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眼科医のための先端医療65.癌と分子標的治療

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS分子標的治療最近,「分子標的治療」の言葉をよく耳にします.決して新しい言葉ではなく,たとえばアスピリンはcycloxygenaseを,アセタゾラミド(ダイアモックス?)は炭酸脱水酵素を標的としているように,癌以外の領域では多くの薬剤が実は分子標的薬です.一般的な「抗癌剤」は,本来癌細胞を選択的に攻撃するものではなく,細胞分裂を阻害する薬剤です(図1).正常細胞にも作用するため,分裂の比較的速い骨髄,消化管,粘膜などの障害が強く生じます.近年,細胞増殖が分子レベルで研究され,理論的には癌細胞特異的に治療効果を得られる分子標的治療が可能になってきました(図2~4).現実には種々の問題があり,効果もいまだ不十分ですが,現在も多くの分子標的薬が開発・臨床応用され,臨床試験が行われています1).現在臨床応用されているものは,腫瘍に特異的もしくは過剰発現している細胞表面抗原に対する抗体(ritux-imab,trastuzumab),シグナル伝達系に作用する薬剤(ge?tinib,imatinib),血管新生を阻害する薬剤(bevaci-zumab)などがあります.眼科診療に直結することは少ないですが,医師の教養のひとつとしてまとめてみました.悪性リンパ腫とrituximab(リツキサン?)2)CD20抗原は多くのB細胞系リンパ球およびその腫瘍細胞表面に発現していますが,血液幹細胞には発現がなく,また造血器系細胞以外にはまったく発現していませ(71)◆シリーズ第65回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊鈴木茂伸(国立がんセンター中央病院眼科)癌と分子標的治療酵素微小管RNADNA図1従来の抗癌剤:細胞障害性HER2CD20RituximabTrastuzumab癌細胞図2分子標的治療薬:細胞増殖抑制性①抗体医薬(rituximab,trastuzumabなど).細胞特異的表面抗原を標的とする治療.チロシンキナーゼ?-???ImatinibGe?tinibEGFRチロシンキナーゼ癌細胞図3分子標的治療薬:細胞増殖抑制性②シグナル伝達阻害(ge?tinib,imatinibなど).細胞内のシグナル伝達系を阻害.Bevacizumab癌細胞新生血管VEGFVEGFreceptor図4分子標的治療薬:細胞増殖抑制性③血管新生阻害(bevacizumabなど).細胞周囲の血管新生を阻害.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006ん.この抗原に対する特異的治療は造血器系以外の正常組織への障害は生じないことが予測されます.当初はマウスで作製された抗CD20抗体そのものをヒトに投与しましたが,マウス由来抗体に対する異種抗体を生じて反復投与ができませんでした.そこで,抗CD20抗体の抗原認識部位はマウス由来,それ以外の定常部領域はヒト由来のキメラ抗体が作製されました.これがritux-imabであり,長い血中半減期を有し,反復投与も可能となりました.作用機序は,apoptosisの誘導,抗体依存性細胞障害(antibodydependent-cellmediatedcyto-toxicity:ADCC),補体結合細胞障害(complementdependentcytotoxicity:CDC)の3つが考えられています.現在B細胞リンパ腫の治療として広く臨床応用され,単剤投与,抗癌剤との併用投与など,また寛解導入,維持療法として有効性が確立してきました.副作用も,通常の抗癌剤と異なり,infusionreactionとよばれるアレルギー症状類似の発熱,悪寒,掻痒,頭痛などで安全性も高いとされています.最近,治療中にCD20抗原の陰性化したリンパ腫細胞の再燃が報告され,治療抵抗性の原因の一つと考えられています.作用機序の異なる薬剤との併用が検討されています.眼科との関連として,眼付属器悪性リンパ腫に対する治療への使用があります.通常は限局性で,放射線治療が基本ですが,全身化する場合,組織型によっては抗癌剤治療に併用して用いられます.通常眼科的な副作用は生じません.最近経験した症例を提示します.眼科的既往がなく,全身のB細胞性大細胞リンパ腫の治療としてrituximab併用療法を複数回行った女性ですが,rituximab投与のたびに片眼性ぶどう膜炎を生じ,続発緑内障を発症しました.前房水の細胞診を行ったところ,リンパ腫細胞の浸潤が確認され,放射線照射を行い寛解しました.前房炎症のみで硝子体混濁や網脈絡膜病変がなく,ritux-imabによる未知の副作用も疑いました.生検の必要性を痛感するとともに,rituximabは眼球内リンパ腫の治療として不十分であることが証明された症例です.造血器腫瘍に対する新たな薬剤も臨床応用されています.抗CD20抗体に放射性同位元素を結合させ,腫瘍細胞に対する放射線治療を行うという考え方から,90Yを結合させた90Y-ibritumomabtiuxetan(Zevalin?)と,131Iを結合させた131I-tositumomab(Bexxar?)が開発されました.アメリカで承認されており,当院でも臨床試験が行われました.単回投与が基本ですが,遷延性の骨髄抑制が問題です.CD52はリンパ球,単球,マクロファージに存在し,造血幹細胞には存在しません.この抗原に対するヒト型抗体がalemtuzumab(Campath-1H?)とよばれ,アメリカで慢性リンパ性白血病と移植後の移植片対宿主疾患(GVHD)予防に使用されています.CD33は骨髄系細胞への初期段階の細胞および急性骨髄性白血病の細胞膜表面上に存在し,多能性造血幹細胞には存在しません.この抗原に対するヒト型抗体(HuM195)は効果不十分でしたが,抗CD33抗体に抗腫瘍性抗生物質を結合したgemtuzumabozogamicin(Mylo-targ?)が開発され,アメリカでは高齢者急性骨髄性白血病に適応があります.乳癌とtrastuzumab(Herseptin?)HER2(humanepithelialgrowthfactorreceptor2)は,ヒト上皮増殖因子受容体ファミリーに属する膜受容体です.ヒト乳癌の20~30%で遺伝子増幅や蛋白質の過剰発現が認められ,HER2陽性は予後不良因子とされてきました.Trastuzumabは,HER2の細胞外ドメインを標的とし,マウス由来の抗原結合部位とヒト由来の定常部を結合させたキメラ抗体です.乳癌すべてではなく,HER2過剰発現の乳癌が対象となります.作用機序は,①HER2を介して継続的に生じる細胞増殖シグナルの抑制,②HER2受容体の細胞内移行および分解の促進,③抗体依存性細胞障害作用,④アポトーシスの抑制,⑤血管内皮成長因子などの減少による抗腫瘍効果などが考えられています.副作用は,rituximabと同じ抗体であり,infusionreactionが問題になります.また,心毒性も頻度が高いとされています.眼科との関連では,trastuzumabによる副作用は粘膜皮膚眼症候群が報告されています.脈絡膜転移は通常放射線治療を行いますが,HER2陽性乳癌の脈絡膜転移に対する有効性も報告されています3).肺癌とge?tinib(Iressa?)肺癌は小細胞癌と非小細胞癌を分けて考える必要があります.非小細胞肺癌に特異的な増殖機構は知られていませんが,EGFR(epithelialgrowthfactorreceptor)(72)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???は非小細胞肺癌の40~80%で過剰発現しています.Trastuzumabは細胞表面抗原に対する抗体でしたが,ge?tinibはEGFRの細胞内チロシンキナーゼに作用し抑制することで,理論的にはEGFRのもつ増殖,浸潤,分化などのシグナル伝達を遮断し抗癌効果を現すと考えられています.Ge?tinib単剤の大規模臨床第II相試験では,前治療のある転移性非小細胞肺癌患者で約20%の腫瘍縮小効果があり有効性が認められ,市販されました.その後,臨床第III相試験で延命効果が認められず,逆に間質性肺炎の発症で安全性も疑問をもたれる状況となったことがマスコミで大々的に報道されました.少なくとも,一部の患者に対しては有効であり,遺伝的背景による効果の違いが研究されています.Ge?tinib以外にもEGFR,HER2を標的とする新規薬剤が多数あり,臨床試験が行われています.眼科との関連として,EGFRは角膜の創傷治癒に作用しているため4),遷延性上皮障害の可能性が考えられます.実際の臨床の場では,ge?tinib投与中に軽度の角膜上皮障害をみることがありますが,遷延性のものは経験がありません.機序は不明ですが,つぎに述べるima-tinibと同様に眼球周囲の浮腫を生じる例を複数経験しています.一方で,眼科的副作用はなかったというイギリスの臨床試験の結果が報告されています5).慢性骨髄性白血病とimatinib(Glivec?)慢性骨髄性白血病では,染色体転座によって生じるBCR-ABLチロシンキナーゼが重要な働きをしています.この蛋白質に対する阻害薬として,imatinibが開発されました.現在では,慢性骨髄性白血病治療の主役になっています.一方で,imatinibは?-???遺伝子産物であるKITという受容体型チロシンキナーゼにも作用することがわかってきました.GIST(gastrointestinalstromaltumor)とよばれる消化管間葉系腫瘍ではKITが変異していて,恒常的に活性が亢進した状態で増殖に関与していると考えられています.ImatinibがGISTに対して高い有効性を示すことが近年報告され,各種臨床試験が行われています.眼科との関連では,投与開始後平均して68日後に,約70%の症例で眼球周囲の浮腫が生じ,18%で流涙症が生じたと報告されています6).そのほか,外眼筋麻痺,眼瞼下垂,結膜炎なども生じうる合併症です.血管新生阻害薬:bevacizumab(Avastin?)腫瘍が増殖するためには栄養血管が必要です.腫瘍細胞自らが血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を分泌して血管新生を促進していることがわかっています.このVEGFに対するヒト型モノクローナル抗体としてbevacizumabが開発されました.抗VEGF抗体によってVEGFの働きを阻害することで血管新生を阻害し,癌の増殖や転移に対して抑制効果を発揮することが期待されます.また,血管新生抑制により癌の浸潤,転移も抑えられると考えられています.現在は,大腸癌の転移例に対する,抗癌剤との併用療法として認可されています.肺癌,膵臓癌,乳癌など多くの癌を対象に臨床試験が進められています.単剤でも腫瘍抑制効果はありますが,あくまで血管に対する薬剤であり,抗癌剤との併用が必要になります.副作用として,倦怠感,腹痛,頭痛,心不全など,また重篤な副作用として胃腸の穿孔が約2%に生じると報告されています.血管新生を阻害して傷の治りを遅くするため,大きな手術の後は少なくとも4週間は使用できません.眼科との関連では,腫瘍ではなく,加齢黄斑変性に対する治療薬として注目されています7).奏効率の検討は今後の課題です.血管内投与は上記の副作用が効果を上回るのか慎重な検討が必要であり,硝子体内投与など投与法の検討が必要と思われます.癌治療の将来癌は遺伝子病であり,将来的には遺伝子治療の可能性が模索されると思われます.しかし現状では困難であり,次善の策として腫瘍特異的に作用する薬剤を開発し,腫瘍細胞を抑制する治療を行っています.正常細胞への障害を軽減する点で分子標的治療は一定の効果を上げています.今後の検討課題として,第1に既存の抗癌剤との最適な併用療法の検討,第2に個人の遺伝子情報から最適な薬剤と量を設定するファーマコジェノミクス,第3に薬剤耐性に対する対応があります.当然,新しい標的分子の選択と薬剤の開発もさらに進むことが期待されています.(73)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006文献1)桑野信彦:分子標的治療の現状と将来への展望.日本臨牀62:1211-1215,20042)小林幸夫:単クローン抗体を使った分子標的治療.モダンメディア51:167-173,20053)MunzoneE,NoleF,SannaGetal:Responseofbilateralchoroidalmetastasisofbreastcancertotherapywithtrastuzumab.??????14:380-383,20054)NakamuraY,SotozonoC,KinoshitaS:Theepidermalgrowthfactorreceptor(EGFR):roleincornealwoundhealingandhomeostasis.???????????72:511-517,20015)TulloAB,EsmaeliB,MurrayPIetal:Ocular?ndingsinpatientswithsolidtumorstreatedwiththeepidermalgrowthfactorreceptortyrosinekinaseinhibitorge?tinib(‘Iressa’,ZD1839)inPhaseIandPhaseIIclinicaltrials.???19:729-738,20056)FraunfelderFW,SolomonJ,DrukerBJetal:Ocularside-e?ectsassociatedwithimatinibmesylate(Gleevec).????????????????????19:371-375,20037)MichelsS,RosenfeldPJ,Pulia?toCAetal:Systemicbev-acizumab(Avastin)therapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration.Twelve-weekresultsofanuncon-trolledopen-lavelclinicalstudy.?????????????112:1035-1047,2005(74)☆☆☆■「癌と分子標的治療」を読んで■1971年に,当時のアメリカ合衆国のニクソン大統領が,人類と癌との戦いを宣言して以来,癌の病態解明と治療のために膨大な量の研究がなされてきました.しかし,決定的な治療法を発見することはできず,一時は敗北宣言すら出されました.ところが,粘り強い研究により,癌の治療は最近確実に進歩してきました.そのなかでも,とりわけ重要とされているのが,「分子標的治療」です.鈴木茂伸先生は,本文中で具体的な治療法について非常にわかりやすく書かれていますので,私はもう少し総論的に述べさせていただきます.従来の方法で発見された薬も,細胞内の分子に作用して効果を発揮するので,「分子標的」薬であることは間違いありません.しかし,それらと「分子標的治療」とは異なります.従来,まったく未知のものから目的とする薬物を発見するには,大変な労力と時間が必要でした.そのため,発見の効率を少しでも上げるために,大まかな薬物効果を目安としてスクリーニングするしかありませんでした.たとえば,ある癌の「治療薬」を発見するための研究では,治療効果をはっきり表す指標がないため,癌細胞の増殖を抑制する効果を指標としてスクリーニングすることが多かったのです.癌細胞の増殖抑制効果を指標として薬物をスクリーニングした場合,増殖抑制効果の強いものは拾い上げられても,副作用が少なく,実際の治療面では優れている薬物は落ちてしまう可能性が高いのです.癌細胞の細胞内メカニズムがわからなかった頃は,このような方法しかなかったため,多大な労力を費やして得られた薬物が,臨床面では実用的ではなかったということがしばしば起こりました.ところが最近,癌細胞のさまざまなメカニズムがわかりだして,治療に有効な薬が理論的に予想できるようになりました.その結果,治療薬を発見する効率は飛躍的に高まり,副作用の可能性も大幅に低い薬の発見・開発が容易にできるようになりました.そのようにして得られた成果の一部が,今回の薬物です.眼科が対象としている疾患は多岐にわたりますが,腫瘍・癌の患者数は必ずしも多くはありません.それでも,患者が抱える問題の深刻さは他の疾患患者のそれに勝るとも劣らず,眼科でもきわめて重要な疾患領域です.さらに重要なことは,癌研究で得られた知見は癌以外の疾患の治療に大きな貢献をしている点です.「分子標的治療」研究で得られる成果は,必ずや眼科で一般的な疾患の治療の切り札にもなってくるでしょう.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二

新しい治療と検査シリーズ161.EG-SCANNER

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS?バックグラウンド光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,自然光に近い低コヒーレンス光を照射し内部で反射した光波を高感度に検出する方法にもとづいて生体の断層像を得る検査機器である.OCTの原理は,1990年に丹野ら1)により原理が発明され,1991年には眼組織の観察,1995年には黄斑疾患への臨床応用が報告された.1997年にはハンフリーOCTスキャナー(HumphreyInstruments,米国)が市販され,その後多くの眼疾患についての所見が報告されている.さらにOCTによって微細な形態観察のみならず非侵襲的に網膜の厚さを定量的に測定することが可能となり,網膜疾患の診断や治療評価に応用されている.2003年に国内で開発された初のOCT装置であるEG-SCANNER(以下,EG)(マイクロトモグラフィー株式会社,山形県天童市,日本)が発売された.本装置は実地臨床眼科医が日常診療のなかで使いやすい機能を開発するというコンセプトにより,丹野らの取得したOCT基本特許をもとにしながら,測定光を照射する際に高速回転光遅延機構を用いることにより測定の高速化を実現したものである.?装置EGは,1)測定用ヘッド,2)本体および昇降台,3)タッチパネル型ディスプレー,4)キーボードおよびマウス,5)プリンターから構成されている.設置面積はOCT3000の0.99m2に対し0.73m2となっている(表1).?使用方法<測定パターンの選択>測定パターンには,「シングルライン」,「ラディアルライン」,「グループライン」,「サークル」などがあり,測定幅は1~10mmまで任意に設定できる.測定位置の選択は,画面の右上に示される赤外眼底像上で確認しそのまま画面に直接触れて測定位置を選択できる.<走査本数の選択>走査線は200本と600本の2つのモードから選ぶことができる.走査線を200本に限定すれば高速に測定を行うことが可能であり,走査線を600本にすれば詳細に測定を行うことができる.<6枚連続撮影機能>EGは6枚の測定画像を画面上に残しさかのぼって保新しい治療と検査シリーズ(69)161.EG-SCANNERプレゼンテーション:神尾聡美山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野コメント:飯島裕幸山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座表1ハンフリー社OCT3との性能比較表(カタログ調べ)ハンフリー社OCT3EG-SCANNER光源波長820nm810~850nm出力照射750?W以下(角膜上)1,000?W以下(角膜上)解像度軸方向10?以下10?以下横方向10?以下10?以下測定深度組織内2mm組織内2mmスキャン時間2.5msec/A-scan2.5msec/A-scan最小瞳孔半径3.2mm3.2mm表示・操作モニタ15?液晶(1,024×768)17?液晶(1,280×1,024)プロセッサIntelPentium850MHzIntelPentium42GHz設置面積0.99m20.73m2図1網膜厚マッププログラムの選択部位変更が可能網膜厚マッププログラムで網膜厚の自動選択が不適切な場合,検者が画像を見ながら選択範囲を補正することができる.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006存を行い解析することができる.<解析モード>測定画像に対して,コントラストの強調や平滑化などのエフェクトを行うことができる.これらのエフェクトはアラインメントや画像の平滑化のほか,グレースケール表示や拡大表示機能などがある.また,複数のエフェクトを重ねて適用することが可能であり,エフェクト適用前後の画像を確認しながら作業を進めることもできる.画像プロファイルでは網膜の厚さの測定,任意の2点間の距離測定,網膜厚マッププログラムなどが行える.網膜厚マッププログラムでは自動で内境界膜から網膜色素上皮までの距離を選択するが,ときにこの選択が不適切な場合がある.EGではこのような場合,画像を確認しながら適切と思われる任意のポイントを検者が選択して解析を行うことができる(図1).?本装置の利点操作は,タッチパネル型ディスプレーを中心にほとんどの操作が可能である.また,EGは画像の解析を含む動作が非常に高速であり,検査時間が短縮できる.図2にEGにより撮影した代表症例画像を示す.このようにEGはOCTの基本性能を備えており,かつ動作が高速でインターフェースも使いやすく画像の解析においても有用である.従来から普及しているOCT2000と網膜厚プログラムを比較した結果,高い相関が得られ2),網膜厚の定量に関しても信頼性が高いと評価している.現在もマイクロトモグラフィー社では3D再構築プログラムなどの開発,さらなる測定速度の高速化などに取り組んでいると聞いている.EGは純国産のOCTでありメーカーはユーザーの意見を取り入れながら次期機種の開発を続けているとのことである.今後も眼科医からの要望に応えた開発を期待したい.文献1)丹野直弘,市村勉,佐伯昭雄:「光波反射像測定装置」日本特許第2010042号,1990年出願2)川崎良,土谷大仁朗,芳賀真理江ほか:OCT光干渉断層計2機種による網膜厚マッププログラム測定の比較.臨眼59:1357-1361,2005(70)?本方法に対するコメント?OCTは元来,網膜の断面像を描出して,黄斑疾患の病態の理解や,正確な診断補助に役立ってきたが,近年,網膜厚のマップ作成を簡便に行うファーストプログラムの採用によって,特に黄斑浮腫などの網膜肥厚性疾患の経過観察や,手術,レーザー光凝固治療の効果を定量的に判定するのに威力を発揮するようになった.従来,黄斑浮腫の定量解析に用いられてきた中心窩網膜厚の測定は,中心窩位置の決定が測定者によってばらつき,測定値の再現性を低下させるなどの問題点があった.直径6mmまたは3.5mmの円内のretinalmap作成によって得られる黄斑ボリュームは,それに比べ再現性にすぐれている.ただし,カールツァイスメディテック社製のOCT3000でのretinalmap作成においては,コンピュータが自動描画する網膜内境界膜と網膜色素上皮の2本の境界線が,画像のコントラストが低い場合に誤ってトレースされ,しかもそれを補正できないという欠点があった.EG-SCANNERではこの点が改良されており,コンピュータの誤ったトレースを検者が手動で補正できる機能が評価できる.図2EGによる測定例左:正常者黄斑部.中:糖尿病黄斑浮腫(強い?胞様黄斑浮腫を認める).右:加齢黄斑変性(網膜?離・網膜色素上皮?離を認める).

涙点プラグ:初心者のための涙点プラグ

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS涙点プラグ挿入術はドライアイの治療として非常に有用であり1,2),縫合や焼?による涙点閉鎖術に比べて患者への侵襲が少ないため,眼科医にとっても患者にとっても施行への敷居は高くないと思われる.しかし,適応を安易にとらえ十分な説明なしに施行することは患者の信頼を失うことになりかねない.手技に関するちょっとしたコツや,アフターケアにおける細かい配慮が,治療の結果を大きく変えることもありうる.●インフォームド・コンセント本術施行にあたって,適応や手技,合併症についての情報を提供し患者の同意を得ることが必要であるが,筆者らは,特に以下の3点に重きをおいている.1)流涙や異物感が出現する可能性があり,場合によっては治療を中断(涙点プラグを抜去)せざるを得ないことがある.流涙が出現すると視機能が低下することがあるため,次回受診時まで車の運転など危険を伴う作業に注意を払う必要がある.2)涙点プラグが自然脱落する可能性が割と高い2,3).その場合,必要により再挿入や異なった術式による涙点閉鎖を行う.脱落した涙点プラグは小さなものなので,眼脂とともにどこかへいってしまうため心配ない.3)費用について.平成18年4月の診療報酬改定により,涙点プラグ挿入術が片眼630点,涙点プラグの材料費が1個につき486点になった.したがって,両眼の上下涙点に涙点プラグを挿入すると630×2+486×4=3,204点となる.●涙点プラグ挿入術時のコツ<セットアップ>筆者らは細隙灯顕微鏡を使用して本術を行っている(図1).仰臥位にて処置用顕微鏡を使用する場合に比べ,患者が移動する手間と時間を省くことができる.しかし,患者の理解と協力がより必要であり,術者が涙点プラグ初心者で時間がかかりそうなら後者で行うほうが患者の負担が少ないかもしれない.筆者らは通常点眼麻酔を使用しないで涙点プラグを挿入している.挿入後,涙点プラグのつば44が結膜や角膜に接触して強い違和感や痛みが出現する症例が見受けられるが,麻酔をすると帰宅するまでそれが気づかれず,次回受診時まで患者に苦痛を強いることになるからである.挿入時の違和感や痛みは軽微で一瞬感じるだけである.やむをえず麻酔を使用する場合は,術後しばらく院内にて観察することを勧める.<涙点プラグのサイズの選択>適切なサイズを選択するために,サイズ選択用ゲージを使用するのが望ましい.イーグル社のフレックスプラグTMとスーパーフレックスプラグTMの場合,涙点に挿入しうる最大のゲージサイズより1ないし2段階大きな(67)涙点プラグセミナー監修/坪田一男石田玲子慶應義塾大学医学部眼科2.初心者のための涙点プラグ涙点プラグ挿入術はドライアイに対して効果が高く,かつ侵襲の少ない優れた治療法である.しかし,インフォームド・コンセントを得ることや,術後フォローを怠るとトラブルにつながりかねないのは他の治療法と同様である.手技は決してむずかしくはないが,特に初心者は,ちょっとしたコツを知っていると役に立つ.ホワイトメディカル提供図1細隙灯顕微鏡を使用しての涙点プラグの挿入眼瞼皮膚を十分に牽引すると挿入が容易になる.術者の利き腕が右の場合,左上涙点への挿入は涙点がインサーターの動線方向に向かないためやや困難である.この場合は患者の顔を左に振ってもらうとやりやすくなる.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(00)サイズを選択するのが,涙点へのフィッティングや脱落率の低下の面から適切であるといわれている3)が,初心者の場合は慣れるまで小さめのもの(ゲージと同サイズ程度のもの)が挿入しやすいかもしれない.ただし,小さすぎると涙点プラグが涙小管内に埋没してしまうことがあるので注意を要する.<眼瞼の牽引>涙点プラグ挿入時,涙点周囲組織の弾性により押し戻されないために眼瞼の皮膚を牽引し張力をかけることは非常に重要な作業である.下涙点への挿入時は,下眼瞼皮膚を眼窩縁に押しつけながら下耳側方向に牽引すれば十分な張力が得られるが,上涙点の場合は,上眼瞼の上耳側方向への牽引のみでは張力が不十分な場合が多い.筆者は,上眼瞼を翻転させながら牽引することにより涙点を露出させ,かつ張力も得て挿入を容易にさせている.<インサーターの保持>涙点プラグはインサーターに装着されている.インサーターの,涙点プラグの反対側は涙点拡張針になっており,挿入前にこれを使用し涙点を拡張させる.インサーターの中央よりやや涙点プラグ側にリリースボタンがある.涙点プラグを挿入した後スムーズにリリースさせないと,せっかく挿入したのに抜けてしまったり,涙小管内へ埋没させてしまうことがある.そのため,リリースしやすいようにインサーターを保持することは重要である.イーグル社の製品はリリースボタンが1指で押すようにできているため,母指(図2-a)または示指(図2-b)のやりやすいほうで行う.●アフターケア涙点を閉塞させることにより結膜?内の涙液クリアランスが低下するため,術後はアレルギーや感染を予防する目的で自己洗眼をするよう指導する必要がある.筆者らは,防腐剤フリー人工涙液(ソフトサンティアTM)を結膜?内へ十分に流し込みながら眼球を上下左右に動かす方法による洗眼を勧めている.術後数日は,感染予防のため抗生剤の点眼を処方している.その後も,感染を疑わせる着色した眼脂の分泌を認めた際は点眼するよう指導している.おわりに涙点プラグ初心者向けに,筆者らの経験から得た心構えやコツを示した.ドライアイの適応や手技に関しては成書や他の文献を参照されたい.今後のドライアイの治療に,ぜひ涙点プラグ治療を取り入れて欲しい.文献1)後藤英樹,坪田一男:ドライアイ─最新のトピックス.あたらしい眼科20:3-9,20032)篠崎和美:涙点プラグ─利点と欠点─.あたらしい眼科20:23-27,20033)西井和正,横井則彦,小室青ほか:新しい涙点プラグ(フレックスプラグ)の脱落についての検討.日眼会誌108:139-143,2004図2イーグル社スーパーフレックスプラグ?によるインサーターの保持涙点プラグのシャフト部が涙点内に挿入されたら,素早くリリースボタンを押してインサーターをスムーズに引き抜く.母指(a)または示指(b)でボタンを押せるようにインサーターを保持する.ab

眼感染症:ウイルス血清抗体価測定

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS眼科医が,日常臨床において知っておくべきウイルス血清抗体価といえば,「患者のための診断目的」と「自身およびスタッフのための感染予防目的」という2局面である.■ウイルス抗体価測定の方法ウイルス抗体価測定には補体結合反応(CF)法,赤血球凝集反応(HI),蛍光抗体法(FA),中和試験(NT)法,酵素免疫法(EIA)などがある(表1),ここで注目すべきは,EIA法の免疫グロブリンIgG測定のみが定量性があることである.CF法やNT法では8倍という結果が出た場合,血清を2倍階段希釈して8倍までは陽性反応を認めたというものであり定量性はない.同じEIA法でもIgM測定では,カットオフのコントロールの吸光度で検体の吸光度を割った抗体指数(インデックス)で表されており定量性はない.一方,IgG測定は既知のコントロール抗体で検量線を作成し検体の抗体価をEIA価として表しており,定量性がある1).すべて保険適用であるが,CF,HI,FA,NTに比べてEIA法の点数が高くなっている.なお,アデノウイルスのように種々の型が知られているウイルスの場合,型別で検査すると患者からは1型しか請求ができないので注意が必要である.■眼科疾患でのウイルス抗体価さて,眼科領域では局所免疫機構が主体であるために,従来,血清抗体価の価値は低く捉えられてきた.すなわち,急性期とその後2週間経過時点で得られるペア血清においてCF価あるいはNT価が4倍以上上昇する,あるいは急性期にIgMが上昇する場合にのみ,診断価値があるとされてきた.しかし,実際には日常臨床でペア血清や急性期血清を採取することは困難であるため,血清抗体価測定はないがしろにされてきた.しかし,血清抗体価の有用性を指摘した論文も散見される.たとえば,単純ヘルペス性ぶどう膜炎の場合,薄井らの報告2)にあるようにNTによる血清抗体価は眼内液のpolymerasechainreaction(PCR)産物のヘルペス型別と相関しており,血清抗体価からHSV網膜炎のウイルス型別を推測しうる.さらに病状の進退に伴って水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)血清抗体価(CF,EIA)が連動した脈絡膜炎3)や,HSV-2血清抗体価(EIA)上昇から前房内HSV-2検出に至った前部ぶどう膜炎の報告4)も認められる.筆者らは図1のような壊死性角膜ヘルペスにおいて,①上皮型病変および円板状病変をくり返した症例に多いこと,②角膜ヘルペス再発モデルにおいて,三叉神経節での抗体産生が増加すること,③上皮型の再発時に角膜内ウイルス量が増加することなどの理(65)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=大橋裕一井上幸次36.ウイルス血清抗体価測定佐々木香る宮田眼科病院眼科領域ではウイルス抗体価の診断価値は低い.しかし,複数回に及ぶ感作を生じるヘルペスでは,病態によって抗体価が補助診断として活用されうる.種々の測定方法のうち,酵素免疫法(EIA)免疫グロブリンIgGには定量性があることが特徴である.一方,予防的な見地からは,麻疹,ムンプス,風疹,水痘の血清抗体スクリーニングの必要性も頭に入れておきたい.表1各血清ウイルス抗体価測定法の特徴検査法原理所要時間感度備考補体結合反応(CF)抗原抗体複合体と結合した補体の間接的証明(溶血を指標)短い低い群特異性高いスクリーニング用赤血球凝集反応(HI)赤血球凝集を抑制する抗体の証明短い低いウイルス型特異性高いスクリーニング用中和試験(NT)活性ウイルスを中和する感染防御抗体を証明長い/手間がかかる高いウイルス型特異性高い蛍光抗体法(FA)ウイルス抗原と抗体との反応を蛍光標識抗体で証明短い高い抗体分画が可能酵素抗体(ELISA)ウイルス抗原と抗体との反応を酵素標識抗体で証明短い最も高い抗体分画が可能———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006由からEIA法IgGを測定し,ヘルペス既往のない健常人や上皮型初発症例と比較(図2)して診断における有用性を報告した5).HSVの1型と2型の交差性の問題は残るが,病態を限れば血清抗体価の診断的価値はまだ検討の余地があると思われる.また眼科特異的な抗体価として,眼内液ウイルス抗体率の測定がある.下記のように,総IgG量などを指標として血清抗体価との比較でFA法にて算出するが,一般臨床への普及が待たれるところである.抗体率=眼内液ウイルス抗体価÷眼内液IgG量血清ウイルス抗体価÷血清IgG量■院内感染予防におけるウイルス抗体価予防医学の見地から,麻疹,ムンプス,風疹,水痘に関する血清抗体スクリーニングについて少し触れる.医療従事者や患者において風疹の院内感染が発症した報告6)や,医療従事者における麻疹の感染率は一般人に比べて13倍高いという報告7)があり,一旦院内感染が生じると経済的損失は計140万円にのぼるとされている8).医療従事者を対象とした2005年の報告9)では,ムンプス,風疹,麻疹,水痘の抗体非保有者はおのおの15.2%,9.9%,8.6%,0.7%であり,男性職員におけるムンプス,若年女性職員における風疹にはワクチン接種などの対策が必要と思われる.ワクチンを接種するためのカットオフ価(EIA-IgG価)に関しては,まだ議論のあるところである.どこまでこの予防対策に取り組むかは,各病院の事情によって違うと思われるが,少し頭に残していただければと思う.文献1)佐藤俊則,平野勝,横尾裕ほか:単純ヘルペスウイルス抗体測定EIA試薬キットの開発と評価.臨床とウイルス25:48-55,19972)薄井紀夫,柏瀬光寿,箕田宏ほか:ヘルペス性ぶどう膜炎における単純ヘルペスウイルスの型別.日眼会誌104:476-482,20003)西田直子,川浪美穂,田中康之ほか:水痘・帯状疱疹ウイルスの関与が疑われる脈絡膜炎の1例.眼紀54:711-714,20034)InodaS,WakakuraM,HirataJetal:Stromalkeratitisandanterioruveitisduetoherpessimplexvirus-2inayoungchild.?????????????????45:618-621,20015)佐々木香る,子島良平,関山勝好ほか:壊死性角膜炎患者におけるEIA法による抗単純ヘルペスIgG測定の意義.あたらしい眼科23:233-236,20066)GreavesWL,OrensteinWA,StetlerHCetal:Preventionofrubellatransmissioninmedicalfacilities.????248:861-864,19827)AtkinsonWL,MarkowitzLE,AdamasNCetal:Trans-missionofmeaslesinsetting,Unitedstates1985-1989.????????91:320S-324S,19918)寺田喜平,新妻隆広,荻田聡子ほか:麻疹の院内感染とその後の抗体検査および対策─医療経済的な検証も含めて─.感染症学会雑誌75:480-484,20019)白石正,中川美貴子,仲川義人ほか:医療従事者における麻疹,風疹,ムンプスおよび水痘・帯状疱疹ウイルスに対する血清抗体価の測定とその解析.感染症学会雑誌79:322-328,2005(66)■コメント■眼のウイルス感染症は局所であること,体内に潜伏感染しているヘルペス属ウイルスによるものが多いことから,抗体価を診断に生かしにくい一面がある.たとえば単純疱疹ウイルス(HSV)血清抗体価が陽性であるというだけで,角膜ヘルペスであるとはまったくいえないわけであり,逆にそれが抗体価の意義をunderestimateさせているのかもしれない.著者が述べているように,検出部位や病態,抗体量などの情報を駆使すれば有益な情報に化けることもあり,今後さらに検討が必要な分野であろう.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次図1壊死性角膜炎の1例(71歳,女性)EIA法HSV-IgGは128EIA価.図2口唇,角膜,および性器ヘルペスの既往をもたない健常人におけるEIA法HSV-IgG価分布矢印は,健常人,初発上皮型ヘルペス,壊死性角膜炎の中央値を示す.壊死性角膜炎では高値を示した.健常人中央値89.1壊死性角膜炎中央値119.1EIA価初発上皮型ヘルペス中央値59.7530.0025.0020.0015.0010.005.000.00分布率(%)0.0~4.0~20.0~40.0~60.0~80.0~100~120以上

緑内障:3時間連続臥位における眼圧経過

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS眼圧の日内変動については多くの報告が出されているが,日中,夜間とも測定時には座位である報告が多い.しかし,実際の生活姿勢においては,日中は座位,夜間は臥位と異なった体位をとっており,夜間の眼圧については臥位による眼圧上昇が加味されていると考える必要がある.過去の研究では臥位によって4~6mmHg1~6)の上昇が報告されており,臥位後どの程度で眼圧が一定になるかについての報告は少ないが,これまでは5分以内に一定の眼圧に落ち着くと考えられていた.しかし,当科での0分後,5分後,30分後の眼圧経過を測定した研究では,臥位後30分までは継続的な眼圧上昇を認めており,長時間の臥位ではさらなる眼圧の上昇の可能性が示唆された.今回,筆者らは臥位直後,5分後,30分後,180分後の眼圧を測定し,眼圧の推移を検討したので紹介する.■対象および方法対象は白内障手術,硝子体手術,緑内障手術目的で自治医科大学に入院した患者の健眼(非術眼)45眼で,内訳は男性22眼,女性23眼,平均年齢は65歳,緑内障7眼,非緑内障38眼であった.緑内障7眼のうちラタノプロストが5眼,チモロールが7眼,炭酸脱水酵素阻害薬が3眼に使用されていたが,これらは通常どおり継続したままで測定した.高血圧薬として9眼にCa拮抗薬,8眼にアンギオテンシン受容体遮断薬,4眼にb-blockerを内服中であったが,これらも継続したままで測定した.研究への参加については目的,方法,危険性などを説明,同意のうえ,参加していただいた.■測定方法測定にはpneumatonographyモデル30クラシックを使用し,検査中の歩行を避けるために病室に持ち込んで測定した.1.ベッドに腰掛けた状態で座位の眼圧を測定.2.臥位となり,直後1分以内に眼圧を測定.このあと臥位を保ちつづけるように指示し,5分後,30分後,180分後に臥位のままで眼圧を測定した.3.180分臥位測定後に座位となり,1分経過後に座位での眼圧を測定した.■解析方法①座位の眼圧と,臥位後の眼圧を検定した.②継時的に眼圧が上昇しているかについて5分後と30分後,30分後と180分後の眼圧を検定した.③座位と臥位180分後の眼圧の相関,臥位30分後と180分後の眼圧の相関を検討した.■結果平均眼圧の推移をグラフに示す(図1).直前の座位での平均眼圧は16.2mmHgであった.臥位直後(1分以内)では19.9mmHgと速やかに上昇,5分後にはやや低下するも,30分後にはさらに20.9mmHgと上昇した.その後180分後では21.1mmHgとほぼ横ばいであった.(63)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄71.3時間連続臥位における眼圧経過佐々木誠原岳橋本尚子水流忠彦自治医科大学眼科実際の生活姿勢においては,日中は座位,夜間は臥位と異なった体位をとるため,夜間の眼圧は臥位による眼圧上昇が加味されていると考えられる.今回筆者らは,座位,臥位直後,5分後,30分後,180分後の眼圧の推移を検討した.21.115.216.219.919.520.905101520251803050*NSmin眼圧(mmHg)図1直前の座位,臥位直後,5分後,30分後,180分後,直後の座位での眼圧推移臥位5分後と30分後の比較では有意差を認めた(*p<0.01).30分後と180分後の比較では有意差を認めなかった(NS).———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006①臥位後の眼圧は,座位と比しすべての時点で有意な上昇を認めた.②臥位5分後と30分後の比較では,有意な上昇を認めたが,30分後と180分後の比較では,有意差を認めなかった.③30分後と180分後の眼圧は有意な相関を認め,相関係数0.88と特に高くなっていた.座位と180分後の眼圧も相関は有意であるが,相関係数は0.82と前者よりも低かった.その他,血圧,年齢,眼圧上昇率などを用いて検討したが,特に有意な相関を認めなかった.■考察本研究では,臥位直後では3.7mmHgの上昇(overshoot)を認め,5分後では3.5mmHg,30分後では4.7mmHg,180分後では4.9mmHgの上昇を認めた.臥位直後および5分後の時点では,座位よりも眼圧が有意に上昇しているものの,180分後と比較すると有意に低く,この時点では眼圧の上昇が均衡に達していないと考えられた.一方,臥位30分後の眼圧は20.9mmHg,180分後の眼圧は21.1mmHgと有意な上昇はなく,症例数の増加によっては有意差が出てくる可能性もあるが,30分の時点で眼圧は一定に落ち着いていると考えられた.このことから,30分後の眼圧を測ることで,少なくとも3時間後までの眼圧は把握できると考えられた.また,3時間の間に日内変動が影響した可能性については,直前,直後の座位での眼圧には有意差を認めず,大きな影響はなかったと考えた.以上より,臥位5分後の時点では180分後の眼圧上昇値の70%はすでに出現しているが,その後も眼圧は上昇を続け,30分以内に均衡に達すると考えられた.既報では座位と臥位の眼圧には強い相関がみられることから,座位の眼圧から臥位の眼圧を算出する補正式なども報告されている.本研究でも強い相関を認めており,座位眼圧からの予測が可能か検討してみた.座位眼圧16mmHgの場合では回帰直線より臥位眼圧は20.9mmHgと計算される.しかし予測の信頼区間は16.0~25.7mmHg(95%有意水準)と算出され,実際の診療現場で必要とされる精度は得られなかった.また座位眼圧がもともと高い被検者では,臥位眼圧も高くなるのが妥当であり,(臥位眼圧)=(座位眼圧)+(臥位による上昇分)と考えると,両者が(座位眼圧)を共通のパラメータとしてもっていることが見かけ上相関を強くしている可能性もある.座位眼圧からの予測は困難であり,実際に30分後の眼圧を測定する必要性があると考えられた.これまでの報告では臥位開始後から測定までの時間には違いがあるが,3.6~5.6mmHgの眼圧上昇が報告されている1~5)(図2).■結論座位と比較し,臥位では有意に眼圧が上昇した.臥位5分後と30分後の比較では有意な上昇を認めたが,30分後と180分後の比較では有意な上昇は認めなかった.夜間の眼圧を検討するためには臥位30分後の眼圧測定が有用と考えられた.文献1)MosaedS,LiuJH,WeinrebRN:Correlationbetweeno?ceandpeaknocturnalintraocularpressuresinhealthysubjectsandglaucomapatients.???????????????139:320-324,20052)LiuJH,KripkeDF,Ho?manREetal:Nocturnalelevationofintraocularpressureinyoungadults.?????????????????????????39:2707-2712,19983)LiuJH,KripkeDF,TwaMDetal:Twenty-four-hourpatternofintraocularpressureintheagingpopulation.?????????????????????????40:2912-2917,19994)柴田哲夫,近藤和義,三島弘:体位変換による眼圧変動─短時間および長時間の仰臥位における眼圧上昇幅の検討.日眼会誌89:696-701,19855)広田篤,高松倫也,塚本秀利ほか:体位や光が眼圧の日内変動に与える影響.あたらしい眼科14:609-612,19976)HaraT,HaraT,TsuruT:Increaseofpeakintraocularpressureduringsleepinreproduceddiurnalchangesbyposture.???????????????124:165-168,2006(64)6.718.914.818.027.125.021.1216.25.613.619.612.518.416.5113.49.0221.15.421985,柴田ら*1健常23眼緑内障16眼1997,広田ら*2平均23歳,健常21人1998,Liuら*318~25歳,健常12人1999,Liuら*3平均60歳,健常21人2005,Mosaedら*3平均22歳,健常33人平均58歳,健常35人平均60歳,緑内障35人本研究平均65歳45眼:座位:臥位01020mmHg図2過去の報告との比較*1臥位は3時間後に測定.*2臥位は9,12,3,6時の平均.*3日中は臥位5分後に測定し,夜間は臥位のまま測定しているが,ここでは日内変動の点から日中の座位の平均眼圧と日中の臥位5分後の平均眼圧を示した.

屈折矯正手術:B&L Zyoptix 217z100とZywave

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS現在,Bausch&Lomb社製のZyoptixシステムはフライングスポットのエキシマレーザーT-217z100と,波面収差計であるZywave,レーザー照射後のシミュレーションに用いる角膜形状解析装置Orbscan-Ⅱから構成されている(図1).●T-217z100T-217z100は,もともとカイロン社製ブロードビームレーザーKeracor116から発展してきたレーザーで,Keracor117cに改良され径2mmのフライングスポットレーザーとなり,T-217zとなり径1mmのtruncat-edgaussianbeamが加わりwavefront-guidedablationが可能になった.T-217zは2003年にAlcon社製LADARVision,VISX社製StarS4につづく3つめのwavefront-guidedLASIK(laser???????keratomileu-sis)に用いるエキシマレーザーシステムとして米国食品医薬品局(FDA)で認可された.わが国でも治験が行われ,厚生労働省の認可を待っている状態である.2004年初頭に照射周波数50HzであったT-217zがアップグレードされ,照射周波数が100Hzとなり,それに伴いアイトラッキングのサンプリングレートが240Hzになり,虹彩認識などの機能も付加されT-217z100と名称が変更された.ヨーロッパを始めとして世界中で使用されているレーザーであり,市販されたT-217zを使用したwavefront-guidedLASIKの成績も報告されている1).●Zyoptixの実際Zyoptixシステムで行うwavefront-guidedLASIKは,Zywaveで測定した波面収差をそのまま打ち消すようなレーザー照射を行うので,wavefront-guidedablationの原法に忠実である.しかし,球面度数に関してはPPR(predictedphoroptorrefraction)とよばれる瞳孔径3.5mmの解析から算出された値をそのまま使用するよりも,自覚的屈折度を用いたほうが術後成績は安定する.各個人の波面で径のどこまでが自覚的屈折度数に関与しているかは古くて新しい問題で結論はでていないが,一律3.5mmというわけでもないうようである.また,高次収差が多い眼においては,それだけ高次収差矯正量が増加するので,低次収差(球面度数,円柱度数)矯正による高次収差の増大は起こるものの,術後の高次収差を(61)●連載?屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男72.B&LZyoptix217z100とZywave稗田牧バプテスト眼科クリニックZyoptixシステムは,Zywaveで波面収差を測定し,T-217z100でwavefront-guidedablationを行う.特徴は,比較的高次収差が多い眼も波面収差の測定が可能な点,虹彩認識による,回旋偏位の補正,散瞳時と自然瞳孔時の瞳孔中心の偏位の補正などでレジストレーションに優れている点である.図1ZyoptixシステムエキシマレーザーT-217z100(左),ZtwaveとOrbscan-Ⅱ(右).術前術後6カ月図2屈折矯正術後眼へのwavefront-enhancementStandardなLASIK術後に非対称な乱視が残ってしまった例.Wavefront-enhancementでコマ収差が著明に減少している.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006減少させる効果が期待できる.特に,屈折矯正手術後眼のエンハンスメントでは,低次収差はそれほど多くなく,高次収差は増大しているので比較的確実に術後高次収差を減少させることができる(図2).エンハンスメントにZyoptixを用いると,術眼の高次収差の量に比例してエンハンス術後高次収差が減少したとする報告2)や,エンハンス術後のコントラスト感度の低下が起こらないとする報告3)がある.●球面収差対策球面度数をレーザー照射で矯正することにより矯正量依存的に誘発される球面収差を補正するアルゴリズムは加えられていない.したがって,照射径を狭くすると瞳孔径6mmで解析した球面収差が増加しやすいが,照射径を拡大することで抑えることは可能である.しかし,測定できた波面収差の範囲でのみ照射径がデザインできるシステムなので,6mm以上の広いオプチカルゾーンで照射するためには,術前に散瞳して波面収差を測定しなくてはならない.●コマ収差矯正コマ収差矯正はT-217zについてFDAが公開している治験時のデータや論文など1~3)からも現在,市販されているwavefront-guidedLASIKのシステムのなかでも,特に優れた矯正効果をもつと思われる.T-217z100となり,虹彩認識による回旋偏位の補正(レーザー照射前に1回のみ),散瞳時と自然瞳孔時の瞳孔中心の偏位の補正(図3)などが加わりレジストレーションが充実することで,コマ収差矯正力はさらに改善している.照射中に回旋偏位を補正するトラッキングシステムのバージョンアップも予定されている.●ZywaveZywaveはHartmann-Schack型波面センサーで瞳孔7mmでの測定点は75と比較的少ない.しかし,レーザースポットが径1.0mmでは理論上四次収差までしか矯正できないことを考えると,今の時点でのwave-front-guidedLASIKには必要かつ十分であるかもしれない.測定点が少ないことで不正乱視や高次収差が多い眼でもHartmann像がどうにか認識でき,高次収差が測定できることがある.不正乱視測定にある程度までは対応できるということは,エンハンスに使用できる機会が増えるということでもある.また,この特徴を生かして,屈折矯正術後に訴えのある症例は,通常症例より約3倍高次収差が多いという報告4)にもZywaveは使用されていた.しかし,測定に再現性がない場合にレーザー照射に用いるのは避けたほうがよい.Zyoptixのシステムに入りながらOrbscan-Ⅱのデータは照射アルゴリズムに組み込まれていない.角膜の非球面性を保持するような照射を行うため,Orbscan-Ⅱのデータも活用されるようになれば,さらなる成績の向上が期待できる.文献1)KohnenT,BuhrenJ,KuhneCetal:Wavefront-guidedLASIKwiththeZyoptix3.1systemforthecorrectionofmyopiaandcompoundmyopicastigmatismwith1-yearfollow-up:clinicaloutcomeandchangeinhigherorderaberrations.?????????????111:2175-2185,20042)CastaneraJ,SerraA,RiosC:Wavefront-guidedablationwithBauschandLombZyoptixforretreatmentsafterlaserinsitukeratomileusisformyopia.??????????????20:439-443,20043)AlioJL,Montes-MicoR:Wavefront-guidedversusstan-dardLASIKenhancementforresidualrefractiveerrors.?????????????113:191-197,20064)McCormickGJ,PorterJ,CoxIGetal:Higher-orderaber-rationsineyeswithirregularcorneasafterlaserrefrac-tivesurgery.?????????????112:1699-1709,2005(62)図3散瞳・自然瞳孔の瞳孔中心の位置変化上段の散瞳時の瞳孔中心と,下段の自然瞳孔時の瞳孔中心の位置の違いを角膜輪部の中心が一定と仮定してXY表示で認識しておき,レーザー照射時に使用する.

眼内レンズ:白内障術後の抵抗性結膜出血

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS白内障手術は比較的低侵襲で安全な手術と考えられている.現在の白内障手術は切開創も小さく,軽度の出血傾向であれば抗凝固療法中でもそのまま抗凝固療法を行いながら手術は可能である.今回筆者は,血液データでは軽度の出血傾向であったため,抗凝固療法を継続したまま白内障手術を施行した.しかしその後,結膜よりの出血が止まらず治療に抵抗した症例を経験したので報告する.■症例患者は79歳,男性で,術前視力はVD=0.2(0.3×sph+1.5Dcyl-1.5DAx90?),VS=s.l.(-).眼圧は右眼=13mmHg,左眼=23mmHg.左眼は原因不明の硝子体出血にて失明状態であった.右眼白内障は核白内障のgradeⅡ~Ⅲで後?下混濁を伴っていた.既往症には胸腹部大動脈瘤があった.術前血液データでは,赤血球数が337104/??,血小板数は10.6104/??と低下しており,PT(プロトロンビン時間)は13.3秒と軽度低下,A-PTT(活性部分トロンボプラスチン時間)は31.7秒でほぼ正常であった.バイアスピリンTM1錠続行のまま手術を行った.手術は強角膜切開にて行いUStime(超音波発信時間)は1分18秒,インジェクターにてsinglepieceAcrySof?(21.0D)を挿入した.手術時間は約12分で術中,特に問題はなかった.術翌日に結膜下出血を広範囲に認めたものの通常と比較してそれほどの変化ではなかった.術後4日目接触型眼圧計での眼圧測定後,結膜よりの出血が増強し,眼帯をしても出血がにじむようになり痂皮も形成した.その後軟膏療法にての自然軽快を期待したが改善しないため,術後7日目に結膜創を開いて出血点を確認した.しかし,結膜全体よりびまん性に出血していて止血困難であった.そこで眼軟膏塗布と圧迫眼帯による止血を試みた.圧迫眼帯開始後,出血量は増減をくり返し,結局改善傾向が認められなかった(図1).手(59)杉本?二小倉記念病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎237.白内障術後の抵抗性結膜出血白内障手術後,通常の方法では止血困難となった症例を経験した.ボスミンTM点眼で出血は消退したが,原因として胸腹部大動脈瘤のため消費性凝固障害,線溶系の亢進を惹起し難治性の出血が生じたと考えられた.血液データだけでなく,全身疾患を考えた術式の選択,およびより低侵襲の手術が必要であった.図1術後16日目の状態出血が続いており,上方には痂皮も形成している.図2ボスミンTM点眼開始後5日目の状態ほぼ出血は消退している.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(00)術後16日目の血液データは,赤血球数が305104/??,血小板数が7.0104/??とさらに低下し,PTが14.8秒,A-PTTが38.0秒と低下傾向を示し,FDP(フィブリノーゲン分解産物)が121.4?g/m?と異常高値を示し消費性凝固障害と線溶系の亢進を示していた.このままの治療では改善しないと判断し,胸腹部大動脈瘤の治療が困難な状況では全身的改善は不可能なので局所による止血を考え,エピネフリン(ボスミンTM)の局所点眼を開始した.ボスミンTM0.02mgを1日4回点眼を3日間,0.033mgを1日4回点眼を3日間行った.その結果,出血は徐々に減少し,点眼開始後5日目にはほとんど出血しなくなった(図2).■結果本症例は術前血小板数が約10104/??とそれほど低下しておらず,PTは軽度の低下,A-PTTは正常であったため,通常の強角膜切開創での白内障手術を行った.しかし胸腹部大動脈瘤のため,術後,消費性凝固障害,線溶系の亢進を惹起し,難治性の出血が生じたと考えられた.出血は通常の方法では止血されず,局所のボスミンTM点眼にて何とか止血することができた.■考察白内障の手術は比較的低侵襲であり,強角膜切開でもほとんど出血の危険性は少ない.今回の症例の場合,長期に胸腹部大動脈瘤があり,そのため動脈瘤内で血液の停滞が起こり血栓の形成を惹起して血小板や凝固因子の消費が進み,さらにこれが内皮の活性化と線溶系の亢進を推し進め,結果的に出血傾向が増大して止血困難な状態になったと考えられた(図3).血液データだけでなく,全身疾患やそれに伴う体内動態を考え,角膜切開での手術術式の選択が必要であったと考えられた.しかし角膜切開で手術を行っても触った結膜から出血が起こり,止血困難になることもあり,よりいっそう侵襲の少ない手術を心がけるべきであったと考えられた.大動脈瘤血流の停滞血小板,凝固因子の消費瘤内血栓形成内皮細胞の活性化線溶系の活性化出血傾向図3胸腹部大動脈瘤の存在による出血傾向の原因

コンタクトレンズ:薬事法改正について

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS平成17年4月1日より施行の改正薬事法(「薬事法及び採血及び供血あっせん業取締法の一部を改正する法律」平成14年7月31日公布)により,コンタクトレンズ(CL)はその販売に関して安全対策を目的に規制の強化が加わることとなった.今回の薬事法改正によりCLは高度管理医療機器クラスⅢに分類(表1)され,販売・賃貸に関して許可制度の導入,販売業者の許可要件,販売管理者の設置等の遵守事項の大幅な見直しを含んだ安全対策の充実が求められることになった.まず,CL(高度管理医療機器等)を販売する場合には,都道府県知事へ高度管理医療機器販売業の申請をし,その許可を受けておかねばならない(改正薬事法第39条及び第5条).その際のCL(高度管理医療機器等)販売・賃貸業の許可申請書の記載事項および添付資料は以下のとおりである.1.申請書記載事項①営業所の名称②営業所の所在地③営業所の構造設備の概要(医療機器の保管設備の概要を示す)④営業所の管理者の氏名及び住所⑤兼営事業の種類⑥申請者の欠格条項への該当性⑦備考2.添付資料①営業所の構造設備に関する書類(営業所全体の概要を示す図面を添付)②法人の場合は登記簿の謄本③申請者(業務を行う役員)が麻薬等の中毒者でない旨の診断書④営業所の管理者がその要件を満たすことを証明する書類CL販売業の許可申請時の構造設備基準については,薬事法では「医療機器販売業の営業所の構造設備」として,以下のとおり規定されているにすぎない.第5条薬事法第39条第1項に規定する営業所の構造設備基準一採光・照明及び換気が適切であり,かつ,清潔であること.二常時居住する場所及び換気が不潔な場所から明確に区別されていること.三取扱品目を衛生的に,かつ,安全に貯蔵するために必要な設備を有すること.しかし,医療機関と隣接するCL販売所における構造関係は,医療法からの規制を受けることになり,1)診療所の場合CL販売所が診療所から離れている場合には問題はないが,診療所に隣接している場合は,それぞれが単独の施設として完全に分離している必要がある.①それぞれに独立した出入り口が必要である.②診療所とCL販売所との間が完全に遮断されていること.③一般のビルの一部を使用している場合では,廊(57)吉田博吉田眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS263.薬事法改正について表1改正薬事法における医療機器の分類①高度管理医療機器〔クラスⅣ:患者への侵襲性が高く,不具合が生じた場合,生命の危険に直結する恐れがあるもの(例:ペースメーカー,人工心臓弁,放射線治療装置等)〕〔クラスⅢ:不具合が生じた場合,人体へのリスクが比較的高いと考えられるもの(例:CL,IOL,透析器,人工呼吸器等)〕②管理医療機器〔クラスⅡ:不具合が生じた場合でも,人体へのリスクが比較的低いと考えられるもの(例:MRI,電子式血圧計,消化器用カテーテル等)〕③一般医療機器〔クラスⅠ:不具合が生じた場合でも,人体へのリスクが極めて低いと考えられるもの(例:眼鏡,メス,ピンセット,X線フイルム等)〕———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(00)下・階段は施設外とみなされる.2)病院の場合非医療施設区域(購買・食堂等のサービス区域)に販売所を設ける必要がある.ただし,この基準は各都道府県の判断に委ねられているので,所轄の行政機関に確認することが必要である.つぎに,CL(高度管理医療機器等)を販売するにあたっては営業所ごとに販売管理者を設置しなければならず,その要件は以下のとおりである.(第1項)第一号医療機器の販売又は賃貸に関する業務に3年以上従事した後,別に厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣より登録を受けた者が行う基礎講習を修了した者(CLの場合は業務1年で可)第二号厚生労働大臣が前号に掲げる者と同等以上の知識及び経験を有すると認めた者①医師,歯科医師,薬剤師の資格を有する者②医療機器の第1種製造販売業の総括製造販売管理者の資格を有する者③医療機器製造販売業の責任技術者の資格を有する者④医療機器の修理業の責任技術者の資格を有する者⑤薬種商販売業許可を受けた店舗における当該店舗に係わる許可申請者若しくは当該店舗に係わる適格者⑥財団法人医療機器センター及び日本医科器械商工団体連合会が共催で実施した医療機器販売適正事業所認定制度「販売管理責任者講習」を修了した者(第2項)販売業者等は,営業所の管理者に,別に厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣に届出を行った者が行う継続研修を毎年受講させなければならない.CL販売管理者に関して厚生労働省医薬食品局医療機器審査管理室長通知(薬食機発第0709001号)によると,「医療機器販売業及び賃貸業の営業所と隣り合う診療所の医師が,営業所の管理者となることを妨げるものではないこと(隣り合う眼科診療所の医師によるコンタクトレンズ販売店の営業所の管理者等)」となっているので,眼科診療所の医師がCL販売所の販売管理者を兼務する場合には,医療機関での業務に支障のない範囲内であれば原則的には可能である.CL(高度管理医療機器等)販売業者に課された遵守事項は,譲受時の記録の作成及び保管,受入時の検査を行い,営業所の管理に係わる記録の作成及び保管,教育訓練の実施,管理者の継続研修の受講が義務化され,一般消費者からの苦情・副作用の情報収集と製造販売業者へ不具合情報の通知,更に一般消費者への情報提供,回収・苦情への対応を速やかに行わねばならないとなっている.

写真:淋菌性角膜腫瘍

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(55)角環高知大学医学部眼科/東京歯科大学市川総合病院眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦264.淋菌性角膜潰瘍図1症例1:広範な角膜潰瘍と角膜穿孔(22歳,男性)両眼の流行性角結膜炎(EKC)としてレボフロキサシン点眼で治療されていたが,治療に抵抗し左眼角膜潰瘍出現後急速に悪化.角膜穿孔し紹介された.両眼脂よりニューキノロン耐性?????????????????????が検出された.保存角膜を用い10.5mm全層角膜移植術を施行し眼球形状を修復した.①②③④⑤⑥⑦図2図1のシェーマ①:著明な眼瞼発赤腫脹.②:虹彩脱出を認める角膜穿孔部(前房消失).③:瞳孔偏位.④:広範な角膜潰瘍と菲薄.⑤:極度の眼球結膜充血と結膜浮腫.⑥:全体に及ぶ実質内細胞浸潤.⑦:膿性クリーム状眼脂.図3症例2:周辺部角膜潰瘍と角膜穿孔(29歳,男性)症例1同様EKCとしてレボフロキサシン点眼で治療,治療に抵抗するため紹介された.著明な膿性クリーム状眼脂など特徴的な眼所見を認める.両眼脂よりニューキノロン耐性?????????????????????が検出された.図4症例2の術後2週間の前眼部写真3.5×1.5mm?apを用いて表層角膜移植術施行.眼所見の著明な改善と安定した前房形成が確認できる(虹彩前癒着解除のために散瞳薬使用).術前視力(0.01)→術後1カ月(1.5)に改善した.菌同定後,入院時否定していた風俗店利用を認め,排尿時痛後に眼症状が出現していたこともわかった.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(00)淋菌性結膜炎は新生児型と成人型に分類され,罹患すれば角膜潰瘍,角膜穿孔など重篤な合併症を伴う可能性のある疾患である.成人型は性感染症(sexual-lytransmitteddisease:STD)の一つであり淋菌感染者との性的接触による感染が知られており,近年増加傾向にある.好発年齢は20~30歳代の若年層で,男性のほうが多い.淋菌性結膜炎は化膿度の強い結膜炎の代表で,眼脂は膿があふれ出るようなクリーム状で膿漏眼とよばれる.極度の結膜充血,浮腫を呈し,眼瞼の腫脹,流涙,眼痛などの症状を示す.成人型は半日~3日の潜伏期で発症し,ほとんど両眼性である.多くは結膜炎で終息する場合が多いが,角膜に病変が及び角膜のバリア機能が障害されると,周辺部の実質内細胞浸潤や周辺部角膜潰瘍を併発する.これらの重症例では,非常に短時間で角膜穿孔に至る場合もある1).成人型は新生児型よりも角膜合併症が起こりやすく,進行も速く重篤になりやすい.細胞浸潤時に適切な治療を行えば速やかに反応するが,角膜潰瘍に至ると病気自体の進行もさらに速くなり,治療が難渋することから,視力予後は角膜合併症の程度による.治療はペニシリン系,テトラサイクリン系,マクロライド系,ニューキノロン系などの頻回点眼および全身投与を行うが,淋菌は薬剤耐性の獲得が速い細菌である.近年ペニシリンやニューキノロン耐性淋菌が報告されており,ニューキノロン系薬剤に対する耐性化に関して1980年代前半は0%であったが,90年代後半では24.4%と有意に上昇したとの報告もある2).できる限り早期から感受性の適合した薬剤を選択することが治療予後を左右するため,初診時の塗抹検査,細菌分離培養,薬剤感受性検査が必須である.淋菌は0.6~1.0?mのグラム陰性双球菌であり,塗抹検査は迅速で,確実な診断法として有用である.Polymerasechainreaction(PCR)法で淋菌のDNAを同定する方法も比較的速く結果が得られる.薬剤感受性検査の結果が不明な治療開始初期の段階では,第一選択として耐性化がほとんど問題になっていないセフェム系などとの複数系統の薬剤を使用することが望ましい.しかし薬物治療に反応なく角膜潰瘍から角膜穿孔に至った際,穿孔創が小さい場合(直径1.5mm以下)には治療用コンタクトレンズにより保存的治療が有効な場合もある.しかし範囲が大きいと保存的治療では前房の再形成を得られない場合が多く,外科的治療(角膜移植術)が必要となる.一般的に炎症の活動期には手術は禁忌とされているが,感染性角膜潰瘍で薬物による保存的治療が無効の場合には,感染巣の除去を目的として治療的角膜移植術が必要となる.角膜穿孔で角膜の構造の著しい変化をきたした場合は,眼球の形状を修復・維持するために整形的角膜移植術が行われる3).淋菌は温度変化や乾燥に弱く,体外では数時間しか生存できず潜伏期も短い.そのため成人型の結膜への感染は,感染分泌物をつけた手指やタオルなどで眼を擦るなど,性交渉を機会にして直接感染する.全身合併症には尿道炎,子宮頸管炎が多く,患者本人はもとより,sexpartnerを含めた全身治療を行う必要がある.積極的に他科との協力した治療にあたることが大切で,拡大防止のために感染経路の特定,混合感染の有無の確認,sexpartnerの診断,治療が重要である.文献1)UllmanS,RousselTJ,CulbertsonWWetal:Neisseriagonorrhoeaekeratoconjunctivitis.?????????????94:525-531,19872)田中正利:ニューキノロン系耐性Neisseriagonorrhoeaeに関する基礎的及び臨床的検討.日本化学療法学会雑誌47:543-552,19993)平山久美子,塩沢啓,沼慎一郎ほか:治療的・整形的角膜移植術が奏効した淋菌性角膜穿孔の2症例.臨眼56:167-172,2002

緑内障と他の視神経疾患の眼底所見と視野所見による鑑別

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS①検眼鏡検査(a)直像鏡:観察倍率が12倍と高く,乳頭の観察には優れているが,観察範囲が狭く,像が二次元であるという欠点がある.(b)倒像鏡:観察範囲は広いが拡大率が低く,立体像の得られる双眼倒像鏡を用いても,緑内障の検出および観察には不向きである.②細隙灯検査(a)非接眼レンズ:+78Dや+90Dを用いると倒像ではあるが,乳頭の拡大立体像および神経線維層が観察できるため優れている.(b)接眼レンズ:Goldmann型隅角鏡では,直像の拡大立体像が得られるため,散瞳のうえ必ず試みるべき検査である.③ステレオ眼底カメラ:眼底を立体観察でき,記録として残せば,陥凹の変化を経時的に観察できる.④その他の画像解析装置その他の機器として,opticalcoherencetomograph(OCT),Heidelbergretinatomograph(HRT),scanninglaserophthalmoscope(SLO)などがあるが,その所有は一部の施設に限られているのが現状である.また,乳頭や神経線維厚の立体計測は,各測定値の標準誤差が大きく,診断や鑑別には不向きである.経過観察用として用いることが望ましい.以上のように,視神経乳頭の所見を正確に読み取るために,日常の緑内障診療では散瞳下で非接眼レンズあるA.生理的乳頭陥凹と緑内障性視神経乳頭の特徴および鑑別はじめに2000~2003年に行われた多治見スタディによると,開放隅角緑内障の有病率は,40歳以上で3.9%であり,そのうち9割以上が正常眼圧緑内障であったと報告している1)ことからも,緑内障の診断における眼底検査の占める役割は,近年ますます高まったといえる.しかしながら,眼底の緑内障性変化は,典型例であれば正常との鑑別は容易であるが,比較的早期の緑内障では,正常眼にみられる陥凹,すなわち生理的乳頭陥凹との鑑別が困難になる.正常眼に見られる生理的乳頭陥凹は,一生涯,器質的および機能的障害はみられないものであるが,緑内障性陥凹は,乳頭辺縁部を形成している神経線維とグリア組織が脱落し,その脱落した部分だけ,生理的陥凹が拡大したものであり,それに相当して視野の欠損が検出されうる.このように両者の本質はまったく異なるものである.本項では,生理的乳頭陥凹と緑内障性視神経症の特徴と鑑別について概説する.I眼底検査の方法眼底の検査法によって,診断および鑑別能力が大きく異なる.(37)???*KyokoIshida:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕石田恭子:〒501-1193岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):599~615,2006緑内障と他の視神経疾患の眼底所見と視野所見による鑑別??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????石田恭子*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006いは接眼レンズを用いた細隙灯検査(②)とステレオ眼底カメラ(③)は必ず施行したい検査である.II正常視神経乳頭および生理的乳頭陥凹の特徴緑内障を正確に診断するために,まず,正常視神経乳頭について理解する必要がある.ここにおいては,一般的な正常視神経乳頭の特徴について述べる.1.視神経乳頭の大きさと形状視神経乳頭の大きさは正常眼において0.8~6.0mm2と個体差が大きく,日本人の平均では,2.22mm2と報告されている.しかしながら,各個人での左右の乳頭の大きさにはほぼ差はない2).一般に,視神経乳頭の大きさは,正常眼(図1)と緑内障眼の間に差はないといわれているが,一方,正常眼圧緑内障の乳頭は,正常眼に比べて大きく,?性落?緑内障の乳頭は小さいとの報告もある3).正常眼の視神経乳頭の形態はさまざまであるが,通常,縦径は横径に比べ7~10%長くやや縦長の形態を有する.しかし,近視眼の多いわが国ではさらに縦長の乳頭が少なからず存在する.2.視神経乳頭辺縁部の形状乳頭辺縁部(リム)とは,視神経乳頭縁と陥凹縁との間の部分で,神経線維が存在する部位である.正常眼では,一般に乳頭がやや縦長で,陥凹がやや横長であることから,辺縁部の形態もこれに影響され,下方(inferi-or),上方(superior),鼻側(nasal),耳側(temporal)の順に広く4),ISN?Trule(図2)とよばれ,各部位でリムの厚みに差はあるが,神経線維の減少のあらわれであるリムの崩れは認めない.しかしながら,近視性の縦長の耳側に傾斜した乳頭や巨大乳頭ではISN?Truleが当てはまらないことも多く注意を要する.3.生理的乳頭陥凹陥凹の境界の決定には乳頭面上の血管走行に着目し,陥凹内に入る(あるいは乳頭辺縁部に出る)血管の屈曲点を乳頭上で結ぶことにより,陥凹の外縁を捉える(図3).生理的乳頭陥凹は通常,つぎのような特徴をもつ.①生理的乳頭陥凹は,乳頭のほぼ中央に存在し,やや横長の楕円形である.②生理的乳頭陥凹の奥行きは浅い.③生理的乳頭陥凹の大きさと深さは,乳頭の大きさに比例し,大きな乳頭ほど,大きく深い陥凹をもつが,陥凹縁にノッチは認めない(図4).④陥凹底の色調は黄色で,辺縁部(リム)は赤~橙赤色,陥凹壁はこれらの移行色をもち,陥凹底?陥凹壁?辺(38)図2ISN?Trule正常眼では,一般に乳頭がやや縦長で,陥凹がやや横長であることから,辺縁部の形態もこれに影響され,下方,上方,鼻側,耳側の順に広く,ISN?Truleとよばれる.しかしながら,近視性の縦長の耳側に傾斜した乳頭や巨大乳頭ではISN?Truleが当てはまらないことも多く注意を要する.上(Superior)下(Inferior)鼻側(Nasal)耳側(Temporal)図1正常視神経乳頭———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???縁部(リム)への移行はスムーズで,乳頭血管が,急激に屈折することはない⑤陥凹乳頭比(cup-to-discratio:C/D比)は,0.3~0.4以下である.0.7以上は,正常眼で5%にすぎず,異常である可能性が高い2).⑥水平C/D比>垂直C/D比:正常では,乳頭がやや縦長で,陥凹がやや横長であることから,水平C/D比>垂直C/D比であり,垂直C/D比のほうが大きい例は,正常眼の7%にすぎず,異常である可能性が高い.⑦陥凹は左右眼で対称:C/D比の左右差が0.2を超える場合は,正常眼では3%にすぎず,異常である可能性が高い(図5).III緑内障性視神経乳頭の変化緑内障性視神経障害は,神経線維の喪失による,リムの狭小化と乳頭陥凹の拡大,およびそれに伴う陥凹部の蒼白化,網膜神経線維層欠損に特徴づけられる.1.乳頭陥凹拡大と辺縁部の狭小化a.皿状陥凹緑内障の初期では,陥凹は視神経乳頭の全周方向に均一に浅く拡大し,その結果,乳頭辺縁部は,狭小化し皿状化(saucerization)する.皿状の陥凹(図6)は,特に血管の走行や,屈曲部などに注目し,立体観察をすることにより初めて把握でき,高眼圧緑内障の初期病変として重要である.b.陥凹の上,下耳側拡大とノッチングさらに緑内障が進行すると,浅く陥凹した部分は深みを増し,陥凹と辺縁部の境界はより明瞭となる.また,(39)図3視神経乳頭陥凹の境界の決定法正常視神経乳頭陥凹の境界の決定には乳頭面上の血管走行に着目し,陥凹内に入る(あるいは乳頭辺縁部に出る)血管の屈曲点を乳頭上で結ぶことにより,陥凹の外縁を捉える.図4正常サイズの視神経乳頭と,大きな生理的陥凹をもつ大きな正常視神経乳頭生理的乳頭陥凹の大きさと深さは,乳頭の大きさに比例し,大きな乳頭ほど,大きく深い陥凹をもつが,リムは保たれている.図5左右のC/D比に差がある片眼性の緑内障例図6皿状陥凹の1例浅い皿状の陥凹は,特に血管の走行や,屈曲部などに注目し,立体観察をすることにより初めて把握できる.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006この時期には,乳頭の上あるいは下極に向かって陥凹が拡大し,辺縁部の限局性の菲薄化,すなわちノッチングが観察される.ノッチングは,特に下耳側付近にみられることが多く,Bjerrum領域の視野障害と対応する(図7).一方,ノッチングが乳頭上極付近に観察され,下方の視野障害が先行する例は3割程度である.さらに進行すると,陥凹は最初のノッチング部と対側の方向にも拡大し,上下方向のリムが薄くなり,陥凹は縦長となる(図8).この時期になると視野は上下に弓状暗点を呈するようになる.c.辺縁部の全体的な消失末期に至ると辺縁部は全体に消失し,陥凹は全体に拡大する(図9).2.陥凹の深化,laminardotsign,undermining篩状板の孔の形や,大きさは乳頭の各部位により差があり,耳側は比較的小さい円形で,上下はやや大きい円形を呈し,正常眼でもみられることはある.しかし,緑内障の進行とともに神経線維が消失し陥凹が深くなると,陥凹底部に篩状板の窓孔が観察される.これをlaminardotsignとよぶ(図10).立体観察やSLOにより,篩状板の孔が不規則に拡大したり,横つぶれなど,配列の乱れや変形を認めた場合は緑内障,小さい孔が規則正しく並んでいる場合は生理的陥凹と鑑別される.さ(40)図7乳頭の下耳側にノッチングを認める正常眼圧緑内障症例上左:右眼視神経乳頭写真:乳頭下耳側のノッチングと対応する神経線維層欠損.上右:Heidelbergretinatomograph(HRT)画像:乳頭下耳側のノッチング.下左:Scanninglaserophthalmoscope(SLO)画像:ノッチングと対応する神経線維層欠損.下右:視野:神経線維層欠損と対応する視野障害.図8乳頭上下耳側にノッチングが形成された症例乳頭上下耳側にノッチングと神経線維層欠損を認める.この時期には,上下に視野障害を呈するようになる.図9末期の緑内障例末期に至ると,リムの全体的な消失と血管の耳側偏位を認める.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???らに進行すると陥凹底は,後方に偏位し,陥凹縁がえぐられたような下掘れ(undermining)を形成する(図11).3.血管走行の変化陥凹境界の決定に際しては乳頭上の血管の屈曲点を目安とするが,リムの変化に伴い血管の走行にも変化が現れる.a.Overpassing血管は陥凹底から,リムの表面に沿って走行するが,緑内障変化により陥凹が深くなると血管を支えていた組織が失われ,血管は陥凹から浮いて橋渡しをしたように走行する(図12).b.耳側偏位やがて,橋状に浮いていた血管は陥凹底に移行し,さらなる進行とともに,血管全体が耳側に偏位する(図9).しかし,生理的に大きな陥凹をもつ正常眼でも,血管が耳側に認められることがあるため注意を要する.c.Bayoneting陥凹縁では,血管の屈曲が強く,特にリムが下掘れ状になったところでは,血管がリムの下掘れに沿って一旦見えなくなってから,再び乳頭縁に現れ,bayoneting(銃剣状の走行)とよばれる(図11).4.乳頭陥凹拡大と乳頭の色調の変化(陥凹と蒼白部)正常眼では乳頭の陥凹部=蒼白部である.しかし,緑内障では,陥凹は,蒼白部に先行し拡大するため,両者の不一致が生じる.一方,他の疾患による視神経萎縮では,蒼白部>陥凹であるため,重要な鑑別所見である.5.乳頭出血乳頭上または,乳頭縁のノッチング部や神経線維層欠損部に隣接して存在することが多い.特に,正常眼圧緑内障に多く認められ,好発部位は,乳頭の下耳側,上耳側である.正常眼においては0.1~2%とされ,乳頭出血(dischemorrhage:DH)が認められた場合,緑内障の可能性,あるいは出血部位での進行の可能性を示唆する重要な所見5)であり,リムのノッチングや隣接する神経線維層欠損の有無,視野障害の有無をチェックする(図13).6.神経線維層欠損乳頭周辺の限局性の束状の神経線維層欠損(nerve?berlayerdefect:NFLD)は,糖尿病網膜症,光凝固後,正常眼においても認められることはあるが,緑内障の場合,乳頭陥凹拡大や視野欠損に先行して,乳頭耳上側や耳下側に生じることが多く,緑内障の早期診断に重要である.緑内障が進行すると,NFLDは乳頭縁のノッチングの部分から伸びる弓状の陰影として認められ,視(41)図10ラミナドットサイン(laminardotsign)を認める症例緑内障の進行とともに神経線維が消失し陥凹が深くなると,陥凹底部に篩状板の窓孔が観察される.図11リムの下掘れ(undermining)と血管の銃剣状走行(bayoneting)図12Overpassing陥凹が深くなると血管を支えていた組織が失われ,血管は陥凹から浮いて橋渡しをしたように走行する.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006野異常が明瞭となる(図7,8,13).さらに,広範なリムの変化を認める症例では,広い範囲にわたってびまん性に神経線維層が欠損する.神経線維は緑色光を最もよく反射するので,散瞳下で,緑色のフィルターを用いての観察や,SLOがその検出に有用である.7.乳頭周囲網脈絡膜萎縮(peripapillarychorioreti-nalatrophy:PPA)乳頭周囲網脈絡膜萎縮(PPA)は,乳頭に接して見られる半月状や輪状の脈絡膜変化で,検眼鏡的に,不規則な色素沈着を伴うPPAaと,近位に存在し,脈絡膜の萎縮を伴い強膜が透見可能なPPAbに分類される(図14).PPAaは,PPAbの外側に存在する場合と,単独に存在する場合があり,単独に見られるのは正常眼に多い.一方,PPAbは緑内障眼でしばしば認められ,その幅が広い象限ほど視神経乳頭リムの障害が強くなる傾向や,経過観察中のPPAbの拡大は,緑内障性視神経症の悪化(乳頭の変化と視野障害の悪化)とよく相関すると報告6)される.IVその他の鑑別を要する疾患生理的乳頭陥凹や緑内障性陥凹拡大と鑑別を要する疾患として,乳頭視神経乳頭の先天異常,中毒性視神経症,頭蓋内疾患による視神経萎縮,虚血性視神経症,Leber病などがあげられる.乳頭視神経乳頭の先天異常のほとんどは,視神経を詳細に立体観察することで,ある程度鑑別は可能である.診断に際しては,乳頭の大きさの異常(乳頭の大きさと黄斑部との距離の比:DM/DD比の測定),色調の異常(萎縮や低形成を示唆),乳頭部の陥凹や突出,乳頭上の増殖組織,乳頭周囲の網膜萎縮,乳頭部から起始する網膜血管の走行異常がないかを注意深く観察する.以下にいくつかの鑑別を要する疾患を示す.1.視神経乳頭低形成乳頭自体は小さく,乳頭周囲に正常の乳頭と同じ大きさの脱色素輪(doubleringsign)が認められる.診断にはDM/DD比≧3.2が参考となる.SSOH(superiorsegmentaloptichypoplasia)については,別項を参照.2.乳頭コロボーマ眼底下方に広がる白色の陥凹内に,脈絡膜,強膜が透見され,陥凹部の上方には不完全な視神経乳頭が存在する.(42)図13耳下に乳頭出血を認める正常眼圧緑内障例乳頭の下耳側に出血,ノッチング,神経線維層欠損,乳頭の上耳側にノッチング,神経線維層欠損を認め,鼻側に対応する視野欠損を呈する.図14乳頭周囲網脈絡膜萎縮を認める症例乳頭に接して見られる半月状や輪状の脈絡膜変化で,検眼鏡的に,不規則な色素沈着を伴うPPAaと,近位に存在し,脈絡膜の萎縮を伴い強膜が透見可能なPPAbを認める.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???3.視神経乳頭小窩(ピット)乳頭内の一部に生理的陥凹とは異なる円形の陥凹がみられる.大きさは0.1~0.7乳頭径(平均0.28).多くは耳側に存在し,ときに視野検査にて弓状暗点を呈する.漿液性黄斑?離を合併することがある(乳頭小窩黄斑症症候群).4.乳頭傾斜症候群一方の視神経乳頭縁が陥凹(下方が多い)し,反対側(上方)乳頭縁が突出し,しばしば乳頭周囲には楕円形の下方コーヌスを呈する.5.朝顔症候群視神経乳頭部の拡大および陥凹,陥凹内の白色組織,陥凹周囲の網脈絡膜萎縮輪が認められ,血管は狭細で,放射状,直線的に走行し,乳頭周囲で異常血管吻合が認められる.6.中毒性視神経症,頭蓋内疾患による視神経萎縮生理的乳頭陥凹では,陥凹部=蒼白部である.しかし,緑内障では,陥凹は,蒼白部に先行し拡大するため,蒼白部<陥凹となる.一方,中毒性視神経症や頭蓋内疾患では,早期には所見を認めないことが多いが,進行例では視神経萎縮を呈し,蒼白部>陥凹部となるため,重要な鑑別所見である.7.虚血性視神経症初期には,前部型の虚血性視神経症では乳頭辺縁部に火炎状出血を伴う蒼白腫脹を認めるが,後部型では特に所見はない.しかし,後期には,陥凹を伴う視神経萎縮をきたし蒼白化することがある.8.Leber病急性期には特有の発赤を有し,乳頭上および周囲血管が怒張,蛇行し,ときに表在出血をみる.乳頭はその後次第に退色し,陥凹を呈する症例もある.まとめ本項では,生理的乳頭陥凹と緑内障性視神経乳頭の特徴および鑑別について概説した.日常診療においては,常に,乳頭の立体観察およびステレオ写真撮影を行い,前述した項目について検討する.また,可能であれば,SLOによる神経線維層欠損の出現の有無を確認する.極早期にはそれでも鑑別困難な例があるが,この場合は6カ月から1年ごとにステレオ写真撮影および視野検査を行い,進行の有無を確認する.B.静的視野による診断と鑑別:緑内障と視路障害に伴う視野障害はじめに日常診療において,静的視野検査の占める役割は非常に大きく,静的視野を正しく読み取る能力は,視野障害をきたす疾患の診断と鑑別において不可欠である.本項では,緑内障および緑内障以外の視路障害に伴う視野障害の特徴,さらに両者の鑑別のポイントについて静的視野を用いて概説する.I静的視野のプログラムの選択Humphrey視野計(HFA)に代表される静的視野測定では,30?までを測定するプログラムを選択するのが望ましい.24-2では,神経低形成などの視野のedgeに暗点が出やすい症例や,下垂体腫瘍などの上方からの垂直ステップがみられる症例を見逃す可能性がある.閾値検査については,SITA(Swedishinteractivethresholdingalgorithm)では,正常者と緑内障の視野モデルから統計的推定を用い,被検者の応答に応じて視標刺激や視標呈示間隔が調整され,検査時間が大幅に短縮できるが,その原理から,基本的には緑内障専門のアルゴリズムと考えて用いるべきである.一方,fullthresholdでは半盲の検出に優れているとされ,頭蓋内疾患による視野障害が疑われる場合,可能であればこちらを選択する.II一般的な視野検査結果の読み方1.測定条件と方法図15は,正常眼圧緑内障患者の左眼視野のプリントアウトである.まず,視野図の上方(図15-①)に眼を(43)———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006向け,この視野がどのような条件および方法で測定されたかを把握する.2.検査の信頼性実際に視野図を判定する前に,検査の信頼性を確認する.検査の信頼性は,固視不良,偽陽性,偽陰性の3つ(図15-②),右下のGlobalIndexのSF(短期変動)(図15-③),ゲイズトラック法による検査中の固視表示(図15-④)から判定する.固視不良率が20%を超えた場合,偽陽性率や偽陰性率が33%を超えた場合,検査の信頼性は低いと考える.測定中に同一点を2回刺激して得られたその差から,短期変動(SF:shorttermfluctuation),すなわち測定中の反応のばらつきを知ることができ,正常範囲は1.0~2.5dBとされる.なお,SITAでは,SFは表示されない.固視不良,偽陽性,偽陰性,SFにより,視野の信頼性が低いと判定した場合は再検査を行うか,あるいは他のFastpacやSITA-fastなどに変えてみる.3.視野障害のパターンの評価視野障害のパターンを評価するには,数値テーブル,グレイスケール,トータル偏差,パターン偏差がある.a.数値テーブル図15の上段の中央にある数値テーブル(図15-⑤)は,測定点ごとで実測した閾値をデシベル(dB)表示したものである.b.グレイスケール実測値を5dBごとに分けて,それらを点の濃淡で表示したものがグレイスケールであり,大まかな視野の障害パターンを理解することができる.感度が低くデシベルの小さいものほど,濃く表示される(図15-⑤).c.トータル偏差視野の感度は年齢とともに低下するので,年齢を対応させた正常者と比較することが重要である.すなわち,トータル偏差は,測定値と年齢別正常値との差を測定点ごとに求めたものであり,その数値が中段左(図15-⑥)に示される.5dB以上の沈下が異常判定の一つの基準とされるが,正常者との差が5dB以下でもそれが正常者ではほとんど起こらないような場合は異常と判定しなくてはならない.そこで,HFAでは,そのような差が正常者の何%に起こるかを確率計算し,5%より低い確率でしか起こりえない場合を異常と判定して,5~0.5%の4段階でシンボル化して表示している(図15-⑦).d.パターン偏差びまん性の感度低下を除いて統計学的に算出されたものであり,白内障などによる中間透光体の混濁や縮瞳剤による全体的な視野の感度低下のために,視野が評価しにくい場合,局所的視野障害がより強調され有用である(図15-⑧).4.統計学的評価a.緑内障半視野テスト緑内障半視野テスト(GHT:glaucomahemi?eldtest)は,HFAに内蔵される視野判定プログラムで,上下の視野を5つのクラスターに分け統計学的に,正常範囲,境界閾,正常範囲外,全体的感度低下,異常高感度(44)図15Humphrey自動視野計プログラム中心30-2全点閾値検査の1例———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???の5種類の判定が行われる(図15-③の上段).b.グローバルインデックスプリントアウトの右下(図15-③)には,視野全体を統計解析した4つの指数が並んでおり,グローバルインデックスと総称される.(1)MD(meandeviation,平均偏差)は,年齢別の正常者との平均視感度の差を表し,マイナス数値が大きいほど視野障害が強い.(2)PSD(patternstandarddeviation,パターン標準偏差)は,正常者の視野の形状パターンから,どの程度逸脱しているかを表す指数であり,数値が大きいほど視野の凹凸が大きい.(3)SFは上述のとおり測定中の反応のばらつきを示す.(4)CPSD(correctedpatternstandarddeviation,修正パターン標準偏差)は,PSDをSFで補正したもの.いずれも,正常者の5%以下にしか起こりえない場合,各数値の隣に確率値(p値)が記載され,異常と判定される.III緑内障性視野障害の特徴と診断静的視野から,緑内障を正しく診断するためには,網膜神経線維の走行と緑内障性視野障害の特徴,および緑内障性視野障害の診断基準を理解する必要がある.以下にそれぞれを概説する.1.緑内障性視野障害と網膜神経線維層欠損網膜の網膜神経節細胞からの神経線維は,中心窩を通る水平経線の上方の網膜と下方網膜で大きく走行が分かれる(図167)).緑内障では,神経線維束が,視神経乳頭内で障害されると,その神経線維の支配領域の視機能が障害され,視野検査上で発見される局所的な感度の低下(図17:比較暗点)や孤立暗点(図18:絶対暗点)を呈する.やがて神経線維束の障害の程度が進むにつれて,早期の孤立暗点から,神経線維走行に沿った弓状暗点をきたす(図19).また,耳側での上下方の神経線維層の分離した走行から,一方のみが障害された場合,鼻側階段として現れる(図20).2.緑内障性視野障害のパターン緑内障性視野障害のパターンは,網膜神経線維の障害に対応して,①Bjerrum領域の孤立暗点(図18),②弓状暗点(図19),③耳側階段(図20),④全体的沈下のいずれか,またはこれらの組み合わせとして捉えることができる.進行すると,弓状暗点が上下の視野で進行した輪状暗点(図21)や,求心性視野狭窄(図22)へと進み,末期には中心部と耳側周辺部の島状視野(図23)のみとなり,最終的には中心部が消失する(図24).なお,視野の全体的沈下のみを呈する症例は白内障や,小瞳孔,弱視,屈折異常などの可能性があり,単独では診断的意義に欠けるため,他の所見を参考にする必要がある.(45)鼻側網膜耳側網膜視神経乳頭中心窩視神経の障害部位に対応している網膜障害部位沈下暗点Mariotte盲点(視神経乳頭に対応)耳側視野鼻側視野図16左眼の網膜神経線維束層と視野障害の関係上段:網膜神経線維束走行.中段,下段:網膜神経線維束障害と対応する視野異常の位置関係.(文献7より)———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(46)図17比較暗点の1例6~10dBの光感度閾値の低下を示し,大きさがMariotte盲点までの比較暗点.図18絶対暗点の1例図19網膜神経線維層欠損と一致する弓状暗点SLO(scanninglaserophthalmoscope)により検出された神経線維層欠損(左図)と,弓状暗点を示す同一症例の視野図(右図).———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(47)図20上方に耳側階段を認める1例図21輪状暗点視野障害が進行し,上下の弓状暗点が進行した輪状暗点.図22求心性視野狭窄の1例図23島状視野の1例中心部と耳側周辺部の視野のみ島状に残存.———————————————————————-Page12???あたらしい眼科Vol.23,No.5,20063.緑内障性視野異常判定のための基準緑内障性視野異常の検出にはいくつかの判定基準が用いられているが,臨床的な診断基準として広く用いられているのがAndersonらの判定基準8)(表1)であり,この基準の1つの項目でも満たす場合は,視野障害と視神経および神経線維層の障害との整合性を確認し緑内障性視野障害の診断を下す(図25).IV視路障害に伴う視野障害の特徴種々の神経眼科疾患が視野障害を呈するが,視路の解剖学的構造により障害部位に伴う基本的な視野障害のパターンは決まっている(図26)ため,緑内障との鑑別および病巣診断の参考となりうる.1.視交叉前病変視神経乳頭から視交叉前までの視神経の障害で,障害側の視野に中心暗点を含むさまざまな感度低下や,循環障害による水平視野欠損を呈する.a.虚血性視神経症急激な視力および視野障害を生じ,境界明瞭な水平半盲が特徴とされるが,弓状暗点や中心暗点,求心性狭窄もきたしうる.視野障害は通常非進行性であり,両眼性の水平半盲例では動脈炎性虚血性視神経症,片眼性では,非動脈炎性虚血性視神経症と考える.b.視神経炎55%の症例がびまん性の視野障害を呈し,45%が中心暗点などの局所性の暗点をもつ視野障害をきたす(図27).さらに,局所型の視野障害例の29%が水平半盲をきたしたと報告されている.視神経炎の視野は通常,改(48)表1Humphrey視野計における緑内障性視野異常のための判定基準1.パターン偏差の確率プロットで,p<5%の点が,最周辺部でない検査点に3つ以上かたまって存在し,かつ,そのうち1点がp<1%であれば,局所性の緑内障性欠損と考える2.CPSDまたはPSDにおいてp<5%3.GHTでの異常判定図24中心部が消失し,耳側視野のみ残存した症例図25早期緑内障性視野異常例パターン偏差確率プロット,CPSD,GHTのすべての判定で異常と診断されている.———————————————————————-Page13あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???善傾向(図27)を示す.c.中毒性視神経症,遺伝性視神経症両眼性の盲中心暗点,中心暗点,求心性視野狭窄をきたす.2.視交叉近傍病変解剖学的に視交叉では左右の鼻側線維が交叉するため,視野障害では特徴的な両眼性の耳側半盲を呈するが,浸潤,圧迫および循環障害などの病態によるため,必ずしも半盲は左右対称ではなく不完全であることが多い.また,病巣が視交叉部を下方から圧迫する場合は上方の,上方から圧迫する場合は下方の視野に障害をきたしやすい.まれではあるが,視交叉部が周囲から圧迫を受ける場合,両鼻側半盲を呈することがある.初期には視感度の軽度の低下のみを認めるため,視野結果は,実測閾値を用い垂直ステップの有無を判定する.a.下垂体腫瘍視交叉の前部を下方から上方に圧迫し,両眼の耳側上方の視野欠損を示す両耳側半盲(図28)を呈することが多い.b.髄膜腫鞍結節髄膜腫は左右いずれかに偏って発生することが多く,視力や半盲の程度に左右差がある.蝶形骨髄膜腫は,片眼の視力低下と鼻側の視野障害から始まる.c.頭蓋咽頭腫頭蓋咽頭腫は,視交叉部を後上方から圧迫するため,(49)図27視神経炎発症初期は中心暗点を示していたが,治療開始後10日で著明な視野改善を呈した.図26視路障害と視野異常の関係視路の各部位での障害によって特徴的な視野変化をきたしうるため,診断および鑑別の参考となる.左眼右眼左視野右視野314911121067825———————————————————————-Page14???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(50)耳側下方視野の障害が目立つ両耳側半盲を呈する.左右いずれかに偏って発生することが多く,左右差のある両耳側半盲となりやすい.d.脳動脈瘤眼動脈分岐部内頸動脈瘤がゆっくり増大し,片側性の視神経障害から,次第に視交叉部や反側の視神経を圧迫することがある(図29).また,外側から圧迫して,両鼻側半盲をきたすことがある.e.トルコ鞍空洞症候群(emptysella)トルコ鞍隔膜の欠損部からくも膜がトルコ鞍内に伸展し,下垂体が後方へ圧迫される状態で,両下鼻側1/4半盲,緑内障様の視野変化を呈することがある.3.視交叉後病変基本的には,患側と反対側の同名性半盲を呈し,後頭葉に近づくほど調和のとれた視野異常をきたす.V緑内障性視野障害と他疾患による視野障害との鑑別ポイント視野障害のパターンから,緑内障性視野障害と他疾患による視野障害を鑑別するためのポイントを以下に記す.1.網膜神経線維層の障害パターンか否か緑内障では,網膜神経線維の障害に対応して視野障害が出現する.そのため,視野障害を見た場合,網膜神経線維層障害型であるか否かをまず確認する.2.上下半視野の非対称性と水平経線との一致網膜神経線維走行の解剖学的特徴は,緑内障眼での上半視野と下半視野の障害程度の差として現れ,これも緑内障視野障害の特徴である(図15).また,特に,水平図28下垂体腫瘍による両耳側半盲———————————————————————-Page15あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(51)経線との一致から,病変部位を,網膜内層あるいは視交叉前の神経線維走行部位,Meyer?sloop,後頭葉の病変に特定できる.緑内障では,神経線維の走行に一致して鼻側のみ(図15)で,水平経線と一致する視野障害が片眼もしくは両眼に生じる.Meyer?sloopの病変では視野障害は両眼に生じ,同名性非協調性で耳側も水平経線と一致した視野異常をきたす.後頭葉病変では,両側同名性,調和性の視野異常となる.一方,網膜外層の病変,網膜より前の病変,視交叉部および視交叉後部病変による視野障害では,病変が水平経線と一致することはほとんど起こらないため,鑑別に有用である.3.垂直ステップの有無緑内障とは異なり,視交叉から後方の病変では,固視図29内頸動脈瘤による視神経萎縮および視野障害緑内障とは異なり,視神経萎縮の程度と視野障害の程度は一致しないことが多い.———————————————————————-Page16???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(52)点を通る正中経線を境に両側性に視野欠損が生じる(図28下垂体腫瘍,図29内頸動脈瘤,図30脳出血).経線の一致をHFAで判定する場合は,経線を挟んだ実測閾値を直接比較する.垂直正中線を挟んで隣り合う,上下の3つ以上の対で,一方が他方より常に実測閾値が低ければ,有意の垂直ステップと判断する(Millsの定義9)).あるいは,垂直正中線を挟んで隣り合う連続3点で3dB以上,または連続4点で2dB以上の閾値の差を認める場合,有意に垂直ステップありと判断する10)(図31).4.視野欠損の辺縁神経線維の障害,虚血性疾患,陳旧性の病変による視野障害では,イソプターの間隔が狭く急峻な辺縁をもつ異常となり,浮腫や,急性,活動性病変による視野障害では,イソプターの間隔は広く,緩やかな辺縁をもつ異常となることが多い.5.左右の視野の形の不一致性緑内障は通常両眼に発症するが,左右の眼の神経線維層が同程度で障害されることは少なく,通常,両眼の視野の形は一致しない.一方,視交叉から後方の病変で図30左側の脳出血による不規則な右側同名1/4半盲図31垂直ステップの見られる脳出血による視野障害例垂直経線を挟む枠に囲まれた実測閾値の5個の対で,一方が他方より常に実測閾値が低く,有意の垂直ステップと判断する.———————————————————————-Page17あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(53)は,同名半盲さらに,後頭葉に近づくにつれて左右で調和の取れた異常となる.まとめ本項では,静的視野による緑内障と視路障害に伴う視野障害の診断と鑑別のポイントについて概説した.緑内障性視野障害を正しく診断するには,視神経乳頭および神経線維層の障害との整合性を常に考慮する.視野所見が,水平経線や垂直経線に一致しているか否か,左右の半盲の形が一致しているか否かを判断することは,病巣診断のためにきわめて重要である.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)北澤克明監修:ClinicalScience検査法3.視神経乳頭の検査.緑内障,p133-152,医学書院,20043)TuulonenA,AiraksinenPJ:Opticdiscsizeinexfoliative,primaryopen-angleandlow-tensionglaucoma.????????????????110:211-213,19924)KirshRE,AndersonDR:Clinicalrecognitionofglauco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