———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSに注目されており,「近視様乳頭」というキーワードが数年前から学会,論文などで散見される2).近視様乳頭の特徴としてあげられているのは,1)縦長乳頭,2)耳側の乳頭近傍網脈絡膜萎縮(PPA),3)乳頭の傾斜などである(表1).このような近視乳頭の特徴から思い浮かべるのは図1に例示するような典型的な近視乳頭ではないだろうか.言い換えればこれまで成書で書かれている近視乳頭に関する記述は典型例の提示にすぎない.この知識のみでははじめに緑内障の理解に視神経乳頭観察が重要であることは言うまでもない.眼科臨床に数年携わったものであれば乳頭の所見は一とおりは取れるようになる.しかしながら近視眼に合併した乳頭の観察は困難に感じていることが多いのではないか.何故か?それは近視眼に対する理論の裏付けがないためであり,また近視乳頭を見る筋道立てたトレーニングをしていない,あるいはする機会がないためである.そこで本稿では近視乳頭の捉え方,近視乳頭に合併した緑内障の考え方をまとめてみたい.I混沌とした近視乳頭近視が緑内障と関係があるということは古くから知られているが,近年特に脚光を浴びているのはNicolelaらが緑内障乳頭の4分類を提唱してからのことであろう1).この分類で述べられている近視乳頭(myopicglaucoma-tousdiscs)の特徴は,1)浅い陥凹,2)傾斜乳頭,3)耳側コーヌスの存在,4)乳頭出血が高頻度,となっている.また,わが国でも緑内障における近視眼の存在は特(31)???表1近視乳頭の特徴特徴乳頭傾斜での説明乳頭の傾斜─耳側にコーヌス傾斜による色素上皮のずれ縦長乳頭傾斜により耳側の境界線が後退乳頭出血が高頻度傾斜による血管の屈曲が原因?浅い陥凹強度近視での非傾斜群に該当する図1近視乳頭の典型症例屈折度-4.5Dの症例.乳頭は縦長でやや耳上側に傾斜している.鼻側のリムは発赤し,反対に耳側は蒼白でリムを同定できなくなっている.*ToshikazuTsuboi:つぼい眼科クリニック〔別刷請求先〕坪井俊一:〒132-0024東京都江戸川区一之江7-35-29一富ビル3階つぼい眼科クリニック特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):593~598,2006近視の乳頭所見と緑内障??????????????????????????????????????????????????????坪井俊一*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006種々雑多な近視乳頭に対して混乱するのみで,研修医や緑内障初心者が近視乳頭を見ることができないのは当然なのである.IIスマート&シンプルな近視乳頭の考え方1.乳頭の傾斜が最重要ポイント近視乳頭を考えるうえで最も重要なキーワードはobliqueinsertion=(視神経の眼球に対する)傾いた付着,すなわち「乳頭が傾斜している」ということである3,4).耳側コーヌスの存在や乳頭形態が縦長であるなどの特徴も実は乳頭の傾斜が根源である.正常眼では視神経が眼球に付着する角度はおおよそ垂直になっており,この状態は最も緊張の少ない生理的な状態である.この場合に網膜血管は乳頭の中央に位置し,乳頭形態もほぼ円状になり,生理的陥凹も中央に位置する.ところが近視眼では眼軸長の延長に伴い視神経の眼球への進入角度が変わってくる.理論上は眼軸長が長くなればなるほど,視神経の進入角度もきつくなり,乳頭の傾斜も強くなるように思われる.ところが実際は眼軸長の長い強度近視では後部ぶどう腫などを生じ,視神経乳頭の進入角度も垂直に近くなっているのではないかと推測される.その傍証としては,強度近視群では乳頭傾斜のない平坦な乳頭がよく見受けられることがあげられる.2.傾斜乳頭症候群と近視乳頭乳頭の傾斜をきたす疾患としてtilteddiscsyndromeが古くから知られている.本症候群の定義は先天性の疾患で,視神経は傾斜しており,多くは下方にコーヌスがみられる.乳頭下方もしくは鼻側の網膜は強い豹紋状眼底を呈する.この眼底変化に応じた視野障害を認めることもある.血管の走行異常や強い近視を伴うなどの多くの特徴をもつ.臨床上,本疾患に遭遇することはまれではない.しかしながら先天性かどうかの判定は不可能に近く,近視の進行に伴う後天的なものも多く含まれているものと推測している.III近視乳頭の分類近視乳頭はバリエーションが豊富で,近視眼全体を俯瞰で理解しようとするのは無理がある.前述した近視乳頭の特徴をいくら知ったところで,近視乳頭の典型例以外には対応できない.そこで近視乳頭を理解するためには近視眼の特徴を踏まえたうえで分類することが有用であり,傾斜の有無で分類するとわかりやすい.乳頭が傾斜をしている眼底写真上での所見として,1)網膜血管の起始部が中央から偏位していること,2)網膜血管の起始部が観察しにくいこと,とした(表2).このようにして近視乳頭を大き(32)乳頭網膜色素上皮脈絡膜図2傾斜のない乳頭正常丸型乳頭で,網膜血管の起始部(矢印)は中央に位置し,その根部まで十分に観察できる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???く2群に分けることで,近視眼の理解はより深まる(図2,3).このように「傾斜」を一つの軸として,乳頭の「型」をもう一つの軸として近視乳頭を7つに分類した5)(図4).その詳細を下記に述べる.1.傾斜群中等度以上の近視眼では乳頭の傾斜を見ることが多(33)表2乳頭が傾斜している所見・網膜血管起始部の偏位・網膜血管起始部が観察困難乳頭コーヌス網膜色素上皮脈絡膜図3耳側に傾斜した乳頭乳頭は耳側に傾斜をしており,その傍証として血管起始部の偏位があげられる(矢印).乳頭耳側はなだらかなスロープ状で,陥凹部と辺縁部の境界ははっきりしない.丸型縦楕円型斜め楕円型横楕円型傾斜群非傾斜群─図4近視乳頭の分類近視乳頭を傾斜の有無と形態をもとに7つに分類した.非傾斜群で斜め楕円型はまれなため空欄としている.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006い.近視眼では眼軸長が延長し,視神経が眼球に対し斜めに付着(obliqueinsertion)する.鼻側では視神経線維は急峻な角度で視神経に入り,このため傾斜した乳頭の鼻側は神経線維が盛り上がり,毛細血管のためにやや赤みを帯びている.耳側網膜からきた神経線維はなだらかに視神経乳頭内に入るため明らかな屈曲点をもたない.耳側の辺縁部は同定困難で,血管に乏しく,篩板が透見されて蒼白に見える.陥凹部との境界を明確にはできない.つぎに乳頭の形態を考える.正常乳頭の形態は丸型~やや縦長であり,一方,近視眼の乳頭は縦長であるとこれまでいわれている.しかし実際の近視眼は丸型のものから,つぶれた楕円状の乳頭まで種々雑多である.当然,乳頭の形態が丸型に近いほど所見は取りやすい.近視乳頭のもう一つの特徴としてコーヌス(脈絡膜コーヌス,強膜コーヌス)の存在がある.注目すべきはコーヌスの幅は乳頭の形態に関係がある点であろう.丸型の乳頭ではコーヌスは存在しないか,ごく薄いものである.乳頭の形態が縦長となるほどコーヌスの幅も広くなる.コーヌス部と乳頭部を足したものはほぼ丸型となることがわかる(図5).これは元の境界組織(Elschnig?sscleralring)であろうと考えている.(34)2.非傾斜群非傾斜群の定義は傾斜していない近視乳頭である.網膜血管の起始部は中央に位置し,その根部まで十分に観察ができることを傾斜のない所以とした.このグループは強度近視であることが多い.乳頭形態も特徴的で,まず陥凹部と辺縁部の境界がきわめて判別しにくい.そのため乳頭の所見もほぼ取れないと考えたほうがよい.非傾斜群ではコーヌスにも特徴がある.傾斜群で耳側コーヌスが多いのに比して,非傾斜群では乳頭全周にわたってコーヌスが形成され(輪状コーヌス),近視性網脈絡膜萎縮と相まって,神経線維層欠損(NFLD)の観察はほぼ不可能である.乳頭の大きさはさまざまであるが比較的大きいものが多く,平均からかけ離れた巨大乳頭というべきものも含まれる.乳頭の形態も丸型から楕円型までバリエーションは多い.傾斜群では耳下側に傾斜した乳頭が多いのに比べ,非傾斜群の乳頭で楕円型のものは,その長軸が垂直か水平のものがほとんどという点に特徴がある.IV近視乳頭での緑内障所見の取り方以上述べてきたような近視乳頭に緑内障を合併した場合,どのように考えていけばよいだろうか.われわれが図5傾斜した乳頭の症例傾斜した乳頭では耳側にコーヌスを伴うことがほとんどで,乳頭とコーヌスを足すと「丸」になる.言い換えれば乳頭が丸型であればコーヌスは幅が狭く(左),乳頭が縦長になるとコーヌスの幅も広くなる(右).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(35)臨床上よく遭遇する緑内障の多くは正常眼圧緑内障(NTG)であり,そのNTGはほとんどが近視眼といってよい.近視眼では緑内障になりやすく,屈折度が大きいほど緑内障を合併する割合が増えてくるということが大規模スタディで実証されている6).-3.0D程度の軽度近視眼であればその乳頭は近視性の変形はほぼなく,所見も取りやすいものが多い.しかし-4.0~-5.0Dを超えてくるとこれまで述べてきたような近視乳頭の特徴が出てくるし,緑内障を合併する可能性も増えてくる.そこでまず乳頭が傾斜型か非傾斜型かを大まかに捉えることから始めるのがよい.傾斜群のうち乳頭形態が丸型のものは網膜豹紋状変化がやや弱いため神経線維束欠損(NFBD)の観察が可能なことが多いので,まずこれに注目する.つぎに辺縁部図6コーヌス状まで血管の走行を観察することが重要傾斜した乳頭では耳側のリムがはっきりしない.しかし観察範囲をコーヌス状まで広げれば血管の走行所見(矢印)から視神経線維の盛り上がりを読み取ることも可能である.図7非傾斜群で横楕円型乳頭の症例このタイプの乳頭が陥凹部が浅いものがほとんどで,辺縁部の評価をすることができない.乳頭周囲の網膜も豹紋状変化が強く,NFBDも観察ができない.乳頭の所見からは上下に大きな差があるようには見えない.実際の視野は下方にのみ強い暗点が広がっている.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006(36)の上下極に注目し差があるかを観察する.縦楕円型のものは上下極の辺縁部が「尖った」状態であると緑内障性視野変化をきたしていることが多い.また耳側コーヌスの幅が広いのでこの部分の血管走行状態を見逃してはならない(図6).非傾斜群については乳頭所見から緑内障を判定したり,その進行を判断するのはどんなにベテランの臨床医でも不可能と考えてよい.経験上,縦楕円型,横楕円型の非傾斜乳頭は思いもよらぬ視野異常をきたしていることが多い(図7)ので,検査が可能であれば動的または静的視野測定を施行し,将来の経時的観察に備えることが現実的である(図8).おわりに緑内障臨床での乳頭観察の重要性はよく知られたことであるし,緑内障に近視が多いこともまたよく知られている.しかしながら「近視乳頭の緑内障所見」というカテゴリーは今まであまり研究されてこなかったように思う.実際,緑内障の成書を見ても近視乳頭の特徴については数行ふれられているのみである.近年,画像解析装置が普及し,乳頭の形態が注目され,種々の乳頭指標が解析されているが,乳頭の形態の差異にまで踏み込んだものはほとんどみられない.十分に眼圧管理されているにもかかわらず悪化するNTGに対して乳頭の脆弱性が原因であろうという説明がされることが多い.今回提示したように乳頭の形態にこれだけの差があれば,その「脆弱性」にも大きく影響をしていることは容易に想像できる.本稿で述べた近視乳頭の分類は確立されたものではなく,筆者らの経験則から出てきたものであり,近視乳頭のバリエーションの多さを考えるとさらなるブラッシュアップが必要であろうと考える.乳頭傾斜の判定には眼底写真から得られる二次元情報を用いたが,三次元画像解析装置を用いればより有用な情報も得られるであろうし,その場合に乳頭形態を考慮することも重要であろう.今後の近視乳頭の研究に本稿が益することがあれば幸いである.本稿で用いた眼底写真はオリンピア眼科病院よりお借りいたしました.井上洋一理事長に深く感謝いたします.文献1)NicolelaMT,DranceSM:Variousglaucomatousopticnerveappearances.?????????????103:640-649,19962)YamazakiY,YoshikawaK,KunimatsuSetal:In?uenceofmyopicdiscshapeonthediagnosticprecisionoftheHeidelbergRetinaTomograph.????????????????43:392-397,19993)ShieldsMB:TextbookofGlaucoma,4thed,p86,Williams&Wilkins,Baltimore,19984)ShieldsMB:ColorAtlasofGlaucoma.p38,Williams&Willkins,Baltimore,19985)井上洋一:どう診る?緑内障視神経乳頭,p108-127,メジカルビュー社,20026)MitchellP,HourihanF,SandbachJetal:Therelation-shipbetweenglaucomaandmyopia:theBlueMountainsEyeStudy.?????????????106:2010-2015,1999近視乳頭を見たら傾斜なし傾斜あり豹紋状変化弱い豹紋状変化強いNFBDの観察リムの上下極に注目丸型乳頭楕円型(横・縦)視野検査図8近視乳頭の診察フローチャート