●連載◯135監修=安川力五味文115糖尿病黄斑浮腫の治療選択坂西良仁順天堂大学医学部附属浦安病院眼科糖尿病網膜症はさまざまな病態を呈するが,その中でも糖尿病黄斑浮腫(DME)は直接視力低下につながるため重要な病態の一つである.DMEの治療には複数の選択肢があり,本稿ではそれらの特徴と,どのように組み合わせて治療をすべきかについて筆者の考えを述べる.はじめに糖尿病は慢性的な炎症と微小血管障害を起こすことが知られており,とくに網膜血管の微小循環に影響し,糖尿病網膜症を引き起こす.糖尿病網膜症は網膜血管疾患の中でもっとも多い疾患として知られており,多彩な病態を示す.とくにその病態の一つとして糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)は視力低下の直接の原因となりえるため,その治療は重要である.治療の選択肢としては抗CVEGF薬硝子体内注射,ステロイド硝子体内あるいはCTenon.下注射,さらには毛細血管瘤(microaneurysm:MA)の直接凝固などがあげられる.複数の治療選択肢があるため,それらをどのように組み合わせて治療するかが問題である.抗VEGF療法もっとも一般的な治療は,やはり抗CVEGF薬である.その有用性については大規模スタディでも多くの報告があり1),また実臨床でも多くの医師がその効果を実感していると思われる(図1).抗CVEGF療法は頻度の高い合併症もないため実施することは容易ではあるが,高額な治療であるため継続が困難であることが多い.したがって問題は投与レジメンであるが,筆者は基本的には導入期C3回投与および必要時(prorenata:PRN)投与を行っている.これは標準的なレジメンであるが,メタ解析でもCtreatCandextend(TAE)投与とCPRN投与で治療効果に差がないと報告されており2),施設の状況や患者の状態によりいずれのレジメンでもよいと考える.また,DMEは多彩な病因があるが,炎症性サイトカインの関与が大きいといわれている3).したがって抗VEGF薬だけでなく,抗炎症の目的でステロイド局所投与も有効であると考える.投与は硝子体内とCTenon.下注射の二通りある.硝子体内注射は早期からの効果も十分報告されているが4),一方で眼圧上昇の可能性が高く,また有水晶体眼(81)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体内注射黄斑浮腫を呈していても抗CVEGF薬硝子体内注射にて改善する.では白内障進行の懸念が大きいなど,行える患者は限られている.Tenon.下注射は硝子体内注射に比べて早期の効果はやや劣るものの,眼圧上昇や白内障進行の頻度が少ないことから,筆者はこちらを好んで選択している.毛細血管瘤の検出さらに慢性的な血管障害疾患であるCDMEではしばしばCMAの関与がみられる.MAからの漏出に対しては直接凝固が有効であり,これを同定するためにフルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)あるいは昨今では光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyCangiography:OCTA)が使用される.既報ではCMA検出率はCFAのほうが優れていると報告されているが5),FAではアナフィラキシーショックなどあたらしい眼科Vol.40,No.9,20231203副作用の懸念もあるため,実臨床ではその侵襲性と有用性を考慮したうえで,どちらの検査を選択するかを決定する必要がある.筆者は軟性白斑が散在するなど網膜虚血が疑われる所見にCDMEが合併している患者や治療抵抗性のCDMEに対して,虚血範囲を同定する目的ならびにCMAを厳格に検出する目的でCFAを行っている.それ以外の患者では基本的にはCOCTAを用いてわかる範囲でCMAを検出している.筆者の治療方針これらのようにCDMEに対していくつかの選択肢があるが,これらをどのように組み合わせるかが重要である.基本的には第一選択は抗CVEGF薬であり,先に述べたように導入期C3回とCPRN投与がよいと考える.それでも再発を繰り返す患者に対してはステロイドTenon.下注射を行う.おおよそここまでの治療で黄斑浮腫がいったん軽快する患者が多いが,それでもなかなか浮腫が改善しない場合は,MAからの漏出による可能性が高いため,FAあるいはCOCTAを用いてCMAを検出し,直接凝固を行う(図2).さらに直接凝固に抵抗を示すCDMEでは,最終手段として硝子体手術にて内境界膜.離および.胞切開術を行うことで浮腫が起こりにくくなる.硝子体手術後のCDME眼では,眼内のクリアランスが上がっているため抗CVEGF薬もより早く吸収されると考えられるが,実臨床において注射回数は変わらないと報告されており,またトリアムシノロンC1204あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023図2毛細血管瘤を合併している糖尿病黄斑浮腫毛細血管瘤を合併している場合は,抗VEGF薬硝子体内注射に毛細血管瘤直接凝固を併用することで浮腫を改善させやすくなる.Tenon.下注射であれば眼内のクリアランスも関係ないため追加投与も行いやすいと考えられる.もともと慢性疾患である糖尿病に伴う黄斑浮腫であるため,注射のみでは浮腫を完全にコントロールすることは困難であり,複数回の治療後に多少の浮腫が残っていても視力に影響しなければ,そこまで厳格な追加治療は必要ないのではないかと考えている.文献1)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-realCa.iberceptCforCdiabeticCmacularCedema.COphthalmolo-gyC121:2247-2254,C20142)SarohiaCGS,CNanjiCK,CKhanCMCetal:Treat-and-extendCversusCalternateCdosingCstrategiesCwithCanti-vascularCendothelialgrowthfactoragentstotreatcenterinvolvingdiabeticmacularedema:Asystematicreviewandmeta-analysisCofC2,346Ceyes.CSurvCOphthalmolC67:1346-1363,C20223)NomaCH,CYasudaCK,CShimuraM:InvolvementCofCcyto-kinesinthepathogenesisofdiabeticmacularedema.IntJMolSci22:3427,C20214)QiCHP,CBiCS,CWeiCSQCetal:IntravitrealCversusCsubtenonCtriamcinoloneCacetonideCinjectionCforCdiabeticCmacularedema:asystematicreviewandmeta-analysis.CurrEyeResC37:1136-1147,C20125)HamadaCM,COhkoshiCK,CInagakiCKCetal:VisualizationCofCmicroaneurysmsCusingCopticalCcoherenceCtomographyangiography:comparisonofOCTAenface,OCTB-scan,OCTCenCface,CFA,CandCIACimages.CJpnCJCOphthalmolC62:C168-175,C2018(82)