———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS自然免疫と獲得免疫細菌やウイルスなどの病原微生物の侵入に対する感染防御機構は,自然免疫と獲得免疫に分類されます.獲得免疫は,抗原特異的Tリンパ球とBリンパ球によって誘導されますが,クローン増殖する必要があるために,機能するまでに数日を要します.これに対して自然免疫は,獲得免疫が働く前の感染早期に働く防御機構です.従来,この自然免疫は,好中球やマクロファージなどの貪食細胞,補体,抗菌物質などを中心とした非特異的防衛機構であると考えられてきました.しかし近年,Toll-likereceptor(TLR)が微生物の構成成分を特異的に認識し,自然免疫において重要な役割を担っていることが明らかとなってきました.Toll-likereceptor(TLR)とはTLRは,蛋白質結合モチーフであるロイシンに富む領域(leucin-richrepeat:LRR)を細胞外に有し,LRRを介して細菌,ウイルス,または真菌といったさまざまな病原微生物の構成成分を認識しています1)(図1).ヒトでは10種類(TLR1~TLR10)のTLRが同定されました.TLR2は,グラム陽性菌の細胞壁に多量に含まれるペプチドグリカン(peptidoglycan:PGN)の1成分であるリポ蛋白質を認識します.TLR1とTLR6は,そのTLR2と共役して,それぞれTLR1はトリアシル基をもつリポ蛋白質を,TLR6は,ジアシル基をもつリポ蛋白質を認識します.さらにTLR2とTLR6は,真菌の細胞壁成分であるチモザン(zymosan)の認識にもかかわります.TLR5は,細菌が遊走する際に使用する鞭毛の構成成分であるフラジェリンを,TLR4はグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(lipopolysaccha-ride:LPS)をそれぞれ認識します.またTLRは,真菌や細菌のみならずウイルスの構成成分も認識することがわかりました.DNAウイルスのゲノムDNAは,哺乳動物のゲノムDNAと比べて非メチル化CpGモチーフを多量に有しています.その非メチル化CpGDNAは,TLR9によって認識されます.RNAウイルスのなかにはゲノム成分が1本鎖RNAのものが存在し,その1本鎖RNAは,TLR7とTLR8により認識されます.また,RNAウイルスの生活環中に宿主細胞質中で生じ何らかの形で細胞外に放出された二重鎖RNAは,TLR3によって認識されます.さらに最近では,これらのTLRが病原微生物を認識し宿主自然免疫応答を惹起することで,獲得免疫系を効果的に活性化することが明らかとなりました2).自然免疫の異常が炎症性疾患をまねくこのようにTLRを代表とする自然免疫系は感染防御に重要な役割を果たしていますが,最近の研究により自然免疫系が種々の免疫疾患にも深く関与することがわかってきました3).たとえば,IL-10(interleukin-10)はマクロファージなど自然免疫系細胞の活性を抑制しますが,IL-10ノックアウトマウスは大腸炎を発症し4),IL-10のシグナル伝達に必須のSTAT3を自然免疫系細胞を特異的に欠損させた場合も慢性大腸炎が生じます5).このことは,自然免疫系細胞におけるSTAT3の活性化とIL-10シグナル伝達が,生体において慢性炎症を抑(63)◆シリーズ第64回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊上田真由美外園千恵(京都府立医科大学視覚機能再生外科学)眼表面の自然免疫とToll-likereceptors図1さまざまな病原微生物の構成成分を認識するTLR———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006制するのに重要であり,自然免疫系の異常活性化が慢性大腸炎の発症につながることを示しています.眼表面上皮におけるTLRの役割Uetaらが最近行った研究では,角膜上皮はTLR2ならびにTLR4を細胞内に発現しており,それらのリガンドであるPGNならびにLPSに対して炎症性サイトカインを産生しません6).このことは,眼表面には常在細菌が存在するにもかかわらず,健常な状態では炎症を生じないことと関係すると考えられます.また眼表面上皮は,TLR3のリガンドであるpolyI:Cに対しては著しく反応し,炎症性サイトカインならびに抗ウイルス作用のあるII型インターフェロン,すなわちIFN-b(inter-feron-b)を産生します7).その後の解析により角膜上皮は,種々のTLRのリガンドに対してマクロファージなどの免疫担当細胞とは異なった反応をすることが明らかとなってきています.一方,TLRのシグナル因子であり,NF-kBのregulatorの一つであるIkBzのノックアウトマウスは,ゴブレット細胞の消失を伴う眼表面炎症を生後に自然発症します8)(図2).このことより,IkBzは眼表面の炎症制御に深く関与していると考えられ,IkBzを介した自然免疫応答の異常が眼表面炎症を惹起する可能性を今後検討していく必要性があります.今後期待されることTLRは自然免疫において重要な役割を果たし感染防御に大きく関与します.しかし,それだけでなく,TLRを介した自然免疫応答の異常が,眼表面や腸管などの粘膜における炎症および炎症性疾患に深く関与すると考えられます.自然免疫の異常に着目することにより病因・病態のわかっていない眼表面炎症性疾患のメカニズムが解き明かされる可能性があります.自然免疫応答の異常と眼表面の炎症にかかわる研究は始まったばかりですが,今後注目していきたい分野です.文献1)AkiraS,TakedaK:Toll-likereceptorsignalling.???????????????4:499-511,20042)TakedaK,KaishoT,AkiraS:Toll-likereceptors.????????????????21:335-376,20033)InoharaN,NunezG:NODs:intracellularproteinsinvolvedinin?ammationandapoptosis.????????????????3:371-382,20034)KuhnR,LohlerJ,RennickDetal:Interleukin-10-de?-cientmicedevelopchronicenterocolitis.????75:263-274,19935)TakedaK,ClausenBE,KaishoTetal:EnhancedTh1activityanddevelopmentofchronicenterocolitisinmicedevoidofStat3inmacrophagesandneutrophils.????????10:39-49,19996)UetaM,NochiT,JangMHetal:Intracellularlyexpre-ssedTLR2sandTLR4scontributiontoanimmunosilentenvironmentattheocularmucosalepithelium.??????????173:3337-3347,20047)UetaM,HamuroJ,KiyonoHetal:TriggeringofTLR3bypolyI:Cinhumancornealepithelialcellstoinducein?ammatorycytokines.??????????????????????????331:285-294,20058)UetaM,HamuroJ,YamamotoMetal:Spontaneousocu-larsurfacein?ammationandgobletcelldisappearanceinIkappaBzetagene-disruptedmice.?????????????????????????46:579-588,2005(64)■「眼表面の自然免疫とToll-likereceptors」を読んで■Toll-likereceptorsは,現在の免疫学の分野で最もホットな話題の一つです.ヒトは,単細胞生物から長い時間をかけて進化してくる過程で,多くの機能を獲得してきました.宿主を細菌などの病原体から守る免疫機能もその一つであり,これは本文にあるように自然免疫と獲得免疫とに分けられます.進化の歴史のなかで,獲得免疫がつい最近備わったものであるのに対して,自然免疫は進化の初期から存在していました.図2眼表面炎症を自然発症するIkBzノックアウトマウスIkBz(+/+)IkBz(-/-)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???たとえば,ショウジョウバエは,進化の初期に哺乳類と別れた生物ですが,自然免疫機能をもつのみで獲得免疫機能をもちません.こうしたショウジョウバエにおいて,カビなどの病原体から宿主を守る働きがあるものとして発見されたのが,Tollreceptorです(Toll自体は形態形成に重要な蛋白質として同定されていました).Tollreceptorの構造を調べてゆくと,似たような構造物はヒトにもあることがわかり,これらはToll-likereceptorとよばれるようになりました.さらに,Toll-likereceptorの細胞内シグナルを調べてゆくと,同じようなものが植物にもあるので,この仕組みは生物進化のきわめて初期から備わっていたと推測されています.この仕組みがいかに優れたものであるかは,本文中でわかりやすく解説されていますのでここでは述べませんが,病原体により対処法を変えるという精緻な仕組みが自然免疫においても備わっていることは重要なことです.さて,Toll-likereceptorsは病原微生物から宿主を守るためのシステムとして働きますが,逆に自己免疫疾患などをひき起こす可能性もあります.たとえば,Jiangらは肺を用いた研究で,正常ヒアルロン酸はToll-likereceptorsを介したシグナルにより宿主細胞のアポトーシスを抑制しますが,炎症などで変性したヒアルロン酸は,Toll-likereceptorsを介するシグナルにより炎症性サイトカインを発現して宿主細胞を破壊することを突き止めました.このようにToll-likereceptorsはあるときは宿主のために,別のときは宿主に害になるように働いているようです.上田真由美先生が述べられているように,眼のToll-likerecep-torsを明らかにすることは,眼疾患のメカニズムの解明や新しい治療法の開発に大いに役立つと思われますし,これに関する仕事は新しい研究分野として大きく発展してゆくことと期待されます.文献1)LemaitreB,NicolasE,MichautLetal:Thedorsoven-tralregulatorygenecassettespatzle/Toll/cactuscon-trolsthepotentantifungalresponseinDrosophilaadults.????86:973-983,19962)KoppE,MedzhitovR:Recognitionofmicrobialinfec-tionbyToll-likereceptors.?????????????????15:396-401,20033)JiangD,LiangJ,FanJetal:RegulationoflunginjuryandrepairbyToll-likereceptorsandhyaluronan.???????11:1173-1179,2005鹿児島大学医学部眼科坂本泰二(65)☆☆☆