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強膜化角膜

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(45)加治優一筑波大学臨床医学系眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦261.強膜化角膜図1強膜化角膜の前眼部所見生下時より片眼の角膜が白濁していた.眼圧は正常.角膜はびまん性に混濁し,強膜との境界は不明瞭となっている.電気生理学的には網膜機能は保たれていたが,視刺激遮断性弱視,廃用性斜視,眼振を認める.虹彩の色が透見される血管侵入本来の角膜と強膜の境界と考えられるところ図2図1のシェーマ図3強膜化角膜のUBM所見Descemet膜の反射が減弱している.前房は浅く,虹彩は萎縮性であり,隅角の発達異常も示唆される.図4限局性の強膜化角膜限局性の強膜化角膜(peripheralsclerocornea)を両眼性に認めた症例.視軸の透明性は保たれているので,視機能には大きな問題はない.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006(00)強膜化角膜(sclerocornea)は,角膜実質が強膜様の組織と置き換わることにより混濁を生じる先天異常である.強膜化角膜の病態はいまだ明らかではない.胎生7週ごろに,角膜組織と強膜組織への分化がはじまるが,その発生異常によると考えられる.●眼所見角膜全体が混濁するtotalsclerocornea(図1,2)から,角膜周辺部の一部が混濁するperipheralsclerocornea(図4)まで程度はさまざまである.細隙灯では,混濁した角膜のなかに強膜から続く血管が観察される.Pali-sadesofVogt(POV)を見出すことは困難であるが,上皮だけは結膜と置き換わっていないようである.●合併症強膜化角膜は以下のようなさまざまな眼・全身合併症をもつことがある.角膜:扁平角膜,小角膜,Descemet膜~内皮の異常,posteriorembryotoxon.前眼部:無虹彩,虹彩萎縮,隅角発達異常(図3),Axenfeld症候群,Rieger症候群.眼球:コロボーマ,小眼球,緑内障,弱視,斜視,眼振.全身:Dandy-Walker症候群,17q-10q転位,Wolf症候群(4p-)など.強膜化角膜は,角膜にとどまらず,より広範な発生異常における所見の一つと考えることができる.また,上記のようなさまざまな合併症をもつことにより,視力予後は悪い.●診断特徴的な角膜所見により診断は比較的容易である.眼内の透見が困難なことが多いために,角膜以外の合併症の有無の検出にはUBM(ultrasoundbiomicroscope)が便利である.先天性の角膜混濁を生じるという点で,先天緑内障や先天遺伝性角膜内皮変性症も鑑別にあげられる.角膜は浮腫性の肥厚ではないこと,輪部に近いほど混濁が強いこと,強膜より続く血管が侵入していることより鑑別できる.●病理角膜の深層側およそ2/3の角膜実質の薄葉構造は乱れ,コラーゲン線維の間隔が大小不同となっている.Descemet膜は菲薄化している.角膜内皮細胞も変性している.不思議なことに,角膜上皮は結膜と置き換わっていないようである.ただし,Bowman層は認められない.●治療法・予後角膜混濁が視軸にかかっていない場合や片眼性の場合には積極的な治療は行わず,審美的な観点から虹彩つきソフトコンタクトレンズあるいは義眼を装用させる.両眼性で角膜全体が混濁している場合には,全層角膜移植術の適応となることがある.概して視力予後は不良である.

時の人

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS名古屋大学医学部眼科学教室は現在,名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学と改称されているが,120年余の伝統と実績を誇る.本眼科学教室の第11代の教授として,寺崎浩子先生が平成17年7月に就任された.寺崎先生は昭和55年3月に金沢大学医学部卒業後,同年4月に名古屋大学医学部眼科学教室へ入局された.昭和59年3月,名古屋大学大学院(錐体機能の心理物理学的研究)を修了,糖尿病網膜症患者の青錐体系機能についての研究で学位を取得された.昭和59年10月に静岡済生会病院に勤務され,同63年3月まで多数の眼内レンズ手術を行い,また硝子体手術を手がけられた.昭和63年4月に名古屋大学医学部助手として帰局,平成3年7月に名古屋大学医学部附属病院講師となられた.この頃から多数の重症例の硝子体手術に取り組まれ,平成4年日本網膜硝子体学会において「内視鏡手術」について特集講演を行われた.平成9年4月にはハーバード大学客員講師,6月からボストンに留学して,「網膜電気生理の研究」をされる一方,当時難手術といわれていた「未熟児網膜症の硝子体手術」に一層の研鑽を積まれた.平成10年9月には名古屋大学医学部眼科学助教授に昇進され,多数の硝子体手術を手がけるなかで,網膜機能との関係に注目した研究に従事された.平成11年10月には,国の「大学院重点化」により,名古屋大学大学院医学研究科感覚器障害制御学の教授となられた.平成13年の日本眼科学会総会において,田野保雄教授の座長のもと,硝子体の病態生理というテーマにおいて,「硝子体手術における形態と機能の関わり」という題で宿題報告を行われた.その頃から,多数例の加齢黄斑変性に対する手術をはじめとした治療に従事され,現在その網膜機能の研究と新しい治療開発の研究を続けておられる.さらに,平成17年12月には,日本網膜硝子体学会において「黄斑治療─機能・形態評価か(43)らのメッセージ」という題で特別講演をされた.*寺崎先生は大学を卒業される時に,名古屋大学では手術や臨床を活発にやっていると聞いておられ,それに憧れて名古屋大学に入られたとお伺いした.入局から大学院を卒業されるまでは,黄斑疾患(変性)を色覚や心理物理学的に解析することがご専門の故市川宏教授に指導を受けられた.その後,眼科学教室は粟屋忍教授と助教授の三宅養三先生の2本の柱で教室は運営されていたといわれ,その粟屋先生に当時第一線の病院に出ておられた寺崎先生は帰局を強く勧められたとのことである.寺崎先生のご専門である黄斑変性や網膜の生理学的研究,小児眼科を基盤とした臨床は,入局以来過ごしてきた伝統ある教室のテーマを継いだものであると自負されておられる.また,前任の三宅養三教授がそれまで基礎系の教室に頼っていた分子生物学的研究を眼科学教室の中に立ち上げられた.さらに,寺崎先生が感覚器制御学の教授に就任されてからは,画像診断の研究にも力を入れ,現在,教室の研究の柱は,網膜電気生理,分子生物,画像,小児眼科,角膜の5グループとなっている.*寺崎先生は,信条というなどたいそうなものではありませんがと謙遜されつつ,患者さんを大切にし,治療に際しては自分と同じように患者さんにも理解してほしいので,一生懸命説明し,治療の選択は患者さんや家族にできるだけ任せるようにしているとおっしゃる.研究は臨床に根づいたものを基本にしつつ,基礎研究もいずれ臨床研究の礎となると思うので,積極的に推進したい,と抱負を述べられた.最後に,よき臨床医,外科医であるための寺崎先生流のpolicyをもっておられ,医師として当たり前と思う事柄を,教室の忙しい先生方に受け入れてもらえるかどうか,ちょっぴり不安を述べられた.人の時名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学教授寺??崎??浩??子?先生

術中合併症に対する眼内レンズ挿入

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSり,おもに本稿ではもともと他に疾患をもたない白内障手術時に合併症を生じた際の,IOL挿入の是非についてevidence-basedmedicine(EBM)の観点から,文献的考察を行う.I研究目的白内障手術の術中合併症発生後の,IOL挿入の利点と問題点についてEBMの観点から評価する.II研究方法1.分析対象文献白内障術中合併症について検討された論文について幅広く検索することを目的として,医学中央雑誌Web版Ver.3(以下,医中誌)およびMedlineを用いて検索をはじめに白内障手術が超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)になり久しい.各種術式・機器などの進歩により,安全に手術を行うことに加えて,視覚の質すなわちqualityofvision(QOV)が問われるようになっている.手術を受ける患者の期待も高いこのような状況では,水晶体摘出のみだけでは白内障の手術を施行したとはいえないようになっている.しかし,臨床の場ではさまざまな理由で眼内レンズ(IOL)の挿入が困難な場合や,挿入時に合併症をひき起こす場合など,通常どおりにIOL挿入を続行可能か否か判断に苦慮するときがある.そこで,過去の報告をもとに術中合併症に遭遇した場合のIOL挿入の適応について考証する.疾患のある症例に対しての白内障手術については他稿に譲(35)???*TakuyaShiba:東京慈恵会医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕柴琢也:〒105-8461東京都港区西新橋3-19-18東京慈恵会医科大学眼科学教室特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):173~180,2006術中合併症例に対する眼内レンズ挿入????????????????????????????????????????????????????????????????????????????柴琢也*表1検索に用いたキーワード医学中央雑誌Medline検索に用いたキーワード(早期穿孔)and(白内障)(early-perforation)and(cataract)(前?切開)and(白内障)(capsulorhexis)and(cataract)(後?破損)and(白内障)(posterior-capsule-rupture)and(cataract)(創口熱傷)and(白内障)(thermal-burn)and(cataract)(虹彩断裂)and(白内障)(irisrupture)and(cataract)(Zinn小帯断裂)and(白内障)(zonular-rupture)and(cataract)(インジェクター)and(眼内レンズ)(injector)and(intraocular-lens)(眼内レンズ挿入)and(合併症)(intraocular-lens-implantation)and(complication)(Descemet膜?離)and(白内障)(Descemet?s-membrane)and(cataract)医学中史雑誌は左側の,Medlineは右側のキーワードを用いて文献検索を行った.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006行った.医中誌は1983~2004年までの文献を,Med-lineは1980~2004年までの英語の文献を検索対象とした.検索に用いたキーワードを表1に示す.検索に用いたキーワードは,白内障手術時のIOL挿入前の各過程〔1.創口作製時(早期穿孔),2.前?切開時(前?切開失敗),3.水晶体摘出時(後?破損,創口熱傷,虹彩断裂,Zinn小帯断裂),4.IOL挿入時(インジェクターによる合併症,Descemet膜?離)〕の代表的なものである.しかし,実際の手術では必ずしも特定の過程のみで生じ得ないことをお断りしておく.さらに,上記検索で得られた文献のうちタイトル,抄録から判断して,明らかに本研究の目的と異なると考えられる文献は除外した.2.分析方法対象文献から,術中合併症が生じた症例に対して,IOL挿入を行った術後予後について比較検討した.III結果医中誌およびMedlineによる各キーワードの検索文献数を表2に示す.このなかより,白内障手術中合併症後のIOL挿入について述べている文献について報告する.1.早期穿孔医中誌(キーワード:早期穿孔,白内障)およびMed-line(キーワード:early-perforation,cataract)の検索結果では,計7編の文献が検索されたが,その後のIOL挿入について述べたものはなかった.2.前?切開Medline(キーワード:capsulorhexis,cataract)の検索結果では,5編の文献がIOL挿入について述べていた.Haighらは,連続環状?切開(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の切開縁に亀裂が入った症例の術後経過を報告しているが,亀裂部位に対してIOLの位置を慎重に決めれば術後に問題は生じないとしている1).AssiaらやWassermanらは,それぞれ白内障手術の既往のある死亡摘出眼のIOLの固定状況についての報告をしている2,3).これによると,前?切開縁に亀裂が入った症例にIOLを?内固定した場合も,瞳孔領からレンズ光学部が外れることはなかったとしている.HansenらやMasketは,小さすぎる前?切開では術後に前?収縮をきたすことがあるとしているが,そのことがIOL挿入の禁忌になるとはしていない4,5).3.後?破損医中誌(キーワード:後?破損,白内障)およびMed-line(キーワード:posterior-capsule-rupture,cataract)(36)表2検索文献数医学中央雑誌Medlineキーワード検索数キーワード検索数(早期穿孔)and(白内障)5(early-perforation)and(cataract)2(前?切開)and(白内障)200(capsulorhexis)and(cataract)531(後?破損)and(白内障)97(posterior-capsule-rupture)and(cataract)82(創口熱傷)and(白内障)4(thermal-burn)and(cataract)5(虹彩断裂)and(白内障)1(irisrupture)and(cataract)0(Zinn小帯断裂)and(白内障)20(zonular-rupture)and(cataract)17(インジェクター)and(眼内レンズ)10(injector)and(intraocular-lens)31(眼内レンズ挿入)and(合併症)200(intraocular-lens-implantation)and(complication)235(Descemet膜?離)and(白内障)8(Descemet?s-membrane)and(cataract)101キーワードごとの検索文献数を表示する.キーワードにより検索文献数が異なるが,医学中史雑誌とMedlineで同様の傾向であった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???の検索結果では,それぞれ6編および4編の文献がIOL挿入について述べていた(表3).永本らは,後?破損をきたした場合は,残余水晶体?の支持能力が十分であると判断される際に限っては,IOL挿入を行っても術後合併症は少なく,視力予後も良好であるとしている6).?胞様黄斑浮腫(CME)の発生率は,後?破損後にIOL挿入を行わなかった症例よりも,IOL挿入を行った症例のほうが低いとのことである.佐藤らは,後?破損をきたした場合は,残留核,皮質,脱出硝子体の処理を適切に行えば,IOL挿入を行ってもCMEの発生が52眼中3眼で生じているものの,他に重篤な合併症を認めていないとしている7).高瀬らは,後?破損をきたした症例に,経毛様体扁平部水晶体切除術と硝子体切除術とを行った後にIOL挿入を行った2症例について報告している8,9).術後最良視力を得るまでの期間は,術中合併症をきたさなかった症例に比べて数日遅延する傾向があったが,それ以外に重篤な術後合併症はきたさなかったとしている.鬼塚らは,後?破損をきたした症例に,前部硝子体切除を行った後にIOLを?外固定した11眼について報告している.これによると,全症例ともに術後視力は術前に比べて2段階以上改善しており,重篤な合併症はきたさなかったとのことである10).Yapらは,後?破損をきたした症例の術後経過を報告している.術後早期には角膜浮腫,眼圧上昇などを生じたとしている.しかし,IOLを挿入していても術中に適切な処置が行われていれば,平均26カ月後まで経過を追っても重篤な術後合併症はみられないとのことである11).原らは,後?破損をきたした症例に,IOL挿入を行った54眼中1眼にIOLの硝子体への落下を認めたと報告している12).しかし,その詳細については述べられていない.また,後?破損を生じた後にIOL挿入を行った症例と,術中合併症を生じなかった症例間の術後予後に差を認めないとのことである.Changらは,後?破損をきたした症例に対して,粘弾性物質を毛様体扁平部より注入して,水晶体の硝子体(37)表3後?破損についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載永本ら6)15眼内レンズ挿入の条件1.後?破損と前?の亀裂がつながっているのが1カ所以内2.Zinn小帯断裂が60?以内術後視力0.8以上眼内レンズ挿入群75.0%眼内レンズ非挿入群42.9%?胞様黄斑浮腫(CME)1/15眼佐藤ら7)52硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う術後視力は全例術前より改善CME3/52眼高瀬ら8,9)2経毛様体扁平部水晶体切除術と硝子体切除術を行う術後視力1.0術後最良視力を得るまでの期間が3~4日延長鬼塚ら10)11硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う術後視力は全例術前より改善硝子体が創口に嵌頓3/11眼瞳孔偏位1/11眼眼内レンズ偏位2/11眼Yapら11)44硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う長期予後は良好術後早期のみ角膜浮腫26/44眼原ら12)58術後視力は合併症のない症例と同様眼内レンズ硝子体中落下1/54眼Changら13)8粘弾性物質を毛様体扁平部より注入して硝子体への核落下を防止しながら水晶体や前部硝子体を行う術後視力0.5以上重篤な術後合併症なしOlsenら14)23重篤な術後合併症なしChanら15)155硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う前房レンズ挿入に比べて後房レンズのほうが視力予後が良い後?破損後にIOL挿入を行っても予後は総じて良好であるとの報告が多かった.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006腔内への落下を防ぎながら,水晶体や前部硝子体の処理を行う方法を報告している13).その後に引き続いてIOL挿入を行い,最低18カ月以上の経過観察を行っているが,重篤な術後合併症は認めなかったとしている.Olsenらは,白内障手術の1.6%の症例に後?破損を認めたとしている14).その後IOL挿入を行っているが,そのことが術後合併症の発生に寄与するとはしていない.Chanらは,後?破損をきたした症例の早期経過について報告している15).それによると,術後視機能が損なわれる要因の一つに前房レンズ挿入をあげているが,後房レンズに関しては前房の脱出硝子体の処理などを確実に行えば術後経過は良好とのことである.4.創口熱傷医中誌(キーワード:創口熱傷,白内障)およびMed-line(キーワード:thermal-burn,cataract)の検索結果では,計9編の文献が検索されたが,その後のIOL挿入について述べたものはなかった.5.虹彩断裂医中誌(キーワード:虹彩断裂,白内障)では1編の文献が検索されたが,その後のIOL挿入については述べていなかった.6.Zinn小帯断裂医中誌(キーワード:Zinn小帯断裂,白内障)およびMedline(キーワード:zonular-rupture,cataract)の検索結果では,それぞれ1編および2編の文献がIOL挿入について述べていた(表4).原らは,術中にZinn小帯断裂をきたした症例に対して,IOLを挿入した22眼について報告している.合併症に対して適切な処置を行えば,術後視力は合併症のない症例に比べて差がないとのことである12).Olsenらは,白内障手術の1.2%の症例に術中Zinn小帯断裂を認めたとしている14).その後IOL挿入を行っているが,そのことが術後合併症の発生に寄与するとはしていない.Avramidesらは,水晶体落屑症候群に対する白内障小手術において,術中13.09%の症例にZinn小帯断裂を認めたとしている16).IOL挿入が術後合併症の発生に起因するとはしていないが,このような症例に対しては適切な処置を行える技量のある術者が手術を行うことが望ましいとしている.7.インジェクターによる合併症医中誌(キーワード:眼内レンズ,インジェクター)およびMedline(キーワード:intraocular-lens,injec-tor)の検索結果では,それぞれ1編および4編の文献がIOL挿入について述べていた(表5).岩城らは,インジェクターを用いたIOL挿入時の合併症について報告している17).これによると,1.9%の症例にIOL損傷などの合併症が発生したとしている.その対処としては,支持部の損傷が軽度であった症例はそのまま眼内に留置し,それ以外の症例は摘出を行い,新しいIOL挿入を行ったとのことである.Olsonらは,インジェクターにてIOL挿入を行った際に,毛様溝に支持部が入ってしまった症例を報告しているが,すぐに安全に?内に挿入可能であったとしている18).Habibらは,インジェクターを用いたIOL挿入時に合併症を生じた5症例について報告している19).そのう(38)表4Zinn小帯断裂についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載原ら12)22術後視力は合併症のない症例と同様眼内レンズ硝子体中落下1/54眼Olsenら14)17重篤な術後合併症なしAvramidesら16)11適切な処置を行える技量のある術者が手術を行うことが望ましい術後視力7/10~10/10Zinn小帯断裂後にIOL挿入を行っても予後は総じて良好であるとの報告が多かった.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???ち4症例はIOLの損傷で,いずれも摘出し新しいIOL挿入を行い,1症例は前房内にレンズが脱出してしまったが,すぐに後房内に挿入可能であったとのことである.Gohillらは,202眼にインジェクターを用いてIOL挿入を行い,そのうちの3眼にIOL損傷をきたし,1眼はレンズ挿入時に後?破損をきたしたと報告している20).しかし,レンズの損傷した症例に対しては新しいレンズを挿入し,後?破損をきたした症例に対しては硝子体の処理後にレンズ挿入を施行し,いずれも術後に重篤な合併症は認めなかったとのことである.8.Descemet膜?離医中誌(キーワード:Descemet膜?離,白内障)およびMedline(キーワード:Descemet?s-membrane,cataract)の検索結果では,それぞれ1編および8編の文献がIOL挿入について述べていた(表6).渡部らやPahorらは,白内障術後にDescemet膜?離が明らかになった症例に対して,ナイロン糸を用いてDescemet膜を角膜実質に縫着することで整復術を行い,良好な結果を得た症例について報告している21,22).Vastineらは,白内障術中にDescemet膜?離が明らかになった症例に対して,ナイロン糸を用いて整復術を行い,良好な結果を得た症例について報告している23).Nouriらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した後に,縫合による整復および前房内への空気注入を行った症例について報告しているが,術後早期に軽度の角膜浮腫を認めたのみで,良好な術後視力が得られたとしている24).Boothらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,(39)表5インジェクターによる合併症についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載岩城ら17)24支持部の損傷が軽度の症例はそのまま眼内に留置それ以外の症例は摘出し新しい眼内レンズを挿入Olsonら18)1毛様溝に支持部が入り,すぐに?内に挿入可能重篤な術後合併症なしHabibら19)5レンズの損傷した症例はすべて交換した前房内にレンズが脱出した症例は後房に戻した術後視力は全例術前より改善Gohillら20)4レンズの損傷した症例はすべて交換した後?破損をきたした症例に対しては硝子体の処理後にレンズを挿入術後視力6/6重篤な術後合併症なしインジェクターによる術中合併症に関する文献は,インジェクターによるIOL破損についての報告がほとんどであった.表6Descemet膜?離についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載渡部ら21)1空気・粘弾性物質を前房内に注入ナイロン糸による縫合術後視力1.0Pahorら22)1ナイロン糸による縫合術後視力0.9Vastineら23)3ナイロン糸による縫合重篤な術後合併症なしNouriら24)1ナイロン糸による縫合空気を前房内に注入術後視力20/25術後早期に軽度の角膜浮腫Boothら25)1空気を前房内に注入術後視力6/9Marconら26)15SF6を前房内に注入重篤な術後合併症なしMacsaiら27)3C3F8を前房内に注入重篤な術後合併症なしKremerら28)3SF6・粘弾性物質を前房内に注入重篤な術後合併症なしAssiaら29)1自然治癒Descemet膜?離後にIOL挿入を行っても予後は総じて良好であるとの報告が多かった.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006IOLを挿入した後に空気を前房内に注入することにより治癒可能としている25).Marconらは,強角膜切開に比べて角膜切開でDes-cemet膜?離の発生率が高いとしている26).しかし,IOLを挿入してSF6(sulfurhexa?uoride)を前房内に注入することにより治癒可能としている.Macsaiらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した後にC3F8(per?uoropropane)を前房内に注入することにより治癒可能としている27).Kremerらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した後に粘弾性物質とSF6を前房内に注入することにより治癒可能としている28).Assiaらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した症例が,数カ月後にDescemet膜?離が自然治癒した症例を報告している29).IV考察1.前?切開の失敗について今回検索した文献で,前?切開縁に亀裂が入った後にIOL挿入が禁忌であるという報告はなかった.CCCの成功はその後の術操作を安全に行うために必須と思われ,CCCが直接的・間接的に他の術中合併症の原因になる可能性がある.いずれの対象文献も安全にIOL挿入を行うためには,適切に核処理を行い,IOLを適切な方向に挿入すべきとしている.つまり,CCCの失敗が他の術中合併症の原因にならないよう十分な注意が必要と思われる.また,亀裂がその後の術操作によってより広がらないようにすることも同様に重要であろう.2.後?破損について対象文献のほとんどは,水晶体超音波乳化吸引中に後?破損をきたした症例についての報告であった.これらを比較すると,いずれの文献も後?破損後にIOLを挿入することを禁忌であるとはしていない.原らの報告で術後にIOLが硝子体中に落下したとの記載がある12)が,詳細については述べられていない.永本らの文献6)による,後?破損後にIOL挿入を行う条件を満たさない症例に,IOLを挿入した可能性も示唆される.各文献ともに,後?破損をきたしたときに重要なことは,①それ以上後?破損を広げない,②水晶体皮質・核を完全に取りきる,③前房内に脱出した硝子体を完全に処理する,④IOLを安全な位置に挿入する,というところでは概ね一致している.またChanらは,後房レンズ挿入は硝子体を硝子体腔内に留める意味からも,なるべく挿入したほうがよいとしている15).3.Zinn小帯断裂について参考文献のほとんどは,後?破損を生じたときと同様に,適切な処理を行った後に,しかるべき位置にIOLを挿入すれば術後に重篤な合併症をきたさないとしている.しかし,その適切な処理が確実に行えるかが重要であり,それ以上断裂の範囲を広げることなく,水晶体摘出を行うには十分な知識・技量が必要であろう.また,手術のどの段階でZinn小帯断裂が生じるかも,その後の操作中に別の術中合併症を併発する危険性を左右するものと思われる.4.インジェクターによる合併症について現在はさまざまなインジェクターが各IOL向けに開発されていて,従来は折りたたんで挿入されることの多かったfoldableIOLも,しだいにインジェクターにより挿入する機会が増えてきている.その利点として,鑷子を用いるときと比べて,①切開幅が小さい,②感染の予防を期待できる,③挿入時の前房の維持がしやすい,④術者が意図する位置にレンズを導きやすいなどがあげられている30)が,今回検討したようにインジェクター特有の合併症もある.そのインジェクターによる合併症についての文献は,眼球に対する損傷をきたしたものよりもIOL自体の破損をきたした報告が多かった.各文献ともIOLを交換する必要がある症例では,すべて無事に新しいIOLに交換可能であったとしていた.したがって,このような事態が生じた際には,損傷したIOLを摘出するだけでなく,新しいIOLを挿入することが望ましいと思われる.また,これら文献は2000年以前のものがほとんどで,それ以降はインジェクターによる合併症に関する発表はほとんど検索されなかった.このことは,現在は当時よりはインジェクターも改良されたことと,術者がインジェクターの取り扱いに慣れてきて(40)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???いることも関係しているものと考えられる.5.Descemet膜?離今回の対象文献は,いずれもDescemet膜?離後にIOLを挿入することを禁忌であるとはしていない.その対処としては,ナイロン糸でDescemet膜を角膜実質に縫着させるものや,手術終了時にタンポナーデ効果を期待して前房内に空気・ガス・粘弾性物質などを留置する方法が報告されている.いずれの報告も,重篤な術後合併症なく経過しているとしている.Descemet膜?離は白内障手術のどの過程でも生じうる合併症である.水晶体摘出中に器具の出し入れなどで創口断面に負荷がかかっている場合は,その時点までは術中合併症が顕著でなくても,その後のIOL挿入の操作自体がDescemet膜?離をひき起こす可能性があるので注意が必要であると考えられる.白内障手術は,さまざまな過程から構成されている.したがって,その術中合併症は多岐にわたる.今回は,一般的な術中合併症のみに焦点を当てて,それが生じた際のIOL挿入についての文献的考察を行った.その結果,合併症の種類は違っていてもそれに対する適切な処置を行うことが可能であれば,その後にIOLを挿入することが致命的な術後合併症の原因になるとの報告は今回検討した1,549編の文献中1編もなかった.問題がないとすれば,むしろ術後のQOVを重視すれば,適切な合併症に対する対処のもとにIOLを挿入したほうがよいであろう.検索を行うキーワードの設定により,他に検討する必要のある文献が多少ともあると思われる.今後さらなる検討を行いたい.おわりに医中誌およびMedlineによる文献的検証を行ったところ,白内障手術中に合併症を起こした場合に,合併症に対する適切な処置を行うことができれば,その後のIOL挿入を禁忌とするevidenceは認めなかった.文献1)HaighPM,LloydIC,LavinMJ:Implantationoffoldableintraocularlensesinthepresenceofanteriorcapsulartears.???9:442-445,19952)AssiaEI,LeglerUF,MerrillCetal:Clinicopathologicstudyofthee?ectofradialtearsandloop?xationonintraocularlensdecentration.?????????????100:153-158,19933)WassermanD,AppleDJ,CastanedaVEetal:Anteriorcapsulartearsandloop?xationofposteriorchamberintraocularlenses.?????????????98:425-431,19914)MasketS:Postoperativecomplicationsofcapsulorhexis.???????????????????????19:721-724,19935)HansenSO,CrandallAS,OlsonRJ:Progressiveconstric-tionoftheanteriorcapsularopeningfollowingintactcap-sulorhexis.???????????????????????19:77-82,19936)永本敏之,宮島弘子,木村肇二郎:後?破損・チン氏帯断裂と後房レンズ挿入について.???4:171-180,19907)佐藤宏,上条由美,高良由紀子ほか:後?破損後の処置と予後.眼科手術8:113-116,19958)高瀬正郎,矢那瀬淳一,栗原秀行:白内障手術時の後?破損に対する経毛様体扁平部処理.臨眼56:1143-1146,20029)高瀬正郎,矢那瀬淳一,譲原大輔ほか:白内障手術時における後?破損とその処理について.眼科手術13:421-425,200010)鬼塚尚子,久保田敏昭,松浦敏恵ほか:超音波白内障手術中に後?破損し前部硝子体切除を行った症例の術後成績.あたらしい眼科18:1551-1553,200111)YapEY,HengWJ:Visualoutcomeandcomplicationsafterposteriorcapsuleruptureduringphacoemulsi?cationsurgery.??????????????23:57-60,199912)原修哉,市川一夫,加賀達志ほか:耳側角膜小切開による日帰り白内障手術の術中合併症.臨眼57:743-746,200313)ChangDF,PackardRB:PosteriorassistedlevitationfornucleusretrievalusingViscoatafterposteriorcapsulerupture.???????????????????????29:1860-1865,200314)OlsenT,BargumR:Outcomemonitoringincataractsur-gery.?????????????????????73:433-437,199515)ChanFM,MathurR,KuJJetal:Short-termoutcomesineyeswithposteriorcapsuleruptureduringcataractsur-gery.???????????????????????29:537-541,200316)AvramidesS,TraianidisP,SakkiasG:Cataractsurgeryandlensimplantationineyeswithexfoliationsyndrome.???????????????????????23:583-587,199717)岩城久泰,宇多重員:Unfolderの問題点.眼科手術11:501-503,199818)OlsonR,CameronR,HovisTetal:ClinicalevaluationoftheUnfolder.???????????????????????23:1384-1389,199719)HabibNE,SinghJ,AdamsADetal:Crackedcartridgesduringfoldableintraocularlensimplantation.???????????????????????22:630-632,199620)GohillJ,BhamraJ:Unfolderlensinjectionsystemwithacrylicintraocularlenses:retrospectivestudy.???????????(41)———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006????????????29:980-982,200321)渡部通史,堀田喜裕,陳秀郁ほか:白内障手術中に発生したDescemet膜?離の1症例.あたらしい眼科8:1801-1803,199122)PahorD,GracnerB:SurgicalrepairofDescemet?smem-branedetachment.?????????????25(Suppl):13-16,200123)VastineDW,WeinbergRS,SugarJetal:StrippingofDescemet?smembraneassociatedwithintraocularlensimplantation.???????????????101:1042-1045,198324)NouriM,PinedaRJr,AzarD:Descemetmembranetearaftercataractsurgery.????????????????17:115-119,200225)BoothFM,KurdianP,LiuH:RepositioningofDescemet?smembrane:acasereport.?????????????????12:341-343,198426)MarconAS,RapuanoCJ,JonesMRetal:Descemet?smembranedetachmentaftercataractsurgery:manage-mentandoutcome.?????????????109:2325-2330,200227)MacsaiMS,GainerKM,ChisholmL:RepairofDescemet?smembranedetachmentwithper?uoropropane(C3F8).??????17:129-134,199828)KremerI,StiebelH,YassurYetal:Sulfurhexa?uorideinjectionforDescemet?smembranedetachmentincata-ractsurgery.???????????????????????23:1449-1453,199729)AssiaEI,Levkovich-VerbinH,BlumenthalM:Manage-mentofDescemet?smembranedetachment.???????????????????????21:714-717,199530)谷口重雄:foldableIOL挿入法.超音波白内障手術ABC(大鹿哲郎編),p114-119,メジカルビュー社,2002(42)眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社

網膜硝子体疾患

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS網膜硝子体疾患に関連する眼内レンズの適応に関する記載は,昭和62年の「眼内レンズ適応検討委員会」の答申に基づき,表1のようになっている.具体的には,進行性の糖尿病網膜症,虹彩新生血管や網膜?離眼には眼内レンズ挿入の適応はなく,黄斑変性,糖尿病網膜症,網膜?離の既往,色素変性や高度近視(-6.0D以上)があれば,眼内レンズ挿入には慎重を要すると記載されている.水晶体?外摘出術(extracapsularcataractextrac-tion:ECCE)が全盛時代の昭和62年当初では,きわめて妥当な見解であろうと思われるが,約20年経過して超音波白内障手術が主流となった現在では,答申の内容と眼内レンズの適応の実際にかなりの隔たりがある.手術技量の進歩と眼内レンズの材質や形状の改良によって,眼内レンズ挿入の安全性が向上した現在では,禁忌や慎重を要するとされる網膜硝子体疾患眼のなかには,実際に眼内レンズ挿入を試みたところ,良好な術後経過を得て,患者が視機能の回復に大変満足している症例がはじめに近年の超音波白内障手術(phacoemulsi?cationandaspiration:PEA)と硝子体手術のめざましい進歩によって,両者の相乗効果ともいうべき白内障・硝子体同時手術の適応疾患が拡大の一途にある.これに伴い,眼内レンズの材質や形状の改良によって,従来では眼内レンズ挿入が禁忌とされてきた増殖糖尿病網膜症,難治性網膜?離,あるいは増殖硝子体網膜症などの重症例においても,眼内レンズ挿入の適応は,同時挿入と二次挿入のいずれのタイミングを選択するにせよ,同時手術の普及とともに拡大してきているのが現状である.最近では,網膜硝子体疾患においても,眼内レンズ挿入の是非を問うことより,良好な視機能の維持と回復の観点に重きをおき,どのタイミングで,どのような材質や形状の眼内レンズを選択するかが重要となってきている.本稿では,網膜?離,増殖糖尿病網膜症や炎症性疾患を含む増殖硝子体網膜症などの種々の網膜硝子体疾患に対する白内障単独手術,白内障・硝子体同時手術における眼内レンズの適応の現状と問題点について述べ,さらに現時点でもなお慎重・禁忌と考えざるを得ない病態について再考したい.I網膜硝子体疾患における眼内レンズ適応の現状と使用説明の記載内容との乖離現在一般に市販されている各社の眼内レンズの使用説明書をみると,眼内レンズの材質や形状にかかわらず,(27)???*YusukeOshima:大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)〔別刷請求先〕大島佑介:〒565-0871吹田市山田丘2-2(Rm.E7)大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):165~171,2006網膜硝子体疾患?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????大島佑介*表1網膜硝子体疾患に関わる眼内レンズ挿入の適応の答申(昭和62年)禁忌:進行性の糖尿病網膜症虹彩新生血管網膜?離慎重:黄斑変性糖尿病網膜症網膜?離の既往強度近視色素変性———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006少なくないことは周知の事実である.また,壮高年者の硝子体手術に際して,わが国では白内障手術を同時に行うことが標準的な術式となりつつある現状では,網膜硝子体疾患眼における眼内レンズの適応は,今後ますます拡大するものと考えられる.医療論争が何かと注目されている現代の社会的背景を考慮すれば,眼内レンズ挿入に関するガイドラインを新たに作成することを視野に入れて,眼内レンズ挿入の適応について再考証することが必要不可欠である.II網膜硝子体疾患における眼内レンズ適応の是非網膜硝子体疾患眼における眼内レンズ挿入の目的には,(1)網膜硝子体疾患が完全に沈静化された状態の眼に対する視力改善を目的とした眼内レンズ挿入と,(2)進行性や活動期にある網膜硝子体疾患において,眼底疾患の治療の一環もしくは長期的な視力維持を目的とした眼内レンズ挿入の二つが考えられる.したがって,眼内レンズの適応の是非を問うには,単に疾患群別にその是非を論じるのではなく,病期が活動期か,休止期か,術式が白内障単独手術か,硝子体同時手術か,によってその適応が変わる.上記(1)を目的とした場合,網膜機能(視機能)さえあれば,どんな疾患に対しても100%の眼内レンズ適応があるので,術前の網膜機能を含めた視機能の評価が重要であろう.一方,上記(2)が目的であれば,眼底治療の一環としての白内障手術のタイミングが重要となり,硝子体手術との同時手術の是非や病期によっては眼内レンズ挿入の時期(同時移植か,二次挿入か)が問題となる.本稿では(2)について,わが国での報告ならびに自験例のデータを踏まえながら,頻度的に高い疾患群別に適応の現状について述べる.A.白内障単独手術と眼内レンズの適応活動性のある網膜硝子体疾患においても,初回より硝子体手術を適応しなければならないほどの進行例でなければ,視力障害の原因もしくは網膜硝子体疾患の治療の妨げとなる白内障に対する単独手術と眼内レンズ挿入は,眼底疾患の管理と治療に必要な一連の治療手段と考えるべきであり,具体例を以下に示す.1.加齢黄斑症(age-relatedmaculopathy:ARD)と眼内レンズの適応欧米先進国における社会的失明原因の第1位である加齢黄斑症は,生活様式の欧米化と人口の高齢化の一途をたどるわが国においても次第に増加している.最近の疫学的調査によれば,白内障の進行や白内障手術が加齢黄斑症の有病と病気進行の危険因子として話題になっている.これに対して白内障手術と眼内レンズ挿入が白内障単独例以上に,進行した加齢黄斑症患者におけるquali-tyofvision(QOV)の改善に重要であるとする報告もある1,2).とりわけ,白内障を有する加齢黄斑症患者への眼内レンズ適応は,患者自身のQOVの改善と眼底透見性の向上が眼底疾患の治療の一助となることを考えれば,たとえ活動性の小休止例や進行例であっても,眼内レンズを適応すべきである.図1のように活動性の脈絡膜新生血管を有する白内障眼では,超音波白内障手術と眼内レンズ挿入を行った後に速やかに光線力学的療法を行って,良好な視力予後を得ている.2.糖尿病網膜症と眼内レンズの適応糖尿病網膜症を有する症例での白内障手術(おもにECCE)は,手術侵襲が前房炎症を惹起するのみならず,網膜血液関門に破綻をきたすことで増殖糖尿病網膜症が増悪することが過去に報告されて,これまでの眼内レンズの適応に対する慎重論の背景となっていた3,4).しかし,超音波白内障手術が主流となった最近では,手術成績や網膜症の進行度は非糖尿病網膜症眼に比較して差がないとする報告のほうがむしろ多い5,6).現在では,単純糖尿病網膜症や増殖前糖尿病網膜症に白内障を合併した場合には,むしろ積極的に混濁水晶体を眼内レンズに置き換え,しっかりした眼底観察を行うことが進行の早期発見に有効であり,また,硝子体手術に至らない程度の増殖糖尿病網膜症では,必要に応じて白内障術前・術後に網膜光凝固を行って網膜症の活動性を抑えながら,タイミングを逸さずに白内障手術ならびに眼内レンズ挿入することによって,厳重な眼底管理を連続して行えることがむしろ網膜症の進行を抑えることに重要ではないかと考えられている.最近では増殖糖尿病網膜症に対する眼内レンズ挿入眼(28)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???の硝子体手術の成績は比較的に良好であるとの報告が多い7~9).自験例においても,95%以上の症例においてlogMAR(minimumangleofresolution)換算視力で2段階(0.2)以上の視力改善を得ている(表2).これらの症例では,硝子体手術において,術中に眼内レンズの摘出を要した症例がなかったこと,硝子体手術がいったん成功したにもかかわらず,術後に一定の割合で血管新生緑内障が生じることなどから,手術成績を左右する要因は眼内レンズではなく,術前の網膜光凝固の程度や網膜症の活動性の高さにあることが,有水晶体眼の場合と何ら変わりはないことを強調したい.B.白内障・硝子体同時手術と眼内レンズの適応網膜硝子体疾患に対する白内障・硝子体同時手術における眼内レンズの適応は,術式の変遷によって大きく変わってきている.経毛様体扁平部水晶体除去の時代においては,眼内レンズは?外固定となり,とりわけ増殖性疾患などの重症例を中心に手術が行われるがために,眼内レンズ挿入には慎重を要した.その後の?外摘出の時代を経て,超音波水晶体乳化吸引が主流となっている現在では,重症例のみならず,硝子体術後の白内障の進行という術後合併症の問題を解決する意味でも,わが国では種々の網膜硝子体疾患に対して積極的に同時手術を行う傾向にある10~13).これに伴って,現在の同時手術における眼内レンズの役割は,術後早期に視機能が回復すると期待できる軽症例と増殖硝子体疾患などの重症例とでは若干異なる.すなわち,硝子体手術も白内障手術と同様に視力回復をめざした低侵襲手術となりつつある最(29)表2増殖糖尿病網膜症における白内障術後(眼内レンズ挿入眼)の硝子体手術成績対象:32例40眼(平均年齢63.1歳)観察期間:平均11.2カ月(3~24カ月)疾患の内訳:硝子体手術24眼(60%)牽引性網膜?離12眼(30%)びまん性黄斑浮腫4眼(10%)術式:硝子体単独手術(汎網膜光凝固追加)結果:視力改善(logMAR0.2以上)38眼(95%)平均手術回数1.15回(最大2回)術後合併症血管新生緑内障2眼(5%)再増殖2眼(5%)術中の眼内レンズ摘出0眼図1白内障に加齢黄斑変性症を伴う症例A:白内障のため眼底の透見性が不良である(矯正視力0.2).D:超音波水晶体乳化吸引ならびに眼内レンズ挿入を行った.C:眼底検査ならびに蛍光眼底造影検査にて脈絡膜新生血管(pre-dominantclassicCNV)を検出した(矯正視力0.3).直ちに光線力学的療法(PDT)を行った.D:PDT施行1カ月後の眼底写真.脈絡膜新生血管が退縮し,矯正視力0.6に改善した.ABCDVA=0.2GLD2,400?m———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006近では,軽症例では術後早期の視力回復をめざした眼内レンズの同時挿入が主たる目的であるが,従来の重症例においては,白内障手術は混濁水晶体の除去の意味合いのほか,術中視認性を向上することによる硝子体手術の安全性を高める目的が重要であり,眼内レンズの挿入は術後の視機能の確保ができるかどうかによって,同時挿入か二次挿入かのタイミングを図ることが必要となる.1.白内障・硝子体同時手術における眼内レンズ挿入の頻度当科での白内障・硝子体手術の最近の動向を検証すれば,表3に示すように,術後1年以上経過観察できた平成15年4月から平成16年3月の1年間において,硝子体・白内障同時手術は有水晶体眼356眼中の306眼(86%)に行われており,増殖性疾患も含めて眼内レンズの同時挿入は94%の症例に行われている.経過観察期間中を含めて,再手術例で眼内レンズの摘出を余儀なく行われた症例は全体の1%(302眼中3眼)にとどまり,二次挿入例を含めると,硝子体術中に水晶体除去を施行すれば,最終的には98%の症例で眼内レンズ挿入の適応があったという結果になる.最近では,25ゲージや23ゲージ経結膜硝子体手術などの新しい手術技術の開発によって,早期の視力改善を目指した低侵襲手術が普及しつつある14~16).しかしながら,これら低侵襲手術においても,術後の白内障の進行が約80%に認められ,これまでの20ゲージ手術と発症率に差がないことがわかってきた17).最近に当科において行われた25ゲージによる経結膜手術の連続150眼において,代表例(図2)に示すように全例で眼内レンズの同時挿入が行われており,各疾患群とも良好な視力改善を得られている18).良質な視力改善を目指す術式であればこそ,積極的に眼内レンズを適応していく必然性が生まれるし,また硝子体手術の質の向上が眼内レンズ挿入の適応の拡大を押し上げている結果ともいえる.2.眼内レンズ挿入のタイミングと問題点眼内レンズの固定部位に関して,いうまでもなく本来の生理的位置である?内固定が最も望ましく,術者の技量にもよるが大抵の場合では初回手術時に眼内レンズ同時挿入を行わなければ,後日に?内固定を完遂することはむずかしい.初回手術で水晶体?を完全に除去した症例での眼内レンズ適応は,もはや毛様溝に眼内レンズを縫着することしか方法はなく,たとえ水晶体?を一部残存して?外固定を行っても,虹彩癒着をはじめとするさまざまな付随する術後合併症を生じることが少なくない19,20).また二次挿入では眼内レンズの偏心や傾斜といった問題も残るので,高次収差の面において見え方の質が?内固定に比較してやや劣ることも否定できない(図(30)表3最近の白内障・硝子体同時手術の適応の実際期間:平成15年4月から平成16年3月同時手術眼:306眼(86%)平均年齢:61.3±10.4歳(25~85歳)対象の内訳:黄斑部疾患66眼(23%)増殖糖尿病網膜症60眼(21%)裂孔原性網膜?離58眼(19%)網膜静脈閉塞症52眼(17%)黄斑移動術36眼(12%)炎症性疾患18眼(6%)外傷・その他16眼(2%)眼内レンズ挿入:同時挿入290眼(94%)二次挿入12眼(4%)挿入せず5眼(2%)(注)上記のうち,再手術時に眼内レンズ摘出を行った症例(3眼)は増殖硝子体網膜症2眼,桐沢ぶどう膜炎1眼.図225ゲージ経結膜硝子体・白内障同時手術の術翌日所見A,B:角膜切開創の閉鎖が良く,眼内レンズが?内固定されている.C,D:耳上側,鼻上側の強膜切開創(矢印)が自己閉鎖され,創口はすでに不明瞭になっている.ABCD———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???3).一方,眼内レンズの同時挿入の問題点として,黄斑?離を伴う裂孔原性網膜?離眼における眼内レンズ度数の決定の問題や増殖性疾患における眼内レンズによって惹起される炎症反応が懸念される.黄斑?離眼での眼内レンズ度数決定には,術前の屈折値に左右差の少ない症例では僚眼の測定結果を参考に算出することもあり,過去の報告によれば狙い誤差は1.0~2.0ジオプトリーにとどまっている13,21).幸い裂孔原性網膜?離の症例では,術前より近視度数の強いほうに多いためか,表3の自験例においても眼内レンズ度数のずれのために眼内レンズ摘出や入れ替えに至った症例はなかったが,術直後に不(31)図3眼内レンズ同時挿入眼(A,B)と二次挿入(縫着)眼(C,D)のレンズ傾斜と高次収差の比較Scheimp?ugイメージ(A,C)では,眼内レンズの?内固定のほうがレンズ縫着に比べて,眼内レンズの中心軸が視軸によく一致しており,偏心と傾斜のいずれも軽度である.高次収差測定(B,D)の結果もScheimp?ugイメージに一致して,レンズ縫着眼のほうが角膜の収差が少ないのにもかかわらず,眼球内部(internal)のコマ収差(赤□)が増加しており,眼内レンズの傾斜による影響を示唆している.ABCD———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006同視に悩まされる患者も実際に存在していたことから,黄斑?離眼におけるより正確な度数決定が今後の解決すべき課題と考えている.重度の増殖硝子体網膜症をきたした症例,とりわけ増殖糖尿病網膜症との合併例や炎症疾患が背景にあるような症例では,現段階においても初回手術だけで治癒することがむずかしく,白内障・硝子体同時手術における眼内レンズの同時挿入には慎重を要すると思われる.活動性の低い症例では比較的に良好な予後をたどる場合もあるが,桐沢ぶどう膜炎に代表されるような予後不良なケースも少なくなく,これらの重篤疾患においては網膜機能の保持を得たうえでの眼内レンズの適応が望ましいだろう.3.白内障手術(眼内レンズ適応)にきわめて慎重を要する疾患:若年性糖尿病網膜症網膜硝子体疾患における硝子体手術に,白内障手術(眼内レンズ挿入)との併設が主流となっている背景には,術後白内障の進行防止という目的以外に,重症例では水晶体除去を行うことでより徹底した硝子体切除が行いやすい術者側の理由が少なからず存在している.最近では,増殖性疾患の重症例だからといって,40歳未満の若年者における白内障・硝子体同時手術の施行が多く報告されているが,水晶体除去がかえって病勢を増悪させる要因になりかねない疾患が存在することを念頭におかなければならない.若年性糖尿病網膜症に関する最近の手術成績をみれば,同時手術の施行後の新生血管緑内障の発症率(10~45%)は決して少なくない22~24).自験例の連続13眼での手術結果でも,4眼(30%)で術後6カ月以内に新生血管緑内障を生じ,1眼(7.7%)で眼圧コントロールに濾過手術を要した.同時期の単独手術例10眼での新生血管緑内障の症例が1眼(10%)であったことを考えると,白内障同時手術の施行は個々の症例においてきわめて慎重を要するといわざるを得ない.若年者の糖尿病網膜症に対する硝子体手術に際しての同時手術の是非には,今後の前向きの比較研究による結論づけが待たれるところである.まとめ近年の超音波白内障手術と硝子体手術のめざましい進歩によって,限られた進行性の重症増殖性疾患を除き,眼内レンズ挿入の方法や挿入のタイミングの違いこそあるが,水晶体除去を行えば,ほとんどの網膜硝子体疾患において,眼内レンズ挿入の適応があると考えている.しかし,視機能回復を望めない陳旧性もしくは重症度の高い増殖硝子体網膜症を合併した病態には慎重を要し,若年者の増殖疾患においては,水晶体除去の是非の問題を含め,今後の前向き研究による検討が必要と考える.文献1)KleinR,KleinBE,WongTYetal:Theassociationofcat-aractandcataractsurgerywiththelong-termincidenceofage-relatedmaculopathy:theBeaverDameyestudy.???????????????120:1551-1558,20022)WangJJ,KleinR,SmithWetal:Cataractsurgeryandthe5-yearincidenceoflate-stageage-relatedmaculopa-thy:pooled?ndingsfromtheBeaverDamandBlueMountainseyestudies.?????????????110:1960-1967,20033)PollackA,DotanS,OliverM:Progressionofdiabeticreti-nopathyaftercataractextraction.???????????????75:547-551,19914)今井雅仁,加藤祐造,安部圭哲ほか:眼内レンズ挿入術による糖尿病網膜症の進行.臨眼49:675-678,19955)深田祐加,加藤聡,堀貞夫ほか:糖尿病症例の白内障手術に対する超音波乳化吸引術の網膜症への影響.眼臨92:895-898,19986)鈴木幸彦:糖尿病網膜症による失明防止と到達目標白内障・硝子体手術による視力改善.眼紀55:343-349,20047)増田明俊,小椋祐一郎,内田雅仁ほか:偽水晶体眼の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術.眼科手術7:443-446,19948)伊藤幸子,加藤整,大島健司:偽水晶体眼の増殖糖尿病網膜症の硝子体手術.臨眼52:843-845,19989)岩城正佳:糖尿病網膜症硝子体トリプル手術vs白内障・硝子体分割手術.眼科手術13:27-31,200010)荻野誠周,内田英哉:糖尿病網膜症に対する硝子体手術,水晶体除去および眼内レンズ挿入同時手術の成績.日眼会誌98:672-678,199411)恵美和幸:糖尿病網膜症の早期硝子体手術.臨眼49:1513-1517,199412)荻野誠周:黄斑円孔に対する硝子体手術の成績.臨眼48:1475-1480,199413)大島佑介,恵美和幸,本倉雅信ほか:裂孔原性網膜?離に対する一次的硝子体手術の適応と手術成績.日眼会誌102:389-394,1998(32)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???14)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessvitrectomysurgery.?????????????109:1807-1812,200215)LakhanpalRR,HumayunMS,deJuanEJretal:Out-comesof140consecutivecasesof25-gaugetransconjunc-tivalsurgeryforposteriorsegmentdisease.??????????????112:817-824,200516)EckardtC:Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrec-tomy.??????25:208-211,200517)IbarraMS,HermelM,PrennerJLetal:Longer-termoutcomesoftransconjunctivalsutureless25-gaugevitrec-tomy.???????????????139:831-836,200518)ShinodaK,O?hiraA,IshidaSetal:Posteriorsynechiaoftheirisaftercombinedparsplanavitrectomy,phacoemul-si?cation,andintraocularlensimplantation.?????????????????45:276-280,2001(33)19)有澤武士,堀田一樹:水晶体,硝子体同時手術後の二次的眼内レンズ挿入術.臨眼58:295-299,200420)OshimaY,OhjiM,TanoY:Surgicaloutcomesof25-gaugetransconjunctivalvitrectomycombinedwithcata-ractsurgeryforvitreoretinaldiseases.???????????????????????35:inpress,200621)川路隆博,中尾功,小川邦子ほか.黄斑?離眼に対する白内障硝子体同時手術における術後屈折値と予測値との差.????????16:194-197,200222)三上尚子,鈴木幸彦,吉岡由貴ほか:若年者糖尿病網膜症に対する白内障硝子体同時手術の成績.眼紀52:14-18,200123)三上尚子,鈴木幸彦,中沢満ほか:重症な若年者増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術.臨眼55:439-442,200124)早川宏一,増山千佳子,阿部徹ほか:若年者増殖糖尿病網膜症の硝子体手術成績.眼臨98:378-380,2004眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

ぶどう膜炎

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSたずらに慎重であることはもはや現実にそぐわないことも事実である.本稿では,ぶどう膜炎併発白内障における眼内レンズ挿入術を含めた手術療法の現状と,治療成績,問題点などについて述べたい.Iぶどう膜炎併発白内障における眼内レンズ挿入術の実態門田らによって1997年と2002年の過去2回にわたり実施されたぶどう膜炎併発白内障に対する眼内レンズ挿入術の全国アンケート調査6,7)によると,最近では国内のほとんどの施設で積極的に眼内レンズの挿入が行われていることが明らかにされている(表1).眼内レンズ挿入の対象疾患についても,ほぼすべてのぶどう膜炎とはじめにぶどう膜炎にみられるさまざまな眼合併症のなかでも白内障の頻度は高く,視機能の低下した症例に対して手術が行われる機会も少なくない.白内障の手術療法については,今日では超音波水晶体乳化吸引術(phacoemul-si?cationandaspiration:PEA)を行ったうえで,特別な理由がない限り眼内レンズを挿入することが常識となっているが,ぶどう膜炎症例に対する眼内レンズの挿入については長い間,慎重な対応が求められてきた.実際,昭和62年の眼内レンズ適応検討委員会から日本眼科学会への答申では,ぶどう膜炎患者への眼内レンズの挿入は禁忌と定められていた.術式についても水晶体?外摘出術と眼内レンズ挿入術が全盛であった頃,ぶどう膜炎症例では?内摘出術のほうが好ましいと考えられていた時期があった.その後,白内障手術の技術革新や素材としての眼内レンズの進化に歩調を合わせるように,眼内レンズ挿入術の適応は徐々に拡大し,ぶどう膜炎の併発白内障に対してもこれを禁忌とする考えは徐々に影を潜め,すでに多くの実績と良好な臨床成績が報告されている1~5).白内障手術に限らずとも,ぶどう膜炎の合併症に対する外科的治療においては,手術侵襲に伴う炎症の再燃や増悪などの危険性がつねに問題となる.生体にとって異物である眼内レンズの挿入に関しては今日でもなお,慎重かつ客観的な評価を継続していかなければならない.しかし,炎症眼に対する眼内レンズの挿入に関して,い(21)???*HiroshiGoto:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕後藤浩:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):159~164,2006ぶどう膜炎???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????後藤浩*表1眼内レンズ挿入術の実施1997年2002年積極的に挿入16%30%症例を選んで挿入68%59%陳旧例のみ挿入14%10%挿入していない1%1%(文献6,7より)表2眼内レンズ挿入術の適応となるぶどう膜炎1997年2002年すべてのぶどう膜炎61%69%Beh?et病を除く32%24%(文献6,7より)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006考えている施設が増加している.反対に,慎重に対処すべき代表的な疾患の一つであるBeh?et病には挿入しないという施設は減少傾向にある(表2).使用される眼内レンズについては,以前はポリメタクリル酸メチル(polymethylmethacrylate:PMMA)製レンズが主流であったが,最近では小切開手術に対応して多くの施設でアクリルレンズが使用されている.一時はレンズ表面にヘパリン処理が施されたPMMAレンズが注目されたことがあったが,期待されたほどの臨床的効果は実感されず,生体適合性の側面からはむしろアクリルレンズのほうが優れているとの報告もみられる8).このようにぶどう膜炎併発白内障においても,眼内レンズ挿入術の実施は既成事実として定着しているのが現状であり,小切開手術の普及とともにフォールダブルレンズの挿入が主流となっている.その最大の理由は,眼内レンズ挿入術によるqualityofvision,qualityoflifeの向上が,挿入に伴う弊害を遥かに上回ることが明らかとなり,定着してきたことにほかならない.IIぶどう膜炎併発白内障手術の適応1.手術適応の原則今日の洗練された手術手技と眼内レンズの素材をもってすれば,ぶどう膜炎の併発白内障に対しても侵襲の少ない,安全確実な手術が遂行可能なことが多いのは紛れもない事実である.眼内に炎症を示唆する所見がなく,ぶどう膜炎としての活動性が終焉した状態の症例ならば,原疾患の如何にかかわらず白内障手術と眼内レンズ挿入術自体が問題となることはほとんどない.一方,術前に活動性の炎症が存在する場合は原疾患によってかなり事情が異なってくる.たとえば,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎のように眼内の炎症が存在していても手術によるトラブルのきわめて少ない疾患もあれば9~11),若年性関節リウマチに伴う小児の虹彩毛様体炎のように,いかなる注意を払っても術後の炎症や眼圧上昇に悩まされる疾患もある11~13).活動期にある肉芽腫性ぶどう膜炎も中長期的には術後にさまざまな合併症を生じる可能性がある.小児ぶどう膜炎や炎症としての活動性が高い成人のぶどう膜炎では,副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)の局所あるいは全身投与によって炎症の消退を図り,少なくとも2~3カ月以上にわたって消炎が維持されていることを確認したうえで手術に踏み切ることが望ましい.一方,ぶどう膜炎症例では少なくとも全体の60%以上が特定の病名をつけることのできない,いわゆる同定不能群に該当するため,手術の適応や術前後の対策を立てにくいことも多い.いずれにしても手術の施行にあたっては原疾患により術後経過が大きく異なることを認識しておくことは必要であり,そのためには術前から病歴を含めた臨床像を整理し,疾患の特定には至らないにしてもどのようなタイプの炎症であるのか把握しておきたい.具体的には肉芽腫性炎症か否か,炎症発作はどのような頻度,周期で生じているのか,硝子体や眼底の状態から推察される視機能回復の見込みはどうか,といった事項について可能な限り把握しておく.これらの内容については術前のインフォームド・コンセントにも反映させる必要がある.2.眼内炎症に対する活動性の評価検眼鏡的に眼内炎症の程度を評価可能な場合は問題ないが,ぶどう膜炎では一見落ち着いた状態のようにみえてもsubclinicalに炎症が持続している場合がある.そのような眼内炎症に対する客観的な術前評価方法の一つに前房フレア値の測定がある.むろん,フレアの測定結果のみで手術の可否が決められるわけではないが,術前のフレア値が高いほど術後視力が芳しくないという一定の傾向があることは知っておくべきであろう(図1).自験例の検討では,手術直前のフレア値が50photoncounts/msec以上の症例では視力予後が不良なことが多(22)r=-0.524p<0.001n=6610術後視力1.00.50.120304050術前フレア値607080図1術前の前房フレア値と術後視力の関係———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???く,要注意と考えている14).術後のフレア値の推移については,活動性のない陳旧性ぶどう膜炎では加齢白内障と大差はないが,活動性のあるぶどう膜炎では不安定な値で推移していくことが多い(図2).III手術療法の実際1.切開創術後も局所ステロイド療法を長期にわたって続ける可能性のあるぶどう膜炎では,結膜組織で切開創を確実に被覆しておくことが望ましい.したがって,術前に眼圧上昇の既往や周辺虹彩前癒着などがなく,将来的にも緑内障手術を実施する可能性が低いと判断される場合は角膜切開ではなく,結膜切開のもとに強角膜トンネル切開を行う.ただし,この場合も結膜の切開と?離範囲は最小限にとどめておく.2.小瞳孔に対する術野の確保ぶどう膜炎のなかには術中,縮瞳傾向を示すことがある.Continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)やPEAを安全確実に行うために,散瞳の維持を目的として潅流液中にエピネフリン(ボスミン?)0.3mg/500m?を加えることがある.虹彩後癒着に対しては左右のサイドポートからチストトームやSinskeyフックなどを用いて?離していく.瞳孔膜が存在する場合は剪刀で切開し,切除する.瞳孔の拡張方法にはフックによる虹彩伸展,虹彩リトラクターやBeehler瞳孔拡張器などを利用する方法,剪刀による放射状瞳孔括約筋切開などがある.虹彩リトラクターを使用した場合は術後に麻痺性散瞳の状態となる傾向がある.粘度順応性の粘弾性物質も適宜利用して,確実に術野を確保する.3.後?CCCと前部硝子体切除若年性関節リウマチに伴う慢性ぶどう膜炎や女児に多い特発性虹彩毛様体炎(chroniciridocyclitisinyounggirls)など,小児に対する併発白内障手術の後には多くの症例で後?混濁が生じてくる.また,しばしば前部硝子体の混濁も観察される.後発白内障に対するNd:YAGレーザーによる後?切開術は年齢によっては実施が困難なことから,PEAと皮質吸引に引き続いて後?にもCCCを施し,さらにその開窓部から硝子体カッターで前部硝子体を切除しておく.このような処置を行うことにより中間透光体の透明性が維持されるとともに,眼内レンズの前方偏位(虹彩捕獲)を防ぐことも可能となる.IV術後炎症への対応術後の消炎対策として,手術終了時には抗生物質とともにリンデロン?の結膜下注射,あるいはトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト?)の後部Tenon?下注射を行う.術前から激しい後眼部炎症や?胞様黄斑浮腫の存在している非感染性ぶどう膜炎では,手術終了時にケナコルト?を毛様体扁平部から硝子体腔内に投与することもある.ただし,ケナコルト?のTenon?下注射や硝子体腔内注射は,ステロイド点眼による眼圧上昇の既往がない症例に限って行う.その後の消炎療法については,原疾患の特徴や罹病期間,最終炎症発作からの期間などによっても異なるが,抗菌薬,ベタメタゾン(リンデロン?など),ジクロフェナクナトリウム(ジクロード?など),散瞳薬(ミドリンM?など)の点眼とともに,術翌日の炎症の程度に応じてステロイド薬の全身投与も考慮する(プレドニゾロン換算で30~40mg/日から漸減).点眼薬のうち,散瞳薬(ミドリンM?)については少なくとも就寝前の点眼をやや長目に使用する.V手術成績原則として上記のような術式と注意事項を踏襲し,術(23)術前1日3日1週2週前房フレア値(photoncounts/msec)1カ月3カ月6カ月ぶどう膜炎(活動性あり)ぶどう膜炎(活動性なし)加齢白内障経過期間12010080604020図2術後の前房フレア値の推移(文献14より)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006後炎症への対応を行った結果としての筆者らの施設におけるぶどう膜炎併発白内障手術の治療成績について述べる.対象は1993~2004年までの12年間に東京医科大学病院眼科でぶどう膜炎併発白内障の診断のもとに手術療法が行われた294例392眼である.平均年齢は59.1±16.6歳,性別は男性107例131眼,女性187例261眼,経過観察期間は最短6カ月から最長12年である.ぶどう膜炎の内訳は表3に示したように,同定可能な疾患のなかではサルコイドーシスが最も多く,ついでBeh?et病,Vogt-小柳?原田病,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の順であった.術式はPEAが382眼(97.4%),計画的?外摘出術が9眼2.3(%),?内摘出術が1眼(0.2%)であった.眼内レンズの挿入は388眼(99.2%)に行われた(表4).挿入された眼内レンズはアクリルレンズが最も多く(表5),特に最近5年間ではほぼすべての症例にアクリルレンズが使用された.手術前後の視力変化については表6のごとく,2段階以上の改善が全体の78.7%に得られ,反対に2段階以上低下した症例は4.1%にとどまり,平均視力も術前の0.096から術後は0.504に上昇した(表6).図3に全症例の術前ならびに術後視力の変化を示す.なお,術後の視力は白内障手術後,最低6カ月間以上経過観察を行った後の最高視力を示してある.VI術後合併症術後合併症としては,明らかな炎症の再燃が24.4%,後発白内障(Nd:YAGレーザーによる後?切開術施行例)が12.1%,虹彩後癒着が6.7%,視機能に影響を及ぼすほど,あるいは眼内レンズの偏位をきたすほどの?(24)表3疾患の内訳症例数%サルコイドーシス5217.7Beh?et病3812.9Vogt-小柳?原田病237.8Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎134.4HLA-B27関連ぶどう膜炎41.4眼トキソカラ症31.0その他155.1同定不能14649.7294100.0表4手術方法と眼内レンズ挿入の有無PEA382眼(97.4%)ECCE9眼(2.3%)ICCE1眼(0.2%)IOL挿入(+)388眼(99.2%)IOL挿入(-)4眼(0.8%)PEA:水晶体乳化吸引術,ECCE:計画的?外摘出術,ICCE:?内摘出術,IOL:眼内レンズ.表5眼内レンズの種類Acryl291眼(74.8%)HSM*PMMA70眼(18.0%)PMMAほか28眼(7.2%)*HSM:heparinsurface-modi?ed.表6視力予後2段階以上の上昇306眼(78.7%)不変70眼(17.9%)2段階以上の低下16眼(4.1%)術前平均視力-1.011±0.779(0.096)術後平均視力-0.297±0.600(0.504)表7おもな術後合併症と頻度合併症眼数(%)炎症の再燃95(24.4)後発白内障*47(12.1)虹彩後癒着26(6.7)?の異常収縮15(3.9)*Nd:YAGレーザー施行例.0.01sl+sl-0.11.0術後視力術前視力1.00.10.01sl+sl-図3術前および術後視力———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???の異常収縮が3.9%にみられた(表7).VII眼内レンズにまつわる諸問題表7に示した術後合併症以外にも,ぶどう膜炎併発白内障の術後にはさまざまな問題が生じる可能性があり,眼内レンズに対する細胞生物学的な反応もその一つである.図4は同定不能ぶどう膜炎の術後4日目および20日目の前眼部写真であるが,特に術後炎症の再燃などがないにもかかわらず,わずか2週間の経過で多数の細胞やdebrisが眼内レンズの表面に付着している様子がわかる.図5は後発白内障に対するNd:YAGレーザー後?切開術の直後と3カ月後の前眼部写真である.後?切開後も前部硝子体を中心に混濁が生じ,やがてレンズ後面にシート状の細胞増殖が起こり,切開部分がまったくわからなくなってしまっている.このような現象は炎症の再燃をくり返すサルコイドーシスやVogt-小柳?原田病など,活動性の高い肉芽腫性ぶどう膜炎症例に多くみられる傾向がある.虹彩後癒着はおもに術前から癒着が存在していた症例にみられる.その多くは瞳孔縁と前?の癒着であり,眼内レンズ自体に癒着することは少ない.このような事実(25)図4手術直後(A)にはみられない眼内レンズの表面の細胞やdebrisの付着(B)AB図5Nd:YAGレーザー施行直後(A)と3カ月後(B)眼内レンズの後面に新たな膜が形成されている.前部硝子体の混濁も著しい.AB図6?の異常収縮———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006から,術後の虹彩後癒着や眼内レンズの偏位を防ぐには,はじめからレンズを?外に固定したほうがよいという報告もみられる15).?の異常収縮もときに高度となり(図6),症例によっては瞳孔領が閉鎖してしまうこともある.VIII術前の消炎対策眼内レンズの挿入に伴うさまざまな細胞反応を防ぐには,術後の炎症のコントロールとともに術前の消炎が重要となってくる.一定期間,活動性の炎症のないことを確認したうえで手術計画を立てることが肝要であることは前述したとおりであるが,術前からの予防的なステロイド投与については議論のあるところである.ぶどう膜炎併発白内障手術を予定している症例を対象に,術前30分前からメチルプレドニゾロン15mg/kgの点滴静注を行った群と,術前2週間前からプレドニゾロン0.5mg/kgの内服を行った群に分けて検討したところ,視力予後には両群間に差はなかったものの,血液?眼関門の破綻の程度は後者のほうが有意に軽度であったとする報告がある16).ぶどう膜炎の併発白内障手術に際して全例に予防的ステロイド薬の投与を行う必要性はないが,一定期間にわたって消炎を図った後に手術に踏み切ることの重要性はこの報告からも理解できよう.おわりに現状ではぶどう膜炎の併発白内障における視機能の回復には,他の白内障と同様,手術治療を選択せざるを得ない13).活動性の眼内炎症が存在する時期に外科的侵襲を加えることは,原疾患であるぶどう膜炎の悪化や新たな合併症をひき起こすことにもなりかねないが,疾患によっては適切な薬物療法を行い,一定の消炎期間を確認したうえで手術を行うのであれば,手術侵襲に伴う悪影響は最小限にとどまることが多いのも事実である.眼内レンズ挿入術を前提とした白内障手術をより安全に行うには,あらかじめぶどう膜炎の原因検索を十分に行って疾患の同定や病型の把握に努め,白内障手術がもたらす影響をある程度予測をしておくことも重要なポイントとなる.ぶどう膜炎併発白内障の治療は,術前の診療と術後の消炎療法を含めた包括的な医療の提供と認識すべきであろう.文献1)Uveitis.FundamentalsandClinicalPractice(edbyNus-senblattRBetal),p279-288,Mosby,StLouis,19962)富樫実和子,後藤浩,深井徹ほか:ぶどう膜炎患者に対する眼内レンズ挿入術.眼科手術9:351-355,19963)平岡美依奈,藤野雄次郎:ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績.日眼会誌103:119-123,19994)合田千穂,小竹聡,笹本洋一ほか:ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績.臨眼54:1272-1276,20005)沖波聡:ぶどう膜炎の合併症に対する手術療法.眼紀52:361-376,20016)門田遊,有馬加津子,池田秀子ほか:ぶどう膜炎患者の白内障手術に対するIOL挿入術の全国アンケート調査.臨眼52:1160-1163,19987)門田遊:眼内レンズアンケート調査.眼科45:1803-1812,20038)TognettoD,TotoL,MinutolaDetal:Hydrophobicacryl-icversusheparinsurface-modi?edpolymethylmethacry-lateintraocularlens:abiocompatibilitystudy.????????????????????????????????241:625-630,20039)BudakK,AydinY,AkovaAetal:CataractsurgeryinpatientswithFuchs?heterochromiciridocyclitis.????????????????43:308-311,199910)RamJ,KaushikS,BrarGSetal:Phacoemulsi?cationinpatientswithFuchs?heterochromicuveitis.???????????????????????28:1372-1378,200211)後藤浩:ぶどう膜炎併発白内障.臨眼58(増刊):259-263,200412)ProbstLE,HollandEJ:Intraocularlensimplantationinpatientswithjuvenilerheumatoidarthritis.????????????????122:161-170,199613)後藤浩:ぶどう膜炎による白内障.眼科45:1299-1305,200314)毛塚剛司:ぶどう膜炎における手術の適応・手技・予後.あたらしい眼科21:7-11,200415)HollandGN,VanHornSD,MargolisTPetal:Cataractsurgerywithciliarysulcus?xationofintraocularlensesinpatientswithuveitis.???????????????128:21-30,199916)MeacockWR,SpartonDJ,BenderLetal:Steroidpro-phylaxisineyeswithuveitisundergoingphacoemulsi?ca-tion.???????????????88:1122-1124,2004(26)

緑内障眼と眼内レンズ挿入術

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS障眼へのIOL挿入の是非を検討するために,今後IOLを意図的に挿入しない症例を増やすことは現実的でない.そこで,本稿の目的である「緑内障眼へのIOL挿入術の正当性を述べる」ために,IOL挿入を伴わない白内障手術症例との比較を行うことは事実上困難であるので,今回は,①緑内障眼の超音波水晶体乳化吸引術(pha-coemulsi?cationandaspiration:PEA)+IOL挿入術が,術後の眼圧コントロールに不利に働くのかどうか,②trabeculectomy単独手術例に比べてtrabeculectomy+PEA+IOL同時手術例の眼圧コントロールが劣るのかどうかを比較し,逆に,③IOLを挿入しないことが緑内障患者にとって不利にならないかどうかを検討することによって,IOL挿入の正当性を推論することとした.なお,結果の解釈に関しては,それがIOL挿入に起因するものか,白内障手術そのものに起因するものかの区別は容易ではない.そこで,おおまかな目安として,IOL挿入時に生じた合併症,たとえば挿入時のZinn小帯断裂や後?破損に伴うものを除いて,術中や術後早期の合併症は白内障手術自体に起因するものであり,術後数週間経ってから出現する合併症は,IOL挿入に伴うものである可能性が高いとして,本稿では考えていきたい.一方,比較的術後早期から生じてそれが何カ月も継続する場合,たとえば前房内炎症の遷延化などは,白内障手術による影響だけでなく,IOL挿入によって増強された可能性も否定できない.はじめに緑内障眼への眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入に問題があるかどうかを論じるには,IOL挿入によって眼圧コントロールの悪化が生じるのか否か,あるいはIOL挿入に伴って合併症頻度が増加するのか否か,などを検討しなければならない.そのためには,同じような背景の患者で,IOLを挿入した場合としない場合の術後の眼圧コントロール状況や合併症の発生頻度を調べる必要がある.しかし現実的には,緑内障だからという理由で(つまり添付文書通りに),白内障手術時にIOL挿入を避ける施設はほとんどないのではないだろうか?少なくとも,北里大学病院(以下,当院)において過去3年間に行われた緑内障眼の白内障手術例(緑内障との同時手術を含む)185眼を見直してみても,落屑緑内障や外傷による続発緑内障においてZinn小帯の脆弱化や断裂があり,やむを得ず「IOLが挿入できなかった症例」を除いては,ルーチンにIOL挿入が行われていた.また,一次的な挿入が無理であった症例でも,眼内の炎症や眼圧が落ち着いた後に,日を改めて二次的に縫着術が行われる場合がほとんどである.これは,すでに白内障手術がIOL挿入までを含めたものとして医師側にも患者側にも認識されているからであり,IOLの度数が多少ずれただけで患者の大きな不満が聞かれる現状では,IOLを挿入せずに分厚い眼鏡による矯正が必要という状況になると,あたかも手術が失敗したかのような受け取られ方をされるのはほぼ間違いない.したがって,緑内(15)???*NobuyukiShoji:北里大学医療衛生学部視覚機能療法学〔別刷請求先〕庄司信行:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):153~158,2006緑内障眼と眼内レンズ挿入術???????????????????????????????????????????????????????庄司信行*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006〔検討〕検討1:緑内障眼のIOL挿入術当院においてPEA+IOL施行後,3カ月以上緑内障専門外来での定期観察が可能であった症例66眼において,術後視力や合併症の発生頻度を検討した.対象の病型は,狭義の原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)24眼,正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)9眼,原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)20眼,高眼圧症8眼,落屑緑内障5眼である.a.視力まず,術後3カ月以内における最高矯正視力の内訳を表1に示す.1.0以上得られた症例は72.7%であり,残りの症例は1.0に満たなかった.しかし,視力の改善度からみると,92.4%の症例が2段階以上の視力改善を示し,視力が2段階以上悪化した症例はみられなかった.したがって,ほとんどの症例で視力改善が得られ,少なくともIOL挿入によって矯正視力が低下することはなかった.b.視野視野に関しては,術前と術後6~12カ月目に測定した静的量的視野計における平均網膜感度(meandevia-tion:MD)値の変化をみると,平均1.32±3.17dBの上昇がみられた(n=27)が,8.84~-5.43dBと症例によりばらつきが大きく,3dB以上低下した症例も2例存在した(表2).これらの2症例はいずれも術直後から眼圧が上昇し,1~3週間高眼圧が持続したことによると考えられ,これはIOLそのものよりも白内障手術による可能性が高い.一方,眼圧が安定した後は,視野の進行も停止し,その後のMD値にほとんど変化はみられない.したがって,術後1年以内の検討に関しては,網膜感度の面からみるとほとんどの症例で白内障手術+IOL挿入術後は維持もしくは改善することがわかった.しかし,なかには術後の眼圧上昇の持続により感度が低下した症例も存在し,少なくとも術中合併症などで術後炎症の遷延化やそれに伴う眼圧上昇が生じないように細心の注意を払うことが大切である.c.眼圧つぎに,IOL挿入眼の眼圧経過であるが,これは術後早期に生じた場合と,中長期的に生じた場合を分けて考えた.早期の眼圧上昇に関しては表3のとおりである.特にPOAGの症例では眼圧上昇をきたす可能性が高いことがわかる.これは,POAGはもともと房水流出抵抗が高いために眼圧上昇をきたしている可能性が高く,術後の房水の変化(=二次房水),つまり房水蛋白の増加や粘弾性物質の多少の残留により,通常よりもさらに房(16)表1緑内障眼のIOL挿入術における術後視力(n=66)術後最高矯正視力の内訳(3カ月以内)1.0以上72.7(%)0.7以上12.10.7未満15.2視力改善度2段階以上改善92.4(%)±1段階7.62段階以上低下0表2MD値が3dB以上悪化した症例症例154歳,男性.POAG,術前眼圧16mmHg術直後から1週間の間,眼圧上昇(28~30mmHg)→内服・点眼で2週目に14mmHgに下降し維持MD値は-8.90dB→-13.49dB(7カ月目)-13.79dB(2年6カ月目)症例265歳,女性.POAG,術前眼圧16mmHg超音波による角膜創のburnが生じ,角膜創を1針縫合術翌日,角膜創からの房水漏出を認めたため角膜再縫合翌日から20台後半の眼圧が継続.1カ月目以降は14mmHgと安定MD値は-13.50dB→-18.93dB(術後1年目),-17.81dB(2年目)POAG:原発開放隅角緑内障.表3IOL挿入と眼圧術後眼圧上昇例(>21mmHg)術翌日10眼POAG7眼,PACG2眼,OH1眼術後1週間11眼POAG8眼,PACG1眼,OH2眼緑内障手術が必要になった症例数3眼POAG3眼(すべてtrabeculectomy)POAG:原発開放隅角緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障,OH:高眼圧症.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???水は流出しにくい状況に陥り,眼圧が上昇すると考えられる.ちなみに,当院ではPOAG眼に対して白内障手術を行う場合,内服禁忌の症例を除いては,術後帰室時に炭酸脱水酵素阻害薬の内服をルーチンに行っている.一方,数カ月単位での眼圧変動をみた場合は図1のとおり,多くの症例で術前と同程度の眼圧レベルを維持しているかむしろ下降がみられた.3年間の平均眼圧の推移としては,14.9mmHg(術前)から13.4mmHg(3年目)と1.5mmHg程度の下降がみられた.病型別にみると(表4),眼数の関係から1年目の眼圧を検討した場合,POAGではほとんど差はないが,PACGは約3mmHg,NTGでは約1.5mmHg下降していた.緑内障眼で水晶体除去を行うと1.5~2.5mmHg程度の眼圧下降が得られるとの報告1,2)があり,この眼圧下降効果は少なくとも2,3年は継続するとの報告3,4)もあるが,今後3年,5年といったより長期的な検討は必要である.なお,ほとんどの症例は一過性の眼圧上昇であったが,なかには薬剤の追加などでも眼圧が下降せず,緑内障手術が必要になった症例も3眼存在した.いずれもPOAG眼であった(表3).したがって,過度の眼圧下降を期待して緑内障眼に対する白内障手術を行うことは,慎重に判断すべきであると考える.d.IOLパワー設定における注意点緑内障眼のIOL挿入術における注意すべき事項としては,眼軸長の問題がある.一般にPACGでは短眼軸の症例が多く,術後予測屈折値に誤差が生じやすい.今回の症例においても,術後屈折異常はPOAG眼で平均-0.36Dであったのに対し,PACG眼では平均0.13Dとプラス側にずれ,PACG眼はPOAG眼より約0.5Dプラス寄りになることがわかった(図2).ちなみに,今回使用したIOL換算式はSRK/T式であるので,予測前房深度の影響が大きいと考えられる.病型あるいは眼軸長による換算式は,各施設で十分検討しておいたほうがよい.以上の結果から考えると,緑内障眼の白内障手術に関しては,少なくともIOLを挿入することによる著しい不利は生じないと考えられるが,その手術に際しては,緑内障の病型ごとに適応や対応策をたてておくべきと考えられる.①POAG眼に対しては,術後早期の眼圧上昇に対する対策をたてておくだけでなく,眼圧上昇の持続によって著しい視野障害,特に中心視野の喪失が危惧される場合には,同時手術も視野に入れて手術計画を立てたほうがよい.②PACGは水晶体の除去によって隅角が開大し,房水流出量が増加することによって眼圧下降が期待できる可能性がある.ただし,IOLパワーの計算(17)表4術前と1年目眼圧の病型別比較術前術後1年目p値(paired-?test)全体(49)15.313.80.0003POAG(19)14.814.50.6861PACG(13)15.512.40.0003NTG(9)15.113.60.0081OH(5)16.814.6─落屑(3)15.014.0─():眼数,単位:mmHg,─:検定せず.図1IOL挿入と眼圧記載はnが5以上の観察期のみとした.Pre1W1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間n=53:全例:POAG:NTG:PACG眼圧(mmHg)211917151311975-0.36±0.630.13±0.72*POAG群n=20PACG群n=17PACG群の53%がプラス側にずれ(D)0.50-0.5IOL計算式:SRK/T平均眼軸長(mm)POAG:24.77±2.15PACG:22.09±0.64図2術後屈折異常値の病型による違い*p<0.05(Mann-WhitneyU検定).———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006には注意が必要である.③NTGは術直後の眼圧上昇の頻度は低く,むしろ平均値は下降することもあるが,もし術中合併症や粘弾性物質の残留による眼圧上昇が生じると,著しい視野障害が生じる可能性があることを念頭に置いておく必要がある.④なお,将来的に緑内障手術の必要性が生じる場合を考えて,極力結膜を温存する術式での白内障手術を心がけることはいうまでもない.検討2:TrabeculectomyにおけるIOL挿入つぎに,trabeculectomyに対するIOL挿入術の功罪を検討した.対象は,PEA+IOL+trabeculectomy施行例(以下,同時手術群)とtrabeculectomy単独手術施行例(以下,単独手術群)である.それぞれの患者背景は以下のとおりである.単独手術群は33例38眼(男性22例,女性12例),平均年齢は61.2±9.6歳(31~76歳)であり,同時手術群は28例34眼(男性12例,女性16例),平均年齢は70.0±8.7歳(46~82歳)であった.年齢に関しては,やはり同時手術群のほうが有意に高かった(p=0.00008,Mann-WhitneyU検定).両群において,視力,眼圧,合併症に関しての比較を行った.視力まず,術後視力の内訳は表5のとおりである.術後3カ月目での比較である.同時手術群のほうが若干低いように思われるが,両群間に有意差はなかった(c2検定).しかし,視力改善度をみると,単独手術群では約9割の症例で視力の変化がほとんどなかったのに対し,同時手術群では4割の症例で改善がみられ,両群間に有意差を認め(p<0.01,Fisher直接確率法),視力改善の面からみれば,同時手術のほうが有利であることがわかる.しかし半数の症例は不変であり,さらに約1割の症例で悪化しているので,術前の視野障害の程度や部位によっては過度の期待が禁物であることがわかる.悪化した症例の状況をさらに詳しくみてみると,単独手術例の視力回復不良例2例3眼のうち1例(2眼)は,先にPEA+IOLが施行されており,白内障術直後に40mmHg前後の眼圧上昇がみられ,trabeculectomy直後には両眼とも矯正視力が0.8から0.4に低下した.しかしその後,6カ月目には両眼とも1.0に回復した(表5は,術後3カ月での判定である).もう1眼は,31歳のPOAGの症例で,残念ながら中心視野が消失したと考えられる症例である.術前視力は0.7,等価球面値で-11.25Dの強度近視を認めた.眼圧は点眼薬を3種類使用して20mmHg,Humphrey自動視野計におけるMD値が-26.52dBと高度の視野障害をすでに認めていた.若年者で強度近視眼は,低眼圧黄斑症の発症頻度が高いことが知られている5)が,本症例も術後1週目から眼圧が2mmHgと低下し,その後半年間5mmHg以下が持続し,自己血注入などの処置で眼圧が10mmHgを超えても矯正視力は0.1まで改善していない.一方,同時手術群の視力低下例は,NTG,PACG各1眼であった.NTGの症例は,術前から特に固視点付近の視野障害が高度で,術前矯正視力は0.6であったが,術後0.4に低下した.術前のMD値は-10.18dBで術後1年目のMD値も-10.08dBとほとんど変化なかったが,これまで視力は改善していない.PACGの症例は,術直後に前房出血が生じ,20mmHgを超える眼圧上昇が10日間ほど持続した症例である.術前視力は0.9であったが,中心視野障害が高度で,術後視力は0.4のまま改善していない.これら2例の視力低下の原因を検討してみると,IOL挿入が原因であると積極的に疑わせる所見はみあたらない.むしろ,悪化した症例の割合は単独手術群と同程度であるので,白内障手術やIOL挿入による悪化というよりも,やはり緑内障手術自体の侵襲によるものと考えてもよいのではないだろうか.なお,単独手術例では,術後3年の観察期間中に白内障進行によりPEA+IOLを施行した症例は1眼のみで,(18)表5Trabeculectomy後の視力(術後3カ月目)術後視力の内訳≧1.0≧0.70.7>単独手術群(n=38)60.521.118.4同時手術群(n=34)45.421.233.3有意差なし(c2検定)視力改善度改善±1段階悪化単独手術群(n=38)2.689.57.9同時手術群(n=34)39.454.56.1p<0.01(Fisher直接確率法)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???これは,当院では比較的積極的に白内障手術の併施を行っているため,と考えられる.つぎに,眼圧の経過を比較すると,図3のとおり,3年目を除いて両群間に有意差はみられなかった.合併症に関しては表6のとおりで,単独手術群のほうがいわゆる浅前房や脈絡膜?離が多く,同時手術群では一過性の眼圧上昇を生じた症例が多い傾向にあると思われる.これは前者では水晶体を残存したために前房が浅くなりやすく,後者はやはり手術手技が煩雑になったために侵襲が大きくなり,術後炎症が持続したためと推測している.なお,再手術に関しては,needlingも再手術と考えた場合は両群とも7眼ずつであったが,needlingをlasersuturelysisと同様に考え,いわゆるtrabeculecto-myの再施行やbleb再建術のような結膜切開を伴うものを再手術とした場合は,単独手術群2眼,同時手術群3眼であった.いずれの解釈においても両群間に差はないと考えられる.以上の結果からtrabeculectomyにおいて,IOLの挿入が手術成績に不利に働くとは考えにくいと思われた.検討3:IOLを挿入しないときの見え方は?最後に,白内障手術のみでIOL挿入を行わなかった場合を考えてみた.眼圧経過や合併症に関しては検討するデータがないので何ともいえないが,見え方に関しては大きなハンデを生じることが容易に推測される.10年以上前は今よりも人工的無水晶体眼の患者が多かったが,視野障害を有しない眼であっても,10Dを超える分厚いレンズによる眼鏡を装用した場合,周辺視野のゆがみが生じ,特に階段の昇降などで不自由を訴えられることが多かったものである.ましてやわずかな中心視野と周辺視野が残存するような症例においては(図4),中心視野を生かすために眼鏡矯正をした場合,周辺のゆがみはさらに強調される可能性が高い.これは,高度の視野障害を有する患者ほど顕著であると考えられ,コントロール不良のぶどう膜炎など,IOLを挿入することで明らかなマイナスが予測される症例を除いて,むしろIOLは挿入したほうが緑内障患者のqualityofvisionにはよいのではないかと筆者は考えている.おわりに今回の検討から,IOLを挿入することによるデメリットは少ないが,挿入しないことによるデメリットは大きいと思われる.したがって,緑内障眼へのIOL挿入は総じて適切であると考えられる.しかし,手技的に簡単になったからといって,安易に同時手術を行うことは慎(19)Pre1W(38)(38)(36)(30)(27)(19)(16)(12)[9][7][14][19][29][32][34][34]*1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間眼圧(mmHg)302520151050:単独手術群(n=38):同時手術群(n=34)図3眼圧コントロールの比較─単独手術群vs同時手術群─()内:単独手術群の眼数,[]内:同時手術群の眼数.*p<0.05(Mann-WhitneyU検定).図4高度の視野障害を有する無水晶体眼の眼鏡矯正(イメージ)表6合併症の比較合併症単独手術群(38)同時手術群(34)術中合併症00術後合併症浅前房30脈絡膜?離30眼圧上昇36前房出血22———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006むべきである.しっかりと計画性をもって,同時に行った場合のほうが二期的に行った場合よりも利点が多いと判断したときのみ行うべきと考える.文献1)松村美代,溝口尚則,黒田真一郎ほか:原発開放隅角緑内障における超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術の眼圧経過への影響.日眼会誌100:885-889,19962)MathaloneN,HyamsM,NeimanSetal:Long-termintraocularpressurecontrolafterclearcornealphacoemul-(20)si?cationinglaucomapatients.???????????????????????31:479-483,20053)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Effectofcataractsurgeryonintraocularpressurecontrolinglaucomapatients.???????????????????????27:1779-1786,20014)PohjalainenT,VestiE,UusitaloRJetal:Phacoemulsi?ca-tionandintraocularlensimplantationineyeswithopen-angleglaucoma.?????????????????????79:313-316,20015)FanninLA,SchiffmanJC,BudenzDL:Riskfactorsforhypotonymaculopathy.?????????????110:1185-1191,2003

角膜内皮障害例の白内障手術適応

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSⅠ)術前の角膜内皮機能評価は十分か?Ⅱ)自己の手術侵襲についての評価はできているか?Ⅲ)角膜内皮減少例は手術をしてはいけないのか?Ⅳ)はじめから角膜移植を併用すべきか?の4点に的を絞り,慎重ながらも“適切な手術適応”の検討を考えてみた.I術前の角膜内皮機能評価は十分か?1.角膜内皮細胞スペキュラーマイクロスコープ所見角膜内皮スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞の形態的評価が一般的に行われており,角膜細胞密度(cells/mm2),大小不同を示す変動係数(CV値:coe?cientofvariation),六角形細胞出現率(hexagonal-ity)などがパラメータとして使用される.なかでも角膜細胞密度は角膜の透明性の維持が可能か否かの最も重要かつ客観的なパラメータであり,加齢性の細胞減少に加えての角膜内皮をターゲットとした疾患,外傷,手術などのストレスにより細胞密度が400cells/mm2以下になると水疱性角膜症の転帰となる.いわば角膜が不可逆性変化をきたすまでの余剰能力を示す指標と考えられる.その一方,CV値や六角形細胞出現率などのパラメータは,実際に異常な細胞脱落が加齢性の減少を超えて急激に進行する際に連動して変化してくるため,ストレスへの不安定性と相関する指標として考えられている.はじめにこの10数年間におけるわが国の白内障手術+眼内レンズ挿入術の症例数は飛躍的に増加した.1990年代前半には年間手術件数が約20万件程度であったものが,2000年以降は年間80万~90万件の手術が施行されるようになってきた.近年の手術機器の発展,安全で効果的な手技の進化,多様な粘弾性物質の使用などにより,手術侵襲の大幅な軽減が得られたことはすべての白内障術者が体感していることであろうし,手術症例数の増加はそういった技術や機器の発展に対する信頼を表しているのかもしれない.一方,白内障手術後の水疱性角膜症がわれわれの最も避けなければいけない合併症の一つであることは20年前も今も変わらない.したがって“角膜内皮異常”を有する患者への白内障手術について慎重な対応が必要なことは誰しも異論のないところであろう.しかしその非可逆的な角膜内皮障害が術前の角膜内皮機能の脆弱性と,手術侵襲とのバランスがある閾値を超えれば発症するという明白な図式のうえに成り立っている定理であるならば,安全で確実な白内障手術および眼内レンズ挿入が可能になった現在,その図式がある程度客観的データとして示されリスクを回避できる可能性があれば,角膜内皮異常例への白内障手術適応について再考できる時期にきているのではないだろうか.今回,角膜内皮異常患者における白内障手術を行う際の一つの方向性として,(9)???*KazuhisaMiyamoto:住友別子病院眼科〔別刷請求先〕宮本和久:〒792-8543新居浜市王子町3-1住友別子病院眼科特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):147~152,2006角膜内皮障害例の白内障手術適応?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????宮本和久*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,20062.角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ所見からみた術前角膜機能評価(図1)CV値,六角形細胞出現率に異常はないが,内皮細胞数だけが減少している症例の角膜はどのような環境が考えられるのだろうか?こういった症例では,過去になんらかの理由があって角膜内皮細胞が大幅に脱落した経過の後に,現状の脱落速度が加齢範囲内にあることを示すものと考えられており,角膜移植後長期経過例や,過去の鈍的外傷後,陳旧性のぶどう膜炎後などがその具体例としてあげられる.つぎに,内皮細胞数は正常だが,CV値,六角形細胞出現率が異常値を示しているものは,現在まだ内皮細胞機能に余剰能力はあるものの,加齢を超える異常脱落を起こす可能性のある群と想定されており(図2),初期のFuchs角膜内皮変性,レーザー虹彩切開術後,一部の内眼手術後などがその実際例として該当する.そこで両指数が異常値の症例では余剰能力も少なく,ストレスにも弱い状態,すなわち何らかの最も危険な角膜障害の可能性をもつ最高レベルの警戒を要するグループと解釈することができる.このグループには表1に示すような病態が考えられ,(10)図2Fuchs角膜内皮変性の角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ所見細胞数はまだ正常範囲にあるが,darkareaとともに細胞の大小不同が認められる.角膜内皮細胞密度CV値六角形細胞出現率正常正常内皮細胞数減少脱落速度は加齢範囲内角膜移植後長期経過過去の鈍的外傷初期のFuchs角膜内皮変性過去の内眼手術,LI後内皮細胞数正常加齢を超える異常脱落最も危険な進行性角膜障害の可能性異常低下図1角膜内皮スペキュラーマイクロスコープからみた術前角膜機能評価角膜内皮細胞密度,CV値,六角形細胞出現率のパラメータからみた病態を考察することが重要である.図3Fuchs角膜内皮変性の細隙灯顕微鏡所見角膜中央に細胞のモザイク様配列,滴状病変(guttata)を認め,角膜実質の軽度浮腫を認める.表1水疱性角膜症をきたしうる病態例レーザー虹彩切開術(LI)後Fuchs角膜内皮変性分娩時を含む外傷後梅毒実質炎後虹彩角膜内皮(ICE)症候群ヘルペスウイルスなどのぶどう膜炎Sato?sope,他の内眼手術後角膜スペキュラーマイクロスコープ所見で異常を認めた場合には,細隙灯顕微鏡所見での滴状病変,実質浮腫,炎症所見,異常Descemet膜所見,虹彩所見の確認,詳細な既往の問診により,これらの疾患を鑑別することが肝要である.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ所見で異常を認めた場合には,今いちど細隙灯顕微鏡検査での滴状病変(図3),実質浮腫,炎症所見,異常Descemet膜所見,虹彩所見の確認,詳細な既往の問診などを行い,角膜の再評価をしておくべきである.3.白内障手術後の水疱性角膜症の原因はどういったものが考えられるのか?非常にまれにしかないとはいえ,水疱性角膜症は白内障術者にとって最も回避したい合併症であることは絶対の事実であり,苦渋した難症例の手術後などではその懸念はいつまでもなくならない.手術そのものは何の問題もなく処理できたのに数年後,偶然角膜内皮スペキュラーマイクロスコープを行って内皮細胞数のあまりの減少に愕然とした術者も少なくないと思われる.そこで2002年10月から2005年7月までの間に,愛媛大学,愛媛労災病院で白内障手術後水疱性角膜症と診断された症例のうち,前医からの情報,僚眼の状況などから,その原因が追跡可能であったと思われた39眼のプロフィールの検討結果を表2に示す.手術侵襲が主と考えられたものが13眼33.3%と最も多く,前房レンズ7.7%,無水晶体眼12.8%の割合となっている.ここで強調しておくべき点は,残りの症例が,狭隅角眼に対する予防的レーザー虹彩切開術後,Fuchs角膜内皮変性,外傷後,梅毒実質炎後,過去の近視眼に対する屈折矯正手術であるSatoの手術後例であったことで,実にこれら46.2%の症例では,白内障手術をするしないにかかわらず,それだけでも水疱性角膜症の原因となりうる病態を併発していたということになる.もちろん手術前に角膜内皮評価を十分に検討したうえで手術に踏み切った症例もあると思われるが,実際に水疱性角膜症との診断に至った多くの患者が,白内障手術前に個々の角膜内皮機能が脆弱であることの説明を知らされていないことも事実であり,術後水疱性角膜症発症の要因の一つは角膜内皮機能不全の見落としあるいは過小評価なのかもしれない.II自己の手術侵襲は評価できているか?1.論文からみた白内障手術+眼内レンズ挿入術での角膜内皮細胞減少率白内障手術の進化とともに,角膜内皮細胞減少率に関する報告の内容も大きく変わってきている.各年代別に5~10本の白内障手術の角膜内皮細胞への影響を調べた論文をランダムに検索し,そこに示されていた角膜内皮細胞減少率を表3に示す.1980年ころには角膜内皮細胞減少率が30%を超えるといった論文も散見されるが,1990年以降は年を追うごとに白内障手術の角膜内皮へのリスクは確実に減ってきており,白内障手術の角膜内皮に対する安全性は本当に高まってきていることがわかる.2.自験例からみた白内障手術+眼内レンズ挿入術での角膜内皮細胞減少例の検討角膜内皮細胞減少に影響を与える重要な因子としては,核のグレード,瞳孔径,超音波発振時間,年齢,浅前房,破?などが文献的に広く知られるところである.今回,愛媛労災病院での白内障手術連続症例381眼の手術後1年での角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ所見で25%以上の内皮細胞減少があった16眼に着目(11)表2白内障手術後の水疱性角膜症の原因手術侵襲が主?13眼(33.3%)前房レンズ3眼(7.7%)無水晶体眼5眼(12.8%)レーザー虹彩切開術後8眼(20.6%)Fuchs角膜内皮変性5眼(12.8%)外傷後2眼(5.1%)梅毒2眼(5.1%)Sato?sope後1眼(2.6%)愛媛大学,愛媛労災病院で水疱性角膜症と診断された39例のプロフィール.46.2%の症例で角膜内皮機能不全をきたしうる病態を白内障手術前に併発していた可能性がある.表3文献からみた白内障手術後の角膜内皮細胞減少率1978~1982年ECCE+IOL18.0~35.0%PEA+IOL15.3~62.6%1992~1996年6.7~17.6%1997~2000年5.0~12.5%2001~2004年1.5~10.0%1990年以降角膜内皮細胞減少率は低下し,白内障手術の角膜内皮への安全性が高まっていることが確認できる.ECCE:白内障?外摘出術.IOL:眼内レンズ,PEA:水晶体乳化吸引術.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006(全症例での平均内皮細胞減少率は6.9%)した.図1に示した角膜内皮機能評価に従ってその傾向を検討してみた.ここでの異常値の策定にあたっては各患者の年齢から予想される角膜内皮細胞密度,六角形細胞出現率,CV値平均値を算出し,その値から標準偏差の±2SD以上ずれている症例を異常例として分類した.図4に示すように角膜内皮細胞のパラメータは角膜内皮細胞減少と密接に関係しており,とりわけ六角形細胞出現率とCV値に異常値をもつ症例では手術により侵襲を受けやすいという結果であった.そこでこれらのパラメータに異常を生じやすい疾患のなかで,通常の細隙灯顕微鏡所見から診断のつきやすいFuchs角膜内皮変性,レーザー虹彩切開術後の白内障症例の内皮細胞減少率平均を算出してみた(表4).症例数が少ないことと,あくまでも自験例の結果であることを前置きしておくが,両疾患群ともEmery分類のGradeⅣ,Ⅴに相当する水晶体核硬度の症例と同じ,あるいはそれ以上に角膜内皮細胞減少率が高く,バリアンスも非常に大きいことにはぜひ注目すべき点かと思われる.このことからもCV値や六角形細胞出現率が異常な症例では,自分の技量も考慮しながら慎重な症例選択をしたほうがよいという方向性を示唆するものであると考える.III角膜内皮減少例は手術をしてはいけないのか?ときに全層角膜移植眼において二次的に白内障手術が必要なことを経験する.移植眼での角膜内皮細胞密度はさまざまであり1,000/mm2以下しか残っていない場合も少なからず存在する.しかし角膜がすでに実質浮腫などの機能不全に陥っていなければ,ほとんどの症例で長期間にわたって白内障手術後の角膜の透明性維持は可能である.このような角膜移植術後と同じ状態,つまり内皮細胞数のみが減少していて他のパラメータは正常な症例では,先の検討からは手術侵襲の危険率が低いとの結果であったが,愛媛労災病院で術前から高度の角膜内皮細胞が減少していた症例の白内障手術結果を表5に示す.症例は11例で,術前平均内皮細胞数は880/mm2であった.全例で手術前後の自覚は良好に改善しており,今後とも慎重な経過観察が必要であるが,術後1年7カ月から3年6カ月の経過観察期間を経ても全例現在まで角膜は透明性を維持しており,致命的となるような内皮(12)表4Fuchs角膜内皮変性,レーザー虹彩切開術後の白内障症例の内皮細胞減少率レーザー虹彩切開術後(12眼)19.15±15.47%Fuchs角膜内皮変性(6眼)25.89±17.52%GradeIV,V(28眼)17.21±17.12%低リスク例(339眼)5.10±4.98%両疾患群とも有意に角膜内皮細胞減少率が高く,白内障手術後の内皮細胞減少には十分に留意しないといけない.表5角膜内皮障害例における白内障手術結果年齢内皮細胞密度視力術後期間症例(歳)術前術後術前術後1761,0741,0240.151.03年6カ月2889909250.020.63年3627625040.11.22年8カ月4731,0301,0300.30.92年7カ月5801,0228800.10.42年4カ月6625765230.31.22年1カ月7826245100.20.72年8881,0081,0000.10.92年9628206200.21.21年9カ月1079967920m.m.0.091年8カ月11757205500.080.81年7カ月患者のrisk-bene?tバランスを考慮し,十分なインフォームド・コンセントを得ていることが大前提であるが,safetyな手術を心がければ良好な術後経過が得られる可能性がある.もちろん術後の慎重な経過観察や対応にも責任をもつべきであるが….角膜内皮細胞密度CV値六角形細胞出現率正常1.7%(6眼/357眼)10.0%(1眼/10眼)44.4%(4眼/9眼)60.0%(3眼/5眼)異常低下図4自験例における白内障手術後の角膜内皮細胞減少例と角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ所見角膜内皮細胞のパラメータは角膜内皮細胞減少と密接に関係しており,とりわけ六角形細胞出現率とCV値に異常値をもつ症例では手術により侵襲を受けやすいことがわかる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???細胞減少には至っていない.将来的にはさらなる角膜内皮細胞機能低下から水疱性角膜症になる可能性はないわけではないが,術前さらには術後経過のなかでそのリスクについては全員に理解いただいており,患者のrisk-bene?tバランスを考慮したうえで,十分なインフォームド・コンセントが得られているというのが大前提ではあるが,safetyな手術を心がければ手術を完遂し,患者にある程度の満足感をもった結果を与えることができるといえるのではないだろうか.IVはじめから角膜移植を併用すべきか?現状までのまとめとして,①角膜内皮機能を正しく診断・評価すること,②自己の手術侵襲を客観的に評価し,角膜内皮の余剰能力と損失予想から,術後の角膜が透明性を維持できるかどうかを数値として評価できるかということかと思われる.そうすればハイリスク眼において,患者に角膜内皮機能の潜在的な脆弱性を十分なインフォームド・コンセントをもった説明も可能で,万が一不幸にも水疱性角膜症の転帰となった場合においても患者の理解も得られやすいし,もしベストな治療を行ったとしても術後短期間で水疱性角膜症になってしまう可能性があるのなら,はじめから患者に白内障手術と角膜移植の同時手術を行うという選択肢を与えることができる.すなわち“機能の悪い角膜をいっそう悪くしてしまう前に同時に治療してしまう”という治療上の戦略を考慮することができる.角膜移植を同時に行ううえでのメリットとしては,水疱性角膜症の状態になって長期間不自由な生活をしないでよい,治療までの時差がないということ,あるいは患者の“いつ見えなくなってしまうのだろう”という心的ストレスの解消などがあげられ,さらに術者の側にとっても難易度の高い白内障単独手術での合併症を回避できるメリットもあるかと思われる.しかし一方,欠点としても多くの術者が,移植片の調達やコストの面が解決できるのか,実際の手術手技はむずかしくないのか,高度の角膜不整乱視が出現し十分な視力が得られないのではないか,などといった疑問や拒絶反応,感染や創口離開などの併発症管理の煩雑さに不安を有しているなどの面でハードルを感じている手術であることも事実であろう.しかし近年の角膜移植術後経過においては,確かに拒絶反応はある一定の割合で発症するものの,シクロスポリンなどの免疫抑制薬の併用などによりその後遺症は少ないものとなってきており,角膜形状解析結果をもとにした選択的な抜糸や連続縫合糸のrotationなどにより,乱視のコントロールもある程度可能になってきている.図5に,愛媛労災病院および愛媛大学眼科で定期観察している全層角膜移植術後症例の角膜形状解析データからみた角膜不整乱視度についてTMS-3を用いて調べた結果を示す.X軸のSRIとはsurfaceregularityindexの略で,角膜中心部の屈折力の局部的な変動値を表し,不整乱視度数を数値化することで裸眼視力,矯正視力などの潜在的最大視力が規定される.Y軸のSAIとはsurfaceasymmetryindexの略で,角膜表面上180?対称な部位の屈折差平均として対称性の指標であり,この値が高いと通常の眼鏡での十分な矯正ができないことを示唆するので,両者の組み合わせにより生活視力のおおよそが予想できることになる.筆者らの結果はSRI平均値が1.67,SAI平均値が1.61となっており,計算上は約50%の症例で0.4~0.5程度の術後視力が見込め,7割の症例でSRI,SAIがそれぞれ2.5以下の範囲内にあるため,少なくとも0.2~0.3くらいの矯正視力が望めるであろうということになる.もちろん本人の角膜を温存した白内障手術を心がける(13)012SRI34(n=46)平均SRI:1.67平均SAI:1.610.4~0.5程度が見込める可能性SAI43210図5全層角膜移植手術後の角膜形状解析結果愛媛大学,愛媛労災病院で施行された全層角膜移植手術施行患者の角膜形状と不整乱視度.近年の角膜移植後視力は乱視のコントロールもある程度可能になってきており,SRI,SAI平均からは角膜移植術後であっても,平均0.4~0.5程度の生活視力が獲得できることが予想できる.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006ことが何よりも必要なことではあるが,ハイリスクの角膜内皮障害例においては,白内障手術によって患者の視力改善に必須であり,十分なインフォームド・コンセントが得られるのならば,角膜移植手術と白内障手術の併施プランを提示するというスタンスも考えられるのではないだろうか.文献1)WerblinTP:Long-termendothelialcelllossfollowingphacoemulsi?cation:modelforevaluatingendothelialdamageafterintraocularsurgery.????????????????????(14)9:29-35,19922)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Riskfactorsforcornealendothelialinjuryduringphacoemulsi?cation.???????????????????????22:1079-1084,19963)BourneRA,DarwinC,JohnKGetal:Effectofcataractsurgeryonthecornealendothelium.?????????????111:679-685,20044)Al-YousufN,MavrikakisI,MavrikakisEetal:Penetrat-ingkeratoplasty:indicationsovera10yearperiod.???????????????88:998-1001,20045)SeitzmanGD,GottschJD,StarkWJ:CataractsurgeryinpatientswithFuchs?cornealdystrophy:expandingrec-ommendationsforcataractsurgerywithoutsimultaneouskeratoplasty.?????????????112:441-446,2005

小児・先天異常

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS切な手術時期を逃さず,術後の屈折矯正,健眼遮閉(片眼)を行えば,一定以上の視力が得られる2).この状況において,IOLを挿入するメリットは何であろうか?(表1).IOLの最大の特徴は,恒久的な屈折矯正を得られることである.CL矯正では,術後にCLの洗浄交換ばかりでなく,外れたときの装用,紛失などによるCL購入の経済的負担などさまざまな問題が存在する.特に,CLが装用されていない状態では,無水晶体眼であり,対眼との屈折差が著しく,視機能発達に影響を及ぼすことが懸念される.眼鏡装用もびっくり箱現象など決して良好な視機能とはいえない.IOLは,後述する度数不足などの問題もありこれらを完全に解決できないまでも,少なくとも恒久的に屈折矯正をしてくれる.恒久的な屈折矯正が重要な意味をもってくるのは,片眼性でしかも生直後より白内障の認められる狭義の先天白内障例である.生後6週以降に左右差のある視機能障害に結びつくような白内障が存在すると混濁眼は,その程度にもよるが視性刺激遮断弱視に陥ってしまう.したがって早期の6週以内の手術が推奨されるわけであるが,術後に屈折矯正がされなければ,極端な不同視になはじめに近年の白内障手術の進歩はめざましく,従来は侵襲が強く禁忌,または慎重に適応を検討するとされていた疾患についても眼内レンズ(IOL)が挿入されるケースが増えてきている.その一つが小児白内障である.これには,小児眼科の分野として従来は,小児眼科専門医に治療をゆだねていた眼科医も,白内障手術が安全に行われるようになってから,小児にまで手術適応を広げていった経緯もある.今回はこのような実体を踏まえ,小児白内障や先天異常を伴った場合のIOLの適応についての問題点を文献的にレビューするとともに米国などの現状をあわせて報告し,現時点でのIOLの適応について考えてみたい.なお今回は,白内障手術の適応であるかどうかという点ではなく,手術適応の症例にIOLが適応となるかどうか,禁忌となる場合があるのかという点に絞って論じたい.現在InfantAphakiaTreatmentStudyが米国で行われており,この結果が出ればさらにはっきりとした指針が下せるものと思う.I小児白内障の治療においてIOL挿入はどのような効果が期待されるのか小児白内障では,水晶体除去と前部硝子体切除を行うことにより視軸の透明性が確保される1).術後片眼性の場合には,コンタクトレンズ(CL)を装用させ,両眼性の場合にはCLに加え眼鏡での屈折矯正も行われる.適(3)???*DaijiroKurosaka:岩手医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕黒坂大次郎:〒020-8505盛岡市内丸19-1岩手医科大学眼科学講座特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):141~146,2006小児・先天異常?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????黒坂大次郎*表1IOLとCL(眼鏡)での矯正効果の違い?IOLは恒久的に矯正ができる?CL管理が大変である(CLは,外れやすい,角膜障害が起こる)?CLはコストが高い?CLは度数変化に対応ができる?IOLを選択しても,CLの追加矯正が必要な場合がある———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006ってしまい視力予後は不良となる.もちろん,一般に片眼性白内障の視力予後がよくない理由は,手術時期や小眼球などの合併症を伴いやすい点にあるが,CL管理が上手くいかず,CLをしていない時間が生まれてしまうこともその原因と考えられてきた.それゆえ眼鏡装用が選択できない片眼性白内障こそがIOLの最もよい適応とされる意見もある.では,CLで管理された場合とIOLで矯正を行った場合に,視力予後に差が出るのであろうか?Lambertらは,生後6カ月以内に手術をした先天白内障例のCLまたはIOLで屈折矯正を行った場合の視力予後について報告している.当初の報告3)では,IOLで矯正した群のほうが視力予後が良好であったと報告したが,その後,視力測定が可能になった時点では差が認められなかったとしている(表2)4).Autrataら5)は,生後1歳以下で手術をした症例でCLとIOLでの視力予後を検討しているが,両者に差はなかったと報告している.しかし,健眼との視力の左右差では,有意にIOL群のほうが差が少なかったとも報告している.大規模スタディの結果を待たないと,IOL群とCL群に差があるのかどうかの結論は出せないが,大きな差はないようである.しかしながら,CLにかかわる,両親患児の経済的,時間的,肉体的,精神的負担を考えると,可能であればIOL選択の意味は大きいと思われる.II小児白内障は成人とは何が異なるのか?小児の白内障治療でのIOLの適応を考えるにあたり,成人白内障とは何が異なるのかを最初に考えたい.これには,第1に眼球(水晶体)が小さいこと,第2に成長に伴い眼球の大きさが変化すること(組織の伸展性が高く変化しやすいという点にも通じる),第3に炎症反応が強いこと,第4に視機能発達時期である(透明性の確保と維持,矯正の維持が必要)という点があげられる.後述するように,眼球の小ささは,水晶体の小ささにつながりIOLの大きさと相互関係の問題がでる.眼球の大きさの変化は,術後の屈折変化につながる.炎症の強さは,術後炎症がまず考えられるが,これは手術技術の向上,非ステロイド消炎薬の登場などによりコントロールが可能な場合が多くなっている.ただ,ひどいと後発白内障などへとつながる.視機能発達時期であり,白内障の治療の本来の最大の目的が視軸の透明性を確保することであることを考えると,後発白内障はできるだけ避けなければならない.以下おもな問題点につき考えてみたい.1.眼球の大きさとその変化眼球の大きさは,つぎの2点で問題となる.一つは,術後の屈折変化である.眼球が成長前の小さな状態で,屈折をあわせても,成長に伴って眼球が大きくなると屈折が大きく変わってしまう.もう一つは,眼球自体が小さいと水晶体も小さいので,物理的に小さな水晶体?内にIOLを挿入できるのかという問題につながる.さらに眼軸が短いとその眼を矯正するIOL度数は,高いパワーになりIOLの厚みも厚くなる.成長期の組織は,弾性に富んでおり水晶体前?・後?も成人に比し弾性が高いため手技も困難になる.切開創の安定性も弱く,縫合が基本となる.乳幼児期から成人にかけての眼軸長の変化については,わが国のデータとして安部ら6)の報告したデータがある(図1).これによると生後まもなくは18mm程度の眼球が1歳半まで急速に伸び,その後も徐々に3,4歳程度まで伸びていくことがわかる.白内障術後も眼軸長が伸びていくとすれば,生後2歳程度までは矯正度数が大きく変わることになる.白内障術後の無水晶体眼の眼軸長の変化については,症例ごとのばらつきが大きいことなどが報告されている.IOL挿入眼での変化7)をみると,手術年齢が1歳以下の場合には,術後2年間は大きく眼軸長が変化していることがわかる.一方,1~3歳,3~10歳に手術を行った場合には,その変化は小さいことがわかる.変化は小さくとも屈折の変化にはつながるが,特に1歳以下で手術を行った場合にその影響が(4)表2生後6カ月以内に手術した片眼例の視力予後視力CL(n=11)IOL(n=8)0.5以上2(18%)2(25%)0.05~0.46(55%)4(50%)0.05未満3(27%)2(25%)p値0.99(文献4より許可を得て転載)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???強い(図2).この変化を見越してあらかじめIOLの度数を抑えるべきなのかどうかといった問題はあるものの,術後の屈折については,CLや眼鏡による矯正も可能であり,度数変化が大きいことがIOLの適応の禁忌とはならないと考える.眼球が小さいと水晶体も小さいことが報告されている.Bluesteinら8)は,小児の摘出ヒト眼から年齢と水晶体径の関係を報告している(図3).これによると,前述の眼軸長の変化と同様に生後2歳までの変化が大きいことがわかる.生直後には水晶体直径は6mmが3カ月目には7.1mmに,6~9カ月目には7.7mmまで大きくなる.水晶体皮質・核を除去後の水晶体?の直径は,水晶体直径よりも約1mm大きいと報告されている.この小さな水晶体?内にそもそもIOLを挿入できるのかという問題が生じる.Pandeyら9)は,小児の摘出ヒト眼を用いて白内障術後の水晶体?内に実際にIOLを挿入し三宅Appleviewを用いて水晶体?の状態の観察を行った(図4).それに(5)図1眼軸長成長曲線(文献6より許可を得て転載)23456781年齢(歳)眼軸長(mm)24.524.023.523.022.522.021.521.020.520.019.519.018.518.017.517.0:男子:女子1歳以下1~3歳まで3~10歳まで手術時年齢(歳)11.313.61.770.880.581.91.030.830.180.280.380.980.860.70.35変化率(%)1614121086420:1年後まで:2年後まで:3年後まで:4年後まで:5年後まで図2IOL挿入後の眼軸長の変化(文献7より許可を得て転載)024681012141618年齢(歳)水晶体直径(mm)1098765図3年齢と水晶体直径との関係(文献8より許可を得て転載)図4各種眼内レンズと水晶体?の関係(文献9より許可を得て転載)4歳児:シングルピースアクリソフ?5カ月児:シングルピースアクリソフ?5カ月児:3ピースアクリソフ?———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006よると,最も水晶体?の変形が少なかったのは,全長5.5mmのアクリル素材のシングルピース(SA30AT)であった.そのほかのIOLでは,水晶体?が楕円形に変形してしまう.ただ,生後5カ月の小児の眼では,そのSA30ATでも楕円形に変形してしまう.前述のごとく生後5カ月時には水晶体?の大きさは8mm以上はあるものと思われるが,IOL挿入は可能であっても水晶体?には負担が強く,実際の挿入は手技的にもむずかしいと思われる.2.水晶体?の伸展性IOLの挿入部位としては,?内固定が望ましいが,確実性を高めるためには前?,後?のcontinuouscurvi-linearcapsulorrhexis(CCC)を完成させることが重要である.小児では,成人に比べ水晶体?の伸展性が高く,操作性が困難である.従来は,CCCの成功率は,成人に比べ低かったが,近年新しい粘弾性物質(visco-adaptive製剤)の登場により,操作性の改善が得られた.Jengら10)は,従来の高分子・低分子粘弾性物質(Healon?,Viscoat?)を使用した場合の前?のCCCの成功率は46.7%だが,viscoadaptive製剤(Healon?V)使用時には90%まで向上すると報告している.また,前?染色して視認性を向上させると,前後?のCCCとも成功率が向上する11).後?のCCCは,IOL挿入前に鑷子で行う従来の方法に加え,硝子体カッターで行う方法,IOL挿入後に毛様体部より硝子体カッターを挿入して前部硝子体切除とともに行う方法がある.以上より,現在は確実な?内固定は,1歳以下の乳幼児であっても手術方法を適切に選択すれば可能であると思われる.3.視軸の透明性の確保IOLを挿入しない場合には,水晶体前後?の切除,前部硝子体切除により透明性の確保と維持が可能である1).IOL挿入眼では,この状況はどうなるのであろうか?6歳以上の場合には,成人と同様に後?切除を行わなくても,後発白内障が生じた時点でYAGレーザーによる後?切開術により対応が可能とされている12,13).一方,それ以下の場合には,後?切除・前部硝子体切除を行いIOLを挿入することで対応が可能とされてきた.しかしながら,Plagerら14)は,1歳未満で手術を行ったもののなかで,後発白内障(前部硝子体混濁を含む)により再手術が必要となった症例は,前部硝子体切除を行ってもIOL挿入眼では,39%に達すると報告している.さらにこの症例を年齢6カ月以上と未満に分けると,全例6カ月未満であり,さらに6カ月未満でもIOLを挿入しない場合には,1割程度にしか再手術が必要でないことを報告している(図5).Lambertら4)も同様に6カ月未満でIOLを挿入した症例では7割に後発白内障による再手術が必要で,IOL非挿入のときに必要な症例はいなかったと報告している(表3).これらの報告より6カ月未満でIOLを挿入するとたとえ後?切除,前部硝子体切除を行っても再手術が必要になることがわかる.4.現状での適応1~3までの点を考慮に入れると,1歳以上であれば,水晶体径からもIOLの挿入は可能であり,視軸の透明性の維持も可能であると思われる.したがって,慎重な症例の選択が可能であり,手術手技が一定以上の水準にある術者にとっては適応としてもよいと考える.一方,1歳未満の場合には,技術的にIOLを挿入することは,(6)表3生後6カ月以内に手術したCL眼とIOL眼での再手術率手術CL(n=11)IOL(n=10)後発白内障0/08/7緑内障0/02/2IOL二次挿入・交換4/42/1計4/412/10(文献4より許可を得て転載)図5生後1年未満で手術を行った症例の再手術が必要な後発白内障の発症率〔全体で16/64(25%)〕PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術.(文献10より許可を得て転載)p<0.00010/16(0%)12/15(80%)<年齢6カ月16/48(33%)IOL+PPV12/31(39%)4/33(12%)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???不可能ではないが,水晶体?も小さくむずかしいと思われるし,さらに術後の視軸の混濁もかなりの確率で生じる.したがって,術者の技量に加え,術後のこまめな経過観察が可能であり,すぐに再手術などの治療が選択できる環境をもった場合に限られ,その適応は慎重に判断すべきであると思われる.III世界の現状世界における小児IOLの適応は,どうなっているのであろうか?AmericanAssociationforPediatricOph-thalmologyandStrabismus(AAPOS)会員に対して行われた2001年のアンケート調査の結果15)では,7カ月未満は4%にすぎないものの,2歳以下と答えた会員は37%になっている(表4).これらの結果からも,現状でのIOL適応は,上述のごとくすべての術者が小児に対してIOL挿入を適応としていいというものではなく,術者の技量,検査とそのデータの判断などへの経験,術後の慎重な経過観察が要求され,これらをかなえられる場合に適応とすべきと思われる.ただ,これらがかなえられれば,年齢だけの理由で禁忌とするべきではないと思われる.IV眼合併症を伴っている場合緑内障など他の眼合併症を伴っている場合には,総合的な判断が必要となる.第一次硝子体過形成遺残などの場合,前眼部型では,白内障手術が適応となることが多いが,小眼球を伴うことが多い.水晶体の大きさは,年齢にも相関するが,それ以上に眼軸長に相関し,小眼球では水晶体が小さい(図6)8).したがって,前述のごとく,白内障の手術適応となってもIOL挿入は困難な場合も多いと思われる.アメリカ白内障屈折矯正手術学会員(ASCRS)およびAAPOS会員へのアンケート調査の結果16)では,小眼球や前眼部形成異常を適応としていない会員が多い(表5).おわりに小児のIOLの適応に対しては,慎重に考えるべき点もあるが,そのメリットも大きなものがある.禁忌としてすべて否定するよりも,しかるべき技量をもった術者が,慎重に適応を判断し経過をみていくことが重要と思われる.文献1)PeymanGA,SandersDR,RoseMetal:Vitrophageinmanagementofcongenitalcataracts.?????????????????????????????????????????????202:305-308,19772)小沢洋子,黒坂大次郎,加藤克彦ほか:先天白内障の経角膜輪部水晶体・前部硝子体切除術による手術成績.眼紀(7)表4IOL適応としている最少年齢(AAPOS会員への2001年のアンケート調査)年齢(月)数%<7647~1212613~24622725~366629>367834計228100(文献15より許可を得て転載)表5先天異常眼に対するIOLの適応(ASCRS,AAPOS会員に対する小児IOLの適応アンケート)ASCRSAAPOS適応外(%)適応(%)適応外(%)適応(%)小眼球69.823.466.828.0前眼部形成異常67.126.165.725.9PHPV50.338.634.654.5緑内障32.657.948.344.4PHPV:第一次硝子体過形成遺残.(文献16より許可を得て転載)1617181920212223242526眼軸長(mm)水晶体直径(mm)109.598.587.576.565.55図6眼軸長と水晶体直径との関係(文献8より許可を得て転載)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,200646:677-682,19953)LambertSR,LynnM,Drews-BotschCetal:Acompari-sonofgratingvisualacuity,strabismus,andreoperationoutcomesamongchildrenwithaphakiaandpseudophakiaafterunilateralcataractsurgeryduringthe?rstsixmonthsoflife.???????5:70-75,20014)LambertSR,LynnM,Drews-BotschCetal:Optotypeacuityandre-operationrateafterunilateralcataractsur-geryduringthe?rst6monthsoflifewithorwithoutIOLimplantation.???????????????88:1387-1390,20045)AutrataR,RehurekJ,VodickovaK:Visualresultsafterprimaryintraocularlensimplantationorcontactlenscor-rectionforaphakiainthe?rstyearofage.????????????????219:72-79,20056)安部修助:日本人小児の眼軸長に関する研究.第2報小児の眼軸長の成長について.日眼会誌83:214-226,19797)VasavadaAR,RajSM,NihalaniB:Rateofaxialgrowthaftercongenitalcataractsurgery.???????????????138:915-924,20048)BluesteinEC,WilsonME,WangXHetal:Dimensionsofthepediatriccrystallinelens:implicationsforintraocularlensesinchildren.???????????????????????????????33:18-20,19969)PandeySK,WilsonME:Intraocularlenstypesandsizesforpediatriccataractsurgery.PediatricCataractSur-gery:Techniques,complications,andmanagement(edbyWilsonME,TrivediRH,PandeySK),p127-138,Lippin-cott・Williams&Wilkins,Philadelphia,200510)JengBH,HoytCS,McLeodSD:Completionrateofcon-tinuouscurvilinearcapsulorhexisinpediatriccataractsur-geryusingdifferentviscoelasticmaterials.???????????????????????30:85-88,200411)SainiJS,JainAK,SukhijaJetal:Anteriorandposteriorcapsulorhexisinpediatriccataractsurgerywithorwith-outtrypanbluedye:randomizedprospectiveclinicalstudy.???????????????????????29:1733-1737,200312)Mullner-EidenbockA,AmonM,MoserEetal:Morpho-logicalandfunctionalresultsofAcrySofintraocularlensimplantationinchildren:prospectiverandomizedstudyofage-relatedsurgicalmanagement.???????????????????????29:285-293,200313)JensenAA,BastiS,GreenwaldMJetal:Whenmaytheposteriorcapsulebepreservedinpediatricintraocularlenssurgery??????????????109:324-327,200214)PlagerDA,YangS,NeelyDetal:Complicationsinthe?rstyearfollowingcataractsurgerywithandwithoutIOLininfantsandolderchildren.???????6:9-14,200215)LambertSR,LynnM,Drews-BotschCetal:Intraocularlensimplantationduringinfancy:perceptionsofparentsandtheAmericanAssociationforPediatricOphthalmolo-gyandStrabismusmembers.???????7:400-405,200316)WilsonMEJr,BartholomewLR,TrivediRH:Pediatriccataractsurgeryandintraocularlensimplantation:prac-ticestylesandpreferencesofthe2001ASCRSandAAPOSmemberships.???????????????????????29:1811-1120,2003(8)

序説:眼内レンズの適応を再考証する

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page1(1)???眼内レンズ(IOL)の適応といって,何をいまさらと思う人もいるかもしれない.コンタクトレンズでもあるまいし,ましてや眼鏡など,特別な問題がなければIOLを何の疑問もなく選択している人が30代の先生方には多いのではないだろうか?しかしほんの15,6年前までは,IOLの適応についてそれこそ何歳以上でなければならないとか,ぶどう膜炎があったらば,どうするのかといったことが,真剣に議論された時代もあった.昭和60年代初頭には,IOLを選択する症例は,年齢も40歳以上であったし,糖尿病についても増殖糖尿病網膜症がない人に限られていた.さてこの15年間に白内障手術をはじめとする眼科の手術は大きく発展した.白内障手術は,水晶体?外摘出術から,超音波水晶体乳化吸引術へ,IOLもポリメチルメタクリレート(PMMA)しかなかった時代から,シリコーン,アクリルとfoldableIOLの時代を迎えている.粘弾性物質も高分子,低分子に加え,角膜内皮の保護作用に優れた合剤やvisco-adaptive製剤なども開発された.術後炎症も,水溶性の抗プロスタグランジン製剤が広く普及し,術後にフィブリンが析出する症例もめっきりと少なくなった.それとともに従来は禁忌とされていた症例にもIOLが挿入されるようになり,現在では多くの症例がその恩恵を受けている.しかしながら,現実には,IOLの使用はかなり制約されている.IOLのパッケージを開け,説明書を取りだすとその中に適応が禁忌として表1の疾患がいまでも載っている0910-1810/06/\100/頁/JCLS*DaijiroKurosaka:岩手医科大学眼科学講座**TetsuroOshika:筑波大学臨床医学系眼科●序説あたらしい眼科23(2):139~140,2006眼内レンズの適応を再考証する?????????????????????????????????????????????????????????黒坂大次郎*大鹿哲郎**表1昭和62年の適応委員会の答申1.禁忌となるもの2.適応を慎重に検討すべきもの1)小児1)若年者2)コントロール不良の緑内障2)角膜内皮障害3)進行性糖尿病網膜症3)緑内障4)ぶどう膜炎4)糖尿病網膜症5)虹彩血管新生5)網膜?離の既往のあるもの6)網膜?離6)高度近視7)重篤な術中合併症7)先天性眼異常図1若年性関節リウマチに伴う小児白内障に対しIOLを挿入された例他院で手術を3カ月前に受けたとのことであるが,筆者らが診たときには瞳孔閉鎖されており,手術時期や術後の消炎などに問題があったと思われる.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006ことを諸先生方はご存知であろうか?この適応は,昭和62年に適応委員会が答申したもので,公的にはこの答申が現在も生きている.その後平成14年8月には,日本眼内レンズ屈折手術学会から日本眼科学会理事長へ答申が行われ,禁忌項目を削除,適応を慎重にするものとして小児,先天性眼異常,角膜内皮障害,緑内障,活動性のぶどう膜炎,増殖網膜硝子体疾患,重篤な術中合併症となっているが,公には昭和62年の答申が生きている.昨今の医療状況を取り巻く法的な関心の高まりを考えると,IOLの適応基準を今一度見直す時期であると思う.現在でも,安易にIOLを挿入すると重篤な眼障害を起こしてしまう症例がないわけではない(図1).しかし,診断機器や手術手技が進歩した現在だからこそ,危ないものは禁忌として一括するのではなく,本当に危険なもの,慎重に検討すべきもの,むしろ積極的に適応とすべきものなどの判別がつく時代になったと思われる.今回の特集は,各分野の専門家にこの点を踏まえ,現状で一般に妥当と思われる適応を述べてもらった.ご一読いただければ幸いである.(2)年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2006Vol.23月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2006Vol.19■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染症)新しい治療と検査/眼科医のための先端医療など【その他】トピックス・ニュースなど■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメントなど株式会社メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.http://www.medical-aoi.co.jp

ロービジョンケア岡山大学病院における看護師が関わるロービジョンケア

2006年1月31日 火曜日

(71)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006710910-1810/06/\100/頁/JCLS報提供・歩行介助などを行うことが求められている」1)と述べている.当病棟では,日常生活の援助や指導をおもに行っている.退院に向けて,ロービジョンケア担当医とメディカルソーシャルワーカー(以下,MSWと省略)と相談しながら援助することもある.しかし,入院中に患者の退院後のニーズを的確に把握しきれないケースもある.視覚障害を受容できないまま,あるいは不安を抱えたはじめに平成9年に,岡山県では「岡山県視覚障害を考える会」(以下「会」と省略)が設立された.岡山大学医学部歯学部附属病院(以下,当院)では同年よりロービジョンクリニックの診療が開始されている.当院北病棟(以下,当病棟)の看護師はその会の研修会や講習会に積極的に参加し,病棟へロービジョンケアの意識の浸透を図るとともに,看護の質の向上に向け努力している.ロービジョンケアについて高橋1)は「視覚障害者の保有視機能を最大限に活用し,QOL(qualityoflife)の向上を目指すケア」としている.世界保健機関(WHO)では国際障害分類(InternationalClassificationofImpairment,DisabilitiesandHandicaps:ICIDH1980)で視覚障害を疾患,機能障害,能力障害,社会的不利に分類している(図1).このようにWHOでは,視覚障害をキュアからケアまでを包括するものと捉えている.そして高橋は,ロービジョンケアには目標指向的に教育・福祉関係者とともに,広範なチームアプローチが必要であるとし(図2),そのなかで「看護師が関わるのが基礎的ロービジョンケアであり,日常生活の援助や福祉サービスの情先端ロービジョンケア実践的ロービジョンケア基礎的ロービジョンケアプライマリロービジョンケア包括的ロービジョンケア図2ロービジョンケア(高橋1))*HiroeSekino,YokoFujii,ChiyoNumamoto&KumikoSato:岡山大学医学部歯学部附属病院北病棟5棟(看護師)〔別刷請求先〕関野浩江:〒700-8558岡山市鹿田町2-5-1岡山大学医学部歯学部附属病院北病棟5棟関野浩江*藤井陽子*沼本千誉*佐藤久美子*●連載⑧(最終回)監修=田淵昭雄大音清香ロービジョンケア岡山大学病院における看護師が関わるロービジョンケア眼疾患視機能障害視覚的能力障害視覚的社会的不利定義視器の病的逸脱視覚システムの機能低下視機能障害による日常生活や社会での不自由視覚能力障害が被る社会生活上の不利障害部位角膜・水晶体・硝子体・網膜・視神経・脳視力・視野・両眼視・色覚・光覚読み書き・歩行・日常生活・職業能力身体的・社会的・経済的自立・雇用対策医療(キュア)ロービジョンケア教育・福祉(ケア)図1視覚障害分類と対策72あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(72)ままの退院となることもあり,入院中だけでなく外来でのロービジョンケアの継続の必要性も感じている.今回は当院で行っているロービジョンケアの現状を紹介する.I日常生活について1.食事a.食事内容栄養部と相談し患者の好み・摂取方法に合った内容を提供することを心がけている.自立することを基本にして,常食かおにぎり食かなどを,患者に選んでもらっている.b.配膳・配茶・下膳・メニュー説明・セッティング患者と相談して必要と判断した介助のみ行っている.おにぎり食は,低視力者でも自分で食べることができる.しかし,「手で食べる」ということに抵抗のある患者もおられ,慎重に選ぶ必要がある.摂取時もどこまで手伝うか,患者の希望を確認し,チームあるいは病棟内で統一した援助ができるように計画している.カンファレンスを行いすべてのスタッフが,メニュー説明やセッティングの必要な患者を把握し,患者に常に同じ援助を提供できるようにすることが大事である.また,当院ではすべてのお膳が滑りにくい材質になっており,低視力者にもお皿が滑ることがなく,安全性が確保されている.メニュー説明は,右側・左側で説明することが多いが,訓練を受けている患者によってはクロックポジションで説明することもある(図3).位置の確認は火傷しないように手の甲側でするように指導している.患者にとって,食事内容が見えるか見えないかは食欲にも影響する.「ただ,口の中へ入れるだけです」と言われることもあり,いかに満足した食事援助ができるかは今後も検討していきたい.2.排泄低視力者は,排泄に関連した介助を必要とすることが多い.トイレ歩行や尿器介助を患者が遠慮しないような関わりができるように,以下の3点を心がけている..ベッドのナースコールの位置を患者と一緒に決めて押しやすいようにしている..トイレは男女の区別がつきやすいように入口のカーテンを青(男性)・ピンク(女性)と色を変えている..見えにくいと言われる患者でも歩行意欲のある患者には,歩行介助を積極的に行っている.トイレまでの歩行においては,不安の軽減と安全性の確保が必要である.そのために,夜間でも廊下の明るさを確保しており,患者には廊下の手すりを利用するように説明している.入院生活に慣れてきた患者は,夜のみ援助を看護師に求め,日中は一人でトイレ歩行ができるようになる方もいる.このことは,「自分が行きたいときに行ける」という自立に向けた援助につながっていると考える.3.保清・更衣・整容a.シャワー浴初回に浴室の構造について説明を詳しく行い,手すりや突起物の説明は特に注意して行うようにしている.脱衣所から浴室へは手すりで誘導し,足拭きマットで浴室と脱衣所の境を区別するように指導している.脱衣所には椅子を,浴室にはシャワーチェアを準備し,転倒や打撲などがないように気をつけている.おもにシャワーの温度設定など介助している.b.更衣見守るだけでよい患者もいるが,前後ろや表裏がわからない場合は介助している.縫い代を触ったり,たたみ方や収納する方法・場所を決めたりすることで自立できることを伝えている.糖尿病で,手先にしびれがある患者もおられ,状況に合わせた自立の方法を一緒に考え,指導に関われるようにしたいと考えている.4.移動「会」の催す研修会への参加や盲学校から講師を招き,図3食事介助の様子(73)あたらしい眼科Vol.23,No.1,200673全スタッフが誘導法について学ぶ機会をもち,実践にいかすよう努力している.患者に,看護師の上腕あるいは肩を持ってもらい「ゆっくりしたスピードで声をかけながら」をポイントにして実践している(図4).a.廊下誘導する側と反対側は手すりを持ってもらうようにしている.これにより,歩行することが怖いと感じている患者でも安心感を得ることができる.b.診察室室内の暗さや電気コードによる足元の悪さ,多数の医師による診察室の狭さなどの悪条件でも誘導法を的確に利用すれば,安全に誘導できる.また,椅子への誘導,スリット台への誘導は,患者に直接,椅子や顎のせ台をさわってもらい自分で距離感など感覚を確かめ,患者のペースで動くことができるようにしている.c.その他他科受診の際にはエレベーターの利用をするが,希望される患者には階段を使った移動を援助することもある.その際は,スタッフが誘導法をしっかりと身につけていることが必要であり,転倒などには十分注意して行うことが大事である.トイレや浴室への誘導も同様である.移動は患者の安全の確保を第一に考えているが,前にも述べたように,歩くことに恐怖を感じている患者もおられる.そのため,無理な強制をせず患者に合わせた誘導を行うようにしている.II環境についてa.明るさ各個人の病状によって希望が異なりむずかしい問題である.室内の明るさは遮光ブラインド(図5)とベッドのカーテンで調整している.病室の天井に設置している残置灯は,夜間の転倒防止のため一定の光度が必要であるが,患者によっては「まぶしい」と苦情がでることもある.消灯後も廊下には明かりが必要であり,特にトイレ前の明かりは安全上必要である.b.病棟内の場所案内当科では術後の体位制限の特徴からうつむきで歩く患者が大半である.そのため,足元に色帯や場所の提示をしている.色帯は廊下の部屋側から約30cmのところに幅30cmの明るい紺色のタイルをつけている(図6).図5遮光ブラインド図6廊下の色帯図7間口の広いドア図4歩行介助の様子74あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(74)それは,診察室,トイレ,ナースステーション,処置室,光凝固室の入口まで示すようにしている.また,部屋番号や各部屋の掲示は,入口の足元に赤字で明記している.これらの工夫により,目印ができ,1人で移動できる患者が多くなった.診察室や処置室の入口は,間口を広くとりドアをつけず,カーテンのみとした(図7).これは安全的にも,車椅子の患者にもスムーズな移動が可能になり有効であった.IIIロービジョンクリニックの紹介これまではおもに,身体障害者手帳の交付の条件を満たすような患者を紹介するようにしていた.しかし,それ以外に低視力者で日常生活に不安を抱えている患者が多いことがわかった.そのため,退院後の生活に不安を抱えている患者にも紹介するようにしている.診療はロービジョン担当医1名が週3回予約制で行っている.紹介方法は主治医あるいは看護師からであるが,おもに看護師からの依頼によるものが多い.それは,看護師のほうが患者の将来の生活自立度を早く把握できる状況にあるためと考えられる.<患者への紹介内容>補助具の選定・腕時計など日常生活用品の紹介・福祉制度の紹介・障害者手帳の交付などである.加えて,心理的ケアの要素も多分に含まれていると感じている.むずかしいのは,紹介するタイミングである.【症例1】Aちゃん(5カ月,女児)は先天緑内障で入退院をくり返していた.出生時より眼脂があり,点眼時に看護師が角膜の白斑に気づいた.Aちゃんは治療のために鳥取から当院へ紹介された.1回目の手術は生後3週目のときであった.5カ月になるまでに4回の入院・手術をくり返した.治療前は眼圧が50~55mmHgとなり,手術後は28~35mmHgとなっていた.入院期間は手術の説明から手術後まで約1週間ではあるが,母親が1回目からずっと独りで付き添っており,不安が強く精神的にもつらかったと考えられる.Aちゃんの眼圧が落ち着くまでは,手術や経過説明以外,将来の厳しい話は,母親には話しづらい状態であった.2回目の入院時より,ロービジョンケアの必要性を看護師は感じていたが,母親はAちゃんの病気への不安が強く「早く手術してほしい」と言われるだけであった.4回目のときは,検査や治療に対する質問も増え,母親と医師,看護師の信頼関係もでき,今なら情報提供できると考え,主治医より今後の進学問題やロービジョンケアについて説明がなされた.母親は冷静に受け止め,盲学校の主催する研修会への参加など行ってみたいという発言があり退院された.その後は,経過がよく,鳥取の病院でフォローを受けている.【症例2】黄斑変性症の患者は,くり返さなければならない手術に対して,回復への不安を感じている.しかし一方では,手術できるという治療法があることに期待している.このような不安と期待をもつ患者に対して,看護師は,どの時期に説明するか主治医と相談しながら行っている.見えないことを自覚していても「ロービジョンクリニックは最後の手段」と言われ,受診を拒否される患者もいる.【症例2-1】Hさん(55歳,男性)は家族(妻と息子3人)の援助がありロービジョンケアの必要性を感じておられなかった.Hさんは約15年前に糖尿病を指摘されていたが放置していた.5年前より,約15kgの体重減少と下肢のしびれがあり,内科を受診する.糖尿病に対する入院加療を勧められたが拒否し,内服治療のみ行った.翌年50歳になってから,視力低下を自覚し眼科受診する.両眼の増殖糖尿病網膜症・血管新生緑内障と診断され,当院へ入院し,両眼の汎網膜光凝固術を受けた.このとき,RV=1.2(better),LV=0.02(n.c.),RT=15mmHg,LT=25~30mmHgであった.その後左眼は,虹彩炎と血管新生緑内障で失明する.今回は1年前より,右眼の硝子体出血に対して近医で手術を勧められていたが,失明を恐れて決心がつかず悩んでいたという.Hさんは,歩行から食事や糖尿病のコントロールまですべて妻の介助が必要で,看護師が「一緒にしてみましょう」と声をかけても,「お願いします」と援助を求めるだけであった.手術後は右眼視力が手動弁から0.01と回復し,人影がわかるようになった.看護師は,「今ならHさんは指導を受け入れるだろう」と思い,点眼とインスリンを自己管理できるようにHさんに関わった.Hさんも自分でやってみようという気持ちに変わり,練習をはじめた.このときに,看護師はHさんに,同じ疾患をもちながらも自立している患者を紹介した.Hさんは興味をもたれロービジョンクリニックを受診したが,拡大鏡などの補助具の効果があまりな(75)あたらしい眼科Vol.23,No.1,200675く,現在の生活にも不安を感じていないため「いい話だったが,困ったら利用することにした」と言われた.妻も「本人がその気になったとき考えます」と言われ,時期を待つことにした.Hさんは,手術後腎機能が一時的に悪化したりまったく見えなくなったりした時期もあったが,妻とHさんは不安を訴えられることもなかった.また,主治医や看護師に対する態度も変わりなく,コミュニケーションも変わりなかった.Hさんは片眼が失明している状況で入院・手術を決意した時点で,こういう状況をも覚悟していたのではないかと考える.このことは,視力低下をきたしてから1年という長い経過がたっており,妻や家族の援助をうけながら,自分自身の将来についてHさんは,悩みながらも糖尿病という病気を受容していたと考える.【症例2-2】H症例とは反対に,Kさん(77歳,女性)は家族の援助を受けていたが,補助具を合わせたり,手帳の交付が受けられることを喜ばれたりして積極的にケアを利用された.Kさんは,白内障の手術後フォローを受けていたところ,両眼のポリープ状脈絡膜血管症と診断された.今回は,右眼に黄斑下血腫と出血性.離がみられ,手術を受けた.入院時,RV=0.03p(n.c.),LV=手動弁/30cm(n.c.)であり,手術後も視力は不変であった.慣れない環境のために入院時より食事や入浴,トイレ歩行など介助していた.Kさんは徐々に慣れ,また意欲もあり入浴とトイレ歩行は介助が不要となった.夫が面会に来られると,援助を受けていたが,自分ができることは自分でしたいと話されていた.退院前に,看護師からロービジョンケアの説明をすると,即受診したいと希望され,外来フォローで受診することになった.拡大鏡や拡大読書器を購入され,身体障害者の手帳も取得することができた.そして会の催す「支援費制度」の研修会を案内すると参加された.夫の協力とロービジョンケアをKさんは,上手く利用できているといえる.以前Kさんは,白杖への抵抗感があり,「会」の催す交流会への参加も不要といわれていたが,現在は機会があれば参加してみたい気持ちがあると言われた.入院時は手術への期待があったが,現実の生活のなかで,Kさんは自分の状況を受容しつつあるように感じている.IV退院に向けて退院が近くなると看護師は,自己点眼の指導を行っている.低視力者には,目薬の種類や順番を間違えないように自己管理に向けて看護師は患者とともに工夫しなければならない.このときに,退院後の日常生活で困ることや不安なことはないか確認するようにしている.日常生活で困ることがはっきりしている患者には,音声付きの時計や色付きのまな板など便利用品を紹介するなど対応できることもある.黄斑変性症や糖尿病網膜症の患者の多くが「視力の現状維持のための手術である」と説明を聞いていても,視力回復への希望をもち手術をうけている.そして,主治医より退院を告げられても,不安が大きく退院を受容できないこともある.そのようなときに看護師が働きかけ,患者の支えとなるようにならなければならない.現在はロービジョンクリニック担当医とMSWの支援を受けながら,退院への準備を行うようにしている.患者が福祉制度のなかで,どのような支援が受けられるか,その患者に支援が合っているかどうかなど検討している.実現できなかったが,地域のヘルパーの協力を得て試験的に外泊する計画を立てたケースもあった.今後も,積極的に退院に向けた支援が行えるようにしていきたい.そのためには個々の患者の情報を正確に把握することが必要と考え,当病棟のロービジョンケアの勉強会グループ2)が「ロービジョンケアのニーズの把握と看護」について研究している.その結果,身体障害者手帳の交付対象者だけでなく,もっと多くの低視力者が,退院後の生活に不安や不満を抱え悩んでいたことが明らかになった.そこで,退院前の生活チェックリストを作成し,現在試用中である.日頃よりコミュニケーションを大切にすることで個々の患者の思いが理解でき,ロービジョンケアの有効な手段となるものと考える.今後は,包括医療へ移行し在院日数が短縮されるため,患者との信頼関係を築くことがますます困難になることが予測される.このような状況のなかで,ロービジョンケアの継続・成功には,病棟と外来の連携がますます重要になってくる.外来は1日に200人以上の受診者数があり,個別の関わりをもつようにするにはむずかしい現状である.しかしながら,当院は,病棟の看護師が外来を兼務しており,入院中の患者の状態を把握できている状態である.それにより,退院後も看護を継続することが可能となるシステムを考えることが今後の課題となる.76あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(76)河野ら3)は「視覚障害は生命そのものは継続し,障害者は社会的に存続するというところが,『死』との大きな違いである.社会的存続があるからこそ,問題は重大で困難であることを認識しなければならない」としている.ロービジョンケアを進めるためには,患者が自分の疾患や病状を受容していることが必要である.看護師は日常生活の自立を援助するだけでなく,心理的援助も行わなければならない.芝田4)は,「障害の告知とその受容・リハビリテーションへの動機づけの取り組みのための知識を,医療スタッフはもたなければならない」としている.心理的援助を行うために患者の心理過程をアセスメントして,その過程に適した介入をしなければならない.人間が情報を得るために使用する感覚のうち,7割が視覚といわれている.その視覚が失われていくなかで,患者は日常生活を送っていかなければならない.独りで自由に動けなくなるという不安,自分自身に対する絶望感は計り知れないものである.医療者は患者の絶望を希望に変えていく役割を担うものである.特に患者の一番身近にいる看護師が,相談相手となり,患者のQOLが向上するように関わっていかなければならない.おわりに今後ロービジョンケアを広めていくには,看護師の役割が大きいと考える.患者の日常生活の自立度を把握し援助していけるだけでなく,心理的援助にも早期より関わっていける.守本5)によると心理的援助は,患者同士の交流が効果をあげているという報告もある.患者自身が自分の疾患や病状を理解し,受容できるように医師やMSWらとともに協力しながら,病棟から外来へと継続した看護を提供していきたいと考える.文献1)高橋広:ロービジョンケアの実際.視覚障害者のQOLの向上のために,p1-10,医学書院,20022)大岩美樹,沼本千誉,関野浩江ほか:ロービジョンケアのニーズの把握と看護.岡山大学医学部歯学部附属病院院内看護研究,20043)河野友信,若倉雅登:中途視覚障害者のストレスと心理臨床.p40-55,銀海舎,20034)芝田裕一:生活訓練と心理リハビリテーション.あたらしい眼科18:171-176,20015)守本典子:ロービジョン者の生活の質の向上に交流会が果たす役割の検討.眼紀53:575-580,2002☆☆☆