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眼科医にすすめる100冊の本-3月の推薦図書-

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063650910-1810/06/\100/頁/JCLS成果主義とは,出された成果をもとに評価を行い,これを給料に反映させるシステムだ.よく対比されるのは年功序列主義だ.これは周知のとおり年齢やその組織にどれだけ長い間いたかによって給料が変わる.成果主義はときに能力主義と誤解されるが異なる.成果は能力と必ずしも一致するとはいえないので,能力主義とは違うものと解釈されている.古い組織イメージの年功序列よりも成果主義のほうが明らかによさそうに思えるが,実際はそう簡単ではないので,本書の存在意義がある.この本は成果主義についてサイエンティフィックにわかりやすく書かれた本であり,トップをはるリーダーには必読の本だ.トップをはるリーダーとは,教授,院長,病棟医長,外来医長,研究部長,チーフレジデント,看護部長などなど,組織やチームのトップにいる人をさす.まず僕が驚いたのは,成果主義の効果についてはまったく証拠がないという点だった.すなわち,成果で評価していってもその組織の能率が必ず上がるという保証はないのである.僕はそれまで単純に考えていて,成果を出した人,たとえば売り上げをあげた人,手術をいっぱいやった先生,論文をたくさん書いた研究者に,給料で報いるのは正当なシステムであり,それによってやる気も出て組織の活性化につながると思っていた.ところがこのシステムはすでに昭和の初期に何回も試みられて,失敗しているという.これは日本人に限ったことではなく,欧米でも同じだという.このようなシステムは外的報酬システムとよばれる.外的な報酬(賃金など)によって動機づけられて人は働くという信念のもとに作られたシステムだ.ところが,どうも人が働くモチベーションはお金ばかりではない,というか,お金はほんの少しの意味しかもたないと著者はいう.普通の生活ができる収入を保証するという意味で収入は大事であり,一定レベル以下では転職の理由になることもあるだろう.ただし,この本によれば,収入が上がるようなインセンティブがあったとしても,人は一生懸命働くわけではなく,むしろ仕事の面白さで報いられるシステムを構築したほうが進んだシステムだという.こんな実験が書かれている.大学生にパズルを解かせるという実験を行った.パズルは十分面白いもので,制限時間13分のパズルを4個解くという1時間のセッションを3回行うというものだった.セッションの間には8分間の休みを与えた.学生たちは面白いので休み時間にもパズルを解いていた.しかし,ある学生たちに1問解けるごとに1ドルの報酬を与えるようにしたところ,その学生たちは休み時間は休むようになってしまい,解けるパズルの数が減ってしまったという.これは内発的動機づけの典型例といえる.パズルを解くという達成感を得たいために学生は夢中にやっていた.ところがそこに1ドルというお金が介入してしまったために,外的報酬にまどわされてしまったのだ.本来は喜びに満ちている仕事が,お金をかせぐ手段になりさがってしまったというわけである.また,成果主義の問題には“何を成果とすべきか”という点があげられる.単純な売り上げや手術件数でのみ比較した場合,お互いをフォローしたり縁の下の力持ちをやっている人たちの成果をどのようにみていくのかがとてもむずかしい.成果を定義したとたんに,そこにばかり意識が働いてしまう.しかしながら会社や組織としては方向性を示すという意味において,また離職率を下げるという意味において(効率を上げるということではないことに注意),成果主義による外的報酬システムの整備はプラスに働くという.(85)シリーズ─63◆坪田一男慶應義塾大学医学部眼科■3月の推薦図書■虚妄の成果主義日本型年功制度復活のススメ高橋伸夫著(日経BP社)366あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006興味深いのは,成果をあげた人にはやりがいのある仕事を与えることで報いる,という考え方だ.収入という画一的なもので応えるのではなく,やりがいのあるポジションで応える.すなわち内的動機づけが思い切り発揮できる場所を提供することが報酬そのもの,おもしろい仕事自体が報酬,という考え方である.だから一生懸命やった人にはおもしろい仕事をさらに与えて,仕事自体を楽しんでもらう.なぜなら本のなかで触れられているハーズバークらによれば,「動機づけ要因は,仕事において自らの先天的能力に応じて,現実の制限のうちで,創造的でユニークな個人として自分の資質を十分に発揮したいという自己実現の個人的要求を満たすことにあるからだ」としている.すなわち仕事は,自己実現の場に他ならず,たとえば本多静六の言うように“職業の道楽化”が人生の最大幸福なら,職業と外的報酬を1対1でリンクさせてしまうのはもったいないのである.仕事はやっぱり楽しんでやるのが一番効率がいいということでしょうか.(86)☆☆☆許諾済複写物シールについてのお知らせ日本著作出版権管理システムJCLSが許諾した複写物には、許諾済複写物シールが貼付されています。日本著作出版権管理システム(JCLS)が正規に許諾した複写物のうち、①スポット契約(個人や団体の利用者が複写利用のつど事前に申告してJCLSがこれを許可する複写利用契約)の複写物②利用者による第三者への頒布を目的とした複写物③JCLSと利用契約を締結している複写事業者(ドキュメントサプライヤー=DS)が提供する複写物については、当該複写物が著作権法に基づいた正規の許諾複写物であることを証明するため、下記見本の「許諾済複写物シール」を2006年1月1日より複写物に貼付いたします。なお、社内利用を目的とした包括契約(自社の保有資料を自社で複写し、自社内で使用)分の複写物にはシール貼付の必要はありません。許諾済複写物シールについてのお問い合わせは、(株)日本著作出版権管理システム(JCLS)までお願い申し上げます。電話03-3817-5670、Fax03-3815-8199、E-mail:info@jcls.co.jpシール見本(実物は直径17mm)

硝子体手術のワンポイントアドバイス34.著名な網膜下増殖組織を有するコーツ病に対する硝子体手術(上級編)

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063630910-1810/06/\100/頁/JCLS●コーツ病の治療コーツ病は,網膜毛細血管の異常拡張,毛細血管瘤とそれに伴う滲出性網膜.離を特徴とする.本症に対する治療法としては,異常網膜血管に対する光凝固および冷凍凝固が一般的であるが,それに抵抗してしばしば高度の網膜下滲出性病変をきたした場合には硝子体手術の適応となることがある.●コーツ病に対する硝子体手術コーツ病が重症化すると,網膜硝子体界面に増殖性変化が惹起され,硝子体ゲルの収縮と相まって,網膜硝子体牽引がさらに滲出性変化を増悪させる.このような症例では硝子体手術が奏効することがある.人工的後部硝子体.離作製のみで網膜下の滲出性変化が軽減することもあるが,網膜下に多量の硬性白斑が蓄積したり,著明な線維増殖組織が形成されている重症例では網膜下手術が必要となる(図1).(83)●重症コーツ病に対する網膜下手術多量の硬性白斑や網膜下増殖組織を除去するためには,意図的裂孔作製が必要となる.しかし中途半端な大きさの意図的裂孔を後極に作製すると,増殖組織を除去するときに裂孔が拡大してしまうだけでなく,増殖組織との癒着部位が確認しづらいので,かえって網膜色素上皮の傷害が大きくなりやすい.また,増殖組織周囲の硬性白斑は非常にもろく,硝子体鑷子で把持してもちぎれやすく一塊として除去することは通常困難である.このような症例では,耳側周辺部に約120°の意図的網膜切開を行い,網膜を翻転しながら網膜下増殖組織の処理を行うほうが確実である(図2a,b).本法は一見侵襲が大きいように思うが,視野が広いので確実な手術操作が可能となり,増殖組織や硬性白斑の取り残しが少なくなり,中途半端な網膜下手術を行うより良好な予後が期待できることが多い(図3).硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載○3434著明な網膜下増殖組織を有するコーツ病に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1多量の網膜下硬性白斑に加えて線維増殖膜を伴う重症のコーツ病症例図3術後眼底写真シリコーンオイル注入下で網膜は復位し,網膜下病巣はほぼ除去されている.この後,シリコーンオイルを抜去し,現在矯正視力は0.1を保持している.図2意図的巨大裂孔作製を併用した網膜下手術著明な網膜下増殖組織および多量の硬性白斑を除去するため,耳側に意図的巨大裂孔を作製して網膜を飜転し,双手法にて増殖膜を除去する.a:術中所見,b:シェーマ.網膜網膜下増殖組織abb

眼科医のための先端医療63.降圧薬が糖尿病網膜症に効くの?-レニン-アンギオテンシン系の抑制-

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063590910-1810/06/\100/頁/JCLS大規模臨床試験では糖尿病網膜症の進展の予防には,厳格な血糖コントロールが重要です1)が,高血圧のコントロールも大切であることがUKPDS(UKProspectiveDiabetesStudy)により報告されました2).また,高血圧のない1型糖尿病患者でangiotensinconvertingenzyme(ACE)阻害薬であるlisinoprilが網膜症の進展を抑制することが報告され3),レニン.アンギオテンシン系(renin-angiotensinsystem:RAS)の抑制が正常血圧患者の網膜症の進展予防に有効であることが示されました(図1).さらに,angiotensinⅡtype1(AT1)受容体拮抗薬であるcandesartanを使用した大規模試験(TheDiabeticRetinopathyCandesartanTrials:DIRECT)が現在行われています4).この研究の目的の第一に,正常血圧の1型および2型糖尿病患者および血圧コントロールがされている2型糖尿病患者で,candesartanが網膜症の発症あるいは進展に有用であるか検討することがあげられ,血圧コントロール以外でのRASの役割に注目しています.しかし,RASと糖尿病網膜症の進展に関する機序については,いまだに十分な検討はされていません.網膜血流からみたRASと網膜症の関連糖尿病網膜症では,血管の形態変化が生じる前から網膜血流の低下が生じることが報告されています5,6).また,acetylcholineによる内皮依存性血管拡張反応も糖尿病患者では障害されています7).このような障害がACE阻害薬であるcaptoprilやAT1受容体拮抗薬であるcandesartanで予防できるかを正常血圧のstreptozotocin(STZ)誘発糖尿病ラットで検討したところ,投与群では,網膜血流が正常ラットと同等に保たれていました8).内皮依存性血管拡張反応も無治療の糖尿病ラットでは,濃度依存性に障害されていましたが,captoprilやcandesartanを投与された糖尿病ラットでは,正常ラットと同等に血管拡張反応が認められました8).これらのことから,RASの抑制は網膜症発症の機転となる網膜血流の障害を抑制し,血管反応を正常に保つことが示唆されました.これは,RASの抑制が,高血圧のない糖尿病患者で,血糖コントロールに影響を与えることなく,網膜症の進展を予防する機序の一つであることを示しています.血流維持の機序近年,糖尿病網膜でACEの発現が高値を示しangiotensinⅡの産生が局所的に高くなっていること9)や,網膜血管内皮細胞や周皮細胞でAT1受容体が発現していること10,11)が報告されています.AT1受容体の活性化は,diacylglycerol(DAG)/proteinkinaseC(PKC)経路を活性化し,血管収縮に働きます12,13).ACE阻害薬やAT1受容体拮抗薬で治療をした糖尿病ラットの網膜では,DAGの活性が正常と同レベルであったことから,RASの阻害がDAGによる血管収縮作用を抑制し,血流を保ったと考えられます8).今後の展望糖尿病では,高血糖によりポリオール代謝の亢進,PKCの活性化,後期糖化終末産物の蓄積などさまざまな糖代謝異常が生じます.これらはさまざまなサイトカ(79)◆シリーズ第63回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊堀尾直市(藤田保健衛生大学医学部眼科)降圧薬が糖尿病網膜症に効くの?─レニン.アンギオテンシン系の抑制─図1Renin-angiotensinsystem(RAS)と血管反応AngiotensinⅡは主としてangiotensinⅡtype1(AT1)受容体を介して血管収縮や血管新生に働く.ACE:angiotensinconvertingenzyme,ARB:angiotensinreceptorblocker,VEGF:vascularendothelialgrowthfacor,DAG:diacylglycerol,PKC:proteinkinaseC.AngiotensinⅠAngiotensinⅡAT1AT2EndothelinVEGFDAG/PKCSuperoxideironNitricoxide血管収縮血管新生血管拡張増殖抑制ACEARBACEinhibitor360あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006インやその受容体を介して,血管閉塞,血管透過性亢進,血管増殖を惹起します.今回は,RASの抑制がDAG/PKC経路を抑制し,網膜症発症を抑制することを中心に紹介しましたが,RASは他の経路にも深く関わっていることが報告されています.今後さらにRASの抑制が,血糖や血圧のコントロールに加えて,網膜症進行予防の重要な役割を担っていることが示されていくでしょう.文献1)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplicationsininsulin-dependentdiabetesmellitus.NEnglJMed329:977-986,19932)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Efficacyofatenololandcaptoprilinreducingriskofmacrovascularandmicrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS39.BMJ317:713-720,19983)ChaturvediN,SjolieAK,StephensonJMetal:Effectoflisinoprilonprogressionofretinopathyinnormotensivepeoplewithtype1diabetes.TheEUCLIDStudyGroup.EURODIABControlledTrialofLisinoprilinInsulin-DependentDiabetesMellitus.Lancet351:28-31,19984)ChaturvediN,SjoelieAK,SvenssonA:TheDIabeticRetinopathyCandesartanTrials(DIRECT)Programme,rationaleandstudydesign.JReninAngiotensinAldosteroneSyst3:255-261,20025)FekeGT,RivaCE:LaserDopplermeasurementsofbloodvelocityinhumanretinalvessels.JOptSocAm68:526-531,19786)BursellSE,ClermontAC,AielloLPetal:High-dosevitaminEsupplementationnormalizesretinalbloodflowandcreatinineclearanceinpatientswithtype1diabetes.DiabetesCare22:1245-1251,19997)JohnstoneMT,CreagerSJ,ScalesKMetal:Impairedendothelium-dependentvasodilationinpatientswithinsulin-dependentdiabetesmellitus.Circulation88:2510-2516,19938)HorioN,ClermontAC,AbikoAetal:AngiotensinAT(1)receptorantagonismnormalizesretinalbloodflowandacetylcholine-inducedvasodilatationinnormotensivediabeticrats.Diabetologia47:113-123,20049)OkadaY,YamanakaI,SakamotoTetal:Increasedexpressionofangiotensin-convertingenzymeinretinasofdiabeticrats.JpnJOphthalmol45:585-591,200110)OtaniA,TakagiH,SuzumaKetal:AngiotensinIIpotentiatesvascularendothelialgrowthfactor-inducedangiogenicactivityinretinalmicrocapillaryendothelialcells.CircRes82:619-628,199811)OtaniA,TakagiH,OhHetal:AngiotensinII-stimulatedvascularendothelialgrowthfactorexpressioninbovineretinalpericytes.InvestOphthalmolVisSci41:1192-1199,200012)MalhotraA,KangBP,CheungSetal:AngiotensinIIpromotesglucose-inducedactivationofcardiacproteinkinaseCisozymesandphosphorylationoftroponinI.Diabetes50:1918-1926,200113)ShibaT,InoguchiT,SportsmanJRetal:CorrelationofdiacylglycerollevelandproteinkinaseCactivityinratretinatoretinalcirculation.AmJPhysiol265:E783-793,1993(80)■「降圧薬が糖尿病網膜症に効くの?」を読んで■今回は堀尾直市先生の解説により,高血圧に対する治療薬として認可され効果をあげているレニン.アンギオテンシン系の抑制薬を糖尿病網膜症の治療薬として使用するというきわめて魅力的なアイデアについてのお話です.その臨床的な効果についてはかなりポジティブな結果が報告されつつありますが,網膜症治療における作用機序解明にはまだ研究を積み重ねることが必要であることがわかりやすく解説されております.糖尿病性腎症における効果は臨床研究で検証され確認されており,血圧降下を目的としないレニン.アンギオテンシン系の抑制薬の使用が内科領域ではトピックスとなっています.腎症と網膜症とは分子病態として似通った点もあり,レニン.アンギオテンシン系が堀尾先生の解説のように網膜症の分子病態に深く関与している可能性があります.レニン.アンギオテンシン系の抑制薬が網膜症治療薬候補として有利な点はすでにほかの疾患への適応ながら治療薬として認可され,実際の診療に使われているという実績です.適応を拡大して網膜症の治療薬として使うためには安全性,有効性を含め十分な検討が必要です.われわれ臨床医としては効果が検証できれば安全性にも期待がもてますので,臨床応用が早い時期に可能ではないかと考えます.現在,糖尿病網膜症の治療は,全身管理(高血糖,高血圧など),網膜光凝固,眼局所トリアムシノロン投与,硝子体手術などの発達により,失明を回避することはかなりの確率で可能になってきました.今後,われわれ眼科医に要求されるのは失明を防ぐ眼科医療から高度な視力を保つあたらしい眼科Vol.23,No.3,2006361眼科医療へのパラダイムシフトです.このための戦略として,①糖尿病を発症する人の数をなるべく抑制する,②糖尿病を早期発見し,早期に治療する.眼科をなるべく早期に受診させる,③糖尿病網膜症の早期発見,早期治療,が考えられます.このうち,①,②はおもに内科医が担当です.③についてはもちろん眼科医が責任をもつのですが,「早期治療」にあたる軽症網膜症の進行,悪化を防ぐための眼科独自の治療薬が必須です.今回の堀尾先生の解説は,このような糖尿病網膜症診療戦略の確立のなかできわめて重要な位置を占めるものです.山形大学医学部視覚病態学山下英俊(81)☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ159.眼のメラノーマに対する重粒子線治療

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063570910-1810/06/\100/頁/JCLS■バックグラウンド眼のメラノーマはわが国ではまれな疾患であるが,欧米では保存的治療法として陽子線治療や小線源療法が普及している.放射線医学総合研究所(放医研)では,欧米の治療法を参考に,1986年から陽子線による治療を実施してきた.その結果は欧米での治療成績と遜色がないが,2001年からはさらなる成績の向上を目指して,重粒子(炭素イオン)線による治療を開始した.重粒子線治療は,陽子線をも凌ぐ優れた線量集中性を有する放射線療法で,加えて生物学的に高い効果も持ち合わせていることから,メラノーマのような放射線抵抗性腫瘍で特にその優位性が期待できる.■新しい治療法炭素イオン線をはじめとする荷電重粒子線は,その飛程に沿ってBraggPeakとよばれる付与線量のピークを形成する(図1).このピークの位置(深さ)は,照射されるビームのエネルギーを調整することによって制御可能で,体表から病巣に至るまでの組織のCT(computerizedtomography)値から必要な入射エネルギーを求めることができる.この技術により,眼球メラノーマの治療では,病巣より深部の正常組織を照射することなく病巣に高線量を投与でき,眼球温存や視力温存を期待できる治療を行うことが可能となる.さらに炭素イオン線は粒子の質量が比較的大きいので直線性が高く,周辺へのばらつき(散乱)も小さいため,水素イオンを加速した陽子線以上に集中性の高い放射線であるといえる.■実際の治療方法眼球メラノーマに対する治療では,通常の.幹部に対する放射線治療に比べてはるかに高い精度での照射技術が要求される.視神経乳頭や黄斑,水晶体などの正常組織を可能な限り避けながら,腫瘍に高い線量を照射する必要があるため,眼窩周囲の骨との位置関係ばかりでなく,眼球そのものに対して正確な照準で照射を行う必要がある.眼球に対して適切な角度で照射を行うためには,眼球の向きを固定し,かつその向きが正しいことを治療時に確認できなければならない.そのための技術と新しい治療と検査シリーズ(77)159.眼のメラノーマに対する重粒子線治療プレゼンテーション:辻比呂志放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター病院眼科コメント:高村浩山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野図2脈絡膜メラノーマに対する炭素イオン線の線量分布(赤矢頭印は金属マーカー)図1炭素イオン線とX線の深部線量分布024681012141618200255075100深さ(cm)線量(%)X線(10MV)炭素イオン線358あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006して,小さな光源を注視することで向きを固定する方法(凝視法)が用いられる.治療時に眼球の向きを確認する方法としては,目視だけでなく,X線透視による確認も併用される.事前に眼科医により強膜表面に縫着された金属製のマーカー(チタン性リング)をX線透視画像で確認し,治療計画用CTから合成された画像との照合を行う.金属マーカーのずれが最大でも0.5mm以内になるまで修正と照合をくり返すことで,実際には0.2~0.3mm程度の精度を実現している.その線量分布の1例を図2に示す.■本方法の良い点この治療の特徴は,非常に高い精度を実現することによって,メラノーマという放射線抵抗性腫瘍に対して十分な線量の照射を可能にしている点である.現在炭素イオン線治療で用いている線量は70.0GyE/5回分割で,これは通常の1回2Gyの放射線治療では140~200Gyに相当し,広い範囲の正常組織が照射されれば,非常に重篤な有害事象を招く線量である.実際の治療結果としては,これまでに治療した55症例中,局所再発は照射領域に接する部位に再発した1例だけで,照射領域内については全例で腫瘍制御が得られている.一方,有害事象については,腫瘍の部位や大きさによって視力障害や血管新生緑内障などの発生は認められるが,潰瘍形成や組織の壊死といった重篤なものは認められない.現時点では55例中51例で眼球が温存できており,大きな腫瘍の症例ばかりを対象としていることを考慮すると,きわめて安全性の高い治療であると考えられる.今後の課題として,照射方向の自由度を増すことによる,緑内障発生のリスク低減が重要であると考えている.そのため,すでに従来の垂直ビームに加え水平ビームでの眼球腫瘍の治療を可能にする技術開発を行い,すでに実用を開始している.文献1)EggerE,SchalenbourgA,ZografosLetal:Maxinizinglocaltumorcontrolandsurvivalafterprotonbeamradiotherapyofuvealmelanoma.IntJRadiatOncolBiolPhys51:138-147,20012)GragoudasES,LaneAM,ReganSetal:Arandomizedcontrolledtrialofvaryingradiationdosesinthetreatmentofchoroidalmelanoma.ArchOphthalmol118:773-778,20003)FussM,LoredoLN,BlacharskiPAetal:Protonradiationtherapyformediumandlargechoroidalmelanoma:Preservationoftheeyeanditsfunctionality.IntJRadiatOncolBiolPhys49:1053-1059,2001(78)■本方法に対するコメント■サイズが小さい眼内メラノーマは腫瘍摘出や小線源療法などにより眼球温存や視機能温存が可能となってきている.一方,大きいサイズのメラノーマでは眼球摘出をせざるを得ない場合が多いというなかで,重粒子線治療はサイズが大きくても腫瘍の局所制御率が高く,眼球温存が可能であるという点において有効な治療法である.重粒子線治療の問題点は,治療後に眼球は温存されても視力予後が良くないことと治療後に血管新生緑内障を発症する場合があることである.腫瘍は制御されたが,緑内障のために結局,眼球を摘出せざるを得ない症例が存在する.これらは重粒子線治療が大きいサイズのメラノーマを対象としていることからある程度やむを得ないことかもしれない.もう一つの問題点は,本治療は高度先進医療として数百万円の治療費負担がかかることと,眼内メラノーマに対する本治療は現在,わが国では放射線医学総合研究所のみでしか施行されていないことである.☆☆☆

眼感染症:蛍光抗体法

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063550910-1810/06/\100/頁/JCLS■蛍光抗体法(fluorescentantibodytechnique)の測定原理蛍光抗体法は免疫組織化学法の一つで,fluoresceinisothiocyanate(FITC)などの蛍光色素を標識した抗体を用いて,抗原.抗体反応により標的となる抗原の所在を形態的に検出する方法である.特異抗体に蛍光物質が直接ラベルされている直接法と,蛍光標識二次抗体の反応を行う間接法がある.■前眼部の眼感染症における蛍光抗体法眼感染症においては病原微生物の分離培養が診断法のgoldenstandardであるが,結果が得られるまでに日数を要するのが欠点である.診断や治療の遅れによっては重症化するリスクが高い眼感染症の臨床の現場では,より早く正確な診断を行う必要があり迅速診断法として抗原検出法である蛍光抗体法や酵素免疫法(EIA),病原微生物の核酸を証明するpolymerasechainreaction(PCR)法などが臨床応用されている.近年では同時に多数の検体処理と客観的な判定が可能であるEIAや検出感度の高いPCR法がその主流となりつつある.一方,最近EIAやPCR法に取って代わられた感のある蛍光抗体法であるが,設備として蛍光顕微鏡を必要とする以外には特殊な機器や試薬を必要とせず,検査手技自体は非常に簡便であり,短時間で結果を得ることができる.病巣より直接眼脂や角結膜擦過検体を採取して塗抹標本を作製,モノクローナル抗体を用いた蛍光抗体法を施行することにより,検体中に存在する病原微生物を検出する.基本的には感度・特異度ともに優れており,民間検査機関などに依頼せずとも,自施設内で手軽に行える迅速診断法として臨床的有用度は高い.ただし,判定は検者の主観に負うところが大きく,正確な判定を行うためには鏡検技術の修得など若干トレーニングが必要である.(75)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載○34監修=大橋裕一井上幸次34.蛍光抗体法荒木博子東京女子医科大学眼科前眼部眼感染症の臨床の現場では,より早く正確な診断を下し治療を開始する必要がある.起因病原微生物の検出法として蛍光抗体法は感度・特異度ともに優れており,角膜ヘルペスなどのウイルス感染症やクラミジア感染症の診断に際し,自施設内で手軽に行える迅速診断法として臨床的有用度は高い.図1蛍光抗体法に必要な器具蛍光顕微鏡さえあれば,それ以外に必要とする器具は少なく,検査方法自体も簡便であり短時間で結果が得られる.図2樹枝状角膜炎からの角膜擦過塗抹標本のHSV-1に対する蛍光抗体法細胞全面あるいは核内に緑色の特異蛍光を発する,HSV-1感染細胞(角膜上皮)が認められる.上皮型ヘルペスの診断基準では,蛍光抗体法によるHSV-1抗原の証明は確実診断項目にあげられている.図3クラミジア結膜炎の結膜擦過物の蛍光抗体法対比染色液のエバンスブルーで赤く染色された結膜上皮の間に,点状のアップルグリーンに染まるクラミジア粒子が散在している.正常では結膜に存在しないクラミジア病原体を証明できれば確定診断となる.356あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006■具体的な手技・方法単純ヘルペスウイルス,帯状ヘルペスウイルス,クラミジア(ヘルペス1・2FA試薬「生研」R,VZV-FA試薬「生研」R,クラミジアFA試薬「生研」R,デンカ生研)やアデノウイルス(IMAGENTMAdenovirus,DAKO社)に関してはFITCで標識されたモノクローナル抗体と溶解液,封入液,コントロールスライドなどがセットになった蛍光抗体直接法のキットが販売されている.①準備する器具:落射型または透過型蛍光顕微鏡,無蛍光スライドグラス(リングマーク付),マイクロピペットなど(図1).②角結膜病変部位からスパーテル(または綿棒やMQA)で採取した細胞を無蛍光スライドガラス上に塗抹して乾燥させる.その後,アセトンを滴下して固定する.③特異抗体の試薬を30μl滴下して,乾燥しないように湿潤箱に入れて反応させる.反応条件は各々のキットや試薬にもよるが,基本的には37℃で15分間である.④反応後,余分な試薬を洗い流し,封入液で封入して蛍光顕微鏡で観察する.黄緑色に輝く特異抗原を認める細胞があれば陽性である.すぐに観察できないときには遮光して2~10℃に保存し,24時間以内に鏡検する.キットが販売されていない場合でも蛍光抗体間接法によりエンテロウイルス70の抗原検出を行うことが可能で,急性出血性結膜炎の迅速診断への応用もできる1).■角膜ヘルペス,単純ヘルペス結膜炎樹枝状角膜炎など上皮病変を擦過して得られた塗抹標本から単純ヘルペスウイルス1型抗原を検出する(図2).サンプル採取に際しては上皮欠損部ではなく,その辺縁の上皮を軽く擦過する.強く擦り過ぎて,下のBowman膜を傷つけないように注意する.単純ヘルペスウイルス結膜炎では,結膜上皮病変を伴わない場合はウイルス抗原検出率が低くなるが,眼瞼縁に皮疹がある場合には陽性率が高い2).■眼部帯状ヘルペス眼部帯状ヘルペスの場合も,皮疹の内容物や偽樹枝状角膜炎の上皮擦過物を検体として水痘.帯状ヘルペスウイルス抗原の検出が可能である.角膜病変が小さく,スパーテルなどによる検体採取が困難な場合にはimmunoblotting用のニトロセルロース膜を用いてimpression標本を作製し,そのまま蛍光抗体染色を施すことも可能である3).■クラミジア結膜炎SyvaMicroTrackRChlamydiatracomatisDirectSpecimenTest(注:以前はデイドベーリング社より購入が可能であったが,昨年より製造中止となり,現在では入手困難である.日本国内では同様のキットがデンカ生研より市販されている)はChlamydiatrachomatisの主要外膜蛋白(MOMP)に対するモノクローナル抗体に蛍光色素(FITC)を標識したもので,対比染色液にエバンスブルーを含むを蛍光抗体直接法のキットである(図3).C.trachomatisに特異的で,他のクラミジア種とは反応しない.文献1)中川尚,中川ひとみ,渡辺真由美ほか:蛍光抗体法による急性出血性結膜炎の迅速診断.眼臨86:975-978,19922)竹森美穂,中川尚,木全奈都子ほか:単純ヘルペス結膜炎におけるウイルス抗原検出.眼臨92:1073-1075,19983)荒木博子,高野博子,中川ひとみほか:Impressioncytologyによる偽樹枝状角膜炎からの水痘.帯状ヘルペスウイルス抗原の検出.眼臨86:1002-1005,1992■コメント■蛍光抗体法は著者が述べているように特異度・感度ともに高く,臨床的に非常に有用であるが,最近PCRやEIAなどの新しい技術に主役の座を奪われて,グラム染色やギムザ染色同様にやや等閑視されているきらいがある.しかし,蛍光抗体法はPCRやEIAなどと違って,私たち眼科医が「自分の目でみて診断」できるという大きな利点をもっており,内科医と違って,細隙灯顕微鏡検査や眼底検査で日夜「自分の目で見て診断」している眼科医に非常にフィットした手法であり,もっと行われてよい検査と思われる.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次(76)

緑内障:緑内障における乳頭血流

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063530910-1810/06/\100/頁/JCLS●循環障害説と眼循環測定法現在では緑内障という疾患は多因子疾患と考えられ,危険因子として眼圧や虚血要因が含まれる.緑内障の病因論として,乳頭部の循環障害が視神経障害の主因であるとする循環障害説は,眼圧上昇によって直接障害が生じるとする機械的障害説に比べると,いまだエビデンスに乏しいが,緑内障性視神経障害と視神経血流障害のあいだには有意な相関があることを示す報告は多数ある.臨床上用いることができる眼循環の測定方法としては今のところ,レーザードップラー法,レーザースペックル法,色素希釈法,超音波カラードップラー法があるが,それらの手法を用いて,正常眼と比較して原発開放隅角緑内障(POAG)および正常眼圧緑内障(NTG)患者の乳頭毛細血管の血流速度が低下していること1)や,POAG患者の乳頭辺縁および傍乳頭網膜血流が低下していること2),POAGでは網膜循環に遅延があること3),NTGでは網膜中心動脈や短後毛様動脈の血流速度が低下し血管抵抗が上昇していること4),などを示す報告が1990年代に入ってなされるようになった.●緑内障性視野障害と乳頭血流の部位別の相関その後は視野障害の部位と乳頭血流障害の部位との相関をみる研究も行われるようになり,慶應義塾大学眼科では視野障害が上方あるいは下方に限局したNTG患者における視神経乳頭血流を,上下に分けて検討した.Humphrey視野検査(中心30-2)にて,上下半視野のいずれかにパターン偏差が危険率5%で有意に低下している点が連続して3点以上あり,かつ対側半視野に感度低下を認めないNTG患者54例54眼を対象とし,スキャニングレーザードップラーフローメータ(Heidelberg(73)●連載○69緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄69.緑内障における乳頭血流木村至慶應義塾大学医学部眼科近年眼循環を測定する方法がいくつか開発され,実際の臨床において活用されるようになっているが,緑内障の病因論としての循環障害説を裏付けるエビデンスはいまだ乏しい.視神経障害と視神経血流障害の関連を示すデータは多数報告されている.本稿では,視野障害の部位と乳頭血流障害の部位との相関について若干の知見を述べたい.図1視神経乳頭血流の測定領域画角10°にて視神経乳頭を画像の中心に据え,乳頭辺縁部のflow値を上下に分けて算出した.図2両群における乳頭辺縁部flow値のS/I比S/I比は上方群が1.46,下方群が0.79であり,2群間において有意差を認めた(p<0.0001).(文献5より改変)*下方群上方群1.61.41.21.00.80.60.40.20S/I比*p<0.0001354あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006retinaflowmeter)を用いて視神経血流を上下に分けて測定し(図1),上下別の血流と視野障害との相関について検討した.乳頭辺縁上部および下部のflow値を求め,上下比(S/I比)を算出した.上方視野障害を認める群(上方群)のS/I比は1.46,下方視野障害を認める群(下方群)のそれは0.79であり,2群間において有意差を認めた(p<0.0001)(図2)5).上方視野障害を認める症例では視神経乳頭下部の血流が上部に比較して低下し,下方視野障害では乳頭上部が低下することが認められ,視野障害と視神経血流が対応していることが確かめられた.文献1)HamardP,HamardH,DufauxJetal:OpticnerveheadbloodflowusingalaserDopplervelocimeterandhaemorheologyinprimaryopenangleglaucomaandnormalpressureglaucoma.BrJOphthalmol78:449-453,19942)MichelsonG,LanghansMJ,GrohMJ:Perfusionofthejuxtapapillaryretinaandtheneuroretinalrimareainprimaryopenangleglaucoma.JGlaucoma5:91-98,19963)WolfS,ArendO,SponselWEetal:Retinalhemodynamicsusingscanninglaserophthalmoscopyandhemorheologyinchronicopen-angleglaucoma.Ophthalmology100:1561-1566,19934)HarrisA,SergottRC,SpaethGLetal:ColorDoppleranalysisofocularvesselbloodvelocityinnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol118:642-649,19945)SatoEA,OhtakeY,ShinodaKetal:Decreasedbloodflowatneuroretinalrimofopticnerveheadcorrespondswithvisualfielddeficitineyeswithnormaltensionglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol29:1-7Epubaheadofprint,2005(74)☆☆☆コンタクトレンズフィッティングテクニック【著】小玉裕司(小玉眼科医院院長)CLの処方に必要な角膜・涙液・屈折矯正・その他の知識/CLの選択/ハードCLの処方/フルオレセインパターンの判定方法と注意点/レンズデザインと角膜形状/ベベル・エッジのチェック/SCLの処方・種類・選択/CLと定期検査・眼障害/HCLの修正/修正によるHCLの苦情処理-くもり・充血・異物感・視力/SCLの苦情処理-くもり・かすみ・視力低下・異物感・眼痛・流涙・充血/乱視に対するCLの処方/ドライアイ/ラウンドコルネア/カラーCL/治療用SCL/無水晶体眼・乳幼児と小児に対するCLの処方/光彩付きCL・義眼CLの処方/ハード・ソフトタイプバイフォーカルCLの処方/HCLのカスタムメイドの処方/CLと点眼薬/CLとケア用品/●ワンポイントB5判総152頁カラー写真多数収載定価8,400円(本体8,000円+税400円)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■この本があれば,明日からのコンタクトレンズ診療は安心して出来る!株式会社

屈折矯正手術:WaveLight社製レーザー(ALLEGRETTO WAVE)と収差計

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063510910-1810/06/\100/頁/JCLSLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,今日の屈折矯正手術の中心であるが,夜間のハローやグレア,コントラスト感度低下など視力の質の低下が問題である.これらの問題はLASIK術後に起こる高次収差の増加が原因と考えられており,高次収差の増加を抑えコントラスト感度を改善するwavefront-guidedLASIK(以下,WFGLASIKと略)1,2)が注目されている.現在,市場に出ているエキシマレーザーの多くはstandardLASIKに加えWFGLASIKができるようになっており,WaveLight社製エキシマレーザーALLEGRETTOWAVEもこの一つである.ALLEGRETTOWAVEは200Hzのフライングスポットタイプのレーザーで,アクティブアイトラッキングを備えているため眼球追尾が良好である.またレーザーのOZ(オプチカルゾーン)とTZ(トリートメントゾーン)は6.5mmと9.0mmの楕円照射で大きいため,球面のみならず円柱の矯正精度がきわめて良い.現在は,ALLEGRETTOWAVEの改良型である400HzのALLEGRETTOWAVEEye-Qから,さらに最新型のALLEGRETTOWAVECONCERTOが開発され良好な初期成績が報告されている3).ALLEGRETTOWAVECONCERTOは500Hzの超高速レーザーであり,LASIKやWFGLASIKのみならず,T-CAT(topography-guidedLASIK4):Topolyzerで測定した形状に基づき行うLASIK)やF-CAT(optimaizedprolateablation5):prolateな球面を得るためのLASIK)も可能であり,わが国で初めて当院に導入された.つぎにWFGLASIKを行うためには波面(wavefront)を測定する必要がある.波面センサーの多くはHartmann-Shackセンサーであるが,ALLEGROAnalyzer(WaveLight社製)(図1)はTscherningセンサーで,あらかじめグリッドパターンにされたレーザーを網膜に投影してこの像をCCDカメラで測定する(図2)ことが特徴である.Tscherning収差計の利点は,被検者自身がグリッドの歪みを自覚できること,測定点が多く得られる情報が多いこと,収差が大きな場合も測定可能であ(71)●連載○70屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男70.WaveLight社製レーザー(ALLEGRETTOWAVE)と収差計北澤世志博神奈川クリニック眼科WaveLight社製レーザー(ALLEGRETTOWAVE)はフライングスポットタイプのレーザーで,その収差計はTscherningセンサーであることが特徴である.この収差計の結果に基づいてレーザーを照射するwavefront-guidedLASIKでは,高次収差の増加を抑えられることが最大の利点である.図1ALLEGROAnalyzer(WaveLight社製)ksaMnrettaPtoDretamilloCWm01,mn036:resaLceSm04:emitnoitaidarrIrettuhSretlifRIrofaremacDCCgningiladnagnivresborofaremacDCCnoitcetedegamistoddnakcabelbavoMehtsucofothtrofegamisodretemorrebAsneleyE図2Tscherning収差計の測定原理352あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006ることに加えて再現性が良いことである.測定されたデータは,コマ収差(C7,C8),球面収差(C12)などの各成分や三次収差(RMS3),四次収差(RMS4),五次収差(RMS5),六次収差(RMS6),全高次収差(RMSh)のほか,高次収差マップが表示される(図3).実際の手術では,ALLEGROAnalyzerからデータを3.5インチFDにexportし,さらにエキシマレーザーALLEGRETTOWAVE(図4)にimportする.ALLEGRETTOWAVEでLASIKを施行する場合の矯正限界は,球面屈折度-14D以下,円柱屈折度-6D以下であるが,WFGLASIKでは等価球面屈折度-7D以下かつ円柱屈折度-3D以下で適応範囲が少し狭くなる.実際の矯正量はALLEGROAnalyzerで測定されたwavefrontref-ractionを参考に自覚的屈折度に基づいて決定するが,球面と円柱矯正量は0.01D間隔で補正することが可能である.またレーザーのOZとTZは6.5mmと9.00mmであるが,切除深度は約1割深くなる.WFGLASIKを施行した66例132眼,球面屈折度-0.75~-7.25D(平均-3.76D)と年齢および屈折度をマッチングさせたLASIK施行例66例132眼との術後高次収差を比較した(図5).LASIKおよびWFGLASIKの三次,四次,全高次収差はそれぞれ0.39と0.36,026と0.23,0.54と0.42でWFGLASIKで有意に少なかった.また水平コマ収差もLASIKの0.09に対しWFGLASIKでは0.02と有意に少なかった.WFGLASIKはLASIKと比較して,術後裸眼視力や矯正精度に差はみられないが,高次収差の増加やコントラスト感度の低下が少なく,視力の質の向上が期待される.LASIKは単に裸眼で見えるようになる手術から,さらにその質まで追求される時代になってきているので,今後WFGLASIKがさらに普及していくことが予想される.文献1)KaisermanI,HazarbassanovR,VarssanoDetal:Contrastsensitivityafterwavefront-guidedLASIK.Ophthalmology111:454-457,20042)ReinsteinDZ,ArcherTJ,CouchDetal:Anewnightvisiondisturbancesparameterandcontrastsensitivityasindicatorsofsuccessinwavefront-guidedenhancement.JRefractSurg21:S535-S540,20053)IseliHP,MrochenM,HafeziFetal:Clinicalphotoablationwitha500-Hzscanningspotexcimerlaser.JRefractSurg20:831-834,20044)KanellopoulosAJ:Topography-guidedcustomretreatmentsinsymptomaticeyes.JRefractSurg21:S513-S518,20055)EI-DanasouryA,BainsHS:Optimizedprolatecornealablation:casereportofthefirsttreatedeye.JRefractSurg21:S598-S602,2005(72)図3ALLEGROAnalyzerで得られたデータ図4エキシマレーザーALLEGRETTOWAVE(WaveLight社製)図5LASIKとwavefront-guidedLASIKとの術後高次収差の比較三次四次五次全高次収差コマ収差(垂直)(水平)球面収差0.60.50.40.30.20.10.0-0.1-0.2-0.3屈折度(μm):LASIK:Wavefront-guidedLASIK**p<0.01**p<0.05******

眼内レンズ:Elschnig型後嚢混濁の自然消退

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063490910-1810/06/\100/頁/JCLS白内障術後に発生する後.混濁は年余において増加すると考えられているが,現在までに混濁が自然消退した症例が2例報告されている1,2).しかし,これらの報告はいずれも術中・術後経過の詳細が明らかなものではない.今回筆者らは超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術にてアクリルレンズを使用し,完全.内固定で行い,術後一旦出現したElschnig型後.混濁が術後33~56カ月までの間に消退した症例を経験した.症例は60歳,男性.2000年1月に加齢白内障に対し,眼科杉田病院にて白内障手術を行った.全身的には糖尿(69)加藤聡東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座眼科学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎235.Elschnig型後.混濁の自然消退白内障術後に発生する後.混濁は年余において増加すると考えられているが,現在までに混濁の自然消退した症例が2例報告されている.今回筆者らは,新たに術後一旦出現したElschnig型後.混濁が術後33~56カ月までの間に消退した症例を経験した.白内障術後2年以上経過した後.混濁では,混濁の減少する可能性を考慮し,Nd:YAGレーザーによる後.切開術の適応を慎重に検討すべきと考えられた.図1術後3カ月後.混濁は認められない.図2術後6カ月眼内レンズのedge効果が得られないためか,ループの根元よりわずかに混濁が出現している.図3術後12カ月後.混濁の増強を認める.図4術後19カ月ループの根元の混濁が視軸へと伸展している.図5術後33カ月眼内レンズ中央部付近にも混濁が広がるが,矯正視力良好であった.図6術後56カ月ループの根元の混濁を残す以外の後.混濁は消失した.350あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006(00)病は合併せず,局所的には軽度の近視以外,網膜色素変性症や強度近視などの白内障以外の眼合併症はなかった.術式は強角膜を小切開後,連続円形破.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)をcompleteにて行い,超音波水晶体乳化吸引,皮質吸引後,眼内レンズとしてシングルピースアクリルレンズ(AcrySofR,SA30AL,Alcon)を完全.内固定した.術中合併症はなかった.術後は副腎皮質ステロイド薬,抗菌薬,非ステロイド性抗炎症薬の点眼を術後3カ月間使用した.矯正視力は術翌日より術後経過観察期間中1.2と良好であった.後.混濁の伸展,消退の様子を図1~6に示す.術後6カ月より,眼内レンズのedge効果が少ないためか,レンズループの根元より水晶体上皮細胞の遊走により後.混濁が徐々に出現したと考えられる.術後33カ月目にはレンズ中央近くまでElschnig型後.混濁が達するも,術後33カ月以降56カ月目までの間にレンズ中央部の混濁は減少していった.現在までに白内障術後に後.混濁が減少している症例は2例報告されている1,2)が,術中から術後に後.混濁が減少しているまでの全期間の経過観察を行えているものはない.今回の症例は最近の白内障手術の主流である小切開,超音波乳化吸引術にてアクリルレンズを完全.内固定で施行したにもかかわらず,一度出現した後.混濁が減少した症例では初めてであると考えられる.今までの報告と共通している点としては,後.混濁減少の開始時期が術後2年以降の点であった.後.混濁が減少する機序1)として,水晶体上皮細胞のapoptosis,macrophageによる貪食,後.破損症例での硝子体中への水晶体上皮細胞の脱落などが考えられているが,現在でも不明な点が多い.一方,後.混濁の治療法としてはNd:YAGレーザーによる後.切開が一般的であるが,合併症として網膜.離,黄斑浮腫,眼圧上昇,前部硝子体混濁などが報告されている.それらの点も考え合わせると,今回の症例より,視力に大きな影響を与えていない後.混濁や合併症をひき起こす危険性の高い症例で,白内障術後2~3年以上経過している場合は,後.混濁が減少する可能性を考慮し,Nd:YAGレーザーによる後.切開の適応を慎重に検討すべきであると考えられる.文献1)CaballeroA,MarinJM,SalinasM:SpontaneousregressionofElschnigpearlsposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg26:779-780,20002)NakashimaY,YoshitomiF,OshikaT:RegressionofElschnigpearlsontheposteriorcapsuleinapseudophakiceye.ArchOphthalmol120:397-398,2002

コンタクトレンズ:小直径レンズ一色の日本のコンタクトレンズを考える

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063470910-1810/06/\100/頁/JCLS●レンズ直径に関する世界の現状と日本(Worldwidetrendincontactlensdiameter)1.小直径レンズによるapicalclearancefitか,大直径レンズによるalignmentfitか?,世界の流れは?まず,外国の教科書に“小直径レンズの瞼裂内挿入”についてどのように書かれているかを紹介しよう.1.StoneandPhillips編『ContactLenses』1)には,つぎのような記載がある(p.267).レンズサイズ7.00~8.00mmを使用するBayshoretechniqueは「ProbablythemostwellknownoftheInterpalpebralaperturefittingtechniques」(図1a)と紹介し…,「althoughnotnowfittedsofrequently」.現在はあまり使われないと書き加えている.2.RubenandGuillon編『ContactLensPractice』2)には(p.610)「InterpalpebralfitswerepopularwithPMMAlensesastheyresultedinsmalldiameterlensesgivingminimalcornealcoverage…」.一般的であったと過去形で紹介し,現在形でない点に注意.「astheyresultedinsmalldiameterlensesgivingminimumcornealcoverage…」,と良い点をあげているが,「Thecorrespondingabsenceofeyelidforceledtoexcessivelytightfitsinordertomaintainlenscentration」.「Thisresultedinpoorcomfortwiththelidbridgingtheupperlensedgeateachblink…」.小直径レンズの上のedgeは瞬目のたびに“上眼瞼という橋の下”を潜らねばならないので,その衝撃に耐え,ずれ落ちないように非常にtightなfitにしなければならない,と小直径レンズの致命的な弱点を指摘している.3.結論として,レンズ選定には,まずレンズのedgeを眼瞼の下に入れるように大きい直径によるextra-palpebralfit(図1b)を選ぶとしている.「Thefirstfittngprincipleisaimforalargetotaldiameterachievinganextrapalpebralfit」.(p.610)「Onaverage,atotaldiameterof9.50to9.70mmenabling…,andgoodcontrolofthelenslidinteractionisrecommended」と書かれている.4.この流れに逆行する日本の現状.日本では小直径レンズ(8.8mm)を用いるapicalclea-rancefitが大勢である.市場には大直径は十分に提供されていない.さらに最近出版された一般向けのコンタクトレンズの解説書もextraについてまったく触れていない.世界の流れに逆行する日本では最近ハードレンズ不振が論じられている.2.“涙液交換の面”で二つの技法を比較してみようレンズ内面と角膜表面の間隙の容積をVで表し,涙(67)吉川義三コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS261.小直径レンズ一色の日本のコンタクトレンズを考える図1aInterpalpebralfit小直径のレンズが瞼裂一杯におさまっている.図1bExtra-palpebralfit大直径レンズの上のedgeが上眼瞼の下に入っている.表面張力に引き上げられ,ややhighridingになっている.348あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006(00)液交換機構によって1瞬目の期間に交換される涙液量をΔVとする.涙液交換率はΔV/V+ΔVで表される.1回の瞬目によって交換される涙液量ΔVが一定と仮定すれば,涙液交換の効率はレンズ内面と角膜表面間の間隙の広いapicalclearancefitのほうが悪いのは当然である.さらに,apicalclearancefitではsecondarycurve付近の狭い領域に全重量がかかるので,この部分の涙液層は非常に薄くなり,涙液の流れが悪く,交換される涙液量ΔVが小さくなる.その結果,涙液交換率はさらに悪くなる.水門を通る流れは,小川でも時間をかければレンズ下の間隙を満たすからよいのではないかと思うかも知れないが,それは誤りである.瞬目過程は1/4秒で終わる.一瞬のうちにレンズ下に間隙を形成し,一瞬のうちに涙の流入を完成させねばならないのである.3.機械的損傷の面Apicalclearancefitでは,レンズ重量はsecondarycurve付近の狭い領域で支えられるので,レンズがこの狭い部分の角膜細胞に機械的損傷を与えることもありうる.これに対してalignmentfitでは,レンズの重さは均等に分布されるので機械的損傷を与えることはない.さらに,レンズ内面と角膜表面の間隙(V)が狭いので,涙液交換の効率はよい.文献1)StoneJ,PhillipsAJ(eds):ContactLenses.2nded,Butterworth,LondonandBoston,19802)RubenM,GuillonM(eds):ContactLensPractice.1sted,Chapman&HallMedical,London,1994

写真:Meige症候群

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063450910-1810/06/\100/頁/JCLS(65)小野眞史日本医科大学眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦262.Meige症候群図1Meige症候群患者のローズベンガル染色:眼瞼痙攣治療前76歳,女性.本症例は軽度ドライアイを伴っており,眼瞼痙攣治療前のローズベンガル染色はドライアイのパターンに酷似していた.軽度結膜充血を認め,ローズベンガルスコアは5/9.ここでは示していないがフルオレセインスコアも4/9,BUT(涙膜破壊時間)3秒でSchirmerⅠ法は1mmと,眼瞼痙攣以外はドライアイの診断項目を満たす.図2図1のシェーマ:ローズベンガル染色.図3Meige症候群患者のローズベンガル染色:眼瞼痙攣治療後本症例のボツリヌス毒素治療後,眼瞼痙攣は消失しローズベンガルスコアは1/9と明らかな改善を認めた.フルオレセインスコアも2/9と改善したが,角結膜染色以外はBUT2秒,SchirmerⅠ法は1mmと変化を認めなかった.結膜充血も改善しドライアイ点眼治療を減じた.図4本症例の眼瞼痙攣時高度な眼輪筋の攣縮により開瞼が困難となり日常生活での著しいqualityoflifeの低下を認める.開瞼困難は数秒から数十秒にわたることもあり,特に歩行,運転などに支障を生じる.346あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006(00)症例は76歳,女性.数年前から両眼の強い開瞼困難を認め,近医にてドライアイの診断で治療を受けていたが,通常のドライアイ治療に反応しなかった.細隙灯所見は図1,2に示すように,ローズベンガル染色陽性の角結膜障害を認め,ドライアイのパターンと酷似しており,フルオレセイン染色はここでは示さないが同様にドライアイ様の染色を認めた.SchirmerⅠ法は1mmとわが国のドライアイ診断基準1)を満たした.本症例の開瞼困難は眼瞼痙攣に伴うものであり,同時に顔面の表情筋の攣縮を認め,Meige症候群と診断された.通常のドライアイ治療で改善しないことから,ボツリヌス毒素注射を行い,角結膜障害は図3のように改善した.この症例では眼瞼痙攣による異常な強い瞬目運動(図4)と,軽度なドライアイの相乗効果で角結膜障害を悪化させている可能性が考えられた.眼瞼痙攣治療後はドライアイ治療の点眼薬はときに中止できる程度に減量可能であった.Meige症候群はMeigeにより1887年に発表された症候群2)で,「連続した不随意の顔面の筋緊張を認める難治性の疾患で,眼瞼痙攣と口輪筋を含む表情筋の異常運動を特徴とする症候群」とされ,部分的なジスキネジアに分類される.明らかな原因病態は不明であるが,近年脳内代謝物GABA(gamma-aminobutilicacid)や糖代謝の異常が示唆され3,4),オキュラーサーフェスとの関連では,「治療に反応しないドライアイの半数以上がMeige症候群と診断された」との報告がある5).症状は日常生活に支障をきたすような開瞼困難を認め,「まぶしい」,「眼が開けられない」という愁訴に加え,通常診療では先の図1,2に示すような角結膜上皮障害を認めることから,ドライアイとの鑑別,あるいはドライアイ合併時の診断,治療を要する症候群である.開瞼困難を生じることから重症例はきわめてqualityoflifeが低い.現在わが国ではこのMeige症候群を含む高度な両側性眼瞼痙攣と片側性顔面痙攣,痙性斜頸に対し,ボツリヌス毒素(ボトックスR)を用いた局所注射治療6)が保険適応で可能となっている.実際の投与は認定医制度となっているため,投与にあたって事前に講習を受け,認定医の資格を取得する必要がある.手技に関しての詳細は省略するが,基本的に痙攣を生じる眼輪筋の皮下,顔面筋表在部に薬液を注射する.このとき,上眼瞼挙上筋付近への注射は眼瞼下垂を生じるため極力避ける注意が必要であり,これらの実際の手技は認定講習内容に従って行う.注射時には疼痛軽減のためのリドカインテープの使用も有用である7).適応疾患に対しては著効を示すことが多く,眼瞼痙攣の特効薬として期待されている.注射後数カ月の効果が維持できる.疾患の治療予後は症例によりさまざまであるが,数年のボツリヌス毒素治療経過後,継続治療の必要がなくなる症例も認められる.文献1)島﨑潤ほか(ドライアイ研究会診断基準委員会):ドライアイの定義と診断基準.眼科37:765-770,19952)MeigeH:Lesconvulsionsdelaface,uneformecliniquedeconvulsionfaciale,bilateraleetmediane.RevNeurol(Paris)10:437-443,19103)AndersonRL,PatelBC,HoldsJBetal:Blepharospasm:past,present,andfuture.OphthalPlastReconstrSurg14:305-317,19984)SuzukiY,KiyosawaM,OhnoNetal:Glucosehypometabolisminmedialfrontalcortexofpatientswithapraxiaoflidopening.GraefesArchClinExpOphthalmol241:529-534,20035)TsubotaK,FujiharaT,KaidoMetal:DryeyeandMeige’ssyndrome.BrJOphthalmol81:439-443,19976)JankovicJ,OrmanJ:BotulinumAtoxinforcranial-cervicaldystonia:adouble-blind,placebo-controlledstudy.Neurology37:616-623,19877)OnguchiT,TakanoY,OnoMetal:Lidocainetape(Penles)reducesthepainofbotulinumtoxininjectionforMeige’ssyndrome.AmJOphthalmol138:654-655,2004