考える手術⑩監修松井良諭・奥村直毅Zinn小帯脆弱例の白内障手術鈴木久晴善行すずき眼科現在の白内障手術で用いる眼内レンズは,.内固定を前提としており,水晶体.を健常な状態で残すことが非常に大切である.また,水晶体.は硝子体との隔壁としても重要であり,核処理の間はできるだけ水晶体.を温存することで,硝子体の牽引による網膜剥離などの合併症を予防することができる.しかし,水晶体.を支えているZinn小帯が脆弱で,術中に水晶体.を除去せざるを得ない場合もある.よって,白内障手術を施行する前常が生じている場合があり,Zinn小帯脆弱の術前診断として重要な所見である.一方,偽落屑症候群,網膜色素変性症,強度近視,閉塞隅角緑内障などの患者ではZinn小帯脆弱例が多く,所見をよくチェックしておくことが大切である.また,外傷や硝子体手術の既往も影響するため問診は欠かせない.もちろん高齢者もZinn小帯脆弱の可能性が高くなる.Zinn小帯脆弱が疑われた場合は補助器具を用意しておく.外から支えるタイプは虹彩リトラクター,カプセルエキスパンダーがあり,手技も煩雑となる可能性があるため,最初は豚眼などで練習しておくべきである.また,Zinn小帯の断裂範囲が狭い場合には水晶体.拡張リング(CTR)を早い段階で挿入すると核処理は容易となるが,その後の皮質の除去においてCTRに皮質が押さえつけられてしまい,難度が上がってしまう場合もあるため,CTRはできるだけ皮質と.の間に挿入するようにする.このように補助器具のコンセプトと使用法を熟知しておく必要がある.聞き手:術中にZinn小帯脆弱を疑う所見を教えてくだ点で補助器具の使用を想定しなければなりません.Zinnさい.小帯脆弱は外側へのベクトルが弱いためにCCC作製時鈴木:最初に粘弾性物質を注入する際に水晶体が過度にに前.の皺が過度になることがあります.この場合は動く,また連続円形切.(continuouscurvilinearcap-CCCが小さくなりやすいため,やや大きめにCCCを作sulorrhexis:CCC)作製時に最初の前.への穿破ができ製しておくとよいでしょう.ない場合などは明らかにZinn小帯が弱いので,その時(77)あたらしい眼科Vol.39,No.10,202213690910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:Zinn小帯脆弱例に対するカプセルエキスパンダー(capsuleexpander:CE)と水晶体.拡張リング(capsuletensionring:CTR)の使い分けを教えてください.鈴木:細隙灯顕微鏡で豚眼を使って実験的に前房内の挙動を観察するslitsideview(SSV)におけるZinn小帯断裂モデルでは,外から支えるタイプのCEでは本来の水晶体赤道の位置ではなく,上方に引き上げられていることがわかりました(図1a).一方,CTRを用いた場合は水晶体の本来の位置であることがわかります(図1b)(動画1).よって,Zinn小帯の脆弱範囲によって使い分けたほうがよいと考えます.180°以内の一部断裂であれば,最初に核分割を終了させたあとに一つの核片を処理し,皮質も除去しスペースを作製したあとにCTRを挿入します.ポイントはCTRをできるだけ皮質と.の間に挿入することです.核が残っている状態であれば,水晶体.も安定していますのでCTRの挿入もそれほどむずかしくありません.一方,偽落屑症候群などで全周性に弱くなっている場合には,CEを用いて少なくとも四つのサイドポートから全体を支えるようにします.CEの設置の際には,水晶体.に負担をかけないようにするため,最初から一つを最後まで引いて固定するのではなく,四つに少しずつ力を加え,均等な力で引き上げるようにします.CEを設置できれば核処理は格段に容易になります.しかし,CEは核処理後に除去するので,眼内レンズを.内固定する場合は,そのあとにCTRを挿入しておくべきです(動画2).聞き手:Zinn小帯脆弱症例に対してよい超音波機器や設定はありますか?鈴木:超音波機器の設定はなるべく低いほうがよいと考えます.たとえば灌流圧が高いとそれだけ硝子体側に灌流が回りやすくなり,硝子体側からの圧で水晶体.が不図1SSVによるCEとCTRの比較CEでは水晶体.(.)が引き上げられている.CTRでは赤道部(.)が本来の位置にある.安定化するだけでなく,Zinn小帯断裂範囲も広がる可能性があるからです.灌流圧とともに吸引圧も下げるべきです.前房内の圧変化を少なくすることが大切です.できれば灌流圧コントロールシステムがある超音波機器がよく,なかでも超音波ハンドピースに灌流圧センサーが設置されているものは,SSVの実験でも,水晶体.乳化吸引中の水晶体.が膨らんで安定していると考えられました(図2).聞き手:どの時点で水晶体.の温存を断念すべきなのでしょうか?鈴木:CCCにtear(あるいは亀裂)が入った時点で,補助器具の使用がむずかしくなり極度に難易度が上がるので,CCCを完成させることは必須です.ただし,通常は外側へのベクトルは弱くなっているのでCCCが流れることは少ないです.一番注意すべきは,硝子体腔への核落下ですので,破.の際には,速やかなマニュアル操作により水晶体.ごと眼外に除去することになります.もっとも悩ましい状況としては,皮質処理が終わった時点で水晶体.が温存できている場合です.この場合には個々のケースにもよりますが,CTRのエッジが見えているくらい偏位が強い場合は,.内固定しても近い将来に眼内レンズが位置異常をきたすので,水晶体.を除去して,眼内レンズの縫着や強膜内固定に移行したほうがよいと思います.しかし,手術時間の延長などにより患者の安静が保てない場合には,一度.内に入れてしまうことも選択肢としてありえると思います.3ピースの7mm眼内レンズが用意されていれば,支持部を.外固定して,光学部のみを.内固定(いわゆるキャプチャー)させるという手技がベストだと思います.なぜなら眼内レンズが偏位して,再手術の際に縫着や強膜内固定でそのまま眼内の眼内レンズを利用することができるからです.図2SSVによる灌流圧センサーのついたハンドピースの評価センサーがついているほうが赤道部(.)の位置が安定している.1370あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022(78)