考える手術.監修松井良諭・奥村直毅視機能を考えた黄斑円孔への硝子体手術寺島浩子新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野特発性黄斑円孔(MH)は,さまざまな要因による硝子体黄斑界面障害である.有病率は黄斑前膜に比べると少ないが,55歳以上のサブグループにおいて1,000人あたり3.3人と推定され,硝子体手術適応疾患のなかでも比較的多く経験する疾患である.患者の自覚症状は,まず視力低下があげられるが,中心が窪んで見える歪視の自覚が強いのも特徴である.MHの手術は,1991年のKellyとWendelが硝子体手術の有用性を報告して以降,術式の改良により円孔閉鎖率が飛躍的に向上した.とくに1997年にEckardtらが内境界膜(ILM)式(invertedILM.ap法)がゲームチェンジャーとして登場し,さらに円孔閉鎖率が向上した.さまざまなILM.離法,ILM.apに対する術式の改良,考案が進められているが,どの手術法を選択すべきかは医師の裁量にゆだねられているのが現状である.一方,ILM.離術に対しては,黄斑構造に与える影響や視機能への弊害も近年は考慮されている.MH手術では現在,解剖学的な円孔閉鎖だけをめざしていた時代から,よりよい視機能の回復をめざした術式が求められている.視機能を考えたMH硝子体手術におけるポイントとしてとくに重要なものは次の三つである.①最適なILM.離手法の選択(初回円孔閉鎖をめざす),②黄斑部操作は速やかに安全に行うこと(網膜光障害や網膜神経線維への機械的ダメージを回避),③後部硝子体.離やガス置換の際の視神経乳頭付近の吸引操作は慎重に行う(乳頭周囲網膜神経線維障害による術後視野欠損を回避する).聞き手:MH(macularhole:MH)の手術時に行われるず,ほぼ100%の円孔閉鎖率が報告されています.ただ内境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離は,し,円孔のサイズが大きい場合や網膜表面に問題があるどの程度の大きさでするべきでしょうか?場合には,.離の範囲がやや影響する可能性がありま寺島:ILM.離の大きさは術者の経験と勘にゆだねらす.ILM.離の利点は,網膜への接線方向の牽引を解れており,実際のところサイズに関するグローバルなガ消し円孔の閉鎖を促すこと,および残存する黄斑部の硝イドラインは存在しません.平均的なサイズ(400μm子体皮質を除去して黄斑前膜の再発とMHの再発を防以下)のMHについては,ILM.離の範囲にかかわらぐことです.ただし,非常に小さなILM.離を行って(67)あたらしい眼科Vol.40,No.10,202313250910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術しまうと,本来の目的を達成できない可能性があります..離を行う場合は,最低でも2乳頭径以上の範囲を.離するほうがよいと考えています.その理由は,術後にenface画像で網膜表層を確認すると,網膜上異常組織や黄斑前膜がILM.離のエッジ付近に高頻度にみられるからです.ILM.離が非常に小さい場合は,黄斑前膜の発生が中心窩に近くなり,術後の歪視などの視機能に影響する可能性があるためです.聞き手:では,ILM.離は視機能にどのような負の影響を与えるのでしょうか?.離時の注意点を教えてください.寺島:MHに対するILM.離後の網膜構造の変化としては,dissociatedopticnerve.berslayer(DONFL)とよばれる所見が広く知られており,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では神経線維層や内層にくぼみ(欠損)が認められます.ただし,多くの報告ではDONFLは視力に影響を与えないとされています.私たちは緑内障や強度近視を併発していない多数のMH患者を対象に,ILM.離後の中心視野(網膜感度)を調査しました.その結果,Humphrey視野とマイクロペリメトリーMP3の両方において,術後の視野感度の有意な低下はどの領域でも認められませんでした.ただし,ILM.離に使用された染色剤がインドシアニングリーンであった場合は,トリアムシノロン染色例と比較して,黄斑の耳側領域での神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)の減少と鼻側視野感度の低下が顕著にみられる症例が報告されています.黄斑の耳側領域はもともとGCCが薄く,機械的な損傷を受けやすい領域なので,とくに緑内障や強度近視の患者では,染色剤に関係なくILM.離の影響を十分に考慮する必要があります.ILM.離を行う際には,視機能を意識して神経線維にできるだけダメージを与えないように丁寧に行う必要があります.MHが閉鎖し視力が改善しても,術後に視野障害を自覚されるケースもあることに注意が必要です.聞き手:では,緑内障を合併しているMHに対するILM.離に関してどのように考えたらよいでしょうか?何か工夫されていることはありますか?1326あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023寺島:MHに関しては,円孔閉鎖を第一の目的としているため,緑内障があってもある程度の範囲でILM.離が必要と考えています.術前に中心視野障害が認められる緑内障患者に対しては,ILM.離を行うと視野欠損が拡大する傾向にあります.とくに黄斑の耳側領域や網膜感度低下がある領域は影響を受けやすいと考えられます.したがって,視野欠損を最小限に抑えるために,術前にMP3を使用してILM.離の範囲を事前に決め,感度の低下した領域のILMは温存するようにしています(動画①).それでも視野欠損が拡大する場合もありますが,現時点ではその手法により比較的視野が維持される傾向にあります.聞き手:最近はinvertedILM.ap法が広く行われていますが,通常のILM.離と比べて視機能への影響は心配ありませんか?寺島:現在,500μm以上の大きなMHや陳旧例,強度近視眼には積極的にinvertedILM.ap法を行っています.具体的なILMの.離方法や翻転方法はさまざまな手法が提案されているため,どの方法が最適かは一概には言えません.私が好んで使用している方法は,強度近視眼の場合と同様に,中心に向かって多角的にILM.離を行い,花びら様の.apをトリミングして円孔に被せる方法です(動画②).注意点は,確実な円孔閉鎖をめざそうとするあまり.apをMH内部に埋め込まないことです.円孔が閉鎖された後に外層の再構築が妨げられ,その結果として視機能の回復が阻害されることがあります.ただし,注意を払って行っても,通常のILM.離のように円滑な外層の回復が得られず,外境界膜も確認できない場合も多くあります.自験例ですが,500μm以上の大きなMHに対して通常ILM.離18眼とinverted.apを行った18眼を比較しました.その結果,両群とも視力は有意に改善され,12カ月時点では若干inverted.ap群のほうが劣っていましたが,有意差はみられませんでした.視力の回復はMHの形態に依存するため,難治性のMHの場合は視力の回復は限定的です.ただし,円孔の閉鎖が達成されれば,視力や中心網膜感度が有意に改善するため,適切なILM.離を行い,初回の円孔閉鎖をめざしましょう.(68)