———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS①検眼鏡検査(a)直像鏡:観察倍率が12倍と高く,乳頭の観察には優れているが,観察範囲が狭く,像が二次元であるという欠点がある.(b)倒像鏡:観察範囲は広いが拡大率が低く,立体像の得られる双眼倒像鏡を用いても,緑内障の検出および観察には不向きである.②細隙灯検査(a)非接眼レンズ:+78Dや+90Dを用いると倒像ではあるが,乳頭の拡大立体像および神経線維層が観察できるため優れている.(b)接眼レンズ:Goldmann型隅角鏡では,直像の拡大立体像が得られるため,散瞳のうえ必ず試みるべき検査である.③ステレオ眼底カメラ:眼底を立体観察でき,記録として残せば,陥凹の変化を経時的に観察できる.④その他の画像解析装置その他の機器として,opticalcoherencetomograph(OCT),Heidelbergretinatomograph(HRT),scanninglaserophthalmoscope(SLO)などがあるが,その所有は一部の施設に限られているのが現状である.また,乳頭や神経線維厚の立体計測は,各測定値の標準誤差が大きく,診断や鑑別には不向きである.経過観察用として用いることが望ましい.以上のように,視神経乳頭の所見を正確に読み取るために,日常の緑内障診療では散瞳下で非接眼レンズあるA.生理的乳頭陥凹と緑内障性視神経乳頭の特徴および鑑別はじめに2000~2003年に行われた多治見スタディによると,開放隅角緑内障の有病率は,40歳以上で3.9%であり,そのうち9割以上が正常眼圧緑内障であったと報告している1)ことからも,緑内障の診断における眼底検査の占める役割は,近年ますます高まったといえる.しかしながら,眼底の緑内障性変化は,典型例であれば正常との鑑別は容易であるが,比較的早期の緑内障では,正常眼にみられる陥凹,すなわち生理的乳頭陥凹との鑑別が困難になる.正常眼に見られる生理的乳頭陥凹は,一生涯,器質的および機能的障害はみられないものであるが,緑内障性陥凹は,乳頭辺縁部を形成している神経線維とグリア組織が脱落し,その脱落した部分だけ,生理的陥凹が拡大したものであり,それに相当して視野の欠損が検出されうる.このように両者の本質はまったく異なるものである.本項では,生理的乳頭陥凹と緑内障性視神経症の特徴と鑑別について概説する.I眼底検査の方法眼底の検査法によって,診断および鑑別能力が大きく異なる.(37)???*KyokoIshida:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕石田恭子:〒501-1193岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):599~615,2006緑内障と他の視神経疾患の眼底所見と視野所見による鑑別??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????石田恭子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006いは接眼レンズを用いた細隙灯検査(②)とステレオ眼底カメラ(③)は必ず施行したい検査である.II正常視神経乳頭および生理的乳頭陥凹の特徴緑内障を正確に診断するために,まず,正常視神経乳頭について理解する必要がある.ここにおいては,一般的な正常視神経乳頭の特徴について述べる.1.視神経乳頭の大きさと形状視神経乳頭の大きさは正常眼において0.8~6.0mm2と個体差が大きく,日本人の平均では,2.22mm2と報告されている.しかしながら,各個人での左右の乳頭の大きさにはほぼ差はない2).一般に,視神経乳頭の大きさは,正常眼(図1)と緑内障眼の間に差はないといわれているが,一方,正常眼圧緑内障の乳頭は,正常眼に比べて大きく,?性落?緑内障の乳頭は小さいとの報告もある3).正常眼の視神経乳頭の形態はさまざまであるが,通常,縦径は横径に比べ7~10%長くやや縦長の形態を有する.しかし,近視眼の多いわが国ではさらに縦長の乳頭が少なからず存在する.2.視神経乳頭辺縁部の形状乳頭辺縁部(リム)とは,視神経乳頭縁と陥凹縁との間の部分で,神経線維が存在する部位である.正常眼では,一般に乳頭がやや縦長で,陥凹がやや横長であることから,辺縁部の形態もこれに影響され,下方(inferi-or),上方(superior),鼻側(nasal),耳側(temporal)の順に広く4),ISN?Trule(図2)とよばれ,各部位でリムの厚みに差はあるが,神経線維の減少のあらわれであるリムの崩れは認めない.しかしながら,近視性の縦長の耳側に傾斜した乳頭や巨大乳頭ではISN?Truleが当てはまらないことも多く注意を要する.3.生理的乳頭陥凹陥凹の境界の決定には乳頭面上の血管走行に着目し,陥凹内に入る(あるいは乳頭辺縁部に出る)血管の屈曲点を乳頭上で結ぶことにより,陥凹の外縁を捉える(図3).生理的乳頭陥凹は通常,つぎのような特徴をもつ.①生理的乳頭陥凹は,乳頭のほぼ中央に存在し,やや横長の楕円形である.②生理的乳頭陥凹の奥行きは浅い.③生理的乳頭陥凹の大きさと深さは,乳頭の大きさに比例し,大きな乳頭ほど,大きく深い陥凹をもつが,陥凹縁にノッチは認めない(図4).④陥凹底の色調は黄色で,辺縁部(リム)は赤~橙赤色,陥凹壁はこれらの移行色をもち,陥凹底?陥凹壁?辺(38)図2ISN?Trule正常眼では,一般に乳頭がやや縦長で,陥凹がやや横長であることから,辺縁部の形態もこれに影響され,下方,上方,鼻側,耳側の順に広く,ISN?Truleとよばれる.しかしながら,近視性の縦長の耳側に傾斜した乳頭や巨大乳頭ではISN?Truleが当てはまらないことも多く注意を要する.上(Superior)下(Inferior)鼻側(Nasal)耳側(Temporal)図1正常視神経乳頭———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???縁部(リム)への移行はスムーズで,乳頭血管が,急激に屈折することはない⑤陥凹乳頭比(cup-to-discratio:C/D比)は,0.3~0.4以下である.0.7以上は,正常眼で5%にすぎず,異常である可能性が高い2).⑥水平C/D比>垂直C/D比:正常では,乳頭がやや縦長で,陥凹がやや横長であることから,水平C/D比>垂直C/D比であり,垂直C/D比のほうが大きい例は,正常眼の7%にすぎず,異常である可能性が高い.⑦陥凹は左右眼で対称:C/D比の左右差が0.2を超える場合は,正常眼では3%にすぎず,異常である可能性が高い(図5).III緑内障性視神経乳頭の変化緑内障性視神経障害は,神経線維の喪失による,リムの狭小化と乳頭陥凹の拡大,およびそれに伴う陥凹部の蒼白化,網膜神経線維層欠損に特徴づけられる.1.乳頭陥凹拡大と辺縁部の狭小化a.皿状陥凹緑内障の初期では,陥凹は視神経乳頭の全周方向に均一に浅く拡大し,その結果,乳頭辺縁部は,狭小化し皿状化(saucerization)する.皿状の陥凹(図6)は,特に血管の走行や,屈曲部などに注目し,立体観察をすることにより初めて把握でき,高眼圧緑内障の初期病変として重要である.b.陥凹の上,下耳側拡大とノッチングさらに緑内障が進行すると,浅く陥凹した部分は深みを増し,陥凹と辺縁部の境界はより明瞭となる.また,(39)図3視神経乳頭陥凹の境界の決定法正常視神経乳頭陥凹の境界の決定には乳頭面上の血管走行に着目し,陥凹内に入る(あるいは乳頭辺縁部に出る)血管の屈曲点を乳頭上で結ぶことにより,陥凹の外縁を捉える.図4正常サイズの視神経乳頭と,大きな生理的陥凹をもつ大きな正常視神経乳頭生理的乳頭陥凹の大きさと深さは,乳頭の大きさに比例し,大きな乳頭ほど,大きく深い陥凹をもつが,リムは保たれている.図5左右のC/D比に差がある片眼性の緑内障例図6皿状陥凹の1例浅い皿状の陥凹は,特に血管の走行や,屈曲部などに注目し,立体観察をすることにより初めて把握できる.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006この時期には,乳頭の上あるいは下極に向かって陥凹が拡大し,辺縁部の限局性の菲薄化,すなわちノッチングが観察される.ノッチングは,特に下耳側付近にみられることが多く,Bjerrum領域の視野障害と対応する(図7).一方,ノッチングが乳頭上極付近に観察され,下方の視野障害が先行する例は3割程度である.さらに進行すると,陥凹は最初のノッチング部と対側の方向にも拡大し,上下方向のリムが薄くなり,陥凹は縦長となる(図8).この時期になると視野は上下に弓状暗点を呈するようになる.c.辺縁部の全体的な消失末期に至ると辺縁部は全体に消失し,陥凹は全体に拡大する(図9).2.陥凹の深化,laminardotsign,undermining篩状板の孔の形や,大きさは乳頭の各部位により差があり,耳側は比較的小さい円形で,上下はやや大きい円形を呈し,正常眼でもみられることはある.しかし,緑内障の進行とともに神経線維が消失し陥凹が深くなると,陥凹底部に篩状板の窓孔が観察される.これをlaminardotsignとよぶ(図10).立体観察やSLOにより,篩状板の孔が不規則に拡大したり,横つぶれなど,配列の乱れや変形を認めた場合は緑内障,小さい孔が規則正しく並んでいる場合は生理的陥凹と鑑別される.さ(40)図7乳頭の下耳側にノッチングを認める正常眼圧緑内障症例上左:右眼視神経乳頭写真:乳頭下耳側のノッチングと対応する神経線維層欠損.上右:Heidelbergretinatomograph(HRT)画像:乳頭下耳側のノッチング.下左:Scanninglaserophthalmoscope(SLO)画像:ノッチングと対応する神経線維層欠損.下右:視野:神経線維層欠損と対応する視野障害.図8乳頭上下耳側にノッチングが形成された症例乳頭上下耳側にノッチングと神経線維層欠損を認める.この時期には,上下に視野障害を呈するようになる.図9末期の緑内障例末期に至ると,リムの全体的な消失と血管の耳側偏位を認める.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???らに進行すると陥凹底は,後方に偏位し,陥凹縁がえぐられたような下掘れ(undermining)を形成する(図11).3.血管走行の変化陥凹境界の決定に際しては乳頭上の血管の屈曲点を目安とするが,リムの変化に伴い血管の走行にも変化が現れる.a.Overpassing血管は陥凹底から,リムの表面に沿って走行するが,緑内障変化により陥凹が深くなると血管を支えていた組織が失われ,血管は陥凹から浮いて橋渡しをしたように走行する(図12).b.耳側偏位やがて,橋状に浮いていた血管は陥凹底に移行し,さらなる進行とともに,血管全体が耳側に偏位する(図9).しかし,生理的に大きな陥凹をもつ正常眼でも,血管が耳側に認められることがあるため注意を要する.c.Bayoneting陥凹縁では,血管の屈曲が強く,特にリムが下掘れ状になったところでは,血管がリムの下掘れに沿って一旦見えなくなってから,再び乳頭縁に現れ,bayoneting(銃剣状の走行)とよばれる(図11).4.乳頭陥凹拡大と乳頭の色調の変化(陥凹と蒼白部)正常眼では乳頭の陥凹部=蒼白部である.しかし,緑内障では,陥凹は,蒼白部に先行し拡大するため,両者の不一致が生じる.一方,他の疾患による視神経萎縮では,蒼白部>陥凹であるため,重要な鑑別所見である.5.乳頭出血乳頭上または,乳頭縁のノッチング部や神経線維層欠損部に隣接して存在することが多い.特に,正常眼圧緑内障に多く認められ,好発部位は,乳頭の下耳側,上耳側である.正常眼においては0.1~2%とされ,乳頭出血(dischemorrhage:DH)が認められた場合,緑内障の可能性,あるいは出血部位での進行の可能性を示唆する重要な所見5)であり,リムのノッチングや隣接する神経線維層欠損の有無,視野障害の有無をチェックする(図13).6.神経線維層欠損乳頭周辺の限局性の束状の神経線維層欠損(nerve?berlayerdefect:NFLD)は,糖尿病網膜症,光凝固後,正常眼においても認められることはあるが,緑内障の場合,乳頭陥凹拡大や視野欠損に先行して,乳頭耳上側や耳下側に生じることが多く,緑内障の早期診断に重要である.緑内障が進行すると,NFLDは乳頭縁のノッチングの部分から伸びる弓状の陰影として認められ,視(41)図10ラミナドットサイン(laminardotsign)を認める症例緑内障の進行とともに神経線維が消失し陥凹が深くなると,陥凹底部に篩状板の窓孔が観察される.図11リムの下掘れ(undermining)と血管の銃剣状走行(bayoneting)図12Overpassing陥凹が深くなると血管を支えていた組織が失われ,血管は陥凹から浮いて橋渡しをしたように走行する.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006野異常が明瞭となる(図7,8,13).さらに,広範なリムの変化を認める症例では,広い範囲にわたってびまん性に神経線維層が欠損する.神経線維は緑色光を最もよく反射するので,散瞳下で,緑色のフィルターを用いての観察や,SLOがその検出に有用である.7.乳頭周囲網脈絡膜萎縮(peripapillarychorioreti-nalatrophy:PPA)乳頭周囲網脈絡膜萎縮(PPA)は,乳頭に接して見られる半月状や輪状の脈絡膜変化で,検眼鏡的に,不規則な色素沈着を伴うPPAaと,近位に存在し,脈絡膜の萎縮を伴い強膜が透見可能なPPAbに分類される(図14).PPAaは,PPAbの外側に存在する場合と,単独に存在する場合があり,単独に見られるのは正常眼に多い.一方,PPAbは緑内障眼でしばしば認められ,その幅が広い象限ほど視神経乳頭リムの障害が強くなる傾向や,経過観察中のPPAbの拡大は,緑内障性視神経症の悪化(乳頭の変化と視野障害の悪化)とよく相関すると報告6)される.IVその他の鑑別を要する疾患生理的乳頭陥凹や緑内障性陥凹拡大と鑑別を要する疾患として,乳頭視神経乳頭の先天異常,中毒性視神経症,頭蓋内疾患による視神経萎縮,虚血性視神経症,Leber病などがあげられる.乳頭視神経乳頭の先天異常のほとんどは,視神経を詳細に立体観察することで,ある程度鑑別は可能である.診断に際しては,乳頭の大きさの異常(乳頭の大きさと黄斑部との距離の比:DM/DD比の測定),色調の異常(萎縮や低形成を示唆),乳頭部の陥凹や突出,乳頭上の増殖組織,乳頭周囲の網膜萎縮,乳頭部から起始する網膜血管の走行異常がないかを注意深く観察する.以下にいくつかの鑑別を要する疾患を示す.1.視神経乳頭低形成乳頭自体は小さく,乳頭周囲に正常の乳頭と同じ大きさの脱色素輪(doubleringsign)が認められる.診断にはDM/DD比≧3.2が参考となる.SSOH(superiorsegmentaloptichypoplasia)については,別項を参照.2.乳頭コロボーマ眼底下方に広がる白色の陥凹内に,脈絡膜,強膜が透見され,陥凹部の上方には不完全な視神経乳頭が存在する.(42)図13耳下に乳頭出血を認める正常眼圧緑内障例乳頭の下耳側に出血,ノッチング,神経線維層欠損,乳頭の上耳側にノッチング,神経線維層欠損を認め,鼻側に対応する視野欠損を呈する.図14乳頭周囲網脈絡膜萎縮を認める症例乳頭に接して見られる半月状や輪状の脈絡膜変化で,検眼鏡的に,不規則な色素沈着を伴うPPAaと,近位に存在し,脈絡膜の萎縮を伴い強膜が透見可能なPPAbを認める.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???3.視神経乳頭小窩(ピット)乳頭内の一部に生理的陥凹とは異なる円形の陥凹がみられる.大きさは0.1~0.7乳頭径(平均0.28).多くは耳側に存在し,ときに視野検査にて弓状暗点を呈する.漿液性黄斑?離を合併することがある(乳頭小窩黄斑症症候群).4.乳頭傾斜症候群一方の視神経乳頭縁が陥凹(下方が多い)し,反対側(上方)乳頭縁が突出し,しばしば乳頭周囲には楕円形の下方コーヌスを呈する.5.朝顔症候群視神経乳頭部の拡大および陥凹,陥凹内の白色組織,陥凹周囲の網脈絡膜萎縮輪が認められ,血管は狭細で,放射状,直線的に走行し,乳頭周囲で異常血管吻合が認められる.6.中毒性視神経症,頭蓋内疾患による視神経萎縮生理的乳頭陥凹では,陥凹部=蒼白部である.しかし,緑内障では,陥凹は,蒼白部に先行し拡大するため,蒼白部<陥凹となる.一方,中毒性視神経症や頭蓋内疾患では,早期には所見を認めないことが多いが,進行例では視神経萎縮を呈し,蒼白部>陥凹部となるため,重要な鑑別所見である.7.虚血性視神経症初期には,前部型の虚血性視神経症では乳頭辺縁部に火炎状出血を伴う蒼白腫脹を認めるが,後部型では特に所見はない.しかし,後期には,陥凹を伴う視神経萎縮をきたし蒼白化することがある.8.Leber病急性期には特有の発赤を有し,乳頭上および周囲血管が怒張,蛇行し,ときに表在出血をみる.乳頭はその後次第に退色し,陥凹を呈する症例もある.まとめ本項では,生理的乳頭陥凹と緑内障性視神経乳頭の特徴および鑑別について概説した.日常診療においては,常に,乳頭の立体観察およびステレオ写真撮影を行い,前述した項目について検討する.また,可能であれば,SLOによる神経線維層欠損の出現の有無を確認する.極早期にはそれでも鑑別困難な例があるが,この場合は6カ月から1年ごとにステレオ写真撮影および視野検査を行い,進行の有無を確認する.B.静的視野による診断と鑑別:緑内障と視路障害に伴う視野障害はじめに日常診療において,静的視野検査の占める役割は非常に大きく,静的視野を正しく読み取る能力は,視野障害をきたす疾患の診断と鑑別において不可欠である.本項では,緑内障および緑内障以外の視路障害に伴う視野障害の特徴,さらに両者の鑑別のポイントについて静的視野を用いて概説する.I静的視野のプログラムの選択Humphrey視野計(HFA)に代表される静的視野測定では,30?までを測定するプログラムを選択するのが望ましい.24-2では,神経低形成などの視野のedgeに暗点が出やすい症例や,下垂体腫瘍などの上方からの垂直ステップがみられる症例を見逃す可能性がある.閾値検査については,SITA(Swedishinteractivethresholdingalgorithm)では,正常者と緑内障の視野モデルから統計的推定を用い,被検者の応答に応じて視標刺激や視標呈示間隔が調整され,検査時間が大幅に短縮できるが,その原理から,基本的には緑内障専門のアルゴリズムと考えて用いるべきである.一方,fullthresholdでは半盲の検出に優れているとされ,頭蓋内疾患による視野障害が疑われる場合,可能であればこちらを選択する.II一般的な視野検査結果の読み方1.測定条件と方法図15は,正常眼圧緑内障患者の左眼視野のプリントアウトである.まず,視野図の上方(図15-①)に眼を(43)———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006向け,この視野がどのような条件および方法で測定されたかを把握する.2.検査の信頼性実際に視野図を判定する前に,検査の信頼性を確認する.検査の信頼性は,固視不良,偽陽性,偽陰性の3つ(図15-②),右下のGlobalIndexのSF(短期変動)(図15-③),ゲイズトラック法による検査中の固視表示(図15-④)から判定する.固視不良率が20%を超えた場合,偽陽性率や偽陰性率が33%を超えた場合,検査の信頼性は低いと考える.測定中に同一点を2回刺激して得られたその差から,短期変動(SF:shorttermfluctuation),すなわち測定中の反応のばらつきを知ることができ,正常範囲は1.0~2.5dBとされる.なお,SITAでは,SFは表示されない.固視不良,偽陽性,偽陰性,SFにより,視野の信頼性が低いと判定した場合は再検査を行うか,あるいは他のFastpacやSITA-fastなどに変えてみる.3.視野障害のパターンの評価視野障害のパターンを評価するには,数値テーブル,グレイスケール,トータル偏差,パターン偏差がある.a.数値テーブル図15の上段の中央にある数値テーブル(図15-⑤)は,測定点ごとで実測した閾値をデシベル(dB)表示したものである.b.グレイスケール実測値を5dBごとに分けて,それらを点の濃淡で表示したものがグレイスケールであり,大まかな視野の障害パターンを理解することができる.感度が低くデシベルの小さいものほど,濃く表示される(図15-⑤).c.トータル偏差視野の感度は年齢とともに低下するので,年齢を対応させた正常者と比較することが重要である.すなわち,トータル偏差は,測定値と年齢別正常値との差を測定点ごとに求めたものであり,その数値が中段左(図15-⑥)に示される.5dB以上の沈下が異常判定の一つの基準とされるが,正常者との差が5dB以下でもそれが正常者ではほとんど起こらないような場合は異常と判定しなくてはならない.そこで,HFAでは,そのような差が正常者の何%に起こるかを確率計算し,5%より低い確率でしか起こりえない場合を異常と判定して,5~0.5%の4段階でシンボル化して表示している(図15-⑦).d.パターン偏差びまん性の感度低下を除いて統計学的に算出されたものであり,白内障などによる中間透光体の混濁や縮瞳剤による全体的な視野の感度低下のために,視野が評価しにくい場合,局所的視野障害がより強調され有用である(図15-⑧).4.統計学的評価a.緑内障半視野テスト緑内障半視野テスト(GHT:glaucomahemi?eldtest)は,HFAに内蔵される視野判定プログラムで,上下の視野を5つのクラスターに分け統計学的に,正常範囲,境界閾,正常範囲外,全体的感度低下,異常高感度(44)図15Humphrey自動視野計プログラム中心30-2全点閾値検査の1例———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???の5種類の判定が行われる(図15-③の上段).b.グローバルインデックスプリントアウトの右下(図15-③)には,視野全体を統計解析した4つの指数が並んでおり,グローバルインデックスと総称される.(1)MD(meandeviation,平均偏差)は,年齢別の正常者との平均視感度の差を表し,マイナス数値が大きいほど視野障害が強い.(2)PSD(patternstandarddeviation,パターン標準偏差)は,正常者の視野の形状パターンから,どの程度逸脱しているかを表す指数であり,数値が大きいほど視野の凹凸が大きい.(3)SFは上述のとおり測定中の反応のばらつきを示す.(4)CPSD(correctedpatternstandarddeviation,修正パターン標準偏差)は,PSDをSFで補正したもの.いずれも,正常者の5%以下にしか起こりえない場合,各数値の隣に確率値(p値)が記載され,異常と判定される.III緑内障性視野障害の特徴と診断静的視野から,緑内障を正しく診断するためには,網膜神経線維の走行と緑内障性視野障害の特徴,および緑内障性視野障害の診断基準を理解する必要がある.以下にそれぞれを概説する.1.緑内障性視野障害と網膜神経線維層欠損網膜の網膜神経節細胞からの神経線維は,中心窩を通る水平経線の上方の網膜と下方網膜で大きく走行が分かれる(図167)).緑内障では,神経線維束が,視神経乳頭内で障害されると,その神経線維の支配領域の視機能が障害され,視野検査上で発見される局所的な感度の低下(図17:比較暗点)や孤立暗点(図18:絶対暗点)を呈する.やがて神経線維束の障害の程度が進むにつれて,早期の孤立暗点から,神経線維走行に沿った弓状暗点をきたす(図19).また,耳側での上下方の神経線維層の分離した走行から,一方のみが障害された場合,鼻側階段として現れる(図20).2.緑内障性視野障害のパターン緑内障性視野障害のパターンは,網膜神経線維の障害に対応して,①Bjerrum領域の孤立暗点(図18),②弓状暗点(図19),③耳側階段(図20),④全体的沈下のいずれか,またはこれらの組み合わせとして捉えることができる.進行すると,弓状暗点が上下の視野で進行した輪状暗点(図21)や,求心性視野狭窄(図22)へと進み,末期には中心部と耳側周辺部の島状視野(図23)のみとなり,最終的には中心部が消失する(図24).なお,視野の全体的沈下のみを呈する症例は白内障や,小瞳孔,弱視,屈折異常などの可能性があり,単独では診断的意義に欠けるため,他の所見を参考にする必要がある.(45)鼻側網膜耳側網膜視神経乳頭中心窩視神経の障害部位に対応している網膜障害部位沈下暗点Mariotte盲点(視神経乳頭に対応)耳側視野鼻側視野図16左眼の網膜神経線維束層と視野障害の関係上段:網膜神経線維束走行.中段,下段:網膜神経線維束障害と対応する視野異常の位置関係.(文献7より)———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(46)図17比較暗点の1例6~10dBの光感度閾値の低下を示し,大きさがMariotte盲点までの比較暗点.図18絶対暗点の1例図19網膜神経線維層欠損と一致する弓状暗点SLO(scanninglaserophthalmoscope)により検出された神経線維層欠損(左図)と,弓状暗点を示す同一症例の視野図(右図).———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(47)図20上方に耳側階段を認める1例図21輪状暗点視野障害が進行し,上下の弓状暗点が進行した輪状暗点.図22求心性視野狭窄の1例図23島状視野の1例中心部と耳側周辺部の視野のみ島状に残存.———————————————————————-Page12???あたらしい眼科Vol.23,No.5,20063.緑内障性視野異常判定のための基準緑内障性視野異常の検出にはいくつかの判定基準が用いられているが,臨床的な診断基準として広く用いられているのがAndersonらの判定基準8)(表1)であり,この基準の1つの項目でも満たす場合は,視野障害と視神経および神経線維層の障害との整合性を確認し緑内障性視野障害の診断を下す(図25).IV視路障害に伴う視野障害の特徴種々の神経眼科疾患が視野障害を呈するが,視路の解剖学的構造により障害部位に伴う基本的な視野障害のパターンは決まっている(図26)ため,緑内障との鑑別および病巣診断の参考となりうる.1.視交叉前病変視神経乳頭から視交叉前までの視神経の障害で,障害側の視野に中心暗点を含むさまざまな感度低下や,循環障害による水平視野欠損を呈する.a.虚血性視神経症急激な視力および視野障害を生じ,境界明瞭な水平半盲が特徴とされるが,弓状暗点や中心暗点,求心性狭窄もきたしうる.視野障害は通常非進行性であり,両眼性の水平半盲例では動脈炎性虚血性視神経症,片眼性では,非動脈炎性虚血性視神経症と考える.b.視神経炎55%の症例がびまん性の視野障害を呈し,45%が中心暗点などの局所性の暗点をもつ視野障害をきたす(図27).さらに,局所型の視野障害例の29%が水平半盲をきたしたと報告されている.視神経炎の視野は通常,改(48)表1Humphrey視野計における緑内障性視野異常のための判定基準1.パターン偏差の確率プロットで,p<5%の点が,最周辺部でない検査点に3つ以上かたまって存在し,かつ,そのうち1点がp<1%であれば,局所性の緑内障性欠損と考える2.CPSDまたはPSDにおいてp<5%3.GHTでの異常判定図24中心部が消失し,耳側視野のみ残存した症例図25早期緑内障性視野異常例パターン偏差確率プロット,CPSD,GHTのすべての判定で異常と診断されている.———————————————————————-Page13あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???善傾向(図27)を示す.c.中毒性視神経症,遺伝性視神経症両眼性の盲中心暗点,中心暗点,求心性視野狭窄をきたす.2.視交叉近傍病変解剖学的に視交叉では左右の鼻側線維が交叉するため,視野障害では特徴的な両眼性の耳側半盲を呈するが,浸潤,圧迫および循環障害などの病態によるため,必ずしも半盲は左右対称ではなく不完全であることが多い.また,病巣が視交叉部を下方から圧迫する場合は上方の,上方から圧迫する場合は下方の視野に障害をきたしやすい.まれではあるが,視交叉部が周囲から圧迫を受ける場合,両鼻側半盲を呈することがある.初期には視感度の軽度の低下のみを認めるため,視野結果は,実測閾値を用い垂直ステップの有無を判定する.a.下垂体腫瘍視交叉の前部を下方から上方に圧迫し,両眼の耳側上方の視野欠損を示す両耳側半盲(図28)を呈することが多い.b.髄膜腫鞍結節髄膜腫は左右いずれかに偏って発生することが多く,視力や半盲の程度に左右差がある.蝶形骨髄膜腫は,片眼の視力低下と鼻側の視野障害から始まる.c.頭蓋咽頭腫頭蓋咽頭腫は,視交叉部を後上方から圧迫するため,(49)図27視神経炎発症初期は中心暗点を示していたが,治療開始後10日で著明な視野改善を呈した.図26視路障害と視野異常の関係視路の各部位での障害によって特徴的な視野変化をきたしうるため,診断および鑑別の参考となる.左眼右眼左視野右視野314911121067825———————————————————————-Page14???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(50)耳側下方視野の障害が目立つ両耳側半盲を呈する.左右いずれかに偏って発生することが多く,左右差のある両耳側半盲となりやすい.d.脳動脈瘤眼動脈分岐部内頸動脈瘤がゆっくり増大し,片側性の視神経障害から,次第に視交叉部や反側の視神経を圧迫することがある(図29).また,外側から圧迫して,両鼻側半盲をきたすことがある.e.トルコ鞍空洞症候群(emptysella)トルコ鞍隔膜の欠損部からくも膜がトルコ鞍内に伸展し,下垂体が後方へ圧迫される状態で,両下鼻側1/4半盲,緑内障様の視野変化を呈することがある.3.視交叉後病変基本的には,患側と反対側の同名性半盲を呈し,後頭葉に近づくほど調和のとれた視野異常をきたす.V緑内障性視野障害と他疾患による視野障害との鑑別ポイント視野障害のパターンから,緑内障性視野障害と他疾患による視野障害を鑑別するためのポイントを以下に記す.1.網膜神経線維層の障害パターンか否か緑内障では,網膜神経線維の障害に対応して視野障害が出現する.そのため,視野障害を見た場合,網膜神経線維層障害型であるか否かをまず確認する.2.上下半視野の非対称性と水平経線との一致網膜神経線維走行の解剖学的特徴は,緑内障眼での上半視野と下半視野の障害程度の差として現れ,これも緑内障視野障害の特徴である(図15).また,特に,水平図28下垂体腫瘍による両耳側半盲———————————————————————-Page15あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(51)経線との一致から,病変部位を,網膜内層あるいは視交叉前の神経線維走行部位,Meyer?sloop,後頭葉の病変に特定できる.緑内障では,神経線維の走行に一致して鼻側のみ(図15)で,水平経線と一致する視野障害が片眼もしくは両眼に生じる.Meyer?sloopの病変では視野障害は両眼に生じ,同名性非協調性で耳側も水平経線と一致した視野異常をきたす.後頭葉病変では,両側同名性,調和性の視野異常となる.一方,網膜外層の病変,網膜より前の病変,視交叉部および視交叉後部病変による視野障害では,病変が水平経線と一致することはほとんど起こらないため,鑑別に有用である.3.垂直ステップの有無緑内障とは異なり,視交叉から後方の病変では,固視図29内頸動脈瘤による視神経萎縮および視野障害緑内障とは異なり,視神経萎縮の程度と視野障害の程度は一致しないことが多い.———————————————————————-Page16???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(52)点を通る正中経線を境に両側性に視野欠損が生じる(図28下垂体腫瘍,図29内頸動脈瘤,図30脳出血).経線の一致をHFAで判定する場合は,経線を挟んだ実測閾値を直接比較する.垂直正中線を挟んで隣り合う,上下の3つ以上の対で,一方が他方より常に実測閾値が低ければ,有意の垂直ステップと判断する(Millsの定義9)).あるいは,垂直正中線を挟んで隣り合う連続3点で3dB以上,または連続4点で2dB以上の閾値の差を認める場合,有意に垂直ステップありと判断する10)(図31).4.視野欠損の辺縁神経線維の障害,虚血性疾患,陳旧性の病変による視野障害では,イソプターの間隔が狭く急峻な辺縁をもつ異常となり,浮腫や,急性,活動性病変による視野障害では,イソプターの間隔は広く,緩やかな辺縁をもつ異常となることが多い.5.左右の視野の形の不一致性緑内障は通常両眼に発症するが,左右の眼の神経線維層が同程度で障害されることは少なく,通常,両眼の視野の形は一致しない.一方,視交叉から後方の病変で図30左側の脳出血による不規則な右側同名1/4半盲図31垂直ステップの見られる脳出血による視野障害例垂直経線を挟む枠に囲まれた実測閾値の5個の対で,一方が他方より常に実測閾値が低く,有意の垂直ステップと判断する.———————————————————————-Page17あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(53)は,同名半盲さらに,後頭葉に近づくにつれて左右で調和の取れた異常となる.まとめ本項では,静的視野による緑内障と視路障害に伴う視野障害の診断と鑑別のポイントについて概説した.緑内障性視野障害を正しく診断するには,視神経乳頭および神経線維層の障害との整合性を常に考慮する.視野所見が,水平経線や垂直経線に一致しているか否か,左右の半盲の形が一致しているか否かを判断することは,病巣診断のためにきわめて重要である.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)北澤克明監修:ClinicalScience検査法3.視神経乳頭の検査.緑内障,p133-152,医学書院,20043)TuulonenA,AiraksinenPJ:Opticdiscsizeinexfoliative,primaryopen-angleandlow-tensionglaucoma.????????????????110:211-213,19924)KirshRE,AndersonDR:Clinicalrecognitionofglauco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