずれも2.7mm程度以上の切開創からの挿入を前提としている.しかしながら,ちょっとした工夫を加えることにより,2mm前後の切開創からの挿入が可能になるレンズも存在する(図13a).ぎりぎりの切開幅から眼内レンズを挿入するため,鑷子で保持する入れ方では,鑷子を挿入す図90.9mmチップ用ナノスリーブ(Alcon社)1.9mmの切開から操作が可能である.図101.1mmマイクロフレアーABSチップKelmanタイプ(Alcon社)先端に比べ中ほどの部分が細くなっている.創口には,この細くなった部分が通過し,スリーブとの間のスペースを灌流液が流れる.図81.1mmチップ用ウルトラスリーブ(Alcon社)2.2mmの切開から操作が可能である.図11AMO社ラミナーフローフェイコチップと20ゲージ用スリーブ2.2mmの切開に対応できる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???(17)る分の切開創が必要となり極小切開創からの挿入はむずかしい.したがって,インジェクターを利用しての挿入が原則となる(図13b).さらに,カートリッジ全体を切開創に挿入すると,カートリッジ分の厚み分切開幅を取られてしまうので,カートリッジは先端を創口にかませる感じで押し付けて眼内レンズを挿入することが多い3).おわりに以上極小切開白内障手術を可能にしたおもな器具・機械を紹介した.この分野は,さまざまな器具が現在も開発されており,特に眼内レンズの挿入がさらに小さな切開に対応すれば,それを追い越すようにもっと小さな切開からの手術が追及されていくことと思う.今後は眼内レンズにもさまざまな付加価値が求められるので,それらの価値を高めるためにも,この手術は発展し,新たな器具が開発されていくものと思われる.文献1)常岡寛:極小切開白内障手術.??????18:372-378,20042)HaraT,HaraT:Clinicalresultsofendocapsularphaco-emulsi?cationandcompletein-the-bagintraocularlens?xation.???????????????????????13:279-286,19873)常岡寛:2mm切開時代のIOL挿入.眼科手術18:481-487,2005図13aAlcon社SA60AT(光学部径6.0mm)アクリル素材で支持部も作られているため,変形に強く強角膜切開では1.9mm程度の切開から挿入が可能である.図12ThinOptix社の眼内レンズ(ThinOptix社ホームページより)図13bインジェクター挿入に際しては,MonarchIICカートリッジ〔SA30AT(光学部5.5mm)用に開発されたもの〕を用いる.

前嚢切開の適切な大きさと作製法

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS光学部からはずれてしまう.つまり大きさだけでなく,位置と形も重要である.I前?切開の適切な大きさContinuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の形と大きさは,正円で偏心がなく眼内レンズ(IOL)光学部よりもやや小さいのがベストである(図1).したがって光学部径6.0または5.5mmのIOLを挿入する場合,5.0mm前後の直径のCCCが望ましい.そのおもな理由は,術後の前?収縮および後発白内障が少ないことである(表1).大きさが適切でも中心からずれて偏位している場合は,一部が光学部からはずれるためにその部位では前?切開縁が直接後?に癒着して,光学部エッジによる後発白内障抑制効果が得られない.このためその部分から中心に向かって後発白内障が進行してしまう.形が円形から大きく歪んでいる場合は,同様に一部が(3)???*ToshiyukiNagamoto:杏林アイセンター〔別刷請求先〕永本敏之:〒181-8611三鷹市新川6-20-2杏林アイセンター特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):425~433,2006前?切開の適切な大きさと作製法?????????????????????????????????????????????????????????????????????永本敏之*表1CCCの大きさ小さなCCC(直径3.0~4.5mm)適切なCCC(直径4.5~5.5mm)大きなCCC(直径5.5~7.0mm)作製易中難(流れやすい)術中CBS(ハイドロ)核が大きく,BSS過量注入で発生ヒーロンV?過量,核大,BSS過量で発生極まれ核処理・I/A難中易IOL挿入難易中IOL安定性良好良好不良前?収縮高頻度中まれ後発白内障高頻度まれ高頻度CBS:capsularblocksyndrome.CCC図1理想的なCCCの大きさと形IOLの光学部よりもやや小さい大きさで,形は正円であり,中心に位置しているCCCが理想的である.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006II基本的な前?切開作製法1.予定切開線を頭の中で描く(図2-①)CCCを開始する前にどれくらいの大きさにすべきかを考え,前?上の予定切開線を頭の中に描く.その際に角膜の横径が約12mm(半径6mm)であることを目安にすればどれくらいの位置に切開線がくれば直径5mm(半径2.5mm)のCCCとなるかがわかる.この予定切開線の軌道上に実際のCCCを作るのであるが,軌道上から少しでもずれたらCCCの方向を軌道修正するべく力のベクトルを変えることが重要である.2.逆「の」の字のごとく切る(図2-①)まず前?の中心から切開を始め,逆さ「の」の字を描くようにして切る.前?の中心に針を突き刺してから,直線的に切っていくが,意図した半径の半分まで進んだら,チストトームを少し深く刺し,前?を引っ掛けたまま逆V字を描くように針を動かす.そうすると切開線は逆「し」の字のように切れて円周方向に変わり,意図した切開軌道上に近いところにくる.この時点で,切れた前?を針で引っ掛けて翻転する(図2-②).つぎに翻転した前?を針先で引っ掛けて引っ張り,前?を引き裂いていく(図2-③~⑤).この際,前?上を滑らせるように動かして切り裂いていくことが重要である.最後に予定切開軌道上で切開線をつなぎCCCを完成させる(図2-⑥).III上手に作製するためのポイント1.徹照の重要性CCCの最中はずっと徹照を保つように眼位を保持する必要がある.そうすれば切開線が見やすいだけでなく,CCCの位置と形状を正しく把握できる.CCCの最中に眼位がずれてしまう原因は,ほとんどがチストトームの動かし方が悪く,サイドポートに負荷を掛けてチストトームが眼を動かしてしまっているためである.CCCの間中チストトームの位置と方向を常に微調整し,眼位を保つようにウェットラボで十分練習する必要がある.2.翻転と非翻転(図3)前?を翻転して引き裂く場合,原則として力のベクトルと切開線の方向は一致するが,実際は多少外側に流れるため多少内側に力を掛ける.つまり掛けるべき力のベ(4)①②③④⑤⑥図2CCCの作製過程①切る前に予定切開線の軌道を頭の中に描く.②中心から切開を開始し,円周の軌道に乗ったら前?フラップを翻転する.③~⑤翻転したフラップを引っ張り,円形に引き裂いていく.⑥最後に切開線をつなげて完成.①②図3翻転と非翻転の場合の力のベクトルと切開線の方向①前?を翻転:原則として力のベクトル(青矢印)と切開線の方向(赤矢印)は一致する.実際は多少外側に流れる(赤破線).そのため多少内側に力の向きを変えなければならない(青破線).②前?を翻転しない:原則として力のベクトル(青矢印)と切開線の方向(赤矢印)が直角の関係となる.実際は多少外側に流れる(赤破線).そのため多少内側に力の向きを変えなければならない(青破線).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???クトルの方向は,翻転の場合は基本的には作りたいCCCの形状に沿っていくが,実際は外側に流れようとする傾向に対抗して引き裂きたい方向よりもやや内側に向けながら引き裂いていく.前?を翻転しないで引き裂く場合は,原則として力のベクトルと切開線の方向が直角の関係となるが,実際は多少外側に流れるため多少内側に力を掛ける.つまり非翻転の場合も垂直よりもやや内側に力を掛けて引き裂いていく.どれくらい内側にするかは,流れやすさに依存するため,その場の流れ方に応じて対処しなければならない.そのためには予定切開線を頭の中であらかじめ描いておき,予定切開線に沿って切れていくように常に力の方向を修正しながら行う.3.前?切開の流れやすさ(表2)CCCが外側に流れる傾向に影響する因子は,水晶体の膨潤度,年齢,CCCの大きさ,粘弾性物質の種類と注入量,硝子体圧と前房内圧,チストトームまたは鑷子から加えられる力,CCCの進行局面などである.影響が最も大きい因子は,水晶体の膨潤度と年齢である.膨潤していると水晶体?内圧が上昇しており,流れやすくなる(図4).さらに膨潤していると切開に伴って水晶体内容が前房内に突出してくるため,切開線は周辺部へ流れる.膨潤度が非常に強い場合は,前?の中心に切開を加えただけで,あっという間に赤道部まで切開が流れてしまうこともある.年齢は,若年であればあるほど流れやすくなるが,2歳以下の乳幼児では特に流れやすい.このような非常に流れやすい症例では針によるCCCではコントロールがむずかしく,鑷子によるCCCを行う必要がある.その際は翻転にこだわらずに切開線の伸びる方向に応じて力のベクトルを臨機応変に変えていく必要がある.このため膨潤の強い場合や乳児の場合には,熟練者でないと予定どおりのCCCを完成させることは非常にむずかしい.CCCの大きさの影響は,直径が大きいほど切開線は外側に流れやすくなる(図5).このため直径6mmを超えるような大きなCCCをきれいに作ることはむずかし(5)表2CCCの流れやすさに影響する因子因子CCCの流れ水晶体の膨潤度膨潤しているほど流れる年齢若いほど流れるCCCの大きさ大きいほど流れる粘弾性物質の種類低分子量凝集型>高分子量凝集型>ビスコート?>ヒーロンV?の順に流れやすい粘弾性物質注入量少なすぎても入れすぎても流れる硝子体圧前房内圧相対的に高すぎても低すぎても流れる特に粘弾性物質流失に伴う前房内圧の急激な低下で流れるチストトーム・鑷子水晶体を押したり,前?を引っ張り上げると流れるCCCの進行局面半周手前から3/4周までが流れやすい図4水晶体内圧とCCCの流れ水晶体?内圧が高い(左黒矢印)と周辺へ向かう力のベクトル(赤矢印)が増大し,CCCは流れやすくなる.図5CCCの大きさと流れCCCが大きいと切開線の位置はより周辺部になるが,周辺に行けば行くほど水平方向の水晶体?内圧(赤矢印)が大きくなり,CCCは流れやすくなる.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006い.また周辺部に行けば行くほど流れやすくなるため,一旦CCCが流れ出すとどんどん流れてしまう.したがって膨潤白内障や小児のようにCCCが流れやすい要因が強い症例では最初は小さなCCCを作製し,水晶体内容物をある程度除去してから適切な大きさのCCCを作り直すtwostepCCC(ダブルCCC)を行ったほうが安全である(図6).粘弾性物質のCCCへの影響は,粘弾性物質の種類と注入量の両方が影響する.CCCを行う前に通常粘弾性物質で前房を全置換するが,全置換した場合の種類による流れやすさの違いは,低分子量凝集型>高分子量凝集型>ビスコート?>ヒーロンV?の順に流れやすい.注入量としては,多く入れすぎても,少なすぎてもCCCは流れやすくなってしまう.少なすぎる場合は,正常よりも眼圧が低く,前房が浅い状態になる.前房が浅いだけでもCCCはやりにくくなるが,この場合水晶体が前方に移動することによって前房が浅くなっているので,Zinn小帯から前?にかかる周辺部方向への力が増大している.さらに相対的に水晶体?内圧が上昇している.このためにCCCが流れやすくなってしまう.逆に粘弾性物質を入れすぎてしまっている場合は,正常よりも眼圧が高く,前房が深くなっている.この場合水晶体が後方に移動することで前房が深くなっており,Zinn小帯から前?にかかる力は緩んでいるので問題ないが,この状態で前房側の圧力が突然低下すると,相対的に水晶体?内圧が上がり,水晶体の内容物が前?切開部から前房内に飛び出すような動きとなり,切開線を外側に流す力となる.実際上は,粘弾性物質を入れすぎた状態でチストトームや前?鑷子でサイドポートや切開創に負荷を掛けると,粘弾性物質が勢いよく眼外に漏出し,急激に前房内圧が低下する.つまりその瞬間にCCCが外に流れてしまう(図7).このため粘弾性物質の入れすぎも好ましくない.房水と粘弾性物質を完全に置換できずに一部に房水が残った状態でCCCを行うと,房水が残っている部分にチストトームが達した時点で房水が眼外に漏出し,前房内圧が低下し,CCCが流れるため,完全置換も重要である.したがってCCC前の粘弾性物質の注入としては,術前と同じ程度の前房深度,正常眼圧になるように粘弾性物質で房水を完全置換することが重要である.またCCCが流れやすい症例ではヒーロンV?の使用を検討すべきである.さらに浅前房症例で過量注入によって前房を深くしている場合は,チストトームでサイドポートや切開創を押さないように細心の注意を払うとともに,漏出しにくい性質をもつヒーロンV?を使用したほうが(6)①②図6TwostepCCC(ダブルCCC)①まず通常の方法で小さなCCCを作製する(青線).②水晶体内容をある程度除去して,水晶体内圧を下げてから,適切な大きさのCCCを作製する.まず前?剪刀で切開(青矢印)を入れ,前?鑷子で切開線を延長する(赤矢印).①②③図7粘弾性物質漏出でCCCが流れる①前房全置換をした場合に粘弾性物質を入れすぎると,急激な粘弾性物質漏出が起こりやすい.②粘弾性物質が漏出すると(青矢印)前房が浅くなり水晶体は前方移動し(黒矢印),Zinn小帯から前?に強い張力がかかる(赤矢印).③さらに水晶体内容物が前?切開から前房に突出し(青矢印),CCCが流れる(赤矢印).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???有利である.CCC作製中の局面として流れやすいのは最初と半周前後である.CCCの開始点は通常前?中央であるが,直線的に周辺部に向かってから急激に切開線の方向を変えて円周方向にしなければならない.この急激な方向転換が上手くいかないと周辺部にそのまま流れてしまう.最初のポイントを乗り越えて,1/4周を過ぎ,半周に近づくとそれまでコンパスのごとく作用していたフラップの折れ返り線が中心の固定点を失い始めるため,切開線が周辺部に流れやすくなる(図8).ただし,3/4周を過ぎた頃になると前?を押し上げていた水晶体内容物による圧が開放されるため,周辺部に流れる傾向は多少弱まる.4.針と鑷子「針かそれとも鑷子でするべきか?」というのは,むずかしい問題である.鑷子のほうが安上がりで,CCCの基本的な原理を学びやすいので,まず針によるCCCをマスターすべきであると思われる.しかし,流れたCCCを修正するには鑷子のほうが有利であるし,高度の膨潤白内障や小児などの特殊例では鑷子によるCCCが絶対的に必要な場合もあるので,鑷子によるCCCもマスターすべきである.通常例でのCCCでは慣れているほうを使うべきであると思われる.IV針(チストトーム)によるCCC作製の実際(表3)1.27または25ゲージ針を曲げる(図9)チストトームは製品化されているものもあるが,通常はディスポ針を自分で曲げて使用する.針は27または25ゲージ針を使用するが,27ゲージ針のほうが細いため曲げやすく繊細な操作が可能である.曲げ方は,サイドポートから刺入した際に前房内操作がしやすいように曲げるということが基本である.通常は持針器の先端を使って曲げるが,筆者は針の途中が前?に触れないように図9のように2段に曲げている.針先を曲げる際に先端をつぶしてしまうと切れなくなるので,気をつけよう.針の中腹の曲げ方は,持針器の根元を使って先端から約10mmのところを45~70?曲げる.持針器の先端を使うと持針器の噛み合わせが不良となり,使い物にならなくなってしまうので気をつけよう.2.チストトームはサイドポートからチストトームを切開創から挿入するといろいろ問題が起きやすい.瞼裂が狭く眼球陥凹気味の場合は,チストトーム挿入で眼球が下転してしまい,徹照が得られなくなりやすい.さらに切開創はサイドポートより広いためチストトームで持ち上げたり押し下げたりすると簡単に粘弾性物質が流出し,前房が浅くなってしまう.このためチストトームはサイドポートから刺入したほうがよい.(7)①②③図8半周手前からのCCCの流れ①半周以前は切開開始点(黒丸)を中心とし,折れ返り線を半径としたコンパスのようにCCCができる.②しかし半周付近からコンパスの中心が前?中央からずれてしまう(白点,白矢印).このため折れ返り線の方向がずれ,CCCが流れてしまう(青矢印).③これを防ぐにはコンパスの中心と前?中心がずれないように折れ返り線の方向を常にコントロールする.約10mm45~70°20~30°図9チストトームの曲げ方———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20063.サイドポートを支点にして点対称チストトームをサイドポートから前房内に刺入した後,サイドポートを支点として点対称に動かす(図10).つまり針先を左に動かしたければ手元は右に動かし,針先を下に動かしたければ手元は上に動かし,眼球の位置が変わらないように,常に徹照状態を保つように,角膜に皺ができないように操作しなければならない.平面的な点対称ではなく,三次元的に上下方向にも点対称であることに気をつけよう.前?上を滑らせて手前から奥に行くためには,上下方向の角度を徐々に変えていかなければということも認識していなければならない(図10).針に限らず,すべての前房内操作は挿入部を支点として点対称に動かさなければならず,このことは白内障手術上達の最重要ポイントの一つであり,ウェットラボで徹底的に練習する必要がある.4.第1局面は前?フラップ作製・翻転(図11)前?の中心に針を突き刺してから,直線的に切っていくが,意図した半径の半分まで進んだら,チストトームを少し深く刺し,前?を引っ掛けたまま逆V字を描くように針を動かす.そうすると図11に示したように,前?は逆「し」の字のように切れて円周方向に切開線の方向が変わるだけでなく,意図した切開軌道上に近いところにくる.つぎの操作は,切れた前?を針で引っ掛けて翻転することである.フラップ作製から翻転まで一連の動作として行うことが望ましい.その後小休止してつぎの動作に移る.このときの手元の操作はかなり複雑であり,失敗してCCCを周辺部に流してしまいやすい局面の一つであり,ウェットラボでよく習得しておく必要がある.5.最初の直線切開の方向は9時前後この最初の直線切開を何時の方向に行うかは,術者によってかなりばらばらであるが,筆者は9時前後の方向に行っている.これは,CCCが流れて赤道部まで達してしまい引き戻すことができなくなった際に行う逆方向CCCをやりやすくするためである.この逆方向CCCの開始点はチストトームで作製するよりも前?剪刀で作製するほうが容易かつ正確であるため,12時の切開創または右手のサイドポートから挿入したやや曲の剪刀でCCCの予定軌道上に切開を加えやすいのは8時~10時の直線切開であり,これに備えて9時方向前後でCCCの最初の直線切開を行っている.6.翻転した前?を針先で引っ掛けて前?上を滑るように動かし,前?を引き裂く翻転した前?を針先で引っ掛けて引っ張り,前?を引き裂いていく.この際,下の前?に負荷を掛けることなく,翻転した前?フラップを持ち上げることなく,前?上を滑らせるように針を動かして切り裂いていくことが(8)図10点対称の動き針先と手元の動きは逆で(赤矢印),針先より手元の動きが大きい.①②図11CCCの開始針を逆V字(黒矢印)に動かすと,CCCは丸く伸びる.予定円周上まできたら翻転する.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???重要である.水晶体を押したり,フラップを持ち上げたりすると切開線は外側に流れるので,常に前?上を滑らせるようにして進める.逆に前?切開をもっと大きくしたいときは,水晶体を少し押すかフラップを少し持ち上げればよい.上手くなってきたら,一度引っ掛けたらできるだけ長く引き裂いていき,引っ掛け直す回数を減らすようにする.フラップの角近くを引っ掛けると直接的に力を掛けやすいが,押したり持ち上げたりした場合の影響も出やすい(図12).引っ掛かりにくい場合は,フラップの角から少し離れた部位を引っ掛ける.その場合は水晶体を多少押してもCCCは流れないので,少し強い力をフラップに掛けることができる.針先の方向を進行方向に変えてみるのも一つの方法である.7.第2局面は最初の1/4周(図2-②~③)最初にフラップを翻転した段階ではまだ予定軌道上に乗っていないことが多いが,この1/4周の間に意図した切開軌道上に実際の切開線を乗せる.9時方向から12時方向にCCCを延長するためには,手元を7時方向に動かし針先を11時,12時,1時と動かさなければならず(図10),これに備えてまず針の根元(手元)を7時方向にずらす.水晶体?前面に沿って針先を動かすためには徐々に針の角度を下げていく必要があり(図10),そのためには手元も下げていかなければならないことに注意する.8.第3局面は半周まで(図2-③~④)第1,2局面よりはやりやすいが,第3局面でも手元で針の角度と方向を三次元的にどんどん変えていかなければならないので,水晶体の表面をなでるように針先を動かすことをしっかり意識し,針で突き刺さないように注意.半周の地点が近づいてくるとCCCが流れ出すことにも注意.9.第4局面は残り半周(図2-④~⑥)第4局面は残りの半周であるが,CCCが外側に流れやすい.特に3/4周までが流れやすい.力のベクトルの方向に注意して流れる程度に応じて中心方向への力を加えながら引き裂いていくことが重要.予定軌道上を少しでも外れだしたら力のベクトルを少し内側に変える.その際に上手に引き裂いていくために守らなければならない要点は,①余剰の前?フラップは中心側に集めておくこと,②翻転したフラップは,常にフラップの折れ返り線が中心に向かうように力のベクトルを調整すること,③切開線近くの三角フラップが常に30?以上はきれいに伸展している状態を保つことである(図2-④~⑥).針の動かし方は,図13のように引き裂き動作に引き続いて余剰フラップを引っ掛けて小円を描くように動かし,余剰フラップが中心にくるように整理すると,折れ返り線の方向修正,フラップの伸展も同時にできる.10.第5局面は最後のつなぎ(図2-⑥)最後のつなぎの場面でも手元の針の角度と方向をかなり急激に変化させる必要があり難所の一つ.さらに翻転したフラップを引っ掛けるのが非常にむずかしくなる.このため,針先が水晶体皮質に食い込むようにフラップを押し付けて水晶体の中心方向に引っ張って切らなければならないことも多い.(9)図12針を引っ掛ける位置①フラップの角付近で引っ掛けると少し押しただけでCCCが流れる.②角から離れていれば流れない.①②①②図13余剰フラップの整理①引き裂く動作に引き続いて余剰フラップを引っ掛け,黒矢印のごとく動かし,中心に集めるように整理すると,折れ返り線の方向修正,フラップの伸展も同時にでき②のようになる.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.4,200611.最終局面は針または鑷子の抜き取りCCCが完成すると気を抜いて乱暴に針を抜く人がいるが,気をつけないと針先で前?や虹彩,角膜を引っ掛けてしまう.切開完成したCCCに前?の亀裂ができてしまっては元も子もない.針先の角度を考えてどこも傷つけないように慎重に抜き取るべきである.チストトームによるCCCの要点を表3にまとめた.V鑷子によるCCC作製の実際1.どんな鑷子がいいのか前?鑷子は種々あるが,操作中に挿入部に負荷がかかり,粘弾性物質が漏出しやすいので,前房が浅くなるだけでなくCCCが流れやすいことが欠点である.サイドポートから挿入できる河合式あるいは新池田式鑷子は,粘弾性物質漏出が起こりにくく,優れているが高価である(図14).稲村式鑷子は切開創からしか挿入できないが,クロスアクションになっているため切開創に負荷がかかりにくく,粘弾性物質漏出が比較的少なく,サイドポート用鑷子よりは,はるかに安価である.昔からあるユトラータ鑷子は,粘弾性物質漏出が多いためあまりお勧めできない.2.鑷子によるCCCも基本的には針と同じまず鑷子の先端を閉じて前?の中心に突き刺し,チストトームの場合と同様に鑷子の先端でCCCの円の半径の半分くらいを切る.続いて前?を鑷子で?んで引き裂き始めフラップを作り,翻転する.翻転した前?フラップを把持し直し,引き裂いていく.チストトームの場合と同様に前?上を滑らせるようにフラップを引っ張り,持ち上げたり水晶体を押したりしないようにする.鑷子(10)表3針(チストトーム)によるCCCの要点?チストトームはサイドポートから刺入?開始前に予定切開線を頭の中に描く(図2-①)?逆さ「の」の字を描くようにして切る(図2-①)?サイドポートを支点として針の先端と根元を点対称に動かす(図10)?前?中心に針を刺し,意図した半径の半分まで直線的に切ったら,逆V字を描くように針を動かす(図11)?翻転した前?フラップは前?上を滑らせるように動かして引き裂いていく?最初の1/4周までに軌道に乗せる(図2-②,③)?半周を過ぎてからは切開線が外側に流れやすいので,内側にベクトルを掛ける?針の動かし方は,いつも小円を描くように動かし,引き裂く動作に続いて余剰フラップの整理を行うとよい(図13)?切開線をつなげる最後の局面では,針先が水晶体皮質に食い込むようにフラップを押し付けて水晶体の中心方向に引っ張ってもよい?針の抜き取りは慎重に図14河合式前?鑷子サイドポートから挿入できるため前房安定性に優れている.図15鑷子による把持の仕方①や②では④のごとく,前?フラップにfoldを作って把持している.③では鑷子を横にして⑤のように伸びたフラップを直接把持している.いずれの場合もフラップを持ち上げずに引けば,翻転時の原理に従って引き裂くことができる.①④⑤②③———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???(11)では特に持ち上げやすいが,力の方向を変えるのも比較的簡単なので流れ出しても対処しやすい.ただし,把持の仕方が重要で,これから進むべき方向をよく考えて,それに備えた形で把持すること(図15).間違った把持の仕方をすると,フラップを持ち上げたり,捻ったりする力が加わってCCCがどんどん流れてしまう可能性がある.慣れてきたら,把持し直す回数を減らすことが時間短縮のポイント.切れ方を見ながら臨機応変にフラップを引く方向を変え,円形になるようにする.チストトームと違ってフラップの中心を保つ必要はないが,余剰フラップは中央に寄せておく.最後につなぐ場面も鑷子であれば容易である.慣れれば鑷子によるCCCのほうが短時間ででき,はるかに簡単である.また,外側に流れかけた切開線を修正するには,直接把持できる鑷子のほうが有利である.鑷子によるCCCの要点を表4にまとめた.VI前?染色成熟白内障や過熟白内障のような白色白内障では,徹照が得られないためCCCの切開線が見えにくい.この対処法としてインドシアニングリーン(ICG)やトリパンブルーによる前?染色を行うと,切開線の視認性が向上し,CCCが容易になる(図16).成熟白内障になっていなくても皮質白内障が強めの症例では,非常に有効である.また角膜混濁がある症例の場合も有効である.初心者でCCCの切開線を見失いがちの術者は,全例前?染色をしてみてもよい.詳しい方法などは,他書に譲る1).文献1)永本敏之:前?染色の方法.??????18:36-41,2004表4鑷子によるCCCの要点?鑷子の場合も,基本的には針を用いた場合と同様に翻転して前?切開を行う?把持の仕方が重要?鑷子では前?を持ち上げてしまいやすいので注意?翻転しないで前?を引き裂くこともできるが,力のベクトルを間違わないこと?外側に流れかけた切開線を修正するには,直接把持できる鑷子のほうが有利である?鑷子を切開創から挿入する場合は,切開創を押したり持ち上げたりしないことが重要?サイドポートから挿入できる鑷子を使うと粘弾性物質漏出は少ない図16トリパンブルー前?染色成熟白内障でもCCCの切開線が明瞭である.(眼科インストラクションコースNo4,白内障手術CCC完全マスター,p99の図38,メジカルビュー社,2005より許可を得て転載した)

序説:白内障手術アップデート2006

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(1)???白内障手術は水晶体超音波乳化吸引術と眼内レンズの普及により安定期を迎え,10年以上,目立った新しい話題がないかのようにとられがちであった.過去の本特集をみても,白内障全般に関する総論的な話題は,長期にわたって取り上げられていない.今回,教科書では追いつけない,2006年現在の白内障手術について,各担当の先生に,実践ですぐ使えるようにわかりやすくまとめていただいた.まず,白内障手術の成功の鍵をにぎる前?切開について,永本敏之先生に手技の基本と眼内レンズ光学部との大きさのバランス,難症例への前?染色法をまとめていただいた.以前に比べ,より良い視機能を考慮した眼内レンズが普及し,確実な?内固定による良好なセンタリングのみでなく,前?切開の大きさと眼内レンズ光学部のバランスが後発白内障抑制にも影響してくることがわかった.白内障手術切開は,さらに小さくなり2mm前後の極小切開からの手術が可能になった.黒坂大次郎先生には,極小切開を可能にした装置と器具と題して,パルスモードによる発熱抑制,スリーブの改良,眼内レンズカートリッジとインジェクターについて話題を提供していただいた.眼内レンズに関しては,近年異なった材質のみでなく,デザインから非球面眼内レンズの利点が検討されている.宮田和典先生には,シリコーンおよびアクリル眼内レンズ,従来の球面眼内レンズと非球面眼内レンズの臨床評価,および今後の動向について述べていただいた.大木孝太郎先生には,白内障手術が屈折矯正手術の範疇とされてから,特に近年の多焦点眼内レンズの導入で,方向性への確信が高まっている.多焦点眼内レンズの適応や,今後,どのようにして付加価値のある眼内レンズが普及可能かなど,アメリカの例を参考に述べていただいた.手術には合併症がつきもので,白内障手術の合併症は激減したといわれているが,ゼロになることはない.德田芳浩先生には,水晶体?拡張リングの使い方を,特にこの分野は長期の術後成績から適応が変わったともいえるので,最新の情報をまとめていただいた.また,江口秀一郎先生には,合併症がまれになったがために,うまく処置できない術者が増えているので,確実に処理できる方法,その際にあったら助かる器具などについて述べていただいた.この特集を読むことで,白内障手術の最新情報が伝わり,かつ臨床の場において実践で役立つことを著者一同祈っている.0910-1810/06/\100/頁/JCLS*HirokoBissenMiyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科●序説あたらしい眼科23(4):423,2006白内障手術アップデート2006????????????????????????????ビッセン宮島弘子*