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近視の乳頭所見と緑内障

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSに注目されており,「近視様乳頭」というキーワードが数年前から学会,論文などで散見される2).近視様乳頭の特徴としてあげられているのは,1)縦長乳頭,2)耳側の乳頭近傍網脈絡膜萎縮(PPA),3)乳頭の傾斜などである(表1).このような近視乳頭の特徴から思い浮かべるのは図1に例示するような典型的な近視乳頭ではないだろうか.言い換えればこれまで成書で書かれている近視乳頭に関する記述は典型例の提示にすぎない.この知識のみでははじめに緑内障の理解に視神経乳頭観察が重要であることは言うまでもない.眼科臨床に数年携わったものであれば乳頭の所見は一とおりは取れるようになる.しかしながら近視眼に合併した乳頭の観察は困難に感じていることが多いのではないか.何故か?それは近視眼に対する理論の裏付けがないためであり,また近視乳頭を見る筋道立てたトレーニングをしていない,あるいはする機会がないためである.そこで本稿では近視乳頭の捉え方,近視乳頭に合併した緑内障の考え方をまとめてみたい.I混沌とした近視乳頭近視が緑内障と関係があるということは古くから知られているが,近年特に脚光を浴びているのはNicolelaらが緑内障乳頭の4分類を提唱してからのことであろう1).この分類で述べられている近視乳頭(myopicglaucoma-tousdiscs)の特徴は,1)浅い陥凹,2)傾斜乳頭,3)耳側コーヌスの存在,4)乳頭出血が高頻度,となっている.また,わが国でも緑内障における近視眼の存在は特(31)???表1近視乳頭の特徴特徴乳頭傾斜での説明乳頭の傾斜─耳側にコーヌス傾斜による色素上皮のずれ縦長乳頭傾斜により耳側の境界線が後退乳頭出血が高頻度傾斜による血管の屈曲が原因?浅い陥凹強度近視での非傾斜群に該当する図1近視乳頭の典型症例屈折度-4.5Dの症例.乳頭は縦長でやや耳上側に傾斜している.鼻側のリムは発赤し,反対に耳側は蒼白でリムを同定できなくなっている.*ToshikazuTsuboi:つぼい眼科クリニック〔別刷請求先〕坪井俊一:〒132-0024東京都江戸川区一之江7-35-29一富ビル3階つぼい眼科クリニック特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):593~598,2006近視の乳頭所見と緑内障??????????????????????????????????????????????????????坪井俊一*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006種々雑多な近視乳頭に対して混乱するのみで,研修医や緑内障初心者が近視乳頭を見ることができないのは当然なのである.IIスマート&シンプルな近視乳頭の考え方1.乳頭の傾斜が最重要ポイント近視乳頭を考えるうえで最も重要なキーワードはobliqueinsertion=(視神経の眼球に対する)傾いた付着,すなわち「乳頭が傾斜している」ということである3,4).耳側コーヌスの存在や乳頭形態が縦長であるなどの特徴も実は乳頭の傾斜が根源である.正常眼では視神経が眼球に付着する角度はおおよそ垂直になっており,この状態は最も緊張の少ない生理的な状態である.この場合に網膜血管は乳頭の中央に位置し,乳頭形態もほぼ円状になり,生理的陥凹も中央に位置する.ところが近視眼では眼軸長の延長に伴い視神経の眼球への進入角度が変わってくる.理論上は眼軸長が長くなればなるほど,視神経の進入角度もきつくなり,乳頭の傾斜も強くなるように思われる.ところが実際は眼軸長の長い強度近視では後部ぶどう腫などを生じ,視神経乳頭の進入角度も垂直に近くなっているのではないかと推測される.その傍証としては,強度近視群では乳頭傾斜のない平坦な乳頭がよく見受けられることがあげられる.2.傾斜乳頭症候群と近視乳頭乳頭の傾斜をきたす疾患としてtilteddiscsyndromeが古くから知られている.本症候群の定義は先天性の疾患で,視神経は傾斜しており,多くは下方にコーヌスがみられる.乳頭下方もしくは鼻側の網膜は強い豹紋状眼底を呈する.この眼底変化に応じた視野障害を認めることもある.血管の走行異常や強い近視を伴うなどの多くの特徴をもつ.臨床上,本疾患に遭遇することはまれではない.しかしながら先天性かどうかの判定は不可能に近く,近視の進行に伴う後天的なものも多く含まれているものと推測している.III近視乳頭の分類近視乳頭はバリエーションが豊富で,近視眼全体を俯瞰で理解しようとするのは無理がある.前述した近視乳頭の特徴をいくら知ったところで,近視乳頭の典型例以外には対応できない.そこで近視乳頭を理解するためには近視眼の特徴を踏まえたうえで分類することが有用であり,傾斜の有無で分類するとわかりやすい.乳頭が傾斜をしている眼底写真上での所見として,1)網膜血管の起始部が中央から偏位していること,2)網膜血管の起始部が観察しにくいこと,とした(表2).このようにして近視乳頭を大き(32)乳頭網膜色素上皮脈絡膜図2傾斜のない乳頭正常丸型乳頭で,網膜血管の起始部(矢印)は中央に位置し,その根部まで十分に観察できる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???く2群に分けることで,近視眼の理解はより深まる(図2,3).このように「傾斜」を一つの軸として,乳頭の「型」をもう一つの軸として近視乳頭を7つに分類した5)(図4).その詳細を下記に述べる.1.傾斜群中等度以上の近視眼では乳頭の傾斜を見ることが多(33)表2乳頭が傾斜している所見・網膜血管起始部の偏位・網膜血管起始部が観察困難乳頭コーヌス網膜色素上皮脈絡膜図3耳側に傾斜した乳頭乳頭は耳側に傾斜をしており,その傍証として血管起始部の偏位があげられる(矢印).乳頭耳側はなだらかなスロープ状で,陥凹部と辺縁部の境界ははっきりしない.丸型縦楕円型斜め楕円型横楕円型傾斜群非傾斜群─図4近視乳頭の分類近視乳頭を傾斜の有無と形態をもとに7つに分類した.非傾斜群で斜め楕円型はまれなため空欄としている.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006い.近視眼では眼軸長が延長し,視神経が眼球に対し斜めに付着(obliqueinsertion)する.鼻側では視神経線維は急峻な角度で視神経に入り,このため傾斜した乳頭の鼻側は神経線維が盛り上がり,毛細血管のためにやや赤みを帯びている.耳側網膜からきた神経線維はなだらかに視神経乳頭内に入るため明らかな屈曲点をもたない.耳側の辺縁部は同定困難で,血管に乏しく,篩板が透見されて蒼白に見える.陥凹部との境界を明確にはできない.つぎに乳頭の形態を考える.正常乳頭の形態は丸型~やや縦長であり,一方,近視眼の乳頭は縦長であるとこれまでいわれている.しかし実際の近視眼は丸型のものから,つぶれた楕円状の乳頭まで種々雑多である.当然,乳頭の形態が丸型に近いほど所見は取りやすい.近視乳頭のもう一つの特徴としてコーヌス(脈絡膜コーヌス,強膜コーヌス)の存在がある.注目すべきはコーヌスの幅は乳頭の形態に関係がある点であろう.丸型の乳頭ではコーヌスは存在しないか,ごく薄いものである.乳頭の形態が縦長となるほどコーヌスの幅も広くなる.コーヌス部と乳頭部を足したものはほぼ丸型となることがわかる(図5).これは元の境界組織(Elschnig?sscleralring)であろうと考えている.(34)2.非傾斜群非傾斜群の定義は傾斜していない近視乳頭である.網膜血管の起始部は中央に位置し,その根部まで十分に観察ができることを傾斜のない所以とした.このグループは強度近視であることが多い.乳頭形態も特徴的で,まず陥凹部と辺縁部の境界がきわめて判別しにくい.そのため乳頭の所見もほぼ取れないと考えたほうがよい.非傾斜群ではコーヌスにも特徴がある.傾斜群で耳側コーヌスが多いのに比して,非傾斜群では乳頭全周にわたってコーヌスが形成され(輪状コーヌス),近視性網脈絡膜萎縮と相まって,神経線維層欠損(NFLD)の観察はほぼ不可能である.乳頭の大きさはさまざまであるが比較的大きいものが多く,平均からかけ離れた巨大乳頭というべきものも含まれる.乳頭の形態も丸型から楕円型までバリエーションは多い.傾斜群では耳下側に傾斜した乳頭が多いのに比べ,非傾斜群の乳頭で楕円型のものは,その長軸が垂直か水平のものがほとんどという点に特徴がある.IV近視乳頭での緑内障所見の取り方以上述べてきたような近視乳頭に緑内障を合併した場合,どのように考えていけばよいだろうか.われわれが図5傾斜した乳頭の症例傾斜した乳頭では耳側にコーヌスを伴うことがほとんどで,乳頭とコーヌスを足すと「丸」になる.言い換えれば乳頭が丸型であればコーヌスは幅が狭く(左),乳頭が縦長になるとコーヌスの幅も広くなる(右).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(35)臨床上よく遭遇する緑内障の多くは正常眼圧緑内障(NTG)であり,そのNTGはほとんどが近視眼といってよい.近視眼では緑内障になりやすく,屈折度が大きいほど緑内障を合併する割合が増えてくるということが大規模スタディで実証されている6).-3.0D程度の軽度近視眼であればその乳頭は近視性の変形はほぼなく,所見も取りやすいものが多い.しかし-4.0~-5.0Dを超えてくるとこれまで述べてきたような近視乳頭の特徴が出てくるし,緑内障を合併する可能性も増えてくる.そこでまず乳頭が傾斜型か非傾斜型かを大まかに捉えることから始めるのがよい.傾斜群のうち乳頭形態が丸型のものは網膜豹紋状変化がやや弱いため神経線維束欠損(NFBD)の観察が可能なことが多いので,まずこれに注目する.つぎに辺縁部図6コーヌス状まで血管の走行を観察することが重要傾斜した乳頭では耳側のリムがはっきりしない.しかし観察範囲をコーヌス状まで広げれば血管の走行所見(矢印)から視神経線維の盛り上がりを読み取ることも可能である.図7非傾斜群で横楕円型乳頭の症例このタイプの乳頭が陥凹部が浅いものがほとんどで,辺縁部の評価をすることができない.乳頭周囲の網膜も豹紋状変化が強く,NFBDも観察ができない.乳頭の所見からは上下に大きな差があるようには見えない.実際の視野は下方にのみ強い暗点が広がっている.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(36)の上下極に注目し差があるかを観察する.縦楕円型のものは上下極の辺縁部が「尖った」状態であると緑内障性視野変化をきたしていることが多い.また耳側コーヌスの幅が広いのでこの部分の血管走行状態を見逃してはならない(図6).非傾斜群については乳頭所見から緑内障を判定したり,その進行を判断するのはどんなにベテランの臨床医でも不可能と考えてよい.経験上,縦楕円型,横楕円型の非傾斜乳頭は思いもよらぬ視野異常をきたしていることが多い(図7)ので,検査が可能であれば動的または静的視野測定を施行し,将来の経時的観察に備えることが現実的である(図8).おわりに緑内障臨床での乳頭観察の重要性はよく知られたことであるし,緑内障に近視が多いこともまたよく知られている.しかしながら「近視乳頭の緑内障所見」というカテゴリーは今まであまり研究されてこなかったように思う.実際,緑内障の成書を見ても近視乳頭の特徴については数行ふれられているのみである.近年,画像解析装置が普及し,乳頭の形態が注目され,種々の乳頭指標が解析されているが,乳頭の形態の差異にまで踏み込んだものはほとんどみられない.十分に眼圧管理されているにもかかわらず悪化するNTGに対して乳頭の脆弱性が原因であろうという説明がされることが多い.今回提示したように乳頭の形態にこれだけの差があれば,その「脆弱性」にも大きく影響をしていることは容易に想像できる.本稿で述べた近視乳頭の分類は確立されたものではなく,筆者らの経験則から出てきたものであり,近視乳頭のバリエーションの多さを考えるとさらなるブラッシュアップが必要であろうと考える.乳頭傾斜の判定には眼底写真から得られる二次元情報を用いたが,三次元画像解析装置を用いればより有用な情報も得られるであろうし,その場合に乳頭形態を考慮することも重要であろう.今後の近視乳頭の研究に本稿が益することがあれば幸いである.本稿で用いた眼底写真はオリンピア眼科病院よりお借りいたしました.井上洋一理事長に深く感謝いたします.文献1)NicolelaMT,DranceSM:Variousglaucomatousopticnerveappearances.?????????????103:640-649,19962)YamazakiY,YoshikawaK,KunimatsuSetal:In?uenceofmyopicdiscshapeonthediagnosticprecisionoftheHeidelbergRetinaTomograph.????????????????43:392-397,19993)ShieldsMB:TextbookofGlaucoma,4thed,p86,Williams&Wilkins,Baltimore,19984)ShieldsMB:ColorAtlasofGlaucoma.p38,Williams&Willkins,Baltimore,19985)井上洋一:どう診る?緑内障視神経乳頭,p108-127,メジカルビュー社,20026)MitchellP,HourihanF,SandbachJetal:Therelation-shipbetweenglaucomaandmyopia:theBlueMountainsEyeStudy.?????????????106:2010-2015,1999近視乳頭を見たら傾斜なし傾斜あり豹紋状変化弱い豹紋状変化強いNFBDの観察リムの上下極に注目丸型乳頭楕円型(横・縦)視野検査図8近視乳頭の診察フローチャート

遺伝性視神経症の乳頭所見

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSいる4)が,実際には識別不能の色覚障害を示したり,赤緑色覚異常を示したりするので,注意が必要である.④視神経乳頭は両側性に耳側蒼白を示す.⑤同一家系でも視機能障害の重症度は違うことがある.視神経乳頭の所見は耳側蒼白で,乳頭黄斑線維の萎縮を示している.重症例では視神経乳頭全体が蒼白となる.軽症例では乳頭が正常の場合もある.乳頭のneuro-retinalrimが蒼白化していることも鑑別点である(緑内障眼でのrimの色調は正常である).緑内障と鑑別するための乳頭陥凹については以前は陥凹がないことが常染色体優性視神経萎縮の特徴といわれたこともあったが,Votrubaらは常染色体優性視神経萎縮58眼の視神経乳頭を検討した結果,約半数がC/D比(陥凹乳頭比)0.5以上であり,ほぼ約2割では深い陥凹を認め,乳頭所見からでは緑内障との鑑別において注意が必要であると報告している5).同様にFournierは常染色体優性視神経萎縮患者の乳頭を観察し,C/D比0.5以上が12/18であり,さらにこの陥凹が緑内障様乳頭陥凹の形態をとることが多く,正常眼圧緑内障と間違うことがあると報告している6).視野は重症度に応じてさまざまの障害を呈するが,典型例では中心暗点,盲点中心暗点となる.緑内障との鑑別においてこの視野変化は重要な鑑別点となり,中心暗点があれば緑内障は否定して考えていくのがよい.常染はじめにわが国でみられる遺伝性視神経症としては,常染色体優性視神経萎縮(dominantopticatrophy:DOA)とレーベル遺伝性視神経症(Leber?shereditaryopticneu-ropathy:LHON)の2つが臨床上大切である.原因遺伝子については常染色体優性視神経萎縮が????遺伝子であることが解明され,レーベル遺伝性視神経症ではミトコンドリアDNAに変異があることが解明された.本稿では,視神経乳頭の所見を中心に病態を解説する.I常染色体優性視神経萎縮(dominantopticatrophy:DOA)常染色体優性視神経萎縮は1959年にKjerが19家系を報告してから1つの疾患単位と認識されるようになった疾患で,罹患率は約1.2万~5万に1人と報告されている1).組織学的には網膜神経節細胞層の変性,乳頭黄斑間の神経線維の減少が認められる2,3).????遺伝子はミトコンドリア内の蛋白質を産生するので,後述のレーベル遺伝性視神経症と同様にミトコンドリアの機能障害により視神経萎縮が生じると考えられている.その臨床像は,①発症時期が不明な緩徐な両眼性の視力低下.就学時検診で0.1~0.5程度で発見されることが多い.②緩徐に進行し最終的な視力は0.01から1.0までと個人差があるが,視力低下は強くないことが多い.③後天性第三色覚異常を示すことが特徴といわれて(25)???*SanaeKanno:兵庫医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕神野早苗:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):587~591,2006遺伝性視神経症の乳頭所見????????????????????????????????????????????????神野早苗*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006色体優性視神経萎縮の軽度の症例では視野の変化がないことも多い.しかしその症例の乳頭に陥凹があれば緑内障が鑑別診断の候補にあがってくる.視力低下もなく視野も正常であれば,家族歴が重要なポイントとなるので,家族歴を尋ねるのを忘れないようにしなければならない.自験例の13歳女児は初診時視力が両眼0.2であった.小学1年時には両眼0.5であったとのことである.眼底写真(図1,2)では両眼の耳側蒼白が著明である.左眼の耳側5時に一見神経線維束欠損(NFLD)様の所見が見えるが,乳頭近傍で幅が太くなるという本来のNFLDと逆の所見があるうえ,視野にて同一部位に感度低下が認められない.この女児の母親である症例では(図4)乳頭陥凹がさらに緑内障様になっているが,視野では緑内障変化が認められない.このように幼少時より(26)図1DOA13歳女児の右眼眼底図4DOA13歳女児の母親の眼底写真図3DOA13歳女児の動的視野右眼の中心に小さな比較暗点.図2DOA13歳女児の左眼眼底———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???中心視力が悪い例では緑内障と鑑別するのは容易であるが,視力が良好な場合は乳頭所見,視野,隅角所見,家族歴を総合的に判断して????の遺伝子診断の必要性を判断しなければならない.常染色体優性視神経萎縮は現在治療法がない疾患であるが,緑内障では点眼,手術などの治療法がある.診断は重要なキーポイントとなるので慎重に判断することが大切である7).IIレーベル遺伝性視神経症(Leber?sheredi-taryopticneuropathy:LHON)レーベル遺伝性視神経症はミトコンドリアDNAの点突然変異により(11778,14484,3460)間違った塩基が産生され,ミトコンドリア内に不安定な状態が生じ,網膜神経節細胞の細胞死を生じるのではないかと考えられているが,詳細はいまだブラックボックスである8).ミトコンドリアの遺伝子異常であるために母系遺伝となる.その臨床像は7),①発症時は片眼,さらに数週間をおいて対眼の視力低下および中心暗点を生じる.視力は0.1以下となる.②急性ないしは亜急性に発症する.発症前はまったく正常の視機能を有している.③患者の8割から9割は男性である.④発症年齢は10歳から20歳代.ただし,40歳代にも小さな発症のピークがある.⑤発症時の視神経乳頭所見は,発赤・腫脹.傍乳頭毛細血管拡張,および神経線維層の腫脹.蛍光眼底造影では拡張した血管や乳頭からの色素の漏出はない.⑥発症後数カ月から1年後には視神経萎縮となる.⑦対光反応は初期には相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)が認められるが,その後視力低下や視野の変化にかかわらず良好な反応を保つ.⑧視力・視野の自然回復例がある.回復が生じるかどうかはミトコンドリア点突然変異が起こる位置で差がある9).⑨視力が回復しない症例でも,詳細に視機能を検査してみると視野の感度がモザイク状に上昇する例や中心フリッカー値がよくなる症例がある.視神経乳頭所見は発症初期は発赤,腫脹なので視神経(27)図5DOA13歳女児の母親の動的視野両眼の中心に小さな比較暗点がある.図7LHON17歳男性の蛍光眼底写真(138秒後)図6LHON17歳男性の発症1週間後の左眼眼底———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006炎との鑑別が重要となるが,1カ月後には視神経萎縮となり,耳側蒼白または視神経乳頭全体が蒼白となる.視神経乳頭は緑内障様の変化を起こし陥凹が認められるが,正常眼圧緑内障と比較すると変化は軽度である10).明白な中心暗点があれば診断に迷うことはない.自然回復期に観察すれば中心暗点が消え,視野が判定不能の形態をとるので診断に迷うかもしれない.家族歴,既往歴をよく問診することが大切である.図6,7は17歳男性の発症時の眼底写真である.視神経乳頭は発赤,軽度腫脹しているが,蛍光眼底造影では乳頭からの色素の漏出は認められない.図8~10は萎縮期に入ったレーベル遺伝性視神経症患者であるが,乳頭全体の色調が蒼白で,陥凹はあるがneuroretinalrimの色調が蒼白であり,レーベル遺伝性視神経症であることを示唆する.III緑内障性遺伝性視神経症?開放隅角緑内障には家族歴のある症例があり,50~60%が遺伝的なものとの報告もある11).近年,緑内障の遺伝子が次々と決定され,遺伝子異常をもつ症例に眼圧・年齢・高血圧・血管攣縮などの因子が網膜神経節障害を生じさせていると考えることもできるようになってきた.このような考え方をすれば,開放隅角緑内障は常染色体優性視神経萎縮やレーベル遺伝性視神経症緑内障と同じように,遺伝性視神経症といえるかもしれない.開放隅角緑内障と常染色体優性視神経萎縮は臨床像がよ(28)■用語解説■ミトコンドリア:細胞質にあるエネルギー産生や呼吸代謝の役目をもつ小器官.この中にもDNAが存在し,これをミトコンドリアDNAとよんでいる.第三色覚異常:青を感じる錐体細胞が欠如または機能低下している状態.日本人にはまれといわれている.盲点中心暗点:中心暗点とMariotte盲点がつながった暗点のこと.ラケット状暗点ともよんでいる.点突然変異:DNAの塩基が1つだけ変化しているもの.LHONの11778とはミトコンドリアDNAのC末端から11,778番目の塩基がグアニンからアデニンに変化(点突然変異)しているせいで,作られる蛋白質がアルギニンからヒスチジンとなっている.図8LHON(萎縮期)図9LHON(萎縮期)図10LHON(萎縮期)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(29)く類似しており12),ならば緑内障の病態とはミトコンドリア異常であるとの類推も可能である7).おわりに遺伝子異常による視神経症の治療は,将来的には遺伝子治療が可能になるかもしれないが,現在まだ有効な治療法は確立されていない.しかし,開放隅角緑内障には眼圧を下げる治療法が存在する.遺伝子疾患では治療法はなく,開放隅角緑内障では治療法があることは患者にとって大きな差となる.乳頭所見だけにこだわらず,視野,経過,家族歴すべてを参考にして総合的に診断することが大切である.文献1)KjerB,EibergH,KjerPetal:Dominantopticatrophymappedtochromosome3qregion.II.Clinicalandepide-miologicalaspects.?????????????????????74:3-7,19962)JohnstonPB,GasterRN,SmithVCetal:Aclinicopatho-logicalstudyofautosomaldominantopticatrophy.???????????????88:868-875,19793)KjerP:Histopathologyofeye,opticnerveandbraininacaseofdominantopticatrophy.??????????????????????61:300-312,19834)BrownJJr,FingertJH,TaylorCMetal:Clinicalandgeneticanalysisofafamilyaffectedwithdominantopticatrophy(OPA1).???????????????115:95-99,19975)VotrubaM,ThiseltonD,BhattacharyaS:Opticdiscmor-phologyofpatientswithOPA1autosomaldominantopticatrophy.???????????????87:48-53,20036)FournierAV,DamjiKF,EpsteinDLetal:Discexcava-tionindominantopticatrophy:differentiationfromnor-maltensionglaucoma.?????????????108:1595-1602,20017)VotrubaM,AijazS,MooreAT:Areviewofprimaryhereditaryopticneuropathies.???????????????????26:209-227,20038)WallaceDC,SinghG,LottMTetal:MitochondrialDNAmutationassociatedwithLeber?shereditaryopticneurop-athy.???????242:1427-1430,19889)中村誠:レーベル遺伝性視神経症の発症分子メカニズムの展望(総説):日眼会誌109:189-196,200510)MashimaY,KimuraI,YamamotoYetal:OpticdiscexcavationintheatrophicstageofLeber?shereditaryopticneuropathy:comparisonwithnormaltensionglau-coma.????????????????????????????????241:75-80,200311)McNaughtAI,AllenJG,HealeyDetal:Accuracyandimplicationsofareportedfamilyhistoryofglaucoma:experiencefromtheGlaucomaInheritanceStudyinTas-mania.???????????????118:900-904,200012)BuonoLM,ForoozanR,SergottRCetal:Isnormalten-sionglaucomaactuallyanunrecognizedhereditaryopticneuropathy?Newevidencefromgeneticanalysis.????????????????????13:362-370,2002

「楔状視野欠損と視神経先天異常」に対するコメント

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSillaryscleralhalo),④上方の神経線維層欠損(NFLD)(superiorNFLthinning)を特徴とし,下方の高度の視野欠損をきたすとされる.SSOHは,1977年にPetersen&Walton3)が1型糖尿病(IDDM)の母親から生まれた子17例に認め報告した特異な視神経低形成と同じ疾患であるとされる.これらの症例は文献に添付された症例の眼底写真を見ても,上述のわが国の緑内障外来で遭遇する症例とは似ていない.しかしながら,①~④はいずれも視神経乳頭上方の神経組織の欠損あるいは形成異常に帰することのできる所見であり,SSOHがもともと生理的な乳頭陥凹を有する眼に生じた場合には,筆者が緑内障外来で遭遇してきた症例のような視神経所見になることが推定される.筆者はそうした推定に至って以来,SSOHの病名を欧米での用語法に準じるのではなく,そのカテゴリーに類似しながら緑内障外来で遭遇する(つまり,陥凹拡大,辺縁部狭窄を一見連想させる)一連の症例に用いてきた.ただ,そうした用語法は文献に現れた正式なものではなかった.その後2002年にUnokiら4)(鹿児島大学)がSSOHの命名者であるHoytを共著者に迎え,筆者が“SSOH”(以下,引用符付のSSOHは原義とは若干異なる日本国内での慣用病名)と勝手によんでいた症例と同様の症例の光干渉断層法(OCT)所見を発表するに及び,自らの考え方が担保されることを学んだ.日本においても,すでに1987年に,難波ら5),岡崎ら6)がこの病名を使用していないものの,記載内容から推測して同一疾患と考えられる疾患の症例報告をしている.ほかに個別の症例報告も学会などで多くなされてきた.さて,正常眼圧緑内障に関心のある立場から,“SSOH”の有病率を知りたいと考えていたところ,多治見スタディと一緒に施行した多治見市民眼科検診で得られた眼底写真を読む機会を得たので,自ら日本人においては正常眼圧緑内障の有病率が3.60%と高く(40歳以上,日本緑内障学会多治見スタディ1)),また眼圧測定では緑内障検出力の低いことから,視神経乳頭形態が緑内障性視神経症と類似している他の視神経疾患との鑑別は日常臨床において重要性を増している.筆者は山梨医科大学に所属していた1980年代後半に緑内障の確定診断を求めて来院される若年患者のなかに本項の主題に近い楔状視野欠損と視神経乳頭先天異常を有する方が時々いることに気づいていたが,当初は明らかな診断名を見出すことができないでいた.これらの症例は,若年,無自覚,下方の視野欠損,視神経乳頭の鼻上側中心の辺縁部菲薄化(異常が必ずしも鼻上側に限局しているのではなく,他の部に及ぶことも多い),doubleringsign,血管走行の異常,など,いくつかの共通する特徴を有しており,数年の経過観察では視野進行を認めた症例はなかった.家族歴を有する症例はなかった.両眼性のことも片眼性のこともあった.眼圧は多くは正常であり,隅角にも異常を認めなかった.一見すると陥凹拡大に見えるために,緑内障の診断あるいはその疑いで紹介受診のことが多いが,主たる乳頭辺縁部病変の位置が緑内障典型例とは異なり,当然の帰結として視野欠損が緑内障としては非典型的であり,筆者には緑内障性視神経症には見えなかった.一方,superiorsegmentaloptichypoplasia(SSOH)はKimら2)により,1989年から使用された用語で,視神経乳頭および網膜神経線維層の4徴候,すなわち,①網膜中心動脈の上方偏位(superiorentranceofCRA),②乳頭上半の蒼白化(pallorofthesuperiordisc),③乳頭上方の周囲のハロー(superiorperipap-(23)???*TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕山本哲也:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):585~586,2006「楔状視野欠損と視神経先天異常」に対するコメント山本哲也*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,200614,431名28,396眼の眼底写真を判読し,うち37例(0.26%)54眼(0.19%)に“SSOH”を認め(図1),うち,23例で対応する視野異常を認めた(図2)7).対象となった40歳以上の全年齢層に満遍なく認められた.対象集団が疫学調査で適格とされる受診率を満たしていないという欠点はあるものの,本症の頻度に関する初めての報告である.その結果を正常眼圧緑内障の有病率(3.6%)と比較すると約1/10のオーダーであり,しかも正常眼圧緑内障が40歳以降で急激に有病率を増すことを考慮すると,“SSOH”が若年者での正常眼圧緑内障との鑑別で重要なことを再認識することができた.筆者がこうした考えをglaucoma-net(緑内障専門家のチャットルームの一つ)で流したところ,韓国のドクターから症例に関して問い合わせがあり,添付された眼底写真などはまさに筆者のよぶ“SSOH”であったので,本症が韓国にも存在することを知った.まとめると,現時点でわが国で“SSOH”とよばれている症例群は,視神経所見,母親の糖尿病歴,などの点で,欧米のオリジナルの記載とは若干異なる一群をさしている.これが同一疾患の地域による特異性として説明可能か否か現時点では明言はできない.遺伝子検索などによる本症の発症機序解明の必要性を指摘するにとどめたい.また,欧米の同一名称の疾患との同一性よりも重要なことは,本症がわが国において正常眼圧緑内障との鑑別を要することが多いことと,この疾患に対する一般眼科医の認識が低いことから確定診断に至らず緑内障薬物治療の対象とされていることの多いことである.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceandintraocularpressureofprimaryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)KimRY,HoytWF,LessellSetal:Superiorsegmentaloptichypoplasia.Asignofmaternaldiabetesmellitus.???????????????107:1312-1315,19893)PetersenRA,WaltonDS:Opticnervehypoplasiawithgoodvisualacuityandvisual?elddefects.????????????????95:254-258,19774)UnokiK,OhbaN,HoytWF:Opticalcoherencetomog-raphyofsuperiorsegmentaloptichypoplasia.????????????????86:910-914,20025)難波龍人,若倉雅登,白川慎爾ほか:視神経のSectorialhypoplasiaについて.神経眼科4:444-450,19876)岡崎茂夫,宮澤裕之,関谷義文ほか:見逃され易い視神経低形成について.神経眼科4:438-443,19877)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProj-ectparticipants.????????????????48:578-583,2004(24)図2Superiorsegmentaloptichypoplasiaの視野Mariotte盲点から下方に連続する視野欠損が特徴的である.図1Superiorsegmentaloptichypoplasiaの眼底鼻上側の乳頭辺縁部狭窄と蒼白化,対応するNFLDを認める.

楔状視野欠損と視神経先天異常

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSした報告3)では,周辺耳側欠損は初期変化としては出現しにくく,Humphrey視野計の報告4)において,周辺耳側欠損は,Bjerrum領域,中心30?以内の耳側異常が周辺耳側欠損と関連して起こるとされている.自動視野計においては,緑内障性初期変化として周辺耳側からの障害ではなく,盲点耳側から周辺に向かって視野欠損が起こると考えられる.耳側楔状欠損は視神経乳頭低形成においても生じる.報告5)は3例の低形成であるが,いずれも上鼻側の網膜神経線維層欠損に伴う下方楔状欠損である.視神経乳頭所見は小乳頭,鼻側乳頭部の部分的欠損または容量減少が指摘されている.耳側楔状欠損は,自覚症状が少なく,視野検査で偶然発見される可能性がある.耳側楔状欠損をみた場合に,緑内障か乳頭低形成どちらかを判断することは,視野欠損,乳頭所見からだけではむずかしいと考える.鼻側への陥凹拡大や網膜神経線維層欠損はどちらの例も伴い,中心部に緑内障性視野異常を伴わないかぎり,鑑別できない.経時的視野変化をみることが必要になるが,耳側視野の場合,自動視野計の中心30?のみでは不十分であり,周辺のプログラム(Humphrey視野計周辺60-4)での測定が必要である.またGoldmann視野計だけでは定量変化をみるのに不十分と考える.経時的視野変化がみられ,それが眼圧下降によって影響されれば,緑内障と考えられ,視野変化が認められなければ,乳頭低形成の可能性が高い.最低5年程度の自動視野計の経過観察は必要であろう.楔状視野欠損の定義は,中心から周辺に向かうにつれ,暗点が広がっている状態であり,基本的には30?よりも周辺に広がる状態と考える.水平方向であれば,網膜神経線維層に沿う障害であり,水平線を越えない.垂直方向の障害は,網膜神経線維に沿う場合と眼球後部の線維に沿う場合で異なる.眼球後部の神経いわゆる半盲によるものは,垂直経線を越えないが,網膜神経線維に沿うものは,垂直経線を越える.楔状欠損をきたす病態は,緑内障,半盲,視神経乳頭低形成などが考えられる.鼻側の楔状欠損は,鼻側階段として知られており,緑内障以外は考えにくい.上下の楔状欠損は,verticalstepとして,半盲の初期変化である可能性が高い.ただし,下の楔状欠損は,垂直経線を越えて周辺に広がっていれば,上部乳頭低形成の場合もある.問題となるのは耳側の楔状欠損はどうかである.耳側楔状欠損をきたす緑内障は古くから指摘されていたが,まとまった報告はBraisら1)の30例35眼の報告がある.35眼のうち29眼は鼻側の網膜神経線維層欠損を伴い,耳側欠損は上方6眼,下方24眼,上下5眼で,30例中8例は耳側欠損のみに進行がみられている.鼻側網膜神経線維層欠損,それに応じた耳側視野障害進行が認められれば,緑内障性と考えられる.またその頻度についてはWernerら2)により開放隅角緑内障のうち3%に単独の耳側欠損の緑内障(網膜神経線維層欠損を伴う)が生じると報告がなされている.これらは自動視野計以前の報告であり,本当に中心部(鼻側,Bjerrum領域)に緑内障性変化が存在していなかったかは疑問が残る.自動視野計以降の報告となると,オクトパスを使用(19)???*NaoyaFujimoto:千葉大学大学院医学研究院視覚病態学〔別刷請求先〕藤本尚也:〒260-8670千葉市中央区亥鼻1-8-1千葉大学大学院医学研究院視覚病態学特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):581~584,2006楔状視野欠損と視神経先天異常?????-?????????????????????????????????????????????????????????????????藤本尚也*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(20)左眼右眼a300(μm)右眼2001000020406080100120140160180200220240TEMPSUPNASINFTEMP300(μm)左眼2001000020406080100120140160180200220240TEMPSUPNASINFTEMPc左眼右眼b0.3401.110mm2正常範囲外0.2491.081mm2ボーダーラインcup/diskarearatio乳頭面積Classi?cation———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(21)左眼右眼dMD-1.110.170.04MD-0.800.05-0.49199720012005200120032005左眼右眼e図1症例初診時年齢56歳,男性,検診で高眼圧を指摘され来院.開放隅角で,眼圧は右眼20mmHg,左眼21mmHg,視力は右眼1.0(-4.5D),左眼1.2(-4.74D)で中等度の近視があった.中心角膜厚は右眼616?m,左眼614?mであった.その後無投薬で7年間視野経過をみた.a:視神経乳頭の陥凹の垂直方向への拡大は認められなかった.b:HRT(Heidelbergretinatomograph)Ⅱによる視神経乳頭解析では,cup/diskarearatioは右眼0.34,左眼0.249であった.乳頭面積は右眼1.110mm2,左眼1.081mm2と小乳頭であったが,classi?cationで右眼は正常範囲外,左眼はボーダーラインであった.c:OCT(光干渉断層法)による網膜神経線維層厚測定では,両眼とも下鼻側において菲薄化(↓)している.d:Humphrey視野計中心30-2では,盲点から上下耳側に暗点を認めたが,ほかには暗点はなかった.7年間,MD変化はなく,新たな暗点を認めなかった.e:Humphrey視野計周辺60-4では,おもに上耳側が障害されているが,4年間,変化を認めない.眼圧はこの4年間で,右眼13~21mmHgで平均18.5mmHg,左眼15~21mmHgで平均19.0mmHgで,視神経乳頭所見はHRTで緑内障も疑われた.網膜神経線維層厚の菲薄化に応じた耳側楔状欠損で,その中心,周辺視野に変化がないことから,現時点では小乳頭による視神経低形成と考えた.しかし,小乳頭の緑内障の場合,網膜神経線維層の異常が,視野,乳頭変化に先行することから,緑内障との鑑別に今後も引き続き視野,乳頭の観察が必要である.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006文献1)BraisP,DranceSM:Thetemporal?eldinchronicglau-coma.???????????????88:518-522,19722)WernerEB,BeraskowJ:Temporalvisual?elddefectsinglaucoma.????????????????15:13-14,19803)SeamoneC,LeblancR,RubillowiczMetal:Thevalueofindicesinthecentralandperipheralvisual?eldsforthedetectionofglaucoma.???????????????106:180-185,19884)PennebakerGE,StewartWC:Temporalvisual?eldinglaucoma:are-evaluationintheautomatedperimetryera.????????????????????????????????230:111-114,19925)BuchananTAS,HoytWF:Temporalvisual?elddefectsassociatedwithnasalhypoplasiaofthedisc.????????????????65:636-640,1981(22)眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社

中毒と視神経乳頭所見

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS識を有しているかを知る目的で,当院の朝のカンファレンスにおいて,出席医師(n=22)にその場で(書物などを調べずに)中毒性視神経症の原因となる物質,薬物で知っているものを回答してもらった.図1は上位6位の調査結果である.予想どおり,薬物としてはエタンブトール,化学物質としてメタノール(単にアルコールと記した医師が4名あったが,これもここに含めた)をあげる医師が多かった.しかし,3位にあるサリンは,わが国ではオーム事件での急性中毒があるが,中毒性視神経症といえる視神経への直接作用は証明されていない.5位の農薬(2名は有機リン,1名は抗コリンエステラーゼと回答)も,慢性中毒が実験的にも,臨床的にもわが国で多くの研究があったが,最近は臨床例の報告はほとんどみられていなはじめに中毒性視神経症の存在は,頭ではわかっていても,視神経症の症例を前にすると,しばしばその原因,鑑別診断から落ちこぼれてしまう.その最大の理由として,中毒性の大部分は急性中毒ではなく,微量の薬物やガスに曝露し続けた結果,網膜神経節ないしその軸索突起である視神経が傷害される形が多く,その原因や過程が確認しにくいことがあげられる.また,中毒性視神経症においては,因果関係の同定がしにくいことに加え,単発的な症例報告しかなく,原因物質ごとの臨床的特徴の全貌が必ずしも明らかになっていないことも問題である.こうしたなかで,視神経乳頭所見が中毒性視神経症の診断の助けになりうるか,というクエスチョンを問題意識として念頭に置きながら,中毒性視神経症についての知識を整理してみたい.I最近の中毒性視神経症に注目そもそも,特定化学物質や薬物の副作用としての中毒性視神経症は,その物質の使用の可能性や曝露の有無に思い至らなければ診断ができない.つまり,特定物質との関連を知らなければ,原因不明の視神経症(または炎)とか,進行した緑内障だとか,といった診断が,高いレベルの証拠なくつけられてしまいがちである.したがって,まず,どのような薬物や化学物質と視神経症の間に関連がありうるかという知識が大切である.一般眼科医が,中毒性視神経症についてどの程度の知(15)???*MasatoWakakura:井上眼科病院〔別刷請求先〕若倉雅登:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):577~580,2006中毒と視神経乳頭所見????????????????????????????????????????????若倉雅登*図1一般眼科医の念頭にある中毒性視神経症の原因物質(上位6位)井上眼科病院眼科医(n=22)に対する調査より.02468101214161820エタンブトールメタノールサリンシンナー農薬トルエン回答数———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006い.そのほか,この調査であげられたものとしては,タモキシフェン,キノホルム,タバコ,イソニアチド,一酸化炭素など,中毒性視神経症としての確実性の高い報告があるものが含まれていた.また,インターフェロンをあげた医師があったが,インターフェロンアルファーでは網膜出血のほか,虚血性視神経症の報告もあることを知っていたのであろう1).しかし,むしろ網膜毒性のみが知られているクロロキン,ジゴキシン,アレビアチンなどの物質をあげた医師や,網膜・視神経毒性としての明確な証拠がない水俣病やカネミ油症関連物質をあげている医師もあった.なお,22名のうち,中毒性視神経症や網膜症を経験したことがないという医師は9名であった.一方,臨床的に比較的多く用いられ,眼科医としては知っておくべきではないかと考えられる物質として,クロラムフェニコール,シスプラチン,ビンクリスチン,5-フルオロウラシル(5-FU),シクロスポリン,タクロリムス,エチレングリコール,鉛,タリウムなどがあるが,これらはあげられなかった.また,抗菌薬では,最近筆者らや他のグループにより次々と報告されたリネゾリドは,まだ知られていなかった.この抗生物質は,視神経症のほか末?神経障害も惹起し,視神経症は薬物中止により可逆性が高い点から,眼科医が知っておくべき薬物である2~4).これらの中毒性視神経症における,視神経乳頭所見については,症例により正常所見,乳頭腫脹,視神経萎縮などさまざまであり,特徴的,特異的なものは知られていない.機序が循環障害であり,前部虚血性視神経症を呈する場合は,しばしば出血を伴う腫脹,もしくは蒼白腫脹となり,慢性期には乳頭陥凹を呈する可能性もある5).IIシンナー中毒とは図1で4位にあげられたシンナーとは,もちろん特定の化学物質を指すのではなく,文字どおり「薄め液」,有機溶剤である.成分としてはトルエン,酢酸エチル,メチルアルコールなどがある.ほかにも,キシレン,ホルマリン,ノルマルヘキサン,トリクロールエタンなど,シンナー成分や有機溶剤の種類は,枚挙に暇がない.シンナーによる視神経症のわが国での報告は,竹内ら6)が皮切りのようであり,その後,シンナー乱用に警告を発する多数の報告がある7,8).多くは,他の神経学的所見を有するが,視神経症単独でみられるものもある.ここで,自験例を簡単に述べる.16歳の男性で,1週間程度前から右眼の視力低下に気づき当院を受診,入院した.矯正視力は右眼0.2,左眼0.6,右眼に相対的瞳孔反応障害がみられ,中心フリッカー値は,右眼25Hz,左眼35Hzであった.両眼に中心暗点がみられた.乳頭は一見異常とは思われなかった(図2)が,蛍光眼底造影では乳頭に軽度の過蛍光がみられ,乳頭周辺に顆粒状の蛍光のむらがみられた.このむらは,木村,石川(16)図3シンナー乱用が原因と考えられる両眼性視神経症患者にみられた乳頭の深い陥凹図2シンナー吸引により視覚障害が発症したと考えられる16歳,男性の右眼乳頭所見———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???らが報告していた所見に一致し7),入院中にシンナーを乱用していたことが明らかになり,シンナー中毒による視神経症と診断した.他の神経学的症候はみられず,頭部画像診断,脳波にも異常はみられなかった.本例は,シンナーからの離脱に成功したが,当初は,他の仲間のほうが頻繁に乱用しているのに視力がよい,自分はときどきなのになぜ視神経が悪くなったのかと,シンナーによる障害であることをなかなか受け入れなかった.なお,最終矯正視力は右眼0.1,左眼1.0であった.これまでの報告は,いずれもこのようなシンナー遊びなどシンナー乱用によるものであるが,筆者は職業上のシンナーの長期曝露によると考えられる視神経症を複数経験している.さて,シンナー乱用者は多幸感が得られやすい純粋トルエンを好むといわれ,石川7)はそうした中毒の臨床経験などからトルエン中毒の存在を主張している.一方,シンナーの気相成分として最も多いメタノールが原因であると考えている報告も少なくない.特に,メタノールの飲用などによる失明は戦後よくみられた,との言い伝えが残っているが,その一つの特徴として,非常に深い乳頭陥凹が知られている(図3).それは,緑内障性陥凹と区別がつかないと記載されている9,10).ここで,わが国でシンナー視神経症として報告されたものの乳頭所見を検討してみる.乳頭正常,乳頭発赤,乳頭周囲神経線維層の腫脹,耳側蒼白,視神経萎縮など,時期や症例ごとにかなり異なる.そのなかに,乳頭陥凹の拡大もしくは深い乳頭陥凹の存在を記載したものがあった11~13).これが,シンナー中毒の主因がメタノールであるという,もう一つの根拠ともなっている.シンナー中毒では網膜反射の異常,網膜脈絡膜の蛍光眼底造影上の異常など視神経乳頭以外の眼底異常や網膜電図(ERG)の異常,さらに中枢神経系のさまざまな異常が合併しうることを付け加えておく7,8).III中毒性視神経症における乳頭所見の特異性虚血性視神経症,特発性視神経炎,Leber遺伝性視神経症などでも,慢性期に乳頭陥凹の拡大がみられる症例のあることは,すでによく知られている5).しかし,どの程度の頻度で生じ,個々の例が,その形態だけで緑内障性乳頭陥凹と鑑別できるかどうかについては,十分信頼できる研究はない.冒頭にも記したように,中毒性視神経症の症例の多くは慢性期に見出され,眼科を訪れたときはすでに視神経萎縮に陥っていることが多い.その(17)ab図4エタンブトール視神経症患者の左眼眼底(a)と同眼のHumphrey視野(30-2)(b)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006ときに生じているかもしれない乳頭陥凹が,緑内障性陥凹と区別可能かという問いに対する回答を得ることは,さらにむずかしい.というのは,中毒性視神経症とはいうが,それで一括することはできず,中毒の原因となる物質ごとに臨床像は異なるはずで,しかも,各々の症例はかなり少ないため,特異的乳頭所見があるかどうかを研究することはきわめてむずかしい.比較的多くみられるエタンブトール視神経症の1例(57歳,女性)を見てみよう.矯正視力は右眼0.2,左眼0.1であった.左眼の乳頭所見と視野を図4に示す.右眼も同様の所見であった.乳頭は陥凹があり,耳側蒼白,視野は両眼とも上方から上耳側に感度低下が顕著であった.エタンブトール内服の既往がある点,感度低下域が耳側に強い点からは,それと診断がつくが,乳頭所見から疾患を推定することは困難である.もちろん,エタンブトール視神経症がこのような乳頭所見を呈しやすいという意味ではなく,もともとある視神経乳頭の種々の形態バリエーションや,決してまれでない緑内障性視神経乳頭の上に,中毒という因子がかぶる可能性があることを,強調したいのである.このように,メタノール中毒でみられる深い乳頭陥凹所見を除くと,中毒性視神経乳頭所見に特異性があるとは,現時点では明言できないのが実状である.(18)文献1)VardizerY,LinhartY,LowensteinAetal:Interferon-alpha-associatedbilateralsimultaneousischemicopticneu-ropathy.????????????????????24:98-99,20042)SaijoT,HayashiK,YamadaHetal:Linezolid-inducedopticneuropathy.???????????????139:1114-1116,20053)McKinleySH,ForoozanR:Opticneuropathyassociatedwithlinezolidtreatment.????????????????????25:18-21,20054)RuckerJC,HamiltonSR,BardensteinDetal:Linezolid-associatedtoxicopticneuropathy.?????????66:595-598,20065)若倉雅登:緑内障と鑑別を要する視神経疾患の眼底.神経眼科22:184-193,20056)竹内忍,久保田伸枝:シンナー・接着剤常用者にみられた急性視力障害.眼臨68:909-914,19747)石川哲:シンナー中毒と眼.その臨床と眼.臨眼39:245-255,19858)菅澤淳:シンナー中毒.眼科34:857-863,19929)PhillipsPH:Toxicandde?ciencyopticneuropathies.WalshandHoyt?sClinicalNeuro-Ophthalmology(edbyMillerNR,NewmanNJ),6thedition,Vol1,p447-463,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,200510)StelmachMZ,O?DayJ:Partlyreversiblevisualfailurewithmethanoltoxicity.?????????????????????20:57-64,199211)植田良樹,新井三樹,河野眞一郎ほか:シンナー中毒性視神経症の1症例.神経眼科7:87-91,199012)二宮元,浅原茂生,横田健司ほか:シンナー中毒による視神経障害の1例.眼紀41:640,1990

頭部画像診断の重要性

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSa.異形性の有無偽性うっ血乳頭は,共通した特徴がある.生理的陥凹(cup)を欠き,血管は乳頭中央から出て,3分岐,4分岐といった大血管系の異常を伴うことが多い.後天性の視神経乳頭腫脹とは,機械的に,あるいは,循環障害や炎症などの何らかの後天的な原因で軸索流が停滞することによって神経線維束が光学的に混濁した結果,検眼鏡的に視神経乳頭が腫れたようにみえる(discedema).後天性の腫脹は,この傍乳頭神経線維層の混濁の有無を評価判断することにある.異形性に基づく視神経乳頭の隆起は,神経線維束によって乳頭は隆起していても神経線維束には混濁はなく,乳頭縁に直交して放射状に走る網膜神経線維束のキラキラとした光学的反射を認めることができる.視神経乳頭上の静脈の自発拍動を認めれば,先天異常を支持する所見であるが,先天性か後天性かの決定は,決して一つの所見に基づくのではなく,両者の鑑別点を比較して総合的に判断する.異形性をもった視神経乳頭は“偽性”うっ血乳頭とよばれるが,真のうっ血乳頭を否定するものではない.一つでも疑わしい点があれば,うっ血乳頭除外のため頭部画像検査を施行する.b.うっ血乳頭の除外診断検眼鏡的にdiscedemaを認めた場合,鑑別診断は山のようにある1).見た目の様子だけからでは原因疾患は特定できない.診断には神経眼科の基本ルール,ことに視力と視野検査が役立つ(表1).視神経疾患に伴う視野はじめに視神経疾患は,現病歴から,視力,瞳孔,視野,色覚,眼底検査を含めた神経眼科的所見をもとに最も考えうる臨床診断から,超音波検査や蛍光造影眼底撮影などの眼科外来検査やコンピュータ断層撮影(CT)や磁気共鳴画像法(MRI)といった画像検査を用いて鑑別を進め,必要に応じて,脳脊髄液の検査や神経内科医による診察を踏まえて総合的に患者を評価して初めて診断が可能となる.本稿では,頭部画像検査の必要な視神経疾患について,視神経乳頭の検眼鏡的所見をもとにまとめる.視神経乳頭の検眼鏡による鑑別診断視神経乳頭は,検眼鏡的に乳頭の隆起(elevation)の有無から診断を進める.1.隆起した視神経乳頭隆起した視神経乳頭(elevateddisc)を見れば,何はさておき,脳脊髄液圧亢進によるうっ血乳頭(papillede-ma)を除外しないといけない.うっ血乳頭は,脳神経学的な緊急状態を意味する.時間をおかずにただちに頭部画像検査が必要である.隆起した視神経乳頭(elevateddisc)は,まず,本当に視神経乳頭が腫れているかどうか,視神経乳頭の腫脹(discswelling)の有無を決定する.異形性の有無について,視神経乳頭の先天的形成異常である偽性うっ血乳頭(pseudopapilledema)を鑑別する.(9)???*SatoshiKashii:大阪赤十字病院眼科〔別刷請求先〕柏井聡:〒543-8555大阪市天王寺区筆ヶ崎町5-30大阪赤十字病院眼科特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):571~576,2006頭部画像診断の重要性?????????????????????????????????????????????????????????柏井聡*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006障害は,網膜神経線維束の走行に沿った欠損をつくることが知られている.疾患に応じて網膜神経節細胞の脆弱性が異なり,遺伝性や中毒性視神経症のように視力に関わる乳頭黄斑線維束が障害されると視野上,盲・中心暗点をつくり,緑内障や慢性うっ血乳頭では視力は保存され,網膜神経線維束が好んで障害される.こうした背景疾患をもとに生じる視力や視野障害は両眼性が原則である.一方,成人の視神経炎や非動脈炎性前部虚血性視神経症では単眼性発症が中心である.ここで,注意を要するのは,初期うっ血乳頭である.脳圧亢進に基づいて軸索流が渋滞し視神経乳頭が腫脹するが,初期では,必ずしも,両眼同時に発症するわけではなく左右差がある点である.軸索流の渋滞だけでは視機能障害は生じず,視神経乳頭周囲の隆起した網膜に基づく屈折性の暗点形成による盲点拡大が初期症状であるので,機能的な障害の認められない患者では,単眼性でも傍乳頭神経線維層の混濁を認めれば,うっ血乳頭の可能性がある.「うっ血乳頭は視力障害をきたさない」というルールは,小児に“中途半端”にあてはめてはいけない.成人では,頭蓋咽頭腫や胚細胞腫は,大きな腫瘤を形成することはまれだが,小児では腫瘍の進展に伴い第3脳室のMonro孔を閉塞しうっ血乳頭をきたすことがある.このように原発病変によっては視神経/視交叉を障害することがあるので,注意が必要である.また,小児の視神経炎は成人と異なり両眼発症が多いので「両眼性の視神経炎」に見えても,「うっ血乳頭と視力障害」が共存していることがあるため,小児の視神経炎ではうっ血乳頭を,ただちに,頭部画像検査によって除外しないといけない.したがって,両眼性は言うまでもなく単眼性でも視機能の良好な“微妙な”subtlediscedemaは,うっ血乳頭を除外するため,頭部の画像検査を行い,脳内占拠性病変を除外する必要がある.c.単眼性視神経乳頭腫脹脳圧亢進によるうっ血乳頭(papilledema)だけでなく視神経を取り巻くくも膜下腔の内圧が局所的に上昇しても視神経の軸索流が障害され検眼鏡的に視神経乳頭が腫脹(discedema)する.盲点拡大程度で視機能が保存された患者では,subtlediscedemaでも,誰が見てもわかるfull-blowndiscedemaでも,単眼性では浸潤性ないし圧迫性視神経症を除外する.したがって,単眼性discedemaでは「頭部」画像検査だけでは不十分で,眼窩部の画像検査を必ず施行しないといけない.表1脚注のように,通常は,(眼窩部)視神経?髄膜腫を含めて圧迫性視神経症は原則として潜行性進行性の中心視力の低下を伴うのが特徴である.単眼性discedemaに突発性あるいは急性の視力,視野障害をきたした場合は,発赤性腫脹の視神経炎(脱髄性視神経症)や蒼白性腫脹の前部虚血性視神経症が鑑別にあがってくる(表1).患者の年齢とともに確定診断には時間経過が必須となる.d.脳脊髄液圧の測定うっ血乳頭は検眼鏡的所見から疑って,実際に脳圧を測定しない限り診断は確定しない.頭部画像が正常であるからといって,脳圧が正常であるとは言えない.必ず,専門医に依頼し腰椎穿刺のうえ,脳圧を測定する.脳圧が亢進しているにもかかわらず,頭部画像上,占拠性病変が認められない場合,特発性および二次性頭蓋内圧亢進症を鑑別することになる2).ことに脳静脈洞閉塞(10)表1視神経疾患の視力と視野の特徴■両眼性1.中心視力の低下(+):乳頭黄斑線維束障害型(盲中心暗点)中毒性視神経症遺伝性視神経症(Leber遺伝性視神経症など)栄養障害性視神経症2.中心視力の低下(-):非乳頭黄斑線維束障害型(神経線維束障害型欠損)原発開放隅角緑内障慢性うっ血乳頭■単眼性3.中心視力の低下(±):混合型=乳頭黄斑線維束+神経線維束欠損型圧迫性視神経症外傷性視神経症急性緑内障視神経炎*虚血性視神経症*網膜中心動脈分枝閉塞症**乳頭黄斑線維束を保存することもある.一方,圧迫性視神経症,外傷性視神経症,急性緑内障では原則として中心視力の低下を伴うと考えてよい.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???症には最近MRvenographyの有用性が報告されているので,脳圧亢進患者の診断にあたっては通常のMRI検査に加えて施行するとよい.2.平坦な視神経乳頭視力や視野障害のある患者の視神経乳頭が検眼鏡的に平坦(?atdisc)なら,病的過程の結果かどうか,まず,先天的な乳頭の異形性の有無をチェックする.乳幼児では乳頭の異形性そのものが,腫瘍などの病的過程の結果生じることがあるので,年齢に応じて対応が異なる.a.異形性の有無乳幼児に乳頭低形成を認めると,成人とは対応がまったく異なる.これは,視神経乳頭低形成は,網膜神経節細胞の未発達,アポトーシスと関連し発達途上で,視交叉の構造異常(deMorsier症候群)や腫瘍(頭蓋咽頭腫や視神経膠腫)によってシナプスが形成できないと視神経乳頭低形成となるからである3).4歳までは全例頭部MRI検査を行い,透明中隔欠損(無害性),異所性下垂体後葉(下垂体前葉ホルモン低下症),大脳半球性異常(神経機能発達不全)などに注意する.deMorsier症候群ではプロラクチンの上昇で生後3~4歳までは正常の成長範囲内となることがあるので,4歳以降の正常発育児の乳頭低形成例では,小学生高学年までは体重と身長の成長曲線を記録するように母親に指導する.小児乳頭低形成において,年齢にかかわらず,進行性の視力・視野障害や視神経萎縮を認めたときは,潜在性の悪性疾患を考え,ただちに,視交叉の画像検査を行う.成人において,網膜神経線維束欠損型の視野異常に視神経乳頭の低形成などの異形性を認めると先天的な視野障害が示唆され,たまたま検査で発見されて視野障害に気づいた場合が多い4).典型的なdoubleringsignは診断が容易であるが,部分的な場合に低形成乳頭を取りまく色素輪を視神経萎縮と見誤られることがある.屈折性暗点を呈するlaterallytilteddiscsyndromeを含めて乳頭の形成異常や低形成に基づく視野障害は正中線を無視した視野欠損となることが多い.成人の視神経乳頭の形成異常例では,視野障害が進行性であるかどうか,必ず間隔を開けて視野の経時的変化を追うことが大切である.神経線維束欠損性の視野では初診の眼底検査だけでは正常眼圧緑内障を除外するものではないからである.b.視神経萎縮の有無視神経萎縮の鑑別診断は,生命的予後とも関連して実地臨床上まず何をおいても視神経の圧迫性病変を除外しないといけない.特に,視神経萎縮をきたす代表的疾患の緑内障では治療によっていくらうまく眼圧下降が得られても一旦消失した視機能は戻らない.圧迫性視神経症では手術的に減圧すれば視力,視野が著明に改善することが古くから知られており,失明の予防からも,早期に正しく診断することは眼科医として大切な責務である.視神経萎縮(opticatrophy)とは,何らかの不可逆的傷害の結果,網膜神経節細胞の軸索の消失が検眼鏡的に認められる状態を指す.したがって,視神経萎縮は,検眼鏡的な視神経乳頭部の色調が退色ないし網膜神経線維層の厚みが菲薄化した状態を指す臨床的呼称で診断名ではない検眼鏡的な乳頭の色調は乳頭の構造血管を反映しているので,乳頭の大きさは色調に影響し,大きな視神経乳頭は篩状板が大きいのでそれだけ蒼白化して見えやすい.また,視神経乳頭の耳側は,神経線維の直径が小さく,広く乳頭面上に広がるので,鼻側に比べ蒼白化して見えやすい.したがって,検眼鏡的な視神経乳頭の蒼白化を視神経萎縮と早合点してはいけない.乳頭の色調の蒼白化が視神経萎縮かどうかの判定は視機能障害の有無によって決まる.しかし,最近進歩した画像解析で網膜神経線維層の菲薄化が経時的に証明できれば,今ある検査法では機能障害の進行を検出できなくても,視神経萎縮が有意に進行したと判断できるようになってきた.ただ,一般の実地臨床では,検眼鏡的な視神経乳頭の蒼白化は,単眼性の場合や何らかの機能的な障害〔中心暗点,色覚障害,相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)など〕が認められる場合以外は,視神経萎縮の判定はむずかしい.c.圧迫性視神経症の除外眼窩内の圧迫性視神経症では,まれに眼窩後方の病変で乳頭腫脹を認めない場合があるが,多くは片側性の視神経乳頭腫脹をきたす.上記1-c項のように視機能がよく保存されているのと対照的な派手な腫れfull-blowndiscedemaが特徴である.一方,頭蓋内での圧迫性病(11)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006変は通常は乳頭腫脹をきたさないのが原則で,検眼鏡的に正常なものから視神経萎縮を呈するものまで,検眼鏡的所見のみから診断を下すことは基本的には困難で,視野などの臨床所見が必要である.ただ,Frisen-Hoytの3徴として知られる,(1)潜伏性に徐々に進行する視力障害の(2)視神経萎縮に(3)乳頭毛様静脈(optociliaryveins)を認めれば,検眼鏡的所見のみから,ただちに視神経?髄膜腫と診断できる.確定診断は眼窩部の画像検査による.単純CTで特徴的な石灰化像が描出されれば確定する.眼窩部MRI検査では,脂肪抑制モードにGd(ガドリニウム)造影しないと描出できないので,検査を申し込む際,注意を要する.蝶型視神経萎縮は特徴的だが検眼鏡だけではむずかしく,通常は,耳側半盲から逆に疑って観察しないと“そのように”見えない.d.緑内障性視神経症視神経萎縮の鑑別診断上で,日常,頻度的に最もよく遭遇するのが,緑内障性視神経症である.圧迫性視神経症の除外診断は,緑内障性視神経症をきちんと診断することと表裏一体をなす.緑内障性視神経障害の最も早期の変化は網膜神経線維束欠損(retinalnerve?berlayerdefect:NFLD)である.検眼鏡的な視神経乳頭の萎縮像だけに気を取られていると,緑内障の網膜神経線維束の初期脱落を見逃す.局所的に網膜神経線維束が脱落する緑内障性陥凹では,生理的陥凹の壁面を浸食するように拡大していく.したがって,緑内障では陥凹が蒼白部分(pallor)を越えて,辺縁部(rim)に食い込んでいくため,陥凹形成のほうが蒼白部分より先行していく傾向がある.一方,視神経乳頭より後方で視神経が傷害される圧迫性視神経症では,逆向性変性によるため,視神経乳頭の陥凹の形状とは無関係に萎縮が進み,蒼白部の範囲が生理的陥凹を無視して広がっていく.e.“緑内障”様視神経乳頭(glaucoma-look-a-like)視神経乳頭の陥凹が一見緑内障様に見えても,表2のように,緑内障としては非典型的な所見が認められれば,まず,圧迫性視神経症を除外すべく画像検査を施行する.また,緑内障患者でも当然脳内病変を伴うことが(12)表2“緑内障”様の陥凹で画像検査が必要な所見1.一眼に限局2.陥凹を越える辺縁部蒼白化(rimpale)3.半盲(1/4盲)性視野欠損4.陥凹の進行に先立つ視力低下や色覚異常図1症例(67歳,男性)の紹介1カ月前のGoldmann動的視野検査視力はVD=(0.8),VS=(0.5),右眼の耳下側にはI3eのイソプターで固視点に向かう垂直正中線を守る欠損が認められる.左眼はV4eでは耳側周辺部穿破型欠損だが,よく見るとI3eで垂直経線を守る耳側半盲パターンをすでに呈している.すでにこの段階で,左側視交叉の前部を横断性に右側視交叉の前上方にかけて圧迫性病変の存在が示唆される.LR———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(13)ab図4症例(67歳,男性)の頭部MRI(Gd造影T1強調画像)a:軸性断で視交叉上方のGdでよく造影される腫瘤(矢印)を認める.b:冠状断でGd造影される第3脳室間から視交叉上部の腫瘤(矢印)につながり,さらに下垂体柄に沿って広がる転移性腫瘍がよくわかる.本例のように圧迫性視神経症では早期から中心視力が低下する傾向がある.LR図2症例(67歳,男性)の紹介受診時のHumphrey静的視野検査(SITA-fast24-2)視力はVD=(0.07),VS=(0.5)と,右眼の中心視力が高度に障害され,静的中心視野検査で図1当時と比べると右眼の正中線を越える下鼻側の欠損が目立つ.左眼はGoldmannで認められた耳側半盲を示している.上方はグレースケール表示,下方はパターン偏差確率プロット図.LR*図3症例(67歳,男性)の紹介受診時の視神経乳頭のカラー写真右眼(R)の乳頭陥凹は細隙灯で見ると下方の浸食性の進展がよくわかるが,蒼白調の部分は陥凹の中心部に限局しており浸食側の底部(*)の色調は良好な緑内障のごく早期の変化を呈している(centralpallor).左眼(L)の視神経乳頭は浸食型陥凹を乗り越えて耳側辺縁部が蒼白化(矢印)している(rimpal-lor).右眼の急激な視力障害のわりに視神経乳頭はごく早期の緑内障性変化しか認められないことから,球後性の障害が急激に進行していることが示唆される.左眼の耳側半盲と辺縁蒼白より視交叉前部と両視神経の接合部の圧迫性病変についての画像検査がただちに必要である.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006ある.そうした例に図1の67歳,男性がある.近医で緑内障の治療を受けていた.2カ月前に肺癌のため呼吸器科に入院,当時VD=(0.8),VS=(0.5),視野は図1のごとくで,眼圧下降が不十分なため点眼薬が追加された.1カ月前より視力障害が急に進行しVD=(0.07),VS=(0.5)となったので紹介されてきた.静的視野検査(図2)で,左眼に明らかに半盲を呈し,検眼鏡的に左眼視神経乳頭の辺縁部蒼白化(図3)が認められ,頭部MRIを調べると視交叉に肺癌の転移性病変(図4)を認めた.眼圧が高値を示し,検眼鏡的に浸食性(undermining)の陥凹を見ると緑内障と反射的に考えやすいが,前医の視野をよく見るとGoldmann動的視野検査(図1)でも正中線を守る半盲性視野欠損を呈している.もちろん,緑内障でも半盲性欠損を呈することがあるが,正中線を守る視野欠損は,緑内障患者であろうとなかろうと,ただちに,視神経~視交叉の圧迫性ないし浸潤性視神経症を除外しないといけない5).視交叉前部の圧迫性視神経症では早期から視力低下を自覚するのが特徴で,同じ視力1.0でも反対眼と比べて「見えにくい」と訴えることが多い.また圧迫性病変の視力障害の大事な特徴に右下さがりの下降的経過がある.一方,緑内障では進行例を除いて乳頭黄斑線維束は保存されるので,視野検査で神経線維束欠損性の視野に中心視力の低下を伴う場合,外傷や急性視力視野障害の既往がなければ,まず,圧迫性視神経症を除外する必要がある(表1の脚注).おわりに視神経疾患で画像検査が必要な場合,頭部,眼窩部,(14)視交叉部など,どの部位の画像検査か,検査を予約する際にきちんと鑑別診断を念頭に施行しないといけない.圧迫性や浸潤性視神経症を考える場合は,視神経から視交叉について単純だけでなく造影検査を施行しないといけない.うっ血乳頭や半盲性視野を認める場合は,視交叉周辺から後頭葉を含めた頭部画像を造影を含めて検査する.CTは眼窩内を評価するのにはすぐれている.MRIは,脂肪抑制モードにGd造影すれば眼窩先端部の評価にはCTより詳細に見える.頭部の画像検査はMRIが原則である.脱髄病変はT2強調画像で見えるが,眼窩内では脂肪のため単純撮影では見えず,脂肪抑制モードにGd造影が必要である.髄膜腫は単純CTで石灰化が見えるが,MRIでは評価する際はGd造影が必要である.画像検査のオーダーには,具体的に,検査したい部位と疾患名を記載して,放射線医に最適の検査を施行してもらわないと“見えるもの”も見えなくなってしまう.文献1)柏井聡:視神経乳頭炎・浮腫の鑑別診断.臨眼54:102-104,20002)GansM,BurdeRM,KashiiSetal:Idiopathicintracranialhypertensionandpseudotumorcerebri.CurrentOcularTherapy5(edbyFraunfelderFT,RoyFH),p217-219,WBSaunders,Philadelphia,20003)KashiiS,KikuchiM,HashimotoTetal:Achildwithhypoplasticopticdiscwhohadasuprasellartumor.神経眼科14:98-106,19974)KashiiS,dGaunnttC,MatsumotoMetal:Acaseofatilteddiscsyndrome.神経眼科11:348-356,19945)KashiiS,dGaunnttC,ShimizuHetal:Acaseofnasalvisual?elddefect,inwhichglaucomawassuspected.神経眼科11:86-95,1994

視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか?

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSが,立体的に観察できない場合は乳頭表面の小血管の屈曲する部位を参考にして陥凹縁を決定する.乳頭縁は乳頭周囲にある白色の強膜リングの内側縁により決定することができる.正常眼の乳頭の形状はやや縦長の楕円形が多い(図1)6).乳頭辺縁部〔neural(neuroretinal)rim〕は,乳頭縁と乳頭陥凹縁との間の部位で,おもに神経線維から構成されている.正常眼の乳頭辺縁部はオレンジ色またはピンク色で,その色調はほぼ一定である.正常眼では,乳頭陥凹の形状はやや横長の楕円形が多く,乳頭辺縁部の幅は広い順に,下側,上側,鼻側,耳側とされる(ISN?Tの法則)6)が,大きな乳頭や近視眼などではこの法則は必ずしも当てはまらない.乳頭蒼白部(pallor)は乳頭陥凹底で色調のコントラストが最も強く蒼白な部位である.正常眼の生理的乳頭陥凹では乳頭の蒼白部は陥凹にほぼ一致するか,あるいはそれよりもやや小さい.乳頭陥凹の大きさは乳頭の大きさに関係し,一般に乳頭が大きいほど陥凹は大きくなる.正常眼の乳頭径に対する陥凹径の比(cup/discratio:C/D比)は多くの場合0.3以下で,C/D比が0.7以上は全体の1~2%に過ぎないとされている7).正常者の乳頭陥凹は左右眼で対称的で,C/D比の左右差が0.2を超えるものは全体のわずか1%とされている7).通常正常眼では水平C/D比が垂直C/D比よりも大きい6).乳頭辺縁部の大きさも乳頭の大きさに関係し,一般に乳頭が大きいほど辺縁部も大きくなる.はじめに2000~2001年にわが国で行われた大規模な緑内障疫学調査(多治見スタディ)により,40歳以上の緑内障の有病率は5.0%であること,さらに緑内障の72%が原発開放隅角緑内障(広義)の正常眼圧群,いわゆる正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)であることが示された1,2).わが国に多いNTGの視神経障害と視野障害は,基本的に進行性,非可逆的であり,本症の早期診断,早期管理は重要課題となっている3).NTGの診断には,緑内障性視神経乳頭(乳頭)陥凹拡大など,緑内障性乳頭変化の検出が不可欠である.しかし,緑内障類似の乳頭陥凹拡大を呈する緑内障以外の先天性あるいは後天性疾患がいくつかあり,乳頭変化が緑内障によるものか否かの判定が容易でない場合がある4,5).本稿では,「視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか?」と題し,まず正常眼と緑内障眼の乳頭所見について述べ,正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合を仮定し,乳頭陥凹の診かたについて解説する.I正常眼と緑内障眼の乳頭所見網膜と平行に走行してきた神経線維は乳頭表面で後方へ屈曲し,乳頭のほぼ中央に凹みを形成するが,この凹みが乳頭陥凹(opticcup)である.乳頭陥凹縁は神経線維が乳頭内で急激に後方へ屈曲する部位とされている.乳頭陥凹縁の決定には乳頭の立体的な観察が必要である(3)???*MotohiroShirakashi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕白柏基宏:〒951-8510新潟市旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):565~570,2006視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか???????????????????????????????????????????????????????白柏基宏*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(4)図3緑内障眼の乳頭(2)同時立体眼底写真.乳頭陥凹はびまん性に拡大している.乳頭辺縁部はびまん性に菲薄化しているが,下耳側に切れ込みがあり,乳頭陥凹の下掘れもみられる.乳頭陥凹の下掘れの部位を走行する血管は強く折れ曲がっている.下耳側に乳頭出血がみられ,それに一致して楔状の網膜神経線維層欠損がみられる.図1正常眼の乳頭同時立体眼底写真.図2緑内障眼の乳頭(1)同時立体眼底写真.乳頭陥凹はびまん性に拡大している.乳頭陥凹の下掘れと強膜篩板孔の露出がみられ,陥凹の下掘れの部位を走行する血管は強く折れ曲がっている.乳頭辺縁部はびまん性に菲薄化しているが,下耳側に切れ込みがあり,それに一致して楔状の網膜神経線維層欠損がみられる.図4緑内障眼の乳頭(3)同時立体眼底写真.乳頭陥凹はびまん性に拡大している.乳頭辺縁部はびまん性に菲薄化しているが,特に上耳側で薄く,それに一致して楔状の網膜神経線維層欠損がみられる.耳側に大きな乳頭周囲網脈絡膜萎縮がみられる.図5緑内障眼における乳頭の陥凹拡大と蒼白部拡大一般に緑内障眼では乳頭の陥凹拡大が蒼白部拡大に先行する.検眼鏡的に,乳頭陥凹縁は乳頭表面の小血管の屈曲部位により決定する(①の破線)が,乳頭陥凹縁を蒼白部により決めて陥凹の変化を評価する(②の破線)と,陥凹の変化を過小評価する危険がある.①②表1緑内障眼の乳頭および乳頭周囲所見乳頭乳頭陥凹の拡大乳頭辺縁部の菲薄化乳頭陥凹の下掘れ強膜篩板孔の変形と露出乳頭蒼白部の拡大乳頭出血乳頭上網膜血管の変化(bayoneting,鼻側偏位,overpass,baring)乳頭周囲網膜神経線維層欠損乳頭周囲網脈絡膜萎縮———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???緑内障眼では神経線維の消失に伴い,乳頭陥凹が徐々に拡大する(図2~5,表1).乳頭陥凹拡大には,びまん性拡大と局所性拡大があるが,一般に両者が組み合わさった場合が多い.通常緑内障初期では乳頭陥凹は水平方向に比し垂直方向へ優位に拡大する.乳頭陥凹の局所性拡大は乳頭の上耳側または下耳側にみられることが多い.緑内障の進行に伴い,乳頭辺縁部は徐々に菲薄化し,その色調は蒼白化していく.乳頭辺縁部の菲薄化には,びまん性菲薄化と局所性菲薄化がある.乳頭辺縁部のびまん性菲薄化は乳頭陥凹のびまん性拡大に対応する.乳頭辺縁部の局所性菲薄化は乳頭陥凹の局所性拡大に対応し,辺縁部に楔状の切れ込み(notching)を形成する.緑内障の進行に伴い,乳頭陥凹の深さも増加し,陥凹の下掘れ(undermining)や強膜篩板孔の変形と露出(laminardotsign)がみられるようになる.乳頭蒼白部も徐々に拡大するが,一般に乳頭の陥凹拡大が蒼白部拡大に先行する(図5).乳頭陥凹が,その内側に蒼白な凹みを保持したまま,カップの受け皿状に拡大することがある(saucerization).乳頭の陥凹拡大や辺縁部菲薄化に対応し,乳頭周囲に網膜神経線維層のびまん性または局所性欠損がみられることがある.緑内障眼では乳頭出血(dischemorrhage)がみられることがある(図3)8,9).乳頭出血は乳頭上や乳頭に隣接する網膜上にみられる小さな線状の出血で,上耳側または下耳側に多くみられ,乳頭辺縁部の楔状の切れ込みや網膜神経線維層欠損の存在部位と一致してみられることが多い.乳頭辺縁部の高度の菲薄化や乳頭陥凹の下掘れが生ずると,この部位を走行する乳頭上血管は強く折れ曲がる(bayoneting).支持組織の消耗に伴い,乳頭上血管は鼻側へ偏位していく(nasaldisplacement).乳頭上血管が乳頭陥凹壁から離れて橋状に走行することがあり(vesseloverpass),本来乳頭陥凹縁に沿って走行する乳頭上血管が陥凹縁から離れて走行することもある(baringofthecircumlinearvessel).緑内障眼では乳頭周囲網脈絡膜萎縮〔peripapillary(parapapillary)chorio-retinalatrophy〕がみられることがある(図4).乳頭周囲網脈絡膜萎縮は乳頭のより遠位に存在するzonealphaとより近位に存在するzonebetaの2つに分類され,検眼鏡的にはzonealphaは色素の濃淡が混在する部位,zonebetaは脈絡膜および強膜が透見される部位である10).II乳頭陥凹の診かた(正常眼圧,開放隅角,緑内障類似の乳頭陥凹拡大の場合)正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合,NTGを疑う必要があるが,生理的乳頭陥凹拡大やその他の先天性あるいは後天性疾患による乳頭陥凹拡大のこともあり,診断には注意を要する.診断は,視神経所見のみに基づいて行うのではなく,視野所見など,その他の検査所見を併せた総合的評価により行う必要がある3).NTGと診断するために視神経所見や視野所見の悪化を確認せざるをえない場合があり,診断のための経過観察も重要となる.以下に,正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合を仮定し,乳頭陥凹の診かたについて述べる.眼底検査により乳頭を詳細に観察するには,十分な光量と高い倍率が必要である.乳頭を三次元的に評価することが重要で,そのためには乳頭の立体的な観察が必要である.散瞳後,まず倒像鏡を用いて眼底を周辺部まで観察し,網脈絡膜の異常の有無を調べる.つぎに細隙灯顕微鏡と補助レンズ(78D,90Dなどの非接触型レンズまたはGoldmann三面鏡などの接触型レンズ)を用いて乳頭を立体的に観察する.乳頭の形状,表面の形状(陥凹と辺縁部),色調(陥凹底と辺縁部の蒼白性),血管の走行などを観察するほか,NTGでは乳頭出血が高頻度にみられること8)から,その有無も観察する.網膜神経線維層欠損,乳頭周囲網脈絡膜萎縮など,乳頭周囲の異常の有無も観察する.視神経所見は同一眼の上下耳鼻側で比較し,さらに左右眼で比較する.眼底カメラ(同時立体眼底カメラを含む)を用いた視神経所見の観察と記録は有用である.眼底画像解析装置を用いた乳頭や網膜神経線維層の定量的評価は診断の補助的手段として有用である.一般に緑内障眼では乳頭の陥凹拡大が蒼白部拡大に先行する,すなわち,陥凹拡大と蒼白部拡大は一致しないことから,陥凹縁を蒼白部により決めて陥凹の変化を評価すると,陥凹の変化を過小評価する危険がある(図5).通常緑内障初期では乳頭陥凹は水平方向に比し垂直(5)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006方向へ優位に拡大するため,陥凹の大きさをC/D比を用いて評価する場合,水平C/D比よりも垂直C/D比が有用である.乳頭陥凹拡大の基準として,垂直C/D比が0.7以上,あるいは垂直C/D比の左右差が0.2以上などが用いられている1,2).しかし,乳頭陥凹の大きさは乳頭の大きさに関係し,一般に乳頭が大きいほど陥凹は大きくなり,C/D比も大きくなることから(図6)11),陥凹の大きさやC/D比が大きくても正常の場合があり,反対に陥凹の大きさやC/D比が小さくても異常の場合がある.したがって,乳頭陥凹の大きさやC/D比の評価は乳頭の大きさを考慮して行う必要がある.なお,乳頭中心から黄斑部中心窩までの距離はほぼ一定であることから,眼底写真を用いて乳頭径(discdiameter:DD)に対する乳頭中心から中心窩までの距離(disc-maculardistance:DM)の比,DM/DD比を求めることにより,乳頭の大きさを大まかに評価することができる(図7)12).DM/DD比の正常値は2.4~3.0とされ,DM/DD比が2.4より小さい場合は大きな乳頭,3.0より大きい場合は小さな乳頭と判定される12).緑内障眼では視神経所見に対応した視野所見がみられ,両所見には整合性がある(図2,8).したがって,乳頭陥凹拡大がNTGによるものと診断する際も,視神経障害と視野障害の部位と程度が一致することを確認し,整合性がみられない場合は,眼底と視野を再検査するとともに,NTG以外の疾患を検索する必要がある.乳頭陥凹拡大がみられても,垂直経線を境とした視野障害がみられる場合,中心視野障害や視力低下がみられ,これらが比較的急速に進行する場合などでは,頭蓋内疾患による視神経障害も疑い,画像診断による頭蓋内疾患の検索を行う必要がある.(6)図6乳頭の大きさと陥凹の大きさ乳頭が大きいほど,陥凹およびC/D比は大きくなる(乳頭辺縁部の大きさは一定と仮定した場合).(文献11より)C/D=0.2C/D=0.5C/D=0.8a2a1b図7DM/DD比乳頭径[DD=(a1+a2)/2]に対する乳頭中心から黄斑部中心窩までの距離(DM=a1/2+b)の比,DM/DD比を求めることにより,乳頭の大きさをおおまかに評価することができる.DM/DD比の正常値は2.4~3.0で,DM/DD比が2.4より小さい場合は大きな乳頭,3.0より大きい場合は小さな乳頭と判定される.(文献12より)図8緑内障眼の視野Humphrey30-2全点閾値検査(図2と同一眼).上半視野に弓状暗点と鼻側階段がみられ,視神経所見に対応した視野所見である.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???NTGの乳頭陥凹拡大との鑑別が最も問題となるものとして,生理的乳頭陥凹拡大があげられる(図9).生理的乳頭陥凹拡大では,乳頭が大きいものが多く,乳頭陥凹縁は整っており,乳頭辺縁部の蒼白性や網膜神経線維層欠損はみられない.乳頭陥凹の大きさの左右差は少なく,C/D比の左右差が0.2を超えることは少ない.日本人に多い強度近視眼では著明な網脈絡膜萎縮を伴った乳頭陥凹拡大がみられることがある.この場合も,NTGの乳頭陥凹拡大との鑑別が問題となるが,一般に乳頭の初期緑内障性変化の検出は容易ではなく,併発する網脈絡膜萎縮などによる視野異常がみられることがあり,視野所見の評価には注意が必要である.乳頭陥凹の局所性拡大または乳頭辺縁部の局所性菲薄化がみられる場合,その乳頭内における位置を把握する必要がある.先天性の視神経低形成であるsuperiorsegmentaloptichypoplasia(SSOH)では乳頭辺縁部の局所性菲薄化がみられ,NTGとの鑑別が問題となるが,NTGでは乳頭辺縁部の局所性菲薄化は上耳側または下耳側に多いのに対し,SSOHでは上鼻側の乳頭辺縁部の菲薄化が特徴的である13).乳頭の色調が陥凹に比して蒼白な場合,すなわち蒼白部が陥凹よりも大きい場合,NTG以外の疾患を疑う必要がある.側頭動脈炎に発症した前部虚血性視神経症では緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられることがあるが,乳頭全体の蒼白化が特徴的である.動脈瘤や腫瘍などで視神経が圧迫されている場合でも,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられることがあるが,通常乳頭の蒼白部が陥凹より大きい.おわりに本稿では,「視神経乳頭陥凹拡大がみられたらどうするか?」と題し,まず正常眼と緑内障眼の乳頭所見について述べ,正常眼圧,開放隅角で,緑内障類似の乳頭陥凹拡大がみられた場合を仮定し,乳頭陥凹の診かたについて解説した.緑内障類似の乳頭陥凹拡大を呈する緑内障以外の先天性あるいは後天性疾患がいくつかあり,乳頭変化が緑内障によるものか否かの判定が容易でない場合がある4,5).わが国ではNTGはありふれた疾患であるとして,正常眼圧で,乳頭陥凹拡大がみられる症例を安易にNTGと診断してしまう危険性が指摘されている5).診断は,視神経所見のみに基づいて行うのではなく,視野所見など,その他の検査所見を併せた総合的評価により行う必要がある.NTGと診断するために視神経所見や視野所見の悪化を確認せざるをえない場合があり,診断のための経過観察も重要となる.文献1)IwaseI,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseI,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:Prevalenceofprimaryangleclosureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.??????????????112:1661-1669,20053)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,20034)白柏基宏,八百枝潔,阿部春樹:緑内障眼における眼底所見.図説よくわかる緑内障検査法(三嶋弘,阿部春樹,新家眞,山本哲也編),p56-66,メディカルレビュー社,20035)若倉雅登:緑内障と鑑別を要する視神経疾患の眼底.神眼22:184-193,20056)JonasJB,GusekGC,NaumannGOH:Opticdisc,cupandneuroretinalrimsize,con?gurationandcorrelationsinnormaleyes.?????????????????????????29:1151-1158,19887)ArmalyMF:Geneticdeterminationofcup/discratiooftheopticnerve.???????????????78:35-43,19678)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemor-rhageinlow-tensionglaucoma.?????????????93:853-857,1986(7)図9生理的乳頭陥凹拡大同時立体眼底写真.乳頭は比較的大きい.乳頭陥凹縁は整っており,乳頭辺縁部の蒼白性や網膜神経線維層欠損はみられない.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,20069)YamamotoT,IwaseI,KawaseKetal:Opticdischemor-rhagesdetectedinalarge-scaleeyediseasescreeningproject.??????????13:356-360,200410)JonasJB,NguyenXN,GusekGCetal:Parapapillarycho-rioretinalatrophyinnormalandglaucomaeyes:I.Mor-phometricdata.?????????????????????????30:908-918,198911)EuropeanGlaucomaSociety:Opticnerveheadandreti-nalnerve?berlayer.TerminologyandGuidelinesfor(8)Glaucoma,IIndedition,p1.16-1.23,Dogma,200312)WakakuraM,AlvarezE:Asimpleclinicalmethodofassessingpatientswithopticnervehypoplasia:Thedisc-maculadistancetodiscdiameterratio(DM/DD).???????????????65:612-617,198713)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProjectpar-ticipants.????????????????48:578-583,2004眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

序説:視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法

2006年5月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(1)???多治見スタディで40歳以上の日本人の実に3.9%に開放隅角緑内障がみられること1)が明らかにされて以降,日本緑内障学会や眼科医会などの広報活動により,わが国では眼科専門医だけでなく一般の患者や臨床医にも広く緑内障診断の重要性が知られるようになりつつある.また,検診の際に従来は眼圧検査をもとに行われていた緑内障のスクリーニングが,眼底写真の乳頭所見をもとに行われるようになり,乳頭所見から緑内障を疑われて眼科専門医のもとを訪れる患者も急増している.しかし,日本人に多い近視性の乳頭変化や視神経の先天異常でも緑内障類似の乳頭陥凹を呈することがあり,眼科医でも判断に迷うこともしばしばである.そこで本特集では,まず眼圧が正常で視神経乳頭のおかしな患者が来院したとき,まずどのように考え,どのような検査をするかについて,新潟大学の白柏基宏先生に新潟大学での実際の対応法を解説していただいた.また,以前emptysellasyndrome2)や内頸動脈や前大脳動脈による圧迫3)で緑内障類似の乳頭所見や視野変化がみられることが話題になった.そこで,大阪赤十字病院の柏井聡先生に視神経乳頭の形態異常や陥凹拡大があるとき,視神経疾患で頭部のMRI(磁気共鳴画像)などで鑑別が必要なものを具体例とともにをあげていただいた.さらに中毒の際に視神経症を起こすことはよく知られており,特にメチルアルコール中毒慢性期では緑内障類似の乳頭所見を呈する.井上眼科病院の若倉雅登先生には,眼科医に対する中毒性視神経症のアンケート調査を踏まえて,中毒性視神経症診断の注意点について解説していただいた.さて,やはり緑内障性乳頭変化の鑑別で最も注意すべきものは先天異常と近視性変化である.このうち視神経の先天異常で一見緑内障性の楔状視野欠損をきたすものについて千葉大学の藤本尚也先生に解説していただき,本特集共編の山本哲也先生には視神経の先天異常のなかでも特に多治見スタディの際に頻度を実際にカウントしたsuperiorsegmentaloptichypoplasiaについて補足していただいた.頻度はそれほど多くはないが,遺伝性視神経症でも乳頭陥凹が拡大することがある.兵庫医科大学の神野早苗先生にはミトコンドリア遺伝子の点突然変異によるLeber病4)や常染色体の????遺伝子の異常による優性遺伝性視神経萎縮5)で陥凹の拡大がみられるものについて症例提示をお願いした.最も重要なものの一つである近視性変化の乳頭所見と緑内障との鑑別については,つぼい眼科クリニックの坪井俊一先生にお願いした.乳頭傾斜症候群を含め,日本人に多い中等度以上の近視の乳頭変化と緑内障との関係について解説していただいた.岐阜大学の石田恭子先生には,生理的な乳頭陥凹と緑内障性陥凹の異常の境界について乳頭の画像診0910-1810/06/\100/頁/JCLS*OsamuMimura:兵庫医科大学眼科学教室●序説あたらしい眼科23(5):563~564,2006視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法???????????????????????????????─?????????????????????????????三村治*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006断を主に鑑別点をあげていただき,さらに視野所見による緑内障と視路障害に伴う視野障害についても解説していただいた.本特集が,読者の視神経乳頭所見から緑内障を疑う患者の鑑別に役立てば幸いである.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:TheTajimiStudy.?????????????111:1641-1648,20042)BeattieAM,TropeGE:Glaucomatousopticneuropathyand?eldlossinprimaryemptysellasyndrome.????????????????26:377-382,19913)NishiokaT,OkumuraR,IshikawaMetal:Prolapsinggyrusrectusasacauseofprogressiveopticneuropathy.???????????????40:301-309,20004)OpialD,BoelunkeM,TadesseSetal:Leber?shereditaryopticneuropathymitochondrialDNAmutationsinnor-mal-tensionglaucoma.?????????????????????????????????239:437-440,20015)FournierAV,DamjKF,EpsteinDLetal:Discexcava-tionindominantopticatrophy:dilerentiationfromnor-maltensionglaucoma.?????????????108:1595-1602,2001(2)Ⅰ神経眼科における診察法・検査法Ⅱ視路の異常〔1.視神経障害/2.視交叉およびその近傍の病変/3.上位視路の病変〕Ⅲ眼球運動の異常〔1.核上性眼球運動障害/2.核および核下性眼球運動障害/3.神経筋接合部障害/4.外眼筋および周囲組織の異常/5.眼振および異常眼球運動〕Ⅳ瞳孔・調節・輻湊機能の異常〔1.瞳孔・調節機能の異常/2.輻湊・開散機能の異常〕Ⅴ眼窩・眼瞼の異常〔1.眼窩の異常/2.眼瞼の異常〕Ⅵその他〔1.心因性反応/2.全身疾患と神経眼科/3.網膜疾患の接点/4.緑内障との接点/5.各種検査〕Ⅶこれからの神経眼科〔1.視神経移植と再生/2.遺伝子診断と治療/3.実験的視神経炎/4.視神経症の新しい治療法の試み/5.膝状体外視覚系/6.固視微動の解析/7.FunctionalMRI/8.Fibertracking〕新臨床神経眼科学<増補改訂版>【編集】三村治(兵庫医科大学教授)■内容目次■A4変型総312頁写真・図・表多数収録定価21,000円(本体20,000円+税)?メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替口座00100-5-69315電話(03)3811-0544(代)FAX(03)3811-0637

眼科医にすすめる100冊の本-4月の推薦図書-

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSインターネットが普及して,まだ10年余しか経っていません.1995年当時は,ごく限られた研究者が,大学のサーバを利用して通信を行ったり,まだ画像のないホームページを立ち上げたりしていました.それから10年.インターネットはあっという間に私たちの社会にとけこみ,そして,私たちの生活に確実に影響を及ぼしてきました.この本は,この10年でITの世界で起こったこと,現在起こりつつあること,そして,近未来に起こることを予測しています.そのひとつのシンボルとしてこの本のなかで大きく取り上げられているのが,グーグルです.2005年はインターネット10周年の年でした.ヤフー,アマゾン・コム,eベイといった,アメリカのおもなネット企業は1995年に創業されました.それから遅れること3年,1998年にシリコンバレーで創業されたグーグルは「世界中の情報を整理しつくす」というビジョンのもと,情報発電所ともいうべきインフラを構築した会社です.「IT革命」とか「情報スーパーハイウェイ」といった言葉は,バブル崩壊後に死語となりました.このことは,物理的なITインフラである「情報スーパーハイウェイ」を構築すれば「IT革命」が達成されるという,1990年代には常識だったこの世界観が誤っていたことを証明するものです.本当に大切なのは,物理的なITインフラよりも,情報のインフラであることを証明したのが,グーグルでした.グーグルは,圧倒的成長によって,一気に1995年創業組を抜き去って,ネット時代の覇者に躍り出ました.グーグルの時価総額は,2005年10月には十兆円を超えました.いまやグーグル以上の時価総額を有する日本企業はトヨタ自動車だけです.グーグルの創業者二人は1973年生まれで,現在,若干32歳.一方で,マイクロソフトは,創業30周年を迎え,ビル・ゲイツは50歳になりました.彼は,2005年,アメリカタイム誌が選ぶ「今年の人」に選ばれましたが,それは,彼自身が私費を投じた慈善活動が評価されたからです.事業の達成が理由ではありませんでした.これは,マイクロソフトがもう業界の挑戦者ではなくなったということを象徴するできごとかもしれません.このように,アメリカではIT産業における世代交代が確実に進展しています.2004年から2005年にかけては,日本でもライブドア・フジテレビ問題,楽天・TBS問題が大きな話題となりました.楽天やライブドアの若い創業者が時の人となり,表面的にはアメリカと同じく世代交代が進んでいるようにもみえます.しかし,その内実は,日米で大きく違います.アメリカでグーグルが起こしつつある新しいビジネスと,楽天やライブドアのネットビジネスは,実は似ているようでまったく異なるものです.著者は文中で,楽天の三木谷氏やライブドアの堀江氏は,「テクノロジーへの関心が薄い」と指摘します.彼らは,テクノロジーを創造する気はなく,テクノロジーはサービスのために利用するものだ考えています.彼らの展開するネット産業は「生活密着型サービス産業」で,ITを通じて消費者にサービスを提供するという考え方に基づいて展開されています.そこで,彼らが投資するのはテクノロジーではなく,サービスの質や量,種類を増やすことです.一方,グーグルはネット産業を「テクノロジー産業」として考えました.そして,テクノロジーの開発,革新に大きな投資をし続けています.したがって,日本のIT産業のテクノロジー化について考えるときに,楽天やライブドアを対象にするのはお門違いで,実は,日立,東芝,富士通,NEC,ソニー,松下といった,(69)シリーズ─64◆伊藤守株式会社コーチ・トゥエンティワン■4月の推薦図書■ウェブ進化論─本当の大変化はこれから始まる梅田望夫著(ちくま新書)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006日本のIT産業,エレクトロニクス産業を牽引してきたこれらの大企業に問うのが本筋であろうと著者は言います.アメリカでは,ヤフー,アマゾン・コム,eベイといったネット企業は,圧倒的な技術開発力を背景に斬新なインフラを構築するグーグルに刺激され,技術に大きな投資をするようになりました.ネット産業とは,ただ,ITを利用して早い者勝ちでサービスを展開すればいいものではなく,高度な技術開発で道を拓くべき産業なのだという新しい認識が生まれたのです.産業界全体が技術投資の重要性に気づき,大学での技術開発やベンチャー創造も大いに活性化してきました.ちなみに,グーグルの検索エンジン技術も,二人の創業者がスタンフォード大学に在学中に開発したものです.そして,大学はこの技術の特許をもっており,グーグルにこの検索エンジン技術の使用を認める見返りに,グーグル株を取得していました.2005年,グーグルが株式公開をしたときに,スタンフォード大学はその株を2005年に市場に放出しました.その売却益は四百億円にも上りましたが,この資金は,再び基礎研究や高等教育へと還流していくのでしょう.このようにして,グーグルという怪物を生みだす環境が作られていく.このことこそが,シリコンバレーや米国高等教育の底力なのでしょう.先に述べたようにグーグルの時価総額は,2005年10月には十兆円を超えました.グーグルをメディア企業と考えるのであれば,創業わずか8年で,すでに世界一の存在となったのです.グーグルは新しいネット産業として,象徴的な存在です.しかし,その他にも,同じ方向に向かって躍進する企業はたくさんあります.「不特定多数の意見をどのようなメカニズムで集積すると一部の専門家の意見よりも正しくなるかについての『wisdomofcrowds』(群衆の英知).見知らぬ者同士がネット上で協力して新しい価値を創出する手法『マス・コラボレーション』.ネット上にたまった富をどう分配すべきかという意味での『バーチャル経済圏』….インターネット上の開放空間で,新しい理論の研究から実験システムの開発,さらには事業創造のトライアルまでが繰り広げられ始めたのだ.」(本文より)ウェブの世界はいまも現在進行形で進化を続けています.この10年ですでに社会に大きな変化をもたらしたインターネットですが,著者は本当の大変化はこれから起こると明言します.新しい世界に向かって,いったい何が起こりつつあるかを教えてくれる一冊です.(70)☆☆☆

硝子体手術のワンポイントアドバイス35.硝子体手術時の医原性黄斑裂隙(中級編)

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS●増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術中に生じる易凝血性の出血糖尿病患者では血液の凝固能が亢進しており,しばしば硝子体手術中に易凝血性の出血をきたすことがある.凝血塊はバックフラッシュニードルのみで吸引することがしばしば困難である.凝血塊は膜状の硝子体ゲルを介して網膜と癒着していることが多く,不用意な牽引によって医原性裂孔を形成する危険がある.特に中心窩では生理的に網膜硝子体癒着が強固であること,黄斑部に膜状の硝子体皮質が残存しやすいこと,中心窩は網膜厚が薄いこと,などから医原性黄斑裂隙を形成する危険があるので注意が必要である(図1).●医原性黄斑裂隙形成を回避するコツ術中出血を可能なかぎり少なくすることが必要であるが,活動性の高い増殖糖尿病網膜症ではしばしば増殖膜処理時に生じた出血が黄斑部を覆ってしまう.可能であれば黄斑部が出血で覆われる前(つまり増殖膜処理前)(67)にトリアムシノロン塗布により黄斑上の残存硝子体皮質を確実に?離除去しておく.黄斑上の硝子体皮質は通常増殖膜と連続しているので,皮質の?離除去に引き続いて増殖膜処理を行う.黄斑上の硝子体皮質を残存させたまま凝血塊が生じてしまったら,慎重に少しずつ凝血塊を?離除去し,中心窩周囲に集めるようにする.そして中心窩に癒着がないか慎重に確認し,もし癒着が認められれば,強引に引っ張ることは避けて,水平硝子体剪刀で癒着部位を丁寧に切断する.●医原性黄斑裂隙が形成されてしまったら特発性黄斑円孔と異なり,この場合は通常裂隙状となるので,適切な処置により黄斑円孔への進展を予防できることが多い.まず,黄斑裂隙周囲の網膜接線方向の牽引を十分に解除する目的で,トリアムシノロン塗布により残存硝子体ゲルの有無を確認し,ゲルの残存が認められた場合にはダイアモンドダストイレーサーなどで確実に除去する.網膜の器質化,短縮化が認められる症例では,適宜内境界膜?離を併用する.確実な裂隙閉鎖のためにはガスタンポナーデも原則として施行すべきである.これらの処置が不十分な場合には黄斑円孔へと進行することがある(図2a,b)文献1)上村昭典,中尾久美子,岩切直人ほか:増殖糖尿病硝子体手術中の黄斑円孔形成.眼科手術7:633-636,19942)南政宏,植木麻理,廣辻徳彦ほか:増殖糖尿病網膜症の硝子体手術時に医原性黄斑裂隙を形成した1例.眼紀55:140-142,2004硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載○3535硝子体手術時の医原性黄斑裂隙(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図2術中の黄斑裂隙が原因で黄斑円孔に進行した症例a:術前眼底写真.神経乳頭から上方アーケード血管に沿って線維血管性増殖膜を認め,牽引性網膜?離が黄斑部に及んでいた.b:黄斑裂隙周囲の硝子体ゲルの処理が不十分なため,黄斑円孔へと進展した.ba図1硝子体手術中に形成された医原性黄斑裂隙凝血塊が中心窩網膜と癒着しており,不用意な牽引によりスリット状の黄斑裂隙を形成した.