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考える手術:10.Zinn小帯脆弱例の白内障手術

2022年10月31日 月曜日

考える手術⑩監修松井良諭・奥村直毅Zinn小帯脆弱例の白内障手術鈴木久晴善行すずき眼科現在の白内障手術で用いる眼内レンズは,.内固定を前提としており,水晶体.を健常な状態で残すことが非常に大切である.また,水晶体.は硝子体との隔壁としても重要であり,核処理の間はできるだけ水晶体.を温存することで,硝子体の牽引による網膜剥離などの合併症を予防することができる.しかし,水晶体.を支えているZinn小帯が脆弱で,術中に水晶体.を除去せざるを得ない場合もある.よって,白内障手術を施行する前常が生じている場合があり,Zinn小帯脆弱の術前診断として重要な所見である.一方,偽落屑症候群,網膜色素変性症,強度近視,閉塞隅角緑内障などの患者ではZinn小帯脆弱例が多く,所見をよくチェックしておくことが大切である.また,外傷や硝子体手術の既往も影響するため問診は欠かせない.もちろん高齢者もZinn小帯脆弱の可能性が高くなる.Zinn小帯脆弱が疑われた場合は補助器具を用意しておく.外から支えるタイプは虹彩リトラクター,カプセルエキスパンダーがあり,手技も煩雑となる可能性があるため,最初は豚眼などで練習しておくべきである.また,Zinn小帯の断裂範囲が狭い場合には水晶体.拡張リング(CTR)を早い段階で挿入すると核処理は容易となるが,その後の皮質の除去においてCTRに皮質が押さえつけられてしまい,難度が上がってしまう場合もあるため,CTRはできるだけ皮質と.の間に挿入するようにする.このように補助器具のコンセプトと使用法を熟知しておく必要がある.聞き手:術中にZinn小帯脆弱を疑う所見を教えてくだ点で補助器具の使用を想定しなければなりません.Zinnさい.小帯脆弱は外側へのベクトルが弱いためにCCC作製時鈴木:最初に粘弾性物質を注入する際に水晶体が過度にに前.の皺が過度になることがあります.この場合は動く,また連続円形切.(continuouscurvilinearcap-CCCが小さくなりやすいため,やや大きめにCCCを作sulorrhexis:CCC)作製時に最初の前.への穿破ができ製しておくとよいでしょう.ない場合などは明らかにZinn小帯が弱いので,その時(77)あたらしい眼科Vol.39,No.10,202213690910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:Zinn小帯脆弱例に対するカプセルエキスパンダー(capsuleexpander:CE)と水晶体.拡張リング(capsuletensionring:CTR)の使い分けを教えてください.鈴木:細隙灯顕微鏡で豚眼を使って実験的に前房内の挙動を観察するslitsideview(SSV)におけるZinn小帯断裂モデルでは,外から支えるタイプのCEでは本来の水晶体赤道の位置ではなく,上方に引き上げられていることがわかりました(図1a).一方,CTRを用いた場合は水晶体の本来の位置であることがわかります(図1b)(動画1).よって,Zinn小帯の脆弱範囲によって使い分けたほうがよいと考えます.180°以内の一部断裂であれば,最初に核分割を終了させたあとに一つの核片を処理し,皮質も除去しスペースを作製したあとにCTRを挿入します.ポイントはCTRをできるだけ皮質と.の間に挿入することです.核が残っている状態であれば,水晶体.も安定していますのでCTRの挿入もそれほどむずかしくありません.一方,偽落屑症候群などで全周性に弱くなっている場合には,CEを用いて少なくとも四つのサイドポートから全体を支えるようにします.CEの設置の際には,水晶体.に負担をかけないようにするため,最初から一つを最後まで引いて固定するのではなく,四つに少しずつ力を加え,均等な力で引き上げるようにします.CEを設置できれば核処理は格段に容易になります.しかし,CEは核処理後に除去するので,眼内レンズを.内固定する場合は,そのあとにCTRを挿入しておくべきです(動画2).聞き手:Zinn小帯脆弱症例に対してよい超音波機器や設定はありますか?鈴木:超音波機器の設定はなるべく低いほうがよいと考えます.たとえば灌流圧が高いとそれだけ硝子体側に灌流が回りやすくなり,硝子体側からの圧で水晶体.が不図1SSVによるCEとCTRの比較CEでは水晶体.(.)が引き上げられている.CTRでは赤道部(.)が本来の位置にある.安定化するだけでなく,Zinn小帯断裂範囲も広がる可能性があるからです.灌流圧とともに吸引圧も下げるべきです.前房内の圧変化を少なくすることが大切です.できれば灌流圧コントロールシステムがある超音波機器がよく,なかでも超音波ハンドピースに灌流圧センサーが設置されているものは,SSVの実験でも,水晶体.乳化吸引中の水晶体.が膨らんで安定していると考えられました(図2).聞き手:どの時点で水晶体.の温存を断念すべきなのでしょうか?鈴木:CCCにtear(あるいは亀裂)が入った時点で,補助器具の使用がむずかしくなり極度に難易度が上がるので,CCCを完成させることは必須です.ただし,通常は外側へのベクトルは弱くなっているのでCCCが流れることは少ないです.一番注意すべきは,硝子体腔への核落下ですので,破.の際には,速やかなマニュアル操作により水晶体.ごと眼外に除去することになります.もっとも悩ましい状況としては,皮質処理が終わった時点で水晶体.が温存できている場合です.この場合には個々のケースにもよりますが,CTRのエッジが見えているくらい偏位が強い場合は,.内固定しても近い将来に眼内レンズが位置異常をきたすので,水晶体.を除去して,眼内レンズの縫着や強膜内固定に移行したほうがよいと思います.しかし,手術時間の延長などにより患者の安静が保てない場合には,一度.内に入れてしまうことも選択肢としてありえると思います.3ピースの7mm眼内レンズが用意されていれば,支持部を.外固定して,光学部のみを.内固定(いわゆるキャプチャー)させるという手技がベストだと思います.なぜなら眼内レンズが偏位して,再手術の際に縫着や強膜内固定でそのまま眼内の眼内レンズを利用することができるからです.図2SSVによる灌流圧センサーのついたハンドピースの評価センサーがついているほうが赤道部(.)の位置が安定している.1370あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022(78)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性:視力低下者への対応

2022年10月31日 月曜日

●連載124監修=安川力髙橋寛二104加齢黄斑変性:視力低下者への対応郷渡有子尾花明聖隷浜松病院眼科滲出型加齢黄斑変性に対する抗VEGF治療の長期経過例では,通院と医療費の負担から,いつまで治療を継続するかが問題になる.とくに,視力低下の進行した高齢患者への対応は悩ましい.本稿では,視力低下例への対応について自験例をもとに概説する.はじめに2009年にラニビズマブが承認されて十数年が経過した.抗VEGF治療により脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が鎮静化し,長期間良好な視力を維持できる患者がいる一方,治療にもかかわらず出血・滲出を繰り返し,視力が低下する患者も増加してきた.なかでも高齢患者では頻回通院と治療費が大きな負担となるので,治療間隔やいつまで継続するかをよく考える必要がある.一般的に,抗VEGF治療の臨床試験は視力が0.1~0.5程度の治療歴のない患者を対象に行われ,それらの症例における治療レジメと視力予後は多数報告されている.しかし,視力が0.1未満の患者の治療レジメや効果に関する前向き比較対照研究は筆者らの知るかぎりはない.そこで,本稿では当科の現状を紹介し,低視力者のロービジョンケアについて簡単に触れる.抗VEGF治療にもかかわらず視力が高度に低下する場合CNVが網膜色素上皮層を越えて感覚網膜下に進展(2型CNV)すると,出血・滲出によって視細胞は高度に破壊されて急激な視力低下を生じる.さらに,抗VEGF治療で出血・滲出が軽快しても,CNVの線維化が進むために感覚網膜下に瘢痕組織が形成されて視細胞は消失する.抗VEGF治療で0.1未満の視力になる症例は,このように2型CNVから瘢痕病巣に至ったものが多い.過去に老人性円盤状黄斑変性とよばれた病態である.また,大きな漿液性網膜色素上皮.離(retinalpigmentepithelialdetachment:PED)を伴う眼では,治療によるCNVの収縮で網膜色素上皮裂孔が形成されると急激に線維化が進む.このとき,瘢痕組織が中心窩下にできれば高度の視力低下に至る.線維性瘢痕のある眼では治療による視力改善は困難だが,中心窩に網膜内液(intraretinal.uid:IRF)が再燃したときや,瘢痕病巣辺縁に活動性CNVが発生した場合は治療対象となる.(75)網膜色素上皮と視細胞が萎縮して地図状萎縮に至った場合は治療対象にならない.中心窩の感覚網膜下瘢痕組織により視力が低下した眼に対する治療対象眼がラストアイか否かで対応が変わる.①僚眼の視力も不良な場合は,少しでも対象眼の見え方を維持・改善するために治療を継続する.②僚眼の視力が良好な場合は,患者が生活上どの程度の見え方を望むかをよく聞き,予測される治療効果を説明したうえで,基本的には患者の希望に従う.たとえば,僚眼の視力が良好で対象眼の視力が0.1以下の場合,僚眼の視機能で日常を過ごしていると考えられ,不良眼の視力が多少下がっても実際の生活には変化はないので,その旨を説明して積極的には治療を勧めない(図1).しかし,筆者らの経験では,患者はさらなる悪化を恐れて治療継続を望む傾向にある.また,なかには片眼が低視力でも両眼で見ているほうが歩きやすいという患者がいるので,実際に抗VEGF治療を試し,治療後にどの程度の効果が実感できたかを患者に尋ねて今後の治療を考えることがある.ただし,強い変視のために対象眼を遮蔽したほうが楽になるという患者もおり,この場合は治療を行わない.このように,不良眼の必要度が患者によって異なるので,本人の考えをよく聞くことが重要である.低視力眼は必要時治療(prorenata)で対応されるのが一般的と思われる.治療は二つの場合に行う.一つは線維性瘢痕組織に接した感覚網膜内にIRFが再燃した場合で,視力が低下したり,視力は不変でも患者は自覚的悪化を訴える(図2).多くは抗VEGF治療でIRFが軽快し,自覚的に改善する.ただし,比較的短期間で再発する場合が多く,その都度患者の考えを聞きながら治療を継続する.IRFが軽快しない場合は,慢性化して.胞様変性に至っていると考えられ,治療を継続しても効果はない.もう一つは,線維性瘢痕病巣の辺縁に活動性のCNVが発生した場合である.瘢痕病巣の辺縁に網膜あたらしい眼科Vol.39,No.10,202213670910-1810/22/\100/頁/JCOPY右眼左眼左眼図1症例1(76歳,男性)右眼は.brovascularPEDがあるが滲出性変化はなく,矯正視力は0.8,左眼は中心窩に線維性瘢痕組織があり矯正視力は0.08である.1年ぶりの受診で,左眼視力は前年の0.2から大きく低下しているが,本人は悪化に気づいていない.すなわち,日常生活は右眼の視機能に依存していると考えられ,左眼の治療は行わなかった.OCTは水平断.右眼b図3症例3(84歳,男性)右眼はminimallyclassictypeの典型AMDで,初診から7年余りの間にアフリベルセプト硝子体内注射を19回施行した.徐々に線維化が進行し,矯正視力は0.4から0.2に低下したものの,前回の治療から1年間病態は鎮静化していた.しかし,再診時に瘢痕病巣の下方辺縁部に出血性PEDと網膜下出血が出現した(a,b:).OCTはaの→に沿う断層.この角膜上皮.離部位にレーザー光凝固(c:)とアフリベルセプト硝子体内注射を施行した.下出血が出現したり,ポリープによる橙赤色隆起病巣や出血性PEDが発生する(図3).再発CNV自体は中心窩外にできるので視力は変化しないが,ときに大出血を生じて完全に失明する患者もいるので治療を勧めている.とくに抗凝固薬・抗血小板薬使用例や高血圧患者で,大出血を生じた経験がある.病巣は中心窩外に位置するのでレーザー光凝固と抗VEGF薬の併用治療を行うことが多い.通常は1回の治療で治まり,その後は経過観察を継続する.1368あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022図2症例2(67歳,女性)左眼の抗VEGF治療を9年にわたって繰り返すも徐々に病状が進行し,矯正視力は0.15である.右眼矯正視力は1.2.約2カ月後に網膜内液(IRF)が増加し,視力は変わらないが本人はぼやけの悪化を訴えた.アフリベルセプト硝子体内注射の1カ月後IRFは減少した.視力は0.1だが,本人は見やすくなったと述べる.OCTは水平断.ロービジョンケアの実際加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対するロービジョンケアの詳細は本セミナー「抗VEGF療法とロービジョンケア」1)をお読みいただきたい.本稿では筆者らの施設における要点だけを述べる.1)ニーズの確認:読み書きのニーズが高いので,読みたい字の大きさを確認する.2)視機能評価:遠・近見視力測定,Humphrey視野検査やAmslerチャート検査で暗点の位置と大きさを確認し,MNREAD-Jチャートで臨界文字サイズと最大読書速度を測定する.3)エイド合わせ:①眼鏡処方.一般的には単焦点レンズを薦める.②補装具紹介.希望の文字サイズと臨界文字サイズから必要な倍率を計算し,拡大鏡(Eschenbachなど)を処方する.電子ルーペ(クローバー,iPadなど)も有用だが,高齢者の使用実績は少ない.拡大読書器は読書に集中したい人に有用である.対象物に近づいてみると中心暗点は小さくなり見やすくなる.その際には頭の影にならないように照明を工夫する.ライト付き拡大鏡が喜ばれる.4)遮光眼鏡:光による酸化ストレスがAMDの発症要因の一つと考えられるので,進行抑制目的で遮光眼鏡を処方する.通常は晴れた日の屋外用を作る.帽子や日傘と併用するように指導する.5)福祉制度の紹介:身体障害者手帳の申請を行う.文献1)斉之平真弓:抗VEGF療法とロービジョンケア.あたらしい眼科35:1093-1094,2018(76)

緑内障:緑内障患者の黄斑疾患に対する硝子体手術

2022年10月31日 月曜日

●連載268監修=福地健郎中野匡268.緑内障患者の黄斑疾患に対する寺島浩子新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野硝子体手術緑内障を合併した黄斑疾患の硝子体手術においては,諸々の問題点を考慮に入れておく必要がある.手術適応の判定や黄斑視野への影響,術後の眼圧管理,手術手技として内境界膜.離を併施するかどうかなど,黄斑疾患だけでなく緑内障の術後管理も含めたマネージメントを要する.●はじめに黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)や黄斑円孔は黄斑部の機能形態異常であり,硝子体手術が広く行われている.とくに黄斑疾患のなかでもCERMはC2~10%と高い有病率である1).また,加齢に伴い緑内障の有病率も上昇し,緑内障のC10%以上にCERMを合併しているとの報告もある2).近年,硝子体手術はC20ゲージ(G)の時代からC25,27Gへと小切開硝子体手術が主流となっている.より低侵襲な手術操作が可能なことから,緑内障合併眼に対しても結膜温存をはじめとしたメリットがあると思われる.また,内境界膜(internalClimitingmembrane:ILM).離術はCERMや黄斑円孔の標準術式となっており,ERMの再発を予防し,円孔の閉鎖率向上に寄与している.一方,最近緑内障合併眼の硝子体手術後に視野の悪化が報告されてきており,ILM.離の是非についての議論が高まってきている.C●緑内障眼における硝子体手術の問題点Leeらは年齢をマッチさせた落屑緑内障眼C211例中40例(19.0%)にCERMがあり,原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleglaucoma:POAG)眼C4.1%,正常眼C2.4%にCERMがあったと報告している.さらにERMが緑内障の視野変化により影響を与えていたとのことである3).高齢化に伴い,緑内障眼に対する硝子体手術の機会は今後増加すると思われる.そこで,緑内障眼における硝子体手術およびCILM.離の諸々の問題点について考えてみる.C●硝子体手術適応の判定まず一つ目として,硝子体手術の適応の判断がむずかしいことがあげられる.中心まで視野障害が及んだ緑内障に黄斑疾患が重複すると,視野の進行が緑内障によるものか,黄斑疾患の影響によるものか判定しづらい場合がある.近年,緑内障眼の網膜内層の光干渉断層計(73)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(opticalCcoherencetomography:OCT)所見における構造変化が多数報告されている.緑内障の重症度を検出するために,黄斑部の神経節細胞層の菲薄化が評価されるが,ERMによるアーチファクトの影響を受けることが問題となる2).また,自覚症状のおもな原因が緑内障によるものか,ERMに関するものか判定しづらく,硝子体手術の治療効果が果たしてあるのか否か,手術適応の判断に苦慮する場合もある.さらに緑内障合併CERMは術後視力の改善度が低いことが知られている4).術前に患者に視力予後も含めて十分な説明が必要である.C●硝子体手術後の眼圧変化次に,緑内障眼の硝子体手術後は,眼圧のコントロールが不良となるケースがある.とくに強度近視のCPOAGでは術後の高眼圧をたびたび経験する.図1にCPOAGに層状黄斑円孔を合併した患者の術後経過を提示する.進行した緑内障で重度の中心視野障害を呈しており,本人は視力低下と歪視の自覚があった.ILM.離を併用したC27G硝子体手術後,2週間を過ぎたあたりから眼圧はC30CmmHg以上に上昇し,点眼,内服でコントロールがつかず,結局トラベクレクトミーを要した.結果,最終視力は低下し中心視野は硝子体手術前より悪化し,本症例においては硝子体手術が緑内障に悪影響を与える結果となった.緑内障合併眼は術前の黄斑形態や視機能の評価に加えて,術後の眼圧管理も含めて十分慎重に手術適応を判定していく必要がある.C●緑内障眼に対するILM.離の取り扱い術前に緑内障とわかっている場合,黄斑疾患の手術の際にCILMを温存すべきか,.離したほうがよいのか,悩ましいところである.ILM.離は,非緑内障眼においても神経節細胞複合体の菲薄化や視野感度低下を助長する可能性がある5).Tsuchiyaらは,緑内障を合併したERMと非緑内障のCERM33眼の術後を比較すると,ILM.離を行った緑内障眼のほうが鼻側外側の視野のあたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C1365図1代表症例67歳,男性.左眼原発開放隅角緑内障+層状黄斑円孔に対してC27G硝子体手術+内境界膜.離を施行.Ca~d:HFA10-2の術前後の変化.1年で中心視野はかなり狭窄した.Ce,f:マイクロペリメトリーの術前後の変化.Cg,h:OCTの術前後の所見.術後も層状黄斑円孔の残存がみられる.悪化が有意に認められたと報告している6).ILM.離による視野に影響を受けやすいリスク因子は,中等度以上緑内障,強度近視,高齢,眼圧コントロール不良等が報告されている6).また,黄斑形態の特徴では,進行したERM,とくに網膜内層不整や網膜分離を伴ったCERMや偽黄斑円孔タイプ7)や中心窩網膜.離を伴う近視性牽引黄斑症は,術後に視野障害が助長されるリスクが高いと思われる.進行した緑内障合併黄斑疾患に対するILM.離は視野悪化の一因となると考える.しかし,一律にCILMを温存することは,ERM再発のリスクを高め,その結果かえって視力低下,再手術の必要性が高まるデメリットがある.そこで進行した緑内障眼に対して,筆者らの施設では新しい試みを行っている.術前のマイクロペリメトリー(MP-3を使用)の黄斑視感度の結果をもとにCILM.離範囲を計画する.絶対暗点の場所からCERMもはがしはじめ,絶体暗点と正常に近い視感度領域のみにCILM.離を行い,感度が低下している領域はできるだけCILMを温存する方法である.長期成績をみて術式の効果判定を行うべきであるが,短期成績はおおむね良好な結果が得られている(図1).緑内障合併黄斑疾患のCILM.離を含め,硝子体手術の適応は緑内障の重症度やリスクファクターを十分考慮して症例ごとの検討が必要であると考える.文献1)XiaoCW,CChenCX,CYanCWCetal:PrevalenceCandCriskCfac-torsCofCepiretinalmembranes:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCpopulation-basedCstudies.CBMJCOpenC7:C1-10C20172)AsraniS,EssaidL,AlderBDetal:Artifactsinspectral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCmeasurementsCinCglaucoma.JAMAOphthalmol132:396-402,C20143)LeeJY,SungKR,KimYJ:ComparisonoftheprevalenceandCclinicalCcharacteristicsCofCepiretinalCmembraneCinCpseudoexfoliationCandCprimaryCopen-angleCglaucoma.CJGlaucomaC30:859-865,C20214)KoY-C,ChenY,HuangYetal:Factorsrelatedtounfa-vorableCvisualCoutcomeCafterCidiopathicCepiretinalCmem-branesurgeryinpatientswithglaucoma.Retina42:712-720,C20225)TerashimaH,OkamotoF,HasebeHetal:Vitrectomyforepiretinalmembranes:GanglionCcellCfeaturesCcorrelateCwithCvisualCfunctionCoutcomes.COphthalmolCRetinaC2:C1152-1162,C20186)TsuchiyaCS,CHigashideCT,CUdagawaCSCetal:Glaucoma-relatedCcentralCvisualC.eldCdeteriorationCafterCvitrectomyCforCepiretinalmembrane:topographicCcharacteristicsCandriskfactors.Eye(Lond)C35:919-928,C20217)TerashimaCH,COkamotoCF,CHasebeCHCetal:EvaluationCofCpostoperativeCvisualCfunctionCbasedConCtheCpreoperativeCinnerlayerstructureintheepiretinalmembrane.GraefesArchClinExpOphthalmol259:3251-3259,C20211366あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022(74)

屈折矯正手術:ICL後の Toxic Anterior Segment Syndrome

2022年10月31日 月曜日

●連載269監修=稗田牧神谷和孝269.ICL後のToxicAnteriorSegment中村友昭名古屋アイクリニックCSyndromeICLの術後早期に眼内炎を認めた場合は,感染とともにCtoxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)を疑う必要がある.両者の鑑別は容易ではないが,臨床所見より早めに診断し,TASSの場合はただちにステロイド治療を開始する.その多くは軽快するが,炎症が遷延化する場合は迷わずCICLを摘出する.●はじめに2019年までの一時期,後房型有水晶体眼内レンズ(implantableCcollamerlens:ICL)の術後眼内炎が日本各地で散見された.その経過,病態から,感染ではなくCtoxicCanteriorsegmentCsyndrome(TASS)と報告された1).TASSとはおもに白内障手術後に発症し,「術中に前房内に混入した物質により起こる無菌性眼内炎」と定義されている2).その起炎物質としては塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤,消毒薬,エンドトキシン,眼内レンズの残留研磨剤などがあげられ,米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration)も単回使用のさまざまな医療器具や薬剤などに対し,製造会社が遵守すべきエンドトキシンの測定に関するガイドラインを定めている.感染性眼内炎との鑑別は困難ではあるが,その多くは術翌日からC3日目の早期に発症し,疼痛を伴わず,炎症は前房内に留まることが多く,ステロイド治療が奏効する.ICL後のCTASSに関しては最近少数例の報告3,4)があるものの,これまであまり問題とはされてこなかった.国内C12施設で連続発症したCICL術後の眼内炎C24眼(うちC1眼は当院),およびその後当院にてCICL術後のC6眼に眼内炎の連続発症を経験したので,その経過もあわせて報告する.いずれの患者も幸いにして最終的には軽快し,良好な視力を回復した.C●症例26歳,女性.眼,全身とも既往歴なし.名古屋アイクリニックにて両眼CICL手術を施行し,術中とくに問題はなかった.手術当日,就寝時は視力良好で問題なかったが,翌朝起きると両眼とも強い霞を自覚.痛みや充血はなかった.受診時の細隙灯顕微鏡所見として,両眼とも前房内炎症が非常に強く,瞳孔領内はフィブリンで図1術翌日の前眼部所見(右眼)前房内炎症が非常に強く,瞳孔領内はフィブリンで覆われ,前房蓄濃がある.図2術翌日の前眼部所見(左眼)軽度の毛様充血と角膜浮腫がみられ,ICLのCholeがフィブリンで埋まっている.(71)あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C13630910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1TASSと感染性眼内炎の違いTASS感染性眼内炎発症翌日~3日3~7日眼痛-~±+++硝子体炎網膜血管炎-~±++ステロイド著効不良覆われ,ICLのCholeがフィブリンで埋まっていた.前房蓄濃とともに軽度の毛様充血と角膜浮腫を認めた(図1,2).視力は右眼C0.6(矯正C0.7),左眼C0.3(矯正C0.5),眼圧は右眼C13.6mmHg,左眼C10.1CmmHgだった.症状,所見から感染よりCTASSを強く疑い,ただちに前房洗浄を施行し,抗菌薬とともにステロイド治療(点眼および眼軟膏,内服)を強化した.翌々日よりステロイド治療が奏効し炎症は軽減した.視力も右眼C2.0,左眼C1.2へ改善し,ステロイドも漸減した.しかし,2週目に炎症が再燃.その後,改善するも,3週目に炎症が再燃したため,ICLを抜去した.その後炎症は収まった.角膜内皮細胞密度は右眼C3,185/mmC2,左眼C2,915/Cmm2で,術前と変わらなかった.水晶体,網膜などにも異常は認められなかった.C●感染性眼内炎との鑑別TASSとの鑑別でもっとも重要なものは,感染性眼内炎である.白内障術後の感染性眼内炎は一般に術後C3~7日目に発症し,強い疼痛を伴い,硝子体炎や網膜血管炎など後房にも炎症が及び,ステロイドには反応せず,転帰は不良である(表1).また,まれではあるが遅発性眼内炎も起こりうる.その起炎菌としてはCPropionibacC-teriumacnesがもっとも多く,発症は術後C2~10カ月(平均C4カ月)に,順調な経過を示していた手術眼に突然虹彩毛様体炎を生じるもので,多くは豚脂様角膜後面沈着物を認める.前房蓄膿を伴うこともある.硝子体混濁は初期には認めないが,炎症の遷延化に伴って突如増強する場合がある.Allanらの報告5)によると,ICL後の術後眼内炎の発症頻度はC0.0167%(およそC6,000眼にC1眼)で,通常の白内障手術に比べても少ない.いずれも急性眼内炎であり,原因菌は表皮ぶどう球菌であり,水晶体というバリC1364あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022アが温存されているためその転帰は良好と報告されている.遅発性眼内炎の報告はない.C●対処法ICL術後の強い炎症はまれではあるが,もし遭遇した場合は,初期は感染性の可能性も考慮し,抗菌薬とともにステロイドの点眼,内服,結膜下注射などを行う.また,その程度に応じて前房内洗浄を行うこともよいかもしれない.その後の反応をみて,後房に炎症が及ばず,炎症が軽減するようであれば,TASSとの判断でステロイド治療を強化する.炎症が軽減しないようであれば,いったんCICLを摘出することがより安全な対処法であると考える.連続発症後,再発防止のため,当院ではCIA器具をディスポーザルにした.また,オートクレーブも見直し,タンク内の水を蒸留水とし毎回入れ替えることとした.その後CTASSは発症していない.C●おわりにICLは近年,合併症リスクも軽減し,幅広く使用されるようになってきたが,レーシックと違い,内眼手術であるがゆえに,いったん合併症が起こると患者だけでなく,われわれ医療者にも大きなダメージとなる.また,ICL手術の対象のほとんどが若い世代である.そのことを常に念頭に置き,安易に考えず,周術期の安全対策には万全を期して手術をすべきと考える.文献1)中村友昭:ICL挿入後の中毒性前眼部症候群(TASS).眼科手術C33:547-551,C20202)Hernandez-BogantesE,NavasA,NaranjoA:Toxicante-riorsegmentsyndrome:Areview.CSurvOphthalmolC64:C463-476,C20193)Hernandez-BogantesE,Ramirez-MirandaA,Olivo-PayneA:ToxicCanteriorCsegmentCsyndromeCafterCimplantationCofphakicimplantablecollamerlens.IntJOphthalmolC12:C175-177,C20194)SinghCA,CGuptaCN,CKumarCVCetal:ToxicCanteriorCseg-mentsyndromefollowingphakicposteriorchamberIOL:Cararity.BMJCaseRepC11:bcr2018225806,C20185)AllanCBD,CArgeles-SabateCI,CMamalisN:EndophthalmitisCratesafterimplantationoftheintraocularCollamerlens:CsurveyCofCusersCbetweenC1998CandC2006.CJCCataractCRefractSurg35:766-769,C2009(72)

眼内レンズ:低加入度数分節型眼内レンズの偏心による近視化

2022年10月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋431.低加入度数分節型眼内レンズの柴田哲平金沢医科大学眼科学講座偏心による近視化低加入度数分節型眼内レンズ「レンティスコンフォート」(以下,LC)は分節型構造による特有の合併症が生じる可能性がある.本稿ではLCの偏心により近視化を生じ,偏心の補正により屈折が正常化した2症例を経験したので提示する.●はじめにレンティスコンフォート(以下,LC.参天製薬)は,単焦点レンズを分節型に組み合わせた構造の眼内レンズ(intraocularlens:IOL)であり,遠方から中間距離までの広い明視域が得られる保険適用の多焦点IOLである.遠用部の下方に扇状の中間部領域が配置されているため,IOLが偏心すると瞳孔領に占める遠用部と中間部領域の比率が変化し,屈折値の変化をきたすことがある.IOL偏心により著明な近視化を生じた2症例を提示する.●症例1患者は78歳の女性.両眼の白内障に対し-1.0D狙いとして水晶体再建術を行い,両眼にLCを挿入した.術後1週間目の診察において,視力は右眼0.2(1.2×-2.5D),左眼0.9(1.2×-0.75D(cyl-0.5DAx20°)と右眼が目標屈折値より-1.5D近視化していた.上方に位置する遠用部領域側の支持部が.外固定となっており前房深度は右眼3.63mm,左眼3.95mm,偏心は右眼0.80mm,左眼0.09mm,傾斜は右眼8.1°,左眼4.9°であり,右眼の浅前房化,上方への偏心を生じていた(図1a).浅前房化および偏心により中間部領域が瞳孔中心に移動したための近視化と考え,術後8日目に右眼のIOL整復を施行した.右眼術後の前房深度は3.91mm,偏心0.11mm,傾斜5.4°に改善し(図1b),視力も右眼0.6(1.2×-1.0D)と狙いどおりの屈折値となった.●症例2患者は66歳の男性.両眼の白内障に対し正視狙いで水晶体再建術を行い,両眼にLCを挿入した.術後1週(69)0910-1810/22/\100/頁/JCOPYab図1症例1の左眼初回手術後(a)とIOL整復術後(b)の前眼部OCT所見および徹照画像a:左眼IOLは0.80mm上方に偏心し,上方光学部が前方に8.1°傾斜していた.徹照像では上方の支持部がCCC縁の上にあり,上方支持部が.外固定になっていることがわかる.b:左眼IOL整復により,偏心は0.11mm,傾斜は5.4°と改善し,前房も深くなっている.徹照像ではCCC縁が全周で光学部をカバーしており,上方支持部も.内固定になっていることがわかる.間目の視力は右眼0.4(1.0×-1.0D),左眼1.2(1.5×-0.25D(cyl-0.5DAx70°)と右眼に近視ずれを生じていた.前房深度は右眼3.00mm,左眼2.98mm,偏心は右眼0.96mm(遠用部領域方向に偏心),左眼0.12mm,傾斜は右眼2.4°,左眼3.8°であり,右眼にIOLの偏心を認めた(図2a).初回手術から2週間後に偏心の原因検索およびIOL整復目的で再手術を施行した.術中鼻側上方のIOL支持部が赤道部より.外に脱出していることが確認されたため,支持部を.内に戻し,わずかに回旋して整復を終了した.術翌日,右眼のIOL偏心は0.11mmと著明に改善し(図2b),右眼視力は1.2(1.5×-0.5D)と0.5D遠視化し,裸眼視力は改善した.あたらしい眼科Vol.39,No.10,20221361ab図2症例2の右眼初回手術後とIOL整復術後の前眼部OCT所見および徹照画像a:右眼IOLは両側の支持部ともに.内固定であったが,鼻側上方に0.96mm偏心しており,徹照像でも大きく偏心していることがわかる.b:右眼IOLは2時方向で支持部が破.した赤道部水晶体.から脱出していたので,回転し.内に整復した.IOLの偏心は0.11mmと改善し,徹照像で偏心が改善していることがわかる.●LCで偏心が生じた場合の注意点と対処LCは遠用部と中間部領域に1.5Dの屈折力差(角膜面で1.06D)があるため,偏心により中間部領域が瞳孔中心を占めると目標屈折値より-1D前後の近視ズレを生じ,遠用部領域がおもに瞳孔中心を占めると中間部領域が使用されないため単焦点IOLとほぼ同等の明視域となる.偏心の要因としてもっとも多いと考えられるのは,片側の支持部が.外固定の状態で手術を終了した場合である.術中視認性のよい先行支持部(中間部領域側)は.内固定されることが多いが,後方支持部(遠用部側)は.内固定をしっかり確認しないと症例1のように.外固定で手術が終了してしまう可能性がある.多くの場合,図3IOL裏面のOVD抜去時のIOLの偏心(他症例)IOL裏面のOVDを抜去するときにIOLが大きく偏心すると,支持部が赤道部を圧迫し破.することがあり,注意を要する.この症例では.の距離だけ偏心している.IOLは遠用部側に偏心するため,瞳孔中心を中間部領域が占める面積が増えることにより近視化を生じる.さらに片側の支持部が.外固定である分,IOLは前房側に傾斜するため浅前房となり,さらに近視ズレが強くなる.また,LCは対角線方向の長径が11mmの大きなプレート型であるため,IOL裏面の粘弾性物質抜去時やIOL回転時に水晶体.赤道部やZinn小帯に大きなストレスがかかり(図3),症例2のような破.やZinn小帯断裂を生じる可能性がある.ワンピースIOL挿入時より大きめの連続円形切.(continuouscircularcapsulorhexis:CCC)の作製は,LCの安全な.内挿入およびIOL後方の粘弾物質抜去時のIOL偏位が少ないため有用である.自覚的屈折値が-1D前後近視ずれした場合や中間部領域が生かされず明視域が狭くなっている場合はLCの偏心を疑い,極大散瞳下でIOL偏位について検査することが重要である.LCは親水性IOLであるため水晶体.との癒着は疎水性IOLに比べ弱く,IOLの整復は容易である.

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 ハードコンタクトレンズは必要か

2022年10月31日 月曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療2.ハードコンタクトレンズは必要か糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科■はじめに過去C15年の間に,わが国のコンタクトレンズ処方におけるハードコンタクトレンズ(HCL)が占める割合は激減した1).そのため,以前と比較して,HCLの処方経験を積みにくくなっている.HCL処方が減った要因として,レンズ素材やデザインの進歩に伴って,乱視用レンズなどを含めたソフトコンタクトレンズ(SCL)の性能が向上し,SCLの適応が拡大していることがあげられる.HCL処方枚数の減少と並行してCSCL処方量は爆発的に増加しており,HCLはCSCLにとって代わられようとしている(図1)1).しかし,HCLはCSCLでは得がたいメリットを有しており,適応をみきわめることができれば有用な選択肢となる.本項ではCHCLのメリット・デメリットを解説する.C■メリットその1:優れた光学性HCLは素材内に水分をほとんど含まないため,屈折面が安定し光学面精度が高くなる.そのためCHCLは光学性に優れており,SCLに比較してクリアな視界を得ることができる.HCLの高い光学面精度は,不正乱視や強度乱視を有さない患者にも有用であり,HCLはSCLに比較して良好なコントラスト感度を得ることができる.実際に,HCL装用者がCSCLに変更した際に,視力は変わらないにもかかわらず「なんとなく見づらい」という愁訴が出ることは多い.また,コンタクトレンズ初装用となる患者に処方する際に,HCLとCSCLの見え方の差からCHCLを選択する場合は少なくない.光学性に優れた屈折矯正手法として,見え方にこだわりの強い患者に対してはCHCLも選択肢の一つとして考えたい.C■メリットその2:乱視矯正HCLは剛性が高く,角膜上で形状が保たれるため,角膜乱視を矯正することが可能である.乱視矯正には乱視用CSCLも有効な選択肢となるが,その矯正範囲には(67)視覚再生機能外科学道玄坂糸井眼科%5045403530252015105020032004200520062007200820092010201120122013201420152016年レンズの種類別CLの処方割合図1日本におけるコンタクトレンズの種類別の処方割合ハードコンタクトレンズ(HCL)は減少傾向を示す一方,1日使い捨て型ソフトコンタクトレンズ(SCL)は増加傾向にある.(文献C1より改変引用)限界がある.そのため,-3.0Dを超える近視性乱視や,斜乱視,遠視性乱視,角膜不正乱視では,十分な矯正効果が得られないため,HCLがよい適応となる.とくに角膜形状異常に伴う角膜不正乱視は,眼鏡やCSCLでの矯正が困難であり,非外科的治療としてCHCLが第一選択となる(図2).C■メリットその3:高い安全性HCLはCSCLに比較して安全性が高い.その理由としては,角膜低酸素の危険性が低いこと,レンズ下に迷入した異物の排除が容易なこと以外に,レンズに異物が付着しにくいことがあげられる.重症角膜感染症のおもな原因である緑膿菌・アカントアメーバは,SCLに比較してCHCLに付着しにくい2.3).わが国で行われた感染性角膜炎全国サーベイランスと重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査の結果では,1日使い捨て(終日装用)SCLがそれぞれC19例(7.5%)とC26例(7.4%),2週間交換型CSCLがそれぞれC43例(16.9%)とC196例(56.0%)を占めた一方で,HCLはC13例(5.1%)とC17例(4.9%)を占めたのみで,HCLは重症角膜感染症が比較的生じにくい可能性が示唆された4.5).HCLであっても過信は禁物であり,安全に使用するには適切なレンあたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C13590910-1810/22/\100/頁/JCOPYHCL涙液角膜裸眼(不正乱視)HCL装用時図2ハードコンタクトレンズ(HCL)の光学性HCLを装用することで光学第一面が整った球面となり,外から来た光がきれいに屈折し,網膜に正しく結像するようになる.ズケアが必須だが,SCLよりは安全といえる.また,角膜低酸素の危険性が低いことから,強度近視などのレンズが分厚くなる患者もCHCLがよい適応となる.C■デメリットその1:初期装用感の不良HCLはCSCLに比較して装用開始初期における異物感が生じやすく,HCLが敬遠される一因となっている.装用初期の異物感は,HCLの上下運動に伴う角膜との摩擦が原因と考えられており,角膜知覚が鋭敏な若年者,直径の小さなCHCLの装用者でとくに強い.この異物感は,一定時間の装用を毎日継続できれば,装用開始後約C2週間程度で大幅に改善する場合がほとんどである.しかし,一部にはこの異物感が継続し,HCLの装用中止に至ることもある.そのため,機会装用者や異物感が持続する装用者についてはCHCLはよい適応とならず,SCLや眼鏡による矯正を検討したい.C■デメリットその2:環境による制限HCLは外気・作業などの装用環境によって装用が大きく制限されるというデメリットがある.まず,レンズ下に異物が入りやすいCHCLは埃や強風などの環境には適していない.また,HCLを自ら操作できない状況が続く長距離運転手などの職業は,レンズが偏位した際に直すことができないため,HCLは適さない.格闘技やサッカーなどの接触を伴うスポーツではCHCLが脱落する危険性が高く,SCLがよりよい適応と考えられる.一方,精度の高い視力を必要とする弓道や射撃などのスポーツでは,光学性の差からCHCLが有利となる場合もあり,「スポーツ=SCL」ではないことに注意したい.C■おわりに一般にコンタクトレンズの適応には絶対的なものはなく,状況に応じた柔軟な判断が必要である.しかし,HCLのメリット・デメリットは上述のように比較的明確であり,患者の職業や生活,ニーズをしっかりと聴き取ることができれば,その適応をみきわめるのは決してむずかしくない.適応をしっかりと理解し適切な処方を行うことで,HCLの唯一無二のメリットを活用した,満足度の高いコンタクトレンズ診療を行いたい.文献1)ItoiM,ItoiM,EftonNetal:Trendsincontactlenspre-scribingCinJapan(2003-2016)C.CContCLensCAnteriorCEyeC41:369-376,C20182)RenDH,YamamotoK,LadagePMetal:Adaptivee.ectsof30-nightwearofhyper-O2CtransmissiblecontactlensesonCbacterialCbindingCandCcornealepithelium:AC1-yearCclinicaltrial.Ophthalmology109:27-39,C20023)SealCDV,CBennettCES,CMcFadyenCAKCetal:Di.erentialCadherenceCofCAcanthamoebaCtoCcontactlenses:e.ectsCofCmaterialcharacteristics.OptomVisSciC72:23-28,C19954)感染性角膜炎全国サーベイランススタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,C20065)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,C2011

写真:Alport症候群に合併した前部円錐水晶体

2022年10月31日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦461.Alport症候群に合併した前部円錐水晶体加藤久美子三重大学大学院医学系研究科臨床医学系眼科学図2図1のシェーマ水晶体の突出(C..).図1初診時の前眼部写真水晶体の中央が突出している.図3初診時の波面収差解析OPD-Scan(ニデック)を用いて波面収差解析を行った.角膜収差は認められなかったが(左側),全眼球収差が増大していた(右側).図4Oildroplet像手術顕微鏡下で認められたCoildroplet像.図5前.切開時の異常所見水晶体突出している部位(10~12時)の水晶体.が脆弱で,ところどころに亀裂を生じた().(65)あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C13570910-1810/22/\100/頁/JCOPYAlport症候群は,IV型コラーゲンのa3鎖,a4鎖,a5鎖蛋白のいずれかの遺伝子変異に起因する進行性遺伝性腎症である1).IV型コラーゲンは眼ではおもにBowman層,Descemet膜,水晶体.,網膜内境界膜,そしてCBruch膜に発現している2).そのため,Alport症候群に合併する眼病変は,角膜,水晶体,網膜に生じる.前部円錐水晶体は,Alport症候群においてもっともよくみられる特徴的な眼病変であるが,後部円錐水晶体を呈する場合もある.円錐水晶体はC20~30代で明らかになることが多く,頻度は常染色体劣性(潜性)型でC80~100%,X連鎖型で約C30%と報告されている1).IV型コラーゲンの異常で水晶体.の菲薄化,脆弱性があるところに,調節に伴う水晶体へのストレスが加わることで円錐水晶体が形成されると考えられている.手術時に摘出した前.を電子顕微鏡で観察したところ,水晶体.に対し垂直方向の亀裂が観察されたとの報告もある3).進行した前部円錐水晶体では,細隙灯顕微鏡検査で水晶体.の突出を確認することができる.網膜からの徹照を利用すると,油滴のような像(oildroplet像)を観察することができる.波面収差解析装置,前眼部光干渉断層計を用いると軽度の円錐水晶体も評価可能である.治療は,前部円錐水晶体の進行に伴う屈折異常を矯正する目的で水晶体再建術が行われる.本疾患では水晶体.が脆弱であるため前.切開が困難である4).そのため,フェムトセカンドレーザーを用いて前.切開を行うという試みもなされている4).術後の視力回復は良好で,術後に水晶体.が断裂するなどの異常を認めたという報告はない.症例は,両眼の視力低下を主訴とするC50代男性である.初診時の矯正視力は右眼C0.2,左眼C0.15であった.細隙灯顕微鏡では左眼に顕著な前部円錐水晶体を認めたが(図1,2),水晶体の混濁は認めなかった.波面収差解析を行ったところ,全眼球収差は増大していたが,角膜収差はほとんど認められなかった(図3).前部円錐水晶体による屈折異常が原因で視力低下をきたしたものと考え,左眼に対し水晶体再建術を施行した.手術顕微鏡下で観察すると,水晶体.は中央部で突出し,oildrop-let像を呈していた(図4).水晶体.をCVisionBlueで染色し前.を攝子で把持して前.切開を行った.水晶体が突出している部位まで切.したところ,水晶体.が裂けはじめ,連続円形切.が完成する前に切れてしまった(図5).核硬度が低かったため,吸引のみで水晶体を除去し眼内レンズを.内固定した.術後の左眼矯正視力は1.0と良好である.前部円錐水晶体に対する水晶体再建術は非常に有効な治療法である.しかし前.切開に困難が生じる可能性が高く,前.染色を行うなど十分な安全対策を講じる必要がある.文献1)日本小児腎臓病学会編:眼病変.アルポート症候群診療ガイドラインC2017.p59~65,診断と治療社,20172)SavigeJ,ShethS,LeysAetal:OcularfeaturesinAlportsyndrome:pathogenesisCandCclinicalCsigni.cance.CClinCJCAmSocNephrol10:703-709,C20153)木全正嗣,水口忠,三宅悠三ほか:網膜と前.組織の異常を示したアルポート症候群のC1例.臨床眼科C74:721-728,C20204)BarnesCAC,CRothAS:FemtosecondClaser-assistedCcata-ractCsurgeryCinCanteriorClenticonusCdueCtoCAlportCsyn-drome.AmJOphthalmolCaseRepC6:64-66,C2017

高齢者の加齢黄斑変性

2022年10月31日 月曜日

高齢者の加齢黄斑変性Age-RelatedMacularDegenerationinAdvanced-AgePatients大音壮太郎*はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)もしくはwetAMDに対する治療法として,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注射が第一選択となっている.複数の大規模臨床試験で示されたように,頻回の治療・モニタリングを行った患者では視力の改善が見込めるようになった.しかし,実臨床において長期に改善された視力を維持することは,困難であることも明らかとなった.また,アジア人で多い表現型であるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)に対しては,抗VEGF併用光線力学療法(photo-dynamictherapy:PDT)の有効性も示されている.近年,ブロルシズマブ,ラニビズマブバイオシミラー,ファリシマブの三つの抗VEGF薬が使用可能となった.超高齢社会において,AMDは生涯にわたるマネジメントが必要な疾患であるが,長期経過で視力を維持するという観点において,個々の患者に対し,どのように抗VEGF療法やPDTを行うかを再考する時期にきているといえる.萎縮型AMDもしくはdryAMDは地図状萎縮(geo-graphicatrophy)が形成されるAMDである(図1).萎縮型AMDは白人に多くみられるタイプで,日本人を含むアジア人では萎縮型AMDの頻度が低かったが,近年このタイプのAMDも増加傾向にある.現在に至るまで萎縮型AMDに対する有効な治療法は存在しないが,図1萎縮型加齢黄斑変性(AMD)萎縮型AMDでみられる地図状萎縮は,眼底写真で境界鮮明な円形,楕円形で低色素,脱色素もしくはRPE欠損により,周囲網膜よりも鮮明に脈絡膜血管が透見できるもの(→)と定義される.黄斑部新生血管(macularneovascularization:MNV)を合併する患者も少なからず存在する.両眼性に萎縮型AMDが発生し,著明な視力障害をきたした患者には適切なロービジョンケアが必要である.本稿では,超高齢社会における滲出型・萎縮型AMDに対する最新のマネジメントについて紹介する.*SotaroOoto:大津赤十字病院眼科〔別刷請求先〕大音壮太郎:〒520-0046滋賀県大津市長等1-1-35大津赤十字病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(55)1347文字視力の変化15MARINA,ANCHORHORIZONSEVEN-UP1050-5-10-15-20図2SEVEN.UP試験MARINA:ANCHOR試験中(ラニビズマブ毎月投与)は視力の上昇がみられたが,HORIZON試験中(ラニビズマブ必要時投与)には視力の低下がみられ,その後の実臨床ではさらに視力の低下がみられた.(文献1より改変引用)文字視力の変化1086420ブロルシズマブ3mg(n=358)ブロルシズマブ6mg(n=360)アフリベルセプト2mg(n=360)BL4812162024283236404448525660646872768084889296週図3HAWK試験45%の症例がブロルシズマブ12週間隔で投与され,ブロルシズマブ投与群はアフリベルセプト8週間隔投与群に比べ,視力改善効果の非劣勢が示された.(文献7より改変して転載)文字視力の変化1411.6(10.3~12.9)*1210.9(9.6~12.2)*10.7(9.4~12.0)*8642010図4TENAYA試験ファリシマブは約45%の患者で16週間隔で投与され,ファリシマブ投与群はアフリベルセプト8週間隔投与群に比べ,視力改善効果の非劣性が示された.(文献9より改変して転載)-図5フルオレセイン蛍光造影での活動性所見早期像(Ca)に比べ,後期像(Cb)では蛍光漏出の拡大を認め,occultCNVを示す所見である.活動性ありと判断する.図6OCTでみられる.uidaではCintraretinal.uid,CbではCsubretinal.uid,CcではCsubRPE.uidを認める(→).CaではCsubretinalhyperre.ectivematerialを認める(C→).すべて活動性ありと判断する所見である.図7網膜下出血,網膜色素上皮下出血aのカラー眼底写真では網膜下に,Cbでは色素上皮下に出血を認める.OCTでは出血の表面は高反射となるが(→),出血の深部では信号がブロックされ低反射となる.新規の出血や出血の拡大は活動性ありと判断する.図8フルオレセイン蛍光造影での非活動性所見a(初期像),b(後期像)で過蛍光像を認めるが,漏出の拡大はなく,活動性なしと判断する.は組織染,は網膜色素上皮(RPE)の萎縮によるCwindowdefectである.Ccの眼底自発蛍光と見比べると,RPEの萎縮部位()がはっきりし,windowdefectと同定できる.図9線維瘢痕病巣線維瘢痕病巣は脈絡膜新生血管の存在を示唆する所見ではあるが,活動性に乏しいと判断する.図10萎縮瘢痕病巣萎縮瘢痕病巣は眼底自発蛍光で低蛍光となる.ときに萎縮瘢痕病巣内に.胞様変化(→)を認めることがあるが,網膜の変性所見と考えられ,活動性に乏しいと判断する.図11ドルーゼンと色素沈着多数の軟性ドルーゼンを認め,黄斑部では融合しCdrusenoidPEDとなっている.→は色素沈着で,将来のCAMD進行がハイリスクであることを示す所見である.OCTでは網膜色素上皮下に中等度反射像を認め,ドルーゼン物質を示す(C→).図12PseudodrusenPseudodrusenは黄斑部の上方にみられることが多く,軟性ドルーゼンよりやや白色で点状・網目状形態を示す(→).OCTでは網膜色素上皮上の高反射物質として同定される(→).Pseudodrusenは後期CAMD発症のハイリスク所見である.図13Calci.eddrusenCalci.eddrusenは光沢のあるドルーゼンで(→),OCTでは網膜色素上皮下に点状の高反射点を認める(→).Calci.eddrusenは地図状萎縮発生のハイリスク所見である.図14網膜内血管腫状増殖(RAP)aの眼底写真では網膜内出血を(C→),bのインドシアニングリーン蛍光造影ではChotspotを(C→),cのCOCTではCintraCretinalC.uid,CsubCRPE.uidとともに網膜内新生血管を示唆するCbumpCsign(C→)を認め,これらはCRAPの特徴的な所見である.Cbでは黄斑部上方にCpseudodrusenを示す低蛍光所見もみられる.RAPは両眼性に発症しやすく,RAPの僚眼はハイリスクである.C–

高齢者の網膜硝子体疾患

2022年10月31日 月曜日

高齢者の網膜硝子体疾患CommonRetinalDiseasesSeeninElderlyPatients宇治彰人*はじめに高齢者が視力障害を主訴に眼科を受診する機会は多い.白内障や緑内障などは高齢者の視力障害の原因として指摘することが多い疾患ではあるが,網膜硝子体疾患も単一の原因として,あるいは前述の疾患に混在して指摘することは意外と多い.とくに,黄斑疾患は,変視症や中心視野の見えにくさを訴える場合は診断が容易であるが,近年の非散瞳下に網膜の詳細を検査できる光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)や走査レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)の進歩・普及を背景に,このような典型的な症状を訴えない患者や軽症の状態においても発見される機会が多くなってきたことは,多くの眼科医が肌で感じていると思われる.視力障害のない軽症の網膜前膜(epireti-nalmembrane:ERM)はあまり問題にならないが,高血圧や糖尿病を背景にした眼底の病的変化の見落としは高齢者においてはときに致命的となる.このような全身疾患を事前の問診で把握している場合は診断が容易となるが,患者自身が知らなければ,当然未知の全身疾患の存在を申告するはずもなく,眼底所見を正確にもれなく指摘することは眼科医の重大な責務である.本稿では高齢者に好発する網膜硝子体疾患(加齢黄斑変性を除く)のマネージメントのポイントを解説する.I網膜前膜ERMは硝子体網膜界面に生じる膜状の細胞増殖で,特発性,続発性(macularpucker)に分けられる.後者の原因として網膜裂孔や網膜.離の治療後,ぶどう膜炎,網膜血管疾患,眼内腫瘍などがあげられる.ERMの肥厚,収縮に伴い,視力低下や変視症が生じるが,軽症の場合は自覚症状がなく,先述の通り偶然的に発見される場合も多い.根治療法として硝子体手術が有効であり,ERMを除去することで視力回復や変視症の軽減が得られる.II網膜の形態変化と視機能の関係OCTは網膜の層構造を詳細に観察することが可能であり,網膜硝子体疾患の診療においては必要不可欠である.網膜硝子体疾患の存在を疑う場合には必ず施行するべきである.強く疑う場合にのみ施行するのではなく,わずかに疑う場合にでも施行する.眼科医の検眼鏡検査よりもはるかに詳細に観察できるためであり,またそれを記録できるからである.鋭い観察眼をもつという個人的な主張はOCTを施行しないことの言い訳にはならない.ERMにおいてもOCTの観察は多くの情報をもたらす.たとえば,網膜内層はERMにおいては平行な縞模様が崩れ,弯曲する.この縞模様の変形はERMでは正常眼と比べて大きくなるばかりでなく,変視量と強く相関することがすでに示されている.また,術前の変形の程度が術後視力と相関し,網膜厚や外層障害よりも視力を予測できるパラメータであることもわかっており,術前の構造変化が術後視力を左右する可能性がある1,2).*AkihitoUji:宇治眼科〔別刷請求先〕宇治彰人:〒512-0923三重県四日市市高角町1556-1四日市メディカルビレッジ内宇治眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(47)1339図1網膜前膜のOCT中心窩における網膜外層に外層障害(cottonballsign)を認める.図2網膜前膜のカラーSLO画像(a)とその拡大画像(b).矢頭に囲まれた範囲にparavascularinnerretinaldetectを認める.-1.60.2立体感005101520253035眼内レンズ度数(D)図3Resight(Zeiss社)使用時の硝子体手術における眼内レンズ度数と拡大率,立体感の関係のシミュレーション結果60Dのフロントレンズ使用時の立体感は,水晶体と同様のC20Dの眼内レンズ挿入時と比較して,15Dの眼内レンズにおいてはC2割弱まる.0D(無水晶体眼)では約C6割も減ってしまう.図4糖尿病網膜症におけるOCTAa:新生血管の拡大図.Cb:硝子体出血を伴うCPDR症例の超広角走査型レーザー検眼鏡(OPTOS)の画像.Cc:bの症例の広角COCTA.人工知能を用いたCOCTA画像では混濁がある条件の不良な症例でもCOCTAは撮影可能である.図5糖尿病黄斑浮腫における網膜外層障害のOCTEllipsoidzoneや外境界膜が描出されておらず,高輝度粒子(hyperre.ecitvefoci)も多数認める(白枠内).害の程度も評価しておく(図5).外層障害がある場合には,治療によって浮腫が軽快しても十分な視力回復が得られない可能性が高いからである.CV網膜静脈閉塞症網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)は網膜静脈が閉塞することで循環障害をきたし,網膜出血,網膜浮腫を起こす疾患であり,網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO),網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinocclusion:BRVO),半側網膜静脈閉塞症(hemiretinalveinocclusion)を含む.C1.CRVO視神経内で網膜中心静脈が閉塞され,全象限に出血や網膜虚血を引き起こす疾患である.高齢者においては,高脂血症や糖尿病,高血圧などの疾患を背景に有することも多い.黄斑浮腫を起こしやすく,視力低下を招く.また,虚血型ではCNVGに移行する可能性が高く,緑内障で失明することもある.受診時には,黄斑浮腫による視力低下が主訴のこともあるが,視力低下に気がつかず,すでにCNVGが進んだ状態で,高眼圧による眼痛を主訴に受診するケースもある.治療としては,黄斑浮腫に対しては抗CVEGF薬の硝子体内注射を行う.NVGに対しては,PRPを十分に行う.受診時にすでに施行ずみでも,さらに密に追加する.薬物治療を追加しても眼圧下降が十分に得られない場合は,緑内障手術を検討する.非虚血型であっても虚血型に移行する可能性があるので慎重な経過観察が必要であり,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiog-raphy:FA)を定期的に行う.一方でCFAを繰り返し行うことは負担が大きい.OCTAにて無灌流領域や新生血管の評価を行うほか,周辺部網膜の斑状出血の大きさに注目して経過観察するのも有用である12,13).虚血型では虚血領域において斑状出血が大きい傾向があり,PRPのタイミングを評価できるからである.サイズが大きくなる原因としては神経細胞,Muller細胞の減少・消失によって,網膜面に面状に出血が拡大しやすくなったことが関連していると推察される.非虚血型であっても経過中にサイズの大きな出血斑が増えてきた場合は注意を必要とする.C2.BRVOCRVO同様,高脂血症や糖尿病,高血圧を基礎疾患として有することが多く,問診で既往歴がとくに明らかではない場合には,少なくとも血圧測定程度は施行したほうがよい.視野欠損や黄斑浮腫による視力低下をきたすが,閉塞のメカニズムとしては,近年のCOCTを用いた解析によると,動静脈交叉部において固い動脈に押される形で,ILMとの間で圧迫されるパターンと,静脈が網膜外層に向かって弯曲して循環障害が発生することで中枢側に血栓を形成してCBRVOをきたすパターンが想定されている14).黄斑浮腫に対しては抗CVEGF薬の硝子体内注射が有効である.無潅流域が広がるものや新生血管が認められるものに対しては光凝固を行うが,広角COCTAはCFAの代替して有用である15,16).新生血管が破れて硝子体出血をきたしている場合は,硝子体手術の適応がある.BRVOの範囲は網膜が薄く,とくに新生血管周囲には網膜裂孔が発生し,網膜.離をきたしている場合もあるので,高齢者においては腹臥位が可能かどうか手術前に評価しておいたほうがベターである.半側網膜静脈閉塞症の治療はCRVO,BRVOに準じる.CVI高血圧網膜症高血圧網膜症(hypertensiveretinopathy)の分類として,1939年にCKeith,Wagener,Barkerらによって高血圧患者の眼底所見と全身状態ないし予後が関係づけられたCKeith-Wagener分類が有名である.本来は高血圧症の重症度分類であったが,眼底所見の分類として広く用いられるようになった経緯があり,本分類は全身状態・生命予後の判断材料という側面があることを知っておく必要がある.分類におけるCIII群,IV群の診断は悪性高血圧の診断基準の一つでもあり,放置すれば死に至る可能性が高く,眼科医の果たすべき責任は重大である.よって,日常診療においては高血圧の既往がない(本人が知らない)患者において,とくに重症の高血圧が慢性的に持続したり,急激に血圧が亢進する加速型高血圧や悪性高血圧をきたしたりした場合を診断すること1344あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022(52)図6高血圧患者の眼底写真a:視神経腺維層欠損を認める.血圧C156/102mmHg.Cb:綿花様白斑を認める.血圧C172/112mmHg.C–

高齢者の緑内障

2022年10月31日 月曜日

高齢者の緑内障GlaucomainOlderAdults馬嶋一如*三木篤也**はじめに日本は1970年より高齢化社会に入り,2007年には超高齢社会に入った.それに伴い緑内障に罹患している患者も高齢者が多くなっている.ここでは高齢者の緑内障患者に特有の診断,治療上の問題点と,その対処法について概説する.Iアイフレイルと視野高齢者では,加齢の変化に伴い身体のさまざまな機能が低下することによって健康障害に陥りやすい状態を生じるが,このような状態をフレイルとよぶ.厚生労働省の「健康日本21」で健康寿命の延伸と健康格差の縮小を目標と掲げており,フレイルを予防し健康寿命を延ばすことをめざしている.また,2020年からフレイル検診が全国で始まっている.さらに最近ではアイフレイルという概念が登場した.アイフレイルとは,加齢に伴って目が衰えてきたうえに,さまざまな外的ストレスが加わることによって眼の機能が低下した状態,またそのリスクが高い状態と定義されている1).アイフレイルは視機能の低下のほかに,フレイルの構成要素である心理的・認知的フレイル(うつ,認知機能の低下),社会的フレイル(孤立,社会参加の減少),身体的フレイル(移動機能低下)を総合的にみて,対応する必要がある.緑内障はわが国での視覚障害の原因疾患の第1位であり,視野欠損が進行することで認知機能の低下を見えないことで外出や社会へ接する機会や移動機能の低下を引き起こすので,アイフレイルが進行しやすい.したがって,高齢者の場合,視野異常はアイフレイルの進行につながり,自立機能の低下や日常生活の制限を生じる.そのことにより,点眼手技や治療アドヒアランスの低下をきたし,さらなる視野異常の進行に至るという悪循環をもたらすおそれがある.一般的に,緑内障を疑う所見や緑内障を認めた場合,視野がどの程度残存しているのか,また寿命までの視野を予測しどう治療介入を行うか考える必要がある.そのため,眼圧以外に,視野検査や光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)による網膜神経線維層(retinalnerve.berlayer:RNFL)の経時的な観察が必要である.高齢者の場合,これらに加えて,加齢による身体,認知機能の低下を考慮して治療方針を考える必要がある.また,視野検査の機械台に顔を乗せることが困難であったり,顔を乗せても姿勢保持が困難で顔がズレてしまい,正確な結果が得られなかったり,姿勢を保持することで極度の疲労が蓄積し,集中力の低下や検査の中断が起こったりする場合がある.ほかにも検査時間が長いため集中力が切れ,正確な結果を得られない場合がある.このような高齢患者に対しては,視野検査の方法を工夫し,OCTなどの別の手段を用いて進行評価を行うことも考慮する必要がある.近年,ヘッドマウント型の視野検査機器アイモ(imo.クリュートメディカルシステムズ,図1)が登場した.imoは暗室でなくても明室で測*KazuyukiMajima:愛知医科大学医学部眼科学講座**AtsuyaMiki:愛知医科大学医学部近視進行抑制寄附講座〔別刷請求先〕馬嶋一如:〒480-0015愛知県長久手市岩作雁又1-1愛知医科大学医学部眼科学講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(41)1333図1imo(クリュートメディカルシステムズ)(https://www.crewt.co.jp/product/imoより)図3らくらく点眼III(川本産業)図2らくらく点眼(川本産業)(https://www.kawamoto-sangyo.co.jp/products/products_(https://www.kawamoto-sangyo.co.jp/products/products_cat/medical/eye/より)cat/medical/eye/より)図4マイクロパルスレーザーでおもに使用されるCYCLOG6TM(トプコン)(https://topconhealthcare.jp/ja/products/cyclo-g6/より)図5BimatoprostSustained.Release(https://doi.org/10.1016/j.ajo.2016.11.020より)–