‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼科医のための先端医療66.もっと速く患者様の病因を知りたい

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSゲノム医科学の発展は眼科学に多大なインパクトを与えている近年ヒトゲノムが解読され,われわれがもつ遺伝子の染色体上の位置,構造,機能,個体差などの情報が加速度的に蓄積されています.この結果,生命の設計図であるゲノム情報を基盤として生命現象や病気を捉えようとする「ゲノム医科学」という新しい学問分野が創出されています.テレビや新聞でも「ゲノム」という語彙がしばしば飛び交っており,ゲノム医科学は21世紀の社会や医療に多大なインパクトを与えると考えられています.眼科領域でもヒトゲノム解読に伴い,疾患遺伝子座が位置する染色体領域を抽出すれば原因(疾患感受性)遺伝子を同定することが容易になったため,commondiseaseを含めた各種眼疾患の病因解明も急速に進みつつあります1,2).筆者らも九州大学病院倫理委員会の承認を得て,数年前よりおもに難治性の遺伝性眼疾患のゲノム解析を開始しました.これまでの解析を通して,角膜ジストロフィ,家族性滲出性網膜症や黄斑ジストロフィなどの遺伝性眼疾患は致死性のものが少ないため,決して少ないとはいえず,そのゲノムレベルの探索は,病態の正確な把握と診断の確定に有用であることがわかりました.したがって,患者様の同意とプライバシーに十二分に配慮したうえで,病因を把握しておくことは正しい診断,経過観察や治療方針の決定などに有用であると思われ,将来に導入される可能性がある再生医療や遺伝子治療の適応の決定にも必要となると考えます.角膜ジストロフィは近年最も原因遺伝子解明が進んだ眼疾患の1つである角膜ジストロフィは遺伝性,両眼性に角膜混濁を生じる疾患群で,近年原因遺伝子の解明が最も進んだ眼疾患群の1つです.約10年前に,角膜実質に種々の混濁を生じ,常染色体優性遺伝形式を示す顆粒状角膜ジストロフィ,格子状角膜ジストロフィ,Avellino角膜ジストロフィ,そしてReis-B?cklers角膜ジストロフィは同一の?????遺伝子の異なる変異により生じることが明らかになりました3).?????変異のホモ接合体はヘテロ接合体に比べ重症で4),角膜移植術や治療的レーザー角膜表層切除術後,早期に混濁が再発します5).また筆者らは,典型的な格子状病変のない角膜混濁を示す症例に対し,?????遺伝子解析により格子状角膜ジストロフィI型と診断しました(図1)6).このように遺伝子診断が角膜ジストロフィの診断確定に有用です7).しかしながら,実際の臨床の現場で遺伝子診断を行っている施設は現在のところ大学病院などに限られ,広く一般臨床に普及しているとはいえません.この理由の1つとして,臨床現場で運用できるような簡便,迅速な遺伝子診断法が確立されていないことがあげられます.現在筆者らは患(73)◆シリーズ第66回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊吉田茂生(九州大学大学院医学研究院眼科学分野)もっと速く患者様の病因を知りたい図1非典型的な所見を示す角膜ジストロフィの前眼部写真格子状病変をもたない角膜混濁を示した患者に?????遺伝子解析を行ったところ,格子状角膜ジストロフィI型に特徴的な変異を同定した.左:右眼,右:左眼.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006者様のゲノム解析にはおもにPCR(polymerasechainreaction)?ダイレクトシークエンス法を用いていますが,まだ高価で,労力も少ないとはいえず,改善の余地があると考えています.今ある基礎技術を臨床に応用し,角膜ジストロフィを迅速,正確に診断できた筆者らはこれまでの報告と同様に8),九州地方でも,?????のエキソン4と12が変異の好発部位であることを確認しました9).特にエキソン4の隣り合う塩基の変異で格子状角膜ジストロフィとAvellino角膜ジストロフィを生じるため,この部位をターゲットとして,迅速診断システムを構築できないか試みました10).近年のゲノム医科学研究の進展に伴い,既知の遺伝子型を迅速かつハイスループットで解析(タイピング)する方法として,マイクロアレイ法,Invader法,TaqManPCR法,HybridizationProbe法,MALDI-TOF/MS法など数多く開発されてきていますが,このうちLightCy-clerを使用したHybridizationProbe法に着目しました.本法では,2本の蛍光プローブによりPCRの各サイクルで蛍光をモニターし,遺伝子型のリアルタイム検出を行うことで,精度の高い遺伝子診断が可能です.また,PCR後の電気泳動は不要なため,迅速,簡便で,チューブ交換によるサンプルの取り違えや,コンタミネーションの危険もありません.筆者らはまず,?????のエキソン4と12を増幅するプライマーを設計し,おのおののPCR産物の配列内にハイブリダイズするような3?端をフルオレセインでラベルしたプローブと5?端を????????蛍光色素でラベルしたプローブを設計しました(図2A).それぞれのプライマーとプローブを1本のキャピラリーに混合し,PCR法で増幅後,蛍光シグナルをモニターしながら,温度をゆっくりと上げて融解曲線解析を行いました.すなわち,ある高温に達するとまずTm値(融解温度:プローブとその相補鎖との間で形成されるDNAハイブリッドの安定性を特徴づける)の低いほうのプローブが(74)水正常BA418G>Aホモ(Arg124His)417C>Tヘテロ(Arg124Cys)418G>Aヘテロ(Arg124His)Temperature(℃)Fluorescence-d(F2/F1)/dT5?3????????5?3????????????????????????????cggctahu変異検出プローブアンカープローブ図2LightCyclerPCRを用いた角膜ジストロフィの迅速診断システムA:?????遺伝子エキソン4のプライマーとプローブデザインの模式図.B:?????遺伝子エキソン4の融解曲線解析.野生型ホモ接合体,変異型ホモ接合体,ヘテロ接合体の判別は,融解曲線における蛍光強度の一次微分のピーク値(Tm値)を用いた.野生型に特徴的なTm値のみを示した場合は正常,変異型に特徴的なTm値のみを示した場合は変異型ホモ接合体,両方のピークを示したときはヘテロ接合体であると診断できた.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???のではないかと考えています.文献1)吉田茂生,山地陽子,桑原留美ほか:遺伝子診療学14.眼科疾患(福嶋義光編).日本臨牀63(臨増):264-268,20052)吉田茂生:加齢黄斑変性の分子遺伝学.臨眼58:2063-2068,20043)MunierFL,KorvatskaE,DjemaiAetal:Kerato-epithe-linmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophies.?????????15:247-251,19974)MashimaY,KonishiM,NakamuraYetal:SevereformofjuvenilecornealstromaldystrophywithhomozygousR124Hmutationinthekeratoepithelingenein?veJapa-nesepatients.???????????????82:1280-1284,19985)InoueT,WatanabeH,YamamotoSetal:RecurrenceofcornealdystrophyresultingfromanR124HBig-h3muta-tionafterphototherapeutickeratectomy.??????21:570-573,20026)YoshidaS,YoshidaA,NakaoSetal:Latticecornealdys-trophytypeIwithouttypicallatticelines:roleofmuta-tionalanalysis.???????????????137:586-588,20047)YoshidaS,KumanoY,YoshidaAetal:Twobrotherswithgelatinousdrop-likedystrophyatdi?erentstagesofthedisease:roleofmutationalanalysis.???????????????133:830-832,20028)MashimaY,YamamotoS,InoueYetal:AssociationofautosomaldominantlyinheritedcornealdystrophieswithBIGH3genemutationsinJapan.???????????????130:516-517,20009)YoshidaS,KumanoY,YoshidaAetal:AnanalysisofBIGH3mutationsinpatientswithcornealdystrophiesintheKyushudistrictofJapan.????????????????46:469-471,200210)YoshidaS,YamajiY,YoshidaAetal:RapidgenotypingformostcommonTGFBImutationswithreal-timepoly-merasechainreaction.?????????116:518-524,2005解離し,フルオレセインと????????の距離が離れるため蛍光強度が急激に低下します.DNAハイブリッドにミスマッチが存在すると,完全にマッチした配列よりも解離しやすくなり,Tm値がより低い値となるため,各PCR産物のプローブに対するTm値の差から遺伝子型を検出できます.融解曲線解析で,各遺伝子型(418G>A,417C>T,1710C>T,および野生型)は異なる融解ピーク温度によって検討した66例全例で明確に区別でき,ダイレクトシークエンスによる結果と100%一致しました(図2B).血液採取から解析終了までの所要時間は約1時間30分で,PCR-ダイレクトシークエンス法が丸1日以上かかるのに比べると,迅速性や労力,コスト面で優れていると考えました.本法は正確であるため,現在日常の臨床診断に用いています.本システムにより,非典型的な臨床所見を示す?????関連角膜ジストロフィの正確な診断,?????関連角膜ジストロフィと紛らわしい角膜疾患における除外診断,さらに遺伝性角膜ジストロフィのゲノム解析に基づいた疾患単位の再分類がより容易になると考えています.現在ヒト幹細胞についての捏造疑惑が世間を騒がせており,科学者のモラルが問われていますが,これは,現代科学が実力以上に背伸びをしすぎている一面を反映しているのかもしれません.ゲノム解読を背景にした情報・技術基盤は確実に増加しており,今できる技術を有効に活用し,少しでも多くの患者様の病因をより迅速,正確に把握し,小さくても着実に前進していくことは,近未来のよりよい眼科医療に向けた,意外な近道になる(75)■「もっと速く患者様の病因を知りたい」を読んで■今回は遺伝子診断の実用化を目指す取り組みについて九州大学の吉田茂生先生にわかりやすく解説していただきました.遺伝子診断についてはこのコラムでも過去に多くの取り組みを取り上げてきましたが,検査法自体がかなりややこしく敬遠されることも多かったと思います.吉田先生は日常臨床のレベルを上げるために遺伝子診断が特別の検査法でなく,日常診療の一環として行える検査法にするために如何に効率的に遺伝子異常を検索するシステムをつくるかという先生の取り組みを紹介していただいています.われわれ臨床眼科医が貧血の有無,血糖値などを直接に測定する機会はかなり少なく,患者から採血ののち検査室に検体を送って結果を読むことで,患者の治療を行っています.これと同じような手間で遺伝子診断ができるためには,検査法が簡便になりコストを極力下げる必要があり,近年の分子生物学の進んだ技術は低コストで大量のデータ処理ができる検査システムを構築しつつあることが吉田先生の総説からよくわかります.今後はこのような検査を行い,検査結果の解釈までを医師,患者に返す医療事業が発展すると考えられます.その際に注意すべきことは,遺伝子情報のもつ意味を厳しく判断して正しく患者に伝えることです.?????の遺伝子異常により角膜ジストロフィの診断をすることはかなり近未来でできると考えられますが,その意義———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006☆☆☆(76)づけはかなりはっきりとしています.しかし,今後問題になる生活習慣病のような多因子遺伝性疾患は多くの遺伝子が関与していると考えられています.ある疾患と関連する多くの遺伝子の多型は統計学的に関連のある組み合わせを示すことは可能ですが,それがどのような臨床的な意義,意味をもつのかはまだ未解明の問題も多く,実用化にはまだ時間が必要です.しかし,このような多因子遺伝の遺伝子多型の情報からある疾患の危険性(ある遺伝子型をもっていると○○○○○になりやすいといった解釈)が出始めているのも事実です.これについてはある人の将来を予言することにもなるため,その人の人生を狂わせてしまうかもしれません.遺伝子医療に携わるわれわれ医師はこのことの重大性をいつも認識しつつ科学にまじめに向かいあうことが求められています.このような時代だからこそ高い倫理性が求められていると考えます.山形大学医学部視覚病態学山下英俊

新しい治療と検査シリーズ162.Conductive Keratoplasty

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド角膜に何らかの方法で熱を与え,その形状および屈折力を変化させる手術は角膜熱形成術と総称され,100年以上前から多くの方法が提唱されてきた.しかし,いずれの方法も「創傷治癒の障害」や「効果の戻り」などの問題を解決できず普及には至らなかった1).Mendezら2)によって開発されたConductiveKerato-plasty(CK)(Refractec社)は,角膜熱形成術のうち現在最も注目される方法であり,これまでの術式よりも良好な結果が期待されている(図1).?新しい治療法角膜熱形成術に関する過去の研究から,十分な手術の効果を得るためのポイントは,コラーゲンが収縮しつつ融解しない最適な温度(50~60℃)と,十分な組織深達度を得ることとされている.CKでは,低エネルギー,高周波の電流を,角膜実質に刺入した長さ450?m,直径90?mのプローブ(Keratoplasttip)の先端から流す.するとプローブから流れる電流に対し角膜実質が抵抗として働き,角膜実質に熱作用を及ぼす.この熱作用によるスポットを角膜周辺部にリング状に作製すると,ベルトを縮めるような効果が生じ,角膜中央部をスティープ化させることが可能となる.CKは2002年4月に+0.75Dから+3.00Dの遠視矯正への適応3)が,2004年3月にはモノビジョンによる老視矯正への適応4)が,それぞれアメリカのFDA(食品医薬品局)により認可されている.?実際の手術法点眼麻酔をした角膜上にCK専用マーカーでマーキングを行う.マーキングされた位置に,それぞれ専用プローブを垂直に刺入する.ここで刺入部が深く陥凹するほどプローブの先端に力を加えないように注意する.この状態を保ちながらフットペダルを踏むと,刺入部周囲の狭い範囲に,熱作用による白いスポット(leukoma)が形成されるのが認められる(図2).現在の標準的なノモグラムによれば,光学径6,7,8mmのうち1つに8スポット,または2つの光学径に各新しい治療と検査シリーズ(71)162.ConductiveKeratoplastyプレゼンテーション:伊藤光登志南青山アイクリニックコメント:坂西良彦坂西眼科医院図1CK手術器械の写真(Refractec社)器械本体,フットスイッチ,プローブ(Keratoplasttip),開瞼器,マーカーなどからなる.図2CK術後1日の前眼部写真目標矯正量+1.00Dを得るため,光学径8mm部分に計8個のスポットを作製した.治療スポットの白斑(leukoma)は術後早期には顕著であるが,術後1カ月頃にかけて退色していく.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,20068スポット(計16スポット)をリング状に配置することにより,+1.00D,+1.75D,+2.50D,+3.50Dの4種類の矯正度数が選べる.乱視矯正のノモグラムはまだ確立されていないが,角膜トポグラフィで確認されたフラットな軸上にスポットを配置する.非対称なスポットの配置により不正乱視の矯正も可能であるとされる5).?本法の利点LASIK(laser???????keratomileusis)と比較した場合,フラップをつくらず角膜中心部に侵襲を加えないため,安全性が高いうえに,視力の質的な側面が損なわれにくい.具体的には,LASIKによる遠視矯正でときどき生じる「矯正視力の低下」が起こりにくいと考えられる.今後期待されるCKの適応としては,LASIKやPRK(photorefractivekeratectomy)後に老視矯正を必要とする症例や,遠視の追加矯正を必要としながら,エキシマレーザーによる追加手術のリスクが高い症例などがあげられる.たとえば,初回手術でフラップの合併症を生じた場合や,残存角膜厚が薄い場合などである5).さらに,白内障術後の遠視,老視矯正などへの適応も広がるであろう.文献1)伊藤光登志:laserthermalkeratoplasty(LTK).眼科診療プラクティス36,屈折矯正手術の正しい進め方,p102-103,文光堂,19982)MendezA,MendezNobleA:Conductivekeratoplastyforthecorrectionofhyperopia.SurgeryforHyperopiaandPresbyopia(edbySherN),p163-171,WilliamsandWilkins,Philadelphia,19973)McDonaldMB,HershPS,MancheEEetal:ConductiveKeratoplastyUnitedStatesInvestigatorsGroup.Conduc-tivekeratoplastyforthecorrectionoflowtomoderatehyperopia:U.S.clinicaltrial1-yearresultson355eyes.?????????????109:1978-1989,20024)McDonaldMB,DurrieD,AsbellPetal:Treatmentofpresbyopiawithconductivekeratoplasty:six-monthresultsofthe1-yearUnitedStatesFDAclinicaltrial.???????23:661-668,20045)HershPS,FryKL,ChandrashekharRetal:ConductivekeratoplastytotreatcomplicationsofLASIKandphotore-fractivekeratectomy.?????????????112:1941-1947,2005(72)?本方法に対するコメント?ConductiveKeratoplasty(CK)は近年,老視の治療法の1つとして注目されているが,以下のような問題点がある.①術後早期の過矯正:術後早期に過矯正となる症例があり,患者は遠方視力低下を訴える.②術後疼痛:術当日強度の疼痛を訴える症例がある.③惹起乱視:不均一な穿刺やセンタリング不良により惹起乱視が出現することがあるが,多くは次第に軽快する.場合によってはenhancementが必要になる.④ノモグラム:Milneのノモグラムを用いて行った自験例初期連続10眼において±0.5Dに収まった症例は60%(術後3カ月)に過ぎず,多数症例による検討が必要である.⑤ラーニングカーブ:一見容易そうな手技であるが,本手術にはラーニングカーブが存在する.しかしCKの一番の利点は致命的な合併症がないことであり,遠視,老視のみならず,他の屈折矯正手術後の過矯正,円錐角膜,乱視に対する治療などへの応用の可能性がある.☆☆☆

涙点プラグ:BUT短縮タイプに対する涙点プラグ治療のコツ-上下のプラグ挿入を行い、後で抜く必要性について-

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS涙点プラグはドライアイの治療に大変有効であると考えられている.しかし,BUT(涙液層破壊時間)短縮タイプのドライアイでは涙液分泌量は正常であり,また角膜上皮障害は非常に軽度,あるいはまったく認められないことより,眼不定愁訴として治療薬も処方されずに対処される場合も少なくない.BUT短縮型ドライアイの特徴として,検査所見が乏しいにもかかわらず,眼の乾燥感,しょぼしょぼする,眼が開けられない,何となく見づらいなどの自覚症状は比較的強い.原因としては,マイボーム腺機能不全による涙液油層の異常やアレルギー性結膜炎,結膜弛緩症などがあげられ,その治療法として防腐剤無添加人工涙液の点眼やヒアルロン酸点眼に加え,抗炎症目的に低濃度のステロイド点眼が薦められる.しかし点眼治療で自覚症状の改善が認められない症例に対して,筆者は涙点プラグの挿入を試みている.十分なプラグ効果を得るには上下涙点へのプラグ挿入が望ましく,また「涙の溜まる感覚」を患者に自覚してもらうためにも最初から上下両方にプラグを挿入している.涙点プラグの挿入にあたり大切なことは,患者に十分なムンテラを行うことである.説明には一般的なプラグの挿入方法や合併症に加え,上下片方のプラグ挿入では十分なプラグ効果が得られないことより上下涙点へのプラグ挿入を行うこと,また合併症として流涙を生じる可能性があり,その場合には片方どちらかのプラグ除去により流涙は改善することを説明する.実際の症例を示す.症例1は79歳,男性,眼精疲労,かすみ目を主訴に受診した.右眼矯正視力は1.2,Schirmer値は11mm,ティアークリアランス4倍,BUT3秒,生体染色はフルオレセイン,ローズベンガルともに陰性であった.また,実用視力測定では実用視力0.355,視力維持率0.81(69)涙点プラグセミナー監修/坪田一男海道美奈子慶應義塾大学医学部眼科3.BUT短縮タイプに対する涙点プラグ治療のコツ─上下のプラグ挿入を行い,後で抜く必要性について─BUT(涙液層破壊時間)短縮型ドライアイは検査所見が乏しいにもかかわらず,眼の乾燥感や見づらいなどの自覚症状は比較的強い.防腐剤無添加人工涙液やヒアルロン酸点眼で十分な効果が得られない場合には上下涙点へのプラグ挿入が有効であり,視機能の向上にもつながる.流涙を生じる場合には片方のプラグ除去で自覚症状の改善が得られる.ホワイトメディカル提供図1a症例1の涙点プラグ挿入前従来の視力1.2に対し,実用視力0.355,視力維持率0.81と低下が認められる.図1b症例1の涙点プラグ挿入後実用視力,視力維持率ともに改善している.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006(00)であった(図1a).上下涙点にプラグを挿入1週間後の矯正視力は1.0,Schirmer値は3mm,ティアークリアランス32倍,BUT6秒となり,自覚症状にも改善が認められた.さらに,実用視力では実用視力0.740,視力維持率0.95と改善していた.本症例において,従来の視力測定では患者の訴えているかすみ目を検出することはできなかったが,実用視力の測定によりかすみ目の他覚的評価が可能であった.さらに,上下のプラグ挿入により従来の視力値はほぼ同程度であるにもかかわらず,自覚症状の改善に伴い実用視力は0.355から0.740と改善している(図1b).症例2は79歳,男性,流涙を主訴に受診した.BUT3秒で短縮していたため,上下涙点へのプラグ挿入を行ったが,自覚症状は改善せず,実用視力と視力維持率においても改善は認められなかった.涙点プラグにより下眼瞼メニスカスは過剰に増加し,これに伴い瞬目直後の角膜トポグラフィーのカラーコードマップで下方に局所的に急峻化した帯状の暖色部を生じ(図2a),またドライアイ観察装置DR-1?で同部位に一致した涙液油層の乱れが認められた(図2b).自覚症状や実用視力の改善が認められなかったことは,これらの検査所見に裏づけられると考えられる.症例2は下方プラグの除去により自覚症状は改善している.BUT短縮タイプのドライアイは軽症であると認識され,積極的な治療が行われないことも多いが,上下への涙点プラグ挿入は自覚症状の改善とともに,視機能の向上にもつながる有効な治療法と考えられる.文献1)KojimaT,IshidaR,DogruMetal:Anewnoninvasivetearstabilityanalysissystemfortheassessmentofdryeyes.?????????????????????????45:1369-1374,20042)IshidaR,KojimaT,DogruMetal:Theapplicationofanewcontinuousfunctionalvisualacuitymeasurementsys-temindryeyesyndrome.???????????????139:253-258,2005図2a症例2の涙点プラグ挿入後の角膜トポグラフィー涙点プラグによる下眼瞼メニスカスの過剰な増加に伴い,下方に局所的に急峻化した帯状の暖色部が認められる.図2b症例2の涙点プラグ挿入後のDR-1?角膜トポグラフィーのカラーコードマップの帯状の暖色部に一致した部位に涙液油層の乱れが認められる.

眼感染症:クラミジア検査

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS経験豊かな眼科医ではない場合,初期のクラミジア結膜炎はウイルス性結膜炎との鑑別診断で苦渋する.患者背景,経過には特徴があり,臨床症状の注意深い観察に基づく臨床診断が最も重要である.検査には抗原検査と抗体検査がある.抗原検査には分離培養法,直接蛍光抗体法,免疫クロマトグラフィー法,酵素抗体法,遺伝子検出法がある.いずれにおいても迅速性と感度を兼ね備えたものはない.検査に補佐されながら経験を重ね臨床診断力を身につけていくことが望ましい.■抗体検査法表1に代表的な検査法の種類とその特徴を示す.?????????????????????は性感染症の代表的な原因菌であり,その一つの表現形としてクラミジア結膜炎や咽頭炎がある.クラミジア結膜炎では本人あるいはパートナーのクラミジア性感染症が活動性である場合が多い.感染時期を推定する意味でIgGに加えてIgMの測定を行う.性器感染では活動性の指標とされているIgAは,結膜炎での測定意義は見いだされてない.日常生活で感染することはまれであるために血清中の特異抗体の測定には意義がある.クラミジア感染症では,本人に加えパートナーの検査・治療も同時に行うことが重要である.パートナーは付き合いのつもりで眼科を受診し,いきなり性器からの抗原検索では抵抗がある.特異抗体測定で問題となるのは?????????????との交差反応である.?????????????は肺炎クラミジアとよばれ,??????????????と異なり成人では約半数が抗体を保有している.各種抗体測定法のなかではヒタザイム・クラミジア?,ペプタイド・クラミジア?ともに特異性には優れているが,判定の明確さではダイナミックレンジの広いヒタザイムが勝る.表1にあげた検査法に加えて補体結合法もあるが,現在では使用されることは少ない.■抗原検査法代表的な検査法を表2に示す.迅速性を求めるならば直接蛍光抗体法か免疫クロマトグラフィー法を選択する.免疫クロマトグラフィー法は抽出用緩衝液と80℃で10分間の反応が必要である.直接蛍光抗体法は理論上1粒子存在すれば検出可能だが,反応操作が煩雑かつ蛍光顕微鏡が必要であり,判定には熟練が必要である.酵素抗体法は遺伝子検出法に比較して所要時間が短いものの感度は低く,もはや選択される理由はない.遺伝子検査法は感度と特異性が高く依頼検査の際には第一選択となる.現在,LCR(ligasechainreaction)法が撤退し,SDA(stranddisplacementampli?cation)法とPCR(polymerasechainreaction)法で検査可能である.実験室データに基づく公称感度に差はあるが,臨床検体を(67)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次37.クラミジア検査伊藤典彦横浜市立大学医学部眼科クラミジアは数パーセントではあるが急性濾胞性角結膜炎のなかに必ず潜んでおり,アデノウイルスやヘルペスウイルスとの鑑別が重要である.クラミジアに対する特異抗体を通常は保有していないので抗体の測定にも意義がある.抗原検査では迅速な蛍光抗体法や免疫クロマトグラフィー法を用いた検査,また感度は高いが時間を要するPCR(polymerasechainreaction)法やLCR(ligasechainreaction)法を用いた遺伝子増幅検査が選択される.表1クラミジア抗体検査法原理商品名サブクラス使用抗原所要時間特徴間接蛍光抗体法試薬自家調整IgG,A,M精製基本小体3時間判定に熟練要酵素抗体法ヒタザイム・クラミジア?(日立化成)IgG,A,M外膜蛋白複合体2.5時間判定が明確ペプタイド・クラミジア?(明治乳業)IgG,A合成ペプチド2.5時間偽陽性多い———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006対象とした感度は同等である.検査の際,アデノウイルスとヘルペスウイルスとの鑑別が重要な目的である.直接蛍光抗体法,免疫クロマトグラフィー法,酵素抗体法,遺伝子検出法ではクラミジアの有無は判定可能だが,両ウイルスとの鑑別は行うことができない.表3に示すごとく分離培養法では複数の細胞株を組み合わせることで,クラミジアだけではなくアデノウイルスやヘルペスウイルスを同時に検出することが可能である.さらに,分離培養法では分離した病原体を株として保存,分与し,微生物学的性状解析が可能となる.このように感染性結膜炎の微生物学としては有用な分離培養法であるが,判定までに1週間は必要であり,なおかつ保険適用がない.市中病院では困難であっても大学病院では分離培養法を併行して行うことを励行されたい.現在,ウイルスの分離培養に最も長けているのはSRL社で,クラミジアの分離培養は受注していないが,表3に示す細胞株を取り揃えており,アデノウイルスやヘルペスウイルスなどの依頼検査は可能である.文献1)中川尚:ウイルス性結膜炎のガイドライン.第4章検査,日眼会誌107:17-23,2003(68)■コメント■クラミジアは眼科領域での頻度はそれほどでもないが,特に近年,性感染症として蔓延してきており,それに対応するためにこれだけ多くの種類の検査が利用できるわけである.頻度が低いと,診断に確信をもてず,そのため,性器感染や,感染の機会やパートナーについての問診も十分にできない(この手の問診は特にわれわれ眼科医は苦手である)が,これらの検査でクラミジアであることを確かめればより自信をもって問診ができ,適切な治療につなげることができる.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次表2抗原検査法原理商品名感度所要時間特徴分離培養法試薬自家調整酵素抗体法と同等1週間微生物学の基本直接蛍光抗体法クラミジアFA試薬生研?(デンカ生研)1EB(理論値)30分判定に熟練要免疫クロマトグラフィー法Clearview?Chlamydia(日本シェーリング)104EBs30分簡便だが低感度酵素抗体法IDEIAPCE?Chlamydia(DAKO)102EBs2時間遺伝子検出に劣る遺伝子検出法SDA法BDプローブテックET?(日本ベクトン・ディッキンソン)3×101EBs3時間高感度,省力PCR法アンプリコア?STD-1(Roche)2EBs5時間高感度表3細胞株感受性細胞株名由来クラミジアADVHSVVZVCMVHeLa229*Hela○McCoy*マウス○PHfbヒト包皮○○○○MRC-5胎児肺○○○○A549ヒト肺癌○○HEp-2ヒト喉頭癌○293ヒト胎児腎○*SRL社で外注は不可.ADV:アデノウイルス,HSV:単純ヘルペスウイルス,VZV:水痘・帯状疱疹ウイルス,CMV:サイトメガロウイルス.☆☆☆

緑内障:隅角癒着解離術用補助リングの開発

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS■2つのランドマークSchwalbe線と強膜岬隅角癒着解離術1,2)では2つのランドマーク,Schwal-be線と強膜岬の確認が重要である(図1).癒着解離を始める前にSchwalbe線の辺りに散在する茶色い色素沈着と虹彩前癒着部位を確認し,癒着解離の後に強膜岬の白いラインの露出で十分に?離できたことを確認する.いずれも隅角構造が十分に視認できることが重要である.■強膜圧迫法隅角が2倍の大きさに視認性の向上のために2000年より,輪部から2mm後方の強膜をレンズ鑷子で圧迫する強膜圧迫法3)を用いている.この方法の特徴は,隅角の構造が約2倍の大きさに見えることである.したがって,2つのランドマーク,Schwalbe線と強膜岬の確認が容易になる.視認性向上のメカニズムは,圧迫により隅角が深くなり,かつ角膜曲率が小さくなる,つまり隅角構造が変化するためであることを,超音波生体顕微鏡(UBM)を用いて確認した.老人環や角膜ジストロフィなどの角膜混濁で隅角観察が困難な症例においても,圧迫の程度を変化させ,より透明な角膜の部位を通して隅角を視認することが可能である(図2).小角膜・小眼球の癒着性閉塞隅角緑内障では角膜内皮面の反射により隅角観察が困難な場合があるが,圧迫し角膜曲率が変化することにより隅角構造が容易に視認できる(図3).(65)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄72.隅角癒着解離術用補助リングの開発高梨泰至松江赤十字病院眼科隅角癒着解離術において,輪部より2mm後方の強膜を圧迫する強膜圧迫法を用いると隅角の視認性を向上させることができるが,助手の介助が必須であった.隅角プリズムを角膜上に保持する補助リングを開発することにより,術者が独立して隅角癒着解離術を安全に行うことが可能になった.図1隅角癒着解離術Schwalbe線周囲の茶色い色素沈着と強膜岬の白いラインが明瞭に観察される.図2角膜ジストロフィ症例角膜混濁のため隅角構造不明だが(a),強膜圧迫にて強膜岬が確認できた(b).ba図3小角膜症例角膜内皮面の反射により隅角不詳だが(a),強膜圧迫にてSchwalbe線が確認できた(b).ba———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006従来,視認性を得るために,牽引糸の設置による眼球回転,患者の頭位の変換,45?以上の顕微鏡のあおりなどが用いられ,手術のセッティングに煩雑な面があった.また癒着解離の範囲も270?程度であった.本法では,牽引糸や患者の協力が必要なく,顕微鏡のあおりも少なく,より容易になっている.術者が座る位置を変えることにより360?の癒着解離が可能である.虹彩前癒着が残存すると,解離部位との境界部位から虫這い様に再癒着が起こる.本法では術後の再癒着が他の報告に比べ少ないが,完全な癒着解離が効を奏している可能性がある.■補助リングの開発強膜圧迫法を用いて隅角癒着解離術を行う場合,術者はゴニオプリズムと癒着解離針を操作するため,圧迫は助手が行わなければならなかった.したがって,術者は圧迫の部位と程度を詳細に助手に伝えなければならないし,助手にも熟練が求められた.そこで,術者が独立して手術を行えるように,ゴニオプリズムを角膜上に保持する補助リングをオキュラー社の協力で開発した(図4).ダブル・リング構造で,下の大きめのリングは眼球上に接し,上の小さめのリングはThorpeレンズ(ルミナス,サンタ・クララ,カリフォルニア)を固定する.上と下のリングは2本の支柱で連結されている.Thor-peレンズが補助リングで角膜上に保持されているので,術者は強膜をレンズ鑷子で圧迫しながら癒着解離針を操作することが可能になった.つまり,助手の介助なしに手術を遂行できるようになり,従前の欠点を克服できた.■新たな適応トラベクレクトミーの術後で順調に経過観察していたが,ある日ブレブが消失し眼圧上昇していた.隅角検査により,虹彩切除した虹彩根部が流出路に陥入していた.上方の癒着解離は従来困難だが,強膜圧迫法を用いて隅角癒着解離を行ったところ,ブレブは再建され眼圧も正常化した(図5).トラベクレクトミー,非穿孔性トラベクレクトミー,ビスコカナロストミーなどの流出路再建術で虹彩根部が閉塞した際は,本法が有用な症例もあると考えられる.文献1)CampbellDG,VellaA:Moderngoniosynechialysisforthetreatmentofsynechialangle-closureglaucoma.??????????????91:1052-1060,19842)永田誠,禰津直久:隅角癒着解離術第1報.臨眼39:707-710,19853)TakanashiT,MasudaH,TanitoMetal:Scleralindenta-tionoptimizesvisualizationofanteriorchamberangledur-inggoniosynechialysis.??????????14:293-298,2005(66)図5トラベクレクトミー後の虹彩嵌頓症例ブレブ消失・眼圧上昇していたが,強膜圧迫法を用いた隅角癒着解離を行い,ブレブは再建され眼圧も正常化した.図4補助リング補助リングを開瞼器の下に滑り込ませ(a),Thorpeレンズを角膜上に保持し(b),輪部から2mm後方の強膜をレンズ鑷子で圧迫する(c).bac

屈折矯正手術:Iris Registrationの実際

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●Irisregistrationとは波面収差解析装置とエキシマレーザーに付属している赤外線カメラで各眼の虹彩を撮影し,各々で撮影した虹彩紋理を照合し,そのずれを回旋の角度として認識し,レーザー照射時に調整する仕組みがirisregistration(IR)である.AMO社の波面収差解析装置WaveScanとエキシマレーザーSTARS4に新しく加わった機能である.LASIK(laser???????keratomileusis)が屈折矯正手術の主流であるが,仰臥位になったとき,座位と比べて眼球が回旋することが知られており,実際の手術でもその様子が観察されることさえある.近年の波面収差解析結果を導入したwavefront-guidedLASIKでは,術前の精密な高次収差解析結果をもとに?m単位でエキシマレーザー照射するわけだが,波面収差解析時の眼位と,手術時の眼位が異なれば,せっかくの精密な解析結果が有効に利用されないことになってしまう.これを解決すべく,今まで,術前に細隙灯顕微鏡下,ピオクタニンなどで角膜輪部付近の3時-9時の位置にマーキングし,エキシマレーザー照射時に水平線を合わせるといったことが行われていたが,実際に回旋した状態を頭位で合わせるのは容易でなかった.乱視が強い例でのLASIK,特にwavefront-guidedLASIKでは,IRによる良好な成果が期待されている.●術前のチェックWaveScanで撮影された画像から虹彩紋理を24カ所解析する(図1).この時点で,虹彩の模様によっては認識されにくい例があり,今のところ,24カ所認識できない場合は,IRが使えない.また,以前からレーザー照射中の眼球の動きを輪部の位置を使って自動追従する眼追従装置(アイトラッカー)があるが,IRにおいては,この角膜輪部の認識も不可欠である.WaveScanでの測定時に認識された角膜輪部(ピンク色のリング)が実際の輪部に一致しているか確認する(図2).虹彩に縦方向の模様があったりすると,これを輪部として認識することがあるので,画面上の確認が必要である.●エキシマレーザー照射時の操作虹彩紋理の認識は,LASIKでフラップを作製した後,(63)●連載?屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男73.IrisRegistrationの実際ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科Irisregistrationは,波面収差解析時の虹彩紋理と,実際にエキシマレーザー照射をするときの虹彩紋理を合わせる装置で,眼球の回旋を修正することで,より正確なエキシマレーザー照射が可能になることが期待されている.図1赤外線カメラで撮影された画像から認識された24カ所の虹彩紋理図2IR機能のついたWaveScanでの解析画像(ピンク色の線が角膜輪部)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006角膜照射面を露出してからになる.WaveScan検査は暗順応後であるから,レーザー照射時も,なるべく瞳孔径が大きくなるよう,レーザー装置に付随している顕微鏡の光量を下げる必要がある.瞳孔径をまったく同じ大きさにすることはむずかしいが,ある程度の瞳孔径で測定可能である(図3).レーザー照射前,24カ所認識された虹彩紋理のうち20カ所以上解析できれば操作可能である.解析は通常数秒以内に終了する.ただし,5カ所以上解析できない場合は,エラーとなり,IR機能なしでの照射となる.●術後成績当院での照射データでは0.5~4.6?の間で回旋補正されている.術後の矯正効果は,理論上,IR機能を使ったほうが良好になるわけだが,視力や収差解析結果で明らかな違いがでるほどではない.ただし,輪部と虹彩紋理のダブルで位置を認識するため,予期せぬ照射中心のずれは減少するはずで,安全面での効果が期待されている.●今後の可能性現在は,照射前に位置を合わせ,照射中,IRは使われていないが,すでに照射中に虹彩紋理で追従する機能が臨床応用の段階に入っている.これにより,さらに正確な位置での照射が可能になる.現在のwavefront-guidedLASIKによる術後成績が非常に良好なため,IRのような付加価値がついても,その違いを術後視力などで実感することはむずかしい.しかし,術前検査がここまで精密になっていれば,当然レーザー照射時にもその精密性は追求されるべきである.現在,術前の検査段階でIRが可能な例と不可能な例,術前にはIRが可能であったのに,実際の手術でIRが不可能な例が存在する.また,新しい機能が追加されると,検査時間や手術時間が延長する傾向にある.今後,さらに改良が進み,ほぼ全例でIRが可能となり,簡便なシステムで手術が可能となることが期待される.(64)図3エキシマレーザー照射時のモニター画面緑色の四角が虹彩紋理を認識している.この例では1.8?の回旋を補正.☆☆☆

眼内レンズ:改良型カプセルエキスパンダー

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●従来型カプセルエキスパンダーの使用法従来型カプセルエキスパンダー1~3)はナイロンでできており,柔らかいため変形し,症例に応じ曲げることもできる.使用方法は,continuouscurvilinearcapsulor-rhexis(CCC)作製後,あらかじめ水晶体?と水晶体の間に粘弾性物質を注入し,カプセルエキスパンダー挿入を容易にしておく.つぎに角膜輪部の小切開創からカプセルエキスパンダーを前房に挿入する.鉤の先端部分は2mmのT字型をしているにもかかわらず,非常に柔らかいためそのまま折れ曲がり,スムーズに前房に挿入することができる.T字型の先端部が水晶体?の赤道部に当たるように引く距離を調節して,創口外の固定器で動かないように留めておく(図1).カプセルエキスパンダーは,1/4象限以下の部分的なZinn小帯断裂では1~2カ所から,ほぼ全周に近いZinn小帯断裂や水晶体動揺を認めるような重度のZinn小帯脆弱例では4~6カ所から設置する.設置後は,通常の方法で超音波水晶体乳化吸引術(PEA)を行う.眼内レンズ(IOL)は,Zinn小帯断裂の程度に応じて,片方のループまたは両方のループを毛様溝に縫着して固定する.IOL縫着後,水晶体?は除去,前部硝子体は必要に応じ,硝子体カッターで切除する.(61)小澤忠彦小沢眼科内科病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎238.改良型カプセルエキスパンダーZinn小帯脆弱例,超音波水晶体乳化吸引術(PEA)の補助器具としてカプセルエキスパンダーが開発された.本器具は,水晶体?を支持しながら水晶体?赤道部を拡張するといった,虹彩リトラクターとリングの両方の利点を兼ね備えている.今回は柄の部分を金属製にし,さらに操作性を向上させた改良型について紹介する.図2改良型カプセルエキスパンダー柄の部分が金属製となっている.図1従来型カプセルエキスパンダー4カ所設置の様子図3改良型カプセルエキスパンダー4カ所設置の様子小瞳孔の場合,虹彩リトラクターとして設置し,CCC完成後カプセルエキスパンダーの先端を?内へ設置する.(中村丹雄先生御考案)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006(00)●改良型カプセルエキスパンダーの使用例従来型では,フレキシブルで眼内への出し入れが容易などの利点をもっている.しかし,柄の部分まで柔らかすぎるため,眼外から柄の部分を操作しても,カプセルエキスパンダーの先端をCCCの下に進ませることが困難なことを経験した.このような場合,別にフックを挿入し,このフックで先端部分を押さえつけるなどの工夫が必要であった.そこで,先端部はそのままで,柄の一部分を金属製とした改良型を製作した(図2).実際の使用感は,眼外から金属製の柄の部分を操作するだけで,カプセルエキスパンダーの先端をCCCの下に容易に進ませることができ,操作性は向上した.しかし,持ち手が金属製のため取り扱い時に滑ったり,飛び跳ねたりすることがあった.これらも,慎重に取り扱うことで対応できる程度のものである.また,従来型では柄から止め具の部分がずれることがあったが,改良型ではずれることがなくなった(図3).●まとめZinn小帯脆弱症例に対する白内障手術は,硬い核で高度の水晶体動揺や広範囲にZinn小帯の断裂がみられる症例ではICCE(?内摘出術)が適応となる.軟らかい核で範囲の狭い断裂例ではPEAが考慮される.また水晶体偽落屑症群,レーザー虹彩切開術後などでは,CCCのときに水晶体が異常に揺れることで手術中になって,初めてZinn小帯脆弱に気づくことがある.このような症例にPEAを行う場合には虹彩リトラクター4)や,リング5)などの補助器具を併用するのが有用とされてきたが,最近ではカプセルエキスパンダーを選択する術者も増えてきている.どの補助器具を使用しても難症例には変わりなく,手術に際しては,どの時期においても危険や困難を感じたらICCEへの変更を早めに決断するなど,無理は禁物である.改良型カプセルエキスパンダーにより,従来型のCCCの切開窓から鉤が外れやすい,挿入が困難などの欠点が改善されたことは朗報である.最後に,カプセルエキスパンダーの対象となるような症例には重篤なZinn小帯脆弱(断裂)例も含まれ「怪しいときはIOLを縫着して固定する」ことが大切であることを強調したい.この際,厄介なIOL縫着でも後?が残っているため硝子体脱出や硝子体牽引がなく,安心して手術を行うことができる.文献1)谷口重雄:カプセルエキスパンダー.??????18:82-83,20042)小澤忠彦:カプセルエキスパンダーを用いたZinn小帯脆弱例の超音波白内障手術.あたらしい眼科21:773-774,20043)小澤忠彦:Zinn小帯脆弱症例の超音波白内障手術におけるカプセルエキスパンダーの試作.臨眼59:333-339,20054)MerriamJC,ZhengL:Irishooksforphacoemulsi?cationofthesubluxatedlens.???????????????????????23:1295-1297,19975)CionniRJ,OsherRH:Endocapsularringapproachtothesubluxatedcataractouslens.???????????????????????21:245-249,1995

コンタクトレンズ:コンタクトレンズによる障害(全国障害調査)

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSコンタクトレンズ(CL)装用者の10人中1人に眼障害が生じていると推測されている1).1991年,使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)が市販され装用者が急増し,装用人口は全国で約1,500万人といわれている.1994年のCL装用者は867万人であり,2002年は1,463万人と増加している(図1)2).それに伴い,CLによる眼障害は増加している.今回,CLによる眼障害につき述べる.●CL装用者の約10人中1人は眼障害日本眼科医会(日眼医)の「CLによる眼障害アンケート調査」結果によると,CL眼障害者は,平成13年(2001年)3月までの1年間に68,045件3),平成15年(2003年)1~2月の2カ月間に26,137件であり1),類推すると1年間に約156,800件となる.アンケート回収率(10.4%)から推計すると,全国では1年間に約150万件が推計される.日眼医に属していない医療機関の報告はないため,さらに多くの眼障害者が推計される.CL装用者が約1,500万人であることから,CL装用者の約10人に1人の割合で眼障害が起こっていることが推計される.●CL量販店・メガネ店隣接診療所のCL処方は眼障害が多い日本コンタクトレンズ協議会(日本CL学会・日本眼科医会・日本CL協会)が行ったCLによる眼障害アンケート調査4)は,母集団を特定した日眼医に所属する46施設において,平成13年10月の1カ月間に受診したすべてのCL装用者に行った.CL装用者4,974名のなかでCL眼障害者は413名であった.その処方施設を図2に示す.CL装用者は眼科診療所・病院77.8%,CL量販店隣接診療所14.4%,メガネ店隣接診療所5.8%,その他2.0%であった.CL眼障害者は眼科診療所と病院53.7%,CL量販店隣接診療所26.2%,メガネ店隣接診療所15.7%,その他4.4%であった.眼科診療所・病院では装用者に比し,眼障害者は少ないが,CL量販店とメガネ店隣接診療所は装用者に比し,それぞれ約2~3倍の眼障害者を示す.日眼医に属した施設での調査のため,CL装用者は眼科診療所・病院で多く,CL量販店やメガネ店隣接診療所の多くは日眼医に属していないために少ない.CL量販店とメガネ店隣接診療所での処方は眼障害が多い傾向が推計される.診療・処方・処方後のケアの3つを適切に行う眼科専門医にCL処方を受けることが,眼障害予防の重要なステップである.●連続装用使い捨てレンズ装用者の眼障害発症率が高い表1のように,ハードコンタクトレンズ(HCL)よりSCLは障害が多く,なかでも1週間連続装用使い捨てSCLの年間発症率が高い4).2週間交換SCLは使用期限を守らない,不十分なケア方法などがある.●CL眼障害の原因眼障害の原因には,酸素不足,感染,レンズの汚れ,機械的刺激,アレルギー,ドライアイなどがある.要因(59)宇津見義一宇津見眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS264.コンタクトレンズによる障害(全国障害調査)図1CL装用者ディスポ系SCL;1週間連続装用SCL,2週間交換SCL,毎日使い捨てSCL.(2003年版矢野経済研究所流通動向調査より)867836311,4638675960ディスポ系SCL従来型SCL総計装用者(万人):2002年:1994年1,6001,4001,2001,00080060040020014.426.25.815.777.853.72.04.40%CL眼障害者413名CL装用者4,974名:量販店隣接診療所:メガネ店隣接診療所:眼科診療所・病院:その他100%80%60%40%20%図2CL処方施設の割合日本コンタクトレンズ協議会コンタクトレンズ眼障害調査小委員会(糸井素純,植田喜一,宇津見義一,吉田博,岡野憲二):平成13年10月松本市・下関市・城陽市・横浜市における46施設内の全CL装用者の眼障害調査報告より.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006(00)としては,長時間装用,洗浄不良などレンズの使用方法に問題がある場合,レンズの汚れ・キズ・劣化・破損などCL自体に問題がある場合,定期検査などのフォローアップ不適,説明指導・処方ケアが不適切な場合などがある1).●眼障害患者の6割は適切な定期検査を受けずCL眼障害を起こした人では,3カ月に1回の定期検査を受けているのは40.1%1).眼障害を起こした人のうち6割の人が定期検査を受診していない.CLを装用して異常がなくても定期検査を受けると,度数やカーブ,デザインが合っていないケースは多い.眼障害やCLのキズ・変形・変色や,汚れが付着している場合がある.異常がなくても,3カ月に一度は,定期的に検査を受けることが重要である.●CL眼障害の種類眼障害は図3のように,アレルギー性結膜炎26.5%,点状表層角膜症19.2%,角膜上皮びらん14.5%の順であり,角膜潰瘍は3.3%であった1).文献1)日本眼科医会医療対策部(吉田博):コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成14年度).日本の眼科75:219-222,20042)コンタクトレンズの製品タイプ別市場規模推移:2003年版矢野経済研究所コンタクトレンズ&用剤に関する小売流通動向調査,p70-86,20033)日本眼科医会医療対策部(吉田博):コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成12年度).日本の眼科72:1341-1344,20014)日本コンタクトレンズ協議会CL眼障害調査小委員会(糸井素純,植田喜一,宇津見義一,吉田博,岡野憲二):コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査.日本の眼科74:497-507,2003表1CLによる眼障害の発症率(レンズの種類別)CL眼障害件数年間CL眼障害数(推定)CL装用者年間発症率ガス(酸素)透過性HCL1301,56027,9365.6%従来型SCL1021,22410,99111.1%1日使い捨てSCL222648,0923.3%1週間連続装用使い捨てSCL67248115.0%2週間交換SCL1531,83619,1719.6%合計4134,95666,6717.4%日本コンタクトレンズ協議会コンタクトレンズ眼障害調査小委員会(糸井素純,植田喜一,宇津見義一,吉田博,岡野憲二):平成13年10月松本市・下関市・城陽市・横浜市における46施設内の全CL装用者の眼障害調査報告より.6.3%7.4%26.5%11.4%19.2%14.5%1.5%6.2%3.3%4.3%0.7%1.6%2.4%1.2%4.2%毛様充血巨大乳頭結膜炎アレルギー性結膜炎乾性角結膜炎点状表層角膜症角膜上皮びらん角膜浮腫角膜浸潤角膜潰瘍角膜新生血管虹彩炎角膜内皮細胞減少低矯正過矯正その他01,0002,0003,0004,000件数5,0006,0007,000図3眼障害の診断名(n=26,137)(重複あり)CLによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(日本眼科医会,平成14年度)より.

写真:青色強膜(Blue sclera)

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(57)黒田紀子千葉県こども病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦265.青色強膜(bluesclera)②②③①④④②図2図1のシェーマ①:角膜輪部.②:強膜全体に一様に見られる青色強膜.③:角膜輪部周囲にわずかに見られる輪状に残存している白色の強膜(Sat-urnring)が存在する.④:下眼瞼睫毛.図1両眼の青色強膜(7歳,女児)骨形成不全症Ⅰ型の女児.両眼の強膜は全体的に青色を呈している.角膜輪部周囲はわずかに白色部分を輪状に残している.くり返す大腿骨骨折の既往あり.外斜視を認め,7歳時に斜視手術を行ったが,その後現在まで視力,眼位,両眼視機能は良好で正常な視機能を保っている.図3図1の細隙灯顕微鏡所見角膜輪部に沿って,白色部分のSaturnringの存在と青色強膜が見られる.角膜の菲薄化は現在まで認められていない.図4大腿骨骨折による変形(5歳,男児)乳児期より大腿骨骨折をくり返している.骨折部位の変形が見られる.青色強膜が見られ,骨形成不全症Ⅰ型に分類されている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006(00)青色強膜(bluesclera)は両眼の強膜がびまん性に青く見える状態をいう1).これは強膜自体が青色に変化しているのではなく,本来の白色の強膜が青色に見えている状態である.その原因は遺伝的素因による発育異常のためコラーゲン線維の異常があり,強膜の厚さが正常の強膜に比べ薄く,背後に存在するぶどう膜の色素が透見されるためである.正常でも乳児は強膜の厚みが薄かったり,先天緑内障による眼球拡大が生ずると青味を帯びたりすることもあるが,本症は通常生涯変わらず,視機能異常がないとされている.強膜と同様に角膜も菲薄化し,正常の1/2から1/3の厚みとなり,Chanらは形態学的に細いコラーゲン線維の欠損があると報告している2).角膜輪部に接した部分は背後に色素に富んだぶどう膜が存在しないため,青色を呈さず本来の白さが見られ,Saturnringとよばれる輪状の白色強膜が存在する.青色強膜自体は視機能的には異常がないが,角膜菲薄化が存在し,巨大角膜や円錐角膜が見られることもある.一般に全身疾患に合併して見られることが多い.青色強膜を生ずる疾患として,最も多いのが骨形成不全症である.骨,耳,眼,歯,関節などに障害が見られる常染色体優性遺伝形式をとる疾患で,Ⅰ型よりⅣ型に分類される3).このうちⅠ型,Ⅱ型には青色強膜が見られる.特にⅠ型は最も多く見られる型で,臨床症状は比較的軽度のものから中等度のものまであり,強膜は一生涯を通じて青色を呈する.Ⅲ型,Ⅳ型は出生直後には青色を呈していても,成長するに従い色は薄くなり正常の白色となる.いろいろな型で眼球硬性が低くなっている場合もある.vanderHorve症候群はLobstein症候群ともいわれ,骨形成不全,青色強膜,難聴を三主徴とする疾患で,常染色体優性遺伝形式をとる.中胚葉組織の形成不全が見られ,幼児期に骨折を生じやすく,伝音性難聴,強膜菲薄化により青色強膜が見られる.その他の眼症状として円錐角膜,球状角膜,小角膜なども見られる4).Ehlers-Danlos症候群のⅥ型も,青色強膜が見られる疾患である.脆弱な皮膚,関節の過可動などが見られ,コラーゲンの先天代謝異常によって発症する.皮膚の過伸展があり,ビロード状で些細な外力によっても裂けやすい.眼症状は青色強膜以外に,円錐角膜,小角膜,水晶体偏位,後部胎生環,まれにはわずかな外力により眼球破裂,網膜?離,硝子体出血などを伴うことがあるとされている5).他に,青色強膜を伴う全身疾患としては,Haller-mann-Strei?症候群,Lowe症候群,Marfan症候群などがある.文献1)田淵昭雄:青色強膜.小児眼科アトラス(山本節編),p52-53,診断と治療社,19952)ChanCC,GreenWR,delaCruzZCetal:Ocular?ndingsinosteogenesisimperfecta.????????????????100:1458-1463,19823)SillenceDO,RimoinDL:Classi?cationofosteogenesisimperfecta.??????1:1041-1042,19784)大西克明:Lobstein症候群(vanderHoeve症候群タイプⅡ).眼科診療プラクティス25,眼と全身病ガイド,p168,文光堂,19965)高橋次郎:Ehlers-Danlos症候群.眼科診療プラクティス25,眼と全身病ガイド,p67,文光堂,1996

交代性上斜位の治療方法

2006年6月30日 金曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSより顕性化しやすい.いずれの場合にも,遮閉眼は単に上転するのではなく,外方回旋しながらやや外上方または内上方に偏位する.また,遮閉を除去して戻る際の下転運動は内方回旋を伴う.遮閉?遮閉除去試験ではこの戻り運動はゆっくり進行するが,交代遮閉試験では固視交代が起こるため,迅速な戻り運動になる.一方,僚眼は遮閉?遮閉除去試験では通常,固視を持続して動かないが,交代遮閉試験では遮閉の移動の際に両眼共同運動により一旦,下転した後,正位に戻る場合と正位を過ぎて上転運動のみられる場合がある.通常,DVDは両眼交代性にみられるが,上方偏位の程度は左右眼で異なることが多く,片眼のみ顕性化している場合もある.日によって,あるいは,環境や検査条件により偏位の程度や左右眼の状態に変化がみられることも多い.DVDの出現に影響する検査条件,状況を表はじめに交代性上斜位(dissociatedverticaldeviation:DVD)は片眼が固視を外れて上転した後,再び下転して正位またはもとの斜視の眼位に戻る眼球運動を基本的動作とし,これが日常的に両眼交代性にみられる病態である.両眼視の状態から片眼を完全に遮閉または遮閉膜などで部分遮閉すると上転が誘発されることから上斜位とよばれ,上下斜視と異なり交代性に非固視眼は常に上転する.DVDは運動性融像の不全が原因とされ,乳児内斜視など早期発症の斜視に合併する頻度が高いが他の水平斜視でもみられ,上下斜視を合併する例も多い.さらに,斜筋の異常も高率にみられ,下斜筋や上斜筋の過動による眼球運動の非共同性が運動性融像の障害因子と考えられる.まれに顕性斜視を伴わない例もある.いずれの場合にも眼位が不安定で両眼視機能も不良であることが多い.DVDを完治させることはむずかしく,治療はあくまで融像の改善が目標であり,結果的に両眼視機能が向上することを期待している.このため,眼位矯正や共同性眼球運動の回復を優先したうえで,DVD自体の治療,つまり,上転運動の軽減を手術計画することになる.IDVDの診断1.DVDの眼球運動片眼の遮閉?遮閉除去試験,交代遮閉試験ともにDVDの眼球運動は観察可能であるが,交代遮閉試験のほうが(51)???*KojiNomura:兵庫県立こども病院眼科〔別刷請求先〕野村耕治:〒654-0081神戸市須磨区高倉台1-1-1兵庫県立こども病院眼科特集●もっと知りたい,斜視・弱視あたらしい眼科23(6):749~754,2006交代性上斜位の治療方法???????????????????????????????????????????野村耕治*表1DVDの出現に影響する検査条件,状況DVDが顕在化しやすい検査条件および状況片眼の遮閉片眼に光を当てる遠方の小さな視標を注視させる頭部傾斜試験戸外やまぶしい環境疲れているときや眠いとき斜視の顕性化DVDが潜在化しやすい状況近方視させる融像が阻害される条件や環境でDVDは顕性化しやすい.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.6,20061に示す.2.大型弱視鏡によるDVDの誘発両眼分離検査である大型弱視鏡はDVDの検出に有用である.視力に合わせてできるだけ小さい視標,固視可能であれば中心窩視標を使用し,かつ,左右眼に異形の視標を提示する.顕性斜視がある場合は自覚的斜視角を検出後,その角度で少し長めに両眼固視させると片眼が固視を外れて上転する動きが観察される.上転が出現しない場合は一方の視標(優位眼がはっきりしている場合は優位眼に提示した視標)を点滅させてその眼の固視を意識させるとDVDが誘発される場合がある.上転した眼の鏡筒を上方に動かし再度,視標を固視させることで上方偏位を定量できる.片眼の上転によりDVDの可能性が示唆された場合,小休止を取った後に,今度は先の検査で上転した眼の視標を点滅させるなどして固視を意識させ,僚眼の上転がみられるか否か観察するとともに,DVDの動きがみられた場合はその偏位角を定量する.IIDVDの治療1.DVDの治療方針a.顕性斜視を伴うDVDの治療DVDは乳児内斜視や間欠性外斜視,調節性内斜視などの水平斜視に合併することが多い.手術や眼鏡装用により正位または斜位となり融像が安定するとともにDVDが潜在化する場合がある.このため,合併する顕性斜視の治療を優先するのが原則である.しかし,実際には斜視の治療後もDVDに改善がみられない場合が多い.このような例は融像が不安定で斜視角にも変動がみられるなど両眼視機能が不良なため,DVD自体の治療を積極的に考慮する.上下斜視を合併する場合は上斜筋麻痺や先天Brown症候群など眼球の共同運動に障害があるものについてはまず,これら斜筋異常の矯正手術を行い,術後もDVDがみられる場合に治療を考慮する.ただし,下斜筋過動については後述するように,DVDの手術自体に下斜筋過動の矯正が含まれるため術式の選択に関係する.斜筋異常のない上下斜視についても偏位角が10Δ以上ある場合は上斜視眼に対する上直筋後転を先行し,上下偏位角が10Δ以下の例についてはDVDの治療を優先する.この際,下斜視眼の上直筋後転量を減量するか否かは治療者により方針が分かれるが,筆者は原則,両眼とも最大量の後転としている.b.顕性斜視を伴わないDVDの治療両眼視機能が良好な例,上方偏位が軽度で整容の希望がない場合は経過観察する.しかし,DVD症例の多くが顕性斜視を伴わずとも眼位の不安定性や両眼視機能の不良を呈し,DVD自体の治療適応である.図1に自験例の治療経過を示す.術後,上転運動は軽減,同時に下斜筋過動の消失による共同性眼球運動の回復と水平眼位の改善をみた.2.DVDの手術治療a.術式の選択筆者はDVDの手術に上転軽減の最大効果を期待して(52)図1顕性斜視を伴わないDVDの治療経過4歳4カ月,女児主訴:頻回に片眼が上転視力:VD=1.0,VS=1.0調節麻痺下屈折値:R)+0.75D,L)+0.5D眼球運動:DVD(+),両下斜筋過動(+)Bagolini線条レンズ試験:右眼の抑制(+)4歳11カ月両下斜筋前方移動術施行術後,下斜筋過動は消失Bagolini線条レンズ試験:両眼単一視(+)眼位経過(交代プリズムカバーテスト:単位Δ)術前上下偏位水平偏位近見遠見近見遠見右眼固視L/R7L/R16XP?6XP/T6左眼固視R/L16R/L14XP?8XP/T12術後上下偏位水平偏位近見遠見近見遠見右眼固視L/R8L/R4XP?2ortho.左眼固視R/L6R/L8XP?4EP/T2———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???両眼上直筋の大量後転術を第一選択術式としている.上下斜視における上転眼の後転量が4~5mmであるのに対して,大量後転術では上斜筋付着部と干渉しない範囲で8~10mmの後転とする.上,下直筋の大量後転は眼瞼後退を惹起する危険があるため一般に禁忌とされるが,DVDは例外で術後に眼瞼後退をきたす心配はない.下斜筋過動を伴う場合は眼球共同運動の改善を重視する考えから下斜筋前方移動術を選択する.同手術は回旋点より後方にある下斜筋の付着部を下直筋の付着部耳側に移動させることで同筋の外回旋作用を温存しながら,上転作用を下転作用に変換させる効果がある1).いずれの手術を先行して施行した場合も術後に依然,上転が高度(上方偏位≧10Δ)かつ高頻度にみられる例については,一定期間の経過観察を経てそれぞれ残る術式を追加する方針である.b.治療効果図2に顕性斜視矯正後に両上直筋大量後転術を施行した30例の,図3に両下斜筋前方移動術を施行した9例のそれぞれ手術前後における上方偏位量の経過を示す.両上直筋大量後転術は術後,上方への偏位量を有意に減(53)図2両上直筋大量後転施行30例(男児11例,女児19例,手術時年齢2~15歳:乳児内斜視16例,晩発性内斜視6例,乳児外斜視2例,間欠性外斜視6例)の上方偏位量経過右眼と左眼の偏位量平均を示す.白丸は平均値を示す.図3,図4も同様.3025201510501M術前12M1M術前12M遠見眼位近見眼位p=0.0002p=0.000063術前9.0±5.0術後4.7±4.8眼位改善度51%術前9.2±4.3術後5.1±4.6眼位改善度37%302520151050ΔΔΔΔ()Δ()Δ図3両下斜筋前方移動術施行9例(男児4例,女児5例,手術時年齢3~10歳:乳児内斜視4例,晩発性内斜視4例,間欠性外斜視1例)の上方偏位量経過16141210864201M術前12M1M術前12M遠見眼位近見眼位p=0.009術前7.1±4.6術後3.8±4.5眼位改善度63%術前5.6±2.2術後3.7±2.5有意差なし1614121086420ΔΔ()ΔΔΔ()Δ———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006少させ,その改善度は近見眼位で51%,遠見眼位で37%であった.一方,両下斜筋前方移動術は近見眼位で平均63%の上方偏位の改善があったが,症例により手術効果にばらつきがみられ,遠見眼位では術前後で上方偏位の程度に有意差はなかった.DVDの矯正効果は上直筋大量後転術がやや優性という結果であったが,両手術とも上方偏位量が術後10Δ以内に収まる例が多く,上転の軽減効果を認めて良い結果といえる.両手術を施行した6例については上方への偏位量が有意に減少し,その効果は近見眼位で77%,遠見眼位で71%であった(図4).なお,上方偏位の改善と手術年齢,基礎疾患などとの間に関連性はみられなかった.c.水平眼位に与える影響上直筋には上転および内方回旋作用とともに内転作用があるため,大量の後転は上転の軽減のみならず水平眼位にも影響を与える可能性がある2).同様に,下斜筋は外方回旋,上転作用とともに外転作用があるため,下斜筋前方移動術による同筋の作用方向の変換は水平眼位にも影響を与える可能性がある(図5).顕性斜視の術後に残余斜視がみられる例では,たとえ斜視角が小さくまた斜位成分を含む場合であっても,両手術の水平眼位に与える影響は気がかりな点である.この点について,自験例のDVD手術前後における水平眼位の経過を示す(図6).顕性斜視の矯正後に内斜視を呈していたグループのうち,上直筋大量後転術施行群の近見眼位,および,下斜筋前方移動術施行群の遠見眼位でともに外方への偏位により内斜視の軽減がみられた.外斜視を呈していたグループではおおむね水平眼位に変化はなかったが,両上直筋大量後転術を施行した数例で外斜視角の増大がみられた3).以上の結果を得て上直筋大量後転術の適応を補足すると以下のようになる.・乳児内斜視の術後で残余内斜視を呈する場合,両上直筋大量後転術はDVDの軽減とともに水平眼位の改善も期待できる.・間欠性外斜視などの手術後で外斜視が残存する例に対しては両上直筋大量後転術を控える.あるいは,術後の斜視角増大については先行して行われた水平筋手術の矯正不足と解釈し,斜視角に応じて追加手術するか膜プリズム装用などで経過をみるかの選択(54)25201510501回目術前最終1回目術前最終遠見眼位近見眼位p=0.02p=0.01術前10.5±6.2術後3.5±3.8眼位改善度75%術前11.4±6.6術後3.2±1.8眼位改善度71%2520151050ΔΔ()ΔΔΔ()Δ図4両上直筋大量後転術+両下斜筋前方移動術を施行した6例(うち5例が両上直筋大量後転術を先行.男児1例,女児5例,1回目手術時年齢2~8歳,2回目手術時年齢4~10歳:全例乳児内斜視)の上方偏位量経過上直筋大量後転術→上直筋の内転作用の減弱→外方偏位可能性内斜視:眼位改善外斜視:眼位悪化下斜筋前方移動術→下斜筋の外転作用の減弱→内方偏位可能性内斜視:眼位悪化外斜視:眼位改善図5各手術の水平眼位に与える影響———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006???(55)a:術前内斜視のグループ:SR-R群(12例)で手術後,近見眼位において外方への偏位が,IO-AT群(8例)では遠見眼位において外方への偏位が認められた.SR-R群151050-5-101M1.9?術前6.3?最終1.9?遠見眼位近見眼位(p=0.002)平均:151050-5-101M1.7?術前4.4?最終0.1?IO-AT群151050-5-101M2.1?術前6.2?最終1.5?(p=0.03)平均:151050-5-101M1.8?術前6.2?1.5?最終()Δ()Δ()Δ()Δ図6DVD43例(うち乳児内斜視の術後29例)における両上直筋大量後転術(SR-R群)および両下斜筋前方移動術(IO-AT群)施行前後の水平眼位経過SR-R群1050-5-10-15-20-25-301M-2.7?術前-3.2?最終-6.4?遠見眼位近見眼位平均:1050-5-10-15-20-25-301M-7.9?術前-7.9?最終-10.5?IO-AT群1050-5-10-15-20-25-301M-3.1?術前-5.6?最終-7.3?平均:1050-5-10-15-20-25-301M-8.2?術前-10.5?最終-11.5?()Δ()Δ()Δ()Δb:術前外斜視のグループ:SR-R群(14例),IO-AT群(7例)ともに水平眼位の有意な変化は認めなかった.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.6,2006になる.一方,下斜筋前方移動術の水平眼位への影響は考慮不要と判断してよい4).上記の検討結果は十分参考になると考えるが,対象症例の条件,たとえば,先行する顕性斜視の術式によっては違った結果になることも考えられる(上記データでは乳児内斜視の全例に両内直筋後転術を,外斜視では両外直筋後転術または片眼の前後転術を施行している).重要なのは,DVDの手術時点で十分に顕性斜視の治療がなされていることであり,斜位成分を除く残余斜視も手術またはプリズムにより矯正した状態にあることが望ましい.d.非共同性の眼球運動,斜筋異常を伴うDVDの手術戦略下斜筋過動を伴うDVDの術式選択については前述したが,DVDではA,Vパターンの眼位や上斜筋,下斜筋の過動を伴い非共同性の眼球運動を呈する例が多い.これに対して,第1眼位の矯正,共同性眼球運動の回復に主眼を置き,同時にDVDの上転軽減も図る複合的な手術戦略がある.乳児内斜視の術後や上斜筋の解剖学的異常例など,実際に診療機会の多い病型に対する手術対応を示す.(1)V型外斜視を呈し下斜筋過動を伴うDVD・乳児内斜視に対して両内直筋後転術を施行後の外斜視移行例については,内直筋の戻し前転術と同時に両下斜筋前方移動術を行う.・手術既往がない例については,両内直筋の短縮術と同時に両下斜筋前方移動術を行う.(2)A型外斜視を呈し上斜筋過動を伴うDVD・乳児内斜視に対して両内直筋後転術を施行後の外斜視移行例については,内直筋の戻し前転および上方への筋移動術を行い,同時に両上直筋の後転術を行う.・手術既往がなく,術中に上斜筋の付着部異常などが確認される例については,外直筋の後転術と上斜筋の後転(弱化)術を行う.おわりにDVDの発生機序や病態には不明な点が多く,治療についても日常的に両眼開放状態でもみられる顕性DVDのみを手術対象にするのか,大型弱視鏡の検査のみで出現する潜在性のDVDも手術するのか議論の分かれるところである.本稿ではDVDを伴う両眼視機能不良例を診た場合に何ができるかという観点から具体的な治療対応を述べた.自験例の治療成績でも示したように,手術による上方偏位の改善は限定的である.より高い治療効果を狙い,たとえば,下斜筋前方移動術において,外直筋の付着部を超えて過度に前方へ縫着した場合,外転位で高度の上下偏位をきたす危険がある.こうなってはかえって共同性眼球運動を妨げることになり,本末転倒の治療になってしまう.DVD自体の矯正治療に過度な効果を期待するのではなく,第1眼位および眼球共同運動の矯正と併せて,あくまで運動性融像のための条件回復を目指すことが治療の本質といえる.文献1)StagerDR,WeakleyDR,StagerDetal:Anteriortrans-positionoftheinferioroblique.Anatomicassessmentoftheneurovascularbundle.???????????????110:360-362,19922)岩重博康:交代性上斜位の治療.眼臨87:1111-1118,19933)西崎雅也,八木美津子,野村耕治ほか:交代性上斜位手術の水平眼位への影響.眼臨98:328-331,20044)矢ヶ?悌司,佐藤美保,野村秀樹ほか:水平斜視に対する両眼下斜筋前方移動術の影響.眼臨91:196-199,1997(56)